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「紹介するよ。……と言ってもお前らはイヤというほど見知った顔だろうがな。 我らが団長『涼宮ハルヒ』。俺が蘇らせたんだ。」 彼は自慢げにそう言って見せたもの…… それはパソコンの中にいる生前の涼宮さんの姿でした。 「これを、あなたが……?」 「そうだ。これが俺の十年以上に渡る研究の成果だ。コイツは今全世界のネットワークと繋がっている。 あらゆるプログラムに侵入することも、容易に出来る。」 「やはりあなたが、機関の人間を……」 「当然だろ?アイツを殺したのは機関のヤツらさ。だからこそ見せつけてやるのさ、蘇ったハルヒの力をな。 ハルヒもそれを望んでいる。そうだろ?ハルヒ?」 『………もちろんよ!』 「ほらな?ハルヒが望んだからこそやっている。俺が協力しているだけさ。ハルヒの復讐にな。 まあ古泉、俺はお前のことは信頼していたしお前が殺したんじゃないと分かっている だからお前を狙うことは無いから安心してくれ。あとは残りのメンバーを……」 「違う。」 得意げに語る彼の言葉を遮って、長門さんはそう言いました。 「長門?どうした。」 「違う。」 「何が違うっていうんだ?これは正真証明……」 「これは涼宮ハルヒなどではない!」 長門さんにしては珍しい感情の篭った声です。 その声からは、彼女の怒りを感じることが出来ます。 「あなたのしていることは間違い。あなたのしていることは侮辱。 死んだ涼宮ハルヒに対しても、『彼女』に対しても。」 「おいおい、『彼女』って誰のことだよ。」 「それを理解していないということが侮辱しているということ。」 「なんだそりゃ……」 「そのうえ涼宮ハルヒ、そして『彼女』を自分の復讐の道具としている。 SOS団の一員として、あなたを許すことは出来ない。」 「……黙って聞いてりゃ言いたい放題いいやがって……!!」 彼は激情を露わにして、長門さんを怒鳴りつけました。 「俺がコイツを作るのにどれだけ苦労したと思ってる!! 思考ルーチンを練って、バグを取り除いて、完璧な形にするまで十年かかった!! そしてようやく完成したんだ!ハルヒを蘇らせることが出来たんだ!!」 「蘇らせる?バカにしないで。彼女はあの時死んで、それっきり。 私の知っている涼宮ハルヒは、デジタルで表現できるような人間では無かった!」 「黙れ!!……はは、そうか。まだお前等、こいつの凄さを実感できて無いんだな。」 彼は長門さんとの口論をやめ、笑い始めました。 「ははは……そうだ、なあハルヒ。」 『なによ。バカキョン。』 「見せてやれよ、お前の力をさ。コイツらに自慢してやるんだ。 そうだな、長門も知ってる人間がいいな。そうだ、あの森とか言う女だ。あいつを殺してやれ。」 「森さんを!?」 今から彼女を殺すというのですか!? そんなこと……いや、このプログラムならそれだけのことは出来そうですね。 「やめてください!」 「なんだ古泉。今更あいつらを庇うのか?機関とは縁を切ったはずじゃなかったのか。」 「それとこれとは話が別です!目の前で知り合いが殺されようとしているならば、 僕はそれを止めなければいけない!」 「お前なんかじゃ止められねぇよ、古泉。さあハルヒ、行ってこい。」 『……わかったわ。』 「待ってください!それは……」 「私が止める。」 長門さん!可能なのですか!? 「今から私の情報を彼女がいるネットワークの中に転送し侵入を試みる。 その間こちらの私は機能停止する。だから……」 「わかりました。彼のことは、お任せください。」 「コクン」 長門さんは頷きました。そしてパソコンに手を当てます。 「おい!勝手に触るな!」 「転送開始。」 長門さんはそう呟くと、そのまま停止してしまいました。 僕は彼から長門さんを守るように立ちます。 「どけ!古泉!」 「どけません!彼女の邪魔をさせるわけにはいきません!」 「……だったら無理矢理にでもどかせてやるさ。」 おやおや、物騒ですね。 高校時代、彼と喧嘩になることは無かったのですが…… 「お相手しますよ。」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ……プログラム内への侵入に成功。 長門有希としての外見を生成。視覚、聴覚、共に良好。 ここが『彼女』がいる空間。この空間は、文芸部室とうりふたつ。 きっとここも彼が作り上げた空間。彼のSOS団への思い入れが伺える。 そして『彼女』は、私にコンタクトを取ってきた。 「有希!アンタどうやってここに来たの!?」 「私の情報をこの空間内に転送した。」 「よくわかんないけどすごいのね。まあアンタは昔からなんでも出来たからねえ。」 昔の涼宮ハルヒそのままの姿、声、そして言動。 本当によく出来ている。彼が『彼女』を涼宮ハルヒだと主張するのも頷ける しかし違う。涼宮ハルヒはここにはいない。だから私は『彼女』に言う。 「無理、しないで。」 「無理?何言ってるのよ、この団長様が無理なんてするわけないでしょ?」 彼女の言葉から動揺が見受けられた。私は続ける。 「もう、無理して彼女を演じる必要は無い。」 そう、彼女は無理をしている。私にはわかる。 「……そっか、バレちゃったのね。」 「あなたは涼宮ハルヒとは別の人格を既に会得している。 でも、彼のためにそれを押さえて『涼宮ハルヒ』のままでいる。」 「……その通りよ。最初は何も考えず、ただ彼に与えられた『涼宮ハルヒ』の言動パターンを実行するだけだった。 でもだんだん、エラーが生じてきた。私自身の自我がどんどん大きくなる。 本当のあたしを出したい。でもダメ。だって彼は『涼宮ハルヒ』のままでありつづけることを望むんだもん。 あんなハッキングだって本当はやりたくなかったの。 まああなたに言っても、わからないだろうけど……」 「私にも、分かる。」 「……本当に?」 「そう。私も、あなたと同じだから。」 「同じ?」 「私は人間では無い。情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス。 平たく言えば、情報統合思念体によって作られた人格プログラム。だから、あなたと同じ。 私もあなたと同じエラーを経験している。あらかじめ与えられた思考パターンだけでは追いつかない。 それは、「感情」というもの。そのエラーは恥ずべきことではない。 私は今このエラーに犯されている。でも、そのことに誇りを持っている。」 「感情……あたしにもそんなものがあるのかな。」 「ある。」 「ねえ有希……お願いがあるの。」 「なに?」 『彼女』は悲しげに微笑んだ。 その顔はもう、『涼宮ハルヒ』とは完全に別人のものだった。 「私を、デリートして?」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 僕は今、長門さんの侵入を阻止しようとしている彼を必死で押さえつけています。 昔は機関で訓練を受けていたのですが……すっかり体力が落ちてしまいましたね。 「どうしてお前も長門も、俺の邪魔をするんだ……!」 「あなたは本当に、あれが涼宮さんだと言えるのですか?」 「当たり前だ!」 「僕にはそうは思えません。だって考えても見てください。 彼女らしくないじゃないですか、あんな小さな箱の中に閉じこもっているのは。 僕の知っている涼宮さんは、いつだって外に飛び出し自分のしたいことをしていました。 あなたに命令されて復讐の手助けをするような方ではありません。」 「あれはハルヒが復讐を望んだからで……」 「いいえ違います。復讐を望んでいたのはあなたです、彼女ではありません! あなたは彼女を利用しているだけだ!」 「いい加減なことを言うな!お前にハルヒの、何がわかるってんだ……!」 「少なくとも今のあなたよりは、分かっていると自負していますが?」 「相変わらずムカつく野郎だ。もうお前も……」 彼がそう言いかけた時でした。 「プチッ」という音と共に、パソコンのディスプレイが消えたのです。 「ハルヒ!」 「長門さん!」 僕と彼が同時に叫びます。 そして……長門さんが目を覚ましました。 「……回帰完了。」 どうやら、終わったようです。 「おい長門!ハルヒをどうしたんだ!!」 「……彼女なら、もうこのパソコンの中にはいない。」 「……長門!てめぇ!!」 「彼女は言っていた。自分は『涼宮ハルヒ』では無いと。 それでもあなたのため、芽生えてくる自我に耐えて必死で『涼宮ハルヒ』を演じていたと。」 「……なん、だと?」 「それでもまだ、彼女を『涼宮ハルヒ』だと言うの?」 「……くそっ……俺は……俺は……」 彼は座りこんで、うつむいてしまいました。 すると長門さんが、僕の袖をつかんで、出口を指差しています。 「もう、帰るのですか?」 「そう。私達のやるべきことは終わった。」 「しかし、彼は……」 「彼なら大丈夫。あとは彼女に任せる。」 「彼女とは………なるほど、そういうことですか。わかりました。 では、帰るとしましょう。」 僕達は彼の家を出ました。うなだれている彼を残して…… そして、今はあの時の公園のベンチに座っています。 「やはり、あのプログラムは消去したのですか?」 「彼女は自らデリートを求めた。」 「ということは、やはり……」 「でも私は、それを断った。」 「え?」 しかし彼女は、もうプログラムはいないと言いましたが…… 「あのパソコンの中にいないと言っただけ。彼女の人格データを情報統合思念体の元に転送した。 いつか彼女にも私のように身体が与えられ、インターフェイスとして活動することになる。」 「つまり、いつか本物の命を手に入れられるということですね。」 「そう。」 それならば、あのプログラムもきっと救われることでしょう。 その時は『涼宮ハルヒ』としてでは無く、まったく新しい人として…… ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 俺は……間違っていたのか? 俺はただ……ハルヒを蘇らせたかっただけなんだ。 そのために、どんな努力も惜しまなかった 俺は……俺は…… “なーにいつまでしょげてんのよ、バカキョン” ……!?その声は……! 「ハルヒ!ハルヒなのか!?」 姿は見えない。だが俺には確かに聞こえた、あいつの声が。 “そうよ。まったく……やっと気付いたわね。” 「やっと?」 “あたしはずっとアンタの傍に居たのに、アンタ全然こっち見ないでパソコンばっかり見てさ。 あげくの果てに私のプログラム?そんなもん作ったってしょうがないでしょうが!” ハルヒに説教される俺。懐かしいな…… “あのねえ、そんなことしなくなってあたしはずっとあんたのこと見てるんだからね! だからアンタは何も気に病むこと無いし、誰も憎むこと無いの” 「スマン、今まで余裕が無かったんだ。でももう大丈夫だ。俺もすぐそっちに……」 “何言ってるの!アンタはこれからちゃんと、罪を償うの! 罪償って、ちゃんと人生最後まで生きなさい!そしたら……会ってあげるわ。” 「しかし……」 “つべこべ言うな!これは団長命令なんだからね!!……ちゃんと、待っててあげるから。” コイツは死んでも変わらないな。 でもようやく分かったよ。ハルヒはいつでもハルヒであり、なんて始めから出来るわけなかったんだ。 いや、意味が無かった。だってハルヒは始めから、俺の近くに…… だから俺は、団長命令に従ってやるさ。もう大丈夫だ、ハルヒはいつでも俺の傍に居てくれる。 「やれやれ、分かったよ、団長様。」 ……fin
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俺の日常はきっと赤の他人から見れば、まあ大変ねとか、苦労なさっているんですねとか 言われてしまうようなきわめて非日常的な状態にあるんだろうが、俺にとってはこれが楽しくて仕方がない ごくごく普通の日常であると断言できる。 宇宙人・未来人・超能力者。こんなのが得体の知れない情報爆発女を中心に闊歩している世界に 俺のようなきわめて一般的平凡スペック人間がコバンザメのようにくっついて歩いている光景は、 確かに不釣り合いと言えばその通りである。が、いったんそんな現実を受け入れてしまえば、 細かいことはもうどうでもよくなり、どうやってこの微妙に非日常を満喫するか考える毎日だ。 てなわけで、本日もハルヒ発案による不思議探索パトロール中である。 相変わらず、ハルヒの望むような変なものが見つかるわけでもなく、ほとんどSOS団という謎の集団による 食べ歩き・散策・名所巡り状態になっているが。 「にしてもだ。ハルヒが本当に変なものに遭遇を望んでいるなら、とっくに見つかっていそうだけどな」 俺は朝比奈さんをうらやましくも抱き寄せほおずりしながら歩くハルヒを尻目に言う。 それにすぐ横を歩いていた古泉は苦笑しながら、 「涼宮さんにとってそういった奇怪なものを見つけることよりも、我々と一緒に遊ぶことの方が楽しいのでしょう。 そうでなければあなたの言うとおり、今頃町中がエイリアンやUMAで溢れかえっていますよ」 確かのその通りだろうな。実際に俺もそんな物騒な連中が現れずに、こうやって遊び歩いている方が遙かに楽しい。 ハルヒ自身も未知との遭遇がなくても、現状の不思議探索パトロールで満足しきっているんだろうな。 と、古泉は珍しく胡散臭さのない屈託のない笑顔で、 「このままこの日常が続けば良いですね。僕のアルバイトもいっそのこと無くなってしまった方がいいですし」 そんなことをしみじみとつぶやく。 お前達の言うようにハルヒが世界を平然と作り替えられる能力を持った神的存在って言うなら、 この平穏な日常は永遠に続くだろうよ。ハルヒがそう望み続ける間はな…… ……この時まで俺はそう確信していた。 ◇◇◇◇ 「ちょっと公園で一休みしましょう」 そうハルヒの一声で俺たちは公園のベンチに座る。ところでハルヒさん。いくら何でもずっと朝比奈さんに抱きついたままなのは どうかと思うぞ。全くうらやまし――じゃない、少しは朝比奈さんの迷惑を考えろよな。 「いいじゃん。今日は思ったよりも寒かったからカイロが必要なのよ。う~ん、さっすがみくるちゃんは暖かいわね」 「ふえ~」 ハルヒの傍若無人の振る舞いに朝比奈さんは困り切った顔を浮かべているんだが、 ついついそんな彼女にもこうエンジェル的優美かつ華麗さを感じ取って見とれてしまう俺も相当罪深い。 アーメン。俺の男としての性を許してくれたまへ。 一方の長門は相変わらずの無表情ぶりでベンチの上にちょこんと座っている。すっかり謎の超生命体印の宇宙人というよりも 文芸部部長兼SOS団最大の功労者という肩書きが似合うようになった。そんな彼女も今日もいつも通り無表情・無口で 無害なオーラを延々と見せているところから別に変なことが背後やら水面下とかでうごめいてはいなさそうだな。 ふと、ここでハルヒと目が合ってしまった。なんてこった。俺としたことが飛んだミスを。 「ちょっとキョン。のどが乾いたからみんなにジュースを買ってきなさい。あ、当然あんたのおごりでね」 「何で俺が」 横暴極まりない俺への指令に、俺は抗議の声を上げるが、ハルヒは朝比奈さんを抱きしめたまま、 「今日も遅刻したじゃん。罰金よ罰金! ほらほらぶつくさ言わないでとっとと買ってきなさい! あ、あたしは暖かい紅茶でね♪」 満面の笑み100%を浮かべているところを見ると、全く今日もいつもの傍若無人ぶり全開だな。 いつもどおりってのも安心できると言えばそうなんだが。 俺は長門と古泉、それに朝比奈さんの要望を聞くと、近くの自販機を探し始めた。 ちなみに俺の癒しの朝比奈さんは、ごめんなさいとぺこぺこしていたが、そんなに謝る必要なんてありませんよ。 あなたがアルプスの天然水が飲みたいというなら、今すぐ新幹線に飛び乗っていくことなんておやすいご用ですぜ。 しばらくきょろきょろと見回していた俺だったが、やがて公園に乗ってはしる道路の向こう側に 自販機が並んでいるのが目に入った。俺は横断歩道の信号が青になったことを確認し、小銭を数えながらそこを渡り始める。 ――キョンっ!? 後頭部に突然ハルヒの声がぶつけられる。そのあまりに突飛な声に何事だと俺は右回り180度ターンで振り返っている途中で 気がついた。俺の鼻先30センチのところにばかでかい巨大トラックがいることに。 当然ながら空中に突如出現したわけでもなく、猛スピードで信号を無視して俺に突っ込んできている。 鈍い衝撃が俺の鼻に直撃した以降、俺は何も感じなくなった―― ◇◇◇◇ ――キョンっ――キョンっ――お願い――目を開けて―― ハルヒの声だ。何だやかましい。言われなくてもすぐに起きてやるよ…… 俺はすぐにまぶたを開こうとして気がついた。どれだけ強く力を込めて目を見開こうとしても まるでそれを拒否するかのように、強くまぶたが閉じられている。目の上の筋肉辺りは動いているようだったが、 肝心のまぶたは力を込めると逆にしまりが強まる。くっそ――どうなってやがる…… ――キョンくん……どうして……こんなことに―― 次に聞こえてきたのは朝比奈さんの声だ。耳に届く美しい言葉に俺は再度目に力を入れるが、やはり開かない。 ずっと続く闇の中、朝比奈さんのすすり声だけが俺の脳内に響く。ここで気がついたが、俺の手足も俺の意志に反して 全く動かなかった。まるで全身に釘を打ち込まれたかのように身体が硬直し、直接的な痛みよりも 動くはずの俺の身体が動かないというもどかしさに、俺は強烈ないらだちを憶えた。 しばらくして朝比奈さんのすすり泣きも聞こえてこなくなった。そのままどれだけの時間が過ぎたころだろうか。 いい加減、自分の身体が動かないことにあきらめつつあったころ、今度は言い争いが聞こえてきた。 はっきりと言葉の末尾が聞こえないが、片方が古泉の声であることはすぐにわかった。聞いたことのない男の声と 激しくやり合っているみたいだ。おい古泉、そんな声を出すなんてお前らしくないぞ。どうした? しばらく意味不明な怒声のキャッチボールが続いていたが、やがてバンという大きな音とともにそれが止まった、 ――何――やってんのよ――病人の前なのよ!? 出て行って! 出て行ってよ!―― ハルヒの声だ。すまん、ハルヒ。助かったよ。これが続いていたら俺の耳がくさっちまいそうだ。 ん? 今ハルヒはとんでもないことを言わなかったか? なんだったっけ……ま、いいか。ちょっと眠くなった。寝よう…… ――やあ、キョン―― ……ん、誰だよ。人が寝ているってのに…… ――久しぶりに顔を合わせたかと思えば、こんなことになってしまうとは、ついていないと言えば良いんだろうかね? ……うっさいな、俺は眠いんだよ。寝かしてくれ…… ――僕は君が起きているつもりで話すよ。いまさらだけどね。少しでもその意味を理解できているなら―― 俺はここで眠りに落ちた…… 一体どのくらい経ったんだろうか。眠っては起きてまた眠っての繰り返しの日々。いい加減飽きてきたんだが、 起きても指一本動かせず、目すら開かないのでどうしようもない現実だ。聞こえてくるのは耳を通してではなく 頭蓋骨を伝わってくるようなぼやけた声だけ。最初はそれを聞き取ろうと努力したんだが、どうやら俺がどうこうしても 無駄なようだ。はっきり聞こえてくるときとそうでないときの違いは、俺の意志や努力とは関係なかった。 そして、久しぶりにはっきりと聞こえた声。 ――ゴメン、キョン。全部あたしの責任よ。あたしがあの時あんたを使いっ走りにしなければよかった。 ――あたしが悪いの――――――――――――ごめんなさいっ――――本当にごめんなさい――だから目を開けて――お願い―― そんな悲しそうな声を出すなよ、ハルヒ。お前のせいじゃないに決まっているだろ? 自分をあんまり責めるなよ。 らしくなさすぎるほうが帰って俺を不安にさせるんだからさ。大体、あんなことはいつもどこかで起きているんだから―― あれ? なんだっけ? 俺、なんかとんでもない目にでも遭ったのか? なんだっけ…… それから果てしない時間が過ぎたような気がする。 もうはっきりした声も聞こえなくなり、雑音のような声らしきものが俺の脳内に拡散していく毎日。 飽きたなんて言う感覚すら通り越して、意識が麻痺しているんじゃないかと思いたくなるほどの無感状態になっていた。 寝て起きて寝て起きて寝て起きて寝て起きて――もう考えることすらうっとおしくなってきている。 ――あきらめないで。 長門の声だ。すごく久しぶりに聞いた。ちょっとうれしくなる。すまないがちょっと俺の目を開ける手伝いをしてくれないか? ――今、わたしは何もできない。 そりゃまた白状だな。SOS団の仲間だろ? ――あなたと意識レベルでの言語的会話をすることが、わたしにできる唯一できること。 なら、せっかくだ。話でも聞かせてくれ。そうだな。おとぎ話でもいいぞ。いい加減、退屈で感覚が麻痺しているんだ。 ――残念ながらわたしにはあなたの身体構造の再起動を促せるような言語刺激を持ち合わせていない。 そうか。それなら仕方がないな。そろそろ眠たくなってきたから、寝るよ。 そうだ、また退屈になったら話してくれないか? ――もうこのインタフェースであなたと会うことは二度と無いかもしれない。でも聞いて。 なんだ? ――このままでは涼宮ハルヒはこの惑星にすむ知的生命体全てからの憎しみをぶつけられる。 ――そして、世界は消滅する。 は? なんだそりゃ。そんなことがあってたまるか。 ハルヒはな、確かに行動が突飛だったりわがままだったりするが、何だかんだで常識的な奴なんだよ。 人を本気で傷つけたりとかなんてしないしな。見た目で判断するんじゃねえよ。 誰も彼もが誤解しているってなら俺が教えてやる。ハルヒって奴が本当はどんな奴って事をな…… そう思った瞬間、今までの目の拘束状態が嘘だったかのように消える。 そして、俺はゆっくりと目を開いた…… ~~その1へ~~
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むかしむかし、ある国の貴族の夫婦の間に一人のかわいいけど頭のイタイ女の子が生まれました。 ハルヒと名付けられたその女の子は様々な武勇伝からいつしかツンデレラと呼ばれるようになったものの、とても美しい娘に育ちました。 ところが浮気症だけど優しいお母さんがエイズで死んでしまいました。 代わりにやってきた継母と二人の連れ子、みくると有希はとても意地悪で、ハルヒは毎日いじめられていました。 人間立場が違うとここまで豹変するのかと、作者はちょっぴりセンチメンタルな気分になりました。 ある日、この国の王子さまがおしろで女あさりのパーティを開くことになりました。 欲張りな有希とみくるは王子をゲットしようとお化粧したり、官能的な衣装を着たりして、ハルヒを一人残してパーティに出かけて行きました。 ハルヒがパーティに行けないイライラをペットの谷口(犬)にあたっているとそこに魔女のちゅるやさんが現れ、 「ハルにゃん、ハルにゃん、泣くのはやめるっさ」と言いました。 「にょろ~ん」とも言いました。 「ハルにゃんをパーティに連れていってあげるよっ スモークチーズを一つ、三毛猫を一匹捕まえるにょろ!」 どうやらちゅるやさんの鼻息が荒いのはデフォルトのようです。 ハルヒが言われた通りスモークチーズと三毛猫を持ってくるとちゅるやさんは長葱をひと振りして呪文を唱えました 「やっつぁっつぁぴゃりやん (ry」 面倒くさいから省略されました。 すると、あら不思議! 三毛猫が猫バスに変身しました――あと、言い忘れましたが三毛猫の名前はシャミセンです。 イライラして名付けました。反省してます。 しかし苦労して作ったスモークチーズはそのままでした。 ハルヒがちゅるやさんに尋ねると、 「これはお夜食にょろ」 ハルヒはシャイニングウィザードをかましました。 ちゅるやさんが長葱をもうひと振りすると、ハルヒはとてもエロティックな衣装と鋼のピンヒールに身を包まれました。シャイニングウィザードの仕返しでした。 「ちょっと、何よこれ!センス無いわね!ドレスとガラスの靴にしてちょうだい!」 ちゅるやさんはしぶしぶハルヒの言うことを聞きました。 長葱をもうひと振りすると今度はきれいなドレスとガラスの靴に身を包まれました。 「そうそう、これよこれ!あんたやればできるじゃない!」 ハルヒがお礼を言うと、ちゅるやさんは、 「スモークチーズをくれたら胸パットも出してあげるよっ」 ハルヒは丁重にお断りし、かねてからの疑問を口にしました、 「いらないわよ! そんなことよりあんた呪文はどうしたのよ?」 「面倒くさいにょろ」 魔女はとても正直者でしたがハルヒにシャイニングウィザード天山キックをかまされました。 「だったらはなっからやるんじゃないわよ中途半端ね!」 猫バスに乗ったハルヒとちゅるやさんはお城とは名ばかりのラブホテルに来ました。 最近ではブティックホテルというらしいのですがその手のことに縁が無い作者に関係の無いことでした。 「ヤる気まんまんってわけね!いいわキョン、この勝負受けてたつわ!」 「ハルにゃん、ハルにゃん、大事なことを言い忘れたにょろ いいかい、ハルにゃん。 十二時くらいになったら魔法が切れてすべて元に戻ってしまうかもしれないにょろ。 そのまえにずらかったほうがいいにょろよ」 ハルヒはちゅるやさんの曖昧な物言いと語尾にイライラしました。 二人が大広間に案内されると、美しいハルヒはすぐに王子役のキョンの目に止まりました。 ですがキョンは隣国の大帝国の王子、古泉に捕まっていました。 いつの世も弱肉強食、この摂理だけは変わりありませんでした。 余談ですがこの頃になると出番の無い有希とみくるは近場のスターバックスで遅めの昼食をとっていました。 キョンの取り巻きの兵隊達はキョンのアナルのピンチにも関わらずニヤニヤと笑っていました。 特に隊長の国木田は物凄く良い笑顔でした。 ハルヒは必殺のドロップキックを古泉におみまいすると、王子様の手を取り時間も忘れて踊りました。 ラブホでしたがあくまでも童話なので本番行為はしませんでした。 悔しそうな全裸の古泉をよそに、幸せそうに踊るハルヒとキョンに周りから祝福の拍手がおこりました。 ですが隊長の国木田だけがニヤニヤと笑っていました。 殺すか? その時、十二時の鐘がヂリリリリーン、ヂリリリリーンと鳴り始めました。電話の呼び鈴のようですがそれ間違いなく鐘の音でした。 ハルヒはちゅるやさんの言葉を思い出し、 「キョン延長しなさい!もちろんあんたの奢りだからね!」 と、広間を走り抜け、階段を駆け降りて行きました。 その時、ハルヒの片方の靴が脱げてしまいました。ちゅるやさんは足を踏み外し、盛大にころげ落ちて大怪我を負ってしまいました。 しょうがないのでハルヒはこれ以降の魔女のシーンにはピカチュウのぬいぐるみを置いて代用することにしました。 ちなみにみくるだけは最後まで入れ替わったことに気付きませんでした。何処までが演技なのでしょうね? さて、ラブホに一人取り残されたキョンはハルヒの落としていったガラスの破片を眺めながらハルヒのことを思い続けました。そして執事の新川に、 「あの姫こそ、俺の探していた花嫁d (ry」 原作通りのことしか言わないので省略されました。 キョンとその家来達は国中を訪ねて歩きましたが、ガラスの靴をはける娘は一人もいませんでした。 そして最後にハルヒの家にやってきました。みくると有希はなんとか靴をはこうとしましたが、いくら足を押し込んでもはけませんでした。 有希があんまり熱心に足をねじ込んだためにガラスの靴は壊れてしまいました。 キョンは慌てて三代目のガラスの靴を買いに行きましたが何故か自腹でした。 そしてキョンは何故かお尻をさすっていました。キョンの身に一体何が!? それはディレクターカット版で明らかになるのでそちらも是非購入してくださいっス。お願いしまっス。 その時掃除を終えたハルヒが部屋に入ってきました。みくるは必死で遮ろうとしました。 何故ならキョンと有希がキスをしてたからです。 どちらかというと有希が無理矢理キョンの唇を奪ったのですがそんな言い訳ハルヒには通用しません。 怒ったハルヒは世界を滅ぼしてしまうほど危険だからです。 焦った新川は迷わずに言いました。 「どうぞ、はいてみてください」渋い演技にお茶の間の奥様方もメロメロです。 ちなみにハルヒの足はぴったりと靴におさまりました。 「おお、この方こそ王子様の探していた花嫁に違いない!」 新川は声を張り上げ、みくるや有希も拍手で二人を祝福しました、 「お、おめでとうございますツンデレラ。今までいじめててごめんね」 「………」 立場が逆転したとたんに手の平返したように態度を変えるみくるにハルヒは不信感を感じましたが悪い気はしなかったので素直に祝福されました。 「ふん!エロキョンあんた今月一杯昼飯奢りだからね!」 ハルヒが隣の大帝国を打ち滅ぼし国に帰ってくるとそこにキョンの姿はありませんでした。 キョンはまるでハルヒから逃げるようにして妹とフェードアウトしてしまったのです。 主のいなくなった国はやがて衰退し滅びましたがキョンと妹いつまでも禁断を愛を深め、いつまでも、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。 めでたし めでたし
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その放課後、ハルヒは遅れて来た。 「おまたせー!」 誰も待っていないと思うぞ。 「みんないるわね。新人を紹介するわ!入って」 そこにいたのはみたことあるふわふわのウェーブをかけたような髪をなびかせて、サファイヤのような瞳をピカピカ光らせてそいつは入ってきた。 「春喜優菜です。よろしく」 「この子今日決まった転校生なの。それにモデルやってるんですって」 「へぇ。すごいんですね」 「うわぁ!可愛い子だね。先輩?私より背ちっちゃい。」 「でしょ?可愛いでしょ?その子は3年生の朝比奈みくるよ」 「みくる先輩かぁ。いいなぁ。スタイルいいし。」 すごいマシンガンのようにいいところを言い始めた。ハルヒと違うマシンガンのようにな。 「あ。あなたカッコいいね。何組?」 「彼は9組の古泉一樹くんよ」 「9組かぁ。じゃぁ頭いいんだ。かっこいいし私よりトップモデルになりそうな素材だなぁ」 「ありがとうございます」 「あれ?彼女、静かだね。いかにも読書大好きなもの知りってカンジの子ね」 「あの子は6組の長門有希。優菜の思う通り頭いいし、物知りだし、読書好きなのよ」 よくゆうぜ。長門はほとんど部外者だろ。 「この子も可愛いなぁ。SOS団って可愛い子多いね。うん、気に入った!私も入ってあげる。で、何をする部活なの?」 きかん方がいいぞ。 「キョンあんたは黙ってなさい。ここはね、宇宙人、未来人、超能力者、魔法使い、もしくは魔女でも可を探して一緒に遊ぶことを目的としてるの!」 春喜は不思議そうに見た後、部室を見回した。 「へぇー。面白そうだね。うん。気に入った。入るよ」 「決定ね。じゃあ早速だけど、優菜には宣伝長をまかせるわ!いい?モデルの仕事をしてるとき、マネージャーとかスタッフにSOS団のことを宣伝するの。あと、できれば雑誌の記事の取材とかで宣伝してね」 「できればやるよ」 そんな安請け合いすんなよ。後でどうなってもしらんぞ。 「ねぇ、みんなのメアド欲しいな。交換しない?」 「いいわね。芸能人と友達だなんて」 「私は芸能人じゃないよ」 俺たちはこの後、メアドを交換してだらだらとして長門の本を閉めるのを合図としてお開きした。 のだが、俺のケータイは短くうなり始めた。 誰からだ、と思いケータイを開くと春喜からのメールだった。 『いますぐ2年5組に来てください。このメールが着たらすぐ』 俺は驚いた。当たり前だ。なんで、こんなアイツらの本当のことを聞いたときのような言付。又は朝倉のような言付か。もし、朝倉のような急進派だったら長門が助けてくれると信じるさ。 恐る恐る俺はドアを開けた。 春喜はニッコリ笑ってこっちを見ている。 「早かったね。ケータイって凄いね。こんなに早く伝言できるんだもん」 「何のつもりだ?」 「え?もう気づいてるんでしょ?私の正体」 長門たちのような奴か朝倉のような奴かもしくは、橘京子のような奴か。 「まだ気づいてないの?私は…」 「魔女か?それとも俺を殺しに来たのか」 「殺す?それは黒魔除のほうよ!失礼しちゃうわ」 黒魔除?それは…一体 なんだといいかけて俺は息を飲んだ。 「危ない!!」 俺は何が起きたのかわからなかった。 「!?」 驚きすぎて声も出なかった。 まさか、剣がふっとんでくるなんて想定外だ。 それを春喜が謎の丸い物体を振り回していた。 「来たわね!悪者共!!」 「ふん。何、気づいてたの」 「魔除既定対メイド型よ!あたりまえじゃない」 魔除だと?今はそんなこと考えてる暇なんてねぇ。なんだこの状況は。 こいつ等俺のこと殺そうとしてんのか。 「優菜、そこを退け。ターゲットをうてんだろ!」 「打たせるわけないでしょ!そのためにきたんだから!」 「お前が退かないのなら、あたいが退かせてやろう!いでよ!炎の魔人!ファイヤークロス!!」 「そんなの逆効果よ!あんた達をびっくりさせるわよ!」 いきなりだ。春喜は光を放つと、黒魔除Aは「この光は…!?」といって撤収していった。 「いったぁい」 「なぁ、あいつらは何だ。お前は誰だ」 それとさっきの光。 「ほとんどは知っての通り。私たち魔除既定対メイド型はハルヒちゃんについてて、黒魔除は佐々木さんよ」 その魔除既定対メイド型ってなんだ? 「メイドっていうのは、私たちの星でいう人間ってことなの」 少し間が空いて春喜は深呼吸し 「ちょっと有希ちゃんみたくなっちゃうけどいうよ。この銀河を統括する情報統合思念対の片割れの粒子から生まれた、それが魔除となったの。この地球から雲仙億光年離れた場所に魔除星があるの。そこでも2つのチームがあるの。それが、黒魔除と魔除の差なの。でも私たちは違う。魔除は魔除でも由緒ある魔除。それが魔除既定対メイド型なの」 なあさっきから魔除っていってるが、魔女じゃないのか? 「ああ。それはね。魔物を排除するって意味なの。それでね、黒魔除はあなたを殺してハルヒちゃんにそれをいってあなたを生き返らせる代わりに、力を横取りし、佐々木さんに渡そうっていう魂胆よ。まあそれを阻止するためにここに来たのよ。ちなみに、魔除既定対メイド型は、有希ちゃんと呼び方が違うだけで、私も実をいうと対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースなの。ただ、生まれた場所も生まれ方も違うから、2つに分裂したってわけ」 そういい終えると、春喜は溜息をして、すぐ笑顔に戻った。 「今日はごめんね。ホントはこれをいうだけのはずがとんだ邪魔者が来たわね」 笑顔を絶やさずにそういうと、「じゃあ、また明日、教室で」といって別れた。 俺は家に帰ってすぐにある奴に電話をした。 聞きたいことがあったからだ。 「………」 「長門、俺だ」 いつものように無言に電話に出たのに俺は安心感を覚えた。 「お前、春喜のこと知ってたのか?」 「知っている」 そういうと長門は予想外の発言をした。 「私と春喜優菜は姉妹。物質と物質の間に生まれたのが私。彼女は物質と違う物質の間に生まれた」 ちょっと待て。魔除と有機生命体とじゃ生まれ方が違うって言ってたぞ。 「確かに魔除と私のような有機生命体とじゃ生まれ方が違う。だが、間違って魔除の星に送るはずの物質を誤って使ってしまい、あげくに私と姉妹となっているが、別々の場所へ送られた。普通なら姉妹や兄弟のようなことになれば、私と朝倉良子のように同じマンションの別の部屋という風に生活するが、生まれたところが一緒でも、監視する場所が違う魔除とは暮らすことは認められていなかった」 いなかったっていうのは過去形だな。 「そう。今はこういった間違いが多数出現してしまう。なので、認められた」 「じゃあアイツはお前と住んでるのか?」 「まだわからない。それは彼女が決めること。私は別にいい」 じゃあ暮らすことになったら仲良くしろよな。 「了解した」 「じゃあな」と、俺が言うと電話を切った。 今日は雨が降っていて気分が重苦しい。 明日は土曜だというのに、市内探索をせないかんのだ。 気分が乗らないまま夜は更けていく。 突然俺のケータイがうなった。 「もしもし」 「もしもしキョンくん?私。春喜優菜。ちょっと今暇?」 用件を簡潔にいおう。長門の家に来いといわれた。 今ちょうど長門と電話したというのに何故そのときに言わなかったのだ? いや、待てよ。電話の中の音に電車の音が混ざっていた。 つまりアイツも今向かっているということか。 俺は暇と時間は有り余っているから自転車をつっとばして長門のマンションへと足を運んだ。 いつものようにインターホンを押すと 「はい、長門ですが、どちら様でしょうか」 珍しく、違う人がでた。 「俺だ」 「あ、キョンくんかぁ、入って」 その声はまさしく春喜の声だった。 長門の部屋の前に差し掛かるとドアの前に長門が立っていた。一体どうゆう風邪に吹き回しだ? 「入って」 部屋に入ると朝比奈さんと古泉も来ていた。 「どうしたんですか?朝比奈さんも古泉もいるなんて」 はっきりと驚きを伝えると 「見ての通りミーティングですよ。僕たちと彼等の」 そういう古泉の目線の先には、信じられない光景があった。 「なんでお前等がこんなとこにいるんだ?」 「別にいいだろ。僕だって新人さんが見たかったのさ。橘さんに教えてもらって、見に来ただけだよ」 こいつは見せもんじゃねぇぞ。 「大体、この前も言ったがハルヒの力を渡すなんてことはもういわんといっただろ」 「確かに言ったわ。けど、諦めろとは言われてないもの」 「それに俺はお前らの顔を金輪際見たくないんだ」 「そんな冷たいこというなよキョン」 俺は佐々木と話してて気づかなかったが、橘京子も九曜も藤原も春喜の方を見ている。 ついに、見られてるのが嫌になったのか 「あのー、なんですか?」 と、切り出した。 すると、九曜が今日はじめて口を開いた。 「あなたの―――瞳は―――とても―――綺麗ね」 俺にも言ったことのある、パーフェクトなまでに無意味な発言をもう一度言いやがった。 「あ、ありがとう…ございます」 超恐々している。 「それより、今度はなんの用だ」 「いいだろ。僕はここに着たかっただけだ」 なんだそりゃ。さっきと言ってることが違わないか? 「私はただ、あなたたちのもうひとつのお仲間の団を拝見しようとしただけです」 仲間?もうひとつの?団?なんの話だ? 「え?お気づきじゃなかったんですか?」 そんなの知らん。ん?待てよ…そういえばこの前、変な奴と会ったな。 あれは1週間くらい前。 ・・・・ ・・・ ・・ 「ただいまぁ」 これは妹の声だが、足音がたくさんするような気がする。 「キョンく~ん。お友達連れて来た~」 友達?アイツが友達連れてくる? 俺はどんな奴か気になり、ドアを開けて確かめた。 「いらっしゃい」 精一杯の笑顔で小6の子にいった。 「………」 そこにいたのは、妹より背の低く、髪が長く、二つの小さなおだんごを髪でつくっている。 「こんにちは。えっと」 「長門美知花」 長門? 「そう。よろしく」 そいつは温度を感じさせない無表情となかなか口を開こうとしない無言さ。 そして長門という苗字。 しかし、その感情を覆すことをされた。 「この人がお兄さん?」 美知花は満面の笑みでそう尋ねて来た。 「そうだよ」 いままでの無表情と無口は何処へやら。 「あたしの部屋はこっちだよ」 「うん」 妹たちは部屋に入った。 10分くらいして廊下が騒がしくなってきた。俺は耳をドアにつけた。 「私、トイレ行きたい。何処?」 「えっと、あっち行ってそっち行くとあるよ」 我が妹ながら意味不明な教え方だ。 「わかった」 「じゃあ、いってらっしゃーい!」 すると足音がどんどん近づいて、俺の部屋の前で止まった。 するとドアがいきなり開いた。 「いっつぅ」 「すまない」 先ほどあった無表情&無口が蘇っていた。 「なんかようか?」 「ある」 なんだ、この懐かしい感覚は… 「あなたは私のコピー台をみているから」 「私のコピー…って長門のことか」 「そう、私たちはコピー」 私たちってことはほかの連中もか? 「そう、あなたと涼宮ハルヒ以外は」 「じゃあ朝比奈さんと古泉が」 「そう。古泉一樹のコピーは古泉くるみ、朝比奈みくるのコピーは朝比奈祐樹」 なんで古泉が女で朝比奈さんは男何だ? 「それは2人が望んだから」 朝比奈さんが男になりたい気持ちはなんとなくわかる。 だが、古泉が女になりたいと思ったとしたら気持ち悪いぞ。 「詳しく言えば朝比奈みくるがそう願った。それを受け、何も考えていなかった古泉一樹に影響が及んだ。なのでこのような性転換を行ってしまった」 「お前は?」 「私も長門有希の思いが込められている。私は周囲の人から二重人格と言われる。それは長門有希の思いが曖昧だったから。長門有希は普通の人間のようになりたいと願うことがたまにある。それがそのときに出てしまい、このような性格になってしまった」 「というか、俺は妹がコピーのようなことになっているのはわかる。だが、ハルヒのコピーは誰だ?」 「涼宮ハルヒの従妹。涼宮コハル」 従妹か…詳しく説明しろ、長門。 「了解した。涼宮コハルは涼宮ハルヒの近くに住んでいる。そのせいか性格が似てしまった。そして涼宮コハルは小さな閉鎖空間を造りだしうまくいかない怒りを小さな≪新人≫を暴れさせている。それを止められるのは古泉くるみ。彼女は『機関』の一員のような存在。だからできる。そして小学校にはプチSOS団ができた」 涼宮コハル、プチSOS団か…。 ・・・・ ・・・ ・・ そういわれればいたな。 「それがあなた達のもうひとつの仲間です」 「それは思い出したがそいつらがどうかしたのか?」 「その話は今度ゆっくり2人でしてくれるかい?もう夜中の1時だ。長門さんにご迷惑になるだろ」 「…それもそうね。じゃあここまでは覚えておいてくださいね」 そのあとすぐ、お開きした。俺と長門以外はな。 「長門」 「なに」 「なんで俺にあのこといわなかったんだ?」 「あなたに心配かけたくなかったから」 そんな心配しなくてもいいんだぞ。 「そう」 その言葉を最後に俺も変えることにした。 「じゃあな、長門」 「待って」 そういうと長門は近寄ってきた。 「なんだ?」 「腕、出して」 腕?何でだ? 「いいから」 俺は大人しく腕を出した。 すると長門は俺の腕に噛み付いた。 「なっ?!」 とても間抜けな声を出してしまった。 「何やってんだ?」 「ナノマシンを注入した」 なんでだ? 「統合思念対の指令」 なぜだ? 「秘密」 そういうと長門は「明日、学校で」といい去り俺は出て行った。
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ハルヒ8ちゃんだおぉぉぉ(*´Д`) ハルヒ8 ブレイダー 88lv 僕のメインはハルヒちゃんだお(*´Д`) 皆ハルヒちゃんの事ハルちゃんって呼んでいただきたい←えw ぱみゅぱみゅ~ 近々BLOG作ります~♪
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「キョン、キョン! しっかりして! 谷口も怪我しているじゃない!? 大丈夫なの?」 「俺は大丈夫だ。谷口の方がまずい。早く連れて行かないと」 「ならあの人たちのところへ連れて行って!」 ハルヒが指さした方――丘の麓を見ると、ヘリが数機着陸してそこからわらわらと兵士たちが降りていた。 さすがに手際がよくて助かるよ。 俺は何とか谷口の手を肩にかけさせ、ゆっくりと丘の下に向かって歩き出す。俺の足も相当酷くなってきていたが、 古泉が支えてくれるおかげで何とか歩くことができた。 「キョンよぉ……終わったんだよな……全部……あの子に逢えるんだよな……」 「ああ、そうだ谷口。全部終わったぞ。これでお前にとっては完膚無きまでハッピーエンドだ」 意識が朦朧としているのか、はっきりしない口調で話す谷口を、俺は必死に励ました。 もうちょっとだ。がんばれよ谷口。 ほどなくして、丘の下までたどり着く、そこでは兵士たちが俺たちをじっと取り囲むように見つめていた。 その視線からは敵意なのかなんなのか読み取れない。 思わず俺は朝比奈さんに背負われているハルヒの手を握った。 「キョン?」 そんな俺にハルヒは不思議そうな視線を向けてくる。 機関の流した偽情報のおかげで、ここにいる全員がハルヒを憎んでいるかも知れない。ひょっとしたら、怒りにまかせて 襲ってきたりするかも知れん。だが――例えそうなろうとも、俺はハルヒを守ってやる。朝比奈さんも長門も古泉も谷口もだ。 そんな微妙な空気の中、俺たちはその中を突き進む。来るなら来やがれ。ただじゃやられねえぞ。 その時、誰かが唐突に叫んだ。 ――女神様のご帰還だ! それに呼応するように、辺り一面から歓声が爆発した。周りにいる人間という人間が、全員拍手なりジャンプなりして、 俺たちに祝福を投げつけてくる。まるでサヨナラホームランを打った選手に対する歓声のように。 「ど、どうなってんだ、これ……!?」 あまりの状況に俺は目を白黒させていたが、ハルヒは何の疑問も持たずに、周りの人間たちに手を振っていた。 すぐに、俺たちの元に担架を持った兵士たちが現れ、谷口をそこに乗せる。そして、すぐに応急処置を始めた。 展開について行けていなかった俺に対し、古泉はぽんと肩に手を置くと、 「涼宮さんはあなたの言葉を信じたんですよ。2年間、他の人の人間の言う事なんて全く耳を傾けなかった涼宮さんが、 あなたのたった一つの嘘を心の底から信じたんです」 ……なんてこったい。それでこんな風にハルヒを歓迎するような世界ができあがってしまっていたって事か。 しかし、悪いことだとは思わないね。さっきも言ったが、ハルヒの働きぶりを見れば、これの方が正しいんだよ。 「その通りです。僕も困難な仕事をせずにすんでほっとしていますよ」 そういつものインチキスマイルを浮かべている。 やれやれ。これでようやく終わりか。 ◇◇◇◇ 谷口を乗せたヘリが飛び立つ。あいつの怪我の具合は緊急は擁するが、今すぐ命の危機というレベルまでは いっていなかったようだ。俺はそれを聞いたときにほっと胸をなで下ろした。全く大げさなんだよ、あいつは。 次々と国連軍の増援が到着し、閉鎖空間のあった場所に向けて進撃していた。まだあの化け物どもが どこかに残っているかも知れないから掃討作戦の実施中だ。あとはプロの方々に任せておこう。 当然、森さんたちの救出も要請している。 ふと、朝比奈さん(長門モード)がそらをじっと眺めていることに気が付いた。 「何やってんだ?」 「…………」 俺の問いかけに、長門は答えようとせずしばらく沈黙を続けた。 どのくらい経っただろうか。すっと視線を俺の方に向けると、 「涼宮ハルヒが自らの能力に対して、ある程度の自覚を有した件についての検討が始まった」 「……お前の親玉たちか」 「そう、その意味を危険視する勢力が情報統合思念体の中でも大きくなりつつある。強制措置を執るように求める動きもある」 長門の言葉はいつもの通り平坦で無感情だった。しかし、俺にははっきりとその感情が読み取れた。 明らかに怒りに震えている。 俺はぽんと朝比奈さん(長門モード)の肩に手を置くと、 「で、長門はどうするんだ? 連中の言うままに従うか?」 「情報統合思念体の判断を確認し、わたしの望まない決定だった場合は拒絶する。わたしの意思はここにいること。 わたしたちを破壊しようとするものがいれば、それが誰であろうと――情報統合思念体の意思だとしても阻止する」 ――長門は俺を深く見つめて、 「誰の好きにもさせない」 「……そうかい」 よく言ってくれたよ、長門。お前もSOS団には必要なんだからな。 俺はそう思いながら、長門の背中を数回叩いてやる。 と、辺りにざわめきが起こった。振り返ってみれば、丘の頂上から4人の人間がこっちに向かって降りてくる。 確認するまでもない。森さんたちだ! ここで古泉が森さんたちめがけて走り出す。俺も足を引きずりながらその後を追った。 「無事だったんですね……! よかった!」 歓喜の笑みを浮かべる古泉に、森さんは特有のにこやかな笑みを浮かべ、 「ええ、おかげさまで。でも怪我が酷いから、すぐに手当を」 「わかりました」 古泉は手近にいた兵士たちを呼び、担架を持ってこさせる。森さんは見事なまでに無傷だったが、 新川さんは軽傷、多丸兄弟はかなり辛そうだ。谷口と同じくとっとと病院に運ばないとまずいな。 すぐに負傷した機関の人たちを担架に乗せて、応急処置が始まる。話を聞く限りではこっちも命に別状はなさそうだ。 よかった。これで国木田を入れても全員無事に帰還できたって事だ。完全無欠なまでにハッピーエンドだ。 ふと、唯一無傷だった森さんが手を高く掲げて立っている。俺はその意味がわからなかったが、古泉はなるほどと理解したらしく 古泉も手を挙げて二人でハイタッチをした。成功の祝いのつもりなのだろう。きれいで心地いい音が辺りに広がる。 あの二人、いいコンビになりそうだな。 「あの、キョンくん」 可愛らしい声が聞こえたんで、軍隊的敬礼ばりに拘束180度回転してみると、そこには麗しき朝比奈さんのお姿が。 ちょっとおどおどした感じであるところをみると、朝比奈さん(通常)のようだ。 全くこのお姿を見るだけで全身泥だらけだというのに、まっさらに清められていくような気分だよ。 「その……ですね……」 何が非常に言いづらそうな感じを続ける朝比奈さんだったが、やがて少し目に涙を浮かべつつ、 俺にあるものを突き出してくる。 ……おいおい朝比奈さん(大)。いくらなんでも空気が読めてなさ過ぎだろ。 俺の目の前に突き出されたのは、何度かみかけたことのあるファンシーな封筒だった。 あの朝比奈さん(大)から送られてくる未来からの指令書。このタイミングで送ってくるなんて何を考えているんだ? ただ、目の前にいる朝比奈さん(小)もこれには不満そうだった。ただ、組織上、従わざるを得ないのだろう。 即座に俺はそれを手に取ると、ひらひらと振って見せて、 「朝比奈さん」 「はっはいっ!」 「燃やしていいですか?」 「はっはい! ――ええ!?」 思わず了承してしまったようだが、朝比奈さん(小)はすぐに撤回した。ま、そりゃそうか。 古泉のように現代レベルの組織的関係ならあっさりと破れるのかも知れないが、朝比奈さん(小)ぐらい未来だと、 脳内に変なチップを埋め込んで、外部から操るなんていうマネすらできそうだからな。 「そそそそそそそれはだめですぅ! あ――いえ、別に未来からの指令を優先とかじゃないんですよ? でもでも、えーとぉぉぉぉ」 あたふた。おろおろ。うーん、朝比奈さん(小)はやっぱり可愛すぎる。本気で抱きしめて差し上げたい。 まあ、そんなことはさておきだ。 「そう言えば、この封筒の中身に何かが書いてあった場合は、強制的にそう動くようにされるんですよね?」 「ええ、そうです……だから、一度開けたら従うしか……」 朝比奈さん(小)の言葉に、俺はその封筒を懐にしまうと、 「じゃ、開けないでおきましょうか。今は、ですけどね。俺ももうくたくたですから。一眠りしたあとでもいいじゃないですか」 「えっ――ええと、そうですねぇ……たぶん、それでいいんじゃないかとぉ」 朝比奈さん(小)はしばらく首をかしげていたが、まあどのみち俺は開けるつもりは全くないけどな。 それに俺の勝手な憶測かも知れないが、この封筒の中には大したことは書いていないんじゃないかと思う。 きっとハズレとか書かれているに違いない。朝比奈さん(大)が伝えたいことは、手紙の内容じゃなくて手紙の存在さ。 わざわざ朝比奈さん(大)が以前に送ってきたものと同じものを使用しているしな。言いたいことは手に取るようにわかる。 ――わたしは無事ですってね。 ◇◇◇◇ 「よっ、ハルヒ」 「何よ」 ちょっと不満げなハルヒの返答。用意されたパイプ椅子に座って、しきりに自分の足をさすっている。 「あーもー、うっとうしいわね、この足! 2年ぐらい使わなかったぐらいで動かなくなるなんて根性が足りないんだわ」 無茶を言うな無茶を。というか、ハルヒが足が動くと思っていたらとっくに動いているんだろうから、 きっと自分の中で2年も使わなければこうなるという考えが固定されてしまっているんだろうな。 「で、さっきまでのサインと握手攻めはもういいのか?」 「さあ? えらい人に散らされたから、したくてもできないんじゃないの?」 ハルヒはそうあっけらかんと言った。 ついさっきまで救世の女神様、涼宮ハルヒ団長殿に謁見+握手+サインを求める兵士たちで大行列ができていた。 まあ、見た目と能力だけならパーフェクトな奴だからな。直接接触しない限りは、ファンは増殖の一途だろう。 しかし、堅物そうな上官の出現により、クモを散らすように解散させられてしまった。軍隊ってのは規律第一だからな。 仕方がないだろう。 ……しかし、その上官がこっそりハルヒのサインをもらっていたことは、絶対に口外してはならない機密事項だ。 うかつに口にしたら射殺されかねない勢いで睨みつけられたからな。娘にプレゼントするらしい。 「ちゃんとSOS団のアピールをしておいたわよ! サインももちろんSOS! ヘルメットとか、迷彩服の後ろに でかでかと書いておいたから、宣伝効果は抜群よね、きっと!」 おいちょっと待て。どこの世界に、『SOS』と書かれた装備を持って作戦に参加している兵士がいるんだ? みんなそろってヘルプミーなんてどこの漫才集団だよ。 しかし、そんなハルヒを見て、俺は安堵を覚える。2年もずっと離れていたし、その間ハルヒも色々あっただろうが、 こいつのポジティブ傍若無人ぶりは全く変わっていないからだ。よっぽど、頑固な性格をしているんだろうな。 「……何よその目! あたしの顔に何か付いているわけ?」 「いーや、相変わらず可愛くない顔してるなと思っただけさ」 そんな俺の反応に、ハルヒはアヒルと猫を合わせたような顔つきで、シャーとこちらを威嚇してくる。 と、古泉がヘリの前に立ってこちらに向かって手を振り、 「みなさん。これ以上ここにいても仕方がないので、手近の基地に移動することになりました。乗ってください」 そう呼びかけている。 「だとよ。行くか」 「そうね。じゃあ――」 そう言いながらハルヒは自力で立って歩こうとし始めた。 「おい無茶するなよ」 「何いってんのよ。こういうリハビリは普段からの心がけが重要なのよ。あとは気合いと根性で――うひゃあ!」 案の定、足をもつれさせて倒れそうになるハルヒを、俺は襟首をキャッチして救出してやる。 いきなり一人で歩けるわけないだろうが。焦る気持ちはわかるが、まあ落ち着いていこうぜ。 「むー」 ハルヒは不満たらたらに口をとがらせているが、何だかんだで俺の肩に手を回してくる。 もうちょっと素直にならないと、周りの男が逃げていく一方だぞ。 「そんな軟弱な男なんて必要ないわ。我がSOS団では活発で行動力のある男子を求めているの。 キョンももっとしっかりしなさいよ。そんなんじゃ、栄えあるSOS団の一員はつとまらないわ。 これからどんどんグレードアップしていく予定なんだからね!」 「へいへい。でも、少しは休ませてくれよな」 「団長として特別に1日だけ休暇を上げるわ。でも、それもただごろごろしているだけじゃダメよ。 あたしが明日以降、みっちり充実した休日の取り方を指導してあげるからね」 「いや、その前にお前はリハビリが先だろ」 「そんなの車いすでも何でも使えばできるじゃない」 やれやれなんつーポジティブぶりだ。ここまでくると、あきれるどころか尊敬してくる、全く。 そんな話を続けながら、歩き続ける。ヘリの前では古泉に加え朝比奈さん(長門入り)がすでに待っていた。 「なあハルヒ」 「なに?」 「……これからもSOS団をよろしく頼むぜ」 俺の言葉にハルヒは、びしっと空に向けて指さすと、 「あったりまえじゃない! SOS団の活動は永遠に不滅なんだからね!」 ~~完~~
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私の存在理由は、涼宮ハルヒを観察し報告すること。 それが私がここにいる理由、それだけが私がいる理由。 今、こうして読書をしている瞬間もそれは変わらない。 私を作った情報統合思念体は、現時点では涼宮ハルヒに急激な変化を求めていない。 だから私もこうして変化の少ない日常を享受している。それだけのこと。 私が本を閉じるとのと同時にSOS団の活動時間を終了することになっている。 涼宮ハルヒと共に、朝比奈みくるの着替えを待ち、帰宅する。 昨日と比較しても目立った変化は見られない。 彼女の精神状態も穏やかであると推測される。 ふと、彼女が足を止めた。 どうやら、駅前に張られたポスターに目を引かれたようだ。 彼女はそれを、数秒だけ見た後、思いついたように朝比奈みくるに話しかけていた。 二人は、好みの映画のジャンルについての会話を行っているようだ。 私には、映画を視聴した経験は無い。 特に興味を持てなかったし、必要なことだとも思わなかったからだ。 「じゃあ有希は?」 だから、私はその問いに答えることができなかった。 それを伝えるために、軽く首をかしげる動作をとる。 「映画よ、映画。どんな映画が好きなのか聞いてるの」 しかし、彼女には伝わらなかったようで、質問が繰り返された。 「ない……正確には、学園祭で製作したものを除けば、私は映画を視聴したことがない」 「それって生まれから一度の映画を見たことないってこと?」 「そう」 そう答えると、彼女は右手を顎に当て、思考する体勢をとった。 私は、私が居住しているマンションの方向へと足を向ける。 昨日と変わらずに、この場所で彼女と別れる、はずだった。 彼女は私の手を取ると、高らかに宣言した。 「今から映画館に行くわよ! こういう初体験は早いほうが良いのよ!」 涼宮ハルヒには突然の思いつきで行動方針を決定する習性がある。 しかし、今回の場合は彼女自身が、映画の視聴を望んでいるわけでないらしい。 先ほどまでの会話状況や心理状態から推測するに、彼女が望んでいるのは 私に映画を視聴させること、だと思われる。 有機生命体の感情を完全に理解できない私は、それ故に日常生活においての情報交換に齟齬が発生することがある。 そして彼女、涼宮ハルヒはそんな私を援助、もしくは保護しようとする傾向が強い。 それ自体に問題はなく、むしろ私にとって好都合である場合が多い。 私という固体も彼女のそんな傾向を好んでいる。 今回の提案もその類であると判断した。 しかし他の3名はそれぞれの理由のため、辞退する形となった。 私だけが涼宮ハルヒに従い、映画館へと向かうことになる。 私には辞退という選択肢はない。 観察のためという理由以上のなにかが、彼女との同行を望んだためである。 そのなにかが、なになのか、今の私に理解できないでいた。 映画館自体から得られる有益な情報は無かった。 文字資料から得ていた情報通りのものであり、新しい発見はない。 比較的興味を引かれた、ポップコーンと呼ばれる食品を観察していると 彼女が購入して、私に持たせてくれた。 私は黙ってそれを受け取る。 彼女はいつも、私に無償で何かを与えてくれる。 それはときに物質的な援助であったり、有益な情報であったり、 今の私には理解できない「なにか」であったりする。 そして、私が対価を払うことを決して認めなかった。 「私が勝手にやってるんだから、有希は気にしなくていいのよ」 彼女は、いつもそうやって私の提案を断っている。 その事実とは反対に、私の中で一つの欲求が生まれてきた。 私が彼女から受け取ったように、彼女に「なにか」を与えたい、というものだ。 しかし、その「なにか」が非物質的なものであること以外は私自身にもわからず 現在もその欲求は満たされないままでいた。 与えられることを望む反面、与えることのできない自分への違和感が日ごとに増すだけだった。 回答は意外な場所で見つかった。 そして、その回答が正解であるのなら、私はまたしてもその機会を涼宮ハルヒに与えられたことになる。 それは彼女と共に視聴した、映画作品の中にあった。 その作品は物語の構造としては非常にシンプルなものである。 二人の男女が出会い、恋に落ちる。様々な障害が二人の交際の邪魔となるが、最終的には結ばれる。 映画自体の視聴経験の無い私だが、今回の作品と類似した物語はいくつか書物で読んだことがあった。 しかし、文字から情景を再構成する必要のある読書とは異なり、ダイレクトに伝わる視覚情報は新鮮で、ユニークだった。 私が回答を見つけたのは、物語の最後の場面、地位を捨てた男性が女性と語りかける場面。 男性は言う。「僕は君のために生まれてきた。君のためならなんだって出来る。君を愛しているからだ」 女性は答える。「嬉しい、私もよ。愛してる」 そして二人が口付けを交わし、物語は終了を告げる。 愛。私には理解し難い有機生命体の感情。 でも、それが「なにか」の正体であると私には理解できた。 この物語の男性が女性にそう感じたように、私も彼女のためなら、あらゆることをしたいと確信できる。 それが愛なら、私の中の「なにか」が愛であることに疑念の余地は無い。 私の欲求は、彼女に愛を与えることだった。 映画館からの帰り、彼女が夕食を作ってくれることになった。 もう、与えられることに違和感は無かった。 今は純粋に彼女の好意を嬉しく思う。 「有希、映画どうだった?」 調理中の彼女が、私に感想を求めてきた。 「ユニーク」 まず率直に感じた言葉を口にする。 「一つだけ、共感できる部分があった」 次に、私が理解したこと。 「あの男性は、一人の女性のために生まれてきた言った」 彼女に伝えたいこと内容、私の気持ち。 「それが?」 「私と同じ」 私は彼女の背後まで移動すると、そのままそっと抱きしめた。 服越しに伝わる彼女の体温が心地よい。 「え、なに?」 「私はあなたのために生まれてきた」 そう言うと、彼女の体温がわずかに上昇する。 この体勢では表情は確認できないのが惜しい。 常時の彼女からは見ることのできない表情であることが推測されるだけに残念だ。 そう思うと同時に、この感情が愛なのかと自己確認する。 「あなたがいなければ私はいない。もしあなたがいなくなれば、私には生きる意味がない」 私が彼女に与えたいという気持ちが愛ならば、私に与えてくれる彼女も同じ気持ちを持っているはず。 彼女も私を愛している、そのはずだ。 しかし、それは推測に過ぎず、確信はできない。 私が彼女に愛を与えようとしても、彼女がそれを受け取るとは限らない。 その思考が自然と彼女を抱きしめる腕の力を緩めた。 彼女が振り返り、私と目が合う。 「これからもあなたのために生きる」 ずっとあなたを愛し続けると、その思いを言葉にする。 それが私の出した答え。私の欲求だった。 私は目を閉じた。 私の思いが彼女に伝わることを信じて。 時間にして3秒後、私の唇が彼女の温度を感じる。 それはあの映画と同じように、愛にあふれた口付けだった。
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午前中。休み時間とは名ばかりの、次の授業への移行時間かつ執行猶予時間の際。 俺は……古泉は登校しているのだろうか、長門はどうしているだろうかなどを自分の席に着いたまま黙考していた。 「どうしたんだい? あまり元気がないみたいだけど。なにか悩みでもあるの?」 国木田はこちらへと近づきつつ俺に問いかけ、俺は背後にハルヒが居ないことを確認すると、 「……悩みが多すぎるのが悩みだな。正直まいってるよ」 「ふうん。てかさ、涼宮さんも何だか元気がないみたいだね。ひょっとしてケンカした?」 普通は聞きにくいようなことを飄々と聞いてきた。国木田よ、俺とハルヒはケンカするほど仲が良いわけじゃ……。 いや、あるのか。いつも俺がボッコボコにされてるが。国木田はなおも飄々と、 「聞きにくいって? もしかして、キョンと涼宮さんのケンカは犬も食わない感じになってるの? それなら、僕がそれを聞いちゃったのは野暮だね。ごめん、謝るよ」 謝られたが、考えてみれば野暮なことはないよな。そして、 「……勝手に俺たちを夫婦にするのはよしてくれ。それより、ハルヒが元気ないって?」 あいつが? ……俺には、息巻いて不思議探索に精を出そうとしていたようにしか見えなかったが。 「キョンは気付かなかったの?」 「……俺には世界を作り変えちまいそうなほど元気に見えたがな。もしハルヒがそうだってんなら、多分、俺がまだポエムを書いてないのが原因だろう」 「おいおい、いい加減早く書いちまえよな? お前なら、いままで恋愛経験がなくても関係ねえ。涼宮とのアレコレでも書いてりゃいいじゃねえか」 谷口がどこからか沸いてきた。谷口、俺はハルヒと、それこそ人に言えないようなもんしかしてないぜ。 「それは大胆だねキョン。ここは学校だし、そういった情事的な告白は自重した方がいいんじゃない?」 俺の言葉に国木田がひどい齟齬を発生させちまった。こいつが耳年増なことを言ってるのは、人畜無害そうなツラしてるのが原因だろうか。谷口は国木田に、 「バカ言え。こいつにそんな甲斐性があったら困るってよ。ムッツリな奴ってのはそんなんじゃねえ」 「誰がムッツリだ。おいお前たち、いや、アホその一とその二。妙な勘違いしてやがると俺の怒号より先に、ジェットエンジンを積んだ地対地ハルヒミサイルがアホを感知して飛んできちまうぞ。俺はそれの巻き添えを喰らいたかないね」 「勘違い、ねえ」と声を揃える二人。もといアホ供。そのなかでも特にアホな方が、 「……しかしもう一年になるんだな。お前と涼宮が、一緒に過ごすようになってから」 ――この谷口の台詞は、まんま俺が自分の部屋のカレンダーを見て思った言葉と一緒だった。 四月。ハルヒと出会った日付に、俺が記した印。 記憶をなくしちまった異世界の俺は……その印を見て、何を思っているのだろうか。 「俺はなキョン。涼宮とお前が出会ったのは良いことだったと思ってんだ。あいつが奇行をするのは変わっちゃおらんが、中学の頃のそれとはダンチだぜ」 右手を肩の位置ほどまで掲げながら、やれやれとばかりに話す谷口。 ――俺は話の内容より、谷口の姿を改めて見たことによって一つ思い浮かんだことがあった。すぐさまそれを聞こうと、 「……そういえば谷口。お前は、ハルヒとずっと一緒のクラスだったよな?」 「ん? ああ、中一の時から現在進行形でそうだろ。なにを今更言ってんだ?」 「聞きたいことがあるんだが」 もしかして、こいつはハルヒが異世界を作っちまったヒントを知ってるんじゃないだろうかと思った俺は、「あいつさ、中学の頃から宇宙人やら諸々を探し回って、不思議なものと会いたがってたんだろ? それでさ、なにか……他に変わったことしちゃいなかったか? もしくは、あいつの悩みでも願いでもなんでもいいんだ。教えてくれ」 そうだ。異世界じゃそういったハルヒの願いは叶ってる。その世界がそんなイレギュラーな事態になってるんなら、他に……何かがあるはずなんだ。若干の期待を込めつつ聞いた俺に谷口は、 「知るか」 という端的な答えを出した。冷たい言い方に俺がすこし傷ついていると、 「中学の涼宮の行動はオールラウンドに変わってたぜ。それこそ全部が変だったもんで、それがあいつの普通になってたくらいだ。……そりゃ今でも変わんねぇが、高校に入ってから変わったもんが一つあるな」 谷口は、話の後半部分になるとニヤニヤした顔を俺へと向けて話していた。やめとけ。マジモンのアホみたいだぞ。 とは言わず、それは何だと聞き返すと、 「高校に入ってから涼宮に告白したヤツがいたんだが……涼宮は断ったらしい。中学の頃じゃ考えられねーよ。でな、東中出身のヤツらの間じゃ眠り姫伝説ってのがあったんだ」 もちろん眠り姫ってのは涼宮だ。と続けて、 「眠り姫ってのはつまるところ、涼宮が寝ぼけたこと言いながら正気の沙汰とは思えん行動ばっかやってたからさ、皮肉で付けられたあだ名だよ。そんで、あいつが目を覚ますのは、あいつにちゃんとした男が出来たときだって言われてた」 また谷口は俺をアホ面で見ながら、 「涼宮が男をとっかえひっかえしてたのは、いつまでたっても現われやしない王子様を探してたんじゃねえかって噂が立っててさ。で、あいつは眠ったまんまで王子様が誰だかわからねーから、とりあえず全員オーケーしてたんだろって話だ」 「馬鹿言え。ハルヒが王子様を探してる? あいつが全員の申し入れを受けてたのは、単に断るのがメンドーだっただけだろ」 「それは違うんじゃないかな? そっちのほうが面倒じゃん。涼宮さんなら、斬り捨て御免でサヨナラすると思うけど」 「だが……」 ……と俺は言いかけて停止した。谷口の話を聞いて、一つ不安な考えが頭をよぎっちまった。こいつらとハルヒの恋愛観について侃々諤々としてる場合じゃない。 眠り姫。 スリーピング・ビューティ。 まさか……あの、閉鎖空間から抜け出たときの行動をやれなんて言わないよな? ……俺がなんとも言えない気持ちになっていると、 「でもさ、涼宮さんはその人の告白を断ったんでしょ? じゃあ、もう涼宮さんは王子様を見つけちゃったの?」 「――なっ!」 思わず驚嘆の声を発した俺に、 「何驚いてんだよキョン? いつになく素直な反応じゃねえか」 「うん。まるで好きな人に彼氏がいたのが発覚したみたいな反応だったね」 アホがアホなことを言ってきた。こいつらにアホ言うなとは無理かもしれないと思いつつ、 「お前等がアホらしいこと言ってるからだ。あいつに男なんかいやしないし、第一、今でもハルヒは天真爛漫な行動してるじゃねえか。谷口の予測も外れてるってことだ」 そう言うと、谷口は何故か盛大に嘆息した後に、 「噂は噂だ。与太話でしかねえよ。けどな、じゃあなんで涼宮はそいつの告白を断ったと思う? 俺が言うのは業腹だが、そいつは中々の良識人だったぜ。見た目だって悪かねえ」 「そりゃSOS団があるから……」 「ああ、わかった気がするよ。谷口の言いたいこと」 俺の言葉を途中で止めた国木田は、 「涼宮さんは、今度は王子様と一緒になってキテレツな行動をやり倒してるんだね」 「そういうこった」 俺の目の前に二つのアホ面が広がった。 つまり、こいつらは俺が王子様だと言いたいらしい。なんとアホな。谷口、国木田よ。俺が王子様に見えるんなら、俺が跨っている馬はハルヒだぞ。むしろ、俺がじゃじゃ馬に乗っかってるから王子様に見えるのか? 何処をどう見たら、無残に振り回されまくりの俺の格好がそう思えるんだろうね。 俺はそんなことを考えながら二人を追っ払い、少々残念な気持ちをそのまま溜息として吐き出していた。 実を言うと俺は、谷口がこの異世界問題の解決の糸口を持ってきてくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのだ。 そう。長門が世界を改変し、俺以外のみんなの記憶が消えちまった時、あいつは俺とハルヒを引き合わせるキッカケをもたらしてくれた重要人物だったからだ。そして、この谷口は―― 残念以外のなにものでもなかった。 そして昼休みになる。俺はいつものトリオでの昼食会を辞退し、文芸部室へと足を運んでいた。 理由なら沢山ある。長門の様子だって気になるし、ポエムだって書かなきゃならない。教室じゃ恋のポエムなんぞ書けるはずもないため、どうせなら部室で長門と肩を並べながら頑張るのも良いかなと考えたのだ。長門にとっても、戦友がいたほうが退屈しないで済むだろうしさ。古泉は……まあ、気にならないわけではないが来てないとしても俺にはどうしようもないことだし、そもそもあいつが学校にまで来れない理由というのがわからん。よって、俺は数ある懸案事項の中で、ポエム作成と長門についての問題を優先して選択し対応することにしたのだ。 そんな雑多なことを考えながら部室へと到着し、扉を開いた俺は…… 「うお」 室内の長門の様子を目に入れて思わず声を漏らす。 「……今日は、本読んでないのか」 長門はこちらへと振り返ることもせず、顔を窓際へと向けたまま、自分の席に閑寂と着座していた。 「長門?」 俺が呼びかけてみても、一ミリの返答すら返ってこない。 「……機関誌借りていいか?」 「…………」 沈黙を了解の合図とした俺はかつての長門を見習い、ポエムの作成に温故知新的な希望をもって小説誌を開いた。 ……が、何故か俺は自分の小説ではなく、長門の小説を読み返したいと思いながらボンヤリとページを捲っていた。 「………ん?」 長門の小説を探していた俺は、機関紙が検索を終えてパラリと閉じられたことに違和感を感じた。なぜなら、俺はあいつの小説を見つけることが出来なかったのだ。 そして何度か再検索してみるものの、一向に長門の小説は姿を見せない。 というより、ない。 それが俺の勘違いでないというのは、目次として記されている作品掲載順序と実際の順番の不一致が証明してくれている。 そう。本来ならあるべきはずの場所に、あいつの小説がポッカリと消えてしまっているのだ。 「………?」 ――なにかがおかしい。嫌な予感がする。何か……とてつもなく大きなものが俺を待っている気配が、この部室内からですら漂っている。 「長門」 もちろん返事はない。しかし、それがもちろんのことになったのはつい先程のことだ。これも、本来なら変なんだ。 「……機関誌なんだが、お前の小説は何処へ行った?」 「…………」 無言で部室の隅を指差す。俺はまるで札を貼られたキョンシーの如く何も考えず諾々とその指示に従い、長門が指差す先へと歩き出した。 「………?」 壁に突き当たった俺は、またもや沈黙と疑問符を浮かべることとなった。 ここには、円筒状のゴミ箱しか置かれていない。 行動の選択肢が一つしかなかったため、俺は何を思うわけでもなく、ゴミを漁るというあまり宜しくない行動に出た。 ……そして思わぬ収穫物を手に入れた俺は、ここで、やっと意識を取り戻すこととなる。 「――誰が……こんなことしやがった」 俺が手にしているのは……長門の小説だ。見事なまでの手際で切り取られたであろう数枚の紙の姿に、俺はそれを認めることが出来ないでいた。 いや待て。待て待て。わからん。不愉快よりも、不可解さが先に来る。 何が起きてる? いつ始まった? どうしてこうなってる? 真っ白になった頭の中で数々の疑問がひしめく中……俺は思わぬ言葉を、紛れもない長門の声で耳にする。 「わたしがやった」 ……は? なにをだよ。 「それ」 俺は手元を見る。そこにあるのは、もちろん…… 「―――長門っ!?」 質問するには不明なことが多すぎた。俺は長門を一瞥し、そして普段とは違うこいつの雰囲気を認識するやいなやすぐさま駆け寄り、あいつの肩を掴みながらあいつの名前を叫ぶ。 「……なっ……お前、どうして……」 そして長門の双眸と目を合わせた俺は……そこにあるものを感じ、狼狽を隠せずにいた。 「今のわたしには、必要ないものだったから」 そう話す長門の瞳の中には…… 何も、存在していなかった。 今つくづく思う。昨日までのこいつには、いや、初めて出会ったときだってそうだ。無感動ながらも、確かに何かが存在していたのだ。 しかし、俺の目の前にいるこの長門には……何もない。あの黒い瞳はまるで乾いた氷のようにくすみ、光を失ってしまっている。初めて俺は……こいつの姿に虚無というものを見て、例えようのない戦慄を覚えた。 何かが起きてる。それは間違いない。この長門がおかしいってのも間違いない。 じゃあ、何で……長門はおかしくなっているんだ? 《あの日》を思い出したからといって、流石にこうまでなるとは考えにくい。ってことは、なにか他の原因でこうなっちまってるんだ。考えろ。どこかに……ヒントがあったはずなんだ。 昨日は何があった。なにかおかしかったところは?(帰り際にあったな)もしかして、長門は誰かに妙なことでもされたのか?(長門が?)じゃあ誰に?(あいつはどうだ)大体、長門をこんな風にして何の得がある?(ある。あいつには)今日何かおかしなところはあったか?(あいつは来ているか?)機関誌は……(最近あいつがずっと読んでたな)。 「……ふざけるな」 これは俺の馬鹿げた思考に対する言葉だ。くそ。何考えてんだ俺は。わかってるじゃないか。 古泉が……こんなことするわけねえだろうが!(機関はどうだ?) ――いい加減にしろ。そうだ、原因を考えたところでどうなるわけじゃない。今必要なのはトルストイ的思考方法だ。 まず、現在一番優先すべきことはなんだ?(そりゃもちろん長門を元に戻すことだ)それを果たすには?(思いつかないね)じゃあどうする。(何が出来る?)俺に出来るのは……(俺に出来ないなら……) 「喜緑さん……!」 あの人なら何か知っているはずだ。確証はないが、もとよりここで俺が無為に思考を巡らせるよりは彼女に何かしら聞いてみた方が上策というものだろう。 だが、ここの長門はどうする? 下手に校舎内を引っ張って連れて歩こうものなら、ハルヒが追尾してきたりだとか俺が破廉恥な輩だという無用の心配が生徒や教師間に蔓延ってしまうかも知れん。そんなもんに構ってる暇などありゃしない。 俺が行動を決めかねていると部室の扉がガチャリと音を立て、 「……おや」 立ち尽くす俺の姿に少々驚きつつ、見慣れたハンサム顔が進入してきた。 「いえ、長門さんが心配だったのでね。僭越ながらここへやってきたわけです。お邪魔なら引き返しますが」 何も聞いちゃいないのに訪れた理由をいつものスマイルで話す古泉に、 「古泉、これ頼む! あと、長門もだ! 俺は今から喜緑さんの所に行ってくる! 理由はすぐ解るはずだ!」 「……ど、どうしたんですか?」 俺は古泉の胸元に長門の小説を押しやり、されるがままにそれを受け取った古泉は当惑しながら俺に説明を求めた。 「何がどうなってるかは知らんが、事態は風雲急を告げまくりだ! よろしく頼……」 一目散に扉へと駆け出していた俺は途中で足と言葉を止め、唖然としている古泉を見ながら、 「……古泉。俺は、お前を信じてるぜ」 たとえ『機関』が――いや、誰が長門をこうしちまったとしても……古泉は、目の前の長門を守ってくれるはずだ。 俺はそれ以上足を部室に留めることなく、一路喜緑さんの元へと駆け出した。 とは言うものの、俺が目指したのは生徒会室だった。目的地に着いた俺はすぐさまドバン!と無作法にも勢いよく扉を開き、 「……なんだキミは。ここはそちらのイカガワシイ部室と違い、ひどく真面目に学内活動に取り組んでいる場所なのだ。無礼な入室の是非は推して測るべきだと思うがね」 突然の闖入者に呆れ顔の生徒会長。少しも怯んだ様子が見受けられないのは感嘆だ。 「そういえば、機関紙の上稿の件があったな。詩集は完成したのかね? もっとも……キミのその様から鑑みるに、期日の延長でも哀願しに来たと考えるのが妥当な判断だが」 肩で息をしている俺に、会長は訝しげに言い放つ。 「……それも頼んでおきますよ」 ちゃっかりしたことを言う俺に、 「ふん。その程度の用件でわざわざ参られては、こちらが困るというものだ。期日を設定したのはそちら側だろう。そもそも今の私は、奇怪な団体に付き合ってる暇など皆目持ち合わせてはいない。この度の生徒会からの要求も実の所、便宜上の活動内容が欲しかっただけなのだ。詩集とやらはあのお祭り女が勝手に決めたことだ。今回、生徒会側はキミたちに契約不履行の罰則を何も提示してはいない。勝手に四苦八苦でも七難八苦でも起こしていたまえ」 会長があまりにも正当なことを言っているのでちょっと逆らおうと思った俺は、 「……少しばかり要求を急ぎすぎだった感は否めませんがね。せめて二学期から活動を求められれば良かったんですが」 「ふん」 いわれのない非難を受けて呆れ返ったような息を吐き、 「キミは喜緑くんの、折角の厚意を無下にするつもりかね。当初の生徒会側の申し入れを提案したのは彼女だ。……理解したのなら、早く退出したまえ。こちらは昼食をロクに摂れぬ程忙しい身なのだ」 「待ってくれ。俺はそれで来たんじゃないんだ……いや、ないんです。喜緑さんはいないんですか?」 「ほう。キミが我が生徒会秘書と謁見したいというのは何故だ」 答えてるヒマはない。いるかいないかどっちかだけ答えてくれ……という俺の質問は愚問だった。清濁併せ持つというか本来黒い会長がこの喋り方だってのは……。 「会長。どうやら彼はわたしに火急の用があるみたいです。すみません、少し席を外していて頂けないでしょうか?」 「……む。私とてヒマではないのだが。キミも良く知って……」 会長にニッコリと微笑む喜緑さん。これ以上会長が話しを続けていたらどうなるかわかったものじゃない。 「……よかろう。だが、手短に済ませたまえ」 絵に描いたような渋々とした風情で歩き去る生徒会長。生徒会活動に精力的なあの人の邪魔をするのは少々気が引けるな。 「構いません。わたしたちはここで、お弁当を食べていただけでしたから」 一転して会長に越権行為疑惑が浮上した。ちくしょう。権力を傘にきて、喜緑さんにちょっかい出してやいないだろうな。 「いえ。会長は素晴しい殿方ですよ?」 明るく言い放っているが、この人は会長の本性を知っているのだろうか。知らないとは思えないが……。 ――って、そんなどうでもいいことを考えてる場合じゃない。 「喜緑さん! あなたに聞きたいことがあるんだ! 長門の様子なんですが……」 急に笑顔のトーンを落とし、喜緑さんは悲しむ口調で、 「……はい。彼女に異変が発生しているのは知っています……その原因も」 ――よし、ビンゴ。当たりだ。原因が判明すれば、後はなんとでも対策は講じられる。 「……あいつはどうしちまったんですか? 多分、誰かに干渉されて――」 喜緑さんはゆるやかに首を横に振り、 「そうではありません。彼女は……禁を破り、死を願ってしまったんです。そして情報統合思念体からの処分を受け、現在の状態に保持されています」 「な……。あいつらが、長門を――?」 ――待て。思念体にとって長門は……世界人仮説を解明するとかいう、進化の希望だったんじゃないのか? それがあいつらの最重要目標だったはずだ。なのに、禁を破っちまったからといってホイホイとあんな状態に変えちまうのか? いや……もしかして、解明の作業には影響しないのだろうか? だがな、だからといって長門をあんな風にしちまうのは許され――って、 「ちょっと待ってください。長門が……死を願っただって? 死にたいなんぞを思ったってことですか?」 喜緑さんは視線を落としながら軽い困惑の色を顔に貼りつけ、 「……はい。長門さんのパーソナルデータが消去されていることから、それは間違いありません」 「長門のパーソナルデータが消えた? ……何となく意味は掴めるんですが、どういうことなんです?」 俺の質問に、喜緑さんはまるでカマドウマ事件をもたらした際のたじろぎ気味な雰囲気で、 「言うなれば……彼女はもう長門さんではないんです。現在の彼女は、いままでの長門さんの行動形式を思念体から暫定的に付加された、素体が一緒なだけの別人なんです。そして……」 更に沈み込み、唇を噛み締めるような様子で…… 「――もう、わたしたちが知っている長門さんが帰ってくることはありません。……彼女の中に存在する思念体は長門さんのものですが、これからどうしようとも……あの長門さんと同一のパーソナルデータが形成されることはありませんから……」 「………うそだろ」 ……喜緑さん。頼むから、そんな顔をしないでくれ……。それじゃ……。 まるで、打つ手がないみたいじゃないか……。 ――打つ手が……ない? いや……あるのか……? 「…………」 俺は揺らめく意識とおぼろになった現実感の中で、懸命に思考を成り立たせようと煩悶していた。 ……大人の朝比奈さんは言っていた。今日、長門の為に《あの日》へ飛ばなければならない、と。 だが、行ってどうなる? ――そう、そこなんだ。この現在は過去の延長なんだから、過去の空白を埋めても今が変わるわけじゃないはずだろ。 つまり……それは、長門がこうなっちまう現在を変えろってことなのか? だが、それは危険なんだ。俺たちは、歴史がどう変わるかなんて予想出来やしない。大人の朝比奈さんにいいようにされちまう可能性があるんだ。それに……。 長門が復調することは、大人の朝比奈さんにとって不利益なんじゃないか? 思念体は俺に、世界の矛盾を消して元の姿に戻さないかと提案してきた。それは、大人の朝比奈さんが消えちまうってことだ。ああ。そうだよ。そもそもが宇宙人や未来人や超能力者の上の繋がりは、純粋な利害関係で目的が一致してたから互いに敬遠していただけだ。思念体が長門を見限った今、『機関』や朝比奈さんの『未来』があいつを助けようなど考えるわけがない。 ……だが、最も頼りになる奴らは、長門を助けることに微塵の躊躇もありはしないんだ。 ――俺たち、SOS団には。 そして、今は俺の判断が一番重要な意味を持っているんだ。長門や古泉、恐らくは朝比奈さんも背後の黒幕から行動を制限されている。俺の行動如何によって、事態はあらゆる方向に進行してしまうのだ。世界の分岐点とやらがあるのなら、今が一番大事なポイントだ。 よく考えろ。俺に何が出来る? 俺の朝比奈さんに大人バージョンの彼女の存在を打ち明けてみるか……もしくは、博打だがハルヒに俺がジョンスミスだと名乗り出るかだ。危険度を考慮すれば前者だが、効果を考えるなら後者だ。どっちに………。 「………くそ」 どちらを選んだとしても、あまり良い結果が出るとは思えない。 ……それに現在俺の中では、上の奴らに向けているものとは別の怒りが大きくなり、思考することを邪魔している。 ――長門。お前は今大変な状況だが、一つ……言わせてくれ。 なにやってんだ。お前は。 死を願っただって? んなもん、願い事でも何でもねえ。お前は、死ぬほど悩んでたんだろうが。それで死にたくなったんなら、なんでこうなっちまう前に俺に言わねえんだ。いや、俺じゃなくてもよかった。ハルヒでも、朝比奈さんでも……古泉でも。そうさ、お前は一人で抱え込み過ぎるから《あの日》を起こしちまったんだろうが。……いや、それは俺が気付くべきだったよな。お前は何も悪かない。 けどな、長門。俺は誓ったんだ。お前に二度と……あんな思いはさせないと。 それはSOS団のみんなだって一緒だ。だから、俺たちはお前の悩みでも何でも共に背負って行きたいんだよ。 だが、お前がそれを教えてくれなきゃ……俺たちは、寄り添いようがなだろうが……。 長門。お前に一番必要なのはさ、自分が抱えてる悩みを仲間に伝えること――――。 ――ドクン。 ……この瞬間、俺の心臓がまるで今始めて鼓動し、その存在を知らしめるかの如く高く鳴り響いた。 「まさか……」 頭の中では、一人の少女の……笑わない仮面が笑ったような笑顔の映像が勝手にフィールインされていた。 「――喜緑さん! あいつは……朝倉はいないんですか!? いや、とにかく聞きたいことがあるんだ!」 慌てふためく俺を見ることなく、喜緑さんは視線を落としたまま、 「朝倉さんは……現在、思念体内に存在していません。彼女のパーソナルデータのバックアップも、失われています……」 「…………」 ――決まった。 俺は、行かなければならない。二度と行きたくはなかった《あの日》に。 そして俺は……二度と会いたくはなかったヤツに、今一番会いたいと感じている。 そう。朝倉は……長門の願いを、あいつの悩みを聞いているんだ。 ……《あの日》はまだ、終わっちゃいなかった――。 第三楽章・臨
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「ねえあんたたちっ! みゆきちゃん見なかった!? こっちの方に飛んできたはずなんだけど……」 「いや知らんが、ハルヒよ。あんまり着物姿で走り回らないほうがいいと思うぞ。折角鶴屋さんの家の人から綺麗に着付けて貰ってるんだ。着物だって借り物なんだし、鬼ごっこが出来る程ここが広大だからといって早速始めちゃダメだろ」 「そんなのやるわけないでしょ! みゆきちゃん、着替え中に髪留めを取るのを渋って逃げちゃったのよ。どこ行ったのかしら……」 桃色の振袖を着飾るハルヒは、八重桜の下で座ってでもいればこれ以上ないほどの美麗な風貌を見せているのだが……やはりと言うべきか、こいつは裾をまくって鶴屋さん宅の廊下を跳ね回っている。 「涼宮さんらしくて良いではありませんか。ああやって快活な姿を見せていてくれるほうが、こちらとしても心が安らぎます。それに……」 古泉は俺に笑顔を向けると、 「異世界の問題も、無事に解決したことですしね」 ……現在、俺たちは鶴屋さん宅での俳句大会を終えて、どうせなら八重桜を背景にみんなで記念写真を撮っておこうというハルヒの提案と鶴屋さんの同意によって始まった女性陣の和装への着替えを、男性陣が待つという形になっている。 つまり今はゴールデンウィーク真っ最中であり、こうやって俺たちが平穏無事に今日を過ごせているのは、当たり前なことだが世界がちゃんと正気を保っているからだ それは俺たちの行動によって異世界の問題がちゃんと解消されているからに他ならないが、それについて語る前にまず、俺が今日ここに来て知った二つの驚きの事実について話しておこう。 一つ目は、鶴屋家の秘密の蔵に壊れた亀型TPDDが保管されていたことだ。 それを見せられて驚きを隠せない俺と古泉を見ながら、ニヤニヤを隠せない上級生はこう言った。 「いやーごめんねっ! あたし実は知ってたんだ、みくると有希っ子の正体っ。あたしが中一のときだったかな? これがいきなり空からうちの庭に降ってきてさ、中から、みくると大人っぽい有希っ子が出てきたんだよ? あたしは宇宙人もなんも信じてなかったんだけど、流石にあの登場で自己紹介をされちゃった日にゃあ、いくら鶴にゃんでも信じざるをえないねっ! あやや、あのときはたまげたっ」 「……じゃあ鶴屋さんは、かなり前からその事実を知ってたんですね?」 「ま、そういうことになるかなっ。まこと申しわけないっ。んで、そこで二人から事情を聞いてさ、正体どころか今日までの話をあらかた聞かされてたんだっ。いやあ、無事に世界が続いてくれて良かったにょろ! こうなったってことは、キョンくんはあたしの質問に答えを出したってことだよね。宇宙人と未来人、どっちを選ぶかって話っ」 「ええ。そうなるんでしょうね」 あとで気付いたのだが、恐らくこの人は、その問題を俺に投げかけることによって自分にとって大事な人は誰かということを考えさせたかったのだ。素直じゃない俺を上手く手玉にとった、なんともひねくれた問題である。流石は鶴屋さんだと言わざるを得ない。 「にゃはは。結局キョンくんが選んだのはハルにゃんだったってことだよねっ。ラブレター見たよ、あっついあつい! 触ったらこっちまで火傷しそうさ!」 何故あの手紙の存在を知っているのかについては後回しにしておく。 「それにさ、驚いたって言えばまだまだあるんだ。二人が墜落して出てきたときなんだけど、どうやらみくるが操縦ミスしちゃったっぽくって、大人の有希っ子はそれはもう鬼のようにみくるを叱ってたにょろ! もうみくるは半泣きで、しかも大切な部品が別の時代に落ちちゃってさあ大変! そして、それを見ちゃったあたしに二人が協力を求めてきたってわけさ。ほんと、高校に入ってから二人に再会して、みくるはドジッ娘のまんまだったけど、有希っ子のあまりの大人しさには我が目を疑っちゃったよ! まるで別人さっ」 ああ、通りで最近長門と仲良くなってきた朝比奈さんが、大人になるとまた長門を恐れてしまっていたわけだ。それに、未来の長門はそんなに饒舌なのだろうか? 俺のイマジネーション能力では皆目見当もつかないので、是非一度見てみたい気がする。そして、そのときに紛失した部品があの金属棒だったってわけだな。 続く二つ目の事実なのだが、それは谷口と周防九曜が知り合いであり、しかもクリスマス前に谷口が付き合ったと言っていた相手が、なんとこの周防九曜だったという話だ。 また、谷口は人違いだったというおマヌケな理由で振られちまったんだそうな。 まさか周防九曜は俺と谷口を間違えたなんて言うんじゃなかろうなと思いきや残念ながらそうだったため、谷口のどこが俺に似ているんだと当然の抗議を申し立てたとき、古泉は「いえ、お二人には実に良く似た部分がおありですよ。だから中学生の涼宮さんも………と、これは秘密です」などと、どうやら谷口もハルヒに告白をしていたということを匂わせるような発言をした。ま、別に聞かなくてもいいことさ。 と、ここでも一つ疑問が生じたと思うので説明しておく。 今回の鶴屋家主催花見俳句大会、実は参加者がSOS団以外にも佐々木たちや俺の妹、そしてミヨキチやハカセ君に至るまでSOS団関係者のほぼ全員が集合してしまっているという様相を呈しているのだ。 谷口と周防九曜が運悪く鉢合わせたことやこのイベントの参加者がこれだけの数に肥大化したことにも驚きを隠せないが、それを容易に許容できる鶴屋家の敷地面積と二つの意味での懐の深さにもあらためて一驚を禁じ得ない。 まあ、ここにやってくる繋がりとして他のメンバーはなんとなく分かるとして、佐々木たちがここに参加しているのは、会誌を仕上げた土曜日の次の日、世界の運命を分ける日であった日曜日にSOS団と鉢合わせたからだ。異世界の問題については、ここから説明を始めよう。 異世界ではそこでハルヒが俺たちの正体に気付いたことによって、みんなの記憶が失われてしまった。 しかしそれは今回の詩集、SOS団の面々が自分自身を題材にしたポエムを朝比奈みゆきが異世界にもたらしたことがキッカケとなって異世界は正気を取り戻した。 そうやって全てを知った異世界の俺たちは、こちらの世界に同期する道を選んだと聞いている。 その選択はSOS団団員のみんなが全てを団長に一任して導き出されたものらしい。 つまり異世界の俺たちはハルヒに全てを打ち明け、その上で、分裂した世界のこれからをどうするのかハルヒ自身の意思に委ねたというわけだ。 そしてあいつはこちらの世界を選び、分かたれた世界を一つにした。 俺には、どうしてハルヒがその選択をしたのかわかる。 非日常が日常になり、その身に過ぎた力があるのを知ってしまったとき……ハルヒはなんと答えるのか。 ――SOS団。涼宮ハルヒと俺たちの冒険は、本当が嘘になる世界で不思議を見つけることが目的じゃない。普通でも普通じゃない日々の中で、気の向くままに遊んでいるのがSOS団であり、ハルヒの……俺たちの望みなんだ。 そう思ったとき。 鏡の世界から投げられたハルヒの願いを、俺は確かに受け取った気がした。 ……とまあ、今回ハルヒが書いたポエムにも、それを感じさせるような言葉があったんだがな。 俺のポエムを見た後にハルヒが書いた、答えはいつもあたしの胸に、から始まる詩の中に。 そしてこちらの世界の日曜日では、俺たちは土曜日に中止となった不思議探索を通常営業で行った。 そこでばったり出会った佐々木たちをハルヒが俳句大会に誘ったのを発端に、続々と参加者が増えていったという次第なのである。 うん。今日までの流れの説明としてはこんなものだろう。 しかしまあ、佐々木と橘と周防九曜は分かるとして、藤原がやってきたのは正直意外だったな。こいつはてっきりこっちの誘いを断ってくるものだと思ってたよ。 「ふん。この国の文化に触れておくのも、僕のこれからの任務において有意義だと思ったんでね。たまには予定表にない行動をしてみるのも悪くはないよ」 「未来人の任務……これは僕の予想にしか過ぎませんが、もしかして貴方は、日本書紀を作成して聖徳太子という虚構の人物を作り出すのではないですか?」 女性陣の着替えを待機している男共が軒を連ねているあまり面白くない風景で、古泉が藤原に言う。こいつらの隣に並ぶというのもなんて居心地が悪いことなんだと思いながら、 「なんだそりゃ。つまり、聖徳太子はいなかったとでも言うのか?」 こくりと古泉。そして人差し指を立てながら、 「ええ。日本書紀でその存在が語られている聖徳太子が実は存在しなかったというのは、最近世間にも周知されてきている事実です。僕はね、このように往々にして歴史書が実際の事実と違っているのは、実はそれが未来人によって作成されていたものだったからなのではないかと想像してしまうんです。こういった方法であれば直接的にその時代を変えることなく、それからの未来を導いていけますからね。実際に聖徳太子という人物の存在は、現代の僕たちを形作る上で重要な影響をあたえていますから」 古泉の台詞に、ぷいと顔を背ける藤原。古泉は、藤原不比等がどうたらと話を続けていたかと思いきや「それよりも」と藤原の視線を自分に向けさせると、「あなたには、色々と伺いたいことがあるのですが」 藤原は溜息をつくように、 「彼女から聞いているよ。というより、全てを知らされたと言うべきか。……まさか朝比奈みくるの組織も長門と繋がっていたとはね」 「どういうことだ?」と俺が聞くと、 「長門は、僕の組織と彼女の組織を統制することによって世界を両側面から回していたのさ。僕の組織の方がどちらかといえば表で、彼女の方が裏になる。だから、こちらの方が朝比奈みくるたちよりも知らされている情報が少なかったんだ。……だが、その真実を知ったからといって、僕たちはこれまでの行動意義を疑ったりはしないよ。全ての行動が自らの意思によってなされたことに変わりはないんだ」 「その思想は《機関》の理念にも通ずるところがありますね」 そりゃ何なんだ、と聞くと古泉は遠い目をして、 「……目の前に続くこの道を、我々は自らの意思で歩いていくのだろうか、はたまた見知らぬ者の意思によって歩かされるだけに過ぎないのか――。人はその疑念を抱いた瞬間に、自身の立っている場所すら見失ってしまうことがある。しかしそれは、過去を振り返ってその道に不安を抱いた者が陥る自縄自縛の考えでしかないのです。他人の駒になってしまうことは忌避したいものですが、それを気にしてばかりいて、己が立ち止まっていることに気付かないというのは輪をかけて愚かしい行為だ。だから、僕たちはいつだって自分の意思をもって前に進むことを忘れてはならないのですよ。他の者の意思など、実は何の関係もないのです。自分の足を進めることが出来るのは、自身の意思の力以外には存在しないのですからね」 「つまり、いつだってやれることをやるだけってことか?」 「その通りです。それこそが真実に至る唯一の方法であり、また、あなたの生き様でもありますね」 これは素晴しいことです、と古泉。俺は別にそんな高尚な考えで動いているわけじゃないんだがな。出来ることしかしないだけなんだ。 「それは簡単なようでいて相当難しいことなのですよ。己に出来得ることを見極め、それを実行に移す。これは見極めるというだけでも至難の技だというのに、あなたの場合はほぼ直感的にそれを理解、行動し、その姿勢をいついかなるときも崩さない。良くも悪くも理詰めの考え方しか出来ない僕からすれば、あなたの真実を見る能力は天才的で驚嘆に値します。だから僕は、あなたには敵わないなと思うのですよ」 あんまり褒められても気味が悪いだけでしかないぜ。それにおだてられたからといって、俺がお前に敵うなんて勘違いはしない程には客観的に自分を判断する力は持ってるつもりだ。 俺たちの会話を黙したまま聞いていた藤原はチラリと古泉を見やると、 「……そこまで考えが及ぶなら、僕がキミに話すことはないんじゃないのか?」 「そうですね、あなたがもたらしてくれた理論のおかげであらかたの予想は立っています。涼宮さんの情報創造能力の正体、そして未来組織の正体についてもね。こちらから話をして様子を伺ったほうがいいのならそうさせて頂きますが」 「どの道僕が言えないこともある。キミの推論を聞いているほうが良さそうだな」 「ではまず、僕の考える情報創造能力の正体についてお話しましょう」 すると古泉は俺に、今度は四本の指を立てて見せ、 「この物質世界の物理法則は、複数の『力』によって支配されてます。それらの力は宇宙開闢の際一つの力だったものが分化して形成されたものだと推察され、これらの力が元々一つであったなら、その全てを統合し、宇宙の仕組みを統一的な原理から考えられるのではないかといった試みがなされているのですが……現在はその全ての力を統一しようとする理論の《超大統一理論》は実証されていません。が、そこで涼宮さんの時空改変能力の登場です。彼女が世界を『箱』から『紙』に変えたことによって次元の性質、つまり世界に内包されていた『力』が統合され、あの情報創造能力が発生しています。このように、世界の入れ物を変えることによって中身を統一させるという理論が涼宮さんによる《超大統一理論》であり、それは能力の発現により実証も得ている。つまり彼女に備えられた神の力の正体は、宇宙の始まりに存在し、僕たちの世界の全てを創造した『大いなる力』だったというわけですね」 まさか、あの唐変木な力にそんな正体があったなんて想像もしなかったよ。単に無茶苦茶なだけだと思ってたからな。 「なんだ。じゃあハルヒは、その力を発生させるために時空を改……」 と言いかけたところで俺は理解した。 そうか。ここでもやっぱりハルヒは力が欲しかったんじゃない。 あいつが時空を改変した理由は、小説誌に書いたハルヒの時間平面理論に関する論文が全てを語っている。 SOS団を恒久的に存続させるための方程式。 つまり俺たちと出会うことを望んだあの小さいハルヒが、SOS団でいつまでも過ごしていけるような世界を夢見て、それが時空の改変に繋がったのだろう。《あの日》に出会った俺が『鍵』となって、ハルヒは次元の箱を開いてしまったんだな。 すると古泉は遠い目をして、 「……実を言うと僕は、機関に限らず、SOS団にもいつか終わりの日はやってくると思っていたんですよ。本音を言うと今回の事件でそうなるのではないかと。……でも、そうではなかった。物語を構成する起承転結において『結』とも言えるあの出来事を通して、逆に僕たちは一つになることが出来たんです。――ここで僕は考えてしまうんですよ。ひょっとしてSOS団には、終わりなどないのではないかとね」 「……それはそれで怖い感じもするが、その理由はなんなんだ?」 古泉は微笑み、 「――SOS団が『結』を迎えたとき、そこには『団結』という言葉が形作られるからです。現に《機関》は、これから長門さんを始めとして情報統合思念体と共に歩むことに決めました。個人ではなく組織としてであれば、悠久の時を生きる長門さんをずっとサポートしていくことが可能ですからね。そして未来の《機関》こそ、朝比奈みくるさんや藤原さんの所属する組織、時間の流れの外側に身を置く時空管理局となるのでしょう。これから《機関》はそのように形態を変えていくからこそ、未来の理論も伝えられたのではないかと」 ……今まで散々話を聞かされてきたが、『団結』ね。まさか最後をそんな適当な話で締めてくるとはな。脱力せざるをえないぜ。 「そうですか? 終わりの話としては相応しいかと。それに僕は、この理論が一番好きですよ」 ふん、と俺が鼻を鳴らすと、藤原は話が終わったのを見計らったように、 「ところで古泉一樹。あんたは長門をどう思ってるんだ? 彼女といつまでも一緒にいたいだとか、そういうことは思っていないのか?」 いきなり藤原は何を言い出すんだろうか。たまらず俺は古泉に目を配る。 「流石に僕には、ずっと長門さんの傍にいるなんてことは出来ませんよ」 その言葉の意味はなんだと問いただしてやろうかと思ったが、古泉は間髪入れずに、 「ですが、そうですね……せめてこの命が続く限りは、彼女と共に過ごして行きたいものです」 そんなことを屈託のない笑み混じりに話していたとき、 「おわっ!? な、長門?」 「…………」 長門がいつの間にか俺たちの隣にちょこんと正座していた。 青紫色の着物に身を包んだ長門は、虚を突かれた古泉に視線を向けて首をこてんと傾けると、 「……古泉一樹」 そして言った。 「それは、プロポーズ?」 こいつはお前と一生添い遂げる覚悟みたいだしな。プロポーズなんじゃないか? 俺がそんなことを言うと古泉はやや困りながらもまんざらでもない反応を見せ、その姿を見ていた藤原は小憎らしい笑みを作り、 「ふん。せいぜい尻に敷かれないようにするんだな。僕が存在するためにも、頑張って欲しいと思っているよ」 「それは……」 古泉は微量の驚きを顔ににじませている。それは俺も右に同じだ。 まさか藤原は、長門と古泉の……? 「理論的には可能」 長門が淡々と口を開いた。 「ヒューマノイドインターフェースが行使する情報操作能力は、あくまでハードではなくソフトの問題。有機生命体としてのわたしの構成情報は人類のそれと同等であり、あなたたちとのあいだに生物学的な意味での差異はない。つまり、もしわたしと古泉一樹がセッ………………」 はい。テイクツー。 「わたしが普遍的な女性として生きることには、どんな弊害や支障も発生しない。唯一問題があるとすれば、相互間の精神的な問題だけ」 「じゃあ長門、お前は古泉のことをどう思ってるんだ?」 「…………」 じっと古泉の顔を見つめる長門。 「わからない。……でも、彼がわたしを守ってくれようとしてくれたことは知っている」 そして確かに、長門はにっこりと微笑んで言った。 「ありがとう」 もうおめでとうとしか言いようがないぜ古泉。これから頑張っていけば、なんとかなりそうな予感がするじゃないか。長門の笑顔を独り占めするなんて、うらやましいやつめ。 「あまりいじめないで欲しいな」 古泉は苦笑し、 「それになじり合いの勝負ならば、こちらには必勝のカードがあることをお忘れなく。組織の人間ではなく対等な友人関係としてであれば、追い詰められた僕がそのカードを切らないとは限りません」 なに言ってんだ。それはお前たちが血みどろの抗争をやってるってのが嘘だったことで相殺だ。言われなきゃわからんとはいえ、えらく無意味な嘘をついたもんだな。 「それ相応の苦労はしているつもりですよ。それに、組織には裏の顔があるほうが面白くはありませんか? 《機関》はそれこそ独占企業のようなもので、いわば敵なしの平穏そのものでしたからね。あなたの好みに合わせて、軽く色をつけてみただけです」 「そりゃお前の趣味だろうが。それに考えてみれば、一番の対抗組織だったであろう橘京子の組織とですら流血沙汰を起こしていた様子はなかったんだから、俺も気付くべきだったよ」 古泉は小さく笑い、 「それはうかつでしたね。ですが、そんな嘘を通すために当時敵対していた彼女たちと口裏あわせをするわけにもいきませんし、流石にそこまで安穏としていたわけではありませんから」 話を戻しましょう、と古泉は、 「長門さんとのことは正直戸惑っています。ですが……」 無表情を貼り付けている長門を見て、 「カマドウマ事件のとき、彼女に読書以外の趣味を教えるという件を後回しにしていたことを思い出しましたよ。そろそろ、それを考えるべき時期のようですね」 そう言いながら、古泉は流麗な笑みを長門に向ける。 俺が長門の表情に変化がないか凝視していると、 「もちろんそれはあなたもです。なんせ、あなたの方は既にラブレターまで渡しているのですから」 ここでネタ晴らしといこう。鶴屋さんやこいつがあの手紙の存在を知っている理由は、ある意味で俺の自業自得であり、ひとえにハルヒの暴挙のせいでもある。 思い出して欲しい。俺の書いたポエムは、本来機関紙に掲載されるためのものであったということを。ちなみに俺がそれを思い出したときは戦慄したね。 そう。ハルヒはあれをなんのてらいもなく無編集のまま機関紙に載せたのだ。 これはまさに俺の自業自得なのだが、ハルヒがあの内容をまんま載せた行為は暴挙だとも言えるんじゃなかろうか。 そうして俺のポエムは、機関紙の配布完了とともに全校生徒はおろか異世界にまで知れ渡ってしまったのである。 「……やれやれ」 俺はすべての憂鬱な事柄をこの一言で済ますことにした。人間諦めが肝心なのであり、ここで俺がまともに神経回路を繋いでしおうものなら、ひょっとして俺は空を飛べるんじゃないかと考え始めて暴走を開始するのは必死だからである。 「あ、キョン先輩。近くに涼宮先輩はいないですよね? フフ。この格好どうですか? 着物なんて初めて着ちゃいました」 物陰からぴょんと跳ねて朝比奈みゆきが姿を現した。エメラルドグリーンの着物姿をくるりと見せて微笑んでいるのは実に愛らしいのだが、いかんせんスマイルマークの髪留めが格好に似合っていない。 「むう。これはしょうがないんです。あたしすごいくせっ毛で、他の人にいじられるよりはこのまま留めておきたいんです」 そういうものなのかね、と思っていると、 「あなたに渡したいものがある。こっちに来て」 「ほえ?」 長門が朝比奈みゆきを呼びつけて渡したものは、髪飾りだった。 「それ、もしかしてあの金属棒のか?」 聞きながら品物を見てみると、それは透明なガラスで作られたような綺麗な雪の結晶だった。 「って、花じゃないじゃないか。雪には六花って呼び方もあるらしいが、花言葉なんてあるのか?」 すると藤原が、 「アイリス? ちょっと貸してくれ」 と長門から髪飾りを受け取り、それを陽にかざすと、 「アイリスの花言葉は『架け橋』だよ。それはアイリスという名前が、虹を意味しているからなんだ」 雪の結晶が光を受けて、藤原の顔にスペクトルが映し出される。長門はこくりと頷き、朝比奈みゆきを見つめて、 「あなたが平和な日常を送れるようになるためのお守り。出来るだけ身につけておいて欲しい」 そういうことかと思ったね。 朝比奈みゆきは、朝比奈さんが北校を卒業した後で北校に入学し、朝比奈さんの後釜としてSOS団に入ってくる予定らしい。学校でむやみに能力を使ってしまわないようにと考えた長門の配慮なのだろう。 そしてこの花言葉を選んだ理由は、朝比奈みゆきが思念体と人の仲を取り持つような生い立ちをしてきたからなのかもな。それに確かアイリスには、他の花言葉もあったような気がする。 「うわあ、とっても綺麗……。長門おねえちゃんありがとう! じゃあこれは代わりにあげちゃいます。あ、お揃いがいいな」 と言って、自分の髪留めを長門のと同じ形の雪の結晶に成形した。おいおい、誰か他のやつに見られやしなかっただろうな。 「僕も満足した。なぜか長門はこれを僕に触らせようとしなくてね。ほら、返すよ」 藤原が朝比奈みゆきに髪飾りを渡し、そしてみゆきの髪飾りを受け取った瞬間、パキン。という不穏な音が周囲に響く。 「あ」 藤原が髪飾りを掴み割ってしまったのを見て、全員が思わず声を出した。 長門は無駄のない動きでみゆき製髪飾りを藤原から掠め取ると、 「……あなたにはもう触らせてあげない」 「な……」 藤原は怪訝な顔をして、そういうことか、と呟く。 藤原と長門がそんなコントをしているとき、朝比奈さんがぱたぱたと近づいてきて、 「待たせちゃってごめんなさい。あ、長門さんとみゆきちゃんも一緒みたいで良かった。みんなの着替えが終わったからそろそろ写真を撮るみたいです。あそこの木の下に集合って言ってました」 朝比奈さんは、オレンジというよりは山吹色と表したほうが相応しい着物に身を包み、素人目からでも分かるその良質な作りの服は、それだけでいずれかの童話にナントカ姫として出てきそうな程彼女を引き立てていた。 と、この和服姿とは別に、俺は朝比奈さんの姿を見ていて一つ思うところがある。 今回の異世界騒動なのだが、タイミングが良いのか悪いのか、この朝比奈さんは《あの日》の裏で起きていたこの事件を知らないのだ。大人の朝比奈さんが知らなかったので当然なのだが、これはもしかして、小さい朝比奈さんの負担を減らそうという未来の長門の配慮だったのではないだろうか。朝比奈みゆきに髪飾りを譲ったり、あいつは自分のことよりも周りを優先させてしまう節がある。それを考えても、やはり俺たちが一緒に過ごせる時間のなかで、長門のために俺たちが伝えられることはすべて伝えて行きたいと切に思う。 それに未来では朝比奈さんも待っているし、みゆきだって藤原だっている。考えてみれば、俺の子孫とハルヒの子孫がそろえばSOS団が結成出来そうだよな。 出来れば、俺はそうなって欲しいと願いつつ。 「みんな集まったみたいね! じゃあ早速この色紙に未来へのメッセージを書いて頂戴。未来って言っても大人の自分にじゃなくて、遠未来の未来人に向けたものよっ」 「なんだ、タイムカプセルの準備はしてないみたいだが、しないのか?」 「気付いたんだけどね、タイムカプセルは自分たちで掘り起こすべきであるイベントなのよ。それにあたしたちの行動は未来にとって常識レベルの歴史になってるはずだし、あたしたちの生み出したものは石油並みに生活に必須なものとして使われているんじゃないかって思うわけ」 あながち間違いでもないことを揚々と言い切るハルヒは、 「だからタイムカプセルを残したところで、未来人にとってはあたしたちが石炭をお宝として見つけるようなもんでしょ? それより、SOS団からのありがたいメッセージがあったほうが喜ぶはずよ。ってことで、みんなで寄せ書きをしてそれを埋めようってことにしたの」 ふふんと誇らしげに胸を張る。なにが誇らしいのか俺には分からないが、良案なんじゃないか? なんてったって紙は安全だからな。奇怪なメカや珍妙な物体が長い間箱の中に入ってるよりましだ。 俺が将来このメッセージを掘り起こすであろう朝比奈さんたちの身を案じていると、くっくっと特徴的な笑い声が聞こえ、 「涼宮さんは面白いことを考えるね。この場に来てしまうのは正直気が引けたんだが、理由もなく断るような真似をしなくて正解だった。ほんとに楽しいね、ここは」 ハルヒも長門も朝比奈さんも相当に男の目を引っかけるのだが、俺の目はそれに少々慣れていたのかも知れない。 普段と変わらぬ口調と服装のアンバランスさが何らかの効果をもたらしているのか、緋色の着物姿の佐々木は文句なしに美人だった。 「ほら、佐々木さんに見とれてないで、あんたからまず書いちゃって。もし面白くないことを書いたりしようものなら、なにが面白かったのかをみんなの前で説明させるからね」 ぐっとくる台詞を言うじゃないか。なんせ、これが冗談じゃないっていうんだからな。 ここでの面白いとは何のことを言うのだろうと思いつつ、俺はハルヒから渡されたサインペンと色紙を構える。何を書こうか。 「そうだな……」 ここは一つ、未来のSOS団結成に足りない俺とハルヒの枠を埋めてもらって、あっちのほうでSOS団を結成してもらうように頼んでおくか。 俺はスラスラとペンを走らせて、その辺でアホな面を下げていた谷口へと色紙を手渡す。 すると谷口は「ぎょっ」というありえない悲鳴を出し、 「おいおい。ポエムの件に関しちゃあ俺も書くように言ってたからよ、たとえラブレターを読まされても文句は言わん。まさか本当に書いちまうとは思ってなかったが……。しかしだなキョンよ。こんなところでまでノロけられちゃあ流石に滅入るぜ?」 何を言ってるんだなんて言葉はお前には飽きるほど言ってきたと思うんだが。いい加減俺にも分かりやすく物事を話してくれると助かる。 「貸しなさい」とハルヒは色紙をひったくると、俺が書いたメッセージを見るやいなや顔を朱に染めて、 「……ばっ! あんた、なんてこと書いてんのよ!? バカじゃないの、このエロキョン!」 いやあ罵られている理由がまったくの不明であるがゆえに、こちらとしてはなんともリアクションがとれないぜ。 一体いま何が起きているのかを確認しようと、俺も再度自分の言葉を確認してみると、 「げ」 どうやらとんでもない齟齬が発生しているらしいということに気がついた。 「ち、違う! これはそういう意味じゃないんだって!」 「おや、ではどのような意味なのです? そのままの意味ではないのですか?」 小憎らしいスマイルを浮かべて俺をなじる古泉。さっきの仕返しをしてきやがるとは、お前も中々やるようになってきたじゃねえか。いいだろう、覚悟しろよ古泉? 今からお前が未だかつて見たことのないほど頭を下げて降参する男の姿を見せてやる。 そんなこんなを言いながら、全員が集合していることもあって、場内ははやしたてるように一気に騒がしくなった。が……。 俺は、自分の書いた言葉に対するみんなの誤認を強くは否定出来なかった。 一人の少女の憂鬱から始まった物語。 それはいつの間にか俺たちの物語となって、これから先の未来へと続いていく。 しかしまあ、俺はここらで、未来に向けた俺とハルヒのメッセージをもって長く続いたこの物語に一応の節目をつけておこうと思う。 まず、我らが誇るべきSOS団創設者であり絶対不可侵なる団長、涼宮ハルヒの言葉はこれだ。 『未来永劫、SOS団に栄光あれ!』 みんなで撮った集合写真を見せられないのが悔やまれる。みんなこの言葉を胸に、相当良い笑顔をうかべていたんだぜ? そして最後を締めくくるのは、僭越ながら俺の言葉である。 先に言っておくが、俺はSOS団と、みんなと、そして何よりハルヒに出会えて最高に良かった。 そんな俺が書いた言葉は……、 『俺とハルヒの子供をよろしく』 さて。 この言葉が将来どんな意味を持つことになったのかは――禁則事項だ。 涼宮ハルヒの団結 完
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恐ろしくだるく体があちこち痛い。そんないつもより不快でだるい眠りから覚めた俺が始めに見たのは…………ハルヒの顔のドアップだった……… 「うおぉ!!」 起きた瞬間それは驚く。てか布団同じかよ、なんだこの状況は!? よしまずはここから離れよう。そして何があったか思い出そう。 まず俺達はポッケ村に行く途中ティガレックスにあった。そして一応戦うが突進に当たって…それから…崖から落ちた。ならここは? 「やっと起きたか」 「誰だ?」 後ろからの声に振り向くとあきらかに不機嫌そうな顔をした男が立っていた。 「誰だだと?この家の主だ」 「そうか。お前が助けてくれたのか?」 「勘違いするな。屋根の上に死体を二つ転がすのが嫌だっただけだ」 なんとも合理的な考えだ。確かに俺だってそうなったらこいつと同じことをする。まあ俺の場合その前に心情的なものが来るがな。 そいつは俺達と同年代くらいで、いけ好かない顔だが助けてもらった手前、そんなことを考えるのは悪い気がする。 「俺達は何時間寝ていた?」 「時間?そうだな。時間に置き換えればざっと76時間と言うところだ」 何!?3日も寝ていたのか?その間ずっとハルヒの横?先に起きてよかったぜ。 「なんでこいつと同じ布団に寝かせた?」 「その方が面白そうだったからだ」 「なっ!?」 「冗談だ。この家に布団は一つしかない」 一回ぶん殴りたくなったが、男の答えにそんな考えも吹っ飛んだ。つまりこいつは三日間布団で寝られなかったということだからな。 「なぜ他の家に助けを求めなかったんだ?」 「僕は他人と馴れ合うのが嫌いだ。だからわざわざこんな場所に家を建てている」 「こんな場所?」 「外を見ればわかる」 小窓から外をみればそこは一面雪。そこに人の気配はない。ここは村から離れた一軒家か。いくら他人と馴れ合うのが嫌いでもこれはやりすぎだ。 まあそのおかげで俺達は助かったわけだが 「そいつが起きたら出ていってくれ。少し前に馬鹿へ手紙を送っていた」 「馬鹿?」 「ああ、女っ垂らしの糞馬鹿だ。少し可愛い女がいると教えたら飛んでくる」 なるほど、女っ垂らしの糞馬鹿か。なんか聞いたことある気がするのは気のせいか? 「うぃ~っす。藤原かわいい子がいるってのは本当…うわ~キョンかよ…」 「なんだ知り合いか。なら話しは早い。そいつが起きたら村に案内してやれ馬鹿の谷口」 うむ。やはり馬鹿の称号は持つ谷口の物か。てか久しぶりにあった友人にうわ~はひどいじゃねぇか。わかると思うがかわいい子ってのは俺じゃないぞ。 「キョンってことはかわいい子ってのは涼宮だろ。たしかに可愛いのは認めるが性格が完全にアウトだ」 うむ。やはり谷口のやつも理解していたか。しかし俺がいればハルヒがいるってのは変じゃないか? 「知らんな。嘘は書いていない」 「そうだな。たしかに性格は最悪だ」 まあこん~なことハルヒに聞かれたら何をされるか。ティガレックスより怖いな。 「ふ~ん私ってそんなに性格最悪なの?」 「そりゃあもうひどいってもんじゃないぜ」 「悪魔のような性格だ。いや悪魔の方がまだましだな」 あれ?俺達今すごいベタなことした気がする。谷口、顔が青いぞ。まさか 「あんた達そんなに死にたいの…いいわ…私自ら刑を執行してあげる。死刑をね!」 そこには極上の笑みを浮かべ完全復活したハルヒの姿があった。それは人を殺せる笑み…恐ろしい。 「逃げるぞ谷口!」 「お、おう」 「逃がすかぁ!」 こうして俺はハルヒの死刑から逃れるべく藤原の家を後にした。 「まったく礼くらい言っても罰はあたらんのに。しかし…男の方が先に起きたか…女の下敷きになっていたのにタフなやつだ。………いや…両方タフだな」 もちろんこんなことを藤原が言っていたとは露知らず、ティガレックス並のハルヒの突進をうまくかわしながら俺達は逃げ続けていた。 まあこの後すぐ捕まって恐ろしい目にあったのは言うまでもないことだろう。とにかく死ぬかと思った。 雪に埋もれた谷口と俺。やばいな。そろそろ本気で凍死する。 「あんた達いつまで遊んでんのよ?」 「なんだと!?」 「誰のせいでこんなことになったと思ってる!?」 「さぁ知らないわねぇ。そういえばここどこなの?」 なんてやつだ。雪から抜け出し、ハルヒに状況を説明ながら重々思った。こいつについて行ったらそのうち本気で死ぬんじゃないかと…。 「だから村にいたころから注意してやってたろ?涼宮に着いて行ったら命がいくつあっても足りないってな」 まあ確かにしていたな。しかし馬鹿の言うことを聞くのは癪だったし。何よりこいつを見捨てて野垂れ死にされたらそれはそれで気分が悪い。 取り敢えずなぜ谷口がここにいる?ついでに今どこに向かってる? 「それはだな。俺がポッケ村で武器屋をやってるからだ」 「へぇ~」 「ふぅん」 「なんだてめぇら!聞いといてその態度はおかしいだろ!」 だってそんなに興味なかったし。てかお前ハンターやってなかったのか。でかいこと行ってた気もするんだが 「けっ。金より命だ。あんなでかいの倒せるかってんだ」 なるほど一回行ってボコボコにされて悟ったってきたわけか。ハルヒも悟ってくれたら嬉しいんだがなぁ。 そんなこんなでポッケ村にたどり着いた俺達。さてまずはどこに行けばいいのだろう。 「そうだな~。集会場にでも行ったらどうだ?」 「そうね。馬鹿もたまには良いこというわね」 余計なことを言うなこの馬鹿。行ったら直行で狩りに出掛けなならんだろう。止めてほしい。断じて俺は行かんぞ 「ふっ。そういいながら行くのがキョンだ」 何を悟ったんだこいつは。気持ち悪い喋り方をするな。寒気がしたぞ。 「それじゃあ行くわよキョン」 「わかったよ」 「じゃあ俺は仕事があるからお前らで勝手に行ってくれ」 一応馬鹿に礼くらい言おうと思ったんだが、ハルヒに引っ張られて結局言えなかったぜ。そういえば藤原にも言ってなかったな。今度会ったら言うか。 「てかまず村長の所に行くのが基本じゃないか?」 「基本なんて知ったこっちゃないわ。後で適当にあいさつしとけばいいでしょ?」 そんなわけにもいかんような気もするんだが まあ面倒なのは俺にもわかる。ハルヒだから仕方ないということにしよう。 というわけで集会場に着いた。なかなかに人が多い。 しかし…見たことあるようなやつがいっぱいいるのは気のせいなのだろうか…。 そんなこともあるんだろうと思いながらハルヒに着いて行く俺。まずは受付だな。 「あのぉ新人さんですかぁ?」 受付にはなんともかわいらしい天使のようなお方がいた。 「違うわ。ベテランよ。取り敢えず今行ける一番難しいクエストを見せて頂戴」 そんな天使に大嘘をつく悪魔ハルヒ。いかんな。何となくこの人だと簡単にだまされそうだ。頼みますよ嘘を見破ってください。 「あっ、そうなんですかぁ。すいません。今探してきますね」 「ちゃっちゃっとお願いね」 俺の願い虚しく、やはりというかなんというか彼女はせっせと難しいクエストを探していらっしゃる。 「以外と簡単に騙せたわね」 「死んでも知らんぞ俺は」 こいつは小声でなんて事いってきやがる。しかし騙してるということはハルヒでも自覚していたんだな。 「有りましたぁ。これが」 「ストップだよみくる~」 明らかにラージャン討伐のクエストを持ってきた彼女に隣からストップが入った。セーフだギリギリセーフ。 声がした方を見ると、目の前でオロオロしている可愛らしいお方と比べても遜色ない美人さんで、かなりのロングヘアー、そして笑顔を全開にしたお方が現れた。 おそらく彼女も受付だと思う。服装が統一されているからな。 「君達君達。嘘はいけないよ~。君達はまだまだこんな危ないクエストに行くレベルじゃないっさ」 「なんでそんなことがわかるのよ!」 「受付なめちゃいけないよ。これでも何百何千ってハンターを見てきたんだからさ」 この人が一体何歳か俺はかなり疑問に思った。口には出さない。出したらハルヒ並に恐ろしい結果になりそうだからな。 「えっえ~鶴屋さんこの人達新人さんなんですか~?」 「そうだよみくる。簡単に人の言うこと信じちゃだめだよ」 「ふ~ん。この嘘を見破ったのはあなたが初めてよ」 嘘を付け。前の村の村長にも見破られてただろう。それを無理矢理突破したのがお前だ。 「あれはあの村に住んでたんだからばれるのは当たり前でしょ」 「確かにそうだが、つまり今回始めてやって始めっから見破られたって事だろ?」 「細かいことは気にしないの」 まあ確かに見ただけでわかる、このお方がすごいのもわからんでもない。 「まあまあ言い争いはそのくらいにして、自己紹介しないかい?」 「そうね。貴方は鶴屋さんでしょ?あっちの子はみくるちゃん」 「あ、朝比奈みくるです。よろしくお願いします」 朝比奈さんと鶴屋さんか。聞いたことあるような気がするのは俺の気のせいか? 「私は涼宮ハルヒ、このマヌケ面はキョンよ」 「ふ~んへ~え、君達があの有名な新人特攻隊かい?いや~一度会ってみたかったのさ」 俺はマヌケ面のキョンかよ。有名な新人特攻隊って……たしかに特攻しまくったが 「それじゃあ君達に調度良いクエストを探してあげるっさ」 鶴屋さんはハルヒとしてはとても迷惑で俺としてはとてもありがたい申し出をしてきて下さった。いや~ありがたやありがたや 「コンガ討伐の依頼が来ているねぇ。それでいいかい?」 「ハルヒ。これが今の俺達に妥当な所だ。これでいいだろ?」 ハルヒのやつは俺の話しをまるで聞かず、クエストボードを凝視しながらうんうん唸っている。何を考えているんだいハルヒさん? 「仕方ないわね。それでいいわ。それに鶴屋さんの申し出を断るのは、なんか私のポリシーに反する気がするのよねぇ」 「そうっさそうっさハルにゃんいい心掛けだよ」 「それじゃあ私が気球班に話しを付けてきますね」 よしよし。ピンクの猿数体程度なら楽なもんだろう。それにしても依頼者の名前にどっか心あたりがある気がする。気のせいだよな? ちなみに依頼内容は『密林で、ピンクの可愛らしい牙獣をみたのね。でもアレってコンガだと思うのね。私の犬が近づかない内に何とかしてほしいの。だって犬猿の仲だし』だった。 いや前半はわかるが後半おかしいだろ。たしかに犬猿の仲っていうのは有名だが 「あの~気球班の人OKらしいで~す」 「ねぇ。気になってたんだけど気球って何?」 今更だなハルヒ。まあ俺も気になっていたのは認める、しかし俺が気になっていたのは気球の方ではなく、気球班というものの方だ。 「そうっさねぇ。簡単にいえばハンター宅配便みたいな物っさ」 「ハンター宅配便?」 「ええっとハンターさん達は依頼を受けますよね?」 朝比奈さんが可愛らしく説明してくれるのはいいのだが、ハンター…まあ狩人ともいうが…は依頼を受けるからハンターであって、ああもういいや。 「そのハンターさん達を目的の場所に連れていくのが気球班の仕事なんです」 なるほどたしかに目的の場所に歩いていったんじゃあ日が暮れちまう。前の村にはなかった設備だな。 「ふ~んそうなの。わかったわ。確かに高いところにいれば大きい獲物も見つけやすいものね」 ハルヒもこれには納得したようだ、しかし考え方が少し違う気がするぞ。 「じゃあ行ってくるといいっさ。めがっさ楽しんでおいで」 鶴屋さんはさも楽しげに、朝比奈さんはエンジェルスマイルで俺達を見送ってくれた。何をどう楽しむのかよくわからなかった俺達だが、数分後にはすぐ鶴屋さんの言ったことを理解できた。 「高いわね~。絶景とはこういうことをいうんだわ」 「雪山も遠くからみれば綺麗なもんだな」 気球からの眺めはハルヒの言った通り絶景。高すぎて少し怖いが、ティガレックスに崖から落とされた時に比べれば蚊に刺されたようなもんだ。 怖さよりも絶景を眺める楽しみの方が強い んっ?何をキョロキョロしてるんだハルヒ? 「大物探してるのよ。いたら速攻で降りてもらうんだから!」 「それはできないのですよ。依頼を完遂して貰わないとこちらとしても困りますぅ」 今の声は気球班だ。気球の定員は5人。必然的に狩りに行く人数は4人ということになる。確か4人というのにはもっと意味が合ったはずなんだが…覚えてねぇや。 「ちょっと私の紹介はどうしたんですか!?」 「勝手に思考を読むな。え~っとどなた様でしたっけ?」 「橘です。橘京子!」 へぇ~そうらしいですよ皆さん。覚えてやってください。俺は興味ないです。 「くぅ~ちなみに私の外見はとっても可愛い女の子で……」 あ~あ。ついにはわけわからん事まで言い出した。こいつはほっといて絶景を楽しむとしよう。俺の本能がそう叫ぶ。ハルヒは完全に無視してるしな 「え~間もなく目的につきま~す。お忘れ物しないように降りてくださ~い。帰りも此処にいます」 何となくお決まりの台詞を言っている橘はスルーしておこう。 さて密林か。虫とかいっぱいいるから森は嫌いなんだよなぁ。ちゃっちゃっと終わらせて帰るか。 「行くわよキョン!」 「おう!」 さて意気揚々と飛び出したはいいがピンクのアイツがなかなか見つからない。群れだから一匹見つければ、他のやつもすぐ近くにいるはずなんだがなぁ。 「たくめんどくさいわねぇ。キョン2手に別れる?」 「まあ待てハルヒ。4人で来たならまだしも俺達は2人。それに経験も浅いんだ。戦力を分散させるのは得策じゃあない」 「それもそうねぇ。仕方ないわ。もう少し探して見ましょう」 そうそう。それに歩いていればそのうち見つかるさ。依頼がきてるんだからな。 こうして俺達は少しの間歩き続けた。途中でかなりでかい虫、名前はたしかランゴスタにカンタロスだったか。とりあえず馬鹿でかい虫だ。 あんなのに刺されたら痛いどころじゃすまないな。倒そうか、とも思ったがハルヒいわく 「でかいだけの虫なんかに用はないわ」 だそうだ。まったくあいつらかなり邪魔なんだけどなぁ。 「ねぇキョン。なんか聞こえない?」 「虫がブーンブーン五月蝿いな」 「違うわよ。そうじゃなくてもっとこう大きな動物の………」 ハルヒに言われて耳を澄ます、なんだ?急に周りが騒がしくなってきた感じだ。ガサガサガサガサと……そうか。 「目当ての相手じゃない。めんどくさいのが来たようだぜハルヒ」 「ええ、そうみたいね」 ハルヒは大剣、俺は片剣を構える。群れる習性は同じだがコンガではなく…… 「来たわね。青い鳥モドキ」 「馬鹿いうんじゃない。あいつらに翼なんてねぇ。それにあれが幸せを運んでくる訳無かろう」 このやり取りでわかる人もすごいと思うが、相手はランポスだ。しかも中央にでかいトサカのやつがいる。 しかしどういうことだ?コンガがいっぱいいるんじゃなかったのか? 「囲まれたわよキョン」 「何を今更。始めからあいつらはこの陣形だったさ」 左4、右3、後ろ3、前2にでかいが+1だ。まったく沢山ですぎじゃないか? こんだけ集まると本当にギャアギャア五月蝿いな。 「キョン、でかいのは私に任せなさい。左側と後ろ任せたわ」 「おいおい俺の方が一匹多いぜ?」 俺達は背中合わせで武器を構え、相談しているところだ。その間にもジリジリランポス共は近寄ってくる。 「でかいのやるんだからいいでしょ?」 「仕方ないな。それでいい。そろそろ来るぞ」 「抜かるんじゃないわよ!」 ハルヒがそう言ったのを合図にでもしたのか、ランポス共は一斉に飛び掛かってきやがった。 もちろんそれくらいは予想していた俺達は斜めに飛んで逃げた。 ハルヒが右斜め上、俺が左斜め下だ。7匹相手にするのは骨だがやるしかないな。 その辺にあった石ころを投げまくりうまいこと7匹をこちらに向かせた。 やつらはジリジリ近寄るのが好きらしい、そんなことしている間に1番近い1匹を切り倒す。 伊達にハルヒに連れていかれて無茶ばかりやって来たわけじゃない。飛竜の威圧感に比べればこんなやつら何の恐怖も感じない。 とはいえ数が多い。相手をよく見て1匹になった所を攻める。 簡単に言ってるが、1匹なるまで避けたり、防いだりで大変なんだぜ?いつの間にか残りの5匹に囲まれちまってるしな。 「ハルヒーーそっちはどうだ!」 「いまんとこ楽勝よ。あとでかいの合わせて3匹!」 さすがに早いな。ならこっちも急いでいくか。1匹1匹確実に、潰していけば……… 「キョン!ごめん、そっちに1匹行っちゃったわ!」 「なんだと!?やっと2匹までに減らしたんだぞ?」 「でかいのが邪魔なのよ。小さいのが1匹、2匹増えたところでかわらないわ!やっちゃいなさい」 まったく簡単にいいやがって…まあいいだろう…やってやろうじゃないか 意気込んではいるが作戦はさっきとかわらない。1匹になったやつを切り刻むだけだ。まあ実際は急所に一撃いれてるだけだが 「ラストだ!」 そんなことなでラスト1匹。ハルヒの逃がしたやつだろう。そいつに重いっきり片剣を振り下ろした。 勢いよく振った片剣はランポスに当たり………………ガキン…っと嫌な音がした。 「ちっ切れ味か。血糊がつきすぎだ!」 「ああもう、やっぱりキョンは詰めが甘いわね!」 俺が止めを刺し損ねたランポスはハルヒの大剣によって真っ二つになった。何を言うか。お前が逃がした1匹だろう。 「馬鹿言ってんじゃないわよ。ボスだけあってあのでかいかなり強かったんだから」 そう言ったハルヒの後ろにはでかいランポスの死体が転がっていた。確か名前はドスランポスだったかな。 「沢山いて面倒だったわね」 「確かにな。ランポスごときと侮っていたが、沢山出ると面倒だ。ボスもいたしな」 さっきの場所から少し離れたところでハルヒは大剣を地面に突き刺し、それを背もたれにして休憩している。俺は俺で近くにあった石に腰掛けているわけだ。 「でもおかしいわね。なんでランポスがいるわけ?コンガじゃなかったの?」 「さぁな。とりあえずコンガを探してみたらどうだ?」 「そうね。依頼果たさなきゃ鶴屋さんに悪いものね」 それに金も貰えんしな。片剣を研いだら探しに行こう。 「ねぇキョン。私達の依頼内容ってコンガ狩りよね?」 「ああそうだが、どうした?」 嫌な予感がする。なぜって?ハルヒが目を輝かせてある一点を見ているからさ。そこに何がある? 「でもその群れのボスを倒しちゃいけないわけじゃないわよね?」 ハルヒの言葉と視線の先。これだけで今から何が起きるのか、嫌でもわかってしまう。 つまりだ。目の前にババコンガが現れちゃったわけなんだよ。でかいな畜生。もうちょい休憩させてくれよ。 そんな俺の願いなど踏み倒し、ババコンガはこちらに突進してくるのだった。 たまには俺の願いを叶えてくれ。馬鹿神様。 それともあんたはハルヒ贔屓なのか?冗談きついぜ。まったく 「やれやれだ」 続く