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前ページ毒の爪の使い魔 ジャンガはゆっくりと彼女を振り返る。 「ンだ? お前…あのガキを庇うのか?」 「はい」 ジャンガは盛大にため息を吐く。 「たかだかガキの癇癪で、この熱湯に浸けられて殺されかけたくせに…それでも庇うとはよ…」 「確かにベアトリスさんのした事は間違っているかもしれません。 でも、わたしもまた自分の事を理解して欲しいとわがままを言っていただけなんです。 ハルケギニアの人がどんなにエルフを怖がっているかとか…他の人の気持ちをわたしは考えようとしていませんでした。 だから、悪いのでしたら…わたしもです。ベアトリスさんだけを責めるのは止めてください」 そう言って真正面からティファニアはジャンガを見つめた。 ジャンガも静かにティファニアを見据える。 互いに一歩も譲らない状況で暫しの時が流れた…。 ハァ~、とジャンガがため息を漏らす。 「ったく…、あいつみたいなタイプがどうしてこうもゴロゴロしているんだろうな…?」 呆れたような表情でジャンガは呟く。 「ジャンガさん?」 「負けたゼ…お前にはよ」 ジャンガは大釜から足を離す。 ティファニアの顔に笑みが浮かぶ。 ――瞬間、ジャンガは力任せに大釜を蹴り飛ばした。 ――グラッと大釜が傾いた。 ――ティファニアが目を見開く。 ――生徒達が驚愕の声を上げる。 ――大釜の傾きが激しくなり、中から熱湯が顔を出す。 ――ベアトリスは恐怖のあまり目を閉じた。 ――駆け出すティファニア。 ――熱湯がベアトリスに降り注ぐ直前、ティファニアがその身で彼女を覆い隠した。 ――熱湯が降り注いだ直後、凄まじい氷嵐が熱湯ごと二人を覆った。 膨大な水蒸気が立ち込め、圧倒的な熱量が急速に冷やされた事を物語る。 倒れた大釜の上に乗ったジャンガはそれを静かに見下ろす。 「キッ、タイミング良いじゃネェか?」 「あなたの行動は解っているから」 大釜の横にはタバサが立っていた。無論、彼女が氷嵐を唱えたのだ。 タバサは杖を振り、風を吹かせる。水蒸気が払われ、ベアトリスに覆い被さったティファニアの姿が現れた。 急いで彼女達に近づくタバサはモンモランシーを呼んだ。 言われるまでも無かったらしく、モンモランシーは治癒を唱えた。 氷嵐で急速に冷やされたとは言え、熱湯を被ったのである。 その際に負った火傷は可也酷く、ティファニアは重傷だったのだ。 そして、ベアトリスの方は軽傷だった。直ぐに冷やされた事もあるが、 ゆったりとしたローブを羽織ったティファニアが、その身で庇ってくれた事が大きかった。 ベアトリスは未だ生きているのが信じられないのか、呆然と倒れたティファニアを見つめている。 やがて、体力が回復したからか、ティファニアは目を覚ました。 「わたし…」 「良かった…目を覚ましたのね?」 モンモランシーが安堵の息を漏らすと、周囲の生徒達もそれに習った。 ティファニアは何とか身体を起こすとベアトリスを見た。 ベアトリスは一瞬身体を強張らせる。 自分がした事は許されない事であるのは既に承知しているが、やはりどんな罰を受けるのか怖かったのだ。 と、ティファニアが手をベアトリスへと伸ばす。 打たれるのではと思い、ベアトリスはいつの間にか動けるようになっていた身体を縮込ませる。 だが、ティファニアの手はベアトリスの目の前で掌を返した。 それは”握手”を求めて差し出されたと言う意味。 ベアトリスはティファニアの顔を見る。 彼女はニッコリと笑い、こう言った。 「お友達になりましょう」 その言葉にベアトリスはついに堪え切れなくなったようだった。 決壊した堤防の様に押し寄せる感情の波が後から後から溢れ出していく。 全く意図せず、自然に彼女は泣いていた。 怖い目に遭った幼児の様に、彼女は泣いた。 そして、ティファニアはそんな彼女を母のように宥めた。 気に入らないから自分を苛めていただけかと思った少女は、実は孤独に苦しんでいた。 自分は周囲から構われるのを疎ましく感じてしまったりしていたが、全く構われなくて寂しい思いをしている人も居るのだ。 その事を考えなかった自分は何て愚かなのだろう? とティファニアは自分を恥じた。 確かに彼女のした事は正しくは無い。だが、だからと言って彼女だけが悪いと誰が言える? 彼女の事を真に理解しようとしなかった者達にも十分に責は在るのだ。 ティファニアはこれからは周囲の人間の事もちゃんと理解しようと心に決めた。 目の前の泣きじゃくる、この学院で初めてちゃんと語り合った”お友達”を宥めながら…。 「……」 ジャンガは無表情のままそんな二人のやり取りを見ていた。 そこにルイズとタバサがやって来た。 「ねぇ…、あなたタバサが何とかしなかったらどうするつもりだったの?」 「ン? どうするって…何が?」 ルイズはため息を一つ吐く。 「ティファニアとあの一年生の子よ。一歩間違えたら死んでいたわよ?」 「死んでなかったんだからいいだろうが?」 何とも無責任な発言である。 ルイズは慣れているとは言え、絶句するほか無かった。 「あ、あんたねぇ…」 「フンッ…」 背を向け、ジャンガは立ち去ろうとする。 その背に向かってタバサは呟いた。 「もっと素直になるべき。それと、やり方が乱暴すぎる」 「…テメェが大手振って本名を名乗るようになったら、考えてやるゼ? あと、これ位やらなきゃ生意気言い出す奴がまた出るんだよ」 嫌みったらしくそう言い残し、ジャンガは今度こそ歩き去った。 タバサはポツリと呟いた。 「本当に素直じゃない」 ――ジャンガが去った後、負傷した空中装甲騎士の面々とティファニアは水の塔に在る医務室へと運ばれた。 空中装甲騎士の面々はともかく、ティファニアの方には見舞いの生徒達が殺到した。 恐ろしいジャンガを目の前にしてもまるで気後れしない彼女の強さ、 そしてベアトリスを許した彼女の温かさに誰もが心引かれたのである。 だが、中でももっとも熱心に看護をしていたのは他でもないベアトリスだった。 あれほどまでに侮辱し、命の危険にまで晒した自分を許してくれた彼女にベアトリスは本当の友達を感じ取ったのである。 それはもう、恋人同士と取られかねないほどのベッタリさである。 転じて取り巻きだった三人とも本当の友達として打ち解けたらしく、いつも仲良く四人で彼女の看護をしていた。 さて、そんな風に皆と打ち解けていったティファニアだったが…気がかりな事があった。 ――ジャンガはどうしているのだろうかと…。 ティファニアは彼の姿をまだ見ていないのだ。見舞いに来る様子も無く、聞いたとしても皆は食事の時以外見かけないと言う。 無論、ティファニアの一件でその恐ろしさを再認識させられた事もあったのだが…。 ジャンガに関わらない方がいいとも言われたが、彼女はそれでも会いたかった。 ある夜…、多少満足に動けるようになったティファニアはハープを手に取り、窓際に椅子を持っていって座った。 窓を開けると涼しい風が吹き込んでくる。身体のまだ残っている火傷に実に心地良かった。 ティファニアは椅子に腰掛けると、ハープを奏で始めた。 心地よい音色が夜風に吹かれ、学院中に響き渡っていく。 そのままティファニアはハープを奏で続ける。 ――誰かの気配を暗がりに感じた。 しかし、ティファニアはハープを奏でる手を止めない。 暫くの間ハープの演奏のみが夜の学院に響き続けた。 …ふと、気が付けば誰かの歌声が混じっている。 どうやらそれは子守唄のようだった。 ティファニアは演奏を続けながらその歌に耳を傾ける。 何とも心地良い、心安らぐ歌…。それは自分の奏でる音色と実に良く合った。 「…良い歌ですね」 そう語りかける。 暫く答えは無く歌だけが続いたが、やがてため息混じりに返答があった。 「まァな…」 「自分で作った歌ですか?」 「違う…、知っていた女が作った歌だ…」 「そうですか…」 ”知っている”ではなく”知っていた”と過去形だった所から、 歌を作った人が既に居ないのだろう事を彼女は察した。 「その方は大切な人でしたか…?」 「……ああ」 「そうですか…すみません」 謝罪の言葉が口を突いて出る。 チッ、と舌打が聞こえた。 「別にテメェが気にする事じゃネェだろうが…、余計な同情は要らねェ」 そこで会話は途切れ、暫くの間演奏と歌が続いた。 「…この間はありがとう」 「何がだ?」 「助けてくれて…。 笑い声が聞こえた。何処か自嘲的な感じがするそれは暫く続いた。 「…勘違いするなよ。俺は別に気に食わなかったからあのガキを脅しただけだ。 お前を助ける為じゃねェよ」 「どうしてそうやって悪ぶるんです?」 「あンッ?」 「…あの時だって、あなたの目には哀れみがありました。 他人の事を理解できなかったわたしが唯一人、理解できたのがあなただけ。 見間違うはずがありません」 「バ~カ、そんな不確かなモンで他人を図るんじゃネェよ。 そんなんじゃこの先、どれだけの奴に騙されるか解ったモンじゃねェゼ…。 少しは気をつけたらどうだよ?」 クスリ、とティファニアは笑い声を漏らす。 「何が可笑しい?」 「…やっぱり嘘が下手ですね。そんな風に注意してくれるのが優しい証拠です」 「……ウルセェ」 少し声を低くしたようだが、彼女には微塵も恐怖を与えない。 「やり方は少し乱暴ですけど、やっぱりあなたは優しい人です。 だって、あなたのお陰でこうして皆と分かり合えたんですから」 「……」 相手は答えなかったが、歌が響いて来た事が何よりの答えだった。 ティファニアも演奏に集中する。 何時の間にか部屋から気配は無くなっていたが、その歌声は何処からとも無く聞こえ続けていた。 「ありがとう…」 ティファニアはもう一度感謝の言葉を呟いた。 前ページ毒の爪の使い魔
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 暖かな朝の日差しが照らすアルヴィーズの食堂。 生徒達が朝食を取りながら談笑する、何時もと変わらぬ風景がそこに広がっている――かと思えば違った。 食堂には三つの長いテーブルが並んでおり、正面入り口から向かって左の方から順に三年生、二年生、一年生が座る。 その一年生の席の一角に凄まじい人だかりが出来ているのだ。中心には一人の少女。 流れるような美しい金色の髪に白い肌をした彼女はティファニアだった。 アルビオンからトリステインへと彼女が連れて来られてから二ヶ月ちょっと。 魔法学院の春の始業式並びに入学式から一週間程度遅れ、アンリエッタの取り計らいから彼女はここに編入して来た。 入国手続き、トリステイン王家の方々へのお目通りなど、もろもろな事情も編入に時間が掛かった理由だが、 もっとも大きい物は彼女自身の事だ。 特にそれまで親代わりを勤めていた子供達との別れは、彼女にとってもっとも辛い事だった。 子供達は修道院に預けられる事となったのだが、別れの際には互いに泣いてしまった。 だが、子供達も何時までも甘えてばかりいられない事を十分理解していたらしく、 「村に戻ろうか?」と言った彼女に「自分達は大丈夫」と笑顔で答えた。 そんな子供達の心遣いにティファニアも心の中の不安を拭う事ができ、こうして魔法学院の生徒として生活を送っている。 さてさて、そんなこんなで魔法学院の一員となった彼女だが、心労は絶えなかったりする。 その理由は大きく分けて二つ。 一つは環境の違い。 閉鎖された空間とも言うべきウエストウッドの森と違い、魔法学院はあまりにも交流が多い。 村に殆ど閉じ篭る様にして生活していた彼女にとって、大勢の生徒は見るだけでインパクトがあった。 それに加えて授業の内容や森とはまた違った生活も目新しく、彼女は目が回る思いだったのだ。 そして、もう一つは彼女の容姿がもたらした結果。 彼女はエルフの血を隠す為、尖った耳を覆ってしまうほどの大きな帽子を、入学の時から常に被っていた。 無論、本来ならばそのような格好で授業を受けたりするなど、学校生活を送る事は許されない。 だが、彼女の場合『肌が日光に極端に弱い』と言う表向きの理由で許可されている。 アンリエッタの要請で後見人となったオスマン氏が、教師や生徒に入学式の時にそう説明した。 普通ならば誰もが嘘と解る事だが、彼女の場合は事情が違う。 彼女の肌の白さは雪のようで、日焼けをしていない女子生徒の中でも群を抜いており、 見れば誰しも”この子は日光を浴びれば火傷を負う”と考えてしまうだろう。 そんな彼女の儚い印象や今は無きアルビオン王家とエルフの血がブレンドされた麗しい容姿、 アルビオンからの訳有りな転入などの要素により、彼女は一日で学院中の男子生徒の興味を学年を問わず図らずも独占。 毎日毎日蟻に集られる飴玉の如く、彼女に奉仕をしようと集まる大勢の男子生徒に囲まれる事は、 静かな学院生活を送りたかった彼女には想定外の事態だった。 しかし、悪意の無い彼らを無下に突き放す事など彼女に出来るはずも無く、結果として彼らの対応に苦労する羽目になった。 ――そして、今日も彼女は目の色を変えた男子生徒に囲まれている。 「いやはや、それにしても彼女の人気は凄い物だな」 男子生徒に囲まれるティファニアを見つめながら、ギーシュは唐突にそんな事を呟いた。 隣に座っていたジャンガは興味無さそうに大欠伸をする。 そんな彼らの周りには数人の男子生徒が集まっていた。 彼等は近衛隊”水精霊騎士隊”<オンディーヌ>のメンバーだ。 千年以上昔に創設された伝説の近衛隊――その名が冠されたこの近衛隊はアンリエッタが新たに創設した物だ。 最初アンリエッタは、隊長には”シュヴァリエ”の称号を送る事にしたジャンガに勤めてもらおうと考えていた。 だが現在の所、隊長はギーシュが勤めている。 理由は至って簡単……ジャンガが”シュヴァリエ”の称号授与と共に断ったからだ。曰く『部下になるなんざまっぴら御免』との事。 無論アンリエッタもこうなる事は重々承知していたらしく、無理に進めるような事はしなかった。 この新たな近衛隊の創立には”急な用件にも柔軟な対応が出来るように”と言う意味もある。 故にジャンガが隊長でなくともさしたる問題は無い。称号授与と共にアンリエッタの彼に対する純粋な感謝の意の示しである。 加えて騎士団の創立は既に決定事項としてふれを出していたので、今更取り消す事は出来ないのだった。 そんな訳で、隊長にはある程度の家柄や戦果の有るギーシュが選ばれたのである。 ジャンガにしてみれば別に有っても無くてもいい物なので、近衛隊が作られてもさして興味は無かった。 「あれは人気者と言うレベルを超えている。まるで崇拝だ」 水精霊騎士隊の実務担当をするつもりの少年レイナールがメガネを直しながら言う。 彼の言う事ももっともだった。ティファニアの周りに集う男子生徒は彼女の一挙一動にすぐさま反応を示すのだ。 紅茶のお代わりを注ぎ、肉を代わりに切り分けるなど、彼女のしようとした行動を率先して行うのだ。 それだけならばお姫様と召使の関係だが、零れた紅茶を自らのハンカチやマントで拭き取ったり、 埃が掛からないように壁となったりするのは少々行き過ぎだろう。 ガタンッ、と音がした。 ジャンガが目を向けると、ティファニアがその場を走り去って行くのが見えた。 男子生徒が手に手に帽子を持っているのを見て、ああそう言う事か、とジャンガは納得する。 おそらくは帽子をプレゼントされ、被らねばならない状況になりそうだから逃げ出したのだろう。 帽子の下には尖った耳…、エルフの特徴が隠れている。 もっとも彼女はハーフエルフなのだが、そんな事は些細な問題だろう。 「案外苦労してるみたいじゃねェか、アイツもよ…」 そう呟き、ジャンガは再度大欠伸をした。 そんな感じで今日も一日が過ぎる――かに思われたのだが……。 夕暮れ時、ジャンガはヴェストリの広場でベンチを占拠し、鼾を掻いていた。 殆ど人が寄り付かず、静かなここもまた本塔の屋根の上同様、昼寝には絶好の場所なのだ。 無論、一日中誰も近づかないなどありえない事だが、生徒達はジャンガが眠っている間は寄り付こうとしない。 以前にジャンガの傍で騒ぎ立て、彼を起こしてしまった生徒が筆舌にし難い仕打ちを受けた事があるからだ。 そんな訳で今日も彼は静かなこの場所で、思う存分惰眠を貪っていた。…そんな彼の耳に届く雑音。 何処かで誰かが騒いでいるのは解った、それが女生徒なのも解った。――解りはするが…正直うるさい。 まさか、今更騒ぎ立てて自分を起こそうとする命知らずがいるなどジャンガは思ってもいなかったのだ。 ジャンガはイライラしながら目を開けると身体を起こし、雑音のする方へと顔を向ける。 見れば帽子を押さえながらおずおずと後退っているティファニアの姿が見えた。 すると、学院の方から褐色、黄土、緑の髪をした三人組みの女生徒が姿を現す。 何れもマントは紫色をしているから一年生だろう。 紫は三年の色だったが、新しく入った学年は卒業した学年の色が使われるらしい。 なるほど…、新しく入った一年生ならば事情を知らなくても不思議では無いだろう。 それにしても目付きが悪い…、如何にも性格が悪そうだ。 すると、三人の後ろからまた一人一年生の女生徒が姿を見せる。 金髪をツインテールにした少女だ。 こちらもまた性格が悪そうな目付きをしてる。…しかも物凄くガキっぽい。 ジャンガは耳を傾けると話の内容が耳に入って来る。 …どうやらティファニアがツインテールの少女に挨拶をしなかった事を怒っているようだ。 ”無礼者”だとか”謝罪しろ”などティファニアに向かって非難轟々だ。 金髪の少女も冷たい視線をティファニアに投げかけている。 それらを見ていてジャンガは腸が煮えくり返りそうな感覚に囚われていた。 別にティファニアが苛められているのを気の毒に思ったからではない…、幼少の頃に受けていた苛めを思い出したのだ。 指の代わりに爪が生えた手が気持ち悪いと言われ、化け物と罵られる。 当時は小心者な性格だった彼にはそれは物凄い恐怖だった。 小さい頃に受けたそれはトラウマとなり、大抵の奴は黙らせられるようになった今でもふと思い出される悩みの種。 例え自分に関係の無い事でも、これだけはジャンガも克服しきれない。 自分で苛めるならまだしも(最早ありえないが)自分が苛められたり、他人が苛められているのを見るのは我慢が行かない。 「許して、お願い」 ティファニアの声にジャンガの思考は現実に戻る。 考え込んでいる間に話はエスカレートしたらしく、苛めっ子グループが帽子を掴んで引っ張ってる。 ティファニアも必死に抵抗しているが多勢に無勢…、帽子が取られるのは時間の問題の様だ。 そんな彼女が昔の自分とダブり、ジャンガは音がするほど強く歯を噛み締めた。 不意に帽子を掴んでいた手が離され、ティファニアは後ろによろめいた。 どうしたのか、と思って顔を上げると彼女達は呆然と広場の方に顔を向けている。 ティファニアもそちらに顔を向けると、そこには彼女の知っている亜人が立っていた。 「ジャンガさん?」 亜人――ジャンガは答えず、女生徒達を睨んだ。 冷たい刺す様な視線に女生徒達は震え上がる。 「あ、あなた…誰よ?」 ツインテールの少女が震える声で言った。 「ギャーギャー、ギャーギャー、ウルセェんだよ…ガキが」 吐き捨てる様に呟くジャンガ。 その言葉に褐色の髪の少女が声を荒げる。 「無礼者! 誰の使い魔か知らないけれど、この方を何方と心得ているの!?」 「ガキはガキだろうが。なんなら他の呼び方にするゼ? 小娘、クソガキ、なんちゃって貴族、…リクエストが在るなら聞いてやるゼ?」 褐色の女が噛み付くような勢いで詰め寄ろうとして、ツインテールの少女に止められる。 少女はジャンガを睨み返す。だが、その目には恐怖の色が見て取れた。 「ンだ?」 「…あなた、わたしを誰だとお思い?」 「生意気なクソガキ…、それ以外の何だってんだ?」 少女は怒りに顔を歪ませる。 「ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフよ! トリステインと縁深き独立国クルデンホルフ大公国の姫殿下!」 その説明にジャンガは、ああ、と納得したように頷く。 「なるほど…そう言う事か」 ――世間知らずの無礼な亜人かと思えば、クルデンホルフの事は知っていたか。 ベアトリスはしめたとばかりに言葉を続ける。 「そうよ、わたしはアンリエッタ女王陛下とも縁は深いの。解ったなら、今の無礼を謝罪しなさい!」 指を突きつけ、謝罪を迫るベアトリス。 だが、ジャンガはそんな彼女を見下ろすのみ。その目はまるで汚物でも見るかのようだ。 その視線に不愉快になり、ベアトリスは声を荒げる。 「謝罪をしなさいとわたしは言っているのよ!?」 「…ドブネズミ風情に何で謝らなきゃならねェんだよ?」 ジャンガの言葉に女生徒達は絶句した。 ベアトリスは見て解る位に顔を怒りで真っ赤に染める。 「あ、あなた…誰に向かってそんな口を叩いているか解ってるの!?」 「テメェこそ、外から来た分際で偉そうにしてんじゃネェよ…」 ジャンガは静かに呟く。 その言葉に何か危険な物を感じ、ベアトリスは震えた。 細められた両目は獲物を狙う肉食獣のそれと変わり無い。 「…人の縄張りで好き勝手すんじゃネェよ」 ジャンガの腕がゆっくりと振り上げられ―― 「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」 ――腕が振り下ろされる寸前、ギーシュが叫び声を上げながらワルキューレと共にジャンガに飛び蹴りをした。 完全に不意を突かれた形になったジャンガは、もんどりうって地面を転がる。 ギーシュは荒く呼吸を繰り返しながらそれを見届け、ベアトリスへと向き直る。 「ハァ、ハァ、おお、これはこれは、クルデンホルフ姫殿下ではございませんか!?」 いつもの態度は何処へやら…妙に畏まった態度でギーシュはベアトリスに挨拶をする。 「あ、あら…ミスタ・グラモンじゃない。コホン、お久しぶりですわね」 ベアトリスは目の前の相手が自分の実家がお金を貸している相手だと解るや、先程までの調子を取り戻す。 すると、彼に付いて来たのであろうモンモランシーがベアトリスの身体を見ている。 「お、お怪我とかはございませんか?」 モンモランシーは心配そうな表情で尋ねた。 「別に」 ベアトリスはあくまでも平静を装ってそう言った。 モンモランシーはその答えを聞くや、安堵の息を漏らす。 当然だろう。独立国の姫に怪我を負わせよう物ならば事は国際問題に発展する可能性が高い。 例えジャンガの性格は解っていようとも、それだけは避けなければならない事態なのだ。 ギーシュが広場で倒れるジャンガを指差す。 「あいつはジャンガと言いまして、アンリエッタ女王陛下のシュヴァリエの称号授与も断る位の無礼者なんです。 ですから、姫殿下とあろう方があのような奴と立ち話をするのは高貴さが損なわれてしまうかと…」 「でも、あの亜人が先に…」 尚も食い下がろうとするベアトリスの耳に口を近づけ、ギーシュは小声で言う。 「少しの無礼を許容出来る、出来ないで大人のレディは変わりますよ? 今此処で許容出来れば姫殿下は大人のレディとして大きく成長されるでしょう」 そのギーシュの言葉にベアトリスも満更ではなかったのだろう。 僅かに頬を染めると”この場はこれで終わり”とあっさりと引き上げた。 …去り際、ティファニアに対して「次からは帽子を取れ」と言い残して。 ――当然と言えば当然だが、ベアトリスが去った後でギーシュはジャンガに責められる事となった。 胸倉を掴み上げられ、ギーシュは苦しむ。 そんな彼にジャンガはそれだけで人も殺せそうな視線で睨み付ける。 こんな風にされるのは随分と久しぶりな感じがするが、懐かしむ必要も無ければ懐かしむ余裕も無い。 ギーシュはジャンガを落ち着かせるべく言葉を選ぶ。 「ジャ、ジャンガ…落ち着いてくれ」 「ホゥ? 派手にぶっ飛ばしておきながらその言い草か。…舐めんじゃネェぞ、気障ガキ?」 胸倉を掴む爪に力が籠もる。 首が絞まって息が苦しくなり、ギーシュはもがく。 モンモランシーが慌ててジャンガの腕を掴んだ。 「確かに説明も無しにいきなり吹き飛ばしたのは悪かったと思うわよ! でもね、事情が事情なのよ!」 必死に説得するモンモランシー。 ジャンガはそんなモンモランシーとギーシュを暫く見比べる。 やがて忌々しそうに舌打をし、ギーシュを乱暴に地面へと放り出した。 背中から叩き付けられ、ギーシュは苦痛に顔を歪ませる。 「あ、あ痛たたたた…」 「ちょっと、大丈夫?」 「な、何とか…」 心配そうな表情で安否を気遣うモンモランシーに、ギーシュは何とか笑顔を返す。 そんな二人を見下ろすジャンガ。 「…どんな事情が在るってんだ? 下らないのだったら容赦しないゼ?」 「全然下らなくなんか無い! 寧ろ重大だ!」 ギーシュは深呼吸をし、口を開く。 「彼女は小国とは言え独立国の姫だ。そこらの貴族とは格が違うんだよ、格が」 「ンなもんテメェらだって同じ穴のムジナだろうが」 ジャンガの言葉にギーシュは苦笑いを浮かべる。 「その言葉は嬉しくないが、言いたい事は解る。確かにぼくのグラモン家は代々王家に使えてきている。 格の上では大公国と同格と言っても差し支えは無い」 「モンモランシ家もそうね」 「…じゃ何であんなに頭が低いんだよテメェら?」 「現実は歴史に勝る」 「あン?」 「グラモン家は名門だが、領地の経営に疎い。過去にお金を使い過ぎた所為でね…財政難なんだ」 その言葉にジャンガは事の次第を理解し…、同時に呆れ返った。 「…金を借りてるって事か」 ギーシュは乾いた笑いを上げる。 モンモランシーもまた恥ずかしそうに顔を染めた。 「モンモランシ家も似たような物ね。以前に領地の開拓に失敗してるから…」 「まぁ、君も仲良くするに越した事は…」 「すると思うか?」 思わないさ、とギーシュは首を振って答える。 「他所から俺の縄張りに勝手に紛れ込んで、好き勝手するドブネズミとどうして仲良くしなきゃならねェ? ”始末”する方が楽だ」 そう言ったジャンガにギーシュは必死な表情で詰め寄る。 「いや、だからそれはダメだ! 彼女は一国の姫! その彼女に手を上げるのは確実に国家間の問題に発展する! しかもだ、彼女には自前の親衛隊がついている。彼らとの争いは正直御免だ」 ジャンガは怪訝な表情を浮かべる。 「親衛隊…ってのは何の話だ?」 「知らないのかい?」 尋ねてくるギーシュにジャンガは頷いて見せた。 ギーシュはジャンガとティファニア、モンモランシーを正門の前まで引っ張っていった。 「見たまえ」 そう言ってギーシュは草原を指差す。 ジャンガは僅かに眉間に皺を寄せる。 魔法学院の周辺に広がる広大な草原…、そこに何時の間に作ったのか、幾つもの天幕が設けられていた。 天幕の上には空を目指す黄色の紋章が描かれ、周囲には大きな甲冑を着けた風竜が何匹もたむろしている。 「…ンだ、ありゃ?」 「あれがクルデンホルフ大公国親衛隊、その名も”空中装甲騎士団”<ルフトパンツァーリッター>だ」 ふぅん、と詰まらない物でも見るかのような目でジャンガは騎士団を見渡す。 ギーシュの説明が続く。 「クルデンホルフ大公国は、あの騎士団を「虎の子だ」と言う理由で先だってのアルビオン戦役には参加させなかった。 だから今も健在。アルビオンの竜騎士団が壊滅した今となってはハルケギニア最強の竜騎士…とまで言われているんだよ」 「最強ね……ふ~ん」 ギーシュの説明にもジャンガは生返事を返すだけ。 「その虎の子の騎士団を留学した娘一人の警護につけるとはな…どんな親バカだよ?」 呆れたような声で言う彼にギーシュは顎に手を沿えて答える。 「金持ちと言うのは見栄を張りたがる者だからな…」 「テメェが言えた義理かよ…気障ガキ?」 「ぼくはカッコつけたいだけだ。それに、今では無意味なアプローチは極力控えるようにしている」 「ああそうかよ…」 そう言ってジャンガは踵を返す。 「何処へ行くんだい?」 「…寝直すんだよ」 そう言ってジャンガはその場から消えた。 「いいかい!!? 絶対に彼女には手を出さないでくれよ!!!?」 ギーシュは既に姿を消したジャンガの耳に届くように、精一杯声を張り上げて叫んだ。 それを見ていたティファニアは申し訳無さそうにポツリと呟く。 「すみません、色々とご迷惑を掛けたみたいで…」 「え? ああ、別にあなたは気にしなくていいわよ。あいつはいつもの事だし」 「でも、迷惑をおかけしたのには変わりません…。わたしがシッカリしていればこんな事にはならなかったし…」 そんな彼女の様子を見かねたのか、ギーシュが口を開く。 「まぁ…その、なんだ。君もそんなに落ち込まない方が良い。折角の美貌が台無しだよ?」 「ギーシュ…」 モンモランシーが目を細めて見ている事に気が付き、ギーシュは取り繕う。 「別に卑しい意味で言ったわけじゃないさ。純粋に彼女を元気付けたくて言っただけさ」 「…それは解ってるわよ。ちょっとばかり気になっただけよ」 そう言い、モンモランシーは小さく咳払いをする。 「ま、ギーシュの言う事ももっともね。あなたも元気出しなさい。そりゃ、大公国の姫に目を付けられれば困るでしょうけど…」 モンモランシーの気遣いの言葉にティファニアは首を振る。 「お気遣いありがとうございます。わたしは本当に大丈夫ですから…、では失礼します」 ぺこりと二人にお辞儀をし、ティファニアは帽子を押さえながら学院へと戻って行った。 そんな彼女の後姿を見送りながら、残った二人は顔を見合わせた。 「大丈夫かしら?」 「何とも言えないな…」 「ジャンガもそうだけど…、ベアトリス姫殿下にも困ったわね。幾ら姫殿下でも我侭が過ぎと思うわ」 「それは同感だが、だからと言って僕達に出来る事は無い。…彼女が上手く対応するのを願おう」 「もう一つ願う事は在るんじゃない?」 モンモランシーがそう言い、ああ、とギーシュは頷く。 「ジャンガが問題を起こさない事か…。…願うだけ無駄な気もするがね」 ギーシュはため息を吐く。 同感、とモンモランシーもため息混じりに呟いた。 翌日…ジャンガは昨日と変わらずヴェストリの広場のベンチで昼寝をしていた。 あれだけ脅したのだから、もう二度と問題は起こさないだろうと、考えていたジャンガは再度此処を昼寝の場所に選んだのだ。 今日は最後まで寝れるだろうと考えながら。 しかし、万事思い通りに進まないのが世の常であり…。 大勢の学生の悲鳴が耳に届き、ジャンガは歯を噛み締める。 授業中だというのに何故このように叫ぶのだろうか? しかし、ジャンガには理由など関係無い。ただ喧しいだけだ。 帽子を深く被り、騒音を掻き消そうとする。 すると、今度は突風が吹き、何かの唸り声が聞こえた。 ガチャーーーンッ! 立て続けに派手に窓ガラスが破られる音が響き、生徒の物ではない男達の声が聞こえてきた。 「ルセェ…」 更に帽子を深く被り、極力騒音を排除しようとする。 だが、騒音は耳に届き続け、ジャンガは次第にイライラを募らせていく。 そして、トドメとばかりに猛烈な突風が吹き、ベンチごとジャンガを吹き飛ばした。 吹き飛ばされたジャンガは背中から塔の壁に叩きつけられた。 遂に我慢が限界を超え、ジャンガは目を開ける。 飛び去る無数の甲冑を着けた風竜の背中が見えた。それは昨日ギーシュに見せられた騎士団の連中のだ。 風竜の背中には竜騎士の姿が勿論在ったが、それ以上にジャンガを苛立たせる姿が目に入った。 一匹の風竜の足に掴まれた尖った耳をした金髪の少女、 そしてその風竜の背に竜騎士と共に乗った金髪をツインテールにした少女だ。 それを見ながらジャンガは亀裂の様な笑みを浮かべた。 魔法学院の正門前、そこの草原に設けられた空中装甲騎士の天幕の前の地面にティファニアは乱暴に転がされた。 痛みを堪えながら身体を起こし周囲を見回す。 甲冑を着けた表情すら伺えない騎士達が自分の周囲を取り囲んでおり、 その輪の外では更に恐ろしい風竜達が唸り声を上げて威嚇している。 現状逃げる術は無いに等しい。 これだけ大勢の人間が居る場所で”忘却”の魔法は使えない。 先程、人間の父を”悪魔に魂を売った者”とベアトリスに言われて反論した時も、すぐさま周囲の騎士達が駆けつけて来た。 そんな騎士達に囲まれている今の状況で魔法を唱える素振りなど見せようものなら、周囲から魔法で蜂の巣にされてしまう。 かと言って二重に囲まれている為、退路など在るはずもなし。 やはり正体を明かすべきではなかった…、とティファニアは後悔する。 自分の事を受け入れてくれた人が居たからと言って、全てのハルケギニアの人がそうだと言えるはずもない。 大体、自分を従妹だと言って受け入れてくれたアンリエッタですら、最初は自分を見て驚いていたではないか? それほどまでにエルフとハルケギニアの人間の間の溝は深い…。少し話をした位で解りあえるような物ではない。 周囲を取り囲む騎士達が、エルフの母の命を奪った騎士達の姿とダブって見える。 怯えるティファニアの下にベアトリスがやって来た。 勝ち誇ったような表情で彼女を見下しながら宣言する。 「今から異端審問を執り行うわ。わたし司教の肩書きを持っているの」 騒ぎを聞きつけて集まった周囲の生徒達がざわめいた。 生徒達の反応に満足したのか、ベアトリスは嬉しそうな表情でティファニアを見る。 「先程も言ったけど、わたしたちと仲良くしたいと言うなら同じ神を信じると言う事を証明してもらわないとね」 「どうしろって言うの?」 「あれに入るのよ」 ベアトリスは顎で示すので、ティファニアは自分の背後を振り返る。 大釜がそこに置かれていた。大釜の中の水は強力な炎の魔法で既にグラグラと沸騰している。 「あの湯の中に一分間浸かるの。大丈夫よ、始祖ブリミルを信じている者なら丁度良い湯加減に感じるから。 でも、あなたの”信仰”が本物で無い……つまり”異教徒”なら、あっと言う間に茹で肉になってしまうでしょうね」 楽しそうな顔でベアトリスは言う。 勿論、彼女の言葉は嘘だ。信じていようといまいと熱湯は熱湯でしかなく、浸かれば命は無い。 要するに、異端審問とは名前を変えた処刑に他ならないのだ。 何も知らないティファニアは呆然と大釜を見つめる。 そんな彼女にベアトリスは言った。 「できない? なら今直ぐ田舎に帰りなさい。そうすれば今までの事は無かった事にしてあげる」 暫しの沈黙が漂う。大釜の中の湯が沸騰する音と、燃える薪が立てるパチパチと言う音のみが辺りに響く。 その場に集まった生徒の中にはギーシュを初めとした水精霊騎士隊の面々にルイズやタバサも居た。 「ああ…やっぱりこういう事になったか…」 ギーシュがため息混じりに呟く。 「でも、あの子がエルフだったなんて驚いたわ?」 モンモランシーは信じられない物でも見るかのような表情でティファニアを見た。 まぁ、エルフはメイジの魔法を軽く凌駕する先住魔法の使い手である恐ろしい砂漠の悪魔…と呼ばれている。 それが目の前の少女だとは思えないのも致し方ない。 「ねぇ…、あなた達は知っていたの、あの子がエルフだって事?」 キュルケがルイズとタバサに尋ねる。 ルイズとタバサは頷いて見せた。 「正確にはハーフエルフなんだけどね」 ルイズのその言葉にキュルケは興味深げな声を上げる。 「へぇ…純粋なエルフじゃないの。でも、こうして見てる限りでも、恐ろしいって感じは全然しないわね…?」 キュルケもまたモンモランシーと似たような感想を抱いていたのだ。 さて、ルイズとタバサはアンリエッタからティファニアの事を任されている。 もっともなるべく問題は彼女自身に向き合ってもらいたいと言うのがルイズの本音だったりする。 ティファニアはハーフエルフであり、更には”虚無”の担い手である。 そもそも普通の貴族としては暮らしていけない身の上なのだ。 そんな彼女が魔法学院に来れば、どんな事態が起きても可笑しくはないのである。 それで一々助けていては此方が大変なばかりか、彼女自身にとってもためにならない。 本当にどうしようもなく、どうしても助けが必要な場合、その時にだけ手を差し伸べようとルイズは心に誓ったのだ。 そしてその旨はアンリエッタもタバサも、後見人となったオスマン氏も承知してくれた。 そんなルイズはそろそろ口を出すべき時だろうかどうか悩んでいた。 どんな事態が起きても可笑しくは無いと思っていたが、これは些か事が大きすぎる。 まさかこの魔法学院で異端審問を執り行う者が出てこようと流石に思わなかったのだ。 だが、非常に怪し過ぎる。あの一年生は司教の肩書きを持つと言ってはいるが、肝心の免状や審問認可状が見当たらないのだ。 何より目が悪戯をしている子供と大差ないのだ。 それらの事から、おそらくは嘘だろう、とルイズは当たりをつけていた。 では直ぐに口を出すべきだと思ったが、ティファニアの目からは怯えが消えていたのだ。 まだ何か言う事があるのだろう、とルイズはもう暫く様子を見る事にした。 「いや。絶対にいや」 その時、ティファニアの声が静かに響いた。全員の視線がティファニアに集中する。 ベアトリスは一瞬呆気に取られた。 「わたし、外の世界を見てみたいって願っていたの。それをジャンガさんやアンリエッタさんが叶えてくれたの。 ここで帰ったら、願いを叶えてくれた人達だけじゃない…、笑顔でわたしを送り出してくれた子供達にも合わせる顔が無い。 だから、絶対に帰らない」 ベアトリスは歯噛みする。これだけ脅してやれば帰るだろう、と思っていたのに相手は「帰らない」と言ってきたのだ。 どうして命を落とすかもしれないこの状況で、あんな言葉が言えるのだろうか? と悩む。 それだけの覚悟がティファニアには有るのだが、理解出来ないベアトリスは苛立つだけだった。 幼少期からちやほやされて育った彼女は未だに精神年齢が未熟なままなのだ。 「わたしが帰れと言ったら帰るの! それに、何よ今の!? わたしの生まれであるクルデンホルフ大公家と、現トリステイン女王陛下であらせられるアンリエッタさまは縁が深いの! それを言うに事欠いて”アンリエッタさん”ですって? 無礼にも程があるわ! やはりあなたは異教徒ね! わたしやアンリエッタさまへの礼儀もなっていないあなたは即刻ここから出て行きなさい!」 ベアトリスはヒステリックに喚き散らす。 しかし、ティファニアは全く動じなかった。寧ろ、ベアトリスを哀れみの目で見つめている。 「な、何よ? 何なのよ、その目は!?」 ティファニアはポツリと呟く。 「可哀想…、子供なのね」 「なっ!?」 ベアトリスは呆然とする。 そんな彼女を見つめながらティファニアは続ける。 「ずっと大勢の子供達の世話をしてきたから解るわ。…あなたは全てが思い通りに行かないと気がすまない子供。 きっと、家に居た時は何でも他の人がやってくれたのね…。どんな我侭でも全て聞いてもらって、欲しい物は何でも貰う。 そんな甘やかされた生活が続けば子供のままで当然よね…。だから、あなたにはああ言う人しか集まってこない…」 ティファニアはそう言って離れた所で見ている三人組の女生徒を見た。 彼女の真っ直ぐな目で見つめられ、三人は動揺する。 そのままティファニアはベアトリスに視線を戻す。 「もっと…叱る時には叱ってくれる、ちゃんとした親の所に生まれていればこうはならなかったと思うわ。 可哀想に…。わたし…あなたがとても気の毒だわ」 直後、乾いた音が響き、ティファニアは地面に倒れた。 苛立ちが頂点を越えたベアトリスの平手打ちが飛んだのだ。 顔を真っ赤にさせながらベアトリスは叫ぶ。 「この者を釜に入れて! 今直ぐに!」 後ろに控えていた空中装甲騎士の二人がティファニアへと手を伸ばす。 ルイズは頃合と見て、止めるべく声を上げようとした…その時だ。 「ガアッッッ!!!?」 突然悲鳴が上がり、悲鳴の方に視線が集中する。 騎士の一人が杖を放し、ビクビクと身体を痙攣させている。 やがて、騎士は両膝を付き、ドサリと前のめりに倒れ込んだ。 その背中には三本の切り裂かれた傷跡が付いている。 悲鳴が上がったが、倒れた騎士の背後に立つ者の姿を見るや、それは直ぐに治まった 「ジャンガ…」 ルイズは呆然と呟く。 タバサは彼の姿を見るや目を細める。 立ち尽くすジャンガの身体からはどす黒い殺気が放たれている。 生徒達はそれを肌で感じ取ったのか、ジャンガから逃げるようにして離れていく。 それは風竜達も同様で、身体を小刻みに震わせながらその場に蹲る。 そんな周囲の事はジャンガは目にも入っていない様子。 その鋭く血走った視線はベアトリスだけを見つめている。 ベアトリスは身体が反射的に震えるのを感じた。 昨日の事が思い起こされたのだ。 ジャンガはゆっくりとベアトリスへと歩み寄る。 その動きに空中装甲騎士団が動く。 「止まれ! それ以上殿下に近寄るな!」 一斉に杖を突きつける。 だが、ジャンガは立ち止まらない。 騎士達は更に声を荒げて叫んだ。 「止まれと――」 瞬間、無数の血の花が咲き、騎士達が宙を舞った。 重い音を響かせながら、次々と騎士達が地面に落ちていく。 全ての騎士が空に打ち上げられ、落下するまでそれほどの時間は掛からなかっただろう。 だが、その場に居た全員には随分と長く感じられた。 それを見ながらベアトリスは呆然と立ち尽くしている。 あの亜人が歩いて来たのを見て空中装甲騎士が自分の前に壁を作った。 だが、その壁は次の瞬間には無かったのだ。そして間を空けずに降り注ぐ騎士達。 一様に真っ赤な血を滴らせて地面を赤く染めている。 何が起こったのか…まるで解らなかった。 呆然と立ち尽くすベアトリスの前にジャンガが立った。 有無を言わせず胸倉を掴み上げるや、そのままベアトリスを連れて大釜の方へと歩いていく。 何をするつもりなのか…その場の全員が理解し、息を呑んだ。 「ね、ねぇ…流石にあれは不味いんじゃないの?」 キュルケが冷や汗を垂らしながらルイズとタバサを見る。 傍らではギーシュやモンモランシーも不安な表情を浮かべている。 「ああ、そうだよな…万が一にもそんな事は無いと思ったけど、そうなるよな…。 あ~あ…トリステインはどうなるのかね?」 「それよりも姫殿下の命が危ういわよ…。ジャンガのあの目…殺す気満々の目よ」 「じゃあモンモランシー…、聞くけど…君はああなった彼を止められるかい?」 ギーシュの問いにモンモランシーは首を振る。 そんな風に慌てる彼らだが、意外とルイズとタバサの二人は落ち着いていた。 「ねぇ…あなた達はどうしてそんなに落ち着いていられるの?」 タバサは騎士達を指し示しながら呟く。 「派手に出血しているけど、命に別状は無い」 キュルケ達は倒れた騎士の方を見た。 なるほど…、確かに騎士達は派手な出血と怪我を負ってはいるが、絶命してはいない。 その証拠に騎士達の何れもが苦しそうな呻き声を発し、手足を僅かながら動かしている。 「どう言う事?」 キュルケの言葉にルイズは大袈裟なほど大きなため息を吐く。 「わざとやってるのよ…」 「そう、わざと」 ルイズは呆れた様子で、タバサは全く動じずにそう言う。 「要するに怖がらせたいだけなのよ。性格の悪いあいつの事だからね」 「だが、それならば……こう言っては何だが、どうして止めを刺さないんだ? 彼ならばそうしても可笑しくないと思うんだが?」 ギーシュの問いにタバサが答える。 「単純に死人が出たら面倒なだけ」 「あっ、そう…」 ギーシュは諦めとも呆れともつかない声で呟く。 「ま、本当に危なくなったらわたしとタバサで止めるわよ」 ジャンガは跳び上がると、大釜の縁に降り立った。 立ち上る水蒸気だけでも熱い。中の熱湯がどれだけの温度なのか容易に想像は付いた。 その熱湯の真上にベアトリスを持って行く。 ベアトリスは恐怖に顔を歪ませる。 真下には例の大釜…、その中には煮え滾る熱湯…。 落ちれば命が無い…。ベアトリスはジャンガの腕を掴んだ。 「あ、あなた…、こ、こんな事をして…、た、ただで済むと思ってるの!?」 精一杯の虚勢を張り、ベアトリスはジャンガに向かって叫ぶ。 ジャンガはベアトリスを引き寄せ、真正面から睨み付けた。 「ただじゃ済まない? キキキ…どうするってんだよ?」 「そ、それは…」 ジャンガは後方で倒れる空中装甲騎士の面々を肩越しに見る。 「あの連中…今の所、ハルケギニア最強の竜騎士とか言われてるんだってな?」 再びベアトリスに視線を戻す。 「そんな連中がああじゃ…俺をどうにかできる奴なんかいないと思わネェか?」 ベアトリスは言葉に詰まった。 確かに空中装甲騎士は現状、クルデンホルフ大公国が有する最強の騎士団であり、 ハルケギニアに現存する最強の竜騎士団である。 それが破られたと言う事は、殆どのメイジが太刀打ち出来ないという事に他ならない。 落ち込むベアトリスに対し、ジャンガはニヤリと嫌みったらしい笑みを浮かべる。 「まァ、湯にでも浸かれば気も落ち着くだろ? ちょうど良い感じにここには”風呂”も在るしよ」 ベアトリスは驚愕する。 目の前の亜人はやはり自分を釜に放り込む気なのだ。 必死でベアトリスは暴れる。 「や、止めて! し、死んじゃうわよ!!?」 ジャンガは首を傾げる。 「何で死ぬんだ…、”ブリミル教徒には良い湯加減”なんだろ?」 その言葉にベアトリスは更に言葉に詰まった。 確かに自分はそう言ったが、そんな物は嘘である。異端審問ではこのような虚言は日常茶飯事。 潔白を証明する為の方法も、相手を異教徒として認めさせる為だけの拷問なのだ。 無論、ジャンガはそんな事は百も承知であり、承知した上で言っていた。 羽目を外しすぎたガキを甚振るには十分すぎる理由だ。 「異教徒とかじゃねェんだったら問題は無ェよな? だったら遠慮無く湯に浸かりな、キキキ」 ベアトリスは必死でジャンガの腕を掴んだ。 「粘るんじゃネェよ…ガキが」 そう言って、反対の腕の爪をベアトリスの首筋にチクリと刺す。 軽い痛みを感じた直後、ベアトリスは身体から力が抜けるのを感じた。 ジャンガの腕を掴んでいた腕が、足がダラリと下がる。 だが、ベアトリスは生きていた。意識もハッキリとしている。 ただ、身体が動かないのだ。 「な、何よこれ?」 「キキキ、ちょいとお前の身体を動かなくしただけだ。なァ~に、暫くすりゃ動けるようになるゼ」 ジャンガは不適な笑みを浮かべながらベアトリスを見つめる。 「…それまでゆっくりと湯に浸かってな」 胸倉を掴んだ爪の一本が外れた。 ガクンと体が傾きベアトリスは、ヒッ、と悲鳴を漏らす。 更に一本が外れ、更に体が傾いた。 ベアトリスは恐怖に身体を震わせる。ガチガチと歯が小刻みに噛み合わさって音を立てる。 そんなベアトリスを満足げに見つめながら、ジャンガは最後の一本を外そうと動かす。 「ご……、ごめんなさーーーーーーいっっっ!!!」 突然のベアトリスの叫びにティファニアや生徒達、飛び出そうとしたルイズとタバサも目を見開く。 ジャンガは怪訝な表情でベアトリスを見る。 「あン? ごめんてなんだよ?」 「わ、わたし、本当は司教の肩書きなんて持ってない! 異端審問なんて行えないの! ぜ、全部……全部嘘なの!!!」 ベアトリスは必死になって真実を語る。 「わ、わたし…あのハーフエルフが羨ましかったの…。何もしていないのに、色んな人に囲まれているあの子が…。 大公家の娘だからって…最初はわたしが注目されていたのに、あの子が全部人気を持っていっちゃうから…。 それだけじゃない…あの子はわたしに注目していた人だけじゃなく、もっと大勢の人から注目されていた…。 それが羨ましかった…、どうしようもなく悔しかった…。 大公家でも無いのに…特別な家柄でも無いのに…人気者なあの子が羨ましかったの…。 わたしだって…わたしだって…友達が欲しいかったの…。 大公家の娘だから持ち上げる相手だけじゃなく…本当の友達が欲しいかったの!」 取り巻きの三組みが気まずそうな表情を浮かべながら顔を見合わせる。 「…だから……あの子がハーフエルフだと解って、つい…異端審問なんて言っちゃったの…。 …ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……。わたしが悪かった……ごめんなさい…」 涙ながらに謝罪を繰り返すベアトリス。そこには最早、先程までの高慢な悪ガキの姿は欠片も無かった。 「ベアトリスさん…」 ティファニアは何とか立ち上がる。 と、ジャンガが高らかに笑った。 「キーーーッ、キキキキッッ!!! なるほどなァ~? そいつはまた可哀想だゼ。いやいや、俺も似たようなもんだしよ」 そう言ってジャンガは腕を振り上げ、ベアトリスを地面に叩き付けた。 「痛ッ!?」 身体が動かない為に受身も取れず、無防備に地面に叩きつけられたベアトリスは痛みに悲鳴を上げる。 ジャンガは地面に降り立ち、大釜に足を付ける。ちょっとでも力を込めれば簡単に大釜は倒れるだろう。 その先には…。 「な、何をする気…?」 怯えるベアトリスにジャンガは冷たい笑みを浮かべて見せる。 「そりゃ勿論、お前に向かってこれを押し倒すのさ」 「なっ!?」 「テメェがこんな事した理由は解った…。だがな、俺としてはこのまま済ませる訳には行かねェんだよ。 この先、他にも出ないとも限らないしな…。何より、俺の面子って物が在る。 だから、罰は受けてもらうゼ。なァ~に、安心しな。この大釜の湯をぶっ掛けるだけだ。 何時間も湯に浸かるよりはいいだろ。ほんの一瞬だけ耐えれば良いんだからよ~?」 簡単そうに言うが、如何考えても楽ではない。ゆっくり浸かろうと、一瞬だけ浴びようと熱湯は熱湯。 あれ程の温度の物をあれだけ大量に浴びせられれば勿論命は無い。 「待ってください、ジャンガさん?」 そう言って止めたのはティファニアだった。 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第六十七話 眠れる大戦艦 甲冑星人 ボーグ星人 登場! 「杉材が足りねえぞ! 追加発注急げ」 「砂鉄と鉄鉱石の搬入、第五工房がしびれを切らしてるぞ。一分一秒も無駄にするな!」 「鋲だ! 熱いうちに早く打ち込め!」 職人たちの喧騒が飛び交い、槌の音が響いたり、荷車の車輪の音がひっきりなしに行きかう。 ここは、ラグドリアン湖の東岸にあるトリステイン最大の造船港。一週間前に焼失した造船所から、二十リーグほど 北上したところから海に向かって流れ出す大河の中流に存在している。 収容艦艇数は大小合わせて五百隻の巨大港で、トリステイン空軍の主力艦のほとんどは現在ここで作られていた。 船台上には、ガリアのシャルル・オルレアン級に対抗するために建造中の、トリステイン初の本格的二百メイル級 重装甲戦列艦ガスコーニュ号が艤装を受けており、傷ひとつないピカピカの大砲がドラゴンに引き上げられて船体に 載せられていく。 また、整備用ドッグにはラ・ロシュールの観艦式に姿を見せた新鋭艦ブルターニュ号が横たわって、怪獣ゾンバイユを 相手にまったく通用しなかった武装の強化工事を施されている。 働いている人間は官民合わせて二万人をゆうに超える。これはラ・ロシュールはおろか、首都トリスタニアに次ぐ 人口の多さである。 まさにここは、小国であったトリステインが大国ガリアやゲルマニアと肩を並べるための努力を象徴する場所なのだ。 だが、様々な船を作り、ガスコーニュ号の完成にトリステインの未来がかかっていると信じて昼夜兼行の工事を してきた熟練の造船工たちも、五日前にラグドリアン湖から曳航されてきた船を目の当たりにしたときは、まさしく 次元の違いを思い知らされた。 運河としても使えるように、狭い場所でも幅五百メイルもある大河を圧して進んでくるとてつもない偉容。あまりの 巨体ゆえに、操業している漁船は、その船の作り出す大波で転覆させられないよう出漁禁止が発令され、対岸の 小さな桟橋などはまるごと水中に沈められた。 近隣の人々は、微速で進むその船を噂で知って呼び集め合い、今まで見たこともない鋼鉄の巨大戦艦をひと目 見ようと、数百数千の眼が堤防の上に集まる。 「なんなんだあれは……あんなでかい船がこの世にあるのか!」 上空を護衛しているメルカトール型の旧式戦列艦プロヴァンスなど、まるで水雷艇のようにしか見えない。 人々は驚き、噂は噂を呼んでさらに人を集めたが、軍はそれを静止しなかった。その戦艦のあまりの巨体ゆえに、 到底秘密の保持などは不可能だとあきらめざるを得なかったのだ。 結果、丸一日かけて港にその戦艦がやってきたとき、戦艦大和こと新・東方号を目撃した人間は万を軽く超えていた。 その中には、当然ガリアやゲルマニアの間諜もいるだろうけれど、もはや報告したければすればいいと開き直るしかない。 そして、到着した新・東方号は岸壁に係留された。あまりの巨体ゆえに、収容できるドックがなかったためである。 ここで東方号は、艦内設備の調査の続行をするのと並行して、改装工事が始められることとなった。 表向きの総責任者はエレオノール。彼女は、アカデミーの所長を、なかば恫喝にも近い方法で説き伏せて権限を得た。 無名のコルベールでは、技術力はあっても統率力はないために、ここはどうしてもヴァリエールの高名が上に 必要だったからである。 その意気込みに恥じず、彼女は持ち前の度胸と威圧感を持って、見事に多数の個性が入り混じる部下たちを統率していた。 アカデミーからエレオノールが連れてきた学者だけでなく、軍民問わずに優秀な技術者たちが昼夜を問わずに 大和の甲板を闊歩している。そのせいで、ほかの艦の建造や修理に遅れが生じているものがあるものの、誰もが どの艦を優先するべきかをよく心得ていた。 さて、岸壁に固定されて、工事開始を待つばかりとなった新・東方号だが、曳航中の調査によってエレオノールと コルベールは、これが大工事になることを覚悟していた。 船体は、ミミー星人によってほぼ完全に修復されていたものの、船内は三隻の船が合体したためと、戦闘に 必要のない部分は沈没時のままで放置されていたので、超巨大な立体迷路と化していた。そのため、曳航中に 見取り図を作ろうと船内に入っていって迷子になる調査員が続出、エレオノールとルイズも才人とコルベールが 談笑している最中に機関室を目指して出られなくなり、テレポートでようやく脱出する始末をさらした。 結局、行方不明になった全員を救出するために一時作業は完全に麻痺した。 それでもなんとか船内見取り図を完成させると、アカデミーの学者たちはそれを元に作業計画を作成した。 なにせ、全長四百五十メイルの超巨艦であるから、全体を改装していては間に合わない。優先順位をつける 必要上、調査で判明したアイアンロックスの艦内構造が、大きく分けて二つに区分できることを利用することとなった。 ひとつはミミー星人に改造され、遠隔操作で稼動する機関部と兵装部。 元は乗組員の居住区だったらしく、沈没時と変わらずに廃墟のままで放置されている区画。 このうち、戦闘区画は危険が見込まれたので、さらに一週間の調査期間が置かれることになった。 危険を承知で未知の機材で囲まれた区画に調査員が入っていき、入れない場所にはメイジが猫やネズミの 使い魔を送り込んで、視覚の共有でスケッチをとったりしていく。こういう方法は地球ではとることができないもので、 もしも地球で知られたらあらゆるところから引く手あまたに違いない。災害時の危険区域での生存者の捜索など、 何百万円もする小型ロボットがなければできないようなことばかり、数えれば役立つ用途が限りない。 もっとも、そんな俗な役立ち方は誇り高い貴族は嫌がるだろうが、貴族ではないメイジたちがいつかそうした 方法で人々の役に立つことができるのだとわかったら、世の中に少し笑顔が多くなるかもしれない。 戦闘区画が実質立ち入り禁止なために、工事は先んじて放置区画で始まった。完全に幽霊船状態の中を、 魔法のランプを壁に取り付けて明かりを確保し、形を保っていた道具や設備を運び出していく。それらはほとんどは 劣化して使い物にならなかったけれど、頑丈で原型を保っていた軍靴は靴屋が引き取り、拳銃や小銃は鍛冶屋に 渡され、意外にも鉛筆が発見されたときはその便利さにエレオノールが驚嘆して、すぐに複製が命じられた。 ただ、そうして残骸をあさる中で、たまに眼鏡や金歯、ベルトなどが現れると、彼らは自分たちが墓荒らしを しているのだという気分の悪さを味わわざるを得なかった。戦死者の遺骨こそ、海底で長年のうちに消滅して しまったけれども、ここには確かに何百何千という人間がいたのだ。 そうした遺品の数々は、才人の頼みを受けたコルベールの指示で、街の郊外に埋葬されることとなった。 異世界の人間をブリミル教では弔えないが、そうすることでせめてもの慰霊だけでなく、罪悪感や呪いを恐れる 調査員たちの心情を慰めることもできたのだ。 だが、呪いとは関係ないが苦痛の叫びはあがっていたことを付け加えておこう。調査が終わった居住区画では、 いずれ新乗組員が住まうことになるのだから清掃作業がおこなわれていた。ただ、その担当を任された水精霊騎士隊は 不満たらたらであった。 「あーっ! どうしてぼくらがこんな平民の雑用がするようなことをしなきゃいけないんだ!」 「ギーシュ、その文句は十回くらい聞いたぜ。でも、ほんと臭いし暗いし汚いし、いったいどれだけ掃除したら終わるんだよ!」 「ギーシュ、ギムリ、文句を言ってる暇があったら手を動かせよ。しょうがないだろ、ぼくたちだって船ができるまで 遊んでるわけにはいかないし、乗り組んだときに迷わないようにも清掃がてら船内構造を頭に叩き込んでおけって 命令は正しいよ」 「はぁ……まったく、いつになったらぼくらは華々しい戦果をあげられる日が来るんだろう……」 バケツとほうきとブラシとゴミ袋を手に、少年たちはその日を目指して地道な下積みを重ねていく。 その一方で、才人は別件で船に乗ってはいなかった。彼はルクシャナやアカデミーの風や地のメイジといっしょに、 街からやや離れた草原にいたのである。そこは、将来港を拡充するときに備えて、新しい街道を作るための 舗装作業がおこなわれていたのだが、その平坦な地形を利用して彼らはある実験をおこなっていた。 「ようし、じゃあ始めるか……風を送ってください!」 メイジの送ってくれた風を受けて、彼らの実験はスタートした。結果的に、この日の彼らの実験は失敗に終わるのだが、 翌日も彼らは失敗した箇所を改良して同じ実験を繰り返した。 それは、遠目からしたら変な形の鉄の塊を、大勢のメイジが真剣な顔で弄り回しているという奇妙な光景だった。 実際、通り過ぎていく人は首をかしげたり失笑していく人もいたけれど、彼らは気にも止めなかった。 これが成功したら、東方号には大きな力になる。才人はそれを信じ、未完成のそれに描かれた真っ赤な日の丸を見上げた。 そして、東方号の完成へ向けての生徒たちの努力は、連絡を受けたコルベールの胸も熱くした。 「そうか、彼らも立派にやっているのか。ならば、私も負けてはおられんな」 船舶の部品を作る工場で働いていたコルベールは、火花をあげて作り上げられていく東方号の部品を前に決意を新たにした。 コルベールの顔はすすで汚れて、いつもは輝いている頭頂部も今日は黒ずんでしまっている。実際、現在もっとも多忙であるのは 間違いなく彼であったことは疑いない。東方号の設計者であって、改造計画の調整から部品の設計、あらゆる方面の補助を しなければならない彼にはそれこそ風呂にはいる暇もなかった。休息は短い睡眠と食事の間だけ、その他の時間は 必ずどこかで仕事をしている。 しかし、普通の人間であったら倒れるような激務の中でも、コルベールの顔には疲労の色はなかった。むろん、肉体には 過酷さによって刻まれた疲れはあるけれど、頭がそれを感じてはいなかった。 一世一代、ハルケギニアを救う船を自分が作るんだという使命感がコルベールにはある。彼はこのとき、技術者として 心から仕事を楽しんでいた。楽しいことに疲れを感じるはずがない。自分の力を思う存分発揮して、長年の夢であった 魔法に寄らない機械を……それもハルケギニアの誰一人として見たことも聞いたこともないものを作るのだ。 「みんな頑張ってくれ! 東方号にはトリステインの命運と、姫殿下の期待がかかっているんだ。君たち職人の 技術はもうガリアやゲルマニアの者たちにも劣らないと聞いている。その力を、存分に発揮して最高の仕事をして 見せてくれよ!」 コルベールの激励に、工場の職人たちは「おおーっ!」と、建物を揺るがしそうな大声で答えた。 ここで働いている職人たちは皆平民である。錬金を使って即座に優れた製品を作り出せるメイジに、いつも下に 見られていた彼らは、敬愛するアンリエッタ王女の期待の仕事が自分たちに回ってきたことに、かつてないやる気を 自分たちの中に見出していた。 すでに何隻もの軍艦の部品を作り上げて、腕に自信を持っていた彼らは、コルベールの図面に詳しく記された 部品を現実のものにしようと、炉の火を限りなく熱くし、赤熱化した鋼鉄に槌を入れて鍛え上げていく。 誰もが忙しく行き来し、巨大な港は過去最高の繁栄をしているかに見えた。 だが、そんな大量の人間の往来の中にあって、作業現場をまるで他人事のように優雅に見守っている少女たちの 一団があった。作業現場から少し離れた空間を占拠し、数人の女騎士に護衛されて、四人の少女たちがひとつの卓を 囲んで座っている。その中でも特に高慢そうな金髪でツインテールの小柄な少女は、汗だくになって働いている 工員たちを横目でちらりと見た後で、退屈そうにつぶやいた。 「作業は順調なのかしら? 日程では二十五日で完成するとあったけど、五日経ってもあまり変化がないように 思えるのだけれども?」 「ご安心くださいませ殿下、工期はとどこおりなく消化しております。外見上の変化が少ないのは、元々の船体を 傷つけないで運用するためで、本格的な工事はまだ先でございます」 「そう、ならいいわ。ノルマが一日遅れれば、何十万エキューの損失につながるわ。見込みのない人間はすぐに 取り除きなさい。代わりはいくらでもいるわ」 そう何気なしに命じると、ベアトリスは卓上のティーカップに手を伸ばして、紅茶を優雅にすすった。 「それにしても、自分の出資先を見届けるのは最低限の務めとはいえ、このようなところはほこりっぽくて嫌ですわね」 紅茶に浮かんだ微細な粒を見下ろして、ベアトリスはふぅとため息をついた。すぐさま、取り巻きの一人が 淹れなおした新しい紅茶で、少しだけ表情に笑みを戻す。しかし、優雅な姿は工員たちの敵意は刺激しても、 敬意を持たれることは決してないことに彼女は気づこうともしていない。 「うん、やはり東方からの直輸入のものは香りが違うわね。それにシーコ、腕を上げたわね。温度がちょうどいいわ」 「はいっ! ありがとうございます! わたし、努力したかいがありました」 「そ、そこまで感激しなくてもいいけれど……」 緑色の短髪をした子の大げさな喜びように、ベアトリスは気おされてちょっと引いた。彼女は先日、才人の無礼に 対して最後まで怒っていた子で、一番年少ではあるけれど活発で子供っぽいところがベアトリスは気に入っていた。 ただし、時々こうして行き過ぎたところはあるのだが。 ともあれ、気を取り直したベアトリスはもう一口紅茶を飲んで口の中を潤すと、アイアンロックスの巨体を見上げた。 「まったく、ヤプールもとんだ贈り物をしてくれたものね。ミスタ・コルベールたちは、異世界の技術だとか浮かれていますけど、 わたくしにとってそんなことはどうでもいいわ。重要なのは、今わたくしたちの手元にこれがあるということ。お馬鹿な 人たちは、これが将来どれほどの価値を生むのか、まったくわかっていないようで、なんとも滑稽なこと」 「ええ、まったくですわ。それにしても姫殿下、わたくしにはこのような鉄の塊が、どのようにして富をもたらすのか、 いまひとつぴんとこないのですが」 取り巻きの一人の、金髪を後ろでやや乱雑なポニーテールにまとめた少女が尋ねた。傍目からは、わざと 持ち上げているとしか思えないそぶりだが、そうされることが当然に育ってきたベアトリスは気づいていない。 「しょうがない子ね。じゃあ、簡単に説明してあげるわ。この船……オストラント号二世、まあ新旧の区別が難しいし、 まだ完成してもいないから、この船の元々の名前……なんといったかしら?」 「ヤマト、ですわ」 「そう、そのヤマトですけれど、率直に聞いて、ビーコはこの船を見てどう感じます? 難しく考えずに、ただ見たままを 答えていいわよ」 「はぁ、わたしは軍艦のことはさっぱりわかりませんが……ええっと、大きくてとても強そうだと思いました」 「いいことよ、”大きくて強そう”それでいいの。おそらく、ここでこうして働いている人間は皆そう思っていることでしょう。 重要なのはそこなの」 ベアトリスは、怪訝そうな表情を浮かべている少女たちに向かって、得意そうに語りだした。 「言うに及ばず、兵器とは戦うためにあるわ。でも、軍艦はほかの兵器とは違って、むしろ戦争以外のときにこそ 役割が多いの。砲艦外交という言葉を知っているわね? 文字通り、艦隊を持って武力を誇示し、他国との外交を 有利に働かせようとする、アルビオンやガリアがよくやるやつよ。特に、レコン・キスタが力の象徴とした、かつての 『レキシントン』号はとみに有名ね」 「はい、あの巨艦はレコン・キスタが反乱を起こす前には、『ロイヤル・ソブリン』号として、当時ハルケギニア最大最強 だったのは、よく宣伝してくれたものですね」 「よく覚えてるわね。おかげで、わたしもお父様のデスクの上に並んだ、【アルビオンには、ロイヤル・ソブリンあり】って 新聞記事をよく目にしたわね。軍人たちも、どうやってロイヤル・ソブリンに対抗しようかって頭を悩ませてたわ。だからこそ、 どんな素人が見ても絶対的に強そうに見えるヤマトをトリステインが手にしたら、平民だってトリステインが強くなったんだって 思うでしょう? そのときに、鋼鉄艦の建造のノウハウをクルデンホルフが独占してたらどうする?」 「なるほど! 理解できました。そうなれば、トリステインだけでなく、世界中から建艦の依頼が来るというわけですわね」 「そういうことよ。だから今のうちに、優秀な工員はいくら出してもいいから引き抜いておくのよ」 若いながらもクルデンホルフの血を引く者として、したたかな一面を見せるベアトリス。彼女は拍手をして持ち上げる 三人の少女たちに手をかざして応えると、改めて報告の続きを求めた。 「さて、前置きはこのくらいにしてと。それでエーコ、現在の各部署の進行状況はどうなってるの?」 「はい、現在総責任者のエレオノール女史の下で、それぞれの部署ともにスケジュールの遅れなく作業を 進めております。まず船体のほうは、あと五日をめどに徹底的に調査をした後で、翼を取り付けるための準備工事を 開始いたします。次に……」 冊子にまとめられた各所からの作業報告書を手に、エーコと呼ばれた褐色の髪の少女は、主であるベアトリスに 東方号再建計画の現状を説明していった。 しかし、ベアトリスへの報告とは裏腹に、実際には調査も工事も早くも難航していた。確かにコルベールや才人たちの 努力によって、目覚しい成果を上げている部署もある。が、地球最大の戦艦大和こと、軍艦ロボットアイアンロックスを 人間の手で扱える船に改造しようという計画は、当然ながら容易なものではないことは予想されてはいたものの、 いざ開始してみるとさらに思わぬ障害や問題に次々ぶち当たった。 先に述べられた戦闘区画と放置区画。このうち放置区画は物品の搬出と清掃、あとは居住できるように少々の 修理をすればよいだけであるので問題は少なかった。 問題が発生したのは、当然というか戦闘区画である。 このうち、兵装については意外にも早期に調査が終わった。砲兵器については、その規模が巨大であるだけで、 原理としてはハルケギニアのものでも理解できた。人間が操作する部分こそ、自動装置が組み込まれていたものの、 基本は大和型戦艦の四十六センチ砲のままだったのである。 しかし、その兵装を動かすための動力が最大の問題であった。機関部については手動で稼動させる方法がないかを 調査中であるが難航している。大和に元々あった重油燃焼式タービン機関は撤去されて、ミミー星のエンジンが搭載されて いたが、これがどうすれば動くのかはコルベールにも才人もわからなかった。 幸い、水蒸気機関が装備されるのは翼になるので、最悪船体はあるだけでも飛べるけれど、主砲を含む全兵装は 現在使用できるめどは立っていない。しかし、ベアトリスや軍の目当てはあくまで異世界の技術で作られた強力な 兵装なのである。それが動かせないとなると、せっかく乗り気になっている彼らが一気にやる気をなくす恐れがある。 そのために、それらの内容は報告書からはぶかれていた。 そうとも知らず、ベアトリスは高級な茶葉の香りを楽しみつつ、クルデンホルフの明るい未来を運んでくるであろう 鋼鉄の宝船をうっとりと見上げた。 しかも……ベアトリスはまだ気づいていないが、彼女の持つビジョンには極めて危険な要素が秘められていた。 彼女の想定するとおり、ガリアやゲルマニアが、この超巨大戦艦の存在を知ったらどうするか? 彼女の考えるとおり、 少なくとも危機感を持つことは間違いないだろう。対抗策を講じようにも、異世界の技術で建造された大和に相当する兵器は ハルケギニアの技術では作ることができない。 かといって、戦争を仕掛けるなどは論外。現在トリステインはアルビオンと同盟関係にある。いくら大国と呼ばれる 両国とて、単独では動けないし、現在のトリステインにはアルビオン内戦でその復活が確認された『烈風』が 抑止力となっている。また、ただでさえ、世界中に怪獣の出現が群発している中で軍は動かせない。 結果、それを唯一成しうる技術を持つクルデンホルフに注目が集まるまではいい。大金がクルデンホルフに流れ込み、 いずれクルデンホルフが母国であるトリステイン以上の国力を持つことも、あながち夢ではない。実際地球でも、 軍艦や戦車などの兵器産業をもちいる企業は国に対して強い影響力を今なお持っている。 しかし、将来的に禍根が残ることは間違いないだろう。小国はあなどられるが、大国になると恐れられて警戒される。 軍拡というものの難しいところだが、まだ若輩のベアトリスは戦場のきらびやかなイメージにのみとらわれて、強大な 力を持つものが多くのものから恐怖と憎悪の対象となられることなど考えてもいない。 暗殺、謀殺……将来ベアトリスがクルデンホルフの力を受け継いで、クルデンホルフが偏った力を持ちすぎたとき、 それらがあらゆる方向から襲い掛かってくるかもしれない。そのとき、この小さな女の子が数千数万という悪意と 憎悪に耐えられるのだろうか。 富と権力の生み出す金のプールの中で、足を引っ張られて溺れ死んだ人間は数限りない。 ベアトリスは若さゆえの、ある意味では無邪気さゆえに、金のプールの底に潜む魔物には気づかず、ただその きらびやかな中に飛び込もうとしている。 それからベアトリスは、取り巻きの三人と護衛の銃士隊を連れて造船所の各所を視察した。 銃士隊が護衛についているのには少々理由がある。元々クルデンホルフは、空中装甲騎士団という精強な 私設騎士団を持っているのだが、二つの理由により現在ベアトリスの指揮下にはない。 そのひとつは、今やハルケギニアのどこであろうと他人事ではなくなった怪獣災害に備えるためである。特に クルデンホルフ領内にはパンドラ親子やオルフィなどの、多数の怪獣が住みかとしている山があるために備えが ないと領民が安心できない。悪いことに、魔法学院で大騒動を起こしたせいで、怪獣の生息が領内に広く 知れ渡ってしまったのである。 もうひとつは、ベアトリス自身が護衛されることを辞退したのである。いくら人手が足りないとはいえ、娘一人を 護衛する程度の余裕は当然ある。けれども、空中装甲騎士団つきで失態を見せた彼女は、今度はどうしても 自分の力でなにか大事を成したいと固持した。 それに当時、ある没落貴族の家から三人の少女を自分の秘書として引き抜いたこともある。彼女たちは 成しえなかったものの自力で家を建て直そうと試みていただけに、金の動かし方にもいささかの知識がある。 また、メイジとしてのランクはエーコのみラインで、あとの二人はドットだったものの、メイジ三人となったら 平民の傭兵程度であれば十数人を相手取れる力がある。 心配する父に、ベアトリスは若さゆえの反抗心から、三人の少女だけを共にして家を出た。 そうして、なにか以前の失態を帳消しにするような成果を探し続け、見つけたのが予算不足で頓挫しかけていた 東方号計画だったのである。 しかし、彼女のそうした事情は、貴重な人手を割かされるはめになった銃士隊には関係ないものであった。 しかも、ベアトリスが空中装甲騎士団の護衛を断った経緯からしたら、銃士隊の護衛すら本来必要ないはずである。 なのに銃士隊が護衛させられているのは、近年急速に勇名を上げている銃士隊を自らの護衛とすることで、 それを見る平民や下級貴族たちの心象に影響させようというベアトリスの魂胆であったから、なお性質が悪い。 断れるものなら断りたかったが、大スポンサーであるクルデンホルフの威光はここでも大きかった。アニエスが いない今では、ミシェルにできることは少しでも多くの隊員を東方号の仕事に回すために、人寄せの役目を 自ら買って出ることだけだった。 「高名な銃士隊の二本の剣の一振りとうたわれる、副長ミシェル殿自ら護衛についてくださるとは感謝に 耐えませんわ。これでわたしも安心して巡回することができます。期待しておりますわよ」 「はっ、光栄のいたりであります!」 五歳は年上の相手にも、高慢さを隠そうともしないベアトリスの態度に、ミシェルは形だけは完璧な敬礼をとってみせた。 が、内心ははらわたが煮えくり返る思いである。この大事なときに、この小娘は人を無くてもいい用事に駆り立ててくれた。 本当なら、仲間たちといっしょにやらねばならない仕事は山のようにある。なのに、やらされていることは高慢な小娘の 虚栄心を満たすための道化にすぎない。 「私はいったい、なにをしているのやら……」 口の中から漏れない声で、表情は動かさずにミシェルはつぶやいた。ベアトリスは、四方を固めて護衛する銃士隊を 露払いにするように、駆け回る平民たちのあいだを轟然と歩いていく。その行動そのものが、作業の妨害となることを 考えないのだろうか? それに、確かに平民たちの目はベアトリスに集中しているようだが、それが好意的なもので あるとは到底思えなかった。ミシェルたちの目に悪意のこもったフィルターがかかっていたとしても、平民たちは ベアトリスたちを得体の知れない邪魔者、あるいはさわらぬ神にたたりなしといった無関心な感情しかなかった。 だが、ミシェルたちは漫然とベアトリスたちの護衛の形だけをしていればいいというわけではなかった。むしろ、 まともに仕事をしていたほうが楽という難事が待ち構えていたのである。 それは、ベアトリスがある材木せん断工場に入ったときのことである。入るなり、彼女は作業はほとんど見ずに、 工場責任者に食って掛かったのである。 「ちょっとあなた、ここの甲板用材木の納期が予定の三パーセント遅れているわよ。どうなってるの?」 「はぁ、なにぶん今年の木材は長雨が続きましたので質が安定するまでにかかりまして……工員全員、全力を 尽くしておるのですが」 「言い訳は聞きたくないわ。いいわ、あなたはクビよ。さっさと出て行きなさい」 「なっ! そ、そんなご無体な。お許しください、私には妻やまだ七つの息子もいるんです」 「知らないわよそんなこと! たかが木を切って板にするような、誰でもできるような仕事もこなせない無能者に 用はないわ。目障りよ!」 哀願する工場長にベアトリスは一眼だにしなかった。しかし、無能とはひどすぎる。木材は乾燥率や節の多さで 切ったときの反り具合や収縮率が変わってくる。それを計算して加工するのは立派な職人芸なのに、誰でも できることと侮辱されて、百人近い工員たちもベアトリスに敵意のこもった視線を向けてきた。 このままでは、暴動が起こりかねない。そう感じたミシェルは、工場長とベアトリスの間に立って仲裁し、なんとか 首を取り下げて減給にとどめることに妥協させることができた。だが、工員たちの怒りは収まらなかった。 しかも、事はそれだけで収まりはしなかった。ベアトリスはその後も、様々な工場や工事現場を視察したのだが、 その度に素人考えから高慢に文句をつけて、ミシェルたちはベアトリスの機嫌をとることと、工員たちの怒りを 鎮めることの二つをやらされるはめになったのだ。 おまけに、ベアトリスの取り巻きたちも静止するどころかベアトリスに同調したものだから、一度ならずミシェルたちは 剣を抜かざるを得なくなることを覚悟した。 そうして、激務だが極めて無意味な一日はあっという間に過ぎていった。 夕刻、日は早く傾いていき、港には本日の業務の終了と、勤務時間の交代を告げるサイレンが鳴り響く。 「あら? もうこんな時間なのね。今日のところはこれまでにして、続きは明日にいたしましょうか」 港中を回り、言いたい放題を言い尽くしてきたベアトリスも、さすがに少々疲れを見せた声で告げた。 その終了宣言に、ミシェルたちが一番ほっとしたのは言うまでもない。ようやくこれで、こんなくだらない 仕事も終われると、不満を顔に出さないように努めて言った。 「ではお帰りになられますか殿下? お住まいまで、我らがお送りいたしましょう」 「そうね、では帰りましょうか。おなかもすいてきたことですし、三人ともいいわね?」 ベアトリスが確認すると、まずシーコがうなづいた。しかし、エーコは即答せずにベアトリスの様子を見ると、 明かりがつき始めている造船所内の飲食街の一角を指差した。 「姫殿下、せっかくですから夕食はこちらで食べていきませんか?」 「は? エーコあなたなにを言うの? クルデンホルフの姫ともあろうわたくしが、下々民に混ざって食事しろなんて、 冗談ではないわ」 「いえ冗談ではありません。こういう場所の店は、意外とよい味を出しているものですよ。どうせ宿に帰っても、 ここの宿は食事も軍人向けでろくなものが出ないのですから」 「ふむ、それもそうね……」 金にまかせて宿を借りたものの、質素なものしか出ない宿のディナーに飽き飽きしていたベアトリスは一考した。 「ではエーコの言うとおりにしましょう。適当な店を選んで頂戴。ただし、できるだけ高級なものを出す店をね。 ミシェル副長、今日はご苦労でした。わたくしがおごりますから、同席を許可しますわ」 「はぁ、ではご相伴に預かることにします」 好意はうれしいが、正直言ってありがた迷惑だとミシェルは思った。騎士四人の腹を満たすだけの懐具合は ベアトリスは当然あるだろうが、こちらは護衛の関連上、酒は飲めないし満腹になるわけにはいかない。 しかし断ることもできないために、しぶしぶミシェルたちは同席を承諾した。 エーコがベアトリスのために選んだ店は、中くらいの大きさを持つ酒場であった。ミシェルの見るところ、普段は 佐官クラスの中級将校が使用するような店のようだ。魅惑の妖精亭を少し大きくしたようなものと思えばいいだろう。 ベアトリスはひとまず気に入った様子を見せた。 「ふむ、悪くないわね。では、入りましょうか」 「あっ、姫殿下! 申し訳ありませんが、わたくしはここで失礼させていただきたいのですが」 「どうしたのビーコ?」 「いえ、今日見聞した出来事を早めに資料にまとめておきたいと思いまして。それに、姫殿下の帰りが遅くなっては 騒ぎになってしまいますので、わたしが伝言しておきます」 「そうね。じゃあすまないけど、お願いするわ」 「はい」 こうして、ビーコと別れた一同は酒場に入った。 中は、店の外観のきれいさとは裏腹に工場で働く平民たちが多かった。ベアトリスは、酒とタバコの匂いがつんと 鼻をついたものの、今さら出るのも恥ずかしかったので、一同はミシェルがとった奥の席に腰掛けた。 「この店で、一番いいワインと料理を持ってきなさい」 ウェイトレスに開口一番でベアトリスは要求した。ウェイトレスは、思いも寄らない高級貴族の来店に驚きつつも、 この上ない上客なので慌ててオーダーを持って飛んでいった。 店内の平民たちはベアトリスに気づいてはいるものの、とりあえず追い出される様子はないので黙っていた。中には、 すでに酒がまわったのか、バカ騒ぎを続けている豪胆な者もいる。けれども、招かれざる客を意図して無視しようとしてる 意識はミシェルたちを不快にした。 ”よく見たら、今日まわった工場の人間もいるではないか。面倒なことにならなければよいが” だが、ベアトリスは平民たちが自分をどう思っているかなどは興味のかけらもないらしい。運ばれてきた酒と 料理に舌鼓を打ち、取り巻きの二人を相手に雑談をして楽しんでいる。 しかし、最初のころは他愛も無い昔話をしているくらいでよかったのだが、酒が入ってくるに従って饒舌さが 増していき、とうとうミシェルたちが恐れていたことを口にしてしまった。 「それにしても、この街の職人たちのレベルは思ってたより低いわね。いっそのことまとめて解雇して、ゲルマニアから 雇ってきましょうか」 その一言が、じっと我慢していた職人たちの怒りに火をつけてしまった。むろん、いくら大金を出しているとはいえ、 軍属の職人たちをいっせいに入れ替えるなど軍が了承するはずはないが、酒が入った彼らには冷静な判断力が 失われていた。 「おい嬢ちゃん、黙って聞いてりゃずいぶん言いたい放題言ってくれてるじゃねえか」 「誰が誰をクビにするって? ガキがなめくさったこと言ってるんじゃねえぞ」 「立てよ、お貴族さまだからってなにを言っても許されると思ってんじゃねえぜ」 いつの間にか、ベアトリスたちの席の周りはいきり立った男たちに囲まれてしまっていた。 「な、なによあなたたち! 平民が無礼な」 「下がりなさい下郎! この方がクルデンホルフ姫殿下だと知っての狼藉?」 シーコはベアトリスを守って一喝した。普通なら平民はこれだけで逃げ出すか平身低頭して許しを請う。だが、 誇り高いのは職人も同じだ。シマウマだって怒ればライオンを蹴り殺すこともある。散々侮辱された彼らには クルデンホルフの名は、もはやなんの意味も無かった。 「それがなんだってんだ? どこのお姫さまだろうが、この街はおれたちの城だ。勝手に入ってきて好き放題してくれた 落とし前はつけさせてもらうぜ」 「そうだそうだ! どうせクビにされるんなら怖いもんはねえ! やっちまえ!」 集団心理が興奮を増させ、理性を完全にぬぐいさらせていた。ここまでくると、ミシェルたちが一喝しても無駄だ。 威嚇射撃も怒りを増させるだけだろう。 「副長!」 「くそっ! 姫殿下を守れっ!」 やむを得ずミシェルは迎え撃った。相手は店中の男たち、ざっと見回して五十人はいる。対してこちらは銃士隊 四人とメイジ二人、ベアトリスは狙われているから戦力には含められない。これだけの戦力で、八倍以上の 人数と渡り合えるのか? だが、迷っている時間はなかった。 「貴様ら、骨の二、三本は覚悟しろ!」 民間人相手に武器を使うわけにはいかないので、体術のみで銃士隊は応戦した。素手とはいえ、本格的な 訓練を積んできた彼女たちは、相手が鍛え上げた男たちといえども負けはしない。 また、エーコとシーコもそれぞれ魔法で応戦した。平民にとって、自在に火や風を起こせるメイジは子供でも 脅威になる。 しかし、銃士隊と違ってエーコとシーコには実戦経験が大幅に欠けていた。どこからか投げつけられたコップが シーコの額に当たって、ガラスの破片を撒き散らせる。 「きゃあっ!」 「シーコッ!」 額を押さえてうずくまりかけるシーコへ、ベアトリスは駆け寄ろうとした。顔に当てた彼女の手のひらの端からは 鮮血がどくどくと流れ出している。しかし、ベアトリスがそうして動いた一瞬の隙だった。カウンターの影に隠れていた 男がベアトリスを後ろから羽交い絞めにして、喉元にナイフを突きつけたのだ。 「てめえら動くな! さもねえと、こいつの命はねえぜ!」 「ひっ、ひぅ……」 白い喉に冷たい銀色が押し当てられ、ベアトリスは恐怖のあまり泣きそうな声を出した。 人質をとられては、ミシェルたちもなすすべがない。「卑怯な……」と、つぶやくものの、抵抗をやめて手を上げるしかなかった。 男たちは、敵意と悪意のこもった眼差しを怒りの対象であるベアトリスに向けてくる。しかし、もはや頼るものさえなくなった ベアトリスには、その視線を跳ね返す覇気は残っていなかった。これから、自分がどうされるのか……ベアトリスの心を生まれて 始めての死の恐怖とともに絶望が覆っていった。 「ひっ、えぅぅ」 「動くな、妙な真似したら刺すぜ」 なにかをしゃべろうとしても喉が震えて声にならない、しかも男はおどしではないことを示すように、ナイフの腹で 喉をなでてくる。その冷たい感触に、まぎれもない殺意を感じてベアトリスは震えた。 殺される! 男があと少し力を込めれば、細い喉は引き裂かれて一瞬のうちに死んでしまうのは明らかだった。 これまで自分が権力と金と力にまかせてやってきた恫喝が、さらなる恐喝に姿を変えて戻ってきたのだということを、 精神の未熟な彼女は気づくことはできなかったが、運命の神は取り立てに非情であった。 助けを求めようにも、人質をとられていてはエーコもシーコも、銃士隊四人も身動きができない。 このままこうして、なすすべも無いまま怒りに燃えた男たちのいいようにされるのか。どんな辱めや暴力がふるわれるのか、 さらにそのはてにどんな苦しい方法で命を取られるのか。それを想像するだけで、恐怖のあまりに涙が浮かんでくる。 ”誰か、誰か誰か! なんでもするから、お願いだから助けて!” 声にならない心の叫びは、当然誰の耳にも届かない。 そして、勝ち誇る男はベアトリスを抑えたままで、笑いながら要求を突きつけようとした。 「ひゃはは! こいつ泣いてるのか、いい気味だ。だが、おれたちの恨みはこんなものじゃ晴れないぜ。さあ、まずは そっちの姉ちゃんたちもいっしょにっ! うぎゃあっ!?」 そのときだった。突然男が悲鳴を上げたかと思うと、ベアトリスの体が腕の中から解放されて床に崩れ落ちた。 いったいなにが? わけもわからず自由になったベアトリスは振り返ると、そこにはたった今まで自分を捕まえていた ナイフを持った男と、その後ろにいつの間に現れたのか、ナイフを持った腕を掴んで締め上げている壮齢の男がいたのだ。 「よさないか、いい大人が子供にむかってみっともない」 歳を重ねた、落ち着いた重々しい声だった。酒場の薄暗い明かりに照らされて、白髪の混ざった頭が見え、首の後ろには あごひもでつるされたテンガロンハットがぶらさがっている。ベアトリスは命が助かったことも忘れて、なんとも伊達な風体だなと、 妙に安心した気持ちで男を見上げていた。 一方で、東方号にも新たな脅威の前兆が迫りつつあった。 夜間、倉庫街……軍艦の資材を保管しておく倉庫は、現在は東方号の資材も保管されているために、銃士隊や 衛士隊も含めて厳重な警備が敷かれている。関係ないものは、誰であろうと立ち入ることはできないだろう。 が、倉庫街の中でも比較的警備の薄い場所もあった。空の倉庫が連立する区画、そこで警備についていた 一人の銃士隊員に、ふと声をかけて連れ出した者がいた。 「こちらですわ。早く早く、お願いします」 「お待ちください貴族さま、こんな場所でいったい何があるというのです!?」 その銃士隊員は、大変なものを見つけたと言ってきた一人の貴族の少女の後を追って、倉庫街のはずれの 倉庫のひとつに足を踏み入れた。ここらは普段からもあまり使われておず、周囲に人気はほとんどない。 中に踏み込んだ隊員は、先に入っていった少女の姿を捜し求めた。中は暗くて広い、おまけに窓も無い仕様 だったので月明かりもほとんど入ってこなかった。その中を、彼女は少女が目立つ金髪をしていたことを頼りに 目を凝らして歩き、そして。 「貴族さまーっ! どこですかぁ!」 「ここですわよ……ふふ、まんまと罠にかかりましたわね」 「なにっ!?」 叫んだ瞬間、倉庫の明かりがいっせいについた。 「うっ! こ、これは!」 まぶしさに目がくらみ、目を開けた瞬間、彼女は自分がガラスのような透明なカプセルに閉じ込められているのに 気づいた。貴族の少女はすぐ近くで笑っており、その隣には全身を銀色の甲冑で覆っているような怪人が立っていたのだ。 「貴様何者だ! 私をどうするつもりだ!」 「くっくっく、貴様は銃士隊員という立場を利用して、この街をオストラント号ごと爆破するための尖兵として働いてもらう。 そのために、貴様の体は改造されてサイボーグとなり、我らボーグ星人の忠実なしもべになるのだ」 「なっ、なに!?」 その瞬間、カプセルの中に白いガスが充満しはじめた。これを吸ってはいけないと思い、剣を振るい、銃を撃つが カプセルはびくともしない。やがて、体がしびれていき、視界も真っ白になって彼女はカプセルの中に崩れ落ちた。 「ふ、ふくちょ……」 すがるように上げた手が落ちたとき、彼女の意識は闇の中に閉ざされた。 続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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発生期間:冷酷なる洞窟ドルティスクリア後~ヒューリア湿地帯クリアまで 発生場所:工業都市ガラム Wind Road リィオ 攻略:繋がりの森リエータにいるコカトリスを倒すだけです。泉のある場所にいます。 討伐後、リィオに報告しないと達成したことにならないので注意です。 報酬:【B】シーフ Lv4、QP+5
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ベアトリーチェディバール(2)(ベアトリーチェ・ディ・バール) イタリアのマントヴァの僭主の系譜に登場する人物。 関連: エドゥアールイッセイ (エドゥアール1世、父) グイードゴンザーガ (グイード・ゴンザーガ、夫) ウゴリーノ (子) ルドヴィーコニセイゴンザーガ (ルドヴィーコ2世・ゴンザーガ、息子) フランチェスコ(14) (子) ベルナボ (子) マルゲリータ(11) (娘) 別名: ベアトリス(29)
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ジャグラ 作品名:ストライク・ザ・ブラッド 使用者:ベアトリス・バスラ― ストライク・ザ・ブラッドに登場する使い魔。 眷獣のひとつ。紅い槍の形状をした眷獣で自動的に使用者を守護する。 蛇紅羅についての詳細形容 意思を持つ武器(インテリジェント・ウェポン) 使用者との関連性 関連項目 関連タグ 蛇紅羅についての詳細 形容 深紅の長槍通常の眷獣と同様に空間に突如出現する。 噴き出す鮮血のような勢いで、彼女の手の中に出現したのは紅い槍。大柄なベアトリスの身 の丈をも上回る長槍である。 意思を持つ武器(インテリジェント・ウェポン) 自動戦闘を行う紅い槍形状を変化させて自動的に戦闘を行う。 反応速度は人間の限界を超える。 ベアトリスの手の中で、真紅の槍は生物のように形を変え、死角から次々に雪菜を襲う。間 合いも型も、使い手であるベアトリスの動きすら無関係に自ら攻撃を仕掛けてくるのだ。 (中略) その反応速度は人間の限界を遥かに超えて、(以下略) 槍以外の型で攻撃することことも可能作中では穂先を枝分かれさせて対象へ襲いかかっている。 ベアトリスが絶叫した。彼女の眷獣が一気に倍近く膨れあがり、幾筋にも枝分かれしながら、 王女へと殺到する。 使用者との関連性 使用者の感情によって形状を変化させる作中で使用者の怒りに反応して逆棘や鉤爪を生やす。 女吸血鬼の手の中に、深紅の槍が現れる。宿主の怒りを反映してるのか、彼女の槍型の眷 獣は、いくつもの鉤爪や逆棘を生やした凶悪な姿へと変わっていた。 関連項目 眷獣 蛇紅羅の種族分類。 関連タグ ストライク・ザ・ブラッド 使い魔 変形 存在 槍 武器 能力 自律兵器 蛇
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前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔 第34話 水妖精騎士団 海凄人 パラダイ星人 登場! 『疑わしきと見れば殺し、目ざわりと見れば滅ぼす』のがロマリアの真実だと、人はひそやかにささやく。 聖戦を狙うロマリアのために暗躍するジュリオは、真実を知って帰国を目指す銃士隊と水精霊騎士隊の一行に吸血鬼エルザを差し向けるが、これは失敗した。 しかし一方で、ジュリオはトリステインに残る銃士隊と水精霊騎士隊のことも忘れてはいなかった。彼らは個々の戦力ではたいしたことはないが、チームワークでそれを補って、これまで数々の怪獣や宇宙人を倒してきた。さらに現在では東方号を有し、もはやその影響力を軽視することはできない。 そう、彼らのこれからの動向は、世界をどう動かすかわからない。それを嫌い、ロマリアはジュリオからガリアのシェフィールドを介して刺客を送り込んできた。 刺客の名は元素の兄弟。兄ドゥドゥーと妹ジャネットのふたり組で、才人たちとほぼ同じ若さの少年少女であるにも関わらず、ただならぬ雰囲気を持つガリアの北花壇騎士の一員だ。 ターゲットは、東方号のメインエンジニアであるコルベールと、そのパトロンであるベアトリス。このふたりがいなくなれば東方号は鉄くずと化し、水精霊騎士隊と銃士隊は頭数は残っても、最大の戦力を失って大きく弱体化する。 そうなると、あのMATがバット星人によって全メカニックが破壊されたために、隊員のほとんどが残っていても終に再建できなかった例が再現されることになりかねない。 危機が迫っている。このままでは世界の未来が危ない。 しかし、ベアトリスは美少女だからまだいいとして、コッパゲの首に世界の未来がかかっているとなると、なにかアホらしい感じがしてきてしまう。 いや、毛根の神に愛されているか否かはこの際置いておこう。ハゲていて世の中の役に立っている人もいっぱいいるからして。 それよりも、本格的に今回の物語に入っていく前に、もう一つ前置きをしておこう。 異変があったとき、人が後に思い返すと、「あのときは朝から雲行きが怪しかった。あれは前兆だったのかもしれない」というようなことを言う。 そう感じたのならば何かしらアクションを起こせばよかろうものだが、人は日常に慣れると少しくらいの変化では動じなくなってしまうのだろう。 コルベールとベアトリスの命を狙った暗殺者が港町にやってきたこの日も、表面上は何事もなく始まった。ただ、暗殺者たちが街に入ったのに前後して、ふと空を見上げたある姉妹が、あるものに気づいたことを除いたら。 「ねえティア、空を見て。なにかが空から降りてくるよ」 「見えてるよティラ。へえ、ドラゴンに乗った騎士たちね。ずいぶん物々しい様子だけど、こんな街になんの用かしら」 「さあ、けどわたしたちには関係ないでしょうね。それよりも急ぎましょう、ティア。皆さんを待たせたら失礼よ」 「むー、ティラが言い出したくせに、ずるいなあ。じゃあさティラ、今日はどっちが早く着けるか? フフ……」 「「競争ね!」」 街の石畳に、軽快な靴音が響いて遠ざかっていく。彼女たちの少し上には、街に影を下ろしながら降下してくる騎竜の羽音が響いていたが、もう彼女たちがそれに気を向けることはなかった。 むろん、これですむはずもなく、数時間後に彼女たちは自分たちがなにげなく見過ごしたこのことを思い出すことになる。ただ、神ならぬ身の民にとって、なにげない変化から未来を予見しろというのは無理難題に違いないのだ。 増してや、ある日突然に見も知らぬ相手から命を狙われているなどということが予見できたら、それはもはや人外の域にいる者と言っていいだろう。 今日この日も、ベアトリスとコルベールは昨日までの延長として今日を迎えた。むろん、自分の命を狙う者がこの街に入っているなど、思うはずもない。 さて遅ればせながら、そろそろこのあたりで今回の物語の主道に入ろう。 時は、ベアトリスが潜水艦伊-403でコルベールと談話してから、ざっと一時間ほどしてからとなる。 ベアトリスは修理・改修の途中である東方号を視察し、現場責任者であるコルベールと話し合った。そして一旦休憩をとろうと、この街で拠点にしている宿に帰ってきたのだが、そこで彼女は少々落胆することになった。 「ただいま……ん、エーコたちはまだ戻ってないの?」 「はい、エーコ様たちから伝言をお預かりしています。暗くなる前には戻る、とのことですので。それまでのお手伝いは私どもが承らせていただきます」 「はぁ、そう……」 メイドからの報告を受けて、ベアトリスは「またか」とため息をついた。メイドの、お疲れでしたら熱いお茶を淹れましょうか? という言葉もろくに頭に入ってこない。 実はこのとき、ベアトリスはある悩みを抱えていた。それは、コルベールにも話したとおりにエーコたちのことなのだが、最近の彼女たちのある行動が悩みのタネだった。 「あの子たち、また特訓に行ってるのね。無茶してないといいけど……」 ある日突然のことであった。エーコたちが「姫殿下にお世話になってばかりでは申し訳ないです。今度はわたしたちが強くなって姫殿下をお守り申し上げます!」と言い出したのだ。 そして彼女たちは日々出かけて行っては特訓に励んでいる。それはいい。向上心があるのは大変けっこうなことなので、ベアトリスも最初は喜んでいた。そう、それだけならばよかったのだが…… ベアトリスは自室に戻ると、もう一度ため息をついて椅子に腰掛けた。もしエーコたちが戻っていたら、四人でティータイムにでもしようと思っていたけれども、ひとりでは食欲も湧いてこない。 「エーコ、ビーコ、シーコ、わたしのために頑張ってくれるのはうれしいけど、わたしにとってあなたたちがいてくれることが何より大事なのよ……」 ツインテールに伸ばした髪をいじりながら、ベアトリスはあのときのことを思い出した。超獣ユニタングと化したエーコたち姉妹をヤプールの手から救い出したとき、大切な人を失う悲しみと痛みを知った。それから今日まで、彼女たち十姉妹は人間として何事もなく過ごしてきた。ベアトリスとしてはそれだけでもう十分だったのだけれど、あれ以来エーコたちは前にも増してベアトリスに懐いてしまった。自分たちから特訓を言い出したのもその表れだが、忠誠心豊富な彼女たちは最近になってベアトリスの思いもよらないことを考え付いたのだ。 それは、ベアトリスにとって突拍子もないものだった。最初はすぐにやめさせようと思ったのだが、言われてみると自分にとって将来役立つことにつながるので、現在は黙認していた。ただ、理屈と感情は別である。 「わたしの側近は貴女たちだけで充分と思ってたけど……でも、ねえ……はぁ」 ベアトリスはつぶやきながら、何度目になるかわからないため息をついた。今頃、エーコたちははりきって”あれ”をやっているのだろう。 困ったものだ。今後のことで、考えなくてはいけないことは山のようにあるというのに、これでは手が足りない。やはり、エーコたちの言うようにするべきなのか……いや、でも数だけ増やしたところで。 思い悩むベアトリスは、やけっぱちな気持ちでベッドに飛び込んだ。そして気晴らしにと思って、ベッド脇に積み上げてあった本の一冊を手にとって広げる。それは『召喚されし書物』と呼ばれる希少な種類の書籍で、どこで誰が書いたのかはわからないが、その精巧な絵やハルケギニアのものとは懸け離れた描写からコレクターの間では人気がある。 「『リードランゲージ』……ヤー……マイマスター……うふふふ」 あらゆる文字を解読できるコモンスペルを唱え、ベアトリスは本に見入った。どうやらそれは絵でつづられる娯楽作品のようで、遠い異国のある伯爵が主人公の物語。ベアトリスはその中に登場する執事がお気に入りのようだった。 しかし、ベアトリスはこのとき無理にでもエーコたちの下に乗り込んでいかなかったことを後悔することになる。それも、この後ほんの少しして起こるとは、ベアトリスは知るよしもなかった。 さて一方、ベアトリスが思い悩んでいるとは露知らず、エーコたちはベアトリスの想像したとおり、特訓に汗を流していた。 「よーし、じゃあ今日も姫殿下のために気合入れていくわよーっ!」 エーコの声が空き地に響き、続いてビーコやシーコの「おーっ」という掛け声が続いた。 ここは工場街にある資材置き場で、現在は物資がなく空き地となっている。割かし広く、学校のグラウンドほどの広さがあるそこで、エーコたちは姉の指南を受けて戦いの特訓をしていたのだ。 『ブレット!』 「遅いよ! 杖を振るときはとにかく素早く。かっこなんてどうでもいいから相手に向けるんだ!」 十姉妹の五女ユウリの叱咤する声が響き、エーコたちは汗を流して杖を振り続けた。この街に来る前にはアルビオンで傭兵稼業をしていたというユウリの指導は激しく苛烈で、エーコたちは実の姉妹にも容赦のない指導に、汗をぬぐう間もない。 それを見て、七女ティーナと四女ディアンナは妹たちに同情したようにつぶやいていた。 「いやあ、ユウリ姉さん気合はいっちゃってるねー。昔っから、体を動かすことだけは得意だったから、エーコたちかわいそー」 「魔法学院に通っていた頃なんか、学院の馬を五頭も乗りつぶして、あげくに修学旅行の馬車を三台も事故らせて、貴族の娘なのにデストロイヤー・ユウリなんてあだ名をもらったくらいですものねぇ」 「うんうん、あれでトリステイン中の騎馬業者から出入り禁止を食らって、お父さまが平謝りに駆け回ったことは忘れられないわぁ。アタシはお腹抱えて笑ってたけど」 赤毛が目立つユウリの指導は、ティーナやディアンナの入っていく余地もないくらい過激で、ときたま女性とは思えない罵声なんかも混ざっていた。この訓練の厳しさは、銃士隊のそれと比べてもひけはとらなかったろう。 「え、エア・ハンマー!」 「遅いっ! そんなんじゃ実戦じゃ魔法を使う前に蜂の巣だよ。まずは素振り百回、かかれっ!」 「はっ、はいい!」 エーコたちは姉の怒声に、腕が痛くなりながらも杖を振り続けた。 が、なぜエーコたちがここまで過酷な訓練を続けてるのであろうか? その理由は、実は水精霊騎士隊にあった。 知ってのとおり、この港町は東方号の母港である。つまり東方号を使っている水精霊騎士隊の少年たちも、この街には慣れ親しんでいてベアトリスともよく顔を合わせている。 ロマリア行きが中止して引き返してきた際、水精霊騎士隊の一部はギーシュに率いられてロマリアを目指したが、残りは東方号とともに帰還してきた。その後、東方号の修理をしながら訓練を続けていたのだが、ある日に修理状況を視察に来ていたエーコたちに対して、水精霊騎士隊の少年の一人がこんなことを言ったのだ。 「修理の視察ねえ。ご覧のとおりさ、毎日毎日、少しでも早く直そうとみんな奮闘しているあの音が、一リーグ離れていたって聞こえるだろ? それをわざわざ見に来るなんて君たちも暇だね。ぼくらなんか、今日も厳しい訓練を続けているっていうのに。まあ、しょうがないか、ぼくらの肩にはトリステインの将来がかかってるけど、君たちはクルデンホルフ姫殿下のお茶汲みをしてれば安泰なんだろ? そんなことより、よかったら後でいっしょにお茶でもどうだい」 そいつは訓練の疲れから来たストレスでか、深いことは考えずに嫌味を言ったのだろうが、これがエーコたちの逆鱗に触れた。 以前とは違い、一度離反して自分たちを救ってくれたベアトリスに対する彼女たちの忠義は本物だ。その自分たちの忠義を侮辱されたことは、主君であるベアトリスを侮辱されたことに他ならないからだ。 エーコたちは激怒した。そして軽口を叩いた太っちょなそいつは、茶色の悪魔と黄色の鬼神と緑色の死神によって、豚のような悲鳴をあげてボロ雑巾のようにされたあげくに犬の餌にされた。なお、この件に関して水精霊騎士隊からの抗議などは一切ない。隊長ギーシュの、レディには常に優しくあれ、レディを傷つけるものはすべからく我らの敵だというモットーが正しく履行された結果であった。 しかし戯れ言をほざいた豚をつぶしても、エーコたちの怒りは収まらなかった。豚に対してではない。そんな侮辱をされて、心の一部ではそれを認めざるを得なかった自分たちの弱さを自覚してしまったがために、自分自身に対して怒っていたのだ。 「わたしたちが弱いままじゃ、また姫殿下の名誉に傷がつけられるかもしれない。ビーコ、シーコ、わたしたちは姫殿下に救われて以来、わたしたちがどうすれば姫殿下のお役に立てるか考えてきた。今、その答えが出たわね!」 「ええ! 下品な男たちなんかに姫殿下は任せられないわ。なら、わたしたちがあいつらより強くなるしかないじゃない!」 「なら特訓ね。貧乏貴族のグラモンの部隊なんか、わたしたちの前を歩かせたりしないわ。姫殿下はいずれクルデンホルフを継いで、世界を統べるお方。その手足は最強じゃなきゃいけないのよ!」 こういう具合で、エーコたちの中に水精霊騎士隊へのライバル意識が芽生えたのである。 そして彼女たちは、あちこちで様々な経験を積んできた姉たちに教えを請うことにした。姉たちも、ベアトリスに対してはまだ負い目を感じていたので罪滅ぼしになればとこれに飛びつき、こうしてエーコたちは今日まで自分を磨いてきた。その努力はすばらしいもので、普通なら三日も持たないであろう猛訓練を続けてきている。今では水精霊騎士隊の少年たちともたいした差はないだろう。 また、姉たちは様々な分野で活動してきたので、エーコたちに与えられるものは戦闘技能以外にも数多くあった。 例えば、ある日はユウリの都合が付かなくてディアンナが教えることになったのだが、彼女が教えるものはもちろんユウリとは違っていた。 「では、今日は私があなたたちにハルケギニアの交易を教えてあげるわ。よーく聞きなさいよ、それでなくともあなたたち三人は、お勉強の時間になると寝息を立ててたんだから」 「はーい、頑張りまーす。あーあ、次は歩くお小言百科のディアンナ姉さんの番か。長い一日になりそう」 「対話術と言いなさい。一流の貴族には一流の外交能力も必要なの、それにあなたたちもクルデンホルフの一翼を担っていくなら、世界の情勢について知らないと話にならないわ。特に、ゲルマニアの商人たちの狡猾さはトリステインの比じゃないわ。騙されて野良犬同然に落とされた貴族なんて星の数ほどいるんだからね」 ディアンナはゲルマニアで、とある商業ギルドに潜り込んでいたので世界情勢に詳しかった。また、三女キュメイラは医者見習いをしていたし、ティーナはエーコたちより子供っぽく見えるが、小柄で身が軽いことを生かしてラ・ロシェールで港湾作業員をしていた。平たく言えば、入港してきた船を桟橋に固定したりマストの上げ下げを手伝う係である。こうして、様々な分野で活動することで、ハルケギニアの社会を知りたがっていたヤプールに情報を渡していたわけだが、スパイでなくなったからといって経験まで消えることはない。皮肉なものだが、人生とはどこで何が役に立ってくるかわからないものである。 エーコたちはこうして、将来ベアトリスの役に立ちそうなことはなんでも吸収していった。人間は目標を見つけると強い。アホぞろいの水精霊騎士隊が強いのも、女王陛下のために尽くそうという一念を持っているからだ。 ただし、熱意と努力というものは必ずしも正しいほうへ行くとは限らない。 「よーっし、今回はとりあえずここまでだ。水飲んでいいぞお前たち」 「ふぁ、ふぁーい」 ユウリの特訓がようやく終わり、三人はクタクタになって息をついた。まだ寒い季節なのに滝のように汗が出て気持ちが悪い、三人は魔法で水を作って飲み、頭からかぶって汗を流した。 「し、死ぬかと思ったわ」 「ひゃあん冷たいっ! もうっ、加減してよ、下着までビチョビチョじゃない」 「すぐ乾くよ。姫殿下のところに、汗臭いまま帰るわけにはいかないでしょ。透けて困るものも持ってないことだし」 「ちょっとビーコ、それどういう意味かしら?」 そんなエーコたちを、姉たちは暖かい目で見守っていた。 本当に平和だ。世界には危機が迫っているが、今の自分たちのここには平和がある。家を失い、両親を失ったあのときは、まさかまたこんな平穏が来てくれるとは思えなかった。 それもみんな、ベアトリス・イヴォンヌ・クルデンホルフ、あの小さな体で大きな器のお姫様のおかげだ。自分たち姉妹はあの方に大きすぎる借りがある、借りっぱなしではいけない。恩返し、そう恩返しをせねば貴族の矜持に関わる…… そのとき、彼女たちのいる広場に複数の足音が響いてきた。 「ちょうど終わったところみたいね。ほら、みんな連れてきたわよ」 「あっ、姉さんたち。もう、遅いよ」 それは姉妹の次女セトラの声だった。その隣には、キュメイラと六女イーリヤもついている。 だが、足音はそれだけではない。なんと、姉妹たちに続いて十人近い少女たちがやってきたのだ。 「おはようございます、先輩方。我ら水妖精騎士団総勢十一名、ただいま参上つかまつりましたわ」 「よく来たわ。よーっし! みんな、整列! 傾聴! また新しい顔も見えるわね。ようこそ、そしてよろしく。わたしが団長のエーコよ、わたしたち水妖精騎士団はあなたたちを歓迎するわ。いっしょに、トリステインの淑女の未来のために戦いましょう」 エーコが肩まで伸びたサイドテールを揺らしながら宣言すると、少女たちも拳をあげて歓声をあげた。 ”水妖精騎士団(ウィンディーネ)……” これが、彼女たち一団の名前である。そう、これこそがベアトリスが頭を悩ませている真の理由であった。なんと、エーコたちは自ら新しい騎士団を作り出そうとしていたのだ。 団員はエーコたちの姉妹を除いて、現在総勢十一名。皆エーコたちと同じくらいの少女で、この街に勤めている軍人や役人の娘たちである。もちろん全員がメイジであり、エーコたち姉妹がそれぞれ集めてきて、現在も団員は絶賛募集中だ。 しかし、なぜエーコたちはこのような無謀なことを始めたのだろうか? そしてなぜ、こんな無謀なことに十人以上の参加者が集まっているのだろうか? その原因は、実はまた水精霊騎士隊にあったのである。 「団長、よろしくお願いします! 団長たちの噂はかねがね、あの破廉恥な水精霊騎士隊の男を成敗なされたとか」 「聞くところによると、空中高く放り上げて街灯上に吊し上げ、木っ端微塵になされたそうですね。それを聞いたとき、胸のすくような気持ちがいたしましたです」 「なにせ、あの水精霊騎士隊の男たちの軽薄さときたら、ひどいものでしたね。でも、エーコさんたちのお話を聞いて勇気が出ました。あの野蛮な水精霊騎士隊をやっつけましょう!」 水精霊騎士隊への恨み言が機関銃のように少女たちの口から飛び出してくる。実は、水精霊騎士隊の少年たちは時間があると、女の子に声をかけてまわるため、少女たちは彼らのしつこさにうんざりしていたのだ。彼らは年齢的には思春期真っ只中の青少年であり、さらにギーシュの影響で女性に対して大胆になっていた。 「美しいお嬢さん。少しぼくと散歩でもしませんか? お花でも摘みながら、お互いについて語り合いましょう」 こんな具合に誘ってくるのだがら、女の子のほうとしてはいい迷惑としか言いようがない。ギーシュのモットーが、今度は悪いほうに働いた結果がこれだった。 さらに隊長ギーシュの不在もこれに追い討ちをかけた。普通ならば行き過ぎる前に、フェミニズムの塊であるギーシュや、常識人でやや奥手のレイナールがブレーキ役となるが、ふたりともロマリアに行っていていない。大人たちも、コルベールは東方号にかかりきりで、アニエスは頻繁にトリスタニアに出かけていて、ミシェルもいない。歯止めがなくなった少年たちは、「どうせ隊長もロマリア美人を相手にいい思いをしてるに違いない。だったらぼくらも隊長に従ってゆこうじゃないか」と、身勝手な解釈をしたのだった。 つまり一言で言えば、「水精霊騎士隊、被害者の会」である。その気もないのに口説かれて辟易していた少女たちはエーコたちの呼びかけで団結し、今ではついに騎士団を名乗るほどメンバーが増えている。そもそも”水妖精騎士団”という名前も、水精霊騎士隊に当てつけたものであった。 「聞きなさい、男たちは女を下に見ているけど、このトリステインは女王陛下の治める国。白百合の国を、汗臭い男たちなんかに任せておいていいと思うかしら?」 「いいえ! 白百合のごとき女王陛下は、蝶のごとき妖精がお守りするべきです!」 「水精霊騎士隊の隊長、ギーシュ・ド・グラモンは女癖の悪いことで有名なグラモン元帥の息子よ。今はロマリアに行ってるけど、そんなのが帰ってきたらわたしたちの身がどうなるかわかったものじゃないわ。わたしたちの身を守るのは、誰だと思う?」 「はい! わたしたちの身を守るのはわたしたち自身です」 ギーシュにとってはとんだとばっちりである。 「よく言ったわ。わたしたちの力で、水精霊騎士隊をぎゃふんと言わせてあげましょう。そうすれば、クルデンホルフ姫殿下もお認めになられて、公式な騎士団へ昇格するのも夢じゃないわ。さあ、特訓特訓! 着いてきなさい、あなたたち」 エーコに続いて、少女たちも掛け声を一斉にあげて答えた。少女たちは、こんな街では友達もろくに作れず、寂しい思いをしていたので同じ志を持つ仲間が増えるのはうれしかったのだ。 彼女たちは、寄せ集め所帯ながらも本気だった。本気で、水精霊騎士隊と戦って倒して取って代わろうとさえ思っていたのだ。ベアトリスが頭を痛めるのも当然と言えるだろう。しかしベアトリスがそのことをエーコたちに咎めると、将来ハルケギニアを統べようと志している人が自前の騎士団のひとつも持っていなくてどうしますか、と言われると手持ちの人材の少なさを嘆いていたのも事実なのでそれ以上強くも言えないありさまだった。 と、そこへ、広場の入り口から、やや調子っぱずれな声が響いてきた。 後半部へ続く 前ページ次ページウルトラ5番目の使い魔
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「調律者(ロウラー)…?」 バンプレストが発売したシミュレーションRPG『サモンナイト2』の男性主人公(選択制で、女版だと「トリス」になる)。 名前の後ろに「ス」や「モン」が付くと別人になるので注意。 他の作品では『サモンナイト3』の番外編、外伝作品の『サモンナイトクラフトソード物語2』などにも出演している。 声優は『クラフトソード2』、ドラマCD共に岸尾大輔氏。 楽天家でのんき者であるが、やる時はちゃんとやるタイプ。 あと、一部キャラとのEDのせいでプレイヤーからロリコン扱いされる。 蒼の派閥と呼ばれる召喚術を通して世界の真理を研究しようとするアカデミックな集団の新米召喚師。 元は聖王国の北部で生まれ育った浮浪児だったが、ある時召喚術の力が暴走したために町を破壊してしまい、蒼の派閥に保護された。 それ以来、派閥の本部で召喚師になるべく修行を積んでいる。 しかし、試験に合格した途端に追放同然に追い出され、兄弟子のネスティ・バスクと共に見聞を広めるための旅に出た。 旅先で聖女アメルと出会い、彼女を守るために行動を共にする。 その他の詳細は女主人公のトリスを参照されたし。 人気は低い訳ではないのだが、トリスとネスティのコンビが圧倒的人気なためか、基本的に外部作品での出番が少ない。 これに伴なってマグナのカップリングのお相手筆頭たるアメルの露出もあまり…。芋という強烈なネタ要素はあるのだが トリスと違って「シャレになってない」「むぅ」などの口癖や、このキャラと言えばこの台詞というものが無い、というのも原因だろうか。 小説も一番最初のドラマCDもトリスだったし。しかしドラマCD『あの日のかけら』でやっと主役になった。 このドラマCDでは前後編で2時間ほどの長編であり、主人公(マグナ)の先祖の話などが掘り下げられている。 また、このドラマCD内で使用された新技が、PSPのリメイク版『サモンナイト3』に必殺技として逆輸入された。 『4』と『5』の間のストーリーである公式小説の『サモンナイトU X〈ユークロス〉』においても、彼が『2』本編の主人公として登場する。 + …するのだが …するのだが、その小説では、マグナ(とトリス)は『2』の黒幕が本来のクレスメントの末裔の体から作り上げたホムンクルスという事が判明。 結果、歴代主人公でも普通の人間だったのに、歴代トップで出生が重い人物になってしまった。 原作中の性能 トリスとは違いAT・DEFが高いキャラとなっている。 戦闘タイプに育てると縦斬りで攻撃力の高い大剣などが使えるが、歩数が3のまま成長しないため、 前線に辿り着く頃には敵が粗方倒されていた、なんて事もある。また、スキルも少ない。 魔法タイプならばMATが高くなるがMPがあまり上がらないため、強力な召喚術をあまり使えない。 そのため、アメルが覚えるMPを他のキャラに与えるスキルを使ったり、MPが上がるアクセサリーを装備したい所。 『サモンナイト3』では番外編で使用可能。リメイク以前は番外編だけの出番であったが、 PSPのリメイク版では傀儡システムによってブレイブメダルを支払う事で、本編でも使用可能となっている。 『サモンナイト2』でネックだった歩数の低さおよびスキルの少なさが、スキルシステムのおかげで簡単に上げられる様になった。 正面から攻撃する事で威力がアップするフロントアタックや、相手の反撃を封じる反撃封じなどの戦闘系のスキルを多く覚えるなど、 総じて『サモンナイト2』本編より強化されている。 ただし、システム変更によってPS2版では可能だった「戦士系なのにSランク召喚術使用→前線に突っ込んで殲滅」のコンボは不可能となった。 ゲスト出演の『クラフトソード物語2』では、おまけモードのタイムアタック内でのみ操作出来る。 通常攻撃とアメルの加護の祈り(回復魔法)とネスティのギヤメタル(ベズソウ召喚)のアシスト魔法しか使用出来ない。 なお、マグナとトリスのタイムアタックモードのラストでは、アナザーカラーのマグナ&トリスの2人を同時に相手にする事になる。 MUGENにおけるマグナ + 暗黒内藤氏製作 暗黒内藤氏製作 『クラフトソード物語2』のドットとエフェクトを使用したもの。 仕様も同作をベースにしており、原作同様に大剣を使って戦うキャラである。 一部アレンジも施されており、本来一部のキャラしか使えない必殺技(全てではないが)や、 1ゲージ技としてテテ、ポワソ、ミョージン、ライザーといったシリーズのマスコット的召喚獣を召喚する魔法が追加されている。 流石に原作より回復量と威力は抑え気味ではあるが、アメルの治癒とネスティの召喚術も2~3ゲージ技として使用出来る。 AIは未搭載。 なお、護衛獣は原作では戦闘に参加せず、『クラフトソード』内でのドットが存在しないのだが、このマグナには補助魔法係として実装されている。 イントロでレオルド、ハサハ、バルレル、レシィのいずれかを選択すると、その護衛獣に対応した補助魔法を使用出来る。 補助魔法は0.5ゲージ消費かつ1ラウンド1回使用可能で、効果は発動したラウンド中は永続。 + 補助魔法の効果 レオルド⇒ガードボディ:受けるダメージを25%カットする ハサハ⇒アタックウェポン:通常技&必殺技の威力1.25倍アップ バルレル⇒マジックアップ:ゲージ技の威力1.25倍アップ レシィ⇒クイックムーブ:移動速度1.5倍&バックステップ完全無敵化 + re5t氏製作 re5t氏製作 こちらも『クラフトソード物語2』のドットを使用して作られている。 基本的な仕様は同氏製作のトリスと同じであるが、発生やリーチ、移動速度などに違いがある。 アレンジ要素として『クラフトソード物語3』の魔法・必殺技の追加や、 オプションキャラに機械兵士ガンヴァルドが設定出来るようになっている。 AIは未搭載。 出場大会 「[大会] [マグナ]」をタグに含むページは1つもありません。
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アトリエで泡立つ水について調べるイベント 1週間後に取りに行くイベント(クーデリア、リオネラの有効度が必要?) ネーベル湖畔へ行けるようになる 食堂でティファナに襲われるイベント タントリスを仲間にして採取に行くとタントリスと大臣のイベント 採取から帰ってくるとコオルとイベント カゴに入るアイテムが100に増える パメラのお店でなぜお化けが怖くないかのイベント タントリスが大臣から受け取ったものを聞きにアトリエに来る。 調合後のアトリエで、ホムがお使いの帰りに ロロナがステルクの首を触るイベント アトリエにイクセルがブタを持ってないか訪ねて来る。 黒い大樹の森に行けるようになる。 ホムがいないイベント アトリエから出るとクーデリアがホムに会うイベント 結果報告 大臣からの依頼。ラプターステインを探す
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年齢:71歳誕生日:一角獣の月22日所在:ベルンハウゼンクラス:市民系使用武器:なし肩書き/通称:軍師 シュバルツガルト帝国の軍師。 前任のカルマが出奔したために軍師に迎えられた。 元は『第二騎士団』の参謀を務めており、シルヴァライン、ヴァージニアの攻略戦でも権謀をめぐらせた。 --------- 1318年のトリスタン戦役において、グリマス攻略のために召喚され、見事に『グリマス聖騎士団』団長オルド=ランドリックの捕縛、グリマス降伏を成し遂げた。 所有AF: