約 2,224,081 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/758.html
ただ、力になりたかった。 心底いじけきっていたぼくに、信じる気持ちをくれたから。 暖かくって、やさしい腕が、涙も包んでくれたから。 この手に宿る魔法の力は、そのために。 いつか、どこかで泣いてる誰かに、差し伸べてあげる手になるために。 だから、絶対、大丈夫。 きみの思いも、きっとぼくと同じだよね? …実はぼくも怖かった。 女の子の前だからって張ったミエだけじゃ、やっぱりちょっとツラくって。 でも、きみが元気になってくれたから、どうにか踏ん張って戦えそう。 ぼくの背中を支えてほしい。 ぼくも、きみを守るから。 せめて二人で半人前の、勝てないまでも、心は負けない戦いをやろう。 なんとしても…認めさせるんだ! 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第十話『二人(後編)』 覚悟さんのことは、フェイトさんから事前によーく聞いている。 魔法の才能はまったくのゼロ、念話でさえも一人じゃできない。 その意味では、圧倒的にぼくの方が上に立っていると、フェイトさんはそう言った。 だけど、そんな人に、フェイトさんは何度も負けたことがあるっていう。 そんなハンデがどうでもよくなるほどの力を、別方面で身につけているから。 肉体鍛錬、それだけをどこまでもどこまでも繰り返して、 今では生身でS-…魔導師ランク、陸士S-! 正直、もう想像できる世界じゃない。 勝てるとはとても思えないけど、ぼくはすでに試されている。 ここで逃げ出すくらいなら、最初っから管理局なんて! ストラーダ、行くぞ。 「つっ?」 「きゃっ」 突撃しようと力んだ矢先、飛んできたのは石だった。 バリアジャケットの防御力場にはじかれて砕ける…砕ける? 矢継ぎ早に二発目、三発目が飛んできた。 二発目も同じようになって。 「ぐっ…」 「あぁぐッ」 三発目で目の前が真っ暗になった。 頭がしびれてどうにもならない。 何秒かして、ぼんやり視界が戻ってくる。 仰向けに倒れていることに気がついて、 起きあがり、額に手をやる… …血? 「うわああっ」 「きゃあああっ」 血が! 血がっ! 手の平に…べったり! 石でバリアジャケットを撃ち抜いて、ぼくの、頭に。 いや…ぼくだけじゃない。 後ろを振り向いたら、気づいた。 あの子が、キャロっていう子が、額から血を流して…がたがたふるえてる! 「当方の残弾、無尽蔵なり。 おれに肉薄するまでの数瞬にて、おまえたちを蜂の巣にできよう!」 ぼくらの目の前で、覚悟さんはばきばきとコンクリートを握り潰していた。 片手で、石ころをもてあそぶように…『残弾』を作っていた。 多分、ぼくの顔も真っ青になっているんだろう。 こんなの、どうしろっていうんだよ。 でも、ここで逃げたら、ぼくは一体何しにここへ? 目指す道へ向かうためには、ここに後ろはないっていうのに。 それはきっと、あの子も同じで… 「うっ…きゃっ! あうっ!」 「!?」 あの子に石が飛んできた。 うずくまっているところに、何発も、何発も。 防御力場を突き破っては、音を立てて打ちのめしてる。 頭を…ジャケットで守られてない部分ばかりを狙ってる! 「やっ、やめてください、なんであの子ばっかり!」 「人間空母たる召喚師、先ず沈めるは戦術の正道」 投げる…石を、投げる。 七発、八発、九発。 そのたびに、苦痛、悲鳴。 あの子の! ぼくをまるきり無視して、あの子ばっかり! かといって、ここでぼくが飛び出していったら? ぼくが飛び出せば、あの石の標的はぼくに移ることに… 「……」 そうだ、これは模擬戦だ。 だからあの子はあれだけ石で打たれても、殺されたりはしないんだ。 ぼくだって、それは一緒のはずなんだ。 召喚師を最初に倒すのが戦術の正道っていうのなら、 ぼくはあの子を守らなくっちゃいけないし、あの人はそれを求めている。 だったらここは、立ち向かうのが正解! 突撃だよ、ストラーダ。 「いっけぇぇ―――ッ!!」 「Speerangriff」 ぼくが一番得意としている正面からの全力突撃。 脅威と見なしてもらえさえすれば、あの子を守ることにもなる。 だからぼくは、ただこれを当てることだけを考えればいい…! 加速から突っ込むまでのたった二秒くらい。 あの人は、石を投げるのを、やめた。 こっちに向き直ってる。 これでも動体視力だけは特別鍛えてきたつもり。 スピードと突進力を使いこなすために。 だけど。 「 因 果 ( い ん が ) 」 今度は目の前が赤くなった気がした。 地面を転がされて、顔を何度も打った。 痛みと一緒に、やっと理解。 どうも、真正面から顔をぶん殴られたみたいで… ひとっ飛びした距離もウソみたいに、気がつけばあの子の、キャロの目の前にいた。 ちょっと遅れて、鼻血がどっと出る。 バケツから入れすぎた水があふれるみたく。 「たった今の思慮なき猪突… きさまの甘えが見え透いた」 「うっ、うぐっ」 立ち上がらなきゃいけなかった。 生命の危険を感じてしまったから。 だって、だって。 あの人の大きさが、さっきの数十倍に見えるんだ。 べつに巨大化なんかしていないけど、 なんというか、存在がふくれ上がって止まらない! 耳から頭に、声が突き抜けてくる。 実際よりも、ずっとずっと大きな声が。 物静かなのに、地響きみたいに迫ってくる声が。 模擬戦ならば 手加減されるとでも思ったか! 思っていたのか! 恥を知れ 軟弱 士道不覚悟 ゆるすまじ! 踏みつぶされる、一息に踏みつぶされる。 あの人がその気になった瞬間、ぼくの身体は蚊みたいにぷちっとはじけ飛ぶ。 逃げ出したい、全力で逃げ出したい。 でも、逃げ場なんか、どこにあるっていうんだ? 背を向けたら、多分それで最後。 つまり、戦うしかないってことなんだ! …勝てないのに? 全力でしかけた突進を、あっさり殴り返されたのに? でも、逃げられる見込みなんか、もっとない。 じゃあ、悲鳴を上げようか? 泣いて叫べば、フェイトさんが中止にしてくれるかも… 「……」 名案だと思う。 われながら、名案だと… …… … 「うあああああああああああッ!!」 「Speerangriff」 八方ふさがりだ! 結局、考えがまとまるよりもずっと先に、ぼくの身体は勝手に動いてた。 きっとそれしかないんだろう…そういうことだと思うしかない。 どうすれば、どうすれば当てられる? わからない。 搦め手に使える魔法なんか持ってない。 ぼくにできるのは突撃だけだ! 単なる拳で殴り返されたっていうのなら、そんなものを許さない密度の威力をまとうしかない。 カートリッジ全消費! どうせ外せば次はないから、ぶつけられる全てをぶつけてやる! 早くも石が飛んでくる…そんなもので止められるもんか。 ぶつかる端から全部、煙にして消してやる。 構えたな、今頃迎撃しようったって遅い! なのに拳も握らずに、指一本で何ができ… 「 因 果 」 「え」 なんか、すごい速度で空を飛んだ気がする。 でも、それっきりだった。 ぼくの意識はそこで、きれいさっぱり途切れてしまったんだから。 わたし、キャロ・ル・ルシエは、ベッドの上で目を覚ました。 前に立ってくれた男の子…エリオくんが、ふっとばされてやられちゃったあと、 せめて一発でもと思ってフリードに火を吐いてもらったけれど、 やっぱり一発も当てることができなくて… 目の前に立たれて、額に手の平を当てられて、そのまま倒れちゃったみたい。 先に起きたわたしは、医務室にいたお姉さん、シャマルさんにエリオくんを看てあげるように頼まれて、 今はとなりに座って汗をふいてあげている。 石をぶつけられた額の傷はわたしと同じだけれど、 顔を殴られて、鼻血を出して…腫れちゃってるほっぺたが、痛々しくて。 もうすこし早く、わたしも立ち直って一緒に戦っていたら。 ごめんなさい…ごめんなさい。 そうやって、五分くらいして。 「うっ…」 エリオくんも、目を覚ました。 わたしと同じで、ちょっとの間、なにもわからなかったみたいだったから。 「ええと、ここは医務室、です」 「医務室…」 言われて、回りを見回して、わたしの顔を見て。 それから、なにか納得したみたいに肩を落として。 「ごめん…ごめんなさい」 いきなり、わたしに謝ってきた。 「ろくに戦えなかった。 甘えた気持ちで戦ったから、ぼくは…」 「そんなことない、です。 それだったら、わたしの方が」 血が出たのにびっくりして、がたがたふるえていたわたし。 そのせいで、エリオくんはほとんど一人で戦うことになっちゃった。 フェイトさんみたいになりたくて、フェイトさんの力になりたくてここに来たのに。 フェイトさんみたいに戦ったり、助けたりするのなら、血が出るくらい多分当たり前なのに。 わたしは、いったい… 「何しに、何しに来たんだよ…ぼくはっ」 エリオくんが、そばの壁をなぐった。 わなわなと握った拳をふるわせて、目からじんわり涙が浮いた。 こらえてる…泣かないように。 歯をくいしばって、にらむみたいに目を力ませてる。 「力を示してみせろって、決意を戦いで示してみせろって言われたのに… 戦いが始まったら、おびえて、へっぴり腰になって…」 「そ、そんなことないって」 「ちがう!」 また、壁をなぐった。 そのまま、握り拳を壁に押しつけて…それはまるで、押しても動かない絶壁にそうするみたいに。 そんなの無理だってわかってて、それでもあきらめきれないみたいに。 「逃げたかったんだよ…ぼくは逃げたかったんだ。 ストラーダを放り投げて逃げ出そうって、本気で考えてた。 こんなので…ぼく、こんなので、フェイトさんに、フェイトさんの力になんて、なれるわけ…」 …おんなじだった。 わたしと、おんなじ願いとくやしさを、エリオくんは噛みしめてた。 わたしよりも前に立って戦ったぶんだけ、それはきっと重たくて。 だから、わたしは言わなきゃいけない。 「そんなこと、ない!」 「っ?」 「エリオくんは逃げなかったよ」 手をとって、なでてあげる。 壁なんかなぐったりして、痛そうな音がしてたから。 このくらいしか、できそうなことがわからないから。 「こわくったって、おしっこもらしたって、エリオくんは逃げなかったから… だから、わたし…戦う力、エリオくんからもらったよ」 あの後ろ姿を見てわかったんだ。 エリオくんもこわいんだって。 それでもこわさに負けないで立ち向かっていったから、 わたしは、思い出すことができたんだ。 「エリオくんは、わたしの戦う力になってくれたよ。 だから…」 わたしがやらなきゃいけないのは、前に立って戦ってくれるエリオくんを全力で援護することだって。 それができるのが、わたしの魔法なんだって。 エリオくんの最後の一発は、わたしの最初の一発になったんだ。 とっさだったけど、全力の支援魔法を間に合わせることができたんだ。 「エリオくんと、わたしで出したあの一発、あの人にはほとんど効いてなかったけど。 全然効かなかったわけじゃ、ないから」 「…当たって、たの?」 「わたしに教えてくれた人がいるんだ。 『正しければ勝つ』って。 エリオくんはなれるよ、ここで、機動六課で…もっと、強く、正しく」 そして、これは、わたし自身への約束。 「わたしも一緒に、強くなるから」 その後、エリオくん…おしっこもらしてたことを思い出して、 さらにどんより落ち込んじゃったけど、もう大丈夫だよね。 頑張ろう? 明日から、一緒に。 「頬っぺた、やられたね、覚悟。 絆創膏もらってきなよ、医務室に」 「これはおれの不覚にして、二人の戦果なれば。 覆い隠すなどという恥知らずな真似はできぬ」 「…ふふっ。 どうだった、二人は」 「戦に臨むには心構えが甘すぎよう。 だが、あの二人、おのれの貫くべき武道士道を、 すでに心の奥底、無我の内に秘めておるなり。 …フェイト」 「うん?」 「この親にして、あの子ありであった。 あなどった非礼、改めて詫びさせていただきたく」 「わたしだけじゃないよ…みんなが育ててくれた二人なんだから。 …始まるね、いよいよ」 「われら、『対超鋼』機動六課!」 「私達の戦いは、全部、これから」 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/spiralcrystal/pages/49.html
りぃが放った名言。 相手の発言を待たず、畳み掛けるように言うのが特徴。 アニメ「魔法少女リリカルなのは」が大好きな彼が、リリカルなのはの面白さを説明する時に使う。 そのときの彼はまるで虫取り少年のよう。瞳がキラキラしている。 しかしその内容が内容なだけに、周りからはキモがられる。 もっとも、本人にとってみればそんな視線も慣れたもの。 むしろキモがられたくて発言している節があり、「これがたまらない」ということなのかも知れない。 あのね、リリカルなのはっていうのはね、何が面白いかっていうとね、フェイトちゃんが9歳でね、可愛くてね、主人公のなのはとの友情がね、 と続く。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/173.html
第五話「邂逅」 12月3日 1103時 市立図書館近くの道路 M9の存在に気付いている? 宗介は、ポニーテールの護衛対象が見えないはずのASにじっと視線を向けていることを不審に思った。 (ECSに造詣でもあるのか?しかし、先ほどの会話を聞く限りAS全般の知識がないようだったが・・・) M9が拾った護衛対象同士の話を聞いた宗介は、そう判断した。 犬を連れているということで、ECSが看破された可能性を考慮したが それならば、あの犬はオゾン臭に反応して吼えるはずだ。 「なあ姐さん、さっきから護衛対象がそっちを見てるんだけど?」 宗介と一緒に護衛しているクルツが通信をマオに入れる。 『ECSは正常に作動中よ。犬がいるのが不安だけどバレてはいないはずよ』 マオもクルツと同じこと考え、その場をじっとしている。 宗介は護衛対象が見ている先――M9がいる所より先――を見たが、特に何も無い。 そうこうしてる内に、対象とペットの犬は歩き始め曲がり角の先に消えようとした。 宗介も後を追おうするが・・・・ 「おい、そこのお前ら」 突如、声を掛けられ宗介とクルツは反射的に身を翻し背後の相手に銃を突きつけた。 相手を確認して愕然とした。 先ほど曲がり角の向こうに行ったはずの護衛対象がそこに立っていた。 「物騒だな。で、そんなものを持ってるお前達は何者だ?」 「・・・・」 「言わないか。では、その物騒なものをしまってくれないか? 見てのとおりこちらは非武装だからな。」 妙にリラックスしたその姿に、宗介は警戒をしてグロッグ19をしまうのを躊躇ったが 通行人に拳銃を所持してることを見られるのは得策ではないと判断したらしい クルツが銃をしまうのを見て自分もそれにならい腰のホルスターに拳銃を収めた。 『なんでケルビムがそこにいるのよ!?』 通信機からマオの声が聞こえてくる。さっきまで角の向こう側にいたはずなのに いつの間にか宗介の背後にいるという摩訶不思議なことが起き、マオは少しばかり驚いていた。 だが、生身で空を飛ぶような相手に常識など求めても仕方ない。 「ここでは話し辛いか。では、どこかの別の場所にでも行くか? お前達も我々に聞きたい事があるのではないか?」 罠か?そういう考えが宗介の頭を掠めた。 護衛対象との接触は完全に禁止されてはいないが、それなりのリスクも存在する。 『・・・6に7。これはチャンスでもあるわ。』 少し間をおきチームリーダーであるマオが決断する。 「マオ?どういうことだ?」 「姐さん?」 いきなり喋ったことにケルビムは怪訝としたが何も言わなかった。 『この非常識中の非常識の事態に関する情報が必要だわ。人が空を飛んで、光線が飛び交うのよ? ほんのわずかでも状況を知る必要があるわ。 当事者が話してくれるって言うんだからそれが一番手っ取り早いわ 罠だとしてもこっちにはASがあるから心配はしないでよろしい』 宗介は警戒を解かなかったが、チームリーダーの判断を尊重した。 「提案は了承する。だが、その前に・・・なぜ分かった?」 この9ヶ月で平和な日本の社会に溶け込めるように努力はしてきたつもりだ しかし、こうもあっさり看破されると認識を改める必要がある。 「勘だが敢えて言えば、この辺りの人間とは程遠い身のこなしだな。 ・・・では、どこかの店にでも行くか。」 そう言って歩き出すケルビムと犬について行く宗介とクルツ、その頭ではどうやって情報を 聞き出すかという算段が組み立てられている最中であった。 同日 1145時 海鳴市 闇の書事件対策本部 アースラは定期検査で15日間の整備が決まっている。その間長期稼動できる別の艦は 2ヶ月先まで予定が埋まっている。本部から第97管理外世界はかなり離れており 中継ポートを使わなければいく事はできない。緊急時に置いて非効率なので、ある手段を使うことにした。 「たまたま、こういう物件があるなんて運がよかったですね。」 「そうね、日当たりもいいし。でも指示したとは言え、なのはちゃんの家にも都心にも近い この物件を探すの苦労したんじゃないの?。」 「そうですね。探すのには苦労しましたよ?主にランディとアレックスが・・・」 エイミィは、さらっと言い引越しの作業を続ける。 リンディも聞かなかったことにし、引越しそばを作ろうと準備を始めようとしたが それに気付いたクロノが提督の暴挙を阻止し、なのは、フェイト、その友達と共になのはの家に挨拶に行かせた。 「ふう、甘党の提督が作ったらどんなことになることか。」 それを聞いたエイミィが、あははと渇いた笑い声を出す。 リンディ提督は他人に自分の趣味を強制はしないが、たまに本当にたまにだが 甘くしてはいけない食べ物を激甘にして他人に薦めてくる。 「それはそうと、エイミィ。ASについて何か分かったことあるか?」 「ん~、ええと大体のことなら調べたよ。詳しくはあとで文書に纏めて提出するけど・・・」 そういって、モニターに映像が映し出される。 そこには昨夜現れたポニーテールを持つASが発煙弾を使い姿を消す瞬間が映し出されていた。 発煙弾を使った後、自分達が使う幻影魔法と同じ効果のようなものを使って姿を隠蔽しているようだ。 アースラの技術仕官の話ではどういう方式か詳しく分からない限り探知は難しいとのことだった。 「この世界で一般的なのは第二世代ASって言うらしいんだけど。現場に現れた二機は構造とかが違うの。 でも片方の機種名ならわかってるよ。この頭からアンテナが伸びてるのはM9 ガーンズバック って言うみたい。 なんでも現在、米国って言う国が開発している次世代ASで性能も従来とは比べ物にならないらしいよ?」 「ちょっと待ってくれ。開発中と言ったのか?なら、なぜここにそのASがあるんだ?」 「それは分からないよ。私が調べたこの世界の雑誌にはそう書いてあっただけだもん。」 そういってモニターを消すエイミィは引越し作業に戻る。 「もう片方は分からなかったのか?」 「それがM9っていうのに比べると極端に情報が少ないんだよね。 香港での無差別破壊事件の1件ぐらいしか見つからなかったよ。」 存在しないはずのASと謎のASか・・・・ この二機の狙いが闇の書であるのは間違いないはずだ。 だが魔法のないこの世界で、あれを手に入れてどうする気だ? ―――――魔法のない? 「エイミィ。この世界には本当に魔法文化は存在しないのか?」 「それは間違いないよ。なのはちゃんみたいな突然変異はいるけど それでもユーノ君と出会わなければ普通の女の子をしていたはずだよ。」 「じゃあ、なんでこの2機は結界内に入ることができたんだ?」 魔法を当たり前のように使うが故、見落としていた盲点・・・ この世界に魔法文化がないのならどうやって結界内に侵入できたのか? 「確かにそうだよね。結界を解析したユーノ君の話では、魔力資質を持つ人だけ 結界内に残す設定だったと聞いたけど。」 ということは搭乗者が魔力資質さえ持っていれば入れるわけか・・・。 その可能性と別のもう一つの可能性を考慮し、クロノはエイミィの引越し作業を手伝うことにした。 同日 1150時 海鳴市 喫茶店「翠屋」 「お互いに情報は必要なはずだ。素直に知ってることを話せ。 そうすれば、こちらもそれなりの情報は出そう・・・。 で?改めて聞くが、お前達は何者だ?なぜ我々を監視している?」 シグナムはオープンカフェの席で一緒に座っている宗介に問う。 ザフィーラは机の下に身を伏せ、丸まっている。 宗介は、どう答えたものかと考え最後の疑問だけに答える。 「俺達の任務は君達の護衛だ。」 「護衛?」 「ああ、不特定多数の機関に君達が狙われているから護衛しろと命令されて来た。 俺達はそこまでしか聞かされていない。それで俺達はM9を持って来て護衛についている。」 「M9?」 「両肩に盾、頭にブレード・アンテナがついているASのことだ。」 その答えを一つ一つ吟味するように聞くポニーテールの女 「そういえば、まだ名前も聞いてなかったな。」 「俺はクルツ・ウェーバー。で、こっちのむっつり君は相良宗介 親しみを込めてクルツ君って呼んでくれ。」 「・・・そうか。私は」 「ああ、知ってる。シグナムちゃんって言うんだろ?」 「な!?」 こういうときクルツの軽さには助かる。こういう耐性のない相手のペースを乱し 自分のペースに持ち込むのは十八番なのだ。 「・・・・・聞きたいことがあるのではないかと言っていたな。 では俺達の質問にも答えてもらう。お前達は何者で、なぜあんなことができる?」 主導権を握るために一番肝心な質問を対象にぶつける宗介 「我々はヴォルケンリッター、『闇の書』を守る守護者だ。 そして我々は『闇の書』の完成を目指している。」 「『闇の書』?ヴォルケンリッター?」 「簡単に言えば魔法の話だ。我々はデバイス、私の場合は剣の形をしているが、 それを駆使して魔法を使い空を飛び、炎を出したり、相手の攻撃を防いだりする。 『闇の書』は古代の魔法テクノロジーの貴重な産物だ。我々はそれを完成させるためにあの場にいた。」 魔法――――宗介やクルツだって、その名前を聞いたことはある。 実現不可能なことを可能にする力 だが、それは現実には存在しない。物語の中にだけ存在する物のはずだ。 「あまり驚かないな。」 シグナムはもっと驚くものと考えていたが目の前の男達は冷静そのものだった。 「非常識な極まりない光景なら、これまで何回も見て体験してきたからな。 俺達の背後に急に現れたのも魔法か?」 もし自分が、愛機に搭載されているあの非常識な装置ラムダ・ドライバや ウィスパードといった存在しない知識を引き出す人間の存在を知らなかったなら 自分は目の前の女の正気を疑っただろう。 「そうだ。あれは本来、高速移動と併用して敵を攪乱する魔法の一種だ。 魔法に携わってるものなら、あれを看破するのは容易いが素人には十分効果があったようだな。」 「そんなに簡単に秘密をばらしちゃっていいのかよ?」 「言ってもお前達にはどうすることもできない。この世界で魔法を使える資質を持つ人間は極々僅かだ。 しかし、そうなるとお前達はなぜ結界の中に入れた?」 「結界?」 「街を無人にした魔法のことだ。除去対象を決めれば、それを排除した空間を作り出すことができる。 昨夜の除去対象は魔法が使えない者だった。だが、お前達に魔力資質は無いな・・・なぜ侵入できた?」 素朴な疑問を持つシグナム、だが魔法の存在を今しがた知った宗介達には答える術がない。 「分からんか、まあ当然と言えば当然か。では、最後の質問だ。 私達を襲ってきたポニーテールのASは何だ?おかしな機能がついている様だが・・・」 「あれは・・・アマルガムという組織が保有する特殊な機材を搭載しているASだ。 俺達はヴェノムと呼んでいる。」 「特殊な機材?効果はなんだ?」 「君には知る資格がない。仮に知ってしまったらその情報が陳腐化するまで 拘束、または監視されることになる。」 「そんなことで折れると思っているのか?」 情報を引き出そうと睨むシグナム、しかし宗介も睨みかえし辺りの雰囲気が険悪になる そこにクルツは先ほどから疑問に思っていたことを口にした。 「あの~それでよ、『闇の書』が貴重な物というのは分かるんだけどよ。どうやって完成させるんだ?」 シグナムは聞き出すのを諦めた様子でため息つきクルツの質問に答えた それに一度見たことで大体どういう効果を発揮するのかは想像がついていた。 「魔法を使う者は必ずリンカーコアというものを持っている。それを闇の書に喰らわせる。 そうして蒐集していけばページが増え666ページ全てが埋まれば完成だ。」 「人を襲うということか?」 宗介は目を細め、対象に問いただした。 「シグナム~!」 急にシグナムを呼ぶ声がして、宗介とクルツ、そしてシグナムは声のするほうに目をやる。 道路の反対側にこちらに手を振る車椅子の少女と金髪の女がこちらを見ている。 シグナムは、はやてに手を振りながら宗介の問いに答えた。 「そういうことになるな。だが、管理局が察知した以上これからは控えることになるだろう。 リンカーコアを持っているのは、何も人だけというわけではないからな。 それに全てが終わったら、けじめはつける。」 「待て、最後にもう2つだけ聞かせろ。なぜ『闇の書』の完成を目指す? それにお前達が昨夜戦っていた相手達は何者だ?」 席を立とうとするシグナムに最後の質問をぶつける宗介 「『闇の書』の完成を目指しているのは、主の為だとだけ言っておく。 しかし、勘違いするな。主は我々の行動を知らない。これは私達の独断だ。 ・・・戦っていた相手は時空管理局の魔導師だ。お前達は知らんだろうから簡単に言うと 管理局は次元世界の警察のようなものだ。 だが、お前達に管理局と戦えとは言わん。ただ我々の邪魔はするな。」 そう言ってシグナムは今度こそ席を立ちザフィーラと共に道路の向こう側で自分を待つ主の下に向かった。 宗介とクルツも勘定を払い、護衛を続ける為にセーフハウスに帰還する。 途中、小学三年生ぐらいの4人の少女の集団と その保護者らしき人物とすれ違ったが宗介達は大して気に止めなかった。 同日 1715時 海鳴市のどこか どこかの建物の一室―――真っ暗な中に2つの人影がある。 仕立てのいいスーツを着た中年の男は、モニターでなにやら映像を見ている。 それは昨日の戦闘だった。30ミリ砲弾を避ける少女、大型単分子カッターと切り合う女 おおよそ、この世の常識から外れた映像だった。 だが男は真剣にこの映像を見ている。やがて映像が終わり、部屋に明かりがついた。 「それで、どうだった?ファウラー」 「そうですね。まさか守護騎士があれだけの大物を蒐集せずに 止めを刺そうとしたのは想定外でしたが思惑通りになりましたよ、ミスタCu」 部屋にいたもう一人の人影、リー・ファウラーは昨日の非現実的な出来事を思い出した。 期待した返答が返って来ないことに少し不機嫌になりながらも言葉を改めて中年の男は再度尋ねた。 「言葉が悪かったか。『闇の書』の完成度と守護者の戦力はどれくらいだと感じた?」 「完成度は正確には分かりません。あまり芳しくないようですね。 ただ焦っているようです。あれだけ大規模の結界魔法を使用したのがその証左かと・・・ 戦力については歩兵単位で一般的なAS以上の火力があるのは驚きですが コダールがあれば恐れるほどではありません。」 連携を取って戦闘するなら話は別だが、ベルカ式は基本的に1対1である。 それならばラムダドライバを搭載するコダールが有利だ。 その上ベルカ式は実体を持つ攻撃が多い、ラムダドライバの斥力場も十分効果がある そういう点で言えばミッドチルダ式のほうが厄介になるだろう。 「そうか戦力も今はコダールだけでも足りるとなると、こちらもあれの完成に専念できるな。 それにしても進行状況は芳しくないのか。折角たきつけてやっているというのに無能どもが・・・」 中年の男―――ミスタCuは口から不満を漏らす。 それを見てファウラーは苦笑を浮かべた。 「しかし、貴方もよくやるものです。4ヶ月間、何もしなかった守護騎士をたきつけるために わざわざ八神はやてのカルテを改竄して深刻な症状が出ているように見せかけるとは・・・」 「ふん、いずれは確実にああいう症状が現れるのだ。それが遅いか早いかの差だ。 本格的な侵食が始まるのは3年後だと私とミスタAg予想しておるが それまで待っておれんのだ。」 「すぐにバレそうなものですが、『闇の書』に魔力が溜まれば侵蝕のスピードが上がり カルテに書かかれたとおりの症状が現れることになる。 守護騎士達はさらに焦って蒐集を急ぐと・・・貴方の策略には恐れ入ります。」 ミスタCuは、目の前のファウラーを見た。 ほっそりとした美青年、素人にはこの中国人がとても超人的な殺人技能を持つ傭兵であるとは思わないだろう。 2ヶ月前にミスタAgに相談して紹介してもらったのだが、なかなかにいい人材だった。 貧弱な実行部隊しか持たない自分にとってファウラーは非常に重要な存在になりつつある。 余談だが実行部隊を持っていない幹部はミスタKに依頼するという形で作戦を行うのだが そのミスタKも先の香港事件で戦死してしまい、アマルガムの共同出資部隊はミスターKの後釜を決めてる最中だ。 「世辞はいらん。今後の方針に特に変更は無いがミスリルに情報が 漏れたことが気になる。邪魔になるようなら消せ。」 「わかりました。では・・・」 そういって、ファウラー部屋を後にした。 出て行くのを確認しミスタCuは一人呟いた。 「11年前の事件以来、行方知らずの『闇の書』か・・・。」 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/368.html
ユーノ・スクライア司書長の女難 ◆9L.gxDzakI 時は流れ、暗黒の森にも微かな明度が差していた。 フィールド全体を覆っていた夜の闇はなりを潜め、僅かに顔を出した太陽の光が広がっていく。 朝靄漂う森の中、かさり、かさりと響く音。 朝露に濡れた草木を踏みしめながら、林間を進む者達がいる。 並んで立つ2人組はどちらもが女性であり、どちらもが白い服を身に纏い、どちらもが金色の瞳を持っていた。 とはいえ共通点はそれだけで、他の部分は大幅に異なっている。 まず、頭髪。片方は瞳と同じ金色だが、もう片方はむしろそれと対を成す銀髪。 続いて、外見年齢。金髪の方は10代後半の少女だが、銀髪の方はその10代に差し掛かるか否かと言った幼児。 特に金髪の方はというと、非常に整ったプロポーションを持った、グラマラスな女性だった。 豊かに胸元の布を押し上げる双丘、一級品の彫刻のごときラインを有した肢体。 隣の幼児体型の銀髪と並べると、これは一体何の嫌がらせですか、とでも言いたくなる。 とはいったものの、もはや銀髪の方はそれも気にならなくなったらしい。 傍らでふわふわと浮遊するガジェットを見ながら、何事かを思考している。 「まずいな……レリックの反応が移動を始めた」 微かに苦々しげな響きを込めながら、銀髪――チンクが呟いた。 片方を眼帯に覆われた黄金の隻眼は、レーダーの上で動くマーカーをじっと見つめている。 「レリックの持ち主が、病院を出たということ?」 「そうなるな」 金髪――明日香の問いに、チンクは答える。 「となると、結構厄介なことになりそうね……」 言いながら、明日香が嘆息した。 もしも目標が病院に篭ったままだったならば、ある程度はスムーズに事が進んだだろう。 しかし目標は動いている。となると、少々面倒なことになってくる。 もとより病院というものは、この舞台の中でも比較的安全な場所と言えた。 バリケードを設置すれば侵入者を遮断できるし、医療品を使った治療も行える。 もっとも、自分達戦闘機人のように、通常の人体とは異なる身体を持っている者の場合は、若干勝手が違ってくるのだが。 ともかくも、病院に篭っていれば、ある程度の安全性が確保できる。 つまりそこに居続ける者は、この殺し合いに消極的である者である可能性が高い。 だが、今回のようにそこから移動する人間は違う。 わざわざ安息の地を捨ててまでフィールドをうろつく理由は2つに1つ。 積極的に殺し合いを止めようとする人間か、積極的に殺し合いに乗ろうとする人間のどちらかだ。 特に後者であった場合、非常に始末が悪くなる。不用意に接触しては、そのまま戦闘になりかねない。 (もしも戦闘になった場合、レリックの回収と姉妹との合流……どちらを優先する?) そしてこの場において、もっともチンクが問題視していたのが、それだ。 既にメッセンジャーとして、2機のガジェットを街に放った。 これをクアットロとディエチが読めば、2人は日が昇りきるまでに病院に向かうだろう。 しかしそこに、自分がいなかった場合はどうなる。 時間の推移から察するに、2人が病院に着くのは最初の放送の後となる可能性が高い。 前ならばまだよかった。無人の病院に着いたとしても、後から流れる放送に自分の名前がなければ、ひとまず生きていると確認は取れる。 だが生憎と、それは望めそうにない。情報も何もないままに、姿を現さないチンクの安否への不安に囚われることとなる。 叶うことならばレリックを後回しにし、姉妹との合流を急ぎたいとは思う。 しかし、それではそのタイムロスの間に、聖王の器が殺害されてしまうかもしれない。 脱出のための鍵を取るか、共に脱出すべき家族を取るか。 答えが出るとも到底思えない、究極の二者択一。 「……天上院、ひとまずお前の支給品を見せてくれないか? いざ戦闘となった場合のために、使える手札は把握しておきたい」 だがどちらを選ぶにせよ、まずはしておかなければならないことがあった。 時間を破ってまでレリック確保に専念するにせよ、時間を守って敵前逃亡するにせよ、武器は必要だ。 「分かったわ」 言いながら、明日香がデイパックの口を開け、中の物をあさり始めた。 無論、ケースに入れられた3つのカプセルについては伏せながら。 「一番目立つのはこれね」 最初に取り出されたのは、大仰な兜だった。 煌びやかな宝石がちりばめられた豪奢な造形に、両脇からせり出した猛牛のごとき凶悪な角。 中央には黄金の翼を生やした、コブラのレリーフが取り付けられている。 見るからに剛健な兜が、明日香の両手に抱えられていた。 「確かに防御力はありそうだが……頭だけ守ってもな」 「ええ……それにこれ、すごく重いし」 互いに険しい表情を浮かべるチンクと明日香。 これがまだ鎧だったならば、まだ防御手段としては有効だっただろう。 しかし、この支給品は兜単品。頭狙いの攻撃以外は防げない。その上一般人が扱うには凄まじく重い。 これでは装備したとしても、ただの重りにしかなり得ないだろう。 もっとも、このインパクトに見合うだけの人物が装備すれば、それなりの威圧感を与えられたのだろうが。 ともあれ少なくとも、これは明日香には見合わない物だ。現状において役立たずとなったそれを、デイパックにしまう。 そうして続いての支給品を取り出した。 「これは……籠手、か?」 外気に晒されたのは、またしても黄金色に輝く物体だった。 緑色の宝石を煌かせ、獅子の顔を象ったようなそれは、見たところ左腕に嵌めるためのガントレットらしい。 「ここに……ほら」 怪訝そうな表情を浮かべるチンクの目の前で、明日香がそこから何かを引き抜いてみせた。 現れたのは1振りのナイフ。エメラルドのごとく透き通った、見事な刀身を輝かせている。 他に機能はないようだ。要するに、これはそのナイフの鞘らしい。 「また随分と大仰な鞘だな」 もう少しデザインセンスはなかったものか、と、呆れながらチンクが言った。 ともあれその鞘――彼女らは知る由もないが、名を「ガオーブレス」と言う――を、明日香の左腕に嵌める。 頑丈な金属で作られている以上、籠手としても一応扱うことはできるだろう。 おまけに、それほど重くない。戦闘が控えていると分かった以上は、装備しない手はない。 そして、取り出された最後の1つは、 「……トランプ?」 絵札52枚に、ジョーカー2枚。ケースに収められた、54枚組1セットのトランプだった。 何の変哲もない、ただのカード。おおよそ意味があるとは思えない。要するに、ハズレ。 どうやら明日香に支給された物のうち、役に立つのはガオーブレスぐらいだったらしい。 もっとも、先の兜などは、最悪ランブルデトネイターで爆弾へ変えることもできる。ただ、それはあくまで最終手段。 考えても見てほしい。それほどまでに大きく重いものを、わざわざしんどい思いをしてまで誰が投げようか。 「まぁ、何にせよ、このレリックの持ち主と相対した時には……、!」 言いかけたチンクが、そこで言葉を切った。 「どうしたの?」 「しっ……誰かが近寄ってきている」 首を傾げた明日香に向かって囁くと、木陰に隠れるように指示を出した。 戦闘機人の鋭敏な聴覚は、唯人たる明日香には捉えられないような音でさえも聞き分ける。 彼方から迫ってくる車輪の音。すなわち、何者かの気配。 可能性は薄いだろうが、あの緑の鎧の男かもしれないのだ。明日香を庇いながら戦える相手ではないことは、先の戦闘で重々承知している。 やがて音量は彼女の耳にもはっきり聞き取れるようになり、そのまま通り過ぎた。 ぶぅぅぅぅぅん。エンジン音が疾走し、彼女らのすぐ傍を走り抜ける。 一瞬しか見ることはできなかったが、確かローラーブーツを履いた少女だったか。 ちょうどチンクと外見年齢は同じくらい。紫の髪に、赤い瞳が特徴的だった。 感情に乏しい表情で、コートをたなびかせながら脇を通過していき―― 「――ってちょっと待ったぁぁぁぁぁ!」 思いっきり見覚えのある人間を、チンクは身を乗り出して呼び止めた。 ◆ 自分は何をやっているのだろう。 心底、ユーノ・スクライアは呆れ返っていた。 自分の保身のために人間の男としての尊厳を捨て、彼は1匹の雄フェレットとしての道を選んだ。 そもそもそれが、自分が小さくなれば首輪も外れるだろうという、馬鹿馬鹿しい判断ミスに端を発している辺りが情けない。 おかげで自分は、人間として行動することを許されなくなった。少なくとも、この少女と同行している限り。 この身体では支給品を扱うこともできないし、仲間との合流にも支障をきたす。何より、獣として振る舞うのは居心地が悪い。 そしてそのユーノだが――今は所在なさげに、小さな顔を真っ赤に染めていた。 現在地、幼女の胸元。扇情的なバニースーツと、暖かな体温に挟まれている。 確かルーテシアと名乗ったか。この少女は現在の状況に、微塵も羞恥心を抱いていないようだ。 これだから、獣というのはやってられない。人間じゃないからということで、すぐにこんな風に扱われる。 自分はれっきとした男なのに。男なりに恥ずかしくてたまらないのに。 どぎまぎしつつも、しかし一切の抵抗もできないまま、ユーノは疾走するルーテシアの胸に身を預けていた。 ……いやいやちょっと待て。自分は一体何をどぎまぎしているんだ。 いかに女性とはいえ、この子はまだ幼い女の子じゃないか。 これが成熟したセクシーな女性ならまだしも、何を自分は子供相手にこんなに過剰反応しているんだ。 まさかなのはと初めて会った、ガキの頃の自分じゃあるまいし。変態嗜好のロリコンでもあるまいし。 相手は子供。慌てることはない。自分にそっち方面の趣味は絶対ない! そんな風にして、必死に平静を保とうとする。 「――ってちょっと待ったぁぁぁぁぁ!」 そして次の瞬間、それは唐突に打ち切られた。 「え?」 背後から声がする。自分達を呼び止める叫びが響く。 ユーノにとっては聞き覚えのない声。しかし、ルーテシアには覚えがあったのだろう。 反射的にマッハキャリバーにブレーキをかけると、数秒の思考の後、踵を返して再度加速する。 緩やかな速度で後退すると、そこには1人の銀髪の幼女と、1人の金髪の女性の姿があった。 「ご無事でしたか、ルーテシアお嬢様」 歩み寄ったのは銀髪の方で、発した声音も先ほどの制止と同じ。 片方しか開いていない金色の瞳に安堵の色を映し、外見の割には幾分か落ち着いた口調で言った。 「チンク」 いつも通りのぽつりと呟くような声で、ルーテシアがその名を呼ぶ。 チンク、という名前には聞き覚えがあった。ルーテシアと面識のある人間として、紹介された名前だったはずだ。 「知り合いなの?」 「まぁ、そんなところだ」 金髪の明日香の問いかけに答えたことからも、その様子が伺えた。 (……うん? ちょっと待てよ?) と、その時、不意に浮かんだ疑問が1つ。 ルーテシアの仲間は見つかった。彼女を「お嬢様」と呼ぶ隻眼の幼女が。 (で……この人は一体何?) このチンクという少女は一体何者で、一体ルーテシアとどういった関係にあるというのだ。そもそもルーテシアは何者なのだ。 普通に考えるならば、それこそ良家のお嬢様で通るだろう。 旧時代の貴族の家系。かの有名なモンディアル家のような富豪の令嬢。あるいは管理局高官の娘とも。 異様に幼いチンクの容姿も、使用人の娘だとか、乳兄弟だとかといった線で説明はつく。 そう。普通ならば。 だがこの少女の容姿の何としたこと。片目に眼帯をした少女など、真っ当な家庭ではまず見られない。 ましてや、それが医療用の白いものでなく、レザーでできたいかにも悪そうな黒眼帯なら尚更だ。 こんな見るからに怪しい娘に「お嬢様」と呼ばれる少女が、普通の良家の子供なわけがない。 更に引っ掛かるのは、例の「アジト」という言い回し。 本当なら信じてやりたい。こんな想像はしたくない。でもそう思わずにはいられない。 こうした情報から想定しうるルーテシアの身分を、不幸にもユーノは知っていた。 すなわち――マフィアの娘。 ヤクザのボスの子。 極道の世界のお嬢様。 ドコノクミノモンジャワレスマキニシテシズメタルゾコラ、とか、そういう世界の人。 背筋が一気に粟立った。全身の毛皮が逆立った。 ひょっとすると自分は、とんでもない子を見つけてしまったのではなかろうか。 まして自分が人間であるとばれ、こんな破廉恥な行いに出たと知れた時には―― 「――それでお嬢様、その動物は?」 がちがちと震え上がるユーノの思考を、チンクの問いが遮った。 「ユーノっていう……喋るイタチの子」 「……フェレットです……」 本当はフェレットですらない。人間です。それも貴方よりも大分年上なんです。 そうだと気付いてほしい。 ああいや、微妙。そうは気付いてほしくないかもしれない。少なくとも、この極道っぽい子にはバレない方がいい。 簀巻き、指詰め、ロシアンルーレット。想定されるありとあらゆる「けじめのつけ方」。 どれもこれも、できれば味わいたくない。最も、チンクは極道の人間ではないのだが。 「へぇ……こんな子まで参加させられてるのね」 ルーテシアの胸元のユーノを覗き込みながら、明日香が言った。 周囲が周囲なだけに、彼女の抜群のプロポーションはよく目立つ。 所在なさげにユーノは視線を逸らした。 どうもここに来てから、自分はこんな目にばかり遭っているような気がする。 この殺し合いから脱出できたら、しばらく女の子とは距離を取りたい。割と本気でそんなことを思っていた。 「それでお嬢様は、どちらに向かわれるおつもりで?」 「ドクターのアジトに、ゼストやチンク達を捜しに……」 「我々もそこから来たのですが、特に他には誰も……」 ユーノがどぎまぎしてたり肝を冷やしている間にも、ルーテシアとチンクは話を進めていく。 どうもこの2人もそのアジトという場所を目指し、そこで何らかの収穫があってここまで来たらしい。 それがチンクの横でふよふよと浮いている、楕円型の機械。ガジェットとか言っていたか。 それにはレーダーがついていて、レリックという、ここからの脱出のために使える物を探知できるのだそうだ。 そして今、それが反応を示している。すなわち、脱出の鍵が見える範囲にある。 「あとは聖王の器……それを捜すために、既に姉妹達にも、アジトから連絡を入れてあります。とはいえ、こちらから一方的にですが」 「ちょっと待って! そんなの聞いてないわよ」 「ああ、すまなかった。言うのが遅れていた」 隠し事をされた明日香の憤慨を、チンクがさらりと流す。どうやらこの2人、あまり友好的でもないらしい。 「いかに貴方と言えど、ガリューや地雷王なしでは危険すぎる……我々と共に病院へ向かい、姉妹の保護を受けてはもらえないでしょうか」 最後に、チンクがルーテシアへと懇願した。 これはユーノにとっては知る由もないが、チンクは彼女の存在によって、ようやく決心をつけることができたのだ。 脱出の鍵となるレリックと器を探すのが先か、共に脱出すべきクアットロとディエチと合流するのが先か。 彼女が選んだのは、後者。 強力な召喚術の使い手たるルーテシアだったが、この場ではどうやら下僕達を呼ぶことはできないらしい。 すなわち、召喚こそを戦闘の肝とする召喚士にとっては、あまりにも危険すぎる状況。 彼女はスカリエッティの大事な協力者だ。家族同様、無事に連れ帰らなければならない。 そのためにも、今レリックを持っている相手との戦闘に巻き込むことはできなかった。 だから、病院に集まるであろう姉妹にルーテシアを預ける。必然的に、朝までの集合の約束を守ることもできる。 「うん、分かった」 ゆっくりとルーテシアが首を縦に振ったことで、この場の協力関係は確定した。 ルーテシア、ユーノ、チンク、明日香。以上3名と1匹(厳密には4名)で病院を目指す。 「じゃあ、行きましょうか」 女性陣の中でも最年長と思われる明日香が、率先して先へと進む。 一方、ルーテシアの胸に抱えられたユーノはというと、何やら難しそうな表情を浮かべていた。 どうにも引っかかるのだ。ルーテシアの反応が。 (さっきの、レリックって言葉を聞いた時……この子の目の色が変わった) 今までぼんやりとしていた彼女の赤い瞳に、ほんの少しだけ感情が見えた。鋭さが増した。 そのレリックという何かに対して、彼女が強い執着を見せたのだ。 つまりそれは元々ルーテシアにとって、とても重要な意味を持つものであったのだろう。 ではそのレリックというのは、一体何なのだろうか。 ルーテシアが求めていたもの。それでいて、この殺し合いからの脱出さえも可能とするもの。 であればその力を、彼女は一体何のために使おうとしているのだろう。レリックの確保とはあくまで手段であり、目的ではないはずだ。 一体彼女は―― 「うわっ!?」 瞬間、ぐらり、と。 身体が揺れた。ユーノだけではない。ルーテシアの身体も。 すとんと足場の高度が落ち、衣服の隙間からフェレットの身体が落下する。 足並みをチンク達と合わせるべく、ルーテシアがマッハキャリバーを解除したのだろう。 結果、ローラーの分の身長が縮まり、それによって振動が生じたのだ。 それによって地面に投げ出されたユーノは、そのままチンクの足元へと落下する。 「いてて……」 小さな呻きを漏らしながら、毛皮についた土埃をふるふると払った。 そして、視線を戻す。 ちょうどその先にはチンクの身体。衣服の裾から覗くもの。 そこにあったのは、 「――ッッッ!!?」 「……そういえば、貴方……下着つけてなかったわね」 きょとんとしたチンクと動揺するユーノを見て、明日香がため息をついた。 【1日目 早朝】 【現在地 E-9】 【ユーノ・スクライア@L change the world after story】 【状態】健康、幸せ?、混乱、フェレットに変身中 【装備】なし 【道具】なし 【思考】 基本 なのはの支えになる、ジュエルシードの回収 1.ルーテシア、チンク、明日香と共に病院を目指す 2.ルーテシアの保護 3.くぁwせdrftgyふじこ!? 4.Lや仲間との合流 5.首輪の解除 【備考】 ※JS事件に関連したことは何も知りません ※プレシアの存在に少し疑問を持っています ※ルーテシアがマフィアや極道の娘だと思っています 【ルーテシア・アルピーノ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康 【装備】バニースーツ@魔法少女リリカルなのはStrikers-砂塵の鎖― 、マッハキャリバー(待機形態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS シェルコート@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式×2、ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、バリアのマテリア@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【思考】 基本 ナンバーⅩⅠのレリックの捜索 1.ユーノ、チンク、明日香と共に病院を目指す 2.仲間との合流 3.ジュエルシードの回収を手伝う 【備考】 ※参戦時期はゆりかご決戦前です ※ユーノが人間であることを知りません ※殺し合いに全く興味がありません 【天上院明日香@リリカル遊戯王GX】 【状態】健康 【装備】ガオーブレス@フェレットゾンダー出現! 【道具】支給品一式、ラオウの兜@ティアナが世紀末にやって来たようです、 トバルカインのトランプ@NANOSING、ゾナハカプセル@なのは×錬金 【思考】 基本 殺し合いには乗らない。仲間達と合流し、プレシアを打倒する。 1.ユーノ、ルーテシア、チンクと共に病院を目指す 2.チンクっていうこの子は……信用し切れない 3.チンクとは協力するけど、何があっても対応出来る様に隙は見せない様にしよう 4.ゾナハ……って何? 5.全くもう、この子は…… 【備考】 ※転移魔法が制限されている可能性に気付きました ※万丈目にバクラが取り憑いている事を知りません ※チンクの「万丈目に襲われた」という情報は、嘘か誤りだと思っています ※ガオーブレスのギャレオンを呼び出す機能は封印されています ※トバルカインのトランプが武器として使えることに気付いていません 【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 【状態】健康 【装備】被験者服@魔法少女リリカルなのはStrikerS 【道具】支給品一式、ガジェットドローンⅠ型@魔法少女リリカルなのはStrikerS、工具セット@オリジナル、 料理セット@オリジナル、翠屋のシュークリーム@魔法少女リリカルなのはA s 【思考】 基本 姉妹と一緒に元の世界に帰る 1.ユーノ、ルーテシア、明日香を伴い、病院に向かって医療品を集め、姉妹との合流を図る 2.姉妹と合流した後に、レリックを持っている人間を追う 3.姉妹に危険が及ぶ存在の排除、及び聖王の器と“聖王のゆりかご”の確保 4.こいつ、獣のくせして何を驚いてるんだ? 5.クアットロと合流し、制限の確認、出来れば首輪の解除 5.Fの遺産とタイプ・ゼロの捕獲 6.天上院を手駒とする 【備考】 ※制限に気付きました ※高町なのは(A s)がクローンであると認識しました ※この会場にフェイト、八神はやてのクローンがいると認識しました ※ベルデに変身した万丈目(バクラ)を危険と認識しました 【チーム:ユーノとハーレム】 【共通思考】 基本 仲間達を集め、聖王のゆりかごで殺し合いから脱出を図る 1.病院に向かい、クアットロ、ディエチと合流する 2.その後は戦闘可能な面々でヴィヴィオとレリックを探す 【備考】 ※それぞれが違う世界から呼ばれたということに気づいていません。 Back やわらかな温もりに瞳閉じ 時系列順で読む Next 戦いの嵐、再びなん? Back やわらかな温もりに瞳閉じ 投下順で読む Next 敵か味方か? Back 遠い声、遠い出会い ユーノ・スクライア Next Reconquista(前編) Back 遠い声、遠い出会い ルーテシア・アルピーノ Next Reconquista(前編) Back されど嘘吐きは救済を望む(後編) チンク Next Reconquista(前編) Back されど嘘吐きは救済を望む(後編) 天上院明日香 Next Reconquista(前編)
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/215.html
第二話中篇 浮遊感と落下感。 急激な上昇と重力になされるがままの自由落下する感覚の中、ボクは眼を覚ました。 ……魔法瓶のような太さの腕の中から外を眺めると、電柱の先っぽを足場にして、5~6本先の電柱の狭い先っぽにジュンプして移動してるのが判って……怖くて……ま、また気を失いそうになる……。 さっきのジェル・シード暴走体を魔力を使わず殴り倒した事といい、この世界の人ってこんなに身体能力に優れてましたっけ!? あっれ~~?管理局発行の資料には、惑星「地球」住民の平均的身体能力はミッドチルダの一般市民のそれと同じはずなんだけどなぁ~。 ま、まてよ……資料の隅っこに「"突然変異体"及び"その他の脅威"がやや多い」とかなんとか注意書きが小さく記されてあったような……。 ……なんなんだよ「その他」とかって!! ああ!こんなことになるんだったら、ちゃんと管理局の人と一緒に来れば良かった……orz。 「ムッ!目覚めたかフェレット君!!」 「はい、おかげさまで……。助けてくれた御蔭で、残った魔力をケガの治療に当てる事ができて、このとおり傷もスッカリ治りました。……それより地面に降りて話をしませんか?」 (立ち止まったは良いんですが、電柱の小さな頭を片足で立ってるのは、見ていて結構怖いです……!) 「おお~、高町さんとこの某じゃないけぇ。なしたぁ?ま~た、どこぞの悪党退治でもしてたかあ?」 突然下から声を掛けられたのでビックリしました。 見ると、如何にも人の良さそうなおじいちゃんが、電柱下の歩道から見上げています。 ボクの姿を見たら、丸眼鏡の中の目を細め、この土地の民族衣装だと思うゆったりとした服を震わせてカカカと笑っています。 「やっ!これは市長!!」 え?この高さをゼロモーションで降りれるんですか!? 足首は?膝関節は? それよりも市長って! 「失礼なところを見られてしまいました!申し訳ありません!!」 深く頭を下げたので、勢いボクも一緒に頭をペコツと下げてしまいました。 それを見た市長と呼ばれたおじいちゃんは、見事なバーコード頭を掌でペシっと叩いてまた笑います。 「カカカッ!この町で人の目はばからず電柱の上に立っておれるのはおまいさんくらいじゃて。 だからわしらの国は、おまいさんのために『緊急時電柱間跳躍移動特別許可書』とかゆうのを発行したじゃないんか? おまいさんが世のため人助けのために東奔西走してるおのを知らんもんはこの町にはおらん! おったらこのワシが追い出しちょる!!」 「いやッ!市長、そんな事を大っぴらに言ってはまた非難が……」 「生きとるうちに一度やってみたかった「むらおさ」じゃ。いつでも辞める気概じゃなきゃぁ、町のぎょーせー改革なんざ出来ん。 もっとも、それもおまいさんがアクメツと一緒に任侠の「任」の字を忘れおったゴロツキどもや、その取り巻きで小金掠め取ろうとする輩を、ひとまとめに縛り上げてくれたから出来たんがね。 ワシが今こうして此処におって、おまいさんに会えたのも、おまいさんがやっておる……ほれ、修行の成果というやつや。誇ってええ!」 「ハッ、いえ!市長を前にすれば、まだまだ己の未熟さを痛感する次第であります!!」 ビシッと直立するので、ボクも思わず背筋伸ばしちゃいました。 「そーかしこまるな、かしこまるな。おまいさんは馬鹿でっかい声で笑っておるのが一番よう似あう武士(もののふ)じゃ。……そう思うじゃろ?ちっこいの」 「キュ……キュウ……」 いきなりボクの顔を覗き込んで言われたのでちょとドキドキ。 さっきの会話、聞かれてないよね……。 「カカカッ!某、おまいさんが連れているちっこいのは、"今度"はしゃべらんのか?」 「まさか!あのネコは、"たまたま"人語を話せるネコであっただけであり、このフェレット君も"たまたま"出会っただけです!!」 「ふ~ん"たまたま"かあ。"たまたま"で手投げ弾を破裂させたか……」 ギクッ! 動物形態なんですが、ボクの背筋に変な汗が流れるのがわかります。 だってこのおじいちゃん、笑いながらすっごい冷たい目をしてボクのほう見てるんですもん! 「やッ、聴こえておりましたか………さすが高柳飛翔鳳凰十二宗家当主」 「前、じゃよ。前当主。もうワシには何の後ろ盾も無いただの耄碌じゃ。 ワシをそうしたのは、おまいさんが修行と称し、男塾、大門、米軍、闇の一族、世界中の退魔機関を巻き込み統道で滅茶苦茶に大暴れしてくれたおかげじゃがの~。 ……おかげで"真の武"の計画も何もかも破綻させられた。 白紙じゃ……十二宗家の歴史も何もかも白紙に戻しおった。 この国の生まれでもなく、西洋思想にどっぷりつかった唯一人のドイツ人の男に、な……」 し、市長さん……怒っていらっしゃいませんか? なんか頭に血管が浮き出てピクピク言ってるんですが!! (*1))))ガクガクブルブル 「のお、ちっこいの……おまいさんは運が良いぞ~。 この男、日本では『武乱知得 某』というフザケタ名前を名乗る、本名はボー・ブランシェと言うネオ○チのお笑い芸人じゃ」 「しッ市長~~」 あ、ちょっと泣きそうな声がボクの頭上から聞こえた。 そっか、この人の名前はボー・ブランシェって言うのですね。 それにしても……お笑い芸人? ……でも失礼と思っちゃったんですが、なんか当てはまりそうな気がする。 「この数年間、一度も勝った事がない男じゃ。 敗北まみれの戦士じゃ。 じゃが"慣れれば"頼りになる漢ということが、よ~く判ってくるじゃろう……」 「ハイ。それはもう、さっきも魔法を使わずスゴク強くて……はっ!」 しゃ、しゃべっちゃったあ!! 「カカカッ、悪霊の類いじゃないのはようわかっとるから安心せい。 それに、いち市長であるワシはこれ以上個人の問題に"収まっているうち"は関われんからのう。 そうじゃ、自己紹介をしておこう。ワシは高柳道元というただの市長じゃ」 「ボクの名前はユーノ・スクライアと言います。スクラアイアは部族名なので、ユーノと呼んでくださって結構です」 「うんうん。ようこそ日本国海鳴市へ」 またさっきの温和な顔に戻り、市長はボクの小さな右手を取って握手してくれました。 が……手を離した途端、口元の微笑みはそのままで、某さんに鋭い視線を向けて言いました。 「ということじゃ。某、どうせお主のことだから、闘いに余裕があっても己の名を名乗らず、ユーノ殿の名前も聞こうとせんじゃったろ?」 「~~ッ、面目ありません!」 ボーさんが持っていた、あの時の自信満々な空気が完全に消し飛んでしまっちゃいました。 「……そういう風に己の非を感じ取れれば、また一歩成長できるというものじゃ。が、本当ならワシが言う前に気付ければ良いんじゃがなあ」 これがいわゆる毒舌というやつですか……。 言葉以前にこの市長さんから発せられる空気がピリピリします。 「ふ~む。それにしても、今度もまた町を留守にするようじゃの」 「必ず戻ってきます!御神流はまだまだ学ぶべき物がありますので!!そして弱者を守ることは私のッ、ネオ○チの責務でありますからッッッ!!!」 「よかよか、おまいさんは何処に行ってもおまいさんじゃ。「むらおさ」の椅子にのっかっておれば、嫌でも武勇伝は聞こえてくるものよ。 よかったの~ユーノ殿。コヤツ、勝負事には滅法弱いが人助けのためなら"世界の理論"を腕力で捻じ曲げるような輩じゃ。ビシバシこき使ってやってくれ」 老人もとい市長はボクの頭を撫でながら、またカカカと笑っています。 それにしてもしゃべる動物ってこの世界では珍しいらしいはずですが、二人とも思いっきり慣れているようですね。 過去の話と言い、ちょっと興味が沸いてきちゃいました。 そのあと市長は、某さんを少し哀しそうに見つめて話し始めます。 「……明朝にも発つんか?」 「フェレッ…ユーノ君の詳しい話はこれからなので、まだどうとも……。ですが、私とユーノ君が居続けると、町の皆さんに御迷惑をかけてしまう可能性がでてきましたので……」 「今回はワシらに手伝える事はないんかの?昔のツテで結構な数の者に声掛けられるんじゃがの~。 ほれ、この前の"五月に降った雪"の時みたいに、アーカム財団や御坊財閥と協力してな……」 「その必要が出来たら、その時にまたお願いしようと思います!」 「ん……じゃあ老人のワシはもう退散するとしよう。そうじゃ。そこの公園にはだれもおらんかったからの。落ち着いて話をするには格好じゃ」 「お心遣い、感謝します!」 ボクも感謝したくなりましたのでおじぎしたら、またカカカと笑いながらグリグリ頭を撫でて去っていきます。 カランコロンとゲタと言う靴を鳴らして去っていく市長さんの背に向け、改めて某さんは深く頭を下げました。 よく判らない会話をだったんですが、助けてくれたこの人も市長さんもスゴイ人だということが良くわかりました! あと、思っていたより深い洞察力を持っていることも……。見た目で判断してゴメンナサイ! でも、こんな理解力がある方がいらっしゃるのに、どうして管理局は駐留部隊とかを送ったりしてないんだろう? 静かな公園のベンチに座り、ボクが知っている限りの知識を教えました。 異次元の存在、時空管理局のシステム、魔法の原理、その他イロイロなことについて。 某さんは熱心にメモを取りながら色んなことを質問してきます。 特に管理世界の教育福祉を重点的に聴きたがりました。 でもボクは考古学が専門なんで、そんなに詳しく話せませんでしたが……。 それでも質疑の繰り返しの中で、逆にボクもこの世界について様々なことを教えていただきました。 ボクがこの世界について調べてあることを話させることで、かえってボクの持っていた知識のあやふやさが判明できました。 聴くと某さんは、ネオ○チの大いなる理想の下、世界を股に駆けて活躍してたとのことで、ボクの話もすんなり受け入れてくれました。 この世界には時空管理局の危険なロストロギア捜索封印する古代遺物管理部に取って代わるシステムとして、アーカム財団というのがあるのですが、世界中の国家は軍事バランスを崩しかねないテクノロジーを秘めた古代遺跡を巡り、争いを起こしている事も……。 ……これじゃあ管理局が下手に介入したら火に油を注ぎこんじゃうかも。 ボク達の世界は質量兵器禁止の上、一部の例外を除き原則不介入主義だし、それにこの地球には、へたなロストロギアよりも凶悪極まりない『存在』がうじゃうじゃ居るみたいです。 これじゃロストロギア関係は、アーカムに任せて放置しようとする管理局も間違ってないかも……。 時空管理局は慢性的な人手不足で、やっかいごとはあんまり関わりたくないという話を耳にした事もありました。 それからどれくらい時間がかかったのかわかりません。 ようやく最後にボクがこの世界に来た詳しい訳を言ったとたん、突然某さんが立ち上がりました! 「ということは、ジュエルシードを散らばらせた責任を感じ、たった一人で見ず知らずの世界で回収にあたろうとしたのかッッ!!」 「ヒィッ!す、すみま」 「なんという責任感!!!君は将来、多くの者を導く良き指導者となる素質があるッ!!クウウウッ……それに引き換え、我が世界の若者はたるんどる!! 実力主義の管理世界の爪の垢を煎じて飲ましてやりたいわあッッッ!!!」 「あの~」 「やはり教育改革の実行を……いや、その前に教師の意識改革をだな…そのためには少人数学級を増やし教師一人あたりにおける対処能力を上げ……予算編成……世界規模で実行…、 いち早く管理世界レベルに教育福祉を……むうう、やはり地球規模で考えると……だが各国GNP比率における……ブツブツ」 「もしもし?某さん?」 「ブツブツ……効率の妨げとなるのはやはり途上国の紛争が最大のネック……しかし………いや教育レベルと各国の産業育成……労働市場ではなくだな………そうかッ!! やはりッ、宇宙開発こそが人類に残された道となるか!!!それを最短距離で行くには世界を最高意思決定機関のみ統合し、各国を地方自治体にさせることで……管理世界と国交を結び、技術革新を起こさなければッッ!! つまり時空管理局と接点を結ぶことこそが急務! ユーノ君!今この時を持って君は、ネオ○チ公認の超時空特使に決定したァッッッ!!!!!」 「えええ~~!?」 い、いきなり何を言い出すんですかこの人は!? 「ま、待ってください。まずは危険なジュエルシードを捜すのを最優先課題に!」 「うむ、狂戦士級…とはいかんが確かにあの力は厄介だ!まずは腰を沿え、休養をする必要があるな!それに我が"相棒"を呼ばなければ!! そのためには高町家宅の道場に戻る事こそが目下の最優先課題!! フハハハハハッ!私の思考過程に一点の曇りがないことが証明されたッッ!!!」 悪い人じゃないんだ……悪い人じゃないんですが……。 ………どっかの世界で発掘しているでしょうスクライア一族のみなさん、やっぱりちょっと心配になってきてしまいしたorz。 ★帰宅描写は省いて高町家リビングッッ!!! 「うわぁ~~かわいい~~~!!」 「こらこら、なのは。某さんの客人なんですから、そんな無礼な事をしてはいけませんよ」 「あ、どうぞお構いなく。ボク慣れてますから」 ボクと同い年の女の子にナデナデされるのには、もう半分諦めました。 その前に桃子さんと美由希さんに、思いっきり抱きしめられたりしてて……でもちょっと幸せだったかも(ポッ)。 某さんが下宿させて頂いてる高町家に着くや早々、庭で稽古をしていた高町家の人に会うや正々堂々と某さんが、いきなりボクの自己紹介をはじめたときは、正直どうなるかと冷や汗が流れました。 その後は高町家の皆さんが、一家揃ってのお出迎えです。 皆さんしゃべる動物にあっても、全然なんとも思わないことにむしろ驚かされました。 むしろ驚いたのが、その後某さんと家主の士郎さんとの会話! 「師範、単刀直入に申します!世界的規模の危険性がある落し物を捜す間、お暇を下さい!」 「よっし分かった。見つかるまでゆっくりしていきなさい」 ……なんか某さんに負けず劣らず色々と凄い方でした。 「どうだ!高町家の方々は良い人たちであったろう?」 道場に到着した某さんは、道場の倉庫に置いてある自分の荷物から様々な機械を取り出し、配線を繋いで操作しながらボクに言いました。 「はい。みなさん優しい方でした。ボクが人間って知ってても抱っこされちゃっいましたが…ところで某さんはさっきから何をしているのですか?」 「無線機に盗聴防止用装置を取り付けて、それにさらにノートパソコンを接続する事で……ユーノ君、この単語は通用するか?」 「通信機に情報処理端末のことですね?同じような装置はボクの世界でもあります。それに魔法でもできますよ。こんな風に」 ボクは空間に手を指して各種モニターを出現させると、某さんは便利な魔法もあるもんだと言いました。 後で教えますと言えて、ちょっと鼻高々です。 「無線機を通じて無線LANに接続し、この捜索において最も信頼できる組織と人物……忌々しいが今の所はアーカム財団と情報屋をいくつか、そして我が生涯の"相棒"に直接連絡を取る! フンッ、アーカムの現会長ならば時空管理局と異次元魔法技術については知りたかろう!交換条件で捜索を手伝わせてやるわッ!! それに、だ。正直言って、さっきの戦闘が各国の偵察衛星に察知されていないと考えられなくてな。特に日本の動向も知っておきたい! 政府お抱えの霊能力者なら、ジュエルシードのことも予知されていると考えるべきだろうしな……。 アーカムの情報網ならならすでに何かを掴んでいるやもしれん。 日米双方、素晴らしき指導者が首席になったとはいえ、哀しい事に国家に良心は期待出来んからなッッ!! ……ネット接続確認。ファイヤーウォール、暗号通信の準備はよし! アーカム本社接続パスワード……」 某さんはカチャカチャとせわしなくキーボードを叩きます。 これはもう某さんに任せた方が良いですね。 それに……やっぱり疲労が溜まっちゃたんでしょうか。すごく眠たくなってきてしまいました……。 「ユーノ君。君は先に休みたまえ。君が疲れていればジェルシードの探知もおぼつかまい? それに、優れた指導者という者は来るべき日に備え、己の体調を万全に管理するのも仕事だからな! この家の守りは安心しろ!世界最高レベルのトラップの達人にして冒険者から学んだ技術を駆使し、敷地内外には赤外線探知機とブービートラップは設置済み! しかも家長にして我が師範はスプリガンに匹敵する剣の達人だ!だから安心して休みたまえ」 「はい……それではお先に休ませていただきます。おやすみなさい……ファ」 ああ、桃子さんが見繕ってくれたクッションが温かくて柔らかくて気持ちいい……。 物音がして目が覚めると、窓から差し込む光が見えました。 耳を澄ますと、昨日会ったこの家の長男、恭也さんと某さんの掛け声が聴こえます。 「セイッ!」 「ですから、その足運びの斬撃ですと飛天御剣流になっちゃうんですよ」 「むうぅ……」 「ほら、踏み込みすぎちゃうから二の手に入るまでに隙ができてしまうじゃないですか? 某さんの持っている技術なら一撃で仕留めるのはわけないですが、相手が多人数であった場合には鋼線や手裏剣、周りにあるもの全て駆使して戦わなければならないんです」 「な、ならば、こう初撃で、天 翔 龍 閃 ッッッ!!!」 「隙あり」ポカ 「ぬううう……」 ……何を言ってるのかサッパリです。眠いんでもう一回寝させて戴きます。 ★八束神社 「は~今日もいい天気です~」 私の名前は神咲那美。風芽丘高校三年生です。 学校が終ったあとは、こうして八束神社の巫女兼管理代理人のアルバイトをしています。 季節も秋になりましたので落ち葉集めが大変で……なんですか、この空気は!? 神社の入り口鳥居の方から突然何とも言えない力が漂ってきました! 妖気?でも違う感じです。 「久遠!急ごう!!」 「クウッ!」 私は横にいた狐の久遠に声を掛け、鳥居の方に駆け出しました! そこで見たのは、信じられないくらいに巨大な犬のような魔物と、そして拳銃を撃っている外国人の男性です!! ブスッブスッと男の人が、円筒が先っぽにくっついた拳銃を撃つたびに魔物が襲い掛かります! それを鮮やかな身のこなしで男性。 「ガアアアア!」 「……やはり9ミリ程度では効果がありませんか。ギャラリーも集まりだしてきてしまったので、速攻でケリを着けさせていただきます! モード変換、戦闘モード起動!」 男の人の身体が盛り上がり、ベリベリと外套を内側から破いていきます! 露になったその姿を見てしまった私は、魔物よりも男の人の方が怖いと思ってしまいました!! だって、その身体は……。 「まずはコレくらいの出力のを喰らいなさい。100万ボルトです」 バシッ! 「きゃッ!」 男の人の、真っ黒な機械の腕から雷が出て、それが魔物に直撃するのを見た私は、恐怖で思わず叫んでしまいました。 魔物は全身に火花を一瞬に噴出すと、痙攣して倒れてしまいました。 ……本当に怖いくらい、とんでもない威力です! リスティさんの電撃よりも強そうでした! 怯える私と、唸り声を挙げる久遠を他所に、男の人は携帯を取り出して何か言いはじめました。 「……サンダーボルトより横田ABへ。モルモットを一体捕獲しました。輸送ヘリと護送部隊の手配を頼にます。現在の場所は……そうです。この通信機の座標で……。 ……はい。はい。日本側は全く気付いて……大統領が?なるほど……さすがあの方。は、いいえ。私は命令された通りに動くだけです。 はい……わかりました。目撃者は……ですので私に任せください」 電話を切った男が、私の方へ向き直りました。拳銃はすでに収めていますが、とにかくこの人の目が怖いです~!冷たすぎます!! 変な気を起こさないように久遠を抱いています。 「そこのお嬢さんは、神咲一灯流の肩とお見受けしますが、このモンスターをどうお見受けしましょうか?あ、私はたまたま休日を満喫中の米国陸軍のサンダーボルト少佐と言います。 あそこに倒れているご婦人なら大丈夫です。怪我もないですが、飼い犬突然変化して凶暴になった衝撃が強かったのでしょう。 気を失ってしまいました」 「ホッよかった。あ、は、はじめまして!私は確かに"祓い"を専門にする神咲一族の神咲那美と申します。ですが……これは、いえあれは一体なんなのですか? 物の怪…にしては、気が違いすぎます。妖気とは違い……その何と申すればいいか……そう"純粋な力"のように感じました」 「なるほど、なるほど。ということは貴方達の"祓い"では、この犬が飲み込んだものを吐き出させるのは無理ですかな?」 「へ?あの~何かサンダーボルトさんが、何を飲み込んだか知ってるような口ぶりですね」 「一応我々はそれをジュエルシードと呼んでおり……来ましたね当事者が!」 「へ?」 後半に続く 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2752.html
魔道戦屍リリカル・グレイヴ 第十四,五話 幕間 「音界の覇者と金の閃光」 小さな頃から“音”がただ好きだった……それだけだ。 だというのに、いつの間にか殺しの技を身に付けて夜の世界に生きていた。 人を楽しませる筈の音色は目標の脳髄を揺さぶり死に至らしめる魔音と成り果て、賞賛の拍手の代わりに阿鼻叫喚と鮮血が返ってくるようになった。 挙句の果てにはとんでもない化け物に目を付けられ、殺しの手札にされてしまう始末。 ナイブズそしてレガート、今思い出してもゾッとする。 だが不幸は一度じゃ終わらない。 一度死に、やっと馬鹿げた死のゲームから解放されたかと思えば、今度は無理矢理生き返らせられて魔法世界の住人にクーデターの道具として使われる。 イカレ野郎に足元をすくわれるのはご免だというのに…… まったくどうして俺はこうも運がない? 幸運の女神はよほど俺が嫌いらしい。 『いぎぃっ! ああぁぁぁぁあああぁっ!! っつあぁぁあああっ!!!』 そのうえコレだ。 俺の良すぎる耳は聞きたくもない女の絶叫を嫌でも拾い上げて脳髄に情報を送る。 まったく、いつまでああしているんだ? さらって早々、レジアスはあのメガネをかけていた戦闘機人にもう数時間も拷問を続けていた。 どんなに澄んだ良い声も単調な絶叫だけを発していては不快でしかない、正直頭が痛くなる。 俺が金切り声に頭痛を感じていると、俺と同じくこの世界に来たGUNG-HOのロクデナシが現れた。 「お前か……そういえば聞いたか? チャペルが連絡を絶ったそうだ、おそらく潰えたのだろう。E・G・マインに続き奴もいなくなった、これで残るGUNG-HOは俺とお前だけだな」 俺はふとチャペルの事を話題に出した。だがこいつは何も言わず沈黙を守ったまま。 特に興味は無し……か殺人(キリング)マニアめ。恐らく自分の行う殺しにしか興味がないのだろう。 まったくとんだご同輩だ、俺は一つ溜息を吐いてその場を後にした。今はただ、静かな場所で酒でも飲みたい気分だった。 ウイスキーの瓶とグラスを持って立ち去る。 そろそろ本気で“あの話”に乗る算段をした方が良いらしい、俺はふとそんな事を考えた。 “ここ”は随分と広い、とても大昔に作られた戦艦とは思えないものだ。 その広大な内部構造の内、俺はできるだけ静かな方へ、心地良い音がある方へと足を進める。 そうして歩いて辿り着いたのは、捉えた捕虜を拘置する為の区画だった。 閉ざされたドアの向こうには、あるいは数人に、あるいは一人に部屋が割り当てられている。 最低限の食事はオーグマンやあの中将の部下が与えていた。 ここには大して見張りなどいない、何故ならいても意味が無いからだ。 魔法を阻害するらしい装置AMF、それが展開されている上に魔法を使うための道具であるデバイスとやらも現地で没収済み。 捕虜には抵抗したくても抵抗する術などありはしなかった。 捕虜になった連中の事を思い出しながらそこを眺めて歩いていると、ふと一つのドアの前で足が止まる。 金属製のドアの向こうから、ひどく耳に響く心地良い音色が俺の心を捉えた。 それは声だ、耳から伝わり脳を甘く焦がすような喘ぎ声。 確かここのドアロックには俺に与えられたカードキーの権限でも解除が可能なはずだ。俺は僅かな逡巡の後にドアロックにキーをかざした。 無論、心地良い音に対する興味も大きかったが、それ以上に“あの話”を実行に移す際の下見も兼ねていた。 ドアがスライドして開けば、中には簡易ベッドの上で身をよじる女が一人。確かティーダとかいう奴が捕らえた女だ。 恐らく酷い衝撃で気を失い、今まで眠っていたのだろう。 長く艶やかな金髪、黒い制服に覆われた起伏に富んだ男心をくすぐる肢体、そして麗しいと言うべき美貌。これは美女と言う他ないだろう。 まあ、俺から言わせればまだ少し子供臭さが抜けないが。 「んぅぅ……あれ? ここは……」 少し艶めいた声で喘ぎながら女は目を覚ました。 目覚めたばかりで思考が覚醒しきらないのか、しきりに目をこすって辺りを見回す。 俺は近くにあった椅子に手を伸ばし、座りながら声をかけた。 「ようやくお目覚めか? 眠り姫」 俺の声に反応して女は即座に振り返り鋭い視線を浴びせかけた。良い反応だ、単に艶めかしい美女という訳ではないらしい。 俺はそれよりもその瞳の美しさに少し驚いた、こんな綺麗な紅色の眼は初めて見る。 濃い警戒を込めた瞳で俺を見つめながら周囲を見渡した女は、自分の置かれた状況を理解したらしく目から僅かに覇気をなくした。 「そうか、私は倒されて……捕まったんですね……」 「ああ、らしいな」 「あなた方は何者ですか? あの時地上本部を襲撃したのはあなた達なんですか?」 起きたばかりだというのに女はよく喋った。だが正直言葉の内容よりもその澄んだ声質の方が俺の心を揺さぶる。 やはり俺は根っからの音好きらしい。しかし言葉の内容もしっかりと理解したので軽く返事をしてやった。 「さてな、俺も首魁はレジアスとかいう軍人である事しか知らない」 「レジアス中将が!? まさか……そんな事が……」 俺の言葉に女は面白いくらい動揺した、あのイカレた中将とやらはここでは随分有名人らしい。 だが俺はそれよりもさっきから気になっていた事を教えてやる。 「ああ、それよりも」 「はい」 「スカート、めくれてるぞ?」 「へ?」 女のスカートは寝相の悪さのせいか、ひどく乱れてくしゃくしゃにめくれ上がり、その下に隠された下着を曝け出していた。 ちなみに下着は、その豊満な肢体に良く似合う扇情的な黒のレースだった。 うむ、実に良いセンスだ。 「ひゃっ!」 可愛らしい声を上げて彼女は大慌てでスカートを正す。 容姿はスタイルは完成された女であるが、どうも雰囲気というか内面部分が抜けているらしい。 俺は久しぶりに愉快な感情を覚えて口元に苦笑を浮かべた。 だがそれがどうも含みを込めたいやらしいものに映ったのか、彼女は俺にまるで痴漢でも見るような目を向ける。 「ま、まさかあなた……私に変な事しに来たんですか……」 その紅く美しい瞳に怯えが混じり、艶めかしい肢体が震え始め、心臓の鼓動が早まっていく。 その様は嗜虐的性嗜好の人間が見れば思わず唾を飲むような淫蕩さがあった。どうもこの女はひどく人の嗜虐心をくすぐる体質のようだ。 それに武器を奪われた無力な女に悪の手先がする事なんて、容易く想像できるだろう。 だが無理矢理女をどうこうするのは趣味じゃない、俺はひとまず誤解を解くことにする。 「さて、変な事とはなにかな?」 「そ、それは……その……エ、エッチな事とか……」 自分で言って真っ赤になっていたら世話無いな。 心音や声の調子からすると初見からの予想通り処女なんだろう。 しかし“この世界の男は見る目が無いのか?”と疑問に思う、これだけの上玉を手付かずで残しておくのはもはや失礼の領域だ。 「残念ながら俺は君の言う“エッチな事”には興味がないんでね、まあ女日照りなのは確かだが、無理矢理というのは俺の趣味じゃない」 「……ほ、本当ですか?」 「今ここで俺が嘘を付くメリットはないだろう?」 俺はそう言うと手にしたグラスとウイスキーの瓶を目の前にかざす。 やや薄暗い独房の光に照らされたグラスが反射し、ウイスキーの美しい琥珀色が妖しく輝く。 「俺はこいつを飲(や)りに来ただけだ」 俺のこの言葉に、女は首を傾げて不思議そうな顔をする。 その仕草がまた随分幼さを漂わせて妙な愛らしさを覚えた、どうも彼女は天然の男殺しらしい。 「……意味が分かりませんが……ここでお酒を飲む理由がどこにあるんですか?」 その質問に俺はグラスに注いだ酒を飲みながら答える、やはりこの声を聞きながらだと普段の何倍も美味い。 舌の上に広がるアルコールに幾らでも芳醇さが増す気がした。 「理由は3つある、一つはここの連中に一緒に酒を楽しめるような奴がいない事。もう一つはお前の声だ」 「声?」 「ああ、実に良い声だ、きっと歌手になれば大成するぞ? これは賭けても良い」 「じょ、冗談はやめてください……」 お世辞半分の言葉でも恥じらいを見せる、なんとも純だな。 思わず“いつか悪い男にコロリと騙されるんじゃないか?”と少しだけらしくもない心配してしまう。 だが半分は本当だ、この声質ならば最低限の事を教えれば確実にモノになる。 おまけに容姿にも華もあるので申し分ない。 そんな感慨に耽っていると、その澄んだ声がまた俺に投げかけられた。 「それで3番目の理由ってなんですか?」 「ああ、それなんだが……まあ一杯やりながら話そうじゃないか」 そう言うと俺は空になった自分のグラスにまた酒を注いで手渡した。 少しばかりの警戒を込めた目で俺をジッと見つめると、女はそれを受け取る。 「じゃあまずは自己紹介といこうか、俺はミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。バレイとでも呼んでくれ」 「フェイト……フェイト・T・ハラオウンです」 軽く自己紹介をした俺は事の本題に入った。話すのは無論“あの話”に関する事。 これはいわばカード(手札)の補充だ、いつでも切れる有効な札があるに越した事はない。 もし状況がどちらに転んでも上手く立ち回れるように手を打っておく。 俺は美酒と美声に酔いながら、頭の中に描いた算段をもう一度胸中で反芻した。 続く。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2137.html
リリカル・グレイヴ 番外編 「ツギハギと幽霊と女の子」(中篇) 「そういえばビリーさんって足が透けてるように見えるんですけど‥‥」 「ああ、俺は幽霊だからさ」 「ゆ、幽霊!?」 「ちなみに俺は死人だしな」 「死人!?」 「ああ」 「じょ、冗談ですよね?」 「いいや」 「誰がそんな冗談なんぞ言うか」 「ええ~!?」 △ 十二とビリーの旅にキャロが同行するようになって、彼女にとっては驚きの連続だった。 なにせ相手は死人と幽霊なのだ、これで驚くなという方が無理だろう。 だがまあ適応能力が高いのかそれとも理解するのを早々に諦めたのか、キャロは状況をすぐに受け入れた。 西へ東へ、十二とビリーの探す“モノ”を求めて一行は方々を旅した。 時に人助けをしたり町にはびこる悪党をノシたりと波乱万丈の風来坊三人。 そして今日もまたとある町に巣食う麻薬組織を軽くボコっている最中だった。 「逝きさらせっ!!」 掛け声と共に十二の蹴りが目の前の男に炸裂する。 強烈な打撃の衝撃に男は吹っ飛びながら手にした銃を落とした。 周囲にいた他の男達は口汚く罵声を吐きながら十二に向かって鉛弾の雨を降らせる。 だがその銃弾が十二の身体を貫くことは無かった。 朽葉流忍術の悉くを極めた死人の動きは一陣の風のように素早く、疾風迅雷となって弾丸の軌跡を掻い潜り回避する。 乾いた銃声が鳴り響く中、雷撃を纏うエレキギターとその主が軽快な音色を奏でた。 「まったく、もう少し平和的に話し合いとか出来ないのかねぇ」 ギターの音色と共に銃を持った荒くれ共を電撃が襲う。 高速の凄まじい打撃を打つ十二と電撃を放つビリーの荒っぽいセッションは瞬く間に敵を残らず倒し尽くし、後には気を失った悪党共が何十人と横たわっていた。 「おいキャロ、終わったぜ」 「はぁ~い」 ビリーの呼ばれたキャロがトタトタと物陰から走ってくる。 この奇妙な風来坊三人の中では、基本的に荒事担当は十二それに仕方なく付き合うのがビリーそしてその後始末がキャロの役目となっていた。 キャロは慣れた手つきで気を失った男達をふん縛りながら懐からサイフを抜き去っていく。 これこそが彼らの日銭の稼ぎ方。 麻薬取引の現場や悪党の溜まり場に殴り込んではボコボコにして(キャロの教育上、殺しはしない)金目の物を取っていくという最高に荒っぽいものだった。 「終わったか?」 「はい」 「んじゃ、後はサツに通報でもしてトンズラすんぞメスチビ」 「ちょっ、待ってくださいよ屍さ~ん」 一人でズカズカと先行く十二にキャロが慌てて後に付いて行く。 後にはボコボコにされてふん縛られた悪党数十人を残して三人はねぐらである安ホテルへと戻った。 別に十二とビリーは宿泊施設など必要ではない、なにせ彼らは既に死んでいる身の上だ、いつもは野宿でもして夜を明かすのが普通だった。 しかし10歳に満たない少女にそれは厳しいものがある、故に十二とビリーは少ない身銭を切って宿泊施設を使用するようにしているのだ。 ホテルに帰る道すがらその事を考えるとキャロは二人に“すまない”という想いで一杯になった。 誰にも迷惑をかけたくなくて里を黙って出て行ったのに、このままでは自分は十二とビリーのお荷物でしかない。 「あの十二さん‥‥‥すいません‥」 「てめえ突然、何言ってんだ?」 「だって私‥‥お二人にご迷惑ばかりかけて‥」 シュンとなって俯くキャロ。 十二はバツが悪そうに口元を不機嫌そうに歪ませる。 「ったく、チビがんな事気にしてんじゃねえ」 「でも‥‥」 「どうせ俺らの目的にゃあ、ヤクの売人シめるのが入ってんだ。べ、別にてめえの為にやってる事じゃねえ」 「目的‥‥確か“シード”っていう麻薬でしたっけ?」 「ああ、まあ因縁のあるヤクだからな。それにアイツを探すのもな」 どこか懐かしそうに言う十二の言葉にキャロは不思議そうに首をかしげる。 今までこんな十二の顔を見たことがなかった。 「“アイツ”?」 「まあ俺らの昔の連れだ、訳あって行方不明でな‥‥もう何年も探してる」 「連れっていうかファミリー(家族)って言っても良いんじゃないか十二? 特にミカとかはさ」 「う、うるせえぞRB!!」 「?」 十二が恥ずかしそうにしている理由が分からずにこれまた首をかしげるキャロ。 そんなこんなで騒がしくしながらも3人はねぐらの安ホテルに戻っていった。 △ 「で、なんて書いてあんだ?」 「“娘は預かった、返して欲しければ港の第八倉庫に来い”だってさ」 「ちっ! あのメスチビ、簡単に拉致られてんじゃねえぞクソがぁ」 十二とRBがほんの少し部屋を留守にしている間にキャロが攫われた。 言うまでも無く相手は十二とビリーが相手にしていた麻薬組織だろう。 置手紙を読み終えたビリーは、いつもの軽い雰囲気が嘘のように鋭い気迫に満ちた目で十二に視線を投げる。 「さて、どうするジュージ?」 「決まってんだろ、売られた喧嘩は買ってやらぁ」 「だな」 二人の死者は幼いファミリー(家族)を救うべく、怒りを胸に手の得物を担いで歩き出した。 こうなったこ二人は、例え悪鬼羅刹でも敵うまい。 △ 「で、これで終わりか?」 「まったく大した事ないねぇ~」 十二とビリーの呟きが海から吹く潮風に混じって空に消える。 場所はキャロを浚った連中に指定された港の一角、そして二人の周囲には倒された麻薬組織の悪漢共が気を失って倒れていた。 ただの銃火器で武装した程度のチンピラ連中では十二とビリーを止める事など叶わず、ただ一方的に倒されるのみ。 この有様に組織の親玉と思われる小太りの男は頬を怯えて腰を抜かしている。 「ひぃっ! て、てめえら人間じゃねえっ!!」 「当たりだぜブタ、なんせ俺ぁとっくの昔に死んでる死人だからなぁ」 「俺なんて幽霊だからな♪」 ドスの効いた声を吐く十二に陽気に喋るビリー、いつもと変わらぬように見える二人だが漂う気迫は修羅の如く鬼気迫るものだった。 それだけキャロに手を出された事は二人の怒りに火を付けていたのだ、この迫力に組織の親玉は小便すら失禁して身悶えする。 「ひぃぃっ! お、お前ら、早くこいつらを殺せえええぇぇっ!!」 その声と同時にミサイルランチャーの雨が降り注いだ。 この奇襲に即座に振るわれた十二の両手の得物、ガンブレード旋風と疾風の赤き刃が踊り絶妙な太刀筋で軌道を逸らして跳ね返す。 進行方向を狂わされたミサイルはあらぬ方向に飛んで行き、海に落ちて爆炎を上げる。 奇襲を仕掛けた新手に顔を向ければ、そこには大量のサイボーグの集団がいた。 「ったく、ゾロゾロやって来てんじゃねえぞクソがぁ!」 「ヤレヤレ、お姫様を助けに行くのはもう少しかかりそうだな」 十二とビリーは思わず苛立った言葉を漏らす。 次の瞬間には数多の銃火が二人に襲い掛かった。 そしてこの銃声と爆音に駆けつける者が一人。 「この騒ぎ、ただ事じゃないね‥‥行くよバルディッシュ」 <YES SIR> 雷光の名を持つ執務官、その名の通りに運命の出会いへと。 続く。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/593.html
余波 ◆WwbWwZAI1c 相川始は仮面ライダー――ではない。 たとえ人間に害を為すキングや金居のようなアンデッドと戦っていたとしても。 仮面を被りベルトで変身して大切なもののために戦っていたとしても。 相川始は仮面ライダー――ではない。 人によっては「相川始は正義のヒーロー仮面ライダー」みたいなことを主張する者もいるかもしれない。 だが相川始本人はその言葉を頑なに否定するだろう。 なぜなら相川始の正体は仮面ライダーとは程遠いものだからだ。 相川始は最凶最悪のアンデッド――ジョーカーである。 どの種にも属さずにただ出会った者に殺戮を振り撒く破壊者。 それがジョーカーの本質であり宿命である。 相川始はそんな自分の本性を十分理解していた。 だからこそ自分には仮面ライダーと呼ばれる資格はないと思っていた。 だがこのデスゲームの中でその考えは徐々に変わっていった。 きっかけはとある少女との出会い。 その少女は自分の正体を知ってもなお相川始を信じていた。 それ以外にもさまざまな者と出会った。 神を自称する雷人、少女を殺した赤いコートの男、仮面ライダーの名を騙る殺人鬼。 それらの出会いの中でもしかしたらという淡い希望が生まれた事は認めたくはないが確かなのだろう。 だが所詮淡い希望は儚いものだ。 ジョーカーの欲求は今まではヒューマンアンデッドの力もあって抑えることができていた。 だがたびかさなる怒りや悲しみや憎しみは相川始の心の奥底で燻ぶるジョーカーの欲求を肥えさせる。 少女の願いも虚しく相川始には結局仮面ライダーになることなど無理だったのだ。 その証拠が今の状態だ。 現在相川始は東の方へと進んでいる。 その理由は少し前に西の方で微かに感知したアンデッドの気配。 今までならアンデッドを倒すべく勇んで西へ向かっていたが、今の相川始はそうはしなかった。 なぜなら今アンデッドと戦えばその瞬間自分を抑える事ができずジョーカーになる可能性が高いからだ。 そうなればもう元には戻れない。 それからはただ目に付いた者を殺すだけの存在と成り果ててしまう。 だから相川始は東に向かう。 アンデッドとの邂逅でジョーカーになってしまうことを恐れて。 せめてハートの上級カードを手に入れてからと自分に言い聞かせて。 その胸の内に去来する感情は果たして何であろうか。 そして気付けばいつのまにか前方に高い建物があった。 それはまるで自分を裁くための断罪の塔のようだった。 相川始は知らない。 そこに自分と同じように自らの力のあり方に悩んだガンマンがいることも。 そこに自分の見ている前で肉親を惨殺された仮面ライダーがいることも。 そこに自分のことを信じてくれた少女の妹が向かっていることも。 どれも知らずに相川始は導かれるようにその建物に近づいて行った。 そしてそんな一人の青年の苦悩をさらに深めるかのように――3度目の放送が始まった。 【1日目 夕方(放送直前)】 【現在地 F-8 東端(ホテル・アグスタが見える辺り)】 【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】 【状態】疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、苦悩、30分変身不可(カリス、ジョーカー) 【装備】ラウズカード(ハートのA~10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード 【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ 【思考】 基本:皆殺し? 1.生きる為に戦う? 2.アンデッドの反応があった場所は避けて東に向かう。 3.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。 4.アーカードに録音機を渡す? 5.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。 6.ギンガの言っていたスバルや他の4人(なのは、フェイト、はやて、キャロ)が少し気になる。彼女達に会ったら……? 7.ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない。 8.浅倉が再び戦いを挑んでくるなら受けて立つ。 【備考】 ※ジョーカー化の欲求に抗っています。しかし再びジョーカーになれば自分を抑える自信はありません。 ※首輪の解除は不可能と考えています。 ※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝利者となるのではないか」と考えています。 ※エネルとの遭遇からこのバトルファイトに疑念を抱き始めました。 ※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。 ※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。 Back 進展!? 時系列順で読む Next E-5涙目ってレベルじゃねーぞ!! ~自重してはいけない・なのロワE-5激戦区~(前編) Back 進展!? 投下順で読む Next E-5涙目ってレベルじゃねーぞ!! ~自重してはいけない・なのロワE-5激戦区~(前編) Back D.C. ~ダ・カーポ~ 予兆 相川始 Next 突っ走る女
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2076.html
管理局本部、ドッグ。 そこに戦闘艦・アースラは駐在していた。 普段は多数の次元世界を行き来し、様々な事件を解決するこの艦も今はメンテナンス中。 ゆっくりとその巨体を癒やしていた。 そんなアースラを一望出来る、管理局内のエレベーター。そこで二人の女性が会話をしている。 「検査の結果、ケガは大した事ないそうです……ただ魔力の源、リンカーコアが異様な程小さくなってるんですよね……」 ショートヘアの女――エイミィ・リミエッタが心配そうに前方の緑髪の女性――リンディ・ハラオウンへと話しかける。 「そう。じゃあ一連の事件と同じ流れね」 「はい、間違いないみたいです。……休暇は延期ですかね。流れ的にうちの担当になっちゃいそうですし……」 本来ならばアースラがメンテナンス中ということもあってアースラスタッフには久し振りの長期休暇がもたらされる筈であった。 だが、それはおそらく今回の事件によりお流れになってしまうだろう。 エイミィが残念そうにため息をつく。 「仕方ないわ。そういうお仕事だもの」 残念そうに肩を落とすエイミィに、リンディは励ますように笑いかける。 エイミィもその笑みを受け、苦笑する。 「あ、それと医療室に搬送された男の人の事なんですけど……」 エレベーターを出た所でリンディが思い出したかのように口を開いた。 「結構ケガ酷いらしいですよ。ユーノ君が言うには敵の攻撃を直撃したとか……」 心配そうな顔をしながらエイミィが男の詳細が載っている資料をリンディへと手渡す。 それをパラパラとめくりリンディはため息を一つつく。 魔法を全く知らない一般市民を巻き込み、あまつさえ怪我を負わせる。 ……合ってはいけない失態だ。 リンディは額を軽く抑える。 「それと、もう一つ気になる情報が」 続く言葉は、男を診察した医師からの情報であった。 男を治療しようと、服を脱がせた管理局の医師と看護師。 服を脱がせたと同時に彼等は息をのんだという。 数多の重症患者を診てきた管理教の医師が、看護師が、息を呑む。 身体中を覆う古傷の数々。 無事な所を探す方が難しい程の、数多の傷に覆われた身体。 生涯を戦場で過ごした魔導師であっても、ここまでの傷は負わないとの、医師からの報告であった。 「……どういう事なんですかね」 「さあ?でも、相当に過酷な人生を歩んできた事は確かね」 手元の資料には男の身体を写真に収めたものがあった。 成程、医師が驚愕するのも無理のない話である。 右肩から胸にかけて走る巨大な切り傷。 左胸には、抉れた肉を補強するかのような形で黒色の布が網目状に縫いこまれている。 右の脇腹にはケロイド状にまで到達した火傷を治したかのような痕。 何を支えているのか、体内に埋め込まれたボルトが背中から飛び出している。 大きな傷の隙間には、わざわざ隙間を埋めるように数多の銃痕が。 手術の痕など一つや二つじゃ効かない。 そして極めつけの。喪失した左腕だ。 これまでの生涯全てを、拷問を受けて過ごしてきましたと言われても信じてしまいそうなま身体が、其処にはあった。 「……でも本当なんですかね?」 エイミィが首を傾げながら疑問の言葉を口にする。 「ユーノ君が言っていた事?」 「そうです……だって信じられませんよ!魔導師でも無い普通の人が、なのはちゃんレベルの魔導師と戦ったなんて」 「……でも質量兵器を使ったんでしょう?」 「質量兵器って言ったって拳銃ですよ?いくら何でも……」 「まぁ確かにそうよね……」 二人を悩ましているのは今回の事件について書かれたユーノからの報告書。 これによると搬送された男――ヴァッシュは、ユーノが結界を張るための時間を稼ぐため、敵魔導師と戦闘を行ったらしい。 その事について言及するとユーノは困った顔をして本当ですよ、とだけ呟いていた。 ユーノの言葉通り、拳銃一つで魔導師相手をしたのならそれは恐るべき事だろう。 ――だがその脅威と認めると同時に一つの疑問が浮かぶ。 「……それに艦長の言った通り調べてみたら、この人、なのはちゃんの世界の住人じゃないそうなんです」 まさにそれだ。 おかしい。 第97管理外世界は比較的平穏な世界だ。 中には紛争などが起きている地域もあるが、少なくともなのはの住む日本にはそういう事はない。 人間とは状況によって成長のベクトルが大きく変化する。 魔法が発展している世界なら魔法を会得し、質量兵器が支配する世界なら質量兵器の使い方を会得する。 また、争い事の絶えない世界なら死なない為に力をつけ、学歴が支配する世界なら様々な知識を付ける。 それは中には特殊な人間もいるかもしれない。 なのはなどはその良い例だろう。 魔法を全く知られていないい世界にも関わらず異様なほどの魔力を有している。 それどころか魔法を知って一年もしない間にAAAランクの魔導師へと変貌を遂げた。 もはや天才といっても過言ではないだろう。 だが、この男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードは違う。 目的がない。 なのははPT事件を解決するため――フェイトを救出するため魔法を訓練し、強くなった。 なら、何故ヴァッシュは強くなった? ――AAAランク級の魔導師とも銃一つで戦えるほどに。 あれほど平和な世界だ。 死ぬまで銃に触れる事が無いという人も珍しくないだろう。 そんな世界でこれ程の実力を持つ。 明らかに不自然だ。 だからリンディは命令した。 本当にヴァッシュがなのはの世界の人間かどうか調査するように。 その結果、読みは当たったらしい。 ……あまり当たって欲しくは無かったが。 「多分、義手が付いていたんだと思いますけど、この左腕にある治療痕は明らかになのはちゃんの世界の技術とは違います……相当なレベルですよコレは」 リンディは資料に目を通し僅かに驚愕する。 確かに物凄い技術が使われている。 この技術なら、通常の左腕と同等の精密動作を行える義手を作る事も出来るだろう。 ここだけを見れば管理局と同レベルの技術力と言っていいかもしれない。 「……でも、これって次元漂流者ですよね?なんでなのはちゃんは管理局に連絡しなかったんだろう?」 「……さあ、なんでかしらね……」 首をひねるエイミィを後目にリンディは呟く。 管理局員としての勘が告げていた。 これは厄介な事になりそうだと。 ■□■□ ちょうどその時、リンディを悩やます張本人ヴァッシュ・ザ・スタンピードは目を覚ました。 薄く目を開けたヴァッシュにまず飛び込ん来たのは真っ白な天井。 次いで腕に刺さっている針へと何らかの薬品を送っている点滴が目に入った。 (……ここは?) 辺りを見回すも全く見覚えの無い部屋。 医療施設なのは分かるが、どうも頭がボォッとして何故ここにいるかが思い出せない。 (……たしか昨日は翠屋で仕事して、その後なのは達と一緒にアイス食べて、帰ってから夕食を食べて…………そうだ、腹を壊したんだ。あぁ、あれは痛かったなぁ……) そこまで思い出しヴァッシュの思考が止まる。 思い出せない。 その後どうなったのかが全然。 何で病院にいるんだろう? 腹痛に苦しむ僕を見て士郎さんが病院に連れてってくれたのか? そんなことを考えながらヴァッシュは体を起こそうとし―― その瞬間、ヴァッシュの体を鈍い痛みが襲った。 「ッ……!」 無言の呻き声を上げながらヴァッシュは体を丸め、痛みが収まるのを待つ。 痛みに耐えながらヴァッシュは思い出していた。 気絶する前に何が起こったのかを。 人が消えたこと、空を飛ぶ何者かがなのはを襲ったこと、なのはを守る為引き金を引いたこと、そして相手の攻撃を受け気を失ったこと。 全てを思い出した。 「……やっぱり夢じゃなかったか」 痛みが鎮まり始めた頃、ヴァッシュはポツリとそう呟いた。 夢だったら良かった。 あんな事本当は起きてなくて、目を覚ましたらいつも通りの日常が始まる。 そうなることを望んでいた。 ヴァッシュは寂しそうな顔をしながら天井を見つめている。 どれほどそうしていただろうか、ヴァッシュは何かに気付き枕元に設置されている台に向かって手を伸ばす。 久し振りの戦闘と敵の攻撃によるダメージで体が軋むが、それを押し殺し目的の物を掴む。 ヴァッシュはそれを自分の顔の前に持っていき眺める。 ヴァッシュの手の中にあるのは銀色の光沢を放つ大型のリボルバー。 それを眺めるヴァッシュの表情は複雑であった。 それは、この世界に来てからは使う事は無いと思っていた相棒。 だがそれは使われてしまった。 その事実にヴァッシュは言いようのない複雑な気持ちになる。 自分は踏み出してしまったのか? またあの争乱の日々に? 頭に浮かび上がった考えを否定する様にヴァッシュは首を振る。 そんなことはない。 自分は守る為に引き金を引いたのだ。 この平穏な日常を。 そう、守れたはずだ。 いつの間にか銃を握る手に力が入っている。 それに気付き、ヴァッシュは苦笑しながら力を緩める。 そして無造作に銃を縦に振る。 たったそれだけの行為で銃が中程から折れ、空の薬莢が二つ、弾倉から飛び出した。 それらは空中へと綺麗な弧を描きベッドへ落下する。 「良く戦えたもんだよ、実際……」 銃を元あった場所に起き、薬莢を一つ摘みながらヴァッシュはそう呟いた。 昨日の戦いで引き金を引いた回数は二回。 金色の刃の戦斧を振るう少女を助けた時と独楽のように回転しながら突進してきた赤服の少女を迎撃した時だけだ。 それ以外には引き金を引くどころか銃口を向けてさえいない。 あの時銃に込められていた弾丸は二発のみ。記憶にないが、それ以外の弾は前の世界で使用したらしい。 ――よくこれだけの装備であんな化け物みたいな少女と戦えたもんだ……。 心底そう思う。 驚異的な機動力と見た目からは想像も出来ない程の力、そして技を兼ね備えた少女。 あの異能殺人集団にいても遜色ない程の実力を有していた。 そんな化け物みたいな少女相手にたった二発の弾丸で戦ったのだ、今更ながらゾッとする。 「まぁ、ユーノが捕まえてくれたでしょ……もーあんな怖い子とは戦いたくないよ、僕は!」 そう言い、ヴァッシュは薬莢をポケットに入れ寝転がる。 どうせする事もないのだ寝てしまおう。 そう考え、ヴァッシュは目を瞑る。 が、さっきまで気を失っていたせいか眠気が全く来ない。 完璧に目がさえている。 さて、どうしたものか…… 目を瞑ったままヴァッシュは考える。 この部屋にはラジオやテレビみたいな暇を潰せるような物もない。それどころか窓の一つすら存在しない。 かといって勝手に出歩くのも悪いだろうし……。 と、そこまで考えた時―― 「だから、まだ意識が回復する訳ないってー」 「うん、そうだね」 「だったら何でここに来るのさ?お礼が言いたいんだったら目が覚ましてからで良いじゃん」 ――扉が開く音と共に二人の女の声がヴァッシュの耳へと届いた。 いきなりの事態に驚きながらヴァッシュが状況を確認しようと目を開くと、金髪の少女――フェイトと目があった。 フェイトの表情が一瞬で驚愕に染まる。 そんなフェイトを見て不思議に思ったアルフもヴァッシュの方を向き、全く同じ動作をし動きを止めた。 そんな二人のリアクションにヴァッシュはどうしたものか、と考えた後、布団から右手だけをピョコっと出し―― 「やぁ」 小さな声でそう言った。 ■□■□ ヴァッシュとはまた別の医療室。 なのはは、機械から出るよく分からない光を胸部に当てられていた。 「うん、さすが若いね。もうリンカーコアの回復が始まっている。……ただししばらくは魔法は使えないから気をつけるんだよ」 初老の医者が柔和そうな微笑みを浮かべながらそう告げた。 「はい!ありがとうございます!」 その答えになのはの顔が満面の笑みで答える。 その元気そうななのはを見て、安静にしてるんだよと、笑いながら告げ医者は外へと出て行った。 部屋になのはが一人残される。 医者が出て行った事を確認した直後、なのはの顔に暗い色が現れた。 「どうしよう……」 ポツリと呟き声が口からもれる。 なのはは悩んでいた。 悩みの種はヴァッシュ・ザ・スタンピード。 ヴァッシュは昨晩の魔導師との戦いによって大怪我を負ったらしい。 あの子に負けなければ。 戦いに行くと言ったヴァッシュさんを引き止めていれば。 あと少し早くスターライトブレイカーを撃っていれば。 後悔という名の鎖がなのはの心を締め付ける。 分かっていた筈だ。 どんなにヴァッシュさんが強くてもあの子を相手にして無事に済むはずがない事を。 なんであの時、ヴァッシュさんを止めなかったんだ。 なのはは自身を攻め続ける。 そして何より――ヴァッシュさんの存在が管理局にバレてしまった。 守ると決めたのに、ヴァッシュさんの傷が癒えるまで一緒に平和な日々を過ごそうと決めていたはずなのに――結局は自分のせいで全て台無しになってしまうかもしれない。 多分管理局が少し調べれば直ぐにヴァッシュさんが異世界の人間だということはバレてしまう。 どうしよう。どうすればいい。 どんなに考えても良いアイディアは浮かんでこない。 と、その時、軽快な音と共に部屋の扉が開いた。 「こんにちは、なのはさん」 「リンディさん……」 入って来たのは緑色の髪をしたグラマラスな女性――リンディ。 その姿を見てなのはは体を強ばらせる。 「体の具合はどう?」 そんななのはのとは裏腹にリンディは微笑みながらなのはの側へ近づく。 「大分楽になりました。でも、やっぱり魔法はまだ使えないそうです……」 なのはは出来るだけ動揺を表にださないように応対する。 「そう……事件の事は私達に任せてゆっくり休んでね」 「はい、ありがとうございます!」 リンディの励ましを聞きながら、なのはは考える。 何をしに来たのだろう。 やっぱりヴァッシュさんのことか、それともただ様子を見に来てくれただけなのか。 「――それでヴァッシュさんの事なんだけどね」 思考中のなのはを現実に引き上げる一言をリンディが放つ。 ドクン。 なのはの心臓が跳ね上がった。 やっぱりバレてるのか。 どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。 「――意識を取り戻したそうよ」 どうしよう。どうしよ――え? 思考が止まる。 「ほ、本当ですか!?」 ベッドからずり落ちかねない勢いでなのははリンディへと問う。 「ええ、さっきフェイトさんから連絡が入ったわ。今では元気に歩き回っているそうよ」 ――良かった。 なのはの目に涙が浮かぶ。 ――本当に良かった。 さっきまでの悩みも忘れて、なのはは心の底から安堵した。 「――それでね。なのはさんに聞きたいんことがあるのよ」 喜ぶなのはにリンディが真剣な顔で話し掛ける。 再びなのはの体が強張る。 「なのはさん……単刀直入に聞くわ。ヴァッシュ・ザ・スタンピードは本当にあなたの世界の住人なの?」 ――そして次にリンディから発せられた言葉により先程までのなのはの歓喜は完璧に吹き飛んだ。 「……言ってる意味が……良く……分かりません」 数秒後、辛うじてなのはが口を開く。 口の中がカラカラて唾が喉に張り付く。 上手く言葉が出ない。 「失礼ながらヴァッシュさんの事を少し調べさせてもらいました。結果、彼がなのはさんの世界の住人という可能性はゼロ……これの意味することは分かりますよね」 何か言わなくちゃいけない。 嘘でもいいから何か言わなくちゃ怪しまれる。 そう頭では理解していても言葉は出ない。 思考が停止して何を言えばいいのか考えられない。 「……別に次元漂流者というのは珍しくはありません。それ自体には大した問題はない……ただ、管理局に所属していないとはいえ、異世界の存在を知る魔導師が次元漂流者を隠匿する事は大問題なんですよ、なのはさん……」 リンディの言葉がなのはに突き刺さる。 いつものような朗らかで優しげな雰囲気は一切ない。 アースラ艦長としてのリンディ・ハラオウンだ。 その威圧感になのは何も言う事が出来ず、ただ俯いて押し黙る。 重い重い沈黙が病室を支配する。 なのはは必死に考える。 何か良い手はないのか。 このままじゃヴァッシュさんは帰ってしまう……いなくなってしまう……そんなの……そんなの嫌だ……! 「なのは、具合はどうだい?」 ――と、なのはがそこまで考えた時、ある人物が沈黙を破った。 それはなのはでも、リンディでもない。 二人は同時に声のした方に顔を向ける。 二人の目に映ったのは完全に開ききった自動扉――そしてそこに立つヴァッシュ・ザ・スタンピードの姿。 「ヴァ、ヴァッシュさん……」 かすれた声がなのはの口からこぼれた。 ■□■□ 「よろしくな、フェイト。それにアルフ」 「うん、よろしくー」 「は、はい……よろしくお願いします」 「フェイト緊張しすぎだって」 「そ、そんなことないよ!」 先ほどの静寂が嘘のようにヴァッシュの病室は賑やかになっていた。 「あ、あの…昨日は本当にありがとうございました。ヴァッシュが助けてくれなかったら私……」 「ありがとねー」 のんびりと話すアルフとは対照的にフェイトが緊張しているような口調で礼を言う。 「いやいや、気にしないでよ。当たり前の事をしたまでだって」 「でも、そんな大怪我しちゃったし……」 「うん?これのこと?」 ヴァッシュが衣服の下の包帯を指差しながら笑う。 「大丈夫さ、僕はこう見えてタフだからね……ってイテテテテ!」 「む、無理しちゃダメですよ!」 「あ、あはははは……まぁ、あんま気にしないでよ。それに君だって僕の事を助けてくれたじゃないか」 「そうですけど……」 それにしても、とヴァッシュは目の前の少女を見て思う。 (まさか、この子があのビデオメールの子だったとはね……) 今こうして話していると分かる、確かにあのビデオメールの子だ。 あの時――戦闘の時とはまるで雰囲気が違う。 あの時のフェイトからは歴戦の戦士のような力強さがあった。 対して今はあのビデオメールのように、ちょっと内気だけど優しい子。 そのギャップに最初は少し戸惑ったが、話してみてそんな事はすぐに気にならなくなった。 だが、未だに気になる事が一つだけあった。 「なぁ……アルフのそれって作り物なのかい?」 アルフの頭から生えている耳――俗に言う獣耳をヴァッシュが指差す。 「あれ、ヴァッシュって使い魔のこと知らないの?」 「いや、そんな知ってて当たり前みたいに言われても……」 どんなに記憶の中を探して回っても、獣耳のついた人間など見たことがない。 この世界じゃ当たり前なのか? そーいえばそんな恰好した人がテレビに映っていた気が、確か……こすぷれいやーだったっけか? 「ふふっ。アルフは使い魔っていって――」 頭を悩ますヴァッシュを見てフェイトが使い魔について、簡単な説明をし始める。 ヴァッシュはその話を興味深そうに聞き、感嘆する。 「へ~、それも魔法の一種なのかい?」 「そうですよ」 魔法という物は予想以上に奥が深いらしい。なかなかに面白いものだ。 ふと、そこまで考えてヴァッシュはある疑問を口にした。 「そういえばあの子達は捕まったのか?」 あの子達とは勿論ヴィータ達のこと。 とりあえず捕まってくれてれば大分助かるんだけど……。 だが、そんなヴァッシュの期待に反し、フェイトは首を横に振る。 「ごめんなさい……結界を張るのには成功したんですけど、すぐに逃げられちゃって……」 「……そうか」 なんとなくそんな気がしていた。 あの子達の目には何が何でも事を成し遂げようとする覚悟があった。 多分一人、二人が犠牲になったとしても結界から抜け出しただろう。 やれやれとヴァッシュはため息をつく。 その時、フェイトがポツリと呟いた。 「それに……なのはも……」 「?なのはがどうかしたのかい……?」 ヴァッシュの問いにフェイトは申し訳なさそうに俯く。 「……敵の攻撃を受けて……今ここで治療してるんです」 フェイトの一言はヴァッシュを愕然とさせるには充分だった。 「何……?」 ヴァッシュからいつもの飄々とした笑みが吹き飛び、代わりに驚愕が貼り付く。 「……ごめんなさい」 フェイトは俯いたまま肩を震わせている。 不甲斐ない自分に怒りを覚えているのか? 俯いたフェイトからは表情を読むことは出来ない。 「それで容態は!?」 我に返ったヴァッシュが掴みかからん勢いでフェイトへと問う。 「も、もう意識を取り戻したそうです。魔法は使えないけど、体の傷はもう完治したって言ってました」 「本当かい……良かった」 ヴァッシュはホッと息をつき、ベッドへとよりかかる。 「いや、ごめんよ。大声だしちゃって」 「大丈夫ですよ。……それにヴァッシュがなのはの事、すごく大切に思ってるのも分かりましたし」 「そ、そうかい?」 心配していたのは確かだが、面と向かって言われるのも何だか気恥ずかしい。 少し顔を紅くしたヴァッシュが頬を掻く。 その様子が面白かったのか、アルフとフェイトの顔にも笑みが浮かぶ。 それを見てヴァッシュもつられるようにほほえんだ。 「そうだ。今からなのはの所に行ってくれば?」 それから数分後。 そう提案したのはアルフだった。 その案にフェイトも頷き賛成する。 「そうだね。ヴァッシュも元気になったみたいだし……どうですか?」 「いや、行きたいのは山々だけどさ。いいのかい?そんな勝手な事して」 「大丈夫だって。それに顔に書いてあるよー。なのはの所に行きたいって」 「嘘ぉっ!?そんな顔してた!?」 そんなこんなでそれから数分後、三人は病室を抜け出した。 ヴァッシュは辺りを見回しながら、フェイトとアルフの数歩後ろを歩いている。 すると、ヴァッシュはある疑問を口にした。 「なぁ……ここって、本当に病院なのかい?」 どう見ても看護士や医者じゃない風貌をした人が歩いているし、病院には必要なさそうな設備がチラホラと目に入る。 そして、極めつけはアレ。 窓から見える百数十mはあろうかという巨大な何か。 それに何、あの景色? 気色悪いマーブル色してるぞ? っていうか外にいる人みんな浮いてない? 何なのだ、ここは? 「?ここは管理局本部ですけど」 「カンリキョク……。昨日も言ってたけどそれは何なんだい?」 歩き続けながらヴァッシュが聞く。 「そっか……ヴァッシュは知らないんでしたね……」 「ここまで関わっちゃったんだし別に教えちゃってもいいんじゃないの?」 アルフの言葉にフェイトは少し逡巡し、口を開いた。 「えっと……管理局っていうのはですね――」 フェイトの説明をヴァッシュは黙って聞いた。 いや、黙っていたというよりは黙ることしか出来なかったという方が正確か。 それ程にフェイトの話はヴァッシュを驚愕させた。 ――管理局 ――異世界 ――魔法 その話はヴァッシュの常識を遥かに越えていた。 フェイトの話によれば世界は何十、何百とあり、それを管理するのが管理局という組織らしい。 魔法の存在にも驚いたが、この話は更にぶっ飛んでいる。 自分がいたあの砂の惑星がある世界も数多と存在する世界の中の一つでしかないのか? スケールがデカすぎて、ついていけない。 正直なとこ信じられない。 だが、そう考える一方でどこか納得出来るところもあった。 ――ヴァッシュはずっと疑問に思っていた。 この平穏な地球と呼称される惑星は何なのだろうと。 自分の世界にも地球という惑星は存在していた。 だが、自分の世界の地球は百何十年も前の時点で、資源は枯渇し死滅したともいえる状態になっている。 ならこの世界の地球は何なのだ? 海があり緑があり生命力に溢れている。 まるで、映像資料にあった搾取されつくす前の地球を見ているようだった。 この不可思議な矛盾がずっと頭の中にまとわりついていた。 「……一つ質問。別の世界に、もう一つの地球が存在するっていうのは有り得るのか?」 いきなりのヴァッシュの質問にフェイトは少し考える。 「……どうでしょう……管理局も全ての世界を把握している訳じゃないので確証はありませんが……もしかしたら、という事もあるかもしれませんね。……どうしてそんな事を?」 「……何でもないよ。こっちの事情さ……」 フェイトの答えによりヴァッシュは確信を得た。 やっぱりこの世界の地球は、自分の世界の地球とはまた別のものだ。 いや、完全に別物という訳ではない。 言うなればもう一つの可能性を秘めた地球。 ここから滅びの道を歩むのか。 それとも自然と共存して生きていくのか。 誰にも分からない可能性を持っている。 自分の世界では滅びの道を進んだが、この世界ではどうなるか分からない。 「あの……ヴァッシュ?」 押し黙ってしまったヴァッシュをフェイトが心配そうに覗き見る。 「……いやー、こういう事もあるんだねぇ……」 知らず知らずの感嘆のため息がもれる。 自分達の世界とは違う道を歩んで欲しい。 俺やナイブズのような悲しい存在を産み出さないで欲しい。 ――ヴァッシュは静かにそう願った。 ■□■□ 「んじゃあ、なのはやフェイト達は管理局で働いている魔導師って訳か」 それから数分後、気を取り直したヴァッシュが口を開いた。 「はい。そうですよ」 「まだ、子供なのに……かい」 少し悲しそうな顔をするヴァッシュ。 幼い子供が命を賭けて戦う事を悲しんでいるのか。 (優しい人なんだな……) そんなヴァッシュを見てフェイトは少し心が暖かくなる。 「……ありがとう御座います」 自然とフェイトの口から感謝を告げる言葉が出た。 「へ?何がだい?」 「あ、ああ!気にしないで下さい!」 「お二人さーん。そろそろ着くんだけどなー」 「お!あそこかい?」 二人を冷やかしながらアルフがある扉を指差す。 いち早く動いたのはヴァッシュ。部屋に向かって駆けていった。 (この男は本当にさっきまで気絶していたのか?) 元気に駆けるヴァッシュを見て二人の頭に疑問が浮かぶ。 そしてヴァッシュはそのままドアの前へと立つ。 人の存在を感知し、自動ドアが独りでに開く。 「なのは、具合はどうだい?」 陽気に笑いながらヴァッシュはなのはの病室へと入っていき――動きを止めた。 そこに居たのはなのはと見知らぬ緑色の髪をしたグラマラスな女性。 だがヴァッシュが動きを止めた理由はそこではない。 空気が重い。 まるで葬式と葬式と葬式がいっぺんにやって来たかのように重苦しい。 「あ、あれ?」 いきなりの修羅場状態にヴァッシュは困惑することしかできない。 「ヴァ……ヴァッシュさん」 なのはの呆然とした声が病室に響いた。 ■□■□ 「……あなたがヴァッシュさんですね。私はリンディ・ハラオウンと申します」 数秒の沈黙の後、最初に口を開いたのはリンディであった。 リンディはヴァッシュへと手を差し出す。 「あ、ああ、よろしく」 ヴァッシュもにこやかに笑いながら、その手を握る。 「それにしても、この空気はなんなんだい?やけに重苦しいというか……」 先ほどからなのはは俯いたままだし、フェイトとアルフもこの空気を察知したのか部屋の隅の方で黙って見ている。 なのはの様子を見に来ただけなのに……。 ヴァッシュは誰にも気付かれないように小さく溜め息をつく。 「フェイトさんにアルフ、部屋に戻っていてくれないかしら?」 フェイト達に向け、リンディが申し訳なさそうに両手を合わせる。 それを見てフェイト達は顔を見合わせ、頷くと扉へと歩を進める。 (なのは……) 元気なく俯くなのはを、心配そうにチラリと見てフェイトは外へと出て行った。 「先ほどの話を聞いていましたか?」 フェイト達が出て行った事を確認してリンディが口を開く。 「いや、何のことだかサッパリなんだけど……」 困惑の表情でヴァッシュが返す。 ヴァッシュからして見たら、先程までの和やかな空気からいきなりの葬式ムード。 ついて行けるはずがなかった。 「……今、私たちはあなたの事について話していました」 そして、リンディは話し始める。 ――ヴァッシュのように偶然、異世界からやって来てしまった存在を次元漂流者と呼ぶこと。 ――異世界の存在を知るなのはがその事を管理局へ伝えなかったこと。 ――ヴァッシュの世界が特定出来たらそこへ帰らなくてはてはいけないこと。 一息にリンディは語る。 「……リンディが言ってることは本当かい?なのは」 リンディ説明が終わるとヴァッシュが真剣な表情でなのはへ問う。 それになのはは頷くことしか出来ない。 「……そうか」 そう言いヴァッシュは近くに置いてある椅子へと腰を下ろす。 「……これからヴァッシュさんの世界を管理局のデータベースで洗ってみます。結果が出るまでヴァッシュさんはここで生活してもらう事になりますので……」 「……ここじゃなくちゃ駄目なのか?」 ヴァッシュの問いにリンディは首を横に振る。 「そういう決まりなので……」 その答えにヴァッシュは唇を噛む。 「……それでは特定出来しだいまた連絡しますので…………ごめんなさい、なのはさん……」 最後にそう言いリンディは部屋を後にした。 ヴァッシュとなのはそれを黙って見送ることしか出来なかった。 ■□■□ なのはは後悔していた。 何でバレちゃったんだろう。 ただ、ヴァッシュさんに平穏な生活を送ってもらいたかっただけなのに。 ヴァッシュさんに心の底から笑って毎日を過ごして貰いたかっただけなのに。 でも、もう無理だ。 ヴァッシュさんは元の世界に帰されてしまう。 身も心もボロボロになって、それでも笑って過ごす辛い生活に戻ってしまう。 最初の夜に高町家を出て行こうとしたヴァッシュの寂しそうな笑顔がなのはの頭に浮かぶ。 ――いやだ。 もうあんな笑顔はして欲しくない! なのはは心の底からそう思う。 ――でも、どうすればいいかが思いつかない。 自分の不甲斐なさに涙がこみ上げてくる。 「……ありがとう」 ――その時、ヴァッシュが口を開いた。 「……本当にありがとう」 ヴァッシュの口から出たのは感謝の言葉。 なのはは困惑する。 何でお礼を言われるんだろう。 バレてしまったのに。ヴァッシュさんにだって嘘をついていたのに。 なのはは不思議に思いながら顔を上げる。 そこにあるのは笑顔。人を安心させようとする笑顔。 でも、なのはは気付いた。 その笑顔は空っぽだということに。 自分だって悲しい筈なのに無理して笑っているんだということに。 「何で…………何で笑うんですか!?」 つい声が大きくなる。 どうしようもない憤りがなのはの中に蠢く。 「元の世界に帰っちゃうんだよ!?ヴァッシュさんがあんなに傷ついた世界に!」 ああ、ヴァッシュさんが悪い訳じゃないのに、何で自分は怒鳴っているんだろう? 管理局に嘘をつき、ヴァッシュさんにも嘘をつき、本当だったら怒鳴られるべきは私のはずなのに。 「いっつも、いっつも笑っていて!本当は辛いはずなのに周りの心配ばかりして!今回だって自分の事を考えないでみんなのために戦って、傷ついて!」 頭ではそう理解しているのに言葉は止まらない。 「それでもヴァッシュさんは何も言わない!愚痴一つつかない!いつも優しく微笑んでばかり!」 口から飛び出す。 心の中に溜まっていたものを全て吐き出すように。 「……何で?私とヴァッシュさんは友達だよね……辛いことがあったら相談してよ……何でもかんでも一人で背負わないでよ……」 悩みを相談してくれない友達に憤る少女。 それは半年前のあの時と酷似していた。 あの時、怒られる側だった少女が今では逆に怒っている。 なのはは、あの時のアリサの気持ちが少し分かった気がした。 一方的に怒鳴られ理不尽に責められたにも関わらずヴァッシュは何も言わない。 ただ静かになのはを見つめているだけ。 「……なのは」 不意にヴァッシュが動いた。 なのはの頭の上に手を置き、優しくつぶやく。 ヴァッシュの温もりが伝わる。 「……君は本当に優しいんだな」 ヴァッシュが語りかける。 全てを包み込むかのように大らかで優しい口調。 それはゆっくりとなのはの心に染み込んでいった。 思わず、目に涙が浮かぶ。 泣いちゃ駄目だ。 泣いてたまるか。 零れ落ちそうになる涙を何とかせき止める。 「……そんなことありません……私、ヴァッシュさんにだって嘘ついてました……異世界の事なんて知らないって……」 声が震えそうになるのをシーツを思いっきり握り我慢する。 「それは僕が悩まないように考えてくれてたんだろ……君は本当に僕の事を考え、救おうとしてくれた……それが僕には――」 不意にヴァッシュの声が途切れた。 と、同時に頭の上に何か暖かい滴が垂れた。 不思議に思い顔を上げたなのはの目に飛び込んで来たもの、それは―― 「――本当に嬉しい」 優しく微笑み、両方の眼から一筋の涙を流す、ヴァッシュの姿だった。 「ヴァ、ヴァッシュさん!?」 初めて見る大人の男の涙になのはは大いに焦る。 「ご、ごめんなさい!何か言い過ぎちゃって……!」 憤りなんかどこかに吹き飛んでしまった。 必死になのはは頭を下げる。 「いやー、ありがとう!」 そんななのはを見て、ヴァッシュは涙を拭き立ち上がる。 「お陰で決心がついたよ」 ヴァッシュの顔にはいつもの飄々とした笑みとはまた違う、心の底からの笑顔があった。 「決……心?」 なのはの言葉に答えることなく、ヴァッシュは部屋の出口へと歩いていく。 「あ、そうだ。たぶん、またしばらくの間なのはの家にお世話になると思うから宜しくね!」 右手をヒラヒラと振りながらヴァッシュは外へと出て行った。 「え……?」 なのははヴァッシュが最後に残した言葉の意味を頭の中で考える。 (『なのはの家でお世話になる』……?) ヴァッシュさんは確かにそう言った。 だが、どうする気だろう。 管理局には存在がバレ、結果が出るまでの期間でさえここで待機するよう言われているのに。 何をする気だろう? そんな魔法みたいなこと、いくら考えてもなのはには思い付かなかった。 ■□■□ 「はぁ……」 管理局本部資料室。 リンディは正面に映るディスプレイとの睨み合いをしながら、ため息を一つつく。 「艦長、少し休んだ方が良いですよ……」 明らかに疲労の色が見えるリンディに、エイミィが心配そうに声をかける。 「……そうね。今日のところは終わりにしましょうか」 そう言いリンディはディスプレイの電源を落とし椅子へともたれ掛かる。 「大丈夫ですか……」 「まぁ、大丈夫ではないわね……」 どうにも作業がはかどらない。 リンディは心の中で小さく毒づく。 謎の襲撃者の捜査だけでも大変だったのに、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの問題まで現れた。 二つのことを同時にやるより、一つのことに集中して作業した方がはかどるに決まっている。 こうも立て続けに事件が起こると、いくら優秀なスタッフが居るにしても人手が足りない。 それに―― 「ヴァッシュ・ザ・スタンピード……か」 ――どうも乗り気にならない。 乗り気や何やらで仕事に支障が出るのは艦長として失格かもしれないが、どうにもやる気が出ないのだ。 もちろん、謎の襲撃者事件についてではない。 そちらに関してはは自分も含めスタッフ全員やる気に満ちている。 問題なのはヴァッシュ・ザ・スタンピードについてだ。 身内が関わっているという事もあってか気乗りしない。 どうやら調査によると、なのはは一、二ヶ月の間ヴァッシュの存在を隠していたらしい。 何故、ヴァッシュのことを管理局に伝えなかったのかは分からないが、そこに悪意が無いのは分かった。 たぶん、なのはなりに考えが有ったのだろう。 だが、いかなる理由が有っても次元漂流者の隠匿は許される事ではない。 民間協力者なので刑罰になる事はないだろうが、厳重注意は来るだろう。 ――気が重い。 今日何度目か分からないため息をリンディはついた。 そしてもう一つリンディの心に引っかかっているものがあった。 寧ろ、この事が一番リンディの心に響いている。 ――どうしても先程見せたなのはの悲しげな表情が拭えない。 自分が問い詰めた時、なのははとても悲しそうな顔をしていた。 それを見て気付いてしまった。 なのはがどれだけヴァッシュ・ザ・スタンピードを大切に思っているかを。 そんな二人を引き裂くのか? それが仕事だと言い聞かせるも、駄目だ。 どうしてもなのはの悲しげな顔が頭に浮かぶ。 「……どうしたらいいのかしらね」 リンディは真っ黒な天井を見上げる。 と、その時―― 「おじゃまするよ、リンディはいるかい?」 陽気な声が資料室に響いた。 「あの人……!」 エイミィが驚きの声が上げる。 僅かに眉を吊り上げ、声のした方へリンディが振り向く。 「……ヴァッシュさん」 そこに居たのはド派手な金髪男、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。 陽気に笑うその顔を見てリンディは気が重くなるのを感じた。 「ああ、いたいた!いやー探したよ、この管理局ってのは広すぎるよ、まったく」 笑いながら近付くヴァッシュを見て、リンディは少し違和感を感じた。 何か違う。 先程までと何かが変わっている。 相変わらず表情は飄々としていて、先程と変わらない笑みを顔に張り付かせている。 ただ、眼が違う。 眼から力強い意志を感じる。言うなれば決意。 目の前の男から大きな決意を感じる。 「私に何か用ですか?」 「そうそう!一つ頼み事があるんだ!」 頼み事? リンディの顔に困惑が浮かぶ。 そんなリンディの困惑に気付いているのか、気付いていないのか、ヴァッシュは益々笑みを深くする。 「――僕を管理局に雇ってくれないか?」 「……は?」 空気が固まった。 エイミィもリンディも、ヴァッシュが放った言葉の意味を理解するのにたっぷり十秒は懸かった。 「そ……それはどういう意味でしょう」 リンディが何とかそれだけ口に出す。 「だから、協力させてくれって話さ。まだあの赤服の子達は捕まってないんだろう?だったら戦力が多いに越したことはないと思うんだけど」 そこまで来てようやくリンディも話が飲み込めて来た。 「……ようするに、管理局員として戦うからなのはさんの世界で生活させて来れ……という事ですか?」 「いや、リンディは話が分かるな~。正にその通り!」 リンディは全てを理解した。 そういう事か。 先程この人の目に映っていた決意。 それは戦うための決意だったのだ。 そして、その決意は岩のように固いだろう。 だが―― 「……ヴァッシュさん……ヴァッシュさんの実力はユーノから聞いてますし、その申し出はこちらとしても嬉しい限りです……が、断らせてもらいます」 苦虫を噛み潰すかのように顔を歪ませリンディはそう言った。 その言葉に慌てたのはヴァッシュだ。 「な、なんでだい!?なのはの様な民間の協力者もいるんだろ!?だったら――」 「無理です」 「な、何でですか、艦長!?別にいいじゃないですか!」 あまりに冷徹な判断にエイミィも反対の意を唱える。 「いえ、無理です――ヴァッシュさん、あなたは魔導師相手にどう戦うつもりですか?」 「この銃でだ……」 ヴァッシュは懐から相棒を取り出す。 それを見てエイミィも理解した。 リンディが何故ヴァッシュの管理局入りを拒絶するかを。 「……管理局では質量兵器というものの使用が禁止されています……」 「シツリョウヘイキ……?」 「……要するにあなたが持つ銃の事です」 苦々しくリンディが言った。 ――質量兵器。 それは火薬や化学などを用い、スイッチ一つで大量の人々を傷つけ破壊を生み出す兵器。 その危険性、非人道的さから管理局では使用が禁止されている。 質量兵器の事を聞いてからヴァッシュはずっと俯いている。 それを見ていると罪悪感に胸が締め付けられる。 自分はなのはとヴァッシュを繋ぐ唯一の手段を断ち切ってしまったのだ。 それが管理局員としての正しい判断だ、と自分に言い聞かせても罪悪感は全く拭えない。 悲しげな表情でリンディはヴァッシュを見詰め、肩に手を置いた。 瞬間、物凄い勢いでヴァッシュが顔を上げた。 「……リンディ。僕の世界が見つかるまであとどれくらい掛かる?」 「データベースに存在していれば大体二、三日で特定し終えますけど……それが?」 「二、三日か……」 そう呟き頷くとヴァッシュは真剣な顔でリンディに向き直る。 そして驚く事を口にした。 「あと三日で魔法を習得したとすれば管理局に入れてくれるかい?」 「……は?」 再び空気が固まる。 「どうだい?それなら問題ないだろう?」 そんな空気を気にもせずヴァッシュは話し続ける。 「そりゃ問題はありませんけど……」 「なら決まりだ。あと三日の間に僕は魔法を習得する」 「……分かりました」 リンディはコクリと首を縦に振る。 「よし!約束だよ!」 そう言い部屋を飛び出そうとするヴァッシュをリンディが呼び止める。 「ですが、もう一つだけ条件があります」 その言葉に非常に嫌そうな顔をしてヴァッシュが振り向く。 「……その条件っていうのは何だい?」 「簡単な事です。こちらが選出する魔導師を相手に戦い、一撃でも攻撃を成功させること。これが条件です」 あの襲撃者たちは強い。 にわか魔導師が相手をするには危険すぎる相手だ。 一つ間違えれば大怪我、下手したら命に関わるかもしれない。 そんな敵相手に最低限戦えるレベル。 これが自分の出来る最大限の譲歩であった。 「OK。それだけだね」 それでも目の前の男は自信満々に微笑む。 「ええ……頑張って下さいね」 そんなヴァッシュを見てリンディの口から思わず本音が出る。 「ああ、まかせといてよ!」 そう言いにヴァッシュは部屋から出て行った。 その目にあるのは決意。 百数十年という月日を銃のみで生き抜いてきた人間台風は魔法という不可思議な力を習得できるのか。 人間台風の戦いが始まった。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1801.html
「そう、良かった。今どこ?」 デュークがグレンダイザーを受け取ったのと同じ頃。 ハラオウン家にいるエイミィは、なのはの受けたダメージが完全回復したという知らせを受けていた。 その顔には嬉しそうな笑みを浮かべ、ユーノからの通信を受け取っている。 「二番目の中継ポートです。あと10分くらいでそちらに戻れますから」 「そう、じゃあ戻ったら、レイジングハートとバルディッシュについての説明を……あっ!?」 ユーノからの答えに対し、エイミィも上機嫌。 そのまま帰ったらデバイスの新機能について説明すると言おうとしたが……中断された。 大音量のアラートが響き、モニターには「CAUTION」の文字。どう考えても緊急事態である。 急ぎ端末を操作し、そのエマージェンシーの発生源を捜索。 そして、すぐに発見。海鳴市の上空に、ヴィータとザフィーラの姿があった。 「ああっ、こりゃまずい! 至近距離にて、緊急事態!」 エイミィの報告の直後、リビングにいたリンディは局員からの報告を受けていた。 『都市部上空にて、捜索指定の対象二名を捕捉しました! 現在、強装結界内部で対峙中です!』 報告によると、どうやら堅い結界を張り、それによって閉じ込めている最中らしい。さて、どう動くか…… 相手は闇の書の守護騎士。おそらく相当の腕利きでなければ対抗はできまい。 ほんの一瞬だけ考え、そして今動かせる「腕利き」がいる事に思い至った。 そこから素早く次の指示を出す。 「相手は強敵よ! 交戦は避けて、外部から結界の強化と維持を! 現場には、執務官と甲児さんを向かわせます!」 そう言うと、同じように後ろで聞いていた甲児へと目を向ける。なるほど、リンディの選択は確かに適切だ。 まずはクロノ。今回のメンバーの中でも最大戦力の一角である彼ならば対処も可能だろう。 そして甲児。元の世界での戦闘経験と、マジンカイザーの性能があれば、守護騎士にも引けをとらずに戦えるはず。 ……だが、今甲児の手元にはカイザーは無い。異世界の物品がデバイスに変化するという事例は珍しいらしく、現在はそのサンプルとして本局で解析の真っ最中である。 ならば必然的にクロノが先行し、甲児がマジンカイザーを受け取ってから向かうという形になる。そう考えながら、甲児へと言った。 「甲児さん、聞いての通りよ。マジンカイザーは今、本局でマリーが解析しているわ」 「マリー……ってぇと、あの人か」 そう言われ、甲児の頭に浮かぶのは本局メンテナンススタッフのマリーの顔。彼女とはマジンカイザーを渡す時に面識がある。 その後すぐにリンディの言わんとしている事を理解し、確認のためにそれを聞き返す。 「それじゃあ、本局でカイザーを受け取ってから、あの守護騎士の所に行けばいいんだよな?」 「ええ。急いで!」 第五話『新たなる力、起動!』 数分後、海鳴市上空ではヴィータとザフィーラが局員に囲まれていた。 その数、およそ十。数では局員の側が遥かに有利だ。 小さく舌打ちし、ザフィーラがぼやく。 「管理局か……!」 「でも、チャラいよこいつら。返り討ちだ!」 そのぼやきに対し、ヴィータが返答する。 数は多いが、それでも一人一人は大した相手ではない。というより、むしろ多くの魔力を得る好機。 そう考えたヴィータは、まとめて倒すべくグラーフアイゼンを構える。 だが、戦端は開かれなかった。局員たちがすぐにその場を離脱したのだ。 「え……?」 「上だ!」 その意味が分からず、呆けた声を出してしまうヴィータ。捕らえに来たのなら、何故離れる? その答えは、ザフィーラによってすぐに明かされた。上に何かがいるという事実に。 上を見ると、遥か上空にクロノがいた。愛用のデバイス『S2U』を振り上げ、周囲には無数の剣を出して。 「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!」 その咆哮とともに、S2Uを振り下ろす。 動作に連動し、周囲に浮かぶ無数の剣を流星のように降らせて。 無数の剣で滅多刺しにする魔法。処刑(エクスキューション)とはよく言ったものだ。 ザフィーラがすぐに防御魔法を展開し、受け止める。攻撃範囲が広いので、展開するサイズは必然的に大きくなる。 そして着弾と同時に一斉に起爆。その煙がクロノの視界から二人を隠した。 「ハァ、ハァ……少しは通ったか?」 それを上空から見ているクロノ。あれだけやったのだから、疲労だって当然ある。 だが、それだけの効果はあったはずだ。その疲労に見合うだけの威力は確かにあるのだから。 煙が晴れた所には、無傷のヴィータと剣が三本ほど刺さったザフィーラ。 しかし、その刺さった剣もどうやら浅いらしく、大したダメージは無いようだ。 「ザフィーラ!」 「案ずるな。この程度でどうにかなる程……ヤワではない!」 そう言うとザフィーラは腕に力を込め、刺さった剣を落とす。 対するヴィータも、ニヤリと笑って答えた。 「……上等!」 そう言うと、ヴィータは敵意を全開にしてクロノを睨み付けた。 その頃、時空管理局本局。 転移を終えた甲児が、本局の廊下を全力疾走している。 時たま「廊下で走るな!」という怒号が聞こえたが、今はそれを聞き入れている場合ではない。 だが、ある程度走った所でふと気付く。彼はどこにマジンカイザーがあるか知らないのだ。 解析しているという事は技術部だろうが、その場所が分からない。全くのタイムロスである。 戻って見取り図を探そうと、反転。すると、そこにマリーがいた。よく見ると、息が上がっている。 「甲児さん、マジンカイザーの解析終わりました! いつでも使えます!」 そう言って、マリーがスタンバイモードのマジンカイザーを渡す。どうやら届けに来てくれたらしい。 わざわざ届けにきた事といい、おそらく事情は聞いているのだろう。 これは甲児にとっては嬉しい誤算。わざわざ見取り図を探す手間が省けた。 「サンキュー、マリーさん!」 甲児は笑顔で礼を言い、マジンカイザーを受け取って転送ポートへと駆け出す。 その後姿を見送るマリー。だが、今の彼女には疑問……というか、気がかりな事があった。 「でも、いくら別の次元世界のロボットが変化したからって、あんな高性能すぎるデバイスになるものなの……?」 それは、マジンカイザーの異質さである。 そもそも、全身に纏うデバイス自体が珍しく、その上にかなりの高性能。 おそらくストレージデバイスとしては、現在開発中の『デュランダル』にも匹敵するだろう。 まあ、この高性能はベースとなったマジンカイザーが凄まじい性能を誇っていたと考えれば納得がいくが。 ……それだけならまだしも、マジンカイザーには二つのブラックボックスが存在している。 一つは例の暴走スイッチだとしても、もう一つは一体何なのだろうか…… 『武装局員、配置終了! オッケー、クロノ君!』 「了解!」 エイミィの通信を受け、了解の意を返すクロノ。その顔には、ヴィータが今浮かべているもの……敵意が浮かんでいた。 だが、相手は今の所二人。それに対し、こちらはクロノ一人。状況は不利だ。 『それから今、現場に助っ人を転送したよ!』 その台詞に、クロノの顔から敵意の色が薄れる。 来たのは一体何者か。そう思って周りを見ると、なのはとフェイトの姿があった。その近くにはユーノとアルフの姿も。 そしてなのはとフェイトは、甦った自身のデバイスを掲げ、叫んだ。 「レイジングハート!」 「バルディッシュ!」 『セェーット、アーップ!』 声に反応し、レイジングハートとバルディッシュが光を放つ。ここまでは前と同じ。 だが、ここから先は前のものとは違う。光の帯がなのはとフェイトの周りを螺旋状に走り、それに呼応するかのようにレイジングハートとバルディッシュが喋り出す。 「え? こ、これって……」 「今までと……違う?」 その差異は、少なからずなのはとフェイトを驚かせる。 これは一体何事だろうかと思っていると、エイミィからの通信が入った。 『二人とも、落ち着いて聞いてね。レイジングハートもバルディッシュも、新しいシステムを積んでるの』 「新しい……システム?」 『その子たちが望んだの。自分の意思で、自分の思いで!』 そう、レイジングハートもバルディッシュも、先日の戦いで主を守りきれなかったことを悔やんでいた。 その悔しさは、本来インテリジェントデバイスに組み込むようなものではないシステムを組み込むよう、管理局へと要請する程。 そして、その結果は……今のように、新たなる力を得たという事である。 『呼んであげて……その子たちの、新しい名前を!』 その強化の結果、デバイスの名も変化している。まるで力を得たという証のように。 その名は…… 「レイジングハート・エクセリオン!」 「バルディッシュ・アサルト!」 『Drive ignition.』 一方、結界の外。 騎士甲冑を纏ったシグナムが、空から結界を見据えている。 その手に握る剣はレヴァンティン。そのデバイスとともに、今の状況を察した。 「強装型の捕獲結界……ヴィータ達は閉じ込められたか」 『行動の選択を』 シグナムはレヴァンティンにそう言われるが、最初から取る手段は決まっている。 彼女の中には、ここで引くなどという選択肢は無い。そうなれば、必然的にこの選択となるだろう。 「レヴァンティン、お前の主は、ここで引くような騎士だったか?」 『否』 「そうだレヴァンティン。私は、今までもずっとそうしてきた」 そう言いながら、レヴァンティンを構える。 レヴァンティンからはカートリッジが排出され、それがシグナムの魔力と合わさって炎と化す。 シグナムの選択、それは結界をぶち抜いて突入するというものだった。 「紫電一閃!」 咆哮とともに、結界へと突撃。そのまま渾身の力で炎を纏った斬撃『紫電一閃』を見舞う。 だが、堅い。全力での紫電一閃を叩き込んでも破れない。 やむを得ず一度離れ、もう一撃叩き込もうとするが……それは突然の声に中断させられた。 「シグナムさん!」 彼女にとってあまりにも聞き覚えのある声。 何故今その声がするのかと疑問に思い、声の方へと振り向く。 すると、そこには一体の人型の何かがいた。 これは一体何者だという念がすぐに浮かぶが、先程の声とあいまってすぐに正体を察した。 「その声……まさか、デュークか?」 視点は再び結界の中へと移る。 なのはとフェイトがセットアップを終え、ビルの屋上へと着地する。進化したデバイスには、カートリッジシステムが搭載されていた。 彼女ら曰く、戦いに来たのではなく、闇の書を完成させようとする理由を聞きたいだけらしい。 それに相対するヴィータは、腕を組んだままこう返した。 「あのさ……ベルカの諺にこんなのがあんだよ。『和平の使者なら槍は持たない』」 急に言われたベルカの諺に、意味が分からず困惑するなのは。 フェイトの方を向いて「意味、分かる?」と目で聞くが、どうやらフェイトにも分からなかったらしく、首を横に振る。 そしてヴィータが武器を向け、その真意を告げた。 「話し合いをしようってのに武器を持ってやって来る奴がいるかバカって意味だよ。バーカ」 「いきなり有無を言わさずに襲いかかって来た子がそれを言う!?」 両者ともごもっとも。 「それにそれは諺ではなく、小話の落ちだ」 「うっせぇ! いいんだよ細かい事は」 敵味方双方からのつっこみを受け、逆ギレするヴィータ。間違いを指摘されて逆ギレとは、どうやら気が短いようだ。 というか、諺と小話の落ちとの違いは細かいことではないと思うが…… と、その時である。 ズッガァァァァン! 轟音。それとともに、上空から二筋の光が降ってくる。 光は同じような轟音を立てて近くのビルに着地。それとともに巻き上げられた埃がその光の正体を隠す。 そして埃が晴れた時、そこにはシグナムともう一人の姿があった。 本人とシグナム以外は、そのもう一人……デュークの存在を疑問視する。こいつは一体何者だろうかと。 そしてその直後、なのは達の近くのビルに転移魔法陣が現れる。そこから現れたのは甲児だ。 「遅かったな、甲児」 「悪ぃ悪ぃ、あっちでちょっと手間取っちまってな」 甲児とクロノがちょっとした軽口を叩く。 その「手間」とは無論、マジンカイザーを探して走り回ったあの時の事である。 と、甲児の目にデュークの姿が映った。いや、正確にはデュークの纏っているグレンダイザーが。 (ありゃあ……まさか、俺のカイザーと同じだってのか?) 前へ 目次へ 次へ