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清水寺、八坂神社を参拝した後は祇園の街を散策。先斗町で京懐石に舌鼓を打ち、二人は三条大橋を臨む鴨川の河原に並んで座りぼーっとしていた。 モーニング娘。のメンバーとしての慌しい日常とは別世界に来たような、ゆっくりと流れる時間。 「ねぇ、え…」 ついうっかりと絵里、と呼びそうになった時にタイミングよくさゆみの携帯がメールの着信を知らせた。 「道重さん、里保の着ボイス設定してるってどれだけ里保のこと好きなんですか」 呆れるように言う衣梨奈(絵里)を無視してメールを開く。 メールは"ある人物"からだった。 『道重さーん、OKです♪ていうか、もうお二人の近くにいますよぉ!』 そっと左右に目をやってみるとほんの数十メートル離れた場所に"ある人物"、譜久村聖が満面の笑みで手を振っていた。 あっちへ行け、と必死でジェスチャーで合図を送って座りなおすと、不思議そうに顔を覗き込む衣梨奈と目が合った。 「道重さん、何してるんですか?」 「な、何でもないよ」 さゆみは何とか笑顔を作って答えながら、そっと冷や汗を拭った。 その夜。 さゆみはホテルの部屋をそっと抜け出し、ロビーで聖と落ち合った。 「フクちゃん早すぎ。何であんなに早く京都に来れたの?」 作戦会議の前にさゆみが気になっていた疑問をぶつけると、聖はこともなげに答えた。 「ああ、譜久村家の自家用リニア『譜久ノ内線』なら1時間もあれば京都に着きますよ。道重さんのお家にはないんですか?」 「いやいやいや。ていうか、どんだけお金持ちのお嬢様なの?それにさゆみたちの居場所もなぜか知ってるし」 「あれは自家用衛星で道重さんの携帯のGPS情報をキャッチしたんです」 さゆみは頭痛がしてきたので本題に移ることにした。 「生田衣梨奈と亀井絵里の心が入れ替わってるのはほぼ間違いないと思うの。ここまでは前にちょっと話したよね」 さゆみの言葉に聖は肯く。 「道重さんの話が最初は信じられなかったんですけど、そう言われて見てみるとふとした仕草が亀井さんっぽいんですよね」 「さすが絵里ヲタ!まあいいや。で、いくらメンバーを混乱させないためとは言っても隠してるなんて水臭いじゃない。…って、何で泣いてんの?」 「だって、亀井さんのやさしさに感動しちゃって…」 面倒くさいなぁ、と内心ちらっと思ったさゆみだったが、構わず話を続けた。 「ストレートにぶつかっても絵里は本当のことを言わないだろうから、ちょっと強引だけどひと芝居して驚かしてボロを出すように持って行くの」 二人での綿密な打ち合わせを終えると、ちらりと時計を見てさゆみは立ち上がった。 「そろそろ戻らないと怪しまれるから戻るね。じゃ、メールで合図したら打ち合わせ通りお願い」 「分かりました!」 さゆみは聖と別れて衣梨奈、いや絵里の待つ部屋へと急いで戻った。
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「おちついた?」 クーパーはリディアに声をかけた。 リディアはおろおろとしながらもコクリと肯く。 ある意味それは素っ気無くてクーパーはちょっとがっかりしたが、へこたれなかった。 自分たちがここに来た経緯と、ここであったこと…ジタンたちとの戦闘は誤魔化した…を話す。 ひとしきり話した後で、リディアのこれまでを聞いた。 リディアは途端に涙ぐんだが、それでも祠であったことを話し出した。 祠の前で起った争い、祠に侵入してきた者、 命がけで自分を助けようとしてくれたピピン、なのに掴まってしまった自分、 自分のせいで抵抗も出来ず炎の中に消えていくピピン、そして今度はターバンをかぶった男が脅されて… 「ターバンをかぶった!?」 そこで、クーパーが大声を上げた。 リディアの話を隣で聞いていたライアンも反応する。 「とんぬら殿か。やはり北に流されたようでござるな」 「お父さんのこと知ってるの!?」 お父さん、という言葉にリディア、ライアン、側にいたバーバラも目を丸くする。 ライアンはなるほど、と肯いた。 「うむ。そう言えばとんぬら殿は子供を捜していたでござる」 「お父さんが…あそこに」 クーパーはフラフラと二歩三歩した。それからぺたんと座り込む。 もしも…もしもなどないということは承知しているが――――もし、祠に残っていたら。 そして祠に戻っていたら。自分には、戻る機会が与えられていたのだ。 なのに…自分は神殿に来て、そして自分たちが神殿に来たことで人が死んでしまった。 ピエールだって、死ぬことはなかったはずだ。 失敗した。自分は誤ってしまったのだ… クーパーの目の前は真っ白になった。 しばらくして、デスピサロは静かに顔を上げた。 「ハーゴンは死んだが、幸いにしてノウハウと必要な道具は一通り揃っているようだ。 儀式は行う。ただ、今すぐというわけには行かぬ」 「何か問題でも?」 側に控えたサマンサが問うと、デスピサロは一瞥して答える。 「純粋に術者が儀式のことを知らない。サマンサ、この儀式はお前が仕切れ」 サマンサはその言葉に驚いた。完全を求めるデスピサロのことだ、彼自身が執り行うものと考えていたが… 「その小娘は相当消耗しているので、朝まで休ませる。 お前は朝までに儀式の全容を把握し、小娘の回復を待て」 「小娘小娘って…私にはバーバラって名前が!」 そんなバーバラの抗議をあからさまに無視して、サマンサは問う。 「しかし、ピサロ卿はなにをされるのです?」 「私は他にやることがある。マジャスティスを完成させねばならん」 『マジャスティス…?』 サマンサ、バーバラが唱和した。 デスピサロは肯くと、 「上手くいけば、ゾーマの結界を剥ぎ取れるかも知れぬ呪文だ。完成すれば必ず役に立とう」 「そのようなものを…承知いたしました。儀式は私にお任せください」 感嘆の色を滲ませながら恭しく答えるサマンサに、デスピサロは薄く笑みを返した。 「頼むぞ」 デスピサロはライアンを横目で見る。 「何があるのかまだ油断できぬ、側でサマンサたちを守ってやれ」 「承知でござる」 次にデッシュ。 「貴様の用事は私が聞こう。こちらにもやることがあるから、片手間になるがな」 「それでも十分だ。助かるぜ」 そして、最後にバッツたちを見た。 「お前たちにはジタンの役割を引き継いでもらう。魔法使いを探し、連れてくるのだ。 とはいえ、その体ではロクに動けぬだろうから明け方までは体を休めろ」 「…ああ。クーパーもそれでいいな?」 クーパーは即答しなかった。よろよろと立ち上がると、 「僕は…祠に戻る」 「クーパー?」 そして何かを言おうとしたデスピサロに先制して言い放つ。 「お父さんは、失われた古代魔法を復活させることを手伝った事もあるんだ。 勿論、魔法だって使えるよ!」 とはいえ、復活させた魔法はデスピサロたちの時代には普通に使えていたルーラだが。 そんなことをデスピサロは知らないので、 「心当たりがあるということなら、構わん」 「私も…行く」 そういうリディアに、デスピサロは平然と言い放つ。 「好きにするがいい」 「リディア…」 「ごめんなさい、でもピピンに謝りに行きたいの…どうしても」 「………わかった。一緒に行こう」 「ありがとう、クーパー」 バッツはそんなやり取りをする二人を見ていた。 さっき名前を聞いたからだろうか…大人しいのに芯が強く、自分を曲げないリディアの姿が、レナと重なった。 サマンサはそっとデスピサロに尋ねた。 「よろしいのですか?あの娘の同行を認めても」 「かまわん。あの手の輩は意のままに動かすより、裁量に任せた方がいい。 ある程度譲歩すればこちらへの融通を利かせるだろう。 逆に人質をとろうものなら、我等を敵に見なす可能性もある」 それに…デスピサロは思った。あの娘の魔力は枯渇している。 器の大きさは凄まじいが、何らかの理由で魔力の源を潰してしまったようだ。 当り前だが、源は回復魔法では癒えない。 おそらく、あの娘は一生魔法は使えないだろう。 そんな子供を確保していても、こちらの負担になるだけだ。 ならば、クーパーに押し付けてしまったほうがよい。 デスピサロは一瞬冷笑を浮かべ、そして全員に言った。 「以上だ。各自、行動を開始しろ」 【バッツ@魔法剣士(アビリティ:白魔法) 所持品:ブレイブブレイド グレネード五個 レナのペンダント 第一行動方針:明け方まで休憩、クーパー達と共に行動する 第二行動方針:アリーナ(アニー)、とんぬら、パパスを捜す 最終行動方針:ゲームを抜け、ゾーマを倒す】 【リディア(魔法使用不可) 所持品:なし 第一行動方針:明け方まで休憩、祠に戻る 第二行動方針:エーコと合流 第三行動方針:仲間(セシル?)を捜す】 【クーパー 所持品:珊瑚の剣 天空の盾 天空の兜 第一行動方針:明け方まで休憩、祠に戻る 第二行動方針:アリーナ(アニー)、とんぬら、パパスを捜す 最終行動方針:ゲームを抜け、ゾーマを倒す】 【現在位置:神殿ハーゴンの自室の前】 【サマンサ 所持品:勲章 星降る腕輪 手榴弾×1 ハーゴンの呪術用具一式 第一行動方針:儀式の準備 基本行動方針:デスピサロに従う 最終行動方針:生き残る】 【ライアン 所持品:大地のハンマー エドガーのメモ(写し) 第一行動方針:サマンサ、バーバラを守る 基本行動方針:来る者は拒まず、去るものは追わず】 【バーバラ 所持品:果物ナイフ ホイミンの核 メイジマッシャー 第一行動方針:朝まで休憩】 【現在位置:神殿ハーゴンの自室の前】 【デスピサロ 所持品:『光の玉』について書かれた本 第一行動方針:呪術の実行・マジャスティスを完成させる 第二行動方針:魔法使いを探す・腕輪を探す・偵察 最終行動方針:ロザリーの元に帰る】 【デッシュ 所持品:首輪 裁きの杖 第一行動方針:デスピサロに手伝ってもらって首輪を調べる 第二行動方針:エドガーに会う 最終行動方針:首輪を解除しゲーム脱出】 【現在位置:神殿ハーゴンの自室の前】 ←PREV INDEX NEXT→ ←PREV デッシュ NEXT→ ←PREV リディア NEXT→ ←PREV バッツ NEXT→ ←PREV サマンサ NEXT→ ←PREV ライアン NEXT→ ←PREV デスピサロ NEXT→ ←PREV クーパー NEXT→ ←PREV バーバラ NEXT→
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一日目は待ち続けた。 彼はどこかに遊びに行ったのか、それとも急な仕事が出来たのかと一人納得して待った。 二日目は不安にさいなまれた。 今どこにいるのか。何故帰ってこないのか。何かあったのかと不安が頭から離れない。 三日目に思った。思ってはいけないことを思ってしまった。 ありえないことだが、もしかしたら、自分は捨てられたのではないかと。 そして四日目は ホワイトファング・ハウリングソウル 第三十五話 『竹林航路にうってつけの日』 「・・・で、本当にこの雨の中行くわけ?」 記四季の竹山の麓にあるバス停。その停留所の屋根の下で春奈は呟いた。 彼女の視線の先は大粒の雨が降り注ぐ曇天である。 「しかたないわよぅ! ここが一番通りやすそうなんだものぅ!」 春奈の呟きに吉岡がオネェ言葉で返す。 その手には彼が整備した神姫用バイクが二台と・・・四輪車が一台抱えられていた。言うまでもなくイーグルとホーク、それにフェンリルである。 「・・・通りやすそうかどうかはともかくとして、ここから入ったほうが一番間に合うからね」 停留所に備え付けられた椅子の上、アメティスタが言う。 その横ではハウとサラがなぜか柔軟体操をしていた。気合を入れているのだろう。 そんな様子を彼女が見ていると都が話しかけてきた。 「アメティスタ。今のところ未来はどうだ?」 「今日この時間に出たら無事に辿り着くってだけ。帰りの分は視えないよ」 「つくのはどのくらいだ」 「三時間弱。順調に行っても帰ってくるのは六時間と少しかかるね」 「・・・そうか」 都も不安なのだろう。 彼女たちが今やろうとしていることは、誰もが考えそして却下せざるをえなかった案だ。 正直言ってありきたり過ぎてる上に普通ならまずやろうとはしないだろう。そう、“普通”ならば。 「・・・じゃ、もう一回おさらいしておこうか。今から十分後に発進、アメティスタの予知能力により避けられる障害物は全て避け、最短ルートでおじい様の屋敷を目指す。目標はそこにいると思われる彩女の救出」 都の言葉にそこにいた全員が肯く。 「ハウ、サラ、アメティスタの三人は予備バッテリーを装備してヴィーグルに搭乗。なおヴィーグル三機はいずれも走行距離の延長やらなんやら弄ってあるから、バッテリー切れの心配もない。そしておじい様の屋敷に着いたらアメティスタのフェンリルに彩女乗せて一目散に帰って来る、と」 そう、それが作戦。 通常の神姫なら歩いていくのはまず不可能。しかしヴィーグルに搭乗していたならば?しかも予備のバッテリーを積み込み、泥の上だろうと浮遊して移動できるなら? その答えがストライクイーグル、ブラックホークの二台。この二つはフローティングバイクである。地面から数ミリほど浮かんでいるため、路面の状況に左右されることがない。 ならばゴム製のタイヤを搭載したフェンリルはどうか? はっきりいって利点はあまりない。強いて言うなら安定性がバイクに比べて高いことだろう。にも拘らずアメティスタはこれで行くと言い切った。 このフェンリルでなくては、決して行かないと。 「ミヤコ、一つ質問があります。無線の使用は可能でしょうか?」 と、吉岡が置いた予備バッテリーをつけながらサラが言う。 「何度も使用するのは駄目だが・・・許可する。予備があるとは言っても何が起こるかわからないからな。あまり使うなよ?」 「イエスマム」 サラは敬礼するとストライクイーグルの最終調整に入る。 その姿は中々様になっていた。 「・・・ハウ・・・頑・・・張る」 「・・・うん。必ず彩女を連れて帰ってくるよ。だから待っててね」 その隣ではハウとノワールが話していた。 雨の日に拾われた彼女が、その雨の中友人を助けに行くと言うのは因果だろうか。 「・・・熱いねぇ。犬と悪魔のカップルは」 その様子をアメティスタがフェンリルに寄りかかりながら見ていた。 「ノワールが戦いに行く想い人を、名残惜しそうに見つめる恋人だとしたら、お前は差し詰め恋人を救いに馳せ参じる騎士だな」 「・・・悪くはないけど、そのセンスはどうかと思う」 アメティスタの呟きに都が返す。 「ふん、まぁセンスはどうでもいいのだよ。今は何よりも彩女だ。・・・おじい様の容態は悪くなる一方だし、これ以上延期も出来ないしな」 都の言葉を聞きながらアメティスタはフェンリルに乗り込む。足でクラッチを操作しエンジンを軽く吹かしてみた。 腰の奥から響く久しぶりの振動。両手で握り締めたハンドルも、懐かしい搭乗姿勢も何もかもが彼女を待ち望んでいたかのようにフィットする。 「・・・じゃ、そろそろ行こう。都さん、地面において」 「ん・・・うん」 アメティスタに言われ都はフェンリルと猛禽類のバイクを地面に置く。 置かれると同時にイーグルとホークにもエンジンがかかる。 「・・・みんな」 その様子を、不安そうに春奈が見つめていた。 「ハルナ。・・・わたし、この戦いが終わったら結婚するんですよ」 「二年前にも聞いたわよその死亡フラグ!?」 「んー・・・じゃぁいいです。めんどくさいし」 「放棄した!? ボケを放棄した!? ある意味新しい!!」 サラのボケに春奈が高速で突っ込む。 ・・・どんなときでも彼女たちはこうなのだろう。 と、明後日の方を見ながら惚けていたサラが急に振り返る。 「うん、ようやくいつも通りの顔になりましたね」 「・・・う、うるさいわよっ!」 満面の笑みで言われたその言葉に、春奈は顔を赤くしながら目を逸らした。 「・・・やっぱり春奈さんはツンデレだ」 「・・・・ん」 ハウとノワールはそういいいながら笑っていた。 「ハウ・・・お前も頑張るんだぞ」 「はい。雨の中走り回るのは得意ですから」 都の言葉にハウが苦笑しながら返す。 サラと春奈はその苦笑の意味が判らずに呆としていた。 「・・・なら、問題はないか」 都はそう呟くと肯いた。 最後に軽くハウの頭を撫でると停留所の椅子に腰掛ける。 「お前ら、必ず帰って来いよ」 その言葉に三人は無言で肯く。 「・・・じゃ、ちょっとドライブに行って来るよ」 髪を撫で付けながらアメティスタが 「大丈夫です。僕はサラさんと違って運転上手ですから」 帽子のつばを直しながらハウが 「・・・失礼な。最近はドリフトしてもこける回数が減ったんですよ?」 バイザーを下ろしながらサラが言った。 三人は三人ともクラッチを操作し、エンジンを吹かす。 まるでスタート合図を待っているかのように。 「・・・ん、それじゃぁ」 その呟きとともに、全員の視線がアメティスタに集中する。その中で、彼女は臆すことなく 「―――――行ってきます!」 そういってアクセルを全開にし、真っ先に雨の山へと走り出した。 前・・・次
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柳生霧呼を見る。 彼女はリラックスした様子で微笑んでいる。 攻撃の意思はなさそうだ。 しかし彼女は財団の実働部隊の長。我々とは恐らくこの先も相容れることは無いであろう人物だ。 ・・・我々を待っていたというが、何故あなたがここに? 警戒は解かず、まず最大の疑問を口にする。 「ここへは『神の門』の事を調べに来ていたのよ。そうしたら彼が貴方たちがここへ来ると言うから、どうせなら帰りはご一緒しようかと待っていたわけ」 「彼」とはガルーダの事らしい。キリコがガルーダを見てそう言う。 そしてガルーダはキリコの言葉にコクコクと肯いていた。 どうやら嘘は無いようだが・・・。 ・・・しかし・・・。 どうして我々と行動を共にしようと? 財団にとっては我々は敵対者ではないのか? 続いた疑問に、キリコは表情から微笑を消すと静かに目を閉じた。 「そうね。実際財団内部には貴方たちを敵視して排除に動こうとする動きもあるわ。・・・私は違うけど」 そう言ってキリコは瞳を開いて再びこちらを見る。 「いたずらに敵を増やすのは賢いやり方ではないわ。私の趣味じゃない。少なくとも現時点で私は貴方達と戦う必要性は感じないしそういうつもりはないの」 むう。・・・確かに、私の友人やアンカーの町に害を及ぼさないというのであれば神の門を狙っているという理由だけで私も財団と敵対するつもりは無い。 そんな事を言い出せば世界中の国々と敵対しなければいけなくなる。 いずれ争奪戦になるのかもしれないが、そもそも私は門の所有者というわけでもないのだ。 「・・・でも」 沈黙した私に代わって声を出したのはベルナデットだった。 「私としては落ち着かないわ。『自分の命を狙っている人間』と一緒に動くのは」 彼女の言葉に仲間達がハッとする。 キリコは笑っていた。そしてベルナデットの言葉を否定しなかった。 「予定は変わったわ。今はこの場にいる全員と敵対してまで貴女の命を取ろうとは思わないから安心しなさいな」 そう言って全員を見回すキリコ。 「どちらにせよ、『誰か1人は』生き残っていいのですものね。私は別にそれが貴女であっても構わない。むしろ、その後の事を考えるのならそれが一番望ましいと思っているわ」 彼女の言う「その後の事」とは、全てが終わって最後の魔人が世に再び解き放たれた時の事を言っているのだろう。 確かにその点でベルナデットは解放された後で何か面倒を巻き起こすような性格とは思えないが・・・。 「ウィリアム先生と組んだ機転もお見事だしね。これで先生は貴女を護って他の魔人達と戦わざるをえなくなったわ。私としてもそれは好都合だし、しばらくは様子を見ているつもりよ」 仲良くしましょうね、とキリコはそう自分の言葉を締め括った。 そんな流れで帰りの輿にはキリコが同乗する事になった。 一同を覆う空気は何だか微妙であり、行きに比べて会話も少ない道中となったが、キリコは1人そんな事はお構いなしに寛いだ様子で流れていく景色を眺めていた。 そして殊更にカルタスは怯えて彼女の顔色を伺っている。 ・・・何かあったんだろうか? 「キリコってさー。よくわかんないよね」 その当のキリコにDDがそう言っている。 「どう、わからないの?」 「えー? 色々となんかフクザツじゃん。財団の人間って言うけど、今まで私が見てきた財団の人間とはちょっと感じ違うし、凄く残酷だったり優しくしてくれたりさ」 言われてキリコは少し遠い目をする。 「確かに財団の人間の多くと私は少し違うかもしれないわね。彼らは良くも悪くも合理的だから。・・・でも、時に残酷で時に優しいっていうのは、それはどんな人間でもそういうものじゃない?」 そうかなー、とDDが首を捻る。 「私はいつも自分がしたい様にしてきただけ。これからもきっとそうよ。今は自分がそうしようと思って総帥とエメラダ様に従っているけど」 キリコの口にした名前には聞き覚えがあった。 エメラダ・ギャラガー・・・・財団総帥夫人、か・・・。 そして我々は無事に神都へ戻ってきた。 キリコは3層に宿をとっているらしく、エレベーターを途中で降りて別れた。 4層に戻るなり、バルカンは待ち構えていた神官達に仕事が山積みだと連行されていった。 案内させておいて気の毒だが、まあしょうがない・・・。 我々には他にやらなければならない事があった。 まずキャムデン宰相に我々が遺跡へ向かった事を誰かに話していないか問い詰めなくてはならん。 何もなかった時に大騒ぎにしたくないので、私は皆をバルカンの屋敷に向かわせてベルと2人だけで皇宮へとやってきた。 「先生、お帰りなさい。おお、元の姿に戻られたのですね」 笑顔でアレイオンが出迎えてくれる。 「遺跡はどうでした? 何か収穫でも?」 と、こちらが何か話す前からいきなりそう言われてしまう。 私は内心の動揺を隠しつつ、私達が遺跡へ向かったことは誰から?とアレイオンに尋ねた。 「キャムデン宰相閣下から伺いましたよ。・・・なんでも、猊下とベルの不在で騒ぎにならないようにと4将軍全員に注意を促しただとか」 ぐわ・・・ご丁寧に全員にか・・・。 容疑者の絞込すらできん・・・。 「言ってる内容に珍しく筋が通ってるだけに性質が悪いわね」 ベルも渋い顔をしている。 なんです?と不思議そうなアレイオンを適当に誤魔化すと、私たちは宰相の部屋へと向かった。 聞くだけ無駄かもしれんが、せめて話した後に誰か挙動のおかしかった者がいないか訊ねてみよう。 宰相の執務室の戸をノックして、入室の許可を受けてから中へと入る。 すると、そこには宰相の他にもう1人の人物がいた。 紅の将軍、クバードであった。 「先生、お戻りでしたか。ガルーダの助力を得ることはできましたか?」 クバードが腰を下ろしていた応接用の椅子から立ち上がってそう言う。 私は、ああ、とその問いに肯くと、将軍はどうしてここに?とクバードに訊ねた。 「私は宰相と神都の警備形態を新しくしようと打ち合わせですよ。最近教団の連中の動きも活発ですし、ガ・シアの出現もある。衛士の数を増やして警戒を厳重にしようという話になっているのです」 眼帯の将軍はそう丁寧に説明してくれた。 なるほど、と肯く。 ・・・しかし、これではこの場で例の話を切り出すのは無理だな・・・。 「下らぬわ!!! 警備など意味は無い!!! 人々を悪心のままに解き放て!!」 当の宰相は応接机に上がってそこで哄笑しとるし・・・・。 するとクバードがベルの包帯や絆創膏に気が付いた。 「どうした、ベルナデット。どこで負傷した?」 「遺跡で教団の待ち伏せに遭ったのよ。けど大丈夫よ。連中はガ・シアごと撃退したし傷も大したことないから」 ベルが答える。 ・・・すると、宰相の哄笑がピタリと止んだ。 ・・・・?・・・・ 宰相がこちらに背を向けて乗っていた応接用のテーブルから飛び降りた。 「・・・・教団の待ち伏せがあったのか・・・?」 振り向かずに宰相が尋ねた。 そうよ、とベルが肯く。 「・・・そうか・・・」 そう呟いたきり、宰相は黙り込んだ。 私たちは3人で顔を見合わせる。 恐らくは沈黙は1分に満たない間だったろう。 私は宰相の肩がほんのわずかに震えている事に気付いた。 やがてゆっくりと宰相が振り向く。その頬には涙が伝っていた。 そしてその涙を流す視線の先には、赤い鎧の眼帯の将軍がいる。 「・・・クバード、『お前だったのだな』 神皇様の幼馴染であり、4将軍中もっとも古くからその任を務め上げ、誰よりも尊敬されていたお前が・・・。最もありえぬと思っていたお前が・・・教団と通じていたのだな・・・。何故だクバード・・・何故皇国を・・・神皇様を裏切った・・・・!!!」 ・・・!? 突然の宰相の言葉に、私とベルは面食らって言葉を失った。 そしてそれは当の将軍も一緒であった。 「・・・突然何を言い出す、宰相。話がまるでわからぬぞ」 やや厳しい表情ながら普段の落ち着いた調子で言うクバード。 「最早言い逃れはできん、クバードよ。彼らが風の聖殿へ向かったことを知る者はお前だけなのだ」 手の甲で涙を拭うとキャムデン宰相が鋭くクバード将軍を睨んだ。 「何を馬鹿な、その事は宰相の口から我々4将軍全員に告げたと言ったではないか」 その通りだ・・・現にアレイオンは私が遺跡帰りだという事を知っていた。 「そうだ、私が4人に話した。・・・しかしだ、告げた彼らの行き先は『4人それぞれで異なるのだ』 アレイオンには南方ビルチアの寺院跡を、カーラには北東メーデの巨石群を、フェルテナージュには南東ダライムの祭壇をそれぞれ行き先として告げた。正しく風の聖殿へ彼らが向かう事を告げたのはお前だけなのだ、クバードよ」 クバードの眉間に皺が寄った。 外気にさらされている左の瞳の光が険しさを増した。 「・・・そして、残る3箇所の遺跡にはそれぞれ信頼できる者を送っておいた。彼らの先手を打って現地へ乗り込んでくる者がいないか見張るようにと・・・そして先程そのいずれに派遣した者からも何ら得るものは無し、と報告を受けたばかりよ・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 クバード将軍は答えない。 私は将軍の四肢が即座に動き出せるように緊張している事に気付く。 「最も可能性が低いだろうと思っていたお前に正しい行き先を告げていたが・・・皮肉にもそれが彼らの身を危険に晒す事となったか・・・」 半歩、クバード将軍が退く。何かやる気だ。 私はベルを庇う様に彼女の前に立った。 「・・・ゴルゴダ!!!!」 クバード将軍の叫びと彼の頭上の天井が踏み抜かれる音は同時だった。 クバードの前に長槍を手にしたゴルゴダが飛び降りてくる。 神剣を抜き放ち、奴へ向ける。ゴルゴダも同時に私に槍の切っ先を向ける。 彼我の距離は4m程・・・互いに手にした武器を突きつけ合い私たちは静止した。 「化けたなウィリアム。それが本当のお前か・・・・予想以上のバケモンだな」 ・・・お前にそう言われるのは心外だ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 この身体、この力で・・・恐らく互角・・・か。 「どうだ、やれるか? 私は宰相の相手をせねばならん」 背後からゴルゴダにクバードがそう声をかける。 「やれんとは言わんが、あんたの望む手早さでは無理だぜ」 彼らは時間をかけられまい。 この場に長く留まればこちらには援軍がどんどん駆け付けてくるのだ。 「この場で始末できればまだどうにか取り繕い様もあるものを・・・」 忌々しそうに舌打ちするとクバードが右の目を覆う眼帯に手をかける。 「・・・・いけない! ウィル!!!」 切羽詰った声を出すベル。 眼帯の下のクバードの右の瞳の色は左と違う真紅だった。 そしてその赤い瞳が輝く。 ・・・・・・・・・・・カルタス!!!! 私の叫びと私の頭上の天井が踏み抜かれるのは同時だった。 私の眼前にカルタスが顔面から落下する。 慌ててその首根っこを引っつかんで持ち上げた。 宰相の部屋を炎が覆う。 私に襟首掴まれたカルタスが力一杯鼻息を吹き、辛うじて迫る炎を押し戻す。 「行くぞ、ゴルゴダ」 「・・・はいよ」 そして渦巻く炎の向こうに2人の男は消えていったのだった。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ 第15話 4← →第16話 戦士達の厨房
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飛空船が降下してくる。 必死にバランスを取ろうとしているのがわかるが、結界への衝突と突破が機体のあちこちに破損を生じさせている。これ以上の飛行は無理そうなのが見てわかった。 それでも操縦士の腕がいいのか、何とか飛空船は市外の空き地へ上手く不時着した。 「・・・乗員を捕らえよ」 兵士達に指示を出すクバードに待ってくれと声をかける。 ・・・なるべく穏便に願いたい。身内なのだ・・・。 「・・・お話を伺う必要がありそうですな」 表情を変えずにクバードが言った。 執務室へ逆戻りで私は彼女達は私の身内で、私を探しに来たのだろうと説明した。 そして後は平身低頭でひたすら謝罪する。 結界破りと領空侵犯の罪がこの国では軽い事を祈りつつ・・・だ。 DD達は既に別室へ拘束されている。 話がこれ以上面倒な事にならないように、兵士達には私の名前を出して連行してもらった。 今は別室で大人しくしているらしい。 私の話を聞き終わったクバードは暫く何か考えている風であったが、やがて口を開いてわかりました、と言った。 「本来なら皇国の法に照らし合わせていくつか罰さねばならない点もありますが、先生の我が国に対しての功績を考慮し自分の一存で不問とします」 ・・・た、助かった・・・! 礼を言って深々と頭を下げる私に、クバードがやや表情を崩すと、兵士に私をDDたちの所へ案内するようにと指示を出した。 兵士に案内されてDD達の所へ向かう最中ふと思った。 ・・・・そう言えば、この姿でいきなり行って私だとわかってもらえるだろうか。 まあ、話せれば大丈夫だろう。 しかしその心配は杞憂だった。 部屋へ着き扉を開け、中へ案内されると、そこにはDDらと一緒にベルナデットがいたのだ。 「・・・ほら、来たわよ。少年ウィリアム」 ベルナデットが私の方を向いて言う。どうやらこちらの状況をある程度は説明してくれたようだ。 皆、久しぶりだ。長く不在してすまなかった。心配させてしまっただろう。 皆を見る・・・DD,エリス、カルタス、カイリ・・・と、知らない女性が一人。 随分不思議な人選で尋ねて来たものだ。 とりあえずDDやエリスは呆気に取られてしまっているようだ。 まあ無理も無い。 「・・・・・ウィル・・・なの?」 フラフラとDDが私の前に来る。 私は、ああ、と肯く。 するとDDの包帯に覆われていない左の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。 「・・・心配かけちゃってさーもう・・・大変だったんだから・・・」 エリスにはよく泣かれるのだが、DDにこんな風に泣かれた事は今まで無かった。 私に抱きついてしゃくりあげる彼女の背をそっと撫でる。 「貴方は行かないの?」 この中で一人だけ私と面識の無いスーツ姿の女性がエリスにそう聞いた。 「なんか、タイミング外して・・・先越されちゃって・・・涙が引っ込んじゃった・・・」 「・・・自分もです・・・」 カルタスは来なくていい。 落ち着いた所で、私は皆をバルカンの家に連れて行くことにした。 ずうずうしいが頭を下げて頼もう。まあ、ダメとは言わないだろうがあの老人は。 「じゃあ、私はここで失礼するわね。お互いに目的は達したし」 スーツの女性がそう言う。 そう言えばまだ互いに自己紹介もしていない。DDと一緒に来ているのだから、彼女にも礼を言ったほうがいいような気がする。 口を開きかけたが、その前に女性はベルナデットへ声を掛けていた。 「ベルナデット・アトカーシア。最後にもう一度確認を取るけど、貴女は彼と手を組んだ、とそういう事なのね?」 彼、の部分で私を見る。 「そうよ。私とウィルはもうお互いにハァハァしたりされたりする仲!!」 した覚えねーよ!!!された覚えはあるけど!!!! ああああエリスの顔が怖い!!!!! 言われた女性は少しだけ困ったように微笑む。 「・・・『予定が狂ってしまった』わね。まあいいわ。今はまだ私も自分の都合をごり押しするつもりはないし」 そして私とベルナデットを交互に見る。 「暫くは貴方達とは何度か顔を合わせる事になると思うわ。私の名前は柳生霧呼・・・よろしくね」 ・・・柳生霧呼!!! 財団のNo,3・・・ハイドラと特務機関の実質的な指揮官・・・。 ・・・そして、『永劫存在』・・・!!! 絶句する私に微笑みかけるとキリコはそのまま去っていった。 ベルナデットに皆をバルカンの家へ案内して貰う事にした。 私はその間に皇宮にいるバルカンに滞在人数が増えた事を許可してもらいに行く。 バルカンは普段は聖堂にいるらしい。 そちらへと向かう。道順は先程説明してもらって頭に入っている。 その途中、私は廊下で談笑しているアシュナーダとフェルテナージュを見た。 ・・・・声をかけようと思って、私は思い留まった。 理由はよくわからない。 ・・・よくわからないままに、柱の影へなんとなく身を隠す。 そして恐る恐る二人の様子を窺う。 声をかけられず身を隠した理由がそこでわかった。 ・・・二人が「いい雰囲気」だったからだ・・・。 しかし片や時期神皇の座が約束された皇姫の婚約者、片や皇国を支える四人の神護天将の一人白の将・・・2人が皇宮内で談笑していようがその事自体は別に驚くには値しない・・・だが、この2人の間に流れる空気はそういったものではなく・・・。 「・・・これはもう相思相愛ね」 突然頭上から声が聞こえて飛び上がる。 見上げればベルナデットが同じように2人を柱の影から覗いている。 何故ベルナデットが・・・皆は? 「アレイオンがいたから押し付けてきたわ。私もバルカンに用事があるの」 なるほど・・・しかしアレイオンに任せたという事は・・・。 『胸見てなかった?』と視線で問う私。 『胸見てたわよ』と視線で答えるベルナデット。 ここにアイコンタクトが成立する。 ・・・まあ、それはさておきあの二人だ。 「ああ、あの二人なら心配するに及ばん」 突然また声がして飛び上がる。 見れば私の上のベルナデットのさらに上からバルカンが二人を覗き込んでいる。 「互いに自分の置かれた立場を良く理解し、皇国の事も皇姫様の事も大事に思っておる。・・・あれ以上互いに距離を縮める事はあるまい」 届かぬ想いであると互いに理解しているという事なのか? うむ、とバルカンが肯く。 しかしそれは・・・。 「勘違いしてはいかん。アシュナーダは皇姫様を大切に思い、直に訪れる婚礼を誰よりも喜んでいる事もまた事実・・・・フェルテナージュがその両者を心より祝福しておるのもまた事実よ。だが、その過程にて2人とも置いていかねばならぬ思いもあると言う事だ。全てが都合よく収まる方法などないのだからな」 むう・・・。 ベルナデットが肩を竦める。 「・・・誰かさんみたいに皆周りに置いておければいいのにね」 そうだな・・・。 「貴方のことだっつーの!!!!!!」 ドガッ!!!! !!!?? 蹴り飛ばされる。 その先には何故か右手の袖を大きく捲くり上げて肩をぶんぶんと回すバルカンがいる。 やーちょっとまって!!!! それはまって!!!! 私の叫びも虚しく、渾身のラリアットを受けてあえなく私は皇宮の廊下に倒れて意識を失ったのだった。 第12話 1← →第12話 3
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夕暮れ時。 タマムシ中央区でバスを降りると、バス停で意外な人物――ハナコの親友――が待ち受けていた。 彼女は青年とハナコを見るや、ずんずんと青年に詰めより、 「こんな時間までどこでナニやってたの?! もしあたしの可愛いハナコにちょっとでも変なことしてたなら――」 「してない、何もしてない!」 「全っ然信用ならないわねぇ〜〜〜〜!!」 「そもそも、どうして君がここに?」 「この前にあたしが酔い潰れ――少し飲み過ぎた翌朝に、 ハナコがまたあんたと一緒にタマムシに行ったって聞かされて、 あたしはもぉ〜いてもたってもいられなくなって、この背徳の都・タマムシにやって来たってわけ!」 「は、背徳の都……」 「あんたたちを見つけるまでに、いったい何人にナンパされたか。 この街の男どもは下半身でモノを考えてるの? 中でも酷かったのが、関所から二キロくらい、ずーっと隣にくっついて、ご飯に行こうだの飲みに行こうだの……しつこいったらありゃしないっ!」 そこでハナコの親友は、真面目な表情になって、青年を見据えた。 「マサラタウンで会ったときは言いそびれちゃったけどね。 ……タマムシにやってきたばかりの、右も左も分からなかったハナコを助けてくれて、ありがとう。 あたしだって曲がりなりにも教師だから、あんたがタマムシの男の中では例外的な、良いやつだってことは分かる。 それに何より、ハナコがこんなに気を許してるんだもん……。 でも、それとは関係なく、ハナコのお姉さん分として、あたしはハナコを連れて帰る」 ハナコの親友は、視線をハナコに移して、 「このままお父さんを探し続けることが、ハナコの人生のためになるとは思えないの。 だから……ねえ、ハナコ。いい加減、マサラタウンに帰ろう?」 「…………」 「確かにハナコのお父さんのことは、あたしも心配よ。 でも、あたしはハナコのお父さんのこと以上に、ハナコのことが心配なんだ。だから、」 「分かったわ」 「あたしと一緒にマサラタウンに――え?」 「ちょうど、お父さん探しが暗礁に乗り上げたところだったの」 同意を求められた青年は、ハナコの平気な顔を見返し、ハナコの親友に向かって肯く。 ハナコは言った。 「今日はもう遅いから、明日の朝にマサラタウンに帰るわ」 「そ、そう……」 反発を予想して前のめりになっていたハナコの親友は、ハナコの肩越しに誰かを見つけて、固まった。 その誰か――青年の親友が片手を上げて、 「よっす。こんなところで何してんだ――って、君はさっきの!」 「あ、ああ、あんたは――さっきのナンパ男!」 青年の親友が朗らかに笑い、ハナコの親友は険しい形相で青年の親友を睨みつける。 青年はため息を吐いた。 ……予感はしていたけど、やっぱりか。 二キロの並行移動ナンパを苦もなくやってのける男を、青年はよく知っていた。 「これも何かの縁、いや運命だ、是非親睦を深めに食事に行こう」 「お生憎様。あたしとハナコは明日にはマサラタウンに帰るのよ」 「タマムシで最高の店を知ってるんだ。そこのロブスターと葡萄酒は逸品でさ。 帰る前に是非、タマムシの美食を堪能してくれ」 青年の親友の、長年のナンパで培われた軽妙な語り口。 しかしハナコの親友もさる者、「四人で、あなたの奢りなら」と厳しい条件を付けた。 最初からそのつもりだったさ、と青年の親友は笑顔で肯く。 ハナコの親友は鼻白み、息を吐いて応諾した。 食事が終わり、青年の親友とハナコの親友が前列、青年とハナコが後列の形で夜道を歩く。 酒量をセーブし、鉄壁のガードを崩さないハナコの親友に対して、青年の親友は軽快なおしゃべりを続けていた。 食事中、ハナコの父親探しについての話題は一切出なかった。 ハナコの親友はもとより、青年の親友も「あたしとハナコは明日にはマサラタウンに帰るのよ」という言葉を聞いて、経過を察していたのだろう。 隣を見れば、街の明かりを瞳に宿したハナコの横顔が見える。 隻腕の老人の家を辞去してからも、ハナコは普段通りに振るまい、四人での食事中は、青年の親友とハナコの親友の潤滑油的な役割を演じていた。 青年はその切ない演技を、崩すことに決めた。 「君のお父さんのことは、残念だったね」 無意識に歩みが緩慢になり、ハナコは誰ともなしに呟く。 「結局、あたしが最初から思ってたとおりだった。 お父さんは、勝手に探険に行って、勝手に死んじゃったの。……自業自得よ」 声が一段と大きく、そして震えていることを、彼女は自覚していた。 「せっかく場所が分かったのに、誰もたどり着けない場所だなんて、困ったわ。 どうしてお母さんの最期を看取ってあげなかったのって、文句を言いに行けないもの」 青年は、ハナコの肩に手を置いて言った。 「ハナコは、お父さんが予測不可能な事故や事件に巻き込まれたと、信じたかったんだね」 振り向いたハナコの目尻から、一粒の涙がゆっくりと頬をつたい、 後はその最初の一粒の道筋をたどるように、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。 「泣かないで」 「あたし、泣いてなんかない。泣いてなんか……」 「君が好きだ、ハナコ」 まるで最初から段取りができていたかのように、青年は告白した。 ハナコが洟をすすったまま、息を止めて青年を見上げる。 「あ……あたし、今は心の中がぐちゃぐちゃで……なんで、今なの?」 「驚いたら、しゃっくりみたいに泣き止むかと思って」 事実、ハナコは泣き止んでいた。 青年の顔はまじめで、それが変に可笑しくて、ハナコの喉から笑いがこみ上げる。 体が揺れて、下瞼に溜まっていた涙がこぼれた。 ハナコは泣き笑いの顔を、青年の胸に押し付けた。 「君のお父さんは、君や君のお母さんを愛してた。 でも、それと同じくらいの強い気持ちが、探険に向いてたんだ」 「あなたにはそれが分かるの?」 「……うん。俺も探険者を目指してるから、なんとなくね」 ハナコの体が震え、嗚咽が漏れた。 「どうしてまた泣くの?」 「……あなたが、今、あたしが一番聞きたくないことを言ったから。 あなたのことは好きよ。 きっと、あなたが初めてわたしを助けてくれたときから好きだった。 でも、もう、嫌。好きな人が、遠くに行くのは嫌……」 青年は微笑んで言った。 「じゃあ、行かない」 「嘘よ。そんなにあっさり――」 「仮に、君が、お父さん探しを諦めないでさ……。 君から、ツガキリ大洞穴にお父さんの手がかりを探しに行けって頼まれたら、俺は喜んで行くつもりだった。 探険に必要な情報と仲間を集めて、どれだけ時間がかかってもね。 でも、君は俺に行かないで欲しい、と言ってくれた。だから行かない。この意味が分かる?」 「…………分かるわ」 同時にハナコは、ロケット団ボスにしてトキワシティジムリーダーの、最後の言葉の意味を理解する。 ――なくしたものに意固地になるか、今あるものを繋ぎ止めるか―― ああ、そういうことだったんだ。 この瞬間が訪れるだろうことを、彼女にはあの時点で、見透かされていたのだ。 タマムシの雑踏の真ん中で、ハナコは大切なものを繋ぎ止めるために、そっと、青年と唇を合わせた。
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頭を抱えたまま動かないザックスをじっと見ているパパス。 暫くして、ザックスはかなり疲れた様子で立ち上がった。 「まあ……とにかくここでじっとしても仕方ないわな」 「この洞窟のどこかに旅の扉が現われたらしい。まずはそれを探すつもりだ」 パパスの言葉に肯くザックス。トーマスも盛んに尻尾を振る。 こうして何とも色気のないパーティが行動を開始した。 広いロンダルキアの洞窟をしばらく彷徨った後。 どうやら下層に旅の扉はないようなので、二人と一匹は地上付近を捜すことにした。 降るよりもはるかに険しい登りの道を、苦労して進む。 そして、地上付近の通路に旅の扉を見つけた。 「あ……」 旅の扉を挟んで向こうには、青年と女性がいる。 青年は壁にもたれたまま身動き一つせず、女性は男二人の姿に困惑していた。 「あんた、以前会ったよな。まだ、その男といるのか?」 ザックスの言葉に女性、リノアはややムッとしたようだが、それについては何も言い返さなかった。 かわりに、 「あの時は、ごめんなさい」 そう言って、いまだ動かないスコールの隣りに座り込む。 スコールのあまりの生気のなさに、さすがのパパスも思うところがあったようだ。 「我を失ったか。哀れな」 「今は、疲れてるだけです。疲れて休んでいるだけ。スコールは、まだ立てる」 そういうリノアの表情は自愛に満ちている。 きっとこの二人の絆は誰にも割り込めないほど深いのだろうと、男二人は思った。 そして静寂が訪れる。 次の世界へ向かう旅の扉を前にして、それぞれが各々の思いで時が過ぎるのを待っていた。 そしてどれくらいの時間が経ったか。 ジャリ、と金属が鳴る音に全員がそちらを見た。 これまでまったく動かなかったスコールも微かにそちらを見たことに、誰も気付かない。 暗闇の中から現れたのは、クラウドとアリーナだった。 【ザックス 所持品:バスターソード 第一行動方針:パパスに同行 第二行動方針:エアリスの捜索 基本行動方針:非好戦的、女性に優しく。】 【パパス 所持品:アイスブランド 第一行動方針:旅の扉の前でギリギリまで待つ 第二行動方針:バッツと双子を捜す。 最終行動方針:ゲームを抜ける】 【トーマス 所持品:薬草×10 鉄の爪 手紙 碁石(20個くらい) 第一行動方針:パパスについていこうと思っている 基本行動方針:生き残る 最終行動方針:トム爺さんの息子に一言伝える】 【現在位置:ロンダルキアの洞窟6F・旅の扉前】 【スコール(気絶) 所持品:真実のオーブ 第一行動方針:なし?】 【リノア 所持品:妖精のロッド 月の扇 ドロー:アルテマ×1 基本行動方針:スコールに着いていく】 【現在位置:ロンダルキアの洞窟6階・旅の扉前】 【アリーナ(軽傷、片目失明状態) 所持品:イオの書×3 リフレクトリング ピンクのレオタード 第一行動方針:クラウドと行く】 【クラウド(軽傷) 所持品:ガンブレード 折れた正宗 第一行動方針:次の世界へ 第二行動方針:アリーナを守る。出来ればエアリスも探したい(?) 最終行動方針:不明】 【現在位置:ロンダルキアの洞窟6階・旅の扉前】 ←PREV INDEX NEXT→ ←PREV クラウド NEXT→ ←PREV ザックス NEXT→ ←PREV スコール NEXT→ ←PREV リノア NEXT→ ←PREV アリーナ NEXT→ ←PREV トーマス NEXT→ ←PREV パパス NEXT→
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「…終わったな」 「だが、犠牲は大きかったでござるよ…」 ライアンは静かに目を閉じる。散っていった勇者たちに対する黙祷か。 デスピサロは横目でしばらく、それを見ていたが、 「そろそろ移動した方がいい。体温が下がりすぎて立ってもいられなくなるぞ」 「うむ…そうでござるな」 ティーダは、エアリスの元に歩いていった。 エアリスはただ一心不乱に肉の塊を潰している。それが何かがわかって、ティーダはエアリスの手を取った。 「もうやめといたほうがいいッス。それはもう…」 「コレは…どんなにバラバラになっても、リュニオンして元に戻ってしまうわ。 だから、ちゃんと始末しておくの」 「だとしても、もっと他にやりようがあるだろ。辛いのもわかるけどさ、モノに憎しみぶつけて、それが何になるってんだ」 「………」 エアリスは、手を止めた。頬を流れていた涙は、何時の間にか氷に変わっている。 自分を濡らしたマリベルたちの血も、凍って渇いている。 熱い感情も、死の感触も、じょじょに冷めていく。 エアリスは、はぁと息を吐き出すと、呟くように言った。 「そう――――だね。これだけ、潰しておけば…再生する前に凍って何も出来ないし。 みんなも、ちゃんと葬ってあげないとね…」 四人は、ロック、ラグナ、ガウ、マリベルの遺体をそれぞれ背負って、野営地に向かった。 野営地には目覚めたモニカがいた。 死人を運んできたデスピサロたちにモニカは唖然として、続いて激しく脅えたが、 以前のフィールドで会ったエアリスの説明で、事情を理解した。 エアリスは四人を並べて横たえると血糊を拭って彼らの体を綺麗にしている。 こんな状況で何の意味がある、と思わないでもなかったが、共に戦ってきた仲間たちの手向けにこれぐらいのことはするべきかもしれない、とティーダは思う。 マリベルの口元を洗っていたとき。 エアリスはマリベルの服の下に紙があることに気付いた。 エドガーのメモだ。このゲームから抜ける方法があるという、希望がかかれた紙。 だが、それはもうマリベルには何の意味も為さない。それは…悲しいことだ。 涙を堪えながら、エドガーのメモを自分の服にしまうエアリス。 これは、生者にこそ必要なものだから、きっとマリベルも自分が持っていくことを許してくれるだろう―――― 「…?あれ、もう一枚…」 エドガーのメモのほかに、別の紙があった。 開いてみる。何か、書き込まれているが読めない……首を捻っていると、 「見せてみろ」 デスピサロがひょいと紙を取った。 なにやら、魔術じみたものがかかれているようで、気になったらしい。 「………ふむ。なるほど」 「わかるの?」 「未完成だが、魔法の唱え方…というよりも術式の概略だな。 わからないだの、憶えていないだの、そう言った端書も書かれている」 デスピサロは紙をエアリスに渡した。 「術式…?」 「マジャスティス、というらしい。しかし、お前も術師だろう?わからないのか?」 「私の世界はそういうこと、やらないから。マテリアってモノがあって …あなたふうに言うなら、術式などの知識が凝縮した結晶を媒体にして発動させるものなの」 ならば、彼女は役に立たんな。デスピサロは思った。 ジタンの説明を信じるなら、儀式は力よりむしろ魔術的なセンスが重要である。 彼女の魔術的なモノは血の力だ、術式もわからない彼女を勧誘しても意味はない。 マリベルは…惜しい事をした、と思う。 空でこれだけのものが書けるなら、才能はあったかもしれない。 しかし、今更悔やんでも仕方ない事である。 「あ、これはわかる人が持っていたほうがいいかな?」 「私は覚えたので必要ない。お前が持っていても問題ないだろう」 そしてエアリスが事を終え、一息ついた後。 話は自然とこれからどうするか、ということになった。 「我等は為すべきことがあるゆえ、早々にここを発つが、お前たちはどうする」 「日が明けたら、みんなを埋葬してあげようと思う…」 デスピサロの問いにエアリスはそう答え、ティーダは肯く。 「その後は」 「そッスねー。会わなきゃいけない奴がいる、かな」 エアリスはティーダを見た。それはおそらくリュックだろう。 そして自分も…会いたい人がいる。 「私も人探しかな。セフィロスはもういないって事、教えてあげたい」 「そうか。ではここでお別れだな。そこの女は」 この人、私を憶えていないんだ…とモニカは思った。 自分はこの男を知っている、何しろもう少しで結婚相手になるところだったからだ。 エンドールで開催されたあの武道大会、もっとも目立ち、残虐非道といわれた男。 聞いた話とはだいぶ印象が違うけれど… 「私は、アーロンさんを探しにいきます」 「アーロン!?そうだ、あれからアンタ、なにしてたんだ?」 ティーダが声を上げる。ほんの僅かだが、ティーダたちは以前モニカたちと合流している。 リュックの暴走で離れ離れになってしまったが… 「私は…アーロンさんと一緒にいて、メルビンさんと、この子に助けられたんですが」 モニカはちらりとガウを見る。もう動かない少年の姿に、涙が滲んだ。 「北の湖にある島でトラブルに巻き込まれて…アーロンさんは湖に落ちて」 あの自然発生のバシルーラか、とデスピサロは思った。 「湖に…本当ッスか?」 ティーダの顔が青くなる。アーロンって、泳げたっけ? そりゃ、人並みには泳げるだろうけど、零下の湖にいきなり落とされて無事でいられるか? そんな悪い想像をモニカもしたのだろう、俯くと血をはくような声で口調で言う。 「ええ、私は確かに見ました。嵐に巻き込まれて縄に掴まったアーロンさんをターバンの男が見捨てて…!アーロンさんは湖に落ちたんです!」 「待つでござる、ターバンの男といわれたが、もしかしてとんぬら殿でござるか?」 「とんぬらって…ええと、魔物使いの?」 ティーダの言葉にライアンは肯く。 「うむ。魔物からも慕われる好青年でござる、ワシにはどうにも信じられんでござるよ」 「ですが、事実です!私はこの眼でちゃんと見ましたから!」 モニカの剣幕に、ムゥと気圧されるライアン。 さすがの王宮の戦士も御婦人のヒステリーには成す術もないらしい。 「とにかく、次の目標は決まった。北の湖にいって、アーロンを探す!」 「私もいきます!」 ティーダの宣言に唱和するモニカ。続いてエアリスも。 「私も行っていいかな。彼の居場所もわからないから」 「もちろん歓迎ッスよ」 「今後の事は決まったな。それでは我等は行くが、道を見失ったら神殿に向かうといい」 「了解ッス!」 「とんぬら殿は非道な人となりではないでござる、きっと何かの事情があるでござるよ」 「でもアーロンさんにした仕打ちは変わりません」 「とにかく、会ったら話を聞いてみます、ライアンさん」 こうして、デスピサロとライアン、ティーダとエアリスとモニカは別れた。 セフィロスを倒すという目的を果たして、その先の目的を果たすために。 【ティーダ 所持品:いかづちの杖 参加者リスト 吹雪の剣 第一行動方針:アーロンを探す 最終行動方針:何らかの方法でサバイバルを中止、ゾーマを倒す】 【モニカ 所持品:エドガーのメモ(ボロ) 第一行動方針:アーロンを探す 第二行動方針:ゲームから抜ける】 【エアリス 所持品:癒しの杖 第一行動方針:アーロンを探す 第二行動方針:クラウドを探す 最終行動方針:このゲームから抜ける】 【現在位置:ロンダルキア南東の森・野営地】 【デスピサロ 所持品:『光の玉』について書かれた本 第一行動方針:魔法使いを探す 第二行動方針:腕輪を探す・偵察 最終行動方針:ロザリーの元に帰る】 【ライアン 所持品:大地のハンマー エドガーのメモ(写し) 第一行動方針:デスピサロに同行する 第二行動方針:ソロを探す 基本行動方針:来る者は拒まず、去るものは追わず】 【現在位置:ロンダルキア南東の森・野営地】 ←PREV INDEX NEXT→ ←PREV エアリス NEXT→ ←PREV ティーダ NEXT→ ←PREV ライアン NEXT→ ←PREV デスピサロ NEXT→ ←PREV モニカ NEXT→
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抜けるような青空。流れ行く白い雲。 綺麗な青い芝生に覆われた王宮の庭園に置かれた白いベンチ。 そのベンチに横たわってぐーぐーと寝息を立てているのは、士官の制服を着崩した青年だった。 青みがかった銀色の髪が時折風に揺れている。身体は引き締まっているが細身の青年。 そこへ足早に青年と同じ服の男がやってきた。見るからに実直そうな青年とは対照的に体格のいい男だ。 「・・・シズマ。おい、シズマ!」 男は寝ている青年に乱暴に声をかけた。 シズマと呼ばれた青年が小さく唸って瞳を開く。 鋭い瞳に光りが射す。 「ケインか・・・。どうした、夕餉の時間にしてはまだ早いようだが」 言われてケインと呼ばれた体格のいい軍人ははぁっと大きくため息をついた。 「何を暢気な事を・・・。仕事だ。中将閣下がお呼びだぞ」 シズマは身を起こすと、ベンチに立て掛けてあった自分の刀を手に取り、腰に差す。 「そうか・・・では行こう」 並んで歩き出すケインとシズマ。 「お前は本当に寝てばかりだな」 「昼寝と日向ぼっこが趣味だ。・・・将来の夢は縁側のある家に住んで猫を飼い、一緒に日向ぼっこしながら昼寝する事だ」 (・・・じ、ジジくさい・・・!!) シズマの答えに声には出さずにケインが愕然とした。 「お、お前いくつだ・・・!」 「ん? 今年で22だが」 怪訝そうにシズマが返答を返す。 ぬう、とケインが唸った。 「お前くらいの年齢なら・・・もっと他にやる事があるんじゃないのか。俺の隊の連中なんかナンパしたりとかこの国に来てからも色々やってたぞ」 「・・・若い連中とは話が合わん」 そっけなく言うシズマ。 「それに、王宮の女官の友人ならば俺にも1人できた」 「・・・いくつだ、その女性」 半ば返答は予想できているものの、それを問うケイン。 「62歳だそうだ」 「そろそろ・・・定年ですね・・・」 どこか遠い目をするケイン。遠くから小鳥の鳴き声が響いてくる。 「国へ戻ったら手紙を出すと約束した。これで文通相手は男女合わせて11人だ」 「その方々の平均年齢は・・・!!」 ふむ・・・と少しシズマが考え込む。 「70前後と言ったところか」 「近い内にお前の文通相手が欠けていく事がない様に祈っておくよ・・・」 乾いた声でケインが呟いた。 コンコン、とノルンの客室の戸をノックするシズマ。 入りなさい、と中から声がかかり、扉を開く。 「バアちゃん、どうしたんだ?」 入って声をかけて来るシズマに、ノルンが苦笑する。 「ここでは中将と呼びなさいな」 シズマはノルンの娘の子だ。 姓は違うが2人は血の繋がった祖母と孫だった。 僅かに綻んだ表情を、すぐにノルンは引き締める。 「シズマ・・・貴方に大事な任務を与えます。今すぐこの密書を持ってライングラントのゼファー王を尋ねて頂戴」 そう言ってノルンは書類の入った大きな封筒をシズマに手渡した。 「わかった。・・・援軍の要請か」 先だっての四王国会議でのアレス大統領の発表の事は当然シズマも知っている。 シズマの言葉にノルンが肯く。 「ライングラント・・・船旅になるな」 「そうね。ラフテースの港町までは列車で行って、そこから船でライングラントへ向かって。ラフテースで信用できる知人を待たせてあるから、そこで合流して以後は一緒にライングラントを目指してもらうわ」 わかった、とシズマが肯く。 基本的にシズマは余程の事がない限りは状況に異を唱える事はない。静かな心で常に状況を受け入れる。 (相変わらず老成した子ね・・・) 大任を与えてもまったく普段の通りのままの孫に、ノルンは頼もしいような物悲しいような複雑な気分になった。 1時間後にはシズマは旅の支度を整え、王宮に与えられていた他仕官と共同の客室を後にした。 市街部を歩き、駅へと向かう。 港町ラフテースまでは列車で2日ほどの旅になる。 (・・・何か時間を潰せるものがあるといいな) そう思ったシズマは途中で本屋に立ち寄った。 そして「月刊ゲートボール」の今月号と「かんたん家庭菜園、おうちでトマトを作ろう」の2冊を購入する。 さらに食料品店に立ち寄って煎餅とほうじ茶を買って、彼の旅の支度は完了した。 買い物を終えて駅へ向かう途中に、シズマはふと違和感を感じた。 (つけられているな) ・・・どうやら尾行されているらしい。気配を殺して2人。 (まあ、なるようになるだろう) そう決めて、シズマはとりあえず気にしない事にしたのだった。 ライングラント王国、首都シュタインベルグの夜。 クリストファー・緑は雑踏の中にいた。 行き交う人々の中を特徴的な赤い髪が進む。 ライングラントにも、徐々に蒸気文明は浸透してきている。 夜の街を照らすのも蒸気式の瓦斯灯だ。 この街にも蒸気の工場の立ち並ぶ工業区というものもできた。 少しずつ、世界に蒸気の技術は広まりつつある。 そしてその中心地は遠く南西の地、ファーレンクーンツ共和国だった。 ファーレンクーンツによる先の四王国会議での発表は、ここライングラントにも少なからぬ衝撃を与えていた。 街を行く人々もその話題を不安そうに口にする者が多い。 リューは漠然とした勘ではあったものの、その共和国の動きの背後に『ユニオン』の影を感じていた。 今日もリューは一日をユニオンの情報収集に費やした。 このライングラントの闇社会の顔役と情報屋を渡り歩く。 ・・・後は、正体不明の通り魔による殺人事件が起きていないかと調査する。 残念ながら今日の散策では目ぼしい収穫はなかった。 クリストファー・緑は料理人である。 さもなければ殺し屋である。 当然かれは世界平和等と言う物には興味が無い。 いかなる理由でユニオンが世界を戦火に包もうとしていたとしても、本来ならそれに関知する事はないはずなのだが・・・。 それでもリューはユニオンとの対決を決めている。 単に命を狙われているから相手をする、というのとは違う。 それ以前に自分からそう決めている。 ユニオンの魔の手は、いずれシードラゴン島に伸びるだろうとリューは思っている。 それ程の組織が世界を舞台に暗躍しようとして、島にある『神の門』と超文明の遺産郡を見逃すとは考え辛い。 そうなれば・・・。 (あれの周囲を取巻く環境にも良からぬ影響が出るだろう) 先日、彼は命を救われた。 借りを借りのままよしとしないのがリューの性格だった。 一つの命に、一つの命で報いる。 命を脅かされない一つの状況を作る事で報いる。 ・・・たったそれだけの事が、クリストファー・緑が超古代よりの秘密結社と対峙すると決めた理由だった。 住処へ近付いてくる。 リューが裏路地へ入る。 薄汚れた暗い路地。その先に今のリューの家がある。 周囲の環境同様に、汚れた小さな家だ。 そこを買い取り、今彼は活動の拠点としていた。 ここしばらくの生活で、慣れつつあるいつもの帰り道。 しかし・・・今日は違う。 路地に足を踏み入れて直ぐ、リューはその気配を感じ取る。 彼の鋭敏な感覚が、その先にいる只者ではない誰か、の存在を伝えている。 気が付けば、掌に汗をかいていた。 鼓動も普段よりも早まっている。 ・・・リューは、他人事の様にその事実に驚いていた。 ギャラガーと接していた時ですら、身体がそこまで緊張を訴えた事などなかったのに。 がくん、と身体が揺れて踏みとどまる。 (・・・・・・・・・) 足がもつれ、転びそうになったのだ。 段差も躓く石もない場所で、自分で勝手に。 (・・・本能が、この先へ進むなと言っているのか) 自分の深い所に居る何かが、必死に警告を発している。 それでも、リューは前へと進んだ。 路地の壁に寄り掛かって腕を組み、1人の男がリューを待っていた。 黒い髪に、黒いジャケットの背の高い男。 「・・・・・・・・・・・」 リューが足を止める。 男は目を閉じて俯いている。 「お帰り。クリストファー・リュー」 そして低い声でそう言うと、顔を上げてリューを見た。 「・・・何者だ」 普段、無駄と思われる相手にはリューはこの問いを発する事はない。 だが、この男は問えば名乗る気がした。 「俺か・・・俺は、そうだな・・・」 黒い髪の男がフッと笑う。 「俺は今お前が一番会いたいと思っている男だ」 「・・・・!!!」 リューが表情を険しいものに変える。 「・・・メギド・・・!!!」 第2話 4← →第2話 6
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4817.html
文字サイズ小だと上手く表示されると思います 「おいキョン。お前、酒なんか飲んでんのかよ?」 その声は、俺がコンビニで立ち読みをしている時に聞こえてきた。 振り向くまでもない、顔を上げてみると雑誌棚の奥にあるガラスには見慣れた谷口と国木田の顔が写っている。 面倒なので読みかけの雑誌に目を戻しながら、俺は適当に返答しておいた。 人聞きの悪いことを言うな、第一なんでそう思ったんだ。 「だってお前。その本に酒にあう男の簡単料理って書いてあるじゃねーか」 谷口が言うように、俺が見ている雑誌には焼くだけ煮るだけといった独身男性でも手が出せそうな簡単なレシピが、 画像付きでいくつも掲載されている。しかし、実際にそれなりの味に作ろうと思ったらこのレシピと解説じゃ無理だと 思うんだがな。 料理の本が見たかったんだよ、今日は家に俺しかいないんだ。 「それで料理の本を読んでるって事は、自炊するつもりなの?」 そうなるな。 無理だろ、と言いたげな顔で目を細める谷口と、偉いね~とコメントしそうな国木田の顔が並ぶ。 「へ、まあせいぜい頑張ってくれ。俺としてはコンビニ弁当を買うってのをお勧めするけどな」 ありがとうよ。 「頑張ってね、上手くできたら今度僕にも教えてよ」 あいよ。 適当な返事で友人を送り出し、再び雑誌へと意識を戻す。 確か冷蔵庫には朝パンに乗せたチーズがあったよな、適当に済ませるなら何も買わないでも済むがたまには 凝った料理を作るっての悪くない。 俺は雑誌を閉じてラックへと戻し出口へと向かった。ちょうど俺と入れ違いに入ってくる客の顔を見て思わず足を 止める。 長門。 「……」 夕方のコンビニの入り口、制服姿の宇宙人がそこに居た。 先に俺を通すつもりなのか、長門は外に立って待っている。急いで外へ出て、邪魔にならない位置で話しかけてみた。 夕飯の買出しか? 「そう」 そういえば、前にマンションの前ですれ違った時このコンビニの袋を持ってたっけな。 店の中に入って行く長門の姿を見ていると、まっすぐ弁当コーナーへと向かい何故かしばらく固まっている。 あいつの好きなコンビニ弁当ってのはどんなのだろうね。 軽い興味もあって俺は入り口で待ってみることにした。 ――数分後。 よう、早かったな。 無言の長門が持つ袋は弁当の形に膨らんでおらず、何か小さな物がいくつか入っているようだった。 あれ? 今日は弁当じゃないのか? 「売り切れ」 そうか、この時間帯は競争が激しいからな。……中身、見てもいいか? 肯き、差し出された袋の中に入っていたのは――おにぎりが二つだけ。 これだけで足りるのか? 「大丈夫」 普段の長門の旺盛な食欲を見ていると、これだけでは足りない気がしてならないんだが……。 俺の心配をよそに立ち去ろうとした長門へ、俺は何故かこんな言葉をかけていた。 長門、よかったらなんだが――。 まあ、気軽にあがってくれ。 素直に肯く長門。 いつになく静かな我が家に、俺と長門の歩く足音が響いている。 今日は家に誰も居ないから一緒に夕飯を食べないか? そんな俺の誘いに長門は素直についてきた。 あのマンションで一人おにぎりを食べる長門の姿に同情したとかじゃなく、まあ自分の事だが気まぐれって奴だと思う。 さっそくビニール袋から出され、テーブルに置かれるおにぎりが二つ。 ……ハルヒ達に知られると色々と面倒だから隠してきたが、まあ、長門なら見せてもいいか。 さっそく包装のビニールを開こうとしていた長門の手を、俺は止めた。 なあ、どうせならちょっと料理してもいいか? 「……」 無言のまま肯いて同意する長門から俺はおにぎりを受け取る。 シーチキンマヨネーズと鮭か、無難な選択だな。 俺はまず、鮭の方から取り掛かる事にした。 まず、おにぎりから鮭を取り出し、海苔とご飯も別々に分ける。ああ、ただ待ってるだけってのもつまらないよな。 長門。この海苔をできるだけ細かくちぎってもらっていいか? 頼んだ。 肯く長門に海苔を渡して、俺は戸棚から小さめの耐熱陶器で出来た深皿を取り出した。 深皿の中に水を半分くらいまで入れて、レンジで1分加熱、その間に朝食用のコーンスープを取り出しておく。 冷蔵庫からとろけるチーズを出した所でレンジが加熱終了を伝えてきた、いいねタイミングはばっちりだ。 深皿の中へコーンスープを半分ほど入れて混ぜ、おにぎりのご飯を解しながら沈める。その上にとろけるチーズを 表面が見えなくなるくらいまでかぶせて、ケチャップで斜線を引く。最後に長門が小さくしてくれた海苔を散らして オーブントースターの中へ、W数にもよるがだいたい5分で完成だ。 さて、もう一つはシーチキンマヨネーズだったな。 俺は鮭と同じようにおにぎりを分解し、やはり海苔は長門に任せる事にした。 まずは換気扇のスイッチを入れ、フライパンに薄く油を引き過熱しておく。 その間にご飯とシーチキンにマヨネーズをスプーン一杯程足しつつ混ぜ合わせる。具材に彩が欲しいな……まあ 適当でいいか。俺は冷蔵庫から卵を一つ取り出すと、それをマグカップに割って中にマヨネーズを少し入れた。 箸で適当に混ぜながらフライパンの様子を見ていると、白い煙があがってくる。 よしよし、いい感じだ。 熱せられたフライパンの上に卵を注ぎ、手早く箸で散らすように混ぜていく。お手軽なスクランブルエッグの出来上がり だ。まあ、このまま食べはしないんだが。 フライパンの上に小さく散った卵にかぶさるように、先に混ぜておいたご飯とシーチキンを投入する。 手早く返しながら菜箸で混ぜ合わせ、適当に火が通った所で火を止めた。 長門、その棚の一番上にある皿を取ってくれ――そう、その白いのだ。 皿の上にフライパンの中身を移し変え、表面に軽く塩コショウを振ってから海苔を散らす。 やがて後ろから聞こえてきたオーブンの音が、夕食の完成を知らせていた。 妹用の小さなスプーンを使って黙々と食べ続ける長門と、それを見る俺。 美味いか。 首肯。 ……そんなに急いで食べなくてもいいぞ? 首肯。 水、おかわりいるか? 差し出される空のコップ。これだけ美味そうに食ってもらえると嬉しいもんだな。 皿の中身が殆ど無くなった所で、突然長門は動きを止めた。 どうした? 卵の殻でも入ってたのか? 皿に視線を落としながら、長門は呟く。 「……貴方の分まで食べてしまった」 ああ、そんな事か。気にせず食べてくれていいぞ、お前の食材で作ったんだし元々一人分の食材だったんだ。俺は 後で何か適当に食べるよ。 「でも」 全部食べてしまうのが躊躇われるのか、長門の手は動こうとしない。 じゃあ一口だけもらっていいか? 面倒なのでそのまま口を開ける俺を見て長門はしばらく固まっていたが、やがておずおずとスプーンを差し入れて きた。ん、味見はしたが今日のは上出来だな。 「ご馳走様。凄く、美味しかった」 いえいえ、お粗末さまでした。 俺は何が入っていたのか鑑識でもわからないほど綺麗になった空の皿を受け取り、シンクの中に置いた。 「今日のお礼がしたい」 玄関まで見送りに来た俺に、長門はそんな事を言ってきた。 まあ、長門がそうしたいのなら。 「でも、どうしたらいいのかわからない」 僅かに顔を伏せながら、長門は小さく呟く。 たかが夕飯くらいそんなに気にしなくていいぞ? 俺はいつもお前の世話になってるんだし。 そう俺が言っても、長門は首を立てにふらずじっと俺の目を見ている。さて、困ったな……。 しばらく考えていると、簡単な答えがでた。この世は全て、等価交換って奴だ。 じゃあ長門、今度夕飯をご馳走してくれ。 俺の提案にしばらく硬直した後、長門は肯いて我が家を後にした。 一人になった家の中は静かだったが、俺の足取りは軽い。 さて、どんな料理を食べさせてもらえるんだろうね? そんな期待に胸を膨らませつつ、俺は洗物をする為に 台所へと戻って行った。 ――それが、俺と長門の料理教室の始まりだった事を、その時の俺は知らなかった――。 簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 1食目 終わり 2食目へ その他の作品