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「はい、せつなちゃん。これで直ったよ。前より丈夫に補強しておいたからね」 ここは、わたしの部屋。せつなちゃんはほつれてしまったダンス服を直してもらいに来ていた。 ラブちゃんと美希ちゃんも付いてきている。 せつなちゃんはちょこんと正座して待っててくれた。美希ちゃんはアロマの瓶の補充をしてく れた。 ラブちゃんは退屈なのか、色々部屋のものを弄りだした……。 「ありがとう、ブッキー。ほんとうに器用なのね。こんなことが出来るなんて不思議」 わたしは、手際よく服を畳んで紙袋に入れ手渡した。 待たせちゃってごめんね。そう謝って椅子から降り、みんなの向かいに座って話した。 「そんなことないけど、昔からピアノ習ったり、裁縫したり、指先は鍛えてきたの。 だって、不器用な獣医さんて……怖い、でしょ?」 「そりゃまあ、確かにね。なら、ブッキーは名医間違いなしね」 「うんうん、ブッキーなら凄い獣医さんになれるよ」 そんな簡単なものじゃないと思うの。でも――ありがとう。そう言って恥ずかしくなってうつ むいた。 「ねえ、ブッキーならお料理も凄く上手なんじゃないかしら? 私も色々作れるようになって きたけど」 わたしの部屋に居るからか、話題の中心はどうしてもわたしのことになる。 「料理ならラブって思ってたけど、そう言えばブッキーの料理ってごちそうになったことない わね。アタシは簡単なものしか作れないから、憧れるな~」 「そうだね、一度食べてみたいな、ブッキーの手料理っ! ねえ、ブッキー。お食事会しよう よ」 ラブちゃんの提案にしどろもどろになりながら、首を振って後ずさる。 「え、えっと、あのね、そんなには得意じゃないと言うか、期待されても困るというか、どう しよう……」 「謙遜しなくていいわよ、ブッキー。あ~美味しい料理作れる人良いな。アタシ料理好きじゃ ないから得意な人と一緒になりたいなぁ~」 ラブのハンバーグは捨てがたいけど、せつなのコロッケも良いわね、と流し目を送る。 「くすっ、意外と食いしん坊なのね、美希って」 「量は食べられないからね、質を大事にしたいのよ」 「あっ、あのっ、あのね」 頑張れ、わたし。美希ちゃんのお嫁さんの座は譲れないっ! 「やってみる。美味しい料理、作ってみせるもん」 「決まりだね! 今週末の夕ご飯で、おとうさんやおかあさんたちも呼んでパーティーしよう よ」 「いいわね、期待してるわ、ブッキー」 「アタシもすごく楽しみ、頑張ってよね、ブッキー」 あ……あのっ、今すぐってわけじゃ――――もう、遅いよね、どうしよう……。 「それで、ワイが味見役に呼ばれた。ちゅうわけやな」 キッチンでエプロンをつけて腕を組むタルト。正と尚子は診療所の方に居て、当分戻ることは 無い。 「ごめんね、タルトちゃん。わたしはあまり味覚が鋭くないみたいで、味見には向いてないの」 「まあ、まかせときいや。これでもスイーツ王国の王子やで、味覚にはちょっと自信あるんや」 「さっそくこれから食べてみて。カレーライスよ」 「ちょい待ちぃな……。なんでカレーやのに赤いんや。近寄っただけで何か涙が出てきたんや けど」 パクリ。 「ぎょえぇぇーー辛いぃぃ、水~~!」 「はい、お茶」 ゴクゴク 「みぎゃぁぁーー熱つっっ、これは熱湯やぁぁーー」 「はぁはぁ、ワイを殺す気かいな。もう辛いのは勘弁やで」 「ごめんなさい、タルトちゃん。唐辛子とタバスコ入れすぎたみたい。今度は甘い玉子焼きよ」 そもそもカレーにそないなもん、そうそう入れへんやろ……ぼやきながら卵焼きを口に入れる。 ぶぅぅーーーーーー! 「甘いなんてもんやないで、スイーツ王国のお菓子にもこないな甘いもんあらへんわっ!」 パインはん、もうあきらめ。これで帰らせてもらうわ。 「くすん。すん。えっえっ」 「……わかった。ワイも男や、こうなったらトコトン付き合うで」 (アズキーナはん、ワイは生きて帰れんかもしれん……) ――――ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、まだや、まだワイは倒れとらへんで。 「なあ、パインはん、ちゃんと分量守ったらそないな味にならへんのと違いますか……」 「最初は守ってるのよ、でも味見したら物足りなくて。 それに、マニュアル通りに作ってラブちゃんやせつなちゃんに敵うとは思えないし」 (食べられるもん作るんが先やと思うんやけど……。ちゅうか、根本的に味覚音痴なんとちゃ うやろか) 「ごめんね、タルトちゃん。もういいよ。明日、美希ちゃんたちにちゃんと事情話して謝るか ら」 「まだや、まだ諦めへんで、プリキュアたる者が泣きなんていれたらアカンのや。ワイらは心 と体を共有した仲やないか。一心同体で行くで!」 二人は思い出す。あの時の感覚を。気持ちを一つにした時のことを。 「よし、パインはん、最初からや」 ――食材の加工! 「うん、できた」 ――煮込みのタイミング! 「うん、こうだね」 ――調味料の分量! 「うん、マニュアル守ったよ」 「よし、味見はまかせてや!」 「うん」 ドキドキドキドキ 「美味い、これはイケルで!」 「やったーーー」 「よし、この調子でメニュー増やしていくんや」 「うん、頑張ろうね」 特訓は数日間に及んだという。 「みなさん、集まってくださり、ありがとうございます。 お粗末ではありますが、わたしの料理の品々、召し上がってください」 パチパチパチパチ 「あ、ブッキー、このスープ美味しいよ」 「さすがね、ブッキー。どれも美味しいわ」 「このお肉の焼き加減、アタシも大満足」 「いつの間に上手になったの、祈里。頑張ったわね」 「お父さんも鼻が高いぞ」 お父さんもお母さんも、おじさんもおばさんも和希ちゃんも、みんな喜んでくれてる。 良かった。 あれ? 美希ちゃんが手招きしてる。どうしたんだろう。 「ブッキー、本当に美味しかったわ。素敵よ」 「えへへ、料理も得意なんだよ」 良かった。誉めてもらえて。タルトちゃんのおかげだよ。 「でも、本当は料理は苦手だったんでしょ、お疲れ様」 「えっ? えぇ~~!?」 美希ちゃんが困ったような顔で見てる。 「美希ちゃん――――いつから気がついていたの?」 「わりと最初からよ。ほら、手の傷見せなさい。無理しちゃって。 昨日までずっと料理の匂いプンプンしてたわよ」 美希ちゃんは頭を撫でて労ってくれた。わたしは情けなくなって涙が出てきた。 「やっぱり、わたしは美希ちゃんみたいに完璧にはなれないもん」 「何言ってるのよ。ブッキーは今のままで完璧に可愛いわよ」 自信たっぷりの声で宣言されると、本当にそんな気持ちになる。 やっぱり、優しい。かっこいい。すてき。 わたしの王子さま――なんて言ったら怒られるよね。誰より素敵な女性だってこともわかって る。 「美希ちゃん、まっててね。きっといつか、お料理も完璧になってみせるから」 「ええ、ブッキーなら出来るって、アタシ信じてる」 木の陰に隠れて、ふたりはそっと唇をあわせた。ちょっと料理の残り香があった。 それは幸せの味だった。
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とある日の放課後の、クローバータウンの通学路。 アスファルトに静かに響くローファーの靴音とともに、爽やかな秋風の中をひとりの少女が歩いていた。肩にかかる艶やかな黒髪と、柔らかな眼差し。穏やかな表情からは、今の彼女の心情が透けて見えるよう。 色づき始めた並木道がやけに眩しく映るから、いつもよりゆっくりと歩いては、次々と目に飛び込んでくる秋の風景を楽しんでいた、そんな時。 ふと、どこからともなく甘い薫りの風が流れて、彼女の鼻孔をくすぐって、消えた。 匂いに気づいた少女は、脚を止めて周りを見渡してみる。 「この匂いは……?」 匂いの元を探り当てようとした矢先、後ろから少女を呼ぶ声がした。 「せつなちゃん!」 「あ、ブッキー」 ブッキーと呼ばれた少女・山吹祈里が、数メートル先にいた黒髪の少女・東せつなに追いつき、隣に並ぶ。 ふんわりとした柔らかな栗色の髪。優しい顔立ちと、丸みを帯びた身体つき。その背丈はせつなより少しだけ小さく、見る者に可憐な印象を与える。いつも付けているトレードマークの緑色のリボンが、今日もよく似合っていた。 「偶然ね。今帰り?」 「そうよ。ブッキーもでしょ?」 「うん。ふふっ。なんか嬉しいな」 「何が嬉しいの?」 「だって、約束もしてないのにせつなちゃんに会えたんだもん」 「あ……ありがとう」 「どういたしまして」 躊躇することなく放たれる祈里の言葉に、せつなは顔を赤らめた。そんな彼女の反応を、祈里は楽しそうに眺めた。 「あ、ちょうど良かったわ。今ね、ブッキーに教えてほしいことがあって」 「わたし? いいわよ。わたしでお役に立つなら何なりと」 「あ、ほらまた、この匂い……。どこから来てるのかしら?」 せつなが不思議そうに辺りを見渡す。 「そっか。この匂いのこと知りたいのね。せつなちゃん、こっち」 祈里は、そんなせつなの手を引っ張って、少し離れた木立まで連れて行った。 そこには、オレンジ色の小花を一面に咲かせている木が、真っ直ぐにすっくと伸びていた。 「あ……さっきよりも香りがうんと強くなったわ。この花からしてるのね」 「金木犀、よ」 「キンモクセイっていうの……いい香り。見た感じも可愛いけど、名前も可愛いのね」 「わたしも大好きなんだ。秋にしか咲かないの」 「なんだか、この花……ブッキーに似てるわね」 「え? わたし? どんなところが?」 「色もそうだけど、ちっちゃくて、可愛くて、いい匂いのするところが」 せつなの言葉が、祈里の頬をほんのり紅く染めた。 「せつなちゃん、それ、褒めてる?」 「もちろんよ」 「に、匂いは、美希ちゃんにもらったアロマをいつも付けてるからだし、ち、ちっちゃいのは……生まれつきだし……」 「可愛いのは?」 「し、知らないっ」 「ごめんなさい。ブッキー、怒らないで」 ちょっとだけむくれたふり。恥ずかくて、嬉しくて、やっぱり恥ずかしくて。 心配そうに覗き込んでくるせつなの視線は、かえって祈里の羞恥心を助長させていくようだった。 「ねえ、ブッキーったら」 「……怒ってないよ」 「ホントに?」 「うん。恥ずかしかっただけ」 「良かった」 にこっとはにかむせつなの笑顔。見つめながら祈里は思う。ああ、わたし、この顔に弱いなあ。 「けど、ブッキーのおかげで匂いの正体がわかって、何だかすっきりしたわ。ありがとう」 「どういたしまして。わたしも褒めてもらえちゃったし、得しちゃった。――――ところで、今日はラブちゃんは?」 「ああ、ラブなら……」 「補習?」 祈里が継いだ言葉に、せつなは声を立てて笑った。それはまさに、せつなの言おうとした言葉だったから。 「よくわかるのね」 「そりゃあ、幼なじみだもん」 「幼なじみ、か……。何かいいわね、そういうの」 「けどわたし、せつなちゃんのことだってよくわかるよ」 「あら、私は幼なじみじゃないわよ?」 「幼なじみじゃなくても、親友、でしょ?」 祈里は、隣に立つせつなの腕を取り、優しく組んだ。 「親、友……?」 「そうよ、親友。とっても仲のいい友達のことよ。幼なじみにだって、負けないくらい仲良しなんだから!」 「私とブッキーは……親友?」 「もちろん!」 真っ直ぐに見つめる祈里の瞳の力強さに、せつなはほんの少し気圧される。 そんなせつなの指に、安心させるように自らの指を優しく絡めて、祈里は言った。 「幼なじみもいいけど、親友だってなかなかいいと思わない?」 「親友、か……。いいわね、それも」 「うん。いいよね、すごーく」 「うん。すごーく」 ふたりは顔を見合わせて、ふふっと笑う。そんなふたりの鼻先を、金木犀の香りを乗せた柔らかな風が撫でていく。 「せつなちゃん、今、カオルちゃんのドーナツ食べたいんでしょ?」 「ど、どうしてわかるの?!」 「だって、親友だもん」 余りにも近づき過ぎて、せつなのお腹の虫の鳴き声が聞こえてしまったことは、祈里の心の中にそっとしまわれた。 「行こ?今日はわたしがおごるね」 「悪いわよ」 「いいの。だって記念日だもん」 「何の記念日?」 「親友記念日」 秋風の中を、腕を絡めたふたりの少女が歩き出す。 今日の学校での出来事や、昨日の夕食のメニュー。何でもないことを話しながら、せつなは心に誓う。このひと時の幸せをしっかりと胸に焼き付けておこうと。 ずっと後になってもくっきりと思い出せるように。大好きな親友との時間を、決して忘れないように。 新-481へ
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「この子のお友達になってくれる?」 「うん!!」 満面の笑みを浮かべ、母親の元へ駆け寄る少女。 その手には、ラブから譲り受けたかわいいクマのぬいぐるみ。 「幸せ、ゲットだよ!!」 子供達の笑顔と幸せを守るため、少女たちは懸命に戦った。 四人の伝説の戦士、プリキュア。 そして――― バザー会場から帰宅すると、せつなは一人、部屋に閉じこもった。 特に理由も無く。 ベッドに横になると、少し前のあの〝言葉〟を思い出した。 (この子のお友達になってくれる?) 幼き頃の記憶が自分には無い。ましてや思い出など皆無。 だからこそ、今が楽しくてしょうがない。毎日がとても幸せで、充実している。 それは――――あの犠牲があったから。国民番号ES4039781、イースの――――〝死〟 ラビリンスで産まれていなければ、ラブたちと同じように泣いたり笑ったり、踊ったり歌ったりしていたのだろう。 沢山の思い出に囲まれ、幸せな生活を送っていたはずだ。勿論、そこには〝友達〟も存在したであろう。 「ぅ…うっ…」 東せつなとして。やり切れない想いが、胸を苦しめる。あの子を―――イースを幸せに導いてあげたかったと。 自分はイースの生まれ変わりだなんて、そう容易くは割り切れない。過去との決別は出来ても、イースその物を否定はしたくなかった。 命の重さ。 生きる事の大切さ。 もっと早くに気付いていれば、違う人生を彼女は送っていたのかもしれない。 命は管理される物では無いのだから。 一滴の涙。 人間は後悔をしてまた、強くなる生き物。 強き者は弱き者を守らなければいけない。その強さに決して溺れる事無く。 お前は今…幸せなのか? えぇ、とっても うらやましいな どして? わからない。ただ… ただ? …寂しい じゃあ私たちと一緒に踊りましょ?さぁ――― 私は―――私は―――イース… 差し伸べた手が少し、あと少しで届く。届くはずだった…。 暗闇の中で射し込んだ眩い光。彼女にはあまりにも眩しすぎた。 運命(さだめ)の矢は解き放たれ、か弱き心に突き刺さる。 生命尽きるとも、魂ここに宿りけり イース=東せつな でも。 彼女と彼女。二人なのだ。 だから。 だから手と手は繋ぎ合わせる事が出来る。 絶対に―――夢は叶うのだから 「私の……友達になって…くれないか?」 「もちろん!私は東せつな。あなたは?」 ~END~
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お父さんは仕事、お母さんはパート。 台風による警報が出たために、あたしとせつなは休校。 昼間なのにすごく暗くて、夕方みたい。 風が窓をガタゴト震わせている。 ガタン。 突如大きな音がした。 何かが家の外壁に当たったのだろうか。 あたしは思わずせつなにしがみつく。 「怖いの?ラブ」 せつなは優しくたずねる。 「ごめん、怖いワケじゃないけど何となく…」 せつなは薄く微笑みをたたえ、あたしを抱きしめる。 「台風っていいものね」 「なんで?せつなは怖くないの?」 「だってラブとこうしてると、まるで世界中に誰もいなくて、私たちふたりっきりみたい」 「せつな…」 あたし達は、どちらからともなく顔を近づけ、くちづけた。
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あたしとラブ、祈里。 三人の中で、せつなと一緒に過ごした時間が一番長いのは、あたしかもしれない。 そのほとんどは、イースでもある彼女の言いなりになって、ただ責められるばかりだった。 けれど。 一緒の時間を過ごすことで、見えてくる部分があった。 彼女の隙を――――弱みを見つけようとしていたあたしだから、なおさら。 あの日。せつなが、ラブからの電話を切った後の、寂しげな顔。 しばらく、忘れられなかった。 本当ならば、あたしは、そこを攻めるべきだったのかもしれない。初めて見つけた、彼女の弱点だったのだから。 だけどあたしは、そうしなかった。出来なかった。 人間なら誰もが持つ、触れられたくない、純粋な気持ち。せつなの横顔に見たのは、それだったような気がしたから。 きっと、その時からだろう。 あたしがイースを、せつなという人間だと認識し出したのは。 それまでは、ただ、敵としか思っていなかった。この世界を無茶苦茶にしようとしている、敵だとしか。 それだけじゃない。ラブを抱き、祈里を堕とし、あたしの体をいたぶっている。 彼女は、あたし個人にとっても、憎むべき存在だった。 なのに。 あんな顔を、されたら。 Eas of Evanescence VIII 「答えろ!!」 睨み付けてくるイース、だが、泣きそうなイース。 彼女の切羽詰った問いかけに、美希はしかし、声が出ない。 理解したくなかった。イースが、こうまでもラブに拘るその理由に。 「どうしてラブは、あんなにバカみたいに、私を信じることが出来るんだ!!」 それでも、わかってしまう。 イース、いや、せつなにとって、ラブの存在は心をかき乱すものなのだと。 「自分が辛い時でも、私の体のことを気遣って!! 私が戦いに巻き込まれなったことに、あんなに安心した顔を見せて!!」 イースの手は、もう動いてはいなかった。ただ美希の裸の胸に顔を埋め、震えるばかり。その声も、言葉も、彼女に 向けられたものではなくなっている。 あの時のことか。美希は思う。 ダンス大会に向けて、プリキュアとダンスの両方に目いっぱい頑張ったせいで、彼女達は倒れてしまったことがある。 その直前の戦いで、ラブはせつなが戦いの場にいないことに、安堵の溜息を付いていた。そんな彼女とイースを見て、 美希は複雑な想いを抱いたものだったけれど。 「私は、あの子を騙しているのに!! それにも気付かないで、私のことを、好きだなんて――――大好きだなんてっ!!」 顔を上げた彼女が発した、悲痛な叫びが。 美希の心に突き刺さる。 それでも、イースの瞳からは、涙は零れない。 まるで泣くということを、知らないかのように。 再び、胸に顔を埋めてくる彼女の震える体に。 美希は、そっと手を回そうとして。 「教えて......美希......どうして......どうして」 弱々しい声に、動きを止める。 「うまくいった筈なのよ――――ラブの心を篭絡して、私に夢中にさせて――――プリキュアを倒そうとした」 ポツリ、ポツリと溢れる言葉が、部屋の中に響く。外の日は、もう落ちたのだろうか。カーテンから差し込んでいた 光は、徐々に薄れてきて。 静寂と闇に、二人の体は包まれる。 ドクン、ドクンという鼓動の音を、美希は感じる。 それが自分のものか、イースのものか、わからない程に二人の体は密着していて。 「そう、うまくいってる筈だった――――なのに――――なのにっ!!」 ばっと頭を上げる、イース。 顔を近づけて、彼女は答えを乞う。 「どうして私は、こんなに苦しいのっ!?」 安堵したのは何故? 心の中に生れる問いかけ。 それは今日、ついさっきのこと。せつなが、最近はラブと祈里と会っていないと聞いて、彼女は確かに安堵を感じていた。 二人が心乱されることが無くなったから。また仲良くなったから。だから安心した。 せつなが自分という、プリキュアに残された最後の砦を打ち崩そうとやっきになればなるほど、二人から彼女を離 すことが出来るという思惑がうまくいっているから。だから安心した。 それは、しかし、上辺だけだった。本当は。 本当は、せつなが自分以外の子に目を向けていないことに、安堵した。 その独占欲を、綺麗な言葉で隠していただけだった。 素顔の彼女は、ただの女の子だった。 勿論、その全てを知っているわけではない。何故なら、彼女と美希の間には、脅すものと脅される者、犯す者と 犯される者という関係しかなかったから。 それでも。 物憂げな彼女の横顔が、気になった。 何かに追い詰められるように責められれば責められる程、何をそんなに焦っているのかが気になった。 ナキサケーベを操るようになってから、彼女の体に残るようになった傷が、気になった。 気になって、仕方なくなっていた。 どうして? どうしてそんなにも、ラビリンスに尽くすの? 尽くせば尽くす程、貴方の心は傷付いていっているのに。 戦いの最中、イースとしてプリキュアと闘っている時でさえ、貴方は心の中の何かを抑えつけるかのようにしていた。 その様を、闘っている時に、あたしは見ていた。 そして、その視線が向かう先をも。 気付かないようにしていた気持ちに、美希は向き合う。 そして認める。 あたしは。 あたしは、せつなが、好き。 体を支配されているからではない。これは、体からは生れない感情だもの。 この、愛と言う気持ちは。 そして、愛しているからこそ。 「答えが欲しい?」 美希の言葉に、顔を上げるイース。 「教えろ!! 私は、どうしてっ!!」 「それはね、イース、貴方が――――ラブのことを、好きだからよ」 愛しているからこそ、真実を伝える。 愛した人が、自分で気付いていない、想いを。 「私、が――――?」 驚愕に目を見広げる彼女。その目を、じっと美希は見つめる。 長い、長い沈黙。 やがて彼女は肩を震わせ始める。唇から零れるのは、 「フ、フフフ――――」 笑い声。 「フフフフフフ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」 体をのけぞらせ、イースは笑う。高い声で、笑う。 「私が!? ラブのことをっ!? アハハハハッ、そんな、そんなことなんてっ!!」 笑う彼女。まるで、狂ったように。 いや。 本当に、狂いそうになっていることが、美希にはわかった。 高らかな声と裏腹に、彼女の眼はまるで笑っていない。 むしろ、苦しんでいた。 その笑いは、壊れそうな心が、きしむ音。 「私がラブを好きだなんて、そんなこと、ありえないっ!! 私はラブを利用してるだけ!! 邪魔なプリキュアを排除 しようとしてるだけっ!! だから私が、ラブを好きだなんてありえないっ!!」 ずっと側にいた美希だから、彼女の気持ちがわかる。 二律合反。アンビバレンツな感情に、少女の心は引き裂かれそうになっている。 彼女は、愛することを知らない。 だから自分の感情にも、気付いていない。 そして、だから。 愛されることに、戸惑っている。 その癖。 自分の行いが、ラブを傷付けていることには気付いていて。 愛する人を、傷付けているのは自分。 なのに、その傷付けた自分を、彼女は愛してくれている。 無論、せつなは、自分がイースだということを話していない。 それでも。 彼女は、いたたまれない。 そんな風に愛されている自分に、イースは。 罪の気持ちを、抱いている。 美希は、不意に悟る。 彼女の願いを。 「安心しなさい、せつな」 イースの姿をした彼女に、美希は呼びかける。 苦悩に満ちた顔で、こちらを見てくるイースに、彼女は言った。 せつな。好きよ。 「あたしは」 大好き。愛してる。 「貴方のことを」 とても愛してる。愛してるから。 こう、言うの。 「憎んでるわ」 「そう――――なら、もっとひどい目に合わせて、屈服させてあげるわ」 言ったイースが見せた笑顔は、いつもの暗いものではなく。 とても、とても。 安堵に満ち溢れたものだった。 そうして美希は、愛する人の心を救った。 もしも彼女が愛を囁いたなら、イースの心は壊れてしまっただろうから。 イースに必要なのは、憎まれることだった。 何をしても許され、愛されることは、それに慣れていない彼女からアイデンティティを奪おうとしていた。 無邪気な好意ほど、その前に立つ者が自責を覚える物はない。そしてイースは、それを乗り越えられる程に強くは 無く、非情に徹することも出来なかった。 そう。 だから、彼女の本当の願いは。 憎まれたかったのだ。罰して欲しかったのだ。 嫌悪されて当然のことをしている、自分なのだから。 けれど。 憎まれたいと思っても、せつながイースだと知らないラブや祈里は、彼女を憎んだりはしないだろう。 なにより彼女達は、せつなを大好きだから。 憎むことなんて、しないだろう。 そしてせつなを、無意識に追い詰めてしまうだろう。 心を、壊してしまうだろう。 だから。 愛に気付いた美希は、心に決める。 せつな。 あなたの欲しいものは、あたしがあげる。 ただ一人、自分だけが。 イースを憎む。 憎み続ける。 それであなたの心が、救われるなら。 そうして美希は、イースに体を差し出し、蹂躙される。 憎まれている相手に、彼女は容赦をしない。 常よりも激しく、厳しい責めで美希を追い詰める。 勿論、彼女は一声も発しない。 発したら、自分が感じていることに――――愛する人に抱かれて、喜んでいることがバレてしまうから。 だから。 「――――――――っ!!」 今日も彼女は、唇を噛む。 愛する人とのまぐわいに、美希は、幸せで。 けれど、とても悲しかった。 そして彼女達は、運命に導かれる。 最後の一枚のカードを持ってきたせつなと出会ったのは、トリニティのライブの開かれるスタジアム。 憔悴し、消耗しきった彼女の体に、自然と彼女はこれが最後の戦いになることを予測した。 現れる、ナキサケーベ。 変身する、プリキュア。 キュアピーチに抱きしめられながら、イースは苦痛に絶叫する。 体、だけではない。 敵である自分ですら守ろうとする彼女の優しさに、心はきしんでいた。 そして明かされる真実。 イースは、少女達の前で変身して見せる。彼女達の親友、東せつなへと。 その時、キュアベリーは気付いた。せつなの悲愴な決意に。 せめて最後は、キュアピーチ――――ラブの手にかかって。 だからこそ、美希はラブをけしかけた。愛する人の最後の望みを、かなえてあげたい。 そう思ったから。 そう。 蒼乃美希は、東せつなを愛していた。 自分が彼女に求められていなくても、構わない。 彼女が親友を愛していても、構わない。 愛しているから。 だから心を鬼にする。 自分の本当の願いを、押し殺す為に、彼女は。 心を、鬼に。 ふと、目が覚める。 お昼ごはんを食べた後に、少し、うたた寝をしてしまったらしい。時間にしては、五分か十分程度だったけれど。 鏡の前で、寝癖が付いていないかをチェック――――よし、大丈夫。あたし、完璧。 ピンポーン チャイムが鳴ったが、インターホンに出ることもせず、美希は玄関に駆ける。その扉を開ける前から、誰が来ている かはわかっていた。 「いらっしゃい、せつな」 「こんにちは、美希」 笑いながら靴を脱ぐ彼女の名前は、東せつな。またの名を。 キュアパッション。 避-70へ
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「うっわ!だらしなっ!」 部屋に入ってきたラブの第一声がそれ。 まあ、仕方ないわね。 アタシときたらブルーのスウェットの上下、ロクに梳きもせず 弛く束ねただけの髪でベッドに寝そべってんだから。 ローテーブルには食べかけのクッキーと、蓋を開けたままのペットボトル。 ベッドの下には読み散らかした雑誌類が重ねもせずに放り出してある。 さすがにこの頃ママから苦情が出るようになった。 そりゃ、美意識の高いママにしたらイヤよね。 こんなダラダラボサボサの娘なんて。 「ノックくらいしなさいよね。」 ラブは返事もせずドッカリと座り込み、アタシが出しっぱなしの お菓子をガサガサやりはじめた。 「なんか用があってきたんじゃないの?」 「んー。ちょっとばかしクレームをねー。」 「はあ?」 「分かってんでしょ?こないだの。アレはないんじゃない? せつな、沈んじゃって大変だったんだから。」 ま、あたしの愛の力で何とか浮上したけどさ。 「友達付き合い初心者マークのせつなに、アレを見て見ぬふりしろってのは ちょっとハードル高過ぎだよ。」 「冷たいわね、アタシの心配はしてくれないワケ?」 「知らないよ。美希たんがブッキーの事となるとグッダグダになるのは 今に始まった事じゃないし。」 悪かったわね!アタシだって大人げないって分かってるわよ。 でも、さ。イヤになる時くらいあるのよ、アタシにだって。 「まぁ、二人がどうなってるかなんて聞く気もないけどね。 けど、あたしのせつなを悲しませるのは例え美希たんだって 許さないんだから!」 口いっぱいにクッキー頬張って、食べカスだらけの口元で何言ってんの。 でも……『あたしのせつな』か………。 「結局、ノロケに来ただけ?」 「そーでもない。」 「じゃ、何よ。」 「まぁ、愚痴の一つくらいは聞かないでもないよ?」 クスリ、と苦笑いともつかない息が漏れた。愚痴、ねぇ? 「コレ、飲んでいいの?」 「もうぬるいわよ。」 気にしない気にしない。 そう言ってラブはアタシの飲み残しのジュースをごくごく喉を 鳴らして飲んでる。 ペロリと唇を舐めてアタシの様子を窺うラブ。 こう言う時、なまじ付き合いの長いのも考えものよね。 空気読んで、そっとしておいてくれる時はいいんだけど、 いざ突っ込むと決めた時の情け容赦無さったら…。 マッタク、癪に触るったらないわね。何よ、その『何もかもお見通し!』 と言わんばかりの顔は。 「ブッキーからはいまだ何のアプローチもナシ?」 「あるわけないじゃない。」 「そう思ってる癖に何であんな事すんの?」 「……………。」 「ま、気持ちは分かるけどね。そこまで落ち込むならもうちょい考えれば?」 「………何が分かるのよ?」 「んん?」 いつもいつも自分が先回りするのが馬鹿らしくなったんでしょ? そんで、ちょっと拗ねてみたらブッキーガン無視。 ちょっとはフォローがあるかと期待しちゃった分、落ち込み度急加速。 だけど今さら自分から仲直りも癪に触る。 で、結局なーんにも手立てがなくてナメクジ生活。 「だいたい合ってる?」 「……パーフェクトね………。」 「あのさぁ、あたしブッキーはスゴくイイコだと思うんだよね。」 ちょっと、遠くを見る目でラブが呟く。 「優しいって言うか、すごく人の気持ち考えるよね。」 人がして欲しい事、言って欲しい事。サラッと押し付けがましく無く 出来ちゃうんだよね、ブッキーって。 せつなだってさ、ダンスやろうって決められたのもブッキーの 練習着のお陰だし。 もちろん、いずれは仲間に入って来たかも知れないけど、 あんなにすっと溶け込めたのはブッキーがいたからだと思うんだよ。 「あたしね、友達としてのブッキーは大好き。 でもね、……親友の恋人としては、ちょっと……うーん、って感じ。」 「どう言うトコが?友達としては大好きなのに?」 「美希たんに甘えてるんだってのは、分かる。でもさ……」 これ言ったら美希たん、怒るかも知れないけどね。 ブッキーの為に必死になってる美希たん、ちょっとカッコ悪い。 美希たんはさ、お姫様の願いを叶える素敵な王子様のつもりなんだろうけどね。 あたしから見ると、お嬢様のご機嫌取ってるじいやさんだよ。 だってさ、どんなに完璧にやったって次のハードルが高くなるだけだし。 何か進展するわけでもないし。 「『アナタの笑顔さえあればそれで幸せ。他には何もいりません。』 そんなの嘘だね。」 ちょっと、ムッとした。 じゃあ、ラブは?せつなの笑顔、見たくないの? せつなの幸せの為に、何かしてあげたいって思わないわけ? 「じゃあ、ラブは下心ありまくりなんだ。 せつなに何かしてあげる時は、見返り期待してるんだ?」 「当たり前だよ?」 「!?」 「あたしがせつなに好きって言うの、 せつなにも好きって言って欲しいからだよ。 せつなを抱き締めるのは、せつなにもあたしを抱き締めて 欲しいからだよ?」 もちろん、それだけじゃないけどさ。 せつなが嬉しいならあたしも嬉しい。せつなが幸せならあたしも幸せ。 でも、それだけじゃ、あたしは嫌。 せつなにもあたしを幸せにして欲しいもん。 「せつなも分かってくれてる。だから、恥ずかしくても 好きってちゃんと口に出して言ってくれる。 その方が、あたしが喜ぶから。」 だから、美希たんから欲しがるばっかのブッキーは、あたしなら無理。 「ハッキリ言ってくれるわねぇ。」 「ブッキーはさあ、自分が必要以上に人の気持ちを読み取ろうと するから、美希たんにもそれを求めちゃうのかねぇ?」 「さあ、どうかな。」 「なまじ、美希たんが頑張っちゃうもんだから…。」 「アタシが悪いの?」 そうじゃなくって…… 素で、気付いてないのかな?って。美希たんが頑張ってるの。 「……今、ラブが言ったじゃない。自分が出来るもんだから、 そう大変な事じゃないと思ってるのかもね。」 「………。」 「アタシから……謝った方がいいのかな…?」 「だから、好きにすればいいよ。」 「もう、ラブ冷たい。」 「まあ、どうせ嫌でもいずれ顔合わすんだから。 ブッキーだって今ごろ悶々としてるでしょ。 もうちょい待ってもいいかもよ?」 「何か進展あると思う?」 「進展させたいの?」 「そりゃ………!」 どうなんだろ?アタシ、ブッキーとどうにかなりたいのかしら。 好きだけど…、ずっと好きだったけど。 ブッキー…祈里は、本当にそれを望んでるの…? 「ねーえ、美希たん。美希たんは、ブッキーがヤダって言ったら 何でも諦めるの?ブッキーがいいって言う事しかする気ないの?」 ブッキーがお友達でいましょう。って言ったら、ハイ分かりました。って それでいいの?美希たんの気持ちはどうなのよ? 「分かってるわよ!分かってるけど、そう簡単な事じゃ…、ーーっ!」 ヤバ…、これは言っちゃダメでしょ…。 簡単な事じゃないなんて、ラブはとっくに知ってるんだから…。 じゃなきゃ、付き合えないわよ。女の子同士なんて……。 「………ゴメン…。」 「いーよ。でも、せつなには言わないでね。」 「ホント……、ゴメン。」 「だからいいって。分かってるから。」 変なトコで真面目だねぇ、美希たんは。 笑って言うラブに胸が痛い。 当たり前じゃない。簡単じゃないなんて。 だからアタシ達は何年も何年もグズグズしてるのに。 「ね。一つ聞いていい?」 「どーぞ。」 「後悔とか…、してない?」 「今のところは。」 「素っ気ないわね。」 「先の事なんて分かんないよ。」 「気持ちが変わることも、あるかも?」 「絶対なんて、いい加減な事は言えないよ。」 「……恐く、ないの?」 「んっ、恐い。すごくね。………でも…」 仕方ないね。好きなんだもん。 「シンプルね……。」 「あたしバカだからねぇ。難しい事は考えられないの。」 ラブはバカなんかじゃないわ。 そのシンプルな答えに行き着くまでに、何度も苦しい思いをしたって 事くらいアタシにだって分かるわよ。 結局、アタシは中途半端なのよね。 祈里の気持ちがって言いながら、自分が傷付くのが恐くて逃げてるんだから。 「ありがとね……。」 「何がぁ?あたしなんにもしてないよ。」 「いーのよ。アタシがそう言いたいんだから。」 ブー……ン…… リンクルンのバイブが鳴る。 え?ブッキーから?このタイミングで? あっ、ラブが見てるし…って、この狼狽えっぷりじゃブッキーからって バレバレ? ちょっ、何顎でしゃくってんのよ!早く出ろって事? もうっ、わかったわよ! 「……もしもし?」 『あ…、美希ちゃん。今、いいかな?』 受話器越しの声は何故かいつもより大人びて聞こえる。 随分久しぶりな気がして、少し鼓動が早くなるのを感じた。 「あ、うん。…どうしたの?」 『あのね…、謝りたくて……』 「!!!」 『この間は、ごめんなさい。メール、返事もしなくて… それに、ダンスレッスンで変な態度取っちゃって……』 やだ…!どうしたのよ、ブッキーったら! 『ホントはね、用なんてなかったの。この間も、その前も。』 「……!!」 『わたしが…、わたしが勝手に、ヤキモチ妬いてたの。 美希ちゃんが、せつなちゃんと仲良くするのが何だか悔しくて…。』 「…ブ、ブッキー…、あの…」 『拗ねてれば、いつもみたいに美希ちゃんが構ってくれるんじゃないかって…』 どどどどどどどうしちゃったの?!ブッキーってば! ヤキモチとか、悔しいとか…ブッキーそう言うの、 いつも絶対言いたがらないじゃない。 そう言う顔見せるの、一番嫌なはずじゃない! ああ!でも、ちょっと、かなり、嬉しいかも。 初めてじゃない?こんな風にブッキーが自分の気持ち伝えてくれるのって。 『本当に、ごめんなさい。』 「ううん!いいよ、いいの、そんなの!アタシも大人げ無かったって言うか! アタシこそ、ゴメンね!」 なんか、ちょっと泣きそう…。 でも良かった。これで元通りよね? ギクシャクしちゃったけど、アタシ達にはアタシ達のやり方があるよね? 進展……とかはまだ難しいかも知れないけど、ゆっくりやってけば…。 ううん、少しは前に進んでるじゃない!こうやって、ブッキーが 素直な気持ちを自分から言葉で表してくれるようになったんだもの。 ブッキー、すごく勇気出してくれたのよね? アタシ、それで十分よ! ってか、ラブ!ニヤニヤしてんじゃないわよ。 折角イイ雰囲気なのよ!分かってるなら遠慮しなさいよ! 『……ーー、…なの…。』 え?今、何て言った? もう、ラブがニヤニヤするから! 聞き逃しちゃったじゃない。 誤魔化したり、いい加減に話流したりしないから! ちゃんと報告だってするから今は勘弁してよ! イイ感じなんだからさ! 『美希ちゃんが、好きなの。』 「……………………ふっ…へっ…?」 『ずっと、好き、でした。……エヘヘ、とっくに知ってると思うけど……』 …………………ハイ…………? 『あの…、それでね。お付き合い…とか、して貰えたらなぁっ…て。』 オツキアイ、シテモラエタラナ…ァ…? 『……美希ちゃん?あの…今、すぐでなくていいから。 次に会った時でも……お返事、聞かせて?』 「……ふぇ?……あ、」 『じゃあ…、いい?また……。』 「……あ、……ハイ……」 「…美希たん?どしたの?」汗、びっしょりなんだけど。 それに、なんで正座してんの?瞳孔開いてるし……。 「……こっ…!」 「コ?」 「ここここここここここ…っ!!」 「ニワトリ…?」 「ーーーっ!!こくっ!はくっ!?」 「…わは?」 「すすすすす好きって!アタシの事!!ブッキーがっ!!!」 「!!!!!」 「……付き合って、欲しいって…。次に会った時、返事、ちょうだい…って…て」 コレ、夢?聞き違い? ブッキーが、祈里から、アタシの事を……。 勘違い?でも、確かに好きって… アアアー!!どうしよ?どうしたらいいの? これって!これって! 「行けっっ!美希たん!」 ラブがぐいっとアタシのコートを差し出してる。 「い行けって、どこに……」 「ブッキーんとこに決まってんでしょーーっ!返事っ!すぐ返事っ! まかさ断んのっ?!」 「まさかっっ!ああっ、でも、どうしよ?!アタシ!」 「いいから行け!とにかく行けっ!こう言うのは勢い! 今すぐゴー!だよ!」 「そっそうね、そうよね?ーっ髪!着替え…」 「だぁああ~っ!もうっ!」 「イタイっ!」 ラブがパシンっ!と勢い良くアタシの頬を両手で挟む。 「お化粧なんかしなくていいっ!」 お洒落な服じゃなくたって、髪型キメてなくたって、美希たんは可愛いの! いつだって、王子様みたいにカッコ良くてお姫様みたいにキレイ! 「ア…アタシ、完璧?」 「完璧でなくたっていいのっ!」 「ーっ!」 「美希たんは、いつだって美希たん!あたしの自慢の幼馴染み。 そのまんまで、じゅーっっぶんイイコなんだからっ!」 「……っ、行って、くる!」 アタシはボサボサの髪で、スウェットのまま飛び出した。 背中にラブの声が聞こえる。 「行っけぇぇぇーーっ!美希たん、ゴーっ!だっ!」 何でもいいや!とにかく祈里に会わなきゃ。 会って、アタシも言わなきゃ! ずっとずっと、好きだったんだって。 避-846最終章へ
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「おい、イース!!」 かけられた声に、せつなは振り返る。廊下の端からこちらを見つめているのは、ウエスター。 「何か用?」 「何か用、ではない!! お前、途中で占いの仕事をすっぽかしただろう!!」 つかつかと足音も荒々しく近付きながら、ウエスターは怒気の混じった声で言う。 「おかげで俺とサウラーが、余計に相手をしなければならなくなったんだぞ!! だいたい、お前はだな――――」 カッ。 足元に突き刺さる赤のダイヤカードに、ウエスターは歩みを止める。 「何の真似だ、イース!!」 「私の部屋に近付くな」 冷たい声と言葉に、彼は顔をしかめる。が、せつなの瞳に宿った暗い光に、何も言えず。 「次で埋め合わせをするわ。それでいい?」 おざなりな台詞の向こうに見え隠れするのは、早く行って欲しい、という彼女の思い。反論しようとするが、それを 許さない雰囲気に、渋々ウエスターは引き下がることにする。だが、一つだけ気になったことがあって。 「イース。お前が持ってるの、それ、香炉か? 何するつもりだ?」 かけられた声に、部屋に入ろうとしていたせつなは肩越しにチラリと振り返り、そして。 「秘密よ」 そう答えて、扉を閉めた。 薄暗い、室内。 白のシーツを引いたベッドの上に横たわるのは、蒼の少女。 美しく、気高く、強く。整った顔立ちは、眠りに付いていてもどこか凛としている。 その顔が、悲痛に歪む様を想像して、せつなは。 妖しく胸を高鳴らせたのだった。 Eas of Evanescence V 「ん......」 寝返りを打とうとして、だが体が動かず、苦しげに眉を揺らしながら美希は瞼を開ける。 「ようやくお目覚め?」 最初に目に入ったのは、椅子に座り、こちらを見つめてくる少女の姿。もはや邪悪な笑みを隠そうともしない彼女に、 美希は一気に意識が覚醒する。 「貴方――――!?」 起き上がろうとして、愕然とする。全く、体が動かない。 頭上に伸ばされた腕、広げられた脚。両の手首が、一つにされて縛られているのが判る。足首にも、ロープが 巻かれている。そしてそのどれもが、鉄製のベッドの柵へと繋がっていて。 緊縛されている。そのことに、ようやく美希は気付いた。 「いい格好よ、美希」 彼女の様を見て笑いながら、せつなはゆっくりと立ち上がる。そして両の掌を重ね合わせ、 「スイッチ・オーバー!!」 変身をする。黒のボンテージファッションに身を包んだ、イースの姿へと。 「――――っ!!」 油断したっ!! 美希は思い、臍を噛む。一体、どうして私はここに来てしまったんだろう。どうしてもっと早く、 気付けなかったんだろう。せつなが、あたし達の敵、イースだということに。 後悔もそこそこに、美希はイースを睨み付ける。動けなくとも、負けたわけではない、そう示す為に。 だがせつなは、彼女のその視線に、より一層と笑みを深くする。 「素敵ね、美希。その顔――――私が憎くて憎くて、仕方ないんでしょう?」 まるでそれがとても楽しいことのように、イースは嬉しそうに言う。言いながら、テーブルの上の香炉の蓋を開け、 その中に手をかざす。間を置かず、部屋の中に満ちる甘い香り。 「何よ、これ」 縛られたまま彼女の動きを見つめていた美希の問いかけに、イースはクツクツと喉で笑う。 「確か美希の趣味は、アロマだったわよね。なら、香りが人間の体にどんな影響を及ぼすかぐらい、判るでしょう?」 「アロマ――――?」 香り――――芳香成分は、人間の体に様々な反応を引き起こす。アロマテラピーはそれを用いて、心と体を癒す 為の技術だ。ストレス解消や心身のリラックス等の為に用いられることが多く、美希が普段、家で作っているのも、 それらがメインだ。 だが――――美希は、漂う香りに眉をひそめる。 こんな香り、あたし、知らない―――― 思った、瞬間。 ドクン、と心臓が高鳴った。 「え?」 戸惑いの言葉を上げると同時に、全身が、まるで火を灯されたように熱くなる。鼓動を速める心臓、そこから 送り出される血液そのものが、熱を帯びたように全身を焼いていって。 頬が赤くなる。息が荒くなる。胸元が熱くて、シャツのボタンを緩めたいと思う。 いや、軽く身じろぎする度に肌にこすれる服がくすぐったい。 脱ぎたい。全部、脱いでしまいたい。 熱にぼんやりとし始める頭で、美希はそんなことを考えていて。 「効いてきたみたいね」 冷笑に、美希はイースへと顔を向ける。 「この香りにはね、美希。催淫作用があるのよ」 「催......淫?」 ええ、そう。言いながらベッドに腰を下ろしたイースが、レザーの手袋をはめた指で、そっと首筋を撫でる。 「――――っ!!」 思わず、声が出そうになるのを、美希はなんとか我慢する。 ただそれだけのことなのに、全身に電撃が走ったかのよう。ゾクゾクとする。 「どう? すごく敏感になっているでしょう? 美希の体」 楽しそうに笑いながら、イースはベッドに上がり、彼女にのしかかった。 「随分と暑そうね、美希――――今、楽にしてあげるわ」 「やめ――――なさい」 シャツに手をかけるイースを止めようとするが、その声は弱々しく、そして震えていて。 一つ、二つと彼女がボタンを外していくのを、美希はただ見ていることしか出来ない。いや、体を揺さぶって 逃げようとするが、拘束されていては。 そして全てのボタンが外され、イースは彼女の前をはだける。白のシャツの中から現れたのは、それ以上に 白い体。だがその体は、今は上気していて、ほのかに赤みを帯びていて。 「ふふ。思ったとおり、綺麗な体ね、美希」 下着に包まれた胸を露にし、イースはその手でゆっくりとまさぐり始める。横になっても形の崩れない、張りの ある彼女の膨らみが、黒の手袋の下で形を変えて。 「――――っ!! ――――っ!!」 美希は、声を、殺す。 胸から生れた刺激が、脳を焼く。下半身に集っていく。 彼女は認める。認めざるをえない。 これは――――快感だ。 「声、出したら? 別に我慢しなくてもいいのよ――――ここは、こんなに硬くなってるのに」 イースの唇が、胸の先の蕾に触れる。確かに硬くなっている乳首を、舌の先でつつかれ、弾かれる。その度に、 初めて味わう感覚が、美希の体を貫いて。 「――――強情ね」 それでも声を出さない彼女に業を煮やしたのか。 カリ イースの歯が、硬くなった乳首を、甘く噛む。 「――――――――っ!!!!」 その瞬間に走った感覚に、美希は体をのけぞらせる。拘束された手首と足首に痛みが走るが、それを感じさせない 程の甘い刺激に、彼女は口を大きく広げ、息を吸い込む。 「軽くイッチャったのかしら」 喉で笑いながら、イースが胸を責め続ける。 乳首を摘み、弾き、転がし。 強弱を付けながら、乳房を揉み。 「――――っ!!」 翻弄される。 イースの指が、掌が、唇が、舌が流し込んでくる快楽に、頭が真っ白になる。 それでも――――それでも。 美希は、声をあげない。呼吸が荒くなっても、決して、声は。 「本当に、強情なのね」 不意にそう言うと、イースは胸から顔を上げる。美希の乳房は、彼女の唾液でその全てがまみれていて。 終わった――――と、美希は思わなかった。 ただ、戦慄するばかり。次に何が起こるか、わかっていたから。 「ならやっぱり――――こっちを」 言いながらイースは、手袋を脱ぎ捨て、美希のスカートに手をかける。 「どこまで耐えられるかしら?」 笑いながら言う彼女の眼を、美希は睨み付ける。その様子に、イースはなお笑みを深くして。 「楽しませてちょうだい、美希」 そして下着の上からゆっくりと、彼女の割れ目に指を這わせた。 「――――く、ぅっ!!」 上げそうになった甘い声を、彼女は押さえ込む。顔をそらし、痛い程に奥歯を噛み合わせて。 「ふふ。こんなにドロドロ」 イースの声を、聞くまでも無かった。自分の秘所が、自分の意思に反して、蜜を湛えていることぐらい、わかっていた。 それでも、 「ほら、見て、美希。少し触っただけなのに、こんなになってるのよ」 目を背けようとする彼女の前に、わざわざイースは自分の濡れた指を見せる。 悔しい――――っ!! 屈辱的な扱いに、美希は拳を強く握る。 この香りと、イースの巧みな責めのせいで、体は反応している。してしまっている。 触れ合う肌から伝わる熱が、心地良い。胸を揉みしだかれるのも、気持ちいい。乳首に触れられるのは、快感だ。 最後に残された秘所には、割れ目を撫でられてしかいないから、もどかしい。 だから。 もっと、もっとして欲しい。 指を入れて、かき回して。激しく動かして。気持ち良くして。快感をちょうだい。 体は、そう叫ぶ。もっと淫らになって、嬌声を上げればいい。何もかも忘れて、快楽に溺れればいいと。 だがそれでも、美希は強く、目の前の少女を睨み付ける。 いくら体が乱されても、心が。 彼女に触れられることを、望んでなどいないから。 だから決して、声を出したりはしない。 感じていることなど、認めはしない。 「かき出してあげるわ。中からね」 そんな彼女の様をよそに、イースは、美希のはいた白の下着をずらし、指を差し込む。 クチュリ 湿った音と共に、美希は自分の体の中に、自分以外のものが入ってきたことを感じる。 クチュリクチュリクチュリ イースが、手を動かし始める。中の壁をこするように、指を曲げながら、ゆっくりと出し入れされ。 「すごいわよ、美希。もうグチョグチョ。お尻にまで伝わって、パンツだけじゃなくて、スカートまで汚してるわ」 イースは手を動かしながら、美希に顔を寄せる。 「もっともっと、汚してあげる――――美希をね」 言葉が終わると同時に、唇が美希の首筋に触れた。それだけで終わるわけはなく、舌が這いずりまわる。まるで 生き物のように。 首筋から、耳へ。両の耳を存分に味わった後、再び首筋へ。そしてそのまま、胸元へ。やがて乳首に辿り着き、 吸いながら、ねぶる。 その間も、イースの手は休まず、秘所を責め続けていた。淫らな音は徐々に激しくなり、親指は美希のクリトリスを こね、短い爪で中の襞を引っかかれて。 グチュグチュグチュグチュグチュ その淫らな音が、段々と遠くなる。芳香が脳を焼く。閉じた瞼の闇の先に、白い光が見える。チカチカと光っている。 段々と、体が絶頂に向かっていることを、美希は感じ取る。知らず荒くなった息に、イースは自分も興奮しきった 声で言う。 「イキなさい、美希。私が――――イカせてあげる!!」 「――――――――っ!!」 その声と同時に、美希の体が跳ねる。何度も、何度も、暴れるように。ギシッギシッとベッドがきしみ、彼女を拘束 していた鉄の柵がグラグラと揺れる。 激しい、衝撃。初めての感覚に、美希は翻弄される。クラクラとなる。 それでも。 彼女は、唇を強く噛んで、噛み続けて。 決して声を出さなかった。 それが美希に出来る、ただ一つの抵抗だったから。 「このこと、ラブと祈里にバラされたくなかったら――――わかるわよね?」 果てて、荒い息を吐く美希の耳元で、イースが囁いてくる。それにきっ、と眼差しを強くして、彼女は答えた。 「貴方って――――本当に、最低ね」 「ありがとう。褒め言葉と受け取っておくわ」 クツクツと笑う彼女を睨みつけた後、目をそらして美希は言う。 「わかったわ――――好きにすればいいでしょ」 けどね、と彼女は続ける。 「もしも貴方が、ナケワメーケを連れて現れたら、あたしはプリキュアとして戦うわ――――貴方だってまだ、二人に 知られたくはないでしょ。せつながイースだ、ってことに」 ラブも祈里も、せつは=イースだとはまだ気付いていない。気付いていないからこそ、二人はせつなに抱かれて いるのだろうし、イースがナケワメーケを引き連れて現れても、躊躇無く闘えるのだろう。 もしも、彼女達がせつなの正体を知ったら。一体、どうなってしまうだろう。美希には、わからない。わからないから こそ、怖い。 だからこそ、彼女は取引を申し出る。自分の体を材料として。 「ええ、いいわ」 あっさりと、イースは美希の言葉に頷く。 彼女とて、これでプリキュアを抑えられたとは思っていない。三人のうち、誰か一人でも残っているようでは、ダメ なのだ。全員を、全員の心と体を掌握しなければ。 ラブと祈里はともかく、目の前の少女は、まだ心が折れていない。彼女を抑えられれば、もはやプリキュアなど。 もっとも、そんなこと、美希は気付いているのだろうとイースは思う。気付いているからこそ、こんな取引を持ちかけて きたのだろう、と。 だから彼女は、淫靡に笑う。 「これから貴方、蒼乃美希の体は、私の自由にさせてもらう。私の命令に逆らわないことを誓いなさい」 「......誓うわ」 呻くように、美希が言った途端、彼女の体を縛っていた拘束が解ける。 が、安堵する間も無く、再びのしかかられて。 「――――!? また!?」 「私に逆らわない約束でしょう?」 自らも服を脱ぎ捨て、上半身裸になった彼女が、美希の体に覆いかぶさってくる。 「たっぷり、可愛がってあげる――――そう、たっぷりと、ね」 クスクスと笑いながら放たれた言葉と、自分の体をまさぐってくる彼女の手に、美希は。 深い絶望に襲われながら、それでも、と。 それでも希望は捨てない。決してあたしは、心を折ったりはしない。大切な仲間の為に。 そう心に決めたのだった。 5-531へ
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「これって」 「美希ちゃんの、日記だよね」 ラブが美希の本棚から取り出したもの。それは真っ白な表紙の日記帳だった。 「こんなの持ってたっけ?」 「……わかんない」 ラブは祈里を見る。祈里の方も曖昧ながら頷いて、ラブはゆっくりと日記帳を開いた。 人のもの、特にこういったその人のプライベートをのぞき見ることには誰だって抵抗がある。ラブはページをめくる度、共犯者である祈里を見て確認してからめくっていく。 「ねぇ、これってほんとに美希が書いたの?」 「……なにこれ」 ラブが言うように内容は自分たちの知っている美希らしくなかった。というより自分たちの名前もあるのに、見に覚えのないことばかりなのだ。 「なんだろ、ドーナツカフェ以来の雰囲気違った美希みたい?」 「最近の美希ちゃん?それでもここまで感情だすかな」 「実際人が何を思ってるかなんて、親友でもわからないものかも……ね」 「帰りたいってどういう意味?」 「外で日記書いてて、早く帰りたかったのかな?」 「違うと思うけど」 「ラブちゃん!?」 「あれっ、な……に」 ぽたぽたとラブの目から涙がこぼれ落ちる。祈里は驚きながら、不思議な気持ちでそれを見ていた。 ラブは無表情に泣いていたのだ。 こんな風に無感情に人が泣いているのを、祈里は初めて見た。 「あれ、あたしなん……で」 ラブ自身自分の変化に驚いていた。 暫く涙は止まることはなかった。 そして、ラブはずずっと鼻をすすり、ぐいっと涙を拭った。 「大丈夫?」 「うん」 ラブは日記帳をぱたんと閉じた。そして大きく深呼吸をする。 「美希は……あたし達にいっぱい隠し事してる」 「ん?そうみたいね」 「寂しいとかあたし達の前で言うべきなんだよね。友達なんだから」 「言えなくしたのは私たちかもね」 「もー、ブッキー!そうかもしれないけど、今からは違うんだよ!」 「本人いないけど……」 ラブは祈里の手を取った。そして太陽のように笑いかける。 「美希を助けに行くよ!」 居場所がわからない 冷めた目でそう言おうとした祈里だったがハッと口をつむぐ。 ラブの瞳が強い意志を持っていたから。 「私も……美希ちゃんに聞くこといっぱいある」 「よーし、幸せゲットだよ!」 「……なにそれ」 この時 祈里が感じた微かな違和感の正体に気づいている者は少なかった。 「いつ……言うの?」 せつなは勉強する手を止めタルトに問い掛けた。 シフォンをあやしていたタルトはぴたりと動きを止める。 「もう時間はないんや。せやのにわいは……」 せつなは椅子を降り、床に座りタルトと視線を合わせる。シフォンが近くに来たせつなにぴょんと抱き着いた。せつなは無意識に微笑む。 「でも彼女の世界はここじゃないんでしょ?」 せつなはタルトから聞かされ、今の美希が異世界の住人だと知っている。 しかし、せつなの知っている美希は今の美希で、実際向こうにいる美希とはイースの頃に数回しか会ったことがない。 だからタルトに提案をしようとしたことがある。 このままでは駄目なのかと。 だが結局それを言ったことはない。言ってはいけないと思い直したから。 こちらの美希の記憶が混同していてどんなにここに馴染もうと、あちらにいる美希は記憶もあり知らない世界で暮らしているのは事実なのだ。 あちらをたてればこちらがたたず まさにその通りだとせつなは悲しくなった。 「それで……いつ、鏡の国は開かれるの?」 「明日から。太陽と月の位置が関係してて、期間があるみたいでそれを過ぎたらあかん」 自身の国の文献を調べた結果。過去に同じようなことがおこっていたことが何度かあった。 「明日!?」 せつなは部屋にある姿見を見て眉を寄せた。 「早く伝えないと……」 「どう言えばいいんやろ」 「しっかりしてよ!向こうの美希にも関わる問題なのよ」 「っああー、わかった!パッションはん行くで」 頭を抱えていたタルトはがばっと飛び上がった。急に名前を呼ばれたせつなは反射的に返事をしてしまう。 「はいっ!って私も!?」 「わい一人じゃ無理や」 少し考えて、そして、せつなはアカルンを呼んだ。 急に来たせつなからのメール。雑誌を読んでいた美希は何を考えるでもなく、返事を返した。むしろ誰かとお茶でもしたいなと感じたから快く。 「ごめんなさい。急に」 「ううん、一人じゃつまんなくて。タルトも来たんだ。何か飲む?」 部屋が朱い光に包まれて、せつなとタルトが現れた。二人の表情に多少の違和感を感じた美希だったが、嬉しそうに出迎えた。 「あ、うん。じゃあアイスティー」 「タルトは?」 「わいはオレンジで」 美希が飲み物を用意して、皆が席につくと、沈黙がおとずれた。 流石に美希も何かがおかしいと気づく。こくっと紅茶で口を潤した。 「どうしたの?何か話があるみたいだけど……」 「あ、うん。タルトっ」 「ええと、ベリーはん何か違和感感じたことあらへん?」 小突かれたタルトはしどろもどろになりながらそう聞いた。美希ははぁ?と聞き返す。 「あの、ちょっとしたことでもええんやけど」 「そういえば……夢を見たかも」「夢?」 せつなが聞き返すと美希は思い出すように目を閉じた。 「イースがねあたしに誰だって聞いてくるの。名前を答えたんだけど、知らない人みたいに見られて」 「イースが?」 「うん、最近見たからやけに印象に残ってて。だって今はイースはせつなとして生きてるんだし」 「イース……」 「あんまり関係なさそうやな」 イースという単語を聞き、せつなは少しだけ気分が沈んでいくのを感じた。それは自分がしてきた過去を見つめることで。 「あ、ごめんなさい。無神経よね」 「ううん、大丈夫。タルト」 「せやな。何かしら兆候がある思うたんやけど」 美希は整った眉を寄せ、二人を見る。 タルトはそんな美希の目をしっかり見すえると、ゆっくりと口を開いた。 「唐突でびっくりするやろうけど、これから言うことしっかり聞いて欲しい」 タルトのただならぬ雰囲気を感じとり、美希はこくりと頷いた。それを確認してから、タルトは真実を口にする。 「ベリーはんは、この世界の人やないんや」 「蒼乃美希」 目の前の少女が名を告げた 私はそれをどうしても受け入れることができなかった 姿・声は彼女と同じ 名前も同じ なのに彼女とは違うと感じてしまう 「美希?」 そう声をかければ 「せつなだよね?」 彼女も語尾を上げて問いかけてきた せつなとは私が町に出たとき、便宜上使っている名前 この姿の時に美希はその名前では呼ばないのに イース イース ああ これだ 彼女はこんな風に私を呼ぶ 「イース!」 「………っ」 「イース!?」 「ぐっ……ここは」 イースがゆっくりと瞼を開けた。美希は椅子から立ち上がる。 「イースの部屋よ。無理しないで」 美希は起き上がろうとしていたイースをそっと遮った。 身体中にピリピリと走る痛みで、イースは完全には傷が癒えていないことを知り素直にベッドへ沈む。ふと、風で揺れたカーテンの隙間から外を見て、今は夜が明けていることを知った。 「何があったの?」 美希はイースが串刺しにされていたところから今までの経緯を説明する。黙って聞いていたイースだったが、途中から眉を寄せ険しい顔になった。 「生きているなら、きっとすぐ復讐に来るわ」 「それは大丈夫だと思う」 美希が発した言葉にイースは皮肉な笑みを浮かべた。 「どうして?」 「あたしが彼女なら、自分の傷を癒して次は完璧な機会を狙う」 蒼い瞳は揺るぎなくイースを見つめ、イースは今の話題も忘れその瞳に見とれてしまう。その蒼さに懐かしいものを感じた。長い間見ていない錯覚を覚える。 「だから、イースは今自分の事だけちゃんと考えて。イース?」 「っ……言われなくても身体が自由に動かないなんて耐えられないわ」 美希が怪我を心配してイースを見ると、イースは妙な居心地の悪さを感じふいと視線を外す。 「……後でまたくるね。もう少しゆっくり寝た方がいいし」 じゃあと美希がイースに背を向けようとすると、服の袖をぐっと引っ張られた。 「何?」 「は?」 「え?」 このやり取りには美希以上にイースが驚いた。 無意識に自分の手は美希を掴んでいたのだから。 「……ここにいた方がいい?」 「…………」 「もう少し、いる……ね」 戸惑いながらも美希はゆっくりとベッドへ腰かける。イースは肯定も否定もしなかったが、美希が腰を下ろすまで掴んでいた袖を離さなかった。 「あ、っと、お腹空いてない?林檎剥こうか?」 「……ええ」 今だ目線を合わせようとしないイースに苦笑して、美希はスルスルと林檎を剥いていく。 普通よりも小さくカットして、そっとイースの口の前に林檎を持っていく。 しゃくっとゆっくりイースは咀嚼した。蜜をたっぷり持っていた林檎はじゅわっとイースの口内に甘さをもたらす。 本人の予想外にお腹は空いていたらしく、イースは三切れ続けて林檎を食べた。 「何故ここにいるの?」 「ん?」 「私から逃げればよかったでしょう」 うっと小さく呻いてイースは上半身を起こした。 ああ、そういうこと と美希は呟き。 「あたしには帰る場所なんてないのよ」 イースは美希が泣いているのかと思った。 声が、震えていたから。 「イースはなんであたしを助けに来たの?」 「ノーザの思い通りに事が進むのが気に入らなかっただけよ」 「そう」 二人は視線を合わせ、同時にふっと小さく笑った。 それは共犯者とは少し違う、心の奥深くを共有しているような。 「喉が渇いた」 そしてイースは美希のシャツの襟を掴む。 「水でいい?」 「ん」 コップを手にした美希はその中に水を注ぐ。しかしイースがぐいっと持っていた襟を引き寄せた。 「使わなくていい」 「はいはい」 美希はコップの中の水を一口分口に含むと素早くイースに口を合わせた。 「ん……」 口から零れた水がイースの首筋を流れる。もう水は美希の口内には残っていない。それでもイースは美希に舌を絡め続ける。 はぁとイースが息をつき、唇を離すと二人の間を唾液の糸が繋いだ。 お互い頬を染め、見つめ合う。 こつ……ん 美希がイースにおでこを重ねた。 「あの……聞いて欲しいことがあるの」 イースが再び重ねようとした唇に指を乗せ、美希は目を伏せた。 「あたしは、この世界の人間じゃないの」 「ああ、これ、ここに置いたんだった」 ラブは隣の部屋でアカルンが力を使ったことを、ピルンから感じとっていた。そして、最近せつなとタルトが自分と祈里に隠し事をしているのも気づいていた。 引き出しから白い日記帳を取り出す。 「今日は何を書こうかな」 少し考えてから、ラブはシャーペンを手にした。 それは毎年、ラブと美希と三人で買っているもの。 棚を見れば種類、色の違う日記帳が並んでいる。二人も同じものを持っている。 きっかけは小学生のとき、二人とクラスが変わってしまうことに不安を抱いた祈里の一言だった。 泣き続ける祈里をなだめ、ラブと美希が三冊の日記帳を買ってきた。 「交換日記しよう。そしたらクラスが変わっても寂しくないよ」 「交換日記って一つを回すものじゃないの?」 「……ラブが間違って三つ買っちゃったのよ」 「たはー。いいじゃん。こうしよ」 皆が普通の日記帳みたいに使って、それは三人でみほうだいなの 見放題?なんかプライバシーがなくない 美希たん恥ずかしいことでも書くの? なっ、そんなんじゃないわよ。いいわよ、それで!二人には隠し事なんかないし。ブッキーは? 楽しそう! よし、決定ね! くすりと祈里は昔を思い出して笑う。三冊のピンク色の日記帳は第一号。青、黄色……そして今年は白。 白い日記帳をぱらっと開けると、祈里らしく丁寧に色で可愛いく装飾されて書かれている。 しかし、微妙な空白が目立つ。 その空白は祈里が書く場所ではないから開いたまま。だが、去年の日記帳には空白はない。 「最近、交換してないな」 交換とは互いに見せて、コメントを書くこと。コメントとは少し違うかもしれない。書くことのなくなったときのラブは、ラーメンが食べたいなどと自由に書いていたから。 いつからだろう。お互いの日記帳を交換しなくなったのは。本来このタイプの日記帳とは交換するものではないから使い方としては正しいのかもしれない。しかし、これは交換日記なのだ。 たまたまこの間、美希が鞄の中身をぶちまけたとき、彼女の鞄の中に日記帳は見当たらなかった。 もう彼女たちの中では小さい頃の遊びに変わってしまったのかもしれない。 「今日あったことは……と」 それでも祈里は新しいページにペンを走らせる。 過ぎた時を懐かしんで、新しい日々を書きとめるために。 「今年は白にしてみました!」 「なんで白?まぁ、いいけど……」 「ピンク、青、黄色で、次は白なんだ……あなたの色に染まりますとかってあるよね」 ラブはにこにことしながら二人に今年の日記帳を渡す。 「白に新しい色を描いていくんだよ!」 新-305へ
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暗い天井が、目に入った。 体を起こして、まわりを見渡す。 床にあるのは、布団だけ。 横で眠っているブッキーを起こさないように、 そっとベッドを降り、部屋を出る。 クリスマスパーティで、夜遅くまで おしゃべりにふけっていたアタシたちは、 もう遅いからと、みんなで泊まることにした。 ラブの部屋を、使わせてもらった。 アタシとブッキーが、ベッド。 ラブとせつなが、床に布団を敷いて。 一緒に、眠ったはずだった。 廊下に出る。 かすかに、隣の部屋から 声が聞こえる。 久しぶりに、せつなが 帰ってきたんだもんね。 まだ、おしゃべりが 足りないみたい。 ドアが、少しだけ 開いている。 そっと覗いてみる。 そこから、 動けなくなった。 かすかに聞こえていたのは、 確かに、ラブとせつなの声。 夜目に慣れてきた。 ベッドの脇に、乱暴に脱ぎ捨てられた ふたりのパジャマ。 仰向けになったせつなに、 ラブが反対向きに覆い被さっている。 お互いの、脚の間に 顔を埋めている。 何? 嘘でしょ...? 吐息。 押し殺したような呻き。 ぼんやりと差し込む月明かりが、 やけにまぶしく思えてきた。 部屋の中に立ちこめる熱気で 窓ガラスが、すっかり曇っている。 短く、甲高い声が 吐息に混じる。 せつなの脚が、悦びに震えるかのように 細かく跳ねる。 せつなも、同じようにしているのだろう。 ラブの腰も、時々嬉しそうに跳ねる。 ラブが頭を上げ、 アタシは思わず体を隠した。 息を殺す。 心臓が、体から 飛び出てしまいそう。 しばらく、じっと床を 見つめていた。 唇を吸い合う音が聞こえ、 視線を戻す。 向かい合ったふたりが、 くすくすと笑っている。 口づけを交わしながら。 舌を絡ませながら。 悦びに尖った胸の先端を、 指で転がし合いながら。 普段のふたりからは、 想像できない、乱れた姿。 いつも、してるの...? 体が、熱くなる。 ふたりの手が、お互いの 脚の間に、ゆっくりと降りる。 受け入れるかのように、 ふたりの脚も、大きく開く。 くぐもったような声が聞こえ、 ふたりの腰が、大きくわなないた。 何が起こったのか、わかった。 アタシの中で、激しくあふれる 感覚がある。 艶めかしく動く、ふたりの手。 唇を吸い合う音。 中を、かき回す音。 吐息に混じる、悦びの声。 お互いを呼び合う、かすかな声。 シーツが擦れる音が 大きくなる。 ふたりの腰が、不自然に 跳ね始めている。 夢中で、激しく唇を重ねている。 「...!」 精一杯、押し殺した声。 ふたりの腰が、激しく跳ねる。 ベッドがきしむ音。 ふたりの荒い息づかいが、 部屋に響いている。 ふらふらと、部屋に戻った。 頭が、混乱している。 多分、朝になったら 何事もなかったように、普通の 仲良しさんに戻っているのだろう。 アタシは、ふたりと普通に 接することが出来るだろうか。 そうよ。 アタシは、夢を見ているのよ。 すごく、変な夢。 言い聞かせながら、 ベッドにもぐり込む。 考えないようにすれば するほど、火照る体。 ダメよ。 アタシは、 完璧にコントロール出来るんだから。 言葉とは裏腹に、 アタシの手は下に伸びる。 あのふたり、 幸せそうだったな。 アタシも... 触れる。 快感が頭の先まで 突き抜ける。 隣で眠っているブッキーに 気づかれないように。 気づくように。