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前ページ次ページゼロの夢幻竜 第十六話「漆黒の森へ」 翌朝、魔法学院ではいつもと変わらぬ情景が……あるはずも無かった。 昨夜遅くに起きた騒ぎは収束の気配を見せる事無く続いていた。 賊の手から守り続けていた秘宝中の秘宝である、『深海の宝珠』が盗まれたのだから無理も無い。 宝物庫の壁にでかでかと開いた穴は事件直後に何事かとやって来た教師陣の口を開きっ放しにするのに十分だった。 そして別方向の壁には『土くれ』のフーケの犯行声明。 「『深海の宝珠』、確かに領収いたしました。土くれのフーケ」 噂に違わぬ貴族の面々を馬鹿にした文言。 教師達は学院長室に程近い一室に集められたものの、好き勝手な事ばかりを言っていた。 「土くれのフーケめ!貴族の邸宅を荒しまわるだけに飽き足らず魔法学院にまで手を付けるとは!メイジの風上にも置けんやつじゃないか!盗人の時点で元々とも言えるがな!」 「大体、昨晩の衛兵は何をやっていたというのだ!」 「君は衛兵如きに安穏として全幅の信頼を置いていたというのかね?!連中は所詮平民だぞ!それよりも責任を問うべきは先日の当直者ではないのかね?!」 言葉の力に物理的な力があるのだとすれば、正に矢で射す様な勢いを持った言葉だった。 それに「ひっ」と小さい声を上げて反応したのがミセス・シュヴルーズ。 通常当直というのは夜通し門の付近にある詰め所にて待機していなければならない。 しかし彼女はというとその時、魔法学院を襲うなどという輩がいるなどとは露程も思わず、当直の任を怠って自室で呑気に眠っていたのである。 「ミセス・シュヴルーズ!昨夜の当直はあなただったはずですよ!どういう事なんですか?!」 教師の一人が追及を始める。 オスマン氏がこの場にいないので、その前に責任の所在がどこにあるのかというのをはっきりさせておこうというのだろう。 「も、申し訳ありません!」 「泣いたところで宝物が戻ってくる訳ではないのですぞ。 ミスタ・コルベールの談に因ればあれは魔法でも冶金でも複製する事は不可能で、金銭的にも学術的にも天文学的な価値を持つ代物との事。 故に!賊から守る為首都から離れたこの魔法学院の宝物庫において厳重に保管していたのに如何なされるおつもりですか?!」 「そ、それは……」 「これこれ。女性を苛めるものではない。」 その場に現れたオスマン氏が追及をしていた教師ことミスタ・ギトーを宥める。 しかし彼は厳しい口調を崩さず答えた。 「しかしですな、オールド・オスマン!ミセス・シュヴルーズは当直であったにも拘らず呑気に自室で眠っていたのですよ!これは彼女の責任問題であるはずです!」 口泡飛ばし激論するミスタ・ギトーを余所に、オスマン氏は髭を撫でる。 「ミスタ……なんだったかのう?」 「ギトーですっ!しっかりしてください!」 「そうそう、ギトー君じゃったな。感情に走ると見えるものも見えてこんぞい。という事で訊こう。この中で学院に就任して以来まともに当直を果たした者がいるかの?おったら手を挙げなさい。」 言われて挙がる手の数はゼロ。 教師達は暫くああだこうだと言っていたが、オスマン氏がやけに目立つ咳払いをした後は自分達の不甲斐無さに思いきり肩を竦めていた。 オスマン氏は小さく一息吐き話を再開させる。 「ご覧の通りじゃ。この一件、ミセス・シュヴルーズだけに責任があったということではない。我々全員が責任を感じ折り入って恥じるべきじゃろう。 賊は魔法学院という場所、そして多くのメイジがいるという条件を逆手にとってこれだけ大胆な犯行に及んだ。勘違いしておる者もおるようじゃが、これは学院における誇りの問題じゃ。 加えて、誰が始めに言い出したかは知らんが衛兵はあの時いち早く現場に駆けつけておったぞ。わしは彼らの対応を批判するつもりは無いがどうじゃ?異論のある者はおるか?」 その言葉に周りは一瞬水を打ったようにしんと静まり返る。 オスマン氏は壁に開いた大穴を撫でながら続けた。 「さて、賊の犯行を一部始終見ていたものがおったそうじゃがもう来ているかね?」 「はい、この3人です。」 オスマン氏の問いかけにミスタ・コルベールが答え、当の3人に前へ出るように道を開ける。 その3人とは勿論、ルイズとキュルケとタバサの事である。 ラティアスは元の姿に戻って、滞空した状態でルイズの少し後ろに控えていた。 背中にはこの一件に興味を持ったらしいデルフリンガーが終始黙っている事を条件に抱えられた状態で連れて来られていた。 ラティアスはオスマン氏のように、ある程度事情を知っている者達の前では人間形態の姿も出来るが、誤解を与えないよう一応元の姿になっている。 とは言え、人の形をとったとしても使い魔なのでカウントされる訳ではなかったが。 「ふむ、君たちか。では、その時の様子を出来るだけ詳しく説明してくれんか?」 それにルイズが「はい!」と答え、一歩前に進み出てから見たままを話し出した。 「土ゴーレムが現れて壁を壊しました。肩の辺りに乗っていた黒いマントのメイジ……フーケが宝物庫の中から宝石箱のような何かを……『深海の宝珠』が入っていた箱だと思いますけど、それを取っていきました。 それからまたゴーレムの背中に乗って外に向かったんですけど……城壁を越えた所だと思います。突然ゴーレムは崩れて土になってしまったんです。」 「土というと、あそこにある小さい丘のような盛り土……あれがその残滓と?」 「はい、そうです。そこに駆けつけたら本当に土しかありませんでした。人影も私たち以外は一つもありませんでした。」 「そうか……後を追おうにも手懸かりは無しという訳か。」 オスマン氏は暫しの間考え込んでいたが、何かを思い出したかのようにミスタ・コルベールに尋ねる。 「ところでミス・ロングビルが見当たらんのじゃが、何処に行ったか分からんかね?」 「それが朝から姿が見えないのですよ。」 「この非常時に一体どうしたというんじゃろうか?」 そう噂をしていると当の本人がルイズ達の更に後ろから息も絶え絶えといった感じで現れた。 「ミス・ロングビル!一体何処に行っていたんですか!大変ですぞ!事件ですぞ!」 コルベールは彼女の姿を認めると一気にまくしたてた。 しかし彼女は非常に落ち着き払った声で応対する。 「申し訳有りません。朝から急いで調査をしておりまして……」 「調査?」 「そうですわ。今朝方目を覚ましてみたらこの騒ぎ。そして宝物庫はご覧の通り。壁に今国中の貴族を震え上がらせているフーケのサインを見つけたので調査を行いましたの。」 「うむ。仕事が速いものじゃの、ミス・ロングビル。」 ……その時、誰かが学院長の方をしっかりと見ていたならば気づいたであろう。 彼の目の奥に鋭い一条の光が走った事を。 「それで?結果は?」 「はい。フーケの居所が掴めました!」 「な、何ですと?!」 コルベールは素っ頓狂な声をあげて驚く。 対してオスマン氏は落ち着いた表情でその先を訊く。 「誰にそれを訊いたのかね?」 「はい。近在する農民数人に訊きこんだところ、近くの盛りにある廃屋に入っていった黒ローブの男を見たそうです。恐らく彼こそフーケであり、その廃屋はフーケが隠れ家として使っている所ではないかと。」 「して、その場所はここからどれくらいの距離にあるのじゃ?」 「はい。徒歩で半日、馬なら4時間ほどといった所です。」 その答えにコルベールは興奮しきった表情で反応した。 「オールド・オスマン!早速王室に報告しましょう!王室衛士隊に今回の事を依頼し、兵隊を差し向けてもらわなければ!」 しかしオスマン氏は首をゆっくりと横に振り目をむいて怒鳴った。 「馬鹿者!そんなことをしている間にフーケはもっと遠くに逃げるわ!『深海の宝珠』も遠くに離れてしまうぞい!しかも、自分達を襲う火の粉を自分達で満足に払えんで貴族も何もあるものか! これは魔法学院で起こった問題じゃ。という事は我々だけで解決せねばならん!!そこでじゃ!」 オスマン氏は自分とコルベールのやり取りを見ていた教師陣に対して振り向き、一つ咳払いをした後尋ねる。 「フーケの捜索隊を編成する事にする。我こそはと思うものは杖を掲げよ!」 しかし杖は一本も上がらない。 全員隣の顔を見合わせて『どうしようか?』と囁いているばかりだ。 「これ、誰も杖を掲げんのか?名を上げる良い機会じゃぞ。」 その時すっと一つの杖が上がる。掲げたのはルイズだった。 それを見たミセス・シュヴルーズは驚き声を上げる。 「ミス・ヴァリエール!何をしているのです?!あなたは生徒ではありませんか!オールド・オスマンは教師の方々にお訊きなされたのですよ?ここは教師に任せて……」 「でも誰も杖を掲げないじゃないですか。」 言われてみればその通り。教師陣には反論の余地すらない。 するとラティアスがルイズに話しかけてきた。 「ご主人様。私もご一緒します。」 「当たり前でしょ。使い魔は主人が何か行動を起こすときは、常にその隣にいて付き従うものなのよ。でも……あなたがいるなら、その、凄く安心ね!」 「有り難う御座います、ご主人様。またお役にたつ事が出来ます。」 「ありがと。けどその言葉はフーケを捕まえた時にとっておいた方が良いかもしれないわね。」 ルイズがその言葉を言い終えると同時に、その隣からも杖が上がった。 見るとキュルケが口元に薄笑いを浮かべつつ杖を掲げていた。 それを見たコルベールは驚く。 「ミス・ツェルプストー!君も生徒じゃないか!」 「ヴァリエールには後れを取ってはいけないと思いまして。」 その言葉を聞いたルイズは取り澄ました表情で言い返す。 「別にあんたの助けなんか欲しくないわよ。私一人でも何とかしてみせるわ!」 「ルイズ~?思い上がりって怖いのよ。相手はトライアングルクラスのメイジで、それも『土くれ』のフーケなのにゼロのあなた一人でどうかなるわけないでしょう?」 「な、何よっ!私の使い魔に負けたくせに!」 「あくまでも、あなたの使い魔に、ね。あなた自身は私と勝負してはいないわ。分からない?あなたの今の自信は使い魔あってこそのものだと私は思うけど。 もしラティアスがこの場にいなかったら、あなた名乗り出ていたかしら?」 言われてルイズはその的を射た意見に返す言葉すら無くなってしまった。 考えてみれば今まで自分は強大な力に対しておんぶに抱っこという姿勢はあまり取っていなかった。 貴族としてのプライドがそうする事を妨げていたのかもしれない。 でなければ、自分を尻目にどんどん魔法の才能を現していく姉達に、少しでも追いつきたいという自己顕示の欲求だろうか。 が、それが何年もコモン・マジックも碌に使えない事と平行して、次第に鬱屈した物として溜まっていった事は分かる。 そしてラティアスを召喚した事でそれが一気に昇華されてしまったという事も。 自分はそれから使えるようになった魔法など一つも無く、相も変わらず言われたままのゼロだという事も。 そう考えると無性に悔しくなってきた。 キュルケが言った事が正しいためか、ラティアスも今回ばかりはだんまりを続けている。 と、更にキュルケの横にいるタバサが杖を掲げる。 「タバサ。あんたはいいのよ。関係無いんだから。」 「心配。」 「そう……ありがとう。タバサ。」 キュルケの声に被さるようにタバサは即答した。 若干一名の自信が疑問に感じられる所ではあったが、三人の様子を見たオスマン氏は納得するように頷きながら笑った。 「そうか。では、頼むとしようか。……そう言えばミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持つ騎士と聞いておる。良い働きを期待しておるぞ。」 その言葉にそこにいた全員が「えっ?」といった表情でタバサを見つめる。 が、当の本人はなんて事はない様にただ無表情でその場に立ち尽くしているだけだ。 「本当なの?タバサ?」 彼女と親しいキュルケさえも驚いている。 シュヴァリエの称号……それは王室から出る称号としては最下級のものであるが、純粋に個人がなした偉業に対して送られるものだ。 爵位は領地を買ったりする事で獲得できるが、シュヴァリエだけはそうもいかないからだ。 しかもそれをタバサほどの若年者が手に入れている事も驚きに輪をかけていた。 オスマン氏はコホンと咳払いを一つして続ける。 「勿論本当じゃ。そしてミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を多く輩出した家系の出で彼女自身が出す炎魔法も強力と聞いておる。」 いきなりの指名にキュルケは慌てて気取ったポーズをしてみせる。 「そして、ミス・ヴァリエールは数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵家の息女であり、えー、将来有望なメイジと聞いておる。 現にその力の現われとも言えるその隣にいる使い魔も大変優秀と聞いたが?」 それを聞いたルイズは少し複雑な心境ながらも澄ました顔で胸を張ってみせる。 オスマン氏は三人をそれぞれ見ながら特にラティアスの方を見ていた。 左手に刻まれたガンダールヴのルーンが正しいのなら、フーケに遭遇する事があったとしても切り抜ける事が出来る確率は高い。 興奮したコルベールがオスマン氏の後を引き取る。 「そうですぞ!しかもミス・ヴァリエールの使い魔はガン……!」 その後は言えない。 オスマン氏がコルベールの口を慌てて塞いだからである。 そしてその頃になると教師達はすっかり黙ってしまっていた。 コルベールの口を片手で塞ぎつつ、オスマン氏は威厳のある声で言う。 「今ここに杖を掲げた三人の意思に勝てるというものがある者は、前に一歩出たまえ。」 出るものは誰一人としていない。 それを確認したオスマン氏は三人の方に向き直る。 「魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する。」 言うとルイズ、タバサ、キュルケは真顔になり、直立して同時に「杖にかけて!」と唱和した。 それからスカートの裾を摘まんで恭しく礼をする。 ラティアスはどうしようかとおろおろしていたが結局身を低くし、頭と首を床に垂れさせる事にした。 「それでは馬車を用意しよう。それで向かうのじゃ。魔法は目的地に着くまで温存しておく事。良いかな?ちなみに三人の本日の授業については免除という事にする。ではミス・ロングビル!」 「はい。オールド・オスマン。」 「彼女達を手伝ってやってくれんか?」 「もとよりそのつもりですわ。」 オールド・オスマンの申し出にミス・ロングビルは頭を下げた。 「うむ。宜しい。壁の修復については、そうじゃな……ミセス・シュヴルーズにやってもらう事にしようかの。では皆、朝食に向かうとしよう。」 オスマン氏はそう言って全員を解散させた。 しかし、その中でたった一人例外がいた。 「あー、ミス・ヴァリエールとその使い魔は朝食の後で私の部屋に来なさい。直々に伝えねばならん事があってな。よいかね?」 「あ、はいっ!分かりました!」 一体学院長先生は何のご用なのかしら? そう疑問に思っていたが、お腹の虫が鳴るのをキュルケに聞かれたルイズは、そんな事などあっという間に忘れて怒りを爆発させていた。 前ページ次ページゼロの夢幻竜
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春の使い魔召喚の日、ルイズは召喚に成功した。 そして、それは前代未聞の使い魔の召喚であった。 てゆーか、神様を召還したのだ。 ルイズが呼び出したそれは、見たことも無い服を着た少年であった。 周囲を取り囲む学生達も唖然とする、勿論ルイズも。 「あ、あ、あああんた、誰よ」 人間を使い魔として呼び出すなんて、いや神様なんだけどそれでも聞いたことが無い。 問われた男の子は、周囲を見て答えた 「………MZD、つーかココどこよ」 彼の名はMZD ポップンミュージックのプロデューサ謙神様 とは言っても、どう見ても少年 生まれは、 アマゾン川流域青木町 趣味 木登り。 すきなもの ピーターパン(永遠の少年) きらいなもの それはちょっとね …説明は以上である (あっれ?…たしか次のポップンミュージックの事で話し合いしてて…寝てて気付いたら…) 「あ、あ、あああんた、誰よ」 自分を召喚したらしい、桃色の髪の娘が問いかけてきている。 周囲を見回す。 城とか、変な服着た少女と男子ついでにおっさん一名 ポップンでは見た事ない奴等ばっかりだ 新キャラは大体覚えてるが…顔以外服が同じ、しかも1P2Pなら分かるがキャラ数が半端ない あとドラゴンとか色々いるし、選ぶ時間ねーんだから、少なくしろよ… とりあえず、情報が先これがMZDの考えた結果であった 「………MZD、つーかココどこよ」 ゼロのリミックス 「ミ、ミスタ・コルベール!やり直しを!やり直しをさせてください! こ、こんな平民(ry「召喚のやり直しは無理です、契約をしない限り、進級できませんよミス・ヴァリエール」 とりあえず、待つのもだるくなったのでMZDは口を動かした。 「コルベール…さんだっけ?ここって、ポップンの世界じゃねーの?」 「は?世界?それは一体どういう…」 「あぁー、だり、とりあえずココは、ポップンミュージックの世界なのか聞いてんの」 「? この世界の名前はハルケギニアですが…加えてここはトリステイン魔法学校です。」 「ハルギニア…トリステイン…………聞いたことが無いな………」 MZDは焦った、ポップンの世界ではない?… んじゃなんだ、もしや別の世界?あるあr・・・ねーよな・・・ 「ほら!ミスタ・コルベール!怖いですよ!特に影が、つーか何か後ろの影、スタンド!?あれ絶対ザ・ワールドとかオラオラする人種ですよ!」 「だからミス・ヴァリエール、やり直しは認められないと…」 「しかし!」 。 「えっーと、ミス?ヴァリエール、いいか?」 色々と時間がかかりそうだったので、めんどくさくなったMZDは間を割った 「なんでもいい、契約やらなんやらやってやるよ、暇だし」 「けけけけ、け契約って、そんな!暇だからって!!!!」 「こっちも時間ねーんだよ、 さっさとしてくれ、そいつが進級出来ないんだろ? ま、こっちも神だし迷いの手ぐらい出してやんないとな、後味悪いし」 「で、でも………え?神?」 話は平民と使い魔として契約を結ぶという流れになってきたことで周囲の生徒達が騒ぎ始める。 「ルイズ…あの歳でショタかよ…」「ショタって良いよね…」「あの影動いてね?」 「「「「「「てゆーか、神!!!!!!???」」」」」 ビビクッ! 真っ白に思考停止していたルイズであったが、生徒の一人が発した台詞で我に返った。 (え?神、いやつーか少年…おおおおおおおおおおちつけああたたたたし、冷静に…) 「どうしたのかね。契約をしたまえ、ミス・ヴァリエール」 「帰って良いか?時間せまってるし」 周囲の生徒達も口々に「契約」と騒ぎ始める。 ごめん、続かない 『契約』…『契約』…『契約』…『契約』…『契約』 ルイズの周囲を『契約』という言葉が渦巻き始める。 それらと場の空気がルイズの乙女心を侵食し始める。 (神つーことは、あたしもしかしてすごいの読んだの!!!? でも、どうみても変な服着た少年だし…あーもーめんどくさい!!!!) 「じゃ、じゃあMZDし、失礼します…」 進級かダブり、思考回路がショートしてしまった少女は彼…もとい神に使い魔になる事を選んだ 「あいよー」 (か、軽!!) 乙女なルイズが心の何処かで静止しているのを感じるが、ショートした思考は止まらない。 ルイズは呪文詠唱を開始した。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」 こうして彼女は神に口付けを交わし、使い魔の契約を交わしたのであった
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前ページ次ページゼロの軌跡 第十話 蝕、繋がる世界 「ヴァリエール様、レンちゃん。ようこそ、タルブ村へ!」 「久しぶり、シエスタ。元気そうで嬉しいわ」 「紅茶とデザートが楽しみで飛んできたのよ」 「今日は村を挙げて歓迎しますから。覚悟しておいてくださいね」 タルブ村に着いたルイズとレンはシエスタの歓迎を受けた。 覚悟?と首を捻る二人だったが、それを問う間もなく腕を引かれ彼女の家へと押し込まれる。村人の歓声が、二人の後ろで閉じた扉をこじ開けんばかりに揺るがした。 「来たぞ、われら平民の救世主!」 「ミス・ヴァリエール!気高くも偉大な公爵令嬢!」 「ミス・レン!可愛らしくも異才の天才戦士!」 「新しい貴族。平民を守る女神の来訪だ!」 「村の人達に一体何て伝えたのよ、シエスタ」 「いえ、私のせいだけではないんですよ。だけ、では…」 恰幅のよい女性がいきなり抱きついてくるのをかわすことも出来ず、ルイズは右腕にレンは左腕にそれぞれかき抱かれた。二人よりも遥かに豊満な胸。濃厚な木と草の香りが立ち込める。 ひとしきり揉みくちゃにされながらもどうにか解放されたルイズとレンの周りにはたちまち人垣が出来る。口々に褒め称える村人への対応に苦慮しながら、後でシエスタを問い詰めようと固く決意する二人だった。 遠いところを旅されてお疲れだから、とシエスタのとりなしの甲斐あってかやっと落ち着くことの出来たルイズとレン。客間へとあがり、淹れてもらったお茶を飲みながら話を聞くことにした。 「で、シエスタ。どんな英雄譚を村中にばら撒いたのかしら?レンは何匹のドラゴン相手に大立ち回りをやってのけたことになってるの?」 「そんな人聞きの悪いことを言わないで、レンちゃん。あの、ルイズ様もそんな目で見ないでください。 ありのままを話しただけですよ。他の貴族が徒党を組む中で彼らに喧嘩を売って、平民の私を助けてくれたんだって」 悪びれずに答えるシエスタ。思わず頭を抱えるルイズ。一人優雅にカップを傾けるレン。 「それにしたってあの熱狂振りはねぇ…。なんでも私は気高くて偉大な公爵令嬢らしいじゃない」 「レンは天才戦士なんですって。まあ間違いじゃないけどね」 「そうですよ、ルイズ様ももっと堂々と振舞ってください」 ゼロであることを認めたとはいえ、ルイズから劣等感が完全に払拭されたわけでは無論なかった。 最後まで一人で彼らに立ち向かえたのならばまだしも、レンに助けてもらったと認めているルイズは素直にその賛辞を受けることが出来なかった。しかも、肝心の決闘は全てレン一人の実力ではないか。 そう考えるとやはり自分はその賞賛に値しない。ルイズは懊悩する。 結果、行き場のない戸惑いは糾弾にその姿を変えて矛先をシエスタに向けた。 「それだけでああも歓迎されるとは思えないけど。大方、覚えのない善行を二、三十創りあげたでしょう。今なら正直に話せば許してあげるわよ」 「そんなことしてないですって。本当ですよ。ヴァリエール様。 もう一つの理由は、あれです。ヴァリエール様とレンちゃんが町や村を周って平民の力になってるっていうじゃないですか。その話を何人もの旅の方が触れ回ってるらしくて。うちの村にも来て熱く語っていましたよ」 その答えにルイズは目を見開き、レンはカップを持つ手を止めた。 二人ともそこまで評判になることをやっていたという自覚はなかったのだ。 メイジではなくとも立派な貴族としての、その自らの修行の一環としてそれを行っていたのだし、 レンはといえばその理由の多くを、帰還の手がかりを探すことが占めていた。無論のこと、ルイズとの旅は楽しかったし、行く先々で感謝されるのには確かに喜びを感じてはいたが。 「あのね、シエスタ。私別にそんなつもりでいたわけじゃ…」 「なら更に素晴らしいじゃないですか!意図しての人気取りでなく、その自らの望む姿にかくあろうとした、無為から生まれた行為だなんて。流石はヴァリエール様です。これはみんなに伝えないと!」 「…もう何を言っても駄目みたいよ、ルイズ」 早速新たなルイズ伝を広めようと立ち上がったシエスタを押し留める。 尾ひれ背びれをつけないよう厳重に釘を刺し、給仕のために下に降りていくシエスタを見送る二人。 「大丈夫かしら…」 「レンはシエスタが大騒ぎする方にナサロークの皮三枚賭けるわ」 「私も同じ方にペレグリンの羽五枚」 賭けにならないじゃない、とレンが口を尖らせた時、階下の拍手と喝采が床を震わせた。 「なんていうか…」 「良くも悪くも田舎よねぇ…」 夕食までの時間を釣りや散策でのんびり過ごしたルイズとレンを待っていたのは、シエスタが腕によりをかけた料理だった。 ヨシェナヴェという奇妙な語感のそれは名前と同じく二人の舌には馴染みのないものであったが、美食を食べなれているルイズをも存分に満足させた。 が、久方ぶりの村の宴がそのまま大人しく終わりを迎えるはずもなく。 「なるほど。覚悟、ね」 思わずレンは一人ごちる。 皿に大盛りにされた具もなくなり鍋の底が見え始めた頃には、場は惨状を呈していた。 周りに赤い顔をしていない人間は一人もいないし、既に足元には酔いつぶれた男たちで立錐の余地もない。 誰も彼もが相手を選ばずに踊り狂い、歓声と嬌声は途切れずに広間を飛び交う。誰かが歌を口ずさめばたちまちソロはデュエットになり、コーラスへとその場の人間を巻き込み広がっていく。 主人も客も上座も下座も貴族も平民もなく手を鳴らし足を打ちつけ、笑顔で開かれた口は決して閉じることはない。 その喧騒の中でも一際大きく響くのはグラスが打ち鳴らされる音。乾杯の声は一瞬たりとも途切れてはいなかった。 レンは年齢を理由に差し出される酒を断ることも出来たが、ルイズはそうもいかず。一杯飲み干せば二杯の酒が、二杯を空にすれば五杯のグラスが、息つく暇もなく更に多くのワインが注がれた。 シエスタにいたっては完全に出来上がって、先ほどから少佐もかくやという演説をぶちかましていた。 「私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが好きだ。私はレンちゃんが大好きだ」 酒と料理で熱く火照ったレンの身を貫く悪寒、首に冷たく氷の柱。夜のシエスタには気をつけろと囁く本能に従い、倒れる寸前のルイズを引き摺って外に出る。 その背中に突き刺さる、シエスタの恐ろしいまでにうららかな宣誓。 「我が家の名物特製ヤムィナヴェ、行きますよー!」 魔女の釜はまだまだその蓋を開けたばかりのようだった。 「有難う、レン。助かったわ」 「ルイズがまたアンロックでも唱えるのはいただけないからよ」 涼しい風が二人を優しく撫でる。回った酒も心地いい冷気に醒めていくようだった。 そういえば数日前にもこうやってレンと歩いたことをルイズは思い出す。 その時はレンが少しだけ、その外見に相応しい少女らしさを垣間見せた気がする。 もしかすると今夜も彼女の話を聞けないだろうか。 「ねぇ、レン」 「なあに、ルイズ」 「その…、元の世界にはやっぱり帰りたいのよね」 直接的に聞くことも躊躇われ、かといって話の接ぎ穂にも困り、ルイズは今まで隠してきた自分の願望交じりの言葉を吐き出してしまう。 今のルイズにとって、レンはかけがえのない親友でもあり盟友でもある。少なくともルイズはそう思っていた。レンがルイズのことをどう思っているかは未だ確たる答えを得てはいなかったが。 これを聞いてしまうと、ルイズは自分の心が覗かれてしまうような気がしていたのだ。 「どうかしらね。よくわからないわ」 返ってきた声は冷静で、以前見せた緩みはなかった。 レンなりに先日の失態を、勿論ルイズは失態などとは思っていないが、気にしているのかもしれなかった。 「トリステインでの暮らしも悪くないし、リベールに戻って何かするわけではないのだけど」 レンの答えはそこで途切れる。 否定で終わったその言葉の続きが気になったが、ルイズにそれを問うことは出来なかった。 会話がとまり、不自然な沈黙から目をそらす様に向けた視線の先。村の外れ、一角だけ不自然に整理された木立がルイズの目を引いた。 そこにまるで祀られているかのように、石碑が置かれていた。 「あれ、なにかしら?タルブ村の守り神か何「…ッ!!」」 ルイズの言葉に視線をそちらに向けた時、レンのつぶらな瞳は大きく見開かれた。 そしてレンはルイズの言葉を聞かずに石碑に向かって走り出した。 間違いない。あれだ、あの石碑だ。 アンカー。アーティファクトによって作られた揺らぐ虚構世界の中で、庭園と星層を繋ぎとめていたそれ。 あれこそが、トリステインを含むこの世界とリベールを含むあちらの世界を結ぶ鎖。 遂に見つけた、元の世界に帰るための通行証。 レンは脇目もふらずに石碑に走り寄る。 「ちょっと、レン。どうしたのよ」 「ティータ、クローゼ。聞こえる?レンはここよ。オリビエ、アガット、ジン。誰か返事をして」 ルイズの声も耳には入らないのか、闇に佇む石碑に向かってレンは必死に呼びかける。 「シェラザード、ミュラー、ユリア、リシャール、ケビン、リース」 それでも石碑は何の反応も見せなかった。 それをわかっていながらも、レンは叫ばずにはいられなかった。 「…エステル!ヨシュア!」 かそけきその祈りが女神に届いたのか、その名前こそに込められていたものがあったのか。 石碑は青い輝きと共に、佇む人影をを映し出した。 中空に描き出されるスクリーンにはエステルとヨシュアの姿があった。 場所はどこかの湖畔だろうか。雲一つない青空の下、釣り糸をたれるエステルと少し離れて火を熾すヨシュア。 しかし、姿は見えども声はせず。届けられるのは映像だけで、魚の跳ねる音はおろか、火の爆ぜる音も二人の声一つすら聞こえてはこなかった。 「あの人がエステル…」 「ねぇ、エステル!こっちを向いて!」 叫べども叫べども、声は辺りの闇に吸い込まれるばかり。 石碑が青い光を失い、次第に朧げになっていくその姿に耐え切れず、遂にレンは悲鳴のように彼女にすがった。 「助けて!レンを助けて!エステルッ!!」 その時、エステルが振り向いた。 無邪気なその顔には驚愕が彩られ、レンに手を伸ばす。 レンもその短い腕を、あらんかぎりに伸べる。 しかし、その手は繋がることなく、石碑が光を失うと同時にエステルとヨシュアの姿も溶けるように消えていった。 伸ばしたその腕を力なく下ろし、レンは膝をついた。 ルイズもまた、言葉もなく立ち尽くすばかりだった。 このままではいけないと、一歩踏み出したルイズにレンは一言、彼女を拒絶した。 「来ないで。…しばらく一人にしておいて」 前ページ次ページゼロの軌跡
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前ページゼロの写輪眼 イタチは自分の名を言うと共に全身に力をこめた。……弟のことを考えれば今すぐにでも自分の手で命を絶つべきなのかもしれないが、今は状況が見えなさ過ぎる。 自分の身に何が起きたのかを知るまでは、様子を見ることに腹を決めた。 しかし予想に反して、少女は何の反応も見せなかった。むしろ、 「なんで、なんで私が呼び出した使い魔がこんなのなのよ!」 と不満げに愚痴を漏らしている。だがその反応に、イタチは眉を上げた。 (……俺のことを知らない? それに使い魔だと?) 自分で言うのもなんだが、『うちはイタチ』の名は各国に名が知られすぎている。属している組織、『暁』のせいもあるのだろうが、何より自分がしてきたことがあ まりにも罪深すぎる。手配帳も人相書きも出回っているはずだし、この反応はどうもおかしい。しかも使い魔とはどういう意味だろうか? まさか、口寄せの術で呼び 出される者たちのことを言っているのだろうか? 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民呼び出してどうするの?」 「しかも妙な格好をしているし。さすが『ゼロ』のルイズだ!」 イタチがそこまで考えたとき、周囲の人垣から目の前の少女に向かってそんな声がかかってきた。少女、ルイズというらしい、は顔を真っ赤にして 「ちょ、ちょっと間違えただけよ!」 と反論した。 「ミスタ・コルベール! もう一回召喚をやり直させてください!」 そして、人垣の中にいるローブを纏い、大きな杖を持っている禿頭の中年男に向かって叫ぶ。しかし男は首を振った。 「だめです。ミス・ヴァリエールも知っているでしょう? 春の使い魔の儀によって現れた『使い魔』で今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進みます。一度 呼び出した『使い魔』は変更することができません。なぜなら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからです。好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかないのです。 ……それより早く、『コントラクト・サーヴァント』を済ませてしまいなさい」 「? ミスタ・コルベール?」 突然変わった口調にルイズという少女は困惑した体だ。しかしコルベールはこの上なく真剣な顔をしており、視線はイタチに向けられたまま動かないでいた。 ルイズはその様子に首をかしげながら、同時に顔を真っ赤にしてイタチを見てくる。そしてあきらめたかのようにため息をついてからイタチに近づき、屈んで 顔と顔を合わせるようにしてきた。 「か、感謝しなさいよ。貴族が平民にこんなことするなんて、普通じゃ有り得ないんだから」 イタチには言っていることの意味が分からない。だがそんなイタチの困惑などお構いなしにルイズが顔を近づけてくる。そして「我が名はルイズ・フランソワ ーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」と言った。 その直後、イタチの姿がルイズの前から消える。 「え?」 そのことに呆然とするルイズだが、それだけでは終わらない。突然ルイズの首に腕が巻きつけられ、体が浮き上がる。そして、クナイが横から押し付けられた。 「!? な、何!? 何なの!!」 あまりのことに混乱するルイズ。しかし、それは周囲にいる人間も同じだった。 「な、なんだ今の!?」 「まったく見えなかったぞ! いつの間に移動したんだ!? いや、それよりもルイズが捕まってるぞ!」 ルイズと同じ様に混乱し、騒ぎ始める。 一方ルイズは自分に何が起こっているのか分からずに手足をじたばたさせていたが、後ろから声がかかってきた。 「さっき何をしようとした」 「! こ、この声、あんたまさか、使い魔!?」 首に腕が巻きつけられていたが、それを無理してまげて後ろを見る。果たして、そこにあったのは彼女が呼び出したイタチの顔であった。 「な、何よ、平民のくせに! こ、こんなことして許されると」 「質問に答えろ。さっき何をしようとした?」 ひ、とルイズは喉を鳴らした。先程までとはまるで違う、凄まじい殺気をイタチが発しているのに気付いたからだ。同様に周囲にいた人間も、水を打ったように 静まり返る。 イタチはルイズが言葉を発して顔を近づけてきたとき、イタチの眼、チャクラを見切る写輪眼は彼女に流れるチャクラ(どこか普通のチャクラとは違う様な感じは したが)から何らかの術をかけようとしていた事を見抜いていた。 そこでイタチは、ルイズが行おうとしていた使い魔の儀というのが口寄せの術のように何かを使役して戦わせるものではないかという考えを持ったのだ。 (ならば、俺がこの状態で蘇っているのも頷ける……) 死者を蘇らせて戦わせる口寄せ、『穢土転生』という術もあるくらいだ。自分が知らないだけで、他にそのような術があったとしてもおかしくない。自分を蘇らせ、 口寄せの術で呼び出されるものたちのように使役し、戦わせようとしているという可能性がイタチの頭をよぎったのである。そしてもし自分を蘇らせる目的が、弟や 木の葉を危機に、さらには世界を戦乱の時代に陥れようとするものであれば、 (子供とはいえ、容赦はしない) 先程までの考えを改め、イタチは必要であればこの場にいる全員を殺す覚悟を決めた。これほどの術を行使する者がいる組織である。それを行使する者が例え相手 がまだ年端も行かない少年少女であろうと、愛するもの、大事なものを守るためには、どんな非道なことであろうとやり遂げてみせる。そうイタチが思ったときだっ た。 写輪眼がチャクラの動きを伝えてくる。どうやら性質変化らしい。そちらの方向に視線を向けると、そこには杖を構えてこちらを睨みつけている先程コルベールと 呼ばれた男がいた。 「ミス・ヴァリエールから手を離しなさい! さもなければこの『炎蛇』のコルベールが相手になりますぞ!」 イタチの殺気にも怯まず、毅然とした様子で叫んでくる。 男は中々の性質変化、どうやら火属性らしい、の使い手のようだが、それでも自分との実力にはかなりの開きがあった。男の方でもそれは自覚しているらしく、手 の震えや首に流れている冷や汗からそうと分かる。無謀と知りつつも、この場にいる人間を身を挺して守るつもりなのだろう。 丁度いいとイタチは考えた。腕の中にいるルイズという少女は自分の放つ殺気に震えながらも睨みつけてきている。だがそれは明らかに強がりでまともな受け答えが できるとは思えない。そしてそれは他の少年少女、イタチの殺気に怯えて呆然と突っ立っている者が殆どだった、にも同じことが言えるだろう。ならば、この男に答 えてもらえばよい。いざとなれば、幻術を使ってでも問いただすが。 イタチはコルベールに向き直り、口を開いた。 「ならば、あなたに質問に答えて頂こう」 「質問……ですと?」 「そうです。この娘を守りたいのでしょう? 質問に答えていただき、俺が得心するような答えであれば、この娘には手出しはしません。ただ、もし得心の行かない ものであれば」 「……あれば?」 「……最悪、この場にいる者の皆殺しは覚悟して頂く」 その脅迫も混ぜた言葉に、ざわりと人垣が揺れた。 「舐めた口、た、叩きやがって……」「平民の、く、くせに、なんてこと……」などというイタチの実力も分かっていない者の戯言も聞こえてきたが、それもイタチ の圧倒的な殺気の前にすぐに消えうせる。 コルベールは口をかみ締め、悔しさを飲み込みながらゆっくりと頷いた。それを見たイタチは、一つ目の質問をする。 「ではまず、何の目的で俺をここに呼び出したのかを答えてもらいます」 「……我々の使い魔召喚の儀のためです。我々メイジの眼となり耳となり、手となり足となる。それが使い魔です。それを呼び出すために、この儀を我々は執り行い ました。」 「成程。……それは詰まり、あなた方の意のままに俺を使い尽くすつもりだったということですか?」 眼を細め、コルベールに問い返す。 びくりと身を震わせ、コルベールは慌てた口調で答えてきた。 「いやいや、そんなつもりはありませんぞ! た、確かに使い魔は主人の僕となり、尽くすものなのですが、しかし使い魔とはメイジのパートーナーでもあるのです。 決してそのような無体な真似などいたしませんし、人であれば尚更だ! そ、それに言いにくいのですが、この儀で人が呼び出されるというケース事態私は見たこと も聞いたこともありません。正直、どうすればいいのかは我々も迷っていまして……」 最後の方は言いよどみ、コルベールの口の中で消えていった。 イタチは考えを巡らせる。どうやらこの男の言葉に嘘は無いようだ。それに話の前半だけを聞いている分には到底承諾できないような内容だが、後半部分から察する にどうやら自分目当てではなく、無作為にその使い魔とやらになるものを呼び出す儀式らしい。周囲を見回してみれば、成程、確かに普段口寄せで呼び出されるよう な者達がいる。悪意あっての召喚ではないようだ。 (どうやら俺にとっても最悪のケースは避けられたらしい。……しかし、確かに死んだはずの俺をこの状態で呼び出すだと……?) 腕の中で震えつつも、こちらを睨んでくるルイズにイタチは眼を向ける。先程の説明では死んだ人間を蘇らせて召喚などということとはまったく関係していない。 一体どういうことなのだろうか? それとも、術を行使したこの少女が特別だったということか……? 疑問に思いつつも状況把握が先だと結論付け、質問を再開した。ルイズはもう放してもいいのかもしれないが、いざというときのためにこのままでいてもらうこ とにする。 「では次に、ここがどこの国の、何と言う場所なのかを答えていただく」 「……この国の名はトリステイン王国。そしてここはその魔法学院です」 そこでイタチは眉をひそめた。『トリステイン』などという国など聞いた事が無い。任務の都合上、国外の国の名も諳んじていた筈なのだが。 (俺の知らない海外にある国か? そう考えれば俺のことを知らないのも何とか納得できるが、魔法……? 学院ということは木の葉の忍者アカデミーのようなも のなのだろうが、忍術ではないのか? だがもし海外だというのなら、何故言葉が通じる?) 初めて聞く国名や通じる言葉を怪訝に思いつつも、イタチは再度質問する。しかしそこから本格的に会話がかみ合わなくなってきた。 「五大国外の国なのか」と聞けば「五大国?」と鸚鵡返しのように尋ねられ、魔法とは忍術の別称、もしくはそれに類するものなのかと聞けば「忍術? 魔法で はないのですか?」と聞き返される。ますます怪訝に思いならばせめて五大国の中でも最も栄華を誇った火の国、そして木の葉隠れは知っているだろうと聞いてみ るも、またしても「火の国? 木の葉隠れ?」と鸚鵡返しのように聞き返された。 ここに至って、明らかにお互いの認識に食い違いがあることにイタチは気付いた。 (いくら国外とはいえ、火の国の名すら知らないのはおかしい。国外とは言え情報ぐらいは伝わっているはずだ。それに忍術を知らないのもそれと合わせて考えて みれば……) コルベールの様子を見ると、彼も明らかに困惑しているようだった。彼からしてみれば自分が話していることの方が彼にとっての常識とかみ合わないのだろう。 イタチはしばしの間考えを巡らせた後、コルベールに声をかけた。 「……どうやら、俺たちは少し腰をすえて話さなければならないようです」 前ページゼロの写輪眼
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前ページ次ページゼロの剣士 #1 「起きなさいヒュンケル! すぐに出かけるわよ!」 その日の朝は、ルイズのそんな言葉から始まった。 まだ眠っていたヒュンケルが気だるげに目を開けると、ルイズはとっくに制服を着こんで彼を見下ろしていた。 部屋はまだ薄暗い。 宵っ張りで朝に弱いルイズにしては異常な早起きである。 「どうした? 今日は休みではなかったのか?」 今日は虚無の日――ハルケギニアの休日のはずだった。 額に手を当てながらヒュンケルが聞くと、ルイズはひっくりかえりそうなほどふんぞり返って答えた。 「休みだから出かけるのよ! さあ準備して!」 ルイズは、早くしないとキュルケが云々とぶつぶつ言っているが、 殆ど身一つで召喚されたヒュンケルにはさほど用意することもなかった。 軽く身づくろいをし、「では行くか」と言って部屋を出て行こうとすると、ルイズに慌てた声で呼び止められた。 「忘れ物よ」と言ってルイズは、ヒュンケルに楽器のケースのようなものを渡してくる。 「この中にアンタの剣が入ってるわ。しっかり護衛してよね!」 そう言うとルイズはヒュンケルの背を押して、早く早くと急き立てた。 #2 トリステイン魔法学院には大きな厩舎がある。 王都トリスタニアに行くのに徒歩で二日はかかるここでは、移動に馬の存在が不可欠なのだ。 そんなわけで何処かに出かける段にあっては、同じ目的でここに来た者と遭遇することはそう珍しいことではない。 今朝も例のごとく、厩舎に近づくルイズ達に向かって先客が手を上げた。 「御機嫌よう。君もお出かけかね?ミス・ヴァリエール」 「おはようございます。オールド・オスマン」 厩舎の前にいたのはこの学院の長、オールド・オスマンだった。 傍らには緑髪の美人秘書、ミス・ロングビルも立っている。 オスマンは馬車の御者に少し待つよう命じると、いそいそと二人のところにやってきた。 「そちらが噂の使い魔君かな、ミス・ヴァリエール?」 オスマンはちらりとヒュンケルを見ると、ルイズに聞いた。 ヒュンケルの目にはオスマンの瞳が、不思議な親密さを漂わせているような気がした。 「ええ、こちらが使い魔のヒュンケルです。オールド・オスマンもこんなに早くにお出かけですか?」 ルイズはまだ太陽も昇りきっていない空を見上げて言った。 先に述べたように厩舎で人と会うこと自体は珍しくないが、この場合は時と相手がいささか特殊だ。 ルイズが言うのもなんだが、学院長がこんなに早く出かけるとは火急の用かといぶかしむ。 しかしオスマンは、眉をハの字にして子供のような表情を作ると、少年が友人にするような調子で愚痴った。 「それがのう、『土くれのフーケ』対策がどうので王宮の連中に呼び出されちまったんじゃよ。 あいつら忙しいとかなんとか言って昼前には来いとか言ってきおった。おかげでこんな早起きする羽目に……」 そこまで言ってオスマンはオヨヨと泣くと、ミス・ロングビルの胸に抱きついた。 そのままオスマンは「かわいそうなワシ……」などと泣き真似をして頬をスリスリしている。 ルイズはおそるおそるロングビルの顔を見上げたが、 かの辣腕秘書はピクリとも眉を動かさずにオスマンを張り手で一蹴すると、眼鏡を掛け直して通告するように言った。 「オールド・オスマン。駄々をこねてないで早く行ってください。遅刻しますよ」 どうやらロングビルの方は王宮に行かず、学院に残るらしい。 彼女は害虫を追い払うように手を振って急かしたが、オスマンがいなくなるのが嬉しいのか、その口元はほころんでいた。 まあ、あんなセクハラされてりゃそうなるわよねとルイズも内心同情する。 片頬を腫らしたオスマンは「つれないのう」と嘆きながら馬車に乗りかけたが、思いついたようにぴたりと足を止めた。 「そうじゃ、ミス・ヴァリエール。もしや君も王都に行くのかね?」 「え、ええ。そのつもりですけど?」 なんだか悪い予感を感じつつルイズが答えると、オスマンはにやりと笑って言った。 「それならせっかくじゃから、ワシと一緒に行かない?」 #3 馬車で街へ向かう道中、ルイズはどうにも落ち着かずにモジモジしていた。 ――オールド・オスマン。 齢三百とも言われるこの老メイジは、ある意味貴族の位階などを超越した偉大なメイジだ。 オスマンは気さくなエロジジイとしても有名であるが、重々しい肩書きと裏腹のそんな振る舞いがルイズにとってはまた妙な緊張を強いた。 オスマンは今、ルイズの隣で両の頬を赤く腫らして使い魔のネズミを撫でていた。 馬車に乗りこむ際に、使い魔の目を通してロングビルの下着を覗いていたのがバレたのだ。 ロングビルの必殺の張り手を二発も食らったオスマンはそれでもさほど堪えた様子も見せず、 ネズミ――モートソグニルに「白かあ。黒の方が似合うのにのう」などと呟いている。 ちなみにこの馬車は一つの席に二人ずつ乗れる四人乗りなのだが、 オスマンの希望でルイズとオスマンが隣同士、ヒュンケルは一人で座っていた。 ルイズにとってなんとなく気に入らない配置だったが、 学院長に異議を唱えるもはばかられ、ルイズはそわそわと膝を動かしていた。 「ところでオールド・オスマン。『土くれのフーケ』とは?」 意外なことに、最初に話題を出したのはヒュンケルだった。 土くれのフーケ。 それはオスマンが王都に行く理由として挙げた人物だ。 どうやらヒュンケルが学院長の相手をしてくれそうだと安堵の吐息をつくルイズの横で、オスマンがその白眉を持ち上げた。 「フーケといえば有名な盗賊よ。巨大なゴーレムを操り、強力な防御魔法がかけられた壁をも錬金して 土くれに変えてしまうことからその二つ名が来ておる。なんじゃ、君は新聞を読まんのか?」 長い顎鬚を揉みながらからかうように笑うオスマンに、ヒュンケルは文字が読めぬことを伝えた。 ヒュンケルは不思議なことにこの世界の言葉は使えたが、文字の読み書きまではできなかった。 当然新聞も読めず、この世界にきて日が浅いこともあってまだまだ世事には疎い。 そしてそんなヒュンケルを、オスマンは珍獣でも眺めるようにまじまじと見つめた。 「学がなさそうな顔でもないがのう。一体、君はどこから召喚されてきたんじゃ?」 「……遠いところです」 ヒュンケルは未だ誰にも、自分が異世界から召喚されたことを告げていなかった。 言って信じてもらえるか疑わしかったこともあるが、本心のところは自分でも分からない。 あるいはまだ、自分の過去と向き合う覚悟ができていないからだとも思う。 それきり沈黙したヒュンケルの様子をどう感じたか、オスマンは話題を変えるように明るく言った。 「そういえば君は、ミスタ・グラモンを剣で一蹴したそうじゃな。 随分な名剣だぞうじゃが、ちょっとワシにも見せてくれんか?」 無邪気に両手で拝んでみせるオスマンに、ヒュンケルはルイズの様子を窺った。 安心したら今度は退屈になったのか、ルイズは心なしか苛々している様子だった。 自分の愛剣を見世物のように扱うのは気が引けたが、ルイズの手前、学院長の頼みを断るのも角が立つ。 ヒュンケルは魔剣を入れていたケースを開けると、オスマンにそれを差し出した。 「ほうほう、コレがその剣か。見たことのない、珍しい金属で出来ているのう。 それに土メイジの魔法とも違う、不思議な力を感じるが?」 土系統のメイジは物の材質の見極めに秀でている。 卓越した土のスクウェアであるオスマンは、魔剣を少し触っただけでその特異性を言い当てた。 心なしかこちらを見つめる目にも鋭いものを感じて、ヒュンケルはその身を引き締めた。 オスマンが言う不思議な力、それは魔剣に潜む能力「鎧化」の力に他ならないだろう。 さて、なんと答えたものかとヒュンケルは頭を悩ませたが、なにを考えたかオスマンはまたネズミの方に耳を傾けた。 「なんじゃモートソグニル。ん、ピンク? いやいや、見るのはバスト80サント以上に限ると言ったじゃろうに」 つい先ほど閃かせた眼光はどこへやら、オスマンは再びただの好々爺に戻っていた。 一体、この小さな使い魔は何を見たのか? ささやかな謎はすぐに暴かれる。 こいつめーなどと言ってネズミをツンツンつつくオスマンの隣で、何かがぶちりと切れる音が聞こえたから――。 「こ、こ、こ、このエロジジイ~~っ!!!」 沈黙を守っていたルイズが、顔を真っ赤にしてぶちぎれた。 初めこそ緊張で忘れていたが、ルイズからしてみれば今日は使い魔との初めてのお出かけ。 絶対口に出したりはしない――というより、 彼女自身そう思う自分を目いっぱい否定していたが、ルイズは今日という日を楽しみにしていたのだ。 乗っていく馬も事前にチェックし、道中の会話もシミュレーションし、 ルイズの手綱さばきに感心するヒュンケルの声まで脳内で再生されていたのに、 オスマンはそれを初っ端から邪魔したばかりかルイズのNGワード「お乳」を見事に踏みつけた。 ――この恨み、晴らさでおくべきか。 もはやルイズは、立場も場所も失念していた。 馬車の中、誤解じゃ~と喚く声と同時に、爆発音がヒュンケルの耳をつんざいた。 #3 どこかから愉快な音が聞こえた気がして、キュルケは髪をいじっていた手を止めた。 少しメイクに力を入れすぎて、予定より遅い時間になってしまった。 そろそろ寝ぼすけのルイズも起きてしまうかもしれない。 キュルケはマントを羽織ると使い魔のフレイムを撫で、「今日はお留守番よ」と言いつけた。 忠実な使い魔は少し寂しげな声をあげたが、結局またのそのそと寝床に戻って二度寝を始めた。 キュルケは部屋から出ると、慣れた手つきで隣室に解錠の魔法をかけた。 鍵が開いたのを確かめ、ルイズを起こさぬよう静かにドアを開ける。 「ヒュンケル~? 起きてる~?」 ドアから顔だけ出したキュルケは、そのままの姿勢で固まった。 阿修羅のごとく怒り狂うルイズが待ち伏せしていたならまだマシだったが――部屋はもぬけの殻になっていた。 ルイズもヒュンケルもおらず、壁にかかっていた剣もない。 まさかと思いつつ部屋に入ったキュルケは、テーブルの上に自分宛ての置き手紙を見つけた。 震える手で取って読んでみるとそこには、 「や~いや~いバ~カ!ヒュンケルはわたしのものよお!」といった趣旨のことがルイズ独特の高慢ちきさで書いてあった。 キュルケは手紙をグシャッと潰してついでに焼き払うと、猛ダッシュで外へ駆けだした。 前ページ次ページゼロの剣士
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前ページ次ページゼロのイチコ 「さて、貴女は今どうするべきかしら?」 ここはトリステイン魔法学院、女子寮の私ことルイズ・ド・ヴァリエールの部屋。 そして目の前で両足を折りたたんで座っている、もとい浮いているのが私の使い魔であるイチコ・タカシマである。 「勝手なことをしてごめんなさい、ご主人様」 と手を前に突き出し、頭を下げた。 ギーシュとの決闘後、イチコが帰ってきたのはその日の夕方だった。 その間に起こった事と言えば、いつもどおりの授業といつもどおりの昼食、そしてモンモランシーが放った水の魔法の爆音だけである。ギーシュは午後の授業に出てこなかった。 イチコが帰ってきたのはそんな一連の出来事が終わった後、私が寮に戻って探しに行こうかと思案していた頃であった。 幽霊だし、誰もイチコを殺せない。既に死んでいて死なないのだからそのうち帰ってくると思っていた。 だけれども昼食の時間になっても帰ってこないので心配になってきていた。それでも授業をサボるわけにもいかないので探しに行くわけにもいかない。 おかげで午後の授業はまるで頭に入らなかった。たびたび窓の外に視線がいった。 そろそろ窓からひょこひょこと入ってくるのではないかと考えが浮かんだ。 つまり、ここまでご主人様を心配させた罪は重く、それゆえに使い魔は罰を受けなければならない。 「『私のワガママで勝手に決闘したあげくにギーシュに負けたイチコをお叱り下さい、ご主人様』でしょ」 と鞭を振るってイチコの目の前を叩く。乾いた音が響いた。 イチコは「ひっ」と小さい声を出して青い顔をした。 「わ、わわ私のワガママで勝手に決闘してギーシュさんに負けてしまった私をお叱りください~」 良いことをした使い魔には飴を、悪いことをした使い魔には鞭を。 これは躾である。使い魔はパートナーであるが主従関係であることを忘れてはならない。 ご主人様の命令を無視する使い魔には鞭をくれてやらなければならない。 とは言え、イチコには鞭が効かない。 それじゃあご飯抜き――と考えたがイチコはご飯を食べない。 「それじゃあ、今日は反省して廊下に立って……じゃなくて浮いてなさい」 「はぃ」 消え入りそうな声でイチコは扉をすり抜けて廊下に出て行った。 手を下に垂らし、頭を下げて去っていく様は分かりやすいぐらいに落ち込んでいた。 しかし、その姿は同情を誘うと言うよりは 「誰か呪い殺したりしないわよね?」 幽霊ゆえにそんな考えが浮いてしまった。 「うぅ、ご主人様を怒らせてしまいました」 わたくしこと高島一子はたいへん落ち込んでいます。 思い起こすこと今日の朝、食堂でギーシュさんの香水を拾い――もとい落ちたのを教えて上げた事がきっかけでギーシュさんが二股をしていることが発覚しました。 それはもう許されないことです、何が許されないかというと倫理観とか道徳とか乙女心とかそんな感じのいろんなものがミックスされて 私の怒りメーターはマックス、最大限の臨界点まで急上昇してしまいました。 許されません、許されるわけがありません。 そりゃあこの世界は私の居た世界とは違います。しかし愛はどの世界でも守られるべきです、尊い盟約なのです。それを(以下略) まあ、そんなこんなでギーシュさんと決闘することになってしまいました。 しかしながら今になって落ち着いて考えれば争いは何も生みません、あぁ、神よ。お許し下さい―― ともかく私は決闘に赴きました。 最初は死んだ、と思ったのですがよく考えたら私は幽霊ですので死ぬ訳もなく。 逆にギーシュさんを追い詰めた! そう思ったのですが、わたくしどうやら無機物には触れませんが生物には触れる模様。 ギーシュさんの突き出した手に吹き飛ばされて遥かかなた雲の上までふきとばされてしまいました。 調子にのっていた私はギーシュさんの反撃にびっくりして気絶してしまいました。 さすが魔法使い、すさまじい突き飛ばしでした! ともかくそれで学院に戻ろうとして近くを飛んでいた渡り鳥さんに話を聞こうとしたのですが皆さん私を見たとたんに猛スピードで逃げていきます。 やはり、幽霊は世間の風当たりが厳しいようです。 おかげで迷って迷って、やっと学院に帰ってきたときにはお日様が茜色に染まってしまいました。 ご主人様はカンカンに怒っていました、帰ってきたとき。 「ごめんなさいご主人様、ちょっと雲の迷路で迷ってました……あはは」 と軽く謝ったのがいけなかったのでしょう。何時間も行方不明になったのですから誠心誠意あやまるべきでした。 反省、反省します。深海魚になったように深く深く反省しています。 今日はこの廊下で寂しく一夜を過ごして、使い魔がなんたるかを見つめなおしたいと思います。 「あら、貴女は……ルイズの使い魔じゃない」 反省の念に包まれていると周りがよく見えてませんでした。赤い髪をした女性の方がすぐ傍に立っていらっしゃいました。 「はい高島一子と申します。あなたは?」 「私はキュルケ、微熱のキュルケ。あなたのご主人様の友達よ」 「そうだったんですか。よろしくお願いします」 「ぇえ、こちらこそヨロシク……にしても本当に幽霊なのねぇ」 とキュルケさんの視線が私の足元に向きます。 こう改めて他の方から幽霊だと言われるとちょっと悲しいような、諦めのような感情が沸いてくるように思えます。 「ねぇ、幽霊っぽく何か台詞言ってみてよ」 「ぇ、ぇ~っと??」 幽霊っぽく? というと真っ先に浮かぶのが 「う、うらめしや~」 「あははは、意味わかんないけどソレっぽい。上手い上手い」 「はぁ、どうもありがとうございます」 褒められて、いるのでしょうか? どうにも物珍しさで遊ばれているような気がします。 「そうだ、頼みがあるんだけどいいかしら?」 と片目をつぶってウィンクを投げかけてきました。 スタイルの良い方ですし、そういった仕草も自然に感じられました。 「な、なんでしょう?」 直感ですが、あまり良い頼みとは思えません。 「私の友達でタバサって子が居るんだけどね。その子っていつも無表情なのよ」 「そうなんですか」 「そうなのよ! おかげで友達も私だけだし、コミニケーションが不足してるの。分かるでしょ?」 「そうですね、お友達は多いほうが良いですよね」 「そう、だからタバサに会って欲しいのよ」 とキュルケさんは私の目の前で手を合わせて来ました。 友達のため、そんなキュルケさんの頼みに私は先ほどの失礼な考えを心の中で謝罪しました。 見かけはとても派手なかたですが友達想いの良い方のようです。 「分かりました、また明日うかがわせていただきます」 今日はもう日が暮れたので明日のほうが良いと思います。 「いや、今から行きましょう」 「え?」 「ちょうどタバサの部屋に遊びに行くところだったのよ、さ、行くわよ」 「ぇ、いや。私はここに居ないといけま、って、キュルケさん?!!」 手を取られると、引きずられるように私はその場を後にしました。 またご主人様に叱られそうです。 「で、ここがタバサの部屋よ」 連れてこられたのは階段をひとつ降りて、おおよそご主人様の部屋の真下に位置する部屋でした。 「しかし、こんな夜遅くにお尋ねするのはよろしくないのでは?」 「いいの、いいの。タバサ居る?」 キュルケさんが重厚な木の扉を叩きます、ですが何の返事もありませんでした。 もうお休みになったのでしょうか? 「やっぱり魔法かけてるわね」 「魔法ですか?」 「ぇえ、あの子って読書の邪魔をされるのが嫌いで。部屋に居る時はずっとサイレントの魔法をかけてるのよ。音がまったく聞こえなくなるの」 魔法と一口に言っても日常生活に便利な魔法もあるのですね。 てっきり魔法と聞くと炎を出したり風を巻き起こしたり、何か巨大な蛙を呼び出したりするのばかりだと思ってました。 「だから、あなた壁抜け出来るんでしょ? 中に入って扉を開けるように言ってくれない?」 「え、でも……」 「いいの、私に言われたって言えば良いから」 「は、はい……分かりました」 勝手に入るのが多少戸惑われたのですが、キュルケさんの言葉に後押しされるようにドアの脇の壁から部屋にお邪魔します。 「失礼しま~す、タバサさん起きてらっしゃいますか?」 恐る恐る壁から上半身だけ出して部屋の中を覗き込みました。 部屋の中にはランプの明かりを頼りに本を読んでいる方がいらっしゃいました。ベッドに腰掛け壁を背に座っています。 メガネをかけていますけど、こんな暗がりで本を読んでるとさらに目が悪くなるのではないでしょうか? ずいぶんと小柄な方でこんな暗がりでも目を引く青い髪が特徴的です。 「あの~」 と声をかけるものの反応がありません。よっぽど集中してらっしゃるのでしょうか。 と思ったら目だけが動いてこちらを見ました 「夜分遅くすいません、わたくし高島い……」 自己紹介をしようと思ったのですが、タバサさんは驚いた顔をされました。傍にあった杖を取り、こちらに先端を向けます。 そこで私は自分が壁に半分埋まった状態で止まってる事を思い当たりました。驚かせてしまった、と思う間もないほど彼女の動きは早かったように思います。 彼女は素早く呪文を唱えると宙に氷の矢を生成しました。 矢は強烈な風を伴って壁に突き刺さり、逸れた矢と狭い密室で行き場を失った風が天井にぶつかり穴を開けました。 「ぇええ?!」 と言う声と供にご主人様が上から落ちてきました。 タバサさんはこちらを凝視すると、そのままベッドに倒れこんでしまいました。 「ちょっと何があったの?!」 とキュルケさんが駆け込んで来ました。 私も改めて部屋を見渡すとキョトンとした顔で座り込んでいるネグリジェ姿のご主人様、杖を握り締めたまま気絶しているタバサさん。 自分の姿を確認すると氷の矢が頭から突き刺さっていました。もちろんすり抜けているので平気なのですが。 そして天井には直径1メートルほどの穴。 「……本当に何があったの?」 おそらく、タバサさんが幽霊である私に驚かれたのが原因かと思います。 「ふ、ふふふ……」 とご主人様が下を俯き笑っておられます。 「そう、イチコったら。使い魔のくせに、使い魔のくせに」 ふふふ、と笑うご主人様。でも目が笑っていません。 「廊下に立たされただけで、こんなイタズラを思いつくなんて。ど、どど、どうしてくれようかしら……」 「ぇ、いや。違うんですご主人様」 「問答無用!」 「あぅう、ごめんなさい~」 この日は夜半までお説教を受けることになりました。 前ページ次ページゼロのイチコ
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前ページ次ページゼロの旋風 いきなり呼ばれ 出でたるは 竜も飛び交う 珍世界 魔法学院 使い魔も 住めば都と 洒落込むか(ナレーション:柴田秀勝) どうやら俺は相当認識が甘かったようだ。平穏な日々は束の間の幻想だったらしい。その理由は… 「キッド、明日の『虚無の曜日』は買い物にトリスタニアまで出かけるわよ。あんたの服や武器も 揃えなくっちゃねっ」 とりあえず今の俺の生殺与奪の権を握る「ルイズお嬢様」から、例のギーシュとの決闘騒ぎから数 日としない内に、干してたたんだ彼女の衣類を洋服箪笥にしまっている最中に突然言われた。なん でも、公爵家の娘たるルイズの使い魔としては、その格好はあまりに「みすぼらしい」こと、また 元いた世界で俺に軍人としての経歴があったり、その後の稼業でも戦闘要員として活躍したことを、 一応手短かにではあるが話したことが理由らしい。 まぁ確かに、簡易宇宙服も兼ねる俺の黒いJ9スーツは、ルイズに召喚されて以降、少なくとも俺 自身の手では洗ったことがない。いくら汚れに強く、簡単には着用者の体臭が染み込まない仕様に なっている22世紀の服とはいえ、ルイズから召喚される直前、バーナード星系へのフライバイを試 みていた頃から数えても、かれこれ3週間は洗濯をしていないのは問題だった(なんせ、ヌビアと の最終決戦で、それどころじゃなかったもんなぁ…)。 俺が着てきたJ9スーツは、その稼業の特殊性もあって、ドク・エドモン謹製で簡易耐レーザー・ ブラスター仕様がなされ、かつ下着だけ取り替えれば、数週間は匂わない特殊触媒コーティングが なされていたが、こちらの世界で毎日俺に洗濯をさせているルイズからすれば洗っていない不潔な 服に見えたのだろう。 まぁ、22世紀の太陽系の科学技術を知らない人間としては当然の反応だろうと思う。 また、俺がルイズの名誉を賭けてあのギーシュと決闘し、見事に短時間で圧勝した事実は今や魔法 学院中に知れ渡り、それゆえ主であるルイズの評価もゼロ→急騰ぎみらしく、そのため彼女の俺に 対する機嫌はすこぶる良い。余談だが、貴族に勝った平民ということで、学院の料理長のマルトー も、俺が厨房にまかない食を頂きに行く度に『我らの剣』と俺のことを呼んで歓迎してくれている。 「あんたには、ヴァリエール公爵家御用達の仕立屋でちゃんとした服を特注してあげるからね!大 丈夫!そのくらいのお金なら仕送りされてるから。あと、腰に下げてるその変な銃だけじゃ心細そ うだから、立派な剣も用意しないとね。ご主人様であるこのわたしを守ってもらうためにもねっ!」 まあ、可能な限り突起物が少なく、動きやすく、かつ頑丈で破れにくい繊維で作られた服であれば 俺は文句はない…っていつもの服とあまり変わらないってツッコミは無用だ。それに、ブラスター のエネルギーが限られている以上、他に使用可能な武器の調達は急務だと感じていたところだった し(この前の決闘のようにいつも石にばかり頼るわけにもいくまい)、第一、戦士としての俺の本 能からも、この世界の武器事情全般についての知識・情報が欲しと思っていたところだ。 それにしても、この前の決闘でギーシュに投げるべく石を握ったときに感じたあの『正体不明の感 覚と能力』は一体何だろう?あの後、一人になった時に誰も見ていないことを確認して、久しぶり に愛用のブラスターを点検しようと手に取ったときにも一応似たような感覚と左手のルーンの反応 はあったが、身が軽くなったり五感が鋭くなる度合いは、この前よりずっと小さかった。 ルイズ曰く、使い魔が主と契約をすると、それまでになかった新たな能力を獲得するらしい。とす れば、その能力とは、あの時の石とブラスターとの共通点である『武器』に反応する力ということ だろうか? そう考えた理由は、その後何度もそこらに落ちた石を拾って握ってみても、それだけでは同じ感覚 は再現できなかったこと、従って握る対象を『武器』として使用する目的で認識した時に初めて発 動する力なのではないか、という仮説に行き着く。ただ、単にブラスターを点検・整備する時のよ うに、それを「使用」する目的でない場合はたとえ『武器』を握っていても、あの能力の発動の度 合いは弱くなるということかもしれない。 いずれにせよ、『武器』を使用する戦闘時になればはっきりするだろうが、なるべくそうした状況 は御免こうむる。俺とて無用な争いは避けたい。特にまだ不慣れなこの異世界なら、尚更だ。 翌早朝、ルイズに連れられて馬でこのトリステイン王国の首都トリスタニアに向かった。最初は戸 惑ったが、乗馬は初めてではなかったので、しばらくしてそれなりに勘を取り戻した。 …そういえば、牛馬をたくさん飼育していたオルトラ牧場は今頃どうなっているだろうか?亡き主 人親子の仇討ち後、使用人達の自主管理に任されたが太陽系大混乱の後だけに気がかりだ。 かれこれ3時間ほど揺られた後、城門側の駅亭に馬を預けて、トリスタニア市街に入った。一見、 華やかで活気あふれている様子だが、少し脇の通りに目をやると、みすぼらしい身なりをした人々 が、貴族とそのお供である俺たちを物欲しげに見る視線を感じる。ルイズに聞くと、トリスタニア でも貧民層による犯罪率は高いという どうやら俺は、魔法学院という貴族子女が集う「楽園」の中しか知らなかったようだ。学院を一歩 出て、「平民」と称されるこの世界の圧倒的多数の人々を見れば、ウエストJ区も顔負けの貧富の 格差と治安の悪さが存在する。 …そういえば、俺の相棒だったボウィも、地球の孤児院出身だったっけ。あいつもいつも陽気に振 舞ってはいたが、幼少時は貧困と絶望の底にいたことを後から知らされて、そこから這い上がる苦 労はどれほどだったろう、と想像したもんだ。 この世界には、魔法を使えるメイジという貴族階級と、使えない平民という厳然たる身分差別があ るが、それとは別の意味で、政治・経済・軍事の支配階層と裏の犯罪組織との癒着のような腐敗と いった問題も俺たちの世界のようにあるのだろうか…おそらくあるんだろうな。だとしたら、俺た ちJ9のような「晴らせぬ恨みを晴らす裏の始末屋」もいるのだろうか? などと考えていているうちに、ヴァリエール家御用達の仕立屋に到着した。俺は今着ているJ9ス ーツとほぼ同じデザインの服を3着と、この世界でも通り相場らしい執事その他使用人が着るタキ シード風の黒衣2着を注文した。普段着をあえてよく似たデザインにしてもらったのは、J9の連 中がもし同じこの世界に流されていたなら、遠くからでも一目で俺と認識しやすくなることを期待 したからだ。黒くて地味すぎる、今と同じようなデザインなら折角わざわざ仕立てに来た意味がな い、使い魔にいい服を着せたい主人であるわたしの立場も考えて、と言われたが、ご主人の護衛の ためにも動きやすさを最優先する必要性があるということで納得してもらった。その代わり、学院 内ではなるべく「タキシード」の方を着ることで妥協する。 仕立ての出来上がり予定日を確認し、代金を先払いして次に武器屋へ向かう。 最初、胡散臭げな目で俺たちを迎えた店の主人だったが、ルイズが貴族の上客だと分かると、掌を 返したように機嫌をとり始めた。いろいろ詮索されると面倒なので、一応俺は、貴族のお嬢様の護 衛兼世話係として彼女の父親が新たに雇ったばかりの異国者の元傭兵ゆえに、トリステインの事柄 は武器の流通状況を含めまだ不案内なのだ、とルイズは店主にあらかじめ説明する。 「いや~さようで、お嬢様のところもでげしたか。いやね、昨今は物騒でげして、宮廷貴族の皆様 の間でも用心棒や私兵を新たに雇ったり、下僕に武器を持たせるのが流行っておりやしてね~。と りあえず、これなんかいかがでげしょ?」 …この商売げたっぷりの愛想、パンチョ=ポンチョに似てるな。とりあえず、店主が持ってきた細 身の剣を握る。…どうも俺の心はこいつには動かない。ルーンの反応も、『あの感触』も微弱だ。 他にも幾つもの長剣や槍の類を物色したが、どれもいまいちだ。さすがにレーザーサーベルやレー ザーナイフがあることは期待していなかったが、22世紀地球のレベルの実体ナイフを見慣れた俺か らは、材質・焼入れ・研ぎ方いずれも物足りない。派手な装飾や宝石をあつらえたような外見だけ は豪華なものはいくらもあったが… 「おう、そこの若けぇの!おめぇさん、なかなか剣を見る目がありそうじゃねぇか。この店の主だ った長物を軒並み手に取っても外見に惑わされねぇとはな。どうだい!この俺様にしねぇかい?」 「誰だ…って、剣がしゃべったぁ!?」 「それって、インテリジェンスソード?」 「へい、そうでげすが…あっ、こいつはデルフリンガーっていいましてねぇ、やたら口は悪いわお 客様にケンカは売るわ迷惑ばっかりかける奴でげして、あっしも困ってるんでげさぁ…」 「ほぅ、面白そうだな。どれ、ちょっくら見てみましょっか?」 俺がそのデルフリンガーという剣を手に取った時、これまでの剣や槍とは違ったルーンの反応と 『あの感覚』があった! 「こいつはおでれーた!おめぇさん『使い手』か!?道理でどこか懐かしい雰囲気がしたんだ!」 「ルイズのお嬢、俺はこいつにする。俺が思うに、こいつは相当使えそうな奴ですぜ」 「まぁ、戦慣れたあんたが言うんだからそうさせてもらうわ。ご主人、これおいくら?」 「へいへい、こいつなら百エキューでげす」 「よろしくな相棒!」 「こちらこそ、イェ~イ!」 これでデルフリンガー(以下、略称デルフ)を買うことは決まった。しかし、長剣は広い場所でな ら強力な武器だが、路地や廊下・室内といった狭い空間での使用には不向きだし、隠し持つことも 出来ない。それに第一、日常生活で果物の皮をむいたり、羽根ペンの先を削ったり、様々な家具や 器具を加工したり、髭を剃ったりするために使うには不便すぎる。 というわけで、日常用といざという時には手裏剣としても使えるタイプの細身の短いナイフも少し ばかり購入することにした。こちらも店主にいくつか並べてもらい、俺自身が手にとって選りすぐ ったものを(デルフの論評も聞きながら)4つばかり革バンド付きの鞘と共に購入した。 代金支払いを終え、相変わらず愛想がいい店主と少しばかり雑談することにした。ルイズには、ト リステインの武器事情を含めた情報収集をしたい、ということで少々時間をもらった。 その結果、いくつか気になる話があった。 「いえね、先程申し上げましたように昨今物騒な原因の一つに『土くれのフーケ』って怪盗のこと がありやしてね、なんでも貴族のお宝ばかり狙って盗んでるって噂でげすよ。相当腕の立つ土系メ イジだそうで、30メイルはあるでっかいゴーレムも作れる錬金の達人だそうでげす」 「あと、これはまだ今のところフーケの件ほど大きな話題にはなってないでげすが、アルビオンで 貴族達が王家に反乱を起こして、かなり王党派軍が押されてるって噂でげす。なんでも貴族連合は 『レコン・キスタ』とか名乗って、今エルフに占拠されてる東方の『始祖ブリミル降臨の聖地』を 奪還することを旗印にしてるとか。このまま王党派が負けることになったら、次はレコン・キスタ 軍はこのトリステインを攻め落とそうと狙うのでは、との懸念が広がり始めておりやして、それも あって一部の貴族の方々は用心のために傭兵を徴募したり平民傭兵用の銃を纏め買いする動きが最 近出始めているでげす。まぁ、おかげであっしら武器商人は儲けさせて頂いてるでげすが…」 『土くれのフーケ』に『レコン・キスタ』か。フーケの方は店主の話を聞く限りでは、平民達の物 は一切狙わず、貴族の財産のみを盗むという。そのため、貴族階級を良く思わない平民達の内では 英雄視する者は結構いるらしい。ただし年齢・性別・国籍はおろかその人相も一切不明… …少なくとも今のところは、俺たちJ9の主敵「善人を泣かす奴」というわけではなさそうだ。ま ぁ、俺は今のところ『貴族』の使い魔なのだから、主のためにも用心に越したことはないだろう。 アルビオンといえば、ハルケギニア大陸上空を回遊する浮遊大陸だとルイズから教わった。どうい う原理かはルイズ自身もよく知らないらしいが。 …それにしても宗教的熱狂が大勢力となり、既存の体制を転覆させようとしているとは、まるでカ ーメン=カーメン率いるヌビアの連中のようだ。奴らの場合、最後の方ではコネクションの構成員 という「ヤクザ」というよりは、大アトゥーム神やカーメンに対する崇拝の念から死を恐れずに戦 いを挑んでくる「狂信者」の様相を呈していた。このハルケギニア世界でも始祖ブリミルへの熱心 な信仰がヌビアのような巨大勢力化し、世界の不安定化要因となるのだろうか?つい最近まで死闘 を繰り広げた相手との類似性から、俺は個人的に『レコン・キスタ』のことが気になった。 ルイズも店主が語る噂話に熱心に聞き入っていたが、昼飯時も近いので武器屋を出ることにする。 っと扉を開けたところでいきなり2人の人間と鉢合わせというか、ぶつかった! お互い尻餅をついたまま相手を見れば、キュルケとタバサの2人だ。話を聞くとどうやら、外出し た俺たちの後を、タバサの風竜シルフィードに乗って追ってきて、そのままトリスタニアで尾行し ていたらしい。 ルイズとキュルケはしばらくにらみ合って罵り合っていた。まぁ、出会って日が浅い俺が言うのも なんだが、見たところ2人は表面上はともかく、実際には内心ではお互い憎からず思っている様子 が見てとれる。お互い意地を張って素直になれないだけなのだ。心の中で苦笑しつつ、 「まぁまぁ、お嬢様もキュルケの姐さんも、あここは一つ、このキッドさまの顔を立てて、一緒に 手打ちの昼食会で楽しんでは頂けねぇでしょうか、イェ~イ!」 と俺が大仰な仕草と台詞で『仲裁』したところ、2人とも意外にあっさり同意した。タバサも異議 はない。もっとも昼食へ行く道すがら、キュルケがやたらと 「ねぇダ~リン」 と俺に絡んできたのは少々閉口したが… 貴族も常連という近くのレストランのオープンテラスで俺たちは昼食にした。食事中、俺がいた世 界についてキュルケから質問されたので、一応ご主人であるルイズの許可を得てかいつまんで話す ことにした。もっともルイズ自身も聞きたそうだったし、タバサも前菜の「はしばみ草のサラダ」 を黙々と口にしつつも、その目に強い関心の色を浮かべているのが見て取れた。俺としても、現段 階ではこの世界の住人達にはまだ自分の「手の内」を多く見せたくないとの思いもあったが、J9 の仲間達を、そして元の世界に帰る方法を探すための情報収集という観点からも、「最低限」の情 報開示は信頼できそうな人間に対しては行うべきだ、と判断した。 ルイズに既に話したこととも重複はしたが、一応、俺が太陽系という多くの星々からなる世界から 来たこと、生まれたのはこのハルケギニア世界に似たところのある地球と言う星であること、俺た ちの時代には、星と星の間を飛ぶことが可能になり、人々はあちこちの星に植民していること、俺 はそこで最初は軍人となったが、軍上層部が数多くの『裏組織』に侵食されて腐敗している現実を 数多く見せられて嫌気が差し、たまたまそうした裏組織の連中と戦うことを目的とする秘密チーム の新設に勧誘されたことをきっかけに脱走したこと、そのチームはいずれも凄腕の「その道のプロ」 から成り、その名『J9』は太陽系中の裏組織を震え上がらせる活躍をしたこと、などを手短に、 そしてなるべく彼女らに分かりやすい比喩や表現で説明した。ただし、敵味方の個々の武器の性能 や俺や仲間達の能力については可能な限り言及を避けるか意図的に曖昧にして… 「ふ~ん、元正規軍の特殊部隊の隊長さんねぇ。道理で魔法も使わずにギーシュをあんなにあっさ り片付けちゃたわけよね」 「…相当な手だれ。最小限の動きでワルキューレを避け、相手自身の動きを利用して投擲。動作に 全く無駄がなかった…」 「お褒め頂いて恐縮です。お嬢様がた」 またもや大仰な態度でお辞儀をして返す。俺もすっかりこのメンバーに馴染んだようだ。 「けど、前にも聞いたけど、なんであんた達が故郷の太陽系を『ABAYO』しようとしたその瞬間に あんただけがわたしに召喚されちゃったのかしら?」 好物のクックベリーパイをフォークの先で切り取りながらルイズが尋ねた。いつの間にか食後のお 茶の時間になるまで話し込んでいた。 「…うぅぅん、それについては俺もいろいろ考えたんだけど、今のところは理由は不明だな」 確かに、俺たちは救った太陽系を捨てて、遠い宇宙の彼方の新たな天地を目指そうとした。そのこ とと俺が異世界へ召喚されたこととの間に何か関係があるのか否かは、こちらに来てからずっと考 え続けてはいるが、決定的な答はいまだ見出せていない… 他にも質問が出そうになったが、そろそろ日も傾きだした。学院の夕食までの時間を計算すると、 もうじきトリスタニアを出発しなければ間に合わない。 「俺たちは馬なので、そろそろ学院へ戻らないとまずいっすね。どうですお嬢、お嬢のお許しさえ あれば、この続きは学院へ戻って夕食後に、お嬢の部屋で話すってのは?それもみんなが寝静まる 消灯後に」 ルイズは俺とキュルケの顔を交互に見て、 「仕方ないわね…いいわ。ただし勘違いしないでよ!わっ、わたしだってキッドのお話の続きが聞 きたいだけなんだから!ツェルプトーが一緒、っていうのが気に入らないけど…」 「あ~ら、あたしだったらダーリンの昔話だったら、一昼夜かかっても聞き惚れちゃうわぁ。あん たって見た目も度量も小さいんじゃないの?ヴァリエール」 「なんですってぇ!?」 「まぁまぁ落ち着いて、お二方。じゃあ話は決まり!それでは皆々さま、今宵の団居(まどい)を お楽しみに~、イェ~イ!」 …と、夕食後に俺様の元の世界での面白おかしい体験談でその日は暮れるはずだったが、そうは問 屋が卸さなかった。 シルフィードで先に戻っていたキュルケとタバサに続き、少々馬を飛ばした俺たちが魔法学院に戻 って無事夕食を終え、本来の消灯時間直後、他の生徒達が寝静まった頃にルイズの部屋に一同が集 合したまでは良かった。 俺が昼間の話の続きを始めて間もなく、外からドォンドォンという腹に響く重低音が聞こえ始めた。 何事かと外を見やれば、学院本塔の、俺が教えられた知識が正しければ宝物庫がある辺りを狙って、 高さ30メートル前後もあるバケモノがパンチを繰り出しているではないか! 「あれって、昼間に武器屋から聞いた『土くれのフーケ』じゃないの!?よりによって噂を聞いた 今日の今日に、あんな大きなゴーレムを作って、魔法学院の宝物庫を襲いに来るなんて!!」 「断定は出来ないが、可能性としてはあり得るな。だがここからでは暗くて遠すぎて詳細が分から ん!」 「あたしたちも行きましょ!これを見てみぬ振りをしたら、ツェルプトー家の名が泣くわ」 「…迅速な状況確認を要する…」 「わたしも行くわ!ツェルプトーなんかに負けるもんですか!」 「お嬢!危険すぎる!相手は相当な術者なんだろ?無謀だ」 「バカ言わないで!わたしはこれでも貴族よ!ノブレス・オブリージュ、支配階級にある者として の義務と責任は自覚してるつもりよっ!!キッド、あんたもついてきなさい!」 結局、俺たちは全員が部屋を飛び出した。ただし俺は、急いでデルフを背負ってから。なお、右腰 にはいつものブラスターを、左右の手首と左肩には計3丁の購入したばかりの小型ナイフを既に装 着していた。 中庭に到着した俺たちの視界に入ったものは、双月の下に映えるゴーレムの巨体と、目深にフード を被って肩上に乗るその主の姿だった。平穏無事と思っていた日々の連続が、途切れたことを俺は 実感した… 街に繰り出し 得たものは 巷の噂と 理解者か 楽しき団居 夢みれば そこに悪夢の 大巨人 ゼロの旋風 ブラスターキッド お呼びとあらば 即参上!(ナレーション:柴田秀勝) 前ページ次ページゼロの旋風
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前ページ / ゼロの騎士 / 次ページ その日ラムザは気苦労を重ねていた。 街に行った日から2日が過ぎている。ルイズにはなんとか機嫌をなおしてもらっていた。 そして夕食を済ませた後、部屋に戻り支度をしてデルフリンガーを携え図書館に行こうと部屋の扉を開けた。 正確には開けようとした、だ。 手をかけようとした扉はラムザの手が届く前に開いてしまったのだ。 開いた扉の前にはなにやら包みを抱えた褐色の肌の女性が立っていた。 「あら、ダーリン。私の為に出迎えてくれたのかしら?」 扉の前の女性はキュルケであった。その後ろにはタバサも控えている。 といってもこちらはなにか用事があるのではなくキュルケに連れて来られたというのがありありとみてとれた。 そんなキュルケを見てだまっていないの部屋の主である 確かにノックもせず勝手に入ってきているのだからその怒りももっともなのだがその目的がさらにルイズをいらだたせることとなる。 その目的とはキュルケの抱える包み、これをラムザに渡すというものだったのだがその中身が問題だった。 なんと中身は先日街で見た立派な大剣、例のルイズが店主に勧められた剣だったのである。 もともと受け取る気もなかったのだがルイズの手前更に受け取る訳にはいかないとこれの受け取りを断ったラムザにキュルケは言う。 「あら、ならダーリン。これを受け取ってくれたら先日の貸しを無しにしてあげるわ」 先日の貸しとは街でルイズに置き去りにされた際にタバサの風竜によって学園までつれてきてもらったことだ。 こう言われてはラムザも無碍に断ることもできなくなった。 しかし受け取ろうとしたラムザに、それまでキュルケに向けて発せられていたルイズの罵声がとぶ。 曰わく「ラムザはすぐ色香に惑わされる発情魔」だとか 曰わく「結局立派な剣が欲しかったんじゃない」だとか 本来なら剣をうけとらざるをえなくなった原因が言う事に耳を貸すこともないのだがここでルイズの機嫌を損ねてはまた面倒くさいことになるのは目に見えている。ラムザは受け取るか受け取らないかを選択できずに時間だけが過ぎていく。 そうやっている間にキュルケとルイズによる受け取るか受け取らないかの問答がだんだんとラムザの手を離れたところで行われるようになり遂には決闘で進退を決めることになってしまった。 止めるラムザの声は虚しく響くだけで助けを求めタバサに視線を送るも彼女は彼女で我関せずの態度を固めてしまっているようだった。 そして現在- 学院の中庭においてキュルケとルイズが対峙している。 「覚悟はいいわねツェルプストーっ!」 「あら、そっちこそ今ならまだ止めてあげてもいいのよ?」 どうやらどうあってもお互い退く気はなさそうだ。全くもってお互いに難儀な性格である。 そしていよいよ決闘が始まろうとしている。 「ルールはこの中庭からあの壁の的に向かって魔法を撃ち先に当てた方が勝ち、ってことでいいかしら?」 ラムザ達四人とタバサの風竜の他には誰もいない中庭、そこから見える壁にタバサがキュルケの言う的を貼ってきていた。 無論そんな所にただ壁だけがあるはずもなくそれは建物の壁なのだがキュルケ曰わく壁には固定化の魔法がかけられていてちょっとやそっとじゃ崩れないらしいが…。 「異論ないわ! さぁ始めましょう!」 もうラムザには止めようがないのである。 「はぁ…」 「相棒も大変だねぇ…」 今ラムザの苦労を分かってくれるのはこのデルフリンガーだけだ。 あれから短い間しか経っていないがそんな一人と一振りの間には幾何かの連帯感が生まれていた。仲裁を諦めたラムザが二人から離れると一斉に呪文を唱える。 「「ファイアーボールッ!」」 次の瞬間キュルケの前に人の頭ほどの火球が現れ的に向かって飛んでいく。 一方同じ呪文を唱えたはずのルイズの前には何も現れていない。 「さすがはゼロのルイズね、この勝負もらったわ!」 キュルケが勝ち誇った声をあげると同時に凄まじい爆裂音が鳴り響いた。 「え?」 先程まで自分の勝ちを確信していたであろうキュルケが気の抜けた声を出す。 そう、爆裂音はキュルケのファイアーボールで起きたものではなかったのだ。 吹き荒ぶ土煙の向こうにキュルケの放った火球が飲み込まれていく。 「だぁーれがゼロですって?」 うってかわって先程まで泣きそうな顔をしていたルイズが勝ち誇った顔でキュルケに相対する。 「引き分け」 「「え?」」 タバサの一言に二人が声をあげる。 「二人とも魔法が当たっていない」 そういって煤けた紙を取り出す。 それは先程まで壁に貼られていた的であった。 「爆風で飛んできた」 それを見せられては二人とも自分の勝ちを主張することはできなかった。 押し黙る二人を後目にタバサが次の言葉を紡ぐ。 「そして壁が壊れた、早く逃げないと音に気づいて人が出てくる前に…」 しかしそのタバサの言葉を遮る轟音が鳴り響いた。 「こ、今度は私じゃないわよ!?」 「分かってるわよ! なに…あれ…ゴーレム…?」 ………………………… 「して、君らは犯行を目撃したのかね」 白く長い髭を蓄えた老人、オスマンは問うた。 「はい、オールドオスマン」 オスマンの前に立つルイズが静かに答える。 視界が晴れた後その場を去ろうとした一行は駆けつけたオスマンに捕まり現在任意という形で質問をうけている。 「そうか…。それでは君達が一番犯人について詳しいということになるかのう…?」 「…オールドオスマン?」 いつもの明るさと違う雰囲気を纏う老人にルイズが声をかける。 「ここに来る前に壊された棟をみてきた。知っての通りあそこには宝物庫があるからのう。そして、じゃ。こんなものをみつけた」 そう言うとオスマンは一枚の紙を出した。それを受け取り読み上げるルイズ。 「審判の宝珠頂戴しました。土塊のフーケ…これって…」 「そう、犯人は都を賑わせている盗賊のフーケらしいのう。そして確かにそこに書かれているものがなくなっておったわ。これは由々しき事態じゃ、学院としてはすぐに追跡を開始しようと思う」 周りでは何の騒ぎかと出てきた生徒や教師が出てきていた。そんな中でなにかもったいつける様な含みのある言い方がラムザは気になっていた。 「それで、僕たちに追跡をしろと…?」 「そうじゃ、事は一刻を争う。すぐにむかってもらいたい」 このオスマンの申し出に対しラムザは疑問を抱かざるをえなかった。そしてこの申し出だけでなくラムザには気になっていることがある。 何故学生に盗賊追討を命じるのか、何故オスマンは駆けつけてすぐ自分達のもとへ来たのか。この疑問をぶつけようとした時、ラムザの隣にいたルイズとキュルケが口を開いた。 「わかりました。オールドオスマン! すぐに出立いたします!」 「私に任せていただければ賊の一人や二人、すぐに捉えてきますわ」 そう言うと二人はタバサの風竜の背に乗る、そしてタバサもそちらへむかっている。 それを見てラムザが声を上げようとするがそれはオスマンによって止められた。 「ラムザ君、不満はあるだろうが何も言わず今はむかってくれ、盗まれたものは普通のものではないのじゃ」 「普通のものじゃ、ない…?」 オスマンに対しラムザは訝しげな目を向ける。 「行けばわかる、君なら。賊がどっちに向かったのかはわかっているじゃろう? 急いでくれ、わしはここを纏めなければならん。」 「何をいって…」 「ラムザ早くしなさい! 置いて行くわよ!」 オスマンを問いただそうとするラムザにルイズから声がかかる。ルイズ達だけで向かわせることはできないとラムザはオスマンを一瞥してルイズ達の方へ走った。 「頼んだぞ、ラムザ君」 風竜が飛び立つのを見るとオスマンは人集りが出来始めている壊された建物へむかって歩いていった。 ………………………… 「まだ賊が逃げてからそう時間は経っていない。が、向こうも素人じゃない。必ずしも逃げた方角に向かっているとは限らない。全景をみて近くを動いてるものを探し出す!」 「わかったわ!」 ラムザの声にキュルケとルイズが応える。 こうは言ったものの正直ラムザはフーケ探索は難航するだろうと考えていた。 森の中で息を潜められたら空から追う自分達がみつけるのは困難である。 しかしその時、ラムザは妙な感覚をうけ辺りをみた。 この感覚は以前にも感じたことが… 「ルイズ、さっきの決闘、引き分けじゃあ納得できないわよね?」 「ええ、私もあなたと同じことを考えていたところだわ、今からフーケを見つけ出し捕らえた方が勝者よ!」 そんな事を言い合うキュルケとルイズの横でラムザは記憶を辿った。 忘れていたわけではない、しかしこの感覚はまさか… 「タバサ、ここから南西の方角にむかってくれ!」 「…わかった」 タバサの合図で風竜は旋回、加速した。 突然のことにキュルケとルイズは小さく悲鳴をあげる。 そして驚きの声をあげた。 「ダーリン、フーケを見つけたの!?」 「見つけたのかはわからない、しかしきっとそこにいるという感覚がある、忘れもしないよ、これは…」 そこで言葉を止めるラムザを三人は見た。 しかしラムザはそのあとの言葉を継がないうちに風竜から飛び降りた。 「え?」 「ラムザ!」 ルイズが三人の視界から消えた人物の名を呼び、キュルケは突然の事に驚き声をあげた。タバサはすぐに風竜に合図を出しラムザの消えた場所へと向かう。 三人がラムザを見つけた時、彼は何者かと対峙していた。 暗闇の中で黒いローブを着込み顔はフードで覆われていて確認できない。 だがこれが目的の人物であろうことを全員が確信していた。 「観念しろ、賊」 ラムザが黒ローブの人物に投げかける。 「まさかこんな早く追っ手が出るとはねぇ…、だがこの土塊のフーケ、子供相手に捕まるような小物じゃないよ!」 そう言ってフーケは杖を振った。すると突如足下の土が盛り上がりラムザ達とフーケの間に瞬く間に巨大な土の人形が現れた。 「くっ! そう簡単にはいかないか! デルフ!」 「あいよ相棒! ようやく俺の出番だな!」 デルフリンガーに手をかけるラムザの左手のルーンが光を放つ。 足の筋肉を引き絞り、解放- 土塊に向かって駆けるラムザの後ろから火球とそれを後押しするような空気の壁が飛ぶ。 一瞬早くたどり着いた火球、できた皹に滑りこむ刀身。 切り抜けたラムザはそのまま距離をとる。抜けた軌跡から光がこもれ、閃く。 光が消えるとそこに何もなかったかのように空いた空間が残る。 タバサの風に支えられたキュルケの火球を頼りにラムザが切り抜け、とどめのルイズの爆発、狙いすましたかのような流れが起きる。 だがそれでも土人形は倒れない。 空いた隙間に地面から土塊がねじ込まれる。 一瞬バランスを崩すものの倒れることはしない。 不安定だからこそ安定している、矛盾しているような表現であるが確かにその人形は留まらないからこそ見た目には留まっているのだ。 上空から魔法を放つ三人の淑女に地を駆ける剣士、そして人形はまるで夜の闇の中を一人不格好に踊るピエロのようである。 「けど、これじゃ埒があかないわ」 呟くルイズにキュルケが応える。 「えぇ、いずれどちらかの精神力が尽きるまで続きそうね、それか…」 「ラムザが持たない」 キュルケの言葉を継いだタバサの一言によってルイズの心臓が早鐘のように拍動しだす。 それはルイズにもわかっていたことだった。 この世界で平民は貴族に勝てない。そう言われるのは必然といえる力の差があるのだ。 「ラムザ…」 ルイズの言葉は風竜の切る風の中に消えていく。 ……………………………… 切っては走り、転回、跳びまた切る。 ただ繰り返しているだけの動きの中でラムザは思考を巡らせていた。 タバサとキュルケの魔法では傷はついても土塊の動きに大きな支障を出させるには厳しいものがある。 ルイズの爆発は確かなダメージを相手に与える、しかし命中率が悪い。先ほどから中空に閃光を瞬かせるだけで肝心の土塊にあたっていない。いくら強力な魔法でも当たらなければ意味がないのだ。 かといって当たるまで待つわけにはいかない。 単調な動きといえど激しい動きだ、疲れで先に潰れるのは自分だろう、ではどうすれば… 一瞬の隙 切り抜けた後に草に足をとられ地に伏すラムザ。 … …………………………. 「あ…」 思わず漏れ出たルイズの声、次の瞬間少女は空に身を投げ出していた。 「ちょっと、ルイズ! あー、もう! あの子ったら!」 キュルケの声も今のルイズには聞こえない。地面が近づく中ルイズは呪文を唱え続ける。 呪文を結んだルイズは次の事を考えた。着地のための魔法が使えない。 自分が ゼロ である事を悔やむ。 自分が助かりたいから魔法を使いたいのではない。誰かを守れる力が欲しかった…。 地面が自分を呼んでいる。重力のままに叩きつけられ、その華奢な体はバラバラになるのか? そんな思考が頭をよぎる。しかしルイズはその考えを信じてはいなかった。 そして目の前に現れた影に確信をもつ。 ルイズは地面に叩きつけられることはなくラムザの腕の中にいた。 地に伏したラムザがルイズの落下を見た瞬間すぐさま疲れた体に鞭打ち立ち上がり駆けだしていた。 しかしいくらラムザといえど倒れた状態から落ちてくる少女を走って受け止めにいくような真似は本来なら不可能だ。 そこはキュルケ、タバサの迅速な行動の賜物であった。 ルイズが飛び出た瞬間キュルケはそれまで唱えていた魔法の詠唱を中断、浮遊の呪文を唱える。 そしてタバサはキュルケを欠いた弾幕の穴を埋めるべくさらに広範囲の魔法を展開する。 これにより落下速度を落としたルイズを受け止めることができたのだ。 そしてルイズがその身を投げ出した理由。 彼女は風竜からただ飛び出したわけではない。 彼女は土塊の前へ、確実に自分の爆発を当てるために飛んだのだ。 その行動はラムザを土塊の手から守るために咄嗟に行ったことであり後先を考えておらず非常に危険ではあったが、なんとか彼女は無事であった。 そして彼女の結んだ魔法は確かに土塊の片足を吹き飛ばした。 閃光とともに消滅した人形の右足をみてフーケが嬌声をあげる。 「はっ! 決死のダイブだったようだが残念だねぇ! そのくらいでゴーレムは倒れないよ!」 言葉通りに右足を再構築させるフーケ。ルイズはの眼前で元通りに組み上げられる土人形。 「さて、この新しい足でまずはお二人さんから踏み潰してあげようか!」 そういって動き出す土塊。 この土塊に近づくために飛んだルイズの落下点は言うまでもなく至近距離でありとてもよけきれるものではない。 ルイズは踏み潰されることを覚悟した。 しかし土塊の右足が持ち上がることはなかった。 「なんだいこれは!?」 思わずフーケも声を上げる。 土人形の右足から蔦のようなものが生えその動きを抑えているのだ。 「風水、蔦地獄」 ルイズが呟くラムザの顔を見る。 「今の、ラムザが…?」 「ルイズまだ戦いは終わっちゃいないよ。ここは危ない、走って逃げるんだ」 そういうとルイズを下ろしラムザは再びデルフリンガーを構え駆け出す。 取り残されたルイズも呪文を唱える。 ラムザの言葉に反発するようにルイズは大きく引くことはしなかった。至近距離からの爆発により土塊の体が崩されていく。 切り崩され、爆発。上空から降り注ぐ火球と氷柱。しだいに削られてゆく人形、しかも土を補充すればそこからは蔦が突出し動きが縛られていく。 そうして人形の表面が覆われ動けなくなるのも時間の問題であった。 しかし完全に動きが止められる直前、急に土塊が形を崩した。 「はっ!ゴーレムが動けなくなれば負けを認めるとでもおもったのかいっ!?」 そういうとフーケは杖を振り魔力を解放した。 次の瞬間土でできた壁が噴出。 蔦をまきこみながらラムザ達の前に聳え立った。 吹きあがる土煙に巻き込まれ視界を失うラムザとルイズ。 「キュルケ! タバサ!」 ルイズが上空の二人に追撃を求める。 しかし帰ってきた答えはルイズの予想に反したものだった。 「いないわ、どこにもいない。フーケがどこにもいないわ!」 「そんな…」 キュルケの声に動揺するルイズ。 逃げたのならすぐわかる。 「こりゃぁ、まだ近くにいるな」 デルフリンガーの言葉にラムザがうなづく。 不意を打ってくる気か、それとも…。 キュルケとタバサには上空からの監視をつづけてもらうよう言った。 そしてルイズを引き上げてもらうようにいうがそれを頑なに拒否するルイズ。 周囲に気をはりながらルイズを諭すように言う。 「ルイズ、ここは危険だ。タバサの風竜のところへいくんだ。」 しかしルイズは頑として譲らない。 「ここで私だけ安全な場所からあなたが戦うのを見ていろというの? 私は貴族よ! 貴族とは、魔法を使えるだけの者を言うんじゃないわ。 誇りをもって決して何事からも逃げないものを貴族というの! ここであなただけ危険な目にあわせるわけにはいかないわ!」 「君の考えは素晴らしい、ただ血筋だけで貴族を名乗る脆弱な者もいる中でその意志は本来の貴族の在り方を知る者の誇り高きものだ。 しかし、今僕が言っているのは君の考えには反しない。これは背を向けて逃げ出すことじゃない、敵を知りリスクを減らしているだけだ。 僕がここに残るのに適役で君にはやれることがほかにあるだろう?」 「…私がここにいると邪魔になるから? ゼロのルイズだから?」 「違う」 「違わないわ、さっきから私あなたの邪魔しかしてないわね…。飛び降りたとき助けてくれたのもあなた、ゴーレムの動きを封じたあの蔦も、あなたなんでしょ?」 「ルイズ!」 後ろ向きな発言を続けるルイズが突然のラムザの大声に驚き顔をあげる。 そこで彼女が見たものは予想していた叱責の強張った表情ではなく慈愛を感じさせるようなとても優しいものだった。 「ルイズ…、僕は一度だって君を邪魔だなんて思ったことはないよ。君のさっきの命をかけた行動のおかげで僕は助かったんだ。君にはできることがある。 できないことを見て悲観してはいけない、君にしかできないことがあるんだから。できることさえせず背を向ける事を君の誇りは許すことができるのかな?」 「ラムザ…。」 目の前の男から発せられる言葉にルイズは自らを恥じた。これではまるで駄々をこねる子供ではないか、自らの発言を矛盾させる行動をして今の私こそ彼を困らせている。 涙がこぼれそうになるのをぐっとこらえる。下を向き、再び顔をあげたルイズはラムザに告げた。 「わかったわ、地上はあなたに任せる。でも…無茶はしないでね?さっきみたいなことになったら私…」 言葉を紡ぐ最中、ルイズの体が浮き上がった。 それがタバサがルイズを引き上げるために行使した魔法によるものだとわかるとルイズは何かに気づいたかのようにハッとしたかと思うと顔を真っ赤にしながら声を大きくしていった。 「べ、べつにあんたのこと心配してるわけじゃないんだからね! あんな賊に後れをとったら承知しないんだから!」 それだけ言い残しルイズは引き上げられていった。 ラムザは苦笑いしたがすぐに思考を巡らせる。 フーケはここにまだいるのか、まさか地下に仕掛けを施し逃げたのではないか、そんな考えが一瞬頭をよぎったがすぐに否定した。 先ほどからラムザが感じている感覚、それがフーケがまだここにいることを伝えている。正確にはフーケの所持物が、だが。 フーケはこの土壁を使って隠れている、ではどこに? 地下か、壁の中か、それとも木の上にでも潜んでいるのか。 感覚を研ぎ澄ませるがその詳細な位置を把握することができない。 このまま留まることはフーケにとって不利な状況を招くことは分かっているはずだ。それでも姿を表さないということはフーケの狙いは不意打ちか、もしくは… 「これじゃ埒があかないな」 「ああ」 デルフリンガーの声に答えるラムザ。 ラムザは己が体に走る焦燥を押さえ込み思考を巡らせる。 フーケが姿を眩ませてから幾分かの時間が経った。しかし一向に動きを見せない様に風竜に乗る三人も不安を覚えていた。 その視界の中になにか異変はないか懸命に探す。下に居る青年も常に気を払いながら行動している。その彼の為に今自分たちができる事をやらなければならない。 そんな中、風による探索をかけていたタバサがゆっくりと動く物体を見つけた。 「森の中で動くものがある、野生動物ではない」 タバサの言葉を聞きそれを下にいる青年に伝えるためルイズが声を上げた瞬間 「ラムザ!」 その青年に向かって数多の矢が射かけられた。 四方八方から飛ぶ矢に対して回避行動をとるラムザ。 しかしいくらなんでも同時に放たれた矢を全て避けることはできずその命を狙う矢をはじき落とすも何本かががラムザの体を傷つけた。 受けたのはかすり傷程度だがそれよりも矢に気を取られた一瞬が痛かった。 矢を放ったのは森の中、巧妙に隠匿された固定弓。 フーケが動かなかったのはその固定弓を密かに錬金し配置していたからだった。 矢が放たれたと同時に土壁がはじけあたりに土煙をあげる。それに乗じてその場を離れようとする者がいるのをラムザは感じていた。 フーケの矢はラムザを討つためのものではない、ラムザの隙をつくるためのものだったのだ。 一瞬絶望的な考えがラムザの頭をよぎる。 そしてフラッシュバックする光景。 辺りを血の臭いと死の気配だけが包む城、全ての恐怖を体現した存在。 二度と…あの悲劇を引き起こす訳にはいかない……! ラムザの感情が燃え上がる。それに呼応するように左手のルーンが輝きを増す。 「ああああああああああああっ!!」 「相棒っ!」 疾走する叫び,それはデルフリンガーの呼びかけさえ消し去る。 フーケが振り返るとそこには居るはずのない声の主がその身に迫っていた。 「返してもらおうか」 「ヒッ」 フーケの口から漏れ出る声。 そのまま後ろから肩を掴まれ地面に押し付けられる。草地に顔が飲み込まれるように叩き付けられその衝撃にフーケは意識を手放した。 「はぁ、はぁ……」 「相棒、大丈夫か?」 「あぁ、ちょっと、うん、はぁ、気持ちの整理が、はぁ、うん、もう大丈夫」 デルフリンガーの心配そうな声、呼吸を乱していたラムザもどうにか息を整える。 なんだ?今のは…? 力への渇望が、確かにあった。しかしそれが形に現れるなんて都合のいいことが起こるはずがない。自分に起きた異変。ありえない速さ。 ヘイストの呪文をかけられた時のような加速度。いや、それ以上かもしれない。しかし自分は呪文など唱えていない。 「……?」 不思議に思うラムザの手の中でデルフリンガーの中にも疑問が生まれていた。 前にも見たことのあるようなその光景、しかしその既視感に対する答えが出ないでいた。 「ラムザ!」 そんな一人とひと振りのところにルイズ達が駆け寄ってきた。 「フーケを捕まえたのね」 その声にラムザは思考から復帰し答える。 「ああ、気絶しているうちに杖と盗品を取り上げて縛っておこう」 「そうね。とりあえず杖を、そしてこれが審判の宝珠?」 そういってルイズがフーケの懐から取り出したもの、それはラムザの予想通りのものであった。 「何故これがここに…」 「? 今なんて?」 ラムザの呟きにルイズが聞き返す。 「いやなんでもない」 しかしラムザは答えはしない。 「?」 一瞬どこかつらそうな表情を見せたラムザをそれ以上追及するのははばかられた。 しかしそこはルイズ、疑問をそのままにしておけるたちではない。もう一度聞こうとしたしたがそれは偶然キュルケの声によって押しとどめられた。 「ねぇ、これって…」 「え?」 フーケのローブを脱いだ顔をみるとそこには見知った顔があった。 「ミス・ロングビル?」 そう、それはオスマンの秘書ロングビルその人であった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 驚きと疑問の尽きない一同であったが夜も更け一度学院に戻ることにした。 学園に着いたとき、騒ぎはある程度沈静化していたようだ。普通ならこれだけの騒ぎがあればもっと人が出ていてもおかしくないものだが、これはオスマンによるものだろう。 そうあたりをつけまだ人の残るあたりに向かう。 予想通りそこには教師らしき人物が数人とオスマンがいた。 ラムザ達に気づいたオスマンはそれまでしていた話を切り上げ駆け寄ってきた。 「無事じゃったか、さすがの手際じゃな。して、盗まれたものは…?」 「ここにあります、オールドオスマン」 「おお! よくやってくれた!」 そういってルイズによって差し出されたものに手を伸ばすオスマン、しかしそれは先に手を出したラムザによってさえぎられる。 「ちょっと! ラムザなにやってるのよ!」 訳が分からないルイズは非難と疑問のまじった声をあげる。しかしそんなこと意に介さずラムザはオスマンに向かって話しだした。 「これが何か知っているようですね、ならばそうやすやすと渡すわけにはいきません」 「ラムザ?」 毅然と構えるラムザの様子にルイズ達は気圧される。 「ルイズ、それを僕に」 いわれるがまま手に持っていたものをラムザに渡す。 その間もラムザはオスマンに対し注意を向けている。 そんなラムザに対しオスマンはそれまでの厳しい顔を崩し話す。 「ほっほ、たしかにそうじゃの。君にとってこれは忌まわしき物じゃろうしのう、べオルブ君。それは君に預けよう。君なら心配ないじゃろう、しかし仕掛けをほどこさせてもらう、それに君に話さなければならないこともある。来てくれるかね?」 「行かなければならないようですしね、詳しく聞かせていただきましょう」 ふたりの会話についていけない周りは押し黙ったまま立ち尽くしていた。 そんな彼らにオスマンは声をかける。 「君たちはフーケを拘束し王院にその旨を連絡…、む、フーケはミス・ロングビルであったか…。残念な事じゃ…彼女には期待しておったのにのう……。 あぁ、それが終わり次第部屋に戻ってくれてかまわん。君たち生徒は今夜は部屋に戻りなさい、今日は本当によくやってくれた。 おってまた話を聞かせてもらうと思う、またその時に褒美も出そう。」 そういうとオスマンはラムザをつれて自室に向かっていこうとする。 教師たちは言われたとおりに動きだした。 フーケの正体に関しても自分たちの活躍にしてももっと言及されると思っていたキュルケは唖然としている。 タバサも表情はあまり変わらないが驚きはあるようだ。そしてルイズは連れられていく自分の使い魔を黙って見送ることができずオスマンに駆け寄っていった。 「待ってくださいオールドオスマン!」 その声を聞きオスマンは振り向く。そしてこういった。 「おお、そうじゃった。ミス・ヴァリエール、君の使い魔は今夜はわしのところに来てもらう、話すことがあるのでのう。後々君にも話すことがあるのじゃがそれは今夜は無理じゃ、今夜は部屋に戻ってもらえるかのう?」 やさしく話すオスマンに対しルイズが不安そうに尋ねる。 「あの、ラムザがなにかしたのでしょうか?」 それに対し帰ってきた言葉はこうであった。 「そういうわけではない、君は心配せずに部屋に戻り明日の授業に備えなさい。それに明日は大事な日じゃろう?」 そこまで言われれば食い下がるわけにもいかずルイズ達は気にかけるように幾度もふりかえりながら寮塔に向かっていった。 「では、わしらも行こうかのう」 そういって歩き出したオスマンの後ろをついていくラムザ。 長い夜はまだ終わらない。 第7話end… 前ページ / ゼロの騎士 / 次ページ
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前ページ/ゼロの使い/次ページ 「悪党はお互い様じゃないか?隊長殿。」 その言葉に思い当たる節があるのか、コルベールは顔をしかめた。 「まあ、村一つ焼いた程度の事で戦場から身を引く程度じゃあ、俺のが悪党としては上か・・・」 言いながら、メンヌヴィルの姿が変容していった。 盛り上がっていく肉体が身に着けていた衣服を引き裂き、全身は赤い体毛に覆われ、額が裂けて目玉が現れた。 変容が終わった時、そこに立っていたのは2メイル程のグリフォンを直立させたような炎のように赤い化け物である。 彼が元は人間だったと言われたとして、信じる者は皆無であろう。 「さあ隊長殿、あんたが焼ける匂い、たっぷりと嗅がせてもらうぜ。」 言い終わると、化け物は息を大きく吸い込み、激しい炎を吐いた。 先程同様、魔法で相殺しようとするがドラゴンのものに勝るとも劣らぬそれを受け止めるのはいかに彼とて無理な注文であった。 やがて炎が直撃し、その場に倒れてしまった。 「おいおい、こんなに簡単にくたばっちまうのかよ?」 拍子抜けしたメンヌヴィルがゆっくりとコルベールに歩み寄り、彼の襟を右手で掴み、持ち上げる。 「焼き加減は・・・レアか?ミディアムか?・・・聞くまでもなくウェルダンだよな!!」 止めを刺そうと息を吸い込む彼を、気絶したかに思われていた『炎蛇』が突如睨んだ。 「慢心は・・・あの頃のままだな!!爆炎!!」 その瞬間、コルベールとメンヌヴィルの周囲の酸素が見る見る減少していった。 「なるほど・・・範囲内の生物を窒息死させる魔法で道連れにしようって寸法か・・・だが残念。俺に空気は必要ない。」 魔物が再び火を吹こうとする。コルベールがニヤリと笑うが、魔物は嘲るように言った。 「バックドラフト・・・と言ったか?それを狙ったとしても無駄だ。炎の扱いに慣れてる俺が、そんな馬鹿な真似をやるとでも思ったか?」 呪文の範囲外まで飛んでいってから焼き殺すことにした魔物が翼を広げる。 だが、飛び立とうとした瞬間、彼の後頭部に大きく重い何かが直撃した。 魔物は衝撃でコルベールを落とし、同時に、辺りの空気が元に戻った。 「ゴホゴホ・・・爆炎は囮だ。本当の狙いはその斧だ。」危うく窒息死しかけたコルベールが咽ながら言った。 「な・・・に・・・」と血を吐きながら呟きつつ、彼は斧の飛んできた方向を見た。その先には研究所の破れた窓から顔を覗かせている青い鎧の様なものが立ち尽くしていた。 「彼女の名はエリー。私の思念で動き、争いに関する命令を一切受け付けないからくり兵の試作品で、僕の助手だ。」 「ふざ・・・けるな・・・おれに・・・こう・・・げき・・・を・・・」 「私はただ、斧を拾って僕に投げてくれと命じただけだ。命令を実行したら、お前が斧の軌道上にいただけのことだ。 貴様の炎を受けたのも、倒れる場所も計算ずくだった。」 「ぐ・・・やっぱ・・・つえぇな・・・せめて・・・サシであんたと・・・やりたか・・・た・・・」 言い終わる前に、人であることを捨てた男は息絶えた。その瞬間、死体が塵芥となって消え失せた。 「お前が人のまま私に挑んで来たら・・・そうしたかもな・・・」 彼は生徒達の救出に行こうとしたが、どうやらかなりダメージが大きいらしく、動くことは出来なかった。 先手を取ったオスマンが老骨に鞭打って、見えざる最後の敵に放った炎の嵐は突如発生した竜巻によって弾かれた。 風の魔法かとも思ったが、魔力を感じることは出来なかったので、恐らく体を超高速回転させて炎を防いだのだろう。 無論、常人にはそのような事は出来ないが、先程からの発言等から彼が相当の猛者である事は間違いないし、 ひょっとしたら、身体能力を向上させる何らかの魔法薬を使っているのかもしれない。 と、不意にオスマンは思考をやめ、しゃがんだ。 回転しながら後方へと飛んで来る物体の『風』を感じたからだ。 続いて、オスマンは後方へと飛び、さらに100を超える老人とは思えぬ華麗な動きを披露し、不可視の剣を避ける。 「手裏剣でわしの注意を引いた後、接近戦に持ち込み、詠唱をさせぬ魂胆じゃろうが、甘いの。 そんな事ではご大層な肩書きが泣く・・・」 オスマンは最後まで台詞を言えなかった。 背中に3つの刃が深々と突き刺さり、その痛みに気をとられた隙を突き、不可視の剣がオスマンの体に大きなX字を刻んだ。 「油断したな。俺が投げたのは手裏剣ではなく、ブーメランだ。」 剣に付着した血を拭おうとして血が付いてない事に気づいた時、目の前のオスマンの姿が煙のように消え、同時に背中から強烈な炎を浴びせられた。 レイヴンは叫びを上げることも無く、床にその肉体を横たえた。 その光景を見届けたオスマンが飄々とした口調で言った。 「先の攻撃の際に、念の為と偏在を作っといたのが幸いしたわい。油断したのはお前さんの方じゃよ。」 オスマンは部屋へ視線を移した。 愛用していた椅子は真っ二つにされ、天井は崩落、内装の殆どは黒焦げ。 おまけに床に転がった見えない刺客共の死体で足の踏み場も無い状態だった。 そこまで行って、彼は深い溜息をついた。 「何という事をしてくれたのじゃ全く。これならいつもの書類整理や、 在りし日のロングビルの折檻の方がよほどかマシじゃわい・・・」 半分以上は自分がやった事などと言う事実は棚に挙げて、学院長は侵入者に愚痴を零した。 と思いきや、突如入口に炎の球を投げつけた。 炎球は何も無いはずの空中で爆発し、死んだ筈の人間・・・レイヴンに止めを刺した。 「確かに致命傷を負わせたはずなのに大した執念と生命力じゃ。じゃがの、そんなに殺気を漲らせては寝ている子供にも気付かれてしまうぞ。」 オスマンは無益な殺生を好む人間では無い。 この老体はうすうす、敵が息を引き取っていないことに感付いていたが任務を諦め、退散するなら見逃すつもりでいた。 ふと、彼は妙案を思いついた。 この見えない鎧や剣をアカデミーに差し出せば、謝礼として部屋や内装品の修理代が出るかも・・・と。 今、ニューカッスル跡ではメディルが予想外の苦戦を強いられていた。 開戦早々、敵は予想外のスピードでメディルの懐に飛び込み、嵐の様な槍捌きで彼を攻め立てた。 辛うじて、直撃は避けてはいるが、いつまでもそれが続くかといえば答えはNOとなる。 いかにあらゆる魔法に精通したメディルとはいえ、疲労の概念はある。 対して、敵であるグレートライドンはアンデッド故に疲労の概念は無い。 肉体を破壊されない限り、何年でも戦い続けることが出来るのである。 この世界の詠唱を必要とする魔法に比べれば、メディルの魔法は言葉だけで繰り出せる分相当速い。 しかし、それをもってしてもこの状況下での反撃は無理だった。 メラゾーマが槍で弾かれることは以前のやり取りで明白だったし、至近距離でイオナズンやベギラゴンを使えば自身もただではすまない。 マホカンタはあくまで、他者の魔法を跳ね返すので、自分の術を防ぐのは無理だった。 かといって、距離を置こうにも敵の方がこちらより素早く、八方塞な状態であった。 「どうした!?いかなる雑魚が相手でも、逃げるだけでは勝てぬぞ!?」 と、不意にグレートライドンの体が傾いた。いつの間にか、地面が凍らされており、乗っていた馬が足を滑らせたからだった。 すかさず、メディルが距離をとってベギラゴンを放つ。 しかし、呪文は凍える吹雪・・・単なる乗り物だと思っていた馬の吐き出した冷気のブレスによって防がれた。 その上、流石は魔界の馬というべきか、転倒すると思ったメディルの思惑を裏切り、 馬はすぐに体勢を整え再びメディルの懐に飛び込んで来た。 不意を突かれたメディルの胸に、吸い込まれるようにランスが突き刺さった。 槍の主は殺ったと言わんばかりの笑みを浮かべるが、すぐに驚愕に染まった。 突き刺さった筈の槍に、ヒビが入っていき、粉々に砕けた。 次いで、二発のメラゾーマが彼の胴体と馬を粉微塵に吹き飛ばした。 普段なら槍で、距離さえあれば馬の吹雪で防げた技だった。 「何故・・・槍が砕けたのだ・・・どうやって・・・そんな真似を・・・」 凍らされた様子は無かった。にも拘らず、得物が砕けた理由が理解できぬ彼はおもむろに言った。 「先程脱出する際にかけたスクルトのお陰だ。」その問いに、仮面の魔術師はいつもと変わらぬ口調で答える。 「いかに体を硬化させたとはいえ・・・槍を脆くでもしない限り・・・」 言いながら、彼は何かを思い出した。彼の知る限り、武器を脆くする術は無い。 だが、似た効能を持つ術ならば知っていた。 「ま、まさか・・・」 「そう。先程の攻撃の中で槍にルカニをかけておいたのだ。本来防具を脆くする術だが、 武器に使えるよう改造されたものがこちらの世界に来て読んだ書物に記されていた。 考案者は術の名前まで考えてはいなかったようだから、あえてルカニと呼んでいる。」 「ははは・・・いるものだな、そういう凡人の知恵の及ばぬ事をする奴が・・・完敗だよ・・・」 「お前は凡人ではなかった。世が世なら、私の下で有能な部下として召抱えられていただろう。」 「・・・そうだな・・・お前の様な奴が上司なら、私も喜んで仕えただろう・・・ さらばだ・・・最後に良い冥土の土産が出来たよ・・・」 メディルという偉大な魔族の名という土産がね・・・ と言い終える前に最後に残された頭蓋骨が、塵となって消えた。 それを見届けると、メディルは飛翔呪文を唱え、軍と繋がっている魔力の根源を目指して飛んでいった。 ルカニ武器バージョンはここのオリジナルです。 前ページ/ゼロの使い/次ページ