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その日、親愛なる我が妹に黒猫の使い魔ができた。 いつの間に真語魔法を身につけたのかしら、という疑問はさておき、たいそう気に入っていることは私の目には明らか。 使い魔との感覚共有には接触が必要とはいえ、四六時中頭の上に乗せたり抱きかかえたり。 その絵面はかわいい×かわいいでとんでもなくかわいらしい。語彙力が溶ける。 宮廷画家でも抱えていたならば1作品描かせるところである。題名は『愛くるしい』といったところ。 そろそろ将来の宮廷画家候補も探すべきかしら。 「…なんださっきからこっちを見て、ニヤニヤニヤニヤ気色悪いぞ」 どことなく冷たい声色でマトリが言った。 「ずいぶん気に入ってますのね、そんなに毛並みがいいのかしら」 どれひと撫でさせてもらおうじゃないの、と手を伸ばす。 ところが黒猫を隠すようにして私の手は遮られた。 「待て。それ以上ワタシのクロエに近づくな」 …まさか名前をつけているとは。黒猫だからクロ…に一捻りといったところだろうか。 「本当に気に入ってますのね…まあ夜目が効くようになったり便利でしょうけど」 「仮に夜目の恩恵がなくても猫にするが」 いわゆる猫派であることは知っていたがここまでとは。 使い魔は模した生物により性能に変化があるはずで、特に蛙は貯蔵できる魔力量が多いことから人気だと聞いたことがある。 見た目よりは機能性を重視しがちなマトリにしては珍しい選択に思える。 「そんなに猫がいいならいっそ飼ってはどうかしら?下級の使い魔では反応はないはずでしょう」 下級の使い魔にはそもそも意志がないはず。言ってしまえばちょっと高性能なぬいぐるみと大差ない。 猫を飼うくらい今の私たちであれば経済的には問題なし、留守しがち…というのもまあ神殿に預けるなりどうとでもなるだろう。 我ながらこれは名案、『いいの?ありがとうお姉ちゃん!』となること間違いなし…と思ったのだが、返答は大きなため息。 「あら?」 「…まったく、誰のせいで飼う気にならないと思っているのやら」 「え?私?」 どうやら原因とやらが私にあるらしいことは流石にわかるが、心あたりが全くない。 「…まさかノラのことを忘れたわけじゃないだろうな」 「まさか、忘れるわけないでしょう」 ノラは修道院時代にお世話をしていた猫で、二年前ザイア様のもとに帰った。 たまたま見つけた野良猫で、私とマトリ、そしてジニアの三人で餌をあげたりしていた。 「…そう、まだあの子のことが忘れられませんのね」 「忘れる気はないがそうじゃない、第一ノラはぶち猫だろう、それなら黒猫にはしない」 それはそうか、使い魔の外見はある程度好みに合わせられるはず。 「だったらなんでノラの話が出てきて、しかも私のせいになりますの?」 「ノラを初めて見つけたのはワタシだった」 「…そうだったかしら」 正直そのあたりの記憶は曖昧…ということは少なくとも初めて見つけたのは私ではないのだろう。 ノラと呼び始めたのも誰からだっただろうか。 「なのに真っ先にノラが懐いたのはキミだった、よりによってな」 確かに猫は気まぐれ…とよく言うわりにノラは私に甘々だったと思う。 「まあそうかもしれませんわね…って"よりによって"ってどういう意味かしら?」 「そのままの意味だ、ジニアならまだしもよりによってキミに懐いた、ノラのお世話を始めたのが1番遅かったキミにな」 言われてみれば確かに私の記憶では始めから三人でお世話をしていた気がする。そこそこ前のことをよく覚えているものである。 「ふふっ、どうやらノラは私の魅力がわかる猫離れしたセンスを持っていたようですわね」 自慢気な顔をしているであろう私を見て、マトリはまたひとつ大きなため息をついた。 「ノラだけじゃない、怪我をした小鳥を保護したときも、ザイア神官がペットの犬を連れてきたときもそうだった、決まってキミは真っ先に生き物に好かれる」 「…私がそれだけ魅力的ってことですわね」 思い浮かぶ心あたりから目を逸らす。 「…まあ、つまりキミの魅力を信用しているということだよ、ペットを飼ったら猫でも犬でも兎でもキミに懐くに決まってる」 私の動揺を感じ取ったのか、さっきまでより少し柔らかい声色でマトリは答えた。 「その点クロエは懐きようがないからな。キミに取られる心配がない、そうだよなークロエ」 反応を示すこともない使い魔に話かける姿は、かわいらしくもどこか悲しげにみえた。 「人聞きが悪いですわね、別に取ったつもりはありませんわ。それに…」 百万の花咲く園よりも価値ある一輪に届かないのでは、なんの意味もないでしょう? 「?なにか言ったかね」 「…なんでもありませんわ」 首を傾げるあなたの髪に、そっと指を通した。 リハビリがてら書いた。書きやすくてびびる。
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ルイズが変わったのは、春の使い魔召喚の儀式からである。 と言っても、当時のわたしはルイズにさしたる興味を持っていなかったので、これは後になって友人に聞き知ったことだ。 ゼロのルイズが平民の女の子を使い魔にしたという話は、少しの間、話題になった。 リリイという名の、その使い魔は、コウモリのような羽根があったり、犬のような耳を生やしていたりと、どう見ても亜人であったのだが、 その女の子が大した能力がなさそうな人畜無害な見た目をしていたり、羽根があるくせに飛べなかったりということで、ゼロのルイズに亜人が召喚できるはずがないという偏見から、そう噂されたのだ。 魔法の成功率ゼロのルイズが使い魔の召喚に失敗して、その辺りを歩いていた平民の女の子を捕まえてきて仮装させて使い魔扱いしている。 そんな根も葉もない噂を流されて、しかしルイズは何の反応もしなかった。 友人に言わせると、ここからしてありえないということだが、わたしは、それをおかしいと思えるほどルイズの事を知らない。 そして使い魔召喚の儀式の翌日、ルイズの使い魔が決闘をすることになる。 相手は、ドットの土メイジ、青銅のギーシュ。 決闘に至った原因は、リリイのせいでギーシュが二人の女の子と付き合っていたのがバレて、フラれたとのことだが、そこはどうでもいい。 見た目はどうあれ、リリイは亜人である。ならば、その戦い方を見ておいて損はないだろうと、わたしは考えた。 もしも未知の魔法でも使いこなせるようなら、その知識を得ておくことは決して損にはならないのだから。 だけど、期待は裏切られる。 リリイは、普通の平民よりは強かった。 だけど、それだけの話。ギーシュの作り出した一体目の青銅ゴーレムを破壊したまでは良かったが、彼が六体を同時に生み出した後は、数の暴力に負けて敗れさった。 そこで、わたしのルイズとその使い魔に対する興味は消えた。 たから、わたしの使い魔である韻竜のシルフィードに、二人が夜になるとこっそりどこかに出かけていると聞かされても、何も思わなかった。 ルイズも、その使い魔も自分が興味を向けるだけの価値のある存在ではない。 その認識を改めたのは、かなり後になってからなのだけれど、きっかけになったのは、学院に土くれのフーケを名乗る盗賊が現れたときだったのかもしれない。 学院の宝物庫を襲ったフーケの討伐に名乗りを上げた三人の一人がルイズであった。 もっとも、実際に名乗りを上げたのはルイズだけで、残りの二人、キュルケはルイズに対抗してみただけであるし、わたしはそんなキュルケが心配で付き合っただけである。 そして、わたしたち三人とルイズの使い魔のリリイとフーケの情報を持ってきた学院長秘書のミス・ロングビルの五人はフーケのアジトと思われる廃屋に向かい、そこで奪われた宝物を見つけた後、フーケの巨大な土ゴーレムに襲われた。 この時、不可解なことがいくつか起こった。 わたしやキュルケでは、どうにも対抗できなかった土ゴーレムに、自分の身長よりも長大な剣を持ったリリイが立ち向かったのだ。 ギーシュのゴーレムにすら敵わなかったはずのリリイは、フーケの巨大ゴーレムと五分に渡り合っていた。 もちろん、巨体であり、いくらでも再生するゴーレムを剣一本で倒せる道理はない。 だけどゴーレムも、素早く動き剣で容易くゴーレムを切り裂くリリイを倒せず、しばらくの膠着状態の後。土ゴーレムは自然に崩れ落ちた。 その後である。 フーケは逃げ出したらしい、自分とミス・ロングビルは、あと少し辺りを調べてから帰るから、先に宝物を持って帰って欲しい。 そう、ルイズから連絡があったとリリイが言い出したのは。 思い返せば、ルイズとロングビルは、わたしたちが廃屋に入ったときに、周囲を見てくると言って姿をくらませたままである。 その時のわたしは、冷静な判断力を失っていたのだと思う。 メイジとその使い魔は、精神で繋がっている。だから、離れていても連絡をしてくることが出来るのだから、これは不思議なことではない。 その程度にしか思わなかったのだが、思い返してみれば、何故ルイズにフーケが逃げたと判断できたのかを疑問に思うべきだったのだ。 そう、これも後になって分かったのだが、フーケは逃げてなどいなかった。捕まり、拘束されていたのだ。ルイズの手によって。 ルイズの目的が、フーケを捕まえて官憲に引き渡すことではなく、自身の手駒とすることだと知ったのは、ずっと後になってからの話。 わたしたちに遅れて二人が帰ってきたとき、ロングビルは着ていた服が引き裂かれ、肌も露わな姿で憔悴した顔をしていて、その理由が分かったのは、これもかなり後になってからのこと。 ルイズは、フーケに襲われた結果だと言っていたが、それは嘘だろう。ミス・ロングビルの正体がフーケなのだから。 キュルケは何かを察していたが、その時点では教えてくれなかった。 ともあれ、そこでルイズとの縁は切れるのだと思ったのだけれど、そうはならなかった。 それから、何日もの日々が過ぎたある日のことである。 ルイズが、トリステイン魔法衛士隊の隊長と出かけるのを見かけたキュルケが、後を追うと言い出したのだ。 そして、その後わたしたちが魔法学院に帰ることはなくなる。 ルイズたちの目的はアルビオンに向かうことであり、とりあえず港町ラ・ロシェールの前で賊に襲われていた彼女たちに加勢したわたしたちは、不可解なものを見ることになった。 そこにいたのは、ルイズとギーシュと魔法衛視隊隊長でありルイズの婚約者であるワルド子爵。ルイズに個人的に雇われたのだと言って一緒にいた、目が死んでるミス・ロングビル。 そして、わたしたちと同年代の亜人の少女。 ルイズの使い魔と同じ種族に見えるその少女が、リリイ本人であると聞かされたときは、目を疑った。 何をどうすれば、あの小さな女の子が急に成長するというのか。 とはいえ、驚いてばかりもいられない。 夜も遅かったので、ラ・ロシェールに宿泊することにしたわたしたちは、ルイズたちが乗るアルビオン行きの船が出るまでの間、そこに留まることにした。 そして、二つの事件が起こる。 一つは、早朝のリリイとワルドの決闘。 かつてギーシュにすら敗れたリリイは、スクウェアメイジであるワルド子爵とすら互角以上の実力を見せた。 そして、もう一つの事件は夜に起こった。 アルビオンは今、王党派と貴族派に分かれて戦っていると聞く。 その一方。貴族派に雇われた傭兵が宿を襲ったのだ。 その時、ワルド子爵は二手に分かれて、片側が傭兵の足止めを、もう一方はアルビオンに向かう船に乗り込むべきだと主張し、わたしも同意した。 それは正しい判断であったはずである。真相を知っている今では、そうではないとわかるが、あの時点で知りうる情報からでは、それ以上に正しい判断ができるはずがない。 そのはずなのに、ルイズはその主張を退けた。 それが、仲間を置いて自分だけが逃げるのは嫌だなどという感傷であれば、わたしもワルド子爵も黙殺したのだろうが、そうではなかった。 どのみち船が出るのは、翌日である。ならば、それまでに傭兵たちを倒してしまえばいい。 そう言った彼女には、それができる自信があったのだ。 そして、現実に傭兵たちは、わたしたちの前に倒れた。 それは、ほとんどがリリイの仕業であった。 ルイズの防衛をわたしたちに任せて一人で突撃したリリイは、強かった。 それだけではない。いかにスクウェアメイジと五分に戦える実力を持っていても多勢に無勢、無傷で戦えるはずもないのだが、たとえ傷を負っても ルイズの唱える聞いた事もない呪文ですぐに癒されていたのだ。それは、敵対している傭兵たちからすれば不死身の怪物と戦っているような錯覚を覚えさせただろう。 そうして全ての傭兵を打ち倒したわたしたちは、なし崩しに全員でアルビオンに向かうことになった。 何故、わたしとキュルケまで? と気づいたのは、勢いでマリー・ガラント号という船に乗った後。 その後、空賊に扮したアルビオン皇太子の乗った空賊船に襲われたり、それらと戦い皇太子の正体に気づかずに捕らえ拘束してしまったりという珍事はあったが、わたしたちは、無事にアルビオン王城ニューカッスルに到達した。 そこで初めて、わたしとキュルケは、ルイズたちの目的がトリステイン王女がアルビオン皇太子ウェールズに送った手紙の回収なのだと知ったのだが、それもどうでもいいことである。 より重要なのは、実はワルド子爵がアルビオンの貴族派レコン・キスタと通じており、手紙とウェールズの命を奪わんとしていたことであろう。 結論から言ってしまえば、彼は上手くやった。 手紙をルイズから預かり、ルイズと結婚式を挙げたいと訴え、ウェールズを王党派の軍人から引き離し、見事その胸を貫いた。 だが、そこには一つの計算違いがあった。 ワルド子爵は、ルイズには力があると信じていた。そして、その力を自身の欲望のために利用しようと考えていた。 実際、ルイズには力があった。だけど、それはワルド子爵に制御できる程度のものではなかったのだ。 結婚式の時、ルイズは遅れて礼拝堂にやってきた。 リリイとロングビルに持たせた大きな風呂敷包みが、なんだか不安を誘ったが、そこはみんなでスルーした。 そして、いざ始祖ブリミルへの誓いをというときになって、ルイズはワルド子爵に言ったのだ。 「何をそんなに焦っているのだ?」 その言葉で、わたしたちは気づいた。 幼いときからの知り合いで、婚約者であるはずのワルド子爵は、この旅の間、発情期の孔雀のようにルイズに自分をアピールし続けていた。 まるで、この機会を逃せば、もうルイズを手に入れることが出来なくなるのだというように。 ルイズを自身の手駒として手に入れようと考えていたワルド子爵の考えは、当のルイズ本人に看破されており、自身の望みが果たせないことを理解した彼は、正体を明かすと同時にウェールズの命を奪った。 そして、手に入らないのならばとルイズの命を奪わんとしたとき、ルイズが隠していた能力を見せる。 ルイズには、ワルド子爵と互角の戦闘力を持つ使い魔のリリイがいる。普通に考えれば、ワルドに勝ち目はない。 だが、風のスクウェアメイジには、偏在という魔法がある。 それは、自身とまったく同じ能力を持った分身を生み出す魔法。いかにリリイが強くとも本体を含めて五人ものワルド子爵に勝てる道理はない。 そして、リリイ以外の人間。わたし、キュルケ、ギーシュ、ルイズ、ロングビルの五人には、残念ながらワルド子爵に勝てるほどの能力はない。 ゆえに、ルイズの生存は絶望的なはずであった。 この時ルイズが使った魔法は、原理としてはサモンサーヴァントに似たものだったのだと思う。 離れた場所にいる者を召喚する魔法。違うのは、それらは複数であり、すでにルイズと契約を済ませ命令を聞く存在であったこと。 現れたのは、オーク鬼や翼人や吸血鬼といった亜人たち。 毎夜どこかに出かけていたルイズは、それらを倒し配下としていたのだ。ちなみに、前の事件でフーケを捕らえたのも、彼らだったのだという。 平民とは比較にならない強靭な肉体を誇るオーク鬼や、先住の魔法を使う翼人と吸血鬼。 それらは、ただでさえメイジにとってすら脅威となりうる戦闘力を持つのに、ルイズの下で働かされ戦いを繰り返すことで、それぞれがリリイと互角の実力を持っていた。 数で、こちらを蹂躙しようとしたワルド子爵は、より多くの数で敗れ去ったのだ。 だけど、ルイズは裏切り者であるワルド子爵を殺しはしなかった。 それが、婚約者への未練であるのではないかと思ったのは、一瞬のこと。 ルイズは、倒れたワルドの服を剥ぎ、同時にリリイにも脱ぐようにと命じた。 その後、何かを察したキュルケに一時放り出されたわたしは、しばしの時間の後、やけにグッタリした顔の皆と再会する。 全員。ルイズもリリイもキュルケもロングビルもギーシュも、妙に上気した顔をしていて服も乱れていたのだから、さすがにわたしにも何をしていたのか理解できるのだが、なんの目的でそんなことをしていたのかは分からなかった。 キュルケも、ルイズの目的は分かっていなかったはずなのに、躊躇いなく参加するのは如何なものか。 まあ、目的の方も尋ねてみればすぐに答えが返ってきたのだけど。 ルイズには、性魔術という魔法が使えて、それを使うと魔法を使うための精神力を簡単に回復できるのだそうだ。 それで、亜人たちを召喚するのに使った精神力を回復させた理由は、レコン・キスタを倒すことであるとルイズは言った。 無茶だ。と、わたしは思ったが、彼女には勝算があった。 礼拝堂に遅れてやってきたルイズたちが持ってきた荷物。それは、この城中から集めてきた宝物。 呆れたことに、火事場泥棒をしてきたルイズが運んできた物の中に古いオルゴールがあった。 それが、勝利をもたらすのだと言われても、納得できようはずもない。 とはいえ、思ったより早く攻めてきたレコン・キスタを相手に逃げる暇のなかったわたしたちには、ルイズの賭ける以外に他に手立てがなかった。 ルイズがオルゴールから得たものは、虚無の魔法。 その魔法が、どれほどの威力を持つものなのか、わたしたちは知らなかった。多分、ルイズも正確には予想できてなかったに違いない。 だって、一個人の使う魔法が、一撃で万単位の兵士を吹き飛ばすだなんて、誰に予想できるというのだ。 大爆発の魔法の後に敵兵士の襲いかかった亜人の群。それが、レコン・キスタを完膚なきまでに叩きのめし、敵軍の首魁クロムウェルすら虜囚にする。 それで、全てはおしまい。 それが、思い違いであったと、わたしたちはすぐに思い知らされる。 ルイズは、別にアルビオンの王党派を救おうなどとは考えてはいなかった。 ただ単に、自分の集めた戦力とここで手に入れた魔法を試してみたかっただけなのだ。 そして彼女は、もう充分だと判断した。のみならず、クロムウェルから人の心を操るアンドバリの指輪というマジックアイテムすら奪い取った。 その結果、ルイズは彼女が欲するものの足がかりを手に入れたのだ。 この世界全てを蹂躙する力と軍隊を。 そうして初めて、彼女は自身の正体と目的をわたしたちに話す。 ここではない、ある世界での物語。 そこには、魔王と呼ばれる邪悪がいて、そいつは勇者たちによって倒された。 だけど、魔王は自身の魂だけを切り離し、使い魔に持たせ逃れさせた。 それをルイズが召喚してしまった。 魔王の魂を持つ使い魔を。 そして事故が起こる。 使い魔、リリイの持つ魔王の魂がルイズに入り込んでしまったのだ。 これは、お互いにとって不本意な事態であったろう。 ルイズとしては、そんな得体の知れないものに肉体を乗っ取られるなど、望んでいたはずがないし、魔王としても、少女の肉体に憑依するなど納得できようはずがない。 なにしろ、性魔術を使うに当たっては、男性を相手にしなくてはならなくなったのだ。リリイという、代わりを務めてくれるものがいなければ発狂していたかもしれないとは本人の弁である。 なんにしろ、魔王は自身の望みを叶えるために活動を開始する。 リリイを育て、戦力を集め、元の世界に帰る方法を探す。 封印された肉体を取り戻すために。かつて、自身を打ち倒した者たちを責め滅ぼすために。 今、レコン・キスタとアルビオン王党派を、アンドバリの指輪の力で手に入れたルイズは、ハルケギニアの全てを支配するつもりである。 元の世界を攻める戦力を手に入れるという理由ために。 そして、今わたしやキュルケはルイズの下でハルケギニアを征服する軍体の指揮を取っている。 わたしたちとは、わたしとキュルケとギーシュとワルドと、ついでに更に成長したリリイのこと。 ルイズがわたしたちに秘密を話したのは、ようするに仲間になれという宣言であり、それ以外の選択を許さないという通告である。 わたしたちに選択肢は与えられていなかったのだ。 ただし、わたしは条件を出した。 わたしタバサ、いや、シャルロット・エレーヌ・オルレアンの命は、母を守ること。復讐を果たすこと。そのためにある。その二つを叶えてくれるなら、従おうと答えた。 ルイズは、それを了承した。それどころか事情を聞いて、毒を飲まされ正気を手放した母を癒してくれるとまで言った。 その勇気があるならばと、前置きしてだったが。 母は、優しい人だったと記憶している。 その母が、魔王の配下となった自分を見てどう思うのか? そんなことを今の今まで、考えていなかった、むしろ考えないようにしていたわたしは、自分に勇気などないことに気づかされた。 だからといって、ルイズの仲間になるのをやめるという選択肢はない。ルイズはそんなことを許さないし、あのままガリアで働いていても救いなどないと分かりきっていたのだから。 だから、ルイズの力を借りて連れ出した母は、今も気がふれたままであり、執事のペルスランに任せきりになっている。 わたしにとって意外だったのは、キュルケが素直にルイズの仲間になったことである。ギーシュのことはどうでもいい。 元々ルイズと仲がよかったわけでもはなく、ルイズの世界征服にも興味を持たないであろうキュルケが何故と思ったわたしに、彼女は苦笑と共に答えた。 「だってねえ。本当にルイズが魔王に完全に乗っ取られていたら、わたしたちは今生きてないわよ」 キュルケが魔王の過去の話を聞いて最初に感じたのは違和感であったという。 魔王が、自身の話した通りの存在なら、それは人の命を虫ケラの如く扱い、自分たちのことなど、さっさと口封じに始末しているか、どこかで使い捨てにしているだろう。 なのに、それをしなかった理由はどこにあるというのか? それは、魔王に乗っ取られた身の裡に、ルイズ本人の心が残っているからに違いないとキュルケは考えた。 ならば、魔王からルイズに守ってもらっている自分としては、その借りを返さないわけにはいかないではないか。 そんなことを言う親友に、わたしは今更ながらに彼女がルイズを嫌ってなどいなかったのだと、それどころか好きだったのだと気づかされた。 そうでなくて、借りがあるからと、家族のいる祖国にまで戦争を仕掛けようという魔王に手を貸そうなどと誰が考えるものか。 わたしは、わたしと母を取り巻く過酷な運命から救ってくれたルイズに感謝している。 わたしは、キュルケまで、こんな運命に巻き込んだルイズを憎んでいる。 わたしは多分間違っているのだろう。だけど、今更道を違えることは出来ない。 この先、わたしたちにどのような結末が待っているのかは分からない。分からなくても進むしかないのだから。 小ネタで姫狩りダンジョンマイスターからリリイ召喚
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金がない奴は人じゃない(°Д°lll) というわけではないですが お金というのは 愛も買えるかもしれないし 友情も買えるかもしれないし っと・・・そういうのは置いておいて 装備のを整えたりするには莫大なお金がかかってしまいます そこで このσ(・∀・●)ワタシが簡単にお金を稼ぐ方法 貧乏でもなんとか稼げる方法を書きましょう 第一弾 宝箱からビックリウッハウハ まず市場で 古い宝箱を買います
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[形容詞]古い [語源]フェルゼタ語由来# [語法]年老いている事は指さない。 [用例]
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遥かな国からの青年 ブチャラティは現在訳あってイタリア料理店にいる。 彼はイタリア人なのだから当然と言えば当然だが、彼が今いるのはイタリアではなく異世界なのだからそんな店あるはずない。 だが彼は今イタリア料理店にいる。彼と同じ世界の人間が賄う店に。 「まあ、座んな。ここであったのも何かの縁だ。」 長身の男が店に誘う。 「しっかしまさかまだこっちに呼ばれてた人間がいたとは驚いたぜ。ボインゴ!ちょっと水持ってこい。」 「わ、わかったよオインゴ兄ちゃん・・・。」 ボインゴと呼ばれた店員が奥に引っ込む。 「今日に限ってこんな奇跡が起きるとはねえ。あんたと…そっちの姉さんもなのか?」 オインゴがシルフィードを指差す。だが当の本人はボケた顔をしている。 「きゅい?」 「アンタいたのか…。なんでいつの間にかアンタまで店に入ってるんだ。」 シルフィードが頭をかきながら、 「えへへ…。つい空気に飲まれちゃったの。きゅい。」 「無関係なのかソイツ?」 「ついさっきそこで会ったんだ…。名前も知らない。アンタ誰だ?」 「シルフィードなの!」 「シルフィード!?“風の妖精”なんて名前なの?そんなの貴族が使い魔につけたり、偽名に使うな名前なのよ?」 あの女店長がシルフィードを見て驚いた。 「偽名か・・・・・・。」 ブチャラティがこっちに疑いの目を向けている。 (やばっ!またやっちゃったの!) シルフィードにタバサが背中をつねったような衝撃が走る。 「シルフィードか…。そういえばオレの知り合いに…そんな名前の風竜を使い魔にしてた奴がいたな…。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。 「そこのところ、詳しく教えてもらえるか?」 (・・・という展開にうっかりしてしまうところだったの!危ない危ない。きゅい!) 途中からシルフィードの察知した未来の想像図だった。 ちなみにシルフィードと名乗ったあたりからがシルフィードの受信した電波である。 「どうしたんだ?」 「な、なんでもないの!わ、わたしはイルククゥ!ガリア王国からきたの!」 シルフィードは自分のもうひとつの名前、風韻竜仲間の中での名を名乗った。 (こ、こっちの名前ならお姉さまと風韻竜の仲間しか知らないからシルフィとわからないはず…。きゅいきゅい。) シルフィードには即席で偽名を名乗る機転を利かせる事はできなかった。 だがそれで冷や汗をかく事になる。 「イルククゥ?”そよ風”なんて名前なの?」 (しまった!こっちもダメだったの!?もう現実にしゃべちゃったの! どうする!?どうする!?) 「…変な名前。」 と言って店長は奥に引っ込むだけだった。 「そうか。ブローノ・ブチャラティだ。よろしくな。」 「よ・・よろしく!」 ブチャラティの表情からは不審そうなそぶりはさほど見られない。 (ウソをついてるようなそぶりはない・・。やはり少し変わってるだけの貴族なのか…?) 否、疑っていたが、その名前はシルフィードの本名なので見破ることができなかっただけだった。 「み、水です ハイ。」 ボインゴが水を渡す。 「ありがとう!きゅい!」 シルフィードもといイルククゥが水を取る。 「…で、さっそくだが質問を。アンタたちはどうやってこの世界に来たんだ?」 ブチャラティが切り出す。 (もしも…こいつらの出現の方法が向こうにいけそうな物であったとすれば・・。 帰れるかもしれない。元の世界に…!) ブチャラティは息を呑んだ。 「…それが、覚えてねーんだ。」 ブチャラティから一気に力が抜ける。 「え?」 「いや、だから、スマン!オレたちは覚えてないんだ・・。 オインゴが頭をかきながら言う。 「よくわからねえんだ・・。もう2年になる。ある日目が覚めたら突然オレたちはこの世界に来ててさ・・。 本当にわからねえ。思い出せねえんだ・・・。それどころか、その後この店長と会うまで俺たちはまず生きる事の心配をしなきゃいけなかったからそれどころじゃあなくってよ・・・。」 ブチャラティはオインゴたちのその様子がかなり情けなく見えた。 (ふりだしに戻ってしまった・・。) 「あなたは…どうなんですか? ハイ。」 ボインゴが聞いてきたので、ブチャラティは自分がルイズに召喚された件の話をする。 ちなみに自分が死んだあたりの話は伏せた。 「ハイ、これ。しばらく食ってないんでしょ?」 店長がスパゲッティを差し出す。 「これは…。いいのか?オレには金が・・。」 「いいのよいいのよ!せっかく久しぶりに会えた同じ世界から来た人間、仲間じゃないの!それに10年以上も一人で世界中旅してただけあって金のない奴の苦労がよくわかるのよ!遠慮はいらない!さあ食べな!」 ブチャラティは一瞬その気さくさに一瞬うなずきそうになったが踏みとどまる。 「いや、そんな事でいただくわけには…。」 グゥーーーーーーーーッ。 腹の音が鳴る。 その後照れながら頭をかいたのは 「・・・・・・・・・おいアンタ、えっとイルククゥだったか?騎士としての威厳とかは見せたりしないのか?」 「てへへ・・。きゅい。このイルククゥもスパゲッティをもらいますがかまいませんねっ!!」 ブチャラティが溜息をつく。そしてどうにも危なっかしくてほっとけない女だとブチャラティは思った。 「はぐ、むぐ、おいしいのー!きゅい!」 シルフィードもといイルククゥが子供のようにガツガツとブチャラティに分けてもらったスパゲッティを食べる。 「そりゃよかったな。ところで、お前貴族のようだが金あるんだよな?」 ドキン!! イルククゥが笑顔のまま固まっている。 「・・・・・・・・・・お金?」 「おい、お前・・・・まさか?」 しばらくイルククゥが(やべー、マジに緊急事態だわ。)とか考えているのが手に取るようにわかったが・・・。 「・・・・・・あ、お金はあるの。ゴメン今のなし!」 トランクの中に金があるのを発見したようだ。だがこれはちょっと見逃せない。 そもそもさっきからおかしい。主に言動が貴族のそれじゃあない。 最初に見たときは地べたに膝で座ってたし、スパゲッティの食い方がマナーもクソもない。 というか完全に子供の食い方である。 そもそもコイツ一体何歳なんだ?というのがブチャラティの一番の疑問だった。 見かけは自分と同じくらいに見えるが、案外ルイズより下だったりするのかもしれない。 それに加え口調や行動のせいでさらに幼く見える。 とりあえず確信したのは、こいつは貴族でないと言うこと。 そのトランクや服は確実に貴族から盗んだものだと考えた。 だが盗品のわりにトランクを調べるまでずっと無一文だと思っていたようだ。つまり金目当てではない点が府に落ちないのが気に入らない。 とにかくブチャラティはここでビシッと「お前貴族じゃないだろ。」と言ってやるつもりだった。 だが現実はそうはならない。 「お前貴族じゃな「ところでさ!アンタちょっと聞きたいんだけどさ…。」 店長が横槍を入れた。現実は非常である。 だが衝撃がブチャラティを襲ったのは次の瞬間だった。 「アンタってさ、『スタンド使い』でしょ。」 「何ッ!?」 バァーーー―――z______ン!!! 「スタンド…使い。と言うことはあんたたちも!?」 だが店長は慌てて手を振る。 「あ、違うよ。あたしはスタンド使いじゃあないんだ。現に見たことあるのは何かと同化して実体化するタイプの奴だけだからね。ホントにスタンド使いなのはその二人。」 店長が二人を指したらボインゴが物陰にさらに隠れた。 「・・・・・・・・?」 「・・もう12年くらいになるかな。そう。その頃にあたしは旅を始めたんだったな・・。 その頃のあたしはまだ子供でね、親父たちと喧嘩になって家を飛び出したのがすべての始まりだったんだ。」 店長が遠い目になっていた。 「まずは夢の海外進出をしようと思ったんだけどそのころのあたしは無一文だったからさ、密航する事にしたんだ。…まさかその密航した船の中でスタンドの存在を知るとは思ってなかったんだけどね。 いやー、いろんなスタンド使いを見たよ。船そのものを操るオランウータンとか、肉を被って別の人間にばける能力とか、変形する暴走車のスタンドってのもあった。その後当時の連れに母国の香港に送り返されそうになったけど、なんとか巻いてむしろ逆方向に飛んでやったけどね。」 店長が一気にまくし立てた。ところでさっきから兄弟が目を話し中、意図的に目を逸らしているのが気になった。 「それでアンタも『スタンド』の存在を知ったと言うことか?」 「そゆこと。ちなみに3年前、アンタの母国でイタリア語やこの料理の作り方を教えてくれた恩人も確実にスタンド使いだったね。だって食べただけで体の異常が直るのよ?その過程とか見て、ああ、確実にスタンド使いだなと思ってた。」 「そうか・・。だが待ってくれ。仮定するならともかくいきなりスタンド使いと決定するのはどうかと思うぞ?ただの人間かもしれないじゃあないか。実際スタンド使いだが・・・。」 「それから先はオレたちが教えてやるよ。オレたちはスタンド使いだからさ。」 オインゴとボインゴが会話に加わる。そしてオインゴが顔を抑えながら言う。 「お前もスタンド使いの端くれなら知ってるだろ?『スタンド使いとスタンド使いは引かれあう』というルールを。」 『スタンド使いとスタンド使いは引かれあう』このルールはポルポから聞いて知っていた。 「ああ、そのルールは知っている。だがそれが何の関係がある?」 「あのな、こっから先すっげー重要だから聞き逃すんじゃねーぞ?実はおれ達なりにこの世界の歴史とか最近の奇妙な噂とかをすでに調べておいたんだ。そしたらな、おまえみたいにサモン・サーなんとかだか、おれ達みたいに目が覚めたら飛んでたかは知らねーがな、それまで表ざたになっていなかっただけで、実は俺たちの世界の住人らしき疑いのある奴の情報が結構な数耳にすることができたんだ。」 ブチャラティは胸の辺りに悪い予感が重くのしかかっているのに気が付いた。思わず体が前にのりだしている。 「このトリステインのタルブって言う地方に、翼のついた鉄製の舟がかなり昔に落ちたって話も聞いたし、この世界の文化と完全にかけ離れているような行動をした変わり者が『俺は別の世界から来た』って言ってたらしい奴もいるし、あと奇妙な魔法がらみの術を行う平民っていうのが各地で増えつつあるらしい。」 「術を使う平民…。ハッ!」 「そこで思い出してほしいのが『スタンド使いとスタンド使いは引かれあう』という絆の…『引力』の法則だ。もしこのルールが異世界にいっても適用され続けるとしたら?」 その声が急に自分の声になった。そして次の瞬間オインゴの顔が自分と完全に同じになっていた。 「オイ、あんた達は…あんた達は何を言おうとしている?まさか…。」 「なんらかの拍子にこの世界に呼ばれたスタンド使いがまたこのルールに乗っ取ってスタンド使いをこちらに引き寄せる。それを何度も何度もやっている内にやがてネズミ算の要領でこの世界が俺たちの世界から来たスタンド使いだらけになるという仮説に至ったというわけだ。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。 「そして俺たちはそいつら全員がみんなして友好的だと言う甘い考えは抱かなかった。 だからもし何の前触れもなく突然おれ達の世界の人間に会ったら、それはもしかしたらスタンド使いかもしれないとあらかじめ店長に言っておいたのさ。」 「・・・・・・・・・・・・。」 ブチャラティは絶句している。その顔にはいやな汗がにじみ出る。 「それは・・・・やはり悪い知らせなんだろうな・・・オインゴさん。」 「だな。すでにアルビオンでは不穏な空気が漂いつつあるみたいだしな。」 「不穏な空気?」 「クーデターの・・・話ですか?オインゴ兄ちゃん。」 ボインゴが割り込んだ。 「クーデター?アルビオン?スマン、オレはこっちに来てそう間もないんだ。詳しく教えてほしい。」 「・・・白の国、アルビオン。今そこで大多数のアルビオンの貴族が王党に反旗を翻したという噂があちらこちらではびこっているんです。 ハイ。」 オインゴが変身を解除して言う。 「最もアルビオンは遠い。新鮮な情報もなかなか入ってきやしねーが、その反乱した貴族派の連中がその平民、つまりスタンド使いの疑いのある人間を数少ないが雇ったらしい。まあ・・・今の所わかっているのはそれだけだ。」 ブチャラティは考えた。もしそのスタンド使いを雇った貴族派が人々の犠牲も問わないような過激で非情な輩だったら。 例えば以前戦ったあのカビを操るスタンド使いのように、周囲を無差別に攻撃し、それによって何の罪もない人々が巻き込まれたら。 「だ、大丈夫ですか・・・・・・? ハイ」 ボインゴが心配そうに覗き込む。 「ん、ああ、大丈夫だ・・・。」 店長がオインゴを睨みつけながら言う。 「全くオインゴ!せっかくのお客さんをいやな気分にさせたりして! ゴメンなさい、うちの店員が・・・・。」 「いや、ここでの話はとても無視できない重大な問題だ・・・。ここで知っておいて良かった。」 ブチャラティが立ち上がる。 「グラッツェ。世話になった。また来るよ。」 店長が後ろから声をかける。 「ありがとうございました!なんか苦しい事があってもいつでも来てねッ!! ウチの店はあんたの味方だからさ!」 ブチャラティは手を振った。 店を出る時イルククゥは頭の上に?マークを浮かべていた。 (あの人達の話・・・。さっぱりわかんなかったの・・・。スタンドって先住魔法とどう違うの・・・?シルフィには全くわからなかったの・・・。) 人間よりはるかに長い時を生きていて、人並みの知能があるとはいえ、所詮幼竜の彼女には難しい話だった。 (とりあえずとても遠い所から来たのはわかったの・・・。) 「さて・・・すっかり忘れていたが、ルイズを探しに行かないといい加減やばいかも知れないな・・・。」 ブチャラティは一人取り残され怒りに震えるルイズの顔が頭に浮かんだ。 「ところでアンタは結局なんなんだ?」 ドキッ! イルククゥが再び焦りだす。 (わ、忘れてたの!どうしよう。本当の事をいうわけには行かないし…。) 本当の事を言えば真っ先に困ることになるのはタバサだ。 風韻竜である自分の話が公になれば、タバサも困る事になるに違いない。 (お姉さまの使い魔として一応困る事は避けたいの…。) だがブチャラティから発せられる威圧感は異常ッ!彼女は目をそらす! 「いや、やっぱり止めておく。」 「きゅい?」 疑いで鋭くなっていたブチャラティの表情ががいつしか緩んでいた。彼はふっきれたように優しく笑いを浮かべていた。 「たとえお前が何であろうとオレが横から口を出す問題じゃあないからな。お前もオレにとやかく言われるすじあいはないと思ってるだろう。」 イルククゥがポカンと口を開けている。 「な、何も聞いたりしない?」 「しないさ。」 「怒ったりしない?いじめない?」 「しない。」 ま、これからは気を付けな。と言って去ろうとした時だった。 ガッシャッーーーン!!! キャアアアアアア!!! 絹を切り裂くような叫び声!! 「きゅい!誰かが叫んでたわ!!」 「ただごとではなさそうだな・・・。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。 一方ルイズ。 「ブチャラティーー!!どこ行ったのよ!!ブチャラティーー!!」 先程ブチャラティとはぐれたルイズ。一人でずっと彼を探し続けていた。 「も、もうダメ…。疲れた…。」 その場にへたれこむルイズ。箱入り娘の彼女に町中探し回る体力はなかった!! 「つ…使い魔のくせに私を置いてきぼりにして…何でわたしがこんな目に…。」 疲れきった顔で立ち上がる「どこかで休むわもう…。えっと財布…。」 だがポケットを探って気付いた!財布がないッ! 「えっ!?財布は!?何でないの!?…ハッ!」 ―――――――まさかお前の体内にジッパーで隠したとは思わないだろ…。 「そうだ…。ジッパー!」 ルイズはマントをめくり、窓を鏡にして背中を見る。確かにジッパーがブラウスの背中の所についていた。だがっ! 「あ、あれ?届かない?ちょっと!?何これ!?何で持ち手がこんなに小さいのよ!」 ブチャラティはジッパーを貼るとき、ジッパーの大きさも自在に設定出来る。だ が今回はジッパーの持ち手が小さく、ルイズの手の届かない所にあるのだ。 「もう!何よこのマヌケな状況!!財布を持ってるのに取り出せないなんて!!やっぱアイツ後でとっちめてやるわ!!」 疲れ果てたルイズ。だがその耳に駆け足の音が聞こえてくる。 タッタッタッタッタッタッタッ 「あ、あれはッ!!」 その二人は!誰もが愛すその二人の名はッ!! 全国の女性と『ギーシュさん』信者の味方!ギーシュ・ド・グラモン! 全国のモテない男と変態紳士の味方!マリコルヌ・ド・グランドプレ! その二人が…こっちに全力疾走してくる。というか明らかに何かから必死に逃げている! 「あ!アンタ達!ちょっとお願いがあるの!背中のジッパー下ろしてほしいの!!」 「「そんな言葉に惑わされるかぁーーーーーーーッ!!!」」 よくわからないが確実に錯乱している。 目が血走っていて直視すると身震いしてしまう。 「状況がぜんぜん見えないって言うかアンタ達何やってんの!?」 「「逃げてんだよォーーーーーーーー!!!!貧乳(ゼロ)のルイズーーーーーーーッ!!!」」 残念。それは私のNGワードだ。 「アンタたち・・・。言うに事欠いて貧乳と書いてゼロとはね…。ハハハ。言ってくれるわね・・。ハハハハ・・・。」 殺意ッ!!今ルイズが目から発しているものを何と呼べばいいかと聞かれたら『殺意』としか答えられないッ!! 「キザ男にフトッチョがっ!!この手で殺してやるッ!!」 だが杖を抜こうとした瞬間ッ!! 「『うわああああああああああああああああああ!!!!!」』 さらに一人男が後ろから全力疾走で駆けてくるッ!! カウボーイ風の男が一人…いや一人で間違いないはずだが、気のせいか今二人分の悲鳴が聞こえた。 「テルゥーーー!!!無敵の『エニグマ』でなんとかしてくれぇーーーーーーーッ!!」 『無理だぁーーー!!!!今やったら『エニグマ』が斬られてしまうぅーーーーッ!!』 「あの娘ごと閉じ込めろぉーーーーー!!!」 『”恐怖のサイン”が見つからないんだよぉーーー!!多分精神を操られてるせいだぁーーーーッ!! …てかあんたの『エンペラー』を使えばいいじゃないか!!』 「俺は女は殴らないし撃たねぇ主義なんだよぉーーーー!!任務どころじゃあねぇ!!まともにやったら俺たちじゃアイツには勝てねぇんだよ!だから逃げの一手だッ!!」 いや間違いないッ!!いま確かにその男は見えない何かと『会話』していたッ!! 「な、今確かに二人分の声が・・!!いやそれよりあの連中一体何から逃げてんのよ!?」 その方向を向くと、見慣れた二人が向かい合っている。 片方は赤髪、長身、褐色肌、あのうらやま、いや忌々しい巨乳ッ!!キュルケで間違いない。 もう一人は青髪、小柄、眼鏡に確実に私より小さそうな貧乳ッ!!こっちもタバサで間違いないだろう。 だが何事かと駆け寄ろうとした時だった。 「『フレイム・ボール』ッ!!」 「『ウィンディ・アイシクル』。」 ヂヂヂッ!! 二つの呪文がぶつかり合って相殺するッ!!その衝撃で遠くのルイズも吹っ飛びそうだッ!! 「な、何アレ・・・。なんであの二人が本気で戦ってんの・・?」 そして片方が聞きなれた声でもう片方にこう言った。 「フフフ…。今の攻撃、確かに覚えたぞッ!!」 ギーシュ&マリコルヌ 参戦 一方ブチャラティとイルククゥ。 その悲鳴の原因は男二人の喧嘩だった。 「こんな街中で喧嘩か?もっと裏通りとか人気のないところでやるもんじゃあないのか?」 目が血走ってツリ目気味な男がバンダナを目元まで深く被った男を殴りつける。 「うがぁぁ!!テメェよくもやりやがったなぁ!!」 「何の話だ!オレがおまえに何をしたって言うんだ!?」 ツリ目の男は支離滅裂に見える。バンダナの男のほうは冷静のようだ。 体に切り傷、後ろの窓が割れているという事は何かが割れた音はあのバンダナの男がブチャラティは近くで震えていた女性に話しかける。 泣きべそをかいてたらしく目元が赤い。そしてガラスで切ったような跡があるようで、どうやらバンダナの男が投げられた時に飛んできたガラスが少し当たったらしい。 「ヒドイの・・。大丈夫?」 イルククゥが駆け寄って身を案じる。 「一体なにがあったんだ?アイツら何を揉めているんだ?」 「何も…やってないの…。あの目の尖った男が突然怒ってきて…。バンダナの人がかばったら喧嘩になってたんです…。」 「そうか・・・。」 ブチャラティが二人に近づいた。 「お、おかっぱさん?何をするの・・?」 バンダナの男がブチャラティに注意する。 「お、おい!!何やっているッ!!その男は・・・。」 「あんだぁ?テメェは!!テメェも殺されてぇのかコラァ!!」 ツリ目の男がブチャラティに襲い掛かる。 ズッキャア!! 「ブゲッ!!」 ブチャラティが返り討ちにしたッ!! 流石はギャングあがりのブチャラティ!!スタンドを使わなくても腕っ節は強かったッ!! 「てめぇよくもやりやがっ・・!」 バキッ!ドカッ! 間髪いれずにブチャラティがぶん殴るッ!! その場にいた人間は呆然とした。 「テ、テメェ・・・。よくもやりやがったなぁ・・。」 懐からナイフを取り出す。 「どてっ腹に突き刺してやら・・。」 ガシッ!! その行動より早くブチャラティがナイフを持った手を掴み、もう片方の手で・・・。 ズシィッ!! 相手のほうのどてっ腹に拳をねじり込んだッ!! 「ぐええええッ!!」 チンピラはそのまま気を失った。 (この『症状』…。まさか?) ブチャラティが気を失ったチンピラを見ている間、イルククゥがバンダナの男に駆け寄る。 「だ、大丈夫なの?」 「ああ・・・どうやら無事みてーだぜ。」 ブチャラティが倒れた男に近づく。 「おかっぱさん、危ないの…。」 「黙ってろ!!」 注意を促したあと、彼は男の腕を見る。 そこには何かの跡が多くあった。 「コイツ・・。やっぱり・・・!」 「『麻薬中毒者』だったようだな。」 バンダナの男が立ち上がる。 「クソッ!こんな傷をおわせるまで暴れやがって・・・!」 「あんた大丈夫か?その傷どうやらだいぶ切ったようだが・・・。」 「へっ!これくれーの傷ほっときゃあなおるっつーの!」 そう言って男がポケットからハンカチを出して口を拭く。 「よおアンタ、助かったぜ。巻き込んで悪かったな。 見ず知らずのアンタを巻き込んでしまって、マジ悪かったぜ。」 男が傷を抑えながら言う。 「…何者だ?」 「…何者ってオレに聞いたのかい?」 ブチャラティがバンダナの男を見る。 「いや、オレはただの観光客にすぎねーよぉ~~~? だから巻き込まれて迷惑してんだ・・・。」 「ほう、ただの観光客か。ならなんでおまえの汗は『ウソ』だといってるんだ?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・。 「…もしかしてバレていたりするのかな?」 「完璧に『平民』になりすましたつもりだったようだが、不自然さが拭いきれてないぞ? …どこから来た貴族だ?」 バンダナの男が「まいった」といわんばかりの顔をして立ち上がる。 「ハハ、見破られていたか。『平民』で間違いなさそうだけどただものじゃあないねキミ。」 「きゅい?」 男がバンダナをはずす。 その下から出てきたのは短く切った金髪と、傷だらけながらもどこか高貴な風格をかもしだしている 青年の顔だった。 ブチャラティ、きゅいきゅい 貴族の青年と出会う。 ルイズ キュルケとタバサの戦闘に巻き込まれる? ギーシュ、マリコルヌ、ホル・ホース 逃げるんだよォーーーーーーー!!! To Be Continued =>
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『るいは智を呼ぶ』より花城花鶏を召喚 呪いの使い魔-01 呪いの使い魔-02 呪いの使い魔-03 呪いの使い魔-04 呪いの使い魔-05
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キュルケは戸惑っていた。パーティーと言われたからには一応の着飾りはしたが、だからと言って酒を飲んではしゃぐような気分にはなれそうにない。周りを見渡して、彼女はひっそりと溜息をついた。 アルビオン王党派最後の牙城、ニューカッスル城。パーティーはそのホールで行われていた。上座に設置された簡易の玉座に腰掛けて、国王ジェームズ一世は老いた双眸を細めて集った臣下を見守っている。貴族達はまるで園遊会であるかのように豪奢に着飾り、テーブルの上にはこの日の為に取っておかれたと思しき様々な御馳走が並んでいた。キュルケでさえ滅多に御眼にかかれないほど華やかなこのパーティーに、燃え尽きる寸前の蝋燭の炎のような儚さを覚えて、キュルケはたまらなく虚しかった。 しかし、それにも増してキュルケを当惑させたのは、ルイズ達仲間の行動だった。ルイズは悲しげな顔一つ見せず、話し掛けてくる貴族達と微笑んで会話を交わしている。ギーシュは沈鬱な顔をしている女性の元へ駆けて行っては、彼女達を笑わせていた。タバサはいつも通りの無口だが、同好の士であるのか十数人の貴族達と共にはしばみ草のテーブルを囲んで会話に興じている。ワルドも また如才なく笑顔を浮かべて挨拶に回っていた。そしてあのギアッチョまでもが、貴族達に勧められたワインを嫌な顔一つせず飲んでいた。 ――どうしてそんな顔が出来るのよ……! キュルケにはさっぱり理解が出来なかった。貴族達にも、悲痛な顔をしている者は誰一人としていない。悲しんでいるのは自分だけだとでも言うのだろうか。まるで自分だけが仲間外れのようで、キュルケはいたたまれない気持ちになった。 キュルケはもう部屋に戻ってしまおうかと思い始めたが、その時彼女の後ろから声がかかった。 「何やってるのよ、キュルケ」 キュルケは反射的に身体を捻る。腰に手を当てて、困ったような顔でルイズが立っていた。 「一人でどうしたのよ キュルケらしくないじゃない」 「……らしくないって、そりゃこっちの台詞よ」 キュルケは疲れた眼をルイズに向ける。 「揃いも揃ってどうしたのよあなた達 何でそうやって笑っていられるわけ?さっぱり解らないわ!」 無理やりにワインを飲み干して、キュルケは首を振った。 「明日全員死ぬのよ?あなた達それが分かってるの?」 「分かってるわよ」 「だったら……!」 理解出来ないという感情が、キュルケに怒りを感じさせる。珍しく声を荒げるキュルケに、ルイズはどこか優しげな声を掛けた。 「キュルケ」 「……何よ」 「明日全滅するなんてこと皆分かってるわ だけど彼らには死して何かを為す『覚悟』がある だったらわたし達がするべきことは、嘆き悲しむより彼らと一緒に笑うことよ」 わたしはそう思うわ、と静かに言うルイズをキュルケはハッとした顔で見直す。 「――…………そう……よね」 何を勘違いしていたのだろう。彼らの為の涙など、もはや溺れてしまう程に流されているに決まっているではないか。今彼らが 欲しいものは涙か?同情か?答えはきっと違うはずだ。 キュルケはもう一度彼らを見渡す。明日死ぬ身とも思えぬ笑顔で、彼らは穏やかに談笑していた。その笑顔に一片の曇りもないことを、キュルケはようやく理解する。その葛藤も覚悟も理解して、ただ笑って彼らを見送ること。彼らアルビオン王家最後の戦士達が欲しいものは、きっとそれだけなのだ。キュルケは薄く笑って首を振る。 「……まさかあなたに諭されるなんてね」 「しっかりしなさいよ、キュルケ」 キュルケを悪戯っぽく見上げて、ルイズは彼女に応えた。 衣装を整えながら、キュルケは「それにしても」と呟く。 「ルイズ……あなた変わったわね」 「……そう?」 きょとんとした顔をするルイズを見遣って、キュルケは笑う。 「以前のあなただったら、早々にここを抜け出して一人で泣いてたでしょうからね」 「なっ……それはあんたでしょ!肖像画に描かせてやりたいぐらいの顔してたくせに!」 などと言い返しながらも、ルイズは何かを考え込むような仕草をした。 その格好のまま、ルイズはぽつりと口にする。 「…………そう、かも知れないわね」 片手に持ったワインに口をつけて、ルイズはホールに眼を向けた。 中央近くでウェールズと言葉を交わしている男を見つけて、ルイズは嬉しいような困ったようなよく分からない顔をする。 「……感化されたのかしらね あいつに」 「……ギアッチョ、ね……」 キュルケはルイズに習ってホールの中央に眼を向ける。 不思議な男だった。所構わずキレる暴れる、殺人に躊躇すらない無愛想な平民。なのにルイズは、そしてギーシュやタバサまでが彼に何らかの影響を受けているように思う。恋愛感情ではないが、 キュルケもまたギアッチョにどこか惹かれている自分を感じていた。 有体に言えば――友情、だろうか。それとも、 ――友愛……かしらね? キュルケは腕を組んで呟いた。 学院の教師達よりも遥かに頼りになる男。それが彼女達の共通した認識だった。しかしそれでいて、ギアッチョには何故だか危うげな所がある。頼れる仲間であると同時に、キュルケにとってギアッチョはどこか心配になる友人だった。もっとも、友人とはこっちが、というか殆どギーシュが一方的に名乗っているだけの話だったが。 ――やれやれ……こっちのラブコールが届く日は来るのかしらね ギアッチョが自分達に自身のことを話す日は、果たして来るのだろうか。ギアッチョと共にいればいるほど、彼の正体が知りたくなる。 もしもギアッチョが口を開く時が来るのならば、それはきっと自分達を友人として認めてくれた時なのだろうとキュルケは思った。 「……ところで……あの、キュルケ」 「え?あ……何?」 思考に没入していたキュルケは、その声で我に返った。ルイズに眼を遣ると、彼女は何だか不安そうな顔で自分を見ている。 「…………その ラ・ロシェールで…………どうして、助けてくれたの?」 「へ?……え、えーと、それは……」 あまりにストレートなルイズの質問に、キュルケは思わず焦った。 今までのルイズなら、「誰が助けてくれなんて言ったのよ!」で終わりだったはずだ。やっぱりルイズは変わったと、少々混乱気味の頭でキュルケは考えた。 「…………か、考えてみれば ギアッチョを召喚した時も、キュルケが真っ先に……た、助けてくれたじゃない……?フーケの時だって……」 不安げな眼で二十サント近く身長の違うキュルケを見上げて、ルイズはおずおずと問い掛ける。 「……どうして?」 「ど、どうしてって……当たり前でしょ?あなたはと……」 「と?」 友達、と言いかけてキュルケはハッと我に返った。 「う……と……と、当代きってのライバルなんだから!」 ――あ……危ない危ない ギーシュに影響されてたわ…… 初めて自分に向けられたルイズのしおらしい言動に混乱していたキュルケは、何とか自律を取り戻した。心でほっと溜息をついてルイズに向き直ると、彼女は少し俯いているように見える。 「……そうよね わたし達、宿敵だものね……」 ――う………… しん、と二人の間が静まり返る。今まで何度も言ってきた言葉のはずなのに、キュルケは何故だかどうしようもなく胸が痛んだ。 「宿敵」というたった二文字の言葉がこれほどまでに心を抉るものだとは、今まで思いもしなかった。 優しい言葉の一つも掛けてやりたかったが、プライドと家名に邪魔をされて、キュルケは何を言うことも出来なかった。 自分もルイズと同じだということに、キュルケはようやく気付く。 二人を嘲笑うかのように続く静寂が痛い。今すぐそれを打ち消したくて、キュルケは思わず言ってしまった。 「……そうよ、こんなところで死なれちゃあなたの恋人を奪う楽しみがなくなるもの …………さ、私はパーティーを盛り上げて来るとするわ 格の違いを教えてあげるからよく見てることね」 捨て台詞のようにそう言って、キュルケはルイズの返答も聞かずに歩き出した。背中に感じるルイズの視線を振りほどくように、キュルケは足早に去ってゆく。歩きながら、キュルケは思わず胸を抑えていた。いつもと同じ売り言葉のはずなのに、どうしてこんなに胸が痛いのだろうか。答えに気付かない振りをして、キュルケはパーティーの人ごみに姿を消した。 わたしは馬鹿だ、とルイズは思う。自分は一体キュルケに何を言って欲しかったのだろう。ヴァリエールとツェルプストーとして、同じ一人の人間として今まで散々いがみ合ってきたキュルケに、今更何を言って欲しかったのだろうか。 ――馬鹿よ、わたしは…… わたしとキュルケは永遠に宿敵同士……それ以外に、わたしを助けるどんな理由があるというの? ルイズは俯いて片手のワインに眼を落とす。「宿敵」という言葉の重みを、彼女もまた痛い程感じていた。 ポロン、と澄んだハープの音が響く。耳慣れないその音に、ルイズは思わず顔を上げた。 「……キュルケ」 ジェームズ一世の御前でハープを奏でているのは、他ならぬキュルケであった。己に集う幾百の視線を物ともせずに、キュルケは優雅にハープを弾いている。その旋律の美しさに、ルイズは眼を見張った。普段の彼女からは想像もつかない繊細な手つきで紡がれる音色に、この場の誰もが聞き惚れていた。 「これはなかなか、大したものだね」 隣から見知った声が聞こえて、ルイズはそっちに顔を向ける。 ワインを傾けながら、ワルドがそこに立っていた。 「ワルド」 「彼女にこんな特技があったとはね…… それに面白い弾き方をする静かな曲だというのに、どこか情熱的だ」 ルイズは改めてキュルケを見る。正しくワルドの言う通り、キュルケの演奏には繊細さと情熱が渾然一体となって現れていた。まるでキュルケ自身を表したかのようなその音色に、いつしかルイズも瞳を閉じて聞き惚れていた。 万雷の拍手に包まれて演奏を終えたキュルケを見届けてから、ワルドはルイズに向き直った。 「ルイズ 今、少し話せるかい?」 「ええ……どうしたの?」 ワルドは真剣な顔でルイズの瞳を覗き込む。 「ウェールズ殿下が式を挙げてくれる…… 明日、結婚しよう」 「え…………」 ワルドのプロポーズに、ルイズはワイングラスを取り落としそうになった。何だかんだで結論を先延ばしにしているうちに、ルイズは結婚の話などまだまだ先だといつの間にか思い込んでいたのである。ワルドは既に明日の挙式の媒酌をウェールズに頼んでいるらしい。つまり、これ以上話の先送りは出来ないということになる。 いきなり決断を迫られて、ルイズはしどろもどろで返事をした。 「え…………えっと、その……わ、わたし……」 「いきなりで驚かせてしまったかな しかしどうしてもあの勇敢な皇太子殿に、僕らの婚姻の媒酌をお願いしたくてね」 ワルドはそこで言葉を切って、ルイズの両肩に優しく手を置いた。 「愛しているよ、可愛いルイズ 君は僕を都合のいい男だと罵るかもしれない だけどルイズ、君を前にして自分の気持ちを偽ることなんて僕には出来ないんだ」 ルイズから一瞬たりとも眼を逸らさずに、ワルドは堂々として言う。 「……受けてくれるかい?僕のプロポーズを」 「……ワルド、わたし……」 ルイズは強制的に、思考の海に引き戻された。どうして快諾出来ないのか、どうしてギアッチョが心に引っかかるのか。蓋をしていた疑問が、再びルイズの中で回りだした。自分はワルドが好きではないのだろうか?いや、それは違う。ワルドのことは好きだ。好きなはずだ。 幼い頃からの憧れは、今だって消えてはいないのだから。 ワルドとの婚姻を拒否すれば、父や母は悲しむだろう。しかし結婚してしまえば、ギアッチョはどうなるのだろうか。同じ部屋に暮らすというわけには勿論いかないだろう。それどころか、気軽に会うことさえ出来なくなるかもしれない。未だウェールズと話し合っている彼に、ルイズはちらりと眼を向けた。 ――だけど………………きっと、そのほうがいいんだわ 少し悲しげに眼を伏せて、ルイズは独白する。 この旅で解ったことがある。ギアッチョの心は、未だに暗殺者のものなのだ。彼は常に敵を殺すつもりで戦っている。ワルドとの決闘でさえも、一度はワルドの首を薙ごうとしていた。恐らくそれは、半ば以上に無意識の行動なのだろう。ギアッチョにとっては、敵は殺すものであり、攻撃は命を絶つ為のものに他ならない。そして、ギアッチョはもはやそういうことを意識すらしていないのだ。刃を使うなら首を、臓腑を、腱を断つ。拳を使うなら眼を狙い喉を潰す。 急所以外の場所を狙うという選択肢は、そうする必要がある時初めて現れる。神経、細胞の一つに至るまで、彼の心身は未だ暗殺者のそれに他ならなかった。 しかし、彼はもう暗殺者ではないのだ。いずれイタリアへ送り返す日が来るとしても、その地でさえ彼は暗殺者「だった」男に過ぎない。 ルイズはこれ以上、彼に血に塗れた道を歩かせたくなどなかった。 もう十分じゃない、とルイズは呟く。ギアッチョ自身がそう思っていなくとも、殺人という行為は確実に彼の心を蝕んでいる。 出来ることなら、ギアッチョには平穏に暮らして欲しかった。 だが、自分と一緒にいればまた今回のような事態が起こるかもしれない。自分と――いや、メイジと関わり続ける限り、争いと無関係ではいられないのではないか。ならば、とルイズは思う。 ならば、自分とはもう一緒にいないほうがいいはずだ。ギアッチョにはマルトーやシエスタ達がいる。彼らと共に生きることこそが、ギアッチョにとっての幸福なのではないだろうか。 出来ることなら、ギアッチョにはずっと傍にいて欲しい。しかし、それがギアッチョを殺人へ向かわせるというのなら。 スッと顔を上げて、ルイズははっきりとワルドに答えた。 「……喜んで、受けさせてもらうわ」 パーティーは和やかなムードのまま幕を閉じた。宴の始末をしているメイド達の他には殆ど人のいなくなったホールで、ギアッチョ、キュルケ、タバサの三人は、眼を回して床に倒れているギーシュを呆れた顔で見下ろしていた。 「…………うっぷ……」 どうやら調子に乗って飲みすぎたらしい。ギーシュは真っ青な顔を気持ち悪そうに歪めている。 「あなた船の上から酔いっぱなしじゃない しっかりしなさいよ」 「ふぁい……調子に乗りすぎまひた……っぷぁ……」 キュルケは溜息をついて隣の二人を見遣る。 「……ねぇ、これどうするの?こんなの担いで行きたくないわよ私」 「しょうがねーな……凍らせて転がすか」 「ええっ!?二つ目の選択がそれ!?」 「せめてもっと人間らしい方法を」と言うギーシュと「今のてめーは家畜以下だ」と言うギアッチョ達の間で、結論はなかなか出なかった。 いい加減業を煮やしたギアッチョはもうここに放置していくかと言いかけたが、その時タバサが何かを考え付いたように顔を上げた。 「待ってて」 と短く口にしてどこかへ行ったタバサが持って帰ってきたものは、ご存知はしばみ草のサラダだった。小皿に山のように盛られたそれを、タバサは構えるように掲げ上げる。ギーシュは真っ青な顔から更に血の気を引かせてあとずさった。 「……あはははは……じょ、冗談がキツいねタバサは…… その量は明らかに致死量を超えウボァーーー!!」 タバサの右手に構えられた毒物はギーシュの口に裂帛の気合と共に叩き込まれ、ギーシュは見事な放物線を描いて再び頭から倒れ落ちた。 ウェルギリウスと名乗る男に連れられて辺獄から氷結地獄までたっぷり地獄観光をした後で、ギーシュの意識はようやくハルケギニアへ帰ってきた。 「ハッ!?ハァハァ……こ、ここは一体!?あの悪魔は!?」 冷や汗をダラダラと垂らしながら怯えた様子で周囲を見渡すギーシュに、キュルケはこめかみを押さえてタバサを見た。 「……タバサ」 「何」 「やりすぎ」 「……修行が足りない」 「ところで君達聞いたかい?」 はしばみ草のおかげで酔いと共に抜けてしまった抜けてはいけないものが何とか身体に戻ると、ギーシュは何事もなかったかのように平然と口を開いた。 「何のことよ?」 三人を代表して、ややうんざりした顔でキュルケが問う。 「結婚だよ!さっきそこで子爵がルイズにプロポーズしてたんだ」 「……それホント?」 「本当さ しっかり聞き耳……じゃない、聞こえてきたんだから」 胸を張るギーシュを無視して、キュルケは簡潔に問う。 「ルイズの返事は?」 「……OK、だそうだよ 明日ウェールズ殿下の媒酌で式を上げるらしい」 その言葉に、キュルケは顔を複雑にゆがめた。 「何よそれ…… バカじゃないの?学院やめることになるかも知れないのよ!」 「ぼ、僕に言われても困るよ 本人が決めたことならしょうがないだろう?ねぇギアッチョ」 ギーシュが助けを求めるようにギアッチョに眼を向ける。いつも通りの読めない顔で一言、彼は「まぁな」と呟いた。 「何か悩んでる風ではあったがよォォ~~ それに自分の意思で答えを出したってんならオレ達に文句を言う余地はねーだろ」 ギアッチョは顔色一つ変えずにそう言うと、キュルケが言葉を差し挟む前にパン!と手を鳴らす。 「ほれ、てめーらはとっとと部屋に戻って寝ろ 追って沙汰はあるだろーが、式に出るにしろ出ねーにしろ朝は早くなるからな」 確かに、非戦闘員を乗せる船の出港は早い。睡眠を取っておかなければ、最悪アルビオンに骨を埋めることになるだろう。 まだ不服そうな顔をしているキュルケを促して、ギーシュはホールの出口へ向けて歩き出す。タバサがその後をついていくが、 「タバサ、てめーは残れ」 ギアッチョの言葉で、彼女はぴたりと足を止めた。次いでギーシュとキュルケも彼を振り返る。 「ギ、ギアッチョ まさかとは思うが君、そんな趣味が」 全てを言い終える前に、ギーシュはウインド・ブレイクで扉の外へ消え去った。 「意外と荒っぽいことするわね」 「口は災いの元」 殊ギーシュに関しては正にその通りだと思いながら、キュルケはギアッチョに顔を戻す。 「で、私達がいるのはお邪魔なわけ?」 「そうだ」 即答されてキュルケは少し驚いた顔をしたが、ギアッチョがそう言うなら仕方ないと判断して、少し唇をとがらせながらも頷いた。 「……そう言うならしょうがないわね じゃ、私達は先に戻ってるわ」 片手をひらひらと振って、キュルケはあっさりと歩き去った。 彼女が扉の向こうへ消えたのを確認してから、タバサはギアッチョを見上げて口を開く。 「……何?」 廊下に大の字になって伸びているギーシュを見下ろして、キュルケは溜息をついた。 「なんなのよ、もう……」 「ギアッチョのことかい?」 言いながらギーシュはむくりと起き上がる。 「……ルイズのことよ どうしてこんなに慌てて結婚しなくちゃいけないわけ?退学することになるかもしれないしギアッチョとも疎遠になるじゃない!」 「全くだね 薔薇は多くの人を楽しませる為にあるというのに」 「……あなたが言ってももう何の説得力もないわよ」 造花の杖をキザに構えるギーシュをジト目で睨む。なんだかバカらしくなって、キュルケは更に一つ溜息をついた。そそくさと薔薇の杖をしまうと、ギーシュは急に真面目な顔でキュルケを見る。 「……学院に居たくないということも、あるのかも知れないね」 「……え?」 「だってそうだろう?学院内に自分の味方が誰一人いない状態で、僕はむしろよくルイズがここまで頑張ってこれたと思うよ」 「そ、それは違うわ!」 慌てたように言うキュルケに、ギーシュは困った顔で笑う。 「そう、違うよ。僕達はもういつだって彼女の味方だし、先生にもルイズをなんとかしてやりたいと思っている人だっているはずさ。 だけどルイズは、きっと言わなきゃそれに気付けないんだ」 「……私は――」 「……ねえキュルケ そろそろ素直になるべきじゃないのかい? 両家の確執は僕にも分かるよ だけどルイズはルイズで、君は君だ。そうだろう?」 答えないキュルケの瞳を覗き込んで、ギーシュは続けた。 「これが最後のチャンスかもしれない 彼女に会いにいこう、キュルケ」 キュルケは言葉もなく立ち尽くしている。ギーシュもまた、他に言うことはないという眼で、無言のままキュルケを見つめていた。 重い沈黙が場を支配する。ほんの数秒、しかしキュルケにとっては無限のように感じられた数秒の後、彼女は苦しげな顔を隠すようにギーシュに背を向けた。 「………………私は、あの子の友達なんかじゃないわ」 絞り出されたその言葉に、今度はギーシュが溜息をついた。 「……それが君の答えかい」 「事実を言っただけよ」 素直じゃないのは分かっている。意固地になっているのも理解している。だけど、認めるわけにはいかない。自分達の意思がどうあれ、自分はツェルプストーで彼女はヴァリエール。未来永劫、それだけは変わらないのだから。だから――そう、今自分がここにいるのは、ただの気まぐれなのだ。他に理由などありはしない。それが、キュルケの答えだった。 「……それじゃしょうがないな、この話はおしまいにしよう。僕一人頑張ったところでどうにもならないからね ……僕は寝るとするよ」 「え?ちょ、ちょっとギーシュ……!」 キュルケの声を掻き消すように「おやすみ」と言い放って、ギーシュはマントを翻して去っていった。 「……何よ 一人前に怒ったってわけ……?」 キュルケはその場から動けなかった。後を追うことも怒鳴ることも出来ずに、彼女はまるで叱られた子供のような顔で立ちすくむ。 綺麗な指先で赤い髪を弄って、キュルケは自分の心を誤魔化すように呟いた。 「……つまんない」 「……概ね理解した」 相変わらず小さな声でそう言うタバサを見下ろしてギアッチョは問う。 「頼めるか?」 こくりと頷いて、タバサは了承の意を表した。ついと眼鏡を押し上げて、ギアッチョは「悪ィな」と口にする。 「どうして?」 「見れねーだろ」 「……別にいい あなたが正しいなら、見る意味はない」 「ま……あくまで可能性の話だがな」 そう言うと、ギアッチョは次々に片付けられてゆくテーブルに眼を移す。 「……ここまで深く関わってんだ 任務の詳細ぐれーは教えてやってもいいとは思うんだがよォォ~~」 ままならねーもんだ、と呟くギアッチョを見事な碧眼で見つめて、タバサはふるふると首を振った。 「かまわない あなた達の立場は理解出来る」 その言葉に追従ではないリアルなものを感じて、ギアッチョはタバサに眼を戻す。どうにも不思議な少女だった。 燭台に照らされた廊下を並んで歩きながら、ギアッチョはここでも本を読むタバサを見て一つ知りたかったことを思い出した。 「……学院のよォォ~~ 図書館とやら、ありゃあ誰でも入れるのか?」 タバサは怪訝な顔でギアッチョを見上げる。ギアッチョが読書に勤しむタイプだとは、どう見ても思えなかったのだ。 「……平民は、入れない」 タバサは怒るかと思ったがどうやら予想の範囲内だったらしく、ギアッチョは一言「そうか」とだけ返事をした。 「……調べ物?」 と訊いてから、タバサはハッとした。自分はこんなことを訊く人間だっただろうか。他人に干渉しなければ、干渉されることもない。それが「タバサ」の生き方のはずだった。だというのに、自分は一体どうしてしまったのだろう。そんなタバサの胸中など知らず、ギアッチョは当たり障りのない言葉を返す。 「そんなところだ」 そこでタバサはふと思い出した。そういえば、ギアッチョが召喚されてから程なくして、ルイズが毎日図書館に通うようになったはずだ。 勤勉な彼女は今までも週に数回は勉強の為に足を運んでいたが、日参するようになってからはどうも別のことをしているようだった。 一度彼女に使い魔を送り返す方法を知らないかと訊かれたことがある。その時はギアッチョと喧嘩でもしたのだろうと思っていたが、ひょっとすると何かのっぴきならぬ事情で今もそれを探しているのではないだろうか。そう認識したタバサの理性がストップをかける前に、彼女の口は言葉を紡いでしまっていた。 「……帰りたい?」 言ってから、タバサはしまったと思った。ギアッチョは二重の意味で少し驚いたが、しかし特に追求もせず口を開く。 「――……どうなんだかな」 タバサははぐらかされたのかと思ったが、彼の表情を見るに、どうやら本当によく分からないらしい。自分の推測が当たったことよりも、今のタバサには何故かギアッチョの去就が気になって仕方がなかった。 「ルイズじゃあねーか どこに行ってたんだおめー」 ギアッチョの声で、タバサの思考は中断された。前に眼を遣ると、そこにはルイズがギアッチョに出くわしたことに驚いたような顔で立っている。 「……あ…………」 かと思うと、彼女の顔がみるみるうちに真っ赤に染まり――次の瞬間、ルイズは一言も発さぬままに俯いて駆け出していた。 「ああ?」 ギアッチョが何か問い掛けるより早く、自分達の横を一目散に駆け抜けて、ルイズはそのまま回廊の薄闇に走り去った。 肩越しに後ろを覗き込んで、ギアッチョはやれやれと言わんばかりに首を振った。 「……相変わらず行動の読めねーガキだな。まだ何か悩んでやがるのか?」 パタリと本を閉じて、タバサは呟くように答える。 「……恐らくそう」 自分に眼を落としたギアッチョを見返して、タバサは「でも」と言葉を繋ぐ。 「私の考えが正しいなら、これは彼女自身の問題」 「ほっとけっつーことか?」 「私達が何かを言っても、彼女は頑なになるだけ」 フンと鼻を鳴らして、ギアッチョは再び歩き始めた。 「全然解らんが……ま、てめーがそう言うならほっとくか」 オレにもまだやることがある、と呟くギアッチョをタバサは幾分歩調を速めて追いかけた。 どこをどう走ったのかは全く覚えていない。ギアッチョと眼が合うことだけが恐くて、ルイズはただただ闇雲に廊下を走り回り――気付けば彼女は、いつの間にか自室に辿りついていた。思い切って扉を開くと、ギアッチョはまだ戻ってはいないようだった。服も着替えずにベッドに飛び込み、頭から毛布を被る。煩く鳴り響く心臓を押さえて、ルイズはぎゅっと身体を縮こまらせた。 ――何なのよ………… ルイズは自分が解らなかった。ワルドのプロポーズを受けてから、彼女の脳裏にはずっとギアッチョの姿がちらついている。頭から追い出そうとすればするほど、それは鮮明な像を結んでルイズの心を責め立てた。理由なんて知らない、分からないとルイズは己に言い聞かせるように繰り返す。 しかし、この胸の苦しさだけはどうしても誤魔化せなかった。廊下で偶然ギアッチョと出くわした時、ルイズは思わず何かを叫んでしまいそうで――反射的に、逃げ出してしまった。 ――……最低…… ぽつりと呟いて、ルイズは深く眼を閉じた。 今は眠ろう。明日になれば、きっと忘れられる。だから、今はただ眠ろう。 しかし、意志に反して――彼女は一向に眠れなかった。 屋上の見張り台から、ギアッチョは一人地上を見下ろしていた。 「……流石に冷えるな」 雲の上の更に上を、風が容赦なく吹きすさぶ。チッと舌打ちして、ギアッチョは視線を前方に向けた。双つの月が、見渡す限りの雲海を煌々と照らしている。 「絶景かな、ってぇやつか」 身を投げたくなる程の美しさだった。チームの奴らにも見せてやりたいもんだと考えて、ギアッチョはフッと笑った。 ――あいつらにそんな情緒はありゃしねーか かく言う自分もそうだったが、とギアッチョは思い返す。 イタリアにいた時には、周囲のものを景色として見たことなど殆どなかった。この世界に召喚されて、ギアッチョは初めて物事をあるがままに見ることが出来たのだった。 ――……そこんところは感謝してやってもいいかもな そう考えて幾分自嘲気味に笑った時、背後からギィッと扉の開く音が聞こえた。 「……よーやくおいでなさったか」 雲の海を眺めたまま、ギアッチョは待ち人に声だけを投げかけた。 「待たせたね さて、こんな深夜に一体何の御用かな?二人仲良く月見酒と洒落込もうというわけでもなさそうだが」 風に長髪をなびかせて、背後の男は薄く笑う。フンと退屈そうに鼻を鳴らして、ギアッチョはそこでようやく彼に振り向いた。 「何、大した用件じゃあねーんだがよォォ~~ ちょっと腹割って話でもしようや、ええ?ワルド子爵サマよ」 帽子のつばを杖で押し上げて、ワルドは口の端をつり上げて嘯いた。 「いいだろう こんなに月の美しい晩は、誰かと話もしたくなる」 前へ 戻る 次へ
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