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闇の梯子 ◆TPKO6O3QOM 三つの影は砂浜の彼方へと小さくなっていく。それを見送るオーボウの目は名残惜しげに少し細められた。 彼らと次に言葉を交わせる時はいつだろうか。いや、そんな時など来ないかもしれない。 ここはそういう土地だ。妖魔王の用意した血みどろの盤面だ。盤上の駒でいる限り、殺し合いの渦から逃れることはできない。 ずっと彼らを見送っているのも、目を離したら死んでしまうのではないか、そんな不安に駆られるからだ。 足元のウマゴンも同じ思いなのか、ずっと彼らが去っていった方を見つめている。もう彼の目には三匹の影は見えなくなっているだろうが。 風が幼子の柔らかそうな毛を撫でて行く。くすぐったかったのか、ウマゴンの耳がぴらと翻った。 その様子に少し頬を緩めながら、オーボウは彼に話しかけた。 「ウマゴンや、本当にわしと一緒に行くのかの?」 これから会いに行くのは、既に一匹を手に掛けた人殺しだ。そのことを意識するだけで、腹に石が詰まったような不快感を覚える。 犠牲となったのは、オーボウが選択を間違えなければ死ぬことのなかった命だ。 また間違えたのだ。あのときと同じように――。 パンドラと出会わなければ、否、助けられた後すぐにでも去っていれば、あの娘を闘いの中に巻きこむことはなかった。彼女の清らかな心根に甘えることさえしなければ、辛い宿命を背負った二人の兄妹の誕生は避けられた。 ハーメルンたちの誕生を厭うわけではない。だが、彼らには負い目を感じてしまうのだ。それらが重なり、己の判断一つ一つに恐れが生まれるようになりさえある。 「メ〜ウ?」 ウマゴンがオーボウを見上げた。その円らな瞳には、吸い込まれそうな蒼穹が映り込んでいる。その中で闇を落とす自分の影に、オーボウは嘴をゆがめた。 「ラルクは……人殺しじゃ。説得はする。じゃが、通じぬかもしれぬ。いや、話すら聞かずに襲い掛かってくるかもしれんのじゃ。そうなれば、わしはおまえを……」 守りきれないかもしれない。 陰鬱なオーボウの声に、ウマゴンはぱちりと一つ瞬きをした。 魔力を解放すれば――ラルクを“止”めることはできるだろう。だが、おそらく、そこで自分の寿命は尽きる。そうなれば、この広い土地に幼子が独り残されることとなる。 殺し合いに乗ったものはラルクだけではない。強い意志を持つとはいえ、襲われればひとたまりもあるまい。 いや、それは今この時も同じか。今の己に、ラルクを説得せねばならぬ自分に対抗手段はない。 「メ……メル?」 「今ならまだ、クズリたちに間に合おう。ウマゴン、わしの我儘に付き合うことはないんじゃよ」 「………………」 オーボウは告げた。ウマゴンが同行の意思を見せてくれたのは心強いし、何よりも嬉しかった。ただ、それに甘えることに躊躇がある。また、取り返しの仕様もないことが起こってしまうのではないか、と。 沈黙を、潮騒の音が埋めて行く。この地にそぐわない穏やかな旋律は、ともすれば酷く毒の強い皮肉のようにも感じられた。 無言のまま、オーボウとウマゴンの瞳が交錯する。と、見る間にウマゴンの瞳には大粒の涙が溜まっていった。 「メゥ、メ……ルメ、メグメェウメ……」 鼻をすすりながら、ウマゴンは砂の上で膝を抱えてぐずりだした。思わぬ反応に、オーボウも上手く言葉が出ない。 「いや、あのな、ウマゴン――」 「メール……! ヒグ、メゥメルメー……ル! メェェェェェ……!」 ウマゴンは嗚咽混じりの鳴き声を上げた。声に非難の響きがある。どうも、拗ねたようだ。座りこんだまま、梃子でも動きそうにない。 はて、こんなとき、ハーメルンらをどうあやしていたか。 「いや、だからの、その、ウマゴンが足手纏いとか、邪魔だとか、そういう意味じゃなくての。おまえの身を案じてじゃな……。おまえが一緒に来てくれるのは嬉しいんじゃよ? じゃけれどな……」 「………………」 伏せたまま、ウマゴンが横目でじぃっとこちらを見ている。曇りなき眼でこちらの真偽を探るように。 下手に言い繕えば、また泣き出すことだろう。しばらくは泣きやむまい。その声に惹かれて殺し合いに乗ったものが集ってくるだろうし、時間を費やせばラルクの足取りも分からなくなる。 ぱたぱた飛びながら思案し、結局――折れることにした。 「……一緒に行くか、ウマゴン」 「メル!」 言うと、ウマゴンはぱっと顔を上げた。反応の速さに、どうも謀られたような気がしてくる。嘴を曲げながら、オーボウは付けくわえた。 「じゃが、わしの言うことはちゃんと聞くんじゃぞ。聞かぬ時は、この沙漠に置いて行くからの。おまえとの縁もそれまでじゃと思え」 「メール!」 力強くウマゴンが頷く。どこまで分かっているのか知る由もないが。幼子特有の、無責任な承諾か。 ウマゴンはすくと立ち上がると、尻尾を上機嫌に振りながら砂浜を歩きだした。 「メールメルメー、メールメルメールメルメールメルメー」 終いには鼻歌まで歌いだした。何がそんなに嬉しいのか、オーボウには見当も付かない。 溜息をついて、オーボウはウマゴンを追った。その溜息が、諦めか、それとも安堵によるものなのか、自分にも分からなかった。 「メルゥ?」 溜息に気付いたのか、ウマゴンがオーボウを見上げた。 「いや、なんでもないわい」 オーボウは苦笑を零し、首を横に振った。 ただ、この雰囲気は少し懐かしくもある。オーボウにとって、まだ幸せに満ちていた時代、ハーメルンたちが小さかった頃と今が重なる。 ハーメルンたちはどうしているのか。連れの者たちに、ふと思いを馳せる。彼らと離れ離れになって幾時も経っていないというのに、途方もない寂寥感が胸に沁みて行く。 しばらく海辺を東に行くと橋が見えてきた。ウマゴンに停止を促し、オーボウは高度を上げた。 橋から少し離れて、北へと歩みを進める人影が見える。悪趣味なマントのようなものを纏っているが、ラルクに間違いない。 オーボウはすぐに高度を下げ、伏せていたウマゴンの肩に止まった。 「ウマゴンはここで待っておるんじゃ。安全と分かるまで、わしがラルクを説得したと分かるまで、決して来てはならんぞ。よいな?」 念を押すオーボウに、ウマゴンが耳をぴろぴろさせながら頷いた。 少し不安に思うも、オーボウはウマゴンの頭を撫でて誤魔化した。嬉しそうにウマゴンが目を細める。 オーボウは一つ気を吐くと、意を決して飛び立った。海の方へ大回りしてから、ラルクへと近づいていく。 「ラルク」 クロから聞いていた投げナイフ。その間合いの外と思われる距離で声をかけた。 弾けるように――と表現するには些か緩慢な動きでラルクは振り向いた。 「……あんたか」 振り向いたラルクは幽鬼めいた印象を受けた。とても憔悴しているようだ。また、どういうわけか、前部でぴたりとマントを抑えている。 と、海風を受けて大きくはためいた布の隙間にきらと光るものが垣間見えた。ナイフのようだ。しかし、それを使って襲い掛かってくる様子はない。 オーボウは一度舌を濡らして、言葉を紡いだ。 「また、会えたの……。先程、クロから聞いたよ。クロというのはおまえと対峙した黒猫じゃ。おまえさん、トカゲを殺したそうじゃな?」 黒猫とトカゲという単語に、ラルクの瞳に険がこもる。 「……ああ。とはいえ、奴はゾンビだったようだがな」 「ゾンビ?」 「急所を貫いたはずが、動いて俺に攻撃してきた」 悔しげに口吻が歪んだ。ゾンビとは、イカルゴの寄生のことらしい。たしかに、彼の能力を知らなければ死体が生き返ったと思っても不思議はない。 オーボウは静かに否定の言葉を口にする。 「……いや、あのトカゲは死んでおったよ。動いた理由も知っておるが、今教える気はない」 「そうか……死んでいたか」 事実を耳にして呟いたラルクの口端が少し上がる。笑ったらしい。苦虫を噛みつぶしたような思いが、オーボウの胸に広がっていく。 オーボウはひとつ息を吸った。これからだ。 「殺したのは、仕方なくか?」 重要な点だ。 クロたちの話では、殺されたトカゲも殺し合いに乗っていたそうだ。正当防衛であるなら、説得の余地は大いにある。 しかし、ラルクは首を横に振った。 「いや、俺の意志だ。殺すべくして、殺した」 「なぜ――」 「ところで、陽が大分高くなっているが、キュウビによる報せというのはまだなのか?」 言いながら、ラルクは首を周囲に巡らせた。特に意味はないのだろうが。 今の今まで気を失っていたということだろう。イカルゴの技の威力は相当なもののようだ。雪原に放置されていたのだとすれば、マントは保温のためか。 不自然にならないようにラルクを観察する。 「それならば、もう終わったぞ」 「終わった? それなら……シエラの、あいつの名は呼ばれたのかっ?」 告げると、初めてラルクの瞳に感情が仄かに宿った。不安に彩られた瞳は、浮いたように揺らいでいる。 その様子にオーボウはもどかしさを覚えた。出会ったときとラルクは変わってはいない。 「……いや、呼ばれなんだよ」 その返答に、ラルクからあからさまな安堵の吐息が漏れる。他者を慮る心。魔族が持たない、温かき精神がこの男にはある。それなのに――。 「続きじゃ。なぜ殺し合いに乗った?」 鋭く問いを突き付ける。 それに対し、ラルクは鼻で小さく嗤った。 「そういうお前こそ、殺し合いに乗ったんじゃないのか? あの黒猫と言葉を交わせたのだ。手を組みでもしたのだろう?」 最初はラルクの言っていることの意味が分からなかった。二呼吸ほどした後で、彼がクロを殺し合いに乗った参加者と勘違いしているらしいことに気付く。 「……クロが殺し合いに乗っておると? あれは少しばかり気が短くて、喧嘩っ早いだけじゃ。善人とは素直に言い難いが、殺し合いに乗る男ではない。頼りに出来る猫じゃよ」 「……まあ、あんたがそう言うのならそれでいい」 特に拘るわけでもないのか、ラルクは話を打ち切った。思い出したように、彼は一度閉じた口を開く。 「俺があいつを殺した理由だったな。シエラの障害になるからだ。シエラはキュウビを倒すために動いていることだろう。俺は、あいつの負担を少なくしてやりたい」 「……トカゲが殺し合いに乗っていたから、悪であったから殺した、と?」 心持少し安心して、オーボウは息を吐いた。褒められたことではないが、ラルクの行動は正義感から来ていると思ったのだ。 だが、ラルクの返答がその考えを裏切る。 「いや、あのトカゲも殺し合いには乗っていなかった」 「なん――?」 「……ただ、甘っちょろい幻想に囚われていた。殺さず戦わず、殺し合いに乗った者さえどうにかできるとな。何かを切り捨てねば、戦場では生き残れん。あいつの思想は、それを邪魔する枷となる」 「そ……そんなことで、殺したというのか!?」 オーボウは声を荒げた。あまりにも歪んでいる。だが、それ以上に憐れみの情が膨らんでいく。同じような思いを、かつてしたことがある――。 「言っただろう? 俺はシエラを生き残らせたい。あいつを助けてやりたい。それ以外はどうなろうと知るものか」 静かな口調だが、ラルクの表情には苦渋が垣間見える。それは殺しそのものでなく、シエラの身を案じるが故のものだろうが。 (ああ、そうか。サイザーに……似ておるんじゃ) 母への思慕のために、手と翼を血に染めてきた健気な少女と今のラルクが重なって見えた。魔族の中で、孤独に闘ってきた魔王の娘に――。 そのサイザーが、今はハーメルンらと共に償いの道を歩み始めようとしている。殺してきた命と真正面から向かい合おうとしている。だから、ラルクにもまだ説得の余地は残っているはずだ。 オーボウは己を奮い立たせた。 オーボウが一緒に行動していれば、ラルクもまたここまで思いつめなかったかもしれないのだ。その過ちは自分が雪がねばならない。 「ラルクよ。キュウビに刃向かう意志を同じくする者たちは他にもおるぞ。シエラと同じ目的を持つ者たちが。そういった者たちとわしは出会えた」 「…………?」 訝しげに眉を動かしたラルクを見据え、オーボウは続けた。 「わしはな、おまえを説得しに来たのじゃよ。キュウビを倒すための仲間に、おまえも入ってもらいたくてな。わしには、おまえの行動はシエラのためになるとは思えん。誰が何の役を担うか、そんなことは神とて知らんのじゃ」 「………………」 「戦場ではすべては抱えきれぬ。何かを捨てねばならぬというおまえの言葉は正しい。じゃが、それも一つの側面でしかない。なにより、そいつを判断してよいのはおまえではない」 ラルクの瞳が剣呑に輝く。オーボウもまた、甘い幻想に囚われているとでも判断したか。それとも、単なる敵としてか。マントの下で、ラルクが小さく身じろぎをする。 「誰かを殺せば、誰かに怨まれよう。憎しみの連鎖は止まらぬ」 「……それが分かっていて、俺に手を貸せと?」 オーボウは苦笑を零した。そうだ、怨みは消えない。オーボウの身とて、人間の、同胞たちの、幾重もの憎しみに包まれている。 「この殺し合いに巻き込まれる前、わしの連れにな、サイザーという娘がいた。その娘は、母を救うために数多くの人間を殺してきた。二十歳にもならぬ娘には、あまりにも深すぎる罪業じゃ。だがの、その娘は今生きて罪を償おうとしておるよ」 “ハーメルンの赤い魔女”という呼称は口に出さなかった。あの娘に申し訳のないような気がして。 「トカゲを殺した罪は消えぬ。じゃが、おまえがこれからも無差別な殺しを続けるのならば、憎しみはお前だけでなく、シエラにも向けられよう。シエラもまた、おまえを探しているだろうからな。となれば、おまえの行動はシエラのためになるどころか、害にしかならん」 「殺すのはシエラの邪魔になる者だけだ」 「その判断をどうやってする? どうして分かる? それに、おまえ自身がシエラのためになろうとは思わんのか? 誰かを助ければ、その感謝はシエラにも向かう。さっきと逆じゃよ。おまえの縁者じゃと、無条件にシエラを助けてくれるかもしれんのじゃぞ」 「………………」 「取り返しのつかぬことはある。じゃが、引き返しのつかぬことはないんじゃ。未来は定まってはおらん。決まっていると、勝手に諦めているだけじゃ」 協力してほしいのも本音だが、それよりもこの若者に魔道を歩ませたくなかった。己と同じ過ちを、これ以上犯してほしない。 ラルクの瞳が時折苦しげに揺れるのをオーボウは見逃していなかった。彼もまた己の行為に苛まれているのだ。 もう、罪業に苦しむものたちの姿を瞳に映したくない。 ラルクは思案するように顎に左手を当てて黙している。閉じられていた口が、静かに開かれた。 「聞いておくが、おまえの作った仲間は皆強いものたちか?」 「ああ、強い」 オーボウは頷いた。この地で出会った協力者たちは変わってはいるが、強い意志を持つものたちだ。それは剣や魔法よりも重要なことだ。 これまでだって、強い心が、想いが危機を救ってきた。サイザーが死にかけた時も、ハーメルンが魔王の血に支配された時も――。 「ラルク、共に戦ってくれるかの?」 「シエラのためになるなら、多少手を貸すのに吝かではない」 平坦な口調ではあるが、ラルクはそう答えてくれた。 ある程度、考えを改めたらしい。表情を緩め、オーボウは大きく息を吐く。 一先ずはこれでいい。後は道中で、少しずつ諭していけばいいのだ。何より、今度は自分という歯止めが居る。 「それでもいい。分かって貰えて嬉しいぞい。実はの、既に一人は来ておってな。おーい。安心じゃ、出ておいで」 オーボウは西に身体を向けて、ウマゴンを呼んだ。伏せていたウマゴンがぴょこんと頭を上げ、こちらへ嬉しそうに駆け寄ってくる。 またもや反応が早い。こちらのやり取りが聞こえていたのかもしれない。 ばさぁと衣擦れの音が背後でしたが、オーボウは気にしなかった。 「あの子はウマゴンと言ってな、まだ幼いが――」 頬を緩めて紹介するオーボウの眼下を一条の銀光が通り過ぎて行った。 「メルッ――!?」 短い声がオーボウの耳に届いた。ウマゴンが走るのをやめ、つんのめるように大きく倒れる。砂に足を取られたのだろうか。 どういうわけか――ウマゴンは痙攣するだけで立ち上がろうとしない。よく見れば、ウマゴンの額に何かが突き立っている。 オーボウは振り向いた。ラルクはさっきと同じ姿で立っている。だが、マントは跳ねあげられ、ぶらりと下げられた右手にはナイフの姿はなかった。 ようやく思考が現状に追い付く。ウマゴンがラルクに殺された――。 ぼそりとラルクは呟いた。 「子供はシエラの役には立たんな」 「――貴様ぁぁあっ!」 慟哭が、オーボウの喉から迸った。それを気にした風もなく、失望したようにラルクが眼を細める。 「あれがお前の仲間か。……どうやら、俺はあんたを見誤っていたらしい」 たった今幼子を殺したというのに、ラルクは平静な口調を崩さなかった。もう、ウマゴンのことなど眼中にないようだ。オーボウの怒りもまた、彼には届いていない。 ラルクは、もう一本のナイフを鎧の隙間から取り出すと、オーボウに向かって逆袈裟に斬り上げてきた。その斬撃を寸でのところで避けながら、オーボウもまた胸中で毒づいていた。 まったくの見当違いをしていた。 ラルクはサイザーとは似ていない。似ても似つかない。サイザーは罪の意識を母への思慕へ転換することで隠していたが、しっかりと自分の身に刻んでいた。だが、ラルクは命を奪う行為に頓着などしていない。彼は――魔族と同じだ。 また、自分は間違えたのだ。 説得は始めから無意味だった。されど、ラルクは止めねばならないことに変わりはない。これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかない。 違うとすれば、彼の生死に拘っていない点ぐらいか。 海からの風を翼にはらんだオーボウは上空へと高く舞いあがり――魔力を解放した。 見上げたラルクの瞳に、風に舞い散る黒い羽毛が映る。 翼の緞帳の中から現れたのは、筋骨隆々とした壮年の偉丈夫だ。翼の一振りに突風が巻き起こり、砂塵がラルクに叩きつけられる。 これこそ、魔界軍王の二番手として地上に血の海を作った“妖鳳王”の真の姿だ。 オーボウは荒い息を吐いた。予想以上に負荷が大きい。早くせねば、何もかもが手遅れになる。オーボウは両手を天高く掲げた。そこに魔風が集い、大きな渦を作っていく。 その唸りは、あたかも魔王の咆哮のようだ。オーボウは殺気の籠った眼差しで地上を見下ろした。そして、腕を振り下ろす――。 「鳳凰千――!?」 呪文は半ばで中断された。オーボウの目の前を、砕けた両手が落ちて行ったのだ。集められた魔力の風は霧散し、海風にまぎれて行く。 腕だけではない。翼が音を立てて砕け、揚力を失ったオーボウの身体は地上へと落下を始めた。その最中にも、足が、肩が、全身が次々と砕けて、風に攫われていく。 魔族の寿命が尽きたのだ。ざんと音を立て、オーボウは砂上に転がった。既に上半身しか残ってはいない。それも見る間に砂の中にまじって見分けがつかなくなっていく。 足音がオーボウに近付いた。 「……本当にあんたを見誤っていたらしいな」 侮蔑するようにラルクが呟いたのが残った方の耳に入る。 「あんな子供を迎えるとはな。他の連中もシエラの枷にしかならんような者たちだろう。臭いを辿れば、居場所は容易に知れるな」 ラルクはクズリたちも手に掛けるつもりか。だが、オーボウにはどうすることもできない。肩を掴む手もなく、追いかける足も翼もない。残った手段は、己の舌のみ。 オーボウは力を振り絞って喉を震わせた。一つ声を発するたびに、自分が擦り減っていくのが分かる。 「ラル…ク、闇に……沈めば、光はないぞ。ただ奈落に……転がり落ちるほかない。思い止まれ……」 命を削った言葉に、見下ろしていたラルクが皮肉気に口端を上げた。 「ああ、よく知っている」 ラルクの言葉の意味がよく分からなかった。しかし、それを問おうにも、オーボウの舌は砕け散ってしまっていた。ラルクが踵を返してウマゴンの死体からデイバッグをはぎ取るのを、ただ眼球に納めることしかできない。 ナイフは一旦引き抜いたが、使い物にならないと判断したのか、捨てたようだ。 ラルクは少しふらつきながら立ち上がった。 「オーボウ、奈落で逢おう」 そう言い残して、ラルクは去っていった。もっとも、彼がいい終わる前にオーボウの耳は使い物にならなくなっていたが。 オーボウは砕けていない方の瞳でウマゴンの遺体を見た。 彼の決意を支えようとしてくれた心優しき子の身体が砂に少しずつ覆われて行く。母が子を抱くように、優しく穏やかに――。 あのとき、張ってでもクズリたちの元へ還しておけばよかったのだ。無邪気な表情を見せてくれた幼子の瞳が蒼穹を映すことは永劫に失われてしまった。オーボウが甘えたばかりに、あの子の未来は閉ざされてしまった。 ついに残った眼も砕け散った。背も凍るような静寂と常闇が訪れる。果たして、自分は生きているのだろうか、それともすでに死んでいるのだろうか。 (すまぬ、ウマゴン……すまぬ、クズリ……すまぬ――) 暗闇の中、オーボウは最期の一欠けらとなるまで懺悔の言葉を繰り返していた。 【F-6/一日目/午前】 【ラルク@聖剣伝説Legend of Mana】 【状態】軽度の凍傷、左腕に銃創(小)、低温状態 【装備】スティンガー@魔法少女リリカルなのはシリーズ×1、派手な外套@うたわれるもの 【道具】支給品一式、不明支給品0~2(確認、武器は無し) 、オーボウの支給品(食料、水を除いた支給品一式、不明支給品0~1(確認、武器は無し))、ウマゴンの支給品一式、巨大キノコ@スーパーマリオシリーズ 【思考】 基本:キュウビの打倒に対し、シエラの障害になる者は殺す。役に立ちそうな相手なら、場合によっては多少協力する。 0:寒いし、身体も痛い。 1:シエラが無事であってほしい 2:ウマゴンの臭いを辿ってオーボウの仲間を追う。 3:武器が欲しい。出来れば斧 4:シエラとは戦いたくない。そうなる可能性があるので、会うのも避けたい。 5:派手なマントは目立つし何より恥ずかしいので、さっさと代わりの物を見つけて捨てたい。 ※参戦時期はドラグーン編の「群青の守護神」開始より後、「真紅なる竜帝」より前です。 ※ここが自分の世界(ファ・ディール)ではないと気付いていません。 ※また、死ねば奈落に落ち、自分は元あった状態に戻るだけだと考えています。 ※伝説の剣@ハーメルン が武器として使い物にならないことを知りました ※第1放送を完全に聞き逃しました。禁止エリアの場所について知りません。 ※魔本@金色のガッシュは、ウマゴンの死亡により消滅しました。 ※ウマゴンの死体の傍にスティンガー@魔法少女リリカルなのはシリーズが落ちています。 【派手な外套@うたわれるもの】 ヤマユラ周辺の村々を納める藩主ササンテ愛用の豪奢なマント。生地は一級品だが派手。 【ウマゴン@金色のガッシュ 死亡】 【オーボウ@ハーメルンのバイオリン弾き 死亡】 【残り 27匹】 時系列順で読む Back 異界の車窓から Next 闇よりほかに聴くものもなし 投下順で読む Back 異界の車窓から Next 闇よりほかに聴くものもなし 070 朝日と共に去りぬ オーボウ 死亡 073 雪上断温 ラルク 080 Crossfire 070 朝日と共に去りぬ ウマゴン 死亡
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ラプンツェルと、金梯子の塔 自然文明 (5) 城 ■城(自分のシールドをひとつ選び、このカードを付けて要塞化する。 その要塞化されたシールドがシールドゾーンから離れた時、このカードを自分の墓地に置く。 (S・トリガー能力を使う場合は、このカードを墓地に置く前に使う)) ■対戦相手がウィッチ?を召喚した時、すべてのラプンツェルと、金梯子の塔をシールドから取り除く。 ■自分のクリーチャーを召喚した時、カードを1枚引いてもよい。 作者:黒揚羽 フレイバー・テキスト DMB-06 「アリスエイジ2-命雪の王子」「ラプンツェル、ラプンツェル、お前の髪を垂らしておくれ ― 」「 ― ねえ代母さん、どうして服がきつくなって着られなくなってしまったのかしら?」― 『グリム童話』、“ラプンツェル” 収録セット DMB-06 「アリスエイジ2-命雪の王子」-レア 評価 名前 コメント
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真性キサラカプ厨兼カーリーカプ厨。 アニメ本スレ、懐漫板原作スレ、漫画キャラ板の原作キャラスレ、アニキャラ個別板の5D sキャラスレを似たような内容のカップリング妄想で絨毯爆撃。 アニキャラ総合板のノーマルカップリングスレ(以下ノマカプスレ)で戦果を報告したりすることにより命名された。 全年齢対象の板でエロ妄想ばかりしているのでカプ厨からすらも大変気持ち悪がられている。 反論するものはキャラアンチか対抗カプ厨か腐女子と思い込むテンプレート思考。 ノマカプスレにおいて仲間であるはずの同じカプ厨に窘められて迷惑行為をやめるように説得されても「公式だから」と耳を貸さなかった。 更に呼応して真性カプ厨が続々と登場し、それを叩く者とでノマカプスレは修羅場と化した。 最近801板に出没し住人に喧嘩を売っているようである。
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ここに立つ(溝に乗る) ここにレティクルを合わせて通常投げ 結構飛ぶ
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猪武士/Reckless Warrior 悪い、悪い。当たらなかった。次は、ちゃんとやるから。 公開情報 攻撃手段 刀突(近接) 鍔迫り合い(補助) スキル *首途 猪武士は各ラウンドの開始時に"首獲り(0%)"を行う。 この判定値はラウンドの終了時に敵の耐久値減少が発生していなかった際に10%上昇し、自身の耐久値減少が発生していなかった際に10%減少する。 また、ラウンド終了時に星見の梯子の耐久値減少が発生し、猪武士の耐久値減少が発生していなかった際、25%上昇する。 成功した際、対象を即死させる。この値は"首獲り"が成功した際、初期値へと戻る。 【以下内容秘匿】 + ... 星見の梯子が倒された際、次ラウンド開始時に"首獲り"の判定値が一度だけ80%となる。 また、その後の"首獲り"の判定値の初期値が25%となる。 *猪突 猪武士は攻撃を的中させた際、相手の装甲を永久的に1点減少させる。 この効果は累積する。 *喰いの報い 猪武士の対象が<運転>技能を持っている場合、対象に与えるダメージが<運転>技能で使用する乗物の車輪数だけ倍増する。二輪であれば二倍、四輪であれば四倍となる。 また、星見の梯子が倒された際、とどめを刺した対象に与えるダメージが2D4点増加する。 【以下内容秘匿】 + ... "加護の証明"によって星見の梯子が戦闘不能となった際、とどめを刺した対象に与えるダメージの増加は発動しない。 *閡 猪武者の耐久値が1/5(端数切捨)となった際、一度だけ自身の耐久値を3D12点回復する。 また、自身が倒された際、星見の梯子が倒されていない状態の際、星見の梯子の耐久値を12D3点回復する。この回復は星見の梯子の最大耐久値を超過する。 + 特定のキャラクターがパーティにいる場合に追加 *あやまち "加護の証明"によって星見の梯子がダメージを受けた際、"首獲り"の判定値が15%減少する。 【以下内容秘匿】 + ... "加護の証明"によって星見の梯子が戦闘不能となった際、"首途"の秘匿効果は発動しない。 攻略情報 内部ステータス + ... *基本ステータス 耐久力80 イニシアティブ8 装甲0 回避25% *攻撃手段 1D3で選択。 1,2→刀突(75%) 敵単体を対象に1D8+1D4点の物理ダメージを与える。 3→鍔迫り合い(100%) 次ラウンド、自身に以下の状態を付与する。 自身の行動を省略する。 自身に物理攻撃が的中した際に、近距離攻撃であれば75%、遠距離攻撃であれば45%で判定を行う。 成功した場合、受けた攻撃を打ち消し、対象に受けた攻撃と同値のダメージを与える。 ※このダメージは"喰いの報い"の効果を受ける。 小ネタ集 星見の梯子/Stargazing Ladder 遊星は天球を灼く炎にあらず。楔は瑕疵なき者を穿たず。 公開情報 攻撃手段 天眼(遠隔) 三光星(補助) 五月雨星(遠隔) 七星剣(補助) 九曜星(補助) スキル *星の廻り 毎ラウンド開始時に71%で判定。成功した場合、このラウンドで敵味方全体が受けるダメージを-1d3点する。失敗した場合、このラウンドで猪武士が受けるダメージを-1d6点、自身が受けるダメージを+1d6点する。 【以下内容秘匿】 + ... 猪武士が倒されるとこのスキルは発動しなくなる。 *晨星 猪武士が倒された際に発動。自身の技能値が一部変化し、攻撃の判定回数に+1を永続的に加える。 *破軍 自身が倒された際に発動。猪武士のすべての技能値に+10%、与ダメージに+1d4点を永続的に加える。 【以下内容秘匿】 + ... 猪武士の攻撃によって自身の耐久力が0になった場合、このスキルは発動しない。 *悔いの報い 毎ラウンドの最後に発動。次ラウンドで自身が与える精神ダメージおよび自身が受けるダメージを、(このラウンドで猪武士が攻撃を受けた回数)点だけ増加させる。 【以下内容秘匿】 + ... 猪武士が倒されると以下の効果に変化する。 毎ラウンドの最後に発動。敵全体に対し、1d(猪武士が攻撃を受けた総回数)点の精神ダメージを与える。また、自身はこの際に与えた精神ダメージの合計値の1/3(端数切り捨て)点のダメージを受ける。 + 特定のキャラクターがパーティにいる場合に追加 *加護の証明 《梶蔦歩叶》が猪武士の攻撃によってダメージを受けた際、受けたダメージの半分(端数切り上げ)を引き受ける。 また、《梶蔦歩叶》が自身の攻撃によってダメージを受けた際、自身も1d3点のダメージを受ける。このダメージを〈星の廻り〉による増減の影響を受けず、また〈首途〉の確率上昇のトリガーともならない。 【以下内容秘匿】 + ... 《梶蔦歩叶》が猪武士に倒された際、一度だけ以下のスキルが発動する。 *過誤の証明 《梶蔦歩叶》に対して自身の耐久力を1d7+6点分け与え、戦闘に復帰させる。この効果によって喪失する耐久力が自身の現在耐久力を超過する場合、自身の耐久力が1だけ残るように分け与える。 攻略情報(ネタバレ注意!) 内部ステータス + ... *基本ステータス 耐久力70 イニシアティブ12 装甲0 回避15% *攻撃手段 1d9で選択。 1,5→天眼(80%) 敵全体に〈目星〉を2回判定させ、(成功数)d6点正気度ダメージを与える。 2,6→三光星(60%) 3回判定。自身と猪武士の耐久力を(成功数)d5点回復する。 3,7→五月雨星(50%) 5回判定。敵全体に(成功数)d6点ダメージ+(失敗数)d4点正気度ダメージ。 ※初弾の物理ダメージは回避可能。こちらを回避できれば続く正気度ダメージも受けないが、回避できなければ正気度ダメージまで受けなければならない。 4,8→七星剣(70%) 7回判定。猪武士の次の攻撃の与ダメージに+1d(成功数)点。 9→九曜星(25%) 9回判定。次ラウンドの自身と猪武士の判定値に+10×(成功数)%。 ※〈九曜星〉の判定値は〈九曜星〉による判定値上昇の影響を受けない。 + 猪武士が倒されると抽選確率が変化する。 2,4,6,8→天眼(80+10%) 1,3,5,7→五月雨星(50-10%) 9→九曜星(25%) 攻略 + ... 難易度:★★★★☆〜★★★★★(星見の梯子を残した場合) メインギミック:多重判定 x3、x5などを先頭に用いた多重判定(よろず部TRPG内通称「星見判定」)の走り。後輩に藤煙や(プレイアブルキャラだが)司がいる。 回避が低い上に自傷スキルを複数個積んでいる関係上、大抵は星見の梯子が先に沈んで猪武士との決戦になると思われる……が、この項で触れるのはそうならなかった場合、即ち猪武士が先に倒れて星見の梯子が残った場合。パーティメンバーのPOWやアイデアの値にもよるが、こちらの方が難易度は高め。 〈天眼〉は判定値が少し上がり、判定回数が1回増えて最大3d6点正気度ダメージ。〈目星〉が高いキャラクターは明確に不利になる。 〈五月雨星〉は逆に判定値が少し下がり、より正気度ダメージ側に振れやすくなった。最大正気度ダメージが6d4点、最大物理ダメージが6d6点(こちらはほぼ出ないだろうけど)。 〈悔いの報い〉によるダメージは振れ幅が大きいが、上振れを引いてしまうとかなり大変なことになる。なった。最悪の場合全員スタンして身動きが取れないままハメ殺されることになる。猪武士を倒す際にちまちま削るのではなく、大火力で一気に叩き潰すのが被害を減らすポイント。 幸い(?)星見の梯子は遅かれ早かれ自滅する。それまで正気度を回復しつつ持ち堪えるか、全力で殴ってさっさと終わらせるかはパーティ構成と要相談。とはいえスタンしてしまっては元も子もないので、高アイデアばかりで固めるのは非推奨。また当然ながら、正気度ダメージを軽減するスキルを持つキャラクターがいれば攻略の助けになるだろう。 小ネタ集 + ネタバレ注意! 戦闘イメージ曲 Astra walkthrough/paraoka いつか星がテーマのキャラクターが出てきた時のために温めておいたとっておきの一曲。kawasemiの一押し。 ED曲/テーマソング ハルノ寂寞/稲葉曇 曲名出オチじゃねーか! ちゃんと考えました。何もかも抱え込んで自責して最終的に自滅しちゃう感じがめっちゃそれっぽい。 メモ 名前 梯子=背の高いものの代表。また、光を希求する心の象徴、光に向かって進むための手段。 外見年齢 18歳。シャンに取り憑かれたヒヨちゃんの手を取り、亥太郎に殺された後。身長195cm、体重はニャルなんとかさん曰く「霊魂だし21gとかじゃない?」。 目が見えなかったり言語の出力がおかしかったりと様々な不具合を抱えており、それ故か自身のことを「欠陥品」「役に立てない」などと零すことがある。本人は神が己に与えた天罰であると考えているが、大体ニャルなんとかさんの思いつきのせい。 浮遊やすり抜けが可能(あまりやりたがらないが)、肌が冷たく青白い、など死霊っぽい特徴も併せ持つ。 「星見語」と称される独特の言語を話すのだが、これの出力がマジで難しい。基本的には語彙レベルが高くて詩的なワードサラダで、さらに天体や自然関係の言葉が出てきやすい傾向にある。彼の言葉を理解できる割合(確率)としては、猪武士>ヒマワリ、航行者>塔の住人達(一部除く)≧餞1陣組>発狂探索者>一般探索者、という感じ。 猪武士について 猪武士は「もっと自分に拒絶反応を示してもいいはず」と言っていたが、梯子の方は彼が自分達を殺したのはそれしか手段がなかったから仕方がなかったと思っており、むしろ彼にそのようなことをさせてしまい、さらに彼が首に異様に執着するようになる原因となった自分自身を責めている。うーんこの絶妙なすれ違い。
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手すりにのって、大凡のレティクルを合わせる。 画像のように屋根の骨組みのちょっと下にレティクルを合わせる。 確かジャンプ投げ 爆破位置的にグレでのHSキル率が少し高い。(運)
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▽タグ一覧 SS エノラ カラレスミラージュ ───── ある日の放課後、鞄の中に教科書や筆箱を片付けていると不意に声をかけられた。 「ねえエノラさん、ちょっといいかしら」 「先生、どうしたんですか?」 「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど、聞いてもらえる?」 私のクラスの若い女の先生。名前は……覚えていない。そんな先生が私に頼み事を? 「私でいいなら」 「エノラさんって美浦寮だったわよね? ここ最近寮の部屋で閉じこもって授業に出てこない子がいるの。ほら、エノラさんの隣の○○さん」 そういえば最近姿を見ていない気がする。名前は……何だったかしら。 「それで私に何を?」 「授業のプリントを持っていくついでにちょっとお話してくれないかなって。前に私が行った時は上手く話してくれなくて……」 「同室の子はいるんでしょう? その子にお願いすれば……」 「それが長期遠征中でいないのよ……もちろんその子にお願いするのが一番だったんだけどね。それで隣の席のあなた、エノラさんにお願いしたいなって思って。駄目かな?」 「……分かりました。上手くいく保障はないですけど」 そう言ってプリントの束を先生から受け取り開いていた鞄に入れる。先生からの感謝の言葉を背に教室を出て『お願い』を果たしに行くことにした。名前を忘れないようにメモを急いで書き残して。 ───── コンコンッコンコンッ 「○○さん、いる? 私隣の席のエノラだけれど」 何度かノックしてみるものの返事がない。郵便受けのようなポストがあればそこにファイルに入れたプリントを入れて立ち去ることもできたのだけれど、そういうわけにもいかないので繰り返しノックを重ねる。ただ返事は全くない。 「このまま部屋の前にプリントを置いていくのも感じ悪いから……って鍵開いてるじゃない」 思わず開いてしまったドアに内心驚きつつも、静かに開けて中を覗く。すると電気もつけずに片方のベッドに膝を抱えて座り込むウマ娘の姿を認めた。 「あの……入っていいかしら」 「……もう入ってるでしょ。好きにしたら」 「ありがとう。授業のプリント、机の上に置いておくわね」 「……あなた、名前は?」 「エノラ。貴女の隣の席の」 「ああ、いつも黒髪パッツンの子と話してる……で、今度はあなたが私を説得しに来たってこと?」 「……まあそういうことね」 おそらく先生だけではなく他の子も先生にお願いされてこの子の部屋に来たのだろう。ただ誰からの説得にも応じることなく私の番になったと。 だったらこのまま何も話すことなく立ち去り、先生には駄目だったと報告することもできるかもしれない。話したけど説得に応じてくれませんでしたと。 ただ、ただ、私の心が背中を押している。行け、と。 ───── 「ねえ、私にも話を聞かせてくれる?」 「……いいよ。同室の子いないし、そっちのベッドに座って」 「ありがとう」 そう言ってもう片方のベッドに腰かける。座るやいなや話を始めてくれた。 「私ね、少し前トレーナーにスカウトされたの。模擬レースの走りが良かったからって。本格化はまだ先だろうけど、自分のチームに入って走ってみないかって」 「そう、だったの……」 もしかしたら自分の席の隣でそういう話をしていたのかもしれない……覚えていないけれど。 「もちろんすっごく嬉しかった。私でもスカウトしてもらえるんだって。もしかしたら私って才能あるのかもって。だけど」 一瞬話が途切れる。おそらく次に続く言葉は…… 「いざトレーニングを始めてみたら全然ついていけなくて……トレーナーの言うとおり走ってみてもタイムも伸びない、むしろ遅くなっちゃってる。もちろんトレーナーはどうにか私の走りを良くしようと頑張ってくれてる。それに私も応えなきゃって、頑張らなきゃって。タイムだけでも伸ばせたらって思って、チームのトレーニングだけじゃなくって、トレーナーに隠れて自主トレを続けてたら……」 そう言って彼女は自分の足をそっと撫でる。 「足怪我しちゃってさ……お医者さんに見せたら過度なトレーニングが原因だって。しばらく安静にしましょうって……」 「だったらしばらく休んで……って話じゃないのね」 そう簡単だったらわざわざ私まで出てくることはなかったでしょう。もしそうなら授業もすぐに出てこれたはず。 「そう。トレーナーは『今は無理する時じゃない。本格化は先なんだから』って優しく声をかけてくれた。先生も『焦らず、自分のペースでいいんだから』って隣に座って言ってくれた。だけど、だけど……」 「そうじゃない、と。なぜ貴女はそんなに焦っているの? トゥインクルシリーズを走れるようになるのは随分先、まだ時間の余裕はあるでしょう?」 「怖いの!!! このままだったらせっかく他の子より早くスカウトされたのに……みんなに追いつかれちゃう……追い抜かれちゃう……! 私は……勝ちたい……! でも……!」 そう叫んで彼女は膝に顔を埋める。 (ただ優しく説くだけじゃ意味がない……かといって焦らせたらただの二の舞いにしかならない……だったら) 「ねえ、少し話を聞いてくれる?」 「……なに」 そう言って顔を上げてくれる彼女。涙の跡がうっすら残っている。 「あるところに1人のウマ娘がいたわ。その子も貴女と同じ強く勝ちを望んでいた。だけど思ったように走れない、ここ一番で脚が前に行かない、そう悩んでいたの。貴女と同じで」 「え、なに、昔話?」 「詳細は伏せるわ……そもそもなんで貴女はそこまでして勝ちたいの?」 一旦話を切って彼女に問いかける。話の進め方を間違えないように。 「私お姉ちゃんがいるの、ウマ娘の。お姉ちゃんも学園に入ってスカウトされてレースにも出て、大活躍とまではいかなかったけどいくつか勝って引退して……それで次は私の番だって、お姉ちゃんよりもっと活躍してみせるんだって。お姉ちゃんを後を追って学園に入ったの。走り方もお姉ちゃんに教えてもらって。学園に入ってからのレースでも問題なく走れたし勝ててた……なのに……」 良かった。彼女に聞こえないように声を出さずに1人呟く。道筋は見えた。 「そう、ありがとう……さっきの話に戻るわ。そんな悩んでいた彼女に声をかけた人がいたの。『縮こまってるんじゃないか』って、『心にブレーキかけてるんじゃないか』って。貴女もそうじゃないかしら」 「わ、私? どういうこと?」 「貴女は言っていたわね、お姉ちゃんに走り方を教えてもらってって」 「うん、言ったけど、それが?」 「あくまで私の想像なのだけれど……もしかして貴女に合ってないんじゃない?」 「……っ!?」 誰も気づかなかったのか、気づいたけど彼女の気持ちを慮って言えなかったのか……どちらにせよ彼女の中にその可能性は全くなかったのだろう。だって、 「だって、それで今まで走れてたから……これが正しいんだって……」 「もちろん私は貴女の走り方を覚えているわけじゃないし、的外れなことを言っているのかもしれない。でも一度貴女だけの走りを探してみるのもいいんじゃないかしら」 「でもこれは私とお姉ちゃんの走りで……」 躊躇するのは当然でしょう、今までの走りを捨てろと、姉の走りを止めろとそう言っているのだから。だけれど、 「お姉さん、貴女に走り方を教えている時どんなことを言ってたのか覚えてる?」 「えーっと……『いっぱい勝って、いつか大きな舞台で、ウイニングライブであなたのこと応援させてね』って……あっ」 話の核心に気づいたのだろう、ハッと顔を上げる。 「そう、お姉さんの願いは勝ってほしい、ただそれだけ。走り方を教えていたのもあなたに勝ってほしいから」 「そう、だったんだ……あぁ、バカだなあ私は……なんでそこに気づけなくて変に固執しちゃって、しかも怪我までしちゃって……ありがと、エノラさん」 全て吹っ切れたようにニッコリと微笑んで感謝の言葉を投げかけてくる。 「いえ、私はただ思ったことを言っただけだから。じゃあまた明日、教室で」 「うん、またねっ!」 そうして問題が解決した部屋を立ち去り、自身の部屋に戻る。今度は明るく少し騒がしい相方がいる部屋に。 ───── それからしばらく経ったある日の放課後、また唐突に声をかけられた。前にも似たようなことがあったような…… 「ねぇ、エノラさん! 今日私と一緒に走らない?」 「えぇっと、貴女は……」 「もうっ、いつも隣の席に座ってるじゃない! で、それで予定とかって空いてたりする?」 「そうね、今日は誰とも併走の予定はなかったと思うし……」 「やった! 前にエノラさんに言われたとおり走り方をトレーナーと相談して変えたらね、タイムがぐっと縮まってね! これはエノラさんと走って見せたいなって思って!」 「あぁ、そういうこと。うん、いいわよ。じゃあ早速着替えてコースに行きましょうか」 「やったー! よーし、絶対勝つぞー!」 そうして夕暮れ時の校舎をゆっくりと2人で駆けていく。ワクワクが止まらない幼い子どものように。 ───── その日の夜、寮の部屋で今日あった話をカラレスにすると、実に不満そうな顔をしてぶつぶつぼやいていた。 「──それで今日はその子と仲良く走ってきたと。ふーん、そうなんだ……ふーん……」 「私に友達増えてほしいって言ってる張本人なのにどうしてそうご機嫌斜めなのよ……」 「それはそれ、これはこれだよ。あぁ、私のエノラちゃんがどんどん遠いところに……ヨヨヨ……」 「余裕そうだしもう寝るわね。おやすみ」 「えぇーっ!? もうちょっと付き合ってよーっ!」 この騒がしさも心地よい。少しずつそう思えてきた自分にホッとして今日この1日の幕を下ろす。 ──さあ明日はどんな1日になるのだろうかと少し胸を躍らせながら。
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ここに立つ(溝にはまる) 画像の説明参照 確かジャンプ投げ こっちの方が早く投げれる。 って事でver2を覚えよう。
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ep.576 自分達の身近にも事件は起きている「あなたの近くで起きてる事件簿」 放送内容 参加メンバー Tomo K-suke その他 登録されたタグ 2ちゃんねる Certa amittim dum incerta petimus Veri amici rari 『It’s Only a Paper Moon』 『ターミネーター』 『新世紀エヴァンゲリオン』 『時空警察捜査一課』 ゆんゆん クオリア ピアス マグダラのマリア メモ モーリス ジェイコブ ヤコブの梯子 予言 参考画像あり 叔母・伯母 叔父・伯父 喫茶店 女 妹 姉 岡田真澄 旧約聖書 東京都 男 聖母マリア 雨宿り ⇐PREV NEXT⇒ 名前 コメント すべてのコメントを見る
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372560攻略 ①スタートする前に←を押しておく。梯子に重なったとき↑を押し梯子に捕まる。 ②左下梯子を上り、先端でジャンプ、ジャンプ最高到達点で左の壁を蹴り中央の梯子に捕まる。 ③右に進み反転。その後左上まで進む。 ④②で使った左下梯子の上の梯子を上り、先端でジャンプ。ジャンプ最高到達点で左の壁を蹴り中央の梯子に捕まる。 ⑤右に進み反転。右の梯子を上りながら、中央上寄り6マス黒Bまで進む。 ⑥そこから左へダッシュジャンプし、④で使った梯子に捕まる。 ⑦⑥で捕まった梯子の先端からジャンプ。ジャンプ最高到達点で左の壁を蹴り右下の梯子に捕まる。その後反転。 ⑧その反転を蹴り、⑦で捕まった梯子に再び捕まる。 ⑨その後右下6マス黒B左端からジャンプし、①で捕まった梯子に捕まる。そのすぐ左横2マス黒B上へ。 ⑩そこから左へダッシュジャンプ。②で使った梯子に捕まり上へ。 ⑪ゴール。お疲れ様でした。 ※非常にわかりにくい説明になってしまいました。文章力のある方はぜひ変更をお願いします。 by葛根湯