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前ページ毒の爪の使い魔 ジャンガはゆっくりと彼女を振り返る。 「ンだ? お前…あのガキを庇うのか?」 「はい」 ジャンガは盛大にため息を吐く。 「たかだかガキの癇癪で、この熱湯に浸けられて殺されかけたくせに…それでも庇うとはよ…」 「確かにベアトリスさんのした事は間違っているかもしれません。 でも、わたしもまた自分の事を理解して欲しいとわがままを言っていただけなんです。 ハルケギニアの人がどんなにエルフを怖がっているかとか…他の人の気持ちをわたしは考えようとしていませんでした。 だから、悪いのでしたら…わたしもです。ベアトリスさんだけを責めるのは止めてください」 そう言って真正面からティファニアはジャンガを見つめた。 ジャンガも静かにティファニアを見据える。 互いに一歩も譲らない状況で暫しの時が流れた…。 ハァ~、とジャンガがため息を漏らす。 「ったく…、あいつみたいなタイプがどうしてこうもゴロゴロしているんだろうな…?」 呆れたような表情でジャンガは呟く。 「ジャンガさん?」 「負けたゼ…お前にはよ」 ジャンガは大釜から足を離す。 ティファニアの顔に笑みが浮かぶ。 ――瞬間、ジャンガは力任せに大釜を蹴り飛ばした。 ――グラッと大釜が傾いた。 ――ティファニアが目を見開く。 ――生徒達が驚愕の声を上げる。 ――大釜の傾きが激しくなり、中から熱湯が顔を出す。 ――ベアトリスは恐怖のあまり目を閉じた。 ――駆け出すティファニア。 ――熱湯がベアトリスに降り注ぐ直前、ティファニアがその身で彼女を覆い隠した。 ――熱湯が降り注いだ直後、凄まじい氷嵐が熱湯ごと二人を覆った。 膨大な水蒸気が立ち込め、圧倒的な熱量が急速に冷やされた事を物語る。 倒れた大釜の上に乗ったジャンガはそれを静かに見下ろす。 「キッ、タイミング良いじゃネェか?」 「あなたの行動は解っているから」 大釜の横にはタバサが立っていた。無論、彼女が氷嵐を唱えたのだ。 タバサは杖を振り、風を吹かせる。水蒸気が払われ、ベアトリスに覆い被さったティファニアの姿が現れた。 急いで彼女達に近づくタバサはモンモランシーを呼んだ。 言われるまでも無かったらしく、モンモランシーは治癒を唱えた。 氷嵐で急速に冷やされたとは言え、熱湯を被ったのである。 その際に負った火傷は可也酷く、ティファニアは重傷だったのだ。 そして、ベアトリスの方は軽傷だった。直ぐに冷やされた事もあるが、 ゆったりとしたローブを羽織ったティファニアが、その身で庇ってくれた事が大きかった。 ベアトリスは未だ生きているのが信じられないのか、呆然と倒れたティファニアを見つめている。 やがて、体力が回復したからか、ティファニアは目を覚ました。 「わたし…」 「良かった…目を覚ましたのね?」 モンモランシーが安堵の息を漏らすと、周囲の生徒達もそれに習った。 ティファニアは何とか身体を起こすとベアトリスを見た。 ベアトリスは一瞬身体を強張らせる。 自分がした事は許されない事であるのは既に承知しているが、やはりどんな罰を受けるのか怖かったのだ。 と、ティファニアが手をベアトリスへと伸ばす。 打たれるのではと思い、ベアトリスはいつの間にか動けるようになっていた身体を縮込ませる。 だが、ティファニアの手はベアトリスの目の前で掌を返した。 それは”握手”を求めて差し出されたと言う意味。 ベアトリスはティファニアの顔を見る。 彼女はニッコリと笑い、こう言った。 「お友達になりましょう」 その言葉にベアトリスはついに堪え切れなくなったようだった。 決壊した堤防の様に押し寄せる感情の波が後から後から溢れ出していく。 全く意図せず、自然に彼女は泣いていた。 怖い目に遭った幼児の様に、彼女は泣いた。 そして、ティファニアはそんな彼女を母のように宥めた。 気に入らないから自分を苛めていただけかと思った少女は、実は孤独に苦しんでいた。 自分は周囲から構われるのを疎ましく感じてしまったりしていたが、全く構われなくて寂しい思いをしている人も居るのだ。 その事を考えなかった自分は何て愚かなのだろう? とティファニアは自分を恥じた。 確かに彼女のした事は正しくは無い。だが、だからと言って彼女だけが悪いと誰が言える? 彼女の事を真に理解しようとしなかった者達にも十分に責は在るのだ。 ティファニアはこれからは周囲の人間の事もちゃんと理解しようと心に決めた。 目の前の泣きじゃくる、この学院で初めてちゃんと語り合った”お友達”を宥めながら…。 「……」 ジャンガは無表情のままそんな二人のやり取りを見ていた。 そこにルイズとタバサがやって来た。 「ねぇ…、あなたタバサが何とかしなかったらどうするつもりだったの?」 「ン? どうするって…何が?」 ルイズはため息を一つ吐く。 「ティファニアとあの一年生の子よ。一歩間違えたら死んでいたわよ?」 「死んでなかったんだからいいだろうが?」 何とも無責任な発言である。 ルイズは慣れているとは言え、絶句するほか無かった。 「あ、あんたねぇ…」 「フンッ…」 背を向け、ジャンガは立ち去ろうとする。 その背に向かってタバサは呟いた。 「もっと素直になるべき。それと、やり方が乱暴すぎる」 「…テメェが大手振って本名を名乗るようになったら、考えてやるゼ? あと、これ位やらなきゃ生意気言い出す奴がまた出るんだよ」 嫌みったらしくそう言い残し、ジャンガは今度こそ歩き去った。 タバサはポツリと呟いた。 「本当に素直じゃない」 ――ジャンガが去った後、負傷した空中装甲騎士の面々とティファニアは水の塔に在る医務室へと運ばれた。 空中装甲騎士の面々はともかく、ティファニアの方には見舞いの生徒達が殺到した。 恐ろしいジャンガを目の前にしてもまるで気後れしない彼女の強さ、 そしてベアトリスを許した彼女の温かさに誰もが心引かれたのである。 だが、中でももっとも熱心に看護をしていたのは他でもないベアトリスだった。 あれほどまでに侮辱し、命の危険にまで晒した自分を許してくれた彼女にベアトリスは本当の友達を感じ取ったのである。 それはもう、恋人同士と取られかねないほどのベッタリさである。 転じて取り巻きだった三人とも本当の友達として打ち解けたらしく、いつも仲良く四人で彼女の看護をしていた。 さて、そんな風に皆と打ち解けていったティファニアだったが…気がかりな事があった。 ――ジャンガはどうしているのだろうかと…。 ティファニアは彼の姿をまだ見ていないのだ。見舞いに来る様子も無く、聞いたとしても皆は食事の時以外見かけないと言う。 無論、ティファニアの一件でその恐ろしさを再認識させられた事もあったのだが…。 ジャンガに関わらない方がいいとも言われたが、彼女はそれでも会いたかった。 ある夜…、多少満足に動けるようになったティファニアはハープを手に取り、窓際に椅子を持っていって座った。 窓を開けると涼しい風が吹き込んでくる。身体のまだ残っている火傷に実に心地良かった。 ティファニアは椅子に腰掛けると、ハープを奏で始めた。 心地よい音色が夜風に吹かれ、学院中に響き渡っていく。 そのままティファニアはハープを奏で続ける。 ――誰かの気配を暗がりに感じた。 しかし、ティファニアはハープを奏でる手を止めない。 暫くの間ハープの演奏のみが夜の学院に響き続けた。 …ふと、気が付けば誰かの歌声が混じっている。 どうやらそれは子守唄のようだった。 ティファニアは演奏を続けながらその歌に耳を傾ける。 何とも心地良い、心安らぐ歌…。それは自分の奏でる音色と実に良く合った。 「…良い歌ですね」 そう語りかける。 暫く答えは無く歌だけが続いたが、やがてため息混じりに返答があった。 「まァな…」 「自分で作った歌ですか?」 「違う…、知っていた女が作った歌だ…」 「そうですか…」 ”知っている”ではなく”知っていた”と過去形だった所から、 歌を作った人が既に居ないのだろう事を彼女は察した。 「その方は大切な人でしたか…?」 「……ああ」 「そうですか…すみません」 謝罪の言葉が口を突いて出る。 チッ、と舌打が聞こえた。 「別にテメェが気にする事じゃネェだろうが…、余計な同情は要らねェ」 そこで会話は途切れ、暫くの間演奏と歌が続いた。 「…この間はありがとう」 「何がだ?」 「助けてくれて…。 笑い声が聞こえた。何処か自嘲的な感じがするそれは暫く続いた。 「…勘違いするなよ。俺は別に気に食わなかったからあのガキを脅しただけだ。 お前を助ける為じゃねェよ」 「どうしてそうやって悪ぶるんです?」 「あンッ?」 「…あの時だって、あなたの目には哀れみがありました。 他人の事を理解できなかったわたしが唯一人、理解できたのがあなただけ。 見間違うはずがありません」 「バ~カ、そんな不確かなモンで他人を図るんじゃネェよ。 そんなんじゃこの先、どれだけの奴に騙されるか解ったモンじゃねェゼ…。 少しは気をつけたらどうだよ?」 クスリ、とティファニアは笑い声を漏らす。 「何が可笑しい?」 「…やっぱり嘘が下手ですね。そんな風に注意してくれるのが優しい証拠です」 「……ウルセェ」 少し声を低くしたようだが、彼女には微塵も恐怖を与えない。 「やり方は少し乱暴ですけど、やっぱりあなたは優しい人です。 だって、あなたのお陰でこうして皆と分かり合えたんですから」 「……」 相手は答えなかったが、歌が響いて来た事が何よりの答えだった。 ティファニアも演奏に集中する。 何時の間にか部屋から気配は無くなっていたが、その歌声は何処からとも無く聞こえ続けていた。 「ありがとう…」 ティファニアはもう一度感謝の言葉を呟いた。 前ページ毒の爪の使い魔
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2-27【偵察タイガー:猛虎の斥候】(C) 戦力/体力…[6/5] キーワード能力…"速攻/神速" 技能…<遠吠え>:このカードの配置と技能値を自軍の「タイガー」と名の付いた後衛と入れ替える。 フレーバーテキスト:「情報収集はどんな部隊でも必須の行動である。それは、彼らとて例外ではなかった。」 解説: タイガー限定のチェンジャー。 ただし、本体のスペックが著しく低い為、「タイガー」を利用するカードが出ない限り、 2-04【南条御影:傍若無人の仙女】等を使ったほうがよい。
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NEOGEOオンラインコレクション 龍虎の拳~天・地・人~ 【Art of Fighting Anthology】 メーカー SNKプレイモア 発売日 2006年5月11日 対応機種 PS2 2Dの対戦格闘ゲーム3作品を収録したオムニバスソフト 龍虎の拳 龍虎の拳2 ART OF FIGHTING 龍虎の拳 外伝 収録 NEOGEOオンラインコレクション コンプリートBOX 上巻 ART OF FIGHTING 龍虎の拳 外伝 NEOGEOオンラインコレクション コンプリートBOX 上巻 な行 オムニバス プレイステーション2 龍虎の拳 龍虎の拳2 PR ネオジオ オンライン コレクション ザ ベスト 龍虎の拳~天・地・人~
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武器-------------------------------------------------------------------------------- 剣 薙刀 弓 槍 拳爪 槌 大筒 扇子 「★」は、そのアイテムが大江山の鬼朱点討伐前にしか入手できないことを意味します。 ()で表記されている「価格」は買取り価格であり、そのアイテムが非売品であることを表しています。 非売品の入手については、「非売品入手一覧」をご覧下さい。 剣 武器名 読み仮名 攻撃力 備考・入手先 価格 初陣の剣 ウイジンノケン 17 剣士の初期装備 (3) 唐竹割り カラタケワリ 21 武器屋LV1 176 椿落とし ツバキオトシ 29 武器屋LV1 336 波切り丸 ナミキリマル 35 武器屋LV1 490 小鉄 コテツ 43 武器屋LV1 739 木の葉二ツ コノハフタツ 48 武器屋LV2 921 兜割り カブトワリ 56 武器屋LV2 1254 燕三条ノ刀 ツバメサンジョウノカタナ 60 武器屋LV2 1440 ナムチの剣 ナムチノケン 68 武器屋LV2 1849 斬馬刀 ザンバトウ 72 武器屋LV3 2073 益荒男刀 マスラオトウ 78 火、男剣士専用 (1216) みそぎの剣 ミソギノケン 86 武器屋LV3 2958 片葉の剣 カタハノツルギ 90 武器屋LV3 3240 名刀長船 メイトウオサフネ 94 武器屋LV4 3534 真砂の太刀 マサゴノタチ 102 土、女剣士専用 (2080) 天目一刀 テンモクイットウ 106 武器屋LV4 4494 邪馬ノ直刀 ヤマノチョクトウ 114 武器屋LV4 5198 ニニギの剣 ニニギノツルギ 121 男剣士専用、武器屋LV5 5856 豪剣五ツ釜 ゴウケンイツツガマ 129 武器屋LV5 6656 竜神刀 ★ リュウジントウ 130 水、福(1/16の確率で睡眠) (3380) 仁王太刀 ニオウダチ 133 男剣士専用、武器屋LV5 7075 夢幻斬鉄 ムゲンザンテツ 135 武器屋LV6 7290 ハエ斬り ハエギリ 140 武器屋LV6 7840 黒鞘巻ノ刀 クロサヤマキノカタナ 144 武器屋LV6 8294 カガイの剣 カガイノケン 152 福(敏速の上昇値+1~4)、女剣士専用 (4620) 肉切骨断丸 ニクキリホネタチマル 160 呪(防御-40/敏速+100) (5120) 鍔なしの剣 ツバナシノケン 168 呪(防御-60/敏速+120/技火水+30/技風土-15) (5644) 兵庫鎖ノ刀 ヒョウゴクサリノカタナ 175 武器屋LV7 12250 ハバキの剣 ハバキノケン 181 武器屋LV7 13104 秘剣ヒゲ切 ヒケンヒゲキリ 189 唯一品 (7144) 宝刀膝丸 ホウトウヒザマル 196 唯一品 (7683) 美剣白鳳 ミツルギハクホウ 204 風、女剣士専用、唯一品 (8323) 剛剣男山 ゴウケンオトコヤマ 212 火、男剣士専用、唯一品 (8988) 降魔の太刀 ゴウマノタチ 220 武器屋LV7 19360 秘剣月喰い ヒケンツキクイ 228 武器屋LV8 20793 三鈷の剣 サンコノツルギ 236 男剣士専用、武器屋LV8 22278 トツカの剣 トツカノツルギ 244 武器屋LV8 23814 宝刀クモ切 ボウトウクモキリ 252 唯一品 (12700) 美剣飛鳥 ミツルギアスカ 260 風、女剣士専用、唯一品 (13520) 群雲の剣 ムラクモノツルギ 268 水、唯一品 (14364) 魔剣村正 マケンムラマサ 276 呪(1/4の確率で混乱/敏速+150) (15235) 鬼切り丸 オニキリマル 286 唯一品 (16359) 薙刀 武器名 読み仮名 攻撃力 備考・入手先 価格 初陣の薙刀 ウイジンノナギナタ 13 薙刀士の初期装備 (4) 疾風の薙刀 ハヤテノナギナタ 15 武器屋LV1 90 鉄紺の薙刀 テツコンノナギナタ 20 武器屋LV1 160 瑠璃の薙刀 ルリノナギナタ 23 女薙刀士専用、武器屋LV2 211 千丈鋒 センジョウホコ 27 武器屋LV2 261 ブンブン刀 ブンブントウ 33 風、唯一品 (217) 鞍馬の薙刀 クラマノナギナタ 39 武器屋LV2 608 刃黒の薙刀 ハグロノナギナタ 44 武器屋LV3 774 豪姫の長刀 ゴウヒメノナギナタ 48 女薙刀士専用、武器屋LV3 921 紫電の薙刀 シデンノナギナタ 54 武器屋LV3 1166 かまいたち カマイタチ 57 風、唯一品 (649) 相輪ノ鋒 ソウリンノホコ 65 武器屋LV4 1690 秋津ノ薙刀 アキツノナギナタ 71 水、女薙刀士専用、唯一品 (1008) 比叡ノ長刀 ヒエイノナギナタ 77 武器屋LV4 2371 闇の光刃 ヤミノコウジン 84 火 (1411) 護国の薙刀 ゴコクノナギナタ 89 武器屋LV5 3168 大風車 ダイフウシャ 92 武器屋LV5 3385 走竜の薙刀 ソウリュウノナギナタ 96 福(髪に3倍ダメージ)、唯一品 (1843) 中津ノ薙刀 ナカツノナギナタ 101 水、女薙刀士専用、唯一品 (2040) 赤城おろし アカギオロシ 109 武器屋LV6 4752 虚空一閃 コクウイッセン 117 武器屋LV6 5475 弁慶の長刀 ベンケイノナギナタ 124 福(1/4の確率で封印)、男薙刀士専用、唯一品 (3075) はふりノ鋒 ハフリノホコ 130 福(技火水風土の上昇値+1~4)、武器屋LV6 6760 奥津ノ薙刀 オクツノナギナタ 138 水、女薙刀士専用、唯一品 (3808) 三犬ノ薙刀 サンケンノナギナタ 146 武器屋LV7 8526 夜叉ノ長鋒 ヤシャノナガホコ 154 呪(防御+40/技火水風土-60) (4743) 流れ一文字 ナガレイチモンジ 160 武器屋LV7 10240 北斗旋風 ホクトセンプウ 166 風、女薙刀士専用、唯一品 (5511) 葦切りノ鋒 アシキリノホコ 174 武器屋LV7 12110 黒髪切 クロカミギリ 181 武器屋LV8 13104 阿曽ノ長刀 アゾノナギナタ 187 武器屋LV8 13987 いざ薙刀 イザナギトウ 193 男薙刀士専用、唯一品 (7449) ふつノ薙刀 フツノナギナタ 200 武器屋LV8 16000 吉焼ノ長刀 キッショウノナギナタ 204 火、福(技火+150)、女薙刀士専用、唯一品 (8323) 草薙ノ鉾 クサナギノホコ 210 唯一品 (8820) 左目ノ薙刀 ヒメノナギナタ 215 女薙刀士専用、唯一品 (9245) 弓 武器名 読み仮名 攻撃力 備考・入手先 価格 折れた弓 オレタユミ 5 なし (0) 初陣の弓 ウイジンノユミ 16 弓使いの初期装備 (4) 鳥ノ羽弓 トリノハユミ 21 武器屋LV1 158 月待ちの弓 ツキマチノユミ 25 武器屋LV1 250 藤巻きの弓 フジマキノユミ 29 武器屋LV2 336 百済弓 クダラユミ 35 武器屋LV2 490 下弦弓 カゲンキュウ 41 武器屋LV2 672 隼ノ弓 ハヤブサノユミ 47 男弓使い専用、唯一品 (441) 木霊の弓 コダマノユミ 50 土、福(1/16の確率で睡眠) (500) 上弦弓 ジョウゲンキュウ 53 武器屋LV3 1123 高鷲ノ弓 タカトリノユミ 57 武器屋LV3 1299 調伏弓 チョウフクユミ 61 武器屋LV3 1488 モモタ弓 モモタユミ 66 女弓使い専用、武器屋LV3 1742 音無しの弓 オトナシノユミ 71 呪(防御-20/技風+45) (1008) 破魔の弓 ハマノユミ 77 武器屋LV4 2370 ヌルデの弓 ヌルデノユミ 82 武器屋LV4 2689 剛鉄弓 ゴウテツキュウ 88 土、男弓使い専用 (1548) 天神の弓 テンジンノユミ 94 武器屋LV4 3534 与謝ノ弓 ヨサノユミ 100 女弓使い専用、武器屋LV5 4000 雨切り弓 アメキリユミ 103 水 (2121) クスネの弓 クスネノユミ 109 呪(敏速-40/技土+45) (2376) 与一の弓 ヨイチノユミ 112 男弓使い専用、武器屋LV5 5017 指弾ノ弓 シダンノユミ 120 女弓使い専用、武器屋LV5 5760 法輪の弓 ホウリンノユミ 128 武器屋LV6 6553 吉備ノ大弓 キビノオオユミ 136 武器屋LV6 7398 八雲ノ弓 ヤクモノユミ 144 武器屋LV6 8294 月光弓 ゲッコウキュウ 149 武器屋LV6 8880 朱雀ノ飛弓 スザクノヒユミ 153 武器屋LV7 9363 ハヤタマ弓 ハヤタマユミ 159 男弓使い専用、武器屋LV7 10112 戦神弓 センシンキュウ 164 武器屋LV7 10758 ヌエ撃ち弓 ヌエウチユミ 170 福(ヌエに2倍ダメージ)、武器屋LV7 11560 古弓ちはや コキュウチハヤ 177 女弓使い専用、唯一品 (6265) 名弓不知火 メイキュウシラヌイ 188 火、選考会 (7068) 愛染の弓 アイゼンノユミ 194 武器屋LV8 15054 摩利の日弓 マリノヒユミ 200 火、女弓使い専用、唯一品 (8000) 宝弓月読 ホウキュウツクヨミ 208 武器屋LV8 17305 名弓雲破り メイキュウクモヤブリ 217 風、選考会 (9417) 宝弓ヤタ烏 ホウキュウヤタガラス 225 男弓使い専用、唯一品 (10125) トキの弓 トキノユミ 235 武器屋LV8 22090 古弓白鷺 コキュウシラサギ 243 女弓使い専用、唯一品 (11809) 国士無双弓 コクシムソウキュウ 251 唯一品 (12600) 古弓あさひ コキュウアサヒ 268 唯一品 (14364) 槍 武器名 読み仮名 攻撃力 備考・入手先 価格 初陣の槍 ウイジンノヤリ 16 槍使いの初期装備 (3) 先兵の槍 センペイノヤリ 18 武器屋LV1 129 黒松の槍 クロマツノヤリ 24 武器屋LV1 230 鎧通し ヨロイドオシ 30 武器屋LV2 360 笹ノ葉丸 ササノハマル 37 風 (273) 千本通し センボントオシ 44 武器屋LV2 774 串刺しの槍 クシザシノヤリ 48 呪(防御-30/敏速+30/技火風+15) (460) 厄払いの槍 ヤクバライノヤリ 55 福(技火水の上昇値+1~4)、武器屋LV3 1210 長ツノの槍 ナガツノノヤリ 61 武器屋LV3 1488 千里鉾 センリボコ 96 武器屋LV3 3686 とがりノ槍 トガリノヤリ 103 武器屋LV4 4243 象牙の槍 ゾウゲノヤリ 111 武器屋LV4 4928 片鎌八角槍 カタカマハッカクヤリ 119 武器屋LV4 5664 男気貫徹槍 オトコギカンテツヤリ 126 火、男槍使い専用、唯一品 (3175) 億万通し オクマントオシ 135 武器屋LV5 7290 桃木の槍 トウボクノヤリ 140 土、福(技水土・心水土の上昇値+1~4)、唯一品 (3920) 嘉手納ノ槍 カデナノヤリ 147 武器屋LV5 8643 赤目突き アカメヅキ 155 武器屋LV5 9610 巨槍男突き キョソウオトコヅキ 164 福(女性モンスターに2倍ダメージ)、男槍使い専用、唯一品 (5379) 氷刃の鉾 ヒョウジンノホコ 170 水 (5780) 不退転の槍 フタイテンノヤリ 175 武器屋LV6 12250 剛槍一本杉 ゴウソウイッポンスギ 179 武器屋LV6 12816 満月のヤリ マンゲツノヤリ 186 女槍使い専用、武器屋LV7 13838 朝霞十文字 アサガジュウモンジ 191 武器屋LV7 14592 剛槍山嵐 ゴウソウヤマアラシ 198 風、選考会 (7840) 巨人針 キョジンバリ 204 武器屋LV8 16646 わだつみ槍 ワダツミヤリ 211 武器屋LV8、男槍使い専用 17808 名槍七ツ胴 メイソウナナツドウ 217 武器屋LV8 18835 宝槍鯉喰い ホウソウコイクイ 224 唯一品 (10035) さばえノ槍 サバエノヤリ 233 武器屋LV8 21715 千手の鉾 センジュノホコ 242 福(2回攻撃)、女専用、唯一品 (11712) 名槍雫石 メイソウシズクイシ 249 水、選考会 (12400) 豪槍吠丸 ゴウソウホエマル 255 火、男槍使い専用、唯一品 (13005) 魔槍青海波 マソウセイカイハ 259 水、呪(1/4の確率で混乱/敏速+150/技水+150)、唯一品 (13416) 天ノ日槍 アマノヒヤリ 268 唯一品 (14364) 拳爪 武器名 読み仮名 攻撃力 備考・入手先 価格 初陣の拳 ウイジンノコブシ 50 拳法家の初期装備 (1) 瓦割りの拳 カワラワリノコブシ 54 武器屋LV2 673 黒鉄ノ爪 クロガネノツメ 57 武器屋LV2 756 石割り拳 イシワリコブシ 60 武器屋LV3 844 根性手袋 コンジョウテブクロ 63 武器屋LV3 936 胡蝶の手袋 コチョウノテブクロ 66 風、女拳法家専用、唯一品 (516) 三日月ノ爪 ミカヅキノツメ 69 武器屋LV4 1109 功徳の拳 クドクノコブシ 71 福(技火・心火の上昇値+1~4)、武器屋LV4 1188 堀口拳 ホリグチコブシ 74 男拳法家専用、唯一品 (634) ヒグマ殺し ヒグマゴロシ 77 武器屋LV4 1382 燃える拳 モエルコブシ 80 火 (750) 真紅ノ爪 シンクノツメ 85 火、女拳法家専用、唯一品 (842) 熊野ノ小手 クマノノコテ 90 武器屋LV5 1881 石松拳 イシマツコブシ 93 男拳法家専用、唯一品 (1009) 金剛ノ爪 コンゴウノツメ 98 武器屋LV6 2232 魔手肝掴み マシュキモツカミ 104 福(技火・心火の上昇値+1~4)、武器屋LV6 2535 太極ノ拳 タイキョクノコブシ 113 武器屋LV6 2982 倍達の拳 マスタツノコブシ 122 福(敏速+10/心火水風土+20)、男拳法家専用、唯一品 (1732) 虎の爪 トラノツメ 130 武器屋LV7 3985 バサラの拳 バサラノコブシ 138 武器屋LV7 4489 鬼毒ノ爪 キドクノツメ 147 土、福(1/4の確率で毒/技土+60) (2539) 多聞ノ小手 タモンノコテ 156 福(防御+30)、唯一品 (2852) 昇龍の爪 ショウリュウノツメ 167 水、福(技水+60)、選考会 (3276) 弁天の爪 ベンテンノツメ 186 女拳法家専用、唯一品 (4037) 槌(壊し屋専用) 武器名 読み仮名 攻撃力 備考・入手先 価格 打出の小槌 ウチデノコヅチ 1 福(与えたダメージが所持金に加算)、唯一品 (0) 初陣の木槌 ウイジンノキヅチ 93 壊し屋の初期装備 (3) サンカの槌 サンカノツチ 118 武器屋LV2 5569 岩石落とし ガンセキオトシ 126 土 (3175) 竜骨の槌 リュウコツノツチ 134 武器屋LV3 7182 ネギの大槌 ネギノオオツチ 144 福(技水風・心水風の上昇値+1~4)、武器屋LV3 8294 開門の槌 カイモンノツチ 154 武器屋LV4 9488 岩清水ノ槌 イワシミズノツチ 164 水 (5379) タタラ槌 タタラヅチ 178 女壊し屋専用、武器屋LV4 12673 破邪の槌 ハジャノツチ 191 武器屋LV5 14592 雷落とし カミナリオトシ 204 火 (8323) 緋色の金槌 ヒイロノキンツチ 217 武器屋LV5 18835 頭蓋割り トウガイワリ 228 武器屋LV6 20793 丑寅の木槌 ウシトラノキヅチ 239 呪(防御+30/敏速-60/技火風+30/技水土-15) (11424) 城崩し シロクズシ 248 武器屋LV6 24601 クマソの槌 クマソノツチ 259 武器屋LV7 26832 天ノ羽槌 アマノハヅチ 265 風、福(2回攻撃)、女壊し屋専用、唯一品 (14045) 大地割り ダイチワリ 274 土 (15015) 万力王 マンリキオウ 282 福(ガマ系のモンスターに2倍ダメージ) 、唯一品 (15904) 不動ノ大槌 フドウノオオツチ 296 火 (17523) 煩悩砕き ボンノウクダキ 312 武器屋LV8 38937 山崩し ヤマクズシ 336 武器屋LV8 45158 タケミカ槌 タケミカヅチ 348 武器屋LV8 48441 陰陽みじん オンミョウミジン 361 武器屋LV8 52128 大黒の槌 ダイコクノツチ 374 男壊し屋専用、唯一品 (27975) 荒神の大槌 アラガミノオオヅチ 386 選考会 (29799) 天ノ鉄鎚 アマノテッツイ 397 女壊し屋専用、唯一品 (31521) 怪槌播磨王 カイツイハリマオ 408 唯一品 (33292) 鬼潰し オニツブシ 419 唯一品 (35112) 大筒 武器名 読み仮名 攻撃力 備考・入手先 価格 二寸機銃火 ニズンキジュウカ 73 散弾、武器屋LV4 2131 ツブテ吐き ツブテハキ 78 土、散弾 (1216) 蜂ノ巣銃 ハチノスジュウ 87 散弾、武器屋LV5 3027 流星参号 リュウセイサンゴウ 95 散弾、武器屋LV6 3610 緋筒アラシ ヒヅツアラシ 103 散弾、武器屋LV6 4243 ゼロ式火矢 ゼロシキヒヤ 111 散弾、武器屋LV7 4928 散弾放千火 サンダンホウセンカ 120 散弾、女大筒士専用、武器屋LV7 5760 散弾桜花 サンダンオウカ 128 散弾、武器屋LV8 6553 イカズチ砲 イカズチホウ 136 火、散弾、選考会 (3699) 戦管武蔵 センクワンムサシ 144 水、散弾、女大筒士専用、唯一品 (4147) 初陣の大筒 ウイジンノオオヅツ 146 単発、大筒士の初期装備 (5) 石火矢 イシビヤ 150 単発、武器屋LV3 9000 戦管大和 センクワンヤマト 154 風、散弾、男大筒士専用、唯一品 (4743) 十寸砲火 トオスンホウカ 155 単発、武器屋LV4 9610 巨人四番砲 キョジンヨバンホウ 161 呪(敏速-100/技火+60)、単発、唯一品 (5184) 根来砲 ネゴロホウ 167 単発、武器屋LV4 11155 自雷火 ジライカ 173 単発、武器屋LV5 11971 国友銃 クニトモジュウ 179 単発、武器屋LV5 12816 大砲轟き丸 タイホウトドロキマル 186 単発、武器屋LV6 13838 大砲岡鯨 タイホウオカクジラ 192 水、単発 (7372) 男子の大砲 ダンシノタイホウ 199 単発、男大筒士専用、武器屋LV7 15840 ダイダラ砲 ダイダラホウ 206 単発、武器屋LV7 16974 女子の大筒 ジョシノオオヅツ 214 単発、女大筒士専用、武器屋LV8 18318 回天一発 カイテンイッパツ 222 呪(防御-70/敏速+60/技火風+30)、単発 (9856) 火神招来 カシンショウライ 230 火、単発 (10580) 日輪砲 ニチリンホウ 240 単発、唯一品 (11520) 戦管阿蘇 センクワンアソ 250 土、単発、女大筒士専用、唯一品 (12500) 扇子 武器名 読み仮名 攻撃力 備考・入手先 価格 浪花ハリ扇 ナニワハリセン 1 福(3/4の確率で会心の一撃)、唯一品 (0) 初舞台の扇 ハツブタイノオウギ 41 踊り屋の初期装備 (1) 山吹ノ扇子 ヤマブキノセンス 43 武器屋LV3 739 鈴虫ノ扇 スズムシノオウギ 45 女踊り屋専用、唯一品 (405) 淡風の扇 アワカゼノオウギ 47 風 (441) 名扇彦六 メイセンヒコロク 49 男踊り屋専用、唯一品 (480) 松虫ノ扇 マツムシノオウギ 52 女踊り屋専用、唯一品 (540) 名扇菊の助 メイセンキクノスケ 53 福(1/16の確率で混乱を付与)、男踊り屋専用、唯一品 (561) 春一番の扇 ハルイチバンノオウギ 55 風 (605) 紋白扇 モンシロセン 56 女踊り屋専用、唯一品 (627) 白鳥の扇 シラトリノオウギ 57 武器屋LV5、男踊り屋専用 1299 神楽の扇 カグラノオウギ 59 武器屋LV5 1392 お国ノ扇 オクニノオウギ 60 土、女踊り屋専用、唯一品 (720) もみじ舞 モミジマイ 61 武器屋LV6 1488 松王丸ノ扇 マツオウマルノオウギ 62 男踊り屋専用、唯一品 (768) 与太の舞 ヨタノマイ 64 福(攻撃・防御の上昇値+1~4)、武器屋LV6 1638 青嵐ノ舞 セイランノマイ 65 風 (845) 猿田ノ舞 サルタノマイ 67 男踊り屋専用、武器屋LV7 1795 秘扇ベニ燕 ヒセンベニツバメ 68 火、福(技火+30)、男踊り屋専用、唯一品 (924) 静の扇 シズカノオウギ 69 女踊り屋専用、唯一品 (952) 寿老ノ扇子 ジュロウノセンス 71 武器屋LV7 2016 鉄扇阿修羅 テッセンアシュラ 72 男踊り屋専用、武器屋LV7 2073 血吸い扇 チスイセン 74 女踊り屋専用、武器屋LV8 2190 炎舞の扇 エンブノオウギ 75 火、福(技火+45) (1125) 古扇アゲハ コセンアゲハ 77 女、唯一品 (1185) 孔雀扇 クジャクセン 78 火、福(技火+60)、男踊り屋専用、選考会 (1216) シヴァの舞 シヴァノマイ 80 火、福(技火+75)、唯一品 (1280) 古扇日の丸 コセンヒノマル 82 火、福(技火+90)、唯一品 (1344) ウズメの舞 ウズメノマイ 86 水、福(技水+90)、女踊り屋専用、唯一品 (1479)
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 十日ほど続いた降臨祭は、遂に最終日を迎えた。 明日になれば再び戦争が始まる…、それは解っていた事だが、やはり名残惜しい。 それ故に人々は最終日は、それまで以上に激しく楽しく騒いだ。 ――その陰で”悪夢”は静かに動き出していた。 降り続けた雪の所為で一面銀世界となった、サウスゴータの街を二人一組の連合軍の警邏兵が巡回していた。 降臨祭は終わっていないとはいえ最終日である…。 先のルイズの偵察によって、敵に出撃などの兆候は見られなかったとはいえ、油断は出来ない。 ゆえに、ド・ポワチエは複数の警邏兵にローテションを組ませ、警戒に当たらせたのだった。 「あ~あ、…早く終わらせて次の奴に交代したいぜ」 「解るぜ、その気持ち。俺も思いっきり飲み食いしたいよ」 二人は巡回などそっちのけで、役目を交代した後の話に夢中になる。 最終日とはいえ降臨祭は終わっていない、敵も遊び惚けているのだから安心だ、 万が一攻め寄せてきても数で勝っている自分達は必ず勝つ、などと二人は高をくくっていた。 …そんな慢心から来る油断が彼らの命取りとなった。 「それでよ…、ん?」 ふと、隣を歩いていた相方が居ない事に気付く。 何処へ行ったんだ? などと考えながら兵士は辺りを見回す。 そのまま後ろを振り返る。その瞬間、兵士は息を呑んだ。 数歩分遅れた所に相方は立っていた。…正確にはその”下半身”が。 腰から下の部分が血で赤く染め上げられた雪の上に立っている。 兵士は一体何が起こったのか解らず、呆然と立ち尽くす。 グチャ…、グチャ…、グチャ… 何か、汁を吸った肉を噛むような音が聞こえた。 そこで兵士は漸く気がついた…、無残な姿に成り果てた相方の向こうに正体不明の影が立っているのを。 暗闇で気が付かなかったが、その影は間違い無く暗闇とは別の”何か”だった。 それの大きさは、目測で少なくとも十メイルは下らない。 血の臭いがする息を吐き散らしながら、腹を空かした獣の唸り声を上げている。 「あ、ああ…」 兵士はノロノロとした動作で槍を構えながら、一歩、二歩、と後退る。 と、影が何かを吐き出した。 ガチャン、と音を立てて、それは兵士の足元に落ちる。 それは血塗れの鎧だった…、相方の着けていたはずの…。 理解すると同時に兵士は半狂乱になって叫んだ。 ――次の瞬間、兵士は飛び掛った影に叫び声諸共飲み込まれた。 ――一方、別の場所では。 「な、なんだこいつは!?」 ロッシャ連隊の兵達が酒盛りから宿に帰って来た時”それ”は現れた。 石造りの道を突き破り、巨大な物が姿を見せたのだ。 上下に二つずつ、計四つの目を黄色に輝かせながら”それ”は兵達を見据える。 『…抹殺…、人間…全テ抹殺…』 感情の全く感じられない声が響く。 一番上の目が輝きを増す。兵達は我先にと逃げ出した…が、遅かった。 それから放たれた眩い閃光は、兵達を尽く蒸発させ、宿を容易く吹き飛ばしたのだった。 ――少し時間を遡り、街の一等地に位置した宿屋の二階を丸まる利用した司令部。 ド・ポワチエにハルデンベルグ、ウィンプフェンは、明日から再開される戦争に備えて作戦会議を行っていた。 とはいえ、殆どこの戦は勝ったも同然と言える。 敵は降臨祭の最中にも何一つ行動を起こしていない。主力はロンディニウムから動かないまま。 このまま順調に行けば、ロンディニウムを容易く包囲し、勝利を得られるのは時間の問題。 敗北を匂わせるほどの不安な要素は何一つ無い。 一応、用心の為に警備を行わせてはいるが、この分では必要は無かったかもしれない。 補給物資の搬入は今夜には終わる。明日の朝は全軍を持ってロンディニウムへと攻め入り、レコン・キスタを殲滅。 アンリエッタ女王陛下を救出し、ホワイトホールに連合軍の旗を掲げればいい。 それで全てが終わる。これまでの苦労が報われるのだ。 その時、ドアがノックされた。 「誰だ? 軍議中だぞ」 ウィンプフェンがそう問うと、王室からの届け物だと外から兵士の声が聞こえてきた。 届け物は豪華な木箱だった。財務卿の押印の在る手紙も付いている。 その手紙をド・ポワチエは顔色を変え、貪る様に読みふける。 手紙を読み終え、木箱の蓋を開ける。 その中から出てきたのを見て、覗き込んでいた他の二人が目を丸くする。 それは元帥杖だった。黒檀に金色で王家の紋章が彫り込まれたそれは、顔が映るくらいにピカピカに磨き上げられている。 ド・ポワチエは感無量だった。手紙には自分の元帥昇進が正式に決まった事が記されていたのだ。 戦争事態は終わっていないが、最早勝利は確実。 ならば、最後の決戦は元帥杖で指揮させてやろうという、財務卿の粋な計らいだった。 「「おめでとうございます、閣下」」 ハルデンベルグとウィンプフェンが手を叩く。 「なに…、これで気を引き締めろ、と言う事だろう。くれぐれも油断はならぬぞ、油断は」 溢れ出る笑みを堪えきれないまま、ド・ポワチエがそう言った時である。 ズドォォォーーーーーンッッッ!!! ドドンッ!!! 巨大な爆発音が外から聞こえ、ド・ポワチエ等は怪訝な表情で窓を見る。 「何だ騒々しい?」 窓へと近づくド・ポワチエ。見れば、遠くの方で火の手が上がっているのが見える。 「もしや、アルビオン軍か?」 その時、扉が勢い良く開かれ、アニエスが部屋に飛び込んできた。 「総司令殿、一大事です!」 「何事だ、アルビオン軍が仕掛けてきたのか?」 アニエスは首を振って答える。 「いえ、アルビオンの手の者かどうかは。敵は…」 言いかけてアニエスが怪訝な表情でド・ポワチエの背後に向けられる。 その様子にド・ポワチエも釣られて振り返る。…そこで、妙な事に気が付いた。 窓の外が真っ暗なのだ。今し方、外を確認したばかりだと言うのに…。 どうしたのだ? と悩みながらド・ポワチエは窓を開けようと手を伸ばし――硬直した。 窓の外には無数の”頭”があった。 竜の頭があった。 馬の頭があった。 犬の頭があった。 猫の頭があった。 鷹の頭があった。 蛇の頭があった。 獅子の頭があった。 人間の頭があった。 様々な生き物の頭がそこにあった。 それらが、ジッとド・ポワチエを見据えている。 「な、なんだ…?」 ド・ポワチエは、やっと声を絞り出す。 それが合図となったのか…窓を突き破り、無数の頭が牙を剥き出し、ド・ポワチエに襲い掛かった。 断末魔を上げる暇すらない…。 ド・ポワチエは大きく裂けた無数の顎を脳裏に恐怖と共に焼き付けられ、その意識を絶たれた。 窓を突き破って襲い掛かった無数の獣の首に、ド・ポワチエが無残に食い千切られるのを、アニエス達は呆然と見ていた。 だが、アニエスは逸早く我に返り、ハルデンベルグとウィンプフェンに怒鳴る。 「何をしている!? 早く逃げろ!!」 「え、ああ…逃げる?」 「そうだ! 死にたくないなら逃げろ!!!」 そこで漸く二人は部屋を飛び出し、我先にと逃げだした。 アニエスの叫び声に反応したか、ド・ポワチエの肉片を貪っていた大蛇の首が飛び掛ってきた。 それをアニエスは剣で薙ぎ払い、斬り捨てる。 他の首も粗方食い終わったらしく、アニエス目掛けて飛び掛ってきた。 アニエスは二丁のマスケット銃を次々に撃つ。二発の銃撃に首達が一瞬怯みを見せる。 その隙にアニエスも部屋から脱出。 そのまま他の銃士隊の隊員達と合流し、非戦闘員の避難誘導を皆に命じた。 ウィンプフェンとハルデンベルグは街道を只管に走って逃げた。 兵士の指揮とかそう言う物は何も考えられない。 とにかく、今はあの化け物から逃れたい…。あんな風に喰われるのは嫌だ…。 助かりたいと言う生命の本能から、二人は無様に逃げ惑う。 だが、そんな二人にも死は訪れた。 とある路地裏へと入り込んだ二人の前に立つ巨大な影。 「ひぃ!?」 恐怖に悲鳴を上げそうになった二人に、影は黄色の閃光を浴びせる。 恐怖を感じながら、痛みを感じる暇も無く、二人は髪の毛一本残さずに消え去った。 『魅惑の妖精』亭の天幕では最終日と言う事もあって、夜通しの酒盛りが行われていた。 ありったけの酒を飲み、ありったけの料理を食べる、まさに暴飲暴食。 当人達にすればただの食事会なのだろうが…。 そんな様子を尻目に、離れた場所でワインを煽っていたジャンガの目付きが突如鋭くなった。 隣で料理を平らげていたタバサもその手を止める。 「オイ」 ジャンガが呟く。 「解ってる」 タバサは頷く。 二人は席を立ち、外に視線を向ける。 否、別のテーブルで一人でワインを煽ってたガンツも、腰のガンベルトから拳銃を抜いていた。 そんな三人の様子にキュルケが気付いた。 「あんた達どうしたの?」 三人は答えない。 「ねぇ、どうしたのよ?」 「来やがるゼェ…」 ジャンガは呟く。 「何が来るっていうの?」 そうキュルケが言った次の瞬間、天幕を突き破って何かが落下してきた。 轟音が響き渡り、粉塵が巻き上がる。 その突然の事に一瞬で天幕の中はパニックに陥った。 「な、何!?」 ルイズが驚愕の声を上げながら、立ち込める粉塵の方へと目を向ける。 ジャンガは油断無く爪を構える。 粉塵が徐々に晴れていき、巨大な怪物が姿を見せた。 「ッッッ!?」 それを見た瞬間、タバサの表情が凍りつく。 「なんだ、こいつは?」 怪訝な表情でジャンガが呟いた。 ――姿を現したのは竜…いや、竜の姿をした化け物だった。 いや、胴体や翼には火竜としての特徴がある。 だが…それには火竜とは決定的に違う部分があった。 …それは首だ。それの胴体からは、雑多な生き物の首が無数に生えていたのだ。 火竜の他にも熊に狼、在り得ない大きさの蛙、トロール鬼やオグル鬼、老若男女の人の首まであった。 それらの首は口々に呻き声を奏で、聞く者の生理的嫌悪感と恐怖感を十二分に煽るコーラスを辺りに響かせる。 とても醜悪な…、肉のオブジェとでも言うべきものであった。 ルイズは思わず戻してしまった。 公爵家の令嬢がこんな所で戻してしまうなんて…、と本来のルイズならば屈辱に感じたであろう。 だが、今はそんな感情は微塵も浮かんでこない。 目の前の存在は、そんなちっぽけな事など考える余裕すら奪うほど、圧倒的な恐怖の塊だった。 それにルイズだけでなく、その場の殆どの者は目の前の存在に戻していた。 無理も無い事かもしれない…。このような醜悪な存在、世界の何処を探せば見つかると言うのだろう? トロール鬼などの亜人も恐ろしい。だが、目の前の存在はそれらの恐怖とは一線を賀した物があるのは間違いない。 化け物は複数の首の目をギョロギョロと動かし、周囲を見回している。 何気ない行動も目の前の存在がすれば、十二分に不気味な物に移る。 その時、床の布が動き、その下から中年の男性が姿を見せた。 どうやら化け物が落下した際に、切り裂かれた布が覆い被さったようだ。 と、その男をギョロギョロと動いていた怪物の幾つもの目が捉える。 ――誰かが何かをする暇もなかった。 次の瞬間、男は複数の首に食い千切られ、僅かな肉片と夥しい血溜まりを残して消えた。 「うっ!?」 ルイズ達は再び戻してしまった。 今のような光景を見て、どうして平然としていられようか? 気が狂いそうだ…。だが、座して死を待つなど考えられない。 「くっ、化け物…」 キュルケはコップに残っていたワインで乱暴に口を漱ぎ、杖を取り出す。 向こうではギーシュも既にワルキューレを作り出している。 ルイズも頬を叩いて気を引き締め、杖を手にした。 それに気が付いた化け物が無数の目で睨みつけ、同時に首が一斉に咆哮する。 怒りの雄叫びにも、痛苦の叫びにも、それ以外の別の物にも聞こえる物だ。 そして、化け物はテーブルを踏み潰しながら、ルイズ達目掛けて走り出す。 迎え撃つべく、ルイズは『エクスプロージョン』で吹き飛ばそうと、杖を振ろうとした。 だが、それよりも早く、巨大な空気の塊が化け物を吹き飛ばした。 化け物は天幕の外へと大きく吹き飛ぶ。それを追って、空気の塊を生み出したタバサが、 続いてジャンガとガンツが天幕の外へ飛び出す。 それを見て、ルイズ達も後を追う。 地面に横たわる化け物目掛けて、タバサは『エア・カッター』を放った。 風の刃が化け物の首を五つほど切り落とす。だが、その程度では致命傷になりえない事を、タバサは良く知っている。 化け物は倒れた巨体を起こすと、目をギョロリと動かしてタバサを見据える。その首が一斉に口を開く。 何かをしようとしているのは明白だが、タバサは怯まない。 こいつはブレスを吐く能力は失われている…、それを彼女は覚えていた。 だが、その予想は裏切られる。 大きく開いた口腔の奥に、暗闇に点った火種のような光を見て、タバサは慌てて『アイス・ウォール』を唱えた。 分厚く巨大な氷の壁が出現する。その一瞬後、化け物の無数の口腔から灼熱の炎が吐き出された。 氷の壁は瞬く間に溶け、遮る物の無くなった炎の濁流は小柄な少女に襲い掛かる。 炎に飲み込まれる寸前、横から割り込んだジャンガがその身体を小脇に抱える。 本来の目標を見失った炎は、進行上の天幕を焼き尽くしながら、広場の一角に建っている建物を直撃した。 瞬く間に建物は業火に包まれ、消し炭になっていく。 「随分な火力だゼ…」 燃え尽きていく建物を見つめながらジャンガは呟く。 そのまま、傍らで座り込んでいるタバサに視線を移す。 「テメェらしくもねェ…、竜が火を吐くのは当然だろうが? 何で油断しやがった…」 タバサは首を振る。 「ありえない」 「あン?」 「”あれ”のブレスを吐く能力は失われているはずなのに…、ありえない」 ジャンガは怪訝な表情を浮かべる。 「あの化け物を知ってるような口振りじゃネェか…。一体”あれ”は何だってんだ?」 ジャンガが化け物を爪で指し示す。 タバサは唇を噛み締め、呪詛を呟くようにその名を口にした。 「”キメラドラゴン”」 兵器として生み出された合成獣<キメラ>、その親玉の様な存在。 ファンガスの森で出会った…初めて与えられた任務の討伐相手。 彼女にとって友であり師であるジルを殺した、伯父王ジョゼフと並んだ仇と言える存在。 自分はあの時、奴に間違いなく止めを刺したはずなのだ。 ジャベリンを突き刺し、内部からバラバラにした。あの状態で生きているはずが無い…。 しかし、現にそれは生きている。自分の目の前で呼吸をし、首を動かし、あの不気味な唸り声を上げている。 …だが、どうして生きているかは不思議だが、正直な所関係無い。ただ、倒さなければならない相手がいる…それだけだ。 タバサは立ち上がり、杖を再度構えた。 「あれは野放しには出来ない。ここで確実に仕留める」 ジャンガは小さく鼻を鳴らし、視線をキメラドラゴンに向ける。 不気味な咆哮を上げながら、ブレスを吐き散らすキメラドラゴン。 それをギーシュのワルキューレやキュルケの炎、ルイズの爆発が牽制している。 だが、決定打には至っていない。傷を負っても再生しているのだ。半端では無い生命力だ。 ジャンガは唾を吐き捨てる。 「ケッ、どんな相手だろうと気を抜くんじゃネェよ。死にたくなけりゃな…」 そう言い、ジャンガは駆け出す。 タバサも無言で後に続いた。 ワルキューレの一体を噛み砕いた狼の首に、ジャンガは爪を叩き込んだ。 口から血反吐を吐き散らしながら、痛苦の叫びを上げる。 そのまま力を込め、首を両断した。だが、切断面の肉が盛り上がり、新しい頭が生えてくる。 ジャンガは舌打し、跳躍する。空中で大きく一回転すると、巨大なカッターを放つ。 カッターはキメラドラゴンの身体を容易く切り裂いたが、その傷口も瞬く間に再生していく。 連続してカッターを放つが、それらも致命的な物にはならない。 「下がって!」 タバサが叫び、ジャンガはその場から飛び退く。 杖の先には巨大な氷の槍<ジャベリン>がある。 キメラドラゴンがタバサを見ると、彼女は杖を振り下ろす。 勢い良く氷の槍が飛び、キメラドラゴンを串刺しにした…と思われた。 だが、長く伸びたキメラドラゴンの複数の首が、氷の槍に食いつき、力ずくで止める。 止められた氷の槍は噛み付かれた所から罅割れて行き、やがて粉々に砕け散った。 驚愕のあまり、タバサは両目を見開く。 あの勢いで飛んだ氷の槍を止め、更に噛み砕くなど凄まじいまでの顎の力だ。 おかしい…、タバサは考える。 今のジャベリンを容易く受け止め、噛み砕いた所までならば何とか納得がいく。 だが、”首が伸びる”など、先に対峙した時には一度たりとも無かった。 更にあの尋常ならざる再生力…、通常の火竜のそれを上回るブレス…、その全てが以前のキメラドラゴンとは違った。 まるでキメラドラゴンの姿をした別の怪物のようだ。 タバサは思った…、今目の前に居るキメラドラゴンは以前の個体と違うのではないか? と。 元々キメラドラゴンも他の合成獣<キメラ>と同じように、魔法兵器の実験で創り出されたものだ。 ならば、目の前のキメラドラゴンも何者かによって、新たに創り出されたものなのではないか? それならば、あの異常なまでの能力も納得がいく。 ならば、あのジャベリンが突き刺さったとしても、昔のようにはいかなかったかもしれない。 …だとしても、引き下がるわけには行かない。 「ユビキタス・デル・ウィンデ…」 静かにルーンを詠唱したタバサの体が揺らめき、分裂する。 一つ、二つ、三つ、三体の遍在が現れる。本体と合わせて四体、手数としては十分だ。 「ジャンガ」 名を呼ばれ、ジャンガはタバサを振り返る。 「”あれ”を試す」 その言葉にジャンガはニヤリと笑う。 「ほゥ? まだ試し撃ちも出来ていないのにかよ?」 タバサは頷く。 確かに”あれ”はやり方を話し合っただけ。未だに試し撃ちすらしていない。 だが、普通の攻撃では今のキメラドラゴンには効果は無い。 現状で打てる有効打は”あれ”しかない…、とタバサは判断したのだ。 そんなタバサの気持ちを知ってか知らずか、ジャンガは笑う。 「テメェが言ったんだ…、しくじるなよ?」 「解ってる」 タバサと遍在が四方に散らばる。 それを見届け、ジャンガはガンツの方に駆け寄る。 「ガンツ坊や、奴の足を止めな。後は俺とタバサ嬢ちゃんが仕留めてやるゼ」 ガンツは含み笑いをする。 「解ったぜ。だが、言ったからにはやってみせろよ」 「キキキ」 ジャンガは笑い、駆けだす。 ガンツは銃の弾倉を換え、キメラドラゴン目掛けて乱射した。 死神ファイヤーの直撃を受け、キメラドラゴンは奇声を上げる。 「オマケだぜ!」 懐から父の形見である、大型のハンドライフルを取り出し、引き金を引いた。 ハンドライフルの銃弾はキメラドラゴンの竜の頭部を粉々に吹き飛ばした。 一際大きな叫び声が辺りに木霊する。 その瞬間、ジャンガが叫ぶ。 「やりやがれ、タバサ!」 四方に散らばっていた四人のタバサは一斉に呪文を開放する。 四人分の『エア・ストーム』が巨大な竜巻を生み出し、キメラドラゴンの動きを封じて空中に巻き上げる。 そこへジャンガが無数のカッターを放つ。 同時にタバサも杖を振り、風を生み出す。 カッターはタバサの風に導かれ、次々と竜巻に巻き込まれる。 ジャンガはニヤリと笑う。 「いけるゼ…、キキキ」 ルイズの実家でその身に受けた、烈風カリンの得意とするスクウェアスペル『カッター・トルネード』。 その攻撃力をどうにか上手く使えないか? と思案し、思い至ったのがこれだ。 タバサに特大の竜巻を創らせ、それに自分のカッターを取り込ませる事で、擬似的にその攻撃力を再現する。 だが、そのままカッターを投げ入れても上手く竜巻に取り込めるか解らない。 竜巻を切り裂いて、飛び出す可能性も在るからだ。だが、威力が弱すぎても話にならない。 そこで、タバサの風を使う事にした。 例の決闘の時、タバサは自分のカッターを風を操る事で、その動きを変えていた。 それを逆手に取り、タバサに風でカッターを誘導させ、竜巻の流れに沿って取り込ませる事にしたのだ。 もっとも…、試し撃ちを一発も行っていない為、殆どぶっつけだったのだが…。 「ま、世の中都合良く出来てるもんだゼ」 ジャンガは一人呟きながら、竜巻を見上げた。 竜巻の中で翻弄されながら、キメラドラゴンは切り刻まれていく。 首が千切れ、翼が千切れ、手足が千切れ、尻尾が千切れ、…三分と立たずに細かな肉片となった。 タバサが杖を振り、竜巻を消した。 巻き上げられていた”キメラドラゴンだった物”は、赤い雨となって地面に降り注いだ。 それらが再生する気配はなかった。 タバサは大きく息を吐いた。 何とか倒せた…、安堵感が周囲に広がった…次の瞬間。 ズドォーーーン!!! 爆発音が周囲に響き渡る。 街のあちこちから火の手が上がっているようだ。 見れば真っ赤に染まった夜空を幾つもの影が飛び交っている。 それが何か理解した瞬間……タバサは呆然となった。 否、タバサだけでなく、その場の全員が呆然となった。 「そんな…」 夜空を飛び交うのはキメラドラゴンだった。その数は十や二十ではない…、百や千に上りそうなほどだ。 今しがた漸く一匹を倒したというのに…あれだけの数がまだいたのだ。 だが、どうしてあれだけの数のキメラドラゴンがいきなり現れたのだろうか? ――その疑問の答えは地面を突き破って出現した。 『…人間…全テ抹殺…』 感情の無い声でそう言ったのはボックスメアンだった。 それを見てタバサとジャンガは確信する。全てはガーレンの仕業だと。 ボックスメアンが左手を伸ばす。 タバサとジャンガはその場を飛び退き、伸びて来た左手が地面を砕く。 ジャンガは抜き打ちのように素早く懐からハンドライフルを取り出し、引き金を引いた 一瞬遅れて、ボックスメアンの頭部が吹き飛んだ。 紫電を撒き散らしながら、糸の切れた人形のように地面に崩れ落ちる。 それをジャンガは冷めた目で見下しながら、忌々しそうに鼻を鳴らす。 「て、てめぇ、それは!?」 そんなジャンガにガンツが詰め寄る。 無理も無い…、自分の父の形見であるハンドライフルが二丁在るのだから。 「ああ、テメェは知らねェんだったか…。ま、説明は後回しだな」 言いながら、ジャンガは周囲に目を向ける。 広場の周囲の建物の陰からボックスメアンが姿を現し、空からキメラドラゴンが舞い降りてくる。 このままでは囲まれてしまうのも時間の問題だ。 他に手も無い以上、ここは強行突破しかない。 言うが早いか、ジャンガは四体に分身し、比較的数の少ない一角に突撃する。 カッターや毒の爪の斬撃、ハンドライフルの射撃でボックスメアンを粉砕した。 道が開くやジャンガは振り返る。 「オラッ! 死にたくねェ奴は、つべこべ言わずに走りやがれってんだよ!」 ジャンガの叫びに『魅惑の妖精』亭の皆も必死の形相で駆け出した。 キメラドラゴンやボックスメアンの姿が無い一角から、広場を脱出していく。 その時、後ろを走っていたシエスタが足を滑らせて転んでしまった。 痛みに顔を引き攣らせるシエスタ。 そこにボックスメアンが迫る。 「シエスタ!? 危ない!」 ルイズが叫んで引き返そうとするが、間に合いそうに無い。 ボックスメアンの無機質な目がシエスタを見下ろす。 巨大な鉤爪の付いた左手が振り上げられる。 「きゃあぁぁぁーーーー!!!」 悲鳴が上がり、ボックスメアンの腕が振り下ろされる。 ――その時、ボックスメアンにキメラドラゴンが飛び掛った。 キメラドラゴンはボックスメアンの身体に爪を食い込ませ、無数の首で食いついている。 それを引き剥がそうとしてか、ボックスメアンは右手のクロスボウや左手でキメラドラゴンを攻撃する。 そんな異型同士の戦闘に呆然としていたシエスタの腕をルイズが掴む。 「早く立ちなさいよ! 逃げるわよ!」 「は、はい!」 ルイズに引かれて、シエスタも力の限り駆け出した。 必死に走りながら、ルイズは一度だけ振り返った。 広場では無数のキメラドラゴンとボックスメアンが、縦横無尽に暴れ狂っていた。 ――同時刻:ハヴィランド宮殿―― 地下牢に囚われの身であるアンリエッタは、外が騒がしくなってきた事に気が付いた。 その所為か、警備の幻獣も大分数を減らしている。 これは千載一遇のチャンスと思ったアンリエッタは、脱出を試みるべく行動を開始した。 まずは手を自由にするべく、石造りの壁に何度も縄を擦りつけた。 何度も擦りつけ、漸く切れた時には手首から血が出ていたが、気になるような物ではない。 次にアンリエッタは鍵を耳に引っ掛けたやりムゥを誘う。 食べ残しのパンの欠片をスープに浸し、鉄格子の隙間から出したのだ。 「ほら…、美味しいわよ?」 上下に揺らすなどして匂いを漂わせる。 ムゥの中では賢い部類に入るやりムゥだが、所詮はムゥ。 こんな単純な誘いにまんまと引っかかり、やりムゥはパンへ食らい付いた。 その隙を見逃さず、アンリエッタはやりムゥの耳から鍵を抜き取る。 すぐさま鍵を開け、牢から抜け出ると、目の前のテーブルに置かれた自分の荷物を手にした。 杖にルビーにメダル…、とりあえず大切な物は全てそこにあった。 と、パンを食べ終わったやりムゥが、牢を抜け出したアンリエッタに気が付いた。 手にした槍を振り翳し、アンリエッタに飛び掛る。 アンリエッタは素早くルーンを唱えた。現れた水球がやりムゥを吹き飛ばす。 鉄格子に激突し、やりムゥは呆気無く気絶してしまった。 それを見届け、アンリエッタは走り出した。 ハヴィランド宮殿の大ホールに居るガーレンに、ンガポコによって急報が届けられた。 「アンリエッタが逃げ出したと?」 『ハイ。脱獄したアンリエッタ女王は、現在ハヴィランド宮殿内を逃げ回っております』 「敗走する連合軍を追撃する為に兵はほぼ出したとは言え、何人かは残っているはずだ。何故捕まえられない?」 シェフィールドが苛立ちを隠しもしないで追求する。 『メイジは全員出払っておりまして、残った傭兵では魔法に対処しきれないもよう。ンガ』 「チッ、役に立たない連中だ」 忌々しそうに吐き捨て、シェフィールドは怒りに顔を歪ませる。 そんな彼女をガーレンは宥める。 「まぁいいではないか」 「何?」 「涙ぐましい努力ではないか…。ククク、全て無駄に終わると言うのに」 ガーレンはンガポコに向き直る。 「前線の全軍に伝えろ。進軍中止、速やかに引き返してアンリエッタ女王の再確保をせよ。 確保が不可能ならば殺しても構わん、とな」 『了解しました。ンガ』 ンガポコは開け放たれた窓から、夜空へと飛び立っていく。 シェフィールドは怪訝な表情で問う。 「何を考えているガーレン…、むざむざ軍を引き返させるなど…」 「これでいい。どの道、進軍は途中で止めさせるつもりだったのだ。…アンリエッタ女王をわざと逃がしてな」 「…どういう意味だ?」 「知らずともいい。…そうだな? 強いて言えば…全ては我輩とお前の主の望みの為、と言っておこう」 シェフィールドは納得のいかない表情でガーレンを見据える。 本当にこいつを信頼していいのだろうか? ジョゼフの望みに繋がると言うが…それも本当だろうか? 疑問が疑問を呼び、目の前の存在を信じる事が出来なくなっていく。 だが、自分の主――ジョゼフはこの男と協力し合っている。今の所、その考えを変えるつもりはないだろう。 ならば…自分はそれに従うまでだ。自分はこの男ではなく、ジョゼフを信頼するのだ。 そんなシェフィールドの事など目もくれず、ガーレンは窓の遥か彼方に広がる、赤く燃えるサウスゴータの町を眺めていた。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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秘密結社 鷹の爪 THE MOVIE 〜総統は二度死ぬ〜 色 出演者 備考 黄色 総統(声:FROGMAN) 水色 - 緑色
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 最初の一撃が相殺し、二人は弾かれる様に離れた。 同時にエルザは素早く蝙蝠をジャンガ目掛けて放つ。 牙を剥いて飛び掛って来るそれを、ジャンガは爪で難無く切り払う。 続けざまにエルザのマントの両端が伸びた。 太い杭の様な形になり、唸りを上げて襲い掛かる。 地面へと突き刺さったそれは、凄まじい勢いと質量で大きな穴を穿ち、大量の土砂を宙に巻き上げる。 エルザは瞬き一つせず、ジッとそれを見つめる。 煙幕とも思える土煙が、徐々に晴れていく。 そこには地面に突き刺さったマントの上に立ち、余裕の笑みでこちらを見ているジャンガの姿があった。 マントを引き戻そうとエルザが動く――よりも早く、ジャンガはマントの上を駆け出す。 マントが戻る速度よりもジャンガの方が早い。 だが、エルザは顔色一つ変えずに大鎌を構えるや横一文字に振るう。 刃が前方の空間を薙いだが、既にジャンガの姿は無い。 大抵の相手ならばこの事態にうろたえて辺りを見渡したはずだが、エルザはそんな事はしなかった。 ただ無造作に頭上で弧を描くように大鎌を振るう。 ガキンッッ!! 金属音が響き渡る。頭上に跳んだジャンガの振り下ろした爪を受けたのだ。 そのままジャンガはエルザの後方へと着地する。それに続くようにエルザのマントが元に戻った。 振り向きながら、エルザは大鎌を振るう。 その一撃をしゃがんでかわすジャンガ。 すぐさま立ち上がり、カッターをお見舞いしようと腕を振り上げる。 「危ない!!?」 タバサの声が響いた直後…、大斧の様な形に変わったマントがジャンガを襲う。 エルザが大鎌を振るったそのままの勢いで一回転し、背中のマントを間髪入れずに叩き込んだのだ。 まるでそこに何も無いかのように…、何の抵抗も無くマントが一閃される。 一瞬遅れ、ジャンガの首が宙を舞う。 それを見てルイズやタバサの顔に絶望が浮かぶ。だが、そこで笑うべきであろうエルザは笑わない。 小さく鼻を鳴らし、先程大鎌を振るった時のように、無造作に左手でマントを引っ張り上げる。 ドゴンッッ!! 硬い物を力任せに叩く重い音が夜闇に響く。 チッ、と音がした場所から舌打ちが聞こえる。 分身を囮にし、エルザの側面に回り込むや蹴りを放ったジャンガの物だ。 蹴りを受け止めたままの体勢で、エルザは大きく踏鞴を踏む。 地面を突き破り、蛇の様にうねる無数の木の根がジャンガへと伸びる。 それを見てジャンガは大きく跳び上がり、爪を振り翳しながらコマのように回転する。 彼に伸びる木の根は瞬く間に切り裂かれていく。 木の根が全て切り刻まれるや、ジャンガはそのまま眼下のエルザ目掛けてカッターを放つ。 猛烈な回転により、通常の数倍の大きさと切れ味を得たカッターはエルザへと襲い掛かる。 エルザは静かに大鎌を構える。 迫るカッター目掛けて大鎌を一閃、…それだけで真っ二つに切り裂かれたカッターは多少強い程度の風になる。 風はエルザの髪を揺らし、森の中へと吹き抜けて行った。 着地したジャンガはエルザを見据える。 「キッ…、あん時あっさりと活け作りにされたヘタレガキとは思えないゼ。大した強さじゃねェか?」 そう言いながらも、ジャンガの口元には嘲りの色が見て取れた。 エルザはそんな事は気にも留めず、不敵な笑みを浮かべる。 「今のエルザを前と同じだと思ったら大間違いだよ? 助けてくれたおじさんが大分強くしてくれたから」 「ハンッ! ガーレンの腰巾着をやってそんなに楽しいかよ、クソガキ?」 エルザは口元に手を当て、驚いたような表情を浮かべる。 「…凄いや、言ってもいないのに解るんだ」 「あの妙なササルンを見りゃ想像はつく。加えて、テメェら吸血鬼はここ<ハルケギニア>じゃ完全な日陰者だしよ。 わざわざ自分を餌にするような奴を助けるような酔狂な奴はいねェだろうからな~」 「あはは♪ 確かにそうだよね~」 エルザは楽しそうな声で笑う。 「そりゃ…少しばかり自由が無いから窮屈だけどさ…。それでも感謝してるんだ~。 お陰でおじさんに”仕返し”できるし、おねえちゃんともまた会えたし、良い事の方が多いもん♪」 言いながら楽しげにスキップを始める。一見隙だらけに見えるが…その実、全く隙が無い。 ジャンガはつまらない物でも見るような目でエルザを見据える。 暫くスキップしていたエルザだが、唐突に立ち止まる。 そしてニタリ、と口が大きく裂けたかのような笑みを浮かべた。 瞬間、大きく右腕を振り切る。 手放された大鎌が高速で回転しながらジャンガ目掛けて飛ぶ。 向かって来るそれを、ジャンガはジャンプして余裕でかわす。 背後で何本もの木が切り裂かれ、倒れる音を聞きながら、ジャンガはエルザ目掛けて駆け出す。 走りながら大量に分身を生み出す。そしてエルザを惑わすべく、シャッフルするかのように複雑な動きをする。 「つまらない事をするなぁ~?」 呆れたような表情でエルザは右手の人差し指を、クイッ、と動かす。 先程投げた大鎌が方向転換し、こちらへと戻って来た。多くの分身が切り裂かれ、消えていく。 更にエルザがマントを大きく翻すと、無数の蝙蝠が四方八方に飛び散る。 弾丸の如く突撃する蝙蝠は、動き回る分身を次々に貫き、消し去っていく。 全ての分身が消え、エルザは戻って来た大鎌を掴む。 辺りを見回し、ジャンガの姿が無い事に気付く。 「…どこ?」 「テメェの目の前さ」 「ッッ!?」 慌てて視線を前方に戻す。 低い姿勢でその場に立つジャンガの姿が在った。 マントを引くよりもジャンガが爪を振り上げる方が早い。 血の糸を引きながらエルザの小柄な身体が宙に浮く。 それでもエルザは空中で受身を取り、地面に着地する。 胸に三本の紅い線が走り、血が滴っている。 「……」 無言でエルザはジャンガを睨む。 ――今の動きは完全に読めなかった。さっきは余裕で掴めたのに…。 早すぎる動きだ。あの亜人の本気なのか? ジャンガがニヤリと笑ってみせる。 「テメェは確かに強くなったゼ…、俺が本気出せるぐらいにはよォ~」 やっぱり本気じゃなかったのか、とエルザは歯噛みする。 ド素人でもない者が相手にわざと手加減をされる事は、最初から全力で叩き潰されるよりも非常に屈辱な事だ。 加えて言えば、彼女の場合漸くお礼が出来ると思った矢先でもあるのだから尚更イライラするのだ。 「…エルザを馬鹿にしないで欲しいな…。おじさん…あんまりふざけていると、死ぬよ?」 「端から殺る気満々のくせに今更なんだよッ!」 ジャンガの姿が蜃気楼のように霞んで消える。 常人離れの瞬発力で駆けたジャンガは相手の懐に一瞬で飛び込み、トドメとばかりに爪を叩き込んだ。 爪が小柄な身体を抉り血の花を咲かせる――はずだった。 しかし、吹き飛んだのはジャンガだった。 「チッ…」 吹き飛びながらジャンガは何とか受身を取って地面に着地したが、 勢いを完全に殺しきれず、砂塵を引きながら数メイルの距離を滑走する。 ジャンガは立ちながら帽子を直す。顔を上げ、エルザを見据える。 爪がエルザの胸を抉ろうとした瞬間、ジャンガの身体が吹き飛ばされたのだ。 殴りつけられたわけでも、蝙蝠をぶつけられたわけでもなく、エルザに特に動いた様子は無かったのだ。 強いて言えば指を軽く弾いたぐらいだが…、それで何かが出来るだろうか? しかし、現に自分は吹き飛ばされた。”何も無かったのに”だ…。 何も知らない相手が見れば何が起こったのか解らないだろう。 …だが、ジャンガはそれに心当たりがあった。 「こいつはおでれーた…」 背中のデルフリンガーが鞘から飛び出す。彼は解って当然だろう。 何しろ、今起こった現象は以前ジャンガに”彼自身が説明している”物なのだ。 「ボロ剣、ありゃやっぱり…あの長耳のだな?」 「ああ、相棒の想像通りさ。あれは”反射”<カウンター>だ」 反射――ガリアのアーハンブラ城で戦ったビダーシャルとか言うエルフが使ってきた先住魔法。 あらゆる攻撃、魔法を跳ね返すと言うそれにはジャンガも散々苦戦させられた。 厄介な物を使いやがる、とジャンガは心の中で毒づく。 そんな彼の背からはデルフリンガーの声がまだ聞こえてくる。 「しっかし…おかしいな。吸血鬼は確かに先住魔法を使うが、あんな強力な物を使えたりはしないはずだ」 「はずだっつっても…ああして現に使ってるじゃネェかよ?」 「だからおかしいんだよ」 すると、エルザの笑い声が聞こえてきた。 「あははは、その剣喋るんだ…面白いね」 そう言って頻りに笑うエルザにデルフリンガーは問いただす。 「おい、吸血鬼。お前さんはどうしてそんなもんを使えるんだ? 先住の腕前はエルフの足元にも及ばないはずだがな」 エルザは笑い声を止める。 「エルフなんかは精霊と契約をする事で先住魔法を使うよね? 精霊にお願いして、力を貸してもらうって感じで先住魔法を使う…。 でもね、吸血鬼の先住魔法の使い方はエルフなんかとは根本的に違うんだ。 ”契約してお願いする”んじゃなくて、”服従させて命令する”んだよ」 ジャンガは興味深げに目を細め、デルフリンガーはカチカチと金具を鳴らす。 「エルザ達吸血鬼は日陰者だしね…、精霊もまともに契約はしてくれないんだよ。 じゃあどうするのかって言うとね、自分達の力というか…存在感というか…、そう言ったもので脅すの。 そうして怯えて服従した精霊に力を使わせる…、っていうわけ。 だから、あまり強力な物は使えない。精々木の枝を操ったり、眠らせたりするだけ。 でも、今のエルザは昔と違う…。ずっとずっと強くなったんだ。だから、精霊もより怯える…、より服従する…」 「だから、その反射も使えるってか?」 「ピンポーン♪ その通り!」 楽しそうな笑顔で拍手するエルザ。 それを見ながらジャンガもニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる。 「あの長耳は媚び諂って使ってもらってたが、テメェは力で捻じ伏せて使わせてるってか。 俺の玩具に二度も手を出したテメェは正直気にくわねェが……キキキ、そこは賞賛するゼ」 「おじさんには褒められても嬉しくない。寧ろ吐き気がする…」 汚物を見るような目で見つめるエルザの視線に、ジャンガも射抜くような鋭い視線で睨む。 「…あんま、ふざけた事言うんじゃネェよ?」 放たれる殺気が陽炎のようにジャンガの周囲の空気を歪ませる。 エルザは小さくため息を吐く。 「別に良いけど……おじさんにこれを何とか出来るかな?」 言いながら目の前の何も無い空間を指し示した。 僅かに空気が揺らぎ、見えない壁が姿を現す。 ジャンガは考える。 確かにあのエルフの時のような戦法は使えない。 ここは野外の森の中、風も吹いており毒を撒いても吹き散らされてまともに吸わせられない。 更に付け加えれば余計なギャラリーも数人居る。誤って吸い込んだりしたら後々面倒だ。 ジャンガは小声でデルフリンガーに声を掛ける。 「オイ…、あの反射ってのどうやったら破れる?」 「お前さんの毒以外じゃ娘っ子の”虚無”以外に無いな」 「…そんな物唱えさせたら、一発で殺られるな」 「だねぇ…」 「他には?」 「特に無い。だが…もしかしたら、相手の意識をかき乱すような事が出来れば、あるいは…」 「…精霊の力を使えなくなるかもってか?」 「まぁ…可能性だがね」 ジャンガは逡巡し、ニヤリと笑う。 「…試してみるか」 ジャンガは両手の爪を顔の前で交差させると、口を近づけて息を吹きかけた。 交差させた爪の中央から、緑色の泡が浮かび上がる。 それは瞬く間に大きくなり、直径十メイルほどの巨大な泡となる。 それを見てエルザも流石に驚いた表情を浮かべる。 「な、何それ?」 「毒の泡さ」 ジャンガは、しれっと言い放つ。 デルフリンガーは慌てた声で叫ぶ。 「おいおいおい相棒!? そんなデカイ毒の塊を破裂させる気か!? そんな事したらどうなるか、解ってんだろ!? 娘っ子達がやばいだろうが!」 「知ったこっちゃねェ」 冷たく、そう一言だけ呟いた。 デルフリンガーは唖然となるが、直ぐに声を荒げる。 「相棒、その毒が反射を潜り抜けるかどうかも解らねぇんだぞ!?」 「問題無ェ。毒ってのは日常的に空気中を漂ってるもんだ。毒素が極力無かったとしても前の物も毒。 それが問題なく通過したって事はだ…、攻撃以外は素通りなんだろ? この毒の泡を投げつけずに此処で破裂させれば、あとは毒性が”少々”強めの埃となんら変わり無ェ。 あの”反射”が空気でも遮るんなら別だがよ」 「うっ…」 エルザは僅かに顔を引き攣らせる。 ”反射”は確かに攻撃に対しての防御は万全だが、それ以外の物に対しては全く無意味。 それこそ壁など無いかのように風や雨は通り抜け、自分の身体に吹き付ける。 毒も塊を投げつけられるような物でなければ、全くの無意味なのだ。 「い、いいの!? おねえちゃん達も被害を受けるよ!? 死ぬかもしれないよ!? エルザが手を出したら怒るぐらい大切なはずでしょ!? それなのに何で!?」 マシンガンのように言葉を吐き出すエルザにジャンガは深いため息を吐く。 「言ったはずだ…、知ったこっちゃねェ」 「な?」 「俺は確かにこいつらの幾らかはお気に入りだ。だがよ…別に他にもお気に入りの玩具はある。 今はテメェを殺す方が重要だ。…大体、お気に入りの物だから壊すのもテメェの手でしたいのさ」 ゆっくりと腕を振り上げると、エルザの目が見開かれる。 「ちょっ――」 「くたばりな」 呟くと同時に腕が振り下ろされ、泡が真っ二つに裂かれる。 瞬間、凄まじい大爆発が起こり、衝撃波が当たりに広がった。 「うぐっ…」 押し寄せる空気の波に耐えながらもエルザは慌ててマントで目鼻を覆ったが、毒の量が多すぎる。 吸血鬼と言えど呼吸をして生きているのには変わらない。 数分もしないうちに限界を向かえ、思いっきり呼吸をする。 当然、辺りに広がる毒も纏めて吸い込んでしまい、激しく咳き込む。 「うう…、え? あ、あれ!?」 エルザは戸惑った。悲しくも無いのに唐突に涙が流れだしたのだ。 目が痒くてたまらず、幾ら擦っても次から次へと止め処無く溢れてしまう。 更に体中に妙な痒みが走って仕方が無い。痒みだけでなく、軽い痛みも感じる。 遠方で戦いを見ていたルイズ達も同じように目を擦り、涙を溢れさせていた。 唯一人、ジャンガだけが平然と立っている。 「な、何をしたの!?」 エルザが声を張り上げる。 相変わらずのニヤニヤ笑いを浮かべながら、ジャンガが口を開く。 「キキキキキ! テメェ、本気で俺が猛毒撒き散らすと思ったのかよ? ンな事するわきゃネェだろうが、バァ~カッ!」 「じゃあ…これは何…?」 頻りに目を擦りながらエルザが言う。 「毒は毒だ…、ただし内容はチィ~とばかり違うがよ。こいつは即効性の神経毒…いや、神経ガスだな。 ただし、殺傷力はほぼゼロ。内容的には眼球への過剰な刺激による止まらない涙、 全身の神経の過敏な反応による痒みと微妙な痛み、ってとこだな。 まァ……ようするに相手を甚振る際に使う物さ」 ジャンガはニヤニヤ笑いながら得意げに説明する。 エルザは未だに涙や痒みが止まらないようだ。 ――重い音が響く。 ジャンガが放った踵落しがエルザの頭を捉え、地面へと叩き付けたのだ。 「あ、ぐぅ…」 激しい頭痛が駆け巡るのか、エルザは苦しそうに呻く。 ジャンガはそれを楽しそうに見下ろしている。 「キキキ、どうやら消えてるみたいだな?」 そして始まる、ジャンガお得意の袋叩き。 分身三体との蹴りの連打に加え、死なない程度に爪で切りつける。 相手が相手ならば容赦もクソも無い。 出来ている借りの分を返しきる勢いでラッシュを繰り返す。 全身ボロボロの状態になったエルザを、ジャンガは手加減無しで蹴り飛ばす。 エルザは森の一角へと吹き飛び、木を数本圧し折って地面に倒れた。 それを見て、ジャンガはつまらなさそうに鼻を鳴らす。 「ケッ、ちょっと本気を出したらこの程度かよ…。ダッセ~の」 「相棒…、幾らなんでもやりすぎじゃ…」 流石にジャンガのやり方に引いたのか、デルフリンガーが声を掛ける。 「良いんだよ。どうせ世界の裏側を寂しく生きるしかないはみだし者だ…。 別に気の毒に思う奴は居ねェよ…、少なくとも人間の中にはな。俺と似たようなもんだし、それは良く解る。 そして…さっきも言ったが、俺の玩具に手を出した以上、生かしておくつもりは最初から無い」 「…それはわたしもだよ」 言いながらエルザが立ち上がる。 前進に爪による切り傷が走り、汗の代わりに流しているかのように錯覚するほどの血が流れている。 だが、それでもエルザは不敵な笑みを浮かべながらしっかりと立っている。 「…悪いけど、エルザ本気で怒ったよ? おじさん…もう容赦しないから」 「御託並べてないでとっと来な? それとも、口上並べているうちに切り裂かれたいのか?」 言いながら爪を見せる。 すると、エルザはマントで全身を覆い隠した。 何をするつもりだ? とジャンガが怪訝な表情をすると、突如無数の蝙蝠が現れてエルザへと纏わり付いていく。 どこからどもなく現れる蝙蝠に次々と纏わり付かれ、エルザの身体は大きくなったように膨張していく。 やがて、エルザの姿は見えなくなり巨大な黒い塊がその場に現れた。 と、黒い塊が”翼を広げた”。 それは一匹の巨大な蝙蝠だった。大きさは五メイルにも達するだろう。 「…吸血鬼のクソガキが大鎌を持って死神の真似事をしたと思ったら、今度は蝙蝠に化けたか……何のハッタリだ?」 『ふざけられるのもここまでだよ?』 微妙に高くなった声で蝙蝠――エルザが言う。 「ハァ~…、別に良いがよ。来るんだったらさっさと――ッッ!?」 ――目の前に顎を大きく開き、牙を除かせた蝙蝠の顔があった。 両の爪でその牙を掴み、全力で押し止める。 「チィッ…」 『これでもハッタリだと思う?』 ジャンガに牙を突き立てんとしながらエルザが言った。 …ギリギリだった。僅かにでも反応が遅れていたら、目の前の鋭い牙が突き刺さっていただろう。 「…ハッタリじゃないのは解った。だがよ…相手を仕留められなきゃ、意味無ェゼ!!!」 素早く足を振り上げ、無防備な胴体を蹴り上げる。 エルザの口から呻き声と共に血が溢れ、身体が大きく跳ね上がった。 間髪入れず、ジャンガは爪を叩き込む。 しかし、エルザは素早く翼を羽ばたかせ、その場を離れる。 巻き起こる旋風がジャンガの身体に吹き付けた。 「くっ…」 致命的過ぎる隙だった…。 エルザは急旋回し、今度は逆に無防備になったジャンガの腹目掛け、牙を剥いて突撃した。 ――ジャンガの腹にエルザの鋭い牙が食い込んだ。 「ガッ…!?」 激痛に苦悶の声を漏らす。血が気管に入り込んだのか、口から血が溢れた。 『もらったよ…』 嬉しそうにエルザは言い、顎に力を込める。牙が更に身体に食い込んでいく。 骨と内臓が圧迫され、全身が悲鳴を上げ始めた。 ――不味い…、このままでは噛み砕かれる。 ジャンガは何とか逃れようと暴れるが、エルザはシッカリと咥え込んでいて外れそうにない。 『もう面倒だから…このまま噛み砕いてあげる。骨も残さずに食べてあげるよ』 言いながらエルザは更に力を込めていく。 それを見ていたルイズ達が何もしない訳がないが、実質何も出来なかった。 ジャンガの振り撒いた神経ガスにより涙や痒み、痛みが止まらない為まともに杖も構えられないのだ。 「クソが…」 徐々に意識が遠退いて行く…。 肋骨の一本が砕ける感触がした…。 腕も…、足も…、感覚は無い…。 …エルザの瞳が紅く輝く…。 …意識が消えていく…。 …意識が…。 ………。 ……。 『ぎゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーッッッ!!!?』 耳を劈く凄まじい悲鳴が響き渡る。 ドサリ、と音がしてジャンガの身体が地面に投げ出された。 何故地面に落ちたかなど、エルザが咥えていたのを放しただけだろうが、一体どうして? 痛む身体に鞭打ち、起き上がるジャンガが見るとエルザは両の翼で顔を抑えてのた打ち回っている。 その翼の隙間からは夥しい量の血が流れている。 更に目の辺りからは一本の大きな氷の矢が突き刺さっている。 タバサか? とジャンガは顔を向けるが、当人は相変わらず顔を擦っている。 だが、エルザの叫びには気が付いたらしく、涙で濡れた顔を向けていた。 「大丈夫ですか、ジャンガさん!?」 その場に先程までは聞こえなかった声が響く。 見ればアンリエッタが水晶の付いた立派な杖を構えているのが見えた。傍にはアニエスと何故だかティファニアの姿もあった。 ガスは既に消えているから吸い込んだりなどはして無いようだ。 ジャンガは荒々しく呼吸を繰り返しながらフラフラと立ち上がる。 何とか痛みに耐えながら氷の矢を引き抜いたエルザも同様に立ち上がる。 潰れたのは右目らしく、残った左目でジャンガを睨み付けた。 怪しかった目の輝きは今や炎の様な輝きになっている。…怒り狂っているのは確実だった。 『う、ううう……ゆ、許さないッッ!!!』 「テメェに…許しなんざ請う必要がどこにあんだ…? いいから…とっととくたばりなッッ!!」 『ああああああああッッッ!!!!!』 奇声を発してエルザが両翼を広げる。 同時に空気が震え、ビリビリとした衝撃がジャンガの全身を襲う。 傷だらけでボロボロなジャンガの身体に更なる激痛が走る。 「グッ……な、なんだ…こいつは…」 『超音波だよ! 知らないの!? 蝙蝠はこれで餌や障害物を見つけたりするんだよ! でも、それは強くすれば生き物を殺して、物を壊せるんだよ!』 エルザが叫ぶや、その口から放たれる超音波は更に強力になっていく。 頭痛がする…、耳鳴りがする…、全身の細胞が…神経が悲鳴を上げる…。 ジャンガだけでなく、ルイズやアンリエッタも耳を押さえ、地面に蹲る。 『死んじゃえ! 死んじゃえ! おねえちゃん以外はメイジも人間も、み~~んな死んじゃえッッッ!!!』 狂気に満ちた声が響き渡る。完全に我を失っていた。 地面が砕け、木々が圧し折れ、森が破壊されていく。 ジャンガは、ギリッと歯を噛み締める。 痛みに耐えているからではない…、目の前で暴れる吸血鬼<クソガキ>に対して苛立っているからだ。 「いい加減ウルセェんだよ…、ハァ…」 息を吐き、腕を振り上げる。グルグルと物を投げる為の予備動作のように勢いを付けて回す。 「とっとと、くたばってやがれッッ!!!」 叫ぶや、勢いを付けた腕を一気に振り上げる。 巨大なカッターが超音波を切り裂きながらエルザ目掛けて飛ぶ。 エルザが目を見開くと同時に、カッターは彼女の右の肩口を大きく切り裂く。 声にならない獣の様な叫び声を上げるエルザ。 ジャンガは素早くエルザに組み付き、懐から出したハンドライフルを胸板に押し付ける。 「地獄の果てに、ハァ…、送ってやるゼ…。三途の川の…渡し賃はサービス…しといてやる」 『ッッッ!!?』 引き金を引く。 直後、巻き起こる大爆発。 爆発に吹き飛ばされたジャンガとエルザは正反対の方向にすっ飛んだ。 木に叩きつけられ、ジャンガは盛大に血を吐く。 「ジャンガさん!?」 「…ハァ…、テメェもこんな所まで……ご苦労な…グッ…」 「喋ってはダメです!」 アンリエッタは杖を翳して”治癒”を唱える。 ジャンガの傷が少しずつ塞がっていく。 漸く神経ガスの責め苦から解放されたタバサも、ジャンガに拙いながらも治癒を唱えた。 しかし、ジャンガはまだ酷い怪我にも拘らず立ち上がろうとする。 「ダメです、まだ傷が…」 「大人しくしていて」 アンリエッタとタバサは止めるが、ジャンガはその手を振り解く。 「…まだ…あのガキは仕留めて…いねェ…」 ジャンガの視線の先へと皆は顔を向ける。 暗闇の中から血だらけのエルザが姿を現した。 夥しい血が全身から流れ落ち、アンリエッタの氷の矢で傷つけられた右目はポッカリと穴が開いている。 右の肩口は腰の辺りまでパックリと裂けており、まるで割る為に開いた割り箸の様だ。 正直、吸血鬼であっても生きているのがおかしい状態だ。 そんなボロボロな身体になってもエルザは燃えるような怒りを目に宿し、ジャンガを睨み付けている。 「ゆ、許さ…ない…。絶対に……絶対に…、殺してやる…、殺してやるんだからッッッ!!!」 怒号。凄まじい叫び声は木々を揺らし、夜空に浮かぶ雲を散らす。 ジャンガは不快感を隠しもしない顔でエルザを睨み返す。 「ウルセェ…、今…何時だと…思ってやがる…。静かに…しやがれ…」 「うるさい! 殺すと言ったら……殺――」 エルザは唐突に言葉を止める。 空の彼方を見つめたまま恐怖に怯えた表情で悔しそうに歯を噛み締める。 「…太陽…」 呆然と呟く。 ――直後、陽光が森を照らした。 「嫌ああああああぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーッッッッッ!!!!!?」 エルザの絶叫が迸る。 日に照らされた顔をマントで厳重に覆い、顔を背ける。 吸血鬼は日の光に弱い…、その弱点はガーレンに拾われて強化されても変わらなかったようだ。 苦しそうに呻きながら森の暗闇に引き返すエルザは、一度だけ暗闇の中からギラギラと輝く片目で睨んだ。 「絶対に…この屈辱は…忘れない…。絶対に…復讐してやる…」 ジャンガを睨み、次いでアンリエッタを睨む。 「わたしの顔に傷を付けた…メイジのおねえちゃんにも復讐するから! 絶対にこの痛みは忘れないからッッッ!!!」 力の限り、怒りのままに叫ぶと、エルザは暗闇の中に消えていった。 エルザの気配が消え、一同は一斉に安堵の息を漏らした。 張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。 ジャンガはアンリエッタへと顔を向ける。 「今回ばかりは礼を言ってやる…」 「わたしはたくさん作っている借りを返しただけです。御礼は必要ありませんわ」 そう言って笑うアンリエッタに、ジャンガも笑って返した。 「あ、ああ……嫌あああぁぁぁ!!!?」 …突然聞こえたティファニアの叫び声に一同は驚いた。 見れば、ティファニアは地面に倒れた頭の無い死体を抱えている。 それはエルザに屍人鬼にされ、頭を破壊された少年の物だった。 「ティム!? ティム!?」 頻りに叫んでいる名は彼女が帰って来ないのを心配した少年の名だ。 死体の着ている服を認め、ジャンガは小さくため息を吐く。 そして、何とか立ち上がりティファニアの元へと歩み寄る。 「頭が吹っ飛んでるのに、生きているわけねェだろうが…」 ティファニアが涙に濡れた顔を向ける。 「同情とかならしねェぞ…。こんな所に何時までも閉じこもってるからこうなったんだ。自業自得だ…諦めろ」 「そんな言い方は…」 「言い方も何も無ェ…、事実だろが」 「待って! それは違う…」 タバサが口を挟む。 ジャンガはゆっくりと振り返る。 「何が違うってんだ?」 「…エルザはわたしが狙いだった…。そして、あの子はそれに巻き込まれた被害者…」 タバサはティファニアに抱かれた物言わぬ少年を見る。 「…で?」 それがどうした? とでも言わんばかりの態度でジャンガは聞き返す。 「…原因はわたし達にある…。不用意にこんな所に来たりしなかったら…あの子は死なずにすんだから…。だから…」 「だから責めるのは間違ってる…ってか?」 タバサは深く頷く。 「…それならわたしにも責任はありますね。あの吸血鬼はわたしにも用があったみたいですから…」 それまで事の成り行きを見守っていたカトレアが唐突に口を開き、 驚いたルイズやエレオノールは彼女を振り返る。 「ちいねえさま、何を言っているの!? ちいねえさまに責任なんか無いわ…、全部あの吸血鬼がした事じゃないの?」 「ちびルイズの言うとおりだわ。カトレア、あなたが気に病む必要など無いのよ?」 でも、とカトレアが言い掛けた時、誰かの言葉が遮った。 「そうですわね。…一番の原因はわたくしにあります」 そう言ったのはアンリエッタだった。 「陛下? 何を言って…」 アニエスの言葉をアンリエッタは手で静する。 彼女は申し訳ない表情でティファニアを見つめる。 「わたくしがここへ長居をしたから、ルイズ達はわたくし達を探しにここにやって来た。 それが引いてはあの吸血鬼を呼び寄せてしまい…、結果的にその少年の命を奪ってしまったのです」 その場の誰もが黙り込む中、アンリエッタは言葉を続ける。 「…アニエスが迎えに来てくれたあの日に帰国していれば、このような事態は避けられたはずなのに…」 そう言って彼女はティファニアに頭を垂れた。 「全てはわたくしの判断ミスです。…ティファニアさん、申し訳ありません」 しかし、ティファニアは大きく首を振った。 溢れる涙が雫となって飛び散る。 「陛下や皆さんだけが悪い訳じゃありません…。わたしも…不注意でした…。 森に遊びに行かせても必ず戻って来たから…子供達への注意を怠ってしまったんです。 わたしがもっとしっかりしていれば…」 「でも、わたし達があいつを呼び寄せたのには変わらない…」 タバサは申し訳無さそうに言い、目を伏せた。 それまで黙って話を聞いていたジャンガは深くため息を吐いた。 「じゃあなにか? 今回の事が無けりゃ、この先ずっとここは平穏無事だった……とでも言う気かよ? ハッ、ガーレンが虚無を集めているガリアと組んでいるんなら遅かれ早かれ…ここには手が伸びていたさ」 以前、虚無の使い魔であるミョズニトニルンであるシェフィールドと組み、ルイズを拉致しようとした事があった。 シェフィールドがガリアの者だと言う事を考えれば在りえない事ではないだろう。 「まぁ…百歩譲って奴を呼んだ責任がこっちに有ると認めるとしてだ…。 俺達なんかがいない時にあれに出くわして…お前はガキ共守りきれるのか?」 ジャンガの言葉にティファニアは口篭る。 たまにやって来る盗賊などとは違う圧倒的な恐怖を感じた、恐ろしい相手――吸血鬼 自分にあれと立ち向かう事が出来るか? と問われたら”できない”と答えるしかない。 記憶を奪う呪文も人間以外には試した事が無い以上、聞くかどうかも保証が無い。 黙り込む彼女をジャンガは暫く見つめていたが、やがて背を向ける。 「ま、お前には色々と借りが在るし…これ以上は言わないでおいてやる。 だがよ…次に何かあったとしても俺は知らねェぞ。何度もこんな所に足を運ぶほど、俺は物好きじゃないからな…。 それでもいいなら好きにしな…。またこんな事が起きる恐怖に怯えながら暮らしやがれ」 じゃあな、と話を打ち切りジャンガは村の方へと歩き去って行った。 ジャンガの姿が見えなくなり、ティファニアは腕の中の子供に目を落とした。 アンリエッタがそんな彼女に声を掛ける。 「ごめんなさい、彼は少し口が悪くて…」 しかし、ティファニアは首を振った。 ――あの亜人の言う事には一理ある。 いつかはこんな事になるかもしれない…と、今まであのようなものが来なかったのは偶然だった…と、薄々は考えていた。 しかし、何時までも平穏無事に過ごせる……そんな甘い考えが自分の中に僅かに在った。 暗い場所に閉じこもって、平穏無事に過ごせるなどありえない…。それを自分は母が殺された時に知ったのではないか? 自分から何もしないで何かが変わるわけでもない…、誰かが変えてくれるわけでもない…。 自分がしなければならないのだ…。それなのに…。 「ごめんね…、ごめんね…、ごめんね…」 もう顔も見れない少年の身体に顔を埋め、ティファニアは暫く泣き続けた。 ――数時間後―― 「皆…用意は出来た?」 ティファニアは子供達を振り返る。 子供達から一斉に「は~い」という元気な返事が返ってきた。 ――あの後、ティファニアはトリステイン行きを了承した。 理由はやはり子供達の安全の為が大きいが、何も知らない自分の無力さを痛感したティファニア自身が外の世界を見たいと思った事もあった。 エルザに殺されたティムは直ぐに簡易的な火葬にし、遺骨はティファニアの手の中にある。 この場に埋葬した方が一番手っ取り早かったのだが、一人だけこの場に残すのは可哀想だとティファニアが言ったのだ。 子供達はティムの行方を当然ティファニアに尋ねたが、彼女の辛そうな表情を見るとそれ以上の事は聞かなかった。 また、最初は場の空気の為に気づけなかったルイズ達はティファニアがハーフエルフだと知り、大層驚いていた。 しかし彼女がアンリエッタの説明で無きアルビオン王家の血を引く者であり、争いを嫌う心優しい存在であると知り、とりあえずは丸く収まった。 「んじゃ、とっとと行くゼ」 ジャンガはそう言いながら一人で歩いて行く。 そんな彼の背にルイズは声を投げかける。 「ちょっと待ちなさいよ!? アンタ一人で行ったってしょうがないでしょう!」 「ルセェな…。だったらもたもたすんじゃネェよ」 振り向かず、足も止めないままそれだけ言う。 ルイズはイライラしたが、カトレアに優しく宥められ、怒りを飲み込んだ。 エレオノールはそれを見ながら、呆れたようにため息を吐く。 その横を再び人に化けさせたシルフィードと一緒にタバサが通り過ぎて行く。 そんな彼女達を微笑みながら見つめるアンリエッタはティファニアを見つめた。 「さ、行きましょう」 「はい…陛下」 「アンリエッタで宜しいですわ、ティファニア殿」 「はい…アンリエッタさん」 そう言い、ティファニアは差し出された手を取った。 森を出る時、名残惜しそうに一度だけティファニアは村の方を振り返った。 (さようなら…) 心の中で長く住んだ村に別れを告げる。 そして、ティファニアは外の世界へと一歩を踏み出した。 ――同時刻:???―― 何処にあるとも知れない、暗く広い空間。 しかし、そこは全くの闇に閉ざされている訳ではなく、所々に明かりが灯っている。 ――それはハルケギニアでは決してお目にかかれない、電子機器の輝きだ。 その部屋の一角が一層の輝きを放っている。 そこには円筒状の巨大なカプセル――否、水槽と呼ぶべき物が在った。 鮮やかな緑色の輝きを放つそれの中には何かが浮かべられている。 エルザだ。ボロボロに切り刻まれ、右半身も肩口から切り裂かれ千切れかかっているままの姿。 その身体に無数のコードが付けられ、口には呼吸器が付けられていた。 「気分はどうだ?」 暗闇の中から声が響く。エルザは目を開き、姿を現した相手を睨みつける。 「最悪だよ…」 「そうか…。ククク、まぁ無理も無いか」 姿を現したのはガーレンだった。ボロボロのエルザを見ながら不気味な笑みを浮かべる。 此処はガーレンが新しく作った秘密の地下基地。”向こう”の『ルナベース』とほぼ同じ規模を誇っている。 エルザが入っているのは彼女専用に調整してある生体ポッドだ。 「それにしても、見事なまでにやられたな? まぁ…羽目を外しすぎた結果だ。その苦痛は甘んじて受けるんだな」 「…悔しい……。絶対に…、絶対に許さない…。あの亜人…ジャンガ……それに…あのメイジ…アンリエッタ……殺してやる…」 心底無念そうに呟くエルザ。 「早く…治らないかな…。治ったら…直ぐに…御礼しに行くのに…。そして…おねえちゃんも…わたしの物に…」 「それは残念ながら無理だ」 ガーレンの呟きがエルザの言葉を遮る。 「どう言う事…それ?」 怪訝な表情を浮かべるエルザにガーレンは答える。 「次の予定が迫っている…、残念ながら貴様の好きに出来る時間は一時終わりだ。…それに、次は”奴”の番だからな」 「そ、そんな……」 「なに焦るな…、何事も無ければ直ぐに貴様の次の自由はやって来る」 「…本当?」 「無論だ。”何事も無ければ”だが…」 エルザが身体を乱暴に揺さぶった。 「何事も無く進ませる! エルザが…邪魔させない! 絶対に…絶対に…」 ガーレンは手を振って嗜める。 「解った、解った。あまり動くな…完治が伸びるぞ?」 そう言われてエルザは暴れるのを止めた。 それを見てガーレンは満足げに頷く。 「それで良い。我輩の言うとおりに動いていれば万事は上手く行く」 ガーレンは静かにほくそ笑んだ。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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住所録 【KSハウス】 ブリー ソルクレスト 長い通り8番地 【個人宅】 Name エリア インスタンス 番地 アンドゥオル ブリー エトフィールド 泉通り1番地 レノア ブリー ソルクレスト 長い通り6番地 Everin トーリン グロルスヴォル 割れた三日月二番地 Yusis ファラスロルン タンド・ローリエル 防水堤通り七番地 コヨーテ ホビット エルムヌック 白墨通り三番地 スォート ブリー ソルクレスト 長い通り7番地(KSの隣) Krisna ホビット レインガリー マートルの庭二番地 ビガーパンツ ブリー ソルクレスト 栗毛通り一番地 Jasminetea ホビット ウィードハロウ 白墨通り一番地 レニア ブリー ソルクレスト 広浅瀬通り一番地
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