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35: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/04(土) 13 43 29 28. 「いいよ」 「ん、それじゃ今日いつものとこで」 「わかった」 「じゃね」 何も聞かない。 気を遣ってくれているのかな。 それとも、何も話さない私に何を聞いても無駄だと思ってるのかもしれない。 うんざりさせているのかもしれない。 疾風、私の中であなたの存在が膨れていく。 破裂して、あなたの中身が溶け出しそうだよ。 靴の裏についたガムみたいに、しつこくて取れそうにないような、不快であるような、そんなものが私の中に生まれた。 へばり付いて、足を地面に引っ付けて、のろのろと流れを狂わせる。 勢いを止める。 嫌だ、吐き出してしまいたい。 疾風。 疾風。 疾風。 どこに行ってしまったの? 何で、姿を見せないの? 会いたいと思っていないから? 考えの甘い私に嫌気が差したから? どうしてなの。 ――――私はあなたに会いたいよ、疾風。 私は思う。 こういう陰気くさい感じ、私には似合ってない、と。 こういう役割は大抵槙が担当だ。 私はそれを横目で見つつ、見守りつつ、けなしつつ、支える役目。 こっちの立場に立ってしまうと槙の居場所がなくなる。 よし、忘れちまえ。 私のためにも、槙のためにも。 「美術、明日提出って知ってた?」 「そんなの誰が言ってたのよ」 「え、美術の先生」 「いつ」 「この間の授業参観のときに」 おいコラ。 いきなり思い出させてくれちゃって槙ちゃんったら可愛い。 ご褒美に私の鉄拳をあげたいくらい。 「ねぇ、奏」 「何?」 「どこに行ってたの、授業参観のとき」 傷口をさらに広げる質問、問いかけ。 返答に困る私を槙はじっと見つめる。 時間が凍りついたみたいに流れようとしない。 早く次の授業になりさえすれば席は遠いから時間を稼げる。 言い訳を考えられる。 いつもならあっという間の休み時間が、長くてもどかしい。 36: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/04(土) 16 27 30 29. 「具合悪かったの? だったら何で槙に言ってくれなかったの?」 「え」 「もう、すぐに奏は私のこと子供扱いするんだから。私こう見えても保健委員なんだよ」 保健委員……て、あんた。 それ、ジャンケンで負けたからなったんじゃん。 「あぁ、ごめんね。でも大したことなかったし、ひとりでも大丈夫だったから」 突っ込みを心の壁にぶつけて抑える。 あぁ、苦しい。 「もう、今度からはちゃんと槙に知らせてね」 ははっと私は薄ら笑いをして手を振り、ごめんと一言槙に言う。 これで槙はもう笑顔になってくれるんだよね。 単純というか、扱いやすいというか。 槙は私にゆとりをくれる。 しっかりしなきゃとか、自分が立つ場所を明確にしてくれる存在が槙だ。 槙がいてくれることで、この学校生活もいくらか快適に過ごせそう。 教室の前のドアが開く。 しかし、すべりが悪いためもうあと半分がなかなか開かない。 あぁ、ミスター現国、いつにも増してヘタクソだな。 ぶ厚い皮下脂肪が邪魔でもう少し開けないと入れないんだよね。 何て滑稽な有様だ。 がだ、がだ、がだ、と3回ドアが吠えると、がたんという音と共にドアの逆襲が始まった。 ドアを抱えてミスター現国は廊下に追いやられたのだ。 あぁ、地響き。 教室は一旦静まったものの、その次の瞬間には飛び跳ねるようにしてみんながみんな大喜びした。 ミスター現国、頑張れ、と心にもないことを私は引きつる顔を抑えながら呟いた。 お昼。 寛ちゃんと一緒に食べる曜日は月、水、金の週3回。 待ち合わせ場所は眺めのいい4階の廊下。 37: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/04(土) 16 28 27 30. 「音楽室って人気なくて怖いよね」 意外に寛ちゃんはホラーが苦手。 いつもこんな話題から私たちのお昼休みは始まる。 「寛ちゃん、どうする? 急にピアノの音とか鳴り始めたら」 「いや、どうするもこうするも、逃げる」 「はは、頼りないなぁ」 「だって怖いじゃん」 今日も寛ちゃんの手にはあんぱんがふたつ。 そして決まって私はミルクティーを片手に寛ちゃんがあんぱんをくれるのを待つ。 4階は音楽室と空き教室3部屋のみ。 あまり人が来ないとても静かなところだ。 しかし、風通しもよく眺めもよく、密かにカップルたちの間でよく使われにぎわうことがある。 今日も私たちを含めて3組のカップルがそれぞれ思い思いの時間を過ごしている。 「ホラーって言えば夏だよね。それじゃ秋といったら?」 「そりゃぁもちろんスポーツでしょう」 「え、でも寛ちゃん卓球部のほけつ」 「それ言ったらおしまいじゃん」 セミの声はいつの間にか聞こえなくなったなぁ、とふと思った。 いつから聞こえなくなったんだろう。 季節が変わり始める合図はいつも唐突だ。 一瞬のうちに入れ替わる。 いつの間にか空は高くなっていて、暑くても湿気がないからべとつかない。 夏風に吹かれていた葉は青々とした力強い色から急に大人びた色に変わる。 私たちも目立って変わるところはないけど、お互いを恋しく思う季節になる。 侘しい。 「この前スーパーで買った焼き芋パンって言うのがすごくおいしくて」 「へぇ、食べてみたいなぁ」 38: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/04(土) 16 29 11 31. 私は渡されたあんぱんをかじった。 今回もつぶあんだ。 「そういうと思って」 ふふふと不気味に笑ってみせると、寛ちゃんはごそごそと後ろからビニール袋を取り出した。 「はい」 『ほっかほかの焼き芋パン 電子レンジで30秒間あたためるとほくほくの焼き芋みたいにおいしくなるよ』 袋にはそんな事が書かれていた。 寛ちゃん、この言葉にやられたな。 「ありがとう。でも今はあんぱんだけで充分だ」 「そっか、でもチンして食べた方がおいしいから、家帰って食べな」 「うん、ありがとう」 がさがさとビニール袋のすれる音の奥で、セミの鳴き声が聞こえた気がした。 美術提出、結局間に合わず。 私は放課後居残りをさせられ完成するまで帰ってはいけないと言われた(一生帰れそうにないな)。 美術の先生は私のようなやる気のない生徒を嫌う、自分に酔いしれ自分が全て主義。 ミスター現国の女バージョンといったところか。 まったく、自分がよければすべてよしか。 自分の名前を汚されたくなくって必死になる姿はものすごく汚らわしい。 こういう大人はこの学校にたくさんいる。 吐き気がする。 あぁ、何だか胃がむかむかしてきた。 絵もなかなか終わりが見えてこない。 きっとあと1週間はかかるな(ということは1週間家に帰れない!?)。 このペースで描き続けると、美術の先生の説教は10倍くらいに跳ね上がる。 最初は5分程度の不満が、50分拡大版、「芸術に対する心得と感謝」とか変なことを延々と聞かされることになる。 それだけは阻止したい。 私はちまちまと下書きを描くのを止めて、もう絵の具で塗りつぶしてしまおうと決意した。 どうぜ鉛筆の線はあとあと隠れて見えなくなるんだから、気にせずにどんどんと塗っていこう。 私は水を汲みに廊下を歩き始めた。 「ハローハロー僕のスイートハニー」 階段の方からぺたんぺたんと上履きの音が近づいてくる。 41: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/08(水) 17 56 17 32. しかもやけにテンション高めの声。 西陽で廊下に映し出された影はすっと高く、動きはゆったりとしている。 スローモーション。 私は普通に振り向いているはずなのに、この短時間の中で色々なことを思い巡らせた(だからきっと錯覚してるんだと思う)。 部活に入っていないくせにいつも持ち歩いている大き目のスポーツバッグ。 いつも何を入れているんだろうと思わせるくらいバッグはぱんぱんだ。 背は高いくせに幼い顔(可愛い)。 ――――ずっと求めていた人物。 「疾風!」 私の声に、目の前の人は微笑んだ気がした。 一瞬にしてフィルムが変わる。 さっきとは異なる映像が私の前を流れていた。 私は廊下に座り込んでいた。 力が一気に抜けた。 驚いたからだ。 手には筆が握られ、真っ白なキャンバスが私の前に立ちはだかっていた。 「ゆめ」 もう秋も深まり始めて大した運動なしに汗をかくことは極端に減った。 なのに、私の額からは何筋かの汗が流れ落ちていた。 背中もびしょびしょ。 もちろん、手なんかは言わなくてもわかる。 呆けるほか、私を表す言葉はない。 まっすぐに進む廊下を眺めているようで、しかしまったく別のところに焦点を合わせているようで、本当はそこに存在しないあるものに対して思いを馳せている。 足をできる限り伸ばして、少しの恥じらいもなく座り込む。 あぁ、こんなことしても疾風は現われない。 あの頃とは違う。 42: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/08(水) 17 56 59 33. あの頃の私は純粋に廊下の居心地のよさを求めていただけだ。 ひんやりしていて、埃しかない殺風景な場所。 だけど私にとっては特別な場所。 不純な気持ちでいてはいけないような場所。 私はこのとき初めて、廊下を私欲のために利用した。 頬を流れる水滴は、止まる気配を見せずに流れ落ちた。 昨日、旧校舎の一部が崩れたので今週末に取り壊し工事を行う、と朝のHRで先生が言っていた。 私はとうとうこの日が来たかと思ったが、左から右へ、話をうわの空で聞き流した。 塞き止めるな。 何かを考える前にすべて流してしまえ。 特別な思いを抱いてしまえば、必ず帯を引いて疾風の存在が引き出される。 思い出。 新校舎から旧校舎へ渡された唯一の架け橋。 旧校舎がなくなれば、あの閉ざされた世界も無くなってしまう。 ものが役割を見失うということは、存在理由を消されてしまうということ。 存在していても意味を成さない。 ナクナル、のだ。 あそこでの出来事だけが、私の中に取り残される。 そうするとどうにも処理できなくなる。 消化しきれないものは、体の中に蓄積され、毒に変わり、私を内側から蝕む。 完璧に終止符を打たれてしまえば時が止まる。 未解決事件が迷宮入りするような、解決されず宙を漂い、周りから忘れられ、しかし事実として残される。 そんな悲しみだけを植え付けられた私は永遠にここに囚われてしまう気がする。 同情も憐れみも励ましも草むらに隠れて出てこようとはしない。 時間の流れに沿って年を重ねて老いても、癒されることはないということになってしまう。 急に恐怖が私の体の中を走った。 43: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/08(水) 17 57 32 34. 先生が教室から出ていく。 HRが終わった。 ふと、何かから逃れるようにして私は廊下に目線を移した。 廊下の窓に、秋空が広がる。 まるで動くポスターのような、現実にあるものが不思議と作られたもののように見える。 夏のような真っ白で分厚い入道雲、喜びすぎて強い刺激を与える太陽、現実の世界を歪める陽炎、真上を向き続け咲き続ける向日葵。 すべては過去という枠組みにすっぽりと納まり、紙でできた箱にしまわれる。 思い出――――そう、思い出として。 秋、冬はこっちに向かって突き進んでいる。 戻ることを望まない。 自然はとても強いのだ。 支配されているようで、自由がないようで自然はとても自由なのだ。 決めたことを永遠にし続けているだけで、自然は自分自身で自由を選んだのだ。 その強さを、どうか先を見据える勇気を彼に与えてあげてほしい。 足枷に体を縛る鎖をすべて断ち切ってあげてほしい。 少しでも動いた気持ちをほったらかしにしないために。 彼が、疾風が疾風に追い付けるように、俯きながら泣く疾風を拾ってこれるように。 疾風自身の望むことを、具現化できるように。 44: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/09(木) 16 49 50 35. 土曜日の学校。 週休2日制バンザイ。 しかし、私は廊下にいる。 上履きのかかとを踏んで、ぺたんぺたん歩いている。 どこに向かって歩いているのかはわからない。 ただただ廊下を歩いているだけだ。 旧校舎は今日取り壊される。 さよならを言いたかったのか、それとも何となく気になってきたのか。 はっきりとした理由はわからない。 でもきっと私は、胸の中に存在し始めた違和感を取り除きたくて、ものが役目を終える瞬間を見たいと思ったのだ。 「今日で、止まる。止まってしまう」 今まで生き続けてきた旧校舎の歴史が終わってしまう。 もう時を刻むことはないだろう。 この悲しみは一体何のために沸きあがるものなのか。 さっぱりわからない。 そんな状態で私は泣いた。 ブルドーザー、ショベルカー、よく工事現場にあるはたらく車たち。 どんどんと校舎の中に入ってくる。 あぁ、こいつらは旧校舎のことを何も知らない奴らだ。 だから簡単に壊すことを引き受けてしまう。 当然だ。 しかし、何だか敵に侵入されたみたいで、腹が立つ。 「朝からうるさいと思ったら、今日だったんだ」 「知らなかったの?」 「うん、最近学校行ってなかったから」 何気なく隣にいて私と会話をしている男の子。 「そして何で君は僕の隣で泣いているの?」 ははっと軽く笑うその顔をずっと見たいと思っていた。 人を小ばかにしたような、寒いときに求めるやわらかな陽射しみたいな笑顔。 「あなたが隣にきたから」 45: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/09(木) 17 02 40 36. 恥ずかしいとも思わない。 涙を隠そうとも思わない。 ありのままに流れるままに涙を放置して自由に。 「違うよ」 違うって何が違うのか。 先にここに立って旧校舎を眺めていたのは私だ。 「違う、君が僕の隣にきたんだよ」 何を言ってるの? 「そして涙を流した」 「意味がわからない」 「気付かなかったの? 君はずっと僕の隣にいたんだよ、いつもずっと」 ぴぴっと軽快な笛の音。 あ、いつの間にか旧校舎が壊されている。 さよならを言わないと。 言わないと。 「ずっと」 「僕の話を聞いてくれるんでしょ」 本当の目的はそうなのかもしれない。 誰にいない校舎の中2人きりで話すこと。 漏れてはいけない秘密。 しかし、どうしても素直にそうと思いたくはなかった。 寛ちゃんにも申し訳ないし、それに、自分自身が振り子のように揺れていることを認めてしまいかねないから。 「そうかもしれない」 私の返事は曖昧。 誤魔化しがきくとは思っていないけど、こういうしかなかった。 「何それ」 くすくすっと疾風ご自慢の人を小ばかにしたような笑い方。 あぁ、でもその笑顔をずっと求めてきたのは事実だ。 46: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/12(日) 16 00 42 37. 「まぁいいや。うん、ありがとう」 「どういたしまして」 「僕の過去はこの間言ったことだけで充分だから。もう君を苦しめたりはしない」 「うん」 「君を大切にしたいから」 「うん」 「このまま止まることはできないと思ったから」 「うん」 「君と同じ時間を進みたいと思ったから」 背は私より10センチ以上高い。 上から見下ろされる感じがとても不愉快だけど、今は見守られているような気分がして心地いい。 疾風の視線が、私に向けられる。 私も、疾風の視線を受け止める。 肩に手が乗る。 まつげが長いな、鼻も高いな。 色白で私よりもきれいな顔立ちを間近で見た。 相当腰を屈めたんだろうな。 私も精一杯背伸びをして、ちゃんと届くように努力をしたけど、でも何だかただ触れただけで、掠めただけで。 「ヘタクソだね、君」 47: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/12(日) 16 09 45 「あなたのせいよ」 「あぁ! またあなたって言う。本当に君は物覚えが悪いな」 「うるさ」 「ほら、名前呼んで、奏」 「え、どうして私のなまえ」 「呼んで」 さっきまでは恥ずかしくなかった疾風のアップが急に私の顔を熱くさせた。 オーバーヒートしてそのまま崩れ落ちてしまいそう。 「は、はや、」 えぇい。 「疾風」 「はい、よくできました」 もっと屈むことができるだったらさっきもそうしろよ。 「ばか」 へへっと鼻をこすって、少し照れ隠しみたいに笑う疾風はとても輝いて見えた。 あぁ、旧校舎が全部壊されて、今まで入ってこなかった光が入ってきているんだ。 そうか、終わりじゃないんだ。 刻む運動は止まってしまうかもしれないけど、終わりではない。 始まりを伝えるための合図。 そうだ。 区切りをつけて、また新しく線を越える。 ――――長く長く続く廊下は、また、私たちと共に動き始めた。 . . . . おわり
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移動 左 ヨハン探偵事務所・応接間 やや左下 ヨハン探偵事務所・2階廊下 中央 ヨハン探偵事務所・キッチン クリックポイント 鏡 窓 観葉植物 人物 なし
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事務室周辺の廊下は変わりありませんでした。 <事務室前の廊下> <事務室> <寮生は8人だけです>
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2Fは2間で右側に木枠にはめられたガラス戸があり、昔の日本家屋によくあるような 内と外の境があいまいなつくりになっている。 手前の部屋 木製の机
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移動 中央 ヨハン探偵事務所・1階廊下 右 ヨハン探偵事務所・リクの部屋 右端 ヨハン探偵事務所・ヨハンの部屋 クリックポイント 窓 人物 なし
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stairs.gif ●廊下の手すり取付け 通路のすべてに単に手すりがあればいいかというと、決してそうではありません。位置や手すりの種類を誤るとかえって危険な場合もあります。日常生活の中で、進行方向を変える、立ったり座ったりするなど、動作を切替える場所がありますので、そこに動作に合わせた手すりを選び、設置します。体重を支えながら歩行するための手すりはももと腰の曲がる部分の位置を目安とし、体のバランスをとるためにつかまる場合はそれよりも高めにするのがポイントです。 実際に一緒に移動してみると、取付けポイントを見つけだす事は難しくありません。いつも手をついている場合は、壁が黒くなっていることもあります。また、手すりはできるだけ多いほうがいいと考えがちですし、素人でも簡単に取付けられそうに思いがちですが、専門家とよく相談する事が大切です。なお、手すりの付く壁の下地補強も給付の対象となります。 ●廊下から居室に入る段差の解消 一般的に、廊下が下がっている場合が多いため、廊下の床レベルを全体的に上げます。これに連動して玄関の床レベルも上げることになるため注意が必要です。同時に床材も滑りにくい材質に変更します。 廊下と室内との床レベルが同じ場合は、敷居撤去の工事が有効です。撤去するといかに歩きやすいかが実感できると思います。しかし、ごく簡単な場合もあれば、見かけよりもかなり手間のかかる工事になる場合もあり、予算は一律ではありません。 簡単に敷居を取除けない場合は、小型のスロープを取付けて床レベルや敷居の段差を解消することができます。工事費が安くすみますし、実例も多くみられます。 ●階段の手すり取付け 階段は、階段用の長い手すりを取付けるとよいでしょう。手を滑らして使用するため手すりの取付け部分がひっかからないよう、また端部は壁側に曲げるなどして、安全に気をつけます。一般的に階段や通路の手すりは、手で握り滑らせるのに適した丸型(直径は35mm~40mm)がよいとされています(身体状況によります)。高さは足下から75cmの位置に付けるのが一般的です。 ●階段の滑り止めのための表面加工 滑りやすい建材の階段を滑りにくいカーペット素材などに変える、階段の角に滑り止めのプラスチック補強材を張付けるなどは給付の対象となります。木製階段に滑り止めを付けるだけでもかなり効果的です。しかし、滑り止め自体に厚みがあったり、あまりに滑りにくいとかえってつまずく危険があるため、注意が必要です(厚みがある場合は階段を彫り込んで埋め込みます)。滑り止めは色の目立つものを選ぶと、階段の角の部分が分かりやすく目の悪い方には役立ちます。ただ、識別のためだけに色の建材を付ける事は給付対象とはなりません。 これらは一般的な目安です。身体状態、現在の建築物の状況等で、違いがありますので、必ず専門家とよく相談してください。
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20: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/30(月) 16 59 01 16. いや、食べたくて見ていたわけじゃなくてね。 私は少し照れながらあぁ、どうも、と小さくお辞儀をした。 男の子、疾風はにこっと口角を上げ、そしてまた一連の動作を再開した。 何が楽しいんだろう、まったくおかしな子だな。 「……でも、紅茶おいしい」 本当はお代わりなんていらないと思っていたのに、いざ飲み始めると止まらない。 「いい香りでしょう」 疾風は瞳を子犬のようにきらきらさせていた。 眩しい。 「うん、あまり飲まないから新鮮……」 ――じゃない。 新鮮、というかこの非日常的かつ異様な空間の中だからそう感じるだけで、紅茶はきっとただの紅茶だ(おいしいけど)。 何でこんなにこの場の雰囲気に溶け込んでしまっているんだ。 違う違う。 ちゃんと聞きたいことを聞かないと、私の脳みそはおかしな記憶を刻み続けてしまう。 しっかりしろ、自分。 「僕は君に名前以外教える気はないよ」 疾風の牽制球……というかバッターボックスに立ち構えていた私のわき腹に直撃した気分だった(デッドボール)。 いつどこで私の考えを読み取っているのかわからない。 どうして疾風はこう意図も簡単に人の感情をコントロールするのだろう。 私の頭の中は波浪警報が出るほど吹き荒れている。 疾風を見つめる以外にできることは今の私にはない。 「嘘」 それが嘘だ。 「名前以外教える気はないよ」と言った時の顔はどこか冷たく凍り付いていた。 だから、これは本気でそう思っていることだと思う。 何だか冷たいぬるっとしたものが背中を通った気がする。 それは疾風の視線を浴びて、声を聞いて、まったく使えない私の脳から指令が出たから。 疾風に対しての私の疑念。 結論。 ――――疾風は、きっと私に何も教えてくれない。 21: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/31(火) 17 10 26 16. 旧校舎は木造建築だ。 確か10年くらい前に今の校長に変わったことで新校舎ができて、旧校舎は封鎖された。 しかし、名残惜しいとの声が多かったかなんかして取り壊すのは中止になったらしい。 だから今でも隣りあわせで堂々と建っている。 「……でも、何だか旧校舎は苦しそう。もう使われる事がないのなら、取り壊してあげた方がよかったんじゃないかな」 私は人間に対しては無関心だが、ものに対してはなぜか色々なことを思い浮かべる。 新校舎の廊下の窓から旧校舎を見て、思わず私の口かららしくない言葉が飛び出た。 今にも崩れてしまいそうなほど木が腐ってしまっているのが遠目からでもわかる。 周りはささくれて、ホラー映画の舞台になりそうな外観だ。 ところどころに窓ガラスの代わりにダンボールがとめてある。 もう使わないものを修理しても無駄だと思ったんだろうな。 だったらけが人が出る前に旧校舎を休ませてあげたほうがいいんじゃないかと思った。 「ものは生きてないんだ。そんなのは当たり前で、生きていると言った方が変人扱いされる」 寛ちゃんはあんぱんの袋を2つ、びっと開けた。 私は隣で紙パックのミルクティーを飲む。 週1回の2人きりのお昼。 待ち合わせ場所は景色のいい4階の廊下。 「でもね、生きているものがそれに触れていれば、ものもそれなりに生き生きとして来るんだよ」 「……うん」 寛ちゃんの言葉は時々難しい。 「命あるものが中にいれば、校舎だってその命を守ろうと努力をする」 「うん」 「旧校舎は、その気持ちがまだ残ってるんだと思うよ」 寛ちゃんはあんぱんを1つ、私にくれた。 お返しに私はミルクティーを差し出す。 「どんなにぼろぼろでも、木が腐ってしまっていても、きっ とけが人を出さずに、旧校舎は役目を終えると思う。旧校舎は意志が強いから、まだここに残っているんだと思うよ」 私はあんぱんを1口サイズにちぎった。 あ、つぶあんだ。 「……だから、取り壊さないでまだ残してるの?」 寛ちゃんはあんぱんを食べ終え、杏仁豆腐に手をつけていた。 きれいな白。 それをすくおうとした寛ちゃんの手が止まった。 「きっと、そうなんだと思うよ」 優しい笑顔。 こんな表情作れるのは寛ちゃんくらいしかいないだろうな。 何もかもから開放されて、あたたかな光を浴びている感じ。 痛みや苦しみが一気になくなる感じ。 お腹の底があったかくなって、体が軽くなる感じ。 寛ちゃんはそういうことを簡単にやってのけるすごい人なのだ。 そしてこの旧校舎も、私たちのはるか上の先輩たちにとっては、私にとっての寛ちゃんのような存在だったんだろうと思う。 あったかくて、いつまでもそばにいてほしいと願う、切ない存在。 私があんぱんを半分食べ終わるか食べ終えないかくらいで、聞きなれた予鈴が鳴った。 22: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/31(火) 17 12 06 17. いつの間にか空はどんよりとした雨雲に覆われ、風が強く吹き始めた。 かたかたと窓が笑う。 次第に雨がばしばしと窓に打ち付けられていった。 あぁ、今日バスで帰らないといけないな。 「この犬、そよ風って言うんだ」 疾風は眠っている犬を抱きかかえ、膝に乗せた。 犬は少し不機嫌そうにうー、と唸ったが、疾風の膝の上で頭を撫でられると、またとろんとした目をして眠りに落ちた。 「そよ風か、いい名前だね」 「僕とは似てるようだけどまったく大違いなんだ」 大違いなんだ。 何だろう、この言葉に妙に悲しみが込められている。 さっきの冷たさといい、何だか引っ掛かるものがある。 ものすごい違和感だ。 「同じ風が名前についてるね、あなたとわんちゃん」 「またあなたって言ったね、君。ほら、ちゃんと名前を言ってごらん」 あぁ、むず痒い。 しかし、私の中で名前を呼ぶ抵抗は小さくなっていた。 「疾風」 ほら、簡単に言える。 「うん、ありがとう」 疾風の言葉。 名前を言ったくらいでお礼を言われた。 23: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/31(火) 17 12 44 18. しかも、特上の笑顔つきで。 この時、私は疾風は疾風なりに自己確認をしていると思った。 私が疾風のことを名前で呼ぶことで、疾風は自分以外の人からも見える存在になる。 存在理由というか、他者が自分を1人の人間として認識するように、名前を呼ばせてる気がした。 この世でただ1人の人間としてあるために。 「疾風」 「ん? 何」 「疾風」 「だから何?」 「疾風」 「…………どうしたの」 「疾風」 いくらでも呼んであげるよ。 名前なんて、いくらでも私が呼んであげる。 誰もあなたの名前を言わなくても、知らなくても、私だけは忘れずに呼んであげるよ。 私は疾風の中で自分自身の秘密が爆弾になりかけているように思えた。 いつか爆発して、疾風自身がなくなってしまうかもしれない。 遅くても早くても、それはとてつもなく怖いことだと思えた。 世界規模で考えれば、そんな人1人壊れてしまったからって社会が動かなくなることはない。 しかし、私の日常は確実に全停止するだろう。 ブレーカーが全部落ちたときの瞬間みたいに、蝉が道端に転がっているように、幸せな時間も、何かにときめく時間も、この廊下での時間も、止まってしまうだろう。 そう思ったら、涙が知らずに零れていた。 24: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/31(火) 17 19 48 19. 「僕の過去に笑顔は不可欠。 これがなければ僕は生きていけない。 きっと、この世に存在する全てのものが敵になってしまいかねないから。 僕は笑顔を忘れずにいようと心に決めた。 そう、あの日僕自身の秘密を知ってから。 僕に疾風という名前が付けられてから。 周りの人が僕に気を使わないように、心配をかけないように、いい子であり続けるためには笑顔が必要なんだ。1人で生きていくための道具。 愛想笑いとも言うけど、空元気からの笑顔だけど、本当の僕じゃないけど。 それでも、そんな笑顔を見せたあとに泣いてくれた君に、僕は何か恩返しをしたい。 いや、恩返しじゃなくて、償いといった方が正しいのかもしれない。 何をしてあげたらいいのだろう。 何をしてあげれば、君のその涙分を埋めてあげる事ができるのだろう。この僕に、何ができるのだろう」 25: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/01/31(火) 17 21 08 HOST p2028-ipbf707akatuka.ibaraki.ocn.ne.jp 20. 本当は、私が疾風を抱きしめてあげるべきだったのに、立場が逆転してしまった。 何で涙を流したんだ。 何で疾風の負担を増やしちゃったんだ。 何で私はいつもこうなんだ。 「はい、落ち着いた?」 疾風は私の背中をぽんぽんとリズムよく叩いた。 まるで泣きじゃくる赤ん坊をあやすように。 「ん、ごめんね」 罪悪感が込み上げる。 きっと疾風は私のこと面倒くさい女(というより人)だと思ったに違いない。 「いいよ、何だか嬉しかったし」 泣かれて嬉しいとは……一体どんな心境にさせたんだ、私。 私は目を丸くして疾風を見た。 ただ名前を呼んで、そしたら涙が零れて、目の前の疾風を困惑させただけなのに(マイナス)。 しかし、疾風にとっては不思議とプラスになって吸収されたらしい。 距離にして約15センチ。 疾風の顔がすぐ目の前にある。 寛ちゃんとキスする前くらいの近さだ。 低い声と対照的な幼顔。 長いまつげに、高い鼻。 意外に薄い、ピンク色の唇。 「んー気が変わることってあんまりないんだけどね」 疾風の声で正気に戻った。 私、今何考えてたんだろう。 今、何を望んだ? 私は仰け反るようにして疾風から離れた。 26: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/01(水) 16 33 26 21. 顔が熱い。 密着してるから変な気になるんだ、危ない危ない。 「あ、ごめんね」 あぁ、何で謝ったんだ、もうわけわかんない人じゃん(自分でもわからん)。 「ありがとう」 「は」 疾風はにこっと微笑みかける。 「君が謝るなら僕はお礼を言う。ありがとう」 どういう意味かさっぱりわからない。 でもよかった、私と同じような人がいる(安心するとこ違うけどね)。 私だけが変人な訳じゃない(認めた)、落ち着け、落ち着け。 とりあえず、私はカップに残ったぬるい紅茶をぐびっと飲み干し、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。 するといつものように思考が回る。 今は一体何時なんだろう。 きっと、もう授業参観は終わっているだろうなと思った。 そよ風は、いつの間にかまた布団に戻って寝息をたてていた(寝顔がかわいい)。 27: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/01(水) 17 22 56 22. 疾風は静かに話し始めた。 基本的なプロフィールから――――篠崎 疾風、15歳、高校1年生(年下か)、部活は入っていない(スポーツバッグは見掛け倒し)、バイト週6日、近所のアパートで1人暮らし、等々。 保育園時代に3歳にしてもう逆立ちができたとか、小学校時代に水泳で全国大会までいったとか、中学校時代に全国絵画コンクールで最優秀賞受賞とか、そして今はほぼ毎日この渡り廊下で寝泊りしているとか。 順を追って細かなことまで話してくれた(ほとんどが自慢だったけど)。 「旧校舎のこと見てどう思う?」 時々こんな風に質問を投げかける。 私は相槌を打ちながら、小さな緊張感を覚えさせられるのだ。 「え、んー……私は何だか優しく見守ってくれてる感じがする。何て言えばいいんだろう、あったかいの、すごく。旧校舎からはそんな印象を受ける」 普通だったらこんなこっぱずかしいこと他人には言えない。 それは非科学的なことで、ものは生きてもないし、メルヘンの世界へご案内されるようなことを嫌っているからだ。 しかし、そんなことを忘れさせるくらい、旧校舎には魅力があった。 話す相手も疾風だし、言っても笑わずに受け入れてくれると思うからいえたんだと思う。 槙に言ったら熱でもあるの、とか聞かれそうだしね。 「やっぱり、君は僕の思っていた通りに答えた。ありがとう」 疾風は子供を褒めるかのようにお礼を言う。 上から見られている気がするけど、悪くはなかった。 むしろ、何だか安心する。 「風邪引いたときそばにいてくれるお母さんみたいな存在かな」 「はは、それに近いね。ママがいると気持ちが幼くなるよね」 「無性に心細いときおかゆとか持ってきてくれると小さい子みたいに甘えたくなるんだよね、おかぁーさーんとか言いながら」 そよ風がくしゃみをしたのが聞こえた。 あぁ、そう。 こんな感じにも似てる。 何だか微笑ましくて嬉しい気持ちになるんだ。 存在自体のありがたさというか、いてくれてありがとうって自然と思える。 そんな感じなんだ。 30: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/03(金) 15 05 44 23. 「君のお母さんいくつ?」 これまた唐突に疾風が質問してくる。 「んーと、ママはね、確か今年で47歳だと思う」 「そう、僕のお母さんはまだ30なんだ」 へぇーそうなんだぁ、とのん気に紅茶を片手に聞いていて、少し間を置いてつるつるの脳みそが異変に気付いた。 ん? 30歳ということは、疾風が今15歳だから…………疾風のママは高校生に成り立てか、中学3年の時に産んだことになる。 え、ちょっと待って。 「はは、おかしいでしょ。でも真実なんだ。僕の母親は僕を15の時に産んだんだ。あの旧校舎の1階の廊下で」 外からは雷の音が聞こえ始めた。 「僕のお母さんは2つ上の先輩、つまり僕のお父さんなんだけど、中3の時から付き合ってて、高校も同じこの高校に入ったんだ」 そよ風が雷の音で起きてしまった。 疾風越しに大きな口を開けて欠伸をするのが見える。 よたよたっと寝ぼけた様子で私の膝の上に来た。 そよ風、その可愛さで緊張感を壊さないで。 「そよ風は雷苦手なんだ。オスなのに弱虫」 疾風の笑顔にほっとする。 何だか話をしているときは、呼吸をするのも困難なほど、疾風が違う人に見えるから。 「はは、まだ子供だもん、しょうがないよね」 そよ風は悪口を言われていることも知らず小さいくしゃみをして鼻に潤いを戻す。 はな垂れ小僧だ。 「子供ね、そう。バカなんだよ、僕のお母さんもお父さんも。高校生になったら大人だと思ってたんだってさ。まだ全然子供なのに」 さっきの笑い声が疾風の声に流される。 もうそれは数秒前でも過去だ、必要ないと言われているように、後ろへ後ろへと押し流される。 今は張り詰めた空間でさらに真空パックされた気分だ。 息ができない、苦しい。 風の流れが止まる。 「もうわかるでしょ、僕ができたんだ。お母さんとお父さんは、その時の感情に任せて、望みもしない僕を作ったんだ」 言葉が出ない。 疾風は苦しそうに話す。 しかし、顔を覗き込めば薄ら笑いを浮かべている。 憎しみ、違う、悲しみ、これも違う。 「……疾風?」 「ごめん」 「え」 「気持ち悪い話して、ごめんね」 31: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/04(土) 12 42 20 24. ううん、そんなことない、そんなことないよ。 「ごめんね」 疾風だけを苦しめている。 この話は聞くべきじゃなかった。 まだ時間が彼には必要だった。 違うよ、疾風、謝るべきはあなたじゃない、違う。 「あ」 俯いていた疾風が私の方を向く。 「あ、ありがとう、疾風」 「え」 あぁ、何でこんなときに〝ありがとう〟なんて言ってるんだ。 疾風もきょとんとしてしまっている。 えぇい、勢いに任せてしまえ。 「は、疾風が謝るから、謝らなくていいのに謝るから……私はお礼を言うの! そう、だからありがとう」 新校舎3階から旧校舎3階を繋ぐ唯一の架け橋。 誰も入ることのできない閉ざされた空間。 錆びたロッカーに汚れた窓。 定期的に掃除されているんだろうけどわた埃があちこちに目立つ。 薄水色の絨毯の上に、テレビ、ラジカセ(古臭い)、机に本棚、箪笥にちゃぶ台、そして小さな冷蔵庫。 3畳分の畳の上には布団がきちんと畳まれている。 そこに1人と1匹、違和感なく風景に紛れ込む。 付け足して描かれたものは全てこの渡り廊下に収まっている気がした。 私はこの場所にただ1人連れてこられて、慣れていない空間に飛び込んで、きっと存在は浮いている。 あまり主張せず、しかし、存在をほどよく残す。 上手く脇役に徹する事ができない。 疾風はもう慣れた顔でちゃぶ台の前に座り淡々と話を進めていく。 渡り廊下にいることを許されている気がした。 旧校舎への侵入者と警戒されていない気がした。 私だけがセキュリティーに触れて警告音を鳴り響かせている気がした。 「そよ風、ちゃんと病院行かせないとね」 頭を撫でていると時々ごろんと寝返りをうってお腹を見せる。 32: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/04(土) 12 43 07 やられたーって感じかね、この子。 「うん」 疾風はまだ何か言いたげだ。 しかし、私は聞きたくなかった。 というよりも、まだ聞いてはいけない気がしたのだ。 「ノミがいるよ。ほら、糞がたくさんあるでしょう」 私はそよ風の毛を逆立て、皮膚が見えるようにした。 するとたくさんの黒い転々が見える。 「本当だ、よくわかるね」 「おばあちゃん家で犬飼ってたことあるから」 あぁ、ちゃんと笑えているかな。 疾風とのこの近い距離は測ったら何億光年も離れている気がする。 そうか、これを疎外感って言うんだ。 秘密を共有したことで、どこか照れくさくてよそよそしくなってるんだ。 別に嫌いじゃないけど、どう接すればいいか分からない。 「あ、紅茶のお代わりいかが?」 気を遣ったのか、疾風はティーポットに新しい茶葉を入れてお湯を注いだ(この給湯ポットは事務室のだな)。 私はさっきまでの疾風が一瞬幻かと思えた。 さっきまでの私たちが夢で、今からが現実。 33: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/04(土) 13 01 39 26. 今までのことは忘れて、と疾風に言われている気がした。 あの、初めて言葉を交わしたときのように。 何だか、無性に腹が立つ。 「疾風」 疾風に対して何でこんなにイライラするんだろう。 「ゆっくりお互いを知ろう。焦って全てを外に出しても、それは投げ出してることになる」 私にさっきまでの話を忘れろというなら、初めから話さなきゃ良かったじゃん。 「相手が受け止められなかったら何にもならない」 悔しい。 「私はいくらでも待つし、いくらでも話を聞いてあげる」 あぁ、そうか。 「私は、疾風から逃げたりしないよ」 信頼されていないことに、腹が立つんだ。 1日の終わりって時計で測れるほど単純なものなのかな。 急に響いたチャイムの音で私たちの空間は壊された。 あれだけ何も聞こえなかったのに、急にだ。 意図も簡単に吹き飛ばされて、野ざらしにされた気分。 「もう授業参観も終わりだよね」 「もう? 早いね、お昼も食べてないのに1日が終わっちゃった」 今日は寛ちゃんとお昼を食べる予定だった。 昼休みが終わるまでずっと4階の廊下でじっと待っていたはず。 何も連絡をいれず、姿も見せず、きっと寛ちゃんは校舎内をくまなく探してお昼を食べずに私を探しただろうな。 今頃お腹すかしてる。 けど、きっと寛ちゃんは私と並んでじゃなきゃお昼は食べない。 寛ちゃんはそういう人。 あぁ、会いたい。 あの何も聞かずに時間を戻して、2人でのお昼タイムを作ってくれる優しさに触れたい。 包まれたい。 そばにいて、離れないで、今すぐ来て、飛んできて、抱きしめて。 「ほら、鍵開いてるから」 どんな顔して私は疾風を見つめたんだろう。 ひどい女だな、私。 疾風のことを理解したいと自分で言い出したのに結局スケールの違いを見せつけられて追いつけないからって途中で手放した。 私は一緒に止まることはできないんだろうと思う。 時間に流され、そこに留まることを拒否したんだと思う。 34: 名前:(-∀・*都粒*・∀-)☆2012/02/04(土) 13 28 19 そういう浅はかなところ、無意識に他人を傷つけるところ、最低。 ひどい女だ、私。 「うん、また今度ね」 簡単に別れも告げられる。 これから私たちは会う事ができるのだろうか。 私たちが偶然に出会う事ができたのは、どこかお互いがお互いに期待を持っていたからだ。 きっとそう。 意識できないほど小さな希望が、お互いを引きつけていたんだ。 しかし、今となっては私は疾風とある程度の距離が欲しいと思っている。 信頼されるまでの時間が欲しいと思ってる。 もう少し私自身が大人になるまでの時間が欲しいと思っている。 疾風はどう思ってるかわからないけど。 これからはあまり会えそうにないと思うのは何でだろう。 朝からのだるい授業も、槙といる休み時間も、寛ちゃんと過ごす放課後も、全部が自然にありすぎてて重い。 今の私には贅沢すぎる。 そう思える自分を私はまた哀れみを持って評価する。 自分が主演を務める舞台を途中までのいい汗をかいたまま降りようとしている。 この間あったことで自分が後ろめたくならないように、必死に守っている気がする。 爽やかな記憶に傷をつけて終わらせないように、堅い殻にこもって何にも触れようとしない。 触れたらもろく崩れそうだから。 自分は悪くないとどこかで必ず思ってる。 27. 「寛ちゃん、一緒にお昼食べる時間増やそう」 何も知らない寛ちゃんに頼る私は情けない。 そう思っても、ひとりじゃ苦しくて学校なんかに立ってられない。 足に力が入らなくて、膝をかくんと折って、地べたに座り込んでしまいそう。 誰かに支えていてもらいたい。 廊下は止まれない 続き2
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なつとろうかとはなばたけ【登録タグ NexTone管理曲 な マチゲリータP 初音ミク 曲 殿堂入り】 作詞:マチゲリータP 作曲:マチゲリータP 編曲:マチゲリータP 唄:初音ミクAppend 歌詞 近頃太陽の光が心地よくなりました。 頭から何かが芽吹くような気がしておりまして。 数年溜まりに溜まった「あの衝動」が溢れ、 もう我慢できないくらいの暑さに達しました。 野に咲く花、4号室の僕のもの。 能天気な赤白黄色で夢心地の真夏へ。 気持ちが昂るのは抑えず、欲望のままに。ほらぁ。 手を汚して二人は、くらくら闇の中で ぬめりだす3号室(ひとつめ)のロマンス。 ひと夏の思い出。 もうこのお花には飽きたな、どこに埋めようかな。 また新しいお花をこっそり摘んでこよう。 若いのもいいし、ほかのも。 能天気な赤白黄色で夢心地の真夏へ。 気持ちが昂るのは抑えず、欲望のままに。ほらぁ。 手を汚して二人は、くらくら闇の中で。 ぬめりだす2号室(ふたつめ)のロマンス。 ひと夏の思い出。 こっそりと楽しげに満面の笑顔で近づいて。 にたにたり。 能天気な赤白黄色で夢心地の真夏へ。 気持ちが昂るのはもう抑えきれなくなっていた。 手を汚した僕はまた、この3人目(やみ)の中で ぬめりだす1号室(みっつめ)のロマンス。 ひと夏の思い出。 コメント 涼しくなりますね~夏にいい!!ww -- 名無しさん (2010-07-26 12 56 46) ふぉぉっ!好きだぁぁ -- 名無しさん (2010-07-26 18 45 47) 大好きです。かっくいい。曲の感じがいつものマチゲさんとちょっち違う感じがして素敵でした。いや、いつものマチゲさんも素敵だが。 -- 百合川コッコ (2010-07-26 22 21 50) いろいろ解釈できそうなかんじ!!良い!! -- SEA (2010-07-27 01 36 47) サムネとの差にびびったwww -- 黄色 (2010-07-28 09 57 52) エログロなマチゲさんの曲は夏にぴったりだね♪大好きwwww -- ★黒葉★ (2010-07-28 22 23 31) 歌詞もいいが曲とサムネが好きすぎて更にあなたが好きになった -- 名無しさん (2010-08-02 04 47 12) これアペンドのどれなんだ? -- 名無しさん (2010-08-05 23 07 36) 『野に咲く花』の後なんていってるんだろう? -- 名無しさん (2010-08-06 00 09 04) ↑「4号室の」は読まずに「僕のもの」と言っているのではないでしょうか? -- 名無しさん (2010-08-06 16 43 58) イントロからして好き -- 名無しさん (2010-10-27 15 09 48) マチゲさんのギターたまんないです -- 名無しさん (2010-11-23 15 33 11) なぜかこの歌でなんかのMAD動画見たいと思ってしまうwwww -- 名無しさん (2011-01-07 05 53 29) 夏だ!廊下だ!花畑だ!! -- 名無しさん (2011-01-30 21 12 23) ↑おい、今は冬だぞ -- 名無しさん (2011-01-30 22 17 10) いつ聴いてもこの曲いいわぁ -- 名無しちゃん (2011-03-31 16 08 38) 曲調とかたまりません!!ミクの調教もGJ(*´ω`*)相変わらずのマチゲクオリティですね。すきすき -- 真鬼 (2011-05-05 01 20 37) 超かっこいい マチゲさんの声調教は神 -- 名無しさん (2011-08-27 05 53 23) 今年の夏ももう終わりですね・・・やっぱ聞きたくなる! -- りお (2011-08-27 22 18 21) Ibを連想する -- 名無しさん (2012-04-05 12 46 36) 最高です!! -- 名無しさん (2012-04-22 15 41 47) …歌詞、なんとなく理解(◎口◎) -- 名無しさん (2012-04-25 13 25 03) 神!!!! -- 名無しさん (2012-04-27 23 22 56) 最高だねっ! -- 名無しさん (2012-05-17 21 16 46) そういや夏はホラーで暑さをしのぐのが日本文化だったね・・・ -- ひぃいいいいいいいい (2012-05-30 18 31 29) 夏だね! 今さらこの曲を知ってずっと聞いてます^^ このミクはsolidじゃないかと思ってます(。_。) -- 名無しさん (2012-08-26 13 51 09) マチゲさんの曲でこの曲が一番好き! -- 名無しさん (2012-09-20 16 45 52) なんで殿堂入りしないんだ・・・ -- 名無しさん (2013-01-05 14 35 05) 締め切った室内の異常な温度と湿度のなかで聴きたい曲 -- こ (2013-02-24 16 25 16) 恐怖カ゛ーテ゛ンとかぶってない?あれマチケ゛さんじゃないけど -- 狂音ユウ (2013-04-17 03 53 26) こういう歌大好きw -- 名無しさん (2013-05-09 00 08 22) めちゃくちゃかっこいい! -- 羅有 (2013-09-28 01 14 58) マチゲ様ぁぁ!!まぢ神!!まぢ好き!!うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!w -- 鎖紅邏 (2013-12-06 05 25 53) 殿堂入りおめでとうございます!!! -- ショートケーキ (2014-02-08 13 27 02) ↑6 実際にやってテンションが異常に上がり熱中症を起こした私が通ります -- 餃子 (2014-03-21 12 35 12) 小説読んで歌詞の意味を理解した…すげぇ。 -- 赤塚ハル (2014-04-26 19 14 40) ↑×7 確かに内容は似てるけど別にここで言うことじゃないだろ。小説読めば歌詞の意味わかるよ -- 名無しさん (2014-04-26 20 26 23) 人殺しの歌ですよね。これ。小説読みましたが -- 名無しさん (2015-03-10 23 20 41) 小説読んだ。まじ最高。 -- サガリ (2016-08-25 15 58 13) サムネで油断許すまじ -- かのん (2016-09-10 10 30 18) I like this song the best in Machida's songs! -- Karin (2017-03-01 09 01 21) 小説読んだんですけど、意味がわからない…… -- 狂ノ ユエ (2017-04-14 16 55 31) すき -- ゆ (2022-01-28 14 01 36) 名前 コメント