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ゆっくりが幻想郷に出始めた頃のお話 幻想郷のとある森の中。その奥深くにはささやかな畑と一つの小屋が。 真昼だが辺りは鳥の鳴き声がするくらいで、人の気配はない。 だが、ちょうど収穫間近のキャベツの影にはなにやらうごめくものが。 「それ」はガサガサとキャベツを揺らし、バリバリと音を立てながら貪っているようだった。 時折、声のようなものも聞こえてくる。 と、そこにカゴを背負った畑の主と思われる青年が森から姿を現した。 人付き合いは皆無で、たまに収穫した作物を街の市場へ売りに行くといった生活を送るこの青年。 今日もはした金と酒や食料などを調達し、住処へと戻ったのだった。 また、畑は小屋の入り口の裏に位置していたため、帰宅した青年が異変に気づくことはなかった。 疲れを癒すように椅子に腰掛け、さっそく買った酒を注ぎチビチビと飲み始める。 至福の時、ふと暇つぶしにと、ついでにもらってきた瓦版を手に取る。 ちなみに今号の一面は「幻想郷で謎の妖怪?が繁殖??」というものだった。 「へえ・・」 読み進めると、その妖怪は大きさが大小様々な饅頭のような生物らしい。 また、ある程度の人語を解し、自らも簡単な受け答えや意思疎通が可能であるという。 記事中では絵も交えて2種類が紹介されていた。 黒髪と紅白の頭飾りが特徴の「ゆっくりれいむ」と 黒いとんがり帽子に金髪が特徴的な「ゆっくりまりさ」 どちらも可愛いような可愛くないようなつかみ所のない人間の生首のような妖怪だ。 実際に絵で見るとますますもって気味が悪い。 どちらも「ゆっくり」が口癖であること、幻想郷の有名人の顔が象られていることなどから 人々の間でその名が付いたという。 「それ」は普段山奥や森などの人里から離れた場所に住み、昨今急速にその数を増やしているらしい。 人間の田畑も食害にあっているという。となっては青年にとって他人事ではいられない。 「まさかな・・・」 ふと不安になった青年。酒を置き、畑の様子を見に小屋を出る。 畑に到着し辺りを見回ると、悪い予感は的中してしまっていた。 「あっ!」 青年は思わず声を上げる。 栽培されていた野菜の内、キャベツの一部は、無残にも食い荒らされていた。 その奥には音を立てながらキャベツに集っている、人間の頭より少し大きい2つの丸い物体。 「・・・ゆっ ゆっ♪」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 「・・・こいつらは・・・」 間違いない、記事で見たゆっくりとかいう妖怪だ。 そしてそれぞれ姿の違うその「ゆっくり」はまさに「ゆっくりれいむ」と「ゆっくりまりさ」に他ならない。 「おい!そこの!!」 大声で怒鳴ると、2匹のゆっくりはびくっと体を震わせる。 「ゆゆっ!?」 「ゆっ??」 同時に振り返るゆっくり。何が起こったかわからないといった顔でこちらをぽかーんと見つめる。 だがすぐ我に返ったようで、大きく口を開いた。 「ゆっくりしていってね!!!」 なるほど、だから「ゆっくり」なのか、と無理やり納得する。 記事の絵の通り、どこか人をバカにした間抜け面に力が抜ける。 「ゆっ おじさん、だーれ?」 「ゆっくりしてるの?」 畜生に人の事情はわかるまい。 青年が立ち尽くしていると、ゆっくり2匹が足下まで寄ってくる。 なんだこいつら警戒心もまるで無しか、とすっかり怒る気もなくした青年。 「ここはねー、おじさんの畑なんだよ。畑。」 力なくゆっくりに話しかける。 「はたけ?なにそれ?おいしいの?」 「ここゆっくりできるところだね!」 微妙に人の神経を逆撫でするゆっくり達。そして更に喋り続ける。 「おなかいっぱい!!」 「ゆっくりー!ゆっくりー!」 「あのねえ、おじさんはね、ここで野菜を作ってるんだよ。 勝手に人のものを食べちゃダメじゃないか」 怒りを抑え、人語を解すのだから説得もできるはずだ、とゆっくりを論す。 「ゆ~? だめ?」 「ゆっくりたべたい~」 だめだこりゃ、と青年はため息をつく。 と、その時脇の草むらからガサガサともう1匹のゆっくりらしきものが姿を現した。 「む、むきゅぅ~ ぜぇ~ぜぇ~」 かわいらしい?帽子をかぶったそのゆっくりらしきものはは、ズルズルと体を引きずりながら 息も絶え絶えで青白くなっていた。 「ぱちゅりー!!」 「ゆっくりおそいよ!」 「む、むきゅぅぅ・・・ むきゅっ??」 会話から察するに、これも2匹の仲間で、ゆっくりの一種らしかった。 ぱちゅりーと呼ばれたそのゆっくりは青年に気づいたのか、一瞬戸惑いを見せた。 「ぱちぇもおじさんといっしょにゆっくりしよう!」 こちらの気も知らずに、と青年は歯をかみしめた。 「ゆっくりー!」「ゆっくりー!!」「むきゅ~」 こうして目の前のゆっくりが3匹になってしまった。 力尽くで追い出そうとも考えたが、初めて目にする得体の知れない相手だけに うかつに手を出すのは得策ではないと青年は考えていた。 「ゆぅっ!おじさんはゆっくりでていってね!」 突然ゆっくりまりさが体当たりを仕掛けてきた。 思わず青年は驚きのけぞったが、と同時にこの饅頭の非力さにも驚いた。 妖怪と聞いて若干は警戒していたが、その必要もなさそうだ。 足下で必死にボテンボテンと体当たりをするゆっくりを見下ろし、安堵する。 「ゆっ?まりさのおぼーし!ゆっくりかえしてね!!」 しつこいのでまりさの帽子をむんずと掴み取る青年。 不測の事態に体当たりを止め、届かない帽子にジャンプを繰り返すまりさ。 「なあ、お前たち。ここは人間が野菜を育ててる場所なんだよ。 それを勝手に食べちゃダメだ。わかったら出て行ってくれないか? 出て行ったら帽子を返してあげるぞ」 これ以上相手にするとキリがないので、何とかゆっくりに譲歩してもらう他はない。 「ずるいよおじさん!はえてきたおやさいひとりじめして!!」 「ゆっくりはやくまりさにおぼうしかえしてね!!」 「むきゅ!そーよ!ごほっごほっ」 「駄目だこいつら・・・」 何度話しても時間の無駄だと実感した青年。 話して駄目なら実力行使しか手はない。 ふと近くにあった棒きれを振りかざし、地面に叩きつける。 「「「ゆっ!!?」」」 「ほらっ!!いい加減にしないと痛い目見るぞ!!」 同時に持っていたまりさの帽子を森の茂みに勢いよく投げ捨てた。 「ゆっ!まりさのおぼーし!!」 「ま、まりさ ゆっくり待ってね!!」 帽子を追いかけ茂みに消えるまりさ、後を追いれいむとぱちゅりーも奥へと消えていった。 「ふう・・・」 ゆっくりは追い払った、しかしまた来るかもしれないという懸念は青年の中に当然あったが とりあえず被害にあった野菜の世話に戻る。 食い散らかされたキャベツと、青年は知る由もないがゆっくりの残していった排泄物を片付け 青年は小屋へと戻った。椅子に腰掛け飲みかけの酒を口にし、一息つく。 「そろーり、そろーり」 ぴくりと聞こえたその声。動きを止め耳を傾けると、間違いなくさっきのゆっくりの声。 裏の窓からそっと様子を見ると、性懲りもなく再びあの三匹が畑へと侵入していたのだった。 「あいつら・・!ったく・・・」 やはりというか再び現れたゆっくりにウンザリしながら畑へ向かった青年。 「おい!お前ら!」 「ゆっ? またきたよまりさ!」 「おじさんしつこいよ!」 「むきゅっ!ここはわたしたちのゆっくりぷれいすよ!」 「はぁ・・・(何を訳のわからないことを・・・ それにしつこいのはお前たちだろうに)」 しつこさに業を煮やした青年ではあったが、相手が人語を喋る得体の知れない生物ということで 対処を決めかねていた。 さっきのゆっくりの攻撃は青年にとってまったく取るに足らないものだった。 よって、おそらくこちらが手傷を負うことはないだろう、という読みはある。 とはいえ人間の頭の形で、人間の言葉を喋る生物をどう駆除すればいいか。 青年の中には当然の迷いがあった。 「ゆっ!まりさ、ちゃんすだよ!」 「おじさん、あしもとがおるすだよ!」 隙を突いたつもりなのか、ボヨンボヨンとまた青年の脚に体当たりを繰り返すまりさ。 同じことを繰り返す学習しないこの生物に、青年の迷いも少し晴れた。 「(そういえばこいつら饅頭なんだよな、ならちょっとくらい痛い目見せてやっても・・・)」 「ゆぼっ!!?」 効かない体当たりを繰り返すまりさに正面から蹴りを食らわせた。 まりさは茂みの側まで吹っ飛び、青年の脚には何とも言い難い、柔らかくやや重い感触が残る。 「(あっ やりすぎたか?)」 吹っ飛ばされたまりさは動かない。他二匹もいきなりの反撃に驚いたのか、呆然としている。 「・・・ゆっ? ・・・まっまりざあああああ!!!」 「むぎゅううう!!」 慌ててまりさの元へ向かう他二匹。まりさはよろよろとこちらへ向き直る。 「ゆ゛っ・・? どぼじで・・・なにがおきたの・・?」 「まりざあああじっがりじでえええ!!」 「ゆ゛っ・・・これくらい・・だいじょうぶ・・だよ・・・」 力の差を見せつけたはずだが、まだわからないのだろうか。 そもそも何をされたかもわからない様子だった。 頬の辺りの皮が破け、黒いものが覗いている。 裂けた皮の辺りを舌で仕切りに舐めるれいむを静止し、再び青年へと向かうまりさ。 先ほどは跳ねていたが、ダメージが大きいのかズリズリと地面を這うように。 「(まだ懲りてないのか・・・ あのはみ出てるのは・・・饅頭だから餡子なのか?)」 「ごごはまりざだぢのゆっぐりぶれいずなんだよ・・・ じゃまじないでね・・・」 自分勝手なことを呟きながらこちらに這いずるまりさの姿に、 青年の中で言いしれぬ嫌悪感と怒りがこみ上げてきた。 相手は動物でも妖怪でもない。饅頭だ、食べ物だ。 そう言い聞かせ、さっきの棒きれを手に取り、思い切りまりさに振り下ろす。 「このっ!!このっ!!」 「ゆ゙っ!!ゆ゙っ!!ゆ゙ばっ!!ぶっ!!や゙っ!!べでっ!!ばっ!!」 「や゙っや゙べでえ゙え゙え゙え゙え゙!!!ばり゙ざがあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」 「むぎゅうううううううううううううう!!!」 何度も何度も叩きつけられ、まりさはやがて声も発しなくなった。 帽子がひしゃげ、口や傷口から餡子を漏らしたズタボロの饅頭がそこにあった。 「ば・・・ば、りざ・・・あ゙あ゙あ゙・・・」 「・・・」 ぱちゅりーはすでに気を失っているようであった。 れいむも目から涙を流し、嗚咽を漏らしている。 「人の畑で好き勝手したからだ、悪く思うな」 青年は失神しているぱちゅりーを掴み、底部に両手の指を食い込ませ 思い切り両側へと引っ張った。 「む゙ぎっ!!!!」 短い叫びと共に、真っ二つに裂けた皮から中身がボタボタと流れ出る。 数秒で手には皮だけが残り、地面にはクリーム状の中身と目玉が残された。 一匹残ったれいむは全身から汗のようなものを流し、ただブルブルと震えている。 「ゆ゙・・ぁぁ・・・だ、だずげで・・・ おねがいじまずぅぅ・・・」 「・・・どうせまた来るんだろ?」 「ま、まっで・・・!!」 青年は情けを捨て、棒を思い切り頭に突き刺す。 「ゆ゙っ!ゆ゙っ!ゆ゙っ!ゆ゙っ!」 目を見開き身体を震わせるその様に、不気味なものを感じた青年は れいむを突き刺したまま棒を思い切り振り、森へとぶん投げた。 「はー・・・何か胸糞悪いな・・・ また同じようなのが来なきゃいいが」 ゆっくり駆除の後片付けをしながら、青年は今後が心配でならなかった。 そして同じ頃、幻想郷の各所では増殖したゆっくりが様々な問題を引き起こすのであった。 おしまい 実は半年位前の書きかけです。今ごろ気付いて中途半端に完成させUPしました。 やっつけですいません。ネタも平凡ですいません。 書きかけのネタは他にもあるんですが、飽きっぽいので今後は未定です。。。 過去に書いたSS ゆっくりいじめ系28 ゆっくり加工所でのある実験 ゆっくりいじめ系724 ゆっくり整形 ゆっくり加工場系16 小規模加工所でのゆっくり処理 ゆっくり加工場系20 小規模加工所
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/569.html
夏の日差しも強くなってきたある日、俺の家の縁の下に2匹のゆっくりが住み着いた。 ゆっくり。 低い知能と生首のような体が特徴の生きる饅頭。 畑荒らしから騒音被害まで、幅広く手がける害獣だ。 そんなゆっくりであるが、住み着いたゆっくりは他に比べて知能があるようで、俺のテリトリーを犯すことはなかった。 「おにいさん!れいむ達をゆっくりさせてね!」 「おにいさんのおうちをちょっとだけ貸してね!!めいわくはかけないよ!!」 初日には、玄関の前で待っていたゆっくり霊夢とゆっくり魔理沙が丁寧に挨拶をしにきた。 エサは自分で取るから、子供を産むまでの間すこしだけ家を貸して欲しいという。 猛暑が続く中、この若いカップルは手ごろな巣を見つけられなかったのだという。 「うるさくしないなら、縁の下でゆっくりしてていいよ」 その答えに納得し、2匹のゆっくりは生活を始めた。 約束を守っているのだろう、普段から何も騒音は聞こえてこなかった。 朝日が昇ったときの「ゆっくりしていってね!!!」という一言、ニワトリのような習性が気になったくらいだ。 また、交尾はうるさいだろうと覚悟してはいたが全く問題は無かった。 後で聞いた話だが、2匹は近所の森で交尾をしていたらしい。 ゆっくりプレイスである縁の下を離れ、いつ外敵に襲われるのかもわからないところで青姦とは、健気なゆっくり達である。 そんな生活も1週間が経った今日、ゆっくり霊夢は妊娠をした。 縁の下をたまたま覗くと、そこには頭に茎を生やしたゆっくり霊夢が昼寝をしていたのだ。 昨日までは2匹でエサを取りに行ったり、外を遊んだりしていたので、昨日のうちに受精(受粉?)したのだろう。 「お、れいむ。赤ちゃんができたんだね」 声を掛けるとぴくっと反応し、目を覚ました。 すぐさま身を引き、警戒態勢を見せる。 「ゆっ・・・!おにいさん、れいむたちは静かにしてるよ!」 そういいつつ周囲を見渡す。 身軽なゆっくり魔理沙はエサでも集めに行っているのだろう、そこにはゆっくり霊夢しかいない。 「安心してよ。おにいさんはれいむをいじめないよ」 そう、俺はゆっくりを虐待などしない。 生き物を暴行したり、ましてや殺害するなど俺の趣味ではない。 「ゆ、おにいさん。れいむは赤ちゃんがいるからあまり動きたくないよ」 ヘタに動くと茎が上部にぶつかって折れてしまうかもしれない。 それに赤ちゃんが実った大事な時期だ。力の強い人間にはあまり関わりたくないこともあるだろう。 「そうだね。そこでゆっくりしててね。それと、赤ちゃんが生まれても少しの間ならゆっくりしててもいいから安心してね」 「ゆっ!」 「騒がないなら、ずっとゆっくりしててもいいからね」 「ゆゆ!おにいさんありがとう!」 「どういたしまして」 「でも、森におうちを作ったから、もうすぐしたら出て行くね。赤ちゃんは元気にゆっくりさせてあげたいよ!」 エサ集めだけでなく、ちゃんと巣も作っていたようだ。 目先のことだけでなく、後のこともしっかり考えているあたり知能の高さが伺える。 「そうか。じゃあお兄さんは家に戻るよ。もし敵が来たら騒いで教えてね。お兄さんが助けてあげるよ」 「ありがとうおにいさん!おにいさんのおかげでゆっくりした赤ちゃんになりそうだよ!」 茎に気をつけながら顔を地面に近づけるゆっくり霊夢。 一瞬、何をしているのかと思ったが、お辞儀をしているのだと理解した。 もともとは飼いゆっくりだったのかもな、と思ったがどうでもよいことだった。 夕方、エサ取りから戻ってきたゆっくり魔理沙が丁寧にお礼を言いに来た。 感謝の気持ちということでエサのムカデを置いていこうとしたが、俺はそんなものを食べないので遠慮しておいた。 そんな賢いゆっくりに感動し、俺はお菓子を恵んであげた。 「れいむとゆっくり食べるよ!」 ゆっくり魔理沙は喜んで持ち帰ってくれた。 瞬く間に1週間が経った。 ゆっくり霊夢の茎に実った赤ちゃんれいむはプチトマトほどのサイズになり、いまにも生れ落ちそうである。 「ゆ~♪ゆっくり~♪」 「ゆっくりした赤ちゃん~♪ゆ♪ゆ♪ゆ♪ゆっくりした子になってね~♪」 庭に出た2匹が燃えるような炎天下の中、楽しそうに歌を歌っていた。 一晩で実り落ちることもあると話には聞いていたのに、1週間もかかるとは。 歌詞の通り、ゆっくりした赤ちゃんだ。 目もまだ開いていないが、親ゆっくり達の声が聞こえるのか、にこやかな笑顔をしている。 「ゆっ!!!?」 突然、歌うのをやめるゆっくり霊夢。 それと同時に2匹は茎の上の赤ちゃんを見上げる。 ゆらゆらと動き始める赤ちゃんゆっくり。それは霊夢種であった。 ついに出産(?)の時が来たようだ。 俺は縁側でその様子をのんびりと眺める。 ゆらゆらと動いていた赤ちゃんれいむは、どんどんとゆれを強くし、ついに地面にぽとりと落下した。 ぴっちりと閉ざされていた目がゆっくりと開いていく。 親ゆっくり達は赤れいむに真剣な顔をにじり寄せ、一言も喋らない。 赤れいむは親の姿をゆっくりと確認すると 「ゆっくちちていってね!!!」 と第一声をあげた。 ぱあっと笑顔になる2匹の親れいむ。 「「ゆっくりしていってね!!!」」 お決まりの文句を返しながら、赤れいむと頬と頬をすり合わせる。 幸せそうな光景だ。 「ゆっくりしようね!!!ずっとゆっくりしようね!!!」 「れいむに似てすごくゆっくりした赤ちゃんだね!!!」 ぽろぽろと涙を流す親れいむに顔を摺り寄せる親まりさ。 1匹が生れ落ちると、その後は早かった。 次々に生れ落ち始め、10分もすると茎には赤ちゃんがほとんど無くなった。 そして今、ついに最後の一匹が揺れ動いている。 ゆっくり魔理沙だ。 「最後までゆっくりした赤ちゃんが落ちそうだよ!まりさ!」 「ゆっくりうまれていいんだよ!」 親まりさの言うことなどお構い無しに、早く生まれたいという欲求を感じる揺れ動き方であった。 すぐに生れ落ち、他の姉妹のようにお決まりのフレーズの第一声をあげた。 「ゆゆうう!!!れいむの可愛い赤ちゃん、すごくゆっくりしてるよ!!」 「こっちの子はまりさにそっくりでとってもゆっくりした子だよ!」 互いに子供をパートナーに似て可愛いと言うあたり、人間の出産後のようだ。 生まれたのは計10匹。赤れいむが6匹と赤まりさが4匹。 「ゆっくち!おかあさんおなかすいたよ!ゆっくちしたいよ!」 「まりさもゆっくち!」 「ゆっくちさせて!」 お腹を空かせた赤ゆっくりに気がついた親れいむ。 縁の下のエサでも取りに行くのかと思ったら、いきなり親まりさが親れいむの頭に乗りかかった。 もう交尾をするのかと思っていると、親まりさは親れいむの茎を根本から噛み切った。 ばさりと音を立てて倒れる茎に困惑する赤ゆっくり。 「それが最初のごはんだよ!!みんなでゆっくり食べようね!!」 親れいむの茎はどうなるのかと思ったが、ちゃんと再利用されるようだ。 案外おいしいようで、赤ゆっくり達は必死で貪り始める。 「ゆ!おいちいよ!!」 「ゆっくちできるう!」 そんな様子を眺めていると、親まりさが俺の方に跳ねてきた。 「おにいさん、お話があるんだよ!」 「ん、なんだい?」 「まだ赤ちゃん達が小さいから、もう少し大きくなるまでここでゆっくりさせてほしいよ!」 詳しく話しを聞くと、森の中の巣はかなり奥のほうにあるらしく、そこまで赤ゆっくりを連れて行くのは大変だと判断したとのこと。 「すこしうるさくなっちゃうかもしれないけど、ゆっくりさせてほしいよ!」 「れいむもおねがいするよ!!できる限り静かにさせるよ!!」 いつの間にか親まりさに寄ってきていた親れいむまで懇願する。 そして2匹が顔を地面に近づけた。これは土下座の意味かもしれない。 「うるさくしないんだったらいいよ。でも早いうちに出て行ってね」 赤ゆっくりは相当うるさいので、きっとムリだろう。 だが俺は赤ゆっくりを可愛がりたいとも思っていたので丁度よかった。 「ゆ!できるかぎりがんばるよ!!!おにいさんありがとう!!」 「お兄さんはゆっくりできるいい人だね!!ありがとう!!」 親ゆっくりが喜んでいることに、赤ゆっくり達も意味は分からないが嬉しいようだ。 きゃっきゃとはしゃいで俺に寄ってきた。 夕方、玄関のところでフラフラしている親まりさに会った。 なんでも、出産の後、体力回復のために親れいむに全ての備蓄を食べさせてあげたとかでエサがないという。 今からエサを取りにいっては、生後、茎しか食べていない赤ゆっくりには酷であろう。 俺は出産祝いということで、お菓子を親まりさに譲ってあげた。 その日の夜。 なにやら騒がしいので外に出ると、縁の下をゆっくりレミリアが襲撃していた。 「ゆ!おにいさん助けて!まりさが死んじゃうよ!!」 跳ね寄ってきたのは親れいむと赤ゆっくり10匹。 どうやら親まりさが囮になって、俺に助けを求めにきたようだ。 急いで縁の下を覗くと、半分くらいになった親まりさが俺を見つめていた。 胴体つきのゆっくりレミリアは縁の下に入りにくいようで、中々食べられないでいる。 「こら、人の家で何をしているんだ」 ゆっくりレミリアの足を掴み、思い切り地面に叩き付けた。 「うあ!!ぶびっ!!!」 顔面から突撃したゆっくりレミリアが妙な声を上げ、気絶した。 ゆっくり霊夢達にとっては凶悪な捕食者であっても、人間から見ればゆっくり霊夢と対して変わらない。 「ま゛りざあああ!!!」 ゆっくりレミリアが気絶しているのを確認すると、親れいむが物凄い勢いで縁の下に飛び込んだ。 しかしそこにいたのは半分に千切れた親まりさ。 「まりざああ!!!ゆっくりしようよ!!!!赤ちゃんとずっとゆっくりするんだよ!!!」 親れいむが引きずり出してきた親まりさを見ると、息も絶え絶えでいつ死んでもおかしくない様子だった。 「れいむ・・・まりさはもうだめだよ・・・ぶぴっ!」 ごぽりと餡子を吐き出す親まりさ。 その姿にぷるぷると震える赤ゆっくり。 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛!!!ゆ゛っぐりして、ま゛りさ!!!まりさが死んじゃゆっくりできないよ!!!」 「ゆっ・・・れいむには赤ちゃんがいっぱいいるよ・・・ゆっくりできるよ・・」 「やだよ!!まりさがいないとゆっくりできない!!まりざああああ!!!」 必死で頬をすり合わせるが、反応を示さない親まりさ。 もう死が間近に迫っているのだろう。 「れいむと一緒でまりさはゆっくりできたよ・・・ありがとうれいむ・・・」 「ゆっ!!!??やだよ!!もっとゆっくりしたいよ!!!!」 親れいむが傷口を舐めても、もはや餡子は止まらない。 「あかちゃんと、まりさのぶんも・・ゆっくりしていってねぇ・・・」 そういうとまぶたをゆっくりと閉じ、もう親まりさは目を覚ますことはなかった。 「ゆうううううう!!!!!」 生まれたばかりの赤ゆっくり達も、親れいむの様子から何かを察したのだろう。 ぽろぽろと涙を流している。 空気が重かった。 俺はゆっくりレミリアを縄で厳重に縛ると部屋に戻った。 次の日、玄関で待っていたのは目を真っ赤にした親れいむであった。 「おにいさん、まりさがいなくなったけど、れいむは頑張るよ。きのうは助けてくれてありがとう」 いつものような元気が無かったが、赤ちゃんのために頑張らなければならない。 そんな気迫を感じた。 それにあの赤ゆっくりは親まりさが遺した唯一のものだ。 なんとしても育てなければならないのだろう。 「またレミリアが襲ってきたら、すぐに助けを求めてきていいんだからな」 「ゆっくり理解したよ。れいむは今からご飯を取りにいくから、もし何かあったら助けてね」 熱い日差しの中、燃えるような地面を親れいむは跳ねていった。 ゆっくりの巣の前にくると、縄とゆっくりレミリアの服が落ちていた。 特に気にもせずに、赤ゆっくりを呼ぶ。 「ゆっくち!?」 「おにさんはゆっくちできる!?」 ぞろぞろと縁の下から湧いて出てくる赤ゆっくり。 昨日、ゆっくりレミリアを撃退したのを見ていたからだろう、まるで警戒などしていない。 親が食われたというのに、昨日よりぷっくりとしている。 縁の下を見ると、アイスの棒が突き刺さったお墓が見えた。 親れいむが作ったお墓だろう。小さなたんぽぽが供えられ、綺麗なつくりをしている。 「おにいさん!まりさおなかすいたよ!!」 「まりさ!そんなこといっちゃだめだよ!!」 まだ赤ちゃんだというのに、妙に行儀が良い。 親の教育が良いからだろうか。 きっともう、この家の主が俺だと教えたのだろう。 「れいむは頭がいいね、ご褒美にお兄さんがおいしいものをあげるね!」 俺は用意していたホールのショートケーキを赤れいむ達の前に置いた。 「ゆ!?いいにおいだよ!!」 「ゆっくちできそう!!」 「おにいさん、ほんとうにたべてもいいの!?」 すぐに飛びつくかと思ったら、全然飛びつかない。 何度も俺に食べていいか確認してくる。 「いんだよ。これはまりさやれいむ達のために用意したんだよ」 もしかしたら、親れいむに人間からエサを貰うことを禁止されているのかもしれない。 里の人間の中には、ゆっくり虐待が趣味の人間が多数存在する。 彼らは大抵、おいしいお菓子や、ゆっくりプレイスの提供でゆっくりを連れて行き虐待する。 あの賢い親れいむはそれを知っていて、人間は恐ろしいものだと教えたのかもしれない。 「お母さんれいむには内緒にしておいてあげるよ!だからみんなも秘密にしようね!!」 内緒ならいいだろう。 赤ちゃんゆっくりはお菓子が大好きなのは知っている。 俺はいじめたりなんかしないし、親れいむの教育はしっかりしているから大丈夫なはずだ。 ただ、親れいむが怒るかもしれないので釘は刺しておく。 「みんな、絶対にお母さんれいむには内緒だよ!それと、他の人間から食べ物を貰っちゃダメだよ! それが分かったら、ゆっくり食べてね!!」 そう言ってもしばらくそわそわとしていたが、赤まりさがかぶりついたのをきっかけに、一斉にケーキを食べ始めた。 「ゆっくち!!!おいちい!!!」 「うっめ!!めっちゃうめ!!!」 「ハムッ!!ハフハフ!!ハフッ!!」 「ゆっくちぃー!!!」 「ゆっ♪ゆっ♪ゆっ♪」 赤ゆっくりの食欲は恐ろしいもので、あっというまに巨大なケーキを食べつくしてしまった。 俺は近所でお菓子を買ってきて、お腹がいっぱいになるまで食べさせてあげた。 「みんな、約束は覚えてるかい?」 満腹でゆっくりしていた赤ゆっくりに質問する 「ゆっ!おかあさんにはないしょだよ!!」 「ぜったいにいわないよ!!」 「だからおにいさん、もっとゆっくりしようね!!!」 「いわないよー!!!」 さすが、あの親れいむと親まりさの子供だ。 ちゃんと覚えていた。 俺はその答えに満足すると、部屋へと戻った。 もう日も暮れ始めている。 そろそろ親れいむも戻ってくるはずだろう。 親れいむはエサを確保し、帰路についていた。 昨晩はゆっくりレミリアに最愛のパートナーを食べられてしまい、気分はどん底であった。 しかし、自分には最愛の赤ちゃん達が残っていた。 それだけが親れいむの希望だった。 その赤ちゃん達のためなら、どんな気分でもエサを取りにいける。 口には大量のご馳走が入っている。 これを見た赤ちゃん達の喜ぶ声が楽しみだ。 歌いだしたいのをこらえ、里の真ん中を通って帰る。 家を出るときに、あの優しい人間がリボンにバッヂをつけてくれた。 飼いゆっくりにつけられるバッヂで、これがあれば人間はイジワルをしてこない。 安心してエサを取ってきなさい、人間は優しく撫でてくれた。 外敵の心配のない人の作った道を堂々と通れることは、親れいむにとって幸せなことだった。 片親であの大所帯を養えるか不安であったが、しばらくは何とかなりそうだ。 「ゆっくり帰ったよ!!ゆっくりしてた!?」 「ゆ!おかあさんだ!!」 「ゆっくちおかえりなさい!!」 縁の下に入ると、帰りを待ちわびていた赤ゆっくり達が寄ってきた。 嬉しくて涙が出そうになるのを必死でこらえる。 子育ては初めてだが、あの賢いパートナーとの子なのだ。 自分の知識を全て教え、賢くゆっくりできる子にしてみせる。 昨晩は、「人間は危険だから絶対に油断してはならない」ということだけを教えてあげた。 ゆっくりレミリアを一撃でしとめたあの人間を見て、人間の強さはすぐに理解してくれた。 「みんな!おいしいご飯だよ!ゆっくり食べようね!!!」 「ゆっ!ごはん♪ごはん♪」 「ゆっくちたべたい!」 寄ってきた赤ゆっくりの前に、口の中からエサを吐き出した。 ムカデ、ダンゴムシ、たんぽぽの葉にモンシロチョウ。 ご馳走の山だ。 「ゆっ・・・!?」 「ゆ!なにこれ!?」 「ゆっくち!?」 そのご馳走を見た赤ゆっくり達が、困った顔をしてこちらを見ている。 ゆっくり種が日ごろ食べるものを食べるのは、今日が始めてなのだ。 これまでの食事は、茎と、親まりさが持ってきたお菓子だ。 親まりさは特に何も言わなかったが、あれはきっとあの優しい人間が分けてくれたのだろう。 それに昨晩は、おいしい肉まんもあった。 「これがれいむ達のいつものご飯だよ!おいしく食べていってね!!」 食べそうにない赤ゆっくり達に食事を促す。 そして、一匹の赤まりさがダンゴムシに口をつけた。が、 「ゆ!おいちくない!こんなの食べられないよ!!」 ぺっ、とダンゴムシを吐き出す赤まりさ。 他の赤ゆっくりも違うものに手を出すが、結果は同じであった。 「まじゅい!!ゆっくちできない!!」 「こんなのいらないよ!!!」 「ぜんぜんごちそうじゃないよ!!」 次々にご馳走を吐き出す赤ゆっくり達。 「そんなことないよ!!!おいしいよ!!ゆっくり食べてね!!」 お手本を見せようと、ムカデを食べてみせる。 「ゆ!そんなきもちわるいのいらない!」 「おかあさんだけたべていってね!!」 ぷいっと奥に行ってしまう赤ゆっくり。 「ゆ!ちょっと待ってね!!ご飯を食べないとゆっくりできないよ!!」 そんな声も無視され、ぽつんと1匹、親れいむは取り残された。 孤独感が襲ってくる。 「ゆっ・・・。せっかくご馳走を用意したのに・・・」 ダンゴムシはこんなにおいしいのに。ムカデはあまり手に入らない御馳走なのに。 たんぽぽの葉は自己流の調理をした自信作なのに。 目の前に刺さったアイスの棒を前に、ひっそりと親れいむは涙をこぼした。 次の日、俺が縁の下を覗くと赤ゆっくり達が跳ねて来た。 「ゆ!おにいさん!まってたよ!!」 「おにいさんれいむおなかすいたよ!!」 「きのうのをまたたべたいよ!!」 親れいむはエサでも取りに行っているのだろう。出てくる気配はなかった。 「みんな、お母さんれいむには内緒にしてくれたかな?」 「ゆ!ちゃんとれいむないしょにしたよ!!」 「まりさちゃんとだまってたよ!ゆっくちできるよ!」 ちゃんと約束を守っている。やはり親に似ているんだな。 「よーし、お兄さんは今日はもっとおいしいものを用意してあげるよ!」 ゆー!と歓声が上がった。 俺は用意していた完熟マンゴーを取りに部屋へと戻った。 夕方、傷だらけの親れいむはエサ取りを終え、家に向かっていた。 昨日はいきなり虫や草を用意してしまったからビックリしたのだろう。 今日はちゃんと食べられるよう、危険を冒しながらも木苺を取りにいった。 なんとか木苺を取ったものの、帰る途中に野良犬に襲われあと一歩で食べられてしまうところだった。 生き残れたのは子供を守らなければという強い母性があったからだ。 遠出をしても大丈夫なよう、おうちには昨日のムカデやダンゴムシを置いてきた。 空腹に我慢できなくなったら食べてくれるはずだ。 口内の木苺を飲み込まないよう注意して跳ねながら、喜ぶ赤ちゃんの顔を思い浮かべた。 「すっぱい!こんなのいらないよ!」 そう言ったのは赤れいむであった。 それを皮切りに、他の赤ゆっくりも続ける。 「こんなの食べられない!もっと甘いのを用意してね!!」 「おかあさんもっとゆっくちさせてね!!」 次々に木苺を吐き出す。 あまりのショックに、傷だらけの体が痛んだ。 「どうじでぞんなごと言うのおお!!おがあざんががんばっでどっでぎだんだよ!!!」 自分のしつけが悪いのだろうか。 地面に吐き出された木苺を見ていると、胸が締め付けられる想いだ。 「いっしょうけんめいとってきてもおいちくないよ!!」 「そうだよ!ゆっくちできない!」 心まで傷つけられる親れいむ。 自分は何のために頑張って木苺を取ってきたのだろう。 ふと、昨日のご飯を置いた場所を見ると、何もなくなっていた。 「ゆ!みんな、昨日のご飯を食べたんだね!だからお腹いっぱいなんだよね!!」 そうであって欲しい。 切なる願いだった。 しかし、そんなことを知らない赤ゆっくりはこともなげに答える。 「ゆ?あんなきもちわるいのすてちゃったよ!!」 「あんなのがここにあるとゆっくちできないよ!!」 「おかあさんはゆっくちできない!!!」 あれほど必死になって集めた御馳走が捨てられた。 無意識に涙がこぼれた。 パートナーをなくしてから、いったい自分はどれだけ涙を流せばいいのだろう。 「ゆ゛う゛う゛う゛う゛・・・・」 それに、あの優しい人間との約束だ。大きな声で泣くこともできない。 そんな親れいむの姿を疎ましく思ったのか、赤ゆっくり達は奥へと姿を消した。 また1匹になった親れいむは、丁寧に木苺を集めて昨日と同じ場所に置いておいた。 もし自分がいないときにお腹を空かせては、ゆっくりした親まりさに申し訳が立たない。 アイスの棒の前で今日も一人、親れいむは眠りについた。 それから1週間、赤ゆっくり達は親れいむのエサに一切手をつけることはなかった。 それなのに日々、どんどんと成長し、今ではソフトボールほどになり子ゆっくりといえるほどになった。 なぜお腹が空かないのかと尋ねたが、 「ゆっくちできないおかあさんにはおしえない!」 と一蹴された。 しかし、どんな形であれ子供が大きくなることは嬉しいこと。 親まりさもきっと喜んでくれるはずだ。 毎日、きっと今日こそはご飯を食べてくれる、と信じてエサを取り、全て捨てられた。 最近では見ただけで口もつけてくれなくなったが、それでも親れいむは懸命にエサを運び続けた。 今日のエサはハチミツとハチノコだ。 全身を毒針で刺されながら確保した。 甘いハチミツならきっと口をつけてくれる。そう信じたから頑張ることができた。 しかし、夕方に散々、メイプルシロップたっぷりのホットケーキを食べた子ゆっくり達はハチミツだけで我慢ができるワケがなかった。 ハチノコを地面に吐き捨てながら、言う。 「ハチミツしかおいしくないよ!!!」 「もっとハチミツをとってきてね!」 ぴくぴくと動くハチノコを見ながら、親れいむはまた胸が締め付けられる。 ハチノコにハチミツをかけたものは、親まりさの大好物だった。 いままでに2回しか食べたことがない。 飼いゆっくりであった親れいむと、同じく飼いゆっくりであった親まりさが出会ったのは、蜂の巣を狩ろうと木の下で作戦を練っていたときだ。 2匹で協力して蜂に刺されまくりながらもなんとか確保したとき、親愛の情が芽生えた。 子供を作ろうと誓い合ったあの日も、蜂の巣を狩り、2匹で祝いあった。 いわば、これは親ゆっくりの絆の食べ物なのだ。 それなのに、子ゆっくりは食べてくれない。 「ゆ!おかあさんのもってくるものは、ぜんぜんゆっくりできない!」 「しんじゃったおかあさんのほうが、おいしいものもってきてくれた!」 出産後、初めてエサとして食べたものは親まりさが持ってきた、人間から貰ったであろうお菓子。 子ゆっくりの中では親まりさは狩りの達人という位置づけになっていた。 「おかあさんがたべられればよかったのに!!!」 「ゆっくちできないおかあさんより、しんじゃったおかあさんのほうが、まりさたちはゆっくりできたよ!!」 ぼろぼろとこぼれる涙。 どうして自分はここまで嫌われてしまったのだろう。 一生懸命エサを運んだのに。 ただ、子供達を喜ばせたかっただけなのに。 「まりさ・・・」 もういないパートナーを呼ぶ。 しかしそれに答える声はない。 また始まったよ、とばかりに子ゆっくり達は離れていった。 それからさらに1週間が過ぎた。 さすがにゆっくりも大きくなり、うるさくなってきたので親れいむを呼んだ。 「なあ、れいむ。もうそろそろ森の巣に移動してくれないか?子供達も大きくなったろう」 しばらく見ない内に、妙に親れいむはやつれていた。 「ゆ・・・、分かったよ。すぐに移動するね」 そういうと、縁の下に跳ねていった。 「みんな、ここからお引越しをするよ!」 縁の下から親れいむの気丈な声が聞こえる。 そして子ゆっくり達のブーイングも聞こえた。 「やだよ!」 「ここはれいむたちのゆっくりプレイスだよ!おにいさんはやさしいからここにおいてくれるんだよ!」 「おにいさんとはなれたくないよ!!」 もはや、親れいむよりも人間に懐いてしまっている。 「引越し先はここよりもゆっくりできるよ!」 「うそだよ!おかあさんはいままでいっかいもゆっくりさせてくれなかったよ!」 「しんじないよ!」 「ここがゆっくりできるよ!!」 随分しつけがなっていないようだ。 俺と遊んでいるときはちゃんとしているのに。 なめられっぱなしだ。 「みんなお母さんの言うことはちゃんと聞こうね!森の巣は死んじゃった魔理沙が作った巣だよ!ゆっくりできるよ!」 俺は助け舟を出した。 少し、親れいむが可哀想すぎる。 しつけはできているのに、なぜなめられているのだろう。立派な親ゆっくりだというのに。 「ゆ!?しんじゃったおかあさんがつくったの!?」 「それならゆっくりできるね!」 「ゆっくりできそうだね!」 子ゆっくりの中では、親まりさは狩りの達人だ。 そんな達人が作った巣ならここよりもゆっくりできるのではないか、単純な考えであった。 それに前に子ゆっくりは聞いたことがある。 この場所は親れいむが最初に見つけたのだと。 子ゆっくりは思う。 無能な親が見つけた巣と、有能な親が作った巣。どちらがゆっくりできるかといえば後者だろう。 「みんな、早く引越しの準備をしてね!」 苦い顔をする親れいむを尻目に、そそくさと引越しの準備を始める子ゆっくり達。 もともと持っていくものなどたかが知れている。10分もしないうちに引越しの準備は終わった。 「じゃあみんな、お兄さんにさよならの挨拶をしてね!」 「ゆ!おにいさんいままでありがとう!!」 「またゆっくりしにきてもいい?」 「おにいさんだいすきだよ!」 「おにいさんはゆっくりできるひとだったよ!」 決して自分には向けられない笑顔を見て、親れいむの胸が苦しくなる。 しかし、この人間は優しい。 それを一番知っているのはきっと自分だろうと親れいむは思う。 「お兄さん、いままでありがとう。これからは森でゆっくりするね」 「おう、また何かあったらいつでも来てくれてかまわないからな」 そして、親れいむと子ゆっくり達は森の中へと消えていった。 森を進むのは困難を極めた。 ゆっくりと平和に育った子ゆっくり達は足場の悪い森の道に、不満を爆発させた。 それを必死でなだめ、ゆっくりできるから、と道なき道を進んだ。 移動途中、どんなにエサを持っていっても決して食べてはくれなかった。 長い道のりだから体力が必要だというのに。 子ゆっくり達は思っていた。 親まりさの巣には、いままで以上の御馳走が用意されていると。 だから、こんな親れいむが取ってくるような虫などとても食えたものではない、と。 親まりさが作った巣についたのはそれから2日も経ってからであった。 苔がこびりついた洞窟を見た瞬間、子ゆっくり達はかつてないほどの不満を爆発させた。 「ゆ!なにこのきたないところは!?ゆっくりできないよ!!」 「ぜんぜんゆっくりプレイスじゃないよ!!!」 「おかあさんのうそつき!!!」 最愛のパートナーが作った愛の巣。 ボロボロになりながらも、ようやく他のゆっくりが住んでいない洞窟を見つけ、2匹で頑張って綺麗にした。 やわらかい苔を泥だらけにながら集め、子供達のベッドを作った。 当然、人間の家と比べれば汚いし、みすぼらしい。 しかし、言葉では言い表せないほどの思い出がつまった巣だ。 それをゴミのように罵倒する子ゆっくり達に、親れいむは我慢がならない。 「ゆ!なにこのきたないの!!すてちゃえ!!!」 先に洞窟に入った子れいむが、小さい木のカケラを投げ捨てた。 「ゆっ・・・!」 それは親れいむと親まりさが生涯を誓い合ったとき、記念に作った木の人形であった。 不恰好だが、2匹にとっては愛の証拠であったのだ。 それがメチャメチャに破壊され、子れいむに捨てられた。 「ゆゆっ!なにこれ!こんなのいらないからおいしいごはんをよういしてね!」 「きたないごみだね!はやくすてようね!」 その瞬間、親れいむの母性は、怒りに押しつぶされた。 どうして、なぜ、自分はここまでゆっくりできなくなったのか。 全てこいつらのせいではないのか。 まりさがいてくれれば幸せだったのだ。 今にして思えば、こいつらが騒いだからゆっくりレミリアが声をききつけて襲ってきたのかもしれない。 許せない。 もう許す必要なんてない。 こんなゆっくりできない子は自分の子供ではない。 「ゆ?なにをしてるの?はやくごはんをよういしてね!」 「ごはんがあるなら、きたないとこでもがまんしてあげるよ!」 怒りを爆発させ、信じられないほどの跳躍をみせる親れいむ。 落下すると、ぶちゅりと餡子をはじける子まりさがいた。 「お゛ね゛え゛ぢゃん゛があああああ!!!」 「ゆ・・・!?なにをするの!?ゆっくりあやまってね!」 「ゆ゛っくり死ね!もうれいむの子供じゃないよ゛!!!死ね゛え゛え゛え゛!!」 かつて、誕生を喜んだ子供達に襲い掛かる親れいむ。 その目に浮かんだ涙は、誰のためのものなのか。 最愛のパートナーとの繋がりは、親れいむにとって許せないものへと成長してしまった。 許せないのは子供達なのか、満足に育てることができなかった自分なのか。 そんな問いを全て押しつぶし、子供を次々と押しつぶす。 つらい思い出を全て押しつぶしたい、親れいむは止まらない。 「ゆ!おねえちゃん!にげるよ!!」 「わかったよ!みんなまりさについてきてね!!!」 必死で逃げ始める子ゆっくり達。 この森で満足に虫も食べられないゆっくりがどう生きていくのか。 ふふふ、とゆっくりらしからぬ笑い声を上げる親れいむ。 もう追いかける気もしない。 死んでしまえ。 自分達の愚かさを呪いながらゆっくりと死ね。 静寂な森に、いつまでも親れいむの笑い声が響いた。 逃げ切った子ゆっくりは5匹であった。 子れいむ2匹と子まりさ3匹。10匹姉妹は半分になってしまったが、希望はまだ捨てていない。 「あんなバカなおやは、ゆっくりしねばいいのにね!」 「そうだよ!ゆっくりしね!」 見えなくなった親れいむへの怒りをあらわにする子ゆっくり達。 「はやくおにいさんのところにもどってゆっくりしようね!」 「そうだね!だいすきなおにいさんにはやくあいたいね!」 「おなかすいたよ!はやくあいにいこうね!」 子ゆっくりだけで抜け出せるほど、自然の森は易しくない。 同じところをぐるぐると回っていることに気がつくものは、1匹もいなかった。 雨が降っていた。 どんどん、と何かを叩く音が聞こえ、俺は扉を開けた。 そこにいたのは1匹のゆっくり霊夢であった。 「ん?お前、こないだのれいむか?」 ゆっくり一家が出て行ってから、1ヶ月が過ぎていた。 目の前にいるのはあの時の親れいむだろうか。酷くやつれて、皮は傷だらけだ。 雨に濡れたせいか、全体的にぶよぶよとしている。 「大丈夫か?いまご飯を食べさせてあげるから、ゆっくりあげれ!」 何も返事をしないゆっくり霊夢を部屋にあげ、あまいお菓子を用意した。 「どうしたんだ?子供たちは?」 ふるふると体を左右に揺らす。それ以上は答えない。 きっと外敵にでも襲われて逃げてきたのだろう、俺はそう結論付けた。 そっと頭を撫でてやると、ぶわっと涙を出した。 「つらかったな。ゆっくりしていっていいんだよ」 「ゆ゛う゛う゛う゛!!!れいむ、もういやだよお゛お゛お゛!!!ま゛りざあ゛あ゛あ゛!!!!」 泣き出したゆっくり霊夢を抱きしめ、傷口に水で溶かした小麦粉を塗る。 餡子もあまり漏れていないし、しばらくすれば元気になるはずだ。 「れいむ、お前さえよければここでずっとゆっくりしていっていんだよ。まりさもここに眠ってる」 子供達を失った悲しさを少しでも和らげてあげたい。俺は純粋にそう思った。 「ゆっ・・・ゆっ・・・」 顔を俺に向ける。 その顔は涙が溢れているものの、明るい笑顔だ。 「お前の笑顔、なんだか久しぶりだなあ」 そういえば、出産の時以来久しく見なかった。 なぜだろう。 あんなに可愛い赤ちゃんゆっくりがいたのに。 まあ、きっと晩御飯のときや寝るときは親子仲良くゆっくりしていたのだろうから、偶然だろうな。 「ゆっくりしていくね!!」 雨が屋根を叩く中、ゆっくり霊夢の声が部屋に響いた。 作:アルコールランプ このSSに感想を付ける
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ここはゆっくりたちがゆっくりしている大地。 人里から遠く離れ、妖怪たちも知る事の無い世界。 そこに、ひとつのゆっくり集団がありました。 ゆっくりれいむと、ゆっくりまりさ。 それに、ゆっくりぱちゅりーとゆっくりありすの4匹です。 まだ小さいこの4匹がどうして一緒に暮らすようになったのか、家族はどうしたのか。 ゆっくりたちはとてもゆっくりしている生き物なので、そんなこともう忘れてしまいました。 でも大丈夫です。 4匹は、みんないつでも仲良し。 大事なのは、この4匹がそれぞれを大切な友達だと思っている事なのでした。 そんなある日の事です。 4匹が草原で仲良く遊んでいると、地面の上を黒い影が通り過ぎました。 「ゆ! みんなあぶないよ! ゆっくりにげてね!!」 誰が上げたかその声に、みんなゆっくりなりに急いで近くの背の高い草むらに逃げ込みます。 妖怪や人間は居ませんけれど、鳥に襲われては動きのゆっくりなゆっくりはひとたまりもありません。 それに、ほとんどが夜行性ですが、ゆっくりの中にも空を飛んでゆっくりを食べるゆっくりも居るのです。 幾ら平和とは言えここは大自然です。 その事を身にしみて知っているから、ゆっくり達は草むらの中からじっと空を見ます。 そこにいたのは、ゆっくりを食べるゆっくりの一種類、ゆっくりれみりゃでした。 真昼だと言うのに珍しいですね。 顔の横から生えた翼をはためかせ、きょろきょろと何かを探しています。 自分達の事でしょうか。 見つかったら食べられちゃうかもしれない。 その想像が、ゆっくり達を自然と小さく縮めていきます。 その時です。 ざぁっ、と、強い風が草原を駆け抜けていきました。 その風にあおられ、隠れていた草むらが大きくなびき、ゆっくり達の姿が丸見えになってしまいます。 そして、その事で気がついたのか、ゆっくりれみりゃが一直線にこっちに飛んできました。 ゆっくり達は、ゆっくり隠れているつもりだったので、突然の事に体が動きません。 怖い、食べられちゃう!! 皆、ゆっくりれみりゃが怖くて目に涙を浮かべています。 そんな4匹の前に、大きく口を開けたゆっくりれみりゃがびゅーっと飛んで来て…… 「うー♪ うー♪♪」 ぺろり、とゆっくりれいむの顔を舐めました。 「???」 何が起こったのでしょうか。 そのままがぶっと食べられちゃうと思ったれいむも、他の3匹も、何がなんだかよく判りません。 もしかして、食べる前におもちゃにでもするつもりなのでしょうか。 でも、ゆっくりれみりゃはみんなの顔を一舐めすると、わざわざ地面に降りて不器用にぴょんぴょん跳ねています。 「うー♪」 お決まりの「ぎゃおー!」も「たーべちゃーうぞー!」も言いません。 『ゆ?』 これはどういうことなのでしょうか。 みんな困ってしまいます。 ニコニコしながらぴょんぴょんしていたゆっくりれみりゃも、だんだんと困った顔になってきました。 やがておずおずと、ゆっくりれいむが挨拶します。 「ゆ……ゆっくりしていってね?」 するとゆっくりれみりゃは笑顔に戻り、みんなの周りを跳ね、飛び回ります。 どうやら、このゆっくりれみりゃは自分達を食べに来たようではないみたいです。 それならば、ゆっくりがする事は一つです。 『ゆっくりしていってね!!!!』 「うっうーーー♪♪♪」 どうやらこのゆっくりれみりゃはちょっと変わり者のようでした。 れみりゃ種だというのにゆっくりたちを食べようとはせず、夜はみんなと一緒に眠ってしまいます。 近づいてきた鳥だって追い払ってくれますし、高い所にある珍しい木の実なども取ってきてくれました。 ほかのゆっくり達は怖がりましたけど、そんな事は関係ありません。 いいじゃないですか、皆、それぞれどこか違うものなのです。 4匹にとって、このゆっくりれみりゃはもうお友達なのです。 いつからか、みんなは5匹のゆっくり集団になっていました。 それからしばらくたったある日。 突然れみりゃがれいむに噛み付きました。 それどころか、リボンを取ろうとしたり、髪を抜こうとしたりするのです。 今まで友達だと思っていたれみりゃのそんな行動にれいむは怒り、そして泣き出してしまいます。 まりさやありすも、口々に「ゆっくりあやまってね!」「ゆっくりできないこはきらいだよ!」と怒ります。 最初は「うー! うー!!」と必死に何かを訴えていたれみりゃでしたが、あらあら、しまいには自分も泣き出してしまいました。 怒られた事が悲しかったのでしょうか。 いいえ、そうじゃありません。 れみりゃはただ噛み付いたわけではないのです。 ただ怒られた事よりも、自分のしたい事がみんなに伝わらなかった事。 自分が上手く伝えられなかった所為で、れいむが泣いたり、みんなが怒ったりした事。 その事が、とっても悲しかったのです。 した方も、された方も、わんわんと泣いているばかり。 初めは怒っていたまりさとありすも、慰めても泣き止まない2匹の様子にどうして良いのかおろおろとするばかりでした。 わんわんと泣きながらも、れみりゃはまだ何かを伝えようとしているようです。 その場で小さく飛び跳ねてみたり、れいむの下にもぐりこもうとしてみたり。 他のゆっくりよりもおしゃべりが上手くないれみりゃは、自分の体を使って何かをしようとしているのです。 れみりゃは、本当の事を判ってもらって、みんなと仲直りをしたかったのです。 そんな様子を、ゆっくりと見ていたゆっくりがいます。 それはゆっくりぱちゅりーです。 頭の良いぱちゅりーは、れみりゃは意味も無く噛み付くゆっくりではない、きっと何かがしたかったはずだとゆっくりと考えていました。 ゆっくり、でも真剣に考えをめぐらせます。 やがて。 「むきゅーーーーん!! わかったわ!!!」 体の弱いぱちゅりーにしては大きな声と高いジャンプ。 それが、ぱちゅりーの喜びを示していました。 ぱちゅりーはまずれみりゃの所に行くと、顔を舐めたり頬擦りしたりして、やさしくなだめます。 やがてれみりゃが落ち着き始めると、自分はれみりゃの横に行き、今度はれいむに向かって自分の上に乗るように、と言いました。 病弱なぱちゅりーにとっては辛い事でしょう。 でも、ぱちゅりーは優しいれみりゃの想いに応えてあげるために、必死で我慢します。 れみりゃの顔を横目で見ると、れみりゃは満面の笑みを浮かべていました。 ああ、良かった。 友達が笑っている、自分の考えが間違いで無いとわかると、それだけでそんな苦労もどこかへ飛んでいきます。 自分の上にれいむがゆっくり乗ったら、次はれみりゃの上に乗るようにと。 まだぐずりながらも、れいむはぱちゅりーの言うとおりに動きます。 さあ、これで準備はおしまい。 「れいむ、れみりゃにゆっくりつかまっててね!」 ぱちゅりーが言うと同時、れみりゃが小さな翼を精一杯動かします。 するとふわり、とれみりゃだけの時よりは速さも高さも少ないですが、れいむをのせたままゆっくりとれみりゃが浮かび上がりました。 「わぁすごい、おそらをとんでるよ!!」 浮かんだれみりゃの上から見る景色、その光景にれいむはたちまち泣き止んで目を輝かせます。 そう、れみりゃは以前にれいむが「れみりゃみたいにおそらがとべたらなぁ」と言うのを聞いて、それを叶えてあげようとしたのです。 れいむを乗せたまま、バランスを崩さないようゆっくりゆっくりとれみりゃは飛んでいきます。 空からは、みんなニコニコ笑ってこちらを見ているのが見えました。 やがて、短い空の旅が終わり、れみりゃとれいむはゆっくりと地上へと降りてきます。 「れみりゃ……さっきはゆっくり怒ってごめんね!」 れいむはれみりゃが自分の事を思ってしてくれた事に気づき、さっきは泣いて怒った事を謝りました。 「う……? うーーー♪♪」 れみりゃは一瞬ぱちくりすると、れいむに擦り寄ります。 れみりゃにとっては、れいむが喜んでくれた事、それだけで十分なのでした。 2匹は笑いながら、体をすりあわせてにっこり仲直り。 そこにまりさとありす、ぱちゅりーも加わってみんなで仲良くすりすり。 それかられみりゃは疲れるでしょうに、まりさも、ありすも、それぞれ乗せて空に舞い上がります。 そして最後に、今回一番の功労者のぱちゅりーを乗せて、みんなよりも、ゆっくりゆっくりと飛びました。 ぱちゅりーを乗せたれみりゃが戻ってくると、まりさとありすが自分達も乗せてくれたお礼と、二人で怒った謝罪を込めて木の実や花を集めていました。 さすがにちょっと疲れたし、大事な帽子もみんなが乗ってくしゃくしゃになってしまいましたが、れみりゃはそんな事気にしません。 みんな怖がるれみりゃ種の自分を受け入れてくれた友達。 そんな友達みんなが笑顔で幸せ。 それがれみりゃの一番なのです。 『ゆっくりありがとうね、れみりゃ!!!』「うーーーー♪!♪!♪」 そんな仲の良いゆっくりたち、まりさとありすが集めてくれたご飯を食べると、そろって近くの木の洞に入っていきました。 ……あらあら、みんな寝ちゃいましたね。 今日は色々と疲れたのでしょう、ちょっと早めのお昼寝の時間みたいです。 ゆっくりおやすみなさい。 おわり。 作・話の長い人 ゆっくりできてよかったね。 -- 名無しさん (2009-07-14 22 18 00) れみりゃかわええ/// -- 名無しさん (2009-09-18 05 54 27) れみりゃは可愛いなぁ… -- 名無しさん (2010-07-14 05 16 38) イイハナシダナー -- 名無しさん (2010-09-19 18 37 43) れみぃかあいい -- 名無しさん (2010-11-27 14 27 04) めっちゃいい話この話作った人マジかみ -- ゆっくり大好きです!! (2011-10-22 19 49 55) れみりゃが可愛いすぎて生きるのが辛い -- 名無しさん (2012-01-03 08 44 39) よし、れみりゃ1匹飼わせてもらおうか -- ちぇん飼いたい (2012-02-27 19 10 39) さて!今日の昼飯は・・・ 肉まん・・・だと・・・ -- 名無しさん (2012-08-11 10 39 36) ありがとう。 ゆっくり虐待とかわけのわからないジャンルが増える中で、すごく安心のできる作品でした。キャラクターがものすごくかわいいです。 -- 名無しパチュ (2012-09-25 20 20 51) ↑同感、ゆっくり虐待する人ってなんかこう・・・病んでるんだろうね。 -- 名無しさん (2012-12-13 07 06 17) 絵本みたいにほのぼのしてるな。 -- 名無し (2014-02-14 07 51 47) 名前 コメント
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二人のお兄さんと干しゆっくり 軒に吊るしたゆっくりが泣く。 「ゆっくりさせちぇね!」 「おねがい おろしちぇね!」 「でいぶのあかちゃんたちを だずげでねぇぇぇぇ!」 干しゆっくりを作っているのだ。 山で取ってきたれいむとまりさと赤ちゃんの一家。 本物の干し柿だとヘタの部分をつなぐが、こいつらの場合はやり方を変えた。 一匹ずつ縦に穴を開けて、小さい順に一本の荒縄を貫通。 一番下に結び目を作って、軒にぶら下げた。だんご三兄弟ならぬ、だんこ干しゆっくりだ。 「はやく はなしてねぇぇぇぇ!」 痛くてポロポロ涙を流しながら、風に吹かれてくるくる回っている。 餡子の中心の大事な部分はうまくよけたので、即死はしない。 見れば遠くの山はすでに真紅に染まっている。紅葉と紅白黒白の取り合わせが目にも鮮やか。 「ううむ、絶景だ」 俺が縁側で満足してうなずいていると、一番下のまりさのやつが、ギロッとにらんで言いやがった。 「おにいさん! おぼえてるんだぜ! まりさがきっとしかえししてやるんだぜ!」 「ハッハッハ、できるものならやってみろ! このマヌケなちょうちん饅頭が!」 俺は高らかに笑って、まりさの頬を軽快にはたいた。 びしばしずべし。 みっちりと水気が詰まっている。収穫はまだまだ先だな。 「いだああぃ、なにするんだぜぇぇぇぇ!!」 まりさはとたんに泣き顔になってわめいた。はっは、根性のないやつだ。 だが微妙に物足りない。そうか、お帽子だ。お帽子攻撃をするのを忘れていた。 そのお帽子はひとつ上のれいむとの間で、ぺちゃんと潰れている。 さてどうするかと考えていると、庭先の木戸を開けて一人の男が入ってきた。 「イヨー、やってるな」 これは近所に住むNという男で、俺と同じ趣味を持っている。 つまり、いわゆる虐待お兄さんだ。 だが俺は最近、この男との意識の違いを感じるようになっていた。 Nは俺のそばまで来ると、ゆっくり一家を見上げ、口の端を吊り上げて言った。 「ケッ、いつみても胸糞悪くなる」 「ゆゆ!? あたらしいにんげんさん? はやくれいむたちをたすけてね!!!」 「たちゅけてねえぇぇぇ!」 母れいむの声にあわせて、子供たちが叫んだ。 どんなときにも頼みごとをするというのは、これはこれで美点かもしれん。 こいつらは性善説の信奉者なんだろう――と俺が思っていると、Nが怒鳴った。 「っせぇクソ饅頭どもが! べらべらしゃべんな、空気が臭くなるんだよ!」 「どぉじでぞんなこどいうのぉぉぉぉ!?」 「黙れっ!」 Nは手を伸ばして、上のほうのちびゆっくりをつかんだ。 「ゆっ?」 一瞬、助かるのかも、と期待に顔を輝かせるちびれいむ。 だが次の瞬間には激痛に顔をゆがめた。 「いちゃいいちゃい! ひっぱらないでねええええ!」 Nに引っ張られて、ちぎれそうになる。真ん中を貫通した縄が、ギシギシとこすれる。 「おねえぢゃんを はなぜぇぇぇぇ!!」 「いもうどを はなぢでねぇぇぇ!!」 「やめてあげてね! やめてあげでねぇぇぇ!」 「それはまりざのあかぢゃんだぜえぇぇぇぇ!?」 家族の絶叫が響く中、Nはことさらにゆっくりと、ちびをちぎりとった。 メリ……メリ……ミチミヂッ……ヴチッ! 「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!! あ゛っあ゛っあ゛っ!!」 Nの手の中でわさわさと狂乱する、ちびゆっくり。 それを見せ付けられ、声もなく震える家族。 ぼろり、と割れた柿のように頬が裂けてしまったちびれいむを見せつけ、ニヤニヤと笑うN。 俺はNがゆっくりを食べるんだと思った。自然、苦い顔になる。 「勝手に食わんでくれよ、穴を開けるのも手間だったんだから」 「悪いな。でもこんな連中、食うまでもないだろ」 言うが早いか、Nはちびれいむを庭に放り出した。 「あ゛っあ゛っあ゛っ お が あ ぢゃっ い だ い だ ず げ で」 虫の息のれいむが、餡子をボロボロこぼしながら這い回り、砂まみれになっていく。 「おちびちゃん! おぢびぢゃぁああぁぁんん!!!」 何もできない母れいむの絶叫が、秋空に響く。 「おーい、早く助けにいけよー。今ぺろぺろすれば直るかもしれんぜ」 Nが底意地の悪い声で言う。 「ゆぐううぅぅぅ! ゆぐぅぅぅぅぅうぅぅ!! おぢびぢゃぁぁんぁん!!」 「ゆっぐりっ! ゆっぐりじでねっ! ゆっぐりじでいっでねぇぇ!!」 涙を滝のようにだらだらと流す一家。上の涙が下に注ぎ、カスケードになっとる。 顔は真っ赤で口はわなわな震え、慟哭というのはかくあらんかというような嘆きっぷりだ。 慰めの言葉もむなしく、土の上のちびゆっくりは、最後のあがきを遂げた。 わさっ わささっ 「もっちょゆっくち……ちたかっ……た……」 ちびは、裂けて汚れたゴミのような姿で、短い生涯を終えた。 そこを見計らってNがゆっくり家族に向き直り、両手を広げて語りかけた。 「ほら、ほら! なあ、おまえらよ、なぜ子供を助けなかったんだ! なぜ!」 「ゆう゛っ!?」 「母親なら助けろよ! それが家族ってものじゃないのか?」 「だ、だって、れいむはなわがささって、うごけなかったよ!」 「縄が刺さっただ? そんなことがなんだ。あの赤ちゃんはその縄でちぎられる苦しみを味わったんだぜ?」 「ゆ゛っ……」 「母親ともあろうものが、同じ苦しみに耐えられずに、黙って見てたわけだ!」 「ゆ゛ゆ゛ぅ……!」 「痛いからいけない、縛られているからいけない、それを言い訳にして見殺しにした! 見殺しだ!」 「ゆぐぐぐ、そんなこといわないで――」 「見殺しだ、子殺しだ! おまえは子殺しの汚いれいむなんだ! なあまりさ、なあ子供たち! どう思うよ! え?」 「ゆ……おかーしゃんに、おねーちゃんをたちゅけてほちかったよ……」 「そうだろうそうだろう!?」 「ぞんなごどいっでも むりだっだものおぉぉぉ!!」 「子殺し! 自分のことしか考えない、心のみにくい、子殺しれいむめ!」 Nの叫びにあわせて、いつしか母れいむの上と下から、家族の冷ややかなまなざしが浴びせられた。 母れいむは蒼白になり、泣き喚く。 「やめでねぇぇぇ! そんなこどいわないでねぇぇぇぇ!!!」 「ヒャーハハハ、子・殺・し! 子・殺・し!」 手を打って囃し立てるNを、俺は複雑な気分で見つめていた。 夜半に昇った月が、ゆっくり家族から落ちる滴をキラキラと光らせる。 「ゆっぐ……ゆっぐ……」 泣き寝入りしたれいむと、絶望した顔の家族たちが、軒でゆっくりと回っている。 俺は座って、考えこんでいた。 俺は虐待お兄さんだ。それは認める。 では、あのNのような男と同類なのだろうか。 ゆっくりに罪をなすりつける、歪んだ心の持ち主なのだろうか。 俺はゆっくりを汚いとは思わない。醜いとは思わない。 Nはゆっくりを憎悪している。侮蔑している。 それなのに、同じ虐待お兄さんなのだろうか。 「ゆぅ……おにいさん、おにいさん」 「ん?」 見上げると、一番下のまりさが目配せしていた。おれは顔を寄せる。 「まりさを にがしてほしいんだぜ」 「何いってやがる」 「まりさをにがしてくれたら、ほかのゆっくりのすをおしえるんだぜ! もっとたくさんゆっくりがいるぜ!」 俺は顔を離し、上目遣いで媚びた笑みを浮かべているまりさを見つめた。 そういえば、お帽子攻撃がまだだったな。 俺は無言で一番下の大きな結び目をほどき、ずるりとまりさを抜いてやった。その上にも結び目があるので、れいむは落ちてこない。 まりさを地面に下ろすと、「ゆぐっ!」と少し餡子を吐いた。底とてっぺんに穴が開いているのだから、無理もない。 だがまりさは、歯を食いしばって耐えた。 「ゆぐぐぐ……こ、これぐらいなら、ゆっくりなおすよ!」 見上げたものだ。命根性の汚さはピカイチだな。 「おにいさん、ありがとう! ゆっくりにげるね!」 ニヤニヤ笑いながら逃げようとした瞬間に、俺はまりさの帽子を取り上げた。 「ゆうっ! まりさのおぼうし! おぼうしとらないでね!」 さっきまりさを外したばかりの縄の下端に、その帽子を結びつけた。地上から1メートル半、縁側から80センチばかりの高さだ。 「かえして! かえしてね! まりさのおぼうし、だいじだよ!」 困り果てた顔になって、帽子の下でぴょんぴょんと飛ぶ。舌までンベッと伸ばしている。 その、懸命で無力な姿を見つめて、俺は声をかけた。 「なあ、まりさよ」 「はやく、おぼうし!」 「俺はおまえたちが大好きなんだ」 「おぼうし、おぼうしがないと……ゆっくりできないよ、ゆっくりできない!」 うろたえて大汗をかき、おたおたと周りを見回す。先ほどの不遜な自身は影も形もない。 「そのヘタレでチキンなところも大好きだ」 「おぼうし、とりかえすよ!」 まりさはひぃひぃ言いながら縁側に這い上がり、そこから伸び上がった。 メロン程度の背丈しかないから、やっぱり届かない。 「おまえたちが、馬鹿なりに懸命にがんばったり、安直ではあるけれど、笑ったり泣いたり、しあわせ~をするのが大好きなんだ」 「おぼうし、ゆっくり、とるよっ!」 びょんっとジャンプしたが、届かず庭に落ちた。ブピッ! と噴水のように頭の穴から餡を噴いた。 あ、ちょっと面白い。 「決してお前たちを軽蔑なんかしない。心から愛してるよ」 「ゆっぐ、ゆっぐ……おぼうしいいぃぃぃ!!!」 「そんな俺と昼間のN、おまえらはどっちが好きだ?」 俺が言ったとたん、まりさは振り向き、目を三角にして怒鳴りつけた。 「どっぢも だいっぎらいに ぎまっでるでしょおおおおおおおおお!!!?」 「ま、そうだろうな」 俺はあっさりと迷いの思惟から抜け出した。 ごちゃごちゃ考えて何の益がある。ためらいがあるなら、虐待を止めればいいのだ。 それをしないならば、俺たちは同種だ。どちらも下劣な、猥褻な虐待お兄さんなのだ。 俺はまりさを捕まえ、別の縄に通して、れいむたちの隣にぶら下げた。 「にがしてくれるんじゃなかったのぉぉぉ!?」 「どうせ帽子なしじゃ、ゆっくりできないんだろうが」 うるさく騒いでいると、隣のれいむたちも目を覚ました。 「ゆゆっ? まりさ、どうしておとなりにいるの!?」 「こいつは自分ひとりだけ逃げようとしたんだよ」 「うぞでじょぉおおお!? まりざ、れいぶをみずでだのおぉぉぉ!?」 「だっでだっで、まりざ、じにだくながったのおぉぉぉぉ!!」 「まりさおかーしゃん、ひどいよぉぉぉぉ!!」 月夜の軒に、狂乱ゆっくりたちがふた房。 こいつらが、しわしわに乾ききるまでの一ヵ月あまりを想像して、俺はつぶやいたのだった。 「……日本酒、買ってくるか」 * * * * 愛餡男ことアイアンマンです。 この話は、干しゆっくりたちの乾燥と、うめき声を一ヵ月にわたって書くつもりでした。 でもちょっと変わってしまいました。 干しゆっくりにはまだいろいろと書き方があると思います。 家族をつないで一匹だけ放置し、水と餌を持って来させるとか。 逆に一匹だけつないで、家族に水と餌を持って来させるとか。 冬ごもりの時期も来るので、餌も気温もギリギリで、いろいろ大変なことになるでしょう。 うまい展開を思いついた方は、自分も書いてみてください。 このSSに感想を付ける
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「ふたば系ゆっくりいじめ 984 お話しゆっくり 中編/コメントログ」
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「ふたば系ゆっくりいじめ 983 お話しゆっくり 前編/コメントログ」 ヒャッハー!!ゲスは惨殺ダー!!! -- 2012-04-21 12 43 08 スクールデイズだっけ? -- 2016-03-29 04 14 36
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※独自設定だらけよ!注意してね! ※人間さんの虐待は殆ど無いわね! ※『ちーと』なゆっくりが出てくるわ!いなかものね! ※ものすごく説明臭いわ!詰め込み過ぎよ! ※『お尋ねゆっくり』の続きだわ!……お、遅くなってごめんね、なんて言わないんだから! 書いた奴:一言あき 紅葉した葉が散り、すっかり冬支度を整えた森に生える一本の老木、その根元に開いた空洞の中にそれは居た。 冷たい地面がむき出しになった巣穴の中で、恐らく備蓄用であろう硬い木の実を噛み砕いているゆっくり。 一匹のゆっくりまりさが、巣穴の食糧を全て食い散らかしていたのだ。 「むーしゃむーしゃ、それなりー。……これっぽっちじゃぜんっぜんったりないよ。 まったく、のろまなおやをもつとまりさがくろうするよ。でも、まりさはやさしいからじじぃだなんてよばないよ!かんしゃしてね!」 死ぬ程自分勝手な独り言を漏らしているこのまりさ、実はれっきとしたこの巣穴の住人である。 八人姉妹の末っ子だった彼女は、色々足りない未熟ゆとして生を受けた。 本来、野生において未熟ゆが辿る末路はたった一つ。 『間引き』だ。 しかし、母性に目覚めた両親は間引く事が出来ず、未熟ゆに生んでしまった後ろ暗さから姉妹の中で特に目を掛けて育てた。 姉妹もまたゆっくり出来ない末妹をゆっくりさせようと、親にも勝る過保護な態度で接し……。 ものの見事にゲスまりさに育て上げてしまったのだった。 今、両親と姉達は必死になって冬籠りの食糧を集めている。 通常ならとっくに終わっていなければならない作業だが、末妹が片っ端から食い荒らすので全然集まらないのだ。 いくら言い聞かせても、 「まりさがこうなったのはおとーさんたちのせいでしょう!?」 と言われれば大人しく引き下がるしか無い。その結果が備蓄の一切存在しない巣穴の現状である。 そして現状を作り出した張本人は己の所行を認識しないまま、今日も見当違いの悪態をついていたのだが…… 西の空が赤く染まり、東の空からじわりじわりと宵闇が迫りつつある時刻になっても、両親と姉妹は帰ってこなかった。 「……まだかえってこないの!?まりさはぐずはきらいだよ!!」 最早一日で帰って来れる範囲の食糧は全て喰い尽くし、新たな狩り場へ足を伸ばした為に野営する羽目になって足止めされた家族の事情など知る筈も無い。 空腹を紛らわせる為に悪態をつき続けるまりさ。だが、ゆっくりの行動は体内の餡子を消費して行われるもの。大声で喚く行為であろうと当然餡子は消費される。 「おなかがすいたぁああああ!!だれか!!まりさをゆっくりさせろぉおおおお!!!」 腹が減ったストレスを暴れる事で発散させ、より腹を空かす。負の連鎖の見本のような光景が、巣穴の中で繰り広げられる。 やがて空腹のあまり錯乱したのか、まりさは巣穴の入口を隠していた『けっかい』を壊して外へと飛び出した。 「……もぉいいよ!あんなむのうなおやなんかより、まりさのほうがかりがうまいにきまってるよ!だからごはんをさがしにいくよ!!」 まりさは未熟ゆであった頃から巣穴の外に出た事が無い。 異端を許さないゆっくり社会では、未熟ゆのような明らかに異端の子供を生んだとバレたら即村八分、いや十分にされてしまうからだ。 それはまりさ自身にも及ぶ。ゆっくり殺しは大罪なので、流石に殺される事はあるまいが死ぬ一歩手前にまではさせられるだろう。そうなっては後味が悪い。 そんな九割の都合と一割の愛情によって、まりさは外の世界を知らぬままに一年近くを巣穴で過ごしてきた。 自ら動くこともせず、一年間怠惰に生きてきたまりさが一体何を出来るというのか。そのことに思い至らぬまま、まりさの姿は夜の森に消えていった。 まりさが巣穴を飛び出した頃、老木から少々離れた場所にある茂みの中に九つの影が潜んでいた。 バスケットボール程の大きさのまりさとれいむ、そして一回り小さな三人のまりさと四人のれいむが、身を寄せ合って一固まりになっていたのだ。 「おかあさぁん……こわいよぅ……」 「しっ!おおごえだしちゃだめなんだぜ!」 心細くなったのか、一人のれいむが母れいむに縋ろうとするのを、父まりさが止める。 「……よるはれみりゃのじかんなんだぜ。おおごえをだしたり、うろつきまわったりしてたら、たちまちみつかっちゃうんだぜ」 「……ゆぅうううん……わかったよ……」 日が落ちる前におうちに帰り着けない事を察したまりさ達は、れみりゃが起き出さないうちにこの茂みで野営をする事を決めた。 れみりゃ等の捕食種対策で最も有効なのは『空から発見されない事』。背の高い草や灌木が作る茂みに隠れれば、物音を立てない限り見つかる確率は低い。 「……おうちでおるすばんしてるおちびちゃん、だいじょうぶかな………」 「……れみりゃがあぶないっていうのはしってるはずなんだぜ。だから、よるにおそとへでかけたりしないんだぜ」 不安の眼差しをお家のある方向へ向けるれいむを、まりさが励ます。 餡子の分割による記憶の継承という、生物学に真っ向から喧嘩を売っているゆっくりの特性は、決して無意味ではない。 生物界最弱に位置するゆっくりには天敵が多い。それ故、生まれた時から餡子に刻まれた天敵の情報無くして生き残るのは難しい。 逆に言えば、ゆっくりが生まれつき『ゆっくりできない』と感じるものに近付かなければ、生存率は大幅に上昇するのだ。 餡子に刻まれた祖先の記憶、それはゆっくりにとって文字通り命綱であった。 「……でも……あのおちびちゃんは………それに、あそこは……」 「……しんじるしかないんだぜ。いままでだってへいきだったんだから、きっとだいじょうぶなんだぜ」 なおも不安を募らせるれいむに、慰めと励ましの言葉を重ねるまりさ。 しかし、その言葉を一番信じていないのはまりさ自身に他ならなかった。 乱立する木々の合間から冷たい月の光が見え隠れする夜の森を、巣穴を飛び出したまりさが当ても無いままうろついている。 「ゆっ!おいしそうなくささんだね!むーしゃむー……ゆげぇえええっ!!これどくはいってる!!」 目に付いた毒々しい色の草を咀嚼して、あまりの渋さに餡子を吐き出しそうな嘔吐に襲われる。 解り易い見た目のおかげでゆっくりの間でも有名な毒草だったが、まりさは存在自体知らなかった。 「こっちのほしくささんならたべられそうだね!むーしゃむー……げろまずぅううううううっ!?……ぺっぺっ!!」 巣穴に敷き詰められていた干し草にそっくりな枯れ草を口に含み、あまりの味気なさに吐き出してしまう。 瑞々しいうちに天日に当てて乾燥させた干し草と、生気を失い腐るのを待つだけの枯れ草の違いを、まりさは理解していなかった。 両親が危惧した通り、まりさはゆっくりが生まれつき持っている筈の知識、その大半を知らなかった。 未熟ゆとして生まれた為に餡子の継承がなされておらず、家族の過保護により新たに学習する機会も得られなかった為に起きた悲劇である。 「くささん、どおしてまりさにいじわるするのぉおお!?むしさん、ゆっくりしないででてきてねぇええ!!」 だが、最大の悲劇は『まりさ自身が、己の無知を知らない』ことに尽きる。否、それは最早悲劇を通り越して喜劇ですらあった。 食用になる植物の見分け方も、効率的な虫の捕り方も、そもそも何故冬籠りが必要なのかさえ、まりさは知らずに生きてきた。それを当然だと思いながら。 そしてそのツケは、翼を持った使者の姿をとってまりさの元に降り立った。 「う~☆う~☆」 「ゆ!?ゆっくりがおそらをとんでるぅうう!?」 蝙蝠の羽根を羽撃かせてまりさの前に現れたのは、一匹の胴無しれみりゃだった。 しかし、まりさには突如出現した『おそらをとぶゆっくり』への驚愕こそあれど、捕食種への恐怖や警戒は微塵も無い。捕食種の存在すら知らなかったのだから当然なのだが。 「う~……?」 己を見て怖れもしないまりさの反応に、胴無しれみりゃが困惑する。 予定では逃げ出したまりさを『ある場所』へ追い詰める手筈だったのだが、このまりさは予想に反して無防備にその場で突っ立ったまま。 「ゆうぅ、まりさがかわいいからって、そんなにみつめられるとてれるよぉ……」 頬を染めてそんな世迷い言をのたまうまりさを一瞥し、れみりゃは再び羽根を羽撃かせて夜の闇に消える。 「ゆっ、きっとまりさにごはんさんをみついでくれるんだね!たくさんでいいよ!」 後に残されたまりさは一連の行動を都合良く解釈し、れみりゃをその場で待つ事にした。 『……ちがう……』 「ゆんゆんゆ~ん♪きゃわいくってごめんね~♪きらっ☆」 『……ちがうよ……』 「……おそいね。まりさはおなかがすいてるんだよ!ゆっくりしないではやくもってきてね!」 『……そうじゃない……』 「ゆぅううううっ、どぼじでいじわるするのぉおおっ!?はやくしてねぇえええっ!!」 『……そこにいちゃだめ……』 「ゆわぁあああんっ!おながずいだぁあああっ!!ばやぐじろぉおおおおっ!!」 『……にげて……』 「ゆがぁああああっ!ばりざをゆっぐぢざぜろぉおおおおおっ!!」 『……そこからにげて……!!』 「う~☆う~☆」「まんまぁ~☆あれがこんやのでなーだどぅ~?」 「ゆっ!?へんなゆっくりがいるよ!?……おかおのしたにおかざりをつけるなんて、ゆっくりできないね!ゆぷぷっ……」 「……こいつ、れみぃをわらったんだど~!『こーまかん』のおぜうさまにぶれいなまねをするやつだど~!」 『やめて……!!』 「ゆっ!?おそらをとんでるみたい!」 「う~☆」「こいつも『おりょうり』するんだど~?まんまの『おりょうり』は『ぷっでぃ~ん』みたいにあまあまだからだいすきなんだど~☆」 『いやだ……!』 「『こーまかん』にとうちゃく、なんだど~☆」「う~~っ☆」 「ゆゆっ、なんだかゆっくりできないよ!……ゆ゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!?な゛に゛ごれ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!?!?」 『いやだいやだいやいやいやいやいやいや……』 「ばな゛ぜぇ゛え゛え゛え゛え゛!!お゛う゛ぢがえ゛る゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛!!」 「うるさいんだど~☆まんま、はやく『おりょうり』しちゃうんだど~☆」「うーっ☆」 『いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……』 「あがががが……」 「これであとはくちをふさぐだけなんだど~☆ゆっくりおいしくなるんだど~☆」「う~~~~っ♪」 「『い゛や゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!!!!!!』」 『お話しゆっくり 後編』 日の光が差し込まないよう、暗幕を幾重も重ねた薄暗い土蔵の中で、化け物まりさは目を覚ました。 酷く懐かしく、そして怖い夢を見た気がする。だがそんな些細なこと、まりさにはどうでも良かった。 なぜなら、まりさが置かれている状況の方が余程悪夢じみていたからである。 傷だらけだったお顔の皮は、水溶き小麦粉を何重にも塗られて必要以上に分厚くなっており、弱った餡子では動かす事すら出来ない。 お口や目玉を失った眼窩は抉り取った上でワンタンの皮で塞がれて跡形も無く、止めどなく涙を流す隻眼が無ければまるでのっぺらぼうだ。 天辺禿だった髪型が丸禿にグレードアップしており、『被検体六百六十六号』の焼き印がちょっとしたアクセントになっていた。 風呂敷のように広げられたあんよは数十本の釘で厚い板に固定され、更にその上からバーナーで炙られて最早ピクリとも動かない。 ぺにぺには切り落とされ、まむまむやしーしー穴、あにゃるに至るまで丹念に灼き塞がれている。もうすっきりーっ!はおろか、しーしーやうんうんも出来ないだろう。 失ったお口の代わりに、頭頂部に刺さったオレンジジュースの点滴がまりさの命を繋いでいた。必要最低限に調整されたそれは今もまりさを強制的に生かし続けている。 死にたいと思っても死ねない、文字通りの生き地獄。そして瞼を切り取られ、決して閉じないようにされたまりさの隻眼は、目の前の地獄をありありと映し出していた。 「さくやぁぁぁぁっ!ざぐや゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!!」 「あがぢゃぁああああん!!うまれちゃだめなんだどぉおおおおお!!」 「ぼう゛や゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!あ゛がじゃ゛ん゛う゛み゛だぐな゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」 「う゛ー!!う゛ー!!」 そこそこ広い土蔵の中を埋め尽くすかのように置かれていたのは、無数の金属で出来た檻。 本来猛犬などの凶暴な生物を閉じ込める筈のそれに収まっているのは、まりさの群れを全滅させたあのれみりゃ達だった。 「「「「「う゛~っ☆まんまぁ~☆ゆっく「はいはい回収回収っと」ゆ゛っ゛!?」」」」」 「う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!れ゛み゛ぃ゛の゛お゛ぢびぢゃ゛ん゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 檻の中でもがくれみりゃから伸びる茎、そこから実ゆが生まれ落ちると同時に白衣の人間に奪われる。 赤れみりゃは親へのご挨拶すら出来ないまま、何処かへと運ばれていく。 「うぁああ゛あ゛あ゛っ゛……お゛ぢびぢゃ゛ぁ゛ん゛…………せめて、ゆっくりしていくんだどぅ………」 以前のまりさなら、涙に暮れる今のれみりゃを見れば思いっきり嘲笑していただろう。しかしこの土蔵に繋がれてからは、そんな気は全て失せた。 あの恐ろしいれみりゃが成す術無く拘束され、強制的に孕まされた挙げ句生まれてきた子供達を奪われる。 抵抗らしい抵抗も出来ず、繰り返される悲劇に嘆くれみりゃ。その姿からはあの戦いでの迫力は微塵も感じられない。 まりさは心から恐怖した。あのれみりゃがここまで弱々しくなる程追い詰められた事に。それを為した、たった三人の『人間』に。 土蔵の扉が重々しい音と共に開かれる。と、同時に土蔵の中が騒がしくなった。 「さっさとまりささまをはなすんだぜくそどれい!いまならはんごろしでゆるしてやるんだぜ!!」 「れいむはしんぐるまざーなんだよ!かわいそうなんだよ!だからじじいはあまあまよこしてね!!」 「まったくなんていなかものなのかしら!しゃざいとばいしょうにびけいのまりさをようきゅうするわ!んほぉおおおおおっ!!」 コンテナに詰め込まれ、口々に勝手な事を喚くのは土蔵の持ち主が経営する加工所から持ち込まれたゆっくりだった。 一斉駆除で捕まった野良、ゲスに堕ちた飼いゆ、加工所の生産ラインから撤去されたレイパー、様々な種類のゆっくり達が罵声を上げて喚き散らしている。 そしてまりさは、数刻の後にはその罵声が断末魔の悲鳴に変わる事をよく知っていた。 何故なら、彼女達はれみりゃの『食糧』兼『遊び道具』だったのだから。 コンテナは土蔵の真ん中まで運ばれると、乱暴に押し倒される。 横倒しになったコンテナから放り出されたゆっくり達は、文句を付ける為に顔を上げて、自分達を爛々と見つめる無数の視線と目が合った。 「「「「「「「「「「ゆ゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!れ゛み゛り゛ゃ゛だぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」」」」」」」」」」 ゆっくり達の絶叫を合図に、同時に開け放たれるれみりゃの檻。胴付き、胴無しの区別無く、れみりゃ達は一斉にゆっくり達に襲い掛かった。 「やべでぇええ!!でいぶをだべないでぇええ!!ゆぎゃぁあああああああっ!!」 「ばでぃざがわるがっだでず!ぼうにんげんざんにばざがらいばぜん!!だがらばでぃざをだずげっ!!」 「どぼじでぇええ!!ありずはどがいばにあいじだだげよぉおおお!!ありずじにだぐなびゃっ!!」 動けないまりさを納めた檻の外で繰り広げられる地獄絵図。 ゆっくり達は必死で逃げ惑うが、全ての出口を閉ざされた土蔵の中では隠れる場所なぞ限られている。 「ここはれいむのばしょだよ!まりさたちはゆっくりれにりゃにたべられてね!!……ゆぎゃぁああああっ!!」 「へっへっへっ、まりささまをゆっくりさせないげすをせいっさいっしたんだぜ!これでたすかるんだじぇぇええ゛え゛え゛え゛っ゛!?どぼじででびりゃにみづがっでるのぉおお!!!!」 「……あんなにさわいでいたら、だれだってきづくんだどぅ~?」 僅かな隠れ場所を奪い合ってあちこちで醜い争いが起きるが、勝利者になった途端に騒ぎを聞きつけたれみりゃに齧られ、敗者の後を追う。 逃げ惑うゲスゆっくり、それを貪り、虐殺していくれみりゃ。まるで『あの夜』を再現したかのような光景に、まりさは全滅した己の群れを重ね合わせる。 『どうしてまりさをだましたの?』 『どうしてれいむをたすけてくれなかったの?』 『どうしてありすをみすてたの?』 『……どうして、まりさだけがいきのこってるの?』 断末魔の絶叫が、まりさを責め立てる声となって彼女を襲う。聞きたくなくても、塞ぐべき耳も手も持たないまりさにはそれを防ぐ手段は無い。 まりさの餡子が抱く妄想が死者の怨念となってまとわりつく。きっとこの声はまりさのゆん生が続く限り途絶える事は無いだろう。 (ごべんなざい……ごべんなざい……、うばれでぎで………ほんとうに、ごべんなざい…………!!) まりさには解っていた。この結末を招いたのは他ならぬ自分自身である事を。 人間の強さを知らなかった。ドス達の実力を見くびっていた。群れを指導する事無く放置した。沢山のゆっくり達を不幸にした。家族の思いを無駄にした。 何もかも、まりさが生まれてきてしまったのが原因である事を、彼女はようやく自覚したのだった。 (ごべんなざい……ほんとうにごべんなざい……だがら……だがら、ばでぃざをごろじでくだざい!!) 最早生きている事自体が苦痛だった。しかし、まりさに繋がれた点滴が送り出すオレンジジュースを決して飢えさせない。 『おたべなさい』をしようにも、口を無くした今となっては到底不可能。拘束された体は自殺すら許さなかった。 最後にまりさに残されたのは、『ゆっくりをうしなったゆっくりはしぬ』という希望だけ。 この生き地獄にゆっくりなぞ一欠片もありはしない。まりさはただ、己がゆっくり出来なくなるその日を待ち続けた。 「おい、午前の餌やり終わったぞ」 「はい、ご苦労様です。五月蝿かったでしょう?」 「そりゃそうさ。何しろ、俺の加工所に持ち込まれた生え抜きのゲスばかり取り揃えたからな。 あいつら、数は多いくせに品質がいまいちだから加工には向いていないし、丁度良い処分方法を思い付いたもんだぜ」 「無駄が無くて良いじゃありませんか。エコロジーですよ」 「……そういや、何で生き餌に切り替えたんだ?前みたいに餡子ペーストにしてからチューブで流し込めば、いちいちこんな事しなくて済んだんじゃねぇか?」 「あれ、話してませんでしたか?ほら、以前ここから脱走した胴無しがいたでしょう?あれの再発を防ぐ為ですよ。 完全拘束しての出産は効率は良いんですけど、母体に掛かるストレスが半端じゃないんです。拘束を止めて檻に放り込むだけにして、生き餌でストレスを発散させてるんです。 こないだのゲス迎撃以降、出産効率が上がったんで試しに導入してみたんですが、お陰で拘束していた頃より有望な個体が生まれるようになってますよ」 「ふぅん……、そうそう、ゲスと言えばあのまりさ、何で生かしておくんだ?しかもあの土蔵に拘束なんかしてまで?」 「あれですか?あれも実験の一環ですよ。『ゆっくりの耐用年数を伸ばす』為のね」 「耐用年数?寿命の事か?確か、ゆっくりの平均寿命って五年くらいだろ?」 「まあ、平均はそれくらいですが、飼いゆっくりの中には十年近く生きた事例もありますし、ドスに至っては五十年以上生きたって記録もあります。 ……いずれも相当『ゆっくり』していたようですが、この研究の目的には合わないんですよ」 「合わない?……ああ、そうか。労働力として使うなら、『ゆっくり』なんてさせらんないわな」 「そこで、敢えてゆっくり出来ない状況に追い込んだ上でどれだけ長く生かしておく事が出来るのか、それをあのまりさで試してみようってことになりまして」 「……前々から思ってたけどよ、虐待派の俺の方がゆっくりに優しく思えるのは人間としてどうなんだ?」 「失礼ですね、女性に向かって言う台詞じゃないですよ?」 「……今更だろうが。むしろ籍まで入れといて未だに他人行儀なお前の方が失礼だっての」 「それこそ今更でしょう。さて、研究に戻りましょうか。……本当はあのドスを調べてみたいんですが」 「止めとけ止めとけ、あのドスと群れはあいつの保護下にあるんだぞ?名目上は『野良』でも実質『飼いゆ』扱いだし、あの群れ村民に人気あるしな」 「まあ、いいでしょう。流石にあんな善良で優秀な群れをどうこうする程、私も鬼じゃありませんよ」 「……説得力無ぇな……」 「何か言いましたか?」 「いや別に」 山と、その麓に広がる森が霞んで見える農村の一角。 ドスまりさは古びた毛布をしっかり体に巻き付け、その上から大量の藁を被って溜め息を吐く。 今日はやたら冷え込む。雲行きも怪しかったし、もしかしたら雪になるのかも知れない。 ドスに割り当てられた『おうち』兼、ゆっくり達の『集会所』は、トラクターやコンバインのガレージをベニヤ板で仕切った簡素なもの。 しかし、三メートルに届こうかと言うドスの住まいとしてはこれ以上無い良物件だった。 ここを貸してくれた人間さんの厚意で藁や毛布が大量に用意され、餡子が凍るような寒い夜でもこうしてぬくぬくと過ごしていられる。 群れのゆっくり達も、それぞれのお家で今までに無い快適な冬を過ごしている筈だ。 ゆっくりの身では到底為し得ない業を、ごく簡単に実現させてしまう人間の力には感嘆するばかりだ。ドスは自身の判断が間違っていない事を確信していた。 『お前らが人間のルールを守ってゆっくりするんだったら、住む所を分けてやっても良い。人間の手伝いをするなら、食べ物も分けてやろう。 その代わり、人間に迷惑かけたらお前ら全員加工所に引き渡す。加工所で散々苦しみ抜いて死ぬか、人間の役に立つか、それともこのままのたれ死ぬか、好きなのを選べ』 あの日、あの森で出会った『おにーさん』の提示した条件に、ドスと群れは首を縦に振った。 加工所云々は解らなかったが、きっと悪いゆっくりをゆっくりさせない場所なのだろう。それなら問題は無い。 ドスの群れは森中に名を轟かす程優秀なゆっくりで構成されている。人間さんの掟を知る為の時間は必要だろうが、決してゲスに堕ちたりはしないとドスは確信していた。 そうして連れてこられた人間さんの村は、ドス達からすれば奇跡としか思えない世界だった。 大きくて広いお家が幾つも建ち並び、美味しそうなお野菜が列をなして生え、巨大なスィーが幾つも行き交う。 そしてそれら全てが人間さんの手で作られていたという事実に、ゆっくり達の常識は容易く覆された。 それからは正しく怒濤の日々。 人間さんのルールは複雑で覚えにくく、罰則は途轍も無く厳しい。ゆっくり向けに簡略化されたルールでさえ、群れ全員が理解するまで三日掛かった位だ。 ドスのお家は『おにーさん』のガレージを借りる事で決着がついたが、五十を割るとはいえ大量のゆっくりを住まわせるにはお家が足りない。 最初は『おにーさん』のお家の床下を借りていたが、すきま風が素通りする床下は冬籠りには適していなかった。 何より、人間さんはゆっくりを嫌ったままだ。聞けば、かつてゆっくりの群れに襲われて以来、ゆっくり嫌いの人間さんが増えてしまったと言う。 ドスまりさと群れのゆっくり達は心から謝罪した。村長と、村の重役達と、群れに憎々しげな目を向ける村民達に、お飾りを脱いで顔を地面に擦り付けんばかりの土下座をして。 『自分達の同属が迷惑を掛けた』、『自分達は人間さんと仲良くなりたくてここに来た』、『同属が迷惑掛けた分、自分達の出来る限り賠償を払う』、『だからここに住まわせて欲しい』……。 仲立ちしてくれた『おにーさん』が身元引き受け人として名乗り出てくれたお陰で、ドス達はどうにか村の外れにお家を造る許可を得た。 冬はすぐそこまで来ている。もうなりふり構っていられない。ドス達はひたすら人間さんの信用を得る為に必死に働いた。 畑仕事の補助を筆頭に、お庭の雑草むしりから村中のお掃除に至るまで。意地悪な人間さんも居るには居たが、誠実で身の程を弁えたドス達は概ね好意的に受け入れられた。 それでも完全に打ち解けるには二ヶ月の時間が必要だった。もうその頃には『人間と暮らすドス』の噂はかなり広まっていた。 そして本格的な冬籠りの準備に入ろうとしていた矢先、噂を聞きつけたゆっくり達が群れに入れて欲しいと現れたのである。 最初はドスも村人も渋ったが、ゆっくり達のリーダーだったまりさがもたらした情報が事態を急変させた。 『おやまのふもとのもりが、ゆっくりできないゆっくりたちにのっとられているんだぜ!!もりのたべものもほとんどたべちゃっていたから、ここにもくるかもしれないんだぜ!!』 この情報を受け、村でゆっくりの研究をしていた村人三人に、ドス達の身元引き受け人だった『おにーさん』を含めた『ゲス対策委員会』が発足。 ゲスを殲滅せんと息巻く『彼ら』に、ドスは一つの提案をする。 『ゆっくりの事は、ゆっくりに任せて欲しいよ。まりさ達が、ゲス達を制裁するよ!』 その言葉に『負けたら加工所行き!』という条件で許可を出した委員会。そしてドス達はある『作戦』を提案した。 スパイとしてちぇんを送り込み、ゆっくりでも扱える武器を調達し、それぞれの種属の長所を生かして遅滞戦闘を仕掛け、投光器により時間を誤認させて、れみりゃの大群で敵を殲滅する。 余りに過激な案に反対意見も出されたが、ゆっくり達はこの案を全会一致で可決。委員会の面々もそれを了承し、バックアップに専念した。 かくして『作戦』は実行され………二千二百十一匹のゲスはこの世を去り、森と村には平穏が訪れたのである。 しかし、ドスまりさには平穏は訪れなかった。 ドスは最近よく眠れない。顔色も悪いので、群れの皆や人間さんにも心配されているが「何でもないよ、大丈夫」と誤魔化している。 「本当に大丈夫か?その顔色はただ事じゃないぞ?」 「大丈夫だよ。ちょっと最近寝不足なだけだから、すーやすーやすれば平気だよ!」 家主である『おにーさん』にもそう説明している。嘘ではない。嘘ではなかったが、全く平気ではなかった。 毛布と寝藁に包まって、ドスはうとうととし始める。意識が朦朧として視界が暗闇に覆われる寸前、ドスの耳に凄まじい絶叫が届く。 『ゆぎゃぁああああああああっ!!でいぶじにだぐないぃいいいいい!!』 『ごべんなざぃいいいいい!!ばでぃざがわるがったのならあやばりまずがらぁああ!!ごろざないでぇえええ!!』 『ありずばいながものでずぅううう!!だがらゆるじでぇええええ!!ゆんやぁああああっ!!』 無数のゆっくりで埋め尽くされた大地。それを轢き潰しながらドスに向かって進んでくるのは、薄笑いを浮かべた人間さんが乗ったトラクターだ。 助命の嘆願も空しく、ゆっくり達ごと耕された地面から無数のお野菜が生えてくる。美味しそうに実ったそれは、ゆっくり達の命を啜って育ち、死臭を放つ呪われしもの。 いつの間にか目前にまで迫ったトラクターの運転手の顔を確認した瞬間、ドスの餡子は戦慄する。 そこにいたのは、邪悪な笑みを浮かべた『おにーさん』だったのだから。 「ゆぎゃぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!…………ゆ゛っ゛!?……ゆぅうう……また、この夢……」 魂消るような絶叫を上げてドスが飛び起きる。怯えた眼で周囲を見渡し、そこが薄暗いガレージであることを確認した彼女は安心と落胆が混ざり合った複雑な表情で溜め息を漏らす。 あの『作戦』以降、ドスはこうして夜毎に現れる悪夢に悩まされていた。 潰されて逝くゆっくりの顔ぶれはまちまちで、あのゲスの群れだったこともあれば、あるいはドス達の親であったり、ドスの群れのゆっくりだった事もある。 殺される方法も毎回違い、ある時は燃やされて残った灰を肥料として畑に撒かれ、ある時はお家にしていた木ごと伐採されて人間さんのお家にされ、ある時は八つ当たりの対象としてゴミのように潰された。 それを為す人間さんも様々で、『おにーさん』や委員会の面々、村長や村の重役、懇意にしている村人、果ては全く知らない人間に至るまで、沢山の人々が入れ替わり立ち代わりゆっくり達を責め立てる。 殺されるゆっくり、殺され方、殺す面子。 いずれも全くバラバラだが、すべてに共通しているのは『ゆっくりが人間さんの為に殺される』ことだった。 人間さんと暮らすようになって、ドスは一つの結論に達した。 化け物まりさにも語った『人間さんは自分達のゆっくりプレイスを荒らすものには容赦しない』という結論に。 人間さんがこのゆっくりプレイスを一から作り上げるのにどれほど掛かったか、どれほど努力したのかは十分過ぎるほど聞かされたし、その目でも見た。 だが、人間さんが言いにくそうにしていたことや、なるべく見せまいとしようとするものも見てしまった。 毎日土蔵に運び込まれる沢山のゲスゆっくり、かつて自分達の親を葬り去った凶悪な罠、田畑を荒らす害獣への容赦ない対応………。 ドスの聡明な餡子がその結論をはじき出すのは必然であった。 ドスは今の群れにはゲスはいないと確信している。だから人間さんも群れを受け入れてくれた。 しかし、次の世代はどうだろう。調子に乗りやすいゆっくりのこと、生まれたときから人間さんの保護を受けていたら『それが当然』と思ってしまっても不思議じゃない。 そうしたらどうなるのか?決まっている、人間さんを見下して高圧的に接し、人間さんの不興を買って群れごと滅ぼされるのがオチだ。 だからドスは群れのお家を作る許可を得るだけに留めた。お家自体は自分達で作る、それも木のうろや洞窟を利用したものではなく、人間さんのように一から作ることにして。 必要な資材や器具は人間さんから借り受け、使ったら賃貸料として人間さんにとって価値のあるものと一緒に返す。 使い古しのタオルや越冬用の食料の不足分など、あれば便利なものは労働報酬として獲得する。 人間さんの影響を完全に排除するのではなく、なるべく対等に近い条件で協力を得て、人間さんの脅威や実力を群れに刻み込もうと言う、ドス渾身の政策であった。 ドスが必死に考えたアイデアは上手くいき、胸を撫で下ろしたのも束の間。 新たな問題が浮上した。 『山の向こうから来た群れの受け入れ』と、『化け物まりさ来襲の可能性』。 如何に善良で優秀な群れであっても、それはゆっくり基準でのこと。ドスの群れのように、人間さんとの共存を前提に置くゆっくりとはかけ離れている。 その上、あの丘から自分達を追い出した化け物まりさの群れとこの村が交戦でもした日には、これまでのドス達の努力が無になってしまう。 ただでさえ厄介な問題が同時に起こった非常事態に、頭を抱え込むドスの耳元に……… 悪魔が、囁いた。 『ゆっくり達でゲスを殲滅して、人間さんに役に立つことをアピールすると共に、新入り達を従軍させて人間に逆らうゆっくりの末路を見せつけ、洗脳する』 普段のドスなら決して執らないであろう苛烈な『作戦』は、こうして始まったのだった。 『作戦』は見事に成功し、新入りや群れのタカ派に『にんげんこわい』の思想が植えつけられた。 だが、その為に化け物まりさの群れを生贄に差し出したドスの心中には鋭い棘が刺さったまま。 そしてその棘は夜毎に痛み出してドスを苦しめる。それはドスが生きている限り続くだろう。 あの時、人間の手を取ったことに後悔はない。人間とゆっくりの理想郷建設と言うドスの夢は、現在進行形で叶いつつある。 それでも、ドスは思ってしまうのだ。 あの丘で皆と試行錯誤しながら、自分達のゆっくりプレイスを作ろうとして一生懸命だったあの頃が一番ゆっくりしていた、と。 食べ物はある。立派なお家もある。飢えて死ぬゆっくりも、凍えて死ぬゆっくりも、この冬には出ないだろう。 けれども今のドス達は人間さんの顔色を伺う奴隷そのもの。群れの皆はドスの思考誘導もあってそんな風には見ていない。 それでも十年後、百年後、あるいは千年後、その事実に気づいたゆっくりが群れを率いて人間さんに反旗を翻す。そんな可能性は残っているのだ。 そこまで考えて、ふとドスは気付いた。 (……もしかして、最初に嘘を付いたゆっくりも、そうだったのかな……?) あのお話でゆっくり達に嘘を吹き込み、人間さんと殺し合うほどの仲違いをさせてしまった嘘吐きゆっくり。 もしも、その嘘がドスの考えた通りだったのなら……? 慌てて浮かびかけた最悪の妄想を振り払う。 (違う……違うよ。絶対、違うよ!!まりさ達は間違ってない!間違ってないんだ!!) 心の内に生まれた疑いは澱のようにドスの餡子で澱んでいる。 それが晴れることは二度と無い。ドスはそんな予感を漠然と感じていた。 ドスは気付いていない。 ドスの心に棘を突き刺した化け物まりさが、かつて自分達が所属していた群れを創設したぱちゅりーが残した罠の一つであることに。 ドスは気付いていない。 ドス達の存在がそのぱちゅりーの想定外であり、残された罠の悉くが不発に終わってしまったことに。 初代の長であったぱちゅりーは、全てのゆっくりを憎んでいた。そして己の死後、ゆっくり達が自滅に向かうように様々な罠を残した。 あの無能な三代目ぱちゅりーもその一つだった。 自身の存命中に長への依存を植え付けた群れと、プライドばかりを極端に大きくしたゲス。 根拠の無い自信に振り回される群れが崩壊したとき、残された群れのゆっくり達は新たなゆっくりプレイスを求めて四散する筈だ。 丘の群れの名声もかなり広めてある。理想郷からやって来たゆっくりなら、きっと自分達をゆっくりさせるに違いないと、そう考える群れも沢山あるだろう。 事実、ぱちゅりーの執った政策は厳しくはあってもゆっくり出来るものであった。それを真似れば、ある程度はゆっくり出来る筈だ。 だが、ゆっくりは調子に乗りやすい。感謝することも知らず、際限なく欲望を膨らませていく彼女達を抑え続けることはとても難しい。 ぱちゅりーはそれを抑える方法を知っていた。かつて飼い主に教わった『無知の知』、即ち自分自身の身の程を知ることである。 だからぱちゅりーはそれを教えなかった。養子であり、後継者だった娘にすら伝えなかった。 身の程を知らない群れのゆっくり達は、それぞれ迎え入れられた群れでぱちゅりーの政策を真似るだろう。そしてある程度の成功の後に……自滅するのだ。 そして同様のことが繰り返される。徐々にそれは広まっていき、やがて全てのゆっくりが自滅への道を辿り、ゆっくりと滅んでいく。 それがぱちゅりーの計画だった。 ぱちゅりーはこの計画に絶対の自信を持っていたが、保険として細かい罠を幾つか仕掛けていた。 群れで問題を起こしたゲスゆっくりの片目を潰して追放するのもその一つだった。 ゲスとは自分勝手なゆっくりだ。悪いことをしても全く反省しない。『自分のゆっくりを邪魔する方が悪い』、そう考えるのだ。 追放する際、片目を奪うのはぱちゅりーの群れを逆恨みし続けてもらうためだ。ゲスは『片目を奪われるほど自分が悪かった』とは考えない。 むしろ片目を奪ったぱちゅりー達を怨み続けるだろう。それはゆっくり特有の『自分に都合の良いように記憶を改ざんする』特性によってより大きな怨恨となって餡子に残る。 それは餡統が続く限り餡子のどこかに残り、子々孫々に至るまでゲス気質が受け継がれていく。そしてゲスは、いつか見当違いの怨みによってゆっくりをゆっくりさせなくする筈だ。 しかしこの案はアラが多い。かなりの部分を偶然や低確率で起こる現象に頼っており、計画性はほぼ皆無。 ぱちゅりーとてそれは重々承知しており、念の為に実行していたに過ぎない。 だが結果として、この穴だらけの計画こそが一番成功に近づいていたのだ。 化け物まりさの親が受け継いだゲス気質、それは未熟ゆだった彼女に隔世遺伝され、甘やかされた環境がそれを修正不可能なところにまで育てた。 そして幾つかの悪運が重なり、化け物まりさは森のゆっくりを全滅させる復讐を果たしたのだ。本人すら気が付かないうちに。 ぱちゅりーの唯一の誤算、それがドスまりさの存在だった。 ぱちゅりーの計画は全て『ゆっくりは自分の身をわきまえない』ことを前提としている。 だから洞察力に優れ、不断の努力を惜しまないドスと、向上心に溢れる群れの存在は完全に想定外だった。 ぱちゅりーの計画は、三代目の暴走まで完璧に進んでいた。しかしドスまりさ達のクーデターが全てを覆した。 保険のつもりだったゲス追放計画が軌道修正の役目を果たしたのは予測の範囲内かも知れない。だが、その後の展開は予言者ならぬぱちゅりーには予想すら出来なかった。 『人間との共存』。 ドスまりさの掲げた理想は、全くの無自覚の内にぱちゅりーの計画を根底から叩き潰してしまった。最早ぱちゅりーの復讐は叶う事は無い。 その代わり、ドスまりさは自分の理想が持つ矛盾に気付かされ、練獄の苦痛に堕とされたのだ。 人間の世界からゆっくりの世界を見た為に憎悪に身を焦がしたぱちゅりー。 ゆっくりの世界から人間の世界に飛び込んだ為に終わり無き苦しみに苛まれるドスまりさ。 生まれも、育ちも、思惑も理想も何もかもが対極にある二人のゆん生。 もしも出会っていたのなら、お互いのゆん生は大きく形を変えていた筈だ。 ぱちゅりーはゆっくりに絶望しなかっただろうし、まりさは理想と現実の狭間で苦しまずに済んだだろう。 でも、起きてしまった事は覆せない。過ぎてしまった過去は変えられない。 ぱちゅりーの復讐は終わってしまった。ドスはこれからも苦しみ続けるだろう。 誰の願いも叶わない結果。ほんの少しのすれ違いが招いた、悲劇の結末だった。 ……起きてるか?まりさ。 ……おう、ゆっくりしていけ。 明けましておめでとう。ほら、新年の祝いだ。お年玉代わりと言っちゃあ何だが、受け取ってくれ。 ……ん?これか?餅だよ。米を蒸して臼で搗いて伸ばしたものだ。まぶしてあるのはきな粉だよ。 ……え?『何でお餅をくれるの?』って、ああそうか、お前らには正月ってのが無いんだったな。 俺たちと違って春夏秋冬だけで済むんだ、単純でうらやましいよお前らが。 ……人間は今日から新しい一年が始まるんだ。正月って言ってな、餅やおせちを食べて祝うんだよ。 あとは……そう、お年玉って言うのはお祝いとして子供達に渡すお小遣いでな、正月にはこれ目当てで親戚の子供達が集まって来るんだ。賑やかだぞ。 お前達にはお小遣い渡しても使えないからな、代わりに餅を持ってきたんだ。 群れの連中の分もあるから、冷めないうちにお前さんから渡してやれ。 ……お前、なんか悩んでるだろ? ……いや、大丈夫じゃないだろ、俺にまで誤摩化さなくても良いぞ。 あのゲス退治以降、お前さんの様子が変だったからな。具合が悪いのかと思ったけど、夜中に悲鳴上げてたりしてたし、何か思い詰めているみたいだったし。 ……結構バレバレだったぞ?まあ他の連中も此処にゃ居ないし、話し相手位にならなってやるよ。 ……『このままじゃ、ゆっくり出来なくなるかも知れない』?何だそれ? ……ああ、そうか。お前、群れの奴らがゆっくりっぽくなくなってくのが怖いのか。確かにあれじゃ、飼いゆって言うより奴隷っぽいもんな。 ……何?『何で解るの?』? ……昔な、この村に来る前にゆっくりと暮らした事があったんだよ。短い間だったけどな。 ちょっと訳ありの奴らでな、普通のゆっくりには馴染めなかったんだ。 そいつも言っていたのさ。『自分達は普通のゆっくりじゃない』って。実際、普通のゆっくり達から迫害されていたよ。 ……でもな、そいつらは見も知らない『普通のゆっくり』達の為に戦って死んじまった。 ……そいつが言っていたんだ。 俺とそいつには餡子のつながりは無かった。でも俺たちは家族になれた。だから知らないゆっくり達でもいつか家族になれるかも知れない。だから戦うんだ、ってな。 ……お前が感じてる悩みがどれくらい深いのか、俺には解らねえよ。 人間とゆっくりは違う。生き方も、考え方も、何もかもが、な。 ……でも、人間とゆっくりでも家族に位なれるんだ。 今は無理でも少しずつ少しずつ、文字通り『ゆっくり』解り合えれば、いつかきっとその時が来る筈だ。 ……だから、お互い解り合おうぜ。とりあえず、この餅を肴に今夜は語り明かそう。秘蔵の酒も開けてやる。 冬の夜は長いからな。『ゆっくり』解り合おうぜ。 ……ああ、『ゆっくりしていってね!』! 山の裾野に広がる森が新緑に包まれる初夏の午後。 かつて化け物まりさの軍勢に捕われていた奴隷れいむは、娘を連れて村のブリーダー主導の『おうた』の練習に向かっていた。 人間さんの『おうた』はゆっくり出来ない上にとても難しいが、一生懸命練習した『おうた』を聞いて喜んでくれる人間さんを見るのはとてもゆっくり出来るので、嫌ではなかった。 あの戦いで生き残った奴隷はれいむ只一人。他の奴隷は化け物まりさの軍勢に盾にされた上で潰されたと言う。 冬籠りの間、群れの掟を必死で学び、『がっこう』の卒業資格を与えられたれいむは、あの罠で出会ったまりさと番になった。 春には二人の子供も授かり、彼女は今までのゆん生の中で一番ゆっくりした時間を手に入れていた。 「「ゆ~♪ゆ~♪」」 「だめだよ、おちびちゃん。ちゃんとぶりーだーのおねーさんのところでれんしゅうしないと、にんげんさんのめいわくになっちゃうからね」 「ゆっ!ごめんにゃしゃい、おきゃーしゃん!」「れいみゅ、にんげんしゃんのじゃましにゃいよ!」 道すがら、大声で歌いだした娘達を注意する。生まれて半月程のれいむとまりさの姉妹は素直に謝って反省する。 聞き分けの良い、出来のいい子供達だ。ここがかつての長が目指した『どすのむれ』なら当然なのかも知れない。 ドスかられいむ達の長の話を聞いた時、れいむはひっくり返るくらいに驚いた。と、同時に納得もした。 ドスの群れは皆優秀で、奴隷だったれいむの傷を治してくれたばかりか、本来『がっこう』に入学しないと貰えない卒業資格を貰うチャンスまでくれた。 その期待に見事応えたれいむは晴れて群れの一員になり、『おうた』の上手さを見込まれて『ゆっくり楽団』へスカウトされた。 『ゆっくり楽団』は人間さんに人間さんの『おうた』を披露し、ゆっくりしてもらう事を目的とした集団で、ここに属するのは『おうた』の得意なれいむ種共通の夢である。 そんな超エリート集団に余所者だったれいむをスカウトしたばかりか、誰一人嫉妬もせずに祝福してくれたのだ。 実力のあるものが相応の役目に就くのが当然という群れの気質に、れいむは何故長がこの群れを目指したのかを理解した。 「おねーさん、ゆっくりおじゃまします!」「「おじゃましましゅ!!」」 「いらっしゃい。今おやつを作ってるから、練習まで皆と遊んでいてね」 ブリーダーのお姉さんのお家は広く、いろんな種類のゆっくりが居る。 何でも特別優秀なゆっくりだけがなれると言う『飼いゆっくり』になる為の勉強をしているのだそうだ。 「「「「「「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」」」」」」」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 お姉さんのお家に入れるのは『ゆっくり楽団』のメンバーだけだが、『がっこう』に入学する前の子供が居る場合は同伴が認められている。 『がっこう』は全寮制で、三日に一度のお休み以外は帰って来れない。だから入学前の子供達と出来るだけ一緒に過ごせるように配慮した結果だった。 「ゆっ!ぱちゅりー、きょのおはなおにゃまえ、わきゃる?」 「むきゅ、これはつつじさんね!」 「めーりんのおぼうち、まりしゃよりかっこいいんだじぇ!」 「じゃおおおん!」 娘達にとっても、様々なゆっくりと仲良くなれる此処に来るのは楽しみのようで、今ではすっかり友達になってしまった。 ゆっくり特有の偏見を持たないドスの群れの子供と触れ合う事で、お姉さんの教育も順調に進んでいるらしい。なんだか我が事のように誇らしく、れいむは嬉しかった。 (おさもゆっくりできたみたいだし、もうだいじょうぶだよね!) 冬籠りが始まるまで、ドスの様子がおかしかったのは群れの全ゆっくりが気付いていた。尤も、その原因までは解らなかったのだが。 最近はそこまで思い詰めた様子は無い。きっと疲れていたんだろうというのがもっぱらの噂であった。 ドスがゆっくりする為には、れいむ達がドスの夢である『りそうきょう』を作らなければならない。その為には仲良くする事が一番だ。 目の前の微笑ましい光景が、全てのゆっくりと人間との間で繰り広げられれば、ドスもきっとゆっくり出来るに違いない。 だかられいむ達も頑張ろう。れいむは心の底からそう思う。 我が子と飼いゆ候補の子供達が遊ぶ姿を笑顔で見守るれいむの元に、数人の子供達が集まってくる。 「れいむおねーさん、あのおはなしして!」 「まりさもききたいよ!おねがい、れいむおねーさん!」 「べ、べつにありすはききたくないわ!……でも、どうしてもっていうんならきいてあげてもよくってよ!」 時々、れいむは子供達にお話しを聞かせてやる事がある。 それは冬の間、何度も聞かされたお話しで、れいむ自身も気に入っていたお話しだった。 「わかったよ!おはなししてあげる!」 「「「「「ゆわ~い!!」」」」」 それは遥か昔、一匹の嘘つきゆっくりの所為で仲違いしてしまった人間とゆっくりのお話し。 ほんの少しのすれ違いから始まった仲違いを終わらせた奇跡の物語。 期待に輝く子供達の笑顔を見渡し、れいむは語り始めた。 「むかしむかし、れいむのおかあさんのおかあさんの、そのまたおかあさんがうまれるよりもずっとむかしのことだよ……」 ※おっしゃぁあああ!!The・ENDぉおおおおおっ!! ……失礼しました。 大変長らくお待たせいたしました。ゆっくり興亡史の最終話をお届けします。 物語の時間軸としては、このお話が一番最後となっています。 今後はこのお話以前のエピソードを番外編としてお贈りする形になると思います。 よろしければ、この群れの興亡史にもう少しお付き合いしていただけると嬉しいです。 最後までお読みいただき、有り難うございました!!! 今まで書いたもの ふたば系ゆっくりいじめ 274 嘘つきゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 277 騙されゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 301 勘違いゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 314 仕返しゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 410 お尋ねゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 557 捕まりゆっくり ふたば系ゆっくりいじめ 613 激辛れいむと珈琲ありす 前編 ふたば系ゆっくりいじめ 681 激辛れいむと珈琲ありす 後編
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お話しゆっくり 前編 49KB 虐待-普通 制裁 仲違い 誤解・妬み 自滅 同族殺し 駆除 群れ ゲス ドスまりさ 現代 人間なし 創作亜種 ゆっくり興亡史の最終話です(三部作・前編) ※独自設定がいっぱいだよ! ※人間さんは出てこないよ! ※虐待?それおいしいの? ※『ちーと』なゆっくりが出てくるよ!苦手な人はごめんね! ※とっても長いよ!しかも前編だよ! ※お待たせ!『お尋ねゆっくり』の続きだよ!……遅れてごめんね! 書いた奴:一言あき 夏の日差しが森をまだらに染め上げる中を、一匹のまりさが跳ねもせずにゆっくりと這いずって行く。 「じね゛ぇ゛……じね゛ぇ゛……」 ずーりずーりと亀でさえ追い抜けるであろう速さで少しずつ歩を進めるまりさ。 その背後には引き摺って出来た痕と、何やら黒い染みが残されている。 「じね゛ぇ゛……じね゛ぇ゛……」 まりさの顔にはあのふてぶてしい笑みは無い。 名に反して全くゆっくり出来ない物凄い形相が張り付いており……、 「じね゛ぇ゛……じね゛ぇ゛……」 その片目は抉り取られ、虚ろな眼窩からは絶えず餡子が涙のように流れ落ちていた。 「ばでぃざは……げすじゃない………!あのおばなは……ばでぃざがみづげだんだぜ………!!」 まりさは先程、『れいむが見つけたお花を横取りした』罪で片目を抉られて群れから追放される『おめめえぐりのけい』を受けたばかりだった。 尤もそれが罪になったのは最近の事で、まりさを始めとする群れのゆっくり達はそれの何が悪いのかすら解らなかったのだが。 「でいぶがみつけるまえから……あのおばなはばでぃざのものだったんだぜ……きっとそうなんだぜ……」 まりさは横取りしたつもりは全く無い。 先に見つけたのは確かにれいむだったが、あのお花がまりさに見つけてもらいたそうにしていたので仕方なく摘み取ってあげたのだ。 一体、自分の何処が悪いのか! それなのにあの下種は、よりにもよってまりさの美しいお目目を抉り、折角仲間になってあげた群れから追い出すという暴挙に出た。 『おかのおいしゃさん』が作った群れだからゆっくり出来ると思ったのに、訳の解らない掟でまりさ達をゆっくりさせなかった上にこの仕打ち。 如何に寛大なまりさでも、もう我慢の限界だ。 「ぱちゅでぃは……ゆっぐり………じねぇ………!!」 許さない。許せない。 いつかきっと、あのぱちゅりーを制裁してやる! 怨念と呪詛と餡子を駄々漏れにしながら、まりさは森の奥へ消えて行った。 『お話しゆっくり 前編』 山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘。 枯れ草の一片に至るまで喰い尽くされ、すっかり禿げ山へと変貌してしまった丘の天辺で、れみりゃのお帽子を被ったまりさは憤慨していた。 「あのどれいたち、ひどいのぜ!たべものをかくすなんて、やることがきたないのぜ!!」 まりさが間抜けで弱っちいドス達を奴隷にしてこの丘を奪い取ったのが三ヶ月程前の事。 残念ながらドス達は逃げ出してしまったのだが、奴らは逃げ出す前にこの丘の食べ物をどこかに隠してしまったらしい。 でなければ、二千人程度のゆっくり達が思う存分むーしゃむーしゃした程度で食べ物が尽きる筈が無い! まりさは群れの皆に命じて隠された食糧を探させていたが、未だ見つかったと言う報告は無かった。 「まったくむのうなやつらのぜ!さっさとみつけてこいのぜ!」 丘の天辺でふんぞり返り、食糧を探して右往左往する群れを眺めながらまりさが毒づく。 実はまりさ達は狩りが苦手だ。主に他の群れを襲って食べ物を調達していた為、狩りをしなくても済んだからだ。 しかし、今現在この森の中に居るゆっくりは自分達だけしかいない。 きっとあのドス達が他の群れを連れ出したのだろう、まりさはそう考えていた。 これで奴隷の調達が出来なくなってしまった。あのドス達はなんて卑怯者なのか! まりさは煮えくり返る怒りを飲み込み、心を落ち着ける為に食事を摂る事にする。 「むーしゃむーしゃ……げろまずー!!」 普段はとても口にしないような苦い草を、顔を顰めながら頬張る。 この丘にある最後の食糧だ。これを食べてしまえばもう何も残っていない。 それが解っていても、まりさは我慢が出来なかった。 今まで好きなだけむーしゃむーしゃして来たのだ。今更どうして我慢が出来ようか。 「ゆうぅ……、もうこのもりにはどれいがいないのぜ……おうさまもらくじゃないのぜ……」 まりさは選ばれたゆっくりだ。 天敵たるれみりゃを打ち倒し、森のゆっくり達を統率してドスすら奴隷に出来る力を得た。 全てのゆっくりを従える王様に選ばれた、特別なゆっくりである自分をゆっくりさせないものは皆ゲスだ。制裁しなければならない。 だが、この状況を作り出したドス達は行方を晦ませたままだ。 配下のゆっくり達に探させてはいるが、未だに影も形も見つからない。 いや、狩りすらまともに出来ないような無能だから見つけられない、と考えるべきか。 とにかくこのままでは飢死にが待っているだけだ。まずは食糧を集める算段をつけようとまりさが重い腰を上げた時、 「おうさまー!もりのそとにしらないれいむたちがいたって、まりさがいってたよー!」 「ゆっ!?」 最近奴隷にしたちぇんが持って来た報告に再び腰を下ろした。 「そいつらはなんびきいたのぜ?」 「たくさんいるっていってたよ!」 標準的なゆっくりの知能では三以上は『たくさん』になる。 十を超えれば『いっぱい』になり、二十から先は『ものすごくいっぱい』だ。 まりさは奴隷ちぇんの言葉からそう多くはないと当たりをつけた。 「そのれいむは、おちびをつれていたのぜ?」 「いたってっいってるよー!」 ちぇんの返事を聞き、まりさはしばし黙考する。 数瞬の後、まりさはちぇんに新しい命令を下した。 「……まりさたちに、いきたままつかまえるよういうのぜ!そしておうさまのところまでつれてくるのぜ!」 「わかったよー!」 まりさの命令を伝えるべく、その俊足でぽいんぽいんと跳ねて行く奴隷ちぇん。 「よくはたらくやつのぜ。ほかのどれいもみならうのぜ」 みるみる遠くなるちぇんの後ろ姿を見送りながらまりさが一人ごちる。 この群れはまりさ、れいむ、ありすで占められており、ちぇんやみょんは奴隷にしたゆっくりの中に数える程しかいない。 その中にあって一番聞き分けの良いのがこのちぇんだった。案外、自分を奴隷と思っていないのかも知れない。 「それにくらべて、あのどすたちはとんだげすなのぜ!みつけたらゆっくりしないでせいっさいっ!するのぜ!」 まりさの怒りに再び火が付く。心を落ち着けようにも、もう食べ物は無い。 結果、まりさはいーらいーらを募らせた状態で群れの帰還を待つ他無かった。 まりさの目前に突き出されたのは成体のれいむ一匹と生後三ヶ月程度の子れいむ二匹、そして生後間もないであろう赤れいむ三匹だった。 何でも捕らえた時には赤まりさと子まりさが四匹程いたらしいが、見せしめにありすがレイプしたら黒ずんで死んだという。 「ありすのとかいはなあいをうけとめないなんて、とんだいなかものだわ!」 「……わかったから、さっさとうせるのぜ」 憤慨するありすを追いやり、まりさは一歩踏み出す。 「こないでね!かわいいれいむをたべないでね!!」 「「「おきゃあしゃぁあああん!!きょわいようぅううううう!!!」」」 まりさの迫力に恐れを成すれいむ達。子れいむの片割れに至っては無言のまま気絶する体たらく。 そんなれいむ達の狂態を一切無視して、まりさは尋問を開始した。 「……れいむたちは、どこからきたのぜ?」 「ゆっ!?しゃべれるの!?」 まりさが話し掛けた途端に目を丸くして驚愕する親れいむ。 「……しつもんにこたえるのぜ、どこからきたのぜ?」 人の話を聞かないとは、随分と礼儀知らずなれいむだ。相当な田舎から出て来たのだろう。 図らずも先程のありすの言葉通りだった事に失笑しつつも、まりさは質問を重ねる。 子連れのゆっくりが遠出をする事は無い。おそらくこの森のどこかに手付かずの群れが生き残っている筈だ。 だったらその群れの場所を聞き出して、全員奴隷にして食糧を奪ってしまおう。 最初に報告を受けた時、まりさはそう閃いたのである。 だが、れいむから帰って来た答えは予想を遥かに超えていた。 「れいむたちは、あのおやまのむこうからきたんだよ!」 「「「「「「「「「「な、なんだってーっ!?!?!?」」」」」」」」」」 お山の向こうは完全に秘境だ。そこに何が居るのか、何があるのか、どんな所かさえ誰も知らない。 そんな所からやって来たというれいむの言葉に驚愕するまりさ達を尻目に、れいむは聞かれもしないのに勝手に喋り出した。 「れいむたちのもりはごはんがすくなくなっちゃって、このままじゃふゆをこせなさそうだったんだよ。 でも、さいきんとてもゆっくりしているむれのうわさをきいたんだよ。 おやまのこっちがわに、にんげんさんといっしょにゆっくりしているどすのむれがいるって。 れいむたちもそのむれにいれてもらおうとおもって、わざわざおやまのふもとをおおまわりしてこっちにきたんだよ。でも……」 そこまで話した所で、れいむは沈痛な表情になって口籠った。 「……れいむがにんっしんっしたら、みんながおこってれいむをおいだしたんだよ。 おひっこしのさいちゅうにすっきりしたのはまりさなのに、わるいのはれいむだって…… れいむは、まりさがゆっくりしたいっていったから、ゆっくりできるあかちゃんをにんっしんっしただけなのに!」 そこまで言うと、れいむはわっと号泣する。 尤も、話を聞いたまりさの心中は冷ややかなものであった。 (……ぜんぶれいむのじごうじとくのぜ。どうじょうにあたいしないのぜ) 『ゆっくりしたいから赤ちゃんをつくる』という思考は理解できるが、引っ越しの最中にというのはゆっくりの基準からしても理に合わない。 ましてお山の反対側からという大遠征の最中ににんっしんっするとは、群れに制裁されても仕方が無い程の背信行為だ。 父役のまりさもそんなつもりで「ゆっくりしたい」と言った訳ではあるまい。大方、一休みしたいとかそんな所だろう。 乗り気でないゆっくりを発情させてすっきりーっ!させるのはそんなに難しい事ではない。発情するまでひたすらすーりすーりを繰り返すだけだ。 しかし引っ越しの最中に発情させるとは、どれだけしつこくすーりすーりしたのか。 まりさは我が身に置き換えて想像し、余りの気色悪さに怖気を震わせる。 しかし、れいむの話に無視できない内容が含まれていたのをまりさは聞き逃さなかった。 「……れいむ、そのうわさはだれからきいたのぜ?」 「れいむはきめぇまるからきいたんだよ。ごはんとこうかんでおしえてもらったから、まちがいないよ!」 きめぇ丸はゆっくりをゆっくりさせない習性を持つ希少種だが、同時に見たもの聞いたものを誰かに伝えようとする習性も有している。 時々、食べ物や一夜の宿と引き換えに教えてくれるこれらの情報は、生活圏の狭いゆっくりにとって重要な情報源だ。 非常にうさんくさいが、きめぇ丸は勘違いや早とちりはするものの嘘は吐かない。れいむの言う通り嘘ではないだろう。 そしてこの森付近にいるドスなぞ一匹しか居ない。間違いない、まりさの元から逃げ出したあのドスだ! しかもあろう事か食べ物を隠してまりさの群れをゆっくり出来なくしておいて、自分達はお山の向こう側まで噂になる程ゆっくりしているらしい。 許せない、まりさは心からそう思う。 (まりささまをゆっくりさせないどげすは、ゆっくりさせないでせいっさいっするのぜ!!) 心中で、あのドス達に死刑判決を下す。 そうとなったら善は急げだ。とりあえず、有益な情報をもたらしたれいむ親子にそれなりの礼をしよう、とまりさはれいむ達に告げた。 「いいことをおしえてくれたのぜ。おれいに、このむれのどれいにしてあげるのぜ」 「「「「「「ゆっ!?」」」」」」 れいむ親子が固まる。それをまりさ達に仕える喜びにうち震えた為と解釈して、まりさは更に言葉を重ねる。 「そんなによろこばなくてもいいのぜ。とりあえず、むれのみんなのごはんをさがしてくるのぜ。おひさまがしずむまではまっていてあげるのぜ」 まりさがその言葉を言い終わると同時に、固まっていたれいむが再起動する。 暫くプルプル震えていたかと思うと、突然大声を張り上げて抗議を繰り出して来た。 「なにいってるの!れいむはしんぐるまざーなんだよ!かわいそうなんだよ! わかったらさっさとれいむたちにごはんをもってきてね!あまあまをたくさんでいいよ!」 母の猛烈な勢いに乗ったのか、子れいむ達も口々に「そーだ!そーだ!」と合わせてくる。 こんな光景は珍しい事ではない。れいむ種の悪癖である『しんぐるまざー』はまりさ達にとっても見慣れたものだ。 だから、その対策もまりさ達は熟知していた。 「……もういいのぜ。どうせこうなるのはわかっていたのぜ」 まりさはそう言うと、大声で一言「みんな!あつまるのぜ!」と叫ぶ。 すると丘のあちこちから大量のゆっくりが湧き出すように出現した。 れいむ、まりさ、ありす。 たちまち丘を埋め尽くした無数のゆっくり達に怯えるれいむ親子に、化け物まりさは残酷な判決を下した。 「このれいむは、どれいのくせにさからうげすなのぜ!げすはせいっさいっするのぜ! ……ついでにみんなのごはんになるのぜ。ひさしぶりのあまあまなのぜ」 「「「「「「ゆ゛っ゛!?!?!?」」」」」」 突然の死刑宣告と、『みんなのごはん』発言に驚愕したれいむ親子が硬直する。だがそんな事には一切構わず、ゆっくり達は目を異様に輝かせて一斉に襲いかかった。 「ひゃっはぁあああああああ!!せいっさいっだぁあああああああ!!!」 「あまあまだぜぇえええええ!!ぜんぶまりさがもらうんだぜぇえええええ!!!」 「んほぉおおおおおお!!ちいさいれいむのばーじんさんはもらったわぁあああああ!!!」 「しんぐるまざーはでいぶだけでいいんだよ!にせもののしんぐるまざーはしねぇええええ!!!」 「あまあまよこちぇぇええ!!」「れいみゅにゆっくりたべられちぇね!」「んほぉおお!ありちゅのあいをうけとめちぇね!!」 「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ごな゛い゛でぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」 「や゛べでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!でい゛ぶを゛だべな゛い゛でぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」 「でい゛ぶの゛ばー゛じん゛がぁ゛!!でい゛ぶの゛じゅ゛ん゛げづがぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」 「お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!だぢゅ゛げでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」 「おきゃあしゃんたちはころちていいから、きゃわいいれいみゅだきぇはたちゅけてね!…………ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 あっという間にゆっくりの津波に飲み込まれるれいむ親子の姿。 途切れ途切れに聞こえてくる悲鳴を聞きながら、まりさはれいむ達の話を吟味し始めた。 (……どすたちは、にんげんといっしょにいるのぜ?にんげんをどれいにしてるのぜ?) まりさ達は人間の事をよく知らない。 どうも森の外の平原に群れているようで、時々森を訪れる以外は滅多に見掛けないからだ。 まりさ達と同じ言葉を話せる程度の知能は持っている様だが、食べ物の少ない平原を住処にしている辺り相当な阿呆揃いらしい。 あの無能なドス達には相応しい奴隷であろう。しかし、ドス如きが奴隷を持つなど過ぎた行為である。 (ちょうどいいのぜ。あたらしいどれいがてにはいるのぜ) 新しい労働力の調達に加え、それだけゆっくりしているなら食糧不足も補える筈だ。 人間と一緒に暮らしていると言うのなら、きっとあの平原に居るに違いない。 早速、明日にでもドス達の所へ向かおう。まりさはそう結論付けると、手元に残しておいたあまあまに齧り付く。 「ゆ゛ぎぃ゛っ゛!!!!」 家族の末路を見せつけられ、恐怖に立ち竦んでいたあまあまが上げる心地よい断末魔と口内に広がる深い甘みを、まりさはじっくり堪能していった。 太陽もすっかり昇り切り、目前に迫った冬を追い払うかのように照りつける日差しが眩しい正午。 山の裾野に広がる森と、人里を分ける広い平原に、いつかの焼き直しの如く現れた大軍勢。 二年前のそれと違うのは、軍勢に子供や赤ちゃんまで含まれている事と、総勢二千人を超えようかというその数であった。 いざという時の盾にする為に最前衛に配置された奴隷以外はてんでバラバラで、陣形も何もあったものではない。 そしてその中央に、れみりゃのお帽子を被った化け物みたいな顔のまりさが陣取っていた。 壊れて動かないスィーに乗り、奴隷達に引かせる姿は古代の王侯貴族もかくやと言わんばかり。 しかし、その心中は見た目の優雅さとは程遠かった。 「……まだ、みつからないのぜ?」 「ゆっくりのすがたかたちもないっていってるよー!」 伝令役を務める奴隷ちぇんに事態の進捗を問うても、返って来るのは『見つからない』だけ。 広大な平原を行けども行けども、ドスはおろか人間の一匹も見当たらないのだ。 (このはらっぱがこんなにひろいだなんておもわなかったのぜ……) 実際の所、生まれて間もない赤ゆや子ゆ、スィーを引かせる化け物まりさに合わせている為、進軍速度が非常にゆっくりしているだけなのだが。 のろのろと歩む化け物まりさの軍勢。真上にあった太陽が夕日に変わる位の時間を掛けて、彼女達は遂に目的地に辿り着く。 そこは、想像を遥かに超える場所だった。 「こ……これは………なんなのぜ………?」 化け物まりさが呆然と呟く。だがそれは、全てのゆっくりの台詞を代弁していた。 広大な平野に、野菜が列をなして生えているという、信じられない光景。 その奥に見えている、木のうろや洞窟などとは全く違う立派なお家の群れ。 遠くには化け物まりさの壊れたスィーなぞ比較にならない程大きなスィーが行き交う姿が霞んで見える。 眼前の光景に、言葉を無くして立ちつくすゆっくり達。彼女達を正気に戻したのはギリギリという音だった。 化け物まりさが飴細工の歯を砕かんばかりに激しく軋らせていたのである。 「……ゆるさないのぜ……ぜったいに、ゆるさないのぜ……」 地獄から響くような怨嗟の声にしーしーを漏らす程怯える軍勢。 しかし続けて吐き出されたまりさの雄叫びが、全員の脳裏を真っ白に染め上げた。 「こんな……こんなにゆっくりしたゆっくりぷれいすをひとりじめするなんて! どすとにんげんは、ぜっっっっっっったいに!ゆるさないのぜぇええええええええええ!!!」 「「「「「「「「「「ゆ゛っ゛!?」」」」」」」」」」 化け物まりさは激怒していた。温厚な自分がこれほどキレるだなんて、初めてではないだろうか?そう思えるくらいに。 人間が森に住まない理由がよく解った。これほどのゆっくりプレイスを独り占めしているのなら、わざわざ食べ物の少ない森に住もうなどとは思うまい。 しかもあろう事か、ここにはあのドスまでもが住み着いている。まりさ達を飢えさせておいて、自分達はのうのうと楽園で面白おかしく過ごしていたに違いない。 許せない。許せる筈が無い。決して許せるものか!! 化け物まりさの怒りは、たちまち群れ全体に広がっていく。 同属殺しの快感に目覚め、制裁と称してあちこちの群れで殺ゆ事件を起こして来たれいむは考える。 (ゆっくりできないあのどすなら、おもうぞんぶんせいっさいっできるよ!ひゃっはぁああ!!) 際限なく喰らった為に冬籠りに失敗し、弱った自分の家族を貪って以来ゆっくりの味に取り付かれたまりさが思う。 (げすなゆっくりほど、いためつけてころすとじょうとうなあまあまになるんだぜ!たのしみだぜ!!) 手始めに初恋のまりさを犯し殺して以来、千人斬りの達成を悲願に掲げるレイパーありすが理解する。 (つまり、ここはさいこうのすっきりーっ!ぷれいすなのねぇええええ!!んほぉおおおおおおおぉううううう!!!) 満足に狩りも出来なかったくせに、かわいい自分と離婚しようとするまりさを亡き者にして悲劇のしんぐるまざーとなったれいむが誓う。 (あんなにひろくてすてきなおうちは、れいむとおちびちゃんにこそふさわしいんだよ!!にんげんさんはさっさとれいむにおうちをよこしてね!!そしたらしんでね!!) 群れのあちこちから、化け物まりさの怒りに共感する声があがる。 最初はバラバラだったそれは、お互いに呼応し合って纏まって行き、最後には一つのうねりとなって群れ全体を揺るがした。 『げすなにんげんとどすはゆっくりしないでしね!!!』 壮絶なシュプレヒコールが平原に響き渡る。 熱狂が最高潮に達した頃、突如化け物まりさが大声を張り上げて皆を制した。 「しずかにするのぜ!!にんげんやどすにきづかれるのぜ!!」 たちまち静まり返る二千人のゆっくり達。 ……念の為に言っておくが、最初に叫び出したのは化け物まりさだ。 だがそのような些細な事、まりさはおろかこの場にいる全員の脳裏から奇麗さっぱり抜け落ちていた。 あらゆるゆっくりが、群れの皆がまりさの号令を待つ。そして…… 「あのゆっくりぷれいすをまりささまのものにするのぜ!!ぜんいん、とつげきするのぜ!!」 「「「「「「「「「「ゆぉおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」」」」 化け物まりさの宣言に、一斉に鬨の声を挙げて答える群れ。 高まり切った士気に突き動かされ、最前線に並ぶ奴隷達を踏み潰さんばかりの勢いで突進する。 「ゆわぁああ゛あ゛あ゛!!どま゛っ゛でぇ゛え゛え゛え゛え゛!!!」 「いやぁああ゛あ゛あ゛!!ごっ゛ぢぐる゛な゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!」 「ぢぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛ん゛ぼぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!」 堪らないのは奴隷達の方だった。背後から迫り来るゆっくりの津波から逃れようと全速力で前進する。 それこそ『罠の可能性を全く考えない』で、だ。 「ゆびゃっ!?!?!?」 その内の一匹、奴隷れいむが突然現れた穴に落ちる。 だが、並走していたまりさは足を止めずに駆け抜けて行く。他の奴隷ゆっくり達も決して立ち止まろうとはしなかった。 「まってぇええええ!!れいむをたすけてぇええええ!!」 「……ごめんね、れいむ!まりさ、ふまれてしにたくないよ!!」 「れいむ………ごめんなさい、ごめんなさい………!!」 「たすけてあげられなくてごめんねー!!ゆるしてねー!!」 「………とのがたの……!」 謝罪の言葉を残して走り去る奴隷ゆっくりに続き、群れのゆっくり達が怒号を挙げて押し寄せる。 「あんなところにおっこちたどれいがいるんだぜ!おお、まぬけまぬけ!!」 「むのうなれいむはそこでえいえんにゆっくりしててね!!」 「やっぱりれいむはいなかものね!!れいぽぅするきもおきないわ!!」 穴の底で助けを求めるれいむを嘲笑いながらも、足だけは決して止めない。 奴隷をわざわざ助ける道理はない。故に立ち止まる意味もない。 口々に勝手な事を吐きながら、ひたすらゆっくりプレイスを目指して進軍する群れ。 その姿は正しく全てを貪り喰らう蝗の群生そのものだった。 必死に跳ねる奴隷ゆっくり達。成り行きで畑を目指してはいるが、野菜が目的ではなかった。 彼女達はただ、背後に迫るゆっくりの群れから逃げたかっただけ。 尤も、その逃避行が実を結ぶ事は決してなかったのだが。 「もうすぐおやさいのあるところだよ!!あのなかににげこめばたすか「おやさいはまりさのものだぜぇ!!」り゛ゅ゛ぶっ゛!?!?!?」 「ば、ばり「れいむのおやさいぃいいい!!」じゃ゛ぁ゛あ゛っ゛!?!?」 「いやぁあああ!!れいむぅうう「おやさいはとってもとかいはよぉおおお!!」う゛べっ!?」 畑の野菜が作る、身を隠すのに最適な茂みを目指していた奴隷達が次々と踏み潰される。 背後の集団が突然速度を上げたのだ。 「らんしゃ「むほぉおおおおお!!」ま゛ぎゃ゛っ゛!?」 「ぺにぃいいい「じゃまだよっ!!」ずっ゛!?!?」 末期の声すら挙げる間もなく死んで行く奴隷達だが、誰も気に留めない。踏み潰した事さえ気付いていない。 既に彼女達の目に映っているのはたわわに実ったお野菜達だけ。 余りに旨そうなそれが間近になるにつれ、彼女達の目的が変化したのだ。 『ゆっくりプレイスを奪い取る』から、『おいしいお野菜を腹一杯貪る』へ。 ここの所の食糧不足で満足に食事も摂れず、常に飢えていた群れの前に現れた美味しそうな野菜。 それはゆっくりの餡子脳から目的を忘れさせるには充分過ぎるものだった。 「まつのぜ!!それはまりささまのおやさいなのぜ!!かってにたべるんじゃないのぜ!!」 背後で化け物まりさが喚き散らすが、完全に畑に集中してしまったゆっくりたちの耳には入らない。 そして最前列を走っていた数十人のゆっくり達が、遂に畑へたどり着く。 「ゆぷぷっ!!のろまなおうさまなんかほっとくんだぜ!!このおやさいはぜんぶまりさのものなんだぜ!!」 「ちがうよ!!おやさいはれいむのものなんだよ!!れいむのおやさいをたべるまりさはゆっくりしないでしんでね!!」 「むほぉおおお!!しまりのよさそうなおやさいねぇえええ!!ありすがとかいはにあいしてあげるわぁあああ!!」 口々に野菜の所有権を主張するゆっくり達、最後のは何か違うような気がするが。 そして痺れを切らした先頭集団のまりさが言い争うゆっくり達を出し抜き、大口を開けて野菜に齧り付いた。 「これはまりさのおやさいなんだぜ!!だからまりさがぜんぶたべるんだぜ!!いただきま………」 「………全然違うよ!ドススパーク!!!」 否、齧り付こうと大口を開けた瞬間、彼方から奔る光線がまりさを含む先頭集団を飲み込む。 光が過ぎ去った後に残ったのはまりさの歯、れいむのあんよ、ありすのぺにぺに。 野菜に突き立つ筈だったまりさの歯が、全く野菜に触れる事無く畑に転がった。 「……ゆ!?」 先頭集団のゆっくり達、十数人が体の一部を残して消え去る異常事態。 化け物まりさは、否、群れの全ゆっくり達が思考停止に陥る。 「……新入りさん達の言った通りだったね。あの森の食べ物を全部食べ尽くしたら、あのゲスな群れがここに来るかも知れないって」 茫然自失の化け物まりさに、聞き覚えのある声が掛けられた。 油を注し忘れたブリキ人形のようなぎこちない動きで、ゆっくり声の聞こえた方向に振り向いた化け物まりさの目に、見覚えのある影が映る。 ふさふさの金髪を黒いお帽子に収め、化け物まりさを睨みつける大きな、とても大きなゆっくり。 最後に見たときより更に一回り大きくなっていたが、間違いない。あの時逃げ出したドスまりさだ! 「どすぅうううっ!!よくもけらいをころしたのぜぇええええ!!!どれいのくせになまいきなのぜぇえええ!!!!」 「……まりさはまりさの奴隷になった覚えは無いよ。まりさは只、畑をゲスから守っただけだよ」 「げすはどすのほうなのぜぇえええ!!なまいきなげすはせいっさいっしてやるんだぜぇえええええ!!!」 「……お話しにならないね。むしろ制裁されるのはまりさ達の方だよ」 激昂する化け物まりさと対照的に、冷静沈着な受け答えを崩さないドス。 その余裕綽々な態度に、元々短い化け物まりさの堪忍袋の緒はあっさりと千切れた。 「もうゆるさないのぜ!!みんなでどすをせいっさいっするのぜぇえええ!!」 「……最初から許す気はなかったよね?それより何を許す気だったの?まりさには心当たり無いよ?」 「ゆぎぎ……!!くちばっかたっしゃなのぜ!!………どうしたのぜ!?みんなでいっせいにかかるのぜ!!」 化け物まりさの号令に、配下のゆっくり達が怯えたように竦み上がる。 皆見ていたのだ、先程の光が先頭集団を消し去る瞬間を。 あの光を放ったのがドスならば、自分達に勝ち目などあるものか。一斉に掛かっても、また吹き飛ばされるだけだろう。 誰であろうと命は惜しい。如何に王様の命令であろうとも、犬死になど絶対に嫌だった。 「なんでおうさまのめいれいをきかないのぜ!?………もしかして、どすすぱーくのせいなのかぜ?」 一向に言うことを聞かない群れに苛立ち、癇癪を起こしていた化け物まりさが不意に真実に辿り着く。 その言葉に何匹かが頷くのを確かめた化け物まりさが、一転して不敵な笑みを浮かべながら落ち着いた様子で語り出した。 「ゆっふっふっ………、だいじょうぶなのぜ、おうさまはどすすぱーくのじゃくてんをよーくしってるのぜ……」 どよめくゲスゆっくり二千人。その反応に気を良くしたのか、化け物まりさはふんぞり返って居丈高に叫ぶ。 「どすすぱーくはきのこさんをむーしゃむーしゃしないとうてないのぜ!!! みんなでゆっくりしないでふるぼっこにしてやれば、きのこさんをたべるひまがないからうてないのぜぇ!!!」 「「「「「「「「「「ゆぅ~っ!?!?」」」」」」」」」」 「……うん、そうだね。確かに茸さんをむーしゃむーしゃしないと、ドススパークは撃てないよ」 一斉に驚愕する一同とは裏腹に、冷静さを失わないままドスまりさが自身の弱点を肯定する。 化け物まりさはそれを降伏宣言だと受け取った。 「いまさらあやまってもおそいのぜ!!みんなでかわりばんこにせいっさいっするのぜぇえええええ!!!」 「「「「「「「「「「ゆっくりしないでじねぇぇえええ!!!!!」」」」」」」」」」 化け物まりさの咆哮と共にドスに向かって駆け出す群れ。 地響きを鳴らして近付いてくる大群を前にしても尚冷静なまま、ドスまりさは言葉を続けた。 「……だから、撃てないときの備え位はしてあるよ」 その言葉を言い終わると同時に、群れのゆっくり達がそこに辿り着く。 畑の土や砂とは全く違う何かが敷き詰められた場所に。 「ゆぎっつつ゛つ゛っ゛!?!?な゛に゛ごれ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」 「いじゃぁいぃいい゛い゛!!でいぶの、でいぶのゆっくりしたあんよがぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 「ゆぎゃぁあああ゛あ゛あ゛あ゛!!あ゛り゛ずの゛どぎゃ゛い゛ばな゛びぎゃ゛ぐがぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 ドスの手前に敷き詰められた、大量の瓦礫。角張ったそれを思い切り踏み付け、あんよを傷つけたゆっくり達が絶叫を上げてのたうち回る。 突然立ち止まって身悶える前衛を、後続のゆっくりが踏み潰す姿を尻目に、ドスまりさは猛然と逃げ出した。 「あっ……!!まつのぜ!!にがさないのぜ!!みんなでおいかけるのぜ!!!」 「「「「「「「「「「ゆ……ゆぅ~っ!!」」」」」」」」」」 事態に全く着いて行けず、退却するドスの後ろ姿を呆然と見送っていた化け物まりさが慌てて出した命令に、半ば反射的に従う軍勢。 前衛の尊い犠牲の結果、瓦礫の隙間が餡子で覆われた安全な進路を踏みしめ、やや離れた所を跳ねるドスの背中を追いかける。 否、追いかけようとした彼女達の眼前を塞ぐように一匹のまりさが立ちはだかった。 「……いますぐ、もりにかえるならみのがしてやるんだぜ。さもないと、ゆっくりできなくさせるんだぜ」 二千人もの群れを前に大言壮語を吐く身の程知らずの蛮勇に、化け物まりさは思わず失笑した。 たった一匹で何が出来るというのだ?ドスでさえ成す術無く、姑息な手段を用いて逃げ出したというのに。 「みんな、そのまままりさをふみつぶすのぜ!!おばかなまりさはゆっくりしないでしね!!」 化け物まりさの宣言を背に受け、二千人のゆっくりが怒濤の勢いで襲い掛かる。 しかし、立ち塞がったまりさは目前に迫るそれを全く怖れる様子もなく、溜め息を吐きつつ目を伏せた。 「……けいこくはしたんだぜ」 そう言うとまりさは背後の穴に飛び込む。 『奴隷れいむが落ちた落とし穴』の中に。 「「「「「「「「「「ゆっ?」」」」」」」」」」 突然の浮遊感に『おそらをとんでるみたい!』などと思う間もなく、先頭に立った三百人程のゆっくりが落ちて行く。 そして、 「ゆ゛っ゛!?」「ゆ゛べっ゛!?」「ゆ゛がっ゛!?」「ゆ゛ぐっ゛!?」「ゆ゛ぶっ゛!?」 断末魔の一言さえ残さず、次々と息絶えた。 それはかつて、畑を襲ったとある群れを一網打尽にした恐るべき罠。 最初の落とし穴は囮で、そこに落ちたゆっくりを救い出そうと他のゆっくりが飛び込んだ時、本命が発動する仕掛けだ。 だが化け物まりさの群れにそんな殊勝なゆっくりなぞいない。だから、まりさが自ら飛び込んで発動させたのだ。 広範囲に渡る大掛かりな落とし穴。その昔、二百匹の群れを残らず飲み込んだ深淵は、過日とは違う姿で獲物を出迎える。 かつて、穴の底に敷き詰められていた古釘の代わりに突き立っていたのは、竹槍。 鋭く尖ったそれが落ちてくるゆっくりの中枢餡を貫き、絶命させたのだった。 「ゆびぃいいい゛い゛!?!?なにこれぇえええ゛え゛え゛!?!?」 先程の落とし穴が櫓となり、竹槍の林の中心にそびえ立つ。柵付きの櫓の頂点で、奴隷れいむは突然現れた地獄に怯えた。 「……だいじょうぶなのかだぜ?けがとかしてないんだぜ?」 「ゆんやぁあああ!!こないでぇええええええ!!」 逃げ場の無い櫓の中で、見知らぬまりさから逃げ出したくても逃げられないれいむが涙としーしーを垂れ流しながら懇願する。 一体何故、こんな事に?何処で自分は間違えたのか?れいむの脳裏はそんな疑問で埋め尽くされていた。 このれいむは、れいむ種主体である事意外は特徴の無い群れの生まれだ。 突出した能力の無いれいむ種であるが故に、狩りやお家の造成も不得意な群れではあったが、それを皆で補い合える群れだった。 『あのおかのドスたちみたいに、いっしょうけんめいゆっくりしようね!』 それが口癖だった長。丘の群れと言う理想を、自分の群れで再現したかったんだろう。 幾度となく丘へ出向き、『効果的な狩りの方法』や『冬でも寒くないお家の作り方』を教えてもらっていた長は厳しくもあったが、 群れがゆっくりできるよう常に頑張っていたし、そんな長を嫌うゆっくりはあの群れには居なかった。 有能な長、仲の良い群れ、お腹一杯むーしゃむーしゃ出来なくとも、れいむはこの群れを『ゆっくりプレイス』と胸を張って言えたのに、 『ゆっへっへっ、さあ!おうさまにせんぶみつぐのぜ!!』 突然現れた化け物まりさに、全部壊されてしまった。 強かった父も、優しかった母も、大好きな幼馴染みも、大切な友達も、大事なご近所も、一切合切を理不尽に奪われた。 『あのおかのどすがいれば、こんなことには………!!』 最後まで抵抗していた長が殺された時、生き残っていたのはれいむを含めて僅か三人。 そして待ち構えていたのは、奴隷として生きる屈辱的な日々。 些細な事で嬲られ、戯れに潰され、中には食糧になって殺される仲間達の姿が自分の未来を示すようで、れいむは常に死の恐怖に怯えていた。 『だいじょうぶだよ、いまがまんしていれば、きっとゆっくりできるよ!』 同じ境遇でありながら、そう言って励ましてくれたまりさはあっさりれいむを見殺しにした。他の奴隷仲間達もれいむを助けてはくれなかった。 れいむは思う。一体、自分の何が悪かったのかと。 狩りも下手なりに頑張った。お家を造るお手伝いも、近所の子供達のお世話も一生懸命やっていたし、我侭を言って両親や群れを困らせた事も無い。 (なのに、なんでこうなったの?れいむのなにがわるかったの?だれか、おしえて……!!) 幾ら考えても答えの出ない疑問に、れいむの餡子がフリーズする。 彼女を我に返したのは、眼下の地獄を作り出した見知らぬまりさの一言だった。 「とりあえずここならあんぜんなんだぜ。けがはあとでなおしてあげるから、もうすこしがまんするんだぜ。 ……まりさたちが、あいつらをぜんぶやっつけるまで。」 「……ゆっ?」 何を言われたのか解らない。そんな表情でまりさを見返すれいむ。 だが、それ以上は何も言わず、まりさは櫓から落とし穴の縁で喚き散らす化け物まりさの軍勢を睨み付けた。 「ひきょうものぉおおおおお!!ゆっくりしないでさっさとこっちにこぉおおおいぃいいい!!」 「なんでそんなところにいるんだぜ!!まりさがそんなにこわいのか、なんだぜ!!」 「むっほぉおおおおお!!とかいはにあいしてあげるわぁああ!!ありすをうけいれてねぇえええ!!」 「よくもみんなをぉおおおお!!ぜったいにゆるさないよぉおおおお!!」 「まりさのはにーをよくもころしたなぁあああ!!げすはゆっくりしねぇええええ!!」 先程から間断なく喚き続ける軍勢のゆっくり達。聞くに堪えない罵詈雑言を叩き付けられて居るにも拘らず、櫓のまりさは動じない。 「……げすはそっちなんだぜ。それより、いつまでもそこにいるとあぶないんだぜ?」 不意に呟いたまりさの言葉が終わると同時に、最前列で喚き散らしていたれいむの右目に穴が開いた。 「ゆ?………ゆっぎゃぁあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!」 突然見えなくなった右目に、自身に起こった異常を把握するよりも先に、れいむを激痛が襲う。 体の中が電撃に撃たれたかのように痺れ、全身の餡子が掻き回されるような感覚に犯され、れいむの全身から脂汗が滝のように湧き出てくる。 「ゆ゛べがぎゃ゛げごごぐびゃ゛ぼぅ゛!?!?……ゆ゛ばぁ゛っ゛!!!!!」 そして激痛にのたうち回るれいむが不意に動かなくなったかと思うと、口はおろかあにゃるやしーしー穴、まむまむや両の眼窩から大量の餡子を吹き出して息絶えた。 余りの事に騒ぐのを止めるゆっくり達。その中の一人であるまりさの頬に穴が穿たれた。 「ゆぐっ!?………ゆぎゃばばばばばばばべぎょおぉおお゛お゛お゛!?!?!?!?………ぶびゃ゛っ゛!!!!!」 そして今度はまりさがのたうち回り、全身の穴という穴から餡子を吹き出して絶命する。 それを合図にしたかのように、次々と穴を開けては狂ったように暴れて死ぬゆっくり達。 「んぼっ!?……んぼぉおお゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!?!?………ゆ゛ぼっ゛!!!」 「いやぁあああ!!れいむじにだぐな……あ゛ぎゃ゛べら゛ぴぼぉ゛お゛お゛っ゛!!!…………ぶじゃ゛っ゛!!!!」 「なんなんだぜ!?なにごとなんだぜ!?…………いやじゃ゛ぁ゛あ゛ぎゃ゛ぎゅ゛べぼぶら゛びぃ゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っ゛!?!?…………ゆ゛でぶっ゛!!!」 唐突に生まれた地獄絵図に、化け物まりさが一瞬怯む。が、すぐに原因の見当が付いたのか、慌ててスィーから飛び降りて奴隷達の陰に隠れた。 「みんな、ものかげにかくれるのぜ!!これはきっと、からだのなかにからいからいさんをうちこまれてるのぜ!!」 化け物まりさの忠告を聞き、あるものは奴隷の死体を、あるものは傍に居た仲間の体を盾にして身を隠す。 だが、盾にしたそれらからはみ出た僅かな部分を狙って穴は穿たれ続け、のたうち回るゆっくりが続出した。 それを櫓から見ていたまりさが、視線を己の後方へ向けて一人ごちる。 「……あいかわらず、いいうでをしてるんだぜ。やっぱり、ぱちゅりーたちにまかせてせいかいなんだぜ」 まりさの、絶大な信頼の篭った独り言を聞いたれいむは『何の事だろう?』と首を捻った。 化け物まりさと落とし穴を挟んで反対方向にある茂みの中で蠢く影。 そこに潜んでいたのは、全身に迷彩を施されたぱちゅりーと、同じ迷彩を施されたまりさであった。 「……もうすこしみぎへ。……いきすぎよ、ちょっとだけひだりにもどって。……いまよ、うて!」 オペラグラスを覗き込んだぱちゅりーの誘導に従い、照準を合わせていたまりさが一瞬だけ膨らみ、銜えた筒へ息を吹き込む。 その勢いに押され、筒の中を猛烈に走り抜けた弾丸が狙い違わずれいむの死体に隠れていたありすの尻に突き刺さる。 「……おみごと。ありすはしんだわ。たまをこめたらたいきしててね。……つぎ、いくわよ」 オペラグラスを通して、ありすが苦しみ抜いてカスタードを吐き出したのを確認したぱちゅりーの指示に従い、後退するまりさと入れ替わるように別のまりさが現れる。 その口に銜えているのは一メートル程度のプラスチック製の筒。その先端を化け物まりさの軍勢に向け、まりさはその場に伏せてぱちゅりーの指示を待つ。 「……つぎはおとしあなのみぎはじにいるまりさをねらいましょう。うっかりまわりこまれたら、『さくせん』がだめになるわ」 ぱちゅりーの目の高さに固定されたオペラグラスに映る獲物に狙いを定め、まりさが筒を動かす。 筒の先に付けられた照準器が、落とし穴の右端で縮こまっていたまりさに向けられた。 「……かぜさんがふいてきたわ。ねらいをひだりにはんぶんうごかして……そうね、せなかをねらいましょう」 ぱちゅりーの指示に無言で従うまりさ。その視線はゆっくりにあるまじき鋭さをたたえている。 ふらふら動いていた筒先が固定されたその瞬間、ぱちゅりーは短く命じた。 「うて!」 筒の中に大量の空気が送り込まれる。その中に詰められていたのは唐辛子の粉末を詰め込んだ特製の弾丸。 一メートル程の筒の中を滑走し、充分な勢いを付けられた弾丸は十メートル程先に居た標的の背中に突き刺さり、体内で弾け跳ぶ。 世界一辛いと言われ、殺ゆ剤にも使用されるジョロキアの粉末が砕け散ってまりさの餡子と混ざり合う。次の瞬間、まりさは自分の餡子が沸騰したかのような衝撃に襲われた。 「ゆっぎゃぁあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!」 痛い、痛い!凄まじい痛みに悶え苦しむまりさだが、激しく動き回る度に餡子と唐辛子が撹拌され、却って激痛が満遍なく全身に行き渡ってしまう。 やがて唐辛子と山葵が中枢餡に達し、まりさの命が劇物に蹂躙された。 「ぴぃっ!?……ゆ゛べじっ゛!!!!」 一瞬の硬直、そして劇物への拒絶反応が過剰に働き、まりさの中身を全て打ち撒けた。 どんどん減って行く餡子に、まりさが霞む意識で懸命に懇願する。 (やべで!!ばでぃざのあんござんででいがないで!!ばでぃざじにたぐない!!じにだぐ……しに………く…………) だが如何に懇願しようとも、まりさには餡子の流出を止められない。 故郷の群れの長を殺してその地位を簒奪したあの日の事や、全滅した群れを捨てて化け物まりさの元で好き放題に暴れた日々の事。 まりさの輝かしい栄光の記憶が、命と共に流れ出して行く。 消えゆく意識の中で、まりさは只『死にたくない』を繰り返すことしか出来なかった。 「……おみごと。いいうでだわ」 標的のまりさが汚い餡子を撒き散らして絶命するのを見届け、ぱちゅりーが狙撃手まりさを褒める。 だが一仕事終えたまりさは何でも無いかのように返した。 「……まりさのうでまえじゃないよ。これのおかげだよ」 そう言って口に銜えた競技用の吹き矢の筒を示すまりさに、ぱちゅりーが苦笑しながら応える。 「……それでも、それをつかっているのはまりさなのよ。もうすこし、じしんをもっていいわ。 ……たまをこめたらたいきして。つぎ、いくわよ。じゅんびしてね」 ぱちゅりーの言葉に黙って頷くと、まりさはもう一人のまりさと交代で積み上げられた包みへ向かう。 ゆっくりでも簡単に開けられるよう細工された包みを解いてその中身、特製の唐辛子弾を触らないように注意しながら吹き矢の筒へ押し込む。 背後で鋭い呼気が聞こえた。続くぱちゅりーの「……おみごと」と言う労いの言葉で、ゲスがまた一匹死んだのだと理解する。 ゲスが死ぬのはすっきりーっ!することだ。自然に気分も高揚してくるのは仕方が無い。 (でも、まりさたちのおしごとは、あいつらをころすことじゃない。あいつらを、にがさないことだよ) まりさは深呼吸して気を落ち着けた。 ぱちゅりーの誘導があるとはいえ、実際に狙撃しているのはまりさ達なのだ。気が高ぶった状態では碌に狙いは定まらない。 『いちいちよろこんだり、おこったり、ないていたり、たのしんでいたりしたら、いしはぜんぜんあたらないんだぜ。 ……いしをあてるときは、あてることだけにしゅうちゅうする。それが、いしをあてるこつなんだぜ』 かつて石の吹き方を伝授してくれた、森の奥で行方不明になったまりさの言葉を思い出す。 当たったからと言っていちいち喜んでいてはいられない。それに自分達が目的を失えば『作戦』は破綻してしまう。 ドスは群れで一、二を争う石吹きの名人である自分達を信頼してこのポジションに付けたのだ。 『彼ら』だってまりさ達にわざわざこんな貴重なものを用意してくれた。その信頼は絶対に裏切れない。 凪いだ湖面のような冷静さを取り戻し、今度は畑に逃げ込もうとするれいむに狙いを付ける。 茂みに引っ掛かって、薄汚い尻をこちらに向けてプルプル振るう滑稽な姿に、まりさは容赦なく唐辛子の弾を撃ち込んだ。 一方、狙撃の雨を喰らい続ける化け物まりさの軍勢は未だに狙撃手の陰すら掴めていなかった。 落とし穴を挟んでいるとはいえたった十メートル先の、あからさまな薮に注目するゆっくりは居ない。 皆、自分だけ助かろうとして大混乱に陥っていたからだ。 「かわいいれいむのためにしんでね!!」 「いやなんだぜ!!むのうなれいむこそしんでね!!」 お互いを盾にするべく背後を取ろうとして、その場でぐるぐる回り続ける番も居れば、 「んほぉおおおおお!!どうせしぬならいますぐすっきりーっ!するわぁああああ!!」 「やべちぇえええええ!!みゃみゃぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!……ちゅっきりぃいい゛い゛い゛い゛い゛っ゛!?」 自暴自棄になってレイパーと化し、手近に居た自分の娘ですっきりーっ!を始める親子も居る。 阿鼻叫喚、悲喜交々な群れの中にあって只一人、四方を奴隷で固めた化け物まりさだけは冷静に状況を見極めていた。 「……やっぱり、ここまでからいからいさんはとどかないみたいなのぜ」 余りにゆっくりしていない凄惨な死に方に騙されていたが、撃たれたゆっくりはそう多くない。 恐らく狙撃手の数が少ないのか、あるいは射程が短いのだろうと化け物まりさは見抜き、直ちに号令を出す。 「みんな!そのおおあなのそばによるんじゃないのぜ!!こっちならあんぜんなのぜ!!」 その声に、一斉に穴から遠ざかるゆっくり達。押し合い減し合い、時には邪魔な同属を踏み潰して化け物まりさの元へ向かう。 七孔噴血ならぬ五孔噴血して死ぬのはご免だとばかりに全速力で逃げ出し、ここなら安全だと一息ついたのもつかの間のこと。 「……思った通り、そこに来たね?……ドススパーク!!」 再び飛来した光の束に、十数人のゆっくりが纏めて薙ぎ払われた。 先程の焼き直しのように体の一部を残して消え去るゆっくり達。 「……まさか!?」 弾かれたように身を翻して向けた視線の先に、必死に逃げ出すドスを見つけた化け物まりさの怒りが再び火が着く。 鈍重な巨体で跳ね跳ぶ度、畑の畦道を揺らしながら遠ざかる後ろ姿を激怒を込めて睨み付け、化け物まりさは追撃を命じる。 「……いいかげんにするのぜぇ!!やさしいおうさまでも、もうがまんのげんかいなのぜ!! なにをもたもたしてるのぜ!!みんなでどすをおいかけるのぜ!!」 「「「「「「「「「「ゆ……ゆぅ~っ!!」」」」」」」」」」 化け物まりさの勢いに押され、渋々畦道に繰り出す一同。 始めは恐る恐るであった歩みが進むにつれ、足取りから怯えが消えて次第に軽くなって行く。 ここには痛い石も、落とし穴も、突然穴を開けて死ぬゆっくりもいない。それを確信した途端、群れは暴走を開始した。 「まてぇえええええ!!このどげすぅううううう!!よくもれいむをおどかしたなぁああああ!!」 「まりさをゆっくりさせなかったつみはおもいんだぜ!!だからせいっさいっしてやるんだぜ!!」 「いなかもののどすに、ありすのとかいはなあいをたくさんあげるわぁ!!むほぉおおおおお!!」 口々に勝手な事を喚き散らしながら、畑と畑の合間にある細い畦道をひた走る。 畑の作物が生い茂り、丁度ゆっくりが隠れるには絶好の薮と化した茂みが両脇に並ぶ畦道を、何の警戒も無く爆走する一団。 その後を必死に着いて行くまりさが異常を感じた時には、既に手遅れだった。 「ゆゆっ!?なんだかゆっくりできないけはいがするよぼっ!?!?!?」 「どうしたのまりしゃばっ!?!?!?」 先頭集団の最後尾で、まりさが何となく感じた違和感を漏らす途中でいきなり口を噤む。並走していたれいむが一瞬遅れてその理由を知った。 突然何かに躓くように転んだ二人を、銀色に光る何かが畑に引きずり込む。先を行く集団の誰一人とて、それに気付かなかった。 遠くで跳ねるドスの姿がどんどん近付いてくる。当然だ。 ドスの移動速度はそれ程速くない。その巨体に見合う歩幅を持つものの、巨体故の鈍重さが枷となるからだ。 「のろまのくせに、まりさたちとおいかけっこだなんて、ばかなの?しぬの?」 「で、でいぶの、ばでぃざば、がげっご、どぐい、なんだよ、………ぜひゅー、ぜひゅー」 先頭集団に追い付いたばかりのまりさがせせら笑う。そのすぐ後に続くれいむが、呼吸困難を起こしながらもまりさの言葉に追随した。 「……れいむ、むりしないほうがいいよ?」 「だ、だいじょうぶ、だよ、でいぶ、ばでぃざの、およべざん、なんだよ。 だがら、ばでぃざど、いっじょに、いるん、だよ、………ぜひゃー、ぜひゃー」 数ヶ月前、無性にすっきりーっ!したくなったまりさが行き摺りのれいむを襲って以来、彼女は『まりさのおよめさん』を自称して付き纏ってきた。 いつでも何処でも、気が付けば物陰からじっとこちらを見ている姿に、しーしーを漏らす程怯えた日々が一変したのは化け物まりさの群れに加わってから。 この群れでは、自分専用の奴隷を持つ事がステータスの高いものの証だ。 奴隷ゆっくりは群れの共有財産とされているので、名目上は番という事になる。それを聞いたれいむは奴隷となる事を即座に了承した。 いざ奴隷にしてみれば、れいむは中々に使えた。すっきりーっ!したい時にはいつでも相手してくれるし、赤ちゃんはいらないと言えば自分で茎をへし折ってちゅうっぜつっする。 少々嫉妬深く、まりさの浮気相手を殺してしまう事もあったものの、従順で健気なれいむをまりさも次第に好ましく思うようになり、本気で番に迎えようと考え始めていた。 この遠征が終わったら宝物の奇麗な石を贈ってれいむに『ぷろぽーず』しよう。 そしてあの大きなお家で、れいむと赤ちゃんに囲まれてずっと一緒にゆっくりするんだ。 とてもゆっくりした未来を思い描き、にやにや笑いを浮かべて走るまりさ。 彼女の餡子が幽かな違和感を感じ取ったのはそんな時だった。 (あれ?なんだか、へっているきがするよ……?) 入れ替わり激しい先頭集団、しかも全速力でドスを追いかけている最中だ。 大方、走り疲れて脱落したのだろう……。 (ちょっとまって、おかしいよ?まりさ、だれもおいこさなかったよ?) 先頭集団がそっくり入れ替わる程の脱落者が出たのなら、既に相当数追い抜いている筈だ。だが、まりさにはそんな記憶は無い。 気が付かなかった?いいや、それは無い。いくら何でも、まりさはそんなに大量の脱落者に気付かないようなうっかり者ではない。 (じゃあ、どうしてみんないなくなってるの?みんなどこにいったの?) 小さな違和感は、今や確信に変わりつつあった。 何かゆっくり出来ない事が起こっている。それも誰も気付かないうちに、じわじわと蝕むように。 このままでは自分達も巻き込まれてしまう、その前に逃げないと! 離脱を決意したまりさが、背後を走るれいむにその事を伝えようと振り向き……、銀色に光る何かが視界の端を翳めるのを見た。 「……ふぅっ!?」 なんだかゆっくり出来ない匂いが当たりに立ちこめる。お顔がやけに涼しい。 何故かあんよに力が入らない。折角追い付いた先頭集団がまた遠ざかって行く。 「ふぇっ!?はひは、ろうらってるろぉ!?」 まりさ、どうなってるの?そう言ったつもりだった。だが、口を吐いて出て来たのは不明瞭な発音と、やけに大きな呼吸音。 振り向いた視線の先に、見慣れないものが転がっている。けれど、まりさはそれを良く知っている気がする。 まりさの心中に広がる不安。あそこに転がっているものは何だ、知っているけど知らない、見た事無いけれども見た事がある。 その答えは、まりさのお顔を見るなり盛大に餡の気を引かせたれいむが教えてくれた。 「ゆぎゃぁああああああっ!?!?まりさのゆっくりしたおかおがぁあああ!?まりさのきれいなしもぶくれさんがぁあああああ!?!?」 「……へひふ?はひはふぉおはお、ふぉおひひゃっはふぉおおぅっ!?」 れいむ?まりさのおかお、どうしちゃったの!? れいむの尋常ではない取り乱し様に、ただ事ではないと察して詰め寄るまりさ。その発音の覚束ない口には、あるべきものが無かった。 まりさの唇が、消えていた。飴細工の歯と餡子の歯茎が、むき出しになって外気に晒されている。 左頬には口腔が覗く程深い穴が開き、息をする度にそこからひゅーっ、ひゅーっと空気が漏れていた。 まりさの右頬の半ばから左頬全面にかけて、お顔の皮が剥ぎ取られていた。先程見たもの、それはまりさ自身のお顔の一部だったのである。 「ゆわぁあああああ!!くるなぁああ!!ばけものぉおおおおお!!!」 「へ……へひふ……?」 狂乱するれいむに駆け寄ろうとするまりさに、ゆっくり出来ない罵声が浴びせかけられる。 あんなに従順で健気だったれいむから叩き付けられた拒絶の言葉に、まりさの思考が停止した。 「ゆっくりできないまりさはゆっくりしないでしね!」 その言葉を最後に、まりさに背を向けて走り去るれいむ。 さっきまで、れいむは一生懸命自分について来てくれていた。『まりさのおよめさん』である事を誇りに思ってくれていた。 だから、まりさはしあわせーっ!な将来を夢見ていられたのに! (なんで?どうして?まりさ、なにもわるいことしてないのに!……ぎゃばっ!?) 豹変したれいむの態度に混乱する餡子脳を貫く衝撃。それを最後に、まりさの意識は暗転した。 一方、れいむはここ数ヶ月分の愚痴を垂れ流しながら、畦道を逆走していた。 「まったく、せっかくびけいなまりさをてにいれたとおもったのに!!おかおをなくすなんて、とんだくずだったよ!!」 まりさの名誉の為に言えば、どのようなゲスであろうとも『顔を無くす』芸当をして見せるゆっくりなど、この世に存在しない。 顔を無くす、と言う超常現象自体には興味を示さず、ひたすらまりさを罵倒するれいむ。 「これじゃ、もうおとなりのれいむやありすにじまんできないよ!まりさのせいだね!ぷんぷん!!」 れいむ種において『すてきなだんなさん』を持つ事はかなりのステータスになる。 狩りが上手、かけっこが得意、お帽子でのぷーかぷーかが出来る等、『すてきなだんなさん』の条件は幾つかあるが、最も重要なのは『美形である』ことだ。 数ヶ月前、親をゆっくりさせない赤ゆを捨てて森をうろついていた時に襲って来たれいぱーまりさは、野生では滅多に居ない程の美ゆっくりだった。 丁度『しんぐるまざー』から只のれいむに戻ったばかりだった彼女は様々な策を弄し、まりさを『だんなさん』に据えて化け物まりさの群れに迎えたのだ。 「まいにち、まりさのたんしょうなぺにぺにのあいてまでしてやったのに!れいむのまむまむは、まりさなんかにはもったいなかったよ!」 何故かれいむを見る度にしーしーを漏らす程怯えていたまりさを『だんなさん』にするには相当苦労したものだ。 ご近所を巻き込み、まりさにある事無い事吹き込んで『奴隷にするには番になること』と言う大嘘を信じ込ませ、自慢の色香で誑し込む。 そこまでしてれいむの元に引き止めたのはまりさが美形だったから、それだけだ。 だから、お顔を失った今のまりさは、れいむにとって何の価値もない。惜しいとも思わない。 むしろ、ここまでやった苦労を水の泡にしたまりさへの恨みばかりが募っていくのみ。 「あんなゆっくりできないまりさのあかちゃんなんて、ちゅうっぜつっしといてせいかいだったよ!こんどはもっとびけいなまりさを………、ゆっ!?」 単に『赤ちゃんを育てたくなかった』から実ゆを潰した事を、都合良く正当化していたれいむの足が止まる。 先頭集団から大きく引き離された後続集団が見えてきたからだ。 「ちょうどよかったよ!まりさがしんだっておうさまにほうこくして、あたらしいまりさをもらうよ!!」 「……それはこまるみょん。そのことをしってるゆっくりはいてはいけないみょん」 れいむが自分だけに都合のいい未来を妄想しながら垂れ流した独り言に、聞き覚えの無い声で返事が返された。 突然聞こえてきた言葉に警戒するよりも早く、れいむは鬱蒼とした畑に引きずり込まれる。 後続集団は一連の出来事に気付く事無く、現場を通り過ぎて行った。 「い……いじゃい!いじゃいいいいいいい!!でいぶのぷりちーなおかおがぁあああ!!!」 畑に引きずり込まれたれいむは酷い有様だった。 右頬から後頭部に掛けて一列に並んだ小さな引っ掻き傷が鋭い痛みを、引きずり込まれる際に薮になった作物に打たれたお顔が腫れて鈍い痛みを、それぞれ伝えてくる。 「……べつにそのていどならしんだりしないみょん。さっきのまりさのほうがよっぽどひどかったみょん」 「ゆっ!?だれ!?」 もがき苦しむれいむの背後から、先程と同じ声が掛けられる。 途端に痛みを忘れて振り向くれいむ、そこには一匹のみょんが居た。 「……さっきのまりさはけっこうがんじょうだったみょん。『ろーかんけん』のいちげきでたおしきれなかったのはあのまりさがはじめてだったみょん。 ……できれば、せいせいどうどうたたかいたかったみょん。でも、これがみょんたちの『さくせん』だから、しかたなかったみょん」 「…………!おばえがぁあああああ!!ぎゃわいいでいぶをごんなめにあわぜだのばぁああああああ!!!!」 最愛のまりさを殺し、悲劇のヒロインたる自分に重傷を負わせたのが目の前のみょんだと知り、れいむは激怒した。 許せない、目の前のこいつだけは絶対に許せない!怒りにお目目を充餡させ、般若の形相でみょんに飛び掛かる。 「でいぶをゆっぐりざぜないみょんはゆっぐりじないでじね!!!!」 「……じぶんのことしかあたまにないみょん?まりさもうかばれないみょん」 怒りに任せたれいむの突撃を、みょんは余裕で躱す。 着地に失敗して無様に地面を転がるれいむに侮蔑を込めた視線を送りつつ、みょんは『ろーかんけん』を取り出して構えた。 「よけるなぁああああ!!さっさとれいむにころ……さ…………れ…………?」 起き上がったれいむがみょんの構える『ろーかんけん』を目にした途端、罵声が尻つぼみに小さくなる。 みょんが銜えているもの、それはみょんの胴回りよりも長い片刃の鋸。 一般にレザーソーと呼ばれるそれが、れいむを傷付けた凶器の正体であった。 「……あんまりさわがれて、あいつらにきづかれたらたいへんみょん。だから……」 硬直しているれいむ目掛けて鋸を振りかぶり、 「いちげきで、おわらせるみょん!!」 そのまま横薙ぎに振り払われた剣閃が、れいむを一刀両断にする。 悲鳴を上げる間もなく、真っ二つに引き裂かれたれいむの上半分がずり落ち、中身を曝け出した。 「……にんげんさんがきたえた『ろーかんけん』で、きれないものはあんまりないみょん」 油断無く残心を払いながら、みょんはそう呟く。 この『ろーかんけん』は、いつもの木の枝で戦いに赴こうとしたみょんを気遣った『彼ら』が持たせてくれた武器だ。 木の枝とは比べ物にならない威力の『ろーかんけん』で、みょんは既に二十を超える戦果を得ていた。 (……つぎのばしょにいそぐみょん。ゆっくりしてると、あいつらがきちゃうみょん) 畑の畦道は一本道ではない。畑の合間を碁盤の目の如く網羅しており、ドスはそこを縫うように逃げ惑う。 ドスを追いかける化け物まりさの軍勢は、馬鹿正直に道なりに進んでいる。わざわざ畑の薮に踏み入ろうとはしない。 そしてみょん達は畑に潜み、畑をショートカットする事で常に先回りしてゲリラ戦を仕掛けていたのだ。 先頭集団の最後尾に居るゆっくりに狙いを定め、他のゆっくり達に気付かれないうちに仕留める。 それがみょん達の役目だった。 (みょんのやくめは、あいつらをかのうなかぎりへらすこと。あいつらにきづかれないようにこうどうすること。 ……ひきょうではあっても、にんずうのすくないみょんたちではこのほうほうしかないみょん。) 敵は減らさなくてはいけない。敵に気付かれてはならない。 両方とも実に困難ではあるが、それを為さなければならないのがこの役目の辛い処だ。 (それでも、みょんは『さくせん』をぜったいにせいこうさせるみょん!) 既にみょんの覚悟は出来ている。後はどれだけあの軍勢を減らせるか、それだけだ。 次の待ち伏せ地点に向かうみょんの足が止まる。 驚愕に目を見開いたまま、中枢餡を断たれて絶命しているれいむの屍が目に入ったのだ。 「……『なかにだれもいないみょん』のほうがよかったかも、だみょん」 曝け出された切断面を見て、みょんは新しい決め台詞を推敲していた。 ※過去作とかは後編にて 一言あきの作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る スクールデイズだっけ? -- 2016-03-29 04 14 36 ヒャッハー!!ゲスは惨殺ダー!!! -- 2012-04-21 12 43 08
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ゆっくりが幻想郷に出始めた頃のお話 幻想郷のとある森の中。その奥深くにはささやかな畑と一つの小屋が。 真昼だが辺りは鳥の鳴き声がするくらいで、人の気配はない。 だが、ちょうど収穫間近のキャベツの影にはなにやらうごめくものが。 「それ」はガサガサとキャベツを揺らし、バリバリと音を立てながら貪っているようだった。 時折、声のようなものも聞こえてくる。 と、そこにカゴを背負った畑の主と思われる青年が森から姿を現した。 人付き合いは皆無で、たまに収穫した作物を街の市場へ売りに行くといった生活を送るこの青年。 今日もはした金と酒や食料などを調達し、住処へと戻ったのだった。 また、畑は小屋の入り口の裏に位置していたため、帰宅した青年が異変に気づくことはなかった。 疲れを癒すように椅子に腰掛け、さっそく買った酒を注ぎチビチビと飲み始める。 至福の時、ふと暇つぶしにと、ついでにもらってきた瓦版を手に取る。 ちなみに今号の一面は「幻想郷で謎の妖怪?が繁殖??」というものだった。 「へえ・・」 読み進めると、その妖怪は大きさが大小様々な饅頭のような生物らしい。 また、ある程度の人語を解し、自らも簡単な受け答えや意思疎通が可能であるという。 記事中では絵も交えて2種類が紹介されていた。 黒髪と紅白の頭飾りが特徴の「ゆっくりれいむ」と 黒いとんがり帽子に金髪が特徴的な「ゆっくりまりさ」 どちらも可愛いような可愛くないようなつかみ所のない人間の生首のような妖怪だ。 実際に絵で見るとますますもって気味が悪い。 どちらも「ゆっくり」が口癖であること、幻想郷の有名人の顔が象られていることなどから 人々の間でその名が付いたという。 「それ」は普段山奥や森などの人里から離れた場所に住み、昨今急速にその数を増やしているらしい。 人間の田畑も食害にあっているという。となっては青年にとって他人事ではいられない。 「まさかな・・・」 ふと不安になった青年。酒を置き、畑の様子を見に小屋を出る。 畑に到着し辺りを見回ると、悪い予感は的中してしまっていた。 「あっ!」 青年は思わず声を上げる。 栽培されていた野菜の内、キャベツの一部は、無残にも食い荒らされていた。 その奥には音を立てながらキャベツに集っている、人間の頭より少し大きい2つの丸い物体。 「・・・ゆっ ゆっ♪」 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー♪」 「・・・こいつらは・・・」 間違いない、記事で見たゆっくりとかいう妖怪だ。 そしてそれぞれ姿の違うその「ゆっくり」はまさに「ゆっくりれいむ」と「ゆっくりまりさ」に他ならない。 「おい!そこの!!」 大声で怒鳴ると、2匹のゆっくりはびくっと体を震わせる。 「ゆゆっ!?」 「ゆっ??」 同時に振り返るゆっくり。何が起こったかわからないといった顔でこちらをぽかーんと見つめる。 だがすぐ我に返ったようで、大きく口を開いた。 「ゆっくりしていってね!!!」 なるほど、だから「ゆっくり」なのか、と無理やり納得する。 記事の絵の通り、どこか人をバカにした間抜け面に力が抜ける。 「ゆっ おじさん、だーれ?」 「ゆっくりしてるの?」 畜生に人の事情はわかるまい。 青年が立ち尽くしていると、ゆっくり2匹が足下まで寄ってくる。 なんだこいつら警戒心もまるで無しか、とすっかり怒る気もなくした青年。 「ここはねー、おじさんの畑なんだよ。畑。」 力なくゆっくりに話しかける。 「はたけ?なにそれ?おいしいの?」 「ここゆっくりできるところだね!」 微妙に人の神経を逆撫でするゆっくり達。そして更に喋り続ける。 「おなかいっぱい!!」 「ゆっくりー!ゆっくりー!」 「あのねえ、おじさんはね、ここで野菜を作ってるんだよ。 勝手に人のものを食べちゃダメじゃないか」 怒りを抑え、人語を解すのだから説得もできるはずだ、とゆっくりを論す。 「ゆ~? だめ?」 「ゆっくりたべたい~」 だめだこりゃ、と青年はため息をつく。 と、その時脇の草むらからガサガサともう1匹のゆっくりらしきものが姿を現した。 「む、むきゅぅ~ ぜぇ~ぜぇ~」 かわいらしい?帽子をかぶったそのゆっくりらしきものはは、ズルズルと体を引きずりながら 息も絶え絶えで青白くなっていた。 「ぱちゅりー!!」 「ゆっくりおそいよ!」 「む、むきゅぅぅ・・・ むきゅっ??」 会話から察するに、これも2匹の仲間で、ゆっくりの一種らしかった。 ぱちゅりーと呼ばれたそのゆっくりは青年に気づいたのか、一瞬戸惑いを見せた。 「ぱちぇもおじさんといっしょにゆっくりしよう!」 こちらの気も知らずに、と青年は歯をかみしめた。 「ゆっくりー!」「ゆっくりー!!」「むきゅ~」 こうして目の前のゆっくりが3匹になってしまった。 力尽くで追い出そうとも考えたが、初めて目にする得体の知れない相手だけに うかつに手を出すのは得策ではないと青年は考えていた。 「ゆぅっ!おじさんはゆっくりでていってね!」 突然ゆっくりまりさが体当たりを仕掛けてきた。 思わず青年は驚きのけぞったが、と同時にこの饅頭の非力さにも驚いた。 妖怪と聞いて若干は警戒していたが、その必要もなさそうだ。 足下で必死にボテンボテンと体当たりをするゆっくりを見下ろし、安堵する。 「ゆっ?まりさのおぼーし!ゆっくりかえしてね!!」 しつこいのでまりさの帽子をむんずと掴み取る青年。 不測の事態に体当たりを止め、届かない帽子にジャンプを繰り返すまりさ。 「なあ、お前たち。ここは人間が野菜を育ててる場所なんだよ。 それを勝手に食べちゃダメだ。わかったら出て行ってくれないか? 出て行ったら帽子を返してあげるぞ」 これ以上相手にするとキリがないので、何とかゆっくりに譲歩してもらう他はない。 「ずるいよおじさん!はえてきたおやさいひとりじめして!!」 「ゆっくりはやくまりさにおぼうしかえしてね!!」 「むきゅ!そーよ!ごほっごほっ」 「駄目だこいつら・・・」 何度話しても時間の無駄だと実感した青年。 話して駄目なら実力行使しか手はない。 ふと近くにあった棒きれを振りかざし、地面に叩きつける。 「「「ゆっ!!?」」」 「ほらっ!!いい加減にしないと痛い目見るぞ!!」 同時に持っていたまりさの帽子を森の茂みに勢いよく投げ捨てた。 「ゆっ!まりさのおぼーし!!」 「ま、まりさ ゆっくり待ってね!!」 帽子を追いかけ茂みに消えるまりさ、後を追いれいむとぱちゅりーも奥へと消えていった。 「ふう・・・」 ゆっくりは追い払った、しかしまた来るかもしれないという懸念は青年の中に当然あったが とりあえず被害にあった野菜の世話に戻る。 食い散らかされたキャベツと、青年は知る由もないがゆっくりの残していった排泄物を片付け 青年は小屋へと戻った。椅子に腰掛け飲みかけの酒を口にし、一息つく。 「そろーり、そろーり」 ぴくりと聞こえたその声。動きを止め耳を傾けると、間違いなくさっきのゆっくりの声。 裏の窓からそっと様子を見ると、性懲りもなく再びあの三匹が畑へと侵入していたのだった。 「あいつら・・!ったく・・・」 やはりというか再び現れたゆっくりにウンザリしながら畑へ向かった青年。 「おい!お前ら!」 「ゆっ? またきたよまりさ!」 「おじさんしつこいよ!」 「むきゅっ!ここはわたしたちのゆっくりぷれいすよ!」 「はぁ・・・(何を訳のわからないことを・・・ それにしつこいのはお前たちだろうに)」 しつこさに業を煮やした青年ではあったが、相手が人語を喋る得体の知れない生物ということで 対処を決めかねていた。 さっきのゆっくりの攻撃は青年にとってまったく取るに足らないものだった。 よって、おそらくこちらが手傷を負うことはないだろう、という読みはある。 とはいえ人間の頭の形で、人間の言葉を喋る生物をどう駆除すればいいか。 青年の中には当然の迷いがあった。 「ゆっ!まりさ、ちゃんすだよ!」 「おじさん、あしもとがおるすだよ!」 隙を突いたつもりなのか、ボヨンボヨンとまた青年の脚に体当たりを繰り返すまりさ。 同じことを繰り返す学習しないこの生物に、青年の迷いも少し晴れた。 「(そういえばこいつら饅頭なんだよな、ならちょっとくらい痛い目見せてやっても・・・)」 「ゆぼっ!!?」 効かない体当たりを繰り返すまりさに正面から蹴りを食らわせた。 まりさは茂みの側まで吹っ飛び、青年の脚には何とも言い難い、柔らかくやや重い感触が残る。 「(あっ やりすぎたか?)」 吹っ飛ばされたまりさは動かない。他二匹もいきなりの反撃に驚いたのか、呆然としている。 「・・・ゆっ? ・・・まっまりざあああああ!!!」 「むぎゅううう!!」 慌ててまりさの元へ向かう他二匹。まりさはよろよろとこちらへ向き直る。 「ゆ゛っ・・? どぼじで・・・なにがおきたの・・?」 「まりざあああじっがりじでえええ!!」 「ゆ゛っ・・・これくらい・・だいじょうぶ・・だよ・・・」 力の差を見せつけたはずだが、まだわからないのだろうか。 そもそも何をされたかもわからない様子だった。 頬の辺りの皮が破け、黒いものが覗いている。 裂けた皮の辺りを舌で仕切りに舐めるれいむを静止し、再び青年へと向かうまりさ。 先ほどは跳ねていたが、ダメージが大きいのかズリズリと地面を這うように。 「(まだ懲りてないのか・・・ あのはみ出てるのは・・・饅頭だから餡子なのか?)」 「ごごはまりざだぢのゆっぐりぶれいずなんだよ・・・ じゃまじないでね・・・」 自分勝手なことを呟きながらこちらに這いずるまりさの姿に、 青年の中で言いしれぬ嫌悪感と怒りがこみ上げてきた。 相手は動物でも妖怪でもない。饅頭だ、食べ物だ。 そう言い聞かせ、さっきの棒きれを手に取り、思い切りまりさに振り下ろす。 「このっ!!このっ!!」 「ゆ゙っ!!ゆ゙っ!!ゆ゙ばっ!!ぶっ!!や゙っ!!べでっ!!ばっ!!」 「や゙っや゙べでえ゙え゙え゙え゙え゙!!!ばり゙ざがあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」 「むぎゅうううううううううううううう!!!」 何度も何度も叩きつけられ、まりさはやがて声も発しなくなった。 帽子がひしゃげ、口や傷口から餡子を漏らしたズタボロの饅頭がそこにあった。 「ば・・・ば、りざ・・・あ゙あ゙あ゙・・・」 「・・・」 ぱちゅりーはすでに気を失っているようであった。 れいむも目から涙を流し、嗚咽を漏らしている。 「人の畑で好き勝手したからだ、悪く思うな」 青年は失神しているぱちゅりーを掴み、底部に両手の指を食い込ませ 思い切り両側へと引っ張った。 「む゙ぎっ!!!!」 短い叫びと共に、真っ二つに裂けた皮から中身がボタボタと流れ出る。 数秒で手には皮だけが残り、地面にはクリーム状の中身と目玉が残された。 一匹残ったれいむは全身から汗のようなものを流し、ただブルブルと震えている。 「ゆ゙・・ぁぁ・・・だ、だずげで・・・ おねがいじまずぅぅ・・・」 「・・・どうせまた来るんだろ?」 「ま、まっで・・・!!」 青年は情けを捨て、棒を思い切り頭に突き刺す。 「ゆ゙っ!ゆ゙っ!ゆ゙っ!ゆ゙っ!」 目を見開き身体を震わせるその様に、不気味なものを感じた青年は れいむを突き刺したまま棒を思い切り振り、森へとぶん投げた。 「はー・・・何か胸糞悪いな・・・ また同じようなのが来なきゃいいが」 ゆっくり駆除の後片付けをしながら、青年は今後が心配でならなかった。 そして同じ頃、幻想郷の各所では増殖したゆっくりが様々な問題を引き起こすのであった。 おしまい 実は半年位前の書きかけです。今ごろ気付いて中途半端に完成させUPしました。 やっつけですいません。ネタも平凡ですいません。 書きかけのネタは他にもあるんですが、飽きっぽいので今後は未定です。。。 過去に書いたSS ゆっくりいじめ系28 ゆっくり加工所でのある実験 ゆっくりいじめ系724 ゆっくり整形 ゆっくり加工場系16 小規模加工所でのゆっくり処理 ゆっくり加工場系20 小規模加工所
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お話しゆっくり 中編 57KB 虐待-普通 制裁 仲違い 誤解・妬み 自滅 同族殺し 駆除 群れ ゲス ドスまりさ 現代 人間なし 独自設定 ゆっくり興亡史の最終話です(三部作・中編) ※独自設定が沢山あるんだぜ! ※人間さんは最後にちょろっと出て来るだけだぜ! ※虐待?それ何なんだぜ? ※『ちーと』なゆっくりが出てくるんだぜ!苦手な人はごめんだぜ! ※とんでもなく長いんだぜ!これで中編なんだぜ? ※『お尋ねゆっくり』の続きなんだぜ!……遅くなってご免なさぁああいい! 書いた奴:一言あき 雪に閉ざされた森に生える一本の老木、その根元に開いた空洞の中にそれは居た。 食糧を兼ねた干し草を厚く敷き詰めた上に鎮座するのはれいむとまりさの番である。 そしてれいむの額には、八人もの実ゆを鈴生りに生やした茎が伸びていた。 「れいむのあかちゃん、はやくうまれてきてね!いっしょにゆっくりしようね!」 「まりさのあかちゃん、はやくうまれてくるんだぜ!いっしょにゆっくりするんだぜ!」 この番は先程すっきりーっ!したばかりだった。当然、茎だって生えてきたばかりである。 茎で生まれる実ゆのにんっしんっ期間は大体三日程度。それくらいの時間を掛け、文字通りゆっくり生まれて来るものだ。 「……まだうまれないの?ゆっくりしすぎだよ……」 「ほんとなんだぜ!ゆっくりしないでいそいでほしいんだぜ!」 だというのに、この番は赤ゆの誕生を待ち切れないらしい。 次第に呼びかけの内容が変わっていく。否、それはもう口汚い罵声であった。 「はやくうまれてね!!れいむたちをゆっくりさせてね!!」 「これじゃまりさたちがゆっくりできないんだぜ!!さっさとうまれろぉおおっ!!」 最初のゆっくりした呼びかけとは程遠い罵声に急かされたのか、ゆっくりと大きくなっていく筈の実ゆがビデオの早回し映像のように急速に育ち始める。 青いプチトマトのような外見がみるみる大きくなり、皺が寄り始めたかと思うとあっという間に閉じた目と口に変化していく。 へたの部分が上下に分かれ、下の部分が細かく枝分かれしながら伸びていき、髪の毛に変わる。 残った上の部分が黒や赤に染まり、黒いものは円錐状に広がって帽子になり、赤いものは髪の毛に絡まってリボンになる。 そして苦悶の表情を浮かべた実ゆが一斉に身震いを始め、茎の一番先に生っていたまりさが干し草の上に着地した。 「……ゆ、ゆっくちちていっちぇにぇ!!」 怯えを含んだ初めてのご挨拶。 その舌足らずの拙い言葉を聞いた途端、殺伐とした気持ちが消えていくのをれいむとまりさは感じていた。 「「ゆっくりしていってね!!」」 先程まで罵声を浴びせていたとは思えない程の変わり身で、生まれ落ちた我が子を祝福する。 「ゆ~♪とってもゆっくりしたおちびちゃんだよ!」 「まりさににてとってもゆっくりしてるんだぜ!!」 そして次々に生まれ落ちてくる赤ゆ達。やはり怯えながらのご挨拶に、両親は心からゆっくりした笑顔で応える。 両親のゆっくりした姿に安心したのか、赤ゆ達もお互い「ゆっくち!ゆっくち!」と姉妹を祝福し始めた。 そして茎の根元で震えていた最後の一人がぽとりと落ちる。両親も姉妹も、末っ子を祝福しようとそちらに目を向けた途端、固まった。 「ゆっちちちちぇいっちぇちぇ!」 妙に甲高い声で舌足らずに過ぎるご挨拶をしてきたのは、恐らくまりさ種なのだろうと思われるゆっくりだった。 頭頂付近に集中した金髪の上にちょこんと載った明らかにサイズの足りていないお帽子。 寸胴の茄子を思わせる体躯を盛んに捻り、唾液を撒き散らしながら「ゆっちちぇ!ゆっちちぇ!」と締まりのない笑顔で舌足らずのご挨拶を繰り返している。 お帽子もある。金髪さんも生えている。愛らしい笑顔も浮かべている。 だが、そこに居たのは姉達とは似ても似つかない化け物だった。 「ゆぎゃぁああああ!!なんなのこれぇええええ!?」 「なんなんだぜ!?これはいったい、なにごとなんだぜ!?」 「「「「りぇいみゅのいもうちょぎゃぁああああ!?!?」」」」「「「まりしゃのいもうちょぎゃぁあああああ!?!?」」」 「……ゆっ?」 一斉に騒ぎ出す両親と姉達を、不自然に大きな目で不思議そうに見る末っ子まりさ。彼女は先天的に足りないゆっくり、『未熟ゆ』であった。 栄養が足りないため、餡子の継承が不十分だったため、単純にゆっくり出来なかったため。『未熟ゆ』が生まれて来る理由は諸説あるが、未だ特定はされていない。 はっきり言えるのは、そうして生まれた未熟ゆは例外無くゆっくり出来ないこと、それだけだ。 奇声を上げて奇行に走る末っ子まりさ、余りにゆっくりしていない姿に親まりさは『間引き』を決意した。 「ゆ、ゆっくりしていないげすなあかちゃんはせいっさいっするんだぜ!!」 「まって!まりさ!!」 だが、一気に踏み潰そうと力を溜める親まりさを親れいむが引き止めた。 「れいむ、どうしてとめるんだぜ!?このままじゃ、あかちゃんもまりさたちもゆっくりできなくなるんだぜ!?」 「……それでも、そのあかちゃんもれいむとまりさのおちびちゃんなんだよ。それに……」 れいむは視線を末っ子まりさに移す。相変わらず「ゆっちちぇ!ゆっちちぇ!」と奇声を上げて跳ね回る姿はゆっくり出来ていない。 「……ねぇ、まりさもれいむも、うまれるまえのあかちゃんになんていったか、おぼえてる?」 「ゆ?…………っ!!まさか、そのせい、なんだぜ?まりさとれいむが、あかちゃんをゆっくりさせなかったから……?」 れいむの言葉からまりさが恐る恐る出した推論に、沈痛な表情で首を縦に振るれいむ。 そう、この八人姉妹のうち、末っ子だけが未熟ゆだった理由は明らかだった。 即ち『早産』と『栄養不足』である。 通常三日かけるにんっしんっを僅か一時間程度に縮めたのだ。むしろ先に生まれた姉達に異常がないのが異常であろう。 本来均等に行き渡る筈だった餡子が姉達に優先された結果、そのツケを末っ子まりさが背負ったのだ。 「……まりさ。このおちびちゃんはすきでゆっくりできないわけじゃないよ。れいむたちと、おちびちゃんたちのせいでこうなっちゃんだよ。 ……だからゆっくりできるよう、りっぱにそだてるのが、れいむたちのばつなんだよ、きっと」 「……わかったんだぜ、れいむ。このおちびちゃんもゆっくりそだてよう。いまはむりでも、いつかいっしょにゆっくりしてくれるかもしれないんだぜ」 「そうだね、そうなるようにゆっくりがんばろうね!」 ゆっくり出来ない子供を育てることを決意したまりさとれいむが、改めて未熟ゆに向き直る。 奇行に走っていた未熟ゆがそれに気付いて、舌足らずな甲高い声で「ゆっちちぇ!」と呼び掛けてくる姿に両親はありったけのゆっくりを込めてご挨拶を返した。 「「まりさ、ゆっくりしていってね!!」」 『お話しゆっくり 中編』 先行する集団を追いかける後続集団の、その最後尾に陣取る化け物まりさは不審に思っていた。 (おかしいのぜ、どすがぜんぜんはんげきしてこないのぜ。 ……それに、なんでいつまでたってもどすにおいつかないのぜ?) ドスの鈍足に誰も追い付かない、そんなことは有り得ない。ならば、なぜ? そこまで考えが及んだ時、化け物まりさの脳裏にある可能性が浮上した。 (……もしかして、おいつかないんじゃなくて、おいつけない、ってことのぜ?) ドスの足が速いのではなく、群れの足が遅いのでもなく、ドスに追い付けない理由があるとするなら……? そんなもの、罠に決まっている! そう考えると、反撃もせずひたすら逃げるだけのドスの行動にも説明が付く。 ほら、畦道の両脇で生い茂る草むらなど、ゆっくりが身を隠すには絶好の場所ではないか! 「ゆげぇっ!?しまったのぜ、これはどすのわななのぜ!!ぜんぐん、とまるのぜぇええええ!!」 慌てて全軍停止を命じる化け物まりさ。しかし先行していた集団には命令が届かす、ドスを追いかけたままどんどん引き離されて行く。 と、不意にドスが振り向き、先頭集団に向けてドススパークを放った。畦道一杯に広がる光芒が、先頭集団を灼き尽くす。 「ゆっ!?あぶなかったのぜ!あれはきっと、にげながらきのこさんをむーしゃむーしゃしていたのぜ!!」 間一髪、ドスの企みを見抜いた化け物まりさの言葉に、周囲のゆっくり達が一斉に安堵の溜め息を吐く。 もしも化け物まりさが居なかったら、今頃自分達もあの光で消し飛ばされていただろう。そう考えると、化け物まりさの聡明さが頼もしく思える。 先頭集団を吹き飛ばしたドスは、逃げもせず同じ場所に突っ立ったままだ。策を見抜かれて呆然としているのだろうか? 今度は慎重にドスに近付いていく化け物まりさの軍勢。落とし穴とその後の混乱で全体の三分の一程を失ったが、まだまだ数の優位は崩れない。 動かないドスを無数のゆっくり達が取り囲む。そして化け物まりさが文字通り化け物じみた、壮絶な笑顔を浮かべてドスの正面に歩み出た。 「……よくもさんざんてこずらせてくれたのぜ。でも、それももうおわりのぜ」 「…………」 化け物まりさの勝利宣言に、ドスは無言を返す。化け物まりさの軍勢は、それを降伏宣言と受け取った。 「ゆあぁああん?なんなんだぜ?いまさらいのちごいなんてきくわけないんだぜ!?」 「よくもれいむをゆっくりさせなかったね!しゃざいとばいしょうをせいきゅうするよ!あまあまをたくさんよういしてからしんでね!!」 「どすったら、ほんとうにいなかものだわ!!こうなったらどすでいちにちじゅうすっきりーっ!をするしかないわね!!」 「…………」 口々に罵声を浴びせる群れにも、冷めた目を向けるだけで反論もしない。 やがて言いたい事を言い尽くしたのか、ある程度群れの狂乱が収まった頃合いを見計らって、化け物まりさが宣言する。 「よーくきくのぜ!!まりささまをゆっくりさせなかったつみ!!まりささまをだまそうとしたつみ!!けらいをころしたつみ!! ゆっくりぷれいすをひとりじめしたつみ!!どれいのくせにどれいをもったつみ!!ぜんぶあわせて、どすをしけいにするのぜ!! ……さいごになにかいいのこすことはあるのぜ?まりささまはやさしいから、まけおしみくらいはきいてやるのぜ」 それを聞いたドスが、始めて口を開く。 「……奴隷?まりさ達には奴隷なんて居ないよ?」 「とぼけるんじゃないのぜ!!にんげんをどれいにしていたのはわかっているのぜ!!」 化け物まりさの言葉に、軽く目を見開いたドスは直後、腹を抱えて笑い出した。 「あっはっは!!人間さんを、奴隷にする、だって!?出来る訳無いでしょう、そんな事!!!」 「なにをわらっているのぜ!?まりささまをばかにするのもいいかげんにするのぜ!?!? ……もういいのぜ!!どうせ、どすはここでしぬのぜ!!」 最初はドスも捕らえて死ぬまで扱き使うつもりだったが、気が変わった。こんな生意気で無礼なドスなんか、生かしておくだけ無駄だ。 死刑を執行するべく、全軍に命令を下そうとする化け物まりさ。 「みんな、しけいしっ…………!!な、なんなのぜこのおと!?」 だが、声を張り上げる寸前に聞こえてきた羽音に、餡子の隅がくすぐられる。餡子の奥底に封じた筈の、ゆっくり出来ない日々の記憶が甦る。 羽音は空から聞こえてきた。即座に空を見上げる化け物まりさと、つられて空を仰ぎ見る群れのゆっくり達の目に、『ソレ』は姿を現した。 「「「「「「「「「「れ、れ、れみりゃだぁああああああ!!!!!」」」」」」」」」」 そこに居たのはゆっくりれみりゃであった。 実はこの群れはれみりゃと戦った事が無い。森の奥に隠れ住んでるらしいれみりゃは数に勝る群れを恐れ、一度も姿を見せた事が無かった。 そう、『数の暴力』こそが化け物まりさの群れの強さ。捕食種にして天敵たるれみりゃすら寄せ付けない、あの森を化け物まりさの天下に染め上げた絶対強者の原理。 だから……、『百匹近いれみりゃの大群』という自分達以上の『数の暴力』に出会ったのは、これが初めてだったのだ。 胴付き、胴無し取り混ぜての混成軍、しかも胴付きはそれぞれ手に鋤や鍬、鎌や熊手、干し草用のフォークなどを持って構えている。 餡子の奥に刻まれた恐怖に怯え、群れの士気はあっさり砕け散った。 「どおしておひさまがでてるのにれみりゃがいるのぜぇ!?!?」 狂乱する群れの中にあって、化け物まりさだけは違う点に着目していた。 確かに、餡子をちりちりと焦がす恐怖はあるものの、れみりゃは一度やっつけた事があるのだ。なら今回だって勝てるに違いない。 しかし、太陽光に弱い筈のれみりゃが日中から活動している事だけは納得できない。 思わず口に出してしまった疑問、その答えは目の前に居るドスからもたらされた。 「……何言ってるの?お日様ならとっくに沈んでるよ?」 「なにいってるのぜ!?こんなにあか……る………い……………?」 ドスの言葉に激昂する化け物まりさが、ある事に気付く。 ここに到着した時、お日様は既に傾いていた。橙色に染まった夕日に照らされるお野菜を、確かに見た。 季節は晩秋、いや既に初冬に入っている。この季節の夕日ならとっくに沈んでいておかしくない。 (なのに……なのに!なんでこんなに、あかるいのぜぇ!?!?) そう、ドスを追いかけている間、畑は常に光に満たされていた。太陽が地平線に沈み、辺りが夕闇に覆われても、畑は煌煌と照らされていたのだ。 広大な畑の中心、収穫を終えて休耕している畑が作る空き地で、スポットライトを浴びるように照らし出される化け物まりさとドス。 そしてドスは、推理を明かす探偵のように、あるいは判決を下す裁判官のように語り始めた。 「人間さんはね、夜でも昼間みたいに明るくする事が出来るんだよ。ゆっくりには絶対に真似できないけどね」 ドスの語りに、化け物まりさは応じない。黙りこくったまま、ひたすらドスを睨み付けるだけだ。 周囲のゆっくり達も雰囲気に呑まれたのか、騒ぎ立てる事無くドスの言葉を聞いている。静まり返った畑に、ドスの声とれみりゃの羽音だけが響き渡る。 「貴女達が来る事はとっくに気付いていたんだよ。でも、まりさ達がお願いして全部任せてもらったんだよ。……その代わり、ちょっとしたお手伝いを頼んだんだ。」 そこで言葉を区切り、ドスは化け物まりさの軍勢を睥睨する。 「人数の多い貴女達を、まりさ達だけじゃ撃退出来ない……、だから援軍をおねがいしたんだよ。人間さんが捕まえていたれみりゃ達に、ね」 その言葉を聞いた途端、一斉にざわめき出す軍勢。化け物まりさも、驚愕を禁じ得なかった。 人間が捕まえていた?これだけの数のれみりゃを!?ならば、人間とはどれ程居るというのか!! 驚愕にざわめく一同を余所に、ドスの語りは続く。 「れみりゃは、お日様に当たると死んじゃうからね。だから、まりさが囮になって逃げ回ってたんだよ。 落とし穴で逃げ道を塞いで、吹き矢で狙撃して逃げられなくして、畑で待ち伏せして。そうやって、時間を稼いだんだよ。 ……お日様が沈んで、れみりゃ達が動けるようになるまで。それが、まりさ達の『作戦』だったんだよ」 そこまで言うと、ドスはまた口を噤む。 静まり返った畑に沈黙が下りる。耳が痛くなる程の静寂を破ったのは、化け物まりさの叫び声だった。 「……う、うるさいのぜぇえええええ!!へりくつこねてないで、さっさとしぬのぜぇええええ!!」 まりさは怒っていた。先程までの怒りが霞んでしまう程激怒していた。 ドスの言葉通りなら、最初から最後まで自分達はドスと人間に弄ばれていた事になる。 ふざけるな!ふざけるな!!ふざけるな!!!たかがれみりゃ百匹程度で、優位に立ったつもりか!? 「れみりゃなんか、おうさまにかかればひとひねりなのぜ!!なんびきいようが、おうさまにかてるわけないのぜ!!」 その言葉につられたのか、話の内容に着いていけずに呆然としていた群れが再び騒ぎ出した。 「そーだそーだ!!れいむたちはれみりゃなんかより、ずっとずっとつよいんだよ!!わかったらさっさとしんでね!!」 「まりささまのおうごんのあしわざをくらって、いきているゆっくりなんかいないんだぜ!!あとでこうかいしても、おそいんだぜ!!!」 「たまにはれみりゃもいいわぁああああ!!ありすのとかいはなぺにぺにですっきりーっ!しましょうねぇええええええ!!」 姦しく騒ぎ立てるが、誰もそこから動かない。威勢が良いのは口先だけで、内心では皆れみりゃに怯えているのだ。 そんな情けない配下の姿に我慢が出来なくなったのか、ドスに向かって化け物まりさが猛然と襲い掛かる。 「ゆっくりしないでしねぇええええぅぶびゃっ!?!?!?」 だが、その渾身の一撃はドスに届く寸前、横殴りの衝撃に阻まれる。化け物まりさが勢い良く地面に叩き付けられ、餡子を吐きながら無様に転がって行く。 いつの間にか、ドスを守るように一匹のれみりゃが立ちはだかっていた。手に持った鋤を振り抜いた姿のまま、化け物まりさを睨みつけている。 「……ありがとう、れみりゃ。でも、まりさなら平気だったよ?」 化け物まりさの突撃はそれ程速くもなかったし、大きさだって標準的なゆっくりと大差ない。武器を銜えている訳でもないので、ドスの脅威にはならなかっただろう。 ドスの言葉に、れみりゃは頭を振って答える。 「……それはわかってるんだど。それでも、れみぃはあいつをゆるせないんだど」 そう言うれみりゃの視線を追い、ドスは「ああ、そうか」と納得した。 「……そう言う事なられみりゃに任せるよ。でも、とどめは刺さないでね。それで良い?」 「……あたりまえなんだど。まかせるんだどぅ」 ドスの提案に正面を向いたまま頷くれみりゃ。油断無く鋤を構える視線の先で、よろよろと化け物まりさが身を起こす。 「よくもやったのぜ!!もうてかげんはなしなのぜ!!ないてあやまるならいまのうちなのぜ!!!」 「むだぐちたたいてないで、さっさとかかってくればいいんだど。……それとも、くちさきだけなんだど?」 「むきぃいいいいいいっ!!いわせておけば、もうゆるさないのぜぇえええええっ!!」 「ゆるさなければ、どうするんだど?れみぃはいつでもあいてするんだど?」 お互いに挑発し合いながら、化け物まりさは焦っていた。 (なんでなのぜ!?なんで、すきがぜんぜんみえないのぜ!?) ドスならドススパークを撃つ為のキノコの咀嚼、まりさ種やちぇん種なら飛び掛かる寸前の溜め、レイパーありすならぺにぺにを突き入れる為に腰を引く一瞬。 何らかの行動を起こす前に挟まれる予備動作を見逃さず、その後の行動を予測して先手を打つ。人間の武術で言う『後の先』を取る戦い方こそが、化け物まりさの必勝法だ。 先程からの挑発もその為。れみりゃの出方を計り、先に行動させることで『後の先』を取ろうとしたのだが、挑発の最中でさえれみりゃに隙らしい隙が見出せない。 視線は常に化け物まりさに固定され、鋤を構える手はぴくりとも動かず、唯一口と羽根だけが休まず動いている。 (……このままじゃらちがあかないのぜ。ここはひとつ、せんてをうってみるのぜ!) それは今までの定石から外れた行為ではあるが、れみりゃとまりさの実力差は歴然としている。今更遅れをとる筈が無い。 じり、じり、と罵り合いを続けながら間合いを詰めていく。体半分程歩みを進めた辺りで、まりさは鋤を構えるれみりゃの右腕に力が篭るのを感じ取った。 (みぎかひだりか、どっちかからなぐりかかるきなのぜ!?だったらうしろににげるのぜ!!) 咄嗟の判断に従い、まりさは背後へ飛び退く。直後、紙一重でれみりゃの鋤が空振りする、筈だった。 「……ゆっぎゃぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!?!?!?!?!?」 化け物まりさが悲鳴を上げてのたうち回る。転がる度に餡子がどくどくと流れ出るのが見えた。 横薙ぎに払われたれみりゃの鋤がかすり、顔の皮を切り裂いたのだ。傷痕だらけの顔に真新しい傷が刻まれ、そこから餡子が漏れ出ている。 幸い傷は浅く、流れ出る餡子も致命傷には程遠い。だが、餡子が流れるような大怪我から離れて久しかったまりさにとって、それは堪え難い激痛だった。 (み、みえなかったのぜ!?れみりゃにいつなぐられたのか、ぜんぜんわからなかったのぜ!?) しかしそれ以上に、れみりゃの攻撃が見えなかった事が化け物まりさを慄然とさせた。 ドススパークでさえ避けてみせたまりさが見切れない程の高速で振るわれた鋤、そしてそれを為したれみりゃ。 違う。このれみりゃは、何かが違う。まりさの餡子に、未知なる敵への警鐘が五月蝿い位に鳴り響く。 と、再びれみりゃの右腕に力が篭る。それに反応したまりさが飛び退くよりも速く、鋤が再び皮を切り裂いた。 「ゆびゃぁあああああっ!?!?どうしてかわせないのぜ!?つ、つぎはかわすのぜ!!」 餡子を撒き散らし、痛みに泣き叫びながら、化け物まりさはれみりゃに挑み続けた。 一方、れみりゃは何も特別な事はしていなかった。間合いに踏み込んできた化け物まりさを、鋤で小突いているだけである。 尤も、その鋤は人間から見ても驚愕する程の速さと鋭さをもって振るわれていたのだが。 この村では少々変わった研究が行われていた。『ゆっくりの農奴化』である。 ゆっくりは農家にとって害獣だ。とはいえ、ゆっくりには農耕の概念を持つゆうか種がいる。 ゆうか種の胴付きであるのうかりん種に至っては、人間とほぼ変わらない高度な園芸技術を持つものさえいるのだ。決して不可能な事ではない。 しかし、ゆうか種は希少種だ。のうかりんに至っては更に稀少で、通常七桁、個体によっては八桁で取引されている。そんなもの、必要な頭数を揃えるだけで破産が決定してしまう。 そこでこの村が目をつけたのがれみりゃ種であった。 れみりゃ種は捕食種の中で唯一、通常種に区別されるゆっくりだ。胴付きであろうとそれは変わらず、野生では良く見受けられる。 太陽の光に弱いので日中は行動できないが、捕食種に相応しい力と『すぴあ☆ざ☆ぐんぐにる』と称する道具を使う程度の小器用さを備えているので、農耕の概念さえ植え付ければ良い農奴になるだろう。 そう考えた村の有志達が、野山で採集してきたれみりゃの品種改良に着手したのが五年前。以降、細々と続けられてきた研究の成果こそ、このれみりゃ達であった。 このれみりゃはこの村で生まれた第五世代目のれみりゃである。この世代は寿命こそ三年前後と短いが、知性身体能力共に通常のれみりゃよりかなり高い。 なにより、ゆっくりの中でもれみりゃ種が特に鈍いと言われる反射神経の向上には目を見張るものがあった。 予備行動から行動に移るまで一切無駄無く最速で動く、人間で言う『無拍子』に近いれみりゃの動作が、まりさの『後の先』より速かった。 言葉にすればたったそれだけでしかない。それが、化け物まりさにとって最悪の相性だっただけの事。 何より、このれみりゃには『絶対敵わない理由』がある事を、化け物まりさは知らなかった。 れみりゃの右手に力がこもるのを見て、まりさは必死の勢いで飛び退く。 だが、飛び退く為にあんよに力を込めた時には、既にまりさの左側面にまで鋤が迫る。 さくりと軽い音を立て、鋤の刃が頬を撫でるように浅く斬りつけた。 「ゆびぇええ゛え゛え゛え゛っ゛!?みえないのぜぇっ!?ぜんぜんみえないのぜぇえええええっ!?」 新しく付けられた傷口から餡子が滲み出す。じくじくした痛みに苛まれながらも、化け物まりさは見えない攻撃を見切ろうと躍起になっていた。 自分は『ゆっくりのおうさま』なんだ!だかられみりゃなんかに負ける訳が無い! この根拠の無い自信がまりさの心を奮い立たせる。最早まりさの視界には目前のれみりゃしか映っていない。 だから、背後で配下の軍勢が囁き合う声は一切耳に入らなかった。 「……どういうことなんだぜ?なんで、おうさまがおされているんだぜ?」 「あっちのれみりゃよりよわいよね?おうさまって、あんなによわかったっけ……?」 「……なんだか、おうさまよりあっちのれみりゃのほうがとかいはにみえるわ。どうしてかしら?」 小さな疑問の声は、次第に大きくなっていく。 背後で広がるざわめきにも気付かずに、挑戦を続ける化け物まりさと迎撃するれみりゃ。 そして決定的な瞬間が訪れる。 「……しまったど!!」 鋤を振るうれみりゃの表情が焦りの色に染まる。 それを訝しみながらも必死に飛び退くまりさの横っ面に、鋤の腹がクリーンヒットした。 「ゆ゛ぎゃ゛びぃ゛い゛い゛い゛い゛っ゛!?」 目測を誤り、まりさを真っ二つにしてしまう軌道で振るわれた鋤を、れみりゃが咄嗟に腕を返して腹の部分で殴り飛ばしたのだ。 空気抵抗により勢いを殺された一撃はそれでも充分な威力を持ってまりさを弾き飛ばし、地面に叩き付ける。 その拍子に化け物まりさが被っていた帽子が脱げ、隠れていた頭頂部の禿頭が曝け出された。 「……ゆっ、ばでぃざのおがざりざんが………!!」 ひらひらと空中を舞い、帽子は化け物まりさ達の激闘を遠巻きに見ていた群れの方へ流れていく。 れみりゃとの勝負を一旦置き、まりさは帽子を追いかける。 ゆっくりと流される帽子に向かって大きく跳ね飛び、見事帽子を空中でキャッチしたまりさはそのまま群れの目前に着地した。 「…………ば、ばでぃざのおがざりざん………もうなぐずのばいやなのぜ………………ゆっ?」 ひらひらした帽子は、息を吹き込むなどして一度広げないと被りにくい。 そのセオリーに従って息を吹き込むべく深呼吸をしようとした処で、化け物まりさはようやくその視線に気付く。 まりさが、れいむが、ありすが、群れのゆっくり達全てが、化け物まりさのことを見つめている。 その表情には一律に『信じられないものを見た』という思いが浮かんでいた。 「……なんなのぜ、そのめは?まりささまにさからうつもりのぜ?」 生意気な視線を向けてくる配下のゆっくり達に凄む化け物まりさ。傷だらけの顔面も相まって、気の弱いものなら確実に泣き出す形相である。 にも拘らず、群れのゆっくり達は無言のまま。 いつもなら『ごべんなざい!』だの『ゆるぢでぇ!』だのと泣き叫んでしーしーを漏らしながら従うのに、微動だにしない。 「……な、なんなのぜ!?まりささまは『おうさま』なのぜ!?おうさまのいうことがきけないのぜ!?」 何か、致命的なことが起こりつつある。内心の焦燥を押さえつつ、化け物まりさは虚勢を張った。 ……そんなまりさの虚勢に沈黙を破って応えたのは、軍勢の先頭に立っていたれいむだった。 「……どうして……」 ふるふると震えながら俯いていたれいむが、呟くように漏らす。 その言葉に首を傾げる化け物まりさへ、顔を跳ね上げたれいむが叩き付けるように叫ぶ。 「どおしてまりさがそこにいるのぉおおおお゛お゛お゛お゛っ゛!?」 「ゆ゛ゆ゛っ゛!?!?」 突然叫び出したれいむの勢いに怯むまりさに、それまで黙っていた軍勢が一斉に騒ぎ出した。 「なんでだぜぇえええ!!なんでおうさまがまりさなんだぜぇええええ!?!?」 「ありすたちをだましてたのねぇええええ!?!?このいなかものぉおおお!!」 「おうさまのうそつきぃいいい!!でいぶのおちびちゃんをかえせぇえええ!!」 口々に非難の言葉を投げ掛ける軍勢の面々。だが、化け物まりさには避難される覚えは無い。 「な、なにをいってるのぜ!?まりささまはまりささまにきまってるのぜ!?まりささまがおうさまなのぜ!?」 狼狽えながらも、化け物まりさは軍勢に向かって弁明する。 お飾りが無いので一時的に認識出来なくなっただけだろうと当たりをつけての行動だったが、返って来た答えはまりさの想像を超えていた。 「ちがうんだぜ!!まりさたちのおうさまは『れみりゃ』なのぜぇええええ!!!」 「ゆ゛ゆ゛ゆ゛っ゛!?!?!?」 何だそれは!一体いつ、まりさが『れみりゃ』だなんて言ったんだ!? お帽子は確かにれみりゃのものだったが、一人称は『まりさ』だったし、自分の武勇伝も『まりさはれみりゃをたおしたのぜ!!このおぼうしがしょうこなのぜ!!』と語っていたのだ。 自分がれみりゃだ等と名乗った覚えも無いし、第一空を飛べないまりさをどうやってれみりゃだと思えたのだろうか。 化け物まりさの胸中はそんな疑問で溢れていた。 化け物まりさの群れは所謂ゲスで構成されている、群れというより犯罪ゆ集団と呼ぶべきものだ。 ゲスにもピンからキリまで色々あるが、ピンとキリの間には物凄い格差があった。 ピンのゲスは知能ではなく、力で押し切るタイプだ。当然餡子脳の中身も救い様のない馬鹿揃い、そんな奴らにお飾り以外での個体認識が出来る筈が無い。 キリの方は少し複雑だ。お飾りを使った詐欺等の常習犯である彼女達は、化け物まりさが『れみりゃ』では無い事を何となく察している。 だが彼女達はそれに気付きつつも敢えて『自分達の長はれみりゃである』と思い込んでいたのだ。 れみりゃに率いられた自分達はきっと特別なゆっくりに違いない、そう思う事で周囲を見下し、よりゆっくりする為に。 胴無しなのに会話が出来るのは特別なれみりゃだから、お空を飛べないのは他のれみりゃと喧嘩して羽根を無くしたから、自分達を食べないのは自分達が優秀だから。 明らかに無理があるこじつけで、無理矢理自分を騙していたのだ。『まりさ』という一人称を聞かなかったことにしてまで。 しかしそんな自己暗示も、どんな餡子脳であっても否定出来ない証拠を突付けられて尚、自分を騙し続けることなど出来なかった。 化け物まりさの失策は三つある。 れみりゃの帽子を被ったままれみりゃに挑んだこと、お飾りを失った状態で自分がまりさであることを暴露してしまったこと、そしてその状態で高圧的に接したこと。 まりさの『後の先』を成り立たせていたのは帽子のおかげであった。まりさの帽子をみたゆっくりは『れみりゃ』への根源的な恐怖に縛られ、動きが鈍る。 だから、本来の帽子の持ち主であるれみりゃには『後の先』は通用しなかった。それどころか、死臭漂うお帽子を見たれみりゃは、それが殺されたれみりゃのものである事に気付いて激怒した。 一撃では殺さない、じわりじわりと苦しみ抜いて死ね。それがれみりゃ達の総意であった。 帽子が脱げた後、自身を『まりさ』と呼んだのも致命的だった。 自分を『まりさ』と呼んだ瞬間、群れの認識は空の飛べない『れみりゃ』から帽子を失った『まりさ』へと書き換えられた。 そこへいつもの調子で居丈高に命令してしまったことで、群れ全員の餡子脳が『れみりゃ≠おうさま=まりさ』という事実を理解してしまったのだ。 全ては化け物まりさとゲスゆ達との認識のすれ違いが原因だった。 一斉に騒ぎ出したゲスゆ達に、れみりゃは五月蝿そうに顔を顰めてドスに問う。 「……もういいんだど?あいつら、ぜんぶたべちゃうんだど?」 「……もういいよ。でも、あのまりさだけは最後まで残してね」 ドスが頷くのを確認したれみりゃは手にした鋤を振りかざし、経過を空中で見守っていたれみりゃの群れに号令する。 「またせたんだど!!れみぃたちのすーぱー☆でなーたいむのはじまりなんだどぉ!!」 「「「「「「「「「「うっう~!!!!!」」」」」」」」」」 百匹近いれみりゃが鬨の声を挙げる。そして未だ騒ぎ続けるゲスゆ達に向かい、一斉に急降下を始めた。 「うそつきまりさはゆっくりしねぇ!!………ゆ゛わ゛っ゛!?!?」 化け物まりさをなじることに夢中だったゲスゆ達が気付いた時には、既にれみりゃの宴は始まっていた。 急降下してきたれみりゃに気付かずに罵倒していたれいむが、突然の浮遊感に戸惑う間もなく牙を突き立てられる痛みに襲われる。 その痛みに思わず上げた驚愕の叫びは、次の瞬間には餡子を啜られるおぞましい感触に対する絶叫に変わった。 「い゛や゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!でい゛ぶの゛あ゛ん゛ござん゛ずわ゛な゛い゛でぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」 「……う~☆あまあまだど~☆おぜうさまのでなーたいむだど~☆」 れいむがどんなに泣き叫ぼうが、れみりゃは餡子を啜るのを止めない。むしろ暴れるれいむを逃がさないように、掴んだ手に力を込める。 万力のような力で挟まれたれいむはどんどん楕円形に変形していく。押し潰されて内圧の高まった餡子が出口を求めてれみりゃの口内へ流れ込む。 「ぢゅ゛ぶれ゛り゛ゅ゛う゛う゛う゛っ゛!!ぼう゛や゛べでぇ゛え゛え゛え゛え゛!!でい゛びゅ゛じに゛ぢゃ゛ぐな゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛い゛ぃ゛い゛!!」 れいむの必死の懇願なぞ耳に入らずに餡子を啜り続けるれみりゃ。やがてれいむが『……ゆ゛っ゛……ゆ゛っ゛』と断末魔の痙攣を始めた頃、れみりゃはようやく牙を抜いた。 「……こいつはもうおわりなんだど~☆ぽーいするんだど~☆」 (……ゆっ?…………で、でいぶ、たすかったの………?) 餡子の殆どを失い、断末魔の痙攣を起こしながらもしぶとく生きていたれいむが一条の望みを見出す。 尤もそれは錯覚に過ぎなかったのだが。 「……でも、ぽーいするまえにとどめさすんだど~☆いかしておいちゃいけないんだど~☆」 (ゆ゛びっ゛!!!!!) 言うが早いか、れみりゃはその手に持った鎌をれいむの脳天に突き刺す。 わずかに残っていた中枢餡を貫き、あにゃるから先端を覗かせた鎌はれいむの命を縋った希望ごと奪い尽くした。 (ど……ぼぢで……でいぶが………ごんなべに…………もっど……………ゆっ………く……………ち……………) かつてとあるまりさを襲い、無理矢理すっきりーっ!させてにんっしんっし、子供を人質に扱き使った挙げ句、生まれてきたまりさ種を悉く潰してれいむ種の赤ゆだけを育てさせたゲスれいむは、 その罪に見合わぬ軽すぎる罰を受けながら、その幸運を最後まで理解しないまま、自分をゆっくりさせなかったこの世を逆恨みしながら果てた。 しかしそれは、他の百人余りのゆっくり達も同様であった。 「ばなぜぇえええええ!!ばでぃざばおうざばになるんだぁああああ!!おうざばに…………おう……………ざ……………ば…………」 化け物まりさを暗殺して次の『おうさま』になろうと目論んでいたまりさは、胴無しれみりゃに集られて餡子はおろか皮まで喰われてこの世から消滅した。 「いやぁあああああああ!!ありずのぺにぺにがぁああああああぁびゅっ!!!!」 赤ゆを専門にレイプしてまわり、その全てを殺してきたありすは鍬でぺにぺにを切り落とされた後、押し潰されて死んだ。 「ごべんなざぁああああいいい!!ぼうじまぜんがらゆるじでぇええええぎゅぼっ!!!」 何が悪いのかすら解らないまま、命乞いの為に謝り続けたれいむはフォークに串刺しになってくたばった。 その罪に反してあっさり訪れた死。尤も、それは決して慈悲などからもたらされたものでは無かった。 「……まだこんなにいるんだど~☆はやくしないとあさになっちゃうんだど~☆」 大きな熊手を振り回してゆっくり相手に無双していたれみりゃが大声で急かす。 そう、彼女達は単に時間を掛けたくなかっただけだった。今だ千人以上を残すゆっくりの大軍勢を始末する為に、最も効率の良い方法を選んだ結果に過ぎなかったのだ。 「い、いやじゃぁあああああっ!ばでぃざじにだぐないぃいいいいいい!!」 「でいぶだけでもだすかるよ!!まりざだぢはゆっくりじね!!」 「ごんなのどがいばじゃないぃいいいいいいっ!!!」 最前列に並ぶゆっくり達の凄惨な死に方を目撃した後続のゆっくり達が、先程の罵倒とは正反対の悲鳴を上げながら四方に逃げ出す。 だが、ゆっくり達の必死の逃避行は、それを先読みしたれみりゃの包囲網に阻まれた。 「どぼじでごごにでびりゃがいるのぉおおおおおっ!!……やじゃぁああ!!でいぶをだべないでごろじゃないでじにだくないじにだっ!!!」 「ま、まりさはおいしくないんだぜ!!だからみのがすんだぜ!!……ばなぜぇえええええ!!ばなじでぇええええぎゃっ!!!」 「ありずのがずだーどじゃんずわないでぇええええっ!!おねがいじまずぅううううう!!おねが………おね………お…………………」 あちらこちらで繰り返される醜い命乞いとそれを無視して振るわれる農具、そしてその度に飛び散る餡子。 休耕地となっていた畑は今、良質の肥料を啜る吸血鬼ならぬ吸餡地と化していた。 「ゆっへっへ、いまのうちなんだぜ!……そろーり……そろーり……」 とはいえ、千を越す大群を僅か百匹足らずのれみりゃで完全に包囲出来るものではない。 れみりゃ達の隙を突き、畑の茂みに身を潜めて生き延びたゆっくりも相当に存在していた。が…… 「こ、ここなられみりゃにみつからないよ!……そろーり……そろーり……ゆびゃっ!!」 ……折角隠れていても、動く度に大声で『そろーりそろーり』等と自分の居場所を教えていては意味が無い。 畑のあちこちで湧き上がる『そろーりそろーり』の大合唱に呆れながらも、れみりゃは駆除を続けていた。 「……まったく、おばかなやつらなんだぜ。『そろーりそろーり』なんて、あかちゃんのやることなんだぜ」 「そうね、しょせんいなかものだわ。とかいはなありすたちのむれにはやくぶそくだったのよ」 そんな間抜けな仲間達が駆除されるのを、畑に身を潜めながら冷たい目で眺めるもの達がいる。 このまりさとありすはどうにか畑に逃げ込むと、見つからないように周囲の葉や土で偽装して身を伏せていた。 「このままあさまでまつんだぜ。あかるくなったら、れみりゃたちもひっこむんだぜ」 「まぬけなどすだけなら、ありすのずのうぷれいでらくしょうだわ。とかいはなけいかくよね」 朝になれば、日光に弱いれみりゃ達は帰るだろう。厄介なれみりゃさえ居なければ、残ったドスなど問題ではない。 咄嗟に考えたにしてはそこそこ上手い策略である。れみりゃが手当り次第に畑を攻撃し始めたらどうするかとか、そもそも誰に翻弄されてこうなったのかを忘れてさえ居なければ。 そして、その程度の思惑はとっくにドス達が見抜いており、既に対策済みであることを除きさえすれば。 息を潜め、見つからないように縮こまっていたまりさとありすの頭上で羽音がする。 思わず声を上げそうになるのを必死に押さえて増々縮こまる二人の目に、空から下りてきた死神の姿がはっきりと映し出された。 「う~☆こんなところにいたんだど~☆」 「「どぼじででびりゃにみづがっでるのぉおおおっ!?!?!?」」 驚愕の叫びを上げる二人の目前で仁王立ちしていたのは、その手に角形ショベルを持った胴付きれみりゃだった。 まりさは混乱する。自分の偽装は完璧だった、バレる筈は無い。自分の所為で居場所がバレたのではない! 自分の所為でないのなら………ありすの所為に決まっている! およそ余人には理解出来ない思考回路に導き出された結論に従い、ありすを罵倒しようとしたまりさの体に鈍い衝撃が走る。 「ゆぎゃあああっ!?なにするんだぜぇ!ありすぅうう!!」 「だまりなさいいなかもの!まりさのせいでみつかったじゃないの!!」 まりさの体にぶつかってきたもの、それは同様の推理でまりさの所為だと結論付けたありすの体当たりだった。 自分の責任を認めないその発言に、まりさは激昂して反撃に出た。 「なにいってるんだぜぇえええ!!わるいのはぜんぶありすのせいなんだぜぇええ!!」 「ぷぎゃっ!?よくもやったわねぇええええ!!!!」 状況を忘れ、まりさとありすは睨み合う。 お互いがお互いを悪いと罵り合う喜劇のような喧嘩は、始まる前に幕を下ろした。 「……やかましいんだど~☆えいっ☆」 「じね『パァン!』え゛びゅ゛っ゛!?」「んほ『パァン!』お゛ぼっ゛!?」 まりさとありすが忘れていた観客、れみりゃが持っていた角形ショベルによって、ゆん生の終幕というおまけを付けて。 ショベルによって叩き潰され、餡子とカスタードを散らして爆ぜると言う派手な最期を遂げた二人に一瞥をくれ、れみりゃは右手の親指を立てたガッツポーズを明後日の方向に向ける。 いや、それはポーズではなく、戦友に向けた敬礼であった。 れみりゃが敬礼を向けた茂みの奥、そのまま飛び去っていく彼女を見送った『彼女』はようやく身を起こした。 「……おれいをいわれるのはすじちがいだよ。れいむは、これくらいしかできなかったんだから」 自嘲気味に呟くのは、先程のまりさ達など比較にならない程精巧な偽装を施されたれいむであった。 体が半分程収まる穴に潜み、迷彩が施された上に草や葉っぱを取り付けて草むらに見せかけた防水布を被る姿は、目を凝らしても周囲と見分けが付かない。 れいむが、否、れいむ『達』が請け負った役割、それは『見張り』である。 れいむ種には特に秀でたものがない。運動能力ではまりさに劣り、知性の面ではぱちゅりーに劣り、瞬発力ではちぇんに劣り、武力においてはみょんに劣る。 正直、戦いの役には立たない。だからといって、座して結果を待つなど考えられなかったれいむ達自身が発案し、『彼ら』の協力を得て完璧な偽装を施した上で作戦に投入されたのだった。 「……ゆっ!またみつけたよ、あんなところにかくれていたんだね」 防水布と塹壕の狭間から目を凝らしていたれいむが、数メートル先で帽子に葉っぱを刺して偽装したまりさを発見した。 即座に口に銜えた手鏡を器用に扱って、上空のれみりゃに合図を送る。合図に気付いたれみりゃを反射光で誘導し、まりさの目前に着地させた。 「ゆびぇえええええっ!?なんでばれたんだぜぇええええっ!?」 弾かれたように踵を返して逃げ出すまりさ。その後頭部に向け、れみりゃは手にした鉈を大きく振りかぶり、勢い良く投げ付けた。 「ゆ゛べっ゛!!!」 鉈は回転しながらまりさに吸い込まれるように命中する。お帽子ごと幹竹割りにされたまりさは左右別々に跳ねるような動きを見せた後、開きになって絶命した。 鉈を回収したれみりゃがれいむに向けて親指を立てる。そして再び空へ舞い上がった。 「……ありがとう、れみりゃ」 れみりゃ達がいちいち親指を立てて感謝を示すのは、れいむ達が『見張り役』に引け目を感じているのを知っているからだ。 れいむが出来る精一杯がこの程度だという現実が、『れいむは無能である』という事実の証明だとれいむ達は考えている。 だから『そんなことはない』、『れいむたちはじゅうぶんやくにたっている』と励ましを込めて、れみりゃ達は親指を立ててくれるのだ。 その心遣いが嬉しい反面、余計な気を使わせてしまう自分の無力が悔しかった。 「もっとつよくなりたいな……、れみりゃみたいにはむりでも、まりさみたいに……」 れいむの心に火が点る。小さく燻っているそれは、れいむが生涯を懸ける目標を得た証拠だった。 しかし今は将来の夢より目の前の現実である。再び見張りに戻ったれいむは、ふと先程潰されたまりさとありすの遺骸に目を向けた。 「……ありす、『やくぶそく』のいみ、まちがってるよ。……どのみちありすも『やくたたず』だったけど。れいむとおなじだね」 冷静にありすの言い間違いを指摘すると、れいむの意識はは未だ流餡の絶えない戦場に向かう。もう、ちらりともそちらを向くことは無かった。 「ゆぷぷっ!みんなばかだね!れいむはおりこうだから、こんなわなにだまされたりしないよ!」 空のれみりゃと畑に潜んだれいむ達による二重の監視網も完全ではない。絶対的な頭数が不足している以上、どうしても取りこぼしは出てきてしまう。 畑の茂みと畦道を縫うようにして上空のれみりゃから身を隠しつつ、畑のれいむ達にも見つからないように逃げるこのれいむも、そんな取りこぼしの一人だった。 「さっきからおかおがぴかぴかしたれみりゃがおりてくるよ!きっとくさむらのなかにみはりがいるんだよ! くさむらのなかにはいったやつらがころされたのもそのせいだよ!……だかられいむはくさむらにはいらないよ!」 驚くべきことに、このれいむは畑の監視網を読み切って対策まで立てていた。 草むらに隠れては上空を窺い、れみりゃの動向に注意しながら長時間同じ所に留まらず、草むらの中に居る見張りに見つからないよう畦道伝いに逃げる。 度胸と細心の注意が要求される高等なスニーキングミッションだったが、れいむは運良くどちらにも見つからずに逃げ延びることが出来た。 畑を照らす光も届かない薄暗がりに辿り着いたれいむはようやく胸を撫で下ろす。ここまでくれば占めたもの、後はあの森まで一目散に逃げるだけだ。 「ゆっくりしないでおうちかえるよ!れいむたちをだましていたおうさまはそこでくるしんでしんでね!」 背後で断末魔の悲鳴を上げる群れにそう言い残し、れいむは一寸先も見えない夜闇へ駆け出す。いや、駆け出そうとした。 「まって!そっちへいっちゃだめよ!!」 「ゆっ!?」 れいむのエクソダスを止めたのは、見覚えの無い一匹のありすだった。カチューシャにれいむ種の物とおぼしきリボンが付いている。 化け物まりさの群れでは獲物から奪ったお飾りを付けて見せびらかし、自分の力を誇示するのが流行っていた。このありすもその内の一人なのだろう。 敵ではないことを確認したれいむは安堵し、次いで怒り出す。 「ゆっ!ありす、おどかさないでね!」 「あら、それはごめんなさいね。……でも、そっちにいったらしんでたわよ、れいむ」 「ゆゆゆっ!?どういうこと!?」 ありすの爆弾発言に、れいむは度肝を抜かれる。目を丸くしたれいむに、ありすは言葉を重ねた。 「くわしいことはあとにしましょう。それより、すぃーをうばってにげましょう」 「ゆっ!?すぃーがあるの!?」 「ええ、それもこわれてないすぃーよ!」 あの森でスィーを持っているゆっくりは一人も居ない。化け物まりさが森の外れに捨てられていたスィーを見つけるまで、現物すら見たことが無かった。 そのスィーとて壊れて動かないので、化け物まりさは奴隷に引かせていたくらいだ。 「すぃーなられみりゃもおいつけないわ。それに、おうさまだってちゃんとしたすぃーはもってなかったんだもの。 すぃーをもってもりにかえれば、れいむとありすがつぎの『おうさま』よ!」 ありすの言葉がれいむの餡子に染み込んでいく。煽て上げに弱いのはゆっくり共通の弱点である。 「……なんで、れいむにそんなことはなすの……?ありすだけですぃーをうばえば、ありすがおうさまだよ……?」 だが、れいむとて地獄の戦場を生き延びたゆっくり。 元々れいむ種にしては聡明な頭脳の持ち主であったが故に、ありすの言葉を無条件で信用するような真似はしない。 スィーは全ゆっくり憧れの乗り物、野生でスィー持ちであることは王侯貴族並みのステータスだ。 れいむならそれを目の前にして、手柄を分けるような真似は間違ってもしないだろう。 「……ありすだけじゃ、ぬすめないのよ。すぃーのところに、みはりがいるの。だから……」 「……れいむをおとりにするつもり?いやだよ、そんなこと」 成る程、れいむを囮にしてその間にスィーを盗み出すつもりだった様だ。 しかしこの場における囮とは即ち捨て駒のこと。もちろんれいむにはそんなつもりは毛頭無い。 「……わかってるわよ。だからおとりはありすがやるわ。そのあいだにすぃーをぬすんでちょうだい。 すぃーにはかぎがついてて、あまりとおくにはいけなくなってるの。ありすならかぎをはずせるから、とちゅうでごうりゅうしましょう」 「ゆふん?……そういうことならひきうけるよ」 なかなか抜け目の無いありすだ。ありすの言う通りなら、森に帰るにはありすの助力が必要になる。 仮にそれが嘘だったとしても、それを証明出来ない限りれいむはありすを無視出来ない。無論この場で証明なんかできない以上、ありすを切り捨てる選択は有り得ない。 あまり見覚えは無いが、このありすは化け物まりさの群れの中でもかなりの切れ者のようだ。 わざわざれいむを指名したのも、ここまで逃げて来れた実力を見込んでのことだろう。ならばその言葉も信用に値する。 「そう、ありがとう。……こっちよ、ついてきて」 そう言うとありすは躊躇無く暗がりに足を向ける。その後をれいむが追う。 周囲を煌々と照らし出す照明が逆に作り出した影を伝い、未だ阿鼻叫喚が続く畑を迂回するようにそろそろと這って行く。 「……ここよ」 不意に、先行するありすの歩みが止まった。その言葉にれいむが覗いて見れば、二匹のゆっくりが大きな段ボ−ル箱を挟むようにして周囲を警戒していた。 二人は素早くお互いの役割を確認する。 「あのはこのなかにすぃーがあるの。ありすがしょうめんからちょうはつして、みはりをひきつけるわ。そうしたら……」 「……れいむがあのはこにしのびこんですぃーをうばうんだね。わかったよ」 「……かぎがかかっていてもあるていどまでならはしれるみたいだけど、どこまでうごけるのかはわからないの。 だから、すぃーをうばったらかのうなかぎりすばやくありすにおいついてちょうだい。かぎをはずしたら、そのままもりまでいっちょくせんよ」 ありすの言葉に頷くれいむ。尤も、彼女はありすを裏切るつもりだった。 とりあえず鍵を外す所までは共闘しているふりを続けよう。鍵を外したらこいつは用済み、もし鍵云々が作り話だったとしてもスィーの現物が手に入るなら幾らでもやりようはある。 (おうさまになるのは……れいむだけでいいんだよ………!!) 逸る内心を押さえ、見事なポーカーフェイスを浮かべるれいむに、緊張しているのか若干息の荒いありすが最後の指示を出す。 「……れいむはこのままあのはこのうしろにまわって。れいむがいちについたら、はじめましょう」 「わかったよ!おとり、がんばってね!」 口先だけの励ましを贈り、れいむは段ボールへ向かうため踵を返す。 ありすの目の前に、無防備なれいむの背中が向けられた。 裏切る気満々ではあっても、れいむはありすを信用していた。 持ち掛けられた話も説得力はあったし、何よりありすの手練手管は信用に値するものだったから。 ……それが、命取りだった事に気付かないまま。 突然、れいむの背中にのしかかってくるありす。れいむのもみあげに、荒い息が吹き掛かる。 「ゆっ!?なにするのありす!!……ありす?」 「ゆふ~っ……ゆふ~っ……」 れいむの背筋に悪寒が走る。化け物まりさの群れで散々見てきた場面、それに符合する行為だったから。 「ゆふ~っ……れぇえええいぶぅううううううっ!!」 「ゆわぁああああああっ!!!れいぱーだぁああああああああ!!」 あまりのおぞましさにここが敵地であることを忘れ、れいむは叫ぶ。 なんてことだ、囮という大仕事への緊張感でありすがレイパー化してしまったらしい。 確かにストレスに弱いゆっくりなら過度の緊張はレイパー発症の引き金に成り得るが、よりにもよってこのタイミングで起こるなんて!! 無我夢中でありすの拘束から逃げ出そうともがくれいむの目に、段ボールを離れてこちらに近付いてくる影が映った。 「ゆ゛っ゛!?ぎづがれぢゃっだよ!!ばやぐどいでねありず!!ごのままじゃでいぶだぢごろざれぢゃうよぉおおおおっ!!」 「こうかいぷれいねぇえええ!!もえるわぁあああああっ!!んほぉおおおおっ!!」 駄目だこいつ早くなんとかしないと。もう四の五の言っていられる状態ではない、この状況を打破出来るなら敵であろうと構わない! れいむは近付いてくるゆっくりに助けを求めた。 「だずげでぇえええええ!!れいばーにごろざれるぅうううううっ!!……ゆ゛びっ゛!?!?」 だが、近付いて来る影が露になるにつれ、れいむの目が驚愕と絶望に染まっていく。 遠目では解らなかった二匹のゆっくり、それは両方ともありすだった。 「ゆふ~っ……こんなところでおさかんねぇええ!!ありすもまぜてほしいわぁあああ!!」 「かわいいれいむねぇええええ!!とかいはにあいしてあげるわぁああああ!!!」 そして二匹とも、あのレイパー特有の嫌らしい目付きをして絡み合うれいむ達に迫って来る。 後門のありす、前門のレイパー。れいむの聡明な餡子脳は最早退路が無いことをはじき出す。 「ごっ゛ぢぐる゛な゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!ゆ゛ん゛や゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛づづづっ゛!!!!!!」 れいむに出来たのは、決して聞き入れられることの無い拒絶の絶叫を上げることだけであった。 三十分程経過した頃、ありす達はようやくれいむを解放した。頭から無数の茎を生やし、すっかり黒ずんだれいむには何の意味も無かったが。 一仕事終えたレイパー達に、また別のありすが近付いてくる。しかしこのありすは少々変わった姿をしていた。 何かが入ったネットを背負い、カチューシャに挟み込むように赤十字が描かれた紙切れを頭に乗せている。それは一昔前のナース帽のようだった。 ナース帽のありすは平然とレイパー達に歩み寄っていく。その姿からはレイパーに対する恐怖は微塵も感じられなかった。 「……おわったみたいね。おつかれさま、ありす」 レイパーに向かって親しげに話し掛けるナースありす。その言葉に対して、レイパーが至極冷静に言葉を返す。 「……ほんとうだわ。けがらわしいれいぱーのまねごとをしなきゃたたかえないなんて、ありすたちもしょせんありすってことかしら」 自嘲気味に零すレイパーに、他の二匹も同意する。その様子を、ナースありすは苦笑いと共に見ていた。 背中のネットを下ろし、中から三つの蜜柑を取り出す。それを差し出しつつ、ナースありすは三人を励ました。 「しかたないわね。ふだんとれいぱーじょうたいではぜんぜんつよさがちがうもの。つかえるなられいぱーでもつかう、それはわかっているでしょ?」 「……それくらい、わかっているわよ。……つぎ、いきましょう。てきはまだまだたくさんいるわ。……ぁむっ」 皮も剥かずに、蜜柑を口に放り込んで咀嚼するありす達。このありす達もまた、ドスが用意した戦力であった。 れいむ達の監視網でカバー出来る範囲はそう広くない。その為、予め畑の外周部に予備戦力を置き、取りこぼしたゆっくり達を迎撃する。 それがドス達の狙いだった。いくら主戦力をれみりゃに譲るとは言っても、ドスの群れは皆かなりの実力者だ。 武器を持ったみょんと吹き矢のまりさ達、そして監視網のれいむ達を除いても結構残る戦力を遊ばせておく理由は何処にも無い。 それぞれチーム分けされて配置された戦力の殆どはまりさとありす。まりさはともかく、まともにぶつかればひとたまりも無いことはありす自身が良く知っていた。 そこでこのチームでは『囮作戦』で釣り上げた獲物を『レイパー化』して倒す作戦を立案、実行していたのだ。 このれいむで三匹目、今の所『チーム・レイパー』の担当エリアから逃げ仰せた敵は居ない。それはありす達が完璧に役目を果たしていることの証明だった。 「それじゃ、ありすもいくわね。……どんなけがでも、しなないかぎりなんとかなるわ。だから、あきらめないでね」 そう激励して『チーム・レイパー』と分かれたナースありすも、ドス達の『作戦』の一環だった。 直接戦闘を可能な限り避け、ゲリラ戦法に徹しているとは言っても完全に無傷ではいられない。 その為、緊急時に備えて蜜柑とオレンジジュースを装備したありすが控えているのだ。 『彼ら』によってナース帽もどきを付けられた彼女達は、重傷者にはオレンジジュースを振り掛け、疲労困憊したゆっくりには蜜柑を振る舞って戦場に送り出す。 随分血腥いナイチンゲールだが、彼女達の存在が前線に立つゆっくり達の支えになっているのは事実だった。 「……まだまだたたかいはつづくわ。ほんとう、ありすたちもしょせんゆっくりなのよね」 溜め息を吐きつつ、巡回を続けるナースありす。その表情には深い諦観が表れていた。 畑のあちこちで谺する断末魔の絶叫は、化け物まりさの耳に入っていなかった。 いや、正しくは聞いてる余裕が無かっただけだが。 「こ……こんどこそ!こんどこそやっつけるのぜぇええええびゃぎゃあっ!!」 「……そろそろあきらめるんだど。なんどやっても、れみぃにかてるわけないんだど」 裏をかくつもりで入れたフェイントをあっさり見破られ、飛んできた鋤の腹に吹き飛ばされる。 地面に叩き付けられ、大きくバウンドしながら転がっていくまりさの姿に、れみりゃは呆れて肩をすくめた。 「う……うるさいのぜ………こんなの………なにかのまちがいなのぜ……………」 大きく息を吐きながら、化け物まりさは身を起こす。 致命傷を避け、薄皮一枚残して付けられた裂傷は、それを付けたれみりゃの技量を物語る。 体中から餡子を滲ませ、全身を満遍なく腫らしたまりさの姿は、彼女の技量がれみりゃのそれに及ばない事実を証明していた。 「ま……まりささまは……おうさまなのぜ………!……れみりゃをたおして………もういちど、しょうめいするのぜ…………!!」 それでも化け物まりさが挑み続ける理由、それは『プライド』の為だった。 家来達の反乱、まりさはその理由が目前のれみりゃにあると考えたのだ。 今まで手足のように従えていた群れが、実は自分ではなく帽子に忠誠を誓っていた。それは即ち、まりさ自身に価値が無いということ。 まりさの歪で根拠の無い自尊心はそれを認めることを拒絶した。 (れみりゃさえ……れみりゃさえたおせれば………!) れみりゃを倒し、まりさの方が強いことを示せばきっと家来達も帰ってくる。再び自分を王様と呼び、ゆっくりさせるなら奴隷に堕とす位で勘弁してやろう。 その為には、このれみりゃを倒さなければ…………! それが化け物まりさの出した結論であり、無謀な挑戦を続ける理由だった。 「いいかげんしつこいど!」 「ゆぎゃぁああああ゛あ゛あ゛っ゛!!」 しかしそんな自分勝手な結論なぞ、れみりゃにとっては文字通り知ったことではない。 無造作に振るわれた鋤の一薙ぎに弾かれて、化け物まりさは再び宙を舞う。 鋤の腹で引っ叩いて弾き飛ばす戦法に変えてから一時間弱、ずっとこの調子である。れみりゃの忍耐もそろそろ限界であった。 「はやくおわるんだど~……」 れみりゃとて最早付き合い切れない。 本音を言えばとっとと潰してしまいたいのだが、ドスから直々に『最後まで残しておいて欲しい』と頼まれた以上、殺してしまう訳にはいかない。 鋤を持つ手を返して刃を突き立ててやりたくなる衝動を必死に抑え、れみりゃはまりさを弾くことに専念する。 更に小一時間が経過し、れみりゃの我慢がいい加減尽きかけた頃、待ち望んでいたものはやって来た。 「おさーっ!ほうこくだよーっ!」 「……ゆ゛っ゛?」 れみりゃと化け物まりさの一方的な戦いを眺めていたドスに、その知らせを持ってきたゆっくりを見るや、化け物まりさの全てが止まった。 それを置き去りにして、ぴょんぴょんと跳ねてきたゆっくりはドスの元に着くと、背筋を伸ばして報告する。 「そこのまりさいがいのもりのむれ、にせんにひゃくじゅういちひき、せんめつかんりょうだよー!」 「……生き残りはいないの?あれだけの群れだし、もし生き残っていたら……」 「そのしんぱいはないんだよー!あかちゃんまでふくめて、ちゃんとちぇんたちがかぞえたとおりだったよー!」 「……こっちの被害は?」 「ししゃはいないんだよー!けがにんがじゅうよにんいるけど、すでにちりょうずみなんだよー!」 「解ったよ、有り難う。そうしたら皆に『集会所』で待機するように言っておいてね」 「わかったんだよー!」 ドスと親しげに言葉を交わしているのはちぇんだった。化け物まりさは、そのちぇんに見覚えがあった。 「……どぼぢで……」 フルフルと震えながら、化け物まりさはちぇんに向かう。近付いてくる化け物まりさに気付いたドスとちぇんが一瞬身構え、すぐに警戒を解いた。 「……なんで……なんで…………!!」 化け物まりさは既に満身創痍だった。 長時間殴られていた為に全身は腫れ上がり、あちこち黒ずんでいる。 古傷だらけの顔に新しく刻まれた傷からは餡子が滲みだしており、片目は完全に潰れていた。 最早跳ねる力さえ残っていないのだろう。力無く這いずる姿からは先程までの威勢の良さが微塵も感じられない。 ぼろぼろの体に覇気の無い隻眼。今の化け物まりさには脅威と呼べる部分が一切見受けられなかった。 「……どぼぢで……どぼぢで!!」 しかし、化け物まりさは自身の体などもうどうでも良かった。ドスとちぇんの会話に出てきた群れの末路さえ、まりさの耳には入らない。 まりさに残されたたった一つの目は、ドスの前に佇むちぇんの姿に釘付けになっていたのだから。 「どぼぢでぢぇんがぞごにいるのぜぇえええ゛え゛え゛え゛え゛!!!!!!!」 そう、ドスを長と呼んだちぇんは、群れに最近やってきたあの奴隷ちぇんだった。 特に聞き分けが良かった為に、まりさの覚えも愛でたかったのだ。見間違える筈も無い。 「ま……まさか……うらぎったのぜ!?まりさが……れみりゃじゃないから……?」 ちぇんが裏切る理由はそれしか考えられない。そこに気付いて一層震えだす化け物まりさに、ちぇんが残酷な一言を掛けた。 「ちぇんはうらぎってないよー?さいしょっからどすのなかまなんだよー!わかってねー!?」 「ゆ゛っ゛!?!?!?」 従順だったちぇんから聞かされた、余りに予想外の言葉にまりさの視界が真っ白に染まる。 言葉を無くした彼女に、追い討ちをかけるようにちぇんが畳み掛ける。 「ちょっとまえに、ちぇんたちのむれにしんいりさんがきたんだねー! そうしたら、さいきんもりのみんながまりさのむれにいじめられてるってきいたんだよー! もしかしたら、このむらにまでおしかけてくるかもしれないっておもったどすとにんげんさんが、ちぇんたちにちょうさをいらいしたんだねー!」 ちぇんの言葉が届いているのかいないのか、化け物まりさは沈黙を守ったままだ。 しかしそれに関係なく、ちぇんの独演会は容赦なく続けられた。 「まりさたちはわからなかったみたいだけど、ちぇんたちはこうたいであのもりをみはっていたんだよー! おかざりをこうかんしながらだったから、ばれなかったんだねー!……おみみのおかざりはそのままだったから、いつばれるかとひやひやだったけどねー!」 ちぇんの告白は終わらない。 外から調べるには限界もあったので、潜入調査に切り替えたこと。 群れにちぇんやみょんが殆どいなかった為に困難だったそれを、勝手に奴隷として引き込んでくれたので助かったこと。 なるべく従順な振りをしながら、群れの現状を把握する為に走り回ったこと。 そして主要な情報をあらかた調べ尽くした頃に、人間さんの村を襲撃する計画が立ち上がったこと。 ちぇん達がそのことをいち早く伝え、ドスと人間さんが迎撃態勢を整えていたこと。 群れのゆん口を把握していた為に、迎撃戦闘に参加せず撃墜数をカウントしていたこと。 そして、二千二百十一匹全ての死亡を確認してドスに報告しにきたこと。 全てを打ち明けたちぇんはやけにすっきりした表情で化け物まりさを見ている。 そこには罠にはめた優越感や、己が砂上の楼閣に君臨していた道化でしかないことを知らなかったまりさへの嘲弄も無い。 ただ、ちぇんの表情には一仕事終えた後の達成感だけが浮かんでいた。 ちぇんにとって、化け物まりさのことなどその程度でしかなかったのだ。 「……どぼぢで……」 長い沈黙の後、化け物まりさが絞り出すようにそれだけ言う。 まりさの栄光はお飾りによる幻想だった。れみりゃより強いと信じた武力は全く通じなかった。己の手足となる筈だった群れは一匹残らず消滅した。 その上、自分達の行動すら最初から最後まで人間とドスの掌の上で踊っていたに過ぎなかった。 自分が信じたものが全て幻だった事を突付けられたまりさの視線が、真直ぐドスを射抜く。 「どぼぢで……ばでぃざが……こんなべにあうのぜ……?にんげんって……なんなのぜ……?ばでぃざど……どずど……なにがぢがうのぜ……?」 まりさは知りたかった。 こんなに強い群れを率いるまりさが、何故人間と共にいるのか?何故あれほどのれみりゃが人間に捕われていたのか? そして自分とドスの、一体何が違うのか?何故まりさがこんな酷い目に遭わなければいけないのか? まりさは、どうしてもそれが知りたかった。 畦道を歩く足音が聞こえる。足音の方向に目を向けた化け物まりさは、そこで初めて『人間』を見た。 「おぉドス、ご苦労さん。悪いゆっくりの奴ら、全滅だって?」 「……うん、ここにいるまりさを除けばだけど」 ドスに話し掛けた人間は小さかった。お飾りも付けていないお顔からあんよに掛けて細く尖っている。 あれでは跳ねることさえ出来ないのではないか?正直、化け物まりさより小さいかも知れない。 ……お顔の下、あんよがある辺りから伸びている胴を無視すれば。 れみりゃ達、胴付きゆっくりのそれよりも細長い胴体はドスの身長より低い。だが、化け物まりさの群れの誰よりも大きかった。 成る程、こんなものが群れをなしているのなら、れみりゃが敵わないのも当然なのかも知れない。 「……ずるいのぜ。こんなやつらがものすごくいっぱいいたら、まりさたちがかなうわけないのぜ」 「はぁ?何言ってんだ、この村でゆっくりに関わってるのは俺たち三人だけだぞ?……この畑の持ち主は除くがな」 悔し紛れの台詞に返された返答に、まりさは一瞬言葉を失った。 「……ゆっ!?だ、だって、あれだけのれみりゃをつかまえてるって……」 「あー、そりゃそうだが……、そもそもあれって俺一人で集めてきたもんだしな」 「ゆ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛っ゛!?」 信じられない。たった一人であれだけのれみりゃを捕まえるなぞ、化け物まりさの想像を超えていた。 それを見ていたドスが口を開き、子供に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。 「人間さんはね、ずっとずっとずぅううっと昔から、ゆっくりプレイスを作る為に頑張ってきたんだ。それこそ、ゆっくりする事を忘れるくらいに。 何も無かった野原にお家を建てて、硬い地面さんを掘り返して柔らかくしてお野菜を植えて、大きなスィーで遠くまでいけるように広い道を造って。 ……ゆっくりみたいにゆっくりプレイスを使い捨てる事もしないで、少しずつ少しずつ悪い所を治しながら、理想のゆっくりプレイスに変えてきたんだよ」 化け物まりさは驚愕する。この素敵な楽園を作ったのが人間であるという事実に。 ……そして同時に、あることに思い至って戦慄した。 (そ……そんなゆっくりぷれいすなら……いままで、まりさたちが……ここを、しらなかったのって……まさか………!?) 餡の気が引き、蒼白となったまりさの表情を見て、ドスはまりさが正解に辿り着いた事を知った。 「そうだよ。人間さんは自分達のゆっくりプレイスを荒らす奴には容赦しないんだよ。 ゆっくりだけじゃなく、野犬さんや猪さん、熊さんも、人間さんには勝てなかったんだ」 一旦言葉を区切り、ドスは畑の外縁に広がる落とし穴を視線で示す。 「あそこの落とし穴も人間さんが作ったんだよ。人間さんのゆっくりプレイスを荒らす、悪いゆっくりを懲らしめる為に」 そう語るドスの目に一瞬苦いものが浮かび、すぐに消える。尤も、些細な変化に気付けたゆっくりは居なかったが。 「……まりさ達を撃った吹き矢やみょん達の剣、れみりゃ達の『すぴあ☆ざ☆ぐんぐにる』も、人間さんが作ったんだよ。威力は見ての通り、凄いよね。 ドスなら、素手の人間さんと一対一なら勝てるだろうね。でも、二人いたら絶対に勝てない。人間さんが武器を持っていたら、一人とだって戦えないよ。 ……だからドス達は人間さんと取引したんだ。『人間さんをゆっくりさせる代わりに、ゆっくりプレイスに入れてください』ってね」 まりさの顔色がどんどん髪のように白くなる。天辺禿の金髪すら色素を失っていく。 歯の根が合わない。カチカチと響く音を餡子に響かせながら、まりさは全身を振ってその言葉を聞くまいとした。 だが、ゆっくりの全身感覚はそれを許さない。塞ぐべき耳も手も持たぬまりさには、それを妨げる事は出来ないのだ。 「……まりさは最初から、戦う相手を間違えていたんだよ」 「ゆ゛ん゛や゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!!!!」 化け物まりさは『ドスが人間を奴隷にしている』と思い込んでいた。しかし、現実は逆だった。 『人間がドス達を奴隷にしていた』のだ。しかも『ドス達の方からお願いして奴隷にしてもらった』と言うおまけ付きで。 そして、この恐るべきドス達を『たった三人』で屈服させた人間の力を、まりさは今初めて理解したのだ。 「……して……」 化け物まりさは目を伏せて呟く。その余りにもか細い声からは、かつての偉容など欠片も感じさせなかった。 「……ころして……まりさを、ころして…………!!」 最早まりさの心は完全に折れている。 信じていたものがまりさを裏切り、よってたかって彼女の心をへし折らんとする状況の全てに、完膚なきまで叩きのめされていたのだ。 そして今、初めて目の当たりにする人間の偉業に、まりさはようやく自身の敗北を受け入れる事が出来た。 完敗、言い訳出来ない程完全無欠の大敗北。 もうまりさには何も残っていない。全てを失い、恐らくはこれから命すら失おうというのに、彼女の心はいっそ穏やかでさえあった。 (もう、いいや……まりさ、つかれちゃったよ……) 自分にとどめを刺すのはドスだろうか?それとも人間さん? どちらでも構わない。死ぬのは痛いかも知れないけれど、きっとこのまま生きるよりはゆっくりできるだろう。 まりさはそっと目を閉じて断罪の時を待つ。悟りの境地にも似た静謐な精神が、瀕死の彼女にその名の通りの『ゆっくり』を与えていた。 「おいおい、何言ってるんだよ。ここまでしといて、そんなに簡単に死ねる訳無いだろうが」 しかし、まりさを捕らえた死神の手は、人間の口を借りてまりさの決心を打ち砕いた。 「…………ゆ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ゛!?!?!?!?どぼぢでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!?!?」 嫌だ、これでもうゆっくり出来ると思ったのに、これ以上まりさから何を奪おうというのだ!? 一筋の希望すら踏み潰され、先程の静謐が嘘のように彼女の精神を蹂躙する。そしてそれを為した人間はまりさを無造作に掴むと、持っていた籠に押し込んだ。 「まあ、これから長い付き合いになるんだ。よろしくな、まりさ?」 「ごろ゛ぢでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!ばでぃ゛ざを゛ごろ゛ぢでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!」 決して受け入れられないと解っていながら、化け物まりさは己の死を懇願する。 絶望に満ちた絶叫が次第に遠ざかっていくのを見送りながら、ドスは一言だけ呟いた。 「……ごめんなさい」 ※過去作とかは後編にて 一言あきの作品集 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る