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(江戸時代のいつか、桜が丘町の、とある弱小農家) 子供たち「」ガタガタ 借金取り「…おい中島ぁ ウチの酒屋から借りた50両、今日こそは、耳を揃えて返してくれるんだろうな」 信代父「……」 借金取り「黙ってちゃ分かんねぇだろうが、アア!?」ガシャン!! 子供たち「」ビクッ! 信代父「す、すみません ご存じの通り、ここ数年の不作で、米がまともに採れないんです あっしらも内職をして凌いでおりますが、正直、明日食うのにも困るありさまで」 次女「」(編み掛けのわらじを握りしめる) 借金取り「不作なのはどこも同じだろうが! 去年のうちに返せば25両で済んでたのに、倍に膨れ上がらせたのは何処のどいつだこの野郎!!」ゲシ!! 信代父「ぐあ!!」 次女「父ちゃん!!」 吉良「その辺にしておけ」 借金取り「は」スッ 信代父「吉良(きら)の旦那…」 吉良「私らだってね、貴方たちにこんな事言うのは気が咎めるんですよ? 父親は懸命に田んぼを耕し、子供らは健気に内職を頑張っている 特に、長女は奉公先から、盆暮の小遣いを実家に仕送って借金を返そうとしているそうじゃないですか 涙ぐましいじゃないか、なあ」 借金取り「…」コクリ 吉良「しかし、我々にも生活が、借金には“ 利 子 ”ってもんが御座いましてな 支払える見込みが無いのなら、相応の手段を取るまでですよ ……おい」 借金取り「おら、こっち来い!!」ガシ! 次女「きゃあ! 離して、離してください!!」 信代父「次女!!」 吉良「年頃の娘を花街に売れば、借金の頭金ぐらいにはなりましょうなぁ “儲け”が出れば、利子の心配もしなくて良い」 信代父「! それだけは!! 娘だけは堪忍してください! 借金は何としてでも返しますので、お願いします!!」ガバッ 吉良「土下座されても困るのですがねぇ・・・ まあ、その想いに免じて、もうしばらくは待ちましょうかねぇ ただし、待たせて頂いた分の利息は頂きますが、ね」ニタリ 借金取り「返せなかったら、本当に売っぱらってやるからな 覚悟しとけよ!!」 信代父「……っ」 (家の外。戸の隙間から) 信代「父ちゃん・・・」 (ナレーション:堀米先生←※テンション高い) 雪が溶けても春は来ぬ 桜咲けども春は来ぬ (唯ちゃん、絃を咥えて引っ張る) 冷たい世間を耐えるなら 呑んで忘れろ花見酒 (りっちゃん、簪片手にキリッ) それでも晴らせぬ恨みなら 晴らして見せよう仕事人 (ムギちゃん、右手をかざして握る) 江戸の世の悪党散らすのは 桜が丘の 徒桜かな (澪ちゃん、日本刀で袈裟切り) ♪チャラチャー チャーラッチャチャチャー チャラチャチャー チャララララー (テロップ) 番外編 ひ っ さ つ ! ! ♪デデデン (芸者小屋“桜が丘”内、とある茶室にて) (開け放ったふすまから、夕日が差し込んでいる) (紬が軽やかに琴を奏でると、律が締太鼓を打ち鳴らす) (唯の三味線と澪の琵琶がそれに続く) 唯「君がいないと、何もできないよ 君の、ご飯が食べたいよ」 紬「♪」シャララン 唯「もし君が帰ってきたら、とびきりの笑顔で」 男1・男2「」(顔を見合わせる。男2が頷き、男1も頷く) 唯「抱き着くよ」 律「♪」タンタンタンタン 唯・澪「君がいないと、謝れないよ 君の声が聴きたいよ」 (男2人、歌に合わせて手を合わせる) 唯・澪「君の、笑顔が見れれば」 (桜の花びらが数ひら風に舞い、唯の眼前を通り過ぎる 追う視線が澪と交差し、二人は微笑みあう) 唯・澪「それだけでいいんだよ」 唯・澪「君が、傍に、いるだけで いつも、勇気、貰ってた」 (男2、男1に酒を注ぐ) 男2「如何ですかな、私の呼び寄せた芸者たちは」 唯「何時まででも、一緒に居たい」 唯・澪「この気持ちを伝えたいよ」 男1「うむ。中々どうして悪くない 容姿は粒ぞろえで良し 演奏はさほど上手いとも言えんが、聞き苦しいほどではない むしろ楽しさが伝わって、こっちも明るくなってくるわい これなら、ウチの旦那様も気に入るだろう」 唯・澪「雨の日にも、晴れの日も」 男2「それはよろしゅうございました 特に、あの黒髪の娘…ええと、澪と申しましたか あの娘が一番人気でして、歌や琵琶の他に、三味線なども達者でございます」 男1「なるほど あの娘で考えてみるか」 唯・澪「君は、傍に、居てくれた」 男2「上手くいった暁には……」 男1「分かっておる 旦那様のお気に入りになれば、お前さまの米屋との取引が盛んになるであろうな」 男2「……へへ よろしくお願いしやす」 唯「目を閉じれば、君の笑顔、輝いてる」 ・ ・ ・ (置き屋にて) ※置き屋:芸者さんの住居 律「ふぃー、終わった終わった」 紬「お茶が入りましたよー」コトリ 律「おお、これはかたじけのうござる」ズズ… 紬「ふふ、お侍さんみたい」 唯「お侍!?」 (本を丸めて) 唯「りっちゃん、天誅ぅ!!」グオオオ! 律「なんの!」ガキイイイン 唯「ぬう!?」 律「不意打ちとは、武士の風上にもおけぬ卑怯者め だぁが、りっちゃん流免許皆伝の私に襲い掛かったのが運のつき 不届きものなど、ここで成敗し 澪「本で遊ぶな!!」 ゴチン!! 律「あで!! ……くう、なんで私だけ」ヒリヒリ 澪「律、また太鼓走りすぎてたぞ あれほど言ってるのに、まったく…」 紬「澪ちゃん、お茶どうぞ」スッ 澪「ああ、すまないな、ムギ …お、みたらし団子じゃないか 私好きなんだよなぁ、これ」ハムハム 澪「おいひー」ホワワン 律「口に入れたまま喋るなってぇの」 唯「それでも口を手で隠してるあたり上品だよね、澪ちゃんは」ホムホム 律「お前も隠せよ、ていうか何器用に喋ってんだよ地味にすげぇよ」 紬「あ、唯ちゃん頬っぺた」 唯「ん? あ、お団子付いてた ありがとう、ムギちゃん」 紬「どういたしまして」 澪「(モグモグ)ひひかひふ、わはひはひはほほへほへはひへひひへひふはへひは、 …ゴクリ もっとしっかりしてくれないと困るんだからな」 律「…わかってるよ。裏稼業なんざ、私だってやりたくないし」 唯「…澪ちゃん」 紬「りっちゃん…」 唯「(澪ちゃんの言ってること、分かった?)」ヒソヒソ 紬「(空気を読めばなんとか…でも自信無いわ)」ボソボソ 唯「(幼馴染って凄いね!)」ヒッソオ! 紬「(素晴らしいわね!)」ボッソォ! ガラッ 信代「休憩中ごめんよっと」 唯「あ、信代ちゃんおいっす!」 信代「おいっす! 澪、あんたにご指名だよ 揚屋(あげや)の一番奥の茶室にお待たせしてるから」 ※揚屋:芸者が客をもてなす場所 ここでは、揚屋と置屋が一体になっている 澪「ありがとう 今、行く」 律「おお、休む間もなくお客様がいらっしゃるとはさすが澪しゃん 人気者は大変ですなぁ」ニヨニヨ 澪「他人事のように言うけど、お前も芸者なんだからな 指名が入らないと、この仕事続けられないぞ」 律「わ、わかってるよ 練習だってちゃんとしてるし」 信代「なぁに、心配するこたないさ いざとなったら、アタシが奉公先を紹介してやるさね もちろん、働く先は此処 先輩として、キリキリこき使ってやるよ?」 律「は、はは…考えとくよ」 さわ子「ちょっと澪ちゃん! お客様がお待ちよ、早くして!!」 澪「さ、さわ子さんすみません、今行きます!!」バタバタ さわ子「まったくもう… 貴方たちも。 油売っている暇があったら、少しでも教養を身に着けるべく努力なさい 芸事だけが、芸者の仕事じゃないんだからね」 律・紬・唯「はーい」 さわ子「ほら信代ちゃん、こっちに来て料理作るの手伝って頂戴」 信代「はい、只今! …じゃね」 ガラガラ ピシャリ 紬「行っちゃったね」 律「澪もそうだけど、信代も結構忙しいんだよな」 紬「奉公人の中では年長者だし、頼りにされているのかもね」 律「働きぶりが一番良いってさわちゃんが褒めてたっけ いやぁ、友達としては誇らしいね」 唯「りっちゃん、他人事は良くないよ 少しは危機感を持とうよ」モグモグ 律「何となぁくお前には言われたくないなその台詞 つか、おい! お前ちょっと団子食い過ぎだろ アタシの分は!?」 唯「へ? これ一本目だよ」お茶ズズ… 律「ムギ!?」 紬「私も一本だけ… 全部で4本しか無かったから、あとは…」 律「…みみみ…」ワナワナ… 律「みぃおおおおおおおーーー!!」ギャース! ・ ・ ・ (夜、廊下) 澪「や、やっとお仕事が終わった…」ヨレヨレ 澪「ああ、疲れた… 早くお風呂入って寝よう…」テクテク <ひゅおおおおおおおおん 澪「……ん?」 <ひゅおおおおおおおお どろろろろろろろろ・・・ 澪「な、なにこの不気味な音 それに、何か寒気がするよ?」ブルルッ <うーらーめーしーやー 澪「ひっ!」 <う゛~らめーしーや゛~ 澪「お、おい止めろよ律冗談が過ぎるぞ律なんだろなぁ」 <にっくき仕事人めぇ、よくも私を… 澪「ま、まさか…! ち、違う私は悪くないぞ?悪人を懲らしめただけだぞ悪くないぞ」ガタガタ <ガッシャーーン!! 澪「ひ、ひぃ!!」 律「殺してくれたなあああああああ!!!!!!!」 澪「きゃぁああああああああああああああああああああ!!!!!!」 澪「」チーン(あるある探検隊) 唯「ありゃりゃ、気絶しちゃったや」(割れた皿片づけ) 紬「やり過ぎちゃったかしら」(団扇装備) 律「ふん、団子の恨みだ」(太鼓装備) さわ子「そのまま連れてきなさい 最近この子さぼりがちだったから、いい薬よ」(笛しまう) さわ子「さぁ、“仕事"の"打ち合わせ"を始めるわよ」 ・ ・ ・ (物置小屋) (ろうそくの明かりが一本) さわ子「…なるほど、周囲に変化は無し、か」(眼鏡なし) 律「なぁさわちゃん、そんなに慎重にならなくていいんじゃね? どうせバレやしないって」 さわ子「…てめぇ、忘れてんじゃねぇだろうな アタシらのもう一つの顔、その意味を」ギロッ 律「っ! わ、分かってるよそれぐらい ちゃんと証拠は残さないように“仕事”をしているつもりだよ」 さわ子「どうだかね… “この世の晴らせぬ恨みを晴らし、許せぬ人でなしを消す”裏稼業の“仕事人”が、 不特定多数の客を相手にする芸者なんぞに化けること自体、とてつもなく危険な行為だって 分かってて言ってるんだろうね?」 律「それは…」 澪・紬・唯「…」 さわ子「もっとも、幕府の“仕事人狩り”から逃げてきたあんた等を匿ったのは私だ だがね、私だって“上”からの圧力で止む無く芸者どもの世話役をやらされ、 あんた達を芸者に仕立てあげたのさ 理由も知らされぬまま、な」 紬「…」 さわ子「あんた達が仕事人になった経緯なんて知りもしないし、その気も無いがね、 どうしようもない状況への理解と対処はできるんじゃないか?」 紬「“芸者の皮を被った仕事人”を演じつつ、足を洗える機会をさぐる、ということですか?」 (さわ子頷く) さわ子「だからこそ、誰にもバレちゃいけねぇんだ “客”にも、“身内”にも、な “仕事”を見られちまったら、分かってんだうな」 律「……」グッ 律「殺す、さ それを含めての、“仕事”、だから、な」 澪(律…) 紬・唯「……」 ・ ・ ・ (唯の部屋の前) 唯「…はぁ、毎回あの集会に参加すると気分が重くなるや…」テクテク 唯「せめて、さわちゃんが鬼の形相するの辞めてくれればな… もうね、デスデビル※だよ、あれは」 ※デスデビル こまけぇこたぁ(ry 唯「でも大丈夫!! なんたってこの戸を開けば、愛し妻のあずにゃんが満面の笑みで迎えてくれるはず あ、なんか考えたらワクワクしてきた♪」 唯「わぁい、あずにゃん分補給だ~♪」ガラッ 15 名前 ◆tyTXROdtXc Mail sage 投稿日 2013/05/04(土) 22 27 11 ID D2VHIgGg0 梓「……」(無表情) 唯「……」 梓「……」(無表情) 唯「……」 ガバッ 梓「……なんで土下座してんですか、唯先輩」 唯「い、いや何となく」(起き上がろうとする) 梓「…今、何時でしょうか」 ガバッ 唯「し、子九つ(午前0時)、です」 梓「そうですね して先輩、こんな遅くまで何を」 唯「し、仕事です(嘘は言ってないから大丈夫だよ!!)」 梓「あれぇ? 変ですねぇ? つい先ほど、和先輩にお会いしましたよ?」 梓「亥4つ(午後10時)に終わったそうですねぇえええ!!」フッシャアアアア!! 唯「ひぇえええ(やっぱり駄目だったよ!!)」 ・ ・ ・ 梓「だいたい唯先輩はだらしないんです! ようやく地方芸妓(じかたげいぎ)※になれたばかりなのに、練習もまともにしないで! せっかくさわ子さんのご厚意で、こんな広い部屋に住まわせてもらっているのに、顔向けできないじゃないですか! そんなんじゃ、すぐに干されちゃいますよ!?」ガミガミ ※地方芸妓:歌や演奏を行える芸者 唯「うう…反論できなひ…」(正座) 梓「昼は稽古事、夜はお座敷でお忙しいのは分かります ですが、その上で夜遊びまでされては、2人の時間がまるで無いじゃないですか これじゃ結婚した意味が無…て何言わせるんですか!!」 唯「いやあずにゃんが勝手に言って 憂「もう、お姉ちゃん言い訳しないの、めっ」 唯「ちょ、憂まで」 憂「梓ちゃんの言い分はもっともだと思うな せっかく嫁いでくれたのに、そんなんじゃ三行半突きつけられちゃうよ、良いの?」 梓「べ、別にそこまでじゃ…はっ! つ、突きつけるです!!」 唯「そ、それは嫌だよぉ… (でも本当の事も言えないよぉ…) 頑張るから許して、あずにゃん」 梓「わ、わかれば良いんです さ、朝も早いし寝ますよ先輩」 唯「はぁい」ノソノソ 梓「ちょっ、四つん這いで歩かないでくださいよ見っとも無い」 唯「ずっと正座してたから、足が痺れるんだよう」シビシビ 梓「…はぁ、もういいです」 唯「」ノソノソ 梓「(しかし…)」チラッ 憂「(梓ちゃんの手前、ああは言ったけど…)」チラリ 唯「」ノソノソ 憂「(四つん這いでノソノソ動くお姉ちゃんキャワワワ///)」デレ~ 梓「(憂はあんなだし・・・)」 梓「私がしっかりしないと!!」フンス ・ ・ ・ 2
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繁華街 | 森林公園 | はばたき山 | 臨海地区 | その他 ■ショッピングモール:スカイラウンジ 柊「どちらへ?」 〇〇「えぇと……」 〇〇「スカイラウンジがいいな。」 柊「もちろんいいですとも。」 柊「あの椅子に座ってみてもいい?」 〇〇「うん、ちょっと怖いけど……」 柊「ごめん。意地が悪かった。」 〇〇「え?」 柊「あなたが怖がるのは予想できてたのに、訊いてしまいました。」 柊「あなたは優しい。それに比べて、僕はずるい。」 〇〇「えっ、そんなことないよ?」 柊「なんでだろう?僕はあなたの前では、幼くなるようです。」 柊「あなたの何がそうさせるのか……こんな気持ちが自分の中に残っていること自体が驚きです。」 〇〇「柊くんが何でも思ったままに話してくれるほうが、うれしいよ。」 柊「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて……手をつないで一周してもらえる?」 〇〇「うん、もちろん。」 柊「ありがとう。」 柊「舞台のセリフと違って、実際はシンプルな言葉しか出ないもんですね。」 〇〇(柊くん、わたしに甘えてくれてるのかな……?) ■臨海公園:煉瓦道 〇〇「煉瓦道、歩かない?」 柊「歩くのは好きです。行きましょう。」※他選択肢解禁前 柊「賛成です。」※他選択肢解禁後 柊「ここは本当に人が少ないですね。発声練習ができそうだ。」 〇〇「青春って感じだね」 柊「それは夕日の砂浜で言うやつですね。」 柊「夕日でも砂浜でもないですけど、やってみますか?」 〇〇「えっ、本当にやるの?」 柊「あなたが言ったんでしょう?」 柊「ほら、誰もいませんよ。一緒に。」 〇〇「ええっ!」 柊「せーの?」 〇〇「う、海のバカヤロー?」 柊「あなたが好きだ―!」 〇〇「あっ……えっ!?」 柊「う……そっちでしたか……」 〇〇(ああ、間違えちゃった……) ■臨海公園:波止場 〇〇「波止場に行ってみない?」 柊「いいですよ。なにか気になるんですね。」 柊「ここは、いつ来ても独特な世界観ですね。」 〇〇「幻想的なキノコだよね。」 柊「ははっ。あなたって人は、本当に面白い人だ。」 柊「キノコかどうかは、作者に聞かなければわかりませんよ?」 〇〇「あ、そうだよね。ごめんなさい。」 柊「謝ることはない。あなたの感想ですから。ただ、断定はいけません。」 柊「見る人に色んなイメージを喚起させるのが、作者の狙いでしょうからね。」 〇〇「そっか。じゃあ、柊くんはなんだと思う?」 柊「……もう、今日はキノコにしか見えません。」 柊「あなたのせいですよ。責任取ってください。」 〇〇「ええ?」 柊「ふふっ。僕はあなたといると、どうしてこんなに楽しいんだろう。」 〇〇(柊くん、今日はたくさん笑ってくれてる。なんかうれしいな……) ■臨海公園:遊覧船 〇〇「遊覧船に乗りたいな。」 柊「ええ、僕も行きたかった。旅立ちの時ですね。」 or 〇〇「遊覧船に乗りたいな。」 柊「僕もです。急ごう、出航の時間だ!」 柊「はばたき湾の遊覧だけじゃなくて、海外まで行ってみたいなぁ。」 〇〇「船酔いは大丈夫?」 柊「どうでしょうね。船で長旅なんて、経験ないですから。」 柊「はばたき市に来る前は、全国を巡っていましたが、船旅ではない。」 〇〇「そっか。柊くんは旅慣れているんだもんね。」 柊「あ、今少しうらやましそうな顔したね?」 〇〇「うん、大変だと思うけど……」 柊「正直な人ですね。確かに色々地方の文化に触れて、楽しいところもあります。」 柊「でも小さい子どもには辛い方が多いかな?」 〇〇「そうだよね。」 柊「今は、はば学にずっと通えている。こんなに嬉しいことはありません。」 柊「ただ、僕は欲深いみたいだ。」 〇〇「え?」 柊「あなたに言われて、ちょっと旅の生活を懐かしんでいる。」 〇〇(柊くん……) ■水族館 水族館のみ 柊「うん、ここは落ち着ける。行きましょう。」 ウォーターガーデン解禁後 柊「屋外にウォーターガーデンもあります。どっちにします?」 〇〇「水族館がいいな」 柊「賛成。今日は何が見られるかな。」 深海コーナー解禁後 柊「今日はどこにします?」 〇〇「水族館がいいな」 柊「それが正解。僕も同じ意見。」 柊「水の音、暗さ、気温……とても落ち着きます。」 〇〇「少しはドキドキしてほしいかも?」 柊「えっ…………」 柊「そうですよね。僕が無神経すぎました。もしくは、あなたに甘えていたか。」 〇〇「甘え?」 柊「そう。いつの間にか、あなたと一緒にいることに、居心地の良さばかり求めていた。」 柊「これは、僕も本位じゃない。」 〇〇「柊くん、少し声が大きいよ?」 女性A「え?うそ?あれ、夜ノ介さま!!」 女性B「わぁスゴイ、本物?あの女の子、夜ノ介さまのカノジョかな?」 女性A「えー、やだ。そんなのダメだよ。」 柊「この人は、僕の大切な人です。そして、お騒がせしてすみませんでした。」 〇〇(ええ!?恥ずかしいよ、柊くん……!) 柊「ごめんね。フロア移動しましょう。」 〇〇(ふぅ、びっくりした。まだドキドキしてるよ……) ■水族館:ウォーターガーデン ウォーターガーデン解禁後 柊「屋外にウォーターガーデンもあります。どっちにします?」 〇〇「ウォーターガーデンがいいな。」 柊「いいですよ、あなたが見たいなら。行きましょう。」 深海コーナー解禁後 柊「今日はどこにします?」 〇〇「ウォーターガーデンがいいな。」 柊「ええ、いい天気ですからね。」 柊「チューブの水槽を通った光がキレイだ。ここは太陽と水の庭ですね。」 〇〇「チューブに人も入れたら人気出そう」 柊「僕を笑わせようとしている?」 〇〇「えぇと……ごめんなさい。つまらなかった?」 柊「そっか……僕のほうこそ、ごめん。あなたにそんな気を遣わせているなんて。」 柊「本来であれば、僕があなたを楽しませなきゃいけないのに、情けない。」 〇〇「ううん、わたしはいつも楽しいよ。」 柊「反省した。僕こそチューブに入って泳ぐべきだ。自分のつまらない殻を破るために。」 〇〇「えーと、チューブに入るのは冗談だからダメだよ?」 柊「こら、僕がどこまでも世間知らずだと思ってるんだな?入らないよ、今日は水着がないからね?」 〇〇「ふふっ、もう。」 柊「やっと笑ってくれた。なんか、嬉しいもんだな。好きな人が自分の言葉で笑ってくれるの。」 〇〇「……え?」 柊「クセになりそうだ。これからは、覚悟しておいてよ?」 〇〇(柊くん……今、「好きな人」って言った?) ■水族館:深海コーナー 柊「今日はどこにします?」 〇〇「深海コーナーに行こう。」 柊「深海という響きには、不思議な魅力がありますね。うん、それを確かめに行きましょう。」 柊「暗いから、足もとにご注意を。」 〇〇「何回も来てるから平気だよ?」 柊「そうでしたね。ではもっとわかりやすく。」 柊「手を繋いでいきましょう。」 〇〇「え……う、うん。」 柊「ふぅ……最初からこう言えば良かった。」 柊「どうしてでしょうね。あなたの前だと、僕は回りくどい。」 〇〇「そんなことないよ。わたしの勘違いが多くてごめんね。」 柊「もっと素直に伝えるよ。どうせあなたへの好意は隠しきれない。」 柊「ただ、僕は役者なんで少しかっこつけさせてくださいね。」 〇〇「柊くん……」 柊「では、このまま手を繋いでまわりましょう?」 〇〇(わたしへの好意……すごいこと聞いちゃったかも) ■プラネタリウム 柊「ちょうど開演のタイミング。足元、気をつけて。」 柊「さて、どんな演出が待っているのか。楽しみです。」 柊「星座にまつわるエピソードは、なかなか興味深い。」 〇〇「ちょっと眠くならない?」 柊「寝不足ですか?」 〇〇「そんなことないんだけど……ごめんなさい。」 柊「謝る必要はないよ。綺麗な星だけじゃなくて、あなたの気持ちよさそうな寝顔も見られた。」 〇〇「ええ!!柊くん、見てたの?」 柊「ええ、見てた。」 〇〇「もう……起こしてくれたらいいのに。」 柊「なんでです?あんなに気持ちよさそうだったのに?」 〇〇「恥ずかしいからに決まってるでしょ。」 柊「は、恥ずかしい?えぇと……すみません。」 柊「あなたに恥ずかしい思いをさせるつもりはなかった。」 〇〇「わたしこそ、ごめんなさい。自分で寝ておいて……」 柊「ふふ、僕たちはプラネタリウムの感想を一つも言わずに……」 〇〇「ふふっ。そういえば、おかしいね?」 柊「はい。眠いだ、起こせだのって……何を言ってるんでしょう?」 〇〇「本当に。」 柊「でも、今日はプラネタリウムの別の楽しみを見つけました。また来ましょうね?」 〇〇(別の楽しみって……次は絶対寝ないぞ!) ■海:海水浴 〇〇「00000」 男子「00000」 〇〇「00000」 男子「00000」 〇〇(00000) ■海:青の洞窟 〇〇「じゃあ着替えてくるね。」 柊「ここで待ってます。気をつけて。」 柊「さてと、あなたに任せますよ。どこに行く?」 〇〇「青の洞窟に行ってみない?」 柊「その選択に賛成。さ、早く行こう?」 柊「外の騒がしさが嘘のようだ。神秘的ですね。」 〇〇「あー、声が響いて面白いよ。」 柊「……」 柊「あなたの行動は、僕には予測不能です。」 〇〇「えぇと……驚かせちゃった?」 柊「ええ。ま、今日に限ったことではないけどね。」 〇〇「う……――ん?柊くん?」 柊「あーーー。」 〇〇「ええっ!!」 柊「どう、驚いた?」 〇〇「うん、さすが役者さん、いい声!」 柊「……あ、ありがとう。狙いとは違ったけど。」 柊「あなたはいつも予測不能で、素敵だ。」 〇〇(柊くん……でも、複雑な褒められ方だな……) ■海:海辺の散歩 柊「寒くないですか?歩いているうちに温まるといいけど。」 柊「夏の海とは色が全く違って見えます。」 〇〇「やっぱり夏の海の方がいいね。」 柊「うん、あなたには夏の海がお似合いです。」 柊「僕には……冬の海の方がしっくりくる気がします。」 〇〇「そうかも。柊くんには、張り詰めたピリッとした冬の海が似合ってるね?」 柊「ありがとう。でも、そうなると夏の海が似合うあなたが、緩んだ空気をまとっているように聞こえます。」 柊「あなたのまとっている空気はもっと穏やかで温かい。一度触れたら、離れられなくて――」 柊「……と僕が我を忘れて語ってしまう、それがあなたの魅力です。」 〇〇(わたしの魅力……柊くんにそんなこと言ってもらえてうれしいな……) ■花火大会 柊「皆さん、楽しそうですね。」 〇〇「柊くんも、にこにこだね。」 柊「ええ。ここには、活気とソースの香ばしさが満ちていますから。」 〇〇「うん、そうだね。縁日、覗いてみよっか。」 柊「もちろん、望むところです!」 1年目 柊「雑然と並んだ屋台から、色んな匂いと音があふれて混ざってる……僕はこの雰囲気が好きなんです。」 〇〇「うん、わくわくするね?」 柊「色んな街の縁日に行きました。それぞれ特徴があって……とても楽しかった。」 〇〇「へー、そうなんだ!」 柊「これが、はばたき市の縁日ですね。ここが僕のホームって、胸を張って言えるようにならないと。」 柊「うん、まずは、焼きそばかな?」 〇〇「ふふ、そうしよう。」 柊「あ、あれ見て。目玉焼きがトッピングされてる。これがホームの味になるんだね?」 柊「2つ買ってくる。」 柊「すみません、目玉焼きトッピングを2つください。」 〇〇「あ、柊くん。花火、始まるよ!」 夜店の店員「ありがとうね~!」 柊「お待たせ。花火会場でゆっくり地元の焼きそばを食べよう。」 〇〇「うん。行こう!」 2年目 柊「うん。まだ二回目だけど、すでに懐かしい。」 〇〇「ふふっ、すっかり柊くんもはばたき市の人になったってこと?」 柊「ええ、言ったもん勝ちです。」 〇〇「あ、柊くん、急いで買って、花火会場に行かないと。」 柊「ふふん。今年は、劇団のスタッフが場所を取ってくれてるんです。」 〇〇「ええ?すごい、さすが座長!」 柊「職権乱用じゃないですよ?ついでにとってもらっただけです。」 柊「と、いうことで、ギリギリまで縁日を楽しめます。」 〇〇「やった。じゃあ、まずは焼きそばだね?」 柊「僕の心は読まれてるみたいだ。目玉焼きトッピングを2つ、買ってきます。」 〇〇「じゃあ、わたしは、たこ焼きを買ってくるね。」 柊「ええ、混んでますから。その方が効率的だ。気を付けてね。」 3年目 柊「僕たちのホームグラウンド、地元の縁日だね。」 〇〇「うん。もうすっかりはばたき市が柊くんの地元だね?」 柊「市民劇団の座長をつとめていますから。」 夜店の店員「よぉ、座長さん。たこ焼きどうだい?」 柊「あ、はい。もちろんいただきます。」 夜店の店員「こないだ劇団はばたき観たよ?焼きそばサービスしちゃう。」 柊「ありがとうございます。」 夜店の店員「座長さん、遠慮しないんだね。いいよ~!」 柊「あれ?一度くらいは断った方がよかったかな?」 〇〇「ご厚意は受けないと。」 柊「そうだね。もらってくる。」 柊「う……」 〇〇「え?柊くんどうしたの?」 柊「はぁー。大丈夫です。皆さんの気持ちが嬉しくって……」 〇〇「柊くん……よかったね。」 柊「はい……」 柊「はぁ、あなたの顔見るまでは、平気だったんですけどね……」 柊「ほらっ、花火大会。これからが本番です。行きましょう!」 〇〇「う、うん。」 〇〇(柊くん、はばたき市の人に認められてるんだね。よかった) 柊「毎年、今年が一番って思います。」 〇〇「うん、数も増えてるしね」 柊「実際に花火の数も増えているんですね。気が付きませんでした。」 柊「でも、数が減っていても、同じ感想を持っていたと思うよ。」 〇〇「え?」 柊「僕にとっては当然だよ。一緒に見ているあなたとの関係が、毎年、強くなってるんだから。」 〇〇「そうか、そうだね。劇団の人や街の人たちとも……」 柊「はっ……また、あなたに目がくらんで、周りが見えなくなっていた。」 柊「ありがとう。そして……もし、これからも――」 〇〇「え……」 柊「……続きは今度。必ず。」 〇〇(柊くん……何を言おうとしたんだろう……) 更新日時:2024/05/01 19 08 28 wikiトップ|▲ページ TOP メモ欄 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ニシューネンには絢爛豪華な一流宿から不衛生極まりない木賃宿までピンからキリまで様々な宿があるが、その中で一番はどこかと問えば皆が口を揃えるのが黄金の旅路だろう。 高級宝飾品などを商う大店などが軒を連ねる、ニシューネンでも特に羽振りの良い者が集う場所にあるその宿は名実ともにこの街一番の宿、中には新天地一と評する者もいるほどだ。 しかし、この宿がそう言われるようになったのはそう昔のことではない、それ以前からもこの店はこの場所にあったが評判はあまりよくはなかった。 「高いだけ」「見てくれだけ立派なハリボテ」そんなことを公然と言う者も多かった。 それらの悪評の多くは、この店の前の主人の商才は無いくせに金にだけは汚いという、なんともひどい有様から来ていた。 それが店の経営者が変わったことで一変する。ふつうは客の目の届かないようなところにまで気を配り、従業員は徹底して泊り客の要望に応えるようにと教育され、一度泊まればその接客の良さから評判は評判を呼び、一時は手垢で汚れ輝きを失った黄金は今や眩い光を放っている。 そんな黄金の旅路に今日の泊り客は一人もいない。 幾度目かの神々の戯れで世界中の門が解き放たれ、こちらの世界とあちらの世界、二つの世界からの訪問者で賑わう最中、この宿はある特別な客をもてなすためだけに出迎えの準備をしていた。 ニシューネンで最も評判高い宿が上客の宿泊を断ってまで貸切にした一向が到着したのは夕刻を過ぎた頃だった。 「ネモチーいらっしゃい♪」 直々に出迎えた黄金の旅路の女主人クルーレはそう言って翼を広げて嬉しそうに彼に飛びつく。 「元気そうだなクルーレ、今日は俺のために宿を貸切にしてくれたんだって?」 翼人であるクルーレの真っ白で柔らかく花の香りのする翼に包まれながらドニー七大海賊団のひとつ「栄光の杯」のボス、エレーカ・ネモチーは彼女の細い腰に腕を回しながら応える。 「当たり前でしょ?私にとって、そしてこの宿にとっての大恩人のあなたが来るんですもの♪」 クルーレは見るからに上機嫌だ。 「それじゃいつかの約束通り、最上級のおもてなしをしてもらうか」 「えぇ、最上級の部屋に案内するわ」 クルーレとエレーカはまるで恋人のように連れだってロビーの階段を上がっていく。 その様子を黄金の旅路の従業員とエレーカが伴って来た者たちがしばし視線で追い、二人がロビーから見えなくなるとそれぞれの仕事に再び意識を切り替えた。 クルーレは前の主人の妾の子であった。 前の主人は女遊びが激しく、宿の従業員も何人もお手付きにし、クルーレの母親も元々はこの宿で給仕をしていたのを前の主人の目に留まり半ば無理やり関係を迫られ、結果彼女はクルーレを身籠った。 クルーレの母親は彼女を産んだことで体を壊し、クルーレがようやく物心ついた頃にこの世を去った。 血のつながった父親である前の主人は、母親を亡くし一人となった幼いクルーレを手元に置くかわりに彼女に宿の雑用をやらせ、うまく出来なければ容赦なく暴力を振るった。 そんな彼女を何かと手助けしてくれたのが宿のほかの従業員達だった。 クルーレは血のつながった父親である前の主人は反吐が出るほど嫌っていたが、この宿のことは誰より愛するようになったのは彼らのおかげだろう。 「なんなら俺と組んで店を乗っ取っちまうか?」 その出会いは偶然か、それとも巧妙に仕組まれた必然だったのか。 長年の杜撰な経営と悪評からそれまでの客が離れ、クルーレを支えてくれた従業員も彼女の成長と主人の金遣いの荒さで宿が傾いていくに従い好む好まざる関係なく宿を後にしていった。 それまで従業員の努力でなんとかある一線を守っていた宿は坂道を転がる岩のように経験豊富な従業員が抜けていく度に立ち行かなくなっていった。 そんな中でも金遣いの荒い主人によって日に日に荒れていく愛すべき場所の惨状に、それをなんとかしようと奔走するクルーレだったが、結局どうにもできず、最後には見続けることにも耐え切れなくなり彼女は酒に逃げた。 元々彼女は酒が苦手だった。フラリと中央十字路から少し入った裏通りの酒場に入り、そこでとにかく簡単に酔える酒はないかと店主に注文し、出てきたタチの悪い安酒を浴びるように煽っていたクルーレの席に、いつの間にか相席で彼女の呂律が回らず要領を得ない愚痴を聞いていた男が言った言葉に彼女は初めて反応した。 「あぁ?そんなことできるあけねぇだろ!腐ってもあそこはこの街いちばんの宿らぞ!?」 「そうか、じゃあそこを乗っ取っちまえば俺はこの街一番の宿を手に入れられるんだな。悪くない」 最初クルーレは泥酔した中でも冷静な部分で「あぁ、こいつも酔っぱらっているのだ」と思った。それも自分のようにタチの悪い安酒を煽った結果、これからを悲観する自分とは真逆で誇大な妄想と楽しく踊っているのだ。と 「・・・いいね、じゃあおにいさん!あらしと一緒に組んであの店乗っ取っちまおう!そうすりゃ私はあの店の女主人さ!そいたらおにいさんは最上級のおもてなしをしれあげる!」 クルーレは酔いに酔っていた。そして、どうせ酔っぱらうならと、この相席客の楽しい妄想に乗っかるのがいつのまにかも楽しくなっていた。 翌日、安酒特有のひどい二日酔いが一瞬で吹き飛ぶような出来事が起きる。 前日、酔いつぶれるまで相席の男と安酒を煽ったせいで頭はクラクラして体調は最悪だったが、それまでふさぎ込んでいた気持ちは多少はマシになっていた。 「宿代はもらってるから調子が良くなるまでゆっくりしていきな」 そう言って水桶と布巾をもってきた酒場の女将の厚意に甘え、ベッドで休んでいるといろいろなことが頭を過り、そして宿のことが心配になってきた。 「もう少しゆっくりしてけばいいのに」 そう言ってくれた女将さんにお礼を言い、宿代を払ってくれたのは誰かと尋ねる。 「あぁ、気にしなくていいよ」 なんとも微妙な顔をしてそう言う彼女に、それではこちらの気が済まないと言うと、やっと昨晩相席した男が酔いつぶれた自分を休ませてやってほしいと金を払って出ていったということがわかった。 二日酔いで痛む頭と心配を抱えて黄金の旅路へと戻ったクルーレが見たのは驚くべき光景だった。 「その薄汚い手を離せッ!ここは!この宿は俺のもんだぞッ!」 彼女が見たのは宿のロビーでオーガの丸太のような太い腕の先にぶら下がって喚き散らす醜く太った男の姿 「残念だが違う。ここはもうお前の所有物ではない。栄光の杯の管理物件だ」 巨漢のオーガの傍らに立って淡々とそう告げる差黒い肌に黒髪のダークエルフの女。 「ふざけるなッ!誰がお前らなんかに!離せ!この手を離せッ!」 唾を吐きちらし、手足をジタバタを振り回して喚き散らす男 「まったくうるせぇ・・・コイツどうしやすか姐さん?」 喚き散らす男にうんざりと言った表情で、巨漢オーガが隣に立つダークエルフに視線を向けて問う、その表情と言葉にはいろいろと物騒なものが混ざっているように思える。 「私たちの仕事は穏便に所有者を交代させることだ。後々面倒にならないようにだけしておけ」 「了解しやした」 「お、おい!?俺をどこへ連れていくつもりだ!離せ!離せぇッ!!」 クルーレとは血のつながりがあるというだけの元黄金の旅路の店主は巨漢オーガに吊り上げられたまま、どこかへと連れて行かれる。 クルーレはその一部始終を見届けることしかできずその場に立ちすくむ。 「よぉ、昨日の安酒で頭が痛くねぇか?」 不意にどこかで聞いた声が背後で聞こえ、クルーレはハッとなって背後を振り返る。 「昨日言ったよな?俺と組んでこの宿乗っ取ったら、お前が女主人で俺をもてなしてくれるって」 そこには紙束を手にしたゴブリンの男が立っていた。昨晩相席だった男だ。 「あ・・・・え・・・」 まずは宿の代金を払ってくれたお礼を、それから・・・・彼に会ったら言おうと思っていたことがあったが直前の出来事で頭が混乱して言葉が出てこない。 「ほらよ」 言葉が出てこず口を魚のようにパクパクさせるだけのクルーレに、男は手に持っていた紙束を無造作に彼女のほうへと投げる。 男の放った紙束は数回空中でクルクルと弧を描くと、慌てて広げられたクルーレの翼の中に納まる。 「宿の権利書だ。これでこの宿はお前のもんさ」 彼の言葉がクルーレには理解できなかった。 理解できないまま手の中にある紙束を広げてみる、それは紛れもなくこの黄金の旅路の諸々の権利書だった。 「何が俺の宿だ。そんな大事な宿の権利書をとっくの昔に高利貸しに借金のカタに渡してた野郎がよく言うぜ・・・」 彼はそう言って遠ざかっていく影と声のほうに少しだけ汚物を見るような視線を向ける。 「あの・・・・」 言葉に窮していたクルーレの口からやっと声が出た。 「あなた一体・・・それに私の物って・・・・?」 「おいおい、昨日のこと忘れちまったのか?やっぱり安酒はダメだな、どうでもいいことも大事なことも全部パァにしちまう、シメイの奴にはちゃんとした酒だけ置くように言っておくか」 「あの・・・そうじゃなくて・・・・」 昨日の酒場での会話はすべてではないが大半は憶えている。しかし、それらはすべて酒の席での放言妄言だったはずだ。 「あの宿はこのままあの糞野郎に台無しにされるのはもったいないと思ってたんだ。この街はこれからもっとデカくなる。そして金がジャンジャン動く。そんな街で評判の宿があればいろいろと商売がしやすくなると思わないか?」 「思います」 クルーレは思わず即答した。まだ彼女が幼かった頃、今に比べれば多少はマシだった頃、宿には羽振りの良さそうな商人が何日も泊まり、宿のサロンではそうした商人がお国言葉を交えて商売の話をしていたのをよく見かけた。 一流の宿は有力な商人の社交場も兼ねることが多い。クルーレはそれを肌で感じて理解していた。 「だからお前さんに宿を任せてみようと思ったのさ」 「なんで私なんですか・・・?」 「いい目、してたからさ」 そうクルーレに言った彼の目はギラギラしていた。見果てぬ夢を追う目、その夢を実現させるという意思の宿った目をしていた。 その目を見た瞬間、クルーレの中で何かが弾けた。 目の前の男が何者かなんて今はどうでもいい、あの目を、彼のあのギラギラする目を信じてみたい、彼の見つめる先に自分の夢もある気がした。 「やります!私、必ずこの宿をこの街!いえ新天地で誰もが一番だって言う宿にします!」 こうしてクルーレはドニー七大海賊団の一つ「黄金の杯」のボスであるエレーカ・ネモチーと契約を交わした。自分の手で黄金を再び眩く光り輝かせるという契約を。 「懐かしいな。もうあれから十年か」 黄金の旅路の最上級の客室、豪奢なつくりの寝台の縁に腰掛けて葉巻を吸いながらエレーカは昔の記憶を甦らせる。 「あなたが私にどんな宿を切り盛りさせたかったのかはいまだによくわからないけれど、私なりにやってきたつもりよ?」 上半身を露わして彼の背中にしなだれかかるように体を寄せながらクルーレは言う。 「含みがある言い方だな。別に真っ当な宿にはそれなりの使い手がある。お前は本当によくやってるよ」 彼女が彼と契約を交わしてからの十年、順風満帆な時期ばかりではなかった。中央通りに構える宿であるミスルトゥはニシューネンの商店連合の一部を抱き込んで上客をなんとか黄金の旅路から自分のところへと靡かせようとあの手この手、まるで娼館のようなサービスまでしている それでもクルーレはそうしたことには一切目もくれず、いかに泊り客が寛げるか、まるで我が家のように気兼ねなく旅の疲れを癒せるかということにだけ注力した。 結果、かつては名ばかりの一流宿などと言われた黄金の旅路は多くの馴染みの客を持つ宿として知れ渡るようになった。 クルーレもそのことに一定の満足をしてはいるが油断はしていない、客はいつも飽き性だ。 「ネモチー、そろそろ時間だ」 エレーカとクルーレ、二人が寝台の上で体を寄せ合い言葉を交わしている中、唐突に異質な熱の無い声がそれを遮る。 一体いつからそこに居たのか、まるで影から抜け出してきたかのように浅黒い肌に黒髪のダークエルフが闇の中で僅かに赤く光る眼で寝台の上の二人を見ている。 「エイラ、すぐに着替えるから外で待ってろ」 「わかった」 そのことに別段驚くでもなく彼は吸っていた葉巻の火を消すと体を起こす。 「こんな夜中に仕事?」 「あぁ、こんな時間じゃないと会ってくれない女がいるんでな」 彼の言葉の中にあった「女」という単語にクルーレの表情がわずかに動き、ギュッと彼のお世辞にも大きいとは言えない背中を抱きしめる。 「私、頑張りますから・・・だから、近くに来た時は泊まりに来てください・・・」 「あぁ、こんないい宿だ、泊まりに来るなって言われても骨休めに泊まりに来るさ」 「待たせたな」 そう言って一切着崩れなく仕事着に身を包んだ彼がロビーに姿を現すとピンと糸が張ったように場の空気が引き締まる。 ロビーには大小数人の人影、種族も性別もバラバラ 「半刻前に港に提督の船が着いたと知らせがありました」 「とりあえず迎え酒で機嫌を取っておくようにと部下には伝えてありますんでボスが着く頃は調度良い頃合いだと思います」 次々と彼に部下からの報告が届く。 「ようやく会ってくれると来てくれたイイ女をいつまでも待たせるのは失礼だよな」 そう言って彼は葉巻に火をつける。 「さて、それじゃ行くとするか」 そう言って黄金の杯のボスとその一団は港のほうへと向かう、彼の一団が向かうその方角からは微かに歌声が聞こえてくる。 著ネモチーで色々な本が出版できそうだ… 【男なら全部狙え】【中身で勝った男の名言集】【全てと丸く付き合う方法】etcetc -- (名無しさん) 2013-06-26 03 27 59 貫禄あるけどネモチーって経験からなのか年の功なのか。鉄板時代劇みたいな展開が気持ちイイ -- (名無しさん) 2016-02-26 23 18 57 名前 コメント すべてのコメントを見る
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「蒼穹の絆3-12」 ―終幕― 坂本「俺の回復は間に合わないな。今度は俺抜きでやるしかない」 ミーナ「そうね。司令部の作戦だから、私たちの都合は聞いてくれないし」 坂本「止む無し、だ。回復していない俺を出すとバルクホルンが可哀想だし、いいとしよう」 連合軍のベネツィア奪還作戦の会議の帰路、機内で会話をする二人。顔色は冴えない。 ミーナ「俺さんには、言わないほうがいいわね」 坂本「ああ。何が何でも出撃しようとするぞ、あいつは」 マルタ島の作戦終了後、警報が鳴るたびに病室を抜け出そうとする俺に医療部も手を焼いている。 バルクホルンから叱責されると大人しくなるのだが、彼女が出撃を待機している状態でも飛び出 そうとする。個人的な動機でないことが解ったので、バルクホルンも余り強く言えなくなった。 気持ちはありがたいのだが、と二人は溜息をつく。肋骨が再生していない状態で、空戦は無理だ。 でも、大和を護衛する任務に俺の特殊能力は必要なことも事実。 ******** 何時まで病室に居るんだろう。詰まらん。読書も飽きた。トゥルーデ達が来てくれるときだけ、 元気が戻る。 そっとわき腹をさすって見る。まだか・・・。肉組織と内臓は、殆ど新品にしてもらったんだけど。 魔法にも、限界――いや、宮藤君の厚意に失礼だぞ。撃たれた自分自身に文句を言え。ま、彼女 が被弾しなくてよかった。 明け放たれた窓から、ストライカーの音が聞こえる。早く復帰したい。椅子に寝ているぷうの頭 を撫でながら、外に注意を凝らす。全員が何度も同じ航程を繰り返しているらしい。今までは、 経験していないな。なにか、新しい作戦をおっぱじめるのかな?ふむ。後で探ろう。 看護婦さんが居なくなる隙にでも。 * ミーナ「あ、悪いわね、トゥルーデ」 バルクホルン「構わない。どうした?ミーナ」 ミーナ「ねえ、俺さんに何か聞かれなかったかしら?」 バルクホルン「・・・。いや、特別無いが」 ミーナ「そう・・・。私には探りを入れてきたのよ。坂本少佐にも」 バルクホルン「気付いたのか!あれに!」 ミーナ「多分、具体的には知らないと思うの。でも、怪しんでいるわね」 バルクホルン「不味いな。緘口令を出しなおそう。宮藤やリーネだと、問い詰められたら!」 ミーナ「ええ。もう、時間もないし。もし、あなたが許してくれるなら・・・」 バルクホルン「うん?鎖で身体を縛るとか? 駄目だ。俺はテレポーターだぞ」 ミーナ「だからややこしいのよね。ええと、もし、許してくれるならだけど、当日の朝食に 睡眠薬をね?」 バルクホルン「!成程!眠りこけている間に、か!」 ミーナ「構わないかしら?」 バルクホルン「ああ!私が食べさせる!食べるのを監視する!是非そうしよう!私も安心できる!」 * 見舞いが激減した。やっぱり、何かあるな。大尉以上の見舞い客だけ。そして、常に彼女を 伴っている。ははぁ。情報制限を掛けるって?何も気付いていない振りをするとしよう。 * バルクホルン「俺!おはよう!どうだ、調子は?」 俺「おはよう、トゥルーデ。暇で死にそうだよ。何か仕事をさせてくれよ」 毎朝、恒例の挨拶。軽くキスする。俺は彼女の眼をじっと見る。少し逸らした? バルクホルン「仕事をしたいなら、早く肋骨を再生しろ。あと少しだと軍医殿が仰っていたぞ?」 俺「トゥルーデ。毎日同じ台詞もね・・・。仕事させろぉ。身体が腐りそうだ」 バルクホルン「俺?恋人の言うことが聞けないのか?」 俺「トゥルーデ?恋人のお願いを聞いてくれないのかい?」 バルクホルン「まったく」 二人で笑いあう。大きな声をださなければ、胸に響かないようになった。 バルクホルン「もっと確り食べなくては駄目だ!なので、今日から私が食べさせる」 ん?また眼が。怪しいぜ。 俺「うん。楽しみにしている。頼むから普通の食事で――」」 バルクホルン「駄目だ。オートミールのミルクポリッジには滋養分が沢山含まれる。仕事に早く 戻りたいなら、文句を言わず食べてくれ。頼む」 俺「うん。トゥルーデが食べさせてくれるなら沢山食べるよ」 バルクホルン「有難う。じゃあ、後で持ってくる。ハルトマンを起こしてくるよ、じゃあ」 彼女がドアから出て行った。怪しいな。朝からハンガーの作業音もしているし。 * ミーナ「トゥルーデ。どうだったの?」 バルクホルン「ああ。全部平らげた。薬の量は?」 ミーナ「軍医に相談して、通常量の1.6倍よ」 バルクホルン「1.6倍?!おい、大丈夫なのか?」 ミーナ「シーッ!声が大きいわよ。ええ、悪影響は無いそうよ。真夜中までは効く筈だって」 バルクホルン「そうか。安心した。あ、皆揃ったぞ」 ミーナ「はい」「皆さん、おはよう。今日はオペレーション・マルスの実行日です。今更多くは言いま せん。頑張ってください。ロマーニャを解放しましょう!」 * 窓から、全機が飛び立つ音を数える。やっぱり。警報は鳴らなかった。そして全員出動。こりゃ、 どう考えても、大規模作戦じゃないか。 身体がだるい。トゥルーデが食器を片付けに出たときに全部吐いたんだが。よく効くのを処方した んだろう。親切な軍医殿だよ。 さて!迅速に事を運ばないと。でも、このだるさと痺れが取れないと飛行するのも難しい。吐いた とき、胃洗浄を兼ねて水を飲んでまた吐いたから・・・もうすぐ抜ける筈なんだけど。今は寝た振り をするしかないか。看護婦が出て行くはずだし。 * ようやく、満足に動けるようになった。看護婦も安心してお出かけ中。どれ。 ぷっちょを抱いて、自室にジャンプ。着替える。またジャンプ。ブリーフィングルーム。お。有った。 作戦の説明資料がそのまま残っている。ベネツィアか!なるほどな。思い切った作戦だ。大和?えー。 すっごく嫌な予感がする。 ぷうと共に、ハンガーへ。整備兵の目の前だった。 整備兵「うわったぁ! ああ、俺少尉でしたか。びっくりさせないで下さいよ」 俺「わりい!俺のユニットを貰いにきた。整備は?」 整備兵「常時完璧です! ・・・って、少尉殿はでな――」 俺「よし!有難う!では出撃する。あ、ぷうを頼むぞ」 整備兵「・・・」 俺「どうした?」 整備長「おい!準備をしろ!急げ!」 整備兵「あ! はい!ぷう、お出で」 整備長「止めたって聞く気はない、だろ?少尉」 俺「悪いな。最悪殴り倒すことも考えていた」 整備長「おいおい、話せば解るよ。いってらっしゃい。絶対戻ってきてくださいよ!」 俺「感謝する!」 念入りに試運転をする余裕は無い。コールドスタート。ブローニングを抱えて飛び出した。 * ジャンプを繰り返して先行した本隊を追う。前方に巨大な巣と、海上にいる艦艇の航跡が見える。 何処にいるんだろう?インカムには混乱した通信が飛び込んでくるが、501の所在がわからん。 とりあえず、もうちょっと近づくか。 ?「単機で移動している所属不明機!応答しなさい!」 俺「501JFW所属。俺少尉。本隊へ向かっている。本隊の居場所を知っていたら教えてくれ」 ?「針路そのまま。合流します」 誰だ?ウィッチらしいが。 ああ、あれか。四人だな。銃には手を触れずにおこう。殺気立っているとヤバイ。 俺「やあ。悪いが教えてくれるかな。留守番させられそうになってさ。飛び出してきたわけだ」 ?「504JFWの笹井です。あなたがこの前の負傷者ね?」 俺「ええ。504にもお世話になりました。有難う」 笹井「いいのよ。負傷はもう?」 俺「まあ、本調子ではない。けれど、仲間が戦っているのに寝ているのは絶対嫌だ。教えて欲しい」 笹井「…急いだほうがいいわ。美緒・・・坂本少佐が大和で特攻をかけているの。あの巣の中央部よ」 目礼だけ返し、ジャンプする。実体化し、再度ジャンプ目標を選定したとき、巣が爆発を起こした。 間に合わなかったのか。終わったか。特攻・・・やっぱり大和はそういう・・・。 しばし呆然としていたが、インカムの交信が大混乱を始めたのに気付く。どうした? 俺「501!501!俺少尉。どうした?」 ・・・・ ミーナ「俺さん?一体なにをやっているの!あなたは――」 俺「隊長!その話は後で!一体何が起こっているんだ?巣は消えたようだが?」 ミーナ「坂本少佐が!コアに取り込まれたの!攻撃を受けている!」 取り込まれた?意味が解らん。 俺「本隊は今何処に?」 ミーナ「扶桑空母赤城の甲板上です!」 俺「直ちに向かう!」 艦隊をオーバーしないよう、注意してジャンプした。ああ、あの空母か。赤城? ターンしながら、空母甲板の近くにジャンプ。よし、あそこか! 実体化し、テレキネシスで急制動をかけて降りる。 バルクホルン「どうやってここに?」 ハルトマン「やっぱり来たね!」 俺「うん。食べ過ぎでメシを吐いちゃったんだ。で、どういうこと?」 説明を受ける。人間がコアに合体?いやはや。どうする。 ・・・どうしようもない?コアが坂本少佐のシールドを利用している。とんでもない強度で。 ミーナ「私たちは、もう魔力が尽きてしまって・・・」 バルクホルン「どうしたものか・・・」 俺はまだ飛べる。どうやる?武装は二挺の銃。なにかやり方があるはずだ。 ミーナ「宮藤さん!一体何を!」 眼を向けると、宮藤君が発進したところだった。何をするつもりだ? まあいい、援護しよう。何か考えがあるんだろう。 俺「彼女の援護に向かう。では!」 返事も聞かず、宮藤君の後方を目指して一気にジャンプ。実体化してからエンジンを始動。 少し距離が開いてしまった。追いかけつつ、彼女を狙う小型を落す。 俺「宮藤君。援護する。作戦は?」 宮藤「俺さん!坂本さんの烈風丸を使います!」 俺「了解。支援する!」 エンジン出力も正常になったのを確認し、一気に彼女の傍へジャンプ。 俺「どこにあるんだ!それ!」 宮藤「大和の艦首に突き立っています!」 よりによって!あそこか!小型がうじゃうじゃどころじゃない。黒く見えるぞ。 ミーナ「我々も援護します。俺さん、宮藤さんを連れて行って!全機!フォーメーション・ビクトル!」 「「「「「「「了解!」」」」」」」 皆の声援が宮藤に送られる。 ちらっと背後を見ると、敵小型が爆散しはじめている。ああ、本隊も着たか。 俺「了解!」 宮藤君の腰を抱き抱える。よし! 俺「ジャンプしつつ接近する!前方を撃ちまくれ!」 宮藤「ハイ!」 細かくジャンプして、ジグザグに回避しつつ接近。大和の右舷後部から接近する。クソ、大和まで 俺たちを撃ちやがる!バカヤロ!日本人だぞ!あ、宮藤が銃を捨てた。弾切れか! 俺「烈風丸が見えたら位置を指示して!」 宮藤「一番先にある大砲の前です!見えますか!」 俺「まった!」 ジャンプ。 俺「確認!行くぞ!」 返事も待たずにジャンプして真上に。テレキネシスで急制動し一気に下がる。俺のユニットが激突 して嫌な音が。出力が不安定になる。壊したか、まあ、いい。 俺「頼む!」 宮藤君を遮るようにシールドを張る。俺はいい。撃ち捲る。 すぐに左のユニットに直撃を食らった。ユニットを強制排除して撃ちかえす。脚が二本ありゃ、 動ける!この前の礼だ!墜ちろ!ちらりと見ると、宮藤君が全開で刀を引き抜こうとする姿が 見えた。頼むぞ。がんばれ。 弾が尽きたブローニングを捨て、M1で撃ち捲る。あ、背後に誰か? バルクホルン「手伝うぞ!宮藤!頑張れ!」 ああ、トゥルーデか。また一緒に戦えるな。安堵感がどっと押し寄せる。 宮藤「!!!!!!!!!!」 凄まじい気合が宮藤君から迸った。さっと振り返ると、彼女が離陸を始めていた。慌ててシールドを 移動させる。平面じゃない!包み込め! そうだ!包め!脚をビームが掠める。くそ!シールドを! シールドだ! 俺「トゥルーデ!宮藤援護!行け!」 バルクホルン「了解!」 俺のシールドは消えてしまったが、トゥルーデが援護に入った。あ、俺も撃たれてら。シールド?張れた。 距離に制限があるんだな。周りに隊員が散らばり、シールドで宮藤君をかばっている。いいぞ。そうだ。 自分をドーム状にシールドで包み、牽制攻撃しながらトゥルーデ達を見守る。頑張ってくれ! くそ。M1の弾倉が切れた。拳銃!少しでもひきつけろ! また、宮藤の気合がインカムから迸る。どうだ? やった! ふっと力が抜けた。シールドも消える。まあ、いいだろ。もう。少佐は大丈夫かな。 あ、あらま。この感じは?・・・・大和が墜ちている。ありゃ。身体が浮いてきたか。 上空を見る。よし、少佐は確保されたらしい。んじゃ、俺も脱出するか。トゥルーデはどこだ? バルクホルン「何している!捕まれ!」 ああ、来てくれたのか。手を伸ばす。脚がやけに強張る。腕も痛む。掠っていたか。 俺「ありがとう。トゥルーデ」 バルクホルン「一人で墜ちるな。さ、確り捕まって」 俺「すまんね。他の方法は無いかな・・・これはちょっと?」 バルクホルン「私のやりたいようにやる。いいだろう?それにお前、また負傷してるぞ」 ハルトマン「トゥルーデぇ。新婦が新郎を抱っこするのは違うでしょう」 エイラ「お姫様抱っこされてるゾ、サーニャ」 ミーナ「戻ったら、お話しましょうね?俺さん?宮藤さん?」 宮藤「ギク!」 坂本「ミーナ、何とか許してやってくれんか?それを言ったら私もだな」 ペリーヌ「まぁ!お似合いですわ、大尉、少尉」 ミーナ「いいえ。三人ともです!扶桑の魔女って!」 サーニャ「・・・いいなぁ」 ハルトマン「ミーナぁ。もう諦めなよ。扶桑の血なんだよ」 エイラ「!!抱っこさせて!」 坂本「それだ!」 シャーリー「あれあれ。幸せそうで結構!」 ルッキーニ「キャホォォォォゥ!」 ミーナ「全く・・・」 リーネ「えへへ。芳佳ちゃんは私が抱っこしますね」 宮藤「えへへ~」 俺「やめようよ、恥ずかしい」 バルクホルン「恋人同士だ。構わないさ」 俺「それもそうだな。重かったらごめんな」 バルクホルン「大丈夫。来てくれて有難う」 自然とキス。 口笛!煩い! 眼下の艦隊が霧笛を交わしている。終わったな、トゥルーデ。 ************************************* ご覧下さりありがとうございました。 ************************************************************************
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表向きはマリクの暴走によってマリク軍は世界随一の要害バーハラ宮殿を飛び出し、それを待ち構えていたセーナがマリクを、その兄シグルド2世がスカサハを討ったことによって壮絶な激戦となったヴェルトマー聖戦は完全に終焉を迎えた。すでにバーハラを飛び出したマリク軍の残党は逃げ散ったかして跡形もなく消えている。兄を討った悲しみからようやく立ち直ったセーナはグリューゲルとアルバトロスをまとめて、ゆっくりとフリージ城へと戻っていく。そしてこの戦いでは彼女と同等の位置にいたライトとフィリップは何も言うこともできずにグスタフやフィーリアに大軍を任せて彼女の後を付いて行くのみであった。ただしその後方ではセーナ軍の先鋒で奮闘したハンニバル2世を中心にして戦勝に沸いている。後方の歓声を聞いてあまりにも不謹慎と苛立ったフィリップが注意させようとしたが、せっかくの戦勝だからと当のセーナに言われてしまうのでどうしようもなかった。 一方、突如としてヴェルトマー平原に乱入してきたシグルド2世一行はすでにこの地を離脱し、それぞれの国に戻ろうとしていた。それにしても彼らはどうしてこの戦いに乱入してきたのか。一つの理由がキュアン2世の立場といえる。シグルド2世はセーナのヴェスティア城帰還時に素直に城を明け渡しており、エルトシャン2世は堂々とセーナの味方を、ナディアにしても交換条件こそあったがシレジア軍の領内通過と兵站の確保をしているのに対し、キュアン2世はバルド同盟の根幹にある南北トラキア同盟を声高に破っているという前科があった。『後のこと』を考えるとここでキュアンが離脱するのは彼らにとって望ましくないのでこの乱入で彼を救おうと義兄シグルドの妻ナディアが思いついたのだ。ついでにエルトシャン2世は面白そうと言うだけでわざわざヴェルダン城から駆けつけて来ているのだから彼もまた凄いが・・・。ともあれこの4人は最低限の目的を達成して『これからの時』のためにそれぞれの国に戻っていった。 戦いを終えたセーナ軍もそれぞれで撤退が始まっていた。なかでもすでに厳冬に入りつつあるシレジア軍の半ばはすでにヴェルトマーの戦い直後に夜を徹してヴェルトマー城まで移動して、そこからフィー・レイラ・セイラ・アイリスら天馬騎士団の力を借りて迅速に母国へと戻っていった。またトラキア軍も撤退を急いでいる。ヴェルトマー聖戦にてミレトス軍が裏切ったために新たに領土となったミレトス領の治安が一気に悪化する恐れがあるからだ。こう感じたフィリップはすぐにハンニバル2世に兵を仕立ててミレトスに送った。またセーナも彼を援護すべくバーハラ南部で牽制していたアルテナ・ミント母娘の竜騎士部隊や、ミレトス地方に残っている彼女の新しい諜報衆クロノスを動かすことを確約している。こうしてセーナと共に残ったのはグリューゲル・ガーディアンフォース・アルバトロスと、フィーリア率いるフリージ軍、グスタフ率いるヴェルトマー軍を中心としたグランベル諸侯軍くらいだけとなった。しかしそれでも百万に近い大軍を誇っているためにセーナが立ち寄ったフリージ城はパンク状態となって城外でテントを張る光景も見られた。セーナは3日ほどこの地に留まり、それからヴェスティアに凱旋し、戦争で混乱した政情をまとめることにした。 そしてその2日目。駒音高く一人の身分の高そうな男が数人の従者を連れてフリージ城の門をくぐった。すぐにアルバトロスの将兵に取り次がれて、その男の到着がセーナの耳にも届いた。 「ふふ、こっちが行かないから、あっちからわざわざ来てくれたわ。」 すでに悲しみから立ち直ったセーナに対して、その男の名を聞いて殺気を帯び始めたのがミカである。何しろ、その男の名はランゲル、ミカを政略結婚に利用して己の栄達を夢見た彼女の実の父である。彼はバーハラ貴族の代表としてさらなる夢を見てセーナとの会談にのぞんだわけだ。 「あなたは無理することはないわ。ランゲルたちには私が引導を渡すから。」 この会談をセーナがリーベリアから続く戦いの系譜の終わりと意味づけているために意気はすこぶる高い。 「いえ、私もぜひ・・。私もいずれ頭ごなしに命を下さねばなりませんから。」 ミカがこの戦いの後、グリューゲルを退役してヴェスティア帝政を支える宰相になることはすでに触れている。未来の宰相が国の土台を決める会談を個人の感情で出ないというわけにはいかない覚悟は当然ミカにもある。その意思を感じたセーナはもちろん快諾したが、クスクス笑いながら一つの条件を出した。 「でもラティと一緒にね。」 唖然とするミカを尻目にセーナは正装に着替えるためにその部屋を後にした。 数十分後、プリンセスドレスに身を包んだセーナが厳かにフリージ城の玉座に着いた。そのすぐ左隣にライトも座り、右側には複雑な顔をしたミカと、その彼女の様子を横から注視しているラティがいる。セーナの正面には深々と平伏しているランゲルとその従者たちがいて、その左右に今まで共に戦ってきたユグドラル諸侯がいる。また貴族とのやり取りを勉強しようとリュナンとメーヴェも特別に参加している。 「ランゲル卿、あなたとは本当にお久しぶりですね。」 セーナはあくまでにこやかに対応している。 「セーナ様、まずは此度の戦勝、まことにおめでたい限りです。ですが我々バーハラの貴族たちは逆賊に脅されてお助けすることができず、まことに無念です。」 本当は両勢力を天秤にかけていたというのに、ランゲルはしゃあしゃあと殊勝な言葉を紡いでいく。フィリップやリュナンは声には出せないが、顔中にその嫌悪感が現れている。ミカに至っては湯が沸きそうなくらい顔を真っ赤にしているが、横にいるラティはそれを見て笑いを堪えるのに必死でいる。当のセーナはなおもニコニコしながら 「いやいやランゲル卿らの部隊は全然想定してませんでしたので。」 精一杯の皮肉を返す始末。これには諸将もニタリとしている。マリクに脅されてたという、精一杯の付加価値を付けるランゲルの意図は脆くも崩れたために話題を変えざるを得なくなった。 「それよりもセーナ様、何ゆえにバーハラにお寄りになられないのでしょうか?我々は敵の残党を追い散らし、首を長くして待っておりますぞ。」 どうやらランゲルも本題を切り出してきたようだ。 「ランゲル卿、バーハラを抑えていただいたことには感謝します。」 『感謝』という言葉を引き出してランゲルは心の中で喝采をあげた。が、 「しかしそれは私の命令でもなければ我が夫ライト、もしくは盟友フィリップ王のものでもないでしょう。」 と冷酷に告げた。ランゲルの背中に冷や汗が流れ始める。さらにセーナは言い放った。 「ランゲル卿、さらに言えばもうバーハラの時代は終わりましたよ。私はこれからヴェスティアに戻り、グランベルを解体して新たにヴェスティア帝国を興すつもりでいます。そしてここにいるもの全てがこれに賛同しています。」 愚かにもセーナがまさかそこまで考えているとは知りもしなかったランゲルは思わぬことに言葉が出なくなった。彼らはマリクとセーナの勢力比べの分析に躍起になっているうちにセーナがヴェスティアで宣したことを耳に入れていなかったのだ。愕然とするランゲルにセーナはさらに続けた。 「なおヴェスティア帝国の皇帝は夫ライトが務めますが、彼はシレジアの国王も兼任するということでその負担が大きく、それを軽減するためにヴェスティア帝国の宰相としてここにいるミカを任せるつもりでいます。」 己の顔を潰して、勝手に飛び出していったミカが無表情のまま頭を下げるのを見たランゲルもまたミカ同様に腸が煮えくり返る思いだったが、公の場であることを考えて彼もまた無表情に頭を下げた。それを見届けてセーナが続けた。 「そこで諸卿らはこれからどうするかお尋ねしたいのですが、どうなされますか?ヴェスティアに来るか、バーハラに残るか。」 丁重な口調にランゲルはやや救われたようで、図々しい質問を発してしまった。 「もちろんバーハラからヴェスティアに移る場合はその費用を出していただけますよね?」 まだランゲルたちバーハラ貴族たちはセーナから無視できないと思っているようでその傲慢さから来る質問に、フィリップらの顔がまた渋くなる。 「ヴェスティアに来る場合でも経費は諸卿らで全てご自分のもので来ていただきます。さらにこれよりヴェティアに新しい宮殿を建てるにあたって諸卿らに費用を分担していただくことにもなります。」 セーナはいかにしてバーハラ貴族の勢力を弱めるかを考えて、苦心してこの策を思いついた。多少強引なやり方だが、こうすればいかに貴族といえども資金力も弱まり、しかも政権から切り離すことも十分楽になるのだ。だがランゲルとて感嘆には引き下がらない。 「セーナ様ご冗談はよしてくださいませ。我々とて敵勢に教われないように傭兵などを雇って資金などありませんよ。」 と泣き付いて来る始末。 「傭兵を雇うだけのお金があるのですから、たかが引越しなど諸卿らには何の問題はないはずじゃないですか。普通の人々が普通に引越ししてるのに、まさか傭兵なんて雇っている人がいますか?」 正論であるが、これを呑むわけにはいかない。必死になって適当な理由をつけるランゲルに、セーナが一つ一つ理路整然と返す。それが一時間は平気で続いたのだろうか。しかし何一つランゲルの思いのままにいかなかった。そして一定以上の発言力を確保したい彼はこれ以上セーナとこじれるのもマズイと思ったのか、ついにうなだれながらもついに認めた。セーナは笑顔でその答えを受け取るや、すぐにバーハラの貴族に伝えるようにやんわりとランゲルに退出をうながした。想像以上のセーナの弁舌の鋭さに完敗したランゲルにはこの広間に入ってきたときの意気揚々とした姿はすでになかった。なおこの後、ランゲルはバーハラに戻って事の主旨を他の貴族に伝えたところ、猛烈な反発にあっただけでなくバーハラ貴族の中での発言権を失い、彼の家はヴェスティアの宮殿が大きくなるのと反比例するかのように衰退していくことになる。 フリージ会談はランゲルの退出と数十分の休憩をはさんで第二部に入った。しかし先ほどプリンセスドレスを着ていたはずのセーナはすでに普段着に戻っていた。しかもライトやフィリップら他の諸将も先ほどのピリピリとした雰囲気が一転してのんびりしている。ミカに至ってはさっきの反動か、憎き父がセーナに完膚無きまでに言い負かされたのに喜んだのか、満面の笑みで諸将に対応している。これからは共に戦いを経てきたもの同士のものであるから堅苦しいのは抜きということらしい。 この第二部の会談では今までの戦いの論功行賞と、ヴェスティア帝国の方針について話し合った(といってもセーナとライトが一方的に伝えるだけだが・・)。まずこの一連の戦いで最も勢力を増やしたのがトラキアであろう。マンスター地方に並ぶ豊穣の地で、さらに世界随一の貿易港もあるミレトス地方を得たのだ。ヴェルトマー聖戦ではセーナの恩に応える形での出兵となっていて、その恩賞をフィリップは固く固辞した。またセーナの夫ライトが国王となったシレジアもイード砂漠全域と、何とヴェルトマー領まで与えられている。しかもグスタフのヴェルトマー本家も付いての形で。セーナへの忠誠と、妹フィーリアと国が別れることになりグスタフは難色を示したものの、最終的にはセーナの説得をいれてシレジア傘下となった。しかもシレジアはこれに留まらず何とアグストリア北方の海賊島オーガヒル島まで与えられている。これはフィードがセーナ十勇者を辞し、ライトの下へ移ったためと見られている。どうやらイードの戦いなどでライトを見直したらしい。またセーナは遠くリーベリアから参戦してきたリュナン一行にも何かお礼をしたかったようだがリュナンはひたすら固辞したものの、後の勉強にとユグドラル見物をするためにその案内人を付けてもらうことで妥協した。またサーシャもバルト要塞の戦いでセーナからもらった天空の鞭を引き合いに出して固辞、アジャスも興味ないとばかりにさっさと退出して辞退した。そして出生の秘密を知ってセーナ、ライト両軍に参加して奮戦したラケル・ルカ姉弟は予想通り、ユングヴィ領を与えられたものの、この大領を治めるは無理と固辞し続けた。だがこの会談後、ライトとミカに任せて第一線を引いて手持ち無沙汰になるセーナが直に後見を務めるということで両者を納得させた。最後にコープルのバルキリーの杖の暴走で復活したパピヨンの処遇だが、これは思わぬ一言で丸く収まった。リーベリアから共にリュナン軍にいたサーシャがぜひ引き取りたいということなのだ。パピヨンを何とか口実を作って生まれ故郷リーベリアに帰したかったセーナはすぐに快諾、パピヨンも敬愛するセーナと離れて寂しいのか渋々ながら承諾した。これまた余談だが、ウエルトに招かれたパピヨンはまたもサーシャの厚意によって恋人クリシーヌと再会できることになり二人で新たなウエルトを支えることになった。 さて一通りの論功行賞が終わり、思いのほか時間が長引いたためにここで会談は終了し、夜を徹しての大宴会が開かれた。ここでは堅苦しいのが苦手で会談に出なかったホームズやシゲンも参加し、てんやわんやの大騒ぎとなった。そしてやっぱりハメを外しすぎたラティとアジャスがまた一騒動を起こしてミカに雷を落とされたのも言うまでもなかった。 新生ヴェスティア家の掲げる双竜旗がヴェスティア城門をくぐった時、新皇帝ライトはヴェスティア帝国の建国を宣言した。代々聖者ヘイムの直系で系譜を紡いできたバーハラ公国とグランベルの名はこの瞬間、音もなく崩れ去り、神君マルスの直系を頂とするヴェスティア帝国が建国したのだ。そのヴェスティア帝国の領土は思いの他大きくない。ヴェルトマーを手放しその代わりにエバンスを手に入れたものの、この地はセーナが根切りを行った地であり統治にはかなり苦難が想像されるのは難くない。 一方この大戦で中立勢力となったシアルフィ、イザークは現状維持で許され(シアルフィは言うまでもなくヴェスティア帝国傘下となっている)、アグストリアに至ってはエバンス領を除いたヴェルダン全域が与えられている。なお最後まで抵抗したレスターはセティ、コープルの降伏勧告を無視して、エルトシャン2世と戦い続け、ヴェルダン王城と運命を共にした。しかし北部トラキア連邦は一悶着あった。レンスター家こそフィリップに許されたがマンスター家が抵抗を続けた結果、ミレトス領からも動員したトラキアの大軍に攻められて陥落している。そしてそのミレトス領はトラキア家のものとなり、念願の北への橋頭堡を手に入れた。これを得て超大国となりつつあるトラキアに北部トラキア連邦の諸侯の思いは不安になっていくしかなかった。 一部での小さな緊張こそあれど、リーベリアとユグドラルで巻き起こった戦乱はようやく終結した。そしてそれを見届けたかのように一人の英雄が倒れたとの報せがヴェスティアに届く。
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ヘルトさんが入室しました ヘルト (近代文明、文化の風。ここはニコラスクエア中心街! テラさんが入室しました ヘルト …ってわけでな、ここが中心街だ(散々あちこち案内したのち テラ 大戸屋ほんとにあった…… ヘルト バー●ヤンも大●屋もあるぜ、地球とかいうところに相当近いらしいからな テラ …地球、か。(うん、と テラ 凄いな、この街出来てそんなに経ってないんだろ? それでここまで発展するもんなんだなぁ……(そびえ立つビルを見上げて ヘルト (まぁ親父はディギーなんだが)親父…市長のテスラ=コイルの手腕だぜ。 テラ 憧れの親父さんね(鼻高々なヘルトを見て、こちらまで嬉しそうに ヘルト (時計見て)しっかし17時か、俺はそろそろ清掃に行かねぇとな。こう見えて鉄道清掃員なんだぜ、俺。 テラ 、もうそんな時間?(同じく時計見て ヘルト 迷ったら1回地下に行けよな、そこから駅員がセントラル行の列車案内してくれるぜ テラ (――『暇あるだろ? 俺の(親父の)街を見せてやるよ――』 テラ (口には出さないが、多分、落ち込んでた俺を見て、そう言ってくれたんだと思う。 だから、うん。 テラ ん、地下ね。 テラ ありがと、ヘルト。 助かったよ(柔く微笑んで ヘルト ならぁ良かった。…テラ。お前が何に塞いでるかは俺は察せど力にはなれねぇ。 テラ ……、、(頭掻いて ヘルト できることは街案内と(ぱん、と自分の腕叩いて)これよぉ。エキシジジョン、同じ組になったら…楽しもうぜ! ヘルト 噛んだぜ! テラ エキシ……ビションな! ヘルト はっは!じゃぁな!(と、去る… 地下に降りる階段へ向かう が ヘルト (そのさらに向こうに、見知った顔が…? ヘルトさんが退室しました テラ ―― 気をつけろよなーっ!(手を降って見送るが―― レザンさんが入室しました レザン (テラの視界の奥の方に移る白服 近代的な街にはやや不釣り合いな…… テラ ―― ――――― テラ ――レザンさん!?(思わず レザン ――(雑踏の中を歩く 虚ろげな視線が……声に思わず向く)!? レザン ……!? え!?(遠巻きに思いっきし目が合って テラ なんっ 何でここ、に……っ!(人混み掻き分けて レザン て、……テラ!? テラなんです!? テラ そ、そうで っうぷ!(帰宅ラッシュ時の地下鉄出入り口! 無理するから人混みに挟まれるー! レザン ぁ、ぁゎゎゎ!(思わず手伸ばして レザン (テラの手ー引っ張って脇道に引っ張り込んで難を逃れる テラ (引っ張り出され――)っは、 っはーー! あぶ、なっ……すいません、レザンさ……っ! レザン い、いえ此方こそ! ……ふぅ、(一息吐いて レザン 一体どうしてこんな所に……? テラ そ、それはこっちのセリフですよ……、!(っはぁ、と汗拭い レザン ま、まあソレは確かに……?(うん、と レザン ………、 テラ 俺は、ヘルトに街案内受けてて…… テラ レザンさん、は……どうしたんです……? レザン ……ぁー、いえ、特に用事と言うほどの物は。余り訪れた事の無い街に行ってみるのも良いかなと… レザン …ま、元々道楽者ですからね!(ぱっと笑って テラ ……、、(そんな彼を見て テラ …。 良かったらどうですか?(指を差す先は――カフェマークの看板。 レザン …、 テラ チャイは、無いかも知れないですけど(はは、と。看板の先は路地裏に繋がっているようだが レザン …… えぇ。そうですね。立ち話というのもナンですし。(一息の間の後、困ったように笑って テラ じゃあ、決まりってことで。(そんなこんなで―― レザン へぇ、こんな路地裏にカフェなどあるのですね。――(訪れたその場所は。 レザン (―― 喫茶ET! テラ ――あった。(席に付き、二人の前にはチャイラテ。 レザン ――ありましたね。チャイ。 テラ ですね―― ぁ、おいしい。(ヂュー、っと レザン EBの物(スタンダードチャイラテ)よりミルク多め、スパイス控えめと見ました! テラ 、流石(笑って レザン 飲みやすさ重視の調整ですね! ……(それで、とテラを見遣って レザン … えぇと。 ……元気にしてました?(何か変な切り出しで テラ ……お陰様で。(うん、と返し レザン あぁ、それは何より!(両手合わせて) えぇ、やはり少々気になっていたもので。 テラ ……レザンさん… レザン 安心しましたよ。 すっかりいつものテラのようで…… テラ ありがとうございます、レザンさん(急に頭を下げる レザン ………、ぁ。 いえ、 ってはい!?(めっちゃびっくりして レザン え、な、ナンッ!? 急にどうしたんです…!? テラ 先の襲撃、レザンさんが助けに来てくれなかったら拙かった……いえ、負けてました。 テラ (頭は下げたまま、語り続けて レザン ………、、 テラ きっと、その”力”を使うのは凄く憚られる筈なのに テラ ……助かりました。 それに、、嬉しかった。 レザン ……… テラ 心強かった、もう一度立ち上がる、、勇気をくれました。 テラ ………… テラ ……なのに……俺…… レザン ……… レザン ……私はずっと、逆の事を考えていたんです。……余計な事をしてしまったのではないかと。 テラ 、そんな! 余計だなんて!(顔を上げて レザン …一人だったら、どうとでもなるじゃないですか。 戦いに限らず、逃げるなり躱すなり。何とでも。 レザン …けれど、その後ろに、背に、何かを背負ってしまったら。 レザン それは途端に重くなります。 …身動きが取れなくなる。 テラ 違う……それじゃ、逃げた先でどん詰まりじゃないですか レザン …だから、あんなリスクのある切り札 モノ を、使わざるを得なくなって――。 テラ 逃げたら逃げただけ、道が狭まって…… テラ 言ってる、ことはわかります。 でも、それでも俺は……(膝上の手に力が籠もって テラ ……俺が立ち上がれたのはレザンさんが居たからなんです、(絞り出すように レザン ……、、 テラ そうじゃなきゃトドメの一撃を食らっていました……それに テラ レザンさんに庇われて、俺も庇っていたからこそ……最後にもう一度だけ…そう、絞り出せたんです。 テラ じゃないと、先に心が折れてたかもしれません、俺…… レザン ……。 テラ …、レザンさんもそうだったんじゃないんですか? テラ あの時、俺を壁にして下がることだって出来た。 ……そもそも、戦地に飛び込むような真似をしなければ無傷で済みました。 レザン ……、 レザン ……だ、だってそれは……(片手で頭抱え気味で テラ 退けなかったんです、退く気もなかったんです。 テラ ……ここが正念場だって、一歩も退けないって…… レザン だってなんかピンチだったじゃないですか!!(ヤケ気味にわーっと テラ レザンさんと、同じように……、! テラ ――――、!(ギョッとして テラ ピ、ピンチでしたよ! 余裕なわけないじゃないですか! レザン 嫌だったですよ!怖かったですし! 『きっとテラなら大丈夫~』って楽観してたかったですよ! レザン でも……でもなんかテラピンチだったじゃないですか!! レザン だから……だから行くしかなかっ……否違うんです、覚悟決めてすらいなかった! テラ そんな、そんなこと! レザン 退かなかった、退けなかった……そんなちゃんとしたものではなくて… レザン 退く事の方が怖かっただけなんですよ…… テラ ……、、 レザン え、えっとだから何だですね!(何か焦って レザン …テラが言ってくれた事は、とても、嬉しいです。 実際の私は些か半端者ですが… テラ ――………そんな……でも…… テラ でも……俺、レザンさんを傷つけました。 レザン …それは、ですから先程言ったように… レザン …自ら招いたようなモノです。 テラは、ああしなくては拙かった……んでしょう? テラ …、言い訳、ですっ……俺は……俺は、、、 テラ あの時、意識はあったんです、守りたいものなのに、守らなくちゃいけないのに テラ それなのに俺、、自分で……、、、 レザン ………、、 テラ すみません……でした …痛かった、、ですよね…… レザン …き、傷は残ってないですよ? 喫茶の守護凄いですからね、ビックリするほど良く治りましたし…(そぐわぬ明るさで レザン ……それに、加減されていた、…ようにも感じましたし……。 テラ ……、、 レザン ……(痛く無かった、も、怖くなかった、も言ってしまえば嘘になる。…だから、言えない。 レザン …それに、テラの事は、他の騎士の皆さんが止めてくれたんでしょう?(少し矛先を変えるように テラ それは、そうです、けど……、、 レザン …力及ばぬ時や、行き過ぎてしまった時、助けてくれる…テラを助けたいと思う味方が沢山居る、という事で…。 テラ 、ズルいですよ、そんな言い方…… 俺だって、レザンさんを助けたいと思ってますし……、、 レザン …それもまた、テラの持つ大きな力だ、と言いたいんです。 テラは余り納得しないかもですけど… テラ …………、(前髪ぐしゃり、として テラ 凄いですね、レザンさんは。 傷つけたのは俺なのに…… レザン す、凄い、ですか??(何かキョトンとして テラ そりゃ、そうですよ。 だって…… 、、いや、今は、レザンさんの言葉に甘えます。 テラ 俺は、怖かった。 決して、してはいけないことをしてしまった テラ 取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないか、って テラ ……今でも鮮明に覚えてます。 手の先に、レザンさんの、俺を見る目が――…… レザン …―、 (僅かに歪んだ顔を、すぐ繕い笑って レザン …何、私も伊達に喫茶に通ってませんよ。 割にボコられ慣れてきたと言いますかね! テラ ……(そんなレザンを真っ直ぐ見て テラ 俺は……イヤですよ、怖がってるのも、怖がられるのも。 レザン 、………(は、と テラ ……友人だと、思ってます。今でもそうです。 レザン …それは、私だってそうですよ…。 テラ 言葉一つや行動一つじゃ、これは難しいのはわかってます、わかってます、けど……! レザン ………、、 レザン ………あの、時の、(ぽつり、と、俯きがちに零して テラ …、―― レザン ……テラは、正直、怖いと思いました。攻撃された事もですが、…何でしょう、 レザン もっと根本的な―――遠い、異なるナニカに、なってしまったような気がして…… レザン ……それは未だ、繕えど拭えていません。 やはり私はどうしても臆病なようで(申し訳ない、と苦笑して テラ ……それは……、、 レザン ……で、ですが! レザン だからって今までのテラとの積み重ねが揺らぐ訳ではないでしょう?私にとっても友人なんですよアナタは、だから… レザン そう、怖いと、感じてしまう事が……心苦しくて……… テラ レザンさん…… テラ 、、……―― テラ (自らの頬をパンパン、と叩いて テラ 俺、頑張ります、! テラ 全然、こう、何も具体的じゃないですけど、とにかく、それでも、頑張ります! レザン 、! ……テラ。 テラ だから、レザンさんも……本当、これは俺のわがままで情けないんですけど…… テラ まだ、、、友人で居てください! レザン 、…え、いえその、、すみません。此方こそですよ!! レザン 突然妙な事を言って……困惑させたかもしれません。けどその本当に、テラに何かをして欲しい訳じゃなくてですね…!?(アワワと レザン 私もまた……越えなければならない事が、あるのだと思うので……。 テラ ……、その時は。 もし必要になったら言ってください。 テラ …俺、いくらでも背中を押すので(うん、とレザンを見て レザン ……。はい。(困ったように笑って テラ 何か……喋るほど困らせてる気がするな……、、すみません、上手く言葉が出てこなくて…… レザン い、いえ!そんな事は! …それに! 気持ちは伝わっていますとも! レザン ……えぇ。私も何やら上手く言えない事ばかりで… ですが私達は互いに、 レザン 善意…、いえ、厚意を持って向き合っている。 …そうでしょう? テラ ――、! (縦に首をブンブン レザン ははは、なら大丈夫ですとも! …えぇ、きっと! テラ ……、(それを聞いて、つられて表情崩して レザン ……さて、はんなりと程良い時間になってきましたが。 …良かったらゴハンにしません? テラ 、そうですね。 テラ ……、(全部を、喋ってもらったとは、思っていない。 テラ (それでも、今日まで述べられた言葉に嘘はなくて テラ (今はそれに甘えているかも知れないけど、向き合っていこうとする自分にも偽りはなく テラ (……彼の言う通り、今はそれで良いと。 そう思うのだった。 テラ ――バターチキンカレーにします! レザン ――なるほどお目が高い!私はこのご当地トレインカレーです! レザンさんが退室しました テラさんが退室しました
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皆様こんにちは。サントアンヌ号生活3日目のへタレトレーナー(♀)です。 3日目の朝まではサントアンヌ号内にて、清掃作業やその他諸々の 雑用をさせて頂いていたのですが 『 色々と手伝ってくれてありがとう。そろそろキミも船での旅を楽しんできなさい。 まだ子供なのだから遠慮せずに、気の済むまで遊んでいくといい 』 …という船長さんからの優しいお言葉もあり、ご厚意に甘えさせて頂くことに なったのです……が……。 「あらあらやっぱり女の子ですわねえ。とってもよくお似合いですわ~」 「ねえねえ、これはこれは~?」 「ああそれは追加の箱ですわ。中身は確か…」 「ダンナってばフリフリの服も似合ってるね!」 「正確にはヴィクトリアンメイドタイプのメイド服ね。エプロンドレスとも言われるものだわ…」 「あらー箱の中身、随分高そうな服じゃない。どうしたのよこんな良いもの?」 「ふっふっふ。働く女の懐を甘く見てはいけませんわよスピアーさん♪」 わいわいきゃあきゃあ。 箱の中身を覗いたり、ひっぱり出しては楽しそうに会話している アヤメお姉さんと萌えもんのみんな。 私はというと、ちょっと置いてけぼりを喰らってしまったような気分です。 ですが、なんとか口を動かして質問してみました。 「…あのーみなさん。 ……なんで私、こんなことになってるんでしょうか?」 「「「「「「「 おもしろいから? 」」」」」」」 異口同音とはこのことなのですね。 7人全員、まったく同じタイミングで言ってくれましたよ…… orz 『 ヘタレの奮闘記。サントアンヌ号で着せ替え人形状態編 』 「ほらほらこっち向いてぇ~♪ いち足すいちはぁ?」 「…う、うぐ…」 「ダンナほら、笑って笑って!」 「…に、にー…」 ――― ぱしゃっ! 「はーい、バッチリ撮れたわよ~♪」 「それじゃあ次は、コレなんかどうよー!?」 「ああ、良いなそれも!」 「駄目よ、次はコレって約束したじゃない…」 「う~ん、どれもこれも素敵だから迷っちゃうね~」 「あ、コレなんだか厄神サマの服に似てる~!」 「じゃあ次は二ドリーナさんお勧めのソレで、その次がピカチュウさんのソレ。 そのまた次がプリンさんの持っているソレでよろしいですわね?」 「「「 はーい♪ 」」」 それじゃあお嬢さん、お着替え手伝いますから後ろ向いてー と声をかけられ、 アヤメお姉さんに言われるがままに動いてしまう自分。 無言の圧力というか何と言うか、そんな感じのものに押されてしまって逆らう勇気が沸いてきません… 「あ、あのーアヤメさん。 このお洋服どこから湧いて出たんですか?なんか山ほどありますけど…」 「何言ってるんですの。貴方もさっき見たとおり、コレは最新の萌えもん空輸のテストもかねて 運ばせたんですのよ。ちなみにこちらの箱は追加分。なかなか使えるみたいですわね~」 「はあ…」 「――― うん、お着替え完了。次は髪の毛のセットですわね~♪」 せめてもの抵抗として、話しかけることで着替えの手を休ませようとしましたが それすら何ともないようで、ちゃっちゃか次の服に着替えさせられてしまいました。 今度の服は二ドリーナが勧めてきたもので…ええと、チャイナ服…とはちょっと違うみたいです。 横に大きくスリットが入っているのですが、その下にズボンをしっかり履いているので あんまり恥ずかしくはありません。 花柄のレースが白い布の上に薄く被っていて、ピンク色の牡丹の花の刺繍が入っている とてもキレイな服です。 アヤメさん曰く「アオザイ」という名前の民族衣装だそうです。 そしてどこから出したのか、ウィッグを慣れた手つきで私の頭に装着していく メイドのツチニンさん。 流石メイドさんと言うべきか、あれよあれよという間に私のショートヘアに 可愛らしいお団子ヘアーが装着されたのでした。 「あらーコレもよくお似合いですわね~!」 「うふふ…マスター、キレイよ」 「あ、ありがとう二ドリーナ」 「んむむぅ~~ た、確かに似合ってるわね…。つ、次はコレだかんねヘタレっ!」 「ああちょっと待ちなさいよ!まだ写真撮ってないじゃないの!」 「あうあうあう!ピカチュウさんやめてウィッグはそうやって 無理に引っ張って取るものじゃないってばぁーーー!」 「次はピカチュウの選んだドレスっぽいワンピースでー」 「その次が私の選んだ厄神さまね~」 「正確にはそれ、ゴスロリドレスっていうんだけどね…」 「まあとにかく、まだまだあるから頑張っていこうぜマスター♪」 「アンタいっつもズボンに長袖シャツだから、何だか新鮮で楽しいわ~」 振り向けば全員笑顔、笑顔、笑顔。 そりゃあもうみんな良い笑顔をしていましたが、何故でしょうか 「…ひいいいいいいやあああああああああああああああ…!」 ……その笑顔に捕まったら最後、もう引き返せないと感じたのは…… ++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 「――― ぜ、ぜー、ぜはー…や、やっと抜け出せた…!」 萌えもんの皆&アヤメさん、そしてツチニンさんの合計8人の包囲網から なんとか抜け出すことに成功し、人気の無い廊下のすみっこで一人息を切らす自分。 まだ着替えさせられた格好のままなので、事情を知らない人に見られでもしたら 大いに怪しまれること請け合いです。 怪しまれるだけならまだしも、通報沙汰にでもなったりしたら大変なので とにかく気配をころし、時が過ぎるのをひたすら待ちます。 「はぁ…何だってまた皆、しかもアヤメさんまであんなことに熱中して… そんなに人を着せ替えさせるのが楽しいのかな…むぅ…」 みんなの嬉しそうな顔が見れて、私も悪い気はしなかったけれど… やっぱり何と言うか、恥ずかしさが抜けきらないというか。 いつも男の子みたいな格好をしている理由も、変な大人に攫われたりしないようにと (R団に一度拉致されましたが) お母さんに提案されたのを実行しているだけじゃなくて、自分自身女の子の格好が 似合わないと思っているからであって。 …長年他人にバカにされ続けてきたせいか、自信喪失も甚だしい自分。 でもいわゆる女の子らしい服装は、お前は世の中の女性全員を敵に回す気か ってなくらい 私には似合わないと思う。 でも、 何でだっけ どうしてだっけ。 私が、女の子の服が嫌いになったのは。 ――― ごそり 人のいないはずの廊下から、いきなり物音が聞こえてきました。 まさかもう皆に見つかったか!? と盛大に焦りましたが、どうやら違う模様です。 こう、泥棒みたいな感じでこそこそした気配するのです。 そーーっと物陰から、物音がした方向を覗いてみます。 視界に飛び込んできたのは、黒地に赤で大きく「R」と書かれた服がみっつ。 …そんな分かりやすい特徴を忘れるほど、私もボケてはいません。 (ろ、ロケット団…!?) そう、オツキミ山やハナダシティで私たちを苦しめた犯罪結社(?) ロケット団が、何とサントアンヌ号に乗り込んでいるではないですか! (ど、どどどどーして何でまたサントアンヌ号に…!?) 事情は良くは分かりませんが、わざわざあんな目立つ格好で乗り込んできたのです。 きっとまた、良くないことを起こしにやってきたに違いありません…! どうしようどうしよう…! ――― ひとしきり悩んだ後、何とか結論が出ました。 部屋から逃げて置いてきてしまったから、こちらの萌えもんはゼロ。 でもこのまま放っておいたら、船の中の人たちが大変なことになるのは必至。 …ならば… 「ま、ま、待ちなさいロケット団の皆さん!」 自分は生身の人間とはいえ、声ぐらいは出せるし騒ぐことくらい出来る。 ならば可能な限りロケット団の注意をひきつけて、なおかつ周囲の人たちに 感づいてもらえるまで騒げば、きっと警察を呼んでもらえるなり何なり、何とかなるはず…! という結論を脳内で出し、決死の思いでロケット団の前に姿を現したというのに。 ロケット団の皆さん全員、まるで氷付けになったみたいに固まってしまって。 「「「 ……… 」」」 「? な、なんですか?いきなり固まっちゃって…」 「いや」 「その」 「なあ」 「「「 …なんだってまた、こんなとこにシスターが… 」」」 そう 忘れてました。 自分は、さっき着せ替えられて…修道女の格好をしていたということを… 「………うわあああああああああああん見るなバカぁああああああああああああ!!!」 数秒の重い沈黙のあと、その場には私の絶叫とロケット団を殴打した音が響き渡り 一応は私の目論見は成功したみたいでした。 ……大いなる恥をたくさんの人に見られた という代償つきで、ですが…… orz +++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 「…………」 「もー、ダーンーナーぁ。 せっかくのパーティーなんだしさ、そろそろ機嫌なおしてよー」 「そうそう、それに船長さんがパーティーで直々に 感謝状送りたいっていうらしいしさ。 ヒーローがそんなむくれっ面じゃあ、盛り上がるものも盛り上がらないぜ?」 「……わかってるけど…せめてこの格好だけは……」 「はー…アンタねえ、こんなお金持ちの集うパーティーに いつものあの服で参加するつもりだったの?」 「悪いけれど、それはマナー違反よマスター」 「そうそう、TPOっていうの? その場にふさわしい格好をしていないっていうのは、とても失礼なことなんだよ?」 「いいじゃないの、似合っているんだから! 安心しなさいよ。アンタ自身がどう思おうと、アタシの目にはアンタは綺麗に写ってるわよ!」 「そうそう、似合ってなかったらここにいる全員で止めてたって」 今は夜で、ここは船内のパーティー会場。 ロケット団を何とか無事に捕まえてもらって、事なきを得た昼間から随分時間が経ちました。 私はただ騒いだだけなのに 船長さんったら大げさで、私に感謝状を渡したいなんて言い出して。 お陰で(?)本来なら参加なんかしなかったはずのパーティーに参加することになって… ……こんな、高そうなドレスを着せられる羽目になって…… 「あらまあ、お嬢さんったら。こんな素敵な夜に何をむくれることがありますの? それとも、そのお召し物がお気に召しませんでした?」 「あぁ、いえその、そういう訳ではなくて、ただひたすら恥ずかしくって …ってアヤメさん!? そ、その格好は…」 昼間の続きのごとく、私を綺麗な服に着せ替えたアヤメさんの声が聞こえて あわてて振り向いてみたら アヤメさんったら、とっても女らしい細身のお姉さんだっていうのに その身に纏っていたのは煌びやかなドレスではなくて。 まるで宝塚の男役のひとみたいにかっこいいタキシードで ビシッ!と決めていて ……同じ女なのに、思わず見とれてしまいました。 「ああ、コレですか? うふふ、貴女だけおいてけぼりにするわけには いきませんからね。私も着慣れぬものを着てみることにしてみましたの …似合いません?」 「っい、いいえ、いいえ全然! 全然似合ってますよ!!」 「ふふ、それなら良かった… ねえお嬢さん、貴女が女の服を嫌う理由…よかったら教えていただけません? 別に似合っていない訳でもないのに、勿体無いですわよ…」 口調はいつも通り、人の一歩先を進むような印象を受けるものなのに。 この時のアヤメさんの目と声は、とても真撃なものを感じました。 なんというか、嘘をついてはいけない目、というか…。 「理由、ですか……そうです、ね。 強いていうのなら…馬鹿にされるから、でしょうか」 「馬鹿に、される?」 「いやその、アヤメさんや皆は馬鹿にしていないことは分かってます。 …周りの人たちが、笑っていると、私の格好を馬鹿にしてるんじゃないかなあって… そう思ってしまうんです。 私、そういう環境で育ったせいなのか… どうにも自信が持てなくて、女の子の格好が苦手になっちゃって…」 「まあ、何て無粋な輩どもなんでしょう…!」 「ありがとうございます。でも、私」 言葉を続けようとして口を動かそうとしたら、その口をアヤメさんの細い人差し指で 塞がれてしまいました。 アヤメさんはというと、真撃な光を宿した両目で私をまっすぐに見つめて 「いいこと? 私、見込みもない者に構う暇は持ち合わせてませんの。 こんど貴女自身が貴女のことを卑下したり、他人が卑下しようものなら その口、掻っ捌きに参りますわよ?」 「…!」 「それに、ねえ。 貴女を好いている人は、貴女が思っている以上にいらっしゃるはずですわよ?」 怒った顔に見つめられていたかと思えば、次の瞬間にはアヤメさんは いつもの優しい笑みに戻っていて。 何気なく後ろを振り返ったアヤメさんにつられて、自分もその視線の先を見てみると そこには笑顔の船長さんや、たくさんの乗客さんたちが立っていました。 「いやあ、あの悪名高いロケット団を退治してくれたのが こんなに可愛らしいお嬢さんだったとは」 「本当にありがとう。あなたのおかげで、航海を無事続けることができたのよ」 「パーティーを始める前にそろそろ、表彰式を行いたいんだ。 お嬢さん、すみやかに終わらせるから、お願いできるかい?」 「…ね? 言ったとおりでしょう?」 向けられる視線は、すべて 笑顔、笑顔、笑顔 ―――。 でも、不思議と怖くはありません。 昼間は、あんなに怖く感じたというのに。 「ほーらっ、何やってんのよ!」 「早速ご指名がきたぜ?」 「ここで応えるのが女ってもんでしょうよ♪」 「ダンナ、いってらっしゃーい!」 「私たち、ここで見てるから…笑顔、忘れないでね」 「カメラでばっちり撮ってるよ~!」 「…う、うんっ! 行ってくる!」 「ああお嬢さん、後で私と一曲踊って下さらない? 私、明日で船を降りてしまいますの。だから…」 「はいっ! 上手く踊れるかはわかりませんけど、それでも良かったら!」 船長さんに連れられて、表彰式を行う場所へと向かう。 たくさんの視線が突き刺さって、とても緊張してしまったけれど 怖さはあまり感じなかった。 それはきっと、アヤメさんが教えてくれたように 私を好いている人が、思いのほか多かったからだと 私は思いました。
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俺の愛車は軽トラだ 「よっ!佐々木」 「やぁ、キョン。 ・・・というか、随分とプロレタリアートな匂いが漂う車に乗っているじゃないか。 君が何故その様な車に乗っているのかい?」 「ああ、これか。 田舎の親戚の叔父に進学祝いで貰ったんだ。 社会に出るまでこれで色々と勉強しろとな」 「くっくっくっ、君のイメージによく合うよ」 「そうだ、佐々木。 これに一緒に乗って登下校しないか?俺も運転の練習になるしお前も楽だろ?」 「いいのかい?キョン」 「ああ、俺に任せろ。 そう言えばお前は荷台が好きだったな。この車の荷台はお前専用にしてやるよ」 「・・・・」 俺の愛車は軽トラだ(Sasaki Side) これに一緒に乗って登下校しないか? そう言われた時、僕の心が大きく揺り動いたのは言うまでも無いだろう。 もし僕に犬みたいな尻尾があったなら、きっとぶんぶんと振ってしまったろうと思う。 ああ、僕が犬ではなくて本当に良かったよ。 尻尾があれば僕の気持ちはすべて君に筒抜けになってになったろうと真剣に考え、そんな事を考えている自分に呆れ、それでも僕は君との会話を楽しんでいたんだよ。 しかし次の言葉はまったく僕の想定外だ。 この車の荷台はお前専用にしてやるよ。 その時の僕がキョンの背中を蹴りたい気持ちになったのは、きっと誰も許してくれる当然の感情だと思う。 しかし、ここで素直に「君の横に乗りたい」と言えば負けになる。僕の小さなプライドは許さなかった。 「そうかい、僕専用とはありがたい。 君の厚意には感謝するが夏は熱射病、冬は霜焼けになりそうなのだ。 きっと何かの解決策があっての提案だと思うが、よければ僕に教えて貰えないか?」 こう言えばさすがのキョンも気が付くだろうと思った僕が浅はかだった。 キョンは軽トラの荷台に幌を取り付けた。 「中が暗いのだけど・・・・」 電灯が取り付けられた。 「少しは落ち着きたいのだが」 荷台専用のラジオ(短波だ)が付いた。 「お尻が痛くなっちゃうから」 ソファーを拾って取り付けた。 「色んな勉強もしたいし」 学習机が運転席と遮るように設置された。 「君と話がしたい」 インターホンが設置された。 「いささか安全性に・・・」 パンパンに膨らんだタイヤチューブに囲まれた。チューブレス全盛の世の中なのに。 「周りの騒音が・・・」 荷台に大型冷凍庫が特装され、冷凍車と華麗に変わった。 君は僕を冷凍サンマと共に心の中まで冷やそうと言うのかい? 僕は君が分かってくれるまで、横に乗ってくれと言わない限り、熱い情熱を胸に秘めて待ち続けるさ。 そんなある日、涼宮さんが助手席に座ってきた。 俺の愛車は軽トラだ(Kyon Side) キョン、キョン。 さっ、さすがに僕も限界だよ。ここは寒すぎるよ。 君を巡って命を賭すならまだしも、こんな命の散らし方では僕も浮かばれない。 しかしこれが君の望みなら僕はきっと・・・ 夏場に相応しくない強烈な悪寒を感じて俺は目を覚まし、暗い中で電灯を灯して時間を確認した。 午前3時半・・・・まだ起きるのには4時間も有るじゃないか!しかし、夢の中に佐々木が出てくるとは今まで無かったなと思いつつ、佐々木とはいつ会っただろうかとふと考える。ああ、分かっているさ。昨日の夕方の事だ。 昨日は実験が長引いて学校を出るのは10時ぐらいになってたな。 駐車場へすっかり変わり果てた愛車に乗ろうとしていたら、車の影から佐々木がひょこりと顔を出し、いつものように乗せてくれと頼まれた。 ・・・・なぁ、佐々木よ。人間は思わず楽をしたがるのが性分だが、待つ間の苦労を考えると素直に家へ帰った方が早く帰れるし親御さんもその方が安心するに相違無い。 そう俺が言うと「君は人の気持ちを全然理解してない」と、いつもの佐々木トークで散々に俺を打ちのめしてくれた。 斯く云うあいつも俺の事を本当に嫌ってはないのは毎日冷凍車に乗り込む姿を見ていると思うし、これが佐々木流のスキンシップであろうと俺は断言できる。 それで俺は何を考えていたんだっけ?そうだ、昨日の事だったよな。 学校を出てしばらくすると、右車線からスポーツカーがパッシングしながら駆け抜けて、ハザードを灯しながら俺を路側へと導いた。これで何度目だ? 黄色いポ○シェから降り立ったハルヒは仁王立ちでこうのたまった。 「あんた、そんな寒い車に乗ってないであたしの愛車に乗りなさい! 運転したいのならさせてあげてもいいわよ。ボロボロにされても許してあげるわ」 ハルヒのおねだりも最初の頃はかわいげが残っていて、はじめはいかにも親父さんのお下がりと言う感じが残るのマーク○だったが、最近は俺が拒んでいるせいか段々とエスカレートしてきて、車のグレードを段々と釣り上げて俺を誘おうとしてる。 マーク○がクラ○ンへ、そして外車になるのもそう時間は掛からなかった。 さすがに車を次々に買い換えるという暴挙には至らなかった様子だが、替え玉になる車は決まってレンタカーのナンバープレートを付けていた。 聞けば近所のトヨレ○で借りたららしいが、フェラーリやアルファロメオやルノーやシトロエンやジャガーやモーガン等々、外車をホイホイをレンタルするトヨレ○がこの世にあるかとハルヒに言ってやりたかったが、おそらくは陰で古泉も苦労しているに違いないと考えると、そう言ってやる事もはばかるのだ。 普段の俺はハルヒの誘いに「俺はこの車に色々手を掛けて愛着もあるから浮気は出来ないな」と遊女の誘いを断る遊び人の様な言葉で逃げていたが、今日のハルヒを見る限りはそんな言い訳では納得しないだろうと、目線を読んだ俺はそう考えた。 そろそろこいつに教えてやる日が来たようだ。 「ハルヒよ、お前は全然理解していないな」 「なによ、あんたにあたしの気持ちが分かるって言うの?」 いや、そうじゃないんだ。ハルヒよ。 車の運転というものは本来的に根本的に孤独で憂鬱な作業でしかないんだ。そこに楽しみを求めて追求するのが真の車乗りって云う物だ。 車という物は、自動車って云う乗り物は自由でなければいけないんだよ! お前の行動を見るに、車を道具としてしか、ステータスの証として捉えてないか? 俺はそんな考え方は断固として拒絶する! 徹底的に戦うぞ!断じて戦うぞ!!そう、これは自由な心を求める戦いなのだ。 俺はハルヒの手首を柔術の要領でひねり上げると、乱暴に愛車の助手席に放り込んだ。 「あんた、あたしに何する気!?」 「俺がみっちりと仕込んでやる!」 俺はアクセルをふかして7,000rpmまで上げると、おもむろにブレーキとクラッチを操り愛車を急発進させた。 さて、その時は何を考えていたんだろうね。 俺にもさっぱり分からない。俺にしては珍しく、いつもとは違う自分をハルヒなんぞにアピールしたかったのだろうか? 冷静に考えればそんな大事をやらかすとハルヒの方が乗ってきて、自分自身にその災いが降り掛かってくるのは火を見るより明らかな事だったが、多分に実験疲れだと思う。 きっと相当に俺は疲れていたのだろう。 川端通りを弾丸のように駆け抜けた俺は、京都南ICから高速に乗り一路西へと車を進めた。 この一角は結構いろんなハイテク関係の会社が多く、古都らしからぬ鮮やかなネオンサインが瞬いているが、そんな風景を眺めている余裕もなく俺は長大なトンネルへ車を進めた。 めくるめく光と闇の連続にハルヒもさすがに驚いていたようだ。 いや、違うかな?多分そうだろう。 最初は違和感を感じるものだ。 自分の目線が普段と違っていれば違和感も当然感じるであろうし、まして自分のつま先のほんの向こうが外の世界になっているのだ。 軽トラ特有の乗車感と云っても過言ではない。 俺は教習者からこの愛車へ乗り換える時にそう感じたし、ハルヒだって家の車や借用車との走行感の違和感を感じているに違うない。 子供みたいなこいつが車に乗ってから妙に大人しくしているも納得だ。 だが、俺が見せたい感じさせたいと思っているのは暴走ではなく、本当に走る楽しみをハルヒに教えたいのだ。 ここまで来るまでに一体幾ら費やしたんだろうね。 普段なら荷台の主と会話しつつ下道を走り続ける俺なのだが、この時だけは高速を使って走り続け、気が付けば女子に人気の歌劇の舞台がある街まで進み、そこでようやく下道へと降りた。 さすがにここまで一気に突っ走ると有る程度の心地よい疲労感と達成感で少し興奮気味となり、少しは喉を潤して落ち着こうという気が起きてくる。 そこですっかり暗くなった誰かさんの記念館の傍にあるコンビニに車を停めて、ハルヒを連れて買い物へ出掛けた。 こんな状態になるのは何年ぶりの事かね? ハルヒは不安げな表情で俺の上着の袖をちょこんとつまみ、俺の半歩後ろを付いてきた。 閉鎖空間以来の仕草だな。 「ねぇ、なに買うつもり?」 俺がコンビニではコーヒーぐらいしか買わないのを憶えていないのだろうか? 「これ、買ってかないの?」 いらないよ、一体何をしに来てるんだ? 「えっ、使わないの!?」 だからいちいち五月蠅いってば。 「あんたがそのつもりなら、あたしだって気合いを入れて・・・・」 気合いを入れてくれるのは大いに結構だが、気合いを入れるアクションに俺を巻き込むのは勘弁な。 車を再び鞭を打った俺は山へと向かって走り出した。 俺がなにをハルヒに伝えたかったか、そして何処へ行ったか分かるだろう。 俺は運転する操作と、その反応を楽しむ事をハルヒに教えたくて、裏六甲から明石へと抜ける九十九折りの道を選んで俺は駆け抜けようとしたのさ。 アクセルは常に6,000rpm以上をキープして巧みなシフトチェンジを繰り返し、時にマフラーから炎と衝撃波を奏でつつ、暗くなった山道を旋風の様に駆け抜けていった。 こんな道楽はAT車しか乗らない奴は実感できないんだろうな。エンジンの鼓動を直に感じられるのがMT車の快感なのだよ。 「あんた、なに一人で悦に入りながら運転しているわけ? これがあんたの言う仕込みなの!」 俺はゲンコツで殴られた。 話をしながら殴るとはお前の器用さは認めてやるが、運転中に殴るのは御免被りたい。危ないからな。 さっさと車を停めろと言うので俺は仕方なく車を停めるとあいつ、さっさと降りやがった。 「あんたには散々あきれたわ。あたし歩いて帰るわ。 もう二度とあたしの前に出てくんな!」 こいつとはやっぱ折り合いが付かないのかと、怒り肩で山を降りようと突き進むハルヒを眺めてそう思った。 ここでこのまま帰しても良かったのかも知れないが、その時の俺は動揺していたに違いない。 「ハルヒ、待てってば!」 世界崩壊とか世間体とか俺の気持ちなんて、この際だからどうでもいい。 普段から反りの合わない俺達だが、ここで帰すと何か永遠に何かを喪失してしまう感じたした。 ハルヒに駆け寄った俺は肩を強く握り、ハルヒの脚を止める事に何とか成功した。 「あたしの前にもう出て来るなって、さっき言ったばかりじゃない・・・・」 それはそれでハルヒにしてはパンチが無い反応で、少し鼻声だった。ハルヒの顔が読めない暗闇で、この仕草が伝わるか分からなかったが、俺は天上を指し示し「苦労しないとこんな夜空も拝めないんだよ」と語っていた。 俺も一緒に天を仰いだが、そこは俺自身の想像を遥かに超えた景色があった。 漆黒という名の絵の具の中で様々な色合いや光り具合の星々が自分を主張していた。 無論、夜空の星に目の焦点の機能が追い付く訳でもなく、すぅと自然と呑み込まれるかの具合で見ている人間の精神までも吸い込みそうな、そんな景色だった。 流星が夜空を横切ったのは本当に偶然だろう。色んな色に次々と変わる綺麗な流星だった。 「わかったわよ。 もう帰るなんて言わないから、もう少しこの景色を見させて。 あんたはあたしがいいって言うまで後ろを向いてなさい。命令だから・・・・ね」 随分とわがままな事をおっしゃるお姫様だな。 俺はハルヒが言うままに後ろを向き、天上の闇に再び視線を向けた。 この宇宙では高度に意識を持つに至った有機生命体は地球人しか居ないらしい。むかし長門が言っていた。 こんな当たり前に存在する景色を見て素晴らしいと感じるのが人間だけとは勿体無い話だ。 そうだ、長門はこんな景色を見て何と感じるのであろうか。願わくば・・・・・・・・、 そうだったな。 そんな事があってハルヒを家まで連れて帰り、別れ際に「あんたがせめてAZ-1に乗ってればね」と言われ、俺が「廃版車マニアにまだ成りたくもないね」と返してその日の会話は終了した。 それが2時過ぎの話だったと思う。それから家に帰って家族が起きないように足音を忍ばせて自室に帰り、メールチェックをすませて服を着替えて床に入った。 これが大体3時ぐらいだったと思う。 昨日の話は以上なのだが、さて俺は何故に昨日の事を思い出していたのだろうか? ・・・・・・・・・・・・あっ! 慌てて駆け出した俺は靴を履くのも忘れて愛車へと掛けつつ後部の扉を開いた。 そこには新田次郎もビックリするぐらいに八甲田山じみた佐々木がいた。 「ひどい、非道過ぎるよキョン。 僕は身も心もすっかり凍り付いてしまったではないか。 君はこんな僕をどうやって温めてくれるのかい?きっちり責任は取って貰うつもりだよ」 ――わかった、わかったから今日は俺の家に泊まっていけ。 ――明日は温泉にでも連れて行ってやるからさ。 佐々木はやっと微笑みを取り戻した。 ・・・・明日はスパワールド決定だな。 そう考えながら俺は佐々木の手を取って部屋へといざないだ。 25-738「俺の愛車は軽トラだ」 25-807「俺の愛車は軽トラだ MK.Ⅲ」 26-86「俺の愛車は軽トラだ MK.Ⅳ」 26-92「俺の愛車は軽トラだ MK.Ⅴ」 26-111「あたしの愛車は冷凍車」
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Chapter4「火竜の国ムスペ」 第2世界―― かつて機械や科学で世界が栄えていた太古の時代。その文化の中心地は天地を貫く大樹のそびえる大樹大陸にあった。すなわち、力の国フィーティン、精神の国ヴェルスタンド、そして機械の国マキナだ。それら3国は激しい戦いを繰り広げ、最後には第2世界そのものを破壊しつくして機械文化は滅んでしまったという。人々は大樹を昇り空の世界へ、竜族と出逢い魔法を教わり魔法文化の栄える第3世界へと時代は移行するのだがそれはまた別のお話である。 第2世界の度重なる争いや第3世界の終焉を導く原因になった魔法戦争の影響でこの大樹の大陸はばらばらに分断されてしまい、新しくいくつもの島や大陸が誕生することになった。そのうちのひとつがこのフィーティン大陸、かつてフィーティン国があった場所だ。 フィーティン大陸の北部、ちょうどかつてのマキナとフィーティンの国境があったあたりにエルバーツという場所があった。アース大陸のステイブルとよく似た牧場のような集落だ。ここにもステイブルと同様に馬の種族が暮らしている。 ティル誘拐の一件から数年、今はそのエルバーツにナープは滞在している。ナープ兄弟の父親は依然として見つかっていなかった。 「うーん……。ここは行ったし、こっちはガルフが行ってるから……。サーフのやつ、ちゃんとやってるのかな」 地図を眺めながら唸り声を上げるナープ。そんなナープに話しかけるのは、このエルバーツの族長ミネラだった。 「調子はどうだい? あまり根を詰め過ぎるのは良くないよ。少し休んではどうかな」 「いえ、大丈夫です。それよりも、早く父さんを見つけないと……。あまりあなたたちに迷惑をかけるわけにもいきませんし」 ミネラはここしばらくエルバーツに滞在しているナープに寝床を用意してくれて、他にも色々と良くしてくれていた。それももうすぐふた月にはなるだろう。あまりミネラに、エルバーツに迷惑をかけるわけにはいかないとナープは考えていた。 「ナープさん、あなた宛にお手紙が届いております」 そこに族長補佐が手紙を持って現れた。 「そうか、ご苦労。内容は?」 ミネラが問うと、補佐は手紙の内容を読み上げる。 「はい、サーフという者からです。『山脈村付近の森でヘンなやつらに絡まれたので助けに来てほしい』とのことですが……。ナープさん、いかがいたしましょう?」 「サーフだって!? あいつ何やってるんだ! 仕方ないやつだなぁ……。ありがとうございます、僕はサーフのところへ向かうことにしますよ」 「何かお手伝いできることはありますかな?」 「いえ、これ以上ご迷惑をかけるわけにはいきませんから。それにどうやら、この辺りには父さんはいないようなので僕はそろそろここを経とうと思います。今日までのご厚意、感謝します」 「そうですか。それではお元気で……また、いつでもエルバーツに遊びにいらしてください。道中お気をつけて」 「ナープ君、私は無事にお父さんが見つかることを祈ってるよ」 「ありがとう。それではこれで!」 別れの挨拶を済ませると、ナープは急いでサーフのもとへと飛んで行くのだった。 山脈村はフィーティン大陸の南西にある地域のことを言う。”村”とは言ってもその地域はとても広範囲にわたり、大陸を飛び出してその付近の海域や一部の島すらも含めてそれを山脈村と呼ぶ。 山脈村に棲むのは竜族リドディオーブ種だ。リドディオーブの身体は非常に大きく、とても長い体躯を持つ翼を持たない竜族だ。その身体は山にとぐろを巻けるほどに大きく、翼がないにもかかわらず魔法か何かの力で自由に空を飛ぶことができる。とある地域ではそれは龍と呼ばれることもある。そんな巨体のリドディオーブたちにとってはこの広範囲の地域ですら村と呼ぶほどの広さしかない。かつて第3世界の頃にはそんなリドディオーブたちがフィーティン大陸を初め数多く暮らしていたものだが、今ではそれも数頭程度のものになってしまっている。 山脈村にはその名の通り数々の山脈が連なっているが、そのうちのひとつクオル山脈の麓の森の中にガルフは迷い込んでいた。 「おかしい。この木はさっき見たはずだが……いや、それはあっちの木だったか? どれも同じに見えてくるな。仕方あるまい、とにかく進んでいけばそのうち森から出られるだろう」 ガルフが適当に森の木々をかき分けながら進んでいくと不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。 「………ーーーい。おーーーい、誰かァ! 誰かいないのかー! ナープ~!!」 「ナープだと? この声は……」 声のするほうへ向かうと、ガルフと同じアキレア竜の姿がそこにあった。 「ナープゥゥう~? あ……! おおー、ガルフぅ! 良かった、助けて」 「なんだ、サーフか。おまえ一体こんなところで何をしているんだ」 「絡まれてるんだよ。この忌々しい蔦に! 見ての通り、わかるでしょ!?」 見るとサーフは木々の間から垂れた蔦にこれでもかと言わんばかりに絡み付かれていた。 「見てわからんからこうして聞いている。おまえも親父を捜していたはずだ。それがどうしてそうなった」 「いや、ちょっと……その、探検してたっていうか」 「……俺は帰る」 ガルフは踵を返して来た道とも進もうとしていた道とも見当違いの方向に進もうとする。 「ま、待ってよ!」 「なんだ。親父を見つけたのか?」 「いや、まだだけど……」 「そうか、それじゃあな」 「待ってったら! ふと思ったんだよ、もしかしたらお父さんは地上じゃなくて空にいるのかもしれないって! だって、そうでしょ。こんなに捜しても見つからないんだから!」 「…………ふむ。空か、それは盲点だった。一理あるな。ではさっそく行ってみるとしよう」 それを聞くなりガルフは翼を広げると空へと羽ばたいて行ってしまった。 「助けて行けよ!!」 ガルフが去ってしまってから少しすると、それとは入れ違いにこんどはナープがサーフのもとへとやってきた。 「ああ、こんなとこにいた! どうしたんだ、サーフ!?」 「ナープ! 良かった、実は……」 サーフはガルフにしたものと同様の説明をした。 「帰る」 ナープもガルフがしたものと同様の反応を示した。 「だから待ってったら!! そういえば、さっきガルフが来たよ!」 「兄さんが? なんでまたこんなところに……。それで何か言ってた?」 「地上にはもういないんじゃないってボクが言ったら、すぐに空へ飛んでっちゃったよ」 「空か……たしかにそれは盲点だったなぁ。魔法時代の遺跡があるって噂だけど、今でも誰か住んでるの?」 「遺跡ばかりじゃないさ。ちゃんと国だってあるんだよ。ボクはムスペに行ったことがあるんだ。知ってる? あそこのムスペまんじゅうはね…」 「ムスペか。なるほど、それじゃあまずはそのムスペに行ってみよう」 それを聞くなりナープは翼を広げると空へと羽ばたいて行こうとした。 「だから助けて行けよ!!」 大樹の頂上には第3世界のユミル国から分裂した3つの国やかつての王宮が廃墟として遺されているが、現在の空に存在しているのはそれだけではない。第3世界よりも以前からあった竜族たちの国々がまだいくつかは現存しており、ムスペもそのうちのひとつだった。 火竜の国ムスペ。正しくは『ムスペルスヘイム』という。 外からは一見ただの厚い雲にしか見えないが、ムスペの国土はその内にある。そう、空でありながら国土なのだ。ムスペは外側から見れば巨大な積層雲だが、そこには大火山を載せた浮島が内包されている。その島がなぜ雲の中にあるのか、どうやって浮かんでいるのか、その理由はよくわかっていないがこの浮島こそがムスペの国土なのだ。 「……だってさ」 サーフがガイドブックの解説を読み上げた。まるで旅行気分である。 「サーフ、遊びにいくわけじゃないんだぞ」 「まずムスペまんじゅうでしょ。ああ、それとムスペせんべいも欲しいな。ちょっとマイナーだけど、あれもおいしいんだよね~。それからそれから…」 サーフはまるで聞いていない。ただただ呆れてものも言えないナープだった。 ナープたちはムスペの積層雲のすぐ前までやってきていた。 火山灰を含む雲の外壁は外の世界と中とを遮断している。雲の上部が薄くなっているのでそこを通過してムスペに入ることができるが、飛行能力を持たないものは大火山の火口に一直線なので注意が必要だ。また噴火時はここを通行することができない。ちなみに、名菓ムスペまんじゅうがお土産として大人気である。 「……サーフが言ってたのはこれか」 サーフから取り上げたガイドブックには他にもムスペの名所案内や宿泊施設などの情報が記載されていた。 「ね! いいところでしょ。早く行ってみようよ!」 「そうしよう。けど、観光地には寄らないからな」 「そんな冷たいこと言うなよぉ」 サーフの文句を聞き流しながら積層雲の上部へと向かう。一見してただ雲の絨毯が広がっているだけのようだが、そこを突き抜ければその先がムスペだ。ちょうど今もその雲を突き抜けて一頭の竜が姿を見せる。 「あれは……」 姿を現したのはナープたちよりもずっと身体の大きい竜族原種だ。水門の城でティルを誘拐しようとしたラルガのことを思い出して思わず身を強張らせるナープ。しかし、それを知らないサーフは何を気にすることもなくその竜に話しかけている。 「こんちわー。観光ですかぁ?」 「む。いや、俺は探しものがあってここを訪れただけだ。ちょうどいい、おまえビゲスト大陸はどっちか知らないか」 ビゲストは分断されたかつての大樹大陸のひとつで、ちょうど機械都市マキナがあったあたりだ。ビゲストはかつて第2世界での汚染が原因で島が丸ごと砂漠化してしまい、今では遺跡が残るだけで他には何もなく棲む者もいない。 「ビゲストならここから降りて東のほうだよ。大樹まで行って、それに沿って降りてから行ったほうがわかりやすいかもね。あそこは何もなかったと思うけど……。気をつけて行ってね、おじちゃん」 「おじちゃんではない、俺はヴァイルだ。これでもかつて俺は…………いや、昔話はよそう。助かった、恩に着る」 ヴァイルは何かを言いかけたが、結局それを話すことはなく大樹のほうへ向かって行った。 「……なんだったんだ、あいつは」 「なーに怖い顔しちゃってるのさ。ナープって原種竜きらいだったっけ?」 「別に」 「ふーん。まぁいいや、早くムスペに行こうよ」 「……まあいいか、たぶん関係ないだろうし。そうしよう」 そういえばティルは今頃どうしているんだろう。両親は見つかっただろうか、記憶は取り戻せたのだろうか……そんなことを考えながらナープはムスペの入口へと向かう。そんなナープの目の前に不意を突いて、突然小さな影が雲の中から飛び出してきた。 「う、うわぁっ!!? なんだこいつ!」 「メー! メェーメメー! メェィェ!!」 それは桃色で流線型の身体をしていて、翼はないが宙を自由に泳ぎ回っている見たこともないヘンな生き物だった。そしてそれはなぜか嬉しそうにメーメーと鳴きながらナープの周りをぐるぐると飛び回っている。 「あはははは! ナープ驚いてる。それはメーっていうんだよ。空にいっぱい飛んでる、空で言うところの魚みたいなものだよ。塩焼きにするとおいしいんだ。たまーに地上でも見かけるけど、見たことなかったかな」 「そうなのか。僕は始めてみるな……って、うわっ」 サーフの顔は大量のメーに囲まれて見えなくなっていた。 「だ、大人気だな。サーフ」 「そうだね。なかなか素質があると思うな、わたしは」 「素質ってなんのだよ……。え? だ、誰?」 ナープの隣にこんどは見たこともない雌の竜人族が立っていた。全身にふわふわとした虹色の羽毛が生えていて、背中には白鳥か天馬を思わせる大きな翼が見える。これも空に暮らす民なのだろうか。 「はじめまして。わたしはクリア、メーマスターだよ」 「メー……マスター……?」 「わたしはメーのことばがわかるの。これができるのはたぶん世界中探してもわたしぐらいしかいないんじゃないかなぁ。そこの子、サーフだっけ? サーフはメーマスターの素質があるかもしれないね。まぁ、わたし程になるにはまだまだ修行が要りそうだけど」 「はぁ…。メーマスターのクリア、ねぇ」 「メーはすごいんだよ! 一匹じゃすぐに捕まえられて今晩にはまな板の上かもしれないけど、例えば千匹も集まれば大地を引っぺがしてちょっとした島を空まで運んできちゃうんだから! そうやって新しくできた浮島もいっぱいあってね……あっ、ほら。例えばあそこに見えてるあれとか」 また変なやつが出てきたと思いながら、突然クリアが始めたメー講義をぼんやりと聞き流すナープ。 「えーっ、まじで! メーすごい!!」 一方サーフは目を輝かして話に耳を傾けている。たしかに素質があるのかもしれない、そのメーマスターとやらに。 「そういえばね。ケツァル王国って知ってる?」 どうやらメー講義は終わったらしい。こんどはクリアは別の話題を投げかけてくる。 「え? あ、ああ……うん。どこかで聞いたことがあるような、ないような」 「ちょっと昔まではバルハラ王宮の跡地にそのケツァル王国っていうのがあったんだって」 「ふーん、そう。じゃあ今はもうないんだ」 「ある日突然滅んじゃった。一晩明けたらなぜか廃墟。原因は不明。ユミル国の呪いだって噂もあるけどね」 どこにでもあるような都市伝説か何かだろう。ナープはとくに興味はなさそうに空返事をしていた。 「うわー、不思議な話だね! 何なに? ボクにも教えてよ! そのケツァル王国の遺された財宝とか、そういうのないの?」 相変わらずサーフだけは興味津々のようだったが。 サーフが食い付いたのでクリアの話はまだまだ続きそうだった。 「ああ、やれやれ……。そういえばガルフが先に来てるって言ってたけど、兄さんちゃんと来れたのかな」 一方そのころ、ガルフは道に迷ってムスペとは別の国、ニヴルに着いてしまっていたのだった。 Chapter4 END 竜の涙5
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微笑みを繋ぐ世界 灰原ユウヤは夢を見ていた。 それが「夢」だと認識できたのは、目の前にもう一人の…一年前の自分がいたからだ。 そして、その自分は機械的な動きでCCMを操作し、相手のLBXを蹂躙する。 腕を、脚を切り落とし、首をねじ切る。 LBXを愛するユウヤには…いや、例えユウヤ以外だとしても、見るに堪えない光景だった。 『…もうやめろ!やめてくれ!』 ユウヤがそう念じると、それがもう一人のユウヤに伝わったのか、その動きが止まり、そして消え去った。 だが、過去の自分が操作していたLBX…忌まわしき機体「ジャッジ」の姿は健在だった。 そして、だんだんとその姿が大きくなり、やがてこちらを振り向く。 ジャッジが掴んでいたLBXの残骸は、いつの間にかユウヤの生首になっていた。 それだけで心臓が止まりそうになるが、ユウヤの首は虚ろな瞳で何かを喋っていた。 やがて、ユウヤの耳にその言葉が伝わる。 ヒトリニ、シナイデ… 「うわぁぁぁっ!」 悲鳴とともに、ユウヤが悪夢から覚める。 この所、ほぼ毎日この悪夢を見ていた。 ディテクターとの戦いを通じて仲間は増えた。 BCエクストラスを経て、LBXへの想いを確かなものにできた。 しかし、ユウヤがそうして絆を深めていくごとに、その悪夢は色濃く蘇る。 過去の罪が、未来への歩みを阻んでいるかのようだった。 荒くなった息を整えようとする。 だが、いつまでも胸の鼓動が収まらない。 胸が締め付けられる感覚がする。 纏わりつく汗が体温を奪い、体を震えさせる。 自分の体ではなくなってしまったかのようだった。 ―――ユウヤ!?どうしたの、ユウヤ! 突然、扉の外から、声が聞こえてくる。 その声が誰の物だったかを認識するよりも早く、扉が開かれた。 声の主は、花咲ランだった。 「どうしたのユウヤ、敵!?」 「あ…いや、そういうわけじゃないんだ。ちょっと夢を見てただけだよ」 「夢?なんだぁ…」 そういうと、ランが安堵のため息をつき、同時に肩を落とした。 多分、侵入者か何かを叩きのめしたかったんだろうな…と、ユウヤは妙に冷静に考えていた。 「…ところで、ラン君はこんな時間まで何をしてたんだい?」 「え?あ、いや、あたしは別に…」 そう言って不自然に後ずさるが、ランが体の後ろに隠していた、木の剣と盾が地面に落ちる。 ランは慌ててそれを拾って隠すが、ユウヤにはそれが嬉しかった。 (まだ続けていたんだ…) それが何故か微笑ましくて、自然と笑みがこぼれる。 いつの間にか、胸の息苦しさは消え去っていた。 「あ、あはは…それよりユウヤ、すごい汗だよ。背中までびっしょり」 「あぁ…そうだね、それじゃあ」 「アタシが拭くよ」 …服を脱ぐから外に出てくれ、と言おうとしたがユウヤだが、ランに言葉を遮られた。 「いや、これくらい自分で…」 「遠慮しない、ホラホラ」 ランが半ば強引に、ユウヤの上着に手をかける。 ランの厚意を無駄にするのも気が引けたので、ユウヤは黙ってその動きに従った。 ユウヤの肌に、タオルの柔らかな感触が触れる。 それ以上は意識するとかえって恥ずかしかったので、目を閉じて何も考えないようにした。 「でさ、どんな夢見てたの?」 「それは…」 ユウヤは言葉に詰まった。 心配をかけたくなかったし、ランに過去の自分を知られたくはなかった。 そんなユウヤの心情を察してか、ランは言葉をつづける。 「アタシもね、昔は怖い夢を何度も見たよ。でも、そんな時はじいちゃんが話を聞いてくれて、それで一緒に寝てくれたの。 そしたらね、怖い夢を見なくなったんだ」 懐かしむように話すランだが、ユウヤの心情は複雑だった。 自分の家族はいない。 覚えているのは、イノベイターの施設と研究員の姿ばかりだった。 「…ありがとう。でも、こればかりはちょっと…」 「そこまで言うならいいけどさ…じゃあ、代わりに添い寝だけしてあげる」 「そ、添い寝?いや、それこそちょっと…」 「いいからいいから。さ、寝よう」 ランはタオルをベッドの脇に無造作に置いて、そのまま横になった。 ユウヤはせめて替えの上着を着ようとしたが、ランに腕を掴まれていたので、仕方なくそのまま眠ることにした。 「なんか…ドキドキするね」 ランが照れ臭そうな笑みを浮かべる。 ユウヤは正直緊張して、それどころではなかった。 目が覚めたばかりで眠る気分にもなれない。 更に体が熱を持って、先ほどとは違う意味での息苦しさが、ユウヤの意識を支配する。 「これじゃ眠れないな…」 「そうだね…アタシも疲れてたから、すぐ寝れると思ったんだけど…」 「僕は起きたばかりなんだけどな…」 「…それもそっか」 そういうと、ランが小さく笑う。 その笑顔を見て、ユウヤの緊張が少し解けた。 だが、胸の高まりは収まらなかった。 しばらくの静寂が続いた後、ランがユウヤの事を、深く抱きしめた。 突然の事で、ユウヤは頭が真っ白になる。 「ら…ラン君?いきなり何を…」 「いや、こうしたら寝れるかなーって思って…」 まるでぬいぐるみか何かのように、ユウヤの頭を胸元に抱きかかえる。 熱く、柔らかな感触が、ユウヤの顔を刺激した。 確かに目を閉じていたならば、その感触は眠りそうになるほど心地いい。 だが、それがランの体だと考えてしまうと、そうはいかなかった。 何より、互いの持つ熱のせいで、とても眠れる状況ではなかった。 「ラン君、ちょっと暑い…」 「もー、ワガママだなぁ」 少しムッとしながらも、ランはユウヤを解放する。 肌に触れる冷えた空気を感じながら、大きく息をついた。 「…どうして、僕にここまで構ってくれるんだい?」 照れ隠しにランに顔を背けながら、ユウヤが尋ねた。 「どうしてって…変?」 「それは、まぁ…ここまでされるとちょっと…」 「…アタシからすれば、ユウヤの方が変だけどなぁ」 「僕が?」 「すぐ色々言ってさ、なんだかんだで距離を置こうとするよね」 「それは…」 一理あるかもしれない、と思った。 いや、実際はその通りだった。 自分では、昔の事から決別し、大きく変わったと思っていた。 しかし、心のどこかで、人と深く関わる事を避けていた。 過去の自分を知られ、離れていくのが怖いから。 また一人になるのが、何よりも怖かったから。 「なーんか、壁感じちゃうなー」 そう言いながらも、ランの言葉はいつも通りの明るさだった。 だが、それとは対照的に、ユウヤの気分は沈んでいた。 (僕を孤独にしていたのは、僕自身だったんだ…) 今までどれだけ壁を作ってきただろう。 表面上は仲良くしていても、やはりどこかで一線を置いていたのではないか。 ユウヤは仲間全員を裏切っていたように感じてしまい、顔を俯かせた。 「ごめん…」 「…いいよ、謝んなくって。その代わり、これからはそういうの無しだからね」 ランが強引に、ユウヤの顔を自分に向けさせる。 「『でも』とか何とか言って距離を置くのは無しってこと」 「ラン君…」 「そりゃ、アタシじゃバンやジンみたく頼りにならないかもしんないけどさ…アタシだって、ユウヤの力になりたいんだよ」 「僕の、力に…?」 「うん。…やっぱ、アタシじゃ駄目?」 「…いや…ありが、と…っ…」 ユウヤは表情を隠すかのように、ランを深く抱きしめる。 だが、溢れる涙と肩の震えは、抑えられなかった。 それに気づいたランは、そっとユウヤの体を抱き返した。 「ユウヤは、一人じゃないよ」 ランが、ユウヤの髪を撫でる。 「アタシはずっと、ユウヤといるから…」 「…でも…本当に、いいのかい?」 「ほらまた言った」 「あ、そっか。その…」 「…アタシはいいよ」 「…僕もだ…いや、ラン君がいいんだ。ラン君に、傍にいてほしい」 「…アタシも、ユウヤに傍にいてほしい」 ユウヤは涙を拭って抱擁を解き、ランの瞳を見つめた。 「…ありがとう」 「こちらこそ」 そう言って二人は微笑みあい、そして、どちらからともなく唇を重ねた。 しばらくは唇同士の、幼い口づけだった。 やがて互いを深く求め、舌を絡める大人のキスを交わし始めた。 「ん、っ…」 「…ぅ…」 二人の喘ぎが交差し、混じり合う。 だが、息苦しさを感じたランが、ユウヤの体を軽く押し返す。 軽く息を整えて、ふぅ、と一息ついた。 「ユウヤ…最後まで、する…?」 その問いに、ユウヤは少しだけ迷ってから、小さく頷いた。 ランが服に手をかけていく。 ユウヤも服を脱ごうとしたが、その段階になって、ユウヤは自分が上の服を脱いだままだったのを思い出した。 残ったズボン、そして下着も脱いで、ベッドの横に軽く折りたたむ。 振り返ると、ランの脱衣はもう終わっていた。 流石に恥ずかしいのか、自分の腕で胸と、大事な部分を隠している。 その扇情的な姿に、ユウヤは息を飲んだ。 ゆっくりとランを押し倒し、胸を隠す手をどけさせる。 今度はランが、恥ずかしさで顔を逸らした。 「綺麗だよ、ラン君…」 「…それは、言わなくていい…」 ランは羞恥心から、少し不機嫌そうな声を上げる。 ユウヤはランの胸を手で覆い、軽く撫でた。 「っ…」 ランの体が小さく跳ねる。 露わになった首筋に、キスをした。 「んっ、ぁ…」 ランの嬌声が室内に響いた。 ユウヤは唇を鎖骨、胸元へと移していき、そして胸の先端を口に含んだ。 「や、そこ…んっ…!」 僅かな拒否の言葉とは裏腹に、ユウヤの頭を抱きしめるように手を回していた。 ユウヤの口内で、ランの乳首が固さを帯び始める。 一通りその感触を味わうと唇を離し、もう片方の胸へと移った。 「やぁ…ユウ、ヤ…っ…」 先ほどより甘く、蕩けたような声を上げるラン。 同じくらいの刺激を加えた後、ユウヤはランの胸から離れ、足の間に割って入った。 ユウヤの指が、ランの秘所に触れる。 だが、それは愛撫ではなく、確認のような手つきだった。 「…ここ…で、いいんだよね…」 「うん…多分、そう…」 二人とも知識として知ってはいても、経験などなかった。 互いに確認をしあったうえで、ユウヤが自身をランの入り口に押し当てる。 「…じゃあ、行くよ…っ…!」 ユウヤはゆっくりと、しかしランの奥まで、自身を突き入れた。 「うぁ…っ!」 一瞬だが、ランが声を上げた。 それは喘ぎとは明らかに違う、痛みの悲鳴。 自分の体が、そこから二つに引き裂かれるかのようだった。 だが、ランは必死に拳を握り、歯を食いしばって、その痛みに耐えた。 (…気に、しないで) そう言ったつもりだった。 だが、痛みで言葉にならなかった。 激しい痛みに襲われ、目に涙を浮かべながらも、ランはユウヤに微笑みかけ、その頬を撫でた。 ユウヤの方は、困惑していた。 ランのリアクションを見る限り、想像を絶する痛みに襲われたのだろうと思った。 結局自分の快楽に流され、他人を傷つけてしまったと考えていたのだ。 そんな深刻そうな表情を浮かべるユウヤの頬を、ランの指が容赦なくつねりあげた。 「い、いたたた…!」 「…これで、おあいこだね」 ようやく痛みに慣れてきたランが、少しだけ掠れた声で言った。 「お互い、したい事をしただけなんだから…気にしないで…」 「…ラン君…」 「確かに、死ぬほど痛かったし…大事な初めてだったけど…ユウヤだから、いいよ…」 「…分かった。じゃあ、また動くよ…」 「あ、ちょっと待って」 「え?」 戸惑うユウヤの体に手を回し、耳元で囁く。 「愛してるよ、ユウヤ」 いつもと変わらない笑顔を浮かべるランに、ユウヤも囁いた。 「僕もだよ…愛してる、ラン君」 ランの上に乗ったユウヤが、腰をランに打ち付ける。 「あ、あっ…んっ…!」 ユウヤの動きに合わせ、ランが喘ぐ。 痛みが完全に引いたわけではないが、それでも快楽の方が勝っていた。 「はぁ…いい…ユウヤ、っ…!」 その声に触発されるかのように、ユウヤの動きも早まる。 ユウヤには言葉を発する余裕はなかった。 少しでも気を抜いたら、果ててしまいそうだったからだ。 「ね、ユウヤ…もっと、奥まで…!」 その言葉に頷いて、ユウヤは更に深く強く、自身を突き入れる。 「あぁ…いい、それ…!」 ランの声のトーンが一層上がった。 互いに、もう限界が近かった。 「ユウヤ、ユウヤ…っ、あぁ…!」 体の奥深くにユウヤの感触を感じ、ランが果てる。 それとほぼ同時に、ユウヤもランの中で果てた。 その後、互いに息を整えていたが、既に疲労が限界を超えていた二人は、そのまま眠りに落ちて行った。 ユウヤが目を覚ますと、目の前にランの寝顔があった。 その無防備な表情が無性に愛おしくて、髪をそっとなでる。 刺激しないようにしたつもりだったが、ランも目を覚ましてしまった。 起こしてしまった罪悪感と、視線が合った照れ臭さで、気まずい沈黙が流れる。 だが、ランは迷わず笑顔を浮かべた。 「おはよう、ユウヤ」 その笑顔につられて、ユウヤも微笑む。 「おはよう、ラン君」 二人は一度だけ軽いキスを交わした。 昨夜の事が嘘のような、軽いキス。 その落差を感じて、二人は少しだけ、笑いあった。 やがて身支度を整えて部屋を出ると、ヒロとばったり出くわした。 「あ、ユウヤさん。丁度よかった。今度の町にセンシマングッズを扱ってるショップがあるらしいですよ。一緒に行きましょう!」 鈍感なのか気を使っているのか、一緒に部屋から出てきたランの事を無視してユウヤに話しかける。 ユウヤはランを気遣って困惑するが、意外にもランの方からヒロの手を取って話しかけた。 「ねーヒロ、アタシも連れてってよ!」 「え、ランさんが?こういうのに興味なかったんじゃないですか?」 「まぁいーじゃん。殺陣はカッコいいみたいだから、ちょっと見てみたいんだよねー」 「…っくぅ~!ようやくランさんにもセンシマンへの愛が…!分かりました、じゃあランさんも!今日は帰しませんよぉ~!」 「気を付けた方がいいよラン君、ヒロ君は本気だから」 「望むところ!」 そう言って3人は笑いながら駆け出していく。 もう、一人じゃない。 朝焼けの中で、ユウヤはそう確信していた。 それ以来、ユウヤがあの悪夢を見る事は、無くなったのだそうだ。