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いらっしゃいませ~ ここはSacred温泉です 入るための入場料は500spです カウンターを押してコメントを残してから入ってくださいね~ 500sp払って入る 選択肢 投票 カウンター (2) 戻る 名前 コメント
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《公開済》SEV001402 シナリオガイド 公式掲示板 バイトする? リゾートする? ピンチに陥った温泉旅館を救え 担当マスター ミシマナオミ 主たる舞台 葦原島 ジャンル 学園生活 募集スケジュール 参加者募集開始日 参加者募集締切日 アクション締切日 2011-10-03 2011-10-05 2011-10-09 リアクション公開予定日 募集時公開予定日 アクション締切後 リアクション公開日 2011-10-20 2011-10-24 2011-10-24 サンプルアクション (シナリオ参加者の方にお願い、サンプルアクションの具体的な内容を補完していただけないでしょうか)(サンプルアクション名の下の四角をクリックするとでてくる「部分編集」をクリックすると登録できます)(もしくはサンプルアクション登録用掲示板へお願いします。) 客の平和を守る! +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 ▼キャラクターの目的 ▼キャラクターの動機 ▼キャラクターの手段 バイトやりまーす +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 ▼キャラクターの目的 ▼キャラクターの動機 ▼キャラクターの手段 のんびり楽しみたい +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 ▼キャラクターの目的 ▼キャラクターの動機 ▼キャラクターの手段 散策しようかな +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 ▼キャラクターの目的 ▼キャラクターの動機 ▼キャラクターの手段 その他補足等 [部分編集] 【タグ:SEV ミシマナオミ 学園生活 正常公開済 葦原島】
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裏第二回戦SS・温泉旅館その1 「……夢、か」 四畳半の和室に敷かれた布団の上で菊池一文字は眼を覚ました。 夢にしてはリアルだった……ような気がする。 時逆順、迷宮時計、この世界の仕組み、虎の少女。 現実感がなさすぎる。だが、きっとそれは夢ではないのだろう。 そしてこの先には……母さんたちも関わっている。 (しかし、どうすりゃあいいんだろうな。 このまま終わらない戦いを続けるわけにもいかねえし) ごろんと布団の上で仰向けになる。 右腕の時計を眺めると、戦闘開始時刻はとうに過ぎている。 (……ところで、どこだ、ここ。) そう考えたところで、右腕の時計の向こうに狐面の少女が現れる。 少女は軽く腕を振る。 そして、和室はバラバラに崩れ落ちた。 --------------------------------------------------- (……今のが菊池一文字?まさか今ので終わりじゃないよね) 『刻訪』の情報網を駆使しても「菊池一文字」などという人間を探し出すことはできなかった。 迷宮時計所持者の中に「菊池徹子」という人物がいるということまでは突き止めたが、 「菊池」などよくある姓だ。関係者かどうかすらも疑わしい。 ……だが、相手が未知の存在であっても。やることは変わらない。 「あはッ」 当然、この程度で終わってしまっては困る。狐面の奥で少女が嗤う。 『操絶糸術』が室内を蹂躙する直前、標的が天井に向かって跳ぶのが見えた。 そうだ、そうでなくては。 「……へえ、天井を突き破ったんだぁ。すごーい」 無感情な声でそうつぶやき、刻訪結は糸を使って天井に登った。 --------------------------------------------------- 「……っぶねェ!あの娘が次の対戦相手か」 虎の次は狐か、と心中でひとりごちつつ、追撃に備える。 とっさに『スカッドストレイトバレット』を使ってしまった。 再使用までには少し時間が必要だ。さてどうする。 (しかし、糸使いとはな) 迷宮時計を手に入れる前、母の墓前で戦った相手を思い出す。 ウラギール・オン・シラーズ。彼も糸使いであったが―― 今天井から顔を出した少女は、その数段上の使い手と見ていいだろう。 「見ぃつけたァ」 狐面で表情は窺い知れないが、幼さを残した声で少女が嗤う。 まるで遊んでいるかのような無邪気な声。 それがかえって不気味に感じた。 「一応聞くけどさ、降参するつもりはねーよな」 ダメ元で問いかける。当然、回答に期待してはいない。 近接戦闘の構えのまま、じりじりと近づく。 間合いにはまだ遠い。が、マントを翻し少女に向けてダッシュする。 直後、先程までいた場所の屋根瓦が弾け飛んだ。 「ああ、まだ返事聞いてないのに向かってくるなんて。怖ァい」 少女は声色を変えずにそう言うと、左右の手を交差して振りぬく。 「『操絶糸術・蛟龍(キリングストリングス・サーペント)』」 温泉旅館の屋根を喰らいながら迫り来る龍の如く、糸の奔流が一文字を追う。 飲み込まれぬよう屋根を駆け抜ける。能力はまだ使用できない。 追いつかれる直前、少女に向かって跳躍、飛び蹴りを放つ。 「く、ら、え!」 「『玄武(アダマンタイトシールド)』、『虎爪(ファントムブレイド)』」 幾重もの糸の盾が蹴りを防ぎ、糸の爪が身を裂く。 『シールドマント』により致命傷は防ぐが、糸による斬撃を受けてしまう。 「……っ痛ぅ!」 「捕まえたァ」 少女が血に染まった糸をたぐり寄せる。 そして制服の袖をたくしあげ、凄惨な傷跡の残る腕に糸を縫いつけ始めた。 「お、おい!何やってんだ!」 「大丈夫ですよォ、ちょっと痛ァいだけですからぁ…… お兄さん、面白い能力持ってますねぇ。それで出会い頭の攻撃を避けたんですかぁ」 少女が自分の腕に刺繍をしながら呟く。 「へえ、加速度によって次の使用可能時間が伸びるんですねぇ。不便だなぁ」 「……!」 自分しか知らないはずの能力の特性を言い当てられる。 成程、そういう能力か。しかし。 「じゃあ、次のことを考えなければ無限に加速できるってことなのかなぁ」 「や、やめろ!そんなことしたら……」 「やめなーい。一瞬で終わらせてあげる」 次の瞬間には、 「『スカッドストレイトバレット』」 --------------------------------------------------- ――瞼を開けると、私のよく知っている天井が広がっていた。 ソファから起き上がって周りを見渡す。 テーブルは昨夜のままだった。 上毛早百合ちゃんを斃して闘技場から戻ってきた私を、パパとママはぎゅっと抱きしめてくれた。 それで気が緩んだ私は、そのあと泥のように眠った。 そして一夜が明け、昨日は祝勝会をしたのだ。 ……あれ。 おかしいな。 なんで、こんな これは、昨日、の 時間、が、 戻っ て … … 「いち、に! さーん、し!」 「ここでまわって~」 「せーのっ」 「はいハイ!」 放課後、学園の屋上。 まだ陽射しは強く、踊り始めてから30分程でけっこう汗をかいてしまった。 『シスター』である真実が会長権限でゲットした鍵を使い、私たちは誰もいない屋上でダンスの練習をしている。 再来週に開かれる文化祭で披露するのだ。 なんでこうなっちゃったのかはよくわかんないけど、気がついたらそういうことになっていた。 ダンスなんてやったことないから大変……変な所が筋肉痛になるし。 でも、4人で踊っているときは、最高に楽しいのだ! 「さて、休憩にしましょうか」 「そうだねー」 「ノドが渇いたのだ」 「あっ、ボクのお茶飲む?」 モデルみたいに手足が長くて美人なのは、糸音ちゃん。 切れ長の目も凛としててかっこいい。 小麦色の肌が健康的な印象を与えているのは、早百合ちゃん。 ちっちゃくて元気がよくてかわいい。 見た目によらず気がきくボクっ娘は、真実。 私の幼なじみで、親友だ。 そうか、これが、走馬灯っていうやつなのね。 でも、なんで、あたし、 ああ、だけど、みんなに会えて、 よ かっ … … --------------------------------------------------- 「……だから、やめろって言ったろ……」 目の前で弾け飛んだ少女の残骸を見ながら、悲しそうに一文字は呟く。 「『シールドマント』もないのに、生身で光速移動できるわけねーだろ……」 彼女にまだ理性が残っていれば、そのような手段には出なかったのかもしれない。 だが、その結果を知るものは、もういない。 このページのトップに戻る|トップページに戻る
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温泉旅行 旅行プランページ L:温泉旅行 = { t:名称 = 温泉旅行(イベント) t:要点 = 露天風呂,湯煙,同行者の背中 t:周辺環境 = 温泉宿 t:評価 = なし t:特殊 = { *温泉旅行のイベントカテゴリ = ,,個人イベント。 *温泉旅行の位置づけ = ,,{生活イベント,ショップイベント}。 *温泉旅行の取り扱い = ,,キノウツン旅行社。 *温泉旅行の販売価格 = ,,40マイル。 *温泉旅行の内容1 = ,,次回のイベントは温泉旅行になる。 *温泉旅行の内容2 = ,,成功すると、お肌がツルツルになってすばらしい思い出になる。 *温泉旅行の内容3 = ,,失敗した場合、髪がバサバサになってちょっととほほな感じの思い出ができる。 } t:→次のアイドレス = 銭湯(施設),温泉の素(アイテム),温泉浴衣(アイテム),露天風呂でのハプニング(イベント) } コメント 温泉のんびりポワポワーン。 成功するとお肌ツルツル効果がバツグンだ。 派生も楽しいし、温泉旅行のお肌ツルツルはいいよねぇ。お肌スベスベは良いものです。個人的には熱つ熱つのお湯よりゆっくり温かい(よっとだけぬるめ)のが好きかなぁ。
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裏準決勝戦【温泉旅館】SSその2 ◆ 俺が兄貴を解放した。 問題は『いかに死ぬべきか』だ。 俺みたいな奴は、どんなクズみたいな死に方でも構わない。 でも兄貴は、――兄貴だけは『特別な死に方』でなければいけない。 あの人がそう言って、俺に力を貸してくれた。 ◆ 大会の転送役、ポータル双子の兄・ディプロマットの死体が発見されたのは、試合の1時間前だった。二人の探偵に事件を知らせにきたのは、対戦相手の山田だ。 死体が発見されたのは、この大会の為、ディプロマット専用に増設された個室。マスターキーは通用せず、カードキーは唯一、ディプロマットのみ保持している。異臭を感じ取った司会の埴井きららと選手の鎌瀬戌が、施錠された扉にタックルし破壊した(魔人格闘大会にて優勝経験のある埴井きららの攻撃力は、小型ミサイルに匹敵する)。 「なんかね!入った時ヘンな風があったの!すごい音したーっ!」 突入時の感想を、きららはこう述べた。 二人の探偵は死体の鑑識を始めた。遠藤は肉体による鑑識。こまねは化学鑑識を得意とする。 さらに、遠藤に呼ばれた大会参加者・赤帽の見解は、鑑識の結果と一致した。 「これは、パンデミック……『新黒死病ウィルス』による死だ。間違いねェ。この感じは、親父と同じだ」指定魔人暴力団、夜魔口組の組長は現在、新黒死病で生命の危機に晒されている。 死体は、玄関部屋の隣の部屋に置かれたソファーに覆いかぶさるように死んでいた。カードキーは彼の胸ポケットの中。隣部屋には一揃いの生活用具があり、彼はここで生活していたと思われる。ただ一つ、窓だけは無かった。 こまねの化学鑑識で指紋や足跡を可視化できるが、一人では範囲が広すぎる。死体には不審な点は見つからず、部屋の鑑識は先に推理を進めてから。という事になった。 探偵が警察の来る前に現場をいじくり回す理由。それは、この大会が法律的にグレーの場所である事、また新黒死病関連である事が原因だ。事は一刻を争う。 「『新黒死病』かぁ~。昨日まで元気だったディプロさんが密室で亡くなるというのは、違和感があるよねぇ~」こまねが言う。 「他殺。かのパンデミック事件の真犯人。の可能性がありますね」と遠藤。「犯人はまだ近くにいるかもしれない」彼女の叔父は、新黒死病が原因で他界している。 「あくまで可能性だけどねぇ~。まぁ、あたしの依頼内容には沿ってるかな。あたしの依頼された仕事は、大会参加とウィルス犯の逮捕なんだけど、一つ目は表のトーナメントで負けた時点でおじゃんなんだよね。二つ目を達成するために裏に参加して大会に居残っているんだけど、う~ん。ここは事件を追うべきかなぁ~」 「拙の能力で分裂することも可能ですが……。厚い身体を本体として試合に参加。薄い分身でこの施設に残って、推理ができます。但し、一時間で消えてしまいますけれど」 「それも悪くないねぇ~。初めから分身が場外にいるのは、それは、場外判定にはならないよね? どうかなぁ~?」 二人の振り向いた先に、腕を組み佇む銘刈がいた。 「構いませんよ。ご自由に」 ◆ 試合開始数分前。佐倉光素に用意された小部屋。 「分身をつくって調査、ですか。試合中でなければ私の『奇跡』で、遠藤さんの『スマート・ポスト・イット』の効果時間も伸ばせるんですけどね。……残念です」 己を神と自称する報道部学生・佐倉光素はさらにこう続けた。 「ディプロマットさん、大丈夫かな。ワン・ターレン先生に治して貰えますよね……きっと。しかし困りましたね。私の『転送』能力は空気中の光素を利用するものなので、今日のような曇り日は使えないんですよ」 「えっ そうなんすか?」山田が声をあげる。 常識的に考えて、三割の確率で事故の起きる双子の能力を利用したがる選手は、そういなかった。ほとんどの選手は自力で試合場へ向かうか、そうでなければ佐倉光素自身の転送能力で転送してもらう。今回のようなことは、異例だ。 「はい。仕方ありませんから、こっちを使いましょう」佐倉は『鉄板で出来たメモ帳』を取り出し、言った。「アンバサダーさんは向こうで待機しているはずです。場所を変えて1分ごとに転送して貰う手筈になってますが、良いですか? 順序は、クジで決めますよ?」 「それは……コピー能力ですか?」メモ帳に目をやり、遠藤が訊く。 「便利なもんだねぇ~」 「ええ、他人の能力限定で、例えば『ポータル・ジツ』を、このメモ帳に保存しておけるんです。使い捨てですけどね」 彼女が鉄のメモ帳を一枚ちぎり、宙をはたくと、白く巨大なポータルが出現した。 「三割の確率で事故かぁ……」佐倉は目を輝かせる。「あは、ドキドキしちゃいますね。どんな事が起きるんだろう」 まじかよ……、という呟きが三人の内から漏れた。おそらく山田だろう。しかし、三人の総意である。 ◆ セニオの個室 「ちょ終赤チャンじゃ~んwま~たペライ身体でwえ?何?ポータル?能力?うん、あー。覚えてない……ってウソウソイッツアジョークww行かないで行かないでw ポータル・ジツね。あー、あれはー、確か。永続・フィールド設置型の死亡非解除。えっとつまり……出したら自分で閉じねーとダメなんじゃね?w手のひらでこう、ぐ~っとねw あん中の隙間さぁ、亜空間?ての?『真空』?がどうとかで、そんで引っ張られるんだってさwマジウケルww……あれ?そんなにウケない?w そーだ終赤チャンこれからドウ?工藤っちとオケるんだけど一緒にあれ?ちょ待っwそりゃないっしょwえ?もう?オワリ?どうしても?ノリ悪ぅ~w」 ◆ 温泉旅館 (ポータルが開きっぱなしだ。産み捨て型能力だったのか?)山田は霧のなか、窓越しの旅館内部に白い光を視る。(くそっ、アンバサダーがポータルを移動させないんなら、後から来る連中を待ちぶせするべきだったな……ていうか、アンバサダーはどこ行ったんだよ?) 山田は今、温泉旅館の広い露天風呂、外周の草陰に隠れている。 周囲を取り囲むのは白い霧。彼が振りまいた『サリンガス』である。サリンには種類があり、発汗から言語障害、最終的に失禁、昏睡など様々な効果をもたらす。山田の用いたサリンは、『徐脈』――心臓の動きを弱らせる効果がある。 (近隣住民への配慮だって? ……偽原は、そんな事考えなかったぜ) 彼はもちろんガスマスクに防音具、ゴーグルと重装備で試合に臨んでいる。それでも『あえて』微弱ながら、彼はこの毒ガスを吸い込んだ。 (こまねの『音玉』。心音を探知するというのなら、心音を『フィルターに引っかからない』レベルまで下げれば良いだけの話だ) 己の覚悟を示すように、彼はあえてこの策をとった。 (遠藤終赤……毒が効かないって話だけど、むしろ『都合が良い』ね。こまねには、キミの心音しか聴こえちゃあいないぜ) リスクをとらない限り、勝利を得ることは出来無い。 彼の怒りは偽原のみならず、大会全体に向けられていた。 (二回戦……澄診ちゃんは心を砕かれ、穢璃さんはその上で脚を負傷した……。それを、医務室で『完治』したから、偽原は『試合中、対戦相手以外の観客等に危害を加える行為』に『抵触しない』だって? 偽原はルール違反を『していない』だって? だったら何でもありじゃないか……。ワン・ターレンはどんな負傷も治せるんだろう?) ◆ 医務室 「フンッ!フンッ!」突き上げる拳。「ホアタァーーッ!」ワン・ターレンの中国拳法は並の魔人の比ではない!「それで!……何ですと!?何かおっしゃいましたかね!?」 「え~っと、ディプロさんの様態を聞きたいんですけどぉ~」 「イヤァーーーッ!」徒手空拳! こまねの顔面でピタリと止まる。その手にはディプロマットの肺レントゲン写真が握られていた。「新黒死病、ですな」 「治ります……よねぇ~?」その写真を受け取り、こまねが訊く。 ワン・ターレンの『死亡確認』。絶対誤診とも呼ばれるその能力は、死亡確認という診断を覆し、完治させる……はずだ。 「これはただの病気ではない。魔人能力です」医者は俯いた。「『認識』の衝突……つまり、『矛盾』。矛盾は、解消されなくてはならない」彼は時計を指さす。 「時間がかかる。という事ですか~?」 医者は神妙な顔でこくり、と頷いた。 ◆ 「では……ディプロマット様から犯人について情報を得る事は、今は不可能……と」 「事態は思ったより深刻みたいだねぇ」こまねが封筒からレントゲン写真を取り出してみせる。「これを見ても、特に証拠らしいもんは見つからなかったよぉ」 「何も?」遠藤はそれを見る。黒ずんだ何かが見えるが、確かによくわからない。 「うん。何も~」 こまねは休憩所の椅子に腰掛ける。「ディプロさんについても調べたよ。あの人、時々口論することはあったけど、弟さんとの仲は良かったみたい。あと、司会の佐倉光素さん?とも仲良い……ていうか、一方的に心酔している節があったみたい」 「だから、佐倉様にポータル能力をコピーさせていたのでしょうか?」 「まあ、自分の能力の上位互換で、しかも『強化』と『コピー』を使いこなす自称神の美少女が目の前に現れたら、誰だってクラっときちゃうかもねぇ~」こまねはクラっとする仕草を真似してみせた。 「こちらの事態も深刻です」遠藤はセニオから得た情報を伝えた。 「ふむ」こまねはメロンクリームソーダをかき混ぜる。「ポータルは開いた本人にしか閉じられない。とすると、密室の問題が変わってくるねぇ。あの密室にポータルは無かった。 犯人がポータルを利用して密室へ入ったのなら。ポータルを開いたディプロさんはそこで犯人に襲われて、犯人がポータルで去った後に、被害者自身でポータルを閉じた事になる。その後力尽きて、倒れたぁ、と」 「犯人に再度襲われる事を恐れて……閉じた?」 「でも、ポータルの向こう側には弟のアンバサダーさんもいるはずなんだよ。助けを求めない?普通さ?」ストローに詰まったアイスを舐める。「ポータルは白くって向こう側が視えないから、アンバさんが犯人に利用された可能性も考えられるしね。まぁこれは、アンバさん以外のポータル能力者がいなければ……の話だけどねぇ~」 ◆ 温泉旅館 (いたぞ……狙い通り、探偵同士戦ってくれてら) 山田は魔人能力『 目ッケ! (アイスパイ!アイ)』で露天風呂の彼女らを捉えた。二回戦では不覚をとったが、今回は服もしっかり透視する。服だって立派な『遮蔽物』だ。前回は仕方が無かった。誰だってオッサンのボディラインは視たくない。今回は能力の『閾値』を変えて、探偵達の女性らしいボディラインシルエットが視えるようにしている。こう見ると遠藤にもそれなりにバストが在ることがわかる。二人の背はほとんど同じで、区別がつけにくい。 遠藤は地面をポスト・イット化し、銃弾を防いでいる。分厚い岩壁が飛沫を立てて湯船に落ちた。 そういえば、穢璃と澄診はしっかりやれているだろうか。と山田は思う。今回の大会施設で起きた事件、穢璃の『仇』に若干関係しているらしく、穢璃達は事件現場に向かったとの事だ。穢璃の能力をもってすれば、探偵など全員失業だろう。 (……は?) と、そこで山田は違和感に感づいた。自分の周囲に、もはや霧と大差ない程、極小の『シャボン』が無数に浮かんでいることに。 毒ガスを含んだ霧に遮られ、こまねから山田の姿は視えないはずだ。このシャボンは、戦闘領域全体に無差別に発生している。 (まさか……コウモリの超音波みたいに……!音を……『視覚情報』に変えているってのか……!? 超音波の反射で生まれた大量のシャボンを……『シルエット』として!?) こまねの『音玉』はシャボン化のフィルターを自由に設定できる。岩のきしみや、電子機器、電灯から生まれる微小な『高い周波数』……それらをかき集め、一つにすることで、彼女はどんな場所でも調達可能だ。『超音波』のシャボンを。 こまねがこちらを向いた。 (やっ……ば……気づかれた……!)敵は、予想以上の化物だ。 ◆ 大会施設 風を……感じる。と、こまねが言った。中二的な意味では無いことは確かだ。 彼女は小さなシャボンを生み出し、その動きを追った。 シャボンはとある個室の扉、新聞紙などを入れる隙間に吸い込まれる。 「銘刈さんの部屋だねぇ~」 「では、不法侵入しましょう」 二人は薄い身体を利用し、隙間から侵入する。銘刈の部屋は生活感を感じない。ここで暮らしているわけではないのだろう。 空調が激しく作動していた。室温が低い。 「扉の外側に水滴がついていました」と遠藤。「過去に『気圧が下がっていた』可能性があります」 「うん」こまねは部屋を観察、クローゼットを開けた。空気が入り、風が起こる。気圧が下がったままだったのは、このクローゼットだ。「きららちゃんも言ってたねぇ~。ディプロさんの部屋に突入するときに、『風があった』って。ポータルの引力で空気が吸い込まれれば、部屋の『気圧』が下がるからねぇ。空気の流れは、外から内に向かう。……うひゃあ~こりゃすごい」銘刈の下着に感嘆の声をあげる。「あ」 こまねは、突然耳に手を当て、言った。「足音。銘刈さん帰って来ちゃったみたい~」 「それは、実にスマートなタイミングです」 ◆ 温泉旅館 「うぉ……おおおッ!?」 空気を切り裂く衝撃。防音具が破壊された。山田はきりきり舞いで旅館に逃げ込む。 こまねの音響レーザーとでも呼ぶべき攻撃だ。その原理は『アクティブフェイズドアレイ』と呼ばれる。別々の位置から放たれた多数の音波は、位相の揃う位置で衝突、振幅を増幅させる。音は空気の振動だ、ここまでくれば、かまいたちと変わらない。 「ほう……それがこまね様の推理光線ですか」遠藤の素っ頓狂な発言を背後に聴く。 探偵は皆狂ってる、と山田は思った。 試合開始以来、山田が初めて間近で姿を確認したこまねは、潜水服のように、頭に大きいシャボンをかぶっていた。これで毒ガスを回避しているのだ。このくらいは山田も予想の範疇。 一方遠藤は、腰に長い筒のような物をぶら下げている。巻物でも入っているのか、いかにも邪魔だ。『アイスパイ!アイ』で透視すると、赤いシルエットがみえる。これは予想外。 (……おいおい、何だいありゃあ)山田には意味がわからない。 背後で破裂音。山田の閃光弾が炸裂した。二人を撒き、二階へ駆け昇る。 息をつき、呼吸を整える。 この試合は実に、心臓に悪い。 彼の駆け込んだ部屋には、『食べかけのご馳走』が並んでいる。まるで、さっきまで人がいたみたいな再現度だ。 テレビに目をやる。大会の中継は特殊なチャンネルだ。さすがに視聴不可だろう。その背後の奥の部屋に、不審なものが見えた。 (おかしいと……思ったんだよなぁ) その死体はよく見た顔だ。試合前に見た気もするが、双子だから同じに決まっている。 (透視すると……一人分、動かない影が余計にあったから……もしかしてと思ったけど。この試合、一体何が起きているんだ?) アンバサダーの死体がそこにあった。 随分前に銃殺されたのか、乾いた血が畳に滲みている。 ゴウ、と音がした。窓に水柱。いや、熱湯柱が見える。 いくつもの熱湯柱が、露天風呂の岩肌から突き上げていた。 (『間欠泉』を……掘り当てたってのか? ……『音』だけで? バカじゃないの?) 探偵と関わるとろくな事がない。やはり明治初期の廃偵令は正しかったのだ。 ◆ 銘刈の部屋 「馬鹿な……」 銘刈はただ一言、そう言い、その机の上に置かれていた『鉄製のメモ用紙』を取り上げると、ポケットに仕舞い、水を飲むと、部屋から退出した。 その鉄製のメモ用紙は佐倉光素の物ではない。遠藤が能力で机裏の鉄板を部分的に『ポストイット化』し、引き剥がしたダミーである。 銘刈の部屋の窓から逃げた二人は、薄い身体を施設の壁に貼り付け、彼女の様子を観察していた。確定とは言えない。しかし、銘刈が過去に佐倉のメモ用紙を利用した可能性は高い。ポータルも、ウィルス能力すらも、そのメモ用紙を使えば他人が利用することは可能だ。 「――『入り口一つ、出口は二つ』これな~んだ?」こまねは遠藤に向き直ると、突然なぞなぞを問いかけた。 「えっと……パ……パンツ、……ですか?」 「終赤ク~ン。顔を赤らめないでおくれよぉ。こっちが言わせたみたいじゃないかぁ~。パンツにも恥ずかしいものとそうでないものがあるし。あたしはただ、『今の状況』に例えただけなんだけどぉ」 「はぁ……ズボンとか、そういう答えでは無くてですか」 「終赤ク~ン、そっちの答えを知っているのなら、どうして先にパンツなんて言っちゃったのかなぁ~?」 他愛のない雑談ができるほど、この短時間で二人は打ち解けたといえる。 「ま、とりあえず上に登ろうか~?」 上半身を引き剥がす。 アクロバティックな動きで回転跳躍し、二人は屋上まで登り詰めた。 「銘刈さん、……メモ用紙を、どこまで捨てに行ったのかなぁ。下手に追うよりは、後で鎌瀬戌クンとかに匂いで探してもらうのが良いかもねぇ~。きららちゃんは今、司会で忙しいし」 「無関係の方を巻き込んで良いものでしょうか」 「まぁ、そんなの今更だよ~。ほら、二回戦の山田さんだって、親戚をぐちゃぐちゃにされちゃったんだし。何というか、何があっても治して貰える安心感がそうさせるのかもねぇ~」 二人は屋上の扉へ歩く。 「試合に関係していれば治療を受けられるというのは、重要な事例ですね」 「確かにねぇ~。夜魔口組の人達みたいに、大事な人を治したいっていう動機で参加している人もいるのに、参加選手は無償で治療を受けられるっていうのは、何とも皮肉な話だよねぇ~。今回、治療目的で、参加選手の中に重病患者がいてもおかしくないと思ってたんだけど、いなかったね。そういう人は健康診査で落とされちゃうのかもねぇ~」 「健康診査……ありましたね、そんなものも」 「……ところで終赤クンは、実に正直な心臓の鼓動をしているねぇ~?」 「は、い……?」 こまねは遠藤の胸に手を当てている。セクハラではない。 「何か隠しているとは思っていたんだけど、話して貰えないかなぁ? 『夜魔口組』の名前を聴いた時の、心臓の鼓動……ほらまた、ビクリと反応したね?」 ◆ 温泉旅館 「困るんだよねぇ~、そういうの。同じ探偵として。ほら、みんな平和にのんびりいきたいじゃない?」 「どうやら、貴女とは、解り合えそうにありませんね……」 「う~ん、夜魔口組を味方につけて、一体何をするつもりなのかなぁ~?」 「答える義理はありません!」遠藤が推理光線で斬りかかる。 二人の探偵が露天風呂で言い争っているが、山田には遠くて聴こえない。間欠泉は定期的に吹きあがり、場の臨場感を盛り上げている。毒霧が晴れてきた。ポータルが全部吸い込んでしまったのだ。 (謎が多すぎて頭がおかしくなりそうだ……あの、遠藤の『筒』)山田は能力で透視する。 (透視できないてことは、中に入ってるのは魔人だ……それを、試合に持ち込んだ?何故?)山田の脳裏に二回戦の悪夢が蘇る。 こまねは旅館にいる山田の位置を把握していはずだ。彼女は遠藤を誘導するように動きまわっている。 (誘導してやるから、撃て……って事か。俺に、遠藤終赤を) 彼は狙撃銃を構えた。 (ったく、元プロを舐めてんのかね。誘導なんかいらないッての) 狙撃は普通、当たりやすい胴体を狙う。映画などでよく頭を狙うのは、演出上派手だからだ。 音もなく撃つ。 防弾チョッキをも貫く銃弾が、遠藤の胸に命中。湯飛沫をあげ、遠藤の身体が湯船に落ちる。 こまねは標的を山田に変えると、音響レーザーを繰り出した。窓が割れる。 山田はひっくり返った。 「っと……ッ!? 次は俺を狙うか、そりゃそうだ……!」 ◆ 大会施設 「ところで、ポータル双子の名前って、明らかに偽名だよねぇ~」 「こまね様は、やはり偽名に敏感でいらっしゃるのですか」 「あはは、まあ偽名探偵だからねぇ~。そうだ終赤クン、この事件が終わったら、あたしの本名を教えてあげてもいいよぉ~」 二人はもう一度事件現場に戻っていた。 ポータルが開かれたと思われる場所を推理し、そこを重点的に調べる。一つだけ不審な足跡を見つけた。 「……一番新しい足跡。残ってるのはポータル付近だけだねぇ。犯人は足跡を拭って消したけど、引力の強いポータル付近だけは消せなかったんだ」 「わずかに血痕が見られます。犯人らしき足跡が、それを、踏んでいる……」 「でも、あるべき証拠は見つからないねぇ~」 これまでの推理で、二人にはある程度、犯人の目星がついている。トリックについても、調査のなかで解決策は見つかった。 「しかし、証拠がありません……」遠藤は言った。 この言葉を呟けるのが余程嬉しいのか、遠藤の頬は自然と緩んでいた。『だが証拠がない』――これぞ、一流探偵のマジックワードである。 二人は証拠を探し、怪しいと思われる場所、物品に関しては全て調べたが、犯人と結びつく『指紋』は全く見つからなかった。 「終赤クン、でもね、これは、魔人能力の犯罪だよぉ」こまねは遠藤に笑いかける。「『証拠が無いのが証拠』。こういう事は、魔人犯罪においては、往々にして起こり得る事態なのさぁ~。わかるかな?」 「証拠がないのが……証拠」遠藤はこまねと目を合わせた。「なるほど……そういう事ですか」 「――すみません、通してください、すみませんっ」 警備員を強引に引き離し、新たな女性が二人、現場に入室した。 背の高く髪の長い、理知的な女性。その後ろに、見た目若そうな、メガネをかけた女性。美人だが、どちらもこまね達より7歳以上年上だ。 山田の親戚、穢璃と澄診は、探偵達の姿をみとめると言った。「死体……は、どこへ行ったか、わかりませんか?」 「えっと、あなた方は……」戸惑う遠藤。 こまねが代わりに答える。「死体なら医務室に運ばれたと思うけど……。お二人は山田さんの親戚さんですよねぇ~?」穢璃の方を向く。「『死体から被害者を殺した犯人の情報を得る』能力でしたっけ?」 澄診が言った。「おおお、さっすが探偵さんだね……穢璃ちゃん、ここは正直に話して協力してもらったら?」 ――穢璃の能力は『死人の口に朽ち無し』という。 魔人能力によって殺害された人間の遺体に触れる事により 、殺害した魔人に関する細かな情報を取得できる。 彼女の能力は、両親の仇、裸繰埜の情報を得るために発現したようなものだ。今回のウィルス事件では、裸繰埜に関連した情報を得られるかもしれないという事で、山田の関係者として施設へやってきた。 「なるほど、それで死体が必要なのですね」説明を受け、遠藤は納得した。 「穢璃ちゃんが見れば犯人なんて一発なんだよ」澄診は自分の事のように胸を張る。「ああ、でも、ちょっとリーディングに時間がかかるんだっけ?」 「10から30分ほど、ですね。ただ、犯人の名前だけならすぐに答えられます」と穢璃。 こまねは困った顔をした。「うーん、あたしたちも答え合わせはしておきたいけど。そろそろあたしたちも分裂の効果が消えて、『消滅』しそうなんだよねぇ~。医務室まで顔を出していたら、時間切れで『解決編』がやれなくなっちゃうよ~」 「……ご心配には及びません」と遠藤。 「こんなこともあろうかと」懐からベロン、と。「遺体を拝借しておきました。拙の能力で」ディプロマットの死体を薄型コピーしたものを取り出した。 「あ、……あ……はははっ!」それを見たこまねは笑い、遠藤の手をとった。「終赤クン、あたしと同じAB型でしょう?」 「はい?」 「AB型はね、探偵と怪盗どっちの職業にも向いてるんだよぉ~」非科学的な偏見を述べて、こまねは穢璃に向き直る。「それじゃあ、犯人の名前だけ答え合わせして、探偵コンビは一足先に解決編へ向かうとしようかぁ~」 ◆ (そりゃあよくある話だよ……! 文学でもさぁ…… 銅貨が守ってくれたとか! 聖書とかペンダントでも構わないよ、別にさ……!) 「ハッハッハッハッハ! ガハッ……ハァッハッハッハッハッハッハッハ!!」 (たださ……!) 独白で絶叫するのは、山田だ。彼はいま、こまねの追撃を逃れ、透視能力で遠藤の様子を視ている。 (ただありゃあなんだ!? ……十四歳の女の子が防弾チョッキの上にさらしみたいに巻いてたのが……豪快に咳をして嗤う薄っぺらいオッサンで……そいつの肉体が銃弾の威力を削ぐほど硬いってのは……どういうジャンルのお話だ!? 猟奇ホラーか!?) 「――ッハッハッハッハ! ガキが! ……クソガキがッ! 儂を盾代わりに使いおった! 喜べ終平! 貴様の姪……は……貴様に似た……立派な……クズに成長しているぞッ!」男は何度か血反吐を吐くと、それきり黙り込んだ。失神したのかもしれなかった。 「例え旧知の仲でも、叔父上を悪く言うのは許しませんよ……もう、聴こえてませんか」遠藤は胸を抑え、湯船から立ち上がる。その口からつう、と血すじが流れる。 山田はまだ旅館内を走っている。背後でドン、と音がした。こまねが何らかの攻撃で壁を壊した音に違いない。煙と共にこまねが現れる。 「こまね! アンタ知ってて俺に狙わせたな!?」 「心音が余計に聞こえたからねぇ~。だって、気になったんだもの。しかしさすがは、薄くなっても病で死にかけても夜魔口組『組長』、凡百の魔人耐久力とは格が違うねぇ~」 『アイスパイ!アイ』で遠藤の胸が膨らんで視えたのは成長期では無かったという事だ。考えてみれば必然といえる。相手はヤクザで、度胸があり、手段を選ばない。本人にその気があるならば、『大会に参加するだけで不治の病が治る』見込みがあるならば。実行に移すことは何もおかしくなかった。会話の内容からして遠藤の死んだ『叔父』と組長は顔見知りで(敵対していた可能性が高いが)、彼女自身の能力も運び屋として適任と言える。 (じゃあ『筒』に入ってるのは何だ……!? 夜魔口赤帽の『血』か……? 大会関係者との金品のやりとりは禁止されているはずだ……!) 山田は決して油断していたわけではない。ただ、こまねが、彼の呼びかけに応じ言葉を発した意味をよく考えるべきだった。『音』に注視すれば、『無音』に鈍感になる。 山田は舌打ちする。 透視と可視を交互に切り替え移動した結果、その『引力』の源に気づくのに遅れた。ポータルの内部は亜空間に満ちており、その真空は引力を生み出す。本来あるべき引力の立てる『風音』は、無数のシャボンとなって消えていた。 (亜空間ってのは……) 引力に足をとられ、彼は廊下を転がった。苦し紛れにこまねに銃を向ける。 (『場外』に入るのか? このまま亜空間に消えたら……俺は……翅津里 淀輝(はねつり でんき)は、どうやって蘇生してもらえる?) ◆ 東京中の音が消えた。 灰色の空と立ち並ぶビル群に、虹色の歪みが溢れ出る。その数は、万を超えたかもしれない。 会場に併設された大会運営施設。その屋上で、二人の探偵と、大会参加者含む、事件に関わりのある者達が勢揃いしていた。いないのは、森田と落葉。その日不在だった選手と、温泉旅館の試合を中継しているきららと佐倉、姪刈のみである。 「おー、こりゃすげー」黒田が上空をみてわかりやすく驚いた。お前なんでいるんだ。 巨大なシャボンが上空に待機している。 「東京は音が多い」と、こまね。「かき集めて一つにしたら、こうなるんだ~」 「これは単なる保険です」遠藤が言った。「さぁ、推理を始めましょう」 赤帽とセニオが何か言うが、全てシャボンとなって掻き消える。 「もう時間がないからさぁ~。面倒なあいの手とか全部省略させてもらうよ~」こまねはゆったりした口調だ。「まずは犯人の行動を推理したから、整理してみようかぁ~」 「犯人はポータルを利用してディプロマット様を殺害しました。密室の問題はこれで解決する事ができます」遠藤は姿勢を正し、周りを見渡した。 「……まず、犯人のいる地点をXとします。ディプロマット様のいる個室をA。犯人はXにポータルを開き、ディプロマット様もAにそれを開きます。犯人は繋がった空間を通り、Aへ侵入し、ディプロマット様を殺害。その後犯人は、Xに戻り、X地点のポータルを閉じます。この時点でAのポータルは開いたままです。部屋の気圧は相当下がるでしょう。 その後、B地点にいる犯人の『協力者』……ここはもう言ってしまいましょう。『銘刈』様です。銘刈様はBにポータルを開きます。犯人はこの時点で移動しているかもしれないので、地点をX’としておきます。犯人はX’にポータルを開き、B地点へ移動する。これで事件現場が完成しました」 聴衆が何か言うが、みなシャボンとなって消える。一番シャボンが多いのは黒田だ。 「実はこの過程だけで証拠隠滅はもう成し遂げられています。セニオ様、お願いします」 「「オッケウェーーイww」」分裂され増えた二人のセニオが声をあげる。「「ポータルは中継で見たからコピれるし~w 『セット』『ポータル・ジツ』!イヤーッ!」」 二つの白い渦が生み出された。 「さあ、これで温泉旅館に残されたというポータルは、消滅したはずです」 ◆ 「はは」 山田の撃った銃弾がこまねの右脚を掠り、抉った。この負傷は後々響くだろう。 彼は助かった。彼を吸い込もうとしたポータルが、突然消えたからだ。 「助かった」引力に引きずられた慣性そのままに、彼は廊下を走った。 これでまだ戦える。必ず、遠藤とこまねを殺す。 (誰のおかげか知らないけど、礼はちゃんと言わないとな) 「ありがとよ」 ◆ 「A地点とX’地点を結ぶポータルに、B地点が結ばれれば、それは『矛盾』だよねぇ~」こまねが手を合わせて解説する。「入り口が一つ出口が二つ。『矛盾は解消されなくてはならない』。最も簡単な解決法は、情報の上書き。それは『一つ目のポータルが消える』こと」 「矛盾に打ち勝てる魔人などそういない。単純ですが、魔人能力のシステムの裏側……バグを突いたスマートなトリックと言えます」 「じゃあ……銘刈さんは、Bの部屋――銘刈さん自身の部屋で、メモ用紙を使ってポータルを開いた。その時に、ディプロマットさんの部屋のポータルは消滅した。ってことか……」鎌瀬が発言する。彼は捜査に協力し、銘刈が捨てた本物のメモ帳を突き止めた。 そういうこと。と、こまねは頷いた。 「佐倉さんはメモ帳を犯罪に利用されただけで、事件とは直接無関係。彼女自身の転送能力を使わなかったのは、彼女の能力はメモ帳にコピーできないからだねぇ」そして、ここからが重要だと言うように、こまねは人差し指を立てた。「犯人はポータルを使わざるを得なかった。それゆえに、ある程度の覚悟はしていたはずだよ。ポータルの引き起こす『事故』を……」 「犯人は、ディプロマット様の部屋に侵入する際、できるだけ足跡の残らない靴を履いていたはずです。しかし、事故が起き、犯人は失いました……片足を」 こまねは片足立ちになった。「ポータルから出たと思ったら片足が無くなってるんだから、びっくりだよねぇ。さいわい、血はほとんどポータルが吸い込んでくれたけど、ポータル付近の引力は強く、片足じゃあ非常に危険だ。犯人はすぐに足を治したけど、気づいたはずだね……足は治せるけど、『靴は直せない』。引力に逆らうためにどうしても『裸足で踏みしめる必要』があった。証拠を残すわけにはいかない、証拠の決定力を減らすために犯人は、足の復元と同時に足の『指紋』を失くす事を思いついた。わずかな時間の間に」 「指紋のない病は実在します。『絶対誤診』の能力は、何も治療だけではない。その気になれば、どんな病だって作り出せる。『新黒死病』だって……。そうですね、ワン・ターレン様」 ◆ 山田は露天風呂へ出る。 ポスト・イット化した岩地を蹴り剥がした遠藤が、倒れこむその上に乗り奇襲をしかけてきた。ポスト・イット化した物体は、分身そのものに意志が無い限り、引き剥がす動作が必要だ。遠藤の動きからその奇襲は予想できた。 撃つ。胸には効かない事を思い出し、わざと逸らす。 脇腹に一発。 もう一発が遠藤の筒をはじいた。その『筒』はカラン、と音を立てて落ちると、何度か跳ね返りコロコロとこちらに転がった。 蹴り剥がされた岩の板が、湯船に沈む。これで何度目だろう。遠藤は試合の序盤から同じ事を繰り返している。 「いただき!」彼はその筒を拾った。赤帽の血が入っているのなら、絶対に彼女に呑ましてはならない。 遠藤が脇腹をおさえ、口を開いた。「――やめろ」 ◆ 「『ワン・ターレン』。今更ですが、その名はあまり好きではありませんな。漫画のキャラクターからつけられたあだ名です」彼は言った。 周囲は沈黙に包まれた。こまねが能力を使うまでもなく。 こまねは封筒を手にしている。「先生は手袋をして、死体をソファーまで運び、空調を自動に設定した。ポータルが消え気圧が戻る過程で、嗅覚に優れたスタッフが死体を発見する事を見越して。その間、足に注意が言った結果、意識から外れていた――病気で足の指紋を失くせば、当然『手の指紋も消える』事を。……犯行後すぐに指紋を戻さなかったのは、現場に万が一、足の指紋が残っている可能性を恐れたからだね? 足の復元と指紋の消失は同時に行ったから、間に合ったかどうかもわからなかったんだ」 封筒からレントゲン写真を取り出す。「先生はこれを『徒手空拳』で手渡してくれた。つまり、『素手』だよ。あたしはおかしいと思ったんだぁ~。 この写真には…………あたし以外の『指紋』が見つからなかった」 「ふむ。なるほど」ワン・ターレンは腕組みを解いた。「しかしこれだけの根拠で、私の犯行と決めつけるのは、いささか乱暴ではありませんかな?」 「その通りです。しかし、構いません。拙どもの目的は別にありますから」 「ほお?」彼は上空のシャボンをちらと見上げた。 遠藤が続ける。「あえて言ってしまえば、いなくても問題ないのです。落葉さんも、森田様も、銘刈様も。しかし、……ワン・ターレン先生、貴方は違う。貴方は人の傷を治すのに、自傷の必要も、お金も、その他あらゆる消費制約を必要としない。規格外の治癒能力。貴方がいなければ、この大会は絶対に成立しない」 「何を仰りたい?」 「先生はさ」こまねが言う。「この大会の『裏』の運営を任された、目高機関のお偉いさんなんじゃない?ってことだよぉ~」 さらにこまねは続ける。「犯行の動機は二つ。一つは、『大会の正常な運営』のため。この大会は有名になりすぎた。何でも治せる医者の存在は、今回の終赤クンと夜魔口の行動のように、外部の人間の思惑が入り込む余地が、あまりにもありすぎた。そうすると、大会の運営に支障がでるねぇ~?」 「……今回、夜魔口組の組長……彼は厳重に取扱い、会場に持ち込まれました。それを『感染経路』として世間に公表する気だったのですね? 夜魔口組長を治さないのはもちろんとして、ただ、それだけだと『ルール上、治さなかった』と理解される恐れがあった。一般スタッフとして扱われているディプロマット様を死なせることで、『裏』と『表』の世界どちらにも情報がいきわたるようにした……『ワン・ターレンにも新黒死病は治せない』と」 ……赤帽が怒り、何か叫んだが、大きなシャボンとなって消える。 「二つ目の動機は『ワクチンの製造競争』だね」こまねが指で注射の真似をする。 「目高機関の表会社は薬品企業だからねぇ。……近年の急成長の理由がわかったよ。先生の能力を使えば、簡単に被験者に抗体を。ワクチンを作ることが出来る。新規ワクチンの市場は競争が激しく、真っ先に導入したワクチンが市場を支配する。秘密裏に、いち早く製造工程を確立し、特許をとり、市場を独占する。他企業に対する情報戦。そのために、大会関係者に新黒死病を治せる者が『いない』と、外部に思わせたかったんだ。」 「ふふ」ワン・ターレンは笑った。組まれた彼の指には、指紋が無かった。「彼ら双子は、孤児でした。それを、私が拾って育ててやったのです。仰るとおり、確かに私にはディプロマットを治せなかった。だがこれは、治療に全力を尽くした結果です。推論に推論を重ねるとは、本格派とは言い難いですな」 「そう、推論です。ですから、これから拙が申す言葉も推論にございます」と遠藤。 「恥ずかしながら、拙は貴方様の能力に頼りっぱなしです。本日の試合でも貴方様なら新黒死病を治癒できると、本気で信じておりました。一年前にこの世を去った我が『叔父』も、貴方様のお力があれば別れずに済んだかもしれない、……とも」 彼女は薄い身体の肩を抱く。肩にちらりと、探偵彫りの桜吹雪が垣間見えた。 「実は、貴方がたの企みは当に瓦解している」芝居がかった口調で言葉を続ける。 「拙がこの大会の『一回戦』を終えた時点で、我が身躯は既に、『叔父』から感染された『新黒死病』に蝕まれていたからです。 それを、試合が終わると『助かりませんな』のただ一言で、見事に消し去って下さったお医者様が、あの時いたのです。別の医師の診断書……『証拠』もございます。本当に、それは消えたのです。そしてこれは、ただの推論にすぎません。……その時のお医者様は、ワン・ターレン先生、もしや、貴方ではありませんか?」 ◆ 「は……はは。おかしいって、遠藤終赤。教えてくれよ、探偵ってのは、皆、こうなのか?」 「それに、触るな」 山田は離れた位置にいる遠藤に向かって、話しかけている。 ただし、その目線は今まさに拾った、その筒の中身に注がれていた。 彼はそれをズルリ、と取り出す。 「どうかしてる……どうかしてる。いつも持ち歩いているのか、違うよなぁ? まさか、治せると……思ってるのか?本気で? さっきの夜魔口とは違うだろ…… これはもう、人間じゃない。『腐ってる』……じゃないか。戦場に……『腐乱死体』持ち込むなんて…… そんなのもう……まともな……正気の沙汰じゃないだろ……!」 「――叔父上に触れるな!」遠藤が飛びかかる。 山田は激昂した彼女を銃で狙う。二人の間を間欠泉が吹き出し、遮った。 背中を衝撃がかする。こまねの音のない銃撃だ。既に山田は回避行動をとっている。 死体――遠藤の『叔父』は、その場に投げ捨てられた。 ◆ 「なるほど、では」ワン・ターレンは静かに言った。「私が新黒死病を治したという証明……それを公表するには、今、試合で戦っているほうの貴女が、試合で生きて勝ち残らなければ、なりませんな?」 彼が拒否すれば、遠藤が蘇生される事は無い。彼を敵に回すとは、そういう事だ。 ゆっくりと、虹色の影が落ちた。上空の巨大シャボンが高度を下げている。 (こんなもので彼を倒せるとは思えないけど……)こまねは考える。(大会会場に余計な混乱は生みたくないよね?) さらに、ぽかり、と医者の口からシャボンが浮き出た。診察の言葉を口にさせない。『絶対誤診』をこれだけで防げるかどうかは、怪しいところだ。 こまねと遠藤の要求は3つ。今回の事件の犠牲者を蘇生すること。遠藤が試合場にもちこんだ新黒死病患者を治療すること。『新黒死病』について知っていることを話すこと。 もはや推理でなく脅迫である。 ただ、次元の旅人と呼ばれる『転校生』の彼に、二人の脅しが効くかはわからない。 (それにもう一つ……彼自身が、『新黒死病』を生み出した張本人って可能性も、まだ否定できないんだよねぇ~)だからこそ二人は急いだのだ。あと5分足らずで、二人は消えてしまう。残りのメンバーで、彼に対抗できるだろうか。 じり、と赤帽と砂男が動いた。 (待てよ?)こまねは思った。(どんな誤診もできるなら、『記憶』だって操作できるはず。いや、だったらそもそも、あんなトリックなんて……) 自分たちは何か、根本から勘違いしているのではないか。 ワンターレンが足を踏みしめ、 遠藤の指が桜色の光を帯びる。 「待って下さい!」屋上の扉が開き、穢璃が飛び出した。死体のリーディングが完了したのだ。 「……わかりました! 犯人の、本当の動機が」 ◆ 「そういえば、もうとっくに一時間経ってるねぇ~」こまねが言った。「会場に残ったあたし達は、ちゃんと犯人を捕まえたかなぁ? 終赤さん」 こまねの問いかけに、遠藤は答えない。投げ捨てられた『叔父』が気になるようで、何かをぶつぶつと呟いている。場は完全に三すくみの様相を呈していた。一定間隔で吹き出す間欠泉の動き、それを把握できるこまねがやや戦いをリードしており、山田と遠藤の中心、湯船と湯船の間を渡り歩く。 (こまねがいる場所はいつも『間欠泉』の近く。彼女は足を負傷している。間欠泉を盾にするしかない)山田はマグナム銃を構える。(俺の透視で、吹き出した間欠泉越しに撃つ。相手も超音波でこちらの位置を把握できるが……俺の方が速い) パン、とこまねの銃が遠藤の肩を穿った。 同時に吹き出す間欠泉。遠藤が悲痛な叫び声をあげた。 山田は火傷覚悟で距離を縮める。 山田の視界が霞む。今更サリンの効果が効いてきたのか。血が足りない。 (チクショウ、ふざけんな、今ごろになって……) 銃を構える。間欠泉の先、透視で捉えたこまねの赤い影。 それが、山田の狙いを避けるように横へと吹き飛んだ。 (跳んだ……!?負傷した脚で?) いや、音響レーザーだ。(アイツ……!とっさに それで『自分自身』を撃ちやがった! 片腕を盾に……犠牲にして!) こまねは湯船の浅瀬へと倒れこみ、山田の銃撃をかわす。 「――っ痛ぁッ」 山田の背中に衝撃が走った。音響レーザーが彼の背中を吹き飛ばす。 「は…………ぁ」ふら、とこまねが立ち上がる。山田に狙いをつけようと、生き残った腕で銃を構えた。一方、離れた場所で、肩を押さえた遠藤がぶつぶつと、何か呟いている。こまねだけがそれを聴きとり、口を開いた。 「……………………カウント?」 その『消滅』は無音で起こった。ゆえに、こまねの反応は遅れた。 遠藤が試合序盤に湯船に放り込んだ分厚い岩の『コピー』が、時間切れで消滅した。消滅した空間は水中で『真空』を作り出す。『真空』が何を生むか、我々は良く知っている。引力だ。 その渦は浅瀬にも動きを与えた。湯の動き。こまねの負傷した脚はそれに取られる。 乾いた音がしてこまねの頭部がはぜた。 「……撃てばさぁ、俺が勝つんだよ」 山田は銃を下ろした。「まともなフォームで撃てる機会さえくれれば、さ、……俺が外すことはないんだから」目をこすり、次に、遠藤に狙いをつける。 遠藤は岩を背に、腕だけを前に伸ばすが、すぐに諦めたように下ろした。 「叔父上」遠藤がつぶやいた。「不調法の姪をお許し下さい」 パン、と山田の銃が遠藤の頭部を吹き飛ばし、殺した。 同時に、彼は両足に強烈な熱を感じた。足もとを見る。 「つ…………ッ『分身』……か!」両足が切断されている。遠藤の推理光線だ。 時間切れで会場内の分身が消えたのなら、遠藤は身体の厚みを分割してもう一度分身が作れる。それはわかっていた。だが、『等身大』の分身が彼女の身体から離れたのなら『透視』で気づけなければおかしい……。そう考えた、傾く彼の、視界の端に映ったそれは――『等身大』ではなかった。例えるならそれは、『赤帽』に似ていた。 (『横』や『前後』ではなく……! 『縦』の厚み――『身長』を犠牲にして……分裂したのか……! 体躯十数センチの、小人となって……!) 両足を切断された山田の肉体が、ぐらりと傾き、湯船に沈む。 小人は袴の内に隠れていたはずだ。視界が『正常なら』、彼の透視で見抜けたであろう。 (くそっ……わかってたよ) 彼の視界が赤く霞んでいたのは、サリンの毒によるものだけではない。 (あの……『腐乱死体』……間欠泉がそれを吹きあげて……粉々に砕いて、霧と混ざった……それを使って! ……遠藤終赤! 叔父の命と引き換えに、アイツ、『塞ぎ』やがった!) ごぼ、と口から空気が漏れる。 (霧状に砕けた『魔人の肉』で……『塞ぎ』やがったんだ……!俺の『透視』能力を――『魔人以外の物体を透視』する、俺の『視界』を……!) 湯水が血と混ざり、ただでさえ赤い視界を一色に染める。 彼はその中に、桜色を帯びた光線を視た。 ◆ 大会施設 試合に敗北した山田は、親戚の穢璃、澄診と休憩所で会話している。 「すみません山田さん……、私の勝手な行動で、試合中のフォローができなくって……」 「あーあー!いや、いや、もう、そういうの無しっすよ!」山田は耳を押さえる。 「そうそう、私たちの行動原理の半分くらいは穢璃ちゃんの為で、あとの半分は下心なんだから」澄診が指で銭の形をつくる。「しっかし、今回はよくわからない事が多すぎて、混乱しちゃったよ」 混乱なら俺のほうがひどい。と山田は思った。ポケットから、名刺を二枚取り出す。「『ホエールラボラトリ』の幹部と……『魔人警察』の高官。試合場の、旅館の部屋で見つけた」 ――試合場で、何故?この立場の者たちが取引を?「わけがわからんけど、臨時で得たネタとしちゃあ悪くないよな」 「その件に関しては、私が話を聞いてますので、お話しします」穢璃はそう言ってほほ笑んだ。 ◆ 「兄貴、聴こえるか? ああ、俺だ。兄貴と同じく、師父に蘇生してもらえた。顔も変えてもらってな。大丈夫、機関も銘刈も、師父がトリックを使って兄貴を殺害したと思っている。ま、実際死んだんだがな。身体の厚みは一週間以内に治るそうだ。ああ、元々は遠藤を脅して協力してもらう計画だったが、結果オーライだ。遠藤の能力で死体をコピーして、佐倉の能力で効果時間を延ばしてもらった。これで俺達も晴れて機関の道具から解放だ」 青年は自分の掌を見る。紙のように薄い指。 「機関はすぐに死体を処分するさ。魔人警官との『口裏合わせ』が失敗したから、引き渡したくないはずだ。……彼らの取引は機関の施設――『要人御用達の温泉旅館』で行われていた。俺はそこでポータルを開き、師父を銘刈の部屋へ送った。その後、俺は東京郊外に出て、『試合用の温泉旅館』にポータルを開くはずだったが、そうしなかった。だって、温泉旅館なんてどこも同じだろ? ま、普通の温泉で間欠泉なんて出てこないけどな。俺は御用達の方の旅館にポータルを放置して逃走、射殺された。どっちにしろ殺される予定だったけどな。その後どうなったと思う?」 青年はふっ、と笑った。 「ポータルから現れた山田って選手がサリンを振りまいたもんだから、奴ら、そこを閉鎖して『試合場』にしちまう他なかったんだ。笑えるだろ? いや、……師父なら大丈夫だ。何たって転校生だぜ? ……ははっ、ああ、佐倉にもきっとまた会える。じゃ、また、電話する。俺も……名前か。新しい名前を、考えなきゃあいけないな……」 その、無名の青年が下水道の蓋を押し開けると、地下に閉じ込められていたシャボン玉が二つ、ふわ、と外へ飛び出した。偽名探偵こまねが東京中からかき集めようとした際、偶然、取り残されたシャボン玉。雲間から見える青空の下、二つは競うように空へと消えていった。 ◆ 「遠藤様ですね。お帰りなさいませ」ホテルのドアマンが挨拶する。 「え、ああ、はい」 顔を覚えているのか。別に自分がここに泊まっているわけではないので、少し気恥ずかしい。 確かに遠藤であることに違いはないのだが。探偵帽を押さえ、会釈する。 遠藤終赤はここの10階に泊まっているはずだ。私はエレベーターに乗り込む。 彼女と会うのは久々だ。 会ったらまずは、どうすればいい? 13歳の時点で『叔父』を『失い』、身寄りを失くした少女。 ……とりあえず謝っておくべきか。 いや、叱るべきだろうか。全くあの子ときたら、向こう見ずの命知らずだ。 着物の袖を直し、ドアのベルを鳴らす。 「どうも、終赤さん、私です」 「はい」遠藤終赤が扉を開ける。その顔がぱあ、と輝いた。「あ……すみません、こんな格好で、とんだ失礼を」終赤は自分の寝間着姿に気づき、顔を赤くする。 「構わないよ」私はできるだけ格好つけて、優しく言った。帽子を脱ぐ。「迷惑かけたね」 「とんでも御座いません!」終赤は大きく頭を下げる。 念のために断っておくが、『遠藤』と呼ばれた私は彼女の分裂体ではない。 見たまえ、私と彼女の身体の厚さは普通と変わらない。 「身体検査に行ってきたよ」私は言った。 「どう……でしたか?」 「いたって健康! 死んでいたのが嘘のようだ」 「良かった……」 「それにしても終赤さんの分身は、ひどい嘘をついたもんだね」 「どの嘘……でしょうか?」 私は思わず笑って、言った。「ほら、叔父からウィルスが感染ったとかいう……」 「ああ……」終赤はベッドに座り込んだ。「ですね。酷い法螺です」顔を手で覆う。「大会に出る人間は、今回のように健康診査がある。新黒死病レベルの病にかかっていれば、さすがに治療を強制されるか、それが出来なければ失格でしょう」 「まあ、替え玉の可能性もあるから、あながち嘘とは思えないさ」私は腕を組み、壁によりかかった。「それで、今回は本当に?」 「はい。恥ずかしながら、『本当に発病』してしまいました。すぐにこのホテルから去らねばなりません」 「なるほどね……それで自分に」私は顔を引き剥がす。「身代わりを頼んだわけだねぇ~、健康診査の」かつらをとり、銀のウェーブがかった髪を広げた。「血液型と身長が同じとはいえ、さすがにバレないか冷や冷やしたよ~」 「こまね様にしか出来ませんでした。『顔』は拙の能力で作れても、声までは作れません」 「お役に立てて光栄だよぉ~」本心だった。偶然とは言え、彼女の叔父が永遠に生きて戻らない結果となったのは、私の行動も関わっているからだ。粉々に水に溶けてしまった人間は、さすがのワン・ターレンでも治せなかった。 「それで、どうするの~? ワン・ターレン先生は次の試合までには、機関から戻ってくるんだよねぇ~?」私は訊いた。 「はい。幸い次の試合まで時間があります。拙は、それまでには苦しんで死ぬでしょう」彼女は両手を膝に置き、私を見る。「穢璃様の能力で、拙の死体を『みて』頂きます。……そうすれば、『新黒死病』の大元となる能力者の正体が掴めるはずです」 「はあ」 この子は名前を、『ドM探偵・終赤』に改めるべきだと思った。どこまで自分から苦しむのが好きなんだ?……やっぱり叱るべきかもしれない、一応年長者として。 終赤はふふ、と笑った。「これで、こまね様のお役にも立てますね。その後で、先生に拙を蘇生してもらいましょう。機関は信用なりませんが、あの方は信用出来ます」 「信用……ねぇ~」そう聞いて、私はそれを思い出した。「そういえば、終赤さんに、事件が解決したら、あたしの本名を教えるって約束してたよねぇ」 「え、……そうなのですか?」 「うん。でも、まあ、探偵なら推理して当ててくれても良いと思うよぉ~」 私は組んでいた腕をほどき、両手を翻す。「さ、……どうするかな? 終赤さん」 ――何故私が、消えたはずの分身達の『会話』を知っているのか? まあ、 可能性は色々と考えられる。 好きに考えてくれて構わない。 ……探偵だからって、 全部を全部、説明する必要なんて、 本当は、どこにも無いんだからね。 裏トーナメント第二回戦◆温泉旅館の戦い◆終 このページのトップに戻る|トップページに戻る
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《公開済》SNM002163 シナリオガイド 公式掲示板 理不尽な仕掛けだらけの温泉旅館、一泊二日生き残れるか!? 担当マスター 朱坂理樹 主たる舞台 所在不明 ジャンル 学園生活 募集スケジュール 参加者募集開始日 参加者募集締切日 アクション締切日 2013-01-14 2013-01-16 2013-01-20 リアクション公開予定日 募集時公開予定日 アクション締切後 リアクション公開日 2013-01-30 - 2013-01-28 サンプルアクション (シナリオ参加者の方にお願い、サンプルアクションの具体的な内容を補完していただけないでしょうか)(サンプルアクション名の下の四角をクリックするとでてくる「部分編集」をクリックすると登録できます)(もしくはサンプルアクション登録用掲示板へお願いします。) 宿泊側として参加 +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 騙されたなりに楽しむ ▼キャラクターの目的 宿泊側として参加 ▼キャラクターの動機 騙された…… ▼キャラクターの手段 温泉旅館、しかもタダ、ということで浮かれてきたらこんなオチかよ…… と嘆いても仕方がない。一泊二日生き残る事を考えよう。 【1】では無難に水着を借りておいて大浴場でゆっくりしようか。あまり下手に移動して死ぬのも困るし。 【2】は……酒じゃ! 酒持ってこんかい! 死んでも構わん! 飲まなきゃやってられんわ! 【3】は酔いさましも兼ねて土産でも見てから寝るとしよう。下手に早く寝ると何があるかわからない。 一回くらい死んでも最後には生き残るくらいの気持ちでいくとしようか。 仕掛け側として参加 +... [部分編集] ▼プレイヤーの意図 裏側から楽しむ ▼キャラクターの目的 仕掛け側として参加 ▼キャラクターの動機 他人の不幸は蜜の味 ▼キャラクターの手段 自分が巻き込まれないっていうのがたまらないなこりゃ。 とりあえず【1】では風呂と言ったら電気がお約束だから勿論致死量の電流を使うか。 ただし仕掛けるのは風呂じゃなくて洗い場。大体の奴は体を洗ってから風呂に入るからな。 【2】は座布団にブーブークッションでも入れておくか。他の奴らが色々やるだろうし。 【3】は有料チャンネルを見ている奴を狙って、ガチムチなガタイの兄貴たちのレスリング映像でも流そう。 その他補足等 [部分編集] 【タグ:SNM 学園生活 所在不明 朱坂理樹 正常公開済】
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ベリドットと鶏冠石が、それぞれのマスターと共に温泉旅行へやってきました。 紅葉を眺めつつ、温泉を楽しむ。そんなひととき。 「お姉さま、こんなことを言っていいのか分からないのですが……」 「どうしました? 貴女が言葉を濁すなんて」 「いえ……昔から、素晴らしいプロポーションでいらっしゃったのですが……最近はさらに……」 「あら、そんなことですか。ふふっ、ないしょです。でも、そういうことが気になるなんて、貴女も年頃になったということでしょうか?」 「そ、そんなことは……」 「お年頃……なんですよ。さぁて、貴女はいったい、誰に見られることを気にしているのかなぁ?」 「そ、そんなこと……見られるなんて……そんな人、いませんわっ!」 「ふふふふっ、そういうことにしておきましょうか。でもね、貴女だって、素晴らしいプロポーションですよ。姿形だけではなく、ハートのプロポーションも整ってきたようですね」 「ハート?」 「だめだ、もう我慢できないっ!」 「よせ、相手が悪いっ! 黄泉に渡る気かっ! 温泉を楽しむだけで我慢しろっ!」 「でも、でも……」 「落ち着け。一時の悦楽で全ての信頼を無くすわけにはいかないんだ」 「でも、でもよう……見たくないのか?」 「見たいさっ!」 「じゃ、じゃあ……」 「マスター」 「「は、はいっ!」」 「覗いたら、めーですよぉ」 「「はぁい」」
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忙しくてなかなか書けないけど最終予告編。 書け次第続きを投下します。明日には投下したい… 温泉旅行前日… アムロ「む?この旅館は例の旅館か…」 TVではクリスが行く予定の旅館がリポートされていた。 リポーター「今日はこの不思議な効能の温泉に来ています」 クリス「あら?この温泉に入るのね」 リポーター「何でも、胸が大きくなったり…」 ティファ「…!?」 リポーター「兄弟に邪魔されている婚約が叶ったり…」 アイナ「…!?…ノリス」 ノリス「はっ!お任せください」 リポーター「10年間は進まない関係が進んだり…」 シーブック(…ピクッ!) リポーター「想い人と一緒に入れば関係が進んだりするそうです」 アムロ「バカらしい…そんなことがあるわけがない」 ロラン「夢がないですねぇ…」 バーニィ「よーし、明日こそクリスに告白するんだ」 クリス「明日が楽しみのような怖いような」 アムロ「バーニィ君…うまくやれよ」 こうして旅行の日がやってくる…
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裏第二回戦SS・温泉旅館その2 ☆予告☆ 辛くも紅井影虎を撃破した菊池一文字だったが、そこに新たに現れる世界の敵! 敵の卑劣な罠にハマり、大怪我を負ってしまう一文字! おお、彼の道(ROAD)はここで終わってしまうのか……? だがそこに現れた一人の医師!その優しげな糸目が、今開かれる……! 次回『残虐非道!殺人医師・真戸才炎!』に乞うご期待! ――菊池一文字1回戦SSより 《1》 -1st- 白く染まった視界が晴れると、木彫りの熊が私を出迎えた。 今度の戦いで迷宮時計が選んだ戦場は【現代】の【温泉旅館】である。 まわりを見渡してみると、イメージしていたとおりの空間が広がっていた。 ……部屋に通されるとは思ってなかったけど。 あわてて周囲を確認するが、しんと静まり返っており、だれもいない。 どうやら対戦者の【菊池一文字】は旅館内の別の場所にいるらしい。 別の部屋か、それともロビーとかか。まさか温泉に入ってはいないよね。 窓の外を見ると、高く雪が積もっていた。 今もぼた雪が降り続けており、白はさらに分厚くなりそうだ。 持ってきた武器の確認をしつつ、次の行動を考える。 とりあえず旅館の全体構造を把握しなければならない。 テーブルに置いてある案内を見る。 『浜千鳥の湯』。それがこの旅館の名前らしい。 ぱらぱらとめくってみたところ、なかなかオシャレな旅館のようだ。 離れやメゾネット式の部屋なんてのもある。 げげ、大きな露天風呂は混浴!? 私はパスだな。 なんて場違いなことを考えながら、案内を懐のポーチにしまうと、部屋を後にした。 構造はもうすべて頭に入っていた。 その上で足を向けるのは、旅館のロビー。 まずは広いところに行って準備をしよう。 殺しの段取りは平常運転で組み立てられていた。 私は、迷宮時計の戦いを甘く考えていたことを知ることになる。 ◆◆ ロビーには黒山の人だかりができていた。 人? いきなり困惑させられる私。 前回が誂えたように1対1の戦場だったので、今回も邪魔は入らないものだと勝手に思っていた。 それがこの有様である。 不必要な殺人をするつもりはない。 それをよしとするところまでは、まだ私は狂っていないはずだ。 とりあえず菊池一文字を探さなくては。 そう思った私だけれど、ふと違和感を覚えた。 学校の体育館みたいに広いロビーの一角を人が埋めているのに、ひとりの声しか無いのだ。 空間を緊張感が圧迫している。 声はよく通っていたが、なんの話をしているのかよくわからない。 まずは何をやっているのか確かめないと。 人だかりをかきわけていくと、数人の大人たちを、シマリスのしっぽみたいな髪型の女の子が見据えている。 女の子はすっと指を大人たちのひとり、優しげに目を細めた白衣の男の人に向けると、高らかに宣言した。 「犯人は、お前だ! ――真戸才炎!」 ◆◆ 名指しされた『まどさいえん』さんは、柔和な笑みを崩さずに、女の子に問いかける。 不思議なほどに落ち着いていて、まるで意に介していない様子だ。 「いやはや、驚きましたな。ワタクシが殺人犯とは? いかなる根拠を持ってそう仰っているのでしょうか」 至極まっとうな反論がなされる。 それに対する女の子の返答は、およそ通常のセオリーからかけ離れたものだった。 なんだかそわそわした様子の彼女は、時計を見ながらこう言った。 「うーん、順を追って説明するのが筋だとは思うんだけどね、ちょーっと時間がないの! だから、さっさと私がやりましたーって自白してくれるとありがたいな!」 『ショウ子、それはいくらなんでも乱暴すぎるぞ』 どこからともなく渋い声が聞こえた。 『しょうこ』と呼ばれた女の子の言葉を耳にした聴衆に困惑の様子が広がる。 しかし、ざわざわとした中で『まどさいえん』さんは懐から聴診器を取り出す。 普通のお医者さんみたいに聴くところを耳に入れると、体に当てる部分を女の子に向けた。 やや待った後に口にした言葉は、さらに予想外だった。 「ワタクシの『聴心器(ノゥティシア)』で診ても、結論と真実に相違なし、か。……いいでしょう。河合相馬さんと久美飛太さんを殺害したのは確かにこの、真戸才炎でございます」 どよめく周囲の人たち。 私もビックリだ。 こんなにあっさりした解決編、推理小説でやったら燃やされちゃうよ。 「おっと、まさかホントに白状してくれるとは。話が早くて助かるよ。おかげさまで今度は尺が余っちゃったからさ、いつもは『あっち』で訊いてるんだけど特別にいま、河合さんと久美さんを殺した動機を訊いてあげるね!」 女の子も驚いた様子で、目を丸くしている。 なんか本当にうちのシマリスみたいでカワイイな。 それはさておき、動機ねえ。なんだろ。てか、『あっち』も気になる。 「動機ですか……。いや、ここの温泉はケガにとても良く効くと聞いたのでねえ、医者としては試してみたくなったんですよ……」 白衣の男の人はなおも笑みを崩さず、むしろ口をさらに大きく歪めていた。 そして。 「……ワタクシが『オペ』を『失敗』してしまっても、元通りにしてくれるんじゃないかってなァ~~~~!!」 彼はその細い目をカッと見開いて絶叫した! これはあれだ、映画とかに出てくる悪い博士みたいだ。 白衣をバッと露出狂のように開くと、そこにはメスがずらりと並んでいる! 「イヒッ!イヒヒヒッ!! ワタクシの『オペ』を待っている患者さんはゴマンといるんDeath!!こんなところで捕まるわけにはいかないんDeathよォ~~!ケェッヒャァーーーー!!!!」 大仰なモーションで体を揺らしていた彼は、突然その首をぐりんと私の方を向けた。 えっ、私? 「さあさあ小娘! ワタクシの人質になりなさァい! と言いたいところDeathが、このままの勢いで突っ込んだら殺人メスが心臓貫通血まみれ殺でございますゥ! ヒヒャア! こいつはワタクシついウッカリー★」 メスを両手に4本ずつ指の間に挟んで、私の方にとても楽しそうに突っ込んでくる。 その顔の笑みは歪みきって凄絶だ。 あ、これ記憶の片隅にこびりついちゃうやつだと思いながら、私は懐に手を伸ばす。 すると。 「危ねえっ!!」 男の人の声がしたかと思うと、銀色のマントをした赤髪の男の人が、私の前に立ちふさがった。 ちょ、ちょっと、メス刺さるよね!? そんなことしたら……。 恐る恐る男の人の様子を肩越しに窺ってみる。 けれど、なぜかメスが粉々に砕けているだけだった。 「ケヒャッ!?」 動揺している『まどさいえん』さん。 そんな彼の頭を、赤髪マントの人は鷲掴みにする。 「よう、ずいぶんとファンキーな面構えじゃねえか、お医者サマ。裏切り者で、恩知らずの目ぇしてやがる」 「お、お前、生きて……。そんなことより、ワ、ワタクシのメスが、粉々にィ……?」 なにやら因縁がある様子だ。 赤髪の人の拳が固く結ばれる。 「このマントはなあ、己の道をまっすぐ突き進んで行くためのマントだ」 彼はマドさんをバレーのサーブのように高く放り上げると、 「テメーの曲がった刃じゃ貫けねえんだよ!!」 完璧なタイミングで右straightをマドさんの頭にブチ込んだ! 「ボギョゲェェェ~~~~~~!!!」 奇声を発しながら吹き飛んでいくマドさん。 床に何回かバウンドしてようやく止まった。 彼のもとに『しょうこ』ちゃんが駆け寄っていく。 指で顔を突っついたりしても起き上がることがないことを確認すると、彼女は良く通る声で叫んだ。 「よっし! 事件解決! ……だよね? 女将さーん!」 『……これで仕事したといえるのか? ショウ子』 さっきの音源不明なダンディボイスがツッコミをいれている。 ショウコちゃんは赤髪マントを指差しながら反論する。 「しょ、証拠集めはちゃんとしたもん! 自白しなかったら普通に突きつけてやるつもりだったよ? まさか犯人を叩きのめしてくれるとは思ってなかったけど」 「だれが証拠だっての」 「ご協力、感謝します。……よっと」 ショウコちゃんはマドさんを軽々と肩に担ぐと、山高帽子を空いた手に取り、恭しく一礼した。 「それではみなさんごきげんよー! 山禅寺ショウ子でしたっ!」 顔を上げた彼女はそう言うと振り返り、一歩踏み出した。 すると、彼女も担がれていたマドさんも、忽然と姿を消してしまった。 ……いやー、不思議なこともあるもんだ。うん。 とりあえず、助けてくれたお礼を言わなきゃだね。 「あの、ありがとうございました」 赤髪の人にぺこりと頭を下げる。 彼は手を顔の前で振りながら言った。 「いやいや、俺は全てを救うって決めたんでね。……危ないぞ? そんなもん振り回したら」 おっと、気づかれていたらしい。 糸切鋏はさっさとしまったはずなのに。 「私じゃなくて、犯人の人を助けたってこと?」 「飛び出した時は無我夢中だったけどなー」 油断ならない人。 どうやらこいつで間違いなさそうだ。 「ふーん。もしかしなくても、あなたが……ってわあ! 血が!」 頭から血が流れている。 赤いのは髪の毛だけじゃなかった。 「え? ……ぬおわーっ!?」 赤髪マントはさっきまでのカッコいい様子とは裏腹に、情けない声を上げた。 旅館の人たちが救急箱を持って駆け寄ってくる。 まあ、とりあえず話を聞いてみましょうか。 ◆◆ 「殺人事件……」 「そう。夕べにな、風呂場で人が殺されてたんだ。でもこの旅館は高台にあるんだけど、昨日からの猛吹雪で車が登れなくて、警察が来られない。で、俺がなんとかしなきゃっと思って現場を調査したら、あいつのピアスが落ちてたんだよ。それを探しに来ていたあいつに見つかったのかな? 後ろから思いっきり頭を殴られて、崖から突き落とされたんだ」 「え、よく生きてましたね」 「まあそこはほら、俺魔人だから。気がついたら朝になってたけど。それでなんとか旅館に戻ろうと雪まみれになりながら坂をえっちらおっちら登ってたら、依頼を受けたあの探偵さんとはち合わせたわけよ」 「依頼?」 「ああ。今朝もうひとり殺されてたみたいでな。警察はまだ来るのに時間がかかるってことで困り果てた女将が呼んだらしい。……転校生の探偵をな」 「転校生……」 「なんでも、50分で事件を解決しないとダメなんだってよ。それで本当に解決しちまうんだから、やっぱすげえよなあ」 赤髪の人に何があったのか尋ねると、なかなかにショッキングな話だった。 推理小説そのまんまじゃないか。 警察なにしてんのって思ったら、ここはなんと和歌山県の海岸沿いの旅館らしい。 この大雪は観測史上初めてといっていいぐらいの異常気象ということで、車を動かす準備がなかったとのことだ。 そこに現れる転校生……。この世界、大丈夫? それよりも、昨日この人が旅館にいたということは、試合会場にこの人が先に転送されていたことになる。 おおむね12時間ぐらいだけど、私にとっては大きすぎて余りある時間だ。 なんということ、そういうところも平等じゃないのか……。迷宮時計、思ってたよりも厄介だな。 てゆーかそれよりもっと大事なことが! 私には確かめないといけないことがあるんだ。 「もうひとつ訊きたいことがあるんだけど」 赤髪マントの目を見据える。 向こうも、しっかりと視線を合わせてきた。 「あなたが、菊池一文字さん?」 「おう! 俺が菊池一文字だ。それを尋ねるってことは、君が刻訪結ちゃんかな? ……って訊くまでもないな!なんつー目ぇしてんだよ」 あっけらかんと答える菊池一文字。 なんつー目ってどーいう目だ。 そんなに怖い顔してた? 表情が顔に出やすいのは、私も真実と一緒みたいだね。 「いまここであなたが死ねば、私の今日の戦いは終わるわ」 「まあそうだけどさ、俺の話、っていうか……『トキトウ ハジメ』の話、聞きたくない? 結ちゃん」 「!!」 操絶糸術を繰り出そうとしていた私の指が止まる。 いま何て言った?? きっと今度は私の目は驚きでいっぱいになっていただろう。 「おっ、良いリアクション。ただ、条件を付けさせてほしい」 「条件?」 「だから顔怖いって。まずひとつ、俺たちが戦うのは明日にしてほしい。いくらなんでもこのケガじゃあ、結ちゃんに勝つのは難しそうだ。だけどここの温泉は戦闘魔人も御用達の秘湯でね。切り傷なんかは湯にしばらく浸かっているだけであっという間に治るんだ。……さすがにバラバラになったものを元通りにはできないけど」 もったいぶる方が悪い。そりゃあ顔も怖くなるよ。 で? てゆーかさっきから結ちゃん結ちゃんって何だ。なれなれしい。 「そう言わないでよ。で、もうひとつ、戦う場所は、ここの大浴場に決めておきたいんだ。この旅館には人が他にもたくさんいるだろ? そこで俺たちが暴れたら、大きな被害が出るだろうし、まあ物は壊れるだろう。だから、広い場所で戦いたいんだ。旅館の人には、俺が犯人探しに協力するかわりに場所を貸してほしいと頼んで、オッケーはもらってる」 まあ別に悪くはない。お兄ちゃんがいなくなってから死体で見つかるまでの話はパパもママも知らなかった。 誰も知らないことをなんで縁もゆかりもないコイツが知ってんのかはとりあえず置いておこう。 ただ。 「私にとって良いことは一つだけなのに、あなたのお願いは二つあるよ」 これは納得ができない。 私は今からでもあんたを殺せるんだぞ、こら! 「それもそうだな……。じゃあこうしよう。俺のマントの秘密を教える」 「……いいの?」 「ああ。俺の『シールドマント』は表面に時空斥力が働いていてね、無機物の攻撃はほぼ通用しないんだ。俺がいつも傷だらけで帰ってくるからって14歳の誕生日に母さんからプレゼントされたんだぜ」 「後半の情報いらない。てか私まだ、戦うの明日でいいって言ってないんだけど」 そうやって自分のペースに持ち込む作戦か! 本当に油断ならないヤツめ。 そう思ったら。 「…………あっ」 途端にうろたえる菊池一文字。 もしかして素? ゆかいな人だなー。 そんなことを考えたら、頬が緩んでしまった。 「ふふっ。いいよ、明日で。お兄ちゃんの話、気になるし。それに、どっちみち勝つのは私だから」 「負けねえぞ?」 友好のしるしの握手をする。 大きな手だった。 初めて会ったはずなのに、不思議な安心感があった。 「さてと、それなら部屋に案内してもらわないと」 「ああ、部屋なら……」 菊池一文字がなにか言いかける。 でも私はそれを遮った。 会話の主導権は渡さないよ! 「メールでしょ? 試合のお知らせと一緒に付いてたよ。部屋の名前だけで旅館の名前はなかったけど!」 私はそれだけ言うと受付(この旅館ならフロントかな?)に走る。 時刻は15時を回っている。もうチェックインできる時間だ。 休めるならさっさと休みたい。 「刻訪結様……はい、お伺いしております。白浜の間、菊池様のお連れ様ですね」 そうそう白浜の間……って、えぇ? きょとんとしている私の顔を見て、受付のお姉さんの顔も不思議そうになる。 「お二方、3泊4日でお部屋をお取りしておりますが……?」 「え、ちょ、ちょっと待ってください!」 あわてて私は菊池一文字の方に戻る! 「ちょっとどういうこと!? なんであなたと同じ部屋なの!?」 「そう言われても、俺も昨日聞いたら、そうだって」 「イヤだよ一緒なんて、ねえ、どうしよー」 「うーん、空いてる部屋が無いか聞いてみたら?」 今度は受付に戻った私は、恐る恐る尋ねた。 「あの、別々のお部屋にすることって、できませんか……?」 「申し訳ございません、本日は満室でして」 受付のお姉さんの困った顔が胸に刺さる。 ……どうしようもない……! 「あ、はい、わかりました……」 絶望的な気持ちで再びロビーのソファーで横になっている菊池一文字のもとへ向かう。 対戦相手の男の人と、一緒にご飯食べて、一緒に寝る……? ありえない!! 「ん、どうした? って痛い痛い! 叩くな! 傷が開く!」 やり場のない気持ちを拳にのせる。 ああ、パパ、ママ、ごめんなさい。 私、男の人と温泉旅館でお泊りしちゃいます……! 《2》 「うおー! こ、これがクエ鍋……! うまそ~~!! えっ、カニもあるんですか? やったー!」 夜ご飯の時間になった。 お部屋に続々と料理が運ばれてくる。 白浜の間は、私が最初に転送された部屋だった。 お鍋にはダシがはられ、具材が山盛りになったお皿がテーブルに並んでいる。 お刺身や焼き物も本当に美味しくて、舌がとろけそう。 でも、このあとのことを考えると、どうしても憂鬱な気分になってしまうのだ。 「あっ、ビールもう一本ください」 そんな私の気持ちは露知らず、彼……菊池一文字は、浮かれた様子だ。 てか飲んでるし! 旅行か! 「いいの? お酒飲んで。私とそんなに年ちがわないよね?」 「いいよ、18だもん。結ちゃんはいくつ?」 「14歳。……って、ダメじゃん!」 なんでドヤ顔なんだろう。 ため息が出る。 すると彼は、ちょっと神妙な顔になって言った。 「あー、実は俺、未来から来たんだ。今って西暦何年?」 「2014年だけど」 「じゃあ60年後だな。まあ結ちゃんの世界と地続きとは限らないけど。60年後の世界は、お酒もタバコも18歳からなんだ」 「ほんとう……?」 なんかだまされてる気がする。 でも彼は真面目な表情だ。 もうちょっと聞いてあげてもいいかな。 「マジマジ。でもなー、魚とか果物とかは全然とれなくなっててな、メチャメチャ高級品なんだ。ほら、回転寿司ってあるだろ?」 「あるけど」 「あれな、2074年は一皿100万円なんだ」 「えっ」 「とんでもないよな! 目ん玉飛び出そうだぜ」 なんか未来も大変っぽい。 魚や果物が食べられない世界か……。結構イヤかも。 「大変なんだね」 「そうそう。だからさ、試合会場が2014年の温泉旅館になって、俺すっげー嬉しかったんだ。食べたこともないようなウマいものが食べれる! ってな」 「ふうん……」 彼は本当に嬉しそうだった。 美味しい海鮮料理が食べられることに心から喜びを感じている顔だった。 その表情が、少し、悲しそうに曇った。 「だからさ、その……。もうちょっと美味しそうに食べてくれると、俺の鍋ももっとウマくなるかな、って……」 「おんなじ鍋じゃん」 「いや、そうだけどさ、こう……気分的な?」 まあ知らねえやつと食べても楽しくないかもな、とかなんとかぶつぶつ言っている。 その様子を見ると、ちょっと申し訳ない気持ちになった。 改めて鍋に箸を伸ばしてみる。 お豆腐がゆらゆらと揺れている。 そっとつまんで小皿に取る。 お魚やカニが昆布ダシにさらに味を加えていて、それらを控えめにしみこんだお豆腐は、まさに絶品だった。 「……美味しい。」 自然と顔がほころぶ。 それを見た彼は、さっきまでよりも、もっと嬉しそうに笑った。 ◆◆ 夜ご飯を終えた私たちは、おなかいっぱいになってしまった。 片づけて布団も敷いてもらったので、私はごろごろしていた。 ここが闘技場だったら私はもう八つ裂きだ。 そう考えると急に罪悪感が芽生える。 「風呂入んねえの? すぐそこにあんのに」 そんなことはおかまいなしに彼が訊いてくる。 この部屋には露天風呂がついている。 それはそれとして、こいつは何を言っているの? まったくもってありえない。 「あなたも入るお風呂に入れるわけないじゃん。あとで大浴場行くし」 「大浴場な、今日閉まってるぞ」 ……またまた大問題。 はいはい、今度はどうしてですかぁ? 「いや、風呂場で昨日人が殺されたって言ったっしょ? 警察は結局昼過ぎに来たみたいだけどさ、捜査だなんだで掃除ができなかったから、今日は閉めるんだってさ。まあ犯人が転校生に連れて行かれちまったから、そんなに大がかりな捜査じゃなかったみたいだし、明日にはまた開けるみたいだけど」 「要するに、今日は部屋のお風呂に入るしかないってこと?」 「そうなるな。まあ、これが世界の意志ってやつなのかも」 いったいどういうことだ。 何が世界の意志だ。 こんな世界なんて滅びてしまえばいい! ああ、そうか。これが彼のいう『世界の敵』が生まれる瞬間か。 ……なーんてね。 しばらく現実逃避をしていたが、これだけは言っておかなくてはいけない。 「………………ぜっったい、みないでよ!! 覗いたら殺すから」 「だれが中学生の裸なんて見るかよ。ていうか殺すってのが冗談に聞こえないんですが」 「冗談じゃないもん」 クギを刺しておく。これだけ言えば覗きはしないだろう。 脱衣所の扉を閉めると、制服とストッキングを脱いでカゴに入れる。 現れたのは、包帯でぐるぐる巻きの体だ。 丁寧に外して、それもカゴに入れる。 嫌いだ。プールも温泉も。 みんな私の傷痕だらけの体を見れば怖がるから。 授業では一度もプールには入ったことはない。 温泉は『刻訪』の旅行でたまに行くからしかたなくついて行くけど、お風呂に入るのは夜遅く、閉まる直前だ。 それでも人に遭ってしまうこともある。 妖怪でも見たような顔をされる。 ママが一緒に行ってくれるけど、嫌なものは嫌だ。 体を見られて怖がられて、良い気分の人なんていないだろう。 脱衣所を出て、湯船へ向かう。 まあまあおっきくて、ゆっくり浸かれそうだ。 さっき恨みごとを言ったばかりだけど、お風呂自体は嫌いじゃない。 家では、入浴剤をいろいろ試している。 雪は私が来た時よりだいぶ小降りにはなっていたが、それでもまだ降っていた。 足を進めると、背中に水が垂れてきた。 冷たい! 「ひゃあん!」 大きな声が出てしまった。 脱衣所の軒先から雫がぽたぽたと滴っている。 雪が溶けているようだ。 やれやれと思いながら湯船に入ろうとすると、 「どうした!?」 「いやぁ!!」 バカが外に出てきた。 信じられない。 「す、すまん! ……おい、それ、どうしたんだよ」 謝る彼だが、視線は私の体に留まる。 みるみる顔が怖くなる。 心がきゅうっと縮みあがる。 また、この目だ……! 「見ないでッ!!」 私は座り込んでしまった。 雪が素肌に突き立てられる。 冷たい。痛い。 でも、立てない。その顔がなにより怖い。 「酷いでしょう、これ。男の人に体の痕をみられちゃうの、初めてなんだからね」 震える唇から、言葉が零れる。 頭や肩に雪が積もってきた。 冷たい。寒い。 でも、動けない。 「おねがい、このことは忘れて? 明日手加減されたりなんかしたら、イヤだか――」 「忘れられるかよ!」 言葉を機械のように繰る私の手を、彼が強く握る。 顔を上げると、彼と目が合った。怖い顔をしていた。 でも、私の恐れるものとは、よくみたら少し違っていた。 「実際何があったのかは、俺にはわからない……。でも! お前が辛い目に遭ってきたことは、よーくわかった! お前も、必ず俺が救ってみせる」 「……どうやって?」 「そ、それは……。……なんとかする! そうだ、迷宮時計の力で……」 彼は真剣そのものだった。 こんな人、いるんだな……。誰かのために、ここまで本気になれる人。 でも、それはそれとして、言わなきゃならないことがある。 「お礼を、言いたいところだけど。……いつまで私のカラダを目に焼き付けておくつもりなの……?」 「あ、これは、えと」 急にあたふたする彼。 このパターン何回目? この短い時間でね! 「さっっさと帰れ!! ばかーーーーー!!!!」 つかまれた手を振り払い、手桶を投げつける。 あわてて彼は部屋に戻っていった。 まったく、油断も隙もないんだから! 湯船にようやく入る。 積もった雪はあっという間に水になり、温泉の湯と一緒に流れていった。 熱が体に伝わっていくのを感じる。じんわりと。 口元までお湯に浸かりながら、こっそり言葉を紡いでみる。 「…………ありがと」 今日のお風呂は、体の中まであったかくなった気がした。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 風呂から上がった俺は、鏡で傷痕をチェックする。 じっくりと温泉成分を染み込ませた傷は、もうすっかり塞がってた。 部屋に戻ると、結ちゃんがいない。 あ、あれー!? と思ってたら、すぐに帰ってきた。心配させやがって。 「お、どこ行ってたんだよ」 「ちょっと夜風に当たりに行ってたの」 「そか。おかえり」 「……ただいま」 浴衣姿の結ちゃんは、いまだ部屋の入口にちょこんと立っている。 なんかまた距離を感じるぜ。気まずい……。 と思ってたら、普通に話しかけてきた。 今度も取り越し苦労だったらしい。予想を超えられるのは悪い気はしない。 「てかお風呂長くない? あっ、もしかして私が入った後だからみたいな気持ち悪いこと考えてた?」 「誰が考えるか! 傷をお湯に浸けてたんだよ。しばらくっていっても2時間はかかるから」 「ふーん。そうやって言い訳しながら私の入ったお風呂に潜ってたと」 「ちげぇよ!」 俺をからかってきた結ちゃんは、ふっと屈むと、手を俺の額に伸ばしてきた。 傷痕に触れると、感心した様子になる。 「傷、くっついてるね。すごい効き目……」 「だろ。それにしても、ずいぶん近いな。ちっとは慣れてくれた?」 「なっ、もう! うるさいうるさい! ばか」 いかんいかん、つい軽口を叩いてしまう。 しっかし、昨日今日とほんとに疲れたなあ。 瞼が重くなる。 「さて、そろそろ寝ますか。」 「そうだね。いろいろあって疲れちゃった。あっ、ここから向こう来ちゃダメだから」 「はいはい。わかりましたよ」 どうやら結ちゃんもおんなじ気分だったみたいだ。 防衛ラインが引かれているが、まあ仕方がない。 布団に潜り込んだ彼女が、小さな声で口にしたのが聞こえた。 「……おやすみ」 「おやすみ。良い夢を」 ◇ ふと目が覚めた。 ごそごそと音がする。 隣を見ると、結ちゃんが部屋の扉に手をかけていた。 「どこ行くんだ?」 「ひゃ! えーっと、夜風に当たりに」 「またかよ。雪積ってんのに。風邪引くぞ」 「関係ないでしょ」 「あるね。隣で寝てるやつに体調崩されたら気分悪い」 「もう、いちいちそういう」 まさか俺が起きているとは思っていなかったんだろう。 声をかけられた結ちゃんはびっくりしていた。 すぐにいつもの調子になるが、様子がなんだかおかしい。 具体的には、表情が出会ったときのように恐ろしかったのだ。 「……ほんとに、なんつー顔してるんだよ。何を抱えてるんだ? あ、もしかしてさっきのまだ怒ってる? いやあ、本当に申し訳なかったです……」 「それはもういい」 表情は相変わらず怖いけど、少し柔らかくなっている。 結ちゃんは布団を俺のに寄せると、すとんと腰を下ろした。 そして静かに、問う。 「ねえ、あなたは、人を殺したことって、ある?」 唐突だった。彼女は続ける。 「私はあるよ。たくさん、たくさーん。もうね、何人殺したかも覚えてないの」 返す言葉を探す。彼女は続ける。 「それでね、とうとう親友も殺しちゃった。理由? 迷宮時計が欲しかったから。……ただの強盗だよ。人殺しのね。こないだも1回戦とかいって、同い年の子を殺したよ。生き残るために、ううん、私の願いのために。私は私のために他人の命を奪ってる」 返す言葉が見つからない。彼女は続ける。 「みんなが、私を見てる。二度と開かない瞳で、私を見てる。瞼を閉じるたびに視線を感じるから……眠れないの」 そこまで語ると、彼女は口を噤んだ。 何を話せばいいか、まだわからない。 でも、質問に答えることは、できる。 「俺は、人を殺したことがあるかどうかもわからない」 正直でいよう。そう思った。 「世界を救うために俺は『世界の敵』と戦ってきたけど、中には人間もいた。思いっきり殴り倒しもしたし、こないだ襲ってきた奴は海に突き落とした。死んではいない、と思う……。けど、死んでたっておかしくない」 結ちゃんの瞳が揺らめく。 何を想ったのかはわからない。 でも、伝えたいことがあった。 それが、求められてる答な気がしていた。 「自分を貫くってことは、誰かとぶつかることだって、母さんが言ってた。それで折れちまうようなら、最初から突っ込んでいくんじゃないって。だから俺は、俺の信じる道を行く。反省はしても後悔はしない。って、決めたんだ」 心のままを、伝えられた。きっと。 沈黙が流れる。 結ちゃんはじっと俺を見ている。 じぃっと見ている。 ……ふっと、口元がほどけた。 「なんか、お兄ちゃんみたいだね。あなた」 「ハジメくん?」 「うん。お兄ちゃんは、邪魔するものは全部斬り倒すって言ってたけど」 「ほんとだ、俺みたいだ」 結ちゃんのお兄ちゃん……。あの人は、俺と同じくらいの年だったと思う。 悲しそうな顔をして戦っていた。 彼も、自分を貫こうとしていたのだろう。 そういう意味では、似ているのかもしれない。 「でしょ。……ねえ、手を握ってもいい?」 また唐突だ。 どうしたんだろう、急に。 「……私が眠れない時には、パパやママにね、手をぎゅっってしてもらってたの。お兄ちゃんは私が最初面倒みてあげてたのにね? いつのまにか頼もしくなっちゃって……。あなたもね、私のお兄ちゃん第5席に任命してあげる」 そうなのか。手を握ってもらってたのはまあわかる。 でもなんなんだ第5席って。アレか。結ちゃんもう眠いんだな、たぶん。 とりあえず相手してやるか。 「ずいぶん格下だなあ」 「まだ新米だもん。……ダメ?」 ちょっと悲しそうな顔になる。 ダメなはずがない。 「……いいよ」 「やった! ……おやすみなさい、お兄ちゃん」 「おやすみ、結」 「何呼び捨てにしてんの? 気持ち悪っ」 「お、お前なあ! ……えっ、ダメだった?」 「ふふふっ」 結ちゃんは手を握るといたずらっぽく笑って、それから目を閉じた。 すぐに、すうすうと寝息が聞こえてきた。 やっと眠れたみたいでなによりだ。 そう思い、改めて結ちゃんの顔を見る。 途端に、いま自分の置かれている状況がどういうものかを知って愕然とする。 浴衣の女の子の手を握って、一緒に寝ている……? 『ガーベラ・ストレート』には若い女の人はほとんどいなかった。 母さんたちも言っちゃなんだけど、あれはおばあちゃんという方が正確だ。 こんなに女の子と間近に接したことはない。 顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。 「……うぅん」 結ちゃんがごろんと寝返りをうった。 浴衣の裾から素足がのぞく。 ときどきむにゃむにゃという結ちゃんは、どんな夢を見ているんだろうか。 悪い夢ではなさそうだけど……。 「えへへ、おにいちゃん……」 長い夜になりそうだ。 俺は明日死ぬ覚悟を決めた。 -2nd(一文字は3rd)- 朝の陽ざしが窓から差し込んでいる。 どうやら雪はやんだようだ。 結局、あれから一睡もできなかった。 「……おはよ。すごい顔してるね、眠れなかった?」 結ちゃんが目を覚ました。 うーんと伸びをしている。 言われて鏡を見てみたが、ばっちりクマができていた。 まあ、眠れなかったと正直に言ってもしょうがない。 「いや? そんなことはないですよ?」 「私はね、すっごく良く眠れたよ! こんなの久しぶり」 「そっか。それはよかった」 ほんとに良かった。役得だけにならなくて。 すがすがしい表情の彼女を見ていると、自分の心も洗われるような気がした。 「ありがとね」 「どういたしまして」 朝食の時間になった。 けっこう豪華だ。朝から。 結ちゃんも目を丸くしている。 「おお~」 「たいしたもんだなあ」 食べている時の彼女はとても楽しそうだった。 昨日とは大違いだ。 ……とても、これから殺し合いをするとは思えない。 そう考えると俺が、今度は憂鬱な気分になる。 これも、昨日とは大違い。 「美味しいねっ」 「ああ。美味しいな」 食事が下げられると、戦闘の準備を始める。 といっても着替えるだけだけど。 結ちゃんも脱衣所にこもると、すぐにセーラー服になって出てきた。 「はあ。やっぱり肌が隠れてる方が落ち着く」 「そういうもんなの?」 「そういうもんなのっ」 どちらからともなく部屋を出る扉に歩みを進める。 もう、時間は待ってはくれない。 「じゃあ、いこっか」 「そうだな」 勝負の時が、やって来る。 ◇◇ 「ひろーい」 「50人近く入れるんだってさ……すげーな」 大浴場に入るのは、俺は一昨日に続いて2回目だけど、やっぱりデカい。 湯船にはお湯がはられている。なぜだ。かけ流しだから? よくわからないけど、まあ旅館の都合だろう。 観客はいない。危ないから人払いをしてもらった。 初日からやけに話が早く通るが、どうやらこの温泉では泉質のせいか、たまにこうして決闘が行われるらしい。 ケガしている人が入ることの多い関係で、血を流されても掃除してくれるならそこまで困らないとのことだ。 入口と湯船の間のスペースで、ふたり向かい合う。 「じゃあ、聞かせて? お兄ちゃんの話」 ・ ・ ・ 俺は俺が劇場で見た通りに話した。 話はふたつあった。 4人でのバトルロイヤルを制した話。 ウィッキーさんという対戦者に屈し、自害した話。 包み隠さず話した。 それが勝負を待ってくれた、彼女に対する誠意だと思ったから。 結ちゃんの表情が曇っている。 どんどんどんどん濁っていく。 しかしそれは、自分の兄が死ぬ話を聞かされたからではないようだ。 それよりももっと強烈な不快感を彼女は撒き散らしている。 そして、予想もしなかった言葉が放たれた。 「……それ、だれの話?」 だれ? だれの話と言われても、『刻訪朔』くんの話としか言えない。 「お兄ちゃんの左手の武器は、おっきな大砲だよ? そんなピストルとか照明弾とかじゃらじゃらさせてるような、しゃらくさい武器なんかじゃない」 そうなの? それは自分には知る由もない。 「てゆーか、戦ってる映像が流れてたんでしょ? どうしてお兄ちゃんの名前を知ってるの?」 その疑問はもっともだ。 回答する。 「そ、それは、映像の最後に流れたんだ。スタッフロールみたいに全員の名前が、読み仮名つきで」 「本当にトキトウハジメさんがいたの?」 「ああ、時刻が訪れるに遡るっていう字の右側で、刻訪朔さんだろ?」 沈黙が流れる。 一拍。 二拍。 三拍。 ゆっくりと彼女が口を開いた。 「…………違う」 「えっ……」 違うって、どういうことだろう。 彼は彼女のお兄ちゃんではなかった? 「お兄ちゃんの名前は、創造の創でハジメって読むの。私がつけた名前……」 ぼそぼそ、ぐぐるる、と、低く唸るように声を発しながら、結ちゃんが一歩歩みを進める。 表情は見えない。 「ねえ」 怒りを押し殺した声を発しながら、結ちゃんが一歩歩みを進める。 表情は見えない。 「ねえ」 嘆きを押し殺した声を発しながら、結ちゃんが一歩歩みを進める。 表情は見えない。 「ねえ」 殺意を押し殺した声を発しながら、結ちゃんが一歩歩みを進める。 表情は見えない。 「私のお兄ちゃんは、どこにいってしまったの?」 目と鼻の先に結ちゃんがいる。 彼女は顔を上げた。 悲しみがそこにはあった。 「どこなんだよッ!!」 それはすぐに狂気に塗り固められた。 結ちゃんは手に持った針を俺の腕に突き立てると、そのまま針を貫通させた。 針には糸が結ばれている。 肉を糸が通過しようとする。 「ぐあああああっ!」 俺の体を通した糸を回収すると、憤怒に満ちた様子で呟いている。 どろどろと言葉が静かな浴場に溶けていく。 「もういい、これ以上ここにいてもしょうがない」 「フライングしちゃったのは謝るけど、殺すのはガマンしたから許して?」 「――さあ、“コロシアイ”を始めましょう」 《3》 結ちゃんは宣言すると、両腕をクロスさせた。 糸が絡みついてくる。 糸使いか! 「ぐおっ!?」 糸が絡みつく。 マントでも断ち切ることができない。 鉄糸ではなく、縫い糸を彼女は用いていた。 「ラアッ!!」 切断力に劣る糸は、一撃で俺を切断するには至らなかった。 能力を発動し、強引に糸を引きちぎって離脱する。 結ちゃんは、笑っていた。 その顔は、今朝見せてくれたものとは、似ても似つかないものだった。 「今のがあなたの特殊能力かな? わかりやすいね」 「さあな! これ以上はノーヒントだぜ」 正直とても怖い。 だけど、怖い時こそ元気! 俺は努めて明るく振る舞った。 「ま、答え合わせは必要ないけど。もう大体あなたの戦い方はわかったわ」 凄絶な表情で続ける。 「これから先、あなたには指一本だって私の体に触れさせない……これならどうかしら?」 そういうと彼女は湯船に飛び込んだ。 しかし、彼女の体は沈まず、水面の上に在る。 理解を超えた光景がそこにはあった。 「救糸舟(アルクノア)」 よーく目を凝らしてみると、糸が張り巡らされている。 もしかして昨日夜風に当たってきたと言ってたのは、そういうこと……? 「マジかよ……とんでもねえな糸使い」 改めて迷宮時計を懸けた戦いの怖さを実感する。 でも、ここで引き下がるつもりはない! 「けどな、俺だって世界の敵相手に命懸けて戦ってきたんだぜ? アマくみてもらっちゃあ困る!」 気合いを練り直し、能力発動を試みる。 さっきよりも出力は高まっている。 いい調子だ。 「行くぜ!『スカッドストレイトバレット』!!」 轟音を立てながら踏み込みが閃く。 水による速度の減衰など問題にならないレベルだ。 だが、俺の前には、結ちゃんの両手の指から蜘蛛の巣のように伸びている糸が張られていた。 「「超弾釣床(ハンコック)」 なすすべもなく糸に突っ込む。 エネルギーを上に逃がされた。 体が宙を舞う。なにもできない。 下を見ると、結ちゃんがなにかしているのがみえた。 腕に、刺繍……? ウソだろ……。 なんとか受け身をとりながら着地して前を向く。 結ちゃんはだらりとした姿勢で立っていた。 虚ろな視線が向けられる。 彼女の右腕には、小さく赤い菊の花が咲いていた。 「あーーーーーーーーーーーーーーーー…………………………………・・・・・・・・ ・ ・ ・ ・」 地の底から響くような声で彼女が呻き声をあげる。 瞳が紅く染まっていく。 狂気が心を射抜いていた。 次の瞬間、彼女の姿が消えた。 あっと思ったらもう、右腕が俺の頭めがけて振り下ろされていた。 右腕に持ってたのはなんだっけ、鋏か! ああ、俺死ぬのか……? 思考がぐるぐる回ってまとまらない。完全にパニックだ。 前すら見えなくなったところで―― ――ぽこん、と、衝撃が脳天に伝わった。 「痛ってぇ! ……え?」 「一本、だよ」 彼女の瞳の紅はさっきより薄らいでいた。 優しく、しかし冷徹に声が告げる。 「あなたは、私を救けてくれたから、勝負ありでおしまいにしてあげる……。さあ降参して? しないならこのまま殺す」 体は糸でがんじがらめになっていた。 もう、逃れる術はなかった。 「わかったよ。……『まいった』! 俺の負けだ」 ◇◇ 勝負はついた。 結ちゃんのポケットでケータイが鳴り響く。 メールを確認した彼女は、糸を解くと、あきれたような顔で言った。 「あなた、まっすぐすぎるよ。能力のスピード、もっと出るんじゃない。でも、全力で踏み込んだら衝撃波が旅館を壊しちゃうから、しなかった。だいたい、どうして試合の前に刻訪朔さんの話したの? 試合に勝ったら教えてやるぜって言われてたら、気になってしょうがなかったのに」 「それは、旅館の人たちにはお世話になったし……とくに俺は一日余分にな。まあ初日の夜は雪の中だったけど。話を先にしたのは……、後にしたら結ちゃんが俺を殺す気で戦えないだろ? 俺の都合で戦うのを待ってもらってるのに、それは公平じゃない」 思った通りのことを話したが、やっぱり怪訝な顔をしている。 「ほら。意味わかんない。……ま、そういうとこ、キライじゃないよ」 「ありがとな。……なあ、結ちゃん」 俺は、負けた時のために心に決めていたことを実行する。 「なに? 遠距離恋愛は受け付けてないよ?」 「アホか。……これ、受け取ってほしい」 着ていたマントを、彼女に手渡した。 「えっ……。大切なものじゃないの?」 「ああ。命の次に大事なもんだ」 「なら……!」 「でもな、これは自分の道を貫くためのマントなんだ。そして俺は今、自分を貫くことができずに折れちまった。だから、俺にこれを着る資格は無い」 「そんなことないよ。私なんかが、貰っていいわけないよ」 「いいや。結ちゃんは、自分の願いのために、ずっと戦ってきたんだろ? 戦い方はとてもじゃないけど許されるようなもんじゃない。数えきれない犠牲の上に今の結ちゃんがあることも、事実なんだ。……でも、誰にも負けずに、自分を貫いてきた、その結果が今なんだ! だから、ここにいるヤツでマントを着る資格があるのは、俺じゃなくて結ちゃんなんだよ」 「…………。」 沈黙。 構わず続ける。 「それにさ、今14歳って聞いたからさ? 俺がこれ貰ったのも14になった時だし。……誕生日、おめでとう」 顔をハッとあげる結ちゃん。 瞳がうるんでいた。 「誕生日は11月22日。1ヶ月遅れだよ……」 「うるさい妹だ。ほら」 マントをそっと肩にかける。 「わ、私……」 顔を伏せて、震える結ちゃん。 「私、まだ……。うれし涙は、残ってたみたいだね」 そして、大粒の涙が、彼女の瞳から零れた。 「……あ、あ、ありがとう、ございますっ……!! 」 泣き崩れる結ちゃん。 そっと、彼女の小さな肩を抱きしめた。 ************************* また朝が来た。隣を見ても、もうそこには誰もいない。 2回勝った特典かなにかは知らないが、迷宮時計が基準世界への帰還に24時間の猶予を与えたらしい。 勝者である彼女は戸惑った様子を見せたが、こう言った。 「あ、じゃあ、折角だし、もう一晩泊っていこうかな……」 それで昨日も豪勢な食事を楽しんで、温泉やマッサージで疲れを癒して、ぐっすりと眠ったというわけだ。 手は握らなかった。頼まれなかったから。 かわりに彼女はマントを抱きしめていた。 今度は俺がちょっと寂しかったけど、まあこれであの子が少しでも救われるのなら構わない。 チェックアウトを済ませると、庭に出て、海の方を見てみる。 雪は早々に融けつつあり、美しい砂浜が目に映るようになっていた。 「あーあ、負けちまったなあ。結ちゃん……結丹ちゃんか。強かったなあ」 戦いを振り返る。 言っても遊んでた時間の方がずっと長かったけど。 それでも戦闘のさなかの彼女の狂気に満ちた瞳は忘れられそうにない。 あれほどまでの殺意に触れたのは、18年生きてきて初めての経験だったのだ。 「修行しないとなあ。こんなザマじゃあ世界は救えねぇ」 悔しさに心が圧し潰されそうになる。 涙がこみあげてくるのを抑えられない。 徹子母さんが死んだときだって、堪えたのに。 「ちくしょう……ちくしょう!」 あふれる涙をぬぐうと、海の向こうに影が見えた。 見間違いだと思った。 しかしそれはあっという間に近づいてくると、海岸から砂浜に飛び出してきた。 それは、高さ20mはあろうか、超巨大な……蟹だった。 鋏の間からは青い炎が噴き出している。 砂浜の人々が逃げ惑う! 「な、なんだよ……。こんなところにも、来やがるってのかよ……!」 そう、超巨大蟹の正体は『世界の敵』。 基準世界でずっと戦ってきた敵だ。 急いで高台を駆け下り、ヤツの前に立ちふさがる。 あとは能力を発動して、あいつの殻を突き破るだけ。 ……しかし、俺の足は動かない。 それどころか、ガタガタと震えている。 誰かに敗北したのは、自分を貫けなかったのは、初めてだった。 それが俺から自信を奪ってしまったらしい。 『世界の敵』は目前に迫っている。 動け、動けよ! 俺の足! 必死で心に言い聞かせている俺の耳に、一度しか聞いたことがない、けれどよく知っている声が届いた。 「おいおいおいおい、見覚えのある赤い頭が突っ立ってると思ったらよぉ、なっさけねえ背中してやがる」 声の持ち主は、俺の背中をバン! と叩いた。 瞬間、体の中から力が抜けていくのが感じられる。 「借りてくぜ」 そういうと、女の子が蟹に向かって超音速で踏み込んだ! 『世界の敵』は頭部を精確に射抜かれ、さらに衝撃波に巻き込まれて爆散した。 残骸を掻き分け、女の子は颯爽と戻って来る。 「あのバケモノに比べたら、カワイイもんだね、こいつらも」 「か、花恋母さん……」 そう。潜衣花恋。 彼女がここにいた。 「ま、無事でなによりだ。おかえり、イチ」 二度と会えないと思っていた。 映像で姿を見たときには、奇跡が起きたのだと思っていた。 けれど、もっと素晴らしい奇跡がここにはあった。 おかえり、ってなんか変じゃねとか、 母さん若いねとか、 どうでもいいことから。 負けちゃってごめんとか、 母さんは元気なのとか、 大事だと自分が思うことまで。 たくさんの言葉が頭の中でいっぱいだったけど。 でも、一番最初に、言わなきゃいけないことがあるよな。 「――ただいま、花恋母さん」 [了] このページのトップに戻る|トップページに戻る
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246 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/01(日) 00 54 01.84 ID I/5kRpkmo 集合は正午過ぎ、昼飯を食べてからだった。 おかげ様で入学以来最ものんびりした朝を過ごすことが出来た。 ……溜まっていた家事とか、やれたら良かったんだけどな。 ゴロゴロするばかりで何も捗らなかった。現実は非常である。 だがしかし。 敢えて言おう。 「知るかバカ! そんなことより合宿だ!」 と。 そう、合宿だ。 温泉旅館に一泊二日で。 躍るわ、心が(倒置法)。 京太郎「う~~ベンチベンチ」 そんな訳で待ち合わせ場所である川沿いのベンチを目指しているのだ。 248 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/01(日) 01 13 52.34 ID I/5kRpkmo 雑多な荷物でパンパンになったバッグを揺らして走る。 この辺りだと思うんだけどな。 川沿いの、近くに橋があるベンチ。 穏乃「おーい、京太郎ー!」 京太郎「お」 穏乃だ。 こっちに向かってぶんぶんと手を振っていた。 駆け寄る。 京太郎「よーお待たせ」 穏乃「おはよ!」 灼「もう昼だけどね」 憧「ぶっちゃけ結構待ったわ」 レジェンド「時間にルーズな男はモテないぞー」 集合場所にはもう全員が揃っていた。 松実姉妹以外の部員と、レジェンド。 257 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/01(日) 01 47 40.04 ID I/5kRpkmo 京太郎「だったらまず集合時間をちゃんと決めてくださいよ。なんすか昼飯食べたら集合って。土曜の小学生ですか」 レジェンド「童心を忘れない勇気!」 ぬかしおる。 穏乃「んじゃ早く行こう!」ウズウズ 京太郎「あ、そうだな。……っていうか、お前は外でもそのジャージなのな」 穏乃「動きやすいからねっ!」 そういう問題だろうか。 憧「もー、しずってばいつまでもそんなこと言ってられないんだからね。いい加減オシャレとか覚えなさい」 穏乃「ウェヒヒ」 憧「笑って誤魔化さないっ!」ズビシ 鋭いツッコミを披露する憧は、穏乃とは対照的な、いかにも女子高生という装いだった。 入学式前日に見かけて以来、二度目の私服姿である。 京太郎「ふむ」ジー 憧「……? な、なによ」 京太郎「いや、私服が新鮮だなーって」 派手過ぎず地味過ぎず、センスの光るコーディネートだ。 とか言ってファッションとか知らんけどな。俺。 262 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/01(日) 02 02 37.58 ID I/5kRpkmo 憧「だからって見過ぎ! あっち向いてて」 京太郎「へーい」 あっち向く。 穏乃→憧と視線が動いたので次は鷺m ,.'`──、 _,.-'" ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`丶、 / `ー─'" ∴ `ヽ、 __,.-'"ヽ } ヾ . ∵ | ∵ ー'" ,.-'" { } `` ,,, | ,,, ー ,' ヾ ∵ | ∵ - ,' 三 、 ∴ | ∴ _, ヾ / 彡三 ` ∵ | ∵ '" 三 ミ 彡 _,,,,,,,,,,_ | ___,,、 三≦ 彡 ,' ヾ、 ¨ ゝ | イ ¨ ア ', 彡ミ } |  ̄ヾ! /`ー‐'" ', 彡 } |! |! |! ∴ 三`ヽ, ヽ |! |! |! |! ミ三 `ヽ、 } ` / ヽ 三 `ヽ、 } / \ ミ `ー─────── 彡 { ,、_,.-──、_,.、 |! / ヾ |! \,、 ,、ノ |! / 彡 ,.=キ'" \_/ `==|ミ、 / ヾ / /ヽ | `=/ミ、ヾ _,.-" \ ' _人_ / _,.-'" `rー-、,ヾ, '"´ ̄ ̄ ̄`ヾ、,.-'"´ } `'ヾ, , ,_, ,-'"´ ヾ / / | |.. . ゙、 . ゙、゙、. \ |. i | i |. ∧ 、.i. .i . ` 、. ! | |、 | | i | ! | | | 、 > | | i 「! ヽート!、 リ ! |ハ ト | ̄ ̄. ,..-、| i | !゙、 _、!二゙、-| イ リ ! |ヽ | / へ.゙、 丶ヾヽ ´{ i` ヽ! 1!| /| !ノ゙、リ ヽ \ !丶  ̄ Vイ ハ |\ i. 丶 \゙、 ` リ `ヽ `┬ 、 ヾ / i ;ィノ U ,....-ィ /,, ‐レリ _  ̄ /゛=!_ \ `ー-、_ _/ ゛== 、 \ / ̄ヽ、 ゛===-、 269 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/01(日) 02 15 03.45 ID I/5kRpkmo チーターだ! 違うTシャツだ。 鷺森部長のTシャツに潜む野獣の眼光が俺を射抜いていた。 灼「……」 京太郎「……」 灼「…………」 京太郎「…………」 灼「………………」 京太郎「………………」 /´〉,、 | ̄|rヘ l、 ̄ ̄了〈_ノ _/(^ーヵ L__」L/ ∧ /~7 /) 二コ ,| r三'_」 r--、 (/ /二~|/_/∠/ /__」 _,,,ニコ〈 〈〉 / ̄ 」 /^ヽ、 /〉 '´ (__,,,-ー'' ~~ ̄ ャー-、フ /´く// `ー-、__,| '' 京太郎「そのTシャツいいーーーっスねェーーーッ。すごくいいです、超イケてる」 灼「でしょ」フフン 俺は何も見なかった。 291 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/01(日) 11 13 12.92 ID I/5kRpkmo レジェンド「よーし、そろそろ本当に出発するよー」 「「「「はーい」」」」 という訳で移動開始だ。 宿泊先であり松実姉妹の実家でもあるという松実館へ、レジェンドの先導で歩き出す。 憧「ねえ、ちょっと」チョイチョイ 京太郎「お?」 その矢先、憧にシャツの背中を軽く引っ張られた。 穏乃と鷺森部長の推定身長140cm台コンビを先行させ、やや後ろの位置で並ぶ。 京太郎「どうかしたか?」 憧「ん……あのね、言うべきかどうか迷ったんだけど……やっぱり言っとくわね」 京太郎「?」 憧「……松実のおばさん――つまり玄と宥姉のお母さんね、二人が小さい頃に亡くなってるのよ」 京太郎「え」 急な。 言葉に詰まった。 それを見越してか、返事を待たず憧が続ける。 憧「あ、勘違いしないでよ。玄も宥姉も踏ん切りはついてて、今更ほじくり返すことじゃないってだけだから」 292 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/01(日) 11 14 41.56 ID I/5kRpkmo それはつまり。 何かの拍子に俺が松実姉妹に母親の所在を尋ねたりしないよう、釘を刺してくれたってことか。 京太郎「………………憧」 憧「な、なに?」 京太郎「お前いい奴だなぁ」 憧「ふきゅ」 京太郎「忠告ありがとう、気を付けるな」 憧「ぁ、べ、別に! あんたの失言でせっかくの合宿が白けるのが嫌なだけだし……」プイッ 京太郎「それでもいいよ。お礼に頭を撫でて差し上げたい」 憧「あと少しでも近づいたら舌を噛んで死ぬわ」ゴゴゴ... 京太郎「そこまでのことか!?」ガーン 憧「あのね、女の子の髪っていうのは気安く誰にでも触らせるものじゃないの。分かった?」 京太郎「へーい」 憧「そういうのはあたしじゃなくてしずにでもやってなさいよね」フン 京太郎「おーい穏乃ー。頭撫でていいかー?」スタスタ 穏乃「えー? いーよー」 憧「本当に行くなあ!! しずも簡単にオーケーしないっ!」ガーッ 315 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/02(月) 01 12 50.84 ID 3cNj9zjRo …… ………… ……………… ~松実館~ レジェンド「ごめんくださーい!」 エントランスっつーか玄関っつーか、な場所でレジェンドが声を張り上げる。 俺はその後ろでキョロキョロと内装を眺めていた。 思ってたよりずっと立派だ。 観光名所の老舗旅館、侮るべからず。 玄「はーい」パタパタ と。 足音を立ててやって来たのは玄さんだ。 その後方には宥さんの姿も見える。 姉妹は俺達の前でピタッと止まり、ビシッと背筋を伸ばして、 / . . . . . . . . . . \ , . . . . . . . .. . . . . . . . . . . . . . ..ヽ . . . ヽ / . . . . . . . . . . ′. . . . . i{ . . . . . . . . . .. . ..‘. ∧ / / / / .. . . . . . . .| . . . . . . | . . . . . . . . . .∨. ‘.. . / .イ ′ . . . . . { . . . ,| ... . . . {∧ . . . . . . . . . i . . . :. i ././ ′ !. .|....... 小 . .ハ__ . . . . iハ 斗 十 .ト . .| . ... i . i .′} . |. ! . . 斗{ . 「 丁i . . . .ト .V ヘ .{\ . .`! . . . | | |′.′ l . |.ト . . | ヽ 气{\ . { \ ヽ. \} . | { i . . .| 八. .|ヽ{ _ \ ,z≦ミ、| . .! . |! | /|. . . . ! ,ァ= =ミ ´ `'^| . | .小 |. / ! . . . .ハ ′ /i/, | . | .|i | ′ } . . | ∨ /i ' . . . .! . l { ○ ′. . .ト. . , 八 . .. } . l .‘ / .{ | . . . . { 込 ` ´ /} . . ./ . ! . ‘ / ; .| . | . . . . | 个 ..... .イ ∨ . . / /. .′ ∧ i /{ .! . | . . . . | / ノ}≧ - ´ {入 /. . ./i/ . .′ . . ‘. |{∧{.. .i . { . . ‘ . . / 乂 / / . . /V . . .{ . . . . . ‘. .′.. .八 !ム .七¨⌒} >t_ん / ./「/ . . 厂 ̄ ≧ 、 / . rヘ´ ヽ \ | ∧ ∧'ィ斗v′ . / ヽ. / . ′ 八_{ ̄≧ V__/イ´ {'リ . . . ′ / } / . . {⌒ヽ 八 z__{ }___, {.' . . ./ / | .′. . | \ 《 ハ下 . /. . . .′ , 小 / . . . .{ ヽ } ∧__/ }ハ ≧7. . . ./ / { ∧. / . ./.. . } . | く / } ; . . . . ′ .′/ { . .‘. / . ./.. . . .i ∨ } `≧-ヘ ∧ノ} . . . .{ . { .′ } . . ‘. / . /′ . . .} ‘. V| ∨ | ノ} . } j / / { . . . ‘. 「「松実館へようこそ!」」 〉 / \ 〈 〈/ / / / ヽ ヽ ヽ / / / / / ヽ ヽ ヽ 〈 i / / / ノ ノ | ヽ ヽ 、i 〉 〉j i / /| /.| j.| |、 i i i i 〈 〉 | i i jノ_, r+ー ''|'.! |'ゝ- 、 | | | i i | | |i´ j -! | ! r ゝ |-ゝ ヽ ` 、| | | | 〈 | | | ハゝ j_ヾ ヾ.ゝ 、ー!__\.、 | | | | 〉 .〉| | | |.' .r´ ミヽ '' ミヽ V ; | | | 〈 .i | | ト∥っ リ っ リ } | | | | 〉| | | ∧ ヾ==' ヾ=='' j | | |〈 .| | | |ヽ ' ' ' ' ' ' ' ' ' ./| | | リ 〉 .! | ! |、! ./ノ リ | リ 〈 〉! ヽ ! ゝ .r--.っ .ノ j i |/ 〉.i | ヽ、 ヽ--ゝ.、  ̄ _ ''--y / ノ 〈 〈 // ヽ ! 、 ゝ ` ヽ`iゝ-___.イー ''´ / // /| 〉 .〈〈! ヽ|ヾゝ ゝ /イ / /、 ヽ ./ヾ、 Y ./ / .ヽ\ 〈 / _ 、 ヽ_ / /r-- f'_ \ 〈 〉/ ! ヽ ヽ`ゝ 、____,__,__, r-./ / /. ヽ \ 〉 (重婚すべし) 323 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/02(月) 01 40 05.55 ID 3cNj9zjRo 穏乃「やほー!」 憧「来たわよー」 灼「お世話になります」 京太郎「着物が素敵です!」 憧「この流れで言うこと!?」 京太郎「バカヤロウ憧、憧バカヤロウ。今言わずしていつ言うんだよ!」 憧「誰がバカよ!」キシャー 玄「ま、まあまあ憧ちゃん……京太郎くんも褒めてくれてありがとうね。でもこれ、正確には着物じゃないんだよ?」 そう言って着物(じゃないらしい何か)の袖をフリフリさせる玄さん。 「いや、着物じゃん」と思っていると、 穏乃「二部式って言うんだよ京太郎。パッと見は着物っぽいけど、上下に分かれてて着やすいんだ!」 予想外の方向から正解が飛んできた。 京太郎「へ~……よく知ってたな穏乃」 穏乃「まあねっ」フフン 無い胸を張る穏乃。 憧「みんなで春休みにバイトして、その時に自分で着たもんねー?」 を、憧の無慈悲なネタバレが襲った。 京太郎「やはりそういうことか」0M0 穏乃「あー!? なんだよー言うなよ憧ー!」ムッキー 憧「ごめんごめん、しずが柄にもなく物知りぶってるのが面白くて」テヘペロ 342 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/02(月) 17 24 01.17 ID 3cNj9zjRo レジェンド「宥、親御さんは? まず挨拶しときたいんだけど」 宥「あ、父は今手が離せなくて……先にお部屋へお通しするように言われてます」 レジェンド「そか。じゃあみんな、荷物持って移動~」 穏乃「はーい!」 灼「よっこいしょういち」 玄「あ、お客様の荷物は私が!」アセアセ 京太郎「いや自分で持ちますよ」 憧「お金払ってないしねー」 ていうか今日は玄さん達も泊まる側だろうに。 だからこそギリギリまで家の手伝いをしてるのかな。 和服が似合う美人姉妹の案内で、俺達は今日泊まる部屋へ向かう。 ~客室~ 玄「はいっ、ここが皆様のお部屋なのです!」ジャーン 穏乃「おぉー!!」 憧「バイトで泊まった部屋より豪華~!」 灼「あの時は雑魚寝だったしね」 京太郎「すっげー……これがタダって、どんな手を使ったんですか監督」 レジェンド「人聞き悪いな!? 昨日も言ったけど、松実さんのご厚意なんだって。なー玄?」 玄「はい! お父さん、仕事が忙しくて父母会なんかにも中々参加出来ないのを気にしてて……」 宥「それで、折角だから部活でうちを使ってもらおうって」 京太郎「ええ人や……」ホロリ 343 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/02(月) 17 25 11.10 ID 3cNj9zjRo レジェンド「という訳で! 今日から明日の夕方までこの部屋で麻雀三昧だー!」オー 穏乃「麻雀三昧だぁー!!」ウオォー 京太郎「やることは普段と変わらないんすね」 憧「ま、文化系の部活だしね」 灼「卓があればどこでも構わな……」 レジェンド「なんだよノリ悪いなー。いつもと違う環境で打つのも楽しいよ? 温泉でリフレッシュも出来るしさ」 憧「温泉……! そうよね、また松実館のお風呂に入れるのよね」ウキウキ 穏乃「なんなら今から入る!?」ソワソワ 宥「あったかいお風呂……」ポワワーン レジェンド「その前に荷物下ろすよー。いつでも打てる状態にしとこ」 京太郎「そっすね。玄さん、俺の部屋はどこでしょうか?」 玄「え?」 京太郎「えっ」 憧「えっ?」ピクッ 345 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/02(月) 17 28 33.43 ID 3cNj9zjRo 玄「?」ヘケッ 京太郎「あの、俺の部屋は……」 憧「もちろん別に……あるわよね……?」 玄「えっ」 京太郎「えっ」 憧「えっ」 「「「………………」」」 玄「……あっ!」 「「えっ!!?」」 425 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 00 43 29.91 ID //kiubHoo 玄「どどどどうしよー!? 京太郎くんが男子ってこと忘れてたよー!?」 憧「はああああああ!? どうやったらそんな重要なこと忘れられんのよ!?」 玄さんの悲鳴と憧の絶叫が重なって響く。 それに気付いた穏乃達が俺達の方に集まってきた。 穏乃「なになに、大きな声出してどしたの?」 レジェンド「替えのパンツでも忘れた?」 レジェンド。 憧「ハルエー! 玄がまたやらかしたー!!」 玄「またってなに!? 私そんなにしょっちゅうやらかしてないよ!?」 灼「割とやらかしてるけどね」ズバァッ 玄「ズガーン!?」 宥「くろちゃー……」 ごめんなさい玄さん、付き合いの短い俺から見ても割とやらかしてるイメージです。 429 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 01 02 05.03 ID //kiubHoo レジェンド「で、何をやらかしたって?」 玄「うぅ……実は、京太郎くんがいるのに一部屋しか確保してなかったのです……」シューン レジェンド「あらま」 灼「あらた」 穏乃「えっ最初から同じ部屋で寝るつもりじゃなかったの?」 穏乃。 憧「当たり前でしょ!? あたし達まだ高校生なんだから、そんな、一緒の部屋とか……」ゴニョゴニョ 京太郎「まったくだぜ! 健全な男女が一緒の部屋で寝るなんて、まったく最ッ高だぜ!!」グッ 憧「ほらぁ!!!」 レジェンド「うーん……流石に今から別の部屋は取れないよな?」 宥「は、はい、もう満室なので……」プルプル 京太郎「困りましたねぇ(ゲス顔)」 いやはや本当に困った。 もつかな理性。 玄「………………京太郎くん!」 京太郎「ひょ?」 呼ばれて振り向く。 先程までしょげ返っていた玄さんが、何やら決意の面持ちで。 玄「わ、私の部屋に泊まる?」 どかーん。 448 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 01 27 52.75 ID //kiubHoo 憧「いやいやいやいやいやいやいやいや!! なに言ってんの玄!?」 玄「だ、だって、こうなったのは部屋を手配した私のミスだから……」 憧「だからって男を部屋に上げるなんてありえないでしょ! 何かされたらどうするの!?」 玄「大丈夫だよ! 京太郎くんは紳士だし、おもち好きに悪い人はいないもん!」 憧「今はおもち好きなことが最大の問題なんだってば!」 ヒートアップする口論。 どれ、少し落ち着かせるか。 京太郎「安心しろ憧、おもちでのみ論じるならお前は射程距離外だ」キリッ 憧「今そんな話してない!!!」バキィッ 京太郎「やぶへびっ!」グハァッ 火傷した。 憧「とにかく! あたしはこんな変態と同じ部屋で寝るのも玄の部屋で寝かせるのも反対だからね!」 穏乃「じゃあどうするの?」 憧「え…………………………帰ってもらう?」 京太郎「あァァァんまりだァァアァ!!!!!」 火傷じゃ済まされない問題になってきたゾ。 461 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 01 57 17.95 ID //kiubHoo レジェンド「んー、折角の合宿なんだし須賀くん一人だけ帰すのもねぇ」 穏乃「そうだそうだ! 京太郎と遊べなくなるじゃん!」 憧「う……」 いや穏乃は練習しろよ。と言いたいが黙っておこう。 レジェンド「てことで灼、なんかいい案ない?」 灼「え、私……?」 レジェンド「部長だからね」ニッ そういう君は監督・ジョースター。 灼「ふむ……まずハルちゃんの意思を尊重して、須賀くんも合宿に参加することが大前提として」 大前提なんすね。いや助かりますけど。 灼「やっぱり須賀くんも同じ部屋に寝かすのが無難だと思」 憧「え゛、なんで!?」 灼「憧が心配するみたいな変態行為を須賀くんがするとしたら、玄と二人っきりにするのは危険」 玄「わ、私は平気だよ?」 宥「玄ちゃん、静かに」 玄「はい……」 灼「なら同じ部屋で、大人数で見張ってた方が楽で確実。女子がこれだけいたら狼藉を働くのも大変だろうし」 憧「な、なるほ……ど……?」ウゴゴゴ 穏乃「決まりだね!」 鷺森部長って凄い。俺は改めてそう思った。 471 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 02 18 45.92 ID //kiubHoo レジェンド「そんじゃー寝床の問題も解決したところで」 憧「温泉でも入りたいわね……」ゲッソリ レジェンド「憧」 憧「え?」 レジェンド「須賀くんのこと名前で呼んでみ」 憧「は?」 オレェ? 急な話の流れに面食らう。 まあ、憧の方が驚いてるだろうけど。 京太郎「なんすか急に」 憧「そ、そうよ。名前って……よ、呼んでるじゃない」 レジェンド「一回だけでしょ?」 京太郎「一回だけですけどね」 憧「ふきゅ……」 478 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 02 41 01.78 ID //kiubHoo レジェンド「せっかく自分から歩み寄ったんだから、ちゃんと名前呼びを定着させよう!」ウムッ 憧「よ、余計なお世話よ! あたしにはあたしのペースってものが……」 灼「日が暮れる」ズバァッ 憧「うっぐぅ……!?」 鷺森部長の容赦無い一太刀を浴びる憧。 まあ、確かに一昨日以来呼ばれてないよなーと気にはしてたけど。 いい機会だ、レジェンドに任せよう。 レジェンド「灼の言う通り、時には外部からの介入も受け入れないと埒が明かないよ?」 憧「うー、でもぉ……」 レジェンド「名前で呼ぶだけだって! 須賀京太郎くん。さんはいっ」 憧「……」 レジェンド「さんはい!」 憧「………………須田幸太郎」 京太郎「ダレェ!?」 486 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 03 05 36.91 ID //kiubHoo 憧「す、スケキヨ太郎」 京太郎「犬神家!」 憧「今日タオル」 京太郎「惜しい! いや惜しくないけど惜しい!」 憧「†狂堕r」 京太郎「おいばかやめろ」 憧「ばかって言わないでよ!」ムキー 京太郎「言いたくもなるわ! なんで名前呼ぶだけでこんだけボケ倒すんだよ!」 憧「ボケてないわよ! あたしは至って大真面目!」 むしろボケでしたーと言って欲しかった。 憧の男嫌いの重篤さを再確認する。 と、 玄「憧ちゃん」ポンポン 憧「玄?」 ......-‐……‐-..... .......................................................、 /...........................................................\ /......................... . . . .... . . ..............................\ ................. . . . . . . . . . . . ....\.................... /......./... . | . . ...ヽ .................., 怖がらなくていいんだよ?. /............ . | | . . ... . ................′ ........... . l l | | _ i ;..../| i | i斗‐| { i 「\ \ i | | i 確かに最初は恥ずかしい気持ちもあるけど…… | / | i l| i | |八 i | \ \| | l | | |i | l l| iΝ \ ∨ ≫ぅ弌ミj| | l | | {; | |八 i≫ぅ斥 \ r' ノrい》 Ll | 実際に呼んでみるとね、心の距離が縮まったなぁって感じるの | | ヽ《 r' ぃ ∨ .(ソ | ト| | , | l V(ソ | | ! | ′ | i 小 ,,, , '''' | |j | だから、やっぱり名前で呼び合うのってすごく大切なことだと思うな 乂j い | | l [_] { i 人 ー ' | } } | / { {i i >... / } // / | 憧ちゃんも京太郎くんと仲良くなりたいなら、勇気を出して名前で呼んでみようよ | { 八 { i ≧ァr / // / | | \|\ i /{_j _/厶イ, | | ∨\;;| i \ / // 廴厂〉 | l\ | | i 厶イ /| | /∧ | | ニ=- |/ / ∨ | | 厶=ーx' | | \ / / 厂 ̄ ̄ア7゙ ノ | | ⌒` .. i / 〉 《__jヽ | | | / . | | | { ノ八 | | i |. / i | | | ∧_/ /| \__,ノ | i || / | | | | / // | } | i || , | 玄「ね?」ニコッ 憧「ドラァ!!」バキィッ 玄「ぶべらっ!?」ドサッ 宥「くろちゃー!?」 これは仕方ない。知らんけど。 494 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 03 22 14.17 ID //kiubHoo レジェンド「ほらほら脱線してるよ、名前はよ」パンパン 憧「ぅぐ、急かさないでよっ」 灼「はよ」パンパン 穏乃「頑張れ憧ー」 宥「ふぁいと~」 憧「……きょ、」 おっ。 憧「きょ、きょ……きょう、……たっ………………きょうたr」 レジェンド「須賀くーん。憧が10回「京太郎」って言う前に100回「憧」って言えたら憧のことメチャメチャにしていいよー」 憧「は?」 京太郎「マジすか! うおお憧憧憧憧憧ー!!」 憧「ちょっ!?」 503 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/03(火) 03 58 44.26 ID //kiubHoo 京太郎「憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧」 憧「や、だめっ、速いってば!」 京太郎「憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧」 憧「うそ、やだやだやだ……待って、止めてったら――京太郎っ!」 京太郎「憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧」 憧「きょう、たろう……っ! 京太郎っ、京太郎!」 京太郎「憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧」 憧「京太郎京太郎京太郎京太郎京太郎京太郎ーーーーーーーーーーっ!!///」 京太郎「憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧憧あああ゛ア゛ぁチクショウ負けたああああああああああ!!!」 なんてザマだ須賀京太郎! お前なんて今日から須田幸太郎だ! 又の名を田吾作! 床に両手両膝をついて項垂れる。単純に「憧」の連呼で疲れたというのもあるが。 憧「はああぁっ……」ペタン 対する憧もその場にへたり込み、著しく消耗した様子を見せていた。 息は荒く、顔は赤く、一滴の汗が頬を伝って畳に落ちる。 そしてどこか虚ろな目で、 憧「……………………………………………………い、いっちゃったぁ……///」 ぅゎぁこぇろぃ。 558 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/04(水) 00 51 03.02 ID qJfvPhM4o …… ………… ……………… ガラッ 宥「お、お待たせしました~」 玄「松実玄、ただいま戻りました!」ケイレイ!デタ!ケイレイデタ! 松実姉妹が私服に着替えて戻ってきた。可愛い。 右を向いても左を向いても美少女ばかりで、自分が男子高校生としてどうしようもなく恵まれた環境にいることを再認識する。 玄「あ、そうだ京太郎くん」 京太郎「はい?」 玄「今お父さんに確認したんだけど、京太郎くんもこの部屋に泊まって問題ないそうです!」 京太郎「えっ確認したんすか!?」ギョッ 玄「したよ?」ヘケッ したのか…… いや、知らん顔で女所帯に紛れ込むのもどうかと思うけどさ。 男と同室で寝ることを父親に報告する玄さんも、あっさり(?)許可を出す親御さんも、すごい。 568 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/04(水) 01 14 58.78 ID qJfvPhM4o レジェンド「やっと全員揃ったことだし、まず一局打とうか?」 穏乃「さんせー!」 憧「うー、ヘンな汗かいたから温泉入りたい……けど、合宿だし仕方ないか」 玄「やってやるのです!」 宥「じゃあ私は見学してるね?」イソイソ 灼「見学に毛布はいらな……」 レジェンドと穏乃、憧、玄さんが卓を囲む。 残った二人と俺は後ろで観戦だ。 準備も終わり、ようやくGW合宿の幕が上が―― コンコン ガラッ 「失礼いたします。玄ちゃん、ちょっといいかい?」 ――上が、あがが。 玄「あ、はい! どうしました?」 呼ばれた玄さんが立ち上がって応じる。 年配の訪問者は二部式を着ていた。つまり仲居さん――旅館の従業員だろう。 その人が、玄さんに用事。 あまり良い予感はしないな。 575 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/04(水) 01 38 10.09 ID qJfvPhM4o 「あのね、言いにくいんだけど……」 仲居さんが玄さんに耳打ちをする。 玄さんの表情が、段々と難しくなっていく。 憧「……どうかしたの?」 玄「う、うん……連休中に臨時で雇ってるバイトの人が来れなくなっちゃったんだって……」 穏乃「え、なんでっ!?」 玄「風邪らしいんだけど……それで、人手が足りなくなっちゃって……その……」 灼「もしかして、玄が?」 玄「……」 こくり、と。 玄さんが無言で頷いた。 室内に重い沈黙が立ち込める。 「折角の合宿なのに」。 そんな雰囲気だ。 だから、 京太郎「あの、俺じゃダメですか?」 589 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/04(水) 02 17 15.75 ID qJfvPhM4o 玄「えっ!?」 憧「京太郎!?」 前後から驚きの声と視線が刺さる。 敢えて無視。 京太郎「玄さんに比べたら役に立たないと思いますけど……雑用から力仕事までなんでもやります!」 玄「ま、待って京太郎くん! お客様にそんなことさせられないよ!」 予想通りの反応。 ならば俺も予定通りの対応だ。 京太郎「違いますよ玄さん、間違ってます」 玄「へ?」 京太郎「俺は麻雀部のマネージャーです。つまり――玄さんの身内ですから」ニコッ 玄「~~~っ!?///」ボフンッ 京太郎「マネージャーとして、選手が練習に打ち込める環境を作るのも大事な仕事の内……ですよね監督?」 レジェンド「え? あー、まあ、そうとも言えるけどさ……」ポリポリ 京太郎「んじゃ問題ないっすよね! さ、行きましょう美人のお姉さん! 存分にこき使ってください!」ズイズイ 「あ、あらあら。お姉さんだなんて……それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしらね?」 京太郎「イエスマム! ささ、早く早く」ズイズイ 穏乃「京太郎ありがとー! 頑張ってきてねー!」 憧「……ふん、だ。かっこつけ」 灼「達者で」 宥「京太郎くんありがと~……ほら、玄ちゃんも」 玄「あ、あり、あう、ありありありあり……あうぅ……///」 そんな賑やかな声援を背に受けて、俺は旅館の手伝いへと向かった。 600 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/04(水) 02 38 46.77 ID qJfvPhM4o …… ………… ……………… で、 手伝いから解放されたのは、陽も沈みかけた頃だった。 パねぇ。 旅館パねぇ。 情け容赦なく働かされた。 いや、こっちから志願した訳だし、多少はね? だが多少ってレベルではなかった。 建物の端から端まで駆けずり回って、行く先々で雑用雑用アンド雑用。 でもなんだろう、細かい仕事をひとつずつ片付けていくのって快感だ。 意外と向いてるのかもなー、雑用がkゲフン! マネージャー。 そんなことを考えながら部屋に帰還する俺だった。 ガラッ 京太郎「ただいまー」 605 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/04(水) 03 02 07.82 ID qJfvPhM4o 玄「あ、京太郎くん!」 穏乃「おかえりー!」 ちょうど観戦に回っていたらしい玄さんと穏乃に出迎えられた。 卓ではレジェンドと憧と宥さんと鷺森部長が打っている。 京太郎「………………あっれぇ……」 憧「どうかしたの?」 京太郎「こういう場合って扉を開けたら何故かみんな着替えててキャーエッチーみたいな流れじゃないの?」 憧「バカじゃないの?」 めっちゃ蔑んだ目で見られた。 京太郎「そんな……なんの為にノックもせずに入ったと思ってるんだ……」ガクッ 憧「次ノックしなかったら殺すからね」 更に脅迫までされた。メゲる。 611 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/04(水) 03 19 28.19 ID qJfvPhM4o 憧「っと、ツモ! 2000・4000!」パタッ 宥「あぅ、最後でまくられちゃったぁ……」 憧「えっへへー、やりぃ♪」 ちょうど対局が終わるタイミングだったようだ。 一位は憧、二位が宥さんか。 で、 レジェンド「……もうレジェンドもインターハイもないんだよ……」 灼「そんなことないよ! ハルちゃんは最高だよ!」 三位が鷺森部長で四位がレジェンドだな。間違いなく。 玄「赤土さん、今回は運が悪かったみたいで……」 穏乃「初っ端から宥さんに親満直撃食らってたよね……」 哀レジェンド…… レジェンド「ぅがー! 負けたら腹減った! ご飯にしようご飯!」ガタッ なんか言い出した。 614 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/04(水) 03 51 22.32 ID qJfvPhM4o 憧「ご飯って……まだ早くない?」 レジェンド「いーんだよ! どうせ外に食べに行くんだから好きな時間でっ」 京太郎「そういえばそんな話でしたっけ」 玄「ごめんね、私が家に遠慮しちゃったんだ」ショボーン 宥「わ、私も」プルプル 灼「別に気にすることじゃな……」 穏乃「そうですよ! みんなで連れ立って歩くのも楽しそうだし!」 レジェンド「お、しずが今いいこと言った! じゃあ誰か、何か食べたいものあるー?」 穏乃「はいっ! ラーメン食べたい!!」 憧「出たラーメン。別に嫌いじゃないけど」 玄「私はみんなの好きなもので」 宥「あったかいものならなんでも……」 灼「ハルちゃん」 京太郎「んじゃ俺もラーメンに一票」 レジェンド「となると……ラーメンで決まりかな?」 穏乃「ぃやったー!」キャホーイ レジェンド「それじゃあラーメン屋に向けて、総員出撃ー!!」 「「「「「「おー!」」」」」」 671 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/05(木) 01 13 29.18 ID pJ9Ar6zCo …… ………… ……………… ~ラーメン屋~ ガラッ レジェンド「ちわ! 大将ご無沙汰~!」 常連っぽさ全開の気安さで暖簾をくぐるレジェンド。 俺達は一軒のラーメン屋を訪れていた。 「おぉ、ハルちゃんじゃねーか! 元気してたか!?」 迎えるのは威勢のいい声。まさに「大将」って感じだ。 レジェンド「元気元気! 今日はね、教え子を連れて来たんだ。麻雀部なんだよ」 ひょいと身体をどけて大将の視界に俺達を入れる。俺達、会釈。 レジェンド「この店は私が学生時代の行きつけだったんだ。部活帰りによく寄ったなー」 京太郎「へー」 レジェンド「ちなみに望とね」 憧「へー」 人に歴史あり、レジェンドに伝説ありといったところか。 674 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/05(木) 01 31 32.12 ID pJ9Ar6zCo まだ早い時間なせいか、他の客の姿はなかった。 とりあえず席に座ろう。 レジェンド「んー、私は大将と喋りたいからカウンターがいいんだけど」 灼「じゃあ私もカウンター」 憧「だったらテーブルに四人と、もう一人カウンターって感じ?」 京太郎「だな」 穏乃「私テーブル取ったー!」 玄「私もテーブルがいいなぁ」 宥「調理場に近い方があったかそう……」 決まったった。 憧と顔を見合わせる。 京太郎「……俺達も座るか」 憧「……そーね」 で、 カ 玄穏 ウ宥 京憧 ンレ タ灼 テー | ブル こうなった。 682 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/05(木) 01 59 21.54 ID pJ9Ar6zCo レジェンド「そんじゃさっさと注文決めてねー」 穏乃「はーい!」 レジェンド「ちなみに私の奢りだから」ニッ ざわっ。 京太郎「チャーシュー麺大盛りと餃子、あとチャーハン!」 穏乃「私も同じやつ!!」 憧「あたしは野菜ラーメン油少なめで♪」 玄「おもちラーメン! え、ない!?」 宥「スペシャル溶岩ラーメンください」 灼「にんにくラーメン。チャーシュー抜き」 レジェンド「………………大将。ラーメン」 「あいよ! 全員に味玉サービスしてやる!」 レジェンド「3キュー4ever……」 697 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/05(木) 02 29 45.38 ID pJ9Ar6zCo 注文の品はあっという間に出揃った。 たまにあるよな、妙に商品の提供が速いラーメン屋。 ともあれ、 レジェンド「それじゃー手ー合わせてー!!」 「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」 ヤケ気味のレジェンドの号令。続けて合唱。 早めの夕食が始まった。 京太郎「」ズビズバー うん、うまい。 いかにもラーメンっていうラーメンだ。 こういうラーメンを出す店が近所にあるのって、今の時代じゃちょっとしたラッキーだよな。 穏乃「おおっ、このチャーハンご飯粒がパラッパラだ!」ガツガツ 京太郎「ほほう」 それを聞いて俺もチャーハンに意識を向ける。 これまた特徴らしい特徴はないが、しかし生真面目さの伺える一品だ。 丸く小高く成形されているのが無性に嬉しい。 京太郎「あぐっ」 味も予想通り……否、期待通りだ。 703 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/05(木) 02 57 26.94 ID pJ9Ar6zCo 間にラーメンを食べて、次は餃子だ。 人によっては顰蹙を買うかもしれないが、俺はラー油をたっぷり入れる。 ラー油の代替不能な辛味を楽しむなら餃子が一番だと思うからだ。 狐色に焼けた面をタレに浸し、口まで運ぶ。 京太郎「あちっ!」 この熱さは想定外だった。 たまに生温い餃子を出す店もあるからと油断していた。 慎重に、礼を持って……改めて。 京太郎「あふあふ」 でも熱い! 斜向かいでは穏乃も同じ様子だった。 この焦げ目、曲者。 でも美味いぞ。かなり美味い。 ネギが入ってるのかな、シャクシャクと食感が愉快である。 かじった断面にタレを二度漬け。ラー油の染みこんだ第二弾を口の中に放り込む。 京太郎「……うん」 ラー油って庶民の食卓を簡単に中華にしてくれるから好きだ。 中国、行ったことないけど。 709 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/05(木) 03 26 34.53 ID pJ9Ar6zCo 憧「……しーずー。餃子おいしそうだね?」 穏乃「むっ! やらないよ?」ササッ 憧「おいしそうだねって言っただけなんですけど……まあ、もらうつもりだったんだけどさ」 京太郎「俺のやろうか?」 憧「え、ほんと?」 京太郎「ほれ、あーん」 憧「あー……いやいやいやいや!?」 ガタァッ! と椅子を浮かせてのけぞる憧。 京太郎「行儀悪いぞー」 憧「だ、誰のせいよ!? そういう不意打ちやめてくれる!?///」 京太郎「じゃあ「あーんさせてください」って言ったら良かったのかよ!?」バンッ 憧「逆ギレすんな!!」 玄「じー……」ジー 穏乃「むぐむぐ……玄さん? なに見てるの?」 玄「え、あっ!? な、なにも! 京太郎くんの顔なんてミテナイヨ!?///」アセアセ 穏乃「?」モキュモキュ 714 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/05(木) 04 04 48.00 ID pJ9Ar6zCo ところでカウンター組はどうしているだろうか。 ちらり。 レジェンド「な、なあ宥……もう少し離れて食べてくれないかな……?」 宥「え、どうしてですか……?」チュルル スペシャル溶岩ラーメン「」ゴボッ! ゴポォ! レジェンド「怖いッ! マグマが、マグマが跳ねるッ!!」ビクビク 灼「」ズビズバー 楽しそうだった。 玄「あ、そうだ京太郎くん」 京太郎「はい?」 なんかデジャヴな会話。 玄「うちを出る前にお父さんと少し話したんだけど、京太郎くんが手伝ってくれて本当に助かったって言ってたよ」 京太郎「そうですか、微力ながらお役に立てたんなら何よりっす」 玄「微力じゃないよ! 仲居さん達もみんな京太郎くんのこと褒めてたもん!」 京太郎「オレェ?」 そこまでのことだろうか。 玄「お父さんなんて、「是非とも松実家に欲しい人材だ」なんてことも言ってたんだよ?」 京太郎「気持ちは嬉しいですけど、阿知賀はバイト禁止でしょ」アハハ 玄「そうなんだよねぇ、残念」エヘヘ 憧「…………………………んん?」 \ゴチソウサマー!/ 786 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 00 26 00.96 ID +jvfazv4o …… ………… ……………… ~松実館・客室~ ガラッ 穏乃「たっだいまー!」 玄「はーいおかえりなさーい」 ゾロゾロ ラーメンで満腹になった俺達は松実館に戻ってきた。 夕涼みがてらのんびり歩いたので腹ごなしもバッチリだ。 となれば次は、 レジェンド「さて、今の内にお風呂済ませちゃおっか」 灼「ん」 宥「あったかいお風呂っ」ピコーン 来 た か 。 /´〉,、 | ̄|rヘ l、 ̄ ̄了〈_ノ _/(^ーヵ L__」L/ ∧ /~7 /)京太郎「」 二コ ,| r三'_」 r--、 (/ /二~|/_/∠/ /__」 _,,,ニコ〈 〈〉 / ̄ 」 /^ヽ、 /〉 '´ (__,,,-ー'' ~~ ̄ ャー-、フ /´く// `ー-、__,| ' 本当に本当に、なんて遠い廻り道…… だが! 今! 奇跡のカーニバル、 開 ―― レジェンド「いやー混浴じゃなくて残念だったねー須賀くん?」アハハ 憧「ちょ、なに言ってんのよハルエ!」 / | |.. . ゙、 . ゙、゙、. \ |. i | i |. ∧ 、.i. .i . ` 、. ! | |、 | | i | ! | | | 、 > | | i 「! ヽート!、 リ ! |ハ ト | ̄ ̄. ,..-、| i | !゙、 _、!二゙、-| イ リ ! |ヽ | / へ.゙、 丶ヾヽ ´{ i` ヽ! 1!| /| !ノ゙、リ ヽ \ !丶  ̄ Vイ ハ |\ i. 丶 \゙、 ` リ `ヽ `┬ 、 ヾ / i ;ィノ U ,....-ィ /,, ‐レリ _  ̄ /<なにいってんのよはるえ゛=!_ \ `ー-、_ _/ ゛== 、 \ / ̄ヽ、 ゛===-、 792 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 00 46 48.95 ID +jvfazv4o レジェンド「え?」 京太郎「なにいってんのよはるえ」 憧「なんであたしの真似してるのよ」 京太郎「え……? だって、だって監督、今、え? 混浴? じゃ?」 レジェンド「ないよ?」 京太郎「ノーウェイノーウェイノーウェイノーウェイ!!」 レジェンド「私の知り合いみたいなこと言うね須賀くん」 京太郎「ヤーーーーーウェーーーーーイ」 憧「スペイン語か何か?」 京太郎「……………………………………………………混浴じゃないの?」 レジェンド「ないよ」 憧「バカじゃないの?」 京太郎「」 京太郎「……」 京太郎「う」ジワァ 京太郎「うう……」ポロ 京太郎「う~~ううう、あんまりだ……」ポロ ポロ ポロロ 憧「げ、この流れ……」 京太郎「 H E E E E Y Y Y Y ! ! あ ァ ァ 」 ~男湯~ 京太郎「 ァ あ ぁ ~ ~ イ イ ッ す ね ェ ェ ェ ェ ~ ~ ~ と 」 801 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 01 20 43.30 ID +jvfazv4o 最高だ。 骨の髄まで沁み渡るとはこのことだ。 松実館が誇る大浴場を、俺は今なんと独り占めしていた。 どうやら一般客はちょうど夕食の時間らしい。 外で早めに食事を済ませたのが幸いしたのだ。 おかげでこんなに素晴らしい温泉を独占していられる。 こんな贅沢が他にあるだろうか。 いや、ない(反語)。 この恍惚の中にあっては、全ての「邪なもの」は溶けてなくなってしまうだろう。 なにが混浴だ。なにが綺羅星だ。 そんな卑俗な趣向に溺れる暇があったら、頭のてっぺんまでこの温泉に浸かっていたい。 そう思わせるだけの「説得力」……それがこの湯には含まれていた。 ガラッ 京太郎「ん?」 仕切り壁の向こうで扉の開く音。 穏乃「ぅわっはー! いっちばーん!」ザパーン 憧「こらしず飛び込むなー!」 | 男 | 女 湯 俺| 湯 | 806 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 01 49 39.92 ID +jvfazv4o 穏乃「うおおクローーール!」ザバザバー 憧「だから泳ぐなぁ!」 レジェンド「へー、貸し切りかぁ。ツイてるね!」 灼「ハルちゃん、お背中流します」 宥「あったか~いお風呂……までが……寒いぃ……」 京太郎「……」ゴクリ かべのそばにいる。 五感を研ぎ澄ませ、そして聴力に一点集中。 聞き逃すものか。決して聞き逃すものか。 穏乃「あ、そだ。京太郎ーいるー!?」オーイ 京太郎「ウェッ!? あ、ああ! いるぞー」 かなり焦った。 穏乃「こっち凄いよ! うちらの貸し切りー!」 京太郎「男湯も俺一人だぞー」 穏乃「えー!? 独り占めとかずるい、私もそっち行きたい!」 京太郎「いやダメだろ!」 憧「その壁から離れなさい!!」 穏乃「ちぇー」 よじ登るつもりだったんかい。 行動派にも程があるわ。 813 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 02 15 21.33 ID +jvfazv4o しかしあれだな。 顔見知りの女子達が壁一枚隔てた向こうで裸になっている。 そう考えると……うん。フフ。うん。 カララ 京太郎「うん?」 また女湯の戸が開いた。 玄「おまたせー」 ああ、玄さんか。 そういえば声が聞こえなかったな。 玄「えへへへへへへ……」チャプン なにを笑っているんだろう。 と考えて、間もなく理解した。 否、させられた。 玄「おねー……ちゃんっ!」ザバッ 宥「ひやあっ!? く、くろちゃー!?」 京太郎「!!!」 815 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 02 34 57.99 ID +jvfazv4o そうか。 そうだ。 玄さんは俺の同志だ。 女性の豊かな胸をこよなく愛する――人呼んで、おもち愛好家。 そんな彼女が温泉で何をするか? 決まっている。 揉むのだろう。 愛のままに、わがままに。 対して俺は温泉で何が出来る? 決まっている。 何も出来ない。 ただこうやって壁に縋って。 その向こうでいともたやすく行われているであろうえげつない行為を夢想するしかない。 京太郎「俺はいつも傍観者よ……!」グッ 821 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 03 00 47.69 ID +jvfazv4o 一方で―― 玄「うへへぇ、おねーちゃんのおもちはやっぱり一級品ですのだ!」モッチモッチ 宥「く、くろちゃ……そうゆうの、ぁ、だめだって、いつも……んっ」ピクンッ 玄「前より大きくなった?」モチィ 宥「ぅぅううう……///」 玄「赤土さーんっ」モチッ レジェンド「うおぅ!?」 玄「ふぅ~むなるほどなるほどなるほどー」モチー? レジェンド「微妙なリアクションだな……」 玄「灼ちゃんは……」 灼「……」 玄「が、頑張って!」グッ 灼「3キュー4ever」ピッ 826 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 03 26 24.34 ID +jvfazv4o 玄「しーずーのーちゃん!」モッ 穏乃「うひゃあ!? ちょ、ぁははっ! だめですくろさん、私、くすぐったいの苦手でっ!」ジタバタ 玄「穏乃ちゃんもまだまだのまだまだだねー」オオキクナレヨー 穏乃「やっ、あは、ひふっ! ひゅ、んっ……ふぁ、ぃ……っくふ、はははっ!……あっ!」ビビクン 玄「あこちゃー……」ザブッ 憧「そ、それ以上近付いたら大声出すわよ」ジリジリ 玄「どうせ誰も来やしねぇですのだ……」ワキワキ 憧「ひッ」 玄「そんなに怖がらなくてもいいじゃあないか……安心しろ……安心しろよですぞー……」 憧「キャラ間違えてない!?」 玄「大丈夫だよ憧ちゃん! そのおもちとは呼べない、八つ橋みたいに中途半端な胸も私におまかせあれ!」ムンッ 憧「今あたしのこの胸のことなんつったァ!?」 玄「隙あり!」ザバッ! 憧「しまっ――きゃあぁ!?」 843 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/06(金) 07 22 15.73 ID +jvfazv4o 玄「あー……」モチモチ 憧「ちょ、人の胸揉みながら取るリアクションじゃなくないそれ……!?」 玄「だって、本当に中途半端なんだもん……」 憧「それならさっさと離しなさいよ! と、隣に京太郎だっているのよ!?」 玄「ご心配なく! 京太郎くんは大きなおもちにしか興味ありませんので!!」 憧「玄ォオオオーーーーーッ!!!」 玄「」モチモチモチッ 憧「ふゃっ」ピクンッ 玄「わ、憧ちゃん可愛い声」 憧「く、玄ぉお……! ぁ、っきゅぅう……!」ビクンビクン 玄「大きくなぁれ~大きくなぁれ~」モチモチモチモチモチモチモチモチ... 憧「絶対泣かす!!……ぁんっ!」 _,...---、_,.、 / / / ヽー-、 /. , ! iハ!/メ、.i | \ イ { ヽN 'i !/!人iヽi _1 i( _ 丶 \ / `Yリヽ '、_)'´!`ー` 「――――――――――――――――――――!!!(声にならない叫び)」 / .. | ,. _/. /. 、 ト、ィ' / | !;-! / | ! ヽ、 , -‐クヽ / ! .. ⊥__!_ / .. ノ) / | ..  ̄`''''''' ′.. ノ. / | ..... .............. _, -‐'′ / `ー‐┬---r―'''''''"" ̄__./__ /! i / iu-゙、/----、\ / | ⊥ __,...-‐'.i... ヒノ ̄ ̄`ー`ー`ー-、/ | . _,.-‐'" 890 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/07(土) 00 25 54.92 ID JIijIvwto …… ………… ……………… ~松実館・廊下~ 京太郎「お」 穏乃「あ」 玄「わ」 脱衣所を出たところで穏乃と玄さんと鉢合わせた。 浴衣姿である。 穏乃「京太郎も今上がり?」 京太郎「おう。そっちは二人だけですか?」 玄「おねーちゃんと憧ちゃんはもう少し入ってるんだって」 京太郎「宥さんは分かるけど憧もか……あいつって風呂好きなの?」 穏乃「そりゃもう! 一日に最低でも朝晩二回は入るんだって」 京太郎「へー」 しずかちゃんか。 ていうか二人と交互に会話するの疲れるな。 ぶおォン。俺はまるで人間首振り扇風機だ。 897 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/07(土) 00 49 54.66 ID JIijIvwto 京太郎「じゃあ部長と監督は?」 玄「二人は私達より先に上がったよ。今頃は卓球でもしてるんじゃないかなぁ」 京太郎「ほう、卓球」 満喫してんなオイ。 穏乃「私達もやる!?」ムンッ 京太郎「いや、遠慮しとくわ」 穏乃「えー」 肩を落とす穏乃。 そんな露骨にガッカリしなくても。 穏乃「京太郎なら付き合ってくれると思ったのにー」プクー 京太郎「悪い悪い。どうも昼の疲れが抜けきってなくてさ」 言って、肩をぐるりと回す。 温泉に浸かってかなり楽にはなったものの、まだ重みを感じた。 穏乃「あ、そっか。ずっと働いてくれてたんだもんね」 玄「本当にありがとうね、京太郎くん」フカブカー 京太郎「いえいえ。お安い御用ってやつですよ」<○><○>ジー おかげで今こうして玄さんの胸の谷間を拝めるのだから。 玄「あ、そうだ!」バッ 京太郎「?」 急に顔を上げた玄さんが俺の腕を取る。 玄「京太郎くん! お仕事を頑張ってくれたお礼に、」 そして、言う。 / . . . . . . . . . . \ , . . . . . . . .. . . . . . . . . . . . . . ..ヽ . . . ヽ / . . . . . . . . . . ′. . . . . i{ . . . . . . . . . .. . ..‘. ∧ / / / / .. . . . . . . .| . . . . . . | . . . . . . . . . .∨. ‘.. . / .イ ′ . . . . . { . . . ,| ... . . . {∧ . . . . . . . . . i . . . :. i ././ ′ !. .|....... 小 . .ハ__ . . . . iハ 斗 十 .ト . .| . ... i . i .′} . |. ! . . 斗{ . 「 丁i . . . .ト .V ヘ .{\ . .`! . . . | | |′.′ l . |.ト . . | ヽ 气{\ . { \ ヽ. \} . | { 「お姉さんがイイコト……してあげるね?」 i . . .| 八. .|ヽ{ _ \ ,z≦ミ、| . .! . |! | /|. . . . ! ,ァ= =ミ ´ `'^| . | .小 |. / ! . . . .ハ ′ /i/, | . | .|i | ′ } . . | ∨ /i ' . . . .! . l { ○ ′. . .ト. . , 八 . .. } . l .‘ / .{ | . . . . { 込 ` ´ /} . . ./ . ! . ‘ / ; .| . | . . . . | 个 ..... .イ ∨ . . / /. .′ ∧ i /{ .! . | . . . . | / ノ}≧ - ´ {入 /. . ./i/ . .′ . . ‘. |{∧{.. .i . { . . ‘ . . / 乂 / / . . /V . . .{ . . . . . ‘. .′.. .八 !ム .七¨⌒} >t_ん / ./「/ . . 厂 ̄ ≧ 、 / . rヘ´ ヽ \ | ∧ ∧'ィ斗v′ . / ヽ. / . ′ 八_{ ̄≧ V__/イ´ {'リ . . . ′ / } / . . {⌒ヽ 八 z__{ }___, {.' . . ./ / | .′. . | \ 《 ハ下 . /. . . .′ , 小 / . . . .{ ヽ } ∧__/ }ハ ≧7. . . ./ / { ∧. / . ./.. . } . | く / } ; . . . . ′ .′/ { . .‘. / . ./.. . . .i ∨ } `≧-ヘ ∧ノ} . . . .{ . { .′ } . . ‘. / . /′ . . .} ‘. V| ∨ | ノ} . } j / / { . . . ‘. ごくり。 911 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/07(土) 01 10 15.17 ID JIijIvwto …… ………… ……………… ◇ スタスタスタ... 憧「はーっ、お風呂気持ち良かったぁ……♪」 憧「流石は松実館自慢の温泉よね、ついつい長湯になっちゃった」 憧「そしてそんなあたしより更に長く入ってる宥姉……いつ上がってくるんだろ」 憧「ま、あんなに気持ち良いなら仕方ないよね」ウム 憧「心なしかお肌もツルツルになってるような……」 憧「……それはいつもより念入りに洗ったからかな」 憧「……」 憧「べ、別に深い意味はないけどね!」 憧「男子と同じ部屋で寝るとか関係ないし!」 憧「単に身だしなみの問題だし!」 憧「………………」 憧「髪おかしくないかな……」サッサッ スタスタスタ... ~松実館・客室~ 憧「ただい――」 玄「ふふ……どう、京太郎くん? 気持ち良い?」 京太郎「く、玄さん……っ!」 憧「ふきゅっ!?」ビクゥッ 918 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/07(土) 01 45 03.27 ID JIijIvwto 憧「え……え……?」 憧「なに、今、襖の向こうから……」 憧「玄と……京太郎?」 玄「我慢しないで、声出してもいいからね……?」 京太郎「で、でも……それは……っあ!」 玄「ほら……こんなに硬くして」 京太郎「ぐ……だって、」 玄「何も言わないで。ちゃんと分かってるから」 京太郎「な……ぅ、あ、そこ……!」 玄「ちゃんと分かってるんだよ? 京太郎くんの気持ち良いところも、全部ね」 京太郎「玄……さん」 玄「良くなってきたでしょ?」 京太郎「………………はい」 玄「えへへ、このまま私におまかせあれっ」 憧「な、ななな、なっ、なぁっ///」プルプルプルプル 925 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/07(土) 02 03 38.81 ID JIijIvwto 穏乃「あの、玄さんっ!」 玄「穏乃ちゃん?」 憧「!?」 穏乃「えっと……私にもやらせてもらっていいですか!?」 憧「!!?」 玄「え、でも……」 穏乃「お願いします! 私も、京太郎に気持ち良くなってもらいたいんです!!」 京太郎「穏乃……」 玄「穏乃ちゃん……」 憧「」 穏乃「……ダメですか?」 玄「ううん、ダメじゃないよ」 穏乃「え、じゃあ!」 玄「穏乃ちゃん。一緒に京太郎くんのこと気持良くしてあげよう?」 穏乃「は……はいっ!」 憧「」 憧「」 932 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/07(土) 02 38 41.32 ID JIijIvwto 玄「じゃあ穏乃ちゃんは上になってくれる?」 穏乃「分かりましたっ。……ねぇ、京太郎」 京太郎「どうした?」 穏乃「あの……あのね? 私さ、こういうことするのはじめてだから……へたっぴだったら、ごめん」 京太郎「バーカ、気にすんなよ。よろしく頼むぜ」 穏乃「ぁ……うんっ! それじゃ、最初っから足でいくね!」 ガラッッッ!! . xァ′ / | ヽ {__j__ ' / ′ / | | . , `丶 \ / / / i | i | | | i | i , \ \ / / | | ‐-L_ | | | j |i | | | \ \ . | | 八 人j ト八 i |斗匕|「 | | | l ., ヽ / | | Ⅳj]xぅ妝斥 \ i/≫ぅ妝ミxV| | | .′ ,. ′ 八 { | |坏´_)「 ハ \ ∨ _)「 ハⅥ | | . ′ ; \乂_| |八 rヘしi } \ rヘしi } オ | . .| . i ; 「ナニしてんのよアンタ達はああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」 | i l .⌒| | 乂__/ソ 乂__/ソ | | . .| . | i | | | | . . .| | ,,, , ,,, | | . .| . | | | | | / | . . .| |\i /// /// | | . .| . | | | | | | . . .| | 八 r'ア ̄`ヽ / | | . .| . | | | | | i | . . | { 个 ... ∨ ノ イ } | . .| . | | | | | | | . .八 V斗ri i i 〕ト ィ 〔 i i iTV 八 .| . | | | | | | | . . . \ Vi i i i i i i |. j>--<. .{ | i i i iV // 廴_| | | | | r七i| . . . . |\i i i i i i i | . . . . . . | i i i /i i/ // /i \ | | | | ∧ Ⅵ. . . . . | i i \i i i i |─-. . . .-─| /i i i / // / i i i i∧ | | 穏乃「よいしょ、よいしょっ……どう京太郎、気持ち良い!?」フミフミ 京太郎「んー……わり、やっぱダメだ。お前軽すぎ」 穏乃「ガーン!?」 . xァ′ / | ヽ {__j__ ' / ′ / | | . , `丶 \ / / / i | i | | | i | i , \ \ / / | | ‐-L_ | | | j |i | | | \ \ . | | 八 人j ト八 i |斗匕|「 | | | l ., ヽ / | | Ⅳj]xぅ妝斥 \ i/≫ぅ妝ミxV| | | .′ ,. ′ 八 { | |坏´_)「 ハ \ ∨ _)「 ハⅥ | | . ′ ; \乂_| |八 rヘしi } \ rヘしi } オ | . .| . i ; | i l .⌒| | 乂__/ソ 乂__/ソ | | . .| . | i | | | | . . .| | ,,, , ,,, | | . .| . | | | | | / | . . .| |\i /// /// | | . .| . | | | | | | . . .| | 八 r'ア ̄`ヽ / | | . .| . | | | | | i | . . | { 个 ... ∨ ノ イ } | . .| . | | | | | | | . .八 V斗ri i i 〕ト ィ 〔 i i iTV 八 .| . | | | | | | | . . . \ Vi i i i i i i |. j>--<. .{ | i i i iV // 廴_| | | | | r七i| . . . . |\i i i i i i i | . . . . . . | i i i /i i/ // /i \ | | | | ∧ Ⅵ. . . . . | i i \i i i i |─-. . . .-─| /i i i / // / i i i i∧ | | 937 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/07(土) 02 54 05.46 ID JIijIvwto 京太郎「それに比べて玄さんは上手いっすね」 玄「えっへん、松実館お抱えのマッサージ師さん直伝の指圧術ですのだ!」 京太郎「おお、どうりで本格的な」 玄「流石にお客様には出来ないけど、京太郎くんは……み、身内だもん、ねっ?」 京太郎「はい、玄さんにやってもらえて嬉しいです」ニコッ 玄「えへへへへへへ///」 穏乃「むーっ……私だって出来るもん! おりゃおりゃー!」ドスッドスッ 京太郎「ちょっ、痛い痛い痛……くない!? どんだけ軽いんだお前!?」 穏乃「もー! もっと太りたいー!」ムキー 憧「」 京太郎「ん、あれ? 憧? いつの間に戻ってたんだ?」 玄「おかえりー」 穏乃「憧、ちょうどいいところに! 憧も一緒に京太郎の上に乗ってよ!……憧? どうしたの? 憧ー?」 939 名前:5月3日(金)[saga] 投稿日:2013/09/07(土) 03 05 17.59 ID JIijIvwto …… ………… ……………… ガラッ 宥「ただいまぁ~」ホカホカ 宥「……?」キョトン 京太郎「おーい憧ー」 穏乃「いい加減出てきてよー」 玄「おもち食べる?」 宥「……みんな、押入れの前で何やってるの?」 【TO BE CONTINUED...】