約 1,358,855 件
https://w.atwiki.jp/n4908bv/pages/299.html
ホーンラビットの上位種。 体力がかなりタフになっている。 HPが半分になったあたりで激昂状態になり外見が大きく変化する。 (ツノが反る、体が若干大きくなる、体毛に黒い縞模様が浮き出る、口から牙が伸びてくる、目が血走る) 主な出現場所:レムト周辺 初出:2話 ドロップアイテム 縞野兎の肉 縞野兎の角 魔石
https://w.atwiki.jp/websakahokan/pages/127.html
2049シーズンチャンピオンズカップ フォーメーション 選手名 スコア 選手名 フォーメーション バルセロナ 1999-002-3-2-3攻撃的 4-3 ヴァレンシア 2003-044-2-3-1攻撃的 ミゲル・カブレラ マティアス・アウアー コンラド・ゴドフロア ヘルムート・シュレーダー クラウディオ・ダビーノ エンリコ・ロスタ ジョセフ・ガリアーノ フェルナンド・ヒメネス ラディラフ・マイナー クリスティアン・ペトレスク エドガー・ターヒュッツ ミヒャエル・バウアー ミヒャエル・バウアー ディトマー・ビットマン アルベルト・イライソス アデル・コリル ステファノ・ドラビッチ ステファノ・ドラビッチ ビクトール・エルボマ ガスパー・キャンベル ブライアン・キング フレデリク・アンデション 監督 監督 モハメド・エル・ハッサン ヤール・フィヨルトフト
https://w.atwiki.jp/websakatentlers/pages/109.html
ユーゴスラビア00完全攻略 シーズン ワールド リーグ クラス 順位 2022 アウル ブロシャン A 1位 勝 敗 分 勝ち点 得点 失点 得失 22 3 5 71 93 49 44 監督 平均評価 フォーメーション ジャンヌ 3.73 ユーゴスラビア2000 ユーゴスラビア2000に挑戦し3季目。ついに8季ぶりに4回目の本A優勝をすることができた。 本A4位だった昨季からのメンバー変更点はRFWガンプとLSBフェラーリ。ガンプは前評判通りの活躍で攻撃を牽引し、相棒ロハスの評価も上昇した。フェラーリは左SBの適性は7であるものの未知数であったが及第点の活躍だと言えよう。序盤は得点に良く絡み評価も3点台に乗っていた。 昨季からの上積みはそれだけでない、ROHドラビッチ、RDHヨルセン、LDHマイナー、RSBサンタクルスらの能力がピークを迎え昨季よりも高評価の活躍を見せた。他のメンバーでは両CBの評価が低下したぐらいで、結果的には中盤より前の評価が全員3点を越えるなどバランス戦術にも関わらず90点を越える圧倒的な攻撃力で本A優勝を決めた。また、優勝は27節に確定したためその後3試合はスペイン(1勝2分け)を使用した。 ちなみにシーズン20勝を越えるのは2007季(N-BOX、本A優勝)以来で22勝は最多記録となる。 POS 名前 在籍 出場 得点 アシスト イエロー レッド 評価 備考 GK ベネディクト 4年目 30 0 0 2 0 2.27 RSB サンタクルス 5年目 30 4 6 1 0 3.17 RCB バロン 2年目 30 0 0 0 0 2.43 LCB ミサイルビッチ 2年目 30 6 3 1 0 2.83 LSB フェラーリ 1年目 30 5 5 3 0 2.6 RDH ヨルセン 7年目 30 3 8 1 0 3.07 LDH マイナー 4年目 30 7 10 4 1 3 RSH ドラビッチ 3年目 30 22 14 4 1 3.77 LSH ドールマン 6年目 30 13 11 1 0 3.33 RFW ガンプ 1年目 30 15 9 1 0 3.1 LFW ロハス 3年目 30 18 8 0 0 3.17 今日: - 昨日: - トップページの合計: -
https://w.atwiki.jp/bitchgirls/pages/98.html
第2章 01-754 :腹黒ビッチ 2章(前) 1 :09/03/18 03 33 33 ID mf3OzW4s 午前は授業が無かったので、サークルの部室で数人とテスト勉強をしてから学 部棟に向かった。学部の掲示板の前に、人が集まっている。集まりすぎて、近づ けない。 「おいそこのでかいの、ちょっと見てくんねー?」 「身も心も小市民達が偉そうに。……ちょっと待ってろ」 高校からさらに三センチ身長を伸ばしても、いまいちプラスになったことがない それが、珍しく利用されるこんな時くらいと言うのが悲しい。 「んー、あー、ゼミの選考結果か」 「俺どこ出したか覚えてないわ。俺何になってる?」 「悪いけど、名前小さすぎて読めない」 「克哉、そのメガネは伊達か。根性で読め」 「無茶言うな、お前こそ裸眼2.0だろうが」 後ろでそんな風に騒いでるからか、掲示板前からだんだんと人がいなくなってい く。ぞろぞろと数人連れ立って掲示板の前に立つ。 「里中と達吉は磯矢ゼミだな」 「第一通ったよっしゃー」 「マジで?てか俺磯矢んとこ出してたっけ」 「あー、田中ゼミと大倉ゼミはは俺らの中じゃ誰もいないみたいだな。あ、神田と克 哉とエイジが和田ゼミか」 「女子いねーの、女子」 「えーっとー、あ、女子は磯矢に集中してんな」 「いよっしゃああ!」 「華があるぞー!」 「お、別所さんが和田ゼミだぞ、克哉」 別所さんと言うのは二年で一番有名な可愛い女の子で、去年のミスキャンだ。 「そういえば克哉、別所さんと最近どうよ」 「どうよって言われても、まあ、遊んだりは何回かしてるけど」 「うおおおおお別所さんがなんで克哉みたいな奴に!確かに雰囲気イケメンだけど 超シャイボーイなのに!」 「うるさい!シャイボーイって言うな!」 「てか、克哉が和田ゼミってのが意外だよなー」 「あー、親父が最近うるさいんだよ」 振りではなく、心の底からうんざりした声が出た。そう、最近父親がとみにうるさい のだ。全然期待をかけていなかった次男が、ひょんなことでそれなりの大学の法学 部に受かってしまったのだ。兄がいるってのに、どうせなら保険にと俺にまで弁護士 になれと言いだした。 「正直言って面倒臭い。和田ゼミきついって有名だし……」 「まあまあ。これから別所さんとバラ色の大学生活が送れると思えばいいじゃねーか」 「そうだぞ、他には目ぼしい女子いないけど、別所さんがいるんなら万々歳だろ」 「キャワイイよなー、別所さん……」 「あ、女子もう一人いるぞ。斎藤さんも和田ゼミだ」 01-755 :腹黒ビッチ 2章(前) 2 :09/03/18 03 38 13 ID mf3OzW4s 斎藤、という名前に一瞬体を強張らせてしまう。が、誰もそんな俺には気付 かなかった。斎藤さんという名前に大きく反応したのは、俺だけじゃなかった からだ。 「うおおおお、和田ゼミに法学の二大美女が揃ってんのかよ!挟まれてゼミ 受けたい!『阿部君と一緒に一緒にレポートしたいな』なんて別所さんに言わ れたい!『しっかり聞かかないとお仕置きよ』なんて斎藤さんに冷たくあしらわ れたい!!」 ヒャッホーと、まだ新学期どころかテストも終わってないのに、栄治が一人 で興奮している。いつも一人でいる有華は、俺と付き合っていた頃とはまるで 真逆のイメージを持たれているようだった。 「一瞬磯矢ゼミ行けばよかったと思ったけど、別所さんと斎藤さんがいればト ントンだなーいよっしゃー」 「お前いい加減に落ち着けよ……」 そろそろ周りが邪魔そうに俺達を見ている。里中が行こうぜと言うので、俺達 は掲示板を離れようとした。 が、振り返るとそこに、斎藤有華その人が立っていた。 「あ……斎藤さん」 呟いたのは、今まで興奮していた栄治。だけど有華はにこりともせずに掲示 板を見た。 「掲示板、見てもいい?」 「ご、ごめん!今どきます!」 さささっと大げさな動きでそこをどくと、栄治は俺達の方に駆け寄った。有華は もう栄治には興味がないらしく、掲示板の文字を追っている。 掲示板を見る有華は染めてもいない黒髪を横で纏めて、いかにもお嬢様風の 女子大生だった。そのしゃんとした姿勢のいい立ち姿を、今まで騒がしかった俺 達もその場にいた学生も、みんな見ている。視線を感じているのかどうか、有華 は気にした風でもなく、自分の名前を確認すると、掲示板の前をさっさとどいた。 有華は次の授業に向かうらしく、真っ直ぐ、わき目も振らずに歩いていく。少し 意気をそがれた俺達も、なんとなくぞろぞろと歩きだした。 「斎藤さんって、なんかかっこいいよなー」 大学に入った当初、友人たちはそんなことを口々に言っていた。大学に入って から俺の世界はますます広がり、有華は確かに明るくて可愛かったが、他にも 可愛い子がザラにいるんだと知った。それでも有華が世間でいえば上等な部類 の女だという事実に変わりはない。腹が立ったので、金さえ払えばヤれる女だと 話してやったら、信じたのかどうかは知らないがさらに誰も気軽には近寄らなく なった。軽そうな男が何人か話しかけているのを見たことがあるが、有華が相手 にしていたかどうかは知らない。 「大した美人でもないくせに、お高く止まってるのよ」 女は有華をそう評する。誰もまともに相手にせず、一人の世界に没頭している 有華を、男の前ではまるで蔑みの対象のように扱う。大学の構内で時々見かけ る時の有華は、いつも何か本を携えていた。まるで以前の、暗くてダサい俺のよ うだった。ただ、元がいいからマシかもしれないが。が、そのせいで根も葉もない 噂が駆け巡るようにもなっていた。お水で働いてるとか、援助交際をしてるとか、 同年代の男は相手にしないで年上と付き合っているんだとか。それらの噂を聞い ているはずの有華だが、学校では何も反論したりすることもなく、静かに過ごして いる。 01-756 :腹黒ビッチ 2章(前) 3 :09/03/18 03 40 53 ID mf3OzW4s 後期最後の授業だった。いつも通り友人たちと、大教室の後ろを陣取る。サーク ルの女も数人来たりもして周り一帯が華やかだった。買わされて以来開きもしない 教科書をルーズリーフと並べておいて、惰性でペンを持ちつつやっているのは雑談。 いわゆる、楽に単位が取れる授業という奴だった。 上からは教室全体が見渡せる。寝てるのも携帯をいじってるのも、いくらでもいた。 真面目に授業を取っている方が珍しい。有華は、そんな珍しい学生の一人だ。 「何が楽しくて学校来てんのかな」 と、うちの大学に来た割には馬鹿なことを言う女には少し呆れた。まさに有華を見て いれば分かるだろう。お勉強のため、ただそれだけだ。受験から解放されたら遊ぶこ としか考えていない部類の女子には、到底分からないかもしれないが。 有華は、大学に入ってからずっと一人で過ごしているようだった。高校最後の数か 月もそうだった。俺が有華とのことを友人たちに言えば、みんなこぞって有華を責め た。有華は孤立した。クラスの女子も遠巻きに、有華の悪口を言っているようだった。 有華と同じ大学なんて行きたくないとも思ったけど、自分の目指せる偏差値の中で は一番いい大学だったし、国立だからネームバリューもあった。それに、今更有華の ために進路を変えるのも癪だった。有華はあんな事があってもやはり要領と度胸は あるらしく、成績を落とすことはなかった。それどころか最後まで教師に東大を受けて くれとうったえられるような余力さえ残して、有華は余裕で受験を終えていた。私立す ら一個も受けなかったらしい。不安がった母親にやたらめったら受けさせられた俺と は全く正反対だった。 そもそも俺と有華は、大学では話したことがない。高校では顔を合わさなければなら なかったし、狭い空間の中、嫌でも毎日有華の気配を感じなければいけなかった。だ が大学と言う所は不思議なもので、意識しなければ同じ空間にいることすら分からな いような、希薄な関係しか存在しない。 まるで、あの一年が夢のようだ。 レポートやらテストやらに追われるさなか。次のテストに備え、学食で数人とたまって いた。 「あ、一宮君、神田君!」 明るい声に話しかけられ頭を上げるとそこには、今代のミスキャンパス・別所愛美が いた。 「丁度良かった、探してたの」 「何かあった?」 「うん、春休みに入る前に学生全員と話しておきたいから、暇な時間に和田先生の部屋 に行ってくれって。今週中なら毎日いるらしいから」 「そっか、ありがと」 「葉山君にも伝えておいてくれるかな」 「分かった」 屈託なく笑う別所さんは、いつもにこにこと笑っていた昔の有華に重なる。どちらかとい うと愛らしい顔立ちの別所さんと、綺麗どころといった感じの有華とは対照的に見える。 だけどどちらも俺に愛想が良くて、そして世間一般に言えば美人だと言うことは一緒だっ た。有華とのことがあって女性不審気味で、しかも美人と言うこともあって別所さんには 一歩引いてしまう。 「今のところ、テストどんな感じ?」 そんな引け腰の俺にかまわず、別所さんはこうして交流を持とうとしてくる。 「ん……まあ、単位は大丈夫ってくらいかな」 「和田先生の面接パスするくらいなんだから、一宮君の大丈夫はとってもいいってことね」 「それって別所さんにも言えない?」 「私はすっごくがんばったもん」 別所さんは、魅力的な唇をにっこりと釣り上げる。その姿はまるで大輪の花を思わせた。 「ああ、そういえば和田先生の伝達って、図書館で斎藤さんに教えてもらったんだけど、」 と、別所さんは付け足す。 「あの人、噂には聞いてたけど本当にすごいみたいね」 「噂?」 01-757 :腹黒ビッチ 2章(前) 4 :09/03/18 03 43 30 ID mf3OzW4s 学内に出回っている有華に関する噂で、男とか遊んでるとか以外のものを初めて聞いた気 がする。驚いて、つい先を促してしまった。 「うん、一年の時から和田ゼミに顔出してるらしいの。ヤル気ありすぎよね。三年で取るはず の授業のテスト勉強してたわ斎藤さんだけは、最初から和田ゼミに内定してたらしいわよ」 和田ゼミは、俺達の大学の中でも屈指の司法試験予備校として有名なゼミだった。和田教 授もその気のある学生しかとらず、またその選抜も厳しいことで知られていた。 「ま、他人は気にせず、とりあえず単位とっちゃわないと。じゃあ、またデート行こうね、一宮 君」 軽い口調でそう言うと、別所さんはブーツの踵を鳴らしながら颯爽と去って行った。その後 ろ姿をぼんやりと見送り、ふと視線を感じて振り返る。 「克哉、お前いつの間にか別所さんと親密になってないか」 「なに、またデート行こうねって。俺達の前で堂々と言うくらいだから、もしかしてお前ものすご いアピールされてんじゃねーか」 「うおおおお!俺は単位とれるかどうかでひーひー言ってんのに、なんで克哉ばっかおいしい 思いしてんの?何だこの格差社会」 「……なんか慣れてる感じがして、俺は引いちゃうんだけどなぁ」 「もったいなさすぎるだろ!用意された据え膳を食わない男は今すぐ去勢しろー!!」 「ちくしょうっ、克哉なんて本当はエロゲでシコシコしてるくせに……!何があっても新作チェッ クは忘れないエロゲマニアのくせに……!」 「外では小説とか読んでインテリぶってるけど、ブックカバーの下がフ●ンス書院なこと俺達は 知ってんだぞ!」 「お前ら今すぐ黙らねーと、この間話してた学園モノ貸さんぞ」 シーン。一転、四人掛けのテーブルに響くのは、カリカリとシャーペンが紙を滑る音だけだった。 三コマ目が専門のテストだと言うこともあって、午前中からずっと学食に居座り続けた。それか らぞろぞろ連れ立って、最後まで教科書を読みながら法学部棟に向かう。その途中の図書館か ら、背筋をぴんと伸ばして何かを読んでいる有華が出てくるのを見た。小さなハンドブックのよう で、今から同じテストを受けに行く俺達の教科書とは明らかに違う。濃い青のストールで髪も一 緒に包みこんでいる有華の姿は、没頭しているのもあってかなんだか孤高の人のように見える のだった。 意識したわけではないが、そんな有華の後ろをついて行くような形になってしまった。それなり に俺達は喋りながら歩いているのに、有華が気付いている様子はない。有華はイヤホンをしても いないのに、集中しているのか何も聞こえないようだった。 学内では、この曜日しかほとんどすれ違うこともない有華。それが、四月からは同じゼミでまた クラスメイトだったころと同じ、近い場所で授業を受けることになる。 嫌な予感がした。ざわりとした何かが、俺の中で暴れ始めている。こんな風に突き放したような 距離で、やっと自分を保てているのに。また少しでも近くなれば、正気でいられなくなるかもしれ ない。そんな恐れが、どうしても消えなかった。 「(……悪循環だな)」 俺は結局、有華の呪縛から逃れられない。 01-758 :腹黒ビッチ 2章(前) 5 :09/03/18 03 48 16 ID mf3OzW4s 有華と見た海を、何度も夢に見る。 海なら何度も行った。夏だって、冬だって。だけど目の前に浮かぶのはいつも、海風 の吹きすさぶ、あの春の海だった。 海岸線を、歩けるだけ歩いた。有華と俺の指が、絡まるように繋がっていた。ただ明る いだけに見えていた有華の笑みに、少しの柔らかさを見た。つられて俺の顔の筋肉も 弛緩してしまうようなあたたかさ。そして対照的な、指の冷たさ。全てが、まだそのまま 手の中に残っている。 視覚が、聴覚が、ゆっくりとフェードアウトしていく。自然と瞼が上がって行く。現れる のは、見覚えある天井。夢が夢だったと気付くのは簡単だった。 感情は、有華を見るたびいつも荒れ狂う。だけどこの夢を見る時だけは不思議と凪い だ。波の音と共に洗い流される様々なもの。そうして何も無くなった時だけ、俺は安らぐ ことができるのだ。 右手で顔を覆う。また眼を閉じる。が、眠気すらも全て無くなってしまっていた。それで も余韻を味わう様に、しばらく何もする気が起きなかった。こうして横たわっていると、目 が覚めているのに、波に乗っているようにゆらゆらと心地がいい。呼吸をするのも忘れ るくらい、自分が無に近いのを感じていた。 少しずつ思考が戻ってくる。朝。日差しが強い。晴れか?ああ、そうだ。今日はガイダ ンスがあったはず。 ゆっくりと起き上がる。時計を見る。十二時前。 「……行かないと」 悠長な口調だが、実際は遅刻ギリギリだ。だけどそんな気になれない。あの夢を見る 時は、いつもそうだった。 01-759 :腹黒ビッチ 2章(前) 6 :09/03/18 03 48 37 ID mf3OzW4s 成績通知書は、とりあえず全部の単位が取得できていることと、教養の授業を取り終 えたことを教えてくれた。専門の二つほどC(可)の評価を見つけて、これが二年前期じゃ なくて本当に良かったと胸をなでおろした。学務課でそれを受取って、その足で学部棟に 向かう。ゼミの顔合わせのために。 ホワイトボードを正面に、コの字型に並べられた机とイス。少し寝坊をした俺はギリギ リだった。既にそのほとんどが埋められていて、どこに座ろうかよりどこなら空いてるか、 座るのにマシかを優先的に考えるしかなかった。栄治と神田は既に二人で座っている。 どこがいいか思案していると、ひらひらと手を振られる。別所さんだ。 「ここ空いてるよ、一宮君」 何気ないような口調だけど、やってることは大胆だ。女子が三人しかいないのに、かた まる気はさらさら無いらしい。全員に聞こえるように言われては、断るのも悪い。選択の 余地もなく、渋々といった表情は隠して、別所さんの隣に座った。 「駆け込みね」 「ん、寝坊した」 「成績取りに行けた?」 「ギリギリ間に合ったよ」 「よかったね」 言っているうちに和田教授がやってきた。いかにも厳しそうにしかめっつらなのはいつも のことだが、学生に厳しいのは本当のことなので、囁き程度にも会話があった教室内は しんと静まり返った。 「揃ったかな。じゃあはじめる……」 「すいません!」 ガチャリ、と教授の声が遮られ、ソプラノが割って入る。急いで来たようでおでこを丸出 しに肩を張る、有華だった。 「遅れて、すいません」 「……まだ始まっていない。早く席に着きなさい」 「はい」 はぁはぁと息の荒い口元を隠しながら、斎藤有華はすぐ傍の最前列にさっさと腰を下ろ した。遅れてカバンからガサガサと物を出す音。それらを横目でさっと見つつ、和田教授 が話し始めた。 「えー、民法ゼミ担当の和田慶一郎です。よろしく」 愛想笑いの一つも漏らさない教授は、まず抑揚の少ない話し方で周りを圧倒した。 「このゼミを取る人は、おそらくほとんどが司法試験を目指す生徒だと思う。そういう風に シラバスにも書いてあるはずだ。途中でリタイヤするのは勝手だが、その場合はすぐに このゼミを抜けるように。邪魔だ」 睨みつけるでもないのに、ピリピリした空気が教室内を包んでいく。 「じゃあ、全員シラバス開けて」 その言葉に、ほとんど全員が固まる。シラバスなんてクソ重いモン、誰が持ってくるん だ。思わず隣を見ると、別所さんはなんと持ってきていた。口でパクパクと見せてと伝え ると、にっこりと彼女は笑った。が、隣の栄治も神田も持ってきていないらしい。ふと見渡 すと、持ってきているのは別所さんと有華だけだ。それを知っているのか知らないのか、 教授は勝手に話を進めていく。一年の予定をさらっと流すように言っていくが、そこに交 流的なものの説明が何もないのが気になる。淡々と説明を終えた後、付け加えるように 教授が言った。 「というわけで来週から授業に入るから教科書は買っておいてくれ。それと今日はこれか ら新歓コンパなんかがあるらしいが、ゼミのイベントには私は一切関知しない。先輩達と 話し合って勝手にやっててくれ。あと、君たちの学年の代表が決まったら知らせに来るこ と。以上」 勝手に話を進め、勝手に終わらせ、そして教授は去って行った。聞いていた以上に、厳 しいというか学生に関心のない教授だ。これのどこが司法試験の合格率は学内随一なん だと少し不安になった。 02-033 :腹黒ビッチ 2章(中):2009/04/01(水) 05 35 29 ID C4LeQOqO 責任の押し付け合いと言うのは、いつもお決まりの過程を経るものだ。誰がゼミ長やる? という議題に、最初は口をつぐむ。しんとした空間のぎこちなさに、全員が限界まで我慢す る。そのうち痺れを切らした誰かが、自分がいかにゼミ長になれないかを切り出す。そこか ら始まるのは、醜いなすりつけあいと相場は決まっている。 「俺はサークルの代表もやってるし」 「バイトで忙しいんだよ」 そうして泥沼化した話し合いが三十分を超えたくらいで、誰かが言った。じゃあ、くじびきで。 即席でくじを作り、引いて行くことになる。誰もが「最初からこうすれば良かった」なんて不毛 なことを思いながら。自分のくじは、幸い真っ白だった。はーやれやれとため息をついたその 時、有華が立ち上がった。 「……斎藤さん?」 「決まったみたいだから」 「え、っと、じゃあ斎藤さんがゼミ長……」 「じゃない。この通り白」 ひらひらと、全員に見えるようにくじを揺らす。 「バイトなの。もう遅刻寸前だから行くね」 「ちょ、ちょっと待って。これから新歓コンパなんだけど……」 「先輩達にはもう言ってあるから。それじゃ」 あっけにとられている他のメンバーを一瞥して、有華はさっさとバッグを取り、出て行ってし まった。 「なんつーか、斎藤さんってあんなだから和田教授と気が合うんかね……」 栄治がいささかがっくりした様子でちびちびと焼酎をすすっている。斎藤さんのメルアド聞き たいなーwktk!なんて意気揚々だったからこそ、その落ち込み具合は大きいようだ。 「元気だしてよ、葉山君。まだ始まったばっかりなんだし、話す機会は嫌ってくらいあるわよ」 「まあ、うちのゼミ自体法曹目指す奴だけだから、そういうピリピリしてるのも少なくないんだけ どね」 四年の先輩がそう言って、別所さんのグラスにビールを注いだ。六人掛けのテーブルには、 俺・栄治・神田・別所さんと、四年生が二人。先輩はさっきから別所さんのグラスにハイペース に酒を勧めている。お持ち帰りする魂胆なんだろうが、酒をあおる別所さんの様子に酔いは全 く見られない。むしろ先輩の方がべろべろになり始め、さっきから口が軽いのだ。 「斎藤さんはこのままストレートに問題なく行きそうだよなあ。あれだけ勉強してるんだから、も しかして東大の院でも目指してるんじゃないか?案外、受かるのも俺達より早いかもな」 神田は比較的冷静に話し始めた。 「でも、今から焦りすぎる必要はないと思う。院の試験はあるけど、本当の勝負は四年後だし ね」 「だな。トップ合格でも目指してるってんなら別だけど」 「案外、本当に狙ってるんじゃないか?和田教授も斎藤さんのことは買ってるみたいだ。まあ、 確かにね。彼女なら院行きはこのまま確実でしょ。噂では、三年卒業制の適用第一号になるか もってのも聞いてる」 「なんでそんなに生き急いでるんだかね。あの子みてると『鬼気迫る』ってのがそのまま当ては まるな」 先輩の言葉を耳に流しながら、思い出すのは寒い日もぴんと背筋を伸ばした有華の姿。俺達 にはただその背中しか見えないが、先輩達から言わせてみるとそれは余裕がないように見える らしい。ぐずぐずと、言葉にできない感情が胸に滞留する。 押し流すように冷酒を胃に入れた。 「そういえば、克哉は高校一緒なんだろ?」 栄治は赤い顔をして、へらへらと俺の顔をのぞきこんだ。 「……ああ、うん」 「斎藤さんって昔っからああ?」 昔から。たったその一言でよぎる、有華の笑顔。偶然今朝、有華の夢を見ていたせいで、それ はあまりにも鮮烈によみがえった。 「―――覚えてない」 「えー、あんな美人をー?」 嘘をつくのは、もう何度目になるかも覚えていない。噂になるほどの美人は飲み会の度に話題 には出るが、その度に俺はしらを切った。だけど、吐き出すようにつぶやいたその言葉は、存外 俺自身を苛んだ。有華、有華、有華。どれだけ俺に纏わりつく。どうしても離れない。 02-034 :腹黒ビッチ 2章(中) 2:2009/04/01(水)05 44 11 ID C4LeQOqO 眉間に皺が寄り出したその時、つんとジャケットを引っ張られた。 「ねえ、高校の時ってどうだったの、一宮君って」 つやつやと照明を照り返すピンク色の唇が、にこりと綺麗な形を作る。有華の厳格が遠ざかる。 少しだけぼんやりと別所さんの顔を見て、ようやく、自分の脳が回転を始めた。 「高校生の時は、ずっと本読んでた」 「フランス……」 「黙れ栄治。―――クラスに一人はいるだろ。教室の隅で、本読んでるような奴。その中の一人 だった」 何を読めばいいかも分からなかった。そのくせ人の視線ばかり気になって、初めは芥川賞作ば かりを読んでいた。家ではライトノベル専門のくせに。 「クラスメイトみたいにマンガ読む勇気もなくて、授業はついていけなくて、一人でぼんやりしてた」 「へえ、意外だね」 「そうかな、今もあんまり変わらないよ。……高三の時に格好とか気にしだして、それで友達が出 来たくらいで」 「ああ、あるよね。オシャレに気を遣いだす時って。私は中二だったなぁ。それまで、ひざ下のスカー トににくるぶし丈のソックス履いてたの。ダサいよねー」 「俺は逆。高三までスラックスの下にふくらはぎまである靴下履いてたよ」 「アハハハハ!すごい、ダサい!」 「ほんと酷かったと思うね。四十代のおっさんメガネに、猫背で、カバンはリュック。ダメ押しのように、 伸びた髪結んだりして。体育の時はみんなが俺を見ないようにしてた。シャツをズボンにインだぞ。 昔の俺を殴りたくなるな」 「ひ、酷い……でもいるいるそんな人……!」 「でも別所さんみたいに、中二だったらマシだろ。俺はもう手遅れ寸前だったし。自己改造目指して とりあえず買ったメンズノンノは、あの頃の俺には輝いて見えたね」 今にして思えば、あの頃の自分は本当に目も当てられない状態だった。でもそんな俺に、有華は 何も言わなかった。デートですら恥ずかしいはずなのに、何も言わずにニコニコ笑っているだけだっ た。だけど、何も言われないからこそ俺は自分の醜態を気にしたのかもしれない。口出しされてい たら、きっと俺はすぐに嫌気がさして、有華を遠ざけていただろうから。 「そっか……だからかぁ」 別所さんは、一人納得したように頷いている。 「私が話しかけても、いつも引き気味だったでしょ?地味ーに傷ついてたんだよ」 「……ごめん」 「あはは、いいよ。一宮君って結構かっこいいのに鼻にかけてる風でもないし、むしろ目立たないよう にしてるなーって思ってたの。私と話してる時も、「なんで俺が?」って目がキョドってるんだもん。 でも、なんとなく理由分かった」 向かいに座る別所さんは、真っ直ぐに俺を見つめてきた。俺はと言えば、否定することが何もない、 だけど気まずい。視線を外すように、舟盛りにされた刺身を取った。 「ねえ、一宮君」 「ん?」 一応ブリを咀嚼しているので、口を開けないようにして答える。ふと頭を上げると、別所さんの目は 熱を持っている。 「ゆっくりでいいから、私、一宮君と仲良くなりたい」 フラッシュバック。もしくはデジャヴ。 「……一宮君、どうしたの?」 別所さんは、不安な表情で俺の返事を待っている。そして俺の様子がおかしいのを不審に思ってい るようだった。 「いや、……いいよ」 「ほんとに?嬉しい」 とろけるような頬笑み。女の子特有の、砂糖菓子のように可愛い笑顔。 『うれしぃよぅ』 なのに目の前に現れるのは、同じように笑んだ有華。 明らかに俺に好意を持っている別所さんと話をしながら、それでも思い出すのは有華のことばかり だった。 02-035 :腹黒ビッチ 2章(中) 3:2009/04/01(水)05 45 34 ID C4LeQOqO みんな酔っぱらっているのに、俺だけが酔いの冷めた顔をして、二次会に向かう集団から一歩遅れ て歩いていた。別所さんは、四年の女の先輩と一緒にいる。ぼんやりと彼女を見つつ、横でぐだぐだ 文句を言っている栄治と神田と連れ立っていた。神田はべろべろに酔っぱらっている。そのふらふらな 足取りを気にしながら、俺は別所さんのことを考えた。 別所さんがこれから俺に告白してくるようなことがあったら。だけど今の俺には、それに舞い上がるほ どの情熱は無かった。むしろそのことを考えただけで寒気がするほどだ。世の中の女子には、もしかし て告白のマニュアルでも出回っているんだろうか。それほど、有華と別所さんのアプローチの仕方はパ ターン化しているように思えた。そのパターンに乗るほど、俺はパターン化されているんだろうか。そうし て、引っかかってしまう馬鹿な男なんだろうか。 これ以上仲良くならないといいんだけど。そんな予防線を張っていると、栄治が突然声を張り上げた。 「あ、あれって斎藤さんだあ!」 指をさす先は、でかい交差点。 「……いないぞ。幻覚だろ、栄治」 「よく見ろよカンダ!ほら、あのビル側の、アレ!」 「はあー?」 神田と栄治が二人して有華を探している。俺はどうせ酔っぱらいの見間違いだろうし、有華だとしても 探してまで見たくないと思い、青にならない信号を待ち続ける。が、神田まで声を上げた。 「……本当だ、斎藤さんだ」 「だろー!?俺、すげー!」 「なんで斎藤さんがここに……っていうか」 「あの男誰だー!?」 ばっと俺も、栄治が指をさす方を見る。交差点を挟んで、対向車線の信号に、確かに有華はいた。 が、それは、俺の知る有華ではなかった。 遠くから見ても目立つ、派手な髪形と派手な衣装……それはもういっそドレスと言っていい。春とはいえ まだ長袖の羽織物は外せない時期に、不似合いなくらいの露出の高い服。腕はむき出しだった。そして 夜の薄暗い街灯の下でもすらりと白いその腕は、スーツを着た男に回されていた。恋人、と一瞬考えたが、 そんな訳がない。男はどう見ても五十代だった。そして、ネオンが輝くビルに消えていく。それが意味する のは、ただ一つだった。 「お水で働いてるって本当だったんだな……」 栄治ががっかり気味に呟く。どう見ても夜の世界で働いているような、服と化粧、そして媚びた笑み。 目の前が、真っ暗になった。 02-036 :腹黒ビッチ 2章(中) 4:2009/04/01(水)05 47 46 ID C4LeQOqO 「おい、どうしたんだよ克哉」 二次会のカラオケに来てからずっと隅の席で酒を飲んでばかりいる俺に、心配したのか神田が声をか ける。 「飲みすぎだろ、どう見ても」 「……そうか」 「なんかあったか?っていっても、さっきの居酒屋は別に何もなかったよな」 BGMは、栄治が歌う聖飢魔II。本家に負けず劣らずの叫びっぷりだ。 「何も、ないさ。何も無かったんだよ。うん」 「訳が分からないぞ」 「俺の夢だったのかもしれない。だったらもう忘れたい」 俺のひとりごとに、神田は完全にクエスチョンマークを散らしている状態。そこに、みんながどん引きする くらいの閣下っぷりを発揮してきた栄治が帰ってきた。 「フハハハハ、吾輩のミサに酔いしれろ!」 この能天気な性格には助けられることも多いが、今ははっきり言って邪魔だ。が、俺のどん底の落ち込みっ ぷりに、栄治もふと我に返ったようだった。 「あれ、どうした克哉」 「……さっきから飲んでるんだけど、様子がおかしいんだよ」 「うわっ、これ全部お前が飲んだの?ひーふー……ってかさっきチューハイピッチャーで頼んでたバカってお 前!?」 「俺は止めたんだけどね」 「何してんだよ克哉ぁ。なんかあったのか?俺でいいなら聞くぞー」 栄治は生粋のお調子者だが、その分、他人を思いやれるいい奴でもある。どすんとさっきより近くに座った栄 治が、俺の言葉を待っている。アルコールに浮かされたように、俺の言葉はふわふわと宙を漂い始めた。 「有華が……」 「アリカ?」 「在り処……財布でも忘れたのか、克哉」 「有華が知らない男と歩いてて……」 「ありか……」 「アリカ……ありか……あ!斎藤有華!?」 「有華が、男と歩いてて……媚びてて……やっぱりあいつは俺と付き合ったのも、金目当てだったんだって思っ て……」 「俺と」 「付き合った?」 「うん、高校の時、一年付き合った」 「斎藤有華と?」 「うん」 そこで、ジョッキになみなみ注がれたビールを一気に飲み干した。ふうーと一息ついて、ふと黙り込んだ栄治を 見る。栄治はぽかんと口を開けて俺を見ていた。 「何それ、マジで?」 「マジで。でも、あいつ金目当てだった。俺んち、親が弁護士やってるだろ?俺は二男だからあんま関係ないんだ けど、でも親父が最近俺にうるさいんだよ、俺も院行けって、だから」 「んなこと前から聞いとるわ!え、何お前、斎藤さんと付き合ってたの」 「うん。俺の金狙ってたんだけどさ。あいつのためにプラチナの指輪も買ったし、夏休み沖縄行ったし、デート代も 出してやったけど、俺全然気づいてなくて」 「……それ、マジで?」 「うんーで、ある日問い詰めたら、そうだって言ってさー。俺ショックでさー。有華のために俺、かっこよくなったの になー。有華のために勉強もして、同じクラスにもなったのに。全部無駄だったんだよなー」 ぐらぐらと頭が揺れるまま、思いつくまま、色んなことを喋った。何を話しているのか分からないまま。その間も酒 をせがみ、ひたすら飲んでいた。ますます何をしていたのか分からなくなっていった。栄治と神田は、ただうんうん 頷いて聞いてくれていたと思う。 アルコールに火照る熱が、脳まで浸食していく。ゆらゆらと、世界の何もかもが揺れているようだった。波に漂うよ うなそれは、とても気持ちが良かった。ざあざあとカラオケの音は砂嵐のように不鮮明な雑音に変わって行き、ざあ ざあがざんざんに、そうしていつの間にか寄せては遠ざかるリズムになった。目の前までが揺れて、いつしか色を 持ち、遠くに雲を持つ海になった。 02-037 :腹黒ビッチ 2章(中) 5:2009/04/01(水)05 48 51 ID C4LeQOqO 有華はあれから、一つも俺に何か話しかけてきたことはない。 有華は確かに、金目当てで俺と付き合うなんて人として最低のことはしたけれど、だからといってそれを責めること が俺にできるか? 有華は、俺にそんな素振りを見せたことは一切なかった。それこそ、有華は非の打ちどころない恋人であり続けて いた。その裏を知らずにいた間抜けな俺は確かに可哀想だが、有華は、少なくとも一人の人間を最大限尊重して接 してくれていた。こんな風に、俺が人前に出せるような風貌と対人能力をつけるに至ったのは、間違いなく有華のお かげだ。マナー講座にでも行ったと思えば、確かに金を出してもおかしくない。 あの頃俺は、返しても返しきれないほどのものを有華にもらったと思っていた。もちろん愛情は一番だったが、それ 以外にもたくさんのものを有華はくれた。有華のしたことは、有華が俺にくれた様々のものを無にするほど、汚いもの だっただろうか? そうか。俺はずっと、有華を待っていたのだ。 言い訳でいいから、言葉が欲しかった。一言でいいから、何か、俺に執着する言葉をくれたら、それだけで俺は許し てしまうつもりだった。それだけ俺が有華にべた惚れだったことを、有華自身が知っているはずだ。俺を愛していると 言ってくれたら。そんなものでなくてもいい。あの時金を置いていってくれたら、それだけもう、俺は有華を追いかけて しまっただろう。 『好きだよ』 その言葉を、嘘でも言えてしまうなんて、信じたくなかった。信じたくない一心で大学まで追いかけて、ゼミまで必死 に探って、気難しい和田教授に頭下げて。 もう俺に一切関心なんてないと、有華から突き付けられた。それは、酷い絶望感だった。 それからしばらく、俺は無気力に過ごした。必要最低限のことはもちろんやる。大学にだってきちんと行った。だけど それ以上のことには、体が動こうとしなかった。 そんな俺に、事情を知る友人たちは慰めたり放って置いたりと優しく接してくれる。あんな女忘れろ、と言われたこと もある。だが、何をしたって有華のことが忘れられないのに変わりはなかった。今までだって、三年経っても忘れられ なかったのだ。それに、有華はいつもと同じ顔でゼミの教室にいるのだから。むしろあの夜の方が夢のようだった。 一ヶ月、二か月と日々は過ぎて行った。その間に、別所さんに声をかけられたことは何度もある。今までは流される ままにその話に乗っていたが、あれ以来俺は別所さんを避けるようになった。別所さんは最初怪訝な顔をし、それは だんだん悲しそうになり、最近では納得いかないという風に見えた。 だけど事態は、俺ではなく、周りが勝手に動いていた。 02-038 :腹黒ビッチ 2章(中) 6:2009/04/01(水)05 50 29 ID C4LeQOqO それから数か月が経ったある日、ゼミの終わってから駅を目指す道中、俺は忘れものに気付いて引き返すことに なった。来週発表の資料を、机の下に置いたままだった。一年の頃に同じようなことをやらかして、翌日になってか ら取りに行ったら新品のルーズリーフが無くなっていたことがあった。面倒ではあるが一応回収に行かなければ。 「あなた、常識がないのね!」 演習室のドアを開けようとしたその時、誰もいないと思っていた教室から誰かの怒り声が響いた。 「自分が最低だとか思ったことないわけ!?」 何やら修羅場のようだ。この声は別所さんだ。終わるまで入りにくいなと内心ため息をつき、ドアの前で待とうかと思っ た。 「何も知らない一宮君をもてあそんで、罪悪感のかけらもなかったの?」 唐突に、俺の名前が呼ばれる。心臓が跳ねた。 「一宮君に、謝りなさいよ。誠意こめて」 ドアにつけられたガラスから、そっと中をのぞきこむ。十五人のゼミ員のうち、十人くらいがそこに残っている。全員が 気まずそうな顔をしながら、一人の女を見ていた。槍玉に挙げられているのは有華だ。有華はまだ席に座ったままで、 別所さんはその前に立ち、有華を睨みつけている。有華はただ冷静に見つめるだけだ。 「……私のやってることが褒められたことじゃないことくらい、分かってるわよ」 「あ……ったりまえじゃない……っ!!」 「でも、あなたにそんなことを言われる筋合いも無い」 言い終わって有華は目を細め、別所さんを冷たく見上げた。 「これは私と、一宮君の問題でしょう」 有華の言い草に、別所さんの顔がますます紅潮する。 「関係あるわよ」 「……へえ」 「私は、一宮君のことが好きなの。だから、関係ある」 別所さんは堂々と言い放つ。俺を好きだと認める言葉に、全員がおお、と驚いたように別所さんを見た。が、ただ 一人、有華だけはその言葉に冷笑する。 「あはは!すごいね、別所さんにとっては、好きだったら他人事にも踏み込んでいいんだ?」 「……っ、何がおかしいの」 「そっちこそ常識ないんじゃない?ストーカーの言い分よ、それ」 別所さんを馬鹿にしたような言い方に、栄治が眉をひそめているのが見える。そして、俺を背にしている神田が言っ た。 「問題がすり変わってるよ。別所さんも落ち着いて」 「だって、この人おかしいわよ!なんでこんな状況でこんなに落ち着いてるの?悪いことを悪いって指摘されて、なん でこんなに冷静なのよ。金が第一だって、はっきり言ったわよこの人!頭おかしいんじゃないの!?」 「―――斎藤さんは、きっとそれが悪いことだなんて自分では思ってないんだろうよ」 栄治は、らしくない声色で呟く。有華は、その言葉に反応した。 「うるさい」 その時、有華の声が、聞いたこともないほど低いものに変化した。 「親に甘えてぬくぬく生きてる奴らが、何を偉そうに」 その場にいる全員が、黙り込んだ。ドア一枚挟んだ廊下にいる俺でさえも固まるような、負の感情を押し込めた 有華の顔は、その場にいるものすべてを凍りつかせる冷たい凄みがあった。 02-039 :腹黒ビッチ 2章(中) 7:2009/04/01(水)05 51 56 ID C4LeQOqO 「そうよ、あなた達の言うとおり、ホステスしてるけどそれが何か?母の友人の店だからね、高校の時だって「手伝い」 なんていってしこたま働いたわよ。でもそれがどうしたの。お金を稼ぐ方法なんて、新聞配達から援交までいくらでも あるじゃない。私のバイトが何だって、別にいいじゃない。お金を稼げるんだったら何だっていいわよ。時給一万円プラ スナンバー手当なんて、破格でしょ?」 だからってそんなバイト、と戸惑いつつ口をはさむ男がいた。今度は、有華はその男を見た。 「あんた達が思ってる通り、私はいつだって欲にまみれてるわよ。おいしいもの食べたい、綺麗な服着たい、化粧品に だって金かけた、大学だって行きたかった。あんた達だってそれくらいの欲はあるでしょ?そのために小遣い使って、 バイトもしてるでしょ?私だってそのために自分の利用できるもの利用してるのよ。女を武器にして、客取ってきてやる わよ。ダサい男とだって真剣に恋愛してやるわ」 「そ、その為に一宮君の気持ちを利用して、一宮君を傷つけて、それでいいっていうの!?」 「あのね、別所さんが何決めつけてるか知らないけど、私は金品をせがんだことなんて一回もないわよ。それに、飽き たら捨てるなんてことも、考えたことなかったもの。一生一緒にいる覚悟だってあった。むしろこれも真剣交際じゃな い。私は、一宮君のこと、大事にしてたわ」 「それらしい言葉で飾ったって、結局あんたは金目当てじゃない。金金金って、そんなに金が大事なの?だったら金と 結婚すれば!?」 ダンッ!! 教室内の時間を止めてしまうような、とても大きな音だった。机を殴りつけた有華は、別所さんをまっすぐに見ていた。 「そうよ、だから金持ちそうな弁護士になるのよ。だけどあんた達みたいに悠長に大学院になんて行く余裕もないから、 あんた達の何倍も必死に勉強してるんじゃない」 有華の言葉に、思い当たるのはあまりにも突飛なことだった。まさか、そんな馬鹿らしいこと。確かに有華は誰よりも 勉強していた。その姿は誰もが認めるものだったし、和田教授がことさら有華を認めているのも頷けるほどの猛勉強ぶ りだった。だが有華の言い草だと、それは俺達とは全く目指すものが違うということ。今になってそんなことをやろうとす る奴、初めて見た。 この場にいる全員が有華に呆れ、そして同時に怖れた。そのことは間違いないだろう。あくまで金を中心に回っている 価値観。それに従って動く誰よりも強い行動力。なんて極端な。 「あんた達の話聞いてると腹が立つ。あんた達は正義振りかざして、いい気になってればいいわ。弁護士だって職業よ。 悪人だって弁護してやって、金もらうのよ。金を稼ぐ手段なんて、結局は一緒じゃない。馬鹿にされたっていい、そんな の、私は辛くも何ともない」 そう言い捨てて、有華は机の上のものを、乱暴にカバンに入れていった。気迫に圧倒された奴らを最後に睨みつけ、 席を立つ。そして勢いよくドアを開けた。 「……っ!」 「あ……」 有華の顔が、驚きに染まる。一瞬動きを止め、俺を見上げ、完全に無防備だ。有華をしばらく見降ろしていると、彼女 は顔をゆがめ俺を睨みつけたが、すぐに我に帰ると踵を返す。廊下にヒールの音を甲高く上げ始めた。 「ちょ、有華、待てよ」 思わず声をかけるが、有華は反応しない。 「有華」 有華の歩みはだんだんと早足になって、小走りになる。 「有華!」 俺が叫ぶと同時に、有華は走り出す。ヒールとストラップじゃ走りにくいだろうに、器用に足を操っている。だけどスニー カーの俺に勝てるはずもなく、有華の腕は簡単に俺にとらえられた。 「離して!」 「逃げないなら離す」 誰もいない廊下で助かった。一つ間違えれば変人だ。揉み合いになりながらも呑気にそんなことを考えられるのは、 有華と俺の力の差が歴然としているからだ。有華は何度も腕を振り、逃げようとする。それを封じ込めるように体全体を からめ取り、なんとか有華が動きにくい体制をとった。最初は有華は猛然と抵抗していたが、そのうち諦めたのかだん だんとトーンダウンしていく。有華がとりあえず逃げないのを確認し、近くの空き教室に入った。 「有華」 俺は有華を呼び、必死に見つめる。だけど有華自身は決して俺の顔を見ようとせず、視線を下にそらして唇を噛んで いた。 連れ込んだはいい。だが、何を話せばいいのか分からない。 俯いていた有華が、やがて言った。 02-040 :腹黒ビッチ 2章(中) 8:2009/04/01(水)05 59 24 ID C4LeQOqO 「謝れって?土下座しろって?ああ、いくらでもしてあげるわよ。それであんたの気が済むならね」 ぞっとするような気迫。 「お、俺は、そんなわけじゃ」 俺の言葉に、有華は笑った。じっと、有華が俺を見る。まっすぐに俺の眼を射ぬく瞳は、明らかに俺を蔑んでいた。 02-843 :腹黒ビッチ 2章(後) 1:2009/11/18(水)17 26 45 ID 34xp4FbN 起きたら十時だった。一コマ目に遅刻するのはもう五回目で、単位は諦めた。昼飯 目的に大学に向かい、学食で本日の定食350円を手に席を探していたら、変な顔した 神田が手招きした。俺の分の席が空いている。 「克哉……コートにサンダルはさすがにねーよ……」 ちなみにコートの下はTシャツにGパンだ。今何月だっけ。その答えを見つけるのに も時間がかかった。 「それで電車乗ってきたん?」 「んー」 「つーかカバンは?」 「あー、忘れた」 「授業受ける気ないだろ……」 「んー」 「ゼミのレジュメなら俺が持ってるけど。ちょうど借りといてよかったよ」 神田に差し出されたファイルは、確かに俺のものだった。ぼんやりしてる隙に栄治 に勝手に半分くらい食われたけど、反応する気も起きない。見かねた神田が、栄治を 叱りつつ栄治のとんかつを二個、より分けてくれた。 「あ、別所さんだ」 栄治の声に視線を上げると、すっと俺たちの横を通り過ぎようとする別所さんがい た。俺たちの方は見ようともしない。相変わらず群を抜いた可愛さだ。 「隣、誰?」 「桐谷ゼミの院生」 「……女って怖いよなー。俺らまで巻き込んで克哉落としにかかってたくせに、脈な いと思った途端に乗り換えるとか」 「ま、別にいいんじゃない?別所さんももういないんだし」 「CA志望だって?今からで受かるんかねー」 別所さんから神田と栄治が就活の話に話題を移すのを横目に、俺は一人ぼんやりと 今年の夏のことを思い出す。 有華はあの日から、学校に来なくなった。みんなはあんなことがあって気まずいか らだと思っている。だけど本当のことは分からない。とにかく有華はいなくなり、俺 は腑抜けた。 最初は気のせいだと思った。だけど一日経ち、一週間経ち、一か月経って。そこま できてようやく、自分の日常から有華が消えてしまったと悟った。すると、日々を送 る気力がさっぱり抜け落ちてしまった。何にも興味が持てなくなった。毎日が、漂う ように彷徨っているような気がした。何もかもが平坦で、無色で、無味乾燥だった。 有華がいなくなってから、別所さんはあからさまに俺に誘いをかけるようになった。 毎日のように付きまとい、色々な手段で俺の気を引こうとしていた。が、俺の方はど うしても興味がわかない。それどころか、有華のことを思い出してしまう。 『私の何がダメなの!?』 夏のゼミ合宿で、別所さんがキレた。俺の部屋に来たが、何時間経っても全く手を 出そうとしない俺に痺れを切らしたのだろう。同じベッドに入りこまれて、抱きつか れて、泣かれた。それでも俺は、何もできなかった。 『ごめん』 なんとかなだめようとするが、別所さんは神経を逆なでられたようだった。俺を見 下ろして、睨みつけて、怒りに震えていた。 『別所さんがダメなわけじゃないんだ』 『ダメでもいい。私は、一宮君と一緒にいられればそれでいいのよ』 『違う、そういう意味じゃなくて』 身を寄せてくる別所さんの甘い匂いをぼんやりと感じながら、それでも、考えるの は有華のことばかりだった。 『俺は、有華じゃなきゃ、ダメなんだ』 02-844 :腹黒ビッチ 2章(後) 2:2009/11/18(水)17 27 43 ID 34xp4FbN あの日、有華は言った。 『噂だって悪口だっていくらでも流せばいい。謝ってほしいならいくらでも謝る。ど んな目で見られたっていい』 『ゼミ辞める。大学辞めてもいい。目の前から消えて欲しいなら、いくらでもする』 『なんだってする』 『だから』 『……忘れて』 最後は、小さな、小さな、声だった。俺を睨む目は変わらなかったが、口の端が震 えていた。言い終わると、有華は無理矢理俺の手をほどき、走って行ってしまった。 どうしたら忘れられるんだろう。ずっと考えてきた。なのに忘れてと有華に言われ て、忘れられるわけないじゃないかと叫びそうになった。それが自分の本心だと気づ いても、遅かった。 「それにしても女が一人しかいないとか、ほんと泣けるわ。残ったのは色気なしのガ リ勉池田だし……」 栄治がぼやいている。有華がいなくなり、合宿後に別所さんもゼミを抜け、ただで さえ男が多いゼミには、女子が一人しかいない。 「じゃあ栄治もやめれば」 「親父に殴られるからがんばる。てか俺より問題は克哉だろ」 話を振られても、何も反応できない。栄治が口を開いたその時、 「お、久しぶりじゃんおまえらー!」 聞き覚えある声が、辛気臭い場をぶち破った。 「うわ、上野じゃん、何リクスー着てんの」 「フッフーン、●テレの面接行ってきた」 「もう就活かよー、はやくね?」 「マスコミは今の時期から始まるんだよ」 「上野って、金融志望じゃなかったっけ」 「いや別にー、ひやかしだよ。あわよくば未来の女子アナとお近づきになろうかなと」 「メアド頂いてきたんですかー!?」 「何この人キモーイの視線なら頂いてきたぜ……」 上野はふっと一瞬遠い目をした。相変わらずノリのいい奴だ。大学に入った当初か ら籍を置いているフットサルサークルのメンバーの一人で、同じ法学部だからと二年 までよく授業も一緒で仲が良かった。三年からはコースも違うし、俺と神田と栄治は ゼミがきついからとサークルにも顔を出さなくなって久しい。そういや栄治と特に仲 良かったなと思いながら三人が話しているのをぼんやり見ていると、上野が突然、ぐ わしと俺の頭をつかんだ。 「ところで何この置物」 「あー、演習の発表に行き詰っちゃってるんだよ」 ナイスフォロー神田。それらしい言葉でやりすごしてくれたが、 「んなこと言って、実は振られたかなんかじゃねーのー?」 ぐっさり。そうだ。上野はいらないくらい鋭い。 「やめてっ、この子に触らないであげてっ」 「おうおう可哀想になあ、ヤケ酒なら付き合うぜ」 「いやもう三ヶ月くらいコレだから……」 「三ヶ月?引きずりすぎじゃね?」 「てか正確に言うと三年」 「三年!?克哉、ガラスハートすぎだろ!」 ほっとけ。声にするのも面倒くさい。そしたら勝手に栄治が今までの有華の顛末を 話している。やめろ。これ以上思い出させるな。でも栄治を止めるのもめんどくさい。 神田にすがろうと視線を送ったけれど、無視された。ひでえ。 02-845 :腹黒ビッチ 2章(後) 3:2009/11/18(水)17 28 14 ID 34xp4FbN 「んー、それって彼女が言う通り、忘れればいいんじゃないか?」 「忘れられないから、こうなってんだよ」 「俺たちも散々言ったよ」 俺もじとりと視線だけ送る。もう三年忘れられないんだから、まだまだ長期戦は間 違いない。下手すると一生ものだ。ふーん、とさして深刻そうじゃなく上野はうなず く。 「じゃあ、許してやれよ」 上野は、当たり前のことのように軽く言った。 「忘れられないし、新しい女にも走れないし、その子のことしか考えられないんなら、 もう許すしかないだろ。男なら、好きな女のしたことくらい許してやれよ」 言い終わると、上野はにっと爽やかに笑う。十一月になっても黒い肌に、白い歯が よく似合う。 「お、男らしい……」 「細かいこと考えない上野らしい……」 「ハハハ、惚れるなよ」 「惚れねえよ」 「ま、なんでもいいけど克哉早く元気出せよ。あとお前ら冬合宿は出んだろ、また麻 雀しようぜー」 んじゃーなー。勝手に開催したお悩み相談室は、解答一分であっさり終わった。脱 いだスーツを乱暴に振りながら、上野は颯爽と去って行く。 「相変わらずだなーあいつ」 「麻雀って、またどうせ上野の一人勝ちだよ……」 「追い出しコンパ酷かったよなー、全然追い出そうとしてないあの勝ち方とか」 「そういや夏は田中先輩が一晩で六万負けたってさ」 「むごい……」 そのまま冬の合宿どうするか、二人は話し始める。俺は一人、上野の言葉を反芻す る。 ゆるす、そのたった三文字。思いつきもしなかった俺は、最低な男だった。そんな ことに気づいて、またひっそりと落ち込む。 でも金目当てなんて酷いだろ。最低だろ。そう思うけど。 だけど、そうやって目を閉じて思考を止めるその最後に、有華に会いたいと思う。 干からびる世界の中で、それだけが鮮明になる。 俺は、有華を許せるだろうか。 02-846 :腹黒ビッチ 2章(後) 4:2009/11/18(水)17 28 47 ID 34xp4FbN それから、さらに数日後。 締め切り三十分前の課題を出そうと、教授の部屋への廊下をたらたら歩いていた。 働かない頭で土曜の図書館にこもりなんとか完成させたものの、飯も忘れて座りっぱ なしだった体はガチガチに硬くなっている。この後は予定もないし、どこか定食屋に でも寄って帰るか。そんなことを思いながら教授のドアを見ると、珍しくまだ在室中 の札がかかっている。仕方ないから直接渡すかと、ノックして、教授の声を確認して ドアを開けた。 「はいりたまえ」 話中の教授が、ちらりとこちらを見る。向かい側のソファに座った女子も振り返る。 ―――有華だった。 ぼんやりしていた頭が一瞬にしてさえた。殴られるような衝撃。 「一宮君?何をしている」 不審に思った教授が声をかけ、俺はぎくしゃくと課題の入ったファイルを手渡す。 「よろしく、お願いします」 「ああ、分かった。見ておく」 教授に頭を下げつつ、ちらりと有華を見る。有華はもう俺を見ておらず、どこか沈 鬱な表情でうつむいていた。 「そう落ち込まないでおきなさい。また来年もあるのだから」 そう言って、教授は有華の肩をたたく。いつだって厳しい教授が珍しく、優しげだ。 かっと血が上る。それ、セクハラじゃないですか!?叫びかけた。が、完全に部外者 の俺にはそんな権利はない。用がすんだら、ただ静かに部屋を出ていくしかない。名 残惜しい気持ちを抑えて、とりあえず扉を閉めた。 が、去ることができず、そのまましゃがみこんだ。 有華だ。有華がここにいる。数ヶ月ぶりの有華だ。なぜここにいるのかまったく見 当がつかないが、とにかく、もう二度と現れないかもしれないとすら思った有華がい る。 今まで休んでいた頭は、いきなり回転させてもうまく動いてくれない。足はもっと 動かない。 がちゃりと扉が開いた。 「有華」 目だけで驚いて、有華は俺を見下ろした。反応される前に急いで立ち上がる。 「送るよ」 「……いい」 「話がしたいんだ」 返事はなかった。ただ視線をそらして、拒否も受諾もしない。俺が歩き始めると、 有華もゆっくりとついてきた。 覇気のない有華に、何を話していいか分からずただ歩みを進める。下手なことを 言ったら、逃げられそうだ。色々と悩んだ挙句、当たり障りないことから始めてみた。 「今日、バイトは?」 「辞めた」 「辞めた?」 「お金貯まったから」 「そう、なんだ」 バイトと言えば、お水だろう。もうずいぶん前に見かけた時のことを思い出す。が、 あの時ほどもう鬱ではない。目の前にいる有華があの時のような派手な服装と化粧じ ゃないから、なおさらそう思う。 細くなったな。肩の薄さに気がつく。俺も人のことは言えないけど、でも、心配に なる。 02-847 :腹黒ビッチ 2章(後) 5:2009/11/18(水)17 29 20 ID 34xp4FbN 「もう、学校来れるのか?」 「……さあ、どうかな」 「どこか、悪いのか」 「違う、病気じゃない。……でも、来てほしくないでしょ」 「そんなことない」 即座に否定する。 「俺は、本当に辞めてほしいなんて思ってないんだ。だから、休んでたのが俺のせい だったら、ゴメン」 「違うわよ。一宮君のせいじゃない」 「でも」 「試験受けてたの。だけど落ちたからもう休む必要ない、それだけのことだから」 目の前から走ってきた車のライトに、一瞬、有華の無表情が照らされる。 「でも、一宮君は、これ以上会いたくないでしょう?」 有華は俺を見ない。 「私のこと、嫌いでしょう?」 まるで言い聞かせるような、静かな声だ。刺々しさが無いように感じられるのは気 のせいじゃない。 今しかない。有華は、きっと今しか聞いてくれないだろう。 優柔不断な俺の、ありったけの勇気を奮い立たせる。 「嫌いになろうとしたんだ」 最初の声は震えた。ごくりと唾をのむ。 「だけど、嫌いになれなかったんだ。結局、忘れられないんだ。有華のこと。有華と 付き合ってた頃のこと。こんなになってからやっと気付くとか、本当に、バカみたい だけど」 「……忘れてよ」 「ごめん」 有華は、ぴたりと立ち止まる。一歩先から振り返ると、有華は、顔をゆがませて俺 を見た。 「やめてよ、なんで、今そんなこと言うのよ。私は最低だって、一番知ってるでしょ」 精いっぱいの虚勢が、透けて見えた。こんな時につけ込むような言葉を言うの俺の 方が酷いのかもしれない。 「その通りだよ。酷いし、俺も傷ついた。……だけど、無理なんだ。思い知った。有 華がいなくなると、俺は駄目なんだ」 一生懸命に俺を見上げる有華の頭ごと、抱え込むように抱きしめる。 何年ぶりかの、ゼロ距離。 「好きだ、有華」 有華の反応は、遅かった。途方に暮れるような長い空白の後で、手がゆっくりと背 中に添えられる。おずおずと、ためらうような指先。それだけで十分だった。 有華をかき抱く。万感の思いを、俺の腕に込める。真っ暗なはずの晩秋の夜道が、 匂やかに色めいた。 02-848 :腹黒ビッチ 2章(後) 6:2009/11/18(水)17 29 52 ID 34xp4FbN どうしようかと問いかけても、ぎゅーっと抱き締められるばかりで何も反応がない ので、とりあえず俺の家に直行する。有華を乱暴した部屋に連れ込むのは少し気が咎 めたけど、有華が嫌がらないし、何より財布を忘れたからラブホにすら行けない。 筋肉の消えた体では正直有華を引きずるのはキツかったが、有華がくっついて離れ ないのは可愛くてしょうがなかったのでがんばった。さすがに階段でぜえぜえ言って たら、有華が気にして体重がかからないようにしてくれた。けど、やっぱりぴったり と有華は俺に抱きついているのに変わりはなかった。 電気をつけて、照らし出された散らかり具合に、うわあと自分でも引く。 「有華、ちょっと掃除するから離れて」 返事する代わりに、やっぱり抱きつく力が増すばかりだ。 「そうはいっても座れなさそうだから……」 今だってプリントの層を踏んでいるのだ。さすがになあと思って見渡し、ソファは 服だけっぽいので、足でスペースを広げる。……明らかに服じゃない物がむにゅっと した。 「有華ー座るぞー」 一応声をかけて、ゆっくりと慎重に腰掛ける。抱き上げるように、ソファの上に有 華を上げる。二人用のスペースはあるのに、有華は隣に移動しようとしなかった。思 わず苦笑する。 背もたれが傾いてるわけでもないから、キツい体勢だろうに。てっぺんしか見えな い頭を撫でる。こっち見ろーと念力送りながら。 「有華、どうしたんだよ」 「……だって」 「うん?」 「夢じゃないかって」 頼りなげな、か細い声。 「顔あげて、克哉君じゃなかったら、どうしようって」 そう言って俺の胸に顔をうずめるその様に、胸を打たれる。 「夢じゃないと思うけど」 「だって」 「嘘じゃないよ」 もう一度、言い聞かせる。俺は俺だよ、と。 「嘘じゃない」 それでも顔を上げない有華を、なだめるように撫でる。ずっと。有華が信じてくれ るまで待つつもりで。何分、何十分経ったか分からない。結構な時間、有華の体温を 楽しんでいた。寝ちゃったかな、と思い始めた頃に、有華が恐る恐るといった風で顔 を胸から離した。 声をかけると、有華はまたためらいそうだった。ゆっくりと、有華が顔を上げる。 昔と変わらない、意志の強い目が俺を映す。 「……あの、ね」 おずおずと、有華が口を開く。 「ごめん、なさい」 かすれた声で、それだけ言って、有華がくしゃりと顔をゆがませる。もっと言いた いことがあるみたいで、喉をひくひくと震わせる。だけど、もう声にならなかった。 「ふ……ぅえ……うえー」 あの日みたいにぼろぼろと涙がこぼれる。 俺を見上げる不安げな顔に、しみじみと、俺って本当に馬鹿だなと思った。なんで こんなに弱い子を放っておけたんだろう。深く傷ついて、怯えて、本当に信じていい のか疑っている。 02-849 :腹黒ビッチ 2章(後) 7:2009/11/18(水)17 30 26 ID 34xp4FbN 信じてほしい、と頭を撫でて、笑いかけた。俺の方も泣きそうな顔だったと思う。 目の奥が熱いし、喉もひりついている。 「もういいよ、許すって言っただろ」 「……ぇっ、うえー……っ」 「分かってるから。有華がすごく後悔してるって、もう分かってる」 あの日だって、本当はたくさん言い訳したかったんだろう。でも言葉が浮かんでこ なくて、謝罪の言葉しか言えなかったんだろう。そしてそうさせたのは俺だった。 「俺も、本当にゴメン」 ふるふると首が振られるが、ひくつく体を押しとどめる。なだめるように頭を抱え て、てっぺんにキスをする。徐々に顔に移動して、おでこ、目、鼻、頬、そして唇に。 「……しょっぱいな」 笑いかけると、有華は首に抱きついて、自分からキスを返してきた。 「ん、……っん」 ひっく、と泣きすぎてしゃっくりが止まらないらしい。息苦しいだろうに、それで も離れようとしない。しゃっくりが収まるようにと背中をさすると、またぺたりと体 を密着させてきた。 「はっ、…っ」 ちゅう、という音と一緒に、唇が離れる。至近距離で見つめあって、お互いをきつ く抱き締める。 「おっきくなってる」 「……ごめん」 思いっきり当たってるモノのことを言ってるんだと思う。てか、最初からクライ マックスでバッキバキだ。何しろ自己処理のことすら忘れて腑抜けてたのだ。何日オ ナニーしてないのかも覚えてない。結局下半身のことしか考えてないと思われたら嫌 だ。 でも、有華はそっと抱きついた。それがイエスの合図だとはすぐに分かった。現金 な俺は、そろそろと有華の胸に手を伸ばす。 「相変わらず、小さいな」 「やっぱり、大きい方がいい?」 眉を下げる様子に、ぷっと吹き出してしまう。 「有華さえいれば満足だよ」 笑いかけると、有華もくすぐったそうに笑う。またぺたりと抱きつかれて、動きに くいけど体をまさぐる。 「我慢できない」 「でも、すぐは痛いだろ」 「いい。すぐ欲しい」 催促するように、有華は腰を浮かす。そりゃ、俺は嬉しいけどさ。さすがにいきな りすぎないか、と下着を下ろせずに腰を撫でまわす。 「……だってもう、準備できてると思うの」 恥ずかしそうに、俺の首元に顔をうずめてささやく。え、っと。その部分に、恐る 恐る指を這わす。と、ぬるっと布地が滑った。 「んっ」 「うわ、すげ……」 しばらく割れ目と思われる場所を往復すると、下着がどんどん湿り気を帯びていく。 「ふぁ……ん」 確かにこれだと馴らさなくてもいいかもしれない。有華の無言の助けを借りて、下 着を取り去る。スカートに隠されてしまったそこを揉むように、指を入れる。 「やん・ぅ……ん、ん、」 02-850 :腹黒ビッチ 2章(後) 8:2009/11/18(水)17 30 52 ID 34xp4FbN くちゅくちゅとしばらく夢中で弄んでいたが、ふと、顔を上げる。じっと、必死な 瞳が俺に訴える。悲しそうな、切なそうな。 「おねがい」 心臓をわしづかみにされた。ベルトを緩め、ジーンズを半分ずりおろす。 「挿れるぞ」 「うんっ……」 入れると言っても体面座位の態勢で、有華がその気にならなければ入らない。亀頭 を膣に合わせただけで、有華が腰を下ろしていく。愛液が俺のペニスを伝った。 「あ・はぁ……ん」 根元にまで達し、思わず、俺はため息をついた。有華もはぁはぁと息を荒くしてい る。こつんと奥に当たり、背筋に震えが走る。ぎゅう、と互いを抱きしめ合い、体温 を確かめ合う。視線が絡み合い、どちらともなく唇が近寄る。くちゅりと唾液の音を 鳴らして、先ほどよりも深いキスを交わす。 ―――くちゅ、ちゅ……ぴちゃ 有華の髪の毛をかき乱し、頭を支えてまで深く、深く。奪い尽くし、与え尽くす。 この瞬間を、ずっと求めていた。 体の芯が疼いていた。すでにいつ達してもおかしくない。動きたい。そう思うが、 これだけぴたりと体を合わせていると、突き込むことができない。 「ん……んふ、あふ……」 「……ん、ぅ」 名残惜しいながらも、なんとか口を離す。なんで?と言わんばかりに切なく眉を寄 せる有華に、酷いことをしていると胸が痛む。 「有華、あの」 「ぅん……?」 「そろそろ動いていいか?」 しばらく有華は視線をそらした。あれ?嫌なのか? 「あの、ね」 「?どうした」 「動いたら、気持ちいいんだけど、ね」 「うん、気持ちよくなろう」 「……でも動くと、離れちゃう」 背中にまわされた手が、俺のシャツをきゅうと握りしめる。 「くっついてたいの」 そう言って、すりすりと胸に頬をこすりつけた。 「……――――~~~~~っっつ!!!」 可愛すぎる!!何これ!!何この可愛い生き物!!いい、正直きついけど、ずっと 抱き締めてる。ずーっとぴっとりくっついていようじゃないか! 「ごめんね、わがままで」 「いいよ、ずっとこうしてよう」 そう言って背中を撫でる。 有華が、幸せそうに、花が開いたように、満足そうに、笑った。 ずっと欲しかった。この笑顔が。大好きだった。有華のこの笑顔に、俺は恋をした のだ。 02-851 :腹黒ビッチ 2章(後) 9:2009/11/18(水)17 31 26 ID 34xp4FbN それからなんとかもぞもぞと服を脱いで、駅弁状態でベッドに移動して、挿れたま まずーっといちゃいちゃして。何もしてないけど、有華は途中で達していた。中にあ るって感覚が凄い、と言っていた。そして結局溜まっていた俺も途中で射精せねばな らず、嫌がる有華に謝りながらなんとか外に出した。生だってことを忘れるくらい、 長い間挿れっぱなしだった。 繋がりが解けても、俺たちは溶けたように抱きあったままだった。感慨深くて言葉 が出ず、会話はぽつぽつといったところだったけれど、空白を埋めるには十分だった。 有華の体温があまりにも心地よく、うとうとと瞼の重さに耐えきれなくなってきた 頃、ぽつりと有華が聞いてきた。 「別所さんとは、した?」 「……してない、ってか、何もなかったよ」 「そっか」 有華は笑う。 「私ね、克哉君が私のこと忘れて、幸せになればいいなって思ってたの」 「そんな……」 「克哉君が笑ってくれるなら、それでよかったんだ。相手が私なんて、もうありえな いって、思ってたから」 「俺は有華じゃなきゃダメだったよ」 有華は無言だった。俺は背中を撫でながら、恐る恐る聞く。 「有華は、他の奴としたか?」 「……ごめん」 「そっ、か」 「苦しくて、もう何もかも嫌になって、一回だけ、したんだ。でも、した後の方が苦し くて」 「……うん」 「ほんと汚いって思ったよ。何もかも嫌とか、それも飛び越して、何も考えられなく なった。楽になりたいなーとか、私何したいのかなーとか、そんなことしてたら何も手 がつかなくなって、試験も落ちちゃって、さらに落ち込んで」 派手な格好の有華を見た時はあれだけショックだったのに、今はあまりにも穏やかだ。 うん、うん、と頷きながら話を聞く。 「ほんとはね、私、……全部終わっちゃおうかなって、思ってたの」 「……うん」 「苦しくて、辛くて、解放されたくて、……海に、沈んじゃいたいな、って」 重い言葉だった。あの痛々しさはやっぱり気のせいではなく、そこまで思いつめてい たのかと俺まで苦しくなる。 「そしたら、偶然、克哉君が来て」 「うん」 「好きって言ってくれて」 「うん」 「今だって、夢みたいで」 声が段々と涙交じりになる。 「今度は、幸せ、すぎて、死んじゃい、そう」 ぽろぽろと泣く。衝動的に、有華を閉じ込めるように抱きしめた。 「夢じゃない」 何度だって言い聞かせる。今度こそ、俺が有華を守るから。 「愛してる」 「うん」 「愛してる」 「私も、あいしてる……っ」 約束する。 愛してる。 ずっと、一緒にいよう。 -- 第3章
https://w.atwiki.jp/talesofdic/pages/12226.html
サンドラビット(さんどらびっと) 登場作品 +目次 デスティニー(PS2) 関連リンク関連種デスティニー(PS2) ネタ デスティニー(PS2) 作中説明 Lv 14 HP 1160 攻撃 230 防御 160 術攻 0 術防 150 命中 回避 集中 種族 獣 経験値 17 ガルド 0 弱点 風 耐性 地 状態異常耐性 レンズ ラフ 10 落とすアイテム リンゴ(12%) 盗めるアイテム - 出現場所 カルバレイス地方 D・ストライク (※基準はNormal 落とす(盗める)アイテムの数値は落とす(盗める)確率) 行動内容 / 総評 カルバレイス地方に出現するウサギ型のモンスター。スノーバニーの強化版。 ▲ 関連リンク 関連種 デスティニー(PS2) スノーバニー ハーレ オキシレプス ▲ ネタ 名前は英語で「砂ウサギ」という意味。 サンド(英:sand)=砂 ラビット(英:rabbit)=ウサギ ▲
https://w.atwiki.jp/barusa_kouenba/pages/146.html
2252 ポジ 期 選手名 試合数 G A 黄色 赤色 評価点 GK (7) ルイージ 30 0 0 0 0 2.53 RCB (2) カイザー 30 1 0 0 0 3.00 LCB (7) ヒメネス 30 2 4 2 0 3.17 RWB (6) ヨルセン 30 4 12 0 0 3.50 DH (4) レオポール 30 0 10 7 0 2.37 LWB (3) エンヴェド 30 3 4 0 0 3.13 ROH (1) ワイマール 25 7 6 1 0 2.48 LOH (7) 大野 30 10 12 2 0 2.47 RWG (1) ドラビッチ 25 10 15 0 0 3.08 CFW (3) 阿修羅 30 25 0 0 0 2.97 LWG (1) トット 30 16 7 1 0 2.70 今期は6位フィニッシュ。 さすがにレオ様がこんなじゃここが精一杯。 ドラビッチは確信です。ワイマールはRWGでもROHでもこんなもんみたい。初日の4敗がなけりゃな・・・
https://w.atwiki.jp/pcwebsaka/pages/87.html
ユーゴスラビア94 ユーゴスラビア94情報スレ 画像 フォメ情報 獲得できる監督 総合力 6 ドラゴビッチイエーガー 攻撃力 8 スピード 3 守備力 1 テクニック 10 中盤の構成力 10 パワー 0 3-5-2 難易度 7 スタミナ 5 肩書き 幻のユーゴスラビア ポジ 能力 属性 活躍選手 GK P+S 感 〇ゴーン 〇デービス 〇ルイージ ゲアトルーヅ RCB P 個 ◎ヴェンゲル 〇ギード 〇マルゲリータ LIB P ◎リートフェルト ◎ヴェンゲル 〇ヒメネス 〇カンパリ 〇ヘラーペコ LCB T 〇ロスタ クレメンス RWB S+T ◎ヨルセン ◎サケッティ ◎シュレーダー ◎カヌー ◎ジョーンズ〇ジャンニケッダ CDH★ T 知 ◎リートフェルト ◎ガルシア ◎ジャミ ◎ジャミ・ナバーロ ◎ピオラ◎ノテウス LWB S ◎ハシェック ◎パイク 〇ドールマン CH★ T ◎リートフェルト ◎ハポン 〇コジーニョ 〇ガルシア 〇ジャミ〇イライソス OH★ T 感 ☆ドラビッチ ◎サイコビッチ ◎スライダー ◎ゾフ ◎アベル◎リカルド 〇マルセリーニョ RFW S+P? ◎サバテル カルレロ カラバッジォ ビーティー ファーレスバウベル ミリュコビッチ LFW★ T+S 感+個 ☆ゾフ ◎サイコビッチ ◎ミリュコビッチ ◎二宮和寿 ◎カラバッジォ◎ジルマール ◎エジーニョ ◎メンデス ◎トット ◎ミラ◎マルセリーニョ ◎ジルベール 〇ファンジオ 〇デス・ピサロ ※…★はキーポジション 監督理解度 攻撃型 バランス型 守備型 ✕ カラヴァン アクエル 〇 イエーガー 〇 ケルクホフ 〇 イ・ヨンス コンティ 〇 アルメイダ 〇 ゴンザレス 〇 ザイド・ファタラ ガウルテリオ 佐伯 ✕ シモンズ ダビーサス シマク ✕ ドイル 〇 チャールズ 〇 ジャンヌ ✕ 敏林 ベルナール 〇 ジョルジュ J・フィルマーニ 〇 ホッベル タウンゼント ✕ M・フィルマーニ 千波 〇 ドラゴビッチ 〇 フルニエ フィオーセ ラクテオノフ 〇 フェルナンデス 〇 ハッサン ✕ ブリッジス フィヨルトフト ✕ デューラー ✕ リッター ✕ ルビーニョ 合計: - 今日: - 昨日: -
https://w.atwiki.jp/talesofdic/pages/7261.html
ポットラビッチヌス(ぽっとらびっちぬす) + 目次 エターニア ファンダム 関連リンク関連項目 被リンクページ エターニア セレスティアに生息している動物だが、あまり見かけない珍しい存在。 青い体毛と長い尻尾が特徴的。鳴き声は「クィッキー」。 実験動物として重宝されており、そのせいか一般的には警戒心が強く人間に懐かないが、クィッキーだけは例外でメルディに非常に懐いている。 ちなみに「ポットラビッチヌス」は学名。 ▲ ファンダム 珍味としても重宝されているらしい。 ▲ 関連リンク 関連項目 ミアキス 被リンクページ + 被リンクページ 設定:TOEオンライン 設定:は行 設定:エターニア ▲
https://w.atwiki.jp/gabababitti/pages/15.html
ガババビッチ教は、ガババビッチを敬い、ガババビッチの教えの通りに生きていくという感じ… 活動内容は気まぐれです。
https://w.atwiki.jp/bitchgirls/pages/99.html
第3章 02-877 :腹黒ビッチ 3章(前) 1:2009/11/24(火)18 06 08 ID c+rdRhZe パチン。 随分温まってしまった携帯を、片手で閉じて握りしめる。机に向かうにも、予習は 終わってるし、世界史の記述も採点を済ませたところだ。英作文は寝る前にやる習慣 を変えたくない。手持無沙汰に、なおさら携帯が気になってしまう。もう一度だけ、 と携帯を開こうとした。 「りかー、ここ教えてー」 向かいで勉強していた佳奈子がぐでっと机に突っ伏す間際の態勢で、私に助けを求 める。 「わーがーんーなーいー」 「わかったから、さっさと見せなさいよ」 「ベクトルなんて死んじまえばいいんだー」 「ベクトルね。はいはい」 学校で配られたセンター対策のだな。ベクトルならそんなに難しくない。 「ああ、途中まで解けてるよ。こないだ教えた方法使えてるし」 「空間は無理ー」 「考え方は同じだから。ほら、これとこれ使えば出てくるじゃない」 「うんうん」 「で、(1)の使ってみて。これのベクトル出てくるから。あとは自分で考えて」 佳奈子にテキストを返し、ノートに数式を書きだすのを見て、また携帯を見る。着 信ゼロ。分かっているけど、もう一度開いてみる。いつも通り、待ち受け画面のプリ クラが光っているだけだ。 はぁ。ため息をついて、またパチンと携帯を閉じる。だけど気持ちがおさまらなく て、また携帯を開き、メールを打つ。 「りかー、まだ一宮に連絡つかんの?」 「うん」 「どうしたんだろね」 「……うん」 「ま、だいじょぶじゃね?どうせいつも通りなんだから」 「……そうだね」 そう、いつも通り。昼ご飯は克哉君と一緒に食べて、普通に授業受けて、放課後は こうして佳奈子の家庭教師。それからバイトに行って、帰りは克哉君が駅まで迎えに 来てくれる。 いつも通り。だけど、克哉君からの先に帰るよっていう連絡がない。それだけと言 えばそれだけだけど、でも胸騒ぎがする。 「それにしても、りかって変わったよねー」 はい、と解き終わったノートを採点してくれと差し出して、佳奈子がしみじみ言う。 「私の処女は高く売れるのよ!とか言ってた頃が懐かしいよ」 「今だって変わんないわ。一晩二十万は堅い」 「ぎゃははは、じゃあ、一宮は二十万の男?」 「さーね」 「ほら、やっぱ変わったじゃん。男は奢らせてナンボって言ってたくせにぃ。男ころ ころ変えて、しょっちゅう遊びに行って、そのくせエッチはさせなかったりかが、あ の一宮に落ちるなんてありえないよねー」 02-878 :腹黒ビッチ 3章(前) 2:2009/11/24(火)18 06 36 ID c+rdRhZe 中学からの付き合いってこれだから嫌だ。 「別に落ちてないわよ」 「ふーん?別にどーでもいいけどさー」 毎日のように渋谷に繰り出したり、夜中に集まってバカやってた仲間で、同じ高校 に来たのは佳奈子だけだ。おかげで、昔からの言動や蛮行はすべて知られている。他 は全員バカ高を選んだのに、佳奈子だけは『りかと一緒だとおもしろいからー』なん て言っていた。おかげで、佳奈子の親には絶大な信頼を受けている。大学受験を控え た今も、放課後二時間見てあげるだけで一日五千円もらっているのだ。さすが金持ち。 「吉中さんとか、まだりかに未練あるらしいよ。あれだけ散々振られたのにねー」 「あー、直人のこと?車しか取り柄ないじゃん。あれ以上はつきあっても無駄」 「ひっでーの!K大お坊ちゃま君捕まえてそりゃないわー」 「それくらいゴロゴロいるわよ。あれでヤらせろなんて、分をわきまえろって」 「麻美が聞いたらキレるよ……」 「直人のセフレやってんのは麻美の勝手でしょ。私は知ーらなーい」 はっと鼻で笑って、紙パックのジュースをすする。 「てか、麻美はこれからどうすんの?」 「『マミ、しゅーしょくなんてめんどくさぁいしー、頭わるいしー』って」 「直人って、大卒以上は人間じゃねえとか言ってるバカ男なのに……」 「バカ同士でお似合いなんじゃない?」 じゅるじゅる、とストローが嫌な音を奏でたところで、採点終わり。ほとんどマル。 このままなら、佳奈子の方は志望校に受かるだろう。 「さて、今日はこんなもんかな」 「終わったぁーつっかれたーかえろー」 机をガタガタ元に戻して、カバンを取る。教室の時計は六時半を示している。連絡 ないな、とため息をつきかけたその時、手のひらで携帯が振動した。 「もしもしっ、克哉君?」 「有華ー?克哉君じゃなくてママだけど、もうこっち向かってる?」 「……あ、ママ」 ママ、と言っても本当の母親じゃない。バイト先であるクラブのママだ。 「今からそっち行くとこです」 「そう?ごめん、氷切らしちゃって、途中で買って来てくれない?あとポッキーも無 いから。いつものとこでお願いねー」 「分かりましたぁ。三十分くらいで着きますねー」 用件だけで、すぐに切られる。もしかしたら早めにピークが来ているのかもしれな い。買うものリストを頭で作りつつ、教室を出る。 「絢さんから?」 「うん」 「りかも大変だねー、受験生なのにバイトして」 「でも国立に変えたし、なんとかなりそう」 「はー。私立一本だと気楽でいいわー」 佳奈子とは校門で別れた。じゃあねー、絢さんによろしくー!という佳奈子に手を 振るだけで返す。卒業したら絢さんの店で働くって、本気なんだろうか。 店は新宿にあって、電車で一本だ。駅までの道すがら、何度も携帯を見るけれど、 やっぱり連絡がない。克哉君は私と同じ大学に入りたいからとかなり必死に勉強して るから、最近は絶対部屋にこもってるはずなんだけど。 02-879 :腹黒ビッチ 3章(前) 3:2009/11/24(火)18 07 13 ID c+rdRhZe 克哉君と付き合うようになって、確かに私は変わったかもしれない。佳奈子のから かうような口調を思い出す。 中学に入ってから、男は一か月以上切れたことがない。初めは流されたように同級 生と付き合っては、三か月未満で別れていた。周りもみんなそんな感じで、付き合うっ てことが大事で、キスしたり手をつないだりそんな段階で別れていた。 そんなある日に、三歳年上の彼氏ができた。相手は高校生で、バイトしててお金が あった。色んなものを奢ってもらって、買ってもらった。母子家庭で裕福じゃない家 庭に生まれた私には、新鮮な経験ばかりだった。カラオケに行ったり、ゲーセンに行っ たり、ビリヤードしてみたり、クラブにも行った。そうして一か月くらいですっかり 遊びを覚えた頃に、彼氏と二人でカラオケに行った。 押し倒された。 はじめて、おちんちんというものを見た。 舐めてと言われ、あまりのグロテスクさに叫んで、彼氏の股を蹴り上げて、逃げた。 逃げた道中の混乱を、今でも覚えている。なにあれなにあれなにあれキモいキモい キモい。あんなの舐めるとかありえない。自分で舐めてろ!キッモ!キッショ!! 家に帰って、冷静になっても、大体考えることは同じだった。だけど男と付き合う と、奢ってもらっていっぱい遊びに連れてってもらえるというのは捨てがたかった。 だけどその引き換えにペニス舐めろと言われても、絶対嫌だ。 しばらくうんうん悩んでる内に、彼氏に呼び出された。当たり前だが怒っていて、 今にも物陰に連れて行かれて強引にされそうだった。何も反応しない私の腕を引いて、 抱き締めようとする男を前に、ふと思いついた。 『いやっ』 『有華?』 『ごめんなさい、私、怖いの……っ』 『何言ってんだよ、お前』 『だって、私、お母さんに、結婚するまでエッチしちゃダメよって……』 『……ハァ?』 『ケンジのこと、好きだけど、でも、そんなことしたら、結婚できなくなっちゃうの』 名づけて、結婚するまでピュアなの大作戦(そのまま)。うるうるの目で見上げて、 怯えたウサギのように体を震わせるのだ。この時ほど、自分が清純派で可憐系の顔で よかったと思ったことはない。 彼氏は憤慨しかけたけど、私があまりにも怯えるので、諦めた。 『ケンジと結婚したら、私の処女、あげるねっ』 と言って落とした。誰がお前なんかと結婚するかバーカ、というのは心の声だけど。 その場をどうにか切り抜けるためのはずの嘘は、後々、意外な効果を生んだ。ます ます彼氏が私に入れ込んだのだ。可愛くて一途な女の子は、この子を大事にしなきゃ という気を起させるし、本命にしたくなっちゃうらしいのだ。 遊びに行くたびにお金出してもらって、ご飯食べさせてもらいながら、私は悟った。 これは使える、と。 そして三ヶ月くらい付き合った後、彼氏とはあっさり別れた。結局彼も高校生、ヤ りたいお年頃。その頃にわざと軽そうな友達を紹介したら、面白いくらいさっさと手 を出した。そこで、もう信じられない!とでも言って平手でも打ってサヨナラした。 あとはそれ繰り返し。彼氏は切れないけど、それは恋愛体質だからじゃない。いか に奢ってもらって美味しい思いするかの勝負なのだ。ただ、セックスは結婚する相手 に取っておく、というのも本当だ。いつか玉の輿に乗った暁には、お礼の意味も込め て処女を捧げるつもりだ。 02-880 :腹黒ビッチ 3章(前) 4:2009/11/24(火)18 07 57 ID c+rdRhZe いい男は、いい環境にこそ存在する。中学の時点で私は知っていた。ナンパで捕ま る男なんて、たかが知れている。中学までに付き合った男は中の下レベルの高校か大 学で、決まってそんなに金も持っていなかった。 だから中三あたりで遊ぶのには一旦見切りをつけて、猛勉強を始めた。友達はみん なバカじゃないのー遊んでた方が楽しいじゃんと鼻で笑ってたけど、そんな奴らを私 こそが鼻で笑っていた。そのレベルの男で満足してればいいんじゃない?私はもっと ハイレベルの男掴まえるけどね。 結構なレベルの進学校に入って、それは確信になった。制服だけで、寄ってくる男 が違う。それに可愛い女の子の顔が乗っていたら、効果は抜群だ。反面、高校に入る と体の関係を迫ってくる男も増えた。結婚するまでピュアなの大作戦は、限界に近づ いてくる。本当に結婚しようと迫ってくる男が出てきやがったのだ。 あーめんどくさい。どこかにそんな女慣れしてなくて、性欲も薄そうな男いないか な。草食系バンザイ。 そんな頃に会話に出てきたのが、一宮克哉、だった。 「あら早かったわね、有華」 「おはようございます、これ、頼まれてたものです」 業務用スーパーの袋を台に置く。それからブレザーを脱いで、ネクタイを店用の黒 に付け替えて、エプロンをつける。 「あ、有華ちゃん来たんだー」 「おはようございますー、瑠奈さん」 「こんな時間から団体さんはいって、今大変なのお」 「そうだろうなーと思って、早めに来ました」 「さすが有華ちゃんだね。いい子いい子」 香水の匂いをぷんぷんさせる瑠奈さんに、にっこり笑いながらオーダーを確認する。 ママもがんばっていたみたいだけど、大分たまっている。 「今日、私フリーっぽいから、時々私も厨房入るね」 「大丈夫ですよー。それに瑠奈さん人気だし、すぐ指名入りますってば」 「お世辞はいいわよ」 うふふ、と上品に笑う瑠奈さんは、こんなに気さくで偉ぶらないのにナンバー3だ。 大体、ナンバー入りの人が厨房に入ることなんてまずないのに。 「もうすぐ卒業でしょ?そしたら有華ちゃん、私のヘルプ入ってね。楽しみにしてる から」 「あははは、どうなんでしょうねー」 手を振って、瑠奈さんはまたホールに戻って行った。さて、とオーダーの一番上の アイスクリーム盛り合わせにかかる。ディッシャーは、普通の店のよりかなり小さい。 大粒のブドウくらいの大きさで、これを何個も積むと可愛いんだけど、店内用はたっ たの四つに、ウエハース二枚。これが800円に化けるんだから恐ろしい。私なんか裏で めちゃくちゃ食べてるのに。 「大変お待たせしました、アイスクリーム盛り合わせです」 話に盛り上がってるのを邪魔しないように、静かに置いて、さっさと厨房に戻る。 それが私の仕事だ。飲み物は氷とお酒の準備だけ。あとは女の子がやってくれるから 楽だ。これで時給が1800円。簡単な仕事だけど高いのは、一応ここが夜のお店だから。 ホステスよりは当然安い。それでもコンビニのレジでひーひー言うよりはよっぽど割 にいいから、もう二年も働いている。 「有華、次ピザやってくれる?」 「はーい」 忙しいのかこちらを見ないママに、返事だけしてオーダーを確認。マルガリータ。 後で私も食べよっと。 02-881 :腹黒ビッチ 3章(前) 5:2009/11/24(火)18 08 28 ID c+rdRhZe ピークを過ぎるのが十時頃で、その前後で私も上がりになる。三時間程度しか働か ないで済むんだけど、やっぱりちょっとは申し訳なくて、残業することも多い。まあ ママが残業代を弾んでくれるからなんだけど。上がっていいよーとママに言われて、 すぐにカバンの携帯を確認する。けど、何の連絡もない。 さすがに、おかしい。迎えに行くよという連絡がないのは、これが初めてだった。 「有華ー、なんか食べてくー?」 「いえ、帰ります」 「また克哉君?」 「はい」 「いいわねえ、ほほえましくて。じゃあね、また明日」 「はい、お先失礼します」 ママはそう言うと、ホールに帰って行った。エプロンを外して、ブレザーを着る。 水仕事で荒れやすいから、ハンドクリームを塗る。だけど指先は冷たい。このまま待 とうか迷ったけど、待つよりは駅に向かう方がいいと思って外に出た。 繁華街のある駅から最寄駅までは十五分ほど。六本木で働いていた母が通勤に楽な ようにと選んだアパートに、もう十年も住んでいる。克哉君の家とは駅と反対になる けど、徒歩二十分と近い。だから朝はランニングするって言う克哉君に付き合って、 一緒に学校に行くことだってできるのだ。 いつも、克哉君は最寄り駅で私を待っていてくれる。夜道は危ないからと言って。 だけど克哉君の姿は、今日はそこに無かった。 胸騒ぎが、どんどん酷くなる。なんでだろう。どうして、連絡くれないんだろう。 もやもやする胸を晴らすために、私は自分のアパートでなく、克哉君の家の方へ向 かった。誰もいないようだったけど、私はもうほぼ顔パスだったから、おじゃましま すとだけ告げて中に入る。二階の克哉君の部屋を、ノックする。返事はない。 その先は、真っ暗な闇の中だった。 02-882 :腹黒ビッチ 3章(前) 6:2009/11/24(火)18 08 49 ID c+rdRhZe 一宮克哉という人間は、きちんと認識していた。クラスにいる、暗い奴。それくら いに思っていた。他人に関わろうとしない。本当に空気だった。誰かに視線を送るで もなく、不気味に独り言を言うでもなく、ただぼんやりと彼はそこにいた。 最初は好奇心だった。金があるのになんであんなにダサくなれるのか分からない。 女の子と付き合ったこともなさそうだし、完全に自分が優位になれそうだと思った。 性欲も薄そうだし。今まで付き合ったことのないタイプだったから、試しに付き合っ てみようかな。将来結婚する時に、こういう無害そうなタイプだったら、手綱をとれ ていいかもね。その実験台として。三ヶ月ほど付き合って、慣れたら捨てよっと。そ れくらいに思っていた。 そうして三ヶ月経ったけど、別れる気が不思議と起こらなかった。その時は、他に いい男が今はいないからだと思った。 冬が来ても、私はいつも克哉君の傍にいた。一途に私のことを思ってくれて、努力 してくれる姿に、情がわいたのかなと思った。 春が来て、いつの間にか処女がなくなってた。必死でそういう空気に持っていこう としている様子を見てたら、まあいいかな、と思ってしまったのだ。 そうして、一年が経って。結婚するまでなら一緒にいてもいいかな、と思った。レ ベル低めの大学に入って特待生になろうと思ってたのを、同じ大学に行きたいからと 志望校を変えた。 自分が変わったなんて、意識したこと無かった。むしろ虚勢や嘘をつかなくていい 分、そのままの私でいるつもりだった。日々が穏やかだった。それを楽しむだけで、 十分だった。 今以上を望まなくてもいい、等身大の毎日。そして誰かが想ってくれることに、 笑って応えることが、どれだけ幸せなのか。 私は気付いてなかった。 ボロボロの身なりで、どうやって帰ってきたのか覚えていない。手切れ金だと言わ んばかりに投げられた万札は、途中のどこかで捨ててしまった。体の芯まで冷え切っ ていた。いつもの慣れた動作で鍵を開けて、扉を開ける。 バタン。静まりきった空間に、冷たく響き渡る。靴を脱いで、服を脱いで、シャワー を浴びる。冷たい水が頭にかかるけど、我慢する気も逃れる気も起きないままぼんや りとしている内に、冷たさが和らいできた。頬を伝う温水は、塩辛くもなんともない。 涙はあの部屋に置いてきてしまった。 くぷ、と膣から漏れ出した精液が、太ももを伝う。避妊されなかったんだな、でき たらどうしようかな、と思った。 ルーチンワークとしての入浴はできても、それ以外のことはできない。いつもどお りに体を洗って、外に出るしかできなかった。部屋着に着替えて、そのまあベッドに 倒れ込む。英作文は、もう寝る時間だから、出来ない。 目を閉じたら、そのまま眠れる。眠くてたまらない。はやく眠ってしまいたい。こ んなこと忘れてしまいたい。 赤ちゃんできてたら、どうしようかな。眠りに落ちる寸前で、ぼんやりと考えた。 まあ、できてないんだろうな。明日から生理だったことを思い出したからだ。 できてたら、よかったのに。なんでそんな馬鹿なことを思ったのか、分からない。 生理痛で一日休んで、そのまま週末を迎えて、学校に行くと空気が明らかに違った。 克哉君とのことは、クラス中に知れ渡っているらしい。鼻で笑ってやろうか、前の私 ならそうしただろうけど、そんな気力が湧いてこない。克哉君を、視界に入れないよ うに気を付けた。きっと今は、耐えられないだろうから。 白い目で見られるのには慣れていた。小学校時代はずっとそうだった。母がお水だ からって、友達には馬鹿にされたし、先生にも目をかけてもらえなかった。中学に 入って小学校時代の友人関係がリセットされて、立て続けに先輩やら同級生に告白さ れてからようやく、自分がどうやら人より可愛いことを知った。 その頃を思い出せば、やっていける。そう、自分に言い聞かせる。この間まで仲が 良かったクラスメイトが、遠巻きに私を見て、冷たい目で噂する。誰にも気づかれな いように、ため息をついた。これからは、ギリギリで学校に来ないと。 02-883 :腹黒ビッチ 3章(前) 7:2009/11/24(火)18 10 41 ID c+rdRhZe 昼休みのチャイムが鳴り、コンビニで買ったパンを手に立ち上がった。廊下に出る と、佳奈子が一人でそこにいた。 「よっ、りか」 屋上は秋風が吹きすさび、はっきりいって寒い。寒いけどここしか場所は思いつか ない。その内、特別教室でも探さなければ。 「犯人、うちのクラスの田辺だって」 「ふーん」 「なに、シメないの?」 「どうでもいい」 「どうでもよくないっしょ」 「どーでもいーの」 「どーでもよくない!」 珍しく、佳奈子の大声。顔を上げると、想像したよりもずっと、佳奈子は怒ってい た。 「りかがせっかく、まともに恋愛してんのに!ぶち壊すなんて、許せない!」 「まとも?」 「そーだよ!恋愛不信のりかが、やーっと本気で恋したのに、田辺の奴……!」 「私、恋愛不信なんだ」 「自分で気付いてなかったの?」 はは、と生笑いで返す。言われてみればそうかもしれないなーくらいの実感しかな い。 「りかはさ、男なんて信用してないでしょ。小学校ん時、男の先生に相手にしても らってなかったし。しかも通信簿に酷いことばっか書かれて」 「よく知ってるねー」 「あと、中一ん時に付き合った奴ら。みーんなりかのことつまんないって言ってさっ さと別れちゃって」 「あー、でもそれ否定できないなー」 「そんで、年上の彼氏全部!エッチしたいエッチしたいってお前ら猿か!!」 「まぁ、男ってそんなもんじゃない?」 「しかもりかんちのおばさん、男追いかけて北海道行っちゃうし」 「子ども生まれて幸せならいいじゃん。見る?こないだの、晋くん二歳の写メ」 「ほら、りか、達観しちゃってるでしょ。これが恋愛不信だっていうのよ」 言われてみれば、そうかもしれない。風でさらに固くなったメロンパンにかじりつ く。どこにメロン果汁が入ってるのかさっぱり分かんないのがメロンパンのいいとこ。 「しょうがないよ。金目当てだって、本当のことだったんだし」 「最初はそうだったんだろうけど、違うでしょ」 うん、違う。違うんだよ。克哉君。 「私、気付いてなかったけど、克哉君のこと好きだったんだね」 「それも気づいてなかったのかよ……」 あはははは。乾いた笑いが、風にさらわれる。 「好き、だったんだ」 やっぱり涙はあの日流し切って、もう泣き方すらも思い出せない。 恋の仕方も知らないくせに、知ろうともしなかった。克哉君はいつだって私を大事 にしてくれてたのに、私はただをそれを甘受していただけ。そもそも前提が最悪なの だ。ばれなきゃいいなんて、そんなの、ばれて当たり前だ。 そうして全部なくなってから、やっと分かった。これが、恋だったんだと。 「りかのバカ」 「うん、私、バカだね」 「バ―――――カ!」 「もー、佳奈子が泣かないでよ」 「バアアアアアアアカ!一宮のバアアアアアアカ!!」 うわああああん、なんて豪快に泣いてマスカラ取れてる佳奈子に、化粧ポーチを膝 に乗せてやる。友情に免じて、綿棒一本貸したげよう。 「これから私といると、佳奈子も悪口言われるよ」 「知るか。私はりかがいないと大学受からないんだもん」 「だったらうちおいでよ。どうせ誰もいないし」 「むしろうち引っ越してこいよ!うちのママ、りかのこと気に入ってるし」 断る私をよそに、佳奈子は勝手に「これからは二人で飯食うぞ!」と意気込んでい る。やめときなよと言ったけど、本当は嬉しかった。 02-877 :腹黒ビッチ 3章(前) 1:2009/11/24(火)18 06 08 ID c+rdRhZe パチン。 随分温まってしまった携帯を、片手で閉じて握りしめる。机に向かうにも、予習は 終わってるし、世界史の記述も採点を済ませたところだ。英作文は寝る前にやる習慣 を変えたくない。手持無沙汰に、なおさら携帯が気になってしまう。もう一度だけ、 と携帯を開こうとした。 「りかー、ここ教えてー」 向かいで勉強していた佳奈子がぐでっと机に突っ伏す間際の態勢で、私に助けを求 める。 「わーがーんーなーいー」 「わかったから、さっさと見せなさいよ」 「ベクトルなんて死んじまえばいいんだー」 「ベクトルね。はいはい」 学校で配られたセンター対策のだな。ベクトルならそんなに難しくない。 「ああ、途中まで解けてるよ。こないだ教えた方法使えてるし」 「空間は無理ー」 「考え方は同じだから。ほら、これとこれ使えば出てくるじゃない」 「うんうん」 「で、(1)の使ってみて。これのベクトル出てくるから。あとは自分で考えて」 佳奈子にテキストを返し、ノートに数式を書きだすのを見て、また携帯を見る。着 信ゼロ。分かっているけど、もう一度開いてみる。いつも通り、待ち受け画面のプリ クラが光っているだけだ。 はぁ。ため息をついて、またパチンと携帯を閉じる。だけど気持ちがおさまらなく て、また携帯を開き、メールを打つ。 「りかー、まだ一宮に連絡つかんの?」 「うん」 「どうしたんだろね」 「……うん」 「ま、だいじょぶじゃね?どうせいつも通りなんだから」 「……そうだね」 そう、いつも通り。昼ご飯は克哉君と一緒に食べて、普通に授業受けて、放課後は こうして佳奈子の家庭教師。それからバイトに行って、帰りは克哉君が駅まで迎えに 来てくれる。 いつも通り。だけど、克哉君からの先に帰るよっていう連絡がない。それだけと言 えばそれだけだけど、でも胸騒ぎがする。 「それにしても、りかって変わったよねー」 はい、と解き終わったノートを採点してくれと差し出して、佳奈子がしみじみ言う。 「私の処女は高く売れるのよ!とか言ってた頃が懐かしいよ」 「今だって変わんないわ。一晩二十万は堅い」 「ぎゃははは、じゃあ、一宮は二十万の男?」 「さーね」 「ほら、やっぱ変わったじゃん。男は奢らせてナンボって言ってたくせにぃ。男ころ ころ変えて、しょっちゅう遊びに行って、そのくせエッチはさせなかったりかが、あ の一宮に落ちるなんてありえないよねー」 02-878 :腹黒ビッチ 3章(前) 2:2009/11/24(火)18 06 36 ID c+rdRhZe 中学からの付き合いってこれだから嫌だ。 「別に落ちてないわよ」 「ふーん?別にどーでもいいけどさー」 毎日のように渋谷に繰り出したり、夜中に集まってバカやってた仲間で、同じ高校 に来たのは佳奈子だけだ。おかげで、昔からの言動や蛮行はすべて知られている。他 は全員バカ高を選んだのに、佳奈子だけは『りかと一緒だとおもしろいからー』なん て言っていた。おかげで、佳奈子の親には絶大な信頼を受けている。大学受験を控え た今も、放課後二時間見てあげるだけで一日五千円もらっているのだ。さすが金持ち。 「吉中さんとか、まだりかに未練あるらしいよ。あれだけ散々振られたのにねー」 「あー、直人のこと?車しか取り柄ないじゃん。あれ以上はつきあっても無駄」 「ひっでーの!K大お坊ちゃま君捕まえてそりゃないわー」 「それくらいゴロゴロいるわよ。あれでヤらせろなんて、分をわきまえろって」 「麻美が聞いたらキレるよ……」 「直人のセフレやってんのは麻美の勝手でしょ。私は知ーらなーい」 はっと鼻で笑って、紙パックのジュースをすする。 「てか、麻美はこれからどうすんの?」 「『マミ、しゅーしょくなんてめんどくさぁいしー、頭わるいしー』って」 「直人って、大卒以上は人間じゃねえとか言ってるバカ男なのに……」 「バカ同士でお似合いなんじゃない?」 じゅるじゅる、とストローが嫌な音を奏でたところで、採点終わり。ほとんどマル。 このままなら、佳奈子の方は志望校に受かるだろう。 「さて、今日はこんなもんかな」 「終わったぁーつっかれたーかえろー」 机をガタガタ元に戻して、カバンを取る。教室の時計は六時半を示している。連絡 ないな、とため息をつきかけたその時、手のひらで携帯が振動した。 「もしもしっ、克哉君?」 「有華ー?克哉君じゃなくてママだけど、もうこっち向かってる?」 「……あ、ママ」 ママ、と言っても本当の母親じゃない。バイト先であるクラブのママだ。 「今からそっち行くとこです」 「そう?ごめん、氷切らしちゃって、途中で買って来てくれない?あとポッキーも無 いから。いつものとこでお願いねー」 「分かりましたぁ。三十分くらいで着きますねー」 用件だけで、すぐに切られる。もしかしたら早めにピークが来ているのかもしれな い。買うものリストを頭で作りつつ、教室を出る。 「絢さんから?」 「うん」 「りかも大変だねー、受験生なのにバイトして」 「でも国立に変えたし、なんとかなりそう」 「はー。私立一本だと気楽でいいわー」 佳奈子とは校門で別れた。じゃあねー、絢さんによろしくー!という佳奈子に手を 振るだけで返す。卒業したら絢さんの店で働くって、本気なんだろうか。 店は新宿にあって、電車で一本だ。駅までの道すがら、何度も携帯を見るけれど、 やっぱり連絡がない。克哉君は私と同じ大学に入りたいからとかなり必死に勉強して るから、最近は絶対部屋にこもってるはずなんだけど。 02-879 :腹黒ビッチ 3章(前) 3:2009/11/24(火)18 07 13 ID c+rdRhZe 克哉君と付き合うようになって、確かに私は変わったかもしれない。佳奈子のから かうような口調を思い出す。 中学に入ってから、男は一か月以上切れたことがない。初めは流されたように同級 生と付き合っては、三か月未満で別れていた。周りもみんなそんな感じで、付き合うっ てことが大事で、キスしたり手をつないだりそんな段階で別れていた。 そんなある日に、三歳年上の彼氏ができた。相手は高校生で、バイトしててお金が あった。色んなものを奢ってもらって、買ってもらった。母子家庭で裕福じゃない家 庭に生まれた私には、新鮮な経験ばかりだった。カラオケに行ったり、ゲーセンに行っ たり、ビリヤードしてみたり、クラブにも行った。そうして一か月くらいですっかり 遊びを覚えた頃に、彼氏と二人でカラオケに行った。 押し倒された。 はじめて、おちんちんというものを見た。 舐めてと言われ、あまりのグロテスクさに叫んで、彼氏の股を蹴り上げて、逃げた。 逃げた道中の混乱を、今でも覚えている。なにあれなにあれなにあれキモいキモい キモい。あんなの舐めるとかありえない。自分で舐めてろ!キッモ!キッショ!! 家に帰って、冷静になっても、大体考えることは同じだった。だけど男と付き合う と、奢ってもらっていっぱい遊びに連れてってもらえるというのは捨てがたかった。 だけどその引き換えにペニス舐めろと言われても、絶対嫌だ。 しばらくうんうん悩んでる内に、彼氏に呼び出された。当たり前だが怒っていて、 今にも物陰に連れて行かれて強引にされそうだった。何も反応しない私の腕を引いて、 抱き締めようとする男を前に、ふと思いついた。 『いやっ』 『有華?』 『ごめんなさい、私、怖いの……っ』 『何言ってんだよ、お前』 『だって、私、お母さんに、結婚するまでエッチしちゃダメよって……』 『……ハァ?』 『ケンジのこと、好きだけど、でも、そんなことしたら、結婚できなくなっちゃうの』 名づけて、結婚するまでピュアなの大作戦(そのまま)。うるうるの目で見上げて、 怯えたウサギのように体を震わせるのだ。この時ほど、自分が清純派で可憐系の顔で よかったと思ったことはない。 彼氏は憤慨しかけたけど、私があまりにも怯えるので、諦めた。 『ケンジと結婚したら、私の処女、あげるねっ』 と言って落とした。誰がお前なんかと結婚するかバーカ、というのは心の声だけど。 その場をどうにか切り抜けるためのはずの嘘は、後々、意外な効果を生んだ。ます ます彼氏が私に入れ込んだのだ。可愛くて一途な女の子は、この子を大事にしなきゃ という気を起させるし、本命にしたくなっちゃうらしいのだ。 遊びに行くたびにお金出してもらって、ご飯食べさせてもらいながら、私は悟った。 これは使える、と。 そして三ヶ月くらい付き合った後、彼氏とはあっさり別れた。結局彼も高校生、ヤ りたいお年頃。その頃にわざと軽そうな友達を紹介したら、面白いくらいさっさと手 を出した。そこで、もう信じられない!とでも言って平手でも打ってサヨナラした。 あとはそれ繰り返し。彼氏は切れないけど、それは恋愛体質だからじゃない。いか に奢ってもらって美味しい思いするかの勝負なのだ。ただ、セックスは結婚する相手 に取っておく、というのも本当だ。いつか玉の輿に乗った暁には、お礼の意味も込め て処女を捧げるつもりだ。 02-880 :腹黒ビッチ 3章(前) 4:2009/11/24(火)18 07 57 ID c+rdRhZe いい男は、いい環境にこそ存在する。中学の時点で私は知っていた。ナンパで捕ま る男なんて、たかが知れている。中学までに付き合った男は中の下レベルの高校か大 学で、決まってそんなに金も持っていなかった。 だから中三あたりで遊ぶのには一旦見切りをつけて、猛勉強を始めた。友達はみん なバカじゃないのー遊んでた方が楽しいじゃんと鼻で笑ってたけど、そんな奴らを私 こそが鼻で笑っていた。そのレベルの男で満足してればいいんじゃない?私はもっと ハイレベルの男掴まえるけどね。 結構なレベルの進学校に入って、それは確信になった。制服だけで、寄ってくる男 が違う。それに可愛い女の子の顔が乗っていたら、効果は抜群だ。反面、高校に入る と体の関係を迫ってくる男も増えた。結婚するまでピュアなの大作戦は、限界に近づ いてくる。本当に結婚しようと迫ってくる男が出てきやがったのだ。 あーめんどくさい。どこかにそんな女慣れしてなくて、性欲も薄そうな男いないか な。草食系バンザイ。 そんな頃に会話に出てきたのが、一宮克哉、だった。 「あら早かったわね、有華」 「おはようございます、これ、頼まれてたものです」 業務用スーパーの袋を台に置く。それからブレザーを脱いで、ネクタイを店用の黒 に付け替えて、エプロンをつける。 「あ、有華ちゃん来たんだー」 「おはようございますー、瑠奈さん」 「こんな時間から団体さんはいって、今大変なのお」 「そうだろうなーと思って、早めに来ました」 「さすが有華ちゃんだね。いい子いい子」 香水の匂いをぷんぷんさせる瑠奈さんに、にっこり笑いながらオーダーを確認する。 ママもがんばっていたみたいだけど、大分たまっている。 「今日、私フリーっぽいから、時々私も厨房入るね」 「大丈夫ですよー。それに瑠奈さん人気だし、すぐ指名入りますってば」 「お世辞はいいわよ」 うふふ、と上品に笑う瑠奈さんは、こんなに気さくで偉ぶらないのにナンバー3だ。 大体、ナンバー入りの人が厨房に入ることなんてまずないのに。 「もうすぐ卒業でしょ?そしたら有華ちゃん、私のヘルプ入ってね。楽しみにしてる から」 「あははは、どうなんでしょうねー」 手を振って、瑠奈さんはまたホールに戻って行った。さて、とオーダーの一番上の アイスクリーム盛り合わせにかかる。ディッシャーは、普通の店のよりかなり小さい。 大粒のブドウくらいの大きさで、これを何個も積むと可愛いんだけど、店内用はたっ たの四つに、ウエハース二枚。これが800円に化けるんだから恐ろしい。私なんか裏で めちゃくちゃ食べてるのに。 「大変お待たせしました、アイスクリーム盛り合わせです」 話に盛り上がってるのを邪魔しないように、静かに置いて、さっさと厨房に戻る。 それが私の仕事だ。飲み物は氷とお酒の準備だけ。あとは女の子がやってくれるから 楽だ。これで時給が1800円。簡単な仕事だけど高いのは、一応ここが夜のお店だから。 ホステスよりは当然安い。それでもコンビニのレジでひーひー言うよりはよっぽど割 にいいから、もう二年も働いている。 「有華、次ピザやってくれる?」 「はーい」 忙しいのかこちらを見ないママに、返事だけしてオーダーを確認。マルガリータ。 後で私も食べよっと。 02-881 :腹黒ビッチ 3章(前) 5:2009/11/24(火)18 08 28 ID c+rdRhZe ピークを過ぎるのが十時頃で、その前後で私も上がりになる。三時間程度しか働か ないで済むんだけど、やっぱりちょっとは申し訳なくて、残業することも多い。まあ ママが残業代を弾んでくれるからなんだけど。上がっていいよーとママに言われて、 すぐにカバンの携帯を確認する。けど、何の連絡もない。 さすがに、おかしい。迎えに行くよという連絡がないのは、これが初めてだった。 「有華ー、なんか食べてくー?」 「いえ、帰ります」 「また克哉君?」 「はい」 「いいわねえ、ほほえましくて。じゃあね、また明日」 「はい、お先失礼します」 ママはそう言うと、ホールに帰って行った。エプロンを外して、ブレザーを着る。 水仕事で荒れやすいから、ハンドクリームを塗る。だけど指先は冷たい。このまま待 とうか迷ったけど、待つよりは駅に向かう方がいいと思って外に出た。 繁華街のある駅から最寄駅までは十五分ほど。六本木で働いていた母が通勤に楽な ようにと選んだアパートに、もう十年も住んでいる。克哉君の家とは駅と反対になる けど、徒歩二十分と近い。だから朝はランニングするって言う克哉君に付き合って、 一緒に学校に行くことだってできるのだ。 いつも、克哉君は最寄り駅で私を待っていてくれる。夜道は危ないからと言って。 だけど克哉君の姿は、今日はそこに無かった。 胸騒ぎが、どんどん酷くなる。なんでだろう。どうして、連絡くれないんだろう。 もやもやする胸を晴らすために、私は自分のアパートでなく、克哉君の家の方へ向 かった。誰もいないようだったけど、私はもうほぼ顔パスだったから、おじゃましま すとだけ告げて中に入る。二階の克哉君の部屋を、ノックする。返事はない。 その先は、真っ暗な闇の中だった。 02-882 :腹黒ビッチ 3章(前) 6:2009/11/24(火)18 08 49 ID c+rdRhZe 一宮克哉という人間は、きちんと認識していた。クラスにいる、暗い奴。それくら いに思っていた。他人に関わろうとしない。本当に空気だった。誰かに視線を送るで もなく、不気味に独り言を言うでもなく、ただぼんやりと彼はそこにいた。 最初は好奇心だった。金があるのになんであんなにダサくなれるのか分からない。 女の子と付き合ったこともなさそうだし、完全に自分が優位になれそうだと思った。 性欲も薄そうだし。今まで付き合ったことのないタイプだったから、試しに付き合っ てみようかな。将来結婚する時に、こういう無害そうなタイプだったら、手綱をとれ ていいかもね。その実験台として。三ヶ月ほど付き合って、慣れたら捨てよっと。そ れくらいに思っていた。 そうして三ヶ月経ったけど、別れる気が不思議と起こらなかった。その時は、他に いい男が今はいないからだと思った。 冬が来ても、私はいつも克哉君の傍にいた。一途に私のことを思ってくれて、努力 してくれる姿に、情がわいたのかなと思った。 春が来て、いつの間にか処女がなくなってた。必死でそういう空気に持っていこう としている様子を見てたら、まあいいかな、と思ってしまったのだ。 そうして、一年が経って。結婚するまでなら一緒にいてもいいかな、と思った。レ ベル低めの大学に入って特待生になろうと思ってたのを、同じ大学に行きたいからと 志望校を変えた。 自分が変わったなんて、意識したこと無かった。むしろ虚勢や嘘をつかなくていい 分、そのままの私でいるつもりだった。日々が穏やかだった。それを楽しむだけで、 十分だった。 今以上を望まなくてもいい、等身大の毎日。そして誰かが想ってくれることに、 笑って応えることが、どれだけ幸せなのか。 私は気付いてなかった。 ボロボロの身なりで、どうやって帰ってきたのか覚えていない。手切れ金だと言わ んばかりに投げられた万札は、途中のどこかで捨ててしまった。体の芯まで冷え切っ ていた。いつもの慣れた動作で鍵を開けて、扉を開ける。 バタン。静まりきった空間に、冷たく響き渡る。靴を脱いで、服を脱いで、シャワー を浴びる。冷たい水が頭にかかるけど、我慢する気も逃れる気も起きないままぼんや りとしている内に、冷たさが和らいできた。頬を伝う温水は、塩辛くもなんともない。 涙はあの部屋に置いてきてしまった。 くぷ、と膣から漏れ出した精液が、太ももを伝う。避妊されなかったんだな、でき たらどうしようかな、と思った。 ルーチンワークとしての入浴はできても、それ以外のことはできない。いつもどお りに体を洗って、外に出るしかできなかった。部屋着に着替えて、そのまあベッドに 倒れ込む。英作文は、もう寝る時間だから、出来ない。 目を閉じたら、そのまま眠れる。眠くてたまらない。はやく眠ってしまいたい。こ んなこと忘れてしまいたい。 赤ちゃんできてたら、どうしようかな。眠りに落ちる寸前で、ぼんやりと考えた。 まあ、できてないんだろうな。明日から生理だったことを思い出したからだ。 できてたら、よかったのに。なんでそんな馬鹿なことを思ったのか、分からない。 生理痛で一日休んで、そのまま週末を迎えて、学校に行くと空気が明らかに違った。 克哉君とのことは、クラス中に知れ渡っているらしい。鼻で笑ってやろうか、前の私 ならそうしただろうけど、そんな気力が湧いてこない。克哉君を、視界に入れないよ うに気を付けた。きっと今は、耐えられないだろうから。 白い目で見られるのには慣れていた。小学校時代はずっとそうだった。母がお水だ からって、友達には馬鹿にされたし、先生にも目をかけてもらえなかった。中学に 入って小学校時代の友人関係がリセットされて、立て続けに先輩やら同級生に告白さ れてからようやく、自分がどうやら人より可愛いことを知った。 その頃を思い出せば、やっていける。そう、自分に言い聞かせる。この間まで仲が 良かったクラスメイトが、遠巻きに私を見て、冷たい目で噂する。誰にも気づかれな いように、ため息をついた。これからは、ギリギリで学校に来ないと。 02-883 :腹黒ビッチ 3章(前) 7:2009/11/24(火)18 10 41 ID c+rdRhZe 昼休みのチャイムが鳴り、コンビニで買ったパンを手に立ち上がった。廊下に出る と、佳奈子が一人でそこにいた。 「よっ、りか」 屋上は秋風が吹きすさび、はっきりいって寒い。寒いけどここしか場所は思いつか ない。その内、特別教室でも探さなければ。 「犯人、うちのクラスの田辺だって」 「ふーん」 「なに、シメないの?」 「どうでもいい」 「どうでもよくないっしょ」 「どーでもいーの」 「どーでもよくない!」 珍しく、佳奈子の大声。顔を上げると、想像したよりもずっと、佳奈子は怒ってい た。 「りかがせっかく、まともに恋愛してんのに!ぶち壊すなんて、許せない!」 「まとも?」 「そーだよ!恋愛不信のりかが、やーっと本気で恋したのに、田辺の奴……!」 「私、恋愛不信なんだ」 「自分で気付いてなかったの?」 はは、と生笑いで返す。言われてみればそうかもしれないなーくらいの実感しかな い。 「りかはさ、男なんて信用してないでしょ。小学校ん時、男の先生に相手にしても らってなかったし。しかも通信簿に酷いことばっか書かれて」 「よく知ってるねー」 「あと、中一ん時に付き合った奴ら。みーんなりかのことつまんないって言ってさっ さと別れちゃって」 「あー、でもそれ否定できないなー」 「そんで、年上の彼氏全部!エッチしたいエッチしたいってお前ら猿か!!」 「まぁ、男ってそんなもんじゃない?」 「しかもりかんちのおばさん、男追いかけて北海道行っちゃうし」 「子ども生まれて幸せならいいじゃん。見る?こないだの、晋くん二歳の写メ」 「ほら、りか、達観しちゃってるでしょ。これが恋愛不信だっていうのよ」 言われてみれば、そうかもしれない。風でさらに固くなったメロンパンにかじりつ く。どこにメロン果汁が入ってるのかさっぱり分かんないのがメロンパンのいいとこ。 「しょうがないよ。金目当てだって、本当のことだったんだし」 「最初はそうだったんだろうけど、違うでしょ」 うん、違う。違うんだよ。克哉君。 「私、気付いてなかったけど、克哉君のこと好きだったんだね」 「それも気づいてなかったのかよ……」 あはははは。乾いた笑いが、風にさらわれる。 「好き、だったんだ」 やっぱり涙はあの日流し切って、もう泣き方すらも思い出せない。 恋の仕方も知らないくせに、知ろうともしなかった。克哉君はいつだって私を大事 にしてくれてたのに、私はただをそれを甘受していただけ。そもそも前提が最悪なの だ。ばれなきゃいいなんて、そんなの、ばれて当たり前だ。 そうして全部なくなってから、やっと分かった。これが、恋だったんだと。 「りかのバカ」 「うん、私、バカだね」 「バ―――――カ!」 「もー、佳奈子が泣かないでよ」 「バアアアアアアアカ!一宮のバアアアアアアカ!!」 うわああああん、なんて豪快に泣いてマスカラ取れてる佳奈子に、化粧ポーチを膝 に乗せてやる。友情に免じて、綿棒一本貸したげよう。 「これから私といると、佳奈子も悪口言われるよ」 「知るか。私はりかがいないと大学受からないんだもん」 「だったらうちおいでよ。どうせ誰もいないし」 「むしろうち引っ越してこいよ!うちのママ、りかのこと気に入ってるし」 断る私をよそに、佳奈子は勝手に「これからは二人で飯食うぞ!」と意気込んでい る。やめときなよと言ったけど、本当は嬉しかった。 02-928 :腹黒ビッチ 3章(中) 1:2009/12/10(木)16 27 44 ID jHuB5AQ7 「ありがとうございましたぁー、またお待ちしてますねー」 本日三人目の指名をこなし、お見送りまでしっかりにっこり。長い時間粘ってくれ たもので、この客で今日は店じまいだ。というわけで、もう笑顔は作らなくていい。 ひくっと笑顔が崩れ、脱力感そのままに控室に向かう。 「あ、おっつかれぇ、レイちゃあん」 「おつかれさまですーミリちゃーん」 わざとらしく呼び合う佳奈子と私。レイが私でミリが佳奈子。にっこにっこして二 人で見つめあって、お互いはぁっとため息をつく。 「あー尾道さんうざかったぁー」 「湯浅社長、相変わらずのヘビースメル……」 「ちょーお尻触られたよあのエロ親父ー」 「尾道様いいじゃない。ちょっと手がおイタするだけで」 「そんなこと言ったら湯浅さんいいじゃん!紳士じゃん!」 「はいはいだらけてるところ悪いけどねー、他の嬢が待ってるからやめろよー」 ぼわん。せっかく盛った髪を、上から叩かれる。見上げると、ヒゲ面の野崎チー フ。 「ちょっ、チーフ!なにするんですか!」 「もう終わったからいいだろ。オラ、はよ着替えろ」 「はいはいー」 疲れた体とさすがにぽわぽわと酔った脳みそをなんとか動かし、ロッカーに向か う。佳奈子はしゃきしゃきと着替えを終わらせ、ばたばたと無駄に手を動かして私 を待っている。まったく、ザルは得だ。そんな佳奈子を見て、瑠奈さんがくすくすと 笑う。 「レイ、ミリ、今日ご飯行く?」 「どーする、りか」 「帰る」 「りかはいっつもそればっかだねぇ。たまには私と親交を深めようとは思わんのか」 「今更佳奈子と何を深めろと……」 「これ以上深めたらレズだね」 そう言いつつ、私が帰る時はつまんないからと一緒に帰ってしまう。佳奈子こそ 他の嬢との親交を深めなくていいのか。 「レイ、来ない?たまに来てくれないと私も寂しいなぁ」 癒し系の瑠奈さんにそう言われると、私でもついはい~と言ってしまいそうにな る。これで男を落としてきたのか!と問い詰めたくなるくらいの、強烈な癒しオーラ。 今や店のナンバー1だ。 「すいません、明日の予習するんで」 「大学生って大変ねー」 「大学生が全部りかみたいなのだと思われると、私の立場がないんだけど」 瑠奈さんは、ものすごく残念そうにほほ笑む。申し訳ないとは思うんだけど、勉 強時間をこれ以上削るのは明日の負担になる。 「それじゃ、二人とも今度のお休み前は行こうね。約束」 「あ、はい」 「じゃあ、おやすみー」 二人で手を振って瑠奈さんを見送る。ほわーんと振ってる手に、はっと我に返る。 「し、しまった!つい約束しちゃった!!」 「やられたねー、りか。さすが瑠奈さんパワー」 「だって瑠奈さん、ウサギのような目でお願いしてくるんだもん」 「そりゃ仕方ないよ、だって瑠奈さんさぁ……」 「おーいお前らー、さっさと帰るぞー」 扉の向こうの野崎チーフの声に、佳奈子と二人で揃って声を返す。 「はーい!」 カバンを持ち、立ち上がる。そして佳奈子と二人で視線を交わす。 「瑠奈さんに申し訳ないよねぇ」 「瑠奈さんのラブラブ光線は、あからさまだからねぇ」 はぁっとため息をつきつつ、控室を出た。野崎チーフは私達の方面の送迎担当で、 瑠奈さんとは真反対なのだ。私達が食事に行くと大抵チーフも一緒に来るので、瑠 奈さんが私達を誘うのも仕方ない。野崎チーフに想いを寄せる瑠奈さんには悪いん だけど、こっちも事情があるのでそう毎回食事に行くわけにはいかない。 02-929 :腹黒ビッチ 3章(中) 2:2009/12/10(木)16 29 03 ID jHuB5AQ7 最初の方は五人ほど乗ってるけど、最終的には私と佳奈子と池内チーフの三人に なるのが常。だけど、 「んじゃねー、ありがとございましたー」 「おう、またな」 「じゃあね、佳奈子」 それも佳奈子を先に降ろすから、最後は私とチーフだけ。 「有華ー、どっか飯でも行くかー」 「やです」 「まあ、そう言うな」 「こっちは忙しいんです。明日遅刻しちゃう」 「ん、責任取って送ってってやる」 「い・ら・な・い。さっさと帰って。ママに言いつけますよ」 信号待ちを見計らって、野崎チーフはミラー越しにこちらを見つめる。その視線の、 熱っぽさ。 「この時間までやってるカレーうどん屋が美味しいんだってよ」 「や、だ。てかマジで早くアパート送って」 「泊まらせてくれるんならいいぞ」 「だったら今すぐおります。ありがとうございました。じゃあまた明日」 「おいおいおいおい、信号青だから!待て、ちゃんと送る」 これ見よがしにため息をついてやる。 「はー、有華は難攻不落だな」 このうさんくさい軽い男の、一体どこがいいんだ。佳奈子は渋くてカッコイイよね と言ってるけど、私にはこうアグレッシブで濃い人はもうお腹いっぱいだ。 「有華、大丈夫か」 「何がですか」 「体調とか」 「オカゲサマデ元気デス」 「これは真面目な話。心配してるんだよ」 「大丈夫です。もうすぐテスト終わりますから」 「そうか」 ほっとするチーフに、居心地が悪い。大体、他の嬢には源氏名で呼ぶくせに、なん で本名で呼ぶのか。チーフは「ミリのが移った」っていうけど、佳奈子が呼ぶのは 昔っから「りか」だ。中学の入学式で、私の名前と顔見て「あんたリカちゃん人形み たいだね」と言ったのが由来で。 「本当に無理すんなよ。辛かったら俺頼ればいいんだからな」 「はいはい」 ムートンコートを着ていても外は寒い。特に首筋。ワゴン車の扉を勢いよく閉める。 視界の端にひらひらと、チーフが手を振るのが見えるけど答えずにアパートの階段 を昇った。車のエンジン音は消えない。急いで鍵を開けて、部屋に逃げ込む。薄い扉 から、やっと車が遠ざかる音が聞こえた。 受け入れるつもりなんてないから、冷たくしてるつもりだ。なのに、なんでこの人 は諦めないのか。もう一年半もこんな調子で、いい加減疲れてきてる。でもママは 私が心配なのと、野崎チーフを気に入ってるのとで、絶対に送迎のローテーション を変えてくれない。 さっさと瑠奈さんがチーフ落としてくれないかな。そしたらローテーションも変わる し、一石二鳥なんだけどなー。 02-930 :腹黒ビッチ 3章(中) 3:2009/12/10(木)16 30 20 ID jHuB5AQ7 テキトーに大学に行って合コンで男引っ掛けようなんて思ってたのに、今や司法試 験を受けようとしてるなんて。自分でも信じられない。 動機は不純だ。何も関わりが無いより、ほんの少しでも克哉君との糸を繋げていた いから。ただそれだけの理由。それをきっかけに、キャリアウーマン目指そうかなと か、弁護士ってお金儲けてそうだしなとか、企業弁護士にでもなってやろうかなとか 色々考えたりもする。だけどそんなの全部、後付けの理由だ。 諦めはついている。嫌われているし、復縁なんてありえない。 でも、少しでも接点が欲しかった。遠くから少しだけでも見るだけで、胸がときめ く。盗み見る自分にあきれるけど。 苦しくて辛いのはどこに行っても変わらない。だったら離れるより何倍も苦しくて も、近くでこっそり好きでいようと腹をくくった。 幸い、勉強に打ち込んでいれば、何も考えずに済む。その時間だけが癒しだった。 二時に寝て、七時に起きる。一時間で支度して、大学へ。一コマ目の民法総則の授 業後、教室を出ていこうとすると、和田教授に呼び止められた。 「今日、所属ゼミ発表だろう。空いてる時にまた面接するから、伝達しといてくれ。 空いてる時間ならいつでも構わん」 感情表現の乏しい和田教授が、いつものように淡々とした口調で言う。はあ、と言っ ても、自分以外のメンバーは誰も知らない。 「じゃあ先生、私はいつにしますか」 「君の面接なんて今更やっても意味無いだろう」 「それもそうですね」 用件だけ終わると、雑談をするような人でもないので、和田教授は講義室をさっさ と出て行った。 掲示板近くには、学生が溢れかえっている。そこをかき分けて入って行くのが嫌で、 しばらく人の波が消えるのを待つ。だけど午後の授業前で混み合う廊下は、人が減 るどころか増えるばかりだ。遠巻きにぼんやりと、すれ違う人たちを見ていると、見覚 えのある集団が外からやってきた。 克哉君、だ。 彼は私に気づいていないらしく、友達とわいわい言いながら掲示板を見ていた。 克哉君はどのゼミなんだろうな。一緒だったらいいのにな。まともに喋れることなん て無いんだろうし、そんな資格ないけど。 意を決して、掲示板に向かった。克哉君の近くに行くと思うと、胸がドキドキする。 でも隣に立つ勇気はないから、ちょっと後ろから掲示板を見ようとした。男ばかりで 壁になっていて、何も見えない。でもそんなことどうでもいい。ドキドキしながら、 克哉君の背中を見ていた。……我ながら気持ち悪い。 そんなことしてたら、集団の一人がこちらに気づいて振り返った。細目の男とばっ ちり視線が合った。 「あ、斎藤さん」 あんたなんで私の名前知ってるのー!克哉君が気付いちゃうじゃないバカー!! 「掲示板、見てもいい?」 ごめんなさい!今どきます!と、細目男はざざざっと大げさに場所をどいた。い や、私こそ本当にごめんなさい。愛想なくてごめんなさい。がっちがちに緊張しなが ら、掲示板を見る。えっと、何だっけ。そうそう、ゼミをちゃんと覚えとかなきゃい けないんだった。だけど文字がきちんと頭に入らない。神田?村瀬?葉山?誰それ。 一宮。ああ、それは分かる。一宮。一宮。 お な じ ゼ ミ ! うわーどうしよー!!やったー!同じゼミだー!同じ大学受かったって分かった 時くらい嬉しいー! でも克哉君は、嫌なんだろうな。少しだけ克哉君を見ると、視線をそらして、苦り 切った顔をしていた。 ああ、やっぱりな。ぎゅっとカバンを持つ手に力がこもる。分かってる。私が嫌わ れてるってこと。私が近くにいるだけで迷惑だってこと。 少しでも近寄りたいって思うのと同じくらい、これ以上嫌われるのは辛い。踵を返 して、掲示板から離れた。 02-931 :腹黒ビッチ 3章(中) 4:2009/12/10(木)16 32 12 ID jHuB5AQ7 思っていた通り、というか思っていた以上に、新学期は辛いものになった。体力的 な意味じゃない。 勘弁してよと思うのは、ゼミの時間。最近ではゼミ以外は図書館にしか行っていな いのに、それでも大学に行くのが憂鬱になるくらい参っている。 ゼミに行くと、必ずコの字型の席につかされる。おかげで、克哉君の姿が絶対に視 界に入ってしまう。それだけならむしろ嬉しい。だけど、克哉君の隣には、いつも同 じ人がいた。 別所愛美。バラ色の頬と唇、栗色に染めた髪をくるくると遊ばせて、にっこりと砂 糖菓子のように笑う、フランス人形みたいな女の子。屈託がなくて、素直で、明るく て。私みたいにガリガリ図書室で勉強してるようなのにも、物怖じせずに話しかけて くるような、とっても「いい子」。しかも巨乳。 別所さんが克哉君は、誰が見てもお似合いだった。背が高くて、顔もクセがなく さっぱりしてて、嫌味が無く話題も豊富で、優しげな雰囲気を醸し出している克哉君 に、別所さんのような甘くてふわふわした空気はよく溶け込んだ。ゼミの誰もが、い つくっつくのか、むしろなぜくっつかないのか、いつも注目しているようだった。 ゼミに行く度に、悔しくてたまらない。このまま、いつか克哉君と別所さんは付き 合うだろう。だって克哉君、惚れっぽいし。女に免疫なかった分、話しかけられるだ けで意識しちゃう人なのだ。それを利用した私が言ってるんだから間違いない。 悔しいと思うと同時に、それが克哉君の為だとも思う。別所さんみたいな可愛い上 に、私と違って性格もいい子と付き合うのが、幸せに決まってる。 克哉君は、私を見る度に眉を寄せる。私を嫌いだと言うように睨みつける。そして 、苦しい、と訴えかける。 私のせいで克哉君についた傷を目の当たりにするたびに、謝りたくなる。だけど私 が謝っても、克哉君はあのことを思い出すだけだ。 克哉君には、私のことを忘れてほしい。忘れて、幸せになってほしい。克哉君の辛 そうな顔を見るくらいなら、どれだけ私が辛くてもいい。 その為なら、克哉君と別所さんが付き合ったっていい。私のことを忘れてくれるな ら、なんでもいい。私が傷つけられてもいい。なんだってする。 別所さんでも誰でもいいから、克哉君を幸せにしてほしい。 私は遠くで見てるだけでいい。我慢するのは、昔から慣れてるから。 拷問のような葛藤の時間を終え、去ろうとする私を、教授が呼びとめた。 「斎藤さん、ちょっと」 「あ、はい」 「君、今日発表だろう。どうだったんだ」 「……あ!」 正直ゼミのことで精いっぱいで、忘れていた。大事な大事な、司法試験の短答式の 合格発表を。 「今から、確認してきます」 「どうせなら研究室のパソコンを使いなさい」 「あ、はい」 正直、受かっている気がしない。数問さっぱり分からなかった所もあるし。今年は練 習とはいえ、自分の番号が載っていないのをわざわざ確認するのは憂鬱だ。教授の 後をついていこうとすると、ちょうど教室を出ていく克哉君と別所さんが目に入る。仲 よさげに、この後どこでデートしようかなんて言っている。 これでいいんだ。そう自分に言い聞かせたけど、やっぱり辛い。 02-932 :腹黒ビッチ 3章(中) 5:2009/12/10(木)16 33 01 ID jHuB5AQ7 正直このままパソコンの前で倒れこんでしまいたい位の気持ちだったけど、教授に ちゃんと結果を言わなきゃいけない。のろのろと指を動かして、法務省のホームペー ジへ。旧司法試験 短答式合格発表の表示を、暗い気持ちでクリックする。 どうせ無いんだろうなー。いいんだよ、別に来年受かれば。ふんだ。いじけながら、 自分の番号のあたりを見る。 「―――あった」 あんなに手ごたえ無いテストなんて、生まれて初めてだったのに。ゼミの上級生が 「何があったのー?」とか言いながら勝手にパソコンをのぞき込んでくる。 「あった、って、まさか短答式受かったの?」 「受かりました」 「うわーっ、おめでとー!すごいじゃん!」 「ありがとうございます」 肩つかまれて揺さぶられてるけど、心ここにあらず。睡眠時間三時間に削ってがん ばった甲斐があった。バイトを週一に減らした勇気は報われた。ハイリスク・ハイリ ターンというのはまさにこのことだ。 私より名前も知らない先輩の方が騒いでいて、その場にいた人たちがみんな騒ぎ を聞きつけてパソコンの周りに集まり出した。 「三年で受かるなんて、何年振りだろうね」 「もうみんな院進前提だからなぁ。でも去年も和田ゼミから旧試の現役合格出たらし いよ」 「いやー、でもさすが斎藤さん。やっぱ出来が違うわー」 受験番号を見直しても、やっぱり自分の番号だ。ほっと密かに息をつく。和田教授 に報告しなきゃ。 「教授のとこ、行ってきます」 人だかりを抜けて、向かいの和田教授の部屋をノックする。 「失礼します」 「斎藤さんか、待ってたよ」 何か書きものをしている教授が、ちらりとこちらに視線を移す。 「受かってました」 「そうか」 頷いて、一旦ペンを置く。まだ少し夢心地だった私は、和田教授の視線にぴしりと 背筋を正す。 「論文試験は一か月後だろう」 「はい」 「これから毎日、過去問を一問ずつ解いて私に見せなさい。メールでもいい」 「はい」 「それじゃあ、行っていい」 「はい、失礼します」 02-933 :腹黒ビッチ 3章(中) 6:2009/12/10(木)16 34 03 ID jHuB5AQ7 数日後、ちょうど佳奈子と出勤が重なった。二人目の指名を終えて控室に戻ると、 佳奈子はメール営業に精を出している。いつものように隣に座って私も携帯を取り出 すと、佳奈子が思い出したように声をかけてきた。 「りかー、試験どうだったん?」 「は?なにが?」 「名前覚えてないんだけど、なんかベンゴシなるやつー」 「司法試験ね」 「受かったん?」 「受かったけど、短答式だけ。まだまだあるの」 「よくわかんないけど、とりあえずおめでとー」 「ありがと」 「今まで見たこと無いくらい勉強してたし、すっげームズいんでしょ?」 「うん、受かると思ってなかった」 「りかがそう言うくらいだから、超ムズいんだね。んじゃ、ちょーおめでとー」 そう、超おめでたいはずなのだ。なのに、あまり現実味が無い。 「なんでりか嬉しそうじゃないの」 「はは、克哉君に彼女できたからかな」 ぽつりと克哉君の名前を言うと、携帯の画面から顔を上げなくても佳奈子が顔を 歪めているのが想像できた。 「へー。それマジで?」 「うん、多分そうだと思う」 「……りかさ、一宮のことなんて忘れちゃえよ」 「無理、かな」 「努力してみろっつの」 「克哉君ほどの人いないよ」 ははっと、自嘲の笑みがこぼれる。 「なんか、私ダメなまんまだね」 「……りかは、ダメじゃないよ」 真面目に、諭すように佳奈子が語りかける。 「りかがそう思ってるだけだよ。一宮のことさえ忘れたら、楽になるんだよ」 「忘れられないよ」 「いい加減に目ぇ覚ましなよ、りかは何も悪いことしてないじゃん!」 びりびりと、部屋全体が震えるくらいの大声だった。びっくりして顔を上げる。他 の嬢も何事かとこちらを見ていた。 「浮気した?金せびった?プレゼントねだった?そんなの一つもしてないじゃん!手 作りのマフラーまであげるんだよ。そんなマメなこと、私一つも彼氏にしてあげたこ とないよ」 「でも、きっかけが最悪でしょ」 「それだって、りかは何も言わなかったのに!何にも言わないりかより、あいつは、 知らない女の一言を信じるんだよ。言い訳一つも聞かないなんて、サイテーだ!」 佳奈子は延々と克哉君の非を連ねていく。克哉君にも、悪いとこはあったかもしれ ない。だけど私が圧倒的に卑怯だということに変わりはない。 結局、誰が私を許したって、克哉君が私を許してくれなければ意味がない。克哉君 の傷の深さを見れば、そんなの不可能なんだっていつも思い知らされる。 「ありがと、佳奈子」 「感謝するより、早く元気になれ」 「うん、佳奈子の声聞いてたら元気になってきた」 それは決して嘘じゃない。笑ってみせると、佳奈子は顔を歪めつつ、はぁっとため 息をついた。 「今日もうピーク過ぎたし、りかんち行く?話聞くよ」 「んーん。課題たまってるから。勉強しなきゃ」 「無理すんなよ」 「分かってる」 「目の下のクマ、隠しきれてないっつーの」 心配顔の佳奈子を、軽く笑ってごまかす。何度も同じことをループしてるのに、佳 奈子は毎回真剣に私の相談にもならないただの愚痴に乗ってくれる。その時、タイミ ング良くノック音が部屋に響いた。すぐに扉が開いて、チーフが顔を出す。 02-934 :腹黒ビッチ 3章(中) 7:2009/12/10(木)16 34 53 ID jHuB5AQ7 「レイ、2番テーブル指名」 「はいはい」 腰を上げると、少し立ちくらみがした。誰にも悟られないように机で体を支える。 佳奈子は幸い気がつかなかったようだ。が、チーフが渋い顔をした。 「……大丈夫か」 ぼそりと、耳元に低い声。 「大丈夫です」 「これ終わったら帰れよ。送ってく」 「いりません。普通に帰ります」 無表情はここまで。ホールに一歩入ってからは、男を喜ばせることだけ考える。そ の為の笑顔が、磨き抜かれた柱に映る。少しやつれた顎のラインを、見ないふりした。 「りかー、起きなーりかー」 揺すられて、はっと目を覚ます。ここがどこか分からない上に、周りは真っ暗で混 乱しかける。 「……ここ、どこ」 「私んちの前だっつの。もう起きとけよー」 生ぬるい空気が首の周りにまとわりついて、佳奈子が苦笑しているのが見えた。あ あ、送迎の車の中か。 「んじゃ、まったねー」 佳奈子が手を振って、ワゴン車のドアを勢いよく閉めた。エアコンの空気が再度廻 り始める。車が走り出すのと一緒にまた眠りかけるけど、ずっと枕にしてた佳奈子の 肩が無いとどうにも安定が悪い。 「……車乗ってから記憶が無い」 「ずっと寝てた」 「やっぱそうですか」 「このまま寝てたら、俺のマンションに直行しようと思ってた」 「ふざけんな」 軽口をたたく野崎チーフに、絶対零度の視線で返す。チーフはこっち見てないから 意味無いけど。 「疲れてるみたいだな」 「そーですね」 「でも試験終わったんだろ?」 「終わって無いです。まだ三個目あります」 「まだあんのかよ」 「二個目も受かったらね」 そう、まだあるのだ。つい四日前に二つ目の論文式を終え、燃え尽きている暇はな い。 「―――有華」 妙に神妙な声で、名前を呼ばれる。 「今日ママに聞いたけど、お前辞めるんだって?」 「うん」 つい二日前、ママに店を辞めたいと告げた。残念ね、とは言われたけど引きとめら れなかったのは、私が切羽詰まっているとママが知っているから。ここ最近は週に一 回も店に出ていなかったから、なんとなく予想はしていたみたいだ。 「試験いつおわんの」 「二個目が受かってたら、十月の終わり」 「まだまだ、先だな」 呟くように言って、チーフはそのまま黙りこむ。私は眠気と格闘しつつ、カバンの持 ち手をいじる。早く着かないかな。 「今言ったら、お前迷惑か?」 「はい?何が」 「だから、告白」 02-935 :腹黒ビッチ 3章(中) 7:2009/12/10(木)16 38 12 ID jHuB5AQ7 告白するような口調じゃなく、さらりと言われた。 「迷惑なら、試験終わってからでいいけど」 それってほとんど告白してんのと一緒じゃん。 「今で良いですよ。さっさと終わらせた方が楽」 「少しは考えろっての」 「考える必要もない。彼氏なんていらないし」 「忙しいからってわけじゃ無く?」 「いらない」 アパートじゃないところに車が止められる。しまった。眠気に揺れる頭が、徐々に 危険を悟って覚醒していく。 「俺の何が足りない?収入か?年か?顔?それとも、こんな職だから?」 はっきり言って、そんなのどうでもいい。本音を口にしたら付け入られるから言わ ないけど。 「……忙しいんです。男の相手なんかしてられない」 一番の理由じゃ無いにしても、これも真実だ。 「傍にいられるだけで良いよ。邪魔はしない。連絡が来なくても文句言わねーって、 ……なんか情けないけど」 「そんなの付き合ってる意味無いですよねー」 「俺は、有華を支える人間になりたい」 フロントガラスから入り込む街灯の光が、野崎チーフの輪郭を浮き上がらせる。闇 に慣れた目が、彼の真剣なまなざしをとらえる。ヤバい。後ずさろうにも、背もたれ が邪魔をする。 「やめて」 腕を掴まれて、声が震えた。 「有華が、安心して笑ってる顔が見たい」 「やめて」 「俺を好きじゃなくていい。利用してくれていい。他の男が好きでも」 エアコンのよく効いた室内で、チーフの体温がとても熱い。掴まれた部分に、徐々 に血が通っていくのが分かる。頭が痛い。喉が引きつる。 「いやっ」 「お前は、もっと甘えていい」 「そんなの、いらない」 「いいんだよ。俺が許す」 「いらない!!」 振り払おうとしても、チーフの手が離れようとしない。熱が体中に伝わっていく。 鳥肌が経つほどの嫌悪感。体の中のマイナスの感情の全てをこめて、睨みつけた。 「あんたの許しなんて必要じゃない」 「一人で我慢するな。俺が、半分引き受けるから」 感動的なセリフ。渾身の口説き文句。だけど私の体が、心が、全てが拒否する。 「勘違いしないで。そんな権利、あんたには無い」 男に真剣に愛を告げられて、改めて分かる。私を理解されてたまるものか。私の一 部分でも、他人に与えるものか。勝手に解釈して、干渉して、浸蝕して、私に受け入 れさせようとする。訳知り顔で私の範囲に入りこんで、優しい振りをして私を変えよ うとする。思い通りにならないと、今度は屈服させようとする。私の世界を、土足で 踏みにじっていく。 男なんてみんな同じだった。タカシも、ユウイチも、ケンジも、マモルも、ヤスハル も、ナオトも。 克哉君だけだ。支配されてもいいと思ったのは。克哉君だけが、私から奪うだけ じゃなく、自分を差し出してくれた。 私が許したのは克哉君だけだった。 だから、私を許す権利があるのは克哉君だけ。 でも、許されるはずがない。私は、狡猾で、打算的で、虚栄心の塊だから。それが 醜悪なものだと分かっていても、私は私を変えられない。 だからもう、解放されたいなんて思わない。苦しくてもいい。このままでいい。克哉 君のことを好きでいたい。 それ以上のことは望まない。私じゃ不釣り合いだから。でも、せめて、好きでいさ せてほしい。 別所さんに呼び出されたのは、その次の日だった。 03-319 :腹黒ビッチ 3章(後) 1:2010/10/13(水) 03 49 29 ID qnaR5QS3 まばたきするのが辛い。手を動かすのも辛い。息をするのは、もっと辛い。 目が覚めて考えるのは、そんなことばかり。今何時だろう。チカチカと青く点滅す る光を見つけて、手に取るまでに数十秒かかった。着信とメールが溜まっている。 午後三時。起き上がろうとしたけど、体がギシギシときしんだ。もう起きる気力も 萎えた。 カーテンの隙間から、光が差し込む。子供の声が聞こえる。こんな風にぼんやりと 何もしないのは何年振りだろう。手持無沙汰になると克哉君のことを考えてしまうか ら、無理矢理勉強して思考から追い出すのが普通になっていた。 克哉君。 最後に会った時の、怒りと悲しみをないまぜにした顔が、そのまま浮かんだ。 全身を襲う絶望感に、息が苦しい。ベッドの上で、自分を抱きしめる。それでも消 えない寒気にがたがたと震える。 消えてしまいたい。何も考えたくない。 おかしくなってしまう。その恐怖に叫びそうになったその時。 ピンポーン。 間の抜けた音が、私を現実に引き戻した。震えが止まり、顔を上げる。 ピンポーン、ピンポーン。 二度三度とチャイムが私を呼ぶ。起き上がれないまま玄関を見つめていた。その内、 どんどんと扉が直接たたかれた。 「ありかー、開けろー」 こっちに確実に私がいるのを確信して、延々と声は続く。もぞもぞと起き上がる。 のぞき見で一応確認する。スーツ姿の野崎チーフがそこにいた。 「いるんだろ、分かってんだぞー」 ドンドンドンドン。近所迷惑だと分かっていてやっている。チェーンと鍵をガチャ ガチャはずす音が聞こえたら、ようやく止めたみたいだけど。 「久しぶりだな、有華」 「……お久しぶりです。何の用ですか」 「生存確認に来た。ミリが心配してたぞ。二週間連絡取ってないらしいな」 「……生きてます。帰ってください」 「そんなやつれきった顔して、生きてるとか言うなバカ」 そう言って差し出されたごつごつした手が、私の頬のラインを確認する。 「痩せすぎだろ。食ってんのか」 「……食べました」 昨日の昼に冷凍庫に残ってたピラフ食べたのが最後だ、とは言わないけど。チーフ のしかめっ面が、さらに険しくなる。ガサっという音と共に、袋が差し出された。 「これ。テイクアウトで買ってきた。食うぞ。中入らせろ」 「……嫌です」 「絢さんが有華にメシ食わすまで帰ってくんなって言ってんだよ。オラ、はよしろ」 「嘘だ」 「本当だっつの。なんなら今、絢さんにここで電話するか?お前しこたま怒られるぞ」 ああ、それはめんどくさい。絢さんが鬼のごとく怒り狂ったのは思い出したくない。 絢さんの説教は、横浜のクラブにいた時に培われた軍隊式なのだ。 今思い出してもげっそりしてしまう。はー。渋々、チーフを中に入れた。 テイクアウトの中華は、まだ作られたばかりなのかほかほかの湯気を立てている。 中華か。脂っこいな。嫌そうな顔をしていると、お前のはこっちと差し出されたのは 中華粥。なるほど。 「ほら、食え」 「……いただきます」 チーフは、私がお粥を口に入れるのをじっと見張っている。居心地が悪い。 「食べないんですか」 「食うよ」 「……そういえば、私に食べさせるだけなら、これ渡すだけでいいじゃないですか」 「俺が、有華と飯食いたかったんだよ」 そう言って輪ゴムをはずしながら、視線は私に定めたまま。 03-320 :腹黒ビッチ 3章(後) 2:2010/10/13(水) 03 52 03 ID qnaR5QS3 「うまいだろ」 「……うん、おいしい」 「出来たての方がもっとうまいんだぜ?今度行こう」 「遠慮しときます」 まだ諦めてないのか、この人。 「おう、諦めてないぞ、俺」 人の思考を勝手に読まないでください。 「部屋に入って、一緒に飯食ってるってのも、進歩だろ」 「進歩じゃなくて成り行きです。勝手に変な解釈しないで」 「いーや進歩だよ。まあ、弱ってるとこに漬け込んではいるけど」 反論しようと口を開いて、でも何も言葉が出てこない。空いた口に、お粥を入れる。 ほんのりした鶏がらスープの味。たしかにおいしい。 克哉君の言葉が聞きたくなくて逃げ出した。そんな自分の弱さに弱ってる。 他人に指摘されなくたって、汚いなんて、私自身がよく知ってる。なのに逆ギレし てしまったのは、相手が別所さんだからだ。 『私は、一宮君のことが好きだから』 そんなこと、わざわざ言わなくたっていいじゃない。付き合っても文句言うわけ無 いんだから。 何不自由なく育って、顔もスタイルも私以上に可愛くて、おまけに性格まで私と 違ってまっすぐで。 勝てるわけない。 別所さんを見ていると、本当は、嫉妬しか浮かばない。彼らと私とは、世界が違う。 そう見せつけられているとしか、もう思えない。 綺麗な世界に生きてる人間に、私みたいな汚い人間が関わっちゃいけない。好きに なるなんて、身分違いもはなはだしい。 私のこれまでの努力や意地なんて、結局は彼らへの羨望なのだ。馬鹿にされたくな い、対等でいたい、努力すればきっと肩を並べられる、そうすればいつか、私もキラ キラ輝く世界に行ける。そんな期待なのだ。 そう思い知らされたところに、克哉君が来た。 その瞬間に、私の淡い期待なんて粉々にされる。違う。私がこんなに惨めなのは、 私がやってきた行いのせいなのに。 嬉しいはずの距離が、針のむしろに座らされたように辛かった。来る宣告を聞き たくなくて、お願いだから忘れてくれと懇願して、去ってしまった。 私のあさましさを、別所さんも克哉君も、気付いていたんだろう。 遠くで見ているだけ、好きだと思っているだけ。そう言いながら本当は、克哉君が 忘れることで、もう一度はじめからやり直せたらと願っていた。 諦めろ、と本人の口から聞きたくなかった。だから、逃げてしまった。 大学にはあの日以来行っていない。教授には試験勉強に専念したいと言って、メー ルでの課題提出に切り替えてもらった。夏休みのゼミ合宿にも行かなかった。後期は 授業の登録さえ行っていない。 その間に、私は論述試験に合格していた。口述を残すのみの段階に来て、もう、私 にはこれしかないんだと開き直るしかなかった。文字通り寝食を忘れ、死ぬ気で勉強 した。この三ヶ月、最低限の買い物以外、外に出ていなかった。 03-321 :腹黒ビッチ 3章(後) 3:2010/10/13(水) 03 52 41 ID qnaR5QS3 食事を終えて、携帯を確認する。携帯の履歴には、絢さんと佳奈子と瑠奈さんと、 そしてチーフの名前がずらりと並んでいた。メールもまた然り。一番最新のメール は、佳奈子だ。 『チーフが有華んち行くって。ドア壊してでも入るって言ってたから、気をつけて』 ……ちゃんと中に入れてよかった。別に壊されてもいいけど、修理業者呼ぶのが手 間だ。私の視線を感じてか、まったり食後のお茶を飲んでいたチーフが笑う。 「なんだよ。まだ食うのか?」 「いーえ。さっさと帰らないのかなと」 「今日は休みだから大丈夫だ」 「なにが大丈夫なんですか。用事終わったらさっさと出てってください」 「絢さんに夕飯も食わせろって言われてんだよ」 「嘘でしょ、それ!」 「なんだよ。絢さんに電話するか?」 ずずいっとチーフの携帯を差し出される。電話しても説教されるのが目に見えてる ので、躊躇してしまった。チーフが勝ち誇った笑みを浮かべた。 「夕飯何か食いたいのあるかー」 「……別に」 「最近寒いしなぁ。あったかいもん食いたいよなー。鍋か?おでんとか?」 チーフは、ウキウキしながら夕飯のメニューを考えている。そんなチーフを横目に、 もそもそとベッドに戻った。 きちんとご飯を食べれば体力は戻ってきて、だけど勉強をする気は起きない。正直、 来年試験を受ける気がしなくなってきた。 この二年半で、バイト代は十分稼いだ。本当は院に行くくらいの余裕はある。試 験を受けようなんていうのも、ただの意地だ。 克哉君に完全に嫌われた今、試験を受ける理由も無くなってしまった。 何もない。空っぽだ。 「昔居酒屋で働いてたから何でも作れるぞ……って、おーい寝るなー」 「おやすみなさい」 はあどっこらしょ。毛布かぶってシャットアウト。 「有華、ありかー」 知らん。答えん。どーでもいー。さっさと帰れー。 「……お前、男と同じ部屋で寝るとか、誘ってんのか」 誘ってるわけ無いじゃん。 「襲うぞ」 チーフが近寄ってくる気配がする。 ギシッ。 ふざけているつもりを装っているけど、低い声に色気が垣間見える。抵抗する気が 起きないのは、やっぱり弱っているからかもしれない。 もう、何でもいい。何もかもどうでもいい。 忘れたい。 初めてそう思った。 03-322 :腹黒ビッチ 3章(後) 4:2010/10/13(水) 03 54 13 ID qnaR5QS3 夢を見た。手を繋いで、海岸を歩く夢。 潮の匂いに包まれて、守られるように手を繋いで。 克哉君が、穏やかに笑う。 ずっとずっと、このままだといいのに。 目を覚ますと部屋は真っ暗だった。時計がどこにあるかも分からない。重みを感じ て、ふと隣を見る。すうすうと、寝息が聞こえる。 誰だろう。克哉君?顔に手を這わせると、手のひらを何かがちくりと刺した。 克哉君じゃない。誰。 胃がずくずくと痛み始めた。抱き締められる腕の重みと温かさに、血の気が引く。 頭がうまく回転しない。ぐるぐると眩暈がする。幸せな夢と対照的な、あまりに冷 たい現実だった。 胃の底からこみあげるものが我慢できず、無理矢理チーフの腕をはがすと、トイレ にかけこんだ。 「……うえっ、えっ……ぅ・ごほっごほっ」 食べたものが全部便器に戻されていく。 吐くものが無くなったら、胃酸まで。全て吐き出してもまだ吐き気がおさまらない。 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。 「うぁ……ぐ……ぅ、うっ」 便器に縋りついて、座り込んだ。胃酸の味が口中を支配している。汚い。汚れた下 着の感触まで思い出されて、全身の寒気がさらに酷くなった。 「有華、どうした?」 起きてしまったチーフが、トイレの外から声をかける。ぶるぶると全身が震えた。 「大丈夫か、どこか悪いのか」 「っ、こない、で」 喉が胃酸に焼けて、声はかすれる。だけど必死に訴えた。 「来な……いで」 「有華?どうしたんだよ」 「来ないで!!」 今チーフの顔を見たら、何をするか分からない。それくらい追い詰められていた。 「何言ってるんだ、いいから、ここ開けろ」 「来ないでよ、あんたなんか、……あんたなんか気持ち悪い!!」 口の端を胃液が伝う。それにも構わず、頭を振り乱して、チーフを拒絶する。 「……そんなに嫌なら、なんで受け入れたんだよ!」 ガンッ!トイレのドアを、力任せに殴る音。 「なんなんだよ、優しくしただろ。嫌がられるようなこと、した覚えないぞ!」 「っ、もう嫌。出てってよ!」 「期待持たせといて、それはないだろう!」 「嫌なの、気持ち悪いの……!」 荒く上下する腹に、また吐き気が催される。 「うっ、……ぐう」 げほげほと便器の中にせき込む。 「一人にして、出てって……大嫌い、顔も見たくない」 もう一度トイレの扉が殴られた。さっきよりも力は弱かったけど、私はびくりと体 を震わせる。しばらく、はぁはぁと私の荒い息だけが響いていた。チーフはまだそこ にいる気配がしていた。 どれくらい時間が経ったか分からない。扉の向こうに、足音が聞こえた。乱暴に何 か取る音がして、しばらくして、玄関の重いドアが閉じる音がした。 ずるずると、便座に頬を預けた。汚い。汚いけど、もう何もかも汚いから今更だ。 こんなに最低な気分なのに、涙が浮かんでこない。 全部、リセットして欲しい。 最初からやり直させて欲しい。 そうしたら、そうしたら―――そうしても、何も変わらない。 苦しい。 もう、解放されたい。 三日後。 合格発表欄に、私の番号はなかった。 03-323 :腹黒ビッチ 3章(後) 5:2010/10/13(水) 03 55 05 ID qnaR5QS3 海に行こう。小さい頃から好きだった。昔、休みの日には母親に海に連れて行って とせがんだ。母も私も、日常を忘れてはしゃいでいた。克哉君ともよく足を運んだ。 全部、遠い遠い昔に感じる。そういえば、もう何年か海を見ていない。 最低限の化粧をして、財布だけ入れたカバンを持った時、携帯電話が鳴った。 「はい」 「もしもし、和田だが」 「はい」 「君、昨日口述の発表だったんじゃないか。どうだったんだ」 「落ちてました」 淡々と結果を告げると、教授は一瞬黙り、ううんと唸った。 「まあ、結果はそう気にするな。とにかく、今後のことや単位についてのことがある から、一度顔を出すように」 「今日、今からじゃ駄目ですか?」 「今?」 「はい、ちょうど外出するところだったので」 「ああ、私も今部屋にいる。六時までならいるつもりだから、好きな時間に来なさい」 「分かりました」 電話を切ると、はぁ、とため息が出た。教授にはお世話になったし、お礼くらいは 言わなければ。 持ち物が増えたわけじゃないので、そのまま外に出た。大学までは歩いて二十分。 外はからりと晴れていたが、いつのまにかもう秋も深まっていた。 凍えそうな指先を、ジャケットの中にしまい込む。きっと海は寒いだろう。だけど 防寒具を取りに帰る気がせず、そのままふらふらと大学に向かった。 久々に和田教授に会ったところ、まず言われたのは「痩せすぎじゃないか」だった。 そういうことに無頓着そうな教授に言われて、面食らう。クッキーを差し出され、コー ヒーまで出され、砂糖も余分に入れられた。 「今期のゼミの単位だが、今までの個別課題で代替して成績を提出することにした」 「はあ、そうですか」 「今年は残念だったが、君なら来年受かると信じている。駄目でも院は推薦されるだ ろう」 適当に相槌を打っている私に、教授が気遣わしげな顔をする。 会話は耳をすりぬけて、どこかに飛んで行ってしまう。私の意識は、ここにない。 今となっては、全てどうでもいいのだ。 コンコンという音が、教授の声を遮った。ドアが開く音に、教授が応える。私はぼ んやりとテーブルの上のクッキーを見つめていた。 「一宮君?何をしている」 びくり、と肩が震えた。教授が立ち上がって、何かを話している。 どうしてこのタイミングで。最悪な時に。 教授はすぐに戻ってきて、俯いてしまった私の肩を叩く。 「そう落ち込まないでおきなさい。また来年もあるのだから」 この場から逃げ去りたい。これ以上蔑んだ目で見られたくない。早く消えてしまい たい。ずっと、そんなことばかりを思っていた。 03-324 :腹黒ビッチ 3章(後) 6:2010/10/13(水) 03 55 36 ID qnaR5QS3 冬の盛りに風と一緒にかさかさと音を立てる落ち葉を、何をするともなくぼんやり と見ている。家で一人で勉強するのは気が滅入るから、いつもこうして図書館にこ もっていた。 隣の椅子が、カーペットに重くこすれる音がした。試験期間でもないが混んでいる のだろうか。そう思いながらも窓の外から視線を外すのがおっくうで、そのままでい た。 「ちょっといい?」 振り向くとそれは、ふわふわとした髪の毛を揺らした、別所愛美だった。 「おめでとう、今年は受かったらしいわね」 人気の無いベンチで、カフェラテを差し出されて第一声。 「うちのゼミに、院の補欠が出たって喜んでる奴がいるわ」 「そう」 「私も、民間で内定取れなかったし、院に行くの」 「そう」 「涼しい顔ね。憎たらしいくらい」 言葉の仰々しさに対して、彼女こそが涼しい顔でキャラメルマキアートを口に含む。 「あなたの事言ったら、会いたそうにしていたわよ」 ひゅう、と、風が一筋、私と別所さんの周りの湯気を、一緒くたに吹き流す。喉を 通るカフェラテの暖かな甘さが、その冷たさと対照的だ。 無言でまたカフェラテに口をつける。 「相変わらず、会わないつもりね」 「父親じゃないもの」 「会えばいいじゃない。うちの親だって、もう離婚したのよ。堂々と会いに行けばい いのよ。まさか、認知してないからなんて、馬鹿みたいなこと言わないでよ?」 「だって、民法の見地からいって、そうだもの」 ハッ。別所さんは、大げさに鼻で笑った。 「本当にあんたって憎たらしいわ。自分は一番苦しんでると思ってる。あんたには あるじゃない。親の愛情も、優しい恋人も、誰よりも上を行く能力も」 手にしていたキャラメルマキアートを、彼女は芝に叩きつける。 「なんで、あんたは私のプライドを全部へし折ってくのよ」 視界の端にちらつく別所さんの腕が、震えていた。 「なんで、一宮君は……」 フランス人形のような大きな瞳が、ぽろぽろと涙を落としていく。夕焼けが差し 込んで茶色に透ける髪を見ると、いつも思い出す。 高校の教室。騒がしくざわめく空間の中、そこだけが無音なことに誰も気づかな い―――廊下から見つけてしまった私以外には。陶器のような白い肌をバラ色に染 めて、密やかな彼女の視線の先にあるもの。 「私は、『田辺愛美』になりたかったわ」 彼女の秘めた恋心を知って、私は彼を知った。 「父親と母親がいて、食べ物にも困らなくて、人から陰口を叩かれたりしない。 日のあたる道を歩いてみたかったのよ」 一宮克哉。その名前を、忘れられなかった。 03-325 :腹黒ビッチ 3章(後) 7:2010/10/13(水) 03 56 28 ID qnaR5QS3 午後七時二十五分。約束の時間の五分前に図書館に着くと、コートの中で身を小 さくしている有華をみつけた。口角が勝手に上がる。にやけた口のままで、手を挙 げた。 「有華」 距離があるのに、遠目からでも反応するのが見て取れる。 「克哉君!」 小走りでこちらに向かってくる姿が、全身で嬉しいと言っているみたいだ。通り がかりの学生が、有華を見ては振り返る。お前ら見るな。減る。 「早いかったね、克哉君」 「ああ、採点さっさと終わらせてきたから」 「いいの?勉強忙しいのに」 少ししょぼんとして、視線をそらす。申し訳なさそうなその頭を撫でる。相変わ らず言い訳をしない奴だ。 「有華の試験合格祝いだろ。久しぶりにゆっくりしよう」 にっこりと満面の笑みを浮かべて、有華は、ぎゅうっと俺の腕にしがみつく。そ の力が、心なしかいつもよりも強い気がした。 「有華?」 名前を呼ぶ。ん?と小首を傾げる動作はいつもと変わらない。有華が微笑む。そ れはいつもと同じ、空気を最大限に和ませる明るさだ。 「克哉君、愛してる」 昔よりもさらに増えた愛情表現。俺も口元を緩ませた。 「俺も、愛してるよ」 有華の首筋は、昔と変わらない、バラの香りを纏っている。 <終わり>