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33◆休憩時間 1*空白時間 あの男がこちらを殺しに来る。それを躱し、こちらはあの男を倒す。 しばしの話し合いのあと、五人は傍若無人の提示した”最終戦”に合意した。 「では、時間は四時間後。それだけ頂きます」 代表して紆余曲折が宣言し、貰った休憩時間は四時間。 これは自分たちの回復時間を取ると言うより、相手の回復を阻止するための時間設定だ。 最悪、四時間後に延長を申し込むということもできる。所詮はルール外の口約束。使える手は、全部使う。 だけどその”手”を考えるにも時間が必要。 プラス現状の把握が大優先だという考えは、この場に生き延びた全員の共通認識だった。 それから彼ら5人は、改めて自己紹介をした。 ◆休憩開始より 三十分◆ 「……切磋琢磨だ。どうにも、戦いには目が無いようになってる。先手必勝とさっき手合って、結果、殺した」 「紆余曲折です。……さっきは変に音頭を取ってしまってすいません。僕が殺したのは猪突猛進さんです」 「一刀両断。青息吐息に致命傷を与えたのはあたしだ。キルカウントに入ってるかどうかはわからねぇけど」 「あー、優柔不断っす。心機一転を殺したのはオレだ。えーっと、そんで……」 「勇気凛々です。一望千里さん、軽妙洒脱さん、それに酒々落々を殺しました。わたしが、殺しました」 ハリボテの車を動かしてバリケードを作り、車止めの縁石におのおのが座ると、自己紹介が始まった。 自己紹介……といっても、実験の開始前に”自己”を奪われた彼ら五人が語れるのは、 与えられた四字熟語の名前と、誰と出会い、誰を殺したかということくらいしかなかったのだが。 切磋琢磨は少し重めに、紆余曲折は気持ち頭を下げつつ。一刀両断はサバサバと。 急な合流をした優柔不断は言いづらそうに。勇気凛々は誠実に真っ直ぐ、これまでの罪を告白した。 告白されたその罪――いや、正確には殺し合いの実験故、罪と言えるかは定かではないが、 ともかくその殺害報告を聞いて――三人と二人は、素直に驚く。 「やっぱり……みんな、誰かしらやっちまってんのか」 「俺は、一番殺しているのが君の連れのその少女だってのに一番驚かされたよ。一体何があったんだ」 一方は、生き残りの誰もが殺し合いを生き延びてきたという事実に。 もう一方は、目の前の小さな少女、勇気凛々が三人を死に至らしめているという事実に。 「わたしがやったのは確かです」 切磋琢磨に訊かれた少女は、少し目を伏せつつもやはり誠実に答える。 「でも、わたしにもよく分からない部分があるんです。ふわふわしていて、頼りないんです。 なぜわたしが《間違えて》しまったのか……ごめんなさい。今は、上手くお伝えすることができません」 「すまねぇ、タクマさん。凛々ちゃんもオレも、人を殺したときのことについては色々混乱してるんだ。 もうちょっと、考える時間をくれないか。あるいは、傍若無人は知ってるのかもしれないが……」 「ってことは――”ルール能力”がらみ、ってことかな。優柔不断さん、それに、凛々ちゃん」 「ああ、そうだ」 「はい、そうです。わたしたち二人は殺しをするに至ったその前に、同じ人物に接触している……。 傍若無人は確か、とくべつな名簿を。大まかなルール能力が記載されている名簿を持っていると言ってました。 その紙にあの人の、心機一転のルール能力が記載されていれば、謎に迫れるはずなんです」 「……なるほど。ルール能力が確定できないまま死んでしまったパターン、か……」 「どうする、紆余。俺はこの二人が嘘をついてるとは思えないが」 「僕もそう思います。・……分かりました。今からの決戦には関係ないことみたいですし。 それに二人ともすでに、殺しをしたことを”背負っている”。なら僕らからは、何も言わない」 「ハイパー感謝いたみいる。紆余くんだっけ、キミいい奴だな」 「ありがとうございます、みなさん」 優柔不断が、勇気凛々が、紆余曲折におじぎをする。 勇気凛々は後ろでひとつ結びにした長い髪の毛がくたりと前に垂れるくらいに深く。 ――切磋琢磨はその髪の毛に、洗い落としきれなかっただろう乾いた血の破片がいくつもこびりついているのを見逃さなかった。 身体についた傷も、その憔悴度も、五人の中でこの少女が一番多い。 三人を殺してしまうような・……どんな”戦闘”をくぐってきたのか。 彼はそれに興味があったが、今は他に優先すべきことがあった。 切磋琢磨は右を向く。ポニーテールを切ってさっぱりとした髪になった一刀両断がじっと目を閉じている。 「じゃあ、一刀両断」 「ああ」 自己紹介からだんまりを決め込んでいた彼女は目を開くと、持っていた日本刀をコンクリートに突き刺す。 《まるで水面に木の棒を差し込むかのように、するりと切っ先は入っていく》。そしてぱっと手を離すとそこで止まる。 彼女は他の四人に向けて、真正面からきっぱりと言った。 「これから、あたし達はあの男を倒すわけだが。その前に、聞いてほしいことがある」 「あー、オレもあんたにゃ聞きたいことがある」 と、遮って手を上げる者がひとりいた。優柔不断だ。彼は日本刀を指差し、 「その日本刀――空から落ちてきた。あれ、なんだよな。てことは」 「ああ」 「じゃあさっき、オレたちのことを知らないフリをしたのは……」 「ああ、嘘だ。それもこれから話す」 「……言い切るねぇ。随分かっけえこと。そんじゃ、聞かせてもらうとするわ」 いくつか質問して、一刀両断はそれに答える。 答えに納得したらしい優柔不断は、もう何も言わないよとばかりに両手を頭の後ろに組んで唸った。 一刀両断は一呼吸おいて、再び話し出した。彼女の戦いを。 「傍若無人と。あの男とあたしは、闘った。 そして、未だ不明なあいつのルール能力――その手がかりを掴んだんだ。 結論から言うぜ。”傍若無人には、ルール能力が効かないかもしれない”。 あの男の前では、全てが無になってしまうのかも、しれない」 それは一刀両断が紆余曲折や切磋琢磨と離れてから、彼らの下に戻ってくるまでの話。 青息吐息や先手必勝との戦い、傍若無人との対話、 さまざまなことに邪魔されて伝えられなかった、空白の時間について。 ◆休憩開始より マイナス二時間四十八分◆ あるべき場所から消えてた日本刀を探すために、あの時あたしは紆余たちから一旦離れた。 十分で戻るとは言ったが――実際のとこ、十分で戻るつもりは、なかった。 日本刀が見つかるか、あたしが日本刀を諦めることができるかの二択だった。 あたしのルール能力に使う刃物はこれじゃなくてもいいことは知っていた。 けどこの日本刀はあたしにとって、けっこう大事な物なんだ。 もともとあたしに支給されてたのは日本刀じゃない。これは猪突猛進の支給品だ。 あたしが偶然、一番最初にあの子に出会って。あの子と支給品を交換したから、あたしは紆余と戦うことができた。 そう考えるとどうしても必要だったんだ。とくに、猪突猛進のやつのことを忘れてしまいそうなのが怖かった。 馬鹿だよな。それだけ大切なら、すぐに取りに行けばいいのに。 でも大切なものって失って初めてその重さに気付くだろ、そういうものだろ。だからあたしは、焦ってたんだ。 焦って、独断で紆余たちから離れてまで、施設の中をかけずって。 そしたら案外早く、あたしはあの場所にたどりついた。 優柔不断、勇気凛々、お前らは知ってるよな。なにしろ”当事者”なんだから。そう、C-1の中央階段だ。 日本刀を探すのに、まず二階に行って一階に下りるルートを使ってたから、あたしは二階にいた。 ちょうどレストラン街のあたりだ。そこに着くのとほぼ同時だったかな、 中央階段の下から物音がしたから覗いたら、ちょうどそこの小さいのがふっとばされてくるところだった。 ――え? お前それで十五なの? すまねえ、干支一回りは離れてると思ってた。 とにかく着いたと同時にそれを目撃したあたしはすぐレストラン街に向かった。 適当な店を見つけて、中に入って包丁を取った。身を守るため、そして、もしもの時に他の参加者を殺せるように。 なるべく使いやすい、かつ刃渡りの長いやつを選んだ。 戻ってみると状況が変わっていた。傍若無人と凛々、お前が無謀な戦いをしてるのが見えただけじゃない。 階段の裏に新たな登場人物がいたんだ。そう、優柔不断、お前だ。 きっとあたしがレストランに向かってすぐ中央階段に着いたんだろうな。 お前はずいぶん長いこと震えていたみたいだった。 あたしが戻ってきたのは――びくびくしながら戦いを見てたその男が、ちょうどデイパックから獲物を取り出すところだった。 お前がこの日本刀を取り出した時、あたしのやることは決まった。 ――あたしは一刀両断。紆余曲折の盾だ。 そしてあたし自身としては、あたしは盾だけでなく剣も兼ねる必要があると思っている。 つまり、状況に応じて最善の対応をするってことだ。 目の前に三人の参加者が居て、そのうち一人があたしの目的の獲物を持っている。 紆余を優勝させるためにこの状況をどうするか。答えは簡単、全員殺すことだ。 そうだ、 あたしがお前を蹴り飛ばして戦場のただ中に放り込んだのは、凛々を助けさせるためじゃねぇ。 お前を傍若無人に突撃させて、殺すためだ。 準備は万端にした。 死んだお前から傍若無人が日本刀を取り上げたその瞬間にあたしがそれを奪えるように、 先に踊り場の手すりを包丁で《上手く斬って》、蹴りでがれきを下に落とせる状態にしておいた。 お前を突き飛ばして、傍若無人に殺させて……タイミングを合わせてがれきを落とし、 同時に二階から飛び降りて日本刀を奪い、傍若無人の首を獲る。 しかるのちに瀕死の勇気凛々も殺す。あたしはそのつもりだった。 まさかお前が《斬撃を無効にする》だなんてルール能力を持ってて、凛々を助けちまった上に、 傍若無人にまで一撃与えるだなんてあたしは思ってもいなかったんだ。 作戦は変更を余儀なくされて――傍若無人の意識を逸らすためのがれき攻撃が、 タイミングのずれでお前らを逃がす手助けになっちまって。 それでも、傍若無人から日本刀を奪うっていう本来の目的だけはなんとか果たせた。 で、ここからが。 ここからが、あたしとあの男しか知らない場面だ。 あたしの目的は変わらない。ここで一人でも多く殺しておけば後で紆余に有利になることは確定しているし、 さらに優柔不断のおかげで傍若無人は痛手を負っている。絶好のチャンスだと思ったよ。 すぐに駆けだした。相手は斧を持っていたから、まず一合、あたしのルール能力であの斧を《斬って》やろうとした。 問題はここからだった。 ”あたしの斬撃が――斧に弾かれた”んだ。 日本刀が。《何だろうと無条件に切り裂く》はずのこの日本刀が、あいつの斧には”通用しなかった”。 ……幸いこの初撃ではあたしはダメージを負わなかった。 タクマは気づいてるだろうが、《何でも切れる日本刀》には、これ特有の戦い方がある。 斬るのに力が全くいらないから、どちらかといえば逃げ腰で戦うのが正解なんだ。あたしとしては嫌な戦い方だがな。 まあ、このときはそのお陰で、日本刀が弾かれたときにはあたしは斧の攻撃線から逸れていた。 斧が地面を打った。 地面の、床のカーペットが割れて、その下のコンクリに突き刺さった。 構え直したあと、傍若無人はあたしの方を見て笑ったよ。そう上手くはいかないぞって言いたげな顔でな。 ――なぜ日本刀が弾かれちまったのか、だなんて考える暇はなかった。 そこからは防戦一方だ。ルール能力無しでの戦いじゃ、あたしは破顔一笑にすら通用しない。 手負いとはいえ歴戦の猛者に勝てるわけがねえ。 頑張ったとか誤魔化すこともしないさ、普通にボコボコにされかけた。 逃げ回って逃げ回って、致命的なダメージをどうにか防ぐだけの戦いだった。 絵面だけ見りゃ、ちょっと前の中央階段下となんら変わりねぇ。 凛々があたしに代わって、お前が挑んでは薙ぎ払われてたのが、あたしが逃げたり追われたりするのに代わっただけだ。 お笑い種さ。 最終的に、しっぽを掴まれた。 後ろ髪を引かれて吊り上げられた。 あの野郎、身長と腕力があるくせに乙女心ってもんが分かってねぇよな。 髪引っ張って吊り上げるとか屈辱以前に髪が傷んでしゃーねえっていう話だぜ。そんな場合じゃなかったけど。 つーか死ぬかと思った。 あの男がそこから斧を振るわずに、デイパックからあれを取り出さなきゃ――実際に死んでたよ。 ん? あれって何かって、お前、それに優柔不断も気にならなかったのか? あの場には明らかに足りないものがあっただろ。 無かっただろ、あるべきものが。人を人だと示すために、いちばん大事なものが。 首が。 そう、動けないあたしに向かって、あの男はそれを使った。 破顔一笑の、その頭部を。あたしの顔を《破る》道具として、死体の首を使ったんだ。 効果を試したかったんだろうな。まさか、あたしがそいつとすでに一回戦ってるとは思ってもみなかったんだろうよ。 笑顔のまま死んだ破顔一笑の顔があたしの前に差し出される。 あたしはそれに気づいた瞬間、目を瞑ってジャージのポケットからこれを取り出した。 二階に置いてあった誰かの――え、お前のだったのか、そりゃ奇遇だなまた。 えーっと、二階に置いてあった凛々のデイパックから拝借してあった、この手鏡を使ったんだ。 ふふ、用意がいいことだろ? あたしもここだけは自分を誉めていいと思ってる。 結局これが決め手になったからな。破顔一笑のルール能力は手鏡によって跳ね返されて、 奴自身の顔が《破れて》、首はただの首になった。 そうして出来た隙を使ってあたしはもう片方の手に握った日本刀で自分の髪を《斬って》、 傍若無人から解放されると全速力で走ったんだ。 全速で、全力で、傍若無人の前から姿をくらませるために娯楽施設の中を走り回った。 逃げて逃げて、逃げ切ったんだ。そりゃもうただただ純粋にな。 拡声器のバカデカい音であたしがB-2へと移動することになるのは、その少し後の話だ。 以上が顛末だ。 カッコよく助けているように見えたかもしれないけど、実際は酷いか情けないことしかしてない一刀両断の独白だ。 まったく、本当は隠しておきたいくらい恥ずかしい話だよ、でも、あたしはこれを伝えなきゃならなかった。 ”あたしのルール能力が通用しなかった”こと。そしてもう一つ。 あの男から逃げる時、あたしは確かにこの手鏡で破顔一笑のルール能力を跳ね返したはずだ。 なのに――”あの男の顔は破れなかった”。あの男も確かに、鏡に映ったそれを見たはずなのに。 だから、あたしの私見はこうだ。 あいつのルール能力は、おそらく。”自分に対するルール能力の無効化”だ。 これを踏まえた上で対策と作戦を考えねぇと……あたし達は、一秒かからず殺されちまうと思うんだ。 ◆休憩開始より 一時間◆ 「……どう思う、凛々ちゃん」 「何についてですか。さっきの話なのか、もっと前か、それともちょっと前のことか」 「全部だよ全部。オレたちが考えなきゃいけないのは全部だ。きっと一つでも思考停止したら、死ぬぜ」 「そうですね……。わたしもそう思います、優柔不断さん」 傍若無人からの一方的な最終戦の宣告から一時間。 彼が語る”脱出の方法”という撒き餌につられる形で共闘を決めた五人の参加者は一通りの情報交換を終え、 三時間後に迫る決戦に向けてグループ別に固まって休息を取っていた。 円形に並べたハリボテの車が形作る防衛サークルの中、東の端に紆余曲折と一刀両断のペア。 少し離れて真ん中に切磋琢磨、そして西の端に、優柔不断と勇気凛々は居た。 二人は赤い車に体を預けるようにして、すこし離れて座っている。 「まずは、さっきの一刀両断の話についてからだ」 優柔不断は隣の同行者の少女へ顔を向けると、しゃべらないと落ち着かないといった様子で話し出す。 「あれを……あいつが語った話を、オレたちは本当に信じていいのか? ルール能力が効かないったってよ、聞く限りじゃもう残ってる奴の中で傍若無人に通用しないのはあいつの《一刀両断》だけだろ。 切磋琢磨さんのルール能力も、紆余くんのルール能力も対象は傍若無人自身じゃねえし、オレたちのもそうだ。 《一刀両断》が効かないってのは確かに重要な話だけど、自分が戦いたくねーから嘘ついたと思われても仕方ねーぜ」 不安げな表情でそう言った優柔不断を見て、もっともな反応だ、と勇気凛々は思う。 凛々自身も一刀両断の発言には疑問を呈している。 そもそも傍若無人による放送以前に彼女が自分たちに出会ったとき、彼女は自分たちのことを知らないフリをしたうえ、 自分たちを危険人物と断じるかのように振る舞って話し合いの余地をつぶそうとしていた。 さらに先の話では、自分たちに関して、傍若無人を殺すための囮に使ったことを告白してきたのだ。 明らかな悪意がそこにはあって。勇気凛々はこれまで、そういうことをする人を悪い人だと断じてきた。 だから彼女の話を真正面から信じろだなんて、普通なら到底無理な話だ。 けれど。……悪い人が必ずしも悪いことばかりするわけではないことを、少女はすぐ隣に座る男から学んだばかりなのだ。 「わたしは――そうは思いません」 「マジか。信じるってのか?」 「いえ。話自体には、わたしも素直に賛同できかねるところがあります。傍若無人と打ち合ったのはわたしも同じですが……、 ”あの人の斧が床のカーペットごとコンクリを割った”というのは少し、納得できません。そこまでの力があったかどうか」 「作り話かもしれない、ってことか」 「これだけじゃ判断できませんけどね。わたしの《りんりんソード》は、わたし自身は軽く扱えるんですが、実際はかなり重い武器。 一刀両断さんが日本刀であの斧と打ち合うのとでは勝手が違うでしょうし。それに、わたしが違うと思うのはそこじゃないんです」 「……?」 「あの人は……一刀両断さんは、自分のために嘘を吐く人じゃない気がするんです。 自分が戦いたくないって理由で嘘はつかない……嘘を吐くにしても、何か、誰かのために吐いている」 「はあ? どうしてそう思うんだ?」 「上手くは言えませんが、あの人もわたしと同じで……うーん、すいません、言葉にするのが下手で。 ともかく一刀両断さんは自分のことを、紆余曲折さんの盾だと言っていました。 わたしたちに対する行動もすべて紆余曲折さんのために行ったことだと言っていました。だったら……」 会話を一旦止め、少し離れたところにいる一刀両断を二人は見る。 彼女は紆余曲折と何かを話しながら、彼の顔に巻かれた包帯を新しいものに取り換えているところだった。 破顔一笑の恐ろしいルール能力をもろに食らったという少年の顔は遠目に見てもひどい有様で、 顔のいたるところがずたずたになってしまっている。目も閉じたまま、もう開かず、何も見えないのだという。 ――放送はもう過ぎた。 破顔一笑の名前もちゃんと呼ばれた。しかし、紆余曲折の顔はまだ傷だらけだ。 この事実は二人にとってとても重要なことだった。激辛団子の痛みを癒しながら二人が行っていた推理では、 現時点で紆余曲折の顔は治っていなければならないはずだった。 もちろん理由はいくらでも思いつく。効果が消えても傷は消えない場合。心機一転のものだけが特別だった可能性。 だがあまりにも不確かだ。ふわふわしている。一刀両断の話の真偽と同程度に、これも答えの出ない問題なのだ。 そしてその答えを出すには……。 優柔不断は再び勇気凛々の方を向いて、そのほっぺたをつんと人差し指で付く。 「わっ」 「おー、さすがにぷにぷにしてるじゃん」 「ち、ちょ、やめてくださいっ! なにするんですかいきなり」 「いやすまんつい弾みで」 「斬りますよ」 「それは殴りますよのノリで言っていい言葉じゃないぞ凛々ちゃん!」 むすっとして睨んでくる勇気凛々に半笑いで返事をして、優柔不断は両手をホールドアップする。 「えーっとだな、それはそれとして! どっちみちオレらにゃ傍若無人の能力を推理することなんかできないんだ、 共闘すると決めた以上疑ってばっかもよくないだろ。一刀両断の話は保留にしようぜ。 今はただ、来るべき決戦に備える時間だろーとオレは思う! 無駄な争いはやめようやめよう」 「ええ確かにこの《りんりんソード》であなたを斬っても《斬れません》。 ですがわたしのストレスは発散されますよね? それって十分、あなたを斬る理由になると思うんです」 「おいおいソード出さないでー! 凛々ちゃん、君は一番疲れてんだからオレのひざまくらで寝るべきだと思う! いやむしろオレが凛々ちゃんのひざまくらで寝たいかもしれない! これっていい案だと思いませんかね奥さん」 「そういうのは全部終わった後にしてください。 大体、五対一とはいえ、わたしたちで傍若無人を倒せるかもわからないのに、遊んでる時間なんて……」 「倒せるさ。いや、倒す」 不意に別方向から聞こえた声に、二人は一斉にそちらを向いた。 さっきまでバリケードの中央で座禅を組んでいた赤髪の格闘家、切磋琢磨が二人を見下ろすように立っている。 その目は紅く燃えているように見える。自力、プラスのルール能力で鍛えられた身体から放たれるオーラも、燃えている。 呆然とそんな切磋琢磨を見やる二人を真っ直ぐ見据えて、切磋琢磨はもう一度言った。 「倒す。俺が。傍若無人は俺が倒す。 老師の仇でも、あの男がジョーカーだからでもない。 あの男を倒せば脱出できるかもしれないとか、その真偽すらもはや、関係ない。 俺が強くなったことを――正しく強くなったことを証明するために。俺はあの男を倒さなければならないんだ」 「タクマさん?」 「だから休む間もなくてすまないが、君たち二人には協力してほしい」 脇を締め、足でとんとんとリズムを取る。右手左手にはボクシンググローブ。構えは小さく、”待機”。 切磋琢磨は明らかな戦闘前体勢を取りながら、いまだ事態が呑み込めない二人に向けて説明した。 「俺のルール能力は《戦うたびに強くなる》能力。そしてそれは、《一人一回》《対象からダメージを受けた時に》発動する。 今から俺と君たち二人で、本気の練習試合をしたい。俺はまったく手を抜かないから――俺にダメージを与えてくれ」 「あ、あんたにオレと凛々ちゃんでダメージを!? 無理だろ、あんた聞く限りすげー強いんだろ!?」 「わかりました、やりましょう」 「凛々ちゃあん!?」 「どのみち今のあなたにすらダメージを与えられないようでは、最終決戦でわたしは役に立たないでしょうから。 不束者のわたしで良ければ、お手合わせ願います、切磋琢磨さん」 「ああ。じゃあ、始めよう」 「ちょっと待てオレの意思はぐえっ!?」 風が吹く暇すらない速度で距離を詰めた切磋琢磨は、 セリフを言い終わる前の優柔不断の首に手刀を振りおろし、気絶させる。 はらほれひれはれ、古典的なフレーズを呟きながら一回転し、優柔不断は車にもたれかかるようにすとんと倒れこんだ。 一人を仕留めた切磋琢磨はもう一人の少女がいる方を見る。 何も居ない。 上か。 「《りんりんソード》ッ!」 「むっ――!」 左。 地面に向けてソードを《出現》させ、その反動で小さな体を跳ばしていた勇気凛々が、再度の跳躍で切磋琢磨に迫る! 咄嗟に防御の構えに切り替え、筋肉硬直させた腕を前に突き出す切磋琢磨、 その腕に向かって、全力で振り下ろされた《りんりんソード》が火花を上げてぶち当たる――! 両者は目線を交わして、お互い高揚の笑みを浮かべた。 せっかくの休憩時間だというのに、此処から少なくとも一時間、優柔不断が気絶しつづけ、その眼前で練習試合が行われた。 最期通牒 前のお話 次のお話 休憩時間2 用語解説 【練習試合】 大会などを想定して同一ルールで行う模擬演習のこと。試合の練習。 はからずも、作中では試合っていうか殺し合いの練習の意味となっていて掛詞になっていた。 今気づいた。 本編一覧へ 四字熟語ロワTOPへ 非リレーロワTOPへ
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「霊数 2350 の人」 1/22 2/21 3/20 4/19 5/18 6/17 7/16 8/15 9/14 10/13 11/12 12/11 生まれ 信念の人です。 ポリシーを持ったら、自分次第で発展します。 根は従順で、優柔不断なところもあるのに、一つの信念を持つと、それを貫きます。 定まらないのは、自分の信念に到達する前です。 克己心との戦いを繰り返し、悟り、それによって自分の生き方を確固たるものにします。 優柔不断と信念、臆病とじが欲求というように、相反するものを同時に持っているのです。 このバランスが均等なので、自分を客観視することができ、上下左右の立場の人の気持ちに心を移す苦労人になります。 霊数2、3、5がそろうと、人間も華やかになります。 趣味も華やかになります。趣味も派手好みです。 霊数0は楽天的なことを示します。 主義主張や思想がないと、ただの道楽者です。 プライドが高く、本物志向の趣味人です。 美意識が働き、線引きを高い位置に設置し、趣味をきわめるのが好きです。 趣味で終わるのが嫌いです。 ひとつの哲学、美学、もしくはものの考え方を決めるとそれに従ってこじ付けながら事物を解釈するようになり、人に理解されやすくなります。 言論や行動パターンだけでなく、食材からファッションまでひとつのポリシーにこだわって身のまわりに飾る徹底ぶりです。
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35◆休憩時間 3*女子戦陣 ◆ 休憩開始より 三時間◆ 一、二、三、四、五。 六。 七回目の鍔迫り合いを終えたあと、勇気凛々は一刀両断に向けて言った。 「やっぱり。あなたは乱れていないですね」 「……お褒めの言葉と受け取っちゃうぜ?」 「誉めていますよ。でも、分かりません……どうして……どうしてあなたは、そんなに」 ”ガールズトーク”は一方戦。強いて言わずとも少女が劣勢。 少女は一滴の汗が頬を伝うのを感じながら、もう一回《りんりんソード・凛》を握りこむ。 くらくら、ふらふらと視界が揺れる。度重なる戦いによる疲れも少しはあるが、最も大きな理由は少女自らの精神にあった。 人に刃物を向けている、ということ。 ヒーローを志して偶像の見様見真似をしていた実験の開始当初には考えてもみなかったその重みを、 自らの手で三人を殺した――殺してしまった今の勇気凛々は、苦しいほどに感じているのだ。 現在一刀両断と行っている”ガールズトーク”は人の死なない茶番にすぎない。 でも両者の手に握られているのは、プラスチックやビニールで出来た模造品などではなく、本物の刃物だ。人を殺せる、殺器だ。 ほんの半日前まで一般人のつもりだった少女がそれを握って……簡単に凛と出来るわけがない。 「落ち着けよ、凛々。凛とするんじゃなかったのか? 手が震えてる、呼吸も乱れてるが」 対して……臨戦態勢を崩さないまま、軽い調子で少女を煽る一刀両断は、心も体も全く動じていない。 集まった五人のなかで唯一直接人を殺していないからだろうか? いや、違うと少女は断じる。 目の前に立つ女の人には迷いがない。殺すのも、闘うのも、生きるのや死ぬのにだって、きっと迷うことなく応じる。 もう死んでいるって思ってるから、捨て鉢に。まだ生きているはずなのに! 「ここは殺し合いの場だ。もしこれが”ガールズトーク”じゃなかったら。 あるいはタクマとのさっきのレクリエーションが、本番だったら。お前はもう三回は死んでるな」 「……否定はしません。できません。言葉でいくらカッコいいことを言ったって、わたしは弱いままです。 そんなに急には、変われません……でもあなたは、変わったんですよね? 聞く限りでは、それはもう手のひらを返すように、紆余曲折さんのために自分を犠牲にすることを即決で選んだと」 「ああ、そうだ」 「どうして。どうしてそんなに簡単に――自分を捨ててしまうんですか」 言いながら駆け、肩をいからせ力をためて、右手で握った《りんりんソード》を強く振る。 一刀両断は軌道上に日本刀をかざして防御するが、勇気凛々は刃と刃が触れ合う前にするりと剣を消滅させた。 「《りんりんソード》ッ!」 「お、っと」 勢いで一回転し、一刀両断に背中を見せつつ左手に再出現させた《りんりんソード》で再度横薙ぎ。 防御刃を下にスライドさせてどうにかこれを一刀両断は防ぐが、タイミングをずらされた所への一撃は身体をしびれさせる。 「まだですっ!」 すでに右手は高く挙げている。消滅・再出現、少女の剣は再度右手に握られ、無防備な一刀両断の頭を狙う! 左と右の瞬時入れ替えにより擬似的に作られた二刀流――《凛の型》で初めて使えるようになった少女の真骨頂だ。 しかしそれすらも冷静に対処される。 「よっと……ん、だいぶ”切り替え”タイミングが良くなってきたな。だが」 防御が無理とわかれば、バックステップで回避に映るだけ。 空しく空気を裂く《りんりんソード》の切っ先を見て、選評を吐く余裕すらある。 距離を取った一刀両断は、両手で握った刀の鍔を腰へ当て、体勢を沈める。居合の構え。対し勇気凛々は左の剣で突きを出す。 狙いはしっかり真ん中で。 教科書通りで、読みやすい。 「あたしの番だ」 一刀両断は突きの刃に向かって刀を斜め上方に振、らない。 「!」 片手を柄から外して、少女の刃に向かって手の甲を叩きつける動作。 驚く少女。 手の甲は空を切る。 そこにあった剣は消えている。 突きの剣は最初から囮にするつもりだったのだろう。先と同じように。同じじゃだめだというのに。 一歩踏み出した一刀両断は、乱暴にもう片手を振り――そちらに握っている日本刀を勇気凛々に向かって叩きつける。 「っ!」 「出現と消滅を繰りかえす《りんりんソード》で二刀流、悪かない戦術だ。だけどま、効くのは初見までだよな。 スピード良く次の動作に映るために、剣を持ってないほうの手も剣を持ってる時と同じように動かさなきゃならねぇ以上、 両手をしっかり見てれば何をやってくるか予測できちまう」 慌てて防御に回る勇気凛々の《りんりんソード》と、一刀両断の日本刀がかち合い音を鳴らす。 もう一歩踏み込みながら一刀両断は、両手で日本刀を握りなおしてさらに押し込む。苦しそうな表情で、勇気凛々は唇を噛む。 女性同士といえど、小さな勇気凛々と紆余曲折より背の高い一刀両断。 体格の差による力の差は覆せない。徐々に剣をいいように動かされ、八回目の鍔迫り合いの体勢へ。 こうなればもう、剣を消滅させたり出現させたりする小細工は通用しない。 「あたしがなんで簡単に自分を捨てたか、って聞いたな」 カタカタ音を立てる刃と刃の交差の向こう側、一刀両断が少女に向かってそっと言葉を差し込んだ。 「それはな。……そうしないと生きていけないからだよ、お嬢ちゃん。ここだけじゃなくて、どんな場所でもな。 お前ももうちょい大人になったら、きっと分かっちゃうかもしれないぜ」 「……わたしは。わたしにはやっぱり、分かりません」 「いや、でもな――」 「あなたは何故、”本当のことを言わないんですか”っ!」 吠えると同時に膠着が終わる。 一刀両断の日本刀が勇気凛々の剣を払い、大きく振りかぶられる。 問いには答えず、一刀両断はそれを振り下ろした。逃げられない。不恰好な体制で、《りんりんソード》を横にして防御。 また振り上げて。いつかの少女のように、身動き取れない相手に向かって――振り下ろす。 勇気凛々は強い打ち込みに堪えながら防御態勢を続けるしかなくなった。眉間にしわをよせ……その状態から、まだ叫ぶ。 「響いてきませんっ」 「なにが」 「言葉がです! 文字が! あなたの紡ぐ言葉からは、心が伝わってこないんですっ! どうしてですか……こんなに潔くて、なんでも決めてしまえて、後ろを振り返らないあなたが、なんでそんなっ!」 「よく分からねーな。どうしてそう思う」 「あなたは、わたしたちを助けてくれたからですっ!」 「……」 「あの中央階段で、優柔不断さんに助けられたとき! わたしはもう辛くて苦しくて、わたしを殺してくれる人を求めてました。 三人殺した自分は汚くて、醜くて、最低でっ。こんな自分は捨てたくて! だけどほんとは生きたくて……! わたしを終わらせてくれる人を、自分勝手に求めてたんです! でも、優柔不断さんはわたしを殺さなかった! わたしのままで生きていいんだって言ってくれた。 こんなわたしを許してくれた……そんな優柔不断さんをわたしと引き合わせてくれたのは、あなたなのにっ!」 「……あれは偶然だって言ったろ。ホントはお前ら二人とも殺すつもりで」 「わたしたち二人を殺すつもりなら! あなたはあんな回りくどいやり方はしないですっ!」 一刀両断の眉がぴくりと動いたのを、勇気凛々は見逃さなかった。 攻撃の手は止まないが、その雨の中の一瞬一瞬の隙間を縫って息を吸い、言葉を吐く。 「さっきの作戦会議や、最初の情報交換で話を聞いて、そして闘ってみて。 頭の固いわたしでもきっと、すこしは一刀両断さんのこと、理解できたんじゃないかって思います。 あなたは頭もいいし、判断力もすごいし、なにより行動を起こすのに躊躇いがない。 だったら、って考えてみました。……だったらあなたなら、わたしたちをあの時、もっと簡単に殺せたんじゃないかっ、てっ」 ついに耐え切れなくなり、《りんりんソード》を取り落とす勇気凛々。 それを確認すると一刀両断は、涼しい顔でもう一度日本刀を振り上げ、そこで――いったん刀を止めた。 勇気凛々を見る彼女の目は挑発していた。 文句があるなら、言ってみろと。 ――言われるまでも無かった。勇気凛々は自らの推測を、息切れしながら話し出す。 「あの時。あなたの話であなたがわたしたちを見つけた時。 わたしは傍若無人に挑んでは返り討ちにされていて、優柔不断さんはそれを見て足を震えさせていました。 あなたは日本刀を手に入れた上で、この三人を全員殺そうとしていた。そうですよね?」 「ああ」 「なら、なんで”優柔不断さんを殺さなかった”んですか……? 日本刀を持っていたのは優柔不断さんです。そして優柔不断さんは階段下の目立たない場所に居ました。 最初に優柔不断さんを殺して日本刀を手に入れる。その後、傍若無人がわたしにとどめを刺す隙を見計らって、 傍若無人を殺す。最後に瀕死のわたしを殺す。こうするのが一番てっとり早かったはずです」 「バカかよ、あたしがそのとき持ってたのは包丁だぜ」 「”だから優柔不断さんには刃物は効かなくて、殺せなかった”――? それこそ、おかしいです。矛盾してます。 なぜなら、そのときのあなたはもうすでに、わたしのデイパックを漁り終えてるんです。 ”わたしのデイパックの中に入っていた、心機一転さんのボウガンを手に入れている”んです。 断てないならば矢で貫けばいい――そう考えることは、あなたなら簡単なはず。そうでなくとも、後ろから首を絞めればいい」 「……叫ばれたらあたしの存在がバレるけどな?」 「それだけじゃありません。あなたはさっき、”優柔不断さんがわたしを助けられるとは思ってなかった”と言ったとき、 ”あんなルール能力があるなんて知らなかった”とも言いました。 だからあなたはまだ一回も、優柔不断さんに刃を向けていないはずです。どうして嘘をつくんですか」 あえて嘘でないとするならば、刃を向けはしたものの、《包丁が通らない》ことに驚いて思わず蹴ったという以外にない。 ルール能力が《刃物が通用しない》だと知ったのはその直後のことで、蹴った時点ではそれがルール能力だとは思わなかったと。 だがもしそうだとするなら、今度はその後の動きに支障が出てしまう。 最初から優柔不断を殺すつもりでいたならば、二階の柵に切れ目をいれておく必要はない。 優柔不断を殺して日本刀を得たあとは階段の裏に隠れていればいいだけだ。 蹴ったあとに急いで階段を上がり、広範囲の柵に切れ目を入れる? 時間的に無理だ。 つまり。勇気凛々の推測が正しければ。彼女は最初から優柔不断の背中を蹴るつもりだった。 それはおかしいと、勇気凛々は声を荒げたのだ――だが。 「別に、あたしの取った作戦が間違いだったわけじゃねーよな? ただ……あたしのキャラじゃないってだけで。 もっというなら凛々、お前の中の”あたし像”が、”一刀両断はそんなことしない”と言っているだけにすぎないわけだ。 現実は国語の問題じゃない。そんときのあたしの感情くらい、あたしに決めさせろよな」 どれだけおかしな行動だろうと、勇気凛々の推測は証拠のない言いがかりに過ぎない。 一刀両断は、少女の言い分を認めなかった。 「それに――国語の問題だったとしても大間違い、でっかい×印だ。前提からしてありえないんだよ、 ”紆余曲折の盾であるあたしが、紆余以外の参加者を助ける”だなんて――裏切り行為だ、それこそ」 「……それは」 さらに、刃を下ろし、くるり背を向けた一刀両断が勇気凛々に向けた言葉は、少女の心の虚をついた。 確かにそうなのだった。紆余曲折のために動いているはずの彼女は、 ぼろぼろになっている参加者を見捨てこそすれど、助ける理由はないはずだ。 回りくどい作戦をとったのも、色んな参加者を傍若無人にぶつけることで観察しようとしたのかもしれないし、 単純に勇気凛々の言ったような策を思いつかなかっただけかもしれない。外からの観察だけじゃ、当人の心までは分からない。 今、一刀両断が嘘をついたのも、勇気凛々の話を早く終わらせるために適当に返事していたからともとれる。 いくらでも。万華鏡のように。 誰かの”行動”ひとつを取り出して、その”理由”づけをすることは、簡単すぎるがゆえに複雑だ。 「分かったら、戻ろーぜ。もう大分”最終戦”での動きの確認も出来ただろ。傍若無人を倒して、さっさとこんな実験を終わらせる。 それが今のあたしたちに出来る、いちばん単純でいちばん大切なことじゃねーかな?」 「……まだ、何も分かってないです。わたしはあなたのことを何も分かってない」 「無理に分かろうとする必要なんてあるのか? 分かって、それで、なんになるんだ。 お前が満足するまであたしはお前の戯言に付き合わなきゃならないのか? ガールズトークにも限度ってのがあるんだが」 でも、響いてこないのだ。 勇気凛々には目の前の一刀両断の言葉が、冷たい仮面を通した機械音声に聞こえる。 話せば話すほどにその思いは強くなっていった。今の一刀両断は、おそらく間違いなく無理をしていて。 その無理を道理で捻じ曲げようと、必死で仮面をかぶっている。だから声が響かないし――こちらの声も届かない。 けれど。勇気凛々はまだ、一刀両断に言ってないことがあるのだ。 伝えなければいけないことが残っているのだ。そしてそれを行うには、彼女の仮面が邪魔なのだ。 「それでも」 勇気を振り絞って、少女は言う。 「わたしはあなたに。一刀両断さんに、ありがとうが言いたいんです……! どんな意図があったにせよ――あの時わたしが助かったのは事実だから。”助けてくれてありがとう”って言いたいんです。 なのに、殺すつもりだったなんて言われたら。素直にこんなこと言えないじゃないですかっ!」 「……ああ、そうかい。そりゃ、悪ぃな」 「だから、どうして。どうしてそんな辛そうな顔をするんですか……? なんで本当のことを言わないんですか? 言いたいことがあるなら言えばいいってわたしには言うのに、どうしてあなたのことは教えてくれないんですか。 考えたくない――絶対に信じたくないですが。まさか、あなたは、わたしたちの、て」 「あーストップ。そこまでだ」 一閃。ざっと踏み込んで振り切られた日本刀が、勇気凛々の眼前3センチメートルに軌跡を残した。 少女の前髪が数ミリばかりカットされ、細い木の葉のようにはらりと舞う。一刀両断の表情は、変わっていない。 「っ!」 「駄目だぜ、凛々。それ以上勝手な推測をあたしに対してぶちまけるようなら、あたしはお前を斬らなきゃならない。 こんな場所で。今。”こと”を構えることはお互いにとって得策じゃねーと思うけど、どうだ?」 「……それはあなたの信条ですか。それともそれが、今のあなたの真実ですか」 「ノーコメント。じきに分かる。だからお前は、それまで待て」 一刀両断はなおも勇気凛々の眉間に日本刀を突き付け、飄々とした態度で少女の真摯な問いを受け流した。 ただし、もしこれ以上少女が何か言おうものなら容赦はしないという。 そのセリフにもまた、二通りの解がある――信条か、真実か。 白でありながら黒とされることに憤っているのか、本当に黒でありながらそれを装っているのか。 人間の、裏表。 勇気凛々が一番嫌いで、一番苦手で、それでも絶対にそこにあるものが、少女の目の前にあった。 それはまるで高い高い壁のように、少女の前に立ちはだかった。 「…………いじわる、ですね」 「……そうだな」 「こまってるなら、たすけたいのに。手をさしだしてくれないのは、わたしが弱いからですか?」 「どうだろうな。あたしは別に困ってないから、わからん」 「間違ってますか? わたしは。わたしに出来ることは、ないんでしょうか? わたしはただ、子供番組のヒーローみたいに、だれかを勇気づけられるひとになりたくて。だれかの力になりたくて。 でも、《間違えてしまって》、いっぱい間違えてしまって、どうしようもないくらい取り返しのつかないことを、してしまって。 それでも、どれだけ間違いだったとしても、誰かを助けたいって気持ちだけは間違いじゃないって、悪くなんかないんだって、 だから、だから、わたし、わたしはっ……」 「なあ、勇気凛々」 と。 果て無くそびえる壁の前で目に涙を浮かべかけた勇気凛々は、急に頭に手をのせられた。 一刀両断の手だった。人間である彼女の手は、不思議となんだか、あったかかった。 「お前、料理できないだろ」 「……え?」 「米の炊き方からレンジで魚を焼く方法まで全部分からないと見た。いっつも食べてるのは菓子パンかコンビニ弁当」 「あ、あのちょっと、意味が分からないんですけど。確かにわたし料理は絶望的に苦手ですが」 「いや、なんでもねーよ。ただちょっと、かわいい奴だなと思っただけ」 がしがしっ。乱暴に髪の毛を撫でまわされて頭をくらくら揺らされて、勇気凛々は脳内に星を巡らせた。 さっきまで一体何を話していたんだっけ? と言わんばかりの急激な話題転換。 いやいやこれはおかしい。明らかに話がそらされている。 頭をぐらつかせながらも勇気凛々は、一刀両断にいろんな疑問を丸めこまれようとしていることをなんとか察した。 ただ、その代わりに――なぜだろうか? あんなに重かった空気が、軽くなったような。 「お前は間違ってないよ、勇気凛々」 ひとしきり少女の頭を撫でたあと、一刀両断はふわふわした気分になっている勇気凛々に背中を向けながらこう言った。 「……ただまあ、一つ勘違いしてんのは。お前が”ありがとう”を言う相手は、あたしじゃないってことだけだな」 勇気凛々には彼女が何を言っているのかはぜんぜん理解できなかったけれど、 背中を向けるその瞬間に見えた彼女の口元が少しだけ笑っていたのには気づくことが出来た。 すごい遠くにあった心が、その一瞬だけ近寄ってきてくれたような、そんな感覚がした。 分からないことだらけだけれど……その感覚を引き寄せられたという事実は、確かに少女の心を満たしたのだった。 よかった。 どれだけ口が悪くても、たくさん隠し事をしていても、これから先、敵に回るとしても。 この人は――わるいひとじゃ、ない。 わるいひとなんて、そうそうこの世界には、いないのだ。 ガールズトークを終えた勇気凛々が得たものは、きっとずっと少女の心に残り続けるだろう確信のようなものだった。 例えどれだけ残酷な現実が少女に襲いかかろうと。 少女はきっと、忘れないだろう。 休憩時間2 前のお話 次のお話 休憩時間4 用語解説 【ガールズトーク】 少なくともこのSSで使われている用法ではない。 本編一覧へ 四字熟語ロワTOPへ 非リレーロワTOPへ
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名前:新城 和也 シンジョウカズヤ 故郷:日本 性別:男 年齢:18 外見:黒太子/革ジャン 好嫌:好き/十三の懐かしい町並み 嫌い/テレビドラマ チーム: 盟約: 階級: 表の顔: 趣味:サブカル系:アブノーマル休日系:ハイソ/風俗系:アダルト 言語:オオサカベン(会話)日本語(会話・読み書き) 好み:バランスの取れている年下 環境値 犯罪:2 生活:3 恋愛:4 教養:2 戦闘:3 天分値 肉体:5 精神:5 性業値:5 状態値 肉体点:10/10 精神点:10/10 サイフ:3/3 戦闘力 反応力:3 攻撃力:3 破壊力:5 カルマ 技術屋/異能:意地・犯罪 代償:誇り 色事師/異能:両刀使い 代償:優柔不断 トリコ 中毒 通常装備(積載6/7) バット (命中7・ダメージ〔破壊力〕-1(4) トヨトミピストル(命中8・ダメージ4・射撃・必殺12・サタスペ) 自転車 (ス2・車0・荷2・肉体・携帯) 携帯電話 救急箱 思い出の品 車積載 自転車(積載0/2) アジト:十三(快適限界0/2) おたから 思い出の品(汎用:恋愛) アジト ブーストカルマ取得条件 『楼賊/ギャングスタ』 『叛逆児/ツッパリ』 『音楽無頼/ロケロラ』 『罪狩/ツミガリ』 『爆愛娘々/ラブニャン』 『大哥長/ゴッパパ』 『武龍/ドラゴン』 『銃侠/ガンマニ』 [設定] 身長175cm 体重65kg 黒髪ショート 筋肉はそれ程はない 十三に一人暮らししている普通の青年。多少は手先が器用 [成長記録]経験値1/1 9/3 色事師、両刀使い・優柔不断 生活を成長
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歌い手の独り言 1 :◆xO5eMpKm/I:2009/04/27(月) 18 14 42 0 まあ歌い手とかはあんまり関係ないけど 自己分析も兼ねて延々独り言を並べていくスレ。 本音をバリバリ並べていくのでお見苦しいかもしれない そこは独り言ということでご容赦いただきたい。 2 :夢見る名無しさん:2009/04/27(月) 18 46 40 0 一応。歌い手っていってもそんなに有名な歌い手ではないです。 邪推するのは構いませんが多分ここを見てる人で知ってる人はいないと思います。 あと男ね。 3 :◆3getter8I2:2009/04/28(火) 00 56 23 O シンガーソングライターなのでしょうか? それとも、あくまでも歌い手ですか? 4 :◆9vQYLADDPY:2009/04/28(火) 01 18 25 0 なんも考えてなかったから早くもトリップのパス忘れた。まあいいや。 優しいとかっていわれることが多いんだけどただ優柔不断なだけなんだよね。何事に対しても。 今の自分はそんなに嫌いじゃないけどなんでここまで優柔不断なのかなーと考えてみた。 多分高校の頃とかに色々気難しい人と付き合ってたせいで言葉を選びまくるようになったんだろう。 すぐ怒る人とかすぐ泣く人とかODとか自傷する人が多かったから。 5 :◆9vQYLADDPY:2009/04/28(火) 01 19 44 0 3 残念。ただの歌い手です。 それもきっと 3さんが思っているような歌い手ではないと思います。
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主人公 性格 ・優柔不断(ながされやすい) ・思慮深い ・善悪の判断はつき、ここ一番では引かない。
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皇子 弱気で優柔不断なアレ 魔法剣士的なアレ 聴覚が異常に良い 魔法玉生産可能
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ま行 麻雀 マイケル マコツ まさき まさと マサト マジありえんし!! マシュー ミスター優柔不断
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主人公 性格 ・優柔不断(ながされやすい) ・思慮深い ・善悪の判断はつき、ここ一番では引かない。
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みずいろ【登録タグ み 初音ミク 曲 黒ピザ】 作詞:黒ピザ 作曲:黒ピザ 編曲:黒ピザ 唄:初音ミク 曲紹介 これでいいのかな? これでいいんだよ 実写PV動画は 黒井氏。 ボーマス17で頒布の新譜『未来』収録曲。 歌詞 すべて失って もう戦う勇気もないけど それでも生きることを終わらせられない 僕には死ぬ勇気もないんだろう ずっと中途半端で生きて行くんだろう 眼を閉じて耳をふさいで 心の強制シャットダウン でも・・・ 鼓動が聞こえて光を感じて インターフェースを取り外せない 心が痛むよ 声が聞こえるよ 君は君 僕は僕 どんな君があったっていいさ ボンクラでも ウスノロでも 君は君だろう 夢を見て 現を見て 失意のどん底にいるんだろう 今からでもいいから ゆっくり歩こうよ 後ろ指さされ 人に笑われ 窮屈な思いをするだろ 笑われたって 指さされたって 別に君には関係ない これでいいのかな これでいいんだよ 迷ったり 凹んだり どんなことがあったっていいさ 優柔不断 お人好し だからなんだっていうんだい 望んでなった覚えもない 君と僕は違うんだ いつまでその刃を 僕に向けるの? 僕はここにいる 君はどこにいく? 君は君 僕は僕 どんな君があったっていいさ ボンクラでも ウスノロでも 君は君だろう 夢を見て 現を見て 失意のどん底にいるんだろう 今からでもいいから 遅くなんてないよ 迷ったり 凹んだり どんなことがあったっていいさ 優柔不断 お人好し だからなんだっていうんだい 望んでなった覚えもない 君と僕は違うんだ 出してよ 傷つけた その両手を コメント なんかぐっとくる歌詞だなぁ。 -- 名無しさん (2011-08-27 14 01 27) まさしく、隠れた名曲 -- 名無しさん (2013-08-06 19 17 00) 名前 コメント