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そこからはルノーの独壇場だった。 最初はぶらぶらさせてるだけだった右手もその内普通に動かしてる。 着てると治癒能力も高まるのかな? 「・・・ホラホラもう勝負ついたろ。さっさと尻尾巻いて逃げ帰ってくれー・・・面倒だし」 バシッ!と1人を峰打ちで昏倒させつつルノーが言う。 「・・・フン、ふざけるなよ」 苛立たしげにカート大差が葉巻を投げ捨てて足で乱暴に揉み消した。 「我々が帰還する事があるのならそれはキサマらを全員抹殺した後だ! 任務に失敗しておいて戻れる祖国などないわ!」 バッと手を上げるカート。 それに応じ、彼の背後の路地から大勢の増援が現れた。 「・・・げ、どんだけ連れて来てんだよ・・・ったく・・・」 ルノーが舌打ちする。 そして増援部隊に対するべく刀を構え直す。 ・・・その時だった・・・。 『盛り上がっている所悪いのだけど』 別の路地からゆっくりキリコが出てきた。 「その子は貰っていくわね。色々と忙しいの、私たち」 そう言ってキリコは私の所へ歩いてくる。 この戦場の只中にあって、そのあまりに自然な振る舞いに、誰もが毒気を抜かれて一瞬黙って彼女の行動を見守った。 しかしすぐに我に返る者が出る。 ・・・それが自身の不運の始まりとなる事にも気付かずに。 「・・・貴様何者だ! 動くな、大人しくし・・・」 兵士の1人が突き付けてきた斧槍の先端をキリコがそっと持つ。 「どの口が言うの。塵芥」 そしてその穂先をぐりっと無造作に捻った。 ぐるり、と斧槍が回転する。 ただそれだけ・・・・鉛筆が転がるにも等しい何ら驚くには値しない変化。 しかしその回転は斧槍を持つ兵士の手元に恐ろしい変化をもたらしていた。 否、手先より伝わり全身にだ。 ごきごき、と嫌な音がして兵士の手首が捻じれてあらぬ方向を向く。 「・・・・・あぇ?」 と当の兵士は間抜けな声を出していた。 その次の瞬間、ねじれは兵士の全身に伝播した。 一瞬にして凄まじい数の骨が折れ砕けた嫌な音が響き渡った。 私も、ルノーも、兵たちも・・・・誰も何が起こったのか正確に理解できてない。 ただ目の前で、雑巾のようにあっさりと・・・1人の人間が見えない力に捻じり上げられて・・・絶命するのを見守るだけだった。 全身を捻じられて絞られたその死体は、どこかクロワッサンにも似て、悪趣味な冗談のような・・・・そんな無残な滑稽さを感じさせる。 「殺せぇーッッッ!!!!」 カート大佐が叫ぶ。 目前のルノーの始末よりも優先する。 彼らにとっては闖入者であり、逃す事はできない目撃者が、得体の知れない恐ろしい何かである事に気付いたのだ。 一斉に、数十人の兵士がキリコに踊りかかった。 キリコは微笑んだままそれを迎えると、先頭で斬りかかってきた兵士の一撃をふわりとかわすと、その手首を手にとって捻り上げた。 彼女がした事は『ただのそれだけ』だった。 バキバキバキバキ!!と手首を捻られた兵士の全身が捻じれる。そしてその捻じれは彼に触れていた隣接する別の兵士へもそのまま伝播した。 ・・・ギイッ!! ・・・あがぁああ!!!! 獣じみた悲鳴を何人もが上げる。 密集形態が災いして、捻れは一気に大勢に伝播した。 捻れていく兵達は驚き、おののいて暴れ、後ずさり、他の兵に接触してしまいさらに伝播は広がった。 地獄の様な光景だった。 「・・・たっ、大佐ぁ! 助けてくださいぃ!!!」 捻れに全身を覆われながら兵士の1人がカートへと手を伸ばした。 「・・・やっ、やめろ!! 私に触るな!!!」 カートがその兵から逃れようと後退する。 そのカートの眼前で兵は全身を捻じり上げられて倒れた。 倒れながら、その伸ばした手の指先が、かすかにカートの鎧をかすめた。 「・・・おい、なんだよこれ・・・」 その掠められた部分からカートの全身に捻れが広がる。 「・・・なんだよォこれえええ!!!!!!」 絶望の涙をこぼして、恐怖の絶叫を上げながらカート大佐がその身で螺旋を表現しながら倒れた。 恐慌状態になった兵たちが皆キリコに背を向け逃走する。 何十人もが細い路地に一気に殺到した為に詰まって身動きが取れなくなっている。 どけ!!というような怒号が飛び交う。 「・・・・どこへ行くつもり?」 キリコが足元から斧槍を1本拾い上げた。 「そう、逃げるのね。・・・でもどこにあるの? この地上に。私から逃げられる場所なんて」 フッと軽く斧槍を投擲するキリコ。 最後尾の兵の背にその斧槍が炸裂する。 そしてその兵から捻れの伝播が始まった。 「教えて・・・知りたいのよ。誰か逃げおおせて、この世に『絶対』なんてないのだと、私もこの手から取りこぼすものがあるのだという事を教えて頂戴」 路地の中にひしめく兵士達は皆捻れて絶命する。 そんな中、ほんの数名だけ先頭を走っていた者達が伝播した兵に触れずに路地から脱出する事ができていた。 助かった、とその兵は思っただろうか。 自分が見慣れぬ城の庭園をいつの間にか走っている事に気付くまでの僅かな時間で。 「・・・・・『千年城』」 自身がその庭園で大理石の像に成り果てるまでの僅かな時間で。 く・・・あ・・・と、ルノーが何か言いかけて黙った。 自身の言いたいことが、歯の根が合わずに言葉にならない事を悟ったのだろう。 私も歯鳴りこそなかったものの、全身に震えはあった。 誰かを怖い、と初めて思った。 彼女は絶対者だ。敵対するものを確実に葬り去る死の法だ。 ・・・『触れてはならない存在』だ。 そう、感じた。 いや、自分の事よりも、ずっとずっと強く・・・・。 ウィルを彼女と戦わせてはいけない、と。 私はそう思った。 「・・・無意味な時間だったわね。さあ行くわよ。準備を急いで頂戴」 キリコが私を見て言う。 瞬間的に彼女に言いたい事は色々思い浮かんだが、その言葉を飲み込んだ。 ・・・殺さなくても、どうにかできたはず・・・。 その事を一番強く思ったが、でも彼らも殺すつもりでかかってきていた。 ・・・むぅ、しょうがない事とは思うけど納得はできないよ。 「・・・いやー・・・騒がしかったけど何事ですか?」 そこへカルタスが、私が隠れていろと指示した路地からひょっこり顔を出した。 「・・・・ちょっと・・・・」 キリコがそのカルタスへつかつかと歩み寄る。 そしてカルタスをまじまじと見つめる。 状況が掴めないカルタスは目を白黒させるばかりだ。 「ど、どちら様でしょうか? 私はカルタス・ボーマンと申しまして・・・」 「・・・・鼻・・・・大きすぎるでしょう!!!!」 何故かバシーッ!!!と思い切りカルタスをひっぱたくキリコ。 「コイサンマン!!!!!!」 カルタスは吹っ飛んで壁を突き破って消えていった。 第11話 2← →第11話 4
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中央棟貴賓室。 「・・・う、なんか寒気・・・」 椅子に座っていたエトワールが急にぶるっと震えて自分の両腕をかき抱いた。 「何だ風邪か? 自己管理も満足にできんようで財団金融部のトップとは片腹痛いわ」 シュヴァイツァーが嘲笑気味に言う。 「うっせーそんなんじゃねーよ・・・」 そんなシュヴァイツァーをジロリと見上げてエトワールがコーヒーカップを手に取った。 そこへ慌しくドアがノックされ、先程同様にジーンが部屋へ入ってくる。 「失礼します。侵入者に増援が2人現れた模様です」 「ハイドラは何を愚図ついているのだ・・・増援? 何者だ。先行の侵入者とはデキてるのか?」 苛立たしげに問うシュヴァイツァー。 「デキているのかどうかはわかりませんが・・・増援はどうやら『協会』のヨギとELHの様です」 「!!!??? ・・・・んブふーッッッ!!!!!!!」 その名を聞いたエトワールが激しくコーヒーを噴き出した。 その噴霧をモロに浴びるシュヴァイツァー。 「・・・ぐわあああああああああああ!!!! 目!!! 目に熱いコーヒーが!!!!!!」 顔面を押さえて床を転げまわるシュヴァイツァー。 そして部屋の隅に置いてあった大きな調度品の壺に激突する。 「・・・・・・・ぶぎゅ!!!!!!!!」 倒れてきた壺の下敷きになるシュヴァイツァー。 『あ』 エトワールとジーンの声がハモった。 そしてピクリとも動かなくなったシュヴァイツァーを見て、2人は顔を見合わせたのだった。 ヨギとELHがフェンスから飛び降りてくる。 そしてジュデッカを庇うように彼女の前に立つ。 「・・・あんた方お呼びじゃないぜ」 その後姿にジュデッカが声をかけた。 「それは失礼しました」 肩越しに振り返ってヨギが微笑む。 「ですが、私達も友人の依頼でここへ赴いていまして。貴女を連れて戻るようにと」 友人・・・? ジュデッカが怪訝そうな顔をする。 「パルテリースさんですよ」 そう言うとヨギはハイドラ達へと向き直り銃を彼らに向けて構えた。 「そういう事ですので、彼女は回収させて頂きます」 「・・・それができればの話よな」 リチャードが野太刀を構える。 「先日この刀は御主らの同胞サムトーの血を吸っておる。短い間に三聖の内2人もの血を我が刀に味合わせてやれるとは僥倖な事よ・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 リチャードの言葉にヨギとELHの目に鋭さが増す。 「仇討ちがしたいとは思わんのか? ヨギ・ヴァン・クリーフよ」 2丁拳銃を油断無くリチャードへと向けながら、ヨギが静かに首を横に振った。 「その件はまたいずれ・・・。今日は自分の使命を優先させてもらいます」 そしてヨギはELHの方を向いた。 肯いたELHが懐から新たな褌を取り出すと「ふんっ!」と気合を込めてバサッと広げた。 するとその褌は魔法のように大きく広がって地面から50cmほどの高さの所に浮いた。 「・・・良し! 乗れい!!」 言いながらELHが褌に飛び乗る。 ヨギもジュデッカの手を引いて褌に飛び乗った。 そして3人は飛び乗った時の勢いのまま、褌を踏みつけて地面に落ちた。 「・・・言い忘れておった!! 25kgまでだ!!!」 「1人でもだめじゃないですか!!!!!」 ELHの言葉にヨギが絶叫する。 「漫才はそこまでよ!!」 叫びながら一気に間合いを詰めたリチャードが鋭く突きを繰り出してきた。 「!!! ・・・褌バリアーッッッ!!!!!!!!」 ズブッ!!!!! 「・・・ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」 広げた褌ごと刺し貫かれたELHが絶叫を上げる。 「流石は『ハイドラ』・・・褌バリアーが見た目程度の防御力しかない事を瞬時に見抜くとは・・・」 押さえたELHの肩口の傷からボタボタと血が地面に垂れる。 そしてバックステップで距離を取りつつ、背にした竜剣を抜き放つ。 「ならばやむを得ぬ! 我がドラゴンブレイドが悪を断つ!!!」 「来い!!!ELHァァァァァッ!!!!」 ガキィン!!!!! と激しく火花を散らしてリチャードの野太刀とELHのドラゴンブレイドが真正面から打ち合わされた。 「・・・食らうがいい!! ドラブレファイアーッッ!!!!!」 ゴウ!!!! と口から紅蓮の炎を吐き出すELH。 「ドラブレ関係な・・・ぐわあああっっっっ!!!!!」 リチャードとその背後に迫っていたツカサと大龍峰が炎に巻かれる。 「今だ!!! 疾風丸!!!」 その隙をついたELHが懐から呼子笛を取り出すとピィーッと吹き鳴らした。 キエエエ!!と甲高い鳴き声が周囲に響き渡ったかと思うと馬ほどもある巨大な鷲が飛来する。 「掴まれい! 疾風丸であれば大人3人乗せて飛べる!!!」 ジュデッカを抱えたヨギがELHの手を握った。 もう片方の手で褌を持ったELHがその褌を頭上に飛来する大鷲にシュッと鋭く投げ付けた。 褌は大鷲の首にしゅるっと巻き付くとぶら下がったELH達の重さでギュウっと締め上げた。 ギエエエエエエ!!!と断末魔の絶叫を残して大鷲が地面に落下する。 「・・・ああっっ!!!! 疾風丸!!!!!」 「ちょっ!! 何やってんですか!!!!」 叫んだヨギが頭上、空へ向けて銃を撃つ。 「・・・来い!! ワイアット!!!」 するとギャリイイイイイン!!!!と激しくタイヤを鳴らしながらその場に無人のセグウェイが駆けつけてきた。 「無人だとォ・・・!!!??」 大龍峰が驚愕して叫ぶ。 「驚きましたか・・・ワイアットは魔法のセグウェイ! 自らの意思を持っているのです!」 ジュデッカとELHを背中に抱えてヨギがセグウェイに乗る。 セグウェイは何事かブツブツと呟いている。 『・・・生きてても何もいい事なんてない・・・死にたい・・・』 「おいその意思はむしろ無い方がええんじゃないのか!!!」 大龍峰の叫び声を背に受けつつ、セグウェイを駆るヨギは高速でその場を離脱していったのだった。 「・・・ちぃぃい! 追うぞ!!!」 ようやく炎を払い消した大龍峰が残る2人を振り返って言う。 ツカサとリチャードが肯く。 「追わなくていいわ」 そして3人が駆け出そうとしたその時、背後からの声がその動きを止めた。 ゆっくりと柳生霧呼が歩いてくる。 「キリコ。・・・じゃがのぉこんだけワシらの陣地で好き勝手されとるのに見逃すんか」 苛立たしげに言う大龍峰に、対照的に涼しげな微笑を浮かべて霧呼が肯いた。 「あのメモリークリスタルの中の情報は既にこちらが入手済みなのだし、今は行かせて構わないわ。これ以上今貴方達を減らすわけにはいかないの」 霧呼の言葉に3人がピクリと反応する。 後を追えば誰か死ぬとも取れる言い方である。 「・・・彼らの逃げる先には伏兵がいるわ」 「待ち伏せと? だが拙者ら、例え誰が待ち受けていようが命ぜられれば蹴散らしてくるのだがな」 リチャードが腕を組んで言う。 「そうね・・・待ち構えているのが三聖や四葉だというのならそれでもよいのだけどね・・・」 口元から笑みを消すと霧呼がリチャードを見る。 「でも相手が『彼』だとそういうわけにもいかないわ」 「・・・ラゴールが、来とるんか」 大龍峰の声がやや低くなった。無言で霧呼が肯く。 「御主の目から見て、我らではラゴールには敵わぬと見えるのか」 リチャードが言うと霧呼が首を横に振る。 「そうは言っていないわ。でも私は勝率が8割を切ると思う相手には貴方達をぶつけるつもりはないの。多分勝てると思って行かせたけど駄目でした、じゃあ済まされないのよ。戦争なんだから」 それに・・・と霧呼が付け足す。優しい微笑を浮かべて。 「焦る事はないわ。彼らとはすぐに総力戦になるから。その時に当たった相手に思う存分その力を振るって・・・?・・・」 霧呼が言葉を切って周囲を見回す。 「・・・何? この香ばしい香りは・・・あら大きな焼き鳥。これは何?」 霧呼の問いに先程投げ捨てた上着を拾いつつ大龍峰が答える。 「知らんわい。連中突然火を起こしたかと思ったらその鳥をそこへ放り込んだんじゃい」 「腹でも減っていたのでござろうよ」 ギュリオンが言うと霧呼は「戦闘中に?」と怪訝そうな顔をした。 ヨギの駆るセグウェイは高速でソル重工の敷地を抜けると、そこからわずかに行った場所にある路地裏へと飛び込んだ。 そこにはジュウベイとラゴールが待っていた。 「・・・どうじゃ?」 ヨギ達を迎えてその後方を見るジュウベイ。 「追ってくる気配は無いな」 気配を探り、ラゴールが言う。 「・・・ちっ、離せ・・・よ」 ヨギに抱えられるようにして立っていたジュデッカが弱々しくその手を振り払った。 「ここまでの事はとりあえず礼を言っておく・・・。でもこれ以上お前たちの手は借りないぜ」 フラつく足取りで離れようとする。 そのジュデッカへラゴールがずいっと詰め寄った。 「勘違いするな。手を貸すだのとそんなつもりはない。こちらはこちらの都合で動く。お前が拒むなら昏倒させてでも治療を受けさせるだけだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 暫くの間、ジュデッカは無言でラゴールを睨んでいたがやがて根負けしたかのように大きくため息をついた。 「わかったよ・・・好きにしやがれ」 「では、アンカー病院へ・・・」 言いかけたヨギを突然ラゴールが取り出した木製バットで激しく臀部を殴打した。 「おフッ!!!!!」 尻を押さえたヨギが倒れて動かなくなる。 「あそこは駄目だ、キノコにされる」 そう言ってラゴールは路地の奥を指す。 「こっちだ。モグリだが腕のいい医者がいる。そこへ連れて行く」 オフィスビルの4階、魂樹とパルテリースは相部屋である。 彼女達の部屋の電話のベルが鳴り、受話器をパルテリースが取った。 「・・・はい。・・・ええ。わかりました。どうもありがとう」 「?」 電話を受けるパルテリースに魂樹が怪訝そうな顔をする。 どうやら予め予定のあった連絡らしい。 「はい。ではそちらで後ほど」 パルテリースが受話器をフックに戻した。 そして魂樹の方を見て 「・・・魂樹、話したい事があるの。私と一緒に来て」 そう静かに言って優しく微笑んだのだった。 第24話 3← →第24話 5
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柳生霧呼を見る。 彼女はリラックスした様子で微笑んでいる。 攻撃の意思はなさそうだ。 しかし彼女は財団の実働部隊の長。我々とは恐らくこの先も相容れることは無いであろう人物だ。 ・・・我々を待っていたというが、何故あなたがここに? 警戒は解かず、まず最大の疑問を口にする。 「ここへは『神の門』の事を調べに来ていたのよ。そうしたら彼が貴方たちがここへ来ると言うから、どうせなら帰りはご一緒しようかと待っていたわけ」 「彼」とはガルーダの事らしい。キリコがガルーダを見てそう言う。 そしてガルーダはキリコの言葉にコクコクと肯いていた。 どうやら嘘は無いようだが・・・。 ・・・しかし・・・。 どうして我々と行動を共にしようと? 財団にとっては我々は敵対者ではないのか? 続いた疑問に、キリコは表情から微笑を消すと静かに目を閉じた。 「そうね。実際財団内部には貴方たちを敵視して排除に動こうとする動きもあるわ。・・・私は違うけど」 そう言ってキリコは瞳を開いて再びこちらを見る。 「いたずらに敵を増やすのは賢いやり方ではないわ。私の趣味じゃない。少なくとも現時点で私は貴方達と戦う必要性は感じないしそういうつもりはないの」 むう。・・・確かに、私の友人やアンカーの町に害を及ぼさないというのであれば神の門を狙っているという理由だけで私も財団と敵対するつもりは無い。 そんな事を言い出せば世界中の国々と敵対しなければいけなくなる。 いずれ争奪戦になるのかもしれないが、そもそも私は門の所有者というわけでもないのだ。 「・・・でも」 沈黙した私に代わって声を出したのはベルナデットだった。 「私としては落ち着かないわ。『自分の命を狙っている人間』と一緒に動くのは」 彼女の言葉に仲間達がハッとする。 キリコは笑っていた。そしてベルナデットの言葉を否定しなかった。 「予定は変わったわ。今はこの場にいる全員と敵対してまで貴女の命を取ろうとは思わないから安心しなさいな」 そう言って全員を見回すキリコ。 「どちらにせよ、『誰か1人は』生き残っていいのですものね。私は別にそれが貴女であっても構わない。むしろ、その後の事を考えるのならそれが一番望ましいと思っているわ」 彼女の言う「その後の事」とは、全てが終わって最後の魔人が世に再び解き放たれた時の事を言っているのだろう。 確かにその点でベルナデットは解放された後で何か面倒を巻き起こすような性格とは思えないが・・・。 「ウィリアム先生と組んだ機転もお見事だしね。これで先生は貴女を護って他の魔人達と戦わざるをえなくなったわ。私としてもそれは好都合だし、しばらくは様子を見ているつもりよ」 仲良くしましょうね、とキリコはそう自分の言葉を締め括った。 そんな流れで帰りの輿にはキリコが同乗する事になった。 一同を覆う空気は何だか微妙であり、行きに比べて会話も少ない道中となったが、キリコは1人そんな事はお構いなしに寛いだ様子で流れていく景色を眺めていた。 そして殊更にカルタスは怯えて彼女の顔色を伺っている。 ・・・何かあったんだろうか? 「キリコってさー。よくわかんないよね」 その当のキリコにDDがそう言っている。 「どう、わからないの?」 「えー? 色々となんかフクザツじゃん。財団の人間って言うけど、今まで私が見てきた財団の人間とはちょっと感じ違うし、凄く残酷だったり優しくしてくれたりさ」 言われてキリコは少し遠い目をする。 「確かに財団の人間の多くと私は少し違うかもしれないわね。彼らは良くも悪くも合理的だから。・・・でも、時に残酷で時に優しいっていうのは、それはどんな人間でもそういうものじゃない?」 そうかなー、とDDが首を捻る。 「私はいつも自分がしたい様にしてきただけ。これからもきっとそうよ。今は自分がそうしようと思って総帥とエメラダ様に従っているけど」 キリコの口にした名前には聞き覚えがあった。 エメラダ・ギャラガー・・・・財団総帥夫人、か・・・。 そして我々は無事に神都へ戻ってきた。 キリコは3層に宿をとっているらしく、エレベーターを途中で降りて別れた。 4層に戻るなり、バルカンは待ち構えていた神官達に仕事が山積みだと連行されていった。 案内させておいて気の毒だが、まあしょうがない・・・。 我々には他にやらなければならない事があった。 まずキャムデン宰相に我々が遺跡へ向かった事を誰かに話していないか問い詰めなくてはならん。 何もなかった時に大騒ぎにしたくないので、私は皆をバルカンの屋敷に向かわせてベルと2人だけで皇宮へとやってきた。 「先生、お帰りなさい。おお、元の姿に戻られたのですね」 笑顔でアレイオンが出迎えてくれる。 「遺跡はどうでした? 何か収穫でも?」 と、こちらが何か話す前からいきなりそう言われてしまう。 私は内心の動揺を隠しつつ、私達が遺跡へ向かったことは誰から?とアレイオンに尋ねた。 「キャムデン宰相閣下から伺いましたよ。・・・なんでも、猊下とベルの不在で騒ぎにならないようにと4将軍全員に注意を促しただとか」 ぐわ・・・ご丁寧に全員にか・・・。 容疑者の絞込すらできん・・・。 「言ってる内容に珍しく筋が通ってるだけに性質が悪いわね」 ベルも渋い顔をしている。 なんです?と不思議そうなアレイオンを適当に誤魔化すと、私たちは宰相の部屋へと向かった。 聞くだけ無駄かもしれんが、せめて話した後に誰か挙動のおかしかった者がいないか訊ねてみよう。 宰相の執務室の戸をノックして、入室の許可を受けてから中へと入る。 すると、そこには宰相の他にもう1人の人物がいた。 紅の将軍、クバードであった。 「先生、お戻りでしたか。ガルーダの助力を得ることはできましたか?」 クバードが腰を下ろしていた応接用の椅子から立ち上がってそう言う。 私は、ああ、とその問いに肯くと、将軍はどうしてここに?とクバードに訊ねた。 「私は宰相と神都の警備形態を新しくしようと打ち合わせですよ。最近教団の連中の動きも活発ですし、ガ・シアの出現もある。衛士の数を増やして警戒を厳重にしようという話になっているのです」 眼帯の将軍はそう丁寧に説明してくれた。 なるほど、と肯く。 ・・・しかし、これではこの場で例の話を切り出すのは無理だな・・・。 「下らぬわ!!! 警備など意味は無い!!! 人々を悪心のままに解き放て!!」 当の宰相は応接机に上がってそこで哄笑しとるし・・・・。 するとクバードがベルの包帯や絆創膏に気が付いた。 「どうした、ベルナデット。どこで負傷した?」 「遺跡で教団の待ち伏せに遭ったのよ。けど大丈夫よ。連中はガ・シアごと撃退したし傷も大したことないから」 ベルが答える。 ・・・すると、宰相の哄笑がピタリと止んだ。 ・・・・?・・・・ 宰相がこちらに背を向けて乗っていた応接用のテーブルから飛び降りた。 「・・・・教団の待ち伏せがあったのか・・・?」 振り向かずに宰相が尋ねた。 そうよ、とベルが肯く。 「・・・そうか・・・」 そう呟いたきり、宰相は黙り込んだ。 私たちは3人で顔を見合わせる。 恐らくは沈黙は1分に満たない間だったろう。 私は宰相の肩がほんのわずかに震えている事に気付いた。 やがてゆっくりと宰相が振り向く。その頬には涙が伝っていた。 そしてその涙を流す視線の先には、赤い鎧の眼帯の将軍がいる。 「・・・クバード、『お前だったのだな』 神皇様の幼馴染であり、4将軍中もっとも古くからその任を務め上げ、誰よりも尊敬されていたお前が・・・。最もありえぬと思っていたお前が・・・教団と通じていたのだな・・・。何故だクバード・・・何故皇国を・・・神皇様を裏切った・・・・!!!」 ・・・!? 突然の宰相の言葉に、私とベルは面食らって言葉を失った。 そしてそれは当の将軍も一緒であった。 「・・・突然何を言い出す、宰相。話がまるでわからぬぞ」 やや厳しい表情ながら普段の落ち着いた調子で言うクバード。 「最早言い逃れはできん、クバードよ。彼らが風の聖殿へ向かったことを知る者はお前だけなのだ」 手の甲で涙を拭うとキャムデン宰相が鋭くクバード将軍を睨んだ。 「何を馬鹿な、その事は宰相の口から我々4将軍全員に告げたと言ったではないか」 その通りだ・・・現にアレイオンは私が遺跡帰りだという事を知っていた。 「そうだ、私が4人に話した。・・・しかしだ、告げた彼らの行き先は『4人それぞれで異なるのだ』 アレイオンには南方ビルチアの寺院跡を、カーラには北東メーデの巨石群を、フェルテナージュには南東ダライムの祭壇をそれぞれ行き先として告げた。正しく風の聖殿へ彼らが向かう事を告げたのはお前だけなのだ、クバードよ」 クバードの眉間に皺が寄った。 外気にさらされている左の瞳の光が険しさを増した。 「・・・そして、残る3箇所の遺跡にはそれぞれ信頼できる者を送っておいた。彼らの先手を打って現地へ乗り込んでくる者がいないか見張るようにと・・・そして先程そのいずれに派遣した者からも何ら得るものは無し、と報告を受けたばかりよ・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」 クバード将軍は答えない。 私は将軍の四肢が即座に動き出せるように緊張している事に気付く。 「最も可能性が低いだろうと思っていたお前に正しい行き先を告げていたが・・・皮肉にもそれが彼らの身を危険に晒す事となったか・・・」 半歩、クバード将軍が退く。何かやる気だ。 私はベルを庇う様に彼女の前に立った。 「・・・ゴルゴダ!!!!」 クバード将軍の叫びと彼の頭上の天井が踏み抜かれる音は同時だった。 クバードの前に長槍を手にしたゴルゴダが飛び降りてくる。 神剣を抜き放ち、奴へ向ける。ゴルゴダも同時に私に槍の切っ先を向ける。 彼我の距離は4m程・・・互いに手にした武器を突きつけ合い私たちは静止した。 「化けたなウィリアム。それが本当のお前か・・・・予想以上のバケモンだな」 ・・・お前にそう言われるのは心外だ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 この身体、この力で・・・恐らく互角・・・か。 「どうだ、やれるか? 私は宰相の相手をせねばならん」 背後からゴルゴダにクバードがそう声をかける。 「やれんとは言わんが、あんたの望む手早さでは無理だぜ」 彼らは時間をかけられまい。 この場に長く留まればこちらには援軍がどんどん駆け付けてくるのだ。 「この場で始末できればまだどうにか取り繕い様もあるものを・・・」 忌々しそうに舌打ちするとクバードが右の目を覆う眼帯に手をかける。 「・・・・いけない! ウィル!!!」 切羽詰った声を出すベル。 眼帯の下のクバードの右の瞳の色は左と違う真紅だった。 そしてその赤い瞳が輝く。 ・・・・・・・・・・・カルタス!!!! 私の叫びと私の頭上の天井が踏み抜かれるのは同時だった。 私の眼前にカルタスが顔面から落下する。 慌ててその首根っこを引っつかんで持ち上げた。 宰相の部屋を炎が覆う。 私に襟首掴まれたカルタスが力一杯鼻息を吹き、辛うじて迫る炎を押し戻す。 「行くぞ、ゴルゴダ」 「・・・はいよ」 そして渦巻く炎の向こうに2人の男は消えていったのだった。 ~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~ 第15話 4← →第16話 戦士達の厨房
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登場人物 ■ ウィリアム一家 ├ ウィリアム・バーンハルト ├ エリスリーデル・シャルンホルスト ├ レディ・ダイヤモンドダスト ├ ルクシオン・ヴェルデライヒ ├ カルタス・ボーマン ├ 女王テトラプテラ ├ ハイパーココナッツ伊東 ├ シンラ ├ マチルダ・レン・アリューゼ ├ 魂樹・ナタリー・フォレスティア ├ エルンスト・ラゴール └ シイタケマン ■ アンカー住民 ├ 勇吹 ├ 斉川芳裕 ├ 斉川ひぢり ├ キリエッタ・ナウシズ ├ シンクレア・ハイアーク ├ 鳴江漂水 ├ ノルラノルコ ├ ガルギアス・ミュンツァー ├ エンリケ・ラディオン ├ 音無あやめ ├ 宮本十兵衛 ├ ゲンジ └ 冴月桜貴 ■ うぐいす隊 ├ 天城雅秋 ├ 南雲響 ├ 葛城陣八 ├ 蒲生哲清 └ 小夜野まりか ■ 魔人 ├ 「侵食するもの」カイザーキューカンバー ├ 「焼き尽くすもの」グライマー ├ 「閉ざすもの」ペルゼムス ├ 「惑わせるもの」ナイアール ├ 「貪るもの」 ├ 「圧し流すもの」ヴァレリア・バスカビル ├ 「圧し流すもの」ベイオウルフ・オーウェン ├ 「刺し貫くもの」ゼロ └ 「解き放つもの」ベルナデット・アトカーシア ■ ガルディアス帝国 ├ レイガルド・リュヒター ├ スレイダー・マクシミリオン ├ 雨月海里 └ シトリン・メディナ・クフィール ■ ツェンレン王国 ├ 獣王アレキサンダー ├ ゲンウ・キサラギ ├ オルヴィエ・ルシェ・ラキーナ ├ コトハ・リュウオンジ └ ダイロス・ハイアーク ■ ファーレンクーンツ共和国 ├ アレス大統領 ├ カミュ・オニハラ ├ エリック・シュタイナー ├ ルノー └ シグナル ■ エストニア森林王国 ├ ジュピター ├ マチルダ・レン・アリューゼ ├ 魂樹・ナタリー・フォレスティア ├ パルテリース・ローズマリー ├ ジュデッカ・クラウド └ エミット・ローズマリー ■ 軍事大国ルーナ帝國 ├ シュルト三世 └ ノルン・クライフ ■ 皇区 ├ ユーミル・ユーグ・フラム・パーラドゥア ├ メリルリアーナ・ラハ・パーラドゥア ├ バルカン・ハウゼル ├ アレイオン・クォール ├ フェルテナージュ・オウレス ├ カーラ・キリウス ├ クバード ├ キャムデン └ アシュナーダ・ラータ・ルファード ■ ロードリアス財団 ├ ギャラガー・C・ロードリアス ├ エメラダ・ロードリアス ├ エトワール・D・ロードリアス ├ アルフォンソ・マキャベリー ├ ピョートル・ヴォルグニコフ ├ リヒャルト・シュヴァイツァー ├ 柳生霧呼 ├ リチャード・ギュリオン ├ クリストファー・緑 ├ 大龍峰 ├ アルテナ・ムーンライト ├ リゼルグ・アーウィン ├ アイザック・ラインドルフ ├ ツカサ・ファルケンリンク └ カシム・ファルージャ ■ 冒険者協会 ├ 天河悠陽 ├ サーラ・エルシュラーハ ├ ヨギ・ヴァン・クリーフ ├ サムトー・ユング ├ ELH ├ セシル └ 仁舟 ■ ユニオン ├ メギド ├ ピョートル・ヴォルグニコフ ├ エリーゼ ├ ジオン ├ ビスマルク ├ ヴェルパール ├ エウロペア ├ みる茶 ├ ミューラー ├ おでん ├ ゴルゴダ ├ 紫のバラの人 ├ ブリュンヒルデ・ラグナシア └ 川島しげお・J・ラームズ ■ その他 ├ オババ ├ ラハン ├ 爆惨先生 ├ ムッシュ・ゴロウ ├ シャハル・マドル ├ 民子さん ├ 骸柳デス子 └ ギゾルフィ 語句 ■ 地名 ├ シードラゴン島 ├ ガルディアス帝国 ├ ツェンレン王国 ├ ファーレンクーンツ共和国 ├ エストニア森林王国 ├ 軍事大国ルーナ帝國 ├ 浮遊大陸 └ 大和 ■ 固有名詞 ├ うぐいす隊 ├ 魔人 ├ ロードリアス財団 ├ 冒険者協会 ├ ユニオン ├ 皇区 ├ 七星 ├ ノワール ├ 三銃士 ├ 銃士隊 ├ フォー・リーヴズ・クローバー ├ ペガサスナイツ ├ 六剣皇 └ 剣帝 ■ 生物 ├ アパルカ ├ 高クラーケン ├ ペリンカーン ├ サンバワーム ├ ミノモンタウロス ├ アントベア └ オンドゥル ■ その他 ├ 滅んで砕け散った世界の破片 ├ 神の門 ├ 神獣 ├ 四王会議 ├ エル・アルカータ ├ シャーク └ 聖アリエル祭 トップページ ここを編集
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DS2/SE16-P01 カード名:タキシードヤマト&ヒビキ&アルコル カテゴリ:キャラクター 色:青 レベル:0 コスト:0 トリガー:0 パワー:1500 ソウル:1 特徴:《サマナー》?・《竜》? 【自】[②] このカードが手札から舞台に置かれた時コストを払ってよい。 そうしたら、あなたは自分の山札を見て《サマナー》のキャラを一枚まで選んで 相手に見せ、手札に加え、その山札をシャッフルする。 ヒビキ「一緒に来てくれてありがとう」 レアリティ:PR illust. 初出 オトメディア2013年6月号
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ここは、何処かの空の彼方。 雲海の中に浮かぶ小さな白い庵。 庵の中の調度品も全て白い色で統一してある。 中央にあるものは四角いテーブルに椅子が4脚。 そしてその椅子に着いて4人の人影があった。 いずれもゆったりとした装束に身を包んだ4人の男性だ。 4人の囲むテーブルの中央には球形のビジョンが浮かび上がっている。 そこに映し出されているのは、聖王の鎧の島でのウィリアムたちと襲ってきたラウンドテーブルの死闘だ。 やがてシーンはラウンドテーブルのメンバーが引き上げる所まで進んだ。 「ふーむ…」 一人が深く息を吐いて椅子の背もたれに身を預けた。 「ひとまずテリブルは去ったようだね」 別の一人もそう言って椅子に座りなおした。 テリブルの部分にやけにアクセントがある。 また別の一人が両肘をテーブルに置いて顔の前で腕を組んだ。 「残念ながら…まだ彼らではメギドや円卓の面々と互角に戦うには実力が足りぬようだ」 「そのようだな…」 最後の一人が重々しく肯いて同意する。 「さて、我らはどうするか…」 「このままクワイエットしてルックしてていいのかい?」 すると、一人が静かに椅子を引いて立ち上がった。 「では、私が地上へ降りて彼らを導くとしよう」 立ち上がった一人が穏やかな声で言う。 「頼むぞ」 「この世界の安定と平和の為に」 他の3人も立ち上がる。 そして彼らは互いに深々と礼をし合う。 それが4人のしばしの別れの合図となった。 襲撃者達が去った後、傷の浅いELHと魂樹の2人が他の面々を急いで手当てする。 しかしウィリアムとルクシオンとジュウベイの3人の傷の状態は深刻であり、中でもウィリアムの無残に抉られた両眼に魂樹たちは言葉を失った。 「…先生」 ウィリアムの目に包帯を巻きながら魂樹が涙ぐんだ。 「おめーらが雑魚なせいでセンセがえらい事になっちまってるじゃねーかよ」 ぶすっと不機嫌そうに口を尖らせてエトワールが文句を言う。 そのエトワールを魂樹がキッと睨み付けた。 「放っておいてください! あなたには関係ないでしょう!! 大体用が済んだならさっさと帰って!! 帰りたいって言ってたでしょう!!!」 「なっ!? てめー人の楽しいランチタイムをグロいもんのドアップで台無しにした上に今度は帰れってどういう了見ですかゴルァ!! お帰りの際にはリムジンかテムジンでも呼ぶのが礼儀ってもんじゃねーんですかね!!」 がるるる、と牙をむいてエトワールと魂樹が睨み合う。 そんな2人を尻目に、ELHはルクに包帯を巻いていた。 「…う…わ、私は大丈夫です…それより、ウィリアムを…」 意識が朦朧としているのだろう。焦点の定まらぬ目で、それでもルクはウィリアムを気遣った。 「大丈夫だ…先生殿は魂樹が手当てしておる」 ルクにELHが微笑みかける。すると、ようやく安心したのか、ふぅと息を吐いて再びルクは意識を失った。 だが、その傷口は無残だ。 肉を切り裂かれ、骨にまで届いているものがほとんど。血も相当流れてしまっている。 (筋を…断たれてしまっておる。これでは、傷が癒えても、もう…) 2度と戦える身体には回復しないかもしれない、と声にはせずに思いELHは沈痛な表情を浮かべた。 隣に倒れているジュウベイの傷も酷い。肋骨が滅茶苦茶にされている。 下手に動かせば損傷した骨が内臓を傷付けるかもしれない。 「…ありがとう。手間を取らせてすまないね」 包帯を目に巻かれたウィリアムがそう礼を口にした。 その声ににらみ合っていた魂樹とエトワールがハッとウィリアムの方を見る。 「強かったな。やられてしまったよ…皆の様子はどうだい? 怪我は?」 その言葉に魂樹が辛そうな顔をする。 「ルクシオンとジュウベイさんが、少し傷が酷くて…。早くお医者様にかかる必要があると思います」 「そうか…。では、急いで戻らなければね。すまないが、前が見えない…誰か手を引いてもらえるかな」 ウィリアムが立ち上がろうとしてぐらりとよろめいた。 そのウィリアムをエトワールが支える。 「センセはうちが連れてく。おめーらはそっちの2人を運びやがりなさいよ、ホレ」 「エトワールか…。どうして、君がここに」 エトワールに肩を借りながらウィリアムが言う。 「そりゃうちも聞きたいトコなんですけどね…。ま、今はそんな事はいいんだ。大事なのはセンセと他どうでもいい連中のピンチを華麗に現れたうちが助けたってトコね。ここ大事ですんで、ヨロシク」 そう言ってエトワールはにっこりと笑った。 「君が助けてくれたのか…理由はわからないが、ありがとう」 「イエイエどういたしまして。それ程の事でもあります」 そんな2人を釈然としない様子で魂樹が見ている。 (パンツに呼び出されて好きに暴れただけなのに…) むう、と魂樹が唇を噛んだ。 『ぉおーっとゥ!! ちょいと待ってもらおうか!! 兄ちゃん方よゥ、あぁーん!?』 突如周囲に響いた声に一同が顔を上げる。 「聖王の鎧、か…」 ウィリアムが虚空へと呼び掛ける。 『如何にもその通り。我は聖王ディナダンの身に纏いし聖なる鎧である。お前たちに大いなる宿命を告げる為に我が元へと呼んだ』 「呼んだって…お陰で私たち酷い目に遭ったんですよ!!」 魂樹が声を荒げて言う。 『ちょぃ待てや!! さっきの連中はオレとは関係ねーべ!? どこいたって襲ってきたと思うぜベイベー。むしろ人気の無いこの島だったから周りに被害が出なくてよかったんじゃねえの? そこんとこ夜露死苦ゥゥゥ!!!』 「つかまずキャラ統一しやがれUZEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!」 キレたエトワールが絶叫する。 するとしばし鎧の声は沈黙した。 『…相わかった。ではこの通りにキャラは統一して我の話を続けさせてもらおう。ちゅーわけで続きだけど』 「統一し切れてねえよ」 半眼でエトワールが突っ込んだ。 「待ってくれ、鎧よ。仲間に傷が深いものがいるのだ。今はあなたの話を悠長に聞いている余裕がない」 ウィリアムが慌てて言う。ルクとジュウベイを早く医者へ連れて行かなければならない。 ウィリアム自身も相当の深手なのだが、彼はここではその事実に考えが及んでいなかった。 すると途端に周囲を白い光が満たす。 上空からの眩い白の輝きが一行を照らし出した。 「む…」 ウィリアムが唸る。顔の傷の痛みが和らいでいく。 『一先ず傷を塞いだだけだが、これで些かの時間の余裕ができたであろう。しばし我が言葉に耳を傾け、全開バリバリオールナイトでオレたちの国境は地平線だぜ』 「もうキャラがどうこうの前に何言ってるかわかんねー」 エトワールがぐったりと肩を落とした。 ウィリアム達が立っている場所から見上げる位置にある丘への岩壁が急に崩れた。 崩れた壁の中に、半ば岩に埋もれて朽ちかけた古い鎧が姿を現す。 錆びて半分崩れて風化しかかっているが、かつては装飾の見事なプレートメイルだったのだろう。 辛うじて形を保っている部位からそれが偲ばれる。 「これが…なんちゃらの鎧だって?」 エトワールの放った小石がカン、と音を立てて鎧に当たった。 『ちょ!! いきなり石投げるかテメー!!!』 「るせーな。こっちは昼飯食べ損ねて殺し合いさせられるわ大事なセンセは大怪我してるわで気ぃ立ってんですよ。これ以上くだらねー事グダグダ抜かすつもりなら元が何だったのかもわかんねーくらいに細かく分解してやってもいいんですがね?」 鎧を冷たく睨んで低い声でエトワールが言う。 『…マジすいませんでした。ホント勘弁してください』 応える鎧の声にはあからさまな怯えが感じられる。 「…弱」 呆れた様に魂樹が小さく呟いた。 コホン、と気を取り直すかの様に鎧が咳払いをする(らしき音を立てた) 『聞くが良い、ウィリアムよ。今この世界はかつて無い危急の時を迎えようとしておる。数多の邪悪なる意思がこの世界の安定と調和を破壊せんと歴史の闇より策動しているのだ。誰かがその悪しき流れを断たねばならぬ。…そして我は数十年ぶりに目覚め、その我らの意思を継ぐ者を探して…』 「じれってぇーッッ!!!! 手短にいけや!!!!」 ズガッ!と鞘に納めたままの愛刀で強く地面を突くエトワール。 『は、ハイ! サーセン!! でですね、その辺ウィリアムにどうにかして欲しいんス! やばい悪い奴らをパパパッとやっちゃってくれって! でも今のままじゃさっきみてーにまだウィリアム達力不足だもんで…まずは『天上都市』を目指して欲しいと思います! ハイ!!』 「…断る。他当たれよ」 あっさりぶった斬るエトワール。 『ええええええええ何で姐さんが返事するんスか!!!?? それに話最後まで聞いてくだせぇ! そっちにとっても悪い話じゃねーはずっス!! 『天上都市』にはこの世界で最高の『再生術師』の一族がいるんス!! 彼らならウィリアムの眼を元通りにできるはずっスわ!!!』 「…!」 それまで興味無さそうに鎧の話を聞いていたエトワールがピクリと眉を上げた。 その目の光が真剣なものになる。 『かつて、我が主…聖王ディナダンも『影の王』との戦いの折に『天上都市』を目指しそこで力を得て戦いに勝利した。ウィリアムよ…汝も聖王の歩んだ道筋を辿るのだ』 「私にそれができるかわからないが…。その『天上都市』とやらへ行くにはどうすればいい?」 慎重に言葉を選んでウィリアムが鎧に返事をする。 『聖王ディナダンは都市の力を誰かが悪用する事を恐れ、戦いが終わった後に天上都市へと続く『ミザールの門』を封印した。そして、その封印を解く鍵が我ら各地に安置されし聖王の遺した武具なのだ』 パアッと上空から一筋の光が射すと、その中を小さな破片がゆっくりと降りて来た。 破片を手にするエトワール。 『我が一部、その鎧の欠片を持っていくがよい。残る3つ、『兜』『剣』『盾』を集めたその時こそ、汝は天上都市へと導かれるであろう』 「残る3つの聖王の武具…」 ウィリアムが呟く。 『ウィリアム・バーンハルトよ…汝は我と出会うずっと以前より既に大きな流れの中に身を置いている。世界すら動かす大きな力の探求を望んだその時に全ての戦いは避けられないものとなったのだ。飲み込まれて消えていきたくないのなら、自らの傍らにいる者達を護りたいと願うのならば…汝は力を得て戦うしかないのだ、ウィリアムよ』 「…………」 それは『神の門』を巡る話なのだろうとウィリアムは思った。 確かに、自分はここで脱落するわけにはいかない。 果たさなければならない約束があるからだ。 『我が一部…その欠片がこの先汝を導くであろう。汝の道行きに光あれ』 ベキッ、とエトワールが手の中の鎧の破片を二つ折りにした。 「…折れたぜ」 『折るなよ!!!!!??』 鎧が裏声で悲鳴を上げた。 鎧の話を聞き終えて、一行はカナンの街へと帰ってきた。 島での戦いから騒ぎになるかと思われたが、長老が上手く皆を宥めてくれたお陰で然程の混乱も無くウィリアム達は宿へと戻る事ができた。 『海獅子亭』の一階。 魂樹とELHとエトワールの3人がテーブルを囲んでいる。 「協会に連絡を取った。間も無く医師が派遣されてくる」 ELHが言う。 「でも、ルクシオンとジュウベイさんは…」 魂樹の呟きに、ELHの返事は無い。 2人とも口にしなくてもわかっていた。ルクシオンとジュウベイはもう旅を続ける事はできないと。 俯いていた魂樹が顔を上げた。 瞳に強い輝きを宿して。 「私は…先生と一緒に『天上都市』を目指すわ。王様に連絡を取って許可を貰う」 うむ、とELHが肯く。 「拙者もそのつもりだ。既に悠陽様にはご許可を頂いておる」 そして何となく2人は、先程から黙ったままのエトワールを見た。 2人の話を聞いていたのかいなかったのか、エトワールは黙ってヤキソバを食べている。 「…あん?」 2人の視線に気付いたエトワールが眉を顰めた。 「あなたはどうするの? エトワール・D・ロードリアス」 魂樹が問う。心なしか、「ロードリアス」の部分を口にする時に声が硬くなっていた。 本質的な部分では彼女は敵対者なのだ。 「どーするもこーするもあるかよ。こっちは忙しいんだ。お前らヒマ人と違ってよ。お仕事沢山抱えてんですよ」 ヤキソバの皿と割り箸をテーブルに置くエトワール。 「…って言いたいトコだけどな。しょうがねーよ、お前らは雑魚だし、センセはあんなだし…このまま帰るワケにもいかなくなっちまった」 「!」 予想外の言葉に魂樹が驚く。 「一緒に行ってやりますよ。有り難がって泣いてもいいんだぜおめーら」 フン、と面白く無さそうに鼻を鳴らしてエトワールはそっぽを向いた。 第4話 4← →第4話 6
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紅蓮の炎の中を、何度も殺意が交錯する。 互いに皇国軍の最高位同士…蒼と紅の名を与えられた二将が殺し合う。 万能の光の盾、ドラゴンスケイルを持つアレイオンと強大な炎使いであるクバード。 両者の実力は拮抗しており、互いに手傷を受け、或いは与えつつも決定打には至らずにいる。 光の盾は全ての攻撃を遮断するが、盾で受けられなかった攻撃はそうはいかない。 周囲を炎で満たし、その炎に丸で怯む必要の無いクバードには地の利があった。 もう何十手目の攻防になるのかわからない。 互いに疲労がその身に蓄積し、息は荒くなってくる。 「これは…どうだ、アレイオン!!!!」 業火の中をクバードがアレイオンへ襲い掛かる。 「くっ!!!」 揺らめく炎の中で、迫る白刃へアレイオンが盾を構えた。 「う…」 しかし揺らぐ視界の中で一瞬、アレイオンが刃の切っ先を見失う。 その隙を逃さず、クバードの剣閃がアレイオンのわき腹を薙いでいった。 炎の中に真紅の飛沫が舞う。 「…っ!!!」 しかし気力で踏み止まったアレイオンは、剣を振り抜いた姿勢で自らとすれ違ったクバードに対し、振り返りつつ右手の斧を渾身の力で振るった。 「うおおおおっっ!!!!!」 「何ッッ!!!??」 ブン!!と片手斧の刃が半身振り返ったクバードの胸甲を薙いで行く。 「うおああああ!!!!!!」 咆哮してアレイオンが振り切った斧を手放し投げ捨てると、ハイキックを繰り出す。 クバードはその一撃を咄嗟に上げた腕でガードしたが、ポイントがずれて受け損なった。 クバードの右手の肘から骨の砕けた鈍い音が響き渡る。 そのままアレイオンはクバードを押し倒す格好となって馬乗りになり、腰に下げた短剣を抜き放って両手で構えた。 短剣を頭上へ振り上げる。 眼下のクバードへ向かって。 「…っ…」 そしてそのアレイオンの動きが、一瞬だけ停止した。 クバードの左目がギラリと輝く。 「何故…そこで躊躇うのだ! この戯けが!!!!!」 ドォン!!!とクバードとアレイオンの中間に炎が巻き起こり、アレイオンが吹き飛ばされた。 荒い息の中でクバードが立ち上がる。 倒れたアレイオンへと歩いていく。 仰向けに倒れたアレイオンは、大火傷を負った胸部からしゅうしゅうと煙を上げている。 ピクリとも動かない…完全に昏倒しているようだ。 そのアレイオンへ向けて、クバードが拾い上げた自らの長剣を振り上げた。 「・・・……………」 しかし、その長剣は振るわれる事無く再び静かに下ろされる。 そして、クバードは倒れたままのアレイオンに背を向け、舞踏会場を出て行った。 大廊下をクバードが歩く。皇宮深部へと進む。 しかしその歩調は不規則であり、クバードの歩いた後には点々と床に真紅の染みが残る。 「…ハァ…ハァ…ユーミル…」 肘の砕けた右腕は力なくただ垂れ下がっているのみ。 折れた腕に心音が響く。 「…どこ…だ…ユー…ミ…」 カツン、と靴音が停止した。 前方の右側の壁に、腕を組んで背を預けた男が自分を待っていたのだ。 一目で軍人である事がわかる…細身だが引き締まった体つきの中年男。 こめかみに傷のある、口ひげの男。 …刺客か、とクバードは一瞬身を硬くする。 しかし、男からは殺気は感じられない。口元に微笑みこそないものの、穏やかな表情で男は自分を見ていた。 「何者だ…」 警戒を込めて問うクバードに、見知らぬ男…スレイダーはスッと右手を上げて見せた。 「よう、どうもな…。何者かって言われると、そうだな…ウィリアム・バーンハルト氏の友人って言う言い方がいいかね」 「…っ」 ガチャリ、と鎧を鳴らしてクバードが身体ごとスレイダーの方を見た。 やはり、敵か。 クバードの左目に怒りと敵意の炎が宿る。 「ちょっと待て…俺はやらんよ」 スレイダーが左の手も上げてから言う。 両手で押し留めるような仕草をする。 「こっちはただの見届け人でな」 「外から来た男よ…何を見届けるというのだ」 警戒は解かず…剣を握る左手に力を込めるクバード。 そんなクバードを見て、スレイダーは笑った。 嘲笑ではなく、それは寂しげな微笑だった。 「必死に生きた男の最期をさ」 は、と鼻で笑うとクバードはスレイダーから視線を逸らした。 もう用は無い、というように。 再び歩き出したクバードが、壁に寄りかかるスレイダーの前を通過する。 「…なあ、あんた馬鹿だな」 その背に、スレイダーが声を掛けた。 クバードの足が止まる。 「治らない友の病をどうにかしようと、自ら劇薬になる道を選んだのか」 懐から煙草のケースを取り出すと、スレイダーが1本咥えて火を着ける。 「……・」 無言のままにクバードはまた歩き出した。 スレイダーの吐いた紫煙の向こうに、その姿がゆっくりと遠のいて行く。 クバードが大扉を開く。 その向こうは奥の院へのロビーだ。 「…!!」 ロビーへ進んだクバードがその目を見開いた。 正面の大階段を上った先の踊り場に、目的の人物がいた。 数名の従者に支えられて、神皇ユーミルが立っていたのだ。 「ユーミル…」 クバードが1歩前へ出る。 途端に周囲に展開している兵達が緊張する。 無数の矢が、歩むクバードへと狙いを定める。 神皇を連れ出したのはスレイダーだ。将軍の指示だとたばかっての事であるが、周囲の護衛にして見れば皇宮を攻めた首謀者の前に自分達の王を差し出したのだ。 僅かな動きでも見逃さんと、クバードを凝視する。 「ユーミル…この国は…俺が貰うぞ…」 フラフラと進むクバードが、階段上の神皇へ向けて左手を伸ばした。 「…っ!!!」 遂に緊張に耐えられなくなった兵が1人、矢を放つ。 最早それをかわす事もできない…あるいはその気もないのか…クバードの背に矢は突き立った。 ぐらり、とクバードがよろめく。 「焼き尽くしてやるぞ…国も、民も全てだ…」 無数の矢がクバードに襲い掛かる。 その全身に鏃が埋め込まれていく。 「どうした…何か…言わんか…」 ごぼっと口から鮮血を吐き出しながら、クバードが階段の下まで辿り着いた。 そのクバードを見つめる神皇の瞳に感情の光は浮かばない。 ドシャッ、とクバードが階段へ倒れこんだ。 「これでも…まだ…」 ずるずると、這ってクバードが階段をゆっくりと上る。 「…何も…言わぬつもりか…ユーミル…」 神皇の脇を固める従者達が剣を構える。 遂にクバードは這ったまま階段の踊り場まで辿り着いた。 震える左手を、神皇の足へと伸ばす。 「ユー…ミ…」 「…フッ!!!!!」 ザン!!!と従者の振るった長剣がその左手を斬り飛ばした。 ドシュッ!!!と続いて次の従者がクバードを床に縫い止める様にその背を上から刺し貫く。 「…!!…!!!…」 クバードが目を見開いた。 その瞳は最早何も映してはいなかったが、それでもその瞬間にクバードは数多の光景を目蓋の裏に見ていた。 「………」 最期に何を口にするべきなのか…クバード自身にもわからず、 舌に乗った台詞は、怨嗟であったか、別れの挨拶であったか、或いは誰かの名であったのか…実際に言葉になる事は無かった。 まるで冠した名の如く、鮮烈に生きた裏切りの紅の将が息を引き取る。 「…クバー…ド…」 その亡骸に、神皇が小さな呟きを送った。 皇宮に展開されていた護法結界が解かれる。 戦いは終わった。皇宮へと攻め込んだ教団の兵達は、その首謀者を含めて残らず討ち取られた。 無論これで教団が壊滅するわけではないが、それでも今回の損失は教団にとっては大きな打撃となるはずだった。 負傷兵や後始末で深夜の皇宮が騒然となっている。 そんな中を、悠々と中庭を歩く真紅の髪の女が1人いた。 黒い外套に衣装の女…エウロペアである。 「…そこか」 周囲を見回していたエウロペアは、茂みの1つに目を留めるとその中に無造作に右手を突っ込んだ。 そしてガサッ!と何かを茂みから引き抜く。 その引き抜いた何かを、エウロペアが自らの視線の高さまで持ち上げた。 「…いいザマだな? 魔創師どの」 手にしたものはゴルゴダの生首だった。 髪の毛を掴まれてぶら下げられているゴルゴダの首は面白くなさそうな表情を浮かべている。 「ドジ踏んだぜ…そういじめるんじゃねえよ。デカい借り1つだ」 「フン…我らに貸し借りなど当てになるか。つまらぬ事を考えず、お前は今しばらくその無様な姿を私に晒した羞恥に打ち震えていればいい」 ははは、と笑って生首をぶら下げてエウロペアが歩き出す。 「お、おい…あんま振るんじゃねーよ!!」 その手の先でゴルゴダが悪態をついていた。 第6話 6← →第6話 8
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唸りを上げてガノッサの豪腕がシズマに襲い掛かる。 側頭部をわずかにかすめたその一撃はシズマの髪の毛を数本散らした。 「どうした? 逃げ回っているだけか?」 嘲る台詞にもガノッサの口元に笑みはない。 丸で機械の様に冷たい視線がシズマを捉えている。 シズマの頬を一筋汗が伝った。 (どうする・・・俺の剣では奴に傷を付ける事ができない・・・) かといってシズマには魔術の覚えは無い。 あの鋼鉄の防御力を突破してガノッサにダメージを与える方法に心当たりがないわけではなかったが、この状況ではそれも使えそうにない。 全身が鋼鉄化している事を別にしてもガノッサ・クリューガー中佐は恐るべき難敵だった。 攻撃は決して力任せではなく、精密にして高速。 そして自らの優位にも驕りがない。 なんだか謎のキノコ男の登場で周囲がわいわい騒がしいがシズマはそれどころではなかった。 ガノッサの猛攻を掻い潜りながら、シズマが何とか技を放つ為の隙を探す。 (・・・?) その時、ふとシズマの鼻腔を香ばしい香りがくすぐった。 「・・・何だか、美味しそうな匂いがするんだけど・・・」 マリスも周囲を見回して怪訝そうな顔をしている。 というか、周囲が煙たい。 黒煙が流れてきている。 「ぬう・・・この匂い、サンマか!!」 倒れているシイタケマンが叫んだ。 「!」 ガノッサがピクリと眉を挙げて動きを止めた。 サンマの匂いに手を止めた訳ではない。彼はそんな事を気にかけない。 手を止めたのは、ガノッサの鋭敏な感覚が遠くから迫り来るある気配を感じ取ったからだ。 無数の小さな気配が集まって、巨大な波となってこちらに迫って来ている。 既に小さな地響きの様な振動が足元に伝わってきていた。 「何だ・・・?」 ガノッサが眉間に皺を寄せて振り返ったその時、暗い路地の奥から「それ」は爆発的に溢れ出てきた。 噴き出すように溢れ出て周囲を埋め尽くしたのは、無数の小動物。 平たく言えば猫だった。 「なっ・・・何だあああ!!!!」 「猫・・・ねこが・・・ぎゃあああ!!!!」 にゃあにゃあと凄まじい鳴き声の大合唱の中に兵士達が埋まる。 「・・・チッ」 ガノッサも纏わり付いてくる無数の猫に舌打ちする。 様々な柄の様々な大きさの猫は周囲を埋め尽くして縦横無尽に走り回り、転がりまくっている。 背中で爪を研がれて絶叫を上げている兵士もいた。 「これは一体・・・」 あまりの光景にシズマも立ち尽くしていると、ふいに背後からその手首を誰かが掴んだ。 「今の内ですよ。さあ、こっちへ・・・」 それは聞いた事のない男の声だった。 シズマは一瞬身を固くしたが、ここに留まるより状況が悪化する事もなかろうと思い直し、素直にその手を引かれるままにその場を離脱した。 傍らにマリスと、そのマリスが手を引いたツカサがいるのを確認しながら。 シズマの手を引いた男は、まるでその混乱の中を道が見えているかのようにスムーズに前へ進む。 後姿に、栗色の長い髪の毛が見えた。 襟足のやや下あたりで青いリボンで結んである。 背の高い男だった。 混乱はいまだ収まってはいなかったが、ガノッサは標的に逃げられた事を悟った。 「バカどもめ! 何をしている!!」 大騒ぎしている兵達を叱責する。 猫まみれになりながらも兵達が必死で直立の姿勢を取る。 その傍らには爪あとまみれになって気絶しているシイタケマンだけが残されていた。 「猫に驚いて標的を取り逃がした等と、本国には報告できんわ・・・」 苦々しくガノッサが呟く。 「中佐殿・・・この菌類はどうしましょうか・・・」 恐る恐る兵の一人が倒れているシイタケマンを見てガノッサに告げる。 「おっと、そいつは勘弁してもらおうか。・・・私のクランケでな」 ガノッサがそれに返事を返すよりも早く、横合いから別の男の声がかかった。 全員が鋭く声のした方を見る。 通りの壁沿いに並べられた木製の樽の上に、男が座って兵達を見ていた。 顔に傷のあるサングラスの男だ。白衣を身に纏っている。 「何者だキサマ」 ガノッサが白衣の男を睨みつける。 「俺はスーパードクターBBQ・・・そう呼ばれている。本当の名前はいつだったかの遠い昔にどこだったかのヘンな所に置いてきた」 フン、と笑ってBBQはそう名乗るとコツコツと靴音を鳴らして倒れているシイタケマンの方へ歩いていく。 その途中、ガノッサとすれ違う。無防備に脇を通り過ぎようとするBBQにガノッサの瞳が冷たく輝いた。 「バカめ」 ブン!!!!とその脳天に拳が打ち下ろされる。 しかしその鋼鉄の拳は、BBQに届く前にピタリと停止した。 「・・・!!」 「俺のメスは・・・」 ガノッサの喉元にBBQのメスが突き付けられていた。 「オリハルコン製だ。お前の自慢の鋼鉄の肉体でもオペには困らんぞ」 ぬう、とガノッサが1歩後ろに下がった。 BBQはスチャッと丸で手品の様に手の中からメスを消すと、倒れたシイタケマンの足首を掴んで持ち上げる。 「まあ、後は勝手にやってくれ」 そう言い残してズルズルと足首を持ったシイタケマンを引きずってBBQは去っていった。 謎の男に連れられたシズマは、そのままある小さな家に案内された。 内部に入って気が付いたが、どうにもしばらく生活の気配の無い家だった。 「楽にしてくれていいですよ」 男が椅子を勧めてくれる。 どうも、と礼を言いつつシズマは改めて男を見た。 よれよれのワイシャツにジャケット姿。 顔の下半分は濃いヒゲに覆われていて、年齢はよくわからない。 全体的に何となく気だるげな雰囲気を漂わせた男だ。 シズマが椅子に腰掛ける。マリスとツカサもそれに倣ってそれぞれ椅子に座った。 「とか言ってみても・・・ここ私のお家じゃないんですけどね」 あはは、と男は頭を掻いた。 「え、ちょっとここおじさんの家じゃないの?」 うえ、とマリスが顔をしかめる。 「ええ。空き家なんですよここ。お散歩してたらたまたま見つけまして。そんなわけで明かりは勘弁してくださいね。不法侵入がバレちゃうんで・・・」 シーッと人差し指の口の前で立てる栗色の長髪の男。 「あなたは・・・何者なんだ? 何故我々を匿う?」 シズマが問うと、男は「おお」とポンと手を打ち合わせた。 「自己紹介が遅れてしまいました・・・私はシラノと言います。自由と美を愛するさすらいの元銀行員(バンカー)です」 照れ笑いを浮かべつつ、シラノが名乗る。 「元って・・・今は?」 マリスが尋ねる。 「今ですか・・・」 その問いに、シラノは斜め上、天井のあたりを見上げ少しの間黙り込んだ。 「今は・・・そう、自由人なのです・・・」 シズマとマリスがお互い顔を見合わせる。 (無職か) (無職ね) 目線だけで会話が成立する。 「で、その無しょ・・・自由人のシラノさんがどうして私たちを助けてくれるんですか?」 続けてマリスが問う。 するとシラノはやはり照れたように頭を掻いた。 「いやぁ・・・それなんですけどね。実ははっきりした理由があるわけじゃないんですよ」 そして自分も椅子に座ると3人の方にやや身を乗り出した。 「私ね、何日か前にこの街にフラフラやってきたんです。暖かいし人は皆優しいしいい街じゃないですか。すっかり気に入ってのんびりしてたんですよ。・・・そしたら、急に今日になって沢山兵隊さん来たじゃないですか」 やれやれ、と頭を振るシラノ。 「すっかり街の中ギスギスしちゃうし、もう何だかなーって思ってたんですよね。私ああいう、こう・・・何て言うんでしょうね。上から力で物事を進めようとする人たちってどうにも好きになれませんで・・・」 肩をすくめてシラノが嘆息する。 「そこでさっきの騒ぎに遭ったんです。私物陰からずっと見てました。何とか手助けできないかなーと思って・・・」 そこでシラノは床に置いてあった大きなカバンを取り出した。 初めて会った時から彼がずっと持っていたカバンだ。 中から七輪が出てくる。 「この、『猫寄せの七輪』を思い出したんですよ。不思議でしょう?これ。私の秘密の7つ道具の一つなんですよ。この七輪でサンマを焼くと広範囲の猫を呼び寄せる事ができるんです」 「何と面妖な・・・」 シズマが思わずまじまじと七輪を見る。 側面に汚い字で「ぬこLOVE」と書いてある・・・。 「まあ、とりあえずありがとうねシラノさん。助かったわ。私はマリス。よろしく!」 マリスが礼を言う。 シズマとツカサも礼を言ってそれぞれ名乗った。 そして自分達の状況を簡単に説明する。 「シラノでいいですよ。成程・・・軍はそちらのお嬢さんを・・・」 シラノがツカサを見た。ツカサがおずおずと視線を下に下げる。 「となると、正規のルート以外で街から出る方法を探さなくてはいけませんねー。港は軍が目を光らせているでしょうからね」 ふむふむ、と顎に手を当ててシラノが言う。 むう、とシズマが唸って考え込んだ。 勝手のわからぬ異国で困った状況になってしまった。 まして自分は大事な書簡を届けなければいけない身だというのにだ・・・。 「うーん、どうしたものかにゃ~」 マリスも腕を組んで首をかしげている。 「ごめんなさい・・・私のせいで」 申し訳なさそうにツカサが俯いた。 「気にするな。何度も言うがこちらが好きでやった事だ」 そう、その事を別にシズマは後悔はしていない。 そんなシズマの横顔を不思議そうにツカサが見つめる。 「そう、悲観したものでもありませんよ」 ふいにシラノがそう言って、一同は彼の顔を見た。 「どうやらまだお力になれる事がありそうですな」 ふっふっふ、とシラノは自慢げに胸を反らせて笑ったのだった。 第3話 4← →第3話 6
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