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シェフィールド・ユナイテッド 監督 監督名 選手 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 過去在籍選手 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年 ポジ 背番 選手名? 0000年0月0日 ○○年~○○年
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344 名前:マッカンドルー航宙記[] 投稿日:01/10/11(木) 02 22 はたらくママ SF要約選手権。 98 名前:マッカンドルー航宙記 (チャールズ・シェフィールド)[] 投稿日:01/12/05(水) 21 58 安心しろ。頭がよくて技術があって才能に優れている「だけ」の君でも、最後にはいい女がついてきてくれる。 第二回 SF要約選手権 425 名前:マッカンドルー航宙記[sage] 投稿日:2005/03/29(火) 18 05 20 いろんな発明するけど結局は毎回ピンチ 特別ふろく:発明品の作り方 【ネタバレ】名作を要約するスレ【上等】
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登場 【ミ】『そして誰も居なくなるか?』 シェフィールド・リンディオン ごく一般的な家庭で産まれたが、彼女が産まれてまもなく一家離散となり、 幼少期からオウガーストリートのスラムで育った女性。 ジャック・ザ・リッパーと呼ばれた殺人鬼の末裔で、ふとしたきっかけで先祖のことを知り、 さらに、彼が崇拝し付き従っていた『謎の男』の存在を知った。 彼の生き様に共感を持ち、自らもそういった「誰かに誠心誠意仕える存在」になることを強く望むようになり、 以後、自らが仕えるに値する主人を探している。スタンド能力は『ホリフィック・プロフェシー』。 元ネタ 名前 … シェフィールド = イギリスのナイフメーカー … リンディオン = 倫敦の「倫」を「リン」と読む 『ホリフィック・プロフェシー』 Deliverance of Horrific Prophecies 実体化した『銀のナイフ』のヴィジョン。 切り裂く『軌道』を自在に設定できる。 軌道上を動いている限り、運動エネルギーを損なうことなく飛び続けることができる。 ナイフを掴んだままの高速移動や、白兵戦も可能。 ナイフ自体は複数発現出来るが、軌道上に存在しない限り能力は発現できない。 破壊力:B スピード:B 射程距離:C 持続力:B 精密動作性:B 成長性:B その後 このNPCはキャラクター供与を行い、大筋の設定を引き継いだ形で、 今現在はプレイヤーキャラクターとして活躍している。今後の活動などはプレイヤーの項目を参考にされたし。
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キャラクターページ ページ名またはURL 性別 男性 誕生日 登録時年齢 種族 スペースノイド メインジョブ 宇宙海賊 サブジョブ 王子様 出身世界 スペースシップワールド 居住世界 スペースシップワールド イメージカラー 銀+赤 設定 元々はとある移民惑星に建国された王国の王子。 だが、「正妃の長男」という以外に取り柄がなく、自分より優秀だが側室の子である弟に後を継がせるべく、一芝居打って自分から追放された。 今は自由気ままな宇宙海賊。 姐さん女房のエヴァには頭が上がらない。 交友関係 妻:エヴァ・クリスタルパレス 第一印象は「何この微妙な女」。 だが、次第に良さがわかってきた。 今ではベタ惚れ。 最近の悩みは「子供は欲しいが、実家の王位継承争いに巻き込みたくない」。 連携タグ UC 獲得済みは★ アイテム 獲得済みは★ ノベル 宿敵 登場作品
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名前:シェフィールド・クライスト (Sheffield Kreist) 年齢:18(19?) 身長:178cm程度 体重:秘密事項 性別:女 性格:寡黙 ドライ 誕生日:15月36日 …これを考えた奴は実にユニーク。 血液型:O 長所:静寂 短所:無愛想 髪の毛の色、長さ、髪形:赤茶色 ショートカット 容姿の特徴・風貌:丸眼鏡orサングラス 趣味:旅行 フィールドワーク(主に夜間) 読書 好きなもの:コーヒー 酒 本 嫌いなもの:幽霊 煙草 犬 一言:月は出ているか? 備考・設定 療養するに当たって、邪魔になる長かった髪をバッサリと切った。 手入れの時間短縮にも繋がり、一石二鳥。 懐にはいつも北海道土産のピストルを忍ばせている。 思いつきで創設したフィールドワーク系サークル『学園特別探索隊』の団長。(名称の由来はペルソナ4から) 先祖代々の波紋使い。(元ネタはジョジョの奇妙な冒険) 最近見た映画に影響されて、ガン=カタを習い始めた。(元ネタはソウルイーター?) カラオケでの様子
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……とうとう私の出番が来てしまった。 仕方ない、清水の舞台から飛び降りる覚悟でかかる。 (ステージ上に駆け上がるやいなや、ギターの流麗なイントロが奏ではじめられる) …AKINOで――“創聖のアクエリオン”。 ――世界の始まりの日 いのちの樹の下で 鯨たちの声の遠い残響 二人で聞いた―― (マイクで増幅される、メゾソプラノの、透き通っているが抑揚のない歌声) (…なんと、珍しく気分が高揚したのか突然上着を脱ぎ払った) 一万年と二千年前から愛してる 八千年過ぎた頃からもっと恋しくなった 一億と二千年たっても愛してる 君を知ったその日から僕の地獄に音楽は絶えない―――― (歌い終わるとおもいっきり深呼吸……) 二曲目……こちらが本命。 「松原みき」で、“THE WINNER”。 (ギターとキーボードの前奏が流れ始める) ――眠りのない夜を 数えきれず過ごした 傷ついた痛みが ただ一つの思い出 I don t want 優しさはいらない I don t want もう二度とは―― (いつものシェフィールド卿とは打って変わって熱っぽい歌声) (――大人の事情で歌詞は中略――) ――I got a burnin love 胸を貫くスリルを ただ追いかけて走り続ける 今日も I got a burnin heart 愛は虚しい戦い 何故 心まで奪い尽くすのか―――― (歌い終わると、照明の色調が暖色から寒色へと変化する) 「未」成年の主張…………。(フッ (何かがキレた音) 「多弁で悪いかよォーーーーッ!!!無口キャラがなァーーーッ!!」 (地獄から響いてくるような凄まじい絶叫、空気を戦慄させるシャウト) 次はパーソナルネーム・桐生拓登! 君に決めたァーーーッ!! 【Next⇒桐生拓登】
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教導中隊訓練生。男性。17歳。騎士の家の出身? ハイネ公爵の働きかけで入隊。 修道院に長く居て、そこから出るために強くなろうと決意したらしい。 強くなる目安は彼が訓練に使っている剣が自由に振れるようになるまでらしい。 剣を握るものとは思えないほど華奢な手を持つ。(←これがエルマー女性説(一部)の出所(笑)) 入隊式の自己紹介の言葉は「強くなりたくて、ボクはここに来た」 早朝に剣の素振りをしている。
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前ページ愛しのシェフィ 暗い……。 寒い石室の中。 ご主人様は、もう起きてくださらない。 もう、話しかけてくださらない。 私の頭を撫でてくださらない。 かなしい。 とても、寂しい。 涙ばかり出てくる。 でも、私のために泣いてくれる人はいない。 誰も、いない。 ひとりは、キライ。 ひとりは、キライ。 きらきらとした光の中に引っ張りこまれたら、不思議な人がいた。 見たこともない服。 青い髪、青い瞳。 不思議な顔だちをした人だった。 でも、どうしてだろ? 私と、似てると思った。 そのかたは、新しいご主人様。 でも、<ご主人様>と呼ぶと嫌がるから、名前で呼ぶ。 ジョゼフ様。 色んなことを知ってて、優しい。 でも寂しそうな人。 だけど、私と一緒だと嬉しそうにしてくれる。 それがすごく嬉しい。 綺麗なお花。 胸の焼印。 私とジョゼフ様をつなぐ絆。 夢の中。 誰かが泣いている? 泣いているのは、昔の私? そうじゃなかった。 泣いているのは、小さな子供。 青い髪、青い瞳。 ジョゼフ様とそっくり。 その子供は、泣いてばかりいる。 魔法が使えないって、泣いている。 背丈も年も違うのに、何故だかジョゼフ様と同じに見えた。 だから、ぎゅっと抱きしめる。 そしたら、子供は笑ってくれた。 ジョゼフ様とそっくりの顔で。 嬉しいな。 ジョゼフ様……。 好き。 大好き。 しあわせ……。 ○ あの夜から、シェフィールドはほとんど眠ったままだった。 何日も高い熱が続き、肉体がどんどん衰弱していく。 何ともひどい状態であった。 その病は、現代でいえばさしずめ流感――インフルエンザであろうか……。 ヴェルサルテイルには腕の良い水メイジは何人もいる。 それらの尻を叩くようにして診察させたが、いずれも難しい顔をするばかりだった。 「はっきり申し上げて、かなり危険な状態です。もしも、家族がいるのなら連絡してやったほうがいいかもしれません」 このようなことまで言う始末である。 当初患者が平民であるから、まともに診る気がないのかと思ったが、そうではないようだった。 「そんなにひどい病なのか……?」 ジョゼフはそれこそ、病人のように顔を真っ青にしてたずねた。 「水魔法で治すとか、治せるとかいう以前に、患者の肉体が病に負けそうなのです。そうなれば、我々の魔法では……」 「どういうことだ!? 彼女はそんなにも体が弱かったのか!?」 ジョゼフは目の前が真っ暗になりそうだった。 信じられなかった、というより信じたくなかった。 そうだとすれば、それに気づいてやれず、ご主人様などと呼ばれて悦に浸っていた自分はなんと馬鹿者なのか。 「治す方法は、方法はないのか!?」 ジョゼフは医師につかみかかるようして叫ぶ。 「体力のあるなし、ではないのです。何と言えばいいのか、彼女の体の中に、病に抗う力が著しく低いのですよ」 「……」 ジョゼフは、医師の言うことが理解できたのか、手を離した。 現代医学で言えば、さしずめ免疫応答が異常に低い、とでもいっただろう。 例えばニューギニアの奥地などで、旅行者が持ちこんだ流感が原因で多くの死者が出ることがある。 ウィルスへの免疫がないために、である。 シェフィールドの場合も、まさにそれであった。 この場合は、彼女のほうが来訪者であるため、ハルケギニアという土地の、風土病にやられたとすべきであろうか。 「……できるだけ、彼女についていてあげたほうがよろしいでしょう」 医師はそう言って、離れていく。 ジョゼフはへたりこみたくなるような気持ちを無理やりに抑えこみ、シェフィールドのもとへ向かった。 途中で、幾度も足がもつれて転びそうになった。 ベッドの上で、シェフィールドは苦しそうな息をしながら眠っていた。 ジョゼフは、臓腑がえぐられるように苦しかった。 (何故だ。どうして……どうして、シェフィが……!!) 神でもいい、運命にでもいい。 あらん限り呪いの言葉を吐きつけてやりたかった。 ベッドの脇に椅子に座りこみ、ジョゼフは祈るような格好でうつむいていた。 もしも、願いがかなうのなら。 古い流行り歌の文句ではないが、これほどまでそれを想ったことはない。 できることなら、代わってやりたかった。 「死ぬな、シェフィ……。俺たちは、まだ、まだこれからじゃないか……」 涙が止まらなかった。 食いしばった歯の隙間から、うめき声が漏れていく。 苦痛であった。 涙など、どれだけ流したかわからない。 魔法が使えぬ無能者、暗愚の王子。 そんな言葉を受けた後、何度泣いたか数え切れない。 しかし、今の苦しみに比べれば。そんなものが一体どれほどのものか。 心から愛する者が死にかけているのに、何もできない。 このまま魂は天に、肉体は土に還っていくのを見守っているしかないのか。 (いやだ、そんなのはいやだ……) もしも、自分の命と引き換えにシェフィールドが救えるのなら、今すぐにでも死んでもいい。 やれというなら、自分の心臓を抉り出してくれてやる。 しかし、どれほど強く願ってみても、それは意味をなさぬ。 「……ん」 かすかに、シェフィールドが声をあげたようだった。 顔を上げると、シェフィールドがその手を宙に向かってあげている。 その様子は、弱々しくも、必死で、何かを捜し求めるかのようであった。 ジョゼフはギュッと、その手を握ってやる。 すると、シェフィールドがゆっくりと眼を開けた。 「ご主人様は――元気ないですか?」 少女の優しさをたたえた黒い瞳でジョゼフを見た。 シェフィールドはとても小さな声で、けれど柔らかい微笑を浮かべて言った。 本当ならば、このわずかな言葉を話すことすら苦しいであろうに。 「ああ」 ジョゼフは泣きそうな顔の上、無理やり笑みを浮かべた。 「シェフィが、病気だからな……」 それ以上は何も言うことができなかった。 何か口にすれば、そのまま号泣してしまうかもしれない。 シェフィールドは微笑んだまま、ジョゼフの顔に触れた。 まるで何かを、ゆっくりと確認でもしているようだった。 「シェフィ、すまない。俺のせいだ。ごめんな……」 ジョゼフは詫びることしかできなかった。 もっと彼女のことを気遣ってやるべきであったのだ。 こんなことは、よく考えてみればわかりそうなものである。 シェフィールドは、遠い遠い土地の人間なのだ。 何かのきっかけで病にかかってしまうことは十分にありえた。 このハルケギニアの中でさえ、旅先で水や食べ物があわず体を壊すなどざらではないか。 「……泣いている」 「え?」 シェフィールドの言うとおり、抑えていたはずの涙がジョゼフの瞳から溢れ出していた。 とどめなく流れる涙が、少女の指先を濡らしていった。 「嬉しいな」 本当に嬉しそうに、シェフィールドは笑った。 「なんだよ」 ジョゼフは拗ねたような声をあげた。 自分の命が危ないのに、何故そんな風に笑えるのだ。 「……だって、あの時は誰も泣いてくれなかったから。生きてた時も、ひとりだったから」 そう、シェフィールドは言った。 この少女は、どれだけの間、その華奢な体でどれだけの孤独や悲しみに耐えてきたのだろうか。 「もういい。しゃべればしゃべるだけ、体力を削る。今は……」 シェフィールドが何か言いかけるのを、ジョゼフは止めた。 どうしても、まともな言葉になりそうになかった。 「シェフィ、シェフィ……」 ジョゼフは何度も少女の名前を呼び、涙を流した。 シェフィールドは何も言わずに、ジョゼフの手を握り返す。 散り行く前の花のような美しさだった。 今にも消え失せてしまいそう弱々しさであった。 「頼む。シェフィ……俺のものなんかでなくっていいんだ。俺の全て、何かも全部お前にやる……」 小さな手にすがりつくように、ジョゼフは泣きむせぶ。 「だから、俺を一人にしないでくれ……」 シェフィールドは微笑んだまま、やはり泣いていた。 そして、泣いたまま瞳を閉じた。 それとほぼ同時、であったろうか。 急に瞳がチカチカとするのを感じ、ジョゼフは顔を上げた。 すると、どうであろう。 シェフィールドの胸元のあたりがうっすらと光っているのだ。 (なんだ……?) シェフィールドの胸。 (あれは、確か……) 覚えが、あった。 あって当たり前である。 コントラクト・サーヴァントをした時、使い魔のルーンが刻まれた場所は、彼女の胸であった。 その奇妙な光は、まるでジョゼフに何かを語りかけているようであった。 導かれるように、ジョゼフはシェフィールドの胸に触れた。 その瞬間である。 ゴオッと、ものすごい風の音にも似た轟音が響いたような気がした。 驚いて片手で頭を押さえるが、耳鳴りのようなものがキンキンと頭というよりも体中に響くのである。 思わずジョゼフは両膝を床についてしまった。 その時、ジョゼフの記憶の中から、二つの情報が無理やりに掘り出された。 ――土のルビー ――始祖の香炉 この二つである。 それはどちらも、始祖の時代から伝わるとされるガリア王家の秘宝であった。 (何故こんな時に、こんなものが……) 今はシェフィールドが大変なことになっているというのに、こんなわけのわからないことを……。 そう思うのだが、その情報はしつこくジョゼフで喰らいついて離れない。 無理に引き剥がそうとすればするほど、それはへばりつき、ジョゼフの心を刺激し続けるのだ。 (くそっ、何がどうなってる!?) ついには狂人のようになって頭を掻き毟りそうになった時である。 さらに二つの情報が、流れこんできた。 そのうちの一つはジョゼフの今まで、まったく知りえなかったものであった。 虚無の魔法。 そして、 活性。 (バカな……? 虚無だと?) 活性。まるで聞いたことのない魔法である。 傷や病を治癒するための水魔法は存在するが、それらも即効の効果があるものはそう多くはない。 大体において、水の秘薬とセットでなければその効果を十分に発揮しえないものばかり。 そもそも、そのように想定されて構築された魔法なのである。 しかし、突如送りこまれてきた情報によると。 <活性>、それはこの世界における万物の根源をなす力、その中でもプラスの属性を持つ『陽』の力を用いるもの。 (こんなこと、俺は知らない……。ついに、頭がどうかなかったのか……?) 苦悩のあまり、妄想に頭を侵されてしまったのだろうか。 ジョゼフは何度も首を振った。 シェフィールドを見ると、いつの間にかまた眠ってしまったようだ。 (シェフィ……) 普通に考えれば、こんなものを単なる妄想であろう。 だが、今のジョゼフはこの奇妙な現象を信じてみたくなった。 神の啓示か妄想か、それはわからぬ。 けれども、もしもこれが何か大いなるものの啓示であるのなら、 (俺はそれに賭けてみたい……) 刻まれたルーンから発せられた光。 それを信じてみたかったのだ。 ジョゼフはそっとシェフィールドに口づけをして、大きな音を出さないように部屋を辞する。 もはや、青年の眼には何も目に映らなかった。 途中で出会った顔見知りの貴族も、弟のシャルルも、完全に無視してジョゼフは進む。 目指すのは、父の執務室であった。 「ジョゼフ、何事だ。ノックもせずに……」 いきなり入ってきた息子を、ガリア王は驚いて咎めたが、ジョゼフの耳に入らない。 「おい、これ!」 王は息子を止めようと肩をつかみかけるが、ジョゼフは父の手を邪険に振り払い、机を引っ掻き回し始めた。 それから、あるものを引っ張り出すと、手早く自分の指にはめる。 茶色の宝石が輝く指輪、土のルビーと呼ばれる宝物である。 「父上、少しの間お借りします。間違っても城外に持ち出すつもりなどございませんので、どうぞお許しのほどを……」 ジョゼフの奇矯な行動に、城の人間は騒いでいるが、それらは雑音にもならぬ。 土のルビーをはめたジョゼフは、次に城の宝物庫へと急いだ。 厳重に封じられた倉庫を開け放ち、値段すらつけられない宝を乱暴にかきわけて、古びた香炉を取り出した。 始祖の香炉である。 ジョゼフは香炉を両手でつかみ、じっと見続けた。 知りえぬはずの情報によれば、これこそ偉大なる始祖の力が、虚無の呪文が封じられたもの。 これを使い、呪文を得ることができるのなら、ジョゼフは伝説の<虚無>の担い手ということなのか。 しかし、ジョゼフにとってそれが是であるか非であるかは、意味を持たない。 今望むのは、ただ心から愛する女を救いたい。 それのみなのである。 伝説や始祖のことなど、本質的にはどうでもいいことだった。 シェフィールドの命を助けることができれば、それでいいのだ。 始祖であろうが、あのエルフたちであろうが、関係の話だった。 (一度きりでいい、メイジでなくなってもいい) ジョゼフはギュッと香炉を握り締める。 いや、もとからメイジなんかじゃなかった。 魔法の使えないメイジなど、メイジではないのだ。 しかし、もしもできるのなら……。 この先魔法など永遠に使えなくてもいい。 自分の命など、いらない。 魂が望みなら持っていけ。 血肉が欲しいのなら、血の一滴、肉のひとかけらまでくれてやる。 (名誉も、栄光も、何もいらん……。だから、俺に魔法を使わせてくれ。シェフィの命を救える魔法を!!) ジョゼフがシェフィールドの部屋に戻った時、数人の医師メイジが集まっていた。 みんな杖や秘薬の入った薬壜を手にしている。 シェフィールドは、途切れ途切れの息をしているだけだった。 素人目にも、かなり危険な状態であることがわかった。 「ジョゼフ様、お気の毒ですが、おそらく今夜が……」 「少し、どいててくれ」 ジョゼフは医師たちの言葉を最後まで聞かず、シェフィールドのベッドまで歩み寄った。 (うまく、いってくれ) そうつぶやきながら、ジョゼフはシェフィールドに杖を向けた。 「な、何をなさるつもりです!?」 医師たちは目を丸くした。 ジョゼフが魔法を使えないことは、彼らもよく知っている。 失敗魔法が、どんな結果を生み出すのかも。 気の弱い者たちは、あわてて部屋から逃げ出していく。 誰もが、失敗魔法によって引き起こされる爆発で吹っ飛ばされる少女の姿を思い浮かべたに違いない。 しかし、ジョゼフはかまわず、呪文を詠唱しだした。 部屋を出なかった医師たちも、その異様な気迫に、身動きを取れなくなっていた。 長い呪文を唱え終わると、ジョゼフはすっと杖を振った。 すると、杖の先に小さな光が灯った。 その蛍のような光は、無数に数を増やしていき、シェフィールドの体を包みこんでいく。 「こ、これは、何事……」 医師たちは息を呑んで状況を見守っていた。 小さな光は、まるで生き物のように次々とシェフィールドの中へと飛びこんでいった。 そして、光が吸いこまれていく度に、シェフィールドの呼吸が穏やかになっていくのだ。 全ての光がシェフィールドの中を消えた時、部屋の中はしんと静まり返っているだけだった。 ただ、シェフィールドの顔に精気が蘇っていること、ジョゼフがぐったりと床にへたりこんでいることを除いては。 「おい」 顔を伏せたまま、ジョゼフは医師たちに言った。 「このことは、他言無用だぞ」 疲労に満ちた声であるのに、そこには先ほど以上の、凄まじい迫力があった。 医師たちにできたのは、ただ首を縦に振ることだけだった。 その翌日、シェフィールドは昨日までの病状が嘘のように持ち直した。 まだ体は本調子というわけにはいかないが、少なくとも生きるの、死ぬのということはなくなったのだ。 「もう、平気ですよ」 シェフィールドはそう言って起きようとしたが、 「病気は治りかけの時が一番肝心なんだ。おとなしく寝ていろ!」 ジョゼフは普段は、少なくともシェフィールドに対してはまず出さないようなきつい声で言った。 それは、必死さの表れでもあった。 主人にそう言いつけられては、メイドのシェフィールドとしては命令を聞くしかない。 ただもう、ベッドの中で安静にしているしかなかった。 そんなシェフィールドに、ジョゼフはそばであれこれと世話を焼いていた。 こういったことは、常識的にはまず考えられないことだった。 一般的に考えて、主人がメイドに、それも一国の王子がやるようなことはではない。 けれど、世間の常識とか、他人の視線などというものは、ジョゼフにとってはどうでもいいことだった。 シェフィールドもやはり嬉しいのか、子供のような顔でジョゼフのことを見つめていた。 その顔から、笑顔が消えることはなかった。 「なあ、シェフィ」 果物の皮をナイフで器用にむきながら、ジョゼフは言った。 「はい♪」 「前にも話したが、将来の夢とか、そんなものはないのか? 例えば、したいこととかな」 生きている間のな、とジョゼフは念を押す。 「んーーーとですね……」 シェフィールドは天井を見上げながら、真剣な顔で考えこむ。 じょりじょり、とナイフの音が響く。 それから、ちょっとはにかんだ。 「私、ジョゼフ様のお側にいて、二人で美味しいもの食べて、ずっと一緒にいられたら、それ以上の夢なんて思いつきません」 その答えに、ジョゼフはピタリと手を止める。 「それじゃ、駄目ですか」 シェフィールドはジョゼフを見上げて尋ねた。 「ダメじゃあないが……」 ジョゼフは赤面しながら、誤魔化すように皮むきを再開させる。 「よかった」 シェフィールドはほっとした顔で笑う。 「もっといいこと思いついたら、また言いますね」 「あ、ああ」 ジョゼフは苦笑した。 (やっぱり、かなわないな……) 自分とシェフィールドでは、器が違うようだ。 しかし、それが奇妙に心地良いような気もする。 それは凡庸だけれど、とても大切なものなのだろう。 ひどく、晴れ晴れとした気分であった。 暗く冷たい、牢獄からようやく解放されたような気持ちであった。 外では、花壇の花が緩やかに揺れていた。 シェフィールドの体調が回復すると、ジョゼフはかねてからの予定通り、ヴェルサルテイルを出ていった。 ほんのわずかの従者と、シェフィールドだけを連れて。 見送る者はほとんどいない、ひっそりとしたものであった。 「兄さん……」 シャルルは、ひどく情けない顔で兄の出発に立ち会っていた。 その顔は、国中はおろか、近隣諸国からも賞賛される麒麟児とはとても思えなかった。 「ひどいツラだな。出発の門出だぜ? もっといい顔をしてくれたっていいじゃないのか?」 弟の顔に、ジョゼフは思わず苦笑した。 「兄さん、ごめんよ、でも、ぼくは……」 シャルルはうつむきながら、そう告げる。 「何を言ってるのかわからんが、気にするな。俺は気にしない」 「……うん」 「じゃあ、達者でな」 弟の肩を軽く叩いて、ジョゼフは馬車に乗りこんでいった。 馬車の中に、先に乗っていたシェフィールドの顔が見えた。 後ろめたさから、シャルルはつい顔を背けてしまう。 「いい王様になれよ」 場所から顔を出して、ジョゼフはそう笑いかけた。 「兄さん」 どんどん離れていく馬車を見つめながら、シャルルはまたつぶやいていた。 何故か、もう二度と兄とは会えないような気がした。 馬車がすっかりと見えなくなった後も、シャルルは立ち尽くしたままだった。 周りの人間が、何か話しかけても、ただそのままだった。 ぽつねんと、迷子の子供のように立っていた。 「これよ」 ようやくシャルルが顔を上げたのは、父王に声をかけられた時であった。 「こんなところでいつまでぼけっとしている?」 「父上……」 「次の王になる男が、何という顔をしている」 「……」 「そろそろ、お前にも縁談の話がきておる。ははは、それも山というほどな。花嫁選びは大変だの」 父の言葉にも、シャルルの表情は虚ろなままだった。 「父上、兄さんは……」 「いい加減にしておけ。いつまでも兄にへばりついてどうするか」 「はい……」 「ジョゼフも、自分の伴侶を見つけたのだ。お前も、見つけねばな」 「彼女は、平民ですよ」 「今さら、何をぬかすか」 王は笑った。 「そんなことだから、愛想を尽かされるのだ。わしとて、言えた義理ではないがのう」 そう言って、王は空を見上げる。 「お前はどちらかというと、母親似だと思っていたが、変なところも似たものよな」 「母上に……?」 「あれは、昨日もジョゼフのことについて、ぶつぶつ言っておったよ。よほど気に入らんのだろうな」 「どうして、母上は……」 「別に、あれと離れるのが寂しいわけではない。ただ、出来の悪いバカ息子が女と一緒にどこかへ行くのが気にいらんのだ」 シャルルは黙ってしまった。 意味が、わからない。 「理屈ではないよ。人というのは、そういうわけのわからんところがあるものさ。ことに、女はな? お前も気をつけろ」 「……わかりません」 「ま、いいわい」 王は笑い、馬車の向かった方向へと眼を向ける。 「あの娘には、感謝せねばならんな。もしも、もしもあの娘がおらなんだら、この国は将来どうなっておったことか……」 感慨深げにつぶやく父の横顔を、シャルルはまだ納得いかぬという顔で見つめていた。 それから、一年もたたぬうちに、僻地で半ば隠棲していたジョゼフはシェフィールドと共に姿を消した。 シャルルは人手も金も使って必死に捜索したが、ついに見つけることはできなかった。 ジョゼフが消えた後、住まいと使っていた屋敷の部屋に、 「後は高見の見物」 そう記された紙片だけが残されていた。 誘拐説や暗殺説も流れたが、真実は闇の中である。 ただ、人々は、ジョゼフ王子は平民のメイドと駆け落ちしたのだと、噂しあった。 それから、年月は流れ。 舞台は変わり、トリステインにて。 「これは師匠じゃあないですかい!」 「なんだ、マルトーか」 ミッシェルが久方ぶりに弟子と会ったのは、トリステインの城下町の往来であった。 故郷であるガリアを離れ、アルビオンにいったり、ゲルマニアにいったりと諸国を転々としていたが……。 結局ミッシェルが腰を落ちつけたのは、ガリアにも負けぬ古い歴史を持つこの小国である。 マルトーは、この国に来て最初にとった弟子であった。 すでに年相応の貫禄を身につけたマルトーは、今では魔法学院でコック長として大成していると聞く。 「どうだ、調子は」 「相変わらずですよ。どうですか、そのへんで」 マルトーは酒を飲む仕草をしてみせた。 「ま、いいだろう」 二人は近くの酒屋で昔話に花を咲かせたが、そのうちに話は自らの近況などに移る。 ことにマルトーは、魔法学院での愚痴をこぼした。 貴族やメイジが好きではない、むしろ嫌いな男なので、不満はいくつもあるのだろう。 「それにしても、それだけ嫌いな連中の下でよく包丁が振るえるな」 あんまりしつこいので、ミッシェルがちょっとからかうように言ってやると、 「そりゃあねえ」 マルトーは悪戯を咎められた子供のように頭を掻いた。 「給金がいいってのもあるが、やっぱり学院長のお人柄にね……」 「オールド・オスマンか、なかなかに面白い人らしいな」 「普段はとぼけてなさるが、あれでね。人傑のお人ですよ」 「ふふふ」 マルトーが貴族を褒めるのは珍しい。 「面白いといったらね、また面白い人と知り合いましたよ」 「やっぱりメイジかい?」 「ええ、何でもタルブとかいう村で、お医者代わりとして暮らしてるそうですが……」 「タルブか。いい葡萄ができるところらしいな」 「そう、そこですよ。いや、生き字引とはああいう人を言うんでしょうね。怖いくらいに学がある」 「それで、どう面白いんだ?」 「うまくは、言えないんですが……。他のメイジと違って気取ってないのがいいですよ」 「ほほう」 「メイジってのは、貴族にしろ流れ者にしろ、俺たち平民を見下してやがるのばかりですからね」 マルトーはそう言って杯を呷る。 「ま、ご本人は、能無で本の虫だったから色々憶えたと、ご謙遜なさってるが……ありゃ、ただものじゃありませんよ」 「ただもんじゃない?」 「もしかすると、どこかの王族の、ご落胤かもしれませんね。顔つきも男前の上、隠しきれない品がある」 「ふふふ……」 おかしな笑いかたをする師匠に、マルトーは不思議そうな顔をした。 「なんです、師匠」 「いや、俺の生まれ故郷にな、昔、平民のメイドと駆け落ちした王子様がいたのを思い出してな……」 「へえ。そんな人がいたんですか?」 マルトーは信じられないという顔をした。 「まさか、その面白い人というのは、名前をジョゼフというじゃないよな?」 「いや、ジョルジュというそうですよ。家名は、ラトゥールというんで」 「やっぱり、別人か……」 ミッシェルは苦笑した。 あのジョゼフ王子がどうなったのか、ミッシェルの知るところではない。 けれども、このハルケギニアのどこかで、あの黒髪のメイドと暮らしているのは間違いないだろう。 多分自分の顔などおぼえてはいないだろうが、また、あの男に会って見たい気がした。 その頃、トリステイン魔法学院では、メイドの少女が、おかしな服を着た少年と話していた。 少女の名前は、シエスタという。 使い魔として召喚されてしまったこの少年は、その態度の悪さもあってか、<ご主人様>の不興を買ってばかりらしい。 「ところで、それがサイトさんのルーンなんですね?」 話の中、少女は少年の左手に刻まれたルーンに目を落とす。 「ああ……勝手にこんなのつけられて、冗談じゃねえよ」 少年はぶつくさ不満をこぼしているが、 (あら…?) 少女はそのルーンに、妙な既視感をおぼえていた。 どこかで、同じようなものを見た記憶がある。 (あ、そうだ……。ミスタ・ラトゥールの奥さん……) シエスタはその人と、サウナ風呂で一緒になったことが何度もある。 サウナ風呂は村の共同のものなのだから、別におかしくもないのだが。 東方の生まれだというその女性は、少女と同じ黒髪と黒い瞳をしていた。 その時に見た夫人の乳房には、これと同じようなものが確かにあった。 まだ小さかったシエスタが、これはなぁに、と尋ねたところ、夫人はニッコリとして、 「私と、旦那様を結ぶ絆」 そう答えた。 ラトゥール夫人は、今もタルブの村に家族と一緒に住んでいる。 夫と、上から三人の娘に、末の男の子。 偶然だろうが、男の子の名前はルイといい、目の前にいる少年の主人が男であれば同じ名前になる。 少女は、自分の幼馴染でもある、夫人の娘たちのことを思い出した。 広いおでこがチャームポイントの、勝気なイザベラ。 母親そっくりなのんき者のジョゼフィーヌ。 歌がとってもうまいけど、ちょっと堅物ポーリーヌ。 そして最後に、まだ子供だけれど、ものすごく頭が良くって勉強好きのルイ。 今度まとまった休暇がもらえたら、一度村に帰りたい。 (できれば、サイトさんも、連れて行きたいな……) そうシエスタは思ったけれど、あの美人姉妹をサイトに会わせると思うと、ちょっと不安だった。 前ページ愛しのシェフィ
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前ページ次ページ愛しのシェフィ 三日が、過ぎた。 ジョゼフは自分の部屋で、ぼんやりとしたままだった。 ヴェルサルテイルを離れる準備はほとんどできており、落ち着く先も決めた。 いよいよ明日は、予定通り出発する日なのである。 後悔など、片もない。 だが、長い間住み慣れた場所を離れるというのは、どうして寂しさの残るものだった。 良い思い出はほとんどなかったけれど、それでも、やはりここはジョゼフにとっては生家であり、故郷なのだ。 (本当なら、いるべきではなかったのかもしれんがな……) ジョゼフは自重して、手のひらを見つめてみた。 剣術などで使い込まれ、いくつもの胼胝ができている。 今日まで、そして、おそらくこの先も、魔法というものをつかむことのできない手だった。 ただひとつの例外をのぞいては。 握り拳を作ると、三日前のことが思い出された。 弟の顔を殴りつけた感触が、まざまざと甦ってきた。 手の甲に、ずきりと痛みが走ったようだった。 その痛みは、肉体の表面ではなく、奥底のほうから感じられた。 信じられないという顔で、自分を見上げる弟の顔が浮かんで、消える。 たまらないものが、ジョゼフの顔を痛苦で歪ませた。 弟への暴行は両親に、ことに母親からヒステリックな叱責を受けたが、今となってはどんなことを言われたのか覚えていない。 弟を殴ったのは、あれが初めてだった。 幼い頃は何度も喧嘩をしたことはあったが、手を上げたことなど一度たりともなかった。 無邪気な子供時代が過ぎ去る頃には、喧嘩らしい喧嘩さえしなくなった。 喧嘩をしたって、結果は見えている。 ガリアの誇る麒麟児であるシャルルと、無能王子のジョゼフの差はどうしようなく開いていたからだ。 (俺と、あいつは……本当に仲が良かったのだろうか) 幼い頃はまだしも、それ以降の二人の関係はどうだったのだろう。 今となっては、ひどく嘘臭くも思えてくるのだ。 生の感情のぶつかり合いというものが、あったのか。 (けれど、思いこみなら、思いこみで、良かったのにな……) 何か、小さい頃から大事にしていた宝物を、自分から投げ捨ててしまったような気がする。 (しかし、シャルルよ……お前が悪いんだ。お前が……) 自分のもっとも大事なものに、唾を吐きかけるような真似をするから……。 だからこそ、弟を殴ったのだ。 ある意味では、この世のもっとも愛していた弟を。 しかし、今から思えば、ジョゼフはシャルルを愛すると同時に憎んでいたのかもしれない。 愛と憎しみは表裏一体である。 この言葉は、誰のものだっただろうか。 それが全てに当てはまるかはわからないが、あるいは今の自分にも通じるものがあるのだろうか。 「ジョゼフ様」 後ろで、シェフィールドの声がした。 心配そうな顔をした少女が、ジョゼフを見ている。 彼女の、そんな顔は見たくはなかった。 シェフィールドには、いつも朗らかに笑っていてほしい。 「心配いらない」 ジョゼフは笑い、握った拳を開いた。 「シャルルのやつも大したことないそうで、父上も大目に見てくれるとさ。母上は、まあ、怒りぱなしだったがな」 「あの、そうではなくて……」 「どうした? 何かあったのか?」 シェフィールドの何か言いたそうな顔に、ジョゼフは不安になった。 ジョゼフの専属であることや、その生まれもあって、シェフィールドはあまり他のメイドと折り合いが良くない。 もしかすると、ジョゼフとシャルルの問題で、とばっちりを受けたのかもしれぬ。 シャルルを神輿にしている連中はヴェルサルテイルどころか、ガリアのあちこちにいる。 それに、シャルルは平民たちからも人気は高い。 社交界の令嬢や貴婦人たちのみならず、城のメイドたちからも<白面の貴公子>として大人気なのだ。 自分たちの愛するシャルルを殴りつけた無能な愚兄。 その愛人と見なされている蛮族のメイドという立場は、この状況では決して安全なものではない。 むしろ、相当に悪いと言い切れる。 考え違いをした連中が、ジョゼフが駄目ならとシェフィールドに意趣返しをしないとも限らない。 「いえ、私のことではなくて……」 そう言って、シェフィールドはジョゼフを見つめてくる。 悲しみと、戸惑いを交えた視線が送られてきた。 一瞬だけれど、ジョゼフは心の底まで見透かされるような錯覚を覚えた。 だが、それは決して不快なものではない。 むしろ春の日差しのように柔らかく暖かで、安心を感じさせる。 「嫌なものだな」 ジョゼフは、自分がひどく情けない顔をしているのを自覚しながら、また笑った。 「肉親を殴るというのは……」 きっと、見られたようなものではないに違いない。 しかし先ほどかぶろうとしていた、やせ我慢の仮面がとっくに砕けてしまっている。 「…………」 シェフィールドは何も言わず、自分の両手でジョゼフの手を覆った。 じんじんと痛む拳が、柔らかな温度に包まれていく。 痛みが和らぎ、消えていくような気がした。 「ありがとうな、シェフィ」 「あっ」 ジョゼフが笑うと、シェフィールドはその黒い瞳を思い切り見開いた。 「やっと、笑ってくれましたね」 シェフィールドの表情が、ぱあっと明るくなった。 気のせいか、部屋中が明るく照らされたような気がした。 「ここしばらく、ずっと笑ってくれなかったから……」 「そうかな、笑ってなかったか? そんなことはないと思うけどなあ……」 ジョゼフはひどく照れくさくなり、少し口調を速めて言った。 「さっきだって、笑っいてただろう?」 「……そうですけど、でも、ああいうのは何だか、違うような気がして……」 「違うかな」 「はい、笑っているけど、でも、哀しくて泣いてるみたいでした」 シェフィールドの言葉に、ジョゼフはドキリとした。 「ハッキリと言うな……」 「あ、すみません。ご主人様にこんなこと……」 シェフィールドはわたわたとして、謝りだす。 「いや、いいよ。そのほうが、良かった」 ジョゼフは感謝と親愛をこめて、シェフィールドの頭を撫でた。 (まったく、本当に俺ってやつは……) シェフィールドの喜ぶ顔を見たいと張り切ってみたり、がんばってみたところで、結局は彼女に助けられている。 彼女を幸せにしてあげたいのに、彼女から<幸せ>をもらってばかりだ。 (度し難いよな。こんなところまで無能では……) 魔法に関しては、正直なところもうどうでもいい。 そんな常識はずれのことを考え出している自分がいることを、ジョゼフは苦笑するばかりだった。 <昨日>まであれほど焦がれていたはずなのに、<今日>はもう大した価値を感じなくなっている。 使えるのなら、それに越したことがないはずだ。 もしもシャルルのような才能があったら、シェフィールドにもっともっとたくさんのことをしてやれるのに。 そのへんを思うと、やっぱり残念だし、悔しかった。 だが、根幹の部分では、 (だから、どうだというのだ?) どこかで、見切りをつけているような気がする。 まったく、おかしなものだった。 あんなに欲しかったのに。 どれだけ夢想し、羨んで、妬んで、そしていじけていたかわからない。 それが、まあ何ということだろう。 ずっと欲しかったはずのものは、今ではすっかりと色あせて、メッキも剥がれ落ちている。 (他愛無いものだ……) ジョゼフは、またも自分自身に苦笑した。 しかし、この時愛しい少女に微細な異変が起こっていたことを、ジョゼフは気づいてはいなかった。 シェフィールド本人もまるでわかっていなかったのだから、無理もないことだが。 シャルルは、無表情な顔で椅子に座っていた。 兄に殴られた顔は、入念な水魔法の治癒によって綺麗に治っている。 確かに手ひどく殴られはしたが、一発だけのことで、歯や骨にも異常はなかったのだ。 別にたいそうなことをしなくても、自然に治っているようなものだったのである。 けれど、その顔は暗く澱みきっており、本人だけでなく部屋全体もおかしな空気に満ちているようだった。 死人のような顔色のまま、殴られた箇所を何度も撫でさすっている様子は、尋常な様子ではない。 それはある種の妖気といっても過言ではなかった。 部屋には使用人の運んだ食事が置かれているが、まるで手をつけられていなかった。 あの一件があってから、シャルルはほとんど食事らしい食事をとっていない。 まわりには、何でもない、ちょっと疲れているだけだと言っているが、とてもそんな生易しいものではなかった。 幼い頃、悪さをした罰として、父から鞭を受けたことがあったが、まともに顔を殴られるなど、初めての経験だった。 殴られた経験と同様に、兄からあんな怒りの形相を向けられたことなどなかった。 少なくともシャルルに対し、ジョゼフがあれほどの怒りを見せた顔など、一度たりともなかったのである。 兄の体は、あんな大きかったのか。 まだ背丈が小さかった頃に見上げていた父の体、それよりもはるかに巨大で恐ろしく見えた。 あの太い腕と、石のような拳で思い切り殴られたのだ。 たったの一発だけだが、それで十分すぎるほどであった。 あの拳は、シャルルの中にぽっかりと穴をあけてしまった。 目には見えないその穴から、ずっと大事にしてきた色んな物がぼろぼろと抜けて落ちていく。 それは、いくら拾い集めようとしても、抜け落ちた途端、春風に晒された雪のように虚しく溶けて消えてしまうのだ。 どこかで何かが狂ったに違いない。 シャルルは、そう思っていた。 ほんの、少し前まで確かにあったものが、今は失われている。 どんな魔法を使っても、それを取り戻すことはかなわない。 この穴は何だ。 そこにあったものは、どこに消えてしまったものか。 考えれば考えるほどに心は焦れて、ある種の破壊衝動に似たものが湧き上がってくる。 そんなシャルルの様子に、城の人間たちは同情的だった。 そうはいっても、いずれも実のあることなど話していない。 大体が、他人の噂話などというものが実のないものなのだが、 「おかわいそうに……。シャルル様、あんなに落ちこんでしまわれて……」 「ジョゼフ様に殴れたのが、よほどにこたえたのでしょうねえ」 「魔法ならともかく、平民や蛮人のような、下賎な暴力を受けるなど……」 「でも、なんで魔法で防ぐか逃げるか、されなかったのか」 「きっと、わざと殴られたのですわ。お優しいかただから」 己の偏見と憶測で、好き勝手なことを言っているにすぎなかった。 そんな戯言など当のシャルル本人にとっては、毛先ほどの意味もない。 不愉快で、有害なだけだった。 もしも目の前でそんなことを言われていたら、 「お前らに何がわかる!!」 と、怒鳴り散らしていたかもしれない。 シャルルが考えていることは、 (なぜ、兄はあんな風になってしまったのか?) この一つのみであった。 常に自分と共に歩いていた兄が、今進んで自分から離れようとしている。 それも、ずっと遠くに。 単に城を出るというだけなら、シャルルとてそれほど狼狽しなかったろう。 しかし、兄の態度から、明らかに自分への<基準>というものが違っていることがわかった。 幼い頃から、振り向けば自分を見てくれた兄の目は、今はもう違う何かを見ている。 兄の想いというものは、シャルルから別の人間に移ってしまったのだ。 そこには、もうかつてのような繋がりは感じられない。 気がつかないうちに、目に見えない何が、同じく目に見えないものによって切断されていたのだ。 だからこそ、そのことを兄に注意したのだ。 (それなのに……) ジョゼフが返してきたものは、拳だった。 大切な兄弟の絆は、ちぎれて腐れ果ててしまった。 その原因は、考えるまでもない。 あの、薄気味の悪い蛮族の娘である。 「やっぱり、ちゃんと話しておかなくちゃ駄目だよな……」 ぼそりでつぶやくと、シャルルは実体のない幽鬼のように、部屋もなく部屋を出た。 城内のある部屋を目指して、廊下を早足で歩いていった。 何だか、ひどく眠たかった。 体が変だった。 (あれれ……?) シェフィールドは、頭がぼんやりとしていることに気がついた。 別に、ついさっきまでは全然普通であったはずなのだが、急にぼうっとなってきたのだ。 サウナ風呂でのぼせた時の感触に良く似ているが、普通にしている時に、何故こうなるのか。 まったくもって不思議だったが、深く考える前にウトウトと眠りの落ちる前のようになっていく。 思考があやふやで、まとまりがなくなっていくるのだ。 ヨロヨロと廊下を歩きながらも、シェフィールドの目は前の状況を確認することもできなくなっている。 まるで酔っ払いのように千鳥足になっていた。 思考が、変だった。 こんちには。 ありがとう。 さようなら。 お城の中での礼儀作法。 お掃除、お洗濯。 アン・ドゥ・トロワ。 美味しい紅茶の入れ方。 お料理。 おなべにフライパン。スプーン、フォーク。 甘い。 柔らかい。 美味しい。 ご主人様、ジョゼフ様。 嬉しい。 暖かい。 好き、大好き。 瞼の下にジョゼフの笑顔が浮かんだ時、シェフィールドは右肩に鈍い痛みと衝撃をおぼえた。 いつの間にか壁にぶつかっていたのである。 「はれ……」 その小さな衝撃で、シェフィールドはぺたんと床に座りこんでしまう。 立ち上がろうとしても足がうまく動いてくれない。 何だか、体が震えているようで、指先にも、うまく力が入らない。 世の中が、ぐらりぐらりと右へ左へと揺れているのである。 視界の定まらない目は、自分の目の前にたった人物のことも、認識してはくれなかった。 「何やってる……。まあ、なんでもいいか」 その暗い声に、シェフィールドは冷や水を浴びせかけられたような気分になり、驚いて前を見た。 自分の主とよく似た少年が、ゾッとするような冷たい目でこちらを睨んでいる。 知っている。 シャルルという、主の弟であり、この国の王子だった。 「お前のせいだ……!」 シャルルは強い憎悪をこめてシェフィールドに言った。 「お前さえいなければ、兄さんは変にならなかったんだ」 ブツブツとつぶやきながら、シャルルは一歩ずつシェフィールドに近づいてくる。 「僕は、注意したんだ。あいつは悪いやつだって、兄さんを変にするんだって。なのに……」 シェフィールドは本能的に恐怖を感じた。 目の前の少年は、普通ではない。 まるで戦か、敵に呪いをかけるまじない師のような、危険な匂いを放っているのである。 「なのに、兄さんは僕を殴った……! あの兄さんが僕を殴ったんだよ!!!」 シャルルは杖を突きつけ、血を吐くような叫びをあげた。 憎悪のこもった声であった。 「何かも、みんなお前が悪い……!!」 シェフィールドは恐怖のために、声も出ない。 いや、恐怖のせいばかりではない、すでに肉体そのものが通常の状態ではなかったのである。 「お前は、ここにいちゃいけない存在なんだ。だから、消えろ!!」 シャルルは呪文を詠唱し、突き出した杖を振った。 すると、シェフィールドの頭上に小さな雲のようなものが現れた。 シェフィールドは急激に目の前が暗くなった。 「あっ……」 と、叫ぶ間もなく、シェフィールドはころんと床に転がった。 (ご主人様、ジョゼフ様……) 意識を失う直後、シェフィールドは小さくジョゼフの名を呼んだ。 「兄さん、まだ起きてる……」 なかなか寝付けず、一人軽めのワインで晩酌をしていたジョゼフはその声を聞いてグラスを置いた。 何だか胸騒ぎのようなを感じていたのかもしれぬ。 「シャルルか?」 「うん、そうだよ」 「鍵はかかっていない」 そう言い切る前に、部屋のドアが開かれ、シャルルが入ってきた。 「兄さん、大事な話があるんだ。少し付き合ってくれない?」 シャルルは以前の狂乱が嘘であったように、落ちついた様子で淡々と言った。 何事だ、と少し不審なものを感じたが、殴りつけてしまったという罪悪感もあり、ジョゼフはうなずいた。 「ここじゃ、何だから……」 そのように言って、シャルルはジョゼフを祭典などに使われる礼拝堂へと連れて行った。 普段はあまり人の出入りのない場所である。 シャルルが杖を振ると、礼拝堂のあちこちに灯りがつく。 その時、ジョゼフはあっと声を上げた。 壇の前に、誰かが倒れていたからである。 それが誰かすぐにわかった。 「シェフィ!!」 ジョゼフはすぐさまシェフィールドのもとへ駆けつける。 見たところ、外傷などはない。 どうも深い眠りに陥っているらしい。 通常の眠りではなく、おそらく魔法の眠りだ。 「まさか、シャルル、お前か!?」 「ああ、僕が運んだ。魔法で眠らせてね」 シャルルはすっすっと、まるですべるようにジョゼフに近づく。 「何もしちゃいない。指一本触れてないよ。始祖に誓ってもいい。運ぶ時もレビテーションを使ったんだよ」 触りたくもないからね、とシャルルは兄の顔を見つめながら、恋人にでも囁きかけるみたいに言った。 「どういうつもりだ……」 ジョゼフはシェフィールドの無事を確認してから、弟と対峙する。 シャルルは笑ったままだ。 その瞳はまっすぐジョゼフに向けられているのだけれど、どこか見当の違ったほうへと向けられているように思えた。 まるで、狂人の眼である。 「兄さん……城を出て行くとか、そんな馬鹿なことはやめてよ」 シャルルは美顔に似合わぬ、気味の悪い笑顔を浮かべながら、一歩ずつ兄に近づいていく。 「その話か」 またか、とジョゼフはうんざりとしたが、弟の異常さにできるだけ声音を穏やかにした。 「やめる気はない。もう決めたことだからな」 兄の答えに、弟は秀麗な顔をぴくぴくとひくつかせる。 幾人の乙女の心を奪った神童の顔は、不吉な影を帯びて不気味な様相となっている。 シャルルは血走った視線を、シェフィールドへと向けた。 「ここを血で汚すのは嫌だけど、どうしても出て行くっていうなら、この娘を殺すよ?」 「貴様……」 ジョゼフは、その言葉がただの脅しではないことを肌で感じた。 「どういうつもりだ……」 「そう怒らないでよ。兄さんが、ただおかしなことをやめてくれれば、それでいいんだ。そうすれば、その子も……」 「誰かに、何か言われたというわけじゃないよな……?」 自分でもそれはないだろうと思いながら、ジョゼフはあえて尋ねた。 「もちろんだよ。これは、僕の考えからやったことだ」 「俺がここを去るのが、何故いけない」 「何故? 何故だって?」 シャルルは怪鳥のいななくような笑い声をあげた。 「兄さん、僕らはいつも一緒だったじゃないか。それなのに、何で離れるんだよ?」 「……」 「ずっと、兄弟で仲良くやってきたんじゃないか。それを、どうして? どうしてだよ!?」 シャルルは親にすがるように幼子のような表情でジョゼフに叫ぶ。 「どうしてだと――」 弟の必死とは逆に、ジョゼフはカッと熱くなりかけていた頭が冷めていくのを実感した。 どくどくとうるさかった心臓の鼓動も、平常時へと戻りつつある。 「……お前は、俺がここでの生活に満足していると思ったのか?」 「何だって……?」 「次の王に指名されたお前は、その肩にたくさんのものを背負わされたのかもしれん。だが……いや、やめよう」 ジョゼフは、首を振った。 「シャルル、これからは違う道を歩むんだ。いいや、始めから俺たちは違う道を歩いていた。俺は、俺の。お前は、お前のな」 「どういうことなの……?」 「お前だって、ようくわかっているだろう?」 ジョゼフはひどく優しい眼差しで弟を見た。 「その年でスクウェアになろうというお前と、コモン一つ満足に使えない俺が、同じ道にいるわけがないじゃないか」 「兄さん」 シャルルは動揺したのか、声を低くした。 「正直なところな、俺はお前をどれだけ羨んだかわからない。本当だ」 そう言って、ジョゼフは礼拝堂の天井を見た。 幼い頃、ここはどことなく、恐ろしく感じたものだ。 「だから、何か一つでもお前に勝ちたくって色々とやってみたものさ。いつか、みんなを見返してやろうとな」 昔のことを思い出しながら、ジョゼフは笑った。 「しかしなあ、やっぱり人間には器というか、そういうものがあるのだよ」 「……」 「俺はそれを認めたくなかったんだな。だが、ついに認める時がきたんだ。情けないし、悲しいことだがな」 シャルルは睨むような目つきのまま、黙って兄の言葉を聞いている。 「俺は凡人以下だ、メイジとしてはな。だから、分不相応なものを求めることはやめた。それだけだ」 「それが、それが、ここを出て行くことと関係あるの?」 「あるさ。そもそも……魔法を使えん人間が、王族だの貴族だのといっていること自体がおかしいんだぜ、本来は」 そう言ってから、ジョゼフは笑ってみせた。 からりとした、湿り気のない笑顔であった。 「やめてよ、そんなの…。兄さんは、いつかすごいことができるはずだよ! だから、そんな風に言わないでよ!」 「すごいことか。そいつはなんだ? お前のように四大魔法を操ることか?」 ジョゼフは肩をすくめた。 「それとも、伝説の虚無の力でも手にすることか? どっちにしろ、無理だな。夢だよ」 「兄さん! やめて……」 「だから、俺は俺に見合った場所へいくことにした。だからなあ……お前はお前でがんばれ」 そう言って、ジョゼフはシェフィールドを抱き上げようとする。 「やめてって、言ってるだろう!!」 狂ったような叫びがあがる。 ジョゼフが殺気を感じて振り返ると、シャルルは杖をジョゼフたちに向けている。 弟の全身は、ぶるぶると震えていた。 「行かせない。行かせるもんか……!」 「シャルル、お前は、何故そこまで……」 ジョゼフは弟の言動が理解しきれず、思わず声を荒くした。 すると、シャルルはいったん息をぐっと殺してから、 「兄さんに勝つために、ぼくがどれだけ努力してきたと思ってるんだ!!」 恐ろしい叫びをあげた。 「な、なに?」 思いもかけない弟の叫びに、ジョゼフは驚いて目を見張る。 「ぼくのほうが優秀だと証明するために、ぼくが見えない場所でどれだけ頑張ってきたと思ってるんだ!!」 その声は、血を吐くどころか、臓腑を残らず吐き出すような凄まじいものであった。 ジョゼフは、何も言えずに、黙って弟の言葉を聞いていた。 「ぼくにとって、兄さんは一番で。兄さんにとっても、ぼくが一番で……。ずっと、ずっとそうだったなのに……!!」 ジョゼフは、弟の姿がひどく小さく、幼いものに見えた。 天才だ、神童だと称えられ、謳われた少年は、その年齢よりもずっと幼かったのかもしれない。 しかしその秀でた才能ゆえに、まわりも、もしかすると本人も気づいていないままになっていたのか。 「なのに、今、今兄さんが離れたら、降りちゃったら、それが全部無駄になるんじゃないか……!!」 「いいや、無駄にはならんさ」 「気休めを言わないでよ!!」 シャルルはついにわんわんと、子供のように泣き始めた。 ジョゼフは驚きながら、同時にひどく腹がたった。 甘えるな! そう怒鳴りつけてやりたかった。 努力なら、自分だってやってきたのだ。 呪文を何百回、何千回も唱え、書物は一文字一文字が暗記できるほどに読み返した。 精神力を高めるための瞑想や修練だって、幾度繰り返したことか。 だが、その努力はいずれも、まったくの徒労に終わったのだ。 どれだけやっても実らない努力や修行など、ただの苦痛でしかない。 それを人は、無駄骨というのだ。 その苦しみに加え、無能王子という蔑みを受け続けてきた。 シャルルという存在が横にいたおかげで、その苦しみがどれだけ大きかったか、お前ほうこそわかっているのか。 けれど、泣いているシャルルの姿を見ていると、その怒りも萎んでいってしまう。 ジョゼフは頭を押さえて、ため息をつく。 「俺はお前のことを、気持ちをわかってやれてなかった。それは、謝るよ。俺のほうが兄貴なのにな……」 「兄さんも、父上も母上も、知らないんだろうね……ぼくがどれだけ」 ぶつぶつとつぶやきながら、シャルルは顔を伏せて泣き続けている。 かまわず、ジョゼフはハッキリと宣言した。 「だがなシャルル……。俺はお前の求めに応える気はない。いや、できないんだ」 「なんで……どうして……どうして?」 シャルルは涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげた。 眠っているシェフィールドを見ながら、ジョゼフは言う。 「俺の人生は、生きながら死んでいたようなものだった。自分自身で気がつかないうちに殺していた」 ジョゼフは自嘲の笑みを浮かべる。 自分の無能を呪い、弟を羨み、世間を上目遣いに睨みながらすごしてきたように思う。 思えば、恥の多い生き方であった。 「生きた屍だった俺に、シェフィは本当に大事なことを教えてくれた。俺の人生に命を与えくれたのは、彼女なんだ」 そう言ってから、ジョゼフはシャルルを見た。 歩けばすぐそこにいる距離なのに、二人の間にはどうしようもなく深く、大きな谷があるようだった。 空を飛んでも、谷間を土砂で埋めようとしても、それは無駄なことなのである。 「だから、俺の命は、俺の人生はシェフィのものだ。お前にくれてやるわけにはいかない」 兄の言葉に、シャルルはがっくりとうなだれた。 互いに、無言の時が過ぎた。 しばらくしてから、 「ごめん……」 シャルルは小さな声で、言った。 「いいさ」 ジョゼフは微笑を返し、そっとシェフィールドを抱き上げた。 しかしシェフィールドの顔に触れた時、ジョゼフはハッと息を呑む。 シェフィールドの顔は紅潮し、その尋常ではない熱を持っていたのである。 「シェフィ…? シェフィ!!」 ジョゼフの叫び声が、礼拝堂に響き渡った。 前ページ次ページ愛しのシェフィ
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前ページ次ページ愛しのシェフィ 「リュティスを離れたい、と?」 「はい、違う土地へいって、見聞を広めようかと思います」 「そうか……」 ジョゼフの言葉に、王は否ともよしとも答えなかった。 「知識を深めるだけながら、城の書物だけも十分すぎるほどではないのか?」 長い歴史を誇るガリア。 その王宮に保管されている書物の量は尋常のものではない。 「いえ、確かにそれも修養にはなりますが、実際に見聞きするのとは違いましょう」 「一理あるのう」 王はそう言って、顎を軽く撫でた。 「じゃが、本当のところは、どうなのだ?」 王はジョゼフの目を見ながら、そうたずねた。 ぴしりと、のんびりとしているけれど、強い圧力のある声であった。 「かないませんね」 ジョゼフはきまりが悪いと風に、笑ってみせた。 その笑みを見て、王の眼が微かに細められる。 「正直なところ申し上げますと、隠居したいのです」 「ほ、そりゃまた……」 王は肩をすくめるようにして、驚きの声をあげた。 「城の生活には、飽きたということですか?」 王の横に陣取る王妃は、どこか棘のある口調でそう言った。 口調のみならず、その視線も刺々しかった。 「そんなわけではありませんが」 攻撃的な母親に対して、ジョゼフは笑うよりない。 事実、別に飽きたわけではないのだ。 そのほうが、良いように思えるから、そうしようというだけである。 単純な話であった。 「私は、別に止めませんが」 王妃は何か釘でもさすように、王を見ながら扇で口元を覆った。 「まあ、あなたがいても、王家の恥になりこそすれ、不足になることはありませんからね」 「母上もお口が悪い……」 「事実でしょう」 王妃は切りつけるように言って、視線をそらした。 「ただでさえ出来の悪いお前が、その上素行まで悪くすれば、まったく救いようがありません」 「私は、真面目にやっておるつもりですが」 はて、とジョゼフはとぼけた顔をして見せた。 「おだまりなさい。私がただの案山子と思っているのですか」 王妃はぱちんと扇を閉じて、ジョゼフに向かって突きつけた。 「聞いていますよ。最近、どこぞの平民の娘を拾ってきて、囲い者にしているそうですね」 「囲い者とは……」 やはり他人からみれば、そのように見えるらしい。 「参りましたな」 ジョゼフは困った顔で、頭を掻く。 「田舎貴族ならばいざ知らず、それが仮にもガリアの王子のすることですか!」 「いささか、誤解があるようですが」 ジョゼフは内心で怒りを覚えはしたが、ここで怒っても仕方ないと、口調も柔らかに弁明する。 「確かにメイドを一人雇っているのは確かですが、別にやましいところはありません」 「よくもまあ、ぬけぬけと……」 王妃は憎々しげにジョゼフを睨みつける。 それにしても、この母は何故ここまで怒っているのか。 ジョゼフが立腹するよりも困惑するよりなかった。 まさか、息子におかしな虫がついたので、怒ったり、妬いたりしているわけでもあるまい。 お気に入りのシャルルならばまだわかるが。 あるいは言葉通り、王族としての体面というものを気にしているのかもしれぬが。 のらりくらりとしたジョゼフの態度に、次第に王妃は興奮を強めてきているようだった。 ヒステリーを起こした女性、ことに権力を持った女性がそうなると始末が悪い。 (面倒なことになりそうな……) ジョゼフが適当な言葉を考えると、 「ま、良い。好きにせい」 王妃を無視するように、王は言った。 「お前がそうと決めたのなら、それも良かろう」 「ありがとうございます」 父王の助け舟を、ジョゼフはありがたく受け取ることにした。 どっちにしろ、このまま母と話していても建設的な会話にはなるまい。 「あなた……」 王妃が抗議しようとすると、じろりと王の視線がそれを遮った。 「ただしな、ジョゼフよ? いったん隠居してしまった以上、次の王になる資格は失うぞ?」 「次の王は、シャルルでは?」 別に今さらあれこれ審議する必要性など感じられぬ。 (何を今さら……) ジョゼフは苦笑するだけだった。 「それは、わしの決めることだ」 「そうですか。出すぎたことでした。申し訳ありません」 確かに、その通りではある。 ジョゼフは父王に頭を下げる。 「うむ……」 それから、隠居の許可をもらったジョゼフは足取りも軽く退室していった。 「あなた、どういうおつもりです、あんなことを……」 ジョゼフが出て行った後、王妃は咳きこむように呼吸をしながら、王に食ってかかった。 わずかだが、眼が血走っていた。 「どうもこうも、出て行くというのだから仕方あるまい。まさか、軟禁でもせよというのか?」 「そうではなくって……。あんな許可を出せば、どうせ田舎で羽目をはずして、ろくでもないことになるに決まっています!」 王妃は叫び散らした。 「ははは。女遊びに夢中になると心配か? ま、母親としては複雑だろうが、若いうちは女に精気をしぼられるのも勉強だ。ほっておけ」 王は呵呵大笑するばかりであった。 「……そのせいで、ガリアの家紋に傷がつくとは思いませんの!?」 「傷か。魔法が使えん無能王子だ、これ以上の傷など今さらどうということはないわ。お前もさんざん言っとるだろう」 王の言う通り、王妃は今まで、魔法の使えぬジョゼフに冷たく当たってきた。 「お前など、生まれてこなければ良かった!」 と、憎々しげに言い放ったことは一度や二度ではない。 「……ですが、ですか」 「かまわんさ。ほっとけ」 さすがに王妃はそれ以上何も言わなかったが、その顔は明らかに不服そうだった。 (隠居か。まさか、あのジョゼフがなあ……) 王はジョゼフの出て行った扉を見つめながら、ため息をつく。 (急に<良い顔つき>になったと思ったら、その矢先に自分から王位を投げ捨ておった。ま、これも運命というやつだ……) 横では、王妃はまだ何やらぶつくさと言っている。 (やれやれ、法界悋気というやつか。まったくもって、女というやつは……) 不出来な息子の行動が気に入らぬ、というわけであろうか。 王の口から漏れるため息は、いつしか苦笑へと変わっていった。 「シェフィ、いるか?」 ジョゼフは何度かドアをノックしてみたが、返事は返ってこなかった。 生活パターンとして、今の時間は大体部屋にいるはずだから、どこかへ出かけているということはないだろう。 「……留守か?」 ジョゼフは、ノックする手を止めて、しばらくじっとしていたが、やがてハッとしてドアノブをつかんだ。 鍵はかかっておらず、あっさりとドアは開く。 シェフィールドは、机に頭を乗せて寝息を立てていた。 机の上には、児童向けの絵本が開かれたままになっている。 文字を読む勉強をしていて、つい眠りこんでしまったらしい。 ジョゼフは起こさぬよう、そっと少女を抱き上げ、ベッドに運んでやった。 (眠っていても、人の姿のままか……) 最初の頃は、彼女は眠る時には人形に戻っていた。 あるいは、ひどい失敗などをして落ちこんだ時も、人形に戻ってしまうことがあった。 けれども、そういったことは、もうほとんどなくなっていた。 彼女が最後に人形に戻ったのは、一体いつだったろうか? 「私がこの姿でいられるのは、ご主人様が気にかけてくださっている証」 いつか、シェフィールドはそう言った。 それがどういうことなのか、未だにわかるようなわからぬような、なのだが。 (もう、人形じゃないのかもしれんな……) そっと毛布をかけてやりながら、ジョゼフは愛しい少女の寝顔を見る。 (もう、ではないか) 寝息をたてるシェフィールドの唇を見ながら、ジョゼフが足音をたてないようベッドから離れる。 人の魂を、心を宿して。 同じ土に還る命を持って。 きっと、彼女は最初から生きていて、 (人と、俺と同じ……なのだろうなあ) ジョゼフはぎゅっと拳を握り締めた。 部屋を出ようとした時、部屋の隅っこに置かれた、古ぼけたチェストが目に入った。 シェフィールドの個室となる以前、この部屋は物置代わりに使われていた場所だった。 この古いチェストは、その名残のようなものだ。 一見ただのチェストに見えるけれど、魔法で中が三倍ほどの広さになっている特殊なマジックアイテムである。 幼い頃、ジョゼフはかくれんぼの時にここへ隠れたことがあった。 (ここなら見つからんと思っていたが、シャルルのやつはディテクト・マジックで簡単に見つけてしまったな……) 今からすれば、懐かしい思い出だった。 弟はとっくに忘れてしまったかもしれないが。 そんな時だった。 ジョゼフの耳に、誰かの泣き声が聞こえたような気がした。 (シェフィ?) しかし、シェフィールドはすやすやと寝息をたてているだけだ。 (気のせいだったか?) 疲れているのかもしれぬと思いながら、ジョゼフは今度こそ部屋を出ようとして、愕然とした。 部屋の隅に何か小さなものがいる。 (賊か!?) 反射的に杖を手にしたが、それが存外に小さいものだと気づいて、やや心を落ち着けられた。 そもそも、賊がしくしく泣いているというのも、おかしな話である。 (何者だ?) 声をかけようと、静かに近づいてみた。 それは小さな子供だった。 壁に拳を叩きつけるようにして、声を殺して泣いている。 身なりからして、使用人の子供ということはない。 明らかに貴族階級の子供である。 (まさか、迷子か? しかし、こんなところに……) どうにも、その泣き方が尋常とは思えない。 その青い髪から察するに、どうやら王家の血筋、少なくとも流れをくむ者であることは確からしい。 「おい……」 どうしたのだ? そう話しかけようと思った矢先、ジョゼフは声を失った。 泣いている子供はジョゼフとそっくりだったからである。 (なに……?!) まさか、父の隠し子であろうか。 少なくとも、自分に身に覚えはない。 仮にあったとしても、この子供は見たところ七つか八つだ。 仮にジョゼフの子供だとすれば、ジョゼフが十歳の頃の子ということなる。 そんなことは、まずありえない。 「おい、お前……」 触れようと手を伸ばした矢先、子供はふっと消えてしまった。 まるで、幻か何かのように。 ジョゼフは唖然として、しばらくそこを動けなかった。 (なんだ、俺は、一体何を見たんだ?) 幽霊か、それとも妖精の悪戯だろうか。 怖いとか、不気味というのではなく、何か不思議な気分だった。 この世の秘密の一端を、図らずも覗いてしまったのではないか。 しばらく呆けたままでいたところ、 「んん……」 シェフィールドの声に、我にジョゼフは返った。 「ジョゼフ様……?」 シェフィールドはまだ寝ぼけ眼なのか、とろんとした表情でジョゼフを見ている。 「ああ、すまないな。起こしてしまったか?」 ジョゼフは何だか気恥ずかしくなり、わざとおどけるように言ってみせた。 「いいえ……」 シェフィールドはベッドから降りて、すたすたとジョゼフに寄ってくる。 「――どうした?」 「あの……」 シェフィールドはちょっと困ったような、そしてどうしたわけか気遣うような優しさの宿る目で、ジョゼフを見上げた。 「うん、どうかしたのか?」 ジョゼフはドギマギとして、少しだけ顔をそらす。 「夢の中で、小さなジョゼフ様が泣いていらっしゃいました」 シェフィールドは、妙なことを言う。 「俺が……?」 ジョゼフはさっきの幻を思い浮かべた。 (あれは、やっぱり俺自身だったのか。しかし、なぜあんなものを見たのだ?) シェフィールドの夢にも出てきたということは、この部屋に何かあるのか。 部屋の中を注意深く見ながら、ジョゼフは色々と考えてみた。 まさか、幽霊というわけでもあるまい。 それから、先ほど幻を見たあたりへと近づき、壁などを調べてみる。 けれど、別に怪しいものはないようだった。 (ここに、何か?) 壁に手を触れながら、ジョゼフは顔をしかめた。 不機嫌になっているわけではなく、思考を深くしているためである。 (ふふ、こんなことをするのも、ずいぶんと久しぶりだな。子供の頃は時々こうして……) この時、だった。 ジョゼフの心の中で、がちゃりと鍵がはずれる音がしたようだった。 (ああ、そうだったか) ジョゼフは目を見開き、大きく息を吐いた。 「ジョゼフ様、どうされました?」 シェフィールドがあわててジョゼフのそばに走る。 「……なあ、シェフィ。お前の、その夢の中に出てきた、小さな俺は」 そこまで言って、ジョゼフはシェフィールドの顔を見る。 いつもの、邪気のない少女の顔がそこにあった。 「いや、何でもない。少し、子供の頃を思い出した」 笑って立ち上がり、シェフィールドの肩を抱いた。 「……♪」 シェフィールドはジョゼフの表情にほっとして、心地良さそうに、胸に頬をつけた。 (そうだった。子供の頃、よくここへ隠れては泣いていたものだ……) 魔法が使えぬことで、何度味わったかしれない悔しさや悲しさ。 誰とも会いたくなくなった時、ジョゼフは物置だったこの部屋で、涙を流していた。 一体何度そんなことを繰り返したのか、思い出したくもなかった。 このことは、誰も知らない。 弟のシャルルでさえもだ。 (すっかり忘れた……。いや、忘れたような気持ちになっていたが……) ジョゼフはそっと壁を撫でてみた。 何もないようだが、ここにはジョゼフの暗い涙が染みついているのだろうか。 (そんな場所を、シェフィールドの部屋にするなんて、まったく俺という男は……) つくづくと、自分で自分が情けなくなってくる。 思わず、苦笑が漏れた。 夢の中のことをたずねた時、シェフィールドが見せた表情。 それで、全てわかったような気がした。 この少女が、コンプレックスとか、絶望という暗い想念で潰れそうになっている幼い頃のジョゼフを、どうしてくれたのか。 そこから先は、口に出す必要はなかった。 出すのは野暮というものである。 誰もしてくれなかった、あるいはジョゼフ自身が、してやらねばならなかったことを、彼女はしてくれたのだ。 (もしも、もう一度<あいつ>と、いや<俺自身>と会うことがあったのなら……) その時は、今度こそジョゼフ自身がやらねばならぬ。 できるかどうか、ではなく、やらなければならないのだ。 (いや、絶対にできるし、絶対にやる) ジョゼフはそう決心して、シェフィールドの顔を見た。 彼女には、まったくどれだけ感謝していいのかわからない。 それなのに、また感謝せねばならぬことを増えてしまった。 嬉しい反面、ひどく情けなくもある。 「シェフィ……」 「はい」 「お前がいてくれて、良かった」 ジョゼフがそう言うと、シェフィールドは花のようにパアァ……と微笑んだ。 ガリアの第二王子、シャルルが兄であるジョゼフのもとを訪れたのは、その日の昼下がりのことだった。 シャルルは、普段あまり見せることのない険しい表情をしており、そんな王子を侍従たちは何事かという表情で見送る。 その時ばかりのことではない。 シャルルは、ここ最近あまり機嫌がよろしくなく、宮廷の人々は少々緊張気味であった。 一方で、ジョゼフのほうは、引越しの準備・下調べに忙しく、ドタバタと落ちついていなかった。 それは別にジョゼフばかりではなく、ヴェルサルテイル、特にその中心グラン・トロワは若干浮ついた空気が流れていた。 その空気は、城内ばかりか、リュティス全体に広がっていた。 理由は、ハッキリとしていた。 「次の王は、シャルルとする」 そう国王が正式に発表したためである。 確かに大ニュースではあるけれども、格別ショッキングという種のものではなかった。 むしろ、大方の予測通りであったことだからだ。 幼少時から、大天才だ、神童だと称えられてきたシャルルである。 誰しも、次の王はこの少年に間違いないと思っていた逸材なのだから、当然のことだった。 王はまだまだ健康・健在であるし、この発表は単純に<おめでたいこと>として、国民は受け取っていた。 「めでたい、めでたい」 「やっぱり、シャルル様だねえ」 「これでガリアは次代も安泰だ」 このことは、ジョゼフにしても喜ばしいものだった。 周囲の注意が一斉にシャルルに集まるので、その分準備が淀みなく行える。 とどのつまり、この騒ぎに乗じてとっと城から出てしまおうということなのだ。 (まさか、父上が気をきかしてくれた、わけでもないだろうが……。良いチャンスだな) そう考えているジョゼフのもとに、シャルルがやってきた。 ちょうど、部屋で書物の整理をしている時だった。 いずれも暗記するほどに読み返したものばかりである。 だが、孤独だったジョゼフを慰めてくれた友人のような存在であり、城に置いていくのは嫌だったのだ。 「兄さん……」 シャルルが顔を蒼白にして、ずかずかと部屋に入ってきたのである。 「おう、シャルルか。何か用か?」 二人きりだ、気さくにおめでとう、がんばれよとも言ってやるか。 そうジョゼフは思ったが、どうもそんな言葉をかけられる雰囲気ではなかった。 「どういうこと、城を出るって」 シャルルは唇を震わせ、噛みつくように言った。 「いや、いい加減でここでの暮らすのも疲れた。田舎にでも引っこむことにしようと思ってな」 「父上から、聞いたよ」 シャルルはジョゼフを睨むように、いや、睨んだ。 「兄さんが、王位を辞退したって……」 「おい、まるで俺も<王様候補>だったような言いかただな」 ジョゼフは持っていた一冊を置いて、シャルルのほうを向き直った。 「当たり前じゃないか!?」 「建前上はな? だが、その実あってないようなもの、いや……事実なかったものだと思うぞ、俺は」 「兄さん!」 シャルルはきっとなって、ジョゼフに詰め寄った。 「兄さん、何考えてるんだよ……。兄さんは、王子じゃないか!」 「一応はな……」 「それが、いきなり変なメイドを連れて隠居するなんて、どうかしてるよ!」 シェフィールドを揶揄されて、ジョゼフは少しムッとするが、そこはどうにか流して、 「おい、落ちつけよ? 王子だろうが、お姫様だろうが、いい年になれば、結婚して、城を出るのは当然だろう?」 ジョゼフは興奮している弟に、優しく諭すように言った。 「兄さんは結婚もしてないし、父上はまだまだ元気じゃないか」 「それは、そうなんだがな……」 ジョゼフはさて、どう言おうかと、頭を悩ませる。 「お前も、正式に次期の王に決まったことだし、いい機会だと思うぞ?」 「ちょっと待って、兄さん…! 落ち着いて考えよう?」 口から泡を飛ばさんばかりの勢いで、シャルルはジョゼフの肩をつかんだ。 爪が肉に食い込み、痛いほどの力であった。 「おい……」 ジョゼフは痛みに顔をしかめつつ、シャルルの様子がおかしいことに気づいた。 落ち着けと言う、お前のほうこそ落ち着けと言いたい。 顔つきがどこか曇っており、眼の光が尋常のものではなかった。 (シャルルは、こんな顔だったか……?) 長年共に暮らしてきた弟の顔が、何か見知らぬ他人の顔のように思えてならなかった。 何故、弟はこんなにも乱れているのか、さっぱりわからぬ。 思い当たることと言えば、王位継承のことだが、弟がそれに不服を感じたと思えなかった。 時には、魔法の使えぬ兄ジョゼフを気遣って、わざと魔法に失敗するようなこともあった。 だが、同時にガリアでも最高クラスの魔法の使い手という自負もあったはずだ。 (……あるいは、いきなり次期王に指名されて、戸惑っているのか?) いくら王族といえと、まだ十五の少年にとって、大国がリアの玉座は、確かに重いものであるかもしれない。 (しかし、今日明日にでも即位するというわけじゃあるまいし……) 父が急死でもすれば別だが、王としての教育はこれからじっくりとやっていけばいいではないか。 おそらく、父もその腹づもりであるはずだ。 混乱しているシャルルには、そのへんのことがわかっていないのかもしれぬ。 王に指名されたことで取り乱し、兄にすがってきたということか。 そう考えると、弟の態度も可愛く思えてくる。 考えてみれば、シェフィールドがきてから、シャルルと話らしい話をしていなかった。 今後は、あまり会えなくなるのだから、今のうちに色々と語り合うのも悪くないかもしれない。 「まあ、そう取り乱すなよ」 ジョゼフはシャルルの手をやんわりとはずしながら、努めて穏やかに言って聞かせた。 「父上は後で揉めないように、今から取り決めておいたのだろうさ。別に、今すぐお前に王になれという話じゃない」 「だから、兄さん! どうして、急に出ていくんだよ!」 シャルルは、目を血走らせて叫んだ。 「……」 どうも、おかしい。 会話が噛み合っていないようである。 シャルルの態度も、こちらの言葉がきちんと伝わってくるのか疑わしいものだった。 口ぶりからすると、ジョゼフをここに留めておきたいようにも思える。 何かが<妙>であった。 シャルルという人間から、ネジが何本か抜け落ちてしまったような気配なのである。 どうしてそのようになったのか、理由らしい理由がジョゼフにはわからない。 「お前、少しおかしいぞ?」 「おかしいのは、兄さんのほうだ!!」 今にも杖を抜かんばかりの勢いで、シャルルは絶叫した。 「おい……」 「ここ最近の兄さんは、変だ、変だと思ったけど、本当におかしくなったのかよ!?」 「自分じゃ、そんなつもりはないがな……」 そのように言いながらも、ジョゼフは自分が以前とは違っていることに自覚的だった。 少なくとも、以前の自分が、どうしようもなく愚かだったことはわかっている。 シェフィールドと出会う前の自分が、何とも惨めで救いがたい男だったことは理解しているのだ。 (救いがたいというところは、変わっていないがな……) それが、どう変わっているのかは自分自身では明瞭にはわからぬが。 「やっぱり、あの女のせいなのかい……」 シャルルは急に声を落として、ジョゼフを睨んだ。 それは、いつも人々から愛され、称えられていた少年には、あまりにも不似合いな、暗い目つきだった。 ジョゼフは背筋に薄ら寒いものをおぼえた。 「シャルル……」 どうにか声をかけようとしたが、シャルルの声がそれを打ち払ってしまう。 「忠義面して、兄さんに擦り寄ってるけど……。そんなので、骨抜きにされたのか、兄さんは!」 「おい!」 その言い草に、ジョゼフもついに大声を出したが、シャルルは怯まない。 「どうせ、王族って肩書きに釣られて、いい顔をしてるだけだ。そんなこともわからないなんて……」 「いい加減にしろ、シャルル! 俺はいい、魔法の使えん無能者だからな。だが、シェフィのことは悪く言うな!」 あれは、そんな娘ではない。 大体、<王族>の肩書きに、表面だけへつらう人間など、どれだけ見てきたことかわからない。 そんな連中と、シェフィールドを一緒くたにするなど、許しがたい侮辱だった。 自分自身を含めたこのガリアに、あの娘のような善良さと優しさを持った者がいるものか。 しかし、シャルルは不快そうに顔を歪めるだけだった。 その顔つきは、ジョゼフに蔑んだ眼を送る母親そっくりであった。 たまらない不快感がジョゼフの心にへばりついた。 「本当に……どうしようもなくなっているんだね、兄さんは」 「何が言いたい……」 「あんな女! どうせ、兄さんのことなんかこれっぽっちも考えちゃいないんだ!! わかっちゃいないんだ!!」 「ふざけるな、お前のほうこそ、何もわかっちゃいない!」 「わからないの? 兄さんは、王族なんだよ……?」 噛んで含めるように、シャルルは言う。 「それが、どうした……」 「あんな卑しい女と、一緒にいちゃいけないんだ! どうしてわからないんだよ!!!」 シャルルの言い分に、ジョゼフは舌打ちをしたくなった。 このハルケギニアにおいて、貴族と平民の区分は絶対だ。 しかし、弟は平民をこうも見下すようなことはなかったはずである。 それがこうも悪し様に言うとは。 (これがこいつの、本音か?) そうは、思いたくはなかった。 何度その才能を妬んだかわからない賢弟だが、憎むようなことは一度たりともなかったのだ。 だが、これ以上話をしたくもなかった。 これ以上言い争えば、どうにもならなくなるように思えたのだ。 ジョゼフが黙ると、シャルルはさらに追い討ちをかけてきた。 「目を覚ましてよ、兄さん! あんな下卑た女に惑わされてさあ、おかしいよ!!」 もはや、限界だった。 ジョゼフは力まかせに、シャルルの顔を殴りつけた。 魔法では絶対的に劣るものの、その分肉体を鍛えこんできたジョゼフの腕力に、シャルルは床に叩きつけられた。 シャルルは何が起こったのかわからぬという顔で、呆然となって兄を見上げている。 ジョゼフは怒りの形相のまま、弟を睨みつけていた。 握り締めた拳が、震えていた。 前ページ次ページ愛しのシェフィ