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01-32 名前:スイーツと香辛料1 :08/08/13 00 56 05 ID k+87tkBL 場違いな人を見た。 恵比寿のベトナム料理のレストランに同級生の男の子がひとりで食事をしていた。その人はとても地味で名前も思い出せないくらい。それなりに値段もはるこういう店にいることをわたしはうまく受け入れられなかった。 斉藤さんが黙々と料理を食べている中、わたしはどうも信じられない気持ちでその人を見つめていた。 「げっ」 小さく、でもはっきりとその人は私を見て言った。あからさまに嫌そうな顔。 ムカついた。 あんたこそ「げっ」だよ。「あんたみたい」のが、なんでこんな店にいるの?「あんたみたい」なさえないのが、来ていい店じゃないよ、私は心で毒づいてそしらぬ顔でフォーに手をつけた。 01-33 名前:スイーツと香辛料2 :08/08/13 00 58 54 ID k+87tkBL 「どうかした?」 斉藤さんが尋ねる 「なんでもないよ」 微笑んでおいた。斉藤さんのおかげで高校生ではとても行けない(といってもコース五千円くらいだけど)ところで食事ができるのだ。 少しはサービスしてやらなければならない。 友達が誘いで行った集まりで出会った斉藤さんは、毛並みがよさそうな感じがした。 お金もありそうだし、大学も名前があるし、ガツガツしてなさそう。 だから愛想よくしてまんまと二人で会おうと言わせた。最初のデートが恵比寿で映画をみてベトナム料理というのも、まあありだった。 料理もおいしい。辛いの好きだし。知る人ぞ知る、評判のお店らしい。わたしはけっこう感激していた。 友達からあの店に連れてってもらった、おごってもらったという話は聞いていたが、派手目な格好のわりにわたしはあまりそんな経験がなかった。 恥ずかしくて友達には適当に話を合わせていたが、実は少し奥手だったのだ。目論見通り大学生に誘われちょっといい店でおごってもらって、わたしは得意だった。 01-34 名前:スイーツと香辛料3 :08/08/13 01 02 27 ID k+87tkBL 「こんばんわ、高梨さん」 ビクッとした。不意をつかれてしまった。顔をあげると地味な同級生がいた。名前は…。 「松崎くん?こういう所くるんだ?」 思い出した。松崎啓だ。ケイ、似合わない名前。 「うん、ちょっと。じゃあ」 松崎くんは目を合わさずに言った。やっぱり「こういう人」は鼠色のジーンズにチェックのシャツなんだな。 「余計なことだけど、高梨さん、スプーンにのってるのはお好み辛さ調節するためのものだから、タレみたいにつけなくていいんだよ」 マツザキは、斉藤さんの前で、ソウイイヤガッタ。 斉藤さんが少し笑う。顔が赤くなるのがわかった。 「じゃあ。ついでだけどデザートはココナッツプリンがおすすめです」 そういって松崎啓は店を出ていった。ムカつく。オタクのくせに!なんなのあいつ! わたしは嫌がったが、面白がった斉藤さんがデザートにココナッツプリンを頼んだ。 …すごく、すごく、美味しかった。 …なんかムカつく。 01-35 名前:スイーツと香辛料4 :08/08/13 01 15 09 ID k+87tkBL 「葉子、どうだった」「楽しかったよ。あ、でも…」 みさきに昨日のことを聞かれて、私は松崎啓のことを思い出してしまった。腹が立つ。 「みさき、聞いてよ。斉藤さんにベトナム料理連れてってもらったら松崎がいたの」 「松崎って誰?」 「うちのクラス」 「えー!?」 「しかも一人で」 みさきは爆笑した。スッとした。 「マジで?ネタでしょ?」 「ほんとほんと。私もびっくりしたよ。なんでっ!?って。しかもさあ」 と松崎のあの生意気な一言を話す。みさきは期待通り、はぁ馬鹿じゃない?と言ってくれた。 「だよねー、だいたい松崎があんないい店いくなんで十年早いっつーの!」 そうわたしが言って二人で笑う。ああ、スッとした。昨日傷つけられた高梨葉子のプライドが友達と陰口をいうことで回復してくる気がした。 01-36 名前:スイーツと香辛料5 :08/08/13 01 42 07 ID k+87tkBL 「あ、葉子」 みさきが指さした方をむくと、ちょうど向こうから松崎が来た。 「松崎くーん、昨日葉子と会ったんだって?」 意地悪な笑い方をしながらみさきが声をかけた。 やめてよ、と一瞬思ったが居心地の悪そうな松崎の顔を見てわたしも意地悪くいった。 「昨日はどうもー。松崎くんてお洒落な店行くんだね。一人で」 最後の一言を強調して言う。みさきバカウケ。 「ああ…、ごめんね声なんかかけちゃって」松崎はまた目を合わさず言った。う、少しかわいそうだったか? 「いいの、いいの、むしろ今度は葉子を誘って二人でいっちゃいなよ」 みさきが自分でいって自分でうけている。 松崎くんはいや…と口ごもっている。 「じゃあ」 すごすごと、という感じで松崎くんは行ってしまった。 「みさき変なこと言わないでよ」 「いいじゃん。あいつグルメなんじゃない?連れてってもらいなよ。ウケる」 みさきが笑う。わたしはため息をついた。 01-37 名前:スイーツと香辛料6 :08/08/13 02 34 06 ID k+87tkBL 高校時代一回くらいはこんな偶然があるのかもしれない。 本当に、松崎啓と二人で食事に行くことになった。 世界史でグループ発表をすることになり、みさきと2人でなんとなく組む相手が見つからず、余り物同士2人―2人でまとめられたらその中に松崎くんもいたのだ。 わたしもだったが、向こうも「マジかよ…」って顔をしている。 「テーマ何でやるー?」 村田くんが言った。やる気のない他の3人を仕切ってくれるようだ。 「ベトナムの食文化とかー?」 みさきが悪ノリしてる。 「はあ?何それ?」 村田、食いつくな。 「やめてよ、みさき」わたしが止めるのも空しく、みさきは昨日のことを村田くんに喋ってしまった。 「へえー、そういえばマツは食い物屋詳しいもんな」 村田くんが普通に言ったので、ああ友達には有名なんだ、と思った。 01-38 名前:スイーツと香辛料7 :08/08/13 02 35 36 ID k+87tkBL 「なんで松崎くん詳しいの?」 「いや…」 「お前辛いものとか好きなんだろー」 「まあ…」 「でも昨日のお店とか高くない?」 「バイトして…貯めて…」 「そこまでするの!?なんで!?」 やばい、ちょっと面白い。 「いや…なんとなく好きで…その内エスカレートしていったというか…」 「一人で行くの?」 「ほとんどは。たまに親とか」 「辛いもの中心なの?」 「最初はそうだったけど…最近はなんでも…」 「一人で?」 「まあ…」 「…すごいね」 ちょっと呆れ気味にみさきが言った。 01-39 名前:スイーツと香辛料 :08/08/13 02 39 35 ID k+87tkBL 授業が終わり皆動かした机を元に戻したりしてるとき、教室から出ていく松崎くんを追いかけて声をかけた。 「昨日言ってたココナッツプリン食べた。おいしかったよ」 「あ、ほんとに…?よかった…」 「近くとかで何かあったらまた教えてね」 一応、朝にからかったの悪かったかなと思ったので、フォローしておこう。まあたしかにココナッツプリンはおいしかったし。 すると松崎くんは難しい顔で何か考えて、こちらを見たりそらしたりを数回したあと、言った。 「芦沢ホテルのデザートビュッフェの入場券、ネットの懸賞で当たったんだけど…興味ある?」 あれ? 調子のられてる?わたしを(「あなたみたい」のが)お誘い? 「いや!なんでもない!」 松崎くんが顔を赤くして逃げようとする。やっぱり「そういう」自覚あるのかな。 わたしは、悪いけどこんなリスキーな話に乗ったりするほど怖いもの知らずじゃない。最初からからかうためならまだしも、デート(デート?まあデートだよね)するなら恥ずかしくない相手を選ぶ。 なのに「行く」と言ってしまった。 …ココナッツプリンがおいしすぎたせいか?血迷ったのは。 01-42 名前:スイーツと香辛料9 :08/08/13 09 48 55 ID k+87tkBL 日曜日、わたしは芦沢ホテルに向かっていた。みさきには内緒にしておいた。ここなら多分知り合いにそうそう会ったりはしないと思う。 松崎くんは今日はクリーム色のジャケットに綿パンだった。彼のなかでは余所行きの格好なのだろう。時間に正確なのは、合格。 「ごめんね。待った?」 「いや、全然…。十分前だし」 わたしも時間は守るほうだ。 「松崎くん、今日はこんな服装で大丈夫かな?」 「ああ…ギャルって感じだね。大丈夫じゃない?」 かちーん。「ギャルって感じだね」?何その言い方。 「ギャルって…松崎くんはどの辺でギャルって思うの?」 こめかみをひくつかせながら、という感じであえて笑顔で聞いてみた。 「うーん、髪染めてる。なんか髪がグネグネしてる。化粧が濃い。財布とかバックが似た柄?あとは…」 こいつまともに答えやがった…。グネグネって…。最悪!自分はキモいグルメオタクのくせに! 腹がたって喋らないでいたら、松崎くんはあわてて言った。 「ごめん、別にギャルが悪いとか言ってるわけじゃなくて、ただ僕はよく知らないからそう見えただけで…」 「もういいよ。行こう」 さっさと目的だけすましてしまおう。 01-43 名前:スイーツと香辛料10 :08/08/13 16 36 05 ID k+87tkBL 芦沢ホテルはそれなりに有名なだけあって格がある感じでいい。 14階にデザートビュッフェがあるらしい。入るとかなりの広さに真っ白なリネンのかかったテーブルと、銀色のトレーにのったたくさんのケーキなんかがあった。わたし達ふくめ客は4~50名だろうか。 「席は…ここだ」 松崎くんがわたしを案内してくれる。学校とはうって変わってこういう時は自信にあふれてる感じ。さすがグルメオタク。 わたしは色々珍しいものもそろっているお菓子に目移りしつつ、ケーキやマカロンをお皿にのせた。 「えっ」 松崎くんが声をあげた。 「パパナッシュだ」 ぱぱなっしゅ? 「何それ」 「ルーマニアのお菓子で…ドーナツに生クリームとストロベリーとかのソースがかかってる、みたいな」 「へえ」 松崎くんはパパナッシュに夢中なようで一心に取り分けている。 よく知ってるんだな、と少し感心した。 彼がとってくれたパパナッシュを食べてみた。けっこう強烈。 「酸味が意外と強いんだな」 と松崎くんがつぶやく。 「面白い味だね」 「そうだね。僕もはじめて食べたから。…ケーキとかはどう?」 「うん。ちゃんとしてるよ」 「そう。よかった」 松崎くんが穏やかな微笑みを浮かべた。本当に嬉しそうにしてるがわかる。ああ、いい人なんだな。 オタクだけど。 01-44 名前:スイーツと香辛料11 :08/08/13 16 49 25 ID k+87tkBL それからわたしは時おり松崎くんとなんというか食事デートにいくようになった。 けっこう面白いものをいつも見つけてくるし、何よりおごってもらえるので、さえない男と遊びに出かけることについては目をつぶった。 松崎くんは相変わらず目を合わせずにこういう店を見つけたんだけど、興味ある?と聞く。 「うん、行きたい。連れてって」 笑顔でこたえる。それくらいはね。なんなら手をとって言ってもいいけど、勘違いさせすぎるからやめておこう。 彼は自分が本当に興味をもった所にしか行かないし誘わない。そういう所も好感をもった。ちょっと学校ではオドオドしてるけど媚びてない。そうでないとホルモン焼きに同級生の女の子は誘わないだろう。でもそこは肉の刺身が驚くほどおいしかった。 「今日もおいしかった。また誘ってね」 そんな言葉を私は本心からいうようになった。 「ああ…。また機会があったら」 目をちらっと合わせて松崎くんは答えた。 01-49 名前:スイーツと香辛料12 :08/08/14 05 40 43 ID WItfoN/q 「葉子、最近斉藤さんと会ってる?」 みさきが机につっぷしながら聞く。 「全然会ってない。もうメールもしてないかも」 「そうなの?あんた、最近つきあい悪いから、斉藤さんかと思ったのに」 そういえば、みさきに誘われたコンパやらに最近行ってない。斉藤さんもなんとなくメールとか返さなかったりでつきあいが途切れてしまった。 「ごめん。今度どっかいこ?」 「土曜日は?」 「あ、その日はちょっと…」 その日は松崎くんと約束がある。北欧料理。トナカイ肉のステーキ、食べてみたいし。 「えー、やっぱ男?」みさきがジト目で言う。 「ちがうって」 「そういえば葉子、世界史発表終わったのに、まだ時々松崎くんと喋ってるよね」 「…」 みさきめ、勘がいい。「あら?あらあらあら」 楽しそうにおどけるみさき 「やめてよ」 そんなんじゃないんだから。 01-58 名前:スイーツと香辛料 5章「告白?」1 :08/08/14 20 44 36 ID WItfoN/q 「お酒はだめだよ」 松崎くんは困ったように言った。 「大丈夫だよ。普通のカッコしてるんだから、わからないよ」 「そうかもしれないけど…」 少し浮かれていたのだろうか、普段松崎くんと食事するときにお酒は飲まないのだが、給仕の女性から珍しい果実酒をすすめられわたしはそれを飲みたくなったのだ。 結局しぶる松崎くんをいいくるめて、果実酒を頼んだ。甘い口当たりで、店の家庭的ながらムードのある内装もあいまって、早いペースで飲んでしまった。 わたしは、あまり普段しないしなをつくって甘えた声で、松崎くんを見つめた。 「もう一つ、頼んでいいかな?」 松崎くんはなにか言おうとしたが、えへへと言いそうな媚びのある笑顔で見つめるわたしを見て、ため息をついて頼んでくれた。 01-59 名前:スイーツと香辛料 5章「告白?」2 :08/08/14 21 07 25 ID WItfoN/q 「どうして松崎くんはこんな風に色んなお店に行ったりするようになったの?なにかきっかけとか?」 今日はすごく気分がよかったので、わたしはいつもより踏み込んだことを松崎くんに聞いてみた。 「うーん」 松崎くんはかなり考えたあとぽつぽつと言った。 「親が中学生の頃からけっこう連れてってくれて…その雰囲気とかが別の世界みたいで…」 「別の世界?」 「なんか外国の映画のパーティとか…そういう…うーん優雅なっていうかそんな感じが好きで色々雑誌とか見て、バイトするようになってから行ってみたりして…」 「へえ…でもホルモン焼きとかも行くよね?」 「うん。だんだんそれぞれの料理の国の文化とか…そういう違いも面白くなってきて…日本のおでん屋は他の国では何になるだろうとか…」 「すごいねー、そんなこと考えて」 「いや…全然後付けで…ただ食べるのが好きなだけかも」 「ふーん」 果実酒のせいだろうか、松崎くんのこういう話を聞いているのは、とても楽しかった。 僕なんかがレストランとか似合わないけどね、と松崎くんが苦笑した。 01-60 名前:スイーツと香辛料 5章「告白?」3 :08/08/14 21 26 26 ID WItfoN/q 「えー色々詳しいし、なんか松崎くん落ち着いてるから似合ってるじゃん。かっこよくない?」 「作る方とかなら格好いいかもしれないけど、ただお金払って食べるだけだから…なんかいいレストランとかは年齢もそうだけど、僕みたいのじゃなく、なんか成功してる人とかが行くべきなんだろうなぁ…とか」 「ああわたしたち若すぎとは思うね。…でも」 酔ってるせいか、わたしは考える前に言葉が出る感じになっていた。 「松崎くんがコックさんじゃなくてグルメくんだったから、わたしはいつもすごく楽しくておいしい思いをさせてもらえるてるよ?」松崎くんはちょっとびっくりした顔をして目をそらしながら言った。 「よ、よかった。喜んでもらえるのは、嬉しいから」 「いつも誘ってもらって、支払いしてもらっちゃって、ごめんね?」 「…好きでやってることだから」 目を伏せながらそう言う松崎くんを見て、わたしは、もっと踏み込んでみたくなった。 「ねえ、松崎くん」 「なに?」 「どうして、いつもわたしを誘ってくれるの?」 01-69 名前:スイーツと香辛料 5章「告白?」4 :08/08/15 00 06 38 ID +TWYqaqa 松崎くんは固まった。 「いや…その…」 「うん?」 「あんまり、こういう趣味とかまわりには変に見えるみたいで…一緒に行くひともいなくて…」 「うん」 「それで…」 「うん」 それで、どうしてわたしなの? 「高梨さん興味ありそうで、おいしそうにしてるから結構自分で選んだ店が間違ってなかったって思えるっていうか…」 「ふーん」 松崎くんのしどろもどろな話をわたしはたぶんにやにやしながら聞いていた。 ちょっと調子にのってたのかもしれない。わたしは松崎くんを見ながら心でつぶやいた。 わたしが、好きなんでしょう、と。 01-70 名前:スイーツと香辛料 5章「告白?」5 :08/08/15 00 28 33 ID +TWYqaqa 店を出て二人で並んで歩いていると、少し足元がふらついた。 「大丈夫?高梨さん」 「うん、少し酔ったかも」 「お酒、強くないの?」 「あんまり。今日の度数強かったかも」 喋りながら、それが他人事みたいに遠くで聞こえる。ちょっと酔いすぎたかも。ふらふらしながら歩いていると何かにつまづいてバランスを崩した。 「大丈夫?」 松崎くんがわたしの体をささえている。 「ふふ」 わたしは松崎くんの腕を両手で抱えた。 あっ、と松崎くんは驚いたが、離さない。 「ふらふらするから、ささえてて」 「今日もありがとね」 「いや…」 「もうけっこう何回も行ってるね」 「そうだね。だいたい月2回くらいだから…高梨さんとはもう5、6回行ってる」 「楽しい?」 「えっ?えーと、うん喜んでもらえると、やっぱり、うん」 「わたしと一緒に行くと楽しいんだ?」 「…うん、まあ」 「ふーん」 二十秒くらい、黙って二人で歩いてから、わたしは口を開いた。 「もうつきあっちゃおうか?」 01-72 名前:スイーツと香辛料 5章「告白?」6 :08/08/15 00 53 34 ID +TWYqaqa きっと松崎くんは驚いてあたふたするだろう。そう思っていた。でも松崎くんは前をむいたまま、ずっと黙って歩いていた。 どれくらい経ったかわからないくらい時間がすぎて、松崎くんはぽつんと言った。 「無理だよ」 「え」 そう答えたきり、わたしの思考は止まってしまった。無理って、無理ってこと?嘘。松崎くん、明らかにわたしのこと好きじゃない? 「なんで?」 わたしは予想外の答えにちょっとむきになっていた。ほんの思いつきでつきあっちゃうと言ってしまったのだけど、断れるとは思わなかったから。 「ねえ、なんでよ?」 松崎くんはしばらく考えてから、はっきりわたしの目を見つめて言った。 「僕と高梨さんじゃつりあわないし、僕なんかじゃ自分とはつりあわないと高梨さんも思ってる」 静かだけど、強くそう言い切った。 「そんなこと…」 言いかけてわたしは絶句してしまった。頭がぐちゃぐちゃでまとまらない。 「そんな…つりあうとか…関係ないし…わたし、そんなこと…思ってな…」 最後の語尾は言えなかった。松崎くんがわたしを見つめているのがわかる。わたしは強い視線がこわくて目をそらした。 そのまま長いあいだわたしと松崎くんは止まっていた。長い沈黙。先に動いたのは松崎くんだった。 「嘘だよ」 乾いた声で松崎くんはそう言って、ゆっくり私の腕を外した。 「じゃあ…」 松崎くんはわたしを見ずに早足で駅に歩いていく。 正直、しばらくボーッとしてなにがなんだかわからなかった。えーと…。 あれ? これは、もしかして…わたし、ふ、ふられた? 5章終 01-75 名前:スイーツと香辛料 6章「落ち込み」1 :08/08/15 02 14 50 ID +TWYqaqa 次の日二日酔いで一日ねていた。日曜日でよかった。 だんだん回復していくうちに麻痺してた思考がまわりだしてくる。 「アーッッッ!」 思わず枕に顔をうずめて叫んでしまった。足をジタバタさせる。 なんてことだ。ひどい。恥ずかしい。…悔しい。 過去に二人の人とつきあった。一人は中学の時でバカなのですぐふった。 もう一人は高1の時別の高校の人と遊んだときに会った1コ上の人。この人とはそれなりの関係はもった。 遊びとかノリでとかで男の子とそういう関係になったことはない。 そのあまり多くはない経験からしても、男の子―特に高校生くらいのーはいつもガツガツしてて、隙をみせると手を出してくるし、ゆるすと癖になる。 珍しく紳士的にふるまってくる人は本気で好きになった人―これもつきあってしばらくすると、ね―だいたいこれらは間違いないはずだった。 01-76 名前:スイーツと香辛料 6章「落ち込み」2 :08/08/15 02 23 29 ID +TWYqaqa いくら遊びとかに慣れてなさそうな人でも二人分一万円位になる食事に5回も6回も誘ってきてたんだよ? それは、そういうことでしょう? 「無理だよ」 冷たい声。その後すごく強い目で見つめられた。あれじゃこわくてごまかせない。 「つりあわないと高梨さんも思ってる」 …あまりに図星だったから、何もいえなくなってしまった。でも。それならなんで何度も誘ったの? 涙が出てきた。嫌な想像ばかり出てくる。 もしかしたら、彼は下心なんてなかったのかもしれない。変わってるし。 本当にただ自分の選んだ店で喜ぶ人が見たいだけでたまたまわたしを誘っていたのかも。 だとしたら昨日のわたしは…バカ?勘違いさせないようとかいって自分が勘違いしてたということ? 母さんが心配になって見にきたくらいの声でまた二回叫んだ。 はあ、別にいいじゃないか。酔ってたし気まぐれで言っただけだし。…気まぐれのはずだし。 01-97 名前:スイーツと香辛料 6章「落ち込み」1 :08/08/17 00 47 40 ID pLe/SbU2 「は、くだらない」 誰にきかせるともなく一人でつぶやいて、月曜日の憂鬱な教室にむかった。 教室に入り、中をみまわす。 いた。 こちらをふりむきそうになった瞬間おもいっきり無視してやるようにみさきの方へふりむいた。 ふん、て感じ。 は? そんな人いましたっけ? 結局、その日から二週間わたしはあまり見もしなかったし話もしなかった。 「葉子」 「…なに?」 「…こわい。にらまないで」 「え、にらんでた?」「うん。ブスだったよ」 「ブス…」 ため息をついてうでを枕に頭を机におしつけた。 「ブスだよねー、わたし」 「えー?葉子どうしたの?」 「んー…」 みさきはわたしをしばらく見ていった。 「葉子、最近変だよね?」 「んー」 「ちょっとイタイみたいな?」 「マジで?」 自分ではそれほどでもないつもりだったのだけど…。 「葉子、最近松崎くんと喋ってないよね?」「…わかった?」 「ていうかね、正直バレバレだった」 「あー」 「なんか無視してるけどすごい意識してるし」 「うー」 「ちょっと葉子、大丈夫?しっかりしなよ」みさきにうながされ、わたしはそのことを話した。 01-101 名前:スイーツと香辛料 6章「落ち込み」4 :08/08/17 16 13 37 ID pLe/SbU2 「なるほど」 みさきはイスの背もたれにひじをかけて、わたしの話を一通り聞いたあと、そう言った。 「私誘ってくれないなんてひどいじゃん」 「ごめん」 たぶん、彼は月二回二人分が精一杯だったと思うから、三人でとかなかったと思うけど……。みさきと彼で二人? やだ。 「それで、葉子の結論は?」 「結論?」 「葉子は今こうなってて、これからどうしたいの?どうなりたいの?」 わたしはどうしたいのか……そうだ、それに直面しなきゃいけないんだ。 「それは…」 「うん、それは?」 「こんな風に自分がなっちゃってるってことは……」 「うんうん」 「やっぱり、そういうことだよねえ……?」 「そう思うけどね」 そうだよね、と答えてから、わたしは呆然としてつぶやいた。 「びっくりだよね」 「かなり。私からするとけっこう驚愕なんだけど」 「そうだよね……」 わたしは机につっぷした。 「どうしよう……」 みさきはわたしの頭をよしよしと撫でた。ありがたかったけど、わたしは顔を上げられなかった。顔が熱くなっているのがわかっていたから。 要するに、わたしは気づいてしまったわけだ。彼、松崎くんに対する、自分の気持ちの変化に。 「どうしよう……」 もう一度わたしはつっぷしたまま、つぶやいた。 「んー、ああいう人ってあんたみたいのが誘えばコロッといくんじゃないの」 「馬鹿」 6章終。7章「告白」へ。 01-132 名前:スイーツと香辛料 7章「告白」1 :08/08/21 01 00 09 ID 6zwUx/0g 「高梨さん」 顔をあげると松崎くんがいた。正直、心臓が飛び出すかと思った。 「少し話したいことがあるんだけど……」 ちょっと怯えも入っているけれど、強い意思が宿った目でまっすぐわたしを見つめて、彼はそう言った。 「え、あ、う、うん」 バカみたいな受け答えをしてわたしは松崎くんにうながされついていった。廊下を歩きながら、半月以上ぶりに松崎くんと口を聞いたことに気づいた。前を行く彼の背中を見ながら、ホッとしたり、嬉しい気持ちがこみあげてきたり、どんな話があるのか不安になったりした。 図書室に松崎くんは入った。昼休みで誰もまだいないようだ。隅の長イスにわたしと松崎くんは座った。 松崎くんは目をとじてゆっくり深呼吸みたいなことをしている。ひさしぶりに間近で見る松崎くんの髪、首筋、とじられた瞼を思わず見つめてしまった。時間がゆっくりと流れてると錯覚してしまうほど、わたしはふれて感触をたしかめるように彼を見つめていた。 「高梨さん、この間はごめん」 意を決したようにこちらをふりむいて松崎くんは言った。 「……わたしも酔ってたから」 違う。そんなことを言いたいのではないのに、体が思ったようには動いてくれず、わたしは目をそらしてしまった。 「勝手な思いこみでひがんだようなことを言っちゃって」 「……」 わたしは答えられなかった。 「ごめんなさい」 「そんな……。いいよ、全然」 頭をさげる松崎くんを直視できず、わたしはそれだけいうのが精一杯だった。 「ほんと……気にしないで……」 01-133 名前:スイーツと香辛料 7章「告白」2 :08/08/21 01 02 44 ID 6zwUx/0g 松崎くんはしばらく黙っていた。彼の顔を見れないからどんな表情でいるかわからない。 「……高梨さんは、優しいね」 松崎くんはぽつりと言った。それを聞いて、わたしはもうたえきれなくなった。 「どうしたの!?」 松崎くんがあわててわたしの肩に手をおく。一度泣いてしまうと、止まらずにわたしは下をむいたままでいた。椅子の下の床に涙がぽたぽたと落ちる。 「松崎くん間違ってないよ」 「え……?」 「わたしは……」 その後は言葉にならずわたしは腕で涙をぬぐいながら喉をならして泣いた。 「あの時松崎くんの言ったこと、本当だよ」 そう言ってわたしは立って図書室から出ようとした。 「待って」 松崎くんがわたしの手をつかんだ。わたしは振り払おうとする。松崎くんは驚いて転びそうになりながら、でも手を離してくれなかった。わたしはあきらめて腕をつかまれたまま松崎くんを見た。松崎くんもわたしを見て言った。 「あの……、えっと、また、誘っていいかな? また面白い店見つけたんだけど」 「……ふぇ?」 意外すぎて変な声を出してしまった。 「高梨さんと一緒に店に食べにいくのが、……僕にはすごく楽しいことで……」 「……」 「その、前のことがあってから、もうそんな機会はないと思ってたんだけど……、もう一度誘ってから諦めてもいいかと……違う!そうじゃないや」 わたしがびっくりして顔を上げると、松崎くんは頭をふって自分の腿を殴った。 「その、今みたいな言い訳とかしてる自分があまり好きじゃなくて、前のこともそういう自分だったからああいうことを言ってしまったから、つまり」 言葉を切って松崎くんは言い切った。 「高梨さんと一緒にレストランとかをまわるのが、僕には今一番楽しい大事なことなので、よければまた行ってください!」 松崎くんは顔を赤くして肩で息をしている。長い時間がすぎて、ようやくわたしは口をひらいた。 01-134 名前:スイーツと香辛料 7章「告白」3 :08/08/21 01 11 05 ID 6zwUx/0g 「わたしなんかじゃないほうがいいよ……」 とても不器用で格好悪いと言ってもいい、しかもよくありそうなテンパり方の松崎くんの誘いを、わたしはいつものわたしみたいに寒いとは思わなかった。 むしろ自分の価値観をしっかりもっていて落ち着いてるように見えた松崎くんにわたしに対してこんな生な反応をしてくれることに感動すらしていた。でも、だからこそ。 「さっきも言ったように、わたしは松崎くんが言うとおりのことを松崎くんに対して思ってたから」 また涙が出てくる。言わなくていいことをわたしは言ってる。スマートなやり方じゃない。馬鹿みたいだ。 「かまわない」 松崎くんは即座に言った。 「え」 「それはお互い様で、僕も高梨さんのことを色眼鏡で見てたから。だから心をほんとには許さないようにとか」 「……」 「でも実際に目の前で話している高梨さんは、ちゃんと話してくれたし、一緒に楽しんでくれたし、自分の先入観の方を実際に自分で見た高梨さんの方より信じるのはおかしいと思って」 「それは演技してただけかも?だまされてるだけかもよ?」 「それでもいい。僕は言いなりになってるわけじゃないし、自分が本当に好きなことしかしないから。 それを高梨さんが一緒してくれたら、それが演技だろうと嘘だろうと、自分にとっては、その、一番価値のあることだから。……何言ってんだろ僕、恥ずかしいね」 松崎くんが照れ笑いをした。わたしも笑ってしまう。 「恥ずかしいと思うんだ?」 「ちょっと自分らしくないことしたから。でも言わない方があれだから。自分の価値は自分で決める。さっき高梨さんと一緒においしいものを食べるのは、今僕にとって一番大切なことだから」 松崎くんは、迷いなくそう言い切った。 「……ありがとう。うれしい」 わりと素直に笑顔をそう言えた。 「松崎くんがそんなにクサいこと言うなんて思わなかった」 「そうだよね。凄い恥ずかしいけど……もし笑われてもいいと思って。それでも高梨さんと一緒に遊んだときの楽しさは変わらない、って言いきかせて」 「わたしがそういう嫌なことしても変わらないの?」 不可解だ。 01-135 名前:スイーツと香辛料 7章「告白」4 :08/08/21 01 15 21 ID 6zwUx/0g 「この間からずっと考えてたんだけど……例え笑いものにあとでされても、やっぱり変わらず自分にとって大事なものだって結論になった。 ……僕は馬鹿なのかも。高梨さんがよっぽど好きなのかな」 そう言って、松崎くんはあからさまにしまったという顔をした。つい口をついて出てしまった言葉なのだろう。 「いや、今のは……」 「松崎くん」 「え? はい」 「わたしも、好きです」 「えっ」 「嘘じゃなくて、今は本当にわたしは松崎くんのことが大好きです」 不思議と落ち着いて言えた。 「お願い。わたしとつきあってください。わたしにとっても松崎くんが一番大事です」 「……」 愕然とした顔で松崎くんはわたしを見てる。可愛い。わたしは離れていた腕を松崎くんにからませて彼に体を預けた。 「あっ」 驚く松崎くんの胸に顔をおしつけ、背中に手をまわした。 「返事をきいていい?」 混乱した松崎くんが落ち着きをとりもどして、ちゃんと返事をくれるまでにまた長い長い時間がたった。 こうしてわたしと松崎くんはつきあうことになった。なぜかもうまったく迷いはなかった。 それも当たり前かもしれない。 わたしをあんなに価値ある存在だといってくれた人はいないし、しかもわたしはあんな嫌なやつだったのに、それでも変わらないと彼はいったのだ。 好きになっていたことに気づいた人にそんな風にいってもらえるなんて、わたしほど幸せな人なんていないじゃない。 そのことの前では、もうさえないとかオタクとかはどうでもよかった。 7章終。 8章「のぼせる葉子」へ。 ・ 01-198 名前:スイーツと香辛料 8章「のぼせる葉子」1 :08/08/25 01 14 09 ID ngXlJwb5 もうすぐ夏休みになる。 この休みには母と父が二人だけで旅行にいく。 姉は家を出ているのでわたし一人になるが、まったく心配しなくていいと強くすすめて1週間夫婦水入らずのローマ旅行にいかせることに成功した。 「というわけで」 校舎裏の目立たないベンチで彼氏によりかかりながらわたしはいった。 「お父さんお母さんがいない1週間のあいだ、泊まりにきて」 わたしの彼氏―松崎啓はわたしが自分の胸に頭をあずけてきただけで動揺していたのに、このお誘いをきいて完全に冷静さを失った。 「ちょ、ちょっと待って」 「ま・た・な・い」 ニッコリ笑ってわたしは啓くん―最近こう呼びはじめた。こう呼ぶと恥ずかしがる姿が可愛い―をさらに追いつめる。 「大丈夫だから。きっと楽しいよ? 1週間わたし一人だけなんて危ないでしょう?」 「あ、危ないのはそうだね……。でも……」 「なあに?」 「その泊まるのは……」 「なんでだめなの?」 「なんで!?」 わたしはクスクスと笑いながら、口を啓くんの耳に近づけた。 「なにか期待してるの?」 啓くんが声にならない声をあげる。 「た、高梨さん」 「啓くん」 「う……」 「名前で呼んで」 「よ、葉子さん」 「もう。さんはいらないのに」 わたしは不満で口をとがらせたが、ゆるしてあげた。 「せめて一泊とかにしない?」 啓くんは観念したように、でも最後の妥協策をいった。 もちろんわたしは頭をあずけた胸から啓くんを見上げて満面の笑みでいう。 「い・や。1週間ね」 絶句しやがて肩を落として降参した啓くんにまたわたしはささやいた。 「ねえ啓くん」 「な、なに……?」 「期待、しててもいいよ?」 また啓くんは絶句した。 01-199 名前:スイーツと香辛料 8章「のぼせる葉子」2 :08/08/25 01 16 44 ID ngXlJwb5 「……変わったね」 みさきは処置なしというように首をふって言った。 「ふふふ」 「1週間も何すんの? やりまくるの?」 わざと下品な言い方でみさきはいう。 「さあ? 啓くん次第ではそうなるかもね~」 「…はあ」 みさきはあきらめたようにため息をついた。 「幸せそうだね」 「うん」 「松崎くんってそんなにいい男なんだ?」 「うん」 「どこが?」 「聞きたい?」 「う……」 「聞きたいの?」 のろけられる、とみさきは嫌な顔をする。 「……まあいいか、言ってみて」 「あ、聞くんだ」 「なによ」 「いや、えーと。……わたしあんまりノリがいいとか強引な男の人とか好きじゃなかったみたい」 「あー、そうかもね。葉子ちょっと合コンとかもひいてた感じするかも」 「やっぱそう?みんなしてるし、できないとダサいと思ってたから合わせてたんだけど……なんか体に合わない」 「それで松崎くん?」 「そう……うん、でも」 わたしはため息をついた。 「でも?」 「啓くんはわたしにはもったいないかも」 「はぁ!?」 みさきはクラスの皆がふりかえるような大声を出した。 「声がでかいよ……」 「どうしたの葉子。正気?」 「うるさい」 「わたしにはもったいない……いつの時代の話?昭和?」 「……」 「なんでそう思うの?むしろ松崎くんでしょう?そう思うとしたら」 「……啓くんは、ちゃんと自分の価値観もってるから、そういうのにあんまり左右されないよ」 「へえ」 「わたしが舞い上がって告っちゃったから、つきあったけど本当は啓くんは乗り気じゃないかも……」 「なんでそう思うの?」 「……」 「それで1週間泊まらせて体でつなぎとめるみたいな?きゃー」 「そんなんじゃないけど……」 「……でも、あんたがそんなになってるし、別のもきてるみたいだし、松崎くんマジでプチブレイクするかもね」 「……別のって何?」わたしが不穏な空気を感じで低い声でいうと、みさきは意地悪な顔で笑った。 「近づいてる女がいるらしいよ、松崎くんに」 01-200 名前:スイーツと香辛料 8章「のぼせる葉子」3 :08/08/25 01 20 10 ID ngXlJwb5 啓くんに近づく女がいる―。わたしはみさきから恫喝まがいの迫り方で、その噂のことを聞き出した。 宮本まさみ。違うクラスだ。啓くんが色々なレストランをめぐっていることを聞きつけて、一緒に行きたいなどと誘っているらしい。 わたしは敵情視察のためこっそり彼女のいるクラスにきた。 「あれ?葉子じゃん」 友達が声をかけてきた。 「どうしたの?」 「いやなんでもないんだけど……このクラスの宮本さんってどの人?」 「宮本さん?あそこ」友達が指さした先をわたしは目を細めてみた。 ……やばい。かわいい。 「……宮本さんってどんな子?」 「えー、いい人だよー何か天然?」 「……モテそうだね」 「超モテる。ギャルって感じでもないし、誰とでも仲良くしてるからねー。ちょっとブリッ娘?でも彼氏いないみたいだよ」 最悪だ。状況がどんどん悪くなっていく。 「でもなんで?」 「なんでもない。ちょっと話に出たからさ」 「へえ。あ、葉子聞いたよー、なんか変な人とつきあったんだってー?」 友達の質問に上の空で適当に答えながらわたしの中では焦りや不安がうずまいていた。 「わたしにはもったいないかも」 もし彼女が、本当に彼にふさわしい人だったら? 先走りすぎな考えが、頭にいすわって離れなかった。 8章終。9章「肯定による改心」へ 01-214 名前:スイーツと香辛料 9章「肯定による改心」1 :08/08/30 22 20 24 ID OgO5dJux わたしは渦巻く不安や焦りのなかで、どうしたらいいか悶々と考えていた。 わたしは啓くんの彼女で、相手は―まあ、たしかに可愛いけど……―天然でちょっとダサいただの女子の一人。気にする必要なんてない、とクールに無視しよう。眠れずにあちこち迷走したあとに、わたしはわりと無難な結論をだした。 「おはよう、……葉子さん」 まだ名前で呼ぶのに慣れない感じで啓くんがわたしに声をかけた。 「お、おはよう」 なぜわたしは動揺してるのだ。 「ね、ねえ啓くん?」 「うん」 「こ、今度どこいこうか?」 「ああ、京都に本店がある喫茶店が東京にもあるからそこに行ってみようと思うんだけど?どうかなあ?」 「うん、すごく行きたい。……それでその」 「うん?」 「最近とかわたし以外に誰かと出掛けたりする予定なんかあったり……ごめんなんでもない」 「え?」 啓くんは戸惑っている。てゆうかわたしは馬鹿か。意識しまくりである。 「いや……ないよ。今入ってる予定は葉子さんとのだけ」 「あ、そ、そうなんだ」 嬉しい。啓くんの腕に自分の手をからませる。 「わ、よ、葉子さん」 「ふふふ。啓くん、好きだよ」 「……っ!」 啓くんが目に見えて動揺してる。わたしもそれを面白がりながら少し顔が赤いかもしれない。 「……最近啓くんが色んなお店行ってるのけっこう知られてきてるみたいだから……」 「ああ……そうかな?」 「うん」 「へえ。そういえばたまにそういう話してくる人いるなあ」 絡ませていた腕が自然にかたまった。 「それって、……誰?」 わたしのあからさまに低い声にも気づかず啓くんは言った。 「宮本さんだったかな。料理研究会の人で……」 01-218 名前:スイーツと香辛料 9章「肯定による改心」2 :08/09/02 21 37 46 ID m9Jy19Bw 「聞いちゃったよー」 みさきが意地悪そうな顔をしてわたしの前の席に座った。 それでなくても朝に啓くんに聞いた宮本まさみのこと―といっても料理研究会の人で色々な料理に興味があるから自分に話を聞きにくる、ということくらいしか啓くんは言ってなかったが―で穏やかじゃない気分だったので、わたしは嫌な顔をした。 みさきのこの表情はきっと悪いニュースをもってきたにちがいないから。 「なに?」 「ふっふっふ」 「なによ」 「さっき廊下で松崎くんと宮本さんの話してるの聞いちゃった」 「……っ!」 「聞きたい」 「……」 「いいの?じゃあ……」 「ちょっと待って!」 立とうとするみさきのシャツをひっぱって座らせる。 「ちょっとやめてよ、スカートから出ちゃうでしょ」 「ごめん。で、なんて言ってたの?」 「いやあ」 「いやあじゃなくて」 「彼女さんが羨ましい~」 「……!?」 「私もつれてってほしいなぁ~」 「……」 「いやあ、天然ブリッコの威力はすごいね」 「……啓くんはどんな感じだった?」 「うーん、まあいつも通りといえばいつも通りだけど……」 みさきがにやっと笑って言った。 「まんざらでもない感じ?」 01-235 名前:スイーツと香辛料 9章「肯定による改心」3 :08/09/20 19 42 02 ID seaWIPdj なんとかしなければ。わたしは延々とベッドの上で寝そべりながら考えていた。ふと以前の啓君との会話が思い出される。 …… 「松崎くん、今日はこんな服装で大丈夫かな?」 「ああ…ギャルって感じだね。」 「うーん、髪染めてる。なんか髪がグネグネしてる。化粧が濃い。財布とかバックが似た柄?あとは…」 …… そんな会話があった。やっぱりギャルなんて啓君は嫌いだよね……。意を決して、わたしは準備のため家を出た。 次の日、待ち合わせて、老舗の喫茶店にむかう途中で啓くんが言った。 「葉子さん、……どうしたの?」 「え、なにが?」 不自然な笑みなのが自分でもわかる。 昨日危機を感じたわたしは考えた。啓くんの好みそうな見た目はどんなだろうか。 髪はストレート、黒く染める余裕はなかったので、急しのぎでダーク目にし長いスカートに春色のニットカーディガンだ。 コンサバなお嬢様風。きっとギャルっぽいのよりこっちの方が啓くんの気に入ると思ったが、呆気にとられている啓くんの顔を見て急激に羞恥心がおそってきた。 「格好がずいぶん変わったような……」 「う、うん……その……」 声が小さくなる。 「こういうのの方が、啓君好きだと思って……」 「ええ?」 啓君は驚いた顔をしている。 「ギャルっぽいのとか啓君きらいでしょ……?」 「そんな……」 啓君はわたしの手を握って、そっと肩に手においた。 「葉子さん、大丈夫?」 「大丈夫……」 うつむいてわたしは言った。もう最悪。なんでこんなうつむいた感じになっちゃうんだろう。 「葉子さんの格好できらいなのなんてないよ」 「だって、ギャルっぽいって前言った……」 「え!? あ、ああ前に言っちゃったよね、ほんとごめん!」 「もっと普通の子みたいなほうがいいんでしょう?」 「いやいやいや」 啓君が慌ててる。でもわたしもそれどころではなかった。 「啓君は、ほんとはわたしとつきあってたくないんじゃないの?」 「えええ」 「もっとほかの子とか……」 「そんなことないよ!」 啓君が大きな声でいった。わたしはびくっとして顔をあげる。真剣な目だ。 「そ、そんなことないよ……僕は……葉子さんが、その」 「だって……」 「だって?」 「啓君、最近宮本さんとかと仲いいって……」 自分でもびっくりするくらい大粒の涙がながれた。 「み、宮本さん!?」 わたしがしゃくりあげる感じになっているのと同時に、啓君も混乱しきっている感じだ。 「ち、違いますよ。宮本さんってどこからそんな話が……」 「宮本さんが啓君を誘ってるって……」 「え? いや断ったよ!」 「え?」 「あの、誘われたというか、そういうのでもないけど、僕が一緒にレストランとかいくのは葉子さんだけだからって言ったから!」 「……!?」 道の真中で、わたしと啓君ははっとまわりに気付いてだまって見つめあった。 01-263 名前:スイーツと香辛料9章「肯定による改心」4 :08/10/08 01 57 26 ID NggPzEH3 喫茶店にはいり、啓くんが注文をとってくれてるあいだも、わたしは胸の鼓動がとまらず目の焦点もさだまらないような感じだった。 「僕が一緒にレストランとか行くのは葉子さんだけって言ったから!」 啓くんがそう言って、道のまんなかで人がふりかえるのに気づいて急いでわたしの手をひいて喫茶店に向かっていったときから今まで、わたしはまわらない頭でその言葉の意味を考えていた。 今考えれば痛いとしか思えないことをして啓くんにひかれた恥ずかしさと相まって全然思考がまとまらなかった。 「葉子さん、とりあえずコーヒー頼んだけどいいかな?ここのは最初からミルクと砂糖が入っているけれど…」 「え? あ、うん。大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしてただけ」 「え?…そう」 しまった。わたしの様子をきいたのかと思ったら、全然違った。なにずれた返事をしてるんだわたし。 「お待たせしました」 「はい、どうも。…葉子さん」 「…」 しっかりしなきゃ。なんでわたしはこんなに動揺してるんだろう。 「葉子さん?」 「…え?ああっ!ごめん大丈夫だから!」 「そ、そう」 「じゃなくてコーヒーきたんだよね!?」 砂糖の入っている壷をつかむ。 「あ、葉子さん 01-265 名前:スイーツと香辛料9章「肯定による改心」4の続き :08/10/08 02 02 15 ID NggPzEH3 「あ、葉子さん、砂糖もう入って…」 「えっ!?あっ…」 テーブルの上に思いっきり砂糖をまきちらしながら壷が倒れる音がした。しかも私のコーヒーカップまでなぎたおしながら。 「大丈夫、葉子さん!?」 啓くんが駆け寄ってくる。わたしは下をむいて、盛大にかかったコーヒーで染まったスカートをみた。 「もう、最低…」 両手で顔をおおってわたしは泣き出した。今日は厄日だ。ひどい日だ。もういなくなっちゃいたい。 01-349 名前:スイーツと香辛料 9章「肯定による改心」5 :08/11/12 08 14 37 ID LCmam1N/ 椅子を後ろ足でけとばすように立ち、店を飛び出した。 「葉子さん!」 啓君の声をふりきって外に出て、人目のつかない路地に飛びこんだ。 「痛い」 イタイよわたし。悲しい。どうして啓君を惹きつけようとするとこんなことになるんだろう。恥ずかしい。何この格好。帰りたい… 突然両肩をうしろからつかまれた。声を出してしまう。 「見つけた」 啓君が息切れしながらそう言った。びくっとしたわたしを逃がさないように後ろから抱きしめられた。 「あっ…」 痛いくらい強く抱きしめられる。啓君らしくない。わたしは別の意味であせりはじめた。 「コ、コーヒーがついちゃうよ」 「いいよ」 そう言ってもっと強く密着してきた。いや、いいよっていわれても。 わたしはしばらく身じろぎしていたが、あくまでわたしをつかまえてはなさない啓君に負けて、力を抜いた。倒れるようによりかかる。 啓君はわたしが力を抜いたのを見てほっとしたように両腕をゆるめた。 「葉子さんがこのままいなくなっちゃうかと思った」 01-353 名前:名無しさん@ピンキー :08/11/12 21 43 07 ID LCmam1N/ 「……」 「よかった。火傷とかしてない?」 「大丈夫…」 「しみになっちゃうかな」 「け、啓君、その…」 「帰るか…服を買おうかな」 「啓君、あの、これ」 そういって今もわたしの体にぴったりまわされてる腕をさした。 「うん」 そういうものの、啓君はまったくはなしてくれる気配をみせない。 「は、はずかしくない?」 「ううん」 「そ、そう…」 どうしたのだろう、今日の啓君は……。わたしは戸惑いつつも体をもっとあずけて、テンパっていた自分がおちついてくるのを感じていた。 「葉子さんは、いや?」 「ううん…そんなことないけど」 くるり、と啓君がわたしを正面にむかせた。とっさのことだったのでまっすぐ啓君と目が合う。 一瞬わたしの息がとまったすきに啓君は今度は正面からわたしを抱きしめた。 「ありがとね」 「え、えっと?」 「色々気をつかってくれて」 「……」 「そのせいですごい負担かけさせちゃって…」 「それは…わたしが」 「ごめんなさい。そのおかげで葉子さんが好きってあらためてわかった」 「えっ…」 「あと、その…」 「……?」 「よ、葉子さんが、その、僕のことが好きなのもわかった」 息をのんだ。今度は自分から啓君を見つめる。 そのまま長い時間がすぎてから、わたしは笑って啓君の胸に顔をうずめた。 「わかった?」 「うん、ちゃんとわかった」 「啓君も、わたしのこと好き?」 「好きです。本当に好き」 わたしは胸の中でうごかない。このままでいたかった。 01-354 名前:スイーツと香辛料 9章「肯定による改心」7 :08/11/12 21 45 56 ID LCmam1N/ 「ごめんね。葉子さん」 「なにが?」 「僕がまえにギャルがどうとか言ったからじゃない?今日の…」 「あ、うん、いや…」 「あの時は、僕が、ええと…間違ってた!」 「え?」 「葉子さんとか友達の人とか、なんていうか綺麗な感じで華やかで―変とかっていう人もいるかもしれないけど― 今思うと、そういう人にちょっと憧れてたんだと思う」 「……」 「でもそんな人は、僕とかを下に見たりするんじゃないかなとか、そんな風に思ってて…」 それは、本当だ。わたしは……。 「でも、葉子さんが一緒にお店いってくれるようになって、その、つきあって、 今日とかこんな風に気をつかってくれて……自分の偏見だったな、って」 「見た目が似てても、皆が同じなわけではないとわかってたんだけど、 葉子さんで本当に実感した」 「……」 「だから、ごめんね。ありがとう。……大好きです」 啓君がゆっくりと、でも普段にないくらい饒舌に話すのをきいている間わたしはいたたまれない気持ちでいた。 涙が啓君の服をぬらしている。 「ごめんなさい……」 「うん?」 「わたしは、全然そんな風にいってもらえるような子じゃなくて!全然わたしは……!」 耐えきれず叫ぶように話すわたしの唇に啓君がひとさし指をあてた。 「え?」 「大丈夫。わかってる。葉子さんはそんな風にいえるひとだよ」 穏やかな笑みで啓君はそういって、…キスをしてきた。 はじめての―はじめてだったのだ―啓君の感触に、わたしは驚き、…やがて目をとじた。泣きっぱなしだったけど。 啓君の言葉はわたしがいわなきゃいけなかった。 彼みたいな人を、どうしてわたしはあんな風にみて、あつかってきたのか。こんなに自分を幸せにしてくれる人だったのに。 わたしが本当に「変わった」のはこの時だったと思う。 そのキスのあと、どうなったのかは、言わない。 9章終。10章「一週間」に続く。 01-387 名前:スイーツと香辛料 10章「1週間」1 :08/12/04 16 35 38 ID /rbhK8SS 心配性の両親が飛行機のチェックインの時間よりかなり早くつく時間にでるを見送って、 わたしは一人残されたうちの中で解放感につつまれていた。 少し親不孝かもしれないけれど、 今日から1週間わたしとかれのふたりきりの時間がはじまるのだ。 部屋は夏休みに入ってから入念にかたづけて、必要なものもそろえた。 その場のノリできめていこうと思うけれどやりたいことも何度もリストアップした。 あとはかれが来るのを待つだけだ。 啓くんは、わたしの大失敗の日以来すこし変わった。 その変化を思い出すだけで口元がゆるんでしまう。 みさきが「松崎くんもうすっかり葉子の彼氏になったね」といってるくらいだからまわりにもわかるのだろう。 二人でいるのが自然な感じにみえていればいいな、と思う。 少なくとも啓くんがそう感じているように見えることが、わたしを安心させる。 「あとは…」 ソファーに体をあずけてわたしは誰ともなくつぶやいた。 期待と不安が胸に切傷みたいにひびく。 啓くんは今日から1週間泊まりにくる。 その間ふたりきりなのはかれも知っている。 「わかるよね…」 でも、とかれには聞けなかった懸念がよぎる。 かつての自分の経験、過去、かれはそれを嫌がっていないだろうか…。 わたしがかつて「嫌いじゃない」ことを発見したことへの期待を軽蔑されたりしないだろうか。 ソファーのクッションをだいてわたしは黙りこんだ。 でもしばらくしてからわたしはふふっと笑って目を細めた。 「そんなの関係なくなるくらい、誘惑しちゃえばいいんだ」 01-388 名前:スイーツと香辛料 10章「1週間」2 :08/12/04 16 39 55 ID /rbhK8SS 11時10分前ぴったりにインターホンが鳴った。 「はい」 「あ、松崎です…。葉子さん?」 「うん、今開けるね」わたしは普段着っぽく、 でもそれなりに考えた服で啓くんを出迎えた。 「どうぞ。道迷わなかった?」 「大丈夫…おじゃまします」 啓くんは不安げにうちのなかをみまわした。 「どうかした?」 「いや…」 わたしは啓くんの手をとってひきよせた。 「あっ」 啓くんがバランスをくずしてわたしにもたれかかってくる。 「啓くん、まだうしろめたいんでしょう?」 啓くんは態勢をたてなおしわたしの言葉をきいてはっとした顔をした。 「うん…、ちょっとね。葉子さんといられるのは嬉しいんだけど… こんな大それたことしていいのかなって」 啓くんわたしの肩に手をおいて困ったような顔でいう。 「うん、そうだよね。わたしのわがまま。親に悪いともおもうけど…」 わたしは啓くんに抱きつく。 「どうしても一緒にすごしたいの」 啓くんは一瞬とまどい、その後わたしの腰に手をまわした。 「ありがとね。葉子さん」 一瞬強く抱きしめて啓くんはわたしの手をとった。 「1週間お世話になります。荷物はどこにおけばいい?」 「うん、わたしの部屋」 手をつないでスキップしかねないような感じで二階の部屋にいく姿は たぶん他人がみたら相当ひくようなものだったろう。 01-398 名前:スイーツと香辛料 10章「1週間」3 :08/12/05 10 25 50 ID exh8SRFU あまり見栄とかはったりはしなくていい。だけどやっぱり可愛いとは思われたい。 考えたすえに自分の部屋をわたしは少しだけいかにも「女の子」風な小物や色づかいをふやしてみた。 啓くんは同年代の女の子の部屋にはいるのははじめてだといっていたので、 これでドキドキさせられるかも、とわたしは含み笑いをしながら部屋に入った。 「どうぞ、荷物はそこにおいてね」 「あ、はい…。…きれいな部屋だね」 「そ、そう?ちょっと子供っぽくない?」 ちょっと恥ずかしくなってわたしはおおげさにベッドに腰かけた。ぽん、と弾む。 「ううん、いや、なんていうか、こういう女性の部屋に入るのはじめてで…」 啓くんは予想通りドキマギしながら目を泳がせている。 「啓くん」 わたしは両手をひろげて啓くん微笑んだ。 「え、いや、その」 啓くんは顔を赤くする。 「おいでー?」 わたしはからかうようにおどけていう。 啓くんはかわいそうな位動揺し、ゆっくりとわたしの腕のなかに入ってきた。 「葉子さん…」 啓くんがわたしの背中に手をまわす。 しばらくそのままわたしたちはくっついていた。 「葉子さん、ちょっと僕で遊んでるでしょう」 苦笑しながら啓くんがわたしの耳元でさ 01-400 名前:スイーツと香辛料 10章「1週間」3の続き :08/12/05 10 40 57 ID exh8SRFU 苦笑しながら啓くんがわたしの耳元でささやく。 「えー、そんなことないよ」 とわたしは余裕ある感じの声で返す。じつは本当にそんなことはなく心臓が痛いくらい早く鳴っていたのだが。「そうかな…?」 「そうだよ」 啓くんはそうか、といって少し安心したようにわたしをだきしめてきた。 「その、えーと、葉子さん」 「なあに?」 「馬鹿なこというみたいだけど…」 「うん…」 「幸せな感じとかこういうのをいうのかとか思ったり、その…」 啓くんのどもりながらの、でもおどろくほど素直な言葉にわたしはちいさく息を吐いた。この人はこういうところ幼いくらい無防備だ。その無防備さにわたしは泣きそうになる。 「わたしも…本当にそう思う」 「本当?よかった…」 「きっと忘れられない思い出になると思う」 「そ、そう。思い出になったときにも一緒にいれたらいいけど」 啓くんがぼそっと言う。それを聞いてわたしは強く抱きついた。 「一緒だよ、絶対」 正直、もうこの1週間を一緒にすごす目的ははたされちゃったと思うくらい、このときわたしは幸せだった。 01-428 名前:スイーツと香辛料 10章「一週間」1 :08/12/23 17 10 48 ID 3pGorMef ベッドによりそって座ると啓くんは部屋の隅をみて言った。 「あの袋とかはなに?」 「あれは泊まりのために色々買ってきたの。料理とかしようと思って」 「そうなんだ!ありがとう。じゃあお昼作ろう」 啓くんは急にいきいきとして買ってきたものを見ている。 変にサフランとか香草の瓶とか買ってきちゃったのは当たりだったみたいで、目を輝かせている。 「すごい!色々あるねー」 「ちょっと料理とかもっとやろうと思って。そのついでもあって」 「そうなんだ。費用僕ももたせて」 「いいよ」 「いやいや僕も使わせてもらうんだから…食材は?」 「ある程度は冷蔵庫に、あとはまた買ってこようかなって」 「そうなんだ!」 啓くんはうれしそうにお昼何を作ろうかとわたしに話してきた。 好きなことをやっていたり話している啓くんは本当にテンションが高い。 喜んでくれている姿を見てこの準備は正解だったなと思った。 「じゃあ台所いこうか」 「うん!」 料理はあるものとたくさん買った香辛料を活かせるものということで、ブイヤベース(のようなもの)にきめた。 わたしは料理は苦手で啓くんも料理を作る方はあくまで色々なお店の料理をよりはっきり味わうために少しやっているだけということなので、 あまり本格的なものを目指さず~っぽくいこうと考えたわけだ。 「緊張するなあ。ごめんね失敗したら」 「ううん、一緒に作るのが楽しいから」 啓くんは昼食の出来に責任を感じているらしい。 啓くんならそうだとは思ったけど、わたしに過大な期待をかけてまかせたりしてこないのに ホッとしたようなちょっと釈然としないような複雑な気持ちになった。 啓くんがもってきていた料理の本を見ながら調理をはじめた。 二人ともあまり手慣れていないので手間取ったが、 二人で野菜を切ったり海老をむいたりして話していると 啓くんがとてもリラックスして楽しそうにしているのがわかって、退屈はまったく感じなかった。 「あとはサフランとスパイスを入れて…」 啓くんが本を見ながら分量を計る。 「よし」 サフランが入り、鍋の中が黄色く色づく。そうするとそれなりにブイヤベースっぽくなった感じがした。 「あれ?」 啓くんが表情をくもらせた。 「どうしたの?」 「なんか黄色すぎるような…こんなもんかな…。あっ!しまった!?」 啓くんが本を確認して叫ぶ。 「ど、どうしたの?」 「…分量まちがえちゃった」 01-429 名前:スイーツと香辛料 10章「一週間」5 :08/12/23 17 14 56 ID 3pGorMef 啓くんが落ち込んでいるのを励ましながらも、 わたしはそのへこみ具合が可愛くて笑いそうだった。 「大丈夫だって。ちょっと辛いけどそんなに変わんないよ」 「ごめん…」 先ほどまでの勢いがうそのようにうなだれて啓くんがつぶやく。 「…やっぱり」 「ん?」 「いや…」 「やっぱり、なに?」 「…調子にのるとうまくいかないなぁって」 「調子にのる?」 「うん…」 「のってたの?」 「うん…」 「全然わからなかったけど…」 「…」 啓くんの顔がすこし赤いような気がする。 「ねえ、啓くん?」 「…葉子さんにいいとこ見せられると思って…」 小さな声でそう言って啓くんはうつむいた。ああ、そういうことか。 「わたしにいいところ見せたかったんだ?」 「うん…」 「それではりきってたんだ?」 「うん…」 「得意分野の料理がきたみたいな?」 「…そう、ってなんで葉子さんそんなニヤニヤしてるの?」 「えっわたしそんな顔してた?」 気づかなかった。でもたしかにわたしは彼の言葉に可愛いなあと思っていた。 マイペースで動じないようにみえる啓くんがわたしにそんな風に見栄をはってくれることがうれしかったから。 「このスープは啓くんみたい」 「え?」 「なんかそんな気がする」 「…どういうことだろう?」 啓くんが首をひねる。わたしにもよくわからない。 スープを口にしてその味をたしかめる。ちょっと辛くて色も不思議。でも。 わたしは突然腰をあげてテーブルごしに啓くんにキスをした。 呆然とする啓くんにわたしは、 「大好きってこと」 といっていたずらっぽく笑った。 01-440 名前:スイーツと香辛料 10章「一週間」6 :09/01/01 02 34 47 ID jNwz06JN 食事のあと部屋に戻ってゆっくりとこの一週間にやりたいことを話した。 啓くんはこっちの方のレストランを探して予約してくれていた。 またわたしの育った町や学校を見てまわりたいというのでそれも予定にいれた。 料理のリベンジも毎日やることにした。時間はたっぷりあるのだ。 そんなふうに予定を組みつつも、 わたしが一番したかったのは啓くんとこうしてとりとめもなくゆっくり一緒にすごすことだったので、 午後いっぱい二人で話しているのがとても楽しかった。 夜は地元の家族でよくいく欧風料理屋にいった。啓くんがいきたがったのだ。 「せっかく葉子さんの地元に来てるから知りたい」という。ちょっと恥ずかしい。 「このカレーはおいしいね」 「うん、ここの名物。黒胡椒の粒か大きいの」 「ほんとだ」 ちょっと顔馴染みの店長さんとかに見つからないいか心配だったけれど、混んでいたせいか大丈夫だった。 「おいしかった。雰囲気のいい店だね」 「そう?気に入ってもらえてよかった」 「うん、また行きたい」 「一週間あるからまた行ってもいいね」 「…そうだよね、一週間…泊まらせてもらうんだよね…」 啓くんが小さな声でつぶやく。そうこれから一週間啓くんはうちに泊まっていく。 啓くんは色々な心配で身をかたくしている。わたしも少し緊張していた。この一週間の最初の夜がくる。 啓くんはわたしに触れてくるだろうか。 9時過ぎにうちに帰ってきて、予約しておいたお風呂のお湯加減をみながらわたしはぼんやり考えていた。 啓くんは性格上、ちょっと驚くほどそういうことをしてこない。 わたしがねだったりしてようやくキスしてくれるくらいだ。 啓くんは異性とつきあうのがはじめてだし、遠慮してるのかなと思っていた。でもそれにしても、と思う。 01-441 名前:スイーツと香辛料 10章「一週間」7 :09/01/01 02 38 51 ID jNwz06JN わたしは正直そういうことがきらいじゃない。 前に一人だけつきあっていた人とそういう経験をしただけで遊んだりしていたわけではないけれど、 わたしは彼氏に求められて断れないという友達とかとは違って、 わりとむいているというか積極的な方のようだ。 だからこの一週間の泊まりはやっぱりそういう意味もあって計画した。 さすがに啓くんでもそのことはわかってると思う。 実際レストランからの帰り道こわばっていたのもそのせいじゃないだろうか。 お湯はあたたかかった。自分の部屋へむかう。 一緒に入ろうかとさそってみようか迷う。今朝は啓くんを誘惑しまくろうとか意気込んでいたのに、 実際面とむきあうとできない。それはある不安からだった。 「お風呂わいてるよ」 「どうも…。葉子さんお先にどうぞ」 「お先に…か」 「え?どうかした?」 「…別に」 わたしから誘いをかけたら啓くんはわたしを「ギャル」として軽蔑しないだろうか。 それがわたしの不安だった。啓くんは前にわたしにそんな風にみないといってくれた。 わたしも啓くんに偏見をもっていた自分がなんてバカだったんだろうと思って変わった。 でも前にわたしがそういうことを覚えたのは、 わたしが変わる前でいわゆるギャル的なつきあいかたや終わり方だった。 前の彼氏はそれほど嫌な人ではなかったし、後悔しているわけではない。 でも啓くんはそれをどう思うだろうか。きっと気にしないといってくれると思う。 でももし啓くんがわたしに手をだしてくれない理由がそこにあったら。 わたしから誘いはかけられない…。 「よ、葉子さん?」 「…ごめん。なんでもない。啓くん先に入ってきて。お客さんなんだから」 笑っていう。 「…葉子さん、もしかして怒ってる?」 「ううん…」 静かに答えてベッドに腰かける。横にいる啓くんの方を見ず「お風呂いってきなよ」という。 …しばらくして啓くんがわたしをだきしめてきた。 01-442 名前:スイーツと香辛料 10章「一週間」8 :09/01/01 02 42 54 ID jNwz06JN 「ん…啓くん?」 「今日葉子さんがだきしめてくれてすごく安心できたから。 僕もやってみようかなって」 「…ありがとう」 体を啓くんにまかせる。啓くんは後ろからだきしめながらわたしの両手をつつみこんだ。 わたしは啓くんの顔をみた。きっとわたしは赤くなってる。 「葉子さん、かわいいね」 啓くんがゆっくりキスをしてくれた。 わたしは一瞬とまって、ちからなく息をはいた。 「嬉しい」 「え?」 「啓くんからは、あまりしてくれないから」 「あ、ああ。いや、ごめん」 慌てている。 「もっとして」 わたしは目をつむっていった。啓くんが息をのむのがわかる。 少しして啓くんの唇の感触を感じてわたしのスイッチが入ってしまった。 そっとふれるように、でも相手を支配してしまうように、 相手をやさしくうけいれるように、あるいは相手の思うままに自分がうばわれてしまうように、 わたしは啓くんをもとめた。 啓くんは戸惑いながらもわたしにこたえてくれる。 わたしはまずいと思いながらも我慢しつづけてきた衝動に身をまかせてしまう。 「ごめんね。軽蔑しないで…」 行為をとめずかすれるようにいう。 啓くんは揺れる瞳でわたしを見ながらはっきりいった。 「葉子さんを信じてるから」 啓くんが力をこめてわたしをだきしめる。 「むしろ僕が葉子さんを傷つけるくらい狂っちゃいようでこわい。」 啓くんがわたしの首筋に口づけをしながらいう。 わたしは気を失いそうだった。 「大丈夫だよ。わたしも啓くんを信じてるから」 あとからふりかえると赤面してしまうようなことでもいい、 おだやかであたたかなふれあいであるとともに、 強引でおたがいが溶けて変わってしまいそうな危険がわたしは好き。 啓くんの手のままに染められてしまうような戯れも好き。 わたしが啓くんを翻弄してあやつるのも好き。 そのあやうくてでも相手をとても近くに感じることをしたい。 わたしは自らそこに溺れようとしていた。 …一週間たった。色々なことがあった。それを細かくはいわない。 でもこの一週間でわかったことがある。 わたしはもうはなれなれない。啓くんをけっしてはなさない。 01-443 名前:スイーツと香辛料 エピローグ :09/01/01 02 46 02 ID jNwz06JN ぼやけてしまうような、あたたかく陽があふれている日だった。 長い坂道をわたしと彼は歩いている。 スローモーションのようなまばたきするたびにすごく時間がすすんでいるような不思議な感じだ。 わたしは彼に微笑みかけ、そのあと急にはしりだした。 彼はわたしを目でおいかけて、 おもいきり陽の光に視力をうばわれてしまう。 わたしは坂道の上まで走った。彼を見下ろす。 最初はこんなふうにわたしが上にいるつもりだった。 彼がのぼってくる。同じ場所にたつ。 「坂きつかったね。やっと平らになった」 彼が笑う。 「うん。ここに啓くんと一緒に立てた」 「うん?」 「最初から、普通に、同じところで同じ目線でいればよかった」 「…葉子さん?」 「啓くん」 「…」 「本当にごめんね。ありがとう」 わたしは頭をさげた。 音が消え、すべてが止まった、と思うくらい静かな時間が流れる。 わたしはゆっくり頭をあげて、真っ正面の啓くんを見た。 「今日は、わたしがお店見つけてきたんだ」 「本当?ありがとう!」 「今日はわたしのおごり」 「え、それは…」 「お願い、そうしたいの」 「葉子さん…」 わたしは啓くんに右手をさしだした。 「行こう」 「うん」 啓くんがその手をとる。 穏やかな陽光の奔流に蒸発しそうに感じるほど包まれながら、 わたしたちは同じ高さの道を踏んで新しい場所へきえていった。 その手をけっしてはなさないで。 スイーツと香辛料 終
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最終更新日時:2020-02-22 08 52 25 (Sat) 画像 フォメ情報 獲得できる監督 総合力 6 無償配布:2015/07/22~2015/08/04限定 攻撃力 5 スピード 6 守備力 8 テクニック 2 中盤の構成力 6 パワー 5 3-4-1-2 難易度 6 スタミナ 5 肩書き ミラクル・パルマ ポジ 能力 属性 活躍選手 GK 知組 ブッチ? ゲアトルーヅ エルデラ セレーゾ ブルテズ RCB 知 デュラン? カノ カヌー グレイシー(5期) フレミー バイアーノ サンタクルス(3期) CB PTS 知組 センニーニ? ロスタ 長谷川康雄 グレイシー(3期) ローズ エルニーニョ マイナー(4期) LCB★ 個 マルゲリータ? ヴェンゲル コルテス マンチーニ グレイシー カノ エミリオ・ロペス RWB ヨルセン ガリアーノ マルコス ベラルディーノ(3期) RDH ビアッジョ(6期) ヒューズ(9期) キケ・エルナンデス(4期) キャメロン ガルシア(8期)ディマス マシャール(9期) テルチ(6期) △コリル(2期) △ルドルフ LDH★ 知 ビアッジョ? ヒューズ(6期) ランフォード(4期) ガリアーノ マルコス ガルシア ボイパ(5期)ケテラー ササ・トーレ ハシェック ターヒュッツ(4期) 川口光(4期) LWB イヴァノフ(7期) カルロス マンチーニ(5期) ジャンニケッダ コート(3期) ペトレスクババヤロー OH★ 感組 カルデロン? スライダー イライソス フロート コジーニョ ジョコビッチ 大野真一郎本間祐輔 アベル RFW 二宮和寿 ミラ バウベル ビーティー ミリュコビッチ(3期) ディアラ LFW★ 感個 クルチェト? デラート(4期) ボワニ クロイツ ランドフスキ(3期) ラミレス(8期) ビーティー(7期)バヤル ボールドウィン(5期) ズラタノビッチ ※…★はキーポジション キーポジション 司令塔 OH 抜群のキープ力と正確なキックで攻撃を組み立てる司令塔。華麗なテクニックとパスセンスが求められる。 万能型フォワード LFW オフ・ザ・ボールの動きに優れ、FWとして必要な能力を備えた万能型プレイヤー。個人技、組織プレーのどちらでもゴールを決める能力を持つ。 中盤の要 LDH 守備能力の高さを活かして攻守のバランスをとるポジション。豊富なスタミナが求められる。 ストッパー LCB カバーリング能力とボール奪取に秀でたストッパー。身体能力の高さを活かした1対1の強さが求められる。 監督理解度 攻撃型 バランス型 守備型 カラヴァン アクエル イエーガー ケルクホフ イ・ヨンス コンティ アルメイダ ゴンザレス ザイド・ファタラ ガウルテリオ 佐伯 シモンズ ダビーサス シマク ドイル チャールズ ジャンヌ 敏林 ベルナール ジョルジュ J・フィルマーニ ホッベル タウンゼント M・フィルマーニ 千波 ドラゴビッチ フルニエ フィオーセ ラクテオノフ フェルナンデス ハッサン ブリッジス フィヨルトフト デューラー リッター ルビーニョ ▲上へ 本日訪問者数: - 昨日訪問者数: - 名前 コメント 重複失礼しました。ホッベルだけ未確認 -- ななしー (2020-02-22 08 52 25) 理解度○ イエーガー コンティ ザイド・ファタラ J・フィルマーニ M・フィルマーニ フルニエ ラクテオノフ -- ななしー (2020-02-22 08 51 29) 理解度○ ゴンザレス フェルナンデス デューラー -- ななしー (2020-02-22 08 51 09) 理解度○ チャールズ 千波 -- ななしー (2020-02-22 08 50 52) 理解度△ シモンズ ドイル 敏林 ハッサン リッター -- ななしー (2020-02-22 08 50 34) 理解度△ シマク ジョルジュ タウンゼント ドラゴビッチ ブリッジス -- ななしー (2020-02-22 08 50 15) 理解度△ カラヴァン ケルクホフ アルメイダ ダビーサス -- ななしー (2020-02-22 08 49 56) 理解度× フィヨルトフト -- ななしー (2020-02-22 08 49 31) 理解度× アクエル イ・ヨンス 佐伯 ジャンヌ フィオーセ ルビーニョ -- ななしー (2020-02-22 08 49 07) 理解度× ガウルテリオ ベルナール -- ななしー (2020-02-22 08 48 04) シモンズ 理解度△ -- ななしー (2020-02-14 07 15 15) なんでパルマのユニもエンブレムも無いんだよ -- 名無しさん (2018-12-10 14 02 24) ケルクホフ、理解度△ -- 名無しさん (2015-08-14 17 04 55) 千波 理解度〇 -- 名無しさん (2015-08-03 08 07 07) ハッサン、タウンゼント、理解度△ -- 名無しさん (2015-07-25 09 04 02) フィオーセ理解度× -- 名無しさん (2015-07-25 09 03 27) ゴンザレス理解度〇 -- 名無しさん (2015-07-25 09 02 53) カラヴァン理解度△ -- 名無しさん (2015-07-25 09 00 01) ドラゴビッチ 理解度△ -- 名無しさん (2015-07-23 22 19 15) シマク 理解度△ -- 名無しさん (2015-07-23 22 17 25) ザイド・ファタラ 理解度〇 -- 名無しさん (2015-07-23 22 16 57)
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モルヌピラビル / メルク ■ Merck’s Covid Pill Might Pose Risks for Pregnant Women 「The NewYork Times(Dec. 13, 2021)」より機械翻訳👇 メルク社のコビット・ピルは妊娠中の女性に危険を及ぼす可能性がある。 モルヌピラビルはDNAにエラーを挿入する可能性があり、理論的には発達中の胎児、精子細胞、子供に害を与える可能性があることを示唆する実験的研究があります。 molnupiravirはCovid-19による入院や死亡のリスクを減らすことが示されているが、科学者たちはこの薬がヒトのDNAに変異を起こす可能性について懸念を示している。Credit...Merck, via Agence France-Presse - Getty Images ベンジャミン・ミューラー 2021年12月13日 メルク社の新しいCovid-19錠剤は、コロナウイルスのオミクロン変異体が高度にワクチン接種されたヨーロッパ諸国で患者を急増させている時期に、重症化のリスクが高いアメリカ人の治療オプションの状況を一変させるかもしれないという期待を抱かせた。 しかし、米国食品医薬品局(FDA)の専門家委員会が、モルヌピラビルとして知られるこの薬の認可を推奨することを僅差で決議してから2週間が経過しても、FDAはメルク社の申請を検討している。規制当局が直面している最大の問題は、この薬がウイルスの遺伝子を破壊するだけでなく、人間のDNAにも突然変異を起こす可能性があるかどうかということである。 科学者たちが特に心配しているのは、妊娠中の女性である。この薬が胎児の細胞分裂に影響を与え、理論的には先天性障害を引き起こす可能性があるからである。11月30日に開催されたF.D.A.専門委員会のメンバーも同様の懸念を表明しました。 "母体のリスクを30%軽減する一方で、胚や胎児をこの薬によるはるかに高い害のリスクにさらすことになるのではないか?" テネシー州メハリー医科大学学長のJames Hildreth博士は、この会議で次のように述べています。私の答えは "ノー "であり、妊娠中の女性にこの薬を服用するように勧める状況はありません」と述べています。 また、F.D.A.のアドバイザーは、父親になることを望む男性を含む他の患者にもリスクが及ぶ可能性があると指摘しているが、そのリスクはまだ十分に理解されておらず、メルク社は自社の研究では、この薬がDNAの突然変異を引き起こすという証拠はないと述べている。 重要なことは、モルヌピラビルがオミクロンに効くと期待されていることである。しかし、一部の科学者や欧州の規制当局からは、他の特定の治療法よりも効果が低いのではないかという懸念が寄せられている。モルヌピラビルは、症状が出てから5日以内に投与された場合、入院や死亡のリスクを30%減少させることがわかっています。 ここでは、この薬の作用と潜在的なリスクについて科学者たちが知っていることを紹介します。 モルヌピラビルはどのように作用しますか? モルヌピラビルが体内で処理されると、コロナウイルスの遺伝物質であるRNAの構成要素の1つによく似た化合物が生成されます。 これは、コロナウイルスが自分自身のコピーを作る際に問題となります。ウイルスが細胞内に侵入して複製を開始すると、化合物がウイルスのRNAに入り込み、ウイルスが生存できないほどのエラーを挿入してしまうのです。 「ロックフェラー大学の構造生物学の専門家で、コロナウイルスの抗ウイルス剤を研究しているエリザベス・キャンベル氏は、インタビューで次のように述べています。「とインタビューに答えています。 キャンベル博士によると、ウイルスはミスを重ねることで、最終的には停止してしまうそうです。そうすれば、体が感染を防ぐことができ、患者の命を救うことができるかもしれません。 問題は、ウイルスの遺伝物質の複製を妨害するのと同じ化合物が、DNAの構成要素に似たものに変化することである。そのため、患者自身のDNAや胎児のDNAにエラーが発生するのではないかと懸念する科学者もいる。 キャンベル博士は、「細胞が複製されるということは、モルヌピラビルから得られたDNA構成要素の1つのバージョンを取り込んでいるということです」と語った。 それはどのくらい深刻な問題なのか? ノースカロライナ大学の研究チームは、モルヌピラビルを単離したハムスターの細胞に32日間にわたって使用して調査したところ、この薬はDNAに変異を誘発することがわかりました。 これらの変異は、「癌の発生に寄与したり、胎児や精子の前駆細胞への混入によって先天性障害を引き起こす可能性がある」と、その研究の著者は書いている。 この薬は、成人には比較的少ない分裂細胞のみを標的とする。これは、あらゆる細胞のDNAを損傷する可能性のある放射線のような他の変異原と呼ばれる物質に比べて、リスクが小さいと言える。 しかし、ハムスター細胞の研究を主導したノースカロライナ大学チャペルヒル校のH.I.V.研究者であるロナルド・スワンストローム氏は、大人でも、例えば骨や腸の内壁など、分裂する細胞は十分にあるので心配だと述べている。また、男性は常に分裂している精子細胞を作っており、これが潜在的な変異をもたらす可能性があると指摘しています。 スワンストローム博士は、「この投与量が人間の結果という点でどのような意味を持つのか、誰も知らないと思います」と語った。「些細なことであればいいのですが、誰にもわからないと思います」。 メルク社の科学者たちは、スワンストローム博士の結論に異議を唱える手紙の中で、ハムスターの細胞はコビットの患者よりもかなり長い時間薬剤にさらされていたと述べている。メルク社によれば、げっ歯類で薬剤をテストしたところ、DNAの突然変異(変異原性とも呼ばれる)の兆候は見られなかったという。 メルク社のチーフ・メディカル・オフィサーであるロイ・ベインズ博士は、インタビューの中で「この分子は変異原性のリスクが非常に低いと考えている」と述べています。"この薬は5日間使用するもので、目的はウイルスを早く根絶することであり、これは長期的な治療ではありません。" ドリュー大学の生物学者であるブライアン・バーカー氏は、メルク社はネズミのデータを公表すべきだが、短期間の治療であるためリスクは低くなると述べた。また、単離されたハムスターの細胞は、「実際に生物の中にある細胞とは少し違う」ので、人間の場合にどの程度の危険性があるのかを知ることは難しいと述べています。 妊娠中のリスクとは? 胎児の細胞は常に分裂しているため、突然変異のリスクが高くなります。そのため、メルク社は妊娠中・授乳中の女性、および妊娠する可能性のある女性を臨床試験の対象外としました。 「ピッツバーグ大学医療センターの感染症専門家であるジョン・メラーズ博士は、「子宮内での人間の成長は、まったくもって驚くべき出来事の連続です。「と、ピッツバーグ大学医療センターの感染症専門家であるJohn Mellors博士は述べています。「何らかの方法でそれに手を加え始めると、大惨事になってしまいます。 メラーズ博士は、メルク社が妊娠中のラットにこの薬を大量に投与すると、発育異常や胎児の死亡を引き起こす可能性があると報告していたことを指摘した。 英国の保健当局は、メルク社のピルを妊娠中や授乳中の女性に投与してはならないとしている。また、妊娠の可能性がある女性は、薬を服用している間と服用後4日間は避妊すべきだとしています。 「もし私が妊娠していたら、この薬は飲まないでしょう」とキャンベル博士は言う。キャンベル博士は、「もし私が妊娠していたら、この薬は飲まないだろうし、子供や10代の若者、細胞分裂や分化が盛んな人には飲ませないだろう」と述べた。 科学者たちは、モルヌピラビルを安全に処方するための教訓として、古い抗ウイルス剤を挙げています。近年、強力なC型肝炎治療薬が登場する前は、医師はC型肝炎患者の治療にリバビリンと呼ばれる錠剤を併用療法の一部として頻繁に使用していました。 F.D.A.は、リバビリンを妊娠中の女性やそのパートナーである男性に投与してはならず、治療中および治療後数ヶ月間は妊娠を避けるべきであると警告しています。 ジョンズ・ホプキンス大学の研究者で、リバビリンでC型肝炎患者を治療した経験があり、現在はモルヌピラビルの研究を主導しているAshwin Balagopal博士は、「ラベルを読めば立ち止まることは間違いありません」と言います。「と、ジョンズ・ホプキンス大学の研究者で、リバビリンでC型肝炎患者を治療し、現在はモルヌピラビルの研究を主導しているAshwin Balagopal博士は述べています。 科学者たちは、この薬のメリットとリスクをどのように評価しているのでしょうか? 数週間以内にファイザー社は、メルク社のものより効果があり、人間のDNAに突然変異を起こす危険性がないと思われる独自のコビット剤について、政府から許可を得る予定である。 しかし、モルヌピラビルは今後数ヶ月のうちにファイザー社の薬よりも入手しやすくなると予想されており、その頃には国内でオミクロン変異体による患者が新たに急増する可能性がある。 バラゴパール博士は、「今あるものでできることをしなければなりません」と語っています。 高齢になったり、コロナウイルスに感染して重症化するリスクが高い状態になると、薬の効果がリスクを上回る可能性があると科学者は述べている。バーカー博士は、例えば、成人は日光を浴びることによる突然変異のリスクの増加を容易に受け入れると指摘している。 「Covid病のリスクが特に高い人は、そのリスクが突然変異のリスクを上回るかもしれません」と彼女は言います。"一方、子供を持つ予定のある若い個人や、妊娠中の若い個人では、別の薬を服用した方が良いかもしれません。" ノースカロライナ大学の研究者であるスワンストローム博士は、命を救う可能性のある薬であるにもかかわらず、ほとんど理論的ではない懸念を口にするべきかどうか悩んだと言います。 「この懸念を覆して、最善の結果を期待するのが良いのか?「それとも、懸念をオープンにして、今後どうすべきかを考え、何らかのコンセンサスを得る方がよいのでしょうか」。 さらに、"リスクが本当に些細なものであれば、それを与えないのは悪い間違いだ "とも述べています。 次に何をすべきか? 科学者たちは、メルク社に対し、DNA変異のリスクを調べたげっ歯類の研究結果をすべて公表するよう求めています。 また、何人かの専門家は、モルヌピラビルを投与された人々の長期的な健康状態を研究することを許可するよう求めています。そのデータは、この薬を服用した人が、予想されるよりも高い確率で癌になったり、先天性障害のある子供を産んだりするかどうかを示すことができるかもしれない。 メルク社の幹部は、F.D.A.の諮問委員会に対し、妊娠中にモルヌピラビルを服用した女性を監視するサーベイランス・プログラムを導入すると述べた。(この薬がこのグループに正式に認可されていなくても、女性は妊娠に気づく前にこの薬を服用する可能性がある)。 科学者たちは、コヴィドのリスクを減らすためには、ワクチン接種が最も安全で効果的な方法であるが、抗ウイルス剤はパンデミックの後期に対処するための重要な手段であり続けるだろうと述べている。 「カナダのアルバータ大学でモルヌピラビルを研究しているMatthias Götte教授は、「全人口が完全にワクチン接種されることはなく、免疫反応は時間とともに薄れていき、人々は感染するでしょう。 今後の流行にも大きな影響があります。モルヌピラビルは、SARSやインフルエンザなど、他の多くのウイルスにも効く可能性がある。しかし、科学者たちは、この薬が他のウイルスに対してより高用量で使用されなければならない兆候があると言い、そのリスクを理解することがより緊急に求められています。 「スワンストローム博士は、「2日目には次の流行に対してこの薬を使うことができるでしょう。「我々は少なくとも、この薬を長期的に使用することの意味を知る立場に身を置くべきです」。 レベッカ・ロビンズが取材に協力しました。 ベンジャミン・ミューラーは、健康・科学担当の記者です。以前は、ロンドンの特派員としてコロナウイルスのパンデミックを、ニューヨークの警察を取材しました。@benjmueller この記事の一版は、2021年12月14日付のニューヨーク版のセクションA、13ページに、見出し付きで掲載されています。メルク社のCovidピルは承認を待っているが、一部の科学者は人間のDNAを変えてしまうのではないかと心配している。Order Reprints|Today s Paper|Subscribe
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「いや〜マイクタイソンまた暴れたな」 タイソンがまたやらかした 加藤二代目石橋貴明襲名? 山本は人を殴った事が無い 山本がキレる瞬間 加藤の遅刻論 役者の世界 加藤の現場のお昼は出前の鴨南蛮ソバ 山本はセブンイレブンのおでん。しらたき3つ マネージャーマサの片山からの着信音 紅白勝敗予想罰ゲーム ライブ954の告知 @ズルコビッチ #05 @ベストオブ @ズリ魂 イラン産のキャビアは61歳orの女性へ 来週は長ランをプレゼント
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490 :名無しさん@ピンキー:2011/05/02(月) 00 15 52.39 ID LQUjg6tc 紳士服屋で。 「すすーつをつ・・・つくりにぃ!」 駄目だ・・・親から離れての初の買い物・・・引きニートの俺にはハードルが高すぎたかっ!? 「オーダーメイドのスーツですか?」 「は、はひっ!」 緊張でまともに喋れない! 「かしこまりました。ご予約はもう済まされていますか?」 「ごっご予約っ!?」 「当グループでは事前に電話でだいたいの寸法を言っていただければ、最寄り店がサンプルをご用意させていただいて、時間が短縮できるサービスを先月始めてCMでも大々的に・・・」 し・・・知るか!専らエロ板とエロサイト回ってる奴が、おっさんが出るCMなんて見るかよ!! 「へ・・・へぇ・・・」 「その様子ですとご予約はされておられないようですね?では、あちらの採寸室で採寸させていただきますので、どうぞ付いてきてください」 「あ・・・はい・・・」 男がリードされるなんて情けない・・・ そうして俺は女店員のあとを付いて行った。この後どうなるかも知らずに・・・ 491 :名無しさん@ピンキー:2011/05/02(月) 00 53 30.25 ID LQUjg6tc 俺は女店員に連れられて採寸室に向かっている 「お客様」 「はい?」 まだ着いてないのに突然なんだ? 「聞き忘れていたのですが、この時期ですと、就職活動用と言うことでよろしいでしょうか?」 「ええ、まあ・・・おかしいでしょ?20代後半の男が就活なんて」 ようやく10年前の高校のクラス委員として団体の中心いたときの感覚が戻ってきた 「いえ、そんなこと無いですよ。最近お客様くらいの歳の方も増えているんですよ?」 へぇ、そうなのか、そいつ等も親とスレに急かされたんだろうか? 「さぁ、着きましたよ。」 そういって店の奥の採寸室へ俺を誘うと彼女はカーテンをさっと閉めた。 何故かその時、彼女の目が光って見えた。 「ではまず、上の採寸から始めますね?」 「よ、よろしくお願いします」 彼女は袖丈、首周り、胴、胸囲とゆっくり測っていく。 「はい。上は終わりました。」 「ふぅ・・・」 緊張が一旦解かれた。彼女は用紙に寸法を記入していく。 「胸囲・・・はい。では下も測りますね。」 なぜか彼女が唇をなめた。 「ん?どうしたんですか?」 492 :名無しさん@ピンキー:2011/05/02(月) 01 13 31.11 ID LQUjg6tc 彼女が口を開く。受付の時と目付きが確実に違っている。なんというか、妖艶な・・・ たとえば、酔って下着姿で俺をからかう姉のような・・・ 「すいませんね、ウチは骨盤の周りも参考に測らせていただきますが、規則として勃起時のサイズで測ることになってるんですよ。ほら、あれって割と太くなるでしょ?おちんちん。」 「!!!?」 今さっき彼女はなんて言った?勃起とかオチンチンとか言わなかったか!? 「じゃあちょっと勃たせる為に失礼しますね。」 というと彼女はブラウスのボタンを一個ずつ外していく 生で見るその光景に目が釘付けになり動けない。 「どうですお客様?こういう紫のスケスケブラとかは好みじゃないですか?じゃあ外しますね。」 「え・・・えぇ!!?」 童貞の俺には刺激が強すぎる!個室で美女のストリップを見せられているのだ。すでにチンコはフル勃起である。 「あら、もう勃っちゃったんですか?じゃあ先に採寸して、次しちゃいましょうか。」 さ・・・先って何だ!?? 彼女はメジャーで俺の腰辺りを素早く測ると すばやく俺のジッパーに手をかける。 「やっぱり先ってそっちの・・・」 その後俺は第4ラウンドまで搾り取られて童貞を卒業した 493 :名無しさん@ピンキー:2011/05/02(月) 01 27 58.60 ID LQUjg6tc 受け取り日にほかの男店員が教えてくれたが、搾精は彼女のやり方で、 勃起時と言うのは勿論、彼女のルールだそうだ。(骨盤まで測るのは会社の規則) なんでも関西出身(関西の1人称は ウチ )で、ほかの店員も男女問わずに全員搾られて、 しかも技術の高さでほぼリピーター化、支店長もはまって言うに言えないそうだ。
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74 :名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 00 30 17 ID ITQlPvgH ねぇ、○○君。 アタシさ、君の事誤解してた。 始めは暗くてつまんないオタクって思ってた。 でも話してる内に○○君の良いとこいっぱいわかったよ? 色んな事知ってるし、真面目だし、でもアホなアタシの話も馬鹿にしないで聞ちゃんと聞いてくれるし。 それに、最近オシャレに気を使い始めたじゃん? だから…すごく、カッコ良くなったっていうか… …うん。別に悪いって訳じゃないよ? でもアタシは…その、○○君の見た目に惚れた訳じゃないっていうか… それに、○○君がカッコ良くなるとアタシ以外の人もアプローチかけてくるかもっていうか… …え?やだ!別に何も言ってないよ! 気のせいだって! えっとね? 用事なんだけど… ○○君、今度の日曜日、試験無い日でしょ? だから、二人で映画行かない? うん、初めて会ったあそこ。 ○○君の好きな「叙情的レイプ」の劇場版、試験で忙しくてまだ見てないって言ってたよね? もう公開から一ヶ月だし、息抜きがてらそこに見に行こうよ。 …ホント?やった!久しぶりのデートだ! あ、でも、見終わったらアタシの行きたいとこにもつき合ってね? どこかって?ひ・み・つ! じゃあ、また日曜日ね~! やった!久しぶりに○○君と二人きり… 久々に日曜は甘えに甘え尽くしてやるわ! そして日付が変わる頃には… ウフフ…最近あのお嬢様が彼の魅力に気づき始めたみたいだけど… 彼だけは絶対に渡さないわ! 清楚さとか、知的さじゃあ、絶対に敵わないけど…愛なら負けない! それでも駄目なら… フフフ…○○君、アタシをここまで本気にさせた責任、しっかり取って貰うからね…
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02-12 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 49 29 ID HqxVed2u <白蟻の女王>・上 「――ぼ、僕と、結婚してください」 勇気を振り絞った、一言だった。 それは、一年の喪も明けない女(ひと)にとって、 あまりにも失礼なことばであることは、僕だって分かっていた。 でも、その時、そう言わなければ、どうしようもないくらいに、 僕の胸は、硬くて熱い、やるせない塊によってふさがっていて、 そうしなければ、きっと心臓が張り裂けてしまっていただろう。 結宇歌(ゆうか)さんは、何も言わずに僕を眺めていた。 見詰めていた、わけではない。 まるで、飼っている犬がことばをしゃべった、 とでも言うような視線で僕を眺めたのだ。 その冷たい視線に、僕は、彼女が怒り出すのか、と身を縮みこませた。 (失礼な事を言った) ものすごく、失礼な、彼女の誇りと名誉を傷つけるようなことを言ってしまった。 僕は、そう思って、馬鹿な自分の頭を金槌かなにかで打ち割ってしまいたくなった。 だけど、彼女の感じた「失礼」とは、僕がその時思った「失礼」とはちがった意味を持っていたようだった。 「お受けしますわ、節夫(せつお)さん」 「……ほ、本当ですか!」 「ええ」 結宇歌さんは、こくりと頷いて、それからため息をついた。 そうして、天にも登る気持ちでいる僕に、頭から冷や水をかける。 テーブルの上のコップからではなく、 睫(まつげ)の長い綺麗な瞳から見据える視線と、 紅も差していないのに赤い唇から漏れることばで。 「――今の私の身体の価値など、せいぜい貴方が買える程度のものなのでしょうから」 02-13 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 50 00 ID HqxVed2u 結宇歌さんは、僕の兄貴、幸雄(ゆきお)の女だった。 正式な結婚は、していない。 遊び人で知られた兄貴が、奥さんを亡くしてすぐに連れてきた女(ひと)だ。 先妻の存命中から、男女の関係だったらしい。 地元の大きな神社の跡取り息子として育った兄貴は、 東京に出て冴えない勤め人で一生を終わる予定だった僕なんかとは違い、 色んな世事に長けていて、まあ、女性のこともお盛んだった。 だから、「鄙には稀な、臈たけた」という形容がぴったりの結宇歌さんを連れてやってきたときは、 嫂(あによめ)の一周忌が済んで、実家でぼぉっと帰りの汽車の時間を待っていた僕たちをたいそう驚かせた。 歳は、僕より五つか、六つか上だっただろうか。 三つになる娘さん──春菜(はるな)ちゃんの手を引いて神社の鳥居をくぐってきた結宇歌さんを見たとき、 僕は、心臓がとてもドキドキとして困ったことを覚えている。 あれから、十年。 連れ子が居たことがネックになって親戚中から結婚を反対された兄貴は、 表向きは結宇歌さんを神社の巫女さんとして雇い、囲った。 それは、情婦とか愛人とか、世間では言うのだろう。 「嫁として正式に籍を入れるのは、二人の間に子供が生まれてから」 親戚筋には、そんなひと昔前の農家のような約束で納得してもらった兄貴は、 結局、結宇歌さんとの間に子供が出来なかった。 ──結宇歌さんを囲ってすぐに、別の新しい愛人を作ったことも、それは多分関係しているのだろう。 そうして、住み込みの巫女として神社に働き始めた結宇歌さんの生活が始まり、 そして、僕の帰郷の回数が増えた。 僕は、兄貴が囲った愛人に、恋をしたのだ。 十年も続いた、ひっそりとした、実らないはずの恋を。 ──そして、それは、実ってしまった。 冷たい、冷たい、苦い果実を。 02-14 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 50 31 ID HqxVed2u 「ふう」 慣れない文字を見詰めていると、目が痛くなる。 水でも飲もう、と思って席を立ち、思い直して外に出る。 「うーん」 午前中の柔らかな日差しのもとで伸びをすると、身体中の骨がぽきぽきと鳴った。 東京での務め暮らしで、書類の整理などはお手の物のはずだけど、 ここで使うものは、難しい漢字が多くて難儀する。 神社の息子として、一応、大学で資格は取ってはいたけど、 跡取りは兄貴と決まっていたから、僕はそれほど身を入れて学んでいなかった。 まあ、兄貴もそんなに勉強したとは思えない。 だけど、卒業後も仕事としてずっと神事に関わり、 親父の死と同時に神職を継いだ兄貴と、 正真正銘、10年もそうしたことから離れていた僕では、雲泥の差があるだろう。 (それでもなれてしまうのが、田舎なんだな) 自分で苦笑してしまう。 由緒正しい神社では、神主職の代替わりなどは大変なもので、 この間も前職の子供に継がせようとしたら、年齢が足りないと本庁が別人を任命して、 地元の氏子ともめた話まである。 だが、うちの神社などは、大きくてもそれほど権威があるものでもないらしく、 僕の継承は、すんなりと通った。 生まれ育った僕は気付かなかったけど、 ──ここはよっぽどの田舎だ。 僕が、不意にそれを認識したのは、 向こうで玉砂利の庭を掃く、結宇歌さんの後姿を見たからだ。 長い黒髪と、緋袴が陽光に映え、もうすぐ三十の僕よりも年上なのに、 きびきびしたその姿は、まるで少女(むすめ)のようだ。 鄙には稀な、佳人。 こんな田舎にいるべきでない、女(おんな)。 (……結宇歌さんは、ここで不便を感じているのかも知れない) 02-15 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 51 02 ID HqxVed2u 告白と、その受け入れ。 無味乾燥な、やり取り。 昨日のことだ。 その一分にも満たない会話の後、僕は結宇歌さんと話をしていなかった。 神社の中は、祭りでもない限り、神主の僕と、巫女の結宇歌さんしかいない。 なんとなく顔を合わせづらくて、朝の挨拶を済ませた後、 僕は作務所の奥に引きこもって書類とにらめっこし、 結宇歌さんはいつものように掃除を始めた。 そのことを忘れて外に出てしまったのだから、僕は間抜けだ。 しかたないから、結宇歌さんのいない裏のほうに廻る。 そして、僕は、立ち止まった。 「……ああ、枯れてたんだ」 社の裏手にある、松の木が枯れているのを見て、僕はそんな独り言をした。 神社のご神木は、表にある柏の木だけど、同じくらいの大きさのこの松は、 裏手にあることといい、枝が低く張り出していたことといい、 何より、ご神木とちがって、登っても大人に怒られないから、 子供の時分、ずいぶんと木登りしたものだ。 近所の子供たちにとって、親しみ、という点ではこちらの松の木のほうがよっぽど強い。 こちらに戻って三ヶ月にもなるけど、 今日、やっとそれに気がついたのだから、僕の鈍さも相当のものだ。 「……寿命とは思えないけどな」 柏も松も、子供の頃は天まで届くような大木に思えていたけど、 戦災で一度焼けて植え直したはずだから、まだ若いはずだ。 「病気でもしたかな──」 近寄って、木がスカスカと、虫食いだらけになっているのに気付く。 「これは……」 「――白蟻、ですわ」 不意に後ろから声をかけられて、びっくりして振り向くと、 そこには、箒を持った巫女服姿の結宇歌さんがいた。 02-16 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 51 32 ID HqxVed2u 「……白蟻?」 「ええ。何度か薬を撒いてもらったのですが」 結宇歌さんは、白くなっている松の根元を指差して言った。 「本当だ。随分喰われている」 手で触れると、松の皮はボロボロと崩れた。 この分では、表皮の残っている部分と中の硬い芯を除けば、木は空洞状態だろう。 「切らなきゃならないかな、これは」 倒れたりしたら、危ない。 「いい木だったのにな」 小学校の何年生だったか、てっぺんまで巧く昇れた日に見下ろした街の風景を ふと思い出して、僕は柄にもなく感傷的なことばを言った。 「――関わるからです」 結宇歌さんが、不意に、そう言った。 「え?」 思わず聞き返す。 「――白蟻と、関わるからです」 結宇歌さんはそう言って、僕をまっすぐに見た。 「白蟻って……」 言われた単語は分かる。 意味も、まあ分かる。 だけど、関わる、とはどういうことだろう。 まるで松が、人でもあるかのような結宇歌さんのその言い方に、 僕は不思議さと、そして暗さを感じた。 「……なんでもありません。ところで──」 結宇歌さんは頭(かぶり)を振って、その話題を打ち切り、 そして、昨日のように僕をまた眺めた。それから、 「……今晩から,しますか?」 そう、僕に聞いた。 「え……な、何を……」 「セックスを、です」 02-17 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 52 03 ID HqxVed2u 思わず聞き返した僕に、結宇歌さんは無表情で答える。 「そんな……」 セックスなんて言葉、下世話な週刊誌か何かでしか見たことがない。 学生の頃、遊んでいる連中が好んで口にするのを聞いたことはあるが、 女性がそんなことを平気で言うのを聞くのは、 怪しげなカフェに出入りしている奴ら以外、初めてだった。 もとより、参拝客もいない午前中とは言え、神社の境内で神主と巫女がするような会話ではない。 だけども、結宇歌さんはその話題から僕が逃げる事を許さなかった。 「どうせ、いつかはすることです。 節夫さんも、――それが目的で私に求婚したのでしょう?」 「そんな……」 「いいんです」 結宇歌さんは、強い光の宿った目で僕を見ながら言った。 だけど、その光は、恋とか、愛とか、そういうものの甘味のある強さではない。 見られる僕が、身をすくませて、返す言葉もなくしてしまうような、光。 やがて、いつまでも黙っている僕に、結宇歌さんは、ふっとため息を漏らした。 それは、張り詰めた緊張を和らげるものではない、 嘲笑のような、自嘲のような、吐息だけの笑い。 「親娘二人の面倒を見てもらうんですもの、 私の身体くらいは、自由にさせてあげます。 ──春菜の父親と、幸雄さんにさんざん遊ばれた、 使い古しでよろしければ、の話ですけども」 「……」 舌が乾いて、強張る。 何も言えない。言い返せない。 そんな僕を、結宇歌さんはじっと眺め続け、やがてもう一回ため息をついた。 「よろしいようですね――では、今晩から、セックスをしましょう」 それだけ言い捨てて、結宇歌さんは表のほうに歩み去り、 後に取り残された僕は、午(ひる)前の陽の光の中で、 まるで身体が凍ったように動けなかった。 02-18 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 52 34 ID HqxVed2u 「はじめに、言っておきます。――これは、売春です」 「……」 「節夫さんが、私と春菜を養ってくれることへの、お礼です」 「……」 「見ず知らずのコブ付女を食べさせてくれることが、 どれだけ大変かくらいは、私にも分かります」 「……」 「ですから、私は、節夫さんにセックスをさせてあげます。 セックスで、私ができることは、なんでも。 それで十分な謝礼になっているかどうかは──節夫さんが判断してください」 ……この女(ひと)は、何を言っているのだろう。 夕飯のときにビールを飲みすぎたのが悪かったのか。 頭がしびれたようにぼうっとしている。 午後に散歩をした折に、酒屋で買い求めて、大瓶三本も飲んでしまった。 普段は日本酒も飲まない僕が、急にそんなものを買ったものだから、 酒屋の爺さんはびっくりしていたっけ。 ああ、何の話をしていたのだろう。 僕は、ぼんやりと、敷いたばかりの布団の上に正座して、 僕のほうを眺めながら、きちんきちんとした言葉を投げかけてくる結宇歌さんを見詰めた。 頭がよく働かない。 だから、彼女が言ったことばの半分も、僕は理解できていなかった。 ただ──、 「――幸雄さんも、それでいいと、私を抱きました」 結宇歌さんがそう言って、それまで無表情だった美貌に、 ちょっと妖しい微笑みを浮かべたときに、 急に世界が反転したように、どっと僕の中に強い感情が沸き立ったことだけは覚えている。 02-19 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 53 05 ID HqxVed2u どくん、と心臓と性器が跳ね上がるように脈動する感覚。 豆灯の灯りで照らされる薄暗がりが、急に鮮明になり、 同時に視界狭窄にでもなったように、目の前の女(おんな)しか見えなくなる。 不意に、その彼女が笑った。 僕に聞こえるくらいに、声をあげて。 「節夫さんは──童貞ですか?」 「……!」 それは事実だった。 三十間近のこの年齢になるまで、僕は結婚したことがなかったし、 学生時代に恋人もいなかった。 東京で勤め人になるようになっても、どうしても吉原当りに繰り出す勇気もなく、 そのままずるずるとここまで来てしまったのだけど──。 「なら、せいぜい楽しませてあげますわ。 こんな年増女でも、節夫さんを男にしてあげるくらいのことはできますから」 そう言って、結宇歌さんは夜着の裾をまくった。 下着を着けていないそこは、僕がはじめて見る女性の部分で──。 僕は、何も考えられなくなって、結宇歌さんに抱きついた。 目に前に差し出された生々しい牝の肉。 それは、好かれてもない相手だというやるせなさも、 兄貴や、その他の、別の男たちに対する嫉妬心も、 何より、急に手に入った地位と金で女の身体を買う、 という行為の罪悪感さえも僕の中から忘れさせて、 その代わりに、自分でも怖くなるくらいに強い獣欲だけを与えた。 そして、僕は、その衝動に耐えられず、何度もその女体の上に乗り、 したたかに精を放ち続けた。 02-20 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 53 38 ID HqxVed2u ぼんやりと覚えている。 「そう。そこ――あせらないで」 「あっ……そこ……」 「動いて……」 「そう。そのまま……出してください」 「……まだ、するのですか」 「そう……じゃ、このままもう一回……」 オレンジ色の闇の中で、僕はいったい何をしたのだろうか。 植えた野犬か、狼のように襲い掛かったのに、 僕の下の甘い肉の塊は、当たり前のようにそれを受け止め、 息をするか、水を飲むかのように、淡々とそれを進ませて行く。 吉原などで春をひさぐ女たちというのは、 あるいは、こういう風に男を捌いて行くのだろうか。 売春。 食べさせる、生活の面倒を見るということを代価と考えれば、 夫婦の間柄でさえ、それは、こういうものなのかもしれない。 しびれた頭で認識できるのは、何事も混沌とした泥のようなものだけで、 僕は、ただただ、その泥の中に、 同じくらいにどろどろとしたものを放ち続けることしかできなかった。 02-21 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 54 08 ID HqxVed2u 朝。 畳の匂い。 差し込む白い光。 小鳥のさえずる声。 ――自分の姿を認識して罪悪感に打ちのめされる時間。 僕は、自分が最悪な下種であることを認識する。 生活、いや、金銭(かね)で――好きな女を自由にする。 女を、買う。 憧れていた女性を、娼婦に、売春婦にする行動。 そして、自分からそれを受け入れる女(ひと)。 罪の意識は、混乱と失望感にまみれていた。 「……おはようございます」 僕が目覚めたのに気がつき、兄の愛した女性は、髪を結い上げながらそう挨拶をした。 鏡台に向かって手早く支度をしながら、まるで、昨晩のことがなかったように、振舞う。 「……」 僕は、何も言えず、視線をそらす。 「これから毎晩――させてあげます」 後ろを向いた結宇歌さんが、そう言った。 そういうことをしても、まったく傷つかない女(おんな)の声で。 「……僕は……」 なぜか、その時、黙っていられなかった。 「僕は、貴女のことが好きです……」 なぜか、そう言った。 十年もずっと言えずにいたことばなのに。 「――そういうことを、言わないでください」 結宇歌さんは鏡台のほうに向いたまま、静かに答える。 「ごめん。でも――」 「それに、ことばが間違っています。 好きです、ではなく、好きでした、――でしょう?」 「……」 02-22 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/03/29(日) 00 54 39 ID HqxVed2u 「私は、節夫さんが心の中で勝手に考えていたような女ではありません」 「……」 「私は――そうね。白蟻ですわ」 「え……?」 「覚えてらっしゃいますか、昨日の松の木」 「……ええ」 「私は、あれにたかっていた白蟻のような女です。 うかうかしていると、貴方もあの松のように喰い尽くされますわ」 「それは、どういう――」 「……ふ、ふふ」 小さく笑って、結宇歌さんは立ち上がった。 僕のほうを見もしないで、寝室から出て行く。 「……では、また今夜」 そう言って。 「……」 一人取り残された僕は、なぜか、結宇歌さんのその後姿が、 振り返ってくれるような気がして、ずっとそれを目で追った。 廊下の角を曲がるとき、結宇歌さんは一瞬立ち止まり、 だけど、そのまま足をすすめて、僕の視界から消えた。 「白蟻……」 僕は、阿呆のようにつぶやいて、今度こそ部屋に一人で取り残された。 ここまで 02-69 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 11 52 ID j5ZpYlFF <白蟻の女王>・下 「――節夫さんは、フェラチオというのはご存知ですか?」 オレンジ色をした幻想の世界で、結宇歌さんがささやいた。 「……こ、ことばだけなら……」 「……そうですか」 布団に横たわった僕に添い寝する年上の女(ひと)は、 僕の性器を握って弄びながらささやき続ける。 「……もとは、赤線や青線の女郎のすることだったそうです」 「は、はい……」 「それも、普通はしないことだそうです」 「そ、そうなんですか」 「ええ。商売女でも、そんなことをする人は二種類だけ」 「……」 「一つは、馴染みの上客だけにする最高のサーヴィス」 「……」 「もう一つは、もう客がつかなくなったお茶挽きの年増女郎が、 客を寄せるために使う生計(たつき)の技」 「……」 「私のは、どちらでしょうね」 「それは――」 「ふふ、私にとって、節夫さんは最高の上客です。 ですけど、やっぱり、私はお茶挽き女郎ですわね。――します」 いつの間にか、仰臥する僕の下半身のほうに移動していた 僕の物が、含まれる。 女の人の唇に。 結宇歌さんの口に。 ぬめり、とした柔らかいものが触れる。 「うわっ……!」 未知の快感に、僕は布団の上で、陸に上げられた魚のように跳ねた。 02-70 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 12 22 ID j5ZpYlFF 「ふふ――」 結宇歌さんが冷たく笑う。 格下の男を嘲笑(わら)う、軽蔑の笑み。 軽蔑しながら施しを与えるように、サーヴィスをする女(ひと)。 僕は、酷薄な女神に使える氏子のように、それを求め、 結宇歌さんは、それを受け入れる。 僕の先端に舌がそっと這う。 溝を掘りおこし、一番張り出した縁のカーブを沿い、 浮き出た血管をなぞりあげる。 そのたびに、僕は、阿呆のようにうめいて身じろぎした。 「……感じますか?」 「はい……、すごく……」 「敏感なのですね」 その声に、僕は赤面した。 女をあまり知らない――つい先日、この女性で知ったばかりだ――ことが、 なんとも恥ずかしく、情けなく思える。 こんなとき、何を言えばいいのだろうか。 「……気持ちいいです、とても。こんなのは、はじめてです」 それだけを、僕の下半身に身をうずめる影に答えた。 「……」 はっとしたように、結宇歌さんの動きが止まる。 僕を軽蔑したような含み笑いの気配さえ、消えていた。 「……?」 「……私、そんなにこれが上手くないそうです。 あま気持ちよくない、と言われてました」 ぽつりと、結宇歌さんがつぶやく。 「そんなこと――」 女性の口で愛撫してもらう。 しかも、こんな美人で、ずっと好きだった女性に。 02-71 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 13 02 ID j5ZpYlFF 「これが、気持ちいいことでなかったら、 いったい、何が気持ちいいことなのでしょう」 僕は、少々ムキになって言った。 馬鹿らしいことだけど、その時、僕は、 大事に思っている物をけなされた気分になっていたからだ。 「知りません。――幸雄さんは、私はへたくそだと言っていました」 結宇歌さんはそう言い、言ってから、はっとしたように僕を見た。 正確には、豆球の灯りの下で結宇歌さんが本当にこちらを見ているのか わからなかったけど、僕は、そう感じていた。 「……ごめんなさい」 「いえ……」 結宇歌さんの口から兄貴の名を聞き、僕は、複雑な思いに駆られた。 「あの――」 「はい」 「兄貴のこと、好きだったのですか?」 馬鹿な問いだ。 それを聞いて、どうしようと言うのだ。 「いいえ。本当の事を言えば、それほどは――」 ほら、予想外の答えを聞かされて動揺してしまうではないか。 はい、と答えられても、僕の心はざわめいただろうに。 「――私は、ずっと昔に、好きな人がいました」 「……」 「今でも好きです。私の心は、ずっとその人のもの」 「……」 「でも、その人とは結ばれませんでしたし、 心がここになくても、身体は生きることを要求します」 「…… 「だから、私は、こうして身体を売って生きています。 さすがに女郎さんにはなれませんが、それと同じようにして」 「……」 02-72 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 13 33 ID j5ZpYlFF 闇の中、僕の下半身の上に、僕の考えもつかない生き物がうずくまる。 そして僕に、僕の知らない生き方を告白する。 「……その人は、春菜ちゃんの――」 「いいえ、私のあの人は、春菜の父親ですらありません。 私は、春菜の父親にもひどい事をして逃げたのです」 「そうですか――」 「ね、私、ひどい女でしょう?」 「そんなことは――」 「だから、私は、幸雄さんや貴方に、 こうしたサーヴィスをして生きている身になったのです」 「……そんなことを言わないでください」 「まあ、――なぜ?」 結宇歌さんの声音が変わった。 それは、明らかに、僕のそのことばを待っていた声だ。 準備して、待ち構えていたから、すぐにそう言えたのだ。 「――私に、こうさせるのを期待していたのは貴方のほうですよ?」 話している間も愛撫を続けて猛々しくなっている性器を前にしては、反論もできない。 結宇歌さんは、それを十分承知して、そんな話に流れを持って言ったのだ。 長い間欲しくてやっと手に入れた――買うことができるようになったおもちゃを、 手に入ったからは散々遊び倒さなくてはいられない、助平で浅ましい心を知った上で。 セックス。 女性と交わることができる、という快楽は、一度手に入ると捨てがたい。 彼女の身の上を知った上で、 でも、僕はこの女性の肉体を好きに出来るという快感に 手を着けずにはいられない、卑怯で意思の弱い男だ。 そうして、結宇歌さんはそれさえも知り尽くしていて――。 何も言えずにいる僕に、結宇歌さんはまた軽蔑したように微笑み、僕の物をそっと咥えた。 今度は、すぐに僕は爆発して、年上の女の人の口の中に精液を噴き出す。 結宇歌さんは、僕の漏らした精を、こくり、と音を立てて嚥下した。 ――その時、何かが、僕の中ではじけた。 02-73 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 14 04 ID j5ZpYlFF 「――結宇歌さん!!」 「何を――!」 驚いたような結宇歌さんの声。 大人しいと思っていた生き物が、突然肉食獣に変わったような驚愕を、 僕は感じ取り、そして丸ごと飲み込んだ。 力任せに、結宇歌さんの裾を割る。 「や、やめてくださ――」 慌てたような声を挙げる女(ひと)。 そこに恐怖よりも、戸惑いと羞恥を強く感じ取ったから、 僕は、それをやめなかった。 広げた太ももの奥に、顔を突っ込む。 獲物にかぶりつく野犬のように。 「何を――、やめっ──」 そんな悲鳴さえ、甘やかに感じる。 馥郁(ふくいく)とした匂い。 成熟した女性の、湿った性器の匂い。 僕は興奮し、その場所にむしゃぶりついた。 ――舐める。 舐めあげる。 女の人の性器を。 好きだと思った女性の性器を。 10年前に心を奪われた女性の生殖器を。 「あっ……!」 太ももを閉じようとする結宇歌さんの抵抗は、 しかし、決定的なものには感じられなかった。 必死に見える。 全力に思える。 本気に思える。 だけど、それは、僕のその行為を止めるだけの力はなかった。 02-74 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 14 34 ID j5ZpYlFF どこかで聞いたことがある。 (女が本気で抵抗すれば、男の力でも決して股は開けないものだ。 嫌よ、嫌よと言っていても開かせられたんなら、 まあ、向こうもその気ってこったなあ) それは、兄貴が酔っ払って言ったことだったか、 勤め人時代の上司が宴席で上機嫌で話した猥談だったか、それは忘れた。 だけど、その話の中身だけはなぜか頭の片隅に焼け付いて離れなかった。 こうして――。 こうして、僕が唇と舌を這わせていて、本気で抗わないということは、 結宇歌さんは、――そういうことなのだろうか。 わからない。 わからないけど、僕は、それを頭の片隅に押しやって夢中で舐めた。 「駄目です、そんなところを――汚いです」 「汚くなんかありません。結宇歌さんのここは――素敵です」 実際、そう思う。 性器は、排出器官を兼ねる。 僕の舐めているこの粘膜の洞(うろ)のすぐ傍に、 結宇歌さんが小水をする孔(あな)がある。 でも、欲情した牡にとって、それは、嫌悪感を抱かせるものではない。 むしろ、今、抱え込んでいる牝の一番恥ずかしい部分を覗き込んでいるその実感は、 欲情を煽るだけの効果をもたらした。 「女の人のここの部分は、よくわからないです。 だから、もっと見せてください」 熱病に浮かれたような声は、僕の口から漏れたものだろうか。 僕は、前にも倍する熱い視線と、口付けを結宇歌さんのその部分に注いだ。 「ひっ」 結宇歌さんは、慌てたような声を上げる。 その声の必死さは、抵抗よりも、むしろ未知の体験への畏れを感じさせた。 未知……? 違和感のようなものを抱きかけた瞬間、結宇歌さんが仰け反った。 02-75 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 15 05 ID j5ZpYlFF 「ああっ、だ、だめえっ――」 それは、初めて聞く結宇歌さんの甘い悲鳴。 今まで、諦めと投げやりさが半分混じった職業的な熱心さで 僕に奉仕するだけだった女(ひと)が、初めて見せた反応。 結宇歌さんは、布団の上でびくん、びくんと跳ねた。 それが、女性が達するときの動きだというのに気がついたのは、 まるで馬鹿のように呆然とそれを眺め続け、 結宇歌さんの身体が動きを止めた頃だった。 「結宇歌さん――?」 返事がない。 荒い、甘やかな呼吸音だけが聞こえる。 良かった。 一瞬、彼女が死んでしまったのではないだろうか、とさえ、このときの僕は思った。 はぁはぁ、と言う息の音。 やがて――。 「ひどいです……」 か細い声が聞こえた。 「すみません、はじめてのことなので――」 「私も、初めてです。あんなことをされるのは」 「えっ」 「あっ……な、なんでもありません」 結宇歌さんは、慌てたように手を振った。 「ここを舐められるのは、初めてですか?」 僕は、思わず聞き返してしまっていた。 「そんなことはありません。でも――」 結宇歌さんは口ごもる。 そんな態度も、十年目ではじめて見る。 だから僕は自然に問いを重ね、結宇歌さんはそれにも返答した。 「でも?」 「こんなに丁寧にされたのは、はじめて、です」 02-76 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 15 36 ID j5ZpYlFF クンニリングス。 言葉とか、何をするのかは知識としてあった。 男性がそういうことにはあまり熱心な時代ではない。 金銭(なね)や力で女性を簡単に手に入れられる男ならなおさらだろう。 でも、僕は、はじめて接する女(あいて)の性に、 自分でもびっくりするくらいに執拗な関心と愛しさを感じていた。 突然手に入った女神の、恥部。 それを愛撫するのに、手ではなく、食事を取る口や舌ですることに、 その時、僕はいささかの躊躇も覚えなかったし、 それが、結宇歌さんが、自分を殺して売り物にするサーヴィスと思っていた フェラチオと対を成す性戯だということにも気がつかなかった。 ただただ、僕は、それをしたかった。 ただただ、僕は、それに反応する結宇歌さんが愛しかった。 「……」 「……結宇歌さん?」 沈黙が長く続いていたことに気がつき、僕は同衾する女(ひと)の名を呼んだ。 「すみません、まだ身体が動かなくて――すぐにします」 結宇歌さんが言っていることが、 僕の射精のための性行為を指していることを悟って、僕は首を振った。 「いいえ。僕は、今日はもういいです。 結宇歌さんも、今日はこのままもう寝てしまってください」 「でも――」 「いいんです」 その時、なぜか僕は、深く満足していた。 いつものように、射精をしたわけではない。 こちらの肉体的な快感は満たされたわけではないけど、 僕は、このまま二人で眠りに落ちることが、 とても素敵なことのように思えていた。 そして僕は、自分と結宇歌さんに布団をかけ、横になった。 02-77 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 16 07 ID j5ZpYlFF ――うつらうつら、というのはとても良い言葉だ。 そういう時の空気を、とてもよく表現している。 この単語を思いついた奴は、 きっと、僕が今感じている感覚をその時に抱いていたに違いない。 そう確信できる。 夢見心地。 どこかで、結宇歌さんの声がする。 僕が答える声も。 「――なぜ、あんなことをしたのですか?」 「――わかりません。ただ、そうしたかった」 「男の人が、あんなことをするべきではありません」 「そうでしょうか」 「そうです」 「結宇歌さんも、僕にしてくれたじゃないですか」 「あれは……節夫さんへのサーヴィス……です」 「じゃあ、僕のも、貴女へのサーヴィスです」 「そんな──なぜ?」 「なぜ? 理由が必要ですか?」 「必要です。私は、貴方に養われています。でも、節夫さんは――」 「――貴女に好かれたいと思っています」 「……!」 息を飲む様子が、しかし、映画のスクリーンの向こうのもののようにおぼろげに感じる。 僕は何を言っているのだろうか。 でも、心の中のことを、僕は正直に話していると確信していた。 僕も。 結宇歌さんも。 だから、僕はなんのてらいもなく、そう言い、 そして結宇歌さんは沈黙した。 だけど、僕は、その沈黙が永遠でない事をすでに知っていて、 だから、オレンジ色の薄暗がりの中で穏やかにそれを待ち続けた。 02-78 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 16 43 ID j5ZpYlFF 「私は、――そんな価値がない女です」 「僕はそうは思いません」 「ないんです」 「あります」 「私は、貴方にセックスを提供することだけしかできない人間ですよ」 「僕にとっては、大事な女(ひと)です」 「そんな価値がないと、私が自分で言っているのですから、まちがいはありません」 「たとえ、その「大事な物」を作った当の本人が否定したとしても、 それに価値があるかどうかは、貰った側が決めることではないでしょうか」 「ああ。――どうすれば、貴方を言い負かせるのでしょうか」 「言い負かす必要はないんじゃないですか」 「……私は、貴方を喰い尽くす白蟻ですよ?」 「また、それが出てきましたね。――誰かに言われたんですか」 「……はい。春菜の父親の家族に。その人が死んで、私が家を去るときに投げかけられました」 「そうですか」 「自分でも、そう思います。 私は、あの人を食いつくし、羽を生やして飛び去りました。 一番好きな人の元に行こうとして」 「……」 「でも、私の羽は短くて、その人の元には届きませんでした。 そして、私は、手近な松にたどり着いて、またその木を食いつくしたのです」 「兄貴のことですね」 「はい。私は、そう言う、度し難い女です。 だから、せめて――好きにならないでください」 「嫌です。世の中には、白蟻に食われたがる松もいるんです」 「――」 「ひとつだけ、最後に一つだけいいですか?」 「はい」 「――貴女の好きな人は、どんな男だったのでしょう? 僕は、できれば、その男に近づきたい。少しでも、少しでも」 02-79 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 19 14 ID j5ZpYlFF 「――」 絶句。 明らかに、今までの沈黙とは違う、静寂。 夢うつつの中でなければ、僕はきっとそれに耐えられなかっただろう。 でも、半分、忘我の世界に身を浸していた僕は、 そんなことさえもを畏れずにそのことばを吐いた。 十年間、ずっと思っていたことだったからかもしれない。 (結宇歌さんに好かれる男はどんな男(ひと)だろうか。 できうるなら、そんな男になりたい) 弱くて才能もない僕は、それを口にすることも実行することもできなかった。 でも、そんな思いは彼女に一目ぼれしてからずっと僕の心の中にあって、 それは、今、そのままの形で僕の唇からこぼれた。 「――わかりません」 不意に、結宇歌さんが答えた。 意外な答え。 「もう、わからなくなってしまいました。 あの人がどんな男(ひと)だったのか……」 「……」 「多分、もうずっとそうだったのでしょうね。 私は、もう、あの男(ひと)が、 どんな顔で、どんな声をしていて、どんな男だったか、思い出せないんです」 「……」 「そうですか。そうじゃないかなって、思ってました」 「……ひどい人です、貴方は」 「そうですか」 「そうです」 「……」 「ひとつだけ、あの人のこと、思い出しました。 あの人は、貴方と同じくらいひどい人で、私の心を私よりずっと知っていました。 知っていて、ずっと黙っている、そんなところがありました」 02-80 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 19 44 ID j5ZpYlFF 「……」 「そして、私は――そのひどいところに心惹かれてしまったのです」 「……そうですか」 「はい」 夢。 現。 僕は、結宇歌さんと何を語らっていたのだろうか。 頭が冴えているようで、眠っているような状態の僕は、 まるで僕ではないようで、そしてどこまでも僕だった。 現実感のない、だけどこの上なく現実的な薄暗がりの中で、 僕は、すべての会話を覚えていた。 結宇歌さんも。 だから最後の言葉――その約束もはっきり覚えている。 「結宇歌さん。明日、あの松を切りましょう。手伝ってください」 「……はい」 そうして、僕らは穏やかな眠りに着いた。 02-81 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 20 16 ID j5ZpYlFF ――翌日。 僕と結宇歌さんは、裏の松を切り倒していた。 二人とも、会話もなく、ただ黙々と自分の仕事をする。 朝早く、近所の農家から借りてきた斧で すかすかになった幹を切りつけ、何もない方へ倒す。 敷地だけは広いことと、自壊寸前まで喰われていたことで、 素人でも簡単に切り倒すことができた。 考えてみたら、業者を雇うか、あるいは近所の人手を借りるような大仕事だ。 だけど、その時、僕は、それを他の人にまかせるなんて考えもしなかった。 結宇歌さんも。 それは、僕の手で切り倒し、枝を払い、細かく切り、 そして結宇歌さんが箒で掃いて始末するべきものだったからだ。 午後までかかって、腐れた根を苦労して掘りおこす。 ぽっかりと開いた穴の奥に、何度も撒いた薬で死んでいたたくさんの蟲を見つけたとき、 僕たちは、なぜこんな作業を二人だけでやったのか、 ――ようやく自分でわかった。 「――白蟻」 「ええ、そうです」 「松の木は、こんなにすかすかに食われています」 「そうですね。でも――倒れなかった」 「……白蟻は、みな死んでいますね」 「逃げ遅れたのでしょうか」 「――いいえ」 結宇歌さんは、掻きだしたそれと木屑を、そっと竹箒で掃き集める。 「私、ずっと勘違いをしていました」 「勘違い?」 「白蟻の女王は――飛びません」 「飛ばない?」 「はい。白蟻が飛ぶのは、女王になる前の羽根蟻のときだけ。 木を選んでそこに巣食ったら――羽を落としてずっとそこに棲み続けます」 02-82 :ゲーパロ専用 ◆0q9CaywhJ6:2009/04/09(木) 03 24 05 ID j5ZpYlFF 「……」 「次の木に飛ぶのは、女王になる前の娘だけ。 女王は、ずっとその巣の――その木のもとで過ごします」 「木が枯れたら? 木が喰いつくされたら?」 「女王は、そこで死にます。――そこが彼女のいる場所ですから。 その木を選ぶということは、そういうことなのです」 木屑の塊の中には、この巣を、この松を支配した女王の死骸があるのだろう。 塵取をうまく使って、麻袋の中にそっと入れながら、そう言った。 「そうですか」 「そうです――松にとっては迷惑な話でしょうが」 「いえ」 僕は、鍬で根を掘り起こす手を止めて、結宇歌さんを見た。 「たまに、そうやって選ばれたことに喜びを感じる松もあるんじゃないですかね。 ――白蟻の女王が、死ぬまで居てくれるのなら」 「……おかしな松ですね」 「そういう松は、結構しぶといと思います。 ――多分、その女王が死ぬまでくらいは、保(も)ちますよ。 この松と女王のように、同じ日に死ぬんです」 「……」 結宇歌さんは、箒を掃く手を止めて僕を見詰めた。 眺めるのではなく、見詰めた。 「ひどい松です。――そんなことをされたら、 白蟻はますます逃げられないじゃないですか。 その松しか食べられなくなるじゃないですか。 その松しか好きになれなくなるじゃないですか」 「逃げなければ、いいんじゃないですか ――好きになれば、いいんじゃないですか」 僕は、そう答え、 「ひどい人。――本当にひどい人」 そう言って、結宇歌さんは、ぷい、と横を向き、はじめてその頬を染めた。 fin