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基本情報 あらすじ キャラクター 声優 内容 コメント 基本情報 ジュペッタのさがしもの! 脚本 土屋理敬 絵コンテ 野田泰宏 演出 野田泰宏 作画監督 大西雅也服部奈津美広岡トシヒト倉員千晶 初回放送 2023/03/03 オープニング めざせポケモンマスター -with my friends- エンディング ひゃくごじゅういち 前回 ラプラスにのって♪ 次回 逆襲のロケット団!? あらすじ ある街にやってきたサトシとピカチュウたち。街では最近、あちこちの家で怪奇現象が起きているという。事件解決のために、サトシたちも事件現場の家を捜索するが、そこで目撃したのは1匹のジュペッタだった…!侵入した家から色んな物を持ち出していたジュペッタの目的は一体!? キャラクター 【サトシ】 【ピカチュウ】 【ゲンガー】 【カイリュー】 【カスミ】 【タケシ】 【グレッグル】 【ムサシ】 【ソーナンス】 【コジロウ】 【ニャース】 【ジュンサー】? 【ガーディ】 【ジョーイ】? 【ラッキー】 【コダック】 【オオタチ】 【ヌオー】 【ミズゴロウ】 【ドクケイル】 【テッカニン】 【ゴクリン】 【ジュペッタ】 【ラティアス】 【スコルピ】 【ニャスパー】 【ヌメラ】 回想のみ 【カラカラ】 【ゴロンダ】 声優 担当キャラ 名前 サトシ 松本梨香 ピカチュウ 大谷育江 カスミ 飯塚雅弓 タケシ うえだゆうじ カイリュー 三宅健太 グレッグル 小西克幸 ゲンガー 間宮康弘 ジュペッタ 武隈史子 ジュンサー 清水理沙 ジョーイ 真堂圭 女性 永井真里子夏吉ゆうこ ナレーション 堀内賢雄 内容 とある街に訪れたサトシ達。その街は物がなくなる怪奇現象が起こっており、ジュンサーが調査中だった。サトシ達もゲンガーを出してこれに協力する事に。 調査中、一行は物がなくなる現場を目撃。物を持っていく者の正体はジュペッタであった。ジュペッタはどこかへ消えてしまう。 調査を進めるとジュペッタが持ち出しているのはハート型のものばかりである事が判明する。そこに落とした写真を拾おうとしたジュペッタが出現し、カスミのハートの髪飾りを奪おうとする。 サトシ達は何か目的を持つジュペッタに協力しようとするものの、ジュペッタはどこかへ消えてしまう。 ジュペッタが落とした写真を見つけたタケシ。そこにはぬいぐるみだった頃のジュペッタがハートの髪飾りを付けている姿と、それを抱える女の子が写っていた。 ジュペッタの回想がここで流れる。元々は女の子に可愛がられていたが、引っ越しの時にゴロンダがうっかり置いていってしまったらしく、そこでぬいぐるみがジュペッタに変化。その後に女の子を見つけたものの、ジュペッタの正体が分からずに逃げてしまい、ハートの髪飾りを探していたようだ。 サトシ達は怪しい廃墟を見つける。そこにはやはりジュペッタが住み着いていた。全てを察したサトシ達はジュペッタに髪飾りを与えて和解する。 ぬいぐるみの持ち主の女の子を探してそこら中の女の子に話しかけるが、写真に顔が写ってないためジュペッタもサトシ達も女の子が誰なのか分からなかった。みんなで虱潰しに探すが、全く見当たらない。 写真が何か引っ掛かっていたタケシ。ジョーイさんを見て、タケシはジョーイさんが女の子である事を突き止める。ジョーイさんに話を聞くとなんと当人であった。 一方、ジュペッタは落ち込んで貨物列車の上に座っていたが、そのまま列車が発進してしまう。それをゲンガーから聞いたサトシはカイリューを出し、ジュペッタの元へと飛んで行った。 無事にジュペッタを連れ戻し、ジョーイとジュペッタは再会を果たす。そのままジュペッタはポケモンセンターで一緒に働く事となった。 タケシが活躍した回だったものの、グレッグルとカスミのダブルお仕置きを何度も喰らっていた。 コメント 名前 全てのコメントを見る?
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種族:ジュペッタ 性別:♀ おや:アラン・スミシー 姫カットと縦ロールポニテという謎髪型 こんなんだけどお嬢様 パンクとかゴシックロリィタ系のダークファッションとか好き 趣味:裁縫 ぬいぐるみ 怒るとゴミ箱を投げつけるらしい XXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXXX +旧デザイン
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俺はジュペッタの気持ちを、表情と彼女の身振り手振りで理解している。 いや、それが果たして正しいのかどうかは分からないから、理解した「つもり」になるのだろうか。 ジュペッタと会話をすることが彼女の気持ちを正確に知る一番の方法なのだろうけど、 それだとジュペッタの命を削ることになってしまうから却下だ。自分の都合で彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。 「……よし」 洗面所で一人、俺は呟く。 超心理学、オカルト、都市伝説……etc。 そういうものは微塵も信じない俺だが、今回はこれに望みを賭けてみる事にした。 超心理学の一種、言語を使用せずに精神を使って相手に自分の意思を伝える能力、 テレパシーである。 - episode 2 以心伝心 - 「……分からん」 仕事の帰り。 俺は市街地の本屋に訪れていた。 ここの本屋は他の本屋よりも群を抜いて品揃えが良い。 ハッキリ言って市街地などには足を踏み入れたくないし、存在自体認めたくないのだが、 ここの本屋「だけ」は認めざるを得ないと思っている。 俺が手にしたのは、超能力の謎を解き明かす、というテーマの本だ。 多少でもテレパシーがどのようにして伝わるか等が分かれば良いと思ったが、 いざページを開いてみると訳の分からない単語ばかり並んでいるので、すぐに本を元に戻した。 他に本は無いか探そうとしたが、どうせ同じ結果に終わるだろうと踏んだ俺は、さっさと家に帰ることにした。 今年は初雪が遅かったせいか、二月の下旬に入ってから急に雪が降ってくるようになった。 地面は雪で覆われ、灰色のコンクリートは隠れてしまっている。 それでも人の多さ、車の多さは変わる事は無かった。 既に日は沈み、月が顔を出しているにも関わらず、市街地は無数のライトが街をこれでもかと照らしている。 ここにいる人たちはこんな所に居続けて昼と夜の区別が付かなくならないのだろうか。 少なくとも俺はここにいただけで頭がどうにかなりそうになる。 結局、ここにいる人と俺は永遠に分かり合えることは無いのだろうと、ちょっと残念な気持ちを溜息に乗せて吐き出す。 暖かく、白い息が空気へ飛び出したのは一瞬。あっという間に溜息は周りの空気に溶け込んでしまった。 ちょっと身を縮めて、俺は家路を急いだ。 コートに付いた雪を払って、靴を脱ぐ。 家の中は暖房が効いているお陰か、暖かい。 冷え切った手に血が流れ、暖めてくれるのが分かる。 荷物を自分の部屋に置くと俺はキッチンへと向かった。 「ただいま、ジュペッタ」 既にジュペッタは夕飯の準備をしてくれていた。 彼女は俺に気づくと笑顔になり、俺に向かって一目散に飛んできて―― ぼふっ。 ――俺の胸に飛び込んだ。 「悪い、ちょっと待たせたか?」 そう言って俺はジュペッタの頭を撫でる。 あの時――ジュペッタと恐らく最初で最後になるだろう会話を交わした時からというものの、 ジュペッタはこうやって俺に甘えてくることが多くなった。 彼女の行動に、二十年余りの人生をあまり女性と関わらずに生きてきた俺はドキドキされっぱなしである。 最近になってかろうじて抗体が出来るようになったが。 というか、こんな所、端から見れば恋人同士にしか…… 「っと、何言ってんだ俺」 危うく妄想の世界に旅立とうとしていた自分を引き戻して、それとジュペッタにそろそろ離れるように言って、 俺は席に座った。 今日もトースト。それとミルクが付いている。 夕飯としてはきっと簡素なものだと思うが気にしない。少食の俺にとってはこれ位がちょうどいいのだ。 ちょっと温かったが、それでも十分な美味しさ。 焼き加減とか、バターの量だとか、俺好みに仕上がっている。 「ジュペッタ、お前最近、俺の好みが分かるようになったじゃないか」 俺にそう言われたジュペッタは照れくさそうに頬を掻いた。 その仕草に俺は笑う。ジュペッタも笑った。 食事の時間は十分弱。 皿とマグカップを片付けた俺は、ジュペッタを呼ぶと、彼女を席に座らせた。 理由は他でもない、テレパシーの実践である。 「ジュペッタ、いいか……」 俺はジュペッタを真っ直ぐと見据えて語る。 ジュペッタはこれから何をするのか分からない、という風に首を傾げていた。 「俺の目を見てくれ」 俺はそう言うと、頭の中にイメージを浮かべ、それをジュペッタに届くようにと、心で念じる。 俺のいつもと違う雰囲気を感じたのか、ジュペッタは真剣になって俺を見つめた。 端から見れば互いに見詰め合っているようにしか見えないのだが。 俺が頭に浮かんだのはどこまでの続く道路と草原、青い空、それと気球。 これがジュペッタに伝わってくれればテレパシー成功なのだけれど…… 「ジュペッタ……何か伝わってこないか?」 俺の問いかけにジュペッタは首を振った。 それを聞いた俺は更に念じてみる。 もっとも、俺はエスパーではないので、思いの念じ方など全く分からないのだが、とにかく心で願えば伝わる……と思う。 さっきからずっとジュペッタを見つめて俺の目がおかしくなっているのか、ジュペッタの頬が赤くなっているように見える。 それでもテレパシーを成功させるために、俺はジュペッタのことを見つめ続けていた。 「……」 沈黙。 時計の秒針を刻む音だけが聞こえる。 そして、互いの沈黙を打ち破ったのは―― 「……////」 頬を真っ赤にして、慌ててキッチンを立ち去ったジュペッタだった。 「あ、ちょ、ジュペッタ!?」 あまりに唐突なジュペッタの行動に、ただ俺は彼女を見送ることしか出来なかった。 「なんだろ、いきなり……」 先程まで張り巡らせていた神経をふっと解き、俺は椅子にもたれかかった。 と同時に頭に冷水を喰らったかのように、思考が急速に冷静になった。 「……つか、テレパシーとか、何信じてんだろうな、俺」 昨日の夜、なんとかしてジュペッタの気持ちが正確に分かることが出来ないものかと考えに考えた結果、 テレパシーという自然法則に合致しない、そもそも実際にあるのか、もしあったとしたらそのような類の力を持った人間しか出来ないような技に、 望みを賭けた俺が馬鹿らしく思えた。 会話も駄目、テレパシーも駄目……。 他にジュペッタの気持ちを知ることが出来る方法は無いものだろうか? 俺が自力でジュペッタの気持ちを理解するしか方法はないのだろうか? きっと何か他に方法があるはずだ、と頭の中で必死に考えるも、どうも肝心な部分が霧の中に隠れていて思いつくことが出来ない。 その歯がゆさが俺を苛立たせ、むしゃくしゃして俺は頭を掻いた。 そして、腕組みをして再び考え込む。 ――時計はいつの間にか十時を回っていた。 あれから小一時間ほど考え込んでいたとは思わなかった。 「もう、寝るか……」 考えるのに疲れ、全身がちょっとだるい。 こういうときは風呂に入ってすぐ寝るのが一番だ。 考えるのはここで止めにして席を立った、その時だった。 トントン。 肩を叩かれて振り向くと、ジュペッタが心配そうに俺の事を見ていた。 「ああ……もしかしてずっと見てたのか?」 遠慮がちにジュペッタは頷いた。 考えていることに集中していたせいか、ジュペッタの気配に全く気づかなかった。 「ちょっと迷惑掛けたな。驚くのも無理なかった。ごめん」 ジュペッタは首を振る。 そして俺にそっと、ミルクの入ったマグカップを手渡してくれた。 「これで元気出せ、と……ありがとな」 ジュペッタから受け取ったミルクは、とても温かくて、体の芯まで温まっていくのが良く分かる。 しかしちょっと熱いので、時折息を吹きかけて冷ましつつ飲む。 「……ジュペッタ」 俺はマグカップをテーブルに置いて、ジュペッタの方を見た。 「俺さ、エスパーでも何でもないから、お前の表情とか身振りとかでしかお前の気持ち、分からないけどさ、 もし……それで俺がお前の気持ちを変な方向に解釈したときは、遠慮なく言ってくれ。 俺もお前の気持ち、ちゃんと理解できるように、努力するから」 あれから考えに考えて出した答えは、前々から考えていた、何にも頼らない「自力で理解」という方法。 最初は勢い任せに言ったのはいいが、最後は消え入るような細い声になっている、 竜頭蛇尾な自分が情けなく感じた。 俺の話を聞き入れたジュペッタは、俺の胸を指差して、 その指を今度は自分の胸へと向けた。 「……ああ」 ジュペッタが何を言いたいのか、自分でもびっくりするぐらいに一瞬で分かった。 俺の胸――つまり心と、ジュペッタの心。 その二つは見えない何かで結ばれていて…… 「私たちは心で繋がってる。 だから互いに何を思ってるか、口に出さなくても理解できている。 ……そう言いたいのか? で、俺の心配は所詮杞憂、だと」 後半部分は俺の勝手な解釈である。 それに対してジュペッタは頷いた。 これは後半部分全部ひっくるめて正しいと捉えていいのだろうか。 「はいはい、どーせ俺の杞憂でしたよ」 あの時の事といい、今の事といい。 俺はジュペッタに色々と教えられすぎである。 きっとジュペッタ、俺よりか修羅場をくぐってるな。もしかして年の功? 歳がいくつかなのは……知らないが。 意思が互いの心から心へ伝わる――以心伝心という奴か。 なんだかそんなことを言われると嬉しくなる。 不意にほころんでしまった俺の顔を見て、またもやジュペッタは俺の胸に飛び込んできた。 「ちょ、おい、不意打ちは反則……」 しかし、以心伝心とはいいつつも、時折出るジュペッタの唐突な行動の真意が、俺には理解することが出来なかった。 それも、いつか分かるときが来るのだろうか。 とにかくテレパシー云々で相当な気力を使った俺にその結論が出せるはずも無く、 俺は丁度いい具合に冷めたミルクを一気に飲み干した。 間もなく三月に入ろうとしている。だが、春の足音は未だ全く聞こえない。 ――――――――――――――――――――――――――――――― ・ 234が前回のお話。 ・ジュペッタよりも主人公が目立っている件について。 ・主人公が念じたイメージ(道路、草原、青空、気球)は眼科で検診受けるときのアレ……なんて言うんだっけ? ・自分が今まで投下してきたSSと似たような表現が一杯なのは自分の語彙が少ないから。 ・構成が果たして成り立っているのか分からない自分はもう一度国語のべn(ry ・くそ、毎回毎回卑屈になってる。ちくせう自分のいn(ry ・結局自重してないorz
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暖かな日差しが窓から差し込む、春の昼下がり。 「……ふう」 微かに額を濡らす汗を腕で拭って、俺はようやく部屋の掃除を終えた。 掃除を行う前はそれほどゴミは出ないだろうと踏んでいたが、俺は几帳面な性格ではないので、長い間掃除をしていなかったせいか、 いざ掃除してみると意外と出る出る。 終わってみれば、目の前には無数のゴミ袋が積み上げられていた。 そのゴミ袋を一旦部屋の外へ出して、俺は改めて綺麗になった部屋を眺める。 ――やはり、綺麗な場所は見ていて気分がいい。そしてご苦労だった俺。 休日の貴重な時間を四時間も労働に費やした自分を称えた後、俺は右手をポケットに突っ込み、 掃除中に掘り出した代物を手に取った。 ――黒色のゴムに、透明なガラス球がついているという、簡素なヘアゴム。 簡素だとしても、俺にとっては色々な思い出が詰まっているヘアゴムだ。 (……髪を結ったジュペッタってどんな感じなんだろうな) ふつふつと湧き上がってきた好奇心のされるがままに、俺はジュペッタのいるキッチンへと向かう。 無論、ジュペッタにこのヘアゴムをつけて貰う為に。 - episode 4 白銀の髪 - 「ジュペッタ、あのさ――――」 ちょっと駆け足になりつつキッチンへと足を踏み入れた俺は、 目の前の光景に足を止め、慌てて口をつぐんだ。 (寝てる……) 日が当たっているフローリングの床に、ジュペッタが横になって眠っていたからだ。 ――きっと今日は天気が良いから、日向ぼっこをしているうちに眠ってしまったのだろう。 俺はジュペッタを起こさないように、一歩一歩、そっと、なるべく足音を最小限に抑えながらジュペッタに近づく。 そして、心地よさそうに眠っているジュペッタの寝顔を眺めた。 「……」 時計の針が時を刻む音と共に、ジュペッタの静穏な寝息が聞こえてくる。 しばらく眺めている内に、いつしか俺は母性愛に似たような感情を抱いていた。 少し頬を突付きたくなってくる衝動を抑えて、じっとジュペッタのことを見つめる。 (ほんとにジュペッタって……子供っぽいよな) 既に俺は本来の目的など忘れ、ジュペッタの寝顔に見入ってしまっていた。 ――ジュペッタが目を覚ましたのは三時のこと。 俺が掃除を終えたのが二時少し前だったから……およそ一時間ほど俺はジュペッタを見つめていたということになる。 しかし俺には一時間が経った実感が今一つ湧かなかった。 ――あれだ。楽しいことやってると、いつの間にか時間がかなり経ってたってやつ。 瞼をゆっくりと開いたジュペッタは、眠たげに目を擦って――――俺の視線に気付いた。 「……!?」 俺とジュペッタの視線が三秒ほど合った後、ジュペッタは慌てて起き上がると、 顔を赤くして俯いてしまった。 そして、ちょっとだけ顔を上げて、上目で俺のことを見てきた。 「ああ……寝顔なら見てたぞ。大体……一時間くらい」 俺の言葉に赤い顔を更に赤面させるジュペッタ。 よほど寝顔を見られたのが恥かしかったのだろうか。 「何もそこまで恥かしがるほどのものじゃないだろ? 可愛かったって」 俺としてはフォローのつもりで言った台詞だったが、それが余計にジュペッタの羞恥心に拍車をかけてしまった。 「……///」 ぽふっ。 「え、ちょ……ジュペッタ? どうしたんだよ、いきなり……」 いきなりジュペッタが抱きついてきた。 突然のことに俺は戸惑いを覚えながらも、その両手でジュペッタを抱きしめる。 顔を上げたジュペッタの表情は、酔った人を連想させるほどに顔が赤く、 羞恥心が最高潮に達しようとしているせいか……瞳が潤んでいる。 ここまでジュペッタが恥かしがるとは思っていなかった俺は、どう接したらいいか困ってしまった。 「あ、えーと……その」 ジュペッタの気持ちを逸らすために、話題を変えようと記憶を辿る。 と、その時、右手に何かを握っているような感触を感じる。 それと同時に、俺はここに来た目的を思い出した。 ――そういや俺、ジュペッタにヘアゴムを渡しにここへ来たんだっけ。 「ジュペッタ、ちょっと離れてくれないか? 渡したいものがあるんだ」 そう言って俺の体を離れたジュペッタの目の前に右手を差し出すと、 握り拳を開いて、ヘアゴムをジュペッタに見せた。 ヘアゴムが何だか分からないのか……ジュペッタの反応は薄く、首を傾げている。 「これは、ヘアゴム、って呼ばれるもので、長くなった髪を束ねるもので……」 俺の説明を聞いたジュペッタは、俺の掌からヘアゴムを手に取ると、それをじっと眺めたり、 ゴムを伸ばしてみたり、ガラス玉を覗き込んだ。 次第にジュペッタの顔の赤みが薄れていく。それを見た俺はほっと胸を撫で下ろした。 「それでさ、ジュペッタが髪を結った姿ってどんなものなのかなーって思って。 だから……いいか? 髪、結っても」 あまりに単刀直入すぎて、どんな反応をするか内心不安だったが、 ヘアゴムから視線を移したジュペッタは、それを俺の掌に戻し、何も言わないまま後を向いて、 自らの頭を覆っている黒いフードに手をかけ――外した。 「……」 俺は言葉を発することを、ましてや息をすることまで忘れてしまっていた。 ……日に照らされ輝くジュペッタの白銀の髪。 互いに絡み合うことがない、肩にかかる程度のストレートは、 見ているだけでもその柔らかさが十二分に分かる。 まるでこの世のものとは思えないほど――それは秀麗な髪だった。 「……?」 不思議そうに後を振り向いたジュペッタの視線に、俺の意識は現実へと引き戻された。 「あ、ああ……悪い、つい見惚れてて」 慌てて俺はジュペッタの後髪に手を伸ばす。 その髪に触れるまであと数ミリ――しかし、俺は手を引っ込ませた。 (こんな綺麗なのに……俺なんかが触ってしまっていいのだろうか) そう躊躇したのは僅か数秒。 (でも……そもそも俺は髪を結ったジュペッタが見てみたい訳で) なりを潜めていた好奇心がその気持ちを糸も簡単に払いのけて、再び俺はジュペッタの髪へと手を伸ばし、 今度は手を止めずに、彼女の髪に触れた。 たおやかなその髪を一つに束ね、バラバラにならないように左手で抑えながら、右手でヘアゴムを束ねた髪へと通し、固定する。 緊張からか、俺の掌はしっとりと汗ばんでいた。 「よし、出来た……ちょっと待ってろ、手鏡持って来る」 手をそっと離し、俺は部屋へと駆け込んで手鏡を持って来ると、それをジュペッタへ渡した。 手鏡を受け取ったジュペッタは、横を向き、自らの束ねられた髪――ポニーテールを、興味深そうに手で触る。 「似合ってるじゃん」 俺が発した言葉は、お世辞などではなく、心の底から出た言葉だった。 ――今までフードで頭をすっぽりと隠していたジュペッタしか見ていなかったせいか、 フードを取ったジュペッタの姿が新鮮で、別人のように思える。 それに、髪を結ったことで、更に新鮮さが増して、どちらかというと俺はこっちの方が好みだったり。 「そのヘアゴム、綺麗だろ? まあ……最近売られてるやつから見るとちょっと地味だと思うけどさ」 俺に似合ってると言われて嬉しかったのか、ちょっと顔をほころばせながらポニーテールを見ているジュペッタを眺めながら、 俺は独り言のように、自らの過去を語る。 「俺さ、妹いるんだよ。四歳年下の。それでさ、妹小学生に入ってから、俺が妹の髪を結ってあげたんだ。 前までは母さんの仕事だったけど、なんだか色々忙しくなって、朝早く家を出なくちゃいけなくなって。 ……最初の頃は酷いものだったさ。上手く結べなくて、三十分くらいかけた思い出がある。 まあ、何回もやっていると自然と慣れてくるもので、一ヶ月ぐらいしたら一発で結えるようになったけどな。 その時に妹の髪を結ってたのが、そのヘアゴムさ。 結局、妹が中学校に入るまで、妹の髪を結うのは俺の仕事だった。 そのことを友達に言ったら「シスコン」って冷やかされて……初めて言われたときはその意味が理解できなかったけど」 いつしかジュペッタはポニーテールをいじるのを止めて、俺の話に耳を傾けていた。 「早いよな……あいつも今年から大学生だぜ? いつまでもガキだって思ってたけど、立派に成長しちゃってさ。 ホント、時間ってのは偉大だよな。子供を大人へと成長させる……魔法使いみたいだ」 そう言って俺はジュペッタに無理矢理作った笑顔を向けた。 「……って、なんだか辛気臭くなったな。悪い」 ジュペッタも俺に笑顔で返すと、俺の頭を撫でてくれた。 きっとポニーテールを気に入ってくれたのだろう。撫でているのは俺への感謝、とジュペッタの行動を解釈する。 俺の身長の半分にも満たない――子供にしか見えないジュペッタから頭を撫でられるのは少し違和感を感じたのだが、 頭に感じるジュペッタの掌の柔らかさに俺は黙って目を瞑り、その感触に身を委ねた。 なでなで。 なでなで。 「……ところで、いつまでやるんだ? これ」 なでな…… 俺の問いかけにジュペッタは手の動きを止めて、不安げに俺の顔を見た。 「あ、いや、別に嫌だってわけじゃないんだけどさ。ちょっと――恥かしいな……って」 俺の言葉を全て聞かずに、ジュペッタは安心そうな表情を見せると、また俺の頭を撫で始めた。 なでなで、なでなで、なでなで…… ――ジュペッタが俺の頭から手を離してくれたのはそれから十五分後のこと。 それからは一日中、ジュペッタは嬉しそうにポニーテールを何度も触り続けていた。 気に入ってもらえたのは嬉しいが、何故そこまで嬉しがるのだろうと、 俺は歓心と僅かな疑問を胸に抱いた。 部屋に入る前に俺はヘアゴムを解いて、ジュペッタに渡す。 大切に保管しとけよ、と一言付け加えて。 ジュペッタは大きく頷いて、ヘアゴムを慈しむように両手で包むと、 それをキッチンの箪笥の中へとしまった。 一応俺もその場所を確認すると、ジュペッタにおやすみを言って、 大きな欠伸をしながら、自分の部屋へと入っていった。 ……陽春の夜に布団など必要なかった。 寝巻き用のスウェットに身を包み、俺はベッドへ寝転んで天井を仰ぐ。 ――そういえば、そろそろ桜が見頃の時期だよな。 「それじゃあ、来週の休みは……花見だな」 唐突にそんなことを口走りながら、瞼をゆっくりと閉じた俺の思考は徐々にその回転の速度を緩め。 ――意識は深い闇の中へと、落ちていった。 「桜の満開は、今週の金曜日から来週にかけての、約一週間だと予想されます。 花見の準備はくれぐれもお早めに……」 橙色の光が仄かに照らす部屋で。 ラジオから放たれるノイズ混じりのニュースキャスターの声が、その小さな空間を掌握していた。 ――――――――――――――――――― まず、第三話でちょっと誤字があったことに対して反省…… なんで投下する前は気づかなくて、後になって気づくんだろう。 集中力の欠落? ということで、自分の中でシリーズ化が決まってしまったジュペッタSSの第四話です。 今回はちょっとしたジュペッタのイメチェンと、主人公のちょっとした過去話。 ポニテにしたのは俺がポニテ好きだからです。 主人公の過去話は今後も引っ張ってくるかもしれません。多分。 後半部分、というか全体的に急ぎ足になってる感じがあるんですけど…… 今後改善出来るように努力していきます。 最後に、第四話を読んで頂き、ありがとうございます! 次回、第五話でもお付き合い頂けたら嬉しいです。
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朝六時。 ベッドの片隅に置いた目覚ましのベルの音も、 百メートルちょっと先の市街地から聞こえるけたたましい車やバイクのエンジン音の助けを借りることなく、 俺はゆっくりと、両目を開いて布団の中から飛び起きる。 視力のせいで霞んだ視界を凝らしながら、ベッド脇の机をまさぐり、眼鏡を手にした後、それをかけると、 自分の周りの世界が一気に鮮明に、美しく変化していった。 カーテンを開けると、辺りはまだ薄暗く、少量ながら雪がちらついている。 薄暗くとも差し込んできた光は、豆電球一つしかない俺の部屋を十分に明るくしてくれた。 両腕を天井に向けて精一杯伸ばし、それから大きな欠伸を一つして、俺は部屋を後にする。 何ら変わりは無い、俺にとってはごく普通の、何の変哲も無い朝である。 「おはよう、ジュペッタ」 階段を降りて、キッチンへと向かった俺は、 俺よりも早く起きて朝食の準備をしてくれたジュペッタに挨拶をする。 彼女は何も言わず、黙って頷くと、あらかじめ準備しておいたトーストをテーブルの上へ出した。 ちょうど今出来た頃なのか、トーストは湯気を立てて香ばしい香りを出している。 座って、早速俺はトーストを口に運ぶ。 焼きたてということもあってか、サクッと音がしたあと、バターの甘くまろやかな味が口に広がる。 何度食べても食べ飽きない……そんな味だ。 実質、俺は何度もジュペッタが焼いてくれるトーストを食べるのだが、一度も飽きたとか、そう考えたことはない。 「うん、美味しい」 毎度お決まりの感想。 それでもジュペッタは嬉しそうな表情をすると、もう一枚トーストを差し出した。 俺は一礼をしてそれを手にして、皿の上に置く。 トーストを頬張りながら俺はジュペッタの方を見ると、彼女は笑顔で俺の事を見つめていた。 よほど褒められたことが嬉しかったのだろう。 それにしても、俺もちょっと違った感想を言わないといけないかな、と考えながら、2枚目のトーストを口に運ぶ。 食事中、それを含めた一日中、ジュペッタは一言も喋らない。 いや、喋れない、と言ったほうがいいのだろうか。 別に病気などで喋れなくなったわけではないのだが、それにはちゃんとした訳がある。 最初ジュペッタと一緒に生活し始めた頃は、沈黙の時間が続くことに息苦しさを感じたものだが、 今ではこんな沈黙も悪くは無いかな、と思っている自分がいる。 でもやっぱり、一度でいいからジュペッタと話がしたい、と思っている自分もいる。 今日の朝食も、一言もジュペッタは喋らないまま、時間は淡々と流れていった。 週六日、朝から晩まで働いている俺にとっては、週末にある一日限りの休みがとても貴重だ。 だから本心としては一日中家でゴロゴロして疲れを取りたいところだが、 週一しか休みがないということは、ジュペッタと一日中ずっと一緒にいられるのがこの休みの日しかないので、 いつも休みの日には、ジュペッタと散歩をするのが日課になっている。 散歩のコースは気分によって変えるが、必ず人通りが少なく静かな、市街地からはちょっと離れた路地裏を選ぶことが多い。 俺とジュペッタが静かな場所を好むのも理由の一つだが、もう一つ、俺たちではどうすることもできない理由がある。 玄関のドアを開けた途端、冷たい風が吹き込んできた。 コートを羽織っていても、その冷たさは身に染みる。俺は寒さのあまり身震いをした。 そんな俺とは違い、空から舞い降りてくる雪の結晶を目の前に大はしゃぎするジュペッタ。 俺のようにコートは羽織らず、薄手の黒フード一枚の彼女の格好は、見ているこっちが寒くなる。 「考えてみれば……初雪、だよな」 空を見上げ、俺の顔に付いては溶け、水滴となって頬を伝う雪を見ながら、小さく呟く。 そういや、昨日職場に設置されているテレビの天気予報で、明日は雪が降るとか言っていたな、と思いながら。 ふと、コートの裾を引っ張られてる感じがしたので、下を向くと、真っ赤な瞳を輝かせて俺を見るジュペッタがいた。 「おっと、悪い。それじゃ行こうか」 隣に目の高さ位までふわり、と浮かんだジュペッタと一緒に、俺はコンクリートの道を歩き始めた。 道の上に中途半端に溶けた雪のお陰で、歩を進める度に不快な音がして、俺は少々嫌な気分になったが、 一方のジュペッタは俺には不快にしか聞こえない音を、楽しそうに聞き入っていた。 「だよな、ジュペッタは聞くことしか出来ないもんな、幽霊だから」 そんなジュペッタを見て、俺はやや皮肉を込めながら喋る。 それを聞いたジュペッタは頬を膨らませた。 当然のことだが言葉は発しない。 「はは、冗談だって。やっぱり地面を踏めないのは嫌なのか?」 コロコロとその表情を変えるジュペッタが愛らしくて、口調に微笑が混じる。 こくこく、とジュペッタは首を上下に振って俺の質問に答えた。 「そうか……」 そこまで言われて、踏ませてやりたいのは山々だけど、俺がどうこう出来る問題じゃないからな…… そこまでは口に出すことは無く、騒がしい市街地に入るまで、俺とジュペッタは半溶けの氷が織り成す不協和音(俺にとっては)に聞き入っていた。 市街地に入るや否や、俺は自分の気持ちが更に滅入っていくのを感じた。 週末ということもあり、ただでさえ多い人が、更に多くなっている。 道路では車だのバイクだののエンジン音が、絶えることなく鳴り響いている。 それと眼前に広がる無駄に高い建造物の群れは、まるでいつかみたSF小説の挿絵みたいだ、と、そんな気分にさせた。 「さーて、とっとと行きますか」 ジュペッタに向かって放ったその言葉は、俺達の隣を通り過ぎていった若い女性たちの甲高い話し声によってかき消された。 そもそも、市街地になど出来るならば行きたくもないし、見たくもない。 職場は市街地の反対側にあるし、買い物なら職場の向かいにあるスーパーで買えるし。 だが散歩コースの路地裏へ向かうためには、どうしてもこの市街地を通らなければならない。 少々、いやかなり気が滅入るが、路地裏へ行くためだ、と自分に言い聞かせて我慢する。 ジュペッタも同じ気持ちだと思う。路地裏は相当気に入ってるようだし。 皆、俺……いや、ジュペッタの方を一瞬見てから、人々は俺たちの横を、前を、通り過ぎていく。 その視線は刺々しく、浴びてみていい気分だ、と思えるようなものではなかった。 だがその気持ちは顔に出すことなく、足早に市街地の中を歩く。 俺の目の前を歩く人々が、皆して同じ顔のように見えて仕方が無い。 路地裏へ続く小道への道は大体二百メートルあるかないか。 その道がえらく遠く感じる。 ジュペッタは人々が突き刺してくる視線に耐え切れなくなったのか、俺の左腕を、その小さな両腕でぎゅっと抱きしめた。 痛い、と俺が感じるほど抱きしめるあたり、相当怯えていることが窺える。 俺は空いてる右手で彼女の頭を撫でる。怯えないように、そっと。 そうやってジュペッタを支えているつもりの俺も、結局のところは彼女同様に怯えているのだと、 さっきから胸の痛みが収まらない俺は考えていた。 ようやく路地裏へと入り、耳障りな市街地の音達が俺たちの世界から抹消されるまで、俺はその足を止めることは無かった。 胸の内では色とりどりの感情が混ざり合っては、よく子供の頃やったような、 絵の具を全色混ぜてみるとか、好奇心に駆り立てられながらやったときに出来た色の、不気味で理解不能な色へと姿を変えている。 しかし、もしその色は何色に近いか? と聞かれたら、青、と答えるだろう。 どちらかというと悲しみが強いような、そんな感じだ。 あの市街地で人々がジュペッタに向けた、剣のような視線。 瞳の奥には憎しみ、妬み、差別――あまりいいような感情ではない。 だからといってジュペッタが何か大きな騒動を巻き起こしたとか、そんなものは一切無い。 じゃあ、何故人々はジュペッタに憎しみの矛を向けるのか。 ジュペッタは憎しみ、恨みなどの負の感情を原動力として生きている。 それは学会や、地方の研究所による萌えもんの生態の実験で確認済みである。 故に、人々が抱くジュペッタのイメージは、「悪者」「疫病神」として定着していった。 しかも誰が言い出したのかは知らないが、ジュペッタは他人の魂を喰らい、その飢えを満たしている……などという噂が一人歩きし、 さらにジュペッタに対するイメージを悪い方向へと確定させていったのである。 だから人々はジュペッタを見ると嫌な顔をするのだ。 それが俺とジュペッタが散歩コースとして路地裏を選んでいる理由にも繋がるのだが。 しかしそれはあくまで一般論。 確かにジュペッタは憎しみと共に生まれた。 だがそれは人が生み出したものであって、彼女自身はとても優しく、情操豊かな萌えもんなのだ。 だというのに、人々は「ジュペッタは疫病神」などの「固定概念」を作り上げ、それを聞き入れようともしない。 まるで殻にこもった亀のように、硬い殻の中に潜って聞く耳持たず。 俺が数百万の信者を従える宗教の長であったり、一国を統べる人間であったら、その「固定概念」を打ち砕くことは可能になると思うが、 生憎にも俺は一般人、権力も何も無い。だからこうやって喚くことしか出来ないのである。 いつの間にか、俺の足音しか聞こえなくなっていた。 その静寂はいつもは俺の心を清め、満たしてくれるのだが、今回はその静寂がひどく寂しく感じた。 俺はは立ち止まると、地面の上へと大の字になって倒れこんだ。 地面に背中がついたと同時に、コートの中へ水が染み込んでいくのが分かる。 突然の俺の行動に、心配そうに俺の顔を覗きこむジュペッタ。 「ごめんな、ジュペッタ。俺、お前の為に何もしてあげることができない」 ジュペッタはふるふると首を左右に振った。 「外に出る度、あんな風に見られて、本当にどうにかしたいのに、何にも出来ない。 いつも俺の為に朝食とか、身の回りの世話してくれるのに、俺はお前の為に何もしてない」 見たくないのに、 瞳を潤ませて今にも泣きそうなジュペッタの顔なんて、見たくもないのに。 俺の口から出る言葉は、謝罪の言葉でしかなかった。 「ごめんな、本当にごめんな、ごめん」 言葉を捜しても、見つかるのは謝罪の言葉。 自らの力不足を、嘆くような言葉。 「ごめんな……」 目頭が熱くなった。でも泣くのは必死にこらえる。鼻の奥がツーンとした。 「ありがとう」 「……?」 突如、俺の耳に聞きなれない声が入り込んだ。 周囲を見渡しても、誰もいない。俺とジュペッタの二人だけ。 ――空耳だろうか。そう俺が考えた矢先に、ジュペッタの口元が動いた。 「そこまで私の為に頑張らなくてもいい」 さっき聞こえた声と同じ。 声の主がジュペッタだと分かると、俺は声にならない叫びを上げた。 驚きのあまり、言葉が出ない。 「ジュペッタ、お前――」 ようやく出た俺の言葉は、ジュペッタのか弱く、幼げな声によって遮られる。 「私は、今のままで十分幸せ」 「……!」 ジュペッタはそう言って、笑顔を作った。 一滴の涙を、俺の額に零して。 ジュペッタの特徴として、もう一つこんなことが確認されている。 ジュペッタは喋ると、体内にある負の感情を言葉と一緒に出してしまうらしい。 それが何を意味するのかというと、喋るということは、自らの寿命を縮めることになるのである。 ジュペッタは新たに負の感情を体に取り込むことが出来ない。 生まれたときに体内に存在していた負の感情が、そのまま命となり心臓となるのだ。 だから彼女、ジュペッタにとっては、喋るということは本当に危険なことになる。 ほんの、二言三言。 それにどのくらいの彼女の寿命が詰め込まれているのだろうか。 ジュペッタはそれ以降は喋らずに、くいくい、と俺のコートを引っ張った。 「そう、だな」 俺は大の字になった体を起こし、立ち上がった。 水を含んだせいか、コートが重く感じる。 それと―――― 「くしゅん」 くしゃみが出るようになった。 やはり冬の外は長時間いるもんじゃないな、と思いつつ、 俺はジュペッタの方を見て、笑った。 「水臭い話はここで終わりにして……行くか」 そして、立ち止まっていた足を、再び前へ進める。 俺の隣に浮かんで、ジュペッタがついて来る。 ――今のままで十分幸せ。 他人からは嫌な目で見られ、まるで世間から迫害されたような気がして、 俺たちには幸福など存在していなかったと思っていた。 だけど、幸福はここにある。こんなにもすぐ傍に。俺の大切な人と一緒に。 気持ち、並んだ俺とジュペッタとの間が、少し縮まった気がしたような、そんな気がした。 「三十八度……七分……」 翌日。 体温計の画面もにデジタル数字で表示された自分の体温を見て俺はあの時、真冬の外に大の字になって寝転ぶんじゃなかった、と後悔した。 一ヶ月の給料が出来るだけ多く欲しい俺にとっては、何とかマスクを装備したり解熱剤を飲んだりして、熱を押してまで職場に向かいたいところだが、 頭の中に鐘が鳴っているのではないかと思わせるくらいの痛みが走ってるし、ボーっとしてを仕事できる状態ではなかった。 だというのに相変わらず六時きっかりに起きてしまうのは、既に早起きが習慣として定着してしまったからなのだろうか。 止む終えず今日は休む、と同僚に連絡を入れて、部屋を出る。 怨霊に取り憑かれた気分ってこんな気分なのだろうかと訳の分からないことを考えながらキッチンへ向かうと、 いつものようにジュペッタが朝食の準備をしてくれていた。 俺の体調を案じてくれたのか、今日はトーストではなくお粥だった。 「ありがとな、ジュペッタ」 かすれた声で俺はジュペッタに礼を言うと、お粥をスプーンですくって食べ始める。 ちょっと水気が多い気がしたが、乾いた口を潤すにはちょうどいい位だ。 「うん、美味しいよ、初めてにしては結構上手じゃないか」 それを聞いたジュペッタは自慢げに胸を張って威張った。 結局は相変わらずな日常。 でもそれはとても幸せで満ちている日常だと、今なら声を大にして言える。 それは、俺に幸福の在り処を教えてくれた、初雪の日の出来事。 ―――――――――――――――――――――― 誰からもお咎めを喰らわないのをいいことに、調子こいてSS投下しまくってる寄せ壁です。 とりあえず推敲も満足に出来ない癖、投下しちまってる自分自重。 なんだか6作目になったこのお話、ジュペッタがメインです。 鹿氏クリア後ダンジョン彷徨ってる時に出くわして一目で惚れちまった訳で、つい書いてしまったのです。 ちなみに「魂を喰らって自らの飢えを満たしている」ってのは、図鑑変更パッチ当ててのジュペッタの説明文から勝手に解釈したもので、 「憎悪や憎しみを原動力としている」辺りは本家から引っ張ってきましたー。 え? そんな事は知ってる? ごめんなさい。 本当はこれ、ジュペッタが主人公に自分の気持ちを伝えて、最後には消えていく、というENDだったのですが、 それじゃあまりにも鬱じゃないか! ということで結末を変えてみました。 鬱表現に入り込む自分を抑えつつ書いてみたわけですが、鬱が出てる気が。ちくせう自分のいn(ry とりあえずここまで調子こいてSS投下してしまったので、しばらくは頭冷やすことにします。 もうちょっと自分の文章力その他諸々勉強しないといけないなー。 って前にも言ったけど全く向上してないぜ……吸収力の無さ。
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ヤマブキシティ・西ゲートを出て数分歩いた先にある大都市・タマムシシティ。 ヤマブキシティと並ぶ大都市として有名な街。 アパート、カジノ、旅行会社などなど、様々な施設がある中、何と言っても有名なのが、カントーいちの品揃えを誇るタマムシデパート。 カントー地方の名産物、商品が集約するこのデパートの客足が衰えることなどは滅多にない。 数年前までは萌えもんを悪事に利用する組織「ロケット団」の存在によって治安が乱れていたものの、 最近になって何者かがロケット団の根城を発見、壊滅したことによって治安が回復しつつある。 (後にタマムシシティのロケット団アジトを壊滅させたのは、現カントー地方萌えもんリーグチャンピオンであることが判明する) ――タマムシ旅行会社より配布されていたパンフレットより ――雑踏の中を歩くのは嫌いだ。 人の足音、話し声が俺の耳に纏わりついて全身をかき乱す。 それはあまりにもしつこくて、不快。 だから俺が今、こうやってタマムシシティの街中を歩くのは正直言って避けたいところ。 本来ならば手短に散策を終え、他へ移るはずであったが、予定が少し狂い、しばらくここに留まることとなってしまった。 というのも、 「ジュペッタ! またはぐれたらどうするんだ……って! 人の話を聞け――――ッ!」 タマムシデパート二階。 俺は大型連休ということも相まって大勢の客で賑わう中を掻き分けながら、一人ではしゃぎ回るジュペッタを追いかけていた。 周りには所狭しと立ち並ぶ沢山の品物。 ジュペッタはそれらを興味深そうに眺めては先に行き、手にとってみては先に行き。 浮遊していることもあり、雑踏で進めない、などということは無いため、雑踏の中を歩く俺との距離は確実に離れていった。 そして、 「……元気なのはいいことだと思うけど、なんでアイツは学習してくれないだ……いつもいつも」 再びジュペッタとはぐれてしまった俺は、愚痴と共に大きな溜息をつく。 相変わらず俺の耳につきまとう不協和音が、滅入った俺の心を、更に深い闇へと追い込んでいった。 - episode 6-a 後編 first day ~滴~ - 俺はベンチに腰掛けていた。 気が滅入っているせいか、完全にジュペッタを捜す意欲を喪失してしまったのだ。 「……落ち込んでも仕方ないよな」 そう言っている割に、俺の声のトーンは完璧に下がっていた。 そんな自分を奮い立たせるために、力強く頬を叩く。 痛みが走るも、少しだが滅入った心が晴れたような気がした。 恐らく、こんなとんでもなく広くて、暑苦しいほどに人がいる場所でジュペッタを捜すのは、 ヤマブキシティの時よりも困難を極めるだろうと予測する。 迷子のお呼び出しをすればそれほど苦労しないと思うが……それは俺のプライドが許さない。 俺とジュペッタが共に暮らすようになったあの日。 己の力でジュペッタを護る、面倒を見ると決意したのだから。 その決意を貫き通そうとする意志は、七ヶ月経った今でも衰えることはない。 「よし、それじゃあ……やるか」 立ち上がって、雑踏の中へ再びその身を投じる。 ジュペッタの捜索、それが最優先事項。 もはや不協和音など耳に入らなかった。 そんな俺の強い意志とは裏腹に、ジュペッタはあっさり見つかった。 ――三階、アクセサリー売り場。 「……あれって……ジュペッタか?」 あまりにも早い彼女の発見に、俺は幻かと目を擦った。 しかし、視線の先にいたのは黒フードを被り、白銀の髪を覗かせる見覚えのある少女。 幻でないと分かると、俺は早足で彼女の下へと向かった。 雑踏の中、縫うようにして。俺の肩と誰かの肩がぶつかるも意に介さず。 「ジュペッタ」 肩を叩く。 驚いた表情で振り返ったジュペッタは、俺だと分かると笑顔を見せた。 「……何か買いたいものでも見つかったか?」 俺の問いかけに、彼女は手に握っていたペンダントを俺に差し出した。 特に派手な装飾も施されていない、いたってシンプルなペンダント。 中心には滴の形をした小さな白い真珠があしらわれていた。 「へー……綺麗じゃないか。付けたらきっと似合う……」 そう言いながら手にとって値札を見た俺は、ペンダントと不釣合いな値段に少々たじろいだ。 「……」 言葉を失う。 そんな俺を心配そうに見るジュペッタ。 「……心配しなくても大丈夫。ちょっと予想外の値段に驚いただけだから。このくらい平気平気」 そう、今回は何かあったときの為に多めに金を持って来たのだ。 毎月貰う給料で一ヶ月を過ごすので精一杯だというのに何故金がある? などと言われそうだが、 俺はこの二年間、給料の少しを貯金にあてつづけていたのである。 数千円という少ない金額ではあったが、二年間続けたお陰で数十万円ほど貯まっていた。 塵も積もればなんとやら……だ。 金を持ってきて良かったと安心して、俺はジュペッタと共にレジへ向かった。 「これ……お願いします」 いらっしゃいませ、と快活な声をした店の人に、さっきのペンダントを渡す。 彼女は俺とジュペッタを交互に見て、 「もしかして、彼女へのプレゼントですか?」 唐突にそんなことを口走った。 俺の思考が一瞬凍りつく。 そして、再び思考が回りだし、俺の気が一気に動転した。 「か、彼女!?」 「ええ、随分と仲がよさそうに見えたので……」 何もしていないというのに一体どうやって仲がいいとなど思ったのか…… 「い、いや、俺とジュペッタはそんなんじゃ」 「そんな、とぼけないで下さいよ~。この時期になるとよくカップルが訪れてくるんですよ? 中でもこのペンダントは人気商品で、若いカップルに大人気! 彼氏彼女へのプレゼントとしてお勧めの一品を購入しようなんて、カップル以外考えられな……」 「違う! 断じて違う! 俺とジュペッタは恋人同士じゃなくて、なんというか……日陰者同士で共鳴し合っているというか、 同居している仲だというか……というかジュペッタ! お前も何か言い返して……」 店員の誤解を晴らすために、俺はさっきから黙りこくっているジュペッタに救援を求めた。 が。 「///」 ジュペッタはカップルと言われてまんざらでもないかのように、頬を赤らめ、はにかみながら俯いていた。 「何故否定しない!?」 再び店員に視線を戻すと、笑顔で俺の方を見つめていた。 (もはや何を言っても無駄か……) 「……あの、会計を」 「分かりましたー」 俺は袋に包まれたペンダントを店員から受け取ると、足早にその場を立ち去った。 しばらく歩き続けたあと、俺は立ち止まって溜息をついた。 「……はあ」 僅か数分の出来事で疲れがどっと押し寄せてきた。特に精神的に。 「カップル……か」 店員の言葉が頭から離れない。 「なあジュペッタ……俺たちって端から見れば恋人同士に見えるのかな?」 さっきから頬を赤くしているジュペッタに問いかける。 答えは返ってこなかった。 その代わり、 ぎゅ。 俺の腕へ抱きついてきた。 「ッ!?」 突然のことに鼓動が一気に速まる。体が熱くなる。 「ど、どうしたいきなり!?」 俺を見上げたジュペッタの表情は、顔を赤くしながらも幸せそうだった。 店員からカップル、と言われて嬉しかったのだろうか。 俺は言われてみて嬉しいというよりは驚いたのだが。俺たちがそういう風に見えるということに。 嬉しいと思えるジュペッタの気持ちが、俺には理解し難かった。 「え、あ、ちょ、ジュペッタ……周りの人、見てる」 遠回しにジュペッタに離れるよう催促する。 しかしジュペッタは一向に離れる様子を見せない。 逆に俺にどんどん密着してくる。 俺の言葉を理解していないのか、それとも理解しているもしていない振りをしているのか。 恐らく後者だろう。何故かそんな気がする。 「……仕方ないな」 調子が狂うも、幸せそうなジュペッタを見るとこっちも心なしか幸せになっていった。 「もう少し見て回ってから……帰るか?」 ジュペッタは俺を見て大きく頷いた。 そんな彼女が可愛らしくて、自然と笑みがこぼれる。 ――雑踏の中を歩くのは嫌いだ。 人の足音、話し声が俺の耳に纏わりついて全身をかき乱す。 それはあまりにもしつこくて、不快。 だけど、ジュペッタと一緒にデパート内を散策したときは、雑踏の中が不快とは感じなかった。 ――屋上。 ベンチに腰掛け、俺達は今にも沈もうとしている夕日を眺めていた。 「随分と長居しちゃったな」 俺を椅子代わりにして座っているジュペッタに話しかける。 もっとも、浮遊しているから、座ってはいないのだが、浮いているのか浮いていないのかの瀬戸際を浮遊しているため、 遠目で見ると座っているように見えるということになる。 「それに……色々買っちゃったしな」 足元にはキズぐすりであったり、謎の文様が描かれた綺麗な石であったりと、 旅行に訪れた者が買うようなものではない品物が袋詰めにされていた。 「ところでジュペッタ、コレ……いつまで続けるつもりだ?」 ここでようやく俺の方を振り向くジュペッタ。 少し悲しげな表情をしていたので、俺は慌てて釈明する。 「いや、こうされるのが嫌というわけじゃなくて……ただ恥かしい……ってのが」 嫌じゃないと分かると、それ以降は聞かずにジュペッタはまた前を向いた。 「……」 小さく溜息をつく。 そして視線を夕日へ移した。 橙色の夕日は半分が建造物や山々に隠れ、空は微かに藍色を帯びている。 不意にカラスの群れが上空を通過した。 夕日に向かって飛ぶ黒色の鳥は、今俺の目に映るどの物体よりも目立っていた。 「……綺麗だな」 そして何だか……寂しい。 そこまでは口に出さずに呟く。 ジュペッタはこの風景をどんな気持ちで見ているんだろうか。 この位置からは彼女の表情は見えないため、その気持ちは推測できない。 カップルと言われて嬉しがったり、いきなり俺の腕に抱きついてきたり。 そして今、夕日を眺めるジュペッタの気持ち。 それらもやがて、理解できる日が来るのだろうか。 俺たちが本当の意味で信頼しあって、互いに互いのことを隠すことなく暮らしていける日が来るのだろうか。 そんな日が来ることを願って、俺はジュペッタに離れるよう催促した。 嫌がったジュペッタだったが、そろそろ宿泊先に行かなきゃいけないということを告げると、渋々了承して、再び俺の腕へ抱きついてきた。 俺は恥かしさで顔を赤くするも、離れるようジュペッタに言うことが出来なかった。 何故だかは自分でも分からない、きっと――――幸せなのだろう。 こうやってジュペッタと一緒にいられることが、ジュペッタをこんなにも近くで感じられることが。 一日目が終わる。 思えば時間の大半をタマムシデパートの散策に費やしてしまった。 だけど、その時間は無駄ではない。 だって、こんなにも心が満たされ、ここを去るのを惜しんでいるのだから。 ――明日もいい日であるように。 空に輝きだした一番星にささやかな祈りを送って、俺達はタマムシデパートを後にした。 ―――――――――――――――――――― 第六話前編の後編。買い物話。 相変わらずの執筆スピードの遅さ、あと二回残ってるよ。 タマムシデパートは無駄にでかい。 ジャ○コみたいな感じという俺設定。 そして使いまわし、なんか後半は流れるようにキーボードを叩いたらこんな文章に。 七ヶ月前たった今でも~の件は、 出逢い話で明らかにする予定です。 もしかしたら六話中編と一緒に投下するかもです。 それ故に遅い執筆スピードが更に遅く。 遅いのは推敲とかしているからではないという。 拙著ながら最後まで見てくださり、ありがとうございました!
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キッチンの床に置かれた沢山の代物。 「……シートだろ、懐中電灯だろ、時計だろ、財布は……必要ないかな。どうせ花見に行くだけだし……」 俺はそれらを手にとっては、傍に置いている手提げのバックに入れたり、再び床へ置いたりするという、ゴミの分別的な作業を行っていた。 カメラは再び床へと置いて、 携帯電話はバッグの中へと入れて。 「……よし、こんなものかな」 一通り分別が完了して、バッグのファスナーを閉め、床に置かれたままの代物たちを元の場所へと片付ける。 ……ひたっ、……ひたっ。 盗人ではないのだが、家の中を歩く俺の足取りは慎重であった。 ジュペッタが寝てるわけではないので、それほど静かに歩く必要はないのだが、いつもの癖か、自然とつま先からそっと足を付いてしまう。 代物をそれぞれの場所に片付けた俺は、またゆっくりとキッチンへ戻っていき、今度は冷蔵庫を開けた。 「やっぱ花見といえば酒、だよな」 もともと酒には弱い体質なのだが、少しでも花見の雰囲気を演出できれば……と思い、缶ビール一本を持って行く。 それも同じようにバッグの中へ入れると、手提げのバッグを持ち上げ、時計を見た。 時刻は既に翌日を回って、一時半。 午前中は十分に眠ったから、深夜のこの時間でも目は冴えている。 生活のリズムが崩れないか心配になるが、一日ぐらいで崩れることはないだろう、と軽はずみなことを考えつつ、 俺はジュペッタの登場を待ち続けた。 「……遅いな」 洗面所に入ったきり、一時間も篭っているジュペッタ。 一体何をやっているのか、少し気になる。 「ジュペッター? 俺準備終わったけど、そろそろ行くぞー?」 一度大声でジュペッタを呼んでみる。 「……」 返事は無かった。 無いと分かると、胸中を不安が渦巻いた。 ドアを叩くなど、何かしらの返答をしてくれないと何かあったのか不安になる。 きっと大丈夫だと思うのだが、どうしても不安を拭い去ることが出来ない俺は、洗面所へと向かい、そのドアを開けた。 「ジュペッタ、何してる――――って」 心配のせいか、やや語気が強くなっていた俺の声は、先程まで俺が抱いていた不安が杞憂だと分かると、急速に弱くなっていった。 ジュペッタは鏡を睨み、右手にヘアゴムを持って自らの後髪を束ねようと奮戦していた。 手が短いせいか、なかなか結うことが出来ていない。 もしかして、これを一時間やっていたのかと考えると、何故俺を呼んでくれなかったのかという呆れと、 健気に何度も挑戦していたジュペッタの姿に愛らしさを覚えた。 本当ならジュペッタ一人の力で髪を結わせたいところだが、 そうだと日が暮れてしまいそうなので、俺はジュペッタからヘアゴムを奪い取ると、いつものように結ってあげた。 奪い取られたせいか、ジュペッタは俺の方を振り向くと頬を膨らませた。 「仕方ないだろ、このままだと埒が明かなさそうだし……それにお前、手、短いから後髪結うのはきついだろ? これからは俺が結ってやるから、髪を結うってときは呼んでくれよ」 手が短いと言われて一瞬俺を睨んだジュペッタであったが、すぐに頷く。 そして、笑顔を向けた後に、嬉しそうにポニーテールを触った。 その姿が微笑ましくて、俺は微かに笑う。 「さて、準備は終了したことだし、行くか」 歩き出した俺の隣にジュペッタが付いて来る。 電気、ガスなどの確認、戸締りの確認をすると、俺とジュペッタは外へ飛び出した。 見上げると空には煌く満天の星空と輝く金色の満月。 まるでそれは俺たちの為に神が用意してくれたような――そう思えるほど綺麗だった。 - episode 5 艶桜 - この時間となると、家という家の明かりは既に消えており、街灯と月光が俺たちの行く先を照らしている。 車は通っていない。聞こえるのは俺の足音のみ。 静寂に包まれた雰囲気は、いつも散歩へ行く路地裏を髣髴とさせた。 ――行き先は俺が職場へ向かう際にいつも通る神社。 そこの桜の美しさは評判で、よくこの季節となると大勢の花見客で賑わう。 しかも特に評判となっているのが、夜にライトアップされて照らし出される夜桜だ。 その夜桜を一目見ようと、写真に収めようと、日がまだ沈まない夕方頃から場所取りが始るのだとか。 さすがに深夜となると電気は消されているのだが、そこの神社の神主さんが、 同僚と仲がいいということもあって、取り入ってもらい、特別に日が昇るまでの間ずっと点けてもらえることになったのだ。 ……当然だが電気代がかかるので、その分は神主さんに払い、交渉してもらった同僚には、今度酒を奢る羽目になったのだが。 深夜という、霊が出そうな時間帯に出歩いているせいか、 しかも橙色の街灯が大地を仄かに照らし、不気味さをかもし出していることも相まって、 歩を進めて行く度、俺の胸は恐怖に駆られていった。 二月の下旬にテレパシーを試して以来、更にオカルト現象に対する信仰を無くした俺だが、 心霊現象だけはテレビ番組で実体験等をよく聞くため、嫌でも信じてしまう。 「いるわけ無いさ、幽霊なんか、いるわけ……」 不安を紛らわそうと自己暗示のように呟くものの、再び訪れる静寂は、再び俺を言いようの無い不安へと追い込む。 そんな不安を胸に抱きながら、肝の小さい己に溜息を吐き、力強く頬を叩いた。 (そもそも俺は花見をするのであって、肝試しをするためにわざわざこんな夜道を歩いている訳ではなくて……) 叩いた後も残る頬の痛みと共に、先程よりも強く大地を踏み込む。 そんな俺の姿を隣で見ていたジュペッタは笑顔を向けていた。 「……何笑ってんだよ」 足を止め、ジュペッタの方へ体を向ける。 馬鹿にされているような気がしたので、思わず怒りの混ざった声となってしまった。 しかし、ジュペッタは意に介さずで、俺を指差しては目を細めにこやかな顔をする。 何故ジュペッタがこのような表情をしているのか俺には見当がつかなかった。 微かに湧き上がった怒りを鎮めて、俺は再びジュペッタに問いかける。 「なあジュペッタ、さっきから笑ってるのは……?」 俺がそう言うとジュペッタは肩をぎゅっと上げて…… すとん、と力を抜くように元に戻した。 その後は両手を大きく広げ、胸を突き出し……その姿はまるで深呼吸をしているかのよう。 「……落ち着けってことか?」 俺の言葉にジュペッタは笑顔で頷いた。 さっきから俺がそわそわしていて、どこか動きもぎこちなくなっていたから、それが可笑しかったのだろうか。 とにかく、ジュペッタの助言のままに、俺は一度大きく深呼吸をした。 冷たい空気が体内に入り込んでくる。 肺に溜まっている空気を一つ残らず外界へと排出する。 全身から力が抜け、恐怖で速まっていた鼓動が少しだけ緩やかになった。 足が心なしか軽い。自分では気づかなかったがどうやら相当力んでいたようだなと驚きつつ、再び俺は足を前へ出した。 「……悪かったな、頼りなくて」 小声でジュペッタへ呟く。 一応男として、また人々から忌み嫌われるジュペッタと行動を共にする者として、彼女を護らなければいけないというのに、 こんな夜道に幽霊のことを考えて怯える自分が情けなくなった。 一方、俺の言葉が聞こえなかったのか、ジュペッタは俺の手を引いて駆け出し始める。 目の前にはいつの間にか神社が見えていた。きっと早く夜桜を見たくて仕方ないのだろう。 彼女の華奢な体のどこにこんな力が秘められているのだろうかと疑問を抱きつつ、 俺はひきずられまいと必死に足の回転を速めていた。 「おい、ジュペッタ……待て、待てって!」 およそ三百段近くあるであろう神社への階段を一段抜かしで駆け上がりつつ、 息を切らしながら俺は数十段先を行くジュペッタに向かって叫んだ。 ジュペッタは浮遊しているため、階段があろうが全く関係ない。 しかもライトアップされた桜が見えてきた途端にその速度は上がり、俺を置いて先へ進んでしまっているのだ。 俺の叫びもジュペッタには届かず、俺がようやく中盤に差し掛かったところで、ジュペッタは早くも頂上へたどり着いてしまった。 「あのやろっ……ちょっとは……待ってくれてもいいだろっ!」 俺は更に階段を駆け上がる速度を増していった。 伊達に仕事で毎日重い荷物を運んでいない。 迅速な行動が要求される仕事の中で、足腰の強さは必須項目。 神社の階段はやや勾配が急なものの、そんなものは今の俺には関係なかった。 やがて神社の鳥居が姿を見せ、長き階段も終わりを告げ―――― 「はあ……はあ……着いた」 手を膝に置き、乱れた呼吸を整える。 「あのな、ジュペッタ……喜び勇んで行くのはいいけど、少しは相手を待ってることを覚えてくれても――」 顔を上げた俺の目に飛び込んできた、白色のライトに照らされて艶やかに光る桜の木。 それに魅了された俺は、言おうとしていた言葉を失ってしまった。 ジュペッタから再び手を引かれて、木の下へと向かう最中も、俺は桜の木を見上げ続けていた。 ――こんな何も無い辺鄙な街に、こんなものがあったなんて。 まるで違う世界に来たかのような錯覚に襲われる。 口を開け、呆けていた俺の肩を、ジュペッタの両手が揺する。 「……!? あ、ああ、悪い。花見の準備をしないといけないな」 我に帰った俺は、手に持っていたバッグを地面へ置き、そこからシートを取り出す。 二人が十分に座れるほどのブルーシートを広げ、木の下へ敷く。四隅に手ごろな石を重り代わりに置いて。 と、その途端、強風が吹いて――――桜の花びらが、四方に散っていく。目の前に広がる風景が、一瞬桃色に覆われる。 強風はあっという間に過ぎ去っていって……再び静寂が訪れた俺たちの目の前の風景は一転していた。 大地は無数の散ってしまった花びらがあった。ブルーシートも同じように。 桜の木は大量の花びらを失っても尚、その艶やかさは失われていなかった。 「わぁ……」 思わずその風景に俺は感嘆の声を漏らした。 桜の木だけでも十分絵になるというのに、そこに桜の花びらが大地に撒かれることによって、幻想的な雰囲気を出しているからだ。 俺の隣にいたジュペッタは、辺りに散らばった桜の花びらを両手一杯に掻き集めては、それを大空高く舞い上がらせた。 ジュペッタの下へ降り注ぐそれらを見ては、大はしゃぎする彼女。 その行動を何度も繰り返すジュペッタをよそに、俺はブルーシートの上に座り、おもむろにバッグからビールを取り出すと、 まずは軽く一口、喉に流し込んだ。 階段を駆け上がったせいで乾いた喉を、冷たいビールが潤し、炭酸の程よい刺激が俺の体に響く。 久しぶりに味わう快感に酔いしれ、そのまま一気に飲み干してしまった。 空になったアルミ缶をブルーシートの上に置くと、俺は寝転んで真上の桜の木を仰ぎ見た。 朧に光る桜の木。 これを一目見るのに大勢の人が来るのも頷ける。 無音の世界に身を委ね、目を瞑った俺の全身を突如、柔らかな感触のものが覆った。 慌てて目を開けて起き上がり、体を見てみると、沢山の桜の花びら。 目の前には俺の姿を見て笑っているジュペッタの姿。 「……このやろっ!」 仕返しと言わんばかりに、俺も桜の花びらを掻き集めて、ジュペッタに向かって桜吹雪をかける。 桜の花びらまみれになったジュペッタの姿を見て、可笑しくなって笑い出す。 ジュペッタも俺の桜の花びらまみれな姿を見て、再び満面の笑みを浮かべた。 しばらく互いの姿を見て笑い合ったあと、俺達は隣り合ってブルーシートの上に座り、桜を眺めた。 先程の楽しげな雰囲気は薄れ、沈黙が俺たちの間を流れる。 その沈黙は気まずいものではなくて、心地よい沈黙だった。 胸が温かくて、でもほんの少し、苦しくて。微かに鼓動が速くなっているのを感じた。 手が汗で湿り、頬が心なしか熱い。 ――酔いが回ってきたか……? 酒には弱い、と言いつつも、缶ビール一個ではさすがに酔わないと思っていたが……やはり久しぶりに飲んだからか。 バッグから時計を取り出し、時刻を確認する。 2時半……そろそろ潮時かな。 そう思うも、ここから離れてしまうのはすこし勿体無い気がして、俺は立ち上がることが出来なかった。 隣でさっきから桜の木を眺めて目を輝かせているジュペッタを見ると尚更に立ち上がって、帰ろう、と話を切り出すことが出来ない。 だが、階段を駆け上がるなどして、足が少し痛んでいる。休養を取るために帰ったほうがいいと思うのだけれど…… ――ああっ、もう! 一向に結論を出せない自分にむしゃくしゃして、頭を掻き毟る。 そんな俺の行動に気づいたのか、俺の方へを視線を移し、心配そうに俺の顔を覗きこむジュペッタ。 「……何でもない、ちょっと優柔不断な自分にイラついただけだから」 冷静になろうとしているせいか、声色が普段より低くなる。 それが更にジュペッタを心配にさせたのか、彼女はブルーシートの四隅にある石をどけ、ブルーシートを畳み始めた。 どうやら俺の身を考え、帰ろうとしているようだ。 「ちょ、待て! いきなりどうした?」 ジュペッタの手を掴み、慌てて彼女がブルーシートを畳もうとするのを制止する。 「大丈夫、大丈夫だから。そんなに心配しなくても……って!?」 俺の方を振り向いたジュペッタは――泣いていた。 瞳が涙で濡れ、雫が頬を伝って……ブルーシートの上へと落ちる。 いきなりジュペッタが泣き出して、俺はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。 何故泣き出してしまったのか、その原因が俺にあることは明白である。 俺が己の弱さを嘆き、その怒りを行動に表すことはこれが初めてではない。以前にだって何度かある。 ジュペッタは心配こそしたが、こうやって泣き出したのはこれが初めてだ。 とにかくジュペッタを落ち着かせるために、そのまま彼女の手を引いて俺の胸へと抱き寄せる。 「一体どうした、ジュペッタ……いきなり泣いたりなんかして」 涙を拭い、赤くなった目でジュペッタは俺の方を見た。 しばらく俺の胸元をギュッと握り締めた彼女は、ゆっくりと俺の下を離れて、バッグを持って来た。 それを俺へ手渡すと、バッグのチャックを開けて、そこから携帯電話を取り出す。次は懐中電灯を取り出す。 「……」 ジュペッタが何を言いたいのか、彼女の行動を元に推測する。 バッグには、沢山の荷物。ジュペッタがそれを取り出して――――バッグの中は、軽くなる。 「……一人で抱え込むな。 なにか苦しいことや悩みごとがあるのなら、相談しろ……そう言いたいのか?」 思いついたことをそのまま言ったのだが、ジュペッタはそう言いたかったらしく、嬉しそうに頷いた。 言い換えると「もっと私を頼ってくれ」と言いたいらしい。 そういえば、俺が一体何に嘆いているのか、悩んでいるのかはジュペッタに打ち明けたことが一度も無い。 仕事で苦しいことや、辛いことがあっても、ジュペッタの前では笑うようにして、なるべく心配をかけないようにしていた。 そんな俺を見て、自分は信じられていないのか、頼られていないのかと不安になり、今日、その不安が最高潮に達したようだ。 ここまで誰かに心配されたことが無い俺は、なんだか恥かしくなってそっぽを向いて、 「……悪かった」 小さく、呟いた。 その瞬間、頬に柔らかな感触。桜の花びらとは全く違う、温かな感触。 突然のことに驚き、俺は視線を元に戻した。 「……気のせいか?」 視線の先には、一生懸命ブルーシートを畳んでいるジュペッタの姿と、先程までと何ら変わらぬ風景。 俺の頬を襲ったのが一体何だったのか……俺には推測することができなかった。 (まだ桜を見たい気もするが……今日はジュペッタに従うことにするか) 溜息を一つついて、ジュペッタと一緒に荷物をまとめた後、家路をゆっくりと歩く。 そう、ゆっくりと。まるで二人だけの時間を慈しむかのように。 俺は終始俺の右腕に自らの両手を絡めてくるジュペッタのいつもと違う行動に鼓動を速め、頬を赤くさせながら歩き続け、 家に着いた頃には、漆黒の空が紺色へ変わっていた。 ――――まだ俺は、気づいていなかった。 いや、薄々感づいてはいたが、それを認めようとしていなかった。 ジュペッタの気持ちを。 そしてそれがいつか打ち明けられることを、心の隅で、恐れていたのだ。 ―――――――――――――――――――― 第五話。かなり間隔開いてしまいました…… お花見話、主人公とジュペッタの仲が更に深まった話。 次回、第六話はちょっと長話になる予定です。きっと。 なんだか主人公が典型的なヘタレになる可能性大です。 そして相変わらずの後半ハイスピード。
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春。 凍えるような冬を越え、うららかな日差しと共に生き物たちが眠りから目を覚まし、 索漠とした大地には花が咲き乱れ、草が強く、大きく根を張る。 木々の枝先には新芽が芽吹き、新芽たちはやがて青々とした木葉へと成長する。 新たな生命の誕生、希望に満ち溢れた、そんな季節。 「三月も中旬となり、昨日、各地の学校では卒業式のピークを迎え……」 ラジオから聞こえる鼻声の男性の声を聞きながら、俺は外を眺めていた。 例年ならこの時期、暖かな春の日差しが、積もりに積もった雪を解かしてくれるのを待つだけ……という時期だというのに、 外は豪雪。無数の雪が地上へと降り注いでいる。 その景観を見ていると、今が三月中旬だとは到底思えなかった。 - episode 3 スロースターター - テーブルの上には、昨日仕事帰りにスーパーで買ってきた裂きイカと缶コーヒー。 暖房の効いたキッチンで椅子にもたれかかって、休日の午後を堪能する。 ラジオから聞こえる声は、先程までの男性の声から、やけに明るい女性の声へと移り変わった。 タイトルコールと共に、これまたやけに明るい音楽。 その声がやかましく感じた俺は音量を少し下げると、両腕をだらん、と垂らして、目を瞑った。 きっと今の俺はおっさんにしか見えないだろう。缶コーヒーがビールだったりしたら尚更に、である。 「……はあ」 ちょっと気の抜けた溜息を一つ、つく。 ――溜息を吐いたときが一番リラックス出来る気がする。全身から力が抜けていくような感じがして。 よく、溜息をすると幸せも一緒に逃げていくぞ、と誰かが言っていたが、吐ける幸せなど既に無いような気がするので気にしない。 そう、野心満々な二十代前半の人間が考えることじゃなさそうなことを考えるあたり、俺って年齢よりも老けていると思う。 「ま、別に思想が老けてようが関係ないよな」 独り呟いて、裂きイカに手を伸ばそうとした俺の肩を、とんとん、とジュペッタが叩く。 手を引っ込めて振り返ると、ジュペッタが目を輝かせて俺のことを見ていた。 大方予想は付く。散歩に行きたいのだろう。 しかし外は大雪。いくら俺でも流石にこの中で散歩をしようとは思わない。 「今日は駄目だ。大雪だろ? また今度にしような」 なるべくジュペッタの気に障らない様に優しく断ったのだが、ジュペッタは頬を膨らませて俺の肩を強くゆすった。 こうやってジュペッタに何か願い事をされて、断ったとき、本来ならこうやって肩を揺すられ、結局渋々了承する俺だが、 今日の俺は一味違う。 ちょっとは俺が断るときはしっかり断る男だということを証明しなければいけない。 それに、毎度毎度ジュペッタの尻に敷かれるわけにもいかないから。 「いつもみたいにやれば行ってくれるってわけじゃないぞ。とにかく今日は行かない。分かったろ?」 俺はジュペッタの両手を両肩から離して、ジュペッタから視線を逸らした。 左肘を立て、頬杖をつき、散歩には絶対に行かないという固い意志をアピールする。 頬杖を付きながら、ちょっと冷たくしすぎたかな、と胸の中に罪悪感が生まれ、なんだかうやむやな気持ちになったので、 その気持ちを紛らわそうと空いた右手で裂きイカに手を伸ばそうとした、その瞬間だった。 「ッ!? なんだ……?」 右手を動かすことができない。いや、右手だけじゃない。 全身が石になったかのように、全く動けなくなってしまったのだ。 しかし、微かに首は動かすことが出来た。動かせる、とは言っても、力を込めないと動かせない。 俺は精一杯の力を込めて首を反対側へと回した。 そこには、 輝く真紅の瞳を見開き、周りから紫色のもやを発しているジュペッタの姿。 顔からはいつもの快活な雰囲気は失せ、怨色を露にしている。 俺の背筋が怖気に襲われると同時に、今度は体が宙に浮く。 ジュペッタが玄関の方へ動き出すと、ジュペッタの方へ体が引きずられる。 「おおっ……」 ――宙に浮いてる。無重力ってこんな感じなのかな…… って、そうじゃなくて。 ――俺が外に行かないって言い張るから、実力行使に出たのか。というか、こんなんで怒るなよ…… などとこの状況になっても冷静になれる程俺はクールじゃない。 「ちょ、ジュペッタ、悪かった! 悪かったから!」 俺は完全に気が転倒していた。声が時々裏返る。 必死になって叫ぶも、ジュペッタは俺の方を振り返らずに玄関へ行き、 ドアの前に差し掛かると、ドアノブに手をかけずにドアを開き、外へと向かう。 俺を引きずったまま。 「分かった、外、行くから、だから……」 徐々に俺と極寒の世界との距離が縮まる。 「コートぐらい、羽織らせてくれ――――――ッ!」 声を限りにして叫んだ俺の哀願は、家の中、それと冬日の空に虚しく響いたのであった……。 外に出たあとも、必死にジュペッタに泣き願ったのが功を奏したか、 ジュペッタは俺にコートを羽織ることを了承してくれた。 そのついでに暖房とラジオの電源を切り、そして靴を履かないままジュペッタに引きずられていったので、 玄関に置き去りにしてしまった靴を履いて、再びジュペッタの下へと向かう。 もう行きたくて行きたくてしょうがないのか、遅い、と言わんばかりにジュペッタは腕を組んで俺を出迎えた。 「……仕方ないだろ。出かけるときは戸締りをしっかりする、基本はしっかりしておかないと」 そう言って俺は歩き出す。 ジュペッタも俺の話を分かってくれたのか、突っかからずに俺の隣に並ぶ。 外はこの天気のせいか、薄く霧がかかっていて、微かに視界が狭められていた。 隣にいるジュペッタを見ると、彼女は雪を手に集めると、一つ一つの結晶をまじまじと眺め、 自らの体温で溶けていく雪を見ては興味深そうに掌を見つめている。 そんな子供っぽいジュペッタの仕草を見ると、こんな豪雪の日に散歩をするのも悪くはないと思った。 しかし、結局のところ、ジュペッタの尻に敷かれ、平気で哀願するプライドの欠片も無い自分が情けなくも思えた。 市街地はすっかり春の装いをしていた。 それぞれの店が春らしい新商品や、薄手の春服を売り出しており、中心部に鎮座するデパートには、セールの宣伝か……大きな垂れ幕が下がっている。 その風景は、この天気にはかなり不釣合いである。 そんな中、いつものように足早に市街地を通り過ぎ、路地裏へと向かう。 相変わらず周囲の冷たい目を浴びた俺たちであったが、最近になってはあまり気にならなくなった。 三ヶ月ぐらい前までは、怯えて俺の腕を掴んできたジュペッタも、今ではけろりとしてる。 きっとそれは表面上だけであって、本心はまだ怯えているのだと思うけど。――俺だってそうだ。 「……」 市街地を歩く間、俺とジュペッタの間には会話が無い。 それはきっと、互いに、この視線に耐えるだけで手一杯だからだろう。 ――いい加減俺たちには構わないで欲しい…… 俺は終始、懲りずに視線を向ける周囲に憤りを感じたまま道を歩き続けていた。 路地裏を歩くこと約二十分。 狭い小道を抜け出て、公園にたどり着く。 ここは俺とジュペッタが散歩に行く際に、必ず立ち寄る場所である。 この公園を含む一帯は、周りからは「旧市街地」と呼ばれ、20年くらい前まではここが市街地として栄えていた。 しかし今の市街地の様子を見て分かるとおり、僅かな期間で急激な発展を遂げた現在の市街地に人が流れ、 こっちの市街地は次第と廃れていってしまった。 この公園の先に行くと、旧市街地の中心部である商店街に着くのだが、既にすべての店のシャッターが閉じられていて、 この公園も同様に、市街地に出来た新しい公園の影響で人が来なくなり、管理する者もいなくなってしまった。 それは、 色がはげて何と書かれているか分からない看板。長い時間をかけて錆び、鎖が折れているブランコ。 素材の木が朽ち、原型を留めていないベンチ。誰の足跡も無い雪原に、端的に表れている。 ぼふっ。 その雪原にジュペッタはダイブして、 ごろごろ、ごろごろ…… 右に左に転がり始める。 あっという間にジュペッタの黒フードは雪のせいで真っ白になった。 寒くないのか、ジュペッタはとても楽しそうに転がっている。 何回か転がり終わって、ジュペッタは仰向けになって満面に喜悦の色を浮かべた。 「……楽しいか?」 聞いてみると、ジュペッタはこれまた満面の笑みを浮かべて頷いた。 ――そんなに楽しいのだろうか。 俺は雪原をじっと眺めた。 そして。 ぼふっ。 俺もまた、雪原にダイブした。 顔に雪がくっついて冷たい。 でもその感触はどこか心地よかった。小麦粉へ飛び込んだ時もこんな感触なんだろうな、と思いつつ、 ジュペッタと同じように転がってみた。 ごろごろ、ごろごろ…… コートに雪が付く。 転がった時の感触もまた、飛び込んだときの感触と同じように、言い様の無い心地よさがあった。 それに、自分の転がった跡が残り、それはそれで面白い。 気づけば、俺はジュペッタ以上に雪と戯れることを楽しんでいた。 何度も、何度も転がり続ける。 ごろごろ、ごろごろ。 ごろごろ、ごろごろ…… 「……へくしっ」 三十分後。 俺は身を縮こませて肩を震わせていた。 全身雪まみれになって、それが溶け、コートはびしょ濡れになり防寒具としての機能を果たせなくなってしまった。 靴の中に雪が入り込み、足が冷たい。手も同様に冷え切って、なんだか指と指がくっついている感じだ。 ――やるんじゃなかった。 俺はさっきの自分の行いを激しく後悔した。 一方のジュペッタはというと、相変わらず雪の上に寝そべり、雪と戯れている。 寒くないのか、と心配になるが、当の本人は寒くないのだろう。 「なあ、ジュペッタ……そろそろ帰らないか?」 寒さで声が震える。 ジュペッタは起き上がると、俺のことをじっと見つめた。 「……まだいたいのか?」 そして頷く。 それを聞き届けた俺は溜息をついた。 ここでしつこく食い下がったところで、たまに以上に頑固になるジュペッタのことだ。 引き下がらずに、最終的にはさっきのように実力行使に出るだろう。 まあ、やってみなくちゃ分からないと思うが、何もそこまでするほど家に帰りたい、って程のものではないし、 流石にこの程度で凍死なんかしないと思うし。 それに、冬だってそろそろ終わりだろう。今はこうやって大雪が降ってるけど、もう数週間したら雪は止む。 その内にジュペッタには思う存分冬を満喫してもらいたいし。 「……分かった。帰りたかったら言ってくれ。俺はあっちに行ってるから」 俺は公園の中央にそびえたつ大木を指差し、ジュペッタはそれに頷くと、再び雪の上に寝転んで、 ごろごろ、ごろごろ。 と、転がり始めた。 膝上ぐらいまで積もった雪を掻き分けながら、俺は大木の真下へと辿りつく。 とても大きな木だった。 俺が両手を広げてもまだまだ足りないほど幹は太く、見上げると無数の枝が空を遮っていた。 その迫力に、俺はほお、と感嘆の声を漏らした。 ――この木は、一体何十年もの間、ここに居続けたのだろうか。 楽しく遊びまわる子供たちの姿を見守り、 夏日には青々と茂った葉達が皆に安らぎを与える影となり、 秋は赤や黄に色を変えた無数の落ち葉が足元を彩って。 やがて時は経ち、 新たな市街地が出来て、人々はそこへ流れるように移り、 次第に公園にも人は少なくなってくる。 それでも尚、この木は葉を身につけ、葉の色を変え、 訪問者が来るのをじっと待ち続けていた。 まるで意思の無いロボットのように、自らの義務を淡々とこなしている。 これからも、きっとそうだろう。 自らが朽ち果て、生命が終わりを告げるまで、ずっと。 「……」 大木の枝先に、小さな芽が出ているのを見つけた。 芽からは微かに緑色の葉が顔を覗かせ、今にも飛び出さんとしている。 それを見て、ようやく俺は春がすぐそこまで迫っていることを実感した。 頭に積もった雪を手で払い落として、しばらく俺はそこに立ち尽くしていた。 いつしか周りが仄かに薄暗くなる。 ――そろそろ夕飯時かな。腹も減ったことだし。 俺は大木を離れ、ジュペッタの所へと戻っていった。 「ジュペッタ、そろそろ帰るぞ」 先程のように起き上がってちょっと残念そうな表情をするジュペッタ。 今度は雪原を離れて、俺の隣へとその体を寄せる。 俺はジュペッタのフードについた雪を優しく払って、彼女の頭を撫でた。 「楽しかったか?」 ジュペッタは目を細めて、にっこりと笑う。 「そうか……」 その笑顔に俺は顔をほころばして、公園に背を向けて家路を歩き出した。 ――号砲が鳴り響く。 春はスターティングブロックを勢い良く蹴りだした。 前傾姿勢を、ゆっくりと起こしながら、徐々に風を味方につけ、加速していく。 今年の春はスロースターター。 始めは遅いが、徐々にその速度は上がり――最後の最後で相手を抜き去る。 純白のゴールテープはすぐそこ。 そこへ向かって、春はラストスパートをかける。 新たな生命と希望を、この世界にもたらす為に。 ―――――――――――――――――――― 第三話。シリーズ化しました。いつの間にか。 ここまで書いてみて、なんだか街の構造がすっごく複雑になっているような。 路地裏を挟んで、市街地と旧市街地……一回地図にして書いてみよう。 そして後半の大木とスロースターターの件は何かの衝動に駆られ。
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ヘ / ', 〃 ',_ / ` , -┐ r―-/ / / |ヽ | / | \ v | ヽ / ト ヘ l\ イ ,' ヽ わかる(おみとおし) { |(・)} フ ーく(・)|} ノ / ', 人 r`ニ¨´____ `ニ イ /\ ', _] |、∟l__l__L ┴ '´/ \ 'ー―-, , ´ ∟!`丶ー-- , r一''"´ \__ _ / / , -‐- 、`¨´ ` ー―――- 、 / / ∠ / / \― 、 \ / / |_ / / ヽ ヽ ヽ \ ヽ ∨lー ヘ. / l ', ', / / ,ノ ーi } レヘノヘ} ‘く \ _」 / └ 、/ | ノー<´ / ', / \__( ー'
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ジュペッティの部屋データ みんなのお部屋はこちら 初期部屋 初期家具(赤字は固定家具、青字は入れ替えのみ可能、緑字は撤去可能) クレーンゲーム サイコロコンポ バルーンテーブル(撤去可能or4マステーブル固定?) バルーンベッド(撤去可能or4マスベッド固定?) バルーンランプ(左)(1マスランプ固定?) バルーンランプ(右)(1マスランプ固定?) もくば(左) もくば(右)(撤去可能?) ルーレット 壁紙 絨毯 ♫初期BGM 固定家具等の情報提供をお願いします! サイコロコンポの中の歌は何なんですか? -- レオ (2013-12-11 22 45 54) 他サイトからの情報ですが初期BGMは“けけパレード”だそうです。 -- 名無しさん (2013-12-14 00 18 39) 写真には移ってませんが正面壁左から4マス目にバルーンクロックがかかっていて、壁1マス時計固定です。 -- 名無しさん (2016-09-24 07 59 32) 名前 コメント