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―無意識に奏でられる即興曲 1― ―無意識に奏でられる即興曲 2― ―無意識に奏でられる即興曲 3― ―ただ一人に送られた詠嘆曲 1― ―ただ一人に送られた詠嘆曲 2― ―ただ一人に送られた詠嘆曲 3― ―21世紀の精神異常者 1―
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投稿者:怨是 「此処まで来れば大丈夫ね。回収するわ。待ってて」 「オーケイ、今行くぞ」 戦闘領域から離れた回収地点へと、グッドマンがヘリを動かす。曇り空からは灰色の粒が幾つも降り注いでおり、コックピットの防弾ガラスに付着したそれを見て、初めて雪だと気付いた。地表が此処まで荒れ果てた現在に於いても、空はしっかりと“生きている”らしかった。 「回収地点への到着を確認。お疲れ様」 《ふいぃ、死ぬかと思ったっちゃ》 ショートテイルが気の抜けた声で脱力している。釣られてオペレーターの女性もまた、肩の力を一気に抜き取った。赤字が解っている出撃ならまだしも、今回は自分とショートテイルの存続を掛けた戦いだ。そんな事を云っては大袈裟だと笑われるかもしれない。が、本当の事だ。 《……じゃあ、本当に死なせてやるか?》 険呑な、先程の口喧嘩のせいで少し枯れた声が通信機から響く。カラブローネだ。機体は迫撃砲とスナイパーキャノンを捨て去り、ハンガーのHEAT榴弾砲とレーザーブレードへと持ち替えている。やけに追い付くのが早いのは、そのせいだろう。 《ちょ、戦闘領域から離脱したと思ったのに!》 《残念だったな。此処はまだ俺の庭だぜ。お前が誰の差し金かは知らないが、獲物は必ず追い詰めるのが礼儀ってモンさ》 榴弾がドレイクを横切り、装甲を斜めに穿つ。 《ひ……ッ?!》 「やむを得ないわ。そいつだけでも倒して」 《うぅ、やるしかないと》 「なるべく早くね。もう一機が来たら勝ち目が無い」 敵側の僚機であるグレイゴーストは足をやられているとはいえ、セントリーガンで火線を増やされれば面倒だ。 《っへへへ、手間の掛かる子猫ちゃんだ!》 至近距離で榴弾砲を連射され、路地裏へと追い詰められる。三次元的機動を考慮しない場合はこの時点で“詰み”だが、軽量逆関節の強みはその跳躍力にある。 「そのビルを使って!」 《了解だっちゃ!》 ドレイクはしっかりとビルの間を三角跳びで蹴り上がり、屋上へと到達する。 ――くそったれ、ひやひやさせるな。 額に浮かんだ脂汗の玉がウォータープルーフの化粧の上を奔る。胃袋の内容物が逆流しそうだ。 「追ってくる。ショットガンで撃ち落として」 武器を切り替える間の僅か数秒がこれほどもどかしい瞬間は、今まであっただろうか。ドレイクとヴェレーノの高低差が見る見る内に縮まって行く。ヴェレーノはビルの壁を昇りながら、榴弾砲を至近距離で放ってきた。武器の切り替えを終えて今まさに散弾で撃ち落とそうと顔を覗かせたドレイクは、それをまともに浴びる形となる。 此処で一つ弁解しておきたいのは、ヴェレーノが武器を構えた所は決して見逃してなどいなかった。引っ込めと指示を出そうとした瞬間には、既にやられていたのだ。決して、ミスではないと信じたい。信じて欲しい。誰に祈るでもなく、オペレーターは胸に拳を当て、伏し目がちに胸中で呻いた。 頭部を損傷してバランス機能を失ったドレイクはビルから大通りへと転落し、ヴェレーノがそれを追い掛けて踏み付ける。キャノンを捨てて軽装になったとはいえ、あの本体フレームの重量がビルの屋上から踏み付ける力は、ブーストチャージに匹敵する。カメラの幾つかが破損したのか、リンクして流れてくる映像はそこかしこが欠けていた。 ドレイクのショットガンは少し遅れて発射され、ヴェレーノの装甲を穴だらけにする。慌てて飛び退いたヴェレーノに追撃する様な真似はせず、ドレイクはバランス制御のいかれた脚部をガクガクと動かしながら距離を取ろうとしていた。 《チェックメイトだ。約束通り、くたばっ――》 金属の擦り切れる音が轟き、重量逆関節型……ヴェレーノの反応が消える。マップを見ると、代わりに反応が一つ増えていた。重量二脚型だ。 《……あ、あれ? どうなったっちゃ?》 急いで、探知機の範囲内に居る重量二脚型をスキャンする。どうやらスペクターではないらしい。エンブレムも装備も異なっている。 《天下のヒーロー様がこんな雑魚に手こずってるなんて、笑い種にもならないよね、実際》 鈴の音を鳴らすかの様な可憐な声音はしかし、語気が毒を多分に含んでいるせいで不快に感じられた。 《君はガーネット! いや、助かったっちゃ! 何とお礼をすべきか! そうだ、今度ジュースでも――》 《――黙りなよ。助けたのは本意じゃない。私はあんたとは別件でこいつらを追っていただけ。もう一人は取り逃がしちゃったけど……ACの撃破報酬は私のものだから》 いきなり何を云い出すかと思えば、この小娘は。流石にそれは駄目だ。完全に赤字になってしまうではないか。 「えっと、ガーネット・グランスカーレット、で合ってるわよね?」 OVAのデータベースから引っ張り出したプロフィールに依れば、確かそんな名だった。 《そうですが……貴女は?》 合っているなら、良かった。声のトーンは威圧的なまま、口調を丁寧にした彼女の意図は計りかねるが。 「その子を担当してるオペレーターよ。悪いんだけど、先に交戦していたのはこっちなの。何割かはこっちに貰えないかしら?」 《駄目です。倒したのは私。そこのカエル女はどうせ喚きながら逃げてただけですよね? あれの撃破報酬は全額頂きます。生半可な情報だけで依頼を請けてはならないという教訓の、その授業料として》 こういう仕事をしているとよく見掛けるのが、共闘に際してこの様に反抗的な態度で噛み付いてくる手合いだ。彼女の様な輩とぶつかった場合、のらりくらりと追及を躱しながらお互いが納得出来る落とし処へ持って行くのが定石だ。が、大概そういった協議は骨の折れる行為である事を知っているだけに、バイト女のオペレーターは暗澹たる胸中を隠しもせず、溜め息を吐いた。 「僚機を行動不能に追い込んだ、っていう事情も配慮して頂戴。ミグラントっていうのはね、そういった話し合いも大事なの」 《断ります。決定打を与えた相手があくまで僚機のほうなら、あの逆関節型を倒した事との直接的な関係は無い》 何処までも頑固な奴。だが理論で押すしかない。武力をちらつかせて屈服させる手段は、草食系ミグラントたる蜥蜴重工の構成員に於いては禁じ手だった。 「大いにあるわ。僚機の重量二脚型が健在だったら、あんたは二機も相手取らなきゃならなかった。幾らあんたの腕でも、そこのお荷物を抱えながらじゃ無理じゃない?」 《ちょ、ちょっと待つっちゃ! ウチがお荷物って――》 「――うん、ショートテイル。解るわよね?」 《はいはいはいぃー……》 反論しようと口を挟んできたショートテイルを反射的に黙らせる。多分あの女とは浅からぬ因縁があるのであろうショートテイルが今、この話に入ってくると、この上なく面倒な事になるのは明白だった。話がこじれる前に、どうにかせねばならない。自分の時給もそうだが、ショートテイルの為にも。 「確実に勝利できる状況を作ったって事で、あんたと私達は報酬を分け合うべきよ。ね? 共闘したという解釈で。それが筋ってもんじゃないかしら」 《見くびらないで下さいよ。そこのカエル女じゃあるまいし。二機だろうが、私はやれます》 「はぁ……」 兎に角“一人で倒せた”だの“全額寄越せ”だのと、その一点張りとなっては、話が一向に進まなかった。 「埒が明かないわ。そっちのマネージャーは誰? 話を付けるから、繋いで。今すぐ」 ミグラント同士の話し合いに於ける、武力を除いた最終手段……それは、相手側のオペレーター、ならびにマネージャーとの対話である。血の気が多すぎて話の通じない傭兵を御するのはいつもオペレーターだと相場が決まっている。 《……チェイサー、お願いしてもいいですか?》 チェイサーというのはあちらのオペレーターのコールサインだろうか。素直に呼んでくれるなら話が早い。遙か遠方、雲の隙間から黒い点が現れる。あれが恐らく、チェイサーとやらのヘリだ。 《友軍だ。撃つのか》 不穏な言葉に背筋が凍った。撃つなよ。 《あれが友軍だなんて、私は認めません。何かあれば責任は私が取ります》 頼む、チェイサー。頼むから話し合いを……。 《……了解した》 「嘘、ちょっと、何するつもり――ッ?!」 予感が確信に変わり、咄嗟に問い質したが、最後まで云い切る事は無かった。 虚空から現る小さな塊が、或いはそこに付随する光の尾が、ヘリの横腹を僅かに掠めた。コックピットが揺れる。スナイパーキャノンを搭載した航空機など、古今東西聞いた事が無い。 口中に広がった血の味に些かばかり驚いて、思わず口元を右手の人差し指で拭うと、ぬめりを帯びた赤い線を引いていた。どうやら今ので唇を切ってしまったらしい。 ……此処までやるか。Dランクの小娘だからと油断したが、まさかこんな暴挙に出るとは。 《大丈夫だっちゃ?!》 「くっそ……」 《今ので解ったでしょう? 要求に従わないなら撃墜します。あのACの撃破報酬を全額こちらに渡すか、それともご自身の命を危険に晒すか。懸命な貴女なら前者を選ぶ筈ですが》 何を生意気な。か弱い淑女の唇を間接的にとはいえ傷付けておいて、その言い草は何だ。 「ふざけないでよ! 無茶苦茶よ、こんなの! 呑めるわけないでしょ、明らかな脅迫行為だわ! OVAの管理委員会が知れば、只じゃ――きゃっ?!」 二発目がヘリの装甲を抉る。エンジンの油圧が下がり、これ以上の被弾が危険である事を機内アラームがひっきりなしに喚き散らしていた。グッドマンが計器の幾つかを操作して、それを黙らせる。 衝撃でぐらついたのが血圧に変な影響でも及ぼしたのか。それとも何処か別の場所でも出血しているのか。思考の回転数が上がらない。粘ついた逡巡は次々に水泡となり、呼吸を荒げる醜態を強いられた。その根源が恐怖であるなどとは、断定したくなかった。安全地帯から指示を飛ばすだけの日々を過ごし、死地に赴いた事など無かったなどとは、断じて認めたくなかった。 まだ死にたくない。じわりと滲んだ涙に、視界が歪む。 《ふふん。残念ですが……記録などというものは揉み消せば知れ渡る事などありませんから。風化してしまえば、せいぜいミグラント同士の小競り合い程度の認識に落ち着きますよ》 風化するなんて嫌だ。折角、あと少しだったのに。 《やめるっちゃ!》 《うるさい、カエル女! 何の因果か知らないけど、此処で出会ったのは好都合。今度こそ黙らせてやるよ! 永遠に!》 《粘着質すぎるっちゃ。そんな事してたら、そのうち嫌われるっちゃよ》 《余計なお世話だね。あんたが陰で何て云われてるか、私は知ってるよ。“無能生存体”》 《“柘榴女”が何を仰るっちゃ。もういっぺん、装甲バラ撒いてブッ斃れてみる?》 嫌な予感で我に返り、モニターを切り替えると、ショートテイルがドレイクを赤い機体へ接近させていた。 血の気が引く。友軍信号のまま、何をしているのか。ドレイクのショットガンが赤い機体へと向けられ、散弾が放たれる。通信に割り込む。 「やめなさいよ。今はそんな場合じゃないでしょ」 《でもこいつ、ヘリを……!》 「私達なら心配要らないわ。含むところがあれば、アリーナで決着(ケリ)を付けなさい。撃破対象でもないのにやり合っても、無駄よ、無駄」 《……了解、だっちゃ》 しょげ返った返答が、通信機のスピーカーから鳴り響く。微かに、胸が痛んだ。 本当は、こんな自分の命を心配してくれた事が嬉しかった。それでも努めて冷静に、寧ろ敢えて冷徹とも取れるであろう口調でショートテイルを押さえたのは、一瞬とはいえ取り乱していた事を悟らせない為でもあったし、実際に撃破対象指定が無いと撃破報酬が得られない為でもあった。無意味な出費で業績を落とせば、今度こそ危うい。二人揃って明日から路頭に迷うなどという事態は、何としてでも避けねばならないのだ。 《この、逃がすか!》 「グッドマン、急降下でドレイクを掻っ攫って」 「任せろ!」 首が外れる程の重力が全身を襲う。 「ショートテイル! 掴まって!」 《うん》 重低音が響き渡り、それがショートテイルの機体、ドレイクをがっしりと掴んだ事を知らせた。きっと、コアや腕部に無数の傷が付いた事だろう。だがしかし、今更そんな掠り傷を気にしていられる状況ではない。満身創痍のドレイクに多少の損傷が増えた所で、然程修理費に影響はしまい。 「撃破報酬はあんた達に全額譲ってあげるわ。その代わり、今回の件は報告させて貰う。きっちりとね」 《今更そんな事が通りますか! チェイサー! あれを撃墜して下さい!》 《残弾が無い》 ――やれやれだわ。 元より報酬を譲るか撃墜されるかの選択を迫ったのはあの小娘のほうだ。ショートテイルという宿敵を眼前にして、冷静さを失っているのだろうか。若さ故の芯の無さは、人類の持ちうる度し難き悪癖の一つではなかろうか。 《そんな! どうしてこんな時に! 貴方、いつ弾を使い切っ――》 赤い機体から遠ざかるのを虚ろな目で追いながら、女性は通信回線を切った。 胸に手を当てる。鼓動は、まだ暴れ狂っていた。 「……ごめんなさい、グッドマン。まさかこんな事になるなんて」 「いいさ。お前さんはあの子を守ってやる為に戦ったんだろ。それは決して、恥ずべき事じゃあない筈だ。グッジョブじゃないか」 「でも、下手したら私達は墜とされてた。貴方の命まで危険に晒して、私ったら」 「大丈夫だ。あちらさんはちっとも狙っちゃいなかったよ。寧ろ、わざと外していた節がある」 嘘に決まっている。グッドマンの操縦技術は誰もが買っている。きっと今回も、上手く致命傷を避けただけだ。 「そんな浮かない顔をするもんじゃない。そうだな、後で奢ってやる。煮え切らない感情は、飲んで忘れる。それが一番さ」 「……」 彼の提案には、踏み切れない所があった。それでも…… 「――そうね」 しんしんと降りしきる雪は、見えざる涙を代弁しているのかもしれない。辛うじて動作するドレイクを牽引しながら離陸体勢になるヘリをコックピット内から眺め、オペレーターはふとそんな事を漠然と考えていた。 深紅の重量二脚の姿は、もう見えない。 Home/Call of Revenants Back/Chapter 1-1 俺達に交戦規定は無い Next/Chapter 1-3 Girls talk 怨是
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■SSQ2-17F 花道を駆け抜けるは真紅の角 新・世界樹の迷宮2の第四階層17F。新2ではマップ自体の名前が変更。 仲間ひとりの口の中にキノコ突っ込むことができるイベントはすごい面白かったww 毒キノコ見抜いて蹴散らすペットさんマジ頼もしい。 フラヴィオにキノコ食わせたが、親友が満面の笑みで毒キノコ構えて向かってくる構図ってかなり不気味だよなあ… クロエに食べさせたら混乱状態みたいにめちゃテンション上がるのかな思ったら違った… にんまり なんで女性陣には口に突っ込むだけなのに男性陣には喉奥に突き込むんですかね… キノコ以外にはFOEのサイを以下に鉢合わせしないかが焦点。ちなみに落として消滅させることも出来る。次の日には復活するが アリアンナちゃんのお口にピンク色のキノコをつっこんであげますねーホラホラ(ボロン ↑その死色の細茎しまえよ 奴の突進を初めて見るとうおおおおおってなる 小石とのバトルもアホくさくて笑った。ファーさんみんなから呆れられてるぞww キノコといい小石といい、ギンヌンガ三・四層でのシリアスさの余韻が吹っ飛ぶくらいのボケッぷりを見せてくれるファーさん。いいキャラしてるわww キノコ、小石、エトリアの悪夢、下層に落ちるサイとネタが満載な層 最初サイが落下して逝った時思わず笑ってしまったww 何とでも言うがいい!君は勝利したのだ!! ・・・吹くなというのが無理だったw ファーさんは間違いなくメンバー一樹海探索を楽しんでいるだろう。マトリックスのごとく小石を躱しドヤ顔決めるファーさんかわいい。 某モンハンにあっても違和感なさそうなクエスト名である サイモン? 何か本気で石ころ避けたかったからブシドーに心眼で避けさせた。かっこよ・・・くない メディ子(トラブルメーカー)にキノコ食わせたら青ダク(罠イベント被害者枠)が巻き添えに 黒ランダーに食べさせたらしいたけ(妹)の口に突っ込んで、二人してアホになってた… メディックもキノコを食べるって事は、被害回避できるのはペットだけかな。野生の嗅覚恐るべし。 新1の例のキノコ状物体に続き、どうしてこういかがわしいのか…新3にも似たようなイベント用意されてたら笑う キノコやら石やらのところで逆に躁ハッピーな感じにファーさんぶっ壊れたのかと思ってしまったのは自分だけでいい 難易度関係なくピクニック気分である。 クラシックだと小石に襲撃されるキャラはランダム。逆襲するキャラは任意に選択できる。自分は勿論、小石に泣かされたガン太にリベンジさせました。仇討ちシチュにした人もいそう。 二人旅できのこを食べると妙なことに。一人だとこのイベどうなるんだろ ↑ちゃんと1人で2本食べるよ…食べたあとの空しさが何とも言えない 小石イベントはカスメ子に直撃し、心眼で避けた。あの娘が能動的に動き、そしてこんな事にムキになるなんて…!とパーティメンバーに衝撃が走った。 ストーリーではファーが小石を一発で避けた、でもクラシックでは全員が失敗しまくって凄く間抜けな事になってた 毒キノコを見破ったり毛虫を蹴散らし素材ゲットしてきたりとペットのドヤ顔祭りの階である。可愛い。 何でもペットにやらせてきて良かった 犀「花道オンステージ」 無口ダウナー系少女がキノコ食わされてバカ笑いする姿はPTに衝撃を与えた。なお、wikipediaによればワライタケを食うと「衣服を脱いで裸踊りをしたり」することがあり… ↑このネタの系譜が5の三層キノコイベントか… 仲間の口にキノコ押し込んだ犯人は、今では仲間にパワーゲル(意味深)をねじ込む毎日 コメント
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君に新しい意味を与えてくれよう その一文字こそが君の過去を葬り 君を新たな旅へと誘う 『新しい君だ』 身を裂くように冷たく、凍て付く風が頬を撫でて過ぎ去ってゆく 身体が鉄の塊のように重く、そして氷のように冷え切ってとても寒い、 そして焼け付くように痛い、まるで休むことなく持続するこの感覚は、 明らかな悪意を持って僕の身体を蝕んでいた 漣の音が、塩をたっぷりと含んだ重々しい水の塊が岩盤に打ち付ける音が、 今の僕のこの有様をあざ笑うかのように絶えず繰り返し響き渡る…ただそれだけが耳に届いてくる 視界はすっかり濡れ切った砂の灰色だけ うつ伏せに寝そべっていることが容易に想像できる、僕は今、身体全体が重力によって縛り付けられるかのように、 この海岸と思しき場所の砂浜でただ一人動けなくなって、ポツンと打ち捨てられているに違いない このままでいれば間違いなく死ぬ 身体は思うように動かず、言うことを聞かない…誰かの助けなくしては立つことは愚か、 こうして意識を繋ぎ止めて重たい瞼を開けているのがやっとなのだから。 けれどもそれも終わりが近いようだ… 目覚めてそうそう、カゲロウのように運命付けられた短い生涯に幕を閉じることを、僕は既に悟り、 ただこうして遠くに感じる激痛を第三者の事のように隣にしながら、目前の死を見据えて待つだけなのはわかっていた けれども何の感慨も湧かない、ましてや悲しみや絶望など悲哀に満ちた感情など有りはしない 何故なら、この世に置いて行く物は何もないからだ 有ったとしてもそんな記憶は無い、在るのは今、こうしてここでのたれ死ぬという事実と実感のみ どうして喪失感など在ろうか、どうして無念など在ろうか、ここで素直に終わりを受け入れれば、 失うものを得ることなく終われる、ある意味至高な、一瞬の人生ではないか 存在意義を知らない僕はこの死を『幸福』と呼ぶ… 僕の意識は再びまどろみの中へと暗転した あの世はどういう場所か、そんなものに興味はなかったし、想像した事もなかった ただ、此処が死後の世界ではないという事だけは確かなようだ 頬に触れ密着する妙に暖かいこの感触は既にあの砂浜の物ではなかった 動物の毛…いや人工的な布なのだろうか、温かくて乾いていて、あの場所とは対象的な、 安らぎを与えてくれる妙な心地よさが僕を包み込んで放さなかった 黒一色だった視界に裂け目が入り、楕円状に開けて光が射し込む、 初めはぼやけていていたが、ようやく色を識別出来るぐらいにまで視力が回復すると、 最初に認識できた対象物は紅色に輝くシャンデリアと、それを吊るしたベージュ色の天井だった 首を捻って右の方へと視線を逸す。 頭が転がる際、何か細かい物の集合物が潰れ擦れる音が聴覚へ直に響き、それが羽毛の枕である事に気付いた 視線の先には壁がある、壁と言ってもそこに行き着くまでにまず紅色のカーペットが敷き詰められた床が存在し、 僕の近くには、布団、いやベッドと思わしき白い床の段差があった。 壁には明るい色調の木製ドアが在るが、そこへたどり着くまでには結構な距離があることから、 此処はそこそこの広さが在る何処か広い敷地の建物の一室だろうと推測する さっさと起き上がって状況の把握へ出たい処だが、今の僕の身体は意識を取り戻す前、 海岸らしき場所に倒れていた時と変わらず重く、力すら入らなかった 首から下から指の先に至るまで感覚が麻痺しているようで、しかも何かにのしかかられているかのように重い のしかかられている、違う、そんな比喩的表現では済まされない、何かが乗っかっているんだ 「っ……?」 悲しいかな、上体を動かすことすら叶わないこの有様では【そいつ】が何者なのか確かめられないというのか 体温が在る、寝息のようなものを立てて身体が僅かに、一定のリズムで動いている、 接触部位は膝の辺り、猫のように身体を丸めている、いやもしかしたら本当に猫かもしれないがやけに重い。 人間の少児ぐらいが妥当な重さだろうか、だとしたら僕を担いでここまで連れてこれるだろうか? 答えは思考するまでもなくNOだ、多分、彼、もしくは彼女以外にも成人が居たに違いない 偶然そこに居合わせたのか、どういう経緯なのかは存じないけれども、個々へ辿り着くまでに、 他者の干渉が無かったなんて事は有り得ない。 だとしたら、僕はその人に会わなければならない。それは礼なんてもののためじゃない、 何故僕をあのまま放って置いてくれなかったのか ただそれを問い詰めたい、圧倒的な嫌悪を持ってしてこの問を投げつけてやりたい 壁に掛けられた時計の針、分針が八週を終えた頃、枕に付けた耳がかすかな振動から足音を汲み取った 靴は厚底のブーツ、人数は1、体重、いや歩幅からして成人男性、痩せ型 遅れてテンポが桁違いに早い足音が反響してくる 今度は複数人、全員軽く、うざったいぐらい無邪気に駆けている、間違いなくお子様だ 温かな輝きで魅了するシャンデリアへ某然と視線を注いでいたが、 言葉の通じる奴が来たのなら何でもいい、立て続けに質問をぶつけてやる、 嫌なら出て行くか、僕をつまみ出すか好きにすればいい 扉が風で仰ぐかのような勢いでけたたましい音を立てて開く 「起きたー?起きたー? 「怪我大丈夫?痛くない?」 「何処から来たの?お名前は何ていうのー?」 迂闊だった、逆に歓声にも近い肉声の騒音がドッと雪崩のように押し寄せ逆に質問攻めにされてしまう 子供は無邪気で正直だ。知っての通り病人の部屋だっていうのに御構い無しに跳ね回り、 埃を巻き上げて無我夢中で走り回っている。 耳鳴りがした、別段子供は嫌いじゃないし、悪い気もしないが今は勘弁して欲しい 「皆やめないか!彼は怪我人なんだぞ!」 子供達より遅れて部屋へ駆け込んできたのは最初の足音の主であろうと思われる男だった 整えられていない黒でボサボサの髪は肩まで有り長く、黒縁の丸眼鏡が男の気弱そうな目を囲んでいる 予想通り痩せ型、というか骨皮で頼りない印象が前述の要素も助けて全面に浮き出ており、 典型的な保護者、それも子供に振り回されるタイプだと認識させて貰った 僕はその子供達と男をどういう目で見ていたのかは覚えていない 特に何か意識していた訳でもなかったが、多分、とても不愉快な目付きをしていたんだと思う ほどなくして彼と彼、彼女等が動きをピタリと止めて一斉に首を回して僕の目 特に僕の目の奥にある心境から期限を伺おうと猛獣を見るような面持ちでこちらを眺めていたのだ 「ゴホン……済まなかったね、起きて早々騒がしくして」 男は傾いたシーソー並にすれている眼鏡を整えて直し、片腕を上げて、 切って貼ったような作り笑いを浮かべて僕に歩み寄り話しかけてきた 傍では彼の足に隠れながら物怖じしつつこちらを見つめる少年少女が二人、 そして彼の背後で横一列にまとまりの無い配列を作って並ぶ少年少女が八人程 「……別に、気にする程じゃない」 嘘だった 正直言って僕は雑音が嫌いだ、毛程も、そう大嫌いなんだ、何時でも言ってやる、大嫌いなんだ 記憶こそないが、漠然とこういう人が集まって騒ぎ立てる会話の影には人を傷つけるような、 それこそガキの振り回す包丁のような危なっかしい言葉が平気で飛び交うものだと認識している 冗談であったとしても人が不快な思いをするような事を遊びのつもりで振り回すのも振り回されるのも嫌だ、 そういう奴こそこの世から根こそぎ消さないといけないんじゃないかとさえ考えてしまう 「本当に大丈夫です…本当に」 僕の中に記憶は無い、けれども自分がどういう人間で普段どういう人間だったかという漠然とした認識は在る 今の僕の思考は、漠然としたそれに基づかない、確かなズレがある 僕は自分自身からそうするように、彼等から顔を背けて糸切れのように細々とした声で囁き、 返答を待つことなく枕中に両面を埋めてだんまりを決め込んだ 「そうかい、なら良いんだ、うん」 男の発する言葉はぎこちなかった 妙に余所余所しく、話しかけてくる癖に一定の間合いを図りそれを越えない、会話しにくいタイプだ 「それより、まずは僕の上に乗っかってるそいつ、退かしてくれませんか。話はそれからです」 「へ……凉里ィ!?何をやっているんだ降りて!早く降りなさい!」 男が視界の届かない足元へとスリッパを片方残して駆け出す 凉里と呼ばれたそいつは、身体を猫のように丸めている黒髪和服の少女で、 眠ったまま男につまみ出されてソファーに投げ飛ばされてしまった 「やーすまないね…ここの子達は悪い子ではないんだが、時々居るんだあーいうのがね」 男は再び僕の目の前に立つと頭をかきながら何度も何度も繰り返し頭を下げてきた そういうのは良いからちゃんと会話させて欲しい、切実に 「いい加減頭を上げてください、聞きたい事があるんです」 男の頭が上下する動作が丁度頭を下げたタイミングでピタリと止まり、眼鏡を整えながら上目遣いで僕を見返す 物怖じしている目つきだが、かすかに口元が動き、出かかった言葉を足踏みさせているようだった 今自覚したが、僕自身もまた質問される立場に在るらしい。それもその筈だ、 僕は今の今まで訳もわからず海岸に打ち上げられていた身元不明の人間……の筈だからだ しかしここで躊躇していては埒が明かない、何しろ相手はこちらが言葉を発するのを待っている 「まずは僕が貴方が何者なのか、 自分はどういった経緯でここにいるのか、 ここが何処なのか、この3つだけは確認させて欲しい」 「経緯……君、何も覚えていないのかい?」 「…何も?」 「いや……そうか、覚えてないのか…」 男は目を丸くして僕からの申し出を聞き取り、暫く阿呆みたいに保うけていた… 記憶など無いのだから何も覚えちゃいないのは当然だが、海岸で意識を失って以降の事も知らない、 あの後から今に至るまでの間に何かがあったとでもいうのか 「おっと、質問で返すのは失礼だったね。私はヘレン・テーラー そして此処は月見浜町、この建物はワークハウスだ」 月見浜にワークハウス、何れも聞き慣れない単語だった ワークハウスとは即ちこの施設の名前、そして月見浜とはその施設の所在地だろうが 「月見浜…?」 「なんだ、ワークハウスはともかくとして街の名前も知らないのかい まあそれも仕方ないか…君は此処とは違う場所から流されてしまったんだね…何処に住んでいたんだい?」 どうやら月見浜の海岸に僕は打ち上げれていたようだ、何故それでこのワークハウスに連れてこられたのか、 あの子供達を見ていればだいたい想像はつく、つまりここはそういう場所なのだ そして僕はそういう場所にこれから世話になるかもしれない、何故なら… 「……」 「?…何か気に障ることでも言ってしまったかな」 「…覚えていません」 悩んだ末にやっと絞り出した言葉がそれだった 嘘は付いていない、僕は本当に何も知らない、何も覚えていないのだから、 答えを用意することなんてできるはずがないんだ 流石に信憑性が低い回答だったのだろうか、さっきまでの恵比寿のように柔らかい表情が引き締まり、 疑る目でこちらを凝視してくる 「すみません、本当に何も知らないんです。気が付いたらあの海岸に倒れていただけ、 それしか、今の僕の口から説明できることはありません」 自分でも気が確かなのか疑う告白だった。それは言葉の直接の意味合いではなく、 何より驚いたのはこの悲観するべき事実を淡々と自白できてしまうことだった 失ったものが何なのか、それすらも知らない内はまだ幸福なのかもしれない、 生まれてきて、まだ何も持たない赤ん坊が笑っていられるのもそういう事なのだろうか テーラーも、後ろの子供達も顎が外れたのかぽかんと口を開け目玉を大きく見開いて驚愕し石化している 正直言って僕も驚きを隠せない。今更だが… 僕は僕の事を何も知らないのだ して、それからその子供は 酷く混乱してますな。記憶喪失のようで、とてもああなるまでの経緯は説明出来るような状態で無いかと ほほー?もしかしたら、嘘はついてたりしませんかね 嘘なんて言う理由でもありますかねぇ…そうは見受けられませんが 兎にも角にも、この事は町長に知られる前に真相を明確にしないといけませんな。強硬策を取ってもいい ご冗談を、得体が知れない『生物』とはいえまだ子供なんですよ? あなた事の重大性を認知していないからそんな事が言えるのですよ。何故ならアレが見つかった場所は… …例の噂ですか。わざわざ立ち入り禁止区域にして…馬鹿馬鹿しい 身体は大分軽くなった。まともに動けるようになるまで二日程経過し、ようやく開放感を得られると思うと、 このまま思考停止してても良かったのと退屈から逃れられるのとの二つで複雑だった しかしそんな鬱積した思考はある事実の発覚によって月まで吹っ飛ぶ勢いで消し飛ぶこととなった それは僕自身、そう僕そのものがそうさせたのだ 「なん…ッだこれはあぁぁァァァアアアァァッアアアァァァァァツ!!」 木だ!腕そのものが木のような質感になっている! ニスで丁寧に磨かれた木製の家具のような不自然な滑らかさと硬質化、木製の義手なのか? 違う、上着を乱暴に脱ぎ捨て腕の付け根を確認すると、継ぎ目らしいものはなくグラデーションのように肩から左腕にかけて、 肌色からダークブランへ変色しており、これが僕の腕そのもの、人の身体と一体化した植物の腕である事を理解した 爪はマニキュアを塗ったように赤いが光沢が鈍い、花びら、硬質化した薔薇の花びらが爪となっている 腕だけではない、身体の部分部分、細かいが植物化している箇所がある 僕は気が動転してベッドから転げ落ちている事に気付く いや冷静にそんな事に気付いただけまだ冷静なんじゃないか?呼吸はまるで定まらないし瞬き一つ出来ないが ひとまず上体を持ち上げて立ち上がる これまたまか不思議で不気味なんだが、足の感覚は普通だ、何の相違点も無いし立っているという自覚も触覚から得られる 他の生身の部位と全く同じように相違点無く動かせるのだ、むしろ精密性に至っては生身を超えるかも知れない 何故なら爪の先まで感覚があるからだ、爪で物に触れたという感触はあるし指先の指先にまで力が入る、 糸通しとか裁縫とか器用さを要する作業には申し分もない筈 二三歩前へ踏み出すと鏡がタンスの上に設置されていて自分の姿と部屋の様子、やわらかな風に煽られるカーテンなど、 その空間に存在する全てが鮮明に映し出されている 僕と思わしき人物は灰色の半ズボン以外は何も身につけず背中まで有る桜色の長髪をそよ風に揺らし、 金色と緑が入り乱れた瞳が僕を真っ直ぐに見つめ視線を投じていた 髪が時々強くなる風に煽られる旅に、薔薇の花びらへ変異し抜け落ちては生えるを繰り返している 花はカーペットの上に舞い落ちると瞬く間に萎んで消えてしまった ようやく漠然と把握出来てきた…僕は植物人間なんだ 「おはようございます」 「おはようございます」 「おはようございます」 「お、おはようございま…」 「おはようございますッ」 僕の寝ていた部屋は二階 なるべく植物化している部位を隠せるよう、大きめの服とシルクの手袋をクローゼットから拝借し一階のラウンジへ降りると 一昨日の子供達の他に体格から僕と同年代(とすると僕は10代なのか)の女性も混ざって挨拶を交わし合っていた どうもこういう事例に適応できないのか返事をする僕の声はおぼつかず、言い終えるのを待たない女性の声の大きさに気圧される 「もう動いて大丈夫なの?」 「ええ、お陰様で何とか…」 「そう、それは良かった。ナタリア・レナードよ。よろしくね」 その女性ナタリアはやや内巻きのミドル黒髪で、何処と無く大人というか誠実さと頼り甲斐の有る雰囲気を持ち合わせた女性だった 声の大きさと遠慮抜きにした行動を除けば…の話だ 「ほらぼーっとしない!握手握手!」 突き出すように差し伸べてくる左手、半ば強引に僕は仕方なく握手を交わす事になる… …しまった、左手だ 「硬いわね、あなたも義手なの?」 「あなた…もだって?」 「ええ、私もね、右手がこんななのよ」 ナタリアはやけに長めで口の広い上着の袖を捲る。 中から現れたのは鋼の義手、 球体関節人形の腕のようなシンプルでなめらかな曲線を描く右腕だった 「ココの子供達は皆訳ありなの。勿論私もね」 「は、はあ…」 「だから、さっき気まずそうな顔してたけど気にしなくて良いのよ」 そうとだけ言い残して会話らしい会話もせずナタリアはさっそうとキッチンへ駆けて行ってしまう、僕を置き去りにして どうやら僕が此処へ連れてこられた理由は、こういう事だったのかもしれない 一週間、という時間が経過したらしい 僕にとってはこの植物化した身体を見られないように神経が張り詰めていたのと、この施設に慣れていないのもあって 時間の経過があっという間というか弾丸のように過ぎ去った気がする いざという時に頼れそうなのは結局ナタリアだけだった 訳ありの子供が多いとの事だったが義手など肉体的な意味で問題を抱えた子は少なく、 他の子供達はだいたい親なし子だったりで精神的には普通の子供なのだ、つまり僕は完璧にお化けとかの部類だろう その点ナタリアの存在はとてもありがたい、何しろ彼女は何が起きても動じない変わった人だからだった 彼女がうっかりヤカンをひっくり返して足に軽い火傷をした事もあったが、 軽傷とはいえ高熱の湯を被ったにも関わらず普段の底抜けなく明るい表情が無表情になったぐらいで、 「あらあら」と呑気ながらも冷静な対処を実行していた辺り、鈍いか芯の強い女性なのだろう 「両親?母さんは私を産んでポックリ。父さんは直ぐに此処へ私を捨てたそうよ」 と聞かせてくれた際も彼女は至って以前変わりなかった 次第に僕は彼女に次第に心を許すようになる 警戒し続けるのはいい加減疲れてたし、まあ案外すんなりとそうしていた、多分此処を居場所として馴染める日は近いと思う 彼女が、僕の存在を許してくれれば…の話だが 我々の新たな同志、【XIV】に目覚めが訪れた さあ、迎えに行こう そして【自覚】させるのだ 己の果たすべき役割を 存在意義を 一週間と一日。僕があの施設で寝泊まりを始めてからようやく外出の許可が館長のテーラーから出た ナタリア程度に、なので門限は6時までとの事だが身体は普通に動くし、別に制限なんて鬱陶しいだけなのだが、 同行してくれるナタリアは体力的に弱いため丁度いい外出時間ではあった 彼女はせっかく月美浜町に来たんだから名所を回るといいっと言って誘ってくれた ワークハウスを出て彼女は両足を交互に繰り出し一歩一歩歩むごとに名所の名前を箇条書きで読み上げる、 例えば物を【物を埋めてはいけない場所】とか、何故埋めてはいけないのか、 それは限られた人間しか知らず、少なくとも僕等のような一般人は必要ない事のようだ 学校、というものもあるらしい。記憶こそないが既に概要は粗方把握している、早い話が教育【施設】だ とザックリ言ってしまうと「やだー怪しい研究所みたいじゃない!」と吹き出してしまった、事実を述べただけなのに… リディアはとっくに学校へ通う事を辞めていたらしい。理由は言わずともがな、 【義手】と【義足】だ。ナタリアは生まれつき右手両足が無い、父親がワークハウスへ捨てた理由も、 学校で他の子供からからかわれたり、悪戯で義足を外されるのも、全ては【普通】ではないというだけの理由だろう 「どう?この辺りかな?」 「あの日は曇ってたからな。ちょっとよくわからなけど多分違うと思う」 彼女は潮風と冬の澄んだ日差しを背に受けエプロンを靡かせて問う 場所は浜辺、バックにある海は比較的穏やかで海猫が飛び交っている、絵に描いたような喉かな海だ 降り注ぐ陽光は暫く屋内で暮らしていたせいか慣れなかったが、頬を撫でる潮風と漣の音色が心地良い 僕はナタリアと共に、僕自身が打ち捨てられていた砂浜を探しに出ていた この月美浜町は土地の位置関係状三方向海に囲まれており、更に岸壁などで区切られているため浜辺なんていくらでも有るそうだ 今ナタリアが案内し自分の姿を投じて一つの絵になる光景にして見せてくれた光景は、どうもあの場所とは異なるようだった ナタリアの居る風景はそれだけで綺麗に見える、けれども綺麗であることにそこまで価値を見出せない、 少なくとも今目的を果たせない内はずっとそうだろうな、この風景画はあの場所と違って賑やか過ぎた 「もうだいたいの浜辺は見て回ったかな…。一応観光スポットなのに昼間は全然人いないね」 ナタリアは月美浜町全体の地図に赤サインペンで現在地に印を付ける。すると月見浜町が×印で囲まれているかのような構図になった 「?…此処は浜辺じゃない?」 僕が指すのは今いる浜辺とは丁度町を挟んだ対局的位置関係に在る場所 何故か赤い点線で囲われているが、海に面しているようだし港という表記もない 「あーここ?ここは確かねー…結構昔に町長さん、 とは言っても今の町長さんの祖父だけどその人が立ち入り禁止区域に指定しちゃったのよ」 立ち入り禁止区域か…紙面を見る限り、これといった問題は無さそうだが… 何か地質上の問題でもあるのか?それとも…… 僕は紙面の一点に射抜く眼差しで視線を落としたままこう囁く 「そこ、行ってみることはできないかな」 「ええ?」 言いたいことはわかる、確かにわざわざ立ち入り禁止に行くのは普通ではない、 特にそこに何があるという確証があるわけではないのに けれども、そこには可能性として何か知られたくない事があるんじゃないか? 此処へ訪れた時、大人から感じる妙な余所余所しさ、あれは隠し事をする時のものだ 何かがあるんだ…観光スポットの一つを立ち入り禁止にする理由が それに、消去法で行くと見に行っていない浜辺は一つだけなのだ 「僕は浜辺に打ち上げられていたんだろ? だったら立ち入り禁止だろうと何処へ流れ着いてもおかしくはない」 無論、町民であるナタリアにとっては難しい要求かもしれない 僕なら万が一の事態が発生し責任を追求されてもこの街から追放されれば良いだけの話だ。それについて何も問題はない けれどもナタリアはそうはいかないだろう、ワークハウス以外の場所で居場所を見つけるのは困難だろうから 「ふーん…ま、一理あるかもね」 けれどもナタリアは顎に手を当て数秒思考しただけで快く承諾し、微笑して頷いてくれた 「わかってると思うけど、ここから結構距離あるからそこ行ったら今日はもう帰らないとね、わかった?」 彼女の生身の指が僕の鼻を指して軽く小突く。やや上目遣いで白い歯を覗かせ悪戯な笑みを浮かべる 直に触れて貰えた。記憶こそないが、何故か、胸の奥が暑くなる気がした 僕はその時、0から歩き出したあの日、目覚めてから始めて笑った気がした 「ああ、約束する。君に迷惑はかけないよ」 あなたは選ばれた人間。あなたの居場所はそこではない、あなたには相応しくない 自覚させてあげるわ。そうすればこんなくだらない世界との決別もできるでしょう みんな消えてしまえば良いのよ 巨大な岸壁に沿うように舗装された一本道の道路 岸壁の頂上を見上げれば木々が生い茂り、左手側を見渡せば海、地平線の彼方遥か向こうまで続いているであろう、 穏やかな海が今日の晴天と陽光を反射しサファイアのように光り輝いている 岸壁が大きく競り出ている辺りは道が大きくカーブしており、かなり曲がりくねった道が延々と続いていた 風景も似たような物が続くばかりで足を動かしているにも関わらず退屈な事極まりない けど、退屈と言うよりかはのどかで、とても安らぐ気もする 退屈とは何もないこと、何もないとは平和であるということ 祝福しろ、何でもない日を。ただ祝福するだけでいい…日々の平穏を感謝しよう そして僕もまた感謝しなくてはならない、その平穏を誰かと共有できるということを 「ここら辺ほんっとになんにもないね!笑っちゃうぐらいにさ」 「それもいいさ。何にもしないっていうのも必要だよ」 目的地まで後2キロ半。要所要所に現在地を記す地図が有り、そこから推測するにそれぐらいの距離だろう 僕達はこの地図を区切りに腰を降ろして足を休めることにしていた 歩いている最中はナタリアが岸壁の下に時々ある観光名所や、ここ特産品の蟹などがよく取れる場所などをガイドしてくれたし、 頭上を通り過ぎる鳥の名前を当てっこしたり、時々通りすがる地元の人を見つけてはその人が忙しくない限りは言葉を交わしていた けれどじっくりと会話を嗜みたいなら一つの場所に落ち着いて騒がしくもなく、そうリディア曰く『まったり』と、 お互いの表情や仕草を確かめ合いながら言葉の一つ一つを味わってお話ししたいな、と思う ナタリアはガードレールにもたれ青海を眺める、髪が潮風に揺れ、丸みを帯びた横顔が大人びて見えた 「君ってさ」 ナタリアはあらぬ方を見据えたまま口を開く 「まだ名前…思い出せてないんだっけ」 彼女は僕の方から始めて視線を逸らす。いつもは真っ直ぐにこちらを見つめて言いたいことを押し留めずに言うたのだが、 何を思ったのか、靡く黒髪の間から深海を思わせる暗い瞳の色を覗かせていた 「ん…まあね。でも別に困ることはないよ?」 彼女の始めて見せる顔持ちに言い知れぬ不安を抱いたが心配する様子を見せてはいけない、 僕は何時もの、明るく真っ直ぐなナタリアでいて欲しい、 だからこういう時、僕だけでも何時もの彼女のようにしなければならないんだ 「……でも、いつまでも君を名前で呼べないのは…友達として少し寂しい」 伏せ目がちにこう告げるナタリアの表情には影が落ちて、本人が言うようにとても寂しげだった そうなの? 率直に言わせてもらえば疑問だった。今僕はとても満足している。自分の存在を少なくとも今、 君が許してくれるだけで満足だ。と言いたかったが勘違いされそうだからやめよう 「だったらさ…ナタリアが好きに呼んでくれていいよ」 「え?」 「どうせ覚えちゃいないんだ。名前なんて呼べれば良いんだよ、でしょ?」 小首を傾げ問うてみるとナタリアは面食らったように目を丸くして驚愕していた 多少暴論だったのか困惑し戸惑いがちに問い返す 「で、でも…それは君の過去を否定する事にならない?」 「平気平気!過去なんてお荷物でしかないのさ!僕はこれから始まるんだと思うな」 「……そう、かな」 次第に顔を上げ僕と再び目を合わせてくれるようになった まだ吹っ切れない様子で瞳には戸惑いの色が見え隠れしていたが、しだいにそれも薄くなり、口元が微笑む 「私が、名付けても…いいのかな?」 「あなたに付けて頂けるなら!」 僕はとびっきりの笑顔で返したつもりだ 薄ら笑いだったナタリアもそれに答え、いつも通り、いや何時もより輝いて見える笑顔で返す 「ありがとう…!」 「ありがとう?」 「だって…私にこんな大事な事任してくれるなんて…思わなかったから」 思えばナタリアも不安定な精神状態に陥って何ら不思議ではない生い立ちなのだった 僕は彼女に救われてばかりだと思っていた、事実彼女に頼り切っている節もあったし、 それは事実だと思う…けれど、そうしてナタリアを信頼する事が、彼女の自信に繋がったのかもしれない 「クス……ねえナタリア」 頬に手を添え、少し乾いた硬い髪を撫でて耳元で囁いた。リディアの頬は少し赤みを帯びた気がした 「僕は君のお陰で安心してあの場所にいられたんだよ そろそろ、君にも秘密を打ち明けても良いと思ってるぐらい、信じてるから」 側に居て欲しい、僕のこの行き場のない空虚感が消えるまで、誰か信じられるものが欲しいんだ 時々予感めいた何かに駆られることがある、左手は足がざわつき、自分があの場所から遠ざけられるような気がした だからこのままナタリアを捉えていたい、名前という存在意義を彼女から貰って、繋がったままでいたいんだ けれどもナタリアが何かを言おうと、口を開きかけた時……そんな望みは砂上の城のように崩れる音がした 「くだらない」 「!?」 それはか細い少女の声だった 声の主の少女は、金色の光を讃えた虚ろげな瞳でこちらを真っ直ぐ凝視し、長い銀髪を靡かせていた その少女の姿を見るや否や、ナタリアの表情には暗い影が落ちている、 僕の場合は、敵意を剥き出しにした嫌悪感を抱く人間の目だったかもしれない 「華菜…」 彼女の名を囁く僕等の声は決して穏やかではない 華菜という名の少女はワークハウスの住民の一人だ 人集う場所につきまとうように現れ、ただ傍観しているだけかと思えば、冷淡な口ぶりで会話に割って入り、 時にはわけもわからず『気まぐれで』暴行を働き、鼻で笑うような女 無表情だがその仮面の裏では常に人を見下しているのだろう 「…………卑しい人達ね。そんなごっこ遊びをしてないと落ち着けないのかしら?目も当てられない」 いつもこうだ 一体何をしたくてこいつは人に付きまとうのだろうか 「行こうナタリア」 関わるだけ無駄なんだ、無駄無駄。こいつと何度か会話をしてわかったことだが、こいつは絶対に自分の非を認めない、 悪いのは周囲、全てが気に入らず常に毒を吐きちらかさなけらば落ち着かないんだろう 僕は構わずナタリアの腕を引いて奴の肩を透かし通り過ぎようとした その刹那、そう余韻すら残さない一瞬 「あなたには相応しくないわ、こんな女」 ナタリアが、確かにこの手でしっかりと手を繋いだはずの彼女が……『消えた!』 「!?……ッ…!?…ナタリアッ!」 居ない、右にも、左にも、何処を見回してもナタリアの姿が痕跡を残さず消えている! あるのは、自らの銀髪を撫で、初めて見える悪意に満ちた反吐が出そうな微笑みを浮かべ、 背に潮風を浴び学生服を靡かせる華菜のみ 「テメェ……!」 腑が煮えくり返りそうだ、拳を握りしめ、手袋には血が滲み始めている 歯を食いしばっていると聴覚に直に骨の軋む音が頭の中で反響し、抑えきれない衝動で頭がどうにかなりそうだった これが『怒り』だ、今の今までこの高慢な女に抱いていた『殺意』だ! 「ナタリアを何処へやったアアアァァァァァァッ!!」 ←To be continued….