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「え……ぐ」 「リディア! もういい!」 今にも泣き出しそうなリディアを慌てて宥め、その口を閉じさせる。 ここで何が行われていたのかを想像するのは容易い。それをわかってルゲイエはリディアに尋ねたのだ。 「あなたって人はっ!」 セシルも怒ったような言葉を向ける。 「あなたもわたしに説教ですか~? やはり私の考えを理解するのは一般人共には無理があるということですかね~」 相次ぐ非難が頭に来たのかどうか知らないが、ルゲイエは急に多弁になった。 「この人たちの事か……これがあなたの結果なのか。ならば教えるんだ。一体ここで何をやっているんだ」 正直、あまり聞きたくはなかったが。これが奴の、ゴルベーザのやりくちなのか確認したかった。 「ふん、それはゴルベーザ様の計画の手助けとしてやったものだ。人と魔物を融合させて、より一層強力で命令に忠実な 手駒をつくるのだ。人間の知恵と魔物の力を兼ね揃えた最強の兵士となるだろう」 「命令されたからやったのか? なら誰がそれを提唱した?」 怒りの気持ちを抑えつつ、疑問点を口に出す。下手に出て怒らせてしまったら、聞き出せなくなる。 それにこのルゲイエという男、怒らせてしまうと何をするのか分からない気がした。 「ああ、考えついたのは私ですね。それをあの御方、ゴルベーザ様に進言したところ、特に止められる事も無かったから勝手に 実行に移させてもらったのですよ」 「やはりあなた自身が……」 間違いない。この男が興味を持ってやった所業だという事だ。 「くそっ! まさかルゲイエ。お前がこんな奴だったとは思わなかったぞ!」 カインが怒りの言葉を再度口にする。 「目的の為には手段を選ばないとでも? それは残念。カイン君、あなたとは似たもの同士と思っていたのですけどね~」 「黙れ! この狂人め!」 「うへへへへーーーーああ~~有難う、アリガトウ!!! 最高の褒め言葉だよ!!!!」 激昂したカインの非難はルゲイエを怒らせるどころか逆に喜ばせているようであった。 「お前は生かしておけん! ここで打ち倒させてもらう!」 「おおっと! 力にものを言わせるのですか!? 悪いとは言いませんが、今のところ私はあなた方と戦うつもりは毛頭ありません やるべき事がありますからね、それでは――」 踵を返し、部屋から退出しようとするルゲイエ。カインは慌てて追いかけようとした、セシルも同じだ。逃がすつもりはなかった。 だが、その前にルゲイエを引きとめる声が一つ。 「どうしてですか……」 それは怒りも悲しみも含まない声であった。 「どうしてあなたがここにいるんですか?」 消え入りそうな声は必死に音量を絞り出していた。 「おや~やっぱりいたんですか~無視されてるのかと思いましたよ~ローザ君?」 ルゲイエも足を止めて、セシル達の方向へと振り返り直した。 「久し振りです、ルゲイエせんせい」 去りゆくもの 残されるもの6
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♪生まれゆくものたちへ 作詞 井上華乃・漆野純哉 作曲 須田義弘
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「なんで仲良くできないの? みんなお互いを高める為に集まってるんでしょ?」 その十年を人間という存在はただ一人といえる空間で過ごしてきたリディアは、温室育ちで世間の常識に疎いお嬢様の ようであった。複雑な空間である学校への疑問はつきない。 「……不安だからよ」 そんなリディアに対し、言っていいのかどうか悩んだような表情でローザは言葉を続けた。 「いくら自分に自信がある人だって、一つの道ならば誰にも負けないと自負してる人だって多くの中に交われば、自分が井の中の蛙 であった事を知る。そこからその人はどういう答えを導き出すか? 私が思うに答えは二つ。自分の才能と相手の才能を冷静に比較し、 それを否定する事なく受け入れる。もう一つは他人を否定する事によって自分を肯定する事」 「…………」 「そのどちらが正しいのかは私には分らない。多分頻度の問題ね。前者を白、後者を黒としましょうか。白だったら自分を認めて より一層己を高めることができる。でも完全に白に染まった人はただ自分に自信を無くし相手に迎行しているだけ、自分を失った といえるわ。だったら後者はどうか。相手を認めないで否定すれば、新たな道が見えてくる可能性がある。たとえ遠回りだとしてもね…… でもその考えが行き過ぎると、他人を否定するだけして己を止めてしまう」 「例外があると思うがな」 カインが口を挟む、 「己の道とその場所が合わなかったもの。そいつは別の場所で上手くやるかもしれない。また、学校というものが枠内に収められた空間だとすれば、 当然その枠内に収まりはしないものもいる。ある意味道を示されずとも自らで歩きだせる。天才とでもいえる存在なのかもしれん」 そこまで言ってルゲイエを見た。 「たとえばコリオのようにな……」 「ほう~その者の名には聞き覚えがある~ああ~懐かしいですね~」 「そしてお前もコリオと同類といえるだろう」 「どういうことですかな~」 ルゲイエは答えが分かっているのに態々質問しているかのようであった。 「目の前の事態に絶望し、新たなる道を模索する為にその場所を去ったということでだ」 「ほほう、やはりあの若者もですか。まあ当然ですね。彼も決められた枠内で終わる程の人材ではないと思ってましたからね」 コリオとは地底に行く前に出会ったあの若者の事だ。彼もバロンの学校にいたことがあった。 事実を聞いたルゲイエは妙に納得し得心がいったようであった。 「ルゲイエ……せんせい。教えてください何故あなたはこのような事を……何故此処にいるのかを……」 真実を尋ねるローザの口調は所々たどたどしかった。まだ先生と呼ぶことが自分にとっても相手にとっても許されるのか? 見知った者が人の道に外れた行いとしているという事実を未だに受け入れ切る事が出来ない迷いのせいなのか。 「ああ構わんよ」 かつての教え子に対するルゲイエの言葉はそこだけ聞けば穏やかなものに聞こえた。 去りゆくもの 残されるもの8
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「絶望したのだよ……魔法というものにねぇ……」 しかし続く言葉は最前までの狂気の陰りを充分に感じられるものであった。 「白魔法とは傷ついた人を癒す魔法である。だが、所詮はそれだけなのだよ……ほんの少しの痛みしか和らげる事の出来ぬ 気休め程度の魔法。失われてしまったものを完全に再生することなど到底かなわない、出来そこないで不完全なものなんだよ」 答えとは程遠いルゲイエの絶望の叫びが辺りに響き渡った。 「私は可能性を感じていたのだ! 魔法に! 人が新たなる段階に進めるのではないかと!! だから探し求めたのだよ!!! 魔法を使うことで、新しい世界がやってくるのではないか? 全ての人間に幸せを!! 人の誰もが理想通りに生きることが できる万能な世界。素晴らしき世界がやってくるはずだ。 しかし、魔法には限界があった。所詮は昔に生まれた古臭い概念 でしかなかったよ!!」 演説気味に喋るルゲイエに狂気は消えていた。 「知っているかね魔法の起源を? 昔この世界に突如現れた一人の人間によってもたらされたもの 「…………」 ローザは既に言葉を持たない。顔は蒼白気味だ。 「正直に言うとね、ローザ君。君たちに魔法を教えるのは悪い気分ではなかった。しかし、私自身の方に限界が近づいていたのだよ。 魔法という、底の見えたものにしがみつくなど……」 何処か遠い目で過去の感傷に浸るルゲイエ。だが、その時間はほんのわずかであった。 「だから私は求めた新しき力を、科学という力を。機械という未知なる力を。正直、ゴルベーザ様が何を考えているのか、何を成そうと しているのか私には分らない。でもあの御方は私に科学に触れる機会と研究する力をくれた。それだけで十分なのだよ……」 「そんな……」 力を振り絞ってローザはやっと悲観の一声を捻り出した。しかしそれ以上は何も言えない。 「それだけで、あなたは――世界がこんなになっているというのに!」 セシルがローザの気持ちを代弁して言葉を引き継ぐ。 「傲慢極まりないなルゲイエ。魔法で万全たる世界を作り出せると信じていたようだが……その考え自体が 「なんとでもいうがいい……私はもはや何事にも動じる気持ちはない。既に計画は動きだしているのですからね~」 けたたましく笑うルゲイエは激昂した様子をひそめ、元の狂気じみた笑いを浮かべていた。 その顔にはこのような状況にも関らず勝ち誇った様子が伺える。 「何を企んでいる?」 「教えるわけないでしょう。まあいずれは嫌でもわかる事ですよ……」 何か含みがあるのは間違いない。訪ねてみるがルゲイエはセシルの疑問を一蹴して踵を返す。 「待て!」 部屋から退出しようとするルゲイエをヤンが引き留めようとする。しかし、白衣の老人は全く聞く耳を持たぬままに歩みを続ける。 「逃げる気か」 そう言ってヤンが後を追いかける。セシル達も続いて後を追いかける。 去りゆくもの 残されるもの9
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リディアとの再会、そして彼女の口から語られたゴルベーザの現状は刻一刻と進みつつ ある作戦をより後押しする事になった。 ただでさえ城内のクリスタルは奪われてしまったのだ。もはや迷っている時間は無い。 躊躇する気持ちもなくなり、こちらが有利だと思えるような情報も掴んでいる。 バブイル奇襲作戦はゴルベーザを退けた後、それほど間をおくことなくして実行に 移されることになった。 作戦の具体例として、まず残存の戦車部隊がバブイルを攻撃する。クリスタルを奪還されて 以降、ドワーフ城内を攻撃するゴルベーザ部隊は日に日に少なくなっていた。 これはクリスタルを奪還するという第一目標を達したからであろう。ゴルベーザ達は何よりクリスタル を目標にしていた。手段を選ばないとはいえ目的を果たしたのならその場所には全く興味が無くなる。 それが彼らの考え方なのは、地上の時から大体想像がついた。 とにかく防衛に戦車部隊を多数割く必要がなくなった為、バブイル攻撃に回す戦車部隊を確保出来た。 だが、その戦車部隊でバブイルを陥落させる事は不可能であるというのは、誰の目から見ても明らかだ。 無論、ドワーフの民の誰もがその事は重々承知している。戦車部隊の攻撃はあくまで作戦の一環であり 最終目標ではない。いうならば戦車隊は囮の役割なのだ。 彼らが攻撃をしている間に少数の人数でバブイルに忍び込む、そして奪われたクリスタルを奪還する。 同時に城を狙い打つ巨大砲の破壊。そして願わくばゴルベーザ<本体>を打倒す事。 それが今作戦の第一目標であり、最終目標なのだ。 この少数精鋭に選ばれたのはセシルであった。別の場所であったとはいえ、ゾットという未知なる機械 塔に足を踏み込んでいる。それがドワーフ達の当てに繋がったようだ。最も、一番最初に潜入に志願した のがセシルであったというのが一番大きな理由であった。セシル自体、ゴルベーザについてまだ気がかりな 事が沢山あった。それにゴルベーザの野望は地上の災いがこの地底にまで拡張してきたようなものなのだ。 地上の人間が責任を取るべきだと思ったのだ。 セシルの他に同行することになった面子は、カイン、ローザ、リディア、ヤン。の四人。 結局、先ほどのクリスタル攻防の時と変わらない顔ぶれとなった。 ここでもシドとは一緒に行動を共にする事はできなかった。それどころか、地底に来て以降顔を合わせたことは一度もない。 別に色々あって仲が険悪になったとかそういうものでなく、シドは地上の技師として様々な役割があり非常に多忙なのだ。 本来なら、再会したリディアを紹介したいところなのだが、中々、時間をとってゆっくり話すことができなかった。 ギルバートに関しても未だ病床に伏したままであった。そのせいもあって地底でその姿を見たこともない。 担当の医師達に向かうと段々と快報に向かっているようなので心配する必要はないのだが、回復を待っている程の時間も 残されていなかった。 去りゆくもの 残されるもの2
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#blognavi 昨日まで北緯38°近辺の地方都市にある親の実家に行って来ました。 片田舎だけあって酒蔵は豊富でひやおろしが出ていたので手に入れてきました。 というか、始めて見たんですがあの行列にてっきり妻夫木聡辺りがゲストで来るんだと思ってましたが、全くの期待外れで見れませんでした。 が、午後に北村一輝が来た見たいですが寝ててスルーしてしまいました。 さて、今回ブローニーの二眼を頂いてきました。 レンズにキズが見受けられますが、ためし撮りしてみたいと思います。 カテゴリ [日記] - trackback- 2009年09月25日 23 59 59 #blognavi
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「奴ら……許せん!」 ヤンが怒りを露にする。 「人を操るだけでは満足しないという事か!!」 カインが激昂する。 かつての操られた怒りが他の者以上の怒りを増幅する。 「いえ違うね~」 皆、ありとあらゆる意見が飛び交った。そのどれもが批判的であった。 その言葉に割り込む声が一つ。 感傷的なその場に於いてはあまりに陽気でひょうひょうとした声…… 「あなたは……?」 薄汚れた白衣を着て、白髪の髪を伸ばし放題にした老人。出で立ちからして科学者の類である事は間違いない。 そして、今この場所に入ってきたという事は目先の非人道的光景に関わっている可能性は非常に高い。 「私ですか~ゴルベーザ様のブレインことルゲイエ博士ですよ~あなた方はゴルベーザ達と闘っていると噂の方々ですね~」 この状況であるというのにルゲイエと呼ばれた老人は依然ひょうひょうとした語り口で話し続けている。 「ルゲイエ! 貴様! 許されると思ってるのか!」 カインが当事者を前にして更に怒りを増した声を上げる。 「おや~カイン君じゃないですか~なんですか~? いつの間に私達を裏切ったのですか~」 会話の流れを見るかぎりどうやらカインはルゲイエと呼ばれる人物と面識があるようだ。おそらくは操られゾットにいた時の事であろう。 「違う! 正気に戻ったのだ! それより言え、何故こんな事を!?」 「なんのことですか~」 それは突きつけられた事実にとぼけているわけではない。むしろ問いただされている内容に対し悪意を感じていないようだ。 「悪いと思ってないのか?」 ルゲイエの意図に気づき質問の内容を変える。 「だから~なにがですか~」 「くっ!」 「おじちゃんはなにも思わないの?」 平行線をたどる押し問うにリディアが口を挟む。 「おんや~今度は子供ですか~一体なんです~?」 「だから……こんな……」 ルゲイエの狂気じみた形相がリディアをまじまじと見つめる。 「一体なんです~」 「えっと、だから……人をこんな所にとじ……こめて……酷いことを……して」 そこまで言うのがやっとだった。 去りゆくもの 残されるもの5
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「セシル殿」 ほどなくしてヤンの返答が返ってきた。黒煙が視界を邪魔するこの場所で、現れたヤンは先程セシルの前から 姿を消した時となんら変わった様子はない。 「良かった」 どうやら心配は杞憂に終わったようだ。見たところ大した怪我もしてない。 「いえそれがあまり良くない状況なのです……」 しかし安堵の息を漏らすセシルに比べ、ヤンの表情は暗い。 「どういうこと?」 「ご覧の通りです」 そう言って回りへと視界を促すヤン。 「私がやってきた時には既にこの状態でした……」 つまりあらかじめ制御室は何者かの手によって壊されていたという事か。 それはどういう事を意味するのか? 「どうやら既に巨大砲の発射準備は完了してしまったようです……」 考えを張り巡らしている途中にヤンが口を開いた。 「だったらそれを止めないと――」 台詞の途中で自ら気づく。 「発射準備さえしておけばあとは放置しておけばいい。万が一それを阻止する者がやってきても、制御機械を壊しておけば 止めようがない。そういう事です」 セシルの様子を見てヤンが結論を述べた。 「あのルゲイエという男がここまで計算に入れていたのかは分かりません。しかしこれで我々が巨大砲を止める手段は 無くなった……」 冷静に語るヤンであるが拳は震えていた。打つ手なしといった状況が悔しいのだろう。 去りゆくもの 残されるもの13
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「きましたか」 集合場所とされた地点――バブイルの塔に設置された飛空挺発着場には既に迎えと思わしきドワーフの兵士達 が何人も待っていた。 「こちらにも聞こえてきました。巨大砲の破壊、お見事でした。して――」 セシル達の存在に気づくと若きドワーフの民が威勢よく話しかけてきた。 どうやら爆発の轟音で巨大砲の破壊を確信したようだ。ドワーフの民にとっての嬉しい報告に士気は万全といった感じだ。 最も彼らはセシル達を迎え城の方へと帰還させる輸送部隊であり、実際に戦う訳ではないのだが。 「クリスタルの方は?」 若い兵士は更なる吉報の預言し、催促してきた。 セシル達に期待しているのだろう。 「それが……まだ……」 目をぎらぎらと輝かせる兵士の期待を無下にするのは申し訳ない気分であったが、事実は事実だ。 それにあんな事があったのだ……包み隠さず全て話しておきたかった。 「そうですか……」 セシル達の反応が良くないものと知り若者はがっくりと肩を落とした。予想通りの反応ではあるが やはり居たたまれない気持ちになる。 「そうがっかりするな! 」 暗く沈黙する会話へと割り込む怒声が一つ。 「シド隊長!」 「シド」 セシルとその若者がその名を呼んだのはほぼ同時であった。 「隊長……?」 「あ、はいっ。シド技師長は今ドワーフの飛行部隊の隊長の立場も兼任しています……」 「そうなのか」 いつの間にかシドも頑張っていたようだ。否、彼がいたからこうして地底の大地を自由に動き回れるし、ゴルベーザの 飛行部隊にも対抗できたのだ。いくら感謝しても足りないくらいであろう。 「巨大砲を破壊出来ただけでも充分な成果だ! よく頑張った!!」 そう言ってセシルの肩をぽんぽんと叩いて祝福してくれた。 「うん……ありがとう」 素直に喜んでいいものだろうか。 結果的にヤンを犠牲にしてしまった。それを皆に話せば辛い思いをさせてしまう。 そんな気持ちがあった。 同時にもう一つ、シドはセシルに対しいつも労いの言葉をかけてくれた。 セシルが子供の頃、飛空挺について教えてくれた時、お世辞にもあまりよく理解できずにシドの出した質問にも上手く答えられない 時があった。 その時もシドはセシルに対して、頑張った時と同じ様に労いの言葉をかけてくれた。 要はあまりいい成果や結果がだせなかった場合でもシドはセシルに対してよく頑張ったと労いの言葉をかけてくれるのだ。 当然、その言葉を貰った中には自分で納得する結果を出せた時もあったのだが。 だから今の台詞もいつも通り結果は問わずに、とりあえず頑張った事を褒めてくれただけなのではないかと思ってしまったのだ。 無論それが煩わしいと感じたことは一度もない。セシルを育ててくれた王は国や民を思う心はあったが厳格な人物であった。 それは育て子のセシルに対しても例外ではなく、中途半端な頑張りで褒めてくれたことは無かった。 セシル自身も王の性格は充分に承知していたし、その事に対して特別な憤りや憎しみを感じたことはない。 むしろより一層自分を磨いてやろうと思った程であった。 しかし、今思えばそのような厳しい王の姿勢を素直に受け止めれたのはシドのようないつも満面の笑顔で褒めたたえてくれる者がいたからであろう。 シドがいなければ心では分かっていても体は王を拒絶したかもしれない。 去りゆくもの 残されるもの18
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「セシル」 宙を舞うセシルの眼下に聞きなれた声がした。 カインだ。どうやら追いついたようだ。 「セシル……」 ローザの声だ。顔は蒼白としている。先ほどのルゲイエの時と違い、単純に今この場で起こっている事が 信じられない、何が起こっているのか分からないといった様子だ。 「大丈夫?」 リディアが泣きそうな顔で心配してくる。 声にはでないが。大丈夫であろう。 ヤンも自分を倒すつもりで蹴り飛ばしたのではない。できるだけ遠くへと避難させようとしたのだ。 このまま行けば適当な壁にぶつかって不時着するだろう。 当然ながら痛みはあるだろうが大した事はないだろう。少し打ち身ができるくらいだ。 すぐにでも体をひきずってこの場所を離れなければ。 そう思っていた矢先、自分の体が停止した。だが不思議と痛みはない。 「…………」 不思議に思って辺りを見回す。 「カイン……君が」 見ると壁へとぶつかって不時着する寸前にカインが自分の体を受け止めてくれたようであった。 「すまない」 目の前の友の優しさが今は急に嬉しくなった。 「気にするな。それよりどういう事だ?」 そう言って制御室を顎先で指す。 「ようやく到着したと思えば、この有様だ。いきなり制御室からお前が飛び出してきた時は驚いたぞ」 「すまない……」 「少しは自分を気遣え、お前だけの体ではないんだぞ」 「ああ……」 ローザを心配させてしまった。それに折角ヤンが一人で犠牲になろうとしたのだ。 「ねえヤンは?」 リディアが違和感を感じたのだろう口に出す。 「制御室にはヤンもいるのよね?」 そこまで言ってその言葉がおかしいことに気づいたのだろう。 「まさか……」 制御室は黒煙だけに止まらず、既に火が燃え広がっているようであった。 「もうすぐ爆発する……ここも安全ではないだろう」 「そんな……」 説明は十分のようであった。 「作戦は無事成功した……一時報告の為、陽動部隊との合流地点に向かう……」 去りゆくもの 残されるもの16