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03-531 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/16(火) 18 33 55.91 ID Jl7D58vp 「利行君の口に合うのって、これかなあ」 分かってるくせに。メールでしっかり伝えたのに。 焦らしてる。それもそれと分かるようにやっているから、余計に焦れる。 「その右手の奴です。……そっちは左手! ……そうです、それ!」 「ふふ、怒らないの」 昼下がりのマンションの一室の良く整理されたダイニング。悦子さんは僕に 歩み寄って来る。白いタートルネックのセーターとベージュのスカート。栗毛 の軽いウェーブの髪に成熟した女性のにおい立つ雰囲気をまとっているが、気 品の良さも滲み出している。 「じゃ、これ、ね」 悦子さんは、右手の球状の口枷を僕の口に押し込んだ。さっきは革製の布の ものをかざされたので怒ってしまったのだ。 腰掛けた僕の前で、口枷のベルトを頭の後で止める。僕の顔にセーターの胸 が触れるか触れないか。心をくすぐる化粧品の香り。 計算ずく。ずるい、女性だ。 「これでできあがり。……やだ、何興奮してるの?」 僕の脚はダイニング用の椅子の足にベルトで縛られている。手首はタオルで 結ばれ、頭のうしろに固定され、やはり革の紐で椅子の 足に繋がれていた。 僕は全裸。隠し切れない欲望は、痛みを伴うほど屹立し、脈拍と共に動いて いた。口の端から落ちた雫は、その根元の茂みに落ちた。 ……僕はこれを望んでいた。これをずっと待っていたのだ。 03-532 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/16(火) 18 35 12.21 ID Jl7D58vp ◆ ◆ ◆ このシチュエーションをとあるサイトに載せたのは軽い気持ちだったが、女 性のナマの裸すら見たことも無い自分の日ごろの夢想そのもので、反応など全 く期待していなかった。サイトに送ることで、どこか自分の欲求を昇華させた に過ぎなかった。 送信して2日後に、女性の名前で送られてきたメール。いつものスパムとは 違うアドレスのものをつい開けてしまう。 “とある人妻です。イタズラしたくなっちゃいました―” 今思えば最初のこの一文から、僕はそそられてしまった。股間のものをい いようにいじられる感触をも想像した。 “道具もいろいろありますヨ♪ いじめてあげるね” という文句にも思わず体を熱くした。 具体的な日時、場所と服装、髪形と34歳という年齢まで書いてあり、あま りに出来すぎの話に疑ったが、もしかしたらという期待に胸が高まって仕方 なかった。 大学の講義をさぼっての、平日の午前のとある駅前のショッピングモール。 まばらな女性客の中に浮いてしまっている僕は、気恥ずかしく待ちあわせの ベンチで小さくなっていた。 その僕の前に立った女性―茶の革のブーツ、茶のスカート、白のセーター と薄緑のショール。深い栗色のロングヘアを揺らし、色白な瓜実顔の中の大 きな目をくしゃっとほぐして、 「あなた? 利行君?」 34歳には見えない。人妻に見えない。自分よりは年上そうだが、快活そう な声に幾分甘えの含んだ感じで、先走った妄想の斜め上を行っていた。 「はい、悦子さん……ですか?」 「初めまして。ふふ……」 初対面の僕に包み込むように微笑みかける。それからかがんで、僕の耳に 鮮烈なレッドの口紅の唇を寄せて、少し低い声で、それでも明確に囁いた。 「やらしいセックス、しましょうねえ?」 03-533 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/16(火) 18 37 30.50 ID Jl7D58vp 思えばそのまんまの言葉だ。セックスはいやらしいのだから。 でも、人が行き来する場で、はっきりとそれでいて諭すように言われば、 それは呪文になってしまう。その呪文はファミリーレストランでの食事中 も、見も知らない家庭の部屋に入っても、ずっと耳に繰り返されていた。 期待どおりのシチュエーションに、そんなスパイスがあれば、当然興奮 してしまう。 「で、これはオプションね」 さっきの革の布を僕の目に押し当て、それを頭の後に縛られる。 僕は彼女に何もできない。触りに行くことも、視線を刺しに行くことさ えもできないでいる。予想もしない追い討ちをかけられて、軽く恐怖する。 その恐怖にわくわくしている。 ふぅっ 温かな息を耳に。僕はぞわりと顔を震わせ、反射的に守るように自分の 腕で耳を隠す。細い指の爪の先で反対の耳の産毛に指を滑らせる。 「ううっ……」 声が上がってしまう。 「ふふ、かわいいんだ」 そう言いながら、僕の耳の中に舌が入っていく。つぷり、にちゃ、と 聴覚をダイレクトに揺さぶった。尖らして、奥底を探られる。 「ふう……おお……おおおっおう」 くすぐったい。そういう感想さえも表せないじれったさが、どこまで も自分の今の不甲斐なさを増幅させていく。 不意に、股間の固い棒を悦子さんが握った。冷たさの中にじんわり伝 わる温かさを感じる間もなく、先端のずる剥けの部分を集中的にさする。 「ううう……おうおう……ぐう」 「こんなに固くしちゃうから辛いのよ。……でも固いけど、細っぽいの ね。チンポって感じじゃないよね。そうね、オチンチンちゃんって感じ?」 言うことが恥ずかしい言葉。言われて恥ずかしい言葉。 耳元に焼き付けられる容赦ない囁きのなぶりに、僕は正直に反応して いく。 もう、高まっていく体。内腿がわななき、下腹が震える。 「おおお! うううう! あおお!」 「利行くぅん。もう出しちゃうの? 気持ちよくなっちゃったの?」 呻きと共に、壊れた機械のようにうなずくことしかできない。それを 無視して、睾丸の辺りに指を滑らせて、笑いを含み、 「イっちゃいたいの? じゃ、イっちゃったら今日はおしまいにしま しょうね」 「ううう! おっ! ううう!」 今度は馬鹿みたいに首を振る。 03-534 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/16(火) 18 38 42.94 ID Jl7D58vp 手の動きは早くなっていく。頭の芯に綿でも詰まったように朦朧と し、脊髄に濃厚な刺激が矢継ぎ早にやってくる。 狂おしい発射の衝動がすぐそこに迫る―― そこで、手が離れた。 「やあね、そんなに一人で気分盛り上げちゃって」 遠いところから、悦子さんの声だけが聞こえる。目をふさがれたせい で彼女の体温や息遣いまでも感じられたのに、今それすらもなく、おそ らく部屋の外から、妙にクリアに侮蔑をともなって響いている。 「みっともなくて、堪え性のないオチンチンちゃん。――毛を剃ってみ ようか? どうせ要らないでしょ?」 揺さぶられまくる自尊心。椅子に縛られ、なすすべもないままに弄ば れる、この状況に頭が痺れている。 うなずいてしまったらどうなるだろう。 お願いです。汚らしい陰毛を剃り落としてください、と意思表示した ら… 『さもしい子ね』などと、さらに僕を罵り、それからハサミや剃刀の刃 物の冷たさと危険さを感じながら、もっとひどい屈辱にまみれることが できるだろうか。 見えない中、妄想が錯綜し、増大する。勝手な至福の中、布ずれの音 がする。続いてぱさりと布が床に落ちる音。 僕のあごに両手が添えられ、頬にやわらかいマシュマロのような肉の 感触。――乳房だ。彼女の息の音と、肌を滑る乳首の固さで気づいた。 咥える事も、舐めることも出来ないのに、つい唇でその突起を捕らえよ うとする。 「ふふ、必死ね。――かわいい!」 ぐっと顔に胸を押し付けて、頭を撫でてくれた。貶められて、褒めら れて、嵐の中の小船のように、いいように狂わされていく。 彼女の体がずり下がり、まっすぐに僕の胸に口を押し当てる。そのま ま僕の乳首を舐め、甘噛みを見舞われる。 「……ふーーっ! おう、おう!」 ちゅちゅ、ちゅば! ぴちょぴちょぴちょ…… 音を立てて吸う、乳りんに沿って舌が回る……執拗なしゃぶりだけで、 僕はもう発射の準備が出来てしまっていた。 「女の子みたい。そんなに乳首が感じるのぉ?」 がくんがくんがくん…… もっと責めてもらいたくて、精一杯の意思表示に何度もうなずいてし まう。口の両端からは、もう唾液がだらだらだ。 「じゃあさ、もっと“いいこと”しようね?」 03-535 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/16(火) 18 39 35.82 ID Jl7D58vp ぐらりと体が右に傾いで、ゆっくりと椅子ごと倒れていく。 「ふっ!?」 僕は予想もしないことに体を固くしたが、どうやら危険がなく、横た えられることが分かると、身を任せていた。右の腰が冷たいフローリン グに触れ、それから、椅子が完全に倒された。たった今まで口に納めら れてた乳首が、外気に触れてひんやりする。 「とても無様ねえ。こんな格好した人っていないでしょうね」 頭の上から含み笑いと共にかけられる言葉。放置プレイは好きじゃな いこともメールには書いた。積極的に弄繰り回して欲しいとも書いた。 話が違うと思うと同時に、急に鼻の前に、香りがした。芳醇でなめら かな香り―― 「これ、何の匂いかわかる? 本当は利行君のカウパーでいいと思った んだけど、あんまり出ないから、このオリーブオイル使うよ」 僕があまり先走りがでないのは事実だ。でも何にオリーブオイルを使 うのだろう。 僕の背中に悦子さんが回る。それから、手でお尻と椅子との隙間を作 ってから。 つるり、ずうううっ 僕の肛門に指が一本入ってきた。 「うっ!……ううーっ!?」 体を思わず硬直させると、悦子さんはまた笑う。 「ほんとに女の子なんじゃないの? そんなに鳴かないでよ」 かき回す指。螺旋。円運動と、直進運動の溶け合い。肉体的には、わ ずかに痛い。精神的に苦しさと恥ずかしさと、蹂躙されている悔しさと。 でも、ある一点! そこをこすられると、自分の熱い肉に響くような 快感が走り、そのたびに声が止められない。 03-536 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/16(火) 18 40 28.85 ID Jl7D58vp 「うっ!……うっ!……ううううっ……ううっ!」 「いいの? ここが甘いの?」 快感は狂ったようなうなずきに代えるしかない。たまらず足をバタバ タさせて紛らす。 「ここ、いっぱい弄ったら、出ちゃう?」 出ちゃう! 懸命なうなずき。 「出ちゃったら、セックス無しなの、わかってるよね?」 それは困る。したい。悦子さんとしたい。 それなのに、指は止まらない。震わせるように責めてくる。さらに、 「もう一本増やしまーす」 深く苦しく押し込まれる。螺旋、往復、振動、ピンポイント。 いつしか、床の面の顔によだれがたまっているのに気づく。それほど 声が止められず、思考が呆(ほう)けていく。悦子さんにいいように犯 される今の自分に、震えるほど悦楽を感じている。 「これがいいのね? これ! ほらっ!!」 その部分を2本指で、連続で震わす。この攻めで、腰が、蕩ける。 もう、出る! 「うーっ! うーーっ! うっ、うっ、うっ!」 「こう!? こう!? 出ちゃうの!?」 「うーーーーーっ!!」 暴れてガタガタと床を鳴らす椅子の音は気にならなかった。 それくらいの、今まで感じたこと無かった噴出感と、強烈な快感に。 目隠しで目の前は暗かったが、意識が遠くなり、暗転した。 03-537 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/16(火) 18 41 40.39 ID Jl7D58vp ーーめのまえがしろい。 薄ぼんやりした景色の中、気付け薬の強烈な匂いで、横倒しのリビン グの風景に強引に引き戻された。 「!!」 「利行君、イっちゃったねえ、ほら、すんごいの。窓見て」 目隠しを取られていたことにも、今気づいた。リビングの窓、自分の 位置から2メートルは離れているのに、そこに白濁が飛んでいて、ゆっく り下に落ちている。ほとばしりで、そこまでの軌跡も分かってしまう。 自分の腰の辺りには、直径3cmほどの溜まりになっていて、しぼみき った分身から未練がましく、残りが垂れている。 「あんなに飛ぶのって初めて見た。お掃除が大変。……でも」 少し残念そうに、諭すように肩に手をかけた。 「あんなに出ちゃ、もう立たないでしょ、おちんちん。また今度にしま しょうか?」 見上げると悦子さんは、出会った時のようなやわらかな笑みで僕を見 ている。 トップレス。もちのようにふくらんだ乳房の上の、ツンと前を向いた 乳首の色の薄さが、その歳に似つかわしくなく、若々しく、みずみずし い。 あのおっぱいに顔を埋めたい。揉みしだいて、舐めて、吸い付いて、 揺すって見たい。 むずがゆさを感じて、それが体にこみ上げてきて、硬くなるモノ。 「んーっ! ううううーん!」 「えっ? あらあら」 悦子さんは、女神のような微笑からサキュバスのような艶笑に変えた。 「ふふ、もう少し、楽しませてもらえるようね?」 03-542 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 42 06.04 ID f9/Mqcds 「ああ、やっぱり拘束されるのが似合うのね、利行君は」 椅子に繋がれた革の紐はほどかれ、再び目隠しされ、手首はタオルで 後ろ手で縛られて、寝室に誘(いざな)われた。そこで、大きさはおそ らくセミダブルのベッドに仰向けで寝かされ、膝をベルトで縛られた。 手首はベッドの頭のところで固定されてしまったらしい。 無防備な格好への拘束は、どうしても期待で体中が敏感になってしま う。 そんなところに、先ほどの発射で汚れた僕の先端に、たよりないもの が当てられ、やさしく拭われる。悦子さんがティッシュで掃除してくれ ている。 「やせっぽちの子って『ああ、いじめてやりたい』って思っちゃう。そ れに色が白いから黒いベルトがとっても映えるの」 嬉々として言う。需要と供給がぴったり合って、僕もうれしい。 「ど変態だと、このおちんちんちゃんも大変なんじゃない。嗜好が合わ ないと満足できないんじゃない?」 掴まれた肉棒は、それでもびくんと震える。悦子さんの手が嬉しい。 でも、もっとうれしいのは…… 「こんなふうに、踏んでくれる人なんていないでしょ!」 竿の部分を、すこしひんやりしたものに、へその方向に踏まれる。お そらくはストッキング地の足で、情けない僕のものはみっともなくひしゃ げているだろう。 悦子さんはさらに、足に前後動を加える。執拗に、時折強く踏みつける。 足の指先。僕の先端にこすりつけたり、カリの部分をなぞってみたり、 袋をいじってみたり。 「ふうううっ!……ううううう!……」 さっき出したばかりなのに、被虐の快感に、もう、高まっていこうとす る。腰が動き、背中が反ってしまう。 「ね、今度出したら、本当にお預けなんだから! 我慢なさいっ」 無理なことだ。ど変態が夢にまで見たあこがれのプレイに興じて、その Mさを煽るSな女の人の容赦の無い言葉を投げつけられれば、それで果て ないほうがおかしい。 「おう!……ううううっ!……おおおおっ!…………う?」 もう3秒このままなら、また吐き出してしまうというときに、離れた足。 本当にこっちの高ぶりを心憎いほどわきまえている。そこがたまらない。 「ねえ、そろそろあたしのことも楽しませてくれない?」 03-543 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 43 42.98 ID f9/Mqcds 布がぱさりと床に落ちた音。その後で、彼女はベッドに乗って、僕の顔 の左右のスプリングが軋んだ。今、僕は跨がれている 悦子さんの足がずれて、代わりに少し重いものが両耳の横へ。素肌の感 触。太腿だ。 僕の胸に暖かで、液体に濡れた重さの感覚が乗った。悦子さんのお尻に 踏まれている。 「上手にできたらぁ、アイマスクは取ってあげるから」 鼻先から口元にぺチャリと濡れそぼったもののが押し付けられる。しば らくは動かずにいたが、魅惑的な芳香を伴って、そそのかすように口枷を 過ぎ、鼻筋を辿る。 熟れた悦子さんの秘貝は、やがて鼻の適度な固さを気に入り、それで肉 の中をこじり始める。芳醇にとろとろしたものが、鼻の穴にも流れ来るが、 僕は言い尽くせない享楽の中で、動かせる頭を突き上げることで、彼女の 欲望に応えようとした。 「あん……うん……うん……そうよぉ……そんな感じ……ふうん……」 鼻の先をクレパスに沿って擦り付ける。上の方の、女の人の甘い突起を とらえるようになると、彼女の吐息は切なく、熱く、短く、強くなる。 夫は単身の長期出張だと語った彼女は少しの刺激で声を荒げた。 「……いっ……はっ……やん、あん……はあっ!……それ……あっ!」 “SとMは表裏一体だ”という言葉は、まったくそのとおりだ。Mが喜び そうなことをSは繰り出す。でもその想像は突きつめれば、Sの中にある Mとしての欲がある証しなのだ。僕は今、奉仕をしているのではない。悦 子さんの中のMに応えるSで、敏感な部分を嬲っている。 左右の動き、円の動き。強弱や一度止めてからの、突然の振動。 「ああん!……ああん!……あああ、利行君……いっ……はあっ!……」 腰や太腿が痙攣している。あの上品ないでたちの悦子さんが、こんなに も、はしたなく声を乱している。 ――もっと、泣かせてやろう さらに多くの振動を与えようとした瞬間に。 ピンポーンというチャイムの音、それから。 ガチャン、ガチャ、ガチャ……キイ 玄関のドアが開けられた音。 03-544 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 45 44.72 ID f9/Mqcds 「ただいまあ!」 弾けるような女児の声。 僕は大いに慌てる。玄関先にある戸を開ければ、ダイニングに繋がる。 先ほどの狂態の始末はしなかったはずだ。横倒しになった椅子、撒き散ら された白い粘液を見れば、いくら子供といえど、怪しむだろう。 「おかえりなさい、千佳。今、ちょっと洗濯物の整理をしてて出られない のぉ!」 そういいながら、悦子さんは僕の頭に手を回し、革の目隠しを取り去った。 しばらく感じなかった光を受けて、目の前はぼんやりしている。 「テレビのお部屋も、散らかしちゃったの。だから入らないでくれるかしら?」 「ふうん。……手伝おっか?」 「いいわ。お母さんでないとできないの」 やり取りのうちに次第に視界が回復する。初めて見る目の前にある淫猥な 肉のほどけ方。しどけなく開いて、よだれのような女の欲の蜜を垂れ流して いる。僕が見ているのを見て、からかうように外側の襞を指で開いて見せ付 ける人妻。 素肌という白いスクリーンの前で咲く赤いグラジオラス。奥の縁が褐色で ありながら、盛んにひくついて男を誘っている。茂みは長方形に生え揃い、 軽くくびれたウエストはしっとりとなだらかで、さっき見たおっぱい越しに、 淫らに目元を潤ませた悦子さんの白い喉。 僕の心はそぞろだ。彼女の家族に痴態を晒してしまうのか、夢にまで見た 淫靡な光景に本能のままに振舞えばいいのか。 「いいよ、チカ、手伝う!」 「本当にいいのよ――そこに塾のカバン置いてあるでしょ。学校のカバン置 いていってらっしゃい」 硬直してしまっている僕を哂うように、ぐちょぐちょの鼻先に近づくしこ り。鼻筋を舐めるように動くのと、 「はーい、いってきます!」 という声はほぼ同時だった。 ――どこまでもドキドキさせる人なんだろう。子供が帰ってくるなんて聞 かされてなかった。 そして、どこまでも貪欲に性を貪るんだろう。娘との会話の途中で、腰を 僕の顔に押し付けてくるなんて。 かなわない。全部悦子さんの手のひらの中で踊らされている。主導権なんて 握れないんだ。 03-545 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 47 04.01 ID f9/Mqcds 「驚いた? 娘が帰ってきてびびったの?」 興奮と動揺に目線が定まらない僕に、上から嬉しそうに尋ねる悦子さんの 口角は上がっている。 「変態だから、見られてもいいんでしょ? 残念だったんじゃない?」 背筋(せすじ)が震えてしまう。年端もいかない見ず知らずの女の子に、 縛られて勃起してしまっている姿を見られるのは、最悪の恥辱かもしれない。 けれど、このシチュエーションに悦子さんの肉のひくつきと蜜の溢れ方だっ て、僕の鼓動に負けてはいない。もう、顔中は悦子さんの芳香にまみれている。 悦子さんも浮気現場を娘にみられるという、この上ないスリルに身をやつし ているのだ。 僕たちは今、微妙なギブ・アンド・テイクの中にある。 悦子さんは体をよじって、僕の下腹部を見る。 「あらあ、縮み上がらないのね。やっぱり感じたの? ドスケベなおちんちん ちゃん。さっきより、もっと大きくなってない?」 軽く筒のあたりをつかんで、上下にしごく。 「ううっ……ふうっ……うおっ……」 ふいの攻撃に、縛られた太腿が痙攣する。 「ふふふ……」 ベッドサイドの戸棚から小さな赤いビニールを掴み、口を使って破った。肌 色をしたゴムの避妊具を唇ではさみ、ずり下がって僕の節くれだったものを包 んだ。 とうとう、女の人の中に入る。期待に震えて熱く固まった血潮が、悦子さん の蕩けた花壷を狙っている。 「はあっ……ふっ……」 潤滑油をシャフトにまぶす。それだけの行為に、この人妻は扇情的に身をく ねらせる。悪戯っぽく僕の目を見て反応を楽しんでいるのだ。 「……ううう!……ううう!」 早く、早くっ! 入れたい、入れたいっ! 言葉に出来ていないのに、叫ばずにいられない欲望。自分が自分でいられな い、ただセックスに支配された獣のように腰を跳ねさせる。 そのとき、口枷が外された。口の中を支配していたボールが糸を引いて顔の 横に転がった。 03-546 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 48 05.23 ID f9/Mqcds 「利行君、何? どうしたいの?」 僕の両肩を手でシーツに押し付けて、顔の真上で問いただした。長時間拘束 されて痛むあごのせいで、声が出しづらい。 「……せっ……せっくす、したいです……」 「セックス? 何、それ、どういう風にするものなの?」 ここへ来てまだ焦らそうとしている。苛立ちを隠せない僕は説明を始める。 「それは!……あそこを、あの中に」 「なあに、それ? なんだかわかんない。ーーきちんと言いなさい!」 僕はその教師のような叱責に軽い電気を受けている。具体的に悦子さんにお 願いする言葉を選んでいる。 「悦子さんの……お……おまん、こに……」 「はっきり言いなさい!」 「おまんこに! ……僕の、ち……ちんぽを」 「ちんぽじゃないでしょ、こんな細っぽいの!『おちんちんちゃん』って教え たでしょ?」 僕は衝撃を覚えた。あんな恥ずかしい言葉で、自分の性器を呼ばなくてはい けないのか。カリは確かに大きくなく、鉛筆のように細長い感があるがそんな に粗末なものなのか。 けれど、そんなに粗末なもので彼女に侵入することは本当に望外で光栄なこ となのかもしれない。悦子さんと言う辛辣で意地悪な女神に服従することこそ が、するべきことなのだ。 口を開いて、小声で言った。 「悦子さんのおまんこに……僕のおちんちんちゃんを入れたい」 口が震えてしまうような屈辱。それが体中にさざ波のように甘美に広がる事 実。僕は顔を真っ赤にして、目をシーツに移す。 「あらあ、人にお願いする言い方かしら?」 「悦子さんのおまんこに、僕のおちんちんちゃんを入れさせてください」 「人にお願いするなら、目を見て言いなさい!」 あご先を指でつままれて、正面を向くように強制されて。どうしようもなく、 ぞくぞくする。 もう、逆らえない。 僕ははっきりお願いした。 「悦子さんのおまんこに、僕のおちんちんちゃんを入れて、やらしいせっくす をしたいのです」 悦子さんは、息を荒くしている。上体を起こし、高いところから僕を見下すと 黒のストッキングを履いた右足で僕の額を踏んだ。 「もう一度!」 「僕のおちんちんちゃんを、悦子さんのおまんこに挿し込みたいです!」 「こんなことする女としたいの?」 「こうしてくれる悦子さんだから、したいです!」 足を浮かせると、今度は足の指を口に突っ込んだ。もう、わかっている。ス トッキングの生地越しの足指を吸い、舐めまわし、軽く噛んだ。 「……んっ……うん……ふん…………ふふふ」 悦子さんの濡れそぼったものから、僕の腹に1滴、2滴と落ちてきた。 僕の肉棒も焦燥を露わにして脈打っている。 お互いの性器がお互いを欲している。 「じゃあ、ど変態のものを入れてあげる……」 少し狂気じみた瞳で、艶っぽい微笑を僕にくれた。 03-547 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 49 07.54 ID f9/Mqcds 「あ、あ……入って……入ってくるの……ほらあ、ほらあ……」 膝を立てて、全部を見えるようにしておいて、手ですぼまりに狙いをつけて、 僕の肉の高まりを飲み込んでいく。蠕動とあわせて、順々と咀嚼していくように。 「はあ……はあ……悦子さんが……おちんちんちゃんを……食べていきます」 「見てえ……ずっぽり……挿し込んでるのお……」 まだ胎内に収まらない濡れそぼった陰茎を、愛液が時間をかけて、上塗りを 重ねていく。肉で、体液で僕は侵食されていく。 途中なのに、そこで前後に腰を揺らす人妻。すぼまりできつく締め付けて、 熱蜜のなかでかき混ざっている感覚。 「はうっ……あん……あっ……あっ……こすれて……る……いいの……」 やがて、ゆっくりした腰の回転。自分の膝に置いていたが、いつしか僕の膝に 手が乗り、腰を突き出すように、はしたなく漕ぐ。 「……堅いのぉ……こりこりくるのぉ!……としゆきく……かたいのぉ!」 あんなに蔑んだ僕のもので快楽を貪っている。品がよく、優しげな主婦で母親 でも、Sな女性でも、悦楽に負けるただのオンナ。 僕はぬるついた肉の鞘中で振り回されているものを、勢い良く突き上げた。根 元まで収まって陰毛と陰毛が一つになった。 「……はあああっ!……だめえ……いちばん奥……」 内臓を押し上げて、悦子さんの腰もせり上がる。膝が震え、のけぞった体に電 気が走る。同時に僕を逃がさないようにきつく絞りたてる。悦子さんは押さえつ けるように前傾して、全体重を乗せて恥骨をこすりつけた。腰を突き出して、局 部を見せ付けるかのようなポーズで乱れる。肉棒を引くときには、中の柔肉も吸 い付いているのが丸見えだ。 「ああっ、ああっ、あ、あ、あっ……」 腰の動きに合ってしまう声のピッチは、僕をいつしか面白がらせていた。動き をグラインドに変えれば、ああん、ふうんと僕のカラダを味わうように甘えた声 で鳴く。 悦子さんは僕の“おちんちんちゃん”で涙を流している。 息絶え絶えの人妻は、たまらないという感じに体を離すと、肩を上下させてし どけなく膝を開けて、僕の足元に仰向けに横たわった。その体勢で、僕の膝の拘 束具のバックルを外した。次に気だるい風情で僕の顔に顔を近づけて、手首の拘 束を外した。 「ね、起き上がってえ?」 色香たっぷりの声に逆らえずに、ベッドの上に胡坐で座る。悦子さんは寝室の クリーム色の壁紙に左手をついて、僕にまあるいヒップを突き出した。反対の手 の指で、肉に包まれた秘貝を露わにして、淫靡さが吹き零れる目尻でこう訴えた。 「利行君が、突っ込んで……」 03-548 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 49 59.94 ID f9/Mqcds すこし背中をよじった卑猥な曲線、太腿までの黒のストッキングから浮かび上 がるヒップの豊かさに、正直むしゃぶりつきたくなる。あんなに僕を罵った女性 が、僕を迎え入れようと一番恥ずかしいところをさらけ出している。 何も考えられずにじり寄った。背中に抱きついた。下腹に張り付くくらい屹立 したものを悦子さんの熱いぬかるみに当てた。押し込む。一気に奥をこじる。 「はあああああ! あっ……あっ……いきなり……とどいてるぅ……」 僕の勢いに圧されて、悦子さんの上体は壁にへばりついた。バンザイの状態で 壁を掻く彼女。僕の両手は、平面につぶされた乳房を揉みしだきにかかっている。 つきたての餅の柔らかさと、素敵な気分にさせるボリューム。 「……はあ、はあ、はあ……なんか……犯されてるの……すごく……強引……」 僕の顔の前で、思った言葉を我慢できずに、熱い吐息混じりに口にする。その 耳にキスして舌で味わった。 ふいに悦子さんは、バストから離せないでいた右手の中指を握り、そのまま自 らの下腹部に下ろしていく。そして、つかんだ僕の指先を彼女の蒸れ切った陰毛 の上に押し当てた。もう少し下に移せばクリトリスに当たる。 「……ねえ、ここ……ここ、目がけて……ずんずん、こじってぇ……」 ずっぷり埋まってしまったものをゆっくり半分抜いて、狙うように切っ先で肉壁 を擦る。反射的に淫肉が絞られ、頭がガクンと背中に反る。 「ああっ!……それ……それなのぉ!……はぁ……ぐちょぐちょなのぉ……」 慣れない腰の動きに肉茎が外れる。入れなおすたび空気を含んで、ぐぷっとか ぢょっという音が耳に焼きつく。僕と悦子さんで作る音だ。 コツをつかむと、慎重に腰を揺らすだけでよかった。僕は陰毛に絡めていた指 をそっと下ろし、さっき鼻先でいじった肉のしこりに円を描く。 「いやあ!……ふ、ふ、ふ……ああ!……あたしを……追い詰める……気でしょ ……あん!」 わなわなと全身で震える嬌態に愛おしささえ湧き上がった。髪の中に顔を埋め、 うなじを舐め上げる。どこまでも熱く湿り気を帯びていく彼女の中が、ゴム越し でも飲み込もうと蠕動して、抜くときにきゅっと捕まる。 「悦子さん、エロすぎだよ……セックスって、エロいよ……」 悦子さんイコールセックス。僕はぬかるみに飲み込まれるイメージの中、いつ もオナニーで感じる高まりが始まっているのを感じた。 「悦子さん、もう、出ちゃいそうだ。我慢できないよ!」 「はあ……はあ……まだだめ……もう少し……」 突きながら、右手で陰毛の中の紅い芽をつまみ、左手で乳房をつかんだ。 「ああっ!……あああああっ! ……………はっ!……はっ!」 中で強く締まって、その動きが全身に断続的に、ビクッビクッと伝わる。 悦子さんは力尽きたように、僕に背を向けたまま横倒しになって、そのまま 震えていた。眼は焦点が定まっていない。 「……はあ、はあ、んっ……すご……イッちゃったあ……」 僕は女性をイカせることができたんだ! 03-549 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 52 15.32 ID f9/Mqcds 行き場のない欲望が脈動で蠢く。張り裂けるような肉隗は、さっきまでのぬかる みを求めている。 外気に触れて、放出欲は収まりつつある。けれど女性に絶頂を味合わせた達成感 は、僕の本能を呼び覚まさせていた。自分が生物の牡であることをはっきり自覚し た。 「悦子さん、ね、もっと入れたいよ」 花を求める蜂のように、牝と化している悦子さんににじり寄る。無遠慮に白い膝 を開いて、熱くとろけた箇所をさらけ出した。 「だめえ。ちょっと触らないで……」 惚けきった顔で身体が思うように動かせない女体に、僕は覆いかぶさり、当たり 前のように挿し込んだ。奥まで。 「ん……ふああああああ! ……はあ……あ……」 さっきの締め付けは無いが、あの熱の中に戻った安堵に酔いしれる。その感触に 僕ははしゃぐように身体を往復させる。 動きにあわせて揺れる目の前の乳房。その前後に踊る紅い突起に狙いをすまして、 口で襲う。舌でなぞる。鼻が肉の中に沈む。母以外の乳房に夢中になり、いつしか 両方のそれを鷲づかんで味わう。 「……利行君、動いてえ……」 僕はあまりに魅惑的な感触に、腰を動かすのを忘れていた。交互に舌から乳首を 迎え入れて、抜ける寸前まで腰を引き、限界まで押し込む。 愛液が白く濁って、根元近くでこびりついている。 「ああっ! ああっ! ……すごっ……ああっ……おちんぽ!……すごい!」 あんなに蔑んでいた僕のもののことを、いやらしい言葉には違いないが、認めて くれた。僕は確かめたくて、 「悦子さん、ちんぽ、いいの? 僕のちんぽ、いいんでしょ?」 だらしなく開いてしまっている唇から、絶え絶えに漏れ出る声。 「ちんぽ……いいのお! 突いてえ……ちんぽで……奥う!」 とうとう言った。嬉しくて、にわかに沸いた余裕で、彼女の顔を見る。 時折、唇の上と端をなめる仕草。鮮烈な口紅と淫猥な言葉。その口を欲しいと思 った。だから、食べてしまう。吸って、中の粘膜と粘膜を一体させる、今の下半身 でやっていることと同じように。甘みをも感じる体液を味わって、湧き出るそれは 同じようにシーツに流れ落ちる。 そう考えたら、再び始まった収縮の中、ゴムで果たせない体内への射精の欲求が 高まった。 「ね、悦子さん、悦子さん!……」 動きながら、快感であらぬところに視線が泳ぐ悦子さんに語りかける。 「出そう! 口に出したいよ!」 03-550 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 53 24.82 ID f9/Mqcds 糸のように光る唾液のなごりをあごにつけて、喘ぐ悦子さんの息は必死だ。 「……はっ!……あっ!……あっ!……もっと!……もっと!」 「いいんだよね! 口に出すよ!」 「いい!……いい!……ああっ……イッちゃう!」 聞こえているのか聞こえていないのか。けれど僕もすでに余裕が無く、勝手に許 しを得たと、その勢いに任せて最大限のピストンを見舞う。 「……あああああああっ!……あっ!」 「……うあっ!」 限界の限界を味わって、一気に抜いて肉棒からゴムを取り外した瞬間に、生き物 のような白い筋が、すっかり上気した悦子さんの頬と目を射抜く。僕は慌てて、半 開きの彼女の口に注ぎ込む。第2射が入っていったのを見てから、力任せに押し込 む。 もう、暴力だ。膝と下腹の痙攣と共に何度も発射する精を、強引に体内に取り込 ませようとしているのだから。 こんな快美感は初めてだった。女性を満足させ、屈服させ、自分のしたい風に開 放させた。 悦子さんは、鼻で荒い息を僕の陰毛に吹きかけて、それでも肉茎へしゃぶりつい ている。僕の全ての欲液を口腔に留まらせて、そのぬるぬると舌をからませている。 「あはあ、あ、はあ、悦子さん! ……嘘だろ……ああっ……気持ちよすぎる」 大切に粘液を呑み込んでいく。そのリズムで甘噛みしながら、先端を舌で刺激す る人妻。指が肛門の前をくすぐり、奥底に残る精までも吸い尽くす。 たった今出したのに、明らかに射精欲が高ぶる。 「……あっ! ……あっ! ……はあ、はあ、はあ……」 咥えるペニスの黒ずみと真っ赤なルージュの対比の淫らさに耐えられなくて、達 してしまった。 もう出るものは無いのに、痺れる感覚。腰に力が入らなくて、僕はすっかり消耗 して、悦子さんの横に倒れこんだ。 二人で見詰め合った。乱れきった髪。一層艶めいた肌が美しさを倍加させている。 その髪を人差し指でなぞって僕が笑いかけると 「……悪い子」 けだるさの中、少し怒った声で顔をそむけた。 03-551 :やらしいセックス ◆p4rXhmWpH2:2011/08/17(水) 17 55 15.02 ID f9/Mqcds ◆ ◆ ◆ ちょうど、車内に彼女のマンションの最寄のバス停のアナウンスがあった時だった。 「…………!」 回数券をあやうく落としそうになった。真面目そうな運転手は、少し心配そうに 僕を見たが、何も無かったかのように最大限の努力をして降りた僕に、何も声をかけ なかった。 歩き出す今も、僕の中に仕込んだローターが激しく振動している。携帯電話につな いであり、コールで動く代物だ。 あれから週に2度は悦子さんのマンションに通っている。 そして、お互いの身体を蕩かしている。 今日は子供が完全に登校を終えて、主婦が家事を一段落させる午前10時のバスを 指定され、コンドームをかぶせたプラスティックの固まりを直腸に埋めて出かける ように指示されていた。 いつ何処で動くか分からないスリル。身体の中心にはめ込まれた違和感をよそに、 その恐れと期待に、僕の脳は軽く痺れていた。けれども少しも動く気配の無いそれに 拍子抜けして、何の気構えもしていなかっただけに、スイートポイントへの急激な振 動は、後頭部を殴られたような刺激を叩き込まれた。 「……ふ!……う……」 注意して息をしないと、ぎこちない歩みになる。時折横を通り過ぎる人に怪しまれ ないようにだけ注意していたら、いつものマンションに着いていた。 人がいないことを確かめる。エレベータが下りてきていないか、階段に足音は無い か、ひとしきり確かめてから、ホールのインターホンを押す。 程なく、返事がする。 「何しに来たのかしら?」 愛しくて、ずるくて、賢くて、淫らで、残酷で、美しい人妻―― 分かっているくせに。ローターは一度たりとも止まる様子は無い。 僕は、この時、はっきり言うことになっている。 「やらしいセックスをしに来ました」 完
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「スクライド」のカズマが召喚される話。 スクライド・零-1 スクライド・零-2 スクライド・零-3 スクライド・零-4 スクライド・零-5 スクライド・零-6 スクライド・零-7 スクライド・零-8 スクライド・零-9 スクライド・零-10 スクライド・零-11 スクライド・零-12 スクライド・零-13 スクライド・零-14 スクライド・零-15 スクライド・零-16 スクライド・零-17 スクライド・零-18 スクライド・零-19 スクライド・零-20 スクライド・零-21 スクライド・零-22
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前ページ次ページラスボスだった使い魔 シティオブサウスゴータ。 かつてはサウスゴータ家が治め、そのサウスゴータ家が取り潰しにあってからはアルビオン王家が治め、その王家が潰れたら今度は神聖アルビオン帝国が治め、そうかと思えばトリステイン・ゲルマニア連合軍が奪い、更にまた神聖アルビオン帝国に奪い返された都市である。 ここ最近やたらと支配者が移り変わっている、不遇と言うか数奇な自分の生まれ故郷を、マチルダ・オブ・サウスゴータは複雑な思いで『ネオ・グランゾンのコクピットの中から』見下ろしていた。 もう少し正確に言えば、『ネオ・グランゾンのコクピットに映し出された映像を見ていた』。 「……懐かしいと言えばそうだけど……何だかね」 「その郷愁は分からないでもありませんが」 思わず口から漏れた呟きに、傍らにいるシュウ・シラカワが応えた。 ちなみに、今彼らが乗っているネオ・グランゾンには『副座』などという気の利いたものは備わっていないので、自動的にマチルダがシュウの膝の上に乗らざるを得ない形になっている。 これにはさすがのマチルダもうろたえたのだが、当のシュウは涼しい顔。 と言うか、全然気にした風もない。 …………微妙に女としてのプライドが傷付けられたが、そこはグッと堪えた。 そう言えばコクピットの隅の方で、チカが『うわあああ、ティファニア様をどう誤魔化せば』とか言いながら翼で頭を抱えているが、何の話なんだろう。 まあ、自分には関係なさそうだから放っておくけど。 「どの辺りまでの土地を『サウスゴータ』と言うのですか?」 「この『シティ』から、大体30リーグくらい離れた……ああ、この山脈あたりまでだね」 マチルダは、コクピットに表示された周辺の地形図を指差してそう説明する。 と、そこで彼女は疑問を覚えた。 「シュウ、質問していいかい?」 「私が答えられるものであれば、どうぞ」 「いや……、このネオ・グランゾンの……こくぴっと? に映し出されてる、えっと、『もにたー』だっけ? それに書かれてるのって、アンタの故郷の文字なんだよね?」 「そうです。より正確に言うのならラ・ギアスの文字ではなく、地上の文字ですが」 このネオ・グランゾンの前身であるグランゾンは、そもそも地上……いわゆる地球で造られたのだから、モニターやコンソールの表示にそこの文字が使われているのは当然である。 「……よく分かんないけど、とにかくハルケギニアで使われてる文字とは違うわけだ」 「ええ」 「それじゃ、使ってる文字が違うのに、私たちとアンタとでどうして言葉が通じるんだい? 少なくとも私はこの文字が読めないわけだから、言葉も違っていなきゃおかしいじゃないか。…………今更だけどさ」 「ああ、そのことですか」 シュウは生徒にものを教える教師のようにしてマチルダに説明した。 「これはラ・ギアスから地上人が召喚される場合の話ですが、『召喚される人間』は召喚時に言葉を翻訳する魔法がかけられるのです」 「ってことは……」 「おそらくは私が召喚された時にも、私に対して似たような魔法がかけられたのでしょうね。ティファニアが使った召喚のゲートには、そのような効果を付与する機能があるのでしょう」 「はあ、成程。……ん?」 そうなると、新たな疑問が出て来る。 「だったらアンタがハルケギニアのガリア語の本を、スラスラ読めるのはどうしてさ」 「? 文字の読み方ならばティファニアに教えてもらいましたが」 「……………」 サラッと言うシュウ。 確かこの男は、自分ですら何を言っているのかよく分からない本をパーッと流し読みしていたような気がするが……。 「……一応聞いておくけど、習得するまでどのくらいかかった?」 「5日ほどです。その間、ティファニアには迷惑をかけてしまいましたね」 「……………………ああ、そう」 いくら『言葉が通じる』とは言え、まっさらな状態から勉強を始めて5日ほどでマスター。 驚異的なスピードだ。 早過ぎると言っていい。 どのくらい凄いのかと言うと、産まれも育ちもハルケギニアのマチルダが23年かけて培ってきた語学力を、このシュウ・シラカワはわずか5日で追い抜いてしまったということである。 (……いや、コレは深く考えるとダメな気がするね、うん) 今、自分が体重を預けている男は、ひょっとしてとんでもない人間なんじゃなかろうか。 そんなことを今になって自覚してきたマチルダは、やや強引に話題を変えることにした。 「えっと……その、それにしても、本当に大丈夫なんだろうね? 見たところ、見張りの連中がウヨウヨいるみたいだけど」 マチルダは別のモニターを指差しながら、目の前にある不安材料を提示する。 そのモニターが映すのは、シティオブサウスゴータの外れにあるレンガ造りの建物だ。 何でも、その建物には現アルビオン皇帝クロムウェルが直々にやって来ており、そこを司令部としてトリステイン・ゲルマニア連合軍の追撃を指揮しているとか。 仮にも『皇帝』を名乗る人間が随分と軽率な行動だが、件の建物にはこれ見よがしに神聖アルビオン共和国の議会旗がはためいており、しかも周辺にはかなりの数の竜騎士や警備の兵たちが確認出来る。 裏付けの材料としては、まあまあと言うところか。 しかし。 「こんなバカでかい図体した、ええと、ガーゴイルじゃなくって、なんだっけ」 「ロボット、機動兵器、アーマードモジュール……好きなように表現していただいて構いませんよ」 「そうそう、こんな『ろぼっと』が堂々と空を飛んでるんじゃ、見つけてくれって言ってるようなもんじゃないか」 「その点ならば心配はいりません。この『隠行の術』は持続時間と持続空間を絞り込めば、姿や物音はもちろん、完全に気配まで消すことが出来ますからね」 「……………」 もうワケが分からない。 いや、まあ、間違いなく目で直接確認が出来る距離までこっちが接近しているのに、見張りの騎士や兵士たちは全然こっちに気付いていないということからして、確かにそういう効果はあるらしいとして、だ。 何と言うか、あまりにも凄過ぎないだろうか? いくらハルケギニアとは違う世界からやって来たとは言え、この男は……。 「それではあの砦の近くへ停めて、中に忍び込みましょう。マチルダ、案内はお願いしますよ」 「……ああ、分かったよ」 打ち切ったはずの思考が再開しかけて来たところでシュウから声をかけられ、マチルダは再び我に返る。 今はあの砦に侵入して、クロムウェルから『アンドバリ』の指輪を取り返すことが先決だ。 ―――取りあえず、今は。 かつてマチルダの実家が太守を務めていた、サウスゴータ地方。 彼女にとってこの土地一帯は庭みたいなものであり、同時に遊び場のようなものである。 と言うか、現在忍び込んでいるこの砦は子供の頃、実際に遊び場に使っていた。 実際に街を治めていたのは議会だったし、名ばかりの太守ではあったが、そのくらいの融通は利いたのだ。 しかし、そんな昔懐かしい場所に忍び込むことになろうとは、子供の頃はもちろんサウスゴータの地を追い出されて以降も、全然思っていなかった。 (……ま、感傷にひたろうってわけでもないけどさ) それでも複雑な気分であることは確かだ。 とっくに吹っ切ったと思って―――思い込んでいたのだが、意外とマチルダ・オブ・サウスゴータという人間は未練がましいらしい。 「っと、あそこだよ」 そんなことを思いながらシュウと一緒に歩いていたら、目的の部屋の前にたどり着いた。 マチルダの記憶にある限り、この砦で最も広く、内装も豪華だった部屋である。 この砦の中にクロムウェルがいるとすれば、あの部屋が最も可能性が高いだろう。 「……いると思いますか?」 「さあ、そこまでは知らないよ。ドアを開けてみて、いたらそれで良し。いなけりゃまた探すしかないんじゃないかい?」 「それも仕方がありませんか」 今後の方針はそれでいいとして、目的の部屋の前には見張りの兵が二人ほど立っていた。 いくら『隠行の術』とは言えドアや壁をすり抜けられるわけではないため、どうにかして退いてもらう必要がある。 マチルダが『スリープ・クラウド』でも使えれば話は早かったのだが、あいにくと彼女は土メイジであって、水系統の呪文である『スリープ・クラウド』は使えない(水系統そのものが使えないというわけではないが)。 と、なると……。 「チカ、行ってらっしゃい」 「あ、やっぱり。待ってました! いやー、このまま出番なしで終わると思っちゃったじゃないですか、もう」 シュウの肩に乗っていたチカが、嬉しそうに翼をはためかせる。 「やり過ぎないようにしてくださいよ。騒ぎを大きくして、他の見張りに来られては困ります」 「はーい。モニカ様の時と同じ手でいいですかね?」 「……あまり多用する方法じゃありませんが、いちいち手段を選んでいる場合でもないですからね。構いません」 「了解でーす」 パタパタパタ、とシュウの肩から羽ばたくチカ。 「? 何のことだい、一体」 「…………見ていれば分かりますよ」 そしてチカは見張りの兵士二人へと飛んで行き……、 「ん? 何だ、この鳥は?」 「誰かの使い魔が逃げ出したんだろ」 「バーカ、バーカ!」 いきなり暴言を吐いたのだった。 これにまず反応したのは、二人の内の背の高い方である。 「何だとぉ、このやろ!」 「よせよ、たかが鳥じゃないか」 それをいさめる背の低い兵士。 「主人は誰だ? まったく、しつけがなってない!!」 背の高い兵士はそれでも憤りを抑えられないようで、顔も名前も知らないこの青い鳥の主人へと文句をこぼす。 だが、次の瞬間。 「アホ、ボケ、カス! ○×○の××××!!」 「な、何をっ!! 取り消せ!! 今の言葉は許せん!!」 またもや吐き出された暴言に、今度は背の低い兵士が過剰に反応した。 「……何ムキになってんだよ、たかが鳥だろ?」 それをいさめる背の高い兵士。 ……と、そこで背の高い兵士はあることに気付いたようで、疑いの視線を向けながら背の低い兵士に問いかける。 「それともお前、ホントに○×○で××××なのか?」 「き、貴様まで言うか!?」 見張りの兵士二人の間に亀裂が入り始めたが、チカはそんなことにはお構いなしで暴言を吐き続け、 「やーい、やーい、○○○の○○○野郎!」 そのままどこかへと飛んで行った。 「待てっ!!」 「おい、ほっとけよ! お~い……」 去って行った鳥を追いかける背の低い兵士。 更に、いきなり立ち去ってしまった相棒を連れ戻すべく、背の高い兵士もまたその場を離れていく。 「上手くいったようですね」 そんな一部始終を見ていたシュウとマチルダは、ドアの前に誰もいなくなったことを確認する。 「…………。あのさぁ、前にもこの手を使ったって言ってたけど……」 「さあ、部屋の中を確認しましょう」 (…………触れられたくないのかね) じゃあそっとしておくべきか、とマチルダもあえてそれ以上の追求はやめておくことにした。 マチルダ・オブ・サウスゴータは、それなりに空気の読める女なのである。 「失礼しますよ」 ドアを開けて中に入る。 この段階では『隠行の術』も意味を成さないため、解除済みだ。 よって、二人の姿は誰からも確認が出来るのだが……。 「なっ!? 何だ、貴様らは!!?」 中にいたのは、三十代半ばほどの男。 カールした金髪に碧眼、高い鷲鼻。 聞いていた外見に一致することから、おそらくはこの男がアルビオン皇帝クロムウェルではないかと思われた。 しかし……。 「ええい、警備の兵は何をやっていた!? この大事な時に、私に何かあったらどうすると言うのだ!?」 革命を起こして皇帝の座に就いた人間にしては肝が据わっていないと言うか、随分と態度に余裕がなかった。 よくよく見てみれば髪は何度も掻きむしったように乱れているし、頬はやつれ気味、目は血走っていて、更に大怪我でもしたのか左腕が包帯で分厚く巻かれている。 「……?」 いぶかしむマチルダ。 ともあれ、やることに変わりはない。 「神聖アルビオン帝国皇帝、オリヴァー・クロムウェル閣下ですね?」 シュウの問いかけに、ビクリと震える男。 どうやら本当にクロムウェルらしい。 「う、うぅぅ……! な、何なのだ、貴様たちは!? 一体何が目的だ!?」 「私たちの目的は、あなたの持っている『アンドバリ』の指輪です」 「『アンドバリ』の……!!?」 「ラグドリアン湖の水の精霊から、それを取り返すように頼まれましてね。大人しく渡していただければ助かるのですが……」 「フ……フン、成程な……」 相変わらず余裕のない―――追い詰められたような様子であるが、クロムウェルは薄ら笑いを浮かべ、ジットリとした視線でシュウとマチルダを見る。 「……いいだろう、見せてやる」 そして包帯が巻かれていない右手だけでゴソゴソと机の中を漁ると、その笑みを更に深くして、 「お前たちが探している指輪は……これだ!!」 その右手に嵌められた『アンドバリ』の指輪を、二人に向けた。 「!」 「きゃっ!?」 ドン、と衝撃を受けて倒れるマチルダ。 一体何が……と確認してみれば、シュウが自分を突き飛ばした姿勢のままで固まっている。 「シ、シュウ……」 「む……ぐっ!? これは……まさか、私の意思を……!?」 「フ、フハハハハッ!! 死者を操る『アンドバリ』の指輪だが、こうして生者の意思を捻じ曲げ、持ち主である私にかしずかせることも出来るとは知らなかったようだなぁ!!」 「むうっ……う……」 「ああっ……」 そう言えば、水の精霊がそんなことを言っていた。 つまりシュウは今『アンドバリ』の指輪の魔力を受け、操られようとしているのか。 「くっ……」 何とかしてシュウを助けなけないと。 しかし、迂闊に動いてしまっては今度は自分が操られてしまいかねない。 一体どうすれば……。 と、その時。 「ふいー、ようやくあの見張りを撒いてきましたよ」 開けっぱなしにしていた入り口のドアから、チカが戻ってきた。 「チカ!」 「ぬっ……使い魔か?」 「あれ? どーいう状況なんですか、コレ」 のん気なことを言うチカに、マチルダは怒気のこもった声で説明する。 「シュウがあの指輪の力で、操られかけてるんだよ!! 今は何とか抵抗してるみたいだけど、このままじゃ……」 「うげえぇっ!!?」 仰天するチカ。 しかし、いささか驚き過ぎではないだろうか。 いや、自分の主人がそんなことになっていれば、これだけ驚くのも当然か。 「ご、御主人様を操ろうとするって、なんと恐ろしいことを!」 「ああ、このままシュウが操られるようなことになったら……」 「は? 何を言ってんですかマチルダ様」 「え?」 どうも会話が噛み合っていない。 『シュウが操られる』というのは、それはもう非常事態以外の何でもないはずだ。 なのに、チカは『それとは別のこと』を恐がっているような……。 「あたしが恐ろしいって言ったのは、『これから御主人様がどうするのか』であってですね」 「?」 自分が何を恐がっているのかについて説明し始めるチカ。 だが、それよりも先に、 「ク、ククク……」 「!」「えっ?」「うわっちゃ~……」 鈍く輝く『アンドバリ』の指輪の魔力を受け、今にもクロムウェルに操られようとしているシュウから、暗い笑い声が聞こえてきた。 その顔は確かに笑顔なのだが、決して明るいものではなく、かと言って先程のクロムウェルのような嫌らしさを感じるものでもない。 まるで、何か堪え難いものを無理矢理に堪えているような、そんな笑顔だった。 「な……馬鹿な、この指輪の魔力を生者が受ければ、感情は消えるはず!! まして笑い声を上げるなど……!?」 「……そんな粗末な精神波で私を操ろうとするなど、思い上がりもはなはだしいですね。エンジェル・ハイロゥのサイキックウェーブやヴォルクルスの呪縛に比べれば、児戯にも劣ります」 「何だと!?」 「……比較対象のハードルが高いなぁ……」 ボソッと呟くチカだったが、シュウもクロムウェルもマチルダもそれに構っている余裕はなかった。 シュウは『アンドバリ』の指輪を向けられながら、一歩一歩クロムウェルへと近付いていく。 「ルオゾール以来ですか……。私の意思を操ろうなどと考えた身の程知らずは……」 「ひぃ!? そ、そんな馬鹿な!!?」 必死になって指輪を向けるクロムウェルだったが、シュウは歩みを止めない。 そしてその笑みもまた、ますます凄惨さを増していく。 「うっ……うわぁ!?」 もはや『アンドバリ』の指輪を使っても無駄だと判断したのか、後ずさって逃げようとするクロムウェル。 だがその際に足がもつれ、転んでしまった。 「『アンドバリ』の指輪の力をマトモに受けて、自分の意思を保っていられるとは……!? 貴様……ほ、本当に人間か!!?」 「……失礼な。私もれっきとした人間ですよ」 シュウはそんなアルビオン皇帝へと、手を伸ばせば触れられる位置にまで近づく。 「―――もっとも、一度ほど冥府より呼び戻された経験はありますがね」 「っ!?」 『アンドバリ』の指輪をかばうように右手を隠すクロムウェル。 その様子を見て、シュウは目を細めた。 「な、何だ!? 何をされようと、貴様などにこの指輪は渡さんぞ!! こ、これがないと、私は……私は……!」 「……ふむ。その『アンドバリ』の指輪……どうあってもこちらに渡す気はなさそうですね」 「そうだ!!」 クロムウェルはハッキリと拒絶の意思を示す。 対するシュウは、しゃがみ込んで彼と視線の高さを同じくし、真正面からアルビオン皇帝と向き合った。 「成程……よく分かりました」 あくまでも物腰は丁寧に、しかしどこか有無を言わさぬ迫力をにじませながら、シュウは話を続ける。 「では、その『アンドバリ』の指輪は、あなたの命よりも大切な物なのですね?」 「う?」 たじろぐクロムウェル。 それでも何とか胆力を振り絞ったのか、目の前の男の問いに対して途切れ途切れに答えを返す。 「……そ、そう……だ……」 「では、あなたが命を失えば、指輪は大切な物ではなくなりますね?」 「は?」 驚いたのは、傍から見ていたマチルダである。 そんなメチャクチャな理屈があるか。 クロムウェルだって、そんな言葉には首を横に振るに決まって、 「…………そ……う……、……だ……」 「ええ!?」 何と、認めてしまった。 「ど、どうなって……」 マチルダの困惑をよそに、シュウとクロムウェルの『会話』は進んでいく。 「……あなたは既に死んでいます。あなたが気付かないだけでね。 その証拠に―――ほら、もう何も聞こえないし、何も見えません」 「ぅ……あぁ……、……なにも……見えない……、…………聞こえない……。 ……私は…………死んでいる…………」 「そうです。 ですから、その指輪はもう必要ないのです。こちらに渡してください」 「……ゆびわ、は…………ひつようない…………わたす…………」 クロムウェルはのろのろとした動作で、右手をシュウに差し出した。 シュウはそれに頷くと、クロムウェルの右手の人差し指に嵌められた『アンドバリ』の指輪をそっと外す。 そしてマチルダとチカの方に振り返り、軽い調子で喋り始めた。 「終わりましたよ」 「アンタ……アイツに一体、何をしたんだい!?」 クロムウェルを見れば、ぼんやりとした様子で何かをブツブツと呟いている。 一体、シュウはこの男に何をしたというのだ。 水魔法というわけではないだろうが……。 「何、大したことはしていません。簡単な催眠術をかけただけですよ」 「催眠術?」 「ええ。彼はこれで、最低でも半年は廃人同様です」 「…………!!」 「私を操ろうとした報いとするには軽いかも知れませんが、私の素性を知らなかったことを考慮すれば酌量の余地も少しはあるでしょうし、命を奪うまではしないでおきましょうか」 「……………」 『簡単な』などと言っていたが、言うほど簡単ではないことくらいマチルダにも分かる。 最低でも半年は廃人同様。 そんなものが『簡単な』ものであってたまるか。 いや、このシュウ・シラカワにとっては『簡単な』ものであるかも知れないが、それにしても……。 「……恐ろしい男だね……」 今日見せてもらった、この男の力の断片。 それらを総合すると、もうこの言葉しか出てこない。 「あ~、こりゃもう御主人様に関わっちまったのが運のツキとしか言いようがないですね~」 ご愁傷様です、とクロムウェルに向かって呟くチカ。 どうやらこの青い鳥のファミリアは、主人のこういう行動はとっくの昔に承知していたようだ。 「さて……」 マチルダとチカのそんな言葉に気分を害した風もなく、シュウは『アンドバリ』の指輪を手にまた歩き出す。 「それでは用も済んだことですし、この砦から脱出しましょう。どうやらここは敵襲を受けるようですからね」 「え? 敵襲って……トリステインがかい?」 「さあ、そこまでは。しかし敵意を持った者がこちらに近づいてくる気配を感じますので、ここが戦火に見舞われるのは間違いないでしょう」 「おおっ、久々に出ましたね。御主人様のレーダーいらずスキル」 そんな会話をしつつ、一向は『隠行の術』を使って姿を消してから部屋を後にする。 後に残されたのは、 「…………わたし……は……、……しんでいる…………しんで…………しん、で…………」 自分が死んだという『事実』を延々と呟き続ける、神聖アルビオン共和国皇帝オリヴァー・クロムウェルだけだった。 なお、シュウたちがネオ・グランゾンに乗り込み、砦から離脱したその数十分後。 この砦はガリア両用艦隊の一斉砲撃によって、中にいたアルビオン皇帝や兵士たちごと木っ端微塵に吹き飛ばされることとなる。 前ページ次ページラスボスだった使い魔
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簡単な登場人物紹介とか? 海馬 瀬人:高校二年生。海馬コーポレーション代表取締役社長。 異世界に身をおいても、唯我独尊な態度と嫁とモクバへの愛は止まない。 ちゃっかりデュエルディスク装着、懐にはデリンジャーも。KCはもと軍需企業の為、現代兵器をほぼ全てを扱えるらしい。 (デリンジャーは骨董品?社長の趣味に茶々を入れるとは良い度胸だな貴様!) ルイズ・フ(ry:ロリっこ貴族。わがままでツンデレ。社長に振り回される。通称凡骨 ギーシュ・(ry:女たらしのやられ役。まぁ、通常はフルボッコだわな。 通称馬の骨 シエスタ:メイド。貴族の相手をしているためか、すぐに社長の態度に順応する。 ルイズと社長の奇行を生暖かく見守る フーケ:某高校教師のサーヴァント。現在新婚3ヶ月目に突入 キュルケ:海馬のことをダーリンと呼ぶ。ある人物の亡霊に取り付かれていると噂されているがそんな事実は無い。 タバサ:馬鹿ばっか(CV 南央美)
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前ページ次ページゼロの影 其の十三 虚無の影 ルイズは今までとは比べ物にならぬほど悩んでいた。 フーケ達にすぐに事情を知らせ、聞いた話と合わせて考えた彼女は以下のような結論を出した。 ティファニアの魔法『忘却』は、記憶の鎖を切り離し、つなぎ直すようなものである。 帰還への執着を和らげようとしたが、主の存在によって深くつながっているため一部だけ切り離すことができず、丸ごと抜き取る形で効果が発揮されたらしい。 直後にティファニアが意識を失ってしまったのも無理はない。数千年分の記憶を操作するなど初めての経験であり、消耗が激しくいまだに体調が回復していないとのことだ。 心の大半を占める記憶の鎖が切り離され闇に沈んだ結果、残りの欠片はバラバラでほとんどつながっていない。 つまり、今の彼は心が砕け散った状態にある。 最も大切なものを奪われ、自身を支えてきた柱を折られた彼は抜け殻になっている。 今まで主の役に立つことを最優先にしばしば彼女のことを放り出して姿を消していたものの、現在は勝手に出歩くこともなくルイズに従っている。 ほとんど影響を及ぼさなかったルーンがここぞとばかりに効果を発揮しているようだ。 だが、いくら話しかけてもへんじがない。ただのしかばねのようだ。 以前の沈黙は感情を窺わせたが、それもない。何の意思も持たぬ人形――それも壊れかけのものを連想させる。 もっと言うことを聞いてほしいと思っていたが、こんな姿を見たくはなかった。 今の彼を動かしているものは残った心の欠片も含まれているのか、ルーンの働きだけか。それさえわからない。 予想していた形とは違うが、彼が彼でなくなるかもしれないという予感が的中してしまった。 夕日を浴びて佇む彼は砕けたはずの心が痛んでいるように見えた。目をそむけたくなる姿だった。 今の彼を見ればワルドは嘲りと哀れみを足した表情を浮かべることだろう。希望を抱いてから絶望の淵へと突き落とされたのだ。 彼は間違いなく苦しんでいる。何を失ったのかもわからないまま絶望している。 こうするしかなかった、わざとではないという心の声をもう一人の自分がすぐさま否定する。 本当にこれしか手段が無かったのか。 どこかでこうなることを望んではいなかったか。 トリステインのためという名目で自分のためという想いを隠してはいなかったか。 苦痛を取り除くと言いながら、都合の悪いものも一緒に消えることを望んではいなかったか。 まだ残された時間はあった。目を向けようとしなかっただけで他に手の打ちようがあったかもしれない。 自分に忠誠を誓わないのならいっそ帰ってしまえばいいと思ったこともある。 大魔王に絶対の忠誠を尽くすのに自分には心を許さない彼に、強大な力を持ちながら自分のために振るおうとはしない彼に、苛立ち嫉妬していた。 大魔王を心から敬う態度を見るたびに心の奥底に少しずつ黒い澱がたまっていった。 あの時抱いていた感情は、授業で無理矢理呼び覚まされたものと同じ。 それはあらゆる時代、あらゆる場所で戦いの火種となるもの。意思持つ者が必ず抱き、永遠に持ち続けるもの。 その感情の名を憎悪と言う。 憎悪と呼ぶほど激しいものではなかったにせよ、全く無かったと言えば嘘になるだろう。 それに、なぜ彼に帰還への思いの一部を消すと言わなかったのか。 答えは簡単だ。 説得する手間を惜しんだからではない。彼の怒りを買うのが怖かったからだ。 本当に他者のためを思うのなら全てを説明し、その上で拒絶されたのなら学院の者達に害を及ぼさぬよう説得するなど力を尽くすべきだったのではないか。 彼も賛成していたのならルイズの責任とは言えないかもしれないが、隠したままだった。危険が大きいとはいえ都合の悪いことを隠していたのでは彼への裏切りになってしまう。 それに、あの時止めようと思えば止められたはず。ティファニアに続けるよう命じたのはルイズだ。 「何が……何が“認めさせる”よッ!」 認めさせると言いつつ怯えていた。呼び出した者と向き合うことから逃げていた。自分の心の闇からも。 以前彼を挑発した時に臆病者だと罵ったが、本当に憶病だったのは自分だ。 (こうなったら……!) ルイズは竜の口に飛び込むような心境で杖を握った。 試みるのはショック療法である。攻撃を仕掛け、心を――それが無理なら闘志だけでも呼び覚まそうというのだ。 被害の広まらぬよう人のいない場所まで連れ出した彼女は顔を蒼くしながら震えている。 こちらの生命も危機にさらされるどころではないが、腕の一本や二本折られる覚悟で行うつもりだった。 杖を振ると彼の近くで爆発が起こった。 闘魔傀儡掌か爪のどちらかがくるのを予想しながら身構えるが彼は全く動かない。己に危害が加えられようとしているのも、どうでもいいように。 距離を近づけても規模を大きくしても結果は同じだ。何度やっても変わらない。 (わたしは、こんなことするために練習したんじゃないのに) 衣の裾や袖が弾けても、反撃どころか抵抗さえしない。それだけの価値も無い存在だと言われているようで悔しくて――歯を食いしばったルイズの手元が狂った。 「ああっ!」 直接爆発を食らった彼の体が傾いだ。しゅうしゅうと胸のあたりから霧が立ち上り、ルイズは恐怖と歓喜がないまぜになった気持ちで待ち受けた。己を貫くはずの冷たい爪を。 だが――。 ルイズは白い衣から煙が上るのを愕然と眺めた。 「どうして……!?」 彼はやはり、動かない。 「悔しくないの!? ちょっと刺されただけで死んじゃう人間から攻撃されてんのよ!? 今のあんたなら……わたしでも殺せるわ!」 絶叫が空に虚しく吸い込まれ、消えていく。 そこまで追い詰めたのもルイズ自身だ。 「そんなに――そんなに大切なご主人様なの!? 何で! 何でよ!? どうして止めなかったの!?」 もはや自分が何を言っているのかわからない。無茶苦茶な言葉を叩きつけている気がするが止められない。 ルイズにも薄々予想はついている。 彼がティファニアの詠唱を止めなかったのは敵意が感じられなかったこと以上に、『虚無』を見極めようとしたからだ。 さらにあの時ルーンが淡く光っていた。まるで従順にさせる絶好の機会だというように。妨害されなければこうなる前にティファニアの魔法を止めていただろう。 もしかするとルーンは言うことをきかせたいという内心を汲み取ったのではないか。 あれほど強く冷酷な彼を意のままに従える――そんな光景にどこかで心惹かれていたのかもしれない。 主以外の相手ならば誰だろうと、何人記憶から消されようと、決してこんな状態にはならないだろう。 それがどうしようもなく悔しい。 なおも荒れ狂う感情のまま杖を振るいかけて、ぽとりと落とす。 「わたし……なんてことを……!」 よりによって自分の使い魔を、それも戦意の無い相手を攻撃してしまった。 心を取り戻すと唱えながらいまだに嫉妬している。 直視したくない己の醜さに気づき、心が引き裂かれそうな痛みを味わいながら、彼女は衣を掴んで喉も嗄れよとばかりに叫んだ。 「怒りなさいよ、憎めばいいでしょ!? あんたらしくないわよこんなの……ッ!!」 彼が彼であるために必要なものを奪ってしまったのは自分が原因だ。 身を震わせるルイズの口から傷ついた獣のような慟哭が迸った。 静かな絶望とともに落ち着きを取り戻したルイズは図書館で本の頁をめくり続けていた。 だが、壊された心を蘇らせる方法も、記憶を取り戻すすべも、見つかるはずがない。 抜け殻のようになったルイズの中を大量の文字が通り抜けて行く。 「うう……!」 「なにあんたの胸みたいなぺしゃんこの声出してんの?」 どうすればいいかわからず呻いた彼女に温度のある声が降り注いだ。 視線の先には炎の色の髪を持つ犬猿の仲の相手――キュルケがいた。その隣にはタバサもいる。 反対側の椅子に座った二人は目で話すよう促した。言葉に詰まったのも一瞬で、彼女は濁流のように想いを吐き出した。 話を聞き終えたキュルケは溜息を吐き、髪に手をやった。 「呆れた。どこの世界に使い魔の心打ち砕いて踏みにじる主人がいるのよ」 今の彼女に言い返すだけの気力も資格も無い。ただひたすら唇を噛んで俯いている。貴族としてのプライドはもはやズタズタだ。 「こうなった責任は誰にあるのかしらね?」 ルイズから視線を外し、虚空に目を向けてキュルケが誰にともなく問いかけた。 場を提供したフーケか。 魔法を唱えたティファニアか。 抗しえなかったミストバーンか。 違う。 「わたしの――」 そこから先をキュルケは言わせなかった。ルイズの唇に指を突きつける。 「そう思うならあんたが取り戻しなさい。くよくよしている場合じゃなくてよ」 彼も彼の主も何があろうと戦い抜く覚悟を持っている。自らの行いが招いた結果から逃げることはない。 故意ではなくとも大切なものを奪ってしまったのなら、召喚した者の責任として取り返さねばならない。 悲劇に酔う暇も、後悔に浸り続ける余裕も許されない。 「わたしに……できるかしら」 彼の主が声を届ければ、それこそすぐに記憶と心を取り戻すかもしれない。 だが彼女にできることなどほんのわずかだ。 重圧に押しつぶされそうなルイズにキュルケは激情に燃える眼差しを向ける。 「いっつもイノシシみたいなあんたらしくないわね、ヴァリエール。できるかどうかじゃない。“やる”のよ」 ルイズはハッとしたように顔を上げた。 そうだった。何もしないうちから諦める権利などない。 「でも、いいの?」 彼が記憶を取り戻せばトリステインに牙を剥くかもしれない。 物理攻撃はもちろん、『虚無』以外魔法の通じない相手に立ち向かうのがどれほど難しいかメイジならわかるはず。 安全を考えればこのまま放っておくのが一番だ。 「その時は戦うだけよ」 決まってるじゃない、とキュルケはあっさり言いきった。 使い魔として召喚された相手に怯え逃げ惑うのはプライドが許さない。貴族の恥となる状況を黙って見過ごす方が耐え難かった。 「やるかやらないか、あなたが決めること」 タバサもそう言いつつ頷く。 もし彼女達とミストバーンの距離が他のクラスメートほどに遠ければ、危険の芽が摘み取られた程度の認識しか持たなかっただろう。 逆にルイズと同じくらい近ければ、問題の大きさに途方に暮れ、恐ろしい力を知るだけに踏み出せなかっただろう。 直接関わらず観察に徹していた距離だからこそ、そう言えるのかもしれない。 「可能性はゼロじゃない……それより自分の心配したら?」 キュルケにもわかっている。ルイズが暴走を止めようとしたのは自分が殺されるのが嫌だったのではなく、周りの者達が傷つくのを見たくなかったためだ。 「あなたが一番望むことは何?」 彼はただ一つのもの以外、全て切り捨てる覚悟がある。 「わたしが……」 自分の中で一番強い声に耳を傾ければ、答えはすぐに出てきた。 誇りにかけて彼の心を取り戻す。 それが、今最も大切なことだった。 死んだ魚のようだった目に輝きが宿り、意思の力を取り戻すのをキュルケは満足そうに眺める。 「タバサ。ツェルプストー。礼を言うわ」 目を丸くしたキュルケの眼の前でルイズは両手を自分の頬に叩きつけた。乾いた音が図書館内に響き渡る。 迷いの晴れた目で顔を上げた彼女にタバサがぽつりと呟く。 「彼の闇は深い」 彼の中に懐かしいものを見たタバサには何となくわかる。彼の過去も、背負ってきたものも。人形と化すほどの苦しみも。 ルイズの気持ちも理解できる。 心を壊された者を近くで見続ける辛さは、誰よりもよく知っているのだから。 「でも、どんな闇の中にも光はある」 半ば自分に言い聞かせるような言葉にルイズは頷き、立ち上がった。 前ページ次ページゼロの影
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前ページ次ページ悪魔も泣き出す使い魔 ~優しき右腕~ トリステインに向かえ ジョゼフ王の使い魔召喚騒動から二日経ったその夜。 召喚された一人の青年を持て成すためのささやかな晩餐が、 ガリアの首都に位置する、ヴェルサルテイルの宮殿で開かれていた。 「いらぬのか?遠慮するでないぞ!」 テーブルには豪勢な料理が敷き詰められ、その上座に位置する席にいるジョゼフ王は、 向かいの席で、ガラの悪い格好で座っているネロへ、ニコニコしながら料理を勧めた。 ネロはそれに返事をすることなく、ふてぶてしい態度で、真っ直ぐとジョゼフを睨む。 ジョゼフ王の両サイドを固めていた、王の長女イザベラと、愛人であるモリエール婦人が、 それを見かねて交互にネロを咎めた。 「つつしめ!王の御膳であるぞ!」 「平民の分際で。まあ、何たる無礼な振る舞いですこと!」 その瞬間、ダンッ!と、テーブルに何かを叩き付ける音が、会場に響き渡った。 その音と振動に驚いて、「ひいっ」と声を合わせて短く悲鳴を上げるイザベラとモリエール。 ネロが両足を組んでテーブルの上に乗せたのだった。 ただそれだけだったのだが、イザベラとモリエールを黙らせるには充分なプレッシャーだった。 以後、二人がこの場で口を開くことは無かった。 ネロは召喚されてからこの二日間、宮殿の寝室で泥のように眠っていた。 ジョゼフの城に招待されから聞いた、 自分が使い魔として、別世界に召喚されたという説明を、 帰る方法が無いという事実を、真っ向から否定するために。 夢だと思いたかった。次に目を覚ませば、きっと元の見慣れた世界だ。自分の目覚めを待つ幼馴染に会える、と。 しかし何時まで経っても夢から覚めない。そうだ、夢なんだ。 二つの月が浮かぶこの世界も。魔法だの何だの訳の分からない事をのたまう目の前の連中も。この空腹感も。 この数日で起きた色んな出来事のせいで、疲れてしまった自分が見ている馬鹿馬鹿しい夢だ。 ルーンをその身に刻まず、使い魔とならなかったのが、ネロを頑なにそう思わせる原因なのかもしれない。 平和な日本に生まれた、どこぞの楽観主義な高校生と違って、ネロはとにかく、今この目に映る現実を直視したくなかった。 しかし、これが夢であると、ある程度自分を納得させたネロは、段々と心を落ち着かせてきた模様で、 半ば、自暴自棄の状態とも言えなくも無いが、ジョゼフの言葉も少しずつ耳に入るようになってきていた。 そして今、自分が何の為にここに呼ばれたのか、ネロはジョゼフに聞こうとしていた。 「それで、俺に頼みってのは何だよ」 ジョゼフから見れば、召喚した初日と比べて、今のネロは大分落ち着いた様子でいた。 ジヨゼフは、ネロの機嫌を何とか損ねさせないように、言葉を選びながら慎重に、且つ自分のペースを乱さない会話を試みた。 「うむ。本来ならば私の使い魔として契約してもらう筈なのだが・・・、そんな小さい器に収まる君では無かろう?」 「言いたい事は手短に話せ」 それからジョゼフは、ネロの要望に応えるよう、簡潔に意見をまとめて言った。 「我が国の大使として、隣国のトリステインへ調査にいって来て欲しい」 「・・・それで?」 ネロは、聞いたことが無い国の名前を出されても、反応しようが無い様子だったが、 ジョゼフは構わず話を続けた。 「最近あの国では、少々不穏な動きが見え隠れしてな。見たことも無い様な魔獣が徘徊しているとか・・・」 「それで?」 「本物の"悪魔"を見たとか、な。・・・今では色々と、妙な噂が絶えない国となっておるのだ」 ジョゼフの口から発せられたトリステインの惨状に、イザベラとモリエールの顔が引きつる。ありえない、と。 そんな話は、平民の噂程度にも耳に入ったことが無かったからであった。 しかし、そんなジョゼフの戯言に、ネロは何の疑いも無く、むしろそれが当たり前であるかのように返答してみせた。 「悪魔なんか、その辺の外でも歩けば、ゴロゴロ這いつくばってるだろう?見た事無いのかよ」 「ハハハ。君は私の知らない様な、広い世界を見てきているのだな。羨ましい限りだ!」 この青年はやはり、自分が手引きする"あの組織"が、 近頃から交信が途絶えた事に、何か関係しているのではないか。 そんな思惑を巡らせるジョゼフは、更に心を躍らせるが、昂る気持ちを押し殺す。 それからジョゼフが気がついた時には、ネロが自分から会話の続きを始めていた。 「世間知らずの王様に、悪魔の一匹でも捕まえて見せて来いってか?」 「そうまでして貰えると有難いが、その国を見て来てもらうだけで構わん。観光するのもよいだろう。 君が見たまま聞いたままの情報を、私に持って帰ってきて欲しい」 「それで?」 「それが済んだら君は自由だ。好きにしてよい」 ネロは、王の依頼を確認したと同時に、テーブルの上のパンを一つ手に取ってから、席を立った。 「行ってやるよ。・・・どうせ夢だしな」 ネロの了承を聞いて歓喜したジョゼフが、部屋から出て行くネロの背中を追うように叫んだ。 「そうか!行ってくれるか!? では、ロマリアの客人が、明日の朝トリステインへ向かう。その者へ、君を連れて貰う様に頼んでおこう!」 扉が閉まり、夕食の会場に静けさが漂う。 それから暫くして、ジョゼフの後ろから、ビダーシャルの声が響いた。 その顔は、散々ネロに痛めつけられたというのに、傷一つ無かった。 「いらぬ世話だが、あれと契約せずとも良かったのか?」 それは、使い魔となるかもしれない者を、破格の条件で外に出しても良いのか?という意味も込められていた。 ジョゼフがニヤリとしながら、それに答える。 「あの様な暴君を従わせる術を、余は知らぬ。 それにあの者の、使い魔としての資質は、そう、ガンダールヴであろうな。 そして余が求める使い魔は、"知"の暴君と言うべきか。神の頭脳を持つミューズだ。あれは要らぬ」 その真意からも、ジョゼフはネロが帰ってこようがこまいがどうでもいい、という意図が読み取れた。 ビダーシャルが納得した所で、今度がジョゼフが問い質した。 「お前はあれを悪魔と呼んでいたが、あれがエルフのお前達が言っている、"シャイターン"なのか?」 「違う。あのようなものは、一度も触れたことが無い。ただあの者の腕は・・・」 会話の内容に完全に怯えきっているイザベラとモリエールを、それぞれ一目見てから、 ビダーシャルは言葉を続けた。 「お前達の信仰に用いる悪魔そのものに、私は見える。違うか?」 「フン。神学には興味が無い」 それから「眠い」と言って席を立ったジョゼフは、エルフを連れて、娘と愛人を残し自室へと戻って行った。 そしてその翌朝。 ジョゼフに命じられたメイドの手引きで、ガリア大使としての身分を証明する為の書類を渡されてから、 外に連れ出されたネロは、一人の青年と一匹の竜と対面する。 竜を手懐けている青年が、目の前の生き物を見て呆気に取られているネロに気がつき、 声を掛けながら近付いた。 「やあ、君が噂の大使様だね?」 ロマリアという国から、自らも特命大使として世界を駆け巡っているというこの青年は、 ネロに対して気さくに話しかけた。 「ハハッ、風竜を見るのは初めてかい?紹介するよ。おいで、アズーロ」 「あぁ・・、もう何でも有りだな俺の夢は」 風竜を、頭から尻尾まで舐める様に見るネロの様子が面白くて、青年は冗談ぽく言ってみせた。 「あっはっはっ、大丈夫だよ。噛み付きはしないって」 「別に怖がっちゃいねえよ」 それから、青年はアズーロに颯爽と跨り、左右の色が違うオッドアイの目を輝かせながら、 ネロに右手を差し伸べた。 それに対して、左手で応えるネロ。 青年は首を傾げたが、袖を下ろし手袋をしているネロの右手を見ると、直ぐに納得した様だった。 「さあ出発だ。詳しい話は道中聞かせてもらうよ」 その言葉通り、竜を駆る青年は、空の上で喋りっぱなしだった。 生まれはどこか? 家族は何人か? 恋人はどんな人か? 自分の身の上話も織り交ぜつつ、兎に角、ネロに話しかけきた。 ネロは、それがうざったくて堪らなかったが、 見知らぬ国から国へ連れて行って貰っているという負い目もあったのか、 答えられるものは、言葉少なく答えた。 「君は見たところ、ここの国の人じゃ無さそうだね。一体どこから来たんだい?」 「フォルトゥナだ」 ネロの口から出た地名を聞いて、青年は顎をさすりながら、上に浮かぶ雲を見た。 「うーん。聞いた事が無い国だな。・・・君、ひょっとして新教徒の連中じゃないだろうね?」 「何でそう思う?」 「フフッ、何だか僕らと似通っているけど、それとは違う様な格好を、君がしてるからさ。 背負ってるその剣は相当場違いだけどね。本当に振れるのかい?それ」 ネロは、"場違い"という言い回しにも引っかかったが、 "教徒"というキーワードから、ついこの間までの出来事を鮮明に思い出し、 それまでの心境を独り言のように呟いた。 「教団か・・・。奇麗事を並べてる裏じゃ、人に汚い仕事ばっか押し付けやがって・・・。 どいつもコイツもいい歳して、神様ごっこに夢中だったよ。 気に入らない連中を全員ブン殴って、抜け出したばっかりさ。いや、追っ払ったって所か?」 それを聞いた青年が不意に笑い出した。 「あっはっはっ!それ面白いよ!何だか君とは気が合いそうだね!」 「・・・勘弁してくれよ」 自分の後ろで大層嫌な顔をしているネロを余所に、青年はハッとした顔になって、ネロに自分の名を名乗った。 「自己紹介がまだだったね。僕はジュリオ。これでも神官なんだよ」 ジュリオの名を聞いて、自分も名乗らないといけない様な気がして、 ネロもジュリオに口数少なく名乗った。 「ネロだ」 「ネロか。うん、憶えやすくて良い名前だね。君とは良い友達になれそうだ!」 「・・・勝手にしろ」 風竜は、それぞれ国が違う2人の大使を乗せて、トリステインを目指した。 前ページ次ページ悪魔も泣き出す使い魔
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トランスフォーマーのスタースクリームが召喚される話 ゼロのトランスフォーマー1 ゼロのトランスフォーマー2 ゼロのトランスフォーマー3 ゼロのトランスフォーマー4 ゼロのトランスフォーマー5 ゼロのトランスフォーマー6 ゼロのトランスフォーマー7 ゼロのトランスフォーマー8 ゼロのトランスフォーマー9 ゼロのトランスフォーマー10 ゼロのトランスフォーマー おまけ ゼロのトランスフォーマー おまけ2 トランスフォーマー小ネタ トランスフォーマー小ネタ2 トランスフォーマー小ネタ3 ガリアのトランスファーマー
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前ページ次ページ雪風とボクとの∞ 皆さんご存知のように10月1日は眼鏡の日であります!(ブリミル暦5997年 ハルケギニア眼鏡関連団体協議会が制定) 「さあ始まるぞ、タバサ!」 「……え……何が……」 三成・タバサが手を取って駆け出していった先では……、 「年に1度のメガネスキーフェスティバルさ!!」 屋台が多数建ち並び、大勢の若者達が異様なまでの熱気を放って盛り上がっていた。 「……メガネスキーフェスティバル……」 「めがね汁」「めがねすくい」といった珍妙な屋台の数々を、タバサは困惑の表情で見渡して尋ねる。 「……って……何でノーウェで……」 タバサ達の現在位置……すなわちメガネスキーフェスティバル会場は、トリスタニア中心部にあるノーウェ公園。 都市の中心部にありながら閑静な雰囲気を持つこの場所なら確かに大規模な催しの会場に最適だが、参加者達の雰囲気からしてそれだけではなさそうだ。 「それはここが聖地だからさ」 「……ワルド子爵……」 いつの間にか2人のすぐ傍にいたワルドが、爽やかな笑みを浮かべフェスティバル会場の由来を語り始める。 「ここノーウェ公園ノ=ズバノシ池に存在するめがねの碑。この地こそ我々メガネスキーの聖地なのさ! さらにガリア・セント=マルガリタ修道院内眼鏡之碑、ロマリアの海上都市アクレイア・眼鏡橋等ハルケギニア各地の眼鏡ゆかりの地で、同志達が眼鏡の日・10月1日を祝っているのだ!」 「年に1度の宴にようこそ、めがねっ娘を愛する同志達よ」 集まった参加者達の前で壇上に立って話し始める三成。 (……何でミツナリが司会を……) 参加者達の中で疑問に感じるタバサにはお構い無しといった様子で、式典らしきものが進められていく。 「さて、今更説明する事ではありませんが……、ただ今9時50分。あと11分で10/01の10 01。皆様お待ちかね、アレが始まります」 「うおーっ! 待ちかねたぞー!」 「……え……何……何が始まるの……」 「ME・GA・NE!!」 三成のその言葉と共に、タバサにはわからないこれから始まる「何か」への喜びに参加者達が大きなどよめきを挙げた。 「その前に、ハルケギニアメガネスキー協会会長・ビダーシャル様からのご挨拶です」 三成に促されて壇上に上がった老エルフを、参加者達が盛大な拍手で迎える。 「え~、このようなよき日にめがねっ娘の……う、うぐ……」 そこまで言ったところでビダーシャルの目に涙が浮かび、思わず彼は手で顔を覆う。 「会長?」 「会長が感極まってしまったようです。しばらくお待ちください」 参加者達の間にざわめきが起こり、やがてその中からビダーシャルを励ます声が起こる。 「頑張れ会長ー」 声に励まされてビダーシャルは三成と頷き合い、再度口を開く……が、 「め……」 その一言を発した次の瞬間、ビダーシャルの顔面からは涙・鼻水がとめどなく溢れ出し、彼はそのままむせび泣いて挨拶など望めない状態になってしまった。 「会長、ありがとうございました!!」 「よくわからないけど何かが伝わったぜ、会長ー!!」 ビダーシャルの激情に応えるかのように、参加者達も涙を流しつつ大歓声を上げた。 するとそこに、武装した衛兵の一団が現れた。 「おいっ、爆破予告をしたのはお前達か!?」 「爆破予告!?」 「何だそれ?」 騒然となる参加者達の中に入る、1人の男の奇妙な点を三成は見逃さなかった。 「むっ!」 その男は困惑する参加者達の中ただ1人冷静に……しかもかすかな笑みを浮かべていて、何より彼が掛けている眼鏡のレンズ越しに見える輪郭線は本来ならばありえない一直線になっていたのだ。 「レンズの歪みが無い! そいつ伊達眼鏡だ!」 「何、さては貴様が……」 たちまちのうちに取り押さえられる伊達眼鏡男。 「なぜこんな事を」 「まさか貴様、我々の宿敵レコン・タクトの者か!?」 3人がかりで押さえつけられても伊達眼鏡男は余裕の笑みを崩す事無く、 「ふふふ……、これで貴様らは終わりだ……ごふっ」 そう言い残して何かを噛み砕いたかと思うと、激しく吐血して息絶えた。 「こいつ奥歯に毒を!!」 「何て奴だ!!」 一方三成の方はというと、腕時計を確認して焦りの色を濃くしていた。 「くっ、まずい! あと1分で10 01!! めがねチックマジックアワーの時間だ!!」 「……だから何なの……それ……」 「今衛兵に手間取るわけにはいかん」 「ど、どうすればいいんだ?」 困惑の表情で質問するタバサの声にも耳を貸さず、三成達参加者は刻一刻と自分達に迫ってくる衛兵達を見据えていた。 「ここは僕に任せろ」 「ワルド子爵」 そう一言言って1歩前に出るワルド。 「こんな事もあろうかと、持ってるだけで捕まるマル秘召喚されし書物を僕はいつも身に付けている! 僕があえて捕まって時間を稼ぐ!!」 ワルドがはだけた上着の裏側には、『お兄ちゃんのたて笛』『はじめてのかんきん』『めがみるく』『めがねのクリーム煮』『ランドセル十番勝負パート3』……と、題名だけでやばい内容とわかる物から題名から内容がわからないだけに余計やばく感じる物まで、多種多様な召喚されし書物が収められていた。 「……いつも身に付けてるって……ワルド子爵……」 「さらば友よ!!」 「……ワルド子爵~……」 絶叫しつつ衛兵隊の群れの中に突入していったワルドに、タバサは涙を浮かべて手を伸ばす。 「10 01まであと10秒! ついに始まるぞ!!」 腕時計を確認した三成の絶叫に応え、参加者達がカウントダウンを開始する。 「9!」 「8!」 多数の参加者達が、 「7!」 衛兵達に取り押さえられたワルドが、 「6!」 顔中から涙と鼻水を溢れさせたビダーシャルがカウントダウンしていく。 「5!」 「4!」 参加者達の足踏みは大地を揺るがし、 「3!」 「2!」 参加者達が突き上げる拳は空を引き裂かんばかりだった。 「……何……いったい何が始まるの……」 「1!」 そしていよいよその時が来た! 「……はっ……」 そう叫んでタバサは飛び起きた。 「……って、夢オチなの!? それで結局何が始まるのよ!」 「……はうっ……」 自身のツッコミが鋭く決まったものの、まだ終わっていない事を予感するルイズ。 「あっ、まさか夢だけど実は夢じゃないってオチじゃないでしょうね?」 「何を言っとるんだ、君は」 咄嗟に後ずさったルイズに三成は呆れた視線を向け、タバサも困惑の表情で眺めている。 と、その拍子にルイズは後方を歩いていたワルドと激突してしまった。 「あ、ごめんなさい」 謝罪したルイズだったが次の瞬間、 ――バサバサバサッ ワルドが着ている上着の中からは、『黒縁味比べ』『ザ・縦笛』『体育座りスペシャル』『乳搾り○学生』『ランドセルマスタージョウ』……と、題名だけでやばい内容とわかる物から題名から内容がわからないだけに余計やばく感じる物まで、多種多様な召喚されし書物が落下していた。 「ワルド子爵?」 タバサもワルドも硬直する中、ルイズはひきつった表情でようやくその一言だけを口にできた。 前ページ次ページ雪風とボクとの∞
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前ページ次ページLouise and Little Familiar’s Order キュルケは軽く身繕いをした後、少女の手を引いて階下へと向かう。 ルイズが追って来るのではないかと時々後ろを振り返りもしたが、そこには誰もおらず、ただ薄暗く続く長い廊下があるだけだった。 まあ、追って来ていたとしてもあれほどの事を言った後である。 上手い文言の一つや二つが早々簡単に思いつくわけはないと思われるが。 それにしても、メイジ失格なんて少し強く言い過ぎたか?と思ってしまう。 実際二人はしょっちゅう言い合いをする事があった。 家は国境を挟んで隣同士だし、お互い家名を背負っているプライドからか些細な事でも火種になる始末だった。 しかし、今回はそれらとは少し事情が違う。 あそこまで他人に対して棘を出し、塞ぎこんでしまいそうなルイズに発破をかけるなら、あれぐらい言わないと無理だろう。 それに、からかったり弄ったりする楽しさも無くなってしまうし。 と、異様なまでにその場が静かな事に気づいた。 隣で手を引かれている少女は言葉を失ったように黙り込み、キュルケの方を見つめている。 目はさっきまで泣いていたせいで、隅の辺りが赤くなってしまっている。 少しでも少女の不安要素を取り除こうと、彼女は手始めに自分の名前を名乗ってみる。 「挨拶が遅れてごめんなさいね。私の名前はキュルケ。本当はもっと長い名前なんだけどこれから呼ぶ時は短く『キュルケお姉さん』でいいわ。」 「キュルケ……お姉さん?」 「そうそう。それで良いの。じゃあ、今度はあなたのお名前を教えてくれるかしら?」 「わたしは、ミー。」 「そう。可愛い名前なのね。お姉さん気に入ったわ。」 キュルケは子供をあやすといった事はした事が無かったが、その要領は意中の相手を落とすのに似ている。 先ず些細な事を何でも良いから聞き出し、それに関して褒める。 そうされて困ったり嫌がったりする人間というのはまずいないからだ。 そして、相手は自分に敵意が無いと信じ、心の内奥に通じる扉にかけられた鍵を開錠するのである。 案の定、少女は顔を僅かに赤らめて俯いた。まずは第一段階終了である。 そしてその次に進む為の扉が二人の目の前に現れた。 Louise and Little Familiar’s Order 「First meal at the another world」 それは厨房へと通じる扉だった。 同級生達が、料理や使用人の態度について色々と文句をつけるためにここへ来ていたのを、何度か見た事があったからだ。 中ではまだ仕事が続いているのか、騒がしい音が続いている。 もう殆ど片付け終わったかしらと気にしつつ、キュルケはその扉を高らかな音をさせて何度かノックした。 「はあい。今参ります!」 可愛らしい声がした後で扉がすっと開いた。 中から現れたのは、メイド服姿がよく似合う純朴そうな黒髪ショートの少女だった。 彼女はキュルケの姿を確認すると、かしこまって挨拶をする。 「これは貴族様。こちらへはどのような用事でしょうか?」 「一ついいかしら?賄いってまだ残ってる?」 それはメイドの少女にとって、全くといって良いほど意外な質問だった。 いつもなら、貴族がここを訪れる時は出した料理に何らかのけちを付けるものなのだが、妙な事になった。 「少々お待ち下さいませ。……マルトーさあん。賄いってまだ残ってますか?」 「何ぃ?ああ、それならちっとだがそこにある鍋に残ってるぞ。ところでシエスタ、そんなもん何に使うんだ?」 シエスタと呼ばれた少女の問いに、物凄い勢いで山のような洗物を片付けるコック長らしき中年の男性が答える。 「いえ……私ではなく、貴族様が必要だと仰られているので……」 「分かった。今そっちに行くから待ってろ。」 マルトー氏は手を拭き、いそいそといった感じで戸口までやってくる。 「これは貴族様。このような下賤な場所へ一体どのようなご用件で参られたのでしょうか?」 声は威厳があり丁寧な感じもしたが、どこと無く相手に対して敵意を向けている感じだった。 「この子に何でも良いから何か食べさせてあげたいのよ。今日丸一日何も口にしてないらしいから。」 「分かりました。では早速ご用意させて頂きます。」 二つ返事をして深々と頭を下げてはいるが、やはり慇懃な感じがするのが否めない。 それからマルトー氏は厨房の奥へと戻り、鍋に火をかけ出した。 と、シエスタがミーと視線が同じくらいになるまで屈み込んでから、キュルケに質問をした。 「あのう、失礼ですがこの子ってまさかミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう子ですか?」 「そうよ。よく知ってるわね。あたしは違うけど。」 「それは……私達の間でも召喚の魔法で平民を喚んだって噂になっているので……」 シエスタは完全にへどもどした状態になる。 一方、厨房の奥では多くの使用人達がひそひそ声で陰口を言っていた。 「使い魔が平民って噂本当だったんですね。」 「しかもあんな小さい子がねえ。」 「しかし今日一日ご飯も貰えなかったとは可哀相に……機嫌一つで飯の一つや二つを下げさせるなんて貴族様ってのは本当鼻持ちならんねえ。」 「しぃっ!聞こえますって!」 ルイズが聞いたら、平民のくせにといって大声で怒鳴りつけかねないだろう。 この場に彼女がいないのが幸いしたとキュルケは心底思った。 するとシエスタがミーの手を引いて、一番近くにあった椅子に座らせる。 多くの大人に囲まれて緊張でもしているのか、おどおどした表情で周りを見渡すミーにシエスタはにっこり笑って話しかける。 「初めまして。私はここで働いているメイドのシエスタ。あなたのお名前は?」 「ミー。わたしのなまえはミー。」 「そう、ミーちゃんって言うんだ。ミーちゃん、もう少しだけ待っててね。暖かいスープがあったの。直ぐ持ってくるから。」 そう言ってシエスタは大きな竈の前へ行く。 それから2、3分経った頃だろうか、暫くすると彼女は、湯気の立つスープの入った皿を持ってそこに現れた。 「はい、どうぞ。おかわりもあるからゆっくり食べていってね。」 シエスタは皿と簡素な銀スプーンをテーブルの上に置き、優しい声でスープを食べるよう勧める。 ミーは最初周りを見渡すばかりで、スプーンに手を触れようともしない。 だが、ややあってから彼女はゆっくりとスプーンを手に取り、それから夢中でスープを口にかき込み始めた。 その様子を見てシエスタはポツリと呟く。 「よっぽどお腹が空いていたんですねえ。」 「召喚された後、ルーンが刻まれる時のショックで丸一日寝込んでいたそうだもの。無理も無いわ。」 「ルーンってあの手の甲にあるやつですよね?」 「そうよ。ところであなた、やけに小さい子の扱いに慣れてるのね。」 「はい。田舎に親戚の子が沢山いましたから、面倒を見なければならなかったんです。慣れてくると楽しかったんですけどね。」 キュルケはシエスタの呟きにいつの間にか相槌を打っていた。 彼女はシエスタが平民だという事に関しては、そこまで気にしてはいなかった。 キュルケはトリステインの出身ではない。隣国の帝政ゲルマニアの出身なのだ。 トリステインでは貴族である条件が「領地を購入する事」、「公職に就いている事」そして「魔法が使える事」と、如何にも固い物である。 が、彼女の故郷では殆ど原則金回りの良さが物を言う為、元平民の貴族が街路にごろごろしている事も珍しくは無かった。 当然、キュルケもそんな中で暮らしてきたので平民の扱いは手馴れている。 そしてその中で思う。 この娘なら毎日のご飯どうにか出来るのではないか、と。 「ねえ、頼みがあるんだけど。」 「あ、はい。何でしょうか?」 「明日の朝、もしこの子が食堂から締め出し喰らってたら、今みたいにご飯あげてくれる? この子の『御主人様』は多分食堂の中に入れさせないだろうし、例え入れさせてもこの子にとって良い物は出ないでしょうね。」 「分かりました。そうします。」 シエスタは二つ返事で頼みを承諾した。 その時、ミーがスプーンを置いて小さく呟いた。 「おかわり……ください。」 温かい食事と人付き合いは冷たく凍った心を溶かす。 誰が言ったか知らないがそんな言葉を聞いた事がある。 聞いて直ぐは「そんな事って本当にあるのかしら?」と思っていたが、今日はそんな様子を傍で目にした。 強ち嘘ではないのかもしれない。 キュルケはそんな事を思いつつ、食事を終えたミーを連れてルイズの部屋の前に来た。 そこまで来るとミーは内心怯えきっていた。 厨房の人々にさっきまで柔らかい笑みを撒いていた彼女の顔も、すっかり恐怖で歪んでしまっている。 「ルイズが恐いの?安心して。お姉さんがきちんといろいろ言っておくから。」 そう言ってキュルケは部屋の戸を数回叩いた。 「開いてるわ。入って来て良いわよ。キュルケでしょ?」 極めて不機嫌そうなルイズの声が聞こえる。 その声には答えず、キュルケは扉を開け、ミーを伴って部屋の中へ入る。 その時キュルケは部屋の中の惨状に唖然とした。 卓がひっくり返り、本という本は彼方此方に吹き飛び、普段着ている衣服は全て散らかったままになっていた。 まるで嵐が一陣通り過ぎていったかのようである。 そして天蓋付きのベッドの上では、ネグリジェ姿のルイズが毛布を被って猫のように体を丸めていた。 どうやら彼女が積もり積もった癇癪を爆発させた結果らしい。 「何の用?」 ルイズは上体を起こし、虚ろな目線で戸口にいる二人を見つめた。 そんな彼女を見てミーはさっとキュルケの背後に隠れる。 「あなたの使い魔を返しに来たのよ。」 「何よ。随分早い返却じゃない。」 「但し、あなたがこの子の面倒をきちんと見れるっていう前提付きだけどね。きちんと面倒を見るって約束するなら今この場で返すわ。 出来ないのなら私か厨房で知り合った平民の使用人がこれから面倒見る事になるから。」 キュルケがそう言うと、ルイズはさっとベッドから飛び出て二人の元までやって来た。 手は硬く握り締められ、顔は流石に真剣な顔つきになっている。 幾ら自分と最初の出会いが悪かったとは言え、使い魔として召喚された以上、キュルケ、ましてや平民の手を借りなければ子供一人手なづける事も出来ないと思われるのは嫌なのだろう。 そしてルイズは震える手でキュルケの元からミーを引き離し、凛とした声で言う。 「馬鹿な事言わないでよ。この子は私の使い魔なのよ。あんたや平民の手を借りるまでもないわ。私の使い魔なんだから私がこの子を立派にしてみせるわ!」 それは意地でも見栄でも何でもない。飾りも無い。 使い魔を持った一人のメイジとして、果たすべき責務に向かうという一言だった。 メイジと使い魔は一生を共にするのだ。 最初からその義務を投げ出していたのでは、自分が目指す立派なメイジなんて夢のまた夢に等しい。 面白いわね、とばかりにキュルケが笑みを浮かべてそれに答える。 「そう?じゃあ私は部屋に戻るわ。……いい?ミーちゃん。ルイズの側にいて恐くなったり泣きたくなったりしたら直ぐ私の所に来るのよ。」 「ふざけないで。どんなにこの子が辛い目に会ったって、最後は……最後は絶対に私の所に戻るようにしてみせるわ!やってやろうじゃないの!」 「あら、随分と頼もしい言葉じゃない。本当の事になれば良いけど。ま、せいぜい頑張ってね。それじゃあ、お休み。」 キュルケはくすっと笑って部屋から出て行った。 そんな様子を見てきーっと吼えたくなったが、隣にミーがいるのでそれは泣く泣く我慢する事にした。 悔しいが彼女は、ミーにご飯を与える等今の自分にはやってのけない事を幾つかやって貰ったのである。 また癇癪を起こしてあっさり約束が反故になるのも嫌だった。 取り敢えず落ち着く為に深呼吸し、改めて名前を訊く。 「あなたの名前は何?」 「わたしは……ミー。」 改めて始まった主人と使い魔の生活。 自分より小さい子をあやした事の無い、厳しく躾けられたルイズは、果たして異世界から来たミーと上手くやれるのか。 未来へと続く道は未だ暗闇に閉ざされている。 前ページ次ページLouise and Little Familiar’s Order
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前ページ次ページベルセルク・ゼロ ルイズは朗々と歌い上げる。鈴が鳴るような透き通る声で。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール…」 その歌の名は『サモン・サーヴァント』。己が使い魔となる生物を召喚する呪文。 『トリステイン魔法学院』に所属する学生は二年生に進級する際、皆例外なくこの儀式を執り行う。 トリステイン魔法学院―――この『ハルケギニア』と呼ばれる世界に存在する大国の一つ、トリステインに作られた魔法使い養成機関である。 この学校において、今年二年生進級する生徒たちはこの儀式で召喚された使い魔によって自分の『魔法属性』を決定し、それぞれの専門課程へと進むのだ。 そして今日、その儀式を行うため今年二年生に進級する生徒たちは学院からおよそ2000メイル程離れた草原へと集められていた。 集められた生徒たちは円を描くように立っており、その円の中央で歌う桃色の髪をした少女を見つめていた。 少女の名はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 『可愛らしい』という形容詞が文句なしに似合う、美少女だ。 彼女の二つ名は―――― ドムッ!! 突然ルイズの前方で爆発が起こった。爆風が地表の草や土を巻き上げる。 「けほっけほ…またかよルイズ! まったくお前は本当に『ゼロ』だな!!」 「サモン・サーヴァントもまともに出来ないのかよ! 落ちこぼれ!!」 土煙に巻き込まれた生徒たちから野次が飛ぶ。ルイズは土煙から目をかばいながら、悔しさで奥歯をかみ締めた。 そう、彼女の二つ名は『ゼロ』。ゼロのルイズ。魔法成功率0のダメダメメイジ。 それが彼女につけられた――極めて不本意な――二つ名だった。 周囲から罵詈雑言を投げかけられながら、ルイズはしっかりと爆心地を見つめていた。 祈りをこめて。 既に三度。三度もサモン・サーヴァントを失敗している。『サモン・サーヴァントを唱えられない魔法使い<メイジ>』などいない。 メイジにとってそれを行うことは、魚が海を泳ぐように、鳥が空を飛ぶように自然なこと。 つまりはサモン・サーヴァントを唱えられないメイジなど――― (お願い…! この際何の能もない視覚共有も出来ない秘薬探しも出来ないそれこそ炊事洗濯その他雑用位しか使い道の無い平民なんかでもいいから成功して!!) 煙が徐々に晴れていく。ルイズは目を見張った。 ―――ぼんやりと影が見えた。 ルイズは狂喜した。 やった! 成功した! これで少なくとも私はメイジだわ! でもちょっと待って。私は何を召喚したのかしら? 成功したとなると多少欲も出てくる。あの『雪風のタバサ』のように風竜を…なんて贅沢は言わない。 せめてサラマンダーを召喚して得意満面なツェルプトーに胸を晴れるような使い魔であればいい。 「張る胸なんてね~じゃね~か(笑)」って思った奴は後でちょっと来い。 ―――煙が晴れる。 ルイズの目が大きく見開かれた。 (……人間ッ!?) 草原に『黒尽くめの男』が仰向けになって倒れていた。 (確かに平民でもいいとは言ったけど…いや、言ったっていうか思ったんだけど……) いざそうなってみるとやはりショックがでかい。一応『生物』を召喚できたとはいえ、これは失敗となるんじゃなかろうか? そうしてルイズが己の使い魔となるその『男』から目を離して嘆息していると―――周りの生徒たちの間にどよめきが走った。 あ~はいはいそうですよ失敗しましたよ笑えばいいじゃない『風邪っぴき』。馬鹿にすりゃいいじゃない『洪水』。 どうせ私は『ゼロ』よ。『ゼロのルイズ』なのよ。ヴァリエール家の面汚しなのよ~~ってあれ? そこでルイズは気づいた。先ほどから聞こえる周囲のざわめきからは嘲笑や蔑みの響きは聞こえない。代わりにそこに含まれているのは『動揺』と『驚愕』。 何事かとルイズはもう一度己の使い魔となる『男』に目を向けた。 そのまま大きく目を見開いた。 『男』は『黒い鎧』を纏っていた。それだけではない。 黒いマントもつけている上、ここからではよく見えないが『左腕』まで肘から先が黒い。 『男』の『短い黒髪』とも相まって、まさしくその『男』は『黒尽くめ』と形容するにふさわしい。 よく観察してみれば、相当に鍛えられた体をしていることが伺い知れた。 しかし周囲のどよめきはそこに向けられたものではない。 草原に集まった生徒たちの目は――ルイズも含めて――その『男』の傍らにある『物』に釘付けになっていた。 それは、剣と言うにはあまりに大きすぎた 大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎた ―――それはまさに鉄塊だった 男の名は『ガッツ』。 狭間の世界に身を置き、『守る』ことと『挑む』ことを魂に問い続ける『黒い剣士』。 前ページ次ページベルセルク・ゼロ