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『――――つの・・・・さ・・・ペン・・・・の・・・・・』 全身を焼き尽くす・・・・否、溶かしつくす熱は急激に全身に回り 視界が崩れ、『オレ』が崩れ、支えを失って地面へと落下する。 受身も取れずに転倒したというのに大した音はしなかった。 地面につく頃にはもう殆ど『オレ』は失われて、石畳に落ちたのはオレの気に入りの厚みのある洋服ばかり。 いつもなら膝だってつかないからめったに汚れる事は無いそれ。 土埃まみれなんて我慢ならない!けど、今はそんな事考える余裕は一切無し。 熱い。熱い。熱い。消えていく、オレは死ぬのか?嘘だろ?オレは強かった。オレたちは! 『祝福を・・・・・・使い魔と成せ・・・・!―――――』 いつだってワンサイドゲームだった。オレたちが殺して、死ぬのは向こう。 膝だってつかなかった。怪我だってしなかった!オレの仕事は『引き込んで』、 訳もわからず困り果てる相手を『殴り倒し』『切り刻む』――――こんなんじゃない! 熱い!熱いッ! 熱はやがて脳味噌を蹂躙して、オレの思考は意味を成さなくなった。 ただ熱いだけの苦痛は頭部で遊びまわるのに飽きたのか、やがて左手に集束した。 なんだよ・・・・左手はさっき、溶けただろ・・・・・もういいじゃないか、やめてくれても・・・・ 「もう!あんた、何時まで寝てるのよ!?起きなさいよッ!」 「ふぐあッ」 何故か顔を赤く染めて怒り狂う少女に、 こめかみを思い切り蹴りぬかれ(トゥキックだ畜生)オレは視界を取り戻した。 本日は晴天なり。石畳なし。ウィルスなし。これはなんだ? 「なんだってこんな平民なのよー!」 わっと沸くガキどもの笑い声は遠い昔に置き忘れてきた『平和』ってヤツそのもので、 オレはますます意味がわからなくなる。 さっきまでギンッギンに痛んでた左腕をひょいととられ、 ほう、ふむ、とか言いながら眺めるオッサンが気持ち悪かったからとりあえずぶん殴った。 何なんだ、はこっちの台詞だ! 此処は何処だろう? ピンク頭の小娘をさんざっぱら笑った(平民がどうとか)ガキどもは、ふわふわと浮いて去っていった。 近くにスタンド使いが居るのか?モノに空を飛ばさせる能力なのか? 相手は何処に居るんだろう・・・・危険かもしれない・・・・状況がわからなさ過ぎる。今は。 「さっきから何をぶつぶつ言ってるのよ。」 「なんだ、まだ居たのかお前。鏡持ってるか?」 「口の利き方がなってないッ!」 痛ッ 痛い・・・・畜生、何だお前、プッツンしてるんじゃないのか。急に引っぱたくなんて 「何か言うならハッキリ言いなさいよ。」 「何も言ってません。すみません。」 五月蝿いな、口に出る癖は直した方が良いってのはわかってるさ。 だけど自分の能力を長々説明したり、攻撃方法を解説したり、皆似たようなもんだろ。 痛いのはもうたくさんだから口に出ないよう慎重に思考する。 周りのガキがふよふよ浮いてるってのに。この小娘、異常に気づかないのか? というか・・・・・・ 「お前は浮かないのか?」 「五月蝿いわね!」 痛ァッ 逆の頬にビンタを食らった。何なんだ。もう嫌だ。ギアッチョみたいなヤツだ! ああ、ガキの、しかも女に二発もビンタを食らうなんて、仲間に知られたら笑われる―――― ――――それどころじゃないだろ。『死んだ』んだ、オレ。笑われるのは間違いないが・・・・・・ 『死んだ』、はずだった・・・・ 少しばかり呆けていたら、いつの間にか屋内に居た。 あの小娘に手を引かれて連れてこられたような記憶が、ぼんやりとある。 ということはアイツの部屋かな。広くって、やたらと豪華だ。 そしてご本人様はオレの前で、椅子に座って、ふんぞり返ってオレを見・・・・・ 「やあーっと正気に返ったみたいね。急に静かになったと思ったら、ぴくりとも動かなくなるし」 「あ、ああ・・・・」 「いい加減名前くらいは教えなさい。呼ぶのに困るし。別に私がつけるんでもいいけど・・・・」 「イルーゾォ。」 「そう。」 小娘はつまらなそうにふんと言う。(名前をつけたかったのか?ごめんだな。 少女趣味なヤツをつけられたらたまらない――――『イルーゾォ』より少女趣味ってのは中々難しい気もするが) 「じゃあイルーゾォ、なんでアンタなのよ。ねえ?なんで平民のアンタが来るの?」 「平、民?」 「貴族なら良いってもんでもないわ!あたしは猫とか梟とか、出来たらドラゴンとかが良かったの! 『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出すなんて聞いた事ないし、どれだけ笑われたか――――」 「『サモン・サーヴァント』ってスタンドなのか。動物を呼び出してどうするんだ?大体何に使うんだ」 「よくわかんないけど、平民よりは動物のがマシよッ!アンタみたいに口答えしないでしょ」 暗殺者を捕まえて猫の方がマシとはよく言ったもんだ。 よっぽどオレの便利なスタンドについて説明してやろうかと思ったが、それより大事な事がある。 「お前の『サモン・サーヴァント』で、オレは此処に来たんだな?間違いないな?」 「ルイズ。それかご主人様って呼びなさい、無礼よ。」 高慢ちきな小娘だ。ご主人様?誰が呼ぶか、意味が分からない。 しかしコレで原因はハッキリした。無差別なスタンド攻撃でつれて来られたんだな。 何故か無傷なのだってスタンドの効果かもしれない。『完全な状態で呼び出す』だとか―――― 「何にせよ、オレは幸運だったし、それはお前の・・・・痛いすみません・・・・ルイズのお陰なんだろう。 ありがとう、だから、帰してくれ。」 オレは無傷だ。スタンドだって(まだ試してはいないが)出せるだろう。まだ『側に居る』感じがある。 実力ではなく『幸運で』だが・・・・戦いを乗り越えたオレには知識がある。 パンナコッタ・フーゴの危険なスタンド、新入りの機転や、『覚悟』!伝える必要がある! あいつ等はやはり危険なんだ。ホルマジオも死んだし、『オレだって死んだようなものだった』 イタリアに帰って、仲間に伝えるんだ! (仲間達はろくなヤツじゃあないが、オレは気に入ってるんだ。もう、ただの一人だって死んで欲しくない) 「場所がわからないなら、イタリアだ。イタリアならこの際何処だって」 オレはがっつくみたいに詰め寄って、小娘はそれに驚いて仰け反る。 申し訳無いけど時間が無いんだ。オレからの連絡が途絶えれば、次の追っ手があいつらの元に向かうだろう。 「・・・・む、無理よ。『サモン・サーヴァント』は召喚するだけで、帰すなんて出来ないわ」 冷水をブッ掛けられたみたいだった。 なあ、なんだって? 「それに出来たってね、帰しやしないわ。あんたは私の使い魔だもの。あたしの――――何処行くのよ。」 「・・・・洗面所なら、鏡はあるよな。」 「何なのよ鏡鏡って。いいけど。帰ってきたら身の回りの世話をしてもらうから!」 「嫌だね」 最悪だ。最悪の気分だ。もう一度死んだみたいに。 ふらふらと洗面所らしき場所を見つけ、「『マン・イン・ザ・ミラー』。オレだけを許可しろ」 鏡の世界へ潜り込む。 左右対称の『向こう側』でオレはルイズの居た辺りに戻り、少し狭いがふかふかのベッドに潜り込んだ。 (正確にはゾンビみたいな顔をしたオレを見て、マン・イン・ザ・ミラーが気を利かせて掛け布団を持ち上げてくれたんだが) ああ、此処はいい。五月蝿いやつの居ない、オレだけの世界だ。 ――――でも、喧騒も懐かしかった。帰りたい・・・・仲間の元へ・・・・ 今日は眠ろう。そして明日、何としても帰る方法を突き止める。 死ぬのは怖かった。泣くほど。(ギリギリで泣かなかったと思う。多分。暗殺者は泣いたりしないだろ) でも仲間達が死ぬのはもっと怖い。ソルベ達が死んだときの2.5倍、ホルマジオが死んだときの5倍は怖いだろう。 だから帰るんだ。 あんな強敵が相手じゃ謀反は失敗するかもしれない(急にネガティブになるのはオレの悪い癖の一つだとリーダーは言う。) でも、最悪そうなっても、『マン・イン・ザ・ミラー』を慎重に使えば仲間を逃がす事が出来るだろう。俺は帰らなくては―――― 「でも、もしも?」 嫌な事ばっかり思い浮かんで目頭が熱くなった。 熱くなっただけだぜ。泣いてない。暗殺者が泣くわけないだろ・・・・・・ 「わ、私の使い魔が消えた!?」 ルイズは鏡の外で大騒ぎしていたが、その声は届かない。 鏡の中のイルーゾォは、当分その姿を表す気は無いようだった。
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_,ヘr-_r-、_ ,、-- ⌒ヽ| } ヽH l L ,、 '´ _〈 ̄ ., 、‐====‐ 、V/ /⌒ / ノ / `' ‐-、/'―i / ` ' / i i \) /. /.l ./. /l . . .l . . .l. \ ,'. . . . |. l . . .l. 7 ̄l ̄ フ'ト.l. . . . .| ヽ |. . . . . . | ハ . . ィム--式ス、.l.|ヽ. . ,/ / l. l |. . . . . . . . .l| ヽ. .Kr'f' ;;;オ'`` ! .|. ./癶 . |. | |. . l. . . . . .i. . `ト マ__フ レ=く. |. . /ィ. .l |. . l. . . . . .l .l | /;;(,リイ. ノ/|. / |. . l. . . . . .|. . .l. .l ,. 'ミ' .ハレイ レ L_|. . . . . |. . . . ',.l r- ,. /. l . l | /⌒ヽ `‐-、 |;; . . . .|'ヽ `´ /. . j l |. / ヽ、\ __i>、 |.__\.、__ ィ升. . . . ,'./lj r'´ /⌒ヽヽ、 ∨ `┘ `7Lri \. . .// ,リ ノ /. . . . . . . . ..l l `rr―――〈i V | `y/ (__/. . . . . . . . . . . | | ヽl ` l_L -‐、___ ,、-‐|. . . . . . . /マノ__ ノヽ、 ` =-|l;;; .l__ ヽ \\ {  ̄|. . . . . .\7_\、 / ___ヾ,_ノ¨ / ヽ.ヽ ) ノ. . . . . . . ..\. . .)ヽー‐ァ-イ'7 ス¨\| | .|. `‐(. . . . . . . . . ノノi } / ./ .i |/ | 「T´ -r-r‐'´ ―――――― ノノ ノ\ ./ i|l ヽ \  ̄「\ 名前:シエスタ 性別:女 原作:ゼロの使い魔 AA:ゼロの使い魔/シエスタ.mlt ヒロインの一人。トリステイン魔法学院で働くメイド。 曾祖父が日本人のため、トリステインでは珍しい黒髪黒瞳をしている。 とある事件を切っ掛けに才人に好意を寄せるようになり、かなり積極的にアプローチを仕掛ける。 そのため、ルイズとは何かにつけて対立するが、同時に身分を越えた友情関係を築く。 AAはほとんどメイド服のため、メイド役で起用されることが多い。 キャラ紹介 やる夫Wiki Wikipedia アニヲタWiki ニコ百 ピクペ 登場作品リスト タイトル 原作 役柄 頻度 リンク 備考 ゼロの使い魔最終巻発売決定記念にせっかくだからゼロの使い魔のループものをAAでやってみる ゼロの使い魔 本人役。逆行組の一人私服姿のAAは萩原雪歩で代用されている 常 まとめ 予備 あんこ時々安価でクトゥルフ神話TRPG クトゥルフ神話TRPG シナリオ「延命病棟」に登場する病院に勤める看護師 脇 登場回 wiki R-18G 安価あんこ 異世界に転生したカズマは悪徳領主になるようです オリジナル 雪代伯爵家のメイド。巴についてサトウ家にやって来る 脇 まとめ 予備 完結 誠はバッツのようです ファイナルファンタジーV サーゲイトのメイド 脇 まとめ やる夫Wiki エター 短編 タイトル 原作 役柄 リンク 備考
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少女、ルイズ・フランソワーズ・ルブラン・ド・ラ・ヴァリエールがもう幾度と無く失敗したサモンサーヴァント。 担当教官であるコルベールに 『時間が押しているから、この次ダメならまた後日改めて儀式を行いなさい』 と言われてしまった最後のチャンス。 詠唱・爆発、そして煙が晴れたところには、緑とも黄色ともつかぬ不思議な輝きをした 高さ3メートルほどの【鏡】が“浮かんで”いた。 鏡の中の使い魔 「ロック、そっちの計器の様子はどうだい?」 「あぁ、問題ないよ。ちゃんと正常値だ。【剣】の様に『こちらへ広がる』兆候は見られないね」 【生きている岩】が起こす現象を解析し、【入口】と【出口】として活用する技術である【ゲート】。 『【岩】は新しい宇宙を生み、それが【剣】から我々の宇宙へ侵食、入れ替わる』 ニンバスやオメガが引き起こした事件は、【ゲート】が実用化されて既に長い年月がたつ現在においても 連邦最悪の出来事の一つだ。 それゆえ、当時を知る唯一の人物であるロックは、ごくまれに連邦の研究機関に招かれることがある。 今回もそんな、ある意味『確認試験』のようなもののはずだった。 突如【岩】が活性化するまでは! 「ゲートはどうなっている!」 研究員の一人が叫ぶ。 「多少活性化しているようですが、何かが『落ち込む』と言った現象は今のところ発生していません」 「エスパーたちは!」 「岩とコンタクトを試みているようですが反応無いようです」 【岩】は何万年単位で“生きて”おり、活性化する時期も期間も条件もほとんどわかっていない。 【岩】が持つ力【第3波動】を使うエスパーも連邦内には数は少なくとも存在する。 この実験の際には必ず1人は常駐しているが、 彼らですら【岩】と【会話】できずにいるこの状況は非常に危険だ! 「僕が岩にコンタクトしてみます。そちらは実験用ゲートの終息を」 「すまん、ロック」 ロックがスタッフの一人に告げ岩のセクションへ向かう。 果たして、岩はパリパリと放電のような現象を起こしていた。 「テレパスで接触する。最悪【剣】が発生したら、僕が戻っていなくても【ゲート】で【剣】を消滅させてくれ」 そう言って【ラフノールの鏡】を張って“接触”する。 ロックが岩の宇宙に転移したと感じた瞬間、岩は非活性化し、後には、沈黙した【岩】、そして 『ロックが入ったままの鏡』 が残された。 「なにこれ、鏡?」 出てくるわけのない代物が現れて、ルイズは困惑していた。 「サモン・サーヴァントで生き物でもないものを召喚するなんて、さすがはゼロのルイズ」 などと言った囃子声が聞こえるがそれすら頭に入ってこない。 鏡を覗き込む。自分の姿が映る、当たり前だ。 しかし、当たり前でないモノが見えてギョッとした。 『鏡の中に、見たこともない顔の、刺々しい髪形をした青年が倒れている』のだ! 驚いて後ろを振り向く。いない。覗く。いる。ふりむく、いない、のぞく、いる。 「おばけーーーーーーー!」 叫んだ、そりゃもう大声で。お化けの苦手なタバサ(この当時はルイズと交流なし)が気絶するくらいの勢いだ。 「どうしました? ミス・ヴァリエール。大声を上げるとははしたないですよ」 おっとり刀で近寄ってきてコルベールがそう言うが、 「ミミミミ、ミ、ミスタ・コルベール? か、か、かが、鏡の、な、中に…」 そういって腰を抜かしながら鏡を指差すルイズにつられて、他の生徒も鏡を覗き込む。 「!!!!」 コルベールはともかく、生徒はパニックになった。 せっかくたった今契約したばかりの使い魔が逃げ出しているのにも気づかない生徒までいる。 と思うと、皆の頭の中に声が響いた。 “ここはどこですか?” さらにパニックになる生徒たち。 「先住魔法?」「エルフ? エルフが攻めてきたのか」などなど口走りながら どこに逃げるでもなく駆け回っている。 “言葉が通じないかと思ってテレパスで話しかけたんだが、失敗したかな?” 微妙にのんきに聞こえるまた同じ声が響く。 唯一正気を保って辺りを見回していたコルベールがまさかと思い鏡を覗き込んだところ、 先ほどまで倒れていた若者が起き上がって微笑んでいるではないか。 「今の声は君かね?」 意を決して話しかける。話ができるなら生徒が怖がらなければならない道理もないはずと思いながら。 “ええ。ちょっとうまくコントロールができていないようで。脅かしちゃったみたいですね” 「まずはパニックを抑えたい。君が幽霊の類や危害を加えるものではないことを証明したいのだが」 “なるほど。ならちょっと目をつぶってください” 「何をする気だね? 生徒に危害が加わるようでは私は君を打ち倒さなくてはならない立場だ」 “え~と、催眠術のようなものです。みんなには眠ってもらいます” 「害はないのだな」 “ありません” ふむ、と逡巡する。【炎蛇】の二つ名を持つコルベールだが、これほどの広範囲で生徒を眠らせる術はない。 水系統のメイジに眠りの秘薬でも使ってもらうか、風系統に眠りの雲を使ってもらうか。 「信用する、やりたまえ」 “ありがとう。では目を” カッ! というほどの一瞬の光を閉じた目にも感じたコルベールが再び目を開くと、確かに生徒たちは皆眠っているよ うだ。使い魔もそれに応じてパニックから脱し、主人の元に戻ってくる。 『ふむ、流石に幻獣はただおとなしくなる、というわけでも無い様だな』 タバサのシルフィードなどは主人を守るように警戒しているのが目に入った。 “君はシルフィードと言うのかい。ごめんよ、君の大好きなご主人様を傷つけるつもりは無いんだ” 「君は幻獣とも話ができるのか!」 コルベールはシルフィードが風韻竜であることを知らない。 『ミス・ヴァリエールはいったい何を召喚したのだ?』との、危惧に近い感情が肥大する。 “えぇと、今の、聞こえちゃいました?” 鏡の中の青年がちょっと困ったような顔をしている。 “テレパスが漏れているのか。サイコ・ブラストに近い現象かな。 ユージンが言っていたのは本当だったのかもしれない” 「何だねそれは、そもそも君はなにものなんだ?」 “詳しい話はきちんとします。その前に彼らを遠ざけるか僕がどこかへ行かないと。 たぶんそろそろ目を覚ますかと” 「君は自力で移動できるのかね?」 “ええ。どうしましょうか?” 「ならば…、ミス・ヴァリエール、起きなさい! オールド・オスマンのところにこの【鏡】を案内して、私が行くのを一緒に待っているのです」 いきなり起こされたルイズは目の前にまだ先ほどの鏡が浮かんでいて、 相変わらず鏡の中だけにいる青年にびびりまくっている。って言うか半泣きに近い。 「ミスタ・コルベール。そんな…」 「ミス・ヴァリエール、この鏡は君が召喚したのだ。この儀式は神聖なものであり、 例外を認めるわけにはいかない。だからと言ってこのままでは皆がパニックになる。 ですから、早くオスマン師の元へ行ってください」 立て板に水で反論の余地はない。気味は悪いがこうなったらもうどうしようもないのだろう。 どんよりとしたオーラを背負ってこの場を離れるルイズと、その後ろをふわふわ漂う鏡。 ある意味とてもシュールだった。 「ところで」 “なんだい? 確かミス・ヴァリエールだっけ” 声だけ聞くと優しそうなんだけどな、とか場違いなことを考えるルイズ。 「ルイズよ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。アンタ名前あるの? 【鏡】なんて呼びにくくていけないわ」 “ロック。ただのロックだよ” これが【虚無】と【超人】の邂逅であった。
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前ページ次ページ暗の使い魔 「ちょっと、何してるのよ。さっさとしなさい!」 「五月蝿いな、こんな人ごみじゃ仕方ないだろう」 細い路地にいるルイズからの催促に、官兵衛が答える。 ごった返す人ごみを掻き分けながら、ずた袋を引っさげた官兵衛がようやっとルイズの元にたどり着いた。 路地に入り込んだ二人は、元来た道を見返す。と、そこには見渡す限りの人の波。 幅5メイル程の街道に所狭しと人が並んでいた。 ここは首都トリスタニアのブルドンネ街、その大通り。 虚無の曜日――魔法学院の生徒にとって休日にあたるこの日。 官兵衛とルイズはある買い物をするために、ここ首都トリスタニアまで出てきていた。 事の始まりは、昨晩の会話である。 「この野良犬―――っ!よりにもよってツェルプストー相手に尻尾を振るなんて!」 あの後、ルイズに部屋まで連れ戻された官兵衛は、いきなり犬呼ばわりされた。 キュルケとの現場を最悪のタイミングで押さえられたためだ。挙句、鞭で散々叩かれそうになる始末。 「落ち着けお前さん――って、犬呼ばわりか!一体何だってんだ!」 ルイズがなぜキュルケとの接触をこれほどまでに怒るのか。それは、官兵衛にとっては何も関わりの無い因縁のせいであった。 聞けば、ツェルプストー家とヴァリエール家は国境を挟んでの隣同士。 トリステインとゲルマニアの戦争の度に殺しあった因縁の仲なのだとか。 さらには、ルイズにとってはこちらが重要らしいが、先祖代々ヴァリエールはツェルプストーに、散々恋人を奪われてきたらしい。 曰く、ひいおじいさんの妻が奪われた。曰く、ひいひいおじいさんの婚約者を奪われた、等々である。 とどのつまりは、これ以上ツェルプストーには小鳥一匹だって渡すわけにはいかない。そういうことらしい。 「わかった!?とにかくツェルプストー家は、ヴァリエール家にとって不倶戴天の敵なの!」 「へいへい。要は小生が近づかなきゃいいんだろう。あのキュルケに」 官兵衛はやれやれと手をすくめた。しかし、それには一つ問題がある、それは。 「向こうから接近してきたらどうする?強行手段に出られたらさっきみたいに監禁されかねんぞ」 「そうね、それにキュルケを慕う男達も黙ってはいないでしょうね」 ルイズが顎に手を当てながら言った。官兵衛も腕に自信が無いわけではない。しかしながらこの枷である。 闇夜に不意打ちでもされたらたまったものではない。何れにせよ、なにかしら身を守る手段が必要であった、そこで。 「わかったわ。あんたに剣を買ってあげる」 「えっ?」 ルイズが意外な提案をしてきた。官兵衛が素っ頓狂な声を上げる。 「確かにキュルケに好かれたら命がいくつあっても足りないわ。降りかかる火の粉は自分で払えるようにしなさい」 ルイズがツンと上を向いて言った。 「いやしかしだな!小生のこの枷で剣なんかあっても……」 「でもあんたこの前言ってたじゃない。剣があればもっと手早く済むって」 そうであった、と官兵衛は天井を仰いだ。確かに彼は、ド・ロレーヌとの決闘の後、そんな言葉を口にしたのだ。 「まあ無いよりはマシでしょ?」 「そりゃそうだが……」 「決まりね」 そんなこんなで、ルイズと官兵衛は剣を買うために、はるばる首都まで出てきた訳である。 因みに官兵衛の枷と鉄球と鎖は、白い布に包まれている。 流石にあのままでは目立って歩きにくい、と考えたルイズが用意したのだ。 傍から見れば、白い大きなずた袋を担いでいるようにしか見えず、上手くカムフラージュされていた。 ブルドンネ街の大通りを抜け、狭い路地を入る。 やがて四辻に出、そして剣の形をした看板の店を見つけると、ルイズと官兵衛はその中に入っていった。 その様子を、二つの影がそっと見ているのに気付かずに。 暗の使い魔 第七話 『魔剣とゴーレム』 ルイズと官兵衛が入ると、そこは、狭い屋内に様々武具が並んだ、薄暗い店であった。 カウンターの奥に座った店主が、こちらに気付き、胡散臭げな目で官兵衛達を見た。 「貴族の旦那。うちは全うな商売してまさあ。お上に目をつけられる事なんかとは無縁でっせ。」 「客よ」 ドスの聞いた声でそういう店主に、ルイズが一言で返す。と、店主は驚いたようにルイズを見やった。 「こりゃあ驚いた。若奥様が剣なんぞ握られるんで?」 「使うのは私じゃないわ。こいつよ」 ルイズが官兵衛を目で指す。店主は納得いったように手を打った。 「ははあ成程。近頃は下僕に剣を持たせる貴族の方々も多いようで」 相手が客だと分かると、店主は商売っ気たっぷりに愛想を振りまきながらそういった。 「剣をお使いになるのはこの方で?はあ、これはまた逞しいお方で。鍛え上げられた肉体が岩のようでさあ」 店主が、まじまじと官兵衛を見ながら、世辞を述べる。 そんな店主の言葉を、ルイズは煩わしく思いながらも静かに先を促した。 「このような方がお使いになる剣といえば、かなり大振りなものになりやすが?」 「構わないわ。私は剣の事なんて分からないし、適当に選んで頂戴」 「へい、かしこまりました」 そういうと、店主はいそいそと店の奥へ引っ込んだ。 こりゃ鴨がネギしょってやってきたわい、と内心ほくそ笑みながら。 そんな中、官兵衛は店内に置かれた刀剣類一つ一つを手に取り眺めていた。 しかし、まともな使用に耐えるような物はこの店ではそうそう見つからないようであった。 官兵衛が短くため息をつく。その時、店の倉庫から店主が大剣を油布で拭きながら現れた。 「こいつなんかどうです」 店主がドンと大剣をカウンターに置いた。 見ればそれは、なんとも煌びやかな大剣であった。所々に宝石が散りばめられ、両刃の刀身が鏡のように輝く。 刀身も大きく、1,5メイルはあろう大きさであった。成程、貴族の従者が腰に下げるにはもってこいの逸品らしかった。 官兵衛も傍により、手にとってまじまじと見た。 「こいつを鍛えたのは、かの高名なゲルマニアの錬金術師シュペー卿で。魔法だって掛かってるんで鋼鉄なんか一刀両断ですぜ」 官兵衛が熱心に見てるのをいい事に、早速売り込もうとする店主。ルイズも満足したように、その剣を眺めている。 「おいくら?」 ルイズが早速店主に値段を尋ねる。店主が淡々と値段を告げた。 「エキュー金貨で二千。新金貨で三千」 「立派な家と森つきの庭が買えるじゃないの!」 ルイズは声を荒げた。いくらなんでもこれではぼったくりではないか、と抗議するも。 「名剣は城に匹敵しやすぜ。屋敷で済めば安い方かと」 店主が笑いながらそういった。その言葉に、困ったように黙り込むルイズ。 しかし、まじまじ見ていた官兵衛がようやっと口を開くと。 「こんなナマクラで金とろうなんて、たしかにぼったくりが過ぎるな。お前さん」 店主に向かってそう言った。 「な、なんでい!いい加減な事言うなド素人が!」 今度は店主が顔を赤くして、官兵衛に怒鳴った。しかし官兵衛は冷静に言う。 「鋼鉄だって斬れる?こいつじゃあ土塊にすら劣るぞ」 そう言いながら、官兵衛は興味なさそうに大剣をカウンターに戻した。 「斬れないな。飾りだ」 そう言われると、店主は怒ったように剣を引っつかみ、店の奥へと消えていった。 官兵衛も、落ちぶれたとはいえ一介の武将である。刀剣の良し悪しを見る目は確かであった。 加えて彼は、小田原城主北条氏政より賜った名刀『日光一文字』を所有していたこともある。 名刀を見分ける目は玄人であった。 ルイズがだまされた事を悟り、わなわなと震える。 「貴族相手にナマクラを売りつけようだなんて!」 「落ち着け。向こうも商売人だ」 官兵衛がルイズを宥める。といっても今回のは流石に度が過ぎるとは官兵衛も思ったが。 「とりあえず出るか」 先程から店主も戻って来ないし、このままでは埒が明かない。と、店の外に出ようとしたその時であった。 「よう兄ちゃん!おめえ結構いい目してるじゃあねえか!」 唐突に狭い店内に声が響いた。 官兵衛とルイズが見回すも、辺りには誰もいない。 「どこ見てんだよ。こっちだこっち」 とりあえず声のする方向へ目を向けるも、積み上げられた剣があるのみ。人影らしい人影はどこにも無かった。 「おめえ!やっぱり目は節穴か!」 その時、官兵衛は驚き目を見開いた。なんと声の主は、一本の剣であった。 乱雑に積みあがった剣の束の中の一本の剣。正確に言えばその柄の部分から声が発せられていたのだ。 ガサゴソと乱暴にその剣を引っつかむ。 「おいおい!慌てんなって。もう少し優しく扱いな」 口と思わしき柄の部分がカタカタと震えた。 「それって、インテリジェンスソード?」 ルイズが戸惑いながら、その剣を見やった。 「いんてりじぇんす?」 「海を隔てた南蛮の――じゃない、魔法によって意志を与えられた剣の事よ。珍しいわねこんな所で」 ルイズが妙な電波を受信しながら、官兵衛に説明する。 「何でも有りか、魔法ってのは」 剣が喋るという事実にも驚きである。しかし何よりも、物に意志を与えるというデタラメな魔法の力に官兵衛は舌を巻いた。 「やいデル公!またおめぇは!」 いつの間にかカウンターに戻ってきていた店主が、手に持った剣をみるやいなや怒鳴った。 「デル公っていうのか?お前さん」 「ちがわ!デルフリンガー様だ!」 「へぇ、名前だけは立派ね」 ルイズがデルフリンガーをじろじろ見ながら言った。確かに名前は立派だが、当の剣はさび付いていてボロボロである。 長さは先程の大剣と大して変わらないが、それでも先程のものから比べると大分見劣りした。 それでも官兵衛は興味深げに、デルフリンガーを見回す。 「おいお前さん。喋れるってことは色々知ってるのか?」 「剣に尋ねる時はテメエから名乗りやがれ」 「それもそうだな、小生は官兵衛。黒田官兵衛だ」 「そうかいカンベエ、俺の事はデルフでいいぜ。」 なにやら嬉しそうに剣に話しかける官兵衛を、ルイズは怪訝な顔で見つめていた。 「なによあんた、その剣気に入ったの?もっと綺麗なのにしなさいよ」 彼女がそう言うも、官兵衛はデルフとのおしゃべりに夢中で取り付く島もない。 仕方無しにとルイズは店主に向き合う。 「あれはいくらなの?」 「あれなら100で結構でさ」 「あら安いじゃない」 「こちらからしたら厄介払いみたいなもんでして。何しろそのデル公と来たら、客にケチ付けるは罵るわ、ともう散々で」 「え~」 ルイズは再び嫌そうな顔をする。しかし官兵衛はあの調子だ。 「カンベエ!どうするのよ!」 「ん?ああ、買うぞ」 ルイズは肩を落とした。官兵衛が懐から袋を取り出し、カウンターの上に中身をぶちまける。 店主が、慎重に金貨を数え終わると、頷いた。 「毎度」 ルイズは深く深くため息をついた。 「よろしく頼むぞデルフ」 「こちらこそな、いやしかしおでれーた!こんな所で『使い手』に拾われるたぁな!」 「使い手?」 なにやらまだ官兵衛と剣はおしゃべりしているようだが、ルイズはさっさとこの店を出たかった。 さっさと出るわよ、と官兵衛を無理やり店の外に押し出すと、ルイズもそれと同時に出て行った。 薄暗い店内が再びしんと静まり返る。 「やっと厄介払い出来たか」 店主がカウンターに頬杖をつきながら、短くそう呟いた。やれやれ、と言いながらパイプを吹かす。 パイプの煙が天井に届くのをぼぅっと見る。 「まあせいぜい元気でやれよ。デル公」 店主は何とも言い知れぬ静けさに、そんな言葉をつぶやいた。 店を出てから、ルイズはずっと機嫌が悪かった。官兵衛が理由を問えば。 「本当にそんなので良かったの?」 と、剣についての文句しか言わなかった。 町に繰り出したは良いものの、さび付いた剣一本しか手にはいらなかった事が余程腹に据えかねたのだろう。 「思ったより丈夫そうだ。剣として使う分には問題ないだろう」 「同じ剣でも喋らないのが沢山有るじゃない、なんでわざわざそれにしたのよ。」 加えて、インテリジェンスソードなどという迷惑な代物であった事も一因していた。 「喋るからいいんだろうが。こいつなら色々情報を持ってるかも知れんしな」 「ふ~んそう」 官兵衛の言葉に、ルイズは心底つまらなそうであった。 二人がそんな会話をしながらブルドンネ街を練り歩いていた、その時であった。 「あれ、なんの人だかりかしら?」 ルイズが通りの正面を指差した。官兵衛もそちらを見る。 すると、そこにはおびただしい数の人々が何かを囲んでいるのが見えた。 このまま行くと間違いなくあの群衆にぶつかるだろう。しかし通りの人の流れは激しく、回り道をしている余裕などない。 ルイズ達は仕方なく、前へ前へと進んでいった。 「ええい、見世物ではない!散った散った」 ざわめきに混じって衛士が怒号を飛ばしているのが聞こえる。 そして人ごみの隙間から、衛士達が木でできた担架で、布に包まれた何かを運んでいくのが見えた。 一体何なのかと、一番後ろに並んだ男性に話を聞く。すると、驚くべき答えが返ってきた。 「ああ、メイジの死体が出たんだとさ」 男性はルイズに答える。その言葉にルイズは息をのんだ。 「死体って、殺されたの?」 「どうやらそうらしいな。今月に入って二件目だとさ、ひでぇ話だ」 あまりに物騒な話に、ルイズは顔色を変えた。 「なんだってメイジが殺されるんだ?この世界じゃ貴族を手にかけるなんざ重罪じゃないのか?」 官兵衛がルイズに問う。 もちろん貴族でなくとも殺人は重罪である。 しかし官兵衛は、この世界の頂点に君臨する貴族がなぜ殺されたのか疑問に思ったのだった。 「わからないわ。今回殺されたのは貴族なの?」 ルイズが再び男に話を聴いた。 「いいや、貴族じゃない。身元知れずのメイジさ」 成程、確かに殺されたのが貴族であったのなら、このような騒ぎでは済まない筈だ。 しかし、官兵衛は男の答えに疑問符を浮かべた。 「メイジが全員貴族なわけじゃないのか」 「そうね。メイジにも色々あって傭兵に身をやつしたり、泥棒になったりするケースがあるわ。 貴族は全員がメイジだけど、メイジ全員が貴族じゃあないのよ。それにしても――」 官兵衛の問いに答えた後、ルイズは考え込んだ。 「メイジが立て続けに二人も殺害されるなんて、いったいどうしてかしら?」 メイジ同士のいざこざであろうか。 身元不明のメイジであれば大方盗人の類であろう。つまりは、裏社会の事情によるものかも知れない。 もしそうであれば、自分たちには関わりの無い事だ。ルイズはそう思った。しかし、彼女は何かが引っ掛かっていた。 現場処理が終わり、人の群れがまばらになってきた所で、官兵衛とルイズはようやく歩き出した。 「はぁ、大分遅くなっちゃったわね。帰りましょう」 「おう」 二人は馬を預けている駅へと向かった。 ルイズと官兵衛は、馬で約三時間の道のりを走り、学園へ戻ってきた。 その頃にはすでに日が落ち、辺りには夜の帳が降りていた。 官兵衛はまずルイズの部屋に戻るなり、デルフリンガーを鞘から出して会話を始めた。 彼がデルフを選んだ理由は主に二つ。一つは勿論武器としての役割。もう一つは情報収集であった。 こちらに来てからまだ一週間。官兵衛は、この世界の世情について疎い部分が多くあった。 勿論シエスタ達との会話や、日ごろの授業から情報を得ている。 しかしながら、それらの情報源だけでは得られるものに限りがあった。 図書館の利用も考えたが、そこは貴族専用で自分のような平民は入る事すら許されない。 そんな時、彼はデルフリンガーを見つけたのである。 トリステイン中心部の武器屋に眠っていた、意志を持った魔剣。何かしらの情報が得られると官兵衛は踏んでいた。 彼は日本に帰る為にも、一つでも多くの情報を欲したのであった。しかし―― 「なぜじゃあああああああっ!」 「まあまあそう騒ぐなって相棒」 「誰が相棒じゃ!」 またしても切ない叫び声が夜空に響いた。頭を抱え、その場にうずくまる官兵衛。 「おいおいどうしたってんだよ相棒。そりゃたしかに俺様は忘れっぽい。長い間眠ってたからな、うん。 でもそれがどうした?それを差し引いても俺様はそこらの名剣に劣らないぜ。後悔させねえ、絶対」 「後悔だらけだこの錆び錆び!何聞いても忘れた、知らねぇだの、お前さんを買った意味が半分無いじゃないか!」 「よくわかんねぇが、半分あるならいいじゃねぇか。仲良くやろうぜ」 官兵衛はガックリと肩を落とした。官兵衛は肝心の情報を、デルフリンガーから全く得られなかったのだ。 忘れっぽいと言うことは思い出す可能性も無きにしも非ず。だが、今のところそれには期待できそうになかった。 「だから言ったじゃない。もっと普通の剣にしときなさいって。」 ベッドに腰掛けたルイズが頬を膨らませてそう言う。 と、その時であった。 「はーい!ダーリン!」 キュルケが突如、ルイズの部屋のドアをこじ開けて現れた。官兵衛を見るや否や抱きつく。 そして後から、青い髪の少女が本を読みながら入ってきて、ちょこんと官兵衛の隣に座った。 「ちょっとツェルプストー!何勝手に人の部屋に入ってきてるのよ!」 ルイズが立ち上がり、がなり立てる。それに対して、ルイズに今やっと気がついたかのようにキュルケはニッコリ笑う。 「あらルイズこんばんは。生憎だけど今日は貴方に用は無いの。私はダーリンに用があって来たのよ。ねっ、ダーリン」 「だ、だありん?よく分からんが小生に何の用だ?」 官兵衛がおずおずとキュルケに尋ねる。 しかし、昨日の今日で随分なアプローチの仕方だ。恋のためならどこへだろうと現れる。他人の部屋だろうとこじ開ける。 これがツェルプストー流の恋の方法だとしたら、本当にとんでもない家系だ。 官兵衛は、二の腕に押し付けられる胸の感触に苛まれながら、そう考えた。 キュルケがシャツをめくり上げ、スカートの中から何かを取り出した。それは一冊の本であった。 頑丈そうなカバーに包まれ、丁寧に鍵まで掛けられている。随分と重要そうな書物だった。 「これをね、ダーリンに・あ・げ・る」 キュルケが色気たっぷりに、その本を手の中に包ませた。 「な、なんだコイツは?」 「フフ、これはね、『召喚されし書物』って言う代物なの。我がツェルプストー家に伝わる家宝よ」 「何!召喚された書物!?」 官兵衛が驚愕し、手の中の本を見やる。 「そうよ。もしかしたらダーリンの助けになればいいなって。私からのささやかな贈り物よ」 バッと頭上に書物を掲げる官兵衛。目を輝かせ、彼は肩を震わせた。 もしこの書物が日本から、いや官兵衛の世界から召喚された物なら、大きな手がかりであった。 彼が元の世界に帰るための、これ以上ない程の。 「どういうつもりよキュルケ」 「あら、貴方こそ。ダーリンに剣なんかプレゼントしちゃって」 「何よ、使い魔に最低限必要なものを買い与えるのは、主人である私の務めよ」 「必要なものねぇ」 キュルケがチラリと官兵衛の横に置かれた、錆び付いた剣を見やった。ぷっと吹き出しながらルイズに向き直り。 「大方お金が足りなくてあんなものしか買ってあげられなかったんじゃあないの?」 「違うわ!カンベエがあれでいいって言ったのよ!必要なら私がもっと立派な剣を買ってあげたわよ」 「あら、それはダーリンが気を使ったのでなくて?お金の無い貴方に。 まったく使い魔にお金の心配をされるなんて、主人として情けないわね?」 ルイズの眉が釣りあがった。握り締めた拳がわなわなと震え出す。 と、突如ルイズは官兵衛の持つ本をバッと取り上げた。 オイ!と官兵衛が抗議する間もなく、ルイズは本をキュルケに突っ返した。 「いらないわよこんなもん!」 「それは私がダーリンにあげたの。貴方にあげたんじゃないわ」 「使い魔の物は私の物。私の物は私の物よ!あんたからは砂粒ひとつだって恵んで欲しくないんだから」 官兵衛が横でふざけんな!と抗議するが聞く耳持たずである。 「全く、こんなんじゃダーリンが可哀想よ。 彼は貴方の使い魔かもしれないけど、意志だってあるのよ?そこを尊重してあげなさいな」 そうだぞ!と官兵衛が繰り返す。キュルケが再び官兵衛に寄り添った。 「ねぇダーリン、こんな自分勝手なルイズより私のほうがいいわよね?私なら貴方に何だって望むものを与えられるわ。 勿論、貴方を送り帰す方法だって」 キュルケの言葉に官兵衛はハッとして、彼女を見やった。 何故それを知ってるんだ、と言葉が出かかったが、フレイムとの感覚共有のことを思い返し口を閉ざした。 「何よ余計なお世話よ!それにこいつを送り帰すのは主人である私の勤めよ!ゲルマニアで相手にされなくなったからって、 トリステインに越してきた色ボケは引っ込んでなさい!」 「言ってくれるじゃない……」 キュルケの目が据わった。ルイズが勝ち誇ったように言う。 「何よ、本当の事じゃない」 二人の視線がバチバチと火花を散らした。二人が同時に杖に手を掛けた。 すると、それまでじっと本を読んでいた青髪の少女が、すっと杖を振るった。つむじ風が舞い上がり、二人の手から杖を吹き飛ばした。 「室内」 表情を変えず、少女が淡々といった。おそらくはここで杖を抜くのが危険だと言いたいのだろう。 「なにこの子、さっきからいるけど」 「あたしの友達よ。タバサっていうの」 タバサは再び座り込むと、官兵衛のとなりで相も変わらず本のページをめくり始めた。 官兵衛はタバサを見やる。年の程は13~4程だろうか。赤い縁の眼鏡を掛けた、幼そうな顔立ちの少女であった。 官兵衛の視線を気にも留めず、彼女は淡々と読書をしている。 「(随分無口な娘っ子だ、だが――)」 官兵衛はこの少女の立ち振舞いに違和感を感じていた。そう、何者をも寄せ付けない雰囲気。 彼が日ノ本で幾度と無く感じた、あの冷たい気配。例えるなら、豊臣秀吉の左腕として活躍していた男、石田三成。 それを思い出させた。 ふと、タバサがこちらを向いた。それに対して慌てて目を逸らす官兵衛。 「(気のせいか……)」 見ればまだ表情あどけない少女である。自分の感じた違和感は気のせいだろう。そう思うことにした。 「止めなくていいの?」 「えっ?」 タバサがすっと前を指した。見るとそこには、怒りをむき出しにして睨み合う二人の少女がいた。 「「決闘よ!」」 二人が同時に叫んだ。 「おいおい何言い出すんだお前さん達――」 「「カンベエ(ダーリン)は黙ってて!」」 二人の少女、いや鬼女に凄まれて官兵衛はすごすごと引き下がった。 「いいこと?勝ったほうがダーリンにプレゼントを贈るのよ!」 「上等よ!絶対負けないんだから!」 女同士の決戦の火蓋が切って落とされた。 「でだ……何で小生がこうなるんだあぁぁぁぁっ!」 官兵衛は気がつくと、学園内の本塔の上からロープで吊るされていた 先程部屋で急に眠くなり、意識が無くなり、気がついたらこのザマであった。恐らくは魔法で眠らされたのだろう。 自分の遥か下に地面が見える。そこは学院の中庭であり、キュルケとルイズが官兵衛を見据えて立っていた。 そして上空には巨大な竜が舞っているのが見えた。タバサの使い魔のシルフィードであった。 彼女は、シルフィードに乗りながら吊るされた官兵衛の真上を旋回していた。官兵衛の落下に備えてである。 「いいこと?先にロープを切ってカンベエを落とした方が勝ちよ」 「わかったわ」 キュルケとルイズが杖を構えた。 「いやいやお前さん達。決闘したい理由は分かった、譲れない訳がある事も。でもな、こんな形で小生を巻き込むなっ!」 官兵衛が精一杯叫ぶも、皆どこ吹く風であった。 「降ろせ!降ろしやがれ!」 「ハァーイ!待っててダーリン。今私が降ろしてあげるわ!」 キュルケが官兵衛に目配せする。 「ちょっとキュルケ!先攻は私よ!」 ルイズが杖を構えながら言う。 「わかってるわよ、ヴァリエール」 ルイズは官兵衛が吊るされたロープを慎重に見やった。 風によって左右にゆらゆら揺られるロープを切るには、最適な魔法は何であろうか。 いや、最適な魔法以前に自分が魔法を成功させられるのだろうか? ルイズは考えた、しかし考えるだけでは埒があかない。 ルイズは意を決すると、慎重に詠唱を始めた。呪文が完成し、杖をロープ目掛けて振るう。 「(あたって!)」 ルイズは祈った。だがしかし、どおんと爆発の音が響き渡った。 見るとルイズの狙いは外れ、本塔の壁に大きな亀裂が走っただけであった。 キュルケが壁を指差しながら笑う。 「あっはっは!ルイズ!貴方ってば本当に爆発しか起こせないんだから」 ルイズが悔しさに唇を噛み締めた。 「じゃあ次はあたしの番ね」 そう言うと、キュルケが余裕たっぷりに前へ進み出た。 そのまま手馴れた様子で詠唱を始める。すると、杖の先に徐々に炎が集まり、30サント程の炎の塊となった。 膨れ上がった炎をロープ目掛けて放つ。そして、ボッという一瞬の音と共にロープに命中した。 「やったわ!」 キュルケが喜びの声を上げる。ルイズはそれを歯噛みしながら見ていた。 炎が命中した部分のロープが一瞬で炭化する。そのまま重力に従い、官兵衛は真っ逆さまに地面へと落下していった。 「うおぉぉぉぉっ!」 風竜に乗ったままタバサが急降下し、即座に官兵衛に『レビテーション』の魔法を唱える。 と、官兵衛の身体は空中で一瞬止まり、徐々に地面に降りていった。 「くそっ!お前ら、あとで覚えてろよ!」 地面に無事着地した官兵衛は、忌まわしげにそう言った。 と、その時であった。 「ちょっと!何あれ!」 キュルケが官兵衛とは反対側の方角を指差した。即座にルイズが振り向く。タバサの視線が鋭く捕らえる。 官兵衛が驚愕に目を見開いた。 彼らが見る方向、そこには見るも巨大な影が、地鳴りとともに形成されていく光景が映っていた。 見る見るうちに隆起し、巨大な人型を形作る。やがて影は、30メイルはあろうかという高さにまで成長した。 それは非常に巨大な、土で形作られたゴーレムであった。 「ゴーレム!」 ルイズが叫んだ。それと同時に、ずしん!と辺りに振動が走る。巨大な人型がゆっくりと、その歩みを始めた。 そしてその歩みは、着実に本塔の壁に入った亀裂へと進んでいた。 「おいおい!冗談じゃないぞ」 未だ縛られて動けない官兵衛の元に、巨大な塊がゆっくりと迫ってきていた。 「おい誰か!こいつを解いてくれっ!」 官兵衛が叫ぶも、その声を誰も聞いてはいない。 キュルケは足早に逃げて行ってしまった。タバサは空に見当たらない。しかし、ルイズは。 「ちょっと!何で縛られたままなのよ!」 いち早く官兵衛の元へと駆けつけた。 「お前さんらのせいだよ!」 相も変わらず理不尽な主人に抗議しながら、官兵衛は迫ってくる巨大な塊を見やった。 「こいつはまさか、メイジが動かしてるのか?」 「そうよ!あの大きさ、少なく見積もってもトライアングルクラスのメイジの仕業ね。 ってそんな事より何で解けないのよっ!」 ルイズが焦りながら言う。ずしいん!とより近くで振動が走った。ゴーレムはもう目と鼻の先に接近してきていた。 そして、とうとうルイズと官兵衛の上に影がかかった。ゴーレムがゆっくりと片足を上げた。 「お前さん!逃げろ!小生なら大丈夫だ!」 「いやよ!使い魔を見捨てるメイジなんてメイジじゃないわ!」 ゴーレムの足が上から迫る。天が落ちてくるようなその迫力に、官兵衛とルイズは成すすべなく頭を伏せた。 と、突如二人の間に風が吹きぬけた。体が持ち上がり、上昇する感覚に二人は頭を上げた。 「タバサ!」 気付くと、二人はタバサの操る風竜の背中に居た。間一髪でタバサが使い魔を降下させ、二人を救い出したのだ。 「ありがとう!助かったわ」 ルイズが礼を言う。タバサは短く頷くと、ゴーレムに目をやった。 ゴーレムは亀裂が入った本塔の壁の前に立っていた。 ゴーレムはゆっくりと拳を構えると、その拳を目一杯強く本塔の亀裂に叩き付けた。拳が衝突の瞬間、鋼鉄に変化する。 どおん!と凄まじい衝撃が、本塔全体に広がった。亀裂の入った壁は耐えられず、ガラガラと無残に崩れ落ちた。 「いったい何なのあのゴーレム!本塔の壁が粉々じゃない!確かあの場所って――」 ルイズが動揺しながら言おうとした言葉を、タバサが短く引き取った。 「宝物庫」 と、突如壊れた壁の中から、黒いローブにフードを被った人影が現れた。 腕に何か筒状の物を抱えており、それを持ったままゴーレムの肩に飛び乗った。 「あの人影!あれがゴーレムを操っているメイジね」 ルイズが言うと、それを証明するかのように人影が杖を振るった。 すると、ゴーレムは足早にその場から逃げるように移動し出した。そのまま城壁を跨ぎ、森の方へと歩き出す。 「逃がしちゃダメ!あいつ、今何かを抱えてた。きっと宝物庫から盗み出したのよ」 そのまま風竜で追跡を始めるルイズ達。しかし―― 「あれ?」 突如、森に入る手前でゴーレムがぐしゃりと崩れたではないか。 「一体どうしたのかしら?メイジは?」 ゴーレムだった土山の上を、風竜で旋回する。しかし、あたりに人影らしい人影は無い。 「どうなってるの?」 「消えた」 タバサが短く呟く。 ルイズが目を凝らしながら辺りを見回すも、無駄であった。 「まんまと出し抜かれたな」 官兵衛が未だ縛られたままで言った。ルイズが悔しそうに口元を歪ませた。 翌朝、大騒ぎする教師達は、宝物庫に空けられた巨穴をあんぐりとしながら眺めていた。 そして次に、宝物庫の壁に書かれたメッセージに憤慨していた。 壁に書かれたメッセージはこうであった。 『破壊の杖、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』 前ページ次ページ暗の使い魔
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使い魔の性質及び技のページ 性質の書 書物名 性質名 効果 補正 盗人LV1 ぬすっトド 盗みの心を持つトドの使い魔。対人でのアイテム獲得率が少し上がる。 - 鎧亡霊の書TYPE-A セルアーマー 防具をはじく鎧の亡霊の使い魔。対人での防具獲得率が少し上がる 魔法:3000 精神:0 鎧亡霊の書TYPE-B クロムアーマー 武器をはじく鎧の亡霊の使い魔。対人での武器獲得率が少し上がる - 鎧亡霊の書TYPE-C チタンアーマー 魔法をはじく鎧の亡霊の使い魔。対人での魔法獲得率が少し上がる。 - 死の書LV1 死蝶霊Lv1 死の使い魔。魔法ポイントを強化する。 魔法:6000 精神:0 紅蝙蝠の書LV1 サーヴァントフライヤーLv1 紅蝙蝠の使い魔。相手に与えた物理ダメージのうち一定割合を回復する。 - 星屑の書LV3 スプレッドスターLv3 星の使い魔。与えた魔法ダメージのうち5%を使い魔ダメージにまわす。 魔法:12% 精神:5600 六道の書Lv2 六道怪奇Lv2 霊の使い魔。与えた物理ダメージのうち6%を使い魔ダメージに回す。 魔法:5% 精神:8% 技の書 書物名 技名 効果 大鎌の書 死符「死者選別の鎌」 大鎌を振り下ろす。外しやすいが威力は高め。 再生の書 蘇生「ライジングゲーム」 ダメージを与え、一定割合をプレイヤーのHPに還元する。 喪心の書 喪心「喪心創痍」 ダメージを与え、一定確率で混乱を与える。 力の書 力業「大江山颪」 とにかく力で押す。 詐欺の書 筒粥「神の粥」 表示ダメージよりも実際にはダメージが大きい変な技。 奇跡の書 奇跡「神の風」 たまに神のご加護を得て威力がアップする。 洪水の書 水符「河童のフラッシュフラッド」 洪水を発生させる。雨なら威力上昇。 怨霊の書 呪精「ゾンビフェアリー」 相手に纏わり付く怨霊を具現させて攻撃する。相手の熟練度が高いほどダメージが上がる。 想起の書 想起「テリブルスーヴニール」 相手の思い出したくない記憶を引きずり出す。相手の精神が高いほど威力が上がる。 核熱の書 核熱「ニュークリアエクスカーション」 核暴発。ダメージを与え、一定確率で硬化を与える。 焔星の書 焔星「十凶星」 ダメージを与え、たまに天候を強制的に快晴に変更する。 果物の書 奇跡「ミラクルフルーツ」 フルーツ(笑)何故か呪い状態になる。 本能の書 本能「イドの解放」 抑制「スーパーエゴ」が無いと発動しない。 抑制の書 抑制「スーパーエゴ」 本能「イドの解放」が無いと発動しない。 鉄槌の書 拳骨「天空鉄槌落とし」 大空から相手に向けて拳を振り降ろす。天候に応じて威力が変わる。 誘導の書 ホーミングアミュレット 相手の位置を自動的にサーチして攻撃するお札。必ず発動し、必ず相手に10の魔法ダメージを与える。 変化の書 変化「百鬼妖怪の門」 手下とした魑魅魍魎を呼び寄せる。呼びだした怪物に応じて威力と追加効果が変わる。 反応の書 反応「妖怪ポリグラフ」 相手の深層心理を読み取る。相手の攻撃回数が多いほど威力が上がる。 火のグリモワール イラプション 相手の真下に小さな噴火口を呼び出し攻撃する。 水のグリモワール スプレッド 相手に湧き上がる水をぶつけて攻撃。 風のグリモワール エアスラスト 風が舞う空間を作り出し、敵を切り裂いて攻撃。 地のグリモワール グレイブ 最初の一撃で敵をのし上げ、続けて他の刃で追撃する。 光のグリモワール フォトン 小さな光の爆発を起こして攻撃する。 闇のグリモワール ダークスフィア 相手を巻き込むように小さな闇の魔法陣を出して攻撃。 幻のグリモワール カオティックフォース 攻撃時に属性ルーレットをし、相手属性と被ればダメージがアップする。 木のグリモワール チャージ 使い魔がプレイヤーのMPを回復させる。 氷のグリモワール アイストーネード 氷の竜巻を巻き起こして攻撃。 雷のグリモワール スパークウェブ 電撃の網を作って相手を閉じ込める。 時のグリモワール 幻符「殺人ドール」 相手を追尾するナイフを大量に放つ。 月のグリモワール エナジーボール 月の光を集め、四方に拡散させて攻撃する。 癒しのグリモワール ファーストエイド プレイヤーのHPを小回復する。 白紙:ぜんめつ 全滅の巻物 「白紙の巻物」を主書物に置いているとき、それを消費して相手を即死させることがある。失敗もある。 補助技の書 書物名 補助技名 効果 シールトリートメント 封印治癒 戦闘時プレイヤーの封印を治癒することがある。 コールドトリートメント 凍結治癒 戦闘時プレイヤーの凍結を治癒することがある。 パラライトリートメント 麻痺治癒 戦闘時プレイヤーの麻痺を治癒することがある。 気質発現-○○ ○○発現 たまに天気を○○にする。 夢陣の書Lv1 夢符「封魔陣」 相手の使い魔にセットされた攻撃技をランダムに1つ、その戦闘では発動しないようにする。 夢陣の書Lv2 夢符「八方鬼縛陣」 相手の魔法をランダムに1つ、その戦闘では発動しないようにする。 促進の書 天気「緋想天促」 天気の変化に激烈に影響する力を放出する。時々天気を普通に戻す。 苦痛の書 グローイングペイン 自分の与えた技ダメージを1割水増しする。 魔眼の書 魔眼「ラプラスの魔」 相手の動向を観察する謎の目を設置。自分の与えた使い魔ダメージを1割水増しする。
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前ページ次ページゼロの使い魔人 ――鼓膜をつつき回す電子音が、沈み込んでいた彼の意識を『現実』へ引き揚げる。 (う……) ぼやけた目を一、二度しばたたかせた龍麻は、更に指で軽く瞼の上から揉んで視界をはっきりさせる。 「…俺は、――そうだったな」 回転を始めた脳細胞が、彼自身が置かれた状況を余す所無く伝えて来る。 龍麻はその事実に一つ溜め息を付くと、腕時計のアラームを止め、その場で上体を伸ばした。 被っていた毛布を畳んで側に置くと、ブーツの紐を締め直し、相棒たる黄龍甲を腕に着け、立ち上がるとおもむろに部屋を見回した。 ――十二畳程の室内。机に本棚、来客用の椅子と小テーブルやクローゼット、天蓋付きのベッド…。 そのどれもが、手の込んだ細工と意匠が施された、上質な代物であるのは一目で解る。 そして…寝台で穏やかな寝息を上げている、龍麻にとっての疫病神といえる、部屋の主たる少女。 …時刻は5:30過ぎ。以前なら中距離走を始め、瞑想も含めた体力、技倆維持の各鍛錬に当る時間なのだが―― 「――洗濯しろとか言ってたな。場所は…、適当に誰か捕まえて聞くか」 床に散らばった服と自前の洗面具を手に、龍麻は静かに部屋を出た。 廊下を通り、階段を降りた所で、視界の端に人影を見つけ龍麻は足を止めた。 「…ん?」 即座に後を追いかけ、視線の先…10m程前を歩く後ろ姿を確認する。 ――肩で切り揃えた黒髪に、エプロン姿の少女である。両手に抱えた籠には、洗濯物らしき一杯の荷物。 渡りに船とばかりに、声を掛ける龍麻。 「待ってくれ。忙しそうな所を悪いが、少し聞きたい事があるんだが」 「はい?」 すぐに立ち止まり、こちらへと振り向いた少女に龍麻は歩み寄る。 「――どなたですか?」 「色々あってな、昨日から此処で厄介になる事になった者なんだが」 それを聞いた少女の顔に、何か閃いたかの様な色が浮かぶ。 「――もしかして、あなたミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 「前に、やむにやまれずが付くけどな。…知っているのか?」 「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。噂になってますから」 「そりゃまた…」 悪名なんとやら、かと内心ぼやく龍麻。 「それで、何かご用件でも?」 「ああ、洗濯をしろとか言い付かったんだが、それに使う道具やら場所がわからなくてな。出来たら、教えて欲しいんだが」 「それでしたら、私の後に付いて来て下さい。私もこれから洗濯を始める所ですから」 「そうか。なら宜しく頼む」 「はい」 笑みを浮かべつつ、頷いた少女は踵を返し歩き出すと、龍麻もそれに続く。 「――っと、まだ名乗ってなかったな。俺は緋勇龍麻。緋勇が姓で、龍麻が名前だ。宜しくな」 「変わったお名前ですね……。私はシエスタといいます。あなたと同じ平民で、貴族の方々を お世話する為に、ここでご奉公させて頂いてるんです」 「そうなのか」 それで会話は終わり、建物の裏手に置かれた、洗い場に案内される。 井戸から汲み上げた水を洗濯桶に張り、洗濯板と石鹸で汚れを落としに掛かる。 そういった作業をシエスタを始めとする大勢の使用人達と共に、黙々とこなし終わりが 見えかけた頃には、結構な時間が経過っていた。 後片付けも含め、一切を終わらせた所で、ルイズの居室へ戻る。 「入るぞ。起きてるか?」 ノックをし、呼び掛けるを何度か繰り返すも反応は無く、中へと入れば、当の部屋主は龍麻が起き出した頃と変わらず惰眠を貪っていた。 「……。ぐうたらしてないで、さっさと起きろ」 肩を掴んで強く揺すりつつ、(抑えた)声を掛ける。 「もう、なによ…。朝からうるさいわねぇ……」 「うるさいも何も、起きる時間だ。遅刻したいのか?」 「はえ? それはこま…って、誰よあんたは!?」 と、半ば寝ぼけた顔と声で叫ぶルイズに、ジト目を向ける龍麻。 「誰も何も、アンタに召喚ばれたばかりに人生棒に振った、不運な男だ」 「ああ、使い魔ね。そうね、昨日、召喚したんだっけ」 ……そこから着替えに関する意見と認識の相違で、両者はまたも舌鋒を交えたが、 ともあれ、着替え終えたルイズと龍麻が部屋を出た所で、隣室のドアが開いた。 ――鮮やかな赤髪と彫りの深い顔立ちに長身、褐色の肌と恵まれたスタイルが特徴的な若い女性である。 服装はルイズと同じ…つまりは貴族であり、この学院で学ぶ魔術師であろう…と、龍麻は見て取る。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 前者は愉快そうな笑みを見せつつ、後者は露骨といっていい嫌悪を込めての挨拶である。 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 龍麻を指差し、ルイズの返事を聞くや、遠慮もなにも無い笑声を廊下に響かせる。 「ほんとに人間なのね! 凄いじゃない!」 (まるきり珍獣扱…否、晒し者だな、こりゃ…) 「『サモン・サーヴァント』で、平民喚んじゃうなんて、あなたらしいわ。さすがはゼロのルイズ」 「うるさいわね」 最後の一言に、只でさえ不愉快そうなルイズの顔に、更に皺が寄るのを龍麻は見た。 「あたしも昨日、召喚に成功したのよ。どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ~。来なさい、フレイム」 との、キュルケの自慢気な声に合わせたかの様に、室内から這い出したのは…。 「――只のでかいトカゲ…、な訳無いか」 コモドドラゴン以上の体躯を持ち、それ自体が炎の塊で出来ている尻尾に、口腔の端からも時折、炎が洩れ出している。 (流石にあの旧校舎地下や天香遺跡でも、こんな奴は棲息でなかったな……) 「これって、サラマンダー?」 凝視する龍麻を余所に、ルイズが悔しそうに聞くや、そうよー、火トカゲよー、と、ひとしきりキュルケがその火 トカゲの出自や価値を自慢し、そこからやり取りを重ねる度に、ルイズの表情と声はますます不機嫌さを増す。 と、不意にキュルケは龍麻へと視線を向けた。 「あなた、お名前は?」 「緋勇龍麻だ」 「ヒユウタツマ? ヘンな名前」 予想通りの答えに、小さく肩を竦めてみせる龍麻。 ここに居る間、際限無く掛けられるだろう台詞に、逐一反応するだけ精神エネルギーの無駄である。 「じゃあ、お先に失礼」 そう言ったキュルケは外套を翻し、颯爽たる足取りでフレイムを引き連れ、部屋を後にする。 その姿が廊下の向こうに消えると、ルイズは憤懣やるかた無しな顔で叫ぶ。 「悔しー! なんなのあの女! 自分が火竜山脈のサラマンダーを召喚したからって! ああもう!」 「………」 無言を保つ龍麻だが、ルイズの癇癪は治まらない。 「あんたは知らないだろうけどね、メイジの実力を測るには、使い魔を見ろって言われているぐらいよ! なんであのバカ女がサラマンダーで、わたしがあんたなのよ!」 「そりゃお互い様だ。しかしな、召喚のやり直しが出来ん現状、今居る奴が人間だろうが何だろうが、 そいつと組むしかないだろう。無い物ねだりしても、仕方無い」 「メイジや幻獣と平民じゃ、狼と駄犬程の違いがあるのよ」 ルイズは憮然たる表情で言い捨てる。 「駄犬呼ばわりかよ。…そういや、さっきゼロのルイズとか言われてたが、何か曰くでもあるのか?」 「ただの渾名よ。…あんたは知らなくていい事だわ」 ルイズはバツが悪そうに言う。 「そうか。忘れろっていうなら、忘れるさ。ゼロだなんだの、俺にはどうでもいい事だしな」 深く突っ込まない方がよし、と見て取った龍麻は、その単語を意識の隅へと放逐する。 「ほら、食事に行くわよ。さっさと付いて来なさい!」 「了解」 ――龍麻を引き連れたルイズは、学院の敷地内で一際大きい本塔の中に作られた、『アルヴィーズの食堂』へと入った。 ルイズが道々、説明する所によると、総ての学院生と教師陣は此所で食事を取るのであり、 又、『貴族は魔法をもってしてその精神と為す』をモットーに、魔法に止どまらず、貴族としての 教養や儀礼作法等も学ぶ…と、いった事を龍麻に語る。 「わかった? ホントならあんたみたいな平民は、この『アルヴィーズの食堂』には一生入れないのよ。感謝してよね」 「別段、入れなくとも一向に構わんけどな。食うだけならどこも同じだ」 「そう。なら次からは外で食べなさい。使用人達にはそう伝えておくわ。――ほら、椅子を引いて頂戴。 気の利かない使い魔ね」 「そいつは失礼。……で、俺の分はどこにある?」 既にテーブルに並べられ、湯気と芳香を立ち昇らせる質と量を満たした料理の群れに目もくれず龍麻が尋ねると、 着席したルイズは、無造作に床を指す。 「あんたのはそこ。何を騒いでも、それ以外は出ないし出さないから」 床に置かれた皿には、黒パン半切れと薄いスープが一皿だけである。 「……やれやれ」 口にしたのはそれだけで、龍麻は床に胡座を掻く。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ、今日も…」 と、室内に祈りの声が響く中、龍麻は龍麻で… (予め、マトモなモノなぞ出ないと予想はしてたが、残飯で無いだけマシか。…しかし、 『コレ』が続く様なら、外で現地調達でもして、食い扶持は自力で確保すべきだな……) 祈りを済まして食事を始める生徒達だが、龍麻もさして時間を掛けず空にした皿を手に、立ち上がる。 「ご馳走さん。外で待っているぞ」 卓上に空にした皿を置いた龍麻は、ルイズの返事を待たずに食堂を後にした。 前ページ次ページゼロの使い魔人
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前ページ次ページ鋼の使い魔 せっかくの虚無の曜日が暮れてとっぷり。 トリステイン魔法学院内にある大会議室はオールド・オスマンを首座に座らせて教師という教師が集まり、非常に重たい空気を作っていた。 陽も落ちかけた頃に突如として現れたゴーレムが宝物庫を破壊し、収蔵されていた無二のマジックアイテム『破壊の杖』が 盗賊『土くれのフーケ』によって盗み出されてしまった。 その慎重にして大胆な犯行に学院の管理者たる教師たち一同は責任の所在と今後の対策について、 議論とは名ばかりの自己保身や責難に明け暮れた。 「当直のものは何をしていたのだ!」 「衛兵など当てにならぬ!今後はこのようなことが無いよう国軍に警護をまかせるべきではないか」 「当直を行っていなかったミセス・シュヴルーズには損失の弁償を…」 「そんな!私だけじゃなく他の方々も満足に当直なんてなさっていなかったでしょう!」 「国軍を安易に学院内に留まらせるのは学院の自主性の放棄じゃないか?!」 まさに議会踊って進まず。このような状態が3時間は続いていた。 好々爺の姿勢を崩さずそのやり取りを見守っていたオールド・オスマンであったが、さしもの業を煮やし取り乱す教師たちを一喝する。 「静まらぬか。皆の者」 半ば立ち上がりながらも喧々と口角泡を吹いて立ち回っていた教師達は、齢300とも称されるこの老メイジの放った覇気に当てられて 喉を詰まらせた。 「ここにおるほぼ全員が学院に賊が入り込むとは考えていなかった。無論、宝物庫の壁には強固に固定化を仕込んでおったが、所詮人の技。 事実盗賊めにまんまと破られて『破壊の杖』を持っていかれた。 詰まる所、今回の責任は学院の管理者たる我々全員にあると、わしは思うが如何かねミスタ・ギトー」 「お、おっしゃるとおりに……」 一際激しく責任者を探すべくなじっていたギトーは名指しされて鼻白んだ。 オスマンは咳払い一つ、いくつか空いた席が置かれて座っているコルベールに聞く。 「で、賊を直接目撃したものはおるのかね」 「はい。こちらに集まってもらってます」 コルベールは平素と変わらぬ態度で――ただし、その顔は幾分か険しい――会議室の隣に繋がるドアを叩き、中の者を呼び寄せた。 開けられたドアから入ってくるルイズ、ギュス、キュルケ、タバサ。 本来はギーシュも広場に居たため目撃していたはずなのだが、ゴーレム倒壊による負傷のため現在は医療室へ運ばれている。 ただし、勤務医の報告によると、ギーシュ・ド・グラモンは土砂崩落に巻き込まれた負傷に付随して、一種の欠乏症からくる 健康障害も患っていたことをここに記しておく。 閑話休題。オスマンは立ち並ぶ四人に対して暖かい目で迎えた。 「ふむ。詳しく話してくれるかの?」 一礼して一歩進み出るルイズ。他方ギュスターヴにも教師達の視線が集まってくるが、それは学院の会議室という厳かな場所に許可を与えたとはいえ平民が入り込んできている、という事への不快さを露にしたものだった。 「私はあの時、広場で魔法の練習をしていました。偶然広場に居たギーシュが塔の上に人影が見えたと言って、その後地鳴りが起こって 壁の向こうから大きな土のゴーレムが入ってきました。私はそれを撃退できないものかと遠くから魔法を打ちましたが、何度目かに命中して ゴーレムが崩れました。落ちてくる土から逃げる為に建物の中に一度はいり、土煙が収まってから外に出た時には、土の山だけで 賊が居なくなっていました」 「賊の特徴は覚えておるかの」 「黒いローブを身に着けていましたが、顔はおろか男か女かも分かりません……」 杖を振って賊を追い払うことに夢中で賊の顔形が頭から無かった事を心深くからわびるルイズに、あくまでも教師として 優しさと厳かさの混じった声で語りかけるオスマン。 「よいよい。生徒でありながら勇敢に杖振るったことを褒めてやろう。しかし一歩間違えば命の危険もあったのじゃ。そのことを忘れぬように」 はい、とルイズ。オスマンは教師達へ向きなおし、彼らに問う。 「さて。手がかりらしいものが何も残されておらぬ。どうするべきかのぅ」 「王宮に報告するべきではないでしょうか」 当直であったために最も非難を浴びていたミセス・シュヴルーズが積極的に手を上げる。 「ならぬ。先ほど言ったように今回の責任は我々全員にあるのじゃ。この件で王宮の官吏どもから非難と処罰があれば、我々は 責任を取らされて職を辞し、学院の管理運営は最悪アカデミーの傘下に吸収される、という事もありうるじゃろう。 そのような事があってはならぬ。ゆえに我々だけでフーケを捕縛、ないし『破壊の杖』を奪還せねばならぬのじゃ」 アカデミーとは学院と同じく国が置いた王立の機関の一つであるが、その目的は学術的な意味での魔法に関する研究である。 ただし学院とは違い、積極的な宮廷や地方貴族らからの寄付や義捐などを募り、内部の党派閥の激しい機関であることが知られている。 そのような連中に次代の貴族を育てる学院の運営を任せられない、ましてや不祥事をきっかけにしてなど。 オスマンの言葉に色を無くす、シュヴルーズ始め教師達。ことは己の職の安否にすら繋がるものと恐々とし始める。 ただなお、首座のオスマンは冷静にこの大事な会議の場に欠席する秘書の存在を気に掛けた。 「そういえば、ミス・ロングビルの姿がおらぬのう」 「どこに行ったのでしょうか。自室にはご在宅ではありませんでした」 明確に答えることが出来ないコルベールはそう言うしかない。 そこに勢い良く会議室の両開きの扉をと開け放って飛び込んできた人影があった。そこに室内の全員が視線を集める。 「遅れました!申し訳ありません皆さん」 「ミス・ロングビル!大変ですぞ!賊が侵入して宝物庫を荒らしていきましたぞ!」 「存じておりますわ。私、真っ先に宝物庫を確認して賊の後をつけるべく調査して参りましたの」 息を切らせ汗ばみ、額に髪が張り付いていたミス・ロングビルは、コルベールの言葉に答えながらたたずまいを直してオスマンの元に寄った。 「仕事が速くて助かるのぅ……」 「で、結果は?」 ミス・ロングビルは懐からなにやらメモ書きのようなものを取り出してそれを読み上げる。 「近在の農家などに聞き込みをしてみましたところ、ここから馬で4時間ほどの場所にある廃屋に、近頃見知らぬ人の出入りがあるとのこと。 ゴーレムの侵入した方角とも合わせて、おそらくそこがフーケと名乗る賊の棲家ではないかと思われます」 「上出来じゃ、ミス・ロングビル」 報告に満足したオスマンは再度教師陣に目を移し立ち上がった。 「さて諸君。再度言うがこの件は我らだけで解決せねばならぬ。故に今からフーケ捜索の有志を募る。我こそはと思うものは杖を上げよ」 オスマンの言の後、無言の時間が流れた。オスマンは大きく咳払いをしてもう一度教師達をみたが、教師達は互いに見合わせるだけで 何もする事が無い。そうして四半刻がゆっくりと流れた。 流石のオスマンも苛立ってくる。 「ええい、この中にフーケを捕らえようというものはおらんのか?貴族の威信にかけて汚名を雪ごうというものは」 ぐ…と杖を握る腕を震わせる教師一同。相手は巨大なゴーレムを作り出せるほどの優秀なメイジあることは明白。 しかも今から賊の住処を荒らしに行くというのだ。よっぽど自分に自信のあるものでなければ杖を上げることは出来ない。 オスマンはコルベールを見た。目を伏せ、ただじっとしている。汗一つ、震え一つ見せないその姿をオスマンは無念そうに眺めていた。 やがて上げられた杖がまず一つ。それは教師達からではない。 「ミス・ヴァリエール!」 「行かせてくださいミセス・シュヴルーズ」 会議室の隅に立ったまま待機していたルイズはじめ四人。一歩進み出てルイズは制止しようとするシュヴルーズに応えた。 「貴方は生徒ではないですか。ここは我々教師達に任せておくのです」 「そうは言っても、だれも杖を上げないではないですか」 たじろぐシュヴルーズ。そのとおりだ。現に止めるシュヴルーズ自身、杖を上げなかったのだ。ルイズを止めておける資格が無い。 そのやり取りを見ていた後の二人も杖を掲げた。 「ミス・ツェルプストー!それにミス・タバサも!」 「ヴァリエールには負けていられませんもの。でもタバサ、貴方はいいの?」 キュルケは脇に立つ友人に目を向けた。タバサは一旦掲げた杖を少しおろし、ルイズに、そしてキュルケに向けて一言。 「心配」 言葉少ない友人の気持ちに心を暖めるキュルケだった。 そんなやり取りをじっと見ていたオスマンは、ふむ、と一言言って教師達へ話した。 「では、彼女ら3名を捜索隊として遣わす」 「オールド・オスマン!」 「それとも君がいくかね?ミセス・シュヴルーズ」 「ぃ……いえ、私は…」 「彼女らは一度賊を見ておる。それにミス・タバサはシュバリエの称号を持つ優秀なメイジじゃし、ミス・ツェルプストーもゲルマニアの 高名なメイジの家系として優秀なトライアングルメイジじゃ」 シュバリエとは国が貴族へ与える爵位の一つだが、領地を与えられぬ無領地爵位でありながら、実戦能力等の実力によって 与えられるものであり、優秀なメイジの証でもある。 しかし、とオスマンは言葉切ってルイズを見る。 「ミス・ヴァリエール。本当に捜索隊に志願するかの」 「……はい!」 ルイズの目ははっきりと開かれオスマンを見ている。その態度に満足したオスマンは、 「うむ。では明朝未明より捜索隊として君達に外出許可を出す」 「「「「杖に賭けて」」」 「ミス・ロングビルには道案内をたのむぞ」 声をかけられたミス・ロングビルは心穏やかにそれを了承した。 「了解しました」 誰にも分からぬほどに笑いながら。 明朝、捜索隊として集められた一同は、用意された馬車に乗り込み、朝の澄んだ空気の中、出発した。 道中は森まで街道を行き、途中から徒歩による探索になるという。 「ミス・ロングビル。手綱など御者に持たせればよろしいのに」 案内人のミス・ロングビルは自ら馬車の手綱を取る事を願い出て、二頭引きの馬車を操っている。 「いいのです。私は貴族の名を捨てたものですから」 「よろしければ、事情を教えてもらえます?」 沈黙が二人に流れる。ロングビルは少しだけ、表情を曇らせたが、努めて空気を汚さぬように振舞った。 「……とある事情で廃名されまして。家族を養わなければなりませんので街に出て働いていたのですが、そこをオールドオスマンに 秘書として雇ってもらいましたの」 興味津々に聞いていたキュルケのシャツが何者かに引かれている。キュルケが振り向くと、小柄な友人が首を振って言った。 「野暮」 「それもそうね。ごめんなさいな、ミス」 「いいえ。慣れていますので…」 その言葉にほんの少し憂いを残す。 一方、馬車の別一角。ルイズは無理矢理同行させたギュスターヴの愚痴を叩き伏せるのに夢中だった。 「何も自分から厄介を拾いにいくこともないだろうに」 「何言ってるのよ。学院に賊が入ったのよ。これを放置するのは貴族の名折れよ」 「いつの時代も貴族ってやつぁ、大変だーな嬢ちゃん」 研ぎ終わったデルフがギュスターヴの腰に指されている。短剣とつりあうように左右に指された剣はギュスターヴの心象に 一応の安心感を与えていたのだが、この場においては多方向からの言葉に対応しなければいけない分、不利である。 「しかしだなぁ。何で俺まで引き連れるかね」 「ギュスターヴ。あんたは私の使い魔なんだから。腕に覚えがあるんでしょ?手伝って当然でしょ」 「当然って言われてもなぁ…」 「ま、いいじゃねーか。俺様は賛成だぜ。相棒の腕が早く見てーからな」 「……昨日みたいにでかいゴーレム出されたらあんまり出番もないんじゃないかなぁ……」 「ぶつくさ言わないの!使い魔だと分かってるなら主人の助手くらい承諾しなさい」 「そうだぜ相棒。もう馬車は出てるんだから嫌嫌言ってもしょうがねーぜ」 サラウンドで会話をするのは非常に面倒である。朝早くから馬車に揺られてそんなことをするのは気が削がれていく。 「分かったよ…」 うんざりしながらも渋々と首を縦に振るギュスターヴなのだった。 馬車が進んで3時間半。街道を外れた森の手前で馬車を止め、そこから徒歩で森に入って奥、ほんの少しだけ開かれた場所に あばら家が見える。 「農家からの聞き込みでは、おそらくここと思われます」 森の茂みの中、わずかにうねって身体を隠しておけるところに集まった5人。 「で、中はどうやって確かめるの?中に賊が居れば外におびきだす囮になってもらわなくちゃいけないけど」 キュルケは作戦を立てた。まず一人ないし二人で小屋に近づき、中にいれば陽動して外に出して挟撃する。 居なければ小屋の中で待ち伏せて賊の帰りを待つ、というものだ。 それを聞いたタバサは杖でルイズを指し示す。 「行くべき」 「私?」 そう、と答える。 「一番最初に杖をあげた。私もついて行く」 その言葉にキュルケが不思議そうにタバサを見た。 (自分から他人に近づいていくタバサって珍しいわね) 「引き受けたわ。見てなさい」 ルイズはタバサをつれて茂みを遠回りして廃屋に近づいていく。 残された三人は、周囲に賊が張り付いていないかを探す。 「ミス。つかぬ事をお聞きしますが、属性とクラスをお教えいただけます?」 「土のラインです。……!」 「なにか?」 ロングビルが何かに反応した。 「何か人影のようなものが見えましたわ。ちょっと見てきます」 険しい顔でロングビルが森の奥へ入って行き、木々の陰に見えなくなった。 キュルケはふと、自分がギュスターヴと二人きりになれたのを好機に話しかけて、自分への興味を持ってもらえないだろうか、と思い始めた。 「ミスタ・ギュスは今回の事件どう思われて?」 「…なぜ俺に聞く?」 ギュスターヴは腕を組んで木に寄りかかって聞いている。 「この捜索隊にあまり乗り気じゃなさそうだったみたいだし」 「そうだな…もし、俺が賊だったら。こんな中途半端な距離にある廃屋に潜んだりしない。 夜を通して移動して国境を越える。そうすれば追っ手はひとまずこないからな」 (あら、結構口が辛いわね。でも年の割に若々しい感じで素敵) キュルケは暗に自分の立てた作戦の不備を突かれているのだが、本質的に賊捜索に真剣なわけではないから気にしないことにした。 むしろ、このあばら家を探し出したロングビルの情報元があやしいかも、なんて思い始めた。 「では、この情報はガセ?」 「そうとも言えない。……そうだな。例えば賊が何らかの事情で現場から余り離れることが出来ないとか、或いは……」 「或いは?」 「…何か目的を持ってここに潜み、捜索隊を待ち伏せるとかな」 あばら家に徐々に近づいていくルイズとタバサ。ルイズは足元に罠があるかも、と観察しながら歩いていたが、 よく見ると自分達のほかに、あばら家の周りには真新しい足跡がいくつかついている。 「ボロボロの小屋なのに人の使ったような跡があるわね。賊が使っていたに間違いなさそうね……」 そっとあばら家の外壁に張り付いて窓からそっと中を覗く。中は薄暗いが人の気配はない。 タバサが近づいて、杖先でゆっくりドアを開ける。古い蝶番が軋みを上げて動き、仄かな日光があばら家の中へ入るが、やはり中に人が居ない。 慎重に慎重を重ねて覗き、人が居ない事を再度確認して中に入ったルイズとタバサ。あばら家の中にも新しい足跡は残されていた。 ほかには腐りかけの藁や農具のようなものが置かれていて、その中に比較的綺麗な布で包まれて立てかけられているものがあった。 ルイズはそれを手にとって開いてみる。中には不可思議な装飾の施された、杖。 「これが『破壊の杖』?普通の杖に見えるけど……」 次の瞬間、あばら家の外から轟音が聞こえる。地鳴りのような振動があばら家の弱りきった土台越しに足元を震わせる。 「何?なんなの?!」 「ここは危険。脱出する」 飛び出そうと二人は出入り口に駆け寄ろうとした寸前、出入り口に土の塊がぶつかる。土の塊は砕けて出口を塞いでしまった。 「ゴーレム!」 ルイズの叫びが中に響く。 外で待っていた二人には静かな時間が流れている。ミス・ロングビルは人影を探しに行ったきりで戻ってこない。 もしかしたら迷ってるのかしら、などと考えていたキュルケは、あばら家の更に奥の森からごごご…と音を上げて 持ち上がっていく土の山が見えたとき、緊張に身体をこわばらせた。 やがてそれは草木交じりの身体をした巨大なゴーレムに変形し、小屋を見下ろしている。 ギュスターヴは腰の剣に手をかけ、キュルケも杖を構えた。 「昨日のと同じゴーレム?!」 「多分な。二人を小屋から脱出させるぞ」 小屋に駆け寄る二人、しかしわずかに遅く、ゴーレムの拳があばら家に落ちる。落ちた拳は切り離されて土砂の塊となって あばら家の出口を塞いでしまった。 「タバサ!ルイズ!」 叫ぶキュルケ。ギュスターヴはキュルケの脇に立ちデルフを右手で抜いた。 「ゴーレムをひきつけるぞ!」 鞘から抜かれたデルフリンガーは、握りにも新しい布が巻かれ、丁寧に研ぎ澄まされた刀身が日光を受けてきらりと光る。 「俺様の出番だな。期待してるぜ相棒!」 袈裟斬り気味に振りかぶってゴーレムに飛び掛るギュスターヴ、キュルケも杖をゴーレムに向けて唱える。 「フレイムボール!」 「『かぶと割り』!」 ファイアボールよりも巨大な火球が発射してゴーレムの胸に当たり、露出していた樹木の枝が焼けて落ちる。 ギュスターヴの剣戟が腹に当たって衝撃が土を抉るように削り落とした。二人の攻撃で大きく一歩半、ゴーレムはよろめいた。 その振動は気を抜けば足首を痺れさせて立てなくさせる。 ガッシャン、と小屋から窓の割れる音が二人を振り返させる。背に背負ったあばら家の窓を割って這い出してきたタバサとルイズ。 その手にはしっかりと『破壊の杖』が握られている。 「ふひー」 「ルイズ!」 「『破壊の杖』を見つけたわ!あとはフーケだけよ」 そのやり取りを見逃さない。ゴーレムの拳が降ってくる。ギュスターヴは急いでゴーレムの足元から逃れた。 「ギュスターヴ!」 「ここは危険だ。一度引くぞ」 口笛を吹くタバサ。森の上空に青い軌道を残して飛ぶするシルフィードがゴーレムを中心に何度も旋回し、ゴーレムの動きを阻んだ。 鬱陶しそうに両拳を振り回すが、シルフィードの動きについていけないゴーレム。 「今の内」 「逃げるわよルイズ。『破壊の杖』は回収できたんだから長居する必要は無いわ」 あばら家を背に森の中へ逃げ込もうとするキュルケとタバサ。少なくとも盗まれたものが手元に戻ってきた以上、危険であれば それ以上する必要は無い、というのは正常な判断に思われて、ギュスターヴはそれに倣う。しかし、 「ルイズ?」 「私は引かないわ」 ルイズは逆だった。注意が上に向けられているゴーレムをじっと見る。 「私は貴族よ。賊を恐れて逃げ出すなんて出来ないわ」 「駄目だルイズ。見るんだ。ゴーレムの上に賊が乗っていない。フーケは森に潜んでゴーレムを動かしてるんだろう。 ゴーレムを倒しても賊が見つからないんじゃ意味が無い」 きゅいーっ!と上空のシルフィードが悲鳴を上げる。巡航速度以上のスピードで狭い空間を飛び回るのは飛行に長けた風竜でも限界がある。 「そうよルイズ。第一まともに魔法が使えない貴方じゃゴーレムの足止めも出来ないわよ 「黙りなさい!」」 吼えるルイズ。 「貴族とは、魔法を使えるものを言うんじゃないわ。敵に背中を向けないものを貴族というのよ!」 ルイズの目にはゴーレムしか写っていない。ゴーレムに走り寄りながら杖を向けた。 「ルイズー!」 「見てなさい!フレイムボール!」 キュルケの制止を振り切って詠唱、やはり爆発。ゴーレムの胸が爆発の衝撃で抉れ飛ぶ。 しかしこれがゴーレムの注意をシルフィードから足元へ移させてしまった。 「もう一度!フレイムボール!」 なおも詠唱、爆発。ゴーレムのわき腹が吹き飛ぶが、痛みを感じないゴーレムにとって身体を支える程度の強度があれば問題は無い。 ゆっくりと片足を上げてゴーレムがルイズの頭上に迫る。 「フレイムボール!フレイムボール!フレイムボール!」 遮二無二連発するルイズだが、ゴーレムの体がいくら傷つけられても、落ちてくる足が止まることはない。 「ルーイズ!」 キュルケの悲壮な叫びが森に響く。降ろされたゴーレムの足がルイズの居た場所を踏み潰していた。 「無茶はしてもらいたくないな。ルイズ」 「はぇ…」 ルイズはその時、ギュスターヴの片腕に抱かれて意識を朦朧とさせていた。 ギュスターヴはとっさに駆け出し、ゴーレムの足が落ちる寸前、ルイズを捕まえて脱出したのだ。 抜き身のデルフリンガーが『左手』に握られて、右腕にしっかりとルイズを抱きしめている。 左手の甲に刻まれたルーンが、仄かに光っている。 「おお、思い出したぜ相棒!」 「何?」 「…ちょ、ちょっと、ギュスターヴ!さっさと私を降ろしてよ!」 「ああ、ちょっと待ってろ」 ひとまず抱き上げたルイズを降ろす。 「で、何だって?デルフ」 「思い出したぜ相棒。お前さんは『ガンダールヴ』だ」 「「『ガンダールヴ』?」」 ルイズとギュスターヴ両方の質問の声が重なる。 「あらゆる武器を使うことができる伝説の使い魔ってやつよ。心を奮わせて俺を握りな。体から力を引き出してやれるぜ」 試しにギュスターヴはぐっと強くデルフを握り、呼吸を変えて神経を集中させると、ルーンが一層の輝きを増す。 「ルーンが光ってる……」 「嬢ちゃん、ここは相棒に任せて下がりな。使い魔が賊を倒せたら主人の手柄になるんじゃねーの?……それでいいだろ、相棒」 「仕方が無いな…下がってろ、ルイズ」 「ギュスターヴ……。…ごめんなさい」 再度シルフィードで撹乱されていたゴーレムは、シルフィードがあばら家の前に下りると首らしき部分を下に向ける。こちらを見ているようだった。 「タバサ。皆を乗せて森を出るんだ」 「貴方は?」 「少しばかり時間を稼ぐ」 「ギュスターヴ!……ちゃんと帰ってきなさいよ」 無言で頷くと、シルフィードは飛び上がって馬車を留めた場所に向かって飛んでいった。 「さて相棒。どうするかね?こんなでかいゴーレムを」 ゴーレムは足を落とす、腕を落とす。それを『ガンダールヴ』の力を試すように動き回りかわしていく。 「とりあえずルイズ達が安全な位置まで移動できる時間を稼ぐぞ。タバサの使い魔が飛んで馬車の準備が出来るまでだ。その後は」 「後は」 「……あれを壊す。覚悟しろデルフ。折れるんじゃないぞ」 「まかせときな」 ギュスターヴは、このとき初めて左手でデルフを構えた。ゴーレムは足元のギュスターヴを認識して拳を落とそうと踏み込むが、 ギュスターヴは自分から踏み込んで、ほぼゴーレムの真下に立つ。 袈裟に構えて腰を落とす。両足から両脚、膝、腰、背筋から腕、そして手首にかけてに神経を集中させる。 「『ベアクラッシュ』!!」 一声。高く飛び上がったギュスターヴの一撃が、ゴーレムの肩に叩きつけられた。炸裂音にも似た衝撃がゴーレムの右肩を走る。 ギュスターヴの剣技の中で一、二を争う剛剣は、『ガンダールヴ』の力も合わさって深々とゴーレムの身体を進み、深く入った亀裂が 右腕を支えきれなくなって折れる。落ちる右腕を確認してからゴーレムの身体に食い込むデルフを抜いて、ゴーレムの体の上を走る。 飛び上がるようにジャンプし、デルフをゴーレムの胴体に振り込んだ。 「『天地二段』!」 削撃音を響かせてゴーレムが切り裂かれていく。地面に達した瞬間にデルフを水平に払うと、ゴーレムの足首が切れ飛んで、 衝撃で仰向けにゴーレムは倒れた。倒れることで森が揺れて、驚いた鳥達が一斉に飛び立っていく。 「まだだぜ相棒。ゴーレムは再生できる。操ってるメイジが居る限りな」 「その通りよ。とはいえ只の平民が私のゴーレムをここまで壊せるなんてね」 背後から声かけられたギュスターヴ。声の主はミス・ロングビルだったが、彼女はギュスターヴの背中にナイフを突きつけている。 「ミス・ロングビル。何を」 「その名前はちょっと違うねぇ。私の名は、『土くれのフーケ』さ」 握っていた剣を降ろすギュスターヴ。振り向くことも出来ず、ただ背中からの声に耳を傾けた。 ギュスターヴは抑揚の無い声で話しかけた。 「近くに居るだろうとは思っていたが、賊の正体が貴方だったとはな」 「主人を逃がすために一人で戦うなんて立派だねぇ。でもここまでさ。アースハンド!」 地面から延びる土の腕がギュスの足を絡め取る。 「何!?」 次に崩されたゴーレムが盛り上がって山になる。そして先ほどより小さいゴーレム――それでも、3メイルはある――が2体、形成されて ギュスターヴの前に立った。 「そこで暫く遊んでな。私はあの嬢ちゃんたちから『破壊の杖』をもらってくるから」 フーケは悠々と森を出て行く。足を止められて追うことが出来ないギュスターヴは、拳を突き出してくる2体のゴーレムをデルフでいなすしかない。 「どうするんだよ相棒。このままじゃやばいぜ」 「少し時間が掛かるが始末は出来る。あとはそれまで、ルイズたちが無茶をしないでくれていれば……」 シルフィードが森を抜けて馬車を止めた場所で降りた時、丁度ミス・ロングビルが森から飛び出してルイズたちの視界に入った。 「ミス・ロングビル!ご無事ですか?」 「はい。ゴーレムが見えたので一度森を脱出しようと思いまして。……その手のものが『破壊の杖』ですね」 「はい」 ルイズは手にしっかりと『破壊の杖』の包みを握っていた。 「改めさせていただきたいので、こちらへ……」 破壊の杖を持ってルイズはロングビルに近寄った。ルイズがロングビルの手に届いた瞬間、羽交い絞めにするように押さえつけられたルイズの首に、ロングビルの手に 握られたナイフの刃が当てられる。 「ミス・ロングビル?!」 「大人しくしな!じゃないとこいつの首が落ちるよ!」 粗野な言葉遣いと目の前に出来事に動くことが出来ない。 「あなたが賊……土くれのフーケだったのね」 「そうさ」 ルイズが苦しげにロングビル……土くれのフーケに言った。フーケはひたひたとナイフを当てながらけらけらと笑って話す。 「頑丈な宝物庫の壁を壊してくれて例を言うよおちびさん。でもね、せっかく手に入れた『破壊の杖』なんだけど、使い方がさっぱり分からなくてね。 どう見てもただの杖なのに振っても何をしても反応が無い。だから人の来ないこの森まで捜索隊をおびき出して襲えば、 『破壊の杖』を使うやつがいるんじゃないかと思ったんだけど…どうやら、無駄だったみたいね」 「わたしをどうするつもり?」 「ひとまず私が馬車で逃げるまで大人しく捕まってな。後で馬車から降ろしてやるよ」 フーケの顔が嗤っている。あの穏やかで美しかったロングビルの豹変にルイズをはじめ三人は戦慄した。 「嘘よ。薄汚い賊が離しなさい。キュルケ、構わないで私ごとフーケを打ちなさい!」 「そんなことできるわけないでしょ!」 「賊に捕まって好きにされる方が屈辱よ。早く打ちなさい」 ルイズが盾になってキュルケの魔法はフーケに届かない。そのことにキュルケは歯噛みしていたが、タバサはなぜか視線が少しずれて森を見ていた。 「麗しい友情ってところかい?まぁいいさ。そこで私が逃げるのを大人しく見守ってておくれよ」 フーケはルイズを引きずりながら馬車に向かって移動する。タバサがじわりと詰め寄ろうとすると、ルイズを引き寄せてナイフを首に当てなおす。 「動くんじゃないよ!本当にこいつを殺すよ」 「タバサ、やめて。ルイズが死んじゃう!」 キュルケは何も出来ずに叫ぶ。しかしタバサの目は冷静だ。静かに声を出す。 「大丈夫。彼がいる」 「彼?」 キュルケの脳裏にいまだ森から出てこない平民の使い魔が浮かぶ。フーケはそれを見越していたのだろう。可笑しくてたまらないとばかりにニヤニヤしている。 「あの平民の使い魔だったら、今頃森の中で私のゴーレムと殴り合いをしているよ。暫くは動けないはずさ」 「それはどうかな?」 背後に背負った森から何度か聞き覚えのある声が聞こえて、不意にフーケは返事をしてしまった。 「え?」 振り返った瞬間に視界に入り込んだものは、突進するギュスターヴ。手にはデルフリンガーではなく手製の短剣を握っている。 ギュスターヴは短剣を立てず、寝かせてフーケに当てて体勢を崩した。 「あうっ!」 それを逃さず倒れたフーケに剣先を突きつける。ルイズがフーケの腕から逃げてギュスターヴの背中に隠れた。 「『追突剣』……もう逃げられないぞ、フーケ」 ギュスターヴの空いた手にはフーケの杖が握られている。『追突剣』の際にフーケの懐から奪い取ったのだ。 フーケは起き上がってナイフを構えたが、背後に杖を構えたキュルケとタバサが間合いを詰めると、やがてナイフを捨てて両手を挙げた。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ滅殺の使い魔 「な、何だったのよ、あいつ……」 ギーシュとの決闘を終え、広場の生徒達がまばらになっている頃……、ルイズは自室へと向かっていた。 頭の中には、豪鬼への疑念が渦巻いていた。 平民。 自分が召喚した、ちょっとごつい平民。 みすぼらしい服を着て、それでも超人的な力を持つ。 一体あれは何者? メイジでは無いらしい。 異世界から来たとか言っていたが、本当なのか? 途中キュルケに話しかけられたりもしたが、上の空で返事をしたから覚えていない。 でも……ギーシュを倒した時、ちょっとすっきりしたかも。 そんなことを考えながら部屋に着く。 ドアを開け部屋に入る。 ――居た―― 「ご、ゴウキ、ななな、なんで居るのよ!?」 鍵は掛けたはず。 そう思いながら、急いでルイズがドアを見ると、ドアの鍵が壊れていた。 「あ、あんた……鍵壊したの!?」 「ぬ……あのような物、有って無いようなものよ」 ふん、と豪鬼が鼻で笑う。 ルイズは、自分に必死に落ち着けと言い聞かせながら、あくまで笑顔で質問する。 「ね、ねえゴウキ?」 「何用だ」 「ギーシュのゴーレムを倒した、あの、なんて言うの? あれ、何だったのよ?」 「……技」 「わ、技ぁ!? いや、そんなはず無いでしょ、どうやったら技で青銅を真っ二つにするのよ」 「笑止。 日々鍛錬の賜物よ」 「あ、あんたねえ……」 どうせこの使い魔のことだ。 本当の事は教えてくれないのだろう。 本当かもしれないが。 そう考えたルイズは、しかし諦めきれない。 「ね、ねえゴウキ? 本当の事を教えて頂戴?」 「嘘は言っておらん」 なんか段々腹が立ってきた。 そういえば、こいつはさっき自分を馬鹿にしたでは無いか。 そういえばあの時も、あの時もと考えたルイズは、その理不尽な怒りを豪鬼に向けた。 「あんた、ちょっと調子に乗ってるんじゃない?」 「笑止」 なにかあれば笑止、笑止。 そんなに笑うのを止めたいのか。 溜まりに溜まった怒りが遂に沸点に到達してしまったルイズは、豪鬼に罰を与える事にした。 いや、気付いたらやってしまっていた。 「あ、あんた、何かにつけて私を馬鹿にして~~! もういいわ! あんたは一回使い魔という自分の立場を思い知る必要があるのよ!」 ルイズはドアを指差した。 「これからずっと、外で生活しなさい!」 次の日の昼間。 「ぬう……」 ルイズの部屋の前にいる豪鬼は困っていた。 と、言うのは、今、自分の隣に自分の胴着を必死に銜えて引っ張ろうとしている火トカゲ……フレイムが居るからである。 もう今日の朝からずっとそうして、豪鬼をどこかへ連れて行こうとしていたのだ。 それこそ、食事の時も、洗濯の時も。 「うぬは一体……」 いくら豪鬼とて、獣の言葉は理解できない。 そんな訳で、豪鬼は困っていたのだ。 とは言え、この火トカゲ、かなり必死である。 何故ここまで必死になったのか、という疑問と、これ以上は胴着が耐えられないという理由で、豪鬼はそれに引っ張られていく。 ……筈も無く、豪鬼はフレイムに一発拳骨をくれてやると、今日の修練に向かった。 豪鬼がフレイムの意識とフラグを拳骨でへし折ったその頃……。 学院長室では、ロングビルが黙々と仕事をこなしていた。 仕事を一段落させると、視線をオスマンへと向ける。 オスマンは居眠りをしている。 よし、と小さく呟くと、すばやくサイレントの魔法を唱え、自身の足音を消す。 そして、薄ら笑いを浮かべながら学院長室を出るのであった。 実はロングビルは決定的な間違いを犯していたのだが、それに気付くことは無く……。 ロングビルが向かった先は、学院長室の一階下に位置する、宝物庫がある階だった。 宝物庫。 そこには、学院始まって以来の秘宝が納められている。 それ故、扉には巨大な鍵前で守られていた。 ロングビルは杖を取り出し、詠唱を始める。 詠唱を終え、杖を振る。 しかし、錠前には何も変化が起こらなかった。 ロングビルはまた違う魔法を掛けるが、それも効果を表すことは無い。 ロングビルは小さく舌打ちをすると、呟く。 「スクウェアクラスのメイジが、『固定化』の呪文をかけているみたいね」 『固定化』の呪文の前には、あらゆる化学反応から保護され、そのままの姿を永遠に保ち続けることが出来る。 『錬金』の魔法も効力を失う。 ただ、呪文をかけたメイジが、『固定化』の呪文をかけたメイジよりも実力で上回っているのであれば、その限りでは無い。 しかし、トライアングルクラスのロングビルに、スクウェアクラスのメイジに実力で上回れるはずも無く。 ロングビルはメガネを持ち上げ、扉を見つめていた。 そんな時、誰かが階段を下りて来ている事に気付く。 慣れた手つきで素早く杖をしまう。 現れたのは、コルベールだった。 「おや、ミス・ロングビル。 ここで何を?」 コルベールは、間の抜けた声で尋ねる。 ロングビルは、愛想の良い笑みを浮かべた。 「はい、宝物庫のの目録を作っているのですが……」 ロングビルは、困ったように笑う。 「あいにく、鍵を持っていないんです。 オールド・オスマンはご就寝中でして……」 「なるほど。 確かにあの方、寝るとなかなか起きませんからな。 では、僕も後程伺うことにしよう」 コルベールが歩き出す。 それを、ロングビルが呼び止めた。 「待って!」 コルベールは一瞬びくんと大きく反応すると、ぎこちなく振り向いた。 「な、なんでしょうか?」 ロングビルはもじもじとした仕草で、上目遣いでコルベールを見つめる。 「あの、よろしければ……、昼食を一緒にいかがでしょうか……?」 コルベールはその言葉に、満面の笑みで答えた。 「は、はいっ! 喜んで!」 二人は並んで歩き出した。 「ねえ、ミスタ・コルベール」 「は、はい! なんでしょうか!」 ロングビルから誘いを受けたと言う喜びと驚きと緊張でがちがちに見えるコルベールは、つい大声を出してしまう。 そんなことは気にも留めず、ロングビルは微笑む。 「宝物庫の中に、入ったことはありまして?」 コルベールは、ああ、と言うと、顎に手を添えた。 「ありますとも」 ロングビルが、ニヤリと笑う 「では、『悪夢の書』をご存知?」 「ああ、あれは、奇妙でしたなあ」 ロングビルの目が光る。 「と、申されますと?」 それは……、とコルベールが言うと、コルベールは急に真面目な表情になった。 「なんと言いましょうか……、あの巻物を見た瞬間、いや、あれが視界に入った瞬間、言いようも無い恐怖に襲われまして……。 何よりも不思議なのは……」 「不思議なのは?」 コルベールがごくりと唾を飲み込む。 顔には、冷や汗が流れていた。 コルベールは、一言一言かみ締めるように、恐怖に耐えるように言った。 「私はあれを見たとき、確かに、そう、確かに『悪夢』を見て、そして、いつの間にか、『死』を、あの場で、死んでしまうことを、覚悟していたんです」 ロングビルも、緊迫した表情になる。 「では、それはまだ、宝物庫に?」 「ええ……」 「でも、あの宝物庫には強力な『固定化』がかかっているんでしょう?」 「ええ。 しかし、宝物庫にも、一つだけ弱点があるのですよ」 「はあ」 「それは……。 物理的な力です」 ロングビルの目が、また光った。 前ページ次ページ滅殺の使い魔
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前ページ次ページ鋼の使い魔 空賊船として偽装されたアルビオン王党軍最後の戦艦『イーグル』号。巡航速度と小回りに優れ、戦列艦等級では最小の4級艦に分類される。その運動性と引き換えに砲撃能力は低い。アルビオン内乱で王党軍の誤算があったとすれば主力であった空軍の大部分が貴族派についてしまったことだろう。『イーグル』号がその中に含まれなかったのは、当艦が内乱当時に船員訓練の為の練習艦として運用され、直接空軍の指揮系統に置かれていなかったから、という『偶然』だった。 一方、アルビオン内乱の序章を繰り広げた当時のアルビオン空軍旗艦であり、現在貴族連合『レコン・キスタ』の空軍艦隊旗艦となった『ロイヤル・ソヴリン』号改め『レキシントン』号。戦列艦等級では搭載可能人員・火砲共に最多となる1級艦であり、両舷側あわせて108門の砲門を揃えている。艦齢も古く乗員も熟練の船乗り達に取り仕切られ、戦時であれば数頭の竜騎兵も搭載し戦場を渡る雄雄しき空軍の華であった。 その『レキシントン』号は今、随伴する味方艦と共に岬の突端に立てられたニューカッスル城をアルビオン標準高正1200メイルの高度を保って包囲していた。 因みに『アルビオン標準高』とは「アルビオンを中心としての標高差」を表す。始祖ブリミルの降り立った地とされる首都ロンディウムを0として上方向には正、下方向には負で表示される。世界の上空を漂うアルビオンならではの単位だろう。 包囲のまま城を睨むようにたたずむレコン・キスタの艦隊は、時より砲撃を行うものの、それによって王党軍に被害を出すことは少なかった。 木で出来た艦艇を撃沈するならともかく、堅い壁に『固定化』を施した城を落とすのは用意ではない。そのため貴族派はニューカッスルを陸上から包囲することで補給の道を絶ち、篭城する王党軍を枯死させる手段に出たのだ。…もっとも、拠点という拠点を落とされた今の王党軍に補給の手などあるはずはないと高をくくってもいる。 暗闇の中を船が進んでいく。ルイズは洞窟特有のひやりとした風を頬に感じた。 アルビオン標準高負400メイルにある人工的に作られた孔であった。位置的にはニューカッスル城の真下に位置し、外見からは雲に覆われて見る事が出来ない。 『イーグル』号は明かり一つない洞窟の中を気流の流れや洞窟の壁面を覆うわずかな発光性の苔などを頼りに進んでいた。 「熟練の、本物の船乗りでなければこの隠し港へ行くことは困難だ。そもそもが城を秘かに脱出する為に掘られたものでね、3等艦以下の艦艇でなければ通過する事もままならない」 甲板に立って客人のエスコートを買って出たウェールズ王太子は、呆然とするギュスターヴ、ルイズ、ワルドに向かってそう告げた。ギュスターヴは軍隊運営というともっぱら陸の人であったので、こういう船を駆る守人の気風が珍しかった。 「しかし小型艦ではこの狭い路を通るのは怖いですな。わずかな操作ミスで壁面をこすりそうだ」 「なかなか判ってるじゃないか子爵」 「これでも軍人の端くれですので」 「『レコンキスタ』の叛徒共はその辺りが分かってなくてね。あいつ等は駄目だ。船は大きく、砲がたくさん積めればそれで良いと思っている。お陰でまた今日のように無事に戻ってこられたというわけさ」 船乗りとして空を駆けた人間が持つ深い目で暗黒の行路を見るウェールズは、星ひとつ浮かばない夜の空に向かって船が飛ぶような錯覚をルイズに与えるのだった。 『前夜祭は静かに流れ』 程なくして『イーグル』号、そして後続する『マリー・ガラント』号はニューカッスルの地下に作られし秘密の港へと到着した。 そこは堅い岩肌を削って作られたドームに、半円状に突き出た岸から桟橋を伸ばした姿をしている。 二隻の船は桟橋を挟むように投錨した。『マリー・ガラント』号の本来の持ち主達はここへ連れてくる前にカッターボートに乗せて放出した。運がよければ陸にたどり着くか、何処かの船が拾ってくれるだろう。 『イーグル』号へ渡されたタラップをウェールズをはじめ乗員たちが降りていくと、岸では船を待っていたらしき兵士らが迎えてくれた。 その中で一人、背の高いメイジらしき男がウェールズに近寄ってくる。 「殿下。これはまた、たいした戦火でございますな」 長い月日を生きた証たる顔の深い皺を緩ませて男は言った。 「喜べ、パリー。荷物は硫黄だ」 その声に岸で迎えていた兵士一同がおお、と歓声をあげる。 「火の秘薬でございますな。であれば我等の名誉も守られるというもの」 「うむ。これで」 兵士達の熱い視線を受けるウェールズは、ほんの少しだけ声を揺らがせる。 「王家の誇りと名誉を叛徒へ示しつつ、敗北する事ができるだろう」 「栄光ある敗北ですな!…して、叛徒どもから伝文が届いておりますゆえ」 「なんだね」 言うとパリーは懐から一巻きの書簡を取り出してウェールズに手渡した。 「明日正午までに降伏を受け入れぬ場合、攻城を開始するとのこと。殿下が戻らねば、ろくな抗戦もできぬところでしたわい」 「まさに間一髪というところかな。皆の命預かるものとして、これで責務もはたせるというもの」 伊達にそう言ったウェールズと共に、兵士達は愉快に笑った。 笑いあうウェールズ達をルイズはどこか哀しい気持ちで眺めていた。 どうして彼等は笑えるのだろう。この場で敗北とは死ぬ事のはずなのに。 そんなルイズの心中を知ってか知らずか、ウェールズはパリーの前に三人を呼び寄せる。 「パリー、この方達は客人だ。トリステインからはるばる密書を携えてきてくれた大使殿に無礼のないように」 「はっ。…大使殿。アルビオン王国へようこそ。大したもてなしはできませぬが、今夜は祝宴を開くつもりです。是非とも、ご出席願います」 老メイジはそう言って深く頭を下げた。 ウェールズの案内の元、港を離れ、ニューカッスルの城内へ三人は入った。長い抵抗を続けた城は、倒壊こそしてはいないもののあちこちの壁にヒビや割れが見え、行き交う人々も少なく、そして疲れているように見える。中には、怪我が治りきらず包帯を巻いた者も少なくない。 三人がたどり着いた一室。それはウェールズ王太子の私室だった。 一国の王子らしからぬ、粗末な部屋である。木枠のベッドに机が一つ、壁に申し訳程度に壁にはタペストリーが飾られている。 引き出しより宝石箱を取り出したウェールズは、その中に納められた、便箋も封筒も擦り切れてボロボロになっている手紙を拡げる。何度も読み返しているのだろうことが想像できた。 ウェールズはそれをいとおしげに読み直すと、端に口付けてから封筒に戻した。 「アンリエッタが所望の手紙はこれだ。確かに返却するよ」 「ありがとうございます」 礼をしてルイズはそれを受け取り、慎重にしまい込んだ。 「明日の朝、非戦闘員を『イーグル』号に乗せて退避させる。トリステイン領内に下りる事は出来ないが、カッターボートで近くに滑降させることは出来るだろう」 ウェールズの声の淀みなさに、たまらずルイズは聞いた。 「殿下…もはや王軍に勝ち目は無いのでしょうか」 「ない。我が軍は300、向こうは5万で城を囲んでいる。援軍が期待できない篭城というのは既に戦術としても戦略としても負けているのだよ」 「そんな!」 冷厳なウェールズの言葉にルイズの淡やかな期待が打ち崩される。 「しかも向こうはアルビオンのあとはハルケギニア各国へ侵攻するつもりだ。であれば亡命も選択できない。亡命先を真っ先に戦火に巻き込むことになる」 「しかしその…姫様の手紙には…」 ルイズはウェールズが密書を見た時、そして今さっき手紙を渡してくれた時のしぐさが脳裏を巡った。任務を負う時アンリエッタは「婚約が破棄になるような内容が書かれている」と言った。それはもしや恋文ではないのか。それも、始祖や精霊に誓うような熱い手紙。であればアンリエッタは手紙だけではなく、ウェールズの身の安全も図りたいはずである。たとえ、結ばれなくても。 複雑な相を浮かべたルイズをみて、ウェールズは話した。 「……確かに、アンリエッタの手紙には亡命を勧める旨が書かれていたよ」 その言葉に静かに会話を聴いていたはずのワルドは顔を強張らせ、ルイズはハッと顔を上げた。 「…しかし、僕はここで誰よりも先んじて名誉と栄光ある討ち死にをするつもりだ」 「そんな…姫様のお気持ちはどうなさるのですか」 絶望が身体を包んでいるようにルイズは思えた。 「僕一人の命でトリステイン何万という人命を危うくしろと、その責任をアンリエッタに負わせと、君は言うのかね?ラ・ヴァリエール嬢」 ウェールズはあくまでも冷厳に、緊張した声でルイズに宣告した。 それは不退転の意思。アンリエッタの招く手を払い、国に殉じるという強い思いだ。 突きつけられたものに蒼白となったルイズの肩に、ウェールズの暖かい手が置かれる。 「君は正直すぎるな、ヴァリエール嬢。それでは大使は務まらないよ。しっかりしなさい」 声は一転して穏やかで、暖かな優しさを含んでいた。しかしそれも今のルイズにはウェールズの死出を演出しているかのように思えてならない。 「しかし、滅び行く国への大使には適任かもしれないね。明日滅ぶ国ほど正直なものはない」 「そんな…そんな、こと…」 ウェールズは言葉にならないルイズを励ますように軽く肩を叩いた。 「…さて。そろそろパーティの時間だ。君達は我らが迎える最後の賓客。どうか出席してほしい」 これ以上の説得を拒むような力強い声だった。 「……わかり、ました」 苦々しく答えてルイズは部屋を出て行った。ギュスターヴもそんなルイズを追う様に、ウェールズへ一礼して部屋を出た。 しかしワルドは一人、佇まいを直しながらも退室の気配を見せない。 「…何か御用かな子爵」 「恐れながら、一つお願いしたい議がありまして」 恭しげにもワルドはウェールズへ歩み出る。 「ふむ」 「実はですね…」 静かにワルドは懐に暖めていた案件をウェールズに伝えた。 ウェールズは得心が行ったように頷いて答える。 「私のようなものでよいのなら、喜んでそのお役目を引き受けよう」 陽も落ち、月明かりが差し込むほどの頃。ニューカッスル城の大ホールではこの日のためにと蓄えの中に残された新鮮な肉菜を放出して、ささやかながらも宴が開かれた。酒が入って陽気になった国王ジェームズ一世は、同じく酒の深い臣下達とともに笑いあっている。 ギュスターヴは壁際でグラスを片手にどんちゃん騒ぎを始める兵士達や、その家族として付き添っていた婦女らを眺めていた。 「傷はどうよ?相棒」 「まだ痛むが、まぁ大丈夫だよ。それにしても…」 ギュスターヴの視界の端端で繰り広げられる喜劇。明日までの命と悟りきり、せめて絶望を笑い飛ばすために騒ぎ立てる兵士達は、一国の主だったギュスターヴには心肝を寒くするものがあった。 「…侘しいものだな。敗軍というのは」 そんなギュスターヴを客人と思っても声をかけるものが少ない中で、ウェールズは努めて相手をしてくれた。 「やぁ」 好青年然としているウェールズへ、会釈をしたギュスターヴ。 「ラ・ヴァリエール嬢の使い魔をやっているという剣士の方だね。トリステインは変わっている。人が使い魔をやっているとは」 「トリステインでも珍しいそうだ」 ははは、と笑うウェールズ。 「……しかし、300でも部下が残っただけで幸運だ。内乱の途中から造反者が続発してね。空軍旗艦として建造した『ロイヤル・ソヴリン』を始めとして、指揮系統ごと貴族派につかれたのさ」 「組織ごと?」 「ああ。…これも僕ら王族が義務を全うせず今日まで生きてきたからだ。だからこそ、僕は明日それを果たさねばならない」 「王族としての使命……」 嗚呼、ギュスターヴは思わずに入られなかった。なぜなら己はその王族の使命を殺し、なぎ倒して生きてきたのだから。 義弟に使命を果たせぬ『出来損ない』と叫ばれながらもその首を刎ねた。 実弟がその使命のために奔走するのを助けても、それを叶えることもできなかった。 そして今、異界、異国の王族が斃れようとしている中で、王族の使命を掲げて死に行く若者を目の前にして、ギュスターヴは考えるのだった。 人は過去から何を譲られ、何を未来へ託すのだろうか、などと。 ホールを辞したギュスターヴは、心身穏やかではいられなくなっているだろうルイズの様子を見るべく、用意された部屋へ続く廊下にいた。 今宵も異界の双月は二色の光を投げかけている。 「やぁ。使い魔の…」 そんな廊下の壁にもたれてギュスターヴに声をかけたのはワルドだった。 「ギュスターヴ」 「うむ。失礼。…君に言っておきたいことがある」 「何か?」 「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」 ギュスターヴの目が大きく開かれた。 「……こんな時にか」 「こんな時だからだ。ウェールズ王太子に媒酌をとってもらい、勇敢なる戦士諸君らを祝福する意味でも、決戦の前に式を挙げる」 朗々とワルドが言い放つ。それは一応は正論としてギュスターヴは理解した。 「…そうか」 「君は明日の朝、『イーグル』号で先に帰国したまえ。僕とルイズはグリフィンで帰る」 「長い距離は飛べないんじゃないのか」 「滑空して降りるだけなら問題ないよ」 「そうか…じゃあな」 それを今生の別れかの様にワルドは立ち去るギュスターヴを見送った。 その姿が夜闇に見えなくなると、口元を弛ませて嗤うのだった。 用意されていた部屋で、ルイズは明かりも入れずにテーブルに突っ伏していた。 「…ルイズ」 呼び声に顔を上げたルイズの瞼は、月明かりのような弱い光の中でも判るほど、泣き腫れている。 「ギュスターヴ…」 ルイズは立ち上がるとギュスターヴに飛び掛るように組み付く。鳩尾に顔を埋め、嗚咽を雑じらせている。 「どうして!どうして!みんな、笑ってるの?!明日にはもう死んじゃうんでしょ?…どうして…」 そんな稚いようなしぐさを見せる主人を、無言のギュスターヴは大きな手のひらで撫でてやるのだった。 「姫様が…恋人が、大事な人が死なないでって、逃げてもいいって言ってるのに、どうしてウェールズ王太子はそれを無視して、死のうとするの?」 「…ルイズ。貴族ならそれがわからないわけじゃないだろう。人と国を治めるものは自分の命を費やしてでもそれを守らなきゃいけない」 それがギュスターヴに答えられる数少ない言葉でもあった。 「だけど!もうアルビオンは滅んじゃうのよ…一体何を守るっていうのよ…」 「それは俺にもはっきりとは言えない…でも、上に立つ人間というのは、たとえ一人でも部下が居れば、逃げることは出来ないんだよ」 自分がそうであったように。 ひとしきり泣いたルイズは力なく立ち歩き、しつらえられたベッドに身を投げる。 「…もういや。早く帰りたいわ。遺された人がどれだけ悲しむか、考えもしない人ばかりで」 「そんなことを言うなよ。明日は結婚式なんだろう?」 「…え?」 綿の枕に顔を擦り付けながらルイズが聞き返す。 「ワルドが明日、ルイズと結婚式を挙げる、ウェールズに媒酌を頼むんだ、って息巻いていたぞ」 「知らないわ、そんなの…」 泣き疲れたのか、徐々にルイズの意識と声は途切れ途切れになっていく。 「もう、どうでもいい…。皆、馬鹿ばっか…」 そう言ったきり言葉がでない。暫くすると静かに寝息が聞こえてくる。 ギュスターヴはベッドのルイズに毛布をかけてやると、静かにルイズの部屋を後にした。 しかしその足は、自分に与えられた部屋へは向いていなかった。 前ページ次ページ鋼の使い魔
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前ページ次ページ絶望の使い魔 夢を見た。 最初に暗闇にいるのは昨日と同じ。 前に闇の塊があり、やはりなにかを喋っているが聞き取れない。 だが自分がしなければいけないことはわかる・・・・ 眠りからゆっくりと自分が覚醒していくのがわかる。 寝返りを打つと顔に直接朝日が差し込み、目蓋の裏を赤く染める。 頭が活性化してくると昨日のことを思い出し、シーツを蹴飛ばして起き上がり仁王立ちする。 このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはついにメイジとして生まれ変わった。 心の中で宣言したルイズは一度出たベッドに戻りうつ伏せに寝て、枕で頭を押さえながら足をぱたぱたさせる。 さらにシーツも巻き込みぐねぐねと動いていたが唐突に夢だったのではないかと不安になる。 時計に目をやり朝食までまだかなり時間があることを確認すると、魔法の練習をすることにした。 さすがに自分が先住魔法を使うことを、他の者に知られるわけにはいかないので学院ではできない。 起きて着替えるといつものようにデルフリンガーを背負い、メイドに洗濯を頼みに行く。 最近、懐いてきたメイドがいる。名前は知らないが何かと世話をしようとしてくる。 そのメイドがちょうどこちらに向かってきていた。 「おはようございます。ミスヴァリエール」 笑顔で挨拶してくるメイドに、にっこり微笑みおはようと返す。 「じゃあ、これお願いね」 「かしこまりました。では終わりましたら後ほどお部屋の方へお届けします」 別れてから厩舎に向かう。さっきのメイドの笑顔をいつか自分が恐怖に染める様を想像し悦に浸る。 今の内に好感度を上げておけば、それは一転裏切られた時の絶望を増加させてくれる。 抱く希望は大きい方がよいと夢で使い魔も言っていた・・・・ 馬に乗り近くの森に着く。馬を手近な木に結び、森に入っていく。 木々が倒され、少し凍っている所が残っている小さな広場に出る。間違いなく昨日魔法を使った場所だ。 まだ私はつかえるのだろうか。手のひらを木の根元に向けて呪文を唱える。 「ヒャド」 木に30サントほどの円錐形の氷柱が5本突き立つ。 そしてそのまま突き立った場所から半径1メイル程を軽く凍らせた。 使えた。夢ではなかったと実感しながら、身体が飛び跳ねようとするのを抑える。 精神力を外に噴出し、身体を宙に浮かす。バランスが難しいが飛べている。 早く飛ぶよりこうやって同じところに留まる方が難しいというのは、 系統魔法におけるレビテーションとフライの難しさが逆になっているようで苦笑する。 魔法が使えることも確認でき帰ろうとしたとき、 槍を持ったオークがこちらを見ていることにやっと気がついた。 普通のオークよりも大きい。それでいて、こそっとも音を立てることなく、 ルイズにあと10メイルほどの距離まで近づいていた。 警戒心が湧き上がり一気に黒い靄を身に纏う。間違いなく相手は強い。 デルフリンガーの柄に手をやり相手の出方を待つ。 オークはこちらが警戒したことに驚いたように目を見開いたが、頭をかきながら森の奥に姿を消した。 オークが去った後周囲を警戒しながら戻る。呆気なく森の外まで出れてしまい首を傾げる。 学院でオークを使い魔にしたという生徒はいなかったはず。間違いなく野生だ。 あのオークは何がしたかったのだろうか。考えても答えが出ない。 学園に戻り朝食を取り、授業に行く。 風の偏愛者ギトーの授業の時、授業の内容を聞かず、ルイズはこれからのことを考えいた。 これまで漠然としていたが魔法が使える様になったルイズはかなり強くなったと言っていい。 しかし国家に対抗できるわけがない。どのような力が必要なのだろう。 やはりモンスターの大群か。しかし昨日引き連れた魔物は討伐されてしまったようである。 下手に魔物を暴れさせると警戒されてしまう。遺跡に軍が駐留するようになったのがよい例だ。 いや、別に魔物を使う必要はないのではないか。 国という枠組みに対抗するなら国をぶつければいい。ちょうど内乱を起こしている国があるではないか。 あの内乱が成功すれば反乱軍はどうするのだろう。確か聖地の奪還を掲げていたはずだが、 まちがいなく余勢を駆ってトリステインに攻めてくる。 そうなれば遺跡など二の次になる。そこでモンスターを引きつれ治安を悪化させる。 ただでさえ戦争状態であるのに魔物まで暴れてはトリステインは地獄になるだろう。 内乱の起こっている国、アルビオンに行き、いや行かなくとも反乱軍に支援すればよい。 いまのアルビオンに行くのはどう考えてもおかしく、目立ってしまう。 支援だけでもかなり難しくなる。アルビオンとトリステインは朋友。 反乱軍に支援しているのがばれれば死罪は免れない。やはり他人に任せることはできない。 だからと言って自分は行けないし、行ったところでトリステイン貴族が反乱軍に接触できないだろう。 ルイズは自分が何もできそうにないのがもどかしく唸った。 案の定教師に指摘されたが完璧に無視し通し、ギトーの頭の血管をピクピクいわせた。 昼食の後メイドから紅茶をもらっていると視線を感じた。 あれはたしかモット伯だったか。平民で遊ぶというあまりよいとは言えない趣味を持つ嫌われ者だった。 しかし立ち回りはうまく、宮廷に置いてかなりの地位を持つ。 前の自分なら毛嫌いしていたが今では特に思うことはない。 しかし視線はルイズではなく隣に立っているメイドを見ているように思える。 モットが消えてからメイドが呼ばれて連れられていった。 ……嫌な予感がする。 夕食の時間、メイドが来なかった。眉間に皺がよるのを止められない。 食事が終わるとすぐに厨房に向かう。ちょうどコック長のマルトーが出てきたようだ。 「コック長、少し聞きたいんだけど」 「ミスヴァリエール?どうしました?」 「メイドのことよ」 自分の名前を貴族嫌いのマルトーが知っていることに疑問を持つがほうっておいてメイドの事を尋ねる。 マルトーは悔しそうに顔を歪める。 「ミスヴァリエール、シエスタから直接聞かなかったのですか?」 そのときルイズは自分に懐いていたメイドの名前がシエスタだと初めて知った。 「聞いてないわね。ただモット伯が見てたから嫌な予感がしたのよね」 ますます歪めて怒っているのか悲しいのかどちらか分からない顔をマルトーは取っている。 「シエスタが貴方のことを話しているときはそれはもう楽しそうでした。 言わなかったのは貴方に迷惑をかけないためでしょう。アイツはモット伯に連れてかれちまいました。 相手は貴族なんですから我々はどうすることもできません。・・・ちくしょう!」 マルトーの様子は観ていて気分がいいが、それよりもモット伯の行動が許せなかった。 トンビに油揚げを掻っ攫われる・・・まさにそれだ。 口の端を無理やり引きつり上げ笑顔を作る。その顔を見たマルトーは先ほどまでしわくちゃにしていた顔を 引きつらせ青くしていた。 ルイズはゆっくり厩舎に向かう。途中で風竜を見つけた。となりに小柄な者がいる。 タバサであった。どうやらルイズを見ていて話はだいたいわかっているみたいだ。 「馬よりこの子のほうが速い」 すばやく打算する。ガリア出身のトライアングルの風のメイジ。 使い魔は風竜―シルフィードである。 彼女とはそんなに親しくはないから友情からの手伝いではない。 メイドを助けようという正義感の持ち主であったか?答えはNO。 つまりなにかルイズに求めていることになる。 「あなた、私がこれから何をするかわかっているのかしら?」 そこで初めてタバサがルイズの表情を判別できる距離になる。 タバサはそれを見て杖を構えそうになる。そして自分の思い違いに気付いた。 モット伯に交渉をしに行くと思っていたがとんでもない。あれは殺すつもりだ。 それをタバサは知ってしまった。もう逃げられない。もし自分が協力しなければ躊躇なく殺しにくるだろう。 協力すれば自分も同罪。喋ることはなくなる。ガリア出身とはいえ罪を犯すのはダメージが大きい。 しかもタバサの場合、犯罪者となると、タバサを始末する格好の口実を叔父に与えることになる。 そうなると、このルイズを止めることが一番よいのだろう。しかし相対してそれが不可能だとわかる。 これまでいろんな任務で亜人と戦ってきたが、このルイズは桁違いだ。 生き残れるかわからない。私は目的も果たさず死ぬわけには行かない。 「モット伯の殺害。私はあなたの使い魔に興味がある。 可能性でしかないが私の問題を解決できるかもしれない」 できるだけ簡潔に答え、助ける理由も入れる ルイズの視線にタバサは唇が乾いてくるのを自覚する。 むしろ使い魔のことを出した瞬間に強くなった気がする。 すべてを説明すれば納得してくれるかもしれない。どうする。背中の汗がゆっくり落ちる。 つばを飲むと喉が鳴る音が響く。逃げるにも逃げられる気がしない。 「わかったわ。じゃあお願いね」 一気に場の空気が弛緩した。額に汗を掻いてしまう。 よく考えればここは魔法学院の中だ。戦えば人が集まってくるだろう。 それは自分もルイズも本意ではない。 「タバサ。モット伯の館まであなたの問題って奴の詳しい説明をお願いするわ」 それにタバサは頷く以外なかった。 シルフィードに乗り、ルイズの視線に晒されながらタバサは語った。 自分がガリアの王族であること。父が伯父に殺されたであろうこと。 母が心を壊す薬をタバサの代わりに飲んだこと。母の心を戻す、そして伯父に復讐するためなら なんでもする気がある。シュバリエの爵位は自分を合法的に殺すために伯父が任務という名の死地に送って、 それらの任務を達成していたら勝手に付いていたこと。これまでいろんな薬で母を治そうとしたができず、 先住魔法の薬ではないかと思っていたところに、ルイズが系統魔法と思えない黒い靄を使いフーケのゴーレムと 戦っていた。キュルケはルイズの性格が使い魔召喚から少し変わったと言っていたから、 使い魔は先住魔法を使えるのではないか?そして母の心も治せるのではないかと希望を持ったこと。 その話を聞き、ルイズはすばらしい人材だと感じた。 フーケ戦で有能なのはわかっていたが、これほど闇を抱えていたとは。 話が終わると同時にモット伯の館に着く。 シルフィードで斥候したところ、門番が正門に二人裏門に一人。館周りを巡回しているのが四人、 二人づつに別れ犬を連れているらしい。正面からルイズが派手に乗り込み、巡回を引き付け、裏口の一人はタバサが始末する。 ルイズはそのまま館に突入、タバサは他に逃げようとするものを上空から監視することに決まった。 抜かれるデルフリンガー。 「おいおい、今日もやる気満々なのね・・・ 嬢ちゃんに付き合っていると倫理観がおかしくなりそうで怖いなぁ」 全身に闇を纏い疾走する。雑談している門番の頭を一振りで2つ飛ばす。門を蹴り飛ばし中に入る。 ずいぶん派手に音が出てしまった。犬が吠えている。 番犬が来たか。どんどん近づいてくる。飛びかかってきた犬が2匹、片方を剣で開きにし他方の喉を握り潰す。 走ってきた巡回の四人も後を追わせる。館の扉を切り開く。 ぼけっとこちらを見ている兵士が四人いた。奥のほうに二人と手近に二人。 「ヒャド!ヒャド!」 魔法を奥にいる二人に唱えながら近くの一人を切り捨てる。奥の二人が頭と身体から氷を生やしたところで、 四人目がやっと状況を悟る。笛を鳴らそうと口に入れると同時にデルフリンガーも一緒に入れてやる。 兵士が詰めていると思われる場所に行くとカードゲームの最中のようで何人かがカードを持っている。 テーブルの上には掛け金と思われる小銭がおいてあり、 盛り上がっているのか他の者は立ち上がって勝負の行方を見ている。 こちらを見ている者は一人もいない。 「ヒャダルコ」 カード勝負を見るために固まっていて狙いやすい。 50サントほどの氷の塊が飛び交い、脳漿や内臓をぶちまけて殺した後、部屋を凍りつかせる。 館を練り歩くがなかなか人と出会わない。 門を蹴り飛ばした音、そして先ほどの魔法の音が大きかったせいか、 何か起こっていると思った平民の使用人は部屋に逃げているようだ。 時折出会う者はすべて殺していく。 今日仕入れたメイドと寝室に行こうとしたところでやっと館での異常に気付いたモット伯は、 メイドを寝室に入れてから雇っているメイジと腕の立つ親衛隊5人といっしょに階段を降りていく。 これからお楽しみの時間であったのにそれを邪魔されたのだ。この代償高く払ってもらおう。 降りた先には桃色の髪の少女がいた。着ているのは魔法学院の制服ではないだろうか。 なんということだ。これはおもしろいことになりそうだ。平民での遊びはそろそろ飽きてきていたところだ。 「おい!君!私が誰か知っておるのかね?」 「血袋に名前がいるの?」 「そう!私は血ぶくrっじゃない!私は・・・」 名乗ろうとしたところで親衛隊の一人が前に出て制してくる。 何をやってるんだと睨むが他の護衛も同様な判断を下したのか真剣な様子で娘を見ている。 「モット伯、すぐに逃げてください。奴は普通ではありません」 何を馬鹿なとよく見てみると娘は全身に黒い靄を纏い、持っている剣からは血が滴り落ちている。 そしてはっきりとした殺意が見える笑顔。一気に寒気が襲ってくる。 モット伯は護衛に任せたと言うとすぐに最上階にある隠し階段に向かう。 メイジと親衛隊二人が残り3人がモット伯についていく。 モット伯は自分の執務室に戻り本棚を動かす。裏にあった扉に護衛といっしょに入っていく。 残った剣士二人はかなり剣の腕が良さそうだ。二人はメイジが詠唱する時間を稼ごうとしている。 唱え終えるのを待つ気はない。ルイズは左手で持った杖を振り上げる。 唱えておいたファイアーボールを天井に向けて放つ。護衛たちはファイヤーボールに備えていたが、 天井がいきなり爆発するのには備えられなかった。護衛はメイジも合わせて床に叩きつけられる。 倒れているうちに後衛のメイジ以外の首を狩る。 メイジを見ると倒れながらもすでに詠唱を終えていたようで笑みを浮かべていた。 「ライトニングクラウド!」 目の前で稲妻が走りルイズに向かう。まともに受けると一撃で人を殺せる威力を持つ。 食らったルイズは微動だにせず、笑みを貼り付けた顔だけを護衛のメイジに向けている。 自分の放った魔法が効いていないことにメイジが気付き飛び退きながら詠唱する。 さっきまでメイジがいた場所を剣が抉る。 メイジはルイズには勝てないと悟っていた。これはもう護衛のためでなく自分が逃げるために 距離をとらねばならない。そして彼は気付けなかった。 ルイズが剣を振り上げたところでメイジは呪文を解き放つ。 「エアハンマー」 ルイズは意に介さずそのまま頭蓋骨を潰した。 隠し階段は最上階から一階まで抜けられる。 抜けた先には地下通路につながる入り口が取り付けられている。 モット伯が一階まで着いた時隠し階段の上層の入り口が吹き飛ばされた音がした。 螺旋階段になっていて、空いていた中央から本棚ごと隠し扉が落ちてくる。 地下通路の入り口を開けようとするが空かない。 いくら引いても空くことがないのでモット伯は固定化の掛かっていないはずの扉に錬金を使った。 錬金できない。水の魔法で無理やり破ろうとしても全く効果がない。 いったい誰が固定化の魔法を掛けたのかとモット伯が怒鳴る。 頭に水をかけられた。落ち着くことができたが同時に怒りも湧く。 護衛を睨み付けようとすると護衛の顔から剣が出ていた。水のかかった髪を触ると手が赤くなる。 他の護衛は皆頭から氷柱を出している。顔から剣を生やした護衛が倒れると笑みを浮かべる少女がいた。 「つ ぅ か ま ぁ え た」 タバサは上空から監視していたが館からは誰も出てこない。 壊れた入り口を見ると外に出ようとしている兵士と使用人が何人かいた。 しかし何かにぶつかっているようで外に出られないようだ。異様な光景だった。 必死に何もないところで立ち往生するその様は鬼気迫るものがある。 館に近づきディテクトマジックを使うが特に反応を示さない。 相手を逃がさないようにする先住魔法だろうか。 シルフィードが話しかけてくる。前から同じことばかり言う。 曰くルイズとその使い魔に近寄ってはいけない。 しかしもう引き下がれないところまできてしまった。 「闇を身体に着てる人間なんてもう人間じゃないのね。あれはいけないものなのね。 きっとなにか企んでるのね。きゅいきゅい」 闇を着る・・・なるほどとタバサは感じた。 そのうち入り口にたまっていた者を皆殺しにしルイズが出てきた。 タバサは血まみれになっているマントを脱ぐようにルイズに言う。 魔法で水を作り出しその場で洗濯する。そして風を起こし乾燥させる。 返されたマントをルイズが着ると何がしたかったのか悟る。 湿って重いが血の匂いがかなり薄れていた。血まみれのマントの処理は簡単ではないことを 町のゴロツキを始末した時の経験からルイズは知っていたのでタバサに感謝した。 ルイズが黒い靄を消し、シルフィードに乗る。タバサはそれを見て呟く。 「闇の衣服か」 「・・・うまいこと言うわね」 ルイズはそれに反応する。 「そういえば名前なんて考えもしなかったわね。 ん~、闇の衣服・・闇の服・・・闇の羽衣・・・闇の衣・・・」 最後に言った名前にひどくしっくりくるものを感じる。 これからはこの力を闇の衣と呼ぶようにしよう。 シルフィードに乗って帰りながらルイズはタバサを抱き込むために話す。 「タバサ、私は貴方のお母様を治す方法は知らないわ。 でも私の使い魔ならわからない。あいつは私に夢の中で先住魔法の使い方を教えてくれたわ。 人間である私に先住魔法を使わせる事ができるほど魔法について詳しい。 そして私の使い魔は物を食べる必要はないわ。 だから今のまま寝ていてもやせ衰えることはない。なぜだがわかる? あいつはね、生き物の感情を糧にするらしいのよ。 つまり人が生きている限り飢えることはない。 嘘みたいだけど本当のことなの。まるで精霊のような存在。 つまり言ってみれば人の内面に対してなら何でもできるかもしれない。 そう、それが薬により壊されたものだとしてもね」 タバサはその話に耳を傾け、拳を握り締めている。 ルイズはその様子を見ながら楽しむ。どうやらタバサは大きな希望を抱いたようだ。 これで使い魔が目覚めるまでは一人使える配下ができた。 タバサに嘘はついてはいない。ただ感情と言っても我が使い魔が糧とするのは負の感情のみだ。 そして魔道については恐ろしく見識がありそうだからタバサの母を治せるかもしれない。 ただし治すかどうかは知らないが・・・・ ・・・・抱かせる希望は大きければ大きいほどよい。そう使い魔も言っていた・・・・・・・・ シルフィードは背中で為される会話でタバサが食われていくような錯覚を受けた。 タバサに念話で呼びかけるが反応はなく、深く考え込んでいるようだ。 このピンクは危ない。その使い魔はもっと危ない。 そう理解しているが、感覚的な物でしかなく、それではタバサを説得できない。 このピンクは何をするつもりだろうか。絶対に気を許してはいけない。 翌日モット伯亭の事件は、同館で部屋に篭っていた使用人たちが トリステイン城下に逃げ込んだことで発覚した。 犯行現場にはところどころに氷塊や氷付けの人間が発見されたことから 犯行グループには水のトライアングル以上のメイジが一人以上いたとされ、捜査されることになる。 ちなみにシエスタは無事に学院に戻ってくることができた。 マルトーはシエスタのことをルイズに話したときの反応から、ルイズが仲間を集めてやったのではないかと 勘ぐるが、平民のために動いてくれた貴族になにかするつもりはなく自分の胸に秘めることにした。 ただシエスタにだけは伝えておいたことでシエスタはルイズの更なる信奉者となってしまう。 前ページ次ページ絶望の使い魔