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東方紅魔月譚 ~ Scarlet Devil Fantasic Rhapsody ~ サークル まぐなむおーぱす Number Track Name Arranger Original Work Length 01 赤より紅い夢 高瀬 東方紅魔郷 [02 10] 02 ほおずきみたいに紅い魂 [04 19] 03 妖魔夜行 [04 54] 04 ルーネイトエルフ [05 44] 05 おてんば恋娘 [04 58] 06 上海紅茶館 ~ Chinese Tea [05 47] 07 明治十七年の上海アリス [04 41] 08 ヴワル魔法図書館 [06 01] 09 ラクトガール ~ 少女密室 [06 18] 10 メイドと血の懐中時計 [06 31] 11 月時計 ~ ルナ・ダイアル [05 55] 12 ツェペシュの幼き末裔 [02 39] 13 亡き王女の為のセプテット [05 57] 14 魔法少女達の百年祭 [00 44] 15 U.N.オーエンは彼女なのか? [03 13] 16 紅より儚い永遠 [03 20] 詳細 東方紅魔郷コンセプト・アレンジアルバム コミックマーケット75(2008/12/29)にて頒布 イベント価格:1000円 ショップ価格:1200円(税込:1260円) レビュー まぐなむおーぱすさんのフルアルバム2作目。今回も、収録時間73分と、かなりのボリュームとなっている。 前作の路線であるプログレメタル+ネオクラシカルが更に推し進められている。 プログレメタルを基調としたさりげない変拍子と、次々に訪れる展開は見事の一言。 前作の欠点だった、音の薄さやチープさなどは完全に払拭されており、 むしろ今作で「シンフォニック」の看板を高らかに掲げることに成功している。 Dream TheaterやSymphony Xを思い出させる部分もしっかり用意されているが、 それだけに留まらない、もっと広汎なプログレメタルの良さを生かしたアレンジであると言える。 不満点を言うならば、「魔法少女達の百年祭」がただのインターバルになっている点と、 名曲「紅楼」のアレンジがない点である。これだけのクオリティを見せられては、 収録時間を80分まで使って、紅魔郷全17曲をアレンジしてほしかった。 そんなことを思ってしまうほどに、見事な大傑作である。 東方アレンジ界においてメタルアレンジはもはやありふれてしまっているが、 このサークルの方向性は明らかに他と一線を画しているだろう。これからも目が離せない存在だ。 -- ひいらぎ (2009-01-09 04 45 50) 前作(東方桜妖紀)が結構ツボに嵌る作風だったので、2作目が出るという情報を掴んだ時から 「これは買いだ。」と思っていたし、実際非常に満足度の高い作品に仕上がっている。 サウンドは前作よりもヘヴィ且つダーク(tr.4・5・6・7辺りはさほどダークではないと思うが)に なっていて、特にtr.1・10・12ではBLACK SABBATH風のへヴィなギターリフを聴くことができる。 他にもネオクラシカル様式美のtr8・11、屈指のドラマティックさを誇るtr.9(JUDAS PRIEST風?のツインリードも聴ける)、 イントロがかっこいいtr.2・13等聴きどころが多い。 シンセの音に若干のチープさが残っている(慣れてしまえば気にならない程度のレベルだが)とはいえ、試聴して気に入れば 文句なしに「買い」の東方HMアルバムなのではないだろうか。 -- Lemmy 某。 (2009-01-31 11 58 36) ギターのヘヴィさや音の迫力は前作に比べ格段に改善されているようにに感じた。 イントロやパロディパートのギター速弾き等は相変わらずレベルが高く、かっこいいのだが 肝心の東方曲の部分が「もう一息!」といった所か。 前作からの進化が目覚しいので、次回作にも大いに期待が出来る。 -- Rate (2009-01-31 13 44 10) 名前 コメント
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千夜月姫キャラクターシート TXT Ver1.0 キャラクター名:奏月 空(そうげつ の そら) プレイヤー名:奏 種族:空想存在(架空存在) 職業:退魔の巫女・高校生 外見年齢/性別:17/女 髪の色:黒 瞳の色:茶 肌の色:黄 身長/体重:158㎝/--㎏ 所属コミュニティ:生徒会 クラス1:逸脱者 クラスレベル:03 クラス2:介入者 クラスレベル:01 クラス3:超能力者 クラスレベル:01 使用経験点:9/32 キャラクターレベル:05 スタイル:下僕 背反律:主の命令 分類:常時 代償:- 効果:あなたが取得している全ての特技が対象。対象のテンションボーナスを0にする。 あなたが行う全ての行為判定で達成値を+4する 獲得感情:なし ■基本能力値 ※能力ボーナスは基本値の3分の1 体力 13 【 4 】 知覚 06 【 2 】 理知 06 【 2 】 意思 12 【 4 】 ■戦闘値 ベース クラス修正 特殊 合計 【白兵】(【体力】+【知覚】) 06 02/01/00 -- 09 【射撃】(【知覚】+【理知】) 04 02/00/00 -- 06 【精神】(【理知】+【意志】) 06 02/01/02 -- 11 【行動】(【体力】+【意志】) 08 02/01/00 -- 11 【生命力】(【体力】+【理知】)×5 30 08/02/00 -20 20 【集中力】(【知覚】+【意志】)×5 30 08/05/10 -- 53 【防御点】 0 01/00/00 -- 01 属性値 地:03 水:03 火:03 風:03 空:04 ■特技・装備アイテム ※TB=テンションボーナス 分類:消耗品のアイテムは(基本的に)シナリオ中一回まで。 名称 : 分類 : 代償 :TB:効果 架空存在 : 常時 : - :0 :属性:空+《2》、その他の属性+《1》 ランダムアタック :攻撃タイプ/特殊:代償ダメージ2 :0 :一人に《2D6》ダメージ。攻撃タイプは、攻撃する際に1D6を振り「1・2」なら白兵、「3・4」なら射撃、「5・6」なら精神。「オフェンス/共通」しか組み合わない 攻性概念 :オフェンス/共通: - :0 :ダメージ+《2》し「概念武装」と扱う 論外のタフネス : 常時 : - :0 :貴方自身が対象。クリンナップ毎にHPとテンション値+《2》 応急手当 : セットアップ : - :0 :対象一人のHPを《1D6》回復 カバーリング : インタラプト : - :0 :実ダメージ発生時に使用、その実ダメージを貴方が受ける 突然変異 : 常時 :【生命力】-20:0 :「高速神言」を獲得 高速神言 : 常時 : - :0 :あなたが所持する特技全ての代償:待機ラグを全て0に、効果文中の《 》内の数値+2 戦意高揚 : セットアップ :代償ダメージ5 :0 :あなたを除く味方全体のテンション値+《2D》 ■所持アイテムリスト ・ ・ ・ ■インフィニティブレイク ※サーヴァント以外はEXスキルは登録不可 レベル3-5:論外のタフネス レベル6-8: レベル9- : ■キャスティングボード キャラクター名 :感情 :絆値:備考 土方睦 :興味 : 2: 名無し :庇護 : 4:感情対決:興味 シオリィ=リモーネ:興味 : 2: 日乃守 連夜 :興味 : 2: 篠崎 梗司 :興味 : 2: ロベルト :ほっとけない : 4:感情対決:興味 稲穂 :興味 : 2: 黒の人形師 :ほっとけない : 4:感情対決:興味 宮野 惣一郎 :興味 : 2: 絆値合計:24 ■設定 退魔の巫女と女子高生のマルチクラス。浮世離れしたお人好し。 いかにも巫女っぽい容姿。 人の意識より生まれしもの、けれどアラヤとは何か違う。幻想の向う、空想の存在。 本人の感情はある…けれど、それは使命感の源と結びついていない。 特技解説 「ランダムアタック」 破魔刀、破魔弓、札など。無尽の攻撃手段 「論外のタフネス」 再生能力…外からくる魔力供給 「応援」 月姫的な魔力供給も c.v レギュ http //www2.atwiki.jp/h_session/pages/7488.html
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某有名2Dアーケード格ゲーの元になった同人ゲーの漫画版 物体が確実に斬れる線が視えてしまう『直死の魔眼』を持つ主人公・遠野志貴は ひょんなことからヒロインのアルクェイドに出会うが、出会い頭に衝動的に17分割してしまう 「もう!再生するのに一週間かかったんだから☆」 というわけでアルクェイドど共に敵の吸血鬼『死徒二十七祖』と邪気眼バトルを展開することになるが・・ 別人格が敵を倒して気づいたらベッドで寝てました的な展開が好きな人には◎ 邪気眼度 ★★★★★ お勧め度 ★★☆☆☆
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現在の所無くなりました。
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HP DL.site 内容等 東方Projectの二次創作 攻略キャラの内1人がふたなり 名前 コメント すべてのコメントを見る
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← 月が、出ていた。 深夜の空。青色を過ぎ、朱色を超えて、黒色に染まった空。 人の往来が絶えない下天の街と対象的に、天では既に色が落ちている。 遥か彼方で光る欠片は、今夜に限って瞬きひとつ見せなかった。 夜を彩る、イルミネーションの飾られていない、少し寂しい空。 照明の消えたステージのように暗く、物寂しい天蓋の闇の中でただひとつ己を誇示する、月がある。 美しく幻想的な光を放って天に鎮座するそれは、あたかも闇を円状にくり抜いて、そこから光が漏れているとも見える。 静かに月は浮いている。地上の喧騒、夜を忘れ街中を駆け回る人の群れとは関わりを持たず。 真実に目覚めた者と白痴の夢をかけられる者の区別なく、平等に月は見ている。 こんな騒がしい夜の時に、逆に見上げているのは自分だけだろうかと、霧子は考える。 今宵の月は大きかった。輝きははっきりとして、辺りに星が見えないことが光を際立たせている。 そんな自分の目立つ格好なのが気恥ずかしいのか、顔を半分隠してこっそりとこちらを覗き見ていた。 上弦の月の形。 弓張月、ともいった。 (……お月さまも……疲れてるのかな……) 真円を描いてはいないけど、きれいな月だと霧子は思う。 もし満月であったなら、いっぱいの笑顔を浮かべていると抱くだろう。 三日月なら、少しへそを曲げていると感じるかもしれない。 新月でも、今日はゆっくりおやすみなさいと労いの言葉をかけていた。 (でも……見ていてくれるんだね……) 月の満ち欠けの状態を何種類にも分けているのは、それだけ多くの人が月に物語を描いたからだ。 季節を読み、時の運を委ねる占いに利用し、心象を文字にして書き写す詩歌の題材に用いて、夜毎に変わる姿を楽しんできた。 ただこの星の上に浮かぶ白いだけの玊は、物語の中では女神になって、そこには兎が住むようになっている。 昔の誰かが綴るままに続いてきた、誰かの為の物語を聞かせてくれたことが、霧子には嬉しかった。 「……すんすん………………」 頼れるリーダーの真似をして、鼻をひくひくと動かしてみる。日が落ちても気温が下がらない残暑の、少し湿った空気が鼻孔を通った。 毎年感じる夏の匂い。けれど今の霧子が欲しかったものではなくて。 (月のにおいは……あるのかな) お日さまのにおいは分かる。 月のにおいとは、いったいどんなものなのだろう。 お月見をした事もあったけど、そんな風に考えたりはしなかった。 病院で干したシーツをしまう時に広がる、あたたかく柔らかな太陽の香りとは真逆の、冷たくて、鋭いかたちをしているのか。 きっと違う。朝と夜を入れ替わるふたつの星は、対比されることはあっても、反発する両極ではないはずだ。 霧子がそう思ってるだけの、そうあって欲しいだけのものだけど。 兄弟のように。親子のように。傍にいられなくても忘れたりせずに、何度だって会いに来ている関係であればいいと願って。 呼吸が整うまで体を休めていたベンチから、ゆっくりと腰を上げた。 新宿の区内に留まってる霧子の足取りは軽くはない。 朝に家を出てから皮下医院でボランティアに参加し、ハクジャを伴って摩美々達と話し、海岸に趣き、また新宿に戻ってきた後に梨花と出会ってからあの嵐だ。 夜になっても続く酷暑さが消耗に拍車をかけて、体力はどんどん削られている。 うっすらと額に汗が滲んでるが、息を切らしつつも音を上げないのは、ステージの場数を踏んだ賜物か。 とはいえ身体をベッドに横たえて眠りたい誘惑は、正直に白状してしまえば、大分ある。 それを足を止めていい理由にしなかったのは、梨花に頼まれたから。光月おでんという人物を探して、助けを呼んでほしいと。 同じく事情を理解している……らしい七草にちかにも、事情を伝えるようにと。 にちかとの連絡は済んだ。合間に、合流していた摩美々とも言葉を交わし合えて、少し元気ももらえた。 気心知れたユニットメンバーと裏表なしに話せるのは、霧子の精神の緊張をほぐしてくれた。 (ふたりの……にちかちゃん……) ───界聖杯には、七草にちかが二人いる。 齟齬のあった認識に摩美々が訂正してくれた真実は、霧子にとっても寝耳に水だった。 言葉にしてみれば夢みたいな不思議な話、で済ませられなくもないでもないけれど。実情はそう簡単に収まるわけではないらしい。 自分とまったく同じ、けれど自分の意思には繋がりのない人がいる。驚くし、大変だろう。 霧子でなくても体験した人は中々いなさそうな話であるので、こちらとしてはいる、という知識を持って対応していくぐらいしか現状できるものはなかった。 なので気にするのは、裏表ない友人関係でいる摩美々とにあった齟齬のほう。 花屋での職業体験のこと。新しく事務所に加わったSHHisとの触れ合いのこと。始動し出した全国ライブに向けてのレッスンのこと。 目まぐるしくなるほどたくさんのお話。一歩ずつ変わっていく、翼を羽ばたかせる物語。 ただの確認作業、と流したりはできなかった。 摩美々も一緒に参加して記憶を共有していたはずのそれを聞かせるたびに、電波の先にいる摩美々が、何か噛みしめるように頷いていた想像が浮かんできて。 (摩美々ちゃん……泣いていたのかな) 鼻をすする音を聞いてはいない。 涙の落ちる音を聞いてはいない。 でも、声を聞いただけでも何を感じ、何を思ったのか。その声なき感情(こえ)を拾い損ねてしまったりはしない。 それはひとりだけで完結する想像ではない。相互のもたらす信頼だ。 霧子も摩美々も互いを信じ、思い、通じ合っている。そこに疑念という歯車の欠落は見当たらない。 疑わなくてはいけないのは、常識を思い込み、考えを巡らせるまでもないと思考を放棄してしまうこと。 霧子の日常を、どうしてか懐かしそうに耽る摩美々。違和感があったのなら、歯車の噛み合いのズレはきっとそこにある。 少しすれば後で摩美々から正解が明らかになるのだけれど、教えてもらってばかりでは悪いから。 霧子は霧子で、283プロのことを考えなくてはいかなかった。 「あ……充電、切れちゃいそう……」 いつ着信があってもいいようにと携帯を出すと、電源の残量が一割を切っていた。 SNSなどを見ない霧子は頻繁にスマホを確認する習慣がない。朝出た時も充電器を持ち歩いたりせず置いてきてしまった。 乾電池をはめて使う携帯式の充電器がないか探してみたが、この辺りのコンビニやスーパーはどこも品切れだった。 新宿の被害が退勤ラッシュの時間帯を直撃したせいだろう。帰宅難民になった会社員達は、ネットカフェで時間を稼ぐ選択肢も先に奪われ電源を確保する手段に追われていた。 なるべく、早めに目的地に急ごう。適宜に休憩を挟みつつ歩いて、ようやく新宿御苑の外周が見えてきた。 光月おでんを探す、といっても、梨花からは特定の居場所を教えてもらったわけではない。 新宿で起きた出来事を見て黙っていられるような人柄ではなく、区内には入ってるはずだろうと仮説を立てていた程度。 あてがないなりに、災害下で一番新宿で人が集まっていそうな場所として選択したのが、避難所として開放された告知のあった広場だ。 とにかく目立つ格好であるらしいので、混雑の中でも見分けやすいだろうし、話や休憩するのにも丁度いい。 本当は避難民に食事を配給する炊き出しの手伝いに参加したいのは山々だったが、流石に今は見送るしかない。 そこでなんとか上手くおでんを見つけて梨花を助けてもらって。 摩美々のアサシン、ふたりのにちかも含めたみんなと集まって。 マスターもNPCも問わない、生存を望む全ての人と、この世界の外へと臨む。 霧子達283のアイドル、戦いを望まないマスターが元の世界に還れる、霧子にとっても理想の構図。 (……でも………………) でも。 これ以上ない展望が実現しそうになって、希望が見え始めていながら、後ろ髪を引かれる思いが僅かに足を縛り付けている。 (それなら……セイバーさんは……どこに行けば…………) サーヴァントが生きていない幽霊、死者の容(かたち)であるのは勿論わかってる。 寡黙で、厳しくて、そもそも人ですらなくて、むしろたくさんの人を襲って、たくさんの命を奪ってきた恐ろしい鬼。 客観的に取り扱えば、他の主従が傍に置くには甚だ危険で、かつ厄介過ぎる劇薬だ。 夜逃げの算段を立てる集まりが雁首揃えた場で、撫で斬りにしない保証がなけく、最悪は霧子ごと乗船拒否の路もある。 霧子はそこは気にしてはいなかった。 令呪で手を出さないよう確約させるとか、契約を切ればいいとか、話せばわかってくれるとか呑気にも訴える気すらもない。 ”だって、みんなに受け入れられても、そうでなくても、あなたはまた寒いところに置いていかれてしまうから” それは脱出派の集団に好戦的な人物を混ぜ込む不和を危惧してではなく。 万事全てが上手く行った、その後に、海岸に取り残される孤独を不安してのもの。 摩美々達のことも、黒死牟のことも、困らせたくない。どちらも掌から零さない選択があったらいいのにと 優しさとも甘さとも判断はつかない。送る言葉は、受け取る側にも整理や準備が必要だ。 相手に余裕がなければ、どんな優しくて暖かな気持ちも、上手く伝わってはくれないから。 もし、どちらかを選ばなくてはいけない、手に抱えるものを捨てる岐路に立たされてしまったなら。 その時、霧子は、いったいどちらを。 「……!」 更新された新たな着信のバイブレーション。摩美々からかと画面を見ると、通知にあるのは283の共有メッセージに載った動画再生のファイル。 そこには。 「…………プロデューサーさん……?」 この世界では会ったことのなかった、いつも霧子の傍にいた人の顔と声が、ぎっしりとずっしりと詰まっていた。 ■ 幽谷霧子が目下捜索中の光月おでんは、やはり新宿区内にいた。 主敵との邂逅、再度の討ち入りを決め込む前の露払いに、区内での救助活動に勤しんでいた。 実際に、おでんの働きは効果を見せている。屈強な体格から想像される何倍、山をも背負えるのではないかと余人に抱かせる筋力で命を救っている。 崩落したビルの瓦礫に体を挟まれた主婦を、自動車ほどもある瓦礫を持ち上げて助け、 扉が湾曲した家に閉じ込めれられた老人を、扉ごと十字に割いて担ぎ上げ、 強風が呼んだ砂塵に巻かれ泣き喚く児童の群れを、手近な台車でまとめて運び出した。 SNSでしばしば噂される『義侠の風来坊』の跳梁は、混乱の収束に動き出した峰津院財閥の肝が入った救助部隊に先んじて多くの人命を掬い上げた。 救助班にしても、個人の民間人……市民登録を受けてるか確証のない根なし草に現場を荒らされて苛立ちがないでもない。 ただ復旧したばかりのネットワークで頼みの人海戦術の効きが遅く、瓦礫の撤去のための重機を向かわせるのにも時間を食う。 その間に単独で侵入し、火事もがけ崩れもなんのそのと負傷者を連れて帰り、確保や事情聴取の追求をかける暇もなく次の救助地に走っていってしまう後ろ姿を見れば、微妙な苦笑いと共に目をつぶる他なかった。 無茶苦茶で、乱暴で、破天荒で、周囲に多大なる迷惑を振りまいて。 なのに最後には、言葉にならない意気に呑まれて、惚れ込んでしまう。 もっとこいつの活躍を見てみたい。ずっとこの人についていきたい。 ワノ国で俗に『おでん節』と呼ばれる、広大な海を渡る舟を思わせる度量を目の当たりにして、それとなく災害現場の情報を教える隊員も、少なからずいた。 そういう訳で、過去一ヶ月の間、飲み屋の乱痴気騒ぎ以来何かと世話になった警察官からの縁が、おでんを此処に手繰り寄せていた。 「ああ~~~っ!! どうなってんだこの町はよ! 夕方の゛真っ黒くろ介゛といい、ガキを拐うのが流行ってんのか!?」 おでんは、叫んだ。 鍋の中でぐつぐつと煮えたぎるおでんに喩えられる怒り。窮屈なれど泰平であった、街の治安に対する困惑への突っ込みだった。 複数人を住まわせる寮の玄関前に、仁王立ちでふんぞり返る。 傍若無人と謗られる割合多しの横柄さ、いつ住居人に不審者の通報を受けるかわかったものではない。 ただこの場限りでは、その図体は仁王像さながらの万人の守護の証と化していた。 発端は相棒からの申し出だった。 宿敵からの言伝を果たし、同じく救命に精を出していた緑壱が、ふと明後日の空に首を向け立ち止まって言った。 『鬼の気配を感じた。私が知るそのものではないが、それに近い魔性の類だ』 曰く、何らかの術で隠蔽をかけていたらしく、僅かに漏れ出たのを今になって探知したのだとか。 気配探知の見聞色に突出してないおでんではまるで見当もつかないが状況は理解する、どうやら火事場に紛れてとんだ不届き者が出たらしい。 止める理由はなかった。竜呼相打つ不可避の激突を控えた身だからといって、目の届く内でみすみすと民草の危機を見過ごすようでは侍の名折れ。 主の了承を受けるや否や疾風の速度で去った緑壱を見送り、さあこっからは二人分の働きをするかと意気込もうとしたが、待ったをかける虫の知らせが動きを止める。 同じような混乱に紛れてせせこましく悪事を働く輩が出ないとも限らない。 盗みぐらいなら拳骨ひとつやれば簡便してやれるが、緑壱が捉えたのと同じく聖杯戦争に絡んだ企てだとしたら、行きがけの駄賃で払える額ではない。 根拠のない勘任せ。 しかしおでんの思いつきならばそれは天意にも等しい影響力を持つ。 倒壊しかかった小高いビルの残骸の天頂に一跳びして、一区を俯瞰できる高所から眼力を集中してみれば、早速捉えた深い"染み"。 お天道様も眠った街の闇にあって、なおドス黒く穴を穿った殺意の集束地点目掛けて、屋上から自らを射出させた。 以上が、おでんが283プロダクション所属アイドルの寮施設に飛び込んだ経緯である。 一般よりも広い家をぐるりと取り囲み、堅気には持ち得ない練度と殺意を放って屋内ににじり寄る集団を見て取った時点で、おでんの行動は完了していた。 威を孕んだ気を解き放つ。殺意を上回る殺気が意識を撹拌させる。 覇王色の覇気。王者の資質ともされる特殊な意志の力。彼我の差が激しい相手が受ければたちまち気絶させる強者の特権だ。 致死には至らず、しかし暫く身動きは取れない塩梅で調節した覇気を飛ばしたことで、敵方の布陣は襲撃前に総崩れとなった。 「しかも襲う方も残らずガキときやがった。どいつもこいつも血走った眼ぇしやがってよ……!」 撃退はしたが、勝利とは程遠い。口内に砂利とは違う苦味が混じる。 地べたにへばりつく十数人は、どれも子供ばかりだった。 おでんから見れば下手な隈取でもしているような、一様に顔面に巻かれたガムテープ。 統率されていた手際といい、統一されたトレードマークといい。 大海の狭間でおでんが戦ってきた、旗(シンボル)を掲げた海賊達との記憶と、この子供達が 被って見えた。 「なんてぇ顔だ……笑って地獄に落ちたいってのかよ」 覇気に当てられて失神こそしているが、顔には張り付いた『狂』の面が取れないままだ。 剥がれなくなり、顔の一部として癒着してしまって。 海賊の子供なんて珍しくもない。少年が大志を抱き、遥かな海原へ飛び出すのは大物の証だ。 だが倒れている子供は、おでんが海を出た頃よりもずっと若い。 あさひと変わらぬ年頃、元服を越えてすらいない者もいるのではないか。 彼等の振る舞いは、輝ける憧れを胸に懐く冒険者のそれではない。 後ろ暗く、影から血と死臭を振り撒く殺し屋のそれだ。 闇も底も知るおでんとはいえ、これほどまで精神(こころ)を壊された幼子の過去は想像だにできない。 壊した上で、膿んだ傷を癒やしもせず殺しの技を仕込ませた者の性根も。 「おれが父上にしこたまどやされたのは、単におれが馬鹿なだけだったがよ。お前らにはそれすらなかったのか? なあ、どうだい別嬪」 「……」 独り言かと思えた呟きだが、他の子供達のようにのぼせて倒れない視線がひとつ。 こめかみを押さえ、膝をぐらつかせつつも、毅然とおでんを睨み返す。 黒の長髪、着崩しせずぴしりとセーラー服を纏う、美麗、という言葉がこれ以上似合う少女だ。 「聖杯戦争に一枚噛んでるやつだよな。なんでここを狙う?」 ゛こっちが言いたい台詞を盗るんじゃないわよ゛。 『割れた子供達(グラス・チルドレン)』No.2、舞踏鳥(プリマ)は胃液を嘔吐するのを耐えながら、そう突き返したくて仕方がなかった。 283寮は複数人のアイドルが住まいとし、関係するアイドルがよく出入りしているのは調べがついている。 半数のアイドルが都外へ出張にいったため残ってるのは二人だけだが、同じ事務所のアイドルなら顔パスで自由に入れる利点がある。 何らかの事情で打ち漏らしたアイドルやマスター本人が、避難の駆け込み寺として使う目算は高かった。 よって想定より数が増えても問題なく狩れるよう他のポイントよりも人員を多めに割き、副将である舞踏鳥(プリマ)が出張るまで万全の態勢を整えたのだ。 だというのに、奇襲の任務(ミッション)は失敗に終わった。 鉄火場に突如として吹いた颶風が、大男の姿を取って木っ端達を蹴散らした。 天を突く巨漢。歌舞伎座から出てきた婆娑羅者。都内で風聞する『義侠の風来坊』であるのは明白だ。 空から人工衛星の破片が落下して脳天に直撃したようなものだ。聖杯戦争に関与しない一般人を屠るだけの簡単な仕事のはずが、とんだ理不尽だ。 「サーヴァントの気配は感じねえ。ならここにいる奴はマスターじゃねえって事だし、おまえらの中にもマスターはいねえ。 ……だっていうのに何だってここまで大事やらかす? 他でもやってんだろ!? あちこちで火が回ってやがるのもおまえらの仕業か!! 聖杯も知らねえ!! 戦争も知らねえ!! 殺す理由が何処にある!?」 「そのセリフそのまま返すわよ中年親父(オッサン)。 聖杯も知らない、戦争も知らない、あんたに守護(まも)る理由が何処にあるの?」 大見得切って喝破するおでんにも『舞踏鳥』は怯まず言い返す。 理由はある。マスターが多数潜んでいるのが確定してる283プロダクションを襲って本物を炙り出す、明白の戦術の理由だ。 マスターでなくても関係者に危害を与えることは、荒事に慣れないアイドルの削りにも利用できる。 そしてこれはプリマにしか教えられていないが、あの犯罪卿の善の仮面を剥ぎ取るというガムテの裏の狙いもある。 翻ってこの風来坊はどうだ。 一体何の縁があってこの家を守る? 何の目的があって自分達の邪魔をする? 第一、どうして襲撃が露見(バレ)たのか。よもやあのプロデューサーが情報を漏洩させたのか。 今回の作戦は当然軟禁中のあの男の耳には入れてないが、どこかでいずれ裏切る腹積もりなのは簡単に読める。 サーヴァントが"無法(なん)でも可能(あり)"なのはさんざ実証済み。監視の目を掻い潜って援軍を寄越す可能性は、無いとは言えない。 無いとは言えないとした上で、『舞踏鳥』は違うだろうと推測する。 携帯はおろか住民票すら持ってるか疑わしい前時代的な服装と言動は露骨に過ぎる。 とてもじゃないが密偵に向いてる気がしない。こういうタイプは、人質の位置を知ったら前後をふっ飛ばして奪還に討ち入る(カチコむ)手合いだ。 合図から十五分、犯罪卿の暗躍があったと仮定してもロスがかかりすぎる。迂遠な連絡を経由して間に合う範囲ではない。 「そこで通りがかった! 縁なんざそれで十二分に足りらァ!!」 ほら、やっぱり。 睨んだ通りだ。コイツは、自分の意思だけでやって来た。 多少の縁で全力で報いる。交通事故に割り込んで車の方を大破させる。立て籠もりがあったら正面玄関から突入する。 そして恩を返して、犠牲者を出さず、力づくて事を丸めて解決してしまう。 義人であり、武人。 混沌の渦を生んでいながら、悪に堕ちず、善に生きる。 だから、奴と私達は交わらないと了解する。 寄り添い、歩み寄り、抱え込もうとする強さでは、割れた硝子の脆さは扱えない。 自分を顧みない余裕を持った強い者に、自分以外の何もかもを奪われた弱い者の精神(こころ)は理解(わか)らないし、理解(わか)って欲しくもない。 「いいわ。此処は引き上げる。どうせ一人助けたところで無意味だし。撤収~~~~~!!」 引き上げを告げる『舞踏鳥』の声に、それまで寝ていた子供達がのろのろと起き上がって、指令に従って退く。 (復帰が早ぇな。ただの町民上がりじゃねえのか?) 前後が定まらぬ者も多いが足を動かせる程度の意識は戻っている。鍛錬を積んだというだけでおでんの覇気を耐えられるほどの安さじゃない。まだまだ知らないカラクリを隠してるらしい。 迫害と中傷の煮凝りの晒された成れの果て。 巨大な後ろ盾を持った事で歯止めの利かなくなった、支配でなく破滅を目的にした悪意の顔。 ふと、どこかで聞いたような話を思い出した。 「おい」 背中を見せ去りゆく『舞踏鳥』を呼び止める。 刺客の中でも抜きん出た司令塔らしきこの女傑に、一つだけ問い質したいことがあった。 「おまえらの大将はカイドウか?」 女は振り返らない。 「私達の英雄(ヒーロー)は唯一無二(たったひとり)よ。過去(むかし)からずっと、ね」 そう、誰にともなく、独り言のように嘯いた。 子供達が全員家から去ったのを見聞色で確かめて、浅く息を吐く。 益荒男らしからぬ陰鬱を含んだ吐息。目を瞑りながら黙するのは、彼等の『縁』に立ち会えなかった事への黙祷か。 だがそんな辛気臭い面はすぐさま立ち消え、元のふてぶてしさが面に満ちる。 『ひ、ひとんちの前でなんばしよっと~~~~~~~~!!!???』と頓狂な声を上げる町娘に軽く侘びを入れてから、地面を強く蹴って跳ぶ。 一寸の幕間は此れにて閉幕。 今宵、迎える大一番。その舞台に向けて、流浪の侍は夜を越えて行った。 ■ 一陣の風に乗った音を聞いた時、私は自らの魂が爛れ、捻れ狂う結末を予感した。 何の音がしたのかと、一瞬耳を疑った。 実体を解れさせ、霊体と化していた状態で外の喧騒とは隔絶された。 何かを見て娘の慌てふためく声も対岸を挟んでるかのように遠い。 だが少し遅れて、それが刀を振り抜いて生まれた風切り音だと気づいた途端、空想で出来た胃の腑が火を吹いた。 鬼を脅かす性質の日輪刀。 鬼狩りの剣士の気配。 記憶にある回顧録は点在した情報を繋ぎ合わせ、ひとつの結論を導き出す。 "いる"と。 有無を言わさず肉を得た指で無梅の首根っこを掴んで駆け走る。首にかかる指と風の圧で苦しげに喘ぐが頓着しない。 体を持ったことで、幻覚だった肺腑の炎が現実の熱を伴う。 灼ける肉の匂いがする。焦げる骨が摩擦で灰になる。腹の臓器がのたうち回って口からまろび出そうになる。 だがどれだけ業火が我が身を焼こうと足が止まりはしない。たかが地獄より噴く小火、天から降り注ぐ絶滅の光と比較になろうか。 進む度に五体が燃え盛り、気配が近づくほど目玉が焼け落ちる。 全身がまさに火達磨になっても止まらず光を目指す。それ以外の命令は脳から抜け落ちた。 太陽を掴もうと地平に這いつくばるような、永遠の追走。 しかしこの夜のみに限って天命は我が身に傾き、月光が標となって誘い招く。 私は進んだ。迷うことなく終着の場へと。 木々も草花も烏有に帰した森の跡。 黒炭の大地。青い死花。あの日と同じ、禍々しい赤い月の下で。 私達は邂逅を果たした。 「…………兄上」 立っている。 揺らめく陽炎の彼方に、網膜に焼き付き離れない往時のままの男が、立っている。 千里をも見渡す透き通った目。額には炎の痣。 腰に携えるは、紅蓮の華を咲き誇る鬼滅の刃。 摂理に縛られた人間の無能を証明する、この世でもっともおぞましい聖者。 継国緑壱。 血を分けた我が双子。 最強の鬼狩り。太陽の具現。神仏の加護を一身に受け、あらゆる鬼の追従を許さぬ窮極の剣士。 昔日の記憶と寸分違わぬ若い姿は、疑いなく全盛期。 一手見ずして突きつけられた。否応もなく理解させられる。 明鏡に達した精神。両肩を押しつぶす圧迫。人世の理を狂わせる領域外の才覚。 英霊と昇華された魂を収める器を、界聖杯は完全なる再現を果たしていたと。 「兄上も、招かれていたのですか。 その、お姿で」 人通りの波から遠ざかった園の外れで対面した顔は、予想だにしなかったという表情をして、憐れみを見せた。 生前僅かな機微を一度しか見せなかった弟の、どこかとぼけた面持ちに顳顬(こめかみ)が軋みを上げる。 内側から体を突き刺す苛立ちと吐き気。当時のまま蘇った往年の怨恨が、皮肉にも目の前の存在が本物であると認めざるをえなくさせた。 「緑壱…………」 焼け付き息もままならないかと思えた喉から出た声に、私自身が驚いた。 まるで末期の到来を間近に察した老爺かのように萎びていた。迫りくる死を、逃れられぬと認めた諦観の念が肺を渦巻いた。 それが諦め、という名をしているのだと気づき、私は愕然として震えた。 何故だ。何故諦めなど抱くのかと自問自答する。 緑壱に追いつくために剣技を磨いていたのではないのか。 埋めようのない才能の差を補うために鬼になったのではないのか。 あの時とは違う。あれから四百の月歳を鍛錬に費やした。数え切れない人間を喰らい力を高めた。鬼狩りも柱も幾度となく屠ってきた。 死という永遠に留まった緑壱と違い、私は進み、勝ち続けた。 亀の歩みだとしても、費やした時間は奴との距離を縮めた筈。今こそその結実を叩きつけ、明暗を分ける絶好の機会ではないのか。 …………いいや。いいや。そんなわけがない。 そんなわけがないのだ。 人間の尺度で奴の強さを図れるものか。思い上がりも甚だしい。 賽の河原でどれだけ石を積もうが天を突く塔など建たない。亀は万年歩こうが地を這うだけだ。追いつく日など無限をかけても来やしない。 上弦を束ねても勝ちの目は零に等しいあのお方すら、傷一つつけられず敗死寸前まで追い詰められた。 老いさらばえた寿命で死ぬ寸前でさえ、鬼となった己を一蹴した。 その、神の御業を最上の威力で放てる状態を保った男に、単騎でどうやって勝つというのか? 語るでもなし。 一呼吸の間、たった一合で勝負は決する。天が逆しまに覆そうが変わりはしない、確定した未来だ。 ”……そうか。つまり、私は” 緑壱の強さを手に入れるための戦いで、緑壱を倒さねばならない。 この矛盾に対面した時点で、私はこの戦争の敗北を飲み込んでいたのだ。 私をこの場で斬り捨てて、緑壱はこの聖杯戦争を破竹の勢いで勝ち進むだろう。 いるやもしれぬあのお方も今度こそ逃さず、並み居る英雄を撃ち、強壮なる悪鬼を誅し、神すらも下に置くのだろう。 そして緑壱は聖杯を手にする。無欲なる者が欲望の盃を掲げる、規定の結末を迎える。 勝利と報奨を醜く奪い合う餓鬼の群れを、まるで天意だとでもいうように神の御使いが平定する。 なべて世は事もなし。誰の望みも叶うことなく、聖杯戦争は安寧に幕を下ろす。 そんなもの、承服できるはずがない。屈辱と敗北感で五臓六腑がねじ切れそうだ。 だが、勝ち筋というものが一切見つからない。あらゆる足掻きは無意味だ。 第二の生においても、黒死牟は何も掴めずに死ぬ。生まれた意味を見いだせぬまま。 ”ああ…………だが、あの再演だけはまだ…………果たせるのか……” 赤い夜での別離。 呪いの始まり。 頸を落とされず老衰による死で勝ち逃げされた時、私は一切の敗北を許されなくなった。 最も強き侍に敗れる、最低限の誇りすら持ち去られた恥辱を振り払おうとするなら、勝ち続ける他ない。 緑壱より劣る剣士に負けるようでは、得た強さも捨てた裏切りも無意味な愚行にしかならない。 だが今、やり直しの機会が訪れている。 緑壱との立ち会い。白黒の明暗が分かれた決着。 取り残された後悔の精算だけは、少なくとも、此処で済ませられる。 嗚呼ならば、それこそが私がこの戦場に招かれた唯一の─── 「あの……セイバーさんの……弟さん…………ですか?」 悔恨を晴らす決闘の最中に紛れた、雑多な小声が、納得しかけた心境に波紋を打つ。 「ぇと……その………………こ、こんばんは……。幽谷……霧子です…………」 礼儀正しく身を屈める、空気を読まない娘に、緑壱は律儀にも軽く会釈で返す。 私と娘とを交互に見合わせながら、暫くして口を開いた。 「その子が、兄上の主なのですか」 かけられた問いに、何か、今までとは異なる部類の恥辱が全身を回り巡った。 「…………ただの……要石だ…………こんな弱卒…………この身を保つ糧に過ぎん…………」 黙殺すればよかったものを真っ当に返してしまい、恥を上塗りする。 困ったような微笑で応える娘がいやに癪に障る。 また目の届かないところで令呪を切られるのも鬱陶しく連れてきたが、今は枷ごと連れてきたのを後悔した。 私が消滅すればサーヴァントとの契約を失う。マスターではなくなれば戦いから解放される。 黙ってれば望みは転がり込んでくるのに、それをわかっていないのか。 「兄上」 意識が引き戻される。緩みかかった精神を引き絞る。 指は柄に伸びている。たとえ刹那に散ろうとも、最後まで侍として戦おうと。 「予てより、兄上にお聞きしたい事がありました」 なのに。 緑壱は抜きの構えすらせず、いやに神妙な顔を浮かべてそう前置きをした。 驚くべきことに、口に出すべきかを悩んで言い淀むという見た事のない、人間でいう逡巡の仕草をして。 「兄上。なぜ、鬼になったのですか」 「──────────────────────────────────────────」 なんだ、 それは? 何を言っている。 何を聞いている。 今更になって、死んだ後の、刀を一振りすれば終わる死合にあって、どの口がそんな駄法螺を吹くのか。 お前は、私が望まず鬼にされたと思っているのか。 憎き始祖に無理やりに血を注がれ、鬼へと変じる事への怒りと嘆きを叫びながら変貌したと思っているのか。 当時の産屋敷の当主の首を斬って、鬼にしてもらう手土産にしたのを知らぬ筈があるまい。 それすらも、従う他ない、止むに止まれぬ事情があって魔道に堕ちたのだと、そう思っているのか。 お前はずっと───あの日の私も、そんな憐れなものを見る目で見ていたのか? 「緑壱……っっっ!!!」 全身を蝕んでいた諦観が、一瞬で極大の憎悪に変換された。 怒りで血管が破裂して至る箇所で内出血を起こす。青紫に腫れた肌が再生し、また崩れる。 これ以上なく憎んでいた弟に臨界が振り切れる。心臓を抉るような嫉妬心すらこの時は忘れた。 視界が真紅で染まる。脳が色をそれしか受け付けない。 地面も空も焼かれた炎熱の世界で、ひとつだけ燃えないモノ。炎以上の温度で火を寄せ付けない星。 憎しみだけで殺すのは気持ちがいい。一色で完成した宙はこんなにも爽快だ。 ああ、矜持も勝敗もどうでもいい。衝き動かすのは殺意だけだ。 俺にある全てを擲って、あの光を貶めてやる。輝きを翳らせてくれる。 ただ、あの星を周りと同じ色に翳らせられれば、この乾きは止まってくれるだと譫妄を信じて。 「だめ…………! そっちに……行っちゃ…………!」 縋り付く声が横合いからする。聞こえない。煩わしい雑音で酩酊した気分が削がれる。 この女は、邪魔だ。邪魔ばかりしてきた。目障りな事ばかりしてくるものは、もう要らない。 雑音に向けて腕を振り下ろす。赤い月が、黒焦げた大地に墜ちた。 ■ 今度は、間に合うだけ近づいていた。 警察署で救助した負傷者を、被災者を集めて保護してるという広場の人間に託したところで再会した兄に戸惑いを憶えながらも、躯体は遅延を起こす事なく反応した。 主である筈の少女に凶刃を向ける兄を、刃が到達するより先に頸を斬るのも可能な範囲だった。 「ぇ…………」 掠めた月牙が銀砂の髪を夜空に散らす。 叩き切られたのは携帯端末のみ。霧子は抱えられて遠ざけられた現実を理解するのに数秒を要した。 腰元の刀を抜かずに霧子だけを拾い上げた緑壱。不可解な行動は血を分けた肉親への引け目ではない。 自身の刃よりも先に、上から降ってきた月が黒死牟の刀を受け止めたからだ。 「巨人に腕六本の剣士、龍に鳳凰地震親父……いろんな奴を見てきたが、眼が六つもある奴は初めてだな」 斬撃を生み出したのが凶つ月なら、防ぐのもまた月。 光背負う十字。二振りの刀は墜落する三日月に立ち向かい見事に押し返す。 握る指は野太く。肉の漲りは月すら背負えるほど硬く、大きい。 「何だ……お前は……」 「ぶった斬りに来といてご挨拶だな。だがしかし、聞かれたからには答えて進ぜよう!」 刀を弾かれ極寒の殺意を放つ黒死牟に負けじと、二刀を構え足を開いて大見得を切る。 「狭い里を抜け、広い海を出て三千里。馬鹿見て歌舞いて鍋の上で大往生。 そのまま具材の出汁かと思えば、またも窮屈な檻の中。金なし住まいなし甲斐性なし! たった一つ残った刀携え、開いた祭りに出向くは一匹侍。無敵の相棒引き連れて、ひとまず狙うは盃で一献、美味い酒! ───セイバーのマスター、光月おでんたぁ、おれのことよ!!!」 枯園に舞い散る花の音頭。 侘しい避難所を酒場の宴会に盛り上げる謳い手。 「わあ……!」と感嘆する霧子を囃子に、光月おでんは登壇した。 「で……嫌な気がして来てみたらどういう状況だ。誰だアイツ?」 「私の兄だ。鬼となった姿で限界した」 「んだと? そいつァまた奇縁なこった……」 生前のしがらみは厄介なもんだと緑壱に向き直った先で、おでんの顔は固まった。 「おでん、下がれ。これは……私がやるべきことだ」 おでんが来てくれたことは緑壱には僥倖だ。抱える少女が万に一つも巻き込まれる目を摘んでくれる。 生前を寿命の終わりで討ち漏らしてしまった無念は未だ胸に刻まれてる。 界聖杯の巡り合わせがどうあれ、これもまた己の役目だ。 いざ責務を果たすべく出ようとした緑壱の前を、おでんの丸太を思わせる腕が柵になって塞いだ。 「……………………あー」 「おでん?」 「いや、だめだ。悪いがこいつとは俺がやる。お前さんは引っ込んでいてくれ」 「……何」 「何………?」 異口同音に戸惑う兄弟。 緑壱は思いもしない主の命に、黒死牟は対戦札を代わるという宣言に、同じ意見を口にした。 「っつってもそう言われて止まるお前じゃねェのはよくわかってる。んで、力づくで止める事もおれにはできねェ。まことに情けねェ話だがな。 白吉っちゃんやロジャーなら拳骨で黙らせられる事にも、おれはこんな気に食わねえ代物に頼るしねェ」 後ろ姿のおでんから、薄ぼんやりと鈍い光が輝いた。 緑壱と黒死牟は、共通した視覚からおでんの体内の意気や覇気とも呼べる活力が賦活し、右手の甲の一点に集約していくのを見て取り。 「もう一度言うぜ。悪いな、緑壱。 『この試合、お前は一切手を出すな』」 赤光が眩く闇を灯す。 個人に収まりきらない莫大な魔力が、おでんの手の内で一気に消費される。 三角で編まれた月の紋様。サーヴァントとの契約の証にして、縛る戒め。 自身のサーヴァントに意に沿わぬ命令を従わせる事もできれば、通常では叶わぬ奇跡を行使させる事もできる。 聖杯戦争の趨勢を担う切り札を、途轍もなく無意味な使い方でおでんは消費したのだ。 程なくして消えた魔力は、渦巻く風を生んだ後に虚しく消える。 目に見える大きな変化はない。宝具の開帳も、能力上昇による魔力の波も起きはしなかった。 変わったのは、おでんの手から消えた一角の令呪。 そして。 「……ぐっ」 緑壱の喉から、誰も聞いた事がない苦悶が漏れる。 不可視の赤い鎖となって、令呪の戒めは緑壱に絡みついた。 如何に無法の強さを持っていようと、緑壱がサーヴァントである前提に変わりはない。令呪の効果は当然適用される。 強力な対魔力、神性や霊格に由来する束縛への耐性があれば抵抗の機会を得られるが、剣士として純化されきった緑壱に魔術に抗する術は備わってない。 降りかかる呪いを剣で斬り伏せる事はできても、契約のラインを通じて流される令呪には斬りようがなかった。 令呪の効力の強さは、具体的な命令、マスターの能力値、サーヴァントの霊基質量によって増減する。 その点において、おでんの使用法は的確だった。目の前の戦いに助太刀しないという内容に限定し、縛りを強くしている。 しかも発動のついでにおでんの自前の覇気も流し込んでいる。 一定以上の実力があれば『覇王色の覇気』による居竦みは通じないが、令呪で抵抗力を奪った後なら話は別だ。 令呪と覇気の相乗で撃った『手を出すな』という主の言葉は、緑壱をこの戦場から蚊帳の外に弾き出したも同然にした。 「おでん……お前は……」 案山子のように立ち尽くすしかない緑壱は唖然とする。 どれだけ理屈を並べ考えても、この手に及ぶだけの理由が見当たらない。 主君の破天荒ぶりは一月の連れ合いで理解していた筈なのに、その斜め上を行った。 大和、銀翼のランサー、カイドウ。東京を廃都に変えんとする猛者を相手取るのは、自力だけでは一手が届かないやもしれぬ熾烈を極めた戦になる。 おでんも緑壱も命を捨てる覚悟で臨まなければ敗北は必死。それほどの敵なのだ。 その時のためにこそ、令呪の支援は必須だった。魔術師ならずマスターと神秘に触れぬサーヴァントといえど、与えられた聖痕は一律に使える。 それを、まさか勝たせるのではなく戦わせない用途で用いるなぞ、どうして想像できようか。 「おい緑壱。 お前、自分がいまどんな顔してんのかわかってんのか?」 当惑のままにいた緑壱に、さらに投げかけられる不可思議な問い。 そう言われても顔を歪めてる自覚がない。手で頬を撫ぜてみても、表情筋に強張りはない。 傍から見ている黒死牟にも、変わらぬ鉄面皮を保ったままとしか映らなかった。 ……ひとり、気遣うような瞳で緑壱の顔を見上げている霧子を除いては。 「何が最強の鬼狩りだよバカタレが。今にも泣き出すガキみたいな顔しやがって。あさひ坊といい勝負だぜ。 そんな顔をしてるやつを───このままおれが戦わせると思ってんのか?」 沸々とした、風呂釜の湯が置かれたような錯覚。 白煙が元より大きな背中を何倍にも膨張させる。 漠然と、茫洋としたものでしかないが、どうやらそうらしいと推測する。 おでんは今、怒ってる。緑壱の顔に。いいや、緑壱が黒死牟と戦おうとしてる事に、何やらとても腹を立てている。 父に疎まれ、母に愛され、鬼狩りには畏敬の言葉のみ送られてきた緑壱には、友の空洞を指摘する叱咤であると気づけない。 「文句がありゃ言ってくれ。酒の席で好きなだけ聞いてやらあ。 まあ、あれだ、とんだバカ殿を引いちまったと観念してくれりゃあ、助かる」 ずんずんと歩くおでんは止められない。 令呪による拘束より前に、この男はもう止められないのだと肌で感じた。 最早こうなっては全てを見届けるしかないと腹を決める。兄のマスターにも手振りで下がるよう制して。 「さて、と。待たせたな兄ちゃん。そいじゃ始めようかい」 誰何の兄であった鬼の前に立って、云って、一笑い。 抜き身の刀を持ったまま二人の遣り取りを見入るだけだった黒死牟に、ようやくおでんは話しかけた。 「……何の……つもりだ…………私に施しでも…………しているつもりか……」 「お? なんでえなんでえ、口に出さなきゃわからねェってか? 粋じゃねェなあ。弟とそういうとこは似てんだな。 こう言ってんだよ。『あいつと戦いたいなら、まずはおれを倒していきな』ってな!」 遂に見えた望外の展開を、あらぬ方向に捻じ曲げられた。 熱くたぎった熔鉄を呑んで、腹に溜め込まれていく。炎獄のごとし怨毒が黒死牟の手足を痺れさせ、脳に回る。 度し難き乱入者。自分と緑壱の間に割って入って、あまつさえ取って代わったうつけ者に残り火が鎌首をもたげる。 マスターでありながら英霊の粋に至った剣腕を持っているのは、最初から視えている。 それがどうした。英霊に抗せる技量の強者、生まれつきの天才がいる前で惜しむものではない。 この日だけを待ち望んでいた。灰になるまで焦がれ続け、泡沫の二度の生を迎えてまで願った相対なのだ。 腕が立つ程度の、何処の馬の骨とも分からぬ侍が阻んでいい決闘では断じてない。 「────────────では……そのまま死ね」 湧き上がる月輪。 黒死牟の意思をこれ以上なく表す、夥しい数の斬撃が群れをなして飛びかかる。 倒せというなら是非もない。瞬くうちに殺してやろう。 乱れきった心を無関係に、月を呼ぶ息吹は変わらぬ機能を発揮する。 第一。 この男は絶対にしてはならないことをした。 緑壱を跪かせるという、見てはいけないものを見せた。 令呪の機構を理解していてなお、縛られる緑壱の姿を晒したことが許しがたい冒涜だ。 頸を落とすだけでは釣り合いが取れない。四肢を削ぎ”はらわた”を残らずぶち撒けてから殺してやる。 振りかざす刀が、弟の才への嫉妬心以外の理由が混じっていることの自覚を持たぬまま先手を見舞った。 「死なねェよ。惜しむ命なんざもうないが……おれはまだ死ぬわけにはいかねェんだ」 おでんは怯えも動揺も見せず型を取る。 腹がふくれるほど、大きく息を吸う。大道芸にあらず、取り込んだ空気は脳内から指先足先の隅々まで行き渡り血の巡りを加速させる。 (まさか─────────) 不格好なれど、その動きはよく知っている。 常に鬼の前に現れる剣士が体得している術。己も学び、今も怠らず常用してる、太陽を登る階の一段目。 「”全・集・中”!!!」 吐くと同時に隆起する上腕二頭筋。 練り上げられ、この先はないというほど高められた体が、新たな地平へ身を乗り出す。 「”おでんの呼吸 壱ノ具材”」 腰を深く落とし、二刀を水平に。 構える腕が、握られた刀身が、黒曜石色に”武装”を纏う。 守りの型はない。弦が切れるまで引き絞られた強弓のように、解き放つのみ。 刮目せよ六眼。 神妙にして見よ。 この一閃こそ人の夢。鎖された牢獄を破る意思を伝えた鏑矢。 「”桃源白滝”!!!」 通過する横一文字。 動く山と形容される威容の神獣すらも叩き割る至大の剣撃が、囲い込む月輪を羽虫の如く撃ち墜とす。 受ける黒死牟。刀身が半壊しながら頸への到達を免れるが、殺しきれない衝撃で足が浮き、踏ん張りが効かず後方へと吹き飛ばされる。 振り抜き終え、地に立つはワノ国の剣豪。 お披露目された新境地は、取りも直さず、鬼の膂力を上回る超力を繰り出した。 「感謝する。 俺はまだまだ、強くなれる」 相克する禍月と光月。 夜空に双つの月は不要と、互いの輝きを否定し合うように光を強める。 戦う必要のまるでない、だが絶対に避けてはいけない剣豪の勝負が始まった。 【新宿区・新宿御苑避難所の郊外/一日目・夜】 【幽谷霧子@アイドルマスターシャイニーカラーズ】 [状態]:健康、お日さま [令呪]:残り二画 [装備]:包帯 [道具]:咲耶の遺書、携帯(破損) [所持金]:アイドルとしての蓄えあり。TVにも出る機会の多い売れっ子なのでそこそこある。 [思考・状況] 基本方針:もういない人と、まだ生きている人と、『生きたい人』の願いに向き合いながら、生き残る。 0:黒死牟さん……そっちに行っちゃ…… 1:色んな世界のお話を、セイバーさんに聞かせたいな……。 2:病院のお手伝いも、できる時にしなきゃ…… 3:包帯の下にプロデューサーさんの名前が書いてあるの……ばれちゃったかな……? 4:摩美々ちゃんと一緒に、咲耶さんのことを……恋鐘ちゃんや結華ちゃんに伝えてあげたいな…… [備考] ※皮下医院の病院寮で暮らしています。 ※"SHHisがW.I.N.G.に優勝した世界"からの参戦です。いわゆる公式に近い。 はづきさんは健在ですし、プロデューサーも現役です。 【セイバー(黒死牟)@鬼滅の刃】 [状態]:焦瞼 [装備]:虚哭神去 [道具]: [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:緑壱の強さを手に、いやもう意味はない。ただその御業で頸を落としてくれれば、そんなことはない聖杯があれば超える強さを、 0:私の邪魔をするな。 1:私を見るな。 2:私を憐れむな。 3:私に触れるな。 4:何故……………お前は……………………。 [備考] ※鬼同士の情報共有の要領でマスターと感覚を共有できます。交感には互いの同意が必要です。 記憶・精神の共有は黒死牟の方から拒否しています。 【光月おでん@ONE PIECE】 [状態]:全身にダメージ(中)、右肩に刀傷(行動及び戦闘に支障なし)、疲労(中)、呼吸術習得 [令呪]:残り二画 [装備]:なし [道具]:二刀『天羽々斬』『閻魔』(いずれも布で包んで隠している) [所持金]:数万円程度(手伝いや日雇いを繰り返してそれなりに稼いでいる) [思考・状況] 基本方針:界聖杯―――その全貌、見極めさせてもらう。 0:緑壱のためにも、このバカ兄貴をぶん殴る。 1:他の主従と接触し、その在り方を確かめたい。戦う意思を持つ相手ならば応じる。 2:界聖杯へと辿り着く術を探す。が―― 3:カイドウを討つ。それがおれの現界の意味と確信した。 4:ヤマトの世界は認められない。次に会ったら決着を着ける 5:何なんだあのセイバー(武蔵)! とんでもねェ女だな!! 6:あの変態野郎(クロサワ)は今度会った時にぶちのめしてやる! 7:あさひ坊のことが心配。頃合を見て戻りたい [備考] ※古手梨花&セイバー(宮本武蔵)の主従から、ライダー(アシュレイ・ホライゾン)の計画について軽く聞きました。 ※「青い龍の目撃情報」からカイドウの存在を直感しました。 ※アヴェンジャー(デッドプール)の電話番号を知りました。 ※廃屋に神戸あさひに向けた書き置きを残してきました。 ※全集中の呼吸を習得してました。 【セイバー(継国縁壱)@鬼滅の刃】 [状態]:疲労(中)、全身各所に切り傷や擦過傷(いずれも小程度)、令呪による拘束 [装備]:日輪刀 [道具]:なし [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:為すべきことを為す。 0:この戦いの結末を、見届ける。 1:光月おでんに従う。 2:他の主従と対峙し、その在り方を見極める。 3:もしもこの直感が錯覚でないのなら。その時は。 4:凄腕の女剣士(宮本武蔵)とも、いずれ相見えるかもしれない。 [備考] ※鬼、ひいては鬼舞辻無惨の存在を微弱ながら感じています。 気配を辿るようなことは出来ません。現状、単なる直感です。 時系列順 Back プロジェクション・イントロデュース Next さまよう星と僕 投下順 Back プロジェクション・イントロデュース Next 悪魔は隣のテーブルに ←Back Character name Next→ 090 sailing day 北条沙都子 104 力と銃弾だけが真実さ アルターエゴ(蘆屋道満) 092 Hello, world! ~第一幕~ 幽谷霧子 103 真月潭・月姫 080 てのひらをたいように(前編) セイバー(黒死牟) 090 sailing day 光月おでん 103 真月潭・月姫 セイバー(継国縁壱)
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りょうげつたんしきょく【登録タグ VOCALOID り 卑屈P 曲 曲ら 鏡音リン 鏡音レン】 作詞:卑屈P 作曲:卑屈P 編曲:卑屈P 唄:鏡音リン・鏡音レン 歌詞 帰らざる 日々に 焦がるるまま 一年(ひととせ)の永きを知りて 錦織る也 静心(しづこころ)無く 待ち侘びる夜 忘れらるることは無きやと 憂うばかり 頬を伝う 酒涙(さいるい)の雨 止まずとも 駆け 今往きます 今往きます この刻の大河越へて 今往きます 今往きます 今宵満つる我が想ひ 今逢えます 今逢えます この刻の大河越えて 今逢えます 今逢えます 今宵満つる我が想ひ 今往きます 今往きます この刻の大河越へて 今往きます 今往きます 今宵満つる我が想ひ 今宵満つる我が想ひ コメント 良曲…! -- ポン酢 (2010-01-22 21 49 21) サビでぐあってなる 感動した -- 桜餅 (2011-07-10 21 59 15) 埋もれた名作。もっと評価されるべき -- 通りすがっちゃった人 (2012-09-08 08 30 08) 名前 コメント
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これは何の夢なのかと鬼はふと思った。 口に出すことはしない。 答えを求めていたわけではなかったからだ。 それによしんば答えが返ってきてしまえば、ようやく落ち着き始めた調子をまたも狂わされることになるのは見えていた。 安らいだ寝息を立てて眠る要石の娘。 それとは対照的にガーガーと大いびきを掻いて眠りこける二刀流の破天荒。 どちらも黒死牟にとっては決して好ましい相手ではなかったが。 なのに剣を振るう気はおろか、握る気すら湧いてこないのは。 やはり先の勝負で敗けたのは己の方なのだろうと、鬼…黒死牟にそう思わせるに足る空白だった。 “剣を握り三百余年。あの地獄で苛まれ続けた時を含めれば……更にその数倍” 思えばあまりに長い時間を剣に費やしてきた。 物心付いた頃には既に剣は己の近くにあった。 人であることを止めてもまだ剣を握り続けた。 地獄の炎に焼かれながらも、心の中の刃だけは置かずにいた。 ならば当然サーヴァントになっても刀を手放すことなどなく。 悪鬼、黒死牟として刃を振るい続けた。 振るい、振るい、振るい、振るい…。 そうして己の内の妄執を燃料に血の通わない躰を動かし続けて。 侍の誉れも誇りもまるでない異形の刀のみを寄る辺として戦い続けた――その結果がこれだ。 その顛末がこれだ。 あれほどまでに魂を焦がした炎は無様にも凪ぎ。 ああも執着した弟が傍にいるというのに刀の柄すら握らず。 人倫から解き放たれた己(おに)の行方を鬱陶しくも遮ろうとする少女のその微睡みを引き裂けず。 一騎討ちの剣豪勝負で討ち果たせなかった人間のいびきを黙って聞いている始末。 “……我が刃も……遂に、錆びたか………” なんと情けない有様か。 地獄での長い懲罰は魂の在り様までもを腑抜けにさせたか。 そう嘆かわしく思う感情はありながらも、しかしそれは黒死牟の裡を焦がす炎を再び呼び起こしてはくれなかった。 人間の頃以来ついぞ感じることのなかったであろう心の静寂。 これを安らぎだと認識出来ないのは黒死牟という鬼にとっての最後の一線なのか。 或いは其処こそが黒死牟と■■■■を隔てる境界線であったのか…その真なるところまでは定かでないが。 “弟を超える悲願は叶わず。それどころか…” 主と認めて傅いたあのお方への忠誠も貫けない。 何もかもが宙吊りのままに終わる無様。 それを恥じずにいられるほど黒死牟は無慙無愧にはなれなかった。 彼にもしもそのくらいの大雑把さがあれば、そもそも人を辞めてまで弟に固執することもなかっただろう。 絶対の存在として膝を折り忠を誓ったあのお方。 彼が今の己を見たなら青筋を立てて罵倒するだろうという確信があった。 果たしてこの地にあのお方は存在しておられるのか。 己と同じく時空の果てから呼び寄せられているのか――そこまで考えて。 「……………………、……………………」 ――違和感を、抱いた。 今まで滞りなく噛み合っていた歯車がズレた。 精密な絡繰を構成していた螺子の一本が外れた。 そんな違和感を前に黒死牟は胸中の声までを沈黙させる。 何だ。私は今、何を忘却(わす)れている……? 眉根を寄せて六眼を怪訝の色に染める黒死牟。 そんな彼の疑問に答えを与えたのは、やはりというべきか"彼"であった。 「兄上」 「…何だ」 「一つ。お聞きしたいことがございます」 「……何だ、と私は言った……」 「この問いを兄上に投げかけること。そこに決して他意はないことを…踏まえた上で聞いていただきたい」 黒死牟がそれを知ればきっと憤ったろうが。 縁壱は今、兄との会話を全くの手探りで行っていた。 兄が鬼と成り果てたことを知っても縁壱は彼への親愛を捨てなかった。 しかし縁壱は、最後の邂逅を果たす権利を得てもなお彼を救えなかった。 慈悲を以って終わらせてやることすら出来なかった。 その頸を切り裂くことは出来たが、そこが限界だった。 それまでだった。 継国縁壱は所詮そこまでの男だった。 そのことは英霊となった縁壱の霊基にもしっかりと傷となって刻み込まれていたようで。 そしてだからこそ彼は今…夢物語のように舞い降りた生前果たせなかった結末に当惑している。 少なからず、動揺している。 兄が刀を納めて自分と同じ道を進んでくれるという事態に――真実、魂の底から望んでいた筈の未来がこうして目前にあることに。 らしくない戸惑いを抱かずにはいられない。 それが今の縁壱だった。 そしてその彼が兄に問うたこと。それは…… 「兄上は――覚えておられますか。貴方を鬼へと変えた男の名を」 忘れられる筈などない。 そもそも忘れる道理がない。 嘗めているのか、嘲笑っているのかと憤られても文句は言えないだろう稚拙な問いかけだ。 かつて人間だった己を魔道に導いた鬼の始祖。 忘れるべくもない。 人を辞めて膝を折り忠を誓った相手の名を忘れるなど、言語道断の不忠であろう。 そして…だからこそ。 「…………な、に?」 黒死牟はこの時心の底から驚愕した。 そうするしかなかったからだ。 何故なら今の今まで、縁壱からその名を出されるまで。 黒死牟は…十二鬼月が筆頭であった筈の"上弦の壱"は。 ■■■■■というその名を――完膚なきまでに忘却していたのだから。 「やはり…でしたか」 「縁壱……答えろ、お前は……何故、私が………あの方の名を忘れていると、思った…………」 「私も、思い出せなくなりつつあるのです」 そう言って縁壱は自分の右手に視線を落とす。 その視線の意味は黒死牟にも分かった。 かつてあのお方を斬った腕。 最強不変の鬼を膾切りにした神の腕(かいな)。 「記憶が、まるで霞が掛かったように茫洋としていく。 時を経る毎に確実に…何としてでも討ち果さねばならぬと誓ったあれの存在が抜け落ちていくのです。 今や私も――」 奴の名を思い出せない。 と、弟は言う。 それに対して黒死牟は何も言えなかった。 彼もまた同じだったからだ。 同じ。そう、同じだ。 人の世と袂を分かって頭を垂れた主。 鬼の始祖たるあのお方の名を思い出せない。 「私は…この東京に奴がいることを確信しておりました。兄上は如何でしたか」 「………………」 予感していたと言えば語弊があろう。 黒死牟はその可能性に思い至りながら目を背けていた。 しかし今となってはそうすることにも意味はあるまい。 彼は彼で、縁壱と同じように――この時既に悟っていたからだ。 ■■■■■――(鬼舞辻無惨)。 我ら鬼の絶対にして永遠の始祖たる"あのお方"が、この地で敗死を喫したことを。 「……その可能性には、思い当たっていた……が…………」 「であれば最早疑う余地はないでしょう」 「私も……同じ、考えだ………。俄には……信じ難いが……」 「私とて同じです、兄上。私は…奴を今度こそこの手で滅ぼすことこそが、この現界における使命であると高を括っておりました」 かの者がどうやら滅ぼされたらしい事への驚きは縁壱も黒死牟も一緒だった。 かの者が鬼の中で絶対とされていた理由は、何も無惨が最初の鬼だったからというだけではない。 全ての鬼を常に支配し生殺与奪を掌握する絶対の王権。 そして誰もに恭順を選ばされるだけの圧倒的な力。 縁壱をして肝を冷やしたと言わしめた次元違いの暴力。 今だからこそ至れる思考だが、己の選んだ道は酷く大きな矛盾を抱えていたのだと黒死牟は思う。 継国縁壱と鬼の始祖の間における彼我の差は既に明確に示されていた。 縁壱を超えるのだと願うのならば必然、まずは天まで聳えた壁の前にある始祖■■以上の力を手に入れる必要があったのだ。 他人へ上下関係の何たるかを説いておきながら、自分が最もそれに反していた事実。 その愚かしさを今になってようやく理解しながらも――黒死牟は弟の声に耳を傾ける。 地獄の炎に灼かれても憎み続けた憧憬の声を。 「しかし…。どうやらそれは私の思い上がりだったらしい」 黒死牟が主君の死を悟った理由は縁壱の言葉だった。 彼の言葉を聞いた瞬間にようやく気付いた。 始祖の名は愚かその顔や力の詳細すらも、黒死牟はとうに思い出せなくなっていた。 こうしている間にも始祖について有していた筈の知見や記憶が日に曝された霜のように溶け崩れていく。 完全に記憶が溶け落ちたなら、そもそも鬼の始祖などという存在があったことすら忘却してしまうのだろうか。 であれば彼の血を賜り変生したこの躯の体はどうなるのか・ 一体あのお方は何と行き遭い…そして滅ぼされたのか。 黒死牟にはいずれの答えも想像することが出来なかったし、それは縁壱とて同じのようだった。 「果たすべき使命はまたしてもこの手をすり抜けて消えた。 であればこの身が此処にある意味とは、おでんの――我が主君の仇敵を討つことなのか」 「縁壱………。それは…………」 剣も持たない手で虚空を掴む。 当然その五指は何も掴むことなくすり抜けて掌に触れた。 なんとこの身は無価値なのかと無常を気取るようなその仕草。 それを目にした途端。 黒死牟の心の裡がカッと熱を帯びるのが分かった。 「それは――……弱音か………?」 何も掴まず空を切った縁壱の五指。 彼とは対極に、黒死牟の手は目玉の浮き出た鬼刀の柄を握っていた。 刃を見せぬのは彼を熱くした"熱"が嫉妬と羨望によるものではなかったからか。 上弦の壱として数百年自他の境なく全てを灼き続けた炎とはまた種の異なる"熱"だったからか。 真のところは彼にすら分かるまいが、確かなのは縁壱の吐露した言葉が彼にとって非常に不愉快な文言であったらしいこと。 「それだけのものを持っていながら…この世の全てに愛されていながら……」 「…兄上。おやめください」 「お前は……私に、そんな戯言を吐くのか………?」 炎に灼かれ続けていた頃ですらも。 黒死牟が縁壱に向ける感情は複雑に捻じくれ怪奇していた。 憎悪に身を焦がしながらも、彼が光月おでんによって強制的に矛を収めさせられる光景を見ればそっちに憤激する。 縁壱の超人性に全てを狂わされた男はその実この世の誰よりも、自分をこうも焦がした――焦がれた――男が唯一無二の星であることを望んでいる。 曰く好意の反対は無関心であるという。 だが黒死牟は、継国縁壱の兄だった男は…弟以外の全てを擲ち破滅する程彼のことだけを考えて堕ちてきた。 心底嫌いな弟に対して彼が無関心であったことなど一瞬たりとてない。 「己の産まれた意味が、解らぬなどと…………!」 縁壱は神仏の寵愛を受けた超常の存在である。 自分やその他有象無象の凡人がどれだけ努力をしようとその影すら踏めない超越者である。 その点には黒死牟としても異論は一切ない。 むしろ全くの同意見だった。 しかしでは彼の生誕と存在は始祖を滅ぼすためだけにあったというのか。 あのお方が――あれが滅べば役目は終わりで全てが白紙に戻るとでもいうのか。 お前がこの世に残した爪痕も。 お前がこの心に与えた熱も。 全てが泡沫の夢幻、朔の夜の寝物語と消え果てるというのか。 「だから私は…お前が嫌いなのだ……。 素面でそんな妄言を吐けるお前の存在が……お前の剣を初めて見たあの日よりずっと、気味が悪くて仕方がなかった………」 ――巫山戯るな。 そんなことも分からない阿呆だから。 そんなことも分からぬお前だから。 だから私は、お前のことが嫌いなのだ。 怨嗟をすら込めて紡がれるその言葉は数百年越しの本音だった。 「私が越えるのに一月を費やす壁を…お前は何時も事もなげに足で跨いで越えていく。 剣も、呼吸も、鬼を狩る技術も……お前は私の何もかもを、それが道理であるとばかりに凌駕していた………。 その姿を私が、どれほど忌んでいたか……どれほどおぞましく思っていたか……。 お前のことだ……あの赤い月の夜に老いて死する最期のその時まで………一顧だにすら、しなかったのだろう…………」 「……それは」 言葉を返せない縁壱に黒死牟は途切れ途切れの言葉で捲し立てる。 「お前は…他者(ひと)の心が、解らぬのだ……」 忌まわしかった。 おぞましかった。 気味が悪かった。 お前の全てが妬ましかった。 だというのに全てを知ったように達観して、血の通っているとは思えぬ言葉を吐く。 かつて抱いた嫌悪の全てを。 生前は只の一度とて言葉にすることのなかったそれを。 気付けば黒死牟は憎たらしい弟へ吐いていた。 新月の夜に光はない。 されどそこに月があるのなら。 月明かりは闇を照らす。 影に隠れて蹲るしかないものをも照らし出す。 光月に受け止められ。 太陽に宥められ。 そうしてついぞ光の下に躍り出た鬼の本心。 それを耳にした縁壱は。 「…、……」 ひどく驚いたような顔で黒死牟のことを見つめていた。 まるでなぞなぞの答えを明かされた子どものように。 神の寵愛を受けていると誰もがそう認めた男にはお世辞にも相応しくない顔で、変わり果てた兄の異貌を見る。 そしてあろうことか彼が放った言葉は、その表情以上に稚拙なものだった。 「兄上は私を――そのように思っておられたのですか」 だが稚拙なのは縁壱に限らず黒死牟もそうだ。 彼ら兄弟は何処までも稚拙だった。 幼すぎた。 兄は弟に抱く憧憬と嫌悪を口に出さぬまま二度と交われぬ離別に走り。 弟は兄の感情を何一つ理解出来ぬまま、最後の敗北すら与えることなく死んだ。 その果てがこの世界。 界聖杯、可能性が並び立つ願いの牧場。 そこで初めて彼ら継国の兄弟は想いを交わす。 「話は…終わりだ……。お前と話しているとどうにも苛立つ……今も昔も、矢張り変わらぬ………」 初めて吐露した胸の内。 それに対しての答えがあまりにも間抜けすぎて黒死牟は毒気を抜かれた。 吐き捨てるように溢して踵を返す。 此処で無駄口を交わし合っているようならまだ黄昏れていた方が生産的だと判断した。 だがその背中に縁壱は言葉を掛ける。 「兄上」 万能と呼ばれた彼ではあったが。 この時何を言うべきかはすぐに浮かんではくれなかった。 だから兄がそうであったように…弟もたどたどしく。 「返す言葉もありません。 私はこの生、この肉体…その全てはかの始祖を滅ぼすために造られたものと信じていた。 そこにとて人の喜びが介在する余地はあるのだと教えてくれた者は幸いなことに居りましたが……」 赤子を喪ったことを覚えている。 赤子を抱き上げたことを覚えている。 そうして泣いたことを覚えている。 そこで理解出来なかったこと、悟り切れなかったこと。 それを思うとやはり縁壱は自分が超人だなどと思い上がる気にはなれなかった。 何せこうまで直球で投げられなければ気付けない粗末な頭なのだ。愚鈍な心なのだ。 神仏が造ったにしては拙すぎる。 あまりにも――出来が悪すぎるではないか。 「……私をそのように糾してくれたのは、あなたが初めてです」 継国縁壱は何も変わらない。 彼の剣は今後もこれまでの通りに振るわれるだろう。 悪を討つため人の敵を討つため。 その為に極限の冴えを以って振るわれるだろう。 だが。 それでもきっとこの邂逅に意味はあったのだ。 この再会に、意義はあったのだ。 それを物語るように縁壱の口元は微かではあるが弧の形を描いていた。 「……、……そうか………」 黒死牟は何か言おうとして、…止めた。 鬼となるよりも。 鬼狩りとなるよりも遥かに以前。 つまらない哀れみで笛を拵え渡してやった記憶。 拙く不格好で安っぽい歳相応の細工。 それを与えてやった日の記憶が徐に脳裏を過ぎったからだった。 『いただいたこの笛を兄上だと思い…どれだけ離れていても挫けず、日々精進致します』 何故今これを思い出す。 強さを希求しようと思うならば。 縁壱へ近付こうと思うならば真っ先に切り捨てるべき過日のこと。 この期に及んでそんなものを思い出してしまった不可解が彼の口を塞いだのか。 真実の所は彼にしか分からなかったろうが… 「この戦の弥終で……お前を待つ」 しかし閉口のまま終わりはしなかった。 紡ぎ出した言葉は裏を返せば妄執の先伸ばしであり。 激情と性に縛られる悪鬼らしからぬものでもあった。 最後の二騎となった時は勿論。 この世界の終末ないし破綻のような終局でも構わない。 黒死牟は果てにて待つ。 剣鬼は、そう決めた。 「そこで私の剣を受けろ。 鬼となり変わり果てたこの頸を断ち切ってみせろ」 赤い月の夜。 あの日継国縁壱が万全でさえあったなら。 彼が定命の鎖に縛られてさえいなかったなら己に訪れただろう結末。 それが今度は至極順当なものとしてやって来ても構わないという覚悟の許黒死牟は縁壱へ申し込んだ。 果たし合いの誓い。 因縁と妄執の清算。 数百年の憎悪と研鑽の結実の場を寄越せと、兄は弟に求めていた。 「それまでは…この剣と、この炎は……収めてやる………」 「兄上がそう望むのであれば――承りましょう」 "それまでは剣を収める"などという文句はやはり鬼の語るそれではない。 鬼としての在り方に則るならばこの場ですぐさま仕掛けることこそが正しい筈だ。 にも関わらず黒死牟はそれをしなかった。 そうする気にはなれなかった。 数多の光が彼の心を照らしている。 灼かれ磨り減るばかりだったその心を優しく寿ぐ光がある。 始祖たる男は死んだ。 直にこの世界からその存在ごと消え果てよう。 しかしその後も彼の造った鬼は残る。 上弦の鬼。 その壱の席を数百年と保ち続けた剣鬼は今、無軌道に周りを鏖殺する英霊剣豪ではなくなった。 誓いは成った。 であれば後は誓われた"いつか"へ繋ぐために。 黒死牟は踵を戻さぬまま去り、縁壱はそれを見送るが。 すれ違い続け拗れ続けた兄弟の物語は…改めてひとまずの小休止を迎えたのであった。 ◆ ◆ ◆ やはりと言うべきか先に目を覚ましたのは光月おでんだった。 黒死牟との戦いで負った無数の切り傷は大小様々だった筈だが、箇所によってはもう傷口が塞がり始めているから人体の神秘めいていた。 「うおォ~! 全身が痛ェ! 涙が出そうだ!」 「むしろそれだけで済んでいるのが驚嘆だ。受けた刀傷の数は大小合わせれば百を優に越えていたというのに」 「そんなに斬られてたのかよ! 道理で痛ェわけだぜ…!」 断っておくがこれは打ち所が良かったとかそういう話ではない。 光月おでんが常人を遥かに逸脱した超人で、だから平気でいられるだけ。 仮に彼の傍らで寝息を立てる少女が同じ目に遭っていたなら九割九分死んでいるだろう。 月並みな言い方になるが、鍛え方が違うとしか言いようがなかった。 「…で。話は出来たのかよ、あのバカ兄貴と」 「おでん」 答えにはなっていない。 縁壱は答えるのではなく彼の名前を呼んだ。 そして言う。 質問の答えなぞよりも余程優先して彼に伝えるべき言葉を。 「ありがとう」 「なんだよ。礼を言われるようなことをした覚えはねェぞ」 礼を受けたおでんは照れるでも遠慮するでもなく、シッシッと手を振ってそう言った。 「おれがそうしてえと思ったからやっただけだ。 感謝される謂れはまったくねェし、むしろむず痒いからやめてくれ。 友達(ダチ)に頭下げられる程気まずいことはねェんだこの世にゃ」 「…お前らしい」 「その様子じゃちったあ喋れたみてェだな。令呪とこの傷が無駄にならなくて良かった!」 これも光月おでんが人を惹きつける理由なのだろう。 おでんは人を助けるが決して驕らない。 礼を言われれば素直に受け取りつつもひけらかさず、時にはこうして頭を下げられること自体を拒む。 あくまでおれがやりたかったことをしただけだと豪快に笑うのだ。 継国兄弟の捻れ歪んだ因縁も彼にかかれば茹での甘い糸こんにゃくのようなもの。 いつも通り豪快に、目が眩む程爽快に。 土足で踏み込んで思うまま暴れて、前に進ませてしまった。 「カイドウとの約定を全く反故にするつもりはない。 どの道あのランサーは捨て置けない脅威だ。 生かしておけば、必ずまた新宿の災禍を繰り返すことになる」 「ああ」 「だがその後は奴だ。そして私は、おでん。 奴を討ち取るというお前の使命を死力を以って支えよう。しかしだ」 カイドウは縁壱にランサー、ベルゼバブの討伐を委ねた。 あの男は外道ではあるがしかし獣ではない。 それが縁壱の見立てだった。 むしろ悪党としては愚直な程真面目で不器用な男。 であればあの言葉が違えられるとは考え難い。 そしてそうであるのならば、縁壱としても腐滅の悪鬼を討つ役を担うことに異存はなかった。 「兄上と誓ってしまった。この戦の弥終に果たし合うと」 「は――何だよあの野郎。気の利いたことも言えるんじゃねェか」 「私はその場に往かねばならない。そして願わくばその時私を従える者は、お前であってほしいのだ」 「死ぬなってか」 おでんは呵呵と笑った。 なんて無理難題。 カイドウの暴威は一度相対して縁壱も知っているだろうに。 勝った上で生き延びろなどと要望するとは、彼らしくない無茶な願いだ。 おでんは確かに過去一度カイドウへ不覚を負わせている。 しかしあの時ですら戦いは途中で中断され、奴の真の実力を見ることはついぞなかった。 その上であれから年月を経て…英霊としての全盛期から呼び出されているだろうカイドウ。 勝てる勝てないの以前に、相手になるのかどうかからして疑わしい。 そんな男を相手に死ぬなと言うのか。 馬鹿げた話だ。 無茶な話だ。 そんな思いも含めた一笑だった。 「ああ――分かった。男同士の約束だ」 そして――面白ェことを言う奴だと笑った上でその無茶を呑む。 時空は違えど元居た世界は違えど、もう縁壱はおでんにとっての師であり友人だった。 そのたっての願いを無碍にするなどおでんのやることではない。 現実問題出来るか出来ないか、そんなことは後から考える。 とにかくまずは頷いて白い歯を見せて笑ってみせる。 それが、光月おでん。 ワノ国にその人ありと謳われた"バカ殿"。 「その代わりお前も勝手に逝くんじゃねェぞ縁壱。 そん時ゃおれがお前の代わりに、てめえのおっかねえ兄貴の前に立つことになるんだからな。 あの野郎絶対怒るだろ。今度こそ膾切りにされかねん」 「…あぁ、そうだな。私も誓おう。"男同士の約束"だ」 おでんが突き出した拳に縁壱も自分のを触れさせる。 あまり慣れないノリではあったが、おでんの顔を見るに間違いを冒してはいないらしい。 そのことに少し安堵する縁壱と、全身の惨状が嘘のように活力を漲らせ立つおでんの傍らで。 「……ん……。あれ、わたし……」 おでんにやや遅れて目を覚ます少女が居た。 彼女の名前は、幽谷霧子。 光月おでんだけでは消しきれなかった炎を宥めた要石。 縁壱の兄、黒死牟のマスターである偶像(アイドル)だった。 ◆ ◆ ◆ 「ありがとうございました、おでんさん……セイバーさんを、助けてくれて………」 「あ~、要らねえ要らねえ! 要らねえ理由はこいつから聞いてくれ!」 体力が尽きた。 張り詰めた精神の糸が切れた。 戦いを知らない平和な世の中で生まれ育った少女の余力は無理の対価に尽きてしまった。 その結果の気絶と睡眠。 ただおでんのように物理的に酷い傷を負った結果のものではなかったため、目覚めてさえしまえばコンディションは万全と言ってよかった。 「おでんがそうしたいと思ったからやったことだそうだ。 改まって礼を言われるのはどうにもむず痒いらしい」 「ふふ……! そうなんですね……ふふふふ………!」 「本当に逐一説明する奴があるかァ!! こっ恥ずかしいわ!!!」 光月おでんとそのサーヴァント、継国縁壱。 そして幽谷霧子。 この三人の息はこの通り見事に合っていた。 誰からも好かれる破天荒な益荒男と独特な雰囲気を持った変わり種二人。 突出した個性同士が奇跡的なバランスの上で噛み合っている。 「そういやお前の兄貴は何処行ったんだ」 「気配は遠のいていない。直に戻られるだろう」 その会話を聞いて霧子は思わず頬を綻ばせてしまう。 だってこの光景は数刻前では考えられないものだったから。 此処にはいない黒死牟が…セイバーが。 直に戻ってきてくれる。 その見解を自分自身も含めて誰も疑っていないこの光景があまりにも優しくて、だから霧子は思わず笑ってしまった。 “縁壱さんにも……セイバーさんのこと、聞いてみたいけど………。 勝手に聞いたりしたら、セイバーさんに怒られちゃうよね…………がまん、がまん…………” 私はお前が嫌いだ。 はっきり言われてしまった。 だけどそれは黒死牟が霧子に伝えた初めての"心"で。 目が覚めた今でもそのことが嬉しかった。 通じ合えたことが誇らしかった。 これからも頑張ろう。 自分に出来ることは少ないかもしれないけど。 それでも、精一杯…少しでも好きになってもらえるように。 “私が、マスターで……よかったって、少しでも思ってもらえるように………” 霧子はそう決めた。 ただの少女にしては眩しすぎる心。 それはまさにお日さまのようで。 幽けく霞む霧の向こうにも温もりを届けられるぬくもりそのものだった。 幽谷霧子が何故愛されるのか。 何を以ってアイドルとして輝けるのか。 その答えがどんな美辞麗句よりも如実に彼女の中にある。 だが少女はまだ知らない。 この先に待つ過酷を。 運命の悪意を。 知らぬまま、しかし――。 ◆ ◆ ◆ 私は何をしているのだ。 これが正しい道だというのか。 正気の沙汰ではない。 刃が錆び付いただけならばまだしも。 私は、気まで触れてしまったというのか…。 自問を繰り返しながら黒死牟は元来た道を戻っていた。 この道を戻れば奴らがいる。 人間でありながら上弦の壱を相手に単騎で奮戦した常識外れの男。 悪鬼たる己に付き纏う不快な娘。 そして憎らしくも忌まわしい弟。 戻っても何ら得はないだろう場所へ、この身この足は帰ろうとしている。 “……下らぬ……” 黒死牟はそう吐き捨てた。 “私の何が変わるでもない……あのお方が死せども……この身が悪鬼羅刹であることに、変わりはないのだ………” この戦いの弥終に己は縁壱と相対する。 どうやってそれまでにあの天禀を上回る。 現実的ではない。 だがやらねばならぬ。 此処で機を逸せばその後悔は傷となり未来永劫に残るだろうと確信があった。 そしてその傷は焦熱地獄の炎よりも、阿鼻地獄の激痛よりも余程苦しく厳しいものになるだろうと。 “それまでは……” それまではこの身。 そしてこの剣は奴と同じ方を向く。 本当にそれでいいのか。 その体たらくは本当に正しいのか? 腑抜けの逃げと何が違うのだ。 真に本懐を遂げたくば今すぐにでも――煩い、喧しいぞ黙れ喚くな。 理屈如きが私の道に割り入るなど言語道断だと黒死牟はその正論を切り捨てる。 これまでの数百年糞の役にも立たなかったそれらが今更何の役割を果たせるというのか。 分からぬまま、鬼は歩む。 ただ今は本能のままに。 始祖は死に、今や彼は起源を亡くし結果のみが残る真の意味での躯と化した。 だが――それでも。 確かに煌めくものがあるとすれば。 それは弟への妄執一色なのか。 それともそこにはわずかなれども…銀毛の彼女への情が介在しているのか。 その答えは未だ、明かされぬまま。 【新宿区・新宿御苑避難所の郊外/二日目・未明】 【幽谷霧子@アイドルマスターシャイニーカラーズ】 [状態]:健康、動揺 [令呪]:残り二画 [装備]:包帯 [道具]:咲耶の遺書、携帯(破損) [所持金]:アイドルとしての蓄えあり。TVにも出る機会の多い売れっ子なのでそこそこある。 [思考・状況] 基本方針:もういない人と、まだ生きている人と、『生きたい人』の願いに向き合いながら、生き残る。 1:色んな世界のお話を、セイバーさんに聞かせたいな……。 2:病院のお手伝いも、できる時にしなきゃ…… 3:包帯の下にプロデューサーさんの名前が書いてあるの……ばれちゃったかな……? 4:摩美々ちゃんと一緒に、咲耶さんのことを……恋鐘ちゃんや結華ちゃんに伝えてあげたいな…… [備考] ※皮下医院の病院寮で暮らしています。 ※"SHHisがW.I.N.G.に優勝した世界"からの参戦です。いわゆる公式に近い。 はづきさんは健在ですし、プロデューサーも現役です。 【セイバー(黒死牟)@鬼滅の刃】 [状態]:健康、生き恥 [装備]:虚哭神去 [道具]: [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:不明 0:呪いは解けず。されと月の翳りは今はない。 1:私は、お前達が嫌いだ……。 2:どんな形であれこの聖杯戦争が終幕する時、縁壱と剣を交わす。 [備考] ※鬼同士の情報共有の要領でマスターと感覚を共有できます。交感には互いの同意が必要です。 記憶・精神の共有は黒死牟の方から拒否しています。 【光月おでん@ONE PIECE】 [状態]:全身滅多斬り、出血多量(いずれも回復中) [令呪]:残り二画 [装備]:なし [道具]:二刀『天羽々斬』『閻魔』(いずれも布で包んで隠している) [所持金]:数万円程度(手伝いや日雇いを繰り返してそれなりに稼いでいる) [思考・状況] 基本方針:界聖杯―――その全貌、見極めさせてもらう。 1:他の主従と接触し、その在り方を確かめたい。戦う意思を持つ相手ならば応じる。 2:界聖杯へと辿り着く術を探す。が―― 3:カイドウを討つ。それがおれの現界の意味と確信した。 4:ヤマトの世界は認められない。次に会ったら決着を着ける 5:何なんだあのセイバー(武蔵)! とんでもねェ女だな!! 6:あの変態野郎(クロサワ)は今度会った時にぶちのめしてやる! 7:あさひ坊のことが心配。頃合を見て戻りたい [備考] ※古手梨花&セイバー(宮本武蔵)の主従から、ライダー(アシュレイ・ホライゾン)の計画について軽く聞きました。 ※「青い龍の目撃情報」からカイドウの存在を直感しました。 ※アヴェンジャー(デッドプール)の電話番号を知りました。 ※廃屋に神戸あさひに向けた書き置きを残してきました。 ※全集中の呼吸を習得してました。 【セイバー(継国縁壱)@鬼滅の刃】 [状態]:疲労(小)、全身各所に切り傷や擦過傷(いずれも小程度) [装備]:日輪刀 [道具]:なし [所持金]:なし [思考・状況] 基本方針:為すべきことを為す。 0:今はただ、この月の下で兄と共に。 1:光月おでんに従う。 2:他の主従と対峙し、その在り方を見極める。 3:もしもこの直感が錯覚でないのなら。その時は。 4:凄腕の女剣士(宮本武蔵)とも、いずれ相見えるかもしれない。 5:この戦いの弥終に――兄上、貴方の戦いを受けましょう。 [備考] ※鬼、ひいては鬼舞辻無惨の存在を微弱ながら感じています。 気配を辿るようなことは出来ません。現状、単なる直感です。 時系列順 Back チルドレンレコード Next 緋色の糸、風に靡く(前編) 投下順 Back Cry Baby Next 蒼い彼岸花のひとひら ←Back Character name Next→ 103 真月潭・月姫 幽谷霧子 119 Give a Reason セイバー(黒死牟) 103 真月潭・月姫 光月おでん 119 Give a Reason セイバー(継国縁壱)
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◇ きっと夢は叶うなんて 誰かが言っていたけど その夢はどこで僕を待っているの ♪いつだって僕らは ノクチル ◇ 日が沈んでも残り続ける燻すような熱気の中でも、中野警察署の内部は静かだった。 この一ヶ月間、東京のいたる影で侵食を開始していた先触れともいえる複数の怪事変。 それが最悪の規模で爆発した、新宿で起きた謎の爆発以来、警察・消防は完全に対処に忙殺されていた。 世界に広げても例のない、都市の中心地でのテロリズム、あるいは事故。推定される被害者の数、建物の損害は時間を追うごとに更新されるばかりで、原因の究明もままならない。 指揮系統が麻痺しても不思議でない、事態の推移によっては国家存亡もありえる窮状にいながらも、いち早く全面支援を名乗り出た峰津院により、行政は際どいところで保たれていた。 国の屋台骨ともいえる大財閥の積極介入は、予想だにしない緊急事態でも変わらず辛辣を振るった。 枢要たる英俊の当主が寄りすぐったお抱えの専門チームによる主導の元、ライフラインの復興、救出作業らといった急務が同時に並行して進行されていく。 瞬く間に組み上げられた都心復旧プランは財閥の太いパイプを通じ、先に続くあらゆる部署に行き渡る。 もはや国そのものといっていい峰津院が動いた事は、現場の職員達に安心感と使命感の双方を燃やし募らせた。 今や非常勤から末端の巡査にまで明確な指示が与えられ、国が一丸となって救助や警備に全力で当たっている。 この国はまだやれる。捨てたものじゃない。そんな声が作業に勤しむ誰かから漏れる。 一向に進展の気配がない怪異に気を揉んでいた人々は、まだ見ぬ明日にも希望を抱き始めていた。 熱狂と熱帯夜に浮かれてる東京都でも、中野警察署の内部は静かだった。 殆どの動ける職員は出払い、新宿での活動に割かれている。区を跨いた協力体制が早急に敷かれたのも、峰津院の中継ぎがあったればこそだ。 留まっているのは体力や運動に不備がある者、情報を伝達する連絡員、上からの指示を部下に下す署長等の一定の地位にいる者。 また別の場所で予期せぬ事態が起きた場合に備えた数名の、計十数名のみだ。 ……内部は静かだった。 無人ではないかと思うほど静まっている。 爆心地の新宿ではないにしても、隣接した中野にもその余波は届いていて然るべきなのに。 広い署内とはいえ、ひっきりなしに更新される情報のやり取りは、騒動の現場以上に物々しい雰囲気であってもおかしくないのに。 行き交う通信の音も、救援を求めて駆け込む市民の足音も、聞こえるものは此処にはない。 密閉された真空の密室のように。 くぎ取られた位帯のように。 警察署の中だけで、全ての音というは絶えていた。 いや。 音は、ある。 廊下を辿る音。重さの異なるふたつの足音を連れて、動くものがあった。 そこにいるのは男と女。男は背丈は高く、僧衣を纏ってはいるが、街中で練り歩いていてもとても馴染まないような奇抜な装いをしている。 女は、男が長身であるのを差し引いても小柄で、小学生を越えてはいないであろうことがすぐに分かる。 こちらは不自然のない洋装をして、目立つ点のない女児の見かけであった。 二人は───親子ではない。 知り合いでもなく、学生と教師の間柄でもなく、また連れ合って警察に来たのでも救助を求めてのものではなかった。 二人は、主従であった。 主は、幼子。従者は大男である。 彼等は真実を知るもの。願い求めるもの。惨劇を求め、地獄を求めるものである。 証拠に、見るがいい。女の細い指がたおやかに絡みつく、黒い暴力の具現を。 凶器の象徴の先端からは、射出されたばかりの排熱が煙となって揺蕩う。 そして。地面を染めていく赤。仰臥するモノから溢れて、濁濁と。 「……聞こえていないようですわね?」 砂糖を煮詰め、水分が蒸発した鍋の底に溜まった焦げのような声だった。 見た目通りの幼気な声で、少女は従者の術の効果を確認する。 「ええ、それは無論。遮音に防音、視覚の修正による隔絶の魔境。共に内と外に万事仕込んでおりまする。 民草が何を叫ぼうと漏れ聞こえる音は一切ありませぬ。何が起きようとも気づく者はおりませぬ」 法師なる男の声は艷やかなるもの。性の根を蕩かせる腐乱した花の蜜を思わせた。 男を構成する全ては毒である。 見目は不穏を煽り、声音は心をかき乱し、所作は負を招く石となる。 世の『悪』を司り、喚起される不幸を悦びのままに甘受するかのような男である。 「それでは、リンボさん。手早くお願いしますわ」 「おや、おやおや、おやおやおやァ? 拙僧が総てを浚ってしまった宜しいので? 並み居る極道共を一蹴した、あの華麗なる手捌きが久方ぶりに拝めると、拙僧正直、期待していたのですが」 「手間を考えてくださいな。まさか私に、この中を練り歩いてひとりひとり撃ち殺していけと?」 弾を確認しつつ、ゆったりと歩きながら。 『署内の全員を殺し尽くす』と平然と言い放ちながら。 取り合わせも、話の内容も、何一つ噛み合わないままに時は進む。その時を待つ。 「弾丸(タマ)はガムテさんから幾らでも補給されますので心配ありませんが、時間は有限なのですから。 ですので手早く、です。この程度の簡単なお遣い、さっさと済ませてしまいたいのはそちらも同じでしょう?」 「ンン、正論、素晴らしく正論でありますなそれは。仕方なし。素晴らしき銃型(がんかた)の拝謁はまたの機会といたしましょう」 面白い見世物が延期になって残念だと。 その程度の気楽さで、頭蓋に風穴が穿たれる場面が見てみたかったと零す。 変わりはしないのだ。男にとって。祭の囃子も殺戮の怨嗟も。 悪を愉しむを私悦とする別人格(アルターエゴ)は、ここでも変わらずに快楽を貪る。どこまでも、どこまでも。 「では、そのように、致すとしましょう」 毒色の長爪を生やした指を、弾く。 音が鳴って消えない間に、地面に横たわっていたモノが勢いよく飛び起きた。 少女が撃ち抜き絶命したばかりの警察官の亡骸が、生者の如く手足を駆動させる。 落ちた帽子を拾いもせず、眉間の孔から零す脳漿を拭いもせず、血走った眼で痙攣しながら、曲がり角へ消えて行く。 ───絶叫。魂切れる断末魔が惨劇のサイレンをけたたましく鳴らした。 「今のは?」 「拙僧の裡に修める秘奥のほんのひとかけら、今は微睡みにいる御方の力の一端を転写しました。 移した呪いは生命を辿り喰らいつき、喰われた者にもまた呪いが宿る。有り体に言えば感染するのです」 「感染、ですか」 少しばかり、感慨を抱く。 まさかここに来て、その言葉を耳にするとは思わなかったと。 「意識を保ったまま呪い人形にすることもできますが、それは少しばかり手間が増えますので、やめました。 親しき者が異形に置き換わる、醜き獣へ変貌する様を目にし、しかして変わらぬ言葉を紡ぎながら友人恋人の首に齧りつく様はさぞ甘美でありましょうが……ンン、残念無念」 「方法はなんでも構いませんが……最初の目的を忘れたりはしてませんわよね?」 「無論。生命を追い、貪る性質は自動のものですが、動きを操作するのは此方からでも自由にて。程よく手を抜いて、格好の餌場へ誘導してございましょう」 「よろしくてよ。ではそちらは私が引き受けましょう」 撃鉄が引かれる。 銃身は既に起こされてる。動かしたのは意識の方。 「どうしたのです? 意外そうなお顔をなさって」 「……いえ。仕事はお任せすると承りましたが?」 「ええ。そう言いましたわね。けど、いちいち片付けるのが面倒というだけで、別に始末するのが嫌とは、一言も?」 同僚の腹部に顔を突っ込ませて溺死している光景を、何でもないように隣を通り過ぎて。 臓物を咀嚼する音、骨を噛み砕く音は既に聞こえていない。 耳に残るのはただ追想のみ。輝いて、煌めいて、花咲く彩りの黄金時代(ノスタルジア)。 「誘導はお願いしますわね。狭くて、暗くて、逃げ場のない、兎小屋みたいな部屋を希望しますわ」 リンボの玩具として遊び弄ばれた犠牲者を、沙都子は哀れだとだけ思う。 同情も嫌悪も抱かない。惨劇の輪廻(ループ)の過程でまっとうな倫理は真っ先に削ぎ落とされた。 ここにいるのは、表に出ているのは、ただひとつの目的に純化、最適化された新人格。 記憶は連続している。感情もある。ただ、思考の優先順位が変化している。 属性の混沌化。オルタナティブ。リンボを名乗るアルターエゴの主となったのにも、そこに縁があったのやもしれない。 そんなリンボの悪食ぶり、悪辣ぶりは、今の沙都子でさえも手に余る強烈なものだ。 有り余る才を全て、人の世を呪い膿ませるだけに用いる。 祟りとすらいえない。あの男は怨んでもいないし、慰撫されたからといって恵みを与える守護神にもならない。 あれが人を呪うのは自分の快楽のため。楽しくて気持ちがいいから苦しめる。 そこに神の摂理はない。ただ人の業が孕むのみ。 だからあれに巻き込まれるのは運が悪いのだ。運で決まるのだから、善悪だとか罪だとかの有無は関係がない。 極めて正当性のある望みを持つがために呪いに染まった沙都子にしてみれば、同志どころか悩みの種だ。 ……まあ、自分をこうした元凶のあの存在も似たようなものかもしれないが、とも思いながら。 とはいえ、好き勝手しながら仕事はきちんとこなす程には有能なのもいいところだ。 獲物を閉じ込めたと知らせを受けた場所は取調室。狭くて逃げ場がなく、出入り口もひとつだけ。しっかりと要望に沿った形だ。 従者を置いて、始まる地獄絵図の中を少女は歩く。 網膜に焼き付いて剥がれない眩い理想を夢見て、誰かが流した血の道を歩き続ける。 あるいは、散乱したカケラを踏み潰して滲んだ、自分の血なのかもしれないが。 先にリンボに教えたように。 沙都子が283プロのアイドルを殺すのは単純な嫌悪からだ。 汚いものがキレイに振る舞い、キレイなものを奪っていく。 沙都子から梨花を奪う、東京という社会の構図そのものが、疎ましくて仕方がない。 ガムテの作戦にかこつけた形ではあるが、聖杯戦争の過程で機会があればきっと同じことをしていただろう。 それをして梨花が手に入るわけでもないし、聖杯戦争に勝てるわけでもないのに。 ただ『見てると気分が悪いかった』だけの理由で、沙都子を祟を下すと決めた。 ああ、なるほど。 沙都子は思い至る。 そう違いはないではないかと。 心のままに憂さを晴らすため祟る沙都子。 心のままに快楽を求めて呪うリンボ。 だからどうではなく、カケラの割れ目に相似点を見出すだけの発見。 沙都子の可能性(カケラ)が導き出した、絶望の安寧を果たすサーヴァント。 余計な感傷はお終い。目的の部屋の前にたどり着き、銃把を握りしめトリガーに指をかける。 萎縮はしない。安堵すら覚えるほど冷たい硬質感。 これから行うのは殺人ではない。狩りでもない。恐れさせるための儀式なのだと心を澄ませて。 【扉を、開けた。】 ドアノブに触れ、回しただけで、中の息遣いが感じ取れた。 死体が動き出し手当たり次第に生者に喰らいつき、動く死体を増やす有様を目の当たりにして、這々の体で逃げてきたところへの接触。恐怖の度合いが手にとるようにわかる。 だが恐怖を通り越して恐慌になられては困る。銃があっても小柄な沙都子では、一斉に飛びかかれたりでもしたら対処が遅れる場合がある。 だから行程を挟む。怯えた様子で、震えた声で、自分と同じ、恐ろしい怪物から身を隠そうと逃げ延びた被害者なのだと油断を誘う。 そうすると、後ろの少女達を庇うように立っていた壮年の男が一歩前に出てきた。 襲う風ではない、緊張の糸が切れたと息を吐き、安心させようとこちらに手を広げて近づいてくる。 がら空きの眉間に向けて発砲。はじめから決まっていたように銃弾は命中し、脳が損壊して制動を失った肢体は仰向けになって倒れた。 「社長?」と、何が起きたか理解できず呆けて呟く妙齢の女性。最初に撃ったのが社長だろうから、こちらは事務員の方か。 マスター候補の身内で人質に使えるということで殺害は控えるよう言われてる。太腿付近は動脈が太く失血死の可能性もあるので、狙いを脹脛に定めて撃つ。 肉が抉れ、突然の激痛と灼熱に悶絶してその場に倒れ伏した。放置すれば傷口が化膿して危険だが、即死するわけではないので放置する。 そこで、少しだけ予想外のことが起きた。 銃撃のショックで動けないと踏んでいた三人組のうち一人が、猛然と飛びかかってきたのだ。 標的の中では最も小柄だったが、踏み込んだ脚に迷いはなく、速度もかなりあった。 被弾率を避けるためか身を屈め、腕で顔を覆ってガードするなど意外にも知恵が回る。 が、まだ遅い。 ヘッドショットが無理と見るや、着地した方の足先に銃口を再設定。 足の甲を貫いた衝撃で加速が途切れつんのめったところを、今度はこちらから近づく。 互いに詰めてゼロになった間合いで、眼球に押し付けての第二射。 眼窩から入った弾丸は頭蓋を跳ね回って、脳をシェイクしながらタップを披露する。無様な踊りだ。 だが最初の加速の勢いか、後ろに倒れたりせず全身がもたれかかってきて、服が血で濡れてしまった。 それが最期の抵抗のように思えたのが苛立たしくて、死体を押しのけて生き残りに数発叩き込んだ。 少し狙いが浅かったが当たったのでよしとする。 むせ返る血臭が、取調室に充満する。 どうということもない。いつもの風景だ。 カケラ合わせの繰り返しで飽きるほど見てきた、よくある惨劇だった。 沙都子も体験してきて、今では起こす側に回った、雛見沢の日常の一幕だ。 昭和58年の片田舎では、こんな様相は日常的に行われていたのだ。 それを、まあ、よくもここまであっさりと全滅するものだ。 奇跡も、運命も、ここには何もなかった。逆転の目を引き寄せる気迫など微塵も見れなかった。 友情が聞いて呆れる。控えめに言ってここに転がってるものはクズ同然だ。ゴミ、と言い換えてもいい。 見栄えだけよくするばかりで、現実では役に立たない有象無象。 こんな奴らに、こんな世界に、あの故郷に勝るだけの価値が、塵ほども見いだせない。 圭一なら言葉巧みにペースを握っていた。レナなら僅かな違和感も見逃さないよう注意を払っていた。魅音と詩音なら逆に返り討ち、最悪でも相打ちに持ち込んででも殺していた。 そして梨花なら、絶対に諦めようとはしなかった。命が絶える寸前まで運命の打破を目指し、未来を目指そうとしただろう。 その五分の一の気概すら、彼女達には感じられなかった。脆い、紙細工でも握り潰すみたいに。 くだらない。 つまらない。 偽物は志すら偽物というわけか。いや、この分じゃ本物の方だって同じように薄っぺらい歌みたいな存在なんだろう。 ───そして、だったら何故、自分はこんなにも不快なのだろう。 はじめから期待してもいなかった。 なにもNPCに、そんな奇跡の発露を求めていたわけでもいない。むしろ起こされては困るのはこっちだ。 今回はガムテへの得点稼ぎで、標的が丁度よく目障りだったのでこの手で消したかっただけ。 予定通りに事は進み、何も予想外はなく完了した。期待してないのだから失望もないはずだ。 なのに目障りなものを始末しても、まるで気分は晴れなかった。 あれだけ溜まっていたアイドルへの苛立ちはすっかり醒めている。 同時に───なにか自分が、とてつもなく意味のないバカげたことをしていたみたいで、ひどく白けた気持ちになってしまった。 (……もういい。あとはリンボさんに任せましょう) 仕事は終わった。これ以上留まる意味はない。 二人、まだ死に損なっているが……今更とどめを刺す気分にもなれない。 放っておけばいずれ死に至る。それはそれで、無力感に苛まれながら惨めに息絶える制裁にもなる。 何ならリンボに好きにやらしてもいい。この手の直接的に露悪な術技についてはあの法師は一枚も二枚目も上手だ。 どの道、人質を運んで帰るにはリンボの手を借りなくてはならない。ご褒美がわりと言えば嬉々として飛びつく顔が想像できる。 (……リンボさん?) 合図を送ったのに、いつもの少し煩わしい甲高い美声が返ってこないのが怪訝になり……そこで沙都子は異変が起きたと気づいたのだった。 ◆ 踊り食い、という食の方式がある。 捌き、調理した料理を食べるのではなく、活きた生のままで口にいれる食事だ。 当然の帰結として、選ばれるのは捌かないまま人の口に収まるサイズの小魚や貝、イカ等の海産物に限られる。 その魅力は言うまでもなく、食材の新鮮さを味わう点にある。 なにせ活きたままだ。口の中で飛び跳ね暴れる動く生物を、自分の歯で噛み裂き、すり潰す。 ヒトが発生したばかり、まだ火を文明として扱う以前の時代の原初の遺伝子がそうさせるのか。 この、残酷ささえ感じさせる食事方式は今でも親しまれている。 寄生虫などのリスクはあるが、多様化し過ぎた食事文化にあっても逆に新鮮であると、回帰的な理屈も影響するのか、いまだ人々の生活に根付いていた。 ならば今中野警察署で行われるコレもまた文化の名残り。 のたうつ獲物にのしかかり、手足を奪い、背に爪を突き立て、活きたまま喰らう始原の試み。 長きに渡り紡がれる人の歴史。それが魚類と哺乳類であるかの違いに大して差などあるまい。 そんなわけがなかった。 ここに受け継がれてきた技術などない。 人の食たる文明の気配などない。 獣の内ですら、こんな原理は取り扱いはしないだろう。それほどまでに、その『食事』は逸脱していた。 そこには”魔”があった。 自然の法則にありながら必要とされず、総じて正当な流れにある者には邪に映る輩。 人に依らず生み出された、人の手による怪。 何故生み出されたのか。正なる者を害するのか。それを問う場面はここではなく。 故にただ、ここでは起きた事それだけが目にする話。 食べていた。同僚の頭を。 食べられていた。友人の手足が。 巡査が上司の首を食いちぎる。落ちた首が巡査の足にかぶりつく。情報係が増えた頭でその両方を飲み込む。 食べる者が食べられて、食べられながら食べ返す。 それは踊りにも似ていて、情交の激しさで互いの体を混じり合わせて、溶けている。 理性という理性、二千年頑なに守り通されてきた常理が壊れて、蒙昧白痴に踊り狂ってる。 無数の肉塊が寄り集まって、ひとつの生き物を成しているようだった。いや、体は本当に癒着している。 食らいついた部分が溶接され、融解したゲル状になって繋がれている。 肢体を欠損し、失くした部位を接合し合い、更に不揃いになった全体で損失を埋めようと彷徨う残骸(レムナント)。 「……ふむ……肉の接続、魂の改竄、共に滞りなく。自立できる程度の魔力は生産できますが、これでは余りにも微量。可能性の発露とは言えますまい。 それになにより……臓を破って脳の奥底にまで手を入れたのに、彼等を生み出した界聖杯との繋がりを感じ取れませぬ。拙僧が手を加えた時点で我が所有物に切り替わった? いやいやそうではない、それは違う。 大いなる根源から流れた枝葉でしかない人間から、元を至る道筋が続かないのと同じ。こちらの手落ちではないでしょうとも。 より太く情報が繋がった……界聖杯の魔力を多寡に割かれた個体であれば反応も違ってくるはず。運営機構を預かる管理者? この舞台劇の絡繰りに気づいた覚醒者? ンンンンンン迷いますねェェ」 飢えに震える死肉の傍で、至極冷やか検分している声がひとつ。 夜空を仰いで星辰を読み解いて宇宙の理を明かそうとする学者のように。 新薬を投与した実験動物に表れる症状を心待ちにする学者のように。 真剣に、興味を注ぎながら、変貌の過程を眺めている。 これが最新の科学道具で埋められ、情報と細菌の二重の意味で機密にされた研究施設であればよかった。 しかし此処に立つのは。今また死体に指を突き入れ新たな呪を注入している男は。 人類の発展と進歩に唾を吐きかける、闇より出る影である。 キャスター・リンボを名乗る法師陰陽師は、与えられた任務と遂行に使う時間をふんだんに使い、己の欲求を満たしていた。 界聖杯内に夥しく群れる人、NPCの操作。魂の潜行、霊的階梯の強制進行。 生活続命、泰山祭を修めた身にかかればNPCの防護など丸裸同然。全てが詳らかとなる。 予選段階では主の意向により悪目立ちする凶行を自重して雌伏していたが、今こそ絶好の機会。 界聖杯から製造された木偶人形を解体し、その秘密を暴く。あわよくば正規以外の手順で界聖杯に接近し、競争形式そのものを茶番劇に堕とせないか。 この怪僧は人知れずに、全てをご破算にできまいかと奸計を図っていたのだ。 そうして散々に肉を漁り、脳を割ってはいいが、さしたる成果は実らず。 界聖杯の真実、見通せず。 聖杯戦争からの一抜け、叶わず。 今宵は徒に血を浴び、罪なき人命を鋳潰しただけの労に過ぎない。 「ま、いいでしょう! 今生で漸く味わえた生命の壊れる音、悲鳴の味、実に甘露!」 無駄骨、結構。 芽の出ない作業、結構。 これはこれでいいものだ。意味のない徒労でも益体のない行為でも───だからこそ、これは、楽しい。 そも研究・実験なぞ建前だ。主に見咎められた際の体の良い方便でしかない。 経路の探索、それは嘘ではない。本当に探している。ただそれだけの理由ではないだけ。全容でいえば半分か、それを割るあたりだ。 結局は、より上質な快楽を得られないかの模索。 楽しみ。趣味。すること事態に意味があり、利があるかどうかは二の次の些事。 無辜の住民を醜悪な獣に変え、法悦を抱いた時点で、リンボの目的は半分以上達成されていた。 「さてさて、それでは用済みとなったコレはどうしたものか。 処分してもいいが、久方ぶりの手ずから捏ねた作品、このまま誰にも披露せず腐らせるのはやや惜しいですな……」 その後を何も考えず、とりあえず作るだけ作ってみた作品を眺めて、いい用途を思いつく。 「……そうだ。ならば、披露してしまってもよいのでは? 生きながらに死に、同族を食らって肥え太った怨嗟と哀絶を、外にお裾分けしてあげてもよいのでは? 拙僧なような外道が幕引きでは彼等も浮かばれますまい。清き英霊、正しき英雄の手で成仏なされてこその慈悲でしょう。彼等がどのような表情(かお)をあなた方に向けるかを想像するだけで……ああ、なんという……!」 悍ましき所業を行った下手人への怒りか。死ぬ他ない生き物にまで貶められた者への哀れみか。己の手では救えないと悟った自責の念か。 何でもいい。自分の生み出したもので高潔な英霊共の感情をかき乱せられれば、それだけで喉が潤う。 そんな、聖杯戦争の趨勢にまるで関わらない、その場の適当な思いつきを、この男は本気で実行してしまおうとしていた。 これが快楽主義の極み。 万全の布石を、綿密な策を、瞬間瞬間の感情で踏み倒し全力で愉しむ。 放蕩と無軌道が極大の爆弾となって、意思を持つ。悪夢とでもいうべき現象がここにある。 任務を終えた主の声を合図に始めよう。そう一人で勝手に頷き結界を解く手順に入りながら、ふと視線を横に向ける。 そこに、信じられぬものを見た。 「────────────────何?」 眼を開く。 美しく、しかし瞳の虹彩は腐り切った溝底色に濁った目玉が驚愕に剥かれる。 リンボは見た。 蠢動する肉塊。警察署の職員十余名を食い合わせた死体を接合した、未だ破壊の興奮止まぬ街に繰り出されようとしていた残骸の獣。 その輪郭に何重もの落書きじみた線が走って、その線をなぞるように裂けてずり落ちていくのを。 「──────ッ!?」 衝撃。驚愕。動揺。 いずれの感情も爆発する寸前でそれ以上の意識が押し留め、一足跳びで大きく距離を取る。 目にしたからだ。一瞬の解体の直後、迅風に乗って現れた影の姿を。 照明の落ちた正面ロビーの玄関前。 窓から薄く差す月の加護に照らされて、それは輪郭を露わにする。 結わえた髪。朱色の羽織。黒い袴。 指に握られるのは黒い、黒曜石のように輝輝として鈍く光る刀。 侍。 あるいは武士。 絵巻物に記される衣装そのままに、一人の剣士が、リンボを深く見ていた。 「……ほほう」 思いがけない郷愁に目を細める。 侍という、日の本の兵士。この期に及んでまで我が身に纏わりつくかと、運命の皮肉を嗤う余裕を保つ。 何をしに来た。どうやってここに気づいた。 今更過ぎた話は問わない。ここで慌てふためくのは二流の仕草。 落ち着き払った態度を崩さずに、対峙する敵手を見やる。 「これはこれは、このような夜更けにお急ぎの足でどうされました、侍よ。 見ての通り、ここはとうにもぬけの殻。あなたの待ち人は恐らくおられぬかと」 慇懃な口調で歓待の体で遇し、片手を掲げて無人の広間を示す。 指した先にある散乱物、乱暴に荒らされた空間に転がった肉片をこれ見よがしに見せて。 「それとも、よもや、拙僧に用向きがあると? 確かに我等はサーヴァント、生前果たせずにいた望みがため、浅ましくも現世に舞い戻った身。 出会えば、戦うのが必定。その恐ろしい刀を我が身に向けるというならば、それもまたよいでしょう」 しかし、と。 法師は念を押して、言霊を放つ。 「先にお聞きしたい事がございます。 先程のソレ、斬れ味はどうでしたか?」 「──────────────────」 斬られてから部位が崩れ、原型を留めず消失していく残骸に、剣士はこの場で初めて反応を示し、視線を地面に這わせた。 「人に似た感触でありましたか? 刀を通して肌を裂かれる彼等の苦痛が伝わりましたか? そうであったなら、これほどの喜びはございませぬ。手ずから丹念に拵えた甲斐があったというもの。 お答えください、正しきお人。義を志す者。怪物へと変じた、守るべき民草を慈悲深くもその手で斬り殺したその感想を。さあ、さあ、さあ!」 興奮で上気した顔で、詰め寄らんばかりに捲し立てる。 方法は不明なれどリンボの凶行の気配を感知し参じたからには、この英霊も善に連なる者だろう。 勇み足で突入しておきながら間に合わず、何もかもが手遅れになった後になって到着した間の悪さ。 もっと早く気づいていれば、気を張って急いでいれば止められたかもしれない無念の程は如何ばかりか。 守りし者が守るべきを喪う無能ぶりを堪能したくて、英雄気取りの敗者に舌鋒を突き刺す。 「私は、人を殺した経験はない」 「……は?」 返答は、予想したものとはまったく異なるものだった。 「私が狩るのは鬼だ。人が成ったものであるが本意ではなく、始祖の血を受けたことで蝕まれた彼等は、皆一様に心を失っている」 晴天の下、湖の凪いだ水面でも眺めている気分だった。 波一つ立たず、ただそこにあるだけで完結している、無我の境。 「……心は痛みはしないのですか?」 「奪われた者の無念は痛いほど分かる。我が身の不徳の致すところというならば返す言葉もない。 だが、私が嘆こうと時間は止まらず、共に悲しんでもくれない。ならば私がやるべき事は、その災いを広める者を止めることのみだ」 無貌のままに、抜き放たれた切っ先を持ち上げる。 ただ、お前を斬るという意思だけが、現実に偽らざる干渉を果たすかのように。 「……過去に、数多くの侍、武士と合いまみえた拙僧にございますが……あなたほど軟弱な剣士はついぞ見た覚えがありませぬ。 人を殺さぬ侍などとは笑止千万。あなたの時代の侍は、さては腑抜けの類語であるのか?」 宣戦の布告にも、リンボは侮蔑もあらわに見下す姿勢を隠さない。 なにしろこの男には殺気がない。目に入れるだけで首を飛ばしかねない、剣豪の覇気を欠片にも感じられない。 破壊された人理定礎の修復を巡る特異点、打ち捨てられた剪定事象との生存権を争う異聞帯にて鎬を削った、古今東西の豪傑達と比べれば、この英霊の意気はそれこそ小波にも満たない飛沫だった。 英霊ともなれば、絶望と苦痛は壊れる限界まで丹念に積み重ねてこそと志向するリンボだが、これは駄目だ。 前菜なぞ幾らでも次がある。これから盛大な馳走を戴く準備をしなくてはならないというのに、この程度の小物にかかずらってはいる暇などあるものか。 「この身に蓄えし本領を見せるまでもなし! いまこの場で! 縊り殺してくれようぞ!」 ───黒い波動が噴出する。 蛆湧く瘴気と邪気が魔力に染み渡って、周囲一帯を深く闇に侵す。 芦屋道満という英霊の霊基を餌に蚕食した3つの神、その指先から頭髪まで染み込んだ威容を毒々しくも溢れ出す。 本物の殺意とはこれだった。 身体を中心に浮遊する数々の人形の符。燃え上がる焔。沸騰する毒の光芒。 手段は多々分かれども、収束するのは対象の生命活動を完膚なきまでに破壊し尽くす、たったひとつの行為。 稚児でも持つ単調な悪意を、老爺ですら及ばぬ妄執で振るう。魔導の陰陽師はその両極を併せ持った極めつけの怪人だ。 怨嗟と執着、輝く者を貶めたい妬み嫉み。人間ではどうしようもなく抗えない我欲の陥穽。 「確認をしておく。お前の殺戮はお前自身の意思か。それとも、お前の主の意向か」 「共に! 我が望みと我が主の望み、降り立つ場所は大きく違い相容れない。 しかしその過程においてはひとつとして差異はなく、ぴたりと当てはまるが故に」 指ひとつ、呼気ひとつで号令を為す。 充溢していく魔力は爆裂寸前まで膨れ上がり、開城の瞬間を待ち望んでいる。 陰陽術の歴史に知らぬ者なき伝説の術師、その手腕を遺憾なく発揮された死の方式が、ただひとりの剣士を呑み込もうとしている。 「作るのですよ! 惨劇を、地獄を! 貴様もまた、その一助となり散れぇい!」 (等と、云いつつ) 嘲弄と挑発を繰り返すリンボだが、彼は消して目の前の侍を侮ってなどいない。 傲慢な物言いに反して、水面下では策謀を緻密に組み上げていた。 リンボは知る。英霊を殺戮の悪鬼に変える宿業の陣を、刀の一振りで霧散させる老境の剣聖を。 リンボは知る。真正の神、虚無を体現する惑星を、無の概念ごと斬り捨てた彷徨の剣豪を。 武士なるもの、侍なるものは、いつだとてリンボの目論見を真正面から打ち砕いてみせた怨敵だった。 アルターエゴという違法の霊基が登録されサーヴァントとして召喚される形となった、 つまりリンボが滅ぼされた最大要因もまた、平安の京を鎮護する源氏の益荒男の奮戦によるものであるのだから。 抑止の輪とは、人理とは、かくも悪辣に駒を配る。下総と平安京、二度の敗北での教訓は肝に命じた。 この名も知れぬ剣士も、弱々しい見た目からは想像もつかない反撃を繰り出してくるやもしれぬ。 故に──────。 (疑似神格体内励起、無限加速。熱量臨界制限解除。 仙術の秘奥には届かずとも、この程度であれば式神一体分の炸裂で十分ッ) 攻撃用の術式は布石。これで沈めば、それはそれでよし。 だが万に一つもこちらの弾幕を潜り抜け、この首を飛ばそうと間合いを詰めたならば、それこそが真の終わり。 取り込んだ神格の魔力を限界以上に注ぎ入れ、霊基一騎分を薪にした爆弾を零距離から受けることになる。 良くて、即死。幸運を掴みきれなかった場合は更に悲惨だ。 肚にたっぷりと詰め込んだ呪詛の大瀑布を浴びれば、致死に至るまでの間、地獄の鬼の拷問に匹敵する責め苦を負う羽目になる。 さあ仕掛けてみよ。邪悪なるモノを征伐する責務を果たしてみよ。 その時こそ前言を翻そう。奮闘を讃えよう。 どうせ死ぬのに無駄な足掻き、ご苦労様でした! と。 勝とうが、負けようが、どちらでも掌の上。 仕込みを済ませた死合舞台とは、愛玩動物の遊戯台と変わりない。 分かりきった結末を面白くするのは犠牲者の断末魔。想像だけでも身を震わす喜劇を開演すべく、小手調べの符呪術を見舞おうとした零秒前に、当の侍は位置からかき消えていた。 「グッ──────!?」 何処に───目を丸くしたリンボが補足するより先に、異変は発生した。 まず感じたのは灼熱。痛みはその後にやってきた。肉を焦がす匂いは一番最後だ。 胴の真ん中よりやや左下、器官でいえば脾臓あたりの部位に、黒から赤へ変色した刀が突き刺さっている。 弾幕を躱すどころの段階ではなかった。撃つ、という工程すら挟ませない無音の侵掠。 単なる速度のみならず、狙いや弾数、射出のタイミングまで、心の内を読まれたかと疑うほどの意識への滑り込み。 (疾い! だが……──────ッ!?) 隙とすらいえないほどの、僅かな間に差し込んだ仙術紛いの足運び。なるほど英霊だけのことはある。 しかしそれは、待ち構える二の矢の配置に見事に飛び込んだのと同意。 眼前で突きを繰り出した侍を諸共に消し飛ばすべく起爆させようとし……第二の異変が今度こそ、完全な慮外から襲いかかった。 仕掛けが、作動しない。 幾度と魔力を与えようと、体内に置いた爆弾が、湿気てしまったかのように着火しなかった。 「……何故、起動せぬ!?」 思いもせぬ事態に、自ら侍から退いてしまったのも気にしていられない。 たとえ首が落ちようとも、融解した炉心が自動的に爆発するようにしてあるのだ。自爆前提の策に解除の手順などあるはずもない。 だのに炉心の熱は上昇の気配を一向に見せない。逆に段々と機能を冷めさせてすらいるではないか。 何故、何故──────? 解けない疑問に回す思考を、腹部からの激痛が遮った。 先程侍に入れられた一太刀。引き抜かれても未だ消えない余熱が肉を炙って煙をくゆらせている。 その皮膚の下に何があるのかを思い出して、そこでリンボは己の不明を悟った。 「その宝具……退魔の剣か!」 斬撃の時のみ赤熱化する黒刀。 おそらくは、魔性の獣を数多無数に斬り殺し続けた経験が補正として刀に乗ったもの。 人理の輪から逸した化外の種に特効効果を有した宝具が、リンボの術式を阻害したのだ。 人の皮を剥ぎ、三柱の神を喰らって人類の脅威となったリンボはその判定に含まれる。 鬼狩りと称した、敵の来歴が詐称なきものだと知る。人狩りの武士なぞより、よほど厄介な手合いだ。 だがそれだけでは、不発の理由づけには不足している。 特効を有していれば与えられるのはリンボへの致命傷であるのみのはず。 不味かったのは武具ではなく、部位。 刀が貫いた箇所にある、体内の脾臓付近を通る神の器を収めた場所だ。 魔力を流す疑似神経……魔術回路に傷をつけられた。 悪霊左府を取り込んで生前より遥かに増大した回路は、魔性特効の範囲内に及ぶ逆効果となってしまっていたのだ。 「莫迦な、有り得ん! 魔性殺しについてはどうでもいい。単にそのような宝具を有していただけのこと。瞠目するに値しない。 だがこちらの術式を不発に終わらせた一転。これだけは絶対に認められない。 見ただけで魔術回路の機能を見抜き、神の器を収めた箇所を看破する? 初見の、それも戦闘の間合いにあった相手に対してそれを成し、一太刀目で機能を封じる。 ただ魔術の知識があるだけで実践できるものではない。 経験則や勘で可能とする技術を身につけたという域を突破している。 『目に見える生物が透けて見え、筋肉の動きから神経の位置、魔力の発露加減まで読み取っている』でもない限り、そのような芸当は不可能なのだ。 「直に触れたならいざ知らず、見ただけで儂の術の芯を捉えたと!? あまつさえ、そんな低級の宝具の差し込みのみで神との接続を不全に陥れるなどと! そのような出鱈目、たとえ剣聖であろうと罷り通るものか! そんなものはまるで■■の───────」 喉から声が失せた。酸欠に喘ぎ口を開閉させる。 口にした禁句を聞かせまいと、脳が停止した。 今、何を言いかけた? 失墜の原点。全霊で藻掻き、足掻き、焦がれに焦がれてもなお止まぬ執着を焼き付けた、何よりも誰よりも憎らしい男の名を、吐き出そうとしなかったか? 「貴様……! 貴様は!」 迫る死の到来を目前にしながら、リンボは吠える。 憎悪と恥辱に塗れた、遊興の戯れとはかけ離れた激情を噴出して。 「貴様は!!! 何だ!!!」 返礼は、壱斬を以て。 疾走する火車が、凝固した黒泥を轢き潰す。 宙を舞う首も、華と咲く血飛沫も、床を汚すより先に塵に帰る。 刻んだ破壊と惨劇の爪痕、後には何も残らなかった。 ■ (間違いなく斬った。だが、手応えがない) 残心を終え、血を振るい、刀を収める。 生態の一部にまでなった所作を済ませ、緑壱は討ち取ったばかりの相手を、しかし討ち漏らしたと見做した。 恐るべき敵だった。 あやかしの術を自在に使いこなし、多方面にて被害をもたらすことのできる技量と、人の不幸を悦とする性質を備えている怪人だった。 透かして見えた英霊の体内は人とも鬼とも違う奇怪な構造体が埋められていた。 本人が呼ぶところの、神なる異物を埋め込んだ影響は人とは呼べない変貌を遂げさせた。 鬼ですらここまで異様なる改造を施していたのは、始祖の鬼舞辻無惨の他にいない。 今しがた交戦を交わしたのも本体とは違う。分身、身代わりの類か。 そもそもその場にいない者を討つ手段を、緑壱は持ち合わせていない。 自己変革と再定義。分身体への人格付与。 それほどの才、正しく用いれば、自分などより多くの人を助けられるだろうというのに、何故あのように狂える面を持ってしまったのか。 だがそれとこの惨事に間に合わなかったこととは関係がない。 巧妙に隠していた気配に、気づくのが遅れた。そのまま見過ごしていた可能性もあった。 軟弱。そう嘲られても致し方ない。 (…懊悩に身を委ねる権利など、私にはない) 自責も、煩悶も、捨てて置く。 死人たる身で惑うようではただの亡霊だ。サーヴァント、英霊の末席を汚す者として、止まることは許されない。 この場でできる最善は、ひとりでも生存者を保護すること。魔物の消滅と同時に空間を包む緊張感も霧散している。反響しやすい壁の作りもあって、上階でした足音の位置を如実に教えてくれる。 歩幅の感覚や体重移動からして童子、十を超えるかどうかの幼子だ。 聖杯に与えられた知識で、此処が現代の詰所であることはわかる。親とはぐれたところを保護されたか。 奇妙なことに、聴こえる足取りに迷いはなかった。しかもこれは、速さからして走ってもいる。 あてもなく助けを求めて迷う者の歩調ではない。何処か明確な行き先が定まった進み方だ。 気にしながらも追いかけ曲がり角を過ぎれば見つけられるというところで、唐突に足音が消えた。 立ち止まったのではなく、気配ごとごっそりと消失したのだ。 只事ではないと先へ踏み出す。赤い印のついた個室の引き戸が開きっぱなしにしてある。中を改めればそこは便所だったが、用を足してるわけでもない。神隠しにでも遭ったかのように姿は消え失せていた。 備え付けられた姿見に視線をやる。磨かれた鏡面は幽世の住人である自身をも寸分狂いなく映し出している。 こちら側にはない、この眼でも見分けがつき難いほどの微細な波紋が揺れていた。 「……」 鏡面へと指を伸ばす。 触れたところで返ってくるのは冷たい硬質のみ。けれどこの剣士ならば決まりきった摂理の境界すらも障子を破るが如く越してしまうのではないかと抱かせる雰囲気がある。 現実と虚構とが触れ合い突破する事はなかった。 触れるよりも先に、聴覚が拾った人の呼び声に踵を返し、即座にその場を去ったからだ。 鼻孔を刺激する香り。 耳元で早鐘を打つ蠕動。 卓犖した五感は目で見るよりもずっと早く克明に映し出す。 待ち受ける末路を理解しながらも脚を緩めたりせず、縁壱は現場に急行する。 「……」 手狭な個室に広がるのは、見慣れたくなどなかった光景。 鬼の報せを受けて向かえば、必ずこのような惨状に行き遭う。 長閑な日々、慎ましやかでも家族と過ごせる平和。 小さくとも、この世のありとあらゆる美しいものが、瞬きもしないうちに壊されてしまう。 鬼が跋扈した時代、世の裏ではこのような悲劇が幾つも起きていたのだ。 豊かで物に溢れ、大きな争いもなく、親が子を愛し育む、そんな細やかな幸福が許される世界においてすら。 異なるのは、鬼ならば体を食い千切られるが、個室に横たわる遺体は局所を撃ち抜かれての絶命である事か。 六人の内の四人は事切れていた。いずれも死因は同じ武器によるものだ。 一人は脹脛を穿たれていただけで命に別状はないので、手早く処置した。 おでんと共に災厄に巻き込まれた者を助ける途中で、この街の役人から分け与えてもらった道具が役に立った。 そして。 残る最後に。 「え。誰」 地面に横たわりながら、自分を見上げる透明な瞳と目が合った。 「わ。侍じゃん。すげ。あと六人いるのか、な」 溢れる声は、寝言かうわ言かのようにか細かった。 音のしない施設の中にいても早々拾えない。少女の命の残量が、もう録に声を張れないほど示していた。 「……ここには私しかいない。もう、敵はいない」 足を屈めて距離を近くする。 音を拾える自分はともかく、少女の薄れた意識ではこちらの声が届かないかもしれない。 「え、そうなの。足りないじゃん、用心棒」 「雇うのか」 「そう、野盗の。守るんだって」 「……? …………………そうか、野盗か」 「ふふっ、なに、いまの間」 不思議な時間が流れていた。 噛み合ってるような、合わないような、緩やかな会話が続く。 とりとめなく、実りのない会話であっても、誰かと話をすることは緑壱の性には合っていた。 「何を守るという」 「んー。お百姓さんとか、貧しき民とか。神も仏もねぇだよって、野盗に襲われそうな」 「そうか」 曖昧模糊とした喋り口だが、どうやら何かの映画の話を語っているらしい。 召喚に合わせて付与されたこの時代の知識から検索する。音と映像を記録し、いつでも映し出せる機械。 どのような話なのか聞いてみたい関心が湧くが、そのような時間は残っていなかった。緑壱にも、少女にも。 「みんなと、雛菜ちゃんは?」 「……」 「─────そっか」 掠れた声が、更に一回り音階が落ちたのを肌で感じる。 「私も、駄目かな。これ」 何も答えないのを少女は肯定と受け取ったようで、小さく息を吐いた。 助かる見込みがあったのなら話も聞かずすぐさま運び出しておでんを呼んでいた。 出血が多すぎる。視えた傷は、腹腔に二発分の貫通。内蔵も損傷している。痛みすら感じていないのだろう。 呼吸術を学んだ剣士でも、英霊でもない市政の人では回復する機会も掴めない。少女を見た時から、脱落者の烙印を押されているのはわかっていた。 とうに意識を失っているのが自然。こうして話ができているのが無用な奇跡だ。 「すまない。私では、助けられなかった」 「え、いいよ。謝らないで。ていうか、来てくれたんでしょ、助けに」 看取る相手に怒りも嘆きも見せず、少女は穏やかだった。怒る気力もないだけかもしれないが。 「それでも、間に合わなかった。私はまた、しくじってしまった」 少女の死に行く様を、ただゆっくりと見届ける。 緑壱が、セイバーのサーヴァントが、最強の鬼狩りが最後にしてやれるのがそんな気休めでしかないのが心苦しくて。 その気持が伝わったみたいに、少女は動かなくなってきた唇を薄く伸ばして。 「じゃあさ、食べてくれないかな、私を」 そんな、奇妙なことを、言い出した。 「なんか、ぜんぜん違ったんだ、ここのてっぺん。 狭くて、ちっちゃくて、近づいてるって気がしない。登る夢も、ぜんぜん、見なかったし」 地面を濡らす血糊は、少女の意識を白く霞に包んでいく。 記憶の前後もあやふやになって、夢でも にも関わらず、言葉は続く。息が続く確率は、可能性は、もう残ってないのに。 緑壱に違和感という名の疑問が芽生えた。 足を撃たれた女性は痛みのせいか数分前に気絶していた。 残る四人は絶命している。 では誰が、緑壱を呼んだのか。階層を隔てて届く声を上げたのは誰なのか。 「こんなになっても、食べてもらえたって気、しないし。 誰かの一部になれる、そういう輪の中に、入れないのがめっちゃ、めっちゃ、やだなって」 骨肉から臓器まで透かして見える世界の中で、彼女は完全なる「人間」だった。 真も偽もない。優劣を競うでもなく、ただそこにいるだけで可能性を見せた。心臓に代わる鼓動と熱をもたらしている器官などその前には些末なものだ。 「だから、ここに来てくれた人なら、いいかなって。 あげるよ、ぜんぶ。私の」 言っている意味は、実のところ半分ほどしか理解が叶わない。 漠然としながらも、それでも言いたいことは感じ取れた。彼女が何を願って、自分に求めているのか。 「……私も、同じく仮初の住人だ。永くはこの世に留まれない。近くに消えることになる」 なら、この問いに答えなくては。 末期の痴れ言と流すのも、自らを卑下することも許されない。 迫られる義務感は、問答よりも戦いの激しさにも似ている。邪法師よりも遥かに強大な激戦を迎えてる気がした。 故にこそ、あらん限りの誠意と心を込めて。 「だから、それまでの間でよければ、憶えていると約束しよう。ここに確かに存在した、生きていた"誰か"の声を」 「───────────────」 返事はない。ちゃんと聞こえていたのか、満足したのかどうかもはっきりせず、少女は息絶えていた。 心臓の音が聞こえなかったのは、いつの頃だったか。 暫くしてから、生存者を抱えて警察署を飛び出す。 名も知れぬ少女から、緑壱は命のバトンを受け取った。 誰かの命を、食べたのだ。 ■ 【中野区・中野警察署内/1日目・夜】 【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業】 [状態]:健康、軽い頭痛。 [令呪]:残り3画 [装備]:トカレフ@現実 [道具]:トカレフの予備弾薬 [所持金]:十数万円(極道の屋敷を襲撃した際に奪ったもの) [思考・状況] 基本方針:理想のカケラに辿り着くため界聖杯を手に入れる。 0:鏡面世界を移動中。 1:最悪脱出出来るならそれでも構わないが、敵は積極的に排除したい。 2:割れた子供達(グラス・チルドレン)に潜り込み利用する。皮下達との折り合いは適度に付けたい。 3:ライダー(カイドウ)を打倒する手段を探し、いざという時確実に排除できる体制を整えたい 4:ずる賢い蜘蛛。厄介ですけど、所詮虫は虫。ですわよ? 5:にっちもさっちも行かなそうなら令呪で逃亡する。背に腹は代えられない。 →
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ADVANCED 選択肢 投票数 投票 詐称 0 強 1 中 0 弱 0 逆詐称 0