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第2話:「消えた樹氷の根」 セッション日:2009.07.03 ジャンル:空気を読まないウィルダネス・アドベンチャー BOSS:氷の女神の姿を写した者 天空キャンペ第2話。 予告文 天空に遺跡有り、古代技術・魔法力の結集なり。 其の中核を手に入れし者、世界を手中に納める事、能うなり。 此を狙う者有りき。彼の者遺跡をめぐり ついには天空遺跡の中核に辿り着かん…。 世界を火の海へとかえしこの暴君は、 神の怒りに触れ、遺跡ごと海中深く沈みけり。 ~天空遺跡伝承より~ ======== アンディが、衛兵に捕まってしまった。 罪状は昔「蒼き稲妻」の時に犯した罪と、「内乱罪」。 「氷の女神」と組んで国家転覆をはかると思われている。 「天空遺跡中核」を手中に収めればそれが可能というのだ。 「氷の女神」とはミラの兄サラの通り名。 目撃者「地獄地蔵」の話によれば、確かに「氷の女神」が 罪を犯しているところを、見たという…。 また、情報屋「カラス」も、氷の女神が最近暗躍している噂を耳にしていた。 「天空遺跡中核区」に行くために必要な「ゲートキー」を手に入れるための人殺し、 要らなくなった遺跡の破壊行為…。 しかし、氷の女神…サラはユーンの話によるとただいま生死不明の状態だという。 だとすると、地獄地蔵の見た氷の女神とは誰なのか…? 噂に上がっている「氷の女神」の足取りを追い ユーン達は一路、北…ダナデスを目指す。 【天空-そら-の願い】キャンペーン第2話:「消えた樹氷の根」
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魔女。「樹氷の魔女」とも。 氷原の魔女の親友。ラケルの師匠。 カリナ嬢を超える立派なバストの持ち主だが、ウエストサイズもグレートである(*1) 人物
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轟牙樹氷衝(ごうがじゅひょうしょう) +目次 概要 登場作品アスタリア 関連リンク派生技 関連技 ネタページ 概要 轟牙樹氷衝とはヴェイグとティトレイの共撃秘奥義のこと。 ▲ 登場作品 アスタリア 習得者 ヴェイグ・リュングベル + ティトレイ・クロウ 台詞 ティトレイ「頼むぜ、ヴェイグ!」 ヴェイグ「絶氷の剣、その身に刻め!」 ティトレイ「続けていくぜ! はっ、せやっ!」 ヴェイグ「決めるぞ!」 二人「はあーっ!」 ヴェイグ「これで最後だ!」 ティトレイ「デカいのいくぜ!」 二人「轟牙!樹氷衝!」 ▲ 関連リンク 派生技 ▲ 関連技 ▲ ネタページ ▲
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樹氷の元で眠る者 GM 川柳 参加PC:アクセラ(PL レータ)メメット(PL 秋沼)ラング(PL 杜樹) セッション日:2008.07.05 登場NPC ミラ、パウーラ BOSS:ルイナ 予告文 「不治の病を治すお医者さんが、コルという街にいるそうです。 そこへの旅の道中の護衛を頼めませんか?」 こけそびれにやって来た貴族の娘の依頼。 コルはサイコラウンの最南端の街だが、 港町として発展しており、ヘッポとも大きな街道で結ばれている。 ミラを含むあなた達5人はこの依頼を引き受けることにした。 旅の危険はほぼ皆無。 証拠に、行きはのんびりとした旅になった。 「見えてきましたよ?あれがコルの街です」 御者が馬車の中のあなた達へと声を掛ける────。 物語はこんな所から始まる……。
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冬2-54 Sカード カードタイトル:桂ヒナギク ジョブ:デート iluus:後藤圭二 使用タイミング 即時 あなたの場にあるAキャラカードとあなたの場にあるこのターンの間にスタンバイ能力を使用したすべての「デート」をバトルゾーンに移動する。 大自然の芸術って凄いわ・・・ スタンバイ能力を使用したというのが残念なところ、スタンバイゾーンにある「デート」なら強すぎるけど・・・ Aキャラだけあげることもできるので今後に期待!?
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―1952年 東京 「すごく久しぶりな気がします、東京。」 「私は降伏調印式には来てないから、初めてくる東京ね。でも、随分様変わりしたんじゃない?」 「ええ、そうですね…大きな建物以外は、ガラッと変わってるような。」 それもそのはずだ。 東京は連合軍に幾度も爆撃され、原爆投下こそ免れたが何十万という民間人が焼かれたのだ。 赤頭巾の女、サン・フェアリー・アンは目を細めた。 もう一人の少女、樹氷は再び口を開く。 「うーん、待ち合わせはこのあたりだと思うんですけど」 「やぁやぁお二人さん、はるばるご苦労さま」 「ひぇっ!?」 二人の後ろから突然声がした。 「おっと、驚かせてしまってすまないね。私は後野祀(あとのまつり)、日本国保安庁広報課長だ。で、こいつは部下の…」 「三神味栞(みかみみかん)でーすっ。本当に長い旅路おつかれさまです!」 「こいつは…あー、流石に知り合いじゃないか。海軍に居た頃は艦船用の艤装の開発試験をしていたんだ。試験艦『三神』としてな」 「もーっ、昔話はよしてください」 「ま、自己紹介もこの辺にして…サン・フェアリー・アン。貴艦はこのあと海上警備隊への編入手続きがある。三神が案内するから着いて行ってくれ」 「了解しました。それじゃ樹氷、また後で会いましょう」 「はーい」 「で、だ。樹氷。君は既に艦船ではない。これから軍籍に戻ることも無いし、君自身望まないだろう」 「そう……ですね、はい」 「イチ民間人として暮らしてもらうことになるが、君を付け狙う者は少なくない。全く、今はもうなんの力も持たないというのにな、ははは」 「………」 「だが安心してほしい。君の生活は我々が全力をもってサポートする。身の危険を感じることの無いように最善を尽くすつもりだ」 「へっ……あ、ありがとう、ござい、ます……」 「まぁそう畏まるな。さて、君の新しい生活の門出を祝う前に、新しい名前を考えようじゃないか」 「名前、ですか?」 「ああ、君の人としての名前だ。もちろん、そのまま名乗っても良いがね……君、甘いものは好きかい?」 「えっ?ええ、大好きですよ」 「それはよかった。考え事をするのには甘いものが必要だ。食堂へ寄って、名前や今後のことを一緒に考えようじゃないか。もちろん、私の奢りだ」 「やった!いただきます!」 そうして二人は警備隊敷地内の食堂へ吸い込まれていくのだった。 オマケ 「いやーっそれにしても派手なカッコウですね!まるで童話から出てきたような……えーっと」 「赤頭巾?」 「そーっそれそれ!それです!」 「よく言われるわ。でもこれは…」 「あー今のカッコは気にしなくていいです、ちゃーんと制服用意してありますから!」 「そういうつもりじゃなかったけど…制服があるのね、フゥン」 ふと、三神の首にかけてあるプレートが気になった。何か書いてある。皇紀2859年……製造……? 日本には確かエンペラーの暦があったのだったか。 あいにく私はそれ以上の知識を持ち合わせておらず、この暦の指す年がいつなのかはわからなかった。 彼女の艦船としての製造年だろうか。 「アンさん〜あんまり見つめられると照れちゃいますよ〜」 「えっと…そういうつもりで見てたわけじゃ、無いのよ……」 (おわり)
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ルイズの必死の形相の願いに、少年はしばし考えた後頷くと、静かに物語を語り始めた。 「凍てついた魔女」の物語を。 ある女が男の子を庇う様にして雪原を歩いていた。 絶え間なく吹き付ける白い嵐が彼女達を襲う。 かじかむ手足、凍えそうな身体。前の見えないほどの吹雪は確実に二人の体力を奪っていく。 それでも、彼女は弱音を一つも吐くことはなかった。 彼女は母親だから…… 母子だけの生活は、貧しい暮らしだったけれど、温もりがあった。 男の子は、母の全てを包み込むような優しい微笑みが大好きだった。 母は薬草について豊富な知識を持っていた。 僅かな夏の間に芽吹く様々な薬草を集めては乾燥させて、お茶やスープに入れたり、薬にしたりしていた。 男の子は薬草採りや、薬草を大きな鍋でグツグツ煮るのを手伝ったりしていた。 それだけではない。母は不思議な力の持ち主だった。 男の子が外で遊び、転んで擦り傷だらけで帰ってきても薬草を擦り付けておまじないをとなえるだけで痛みはなくなった。 母の手は荒れていて滑らかとはいえなかったけれど、触れてくれるだけで心までも温かくなった。 また、天気を読むのがとても上手かった。 特に天候が不安定で、いつ吹雪が起こるか分からない冬の天気予知は、この地に生活する人々にとって非常に役に立つものといえた。 それなのに、と男の子は不思議に思う。 どうして僕達は村から離れた所に住んでいるんだろう。 このことを聞いたとき母さんはとても悲しそうな顔をして、ただ「ごめんね」と言った。 ……じゃあ、これは聞いちゃいけないことなんだ。 母さんを悲しませるようなことなんだ。 男の子は疑問を胸に閉じ込めたまま、母子はそれでも肩を寄せ合い生きてた。 ――それなりに幸福だった。あの日が来るまでは。 醜きは人の世。迫害の歴史は繰り返す。 ある日の夜、村人が家に押し寄せてきた。 皆、手に松明や鍬、鋤を持ち、顔はまるで何かに取り付かれたかのように鬼気迫る表情だった。 「この魔女め! お前のせいで作物が育たなかったんだ!」 「ここから出て行け!! 貴様の呪いのせいで人が大勢死んだんだぞ!」 「いや、捕まえて、火炙りにするんだ!」 都合の悪いことは全て他人のせいにしたいのだ。 暗い時代の犠牲者、災いを引き受ける者。生贄という名の救世主…… 母子はすぐさま外へ飛び出すと、雪原を抜けて追われるように森の中へと逃げた。 吹雪の中、暗い森をただ進む。 男の子は何が起こったのか良く分からなかったけれど、唯ひとつ、もう二度とあの小さくも温かかった家に帰れないことは分かった。 女が逃げている間に思っていたのは「この子を守りたい」、それだけだった。 忌み嫌われた魔女の力を使い続ける。いまやその血は薄れ、彼女が扱えるものは小さな魔法のみ。 それでも彼女は命の焔を削り、力を使い続けた。 それは、何人とりとも通さぬような樹氷の森の結界。 母の子に対する愛は奇跡を生む。 命を燃やすことで体の底からありえないほどの力が湧き上がってくるのが分かった。 朦朧とする意識の中、最後に、愛しい子のために巨大な城を作り上げる。 「この子を誰も傷つけぬように」 「この子が誰にも触れられぬように」 「この子がこの世にある恐れのあらゆるものから守られるように」 それは、もはや狂気とも言える愛だった。 「お願い、どうかこの子だけでも」 「生きて欲しい……」 母親の願いは命と引き換えに氷霧達によって叶えられる。 それは、古に伝わる魔女の契約。 命と引き換えにして、大切なモノを守る秘術…… 激しい吹雪の中に佇む二つの影があった。 凍ってしまった女の氷骸と、決して凍らない少年。 少年の流す涙は、寒さの中、凍ることなく流れていく。 冷たい空気を吸ったとき胸の中が凍りつくような感覚もなく、吐く息も白くない。 あんなに疲れて寒さで凍りつきそうだった体も、完全に回復した上に寒さも感じなくなっていた。 少年はもう人間ではなかった。 母の命と引き換えに、魔女の結界に守護された樹氷の森を支配する、凍てつく樹氷の王となっていた。 「と、まぁこんなところだね。 そして、愛という名の呪縛、その想いは今も僕を縛っているのさ。 樹氷の森は世界中の何処にでも現れる、何処にも存在しない森。 人の目に触れぬように留まることなく、流浪の民のように彷徨うモノ。 ああ、ちなみに君が気にしてた耳は僕が人間じゃなくなった時の影響だと思うよ。 昔、人間だった頃は君と同じだったし」 歪んだ笑みを浮かべる少年に、ルイズは何も言えなかった。 こんな話は聞いたことがないが、作り話とは思えないほど少年の話は真に迫るものがあった。 実際に氷の魔女の呪縛による結界は体験済みだ。 話によると、少年の世界での魔女とは杖を使うことはなく、使える魔法もまじないのように効力があるかどうか分からないものばかりだという。 それどころか、魔法すら使えない、通常の薬の調合をする医師的な役割をしている者や、星読みや天気を読むことなどの占い師的な役割をしている者が魔女とされていることが大半であった。 そして、それらの男女はひっそりと貧しい暮らしをしているものばかりであり、災害や疫病などがあった際にはいきなり魔女として追われることになるという。 いや、追われるならまだしも捕らえられて拷問にかけられた上に、証拠がなくとも死罪になることがほとんどらしい。 それこそ数百年の間に何十万、何百万の魔女達が処刑されたのだ。 「確かに、私達の世界ではありえないことばかりだわ。 それに貴方の言ってることも嘘とは思えない。 まさか、別の世界から召喚しちゃうなんて……」 「ああ、そうだった。 それで、君はどうして僕を呼んだんだい? ツカイマとか言ってたっけ。 樹氷の森を知らないってことは『樹氷の花』が目当てって訳でもないんだろうし」 樹氷の花?いったいそれは何なのかと聞こうとしたとき、突如氷の檻の中に風が吹き荒れ始め、雪を生み出し、あっという間に吹雪になった。 凍り付きそうな寒さがルイズを襲う。 「な、何するのよいきなり!」 「……どうやら、無理矢理この氷の檻に入った者がいるみたいだね」 そう言った少年の目線を追いかけると、そこには試験監督であったコルベールの他に、キュルケ、タバサといった意外なメンバーまでもいた。 白い嵐で視界が霞んでいるが、どうやらあの分厚い氷を炎で溶かして中に入ってきたらしい。 微かに外の明るい光が見える穴があるのが分かった。 「無事ですか!? ミス・ヴァリエール!!」 「ミスタ・コルベール!! それに、ツェルプストー達まで!! どうやってここに!?」 大声でないと聞こえないほど風は吹き荒れている。 タバサがどうにか風を弱めようとしているが、上手く言っているとは思えなかった。 風はますます寒さと激しさを増し、息をするのもつらいほどになっていた。 「本来なら、僕が招いた者しか入れないようになっているんだけれどね。 まさか魔力の通っている氷を溶かして来るなんて……」 少年が呟くと、溶されていた穴をふさぐように瞬時に氷柱が生えてしまった。 すると、それと同調するように吹雪が収まっていく。 そして、ルイズを挟んで油断なく杖を構えている三人と、どこか面倒臭そうな顔をしている少年が対峙することになった。 「僕を捕らえるつもり? 樹氷の花も持っていない僕なんて、捕らえても何の価値にもならないと思うよ」 まただ。樹氷の花。さっきから少年が口にする言葉。 察するに、それ目当てで少年のもとに訪れるものもいるようだった。 とても価値があるものらしい。 「ミスタ・コルベール、あの耳は!!」 「エルフ……」 「な、なんと! ミス・ヴァリエール、早く此方へ!!」 キュルケの叫びにタバサはぎゅっと杖を握り締め、コルベールは更に眼光を鋭くしてルイズを呼ぶ。 「ちょ、ちょっと待って下さい! えっと、彼はエルフでもなんでもなくて、むしろ魔女に守護された森の王であって、 人間なんだけど人間じゃなくなっちゃったていうか!! と、とにかく特殊な存在なんです!!」 少年を庇うように立ちはだかり、一気にそう捲くし立てたルイズに三人は呆気にとられる。 これまでのことをルイズが三人に説明する間、コルベールやタバサは少年から決して目を離そうとしなかったが、少年はただぼんやりと話を聞いているだけだった。 「では、彼はこの世界の住人ではないというのですね、ミス・ヴァリエール」 「はい、そうだと思います。 作り話の可能性もあるかもしれませんが、実際に彼の力を見てみると、 とてもそうとは思えません」 「そうですか……」 「話は済んだのかい? じゃあ、どうして僕を呼んだか説明してもらえる? さっきから全然話が進んでなくて、退屈なんだけど」 「あ、ああ。そうですな。 ミスタ……失礼、何とお呼びすれば宜しいでしょうか?」 そこで、ルイズは始めて自分は名乗ったが、この少年の名前を聞いていないことに気がついた。 普通ならお互いに名乗りあわずに話を進めるのは失礼かもしれないが、あまりに急な展開にそこまで頭が働かなかったのである。 「呼び名なんてどうでもいい。僕には意味のないことだからね。 君達の好きに呼んで構わないよ」 「ちょっと貴方……!!」 教師に対するあまりにもひどい態度に腹を立てたルイズは少年に詰め寄ろうとしたが、ふと少年の瞳に目を向けると、今まで深い色をしていた瞳が急に揺らめいたように見えた。 あれは、哀しみ……? 考えているうちに怒るタイミングを逃してしまったルイズを尻目に、コルベールは使い魔召喚の儀式と使い魔についての説明を少年にしていく。 「ふぅん、じゃあ、僕にその使い魔になれって言うのかい? その、主人の手となり足となり、一生をかけて主人を守る使い魔に?」 またしても、少年は歪んだ笑みを浮かべていた。 その自嘲とも嘲笑ともとれる笑みは、見ている者の心を掻きむしるような不安を与える笑みだった。 「無理だね。僕がどんな存在であるか話しただろう。 僕には『誰も触れることはできない』のさ。 常に氷の結界が僕を取り巻いて、それは通常は外の世界と切り離されるようになっているんだ。 今はこの世界に来たばかりだから強行突破すればなんとか入れたみたいだけどね。 そんな僕が主人を守ることなんて出来るはずがないよ。 まぁ、君が僕の世界に来るっていうなら話は別だけど」 「そんな……」 「僕が使い魔にならないと、君には都合が悪いんだっけ? ま、これも運命の女神の導きさ。僕のことはこのまま放っておいてよ。 そのうち樹氷の森と城も作られるだろうから、新しいこの世界を彷徨うとするさ。 お詫びに『樹氷の花』があれば君にあげられたけど、それもできないや。 全部城に置いてきちゃったし」 落胆していたルイズだが、先刻から気になる言葉が再び出てきたので、思い切って聞いてみることにした。 「ねえ、『樹氷の花』って何なの?」 「ああ、説明してなかったっけ。 煎じて飲めば、どんな病気も治る儚い希望の淵に咲く花の名前さ」 ルイズ達は思わず絶句した。そのような薬草は世界に存在しない。 なぜならその存在は生命の意義を脅かすようなものになるからだ。 不老不死や万病の薬は強力な魔法が存在するハルケギニアにおいてですら夢物語でしかない。 もし、本当にそんなものがあったら、金貨何千、何万枚どころかそれこそ領地が買えるほどの価値があるだろう。 「本当に、どんな病気も治るの!?」 「……私も、知りたい」 いつもは無口なタバサのいきなりの発言にルイズは驚く。 思わず振り向くと、いつもの冷静沈着でもの静かタバサのイメージとはかけ離れた表情をしていた。 そんなタバサを、心配そうにキュルケが見つめている。 タバサにも、ちい姉さまのような不治の病を持つ、大切な人がいるのかしら…… ルイズが優しい自分のすぐ上姉の姿を思い浮かべながらそんなことを考えていると、少年は猫のように目を細め、薄い笑みを浮かべながら話を続けた。 「本当さ。 僕には『この世のありとあらゆる恐れ』――つまり、病気や怪我、老いや死は訪れない。 ……母さんがそう望んだからね。 その僕の魔力が篭った花だもの。不老不死にはなるほどではないけど、病気くらいなら治るだろうね。 この花を目的に樹氷の森を目指す人は大勢いたよ。 中には無理をしたせいでそのまま自分が病気になって病死しちゃったり、道に迷って凍死や餓死しちゃ ったりした人もいたけど。 たまに、僕の気まぐれで招かれて森に辿り着いた人も確かにいたんだよ」 ふふふ、と少年は笑う。 どうして、人が死んでいるというのにこんなにも無邪気に笑えるんだろう。 ルイズは少年が恐ろしくなった。少年の笑い声が心の中まで入り込み、ぐちゃぐちゃと掻き回されるような感じがして気分が悪くなる。 それでも、話を聞きたかった。自分の大切な家族のために。 気分の悪さをぐっと我慢して、ルイズは一番聞きたかったことを聞いた。 「貴方の魔力を篭めたということは、この世界でもその花を栽培できるの?」 「……できるよ」 一瞬、ルイズには少年の瞳がまた哀しく揺らめいたように見えた。 しかし、見間違いだったのか、少年はあの歪んだ笑みを浮かべている。 「まぁ、できないことはないんだよ。でも、材料がいる。無から有は生まれないんだ。 母さんが命と引き換えに、魔女の契約を結んだように、ね……」 ルイズの心臓はバクバクと脈打っていた。聞いてはいけない。 聞いてはいけない。聞いてはいけない――嗚呼、それでも、走り出した衝動はもう止まらない。 「材料って、何?」 「人間さ」 簡潔に、微笑を浮かべて、きっぱりと少年は言い切った。 ルイズ達は凍りついたように動けなくなる。まるで、人の命を何とも思っていないかのような発言。 元は人間だったなら、その命の大切さは誰よりも知っているはずなのに。 少年は、このように人間を超越した考えを持つに至るまで、どれほどの年月を過ごしてきたのだろうか。 何がこんなにも少年の心を捻じ曲げてしまったのだろうか。 その中で、逸早く正気を取り戻したコルベールが、少年に続きを促した。 「人間……と申しましたな。それは、いったいどういうことですかな?」 「僕には誰も触れることはできないって言ったよね。 僕の身体は魔女の呪縛で魔力に満たされた、言ってみれば魔力の塊のような存在なんだ。 だから、僕に触れた人は呪縛に絡めとられ、たちまち凍り付いて、物言わぬ氷になるのさ。 まるで生きている時を封じ込めたような氷像にね。 その氷を削り取って溶かして飲ませれば、万病の薬になる」 「……!! それでは、花というのは……!!」 「本物の花っていうわけじゃないんだよ。 ふふふっ、だって、だだの氷像って言うにはあまりにも綺麗だったんだもの。 まるで、永遠に枯れない花みたいに……。 だから、『樹氷の花』って名前をつけてあげたんだ。 凍てついた僕の世界に存在できる、唯一の花なのさ」 少年の目は狂気を孕み、ギラギラと輝いていた。 それでいて、まるで人形のように無機質で、全ての物に諦観しているような印象を与える。 「それは、貴方が森に入って来た者を襲い、氷付けにして命を奪ったということですかな?」 コルベールは瞬時に呪文を唱え、巨大な炎の玉を杖の先に作り上げる。 他の三人も、それに習って、それぞれに杖を構えた。 「……いや、進んで僕に触れてきた変わり者ばかりだったよ。 ふふっ、生きることに、特別な意味なんて無いんだよ。全ては消え往く運命なのさ。 それを知りながら、それでも、終わり往くモノは永遠を望む…… 愚かだね。そんなことをしたって、唯忘却と喪失の狭間で揺れるだけなのに……」 少年は謎めいた言葉を放つと、そのまま黙ってしまった。 辺りを支配していた狂気じみた重苦しい空気が消える。 コルベール達は、少年に攻撃する意思がないと分かると、困惑しながらも杖を収めた。 そして、改めて少年の衝撃的な告白による思考が場を支配する。 タバサは全身の血の気が引いていくのを感じた。 自分の代わりに毒を喰らって、心を壊されてしまった可哀想なかあさま。 かあさまのために、自分の心を殺し、憎い相手の傀儡人形になって生きてきた。 毒はどんな魔法薬を用いても、治すことが出来なかったが、樹氷の花は、ある意味では精霊に近いあの少年の魔力の塊だ。 もしかしたら、治せるかもしれない。 かあさまのためなら何でもできる。そうやって今までずっと、生きてきた。 他人を犠牲にし、幸せを得る。 そのために、堅牢に見える倫理の壁にも、時に容易に穴が空くことだってあるのだ。 それなら、それならば、例え、――この手を汚してでも…… 「タバサ!」 いきなり呼ばれ、身体がビクリと跳ねるが、そのままふわりと熱に包まれる。 キュルケが背後からしっかりとタバサを抱きしめていた。 そこで初めて、氷の檻によって身体の熱が奪われて冷え切ってしまっていたことに気がつく。 「タバサ、私は貴女が何をそんなに苦しんでいるのか分からない。 でも、お願いだから自分を見失わないでちょうだい 貴女、泣きそうな顔をして震えていたのよ」 少年の囁きに捕らわれて、凍りつきそうになった心がゆっくりと溶けていく。 思わず、泣き出しそうになりながら、身体に回されていた手をぎゅっと握り返した。 大切な親友は、心の水底に捕らわれている時、いつもそっと背中を後押ししてくれる。 忘レモノの存在を思い出させてくれる。 だから、自分は澱まずに流れていくことができるのだ。 「ありがとう」 聞こえるかどうか分からないような声でポツリと言う。 「いいのよ。私達、親友でしょ?」 茶化すように帰ってきた声は温かかった。 人間を材料にするなんて。ルイズは思わず身震いした。 確かに、ちい姉さまの病気を治すためなら、何でもしたいと思った。 でも、それでも、そのために他人を犠牲にすることなど、できるはずがない。 そんなことは、ルイズの貴族の精神に反している。 自分のエゴで他人の命を奪うなど、到底許されることではない。 嗚呼、でも。それでも。 ふと、ある考えが思い浮かんだ。 それが失敗しても、成功しても自分にとって利益となる、ある方法を思いついたのだ。 「ミスタ・コルベール……私、彼とコントラクト・サーヴァントをします」 「!? ミス・ヴァリエール、何を言っているのですか!?」 コルベールが驚くのも無理はなかった。 コントラクト・サーヴァントとは呪文を唱え、使い魔となすものに接吻して初めて効力を持つ魔法だ。 しかし、少年を相手にそれをすることは、死を意味する。 彼の話の通りならば、彼に触れたもの全て冷たい氷に成り果ててしまうからだ。 「できる可能性はあるんです。 少なくとも、彼が樹氷の森に捕らわれる魔女の呪縛を断ち切ることができるかもしれません」 ルイズは、自分の考えを述べていく。 少年も、胡乱げな視線を投げかけながらもおとなしく聞いていた。 まず、この世界に少年が召喚され、一時的ではあるが樹氷の森から引き離すことができたこと。 これは、ルイズの使い魔召喚の魔法の力が上回っていたからだと考えられる。 使い魔とはメイジにとって一生のパートナーであり、見えない絆で結ばれているという。 その強固な絆が少年を異世界に導いたのではないだろうか。 だとすれば、使い魔の契約を結ぶコントラクト・サーヴァントによって、凍てついた魔女の契約の書き換えを行うこともできるかもしれない。 より強い魔力で「主人に付き添い共にいる」契約を行えば、少年を樹氷の森に捕らわれる呪縛から解き放てる可能性はある。 また、「使い魔は主人に危害を加えない」という契約も同時に結ばれるため、主人となるルイズの身体が氷になるのを防げるはずだ。 しかし、これはあくまでも可能性の話だ。 もし魔女の呪縛の方が強ければ、ルイズは契約を失敗し、命を失う。 何せ、凍てついた魔女は命を懸けてまで契約を行ったのだ。その強さは計り知れない。 「いけません! そんな危険なこと、許可できる訳がないじゃないですか!!」 コルベールは思わず叫んだ。 自分の大切な教え子を、いや、たとえそうでなかったとしても、若い命をみすみす捨てに行くような行為に賛成することなど誰ができようか。 「ルイズ! 貴女、何を考えているの? 進級することがそんなに大事!? そりゃあ、家名に泥を塗ることが、古き伝統を持つトリステインじゃどんなに重い意味を持つか、 私にも分かるわ。 でもね、死ぬかもしれないのよ!あなた、使い魔のために一生を終わらせる気なの!?」 キュルケもルイズを必死に説得する。 妙に頭が冴えているルイズは、それに言い返すこともせず、いつもからかってきたキュルケが涙を浮かべているのをただ見ていた。 こんなにも真剣に自分を心配してくれるキュルケは意外だったし、それが嬉しかった。 自分でも、不思議なくらい心が静まっているのが分かる。 そして、今まで一言も喋らなかった少年にふいに話しかける。 「あなたは、やっぱり使い魔になりたくないかしら?」 少年はわずかに驚いた表情を浮かべると、またあの歪んだ笑みを浮かべた。 「さぁ、ね。 成功したとしても、僕は君の使い魔という新たな呪縛に捕らわれるだけ。 どっちにしろ状況は変わらないし、いいよ。使い魔になっても」 「……交渉成立ね」 馬鹿なことはおやめなさい、とコルベールが止めようとした瞬間、新たな氷がルイズと少年以外の者の身体の自由を奪った。 三人は動けないように足元を氷付けにされ、杖を振るえぬように杖ごと手元も氷に包まれた。 「ミス・ヴァリエール!!」 「「ルイズ!!」」 あら、タバサったらあんなに大きな声もだせるのね。ちょっとびっくりしちゃったわ。 それにしても、キュルケがあんなに私のことを心配してくれるなんて、いままでからかってきたのは愛情表現だったのかしら? あ、ミスタ・コルベールがこのせいで監督不届きを理由に首になっちゃったりしないわよね…… 命の危機に瀕しているのに、ルイズはそんなとりとめのないことを考えていた。 「ミスタ・コルベール、私は杖に誓います。 この契約は私が望んで行ったことであって、 この場にいる者すべての者に何の落ち度もなかったことを。 私の家が何か言ってきたとしても、責任は私に全てあったと伝えてください。 そして、これはお願いなのですが……。 もし、私が契約に失敗して樹氷の花になってしまったら、 その時は……ちい姉さま、いえ、私の姉であるカトレア姉さまに使って下さい。 ううん、ちい姉さまだけじゃないわ。 ちい姉さまみたいに不治の病に苦しんでいる人に、できる限り行き渡るようにして下さい。 タバサ、貴女も大切な人が苦しんでいるのでしょう?」 「……っ!!」 タバサは、何も言えなかった。 それどころか、一瞬でもルイズが儀式に失敗することを望んでしまった自分が醜くて、汚くてたまらなかった。 そんなことを見越していたかのように、ルイズは続ける。 「実を言うとね、私もちょっぴり失敗しちゃったらいいなぁなんて考えちゃったりしてるのよ。 きっと、私以外の人がこんなことしてても、そう思っちゃったと思う。 だって、私、魔法が使えなくて、いつも家族に迷惑かけてばかりだったでしょ? 惨めで、悔しくて、仕方なかったわ……。 そんな私を、いつも優しく励ましてくれたのがちい姉さまだったの。 だから、私思ったわ。ちい姉さまの病気を、どんなことをしてでも治してあげたいって」 しんと静まる中、ルイズは続ける。 「あ、本当に失敗したいわけじゃないのよ。それだけは言っておくわ。 ただ、ここで、使い魔の契約ができなかったら、ここで契約せずに逃げ出してしまったら、 私は一生『ゼロのルイズ』のままだと思うの。そんなのは絶対嫌だわ。 それに、メイジの実力を測るには、まずその使い魔を見よっていうでしょう? 契約はしてないとはいえ、私は樹氷の王というとてつもない存在を呼び出した。 だから、私はゼロで終わるはずがない。 その存在に見合った偉大なメイジになってみせるわ。 これは、私の誇りを賭けた儀式なのよ」 そう言うと、ルイズは少年と向き合った。
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「さて、これが成功するかどうかは運命の女神のみぞ知るってね。 ふふっ、君も相当な変わり者だね。 会って間もない僕と、命を賭けてまで契約を望むなんて」 「……目を閉じて」 コルベール達は、ただ見守り、祈るしかなかった。 動けない身体では、ルイズの誇りと存在をかけたこの儀式の成功を祈ることしかできない。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、使い魔と成せ」 そう呪文を唱えると、ルイズは目を閉じ、少年に口付けた。 その瞬間、身体の凍結が始まる。 手足の先から感覚がなくなるのが分かり、 目を開けると先の方から急速に白い氷になっていくのが見えた。 ただ、痛みはない。身体は寒すぎてもはや何も感じられず、息もできない。 しかし、苦しいということは全くなく、 安らかな眠りに落ちていくように目の前が暗くなっていく。 ああ、失敗しちゃったんだ。 あんなに偉そうなことを言ったのに、私はやっぱり「ゼロ」だったんだ。 もしかしたら、この身を万病の薬にして役立たせるために、 私はこの少年を呼んだのかもしれない。 ――これが、私の運命だったのかもしれない。 そんなことを考えながら、ルイズは意識が暗闇へと堕ちていくのを感じていた。 どのくらい時間が経ってしまったのだろう。 自分は死んでしまったのか。ふとそんなことが頭をよぎる。 目を開けると、暗闇の中に光が見えた。 その光はどんどん強くなり、やがて闇全体を包み込む。 あまりの眩しさに目を閉じる。 しばらくして、そっと目を開いてみると目の前に氷の城があった。 周りは樹氷の木々に囲まれており、地面は雪で覆われている。 曇っているために辺りは薄暗く、雪が音を吸い取って、耳鳴りがするほど静かだった。 自分は凍り付いてしまったのではなかったのか。 此処は何処で、どうして自分はここにいるのか。 あまりの展開に唖然としていると、雪を踏み分けて、森の奥から誰かがやって来るのが分かった。 黒髪の、美しい少女だった。 粗末な身なりをし、疲労から顔には翳りが見えたが、それを差し引いても十分に魅力的だった。 少女は、氷の城に驚いていたようだったが、ルイズの方には見向きもしなかった。 ルイズが声をかけても何の反応もせず、そのまま素通りして、おそるおそる門を開け、 場内に入っていく。 ――もしかして、私は意識だけここにある状態になっているのかもしれない。 夢の中にいるような感覚から、ルイズはそう判断する。 とりあえず、此処にいても仕方がないので少女を追って城の中に入っていくことにした。 長い廊下を抜け、少女は導かれるかのように場内を進んでいく。 そして、一番豪奢な氷の扉を開けると、 玉座にはハルケギニアへ呼び出したはずの樹氷の王が座っていた。 これは、過去の記憶? ルイズが疑問に思っていると、まるで夢の中の画面が切り替わるように断片的な場面が目の前で展開された。 目まぐるしく変わっていく情景に普通なら対処できないが、 通常とは比べ物にならない速度で頭の中で情報が処理されていく。 次々と流れ込む情報をルイズは難なく吸収し、瞬時に思考する。 不思議なことに、人の心や記憶までもルイズは感じ取ることができた。 黒髪の少女はどうやら病弱な母のために樹氷の花を取りに来たらしい。 だが、彼女は若き樹氷の王に一目で激しい恋に落ちてしまった。 彼女は城に住み着き、毎日愛の言葉を紡ぐ。少年は哀しい瞳でそれを黙って聞いているだけだった。 そして、樹氷の花を渡すから外の世界に帰るように何度も彼女を説得する。 しかし、彼女は聞き入れようとせず、少年に愛を囁き続けた。 外に出れば二度と少年に会えなくなると分かっていたからだ。 母のことは気がかりだったが、自分がいなくとも妹がついているし、なにより少年に会えなくなるのは耐えられなかった。 少年もまた、彼女を愛するようになっていた。だが、少年は決して彼女の愛に応えることはできない。 なぜなら、彼は永遠に年をとらず、彼女に触れることも叶わないからだ。 愛しくて堪らない彼女の温もりを、傍にいながらも決して感じることができない。 彼女にそのことを伝えても、彼女は離れなかった。 それどころか、ますます増大した彼女の愛は狂気を孕み、ついにはこんなことを言い出したのだ。 「私はいつか、老いて死んでしまうわ。ただ枯れ行く花のように生きていくのは嫌。 それならば、せめて今、貴方の腕の中で永遠に朽ち果てぬ花になりたい。 貴方の思い出の中で永久に咲き続ける花になりたいの。 お願い。私を愛しているのなら、応えて頂戴」 少女は毎日、愛を問い続けた。 来る日も、来る日も問い続け、少年はそれを受け流し続けた。 ついに持ってきた食料が尽き、痩せ細りながらも少女は愛を問う。 少年には「餓え」がない。当然、久遠に冬であり続ける森に食べる物などないのだ。 少女の艶やかだった黒髪は色あせ、瞳は光を失っていく。 日に日に痩せ、弱っていく愛しい少女を、少年は見ていられなかった。 少女はもう、立ち上がることさえ困難になっていた。 少年は少女の問いに応え、 そして、二人は遂に結ばれた…… 「ありがとう。私の愛に応えてくれて。 愛しているわ、樹氷の君。 どうか、樹氷の花を求めている人がいたら、私を使って頂戴。 それが、母さんへのせめてもの罪滅ぼしよ……」 そう言い残すと微笑みながら彼女は少年に口付け、そのまま物言わぬ花となった。 腕の中の少女を抱きしめ、少年は声を立てずに泣いた。 少年の記憶が流れ込んでくる。 ルイズの目から止めどなく涙が溢れる。胸が張り裂けそうだった。 少女の死で、心の底に沈めたはずの記憶が蘇ってきたのだ。 それは、母親の最後の言葉の記憶だ。 『ありがとう。私の元に生まれてきてくれて。 愛しているわ、愛しい子。 呪術を封じた母さんの体は、万病の薬になるはずだわ。 もし、貴方に何かあったら、私を使って頂戴。 ごめんなさい。 傍で見守ってあげられなくて。 ――さようなら。』 耐えられなかった。少年は慟哭した。 「うああああああああああああっ!!!」 聞いている者の心に、鋭利な刃物で切り裂くような痛みを与える叫びだった。 少年は何百年もの間に、このような経験を何度も繰り返していた。 花を手に外の世界に帰っていくものもいれば、 あの黒髪の少女のように樹氷の花に成り果てる者もいた。 いつの間にか、場面は切り替わるのをやめ、ルイズはまた玉座の間にいた。 少年は、玉座に座り、哀しい瞳をしながら並べられた花を見つめている。 ――愛とは、何なのだろう。 少年の考えていることが、ルイズに流れ込んでくる。 母さんは、僕を愛した。僕を守るために、命を落としてまで魔女の契約をした。 それで、僕はこの城に一人ぼっちになった。 寂しかった。一人でいることは耐えられなかった。 だから、外の世界から人を招いた。わずかな間でもいい、話し相手が欲しかったんだ。 でも、僕を愛してくれた人は、樹氷の花になることを望む。 愛されることが恐ろしかった。でも、孤独に耐えられない。 だから人を招く。そして、また一つ樹氷の花が咲く。 これが愛? 命を投げ出して、僕を一人にして、自分だけ安らかに逝くのが愛なの? 苦しさ。哀しさ。孤独。後悔。諦観。絶望。――憎しみ。 ルイズの心に少年の様々な暗い感情が渦巻き、許容量を超えて心が壊れそうになる。 生きることに、特別な意味など無い。 全ては消え往く運命と知りながら、彼女達は永遠を望んだ。 僕の心の中で生き続けることを望んだ。 心の中で生き続ける、か。 普通の人間なら、できるのかもしれないね。 人は、終わり往くモノだもの。 大切な人との日々を胸に抱いて生き続け、思い出と共に死ぬ。 だけど、僕はどうなるの? 永遠を生きる僕は、忘却の彼方へ彼女達を押し流すことしかできない僕は、 いつか彼女達を『喪失』する。 嗚呼、苦しくて、仕方がない。狂ってしまえたら、どんなに楽だろう。 いっそのこと、皆いなくなっちゃえばいいのに。 僕以外のもの全て、いなくなっちゃえば、こんな思いはしなくてすむかもしれないのに。 苦しいクルシイ苦しいくるしいくるしい……たすけて、かあさん。 おねがいだから、ぼくを、おいていかないで。 ルイズの心の中で、何かが弾けた。 少年は、自分の体が温もりに包まれているのを感じ、驚愕した。 目を開けると、凍らずにいるルイズに抱きしめられているのが分かった。 「私、残された人の気持ちなんて、考えなかった。 ううん、考えようともしなかったわ。 私は、私もちい姉さまも両方助かる道を探すべきだった。 どんな困難が待っていようともね」 ルイズは自分が樹氷の花になった後のことを想像した。 ちい姉さまはきっと病気が治ったとしても、 一生苦しみ、悲しみの中で生きていくことになっただろう。 自分はもう少しで重い枷を大好きな姉に付けてしまうところだったのだ。 それだけではない。自分の死は、多くの人を哀しませ、後悔させるだろう。 家族も、自分を助けに来てくれた先生と、……友人も。 必要なのは、強い意思だった。 ルイズは過去の映像を見て、この孤独な少年を心から救ってあげたいと思った。 契約に失敗しても、成功しても良いという半端な考えでは、そんなことができるはずはない。 絶対に契約を成功させること、それのみを望み、集中しなければ魔力を全力で注ぎ込むことなどできる訳がないのだ。 ルイズは少年を抱きしめながらも、上半身を少し引いて、少年の顔と見合わせる。 そして、泣きながら微笑んだ。 「私と、共に生きましょう。樹氷の森を抜けて、この広い世界で。 あなたはもう一人ぼっちじゃないの。 私だけじゃない、色んな人と触れ合って生きていけるわ。 その身に触れるだけで人が凍りついてしまう魔法も、私が絶対に解いてみせる。 確かに、貴方は永遠を生きるもの。私は先に老いて死んでしまうでしょうね。 でも、喪失を恐れないで。 人間だって、忘れながら、失い続けながら生きているのよ。 でもね、必ず、どうやっても消えずに心に残るものがあると思うの。 それを大切な人の心に刻み付けるために、人間は生きてるのよ。 私も、貴方の心の奥底に、凍えぬように温かいものを刻み付けてみせる。 約束するわ。私は絶対に偉大なメイジになって、貴方を導く者になる」 少年は、しばし呆然としていたが、溜息をつくと、困ったように微笑んだ。 今までに見てきたものとは違う、外見相応の幼い笑顔だった。 「そんな、偉そうに全く根拠のないことを言われてもね…… まさか、本当に契約を書き換えるなんて思わなかったよ」 少年の深い襟ぐりによって見える胸に、使い魔のルーンが淡く光っていた。 「でも、永遠を生きる間の暇つぶしにはなりそうだ。 何せ、ずっと森の中に篭っていたからね。 外の世界なんて何百年ぶりだろう。 まぁ、せいぜい僕を楽しませてよね、ルイズ?」 いたずらっぽく笑うと、氷の檻とコルベール達を捕らえていた氷の枷が掻き消え、 春の日差しがルイズ達の身体を包み込んだ。 冷えていた体がじわじわと温まっていく。 少年も、眩しそうに目を細めながらも、小さく笑みを浮かべている。 肌も髪も雪のような少年は、光を反射してまるで細氷のように輝いていた。 思わずルイズが見とれていると、猫のように首根っこをつかまれ、少年から引き剥がされる。 反転されたと思ったら、抱きしめられ、たわわな胸に顔を埋める羽目になった。 「いつまで抱き合ってるのよ! あんたはもうっ、本当に……心配かけて」 後ろからも、手が回ってきて別の温もりに包まれる。 「……無事でよかった」 キュルケとタバサ、二人に挟まれて抱きしめられる形になり、ルイズは思わず体の力が抜けた。 今になって、やっと死への恐怖が襲ってきて、幼子のように泣くのを止められない。 二人からも小刻みに震えが伝わってきて、泣いているのが分かる。 しばらく三人は、お互いに抱きしめあい、泣きあった。 「な、何よ、もう。二人とも、泣きすぎなのよ! 言ったでしょ。私は偉大なメイジになるって。 こんな契約、成功して当たり前なのよ!!」 だいぶ落ち着いて、自分の置かれている状況に気づき恥ずかしくなってきたところでルイズはようやく解放された。 コルベールも目に涙を光らせながらその光景を見守っていたので、ますます恥ずかしくなる。 気持ちを切り替え、ルイズは使い魔となった少年に向き直る。 「ねぇ、貴方の名前、聞かせてくれない? だって、貴方は『此処』で生きていくのよ? もし教えてくれないなら、私が勝手に付けちゃうけど……」 どうする? とルイズは首を傾げ、赤くなった眼を細めて笑う。 少年は、目を見開いた後、意地悪そうな笑みを浮かべた。 「その必要はないさ。 名前なんて、呼ばれる機会がなかったから忘れてたけど、たった今思い出した。 母さんが、僕に残してくれた名前。 僕の、名前は――」 ~FIN~
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樹氷の精霊 玉龍雪(イーロンシュエ) R 自然 (7) クリーチャー:エンジェル・コマンド/センテンス 6000 ■このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から5枚を見る。その中からカードを5枚まで選び、タップしてマナゾーンに置いてもよい。その後、残りを好きな順序で山札の一番下に置く。 ■W・ブレイカー 作者:翠猫 センテンスの自然エンジェル・コマンド。 登場時に最高5枚もマナブースト出来る。7マナ払って召喚すれば一気に12マナにもなる。とはいえマナはタップして置かれるので更に展開することは基本的に出来ないので注意。 名前の由来は中国の雲南省にある「玉龍雪山」。名前部分の読み方が中国語という特殊なクリーチャー。 評価 何かしら悪用出来そうな効果をしている 多色アンタップインのアイツとかマナ全色化のアイツとか -- Fippul_1341 (2019-02-01 18 53 29) 名前 コメント
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この地には「樹氷の森」という古の伝説がある。 もともと寒冷なこの地は四季の変化が乏しかったが、それでも夏になれば柔らかな日差しや、温かな風の恩恵を受けることができる。 しかし、魔力に満ちた樹氷の森は完全に外界の気候と隔離されているという。 太陽の光は樹氷の糧となり、雨は森の入り口で雪へと変わる。 穏やかな風ですらこの森では突き刺すような寒さを伴い、雪を舞い上げる嵐となるのだ。 永遠に終わらない冬を抱く森。四季の廻りから切り離された箱庭。 それは、樹氷の森にあるという城に住む、若き樹氷の王が招いた者のみが踏み入ることを許される世界……。 生命の息吹が全く感じられない、それに加えて常に厳しい冬であるこの森を訪れたいと思うものなど誰もいなかった。 「ある目的」を持つ者を除いて。 わずかな希望を胸に抱き、いつか樹氷の森へと導かれることを願いながら平原を、山を、森を彷徨う人々は後を絶たない。 樹氷の森の奥深く、氷の城に住む少年は今日も一人ぼっちだった。 最後に人と話したのは何時のことだったか。数ヶ月前かもしれないし、数年前だったかもしれない。 少年は、自分が何時からここにいるか思い出せないくらい長い時を一人城で過ごしてきた。 時折、少年の起こした白い嵐に導かれて城を訪れる者が現れるが、すぐに去っていった。 その中にはごく稀に城に住みついた者もいたが、それも刹那の間だけだった。 城は、水晶のように透き通ったもの、月長石のように乳白色をしたものなどの氷が組み合わさってできている。 少年は城の周りには吹雪を起こさなかったので、それらは雲の間から僅かに差し込む光をやわらかく城内に通し、様々な角度から反射された光は一層氷を宝石のように輝かせていた。 広い城の至るところの柱や壁には繊細な細工が施され、どれほど巨大な国の王ですらこのような幻想的で優美な城を持つものはいないであろうという城だった。 少年は眠っていることが多かった。 一人で城にいてもやることなどなく、せいぜい城にある花を眺めたり、森を散歩したりするしかなかったからだ。 夢の中でなら、今は全く感じることのできなくなった温もりを感じられる気がした。 朧気な記憶の中、優しく微笑む人。夢でもいい。ただ会ってその温もりに触れていたかった。 この城に住むようになってから、少年の体は一切温もりを感じられないようになっていた。 森の中は常に冬であり、城は氷でできている。 熱の一切ない生活は、少年の体だけではなく、心も凍り付かせていた。 そして、今日も少年はいつもと変わらない日々を過ごしていた。 氷の玉座に座り、ぼんやりと目の前に並んでいる花を眺める。 時が経つにつれて遥か昔の記憶は朧気になり、望んでいる夢を見ることも少なくなった。 このまま夢を見ることすらなくなるのも時間の問題かもしれない。そんなことを考えていた。 これらの花にしても、一つ一つの花に思い出があるはずだった。 しかし、長い年月が経ち、記憶の薄れてしまった花を見ても、少年の凍り付いてしまった心は動かされることはなく、ただ時が過ぎていくのみである。 いつもと変わらない日々、のはずだった。しかし、異変は唐突に起きた。 少年の前の空間がぐにゃりとゆらぐ。 そして、次の瞬間そこに淡い光を放つ鏡のようなものが出現したのだ。 突然のことに、いつもは無表情な少年も驚いたように目を見開く。 ここは自分が支配する空間であり、こんなことはかつて経験したことがなかった。 じっと鏡を見つめるが、目の錯覚などではなく、確かに存在しているようである。 自分の空間に突如現れた異物。危険なものなのかどうなのか分からない。 ただ、毎日変わらぬ時を過ごしている少年にとってかすかな刺激を与えたのは確かである。 少年はしばし考えた後、試しに触れてみようと玉座から立ち上がり、手を伸ばした。 季節は春。太陽は体をほのかに温めてくれるようにのどかに照っている。 時折吹く風はやや冷たさは残すものの、爽やかで心地よかった。 そんな中、穏やかな陽気を吹き飛ばすような爆発音がサモン・サーヴァントの儀式が行われている草原に響き渡っていた。 トリステイン魔法学院では、二年の進級試験も兼ねた使い魔召喚の儀式を行っていた。 これは、召喚されてきたものによって自身の魔法属性と専門課程を決めるために行われており、使い魔召喚を呼び出せなかった場合は留年を意味していた。 しかし、失敗するということはほぼありえないというような儀式であり、普段どんなに魔法の出来が悪い生徒でも一発で呼び出せる、もしくはひどくて一、二回の失敗をするといったものだった。 だが、そんな儀式にも例外が存在する……。 それが、トリステイン魔法学院において、ある意味有名人であるルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールである。 彼女は生まれてこのかた魔法を成功させたことは皆無であるといってよかった。 どんな呪文を唱えても、全て失敗し、爆発してしまうのだ。 そのことでルイズは周りに散々馬鹿にされていた。 ルイズは貴族としてのプライドが人一倍高く、失敗して周りに囃し立てられるたびに相手を睨み返し、いつか後悔させることを胸に誓って練習を一人繰り返していた。 だが、どんなに練習をしてもそれが結果に繋がることはなく、魔法が成功することはなかった。 しかし、彼女の貴族たらんとする精神によって座学においては常に上位であり、学院の一部の教師に一目置かれる存在であった。 そんなルイズがかすかに希望を抱いていたもの、それが使い魔召喚の儀式である。 もしかしたら、今は魔法が使えないだけで、自分は秘めた力を持っているのではないか。 誰にも負けないような、強く、美しく、気高い使い魔を召喚し、それがきっかけで魔法が使えるようになるのではないか……そんなことを考えてしまう。 自分の力は根雪の下で春を待っている種だ。 いつかは雪も溶け、夏が過ぎれば実りの秋が来る。「努力」を注いで成長した木から「成果」という名の実をもぎ取る日が必ず来るはずだ。 都合のいいことを考えていることは理解している。世の中そんなに上手くいくはずはないのだ。 しかし、そう考えることで彼女の心は奮い立ち、一層勉学や魔法の練習に気合が入った。 また、ルイズはこの日のために何度も儀式の予習やイメージトレーニングを重ね、図書館で召喚の儀式に関する本を読み漁っていた。 そして、流石に今回ばかりは大丈夫だと自分に言い聞かせて召喚に望んだのだが、すでに失敗は十回を越えている。 初めは野次を飛ばしていたクラスメートもいい加減飽きたのか、時たま冷たい視線を送りながら談笑をしたり、召喚した使い魔と戯れていたりしていた。 「ミス・ヴァリエール、残念ですが次の授業もありますので……」 試験監督をしている教師、コルベールが目を伏せ、また明日もう一度儀式をやり直そうという旨を付け加えて召喚を打ち切るように言う。 「お願いします、ミスタ・コルベール! あと一回だけ、あと一回だけでいいのでやらせてください!」 ルイズは涙目になりながら懇願した。 コルベールは、ルイズの努力を高く評価している教師の一人である。 彼女が魔法を使えないことにめげることなく練習をし続ける姿は、まさに貴族というものにふさわしい姿勢であった。 実技の練習ばかりで座学が疎かになるといったことはなく、むしろ成績は申し分がなかった。 また、授業を誰よりも熱心に聞き入って知識を吸収し、自分の糧にしようとしている姿には好感が持てるものである。 「それでは、あと一回だけ許可しましょう。いいですね? ミス・ヴァリエール、もう一度言いますが、まだ明日もあるのです。 そんなに硬くならず、力を抜いて召喚を行いなさい。 大丈夫、あなたならきっと立派な使い魔を召喚することができますよ」 どんなに頑張っていることを知っていても、ルイズひとりのために皆の行動を妨げることはできない。 これがコルベールのルイズに対する最大の譲歩だった。 「ありがとうございます」 これが、最後の召喚だ。 まだやっていたのか、いい加減にして欲しいという囁き声や、蔑みや哀れみの視線、嘲笑を背に受けながらルイズはゆっくりと深呼吸をした。 気持ちを落ち着かせろ。大丈夫、上手くいく。 ルイズの集中力はこれまでにないほど高まっていた。 「宇宙の果ての何処かに居る私の僕よ…… 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め訴えるわ! 私の導きに答えなさい!」 呪文を唱え、杖を振った瞬間、ルイズは今までにない手ごたえを感じていた。 が、またしても起こったのは爆発だった。 「いいかげんにしろよ、ゼロのルイズ!!」 「今日だけで何回この爆音を聞いたと思ってるんだ!」 「また失敗かよ!」 一際大きな爆発で起きた強風に煽られる中、かすかに聞こえる罵声。 生徒たちは爆発の被害を恐れて離れたところにいるため好き勝手に言っていられるが、強風に体を支えるので精一杯のルイズは言い返すどころではなかった。 ああ、これが最後のチャンスだったのに……悔しさに涙がにじむ。 今日使い魔を召喚できなかったことは今日中に学院に広まるだろう。 噂では、儀式の成功についての賭けまで行われているらしい。 頭にくる噂だったが、誰にも負けない使い魔を召喚して見返してやろうと思っていた。 しかし、召喚は失敗したのだ。 明日自分一人だけまた召喚の儀式を行うという現実がルイズの心に重くのしかかる。 もし、明日上手くいかなかったら……最悪の事態が頭をよぎる。 留年によって家の名を汚すことになるどころか、そのまま退学になり家に戻されてしまうかもない。 なにせ、自分は魔法を成功させたことがないのだ。 誰もができるサモン・サーヴァントすらできない自分に、はたして学院にいる資格があるだろうか。 ――答えは否、だろう。 そんなことを考えていたルイズだが、ふとおかしなことに気がつく。 爆発によって起きた風が未だに止まないのだ。 それに加えて、風の温度がどんどん冷たくなっていく。 伏せていた顔を上げてみると、ようやく爆発によって起こった土埃が晴れ、杖を振った方向に鏡のような召喚のゲートがあるのが見えた。 「成功したの!?」 顔に満面の笑みを浮かべ、思わずルイズは叫ぶ。しかし、おかしなことはまだ続いている。 風はどうやらゲートから吹き込んでくるようだった。 それはますます冷気を纏い、ゲートを中心として放射線状になぎ払われていた草が徐々に霜が降りていくように白くなっていく。 「な、何よこれ!? こんな風が今の時期吹くなんて……。 それに、草も凍っちゃってるわ。まるで」 冬になっちゃったみたい。と言葉を続けようとしたまさにその時だった。 「ミス・ヴァリエール!!」 「きゃああああっ!!」 コルベールは思わず叫んだ。それにルイズの悲鳴が重なる。 バキバキと音をたてながら、突如分厚い氷柱が何本も地表から生えてきたのだ。 柱は両手をいっぱいに広げても届きそうにないくらい太く、まるで鉱物の原石のように荒々しい。 それらは急速に高さを増していき、召喚のゲートを中心として壁のように周りを取り囲んだ。 更には、高くなるにつれて徐々に内側へと湾曲していく。 つまり、氷がドーム状になったことで、その内側にいたルイズはそこに完全に閉じ込められてしまったのだ。 氷はかなり分厚く、到底中の様子を見ることができそうになかった。 生徒ほどではなかったとはいえ、コルベールも爆発の被害を想定してルイズからやや離れて監督していたことは事実である。 だが、今更そんなことを後悔しても何の役にも立たない。 コルベールは己の迂闊さに歯噛みしつつ、この状況を把握しようと頭を回転させる。 「な、なんだこの氷!?」 「ゼロのルイズが召喚したやつの仕業か?でもこんな凄いことができる幻獣なんて……」 「ま、まさか、先住魔法を使う亜人を召喚したとか!?」 「エルフ……だったりして……」 あまりのことに呆然としていた生徒たちも時が経つにつれて我に返り、徐々に騒がしくなってきた。 人間にとって害をなす亜人や、忌むべきものの代名詞とも言えるエルフを呼び出したのではないかという憶測から混乱が広がりつつある。 だとすれば、それと一緒に閉じ込められてしまったルイズはどうなってしまうのか…… そのことを考えて青ざめるものもいれば、あまりの恐怖に泣き出す生徒もいた。 スクウェアクラスでさえ勝てるかどうか分からない亜人を相手に、ドットにも満たないルイズが立ち向かい、生存できる確率などそれこそ「ゼロ」である。 ――まずは生徒達を安全な場所へと避難させることが先決だ。 下手に此処に留まらせていては何かが起きた時に対処しきれないし、 ますます混乱が大きくなってしまう。 コルベールはそう考え、生徒達に向き直った。 「君達は学院へ戻りなさい! そして至急このことを学院長に話し、応援を要請するように!!」 いらぬ騒ぎを起こさぬように学院の他の生徒に広めることを禁止することを付け加えると、それを聞いた生徒たちは氷のドームを気にしながらもフライの魔法を使って一人二人と飛び去っていく。 そして、広い草原にはコルベールの他に二人が残ることになった。 一人はルイズとは家同士の因縁もあって仲が悪いとされている、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。 そしてもう一人がキュルケの親友という位置にいるタバサだった。 「ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ、貴方達も早く……」 「いえ、私は此処に残りますわ」 コルベールに対してきっぱりと言い放ったキュルケに同意するようにタバサも頷く。 「二人とも、これはもはや授業の一環ではありません。ミス・ヴァリエールの命にかかわる重大な事態に なっているのですよ」 コルベールはいつも微笑を浮かべ、物腰が柔らかな教師である。 破壊が本分である火の魔法を生活に利用しようと日々実験を繰り返す変わり者であったために、生徒の中にはそれを馬鹿にしている者もいた。 しかし、今の彼は普段の彼と全く違っていた。 これまでに聞いたこともないような声色と険しい表情でコルベールは二人を見据える。 あまりの気迫に押されそうになりながらも、キュルケとタバサもしっかりとコルベールを見つめて口を開いた。 「承知していますわ。でも、私も炎の使い手。 これほどの氷を一人で溶かすのはかなりの時間がかかるのでは?」 「……それに、召喚の時に吹いていた奇妙な冷風。あの風が中に発生していないとは限らない」 二人の言い分を聞いてコルベールはしばし考え込む。 確かに、キュルケはゲルマニアの優秀な軍人の家系であり火のトライアングルだ。 実戦を経験したことはないかもしれないが、温室育ちのメイジとは違ってそれなりの教育を受けてきただろう。 タバサは風のトライアングルであり、いつも無表情で本を読んでいる彼女に底知れぬ意思と力があることをコルベールは薄々感じ取っていた。 そんな二人に勝てる生徒はこの学院にいないといってもいい。 むしろ、一人では対応しきれないこの状況にとって助けになるだろう。 しかし、生徒を果たして危険極まりないこと巻き込んでしまってもいいものか…… 「ミスタ・コルベール! 今こうやって話している間にもルイズ……ミス・ヴァリエールは危険にさらされているのです!!」 キュルケの目はまるで炎が宿っているかのように揺らめいていた。 そこには宿敵に向けるものではない、心から友を心配している光が灯っていた。 彼女はルイズの努力する姿勢に好感を持っていたし、表面上は馬鹿にしながらも何時かは肩を並べる存在に成長すると思っていた。 対等な関係になった暁には、あの意地っ張りで素直じゃない娘の本心に触れられる機会もあるかもしれないと楽しみにしていたのだ。 そして、タバサもまたルイズを助ける手助けをしたいと思っていた。 自分の親友の手伝いをしたいという理由もあったが、キュルケがルイズの凍ってしまっている心を溶かしていく様子を見守りたいというものもあった。 キュルケのやわらかな焔によって自分も救われたのだから。 その言葉と瞳に、コルベールは決断する。 「二人とも、これだけは守ってください。危険だと思ったら、すぐ非難すること。 決して無理なことはしないこと。 ミス・ヴァリエールも、貴女達も、私にとってかけがえのない生徒な のですからね」 ルイズは閉じていた目をゆっくりと開けた。 どうやら自分は氷柱の生えてきたショックで気絶してしまったらしい。 横たえていた体を上半身だけ起こして、体に怪我がないか確認する。 もし、あの時氷柱が自分の真下から生えてきていたら…… 傷つきながら体が宙に舞い上がって地面に叩きつけられるか、あるいは鋭い氷柱の先端に突き刺さってそのまま持ち上げられていたかもしれない。 想像するだけで体が震えた。 どうやら怪我はないようだ。ほっと息をつきながら立ち上がり、辺りを見回す。 そして自分の置かれている状況に呆然とした。 氷の壁が周り一帯を取り囲んでおり、天井は吹き抜けることなく氷で蓋をされているのが見て取れた。 土や岩なら暗闇に閉ざされていたかもしれないが、幸いに氷で作られていた上に、今日は快晴であったため十分に日の光を通し、中は明るかった。 しかし、氷によって全体を囲まれているため寒くてたまらなかった。 地面に生えていた青々とした草はすべて凍りつき、吐く息も真っ白だ。 こんな薄着でこのまま此処にいたら、凍死してしまうかもしれない。 だが、氷の檻に捕らわれたことよりももっと恐ろしい事実が目の前にあった。 この氷柱を生やし、自分を閉じ込めた張本人と思われる人物が、丁度召喚のゲートが開いていた場所に立っていたのだ。 「あなた、誰……?」 震える声で問いかける。こちらを向いていないから良く分からないが、見た感じは人間だ。 ひょっとしたら、どこかのメイジを呼び出してしまったのかもしれないという考えが頭をよぎる。 しかし、いくらいきなり呼び出されたからといって、問答無用でこのように杖を振るうだろうか。 それに、人間がサモン・サーヴァントで呼び出された事例など過去に存在しない。 油断はできないのだ。 同じく事例はないとはいえ、人間の姿に近いもの―吸血鬼、あるいはエルフが呼び出された可能性は捨てきれない。 ぼんやりと辺りの氷の壁を見ていたその人が、声に反応してルイズの方に向き直る。 ルイズといくらも変わらないような少年だった。 病的に白い肌。雪が太陽を反射する時の光をそのまま閉じ込めたような淡い銀色の髪。 海を閉じ込めたような碧い瞳はぞっとするほど深い色をしている。 顔立ちは非常に整っているが、まるで人形のように無機質な印象を与えた。 少年は襟ぐりが深く大きく、肩をむき出しにして、ロンググローブのように二の腕から下を覆った長い袖のついた奇妙な黒いローブを纏っている。 明けることのない夜を閉じ込めたような漆黒はますます少年の肌の白さと冷たさを引き立てていた。 「あ、あなたは誰かって聞いてるのよ!!」 少年の姿に思わず見とれ、心を奪われてしまっていたルイズだが、持ち前の気の強さから我を取り戻し再び少年に問うた。 少年は底なしの海を思わせるかのように透き通った碧い瞳でルイズをじっと見つめている。 ルイズもまた、その瞳に吸い込まれそうになる感覚に耐えながらもじっと少年を睨み返していた。 しかし、ふと目を向けた先に想定していた中で最悪の事実を裏付けるものを発見してしまう。 「みみ、耳が尖ってるってことは、ああああ、あなた……えええっ、エルフなの!?」 思わず声が上擦り、どもりながらもなんとかルイズは言葉を発することができた。 少年の耳の先はかすかに尖っていた。 そしてそれはこの世界において人間の最悪の敵とであるエルフの証でもあった。 エルフ一人に熟練したメイジが束になってもかなわないといわれているほどの存在である。 彼らは先住魔法を使い、いとも簡単に人間たちをねじ伏せてしまうとされている。 「……エルフ? まぁ、似たようなものかもしれないね」 そこで初めて少年が言葉を発した。 それは、穢れを知らぬ少年の囁きのように甘く、魅力的な響きを持つ透き通った声だった。 「違うの……?」 「呼び名なんて、周りが勝手に決めることだろう? 僕も外じゃあ色々な名で呼ばれているみたいだしね。『樹氷の王』、『凍てついた魔女の子』、ああ、 『永遠の少年』なんてものもあったっけ……」 けだるげに答える少年にルイズは少々拍子抜けする。 想像していたエルフとは全く違い、自分が人間であると知っても襲い掛かってくるどころか話にも応じてくれている。 「で、君はいったい何なんだい? それに、ここは僕がいた樹氷の森とは違うみたいだけれど?」 そのことに、少年は顔には出していないが驚いていた。 自分が樹氷の森にいたのは一種の呪縛に捕らわれていたからであり、 森の外へと出られるとは思いもしなかったからだ。 瞬時に「魔女の契約」によって回りに氷の結界が張り巡らされたものの、明らかに自分が把握していた 空間とは違うことが分かった。 「ここは、トリステイン王国にある、トリステイン魔法学院よ。 私はそこに在籍している、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール。 あなたはその……、ええと……私の、サモン・サーヴァントで、よよよ、呼び出して、しまった…… の……」 さすがにこれには怒り出すだろう。下手をすると暴れだして殺されてしまうかもしれない。 だが誤魔化すような良い案も思い浮かばない。 徐々に消え入りそうな声になりながらもルイズは正直に答えてしまった。 今までのやりとりを考えての、一種の賭けだった。 「ででで、でもっ、私は何も貴方を無理矢理使い魔にする気はないし…… っていうかこれは前代未聞の事 態であって!! そう、こんなことは普通起こりえないのに起こっちゃったっていうか!!!」 物凄い勢いで捲くし立てるルイズを尻目に、少年はじっと考え込んでいる。 「ちょっといい?」 「ひゃいっ!?」 いきなり声をかけてきた少年に驚き、ルイズはつい奇声あげてしまう。 それに構うことなく少年は話を続ける。 「ガクインが何かは分かんないけど……ここでは、魔法が使われてるってこと? じゃあ、魔女狩りはもう行われていないのかい?」 「ま、魔女狩り!?」 ルイズは真っ青になる。 つまり、このエルフ(?)が住んでいたところではエルフ達がメイジを狩っていたのだ。 そして、魔法が使われているのに驚いていたということは…… メイジが根絶やしにされたのだ。エルフ達の手によって。 やはりエルフはエルフ。恐ろしく凶悪で、忌み嫌われるのに値するものなのだ。思わず涙目になる。 寒さとは別に、体がガチガチと震えていくのが分かった。 「あ、貴方、私のことも狩る気なの?」 「まさか。魔女を狩るのは人間だろう。常に災いを擦り付けられるものを探し、弱者を生贄に平穏を得る イキモノ。 それにしても、こんな風に魔女と堂々と言える日が来るなんてね……」 ルイズはつい口に出してしまった言葉に返ってきたものの内容に驚く。 自嘲めいた少年の笑みと口調には嘘は見られない。 これではまるで、メイジが人間の敵とされているようではないか。 それに加えて、メイジ――貴族でありながら平民に追われているような印象を受ける。 貴族が平民を虐げているという話は不本意ながらも耳にすることはあるが、逆のことが起きるなど考えられない。 少年についての疑問も尽きない。彼は本当に敵対すべきエルフなのか? そして、樹氷の森とは何なのか? 彼の呼び名も気になるものばかりだ。 「王」であり、「魔女の子」、そして「『永遠』の少年」。 この呼び名の通りならば、彼はメイジの子であり王だ。 樹氷の森に君臨する王など聞いたことはないが、遥か遠くにある未知の領域である東方の国の王ならまだ納得できる。 だが、少年はメイジの子でありながら耳はエルフのように尖っている。 そして、気になるのが最後の呼び名。永遠の少年? それはつまり、年を取らずに少年のまま生きているということなのだろうか。 少年もまた、魔女狩りとルイズの発言について考えていた。 森の外の様子はたまに訪れた人間から聞くことはあったが、魔女狩りはまだ続いているようであったし、いくら情報の入ってこなかった数年の間にそれがなくなってしまったとしても、こうまで堂々と魔女であることを宣言できるとは思えなかった。 トリステインという王国も、聞いたことがない。 それに、自分の周りを取り囲む魔女の呪縛…… 樹氷の森ならまだしも、外の世界にこのように急激に氷の結界を張れるような魔力の濃い場所があるだろうか? しかも、それはこの場所だけではなく、そう、まるで地平線を飛び越えて違う世界に来てしまったかのように魔力かそこら中に存在しているのだ。 「君が僕を魔法で呼び出したって言ってたね。 もしかしたら、僕は全く別の地平線に来てしまったのかもしれない……」 「別の、地平線? 私も話を聞いて、分からなくなってきたわ…… 貴族が弱者で平民に生贄にされるなんて聞いたことがないもの。 お願い。魔女狩りについての話、いえ、貴方についてのもっと詳しい話を聞かせて頂戴」 「……いいよ。つまらない昔話でも宜しければ、ね」