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ラノで読む(ラノ向けに改行しているので推奨) その日の朝、一人の女生徒が亡くなった事が伝えられた。 名前は彦野舞華《ひこの まいか》、2016年7月に学園で起こったラルヴァ襲撃事件に巻き込まれて重傷を負い、その状態で無茶をした事による体力と魂源力《アツィルト》の消耗が原因だという。2年間の間ほとんど学校に通えず入院し通しの生活を送っていた。先日の醒徒会選挙では無理をおして登校、投票をしたものの、それが彼女の限界であり、その上に内緒で病院を抜け出した事が致命的となったらしい。最期は安らかな表情を浮かべていたというが、話を聞くと、その言動は常に何かと戦っているような、苛烈な物だったと聞く。 「何か……というよりも、ラルヴァだよ、ね」 学校に出てきて一番にその話を聞いた彼女、春奈《はるな》・C《クラウディア》・クラウディウスは、そんな言葉を洩らしたという。 一人の少女の死に際して ついに、時が来てしまった。春奈の頭の中では、そんな言葉が渦巻いている。 彦野舞華は、2年前のあの事件……立浪みか、みき姉妹が与田技研の人間を中心とする何かに『消された』事件に巻き込まれたのだろう。あの事件は、2年のタイムラグを経て、2人の教え子を彼女から奪ったのだ。 (彦野さんだったら、真っ先に突っ込んじゃうだろうからね……) ホームルームを終え、職員室の椅子に座った春奈が、目を瞑って当時のことを思い出す。受け持ちの授業は2時限からだ、それまでは少しこうしていよう。 彦野舞華は、真っ直ぐすぎる少女だった。そして、その真っ直ぐ向かう方向が、奈落へ繋がる一本道だという事は目に見えていた。 「彦野さん、ちょっといいかな?」 ある日の放課後、彼女を呼び出した。先日あった集団模擬戦闘しかり、他の異能実技担当の教諭からの報告しかり、その異能の使い方に破滅的なものを感じる……というのが、個別面談に彼女を呼び出した理由だった。彼女の異能特性上ある程度は仕方ないとはいえ、時には指示を無視してまで相手を倒すことについて固執する。その事についてやんわりと質問した……少なくとも彼女は、出来るだけ穏やかな言葉を選んだ。その問いに対する舞華の返事は、 「私は、少しでも多くのラルヴァを倒さなきゃいけないんです」 その言葉に対して、春奈は軽く息をつく。彼女の事情を考えれば、そういう思考に行き着くことは当然ありえる筈なのに。 ラルヴァは徹底的に排斥、排除すべき。そういう考えは、決して珍しくも不思議でもない。その思考に至るケースも様々で、ラルヴァは悪であるという通り一遍の教えを受けたもの、自分の異能に溺れて単に力をぶつける相手を見つけたいもの(関係ないが、そういう輩が風紀委員になろうとすると歴代風紀委員長によって即座にブッ飛ばされるらしい)、もしくは『何もしなければラルヴァは人間を滅ぼす。ならこっちから先に殲滅しなきゃいけない』と分かったような口で理論を唱えるものと様々だが、その中でかなりの数を占め、かつ根深いのが『実際にラルヴァの被害に遭い、何故こんな目にと考えた結果そうなった人達』である。 双葉学園には、ラルヴァに対して因縁がある……もっと言えば、ラルヴァによって大事なものを奪われた、人生を狂わされた人が、決して少なくない。春奈もその一人であり、目の前の少女……舞華も、まぎれもなくその一人である。その憤怒は、ある程度までは必要なものだと考えている。しかし、何事も度をすぎると毒となってしまうのだ。 毒の一つ。少なくとも、今の学園のスタンスは『有害なラルヴァの退治』であり、それを無視して勝手に行動を取られるのは、そのスタンスに反する……つまり、度をすぎてラルヴァを討つことに固執する生徒は、いわゆる『言う事を聞かない生徒』なのである。中等部や高等部で、異能者としての道徳と称して情操教育に取り入れようという動きもあるが、その効果に春奈は懐疑的である。少なくとも、その気持ちはある程度理解できているつもりなのだ……画一的な情操教育で、個々の怒りや悲しみを抑えられるかどうか。 毒の一つ。ラルヴァ討伐に執着するあまり、自身や他者へ攻撃的な性格になってしまったり、視野が狭くなって自身の可能性を埋もれさせてしまうこと。春奈は、こちらをより懸念している。より強い力を手に入れようと自身に罰を与えたり、自身の意にそぐわない相手に対して人格攻撃までしたり、といった傾向が見られる。2018年の醒徒会選挙で執拗なまでにラルヴァ排斥を唱えた立候補者、与田光一《よだ こういち》が落選したのはは、これによって投票権を持つ一般生徒を『引かせた』のが要因の一つだったように思える。 なお、その逆……ラルヴァに対して攻撃的でなければそんな事は無いのか、という事については、ラルヴァを崇める過激な新興宗教団体『聖痕《スティグマ》』の例を挙げるまでも無く否定できる。偏った考えをこの多感な時期から持つことが危険なのだ。 彼女、彦野舞華は「ラルヴァを倒さなければいけない」という一念に囚われて、自身の道をそれ一本に決めてしまっている。春奈はそう感じた。 「だからね、今の自分が思っていることが全部だ、って思って欲しくないの。無限の可能性がある……とまでは言えないけど、足を止めてまわりを見れば、きっと別の道も見えるはずだよ」 「……先生は、見つけたんですか?」 『私の気持ちが~』というお決まりの一言を、舞華は発しなかった。春奈の過去……1999年の出来事がひょんな事からバレてしまったのもあるが、彼女の矜持がその発言を許さなかったのだろう。 「見つけたのが、教師って道だった……で、いいのかな。少なくとも、この学園に入ったら必ず戦わなきゃいけないって訳じゃないから。もし道を探すなら、あたしは全力でサポートするよ」 春奈は『ラルヴァに対して憎しみを抱くより前に、するべきことがある』という考えである。怒りや悲しみだけを戦いの理由にして欲しくない、同じ戦うのでも、未来に何かを残して欲しい。難しいかもしれないけど、自分にとっての『それ』を探して欲しい。そういう事を伝えたい、それが、この道を選んだ理由の一つだ。 教育者は、その言葉が教え子に届くことを祈って、ひたすらに言葉を発し、態度で示すしかない。 その時の言葉が舞華に届いたかどうか、春奈はついに知ることが出来なかった。 海外出張から戻ってきた春奈が耳にしたのは、ラルヴァ襲撃事件の発生と、それによる被害……彼女の教え子では、行方不明となった立浪みき、一部内臓を完全に破壊され、重体と言ってもいい怪我を負わされた彦野舞華、他重軽傷者数名という惨事。 立浪みきの件についてきな臭い気配を感じていた春奈はそれを調査する一方、怪我を負った生徒の見舞いに回った……彼らは事件について触れようとはせず、春奈もあえて突っ込むことは無かった。彼らが話さなかったのは、立浪みきの秘密を守るためだったのか、別の理由だったかは定かではない。 重傷を負った彦野舞華は、その後春奈に心を閉ざし、何かを話すことは無かった……話すことは無い、と本心から言われてしまったのでは、取り付く島も無い。その後容態が快復しないまま何度も面会するが、その態度は、最期まで変わらなかった。 彼女の心の扉を開ける方法はあったのか。今でもそれは、分からないままだ。 「……せい、クラウディウス先生?」 「……!? あれ、佐々木先生……もしかして、もう時間?」 「……もう二時限目始まってますよ」 「ごめん、ありがと~!! 行ってきま~す!!」 完全に思考の海に溺れ、時間の感覚を失っていた。一つ下の後輩であり、同じく教諭となった佐々木タクミの声で意識を取り戻した春奈は、慌てて荷物をまとめ職員室を飛び出した。 「……なるほど、これは……」 後には、二時限の授業が無い佐々木が残される。彼は、亡くなったその生徒の情報を見ていた。 春奈は翌日、彦野舞華の葬儀へと参列した。彼女の両親は、互いに壁を作っていたようでもあり、互いに慰めあっているようにも見える。舞華の弟がラルヴァに襲われて亡くなり、その後不仲が噴出して一家がバラバラになったと聞く。そして一人残された娘との死別で、再び肩を並べる……その心境は、男性と付き合った経験、もしくは結婚した経験の無い春奈には、まだ分からない感覚なのだろう。 ……その夜、人通りの絶えた通りを、滅多に出さない喪服を着て、春奈が帰宅の道筋を辿っている。 「何度経験しても……ね……」 教師としての経験のほかに、その異能によって戦場で指揮をとることもある彼女。だが、人が亡くなるという感覚はいつまで経っても慣れることはない。それを『自分がまだ正常な証拠』と考えるのは慰めにもならない……といった事を、つらつらと考えてしまう。 何かに、声をかけられるまでは。 『--はありませんか?』 後ろから、唐突に声が聞こえた。 どこかで聞いたような声が、今まで聞いたことが無いような憂いを帯びて聞こえる。 声は、すぐ近く。 制限モードにある春奈の異能でも、その気配を感じ取れる。 彼女が読み取れない思考。 ラルヴァの気配。 ゆっくり、ゆっくり振り返る。 『生きるのが辛くはありませんか?』 その姿は さっきまで写真で見ていた、彦野舞華のものだった。 その手には、彼女に似つかわしくない短剣。 目の前のラルヴァが、なぜ彼女の姿なのかは分からない。 けれども、これが彼女でないことは分かる。 葬儀に顔を出したからではない。 彼女は一度も、そんな悲しそうな声を出したことが無かったから。 『生きるのが辛くはありませんか?』 もう一度、問われる。 舞華の姿が、一歩ずつ近づく。その動きは緩慢で、春奈の足でも逃げられるだろう。 だが、彼女はそうしなかった。 常識的な判断は、今の春奈の頭には存在しない。 「うん、辛いよ」 一歩、また一歩。短剣が、春奈の目の前にまで迫る。 「でも、それでいいの」 舞華の姿をした何かの足が、止まった。 「楽しいこと、嬉しいことを全部使っても、相殺できないくらい辛いけど……まだ、やりたいこと、やらなきゃいけないと思うことがあるから。それで、いいの」 舞華の姿は、そこで立ち止まったまま、春奈の言葉を聞いている。 「辛いのなんて、大丈夫だから、いくらでも我慢するから。全部やり終わって、あたしが満足するまで……もうちょっと、待ってて」 言いたいことを言い終わり、春奈はきびすを返して立ち去る。 背後でラルヴァの気配が消失するが、わき目も振らない。 やりたい事があるから生きる。これ以上に単純明快な理由は無いだろう。 このラルヴァは、死者の姿を模倣する。それならば、既に亡くなったものと思われていた、立浪みきの姿を借りていてもいい筈だ。 後にミセリゴルテと呼称されるラルヴァが彦野舞華の姿を借りて現れたのは、何故か。 立浪みきが、まだ生きている事を春奈が信じていたからなのか。 直前に亡くなった、彦野舞華の印象が強すぎたからなのか。 それとも、彼女の無意識にある別の理由か。 もしかしたら、ミセリゴルテに何らかの力があるのかもしれない。 それは恐らく誰にも分からず、春奈自身も分かっていないだろう。 春奈が、離別した存在と対峙するのは、それから一年後のことである。 一人は変わり果てた姿で、もう一人は、一見姿を留めて。 「皇女様と猫」もしくは に続く トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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「糞!糞!糞!」 全速で階段を駆け下りるが、体の芯から立ち上る怒りは一向に収まらない。 あとコンマ1秒、引き金を早く引けば。 あとコンマ1秒、奴が気づくのが遅れれば。 「アスラン=ザラ!」 憤怒の怒りが喉の奥から吐き出される。 《撤退も作戦の内だ。手はずを忘れるな。治安警察もすぐにここを嗅ぎ付けるぞ》 「分かっている!」 レイの指摘にもシンは苛立ちでしか答えられない。 ここは廃ビルなので、エレベーターは使えない。 階段を下りる途中、シンは打ち捨てられたトイレにチェロケースとライフルを乱暴に投げ込むと、携帯型のテルミット弾にタイマーを仕掛け放り込んだ。 テルミット弾は鉄すら溶かす数千度の超高熱を発する爆弾だ。 これで不要になった装備は瞬時に焼却される。 廃ビルを出た辺りで、背後から熱風が吹き付ける。 おそらく仕掛けたテルミット弾が炸裂したのだろう。 だがそれに一瞥もせず、シンは打ち捨てられたビルの狭間を駆け抜けていった。 ――事件発生から1時間後。 治安警察本部、発令所。 小さなビルがすっぽり入ってしまう程の奥広い室内が緊迫感で充満していた。 管制官達が刻々と集まる情報を逐次チェックし、あわただしく現場の部隊に次々と指示を出す。 「VIPの保護は終了したのか!?」 「全員、主席官邸に無事保護。怪我人は無いとの報告です!」 「中央通りの市民の避難誘導はどうなっている!?」 「8区所轄の第2、第3中隊があたっています」 「それだけじゃ足らん!第5中隊も応援に回せ!」 「一般人の車両使用を全面規制しろ。救急車両のルートを確保するんだ!」 「緊急回線を使って軍の連中に伝えろ!パレードに引っ張り出したモビルスーツをとっととどかせろとな!こっちの仕事の邪魔になる!」 正面に設置された巨大スクリーンには、大混乱に陥っているオロファト市内の状況が写し出される。 記念式典会場のパニックも未だに収まる様子を見せていない。 画面の中には、慌てふためき右往左往と蠢めく群集の姿が映っている。 最奥に一際高くそびえ立つ長官専用席。 そこからその様子を眺める狐目の男は、豊かな金色の顎鬚を弄りながら、まるで蟻だなと他愛も無く考える。 「……軍に任せてみればこの有様かね。やれやれ」 「式典全体の警備指揮権を強硬に要求したのは彼らです。責任は免れないでしょう」 呆れたとも予想通りとも取れる感想を漏らすそんな上司に、隣に立つ赤髪の女性官僚は厳しい眼差しのまま断じた。 「……しかし主席が無事だったのは僥倖だ。もしもの事があれば我々も只では済むまい」 「SPの報告によると夫が助けたとの事です」 「夫……?そうか、アスラン=ザラ近衛総監は君のご夫君だったね。メイリン=ザラ君」 「はい。ライヒ長官」 治安警察長官ゲルハルト=ライヒ。 その傍らに立つメイリン=ザラは、表情も変えず答える。 「状況は?」 メイリンは無言で捜査情報を目前の専用モニターに呼び出す。 「先ほどスタジアムにある監視カメラのデータを解析。テロリストの狙撃場所が判明しました。いずれもスタジアムを中心に半径3km以内。市内三箇所にある高層ビルで、内一ヶ所は再開発地区の廃ビルです。すでに市内全域に非常警戒警報を発令。非常線を張り、主要各道路で検問を行っています」 「ふむ」 「また該当場所の監視カメラならびに市内全域の監視カメラのデータをリンク。コンピューターで容疑者の特定、行動形跡を解析中です。さらに市内を走る全車両の行動ナビゲーションも追跡。監視カメラのデータとリンクさせ、テロリストの使用車両を特定します。2時間以内には全ての目標が判明するでしょう」 「上出来だ」 オーブ全域に配備されているこの監視カメラは全て治安警察のメインコンピューターと常時リンクし、監視ネットワークを形成している。 ただ映像を撮るだけでなく各種センサーも持っており、そこから得たデータを元に被写体の3Dモデルも作ることが出来る。 またオーブで使われている全ての車両、自家用車・バン・トラック……etcのナビゲーターも同じく、監視ネットワークに組み込まれているので、これらによりオーブで動くあらゆる人間のあらゆる行動情報が引き出せるのである。 階下の女性オペレーターがメイリンに報告してくる。 この蜘蛛の巣の如き監視網に獲物が引っかかった事を。 「18区で容疑者のものと思われる不審車両を発見。現在ルート42を南東21区方面に逃走中。207号車、208号車、無人警戒ヘリ105号、112号が追跡しています」 「付近の部隊に連絡。道路を封鎖し出口で確保しなさい。抵抗するなら射殺も許可します」 「了解」 オペレーターはすぐさま現場にメイリンの命令を伝えた。 無人ヘリから送られてきたのだろう。 現場からの映像が巨大モニターの一角に映し出される。 「……もう少し粘るかと思ったが……。早かったな」 緊急時というには不似合いな、静かな余裕が長官ライヒから漂っていた。 四車線の湾岸道路を猛スピードで大型車が走り抜ける。 それを何台ものパトカーが追走、上空からは数機の無人ヘリまでが追ってくる。 《そこの車両、指示に従い速やかに停車せよ!命令に従わない場合は、発砲も辞さない!!》 「くっそおおおおお!!!」 風に紛れて途切れ途切れに聞こえてくる警告に向けて、男はマシンガンの乱射で答えた。 だが追撃車は全く意に返さない。 男が乗る車との距離をじりじりと詰めて来る。 「早すぎる!何でこうも早く俺たちの居場所がばれたんだよ!?」 「お前、はしごの下でも歩いたか?」 「抜かせ!」 ハンドルを握り、アクセルを一杯に踏み込む相棒の軽口に、男は怒鳴り声で返す。 「他の連中は?」 「わかんねぇ。無事に逃げたのか、俺達みたいに追われてるのか。あるいは……。警察通信を傍受してれば、俺達βチームがヤバいのは皆知ってるだろうな」 「……全部隊に通信してくれ。俺達に構わず逃げろ、と」 「……とんだババ引いちまったな」 「ああ」 運転していた男が、通信機で各部隊に連絡する。各自、自由判断で脱出しろ、と。 その時、彼らを弄ぶかのように無人ヘリが接近してきた。 「ざけやがって!落ちろぉ!!」 後部座席にあったグレネーダーを持ち出し、放つ。 爆発。 ヘリは跡形も無く四散した。 「ざまあねえや!!」 だが安堵したのもつかの間、彼らの進路を巨大な人型が阻んでいるのが遠くに見えた。 「モビルスーツ!!」 治安用無人MS、ピースアストレイ。 その機銃口が閃く。 次の瞬間、男達の意識は一瞬で弾けとんだ。 「……はあっ」 空のカップを見つめながら、ソラは疲れたようにため息をつく。 あれからもう5時間も経っている。 喫茶店から見える外の景色は、パニックの一言だった。 サイレンの音はいつまでも鳴り止まない。 パトカーや救急車、消防車が何度も行きかう。 検問のためか道路は渋滞の列が連なり、クラクションやドライバーの罵声が激しく重なる。 歩道は混乱した群衆でごったがえし、時折殺気立った人々が往来で喧嘩まで起こしていた。 《現在、市内全域に非常警戒警報が発令されております。市民の皆様は当局の指示にしたがって……》 拡声器やTVから同じフレーズが壊れたレコードのように何回も繰り返される。 オーブの首都、オロファト市中は今や祭りが転じて大混乱に陥っていた。 どうしようもない。 バイト先の喫茶『ロンデニウム』のカウンターで、ソラはただぼーっとTVを見つめるしかなかった。 同じような緊急特番が延々と続く。 式典の行われていたスタジアムがテロリストに襲撃された、という。 だがそれ以上の話は出てこない。 代わりにコメンテイターとアナウンサーが無意味な推測を繰り返していた。 カウンターの向こうでカップを拭きながら、マスターが心配そうに話しかけてくる。 「混乱はまだ収まってないようだね」 「……ええ、そうみたいです」 「これじゃ、バスもまともに動いてないだろうなあ」 「……」 バイトの時間はとっくに終わったが、街がこの有様なので帰ろうにも帰れない。 そこで心配するマスターの「少し様子を見てみたら?」という薦めもあったので、しばらく落ち着くのを待ってみたのだ。 だが市中の混乱は一向に収まりそうに無かった。 せめて寮や友達に連絡を、と思い携帯電話をかけてみる。 《現在、回線が混み合っており、大変通話しにくくなっております。しばらくお待ちになってもう一度……》 聞き飽きた録音音声しか返ってこない。 ソラは電源を切り、またぼーっとTVを見つめた。 日が沈み、外灯に灯が灯る。 もう外はすっかり暗くなった。 窓越しに行き交う人々は相変わらず右往左往し、この喫茶店にも時折騒ぎに疲れきった客が休憩しに入ってくる。 誰も彼もがどうしていいのか判らないようだ。 ボーン、ボーン。 マスターお気に入りの古い柱時計が、19時を告げる。 少し迷ったあと、ついにソラは決めた。 「マスター。私、そろそろ帰ります。きっと寮母さん達も心配しているでしょうから」 「いいのかい?まだ騒ぎは収まっていなし、バスもまともに走ってないみたいだけど」 「大丈夫です。なんだったら歩けばいいですし」 「……そうか。じゃ、くれぐれも気をつけてね」 「はい。マスター、お昼どうもご馳走様でした」 ソラはマスターにペコリとおじぎすると、喫茶店のドアを開けた。 いつも聞きなれたドアベルが軽い音を立てる。 「じゃあ、また明日もよろしくね。ソラちゃん」 「マスターもお疲れ様でした♪」 別れを告げると、ソラは軽い足取りで夕闇に沈む街に駆け出していった。 「……ってえ」 《掠り傷だ。問題ない、シン》 「ここはどこだ。レイ」 《24区23区の間というところだ。アジトまで時速4kmならあと30分で着く》 「気軽に言ってくれる……」 右腕の通信機が電子音声で現状を告げる。 気を使っているのか、いないのか判らない物言いだ。 傷を負った左腕が痛む。 壁にもたれかかった重い体を何とか動かして、誰もいない真っ暗な細道を一歩一歩足を進める。 まるで鉛を背負ったようだ。 遠くからパトカーのサイレンが聞こえるが、辺りには気配がない。 治安警察はまだ自分達を掴んでいないのだろう。 「コニール達は……無事かな……」 《不明だ。だが警察無線では何も伝えてない》 「βチームは……。駄目だったんだよな……」 《そうだ》 「……」 人気の無い暗い裏路地を、シンはゆるゆると歩く。 シンにとっても治安警察の行動は想像以上に素早かった。 狙撃に失敗したあと再開発地区を抜け、βチームの支援に向かうつもりだった。 監視カメラをかい潜るために裏路地を使ったが、すでにいくつか引っかかっていたらしい。 無人ヘリに察知され銃撃を受けた。 左腕の傷はその時のものだ。 シンは銃撃を付近の建物の影に隠れて避け、そして同時に発煙弾で目くらましをかけた。 周囲の建物が邪魔で高度を下げることも出来ない無人ヘリが、視界を封じられて右往左往している隙に、付近の下水溝に飛び込んでなんとか危機を脱したのだった。 その後、下水溝をさ迷って出てきた先が今いる所の付近、というわけだ。 おかげで少し臭いが、そんな事を気にしている場合ではない。 レイのナビゲートが無ければ、地下迷宮の中で自分は一体どうなっていたか。 今生きている事がすでに僥倖なのかもしれない。 「……アスラン=ザラ……!」 その名を何度口にしただろう。 あの時、あの男さえいなければ、今頃自分はこんな無様な姿を晒すことはなかっただろう。 怒りがふつふつと蘇る。 《終わったことを悔いても始まらないぞ、シン。今は生き延びることだけを考えろ》 「クソッ……!!」 レイの忠告に、シンはただ歯噛みするしかなかった。 「……えっとぉ……今ここ、どこなのかなあ?」 右を向いても左を向いても、知らない道。 見覚えの無い街角。 辺りは倉庫の様な建物が壁のように延々と立ち並んでいる。 暗闇を照らす外灯も所々壊れていて、明るいところの方が少ない。 すっかり夜道に迷ったようだ。 「あ~んっ。こんなのだったら、近道なんかするんじゃなかった~」 よもやの状況に、ソラはひどく後悔した。 バイト先の喫茶店を出たソラが目にしたのは、歩道に溢れかえる群衆だった。 人、人、人でぎっしり詰まっていて、割り込む隅間もない。 交通機関がマヒしているのか誰も彼もが歩いて帰るしかない様で、しかも人の群れはちっとも前に進まない。 このままでは寮に帰る頃には夜が明けているだろう。 そう思ったソラは裏道を通る事にした。 この辺の道は詳しく知らないけど、何二三本外れて回り道するだけだし――、と思って。 ところが、気づけば周囲は異世界とも思える見知らぬ通りだった。 「ここどこかなあ……?」 携帯電話をONにして、ナビゲーションシステムをもう一度呼び出す。 しかし――。 《現在、回線が大変混雑しています。もうしばらく――》 「ああん!もう!」 携帯電話は相変わらず答えてくれない。 切る。 埒が明かなかった。 ――遠くでパトカーや救急車のサイレンが鳴っている。 なのに右も左も暗い路地が囲み、高く黒い壁のように倉庫の群れが周りに立ちふさがる。 わからない。 ここがどこだかわからない。 誰もいない。 ソラ以外誰もいない。 ふと急にソラは怖くなった。 「……嫌」 暗い森の奥に迷い込んだ子羊のように、その肩は小さく震えていた。 彼女の中で不意に"古傷"が思い出される。 一人ぽっちで暗い世界に取り残される、何度もよく見た嫌な夢が。 父さんと母さんが突然ソラの前からいなくなったあの日のから、夜毎それは何度も繰り返されたあの嫌な夢。 「……嫌……嫌ぁ!」 有無を言わずソラは駆け出した。 誰でもいい。とにかく誰か人に会いたかった。 自分は一人じゃない。そう安心したかった。 遠くの街の明かりを目指して、とにかく走って走って走った。 そして―― 「……はぁはぁ」 どこをどれぐらい走ったのか判らない。 息切れと動悸が収まらない。 少し疲れたソラは休む事にした。 そして荒い息をしながら座れるところは無いかと周りを見たその時、ふと彼女の目に不意にそれは飛び込んできた。 血。 赤い血。 暗闇にぽっかり浮かぶ外灯の明かり下、点々とそれは続いていた。 「……何……?」 まるで何かの道しるべの様に、それは彼方へと続いていた。 ふらりと何かに誘われたようにソラはその血痕の痕を追って歩く。 血。 生きた人の証。 もしかしたらソラは人の"匂い"を感じたのかもしれない。 この先に誰かいる、と。 不思議と危険な予感はしなかった。 もしかしたら独りで取り残される事への恐怖が、彼女の感覚をマヒさせていたのかもしれない。 一歩、また一歩と血痕を追って歩く。 しばらくすると一番端の倉庫棟の小さな通用ドアにたどり着いた。 「ここ……?」 ドアを軽く押してみると、少し引っかかるような音を立てて力なく開いた。 カギは掛かっていなかった。 入ってみるが、床は暗くて血痕はもう見えない。 倉庫内は大小のコンテナがいくつか脇においてあるだけで、別世界のようにしんと静まり返っていた。 虫の声ひとつ聞こえない。 がらんどうの倉庫の真ん中に、天窓から月の光が差し込む。 舞台照明のように、暗い空間にぽっかりと光が浮いていた。 その中にソラは立ってみる。 倉庫の中央、スポットライトのような月明かりがソラを照らす。 まるで観客のいない、独りだけの舞台のよう。 誰もいない。 ここには自分以外誰もいない――と、そう思っていた。 「誰だ」 「!?」 不意にソラの横から殺気の篭った声がかかる。 それまでなかったものが、突然その場に浮き出たように。 ソラはとっさに声の方を見た。 そこには――。 倉庫の壁際、その暗闇の中に一人の青年が箱か何かに腰をかけていた。 公園で出会ったあの黒衣の青年――。 彼が目の前にいる。 直感でソラはそう気づいた。 黒衣の青年はあの時と同じ紅い眼差しで、じっとソラを見つめている。 しかし唯一違うのは、その殺気が今ソラに向けられている事。 ソラは声を出そうにも声が出ない。 逃げようにも体が全く動かない。 あの血痕を見たときこうなる事は分かっていたのに、分かるべきだったのに。 どうしよう。 どうすればいいのか。 しかしマヒしたソラの感覚は正常な考えを一向に出してくれない。 今、孤独とは別の恐怖が、ソラを完全に支配していた。 「あ、あの……、私……」 無意識に声が出る。 すると、青年の右手が静かに上がった。 その手にあったのは――銃。 「!?」 青年の銃口がソラに向けられていた。
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スキンの基本情報 紋章が演じているのは大人になれない子どもピーターパン。時々紋章は気まぐれなことをするので、たしかにとても子どもっぽい。しかし紋章の雰囲気のせいか、今回のピーターパンは……みんなが知っているピーターパンより意地悪そう? 装着可能キャラ イザーリン ガーナ 親ページ 紋章 スキン演出 出撃時 勝利時 敗北時 イザーリンの聖痕「電磁妨害」 イザーリンの聖痕「減幅振動」 ガーナの聖痕「深淵のタッチ」 ガーナの聖痕「衝撃をはじく」 従魔奥義使用時
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TOG/009 R SR “あの日の少女”ソフィ/光子格闘 女性 パートナー “プロトス1”ソフィ/光子格闘 女性 レベル 2 攻撃力 3000 防御力 5000 【わたしは負けない! 解放します……! 必中必倒! クリティカルブレード!!】《原素》《ヒロイン》 【スパーク】【自】あなたのベンチと控え室とリタイヤ置場に《ヒロイン》がいるなら、あなたは相手のベンチのカードをすべて選び、【レスト】する。 作品 『テイルズ オブ グレイセス エフ』 1月28日 今日のカードで公開。 自分のベンチ・控え室・リタイヤ置場の全てに《ヒロイン》のカードが置かれているなら、相手ベンチのカード全てをレストするスパーク技。 《ヒロイン》を主体とする『迷い猫オーバーラン!』の文乃単デッキでの使用も可能であり、このカードを入れることで『迷い猫オーバーラン!』の除去の弱さを補える。 ご機嫌な文乃や素直じゃない文乃を使って自分の控え室やリタイヤ置場に《ヒロイン》のカードを置くことで、序盤からこのカードの技の条件を満たすことも可能である。 「スタンドしているカードをレストする」というテキストの技と異なり、相手ベンチのリバース状態のカードをレスト状態に復帰させてしまう点には注意。 関連項目 『テイルズ オブ グレイセス エフ』の、自分のベンチ・控え室・リタイヤ置場に指定の技属性のカードがあることを条件とするスパーク技“光の双銃士”ヒューバート/煇術剣士 “光の投刃士”マリク/投刃剣士
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457 名前:1/2 :2009/03/21(土) 22 42 40 ID ??? シン「二重人格といえば、アンタはラクスさんのこと怖がってたよな」 キラ「ああ黒ラクスのこと?ここには白ラクスしかいないからね」 ラクス「なんのことですの?」 キラ「なんでもないよ。ほらラクスの番だよ」 ラクス「あ、そうでしたか。えい……8ですわ……け、結婚するとかいてます!」 ウッソ「人生ゲームですから。はい、青ピンを自分の車に付けてください」 ラクス「え?これだけなんですの?」 シャクティ「もしかして、他のプレーヤーと結婚するのと思いましたか?キラさんとか」 ラクス「い、いえ……はい」 ガロード「ひゅーひゅー」 キラ「あ、つぎ僕ね。えと、『新型ガンダムを拾う。手に入れるか、売るか選べる』。 よしガンダム売るよ。シン、100000$」 シン「あんたって人はー!」 キラ「やめてよね、銀行係するって言ったのはシンだろ?」 シン「つっこんでるのはそこじゃねーよ!」 シュウト「でもラクスお姉ちゃんってそっくりさんいるよね」 ラクス「ミーアのことですね。今度ご紹介しますわ。とても優しくていい子ですわ」 ウッソ「そんなにそっくりかな?向こうの方は乳タイプって感じで」 ティファ「…ミーアさんはニュータイプではありませんよ?」 シャクティ「ティファさんは気にしなくていいんですよ。ウッソには後で話があるから」 458 名前:2/2 :2009/03/21(土) 22 43 34 ID spzezV+1 ガロード「ま、まぁ…で、今ミーアさんはラクスさんの代わりに仕事を?」 ラクス「いいえ、先ほど刹那さんと一緒にいましたわ」 シン「刹那と?」 刹那「そこだー!ヒタイダーレッド!」 ミーア「ヒタイダー!負けちゃやだー!うわーん」 刹那「諦めるな!ヒタイダーは決して負けない!」 ミーア「うん……!分かった……!」 刹那「ガンダムだ!」 刹那 ミーア「いけー!ヒタイダー!」 シン「白とか黒とか言うより……」 キラ「アホの子だね」 シュウト(それだと刹那兄ちゃんもアホの子扱いになっちゃうんじゃ) ティファ「私ですね……えと……『子供が産まれる』……」 シャクティ「おめでとうございますティファさん。男の子と女の子どちらがいいですかガロードさん?」 ガロード「な、なんで俺に聞くんだよ!!ティファに聞けよ!!」 ティファ「ガ、ガロード…わ、私は…男の子のほうが…」 ガロード「そ、そうか…ハ、ハハハ。お、俺はティファの娘とか、 きっとティファに似ててすごくかわいい……あああ俺何言ってんだ!」 ティファ「///」 シャクティ「ふふふ」 ウッソ(シャクティもこうしてみると白いんだけど。は!もしかしてこれが二重人格!?) シャクティ「ウッソ。後で話すことが増えるわよ」
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ついおくとくうかんのしょうじょ【登録タグ natsumeg つ 初音ミク 曲】 作詞:natsumeg 作曲:natsumeg 編曲:natsumeg 唄:初音ミクAppend 曲紹介 決して交わることの無い、二人の物語。 natsumeg3作目。 空間に立体感を出すように仕上げてみました(作者コメ転載) イラストは 春森2ks氏。 歌詞 色のない部屋 触れていた記憶を 塞いだ現実を飲み込まれた位置で 変わらない過去に落ちる 吸い込まれた色は混ざり合っていくだけ 動けないままに黒に落ちる つまらない言葉並べては嘘吐きの僕を壊してよ 心無い人に踊らされ本当の夢を捨てて 「二つの物語は決して交わることはない。」 『だってそうだろう。ここに来るまでの長い長い暇つぶしさ。 その流れの中に「何か」をもし見つけたとしても それは僕のものじゃない』 そう、それが唯一の答えだ。 ねえ この手で拾ったものその代わりを捨てていくの 『もういいかい?』誰がそれを拾うというの? 「ほら、すぐそこにある」 「いま、すぐ、また、消えていく。」 君の手を引いて僕はまた同じ過ちを犯す 何度も、何度だって 答えは簡単だそんなの僕にでもわかる それでも追ってたいだけ 偽物の言葉並べてる、嘘吐きの君を知ってるよ 優しい言葉はいらないよ それでもまだ捨てられない 「skew lines」 「三回繰り返された。その代償も無しに 君は言った「それでも美しい世界が見たい」と。」 たどり着く場所は、別の未来の先だ。 ねえ この目が見つけたもの その代わりを捨てていくの もう一回 まだ夢を見ていたいんだよ ねえ そうでしょう?抱えていたその光はもうすでに 「消えてる」だいぶ前に気付いていたよ 「さようなら」 「ありがとう」 コメント 追加有り難う!!この歌好きだー・・・。 -- 名無しさん (2011-10-06 19 09 37) イントロから惹かれた。良曲。 -- カロン (2011-10-07 18 17 25) もっと評価されるべき -- 名無しさん (2012-12-21 13 35 19) 名前 コメント
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概要 【神話篇】のクエストのひとつ。【記憶のつめあと】のクリア後に受注できる。 【メルエ】が持っていた星天のペンダント。【ゴブル砂漠西】の【砂岩の洞くつ】で同じものを見つける。 初回報酬は【グリーンオーブ】。リプレイ報酬は【ウルベア金貨】。 攻略 【落陽の草原】(????)→【ゴブル砂漠西】→【砂岩の洞くつ】の順に移動する。 ボスは【ライノスローネ】。 関連項目 【ふたりの逃亡者】 ※次のクエスト
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白紙/シューズ 作者名:公式 配布形式:公式 備考:公式着色白紙
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前ページ次ページゼロの少女と紅い獅子 「何なんだい、一体」 倒れこんだゴーレムの肩から辛くも『レビテーション』で逃れたフーケは突然現れた赤い巨人を見上げた。 初めは別のゴーレムでも現れたのかと思った。しかし眼前のそれはゴーレムのような不恰好さは微塵もない。戦士をそのまま 巨大にしたような、その威容にあっけに取られた。 こんな物を相手に勝算などあろうはずもない。彼女はゴーレムをけしかけて早々に退散しようとした。 『ダアァー!』 掛声とともに巨人――レオが先に仕掛けた。倒れこんだままのゴーレムを持ち上げそのまま森の放り投げた。派手な音を立ててゴーレムが 叩きつけられる、あまりに規格外の戦闘にフーケは咄嗟に対応が出来ない。ゴーレムがノロノロと立ち上がるのを見るや、すかさずレオが 肉薄した。 「チッ、応戦しな!」 フーケの命令にゴーレムは愚直に従う。突撃するレオに鉄拳を叩き込む。だがそれをレオはあっさりと回避すると、左脇に抱え込んで 相手を捕らえた。間髪をいれず手刀を肩に喰らわせる。赤熱化した右手は唸りを上げただの一撃でゴーレムの肩を粉砕した。 残る左腕で反撃を試みる相手に対し叩き落した右腕を叩きつけてて弾き飛ばす、喰らったゴーレムは再び仰向けに倒れこむ。 「まだだよ!」 フーケが叫んで杖を振るった。すでにゴーレムの精製で大量の魔力を消費している彼女にとってこれが最後の魔法であった。 ゴーレムは一瞬土くれに戻ったかと思うと、巨大な手のような形に変化しレオを握り潰さんと覆いかぶさった。 だが。 『ヌウウゥン!』 気合一発、纏わりついた土をレオは両腕を振るって弾き飛ばす。今度こそただの土くれに戻ったゴーレムであったものは、 ボトボトと辺りに降り注いだ。 「そんな……」 呆然と呟いてフーケはひざを落とした。スクウェアクラスのメイジにも引けを取らないとの自負があった自分のゴーレムが こうも簡単に敗れるとは思いもよらなかった。 それ程までに相手――すなわちレオは規格外であった。 そう、規格外なのである。 圧倒的戦闘を見せたレオは、正体不明の障害に襲われていた。 彼ら光の国の戦士は意外にも環境によって発揮できる力が制限される事がある。実際、地球においては悪化した大気の影響で 彼の場合は二分半程しかその実体を維持する事が出来なかった。 ここハルケギニアでは別のものが彼の邪魔をしていた。そう、まさしく意思を以ってウルトラマンレオの行動を阻害しているのだ。 或いは意思と言うよりは本能と言うべきか。 大気を、大地を、水中をその身とし、その安住の地とする精霊たちは彼を敵視し、レオが顕現すると同時に一斉に排除すべく干渉を始めた。 『危険だ』 『個を持ちながら限りなく不死なるもの』 『失せろ』 『傲慢なる光の使いよ』 『我らを喰らってその力を行使するか』 大気は重く淀み纏わりつき、大地は踏みしめるたびに着地を拒絶するようにのめり、離れようとすれば 吸い付いて足元をすくう。大気とともにある水蒸気は呼吸をするたびに器官に止まり内部を侵食する。 有象無象の影響がレオに襲い掛かったのだった。 無論それが精霊の仕業である事をレオは知らない。だが地球のときとは違う明らかに敵意をもった干渉は彼の体力を確実に奪っていた。 彼らのエネルギーは光のみではない。大自然の生きるものの力の一つ一つが彼らの力となる。 そしてそれは、ここハルケギニアでは自ら意思を持ち、そして牙をむいた。それは地球での消耗とは桁違いであった。 ズン、と鈍い音を立ててレオが膝を突いたかと思うと突然全身が発光した。光がそのまま縮小していくのを見てルイズは彼の元に駆けだした。 果たして、そこには元の通りのゲンの姿があった。その後姿からも消耗しているのが見て取れた。そしてその先、数歩も行かないところに フーケが放心したままへたり込んでいた。 「ゲン! あ、あのえっと、大丈夫?」 彼女は恐る恐る声をかけた。先程までの戦闘を見て物怖じするなと言う方が無理がある。 「ああ、大丈夫だ……」 それが強がりなのは明らかであったが、それでもゲンは気丈に立ち上がった。もう先程までの不可解な現象は消えていた。 「さっきのが、貴方の本当の姿?」 「今も本当の姿さ。まあ、説明は後でするよ」 そう言ってフーケのほうに顔を向ける。 「とりあえず、盗んだものを返してもらおうか」 そう言って一歩踏み出すと同時にフーケが後ずさる。魔力を使い切った彼女は今はそれなりに機敏なただの女性に過ぎない。 その拍子に黒い物体が彼女の懐から滑り落ちた。ゲンより先にルイズが駆け寄って拾い上げた。 それは拳二つ分くらいの真っ黒な物体であった。一瞬見た感じはどう見ても石にしか見えない、だがこれほど不自然に黒々とした 石をルイズは見た事がなかった。第一、悪名高いフーケが狙うものとしては余りに奇妙なものだった。 「ちょっと、何なのよコレ? 盗もうとしたくらいだから知ってるんでしょう」 ルイズが詰問口調でフーケに尋ねるが、彼女は口を開こうとはしなかった。流石に小娘に脅されたくらいでホイホイ口を割るほど 肝は小さくはない。 「聞いてんの!? 何なの……キャッ!」 唐突にルイズが小さな悲鳴を上げて黒の物体を取りこぼした。落下した物体から虫のようなものが這い出て来た。 「クックッそれくらいでビビルなんてねえ、お上品な事だ」 フーケが喉で笑うのをジロリと睨むが彼女は意に介さなかった。 「虫が付いていたのか?」 落ちた物体に何気なくゲンは近寄ると、這い出てきた虫とやらに目を向けた。途端に彼の目が険しくなった。 「これは……そんなバカな!」 慌てて黒い物体を拾い上げるゲン、その様子にルイズは勿論フーケもあっけに取られた。実際のところフーケもその正体を知らないのだから これは仕方がないことであった。 物体を持つゲンは顔を伏せているためルイズにはその表情をうかがうことは出来なかった。だが遠目にも彼の肩が、物体を持った 右手が小刻みに震えているのが見て取れた。 突然、ゲンは無言で這い出てきた虫モドキを踏み潰した。しかも何度も、念入りに、徹底的に。どう見ても異常な光景だった。 その行動が透かすのは驚きと、怒り。 「ねぇ、ゲン……」 ルイズが沈黙に耐えかねて声をかけようとしたその時、ガサリと音を立ててフーケのさらに後ろから男が現れた。 仮面の男であった。何をするでもなく、こちらを値踏みするようにしながら男は無言のまま佇んでいる。無論、友好とは 程遠い雰囲気を発散しながら。 ゲンは勿論ルイズも闖入者に警戒を向けていた。このタイミングでの登場は明らかに偶然ではない。 ゲンが黒い物体を持ったままルイズを守れるように一歩踏み出した瞬間、男はマントを跳ね上げサーベル風の杖を抜き放った。 いち早くゲンが反応する。幾多の戦闘の経験が射撃攻撃を予感させた。が、疲弊した体は思うように動かない。一瞬の逡巡の後彼は 咄嗟にルイズを抱きとめた。 遅れて空気の塊が二人を直撃、軽々と吹き飛ばされた二人は木に激突した。ぶつかった弾みで黒い物体がゲンの手から零れ落ちる。 酷い激突とは裏腹に幸い二人は軽症ですんだ。だが現状はそれを喜ぶのは早計であった。 「なっ、今度はなんだい?」 新たな人物の登場にフーケは混乱の極みにあった。もっとも仮面の男はフーケに危害を加えるつもりはないらしい。 フーケの傍まで来ると一瞬彼女に視線をやった。そして森の奥の方を顎でしゃくる。その仕草でフーケは察したらしい。 「ああ、そう言うことかい。確かに私が捕まったら、アンタも面倒だろうからね」 気を取り直しフーケは立ち上がると一目散にその場を後にした。 仮面の男は無言のまま黒い物体に歩み寄った。そしてそれを拾い上げると確認するように慎重に観察を始めた。 「貴様、それが何か分かっているのか」 隠せぬ疲労の色を滲ませながら、それでもゲンは立ち上がりながら尋ねる。その間もルイズを背後に位置させる事を忘れない。 「勿論だL77星の死に損ない。ああ、今は光の国の連中とつるんでるのだったな。クッカカカ」 唐突に男の表情が変わった。仮面越しにもこちらを嘲笑するのが見て取れるようだ。その変貌にゲンの眉間は一層深くなった。 「マグマ星人……!」 「カカカカ、気付かなかったかやはり。他の知的生命と同化出来るのがお前達の専売だと思わぬ事だ。お陰で俺の気配を薄める事が出来た」 「この世界の人間を乗っ取ったのか!?」 「そこまで貴様に教えてやる必要はない」 自らの有利を完全に確信した上での嘲りである。左手で黒い物体をもてあそびながらも、右手のステッキはゲンからその切っ先を 外す事はない。 「まあ、このブラックスターの欠片を見つけたのは偶然だが」 「やはり、それは!」 叫びとともにゲンが弾けるようにマグマに飛び掛る、だが万全ではない彼の動きはいかにも緩慢であった。あっさりとかわされると、 したたかに杖を叩き込まれる。思わず半身が折れ曲がったところに間髪をいれず全力の蹴りが跳ね上げられ、ゲンは無様に吹っ飛ばされた。 「この世界に迷い込んだのは偶然だが、中々面白い事になっているようだ。貴様が知っている以上にな。もっとも、」 仰向けに倒れたゲンにゆっくりとマグマが迫る。 「貴様がここまで弱っているのが最大の発見だがなあ!! ヒヒヒハハハハハ!!!」 大げさに上体を逸らして大笑いしてみせるマグマ、だがそれはピタリと止まった。そして醒めた視線をレオに送る。 「と言うわけで死ね」 立ち上がろうとしたゲンを再び蹴り倒して踏みつける。そして杖を高々と掲げた。 と、同時に杖が爆発した。と言っても粉々に砕け散っただけだったが、マグマの注意を引くのは十分だった。 「うぉおお!!」 ゲンが力を振り絞って自分を踏みつけるマグマを跳ね除ける、バランスを崩した相手の胴に蹴りを叩き込むのも忘れない。 「あぁん?」 大したダメージにはならなかったらしい。マグマは憎々しげな視線を向ける。その先にいるのは、 「また失敗、か。まあ今回に限れば成功かしらね」 片腕でデルフリンガーを抱いたままのルイズがいた。咄嗟に彼女が放った錬金の魔法は、詠唱が不十分だったか、杖自体に 固定化が施されていたか、彼女が予想したほどの威力にはならなかったが、ともかくゲンの救出には成功した。 「ガキが……」 マグマの顔が憤怒に染まる。だがその顔は再び一瞬で変貌し、再び顔色が伺えぬようになってしまった。 まるで人が入れ替わったような雰囲気の変貌にルイズが不気味げに呟く。 「何なのあれ? まぐませーじんって皆ああなの」 「おそらく同体化した人物と精神まで一体化してないんだろう。だから表にも別の人格が出てくる」 「どうたい? どっかのメイジと混ざってるの?」 ゲンはそれには応えず、油断なく相手を見据える。 仮面の男が懐から予備であろう、小型の杖を引き抜く。それを引金にゲンは、ルイズに鞘を持たせたままデルフリンガーを引き抜くと、 「下がってろ!」 そう叫ぶと一直線に切りかかった。だが無論動きは鈍い。振り回す剣はことごとくかわされ、その間に男は呪文を構築していく。 「相棒! 今のおめえじゃあ無理だ、逃げろ!」 「そうも行かん!」 逃げ切れるわけがない。そう判断しての行動だった。だがこの相手に対しては無謀だった。 魔法が完成したか、男が杖を振るう。発動させまいとゲンが大剣を振りかぶるが、男はそれを片手で制すると呪文を唱えた。 「消えよ」 振るわれた杖から、渦となって回転し刃となった空気発生しが至近距離からゲンを襲う。咄嗟に体を捻って急所への直撃は免れたが、 放たれた『エア・ニードル』はゲンの体のあちこちを貫通した。 「ぐ…あぁ……」 堪らずひざまずくゲン。男は無力化したゲンには目を繰れずルイズに標的を定める。 「逃げ…ろ!」 ゲンの叫びが響くが、ルイズは足がすくんで動けなかった。それでも気丈に杖を振るってどうにかしようとした。 「……無駄だ」 呟きとともに『エア・ニードル』が放たれて彼女の杖を弾き飛ばす。これでルイズはただの少女だ。 「イ、イヤ……来ないで……!」 へたり込むルイズに男が迫る。 「おおおおおおおおおおおおおお!!」 最後の気力を振り絞り、ゲンが男を後ろから取り押さえようと飛びつく。男が煩そうに肘をゲンのわき腹に叩き込む。だがそれで離れる ゲンではない。激痛と消えそうな意識に耐えながら男を羽交い絞めにする。 「ルイズ、逃げろ! 逃げるんだ!!」 ゲンに叱咤されルイズが立ち上がる、だがそれと同時に男がゲンを振りほどいた。 再び杖がルイズに向けられる、だが次の瞬間。 「ゲン! 離れて!」 まったく予期せぬ方向から女性の声がとんだ。ゲンは男と体を入れ替えるとルイズをかばうように彼女に飛びつく。 数瞬遅れて声のした方から巨大な火球が男に迫った。だが、男もさるもの。一瞬で呪文を構築し人間大の竜巻を発生させ火球を相殺した。 「ジャジャーン! と。ヒロイン登場のタイミングにしてはぴったりかしらね」 声の主はキュルケだった。その後ろからは無理やりつき合わされたかタバサも続く。 「あ、あんた達……何で?」 ゲンに覆い被さられたままルイズが尋ねる。 「ゴーレムが暴れたと思ったら、今度が赤い巨人が突然現れるんだもの、ビックリよ。で、落ち着いたみたいだったから どうなったかと思って来てみたら」 そう言いながら仮面の男の方に視線を向ける。口調とは裏腹にその顔に笑みはない。 「中々、愉快な事になってるわね」 台詞は終わっていたかどうか。容赦無用と言わんばかりに再び火球を繰り出すキュルケ。男は再び竜巻で掻き消すと 更に呪文を唱えようとしたがそこに今度は氷の塊が襲い掛かる、タバサの呪文だ。今度は烈風を巻き起こし氷を逸らす仮面の男。 「強敵」 「へえ、やってくれんじゃないの!」 立て続けに魔法を無力化され二人にも流石に緊張がみなぎる。だが、男は意外にも一行から間合いを取った。 この状況を不利と判断したか、それとも無駄に時間を割きたくなかったか、男は突風を発生させるとその勢いと闇夜にまぎれて 消え去った。 「フン、逃げたか。締まらないわね」 「見逃されたのかも」 それぞれ感想を述べるとキュルケはルイズ達に向き直る。 「で、何時までそうしてるの」 依然ルイズはゲンの下敷きになったままだった。逃れようとルイズがもがいている。 「そうじゃないでしょ! ゲン、ねえ、大丈夫?」 だが、返事はない。ぬるりとした感触を手に感じたルイズは思わず彼の胴の下にあった手を引き抜いた。 彼女の手は真っ赤に染まっていた。正体は言うまでもない。 「あ……。ねえ! ゲンしっかりしてよ! ねえってば!!」 突然、ゲンの体がふわりと浮かんだ。タバサが『レビテーション』を唱えてくれたようだ。 「医務室へ」 意外な人物の対応に一瞬言葉が紡げずにいたルイズだったが、その言葉に無言で何度も頷いた。 「アンタは大丈夫なの?」 キュルケの尋ねにルイズはわが身を調べてみたが特に外傷はなかった。 「大丈夫、みたい。ゲンが守ってくれたわ」 そう、と呟いてキュルケはタバサの後に続いた。 普通なら何が毒の一つも混ぜるキュルケが素直に身を案じてくれる事を、ルイズは嬉しく思った。 無論、言葉には出さないが。 「おーい、娘っこ。悪いが回収しちゃくれねえか」 放り出されていたデルフリンガーを鞘に収めて彼女も校舎に戻った。 驚異的なことに、ゲンは翌日の昼過ぎには意識を取り戻した。校医の診察によれば、肋骨数本の骨折と『エア・ニードル』による 全身の外傷からの出血と内蔵の損傷、そして原因不明の衰弱。 ありていに言って死んでいなければならない程の重症であった。無論校医がゲンの容態を見るや、校内中から水系メイジを召集して 治療を手伝わせた結果であるのだが。 「ルイズ、無事だったか」 開口一番この台詞だったので、ルイズは目を丸くした後ため息をついた。 「自分の体のことを心配したほうが良いんじゃない?」 「ハハ、それもそうだな」 それっきり黙ってしまう二人。たった一夜で色々とありすぎだった。 常識はずれのゴーレム、それを上回る巨人、謎の物体とそれに対するゲンの行動、そして仮面の男。 どれから話すか、どれから聞こうか、あるいは聞かずに置くべきか。そんな考えが二人の頭をグルグル回って占領し、 なんともいえない沈黙を作っていた。 「すまない」 ゲンが口を開いた。ルイズが彼の方に向く。 「いずれこの事はちゃんと説明する。今は、俺にも分からない事が多すぎる」 ルイズは一瞬俯いたが直ぐに顔を上げて、 「当然でしょ。主に隠し事なんてするのは使い魔失格よ」 そう言い放つと、部屋を出て行った。部屋を出る直前。 「主を守るという点では最高なんだから、私を失望させちゃダメなんだからね」 その言葉を残して扉は閉まった。 前ページ次ページゼロの少女と紅い獅子