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執筆日 2007年11月5日 備考 涼宮ハルヒの憂鬱・二次創作短編第1弾。ブックオフと読書狂。 今ではクオリティは劣るが初めてにしては上出来……。 日に日に太陽が俺の不快指数をうなぎ登りに釣り上げていた真夏日もとりあえず一段落し、俗に言う釣瓶落としの秋の日に突入しかかっていたとある土曜日の朝。俺は、まるで鶏の代理を努めているかの如く、けたたましく鳴り響く自分の携帯の着信音で目が覚めた。 「Eメール受信 涼宮ハルヒ」 あいつにしては珍しい。こういった事細かな用件にいたるまで、礼儀無用の電話連絡を使うのがあいつだ。 「本日急用、不思議探しは中止」 あいつらしい、簡潔かつ感情の欠片も感じられない文面。 どうやらそれは俺に対してだけであるらしい、と以前古泉から聞いたことはあったが……。 安上がりな楽しみ とにかく、俺の手元には、予想だにしなかったフリータイムが転がり込んで来たらしい。 しかしながら現在の俺は、寂しさだけで死んでしまうというハムスター同様に、何もない休日を過ごそうとする予定に拒否反応を示すようになってしまったらしく、これもSOS団などという得体の知れない学内非公認組織なんぞに所属してしまったせいだな、とこの時ばかりは自分の不遇を嘆くことを禁じ得なかった。 さて、当選した宝くじよりも貴重な今日1日をいかにして過ごそうかと思案せんとベッドに座り腕を組んだ瞬間、 昨日の昼休み中に国木田が教えてくれた耳寄り情報を思い出した。 その時は谷口同様、自分には縁がないものと適当に聞き流していたが、今にして思えば国木田よ。 今日ほどお前の持ち込んだ情報が有用だった日はないぞ。 いや今までが役立たずだったという意味では断じてないが。 俺は国木田に最大限の賛辞を送りつつ、携帯を手にとってアドレス帳を開きコールした。 おおよそ長いとは思えない3コールのあと、その相手は無言で電話をとった。 「長門か?朝早く悪いな、俺だ。」 「……なに?」 「今日の活動中止になっただろ?だから俺も時間を持て余してるんだ。 それで、と言っちゃ何だが、一緒に出掛けないか? 国木田から聞いたんだが、先週、駅の反対側に新しく古本屋が出来たらしい。 長門なら来るかな、と思ってな。」 「行く。」 即答だ。異常なほど乗り気だな今日は。 「読書の秋。」 お見事。返す言葉もないね。 「じゃ、いつもの場所でな。」 さては長門も知らなかったのか?それならちょうどいい。 俺も駅の反対側なんて滅多に行かないから、久しぶりに顔を出してみるのも悪くない。 電話を切って身支度を整え、俺はママチャリに飛び乗った。 まるで台本に書かれているかの如く、俺が駅前に着いた時には、すでに広場の中央のベンチに座る長門の姿があった。 俺の方が時間をかけずに出て来る自信はあったのに、その期待はあっさりと裏切られた。 まあ細かいことは追求せずともよかろう。 この長門有希という小柄なアンドロイドは、時おり頼んでもないところで非常識な宇宙人パワーを発揮する癖があるのだから仕方ない。 「待ったか?」 「待ってない。」 「じゃ、行くか。」 傍目から見れば、異常なほど言葉数は少ないんだろうね。 長門とコミュニケーションを取るにはひたすら慣れるしかないからな。 しかしながら、対有機生命力コンタクト用ヒューマノイドインターフェースなのにコンタクトを取るのにコツが要るとはどういうことやら。 その点だけ見れば朝倉の方がより万人受けしそうだから、多分そっちの系統は朝倉に任せっきりだったのかもしれない。 長門も自分の仕事は観察だって宣言してたしな。 さて。長門を後ろに乗っけて――体重をゼロにしたりしないように、と頼んでおいた――俺は駅の反対側へと向かった。 踏切を抜けてほどなく、新しい古本屋の看板が目に入った。 恐らく、見たことのない人はいないであろう、黄色い看板の店。 店名は敢えて伏せるが、本を売るなら……のCMでお馴染みのあの店さ。 俺の遠方の友人などは、週に3回は立ち寄るという。遠方の友人とはどこのどいつだ、などという問い掛けは愚問だぞ。 店内に入ると、長門はおもむろに小さなカゴを手に取り夢遊病患者のような足取りで奥の棚へと消えていった。 まあ、これだけ本があれば、長門のことだから5~6冊くらいは買い込むだろうね。 俺は俺で、掘り出し物のゲームを探してみたり、お気に入りのアーティストの古いCDがないかチェックしてみたり、 面白そうな漫画がないか立ち読みしてみたりと、ごくごく一般的な高校生らしい楽しみ方で古本屋を満喫していた。 うん、これこそ古本屋の醍醐味だ。意外な掘り出し物を発掘するというのは、やはり何事にも代えがたい価値があると思うね。 時間を忘れ漫画の立ち読みに没頭していた俺は、突如後ろからの視線を感じ振り向いた。 目の前にいたのは、本を満載したカゴを4個――4個だぜ4個――抱えた長門有希その人であった。 読みが甘かったな。まさかここまで買い込むとは。しかも、SF、ファンタジー、恋愛小説まではいいとして。 普段は読まないライトノベルやら、リハビリテーションの専門書、スポーツ選手の自叙伝に 自動車免許取得の教則本、お笑い芸人のネタ本まであるとなると、もうどういう了見ですか長門さん? フェザープレーン並みに薄く軽い俺の財布でその本の山の代金を支払うのは、 江頭2 50があのままの格好でエベレストを制覇するくらい不可能ですよ? あるいは六法全書がなかった分まだ普通と捉えるべきですか? 「いい。最初から、私が払うつもり。」 長門の本の代金は長門が払うという、至極当然の原理を主張されただけなのに、微妙に複雑な気分になるのはなぜ?ホワイ? ちなみに俺はと言えば、最近聴き始めたオールドロックで贔屓目にしているアーティストのCDがあったので買っておいた。 店を出て、再び自転車に乗る。普段通りというべきか、俺は長門をマンションまで送って行くことにした。こいつに限って言えば、 不審者に襲われたとて自分で護身するどころか完膚なきまでに叩きのめすことすら造作もないだろうが、万が一何かがあったら俺の責任だ。 それに、こうやって長門を乗せて走るなんてそうそうあるもんじゃないからな。 貴重な体験をみすみす逃したりするほど俺は愚かではないさ。 長門をマンションまで送って行くのは大して遠回りというわけでもなく、ほどなく目的地に到着した。 じゃあな、と挨拶をかけるより早く、長門は俺の袖口を引っ張った。 「上がっていって」 長門がこうやって自分の意志を俺にぶつけるのは珍しい。と同時に、喜ぶべき出来事でもある。 俺は長門のご好意に甘えて、部屋に上がらせてもらうことにした。 長門が部屋のロックナンバーを押してエントランスの鍵を開け、俺たちはエレベーターに乗り込んだ。 今までもう何回訪れたかしれない、そしてこれから何度訪れるかもわからない708号室は、 例によって殺風景、そして本が山積みになっていた。 「お茶飲む?」 今日初めての疑問文。 「いただきます。」 そう答えて間もなく、長門は2人分のお茶を持ってきた。 ん、また前より上達してるな。朝比奈さんにも負けてないぞ。 「……そう?」 長門の瞳が普段より2mmほど見開いている。虫眼鏡なら見やすいかもな。 「そうさ。」 その一言で、長門から安堵のオーラが立ち上るのが分かる。写真ではわからないだろう。 「そういえば、」 俺は前々から気になっていたことを聞こうと口を開いた。 「お前の懐事情って一体どうなってるんだ?仮にも一人暮らしだろ?バイトもしてないし。」 「情報統合思念体が毎月、わたしの口座に振り込んでくれる。朝起きたら財布にお金が増えている時もある。」 親玉の金策は、と聞こうとしてやめた。何しろ相手は情報統合思念体だ。 言ってみれば何でもアリなのだから聞いても仕方がない。 ただ、日本及び世界経済に悪影響を及ぼさない範囲内にとどめておいて欲しい、と切に願った。 あと、あまり大金を与えすぎると甘やかしに繋がるぞ。たまには一般的な人間の言葉も参考にして頂きたい。いくら情報統合思念体でもな。 すると長門は再び口を開いた。 「時々、家事をやっていてくれる時もある。豪勢なディナーが用意されている日もあった。レトルトの多いわたしにとっては新鮮。」 別の意味で驚いた。偉大な存在のわりにえらく家庭的な親玉だなおい。 しかしながら、長門の父(?)親はなかなかに娘思いな、いいお父さんじゃないか。いずれまた会ってみたいもんだな。 「ひょっとしたらいつかその機会があるかもしれない。理論的にだけ言えば、情報統合思念体があなたと会うことは可能。 情報統合思念体そのものは実体を持たないが、人間に擬態して直接的にあなたと会話することが出来る。」 今度は冗談抜きで驚いた。戯言のつもりで言っただけだったのだが。 余談だが今日の長門はやけに饒舌だ。これだけでも珍しい事だが、自分を気遣ってくれたのが嬉しいのか、 或いは自分自身のことを話せるのが嬉しいのか。自分が宇宙人だと話した時以上によく話す。 閑話休題。 となるとアレか。いずれはお父上にご挨拶せねばならんということか。 「そう。」 ちょっと待て!!いきなりの重大宣告だろうがそれは! ひょっとしたら“うちの娘はやらん!”オーラを全身から発生させながらやって来るかもしれないんだぞ? 残念ながら俺は戦国武将や悪徳政治家ほど策士ではないから、うまく立ち回れる自信が微塵も湧いてこない。 うっかり敵に回した時の恐ろしさはハルヒとどっこいどっこいだ。喧嘩になりかけたら長門が仲裁してくれよな? 「それはそれで……楽しみ。」 長門よ、人の苦悩を待ち遠しそうに期待せんでくれ。 しかし、いつか長門の親父さん(?)と出会うその日が待ち遠しく、普段よりも寝付きが悪かったことを補足しておく。 Back to Novel of T
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わたしは一応の礼儀としてチャイムを押しておいた。朝倉さんは大声で、入って、とわたしに言う。手が離せないのかもしれない。 「……お邪魔します」 「いらっしゃい。ちょっと用意が遅れちゃって、まあそんなに時間はずれ込まないだろうけど、適当に時間つぶしてて。あ、民放じゃなくて、NHKつけてよ。総合じゃなくて教育のほう」 「……ドラマ?」 「このドラマ、長門さんが気に入るんじゃないかと思って。BBCのやつよ……ああ、びわ湖放送じゃなくてイギリスの」 BBC、正式名称を英国放送協会という。ドキュメンタリーなら学校の授業で見たけれど、BBCのドラマを見たことは今までなかった。生物の先生が、世界最高の放送局はイギリスのBBCだ、と言っていたのを、“思わず思い出した”。 ドラマが始まる。三十路過ぎくらいの白人男性と、あまりかわいらしいとは思わない女性が主人公だ(どう見てもキャスティングミスだろうか、それとも意図的に選んだ?)。男性のほうはひょうきん者でおしゃべりで、見かけはユニークだけれど、行動の根底はチャラチャラしていなくて、少しカッコいいかもしれない。 わたしはリビングの机、と言うよりこたつの中に足を入れた。自分の部屋にもこたつを置こうか、と自身に提案する。いや、きっと自堕落になってしまうだろう。風呂にも入らずに一晩中寝たりしかねない。 青い電話ボックスを模したタイムマシンと、それを駆って古今東西を旅する不老不死の宇宙人(と、それに随行する人間の少女)。わたしたちと見た目は同じでも、本質的に違うもの。不思議だった。人間はこんなに面白いドラマが考えつくものなのだ。わたしも少しは見習わなくてはならない。 「ひょっとして長門さん好みじゃなかったかしら?お口に合うかどうか心配で」 少し困ったような顔をする朝倉さん。わたしの思うところはいろいろとあるけれど、とっさに口にできたのは、「……ユニーク」の一言だけ。情けない。もう少し他に言いようがあろうに。 「面白かった?」 「うん」 「良かった。先週たまたま見つけたんだけど、これはきっと長門さんが気に入ってくれると思って」 「……ありがとう」 「どういたしまして。でも日本のゴールデンのドラマより、よっぽどユーモアに富んでるし設定も作り込んであるわよね……もうこれ一本にしちゃおうかしら」 「朝倉さんまで、わたしに合わせなくても」これはわたし個人の趣味なのだ。そこまで朝倉さんに合わせてもらうわけにもいかない。 「まあ、考えとくわ。あ、これからも見に来てくれていいけど、普段は火曜日だからね。今週は国会中継かなんかで1日繰り上げになってたけど」 「火曜日、7時」 「そう。忘れないようにね。ご飯できたわよ」 「うん……これは、カレー?」 「はずれ。ハヤシライスよ」 「……うかつ」 「そこまで言うなら最初から間違えなきゃいいのに」 そう言いながら、朝倉さんは手際よくハヤシライスとサラダを並べていく。「手伝う」 「いいのよ。長門さんは座ってて。お客様に手伝わせるわけにはいかないわ」 「……ごめん」 「ほら、食べましょ。食べないならわたしがもらうけど」 「食べる」朝倉さんに2人分食べさせるなんて。 「じゃ、いただきます」 「いただきます」 朝倉さん、いつもいつもありがとう。そんな思いを、久しぶりの2人での“いただきます”に込めた。この程度では、お礼もお返しにはならないだろう。こうやって少しずつ感謝の気持ちを示すほかに、わたしができることはあるのだろうか。本当は何かしら、いや、何だってやらなければならないのだけれど。 「ほら長門さん、暗い顔しない。せっかく一緒に晩ご飯食べられるんだから、楽しくやりましょ」朝倉さんはやや高揚した声色で言った。 「うん、そうする」わたしはそのほかに、何一つ返せる言葉を持ち合わせていなかった。 「朝倉さん」 「何かしら?」朝倉さんはスプーンを止め、視線を皿からわたしに向け直した。 「なんで、そんなに」 明るくしていられるの、と聞こうと思ったのだが、遠回しに朝倉さんが能天気だと言っているように取られないか心配になって、口を止めた。「そんなに、何?」 「……ううん、何でもない」 「そう。何でも遠慮なく聞いてよ?あ、長門さん、」 「なに?」 「こないだ初めて知ったんだけど、あなた、キョン君と知り合いだったの?」 「……キョン君?」 「ほら、今わたしの前の席にいる人よ。ちょっと目が細くて、モミアゲの長い」 そこまで聞いてピンときた。『彼』だ。今年の春に図書館で会った彼。5組にいるのは何度か見かけたことがあったけれど、なぜ朝倉さんがそれを知っているのだろう? 「昨日、彼に言われたのよ。お前がよくかまいに行ってる生徒、ひょっとして長門って娘じゃないか、って」 「彼は、わたしのことを知っている?」 「どうかな、分からないわね。直接長門さんに会えば思い出すんじゃない?」 「会えば……?」 「そう、会えばきっと彼も思い出してくれるわよ!鈍い人だからあんまりあてにはできないけど……悪い人じゃないと思うわ」 「うん。わたしも、そう思う」 それだけしか言っていないはずなのに、心なしか体温が上がったように感じた。朝倉さん特製の、この熱々のハヤシライスのせいだ。そう考えることにした。 「どうしたの?顔が赤いわよ?」 「別に、わたしは」 「なに?今になって思い出して赤くなってるの?」 「そんなこと、」 「ま、長門さんとキョン君の間に何があったかは知らないけど、仲良くなりたいんだったらわたしに声かけて。またキョン君に言っておくから」 「……わかった」 朝倉さんはどこまでわたしの考えを見抜いているのだろう。わたしと彼がどういう関係だと思っているのだろう。わたしはたいてい朝倉さんと一緒にいるから、まさか恋人同士だなんて思ってはないだろうけれど(そして悲しいかな、実際にも恋人同士ではないのだ)。 「ごめん、ドレッシングしかないわ」 「え?」 「わたしマヨネーズ嫌いだから普段買ってないのよ」 「……うん。わたしも、好きじゃない」 「なら助かったわ。はい」 そう言って朝倉さんは食卓の真ん中に和風ドレッシングのボトルを置いた。いつもわたしの買っているものとはメーカーが違うけれど、さしたる違いもないだろう。 「中華風のほうがいい?」 「こっち」 「そう。あ、使い終わったら次貸してね」 「うん」そう答えて、わたしはドレッシングのボトルを両手で振った。片手で振ると、ボトルについた水滴で手を滑らせてしまうかもしれなかったから。 朝倉さんの薦めてくれた映画は今ひとつだった。あまりにベタだったのもあるし、わたし自身の好みにも合致しなかった。悪い映画だとは言わないが、感動できたかと言えばそれは違う。わたしでも書けるだろう、とはあまり言いたくはないけれど。また原作を探して読んでみよう。全然違った話かもしれないし、また新たな味わいがあるかもしれない。 「こんなにうまいこといくもんかしらねぇ……フィクションだからある程度は目をつぶれるけど、これはちょっとね」 「……」 「2年くらい前だったかな、同じようなストーリーのドラマがあったのよ。火曜日か木曜日か忘れたけどね。あれは逆に間延びしてて面倒だったわ。11時間もあったらどうしても内容は薄まるのよ」 はぁ、とわたしは頷いた。朝倉さんは続ける。 「やっぱりこういうのは形から入らなきゃダメね。まぁ長門さん、見ててちょうだい。あなたはこの映画よりももっともっとかわいくしてあげる。わたしたちに全部任せて。『長門さんオシャレ化計画』はわたしが絶対に成功させるわ!」 朝倉さんは高らかに宣言した。わたしは不思議と嬉しかった。ひょっとしたらわたしは変われるのかもしれない。そんな気がした。 「長門さんは先にお風呂入ってきて。お皿洗っておくから」 「うん」 「お湯は熱めだけど大丈夫?水足してもいいわよ」 「うん。ありがとう」 わたしは服を脱いで、洗面所の隅にまとめた。風呂上がりに持って出るのを忘れないようにしなければならないだろう。明日の朝に着ていく制服がなかったらとんでもないことだ。困る。 仕方がないので、制服は洗面所の真ん中に動かした。これならきっと忘れることはないはずだ……たぶん。 鏡で自分の肢体を目にするたびに、朝倉さんがうらやましくなる。わたしの背丈はいつまで経っても伸びないし、体つきはまったく女性らしくない。胸が大きくなるわけでもなし、腰回りに色気があるわけでもない。(単純に太ればいい、というだけでもないのだが) 顔立ちひとつ取ってもそうだ。彼女のようにきりりとした顔立ちは、この血色の悪い顔にはまったく見えない。代わりにあるのは、おおよそ通っているとは思えない鼻筋と、意志の弱い目、言葉を紡げぬ出来損ないの口。まったくもって、どうしようもない顔だ。どうしてこうもわたしと朝倉さんは違っているのだろう。 わたしはそんな憂鬱をどうしても払いのけたくて、風呂に頭まで浸かろうとした。しかし熱さに弱いわたしが潜るには浴槽のお湯はあまりに熱すぎて、わたしはすぐさまギブアップせざるを得なかった。 朝倉さんに少しでも近づくために、わたしも髪を伸ばしてみようか。いや、ただでさえ手間をかけていない髪だ。伸ばしたりしたら今以上に悲惨なことになる。するとまた朝倉さんに迷惑がかかる。そんなことになってば言語道断だ。わたしはロングヘアーを却下した。 2時間後、わたしは自室に戻り、歯だけ磨いて床に就いた。いや、むしろ布団に潜り込んだ、と言ったほうがいい。寒くて耐えられない。この痩せ細った身体は寒さにも弱いのだ。 Next Back to Novel of T
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あわゆきのよるに【登録タグ IA nodoka あ 曲】 作詞:nodoka 作曲:nodoka 動画・イラスト:あわしま 唄:IA 曲紹介 淡い、淡い、雪が降る。 3作目になります。皆様良いクリスマスを。 (作者コメントより) 歌詞 (動画より転載) 昨年より少し気温が低い 足踏みをして貴方を待つ 明るい夜 信号機が何度目かのまばたきをして 体温を奪って行く 22時 未だ仕事は終わらない 絶対無敵の時計と にらめっこだ 僕はまた 何度目かの溜め息をして 言い訳を考えている 語り尽くした話をしよう 毎日を薄く、平たく 延ばして 重ねて行こう 濡れた道を 駆け抜けた 君の姿は無い 息を切らして しゃがみこんだら 「頭から湯気出てる」って 笑う君の声が降る (間奏) 「心の温度は、貴方の腕の中でしか 上がらない様に 出来ているのよ?」 そしたら貴方は困った顔をして 照れくさそうに 手を握りしめた 触れたこの手が 冷えない内に 温めた言葉を贈ろう (嗚呼、なんだか少し照れくさいなぁ) お互いの熱 冷ますように 淡い、淡い、雪が降る コメント 名前 コメント
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佐々木と町歩き プロローグ さて、唐突だとは思うが高校生になった俺は、・・・あー、例のヘンテコな団の面子を除いてだが、 “友達”と呼べる存在はそれなりに居た。 谷口や国木田だってそうだし、いつぞやの件で世話になった阪中、 それにその他諸々(こういう言い方もどうかとは思うが)、 結構な人数だと思う。しかし、今日の待ち合わせの相手は、本人曰く“友達”じゃなく――― 「お待たせ」 ―――おっと、待ち合わせの相手が来たようだ。 待ち合わせよりもちょっと早く来ていた俺よりちょっと遅れて来たそいつは、 可愛らしいピンクのカーティガンを身に纏い、大胆なミニスカートで登場した。 「待った?」 「いいや」 「なら、いい。それでは行こうか」 そいつは―――いや、もうぼかしもいらないか。佐々木は穏やかに微笑んで、歩き出した。 さて、何故俺が佐々木と肩を並べて町を歩いているのかというと、話は昨夜に遡る。 1. 俺が風呂でのんびりしていた時の話だ。 最近お気に入りのバラードを発見した俺は、そのバラードの鼻歌を歌って非常にリラックスしていた。 その俺の安らぎの時間に入りこんで来るのが、 「キョンくぅん、電話―」 我が妹だ。もう慣れているし、どうでもいい事なんだがな。 「誰からだ」 妹はにへら、と笑い 「女の人―」 あー、分かったよ。さっさと代われ。妹の言い草からだと、 ハルヒではないな。あいつなら俺の携帯電話に俺が出るまでかけ続けるだろうし、 ついでに我が妹は「ハルにゃん」とか言うからなぁ。同じ理由で朝比奈さんも却下。 長門も俺にかけるということは滅多にしないし、古泉は女ではない。 その電話が誰からだ、という推測はついていないが、 俺は妹から子機を受け取った。妹が浴室から出て行くのを確認して、ようやく電話に応答した。 「もしもし」 『やぁ、入浴中にすまないね』 なんだ、佐々木か。 『親友に向かってなんだとはないだろう?キョン』 ああ、悪かったよ。それで、何の用だ? 『実は明日、ちょっと僕に付き合って欲しいんだが』 ふむ、明日か。そりゃまた何で。 『それは会ってから話そうじゃないか。それでは明日午前9時、いつもの駅前で』 それだけ言って佐々木は電話を切った。いつもの、というのは無論、 我がSOS団の集合場所の事だ。何故俺を呼ぶのかは知らないが、 断る理由も無いだろう。珍しく明日はSOS団的活動は休みだからな。 ―――以上が今佐々木と肩を並べて町を歩いている理由となる。 理由はまだ聞いていないが、それはまぁいつでもいいだろう。 どうせ俺も暇な休日だったんだ、女子と歩くのも悪くは無いだろう。 「それは幸いだね。僕もキョンとのんびり歩けて楽しいよ」 “友達”じゃなくて“親友”と言ったな。そこまでの付き合いをしてきたから、 俺はこんな事を言われても別に脈拍が景気良くハイテンポに音を奏で始めるわけじゃない。 「ふむ、それはつまらないな」 何がだよ。 「君が僕のような女子と触れ合って、慌てふためく姿を見れないからね」 それをしようとするのは遠慮していただきたい。 お前が相手だろうと、俺が朝比奈さんや長門を前にして 慌てふためく姿を見られるのはプライドが傷つくと言うものだ。 「くっくっ、そうか」 「ところで佐々木、これからどこへ行くんだ?」 「じきに分かるさ」 曖昧に言葉を濁しつつ、佐々木はどんどん歩いて行く。 しばらく歩き続けて、佐々木はいきなり歩みを止めた。 「この店には前々から興味があってね」 佐々木が立ち止まった所には、最近出来た衣類の専門店があった。 ふむ、服とかに気をかけない俺にはあまり縁がなさそうだな。 「そうかい?キョンも外見を綺麗にすれば、もっと女の子が近寄ってくると思うよ」 ほっとけ。お前な、その言い方は今の俺の外見が汚いみたいじゃねぇか。 「くっくっ、失礼。では入ろうか」 佐々木は古泉と張り合えそうな微笑をして、店内へと入っていった。 店内ではカップルやら女友達の集団やらで結構混雑していた。 そのカップルの類に俺達が入ってもいいのかね?佐々木は入るやいなや、 さっさと目当ての売り場へと向かって行った。 「佐々木、お前は何が欲しいんだ?」 「ふむ、そうだね。最近よそ行きの服が破れてしまってね。代わりの服を探しに来たんだよ」 ふむ、お前もそれなりに服を気にして居るんだな。 「バカにするなよ、キョン。僕だってファッションは結構気にして居るんだ。一応女の子だもん」 口調を変えるな。いきなり変えるもんだから笑っちまいそうになっただろうが。 「む、またバカにして。僕も女の子だからね。たまには甘えたくもなるものさ」 相手を考えて欲しいね。お前だって俺が女子の前で挙動不審に陥りやすい事を知って居るだろう。 「知らなきゃさっきのような口調の変化はさせないさ」 コノヤロウ。お前は俺を弄んでそんなに楽しいのか。 「さっきも言っただろう?僕は君が慌てふためく姿をこの目で見たいと思っていると」 なんじゃそりゃ。今現時点で俺が言える言葉はこれだけだな。 やれやれ。 2. 「ふむ、そうだな。これなんかどうだろう」 さっきから俺は佐々木の服選びに付き合っているのだが、これがまた長い。 俺の妹ならばシュパッと決めてしまうもんだが、佐々木ぐらいの年頃なら時間がかかるのも頷けるな。 「店員さん、これ試着しても?」 「どうぞ」 律儀にも佐々木はいちいち店員さんに試着許可を頂いている。 試着室に消えた佐々木を待つべく、俺も適当にその辺を眺めていたが、 女物の服しかなく、俺はやむなく目を閉じた。 壁にもたれかかって、どれくらいの時間が経っただろうか? 「キョン。起きなよ。立って寝るなんて、君も器用なものだ」 そんな事を言っている佐々木を目の前にして、俺は口を開けたままぼんやり突っ立っていた。 「どうした、キョン?そんなに似合うのかい?ならば、買って良かったと言うものだ」 俺の目の前にいた佐々木は、俺が今日最初に出会った佐々木とは全く違う印象だった。 佐々木は真っ白なドレスで身を包んでいたのだ。 「さ、佐々木・・・?」 「くっくっ、そういった状態の君が見たかったんだ」 ウエディングドレスと言っても差し支えなさそうなその衣服は、佐々木曰くパーティー用らしい。 俺はしばらくぼんやり突っ立っていた。 3. 「ほら、行こう」 着替えた佐々木を見て、俺はようやく正気を取り戻したようだ。 佐々木に連れられて、また外を歩いていた。 「しかし、キョン」 佐々木は笑いをこらえる様な表情で俺を見つめている。 「何だよ」 「慌てふためく、といかなくても君の精神状態にちょっと影響が出る程度も良いものだ」 お前はオタクか。 「おっと、誤解しないでもらいたい。僕は君の貞操が崩れるのを見るのが楽しみなんだ」 うるせぇよ。親友の縁を切るとまではいかなくても、お前としばらく顔をあわせる気が失せるだろう。 「・・・それは嫌かな。キョンともう会えなくなるなんて、私・・・私・・・」 おい、佐々木? 「なんてね。今のキョンの表情も中々のものだったよ」 くそっ、してやられた! さて、俺と佐々木はあの後、 「お腹が空いたね。キョンもそうじゃないかい?」 という佐々木の一言でファストフード店へと入っていた。昼ごろなのでかなり混雑していたので、 佐々木が注文、俺が席取りという役割分担だ。 購買のヤキソバパンを奪いあうような感覚で席を奪取した俺は、 佐々木が持ってくるであろうダブルチーズバーガーを期待してのんびりと待っていた。 5分くらいかかって、 「やぁ、お待たせ」 ジュースやらポテトやらのセットをトレーに乗せて、ウェイターといっても差し支えない営業スマイル(ではないのだが)でやってきた。 「ああ、俺も腹が減ったんだ。さっさとくれよ」 「そうか」 佐々木はにこやかに俺に注文した品を差し出してくれた。 俺は早速渡されたハンバーガーを開封すると、黙々と食い始めた。 うん、たまにはハンバーガーも悪くないな。 「くっくっ」 なんだよ。気味が悪いぞ。 「失礼。食べる事に集中したキョンが可愛くてね」 ごふっ!いきなり何を言いやがる! 俺は喉に詰まらせたダブルチーズハンバーガーをなんとかすべく、 ジュースが入ったカップに手を伸ばした。 「おっと」 おい、俺のジュースだろ!取り上げるな!俺の今の状態が分からないのか! 「何と言っているのか分からないな。なんたって、今のキョンは喉にハンバーガーを詰まらせているからね」 お前・・!俺を殺す気か! 佐々木はニヤニヤしつつ、俺にオレンジジュースを手渡した。 俺はそれを一気に飲み干してから、佐々木に向かって 「お前な!三途の川が見えたぞ!」 佐々木はなおも表情を崩さず、 「くっくっ、今のキョンも可愛いものだったよ」 おい・・・弄ぶなよ・・・・ 4. 「やはりキョンは僕をちゃんと異性として見ているのかい?」 「うるさい」 ファストフード店を出た俺は、さっきから佐々木の嫌味な質問攻めに適当な返答だけをしていた。やれやれ、お前はいつからそんなにいたずら好き(?)になっちまったんだ? 「キョンと出会ってからかな」 あーそうかい。んでもってそのいたずらは俺にしかしないのか。 ふぅ、と俺がやるせない溜息をつくと佐々木が、 「キョン・・・溜息をつくと幸せが逃げていくって知っているかい?」 と言うので俺は即答した。 「知らん」 「くっくっ、そうか」 また嫌味な笑い方をするが、不思議と俺は嫌な感じがしなかった。 んー、これは多分いつもの事だからだろうね。 思えば昔からこんな感じだったか?塾へ一緒に行く時も自転車の鍵を隠してみたりな。 あの時のお前は――― 「おっと。キョンは公道で他人の昔の失態を明かすような酷い人だったかい?」 俺は素直にその先を言うのをやめた。佐々木からは静かに殺気が滲み出ていたからだよ。 おー怖い。そういやこいつは怒ると怖いタイプか。 「それくらいの事が出来なければ人間社会では生きていけないさ」 という佐々木に俺は素直に賛同しておくことにした。さて、次はどこへ行くんだ? 「そうだね。次は・・・あそこなんてどうだい?」 佐々木が指を指した先には、何やら純洋風のカフェがあった。ふむ、のんびりするにはうってつけだな。 店内は落ち着いたちょっと中世の時代を思わせる雰囲気を漂わせていた。 穏やかなクラシックが流れていて、カフェとしては中々良いところだった。これは意外な穴場だな。 「ふむ、そうだね。僕も適当に目に付いたカフェに入っただけだったんだが、ラッキーと言うべきか。今度からここで落ち着くこととしよう」 佐々木も気に入ったのか、やたらと褒めている。 俺と佐々木は席につくと、コーヒーを注文した。俺がぼんやり窓の外を眺めていると、 「キョン。今日はどうもありがとう」 なんだ、改まって。 「僕だって礼くらい言うさ。いきなり人を呼び出しておいて何も礼を言わないほど僕も愚かではないよ」 愚かって。それは言いすぎじゃないか? 「そうでもないさ。僕はキョンに本当に感謝しているよ」 佐々木は微笑むと、ウェイターが運んできたアイスコーヒーを俺に渡した。 俺はそのアイスコーヒーをすすりながら、 「ま、どういたしまして、だな」 と言ってやった。 「くっくっ」 なんだよ、また。 「いや、素直に喜んだだけさ。キョンに迷惑をかけてしまったのではないかとね」 ふん、どうせ暇なんだよ。俺としては暇が潰せて大助かりさ。 「くっくっ、なら良いんだよ」 佐々木はまた笑うと、コーヒーにストローをさした。 俺はまだ残っているコーヒー置いて、改めて佐々木を見てみた。 良く見てみれば、凄く可愛いんだよな、こいつ。 でも、どこかが風変わりで男子からは不気味がられているんだったな。 でも、塾が同じだった俺と仲よくなっていたんだよなぁ。 そこから俺は「変な女が好き」っつーどうもアレな印象が植え付けられたみたいだった。 「ふむ、もう底が尽きた」 そう言った佐々木は、俺のカップに自分のストローをさして、 「これ、貰うよ」 と言って飲みだした。別に構わないけどな。お前そんなに飲む奴だったのか? 「これでもコーヒーは大好きなんだ。家にコーヒーメーカーがあってね」 ふうん、かなりの通らしいな。 「そうさ」 そこから俺と佐々木の会話の層は広がっていったんだ。 5. 「キョン、今日はありがとう」 佐々木の奢りで喫茶店を出た。 喫茶店では、昔出会った頃の話、塾での話とか色々して、何だか久々に和んだような気がするぜ。 「それは幸いだ。キョンが不愉快にならなければ良いと思っていたからね」 別に。お前を相手にして不愉快なんかにはならないよ。 「そうか」 佐々木は機嫌が良いのか、さっきから笑いっぱなしである。 ま、お前も不愉快じゃなきゃいいんだけどな。 「愚問だよ、キョン。僕が不愉快なんかになるわけないだろう?」 佐々木はニヤリと笑って、俺の手を掴んだ。 「佐々木?」 「くっくっ、こうすれば僕達も立派なカップルに見えるんじゃないかい」 お、おい。急にどうしたんだ。機嫌が良すぎて逆にハイになったんじゃないだろうな。 「それなら機嫌が悪すぎて、じゃないか?どっちでもいいけどね」 佐々木はよく分からんことを言って、俺を引っ張った。 「ちょっ・・・」 あんまり強く引っ張るもんだから、俺はバランスを崩して倒れてしまった。 「うわっ!?」 俺が倒れて来るとも分からなかった佐々木も一緒に倒れた。 「あ・・・」 気付いたときには俺が佐々木の上に馬乗りというなんとも言えない体勢になっていて、 朝比奈さんが「私何も見て居ませぇん!」とか言って逃げ出していきそうなそんな感じになっていて、 不覚にも俺の脈拍は軽やかなテンポですごい演奏をおっぱじめていやがった! 「・・・ごめん、キョン。とりあえず早くどいてくれないかい?」 佐々木の一言で我に戻った俺は、神速の早さで飛びのいた。 佐々木は自分の服についた砂埃を払いながら、 「今のキョンの顔も可愛いものだったよ」 結局、俺は弄ばれただけだったな。 6. 俺は佐々木を家の前まで送っていた。 「キョン、今日は本当にありがとう」 何度も念を押して礼を言う佐々木も可愛いんじゃないか?と仕返しのつもりで言ってやったのだが、 「くっくっ、やはり君は僕を異性として―――」 ええい、うるさい!その台詞は反則だ! 「くっくっ、必死になる君もいいね。昔出会った頃を思い出すよ」 中一の俺は・・・ダメだな、ありゃ。アレは俺じゃないんだ。 「よく言うよ。キョンはあの時からキョンだったじゃないか」 分かった分かった。どうせあの時の俺も俺なんだろ。 「だからそう言ってるじゃないか、くっくっ」 やっぱりこいつに口で勝てる日は来そうにないな。 「じゃあね、キョン」 佐々木は割とあっさりと家に入って行った。 俺も家に帰る事とした。いつまでも家の前に居てもアレだからな。 エピローグ その後の事だが。 俺が風呂でのんびりした後に、携帯のメールの着信履歴に「佐々木」という文字があった。 念押しに、まだ礼を言い続けるのかと思いきや、少し違うものが書かれていた。 件名:可愛いキョンへ 今日のキョンは可愛かったよ。 普段ならあんな姿、僕の前じゃ見せないだろう? 今日君を誘った理由を教えようか。 慌てふためくキョンの姿を写真にでも収めようと思ってね。 色々ヒントの種も捲いたつもりだったんだけど。 全く気付かなかったようだね。ま、それもまた君の可愛いところさ、キョン。 ドレスをあえて今日買ったのも、その為なのさ。 さて、僕はもう寝るから。 おやすみ・・・・ へー・・・ほー・・・やっぱりあいつは俺を弄びたかっただけなのか! しかし、不思議と悪い気分じゃないな。俺もヤキが回ったのかもしれないが、 “親友”だから許してやろうか。ドレス姿は悪くなかったからな。 END あとがき いつもと書き方を変えてみた結果がこれだよ!(滅 佐々木さんは個人的に好きなキャラクターなので、美化せねばと思っていたのですが・・・ \(^о^)/(ちょ Back to Novel of D
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執筆日 2008年8月5日 備考 人生その場シノギ。さんに進呈。 自分で読んでて自分で背筋を凍らせてどうする。 「ゆたか」 私は、左隣に座る彼女の名を呼んだ。 「なに?」 「たまにはドライブもいい」 「うん」彼女は小さく首肯する。 「みなみちゃんは、風を切るのは好き?」 「好き。バイクにもよく乗るから」 顔を合わせない。運転中に余所見をするわけにはいかないから。 「私も好きだよ、風を切って走るの」 「……」 ゆたからしくないと思うのは失礼だろう。彼女は新しい楽しみを見つけたのだ。 彼女の横顔の向こうには、深い青色の太平洋が見える。天候は雲ひとつない快晴。 「料金所……」私は財布を膝の上に置いた。 「あとでお金返すね」 「いい。言い出したのは私だから」 オープンカーは料金所で停まる。小銭がほとんどなくなってしまっていることに気付き、仕方なく千円札を崩した。 ―― Giovane Due ―― アクセルを優しく踏み込む。クルマは私に僅かな縦Gを感じさせてゆっくりと加速していく。 ハンドルを握っているのは私ではなく、ゆたかだ。彼女の愛車フィアット・バルケッタ――イタリア語で舟を意味する――が左ハンドルであるために、ナビシートに座る私が料金所での支払いを請け負っている。 ゆたかと会うのは久しぶりなのだが、まさかクルマを買ったとは思わなかった。私たちにとって遊びに行くと言えば未だに電車が普通だったし、現に私は免許証を身分証としてしか使っていない。原付に乗ることはあるが、クルマに乗って遠出などしたことのないペーパードライバーなのだ。 彼女の運転に粗さはない。高校生の頃はもちろん、大学に入ってから会った時だって、ゆたかは子供っぽく見えるからと言って髪を結ぶのはやめていたが、免許なんて持っていなかったはずなのだ。なのに今や若葉さえ付いていない。知らないうちに差をつけられてしまったような気分だ。 でもよく考えれば私たちも20代半ばだ……よく考えたら、免許を取っていたって何らおかしくはないのである。私も就職してからは髪を伸ばした。 「ゆたか」 「どうしたの?」 「今日、びっくりした」 ゆたかは、さすがにこちらを向くことは出来ない。だからと言って無愛想だったり、会話が途切れたりすることはない。 「ゆたかが、クルマを買うのはちょっと意外だったから」 「自分でもそう思うよ。こなたお姉ちゃんが薦めてくれたから、ちょっと高かったけど思い切って買っちゃった!」 「よかった」 「実は、みなみちゃんに見せたかったから、今日はドライブに誘ったんだ……」 「え?」 ちょっと図々しいな、って自分でも思うけどね。ゆたかはそう言って、照れるように笑った。 「もうちょっと行った先に喫茶店があるんだけど……一休みしない?」 「うん、休もう」 ゆたかは駐車場にクルマを停めた。ゆたかの言葉通り、海と自動車道の間にポツンと一軒だけ喫茶店が建っていたのだ。 私たちはクルマを降りた。私はちらりとクルマの方を振り返る。 ゆたかの赤いバルケッタ……どことなく、持ち主のゆたか本人の持つイメージとは違うように見える。私がゆたかに勝手な印象を抱いているだけなのだろうか?切れ長な目だったり、シャープな表情はやっぱりゆたかとは違う。 かと言って、このクルマを勧めた泉先輩のイメージとも違うと思うのは気のせいではない。泉先輩の近況は田村さんから逐一聞いている。 カランカラン、とゆたかは小さく扉を開いた。決して寂れてはいないようだ。一組のアベックが、向かい合って珈琲を飲んでいる。 「ごめんください……」ゆたかはカウンターに呼びかける。 「はい、いらっしゃいませ」 店の奥から現れたのは、やや背丈の低い男性だった。人懐っこそうな顔立ちだ。親しみやすい人のように見える。銀縁の眼鏡が、柔和でくりっとした彼の両目に宿した優しさを強調していた。 「そこのカウンター席にしますか?」 「ええ……それで」 私は思わず答えてしまった。未だに人と目を合わせて話すのが苦手だ。ゆたかと向かい合って座る度胸はやっぱりない。 「カフェ・ラテお願いできますか?」ゆたかはマスターに言う。 「お連れ様は?」 「ダッチ・コーヒーで」 「承知いたしました。しばしお待ちを」 「みなみちゃん、ダッチ・コーヒーって何?」 「水出しのコーヒー……なかなか置いてあるお店はないけれど」 「みなみちゃんは飲んだことあるの?」 「前に一回だけみゆきさんに頂いたことはある」 でもやっぱり苦かった、と私が告げると、ゆたかは、じゃあ私には無理かもね、と苦笑いした。 「お待たせいたしました」 マスターが戻ってくる。 「どうぞ、ごゆっくりと」 「いただきます」 ゆたかは、自分のカップを見た瞬間に目を丸くした。「これは一体……」 「フリープア・ラテ・アートでございます」 私もゆたかのカップに視線を移す。 コーヒーの表面に、ミルクでハートマークがあしらってあるのが見えた。 「あまりに可愛らしいお方だったもので」 マスターは優しげに微笑む。 「お連れ様はこちら、ダッチ・コーヒーでございます」 「ありがとう」 さすがに装飾はなかったが……。 「なかなか風変わりなオーダーをされますね?」 「ええ……前々から興味があったもので」 「そう言って頂けると、店を構える側としては嬉しい限りでございます」 私は少しカップに口をつけた。さすがに苦い。しかしそれが楽しみだ。 「普段からダッチはお飲みになるんでしょうか?」 「いえ、以前一度だけ……なかなか頂けるお店がなくて」 「なるほど……豆自体はさほど高級品というわけでもないのですが、やはり置いてらっしゃるお店は少ないでしょう?」 はい、と私は頷いた。そしてまたひとくちコーヒーを飲んだ。 「お二方、今日はどちらから?」 「……埼玉です」 私は少し悩んで、結局はゆたかの出身地を言った。 「なるほど……わりと山の手になると、ここまでいらっしゃるのには時間がかかったのでは?」 「今、ドライブの途中なんです」今度はゆたかが答える。 「ドライブでございますか……仲がよろしいようで、うらやましい限りです。お友達ですか?」 はい。大事な親友です。年甲斐もなく、私はきっぱりとそう言った。 「本当に、大事になさってるんですね」 「私は……彼女が大事ですから」 私たちは店を出た。マスターは少し勘定を安くしてくれた。クルマに乗り直し、再び交通量の少ない道路に飛び出してゆく。 「みなみちゃんは、お仕事は順調?」 「うん。この間、またひとつ新しいブランドを請け負ったから」 私は大学を出て、海外ブランドの代理店に就職したのだ。 「かっこいいなぁ……私もそういう会社で働いてみたかった」 「でも残業で帰れない日もある……」 一時は3日間帰れなかった。 「うーん、やっぱり私じゃ倒れちゃうかも。フランス語も話せないし……」 「でもやりがいはあると思う。ゆたかの仕事だってそう……おめでとう」 ゆたかは今小説を書いている。この間も賞を取ったと聴いた。 「私はおじさんに全部教えてもらったみたいなものだもん、他人様よりうまいわけじゃないよ」 「でも大事なこと」私はそう思う。 「そうなのかな」 「自分の書いたものが人に喜んでもらえたり、求められたりするのが……うらやましい」 「うらやましい?私が?」 「うん」 「……ありがとう」 私はその言葉に答えなかった。いや、答えられなかった。 風がさっきよりも幾分か涼しい。もうかなり遠くまで来たのだろうか。道の続く先には岬が見えた。いや、岬と言うよりは崖だ。 ゆたかは何も言わず、そこにクルマを停める。青々と広がる太平洋まで、50mもないところに。 「どうしたの?」 「ちょっと、風に当たろうよ」 「うん。分かった」 「ねえみなみちゃん」 「何?」 「私は、もうみなみちゃんの親友に相応しくなれたかな?」 ゆたかはクルマを降りながら私に問う。ドアの閉まる音が心地良かった。 「相応しくなる?」 「うん。この10年間、ずっと考え続けてきたことなんだ」 ゆたかはひとり、岬の先端に歩いてゆく。 「私には、みなみちゃんはもったいないんじゃないかって」 「そんなこと、ない」 それだけは確信を持って言える。 「高2の頃だったかな。私をつけ回してた男の子を、わざわざみなみちゃんが振り払ってくれたこと、実は知ってるんだ」 ゆたかは向こう側、海の方を向いたまま話す。 「そんな……」私は言葉を失う。 「わざわざ言わないままにしてくれたんだよね。私が不安にならないように」 「……そう」 「二十歳の頃に、みなみちゃんに言い寄ってきた人をわざと振ったのも、本当は私のためだったんでしょ?」 「あれは、私があの人と釣り合わないと思ったから……」 「みなみちゃん、ちょっとやりすぎだよ。本当のことを知った時はびっくりしたんだ。感謝してもしきれないのは分かってる。義理だけじゃなくて、心の底から感謝してるのは嘘じゃないよ。でも、言わせて」 助手席に座ったままの私は何ひとつ言い返せない。 「なんで、そんなに私にこだわるの?」 「どうしてって……」言葉が出ない。昔の自分に戻ったようだ。今だって会話は得意じゃないけれど。 「怒ってるわけじゃないよ。ただ私には分からないだけ。どうして、そこまでみなみちゃんは私と一緒にいたいと思ってくれるのか」 「それは……友達だから」 「本当に?」 「嘘じゃない!」 私は思わず怒鳴ってしまった。こんな所で怒鳴ったって、誰ひとり得しないのに。 「怒らないで」 「……」 「始めは、親切心でハンカチをくれた。そして再会した。全ては偶然なんかじゃないよ。私たちはいずれ、出会わなきゃいけなかったのかもしれない。私がみなみちゃんと仲良くしているのは、今は友達だからという理由だけじゃないんだ」 「……どうして」 「私が高校生の頃は、秩父の実家に帰らずに幸手にいたのは知ってるよね?」 「うん……泉先輩の」 「そう、お姉ちゃんの家に居候してたから気付けなかったけれど、こないだ実家に帰った時に見つけたんだ」 その瞬間、ポケットの中にあった私の携帯電話が震えた。 「携帯、見てみてよ」 ゆたかは私を促す。画面を見る。メールには写真がついていた。 「これは……」 「私の、お父さん」 どことなく、ゆたかよりも成実さんに似ていた。それでもゆたかの父親なのだ。そしてその隣に立っていたのは、今の私よりも若い、私の母親。 「不思議だと思わない?ゆいお姉ちゃんと私が、全く似てないこと。10歳も年齢が離れてること」 「……」 「私は正真正銘、こなたお姉ちゃんの従妹。でもゆいお姉ちゃんは違う。私とは、お母さんが違うから」 「……まさか」 「みなみちゃんのお母さんが結婚したのはいつ頃?」 「私が生まれる……5年前」昭和61年だ。 「それまでのお母さんのことは知らない?」 「あまり……よく知らない」 「私も、最初に知った時は驚いたよ」 「……言わないで」 「ゆいお姉ちゃんは、私だけのお姉ちゃんじゃないんだよ、みなみちゃん」 「……いや……お願いだから」 結末が分かるが為に、それをゆたかの口から言わせることがつらい。ゆたかにこんなこと、話させたくなかった。 「確かに、私とみなみちゃんの血は繋がってない。でも、私とみなみちゃんは、間違いなく姉妹なんだ」 「……ゆたか」 「このことは、黙ってることも出来たんだ。私が話さなければ、みなみちゃんがこんなことを知るはずもないと思ったから、本来は話す必要もないんだよ」 もういい。もう充分だ。やめてくれ。 「もちろん戸籍上は私とみなみちゃんは他人同士。姉妹になったりはしない。でも、私はみなみちゃんを試してしまった。ここまで話しても、みなみちゃんは私から離れていかないだろうか」 私が離れていくはずなんて、ない。 「ここまで話しても、まだ私を友達として見られる?今まで通りにいてくれる?私はそれを試そうとしたんだ。最低だよね、親友を秤にかけようだなんて」 「ゆたか!」 「本当は、一番悪いのは私のお父さんなのかもしれない。みなみちゃんのお母さんに手を出して、子供も産ませて、それでも最後まで籍は入れなかった。私たちは誰を憎むべきなんだろう?お父さん?それともお母さん?」 「やめて!」 私は思わず声を荒げた。 「もういいよ!何があったって私たちは親友じゃなかったの?」 思い切り叫んだ。何年ぶりだろうか、普段の私からは絶対に想像できないくらいに叫んだ。 「もうやめて……ゆたか、帰ろう」 「うん。帰ろう、みなみちゃん」 ゆたかはこちらを振り返り、バルケッタに戻ってくる。私は、自分の顔に出来た涙の一筋に気付いた。 「みなみちゃん、帰ろう」 言葉を繰り返す。誰のために?それは誰へのけじめ? 「うん」 「また、遊びに行こう」 「うん」 「おいしいものも食べよう」 「うん」 「私と一緒に行こう」 「うん。もちろん」 言わずもがな、私は感傷的になっていた。ゆたかの心境はどんな風なんだろう?でも今のゆたかは、どこか爽やかな、吹っ切れたような表情だった。 夕日を背にしながら帰る道のりで、私たちが何を話したのか忘れてしまった。何も話さなかったかもしれない。ゆたかが何か私に話しかけても、ひょっとしたら耳に入らなかったのかもしれない。あまりにショックだった。どのくらいショックだった?そう、ゆたかを失うのではないかと思った。 「みなみちゃん、」 ゆたかが私に呼びかける。 「家、着いたよ」 ……眠ってしまっていたらしい。重いまぶたを開くと、目の前には愛すべき田園調布の我が家が在った。 「……ありがとう」 「どういたしまして」 「また、遊びに行こう。一緒に、おいしいものも食べよう」 ゆたかに言われた言葉を、そっくりそのまま返した。 「じゃあ、また……」 「うん、またね」 ゆたかは私に向かって微笑み、そして前に向き直って、ゆっくりとその愛車を加速させてゆく。 今、言わなきゃ。あとで絶対に後悔する。それだけは絶対に嫌だ。 ゆたか! 自分の意志と関係なく、私は彼女の名前を呼んでいた。 「私たち、ずっと友達だよね!」 100mほど向こうか、ゆたかのクルマは、らしくない哮りと光を交互に放ち――アクセルとブレーキを交互に踏んだのだろう――、そのまま十字路を左に曲がって、私の前から姿を消した。 「お母さん……」 「何?」 「たぶん明日、向こうに戻るよ……」 「……切符はあるの?」 「どっちにせよ自由席なんだし、変わらないよ」 「そう。気をつけなさいね」 「うん」 今はひとりにして。私は母に一言謝ると、そのまま自室へと引っ込んでしまった。 お母さんが?ゆたかのお父さんと?私とゆたかが姉妹?信じられない。信じたくない。当たり前だ。私たちは親友だけれど、それ以外の何者でもないのだから。それはゆたかだって分かっているはず。ならば何故わざわざ、自分に話した?知らずにいたって良かったのだ。誰も咎めやしない。だから余計に分からない。誰かがやらざるを得ないことならまだ理解できる。なのに、どうして?分からない。分からない。ゆたかが伝えたかったことは何?ゆたかが、私に、伝えたかったことはいったい何? 悩んでも答えなんて出るわけはないし、ましてや出なかったところで何も変わらない。もし答えが出なくてもゆたかはこれからも――まるで今日のことなんて無かったかのように振る舞い――、私の親友でいてくれるだろう。 でも、だからこそ知りたい。ゆたかの真意を知りたい。今日の出来事は夢じゃない。 突然、重低音が聞こえた。携帯電話、か。またメール。忌々しい。誰から? ゆたかだ。私は一瞬だけ、メールを読まないまま消去してしまおうかと思った。でもそれは駄目。私は意を決してメールを開いた。 {Subject 実は…… From 小早川 ゆたか Date Aug.16, 2017 みなみちゃん、さっきはありがとう。 今日の話、実は……嘘でした。 こなたお姉ちゃんの入れ知恵だったんだよ……本当にごめん。 あの写真は本物です。私のお父さんとみなみちゃんのお母さんが、並んで写真に写ってる。 実は……私も最近まで知らなかったんだけど、あの2人は同じサークルの先輩後輩だったんだって! 運悪く(?)こなたお姉ちゃんに見つかっちゃって……私は反対したんだけど、どっちにしても私が嘘ついたんだもんね。本当にごめん。怒らないでね? 一緒に出かけよう!それでは、また。 あ、お仕事も頑張って!私で良かったら相談にも乗るよ。 P.S. 料金所のお金、返し忘れてました。 今度、会った時にでも返すね。} 私は自室を出た。階段を降りてリビングへ戻る。片手には携帯電話。 「お母さん、この写真……」 「これ、私の大学の頃の写真じゃない!みなみ、どこでこんなものを……」 「ゆたかに、貰った」 「この人、やっぱりゆたかちゃんのお父さんだったのね……」 「知ってたの?」 「秩父で小早川さんなんて名字だから、ひょっとして、とは思ってたのよ」 「そう……」 「懐かしいわ……何年ぶりかしら」 「……お母さん」 「何?」 「私、やっぱりまだここに残る」 「そう。切符は大丈夫ね?」 「うん」 私はコーヒーを淹れて、ひとくち飲んだ。水出しではなかったけれど、今まで飲んだどんなコーヒーよりも、苦かった。 fin. not found (fiat_barchetta.jpg) Fiat Barchetta "Giovane Due" Back to Novel of T
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執筆日 2009年3月15日 備考 忙しくてブランクが長かったので久々の小説、 途中で誤って消してしまったので文章の整合性がとれてないところがあるかもしれない。 内容的には『雨作家』の本領発揮と言った感じ。 冬の雨は、どこまでも冷たい。わたしたちの冷え切った身体と心を、如月の通り雨はさらに冷やしてゆく。 February Shower 総じて雪は冬に降るものであるが、冬は雪が降るものだというのは必ずしも正しいわけではない。そのことをわたしたちはつい忘れがちになってしまうのだが、それは今のわたしが受け入れなければならない、紛れもない現実でもあった。つまりは…… 「なんで、こんな日に限って傘がないんだろ……」 そう、傘がないのである。 今日は週に2回の文芸部活動の日だった。朝倉さんは来たるべき三連休に合わせて久々に帰省している。“彼”は今日、ペットの猫を獣医に診せに行くからと言ってわたしに頭を下げて帰ってしまった。久しぶりの、以前と同じような孤独な文芸部活動だった。 かつてはそれが普通だったというのに、実のところ今日は寂しくてたまらなかった。ずっと独りだったわたしが人恋しいだなんて可笑しな話だけれど、実際にそうだったのだ。 どうしようか。誰かが迎えに来てくれるわけでもないけれど、わたしは学校を出ることも出来ずにじっと立ちすくんでいた。 とりあえず、状況を整理しよう。 問.わたしは誰だ? 答.他でもない、長門有希である。1年6組、文芸部長の長門有希である。 問.今はいつで、ここはどこだ? 答.2月半ばの金曜日、兵庫県立西宮北高等学校の校門前だ。 問.わたしは今どうしたい? 答.自宅マンションの708号室に帰りたい。出来れば雨に濡れることなく。 問.現状は今どうなっている? 答.傘を自宅に忘れてきてしまって、家に帰ることができない状況。 問.過去の経験から鑑みるに、わたしはこの問題をどうやって解決すべき? 答.同様の問題に遭遇した経験がないわけではないので、恐らくその時は走って自宅まで帰ったものと思われる。 問.ならば何故それを実行しない? 答.当時は夏の夕立だったが、今は真冬の雨だから身体が冷えてしまう可能性がより高い。体調を崩すことが容易に予想されるから。 問.通り雨が上がるのを待つという選択肢は? 答.西の空一面に雲が広がっていたからありえない。 問.ならばどうすべき? 答.どうすべきだろう。誰か教えてください。 禅問答のような堂々巡りが必須だと分かった時点で、わたしの思考回路は考えることを放棄した。特にやることも――否、できることもないわたしは、その場にじっと立ちすくんだままでいるほかなかった。 そういえば、前に少しだけ見かけた、喜緑先輩とかいう2年生の生徒はどうしたんだろう?確か朝倉さんの親戚だとか言っていたけれど(実はわたしと朝倉さんも遠戚にあたるらしいのだが、当然ながら2人とも面識がない)、こんな時に来てくれやしないかな……? やめよう。来るかどうかどころか、わたしのことを覚えているかどうかすら甚だ疑わしいのだ。そんな人に助けてもらえることを前提条件にして物事を考えるなんて、我ながら最悪のパターンだ。文芸部室の備品といい勝負の、わたしのポンコツコンピュータはまた考えることを放棄した。 ※ ※ ※ 「……長門さん?」 どれくらいの時間が経っただろう?誰かがわたしを呼ぶ声が聞こえたような気がした。或いは、それは物理的な声ではなかったのかもしれない。 ああ、これは幻聴なんだ。誰かに助けてもらいたいと強く願いすぎたせいで、有りもしない聖母マリアの声が、ゴルゴタの丘まで歩くこともできない出来損ないのイエスに、実体のない空虚な慈悲の言葉を投げかけているのだろう。 「……長門さん?」 わたしは恐る恐る後ろを振り返る。妖怪口裂け女が「わたし、きれい?」なんて言ってわたしに問いかけて来るかもしれない。その時は思いっ切り叫んでやろう。 「ポマード!」 「ふぇえっ!!何ですかぁ!?」 わたしが振り返った先にいたのは、マリアでも口裂け女でも、メデューサのような怪物でもない。 どこかで会ったような、それでいてこれ以上ないくらい可愛らしい、栗色のロングヘアーを持つ女子生徒だった。 誰だったっけ……思い出せない。気まずい空気だけがわたしたちを支配してゆく。 喜緑先輩ではないことだけは確かだ。あの特徴的な容姿は忘れようもない。 「えっと……朝比奈、です……」 「朝比奈、先輩?」 思い出した。去年の12月18日に“彼”が突然文芸部室に駆け込んできたその次の日に、少しだけ顔を合わせた人だ。 「ええ、覚えていて頂けましたか?」 「はい……」 「雨、降ってますね」 「はい……」 「傘、ないんですよね」 「はい……」 「じゃあ、一緒に帰りませんか?」 「わたしと、ですか?」 「そうです。今まで、あまり長門さんとお話したこともなかったですし……」 そう言いながら、朝比奈先輩はパステルピンクの傘を広げた。意外と大きい。何故パステルカラーで大きなサイズの傘なんて持っているんだろう。 「ほら、入ってください」 「すみません……」 私は、朝比奈先輩がただ可愛いだけの人ではないことを、初めて知った。彼女はきっと万人に対して優しいのだろう。人嫌いの激しいわたしには到底真似できない。 ありがとうございます。わたしはか細い声で呟いた。朝比奈先輩には聞こえなかったかもしれない。優しい人だから、ひょっとしたらお礼なんて全然聞こえないのかもしれない。 「長門さんは期末テストに自信はありますか?」 「あんまり、自信がないんです……他のみんながどんな風に勉強してるのかも分からないし……」 「きっと長門さんなら大丈夫です。真面目にやっていけば、それに見合った点が取れると思いますし、こんなあたしだって真面目にやればそこそこの点が取れてるんですよ?」 「朝比奈先輩は、頑張ってるから……」 「でも、それは誰にだって平等にチャンスが与えられてるっていうことなんです。あたしだけが特別頭がいいわけじゃありません」 「そう、いうものなんでしょうか……」 「大丈夫。自分を信じていさえすれば、自ずと結果はついてきます」 「……分かりました。やれるだけやってみます」 「そう、その意気ですっ!」 最近はいろんな人がわたしを元気付けてくれる。それは彼であったり朝倉さんであったり、或いは全然違う生徒であったりするのだが、いずれにせよ共通して言えるのは、皆一様に親切な人だということだ。そう、皆優しいのだ。 ついつい、わたしはこれが当たり前だと錯覚してしまいそうになるが、実はこんなに人に恵まれているのはものすごく有り難いことなのである。ならばわたしには何ができるだろう?わたしの中でその答えは未だに明確な形として出ていない。 朝比奈先輩の傘はとても大きかった。ひょっとしたら最初から誰かと一緒に入るのが前提なのかもしれない。例えば……彼氏とか。 つまり、朝比奈先輩にはその人間的な大きさに見合うだけの、相応しい恋人が居て然るべきなのだ。 これだけ可愛らしくて(上級生に可愛い可愛いと連呼するのも失礼極まりないのだが、如何せん事実なのだから仕方がない)しかも人当たりの良さも芯の強さも併せ持っているのだ。それはこの数分間だけですでに証明済みである。 実際のところはどうなのか、つまり、朝比奈先輩に彼氏はいるのかいないのか。それを本人に直接聞けるだけの度胸なんて持ち合わせていなかったから、この疑問は当面は解決しないことに決めた。 ※ ※ ※ 「朝比奈先輩は、」 「はい?」 「なんで、今日は学校に残ってたんですか?」 「今日は書道部だったんです。活動が終わって後片付けして出て来たら、長門さんが1人で棒立ちになってるのが見えたから……」 「わたしのこと、覚えててくれたんですか?」 「もちろんですよ!実は、去年初めてお会いした時から、長門さん可愛いなーってずっと思ってたんですっ」 「そんな、わたしなんか……」 「最近はあのキョン君っていう男の子と一緒に文芸部室にいますよね?何度か見かけたことがあるんです」 「え?」 「あの男の子の顔を見てれば分かります。間違いなく長門さんに惚れ込んでいるんだって」 「そんな、自意識過剰な……」 「人ひとり惚れ込ませられる人って、滅多にいるものじゃないんですよ?だから長門さんは自分で気付いたことがないだけで、本当はすごく可愛くて優しいんです。あたしが保証します」 「……ありがとうございます」 「どういたしまして」 朝比奈先輩はふわりと、柔らかい笑みをこぼしてくれた。その如才無き笑顔は、彼や朝倉さんのそれにどことなく似通っているように思われた。 そうか。朝比奈先輩の傘が大きいのは、先輩自身が他人を包み込んであげられるような、大きくて優しい心を持っているからなのかもしれない。 わたしが傘を持っていないのもきっと同じことなのだ。わたしには傘を差して他人を招き入れるどころか、自分自身を雨風から守るだけの心も持っていないのだから。本当はそんなわたしにはずぶ濡れがお似合いなのだ。 そう、思った。もちろん口には出さなかったけれど。 朝比奈先輩は意外と――と言っては失礼だからこれも言わなかった――話し上手だった。わたしが頷くか首を振るかの二択で答えられるように上手く質問してくれていることが明確に分かるくらい、わたしを気遣ってくれていた。 しかし、四つ角まで来たところで、わたしと朝比奈先輩の行きたい道が違うことに気がついて、わたしは歩みを止めて言った。 「じゃあ、私はここで……」 「あ、お家の前まで送りますよ?せっかくここまで来たのに、ここから傘がなかったら意味ないじゃないですか」 「はい、すみません……」 「長門さん」 「……はい?」 「今日、お泊りしてもいいですか?」 「え?」 「長門さんのお家に、お泊りしてもいいですか?」 「わたしですか?」 「はい、明日は土曜日で学校ないですし。それに、長門さんのお家がどんなところなのかも知りたいんです。……本当はこっちの方が本音なんですよね」 「はぁ……。」 「実は、あたしも1人暮らししてるんですよ。だから長門さんはどんな生活をしてるのか、ちょっと興味あります」 「わかりました。部屋、片付けときます」 「ごめんなさいね、急にこんなこと言い出しちゃって……」 「いえ、なんにもない家ですし……あ、朝比奈先輩」 「はい?」 「わたしの部屋、708号室ですから……」 「あっ、……ありがとうございます。それじゃあ、また。独り身ふたりで、楽しい夜を過ごしましょうね」 わたしのマンションの軒下まで来たところで、朝比奈先輩は小さく手を振って去っていった。わたしは、足を滑らせないように小走りで帰ってゆく彼女の後ろ姿を、直立不動のままでじっと見つめていた。ローファーだけれど、その駆け足はなかなかに速い。 ぴょこぴょこと弾む背中と栗色のロングヘアーが見えなくなったのを確認してから、わたしはオートロックのボタンを押して強化ガラスの張られた重たいドアを開けた。 ※ ※ ※ エアコンのスイッチを入れてから、無駄に広い自室を見渡す。ゆうべ着ていた水色の寝間着がほったらかしになっていた(まだ1日目だから今夜も着よう)。しかも今朝ベランダから取り入れた洗濯物がカゴに入ったまま放置してあった。去年はベランダから直接部屋にぶちまけていたから、カゴがあるだけまだマシか。 朝比奈先輩が来るまでの残り時間はどれくらいあるだろう。現在の最優先課題、もとい部屋の掃除と食器洗いが、どれくらいの時間で終わらせられるだろうか。 しばらく食器洗いをサボっていたせいで、食器がシンクに小山を形成している。もちろん食器洗い機なんて文明の利器はうちにはない。携帯電話さえ持っていないのだから当然と言えば当然だ。わたしは機械の扱いが絶望的に下手なのだ。今の文芸部に入ってから一応タイピングはできるようになったけれど、やっぱりわたしに機械を扱うのは無理だ。 いっそのこと携帯電話も買ってしまった方がいいのだろうか。幸いにして生活費に困ったことはないから、金銭的余裕はそれなりにある。本以外の何かに使いたいと思うほど欲があるわけでもないし、それなりにちゃんと生活していけてるからこれでいいや、と思ってきたのだ。 わたしは素手で食器を洗うことにしていた。手袋越しだと上手く洗えないような気がするからだ。確かに冬場は冷たいし、手が荒れるなんてみんな口にするけれど、本来ならそれが当然ではないかと思う。 手を滑らせないように、お皿を一枚一枚ていねいに掴む。右手より不器用な左手だから、常に細心の注意を払わなくてはいけない。そして全部洗い終わったら泡を落とす。経験的にはすすぎの方が手を滑らせる可能性は高かった。 食器洗いが好きな人なんてこの世にそうそう転がってないだろう。だからこそ食器洗い機の開発が進むのだ。犬を散歩させる機械がいまだに実用化されていないのも、逆の意味で同じようなことなのかもしれない。世間に散歩が好きな人なんて山ほどいる。大半はお年寄りかもしれないが。 洗濯物はとりあえず寝室にどかした。部屋に掃除機をかけて、適当に物をまとめだけで随時ときれいになったように思う。それを見ると、わたしは普段から全然生活感のない部屋に暮らしているのだと分かって少し虚しい気分になるから、わたしは掃除も今ひとつ好きになれない。もっとも、そんなことを言っている人間が将来的にゴミ屋敷を作っていることは紛れもない事実なので、たまには掃除することを忘れてはいけないとも思っている。 呼び鈴が鳴る。 部屋は完璧とは言えないまでも、そこそこきれいにはなっていた。わたしは急いで玄関まで飛んでいき、そっとドアを開けた。 「なーがとさん」 「……朝倉、さん?」 「おかずの配給にやって参りましたぁ!」 「え……?」 大声に驚いて平常心を失うわたしの両手にひとつずつ、朝倉さんは強引にタッパーを握らせる。 「例のおかずはこのタッパーに入ってるからね。こっちは肉じゃがで、こっちはサバの味噌煮。2食分あるから、今夜と明日の朝にでも食べて。それじゃっ!」 「あ、ありがとう……」 お礼を聞いたか聞いていないかの判断がつかないほど早く、朝倉さんはダッシュで帰っていった。曲がり角で内側の壁に手をかけて無理矢理に左に曲がった。何なんだあの人は。本当に一体何なんだ。 ※ ※ ※ 「長門さーん……」 わたしはぼんやりと立ち尽くしていたので気付かなかったのだが、朝比奈先輩はわたしのすぐ目の前まで来てくれていた。さっきと違って髪はアップで結ってあった。 「もしもーし……」 文字通りわたしの目と鼻の先で、右の手のひらをひらりひらりと振っている。雨は降り続いていたから、左手にはさっきと同じ傘。雨はまだ降り続いている。 「あ、朝比奈先輩……」 「大丈夫ですか?」 「はい、ちょっとボーっとしてたみたいです」 「お疲れ気味なんでしょうか?」 「大したことはない、と思います……たぶん」 「しんどかったりしたら、遠慮なく言って下さいね」 本当に、ありがとうございます。わざわざ晩ご飯まで持ってきてもらったのに、あろうことか玄関先で惚けてるなんて末代までの恥だ。相手が“彼”でなくてまだ良かった。彼に醜態を晒すわけにはいかない。 「今日は天ぷらを揚げてみたんです」 朝比奈先輩はそう言って、伊勢丹の大きな紙袋から濃い目のピンク色のタッパーを取り出して机に置いた。ピンク色と言えば、今は脱いでしまった白いコートの下に着ているのも薄桃色のワンピースだ(いささかピンク色が多すぎる気もするが、色が薄いのとモデルがいいので嫌味っぽくはない)。わたしはお皿と箸を取るために一旦キッチンへ引っ込んだ。 「あとは、ほうれん草のおひたしもどうでしょうか?」 「すごい……美味しそう」 「これくらいなら慣れればすぐに作れますよ?長門さんは料理されないんですか?」 「わたしは、全然ダメです」 キッチンとリビングに少し距離はあるが、静かな室内ならたぶん、まだわたしの声は届くと思う。ほとんど店屋物と朝倉さんにすがっています、とまで言ってしまって良いものか。 「でも一応、ご飯だけは炊いてありますから」 しかも無洗米です。朝倉さん経由で生協から買っている奴だ。あれは米を研ぐ手間が省けて助かる。水を吸わせて朝のうちに炊飯器のタイマーをかけておけば夜には美味しいご飯が出来上がり、それをその夜と次の朝、そして昼食で消化する。 いつも弁当はご飯だけが自前で、おかずは前述したように店屋物か朝倉さん手製である。あるいは冷凍食品か。 現に今日の晩ご飯だって、朝倉さんはわたしが独りで食べると見込んでおかずを持ってきた。今日に限ってはその予想も外れてしまったが、普段はどれだけ助かっていることか。朝倉さんがいなければ、そのうちにわたしも飢死確実である。 こちらも美味しそうだったので、せっかくだから朝比奈先輩のと一緒に頂くことにしよう。 「お好きなのを取って下さいね」 お皿や茶碗を揃え、ご飯をよそってキッチンから戻ってきたら、朝比奈先輩はそう言った。わたしは再びキッチンへ戻り、塩を取ってきた。 タッパーの中身はエビとサツマイモを筆頭に、ササミやかき揚げ、シソ、といった具合だ。量も十二分といえる。これだけの天ぷらを揚げるのに、一体どれくらいの時間がかかったのだろう。 「昨日のうちに仕込みは全部やってありましたから、今日は揚げるだけです。さっき揚げたばっかりですから、早めに食べちゃいましょうか」 「あ、いただきます……」 わたしはその場に正座して手を合わせた。 「どうぞ、召し上がってくださいね」 朝比奈先輩は、さっきよりも数段、優しさに満ち溢れた笑顔を見せてくれた。 わたしは手始めに、サツマイモとシソをもらった。 「天つゆもありますよ?ペットボトルで申し訳ないんですけど」 用意周到な朝比奈先輩は、またしてもわたしより一枚上手だった。ひょっとしたら朝比奈先輩の紙袋の実態は某猫型ロボットの四次元ポケットかもしれない。出てきたのは、350mlの小ぶりなペットボトルだ。 「あ、一応、塩もあります……」 不意打ちを喰らったわたしは、本当にささやかに対抗する。一方的に気を使ってもらってばかりだったことに何となく悔しさを感じたからだ。憎むべきは自分自身だというのに。 「ありがとうございます。じゃあ、あたしは……お塩、もらいますね」 何だろう。朝比奈先輩が、わざわざわたしのくだらないレジスタンスに付き合ってくれたような気がした。唐突に、そんな考えが頭に浮かんだ。どうにも朝比奈先輩といるとペースが狂うらしい。優しい人だけに、いつもわたしの想定よりも高いところにいるような。 天ぷらはまだ温かい。早めに食器洗いと片付けを済ませておいて本当に良かった。たまにはわたしもいいことをするものだ。 ほうれん草もおいしい。味が濃すぎないのがいい。変な個性を主張しているわけじゃないけれど、副菜――引き立て役の役目を忠実に果たす名脇役だ。 「あ、」 「どうかしましたか?」 「他にもおかずあるんですけど……食べますか?」 さっき朝倉さんがくれた肉じゃがとサバ。後者は2切れしか無かったので明日の朝ご飯と弁当に回すとして(脂っこいということもあるが)、前者はさっき見たところ、2食どころか4~5食はくだらないぐらいの量がタッパーに詰まっていた。どれだけ食べると思っていたんだろう。 「いただきます」 朝比奈先輩がそう答えるや否や、わたしはまたキッチンに引っ込んだ。 ※ ※ ※ 「ごちそうさまでした」 「お粗末様でした」 朝比奈先輩との食事は思いのほか会話が弾んだ。もちろんアルコールなんてなかったけれど、わたしもいつもより少しだけ饒舌になれたかもしれない。 それは多分、先輩が人から話を引き出すのが上手いからだと思う。何故だろう、この先輩に
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執筆日 2008年9月14日 備考 らき☆すたSS第10回コンクール(お題『失敗』)参加作品。 実のところ優勝狙いの作品ではありましたが失敗。 でも自分の描きたい事が書けたかな。 「私も本当は全部分かってたのかもね……ひょっとしたら自分で自分に夢を見続けさせたのかもしれない。それとも、昔のままの私が、みんなにうらやましがられて、ほめられることを望み続けた結果かしら」 長らく連絡のなかったかがみさんが、久しぶりに私の携帯に電話をかけてきたのは、今日の昼休みのことでした。 成功者の失敗 「もしもし?」 「みゆき?私。かがみだけど」 「ええ、お久しぶりですかがみさん。わざわざおっしゃらずとも分かりますよ」 「そうだったわね……元気にしてる?」 「はい、おかげさまで。今日はどうされました?」 「いきなり本題ね……」 「すみません、昼休みがあと15分しかないもので」 「あ、ごめん。じゃあ単刀直入に言うけど、今日の夜空いてる?」 「夜、ですか?」 「うん。午後の診療終わってから」 「そうですね……今日はカンファレンスもありますので、9時頃になると思いますが」 「充分ね。久々に飲みに行きたいのよ」 「私とですか?」 「うん、みゆきと。今日金曜だから手術[オペ]日じゃないでしょ?」 「ええ。月曜日の回診のカルテをまとめるくらいですね」 「回診ねぇ……。ごめん、突然呼び出して」 「いえいえ、せっかくですから」 「じゃあ病院に、9時半くらいに迎えに行こうか?」 「ええ、お願いします」 「分かった。じゃあまた」 「はい、失礼します」 かがみさんは私より先に電話を切りました。どうしましょうか。私は私で、帰ってからやりたいことがなかったわけではないのですが……。 別段重要なことでもありません。やはり今夜は、久々にかがみさんと一緒にいるのが最善でしょう。 カンファレンスも、それなりに円滑に進んではいます。取り立てて規模が大きい病院ではないですが、それゆえに意思疎通がしやすく、細かいところまで話し合える余裕があります。 大学病院への就職を避けたのは正解でした。お金に興味がないと言えば嘘になりますが、ある程度の水準で生活していくため以上のお金には興味がありません。 ではこの埼玉県立の病院が気に入っているかと言われれば、それはそれで疑問符を打つことになります。慣れに近い意味で愛着のような感情はありますが、かと言ってこの病院が最高かというと、現実的に見てそうではないのです。 ただ、下手に人事異動に捕まって、次に行く病院が変わる可能性がある以上、常に今より労働環境が悪くなる(賃金的、設備的なことに限らず)可能性もまた、常に背負っていることになります。 現状のままならまず問題はない、というのが正直なところです。それゆえに現状に甘んじてしまっている私は、幼い頃に夢見た私の理想像とは、ほんのわずかに違っていました。 私は、かつての自分の記憶に思いを馳せつつカンファレンスを終えました。今ひとつ手元のメモを取りきれていませんでしたが。 「ごめん、お待たせ。ちょっと道が混んでて」 「いえ、それは構わないのですが……遠かったのではありませんか?」 「お世辞にも近くはないわよ……神奈川なんかに移り住むんじゃなかったわ」 「お疲れ様です」 「みゆきにはともかく田舎の神社の娘には、騒がしい横濱はツラいわよ」 「私もそれほど都会生活に慣れているわけではないです」 「そんなもんかしらね。出発するからベルト締めてよ」 かがみさんは私にそう告げ、BMWのアクセルを踏み込んでいきます。今やここでしか造られていない直列6気筒が、私たちを夜の町へと連れ出してゆきました。 「おっちゃん、ビール2つお願い!」 「あいよっ!って、かがみちゃんじゃねぇか!」 「ずいぶんご無沙汰ね。たまには顔出させてもらうわよ」 「そりゃどうも。そちらさんは?」 「ええ、かがみさんの友人で高良と申します」 「聞いてよおっちゃん、この娘、このトシで名医なのよ?」 「いえいえ、私はまだまだ駆け出しで……」 「はぁ、敏腕弁護士の次はお医者さんかい?みんなよくやるよ」 私はてっきり近場のバーに連れて行ってもらえるものだと勘違いをしていました。まさか鷹宮の居酒屋まで来ることになるとは夢にも思っていなかったのです。かがみさんらしくないような気もするのですが、どうやら昔から馴染みの店のようでした。 「昔はよくお父さんに連れられてこの居酒屋に来てたのよ、もちろんつかさも一緒にね。中学入ってからは滅多に来なくなったけど」 私たちが生まれるよりもずっと前の歌謡曲を文字通りのBGMにしながら、ジョッキを片手にかがみさんは話します。 「小さいころからずいぶんアルコール飲んでたわよ?1回呑み比べをやらされたわね」 「呑み比べ?」 「小学生にして酒豪呼ばわりされてね、珍しくお母さんがカンカンだったのよ」 おそらくお酒の違いを見るほうではなく、どれだけ飲めるかを競うほうでしょう。さすがに私はやらされたことはありません。医学部に入った時に、飲まされかかった経験はありますが。 「では今でもお酒は飲まれるんですか?」 「今は滅多に飲まないわね。子供の頃の方が飲んでたわ」 「それは……いろいろな意味でどうかと」 「そうね。もっといっぱい飲むようにするわ」 かがみさんはそう言って、またジョッキに口をつけました。それでは本末転倒です。かの有名な医者のジョークが現実のものになってしまいます。 「冗談よ。酒は百薬の長だけど、過ぎたるは尚及ばざるが如し、ってことね」 「ええ、お願いしますね」 「分かってる、酒に飲まれちゃたまらないもの。おっちゃん、何か食べるものちょうだい!」 「何にするよ?」 「お任せするわ!二人前お願い!」 「あいよっ!ちょっと待っとけ!」 「……かがみさん、どうかされたんですか?いつもと少し様子が違うように思うんですが」 この数時間、かがみさんの言動は明らかにおかしなものでしたから、私はこらえきれなくなった質問をかがみさんにぶつけてみることにしました。 「けっこう疲れてるのよ。面倒な裁判抱え込んでてね」 「面倒な裁判、ですか?」 「そう。だからちょっとイライラしてるのかもね」 「……大丈夫ですか?」 「正直大丈夫じゃないわね。裁判自体は大した話じゃなくて、ちょっとした個人の金銭トラブルの延長みたいなもんだから大したことじゃないけど」 「はぁ……ではどうして?」 「いや、普通に考えたら調停にした方が早く終わるのよ。私の持ってる原告側の人もそれでいいって言ってくれてるし」 「……なら、普通は解決しそうですが」 「いや、私にもよく理由は分からないんだけど、被告側の人がムキになったらしくて……何が何でも裁判で決着つけるんだー!って」 「被告側が??原告側ではなくて?」 「そう。何かのスイッチが外れたみたいに突然。たぶん意地でも自分は悪くないって証明したいんでしょうね。原告側をやりこめて」 素人の私にも分かるほど、ずいぶんと的外れな話です。立場が逆ならまだ分かりますが。 「それとね……相手の被告側の代理人が、大学の時の先輩なのよ」 「お知り合いなんですね?」 「そう。金持ち専門の事務所なんかに入って……まぁ悪い先輩じゃないけど、だからこそ余計にね」 「争いたくないと?」 「八百長なんてできないけど勝ってもやりづらいし……向こうも私とは争いたくないみたいよ」 「……後輩に負けたくない、ですか」 「それは裁判になってしまった場合の話ね。それ以前に調停にしようと向こうも原告を説得してるわ。正直言って裁判になるとお互いに大変だから」 「完全に被告側の意地ですね」 「そう。だから迷惑かけてる自覚がない、っていうのが一番問題なのよ」 「お気持ちは分かりますが、実際続けるかどうかはまた別の話ではないでしょうか?裁判を受ける権利といいますか」 「そうなのよ。建て前はやっぱりそう。でもだから余計に腹立たしいというか何というか……」 「すみません、お力になれなくて」 「いいのよ。みゆきの専門分野じゃないもの」 かがみさんは3分前に渡された煮物をつつきながら私を制するように言いました。私もそれを受けて茶碗蒸しに手をつけます。銀杏が2つ入っていましたが、私はそれをかがみさんには言いませんでした。話の腰を折らずに、今はかがみさんの愚痴の聞き手にまわったほうが円滑に会話が進むと思ったからです。 「でも、最近思うのよ。私が弁護士になったのは間違いだったのかなとか、他の学部に上がれば良かったかなとか」 「しかしかがみさん、それは」 「分かってるわ。こんな言い方じゃ語弊があるけど……弁護士になったことを後悔してるわけじゃないわよ」 「それなら、いったいどうされたんです?」 私はつい、普段の診察のような口調で聞いてしまいました。私も立派に職業病にかかってしまったのかもしれません。 「弁護士になったのは良かったんだけど……イメージと違うっていうのかしら。もっと勧善懲悪の仕事ができると思ってたのよ。今で言えば弁護士のゲームみたいな」 「ええ、私も昔はそんな職業だと思っていました」 「でしょ?だけど実際事務所に入ってみたらこの有様よ。相手方の揚げ足取りがしたくてこの世界に入ったわけじゃないわ。もちろん社会的地位だけを追ったわけでもない」 「……そんなことをおっしゃらないでください。かがみさんはそこまで浅はかな考えで弁護士を志されたわけではないでしょう?」 かがみさんが話し出してからというもの、その返答をちくいち相槌を打つに留めていた私は、とうとうかがみさんに言い返してしまいました。 「かがみさんは最初からある程度お分かりだったはずです。そこまで覚悟されて法学部に入られたのではないのですか?」 「……」 かがみさんは黙り込んでしまいました。私が言い返したことに驚いているのでしょう。 「私にも、医師を志願したのは失敗だったのかと疑いを持つことはあります。大学病院を避けたのも、ある程度それを回避するためなんですが」 「みゆきが、後悔なんてするような選択を?」 「ええ。人の命を救ったり、或いは健康を保つお手伝いをするのが、私たち医師の仕事です。しかし、どうしてもそれだけではやっていけないんです」 「本業以外のことに手がかかるわけ?」 「ええ。職業柄、詳しくはお話しできませんが……非常にやっかいな問題なのは間違いありません」 「そう……あんたも大変なのねぇ」 かがみさんは、はぁ、と小さく溜め息を吐くと、先ほどからちびちびと口をつけているジョッキに4割ほど残っていたビールを、一気に飲み干してしまいました。張りのある肌がかなり赤く染まっているのが分かります。 「私も本当は全部分かってたのかもね……ひょっとしたら自分で自分に夢を見続けさせたのかもしれない。それとも、昔のままの私が、みんなにうらやましがられて、ほめられることを望み続けた結果かしら」 恐らく、わざと弁護士のカッコいいところだけに憧れ続けていたと、かがみさんはおっしゃりたいのでしょう。私は彼女の意図を問わずに、予想だけに留めておくことにしました。 「でも、そうでもしなきゃ七面倒くさい法学部なんか目指してらんないわよ……24で司法試験受かったのもそうだしね。もう5年も前かぁ……何せ時間はかけてられなかったから」 「時間、ですか」 「そう。司法試験に時間取られるほど無駄な人生も知らないわね。気がつけば三十路でまだ受からないとか普通にあるわよ」 「それまでひたすら勉強ですか?」 「そうね。恋人もなく遊ぶことも出来ず、ひたすら勉強。大昔の科挙じゃあるまいし、もうちょっと何とかならないかと思うけどね。でも弁護士のレベルが下がったら世も末よ」 「まあ、かがみさんはちゃんと受かったんですから……」 「そうね。きっとそれは幸運だったって思わなきゃなんないのかもしれないわね。」 「得たが故の苦悩、ですか」 「まさにそうね。それに、本音では、こなたやつかさがうらやましいと思ってるのかも」 「こなたさんたちが?」 「うん。あまりこんな言い方したくないけど……正直言って私たちの方が社会的には成功してるじゃない?」 否定はできません。実際の年収にせよその他の要素にせよ、おおよそ一般的な考え方で言えば、医師や弁護士は所謂『勝ち組』と言われても間違いではないでしょう。 「だから、というか……とにかくこなた達がうらやましいのよ」 「確かに、泉さんやつかささんもかなり今の職業に愛着を持っていらっしゃるようですしね……」 「そう。確かにつかさは客足が悪いってヒイヒイ言ってる時もあるし、こなただって仕事がなくて困ってる時期もあった。でもそんな時だって、こなた達はいつも楽しそうだったからね。うらやましくないわけがないじゃない」 「それは……私も時々思うことはあります。自分が持っていない他人のものというのは、無性に欲しくなるものですし……或いは私も、つかささん達をうらやんでいるのかもしれません」 私がその言葉を言い終わるか言い終わらないかという時に、突然、誰かが引き戸を開く音がしました。 「おっちゃん!2人分、何か作ってくれよ」 「あいよっ!おお、今日は珍しい客ばっかり来るな!」 「珍しい客?先客がいるのかよ?」 「ああ、そっちの席だ!」 店主はそう言って、私たちの方を軽く指差します。それに気付いた私は、すぐに目を疑いました。 「おお、高良じゃねぇか!それと、そこにいるのはひょっとして柊か?」 「日下部さん?」 「何、みゆき……日下部!?」振り向いて出入り口の方に視線を向けたかがみさんは、驚きを隠さずに言いました。 「お久しぶりです……」 そして、背丈がほぼ同じなので私は気付かなかったのですが、日下部さんに連れられていたもう1人の客人は、私の親友、みなみさんだったのです。 「また妙な取り合わせね。一体何があったわけ?」 「いや、今週たまたま街中で会ったんだよ。だから金曜日に飲みに行こうってさ」 「……私も、特に用事はないので」 「だから拉致してきたわけか」 「違うってば!ちゃんと約束して来てるんだって」 自己主張をあまり美徳としないみなみさんにとって、私がいるということはある意味幸運だったかもしれません。日下部さんと2人、或いはかがみさんと3人で、となると、総じてみなみさんは遠慮してしまうでしょう。私たちのほうが年上ですからなおさら。 とりあえず私は、皆が久闊を叙することができたことに対して、出来るだけ素直に喜ぼうと思いました。お酒の席はなるべく楽しい方がいいのかもしれません。或いは、本音をさらけ出せるのもまた、お酒が入った時なのかもしれませんが。 「だからさ、あやのがあまりに楽しそうだから、私もつい嫉妬しちまうんだよなー。頑張って今の仕事就いたはいいけど、あやののほうが幸せだったらそれはそれでつらいものがあるぜ?」 「応援したい反面、黒い感情も捨てられない、と」 「……お気持ちは、分かります」 「こんなこと考えちゃ駄目、って分かってはいるんだけどね。私も聖人君子じゃないから、つい、ね」 みなみさんはまた自分の蕎麦をすすり、左手で日本酒をおちょこで一気に飲みほしました。みなみさんがお酒に強いことは知っていますが、どうやら今日はかなり紅潮気味です。 「私もゆたかがうらやましくなる時はたまに……家に帰れない日なんかは特に……ふぅ……でも……不謹慎だと思いながらも……私は自分の弱さを捨てられ……はぁ」 みなみさんの息遣いが荒くなってきました。一方、私やかがみさんはむしろ冷静さを取り戻していました。酔いがさめてきたのでしょう。日下部さんはケロッとしています。いつもより若干穏やかにも見えます。 「だから、たまに私は何のためにこの仕事をやってるんだと……ゆたかの楽しそうな顔を見ると……恨めしいとは思いませんが……でも、」 「ああ分かるぜ、収入は自分の方が多いのに、ってか?あやのなんか直接の収入はゼロだぜ?一応、兄貴は私より貰ってるみたいだけどさ」 「ああ、つかさはまさにそうね。経営が火の車でもいっつも笑ってるから……単純に楽天的なのかもしれないけど」 「分かります……泉さんもたまに電話すると、仕事がないないと仰りますが、実のところ意外と危機感がなさそうですし」 「私たちが神経質なだけなのか……」 「そうだなー……たいていのことは何とでもなるしな……」 「命に関わることは、そうそうないかと思います」 「私たち、何か失敗したのかしら?」 「私たちが求めていたものはそれなりに手に入れられていると思いますが……でも、泉さんたちと比べると何か、私たちには欠けているのかもしれません」 「何なのかしらね」 「何だろうなー……」 「何でしょう……」 4人はお互いを見合わせて、誰にともなく問い合います。きっと答えは出ないでしょうし、すでに明白だと言うこともできるでしょう。 私たちは失敗のない人生を送ってきたかと言われれば、その質問にはYESと答える資格が、私たちにはあるのかもしれません。しかし私は時折思うのです。 私たちはたったひとつだけ、心のパズルの小さなピースを、どこかに落っことしてきてしまったのではないか、と。 Back to Novel of T
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涼宮ハルヒの一言 「ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、超能力者が居たら、私の所へ来なさい。以上!」 俺はあの100%純粋変人(あれ、矛盾してるな)が発する夢遊病患者が言いそうな台詞を思い出していた。 もしこの台詞が妖怪とかだったら長門や朝比奈さん、古泉は全く違う物になっていたかもしれない、って事だな。 うん、意味が分からないか。 例えばだな、この台詞の『宇宙人』『未来人』『超能力者』という単語が、 『妖怪』『魔女っ子』『幽霊』とかなら、 あの三人はこの意味不明なアビリティ(とは少し違うと思うが)を身に付けている事となる。 だとすれば、今の生活はどうなっていたんだろう。 俺は、妙な好奇心に狩られて、 コンピ研から頂いた(ま、勝負に勝ったから正当だな)ノートパソコンでワードソフトを開いて、 「ハルヒの一言で今の生活がどう変わるのか考える」という無駄に長いテーマで考えてみた。 で、考え付いたのがこれである。 【長門が『宇宙人』ではなく『メイド』だったら】 え?何故メイドかって? いやいや、待て待て。そんな軽蔑の目で俺を見るんじゃない。 ポリスマンもいらんぞ。 いやな、俺だって普通の男子高校生だぞ?朝比奈さんのメイド姿が飽きたわけではない。 長門だぞ?(谷口による)Aマイナーの長門だぞ?いや、関係ないか。 どちらにせよ、あの年中営業しない無表情の顔で、メイド服とか着られたら普通に卒倒とかしないか? 待てっつーの。ドクターもしていらねーっつーの。 無口キャラがメイド服だなんて、そそられるだろ?俺じゃなくても。 大体、普通の高校にメイドさんはいないのだから、宇宙人くらい珍しいものだと俺は思うんだ。 そんな訳で(どういうわけだとかいうツッコミはいらんぞ)、もし長門がメイドだったらという事で、 今の生活がどう変わるのか考えてみたい。 この話は、憂鬱な学校の授業が終わり、放課後の文芸部室の事、という設定である。 「・・・・」 俺が午後の授業での憂鬱な睡魔との戦いに打ち勝ち、ようやく部室へ来た所で、 長門と二人きりでまた睡魔と戦わなければならないのかとまた憂鬱になって机にかじりついている所へ、 「・・・・」 音も立てずに長門が俺の隣へと立っていた。 朝比奈さんが着ているメイド服を着ている長門である。 朝比奈さんが着ると天使と見間違えそうなくらいに見栄えがするものだが、 長門が着てもこれまた馬子にも衣装という言葉は秀逸な言葉だなぁとか心の中から褒め言葉と賞賛の拍手の大喝采を飛ばしつつ、 その神々しさに唖然となる俺だった。俺ってこんなに器用だったのか。 「・・・・どうぞ」 その言葉で我に返った俺は、長門が手に持っているものに気づいた。 お盆に一つ、ティーカップが乗っている。湯気をモクモクと立てているカップ、 その中に入っている黒い液体は、淹れたてコーラ・・・じゃなくて淹れたてコーヒーである。 「あ、ありがとう」 俺は、長門が差し出すティーカップを受け取った。 早速一口。 「お・・・」 絶妙な苦味が、俺の最大の敵である睡魔を一気に吹き飛ばしてしまった・・・。 それにしたって美味い。 「おいしい?」 久々に聞く疑問文である。 「ああ、美味いぜ」 ここで「不味い」とか言うほど俺は天邪鬼ではない。 「そう」 長門は無表情なままなのだが、表情のどこかに安堵したかのような感情を感じた。 うーむ、SOS団の特権か。長門がメイドになってご奉仕するだなんて、 ありえんことだろうな。天変地異でも起こりそうな位の奇跡かもしれん。 「・・・」 俺がくだらない事を考えている間に、長門は黙々と(当然だが)掃除に取り掛かった。 ちょこまかと周りと綺麗にしていく長門を見るのも、またオツなものである。 っと、ここまで書いて考えてみた。 ただの俺の願望じゃねーか。 そして、最初の説明は何だ。何が普通に卒倒だよ。 もしかして、俺は誰かに操られたのか。ハルヒか。 なんて言い訳しても意味が無い。俺は誰かに見られる前に書いた文を削除し――― 「これがあなたの願望?」 「あああああ!」 俺はノートパソコンをアメフト選手がボールを死守する時のようにイスから転がり落ち、 電源を即座に切った。強制終了だ、悪いか! 「・・・?」 長門は凝視しないと分からないくらいに顔を横に傾け、「どうして逃げるの?」といった表情でこちらを見ていた。 畜生、なんてこった。よりによって本人に見られるとは・・・! 「・・長門が『宇宙人』ではなく『メイド』だったら。え?何故メイドかって? いやいや、待て待て。そんな軽蔑の目で―――」 「うああああ!なっ、長門!復唱しなくていいからーーーっ!」 鏡なんか見てなかったんだが、多分この時の俺の顔は耳まで真っ赤になってたに違いない。 「長門が『宇宙人』ではなく『メイド』だったら。え?何故メイドか―――」 「なっ、長門っ!長門っ!落ち着け!」 なーんて、俺が言える台詞でない事ぐらいもう一億年くらい前から分かっていたと言うか、 そんな事言ってる俺は大丈夫なのかとかまぁいいつつ、落ち着け落ち着けと呪文のように唱え続けつつも、 ああもうなんだか自分がめんどくせーだの何だのと意味の分からない事を言ってる自分の意味の定義がああもう何がなんだか。 とにかく、5分くらいごたごたがあってだな・・・ 「・・・怒ってるのか・・(ハァ)・・長門・・・(ハァ)」 俺なんか息切れしてるぜ!畜生・・・ 長門が無口なのはいつもの事なのだが、俺が返答を求めても全く喋らないというのは、 何だか怖いじゃないか。いやいや、俺が長門と良い関係が築けているとかそういった事じゃなく。 「・・言ってくれれば・・」 突如、長門は口を開いた。 「言ってくれれば、良かった」 「へ?」 「メイドさんがいいなら・・・メイドさんがいいと」 あんぐり。無論、今の俺の動作の擬音である。 口を開けてポカンとするしかない俺に、長門は追い討ちのように喋り続ける。 「朝比奈みくるのようなプロポーションなど不必要」 「へ??」 「朝比奈みくるのプロポーションは、運動等にとても不向き。 現に本人も運動オンチ。それでもあなたのような男性は何故か魅かれる。 これは、この青い星での永遠の謎。私には有機生命体の『魅力』という概念が理解不能」 …感情的に言わせてもらうぞ。 なんだこれ。宇宙人の嫉妬・・・って奴なのか? いやいや、長門も可愛いだろ。普通に。いや、そりゃあスレンダー体型なのを気にしたりするのも分かるが、 そういうのにも需要というのが――― いや、やめておこう。これ以上言うのは。これ以上俺の品位を下げるわけにはいかんからな・・・ 「――で、長門。こういう言い方もなんだが、お前は俺に何を言いたいんだ」 「ここ」 「は?」 一瞬。ちょっとまばたきしただけだった。いつの間にか長門の住むマンションの部屋へと、 ご丁寧に下足の状態で招き入れられていた。 「・・・長門?」 長門の宇宙的パワーの使い方の間違いに驚く前に、 なんじゃこりゃ・・・なんで俺は部屋に呼ばれたのか・・・ 隣の部屋の襖が開き、 「あなたにご奉仕する」 出てきた長門は・・・見事なメイド服を着ていた。 朝比奈さんが着ているのとは違うもので・・・ えー、なんと言うべきか。これがいわゆる『ゴスロリ』と言う奴なのか・・・ 長門は真っ黒なメイド服でミニスカという目のやり場に困る格好をしていた。 一言で言おう。長門、どうしちまったんだ? 「どうもしていない。ただ、朝比奈みくるに対する批評と、私に対する批評に温度差があった。神々しいって何」 「い、いやな長門。それは褒め言葉で・・・」 「大仏みたい」 「ええ?いやいや長門」 「地球の言葉は難しい。でも、今の私の状態を表せる言葉は一つだけだと思う」 「え、それは―――」 「かわいい、でしょ?」 …気づいた。夢だな。うん、そうだそうだ。 いくらなんでも長門がそんな事を言うなんてありえねーよな。うん。 さて、そろそろ妹の目覚ましキックでも来るんじゃねーかと夢の中で身構える俺が・・ 「違う。夢ではない。私は真剣」 ずいっ、と長門が俺の目前に近づく。ちょっと、近い・・長門・・・? 「私と言う固体はあなたと一緒に居る事を望んでいる」 「ええ?」 …もう何が何だか。 あとがき かなりしょうもないですw しかも、これまだ未完なので・・・(爆 Back to Novel of D
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「マスタースパークッ!」 豪快な爆破音と共に、魔理沙がやってきた。 「おーい、パチュリーッ!」 「何? 扉を壊さないでくれる?」 「いつもいつも、本を貸してくれるからさ。今日は私のお薦め持ってきたぜー」 「……ありがとう」 珍しいわね。いつもいつも、「借りてくぜー」って勝手に私の本を持って行っちゃうくせに。 魔理沙は私に本を投げて渡した。危ないわね。 「外の世界の推理小説か……」 ――誰だ。こんな残虐な犯罪を犯した奴は。今に見てろよ。俺が、絶対に本田さんの無念を晴らしてやる。 なるほど、結構面白そう。割と分厚いし、早く返さないと気味が悪いから、深夜まで食い込んででも読んでみよう。――アレ? なにこれ。上の方にメモが書かれて……。 ※犯人は居ない。実は本田さんは自殺したんだぜ☆ 「……」 「どうしたぁ? パチュリー」 「素敵な本を、ありがとう」 「だったら何で攻撃してく……、いったい! ロイヤルフレアとか撃つな! 書庫が壊れるって! ああああ……」 ==あとがき== これ、原稿用紙一枚分で書いているんです。 そういう縛りプレイ的な感じなんですよね。 ははは、2人はこんな感じですよね。 え? 何? くだらない? ……。 また来週!(待 Back to Novel of D
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執筆日 年月日 備考 雑感など 本文。 Back to Novel of T