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キルラララ!! あの子を愛したケダモノ二匹 ◆eNKD8JkIOw ♪ ♪ ♪ 遠ざかる日に、背を向けかけた もう二度と、振り向きはしないだろう ♪ ♪ ♪ 曖昧模糊。 この空間、もしくは世界のことを表現するなら、その言葉がぴったりだ。 暗いような、明るいような。 黒いような、白いような。 ショッキングピンクの壁紙が全面に貼られている部屋なのだと言われれば、そんな気がするし。 灰色の通路が世界の果てまで伸びている廊下の途中だと言われても、得心がいきそうだし。 就寝前、目を閉じた世界に広がる、なんとも形容しがたい模様の空間、と言われても納得してしまう。 一つだけ、分かることは。 分かってしまうことは。 「やっほー、イザ兄!」 「……久(お久しぶりです、兄さん)……」 眼鏡に黒いセーラー服という文学少女合格の要素を、三つ編みを尻尾のようにぶるんぶるんと顔ごと振るって破壊しながらこちらに駆け寄る少女。 そんな我が妹、折原舞流に少し遅れて、発達しすぎた身体の一部を体操服とブルマで隠し、大人しそうな顔をしながら声をかけてくる折原家の長女、折原九瑠璃。 「はぁ……」 割りと、居心地がいい場所ではない、ということくらいか。 「もしもここが天国で、お前たちが案内役の天使だっていうんなら、まずは人事部を紹介してくれないか。 お宅の人選、申し訳ないけど最低ですよってクレームを入れてやる」 「さりげなく実の妹が先に死んだこと前提で話を進めるなんてサイテー!」 「……酷(酷いです、兄さん……)」 「ごめんごめん。まさか清く正しく生きてきたこの俺が地獄に落ちた、なんて考えたくなくてね」 「堂々と実の妹が先に死んで地獄に落ちたこと前提で話を進めるなんてサイアク―!」 「……惨(惨いです、兄さん……)」 隠すことなく溜息をつき、やれやれと額を抑える。 「じゃあここはどこで、お前たちは何なんだよ。 まさか『実は謎のパワーで折原臨也君だけはゲームから脱出することが出来たんだ』なんて最低B級映画のオチみたいなことは言わないよな」 「そんなこと、どうでも良いじゃん!」 「一番どうでもいい解答をどうもありがとう。 俺は今、こう見えても舞流の百万倍は忙しいから、さっさと次の客?にでも愛想をふりまいててくれ」 「ふーんだ。イザ兄は、静雄さんのことを兄として大事にしてる大正義幽平さんの爪の垢でも飲めばいいと思うよ?」 「……違(幽平さんと兄さんを比べるのは失礼……幽平さんに)……」 「じゃあ、お前らは少しは蛍ちゃんから『良い子』ってのがどういうことなのか教えてもらうべきだね。 良かったじゃないか。今年高1になるのに今更小学5年生の子に道徳を教わるなんて、なかなか出来る経験じゃない」 次の瞬間、臨也の胸に一切の容赦なく足刀が飛んだ。 予め予想して、のけ反るように回避挙動をとっていなければ、鳩尾をやられていただろう。 「可愛い妹の可愛いハイキックを避けるなんて、イザ兄は可愛いものが嫌いなの!?」 「全世界の可愛くなろうと努力してる女の子と、可愛いものを得ようと努力してる男への冒涜は止せよ。 お前のキックに名前を付けるなら、可愛いじゃなくて野蛮、もしくは脳筋が妥当だよ」 実の兄への急所攻撃を全く悪いとは思っていない様子の妹にも、慣れたものだ。 身内贔屓を差し引いてもかなり暴力的に育ちつつあることが、嫌なやつを思い出してムカムカはするが。 そんな臨也の心中を知ってか知らずか、二人の妹は好き放題に喋り始める。 「でも意外だよね、クル姉! イザ兄があんな普通の子と一緒にいるなんて! 私たちが50点と50点で合計100点満点だとしたら、あの子って0点だよ! 面白味も噛み応えもなさそうな、どっからどうみても普通の人妻だよ!」 「……過(小5にしては大きいけど、それだけだよね)……」 「蛍ちゃんで0点なら、お前らはマイナス50点とマイナス50点を足してマイナス100点だよ」 ダーツの要領で投げられた画鋲を首を横に倒し避ける。 動かなければそのまま眼球に突き刺さっていただろう。 「だから、良いんじゃないか」 どっから持ってきた。そんな言葉を呑み込み、臨也は語りだす。 実の妹二人に、自分が見つけた逸材の、披露を始める。 「彼女は素晴らしい『普通の良い子』だよ」 「あの子はね、どこまでも普通なんだ。良い子なんだ。 異常な世界にいてさえ、異常に呑まれることなく、良い子でいようとあり続ける。 それは、彼女自身が、まだ殺し合いに直接は関わっていなかったからかもしれない。 それとも、死んでしまった先輩の分まで良い子で生きよう、なんていう感傷的な思いがあったのかもしれない。 いずれにせよ、彼女は良い子で、良い子のままでいようとしている。それが面白いのさ」 「俺は、彼女にこう聞いたんだ。 『かたきを討つ気は無いのかい?』ってね。 『小鞠先輩を殺したにっくき相手を、殺すつもりはないのかい?』ってね。 勿論、言葉は選んださ。実際には、ここまでストレートに言ってはいない。 俺だって、せっかく蛍ちゃんが俺を信用してくれたのに、わざわざ、危ないことを言う人だ、なんて思ってほしくはなかったからね。 だけど、彼女には、何を言われているのか分かったはずだ。自分がどうすべきか、理解できたはずだ。 自分のため、じゃなくて良い。小鞠ちゃんの無念を晴らすために。 もしくは、これから他の人間が、殺人鬼に殺されないために。 仮に、俺や、宮内れんげちゃんが、そいつに殺されかけてたらどうする?なんて質問もしたよ。 その場にいるのは蛍ちゃんと殺人鬼、そして彼女の友人であるれんげちゃんのみ。 蛍ちゃんが殺人鬼を殺さなければ、れんげちゃんがそいつに殺される。 それでも君は殺さないのかい、とね」 「相変わらずクソ野郎だね!よっ、折原家の恥さらしっ!」 「……当(勘当されても当然の行為……)」 「爆弾なんて物騒なものを持ってたら、俺じゃなくても『殺意』の有無くらいは確認するさ。 で、彼女はなんて答えたと思う?」 ワクワクと、とても楽しそうな表情を浮かべて問いを出す。 今の臨也を見たら、自らの方が回答を心待ちにしているクイズ番組司会者に見えるかもしれない。 「分からないし、そもそも全く考えなかった!」 「…………」 さすれば、二人の妹は、お馬鹿な芸能人と、何故バラエティに出たと言わんばかりの無口なタレントだろうか。 自信満々に無い胸を張る舞流と、ふるふる、と頭を横に振り回答拒否を示す九瑠璃は、早く答えを出せ、と言わんばかりの瞳を同時に臨也に向けて来る。 お前らに期待した俺が馬鹿だったよ。 「きっかけは、お前たちだったんだ」 「私?」 「……達……?」 蛍は、すぐには答えを出せなかった。 当たり前だ。大の大人でさえ千差万別の答えがあるだろう問いに、小学五年生の女の子が即答できるはずがない。 だから彼女は、考えて、考えて考えて考えて。 うんうんと唸り、時間をかけて、最後の最後に、閃いて。 彼女は、彼女なりに、彼女の答えを出した。 「蛍ちゃんはね、分かったんだ。 いや、分かっていたけど、頭に出て来なかったものを思い出したと言うべきかな」 「彼女は、越谷小鞠ちゃんの死を悲しむのが、自分だけではないということを分かっていた。 この場に呼ばれているれんげちゃんも、そうでない小鞠ちゃんの妹も、母も、父も、兄も、学校の先生も、みんな彼女の死を悲しむだろう、とね」 「めんどくさいから40字以内で結論だけ言ってよ!」 軽く無視して。 「だから、だよ。蛍ちゃんは、俺が、お前たちのことを話に出したのを思い出した。 折原臨也が死んだら、悲しむ人間がいるということを思い出した。 誰かが死んで悲しむのは、何も自分や自分の周りだけじゃない、ということを思い出したんだ」 「クル姉、イザ兄が死んだら悲しむ?」 「……無(ノーコメントで)……」 あえて無視して。 「それはつまり、俺や、蛍ちゃんだけの話ではない、ということを、彼女は理解したんだ」 「彼女はね、例え殺人犯だろうと、憎い仇であろうと、その人が死んだら誰かが悲しむという真理に、到達したんだよ」 「だから彼女は、殺さないんだ」 「例え、どんな相手であろうと」 「例え、どんな状況だろうと」 「殺してしまったら」 「新しい『越谷小鞠と一条蛍』を生み出してしまうということを、理解したんだ」 それは、悪いことだ。 一条蛍は、大好きな人が死んだら、どれだけ悲しいのか知っている。 一条蛍は、大好きな人が死んだら、どれだけの人が悲しむのかを知っている。 先輩を殺した相手がどれだけ悪い人であっても、家族がいるはずだ。 友人もいるかもしれない。もしかしたらお嫁さんがいるかもしれない。 だから、その人が死んだら、沢山の人が悲しむ。自分や、相手だけの都合で、皆を悲しませてしまう。 いけないことだ。良い子がしては、いけないことだ。 「自分の嫌なことは人にしてはいけません」なんていう、学校で学ぶ普通の、常識の、 だからこそ守るべきルールを、破ってはいけない。 だから、一条蛍は殺さない。 彼女は殺人を、何が何でも、否定する。 「蛍ちゃんはね、言うならば『光』だよ」 殺せない、でもない。殺したくない、でもない。彼女は、殺さない。 自分に人を殺せるわけがないと諦めて、壁から目を背けるが如き現実逃避ではない。 自分だけが綺麗なままでいたいがために他人に重荷を押し付ける責任転嫁でもない。 彼女が選んだ選択肢は。 例え、免罪符があっても。どれだけ暗い闇の中でも。大きな壁にぶち当たっても。 それでも、と言い続ける覚悟だ。 自分の意志で決めた、自分の中に見つけた、一条蛍の『不殺(ころさず)』の道だ。 本人に、自覚はないのかもしれないが。 「しかも、彼女の『光』は、都会の華々しい喧噪の中で輝きを放つ照明器具みたいな、自己主張激しく周りを照らしつける光じゃない。 かといって、戦場で敵を葬り去るために焚かれ続けるマズルフラッシュのように、暴力的で破滅的で刹那的な、悼みを伴う光でもない。 見るもの全てを焚き付け、引き寄せる、カリスマ溢れる支配者が放つギラギラした光でもないし。 何もかもを安心させて、無抵抗で我が身を委ねさせるような、神からの贈り物じみた聖人の光でもない。 そうだな……そう」 「寂れた田舎の夜闇に紛れて、未だ人間の手に汚されていない豊かな自然のなかで『ぽぅ』と姿を現す光」 「ホタルの光、みたいなもんかな」 「すぐに消えそう!消されそう!自然破壊でぐわーっと消え去りそう!」 「……儚(とても殺し合いの中で生きていけるとは思えない)……」 「いいんだよ。だから彼女は、最高に『普通の人間』なんだから」 恐らく、臨也の問いに蛍が即答していたら、彼は萎えていただろう。 こんな覚悟を最初から己の内に刻んでいる者など、それは『普通の人間』ではない。 それは、聖人や聖者や聖女と呼ばれるものだ。臨也は、少なくとも蛍にそんな役割は求めていない。 唐突に、殺人、復讐という壁が、目の前に聳え立って。 悩み、苦しみ、それでも。 蛍なりの経験から。思い出から。 時間をかけて、考えて。ようやく、答えをかざす。 彼女の答えは、子供が大人へ一歩近づく成長の証であり、この状況に対し自分なりに適応するための進化であり。 何より、普通の、等身大の人間が見せてくれる、魅せてくれる、善性の顕れだ。 「一条蛍はね、『正義』でもなく『希望』でもない、ただの『光』だ」 彼女の想いは『正義』のように、硬く、練り固まり、故に強く、尖っているものではない。 その強さゆえに、周りも自分も傷付けてしまうものではない。 彼女の願いは『希望』のように、温かく、優しく、見るもの全てに肯定されるご都合主義の産物ではなく。 手に取ったものを必ず幸せに出来るような、お伽噺の中にだけあるようなものではない。 弱弱しく、儚く、形さえも朧気なれど、現実とは繋がっていて。 ちっぽけだけど、確かにそこにある。夢ではなく、現実に在り続ける。 だから、光だ。一条蛍の、人を殺さないという意志は、光だ。 「すごいよクル姉!イザ兄がここまで人を褒めてるの、生まれて初めて目撃したよ!」 「……珍(一生に一度の思い出になったね)……」 「そりゃ、比較対象がお前らだからな」 流石に、人がここまで楽しく語っている最中に飛び蹴りが来るとは思わなかった。 よけきれず受け止め、たたらをふみ、ふぅ、と冷汗をかく。 空気の読めないやつめ。人の話は最後まで聞け。 「そもそも、いつ俺が、彼女のことを褒めた?」 「どういうこと!?実はほたるんは褒められて悲しむ逆ドМなの!?」 「……静(少し黙ってて)……」 流石に空気を読んだのか、姉である九瑠璃が妹の舞流の耳をぎゅーっと掴みにかかり。 さて、うるさいのもいなくなったし、ここからが本番だ、とでも言わんばかりに愉し気に。 ここに来て、臨也の評価は反転する。 しかし、それは単純に、光を闇に落とす、のではない。 「光は光だよ。それ以上でも以下でもない」 「スタングレネードの原理を知ってるか? もしくはチョウチンアンコウが獲物を捕食する方法でも良い」 「彼女は良い子であると同時に、無自覚の爆弾だ。光を放つ爆弾だ」 一条蛍という存在は。 「彼女の『光』を『正義』と信じ、蛍ちゃんを守るために死んでしまう人間が現れるかもしれない。 彼女が相手を殺さなかった結果として、取り返しのつかないくらい沢山の人が死ぬかもしれない」 『正義』のように、強いせいで自他を傷付けるわけでなく。 ちょっとしたことで消えそうなくらい、か弱いせいで、他人も自分も殺し得る。 一条蛍の、想いとは。 「彼女が想いを強くすれば強くするほど、自分を強く持てば持つほど、きっと彼女は誰かと衝突する。 現実主義者と。もしくは『正義の味方』と。彼女はいつか、絶望するよ。 誰も殺さずハッピーエンド、なんて道が、現実的であるはずがないからね」 『希望』のように、全ての者に受け入れられるわけもなく。 現実の中を生きていく限り、ハッピーエンドとは程遠い結末を迎える可能性が高い。 一条蛍の放つ『光』とは。 「彼女の理屈だと、人を殺した者はみんな天国に行けない悪い人になるのかな? 例え誰かを守るためでも? 自分自身を守るためでも?」 他者を、弱者を守るため、鬼となった者の目を焼くかもしれない。 自分が生き残るため不可抗力で人を殺してしまった弱者を、そうとは知れずに傷付けるかもしれない。 「もしかしたら、彼女が良い子であることにこだわるのは」 くつくつと、悪魔の顔をして情報屋は笑う。 可愛い子猫の滑稽な仕草を愛でるように。 口端を歪め、推測を口にする。 「そうしないと小鞠先輩のいる『天国』にいけないから、なんて思いこんでるのかもしれないねえ」 臨也は思い出す。 一条蛍が答えを出した後に、自分に対して言った言葉を。 「ありがとうございました」と、彼女は言ったのだ。 先ほどまで「怖い人」だと思っていたにも関わらず。 蛍という存在を観察し、そのために大小様々な壁を彼女の前に突き立てた男に向かって、言ってのけたのだ。 臨也にとって都合の良いように動かされて、臨也が思い描く計画に加担させられようとしている少女は。 「折原さんが気付かせてくれなきゃ、私はどこかで取り返しのつかないことをしちゃってたのかもしれません」と。 「だから、折原さんは良い人です。意地悪なことも言うけど、私のことを本当に考えてくれてる、良い人です」と。 臨也の、意地悪な問いに対して、蛍は。 「もしも、れんちゃんが悪い人に殺されかけていて」 「誰かが死ななきゃいけないようなことになったとしたら」 「その時は」 「代わりに」 「私が」 なんて、あまりにも『自己満足』に過ぎる答えを用意した。 彼女が死んで、それでどうなる? それで、本当に宮内れんげが救われると思っているのか? 蛍が死ねば、本当にれんげの方は死なずに済むのか? 浅い。もしくは、見えていない。 もしもそうなった場合。結局彼女は、自分だけ満足して、後のことは何も考えずに死ぬことになる。 自分だけ『良い子』のままで、他をすっぽかして、退場することになる。 だが、臨也はあえて指摘しなかった。指摘しない方が、面白そうだと思ったからだ。 ああ、本当に、これだから人間ってやつは面白い。 殺し合いといういうシチュエーションの中で、こんなにも、俺に可能性を見せてくれる。 賢しくも愚かしく。弱いままで強く。死に脅えながらも生を投げ捨て。 『良い子』であるために、自分を殺して、他人を殺す。 「彼女がこれからどう転ぶのかは分からない。 天を突くように良い方向に登っていくのか。 坂を転がり他者を巻き込み、地獄へと落ちていくのか。 だから俺は、彼女のことを観察対象として、高く評価してるのさ」 彼女に起きる悲劇に、喜劇に、思いを馳せ。 臨也は、満足気に語り終えた。 「……理(だからなの)?……」 しかし。 語り終えたから、それで満足だ、なんて。 折原臨也に、許されるはずがない。 外道が。畜生が。人格破綻者が。 そんな簡単に、終われるなんて、思わない方が良い。 「……なんだって?もっとはっきり」 臨也の言葉を遮るように、九瑠璃の言葉を引き継ぐように。 「だからイザ兄は、蛍ちゃんを庇ったの?」 折原舞流は、核心を突いた。 「…………」 臨也は、初めて言葉に詰まった。 口を開け、しかし言葉は出て来ず。 表情を消し、熟考せんと瞳を閉じ。 数秒の後に開けて、ようやく。 「さあ、どうだろうね」 濁した解を。 解答にもなっていない誤魔化しを、口に出した。 「意外と、何とかなると思ってたのかもしれない。 今までシズちゃん相手にも上手くやってきたからさ」 まるで、言い訳をしているようだった。 「それに、蛍ちゃんは俺のスマホを、俺の大事なメモを持っていた。 蛍ちゃんじゃなくてそれのために俺は体を張った、とも考えられるんじゃないか」 まるで、後付けをしているようだった。 「あそこで彼女を庇うそぶりを見せないと、もし蟇郡君が生き残ったら俺は白い目で見られてしまうだろうしね」 まるで、空虚な、言葉だった。 気付けば。 折原九瑠璃と折原舞流は、消えていた。 言いたいことを、言いたいだけ言って。 聞きたかったことを、聞きたいだけ聞いた、とでも言わんばかりに。 煙のように、臨也の前から消えていた。 「臨也にしては下手糞な嘘だねえ」 その代わりに、彼の前に立っていたのは。 白衣の男。眼鏡の男。 折原臨也の、唯一の友人にして。 折原臨也に、唯一影響を与えた男。 岸谷新羅が、ムカつくくらい爽やかに。 「あの折原臨也が、そんなことくらいで誰かを庇うわけないじゃないか」 ニッコリと、毒を吐いた。 ♂♀ 「ノミ虫を潰したことはどうだっていい。むしろ、それだけならよくやったって褒めてやりてえところだ。 だがよ……お前、ホタルちゃんを狙ってたよな? なーにも悪いことしてねえ子を殺そうとしてたってことだよなあ? つまり、お前は悪いやつだってことだよなぁ?」 「だったらどうだってんだよ、あァ?」 「人を殺そうなんて悪人は――――殺されても、文句言うなってんだよ!!!!」 二人にとってはいつものことである、売り文句に買い文句を始まりとして。 殺し合いは、始まった。 神衣と一体化した生命戦維の化け物。 池袋最強にして人類を超えた化け物。 そんな二人が一度力を競えば大地が割れ、木々が倒れ、森を荒れ地へ変えていく。 齢数十年はするであろう大木が、男の細腕で投げ飛ばされれば。 対抗するように、女は苔むした巨石をボールのように蹴り飛ばす。 飛来する枝葉が小石が切り株が岩石が、番傘により次々と撃ち落されたかと思えば。 木漏れ日を感じるお散歩の休憩にいかが、とばかりに設置されていたベンチが引っこ抜かれ、返す刀で突撃していた女へとぶちかまされる。 暴力と剛力が激突し、叫びと雄叫びが木霊し、拳と脚が突き刺し合う。 男が「殺す!!!」と道路脇のガードレールを引っぺがし、女へ向かって横薙ぎすれば。 女が「やってみろよ!!!」と傘を下から突き上げ、襲い掛かって来た分厚い金属板を迎撃する。 ガードレールは一撃目でたわみ、二撃目でひしゃげ、三度目には砕け散る。 だが、傘の方も同時に女の腕から弾け飛び、結局は振り出し。互いに無手。 次の得物を探すため、右に左にバーテン服のネクタイが揺れる。 そのほんの少しの隙をつき、先手必勝とばかりに白い悪魔が躍りかかる。 彼女は、今や傘以外の武器になる支給品を持ち得ていない。 伊達男の宝具たる槍は暗黒空間に呑み込まれ、代わりに手に入ったのは投げつけるにしても重量感に物足りなさが残る水晶の玉。 だからというわけでもないが、最強の男は、まさか少女が取り落した武器を拾うでもなく、そのまま拳を突き込んで来るとは思いもしなかったのだろう。 だが、神衣の力を侮るなかれ。ハサミさえなかれど、その身は平和の島に負けずとも劣らぬ人外の域。 静けさとは程遠い爆音と共に、驚愕の表情が男に浮かび、男の身体が宙に浮かんだ。 いつもは吹き飛ばす側だった最強の身体が、今は女の抉るようなアッパーカットにより地を離れた。 「なっっっ!?」 だが、浮いたのはほんの数センチ。ほんの数十コンマ秒。男が咄嗟に腹に籠めた力が、それ以上の進撃を拒んでいる。 今度は、女が驚く番だった。今まで三人の腹を貫いてきた彼女の拳をどてっぱらにまともに喰らい、突き抜かれないどころか吹き飛ばされさえしなかったのだ。 ならばもう一発、と引いた腕が、引き戻される寸前、万力の力で捕まれる。 掴んだのは当然、彼女から一撃をもらった男の手だ。 掴んだのは当然、良いパンチだったと相手を称え、握手をするためではない。 ならば当然、この後起こることは確定している。 次は、平和島静雄の手番だ。反撃だ。 纏流子が、宙に浮いた。数センチではなく、数十コンマでもなく。 十数メートルを、数秒の時間をかけて。 自販機を片手でボールのように投げつける男の力で、投げ飛ばされる。 捕まれた腕を『持ち手』にされて、身体そのものが真っ直ぐに、見えないストライクゾーンに叩き込まれる。 それでも流子は、地面に直撃する愚は起こさなかった。空を飛ぶのは生憎ながら初めてではない。 土煙を上げながら、土の上を前転しながら、前と前へと愚直に突き進もうとするエネルギーを逃がす。 転がり、転がり切り、それでも傷一つつかない純潔の素晴らしさに笑みを浮かべ、パンパンと汚れを払いながら立ち上がる。 ちょっとだけくらくらする頭を振り被り、相手を見据えれば、男の方も追撃する余裕はなかったらしい。 ふらり、と少しだけよろめいていた。あちらもあちらで、全くのノーダメージというわけではない。 距離が開いた。自分の傘の位置も把握した。あの馬鹿力男よりも遠く、流子のいる位置からは近い。余裕を持って拾えるだろう。 まだやれる。再度前進だ。後退などあり得ない。 バーテン服の方も全く同じことを思ったようで、数歩歩き、この戦争の中を運よく生き延びていた樹木を慈悲もなく一息で引っこ抜き。 頭上に影が伸びた。伸びて、伸びて、まだ伸びる。10メートルは下らない。 流子を見下すように高々と持ち上げられた木製の槌が、次の瞬間、上昇から落下へと運動を切り替える。 上等だ。タッパだろうが、エモノだろうが、ただでけえだけで私に勝てると思うなよ。 己の頭に向かって振り下ろされた大木の幹を横数センチといったところで躱し、駆け。 静雄へと向かう道すがら、脇道に逸れて番傘を拾う。まだまだ壊れる気配が見えないそいつに、余裕ぶった神威のアホ面が被る。 そんな、くだらないことを考えている間に魔人の手により引き戻されて、次はこちらに向かって勢いよく、丸太のように突き込まれる木槍に。 今はどこで何をしているのかも分からない同盟相手への苛立ちも込めて、カウンター気味で傘を思いっきりぶちこんだ。 そういった衝突が、何度続いただろうか。 一人と一人の大戦争は、化け物同士の戦いの趨勢は。 徐々に、しかししっかりと、片方に傾きつつあった。 静雄と流子は、怪獣と猛獣だった。 平和島静雄という男は、とにかく強かった。べらぼうに強かった。 平和島静雄という男の人生において、生身で彼と対等に戦えるものなどいなかった。 彼はいつでも怪獣で、周りのものは皆、人間でしかなかった。 怪獣と生身で徒手空拳で戦うものなどいない。 いうならば、怪獣映画における地球防衛軍の秘密兵器のように。 いつだって、彼を傷付け得るのは人間以外のものだった。 それは臨也の計略によって静雄を轢く、トラックであったり。 それは変態企業ネブラ社特製の、ボールペンであったり。 それは池袋という日本の都市には相応しくない、拳銃であったり。 サイモンという巨漢は、いつもニコニコと喧嘩を止めるために静雄の拳を受け止めるのみで、あちらから攻撃を仕掛けてきたりはしなかった。 六条千景というチーマーは、アメフト選手並みの体型をしている男のタックルを足一つで止められるほどの身体能力を有していたが、それでも静雄に怪我一つ負わせることが出来なかった。 折原臨也などは、それこそ論外だ。生身どころかナイフを使ってですら、静雄の薄皮一枚削ぐのがやっとという有様で、何かしらの道具を使わねば静雄に肉体的ダメージを与えることなど出来るはずもない。 あのジャック・ハンマーですら、先ほどの起死回生の一撃でしか、明確に静雄と互角の『戦い』をしたことにはならないだろう。 だから、これが初めてなのだ。 初めて、平和島静雄は自分と同格の、もしかしたらそれ以上のフィジカルを持った相手と相対する。 怪獣は初めて、自分以外の怪獣とぶつかり合うことになる。 ぶつかる、ではない。怪獣がビルを腕の一薙ぎで一掃するような、一方的な『破壊』ではない。 ぶつかり合うのだ。互いの身体は等しく武器で、防具で、『戦い』のための道具だ。 今までのように、一撃を与えれば終わる勝負ではない。一方的ではない。 一撃を喰らってもノーダメージという勝負ではない。互いに殴られればのけぞるし、蹴られればたたらを踏む。 一方で、纏流子は猛獣だ。 神衣という毛皮があり、片太刀バサミという牙を持つ猛獣だ。 彼女もまた、強かった。グレた一匹狼として生きた中学時代も、神衣を手に入れてからも。 彼女は強い少女だった。 だが、彼女の強さは絶対的なものではなかった。本能寺学園には、彼女以外の猛獣が沢山いたからだ。 鬼龍院皐月という支配者へと喧嘩を売った結果として、流子は沢山の戦いを経験した。 ボクシング部の部長に始まり、多くの部の部長たちと。 皐月へと傅く、本能寺四天王と呼ばれる強敵たちと。 皐月本人と戦ったこともあるし、ヌーディストビーチを名乗る変態とやりあったこともある。 時には、敗北する時もあった。辛勝したことも多くある。 だからこそ、彼女が手に入れた強さは、叩かれ、削られ、砕かれ、結果として研鑽されたものだ。 負けたくないから、頑張る。勝てる方法がないか、考える。どんな難題に対しても、諦めない。 成長もするし、努力だってする。負けた悔しさをバネにして、更なる高みへと昇りつめようとする意志もある。 神代の大英雄、アルトリア・ペンドラゴンと比べれば、まだまだ彼女など喧嘩っ早い青二才も良いところだろう。 だが、それは流子に戦いの経験が全くないことを意味しない。 アルトリアよりも弱いことは、流子が弱いことを意味しない。 殺し合いや戦場なんていう物騒極まりない日常を送ってはいなくとも。 英雄にはかなわなくても。戦士とまでは呼べずとも。 纏流子は、一流の猛獣だ。狩るか狩られるかの一線を戦い続け、戦い抜いたケダモノだ。 それは、純潔と共に生命戦維の化け物と化した今も変わりない。 纏流子としての記憶を取り戻し。 セイバーや神威という強敵との再戦に想いを馳せ。 殺し合いに勝ち上がり、たった一人勝利することを決めた猛獣が。 貪欲に力を求め、ひたすらに戦場に挑み、最強の地位を追い求める女が。 ロクに『戦い』を経験したこともない、殺し合いの新米に。 生まれてこの方ずっと、頂点で在り続けざるをえなかった、怪獣に。 最強と呼ばれながらも己の力を、暴力を嫌い、平穏という名のぬるま湯を望む男に。 喰らい付けない、はずがない。 平和島静雄は戦い方を変えなかった。 怪獣は他の怪獣と戦ったことがない。 だから怪獣は、その力が目覚めた小学生時代から20代も半ばに差し掛かりつつある今まで、やり方を変えなかった。 変えられなかったといっても良い。だって、変えなくても、勝てるのだから。 その辺にあるものを、放り投げる。 武器に出来そうなものは、持って振り回す。 近づいたら、殴る。蹴る。 あまりにも、シンプルなファイトスタイル。それだけで、彼に敗北の二文字はなかった。 一方で、纏流子は戦い方を変えた。 猛獣は、他の猛獣に合わせて戦い方を変えたほうが勝てるということを、分かっていた。 もしも、本能寺での戦いのように、純潔の力を思う存分発揮してそれで勝てていたならば、勝ち続けていたならば、流子も静雄と同じだったかもしれない。 己の力をただ好きなように振る舞うだけの戦い方を、ここでも変えなかったかもしれない。 だが、セイバーとの戦いに敗北したことによって。 纏流子として、鮮血と共に戦ってきた記憶が戻ったことによって。 彼女は、学習する。思い出す。戦い方にも工夫がいると、理解する。 流子は、単純な力比べを出来るだけ避け始めた。 このバーテンは、力だけなら流子にも勝り得る。 その事実を認め、だからこそ、真っ向勝負をしないようにする。 受け流し、もしくは避けて、躱して、体力と筋力の消耗を減らす。 攻撃、打撃を加える時も、一発一発、反撃をもらわないように丁寧に、慎重に、ヒット&ウェイを心掛ける。 元々、速さで言うなら流子に分があるのだ。蝶のように舞い、蜂のように刺す。 奇しくもその動きは、平和島静雄の大嫌いな、折原臨也のよう。 静雄はますます激昂し、手当たり次第に暴力を繰り出し続ける。 当然、流子の戦法では平和島静雄は倒せない、倒れない。 彼は、銃弾で打ち抜かれても平然としているような化け物なのだから。 だが、そうこうしているうちに。なあなあしているうちに。 静雄の武器となりうるものが、なくなり始めた。 当たり前だ。資源は有限。ゲームのように、時間が経てば補充されるようなものではない。 打撃代わりに使っていた木々は割れ、折れて、短くなり、破片となり、静雄の武器足りえる大きさ、長さにはならなくなっていく。 投擲物として使っていた岩は流子が受け止めず、躱すようになったことでどこかしこに転がっていき、こちらも割れることで、数を減らしていった。 ガードレールや、看板も同じことだ。静雄に使われれば使われるほど消耗し、破損し、使い物にならなくなっていく。 これまで、静雄がここまで長い間戦い続けたことはなかった。 大抵は一撃で片が付いたし、そうでなくても2度、3度彼が暴力を振るえば、大抵のことは何とかなった。 折原臨也との戦いにおいても、臨也は基本的に逃げの姿勢を取るので、街中で追いかけながら武器の類はいくらでも用意できた。 だが、今回は違った。纏流子は、逃げもしないが、負けもしない。 もしも、纏流子の今の戦い方が、素手、もしくは番傘を使用するというものででなかったら。 静雄の方も、やり方を変えたかもしれない。 いつものように、片太刀バサミを使っていたら。 もしくは、セイバーのような剣士が相手だったならば。 静雄も、凄まじい切れ味を誇る刃物に最大限警戒し、力の限り暴れずにいたかもしれない。 流子が、番傘の仕込み銃を積極的に攻撃に使用していたならば。 もしくは、アザゼルの持つイングラムM10のような、そのまま銃器が相手だったならば。 静雄も、鉛中毒になるのはヤバいという知識、経験から、少しは防御、回避に気を割いたかもしれない。 だが、流子の戦い方は、静雄にとってはいつもの喧嘩の、延長線上にあった。 果てしなく遠い線の向こう側、静雄と渡り合うという力を持った相手との喧嘩であったが、それでも線は繋がっていた。繋がってしまっていた。 だから静雄は『いつもどおり』を崩さなかった。 そんなことをしていたから、長い間していたから。 静雄の息の方も、徐々に乱れ始める。 これだけフルパワーで動き続けて、暴れ続けて、体力を消耗しないわけがない。 身体の方も、子供の頃のように静雄が力を振るうだけですぐに壊れてしまうほど柔ではなくなったが、それでも、疲弊しないわけがない。 平和島静雄は人を超えた超人なれど、無尽蔵のエネルギーを秘めているわけではない。 これまた、今まではここまで長い間、連続で戦い続けたことがなかった静雄に、スタミナ管理という言葉が思い浮かぶはずもなく。 一呼吸が長くなり、それだけ隙が増え、ここぞとばかりに流子の攻撃が差し込まれる。 最初の頃に比べて動きにキレがなくなり、スピードに分があった流子に、ますますついていけなくなる。 気付けば、完全に形勢は逆転していた。 攻めていたはずの静雄が、防戦し。 守っていたはずの流子が、攻めに転ずる。 「私は、お前みたいなやつが、イッッッチバン嫌いなんだよ」 185㎝の長身が、少女の蹴りにより吹き飛ばされる。 立ち上がった頭に鈍傘の先端が襲い掛かり、揺れるように何とか身を捩る。 だが、トロい。体勢を立て直す暇もなく、武器を拾う余裕もなく。 男はクロスした両腕で、二度三度バットのように打ち込まれる傘から体を守りながら、再度後退を余儀なくされた。 「皐月みてえに、自分は強いです。強くて当然ですって顔してるやつがな」 どれだけ追い込まれても、静雄は泣き言一つ口に出さない。 悲鳴も挙げず、命乞いもせず、倒れても何度でも何度でも立ち上がってくる。 彼がこちらに寄越すのは、自らに活を入れるかのような雄叫びと。 汚ならしい、いかにも頭の悪い罵詈雑言で構成された怒号と。 どこまでも流子の瞳から離れない、殺意のこもったガン付けだけ。 まるで、ここにきてまだ、自らの勝利を、疑いもしていないかのよう。 「精々、ちっちぇえお山のてっぺんで大将でも気取ってろ」 イライラした。 殴っても屈服しない。蹴っても服従しない。 まだ、自分が強いと思ってやがる。 まだ、自分の方が強いと勘違いしてやがる。 ちょいと、力が強いくらいで。ちょいと、私とやりあえたくらいで。 私よりも、自分の方が上なんだと、生意気な目が言っている。 気に入らねえ。だから、流子は真正面からこいつを折ってやろうとする。 今にも倒れ込んでしまいそうな、ひょろい身体に向けて。 フェイントもしない。ジャブも打たない。気持ちのいいくらい、真っ直ぐな一撃。 思いっきり、手加減なしで、力を込めて、ストレートの拳でぶん殴る。 「……俺は」 それは、隙だった。 静雄相手に戦い方を変えた流子が見せた、初めての隙だった。 この男を真に乗り越える。この男に完膚なきまでに勝つ。 負けず嫌いな心をバネに、今まで何度も挫折から立ち直って来た流子の心根が。 今まで勝ったはずなのに敗北感ばかり味わって来た彼女の怒りが見せてしまった、隙だった。 だが、こうしないと、纏流子は平和島静雄に、本当の意味で勝利することはない。 「俺は、強くなくても良かったんだ。 自分で制御できねえ強さになんて、これっぽっちも興味がなかった。 自分の力が嫌いで、嫌いで仕方なかった」 流子の、グーの拳は。 静雄の、パーの掌に、止められていた。 そうこなくっちゃなあ。甲斐がねえってもんだ。 「急に一人語りしてんじゃねえ、死ね」 捕まれそうになる拳を、力ずくで引き抜き。 次こそ打ち勝たんと、歯を喰いしばり、地面をしっかり踏み込み、腰を入れ。 ただの拳を振るう、ぶん殴るという行為だけで、流子の周りに風が吹き荒れ、足元に亀裂が走った。 「だがよ」 全力の、先を行く。限界を、乗り越える。 纏流子は、戦いの中で、前へ進む。 もう一度だ。逃げずに受けろよ。 「お前や、繭みてえなカスを殴るためなら」 そして、流子は、見た。 「この力で、ホタルちゃんが、死なねえで済むなら」 流子の、神衣純潔の、最大の拳を受けるというのに。 既にズタボロの、負け犬のような格好をしているくせに。 平和島静雄の目は、死んでいない。 「俺はいくらでも―――大嫌いな『暴力』を振るってやる」 受け止める、のではない。 パーの掌が、グーの拳に握りしめられる。 防御など性に合わぬ、とばかりに、彼が選んだのは攻撃。 即ち、流子と同じ、真っ直ぐのグーパンチだ。 静雄はそれを、いつものように、ぶつける。 怒りを込めて。憤りを込めて。殺意を込めて。 いや、それでは駄目だ。 いつものように、を超える。 静雄の遙か背後にいる、一条蛍のために。 殺すためではなく。自分のためではなく。 守るために。大切なあの子のために。 これが、平和島静雄の、全力全開。 更に、苛烈に。 更に、過激に。 更に、最強に。 最強の神衣たる純潔と。 生命戦維の化け物たる流子と。 ぶつけ合う。 「無理すんなよ、おっさん」 「年上には敬語使え、クソガキ」 二つの全力がぶつかり合い————————二匹の化け物はそのまま、お互い、逆方向に吹き飛んだ。 ♂♀ 「全く……この世界にまともな人間はいないのか?」 「君も含めて、いないんだろうね」 お互いに言葉のジャブを打ち。 二人の狂人は。 全ての人間を愛する男と、一人の異形だけを愛する男は、向かい合う。 今現在、セルティを目覚めさせることで、殺し合いからの脱出を図る情報屋と。 かつて、セルティの目覚めを邪魔し、殺し合いには呼ばれてすらいない闇医者が。 二人の友人が、相対する。 「君もいい加減、色々な謎に対する答えが欲しくなってきた頃だと思ってね。 自分が何もかも知ってるって顔をしてなくちゃ死んじゃう病だからねえ、臨也は」 「俺はお前という人間の成長に感動してるよ、新羅。 お前に教わったことなんて、宿題の答えから、ずっと騙し続けてきた女と同棲し続けられる無神経さの秘訣に至るまで、今まで一つもなかったから」 皮肉気に、挑発するように笑う臨也を、新羅は全く意に介することもなく。 右手の人差指を挙げ、人畜無害な笑みを浮かべて、ゆっくりと語りだした。 それだけ見ると、彼が着込んだ白衣も相まって、まるで今から理科の授業を始めますという新米教師のようだ。 教師ヅラした男は、不良然した男を前に、答えを述べる。 「まず、ここは死後の世界でも別世界でも何でもない」 「ここは、君の脳内さ。更に言うなら君の妄想。死に間際に見ている幻覚とでも言えば、もう少し格好がつくかい」 「走馬燈……の逆とでも言えばいいかな。 あれは今までの人生を思い出して何とか死なない方法がないか探すためのものだって説があるけど、この場合は違う」 「君は、自分が死ぬ理由を探しているのさ」 「自分はどうしてあんなことをしてしまったのか。 逃げれば良かった。放置しても良かった。静雄や蟇郡君と流子ちゃんを潰し合わせても良かった。 なのに、何故君は一番自らの生存から遠い選択を、蛍ちゃんを庇うなんて選択をしたのか、ってね。 それが知りたいから、未練がましく、女々しくも、脳内に脳内妹や脳内僕を作り出して、話し相手になってもらってるわけ。 つまり、結局は自問自答ってことだね」 驚きは、なかった。 「そうか」 あの時、纏流子へと走り、一条蛍を引き寄せ、何の策もなく化け物の一撃を受けて。 その後、直通でこんな意味の分からない場所に、放り込まれていたのだから。 「俺はこれから、死ぬのか」 こんなことだろうとは、思っていたのだ。 命の灯は、折原臨也という蝋燭は、既に消えていた。 今の臨也の意識とでもいうべき思考は、いつ何時消えるとも知らぬ、消えた蝋燭の芯から立ち込める煙に過ぎない。 「ああ、死ぬね。どんな名医だろうと手遅れだ。 君にだって自覚はあったんだろ、最初に天国地獄と言っていたんだから。 これで死ななきゃ、それこそ君は化け物だよ」 「勘弁してくれ」 自身の死よりも、化け物という単語の方に嫌悪感を示し。 どこかスッキリとした顔で、脳内友人に先を促す。 その様子はまるで、先ほどの、臨也に答えを急かした彼の妹二人のよう。 「君が蛍ちゃんを庇ったのは、人間を愛し、化け物を憎んでいるからだ」 「更に言うとね」 「折原臨也のせいで」 「折原臨也の計画の外で」 「人間が」 「化け物に殺される」 「それだけは、認められなかったのさ」 もしも、蛍が静雄から逃げ出し流子と出くわしてしまったことが、臨也による誘導の結果ではなく蛍の意志によって起きたことだったならば。 臨也は「これもまた、人間の選択の結果だね」と、飄々と彼女の死を見送っただろう。 もしも、流子に蛍が殺されることが臨也の計画通りだったならば。 臨也は「蛍ちゃんの尊き犠牲によって俺たちは救われた、ありがとう。本当にありがとう!」と、彼女の死に感謝しただろう。 もしも、流子に殺されるのが蛍ではなく、彼の大嫌いな静雄、もしくは静雄のような化け物だったならば。 臨也は「化け物が化け物に殺されるとは、素晴らしいね。さあ、残った方は俺たち人間で始末をつけよう!」と、歓喜したことだろう。 もしも、蛍を殺そうとしたのが流子のような化け物でなく、ジャック・ハンマーのような人間であったならば。 臨也は「人間同士の意志がぶつかり合い、強いほうが生き、弱いほうが死んだ。それだけのことさ」と、人間による殺人を否定はしなかっただろう。 「特に君は、人間が化け物に殺されることだけは認められなかった。 君は静雄君が嫌いだ。化け物が人間の何もかもを踏み潰していくことが嫌いだ。 だから、それこそ人間の可能性を根こそぎ奪っていく『死』というものを、化け物が人間に与えるなんて、許せなかったのさ」 「だから君は、自分で人間を殺すことが出来ないんだ。 静雄君と頭脳で渡り合う、渡り合えてしまう自分を、本当に『人間』として見て良いのかどうか、分からなかったから」 「それに、君は人間が静雄君を殺すように仕向けたことはあっても、逆はなかった。 静雄君を排除するのに一番良い方法は、彼に殺人を犯させて、化け物として消えない汚名を被せて、社会から抹殺することだ。 なのに、君はその手を10年間使わなかった。人間を操り、静雄君の手で殺させようとはしなかった」 「臨也、君ならば出来たはずだよ。 静雄君が本気でブチギレそうな人材を見繕い、静雄君が絶対に許せない行為を彼の前でさせて、静雄君がそいつを殺すように仕向けることが。 折原臨也ならば、出来たはずだ。なのにしなかった。 化け物が人間を殺すことを何より嫌ったんだ」 だから折原臨也は、一条蛍を庇った。 喫茶店で切嗣を待つ間に、蟇郡苛から流子がどういう存在なのかを、聞いていたから。 どれだけ言葉で肯定的に美化しても、纏流子が生命戦維と融合した存在、臨也にとって化け物であることには変わりない。 それでも、運良く、もしくは運悪く、流子が改心した時期よりこの地に呼ばれた蟇郡苛の勘違いにより。 今の流子は人間たちのために戦う戦士であるという、判断をして、DIOのように排除するつもりはなかっただけだ。 セルティのように、人間の可能性を奪うような化け物ではないと判断して、臨也の脳内で放置していただけだ。 しかし、纏流子はどう見ても殺し合いに乗っていた。 蟇郡から聞いた、鮮血という黒い改造セーラー服を着ているわけでもなく。 喧嘩っ早いが情に厚い、という様子も全く見せずに。 慈悲の欠片もなく、一条蛍を殺そうとした。 だから臨也は、纏流子を、化け物を許せなかった。 だから臨也は、一条蛍を、人間を庇った。 「君は蛍ちゃんを庇ったわけじゃない。 君は『化け物』に殺されかけている『人間』を庇ったんだ。 蛍ちゃんじゃなくて、チノちゃん、蟇郡君、空条君、風見君、他の誰でも。 全く同じ状況だったならば、君は彼らを庇っただろう。君は『人間』を庇っただろう」 「セルティ以外の存在を背景くらいにしか思っていないやつが、好き勝手言うじゃないか。 それとも、俺の脳内で生まれた存在だからって、俺のことは誰よりもよく知っていると勘違いしてるんじゃないか?」 「例え僕が本物の私でも、これくらいは言っただろうさ。 例え背景に興味がなくたってね。 その背景が長い年月の間ずっと背後に見え続けていたら、否が応なしに、ある程度は理解できてしまうものだよ」 ふぅん、と、一応は納得が行ったという顔をして。 俺も、馬鹿なことをしたな、と呟き、自嘲し。 人間を愛しているのならば仕方ないか、と、自分自身に言い聞かせ。 それでも、何故自分がこんなに満足しているのか、臨也には分からなかった。 今から自分は死ぬのだ。どんな善行を為したとしても、どれだけ己の信念に従ったのだとしても。 死ねば、終わりだ。臨也は未だ、天国の実在に立ち会っていない。だから臨也は、死ぬことが嫌だったのだ。 なのに、意外と、悪くないな、と思ってしまっている。 「それはつまり、こういうことだよ」 こちらの心を読んだように語りかけてきた、新羅は。 闇医者としてのトレードマークであると言わんばかりに年中着こなしている白衣を、着ていなかった。 あと数年で20代後半に差し掛かりつつあるのに未だ童顔、といった顔でもなかった。 今の岸谷新羅は。 臨也のよく知る学校の、制服を着ていた。 童顔ではなく、本当に幼い、子供のような身長に見合った、顔をしていた。 折原臨也と出会った時の、中学校時代の、新羅だった。 「ああ、そうか」 得心が言った。なぜ自分が、これほどまでに満ち足りているのか、納得がいった。 折原臨也の人生観に唯一影響を与えた闇医者が、中学時代に起こした蛮勇を、思い出し。 『ヒーローになればセルティに褒めてもらえる』という、臨也からしたら至極どうでも良い理由だけで。 風景のようにしか思っていなかった友人を、折原臨也を庇い、死にかけた馬鹿が。 こちらに笑いかけているのを見て。 『自分が愛している存在のために死ねる』男を羨んでしまった、あの日の自分を振り返って。 「俺はようやく、追いついたんだな」 完全燃焼したとでもいうように、感慨深げに、折原臨也は息を吐いた。 10年以上も前から目の前の友人に抱いていた嫉妬心も、対抗心も、もしかしたら憧れも。 全てが散っていく。いつのまにか切られていたゴールテープを、ようやく自覚する。 学生時代の岸谷新羅という答えを前に、未練を、後悔を、思い残しを、浚い切っていく。 「まあ、僕は死ななかったから、君は未だに私に及ばなかったとも言えるわけだけど」 「お前だって俺がいなきゃ死んでたろ。それに、ナイフを持って逆上した中学生よりも、シズちゃんばりの化け物の方が格はずっと上さ」 「いつもの君ならこう言うだろうね。『死ねば終わりだって言うのに格なんて曖昧なものに拘るなんて馬鹿らしいとは思わないの?』」 「……はぁ。数少ない友人がこんなに達成感に浸っているっていうのに、相変わらず空気が読めないな、お前は」 「君に言われたくはないよ!」 「俺は空気を読んだ上で、面白くなりそうだったらあえて読まないだけさ。お前とは違う」 「知ってる、臨也?世間ではそういう人を最低って言うんだよ?」 「人間のことをどこまでもどうでも良いと思ってるお前よりはマシだろうさ」 「酷いなあ。俺だって、セルティが一番なだけで、例えば杏里ちゃんと臨也のどちらかを助けろと言われたら、一切迷わずに杏里ちゃんの方に手を差し伸べるくらいには善人だよ?」 「それはセルティにとって俺よりも杏里ちゃんの方が大事だからってだけだろ」 「臨也にとってはさ」 「臨也自身よりも、『人間』の方が大事だった?」 「馬鹿言えよ」 躊躇いは、もはやなかった。 「――――俺だって『人間』さ。 蛍ちゃんや、蟇郡君と同じ、人間さ」 嘯くことなく、心の底から、断言する。 折原臨也は、人間である。 そう言い切り、愛することが出来るまでに、どれだけの時間がかかっただろう。 愚かな選択を取り、たった一度の人生を投げ捨て、自身の敵を一人も、自らの手で抹殺することが出来ず。 自分が自分であるための道を選び、たった一人の女の子を救い、岸谷新羅という好敵手とようやく肩を並べることが出来た男。 そうだ、俺は今こそ『人間』である『折原臨也』を、愛そう。 多くの人間に嫌われ、憎まれていた、どうしようもなくクソッタレなヤツの末路を。 俺は、せめて俺だけは、心の底から祝福しよう。 「さて、思う存分自己満足したところで、自問自答も終わりとしようか」 曖昧模糊な世界が崩れ、これ以上ないくらいはっきりと、臨也は闇に覆われる。 とうとう終わりがやってきた、ということだ。 結局、天国の実在を証明することも、自身を殺し合いに参加させた繭への復讐も、平和島静雄を殺すことも出来なかった。 一条蛍も、臨也が命を懸けて庇ったあとに、流子にあっさりと殺されているかもしれない。 無駄死に。もしかしたら、今の臨也を『折原臨也』が見たら、そう冷静に評価するかもしれない。 だけど、悲しみとか、怒りとか、そういった負の感情は浮かばなかった。 ああ、俺は、やっぱり人間が好きだ。 こんな時でも、場合でも、達成感に満たされながら死ぬことが出来る、人間の愚かしさが大好きだ。 繭の言う通りならば、これから臨也はカードに閉じ込められる。 暗い寒いカードの中は、いったいどうなっているのだろう。 暗いって、どれくらいだ?何も見えない無明の闇か? はたまた、目を凝らせば自分くらいは見えるのか? 寒いって、どの程度だ?そもそも魂に寒いって感覚はあるのか? 逆に言えば、暗い、寒いと『感じる』ことは出来るのか? 好奇心が沸く。 もしも魂が寒さを感じるための『肉体』の形を取るのならば。 手足の、身体の感覚は残っているのか? 空腹は?排便は?睡眠は?性欲は? カード内部はどのような空間になっているのだろう? 動けるスペースは?外界は全く見えないのか? 例え魂が閉じ込められても、臨也の大好きな、思考をすることは出来るのか? また、臨也は『天国』を未だに諦めていない。 セルティ・ストゥルルソンはまだ生きている。 臨也のメモが入ったスマートフォンは、蛍が未だ所持している。 臨也は、未だ希望を捨てない。 自身は死ねど、他の『人間』が彼の遺志を継いでくれることを、期待する。 誰かが主催者を倒し、誰かがカードの中から魂を開放し、臨也にとってのハッピーエンドとなることを、自分勝手に望む。 そうして臨也は天国に行き、思う存分人間観察に励むのだ。なんと心躍る可能性だろうか! まるで走馬燈のように、今更に、人間たちの、顔が浮かんだ。 生みの親である両親、彼らの親でもある祖父母。 どうしようもなく愚かな、しかしてこんな臨也を家族だと慕ってくれた妹たち。 弟好きの秘書。妖刀を乗り越えた少女。顔に火傷痕の男。胴着を着た女性。禿頭の元ヤクザ。ロシアからやってきた何でも屋。 たった一人の、臨也よりも頭がおかしかった、白衣の友人。 この地で出会った空条承太郎、衛宮切嗣、一条蛍、ラビットハウスに残った面々。 他にも、沢山の人の顔が。商売相手や取引相手やお得意様や情報源やターゲットやその他諸々。 彼が希望を与えた少女も、彼が絶望を与えた少年も、彼のことなんて構わず非日常を求め続けた後輩も。 誰も彼もの幾つもの表情が浮かび、消え、最後に、一つの顔が残った。 虚無。空白。もしくは、『人間』という存在そのもの。 「ああ」 彼らに、『人間』に、別れは告げない。 折原臨也は天国を信じ、この地の仲間を信じている。 きっと、あの世でまた会える。湿っぽいのは無しだ。 だから。 臨也は、自分という存在がこの世から消え去る、刹那の間に。 絶対に自分と同じあの世へ、天国へ来てほしくないシズちゃんへ。 地獄でも煉獄でもいいから、自分と同じ世界にだけは来てほしくない化け物へ。 もう二度と会いたくない化け物に、一方的に、永遠の別れを告げて、締めくくりとした。 「さよならだ」 ♂♀ 「ここは退け、平和島」 飛んできた静雄を受け止めて。 開口一番、蟇郡苛はそう言った。 「ああ?」 全身打撲、出血している場所も、青痣になっている箇所もある。 満身創痍にして絶体絶命。こんな状態でもう一度流子と戦ったら、間違いなく彼は死ぬ。 しかし、そんなことくらいで止まるつもりはない、と言わんばかりに、当たり前のように。 自分が吹き飛んで来た方向に戻り、つまり、戦場へと舞い戻り。 あの程度で死ぬとは思えない、静雄を待ち受けているであろう、あいつを殴りに行こうと。 静雄は再度、あのクソ女をぶち殺しに行こうとしていた。 静雄の中で暴れ千切っている破壊衝動、未だ噴火したりないと吠えている大火山の如き怒り。 彼はそれらを発散しようと、蟇郡に背を向けようとして。 「俺が守っていなければ、一条は既に3度は死んでいた」 目に入ったものがあった。 用意されている、黒塗りの車。助手席に寝かされている、静雄が守るべきか弱い女の子。 それらの周りに、いや、そこ以外のどこかしこにも。 静雄が投げ飛ばした、巨岩があった。流子が蹴り飛ばし返した、大木があった。 静雄が振るった結果、先端が千切れて飛んだ、標識の『止まれ!』が落ちていた。 「貴様と纏の戦いの余波は、ここにまで到来していた」 静雄は、理解する。蟇郡が、飛来物から蛍を庇っていなければ。 俺は、自分ではそうと気付かないまま、ホタルちゃんを殺していた。 静雄の内部で渦巻く、怒りが、熱が。 まるで、絶対零度の氷を、背中に流し込まれたように。 一瞬で、冷えた。凍った。動きを止めた。 はっと、蟇郡を見た。彼は、難しい顔をしていた。 「俺は」 誰かを守るために、力を振るっていたつもりだった。 彼女たちを守るためなら、いくら自分が傷ついても、悪人を傷付けても、暴力を振るうべきだと思っていた。 だけど。 全然、守れていなかったのか。 俺が勝手に、そう思っていただけで。 結局は、いつものように。 周りを、俺の暴力で傷付けていただけだったのか。 「平和島よ」 だから守れないのか。 だから俺は、コマリも守れず、ホタルも危険に晒してしまうのか。 言葉を失い、力なく、放心したように、腕をだらんと垂らした静雄に。 蟇郡は、声をかける。だが、慰めのためではない。 「貴様は――――弱い」 池袋最強は、この地にて最強に非ず。 その事実を示し、静雄への戒めとするためだ。 ガツンと、頭を殴られたようだった。 今まで受けた、どんな打撃よりも。 纏流子のグーパンチよりも、響く言葉だった。 今まで、強い強い強すぎると恐れられ。 それが嫌で嫌でたまらなかった、はずだった。 だけど、実際に。 自分が望んでいたはずの言葉を、もらい。 弱い、と言われ。お前は強くも何ともない、と言われ。 今までのやり方では駄目なのだ、と理解して。 最強として池袋の街で恐れられた男に、去来した想いは。 暴力以外の取り得もなく、それでも、守りたい者がいる男の胸に、残ったものは。 やりきれなさと。 無力感と。 じゃあどうすれば良いんだ、という、迷いだけだ。 蟇郡苛は、彼の心中を察する。 彼は、自分とは真逆の人生を送ってきたのだろう。 優しく、誰かのために戦うことが出来るほどに優しく。 だが、怒りっぽく、自身の力を制御も出来ず、だから失敗する。 守ること、負けないこと、いかなる力にも跪かぬことで、己が覚悟を貫く、蟇郡苛とは違い。 殴ること、勝つこと、いかなる力をも跪かせることで、己が人生を生きてきた平和島静雄は。 此度の戦いで、挫けた。転んだ。いつもどおりでは、どうしようもない壁にぶち当たった。 「貴様の弱さは、腕力やその他の『暴力』によって克服できる類のものではない」 ならば、蟇郡苛は、道を示そう。 かつて、鬼龍院皐月様が蟇郡にそうしたように。 この俺が、生きた盾であるこの俺が、平和島静雄へと道を示そう。 強さとは、己の為したいことを為し得る力のことだ、と蟇郡は語る。 お前が本当にしたいことは、流子のような悪人を殴ることか?と蟇郡は問う。 静雄は、違う、と力なく言った。そうだろう、と蟇郡は同意した。 捨て犬のように、頼りなさげに見つめてくる、蟇郡よりも年上の男に対し。 諦めるな、と盾は言う。だが、茨の道だ、と、かつて力なくして弱者を守り切れなかった男は言う。 誰かを守るという行為は、言うは易し、行うは難し。 一朝一夕で出来得る秘訣もなければ、心得を説けば誰でも出来るというものではない。 「結局、その力は、お前自身にしかどうすることも出来んものだ。 だが、今すぐコントロール出来るようなものならば、貴様はここまで苦しんではおらぬだろう」 時間が必要だ。 平和島静雄が、成長できるだけの時間が。 傷を癒し、十全に力を発揮し、その上で力を、誰かを守るために使うことが出来るようになるだけの時間が。 しかし、蟇郡は皐月様のように、誰かを圧倒的な力や弁舌や光り輝くカリスマ性で導くことが得意ではない。 ならばこそ、俺は俺が得意なことで、貴様に時間を、道を作ってやる、と彼は叫ぶ。 その道が、でこぼこでも、障害物だらけでも、辛いことばかりでも。 もう、ここで終わりでも良いんじゃないか、ここをゴールとして良いんじゃないか、と諦めかけても。 往くのだ。精一杯走り、転んでも立ち上がり、終わりのその先へ、向かうのだ。 生きろ。一条蛍と共に、生きろ。 そのために。 「ここは、俺が引き受けるッッッ!!!」 蟇郡は、静雄の代わりに、一歩を踏み出した。 「おい、ちょっと待てよ」 「なんだ、平和島。伝えたいことは伝えたぞ」 「一緒に、行かないのか」 「纏は飛行能力を持っている。車で逃切れるかも分からぬし、もし追いつかれたら如何する。 俺やお前だけならば何とかなっても、一条を庇いながら、守りながら、カーチェイスを出来るとは思えん。 一条のことを考えるなら、一人がここで纏と戦い、もう一人は一条を連れてこの場を離れるべきだ」 「だったら、どうしてだよ」 「どうして、俺を置いてホタルちゃんと逃げなかったんだよ」 ふん、と蟇郡は、静雄を馬鹿にするように鼻を鳴らした。 なんだよ、と不機嫌になる静雄に、分からぬのか、と、あえて言ってやる。 「信ずる友を見捨てて逃げるほど、この蟇郡苛、腐ってはおらぬ」 最初、静雄は、ぽかん、と口を開けた。 だが、少しして、意味を理解し、唇を震わせて。 瞳を隠すように、サングラスをかけて。 じゃあ、だったら俺だって、と、言いかけて。 「俺はアイツと、纏流子と浅からぬ因縁がある。 ならば、貴様ではなく俺が先、というのが筋というものだ。 それに、今でも貴様は一条を守ることよりも、纏を殺すことを優先する気か」 言い訳を、もらってしまった。 彼と彼女の間に入るのは、無粋であると。 筋を通すという言葉を。 一条蛍を守るという使命を。 立ち止まってしまった静雄をよそに、ずんずん、と蟇郡は進んでいく。 未だこの周辺は生き残っている木々の向こうで、戦争跡の向こう側で待っているだろう、堕ちた本能寺学園生徒へと向かっていく。 彼の体躯が森の合間に見えなくなりそうになり。 自分が蟇郡にしてやれることは本当に何もないのか、焦燥感が募り。 このまま、一方的に借りを作って別れるなんて嫌だ、と、惜別の念が込み上げ。 思わず、静雄は叫ぶ。 「守り方ってやつをよ!」 「……なんだ」 「『今度会ったら』守り方ってやつを、教えてくれねえか」 今度は、蟇郡が口を開ける番だった。 しかし、彼もまた少しして、静雄が何を言いたいのかを悟り。 うむ、と。任せておけ、と。大きく鷹揚に頷き。 静雄を安心させるように、言葉を返す。 「高くつくぞ」 「きっとだぞ」 「ああ」 「絶対だぞ」 「くどい!」 「……またな、蟇郡」 振り切るように蟇郡は、歩みを、進撃を再開する。 敵を討ち、仲間を守らんと、男は男の道を往く。 威風堂々、待ち受ける死神さえも道退く巨神は、死地へと向かう。 最強ではなくなった静雄が、以前よりも小さくなったのかもしれないが。 その背中は、とてつもなく大きかった。 静雄は彼の『強さ』に、純粋に憧れる。 自分も、彼のようになりたいと素直に思えた。 力に溺れず、己を律し、誰かのために自信を持って戦えるように。 自分も、あんなふうに。 「強く、なりてえなあ……」 暴力を何より嫌い、争いを誰より憎む、化け物は。 守るための、強さを望み。 守るために、この場を離れる。 『最強』の守護者を、自身がそうしてもらったように、信じて。 男の勇姿を見送った静雄は、蟇郡が用意してくれた車に乗りこむ。 免許はない。だが、そんなことを言っている場合ではない。 見よう見まねでエンジンをつける。 慣れぬ手つきでレバーをDへと倒し。 左がアクセルだっけか……と少しだけ試運転して、動かし方を確認する。 そして、さあ、発進だ、という前に、未だ目を覚ましていない助手席の蛍を、心配そうに見つめ。 他に何があるか、後ろを振りむき、そこで。 二人の人間が、寝かされているのを見つけた。 きっとどちらも、蟇郡が運び、乗せたのだろう。 男の方を見て、嫌そうな顔も、憤怒の形相もせず。 池袋を騒がせる最強の片割れは、無表情で。 「臨也」 もう片割れからの、返事はなかった。 嫌味も、皮肉も、暴言も、何もなかった。 今まで幾度となく言葉で静雄をキレさせてきた男から、言葉が返って来ることは二度となかった。 折原臨也は、後部座席に安置されていた名前も知らない金髪少女の横で、大人しすぎるほど静かに、眠っていた。 沈黙を保った静雄の耳に届くのは、助手席に乗せた一条蛍1人分の、苦しそうな寝息だけだった。 「シズちゃんと相乗りだなんて、死んでもごめんだね」なんて、いかにもこいつがほざきそうな悪口は、永久に聞けそうにない。 静雄が「ゾンビのように執念深い」と嫌々ながらも評価したノミ虫が、パニック映画のようにいきなりこちらに襲い掛かって来ることもない。 こんなもんか、と思った。 意外と、あっけないもんなんだな、とも。 平和島静雄は、折原臨也を許したわけでは断じてない。 殺す理由は100も思い尽くし、殴る理由は1000にも上る。 この地においてもこいつは、静雄を陥れようとしていたようだし。 先ほど、蛍が死にかける原因を作ったのも、そもそもこの男だ。 だが、それでも。 一条蛍の命を救ったのが、折原臨也だったことは事実だ。 静雄も、蟇郡も、間に合わない距離で。 静雄よりも速く、蟇郡よりも迅速に。 いつも静雄から逃げている時のような、要領の良さで。 いつもからは考えられぬ、似合わないことをして。 臨也は間に合った。静雄は、間に合わなかった。 その事実は、未来永劫書き換わることがない。 だから静雄は、筋は通す。 筋を通さないことよりも嫌いな男は、ここにはいない。 この車から投げ出したりはしないし、これ以上損壊する気もない。 それに、蛍の恩人となってしまったやつに対して、不本意ながら、言葉の一つもかけてやるのが人情というものだろう。 では、なんと言ってやろうか、と少しだけ考えて。 感謝や、謝罪や、敬意や、そういった類の言葉は絶対に言いたくないし。 何より、自分たちには似合わないだろうから。 「あばよ」 せめて、別れの言葉くらいは、口に出してやることにした。 ♂♀ 「纏よ、一つ聞きたいことがある」 再会を、祝うでもなく。呪うでもなく。 純潔の流子に対しても、既に聞き及んでいた世界移動の話から驚きもなく、ただただ平常に。 蟇郡苛は、巨大な体躯から漏らすように、声をかけた。 今、この質問をすることに、意味はないのかもしれぬ。 だが、纏流子のために。いや、自分のためでもあったかもしれぬ。 無念に死した『彼女』のためでも、あったのかもしれぬ。 どちらにせよ、これだけは、聞いておく必要があった。 「満艦飾マコという少女を、覚えているか」 纏流子の、親友を。 纏流子を神衣純潔から救い出した、小さな英雄を。 止まれと言っても止まらない、あのどうしようもなく突き抜けたバカを。 お前は、覚えているか、と。 「なんで、んなこと聞くんだよ」 流子は、今の空の色を聞かれたように、不機嫌な声で唸った。 「さっき会った。死んでたよ」 流子は、自身の親友のことを、覚えていた。 いつだって、彼女と一緒で。 いつだって、彼女を救って。 いつだって、彼女の原動力だった。 そんな親友の、死を。 満艦飾マコは、死んでいた、と。 あっさりと言いのけた。 こともなげに言った流子の顔に、悲しみはない。 「止まる気は、無いのだな」 流子は、一瞬だけ驚いた顔をした。 まさか、そんなことをこの男から言われるとは、思いもしなかったのだろう。 こいつは人一倍やかましく、ことあるごとに風紀だルールだとうるさく。 流子のような輩には、もっとも容赦のない人種だと思っていたからだ。 あるいは、彼らしからぬ最終通告は。 救われた纏流子という未来を、知っていたから。 満艦飾マコと共にハッピーエンドを目指した纏流子を、知っていたから。 姉妹たる皐月様の傍らに立ち、我ら本能寺学園四天王と肩を並べ。 生命戦維と鬼龍院羅暁を打ち滅ぼさんと立ち上がった流子のことを、知っていたからこその。 変わってしまった流子への、『彼女』の無念を、涙を、代わりに俺が拭えれば、という。 未練、だったのかもしれない。 だが。 驚いただけで。 「……おせえんだよ、お前も」 流子の耳に、二度と讃美歌は届かない。 だから、蟇郡は決断する。 是非もなし、と。 「これ以上、貴様と語らう必要なしッッッ!!!」 三ツ星極制服、縛の装。 最終形態、解放。 煤けた灰の包帯を巻き、ありとあらゆる攻撃を受け止め。 変態ではなく変身し、全身から鞭を繰り出す。 死の恐怖により、他者を縛り。 自らの身体を戒め、他者への戒めとする。 第一の装、縛の装を脱ぎ捨て。 纏流子による戦維喪失より復活し。 神衣鮮血、純潔、更に針目縫の戦闘データを取り込み。 己の拘束を解き、縛りながら死縛を行う。 改の装、四将綺羅飾が一。 第二の装、縛の装改をも超越する。 本能寺四天王が守るべき、侍るべき主より授けられた、究極の戦装束。 神衣さえ切り裂く鬼龍院皐月の刀、縛斬と同等の硬度を持つ、正しく生きた盾。 拳に宿るは、燃える正義を表す炎。口から放つは、正しき意志を表す光。 己の肉体を余すことなく現世に晒し、露(あら)わに出(いで)るは絶対守護神。 其は、我が心を解き放ち、心行くまで蟇郡苛の信念を貫き通すための力。 縛の装・我心解放――――ここに見参! 「この本能寺学園風紀部委員長、蟇郡苛ッッ! 満艦飾のように甘くはないぞッッッ!」 風紀のために。 規律のために。 守るべきものたちのために。 益荒男は、立ち上がる。 「皐月様に仇なす悪鬼羅刹を打ち滅ぼすためッッッ!! 全ての兵(つわもの)を守るためッッッ!!!」 皐月様は、必ずやこの悪趣味愚劣な戦いを止めるために戦っている。 あの方は仲間を集め、情報を集め、先陣を切り、先頭に立ち、必ずや繭の喉元へと刃を突きつける。 彼女の元へ、戦士は集う。彼女の光に、防人が従う。彼女の剣は、服を着た豚を決して許さない。 ならば。 ならば、ならば、ならば! 主催へと刃向かう勇気ある者、全て皐月様の私兵也! 皐月様の私兵を犯す者、全て皐月様への逆徒也! 折原臨也を、一条蛍を、平和島静雄を。 殺し、傷付け、惑わした纏流子こそ。 我らが御旗、鬼龍院皐月様の怨敵也! だから、鬼龍院皐月様の、生きた盾として。 本能寺学園生徒、纏流子の風紀を取り締まる風紀部委員長として。 倒すべき敵に、万死を与えるため。 守るべき友の、万難を排するため。 「貴様を―――処刑するッッッッ!!!」 蟇郡苛、ここに起つ。 対し、一人の逆賊は。 服を着た豚、一匹は。 「でけえなあ、でけえ、でけえ。 顔もでかけりゃ態度もでけえ。図体もでかけりゃ、夢まででけえってか」 纏流子、怯みを知らず。 神衣純潔、畏れを知らず。 孤服一着、変え着を知らず。 生命戦維の化け物、己が勝利を疑わず。 「全員守る? ふざけるなよ」 流子は、笑った。 肉食獣の笑みを、顔が張り裂けそうになるほど大きく、顔に浮かべた。 張り裂けそうな胸の痛みを笑顔に変えながら、嘲った。 「その全員とやらの中に、あいつは入ってなかったのかよ」 笑顔のまま、怒り狂った。 彼女がこの地に舞い降りてから。 皐月と鮮血にしてやられ、聖女や蟲男に敗北感を味あわされ。 セイバーに負け、高坂穂乃果に負け。 満艦飾マコが死んだと、放送で聞いて。 満艦飾マコの、救いも希望もない死に顔を見て。 今この瞬間に込み上げてきた、今日一番の怒りだった。 マコの死に対する、悲しみは既になくとも。 彼女を守れなかった、蟇郡と、■■に対する。 自分でもワケが分からないほどの、はち切れんばかりの怒りだった。 「マコ一人守れなかった、デクノボーなんぞに」 もしくは。彼女が今からすることは。 それこそ、年相応の少女ならば誰だって見せる。 余人にはどうしようもない、複雑な乙女心が見せる。 ただの、八つ当たりなのかもしれない。 「守らせるもんなんて、これっぽっちもねえんだよ」 時系列順で読む Back キルラララ!! わるいひとにであった Next 折原臨也と、天国を 投下順で読む Back キルラララ!! わるいひとにであった Next 折原臨也と、天国を 143 キルラララ!! わるいひとにであった 蟇郡苛 143 折原臨也と、天国を 143 キルラララ!! わるいひとにであった 平和島静雄 143 折原臨也と、天国を 143 キルラララ!! わるいひとにであった 折原臨也 143 折原臨也と、天国を 143 キルラララ!! わるいひとにであった 一条蛍 143 折原臨也と、天国を 143 キルラララ!! わるいひとにであった 纏流子 143 折原臨也と、天国を
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【名前】香風智乃 【出典】ご注文はうさぎですか? 【種族】人間(中学生、喫茶店「ラビットハウス」店員) 【性別】女 【口調】一人称: 二人称・三人称: 【声優】水瀬いのり 【年齢】中学2年生 【外見】水色のロングヘアに×印の髪留めを二つ付けている。いつもアンゴラウサギのティッピーを頭に乗せている。私服は青を基調としたものが中心。 【性格】通称「チノ」。ラビットハウスのオーナーの一人娘。子どもっぽい容姿だが言動はクールで大人びている。ココアからは妹として扱われているが、本人は不満げ。だがココアが他の子を妹扱いしようとすると無自覚に嫉妬する。 【能力】香りだけでコーヒーの銘柄を当てることができるなど、カフェの店員としての腕前は高い。チェスやジグソーパズル、ボトルシップなどの一人遊び系(シャロいわく「老後も安心」)。 以下、本ロワにおけるネタバレを含む +開示する 香風智乃の本ロワにおける動向 初登場話 003:忘れられないアンビリーバブル 死亡話 168:妹(後編) 登場話数 12話 スタンス 対主催 キャラ名 関係 呼び方 解説 初遭遇話 保登心愛 友好 本ロワでは再会せず 天々座理世 仲間 111話から168話まで同行 111:和を以て尊しと為す(上) 宇治松千夜 友好 本ロワでは再会せず 桐間紗路 友好 58話で遊月から会場内の彼女の事を知る 本ロワでは再会せず 蟇郡苛 友好 3話で遭遇。恐怖から攻撃してしまうも、許され和解。47話で別れる。 003:忘れられないアンビリーバブル 空条承太郎 仲間 47話から111話まで同行。145話で再会し168話まで同行。 047:殺人事件 一条蛍 友好 47話から111話まで同行 047:殺人事件 折原臨也 警戒? 47話と111話で遭遇 047:殺人事件 衛宮切嗣 警戒? 47話と111話で遭遇 047:殺人事件 紅林遊月 仲間 58話で遭遇。131話で再会。150話からココアと思い込む事で依存対象となる。168話まで同行 058:スマイルメーカー キャスター 敵対 82話で彼の放送を視聴する 未遭遇 風見雄二 仲間 111話から168話まで同行 111:和を以て尊しと為す(上) 針目縫 敵対 145話で襲撃される 145:Not yet(前編) 言峰綺礼 仲間 145話から168話まで同行 145:Not yet(後編) セイバー 敵対 168話で襲撃される 168:妹(前編) 纏流子 敵対 168話で襲撃される。彼女を蟇郡から聞いた皐月と間違え接近した処を殺害される 168:妹(後編)
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殺人事件 ◆7fqukHNUPM 「8人も……います!」 殺し合いの会場、ある市街地。 その時点では、誰も殺し合いに乗ろうとは考えていなかった。 喫茶店で一杯のコーヒーを所望する巨漢。 いつもの店でいつもと同じようにコーヒーを淹れる中学生。 主催者をぶっ殺そうと決意する自動喧嘩人形。 はじめての『ゲームセンター』を体験する少女。 吸血鬼を追いかけようとするスタンド使い。 友人達との再会を切に祈る小学生。 全ての人類を愛し、観察を継続する情報屋。 そして、全ての人類を愛し、救済しようとする魔術師殺しの次なる一手は、 さあ、みんな一緒に―― ♂♀ 一日目 深夜 カフェ『ラビットハウス』 「なかなかのものだった」 「ありがとうございます」 空っぽのティーカップが受け皿に戻される音は、心地が良いものだ。 全てを飲み干して一息ついた蟇郡苛にほっとして、智乃はいつもの所作でティーカップを取り下げる。 「しかし、先ほどオリジナルブレンドだと言っていたが、この店の珈琲は全てお前の手によるものか?」 「はい。まだバリスタとは言えませんが、昼間の店番は私が ……でも、さっき言ったようにココアさん達もいますから、忙しくはないです」 「そうか」 蟇郡の質問に答えたり、ティーカップを洗ったり。 ひとまず落ち着いた時間を過ごしながらも、これでいいのかなと思ってしまうのが、智乃の現状だった。 珈琲を淹れながら多少の会話をしただけでも、この青年に『鬼龍院皐月様』なるとても大事な人物がいることはよく分かった。 この場において、早くその人との合流したいのだということも。 しかし智乃にとっては、移動したいかというと違う。 この『ラビットハウス』は白いカードのマップにも載っているお店だ。 心愛たち4人が、右も左も分からないこんな場所に放り出されたりしたら、まずはここを目指そうと考えるだろう。 だとしたら、智乃はここに残って皆を待つべきになる。 正直なところ、1人でいるのはとても不安だ。蟇郡が、見た目は怖いし言動も少し変だけれど、智乃を許してくれるぐらい良い人だということは感じる。 そんな人とあっさりお別れするのも心細い。さっき蟇郡を襲ってしまった時のように、恐怖に負けてしまったりしたらどうしようと思う。 けれど、蟇郡についていくということは、自分の保身のためだけに心愛たちを放置するかもしれないということで。 やはり、ここは智乃が我慢してでも――。 「あの……蟇郡さんは皐月さんという方を探しに行かれたいんでしたよね。だったら――」 「いや、そう話を急くな香風よ。確かに皐月様の元に駆けつけられぬ俺に価値など無い。 だが、俺も闇雲に探し回るつもりはないし、茶をいただいておきながらその駄賃分の事もせずに出て行くつもりはない」 智乃が焦ったように切り出したことで、逆に蟇郡からは察されてしまったらしい。 「お茶じゃなくて珈琲です……でも」 「それに、まだこの場でやっておくことも残っている」 「はい?」 「珈琲を淹れる間に貴様の支給品も見せてもらっただろう。あのPDAだ」 「あ……」 思い出した。 黒いカードは全てコーヒーミルをゴリゴリ回している間に蟇郡に見せていたし、その中に『腕輪発見機』という名前の紙キレがついた情報端末があったことを。 最初はただのメモをする機械だとがっかりしたけれど、冷静になってから調べるうちにそうではないと分かった。 電源をオンにすると、『このエリアに存在する、まだ【カードに誰もいない腕輪】の数を表示します』という説明が出てきたのだ。 『まだカードに誰もいない腕輪』という言葉の意味するところは怖いけれど、それはつまり、『G-7にいる、まだ生きている人間の人数が分かる』ということ。 「人数が分かっても位置が分からんのは不便だが、まずは周囲にいる人数を把握して警戒しておかねばならん。 その中に皐月様や香風の友人がいる可能性もある。 動くにしても、まずはこの近辺を確認してからだ」 「はい……今、切り替えます」 智乃はPDAを手に取り、たどたどしくも指でボタンを押し、説明画面から表示画面へと切り替える。 途端に、その目が大きく見開かれた。 表示されたのは、ちょっと信じられないような大人数。 「8人も……います!」 蟇郡苛と香風智乃を引いても、このエリアに6人。 ♂♀ 一日目 深夜 ゲームセンター 平和島静雄の暮らしている池袋の街では、ひとつのビルの数階層分を大規模なゲームセンターが占めていることも珍しくない。 特に有名なのは、某大手ゲーム会社が『アミューズメント施設』と称して経営する地上8階から地下1階まで使った超大型店舗だろうか。(非ゲーマーにとっては、むしろ入り口で池袋名物『バクダン焼』を売っていることで有名な建物なのだが) この建物も、静雄の記憶にこそ無いものの、似たような規模の超大型ゲームセンターであるらしかった。 そして静雄が幼い少女を拾ったのは、建物の中階層にあたる『ビデオゲーム・対戦ゲーム』のフロアだった。 「どうすんだ、これ……」 目下のところ、彼の頭を占めているのは激昂よりも困惑だった。 原因は、目線のすぐ先にある少女の寝顔である。 ともかく床に寝かせっぱなしにするわけにはいかないと、喫煙スペースらしき一角にある背もたれつきのソファーまで運んだ。 ついでに、濡れていた床も拭いた。 ごく短期間だけ酒場で勤めていた経験(ひどく酩酊した客が出すモノを出したことがある)が、こんなところで生きるとは思わなかった。 そして、少女が目覚めるのを待ちながら、頭を悩ませるに至る。 活気のある店内BGMが、少し苛立たしい。 「目が覚めたら、絶対に怯えるよなぁ……今までのパターンだと」 『自分が殺してやると連呼していたせいで人殺しと勘違いされた』とは理解していないまでも。 他人から怖がられ遠巻きにされる経験だけは豊富な静雄のこと。 『この子はもしかして自分に怯えた結果として気絶したのではないか』と察するぐらいのことはできた。 こんな小学生くらいの少女まで殺し合いを強いられているのかと思うと、またそこらへんの筐体に八つ当たりしたい衝動が湧き上がってくるが、ともかく少女への対応を優先事項として、苦手とする頭脳労働を試みる。 どうすれば恐怖を与えずに済むのか。 つい最近も同じくらいの年頃の小学生と会話を試みたりしたけれど、あの時に通訳めいたことをしてもらった闇医者は今この場にいない。ついでに、ホットココアの一杯でも持ってきてくれるような少女もいない。 せめて、何かいい感じに子どもの気を引くような道具でも入っていないかと、静雄は確認したはずの黒カードを次々と開陳していき、 「……ひょっとすると、これ使えるか?」 その中の一つを手に取り、首を傾げた。 ♂♀ 5分後 ゲームセンター 「んう……」 越谷小鞠は覚醒した。 まず感じたのは、家の蒲団と違うものの上に寝ていること。 そして後頭部に、倒れて頭でも打ったような鈍痛があること。 ここはどこだろう。なんでこんなとこで寝たんだっけ 上半身を起こすと、そこにはパチンコ台のような形をした筐体がずらりと並んでいるフロアがあり、 「こ、こんにちは。お嬢ちゃん。怪我は無いかな?」 怪物のような顔をした巨大な『お面』に、話しかけられた。 少なくともそれは、怪物のお面としか形容できない代物だった。 縦にびろーんと長い顔に、ばいーんと飛び出した両耳のような部位と鼻と、ぎょろりとした両目と、表面にはずらりと黒い縞、縞、縞、縞、縞の模様。 「ひいっ……!?」 引いた。 後ずさりして逃げたかったけれど、背中がソファの背もたれにあたって、退路をふさいだ。 「だ、大丈夫だよお嬢ちゃん。逃げなくてもいいよ。怖くないよ」 しかも、お化け仮面の後ろからは、焦ったような男の低い声が聞こえてくる。 もしどこぞの万年白衣男がこの光景を見れば「小児科医だってそんな幼児のあやし方しないよ! むしろ子どもが見たら泣くよ!」と突っ込みを入れていただろう。 そして、その声は越谷小鞠にとって聞き覚えがあるもので。 しかも、よく見れば、大柄な男性のバーテン服が、隠れきれずに背中をプルプルとお面からはみ出させている。 (さっき『殺す殺す』言ってた人だ――――!?!?) 気絶する前に起こったことを、一挙に思い出した。 「いやああああああああああああああああああ! 殺さないでえええええええええええええええええええええええええええ!!」 小鞠は叫んだ。 ほとんど狂乱した。逃げようとした。 男があわててお面から首の上を出したのを見て、より焦った。 逃げよう逃げよう逃げよう逃げなきゃ逃げないと逃げなかったら殺される逃げろ逃げて。 手足をバタバタさせて、ソファの背もたれを乗り越えようとした。 暴れながらそうしたのが良くなかった。 ぐらり、とソファが背もたれを力点として傾いた。 その背もたれを乗り越えようとしてた、小鞠の身体も傾く。 「え」 「危ねぇっ……!」 危機を感じて、男も飛び出した。 しかし、焦るあまり、盾のようにしていた仮面のことを男は忘れていた。 男の革靴が、仮面についていた緑色の髪の毛の部分で、ずるりとすべった。 「あ゛」 脚を盛大に滑らせながら、男はとびだすことになる。 ずしゃどっかーん、と衝撃音がフロアにこだました。 男の身体が、その身を以って傾いていたソファを体当たりで吹っ飛ばし、 ソファから落下しようとしていた少女を、倒れたその身体で下敷きに受け止めることになった。 「え…………」 さっきまで恐怖の対象だった男を、身体の下に敷いている。 その事実で、小鞠の思考はいったん真っ白になった。 何が起こった。 理解が追いつかない間に、下を見ると床に転がった怪物のお面が目に入る。 (あのお面で……この人は、隠れようとしていて……) 思い出した。 兄の越谷卓のことだ。 学校でまだ学年が低かったうちは、兄を遊びに誘うことも今より多かった。 ただ定規落としみたいな机上遊戯ならまだしも、『かくれんぼ』のような身体を使った遊びを自習時間にするとなると、妹たちより体の大きな卓が不利になる。 どうにかして数少ない隠れ場所である机の下に身を潜らせるべく必死でかがもうとする兄の動きは、さっきのバーテン服の男の仕草と似ていた。 お面で、必死に己の身体を隠そうとするところが。 見ていて、恐ろしくなるようなものじゃない。 なぜあんな不気味なものを盾にしてまで正体を伏せようとした――姿を見せたら、小鞠が怖がると思ってのことじゃないのか? そういう理解が、じわじわと小鞠の頭に浸透していった。 「殺さ、ないの……?」 「殺さないよ。絶対に殺さない」 そんな問答を数回繰り返したのちに、じょじょに小鞠は脱力していった。 その後、めちゃくちゃ平謝りをした。 ♂♀ ここはゲームセンター。だからプリクラの撮影機ぐらいある。 よって、着替えもある。 そういうわけで、静雄は上の階層から女物の衣装を慌てて持ってくることになった。 「これって、もしかして…………メイドさん?」 「悪い、サイズが女子高生用のばっかりで、小さいのがそれしかなかった」 バーテン服を着た男と、メイド服を着た少女。 ゲームセンターではなく、いけないお店かと錯覚しそうな二人がそこにはいた。 ちなみに下着の替えはなかったので現在の小鞠は、はいてない。仕方ない。 それでも恥ずかしそうにもじもじとする小鞠を見て、静雄はともかくこの緊張をほぐしてやらねばと考えた。 平和島静雄はいわゆる『単細胞』と形容される人間だが、基本的には、紳士的であろうと努力する男である。 こんなところに子どもが1人でいる以上、まずは自分が保護者役をするしかないと腹もくくりつつある。 「それよりコマリちゃん。せっかく可愛い格好に着替えたんだから、まずはここで遊ぶってのはどうだ?」 「え……いいの? 静雄さんも友達とか探してたんじゃないの?」 「俺なんかより頭も良いし、しっかりした奴しただから大丈夫さ。 こんな目に遭わされてんだから、少しぐらい楽しんだってバチは当たんねぇよ」 そう言われると、小鞠の眼も数々のゲーム機をきらきらとした目で見つめはじめる。 静雄はひとまずほっとして、フロアの受付窓口からプレイ用の小銭やらコインやらをひとつかみ失敬した。 いや待て、後できっちり支払うとはいえ、店の金を勝手に使うのは法律違反じゃなかろうかと悩んだけれど、すでにわくわくとしている少女の期待にはあらがえなかった。 どのみちゲームの筐体を台座から引っぺがした時点で器物破損罪なのだし、後でまとめて弁償するかと開き直る。 「すごいなぁ……こんなにゲームがたくさんあるお店なんて、初めて見た」 小鞠は不思議の国に迷い込んだアリスさながらにきょろきょろと、面白そうなゲームを探して歩く。 「なんだ、ゲームセンターに来るのは初めてか?」 「うん! あたしたちの村、田んぼと山しかないような田舎だから……」 ゲームの筐体をひとつひとつ面白そうに眺めつつ、小鞠は話してくれた。 信号や道路標識なんてひとつもないし、一番近いコンビにでも3時間かかるような田舎だとか、そのコンビニだって24時間営業してないんだとか。 そりゃあたいそうな田舎だなぁと相槌を打ちながら、静雄も想像する。 歩いても牛を引いた農夫としかすれ違わないような田舎道。 小川のせせらぎ。風がふく木陰での日向ぼっこ。 喧嘩も喧噪も何より殺したい奴もいない、自然だけはある村。 そんな場所なら、ずっとストレスの無い生活ができるかもしれない。 「決めた! これにする!」 小鞠が選択したのは、どこにでもあるようなシューティングゲームだった。 先ほどまで殺す殺さないで怯えていた少女とは思えないほどに喜び勇んでモデルガンを握りしめ、 西部劇っぽいバーチャル世界で仮想敵の賞金首をバンバンと撃ちはじめる。 敵に狙われるたびに、必要無いのに「わ、わっ」と焦りながら銃口を避ける動きをしているのが、いかにも幼い子どもらしくほほえましい。 ……見た目小学生くらいの女の子にメイド服を着せて遊びに連れ出し、ぴょこぴょこ飛び跳ねるさまを眺めていると書くと、趣味を勘違いされそうな光景だが。 「あーもう負けたぁ! やっぱ難しいねこういうの。……静雄さんもやる? 2人対戦もできるみたいだよ?」 「あー……俺はやめとくわ。こういうのにのめりこむと、また『殺す』とか考えちまいそうだしなぁ」 何気なくつぶやいた直後に、不味かったかと気づいた。 小鞠の顔から、笑顔が引いていったからだ。 やがて、小鞠は問いかけをぶつける。 「静雄さん。最初に『殺してやる』って何回も言ってたのって……何だったの?」 それは、ある程度静雄という人間に安心したからこその踏み込んだ質問だった。 男は極めて気まずそうに、たどたどしく弁解を始める。 「その、な……もちろんコマリに言ったわけじゃねぇ。 『繭』とかいう女のことを考えたら腹が立っちまってよ。 俺のダチとか、テメェみたいなガキまで巻き込みやがって。 首に爆弾付けられたら万死に決まってんだろうが。それが70人もだぞ、いやノミ蟲が一匹混じってるからそいつを引いて69人か。 ……いや、最初にカードにされた女の子いるからやっぱ70人だ。こいつは70回殺されて文句言えねぇってことだよな……とかそういうコト考えてたら、ああいう風に――」 「ちょ、ちょっと静雄さん! メダル! メダルが全部、折り紙みたいにくしゃって!?」 「あ…………すまねぇ……」 どうやら、話しているうちに再びその『殺意』を思い出してしまったらしい。 静雄はそこで手の中で無残な姿となったメダルの束に気付いた。 「それで、ゲームセンターの機械を持ち上げたの?」 視線をずらせば、そこには先刻に静雄が持ち上げた筐体が、ブラウン管の画面がある面を下にして転がっている。 「いや、あれは八つ当たりで投げようとしたのか、とりあえず武器にしようとしたのか……すまん、覚えてねぇ」 「武器にできるものじゃないよね!? ってゆうか、誰かに当たったらどうするの!?」 「すまん……そうだよな……殺しに来る奴ならともかく、何もねぇ奴に当たったら悪かったよな……」 「殺しに来る人なら当ててもいいんだぁ……」 「いや、いつも喧嘩でよくやっちまうことだから……」 「よくあるんだ!?」 静雄が口を開くたびに常識から外れた言葉が飛び出して、空いた口がふさがらなくなってきた。 あぜんとするとはこのことか。 しかし、静雄の方は思い返せばいたく消沈したらしく、くしゃくしゃにしてしまったメダルを見下ろしている。 「あ、あのさ……私はべつにいいんだよ? 静雄さんが、そんな風に壊しちゃうのを我慢できない人なのは分かったけど。 それでも、私を殺さないこととか、私のために我慢してくれたことは分かったし、安心したから」 さっきは怖かったけれど、こういう風に落ち込んでいることも分かった。 いつの日のことだったか。 一緒に駄菓子屋へと行った大人のお姉さんも、田舎の景色を見て人知れず色々考えている神秘的な人だった。 きっと、大人になると悩むことも増えるんだろうなぁと、素朴な感想を抱いてしまう。 「なんて言ったらいいか……大人には、色々ありますよね? 私はそういうの、全然きにしないつもりです」 静雄もそれを聞いて、苦笑を浮かべた。 「そうか……大人を励まそうとするとは、ませたお子様だぜ」 「もう、さっきからガキとかお子様って静雄さん失礼だよ。私、こう見えても14歳の立派な『ティーンエイジャー』なんだよ?」 英語の問題集で覚えたばかりの大人っぽい英単語を使って、胸を張って反論したのだが、 「そうそう。ガキはガキらしく、バレバレの年齢詐称するぐれぇがちょうどいいんだよ」 全く信じてもらえなかった。 むぅ、と頬を膨らませて、信じさせる方法を考える。 どうしよう、身分証明書とか持ってないし、バスの定期券って生年月日まで書いてあったっけ。 しかし、すぐにおかしくなってきた。 何がおかしいかって、この男にさっきは気絶するほど怯えていた自分自身が。 ありがとう静雄さんと、改めてお礼を言おうとする。 しかし、二人の楽しい交流会を中断させるものがあった。 ゴポリ、と。 放送機材を動かす直前の、くぐもった音が響く。 店内のBGMが、一時中断をする。 スピーカーから流れだしたその放送は、マイクに布をあてて加工したような、くぐもった声で。 『平和島静雄様。本館のどこかにいらっしゃる平和島静雄様。 折原臨也様がお呼びです。大至急、本館1階の北側非常口までお越しください。 繰り返します、平和島静雄様。本館のどこかにいらっしゃる平和島静雄様。 折原臨也様がお呼びです――』 ♂♀ 同時刻 ラビットハウス 「やっぱり、コマリさんっていうお友達のことが心配ですか?」 カウンターの内側から、外側へと。 智乃はおずおずと、新しく知り合った女性に声をかけてみた。 背が高くて大人びているその『一条蛍』さんは、さっきから1人で座って顔をうつむかせていたからだ。 しかし、 「……寝てますね」 両肘から先を卓上について、胸部の大きなものをテーブルの上に乗せるようにもたれて。 顔を下に向けた、その口から漏れてくるのは小さな寝息だった。 「私より、年上の人なのに……」 2階からタオルケットを持ち出して来て、その大人びた女性の肩にかける。 さっきまでは不安そうな顔をしていたのに、あっさりと眠ってしまっているのを見て、嘔吐までした自分は何だったのかため息をはいた。 「そいつは小学五年生だ」 テーブル席に座る、学ランを着た男がそう言った。 さっき、この一行を率いるように先頭に立って、ラビットハウスのドアを開けて入ってきた男だ。 背が高くて目つきも鋭くて怖い印象の男だったけれど、それよりずっとゴツイい外見の蟇郡と遭遇した後だったから、どうにか会話をすることができた。 「空条さん、その嘘はいくら何でも無理があります」 「本人がそう言っていた。本当かどうかは知らん」 「え……」 冗談など言いそうにない男からそう言われて、まさかと思いながらも一条蛍を正面から凝視する。 本当に大きい。いや、欲しいのは胸ではなく身長の方だけれど。 これで小学生なのかは信じられないにせよ、どうやったらここまで大きくなったのかはぜひ聞いておきたい。 あと、頭にウサギを乗せていても背を伸ばすことはできるのかとか……それは聞いても分からないか。 「俺としてはむしろ、一番の最年長者が長々と席を外していることを憂慮すべきだと思うが」 そう言ったのは、別のテーブルに座る蟇郡だった。 大きな横幅の身体で、座席を二人分ほど占拠して窮屈そうに腕を組んで座る。 『最年長者』が誰を指すのかは明確だ。 承太郎一行の中で、この場にはいないただ一人の人物。 「時間がかかるのはしょうがいないです。 G-7にいること以外は、全然手がかりがない人達を探さなきゃいけないんですから」 「それもそうだが……」 カウンターテーブルの上には腕輪発券機があり、『8』の数字を示している。 『万が一にも探索中に襲われたりした時に、殺し合いに乗った人に奪われると大変だから』という気遣いで、残りの参加者を探しに出たその人が置いて行ったものだ。 実は誰が二人を迎えに行くかを決める時の話し合いで色々あって、少しもめたりもして、最終的に蟇郡と承太郎が智乃たちの護衛を担当することになった。 しかし、どうも承太郎だけは、その人物を送り出すことを躊躇っていたように見えた。 だからだろうか、こんなことを言った。 「気にかけるなら、奴が無事に戻ってくるかどうかよりも、 奴が出会った人物をすんなりここまで連れて来れるのかどうかだ」 ♂♀ 同時刻 ゲームセンター 普段の静雄ならば、あんな放送を聞けば矢も盾もたまらず折原臨也を殺しに走り出していただろう。 だが、ここは池袋ではない。 いつ危険が降りかかるか分からない殺し合いの現場であり、そして越谷小鞠がいる。 「え? え? この放送って、何?」 困惑した子鞠の声を聴いて、キレそうになっていた理性をかろうじてセーブした。 彼女を残して臨也を殺しに走り出しても良いのか。 そばで守るため、小鞠も連れて行くべきか……いや、むしろ連れて行く方が危険だろう。 あの放送を聞いた感じだと、臨也は静雄がどこに誰と一緒にいるかまでは分かっていないようだった。 ならば毒を持ったノミ蟲に目を付けられるより、隠していた方が安全のはずだ。 「ちょっと小鞠、ここでじっとしてろ。誰か来ても、出てくるなよ」 「え、私だけ残るの? 静雄さんはどうするの?」 メダル換金所の窓口の下に、死角となるよう小鞠の身体を入れた。 カウンターの背丈は低いし、人が来てもそう簡単には見つかるまい。 「はっはっは大丈夫だよコマリちゃん。何も殺し合いをしてくるわけじゃないから。 ただちょっと、バイキンマンをぶっ飛ばすアンパンマンみたいなことをしてくるだけだから」 「な、なんでまた、ちゃん付けに戻ってるの?」 「いいから、いいから。戻ってきたら、対戦ゲーでも何でも付き合ってやるから」 懸命にさわやかな笑顔を維持。がんばって維持。 彼の上司がここにいれば、こう言っただろう。 今の静雄なら、国民栄誉賞どころかノーベル平和賞だって狙えるかもしれない。 「……分かった」 納得はしていない風ながらも、小鞠は頷く。 これで良し。あとはさっさと抹殺して、さっさと戻るだけ。 いちおう小鞠を不安にさせないよう考慮して、フロアの外に出るまでは、走り出すことを堪えた。 店内BGMが遠ざかり、階段の一歩目へと足をかける。ここでリミッター解禁。 階段を雪崩のように駆け下り、廊下を風のように走るひと塊となった。 「殺し合いをやってる最中に声をかけたってことはつまり死にたいってことだよなァ臨也ァッ……!!」 キレる寸前の静雄にしては、それは可能な限りの冷静な対応だった。 彼の沸点の低さを考えれば、『殺し合いという殺意を抱くしかない環境で、最も殺意を抱いている臨也の名前で呼び出しを受けた』というのに、 小鞠の身柄をまず第一に考えたというのは、これまでの彼の行状を考えれば驚異的な成長だとさえ言える。 小鞠を隠して残していくという選択も、頭脳労働を極端に苦手とする静雄なりに思いつけた精いっぱいの判断だった。 しかし、そこまでベストを尽くしてたにも関わらず。 それでも彼の思考力では、思い至れなかった。 『声の主は、静雄が小鞠と二人きりで四階にいることまでは知らない』と受け取れるような放送がなされた、その裏の意図を。 ♂♀ 数分後 ラビットハウス 最初に気付いたのは、『腕輪発見機』の一番近くにいた智乃だった。 その驚いた顔に、二階のベッドへと運ばれた蛍をのぞく全員が反応する。 男達は智乃の周りを取り囲み、一様に緊張感に包まれた。 なぜなら、『腕輪発見機』に表示されている生存者の人数が、変わってしまったからだ。 『8人』から『7人』へと。 ♂♀ 同時刻 ゲームセンター いつもと同じ天敵との殺し合いだと、たかをくくっていたつもりは無かった。 どれほど性質の悪い男かは、嫌と言うほど思い知っている。ただ、しいて言えば経験則から麻痺はしていた。 あの男は、静雄以外の人間を直接に凶器を持って襲いかかるようなやり口で狙ったことは無かった等々、今まで殺しきれなかった経験からくる思考の弛み。 いつにも増して本気の殺意で、指定された場所へと向かった。 非常口のところにその男はいなかったり、隣のビルの入り口が開いていたのでそちらも探したりして、呑気に空回りをした。 その段階になって、やっと嫌な予感を自覚した。 駆け戻った時は、駆け下りた時以上に足を急がせていた。 キレた後になって喪失感だとか後悔を味わうのは、いつもの喧嘩と同じで。 現在のそれを、『後悔』なんて生易しい言葉で形容していいものじゃないことだけは、いつもと違っていて。 それは本当に、『決定的にいつもと違う』こと。 越谷小鞠が、首から上をゲームセンターの筐体に押しつぶされて死んでいた。 「コマリ?」 理解できない。 それが、平和島静雄の現在だった。 数メートルも離れていない場所にその少女が倒れていることは視認できるのに、その意味するところが頭に入らない。 頭に入ってこないと、怒りを抱くことさえできない。 「おい、コマリ…………コマリちゃん?」 呼んでいるのに、声は己のものではなく。 近づいてみても、床に転がった筐体からはみ出ている『首から下』は、 メイド服を着た小柄な少女のもので。 一歩、また一歩と足を近づけても、それは揺るぐことのない現実で。 「おい――」 ゲームの筐体の下から、血が飛び散っていた。 まるで丸いトマトの上に小さなフライパンでも落としたみたいに、赤い液体はべしゃりとギザギザした円形に広がっていた。 なんだ、血痕みたいじゃないかと静雄は思う。 血痕を見て『血痕みたいだ』という感想を持った己に気付かない。 少女の身体に、あと二、三歩というところまで立ち。 筐体と床との間にある隙間――そこにものを挟んだ分だけできた高さ――は、明らかに人間の頭部より細いことに、静雄は気付いた。 まるで、そこに挟まっているのが『球体』ではなく、『潰れた球体』であるかのように。 【越谷小鞠@のんのんびより 死亡】 理解した瞬間に。 静雄の思考回路が、決壊した。 (コマリ) (アイツのシワザ?) (殺された) (目を離した隙に) (アノ名前で、店内放送が) (だったら、誰のせいかは、分かりきって) (死ンダ) (今思えば、つまり俺はおびき出されたことに) (今まで一度も、こんな) (殺さないと言ったのに) (狙いは最初から) (ア ノ ヤ ロ ウ ノ セ イ デ コ マ リ ガ) もし、今の平和島静雄の顔を見た者がいれば、こう思ったことだろう。 なぜ、この男の頭はバラバラに破裂しないのだろうかと。 こんなに、頭にくっきりと血筋が浮いて、破裂せんばかりにブルブルと震えているのに――と。 そして、巨大な咆哮が放たれた。 「いいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい゛ざあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁや゛あああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛!!!!」 ゲームセンターの外壁が、内側から窓ガラスでも割れるようにぶち破られた。 4階の高さから、躊躇なく飛び降りるのは平和島静雄。 アスファルトを揺らさんばかりに着地し、唸り声とともに暴走を開始する。 殺意の矛先を向けるは、折原臨也。 【G-7/ゲームセンター付近/一日目・黎明】 【平和島静雄@デュラララ!!】 [状態]:激昂 [服装]:バーテン服、グラサン [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:ボゼの仮面@咲-Saki- 全国編 不明支給品0~2(本人確認済み) [思考・行動] 基本方針:あの女(繭)を殺す 0:殺殺撲殺殺殺殺殺殺臨也殺殺殺殺殺圧殺殺殺殺殺殴殺殺殺殺殺コマリと同じ目に殺殺殺殺殺殺……… [備考]:折原臨也を探し殺すという目的の元に暴走しています。どこに走って行くか分かったものではありません。 ♂♀ 十数分後 ラビットハウス 緊張感に包まれていたラビットハウスに、偵察に出かけていたその男が帰って来た。 「衛宮さん!」 ドアをくぐるや、智乃が男の名前を呼ぶ。 男――衛宮切嗣もまた、店内に満ちた緊張感の正体を察しているかのように頷いた。 そして、問う。 「僕が不在にしている間に、レーダーの生存者数が1人減ったかい?」 「1人減りましたねぇ。そしてアンタは、その原因に心当たりがあるって顔だ」 そう答えたのは、店内の奥の方のテーブルについていた青年だった。 それは『承太郎一行が合流してから、今までずっとその席に座っていた』男、折原臨也。 「ここにはいない二人のうちの一人を見つけたけれど、手遅れだったよ」 「つまり、二人のうちのもう一人に、殺された?」 それまで静観をしていた青年は、知り合って間もない男へと問いかける。 貪欲に、情報を求めるように。 「ゲームセンターで、小さな女の子が殺されていた。 ……なぜかメイド服を着ていたが、そばに着替えと、これがあったよ」 衛宮切嗣は、カウンターテーブルの上に二枚のカードを置いた。 一枚は、コシガヤコマリという名前が印字された路線バスの定期券。 もう一枚は、茶色の長い髪をした小さな少女の姿が描かれた、白い裏面のカードだった。 『もう一枚』を見た智乃がおびえたような表情を、蟇郡と承太郎は険しい表情を、それぞれ作る。 「この女の子が、その『1人』ってわけかい。コシガヤコマリちゃんとなると、蛍ちゃんの――」 「ああ、しかもさらに悪い情報がある。特に折原君にとっては」 情報屋は、眉をひそめた。 「この子は折原君が言っていた『平和島静雄』に殺された可能性がある」 ♂♀ 約1時間と30分前 駅より東、ラビットハウス付近 「ねえ」 切嗣はエルドラの問いに応えた。 「近くに駅がある。そこに行こう」 そして南下した衛宮切嗣が、『その3人』と出会ったのはそれから間もなくのことだった。 空条承太郎。 一条蛍。 折原臨也。 先頭を歩いていたのは空条承太郎だが、積極的に話しかけてきたのは折原臨也だった。 話を聞けば、彼らは一度映画館を出てからもう駅へとたどり着いており、そこから引き返してきたとのことだった。 いったん駅へと向かったのは、あくまで電車のダイヤグラムを確認するという目的だけ。 それは空条承太郎の発案によるものだ。 何でも彼は船だとか飛行機だとか、密室状態の乗り物に乗っているところを敵の刺客に襲撃されるという経験を何度もしてきたらしい。 今回のように一般人少女の一条蛍も混じっている中で、殺し合いに乗った相手――それも、最悪は走行中の列車に飛びこめるような能力を持つ者――に襲撃されでもしたら、彼女を逃がせる保障はない。 よって、今のところは電車を使わない。いずれ使うとしても、緊急を要するような場合に限るというのが、彼らの結論だった。 しかし『いずれ』のために、せめて駅のホームからダイヤグラムだけは確認しておこうと折原臨也が提案して、承太郎もそれ自体には賛成した。 その確認作業を終えて引き返した時点での、遭遇となった。 空条承太郎は、最低限の情報交換だけを済ませると自分だけでも早々に移動したがっているようだった。 彼にとっては吸血鬼DIOを倒すことと、その為に元からの仲間と合流をすることが最優先の方針だったらしい。 しかし、切嗣はそれを引き止める。 短い会話をしただけでも、承太郎が切嗣の知らない能力を持っていることは察することができたし、切嗣としてはその能力も詳しく知りたい。 しかし、何より切嗣の気を引いたのは『吸血鬼』という単語だった。 魔術師にとって、吸血鬼といえばたいていは『死徒』のことだ。 感染させることで村一つを滅ぼす『死徒』のような怪物がこの会場にもいるらしいとなれば、詳しい話を聞かずに別れることなどできなかった。 せめてお互いが持つ情報だけでも正確に共有させておこうと切嗣は主張し、折原臨也もそれに同意する。 元より、一条蛍を道中で誰かに預ける算段もするはずだったのだから、改めて話し合いの席を設けようということで落ち着いた。 こうして、『承太郎一行』は四人になった。 話し合いの場所に選ばれたのは、すぐ近くにありマップにもわざわざ表記されている喫茶店『ラビットハウス』。 道中で、『吸血鬼DIO』をはじめとする、彼等が知る限りの危険人物について教わりながらそこに到着した。 「8人も……います!」 その喫茶店には、さらなる先客がいた。 常人の二倍も三倍もありそうな巨漢――蟇郡苛。 腕輪発見機を持つ少女――香風智乃。 その少女が持つ支給品が示す人数は8人――その場にいた6人を差し引いて、あと2人がこの近辺にいると示すものだった。 ♂♀ 切嗣は、改めて行動を開始した。 まずは残る二人の位置を確かめておくことが必要だという話になるや、その二人の探索として自身が向かうことを告げる。 そこで多少の悶着はあったが、最終的には切嗣が一人で行くことになった。 まず蟇郡がその二人を迎えに行くと言い出したが、智乃が反対したことによって却下された。 蟇郡の外見に恐怖して彼を刺してしまった智乃からすれば、その二人が自分のように怯えた一般人だったとしたら二の舞になる予感しかしない。 たとえ蟇郡が刺されたことを気にしないとしても、刺してしまった方は後悔するものだと主張する。 そこで折原臨也も『コミュニケーションには自信がある』と立候補したけれど、これは承太郎が反対した。 まだ知り合って間もない相手にナイフを向けるような人間に、その『二人』との交渉を任せられないというのが根拠だった。 その反論自体はもっともなものだったが、それを抜きにしても承太郎が臨也を怪しんでいるように見えたのは、おそらく切嗣の見間違いではない。 とはいえ、臨也が信用しきれないから喫茶店に残れと主張するならば、承太郎も臨也と共に残るのが筋ということになる。 そして切嗣の支給品のひとつは、探索に向いたものだった。 『コシュタ・バワー』という名称の二輪車で、いざとなれば建物の壁を走ることもできるがゆえに、『二人』が危険人物だったとしても逃走しやすくなるはず。 そう保証して、切嗣はその『二人』と先に接触する権利を獲得した。 喫茶店を出発した切嗣は、支給品の最後のひとつ――『蝙蝠の使い魔』を開封した。 切嗣の生み出した使い魔では無かったが、魔力のパスを作ることでその感覚器を共有できるようになっている。 カードからバイクを取り出す前に蝙蝠を先行させ、ゲームセンターに入り込ませた。 この近辺で人が立て籠もる施設としては、そこが妥当だろうと踏んでのことだ。 案の定、残る二人はそこにいたし、それは意外な二人でもあった。 折原臨也が絶対的な危険人物だと述べていた男、平和島静雄。 一条蛍の知り合いだという少女、越谷小鞠。 その二人が仲良く談笑し、ゲームセンターのゲームで遊んでいたのだから。 『間違いなく殺し合いに乗る――それも、自動販売機を投げつけるほどの絶対的な怪力を振るう人物』という情報は、最初から誤っていたことになる。 折原臨也が平和島静雄のことを誤解していた? ――違う。 折原臨也から聞いた特徴は、『誰であろうと喜び勇んで暴力を振るう悪いやつ』。 そんな分かりやすく目立つ特徴を、それも地元では有名人らしき人物を、同じ町に住んでいて誤解するとは考えにくい。 つまり、折原は平和島を陥れるために、悪評を流したということ。 ゲームセンターの近くでエルドラとコシュタ・バワーをカードに収納する。 さらに二人の会話を盗聴して確信した。 折原が平和島を評した言葉は、少なくとも部分的には正しい。 まず、折原臨也と敵対関係にあること。 そして怒りの沸点が異常に低く、『自分にとって気に入らない行動をした』といったような理由で理性を失い、すぐに暴走をする。 この時点で切嗣は、どう対応をするかを決定していた。 多数を救うために、少数の危険因子は排除する。 初めから切嗣は、二人が『少しでも他の参加者や切嗣に不利益をなし得る者』だった場合は、 今の自分にできる限りの手段を使って排除するつもりで出発したのだから。 そんな衛宮切嗣が、折原臨也と平和島静雄の人となりと関係をおよそ推察してしまえば。 どちらの側に立つかは分かりきっている。 『保身を考えている合理性がある悪人』よりも『善良かもしれないが暴走する怪物』を生かしておく方が、切嗣にとっては100倍も悩ましい。 そのうち理性のタガを外して暴走して、周囲を巻き込みかねないといった理由だけではない。 あの手の人物は、たとえば切嗣が『必要だから』ともう助からない参加者を見捨てようとしても『見捨てるのは良くない』という感情論だけで烈火のごとく怒りを露わに反対して、切嗣を殴り倒すか、最悪は暴力で殺してでも止めようとするだろう。 怒りを露わにしながらも命令には従うだけ、セイバーの方がまだ話が通じるとさえ言える。 平和島静雄を切り捨てる理由こそあれど、命の天秤を傾けるべき理由はなかった。 では、お世辞にも装備が整っておらず、使える魔術も制限されているとおぼしき切嗣が、平和島静雄を追い詰め、排除するための最適な方法とは何だろう。 とてもシンプルだ。 平和島静雄の犯行に見せかけて、越谷小鞠を排除する。 ただの少女である越谷小鞠を、命の天秤から放り出す。 切嗣は、外道ではあっても冷血ではない。 必要ならば一般人だろうと殺害するけれど、積極的に幼い少女を殺すような真似はしない。 むしろ、この状況下で『足手まといになりそうだから』とか安易な理由をつけて少女を殺害しようとすれば、最低限の信用さえおけない冷血漢だと見なされるリスクが極めて高い。 それはとても愚かなことだ。 しかし、逆に言えば。 この非常時に、一般人の少女を敢えて保護する理由は、それ『だけ』に尽きる。 元より衛宮切嗣は、『主催者の力を奪い取る』という目的が正攻法――殺し合いに反対する者全員で力を合わせて繭を倒す――によって実現するとは、さほど期待していない。 というより、対主催派の『全員』と力を合わせることなど、まず不可能だ。 切嗣のサーヴァントであるセイバー。そして、切嗣と交戦したケイネス・アーチボルトのサーヴァントであるランサー。さらに、なぜか切嗣をつけ狙ってアインツベルン城まで来た言峰綺礼。 間桐雁夜については御三家の出自でありバーサーカーのマスターであること以外に接点はなかったけれど、この三名については、限りなく協力関係を築きにくいと断言できる。 (キャスターのサーヴァントも脅威ではあるが、あれは切嗣だけでなくすべての参加者にとっての敵となるだろう) 『弱き者を救う』という英霊たちの騎士道精神と、目的のためなら外道にもなる切嗣の在り方が相容れることは決してない。 ましてやこの場には、切嗣とセイバーの関係をぎりぎりのところで繋ぎとめている最大の仲介役だったアイリスフィールもいない。 そして、切嗣がセイバーの行動によって不利益を被るような時に、それを制止するための絶対命令権である『令呪』も、三画とも失われている。 ただでさえ断裂していたマスターとサーヴァントの関係だ。紙でも裂くようにあっけなく破綻するだろう。 ランサーについても、セイバーと似たようなメンタリティだ。 ケイネスと交戦した際に、対峙した時の言動は、セイバーと同類の『騎士様』のそれだった。 今のところ切嗣は、彼等との接触を極力は避けるよう動くつもりでいる。 だが、殺し合いが進行するにつれて、そうも言っていられなくなるだろう。 セイバー達はおそらく、『衛宮切嗣は、願いが叶う確かな保証さえあれば殺し合いに乗るかもしれない。信用してはならない』ということを他の参加者に伝えるはずだ。 (実際、繭が『全人類の救済』という願いを叶えられるようであれば、その力を利用するのも良しと考えているのだから、大きく間違ってはいない) 早々にキャスターとでも相討ちになってくれれば好都合だけれど、アテにするのも楽観視がすぎる。 特に言峰綺礼については厄介だ。 殺し合いに対してどう動くか読めないということもあるし、何より『代行者』としての仕事柄、他のサーヴァントとは違って『逃げながら立ち回る』という動きをすることができる。 そう簡単に脱落するとは思えなかった。 殺し合いが進行し、衛宮切嗣の人となりが露わになるにつれて、切嗣が立ち回ることは難しくなる。そう懸念して動かなければならない。 そういう意味でも、小鞠を殺害したことで平和島静雄が暴走してくれれば、そこにもメリットはある。 単に『殺し合いに反対する人々で集まった』だけでは、切嗣が自由に動けない。 『襲ってくる相手のことは容赦なく撃ち殺します』という行動に訴えようとしても、 反対されるか、あるいは『助けられる限りは救えないのか』という甘い考えで牽制されることもあるだろう。 しかし、そこに『幼い少女さえ平気で殺害するような極悪人がこの近くで暴走しています』という要素が加わればどうなるか。 普段の切嗣に、近い動きをすることができる。 そういったことを、あの場で即座に考え付いたわけではない。 映画館を出発した時から、それこそ『どう立ち回るか』と思考を始めた時から、曖昧に組み立てていた。 ただ、そこに『平和島静雄』と『越谷小鞠』という具体的に嵌まるピースが転がり込んでしまった。 だから計画はできあがった。 それを躊躇なく実行した。 後の布石のために、隣接するビルの入り口の扉はあらかじめ開けた。 すでに非常口から潜入して、放送室へともぐりこんでいる。 あとは、折原臨也の名前を騙って平和島静雄を越谷小鞠から遠ざける。 平和島が指定した場所ではなく放送室にやってくる可能性もあったので退路とする窓は確保しておいたけれど、幸いと非常口へ向かってくれた。 とはいえ、時間的余裕はさほどない。 こちらも全力疾走をして、4階のフロアへと到着する。 越谷子鞠の隠れ場所は、使い魔によって筒抜けになっている。間違えようもない。 「お、おじさん……誰?」 イリヤも、年相応の成長をしていれば、この子の外見と同い年ぐらいだろうか。 殺す前に抱いたのは、そんな感想だった。 ♂♀ 一日目 黎明 ラビットハウス (灰皿で殴って気絶させたところを、転がった筐体のところまで運んで、圧殺。 ゲームセンターの筐体の重量は約100キログラム。 僕の腕力でも、不安定に傾いた筐体を、さらに床に傾けて押し倒すことぐらいはできる。 灰皿は越谷小鞠を殺害した時に、いっしょに筐体で潰して証拠隠滅とする。 これで、傍目には『ゲームの筐体を投げつけられて殺された。犯人は筐体を持ちあげることができる人物だ』と思われる死体が完成) あとは、『すれ違いで、ゲームセンターの外壁を破壊して逃亡するバーテン服の男を目撃した』と言えばいい。 報告を終えた喫茶店に蔓延したのは、おおむね切嗣が予想していた通りの反応だった。 表情を動かさなかったのは、空条承太郎ぐらいのものだ。 (彼もまた切嗣から分け与えられたタバコを噛み潰さんばかりにしていたが) そこに蔓延する空気は、殺人犯に向けられた怒りであり、すぐ間近で少女が殺されていた衝撃であり、そして子どもらしく二階で眠っている一条蛍のことを想っての鎮痛だった。 そんな彼等の感情に指向性を与えてやるように、切嗣は今後の動きについて提案する。 まずは、男手を三人ばかり連れて改めてゲームセンターに向かおう。 越谷小鞠を下敷きのまま放置するのは忍びないし、平和島静雄を知っている折原臨也が殺害現場を見れば、間違いなく平和島の犯行かどうかを断定できるかもしれない。 切嗣と折原の腕力だけではゲーム機の筐体を持ち上げられないだろうと、蟇郡もそれに同道することを申し出た。 空条承太郎も現場を見せろと言い出したが、蟇郡と智乃からやんわりと、しかし(特に智乃からは)切実に、喫茶店に残ってほしいと頼まれた。 なぜなら、一条蛍が目覚めた時に、友人の死を伝える役目の者が必要となる。 まだ一条蛍という名前ぐらいしか知らない蟇郡たちでは、彼女を落ち着かせることができるかどうか。 承太郎は切嗣と臨也の方をいぶかるように睨んでいたが、智乃たちも『辛い役目を任せてしまって申し訳ない』という態度で頼んでいる手前、無下にすることはしなかった。 こうして、ゲームセンターに向かうことになったのが、衛宮切嗣と、折原臨也と、蟇郡苛の三人。 ラビットハウスに残るのが、空条承太郎と、香風智乃と、一条蛍。 切嗣がラビットハウスの前でコシュタ・バワーを呼び出して出発しかけ――しかしすぐにカードに戻した。 どうやらこのバイクは数人乗りの馬車にも変形できるらしいけれど、それでも蟇郡のたいそうな巨体プラス男2人を収容して走れるかは、いささか心もとない。 仕方なく、歩いてゲームセンターへと向かう。 「蟇郡さん、気を付けてください」 見送りに、智乃がラビットハウスの外まで来ていた。 あまり感情を顔に出さない少女だったが、今この時は、表情に明るくない色がある。 『悔しい』と『心細い』の中間のような顔。 そんな彼女を見下ろし(態度ではなく身長の都合である)、蟇郡は言い放った。 「俺は本能字学園風紀部委員長にして生徒会四天王の1人だ。 であるからには、この場にいる学園の生徒も皆保護するつもりでいる」 何が言いたいのだろう、と智乃は意味を掴みかねる。 だが、蟇郡は続けて言った。 「香風はこの店の主だろう。 この店を訪れた客が涙するかもしれんというのに、店主が温かい飲み物も出してやらんのか」 「!」 智乃は目を見開いた。蟇郡の言いたいことが伝わったからだ。 「そんなこと……ありません」 「ならば良し」 こうして大きな男と小さな少女は同時に頷き、一時の別れを告げた。 ♂♀ (できれば二人きりで話したかったが、そう都合よくもいかないか。 ともかく、これで折原と会話する機会は作れた) 噛み煙草を吐きだし、切嗣はここまでの成果にひとまず満足する。 ゲームセンターへ向かうことを口実としてチーム分割を提案した最大の理由は、折原臨也を見極めるためだった。 幸いなことに『平和島静雄に関する情報が悪意ある誤情報だと知っている』という交渉材料もある。 もしも折原が考えも無しに悪評を振りまくただの道化ならばいずれ彼のことも排除しなければならないし、 そうでないなら――『手段を選ばない理性的な悪人』ならば、その逆の関係を築けるかもしれない。 目下のところ、敵をつくりかねない位置にいる切嗣が欲しているのは『同盟者』だった。 それも、かつてセイバーでなくアサシンのサーヴァントを欲したように。 衛宮切嗣のスタイルを理解した上で動き、他の参加者から不審を持たれたらフォローに回ってくれるような人材と組むことができればありがたい。 つまり、手段を選ばないようなタイプであり、その上で交渉や駆け引きごとを知っている、つまり最低限の信用はできるような人物。 その上で、他の参加者とも折衝できるようなコミュニケーション能力があればなお望ましい。 今のところ、折原の行動原理は分からない。 しかし、これまでに得られた印象では、それら条件のうちの幾つかを満たしている。 あとは、そいつが利用できる存在かどうかを確認するだけだ。 蟇郡を先頭にして、後方を歩く二人は互いの視線を交錯させる。 折原が切嗣に対して何を思ったのかは分からないが、 お互いが互いのことを『仮面のような表情だ』と思ったことだけは間違いない、そんな顔をした二人だった。 街の夜風は、生温い。 街に住む人々の熱さと冷たさが、空気に溶けて混じりあっているかのように。 【G-7/ラビットハウス/一日目・黎明】 【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~3、越谷小鞠のカード 噛み煙草(現地調達品) [思考・行動] 基本方針:脱出狙い。DIOも倒す。 1:衛宮切嗣の報告に釈然としないものを感じる。 2:折原臨也が気に喰わねえ。 3:DIOの館に向かいたいがまずはこの状況について考える。ゲームセンター行き組が戻ってきたらきっちり問い詰める 4:一条蛍が目覚めたら、越谷小鞠の死を伝える。 [備考] ※少なくともホル・ホースの名前を知った後から参戦 ※折原臨也、一条蛍と情報交換しました(衛宮切嗣、蟇郡苛、香風智乃とはまだ詳しい情報交換をしていません) 【一条蛍@のんのんびより】 [状態]:健康 、睡眠中 [服装]:普段通り [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~3 [思考・行動] 基本方針:先輩とれんちゃんと合流したいです。 1:次々に色んな人と知り合って少し疲れました… [備考] ※空条承太郎、折原臨也と情報交換しました。 【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】 [状態]:健康、落ち着いた [服装]:私服 [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:果物ナイフ@現実 黒カード:不明支給品0~1枚、救急箱(現地調達) [思考・行動] 基本方針:皆で帰りたい 1:ラビットハウスの店番として留守を預かる。『お客さんたち』にも何かをしたい 2:ココアさんたちを探して、合流したい。 [備考] ※参戦時期は12話終了後からです 【G-7/ラビットハウス付近/一日目・黎明】 【衛宮切嗣@Fate/Zero】 [状態]:健康、緊張感 [服装]:いつもの黒いスーツ [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(20/20)、青カード(20/20) 黒カード:エルドラのデッキ@selector infected WIXOSS 蝙蝠の使い魔@Fate/Zero コシュタ・バワー@デュラララ!! 赤マルジャンプ@銀魂 越谷小鞠の不明支給品0~2 噛み煙草(現地調達品) [思考・行動] 基本方針:手段を問わず繭を追い詰め、願いを叶えさせるか力を奪う 1:折原臨也を見極め、排除するか利用するか決定 2:1の後、ラビットハウスの一団からも改めて情報収集をする 3:平和島静雄とは無理に交戦しない 4:有益な情報や技術を持つ者は確保したい 5:セイバー、ランサー、言峰とは直接関わりたくない [備考] ※参戦時期はケイネスを倒し、ランサーと対峙した時です。 ※能力制限で魅了の魔術が使えなくなってます。 他にどのような制限がかけられてるかは後続の書き手さんにお任せします ※空条承太郎、折原臨也、一条蛍から知り合いと危険人物について聞きました。 【折原臨也@デュラララ!!】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:生存優先。人間観察。 1:俺が何もしていないのにシズちゃんが自分から嵌められてくれた。 2:ゲームセンターに向かう。とりあえず衛宮切嗣は『人間』なのかどうか観察。 3:空条承太郎君、面白い『人間』だなあ。 4:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。 [備考] ※空条承太郎、一条蛍と情報交換しました。 【蟇郡苛@キルラキル】 [状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度) [服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放 [装備]:腕輪発見機@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル [思考・行動] 基本方針:主催打倒。 1:まだ付近にいるかもしれん平和島静雄に警戒しつつ、ゲームセンターへ 2:皐月様と合流したいのはやまやまだが、平和島静雄が殺し合いに乗っている人物だと皐月様に報告せねばならないし、まずはゲームセンターの現場確認 と、情報交換。 3:皐月様、纏、満艦飾との合流を目指す。優先順位は皐月様>満艦飾>纏。 4:針目縫には最大限警戒。 [備考] ※参戦時期は23話終了後からです 【腕輪発見機@現実】 香風智乃に支給。 形はセルティ・ストゥルルソンが使っているPDAに似ている機械。 そのエリアにいる『まだカード化されていない腕輪(すなわち生存者の腕輪)』の個数を表示する機能を持つ。 表示されるのはあくまで数だけであり、そのエリアに何人いるかは分かっても、どこにいるのかは分からない。 【ボゼの仮面@咲-saki-】 平和島静雄に支給。 永水女子高校の薄墨初美がよく身に着けている大きな民族風の仮面。 鹿児島県トカラ列島の悪石島に伝わる来訪神行事ボゼ祭で使われる仮面。 とてもシュールな面相をしており、子どもが見て喜ぶような人相の仮面ではない。 【蝙蝠の使い魔@Fate/Zero】 衛宮切嗣に支給。 生きている支給品の中では『持ち主から離れてはならない』という制限が緩めに設定させており、 同じエリア内ならば単独行動で偵察をさせることができる。 Fate/Zeroでは、聖堂教会からの呼び出しを受けた魔術師たちが視覚と聴覚を共有した使い魔を教会に派遣することで、自身が教会に足を運ぶことなく監督役からの指示を聞きとらせる等の使われ方をしている。 【コシュタ・バワー@デュラララ!!】 衛宮切嗣に支給。 セルティ・ストゥルルソンの愛馬。シューターという名前を持つ。 無灯火、無登録で、無音の黒漆バイクは重力に関係なく、壁すらも走ることができる。 バイクの姿の他にも、首なし馬の姿や、馬車の形に変形することも可能。 時系列順で読む Back 逃れられない 時を知る Next 空に碧い流星 投下順で読む Back 逃れられない 時を知る Next 交わらなかった線 012 ゲームセンターに行った 越谷小鞠 GAME OVER 012 ゲームセンターに行った 平和島静雄 063 噴火する平和 011 前途多難 空条承太郎 055 夏色の風景 011 前途多難 一条蛍 055 夏色の風景 003 忘れられないアンビリーバブル 香風智乃 055 夏色の風景 031 正義の在処 衛宮切嗣 083 寸善尺魔 011 前途多難 折原臨也 083 寸善尺魔 003 忘れられないアンビリーバブル 蟇郡苛 083 寸善尺魔
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第0話~第50話 話数 タイトル 作者 時刻 位置 登場人物 000 royaled ◆..N2cWeukk ??? ??? 繭、ファバロ・レオーネ、カイザル・リドファルド、アーミラ 001 その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM 深夜 F-3/神社、F-3/山頂付近 小湊るう子、宮永咲、東郷美森 002 輝夜の城で踊りたい ◆KKELIaaFJU 深夜 D-2/墓地付近 東條希、神代小蒔 003 忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U 深夜 G-7/ラビットハウス 香風智乃、蟇郡苛 004 ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ ◆DGGi/wycYo 深夜 A-2/音ノ木坂学院 土方十四郎、宇治松千夜 005 視えないモノ信じてゆく ◆gsq46R5/OE 深夜 D-6/ショッピングモール コロナ・ティミル、桂小太郎
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オープニング 「フィールド魔法、『バトルロワイアル・ビフォア』発動」 静謐に包まれた白塗りの世界に、どこか自己陶酔したような男の声が響いた。 それと同時に、招かれた者達は目を覚ます。 だが、それだけだった。 彼らが目を覚ますことは許されても、自由に動くことは許されていなかった。 身体を戒める茨の縄が、ぎちぎちと嫌な音を立てて暴れる者の身体を締め上げる。 力自慢の巨漢ですらも、力を強めれば強めただけ比例して強くなっていく拘束に程なく音を上げたほどだ。 そんな愚かしい足掻きをせせら笑うのは、一枚のカードを手にした面長の男だった。 「無駄ですよ、本能字学園風紀部委員長・蟇郡苛。 あなたの馬鹿力は確かに目を見張るものがありますが、しかしあなたがどれだけこの場で頑張っても、それは無様な徒労に終わるのみだ」 蟇郡と呼ばれた巨漢はその言葉に、苦々しげに顔を顰める。 訝しげに細められた眼差しに宿る感情は、男への鋭い敵意。 もしも拘束が存在していなかったなら、すぐにでも彼はカードの男に襲いかかっていただろう。 誰の目からもそれが明らかなほど、彼は大変に憤慨していた。 その理由は、蟇郡が忠誠を誓ったとある人物にも茨の戒めが施され、冒涜されていることにあったのだが。 「――ロジェ! お前……どうして俺達を!」 「そう焦らずとも、すぐにご説明して差し上げますよ、榊遊矢。 あなた達には申し訳ありませんが、既に私には、あの大会に固執する理由もなくなったのでね」 ロジェ、それが男の名らしかった。 見れば蟇郡のように単純な憤慨を示している者の他に、相手の人となりを知った上で反感を示している者がいる。 彼らは元々、このロジェという男を知っていたのだ。そして彼らとロジェの間柄が、決して親しいものではなかったというのは、榊遊矢少年の口ぶりから誰にでも理解できよう。 そう、彼らは元からロジェと敵対していた。 ただしその時、正確にはその次元では、ロジェは此処まで直接的かつ強引な手段を取ることはなかった。 とあるカードゲームの大会を利用し、自身の目論見をその裏で遂行しようとはしていたが。 では、その計画を全て反故にしてまで――果たして彼は何をしようとしているのか? 「単刀直入に言いましょう。私があなた達に求めるのは、とあるゲームに興じてもらうことです」 言葉通り単刀直入に告げると、ロジェは懐から新たな一枚のカードを取り出す。 そこには海の真ん中に浮かぶ孤島の航空写真が描かれていた。 カード名の欄には、「バトルロワイアル」との名前。 その単語を目にした瞬間に顔を青褪めさせた者が、ロジェから見えただけでも十数人以上はいた。 彼らは理解したのだろう。 それが何を意味するのか。 どれほど恐ろしく、おぞましい趣向を象徴しているのかを。 「殺し合い、というのが最も正しいでしょうか? 制限時間は無期限、その代わり勝者が決定するまで誰一人フィールドからは脱出出来ない。 ルール無用、奇襲、謀殺、自殺――あらゆる全てがこのゲームでは受容される」 この響きに、ときめきを覚える方もいるのでは? なぶるような問いかけに、誰かの奥歯を噛み締める音が聞こえた。 「無論、無理を言っている自覚は私にもありますよ。なので、此処は一つ賞品を提示しましょう。 ―――優勝者は、どんな願いであろうとも一つだけ叶える権利を手に入れることが出来る。 死者の蘇生、無限の富、愛する者との永遠……あるいは、私がこの計画を『実行に移さなかった』と事実を書き換えるようなものでも構わない」 「……そんな話を信用しろと言うのか? 馬鹿馬鹿しい……」 吐き捨てるような台詞に、ロジェは肩を竦めた。 確かに、その通りだ。 途中まではまだしも、最後の願いを叶えることでロジェに生まれるメリットがない。 「確かに、もっともな意見です。では、ご信用いただくために――」 だが、それしきのことで総崩れになられては困る。 ロジェの笑みが一層深くなった。 それに皆が不穏を覚えるよりも速く、会場席から一人の少女が引きずり出される。 「ッ……アスナ!」 叫ぶ声は悲痛なものだった。 拘束を振り解いて愛する者を助けに行こうと暴れる少年を、理知的な印象を受ける少女が必死に抑えている。 アスナ。 ロジェによって無作為に選び出された不運な少女が、叫んだ彼にとって単に親しい親しくないの間柄で語り尽くせるような人物でないのは、誰の目から見ても分かる。 当然、ロジェも同じだ。 彼はいかにも「かわいそうに」と言った表情を作ると、気丈に自分を睨み付ける少女へ微笑みかける。 「……何をするつもり?」 この世の終わりのような顔をしている少年へ、自分は大丈夫だと小さく告げてから、アスナは問いを投げた。 自分をどうするつもりなのか。 それ以上に、皆を殺し合わせて何を目論んでいるのか。 そういう意味を含めた問いだったが、ロジェは答えを返さなかった。 その代わりに―― 「私が願いを素直に叶えるかどうかを証明することは出来ませんが、しかし、力があるということを証明することならば、今この場でも出来るのでね。 彼女には一つ、実験台になってもらおうと思います」 「な――」 絶句の声。 それを無視して、アスナが何か言葉を発するのも待たずに、ロジェはひょいと軽く右手を挙げた。 「あ」 次の瞬間―― 「あ゛――ああああああぁぁ゛ぁぁぁ――――!!!!」 アスナの絶叫が響き渡った。 それと同時、彼女の身体が勢いよく内側から弾け飛び、四散する。 決して安らかな、痛みを感じないような死でなかったのは、その絶叫から十分に窺い知れるだろう。 だが、彼女に安息がもたらされることはない。 「命を、戻す」 散り散りになった肉片が、まるで時間を巻き戻したかのような動作で元あった位置へと戻っていく。 かつて閃光と謳われた凛々しく可憐な少女の形が成形され、程なく彼女は完全に元通りになった。 しかし。 「やめろ……」 ロジェの手が、再び挙がる。 少年の震えた声など聞く耳も持たずに、剣士の身体が再度膨れ上がって、爆ぜた。 生きながらに身体を爆散させられる激痛の断末魔だけが、命なき骸の亡き後に哀しく響く。 「あ……ああ……」 「そう心配せずとも、もう彼女が苦しめられることはありませんよ」 肉片となったアスナの身体は、もう動くことはなかった。 一度死に、それからまた生き返らせられて、また惨たらしく殺された少女。 彼女がこれ以上の苦しみを味わうことは、確かにない。 ただその代わりに、奪われた生命が再び戻ってくることもまた、ないのだ。 少年の眼差しは鷹のように細められ、そこから血涙のごとく涙が溢れてくる。 常人ならば失禁してもおかしくないほどの憎悪が、視線を通じてロジェへ浴びせられる。 だが、ロジェは笑ったままだった。 当然だ。 どれだけ気迫があったところで、動けないのでは恐れるにも値しない。 「殺す……!」 一つの仮想世界を救った英雄。 『閃光』を妻に持つ、黒の剣士。 数えきれないほどの敵を勇猛果敢に打ち倒してきた彼は、今この場では、単なる凡人にも劣る無力な存在だった。 向けた殺意と気勢は、何も変えられずに空回りする。 愛する少女を殺した男は、今も五体満足で、嘲り笑っていた。 ゲーム盤の支配者はあまりにも圧倒的で――これまで彼が戦ってきたどんな敵にも優る理不尽さを武器にして、黒の剣士の前に立ちはだかっていた。 「……殺して、やる……!!」 「んふふ、出来るといいですねぇ」 虐殺によって、ロジェの力は証明された。 参加者として呼ばれた者の中には、もう誰一人として彼の力を疑っているものはいない。 抱く感情はどうあれ、ジャン・ミシェル・ロジェという男の強大さだけは、身に沁みて理解させられた。 「それでは、そろそろセレモニーには幕を下ろすとしましょうか」 『バトルロワイアル』のカードを、その右手に装着されたディスクへと挿入する。 「フィールド魔法、『バトルロワイアル』発動」 世界が、変わっていく。 白い足場は虚空に消え失せ。 代わりに広がっていくのは、緑であったり、青であったり、人工的であったりと各々異なる、『フィールド』内の景色だった。 その次に、彼らの首へ『とあるもの』が装着されていく。 「装備魔法、『シンクロニシティ・ソウル・リング』発動」 それは、白い金属製の首輪だった。 繋ぎ目のようなものは見当たらず、どうやら完全に一体化している。 「最後の助言です。その首輪は強制的に外そうとした場合、ごくごく小さな爆発を喉元で引き起こすのです。 命が惜しくば、軽率な行動は慎むように――まあ、死にたいというのならば別ですがね。フフフ……」 その言葉を最後に、虚空へ浮かんだジャン・ミシェル・ロジェの姿は消え失せる。 バトルロワイアル。 殺し合いの舞台として与えられたフィールドには、自然の爽やかな空気が満ちていた。 これから血と嘆きで彩られる惨劇の舞台になることを、ひょっとするとこの島自体も知らないのかもしれない。 そして、始まる。 四十人余の生贄による、たった一つの帰り道を巡ったデスマッチ。 助けは来ないし、奇跡も起こらない。 この空間を抜け出したいと思うならば――殺し、殺されるしか、道はないのだ。 【シンクロニシティ・バトルロワイアル 開催】 【アスナ@ソードアート・オンライン 死亡】 【残り43人】 時系列順で読む Next 残骸の街 GAME START ジャン・ミシェル・ロジェ [[]] 蟇郡苛 キリト アスナ DEAD END
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最終登場時刻(ネタバレ有) 一日目 深夜 黎明 早朝 第一回放送 朝 午前 昼 第二回放送 日中 午後 夕方 第三回放送 夜 夜中 真夜中 第四回放送 一日目 深夜 場所 参加者 最終登場話 B-4/市街地 チェルシー、纏流子、クー・フーリン・オルタ 003 C-6/帝都・酒場付近 榊遊矢、ロコ 002 E-2/ハートランド シノン、ラバック 001 不明 ジャン・ミシェル・ロジェ、蟇郡苛、キリト、アスナ 000 黎明 場所 参加者 最終登場話 早朝 場所 参加者 最終登場話 2日目 朝 場所 参加者 最終登場話 午前 場所 参加者 最終登場話 昼 場所 参加者 最終登場話 日中 場所 参加者 最終登場話 午後 場所 参加者 最終登場話 夕方 場所 参加者 最終登場話 夜 場所 参加者 最終登場話 夜中 場所 参加者 最終登場話 真夜中 場所 参加者 最終登場話 対主催 マーダー 危険人物 スタンス不明者 主催者 死亡者
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第一回放送までの本編SS 【オープニング】 話数 タイトル 作者 位置 登場人物 000 royaled ◆..N2cWeukk ??? 繭、ファバロ・レオーネ、カイザル・リドファルド、アーミラ 【深夜】 話数 タイトル 作者 位置 登場人物 001 その嶺上(リンシャン)は満開 ◆7fqukHNUPM F-3/神社、F-3/山頂付近 小湊るう子、宮永咲、東郷美森 002 輝夜の城で踊りたい ◆KKELIaaFJU D-2/墓地付近 東條希、神代小蒔 003 忘れられないアンビリーバブル ◆Oe2sr89X.U G-7/ラビットハウス 香風智乃、蟇郡苛 004 ひと目で、尋常でないツッコミだと見抜いたよ ◆DGGi/wycYo A-2/音ノ木坂学院 土方十四郎、宇治松千夜 005 視えないモノ信じてゆく ◆gsq46R5/OE D-6/ショッピングモール コロナ・ティミル、桂小太郎 【黎明】 話数 タイトル 作者 位置 登場人物 【早朝】 話数 タイトル 作者 位置 登場人物
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【名前】満艦飾マコ 【出典】キルラキル 【種族】人間 【性別】女 【口調】一人称: 二人称・三人称: 【声優】洲崎綾 【性格】 【能力】 【備考】 以下、本ロワにおけるネタバレを含む +開示する 満艦飾マコの本ロワにおける動向 初登場話 008:Pure girls project 死亡話 041:LOVELESS WORLD 登場話数 2話 スタンス 対主催 キャラ名 関係 呼び方 解説 初遭遇話 纏流子 仲間 本ロワでは再会せず 鬼龍院皐月 仲間 本ロワでは再会せず 蟇郡苛 仲間 本ロワでは再会せず 針目縫 敵対 本ロワでは遭遇せず 南ことり 仲間 8話から41話まで同行。 008:Pure girls project ジャック・ハンマー 敵対 交戦する。致命傷を負わされ、極制服も奪われる 041:LOVELESS WORLD 東條希 目撃? 見殺しにされる 041:LOVELESS WORLD キャスター 敵対 瀕死の処を魂を喰われ殺害される 041:LOVELESS WORLD
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One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ ─────どうして、あんなことを言っちゃったんだろう。 零してしまった言葉が、どうして亀裂を生んだのか。 その理由が分からないほど、彼女は馬鹿ではない。 周囲のことを全く考えず、自分勝手な言動を漏らして。 そのせいで、要らぬ亀裂を、要らぬ対立を招いてしまった。 思えば、遊月の時もそうだった。 自分の都合で酷い事を言って、相手に嫌な思いをさせてしまう。 ここに来てから、そんなことばっかりだった。 どうしてだろう。 だって私は、取り繕う事には慣れていた筈だったじゃない。 そうだ。 あの木組みの町で、自分は皆に嘘を吐きながら、その嘘を頼りにして皆と繋がっていた。 お嬢様である桐間紗路。 それが求められていたような気がしたから、頑張って期待に応えようとしていた。 そうすれば、ココアもチノも、リゼ先輩も、一緒にいてくれるから。 ………ああ、でも。 嘘がバレたから、どうせもう、一緒には居られないのかな。 そんな事を、桐間紗路は考えていた。 放送が終わってから、大体数十分が経過した頃。 小湊るう子と桐間紗路は、未だに道路脇近辺にいた。 「………遅い、ですね」 そう。 三好夏凜、そしてアインハルト・ストラトス。 先程まで同行していた二人が、何時になってもやって来なかったのだ。 放送直後に起こった、小さないざこざ。 それが原因となって、一旦彼女達は二人ずつになっていた。 しかし、合流しない事には、先の和解も出来なければ今後の方針も下手に決められない。 だからこそ、彼女達は此処で合流する為に待っていたのだが。 その合流が出来ない事が、何よりの問題だった。 勿論、彼女達は待つだけだったのでは無い。 一度は先の場所に戻り、その周辺を探したりもしたが、結果は芳しく無く。 彼女達と逸れてしまった、という事実だけが、得られた唯一の情報だった。 「やっぱり、私達が東に行っちゃったと思ってるのかな……?」 そのシャロの呟きに、るう子は頷く。 恐らく、考えられるのはそれくらいだろう。 アインハルトはかなり取り乱しているようだったが、あの様子なら夏凜は禁止エリアについての文言は耳に入っているだろう。 そして、非力である二人だけで、危険人物も集まりやすいと思われる放送局に向かう可能性は小さいというのは、向こうも理解している筈。 そうなれば、残るは東。 市街地か、或いは研究所の方角に向かっただろう、と推測するのはそう難しくない。 「一回、東に向かった方が良さそうですね」 となれば、自然と結論はそうなる。 出しっ放しにしていたスクーターに跨るが、シャロは何やらまだ考えているようだった。 「どうしたんですか?」 「あー……、定春は言う事聞くか分からないから、どうしようかなって」 るう子の質問にそう答えつつ、溜息を吐くシャロ。 先程までなら、四人で三つの乗り物に乗れた為に、万が一暴走しても無理矢理抑え込む事が出来ただろう。 だが、それが一つ減ってしまった今、るう子のスクーターだけでそれをするに少々荷が重い。 「それじゃあ、二人乗りで行きましょうか?」 「るう子がいいならそれで良いけど………もう体調は大丈夫なの?」 「ええ、大分回復したのでいけそうです」 心配の言葉をかけられつつも、るう子は気丈な返事を返す。 事実、風邪薬の服用と休息によって、彼女の体調はほぼ平時と変わらないと言ってもいい程度に回復していた。 スクーターの運転も無理ではないだろうし、二人乗りでも問題無さそうだ。 「よし、行きましょう!」 肉を叩く音。 上がる嬌声。 「………………えっ」 「………………えっ」 再び、肉を叩く音。 再び、上がる嬌声。 「………………えっ」 「………………えっ」 三度、肉を叩く音。 三度、上がる嬌声。 「「………………………………………えっ、えっ」」 そこで繰り広げられていた光景は、有り体に言えば異常だった。 バーテン服の男が、轟音と共に拳を振るえば。 半裸のようにも見える男が、甘い声を出す。 文字通り、『打てば響く』というものだ。 響いているのは、こう、聞いていると不安になるものなのだが。 「………ええっと、どうしましょう」 呟いた言葉はしかし、シャロはまだしも発言したるう子自身さえしっかりと認識していたか怪しい。 元は、進んでいた途中に空飛ぶ車を発見した事だった。 どう見てもまともな人間が出来る事ではないそれを見て、しかし彼女達も引くわけにはいかなかった。 というのも、放り投げられたのが恐らくE4の交差点であるからだ。 ここから市街地に行くなら恐らく確実に通る場所だし、そうで無くともそこに夏凜やアインハルトがいる可能性が無い訳では無い。 それに、この付近にいるなら、危険人物としてやがて出会う可能性がある相手の姿を確認しておくのは悪手ではないだろう。 最悪の事態を想定し、いつでもスクーターが発進出来るようにした上で、シャロもパニッシャーを出す準備を整え。 道路から外れたところでそれを目に入れて─────そこから、今に至った。 シャロもるう子も、年頃の乙女だ。 一般人には当て嵌まらない性癖というものの存在は知っている。 特にるう子は、実際に弟に好意を向ける少女を知っている。 それらを偏見し差別する程、彼女達の価値観は固定されてはいない。 けれど。 男同士で、しかも道のど真ん中で、ここまでの有様を見せつけられれば、動けなくなるのも当然というものだろう。 永遠にも感じられるその時間が終わり、二人の男が何やら会話を始め。 そこで、漸く少女達も正気を取り戻した。 「る、るう子ちゃん!早く逃げるわよ!」 「は、─────」 はい、と答えようとして、るう子の動きが止まる。 その目線の先を追って、シャロもまた動きが止まる。 いつの間にか服を着て、車に乗り込んでいた「打たれる側」の男が。 しっかりと、こちらを見ていた。 勘違いか? いや、ここはかなり開けた場所だ。背後に何かある訳でもなければ、相手と自分の間に何かがある訳でも無い。 そして。 相手がその右腕を上げた時、二人はしっかりと認識した。 あの男は、確かに私達二人を見ている、と。 「………い、いやあああああああああっっっっ!!!??」 アクセルをフルスロットル。 凄まじい唸りと共に、バイクが猛進を始める。 二人の女子は、全力で「変態と危険人物のコンビ」から逃走を始めた。 「ちょ、ぅお、落ち、落ち、落ち!」 振り落とされそうになるシャロが慌ててパニッシャーを使い、しっかりと姿勢を固定する。 感じた事のない時速80キロオーバーの風圧に圧倒されながらも、逃げる事に全神経を費やす少女二人の脳内に「速度を下げる」という選択肢はない。 尤も、殺し合いという環境の中ではなかったとしても。 聞いているだけでその勢いがわかる轟音を響かせる程の拳を持つ相手を見ても野次馬に行くような事はしないし、道路のど真ん中で嬌声を上げる男はそもそもお近づきになりたい人間がそもそも稀というもの。 だから、その相手がこの殺し合い屈指の実力を誇り、且つ彼女たちと同じく主催の打倒を目指しているという事実をそこに見出すのは不可能だっただろう。 かくして。 暫く道なりに飛ばした彼女達が見たのは、旭丘分校へと続く坂。 問答無用とばかりに駆け上がり、その校庭の中心で一度停止する。 「………ま、撒いた………?」 「多分………」 その一言で、はあ、と二人が息を吐く。 何だったんだ。 二人の心中を占めるその疑問を、しかし二人共暗黙の内に思考の奥底に葬った。 それこそ、年頃の乙女と言うべき二人に手に負えるような問題ではないだろう、と感じ取ったからだ。 ともかく校舎の中に入りながら、空気を変える為にるう子が提案する。 「………と、とりあえず。 少しだけ休憩したら、また南下しましょう。 南からぐるっと回り込めば市街地に出れます。そこからなら、ラビットハウスが近いでしょう」 地図を見、パソコンを立ち上げながらそう指摘し、選択したルートを提示してみる。 途中までは同意していたシャロだったが、ラビットハウスという単語には少し肩を震わせ。 どうでしょうか、と目を向けたるう子に、彼女は心ここに在らず、といった雰囲気で言葉を零す。 「でも、夏凜とアインハルトには……」 「夏凜さんがスマホを持ってますから、多分伝わると思います」 「そ、そうね」 挙動不審。 明らかに、と言う程ではないが、かと言って隠し通しているとも言えない。 ─────やっぱり、まだラビットハウスには…… 彼女の事情は聞いている。 それに、もしかしたら先程彼女と口論になったという遊月が向かっている可能性もあるのだ。 どうしても足が遠のいてしまう、というものだって、当然あるだろう。 そんな風に思いながらも、るう子はチャットに文面を打ち込む。 『義輝と覇王へ。フルール・ド・ラパンとタマはティッピーの小屋へ』 無論、これは暗号だ。 フルール・ド・ラパンとはシャロ、タマがるう子、そしてティッピーの小屋がラビットハウスとなっている。 そして、義輝が夏凜、覇王がアインハルト。 各々の知り合いにも伝わる暗号という事で、それぞれが自分を指した言葉を代名詞としたのだ。 地名は殆ど暗号化出来なかった為に、ラビットハウスか映画館、その他いくつかくらいしか婉曲的に伝える事が出来る場所は無いが、まあ上々だろう。 このチャットにおける唯一の問題点は、東郷や風、晶、そしてウリスなど、「暗号が通じ、かつゲームに乗っているかその可能性がある参加者」だが、かといってそれらを恐れて使わないのは本末転倒にも程がある。 少なくとも、とにかく合流を急ぎたい今、使わない手は無いだろう。 そうして、彼女はその文面を送信した。 「る、るう子、ああああれ!」 その直後、分校に声が響き渡る。 シャロの緊迫した叫び声に驚くと、窓の外を見ていたらしいシャロが半泣きになって訴えていた。 「あ、あああああいつらが来ちゃったわよ!?」 その一言で、るう子の表情も凍りつく。 この状況であいつらが誰を指すのかなど、今更言うまでもない。 先程のあの二人が、また追ってきたという事だ。 善人か悪人かはともかくとしても、やはり現状接するにはこちらに決め手が少ない。 辛うじて自衛に使える武器といえばパニッシャー程度だが、この二人が実際に、しかも動揺している今使いこなせるかどうかは怪しいのだ。 兎に角、現状をどうにかして打開しなければ。 「今すぐ出たら、流石にエンジン音で気付かれるわよね…」 「裏口までこっそり抜け出して、裏山に逃げ込みましょう」 恐らくは、それが一番の手だ。 顔を揃えて頷くと、息を潜めて静かに歩き出す。 「…………れは……………………だな………」 「……こと………………がる…………………」 僅かに聞こえてくる声から方向が分かるのが幸いとばかりに、二人はその反対方向へ歩を進める。 と。 「「────────ッッッッ!!?」」 木造校舎ならではの、重さに軋む床の音。 しっかりとした現代の学校に籍を置く二人が全く警戒していなかったそれが、想像以上の音を響かせる。 こうなっては、もう形振り構ってはいられない。 偶然開いていた窓から全力で飛び出し、そのまま校舎裏へ走る。 幸いすぐに追ってくるような影は見えないが、そういつまでも振り返っていられる訳でも無く。 全力で逃げる二人が、漸く見つけたものは───── 「………!こ、ここを使いましょう!」 校舎の裏山から伸びる、小さな小道。 舗装してあるという訳では無いが、余計な草は殆ど生えていない。 僅かな起伏に注意すれば、スクーターでも余裕で飛ばせるような道。 200メートル程で小さな小屋がある突き当たりに出て、そこから南方向へと続きそうな方へと曲がり更に進む。 やがて地面は獣道のようなそれへと変わっていったものの、分校からは結構な距離を置けた。 「……ふう、ひとまず安心ですね」 背後から迫る気配も無い事を確認し、再び落ち着きを取り戻す二人。 あの交差点の邂逅から、気付けばもうそこそこの時間が過ぎている。 「さっきみたいな速度だとキツイし、普通の速度で行きましょうか」 「そうですね、あれはもう勘弁です…」 思い出したように陰鬱な顔を揃えつつも、スクーターを発進させる。 宣言通り、先程よりは速度を落とした発進。 しかし、その数刻後、彼女達は再び自分の足で歩く事になっていた。 「やっぱりちょっとガタガタですね……どうします?」 「うーん……さっさとあの二人から離れたいけど、こうも地面がガタガタしてるとねえ。 定春を出すって手もあるけど、どうしたものかしら」 ひとまずスクーターから降りて、歩きながら相談を始める。 道の様子─────決して運転出来ない訳ではないが、それなりのオフロードだ。 道幅も少々狭く、西側は崖とまでは言わないがそれなりに傾斜がある。もしスクーターの速度で落ちれば、ちょっとした怪我で済むかどうかは怪しいかもしれない。 どうしたものか。 ひとまずもう一度スクーターに跨り、るう子は何ともなしに空を見上げ─────その動きが、止まる。 あの光は見間違いだろうか? いや、あんな光を二度も、真紅の色違いも含めれば三度も見ておいて、今更こうも似た物を見続けるものか。 あの姿は見間違いだろうか? いや、本来現実に有り得そうもないあんな浮世離れした姿を、ここで幻視する事に何の意味があるだろうか。 ならば、本来全く別の存在である筈の二つが一つとなっているのは、一体どういうことなのだろうか。 「………ウリス!?いや、東郷美森さん………!?」 だが、遅過ぎた。 るう子が気付き、シャロがその叫びに気付いてバイクに飛び乗って。 その時には既に、その手には銃があり。 疑問の叫びへの返答は、放たれた弾丸だった。 シャロが跨った直後に、スクーターのエンジンをフルスロットルにして─────しかし、間に合わない。 目の前の地面が爆ぜた音と、衝撃と共に襲ってきた浮遊感が、ほぼ同時に二人の少女を襲った。 「─────ッ!!」 「か、はっ」 声にならない悲鳴と、吐息にならない呼吸が、不協和音となって響いたかと思えば。 まるで鞠のように、るう子とシャロは地面へと叩きつけられた。 辛うじて二人とも崖下へと落下する事は避けられたが、それでもその身を動かす事が出来ない程の痛みが全身を覆っている。 「気分は………最悪、かしらね」 近付いてきた少女の声が、るう子の耳に入る。 激痛の中で顔を上げれば、そこにあるのは二重の意味で現実には有り得ない姿。 「ウリス……その、格好……」 「あら、もしかして貴女もこの格好を……『勇者』とやらを知っているのかしら?」 青白い装束を身に纏ったルリグ─────『ウリス』は、そう言って妖しくその表情を歪ませた。 「本当ならもっと話したい事もあるのだけれど、こっちも色々事情があるの」 その手に握る青白の銃を、るう子の眉間へと向けながら。 「さようなら、小湊るう子」 数刻前の事。 辺りを望遠スコープで見渡しながら、ウリスは思考を重ねていた。 先程から、押している車椅子に乗った東郷美森との会話は無い。 無論、それだけなら特に何を思う事もない。 アナティ城から先程の狙撃まで、彼女との会話はほぼ無かったに等しいのだから。 仮初めの同盟関係を結んではいるが、その実互いに互いを利用する腹積もりなのは明確だ。 だが、会話が無いという事と、会話している余裕そのものが無いという事は大きな違いを持つ。 此処が獲物を喰い合うデスゲームの中であるから、尚更だ。 そして、この行動が敵からの逃避行である以上。 本来なら、今持っている全ての『荷物』を捨て去り、少しでもその身を軽くするべきなのだろう。 特に、『目立つ様な形状』をしている上に、『行動を大きく制限する』ようなものがあったら、そんなものは邪魔以外の何物でもない。 つまり、東郷美森という存在そのものが。 現状、ウリスにとっては最大の妨げになっていると言って差し支えないのだ。 だが、自分は今もこうやって車椅子を押している。 無論、どうしようもない様な時は遠慮無く放り出すだろう。 だが、そうでなければ捨てない程には、東郷美森には利用価値がある─────いや、利用しなければいけない理由がある。 (隠し事─────一体何を、腹の中に抱えているんでしょうね?) 自分が何かを企んでいる事は、恐らく向こうも承知の上だろう。 現に自分も、既に彼女に対する全くのデマを島中に撒き散らしているのだから。 そもそもこのバトルロワイアルの中で、ゲームに乗っている人間同士の同盟に、何の策謀も巡らせない方が間違っているだろう。 東郷美森は、そんな事をする馬鹿な人種には到底見えない。 (だったら、話さざるを得ない状況にさせる) これは、恐らく「貸し」になる。 見捨てる事が出来るのに、見捨てずに共に逃げたという事実。 その代償として、知っている事を語らせる。 無論、向こうが嘘を吐く事も出来る。 適当な事を言って誤魔化す事も、或いは都合の悪い真実だけを隠す事も。 だが、そこから下手な亀裂が出来れば、そこで彼女は終わりだ。 この関係は「同盟」から「隷属」へと変わり、手札の無い彼女に打つ手は無くなる。 勿論彼女もそれを弁えているだろうから、何か策を打ってくる可能性はあるが。 ─────尤も、どれもこれも今自分達に迫っているピンチを抜け出せたらの話だ。 と。 そこで、ウリスは発見する。 「─────朗報よ」 スコープの中に捉えた、スクーターで走る見覚えのある少女。 それを見たウリスは、小さくほくそ笑んだ。 全身の鈍痛と、青白い幻想じみた少女が持つ銃。 それが、全てを告げていた。 (この、まま、じゃ) 死ぬ。 そんな現実を突き付けられて、しかし紗路の思考は落ち着いていた。 桐間紗路は、確かに一般人だった。 けれど、少しだけ。 少しだけ、一般人より「死」について学んだ。 だから、死がどのようなものか、ほんの少しだけ理解を深めていた。 それが彼女自身の失言のお陰だというのは、皮肉な話だが。 先程の、一言。 アインハルトと夏凜の友人の死を、結果的に自分は侵してしまった。 だから、考えた。 彼女なりに、死というモノについて。 そのお陰で彼女は、それを直前にして尚、ほんの少しだけ冷静さを失わずにいられた。 どうしようもない、破滅。 それが、死だ。 仮に、自分の言った何気無い一言が、他人の琴線に触れてしまっても。 仮に、自分の事でいっぱいいっぱいで、他人を慮る事が出来なくても。 仮に─────期待に無理に応えようとして、嘘を吐いていたのがバレても。 それくらいなら、関係が完全に失われたりしない。 精一杯謝って、修復出来るかもしれない。 またやり直して、また皆で笑い合える日が来るかもしれない。 死は、そんな一切の希望を踏み躙る。 何も伝えられない。 それが今、自分に迫っている。 (─────嫌だ) それは、嫌だ。 もう二度と、皆と会えない。 ココアが作った暖かくて美味しいパンも、チノが淹れたコーヒー……は体質で飲めないけれど。 千夜が自信満々で見せてくる和菓子の変な名前も、リゼ先輩が見せるかっこいい姿と時折見える可愛さも。 全部、全部、壊れてしまう。 それは。 「………い、やぁっ!」 だから、彼女は叫んだ。 死にたくないという、ただ一つの、生きる者として当然の感情を。 けれど、それは決して諦念ではない。 諦めたくない。 死にたくない。 もっと、もっと─────生きたい。 だから、彼女は、立ち上がった。 赤い鎖が、突如として少女達の間に巻き上がる。 パニッシャー。 魔法のデバイス。 それを握り締めて、彼女は───── ─────すとん、と。 やけに綺麗な音が、やけにその場に響いた。 掠れた声で、え、と力無く言葉を発するるう子と。 驚きが収まり、ふ、と顔を歪ませるウリス。 胸─────心臓に生えた一本の矢を見下ろして、何も言う事が出来ないシャロと、そして。 すとん。 間髪入れず、二の矢をシャロの頭部へと命中させた東郷が。 その音を、静かに聞き届けていた。 ―――――え? ―――――わた、し? ゆっくりと頽れる自分の体が、やけに非現実じみていて。 身体を伝っていた血が、何処か現実味の無い暖かさを伴って流れ出ていく。 ―――――い、や。 「や、めて」 訴える。 目の前に迫る、死刑執行人に―――――ではなくて。 「わたしを、ひとりに」 それは、嘆願か贖罪か。 彼女が最期に見たものは、離れていく三人の姿で。 「しない、でぇ………」 ―――――だってうさぎは、寂しいときっと死んでしまう。 【桐間紗路@ご注文はうさぎですか? 死亡】 至近距離からの矢が、その頭部に突き刺さって。 助かる見込みがないなんて、もう誰の目にも明らかだった。 「─────しゃ、ろさああああああんっっ!!」 静寂を破ったのは、るう子の悲鳴だった。 それを愉快そうに眺めながら、ウリスは背後から近付いてくる東郷へと声を掛ける。 「ありがとう、助かったわ」 「………いえ、先程までの『借り』は返しましたから」 その台詞に、僅かにウリスが眉を顰める。 思惑がバレていた、というのは、想定の範囲内であっても気分が良いものではない。 それに、今回は看破された上でその想定をひっくり返すところまでやられたのだ。 あの怪物の事に気を取られていたとしても、やはり注意不足。 教訓を肝に銘じながら、表情を元のそれへと戻した。 「それで」 「分かってるわ」 転がっているスクーターを検分する。 凹んでいる部分があるのは仕方ないが、乗り物としては正常に起動してくれるようで。 「さて、随分とお待たせしちゃったわね?」 一方のウリスは、改めてるう子へと銃口を向けていた。 その目を涙に濡らしながら、尚も此方を睨んでくる彼女。 そんな彼女へと、ウリスは歪んだ笑顔を浮かべ。 「さよなら─────は、もう少し後みたいね」 え、とるう子が呟いた時には、彼女は首根っこを掴まれていた。 無理矢理立たせられた、と理解すると同時に、目に入ってきたのは───── (さ、さっきの人達!?) 「貴様等─────」 「あら、変な事はしないのがこの子の為よ?」 飛び出しかけた二人を止めたのは。 こめかみに銃器を突きつけられた小湊るう子と、突きつけているウリスの姿。 単純にして強力な手段─────人質だ。 これには、男達─────静雄と蟇郡も、押し黙るしかない。 一歩間違えば、二人に抱えられた少女は死ぬ。 静雄ですら、怒りを極限まで抑え大人しく手を上げている。 これといって切れる札も存在しない二人には、ただそれしか出来なかった。 その間に、東郷が車椅子からスクーターへと移ると共にその操作を確かめる。 ウリスも油断無くその銃口を向け続け、二人の行動を抑えている。 それらを見る事しか出来ない自分に、蟇郡は腹を立てる。 少女二人を追ってここまで来たものの、その二人を見失い。 悲鳴を聞いて駆けつけた時には、既に手が出せぬ状況。 何という醜態だ、と思わずにはいられない。 と。 「…………東、郷さん、ウリスっっ……!」 ボロボロになったるう子が、小さく、だが蟇郡達にも聞こえる程度の声を発した。 本人は朧げな意識の中で呟いたその言葉は、しかしそれ以外の四人にはそうはならない言葉。 ウリスはともかくとしても、東郷という名はしっかりと名簿に刻まれている。 いや、そうでなくとも。 本名が明らかになった─────その事実が重要な事は、言わずもがなで。 だからこそ、そちらに全員の意識が動き。 その一瞬の間隙に、素早く蟇郡が行動を起こそうとする。 そして、ウリスもそれを迎え撃つように銃を構え。 新たなる戦端が、ここに開かれる─────筈だった。 だが。 小湊るう子の言葉と、蟇郡の行動。 それは、東郷とウリスの警戒心を引き付けるに足りるもので。 だからこそ、二人はそれへの対処に追われてしまった。 だが、彼女達二人は正に一刻も早く動くべきだったのだ。 彼女達がバイクを欲したその大元の理由を、忘れるべきではなかったのだ。 それなのに。 彼女達は、その対応を一時的に忘れてしまっていた。 だからこそ。 怪物は、牙を剥く。 植物の枝や葉が薙ぎ倒される音が聞こえた、という時にはもう遅かった。 ウリスが思わず振り返った、その次の瞬間には─────電流が走るような音、そして青い障壁と共に、彼女の身体が吹き飛んでいた。 引き金が引かれ銃声が響くが、衝撃によりあらぬ方向を向いた銃口から放たれた弾丸はるう子を撃ち抜く事はなく。 結果として残ったのは、唐突な展開に驚きを隠せない東郷と、その場でただ立っていた蟇郡、静雄。 そして。 「─────弱い。が、手応えも無い」 彼等の中心に降り立った、怪物だった。 再び、時刻は巻き戻る。 ジャック・ハンマーは、ただひたすらに山を駆けていた。 時たま立ち止まり、獲物の位置を探るかのように鼻を鳴らす。 野性動物染みた行動だが、それは自己暗示のようなものだ。 今の彼は、人間の知性を持ちながら、野性の獰猛さを併せ持つハンター。 そんな自分を自覚し、ならばとそれを意識して動く。 そうしてひた走る彼の形相は、正しく怪物染みていた。 やがて、彼は一つの城に辿り着く。 アナティ城。 彼はその場所に辿り着き、されどその中には入らず背を向けた。 彼の獣のようなカンが告げていた。 これは、巣だ。 しかし、帰るべき巣という訳ではない。 恐らくは、あの少女たちは一定時間ここにいたが、現在はもう離れている。 僅かなズレに、しかし彼は動揺しない。 巣を当てられたのだから、その巣から逃げ出した獲物を捕らえるのは決して難しいとは思わない。 むしろ、巣を当てた自分ならば、敵を見つけるなど造作も無いだろう、と。 恐らく、この『寄り道』が無ければ、東郷とウリスはもっと早くに捕まっていただろう。 そういう意味では、彼は不幸であり、あの二人は幸運だった訳だが─────それはさておき。 ジャックは、再び鼻を鳴らす。 そうして、その足を向けるのは─────北西。 再びその足を進め始めた彼は、正しく獲物を狩る肉食獣のようだった。 そして、数刻ののち。 彼は発見する。 何かに相対している、スクーターに跨った少女と、少女を抱えそのこめかみに銃口を向ける別の少女。 狙撃手は─────あの弾丸の性質から見ても、浮世離れした外見で銃を握る少女だろう。 怪物は、地を蹴った。 反応が早かったのは、東郷だった。 目の前の怪物に構う事なく、スクーターでウリスとるう子の回収に向かう。 ジャックへの応対を後回しにしたのは、ウリスが恐れていたものがこれだと瞬時に理解したから。 そして、そんな彼女を─────ジャックは無視し、再びウリスへと迫る。 問題は、その速度。 (─────これと並ぶ程に速い!?) 東郷は驚愕する。 彼女がいかに初めての運転で速度を落としているとはいえ、スクーターに並ぶ事が出来る生身の人間など存在するのか。 起き上がったウリスが、銃口を向け立て続けに弾丸を放つ。 だが、それらは大半が回避され、身体に届いたものも薄皮一枚を切り裂くに留まる。 馬鹿な─────東郷だけでなく、ウリスもそれに驚愕を隠せない。 確かに、ウリスの射撃スキルは決して高くない。 あくまで一般人の女子中学生の域を出ない彼女が銃撃に慣れている筈は無いのだから、それは致し方ないことだろう。 けれど、僅か数メートルの距離から放たれた弾丸を、こうも容易く連続で回避するのか。 ―――――化け物 東郷の脳裏に、そんな言葉が脳裏をよぎる。 しかし、今はそんな事を考えている余裕は無い。 このままでは、ウリスは殺され、恐らくその次は非力かつ手近な自分かあのるう子という少女。 しかし、東郷は届かない。 ある一部分以外はあくまで一般的な体型の少女の域を出ず、またその下半身を全く活かせない彼女より、ジャックの方が早いのは道理だった。 一瞬の内に、ジャックの手がウリスへと伸び───── 「ぬ」 その身体ごと、押し返された。 かといって、ウリスが唐突に筋力を高めただとかそういう訳では無い。 至近処理からの、狙撃銃の生成。 それが二人の距離を無理矢理こじ開け、迫り来る敵から僅かに距離を置いた。 「手を!」 その、一瞬の間隙。 そこを突いて、東郷がウリスの手を握る。 手を引くと同時に、勇者の力を以てるう子を離さぬままスクーターの後部へと飛び乗る。 再びマフラーが爆音を吹き出して、三人を乗せたスクーターが遠ざかる。 ─────逃さん。 勿論、喧嘩を売られた彼が、そうやって簡単に「勝ち逃げ」を逃す筈も無い。 すぐさまそれを追うために、走り出そうとした─────その瞬間。 「三つほど、聞きたい事がある」 ガシリと。 ジャックの左肩を力強く掴む、巨大な人影があった。 振り返って、彼はその男の体を確かめる。 自分をも上回る身長、金髪に濃い色の肌。その肉体も中々の鍛えようだ。 中々に戦い甲斐がある相手だ、と判断する。 先の少女達は力押しでどうとでもなる。今はこの男を倒し、カードを奪い、自らの力をより高めるべきだ。 「まず、一つ─────」 その言葉が巨漢から発された時には、彼はもう拳を放っていた。 ここからでも狙え、かつ人間の急所である鳩尾への一撃。 どんな人間だろうと、腹を抱え悶え苦しむような一撃。 「その服は、貴様が誰かから奪った物か?」 だが。 それ越しに、ジャックに伝わってきた感触は─────肉を打ち据える柔らかなそれでは無い。 まるで、何重にも鍛え上げた鋼を叩いたかのような硬いもの。 「沈黙は肯定と見なすぞ─────次の質問だ。 貴様がその服を奪った相手は、小柄な少女だったか?」 気付けば、彼の右手は。 巨漢の左腕に装着されたプロテクターのようなそれによって、完全に止められていた。 鉄や鋼の比では無い、圧倒的なまでに「硬い」というものを突き詰めたような感触だった。 ならば、と。 今度は身体を大きく捻り、プロテクターが存在しない顔面へと上段蹴りを放つ。 「最後の、質問だ」 今度のそれは、躱される。 いくら予備動作が大きいとはいえ、巨躯には似合わぬ素早い動作での回避。 面白そうだ─────そう感じ、更に数発の拳を打ち込む。 「貴様は、その少女を─────殺したか?」 それも往なし、カウンターを放ってくる巨漢。 しかし、格闘技において各分野での歴戦の強者達を下す彼に仕掛けるには些か安置。 油断無く躱し、本命の拳を顔面へと叩き込む。 既に両腕は打ち据えられ、ガードは間に合わない。 無防備になった頭部へと、凄まじい威力の拳が吸い込まれ。 「………沈黙は、肯定と見なすと言った筈だッッッッ!!!」 それでも、蟇郡苛は倒れなかった。 尚も立ち続ける彼を前に、ジャックは小さな疑問を覚える。 この男は、ここまで大きな男だったか、と。 その身から発せられる威圧感に、呑まれないまでも僅かに気圧される。 「満艦飾の仇、今ここで!貴様を打ち倒してくれるッッ!!」 蟇郡は、決して倒れない。 満艦飾マコの極制服を前に、彼は倒れる訳にはいかなくなった。 その目は激しい怒りを宿し、今にもその身体を弾丸のように放たんとする。 それに応えるように、ジャックもまた 「………つまり」 だが。 ジャックへと投げ付けられた車椅子が、二人の激突を妨げる。 「テメェはもう、誰かを殺したって事だよなぁ…………?」 二人が驚いて振り向けば。 そこには、一匹の「化け物」がいた。 「だったらよぉ……………………殺されても文句は言えねぇよなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」 平和島静雄という、怒りに燃える化け物が。 その存在にジャックが対応するよりも早く、彼は先程と同じように、コシュタ・バワーをぶん投げた。 自動車の形をしたそれを、ジャックは受け止めようとし─────反対に、弾き飛ばされる。 ジャックとぶつかって戻ってきたコシュタ・バワーだけが小道に残り、吹き飛んだジャックを追うように静雄も駆けて行く。 「くっ…!!」 蟇郡が僅かに逡巡する。 奇しくも、自分より怒りを見せている静雄のお陰で冷静さを取り戻した彼は、それでも逸る鼓動を抑えながら思考を纏めた。 まず、あの少女達─────どう考えても危険だ。 人質と称されたもう一人の少女の身も危ない以上、迅速な対処が求められる。 そして、今現れた男。 平和島静雄のように、現実を超越したレベルではないにしろ、あの男の筋力は並大抵のものではない。 それに、満艦飾の仇だとするならば。 蟇郡苛という一人の個人としては、決して許してはいけない存在である。 (放送局も気になるが、すぐそこにいる殺人者を逃していいものか─────断じて否!) 車での一撃で吹っ飛んだのを見るに、単純なパワーなら静雄が上回っているであろう以上、あの男は彼に任せてもそこまでの問題にはなるまい。 どちらかと言えば、負傷しているとはいえ何らかの力と人質を持っているあの少女達の方が厄介だ。 先に対処すべきは彼女達―――――しかし、そこで何も考えず特攻するような真似はする筈もない。 蟇郡とて馬鹿ではない。このまま孤軍で特攻しても、また同じように人質を盾にされるのは目に見えている。 となれば、選ぶべき行動は一つ。 この付近で、同じように殺し合いに反抗している誰かを探す。 しかし、遠くに逃げられては堪らない。 遅くとも正午の放送が始まるまでには、あの少女を奪還せねばなるまい。 つまり、こうだ。 協力者を探しながら付近のエリアを移動し、仲間が見つからず放送の数十分前になってしまった場合は単独でも行動を開始。 それが、今の蟇郡苛に出来る最善だろう。 そうと決まれば、と急いで車へと乗り込みかけて、一度それを取り止める。 小走りで死体へと駆け寄り、丁寧に担ぎ上げて後部座席へと寝かせる。 そこで、蟇郡はふと気付く。 少女の外見や服装の特徴が、チノが話していた友人の内の一人と酷似している事に。 他人の空似かとも疑ったが、人質にされていた少女も先程、その名を悲鳴と共に呼んでいた事を思い出し。 「……すまない、桐間紗路。後になってしまうが、必ず然るべき形で弔おう」 一瞬の、空白の後に。 そう呟いて、改めて蟇郡は車を走らせた。 「今回は、随分と貴女に助けられたわね」 「…少なくとも、先程逃げる時の分のお礼はお返し出来たかと」 スクーターに乗り、南西へと向かう三人。 るう子は先程ウリスと共に吹き飛ばされた時にはもう気絶しており、未だ目覚める気配は無い。 目指すのは、最も近く、且つ東郷が一度訪ねて勝手が分かっている温泉。 彼女が乗り捨てた車椅子も、貸し出しサービスと称してそこそこの数の予備が存在しているのは確認済みだ。 ひとまずはそこで休息を挟み、改めて市街地か、或いは西の放送局を目指す。 先の男達に追われている可能性がある為に、そこまで長居は出来ないが。 少なくとも、先の狙撃から始まった一連の危機は脱したと見ていいだろう。 けれど、東郷の心は決して晴れてはいなかった。 『私を、一人にしないでぇ………』 先程自分が殺した少女の、最期の言葉。 それが、ずっと彼女の心に突き刺さっている。 東郷美森には、小さな欺瞞がある。 無論、勇者部の仲間を終わりのない地獄から抜け出させる、というのも、彼女の偽らざる本心である。 けれど、彼女を動かしているのは、決してそれだけではない。 乃木園子。 東郷美森が、まだ鷲尾須美と呼ばれていた頃の友人の存在。 彼女と接した事で、東郷は気付いてしまった。 どんなに固く誓った約束も。 どんなに強く願った祈りも。 どんなに強い絆で結ばれた、友達さえも。 華が散れば、それは全て「無かった事」になってしまう。 それが、東郷美森が世界を壊すもう一つの理由。 もう、忘れたくない。 もう、忘れられたくない。 全てが忘却の彼方に消え去るくらいなら、せめて優しい記憶の中で眠ってしまいたい。 だから、東郷美森は他でもない「世界の破滅」を願った。 (─────余計な事を考えている暇は、無いわね) 果たして、それに彼女自身が気付いているのかどうかは分からない。 けれど少なくとも、シャロの最期の言葉と自分の願いが重なったのは事実で。 意識的にか、はたまた無意識的にか、その言葉は東郷の思考に僅かな澱を残した。 その澱がどうなるか─────それは、未だ分かりはしない。 【G-4/道路/一日目・午前】 【東郷美森@結城友奈は勇者である】 [状態]:健康、両脚と記憶の一部と左耳が『散華』、動揺、満開ゲージ:4 [服装]:讃州中学の制服 [装備]:弓矢(現地調達)、黒のスクーター@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(17/20)、青カード(17/20)、定春@銀魂、不明支給品0~1(確認済み) [思考・行動] 基本方針:殺し合いに勝ち残り、神樹を滅ぼし勇者部の皆を解放する 0:無駄な事を、考えている暇は……… 1:南東の市街地に行って、参加者を「確実に」殺していく。 2:友奈ちゃんたちのことは……考えない。 3:浦添伊緒奈を利用する。 4:ただし、彼女を『切る』際のことも考えておかねばならない。 [備考] ※参戦時期は10話時点です 【浦添伊緒奈(ウリス)@selector infected WIXOSS】 [状態]:全身にダメージ(中)、疲労(中) [服装]:いつもの黒スーツ [装備]:ナイフ(現地調達) [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10) 黒カード:うさぎになったバリスタ@ご注文はうさぎですか? ボールペン@selector infected WIXOSS レーザーポインター@現実 東郷美森のスマートフォン@結城友奈は勇者である [思考・行動] 基本方針:参加者たちの心を壊して勝ち残る。 0:温泉で休息。 1:東郷美森、及び小湊るう子を利用する。 2:使える手札を集める。様子を見て壊す。 3:"負の感情”を持った者は優先的に壊す。 4:使えないと判断した手札は殺すのも止む無し。 5:蒼井晶たちがどうなろうと知ったことではない。 6:出来れば力を使いこなせるようにしておきたい。 7:それまでは出来る限り、弱者相手の戦闘か狙撃による殺害を心がける [備考] ※東郷美森が犬吠埼樹を殺したという嘘をチャットに流しました。 ※変身した際はルリグの姿になります。その際、東郷のスマホに依存してカラーリングが青みがかっています。 【小湊るう子@selector infected WIXOSS】 [状態]:全身にダメージ(大)、左腕にヒビ、微熱(服薬済み)、魔力消費(微?)、体力消費(大)、気絶 [服装]:中学校の制服、チタン鉱製の腹巻 [装備]:黒のヘルメット着用 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(8/10) 黒カード:チタン鉱製の腹巻@キルラキル、風邪薬(2錠消費)@ご注文はうさぎですか? ノートパソコン(セットアップ完了、バッテリー残量ほぼ0%)、宮永咲の不明支給品0~2枚 (すべて確認済) 宮永咲の白カード [思考・行動] 基本方針: 誰かを犠牲にして願いを叶えたくない。繭の思惑が知りたい。 0:………………………… 1:シャロさん……… 2:ウリスと東郷さんに対処したい。 3:遊月、晶さんのことが気がかり。 4:魂のカードを見つけたら回収する。出来れば解放もしたい。 5:ノートパソコンのバッテリーを落ち着ける場所で充電したい。 周囲より比較的開けた、広場のような場所。 そこが、平和島静雄とジャック・ハンマーの第二ラウンドのリングだった。 だが、それは早くも─────一方的な様相を呈していた。 静雄が振るう竹を、辛うじてジャックが回避する。 その隙を突いて接近した静雄が、竹を踏み割りつつ拳を叩き込もうとし。 紙一重でそれを受け流し、しかし次の一撃にその身を引かざるを得なくなる。 平和島静雄の優勢は、誰が見ても明らかだった。 ある意味では、当然。 ジャックも静雄も、先のコンディションから大きな変化を経てはいない。 寧ろ、ジャックは山を越える走りを見せた事で若干の疲労があると言ってもいい状態。 そんな状態での再戦が、先の結果と何ら変わるはずが無かった。 そして、何時しかジャックは追い込まれていた。 崖っぷち。 それに気が付いたのと時を同じくして、静雄の拳が彼へと迫っていた。 一瞬、気付くのが遅れ。 回避が、間に合わず。 反射的に両腕をクロスさせるが、それで守れるような拳ではないのはジャックにも分かっていた。 落ちる。 その瞬間、ジャックはそう思った。 そこに余計な思考は無く、ただ純粋に生物としての直感がそう彼の全身へと伝えていた。 極限状態。 全身の機能が、そう悟った。 無論、そんなことで何かの異能が彼に宿る訳ではない。 あくまでジャックの力はその肉体に起因するものであり、それに魔術や異形といったモノは何ら関係していない。 けれど。 そんなものに頼らなければ強くなれないのか。 そんなものでしか、強さを得る事は出来ないのか。 否。 人間の身体の限界は、更なるその先の力をまだ引き出して余りある。 両腕をクロスさせた、渾身のガード。 ジャックのそれは、平和島静雄の拳を「受け止めていた」。 「お……?」 静雄の動きが、一瞬だけ停止する。 先程までなら、今の拳はこの男をガードごと吹き飛ばしていた筈だ。 しかし、そうはならず、男は崖下には落ちずに留まっている。 ─────何だ? 余計な思考が、ノイズとして静雄の頭を満たす怒りを過ぎった。 その一瞬を突いて、ジャックが反撃に出る。 至近距離からの拳を左腕で受け止め、そのまま伸びた腕を掴もうとするが―――――その行動が、一瞬遅れた。 静雄の伸ばした左手は空を切り、一方のジャックは再び拳を放たんとする。 その時には、二人共理解が追いつきかけていた。 ─────力が、上がっている。 二人の拳が再び、正面からぶつかり合い。 そして、そのまま『静止した』。 これが先程までなら、ジャックの右手は弾き飛ばされ、静雄による更なる一撃に防戦一方になっていただろう。 なのに、そうはならなかった─────ジャック・ハンマーの強さが、僅かながら平和島静雄へと通じていた。 平和島静雄という人間の、強さの秘密。 それは偏に、彼が生来「常に火事場の馬鹿力を発揮出来た」というスキルの恩恵に他ならない。 火事場の馬鹿力とは、人間工学的にも証明されている歴とした人間の身体のシステムの一つだ。 人間が異常や危機を感知した時、脳がそのストッパーを解除し、危機から逃れる為に全力を尽くす事を求める。 これを、静雄は「怒り」というスイッチのみで発動させる事が出来た。 だからこそ、どんなに鍛えた格闘家であろうとも。 平常時での単純な力比べをした時、きっと彼の前に立つ者はいないだろう。 だが、それは裏を返せば。 平常時の彼と同等か、或いはそれ以上の力を持つ存在が、「火事場の馬鹿力」を発揮したならば。 理論上、彼を上回る事は可能である、ということだ。 勿論これは、書いてある程に容易い事ではない。 火事場の馬鹿力を発揮する身体に耐え切る為に、平和島静雄の肉体はかの闇医者に「人間一代の中での進化」とまで言わしめる程の成長を遂げている。 既に人間を殆ど超越している彼の肉体と「同等の力の発揮」するなど、それこそ人間の限界そのものを超越している必要があるだろう。 そして、ジャック・ハンマーは。 その、人間の限界を超越している類の人間だった。 数多のドーピングや手術によって生まれたその肉体を、一日30時間という矛盾を乗り越え明日をも知らぬトレーニングで育て上げた彼が、生命繊維で編まれた極制服により更なる強化を施されている今。 「怒っていない平和島静雄」と、素の力が並んでいてもおかしくはない。 そして、先の危機的状況に、彼の「火事場の馬鹿力」が発動したのであれば─────静雄に並ぶ力を発揮しても、或いはおかしくないのではないか。 ─────いや、それでも、まだ。 「だったら…………なんだってんだあああぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」 今の平和島静雄には、届かない。 越谷小鞠の死、キャスターの放送、そして名も知らぬ少女の死体と、同じ少女を人質にする卑怯な少女。 それら全ての怒りが内包された今の平和島静雄は─────計り知れない程の馬鹿力を引き出している。 ジャックの顔面に、渾身の右アッパーが突き刺さる。 筋肉の鎧を突き抜ける、全てを破壊するような衝撃。 もろにそれを喰らった肉体が、上空数メートルまで吹き飛ばされる。 後方に大きく吹っ飛び、しかしそれでも立っているジャックへと。 池袋に神社が存在する鬼子母神のような表情を浮かべながら、静雄はゆっくりと歩みを進める。 ─────まだ、足りないか。 そこで、ふと冷静になったジャック・ハンマーは悟った。 冷静になった事で、今の爆発的な力の奔流が無くなった事。 同時に、纏う服の力が失われた事。 それらが無ければ、目の前の存在に立ち向かうのは不可能だ、という判断が下る。 ─────口惜しいが、戦うべきは決して今ではない。 不意に、ジャックから静雄へと何かが投げつけられる。 それをいとも容易く払いのけ─────砕けた瓶から飛び出してきた気色の悪い蟲に、静雄は僅かに眉を顰める。 けれど、それも一瞬。 迫り来る蟲も簡単に叩き落とし、こんなものを投げつけやがってよし殺す、と静雄が前を見ると。 ジャックは既に、彼に背を向けて走り始めていた。 「何………逃げてんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 勿論、それを見逃す静雄ではない。 弾丸のように地を蹴った彼の身体が、凄まじい速度でジャックの背中へと迫る。 逃走するジャック。 追い掛ける静雄。 森を駆け抜ける二人の鬼ごっこは、暫く続き。 やがてその進行方向上に、ふと二人分の人影が現れる。 遠目にも分かる、黒いコートに身を包んだ青年の姿。 そして、良く見えないが、恐らくは成人女性のような姿。 二人の影を見て、ジャックは思考する。 使えるな、と。 あの程度の女ならば、先の自分にも簡単に投げつける事が出来る。 人間という弾が突然飛来して、驚かない人間はそうはいまい。 いや、仮に平和島静雄が驚かないような特異な側の人間だったとしても、それで不意を突ければそれでいいのだ。 更に男の方も蹴り飛ばしてやれば、あの男と言えどもたたらを踏む筈。 その隙に、傍にあるそこそこ流れが速い渓流を一気に下ってしまえばいい。 そこまで思考したところで─────ジャックは、自分の頭が何かに掴まれるのを感じた。 ─────ジャック・ハンマーがそれを知らないのは、当然の事だっただろう。 彼は知らない。 平和島静雄が、どんな生活を送り、どんな人間関係を築いてきたのかを。 彼は知らない。 平和島静雄が、最も嫌っている人間の名を。 驚愕する。 先程まで、恐らくは十メートル程の距離があった筈なのに、と。 そして、次の瞬間─────身体を包む浮遊感に、ジャックは静雄の意図を理解する。 まさに今、自分もそれをしようとしていたのだから。 成る程確かに、自販機を軽々と放り投げる彼の膂力ならばそれも可能だろう。 だが、とジャックは考え直す。 そうまでして、平和島静雄は何がしたいのか。 或いは、あの二人のどちらかが、彼にとって因縁のある相手なのか。 だとしたら、それは果たしてどんな人間なのか───── 彼の考察は、正解だった。 キャスターへの怒りも、衛宮切嗣への怒りも、東郷美森への怒りも、今目の前にいたジャックへの怒りさえも。 平和島静雄から、その人間への怒りには到底敵いやしない。 いや、違う。 それまでの怒りが、その姿を見た瞬間に全てその相手への怒りへと変換されたのだ。 ジャック・ハンマーが知り得なかった、平和島静雄の因縁の相手。 その名は───── 「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいざぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」 最早天をも割らんと響く咆哮と共に、ジャックの身体が宙に浮く。 100キロを超えるジャックの肉体が軽々と振りかぶられ、そのまま野球のボールのように投げられる。 筋骨隆々の大男が一見普通の細身の男に投げられるその姿は、平和島静雄を知らぬ者には到底信じられぬ光景。 そして、それはあまりに正確に過ぎるコントロールで、黒コートの男へと迫る。 退避する少女も、ジャック自身も、男がぶつかって悲惨な事になる光景を幻視した。 けれど。 男は、たった今『イザヤ』と呼ばれた青年は。 それを、あろうことか、数歩歩いただけで回避した。 何にも命中する事なく空中を飛行するジャックは、図らずも当初の予定通り渓流へと落下し。 そして、図らずも彼の思い通り、静雄がそれを追う事も無かった。 尤も、その理由までは彼の思い通りにはならなかったのだが。 落とされるか自分から入るか、という差異はあれど、結果的に渓流に入ったジャックはそのまま川の流れに従って逃走を果たした。 渓流の先、水が地下へと流れる最下流で、彼は起き上がる。 案の定とでも言うべきか、近くには平和島静雄の姿も先程の男女の姿も見えない。 ふむ、と一息吐き、現在地を確認する。 G4、その南東の端に自分はいるらしい。 ここから西に行けば、平和島静雄との再会は難しくない。 だが、今は休息だ。 服の力や、先の溢れんばかりの力。 その代償か、残る体力は少なく、両腕も決して良い状態とは言えない。 だが、あれらを行使出来なければ、あの男には─────ひいては、その先にいる範馬勇次郎に勝てはしない。 自分の本領を完全に出し切り、その先の勝利を掴む為にも。 ジャック・ハンマーは、束の間の休息を得る。 【G-4/エリア南東端/一日目・昼】 【ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙】 [状態]:疲労(大)、頭部にダメージ(小)、腹部にダメージ(中)、服が濡れている [服装]:ラフ [装備]:喧嘩部特化型二つ星極制服 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10) 黒カード:なし [思考・行動] 基本方針:優勝し、勇次郎を蘇生させて闘う。 0:一時休息。 1:人が集まりそうな施設に出向き、出会った人間を殺害し、カードを奪う。 2:平和島静雄との再戦は最後。 [備考] ※参戦時期は北極熊を倒して最大トーナメントに向かった直後。 ※喧嘩部特化型二つ星極制服は制限により燃費が悪化しています。 戦闘になった場合補給無しだと数分が限度だと思われます。 「全く、こんな状況で数少ない知り合いに人間を投げつけるなんて、本当に俺の事が嫌いで嫌いで堪らないんだねえ─────シズちゃん」 「ったりめぇだろうが…………いぃぃぃぃざぁぁぁぁやぁぁぁぁ……………」 飄々と語る臨也と、烈火のように猛り狂う静雄。 対象的な二人の間に流れる空気は、一見して剣呑だと読み取れるものだった。 そんな空気に相応しく、相当の威圧感を佇まいから生み出している静雄。 そして、そんな彼の威圧感など何処吹く風と言うようにいつも通りに振る舞う臨也。 両者の緊張が、あっという間にピークへと達しそうになり。 「何をしている、折原に平和島!」 と。 その一触即発の空気に、巨大な声が割り込んだ。 聞き覚えの無い声ならば無視もしただろうが、生憎それは二人にとって初めて聞く声では無かった。 「おや、蟇郡君か」 「テメェ、蟇郡……」 温泉へと乗り込む仲間を探す、蟇郡苛。 その目的を果たす為にひとまず静雄とも合流を図ろうとした彼だが、それでもこの空気には驚く他無い。 彼が出会った、殺し合いに乗った参加者はまだあの筋骨隆々の大男だけだが。 たとえこの後にどんな敵が現れようと、ここまで剣呑な雰囲気になるのは無いだろうと断言出来るほどに、その空気は凄まじいものだった。 臨也の静雄に対する物言いや、静雄から臨也への暴言の数々から察してはいたが。 それでも、ここで初めて蟇郡苛は理解する。 折原臨也と平和島静雄。 池袋の町で何度もぶつかり合った二人は、ここに再会し。 そして、こんな殺し合いの中でさえ。 彼等は決して相容れないし、互いに互いを否定して『殺し合う』という事を。 「が─────今はその時ではない!」 けれど。 如何なる因縁があろうと、今目指すべきは主催の打倒。 たとえどのような因縁があろうと、皆が生き残り元の世界へと帰るならば、潰しあっている場合ではない。 この二人が、「相手は絶対に殺してから帰る」と誓っているような人間だとは知らぬままに、彼は一人決意を固める。 「貴様等にどのような因縁があるかは知らん!だが、この状況で争うのは愚策!因縁の清算は後回しにして、先ずはこの場にいる悪意を持つ連中を断たねばならん!」 「悪意を持つってんならよぉ……まずはこのノミ蟲野郎をぶっ飛ばすべきだろうがよぉ………!?」 無論、冷静な臨也はまだしも、静雄が引き下がる筈は無い。 く、と蟇郡は歯噛みする。 死者を利用するようなこの言葉は使いたく無かったが、仕方がない。 そうでもしなければ、この男は再び助けられる物を見捨てる事になる。 そんな事は、決してさせる訳にはいかないのだから。 「平和島、先の少女はまだ生きている。それを下らぬ因縁などで放り投げ─────」 蟇郡苛がそれを知り得なかったのは、やはり仕方が無いことだった。 彼は放送後、ラビットハウスに戻る事無く放送局へと向かったのだから。 そんな彼に、折原臨也がどうしてここに居るのかという、その理由を推察しろと言うのは、酷だっただろう。 だから、蟇郡は叫んでしまった。 「越谷小鞠の惨劇を、繰り返すというのか!?」 折原臨也は思考する。 (まあ、正直今シズちゃんに構ってる暇はないよねぇ) 蟇郡も「彼女」もいる現状、ここで静雄に対して何かをするには蟇郡の目が問題だ。 本来ならばそれでも何らかの策を講じただろうが、こと今に限ってはそれよりも優先したい事がある。 臨也は心の中でほくそ笑む。 今、自分の目の前にある状況を。 とてもとても楽しい、最高の「人間観察」の機会を。 それをモノにする為に、臨也はその口を開いた。 「蟇郡君の言う通りだよ。ここで俺を殺せば、君は多分誰からの信用も無くすよ? それに、今は俺より先に─────君に話がある子がいるからね」 それは静雄にとって、いつもの煙に巻く発言の一環だと思っていた。 その少女というのも、大方池袋で侍らせているような狂信者の類いだろうと。 それには騙されないとでも言うように、一歩一歩臨也へと歩を進め。 「越谷小鞠ちゃんの後輩、一条蛍ちゃんがね」 だが。 その一言で、彼の思考が急速に冷えていく。 コシガヤコマリ。 ソノコウハイ。 イチジョウホタル。 それらのワードが、平和島静雄の中で繋がると同時に。 「平和島、静雄さんですか」 彼へと、声がかけられた。 一条蛍は怖かった。 今、目の前で臨也に向かって人間を投げつけたこの男が。 彼の前評判通りの危険な男だと、心からそう思った。 「答えて、答えて下さい」 けれど、蟇郡の言葉が本当なら、彼は本当に知っている事になる。 越谷小鞠の死の真相を、彼は知っているという事になる。 「小鞠先輩を、殺したのは」 ならば、聞かなければならない。 「あなたなんですか?」 越谷小鞠の後輩である、『被害者遺族』一条蛍として。 「─────小鞠先輩は、誰が殺したんですか!」 『容疑者』平和島静雄へと。 【G-4/南部/一日目・昼】 【蟇郡苛@キルラキル】 [状態]:健康、顔に傷(処置済み、軽度)、左顔面に少しの腫れ [服装]:三ツ星極制服 縛の装・我心開放 [装備]:コシュタ・バワー@デュラララ!!(蟇郡苛の車の形)、パニッシャー@魔法少女リリカルなのはvivid [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:三ツ星極制服 縛の装・我心開放@キルラキル、桐間紗路の白カード [思考・行動] 基本方針:主催打倒。 0:な、一条………!? 1:この場にいる仲間と共に、付近の敵を打倒する。 2:放送局に行き、外道を討ち、満艦飾を弔う。 3:平和島静雄と折原臨也の激突を阻止。 4:キャスター討伐後、衛宮切嗣から話を聞く 5:皐月様、纏との合流を目指す。優先順位は皐月様>纏。 6:針目縫には最大限警戒。 7:分校にあった死体と桐間の死体はきちんと埋葬したい。 [備考] ※参戦時期は23話終了後からです ※主催者(繭)は異世界を移動する力があると考えています。 ※折原臨也、風見雄二、天々座理世から知り合いについて聞きました。 ※桐間紗路の死体はコシュタ・バワーに置かれています。 【平和島静雄@デュラララ!!】 [状態]:折原臨也、テレビの男(キャスター)、少女達(東郷美森、浦添伊緒奈)への強い怒り 衛宮切嗣への不信感 若干の疲労 [服装]:バーテン服、グラサン [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(10/10)、青カード(10/10) 黒カード:ボゼの仮面@咲Saki 全国編 不明支給品0~1(本人確認済み) [思考・行動] 基本方針:あの女(繭)を殺す 0:コマリの………? 1:テレビの男(キャスター)とあの女ども(東郷、ウリス)をブチのめす。そして臨也を殺す 2:蟇郡と放送局を目指す 3:犯人と確認できたら衛宮も殺す 【折原臨也@デュラララ!!】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:ナイフ(コートの隠しポケットの中) スマートフォン@現実 [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(9/10) 黒カード:不明支給品0~1 [思考・行動] 基本方針:生存優先。人間観察。 0:さて、面白くなってきたねえ。 1:ひとまず目の前の状況をまとめる。シズちゃんは……どうしよう。 2:2人で旭丘分校へ向かう。……予定だったけど、どうなるかな? 3:衛宮切嗣と協力し、シズちゃんを殺す。 4:空条承太郎君に衛宮切嗣さん、面白い『人間』たちだなあ。 5:DIOは潰さないとね。人間はみんな、俺のものなんだから。 [備考] ※空条承太郎、一条蛍、風見雄二、天々座理世、香風智乃と情報交換しました。 ※主催者(繭)は異世界および時間を移動する力があると考えています。 ※スマートフォン内の『遺書』は今後編集される可能性があります。 ※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という推理(大嘘)をしました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。 【一条蛍@のんのんびより】 [状態]:健康 [服装]:普段通り [装備]:なし [道具]:腕輪と白カード、赤カード(9/10)、青カード(10/10) 黒カード:フルール・ド・ラパンの制服@ご注文はうさぎですか?、カッターナイフ@グリザイアの果実シリーズ、ジャスタウェイ×2@銀魂、越谷小鞠の白カード [思考・行動] 基本方針:れんちゃんと合流したいです。 0:答えて………!! 1:旭丘分校を目指す。 2:折原さんを、信じてもいいのかも……。 3:午後6時までにラビットハウスに戻る。 [備考] ※空条承太郎、香風智乃、折原臨也、風見雄二、天々座理世、衛宮切嗣と情報交換しました。 ※『越谷小毬殺人事件の真犯人はDIOである』という臨也の推理(大嘘)を聞きました。必要に応じて他の参加者にも伝える可能性があります。 ※参加者の時間軸がずれている可能性を認識しました。 時系列順で読む Back 知らぬが仏 Next 弓兵なき戦場 投下順で読む Back お話をするお話 Next 色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(前編) 125 スコープ越しの怪物 ジャック・ハンマー 137 猿の夢 125 スコープ越しの怪物 東郷美森 140 あなたの死を望みます。 125 スコープ越しの怪物 浦添伊緒奈 140 あなたの死を望みます。 118 震えている胸で 小湊るう子 140 あなたの死を望みます。 118 震えている胸で 桐間紗路 GAME OVER 120 変態ではない!変身だ! 蟇郡苛 143 キルラララ!! わるいひとにであった 120 変態ではない!変身だ! 平和島静雄 143 キルラララ!! わるいひとにであった 111 和を以て尊しと為す(上) 折原臨也 143 キルラララ!! わるいひとにであった 111 和を以て尊しと為す(上) 一条蛍 143 キルラララ!! わるいひとにであった
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101~150話までの本編SS 話数 タイトル 作者 時刻 位置 登場人物 101 この花弁は悪意 ◆DGGi/wycYo 朝 G-4/アナティ城 東郷美森、浦添伊緒奈 102 まだ見えぬ未来(よる)の先にーーInter sectionーー ◆KYq8z3jrYA 早朝 F-3/山道、E-3/道路 セルティ・ストゥルルソン、ホル・ホース、範馬刃牙 103 狂気の行方 ◆zUZG30lVjY 朝 C-5/電車内・海上、C-6/駅周辺 保登心愛、雨生龍之介、リタ、入巣蒔菜、犬吠埼風 104 MAN WITH MONSTERS ◆NiwQmtZOLQ 朝 G-3/宿泊施設付近 セルティ・ストゥルルソン、ホル・ホース、アザゼル 105 溢れ出る瑕穢 ◆DGGi/wycYo 朝 B-2/駅付近、B-3/地下通路 本部以蔵、ラヴァレイ 106 孤軍 ◆3LWjgcR03U 朝 E-4/道路 範馬刃牙 107 まわり道をあと何回過ぎたら ◆X8NDX.mgrA 朝 C-2/市街地 宇治松千夜、高坂穂乃果、蒼井晶、カイザル・リドファルド 108 Sacrament ◆zUZG30lVjY 朝 E-6/北岸 言峰綺礼、ジャン=ピエール・ポルナレフ、東條希 109 二度殺された少女たち ◆DGGi/wycYo 朝 B-2/駅構内、B-2/駅付近 雨生龍之介、リタ、蒼井晶、宇治松千夜 110 前哨戦 ◆45MxoM2216 朝 E-1/放送局近辺、E-1/放送局 花京院典明、神楽、ファバロ・レオーネ、ヴァニラ・アイス、キャスター 111 和を以て尊しと為す(上)和を以て尊しと為す(下) ◆3LWjgcR03U 午前 G-7/ラビットハウス、G-6/駅付近、H-5/東端の海岸 空条承太郎、一条蛍、香風智乃、風見雄二、天々座理世、折原臨也、衛宮切嗣、針目縫 112 覚醒アンチヒロイズム ◆zUZG30lVjY 午前 D-4/沿岸、???/波打ち際 範馬刃牙、蒼井晶、宇治松千夜 113 わるいひとなどひとりもいないすばらしきこのせかいで ◆eNKD8JkIOw 朝 F-3/エリア北部 三好夏凜、アインハルト・ストラトス、桐間紗路、小湊るう子 114 La vie est drôle(前編)La vie est drôle(後編) ◆X8NDX.mgrA 朝 C-5/海岸近く、C-6/市街地 神威、纏流子、セイバー 115 高坂穂乃果の罪と罰 ◆3LWjgcR03U 午前 C-4/北西の端、D-2/墓地付近の道路 高坂穂乃果、カイザル・リドファルド、本部以蔵 116 Mission Impossible ◆KYq8z3jrYA 午前 G-6/映画館、G-6/市街地 ジャック・ハンマー、紅林遊月 117 哭いた赤鬼 ◆G33mcga6tM 午前 D-3/基地 本部以蔵、宇治松千夜、範馬刃牙 118 震えている胸で ◆DGGi/wycYo 朝 E-3/エリア南部、F-3/エリア北部 三好夏凜、アインハルト・ストラトス、桐間紗路、小湊るう子 119 進化する狂信 ◆gsq46R5/OE 朝 E-1/放送局 花京院典明、神楽、ファバロ・レオーネ、ヴァニラ・アイス、キャスター 120 変態ではない!変身だ! ◆45MxoM2216 朝 E-4/T字路 蟇郡苛、平和島静雄 121 Trouble Busters ◆KKELIaaFJU 午前 C-5/海岸沿い 坂田銀時、絢瀬絵里、結城友奈 122 勝てるわけねえタイマン上等 ◆eNKD8JkIOw 午前 C-2 纏流子、高坂穂乃果 123 Spread your wings(前編)Spread your wings(後編) ◆gsq46R5/OE 午前 F-2 セルティ・ストゥルルソン、ホル・ホース、アザゼル、三好夏凜、アインハルト・ストラトス 124 黄金の風 ◆45MxoM2216 午前 C-6/駅周辺 犬吠埼風 125 スコープ越しの怪物 ◆gsq46R5/OE 午前 G-5、G-6/線路周辺 東郷美森、浦添伊緒奈、ジャック・ハンマー 126 三人揃えば雌雄決裂六人揃えば群雄割拠 ◆eNKD8JkIOw 午前 G-6/駅付近 針目縫、空条承太郎、衛宮切嗣、言峰綺礼、ジャン=ピエール・ポルナレフ、東條希 127 そして騎士は征く ◆gsq46R5/OE 午前 C-6/市街地、D-6 セイバー、鬼龍院皐月、桂小太郎、コロナ・ティミル、宮内れんげ 128 悪魔と吸血鬼! 恐るべき変身! ◆45MxoM2216 午前 B-4/地下通路 DIO、ラヴァレイ 129 誰かの為の物語 ◆gsq46R5/OE 昼 D-3/基地、D-3/海周辺 宇治松千夜、本部以蔵 130 変わる未来 ◆gsq46R5/OE 午前 C-2 リタ 131 お話をするお話 ◆DGGi/wycYo 午前 G-7/ラビットハウス 香風智乃、風見雄二、天々座理世、紅林遊月 132 One after another endlessly ◆NiwQmtZOLQ 午前、昼 G-4/道路、G-4/エリア南東端、G-4/南部 桐間紗路、小湊るう子、蟇郡苛、平和島静雄、折原臨也、一条蛍、東郷美森、浦添伊緒奈、ジャック・ハンマー 133 色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(前編)色即絶空空即絶色-Dead end Strayed-(後編) ◆gsq46R5/OE 午前 D-2、E-1/放送局 花京院典明、神楽、ファバロ・レオーネ、ヴァニラ・アイス、キャスター、纏流子 134 無辜の怪物 ◆gsq46R5/OE 昼 B-7/ホテル DIO 135 ルールなんてあってないようなもの ◆X8NDX.mgrA 午前 C-2/地下通路 ラヴァレイ 136 騎士の誓いは果たせない ◆G33mcga6tM 昼 D-6 セイバー、犬吠埼風 137 猿の夢 ◆gsq46R5/OE 昼 G-4/エリア南東端 ジャック・ハンマー 138 心の痛みを判らない人 ◆45MxoM2216 昼 F-2 セルティ・ストゥルルソン、ホル・ホース、アザゼル、三好夏凜、アインハルト・ストラトス 139 弓兵なき戦場 ◆3LWjgcR03U 午前、昼 D-4/橋上、F-5/東部、G-6/駅付近、G-7/西部 針目縫、空条承太郎、衛宮切嗣、言峰綺礼、ジャン=ピエール・ポルナレフ、東條希 140 あなたの死を望みます。 ◆DGGi/wycYo 昼 G-3/宿泊施設付近 浦添伊緒奈、東郷美森、小湊るう子 141 知らぬが仏 ◆NiwQmtZOLQ 午前 C-3/電車内、C-6 坂田銀時、絢瀬絵里、結城友奈 142 殺し合いに春の雨 ◆3LWjgcR03U 昼 A-4とB-4の境界付近 神威 143 キルラララ!! わるいひとにであったキルラララ!! あの子を愛したケダモノ二匹折原臨也と、天国を ◆eNKD8JkIOw 昼 E-4、G-4 蟇郡苛、平和島静雄、折原臨也、一条蛍、纏流子 144 反吐がでるほど青い空 ◆wIUGXCKSj6 昼 G-4 纏流子、蟇郡苛 145 Not yet(前編)Not yet(後編) ◆X8NDX.mgrA 昼 G-6/市街地、G-7/ラビットハウス 香風智乃、風見雄二、天々座理世、紅林遊月、空条承太郎、言峰綺礼、針目縫 146 退行/前進 ◆3LWjgcR03U 昼 E-1/地下通路(放送局真下)、E-2/地下通路 ヴァニラ・アイス、ラヴァレイ 147 第二回放送 -カプリスの繭- ◆DGGi/wycYo ??? ??? 繭、ヒース・オスロ、テュポーン 148 思い出以上になりたくて ◆KKELIaaFJU 日中 D-4/研究所内 東條希 149 killy killy MONSTER ◆gsq46R5/OE 日中 F-5/旭丘分校 衛宮切嗣、針目縫、纏流子 150 記憶の中の間違った景色 ◆DGGi/wycYo 日中 G-7/ラビットハウス 香風智乃、天々座理世、紅林遊月、風見雄二、空条承太郎、言峰綺礼 Back 【051~100】 Next 【151~200】