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―――対跋扈連合 「最後の戦い、と思えば不思議と心が寂しくなりますね」 「けれど最後の宴だからこそ思いっきり騒げる。そうじゃないの?」 「そうですね。もっともこの宴、私達の勝利以外に有り得ませんが」 大きな戦の前だというのに緊張の欠片すら感じさせない女性が二人、対跋扈連合旗艦『ラー・カイラム』の一室で談笑していた。 「・・・なんだ、こんな所で油を売ってたのか。しかも酒臭い。作戦前だというのに貴様達は何をしてるんだ」 「何って、アンタんとこの大将と勝利の美酒を先に味わっていたのさ。ねえ、カリス?」 「そうですね、カエデ。しかしHolly、アナタもKYと呼ばれたくなかったらもう少し空気をよm」 「分かった分かった、今度からそうする。艦長達が呼んでいる。全パイロットはブリーフィングルームに集合だ」 「アナタは言ったそばから・・・いいでしょう、行きましょうカエデ」 「ああ。Holly、君も軍略以外をもう少し学んだほうがいいぞ」 「って待て、ゴミを散らかしたまま行くな。おい、聞いてるのか。くそ、何で俺が片付けるハメに・・・」 そう呟く青年を他所に、二人は酔った素振りも無くブリーフィングルームへと去っていった。 「さて、作戦の説明は以上だ。質問はあるか?」 「大有りなのだー。なんでこの艦が他の艦を置いて前に出る必要があるのだ。旗艦は後ろで撃墜されないようにするべきじゃないのかー!!」 「落ち着けプラティ、さっきも説明があっただろ。他の艦じゃ機動部隊の援護が出来るほどの練度を持ったクルーがいないんだ。」 「でもウィルだってこの艦に乗ってるから、前に出るのは困るんじゃないのかーっ!?」 「でもそれはこの艦に乗ってるオペレーター全員の総意なのよ?相手があの跋扈粋軍である以上、パートナーには出来る限りの支援をしたいってね。」 「うー、納得いかないけど、オペ子がそう言うなら我慢するのだ。」 「他に意見はないか?・・・・・・・・・なら、3時間後に作戦開始だ。各員の働きに期待するっ!!」 ブリーフィングが終わり、次々と退室していった部屋には、作戦を説明していた青年とオペ子と呼ばれた少女の二人だけが残った。 「さて、俺に何か言いたいことがありそうだなオペ子・・・・・・いや、妹よ」 「その呼ばれ方も久しぶりね、兄さん。どうして今更戻ってきたの?しかもけっしゃにではなく連合に」 「・・・・・・お前の知らない因縁がある。少なくとも俺の中では・・・いや、俺達の中ではまだ決着がついてないのさ。お前がこの世界に来る前の話だから知らないだろうけどな」 「ちょっと怪しいけど、そういうことにしておいてあげるわ。兄さんが嘘をつく時なんてよほどの時だけだしね」 「そうか、すまんな・・・コ。さて、お喋りは終わりだ。俺達も配置につくぞ」 「了解兄さn・・・じゃなくて艦長っ」 「んー、ヴァニさんがいながらアヴィンさんに対するオペ子ちゃんの態度が特別だと思ったけど、実は兄妹だったなんて」 「やっぱりメイちゃんもお年頃だなぁ、おじさんも若い頃は・・・」 「おじさん、バカ言ってないでさっさと行くよ」 「待ってよ、メイちゃーん」 決戦まであと三時間 ――――跋扈粋軍 「おやおやぁ、どうしました戒さん。複雑そうな顔してますよ?」 「……ちょっと感傷に浸っていただけだ。作戦開始までには元に戻る」 「そうですか、それならいいんですけど」 「しかし相棒、バーゼル殿の言う通りらしくないな」 「相手さんにちょっと因縁があるだけだ。相棒と出会う前のな……」 「皆さんこんなとこにいたんですか。あれっどうしたんですか、三人とも暗い顔してますよっ」 「イエス。お嬢様の言う通り、お通夜にでも出席できるような顔をされてます」 「もう!イエスマンっ!アタシそこまで言ってないわよ!!」 「イエス、すみませんお嬢様……」 「ソシエ殿、イエスマン殿も反省しているようだしその辺にしてあげたらいい。それより俺達を探していたのではないのか?」 「あ、いけない!元締達が呼んでたの忘れてました!!」 「よく集まったねぇお前達」 「久しぶりねノヴァ。貴女とこうして会うのは何時振りだったかしら」 「そんなことァ覚えていないよ、まめ。しかし、アタシは全員に声をかけたつもりだったがいないのもちらほらいるみたいだねぇ」 「仕方ないでしょう。我々が散らばってから時間が経っています。この世界から足を洗った者達がいてもおかしくはありません。」 「しかし元締、これだけの面子を集めて何しようっていうんですか。僕達に世界でも征服しろと?」 「ディアナ様が望むとあれば私はそれでもいい。だが、今回は目的が不明瞭すぎる……趣味かっ」 「趣味で世界征服ってのも楽しそうだねェ。でも今回は違うよ。目的はただ一つ、大きな戦さァ!!」 「ふぅ、イエスマン。水を取ってきて頂戴」 「イエス、お嬢様」 「さすがのソシエ殿もアレだけの面子を前に緊張していたと見えるな」 「あ、アラストルさん。私は新参ですから失礼が無いようにって精一杯でしたよ」 「それを言うならば俺の方が大変だろう。御仕舞衆に拾われ裏の仕事をするようになったとはいえ、 跋扈粋軍とは特に関係があったわけでもなかったのだからな」 「……アラストルさんは本当は向こう側に行きたかったんですか?」 「かの有名な跋扈粋軍だ。刃を交えてみたくないといえば嘘になる。しかし今回は戒の強い後押しもあってな、 こちら側で戦うことにした。そんな顔はしなくていい。これも俺が納得して決めたことだ」 「アラストルさん……頼りにしていますから頑張ってくださいねっ!!」 「共に戦うんだ、ソシエ殿も頑張るんだよ」 「あっ、そうですね。私ったらつい…」 「相棒もソシエ殿には甘いことだ」 「イエス。しかしお嬢様も嬉しそうなので私達は空気を読みましょう」 決戦まであと二時間 ――――開戦直前 距離にして約十キロ。機動兵器での戦闘を考えればどちらが先に動いてもすぐに対応できる距離にて二つの戦艦が対峙していた。 「跋扈元締ノヴァ、久しぶりだな。といってもアンタが俺を覚えているかどうかまでは分からんがな」 「アンタ・・・・・・あァ、確か彼岸島とかいう組織にいた命拾いしたボウヤだろ。お姫様が帰ってこないから他に浮気したのかい」 「ふん、そういうアンタは相変わらずだな。まあいい、俺が言いたいことは分かってるんだろう」 「ハッ、分からないねェ。言葉にしない行動なんて分かりたくもないねェ」 「そうか、だったら言ってやるよ。跋扈粋軍のトップの一人、元締のノヴァ。今日がアンタの最期の日だっ!!」 「ヤれるもんならやってみなボウヤ。アタシは簡単にイキやしないよ」 「その言葉、アンタの遺言にしてやるよ。全機発進準備」 「了解、全機発進準備」 「アンタたち、勢いでアチラさんに負けるんじゃないよォ、全機アタシに続きな!!」 「敵艦からノヴァ機の発進を確認。他反応多数。接近してきます。」 「準備の終わってる機体から順次発進させろっ」 「右舷カタパルト、mirai機、プラティ機、Holly機、順に発進どうぞ!!」 「左舷カタパルト、乱馬機、ヴァイス機、サティ機の順に発進します。おじさん、気をつけてね」 「こちらmirai、出撃します」 「任せろメイちゃん。おじさんの強さを見せ付けてやるぞ~」 「・・・・・・ヴァイス、出る」 「春くん、私の背中は春くんがいるって信じてるよっ♪」 「陽ちゃん、大丈夫。今度こそ僕は君を守るっ!!絶望の海になんて落とさせない」 「蜂の巣をつついたようにわらわらと出てきたな。元締、どうするんだ」 「全機展開終了しました。これより本艦も前進を開始します。」 「そんなのキマってるよ、命令は一つだよ! 「よし、全機に通達っ! 『目標は敵勢力の殲滅。全機、攻撃開始!!』 お ま け
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卵料理 修羅場の時の食事(゚д゚)ウマー 353 353 名前:男の手抜き料理:02/01/18 01 30 ID /04w1Dan オイル漬けタイプのツナ缶を、熱したフライパンの上にオイルごとぶちまける。 卵を割り入れてかきまぜれば、30秒でツナ炒り玉のできあがり。味付けは、 1)醤油 2)ケチャップ 3)カレー粉 などで。いずれも、チープ&シンプルにして栄養価も高く(゚д゚)ウマー
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小高い山を少し越えた平野―――― 「さて、何を見せてくれるのやら。 素手で熊とでも戦うのかね?」 「いや、それは流石に出来ない……」 見晴らしの良い一面の空を見上げながら魔法使いが二人、言葉を交わす。 「アナタならそのくらいやりかねん。 それとも、まさか人をここまで引っ張って来といて綾取りでも見せようっての?」 「うう……何かみるみるハードルが上がっている気がするよ」 「つまらなかったら即、帰るからよろしくー」 腕を組んで木陰に寄りかかりながら高町なのはを囃す蒼崎青子。 だが、ここまで来たら体当たり。 いつも通り、全力で言いたい事を伝えるだけだ。 桃色の尾を引いて今――――――魔導士が飛び立った! ―――――― ――――――時は一刻ほど前に遡る 「うおっ! マジでかわいいじゃないの」 携帯電話の画像フォルダ内に保存されていた一枚の写真。 そこに写っている少女を見て、青子は感嘆の呻きを漏らした。 それを受けて満面の笑みを称えながら頷くのは高町なのは。 少女を褒められた事が本当に、自身の事のように嬉しいのだろう。 「うん……名前はヴィヴィオ。 高町ヴィヴィオ」 「…………………富士重工製の何かか?」 「違うってば……」 軽い溜息を付いて、なのはは同居人のボケを相殺する。 この手の突っ込みは故郷の家族や友人達からも散々受けている。 もはや今更だ。 「いや何にしてもさ……私は母親なんて一生縁が無いと思っているけれど アナタに先を越されてるという事実は悔しい。 よしレン、今日から私の事は青子ママと」 「―――死ねば?」 「反抗期か……傷つくわー」 大仰に手を挙げて被りを振る青子に、魔導士は「たはは…」と苦笑を浮かべる。 だが次いで思いついたように、なのははつっけんどんな少女に目線を合わせて、中腰で言葉をかける。 「初めに青子さんじゃハードル高すぎたのかも…… 練習してみようか。 試しになのはママって呼んでみて」 「お前、今失礼な事言ったよね?」 「じょ、冗談じゃないわ……お断りよ」 鼻を鳴らしてそっぽを剥く少女であったが、目の前の女から何か異様な雰囲気を感じてハっとなる。 眼前の人間の目が心なしか非常にリリカルな輝きを放っているのだ……鼻息も荒い。 「何事もチャレンジチャレンジ! さあ……!」 「な、なのは……………マ、マ」 100年級の使い魔をして圧殺せんほどのプレッシャーを受け、反射的に言葉を漏らしてしまうレン。 「~~~~~~~!」 「キャーーーーーーーーーーーーー!!!!???」 しかして――――上気して赤くなった顔を擦り付けながら、絞め殺さんばかりに白い少女をハグするなのはさん。 夢魔の絶叫が―――――――小屋内部に響き渡った。 ―――――― 「人の使い魔に何やってんだコラ」 「いや、つい……」 世界の終わりを感じさせる恐慌を身に帯びて一目散に逃げてしまった少女。 その背中を物惜しげに見つめる一児の母である。 彼女の声はとにかく愛しの娘ヴィヴィオに似ていて、特に先ほどの「なのはママ」はヤバ過ぎた。 100万ボルトの電気ショックに匹敵した。 「欲求不満かね? あんな不意打ちじゃなくて直接言ってやればガッポリ吸って貰えるのに」 「そういうのじゃないから……」 とまあ、前途多難な日常を思わせない和やかな昼下がりである。 談笑する二人の魔法使い。 同居生活も一ヶ月を過ぎ、だいぶ体にも馴染んで来た感がある。 (……………………) だが―――なのはの胸の内には、とある秘めた思惑があった。 自分は任務中に行方をくらませた遭難者なのだ。 そう、責任感のある彼女は、現状の馴染んでしまっている自分に対する危機感が常に先立っていた。 こんな所でくつろいでいてどうする? いつまでもふざけている場合ではないだろうという焦り。 付近の調査は続けているが悉く空振り、仲間とは相変わらず音信不通。 ならば今、少なからずやれる事は何か? 一つ一つでも片していける物はないのか? そう思い煩っていた高町なのはは故に今日―――今日こそは大事な話を同居人としなければならない。 気難しい魔法使いの女性は、なのはにとって何処にスイッチがあるか分からない爆弾のようなものだ。 柔らかい笑みを灯している魔導士だったが、実はその表情に先ほどから緊張を称えているのもそのためだった。 「ところで青子さん、あとで時間を作れないかな? 一手だけ、胸を借りたいのだけれど……」 「またその話? 断る。 だるい」 彼女と同居を始めてから一ヶ月、模擬戦の申し込みは今日もあっさりと断られる。 でもあきらめるわけにはいかない。 教導官はあくまでも食い下がっていく。 「そんな事言わないで……異なる体系の使い手同士、お互いのレベルアップにも繋がると思うよ」 「キョーミないわね」 「なら、見学だけでも……まずは私が一人でトライアルをやって見せるから。 とにかく青子さんもたまには体を動かさないと」 まずはどうにかして壁を壊していかなくては話にならない。 これなら展開によっては軽い手合わせ、という流れに持っていけるかも知れない。 そうして渋る青子を半ば引きずるように、なのはは外に連れ出した。 魔法使い達の教練は―――――こうして始まる。 ―――――― 「ええいっっっ!」 Nice. Good shoot なのは自らが朝早くから準備していた特設コースにて、トラアルは既に始まっていた。 基本に忠実なマニューバから、飛行しながらの射撃を行う空戦魔導士特有の演習だ。 あらかじめ設置していたオートスフィアを仮想敵に、空のエースがその力を存分に発揮する。 異世界の魔法使いの目に自分の戦技はどう移るのだろう? あれほどの使い手を満足させる技を見せる事が出来るのだろうか? 久しくなかった緊張は程よい高揚感となって、なのはの翼に躍動を与える。 それは武道の演舞の如し。 形だけを真似て行う未熟者のそれとは一線を画し、真に極めたものの気迫、闘気の篭った演舞は見る者の魂を震わせる。 古来より技を極めたものの術技は武道というより武「芸」として人々の胸を打ち、芸術として扱われて来た。 空戦における戦技もまた多聞に漏れるものではなく、空を舞う高町なのははまさに艶やかに咲き誇る一輪の花を思わせる。 (体は動く……良い感じ!) 決して器用では無い彼女が蒼崎青子に向けた、それは同盟の証でもあり 自身を超える術技を有した相手に対する挑戦状でもある。 そんなメッセージを技に込めつつ、彼女は大空を舞い続けるのだ。 トライアルも早くも中盤を過ぎ――――― ミッドチルダの魔導士ならば一度は見たいと泣いて懇願する、エースオブエースの全力全開。 視界を覆うほどの魔弾の嵐が大空に飛び交い、重低音と空を切り裂くカン高い音が同時に大地を、鼓膜を叩き続ける。 凄まじい光景だ………これは人間一人が起こし得る現象を明らかに超えているといって良い。 だが、しかし…………… そんななのはが、今まさにメッセージを宛てている相手をチラっと見て――― 上げたテンションが行き場を失う羽目になる。 「………………ポテトチップス……」 カルビー銘菓のスナック菓子の名前をポツリと呟いたなのはさん。 そう、当のミスブルーは頭上に展開された華麗な技など興味ないとばかりに週刊誌を広げ バリバリと暢気にスナックを頬ばる音を―――木陰の清涼とした空気に響かせていやがったのだった。 ―――――― Master! 「きゃっ!?」 遺憾の念から言葉に詰まり、思考が凍った一瞬――― 空戦トライアルはその一瞬の油断が明暗を分ける。 危うく設置したスフィアに直撃しそうになったなのはが、寸でのところで挙動を建て直す。 修正する白き翼が桃色の魔力光を場に散らす様は、突如として乱れた彼女の思考を体現するかのよう。 全く関心を持っていない? 心に響いていない? 自分のトライアルは彼女にとってそんなに程度の低い、関心を示す価値もないものなのか? 「レイジングハート……本気出すよ。 なんとしても振り向かせてやる!」 戦場で刃を交し合う以外の戦いもある。 自身の演舞が相手の心を震わせるか否かを賭けた、これもまた紛う事なき戦いだ。 基本を踏襲した堅実な舞いが、荒々しく変化する。 ギリギリを通す攻防の見切り、高速で最短距離をカットする大胆なライン取り。 空気が変わる………なのはが――――――本気になった! ピンク色のスフィアを周囲に纏いて空を駆ける彼女の様は、舞い散る桜の花びらを遊ばせる天女のようだ。 気は昂ぶっていても一糸乱れぬ挙動は美の極致。 流石としか言いようが無い。 あくまで優雅さはそのままに舞踏は戦舞となり、空に描く激しいリズムはロックバンドのドラムの激しさそのもの。 「仕上げ! おっきいの!」 アクセルシューターで全ての仮想敵スフィアを打ち抜きながら、なのはは規定位置に設けられた着地地点に舞い降りた。 勢い良くドズン!と地面に亀裂を作り、滑るように接地しつつ、設けてあったポイントに数分違わず降り立つ。 そしてレイジングハートを正面の山に向けると、標準を合わせた紅玉の杖の先端が集束された光の束を造り上げていく。 「スターライト……………!」 タイムロスはほとんど無し。 接地時の激しい衝撃の中で微塵も乱れぬ魔法詠唱。 ほぼ完璧なパフォーマンスを披露したエースの、最後の仕上げは当然これだ! 「ブレイカァァァァーーーーッッッ!!!!!」 彼女が得意の集束砲を今―――眼前の対象に叩き込んだ!! ―――――― 華奢な女魔導士の脇に抱えられた、大口径カノンと化したインテリジェントデバイス。 その先端から極大と言って余りある砲撃が放たれた。 バックファイアが後方の大気を、大地を豪壮に抉り取る。 なのにそれほどの衝撃を支える彼女の両足は地面に根を張ったように微塵もぶれず、動かない。 対象である山が目の前で灰燼と化すまで約5秒―――全力斉射にて放たれた桃色の奔流が視界全域を覆い尽くす。 …………………………………!!!!!!! 前方の視界一杯を文字通りの更地へと変えてしまう程の――――Sランク空戦魔導士・戦技トライアルはこうして幕を閉じた。 破壊の化身と化したなのはが、デバイスの柄でタンと地面を突く。 それは自らの戦舞の終了を示す挙動に他ならない。 「ふ、う………」 体力と集中力を限界まで注ぎ込んだ体は激しく酸素を求めていた。 だが乱れた息を周囲に悟られるのは三流の所業だ。 2、3、短い深呼吸だけで悲鳴をあげる肺に酸素を送り込み、戦技教導官は揺ぎ無くその場に佇む。 これだけの「動」の世界を体現したにも関わらず、一瞬で場を凛とした「静」の空気へと変えてしまう。 齢20にしてこの魔導士は既に玄妙の位―――達人の域へと足を踏み入れていると言えよう。 なのはが今見せたのは、スタンドアローンの魔導士に課せられるトライアルの最高峰の一つ 「キラー・ビー」 アサルト&デストロイ―――敵の砲火を掻い潜り、戦艦や要塞の中枢に無双の一撃を叩き込む 危険なミッションを想定した最も難しい型の一つである。 砲撃魔導士でこれが出来る者はそうはいない。 ここまで完璧にこなせる者となると局内部でも両手で数えるほどだ。 それを見事に完遂したなのはが、レイジングハートを優雅に回して胸の前で止め、残心の意を表す。 あれだけの全開運動を行ったのだ。 早鐘のように波打つ心臓がドンドンと彼女の胸の内をノックするが――― (これでどう……?) 今、彼女が気にしているのは採点者の動向だ……それを待たずして気を緩めるわけにはいかない。 期待を込めて観覧者の方を振り向くなのは。 我ながら快心の出来だった。 青子という人物が大仰な拍手を降らせてくれる人でない事は重々承知だが…… いくら何でもここまでやって無反応という事はない筈―――――― 「…………」 だが――――― 上気して紅く染まった相貌を向けた、視線の先には―――― 食べかけのスナック菓子がポツンと転がっているのみであった。 蒼崎青子は既にその場を立ち去っていたのだ………… ―――――― NANOHA,s view ――― シュンと肩を落としながら丘を後にする自分の姿は、誰かが見ていたら相当みすぼらしく移ったと思う…… 左手には一緒に頑張ってくれたレイジングハート。 右手には同居人が置いていった週刊誌とポテチの袋。 途中で帰るなら、せめて自分のゴミくらい片そうよ……青子さん。 「頑張ったんだけどなぁ……」 自分は不器用だし、彼女は決定的に私とは考え方やタイプが違う。 なら、上辺だけの言葉で飾り付けても伝わらない。 互いに戦いに従事する者同士、この方法が一番良いと思ったのだけれど、当てが外れたかなぁ。 正面から体でぶつかるという試みが常に功を奏すわけではないけれど、ちょっと……かなり残念。 空を飛んで帰れば小屋まであっという間なんだけど、どうもそんな気になれない。 頭を垂れて山を下る私………高町なのはは今相当、凹んでます。 「―――――――」 「…………!」 とその時、頭上に気配を感じて私は宙を見上げる。 「レン………」 覚えのある鈴の音を聞き間違えることはない。 木の枝に純白の少女が座っていた。 「――――つくづく大したタマね。 アレをああまで挑発してのけるなんて…… 知らずにやってるんだとしたら相当の天然よ。 貴方」 言葉を紡ぐ少女。 敵意と警戒心を称えた声色は変わらない。 でも、挑発? 確かに挑戦的な意味は含めたけれど決して青子さんを愚弄するような感情を込めた覚えは無い。 それが途中で帰ってしまった原因なのだとしたら……一体何が気に入らなかったんだろう? 「アレはアレなりに魔法使いなんて大層な肩書きを背負って周囲に振舞っているわ。 元がどんなに奔放な性格だって、魔法使いという言葉の重さを感じ取れないような奴があの域にはいられない。 でも――――あれで芯はまだヤンチャな小娘なのよね………珍しく他人に対して反骨心を露にしてる」 「反骨心? 誰に?」 「貴方によ。 気を落とす事は無いわ。 メッセージは青子にちゃんと届いてる―――臓腑を抉る勢いでね」 オウム返しになってしまう私の問いかけに意味あり気な答えを返してくるレン。 青子さん……ああ見えて私の気持ちに気づいてくれたのかな? 「でも、ポテチ食べてたよ?」 「ポーズに決まってるじゃない。 アンタなんかに興味ありませんよーっていう。 貴方が 魔術 や 神秘 に対してアプローチをかけたい以上に、青子は貴方達の事を知りたがって……とと、今のナシ」 「………そっか。 有難うレン。 教えてくれて」 「別に……私はみっともなく右往左往する青子が珍しくて面白がってるだけ。 せっかくだからもっともっとアレを引っ掻き回して欲しいわ―――笑えるもの」 クスクス、と意地悪い笑みを残して白猫は森の奥へと消えてしまった。 「…………首尾は上々、だったのかな?」 少し安心した……自分の意思はどうやら少しは彼女に届いていたようだから。 そしてくたびれ損でなくてよかったと気を抜いた瞬間、ドっと疲労が沸いてきた。 うう~……ホントに疲れたよ。 あれは私の持ち技の中でも、とっておきだったんだから。 あれで届かなかったら正直、お手上げだっだ。 「とにかく……少し間をおいて、夕食時にでも改めて話を切り出そう」 そう思い立ち――――私は帰路につく。 その足取りは心なしか軽いものとなっていた。 ヴィヴィオと性格は全然違うけれど、やっぱりレンの声は凄く落ち着く。 私にとっては今や癒しそのもののあの少女ともう少し仲良くなりたいな、なんて思いながら―――私は山地を後にする。 ―――――― ―――――― そして今は夕刻の食事時――― 卓に並べられた簡素な夕餉を黙々と平らげていく二人。 ――― 空気が……………重い…… ――― 租借し舌鼓を打つ音と、カチャカチャと食器の擦れる音だけがダイニングに木霊する。 野菜と炭水化物と蛋白質のバランスの取れた、調理者であるなのはの性格が伝わってくるような品揃え。 だが談笑に花を咲かせるでもなく、無言で箸を勧められては食材にも申し訳が立たないというものだ。 「青子さん……その、昼間の事なんだけど」 意を決してなのはは話を切り出した。 「……………」 「どうだったかな? 貴方ほどの術技を持った人から見たら全然未熟だったかも知れないけれど…… 出来れば今後のためにも忌憚ない意見を聞かせて欲しいんだ」 「……………」 「ねえ教えて青子さん。 私の戦力は………貴方の世界ではどの程度、通用するのか」 「……………………む」 「む?」 遠慮がちに、だけどはっきりと相手に言葉を投げかける高町なのは。 しかして―――― 「むきゃーーーーーーー!!」 「ひゃあっ!?」 返ってきたのは怪鳥音と――――――ドレッシング。 プラスチック製の容器が、ダッキングで避けたなのはの頬を掠めて壁にぶっ刺さった………… ―――――― AOKO,s view ――― ――― ああ………嫌なもん見せられた ――― 全く持って苛々が収まらない。 対面にちょこんと座ってインゲン豆をポリポリ口に運びながら、しきりにこちらをチラ、チラ、と見てくる女。 我がむかつきの原因である魔法少女、高町なのはさん(20)である。 会話を切り出したくてしょうがないといった風体だが、どーせ昼間の事だろう……ああ、腹立つ。 「青子さん……その、昼間の事なんだけど」 ―――――そら来た……… 彼女が色々と悩んでいたのは知っていた。 暇さえあればああして出かけていって、汗だくになって帰って来て、玉ッコロと反省会などをしてた。 常にどこか陰を落とした表情は、遭遇した困難―――どうにもならない壁を目の当たりにして相当の衝撃を受けたのだろう。 この一ヶ月、互いに自身の手札を隠したまま何とか相手の情報を引き出そうという ささやかながらの情報戦が狭い小屋内で行われていた。 両者とも秘匿せねばならない事項を抱えた身。 すんなり打ち解け、交流しましょうというわけにはいかない。 そして今日、相手がついに現状に痺れを切らしてアクションを起こしてきたってとこ。 この子は今―――どうしても魔術の事が知りたいのだ。 ……………… しかし昼間、ああして改めて奴の力を見させられたわけだが………コノヤロー。 一体、私と戦った時はどんだけ手加減してたっていうのよ……… 結果、英霊と互角に戦ったという彼女の言葉の真偽はめでたく証明されたわけだが。 はっきり言って私と五分程度の力で英霊なんかと闘えるもんじゃない。 あれは基本、ヒトがどうにか出来るものじゃない。 十分な用意と下地と勝算を以って臨んだならばともかく、道端でばったり出会って戦闘になった場合、対応できる相手では断じて無い筈。 だからせいぜい方々の体で逃げてきたんだろうな、くらいに思ってた………昼の彼女のパフォーマンスを見るまでは。 結論、この女はマジでヤバイ―――英霊なんてモノと互角に戦い兼ねん力を本当に持っていた。 私との戦いは互いに遊びみたいなものだったけど、それでも私は「まあ、死ななきゃいい」くらいの気持ちで撃ち込んでいた。 だいたい5分~6分、といったところだろうが、対して彼女は蟻を摘むかのような細心の注意を払って私に臨んでいたに違いない。 この私を………相手にして………ッ!!! 「むきゃーーーーーーー!!」 「ひゃあっ!?」 むかついたんでドレッシング投げてやった。 避けくさった。 魔力ダメージという便利な機能を有しているといっても、その効能はぶちかましや爆風の破片にまでは至らない。 衝撃波だけで戦闘ヘリの一つや二つ、簡単に吹っ飛ばせる奴が BJとやらを纏っていない私を大怪我させずに無力化させるのにどれだけ苦心した事か……… 高町なのはの「敵をなるだけ傷つけない」という制約を外した本来の動きが昼間のアレなのだろう。 認めざるを得ない……まともに戦えば、私はなのはに到底、適わない。 いや、アレが向こうさんの技術力の賜物だというのならば、魔術師そのものがミッドチルダ式魔導士には適わない。 その事を今日、存分に思い知らされたのだ。 くそー……同世代で私をキッチリ殺せそうなのは姉貴くらいかと思っていただけに、はっきり言ってショックだわ。 これじゃ井の中の蛙じゃないの……悠々とあれだけの力を見せ付けておいて 「どの程度通用するのか♪」 だってさ。 イヤミな奴め……お前なんかキライだ。 爆発してしまえ。 ―――――― 前 目次 後
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ゆっくりスの翼 ――妖立宇宙軍―― 妖立宇宙軍、それは妖怪による宇宙軍。 設立者はいわずと知れた蓬莱人、Dr.八意永琳である。目的は月の奪取。宇宙開発が進み、人間による開拓か始まろうとしている月面を、蓬莱人の手に取り戻すのが、彼女の狙いだった。 彼女は蓬莱人として長年の間に築き上げた人脈と、妖怪ならではの超科学を駆使して、今ここにNASAやグラフコスモスのそれをも越える、優秀な月面輸送システムを築き上げたのであった。 これは、その輝かしき第一歩の記録である。 「Tマイナス600、射場閉鎖」 「外部電源より機内電源へ移行。ロケットは自律制御を開始します――」 幻想郷に何重にもエコーした声が響き渡る。アリス邸を改造して作られたブロックハウス(打ち上げ指揮所)に詰めている管制兎たちのアナウンスだ。 紅魔館の館内で建造された、八意永琳謹製の妖怪月ロケットであるモウソウチク5型、略してM5ロケットは、数千項目ものプリフライトチェックを終えて、間もなく打ち上げられようとしていた。 ロケットの先端、ノーズフェアリング内に収められたルナー・ボートでは、ただひとりの搭乗者であるゆっくりかぐやが、人々から挨拶を受けていた。 「元気でね」 「頑張って」 「向こうへ着いてもゆっくりしてね!」「ゆっくりするんだぜ!」「ちゅるんだよ!」 親しい妖怪たちとともに、見送りに来たれいむやまりさたちが声をかける。 彼女らの挨拶が終わると、最後にボート内に顔を突き出して、永琳本人が言った。 「これは私が考えた、私の実験よ。おまえのものじゃない。今ならまだ、引き返せる……本当に行く?」 「ゆぅ~」 ポリカーボネイトの透明なゆっくり用宇宙ボールに入ったゆぐやが、いつもの眠そうな目で、うなずいた。 「これはかぐやのおしごとなのよ~。かぐやのおかあさんからうけついだのよ~。だからかぐやは、ぜったいおつきさまにいくのよ~」 知らない人間が見れば、本番前だというのに何をのんびりしているのかと思うような口調だが、普段はしゃべるどころか、だらだらごろごろしてばかりで、決して自分から何かしようとは思わないのがゆぐやである。このゆぐやが目一杯本気になっているのが、永琳にはわかった。 ゆぐやの母は、60年代のアポロ計画の一環として、宇宙へ行った。ただ一頭、地球大気圏の外へ出たゆっくりだった。 だがしょせんゆっくり、悲しいかな、黄金のトロフィーに等しいと言われる月着陸ミッションを与えられることはなく、地球の上で朽ちてしまったのだ。 しかし彼女は恋をし、娘を残した。それがこのゆぐやだ。 ゆっくりかぐや種はめったに動かない代わり、寿命が長い。ずっと待っていた彼女に、ようやくチャンスが巡って来たというわけだった。 「いいわ。頑張ってちょうだい。――ゆっくりしていってね」 「ゆっくりするのよ~」 ゆぐやがゆらゆらと体を揺らしてうなずいた。永琳はサムアップサインをしてボートを出た。 作業兎たちが、頑丈なレンチでハッチを閉めた。 「整備塔クリアー! カウントダウン続行!」 「整備塔、オープンします!」 湖の中洲にたつ紅魔館の時計台が、ポーンポーンポーンと規則的なアラームの音を立てながら左右に開いていく。M5型の緑色の姿が、夕刻の幻想郷に姿を現し、真東に向かって首をもたげた。 「まったく、何で私たちの館をこんなことのために……」 「ま、いいんじゃないの。面白そうだし」 紅魔館メンバーは、全員霧の湖の外まで退避させられている。咲夜メイド長の愚痴に、館の主であるレミリアが、にやにや笑いながら答えた。 「あの気違い女科学者がどれほどのものを作ったのか、とっくり見せてもらおうじゃない?」 「お嬢様……館の後始末は私の仕事なんですよ?」 昨夜が悲しそうに首を振った。 永遠邸では、ロケット及びペイロードの総合管制指揮所として、システムの集約的な管理が行われていた。 「妖怪の山から気象情報入電! 風力4、雲量0。気象GOです!」 「飛行哨戒中の博麗霊夢および霧雨魔理沙より入電、周辺空域に障害となる飛行物なし――」 「Tマイナス300、永琳博士、最終判断を」 「GO? NO-GO?」 「もちろん、GOよ」 紅魔館から飛び離れる途中の空中で、永琳が不敵に答えた。 「M5ロケット、最終打ち上げ段階に入ります」 幻想郷の多くの人々とゆっくりが見守る前で、最後のカウントダウンが進んでいく。 「10、9、8、7――」 ロケットの側面から黒い煙が噴き出す。発電用サイドモータ点火。 「6、5、4――」 紅魔館の湖に近い側で、盛大な放水が沸き起こる。噴射衝撃波を緩和するウォーターカーテンの展開。 「3、2、1――」 人々が拳を握る。ゆっくりたちが叫ぶ。 ゆぐやが唇をかみ締める。 「ゼロ。Lift-off!!」 閃光とともに、凄まじい白煙が湖上に吹き渡った。二秒もかけずに湖畔に届き、湖面を覆う。 M5が上昇を始める。鋭い機首を天空へ向ける。突き刺さるように昇っていく。 遅れて、湖畔の人々に、五体を揺さぶるとどろきがバリバリと届いた。 レミリアが、フランドールが、パチュリーが目を見張る。他の人々も。それは確かに、何百年もの時を生きた幻想郷住人にさえ、いまだ目撃されたことのない、壮大なスペクタクルだった。 ただひとり、咲夜メイド長だけが滂沱の涙を流していた。 「あああああ、館がこっぱみじんにいいいいいい……」 「Tプラス10、11、12、13……」 アリス邸ブロックハウスでは、打ち上げ後ロケットの管制が続いている。 「T75、一段燃焼終了! 一段分離!」 「二段点火確認!」 「100、101、102……」 「間もなく妖怪の山管制圏を出ます」 「妖怪の山、ロスト!」 「管制中継を妖怪の山からチェイサーにハンドオーバ!」 「チェイサー、了解ーい!」 高速で上昇し飛行していくロケットは、あっという間に地平線の向こうへ消える。人間たちの場合、ロケットの行程にそって地上追跡局や追跡船を設置しておくのが常道である。 幻想郷に外部の追跡局はない。代わりに永琳が選んだのは、最速を誇る妖怪にロケットを可能な限り追尾させる方式だった。 「清く正しい、射命丸でーーーーーーーーーーーーーーっす!!!」 マスコミ天狗の射命丸文が、翼を羽ばたき大気を切り裂き、すばらしい高速でM5を追っていく。 「145、146、147、148……」 「二段燃焼終了!」 「天狗より地上、竹の二段目がおっこちましたぁー!」 モウソウチク5型は、永琳がDNA改造した巨大な竹のロケットである。その中にはBPシリーズと呼ばれる高分子ブタジエン系固体燃料がぎっしり詰まっている。これが燃える端から、下の段を節目のところで切り離していくのだ。 「182、183、184、185、フェアリングオープン!」 「天狗より地上、竹の先っぽが剥けました! ゆぐやちゃんのボートが出てきてます! っていうか、そろそろつらいでーす!」 この時点ですでにロケットと文の水平分速はマッハ10を越えている。鉛直高度は150Km。アメリカ空軍の定める宇宙高度(80.5Km)のはるか上だ。 空は暗く、星が瞬く。いかに妖怪といえども、宇宙空間の環境はつらい。 「ひきが れきまへーーーーーーーーーーん!」 「地上管制より天狗、あと100秒こらえなさい」 「ひ、ひほごろひー!」 永琳の冷酷な指令に、息を止めて顔を真っ赤にした文が細い悲鳴を上げた。 そんな彼女の頭上で、M5は再び閃光を放ち、加速を始める。 「三段点火! 206、207、208、209」 「へーん、もうやけらー!」 ぶっちゃけ妖怪に酸素は必要ない。根性据えた文がさらに大きく羽ばたいて、ないに等しい高空大気を蹴りつけた。 三段に点火したロケットはますます速度を上げる。空気抵抗が極小なためその速度は天井知らずにあがっていく。時速一万二千キロから、一万三千、一万四千。マッハ17、マッハ18、マッハ19。 「ちょ…………こえ…………まぢ、むぃ……………………」 顔を赤くしたり青くしたり、おぼれた人間みたいにバタバタもがいていた文が、はるか頭上の点のように離れたロケットに目を止め、気づいた。 「てんうよい、ちひょー。ろへっほ、ちぎえ……は……」 Tプラス347秒。加速を終了したM5三段が分離した。 秒速七千九百メートル、軌道速度達成。ゆぐやは人工衛星となった。 力尽きた文が、目をペケにしてへろへろと落ちていく。 透明な宇宙ボールの中。強烈な打ち上げGのせいでぺったんこに潰れていた饅頭が、もぞもぞと動き出した。じきに、ぽむっ! と音を立てて球形に戻る。 「ゆふー…………ちょっぴり、おもかったのよぉ……」 ゆっくりかぐやは一息ついた。ゆっくりは骨がないので、外側さえしっかりボールで支えられていれば、意外とGには強いのだ。 「ゆっくりする、のよぉ……」 ゆむゆむと体を回して、ルナー・ボートの窓のほうを見た。 そして、息を呑んだ。 「ゆぅ……」 そこは天空。 純白の太陽の輝く、暗黒の宇宙。眼下には青い大気と、渦巻く雲。 一望のもと数千キロ四方が収まっている。地球のいかなる王も皇帝も見たことのない、生命の王国。 「おかあさん……ゆぐやは……ゆぐやは……やっとおいついたのよぉ……」 ぽろり、と流した涙は、落下せずに宙に浮く。きらきらと輝いて漂い始める。 「とっても……ゆっくりできるのよぉ……♪」 あとからあとから流れる涙に、きらきらと周りを取り囲まれて、ゆぐやはふわふわとゆっくりする。 幻想郷に外部地上局はない。 このことは、幻想郷とボートとの通信が、一日のうち限られた時間にしかできないということを意味した。永琳は当然、ボートと通信できる時間に月遷移軌道へのトランスファを行うことにしていた。その通信可能範囲と、軌道離脱タイミングが一致するまで、数日かかった。 「今ロケットを噴射しても、月に向いていない。しかし月に向くまで待っていると、電波が届かなくなる。両方が一致するまで待つのよ、かぐや」 「ゆぅ~ん、ゆっくりしているから、だいじょうぶなのよぉ~」 数日の待機など、ゆぐやには屁でもない。ふわふわふわふわとゆっくりして過ごした。 五日後、タイミングが一致した。永遠亭の追跡管制局で、永琳は命じる。 「いち、にい、さんでボタンを押すのよ。いい?」 「ゆぅ~」 「いち、にぃ、さん!」 「……」 「かぐや? かぐや、どうしたの!」 「……すやすや……すやすや……」 ゆぐやは寝ていた。 打ち上げの時はやる気満々だったが、五日も待たされてはやる気が失せるのは当然だった。永琳の必死の呼びかけもむなしく、ゆぐやは起きなかった。持ち時間を使いきり、軌道離脱ウインドウは閉じた。 次のウインドウは八日後だった。 八日後、ゆぐやは聞き返した。 「あかいぼたんだったぁ? あおいぼたんだったぁ~?」 「赤 い ボ タ ン よ ッ」 永琳が握り締めたマイクが、バキャッと音を立てて折れた。 このウインドウも閉じてしまった。次のウインドウは四日後だった。 そして、ロケットのバッテリーが持つのは、その日までだった。 「私は何か、とんでもない間違いをしたんじゃ……」 永琳が人選について真剣に悩み始めたとき、声をかける者たちがいた。 「れいむたちに――」 「まりさたちに――」 「ま か せ て ね !」 現れたのは、ゆぐやの親友だった森のゆっくりたち! 「あなたたち……!」 永琳は、しゃがみこみ、一縷の望みを託して彼女らの頬に触れた。 「たのむわ……同じゆっくりとして!」 「ゆっ、れいむがはげますよ!」 「まりさがげんきづけてやるんだぜ!」 何の根拠もなく自信満々に言い張るゆっくりたちの姿に、永琳は強く思った。 ――ダメかもしんない。 「か・ぐ・や! か・ぐ・や!」 「ゆーえす! ゆーえす! ゆーえす! 「ゆっ、ゆっくりしないでね! いまだけがんばってね!」 当日、永琳の心配をよそに、ゆっくりたちは必死の声援を送った。 「ゆうぅぅ~、うるさくてねれないのよぉ……あ、これ?」 ぽちっとな。 寝ぼけまなこのゆぐやが押したボタンで、M5の四段ブースターが点火、軌道離脱噴射が行われた。 加速後に四段は分離され、ルナー・ボートは月へ向かう。 月は遠いが、地球から遠ざかれば遠ざかるほど、可視時間が長くなっていく。 地球軌道を離れて五日後、幻想郷とボートは、ほぼ一日の半分の時間、交信できるようになっていた。 だが、交信の内容はほとんど永琳の悲鳴で占められていた。 「起きて、ねぇ起きて! お願いだからちゃんと起きて、動いて! おまえを救うのはお前しかいないのよ! サボってたら命にかかわるのよ! 動いてってば! 今だけ、あと二日だけでいいから! それさえ済んだら好きなだけゆっくり出来るから! ねぇ聞いてる? 頼むからいう事を聞いてちょうだい! 聞けっていってるでしょ! 動けこのくそニートが!」 「えーりん、うるさいんだけどぉ……」 「うわわわごめんなさい姫様」 あまりしつこく怒鳴るので本物の輝夜まで起きてきてしまい、あわてて謝る永琳だった。 問題は電力だった。 地球軌道で、ルナー・ボートはバッテリーの電力を使い尽くした。ボートに太陽電池パドルはついていない。船内の温度は自転によるバーベキューロールで保っているから、凍りついたり蒸し焼きになったりすることはないが、通信機やコンピューターは電気を使っている。 電気がなければ、着陸できない。 こんなこともあろうかと、ルナー・ボートには手回し式の発電機が取り付けられていた。バッテリーが底を突いても、残っている最後の力――人力で、最低限の電力を確保するためだ。 だが、その人力ならぬ、ゆっくり力が、予想を超えて頼りないのが問題だった。 「ゆぅ……ゆぅ……」 「寝てないで起きなさーい!」 「だって……ねむいのよぉ……」 今日もニート明日もニート。ゆぐやのさぼり能力は尋常ではなかった。 「こうなったら仕方がないわ……鈴仙! てゐ!」 「はぁぁい……」「なんだウサー」 ものすごいやる気ない顔でやってきた二人に、永琳は次々に命令を出した。プリズムリバー三姉妹を呼んで来い、できれば小野塚小町も、それに八雲紫と連絡をつけろ、等など。 二人の兎は、一応頑張った。だが、小町と紫の返事はそっけないものだった。 「そりゃ、あたしは距離を操れますけど、さんじうまんキロも離れてるものをなんとかしろってーのは、さすがに無理ですねえ」 「隙間はどこにでも出せるわけじゃないのよ」 等など。 頼みの綱の三姉妹が、地上通信士用のマイクの前でじゃかじゃかと躁になるロックをかき鳴らしたが、五分もしないうちに輝夜が現れてマジ怒りされてしまった。 残存電力はいよいよ残り少なく、通信の維持すら難しくなってきた。 「ああもう一体、どうしたら……!」 八意永琳、万事休す。 そのとき――である。 彼女は、ある男のことを思い出した。 それは、幻想郷の住人ではない。日本人ですらない。 あのNASAで、人を月に送るために働いていたという。 今でもいるのかどうかは、わからない。そもそも生きているのかどうか。アポロが終わったのは40年近く昔だ。 それでも永琳は、てゐを呼んだ。 「御用ウサー?」 「ええ、そうよ」 「はいはい、今度はどんな無理難題ウサ」 「アメリカへ行ってちょうだい」 「……」 悪戯ウサギ、さすがに無言。 永琳は腕組みしながら横目で彼女を見つめ、きっぱりと言った。 「アメリカへ行ってちょうだい」 「……いやだと言ったら?」 「M6の乗員になりたい?」 「ふぁーい」 この人相手ではどこまでも貧乏くじを引く、てゐだった。 ……というより、だからこそ悪戯に走るのかもしれない。 『かぐや、かぐや』 「……ゆ……?」 ゆうゆうと無重力の心地よい惰眠をむさぼっていたゆぐやは、目を開ける。 「だれなのよぉ……?」 『僕だよ』 だれだろう? 聞いたことがあるような、ないような……。 眠くてだるい。面倒くさい。ゆぐやは再び寝ようとする。 『覚えてないかな。あれは半世紀近く前だしな。君はお母さんより、ずっと小さかった……』 「ゆっ? おかあさん?」 『そうだ。思い出せないかい? 僕は――君のお母さんを宇宙に送った』 年老いてしわがれた声。ゆぐやの味噌餡の脳みそに電撃が走る。 ――そうよぉ……このこえには、たしかにききおぼえがあるのよぉ……。 「おにいさんは……じっけんおにいさん!?」 『……うん、まあ、そうだ』 若干の沈黙を経て、すぐに相手は言葉を続ける。 『四十年前、かぐやがいけなかったところに、いま娘の君が行こうとしているという。 僕は……僕は、なんと言っていいんだろう、かける言葉がない。 あのときかぐやには、月へ行けるとさんざん吹き込んだのに、結局行かせてやれなかった。そんな僕には、君に言葉をかける資格など……本当はないのかもしれない』 『ちょっとあんた、そんなヘコむようなこと言ってどうすんのさコラ!』 なにやらウサギの声がぎゃんぎゃんと聞こえるが、ゆぐやは気にならなかった。 母を宇宙へ行かせてくれた彼が、今また再び言葉をくれた――それだけで、何か、長い時間の谷間を経て、足りていないもの届けてもらったような気がした。 「ううん…… おにいさん かぐや、げんきがでたのよぉ……」 そう言うと、かぐやはゆっくりボールからゆむゆむと這い出て、壁のハンドルに取り付いた。口でくわえて、いっしょうけんめいぐるぐると回す。 発電機が回り、ゆっくりと電力が貯まり始めた。通信機の音声が鮮明になる。テレメーターを監視している永琳の歓喜の声が聞こえた。 『やったじゃない、かぐや! その調子よ、なんとかあと二時間頑張って!』 「ゆっくり、がんばるのよぉ~」 ゆぐやは懸命にハンドルを回し、なんとか着陸に必要なだけの電力を貯めこんだ。 最後にアメリカから、力強い声が飛んできた。 『かぐや、君たちにはこれが一番だったな。――Take it EASY!』 「ゆっくりしていくよぉ~」 ゆぐやは返事をして、ルナー・ボートの窓に見入った。 そこにはいつの間にか、巨大な月の姿が見え始めていた。 月――白銀の盆、あるいは光と闇で形作られた鋭利なる鎌。 竹製の小型固体モータ二本をV字に広げて、うまく推力を加減し、モウソウチク五型は月周回軌道に乗った。 月の脱出速度は、わずか二・四キロ。つまり、かなり速度を落としても地面にぶつかってしまうことはない。 ゆぐやは、低速で流れていく月面の光景を、ゆっくりと眺めた。 灰色の明確な日向。黒色の冥界のような日陰。いや、かすかに日陰も見えている。日向面からの照り返しだろう。 それにしても中間のディテールはあまりにも少ない。白と黒だけ。砂と岩のみ。四季映姫が見れば、あるいは好みそうな景色だが、この風景を好む人は少ないだろう。 ゆぐやは――また、泣いていた。 彼女は知っていたのだ、この地にかつて、月人の壮大な都があったことを。 そしてまた―― 彼女は知っているのだ。この地にいずれ、人間の壮大な都が築かれることを。 ただゆぐやは、母と同じように、今ここに来たかった。 月人も、人間もいない、今このときに――。 『月着陸噴射、開始するわ』 はるか遠くに離れた永琳の声とともに、ゆぐやの視界の中で、前方へとモータの炎が伸びた。スッと減速Gがかかる。 『噴射成功。着陸まで四百秒。かぐや、ボールに入って』 「……ゆっ」 ゆぐやはゆっくり宇宙ボールに入り、ワンタッチの蓋を閉じる。 そのまま、窓外の景色を見続けた。当分の間、見られなくなるはずだった。 やがて、地上の景色が近づいてきた。ゆぐやは目を閉じ、衝撃に備える。 窓の外を流れる砂の速度が極限まで高まり――衝撃! 「ゆぐぅっ、ゆぐぅぅぅ!」 球形のルナー・ボートは、レゴリスの砂漠にじかに突っ込んだ。硬着陸。だが停止せず、何度もバウンドする。浅い角度で入ったのが幸いした。それを狙った進入だった。 六分の一重力下で、ぽーん、ぽーんと跳ねたボールは、地上では考えられないほど長々と転がってから、ようやく動きを止めた。 巻き起こった砂塵が、きれいな放物線を描いて落下していき、やがて再び真空が澄んだ。 バシュッ、と音を立ててボートのハッチが開く。 そこから、透明なゆっくり宇宙ボールが顔を出した。 中に入っているゆぐやの歩行によって、ボールは転がり、空中に出て―― とさっ、と軽い音を立てて砂の上に降りた。 「ゆううう……!」 ゆっくりかぐや、月着陸。 幻想郷を出てから、実に二十五日後のことだった。 「ここが……おつきさまなのぉ~」 しみじみと、ゆぐやは月面を見回す。 静かだ。――風はなく、鳥もおらず、人や妖怪も一切いない。 広大な砂と、点在する岩だけの世界。 万年の無人。 億年の静寂。 その荒涼たる景色を見て、ゆぐやは―― 「……ゆっくりできるのよぉ~~~~♪」 心から、歓喜した。 そう……それが、ゆぐやが選ばれた理由だった。 月でゆっくりできる、ということが。 ゆぐやは不死だ。体を粉々にされて燃やし尽くされない限り死なない。食料も水もいらず、酸素もいらない。 だからこそ、アポロ計画のサターン宇宙船よりはるかに小さなM5型で、月に来られたのだ。M5はパワーが弱く、月まで一ヵ月近くもかかった。普通の人間が乗ったら、酸素も食料も足りなくて、餓死するか窒息死していただろう。 そして、なんらかの奇跡に恵まれた月に到着したとしても、そこで絶望を味わったことだろう。 M5は、帰還用の宇宙船を載せていないのだから。 そう、これは片道飛行。帰らずの旅。 月に骨を埋める者でなければ、許されない旅。 ゆぐやこそは、その資格を持つ者だった。 「ゆっしょ、ゆっしょ……ゆふー……すずしいのよ♪」 ボートの日陰に入って、ゆぐやは息をつく。月の二十八日の自転に合わせて、多少は動かなければならないだろうが、たいしたことではない。 ここでは、誰も――人間だけでなく、同じゆっくりたちでさえもが――干渉してこないのだ。 絶対の孤独。――究極の放置。 母の夢見た、永遠の、ゆっくり。 いや、厳密にはそうではない、いずれここには誰かが来るだろうから。 だがそれも……ずっと先のことだ。二十年か、三十年か。あるいは千年か、二千年か。 でもその程度ならかまわない。 二十年に一度ぐらいなら……起きてやったって、いいではないか。 『かぐや、着いたの? 報告して!』 「ゆっくり、とうちゃくしたよぉ……」 小さな通信機にそうつぶやくと、ゆぐやはそれをひと呑みに飲み込んだ。 そして、目を閉じた。 「ゆっくり、ゆっくりするのよ~……」 月面、静かの海、アポロ11号着陸地点から二キロ。 白い太陽と青い地球だけが見守る砂漠で、小さなボールがゆっくりし続けている。 あの日からずうっと。 これからもずうっと。 ===================================================================== 「ゆっくりと動物の人」さんの「そらを夢見て」を見て、 発作的に月まで連れてってやりたくなりまして。 YT 最後のシーン、「猫の地球儀」という小説を思い出しました。 切ない終わり方ですがこういうの大好きです。あと宇宙開発モノも。ゆぐや可愛いよゆぐや。 -- 名無しさん (2008-10-09 03 21 28) 数年前「シューメイカー=レビー彗星」で再び脚光を浴びた ユージン・シューメイカー博士は元宇宙飛行士候補でした。 彼は難病に冒され、宇宙への道を閉ざされてしまいます。 しかし彼は天文学者として宇宙開発にその一生を捧げ、 多くの飛行士を送り出す事に貢献しました。 今、シューメイカー博士は月に眠っています。 無人月面探査機に彼の遺灰が載せられ、 生前果たせなかった月面着陸を果たしたのです。 シューメイカー夫人は言います。 「夜空を見上げればいつでもあの人に会えるんです。なんて素晴らしい事でしょう!」 -- 私は饅頭 (2008-10-09 04 53 44) なんと荘厳な物語っっ そして作者の博識ぶりに脱帽 -- 名無しさん (2008-12-09 16 51 42) いいはなしだなーーーー -- ちぇんと(ry 飼いたい (2012-03-29 11 17 20) 名前 コメント
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【選別】 【選別・続――飽食の時代】 親まりさは衝撃に身を震わせた。何が起こっているのか把握する間もなく、体が宙に浮く。 「ゆゆっ! おそらをとんでるみたいなんだぜ!」 そのまま、投げられた。 「ゆぎゃべっ!?」 顔面に鈍い痛みが広がり、餡子を吐き出しそうになる。しかし、餡子を吐くということは人間でいえば内臓をぶちまけることと同義である。まりさは、懸命に口元を引き締めた。 「まりさ、家族はうまかったか」 声が聞こえた。冷たい、氷みたいに冷たい声だ。 本能が言う。逃げろ、ここにいたら殺される。あれには勝てない、と……。 「ま、まりさはむれでいちばんかけっこがはやかったのぜ! ゆっくりしないでにげ……ゆっ!?」 窓から飛び出そうとしたところで、身動きできなくなる。 「おまえの口は飾りか? 会話を成り立たせるところから始めなければならないのか? ……まあ、ちゃんと答えてもどうせ殺すけどな」 ――――― まりさは眼を覚ました。どうやら、あのゆっくりできない人間に眠らされていたらしい。 「起きたみたいだな。目覚めはどうだ?」 良いはずがない、そう言おうとしたところで気付く。 口が、開かない。 「餡子を吐き出してしまうとすぐに死ぬからな。ちょいと細工させてもらった。木工ボンドと溶いた小麦粉、澱粉のりにセメントとアロンアルファ……他にもたくさん使ったなぁ」 まりさの口は、接着剤によって固められたのだった。上唇も下唇も、ぴくりとも動かない。 「口を聞けない口なんか、要らないよな」 「んんんごんむぐぐ……」 「あはは、面白い顔だな。それじゃあ、この辺からいってみようか」 ――――― 俺は注射器を手に取った。中には、真っ赤な液体が入っている。鋭い針をまりさの頬に突き刺して、液体を全て注ぎ込んだ。 「んごんぐぐぐ……」 まりさが奇妙なダンスを踊り始める。おかしな表現だが、それは狂った人形を想起させた。 液体の正体は、 「激辛ラー油」だ。 ゆっくりにとって、辛いものはすなわち激物である。唐辛子を食べた赤ゆっくりが破裂した、なんて話もある。 「むぐんごぐぐ……! ごんんん!」 まりさは全身を真っ赤に染めて、ぐねぐねと跳ね回る。見ていて飽きない、自動人形の珍妙なダンス。 ゆぎゃああああ! からだがあつくていたいんだぜえええ!ゆぎぃぃぃ! にんげんはまりさにゆっくりさせるんだぜえええ! ゆがぁぁぁいだいいいいいい! んぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! ――――― 「次はこれだな」 まりさは完全に意気消沈していたが、そんなことはどうでもいい。 「口の次は、眼をいこうか」 裁縫箱から、針と糸を出す。暴れないように、針でまりさの底面下部、ゆっくりで言うところの「あんよ」を傷つける。 ぷす、ぷす、ぷす……。針があんよを突き刺すたびにまりさは身もだえしていた。 「んぎゅっ! ぐびっ! ごぶっ!」 ぴくぴくと痙攣し始めたまりさを抱えて、片方の眼、瞼に糸を付けた針を勢いよく刺した。 「んぐぅぅぅーーーーーー!!」 瞼を縫いつけられる痛みは想像を絶するものだろう。まりさは餡子の涙を流していた。 「呪怨にこんなやついた気がする」 そんなことを言いながら、両方の眼を縫った。 ――――― おめめさんがいたいいいい! ゆわあああ! まりさのぱっちりおめめさんがみえなくなっちゃったのぜえええええ! ――――― 放置して数日が過ぎた。ぷるぷると動いているから、まだ生きているようだ。 叫び声もあげられぬ絶望の暗闇のなかで、まりさはどんなことを思っているのだろうか。 ――――― ゆんゆんゆゆーん♪ まりさはむれのたいしょうなんだぜ! ゆんゆんゆゆーん♪ まりさはつよくてかっこいいんだぜ! ゆんゆんゆゆーん ゆんゆんゆゆーん ゆんゆんゆゆーん ゆんゆん………………。 ――――― 生きることに、善も悪もない。俺は生きるために魚も肉も野菜も食うし、あまつさえそれに評価を付ける。うまいかまずいかで、食べるか食べないかを決める。 ……もしも食料が何にもなくて、家族を食わねば自分が死ぬ、という状況になったとき。 俺はどうするのだろう。大人しく食われるか、それとも食うか。家族全員、仲良く共に飢え死にするのか。 「家族を食べる」ことに一点の疑問も持たなかったこいつに腹を立てた俺という人間は、はたして立派な人間なのだろうか。 まりさの干からびた死体をちぎって蟻の巣の近くにばらまきながら、そんなことを考えていた。 完
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麺料理 修羅場の時の食事(゚д゚)ウマー 175 175 名前:名無しさん@どーでもいいことだが。:01/12/12 16 33 ID dS1Knt7s (生麺)ヤキソバ一杯、適当な野菜(キャベツ、玉葱、人参、オクラなど)と 豚肉やイカなどの蛋白質を順番に皿に盛った上にゴマ油とヤキソバに付いていた インスタントソース(粉)をかけてレンジで5分チン。 それらを混ぜ合わせて出来上がり。フライパンで作るより簡単で(゚д゚)bウマー
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大東亜共和国プログラムによるバトルロワイヤル……!! 他校生徒の鋭い眼光、室江高の運命やいかに……!? それは、いったい誰の思惑だったのか?! 室江高剣道部に最大にして最悪のの危機が迫る!! そして、今、戦いの始まりを告げる鐘が鳴り響く――――― そのとき、室江高剣道部のピンチに駆けつける小粒なヒーローが颯爽と現れた!! 機動戦士を彷彿とさせるヘルメット。 オレンジカラーの入ったサングラス。 目に鮮やかな真っ赤なスカーフ。 そして、右手にはビームサーベル。 足元には、どこか見覚えのある猫。 駆けつけたヒーロー、その名は――――スーパーダン!! 彼の英雄譚が、今始まる。 □ 朝の白い陽射しが木造の校舎へと差し込む。 ここは平瀬村分校跡。 校舎の周りに茂っている大小の草木は、朝露に濡れ輝きを見せていた。 古びた体育倉庫に、せまい運動場。学校施設として整っているとは言いがたい。 分校ということもあって、平時でも穏やかな時間が流れていたであろうことが伺える。 しかし、現在のこの場所は穏やかどころではない静けさに覆われていた。 出勤してくる職員も、登校してくる児童や生徒は一人としていない。 日常というものから切り離された空間が、そこにはあった。 そして、こんな分校の中で覚醒を間近に控えた少年が一人。 短く刈られた髪に縦長ながら丸みを帯びた顔、その寝姿は人に呑気そうな印象を与える。 その少年の名は栄花段十朗。室江高校剣道部の所属である。 「待ってるぉ、みんなぁ……今、俺がたすけにぃ……」 キリリと眉を吊り上げ、調子外れな寝言を言いながら、残り少ない夢の時簡に浸る。 彼には、夢を名残惜しむ権利があるだろう。 やがて幸せな夢の終わりを告げ、過酷の悪夢が始まるのだから。 「よし……すーぱーだんがきたからには、もぅ大丈夫だ……ぞ。 ………………んー、う、んー? ………………あ?」 ほどなくしてダンは目を覚ますこととなった。 まだ夢と現実の区別があいまいなのか、キョロキョロと辺りを見回す。 周囲にあるのは、古びた机と椅子、薄汚れた黒板などだった。 これだけの情報でも、そこは学校の教室であると判断できる。 しかし、そこはダンの慣れ親しんだ学校とは明らかに違う。 ここまで認識したところで、意識を失う前のことをおぼろげながらに思い出してきていた。 頭に浮かぶのはプログラムに選ばれたこと、開幕の場で殺された人たちのことなど様々だ。 学校に通い、部活をして、ミヤミヤと一緒に帰る。 そんな日常からは既に切り離されていることを思い出す。 現状を一通り知ったところで、ダンは、まず始めに純粋に怖いと思った。 彼はギャグ漫画に出てきそうな容姿とは裏腹に、高校生としては、かなりできる人間であった。 成績優秀でスポーツセンスもよくかわいい彼女がいる。 さらに、自覚的にかどうかはわからないが人の暗い部分も受け入れられる懐の深さを持っていた。 そんな彼だが、所詮は一般的な男子高校生であることに変わりはない。 国家権力により強制された殺し合い。恐ろしくないわけがなかった。 教室の床に座り、これからどうすればいいんだろう、と考える。 今回のプログラムは団体戦であり、剣道部の仲間と殺しあう必要はない。 その点は、彼の心にわずかな安心を与えた。 しかし、ダンは悩む。必要に迫られたからとはいえ、自分に人を殺すなんてことが出来るのかと。 悩みながらも、彼はのんびりしてはいられない。 ダンの恋人であるミヤミヤは、周りを殺してでも自分を生きて帰そうとするだろうから。 彼女の持つ闇を知っている。今の状況は彼女の闇を際立たせてしまうだろう。 だが、同時にそれ以上の彼女の優しさを知っている。 だから、そんな彼女守ってあげたいと思う。 「俺は……弱い男だ」 字面とはイメージの違う間の抜けた声で漏らす。 一般人のダンが周囲の人間を殺す覚悟など簡単に出来るわけがない。 かといって、このプログラムを壊すと言えるほど常識がないわけでもない。 そもそも、プログラムの概念が浸透しているこの国では、反逆の意志を持つのは容易ではないのだ。 そんな中でも迷う彼は充分な倫理観を備えた人間だといえるだろう。 「よし! こんなもん俺がぶっ潰してやるぜ。みんな安心しろ!」 右手でガッツポーズを作りつつ、宣言してみる。 日頃の彼を知っている人間は、実にダンらしい発言だと思うだろう。 だが、すぐにダンは右手を下ろし、しょんぼりとした顔に戻ってしまう。 空気を読まない発言も目立つ彼だが、その心根は優しいものだった。 しかし、普段のように振舞えるようになるには、何かしらのきっかけでもないと無理そうだった。 しばしの沈黙の後、やっぱりみんなと合流しようという結論にいたる。 剣道部のみんなが心配だ。 今後の身の振り方は置いておくとしても、これだけは、今のダンにとって100%純粋な感情だった。 ズボンをはたきながら立ち上がる。と、ここで彼は身を震わせた。 プロの殺し屋でもあるまいし、別に敵の殺意を感じ取ったわけではない。 「ト、トイレー」 少し落ち着いたからか、催しただけである。 ダンは荷物を掴み、男子トイレへと駆けて行った。 □ 「ふぅー」 ハンカチで手を拭きながら、すっきりした表情で廊下へとダンが姿を現す。 そして廊下に置いておいたやけに重たく感じた荷物へと目をやる。 ここでようやく支給品の確認をすることとなった。 出てきたのはモシン・ナガンM1891/30。 帝政ロシア時代から第二次大戦にかけてソ連で使用されたボルトアクションのスナイパーライフルだ。 フィンランドの天才スナイパーであったシモ・ヘイヘが愛銃とした銃の後継にあたる。 重量は実に4kgであり、一般人が持ち歩くには苦労があるだろう。 説明書を読み、ダンはモシン・ナガンを恐る恐る手に取ってみる。 そのずっしりとした重みに、再び恐ろしさを感じた。 「へ、この程度の重さなんて、剣道やってる俺には何ともないぜ」 強がりを言い、銃をぐっと持ち上げて銃口を上へと向ける。 その姿はふらふらしてかなり危なっかしい。 だが、調子に乗ってダンは右手だけにモシン・ナガンを持ち替えた。 それが彼の失敗だった。 「うぉ、っとと、うわ」 頭が大きいダンは、ただでさえ重心が安定しない。 持ち上げた銃の重みで後ろへと重心がずれ、ととっと後ずさる羽目になる。 慌てて両手に持ち帰るも、既に手遅れだった。 ダンの右手と背中の間から後ろに突き出た銃底が何かを砕く。 瞬間―――― ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ リリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ けたたましい音が校舎全体から響き始める。 不運なことにダンが砕いたのは火災報知機だった。 「うわ! なんだなんだ!?」 突然の事態に混乱し、右往左往するダン。 冷や汗をかき、報知器をいじくりまわす。 だが、ダンが混乱して操作を誤っているのか報知器は一向に止まる気配がない。 ここは分校『跡』だ。もしかしたら報知器自体が壊れているという可能性もある。 焦るダンを置き去りにして、朝焼けの中、火災報知機の音は周辺へと存在を主張するように響き続ける。 ダンの手により、今、戦いの始まりを告げる鐘は鳴らされた。 血で血を洗う凄惨なバトルロワイヤルが始まる。 ダンは、果たしてヒーローとなり、英雄譚を紡ぐことが出来るだろうか。 【G-3 平瀬村分校跡/一日目 早朝】 【栄花段十朗@BAMBOO BLADE】 【状態】:健康 【装備】:モシン・ナガンM1891/30(5/5) 【所持品】:支給品一式、予備弾30、狙撃用スコープ 【思考・行動】 0:うお、なんだ、どうしたんだ? 1:室江高のメンバーと合流する。 ※火災報知機がなっています。周辺エリアにおいて、報知器の音が響きわたりました。 投下順で読む Next 政府連絡文書
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生徒会 コスト 名前 性別 学年 攻撃 防御 体力 精神 FS 能力名 発動 成功 1 葉枯 透 女性 2年 20 2 6 2 0 剥離するもの(ストリッパー) 100 100 2 碓氷峠 翔 男性 3年 0 15 5 2 8 アンチレーシックビーム 88 100 2 トレーニングマン 男性 3年 14 3 6 4 3 隙あらばトレーニング 70 100 2 緋田 燎馬 男性 1年 14 3 4 4 5 ファイヤーストームテンペスト 100 100 2 安心院 六花 両性 2年 1 9 2 8 10 脳の隣人【侵友】 95 0 2 燕谷 梅乃 女性 3年 8 7 6 4 0 あつまれー!ふわふわシャボン玉! 秘 秘 4 固定砲台 無性 他 0 0 5 5 20 砲撃 80 100 4 鬼姫 暴君 女性 1年 16 5 5 3 1 砂漠の暴君(ディアブロス) 100 100 4 ミラ 女性 1年 2 5 3 8 7 汝は何者也や? 秘 秘 8 立花 六花 女性 2年 20 0 5 5 0 マインド・マテリアライズ 100 100 8 一 一三七三 女性 他 0 0 7 3 20 創造人神(そうぞうにんしん) 100 100
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パン 修羅場の時の食事(゚д゚)ウマー 130 130 名前:名無しさん@どーでもいいことだが。:01/12/09 20 41 ID tp78NeKy 食パンの上にマスタードを薄くぬって、 その上に輪切りのバナナを乗せて、 とろけるチーズを載せて、オプションでシナモンかける。 それをオーブンで焼くとウマー(゚д゚) 教えてる友達みんな気持ち悪がるけど、 大阪のとある喫茶店の定番メニューらしいのだ(テレビで見た)
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第30話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まであがれ!(後編)――』 四人は大凧を公園に運んできていた。運ぶこと自体は大変ではなかった。 その大きさに比べて、驚くほどに軽いのだ。それでいて、とても頑丈にできている。あらためて大変なものだと感心する。 せつなは緊張した面持ちでタコ糸を握る。凧の骨組みは強靭で、生地も和紙ではなく布地だった。糸もとても丈夫な素材で作られていた。 揚げ方の簡単な説明は聞いていた。でも、それは主に怪我をしないための配慮であり、成功を願った助力ではなかった。 ラブと美希が左右から凧を支える。引っ立てと呼ばれる役目だ。凧の糸が張った瞬間に上に押し上げるように離す。 祈里は尾っぽ係りだ。尻尾が絡まないように束ねて、凧の浮上と共に手を離す。 揚げるのはせつな一人。それがせつなから切り出した約束だった。 周囲には軽く人だかりができていた。 ジャージ姿の女の子が、大きな凧を抱えて揚げようとしているのだ。人目に付かないようにするなんて不可能だった。 中にはおじいさんの姿もあった。大凧揚げは危険を伴う。観衆が近寄り過ぎないようにロープを張っていった。 「ラブ、美希、ブッキー、準備はオーケーよ。行くわ!」 『オーライ!』 十分な準備運動を終えたせつなが助走のモーションに入る。 ラブたちはカウントを数える。 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まで上がれ! (後編)――』 勢いよくせつなが走り出す。放たれた凧が上昇していく。周囲から歓声が巻き起こる。 しかし、それも長くは続かなかった。 風が弱くて浮力が足りないのか、せつなの揚げ方に問題があるのか、たちまち失速して落下してしまった。 がっかりする人々。表情一つ変えないおじいさん。せつなたちは黙々とスタート地点に凧を戻す。 容易なものではないことくらい、始めからわかっていた。 大切な凧を傷付けないように、慎重に準備してから再び走り出す。 しかし、やはり十メートルも揚がらないうちに落下してしまう。 せつなたちはあきらめず、何度も何度も繰り返した。 飽きたのか、諦めたのか、観衆は一人、また一人と去っていく。 開始から一時間が経過したところで、せつなの足がもつれて転倒した。三人が駆け寄る。 せつなの息は上がり、足も腕も震えていた。 大凧の抵抗を受けながら全力で走る。それはタイヤをいくつも引いてダッシュを繰り返すようなものだ。 体力には自信のあるせつなにも、相当に過酷な負担であった。 「せつなちゃん、もうあきらめよう。こんなの一人で揚げられるわけない」 「大凧って、何人かで協力して揚げるんじゃなかったっけ?」 「せつな……。大丈夫?」 「あきらめないわ。無理をお願いするんだから、こっちも無理を通さなきゃいけないの」 せつなは立ち上がり、ふらふらと落下した凧を取りに向かう。 全長四メートル。大凧としては小さな部類に入る。体格のいい慣れた男性なら、一人で揚げてしまう人も存在する。 でも、せつなの体は女性の中でも決して大きい方ではなかった。まして凧揚げなんて、生まれて始めての経験だった。 その後も、休憩を挟みながら凧揚げは三時間も続いた。空が暗くなり、これ以上は無理と判断する。 「気は済んだか? 根性は認めてやるがもう諦めろ。凧は返してもらうぞ」 「待って――ください! まだ降参はしていません!」 「まだやるつもりなのか?」 「期限は決めてないはずです。揚がるまでやります!」 「――好きにしな。凧は壊しても構わねえが、怪我だけはするんじゃねえぞ」 「ありがとうございます」 せつなは寒い中を一日中付き合ってくれた、ラブと美希と祈里にも丁寧にお礼を言った。 明日からは、なんとか一人でやれるように工夫するからって。 みんな何かを言いかけて、その言葉を呑み込んだ。せつなは一度言い出したら、決して聞くような性格ではなかったから。 夕刻の桃園家の食卓。 色鮮やかなお刺身が並ぶ。今夜は手巻き寿司だった。 熱々のお吸い物から湯気が立ち昇る。とても楽しい食事になるはずだった。 だけど――そこに、せつなの姿はなかった。 「ラブ、せっちゃんはどうしたんだ?」 「どこか、具合でも悪いの?」 「そうじゃないんだけど……。凄く疲れてるみたいで、部屋に戻るなり寝ちゃったの」 「凧揚げね、女の子の遊びじゃないのに……。無理して体を壊さなきゃいいけど」 「起こせないのか?」 「ごめん、起こしたくない」 いつもなら、花が咲いたように明るい桃園家の食卓。でも、せつなが一人いないだけで凄く寂しくて。 みんな口数も少なく、静かに食事を終えた。 コンコン コンコン コンコン 時間を開けながらの三回のノック。あゆみがお盆を抱えてせつなの部屋の前で待つ。 普段なら、寝ていても足音だけで目を覚ますような子だ。よっぽど疲れているんだろうと思った。 「おかあさん、ごめんなさい。こんな時間になってるなんて……」 「いいのよ。お雑煮を作ってみたの、これなら消化もいいわ」 一階に降りてちゃんと食べると言うせつなに、あゆみは部屋で食べることを促す。 少し二人で話したいと思ったのだ。 美味しそうにお餅を食べるせつなを、あゆみは優しく見つめる。 別に病気って訳ではないのだから、目が覚めれば元気なものだった。 食べている中で、せつなの手のひらが赤く擦り剥けていることに気が付く。少し血がにじんでいるようだ。 あゆみは救急箱を取りに戻り、手当てをしながら今日の出来事を詳しく聞いた。 「そうだったの。できるなら止めたかったけど、それじゃあ無理ね」 「心配かけてごめんなさい」 「いいのよ、わたしも職人の娘だもの」 「源おじいさまって、どんな方だったんですか?」 「その方と似てるわよ。一針一針心を込めて縫いこんでいくから、畳には価値があるんだって」 「職人って、幸せに対して妥協しない人のことなのね」 「そうね、機械縫いの畳や絨毯なんかとは最後まで相容れない人だった」 そして、そんな自分が時代から取り残される存在であることにも気が付いていた。 だから、圭太郎に跡を継ぐことを勧めなかったんだって。 心が痛む。ここにも――居たんだ。幸せの輪から外れそうになりながらも、懸命に頑張っていた人が。 きっと、おじいさんと同じような寂しさを感じながら畳を縫っていたんだと。 その技術が自分の代で途絶えることを知りながらも、決して最後まで信念を曲げなかったんだと。 「おかあさん。私はおかあさんが買ってくれたこのベッドも好きだし、ラブの畳のベッドもどちらも好きよ」 「うん、そうね。それでいいのよ」 「凧も、おじいさんのためだけに揚げてるんじゃないの。何一つ上手くいかない凧揚げが、楽しいと思ったの」 「せっちゃんを手こずらせるなんて、その凧も相当なものね」 「うん、だから――思い切ってぶつかってみる。凧にも! おじいさんにも!」 せつなは瞳を輝かせてあゆみに宣言した。精一杯がんばるわって。 あゆみも、それでこそわたしの娘よって、そう言ってせつなを抱きしめた。 そして、紙袋をせつなに手渡す。 それは、圭太郎がデパートを駆け回って探してきたもの。柔らかい羊の毛皮で作られた手袋だった。 これなら手の感覚を妨げずに、糸の摩擦から手を守ってくれる。彼もまた、せつなが諦めないことを確信していたのだった。 早朝の公園。せつなは凧を支えるための台を作ろうとしていた。棒状で地面に差込むタイプだ。 物干し竿の台座のような形状で、少し引っ張れば倒れてしまうように浅く差し込む。万が一にも凧を引っ掛けないための配慮だった。 しかし、いざやってみると思うようにいかない。昨日よりも更に浮上具合が悪いように感じた。 手を離す瞬間に、軽く上に押し上げてもらう。ほんの小さな力なのだが、それがないことが原因だと思えた。 そんなところまで器具で再現はできない。無い物ねだりをしても始まらない、今ある状況で頑張るだけだ。何度も繰り返し挑戦した。 「あ~もうやってる。せつな、早いよ!」 「見てられないわね、ほら貸しなさい!」 「待たせてゴメンね、せつなちゃん」 「みんな……。どうして?」 「せつな抜きで遊んでも楽しくないよ」 「今日だけじゃ済まないかも知れないわよ?」 「いいわ、冬休みが終わるまでだって付き合うわよ」 「昨日だって、結構楽しかったよ」 みんな、せっかくの休みを返上して付き合ってくれるという。 せつなの胸が温かくなる。勇気が湧いてくる。そう、四人一緒で出来ないことなんてあるわけがないんだ! 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 十メートル、二十メートル、徐々にではあるが揚がる距離が高くなっていく。 しかし、そこまでだった。どうしても風に乗り切らずに落下してしまう。 あるいは、せっかく風に乗ってもバランスを崩して横滑りして落ちてしまう。 おじいさんが言っていた、職人の教えを思い出す。 (迷わず、一心に数をこなせ。後は指が教えてくれる) 一心に数をこなす。でも、それだけじゃ駄目だ! 指が教えてくれる? 指? 今までは、凧の動きを目で追って操作しようとしていた。それではタイミングがどうしても遅れてしまう。 指が握っているのは糸。何のために四十三本もの糸が取り付けられているのだろう? 操作するために決まっている。バランスを取るために決まっている。その四十三の糸を束ねる一本を自分は握っているんだ! 凧の動きは――風の動きは、糸が教えてくれる。それを指で感じとるんだ。そのために数をこなすんだ。 凧が大きいからって、自分の操作まで大雑把になる必要は無い。 大きくたって、繊細に作られている。そんなのわかっていたはずなのに。 感じろ! 空と自分とを糸で繋ぐんだ。 糸がたるむ前に引いてやる。糸が引っ張られる前に送ってやる。 これは大空と自分との綱引きだ。綱引きのコツなら知っている。ただの力比べなんかじゃないって! ほんの小さな風を逃がさずに掴む。風に対処するんじゃなくて、風を予測して操る。 徐々に、しかし、目に見えて凧が大きく揚がるようになって行く。 そして、ついに高く、高く舞い上がった! 「やった! 揚がった!!」 「せつなっ!」 「せつなちゃん!」 グングンと高度が上昇する。糸を送る速度が追いつかない。 そして、突風! せつなの腕がもげそうなくらい強く引っ張られる。両手で支えるものの、体が一瞬浮き上がり引き倒される。 そして、そのままズルズルと地面を引きずられた。 「痛ッ――!」 「せつなっ! 糸を離して!!」 せつなは決して離さない。そのまま数メートル引きずられて凧は落下した。 「くっ、後少しだったのに……」 「せつな、大丈夫?」 「平気よ、少しコツがつかめた気がするの。次は上手くやってみせるわ」 「良かった、でも明日にしよう。もう遅いよ」 せつなは惜しそうにしたが、あゆみのことを思い出して今日は引き上げることにした。 これ以上、心配をかけるわけにはいかないから。 そして、三日目の朝。これまでとは違う、自信を漲らせた表情のせつなが立つ。 目を閉じて静かに時を待つ。風の音を聞いているのだ。 そして、風の流れが変わる。目を開き――走り出す! 弾かれるように、速く――鋭く! 「「「3――2――1――」」」 『GO!!』 ラブと美希が勢いよく凧を上に投げ出す。祈里が足をほぐすように広げて離す。 せつなは凧を引きながら糸を操る。 時に引きながら、時に繰り出しながら。 そして、突風! 体重の無いせつなは、力で支えることができない。 右の持ち手を左で支える! 浮き上がった体を空中で丸める! 体が落下する力を利用して、更に凧を引き上げる。 丸くなって座り込み、地べたを這うようにしてコントロールを立て直す。 高く――高く――高く――凧が大空に舞い上がる。 一定以上の高度に達した凧は、抜群の安定感を見せる。 もう、バランスを崩すことはないだろう。 しかし、引き上げる力は強烈だった。有無を言わせない、大空を翔ける風の強大な力。 せつなは、腕が千切れそうになるような痛みに懸命に堪える。 握力も徐々に無くなり、限界を感じた時だった。 「おめでとう、せつな。もういいよね?」 「せつなは立派に一人で揚げきったわ、アタシたちが証人よ!」 「おめでとう、せつなちゃん!」 ラブ、美希、祈里がせつなの持つ糸を一緒に支える。 力負けしなくなった土台に支えられて、大凧は更に大きく飛翔する。 ブ――ン! ブ――ン! ブ――ン! と勇ましい音を鳴らしながら凧は飛び続ける。 後から聞いた話だが、これは風箏(ふうそう)と言って、和凧の特徴であり自慢なんだとか。 パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ あちこちから拍手が巻き起こる。 始めは無理と諦めて去っていった見物人たち。 しかし、せつなはあきらめなかった。その姿に自分を恥じ、こっそりと見守っていたのだ。 大凧を一人で揚げようとしている少女がいる。それが口コミになって、その数は何百人にもなっていた。 そして、その中から一人の老人が歩み寄った。 「よくやったな、お嬢ちゃん。いや、せつなちゃんだったな」 「おじいさま! 見ててくださったんですか!?」 「始めからずっと、この三日間通して見てたぜ。ここまでやるとは思わなかったがな」 「じゃあ、凧を――また、作ってくれますか?」 「ああ、俺にも火が付いちまったしな。最高の凧をこしらえてやる」 「ありがとうございます!」 「やったね、せつなっ!」 「おめでとう、せつな!」 「わたし、信じてた!」 四人、いや、五人が喜びあう中、たくさんの観衆がその周りを囲んでいく。 昔、凧で遊んだ思い出がよみがえった大人たち。 初めて凧が飛ぶ姿を見た小さな子供たち。 本来は男の子の遊びだった。 それを女の子が懸命に頑張って、巨大な凧を揚げた姿に己を恥じたのだろう。 あるいは血沸き、肉踊ったのだろう。 「その凧、僕にも作ってもらえませんか?」 「あっ、ずるい! 僕も!」 「じっちゃん凧作んのか? 俺のも頼むよ!」 「へっ、待ってな。家から山ほど持ってきてやるからな」 涙ぐんで喜ぶクローバーたち。そして、おじいさんの声も涙声だった。 「僕もやろうかな」 「それじゃあ、私も!」 「あらあら、お父さんたちまで」 「男の人って、こういうのに熱くなるのよね~」 「そこがいいんじゃない!」 圭太郎と正、あゆみにレミに尚子までいた。みんな、せつなたちを見守っていたのだ。 お疲れ様って、労いの言葉をかけていった。 「ふん、この街もまだまだ捨てたもんじゃないね」 「なんだ居たのかよ、梅干ばばあ」 「居て悪いかい? 凧じじい」 「ああ……。俺は凧じじいだ」 駄菓子屋のおばあさんも居た。きっと、ずっと見守ってくれていたのだろう。 ダルマのように着こんだ服装がそれを証明していた。 そして、盛大な凧揚げが行われた。 大小さまざまな凧が、ところ狭しと舞い上がる。 工房の無数の凧もすっかり空っぽ。その分、おじいさんの意欲は充実感で満ちていた。 クローバーたちも、思い思いの凧を揚げている。 おじいさんが、今度は小さな凧を揚げているせつなに話しかけた。 「やってるな、せつなちゃん。凧揚げはどうだ?」 「とても楽しいです。普段は見上げるだけの空が、手を繋いでいるみたいに身近に感じられて」 「それが凧揚げの魅力よ。わかってるじゃねえか」 「それに、コツをつかめたように思うんです」 「ふん、そこはわかっちゃいねえな。俺から見ればまだまだよ。見てな!」 おじいさんは手にした凧を顔の高さまで持ち上げる。 そのまま引きもせずに、スッと凧を離す。 落下するよりも先に、軽く手首をしゃくる。そのままスルスルと糸を送っていく。 まるで魔法でも見ているかのようだった。 おじいさんは一歩も動いていない。手も、小さく軽く数回振っただけだ。 それなのに、凧は空に吸い込まれていくかのようにグングンと高度を上げていく。 あっという間にせつなの凧を追い抜いてしまった。 「すご……い! おじいさまは作るだけじゃなくて、揚げるのも名人なのね!」 「当たり前よ! よく知りもしないものを作れるかってんだ!」 自信満々のそのセリフがおかしくて、せつなはクスッっと笑った。 そして、私もそう思いますって、力いっぱい返事した。 よく知らないものは、作ることもできなければ、広めることだってできはしない。 だから、自分はこの街に帰ってきたのだから。 幸せを学ぶために。みんなを笑顔と幸せでいっぱいにするために。その輪を大きく大きく広げていくために。 私――精一杯がんばるわ!