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ハッピーバレンタイン! 06-00735-01:むつき・萩野・ドラケン:レンジャー連邦 ■以下、今年のチョコレートの内訳とメッセージです。 ★優しいカール&むつきさん(&子供が生まれていたら我が子へ) 手作りバターケーキ2種 メッセージ: カールパパへ こー、くまさんラッピングがあまりにも可愛くて、揃えてしまったんだけど、 つい、うっかり、過剰包装になってないかしらねっ!@@ それは置いておいて、今年は洋酒を使わないプチケーキにしてみました。 濃厚なチョコレートケーキと、手作りしたジンジャーアップルジャム入りの。 お茶をいれて、家族で一緒にいただきましょうね。 こちらから接触する機会が少なくても、なんだかいつも側にあなたがいる感じがしてますよ。 カールもそう感じていてくれると嬉しいなあ、と思っています(笑) 頼りになる旦那さま、これからも私と家族の事をよろしくね。 愛を込めて、むつき 子供も食べやすい洋酒を使用しないチョコレートケーキと、 ほんのり生姜を利かせたリンゴジャムを混ぜ込んだ、 優しい甘酸っぱさのケーキの2種類です。 ★ブラウ、ブル 猫用高級スープ メッセージ: 可愛いブラウ、ブル、 今年もあなた達にもバレンタイン。 いつも元気で嬉しいです、ママもパパも ブラウとブルが大好きですよ! むつき ★レンジャー連邦の子供達 手作りバターケーキ2種 メッセージ: 今年は手作りのケーキです、お友達と仲良く食べて下さいね! このケーキの作り方を知りたい子は、私にお手紙を下さい、 機会を見て教えに行きますから(^^) 大好きですよ! ハッピーバレンタイン! むつき 子供も食べやすい洋酒を使用しないチョコレートケーキと、 ほんのり生姜を利かせたリンゴジャムを混ぜ込んだ、 優しい甘酸っぱさのケーキの2種類です。 ★レンジャー連邦の猫士達 猫用高級スープ メッセージ: いつも私達のお手伝いをしてくれてありがとう。 感謝の気持ちを込めて。ハッピーバレンタイン! むつき ★矢神銀一郎、銀二郎 チョコレートアソート メッセージ: 銀一郎君、銀二郎君へ 二人とも元気でいますか、それぞれの成長を頼もしく思っています。 今年もバレンタインのチョコレートを送りますので、 二人でわけっこして食べて下さいね! ハッピーバレンタイン。 むつき ★黒崎家 チョコレートアソート メッセージ: かっちゃんへ 今年も代表でかっちゃんにチョコを送るので、皆で食べて下さい。 子供たちもすっかり大きくなって、頼もしい限りです。 また我が家に遊びに来てください、ケーキ一緒に焼こうよ>< どうか、みんなに善き加護がありますように、ハッピーバレンタイン。 むつき ★多岐川家 手作りバターケーキ メッセージ: 佑華さんへ 今年もノン君にバレンタインを、 手作りケーキの方を贈りますね、 みんな元気で健やかにありますように願っていますー。 むつき ★芝村さん(宰相さま) ★#リアル是空さん ★リアル海法さん 日本酒 ツイッターの方でご連絡いたしましたが、 今年は少し遅れての発送となります。 また、改めてご連絡させてくださいませ。
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女装用シリコンパンツ 布綿 激安メンズ 前閉じカバーパンツヒップアップ 女装コスプレを極めることで女子より女子の可愛らしさ、女性らしさを研究しているのは、実は女子キャラのコスプレをしている男子コスプレイヤー。 女装コスプレのボディメイクを日々研究している方々にそのテクニックを聞いてみた。 男女問わずコスプレの参考にしてみよう。 https //www.cosplaymode.online/blog/make/josou201902/ 今日シリコンパンツ 女装 コスプレ 仮装 変装用 女体化 下着 ショーツ紹介です https //www.xefeel.com/sillicon-pants-c6 シリコンパンツ 性転換パンツ 男の娘 女装子 コスプレ 下着 豊尻 美尻 お尻 義尻 偽尻 着用便利 変装用 コスプレイヤー cosplay ヒップアップ シリコン ガードル シリコンパンツ 女装 ヒップメイク パッド ラブドール 女装変装用 シリコン製 アダルトグッズ 高品質のシリコーンで作られた、安全な着用は、皮膚が柔らかく、他には、往来の材質に比べますと柔らかく、弾力良い、より人肌に近いものになっています。 高級シリカゲル材料の製作,動きを妨げず、とても着やすい、様々な体型にも対応可能です。お尻がもっと聳え、お股がもっと豊満させ、お腹の余分な贅肉が隠され,完璧な曲線を描き出します。 女性のように便器に座り、放尿ができます。変装するともっと良いになります。女性として身に着けている男性が広く使用されています。 弊社より出荷場合、3-7日がかかり、お届けられます。外部視認不可の包装を使用します。佐川営業所より配達で、営業所に留め可能です。配送時の不便を避けられます。 女体化下着、女装 下着 性転換パンツ ショーツ 変装用 コスプレ 女装好き 偽娘 変装 仮装いろんなイベントやパーティー,変装パーティー、コスプレなどはお勧めです、セクシー下着 美尻 仮装 性転換 男の娘 https //www.xefeel.com/women-pants 男性用下着 女装用 ショーツ コスプレ前閉じカバー偽娘パンツ https //www.xefeel.com/men-pants-clothes-new002 下半身のふくらみを抑え、女性に近づける女装用ショーツのご紹介です♪ 女装用 レースショーツ 男性用下着 女性 コスプレ クロスジェンダー 【サイズ】参考用(ウェストサイズ) S:65〜76cm、 M:74〜82cm、 L:80〜88cm、 XL:86〜96cm、 XXL:94〜102cm レースが素敵な女装用セクシーショーツ。 男性の下半身をしっかりと包み隠し、ヒップラインを女性らしくしてくれます! コットン素材の女装用ショーツです。 https //www.xefeel.com/ 柔らかくて、とても軽い肌触りで履き心地が良いです。 セクシーな女性らしい曲線を作り出すことができます。 通気性のあるレース生地で蒸れません。 女性らしいヒップラインを作ってくれるパッド入りで、パッドは取り外し可能です。 ※送り状の品名欄には”衣類”と記入してお送りいたします。 素材:綿95%、ポリウレタン5%
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富士物流 本店:東京都港区三田三丁目10番1号 【商号履歴】 富士物流株式会社(1975年2月15日~) 【株式上場履歴】 <東証2部>1992年12月1日~2010年12月25日(三菱倉庫株式会社が全部取得) 【沿革】 昭和50年2月 富士電機グループの物流部門を分離集約して、貨物自動車運送業、荷造包装業及び倉庫業を目的として設立 昭和50年9月 東京都、神奈川県及び三重県において富士電機工事株式会社から一般区域貨物自動車運送事業免許(現一般貨物自動車運送事業許可)を譲受 昭和50年11月 吹上倉庫(埼玉県)において倉庫業許可取得 昭和50年11月 自動車運送取扱事業登録(現貨物利用運送事業許可・登録) 昭和55年3月 電機プラント等の輸出物流業務を開始 昭和58年10月 コンピュータ保守部品等の24時間物流サービスを開始 昭和60年3月 本社を東京都港区三田三丁目9番11号に移転 昭和62年4月 香港駐在員事務所(現富士物流(香港)社・平成8年11月設立)を開設 平成4年12月 東京証券取引所市場第二部に上場 平成4年12月 オランダ支店(現富士物流ヨーロッパ社・平成6年12月設立)を開設 平成5年9月 株式会社八光運輸商会(富士物流インターナショナル株式会社・平成16年10月当社に吸収合併)の株式を取得し、子会社化 平成6年12月 大連駐在員事務所を開設(現富士物流(大連保税区)社・平成9年11月設立) 平成9年4月 富士物流マレーシア社を設立 平成9年5月 上海事務所を開設(現富士物流(上海)社・平成10年11月設立) 平成9年8月 富士物流オペレーションズ株式会社を設立 平成10年10月 神奈川県において産業廃棄物収集運搬業許可取得(現71自治体で許可取得) 平成12年3月 東京重機運輸株式会社の株式を取得し、子会社化 平成13年4月 富士物流三重サポート株式会社他3社を合併し、富士物流サポート株式会社に再編 平成13年12月 ISO14001認証取得 平成15年5月 松本支社においてISO9001認証取得 平成15年12月 富士物流(香港)社の子会社として、富士物流(深圳)社を設立 平成16年3月 富士電機ホールディングス株式会社ならびに株式会社豊田自動織機と資本提携・業務提携契約を締結 平成16年4月 株式会社豊田自動織機との合弁会社 TFロジスティクス株式会社を設立 平成16年11月 本社を東京都港区三田三丁目10番1号に移転 平成17年5月 ISO9001認証取得 平成17年5月 セイコーインスツル株式会社、エスアイアイ・ロジスティクス株式会社、TFロジスティクス株式会社と物流業務に関する資本提携・業務提携契約を締結 平成17年6月 エスアイアイ・ロジスティクス株式会社の株式を取得し、子会社化 平成17年8月 上海に富士国際貨運(中国)社を設立 平成17年11月 神奈川県川崎市に京浜第二物流センターを竣工 平成17年11月 東京都江東区に新東京物流センターを新設
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Scene5◆ゴシップ 「ありがとうお父さん。お仕事がんばってね。」 ぽっぷが急いで廊下に出ると、岩戸は再び固く閉ざされた。仕事を終えるまで開かれる事は無いだろう。……いや、トイレに行く時なら開くかな? ぽっぷは廊下で腕を組みながら考える。 「送り主の『エルピス』の意味は希望ってことは、あの荷物は『希望の贈り物』ということかなぁ? だとしたら、『チカラを望むなら、風の衣をまとうべし。』は、希望をつなげたければ『風の衣』を着なさいと言ってることになるよね。でも……荷物に服なんて入ってないんだよなぁ。 カードケースのウラノスが『天空』を意味するってことは、もしかしてカードケースが『風の衣』に関係しているのかな……。やっぱりこれだけじゃ判らないよ。」 ぽっぷが自室に戻ると、何故か丸めた新聞が部屋中に散乱していた。 まっ、まさか! 証拠隠滅を図る闇の組織の仕業かっ!? ……なんてことは無いか。 そういえば、荷物の中身を出す時に、梱包材代わりの新聞紙をぶちまけていたんだっけ。 ぽっぷは丸めた新聞を拾っては、謎が詰まっていた段ボール箱に投げ入れていく。ぽっぷの抜群なコントロールで、新聞の玉は不規則に回転しながらも次々と箱に吸い込まれていった。見事に百発百中である。全ての新聞を段ボール箱に放り込み、最後に手にしたのは、荷物を開けた時、記事を確認しようと広げた新聞だった。美空スポーツか…。これもまたクシャクシャに丸め、箱に投げ入れようとするが、ふとトップ記事が気になって、ぽっぷは再び新聞を広げる。 見出しは『美空市上空にフライングホース現る!!』であった。 ●フライングホース その名の通り「空飛ぶ馬(型飛行物体)」のことである。2005年にイタリアはミラノで撮影され、日本でも人気を集めているという。いいよね。夢があって…。 空飛ぶ馬が美空市上空に現れたというのだから、新聞のトップ記事になるのも当然だろう。少なくとも、美スポ的には。ただし、トップページに大きく載せられた『決定的な写真』とやらは、確かに馬のように見えたが、写真の解像度が低く、ピンぼけも激しいために、信憑性がまるで感じられなかった。気になる点があるとすれば、ミラノの動画とは違い、ペガサスのように背中に翼らしき物があるくらいだろうか? ぽっぷは妙な違和感を感じた。何か見逃しているような気がする。 「あれ? もしかして……この新聞って……」 ぽっぷは段ボール箱からクシャクシャに丸めた新聞を1つとると、破らないよう丁寧に広げる。それは全国紙だったが、美空市の記事も載る地方欄だった。日付で昨日の朝刊だとわかる。ぽっぷは1つ1つの記事を確かめていく……。 ・『しおちゃん鉄道 廃線の危機』…ヤバいじゃん。 ・『毒餃子 美空市でも被害?』……コワイじゃん。 ・『大寒も投げ飛ばす ちびっ子相撲』………ふ~ん。 ・『太陽電鉄美空駅に 美空遺跡コーナー』……………へぇ~~。 ぽっぷの目が止まった。 ・『スクリュー壊れた密漁船 美空湾を漂泊の後 逮捕』 1日午前3時45分ごろ、美空湾を漂流する密漁船を、警戒中の美空海上保安部の巡視船が発見。美空港にえい航した。船には大量のアワビやナマコを入れたかごや袋を載せており、男らのグループは密漁を認めたため、同保安部は漁業調整規則違反(無許可での潜水器漁業)の現行犯でグループ10人を逮捕した。一晩でナマコなど500キロを捕っていた。 密漁船はスクリューが付け根から破損しており、航行は不可能になっていた。犯人グループは「人魚に襲われた」と証言している。 人魚に襲われた? 人魚に襲われた? ええええっ? 人魚に襲われた? ……いや、いやいやいや、鵜呑みにしてはいけない。記事には『証言』としか書いてない。つまり、犯人グループの『言い分』あるいは『言い訳』であって、何ら裏付けは取れていないのだ。 裏付けは取れていないとはいえ……。美空市上空に天馬……。美空湾に人魚……かぁ。もしかして、他の新聞にも何かあるのだろうか? ぽっぷは他の新聞も全て広げてみる。 ・『市街に金色の獣出現!!』… ・『行方不明の少女達、異世界から生還!!』… ・『怪奇!モノノケ娘!痴漢を撃退!!』… ・『これが人面鳥だ!!』… ・『美空高原にかまいたち?』…… 驚いた。記事の大きさは大小さまざまだが、どの新聞にも美空市内で起きた怪事件や怪現象の記事が載っていたのだ。これが偶然のわけが無い。間違いなく手がかりだ。 ただし、新聞のほとんどは美空スポーツである。記事の信憑性は無いに等しい。なにしろ、事件の舞台に住んでいるぽっぷ自身が事件を何も知らないのだから。 それにしても手が込んでいる。梱包材として入っていた新聞紙が、実は偽装された手がかりの1つとは……。だけど、これはどういう事だろう? 普通なら気付かずゴミとして捨ててもおかしくない。ぽっぷだって危うえかったのだし。エルピスを名乗る送り主は、ぽっぷの興味が尽きないよう随所に仕掛けを施し、知的好奇心を刺激し続けている。しかし、ぽっぷが気づかなければ、手がかりは永遠に消失し、二度と手に入らないのだ。 謎を解くだけの能力があるか、ぽっぷを試している?どこかへと誘導しているのだろうか? これは事件の謎を追う『エルピス・コード』ではなく、お宝探しのナショナルならぬ『ミソラ・トレジャー』なのかも? Scene6◆逃げちゃ、ダメ 『希望』を名乗る贈り主。『天空』のカードケース。そして新たな手がかり、信憑性の無い『怪事件』。これらの手がかりから『チカラを望むなら、風の衣をまとうべし。』を読み解くと、見えてくるの…。それは………。 「あっ!」 突然、ぽっぷから笑顔が消える。そしてベッドに飛び込むと、恐怖に引きつらせながら枕に顔を埋めた。推測の域は出ない。裏付けも無い。根拠も乏しい。だけどぽっぷの勘が訴える。導きだされた答えが正解だと。ぽっぷにとって最悪の答えこそが事実だと……。 突然、脳裏に忘れかけていた言葉が浮かぶ。ぽっぷを苦しめ続ける呪いの言葉が……。 ぽっぷは枕に顔を埋めたまま頭を抑え、沸き上る言葉を打ち消すかのようにつぶやく。まるで呪文を唱えるように。 「ワタシは私だよ! 人間の普通の女の子だよ! 春風家の次女、春風ぽっぷなんだから!!」 ぽっぷが『普通』を装っていたのは、誰にも邪魔されずピアノに専念したかったからだ。 ……少なくとも、ぽっぷの過去を知る者には、いつもそのように説明してきた。 だけど……本当の理由は別にあった。 人に話せない本当の理由……。ぽっぷは『普通』で無くなる事を心から恐れていたのだ。 6年前のことになる。 当時小学5年生だったお姉ちゃん達が美空小野球部に助太刀で参加し、他校と練習試合をすることになった。試合にはメンバーが9人必要だが、どうしても1人足りない。そこで数合わせに小学1年生のぽっぷが加わる事となった。そこまでなら……まあ、よくある話だろう。 問題は、4つ以上離れた年長者達に囲まれながら、ぽっぷが遜色の無い活躍を『してしまった』事である。しかもぽっぷが野球をしたのは、その時が初めてだったのだ。 幼いぽっぷはいつも張り切っていた。みんなが喜んでくれるのが楽しくて…。みんなが褒めてくれるのが嬉しくて…。 『ペンタローが行く!』でも、兄のペンタローはドジで、弟のギンジローはしっかり者だったから、お姉ちゃんがドジっ子で、自分がしっかり者であることに、何ら違和感は感じなかった。むしろ姉妹のバランスが取れていた。ぽっぷにとり、背伸びするのは当たり前。4つ年上のお姉ちゃん達と肩を並べるのは『普通』の事だった。 だけどあの時、ぽっぷのファインプレーに驚くお姉ちゃん達を見た時から、ぽっぷは自分自身に違和感を感じ始めた。確かにぽっぷは天才少女である。しかし1年生と5年生では、背伸びをした程度では埋めようの無い身体能力の差がある。『天才』でも『しっかり者』でも越えられない壁があるはずなのだ。 なのに……何故? 初めての野球なのに、何故コントロールは定まるのだろう? 初めての野球なのに、何故グローブはキャッチできるのだろう? 初めての野球なのに、何故バットに当たるのだろう? あの時も幼いぽっぷは、いつものように張り切っていた。みんなが喜んでくれるのが楽しくて…。みんなが褒めてくれるのが嬉しくて…。 すると不思議なことが起きた。ぽっぷの頑張りに応えるかのように、身体が自在に反応したのだ。練習試合の最中、ぽっぷの中で『何か』が起きていたのだ。 頑張れば頑張るほど、心や身体が解放されていく感覚……。何もかも超越してしまいそうな、妙な心地の良さ……。そしてぽっぷは気付いてしまった。自分が普通ではない事に。そして誰にも言えない不安を抱くようになった。自分が消えていくような、自分が自分でなくなるような、漠然とした不安を。 それ以来、心の底から沸き上る不安が『呪いの言葉』となって、ぽっぷを苦しめ続けるようになる。 ワタシはダレ? ワタシは人間? ホントに春風家の子なの? ……と。 「ピアノに……夢中になるまで取り組めて、やっと忘れかけてきてた所だったのにナ……。」 ぽっぷは顔を上げると仰向けに寝転んだ。天井を見つめながら自分に問う。 私は何を恐れているの? それは……大切なものを失う事だよ。 じゃあ、私にとって大切なのは何? 自分自身? 知の探求? 家族の絆? どれも大切だけど、今一番大切なのは、やっぱり家族の絆だよ。学業も友情も後回しにしてピアノに専念しているのも、全ては家族の絆を優先していたからだもの。自分が自分でありたいと望むのも、自分が自分でなくなったら、絆も一緒に無くしてしまうかもしれない。…そんな不安があるからだもの。 だったら探偵ゴッコはここまで。荷物も捨てて、キレイさっぱり忘れちゃいなよ。 だめだよ! こんなところで逃げたら、ハナちゃんに笑われちゃう! 私は逃げちゃいけないんだよ! だってもう中学生なんだから!! 5年前の事になる。 ぽっぷはお姉ちゃん達と共に、運命の選択を迫られた。どちらかを選び、どちらかを捨てねばならない、究極の選択を迫られたのだ。だが、当時のぽっぷは小学2年生。8歳の幼女には重すぎる選択だった。結局自分では何も決められず、お姉ちゃん達に同調する事しかできなかった。ぽっぷは逃避したのだ。そしてプニュちゃんも、パオちゃんも、そしてハナちゃんも……。選択できなかった大切な人たちは、ぽっぷの前から消え去ってしまった……。 あの時の選択は、間違ってはいなかったと思う。いずれ家族とは離ればなれになるにしても、まだ先の事だと思うから。ただ、自らの意思で選択せず、逃げ出してしまった事は今でも後悔している。あの時ぽっぷは確かに幼かった。だけどハナちゃんはもっと幼かった。なのにぽっぷは、選択から逃げた事で、『罪』や『責任』からも逃げてしまったのだから……。 このまま逃避して、何事も無かったかのように生活すれば、普通の女の子として生きていけるかもしれない。何もしない、何もできない、大した存在価値もない、社会のエキストラとして……。それもまた、人生なのだとは思う。 だけど真相にたどり着くことで、普通の女の子にはできない事が、大切なものを護る事ができるのではないだろうか? 逃げずに受け入れる事こそが、希望に繋がるのではないか? 手紙を文面通りに受け止めるなら、それが真実であるなら、ぽっぷの周辺に絶望的な危機が迫っている事になるのだから……。 何にせよ、何かを判断する為には、判断材料が必要だ。可能な限り情報を集め、吟味しなければ、 ふと、ぽっぷの心に『肉を斬らして骨を断つ』という言葉が浮かぶ。場に相応しいかどうかは判らないが、今のぽっぷの心境にはピッタリの言葉だった。やり遂げたまえ~~。 勇気と元気を取り戻したぽっぷは、涙を拭くと、ベッドから勢い良く起き上がり、オモチャを包んでいた包装紙に目を向けた。包装紙には『美空玩具』の文字と一緒に住所と電話番号、そして営業時間が印刷されている。今わかる範囲では、これが最後の手がかりである。 住所は意外と近い。歩きでも10分とかからないだろう。営業時間は午後1時から午後7時までとある。現在時計は午後4時半を指している。時間に余裕があるならば行くべきだろう。どうせこのままでは、勉強にだって身は入らない。 お店の人に質問できるかどうかは判らないが、現物は無いより在った方が良いに決まっている。ぽっぷはDXペンタローをボストンバッグに入れ、肩に担いだ。カードケースは小さかったのでズボンのポケットに入れる。段ボール箱はかさばるので、配達伝票だけをはがし、持っていく事にした。もちろん『美空玩具』の包装紙も忘れない。更に家のカギと財布にケータイ、暗くなったときの為に懐中電灯も持っていく。備えあれば憂い無しである。 「あら、ぽっぷ、でかけるの? テスト期間中なのにしょうがないわねえ。ちゃんと夕飯までには帰りなさいよ。最近は物騒になってきたんだから。」 「なるべく早く帰るつもりだけど、遅くなったら電話するね。じゃあ、いってきま~~す。」 お母さんの言うように、確かにここ最近、美空市の治安が悪くなったようだ。今朝のホームルームでも、試験が終わっても遅くまで遊び歩かないようにと、シスターに釘を刺されたばかりである。 ………まさか、治安悪化と怪事件にも因果関係が? 勘弁してほしいなあ……。 それにしても『美空玩具』か……。近所にこんなオモチャ屋さんがあっただろうか? 近所のはずなのに、ぽっぷには覚えが無かった。 Scene7◆風の衣 謎の送り主『エルピス』……。 贈り物がイタズラでないとすれば、友達の線は完全に消える。むしろ人外の者…異世界の住人の可能性の方が遥かに高いだろう。ここ数年見かけてはいないが、心当たりはあるワケだし。 気になるのは、確率は低くともリスクのある配達便で送りつけてきた事だ。配達中にトラックが事故にあって破損したかもしれないし、両親が受け取れば不審な荷物と判断され、捨てられていたかもしれない。 わざわざ近所の美空玩具まで来てDXペンタローを買いに来るくらいだから、美空市在住か、頻繁に訪れていると考えて間違いないだろう。なのに何故、ぽっぷに直接会って渡さない? 何か都合の悪い事でもあるのだろうか? それともぽっぷが何かを見逃しているのだろうか? 13枚のカードが収納できる携帯用ケース『ウラノス』……。 空っぽのカードケースをわざわざ送りつけて来るのだから、ぽっぷにカードを集めさせようって魂胆ではないだろうか? その昔、お姉ちゃん達が似たような事をさせられていたっけ。名前はたしか…バッドカードだったかな? するとやっぱり、『エルピス』ちゃんの正体は魔女…なのかも? そして信憑性は無いけど、『幻獣』の仕業と思われる怪事件の数々……。 この怪事件が、特殊なカードによって引き起こされているのだと仮定すれば、このような仮説が成り立ってしまう。 「美空市にばらまかれてしまった『幻獣』カードのせいで、怪事件が発生! 事態を収拾する為には、『幻獣』カードを全て回収するしかない。そこで『エルピス』ちゃんは人間界に住むスーパー美少女、我らが春風ぽっぷに『ウラノス』ケースを託し、「ピンチになったら『風の衣』を着なさいね」と伝言を残し、カード回収の仕事を押し付けた」と……。 ぽっぷが想定する可能性の中では、最悪の事態と言える。そうならない事を祈るばかりだが……。 残された最後の謎、『風の衣』……。 ぽっぷの仮説に基づけば、『DXペンタロー』こそが『風の衣』に関係するはずなのだが、今のところペンタローだけは手がかりが何も無い。これから向かう美空玩具で、何か判るのではないかと期待はしているのだが、それでダメなら仮説そのものを大幅に見直さねばならないだろう。 もちろんぽっぷにしてみれば、仮説が成立にないが嬉しいのだが……。 「ええっと……ここら辺だと思うけど……どこかなぁ?」 玩具屋なら普通、子供番組のポスターが貼ってあったり、店頭にガシャポンが置いてあったりするものだが、一見して玩具屋と判る建物はどこにも見あたらなかった。それはそうだろう。あからさまな玩具屋なら、幼い頃に気付いていたはずだ。恐らく、お子様お断りな頑固親父のこだわりのお店か、いちげんさんお断りの隠れ家的お店か、商売っ毛の無いお年寄りのお店に違いない。 そういえば、包装紙には電話番号が書いてあったっけ? そこで『美空玩具』の包装紙を確認し、携帯でかけてみるが、聞こえてきたのは「現在この電話番号は使われておりません」というアナウンスだった。電話番号に間違いは無い。包装紙の印刷が間違っているのか? 電話番号を変えたのか? それとも、お店自体が存在しない…とか? こうなれば、ご近所に片っ端から聞いて回るべきだろうか? 効率的に回るには…… その時である。 突然、けたたましい女性の悲鳴が聞こえた! 思わぬ事態にぽっぷは硬直する。 何? 何が起きたの? 痴漢? ひったくり? 事故? 事件? ぽっぷの側を歩いていた男性が目の前で空を指差す。「おい! 誰かが落ちそうになってるぞ!!」 ぽっぷの視線が、男性の指先から指差す空へと少しずつ移動してゆく。 別の男性が走りながら叫ぶ。「女の子だ! 屋上に女の子がぶら下がってる!」 指差す方角には10階建てのマンションがあった。ぽっぷの視線は屋上へと向けられる。 買い物帰りの主婦がパニックを起こす。「誰か警察に……いいえ、救急車を呼んで!!」 屋上の女の子は独特な髪型で、遠目でも一目瞭然だった。ぽっぷは戦慄する。 「そんな……かりんちゃん?……どうして?」 少女の名は、平野かりん。美空小の5年生で、元気いっぱいな後輩である。 かつてぽっぷは、園児だったかりんちゃんに「おねえちゃん」と慕われた事がある。それから6年。何の因果か再び巡り会い、今度は「お姉様」と慕われるようになった。最初は途方に暮れていたぽっぷも、一生懸命なかりんちゃんの姿に次第に打ち解けてゆく。最近は本当の妹のように思えてきた、そんな矢先の事だった……。 どうすれば…どうすれば、かりんちゃんを助けられるの? 「あっ! おはようございます! ぽっぷお姉様♪」かりんちゃんの満面の笑顔が浮かぶ。 レスキューにはしご車を要請……しても準備に時間がかかりすぎる! 「ホントにヒドイですよねぇ、お姉様。」かりんちゃんの膨れっ面が浮かぶ。 マンションの住人か管理人さんに連絡して屋上まで行って……それじゃ間に合わない! 「お姉様、どうして世界は不公平なんですか?」かりんちゃんの涙が浮かぶ。 布団かなにかを落下地点に敷き詰めて衝撃を弱めて……そんなものどこにあるの! 「もう少し…もう少しだけ。ダメですか?」かりんちゃんの寂しそうな顔が浮かぶ。 落ちてくるかりんちゃんを誰かに受け止めてもらって……。犠牲者が増えるだけよ! 「また明日待ってます。ずっとずっと待ってますから!」再びかりんちゃんの笑顔が浮かぶ。 どうしてかりんちゃんを救う方法が見つからないの? どうしてこんなにかりんちゃんの顔が溢れて来るの? どうしてみんな映像みたいにスローに動くの? どうして私は涙があふれてくるの? どうして……、どうして……、どうして……。 ぽっぷの理性は既に悟っていた。いかに知恵が働こうが、自分の力ではどうにもならないと。不条理な別れが迫っていると。 だが、ぽっぷの心はそれを受け入れられず、混乱をきたしていた。吐き気を催し、その場にうずくまる。だが、そんなぽっぷの異常に気づくものはいない。存在すら目に入っていない。人々は皆、かりんちゃんを見上げ、固唾をのんでいたのだから。 ただ1つの存在を除いて……。 「どうしたピュ! 何をそんなに苦しんでいるのだピュ!」 突然、ぽっぷの脳裏に言葉が走った。誰? 誰なの? 「オマエはチカラが欲しいピュか? オレのチカラを受け入れるピュか? オマエがチカラを望むなら、オレが風の衣になってやるピュ。オマエにヒトを超越するチカラを貸してやるピュ!」 チカラ? 風の衣? ぽっぷの脳裏にエルピスの手紙が浮かんだ。 チカラを望むなら、風の衣をまとうべし。 チカラを望むなら、風の衣をまとうべし。 チカラ を 望む なら、風の衣 を まとう べし。 「もう時間が無いピュ。あの娘を助けたいのなら、今すぐ両手を翼のように広げて、『プリキュアコンバイン』と唱えるピュ! オレと早く『合体』するピュ!!」 プリキュア? 合体? その意味を考えている余裕はなかった。かりんちゃんの体力はすでに限界を超えている。 ぽっぷは言われるままに両手を広げると、言われた通りに唱えた。 「プリキュア…コンバイン。」 その瞬間、かりんちゃんは手を離した!! 同時にボストンバッグから光が飛び出し、ぽっぷの胸元に飛び込んでくる! 光に包まれ、ぽっぷは意識が飛んだ。 ぽっぷがかろうじて意識を取り戻し、夢か現からからぬまま手元を見ると、両腕にかりんちゃんをしっかり抱きかかえていることに気付いた。膝を擦りむいてはいるようだが、他に怪我はしていない。気を失ってはいるものの、ちゃんと息もしている。 良かった、無事だ。安心した途端、意識が薄れそうになる。なんだか……眠い。 周囲を見渡すと、すぐ目の前にマンションの屋上が見える。屋上には少年が一人、立ちすくんでぽっぷを見つめていた。かりんちゃんの友達だろうか? ぽっぷはひとまず、かりんちゃんを屋上にいる少年の側まで運び、そっとおろした。少年は緊張した面持ちでぽっぷを見つめ、そして問う。 「あっ、あっ、あのっ!! お、おねーさんは誰なんですかっ!!」 「え? 私? 私は………」 ぽっぷが答えようとしたとき、身体と口はぽっぷに逆らって動きだした。勝手に決めポーズをとり、声高々に名乗ったのだ。 「天駆ける一輪の花! 遥かなる天空(ウラノス)の女神、 キュアクロリス!!」 と……。 女神? クロリス? 私は何を言っている? なんでこんな恥ずかしい真似を人前でしている? 羞恥心がぽっぷ眠気を吹き飛ばす。が、まだまだ意識が定まらず、考えがまとまらなかった。途方に暮れていると、屋上に大人達が到着する。かりんちゃんを助けにきてくれたのだ。よかった。 ホッと胸を撫で下ろすと、ぽっぷの身体はフワリと浮かび上がり、少年とかりんちゃんがだんだん離れていく。 すると今度は、足下から大きな歓声が聞こえて来る。見ると遠くはなれた地面に人集りができていた。みんながぽっぷを見つめている。なんだか恥ずかしい……。人々の熱い視線で、ようやくぽっぷは我を取り戻した。 「え? 何? どうなってるの? もしかして私……空を飛んでいる?」 ぽっぷは自分に何が起きたのかを知ろうと、あちこちを見回してみる。 両手は肘まで隠れる長い手袋のようなものをしていた。指は5本ともむき出しで、手の甲にはウラノスのカードケースと同じスペードの装飾が付けられていた。二の腕は肌が露出しており、肩パットにはフリルが付いている。 胸元にはスーパーロボットのようなエンブレムが付いていた。両翼を広げたようなデザインで、真ん中には花が付いている。花にはかわいい顔つきだ。ウエスト部はコマンダーレディホワイトのように肌が露出している。 下半身に履いているのはスカートではなく、申し訳程度に布が巻かれているような感じだ。正面から見ると、中に履いているスパッツがむき出しである。後ろの腰の部分から腰紐らしきものが伸びているようだが、後ろがふり向けず確認できない。 太ももから膝小僧にかけては、やはり肌が露出している。足にはルーズソックスのようなダブダブの靴下をはいており、赤い靴はハイヒールになっているようだ。 「プリキュア……そうだ! 思い出した! 女子中学生の間で伝えられる都市伝説……。 ごく普通の女の子が、弱きを護り、悪と闘う為に選ばれる。その伝説の戦士が『プリキュア』。プリキュア伝説は世界中の町にあるから、美空市にもご当地プリキュアがいるかもって、誰かが話してた……。 じゃあ私、そのプリキュアに選ばれたってコトなの?」 浮遊するぽっぷがビルの側を通り抜けようとした時、人影に気付き、反射的に振り返った。それは人影ではなく、窓ガラスに映り込んだ自分自身の姿だったが、その異形の姿に、ぽっぷは思わず叫んでしまうのであった。 「なっ…… なんじゃこりゃ~~~~~~!?」 Bパート完。◆引き続き、ENDパートへ…。
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高校を卒業してから、はや1年。 あのうるさいハルヒと別の大学に行ったおかげで 俺はめでたく宇宙人も未来人も超能力者もいない普通の日々を手にいれた ハルヒいわく「SOS団は永久に不滅なのよ!」とのことだが、 活動の根城であった文芸部室では現在、北高の新1年生数名が文芸部として活動している。 あるべき姿に戻ったとも言うべきだが、いまの部室にはガスコンロや湯飲みはない。 朝比奈さんが着ていた華やかな衣装も、コンピ研からかっぱらってきたパソコンもない、 普通の部室になっている。 昔のハルヒなら「ここはSOS団のアジトなのよ!」と部室を強引に不法占拠しただろうが、 楽しそうに活動する現部員、つまり後輩の様子を見ているとそんな気にもならないらしい。 拠点を持たない現在のSOS団にはどこか勢いがないと言うか、ごく普通の仲良しグループとなっている。 いつもの喫茶店に集まり、みんなで市内探索をしたり、イベントに参加したり・・・ そんな活動からも、最近は遠ざかっている。 それぞれの団員が新しい環境で忙しいのだろうか、 あのハイテンションの団長様からは、もう1年も召集命令がかかってこない。 実際、俺も忙しかった。 溜まっていたレポートをようやく仕上げ、自室でシャミセンを抱えてベッドに倒れこんだ。 ああ、疲れたさ。 人間というのは考え込むと突然憂鬱になることがあるそうだが、今の俺もちょうどそんな感じで、 何か釈然としない気分となりながら、激動が続いた高校時代の思い出を頭に描いている。 何気なく外に出た俺は、ハルヒの支離滅裂な行動を苦虫を噛む様な顔で振り返りながら、 朝比奈さんの素晴らしいお姿をもっと堪能していればよかったと後悔の念を抱き、 木漏れ日が射す道を、高校時代、毎朝苦しめられたあの坂を上っていた。 平日の学校だというのにどことなく静かで、相変わらず安っぽいプレハブ校舎が風情を醸し出している。 桜舞い散る校門を、卒業式以来久しぶりに通る。 おもむろに懐かしくなってきた俺は、かつて騒然とした毎日を過ごした場所を1箇所1箇所巡ってみた。 教室に入ることはできないが、セキュリティの欠片もないこの学校を見回るのは造作もないことだった。 古泉に能力を聞かされた中庭のテーブル。文化祭でハルヒと長門が観客の度肝を抜いた体育館。 なんだ、ほとんど何も変わってないじゃないか。 自然と口元が緩む。何もかもが懐かしい。 様々な場所を歩き回った俺は、校門を出る前によく分からない気持ちに駆られ、あの扉の前に来ていた。 そう、現在はSOS団のプレートが外されて、正規の活動を行っているあの、 文芸部部室の扉の前に。 4月の上旬、今は授業中。 かつてのハルヒのように、授業をサボってまでクラブ活動に精を出すような奴はいないだろう。 部室に鍵がかかっているのは当たり前のことである。 しかし、憂鬱というよりは懐古の面持ちが強くなっていた俺は、かつての思い出の1ページをさらうように、 いるはずのない朝比奈さんの着替えを目撃しないために、軽く扉を2回叩いた。 当然、反応はない。 俺が1番に来るとは珍しいじゃないか、と自分に懐かしく言い聞かせ、ドアノブに手をかけた。 ガチャリ・・・ 鍵はかかっていなかった。 まったく、部活動時間外にはしっかり施錠するのが部長の仕事だぜ。 ハルヒもその辺だけはしっかりしていたんだから、そこは見習っておくべきだな。他はともかく。 扉を明けると同時に、懐かしい言葉が浮かんできたのでつぶやいてみた。 世界を大いに盛り上げるための、 「涼宮ハルヒの団。」 つぶやきを言い切る前に、 扉の向こうから俺の高校生活をクソ面白いものに変えやがった声が聞こえた。 どこか色っぽいような顔で俺に微笑みかけたそいつはまさしく、 涼宮ハルヒだった。 なにやってんだお前はこんなところで・・・ と言いたくもなったが、ハルヒの顔を見ていたらどうも言葉が出てこなかった。 どうやら俺が忙しい日常の中で、もっとも再び見ていたいと思ったのは、こいつの顔だったようだ。 おかしい話だよな、こいつと会ったらもっと忙しくて面倒なことに巻き込まれるんだぜ。 でも、ひとつ言えることは、忙しさの中にも楽しさと、そして心のやすらぎを得ることができたということ。 いろんな思いが交差する中、最終的に俺の全思考回路がハルヒに向ける言葉として選んだものは、 「よう」という一言だった。 「あんた、よく覚えていたわね」 とハルヒがつぶやいた。 どちらかと言えば勘が鈍いほうの俺だが、これが何のことかは一瞬で思い当たった。 少しの間をおいて、はにかみながらハルヒにこう返す。 「団長、1周年おめでとうございます」 ハルヒの目が、かつてのように輝いた。 「ふん、相変わらずあんたはバカね」 これは思わぬ反応だった。と、同時に久しぶりに聞くハルヒ節がなぜか心地よく感じた。 「どうせあんたは卒業して1周年とか考えてるんでしょうが違うわよ! 今日はSOS団設立からちょうど4周年でしょ!だいたい1周年だったら卒業式から逆算しても 日にちが合わないじゃないの。ふん、あんたにしてはいい事言ったけど詰めが甘いわねー!」 まぁ、そういわれてみればたしかにそうか。 ただ雰囲気的には1周年って感じはするがな。もう4年経つのか。早いもんだ。 あらためて部室を見回してみると、随分閑散としている気がする。 現文芸部の作成した会誌や読書コンクール作品などが整えられて机の上に置いてあり、 至極まじめに活動している様子が見受けられる。 そういえば俺たちもハルヒ編集長の指示によって文芸部(ではないが)の会誌を作ったっけな・・・ 朝比奈さんのかわいらしい童話や長門の淡々としたエッセイ、鶴屋さんの大爆笑必至のアレ。 コンピ研の部長氏が目を充血させてまで書き上げたようなパソコンゲームなんとかの記事。 そしてできれば忘れたい俺の恋愛(というのかどうか分からんが)小説。 「あんたの恋愛小説にはもうちょっと期待してたんだけどねー、期待して損したわ。」 余計なお世話だ 「そういやお前、大学の方はどうなんだ?また変な団作ってんじゃないだろうな」 相槌を打つ程度に聞いてみるが、返答の内容はだいたい見当が付く。 「作ってないわよ。あたしはSOS団の団長なの。新しい団を作るつもりも入るつもりもないわ」 恐らく、ハルヒの高校生活はとても楽しいものだったのだろう。 そのひとつがSOS団の存在、ひとつというより大きなウエイトを占めているのは間違いない。 はじめて会話したときの、あのどこか不満気で釣り上がった表情だったハルヒはもうどこにもいない。 あいつはおそらく、高校生になって劇的に日常が面白くなるとは考えてなかったはずだ。 期待はするけど、どこかで晴れない気持ちが芽生えてたはずだ。 でも。 それが、この3年間だったもんな。 個性的な仲間たち。数々の不思議な体験、胸が躍る冒険。 地味な事件のひとつひとつさえ、とても面白かったんだろ、なぁ、ハルヒ。 なんで分かるかって? 何度でも言うさ。 俺も楽しかったからだ。 「なーににやついてんのよ!また変なこと考えてるんじゃないでしょうねっ!」 「また」って、俺がいつお前の思う変なことを考えたんだよ。 だいたいお前が思う変なことってのは、一般人にとってどれだけ驚異的な発想なんだろうね。 ・・・とは思うものの、1年の時の冬に雪山で変な空間に閉じ込められたときに、 「風呂を覗くな!」みたいな主旨の事を言っていたっけな。 こういうところでは意外に乙女ちっくというか、古泉に言わせれば常識的な考えを持っているんだよな。 バレンタインデーでもそうだっけか。義理義理義理義理言っておいて毎年ちゃんとくれて、 年々チョコの内容がグレードアップしていったのはなんだったんだろうな。 最後の年のバレンタインデーなんて大きさも凄ければ、 団長様直々にお書きなされたカードみたいのまで入ってたっけな。 まぁ古泉のも同じ大きさでカードが入ってたみたいだが、何て書かれてたは知らん。 ただ、俺に宛てたカードに書いてあった言葉は今でも覚えてるぜ。 1年の時に貰ったのは、チョコにバレンタインデーとぶっきらぼうに書いてあっただけだったが、 あのカードに書かれた文字を俺は生涯忘れることはないんじゃなかろうか。 なんて書かれてたか?それはだな、 禁則事項。ずーっとな。 ちなみに俺はそのカードを今でも大切に財布に入れてる。 クレジットカードやどこぞの会員証よりも優先順位が上な、一番目立つところに。 「ふん、まぁいいわ。でも、あんたよく覚えてたわねぇ。ちょうど電話しようかなーって思ってたんだけどさ。 団長様は授業真っ盛りの学校に団員を集合させる気だったのかよ。 「ちがうわよ。集合場所はここじゃなくていつもの喫茶店。」 喫茶店か、あそこには色々とお世話になったもんだな。 おそらく俺は、この部室に来なかったら図書館か喫茶店に向かっていただろう。 その先でも結局こいつに会ってたことになるんだな。 巡りあわせ、か。 ハルヒに出会ってから、俺はこの言葉をつぶやく機会が減った。 理由はお分かりのとおり、「自分の思いを実現する力が涼宮ハルヒにはある」というバカげた話を、 一般人とはかけ離れた奴から耳にしてしまったからな。 俺の中で、ほぼ必ず「巡りあわせ」はこの言葉に置き換えられた。 ただ、今の状況はハルヒがそう願ったから、というわけではないような気がする。 それとは別に・・・、なんだろうな。言葉にはしづらい内容だ。 「とにかく、せっかくの記念日なんだからねっ!みんなで集まりましょうよ!」 ハルヒの目がまた輝きだした。ホント、楽しそうなときののこいつはいい顔するねぇ。 SOS団専用スマイル。俺は勝手にこう名づけてるんだが、その名のとおり一般生徒には なかなかお目にかかれない特上のハルヒスマイルだぜ。 「それじゃ、喫茶店行くか。みんな集まってのSOS団だからな。」 別に深い意味があって言ったわけでもなく、そんなすぐに急いで行こうという意図があったわけでもないが、 「えっ・・・ちょ、ちょっと待ちなさいって!えっと・・あの、その・・・ふ、風情のない奴ねあんたもっ!」 と、全力で部室から出ることをわざとらしく拒否しやがった。なにがしたいんだ、こいつは。 「とにかく・・・たまにはいいでしょ、あたしとあんた二人で懐かしむのも・・・。あんたは団員その1なんだし・・・」 ハルヒが顔を赤らめている様子を想像した諸君、残念。 いきなり後ろ向いて細い声になるんだから顔までは見れなかった。 どんな顔してたんだろうな。 間髪入れずにハルヒは振り返り、俺のいる方へと近づいてくる。 よくみると、紙袋を後手に隠しながら歩いてくるのが分かった。 「ハルヒ、お前後ろに何隠してんだ?」 頑張って俺に見られぬように隠している紙袋に入っている物体について、 わざと先に聞いてやった。 「!!!!・・・ちょ、ちょっとあんた、そういうのは気付いても言わないのが男心ってもんでしょうが・・・」 立ち止まってハルヒはそっぽを向いた。 予想通り。この反応が見たかった。 たまにはいいだろ?俺のほうがお前を困らせてやっても。 「・・・バカ。」 そう言いながら、ハルヒは紙袋から包装された物体を取り出した。 「なんだこれ?」 おそらく万人がそういう反応をせざるを得ない、意外な代物が飛び出してきた。 年季を感じさせる、例えるならば中学生が3年間一度も買い換えずに使い込んだ筆入れのような、 財布だった。 先ほど意外な代物と言ったが、俺はこの財布に見覚えがあった。 喫茶店の代金を払うのは大体が俺の仕事のようなものになっていたので、見かける機会は少なかったが、 それはハルヒが使っていた財布と見て間違いはなかった。 「・・・お、お礼の言葉はないのっ!?団長直々の贈与品なんだからおとなしく謝辞を述べなさいっ!」 なんだそのめっちゃくちゃな理屈は・・・。 と思いつつも、何でまた財布なんだろうな。それもハルヒ本人の使っていた。 その辺はまた後で聞くとして、まず最大の疑問を投げかけてみた。 なんでまた、これをわざわざ包装してるんだお前は。 「プレゼントってものは普通包装してあるでしょ!当然の事しただけよっ・・・。」 まぁ・・・たしかにプレゼントって物はだいたい包装してあるものだが、 そもそも渡す本人が日常的に使っていたものをプレゼントするってのはかなりのレアケースなんだろうか。 いや、そんなことより根本的におかしいだろ。なんというか。 つーかこいつはもしかして包装紙だけをわざわざ買いに行ったのか? 包装紙を売ってる店なんて聞いたことないから、 大方近所のデパートの店員を脅してかっぱらってきたんだろうな。 そう思ってくしゃくしゃになった包装紙を眺め、さてどこの店の包装紙だ?と店のマークを見回したが、 なかった。店のマークも、特徴も。 それにどこか、一般小売商などのものにしてはやけに包装紙にムラが目立つ。 まさかこいつは、わざわざ包装紙とリボンを手作りしたのか? ・・・聞いたらそっぽ向きそうなので、これは言わないでおくか。 「・・・大学の同級生が財布をくれたのよ。だからそれはもういいの。あんたにあげるわ。」 要するにいらないものを恵んであげますよってことか。 フリーマーケットに売りに行くって選択やそのまま放置しておくって選択肢はないのかよ。 俺ならたぶん捨ててるな。 「けっこう使い込んであるけど、あんたのそのボロい財布よりはマシでしょ」 お前に言われたくはねーな、と言いたいところだが実際俺の財布も年季が入ってるからな・・・ でも一応まだ使えるっちゃ使えるぞ。これでもけっこう愛着あるんだからな。 「えっと・・・今まであんたには色々お金出してもらってたからさ。 その・・・なんというかお礼よお礼。借りた恩はちゃんと返すのが義理人情の世界でしょ。」 いつからSOS団は義理人情の世界になったんだよ、と思いつつ、 俺のハルヒへの投資は金以外にも、睡眠時間とか平凡な生活の終焉とか色々あったな、 お返しは財布1個で足りるもんじゃねーぜ、という気もするといえばするな。などと考えていた。 「そのかわり、あんたの財布はあたしが預かっておくわよ!ちゃんとありがたくあたしの財布を使いなさい!」 ああ、そういうことか。要するに俺の財布が欲しかったんだな、こいつは。 そんな質のいいもんでもないが・・・こいつなりに何か考えがあるんだろう。 ってことは大学の同級生が財布をくれたってのもたぶんデマカセだな。 相変わらず素直じゃないヤツだ。 「まーた!なーにニヤニヤしてんのよ!・・・べ、別に深い意味があるわけじゃないんだからっ!」 ん、またニヤニヤしてたのか?俺は。 別に意識あっての行動ではないんだがな、どうもクセになってるらしい。 外の景色が春らしく、穏やかな陽気で静けさの中にあるように、 文芸部室もまた静かになっていた。この空間には俺とハルヒしかいない。 それにしちゃやけに静かだな。 「さっ!キョン!おとなしく財布を渡しなさいっ!ついでにあんたの財布の中身も拝見させてもらうわよぉ♪」 ハルヒは強引に俺のパーカーのポケットに入っている財布に向かって腕を伸ばしてきた。 全く、ほんとにむっちゃくちゃな奴だなこいつは・・・ ん?俺の財布の中身・・・ これはまずい。 俺が理性を最大限に働かせて、財布の略奪を必死に阻止しようとしたときにはすでに、 ハルヒの手を伸ばした先にあった。 「ふぅーん、さぁーてさてっ!雑用キョン君の財布にはなーにが入ってるのかしらっ!」 俺は一瞬目を覆いたい気分になったが、もうどうしようもないのでハルヒを見つめた。 そもそも略奪を阻止したとして、アレだけを財布から抜くのなんて無理だろう。 これはしてやられた。 「・・・ちょっ、あんた・・・これ・・・」 ハルヒの顔が紅潮していくのが分かった。もうホント、これ以上ないくらいに分かりやすかった。 「あ・・・あたしは別に、それ、本気のつもりじゃ・・・っと、その、冗談よ!2ヶ月はやいエイプリルフールなのっ! あ、あんたもそれ見て冗談にしちゃきついなとか・・・い、いってたじゃないの! もう1年以上経つのに・・・それを・・・財布に入れてるって・・・」 どうしよう、ほんとにこれ。 団長様直々のお言葉だったので入れておきましたとか? どう考えても言い逃れにしかならない。 俺は・・・ 俺が3日間意識を失っていたときに、寝ずに俺を看病してくれていたハルヒ。 世界が改変され、北高から姿を消したハルヒを全力で探し始めた俺。 バレンタインデーで年々グレードアップするチョコを俺にくれたハルヒ。 どこかでポニーテール姿のハルヒを望んでいる俺。 雨の日の帰り道、結果的に相合傘を望んだハルヒ。 ・・・鍵をそろえよ、か。 俺はこの状況とは無関係な、そんな言葉を思い浮かべていた。 あの時、俺は自分で意識したわけでもないのに、気が付いたら仲間を集めていたっけ。 気が付いたら。 もしかしたら、そんなはずはないとは思うが、 俺は全ての騒動や日常の中で、平行してもうひとつの鍵をそろえていたのだろうか。 涼宮ハルヒ、という鍵を。 「なぁ、ハルヒ」 「なによ」 口を開くまで時間がかかった俺の、やっとひねり出した言葉に、ハルヒは間髪入れずに返してきた。 この辺はこいつらしいな、とつくづく思う。 色々な言葉が思い浮かんできたが、なぜか俺は突拍子もないものを選び取ってしまった。 「俺、思うんだけどさ。曜日によって感じるイメージはそれぞれ異なるような気がするんだよ」 ハルヒが「はぁ?」という反応をしている。 まぁ、そりゃそうだろ。この場面でこんな言葉を投げかける奴は宇宙探しても俺ぐらいだろう。 「色でいうと月曜は黄色。火曜は赤で水曜が青で木曜は緑、金曜は茶色、日曜は白、だな」 ハルヒは変な顔を少しゆるませて、「ってことは、月曜が0で日曜が6になるわよね。」と返答する。 懐かしい会話が、立場を入れ替えて喋る形になったが、 俺はこの部分をあえて自分で言った。 「俺は月曜が1って感じがするけどな」 ハルヒはきょとんとした顔で、 「そりゃあんたが日曜になにもしてなくて、学校が始まる月曜が週の始まりのように感じたからでしょ」と答えた。 この場違いな問答で、俺は何かが分かったような気がした。 もちろん、そこまで深い意味を持って投げかけた質問なわけでもない。 「あんたの意見なんか誰も聞いてない、じゃないのな。」 ここら辺は俺の記憶力を素直に褒めるべきだな。 普通は4年前の会話を一字一句覚えているなんて、ありえないことだろうが。 その後のハルヒの一言が、後ほどかなり大きな意味を持つことになってしまったからな。 前後の会話はなんとなく覚えていたよ。ここまで鮮明だとは思ってなかったが。 「え、あたしそんなこと言ったっけ?」 ハルヒが首を傾げながら俺の問いかけに答えた。 ひとつ考察してみると、過去の記憶を探るうえで、局地的な言葉の存在を忘れることは 誰にでも多々あることで、それほど珍しいものでもない。 だが、俺にはハルヒがなぜ、その言葉を忘れてしまったのかがなんとなく分かっていた。 出会い、SOS団を作り、多くの出来事を越え、歳月が経った俺たちの関係。 そこには見えない信頼関係が出来上がっているように思える。 今のハルヒは、俺の意見を無視することはあっても全否定することはなくなった。 初対面と3年の付き合いでは、そりゃ内面の意識も変わるだろう。それは信頼関係とみて間違いない。 でも、ひとつひっかかることがある。それがさっきそろえた「涼宮ハルヒ」という鍵だ。 信頼関係というなら、俺と古泉の間にもあるようにハルヒと朝比奈さんの間にもある。 つまり、部員全員が信頼関係で繋がっているはずだ。それが、SOS団だろう。 じゃあ、俺とハルヒとの間には信頼関係をある意味で越えている何かがあるのだろうか。 そうでないと、ここまで鍵をそろえた理由が説明できない。 そして、何よりも謎になるのはこのカードを財布に入れていた俺である。 今思えば、俺はなんでこのカードを財布に入れているんだろうか。 まずそこが矛盾点になる。 ハルヒの顔が不意にうつむいた。 そして、おもむろにこう呟く。 「あんたも回りくどい奴よね。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」 強気に聞こえたその言葉は、どこか恥じらいの成分を含んでいた。 回りくどい、か。脳内の俺を説明するならこれほど端的な言葉もねーな。実に分かりやすい。 ・・・ どうして、もっとはやく気づかなかったんだろうな。 回りくどく考える必要なんてこれっぽっちもないじゃないか。 俺は、ハルヒと2人になった閉鎖空間のときと同じように、手をハルヒの肩に乗せ、ぐっと引き寄せた。 「な・・・なによっ」 ハルヒの顔が、凄く近くにある。 あの時よりももっと近く、遠めに見たら抱き合っているようにしか見えない距離にまで引き寄せた。 今までハルヒと過ごしてきた日常の中で、顔が今くらい近くに来たことは、何回かある。 ただ、今までと違うのは、体も凄く近くにあるということ。 いつぞやハルヒが言った「黙って溜め込むのは精神に悪いわよ」という言葉。 それを倣うように、左脳をフル回転させて思考した考えを忘れ、 ハルヒの言った「はっきり」の一言で浮かんだ思いをヘタクソな言葉に乗せて、俺は言った。 「ハルヒ」 「どうやら俺はお前の事が好きみたいだ」 ・・・ 結局少し回りくどい言い方になってしまった。 どうして俺はこうなんだろうな。まぁ、そこは個性として考えてくれればありがたいよ。 「・・・バカ」 俺の腕の中で、ハルヒはそう呟いた。 「すまん」 これ以上先、言葉は必要なかった。 あの時感じたときと同じように、ハルヒの唇は温かくも湿りをもっている。 ________________________ | |本命、かも。 |________________________ 回りくどくなく、やたらストレートだったこの言葉。最後にやや照れ隠しのように記された団長のキメ台詞。 そういえば渡される前の日にハルヒが国語辞典を読み漁ってたな。こいつに穏やかってのは変だが。 ともかく、こうして俺はここでハルヒを立ちながら抱きしめ、唇を重ねている。 時が止まって欲しいとも感じたさ。体中に幸せを感じていたからな。 そんな状況下で、全く予期せぬ事態が発生した。 ガチャッ! 扉が勢いよく開いた。 こういう間の悪い奴を俺は一人知っている。 そのT君はアホなので変な方向に勘違いしてくれて助かったが、この状況はそうともいかない。 ドアノブをまわす音から扉が開くまで幾分かの間があったので、ハルヒから体を離すには充分だった。 離れるハルヒの顔が、どこか名残惜しそうな、そんな雰囲気を醸し出している。 それにしても、誰だ。いきなり。 だいたい今は授業中だろ。文芸部は今でも実は地下で突拍子もない活動をしてるのか? 授業が終わるまでも、あと30分くらいは時間があるはずだ。 すると、 パァン!という小さな火薬音と共に、これまた見覚えのある顔の奴が出てきた。 今のはおそらくクラッカーだろう。 「おやおや、ちょっと入室するにはタイミングが早すぎましたかね?」 古泉だった。 すると、ガタリ、という音と共に掃除ロッカーから長門が出てきた。 こりゃまずい、古泉はともかく長門は顛末全部分かってるんじゃないだろうか・・・ 古泉の後ろからは、なぜかメイド服を着ている、(大)と(小)の間くらいに成長した朝比奈さんが出てきた。 朝比奈さんの位置づけはとりあえず(中)ってことにしておこう。 「これはいいアダムとイヴですねぇ」 古泉がいつものニヤケ面を100倍増長させたような顔で皮肉を言うと、 「涼宮さんにもこんなところがあったんですねぇ!キョンくんを部室に呼び出すなんてぇ」」 「んなっ!ち、ちょっとみくるちゃん、違うって!これは、あの、その!偶然よ偶然!」 朝比奈さん(中)がほほえみながらハルヒをちょんっと小突いた。 意外な光景だった。 というか、朝比奈さんはわざわざ未来からやってきたのだろうか。 それにしても、ハルヒにちょっかい出すなんて、朝比奈さんは色々と成長していくんだな、と感心した。 体の方も順調に朝比奈さん(大)に向かって邁進しておられるご様子。 「・・・これはドッキリだったのか?」 そうつぶやくしかなかった。そりゃそうだろ。 「いえ、僕たちは特に打ち合わせなんてしていませんよ。」 と古泉が答えた。 じゃあなんだっていうんだ、その準備のいいクラッカーといい朝比奈さんの姿といい。 「よく分かりません。ただ、なんとなくです。クラッカーを用意させていただいたのも、 ただの僕の気まぐれです。なんとなく、皆さんと会える気がする。ただ、そう考えて北高を訪ねただけです」 少し動機は違うものの、古泉がここを訪れた理由はなんとなく俺と似ている。 懐かしい気持ちもあったが、少しだけこいつらに会える気がしていた。 よくもまぁ、とんでもないタイミングで出てきやがったがな。 でもこの理屈じゃ朝比奈さんとお前はともかく、長門の説明が付かないだろ。 掃除ロッカーに入ってるとか、こうなることを知ってないと無理だ。 「長門さんは何かが起こる気はしていたようですよ。もしかして、お二人を驚かせたかったのでは?」 そんなはずがあるかい。 と思いながらも、無表情とは少し違った、どこか笑いの成分をわずかに含んでいる顔つきをしている長門を見た。 長門はピクリとも動かずに、一言 「子供が丈夫に育つ事を願う」 ・・・ こいつ、なかなか痛いツボを突いてきやがる・・・ ハルヒはまだ朝比奈さんとじゃれあってる。いい景色だ。 それはいいとして、この恥ずかしい状況を少しでも逸らすために、この偶然性への疑問を問いかけた。 「・・・古泉。ハルヒはたしかにお前ら全員を集めるつもりでいた。これは間違いない。 ってことは、いつもの通りハルヒがそう望んだからお前らと、そして俺がここに来たという理屈も通る。 だが、あいつはバレンタインデーの時のこともあったが、こういう恥ずかしい結末になるのを 一番嫌がるような回りくどい奴だぞ(俺が言えることではないが)。 だとしたら、この状況はなんなんだ?起こりえないことが起こっているんじゃないのか?」 俺の長い長い問いかけに対し、古泉は意味をすぐに理解したのか、こう返してきた。 「涼宮さんが完全な神ではないから、と説明することも可能でしょうが、私は違うと思いますね。」 じゃあなんなんだよ。いい加減頭が混乱してきた。 「簡単なことです。涼宮さんが望み、あなたが望み、僕が、そして朝比奈さん、長門さんが望んだから。 これで説明がつきますよ。望む、の捉え方を少し変えて考えてみてください。」 俺が望み、他のみんなが望んだこと。 ああ、そういうことなのか。 文芸部の部室。かつてここはSOS団の拠点であり、根城であり、我が家だった。 団員は、すでに全員がこの北高を卒業している。 SOS団は団長の「永久に不滅」の言葉どおり、解散はしていない。残り続けている。 いつもの喫茶店がいつもの喫茶店であるように、この部室もまた、姿かたちは変わっても、SOS団の「家」だ。 俺たちとって文芸部部室は、もう駅のホームのようにただ通り過ぎるだけの場所ではなくなっていた。 みんなで過ごした日々を、決して忘れたくない。 環境は変わっても、その思いがあるからこそ、この部室に来る意味がある。 SOS団の創立記念日。この日だからこそ、みんな特別な思いを抱いているはずだ。 ハルヒが現実にしたわけじゃない。それぞれ思っている思いが合致したからこそ、 こうしてSOS団の面々はここにいる。もう一度、部室でみんなと一緒にいたい。それが「望み」なんだろう。 この不思議な団結力が、信頼関係ってやつなのかな。 それにしても、思わぬ展開になってしまったけど。 「なぁーんだ!電話する手間がはぶけたじゃない!みんな来るなんて!」 ハルヒは何事もなかったように、元気な声で団員を見回した。 「ちょうどいいわ、こんな機会もうないでしょうしね。やーっぱSOS団の活動拠点はここじゃないと!」 そういってハルヒは部室の隅にあった勉強机を自分のホームポジションに移動し、 その机の上であぐらをかいて、「第何回か忘れちゃったけど、定例会議の開始よ開始!」と笑顔で言った。 現在の時刻は3時50分。あと30分もすれば、正規の部員が部室に戻ってくるだろう。 不法侵入で通報されないためにも、30分でここから立ち去らないといけない。 メイド服の朝比奈さんは、どこからともなく水筒と湯飲みを取り出し、団員についで回った。 長門は教室の隅でハードカバーの本を読んでいる。ページをめくる音以外たてずに。 古泉はこちらを向いてニコニコしながらも、ときどきハルヒの意見に相槌を打っている。 30分。わずかな時間であっても、SOS団の活動に支障はない。 団長の名言「時間より中身」、ってな。 この状況を作り出した巡りあわせ、というより団員の不思議な団結力。 俺は心から誇りに思うよ。 SOS団は、最高だってな。 おわり えぴろーぐ 楽しい時間は、あっという間に過ぎた。 チャイムの音が聞こえると、団長の声のもと一斉に俺たちは学校を出た。 ・・・誰かに泥棒と間違われていないことを切に願う。 当初の予定通り、市内探索を行うことになった。 久しぶりだな、この感覚。1人で出歩くことはあるが、団員みんなで回るのはやっぱり楽しい。 そういえば、学校前の坂を全員で下ったことはあんまりなかったな。 「さぁて、ひっさしぶりの探索だから、相手も油断しているでしょうね!チャンスだわ!」 ハルヒは先頭をいつもの大股歩きで邁進している。元気な奴だ、全く。 さらに「本日の予定を説明するわよぉ!」 と高々に声を張りあげ、気の遠くなるようなハードスケジュールを宣言した。 おいおい、喫茶店や図書館、公園はともかく阪中の家って完全に逆方向じゃねーか。 「大丈夫よ!もう阪中さんには連絡しておいて、快い返事をもらったわっ♪」 いや、そういうことじゃなくてな・・・。まぁいいか、ルソーは元気にしてるんだろうかな。 ハルヒの言う場所の1箇所1箇所がそれぞれ思い出の1ページのようで、思わず顔が緩む。 全ての箇所を回り終えたころ、すでに時計の針は9時を過ぎていた。 まだ4月も上旬ということもあってか、夜になると横風が冷たい。 もうちょっと着込んでこればよかったかな、とも思うが、そもそも家を出る時にはこんなことは想定してなかったな。 「今日は楽しかったわねー!やっぱSOS団はこうでなくちゃ!」 ハルヒの顔が今日一番の満面の笑みになっている。ああ、俺も楽しかったさ。 で、いつまでその白ひげを付けてるつもりだ? 「んなっ、ちょっとぉ・・・!あんたもっと早く教えなさいよねっ!」 そういってハルヒは恥ずかしそうな顔をしながら、 口元についているシュークリームの残りカスをぺろんと舐めた。 駅に着いた俺たちは、名残惜しい感情を隠しきれないような顔でそれぞれ別れを告げた。 朝比奈さんは大きく手を振りながら改札の向こうへ、古泉はニコニコしながら駐輪所へ、 長門はそのまま自宅の方角へとテクテク歩いていき、ハルヒは「じゃあねー♪」と言ってみんなを見回す。 「んじゃあな。」と俺は軽く手をあげ、振り返って歩き出した。 5分くらい歩いただろうか。路地を抜けて公園の前を通りかかったとき、 後ろから誰かが俺の服をつまんでいるのが分かった。 そこにいたのは、 さっき駅前で別れを告げたばかりの、 ハルヒだった。 部室の時のように、顔を赤らめながら俺を見上げたハルヒは、消え入るような声で、 「・・・財布、まだ交換してないでしょ。」とつぶやいた。 ああ、そういえばそうだったな。あの時はいきなり古泉たちが現れて・・・ 「それに・・・ま、まだ・・・答えてないでしょ、あ、あんたの・・・こ、こっ、こく・・・」 とりあえず、道の真ん中でそんな話するのもなんだから、どっか座ろうぜ。 そう言った俺はハルヒの手を引き、公園にある大きなベンチに座った。 ハルヒは俺の手を握ったまま、顔を逸らして言葉を続けた。 「まったく・・・あ、あんたもいきなりすぎるのよっ・・・。その・・・心の準備ってものがね・・・」 3年間、俺は心の準備を常にお前によって無視され続けたけどな。 「そ、それとはまた話が別よ・・・!その、あの・・・。」 吹く風にかき消されるような、ハルヒらしからぬ小さく弱い声。 ハルヒの萌え部位がポニーテール以外にもあったということを、もっと早く知りたかったぜ。 谷口の話では、中学生時代、こいつはされる告白をすべて承諾していたらしい。 2週間とか直後に「普通の人間の相手をしている暇はないの」と言ってフッていたみたいだが、 どんなにつまらない奴の告白も受け入れていた。 おそらく、そのときもハルヒらしくサバサバと受け入れていたのだろう。 ところが今はどうだろう。 中学時代のハルヒがいちいちこんな風に恥ずかしそうにしていたとはまったく考えられない。 俺は超能力者でも未来人でも宇宙人でもないから、 ハルヒの頭の中をインチキして覗くことはできない。できたとしても覗こうとは思わないけどな。 でも、ひとつ分かることは、 ハルヒが俺のことを特別な存在だと考えてくれているということ。 それが何よりも、 嬉しかった。 「もう・・・、ひ、ひとの言おうとしていた台詞を先に言うんじゃないわよ・・・」 ハルヒはそう言って、俺に寄り添ってきた。 「あ、あたしのほうが、あ、あの、あんたのことを・・・・」 それ以上は言葉が出なかったみたいなので、俺はちょっとからかってみたくなり、 「団長が団員の心配をするのは当然だよな」と冷静にツッコミを入れた。 「う・・・ち、ちが・・・。そういうことじゃなくて、その、団員とかじゃなくて、あたしは・・・」 これ以上はちょっとハルヒが恥ずかしすぎるみたいで可哀想なので、 そのままぎゅうっと抱き寄せてやった。 「あ、あたしはさっきみたいな中途半端なのは嫌いなんだから・・・ちゃ、ちゃんと心を込めなさいよ」 お前もな。 部室のときよりも、柔らかく。 俺たちは唇を重ねた。 「だ、団長と下っ端のヒラ団員だけで行う特別定例会議は・・・か、必ず週3回以上行うわよ!」 「都合が悪くて週2回しか無理だったらどうするんだ」 「んなことがあったら罰ゲームよ罰ゲームぅ♪団長の命令は絶対なんだからねっ!」 そんなことを話しながら、俺たちは寄り添って夜空を見上げた。 罰ゲームか。 どんな罰を受けることになるんだろうな。 できることなら、一度も罰ゲームを受けないで済むようであってほしい。 谷口よ。 お先に失礼させてもらうぜ、悪いがな。 お前のお得意の女子ランクの判断基準がどういうものなのかは知らん。 でもな、 俺はどんなランクよりも上に来るような、 自慢の子を見つけたぜ。 ハルヒを家まで送り届け、特上の笑顔を堪能したあと、俺は自宅へと向かった。 今ほど幸せな気分であったことは、人生においておそらくなかっただろう。 家に帰る道の途中、長門のマンションの横を通りがかった。 長門、卒業してからなにしてたんだろうな、と気にはなったが、 なにせ今は頭の中がハルヒでいっぱいなので、深く追求するのはやめた。 すると、マンションの入り口に誰かが立っているのが見えた。 遠目には誰だかほとんどわからなかったが、マンションの光で周囲が照らされている位置まで来て、 そこにいる人物が他でもない長門であると分かった。 「お前、なんでまた外に出てるんだ?誰かを待っていたのか?」 「私が待っていたのはあなた」 意外な言葉が返ってきた。 なんだ、せっかくいい気分だというのに、また情報思念統合体だか何だかの騒動に巻き込まれるのか? 「これ」 長門はそう言ってひとつの封筒を俺に渡した。 「家に帰ったらあけてみて」 そう言って長門は、自室へと帰っていった。 _________________________________ | | 無視できない重要な問題が発生した。 | あなたは明日の午後1時13分に、隣町の駅前から南南西徒歩10分の | 距離にある建物の裏口から中に入って、 | その建物の1階にあるコインロッカーを開けなければならない。 | | 涼宮ハルヒを必ず連れて行くこと。ただし、涼宮ハルヒに詳細を伝えてはいけない | |_________________________________ ・・・・・・・・・ ・・・マジかよ、長門。今度は何が起こるんだ? 今までもいろいろなことに巻き込まれてきたが、少なくともこの1年間は平穏だった。 久しぶりにゴタゴタ巻き込まれることになりそうだぜ。 ただ、なんだろう。 このワクワクする気持ちは。 ともかく、長門がそういうなら従うしかない。 それにしてもハルヒを連れて行かなければいけないって、珍しいケースだな。 部屋に戻り電気を消して布団に入った俺は、色々と忙しかった一日を振り返りながら、 枕の下にかつてハルヒとツーショットで撮った写真をおいて、眠りについた。 翌朝。 まずはハルヒを呼び出さないといけない。詳細は隠さないといけないそうだから、そうだな・・・ 名目上は・・・特別定例会議、か。 「もしもし、どしたのキョン?え、今日会いたいって・・・?え、うん・・・別にいいけど・・・わかった、12時半に駅前ね。」 これから何が起こるかはまったく予測がつかない。 ただ、ハルヒと一緒ならなんとかなりそうな気がする。 「おっまーたせっ♪ってあれ、あんたが先に来るなんて珍しいじゃないの」 まぁな。朝から落ち着かなかったから集合時間の30分前にはここに来ていた。 さて、団長さん。一番最後に来た者は罰金、だな。昼飯代が浮いたぜ。 「んなっ、ちょ、キョンズルいわよあんた!まぁ・・・別にいいけど、今日・・・お弁当作ってきたから」 なんという桃色の図式なんだろうかこれは。 ハルヒの料理の腕前がたしかなのはクリスマスパーティの頃から周知の事実なので、これは期待できる。 ありがとな。 「お、お礼なんて別にいらないわよ!それよりも、一体どこに行くつもりなの?」 どこへ、か。詳しくは俺もわからないんだけどな。 とりあえず長門の指示通りに動くしかない。 「はぁ?詳しくわからないってなんなのよそれ。まぁ、たまにはあんたの行きたいところへ行ってもいいけどね」 なんとかハルヒに詳細を話さないように説明し、俺たちは隣町行きの電車に乗った。 「隣町って特に目立つような店も遊ぶようなとこもないわよねぇ、どこかあったかしら」 そんなこと言われても俺も詳しくは知らないし、 そもそも隣町には滅多に行くことなんてないから地理も分からん。 「・・・どうしよっかな、「あーん」ってのはベタよねぇ。うーん、キョンが・・喜ぶような」 ぼそぼそと小さい声でハルヒが何かつぶやいていたようなので、 「ん、なんか言ったか?」と聞いてみたが、 「んな、な、なんでもないわよ、なんでも!」とお茶を濁される。 気になる。これは気になる。 そんな会話をしているうちに、電車は隣町の駅へと到着した。 さて、ここからが本番だ。 時間は現在ちょうど1時。あまりのんびりしているヒマはない。 南南西の方角、詳しい指定はされていないのでまっすぐ、とにかく直進すればいいのだろう。 長門、これからなにが起こるのかはわからないが、 できれば頭を使わなくて済むようにしてくれよ。 レポート仕上げの疲れで頭の方はあまり調子がよくないからな。 ハルヒから特に要求されたわけではないが、 俺たちはお互い手をぎゅっと握り締めながら、指定地点へ向かって歩いた。 1時13分。 おそらく、ここだろう。駅から歩いてきた方角にある建物で、 裏口がこちらを向いてるのはこの大きな教会のような外観の白い建物だけだ。 中に入ってみる。綺麗な内装だな、どこか神秘的な感じさえする。 これはなんの建物なんだろうか。 なぜか、ハルヒは中に入ってからやたらとそわそわしている。 「ちょ・・・ここって・・・ね、ねぇ、キョン、わ、わたしたちにはまだ早いってば・・・///」 ハルヒは突然顔を赤らめた。 ここはどこなんだ? 「バ、バカ・・・。こんなところに連れてくるんだったら、さ、最初からそういいなさいよぉ・・・」 ハルヒはやたらと恥ずかしそうにしているが、とりあえず一刻の猶予もない。 俺はハルヒの手を引いて、コインロッカーがあるというところへ向かって駆け出した。 長門から渡された封筒には同封物として、ここのコインロッカーに対応していると思われる鍵が入っていた。 コインロッカーを発見した俺は、封筒から鍵を取りだし、番号を照らし合わせる。 69番か・・・えーっと、69、69はっと・・・ あった。 コインロッカーというにはあまりに大きなサイズのロッカー。 大きな駅に置いてある、人間1人がなんとか入れるくらいの大きさのロッカー。 って、まさかここから人かそれに順ずる何かが出てくるってことはないよな。 というか、勘弁してくれ、そういうのは。 俺はおそるおそる、ロッカーの鍵を開け、扉を引いた。 とんでもないものが飛び出してくるとか、 異世界への扉が開くとか、何年か前へ遡行するとか、そんな予想をしていた。 中に入っていたのは、また封筒だった。 この中に過去と未来を繋ぐデバイスでも入ってんのか? それとも、また別の場所に行って何かをしろという指令書でも入ってんのか? なにが出てきても驚かない覚悟をもって開いた封筒の中には、 さらに小さな封筒が2つ入っていた。 そのうちひとつには、 「祝電 長門有希」 と書かれている。 封を開けて字面を読んでみると、短く1行でこんな言葉が書いてあった。 「子供が丈夫に育つ事を願う」 ・・・・・っておい。 ・・・そういうことかい。 「・・・なぁハルヒ、ここなんていう場所だか分かるか?」 俺はやれやれとした顔でため息混じりにハルヒに問いかける。 「え・・・あ、あんたが連れてきておいて・・・な、なに言ってんのよ・・・け、結婚式場でしょ・・・」 これは皮肉交じりなんだろうか、それとも、マジで祝福してるんだろうか・・・ 掃除ロッカーの中で顛末を聞いていたとはいえ、的確な皮肉と言うかなんというか。 これは長門の意思なんだろうか。あえてこんなドッキリ作戦で皮肉を言おうと思ったんだろうか。 それにしても、長門。 お前はなかなか痛いところをついてくるな・・・。 終わり
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高校を卒業してから、はや1年。 あのうるさいハルヒと別の大学に行ったおかげで 俺はめでたく宇宙人も未来人も超能力者もいない普通の日々を手にいれた ハルヒいわく「SOS団は永久に不滅なのよ!」とのことだが、 活動の根城であった文芸部室では現在、北高の新1年生数名が文芸部として活動している。 あるべき姿に戻ったとも言うべきだが、いまの部室にはガスコンロや湯飲みはない。 朝比奈さんが着ていた華やかな衣装も、コンピ研からかっぱらってきたパソコンもない、 普通の部室になっている。 昔のハルヒなら「ここはSOS団のアジトなのよ!」と部室を強引に不法占拠しただろうが、 楽しそうに活動する現部員、つまり後輩の様子を見ているとそんな気にもならないらしい。 拠点を持たない現在のSOS団にはどこか勢いがないと言うか、ごく普通の仲良しグループとなっている。 いつもの喫茶店に集まり、みんなで市内探索をしたり、イベントに参加したり・・・ そんな活動からも、最近は遠ざかっている。 それぞれの団員が新しい環境で忙しいのだろうか、 あのハイテンションの団長様からは、もう1年も召集命令がかかってこない。 実際、俺も忙しかった。 溜まっていたレポートをようやく仕上げ、自室でシャミセンを抱えてベッドに倒れこんだ。 ああ、疲れたさ。 人間というのは考え込むと突然憂鬱になることがあるそうだが、今の俺もちょうどそんな感じで、 何か釈然としない気分となりながら、激動が続いた高校時代の思い出を頭に描いている。 何気なく外に出た俺は、ハルヒの支離滅裂な行動を苦虫を噛む様な顔で振り返りながら、 朝比奈さんの素晴らしいお姿をもっと堪能していればよかったと後悔の念を抱き、 木漏れ日が射す道を、高校時代、毎朝苦しめられたあの坂を上っていた。 平日の学校だというのにどことなく静かで、相変わらず安っぽいプレハブ校舎が風情を醸し出している。 桜舞い散る校門を、卒業式以来久しぶりに通る。 おもむろに懐かしくなってきた俺は、かつて騒然とした毎日を過ごした場所を1箇所1箇所巡ってみた。 教室に入ることはできないが、セキュリティの欠片もないこの学校を見回るのは造作もないことだった。 古泉に能力を聞かされた中庭のテーブル。文化祭でハルヒと長門が観客の度肝を抜いた体育館。 なんだ、ほとんど何も変わってないじゃないか。 自然と口元が緩む。何もかもが懐かしい。 様々な場所を歩き回った俺は、校門を出る前によく分からない気持ちに駆られ、あの扉の前に来ていた。 そう、現在はSOS団のプレートが外されて、正規の活動を行っているあの、 文芸部部室の扉の前に。 4月の上旬、今は授業中。 かつてのハルヒのように、授業をサボってまでクラブ活動に精を出すような奴はいないだろう。 部室に鍵がかかっているのは当たり前のことである。 しかし、憂鬱というよりは懐古の面持ちが強くなっていた俺は、かつての思い出の1ページをさらうように、 いるはずのない朝比奈さんの着替えを目撃しないために、軽く扉を2回叩いた。 当然、反応はない。 俺が1番に来るとは珍しいじゃないか、と自分に懐かしく言い聞かせ、ドアノブに手をかけた。 ガチャリ・・・ 鍵はかかっていなかった。 まったく、部活動時間外にはしっかり施錠するのが部長の仕事だぜ。 ハルヒもその辺だけはしっかりしていたんだから、そこは見習っておくべきだな。他はともかく。 扉を明けると同時に、懐かしい言葉が浮かんできたのでつぶやいてみた。 世界を大いに盛り上げるための、 「涼宮ハルヒの団。」 つぶやきを言い切る前に、 扉の向こうから俺の高校生活をクソ面白いものに変えやがった声が聞こえた。 どこか色っぽいような顔で俺に微笑みかけたそいつはまさしく、 涼宮ハルヒだった。 なにやってんだお前はこんなところで・・・ と言いたくもなったが、ハルヒの顔を見ていたらどうも言葉が出てこなかった。 どうやら俺が忙しい日常の中で、もっとも再び見ていたいと思ったのは、こいつの顔だったようだ。 おかしい話だよな、こいつと会ったらもっと忙しくて面倒なことに巻き込まれるんだぜ。 でも、ひとつ言えることは、忙しさの中にも楽しさと、そして心のやすらぎを得ることができたということ。 いろんな思いが交差する中、最終的に俺の全思考回路がハルヒに向ける言葉として選んだものは、 「よう」という一言だった。 「あんた、よく覚えていたわね」 とハルヒがつぶやいた。 どちらかと言えば勘が鈍いほうの俺だが、これが何のことかは一瞬で思い当たった。 少しの間をおいて、はにかみながらハルヒにこう返す。 「団長、1周年おめでとうございます」 ハルヒの目が、かつてのように輝いた。 「ふん、相変わらずあんたはバカね」 これは思わぬ反応だった。と、同時に久しぶりに聞くハルヒ節がなぜか心地よく感じた。 「どうせあんたは卒業して1周年とか考えてるんでしょうが違うわよ! 今日はSOS団設立からちょうど4周年でしょ!だいたい1周年だったら卒業式から逆算しても 日にちが合わないじゃないの。ふん、あんたにしてはいい事言ったけど詰めが甘いわねー!」 まぁ、そういわれてみればたしかにそうか。 ただ雰囲気的には1周年って感じはするがな。もう4年経つのか。早いもんだ。 あらためて部室を見回してみると、随分閑散としている気がする。 現文芸部の作成した会誌や読書コンクール作品などが整えられて机の上に置いてあり、 至極まじめに活動している様子が見受けられる。 そういえば俺たちもハルヒ編集長の指示によって文芸部(ではないが)の会誌を作ったっけな・・・ 朝比奈さんのかわいらしい童話や長門の淡々としたエッセイ、鶴屋さんの大爆笑必至のアレ。 コンピ研の部長氏が目を充血させてまで書き上げたようなパソコンゲームなんとかの記事。 そしてできれば忘れたい俺の恋愛(というのかどうか分からんが)小説。 「あんたの恋愛小説にはもうちょっと期待してたんだけどねー、期待して損したわ。」 余計なお世話だ 「そういやお前、大学の方はどうなんだ?また変な団作ってんじゃないだろうな」 相槌を打つ程度に聞いてみるが、返答の内容はだいたい見当が付く。 「作ってないわよ。あたしはSOS団の団長なの。新しい団を作るつもりも入るつもりもないわ」 恐らく、ハルヒの高校生活はとても楽しいものだったのだろう。 そのひとつがSOS団の存在、ひとつというより大きなウエイトを占めているのは間違いない。 はじめて会話したときの、あのどこか不満気で釣り上がった表情だったハルヒはもうどこにもいない。 あいつはおそらく、高校生になって劇的に日常が面白くなるとは考えてなかったはずだ。 期待はするけど、どこかで晴れない気持ちが芽生えてたはずだ。 でも。 それが、この3年間だったもんな。 個性的な仲間たち。数々の不思議な体験、胸が躍る冒険。 地味な事件のひとつひとつさえ、とても面白かったんだろ、なぁ、ハルヒ。 なんで分かるかって? 何度でも言うさ。 俺も楽しかったからだ。 「なーににやついてんのよ!また変なこと考えてるんじゃないでしょうねっ!」 「また」って、俺がいつお前の思う変なことを考えたんだよ。 だいたいお前が思う変なことってのは、一般人にとってどれだけ驚異的な発想なんだろうね。 ・・・とは思うものの、1年の時の冬に雪山で変な空間に閉じ込められたときに、 「風呂を覗くな!」みたいな主旨の事を言っていたっけな。 こういうところでは意外に乙女ちっくというか、古泉に言わせれば常識的な考えを持っているんだよな。 バレンタインデーでもそうだっけか。義理義理義理義理言っておいて毎年ちゃんとくれて、 年々チョコの内容がグレードアップしていったのはなんだったんだろうな。 最後の年のバレンタインデーなんて大きさも凄ければ、 団長様直々にお書きなされたカードみたいのまで入ってたっけな。 まぁ古泉のも同じ大きさでカードが入ってたみたいだが、何て書かれてたは知らん。 ただ、俺に宛てたカードに書いてあった言葉は今でも覚えてるぜ。 1年の時に貰ったのは、チョコにバレンタインデーとぶっきらぼうに書いてあっただけだったが、 あのカードに書かれた文字を俺は生涯忘れることはないんじゃなかろうか。 なんて書かれてたか?それはだな、 禁則事項。ずーっとな。 ちなみに俺はそのカードを今でも大切に財布に入れてる。 クレジットカードやどこぞの会員証よりも優先順位が上な、一番目立つところに。 「ふん、まぁいいわ。でも、あんたよく覚えてたわねぇ。ちょうど電話しようかなーって思ってたんだけどさ。 団長様は授業真っ盛りの学校に団員を集合させる気だったのかよ。 「ちがうわよ。集合場所はここじゃなくていつもの喫茶店。」 喫茶店か、あそこには色々とお世話になったもんだな。 おそらく俺は、この部室に来なかったら図書館か喫茶店に向かっていただろう。 その先でも結局こいつに会ってたことになるんだな。 巡りあわせ、か。 ハルヒに出会ってから、俺はこの言葉をつぶやく機会が減った。 理由はお分かりのとおり、「自分の思いを実現する力が涼宮ハルヒにはある」というバカげた話を、 一般人とはかけ離れた奴から耳にしてしまったからな。 俺の中で、ほぼ必ず「巡りあわせ」はこの言葉に置き換えられた。 ただ、今の状況はハルヒがそう願ったから、というわけではないような気がする。 それとは別に・・・、なんだろうな。言葉にはしづらい内容だ。 「とにかく、せっかくの記念日なんだからねっ!みんなで集まりましょうよ!」 ハルヒの目がまた輝きだした。ホント、楽しそうなときののこいつはいい顔するねぇ。 SOS団専用スマイル。俺は勝手にこう名づけてるんだが、その名のとおり一般生徒には なかなかお目にかかれない特上のハルヒスマイルだぜ。 「それじゃ、喫茶店行くか。みんな集まってのSOS団だからな。」 別に深い意味があって言ったわけでもなく、そんなすぐに急いで行こうという意図があったわけでもないが、 「えっ・・・ちょ、ちょっと待ちなさいって!えっと・・あの、その・・・ふ、風情のない奴ねあんたもっ!」 と、全力で部室から出ることをわざとらしく拒否しやがった。なにがしたいんだ、こいつは。 「とにかく・・・たまにはいいでしょ、あたしとあんた二人で懐かしむのも・・・。あんたは団員その1なんだし・・・」 ハルヒが顔を赤らめている様子を想像した諸君、残念。 いきなり後ろ向いて細い声になるんだから顔までは見れなかった。 どんな顔してたんだろうな。 間髪入れずにハルヒは振り返り、俺のいる方へと近づいてくる。 よくみると、紙袋を後手に隠しながら歩いてくるのが分かった。 「ハルヒ、お前後ろに何隠してんだ?」 頑張って俺に見られぬように隠している紙袋に入っている物体について、 わざと先に聞いてやった。 「!!!!・・・ちょ、ちょっとあんた、そういうのは気付いても言わないのが男心ってもんでしょうが・・・」 立ち止まってハルヒはそっぽを向いた。 予想通り。この反応が見たかった。 たまにはいいだろ?俺のほうがお前を困らせてやっても。 「・・・バカ。」 そう言いながら、ハルヒは紙袋から包装された物体を取り出した。 「なんだこれ?」 おそらく万人がそういう反応をせざるを得ない、意外な代物が飛び出してきた。 年季を感じさせる、例えるならば中学生が3年間一度も買い換えずに使い込んだ筆入れのような、 財布だった。 先ほど意外な代物と言ったが、俺はこの財布に見覚えがあった。 喫茶店の代金を払うのは大体が俺の仕事のようなものになっていたので、見かける機会は少なかったが、 それはハルヒが使っていた財布と見て間違いはなかった。 「・・・お、お礼の言葉はないのっ!?団長直々の贈与品なんだからおとなしく謝辞を述べなさいっ!」 なんだそのめっちゃくちゃな理屈は・・・。 と思いつつも、何でまた財布なんだろうな。それもハルヒ本人の使っていた。 その辺はまた後で聞くとして、まず最大の疑問を投げかけてみた。 なんでまた、これをわざわざ包装してるんだお前は。 「プレゼントってものは普通包装してあるでしょ!当然の事しただけよっ・・・。」 まぁ・・・たしかにプレゼントって物はだいたい包装してあるものだが、 そもそも渡す本人が日常的に使っていたものをプレゼントするってのはかなりのレアケースなんだろうか。 いや、そんなことより根本的におかしいだろ。なんというか。 つーかこいつはもしかして包装紙だけをわざわざ買いに行ったのか? 包装紙を売ってる店なんて聞いたことないから、 大方近所のデパートの店員を脅してかっぱらってきたんだろうな。 そう思ってくしゃくしゃになった包装紙を眺め、さてどこの店の包装紙だ?と店のマークを見回したが、 なかった。店のマークも、特徴も。 それにどこか、一般小売商などのものにしてはやけに包装紙にムラが目立つ。 まさかこいつは、わざわざ包装紙とリボンを手作りしたのか? ・・・聞いたらそっぽ向きそうなので、これは言わないでおくか。 「・・・大学の同級生が財布をくれたのよ。だからそれはもういいの。あんたにあげるわ。」 要するにいらないものを恵んであげますよってことか。 フリーマーケットに売りに行くって選択やそのまま放置しておくって選択肢はないのかよ。 俺ならたぶん捨ててるな。 「けっこう使い込んであるけど、あんたのそのボロい財布よりはマシでしょ」 お前に言われたくはねーな、と言いたいところだが実際俺の財布も年季が入ってるからな・・・ でも一応まだ使えるっちゃ使えるぞ。これでもけっこう愛着あるんだからな。 「えっと・・・今まであんたには色々お金出してもらってたからさ。 その・・・なんというかお礼よお礼。借りた恩はちゃんと返すのが義理人情の世界でしょ。」 いつからSOS団は義理人情の世界になったんだよ、と思いつつ、 俺のハルヒへの投資は金以外にも、睡眠時間とか平凡な生活の終焉とか色々あったな、 お返しは財布1個で足りるもんじゃねーぜ、という気もするといえばするな。などと考えていた。 「そのかわり、あんたの財布はあたしが預かっておくわよ!ちゃんとありがたくあたしの財布を使いなさい!」 ああ、そういうことか。要するに俺の財布が欲しかったんだな、こいつは。 そんな質のいいもんでもないが・・・こいつなりに何か考えがあるんだろう。 ってことは大学の同級生が財布をくれたってのもたぶんデマカセだな。 相変わらず素直じゃないヤツだ。 「まーた!なーにニヤニヤしてんのよ!・・・べ、別に深い意味があるわけじゃないんだからっ!」 ん、またニヤニヤしてたのか?俺は。 別に意識あっての行動ではないんだがな、どうもクセになってるらしい。 外の景色が春らしく、穏やかな陽気で静けさの中にあるように、 文芸部室もまた静かになっていた。この空間には俺とハルヒしかいない。 それにしちゃやけに静かだな。 「さっ!キョン!おとなしく財布を渡しなさいっ!ついでにあんたの財布の中身も拝見させてもらうわよぉ♪」 ハルヒは強引に俺のパーカーのポケットに入っている財布に向かって腕を伸ばしてきた。 全く、ほんとにむっちゃくちゃな奴だなこいつは・・・ ん?俺の財布の中身・・・ これはまずい。 俺が理性を最大限に働かせて、財布の略奪を必死に阻止しようとしたときにはすでに、 ハルヒの手を伸ばした先にあった。 「ふぅーん、さぁーてさてっ!雑用キョン君の財布にはなーにが入ってるのかしらっ!」 俺は一瞬目を覆いたい気分になったが、もうどうしようもないのでハルヒを見つめた。 そもそも略奪を阻止したとして、アレだけを財布から抜くのなんて無理だろう。 これはしてやられた。 「・・・ちょっ、あんた・・・これ・・・」 ハルヒの顔が紅潮していくのが分かった。もうホント、これ以上ないくらいに分かりやすかった。 「あ・・・あたしは別に、それ、本気のつもりじゃ・・・っと、その、冗談よ!2ヶ月はやいエイプリルフールなのっ! あ、あんたもそれ見て冗談にしちゃきついなとか・・・い、いってたじゃないの! もう1年以上経つのに・・・それを・・・財布に入れてるって・・・」 どうしよう、ほんとにこれ。 団長様直々のお言葉だったので入れておきましたとか? どう考えても言い逃れにしかならない。 俺は・・・ 俺が3日間意識を失っていたときに、寝ずに俺を看病してくれていたハルヒ。 世界が改変され、北高から姿を消したハルヒを全力で探し始めた俺。 バレンタインデーで年々グレードアップするチョコを俺にくれたハルヒ。 どこかでポニーテール姿のハルヒを望んでいる俺。 雨の日の帰り道、結果的に相合傘を望んだハルヒ。 ・・・鍵をそろえよ、か。 俺はこの状況とは無関係な、そんな言葉を思い浮かべていた。 あの時、俺は自分で意識したわけでもないのに、気が付いたら仲間を集めていたっけ。 気が付いたら。 もしかしたら、そんなはずはないとは思うが、 俺は全ての騒動や日常の中で、平行してもうひとつの鍵をそろえていたのだろうか。 涼宮ハルヒ、という鍵を。 「なぁ、ハルヒ」 「なによ」 口を開くまで時間がかかった俺の、やっとひねり出した言葉に、ハルヒは間髪入れずに返してきた。 この辺はこいつらしいな、とつくづく思う。 色々な言葉が思い浮かんできたが、なぜか俺は突拍子もないものを選び取ってしまった。 「俺、思うんだけどさ。曜日によって感じるイメージはそれぞれ異なるような気がするんだよ」 ハルヒが「はぁ?」という反応をしている。 まぁ、そりゃそうだろ。この場面でこんな言葉を投げかける奴は宇宙探しても俺ぐらいだろう。 「色でいうと月曜は黄色。火曜は赤で水曜が青で木曜は緑、金曜は茶色、日曜は白、だな」 ハルヒは変な顔を少しゆるませて、「ってことは、月曜が0で日曜が6になるわよね。」と返答する。 懐かしい会話が、立場を入れ替えて喋る形になったが、 俺はこの部分をあえて自分で言った。 「俺は月曜が1って感じがするけどな」 ハルヒはきょとんとした顔で、 「そりゃあんたが日曜になにもしてなくて、学校が始まる月曜が週の始まりのように感じたからでしょ」と答えた。 この場違いな問答で、俺は何かが分かったような気がした。 もちろん、そこまで深い意味を持って投げかけた質問なわけでもない。 「あんたの意見なんか誰も聞いてない、じゃないのな。」 ここら辺は俺の記憶力を素直に褒めるべきだな。 普通は4年前の会話を一字一句覚えているなんて、ありえないことだろうが。 その後のハルヒの一言が、後ほどかなり大きな意味を持つことになってしまったからな。 前後の会話はなんとなく覚えていたよ。ここまで鮮明だとは思ってなかったが。 「え、あたしそんなこと言ったっけ?」 ハルヒが首を傾げながら俺の問いかけに答えた。 ひとつ考察してみると、過去の記憶を探るうえで、局地的な言葉の存在を忘れることは 誰にでも多々あることで、それほど珍しいものでもない。 だが、俺にはハルヒがなぜ、その言葉を忘れてしまったのかがなんとなく分かっていた。 出会い、SOS団を作り、多くの出来事を越え、歳月が経った俺たちの関係。 そこには見えない信頼関係が出来上がっているように思える。 今のハルヒは、俺の意見を無視することはあっても全否定することはなくなった。 初対面と3年の付き合いでは、そりゃ内面の意識も変わるだろう。それは信頼関係とみて間違いない。 でも、ひとつひっかかることがある。それがさっきそろえた「涼宮ハルヒ」という鍵だ。 信頼関係というなら、俺と古泉の間にもあるようにハルヒと朝比奈さんの間にもある。 つまり、部員全員が信頼関係で繋がっているはずだ。それが、SOS団だろう。 じゃあ、俺とハルヒとの間には信頼関係をある意味で越えている何かがあるのだろうか。 そうでないと、ここまで鍵をそろえた理由が説明できない。 そして、何よりも謎になるのはこのカードを財布に入れていた俺である。 今思えば、俺はなんでこのカードを財布に入れているんだろうか。 まずそこが矛盾点になる。 ハルヒの顔が不意にうつむいた。 そして、おもむろにこう呟く。 「あんたも回りくどい奴よね。言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」 強気に聞こえたその言葉は、どこか恥じらいの成分を含んでいた。 回りくどい、か。脳内の俺を説明するならこれほど端的な言葉もねーな。実に分かりやすい。 ・・・ どうして、もっとはやく気づかなかったんだろうな。 回りくどく考える必要なんてこれっぽっちもないじゃないか。 俺は、ハルヒと2人になった閉鎖空間のときと同じように、手をハルヒの肩に乗せ、ぐっと引き寄せた。 「な・・・なによっ」 ハルヒの顔が、凄く近くにある。 あの時よりももっと近く、遠めに見たら抱き合っているようにしか見えない距離にまで引き寄せた。 今までハルヒと過ごしてきた日常の中で、顔が今くらい近くに来たことは、何回かある。 ただ、今までと違うのは、体も凄く近くにあるということ。 いつぞやハルヒが言った「黙って溜め込むのは精神に悪いわよ」という言葉。 それを倣うように、左脳をフル回転させて思考した考えを忘れ、 ハルヒの言った「はっきり」の一言で浮かんだ思いをヘタクソな言葉に乗せて、俺は言った。 「ハルヒ」 「どうやら俺はお前の事が好きみたいだ」 ・・・ 結局少し回りくどい言い方になってしまった。 どうして俺はこうなんだろうな。まぁ、そこは個性として考えてくれればありがたいよ。 「・・・バカ」 俺の腕の中で、ハルヒはそう呟いた。 「すまん」 これ以上先、言葉は必要なかった。 あの時感じたときと同じように、ハルヒの唇は温かくも湿りをもっている。 ________________________ | |本命、かも。 |________________________ 回りくどくなく、やたらストレートだったこの言葉。最後にやや照れ隠しのように記された団長のキメ台詞。 そういえば渡される前の日にハルヒが国語辞典を読み漁ってたな。こいつに穏やかってのは変だが。 ともかく、こうして俺はここでハルヒを立ちながら抱きしめ、唇を重ねている。 時が止まって欲しいとも感じたさ。体中に幸せを感じていたからな。 そんな状況下で、全く予期せぬ事態が発生した。 ガチャッ! 扉が勢いよく開いた。 こういう間の悪い奴を俺は一人知っている。 そのT君はアホなので変な方向に勘違いしてくれて助かったが、この状況はそうともいかない。 ドアノブをまわす音から扉が開くまで幾分かの間があったので、ハルヒから体を離すには充分だった。 離れるハルヒの顔が、どこか名残惜しそうな、そんな雰囲気を醸し出している。 それにしても、誰だ。いきなり。 だいたい今は授業中だろ。文芸部は今でも実は地下で突拍子もない活動をしてるのか? 授業が終わるまでも、あと30分くらいは時間があるはずだ。 すると、 パァン!という小さな火薬音と共に、これまた見覚えのある顔の奴が出てきた。 今のはおそらくクラッカーだろう。 「おやおや、ちょっと入室するにはタイミングが早すぎましたかね?」 古泉だった。 すると、ガタリ、という音と共に掃除ロッカーから長門が出てきた。 こりゃまずい、古泉はともかく長門は顛末全部分かってるんじゃないだろうか・・・ 古泉の後ろからは、なぜかメイド服を着ている、(大)と(小)の間くらいに成長した朝比奈さんが出てきた。 朝比奈さんの位置づけはとりあえず(中)ってことにしておこう。 「これはいいアダムとイヴですねぇ」 古泉がいつものニヤケ面を100倍増長させたような顔で皮肉を言うと、 「涼宮さんにもこんなところがあったんですねぇ!キョンくんを部室に呼び出すなんてぇ」」 「んなっ!ち、ちょっとみくるちゃん、違うって!これは、あの、その!偶然よ偶然!」 朝比奈さん(中)がほほえみながらハルヒをちょんっと小突いた。 意外な光景だった。 というか、朝比奈さんはわざわざ未来からやってきたのだろうか。 それにしても、ハルヒにちょっかい出すなんて、朝比奈さんは色々と成長していくんだな、と感心した。 体の方も順調に朝比奈さん(大)に向かって邁進しておられるご様子。 「・・・これはドッキリだったのか?」 そうつぶやくしかなかった。そりゃそうだろ。 「いえ、僕たちは特に打ち合わせなんてしていませんよ。」 と古泉が答えた。 じゃあなんだっていうんだ、その準備のいいクラッカーといい朝比奈さんの姿といい。 「よく分かりません。ただ、なんとなくです。クラッカーを用意させていただいたのも、 ただの僕の気まぐれです。なんとなく、皆さんと会える気がする。ただ、そう考えて北高を訪ねただけです」 少し動機は違うものの、古泉がここを訪れた理由はなんとなく俺と似ている。 懐かしい気持ちもあったが、少しだけこいつらに会える気がしていた。 よくもまぁ、とんでもないタイミングで出てきやがったがな。 でもこの理屈じゃ朝比奈さんとお前はともかく、長門の説明が付かないだろ。 掃除ロッカーに入ってるとか、こうなることを知ってないと無理だ。 「長門さんは何かが起こる気はしていたようですよ。もしかして、お二人を驚かせたかったのでは?」 そんなはずがあるかい。 と思いながらも、無表情とは少し違った、どこか笑いの成分をわずかに含んでいる顔つきをしている長門を見た。 長門はピクリとも動かずに、一言 「子供が丈夫に育つ事を願う」 ・・・ こいつ、なかなか痛いツボを突いてきやがる・・・ ハルヒはまだ朝比奈さんとじゃれあってる。いい景色だ。 それはいいとして、この恥ずかしい状況を少しでも逸らすために、この偶然性への疑問を問いかけた。 「・・・古泉。ハルヒはたしかにお前ら全員を集めるつもりでいた。これは間違いない。 ってことは、いつもの通りハルヒがそう望んだからお前らと、そして俺がここに来たという理屈も通る。 だが、あいつはバレンタインデーの時のこともあったが、こういう恥ずかしい結末になるのを 一番嫌がるような回りくどい奴だぞ(俺が言えることではないが)。 だとしたら、この状況はなんなんだ?起こりえないことが起こっているんじゃないのか?」 俺の長い長い問いかけに対し、古泉は意味をすぐに理解したのか、こう返してきた。 「涼宮さんが完全な神ではないから、と説明することも可能でしょうが、私は違うと思いますね。」 じゃあなんなんだよ。いい加減頭が混乱してきた。 「簡単なことです。涼宮さんが望み、あなたが望み、僕が、そして朝比奈さん、長門さんが望んだから。 これで説明がつきますよ。望む、の捉え方を少し変えて考えてみてください。」 俺が望み、他のみんなが望んだこと。 ああ、そういうことなのか。 文芸部の部室。かつてここはSOS団の拠点であり、根城であり、我が家だった。 団員は、すでに全員がこの北高を卒業している。 SOS団は団長の「永久に不滅」の言葉どおり、解散はしていない。残り続けている。 いつもの喫茶店がいつもの喫茶店であるように、この部室もまた、姿かたちは変わっても、SOS団の「家」だ。 俺たちとって文芸部部室は、もう駅のホームのようにただ通り過ぎるだけの場所ではなくなっていた。 みんなで過ごした日々を、決して忘れたくない。 環境は変わっても、その思いがあるからこそ、この部室に来る意味がある。 SOS団の創立記念日。この日だからこそ、みんな特別な思いを抱いているはずだ。 ハルヒが現実にしたわけじゃない。それぞれ思っている思いが合致したからこそ、 こうしてSOS団の面々はここにいる。もう一度、部室でみんなと一緒にいたい。それが「望み」なんだろう。 この不思議な団結力が、信頼関係ってやつなのかな。 それにしても、思わぬ展開になってしまったけど。 「なぁーんだ!電話する手間がはぶけたじゃない!みんな来るなんて!」 ハルヒは何事もなかったように、元気な声で団員を見回した。 「ちょうどいいわ、こんな機会もうないでしょうしね。やーっぱSOS団の活動拠点はここじゃないと!」 そういってハルヒは部室の隅にあった勉強机を自分のホームポジションに移動し、 その机の上であぐらをかいて、「第何回か忘れちゃったけど、定例会議の開始よ開始!」と笑顔で言った。 現在の時刻は3時50分。あと30分もすれば、正規の部員が部室に戻ってくるだろう。 不法侵入で通報されないためにも、30分でここから立ち去らないといけない。 メイド服の朝比奈さんは、どこからともなく水筒と湯飲みを取り出し、団員についで回った。 長門は教室の隅でハードカバーの本を読んでいる。ページをめくる音以外たてずに。 古泉はこちらを向いてニコニコしながらも、ときどきハルヒの意見に相槌を打っている。 30分。わずかな時間であっても、SOS団の活動に支障はない。 団長の名言「時間より中身」、ってな。 この状況を作り出した巡りあわせ、というより団員の不思議な団結力。 俺は心から誇りに思うよ。 SOS団は、最高だってな。 おわり えぴろーぐ 楽しい時間は、あっという間に過ぎた。 チャイムの音が聞こえると、団長の声のもと一斉に俺たちは学校を出た。 ・・・誰かに泥棒と間違われていないことを切に願う。 当初の予定通り、市内探索を行うことになった。 久しぶりだな、この感覚。1人で出歩くことはあるが、団員みんなで回るのはやっぱり楽しい。 そういえば、学校前の坂を全員で下ったことはあんまりなかったな。 「さぁて、ひっさしぶりの探索だから、相手も油断しているでしょうね!チャンスだわ!」 ハルヒは先頭をいつもの大股歩きで邁進している。元気な奴だ、全く。 さらに「本日の予定を説明するわよぉ!」 と高々に声を張りあげ、気の遠くなるようなハードスケジュールを宣言した。 おいおい、喫茶店や図書館、公園はともかく阪中の家って完全に逆方向じゃねーか。 「大丈夫よ!もう阪中さんには連絡しておいて、快い返事をもらったわっ♪」 いや、そういうことじゃなくてな・・・。まぁいいか、ルソーは元気にしてるんだろうかな。 ハルヒの言う場所の1箇所1箇所がそれぞれ思い出の1ページのようで、思わず顔が緩む。 全ての箇所を回り終えたころ、すでに時計の針は9時を過ぎていた。 まだ4月も上旬ということもあってか、夜になると横風が冷たい。 もうちょっと着込んでこればよかったかな、とも思うが、そもそも家を出る時にはこんなことは想定してなかったな。 「今日は楽しかったわねー!やっぱSOS団はこうでなくちゃ!」 ハルヒの顔が今日一番の満面の笑みになっている。ああ、俺も楽しかったさ。 で、いつまでその白ひげを付けてるつもりだ? 「んなっ、ちょっとぉ・・・!あんたもっと早く教えなさいよねっ!」 そういってハルヒは恥ずかしそうな顔をしながら、 口元についているシュークリームの残りカスをぺろんと舐めた。 駅に着いた俺たちは、名残惜しい感情を隠しきれないような顔でそれぞれ別れを告げた。 朝比奈さんは大きく手を振りながら改札の向こうへ、古泉はニコニコしながら駐輪所へ、 長門はそのまま自宅の方角へとテクテク歩いていき、ハルヒは「じゃあねー♪」と言ってみんなを見回す。 「んじゃあな。」と俺は軽く手をあげ、振り返って歩き出した。 5分くらい歩いただろうか。路地を抜けて公園の前を通りかかったとき、 後ろから誰かが俺の服をつまんでいるのが分かった。 そこにいたのは、 さっき駅前で別れを告げたばかりの、 ハルヒだった。 部室の時のように、顔を赤らめながら俺を見上げたハルヒは、消え入るような声で、 「・・・財布、まだ交換してないでしょ。」とつぶやいた。 ああ、そういえばそうだったな。あの時はいきなり古泉たちが現れて・・・ 「それに・・・ま、まだ・・・答えてないでしょ、あ、あんたの・・・こ、こっ、こく・・・」 とりあえず、道の真ん中でそんな話するのもなんだから、どっか座ろうぜ。 そう言った俺はハルヒの手を引き、公園にある大きなベンチに座った。 ハルヒは俺の手を握ったまま、顔を逸らして言葉を続けた。 「まったく・・・あ、あんたもいきなりすぎるのよっ・・・。その・・・心の準備ってものがね・・・」 3年間、俺は心の準備を常にお前によって無視され続けたけどな。 「そ、それとはまた話が別よ・・・!その、あの・・・。」 吹く風にかき消されるような、ハルヒらしからぬ小さく弱い声。 ハルヒの萌え部位がポニーテール以外にもあったということを、もっと早く知りたかったぜ。 谷口の話では、中学生時代、こいつはされる告白をすべて承諾していたらしい。 2週間とか直後に「普通の人間の相手をしている暇はないの」と言ってフッていたみたいだが、 どんなにつまらない奴の告白も受け入れていた。 おそらく、そのときもハルヒらしくサバサバと受け入れていたのだろう。 ところが今はどうだろう。 中学時代のハルヒがいちいちこんな風に恥ずかしそうにしていたとはまったく考えられない。 俺は超能力者でも未来人でも宇宙人でもないから、 ハルヒの頭の中をインチキして覗くことはできない。できたとしても覗こうとは思わないけどな。 でも、ひとつ分かることは、 ハルヒが俺のことを特別な存在だと考えてくれているということ。 それが何よりも、 嬉しかった。 「もう・・・、ひ、ひとの言おうとしていた台詞を先に言うんじゃないわよ・・・」 ハルヒはそう言って、俺に寄り添ってきた。 「あ、あたしのほうが、あ、あの、あんたのことを・・・・」 それ以上は言葉が出なかったみたいなので、俺はちょっとからかってみたくなり、 「団長が団員の心配をするのは当然だよな」と冷静にツッコミを入れた。 「う・・・ち、ちが・・・。そういうことじゃなくて、その、団員とかじゃなくて、あたしは・・・」 これ以上はちょっとハルヒが恥ずかしすぎるみたいで可哀想なので、 そのままぎゅうっと抱き寄せてやった。 「あ、あたしはさっきみたいな中途半端なのは嫌いなんだから・・・ちゃ、ちゃんと心を込めなさいよ」 お前もな。 部室のときよりも、柔らかく。 俺たちは唇を重ねた。 「だ、団長と下っ端のヒラ団員だけで行う特別定例会議は・・・か、必ず週3回以上行うわよ!」 「都合が悪くて週2回しか無理だったらどうするんだ」 「んなことがあったら罰ゲームよ罰ゲームぅ♪団長の命令は絶対なんだからねっ!」 そんなことを話しながら、俺たちは寄り添って夜空を見上げた。 罰ゲームか。 どんな罰を受けることになるんだろうな。 できることなら、一度も罰ゲームを受けないで済むようであってほしい。 谷口よ。 お先に失礼させてもらうぜ、悪いがな。 お前のお得意の女子ランクの判断基準がどういうものなのかは知らん。 でもな、 俺はどんなランクよりも上に来るような、 自慢の子を見つけたぜ。 ハルヒを家まで送り届け、特上の笑顔を堪能したあと、俺は自宅へと向かった。 今ほど幸せな気分であったことは、人生においておそらくなかっただろう。 家に帰る道の途中、長門のマンションの横を通りがかった。 長門、卒業してからなにしてたんだろうな、と気にはなったが、 なにせ今は頭の中がハルヒでいっぱいなので、深く追求するのはやめた。 すると、マンションの入り口に誰かが立っているのが見えた。 遠目には誰だかほとんどわからなかったが、マンションの光で周囲が照らされている位置まで来て、 そこにいる人物が他でもない長門であると分かった。 「お前、なんでまた外に出てるんだ?誰かを待っていたのか?」 「私が待っていたのはあなた」 意外な言葉が返ってきた。 なんだ、せっかくいい気分だというのに、また情報思念統合体だか何だかの騒動に巻き込まれるのか? 「これ」 長門はそう言ってひとつの封筒を俺に渡した。 「家に帰ったらあけてみて」 そう言って長門は、自室へと帰っていった。 _________________________________ | | 無視できない重要な問題が発生した。 | あなたは明日の午後1時13分に、隣町の駅前から南南西徒歩10分の | 距離にある建物の裏口から中に入って、 | その建物の1階にあるコインロッカーを開けなければならない。 | | 涼宮ハルヒを必ず連れて行くこと。ただし、涼宮ハルヒに詳細を伝えてはいけない | |_________________________________ ・・・・・・・・・ ・・・マジかよ、長門。今度は何が起こるんだ? 今までもいろいろなことに巻き込まれてきたが、少なくともこの1年間は平穏だった。 久しぶりにゴタゴタ巻き込まれることになりそうだぜ。 ただ、なんだろう。 このワクワクする気持ちは。 ともかく、長門がそういうなら従うしかない。 それにしてもハルヒを連れて行かなければいけないって、珍しいケースだな。 部屋に戻り電気を消して布団に入った俺は、色々と忙しかった一日を振り返りながら、 枕の下にかつてハルヒとツーショットで撮った写真をおいて、眠りについた。 翌朝。 まずはハルヒを呼び出さないといけない。詳細は隠さないといけないそうだから、そうだな・・・ 名目上は・・・特別定例会議、か。 「もしもし、どしたのキョン?え、今日会いたいって・・・?え、うん・・・別にいいけど・・・わかった、12時半に駅前ね。」 これから何が起こるかはまったく予測がつかない。 ただ、ハルヒと一緒ならなんとかなりそうな気がする。 「おっまーたせっ♪ってあれ、あんたが先に来るなんて珍しいじゃないの」 まぁな。朝から落ち着かなかったから集合時間の30分前にはここに来ていた。 さて、団長さん。一番最後に来た者は罰金、だな。昼飯代が浮いたぜ。 「んなっ、ちょ、キョンズルいわよあんた!まぁ・・・別にいいけど、今日・・・お弁当作ってきたから」 なんという桃色の図式なんだろうかこれは。 ハルヒの料理の腕前がたしかなのはクリスマスパーティの頃から周知の事実なので、これは期待できる。 ありがとな。 「お、お礼なんて別にいらないわよ!それよりも、一体どこに行くつもりなの?」 どこへ、か。詳しくは俺もわからないんだけどな。 とりあえず長門の指示通りに動くしかない。 「はぁ?詳しくわからないってなんなのよそれ。まぁ、たまにはあんたの行きたいところへ行ってもいいけどね」 なんとかハルヒに詳細を話さないように説明し、俺たちは隣町行きの電車に乗った。 「隣町って特に目立つような店も遊ぶようなとこもないわよねぇ、どこかあったかしら」 そんなこと言われても俺も詳しくは知らないし、 そもそも隣町には滅多に行くことなんてないから地理も分からん。 「・・・どうしよっかな、「あーん」ってのはベタよねぇ。うーん、キョンが・・喜ぶような」 ぼそぼそと小さい声でハルヒが何かつぶやいていたようなので、 「ん、なんか言ったか?」と聞いてみたが、 「んな、な、なんでもないわよ、なんでも!」とお茶を濁される。 気になる。これは気になる。 そんな会話をしているうちに、電車は隣町の駅へと到着した。 さて、ここからが本番だ。 時間は現在ちょうど1時。あまりのんびりしているヒマはない。 南南西の方角、詳しい指定はされていないのでまっすぐ、とにかく直進すればいいのだろう。 長門、これからなにが起こるのかはわからないが、 できれば頭を使わなくて済むようにしてくれよ。 レポート仕上げの疲れで頭の方はあまり調子がよくないからな。 ハルヒから特に要求されたわけではないが、 俺たちはお互い手をぎゅっと握り締めながら、指定地点へ向かって歩いた。 1時13分。 おそらく、ここだろう。駅から歩いてきた方角にある建物で、 裏口がこちらを向いてるのはこの大きな教会のような外観の白い建物だけだ。 中に入ってみる。綺麗な内装だな、どこか神秘的な感じさえする。 これはなんの建物なんだろうか。 なぜか、ハルヒは中に入ってからやたらとそわそわしている。 「ちょ・・・ここって・・・ね、ねぇ、キョン、わ、わたしたちにはまだ早いってば・・・///」 ハルヒは突然顔を赤らめた。 ここはどこなんだ? 「バ、バカ・・・。こんなところに連れてくるんだったら、さ、最初からそういいなさいよぉ・・・」 ハルヒはやたらと恥ずかしそうにしているが、とりあえず一刻の猶予もない。 俺はハルヒの手を引いて、コインロッカーがあるというところへ向かって駆け出した。 長門から渡された封筒には同封物として、ここのコインロッカーに対応していると思われる鍵が入っていた。 コインロッカーを発見した俺は、封筒から鍵を取りだし、番号を照らし合わせる。 69番か・・・えーっと、69、69はっと・・・ あった。 コインロッカーというにはあまりに大きなサイズのロッカー。 大きな駅に置いてある、人間1人がなんとか入れるくらいの大きさのロッカー。 って、まさかここから人かそれに順ずる何かが出てくるってことはないよな。 というか、勘弁してくれ、そういうのは。 俺はおそるおそる、ロッカーの鍵を開け、扉を引いた。 とんでもないものが飛び出してくるとか、 異世界への扉が開くとか、何年か前へ遡行するとか、そんな予想をしていた。 中に入っていたのは、また封筒だった。 この中に過去と未来を繋ぐデバイスでも入ってんのか? それとも、また別の場所に行って何かをしろという指令書でも入ってんのか? なにが出てきても驚かない覚悟をもって開いた封筒の中には、 さらに小さな封筒が2つ入っていた。 そのうちひとつには、 「祝電 長門有希」 と書かれている。 封を開けて字面を読んでみると、短く1行でこんな言葉が書いてあった。 「子供が丈夫に育つ事を願う」 ・・・・・っておい。 ・・・そういうことかい。 「・・・なぁハルヒ、ここなんていう場所だか分かるか?」 俺はやれやれとした顔でため息混じりにハルヒに問いかける。 「え・・・あ、あんたが連れてきておいて・・・な、なに言ってんのよ・・・け、結婚式場でしょ・・・」 これは皮肉交じりなんだろうか、それとも、マジで祝福してるんだろうか・・・ 掃除ロッカーの中で顛末を聞いていたとはいえ、的確な皮肉と言うかなんというか。 これは長門の意思なんだろうか。あえてこんなドッキリ作戦で皮肉を言おうと思ったんだろうか。 それにしても、長門。 お前はなかなか痛いところをついてくるな・・・。 終わり
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女優チェ・ジウがデビュー21年で初の非地上波ドラマを選んだのには理由があった。「2度目の二十歳 DVD」は女優が活躍する場をしっかり作っているように見える。 放送開始を控えているtvNの新金土ドラマ「2度目の二十歳」(脚本:ソ・ヒョンギョン、演出:キム・ヒョンシク、制作:JSピクチャーズ)は、花の19歳が突然、子供の母親となって生きてきたハ・ノラが、生まれて初めてキャンパスライフを経験するストーリーを描いたドラマだ。2015年新入生のハ・ノラと二十歳になったばかりの友人とのドタバタ交流を描く予定だ。 劇中でチェ・ジウは、2015年に大学に入学して人生をリセットすることになった38歳の女性主人公ハ・ノラに扮する。キャンパスで恋もリセットして異色の恋愛を披露する。お茶の間で選択の幅が広くない女優にとって、魅力的な作品であることは間違いなさそうだ。DVD通販 設定も興味深い。制作陣によると、まずチェ・ジウとイ・サンユンが演じるハ・ノラとチャ・ヒョンソクは芸術高校の同級生で、チャ・ヒョンソクにとってハ・ノラが初恋だ。 しかし、普通の初恋とはかなり違う。チャ・ヒョンソクにとってハ・ノラは自身と恋愛の駆け引きをしていた途中で子どもが出来てしまい、キム・ウチョルと結婚した彼を傷つけた悪い初恋だ。ハ・ノラが離れた理由が分からず“好奇心強迫症”という持病ならぬ持病まで得たヒョンソクは、恋愛できない人になって独身で暮らしている。ハ・ノラが大学に入学して教授と弟子としてハ・ノラに再会したヒョンソクは、ハ・ノラの一挙手一投足を気にかけ、愉快でハツラツとした独特な恋愛を展開する予定だ。 チェ・ジウとチェ・ウォニョンは夫婦として登場する。チェ・ウォニョンが演じるハ・ノラの夫キム・ウチョルは自己包装の達人である心理学教授で、大学を出ていないハ・ノラを常に無視する人物だ。 制作陣によると、ハ・ノラは第1話から夫ウチョルと離婚することをについて公証を受けている専業主婦として描かれる。制作陣は「ハ・ノラが夫ウチョルに離婚通告された理由は、教授の夫とのレベルの差のためだ」とし「第1話では離婚を止めるために、息子に恥ずかしくない母になるために修学能力試験(日本のセンター試験)を受け、大学に合格したノラの明るく堂々とした姿と共に、ノラの大学生活を断固反対する夫ウチョルと息子のミンスのため、人生の岐路に立たされたノラの状況が興味深く描かれる予定だ」と明らかにした。 「韓国ドラマ 2度目の二十歳 DVD」の前作である「ああ、私の幽霊さま」は、題材と内容、演技などにおいて大きな反響を呼んだ。今や地上波と非地上波ドラマを分けること自体が視聴者には無意味なことになっているが、それでもまだ業界の関係者の間ではある程度線があるのも事実だ。しかし、非地上波ドラマの攻めの戦略により、その線すらも薄まるものと見られる。
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一般廃棄物処理の現状 作成:鈴木 編集:足立(06.06.01) ●一般廃棄物処理をめぐる環境 一般廃棄物については市町村の固有の事務であり、自区内処理が原則とされてきた。しかし、ダイオキシン類対策をきっかけとして大規模施設が一時推奨されるなど、広域での処理が進みつつある。これには、都市部などを中心に新たな施設建設が困難となっている事情もある。特に最終処分場については、処分に適した場所の確保が難しく、最終処分量の削減など延命策の推進が急務となっている。 廃棄物の削減施策として、容器包装リサイクル法が活用され、多くの自治体で分別回収が進められている。中国の経済発展に伴い、故プラスチックや故紙類の輸出が増加して、引き取り価格が上昇していることも追い風となっている。 なお2005年度より、焼却施設等の建設にあたっての国からの補助金制度が廃止され、新たに循環型社会形成推進交付金制度に移行した。施設整備にあたって、国や都道府県が加わった協議会を開催し、広域的な整合性や循環型社会の視点を考慮しながら、検討をすることが必要となった。しかし、現実的な運用としては、以前とほぼ同様に施設建設が進められている。 ●2003年度の一般廃棄物処理の実態 環境省が毎年公表している一般廃棄物の処理の実態について整理した。 1人1日当たりのごみ排出量は1108グラム、ごみ排出総量は5161万トンで前年度と同じとなっている(図1)。近年ごみの減量が叫ばれているが、その成果は統計としてはまだ出ていない。なお、このうち32.8%は事業系一般廃棄物であり、生活系の分は1人1日あたり745グラム、排出総量で3466万トンとなる。 収集された廃棄物の処理としては、直接埋立てられるものは3.6%(186万トン)にすぎず、中間処理施設において92.0%(4,740万トン)が処理されている(図2)。中間処理の大部分が焼却処理となっており、焼却率は78.1%になっている。 処理方法の変遷をみると、直接最終処分が大幅に減少する一方、資源化処理や焼却処理が増加してきている(図3)。 市町村などによる資源化と住民団体などによる資源回収とを合わせた総資源化量は916万トン、リサイクル率は16.8%であり、資源化量、リサイクル率ともに着実に上昇を続けている(図4)。この10年間でリサイクル率は倍増しており、容器包装リサイクル法の後押しもあってリサイクルが進展したことが伺える。なお一般廃棄物のリサイクルは市町村の収集と、住民団体による収集に分けられるが、市町村の資源回収品目としては、紙・金属・ガラス類が多いのに対し、住民団体では圧倒的に古紙回収が中心となっている(図5)。 図1 1人1日あたりの一般廃棄物排出量 図2 一般廃棄物の処理フロー 図3 一般廃棄物の処理方法の推移 図4 一般廃棄物のリサイクル率の推移 図5 市町村・住民団体による資源回収品目 ●一般廃棄物の焼却施設の動向 日本の廃棄物処理の中で中心的役割を担っている焼却施設であるが、施設数をみると減少傾向にあり、2003年度末には1,396施設と、1年間で100近く減少している。ダイオキシン対策における規制が2002年12月にかけられたこともあり、小規模施設を中心に統合が進み、大型施設の割合も上昇している(図6)。ただし小型炉が新規に作られていないわけではなく、新規建設も進められている(図7)。 焼却施設での処理能力は合計で日量19万3,856トンとなっており、さきほどの焼却処理量を日量換算した11万400トンに比べて、単純計算で1.8倍の能力があることになる。 近年焼却の方法として溶融処理が拡大をしており、新規建設された67施設のうち4割に相当する26施設が直接溶融炉もしくはガス化溶融炉となっている。施設数の推移をみると、直接溶融炉は2001年の13施設から20施設へ増加、ガス化溶融炉は同じく15施設から34施設へと急激に普及している。 地球温暖化対策としてもエネルギー回収が注目されているが、2002年末時点で余熱利用ができる施設は全体の7割にあたる1035施設あり、263施設では発電施設も保有している。 なお、上記の集計は、市町村や一部事務組合が保有する施設であり、このほかにも民間施設であって、一般廃棄物処理の許可を受けて処理をしている施設もある。焼却施設は257施設で、受け入れ可能な一般廃棄物処理能力としては、市町村・一部事務組合が保有する施設能力の15%に相当する、日量2万9849トンとなっている。 図6 焼却施設の種類別施設数 図7 2003年度の全焼却施設数と新規施設数 表 民間施設を含めた焼却施設数と処理能力 ●一般廃棄物最終処分場の動向 2002年度末現在、一般廃棄物最終処分場は2,039 施設(2002年度2,047 施設)、残余容量は13,708 万m3(2001年度14,477万m3)であり、残余施設、残余容量とも減少が続いている。しかし、残余年数は全国平均で13.2 年分であり近年増加傾向がみられる。これは中間処理やリサイクル処理が進むことにより、最終処分量が減少しているためである(図8)。 表 一般廃棄物最終処分場の動向 図8 一般廃棄物最終処分場の残余容量と残余年数 ●ごみ処理経費の動向 2003年度のごみ処理事業経費については、年間1兆9,800億円であり、2年連続で減少を続けている。処理及び維持管理費(人件費や委託費を含んでいる)は減少しておらず、処理施設建設に関する費用が大幅に下がった結果となっている。国民1人当たりに換算すると1万5,400円、ごみ1tあたり3万8,360円に達する。一袋4kgのごみ袋では150円ほどになる。 処理および維持管理に関する費目では、人件費と委託費が大きくなっているが、いずれも収集運搬に関わるものが多くを占めている。 図9 廃棄物処理費の経年変化のうちわけ 図10 廃棄物処理費の経年変化 ●都道府県別の状況 都道府県別の処理状況について、集計表を示す。 1人1日あたり排出量が多いのは、大阪府の1,308g、最も少ないのは佐賀県の877gとなっている。ただしこれには事業系一般廃棄物も含まれているため、昼間人口の多い都市ほど多い傾向にある。 リサイクル率が高いのは、三重県28.4%、宮城県26.6%などとなっている。一方リサイクル率が低いのは、京都府7.4%、大阪府9.5%と近畿圏に多くなっている。 <参考資料> 環境省:一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成15年度実績)について 2005年11月 http //www.env.go.jp/recycle/waste/ippan/ippan_h15.pdf 環境省:日本の廃棄物処理 平成15年度版 2005年11月 一般廃棄物処理の現状 環境省2005年11月4日発表「一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成15年度実績)について」 http //www.env.go.jp/press/press.php?serial=6512(プレスリリース) http //www.env.go.jp/recycle/waste/ippan/ippan_h15.pdf(詳細版)
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6 :名無しさん@HOME:2011/08/26(金) 17 45 10.83 O 1乙 叔父が働いていた水産加工の会社(宮城県沿岸)が、津波の被害から復旧したので 再び生産が始まった商品を送ってくれたが、 トメが勝手に煮て食べた。 なので仕返しに、トメが大事にしている人形を煮つけてみた。 トメは「カマボコくらいいいじゃないふじこふじこ、こんなことするなんて頭おかしいふじこふじこ」だったが、 叔父の気持ち、故郷への思いが詰まった特別なものを「カマボコくらい」と言われてさらに頭にきたので 「笹かまはこうやって食べるとおいしいんですよ」と言いながら トメ部屋にわさび醤油を垂らしてきた。 7 :名無しさん@HOME:2011/08/26(金) 17 50 19.49 0 作りたてのかまぼこってそのままでもおいしいのに~ 煮るなんてもったいない~~ 叔父さんの会社復旧してよかったね。 9 :名無しさん@HOME:2011/08/26(金) 18 07 15.70 0 微妙。一緒に住んでいるんでしょ? 冷蔵庫に入っている蒲鉾で怒られたらびっくりだわ 12 :名無しさん@HOME:2011/08/26(金) 18 14 31.72 O 9 後出しで申し訳ないけど 届いたときにトメにも話したんだよ。 私にとっては特別だから旦那と一緒に食べられる日に大事に食べたいって(旦那は夜勤が多いので) でも勝手にひとりで食べたんだ 13 :名無しさん@HOME:2011/08/26(金) 18 31 05.89 0 ダメと言われるとやっちゃうクソガキ脳なのか いい年して恥ずかしい人だ 263 :名無しさん@HOME:2011/08/29(月) 21 04 43.39 O 6です うちのトメ、なんか病気なのかも。 食べ物に関してはすごい異常で、冷蔵庫のものはみんな食べちゃう。 お土産に用意してた、きちんと包装されたものも勝手に開けて食べちゃう。 私宛てに届いた荷物も、食べ物と分かると勝手に開けて食べちゃう。 洗面所に置いてた私のコンタクトの洗浄液も飲んじゃった。 264 :名無しさん@HOME:2011/08/29(月) 21 08 59.20 0 なんか前にもいたねえ 食べ物に対して異常な執着を見せるトメ しかしコンタクトの洗浄液は異常なんてもんじゃないな… 一度何とか誤魔化して受診したほうがいいかもしれないね 266 :名無しさん@HOME:2011/08/29(月) 21 27 21.53 0 263 呆けた? 脳に腫瘍とか? ドラマでそういうのなかったかな。食べても食べても満腹にならないっていうの。 267 :名無しさん@HOME:2011/08/29(月) 21 30 59.29 0 263 それ完全に呆けの初期症状、今のうちに病院連れて行かないと大便を食べるようになるよ。 次のお話→41
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ルリ姉がデートから帰ってきた ------------------------------------------------- 『ラッピング』 「おかえりー、ってルリ姉、どうしたの?それ。」 ルリ姉が荷物を抱えて帰ってきた 「ああこれ?・・・京介から貰ったのよ。」 「ひゃああん!プレゼントか!なかなかやるな高坂くん。」 「・・・私はいらないと言ったのだけれど 『もう買っちまったから。』と押し付けられてしまったのよ。」 「ふーん。ねね、見てもいい?」 「ええ。いいわよ。」 リボンを解き、包装紙を剥がす 開けてみると洋服だった 「困ったわ。安い物ではないのだろうし、私には・・・似合いそうもないし・・・」 いや、そんな顔で困ったとか言われても・・・ ニヤニヤしっぱなしで幸せオーラだだ漏れじゃん まてよ?そっかなるほど。神猫回避か・・・高坂くん、苦労してるなー ならば姉想いの妹としては支援するしかないよね 「きっと高坂くんはさ、ルリ姉にはどんな服が似合うか いろいろ考えてそれにしたんだと思うよ? 婦人服売り場なんて男の人が歩くにはかなりハードル高いのにねー」 「それは確かに・・・一歩間違えば不審者ね。」 「だからさ、そんな気持ちに応えるために女の子ができることは 申し訳なく思う事じゃなくてさ、それを着て今度のデートに行く事だと思うんだ。」 「・・・そうね。せっかく頂いたものだし、それが礼儀というものね。」 どうして高坂くんがルリ姉のサイズを知ってるんだろ? そんな野暮なツッコミをしなかったのは あたしも笑っているルリ姉が好きだから、だと思う ・ ・ ・ 翌日、ルリ姉は貰った服を着ていた 「・・・どうかしら?」 「すっごくいいよ。どっかのお嬢様みたい。高坂くん、けっこうセンスあるかも。」 「・・・そう。」 真っ赤になってホッと胸を撫で下ろすのは 落ち着いた、いつもよりちょっとお姉さんなルリ姉 電波な発言がなければ美人系なのに。相変わらず自分に自信がないんだなー 「それじゃ、行ってきます。」 「おーがんばれよー。あ、そだルリ姉。」 「なにかしら?」 ルリ姉が振り返る 「こないだテレビで見たんだけど、 男の人が女の人に洋服をプレゼントするのって・・・ 着せるためじゃなくて、後で脱がすためらしいよw」 「ひ、日向!」 「あはは!行ってらっしゃ~い。」 ・ ・ ・ その晩 「二人とも、ご飯できたわよ。」 「「はーい。」」 「あーお腹すいたー。あれ?」 「どうかしたかしら?」 「ううん。なんでもない。」 えっと・・・うん。武士の情けだ。スルーしよう もぐもぐもぐ ・・・ちょっと気まずい 「どうかしたの?味、美味しくなかったかしら?」 「え?そ、そんな事ないよ?ね、たまちゃん。」 「はいー。姉さまのおせきはん、おいしいです。」