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プルリヤシュ メソポタミア神話に登場するヒッタイト国ネリク市の嵐神。 イルルヤンカシュに破れイナラシュに協力を申し出た。
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バベル外伝? 8話 ~~放課後、ファーストフード店 イリヤ「そういえば、アーチャーがたまに呼び出す人……アルティメットバトルダークヒーローって、なんなの?」 ライダー「……私も気になるわ」 前アーチャー「ん?この世全ての悪(アンリマユ)のことか?」 イリヤ「そうそう、それそれ」 前アーチャー「俺の部下だ。子分と妾(セフレ)を増やすために、日夜俺様をサポートしているのよ」 凛「具体的には、どんなことしてんの?」 前アーチャー「そうだな……」 ~~異空間、ある日の風景 子分1ケイ「ご主人様に使えるメイドの女の子が、武器に変身するっていう設定はどうだろうか?」 この世全ての悪(アンリマユ)(仮)「おまえ、頭いいな」 子分2自来也「その設定、貰ったー!」 前アーチャー「と、このように日夜、役に立つようなアイディアのために、延々と会議を行っているわけよ」 凛「これっぽっちも役に立ちそうにないじゃん」 イリヤ「あはは……」(汗) 凛「他にも部下は居るの?」 前アーチャー「もちろん、他にも優秀なのが唸るほど居るぞ」 ライダー「その割には見たことが無いわね」 前アーチャー「ああっ! てめえ、信じてねーな! ちょっと待て、いま呼び出してやるからよー」 ~~十分後 前アーチャー「というわけで、何人かに来て貰ったぞ。見よ、我が配下を!」 子分3首なしライダー「アシュさん、今日は時給1200円って本当ですか?」 前アーチャー「もちろん、きちんと払うから安心しろぉ。交通費も出るぞ」 凛「バイトじゃん……」 前アーチャー「くくく、分かってねーな。日本人はバイトでも、仕事はきっちりこなすんだぜ」 ライダー「日本人……?」(汗) 子分4メリー 「アーチャーさん、きょうはなにをすればいいんですかー?」 前アーチャー「いつものようにティッシュ配りしてくれ」 ライダー「ティッシュ配り?」 凛「何々……『あなたもお金持ちになれる』 『変態的エネルギーを、健全に世界の調和と繁栄のために生かそう』、胡散臭いー!」 前アーチャー「何を言いやがる。こうやって、俺達英霊は数を増やしてきたのよ」 ライダー「英霊って、ティッシュ広告で増えるのね」(汗) 前アーチャー「まあ、ライダーほどの女なら、 オーストラリアからでも分かるくらい強烈なオーラがあるから、スカウトしに行くがな」 イリヤ「ライダーさんは凄いんだ……」(汗) 前アーチャー「イリヤ達もバイトして行け。子分と妾(セフレ)を増やして、 いずれは世界征服によって、学校のブルマを復活させるのよ」 凛「当初の目的が替わってない?」 前アーチャー「つべこべ言わずに、この着ぐるみの中に入れ」 イリヤ「私達は着ぐるみなんだ……」 牛御前 (凛)「うーん、これって足の部分がもっさりしてるから、歩きづらい」 清姫(ライダー)「リンはいいわよ。私なんて、カゴの中からティッシュを渡さなくちゃいけないし」 スキュラ(イリヤ)「この着ぐるみ、どうなってるの……何だか、あっちこっちに変なのが伸びてる」 前アーチャー「メイド部隊の分は用意できなかったんで、三人が馬車馬のように働けぃ」 牛御前 (凛)「はいはい。ティッシュどうぞー!」 スキュラ(イリヤ)「ティッシュどうぞー……うう、動きにくい」 清姫(ライダー)「ティッシュ、いかがかしら……もっと可愛らしいデザインの方が良かったわ」 前アーチャー「何言ってるんだ。この格好なら、ビビッた通行人が固まるから、渡しやすいじゃねーか」 スキュラ(イリヤ)「嫌がらせに近いよ、これじゃ」 前アーチャー「これこそ、正に天才の発想よ。それに、可愛らしいマスコットは天上天下、俺一人でいいのよ」 牛御前 (凛)「本音が出たな……」 清姫(ライダー)「でも、あそこの子なんか、とっても可愛らしいじゃない」 子分5頼豪阿闍梨 「………」(ゴバッ) 牛御前 (凛)「う、うわ、口から何か出た!」 スキュラ(イリヤ)「ひっ!」 前アーチャー「どうだ、驚いただろ? あれで驚いて止まった通行人にティッシュを渡すわけよ」 牛御前 (凛)「いつか、心臓麻痺起こした遺族に訴えられても知らないわよ」 ~~二時間後 ライダー「ふう、やっと終わったわね」 イリヤ「リンさん、ライダーさん、お疲れ様」(にこにこ) 綾子「離れたところから見てたけど、三人とも大変だったなー」 凛「あら、綾子じゃない」 んー、まあ、いいお小遣い稼ぎにはなったわね。ねえ、綾子。みんなで美味しいもの、食べに行こうよ」 綾子「いいの? それは楽しみだな」 ライダー「あら、アーチャーは?」 イリヤ「バイト代くれたあと、着ぐるみを片付けるって、持って行ったよ」 子分6ソロモン・イブン・ガビーロール「ああ、おにゃのこの匂いが ……汗の湿り気が……最高すぐる(*゚д゚*)!」(もふもふ) 前アーチャー「どうだ、いいだろう」 子分6ソロモン・イブン・ガビーロール「着ているだけで、妊娠してしまいそうだお(´Д`;)」 前アーチャー「どうやったら、着ぐるみ着ただけで妊娠するんだよ!」 子分6ソロモン・イブン・ガビーロール「……はぁはぁ(´Д`)」 前アーチャー「また使うから、頼むから汚すのやめてくれ……」 子分6ソロモン・イブン・ガビーロール「えー(*`д´)!いいじゃないすかー アシュさんも好きな癖に今さらカマトトぶらないでくださいよー ……あれ?アシュさん?どこ逝くんすかー、ん?Σ( ̄△ ̄;)」 スキュラ・清姫・牛御前「………………」 子分6ソロモン・イブン・ガビーロール「(*1))))ガクガクブルブル」
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White Knight Epilogue アムステラ軍基地の敷地外、人目につかない地球人の廃屋。ホバーバイクを運んできたアレスが、中に声をかけると、イリヤナが顔を出す。 「時間がかかってすみません。コートも持ってきましたから着てください」 「悪いね」 アレスが持ってきたホバーバイクでイリヤナは所属する部隊に戻ることになった。ご丁寧に、道中の水と食料がいくらか積んであるところに、アレスの心遣いが感じられた。 「このバイク返せなくなるけど……」 「構いませんよ、私の私物ですから」 「いや構わなくないだろ」 「返してくださると言うのなら、いつでも、後日で構いません。また会えるでしょうから」 何でもないように言うアレスに、イリヤナは言葉を言い淀む。 「……会えないよ、戦争してる相手だから」 「そんなことはありませんよ、イリ」 相変わらずアレスの声は優しく、確信とともに放たれる。 「戦争は必ずしも、人間の関係を終わらせるものではありません。断ち切られた想いは、時間をかけて取り戻せます」 「……簡単に言うなよ」 「そう信じていますから」 イリヤナは自分が恥ずかしくなった。アレスは常に信じて行動し、誠意で応え、優しさで接してくれる。そんな青年に、自分は何をしてきただろうか、と思うと。 自分も、何か伝えたい。だがイリヤナの心が、上手く言葉を紡いでくれない。 「あの、さ……」 「何です?」 「……」 「……」 「また、会おう」 「はい。その日が来るのを楽しみにしています」 「それと……」 風が吹いた。二人の間を吹き抜け、草木のざわめきが囁き声のように聞こえる。本当に人の声が聞こえてくる。ついでに轟音としか言いようのない足音も聞こえてくる。 「アレスちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!」 「はっ!? エリザベート様!?」 イリヤナは目を疑った。ローブを着た若い女が、遥か遠くから高速で駆けてくる。いや、気づいたときはもう間近、飛び上がるとアレスに抱きついた。 「やっと見つけたー! 一晩帰って来なくて心配したんだからー! 何かあったのどうしたのとにかくおかえりー!!!!」 「うごじぇぢうわえあ! エリザベート様待ってください痛い!」 イリヤナの目の前でエリザベートと呼ばれた女は、アレスの頬にキスを連発する。 説明しよう。白盾騎士団のエリザベート枢機卿はアレスの師である。国教会に伝わる特殊な波動の修練を修めた彼女は、肉体年齢をある程度任意で操ることが出来るのだ。気が最高潮に達すればその姿は20代の瑞々しさを取り戻すこともできる。ついでに心も若返る。気がする。 「なになに、どこか痛いの怪我したの? すぐお医者さんいこっか、ほら肩貸してあげるから、抱きついてもいいのよ?」 「だーかーらー待ってください! ちょっとそっちで待ってて!」 女を引き剥がしたアレスは、襟を正してから改めてイリヤナに向き直った。 「コホン、イリ。何か言いたかったのでしょう」 「……」 「イリ?」 「いいから 乳 く り あ っ て ろ ぉぉぉ!!!!!!」 高速の右フックがアレスを遠き地平へと吹き飛ばした。 「あぁぁんの野郎ぉぉぉぉ、帰ってきてるのか? ぜってぇぇぇ許さねえ!」 損傷した邪蠍蟲とともに回収されたアクートは、治療もそこそこに基地内をうろつく。標的は、自分の顔に泥を塗ってくれた若造である。 「あの野郎の機体が戻ってるんだろ? ならどこかにいるはずだ、探せ!」 「は、はい!」 部下が駆け出そうとしたその時、廊下の先からストレッチャーで誰かが運ばれてくる。 「アレスちゃぁぁぁん、あの子なんなのぉぉぉぉ!? 何がどうなってるの~!?」 「ババア、ここまでだ。アレスのことはは医者に任せろ」 「シアンちゃん! ババアなんて呼んじゃいやん!!」 「るせぇ、90過ぎは神が否定しようとババアだ」 縋りつくエリザベートをシアンが引き止めている。アレスを乗せたストレッチャーは、そのままアクートの目の前を通り過ぎ、緊急治療室へ運ばれて行った。アレスの顔は見る影もなく腫れ上がっていた。 「……」 「ん、お前アクートか? お前らも誰かにやられたそうだな。アレスは白兵戦で殴り倒されたようだが、あいつをあそこまで打ちのめすたぁ、どんなゴリラだか……」 シアンが首を傾げる。 「俺はやってねえ……」 「あん?」 「なんでもねぇよ……」 先程までの荒れ様を収めたアクートは、基地の奥へ姿を消して行った。 「……何が何だか」 シアンの呟きに答えてくれる者はいなかった。答えを聞いたところで呆れるだけだが。 イリヤナがO.M.Sの駐屯地にこっそり戻ると、仲間のレッドスネーク隊員たちが戦場に出ようとしていたところだった。 「あん、イリヤナか!? お前なんてカッコしてんだよ!?」 「色々あったんだよジーン」 「おーい皆、捜索中止中止! 本人帰ってきたぜ!」 ジーンが呼びかけると、エトゥ、グエン。そして隊長のイブラヒムが義足を急がせながら、ついでにもう一人がぞろぞろとやって来た。 「無事だったかイリ」 「ま、まあな」 「良かった……」 「隊長……」 「心配したんだぜ、ボウズよぅ」 仲間たちはそれぞれに安堵の色を浮かべていた。そのことがイリヤナには少し意外だった。まだチームを組んでから間もない者が多く、イリヤナの方では深い感情も抱いていなかったのが事実だ。 なのに、自分の為に戦場まで探しに行くつもりだったらしい。これは、素直に嬉しかった。 「ボウズ? こいつ女じゃねえのか?」 「これから一緒に入れば分かるのさ、こいつの女郎っぷりがな」 後列にいた見慣れない男の疑問に、ジーンが本人には不服な回答をしていた。 イリヤナの見たところ、30歳前後か。片目に眼帯をした顔には、見かけ以上の年輪と戦歴を重ねた風格を漂わせている。身長は隊員の中で抜けて高く、鍛え上げているのだろう鋼のような筋肉を纏っている。 「誰だ?」 「昨夜合流した6人目の隊員で、メイズっつう奴だ」 108ターボ戦車の操縦者、グエンが紹介した。この老人も歴戦の傭兵だ。 「よろしくな嬢ちゃん」 「ん、よろしく」 その後、状況を確認したところ、レッドスネーク隊は損傷が激しいため、一度後方へ退き装備を整えることになったようだ。 その命令に食い下がりながら、イブラヒムたちはイリヤナの捜索を強行しようとしていたらしい。 「まったく、今回は嫌な敵に当たっちまったなぁ。せっかくBクラスに上がったってのに、またCクラスに落ちるかもしれねえな」 残念そうにぼやくジーン。それに対し、エトゥが宥める。 「仕方がありません、命あっての物種ですから。生還できたことを吉としましょう」 「そうだな、お前とイリは今回やばかったからな」 「そういえば――」 グエンがイリヤナの方を見る。 「あのムカデが現れる前、ボウズが何か言ってたっけな」 「ああそうだった、それで周囲を警戒したんだったよな」 「ジーンも覚えてるか。このボウズのおかげで、難を逃れられたのかもしれねえな」 「そうだなあ。じゃあこいつはうちのラッキーボーイだな、幸運を運んでくれるんだ」 「ボーイとかボウズとか、お前らなぁ……」 脇で聞いていたイリヤナが年長二人を睨みつけると、グエンとジーンは笑いながら距離をとっていつでも逃げられる体勢を取った。 「なるほど、ジャジャ馬のようだな」 メイズの微笑混じりな声。イリヤナが顔を赤くすると、取り巻く一同が明るい笑い声を上げた。 どこまで行っても漆黒の宇宙空間を、アムステラの艦船が亜光速で切り裂いていく。長距離巡航モードで航行する船は、次第に距離を落とし、通常の航行モードに移行した。 アムステラ正規軍の船ではない。黒色の艦体に固有のエンブレム。国教騎士団の保有する、それも特定の騎士団にのみ与えられる専用艦だ。 阿羅帆級突撃艦・5番艦『摩季獅』。 国教会・幻魔騎士団が5番隊の旗艦である。 「通常航行へ移行完了。位置確認」 「位置確認了解。座標にズレ無し。中継基地まで距離350000」 「了解。ヘルストローム卿、他の艦にも異常見られません」 「分かった。ドックに着艦後、24時間の休憩に入る。交代で休息を取れ」 「了解しました」 指示を出し終わると、黒衣に黒髪の騎士・ヘルストローム――ヴァイサリィ・ヘルストローム卿は、眼を閉じてしばし黙考に浸った。。 基地に着くと、上陸や補給等の手続きが行われ、各艦に物資が次々と積み込まれていく。 一通り執務を終えたヴァイサリィが自室に戻ると、従卒が封筒を差し出して来た。「何か?」と問うように、ヴァイサリィの鋭い眼光が従卒を射ぬく。 「た、隊長、御手紙が届いております。アレス様からです」 「……置いておけ」 「はい。では失礼します……」 一礼した後、そそくさと従卒が退室する。ヴァイサリィの側に仕える者は一ヶ月で胃に穴が開くと言われているが、かの従卒も長くもちそうになかった。ヴァイサリィは封筒を開け、手紙を始めの数行読んだ後、手で握りつぶした。 ヴァイサリィの手から黒い炎が迸り、手紙は瞬く間に灰になった。 「まだ、“そんなこと”に現を抜かしているのか、弟よ……」 ヴァイサリィの闇のように暗い瞳が、同じく漆黒の宇宙を見据える。彼らが目指す地球まで今しばらくの時を要する。彼らが炎に包むべき星まで、今しばらく……。 <終>
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Fighting orchestra/戦奏(3) ◆JZARTt62K2 「この、叫び声は……!?」 薫との戦闘の最中、プレセアは何者かの悲鳴を聞いた。 魂から絞り出したかのような叫び声は長く尾を引いた後、力尽きたように薄れていく。 誰かが、戦いに敗北したのだろう。 (一体、誰が……!) プレセアは焦った。もしかしたら、今の悲鳴が仲間のものかもしれないからだ。 なにせ、ジーニアス達は2対4の戦いを強いられている。苦戦しないわけがない。 (これは、かなり厳しいですね……) 決していいとは言えない戦況に、プレセアは危機感を募らせた。 そもそも、こんな泥仕合になるはずではなかったのだ。 本来ならプレセアがすぐに薫を倒し、ジーニアス達に合流する予定だった。 だが、甘かった。 プレセアは、薫の実力を完全に読み違えていた。 「余所見してる暇はねーぞぉっ!」 薫が念動力のハンマーを作り、滅多矢鱈に振り回してくる。 プレセアは攻撃を避け、時には防ぎ、そして反撃した。 鉄の戦槌が薫を打ち据えようと唸りを上げる。 しかし、攻撃は届かない。鉄槌が敵に触れる直前で、ガチン、と音を立てて見えない壁にぶつかってしまう。 薫の張るバリアに当たったのだ。 念動力の壁は破れないほど強固なものではなかったが、どうしても威力と速度は殺がれる。 グラーフアイゼンがバリアを打ち破っている間に、薫は後ろに逃げてしまった。 結果として、全くダメージを与えられない。こんなことが何度も繰り返されていた。 (予想外に厄介な相手ですね) 明石薫のスペックは圧倒的だった。 攻撃では威力が高い衝撃波を連発し、防御においてはいつでも展開可能なバリアがある。 更に空も飛べ、障害物を持ち上げることまでしてくる。 強い。プレセアは、素直にそう思った。 それでも、ここでこれ以上時間を取られるわけにはいかない。 さっきの悲鳴がジーニアス達のものだったら、もはや一刻の猶予もないのだから。 (後先考えている余裕はありません) プレセアは、グラーフアイゼンを両腕でしっかりと握り締める。 今までは怪我をしている右肩に気を使っていたが、そんなことを気にしていられる状況ではない。 武器を持ち直したプレセアが前を見ると、無数の石ころが宙に浮いていた。 薫による物体操作である。 念動力によって浮いた石々が、羽虫のように空中で蠢いている。 警戒を強めるプレセアは、ふと、石の軍隊を挟んで苦しそうな顔の薫を見た。 「ハァッ……ゼェッ……」 好き勝手に暴れていた薫も、流石に体力が尽きてきたようだ。 それはつまり、薫も賭けに出たということ。 「……これで、決着しそうですね」 「ああ……。あたしの勝ちでなぁっ!」 薫の敵意を全身で受け止めながら、プレセアはハンマーを持つ腕に規格外の力を篭めた。 EXスキルのひとつ、――マイトチャージ。 プレセアが力を込めている間にも、撃ち出されるのを待つだけの石群は次々と増えてゆく。 幾多もの石の弾丸がプレセアに狙いをつけ、女王の命令を待ち焦がれた。 石を従えた女王と、鉄を携えた戦士が対峙する。長かった戦いにも、遂に終焉が迫る。 始まりの合図は、薫の号令。 「行けぇ石どもっ! サイキック・ショットガン!」 薫の命令によって無数の石が銃弾となり、プレセアに向けて突撃する。 津波のように打ち寄せる、数多の石弾。 「――はあぁっ!」 プレセアは、その銃弾の雨に突っ込んだ。 石礫がプレセアの腕を、腹を、脚を、貫き撃ち抜き食い破る。 それでもプレセアは止まらない。 グラーフアイゼンで頭だけを防御し、顔面から飛び込むような形で石の雨を突き抜けた。 プレセアがとったのは力づくの作戦。本当に何の芸もないただの突進。 石の槍衾を突破したとき、プレセアの身体はボロボロになっていた。 肉は削れ、血は噴出し、無事な場所などひとつもない。 だが、生きている。 「マジ……かよ!?」 プレセアが顔を上げると、驚きの表情を形作っている薫の顔が間近にあった。 『肉を切らせて骨を断つ』を地でいく無茶苦茶な攻撃は、確かに成功したのだ。 「……終わりです」 プレセアは呟くと、グラーフアイゼンを振り被った。 「ちぃっ」 振り被られた鉄槌を見た薫が慌てて見えない壁を張る。 それに構わず、プレセアはグラーフアイゼンを振り下ろした。――地面へと。 「は?」 呆けた声を出す薫の足元で、土が抉れて飛び散った。 空振り。 薫の代わりに地面を穿ってしまったプレセアは――しかし、鉄槌を振り上げなかった。 グラーフアイゼンは地面に突き刺さったままである。 これは“空振りではあっても失敗ではないのだから”。 「――塵と化しなさい!」 瞬間、地面が爆ぜた。 グラーフアイゼンが突き刺さった場所を中点として大爆発が巻き起こる。 「奥義、烈破焔焦撃!」 爆炎は地面を焼き、空気を焙り、そして明石薫を吹き飛ばした。 念動力のバリアも、真下からの爆発に対しては無力である。 吹っ飛ばされた薫は空高く放り投げられると、茂みの奥へと堕ちてゆく。 悲鳴すら上げることなく、バベルの誇るレベル7の超能力者、ザ・チルドレンはプレセアの視界から消え失せた。 「敵、殲滅完了――」 後に残ったのは傷を負った少女と、焼け焦げた巨大なクレーターのみ。 長く続いた二人の戦いは、ここに終結した。 しかし、全ての戦いが終わったわけではない。 「早く、行かないと……」 プレセアは、勝利の余韻に浸ることもなく駆け出した。 ジーニアス達の下に向かい、援護するためだ。 けれども、体調は万全とは程遠い。 石礫を喰らった手足は傷だらけで、右肩の傷は殆ど開いてしまっている。 出血もひどく、焼け付くような痛みが身体全体を軋ませる。 プレセアは顔をしかめながらも、脚を動かすことを止めない。 激痛を抱えながら、うつろな魂は走り去った。 ――そして、静寂が訪れる。 プレセアが去った後、森は急激に静かになった。 二人の戦いによって、獣や鳥や虫といった森の生物が完全にいなくなってしまったためだ。 もはや、この周辺の森に生きているものは一つもない――。 否。 まだ、息をしているものがあった。 「うー…………」 明石薫は、生きていた。 身体中に火傷を負っており服もボロボロだったが、かろうじて呼吸をしている。 無意識のうちに作り出した力場が爆炎のダメージを和らげ、落下の衝撃を最小限に抑えたのである。 プレセアが生死確認を行わなかったことも大きかった。九死に一生を得るとはまさにこのことだ。 茂みに埋まっている薫は、苦しげに顔を歪めている。――ふと、その茂みに異変が生じた。 呻き声を上げる薫の周りで、一人でに石ころが持ち上がったのだ。 念動力による物体操作。 しかし、薫は意識など取り戻していない。 「あ゛ー…………」 薫が再び呻き声を上げ、それに呼応するように石ころが旋回した。 異変はそれだけではない。薫が何か動作をするたびに、周囲の物が空を飛ぶ。 石に葉、土に枝。遂には倒木までもが飛行し出す。 あらゆるものがグチャグチャに飛び回る中、薫がむくりと起き上がった。 しかし、白目で頭をカクカク動かしている姿は、普段の薫からは想像もつかない。 当然だ。薫は今、自分の意志で動いていないのだから。 薫の脳は、とうの昔に限界を迎えていたのである。 「の゛ー…………」 石や木を引き連れたまま、薫がよちよちと歩き始めた。 一歩を踏み出すたびに周りの倒木が持ち上がり、薫を中心として狂ったように飛び回る。 無心の女王が物言わぬ兵隊達を引き連れ、本能のままに行軍してゆく。 ――オーバーヒート。 脳がまだ完成しきっていない子供が強力な超能力を行使し続けることにより、能力が暴走する現象。 その際、能力者は意識を失ってしまい、行動は予測不可能となる。 なお、暴走時の能力は威力がケタ違いに上がっているため、注意が必要である―― ※ ※ ※ ※ ジーニアスの目の前で、黒焦げになった何かがゴミのように転がった。 数秒前までイキモノだったそれは、もはやただの黒い塊にしか見えない。 イリヤの放った火炎弾が、ジーニアス達を守っていたウツドンを焼き殺したのだ。 「あ、あああぁぁ」 陽炎の中、ジーニアスは思わず膝を突きそうになる。 今まで共に戦ってくれたウツドンが死んだことが悲しく、悔しい。 だがそれ以上に、現状のあまりのどうしようもなさに目眩がしてくる。 すぐ前には、敵に押さえ込まれていて動けないアルルゥ。 ウツドンを焼き殺した炎の先には、無傷で立ちはだかる3人の魔術師。 どう考えてもジーニアス一人では攻略不可能な壁だ。 どれだけ強力な晶術を使っても、悪足掻きにしかならないだろう。 (――って、ダメだ! ここでボクが諦めたら、全てが終わる!) ジーニアスは諦めかけた自分に活を入れ、折れかけた心を修正する。 どれだけ絶望的な状況に陥っても希望を捨てることだけはできない。 精神を奮い立たせたジーニアスは、汗でベタベタになった手の中のカードを見た。 それは、アルルゥが落とした『駆』のカード。アルルゥを抱えた時に抜け目なく回収していたのだ。 (……やるしか、ない) カードを見つめたジーニアスは、心の中で呟く。 意は決した。後はただ、進むのみ。 ジーニアスはカードに魔力を込めた。敵の魔術師やアルルゥを見て使い方はわかっている。 青髪の魔術師は、カードに全神経を集中させた。裂帛の気合とともに。 (ドワーフの誓い第16番、『成せばなる』!) ジーニアスの身体を風が包み込み、『駆』のカードが発動する。 『駆』は、短距離勝負で無敵のスピードを誇る獣。使用者に最速の足を与えるカードである。 クロウカードの力によって俊足を得たジーニアスは、力強く地を蹴り飛ばす。 ――そして敵に背中を見せ、一目散に逃げ出した。 「ッ! 仲間を見捨てるの!?」 背後から、驚いたようなさくらの叫び声が追って来る。 アルルゥを完全に見捨てたのだ。当然の反応だろう。 それに対して、ジーニアスは吐き捨てるように応えた。 「ボクはまだ死ねないんだよ!」 その答えを聞いた少女達は、 「このッ……そこまで外道だとは思いませんでしたわ!」 ベルフラウは怒り、 「ウソ、本当に、逃げちゃうの……?」 梨々は戸惑い、 「ひどいよ!」『一緒に戦ってきた仲間じゃなかったんですか!?』 さくらとリインは悲しみ、 「やっと本性を表したわね! ほら、私の言った通りじゃない!」 イリヤは歓声を上げ、 「…………」 アルルゥは無言を通した。 それら一切合切を無視して、ジーニアスは背後の森に飛び込んだ。 と、すぐに倒木に足を取られ、無様に転倒してしまう。 「あはははははっ!」 『Chain Bind』 姿勢を崩したジーニアスを見て、嘲笑と共にイリヤが拘束魔法を放つ。 二本の魔力の鎖がジーニアスに襲い掛かる。 「……『駆』!」 が、ジーニアスは前転して姿勢を正し、再び『駆』を使用した。 転んだにも関わらず、流れるような動きで加速したジーニアスを捉え損ね、魔力の鎖が地面を貫く。 鎖を回避して走り出したジーニアスは、またも途中で腕を木にぶつけた。 バランスを崩し速度を落としたジーニアスが、ふらふらと森の中へと消えてゆく。 「ッこの! 逃がさないわよ!」 確実に狩れると思った獲物に攻撃を避けられたイリヤはムキになった。 S2Uを中段に構え、逃げる獲物を追い詰めるべく追跡を開始する。 「イリヤちゃん、一人で行っちゃダメ!」 「全く、さっきのことをもう忘れたのかしら!? しかたないですわね……梨々、その子は任せましたわ! あと、亜人のあなた! あんな下衆に見捨てられたからって気にする必要はありませんわよ!」 「う、うん。わかった!」 「…………」 ジーニアスを追って飛び出したイリヤの後に、さくらとベルフラウが続く。 梨々はアルルゥを押さえる役目があるため、一人でお留守番だ。 茂みが掻き分けられ、3人の人間が森へと消える。 4人が入っていった森からは、すぐに魔法による轟音が聞こえてきた。 戦争は、どちらかが全滅するまで終わらない。それが摂理だとでも言うように、子供達は戦い続ける。 だが、その戦闘から一時的に離脱できた幸運な者もいる。取り残された梨々とアルルゥだ。 「さくらちゃん、気をつけてね……。多分、警戒すべき人はあの男の子だけじゃないはずだから……」 イリヤとベルフラウを危険だと疑う梨々はさくらを心配し、 「うー……」 梨々に押さえつけられているアルルゥは、ジーニアスが消えた森をずっと睨みつけていた。 ※ ※ ※ ※ 「こ……のっ!」 『Accel Shooter』 殺意を孕んだイリヤの魔法が放たれる。何発もの光弾が獲物を食らおうと空を駆けた。 しかし、アクセルシューターが狙った場所に辿り着いたときには、獲物は既に消えていた。 弱弱しい背中を見せながら逃げるジーニアスは攻撃が当たる瞬間だけ『駆』を使用し、危なげながらもイリヤの魔法を避け続けている。 その度にイリヤは悔しそうに唇を噛み締め、S2Uを強く握り込む。 ジーニアスはふらつきながらも要所要所で『駆』を使い、なかなか狩られてくれない。 あと、少しなのだ。だが、その『あと少し』が、遠い。 イリヤは再びS2Uを構え、逃げるジーニアスを追おうとした。 直後、背後から『仲間』の声がかけられる。 「イリヤ、待ちなさい! 一人で先行してはいけないとあれほど言ったでしょう!」 追いついてきたベルフラウである。 その言葉に対して、イリヤも負けじと言い返す。 「だって、あと少しで捕まえられるのよ? もたもたして逃がしたら、また人殺しをするに違いないわ!」 「こちらの消費も考えなさい! あなただって、魔力が残り少ないのではなくて?」 「……ッ!」 ベルフラウの言葉に、イリヤは反論できなかった。 魔力が残り少ないのは確かだ。 魔術回路“そのもの”であるイリヤでも、度重なる戦いによってかなりの魔力を消費していた。 凶戦士の英霊すら軽く使役できるほどの魔力量を持つイリヤにも限界はある。 疲労もひどく、気を抜くと倒れてしまいそうだ。 だが、それでも。 (あと一人……あと一人殺せば回復できる) あと一人なのだ。ジーニアスさえ殺せれば、『ご褒美』で体力を回復できる。 アルルゥを殺してもご褒美は貰えるが、さくら達にバレないよう殺すのは骨が折れる。 『仲間』もまだまだ利用できそうであり、ここで切り捨てるのは得策とは思えなかった。 ならば、衰弱しているジーニアスを狩るのが一番効率的である。 皮算用を始めたイリヤの前で、ジーニアスがまた転倒した。 10メートルほど先の地面で、今にも死にそうな魔術師がふらふらと起き上がる。 それを見たイリヤの心に、焦りと後悔の感情が浮かび上がった。 こうして話している間に追いかけていれば、トドメが刺せたのではないだろうか? あれだけ弱った敵なら、流石に自分一人でも倒せるのではないか? イリヤは、決めた。 「もういい! 私一人でやるもん!」 「イリヤッ!」 ベルフラウの叫びを無視し、イリヤはジーニアスに向けて突進する。 それを見たジーニアスはすぐさま『駆』を使い、森の奥へと飛び込んだ。 それを追ったイリヤも森に消え、2人の姿はすぐにベルフラウの視界から消えた。 「このっ……もう知りませんわ!」 イリヤに拒絶されたベルフラウは頬を膨らますとそっぽを向く。 その後ろから、足音が近付いてきた。 少し遅れてしまっていたさくらが、ようやく追いついたのだ。 「はあっ、はあっ、ベルちゃん、イリヤちゃんは!?」 「勝手に先に行きましたわ。あんな子、どうにでもなればいいんです」 怒りを顕にしたベルフラウが冷たい言葉を吐く。 元々イリヤにいい感情を持っていなかったこともあって、ベルフラウは本当にイリヤのことなどどうでもいいと思っていた。 さくらは、そんなベルフラウを悲しそうに見た後、リインに尋ねる。 「リインちゃん。エリアサーチ、まだ使える?」 『は、はいです。使えますけど、でも、さくらちゃんの魔力が……』 「さくら、なぜそこまでしますの!? イリヤは私達の言葉を無視して行動しているんですのよ!」 あくまでイリヤを助けることに拘るさくらを見て、ベルフラウが昂ぶった。 さくらだって魔力を消費している。魔法の並列使用を行ったため、むしろ3人の中で最も消費しているかもしれない。 イリヤは、ここの島で始めて出会った、数時間しか一緒に過ごしていない相手だ。 勝手に突っ走って敵を捕まえようと――いや、むしろ殺そうとしている危険な少女。 普通に考えれば、さくらが身を削って助ける必要などないはず。 それでもさくらは言った。 「でも、見捨てることなんてできないよ。仲間なんだもん」 ベルフラウは声を詰まらせた。 さくらは、本当にイリヤのことを思いやっていた。 いや、イリヤだけではないだろう。さくらは、合って間もないはずの梨々も、ベルフラウも、敵でさえも思いやっている。 それが、木之本さくらという少女。 周りの誰かが傷ついたり、悲しんだりするのが見たくなくて。 その為に頑張って、苦しんで、傷ついて。 それでも、笑い続ける人間。まるで、あの先生のような―― ベルフラウは、髪をぐしゃぐしゃと掻き毟った。 そして叫ぶ。とても不機嫌そうに。 「ああもう! 何で私の周りには死ぬほど馬鹿なお人好しばかり集まるのかしら! ……わかりましたわ。行けばいいんでしょう、行けば!」 「ベ、ベルちゃん?」 「魔力切れの魔術師一人行かせるわけにはいかないわ」 「それは……」 「それに、今のあなた一人では碌に援護も出来ないのではなくて?」 「……うん。ありがとう、ベルちゃん」 「……それは偽名なの」 「ほえ!?」 「ベルフラウ。私の名前は、ベルフラウ=マルティーニですわ」 「あ、う、えっと……。ありがとう、ベルフラウちゃん」 「うん。わかればよろしい」 急な名前変更宣言に慌てるさくらを見て、ベルフラウは笑った。 それは、この島に着てから始めて浮かべた、無敵の笑顔。 その笑顔を見たさくらは、戸惑いながらもおずおずと笑みを返す。 「止めよう。あの男の子を、イリヤちゃんを、戦いを。大丈夫……私達なら、絶対大丈夫だよ」 「ええ。こんな馬鹿らしい戦いは、さっさと終わりにしてしまいましょう」 『はい、リインも頑張るです!』 頷き合った三人は、イリヤを追って駆け出した。 その途中で、ふとベルフラウは考える。 ――それにしてもあのジーニアスって少年、動きが何か変でしたわね。 まるで、攻撃範囲ギリギリに陣取って敵をおびき出す『誘い込み』をしているような―― ※ ※ ※ ※ 「よかった……。ちゃんと、付いて来てる」 ジーニアスは、泥で汚れた口元を拭いながら呟く。 後ろを盗み見ると、遠く離れた木々の隙間にイリヤがいるのがわかった。 それを確認したジーニアスは“わざと”木の根に蹴躓き、できるだけ無様に見えるように転んだ。 ジーニアスの転倒を見たイリヤは速度を上げ、トドメを刺そうと一気に接近する。 地面に這い蹲っていたジーニアスはすぐに起き上がり、再び『駆』を使って逃げ出した。 不恰好に。ただ、不恰好に。 (これで、十分アルルゥから引き離せたかな) イリヤさえ傍にいなければアルルゥが殺されることはない――。それが、ジーニアスの考えだった。 イリヤは自分達に問答無用で襲い掛かり、翠星石を殺した殺人鬼だ。 機会があれば何の躊躇もなくアルルゥを殺すだろう。 だが、他の少女達はどうだろうか? イリヤに騙されている、他の少女達はどうだろうか? イリヤが自分を殺そうとしたときにイリヤを非難した、魔術師の女の子はアルルゥを殺すだろうか? ウツドンが殺されたときに思わず目を伏せていた、コレットに似た女の子はどうだろうか? 敵であるはずのアルルゥに励ましの言葉を送った、高飛車な女の子は? 多分、大丈夫だろう。 あれだけ優しい少女達なら、間違ってもアルルゥを殺したりはしないはずだ。 (それに、裏切りに対してあれだけ怒る人に、悪い人はいないはずだしね) ゼロスの裏切りに怒り、悲しみ、悔やみ抜いたロイドのように。 ならば、残る問題はイリヤだけ。 イリヤさえ自分が引き付ければ、アルルゥの安全は保障される。 (それなら、僕のプライドなんて安いもんだ。喜んで悪役になってやる!) つまり、ジーニアスは“わざと”無様に逃げるフリをし、イリヤを引き付けていたのだ。 ただ、アルルゥからイリヤを引き離すためだけに。 現在、事はジーニアスの思惑通りに進んでいる。 このままいけば――いずれ自分は追い詰められるだろう。 残る魔力は少なく、イリヤの気を引くための演技で身体は傷だらけだ。 (ごめん、プレセア。アルルゥのことは任せた。それとごめん、ベッキー。約束、守れそうにないや。でも、それでも――) ジーニアスは、小さく吼える。 「翠星石の仇だけは、絶対取るから……!」 牙を隠した獲物と狩人の追走劇も既に終盤。 ジーニアスが『駆』を使い、イリヤが追撃をかけるというループが終わろうとしている。 ちょうどその時、どこか遠くで爆発音が響いた。 ※ ※ ※ ※ 城の前にある森は、見るも憚られる惨状を呈していた。 多くの木が薙ぎ倒され、あちこちで火が上がり、爆発まで起こっている。 その上空に、浮かぶ影が一つ。 「あら、なかなか楽しそうなことをしているわね」 永遠に赤い幼き月。幻想郷のヴラド・ツェペシュ。紅い悪魔。 レミリア・スカーレットは、その黒翼を大きく揺らす。 レミリアは戦場と化した森を見下ろすと、小さな唇の端を吊り上げた。 「さて、どこから蹴散らそうかしら?」 悪魔が乱入し、舞台はますます混迷を極め始めた。 運命の針が狂い出す。 想いは全て空回り。 デウス・エクス・マキナなど顕れない。 カーテンフォールには未だ遠く。 少年少女は踊り続ける。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【追う魔術師と追われる魔術師】 【ジーニアス・セイジ@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、全身に擦り傷 [服装]:普段着、足は快速シューズ。 [装備]:ネギの杖@魔法先生ネギま!、快速シューズ、クロウカード『駆』 [道具]:ナマコ型寝袋、支給品一式、木村先生の水着@あずまんが大王、モンスターボール(空)@ポケットモンスター 海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り(快速シューズ))@ドラえもん [思考]:負けてたまるかぁっ! 第一行動方針:アルルゥがいる場所から十分イリヤを引き離したら、相討ち覚悟でイリヤに特攻する。 第二行動方針:プレセアなら薫を倒せると信頼しているが、やっぱり心配。できればアルルゥのことを任せたい。 第三行動方針:もし生き残れたら、後で改めて湖底都市を探索する。 基本行動方針:主催者の打倒 参加時期:ヘイムダール壊滅後。ちなみにあえてクラトスルート。 [備考]: ジーニアスは、薫がゲイボルグを投げた人物なのでは、と疑っています。 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】 [状態] 魔力消費(大)、疲労(大)、全身に切り傷(応急手当済み、命に別状はない) [装備] S2U@魔法少女リリカルなのは、凛のペンダント@Fate/stay night [道具] 支給品一式 [思考] ひとりで殺れるもん! 第一行動方針:ジーニアスを殺す。できればさくら達に殺害現場は見せたくない。 第二行動方針:できるだけ悪評を流せる者を少なくしてこの状況を抜けたい。 第三行動方針:とにかく生き残りたい。 基本行動方針:優勝して、自分の寿命を延ばす。 ※セイバールートの半年後から参戦。 ※イリヤのついた嘘の内容 翠星石を殺したのはジーニアス レンを殺したのは正体不明の魔術師 はやてには会っていない ※桜と梨々の知り合いの情報を聞いている。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【イリヤの援護に向かう二人】 【木之本桜@カードキャプターさくら】 [状態]:血塗れ、左腕に矢傷(処置済)、魔力消費(大) 、疲労(大) [装備]:パワフルグラブ@ゼルダの伝説、クロウカード『水』『風』 リインフォースII(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのはA s [道具]:基本支給品 [服装]:梨々の普段着 [思考]:大丈夫。きっと、止められる! 第一行動方針:誰も殺さずにこの状況を収めたい。当面の目標はイリヤの援護とジーニアスの捕獲。 第二行動方針:リインのエリアサーチを定期的に使いながら移動し、友達を探す。 第三行動方針:他にも協力してくれそうな人を探す。 基本行動方針:襲われたら撃退する(不殺?) [リインフォースIIの思考] リイン、がんばるです! ※永沢、レックス、ジーニアスを危険人物と認識。梨々の知り合いの情報を聞いている。 【ベルフラウ=マルティーニ@サモンナイト3】 [状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、精神的疲労(まだ完全ではない)、墜落による軽い打撲傷 [服装]:『ザ・チルドレン』の制服姿(野上葵の物) [装備]:クロウカード『火』『地』 [道具]:支給品一式、湿ったままの普段着 [思考]:あの少年……まさか! 第一行動方針:ジーニアスを捕獲する。イリヤは気に入らないが、さくらが行くようなので一緒にイリヤを援護する。 第二行動方針:召喚術師と交渉し仲間になってもらいたい。リインと八神はやてに期待。 出来ればメイトルパの少女(アルルゥ)とも交渉したい。 ジーニアスに裏切られたところを見たため、アルルゥにはやや同情的。 第三行動方針:みかの安否が心配。早く戻って合流したいが危険には巻き込みたくない。 第四行動方針:殺し合いに乗らず、仲間を探して脱出・対主催の策を練る。 基本行動方針:先生のもとに帰りたい。 [備考]: ベルフラウは、ロワの舞台がリィンバウムのどこかだと思っています。 ロワの舞台について、「名もなき島」とほぼ同じ仕組みになっていると考えています。 (実際は違うのですが、まだベルフラウはそのことに気づいていません) ベルフラウは、レックスが名乗るのを聞いていません(気絶していました)。 余計な危険を少しでも避けるため、ベルとだけ名乗っています……が、勢いでさくらに名乗ってしまいました。ダメダメです。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【捕らえる怪盗と捕らわれた獣使い】 【梨々=ハミルトン@吉永さん家のガーゴイル】 [状態]:右腕骨折及び電撃のダメージが僅かに有り(処置済) 。 イリヤとベルフラウに確信的疑念。若干精神不安定。 [装備]:白タキシード(パラシュート消費)&シルクハット@吉永さん家のガーゴイル :タマヒポ(サモナイト石・獣)@サモンナイト3、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3 [道具]:支給品一式 [服装]:白タキシード&シルクハット [思考]:この子に話を聞けば何かわかるかも……。でも、また嘘を吐かれたらっ! 第一行動方針:生き残りたい。さくらだけは信じている。 第二行動方針:ベルフラウは間違いないと言っていたが、アルルゥが本当に危険人物か確かめたい(ベルフラウが嘘を吐いていると思っている。 第三行動方針:双葉かリィンちゃんの友達(はやて優先?)及び小狼を探す。 第四行動方針:殺し合いに乗ってない人と協力する。 ※永沢、レックス、イリヤ、ベルフラウを危険人物と認識。薫の事も少し疑っている。 ※ランクB~Aの召喚術のため、梨々はワイヴァーンを使えません。タマヒポは使えます。 ※桜の知り合いの情報を聞いている。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、背中に大きな裂傷、頭にたんこぶ、梨々に捕獲されている [装備]:なし [道具]:基本支給品(食料-1)、クロウカード『泡』 [服装]:普段着である民族衣装風の着物(背中の部分が破れ、血で濡れている) [思考]:う~(ジタバタ) 第一行動方針:なんとかサモナイト石を取り戻して脱出したい。見捨てられたため、ジーニアスに対して強い敵意と不信感。 第二行動方針:イエローや丈を捜したい。放送前には城に戻る。 基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。 参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後 [備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。 ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。 サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【仲間の救援に向かう戦士】 【プレセア・コンパティール@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:体力消耗(大)、中度の貧血、右肩に重度の裂傷(処置済+核鉄で、なんとか戦闘可能なまでに回復していたが、再び傷が開きかけている) ツインテール右側喪失、思いきりハサミにトラウマ的恐怖、全身に無数の裂傷 [装備]:グラーフアイゼン(ハンマーフォルム)@魔法少女リリカルなのはA’s、エクスフィア@テイルズオブシンフォニア [道具]:カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA’s、支給品一式(生乾き、食料-1) [服装]:冒険時の戦闘衣装(ピンク色のワンピース、生乾き) [思考]:二人とも、どうか無事で……! 第一行動方針:ジーニアスとアルルゥを援護する。イリヤには容赦無し。 第二行動方針:放送前には城に帰還して、レミリアと合流。 基本行動方針:ジーニアスとアルルゥが生きている間はゲームに乗らない。レミリアの捜し人を捜す。 [グラーフアイゼンの思考]:話しかける隙がない……。 ※プレセアはアリシアの死を知った以降から参戦。 ※グラーフアイゼンはこの状況を警戒しています。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【チルドレン暴走中】 【明石薫@絶対可憐チルドレン】 [状態]:暴走状態。全身打撲及び火傷。 [装備]:なし [道具]:基本支給品、バレッタ人形@ヴァンパイアセイヴァー [服装]:バベルの制服(焼け焦げてボロボロ) [思考]:の゛ー………… 基本行動方針:無差別攻撃。 [備考]:脳がオーバーヒートを起こしたため、暴走状態に陥りました。 周囲の物を手当たり次第に念動力でぶん回し、突発的に大爆発や地割れなどを引き起こします。 一定時間経つとぶっ倒れて元に戻るかもしれませんし、戻らないかもしれません。 【E-4~F-4のどこか/空中/1日目/夕方】 【悪魔襲来】 【レミリア・スカーレット@東方Project】 [状態]:魔力消費(中) [装備]:飛翔の蝙也の爆薬(残十発)@るろうに剣心、シルバースキンAT(ブラボーサイズ)@武装錬金 [道具]:支給品一式(食料-1)、思いきりハサミ@ドラえもん、クロウカード1枚(スイート「甘」) [服装]:シルバースキンAT(シルバースキンの下は全裸、服は洗って干している) [思考]:ちょっとだけ、私の時間を使ってあげるわ。 第一行動方針:とりあえずプレセア・アルルゥと合流。 または、そこらへんのやつを捕まえてフラン・レイジングハートなる人物・喋る杖の事を聞き出す。 第二行動方針:フランを知っている瞬間移動娘、及びフランをプレセア達に探させる。 第三行動方針:服が乾き、なおかつ時間があり、更に気が乗っていたら爆薬で加速の実験をする。 基本行動方針:フランを捜す。ジェダは気にくわない。少しは慎重に、しかし大胆に。 ※フランドールに関する情報、 『紙の束』『赤い宝石』『レイジングハートと遊ぶ』『喋る杖』『貴女自身の魔法、スペルカードを使ってください』『仮面の女』 を手に入れました。 【F-4/橋/1日目/夕方】 【戦場に向かう二人】 【レベッカ宮本@ぱにぽに】 [状態]:背中に裂傷(応急処置済)、疲労(中) [服装]:普段通りの服と白衣姿 [装備]:木刀@銀魂、魔導ボード@魔法陣グルグル、救急箱(プレセアの治療に使われたもの) [道具]:支給品二式、15歳のシャツ@よつばと!を裂いた布、宇宙服(最小サイズ)@からくりサーカス [思考]:ジーニアス、死ぬなよー! 第一行動方針:ジーニアス達の援護に向かう。 第ニ行動方針:殺し合いのゲームに乗っている奴がいたら、ぶっ飛ばす。 第三行動方針:後で改めて湖底都市を探索する 基本行動方針:主催者の打倒。 参加時期:小学校事件が終わった後 【福富しんべヱ@落第忍者乱太郎】 [状態]:体のあちこちに軽い傷、疲労(大)、びしょぬれ。 [装備]:なし [道具]:ヒラリマント(チョンマゲに纏わりつくように引っかかっている) [思考]:ま、まってよう! [備考]:凶暴化は一旦治った後、何かのきっかけでフラッシュバックのように再発した例も報告されています。 体力消費が激しいため、いつ気絶してもおかしくない状態です。 【ウツドン 死亡】 ≪140 Firing line/火蓋 時系列順に読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪142 原点 投下順に読む 144 三宮紫穂の憂鬱(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 ジーニアスの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 プレセアの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 アルルゥの登場SSを読む 154 歪みの国のアリス≫ ≪140 Firing line/火蓋 イリヤの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 梨々の登場SSを読む 154 歪みの国のアリス≫ ≪140 Firing line/火蓋 桜の登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 明石薫の登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 ベルフラウの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 レミリアの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 しんべヱの登場SSを読む 157 全世界ナイトメア≫ ≪140 Firing line/火蓋 ベッキーの登場SSを読む 157 全世界ナイトメア≫
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【3日目開始】 夢を見た アイツが消えた日 それは、イリヤから初めて笑顔が消えた日 セラもリズも、イリヤを心配していた 見るに耐えられなかった まだ幼いイリヤに突き付けられた『現実』が だから、俺は誓ったんだ あの子を―――と だが、それはいつしか――― 目が覚めた。さすがに3日もすれば、この天井にも見慣れてくる 俺は大きく伸びをすると、体の状態を確認した 魔力回復量――正常 魔力許容量――前日より減少 肉体による負担――異常無し やはり、魔力不足か… 1日目は『アーチャー』『ランサー』との連戦 2日目は『バーサーカー』との戦闘 それに加えて、『セイバー』を運用する際に伴う魔力消費量 霊化ができない、と言うのも消費の理由だが 『セイバー』の戦闘スタイルは俺とは合わないかもしれない 己がサーヴァントを十全で戦わせられないとは… 初めから予想していたことだが、『セイバー』には申し訳ない だが、最初と違って思う事もある それは、彼女の在り方は、俺と似ているところもあるんじゃないかと… バカバカしい、と俺は頭を振る 王様の在り方が俺と同じなんて それこそ『セイバー』に失礼だ そんな事を考えていると、ノックも無しに部屋のドアが開いた リズ「あれ、おきてた?ぐーてんたーく」 相変わらず気の抜けた返事だ 俺は苦笑して挨拶を返した 「ぐーてんたーく」 いつの間にか気持ちが楽になってる 本当にリズは不思議な子だと思う リズと同じく気の抜けた挨拶 表情は変わらないがリゼも満足そうだ セラ「リーゼリット、主人の部屋にノックも無しに入るとは何事ですか!」 セラ「それに、なんです、その挨拶は?」 後ろから入ってきたセラは、矢継ぎ早に言葉を捲し立てる 朝起きたばかりの俺には喧し…少し騒がしい 言い直したのは睨まれたからではない、断じて違う リズ「大丈夫、セラは嫉妬してるだけ」 リズ「やりたいならやれば良いのに、ぐーてんたーく」 ベッドの上にいる俺に、リズは右手を伸ばす 俺もそれに答えるように右手を伸ばしてハイタッチ パンッ と手と手の平が合わされる セラ「嫉妬とはなんですか、嫉妬とは!」 セラがまたお怒りになる 今日も、騒がしく大切な一日が始まった 着替えと朝食を終えた俺は、部屋で今後の事を考えていた 『アーチャー』『ランサー』『バーサーカー』 戦闘力の高いサーヴァントを悉く倒せた戦果は大きい だが、残るサーヴァントも、俺にとっては倒した三騎と同等に厄介だ 気配遮断スキルを持つ『アサシン』 探知を行えないということは、マスターにとっては天敵である 陣地作成スキルを持つ『キャスター』 戦いが長引けば有利な陣地で魔力を溜められているだろう 機動力において他を圧倒する『ライダー』 クラスの特徴から強力な宝具を有する可能性が高い 『ライダー』ならまだ運用法がわかりやすいから危険度は低くない 問題は『アサシン』と『キャスター』だ 両サーヴァントは、最弱など言われているが それは真っ向から対決した場合 効果的に使えばマスターによっては恐ろしい事この上ない ―――例えば、俺やアイツのように… はぁ、と息を吐く 夢の所為で少々ナーバスになっているのかもしれない まずは、情報だ 残ったサーヴァントの性質から日の高い内は出てこないだろう なら少しでも情報を収集し対策を練る さて、どうしようか 情報収集と言ってもやり方は何通りもある 戦闘が行われると考えれば、『セイバー』 若しくは、リズを連れていくべきだろう だが、『セイバー』は目立つ それにあの連戦だ 俺の顔は、残るマスターに割れていてもおかしくない それに、リゼを連れて行っても日中は目立つだろう 俺自身が単独行動に移せば目立つ事はない マスター相手には、引けを取らない自信はある だが、初日の事もある それに残るサーヴァントは搦手が得意な連中が多い アサシンに辺りに暗殺されては元も子もない なら、使い魔か… 俺は、サロンに向かいイリヤに使い魔の製作を頼んだ イリヤ「もう、お兄様ったら仕方ないんだから」 イリヤが笑顔でそう言った 頼られて嬉しいんだろうか、イリヤは何処か機嫌が良い 俺とイリヤは互いに顔を合わせて額を触れ合わせた イリヤを介して使い魔とリンクする イリヤ「……で、何処へ向かわせるの?」 「新都へ頼む」 撒いた『セイバー』の魔力を嗅ぎつけて 新都に向かったマスターがいないとも限らないし 外来のマスターなら新都の何処かに拠点を置くはずだ イリヤは、使い魔を操作し、森を抜けて新都を目指していく 使い魔が戻るのは『夕方の終わり』頃になりそうだ 「ありがとう、イリヤ」 俺はイリヤに礼を言って、サロンを出ようとした時だった …ッ! 脳に軽い痛みが奔る 俺は急ぎ、イリヤを診る イリヤも頭を押えているみたいだが、意識はハッキリしているみたいだ どうやら、新都に使い魔が付いた途端に使い魔からの情報が途絶えたようだ 使い魔が破壊されたか、若しくは強制的にリンクを絶たされたのか 新都に侵入した途端に発見されたとは… 陽が高い内に魔術を行使したのも原因か まぁ、これで『新都に魔術の知識を持つマスター』の存在は確定した 闇雲に探さずに済むと思えば良い もう昼食の時間か 俺は、頭を擦るイリヤを抱き上げた イリヤ「もう、子供扱いばっかり!」 そんなイリヤに俺は微笑んで、食卓へと向かった それは、昼食が終わって立ちあがろうとした時だった 急に世界が回る感覚を覚えた俺は、そのまま立ちあがれず座り込んでしまった イリヤ「お兄様!?」 セラ「旦那様!?」 「―――大丈夫だ」 セラが慌ててこちらに向かうのを手で制する 代わりに水を頼んだ セラは汲んだ水を、こちらに渡してくれる 俺は一気にあおって気分を落ち着かせた どうやら、魔力不足が起こした立ち眩みだろう 全く…まだ三日目だと言うのに情けないな 状況察したイリヤ達と俺は、話し合いを始めた セラ「…戦闘を控える、程度しか思いつきませんね」 セラ「魔術の鍛錬をすれば、消費魔力を下げられますが今からでは…」 リズ「うーん、いっぱい食べていっぱい寝る?」 「食べて寝るのは、今やっていることと同じだな」 2人の意見は似たようなものだった 消費を抑え、回復を優先 戦闘を控えるのは却下、残るサーヴァントが脳筋ばかりなら籠城はうってつけだ だが、『アサシン』や『キャスター』のようなサーヴァントには効目は薄い こちらの戦闘を観ているはずだ なら残った陣営で同盟を組んでいるということも、十分に考えられる 悠長に構えている暇はない それと、魔術をまともに覚えるのに一苦労する俺が 一朝一夕の鍛錬で良くなるとは思えないので、それも却下 セイバー「…情けないぞ、マスター」 『セイバー』が2人の意見を遮るように言葉を紡ぐ セイバー「万策尽きたという訳でもない、弱音を吐いてどうする」 セイバー「そなたは力がないならば、策を練る、そんなマスターだろう」 『セイバー』に至っては根性論に近い やれることをやれ、という事だろう だが、彼女の意見は『魔術使い』の考えたに通じるものがある 魔術を誇りに想うのは『魔術師』のやることだ。 俺にとって、所詮魔術など数ある道具の一つ 『魔術使い』ならば魔力を使わずに勝つ方法も視野に入れるべきか 『セイバー』には感心させられることばかりだ 初めは、『セイバー』クラスに不安を感じていたが 今なら確信出来る この『セイバー』が俺のサーヴァントで良かったと… 『セイバー』は俺にとって『道具』ではなく 『共に闘う仲間』となっていた イリヤ「私が『セイバー』のマスターになってあげられたら良かったのに…」 イリヤ「それか、お兄様に魔力を分けてあげる、とか?」 イリヤの意見 俺にとってはとても悩ませる、そんな発言だ セラも、同じ考えに至っていただろう だが、口を噤んでいる つまり、『イリヤすらこの戦果に巻き込むのか』 『魔術だけでなく』『イリヤも道具として扱うのか』 俺は、そう自分に問いかけた 『魔術使い』の俺ならば愚問だろう… 勝つ為なら、なんだって使ってやる だが、『イリヤが信頼』する俺はどうだ そう、これも愚問だ、その問いかけ自体が愚問なのだ 俺は、イリヤの案に乗らない 代わりに、イリヤの頭を優しく撫でた そして、首を振る はぁ、と嘆息してしまう 全く自分の無力さに嫌気が差す思いだ 「イリヤが戦う必要はない」 俺は断言する。これは俺がしなくちゃならない きっと、イリヤはずっと俺を気に掛けていてくれたんだろう 俺が使い魔の制作などをイリヤに頼るたびに、喜んだのはそのせいだ イリヤ「もう、お兄様は私を子供扱いするんだから…」 頭を撫でられているイリヤは、少し頬を膨らますが嬉しさのほうが強いのか その声色は柔らかい セラと、リズに視線を向けると、彼女達も小さく頷く 『セイバー』も満足そうに頷いた セイバー「それで良い、そなたが決めたのだろう」 そんな一言に、俺は苦笑した顔で返した 話している内に夕方になっていた。 そうと決まれば、やることをやっていこう 俺は、ヘルメットを小脇に抱えて『セイバー』に声を掛ける 「一緒に行こう」 セイバー「よかろう」 セイバーは何処となく機嫌が良い。 どうしたのだろうか? セイバー「で、何処へ向かう?」 「新都に行こうと思う」 使い魔の情報が新都に入った途端に途切れた マスターがいる確率は極めて高い 『セイバー』は頷き、俺の後ろに腰を下ろした 道路をバイクが走る 『セイバー』と二人でいるのは、実はそう多くない 二人でいてもお互い無言だ だが、居心地は悪くない 俺はそんな空気が好きだった 何も話さなくてもわかる、そんな空気が 新都の街に入り、手頃な場所にバイクを止める 使い魔の反応が消えたのはこの辺りか 俺と『セイバー』は歩を進めていく 目に留まったのは広い公園だった 公園に入り、しばらく歩くと遠くに人の姿が見える その居出立ちは白髪白髭の老人、その傍らには露出の高い服を着た少女 セイバー「……あの女の気配」 セイバーが警戒を強めていく 俺にもわかる、アレはサーヴァントだ しかしわからない、何故霊化を解いている? それに、マスターであろう あの白髪白髭の老人 だが、その『老い』からは『衰え』を感じない 老いてなお、あの威圧感 いや、老いたからこそ為せるモノなのか 俺の勘が嘯く あの男は強い その老人は公園の花壇を見つめている ???「……マスター、どうしたの?」 横に並び、花壇を眺める老人を見つめる少女 老人「……いや、妻の造園を思い出しただけだ『アサシン』」 俺は、その一言を聞き逃さなかった 『アサシン』だと…? あの老人は、気配遮断スキルを持つ『アサシン』をあろうことか 霊化を解き、隠れもさせずに戦っているというのか? 何故だ…?何のために? 陽動?囮? それにしても迂闊すぎるだろう 若しや、既に同盟を組んでいるのかもしれない それ故に…? 俺は、判断に迷った 相手はまだ此方に気付いていない もう少し様子を見るか… 老人と『アサシン』は会話を続けている アサシン「くえすちょん。次はどこへ行くの?」 老人「正々堂々と、マスターを探し倒す、わかったな『アサシン』」 …なんだと? 正々堂々と…? アサシンで…? あの老人は何を言っているんだ…? アサシン「わたしたちをそうやって戦わせるひとは珍しいよ?」 そうだ。その通りだ いや、珍しいなんてもんなじゃない 十人いれば十人が気配遮断を用いてマスターを暗殺させる 老人「そうだろうな、だがわしはそれが一番だと考えた、今のわしは騎士でありたい」 不満か?と老人が問えば、『アサシン』は首を振った …馬鹿な 馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な…! こんな戦いに騎士道を持ち合わせるだと…? 俺は、静かに怒りを燃やしていた 俺が感じた老人への強さはそんなのじゃない あれは、俺や、切嗣と同じ 魔術師なんかの誇りは持ち合わない 敵を殺すことを目的とする為なら手段は選ばない そうして来たからこそ、今の自分がいるんだろう…! それを、騎士道だ?決闘だ? ふざけるな―――! これは嫉妬にも似た感情 俺が抱いていたもの、俺が捨てたもの、いや諦めたもの それをあの老人は今も持ち合わす 気付けば、俺は老人の前に立っていた 『セイバー』も黙って俺の後を歩く 霊化が出来ない彼女は当然、実体のままだ 「おい爺さん」 俺は、苛立ちを隠さずに老人を呼んだ 老人「何か用かな、若きマスター君」 アサシン「…?」 俺と、『セイバー』を一目見ただけで、老人はそう口にした やはり、この老人は強い だからこそ、腹立たしい 自分に合った戦い方をすれば 『アサシン』を十全に発揮すれば この戦い、いとも容易く終わらせられるだろう―――! セイバー「決まっているだろう、貴様も今さっき口にしていた筈だ」 セイバー「マスターを探し、倒す、だろう?」 『セイバー』はドレス姿のまま剣を構え、アサシンへ突き付けた 一触即発 そんな空気だ だが、止める必要はない あの老人も、『セイバー』も言っていた通り 探し、倒す 俺は、一歩引いて『セイバー』の後ろについた 「『セイバー』、『アサシン』の相手を頼む」 セイバー「任せるが良い、全てを斬り伏せて見せよう」 『セイバー』は剣を一薙ぎする ドレスは消え、代わりに黒い魔力で編まれた鎧が装着される 老人も、アサシンの後ろに一歩引き体勢を整える 『アサシン』も両手にナイフを構え、今にも跳びかかれる、と言った様子だ ダン「ワシの名はダン・ブラックモア」 老人―――ダンは静かに、厳かに自らの名を挙げた ダン「名を聞かせて欲しい、決闘の相手に若きマスター君では恰好が付かないだろう?」 ふざけるな――― 俺は直ぐ様、ダンに向かって走る セイバーも同様に『アサシン』へ向け大剣を振り下ろす 鉄と鉄がぶつかり合う音が響き渡った 『セイバー』の強打に、『アサシン』はふらついた 当たり前だ、正攻法で剣士と暗殺者が戦えば、こうなる 俺はその隙を見逃さない 怒りを抑えられぬまま彼我の距離を狭めていく 名乗り? 決闘? 何を勘違いしてやがる これは、戦争だ 相手の矜持も、栄光も、何もかもを台無しにする あるのは勝利だけ、 この勝利を得る為なら、どんな手段を用いても構わない 俺達が行っているのは戦争だ…! 俺は懐から針金で組み上げたナイフを取り出すと、ダンへと投げつける ダンは、焦った様子も無く体を傾けるだけで待機 ナイフは、そのまま花壇へ落ちると針金に戻る ダン「『アサシン』、『暗黒霧都』の使用をサーヴァントに限定し許可する」 ダンが、何かを呟く その瞬間、灰の暗い霧が辺りを囲み中にいた『セイバー』と『アサシン』が姿を消した 中の様子が全く分からない、此方の認識を阻害する結界宝具か? 『セイバー』の姿が確認できないがアレでは苦労するだろう それにさっきのダンの言葉 サーヴァントに限定、と言う事は その気になれば広範囲にしよう出来ると言ってるようなものだ 舐めてくれる、侮ってくれる! 俺は、小さく舌を打ち近接戦闘へと移行する 左手に針金で作り上げたナイフを持ち 中腰で構えを取って彼我の差を更に縮める CQC―――拳銃とナイフを多用する俺に相性が良い格闘術だ ダンもまた、腰を低く構え迎撃の態勢を取ろうとする 遅い! 俺は構えきれていない左足を踏み倒そうと、蹴りを突き出した だが、ダンはそれを待っていたかのように蹴りを返し、体を前に出す 読まれた―――! 突き出した蹴りをいなされ、片方の軸足が揺れる 俺の左足を打ち抜き様に、擦り足を合わせた体重移動 左足は、ダンの右足に引っ掛かり拘束される 一つ一つの動作に全く以ってノイズがない―― 為らば…!俺は右肘を突き出し、顎を狙う ダンは左腕を前に上げ、これを防御 そのまま俺の右肘を固定して、右の掌打で顎を打ち抜く がッ…! 視界がぶらつく、体の芯が強制的にぶれる 俺は、歯を食いしばって堪える 左右の拳を持って連打を放つ ダンは、前に体を乗りだしながら悉く回避する 退かないか! そのまま、連打を繰り返そうと右の拳を突き出した時だった 俺の世界が反転する 襲ってきたのは背中への衝撃 一瞬息が詰まる 直投げされたのだろう 倒れた俺に、ダンは足を踏み上げる 不味い…! 咄嗟に避けて、そのまま跳び引く 俺は、息を整えようと呼吸を繰り返す、惨めなほど息が荒い ダンの格闘術は、経験と技量によって培われたモノだとわかる あれは、達人の域だ それに、あの格闘術…なんだ、アレは どれにでも、属しているようで、どれとも違う あえて言うなら…全ての原型…? まさか、フェアバーン・システム? 軍隊格闘の源流、全て亜種に変わったと思っていたが 使い手がまだ存在するのか ダンから追撃は無い… ダン「若いな、未熟さを隠しきれていない」 黙れ――! 俺は、ダンへと走り出し刺突を試みるが 易々と避けられ、交差した直後に背中を肘鉄を打たれる 一瞬、呼吸が出来なくなる そのまま俺は体制を崩すが、なんとか持ち直して後方に距離を開けた 鈍い痛みが全身を走る とりわけ、背中への痛みが激しい… 身体強化の魔術を使っていても芯に響けば変わらない やはり、この男は強い…! 防戦一方 俺が攻めあぐねていると、一瞬魔力を吸われるのを感じる 霧を観る その時、霧が爆ぜるように晴れる 代わりに黒く猛々しい魔力が吹き荒れた セイバー「この程度、他愛無い」 『セイバー』の固有スキル『魔力放出』か――! 魔力のジェット噴射で【宝具】を払いのけるとは… 規格外だな…『セイバー』ッ! 『セイバー』から、黒い魔力の風が俺の頬を伝う 何故だろう、安らぎを感じるソレに、ようやく俺は我に返る 大きく息を吐き、思考をクリアにする 怒りを鎮めろ…怒りで身を焦がすな…判断を鈍くする 頭は冷静に 代わりに心を――― 闘志を燃やせ―――! 俺は、左手のナイフをダンへと投げつける ダンは体の軸を変えて避けるが 一瞬の隙を付き、拳銃を構えダンに標準を向けた 格闘戦に拘る必要はない、この身は『魔術使い』 使えるもの全てが道具だ 構え直す俺を観たダンは、僅かに口角を上げた ダン「良い眼をする、前言を撤回する必要があるかな?」 『セイバー』は魔力をジェット噴射させながら『アサシン』に迫った 敏捷のランクは『アサシン』の方が高い だが、『魔力放出』で指向性を持った魔力に乗る『セイバー』の速さは 初速、直線距離であれば、どの英霊をも凌駕する その勢いは、『アサシン』の俊敏性をもってしても回避出来るモノではない アサシン「―――ッ!」 ついに捉えられた 防御すらも間に合わず、黒い聖剣は『アサシン』に突き刺さる 断末魔さえ、あげさせない 突き刺さった聖剣からは魔力が噴出し、『アサシン』を吹き飛ばした 吹き飛ばされながら、塵になっていく体 セイバー「…せめて、祈れ、少しは楽になるだろう」 バイザー越しから視る『セイバー』は剣を下ろして黙祷を捧げた ダンへと向けて弾幕を張る バレルの刻印が起動し、刻まれた術式は錬金弾を加速させる 加速、加速、加速―――! 拳銃ではありえない威力と、速度を持った弾丸がダンを撃ち抜かんとする しかし、ダンは全て避けきる 銃弾自体を避けることは不可能に近い だが、ダンは向けられる銃口と、俺の目線から予測して回避してみせた ダン「銃か、そんなモノは狙撃手の眼を持ってすれば――」 そんなこと知っている この男ならやってのけるさ これで終わりじゃない 俺は引鉄を弾き続けることで、ダンをある場所へと誘導した 誘い込んだ場所は花壇 そこには、針金が2本落ちている 銃を撃ち続けながら、少しずつ魔力を針金に流していた 気付かれないように、悟られないように セイバーの『魔力放出』によって濃密な魔力が公園を漂う そして、わざとサイレンサーに魔力を過剰供給していくことで ダンは、針金に魔力の反応が通っていくことに気付かない 幾ら、弾丸を回避し続けるからといって 弾丸の脅威そのものは変わらない 神経を俺の銃に向けていなければならない 俺は、形質操作で1つはバネを作り、残り一本でナイフを作り上げる ナイフを乗せたバネは、魔力によって更に力を加えられ畜勢される ダンが、徐々に花壇へと背を向けていく ダンの背中がナイフと直線状に向かい合う 跳べ―――! 十分に、畜勢されたバネは、待ち焦がれたかのように解き放たれる バネによって勢いをつけて飛来するナイフは音も無くダンの背中へと突き刺さる ダン「惜しいな、だが…ッ――!?」 防弾着を身につけているダンには、ナイフの切っ先しか刺さっていないだろう だが、それで十分 Zuruckbilden(戻れ)―――! ナイフは銀色の針金に戻り、傷口へと侵入していく 背中から針金が体内へと飲みこまれていく 縦横無尽に体内を蹂躙していく銀の針金 治癒すら許さぬ、この魔術 ダンと目が合う 憎いか…? 決闘を許されなかった、この戦いが 俺が憎いか…? ―――満足だよ 唯…、老婆心ながらに忠告しよう… いいかな未来ある若者よ。これだけは……。忘れるな…… 最後まで、勝ち続けた責任を、果たすのだ。 ダンは、その顔に微笑みを残したまま死へと誘われた 終わった… 全身に、打撲による痛みと魔力不足によるふらつきで、俺はその場に座り込んでしまった 『セイバー』は大股で此方に歩み寄る、手を貸してはくれなさそうだ セイバー「たわけめ、そなたらしくもない」 「…俺らしくない?」 セイバー「大方、あの老人の言に惑わされたのだろう」 どうやら、俺は自分の想像以上に『らしくない』戦いをしていたみたいだ 確かに、初めは怒りに駆られて敵へと突進していた でも… 「『セイバー』」 セイバー「む?なんだマスターよ」 振り向くセイバーに俺はありたっけの想いを籠めて 「ありがとう」 あのとき、頬になびいた『セイバー』の魔力に彩られた風 あれのお陰で俺は頭を冷やせたんだ だから、ありがとう『セイバー』 セイバー「…フンッ」 『セイバー』はそのままそっぽを向いてしまった 感謝されるような事をした覚えはないといった感じか 俺は、苦笑すると体をふら付かせながら立ちあがる セイバー「もう良いのか?」 「あぁ…帰ろう」 そうだ、折角だからお土産を買いに行こう イリヤ達もきっと喜ぶ そう思った俺は、バイクを停めた場所まで歩いて行った バイクを走らせていると、セイバーが俺のヘルメットを叩いた セイバー「マスター、アレはなんだ?」 叩かれた方に視線を向けると、『江戸前屋』という看板を発見した 手近なところにバイクを停めると、『セイバー』と共に店の前に寄る どうやら、日本の菓子を取り扱っているらしい 今日のお土産はこれだな。 俺は、店員に勧められた商品を買い込んだ たい焼き、どら焼き、大判焼き… 祖国のドイツには無い味だ 気付けば、5人分にしても少し量があるな…まぁ良いか しかし、忘れていた、失念していた 俺が袋を渡したの誰だ、俺の後ろに腰をおろしているのは誰か 名に誉れ高き騎士王にして暴君、また別の名を腹ペコ王 それに気付いたのは、残念ながら城に着いた頃だった 夜、静けさが全てを包む冬木の城、城の中には明りが灯っている イリヤ「お帰りなさい、お兄様」 リズ「イリヤとお出迎え」 セラ「……全く」 イリヤ達が、玄関の前で出迎えてくれた 「ただいま皆」 セイバー「王の帰還だ、持て成せ」 二人で玄関を潜ると、イリヤが腰にしがみつく それから、イリヤは鼻をスンスンと嗅いでいく どうやら気付いたようだ イリヤ「お兄様?何か甘い匂いがするよ?」 「お土産だ」 俺は、『セイバー』からお土産袋を受け取った はて…大分軽くなっているような? 疑問を浮かべたまま、イリヤにお土産袋を渡した セイバー「味は私が保障しよう、お茶の準備を頼む」 …成程、道理で軽いわけだ 『セイバー』はバイクに乗っている間、半分以上を一人で食べてしまったのか 今度から、『セイバー』にお土産を持たすのはやめておこう イリヤから花が咲いたような笑顔が浮かび上がる まぁ、これが見れただけでも満足だな 俺は、イリヤと『セイバー』に続きサロンへと向かった 【3日目終了】 SIDE Caster 夜半が過ぎたころ 場所は冬木市新都ハイアットホテル 僕は、煙草を吹かすとホテルの最上階を見上げる 爆弾の設置、避難客の誘導は完了している 後は、舞弥からの連絡が掛り次第、左手にあるスイッチを押すだけだ 標的は時計台講師『ケイネス・エルメロイ・アーチボルド』 このホテルのスィートを全室取っているともなれば、嫌でも知れ渡る 今回の仕掛けは爆破だけじゃない、完全に殺しきるために、彼女を使った 僕の直ぐ後ろに霊体化して控えている英霊――『キャスター』が耳元に囁く キャスター「こちらの結界も準備も整ったわ」 キャスター「発動すれば、魔術の行使を阻害出来るわよ」 さすがは神代の魔術師――『キャスター』には恐れ入る 自分は『魔術師殺し』と言われているが、彼女ほうが余程向いている 半分ほど吸い終えた煙草を投げ捨てた 今回、行動に移した事には理由がある 昨日の冬木大橋での戦闘 そして今日、新都で起きた戦闘 確信した、彼はこの戦いに参加している きっとイリヤもいるだろう ならば、僕は容赦しない イリヤとアイリを外の世界に連れ戻す為に そう…その為なら僕は… ……彼を殺してでも それをなす為にも、手早く懸念事項は処理しよう 舞弥から連絡が来た 全ての準備が整ったようだ 僕は、左手のスイッチを押した これは、僕から君への宣戦布告だよ、やんちゃな愛弟子くん END Side Caster
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IDdata Name ルリヤ・ルルーシェ Alias 【ブリランテムーン(眼鏡の輝き)】 Class サイボーグ&ワーカー Rank マイスター&マイスター Money 7,300,689,132W¢ Point 481789278pt Ranking 78/6473226 OOPARTS Link 澪漂管弦楽団所属 Age 17 学年 四十九年度入学 予科程三年修了 本科四年目 職業 澪漂管弦楽団団員 人種 英人 所在地 ウエストヤード 九龍城砦 連帯保証人 カール・エミリアン 代理保証人 PROFILE カール、フランチェスカと並んで、澪漂の偏執狂三人衆と呼ばれることもある見習い団員。三人は予科程時代からの友人でそれぞれ別の仕事をしていたのだが(ルリヤは眼鏡屋をやっていた)、二年前のデスマーチ戦争の時に戦場で眼鏡を輝かせる二重に感動して入団した変人。三人の中では一番、こだわりに壊れてしまっている人。 サイバネティクスサイボーグなのだが、一見するとそうとは分からない。しかし、実は彼女の美しい青の双眸こそが彼女の武器でもある機械部分なのだ。機械の眼球はそれぞれレーザーガンになっており、その威力は彼女の意思で自在に操作することができる。最大出力では鉄板を焼ききるほどであり、一撃の威力ならば澪漂メンバーもトップクラスである。 彼女の最も変なところは、前述部分からも想像できる通り、「眼鏡を何より愛している」という点である。そもそも医療技術が進歩している昨今、もはやコンタクトレンズすら時代遅れとなりつつあるのに眼鏡屋を営んでいた時点でおかしい。もちろん収入はつねにぎりぎりであったが、そこを考えると入団して僅か二年でここまでランキングが上がっていること自体は素晴らしい才能といえる。なお、学園内でも眼鏡をしている人間は二重とルリヤを含んでほんの数名である。 コンタクトレンズというツールを毛嫌いしている節があり、異常なほどの敵対心を抱いている。嫌いすぎて、どうやら見ただけで裸眼かコンタクトかを判別できるらしい。おかしいを通り越して気持ちが悪いが、コンタクトをしているから、という理由で攻撃してくることすらあるということを考えるとまだ可愛い特技である。 口癖は「人類史上最も悪なる発明は、核兵器とコンタクトレンズ」である。サイボーグ手術を受けたときも、眼鏡を掛けたいがためにわざとピントをずらした。これにはカールも自分を棚に上げて「馬鹿だな」と言ったという。 三人の中で、というよりも澪漂で一番の変人であるが、戦闘能力は非常に高く、カール、フランチェスカとの三人組の仕事ぶりは二重からも高い評価を得ている。 なお、エイリアスの【ブリランテムーン(眼鏡の輝き)】とは、独語で眼鏡を指す「Brille」という単語が「二つの月」という意味を含んでいることと、彼女の眼から放たれる文字通りの輝きを指した名である。 ABILITY 右目からは中距離戦用の、左目からは遠距離射撃用のレーザーを撃ち出す。最大の利点は、射撃動作がいらないことと、見たものに向けて撃つため命中率が非常に高いということがある。左目は最大で20キロ先のものをズームすることができ、見えるものならば実質何でも射抜くことができる。 ただ、眼球サイズという小さな機構の中の、瞳孔という小さな穴からの攻撃であるため射線が細く、命中しても急所を外すことが多い。さらにエネルギーの消費が多いので連射は最大威力で8発が限界である。
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エピソード4 悪魔に付きまとわれるフリオ 1500 / 250 / 170 /// 22 / 18 / 16 / 17 / 6 /// 火1 / 火1 リーダー マンティコア バトカ マンティコアx9・キマイラ(マイシンクロ登録済み) 双身のリュイス 1550 / 270 / 175 /// 9 / 14 / 16 / 20 / 17 /// 土2 / 土2 / 土2 リーダー マンティコア バトカ マンティコアx9・キマイラ(マイシンクロ登録済み) 理論上はノンサポ可能だが現実的にはサポカ必須。 リュイスの生命力はマンティコアより50高いのでリーダーに。 バトカとしての性能はマンティコア以下なので集める必要は無い。 ここでリーダー補強のためエピ5へ ガーター隊員アバ 1600 / 295 / 175 /// 13 / 17 / 24 / 15 / 16 /// 風3 リーダー デザートラット バトカ マンティコアx9・キマイラ 理論上はノンサポ可能だが現実的にはサポカ必須。 バトカとしての性能はマンティコアと比べてほんの少し勝っているが、サポを消費してまで集める価値があるかというと微妙である。 再びエピ5へ アンリ~ベルティーユはマルチ無し攻略では撃破不可能。 さらに急いで倒しても特にメリットがない相手ばかりなので、攻略は後回しで、セドリック→エピ5イリヤ(→セドリックエボorハサン→リカルド)でデッキ強化してから戻ってくるほうががいい。 またメル以降のバトカの攻撃力は、実はエピ7のバトカの攻撃力と大差なく、少々生命力を上げたくらいでは厳しい。ただし防御力はそれほど高くないので、攻撃サポを大量に積んで速攻撃破を狙う戦略に切り替えよう。 半端にサポカを惜しんでプレイ時間を無駄にするくらいなら、その時間をマルチでのサポ集めに回したほうが攻略は進む。 帝国の使者アンリ 1800 / 310 / 180 /// 10 / 25 / 19 / 18 / 19 /// 水2 / 水2 リーダー 帰って来たハサン・セドリック(未エボ) バトカ マンティコアx10・イリヤ アバと比べ生命力が200増え、攻撃力もリーダーバトカ合計で50ほど上がる。水2サポも痛い。 未エボセドリック・イリヤ構成でダメージはほぼ互角。だが生命力差のせいで勝てない。火Lv1を5枚以上用意して、水サポを喰らう前に速攻撃破を狙おう。 ハサン・マンティコア構成ならデッキの性能はこちらが僅かに劣るが、ジャッジ次第でノンサポ撃破可能。 恐るべき魔導メル 1900 / 320 / 180 /// 25 / 16 / 19 / 21 / 14 /// 火3 リーダー セドリックエボ バトカ セドリック・イリヤを合わせて10枚 セドリックが7枚以上ならノンサポ撃破可能。 セドリックが3枚以下ならサポLV1は必要。イリヤのマイシンクロもお勧め。 相手の火属性が高いので火サポ攻撃はあまり有効でないが、無いよりはまし。 至高の騎士バッカス 2050 / 330 / 185 /// 21 / 17 / 13 / 28 / 16 /// 風2 デッキ セドリックエボ+セドリックx10(Lv1フルサポ) デッキ リカルド+イリヤx10(ノンサポ) 相手サポは風2が1枚あるだけなので全回避はそれほど厳しくない。しかしサポ攻撃以外のダメージも大きいので、何度もジャッジ勝負をするのは(精神的に)良くない相手である。 リカルドなら生命力的には余裕があるのでノンサポ攻略可能だが、リカルドを持っていないならサポ装着は必須になる。 性能はイリヤに劣るので、集めるメリットは全くない。 近衛兵ナタリアとイサベル 2200 / 345 / 190 /// 17 / 8 / 27 / 18 / 20 /// 風2 / 風2 / 風2 デッキ セドリックエボ+セドリックx10(Lv2以上フルサポ) デッキ リカルド+イリヤx10(Lv1以上フルサポ) デッキ リカルドエボ+イリヤx10(ノンサポ) セドリックデッキではLv2フルサポでもかなりきつい。 リカルド+イリヤで何とかノンサポで倒せるが、24~25ターン中6~9回あるサポ攻撃の全回避は必須。それが出来ても勝率1割には届かないだろう。 エピ4にしては異常に攻撃力が高くサポ攻撃も激しいが、防御の方はそれほどでもない。ギリギリの勝負になることは少ないので、高Lvサポを装着し序盤でギブせずに常に大ダメージを狙う戦略にしたほうが、精神衛生上は好ましいだろう。 黒衣の皇帝ベルティーユ 2500 / 350 / 190 /// 14 / 30 / 19 / 17 / 20 /// 水2 / 水2 / 水3 攻撃力がさらに上がる。バトカのベルティーユエボの攻撃力は510もある。 VSカードステータス VS 生 攻 防 属性初期値 特殊効果 悪魔に付きまとわれるフリオ 1200 220 210 9 3 5 5 4 - 双身のリュイス 1250 225 215 3 4 4 9 3 - ガーター隊員アバ 1300 230 220 6 6 9 5 3 - 帝国の使者アンリ 1350 235 225 5 10 4 3 5 シンクロ 恐るべき魔導メル 1400 240 230 10 4 5 6 3 火属性+5 至高の騎士バッカス 1450 245 235 6 4 4 10 4 - 近衛兵ナタリアとイサベル 1500 250 235 3 4 10 4 3 火属性+4風属性+4 黒衣の皇帝ベルティーユ 1550 270 240 4 12 4 5 4 防御力+5 エボ 生 攻 防 属性初期値 特殊効果 アバ帝国の驕り 1500 240 220 10 5 8 7 8 - メル僅かな日常 1600 250 230 8 10 13 7 7 火属性+10 バッカス悔恨との訣別 1700 255 230 6 12 5 6 6 - 王の剣ナタリアとイサベル 1800 260 240 13 8 8 8 5 火属性+8風属性+8 ベルティーユ啓かれた未来 2050 280 250 9 8 6 14 7 防御力+10 ■メモ■ リーダー セドリックエボ バトル セドリックx10で メルまでノンサポ可能。 バッカスはフルサポ必須。 それ以降は未調査。
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【元ネタ】アーサー王伝説 【CLASS】セイバー 【マスター】 【真名】メリヤドゥック 【性別】男性 【身長・体重】186cm・83kg 【属性】秩序・善 【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運A+ 宝具B 【クラス別スキル】 対魔力:B 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。 騎乗:C 正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせる。 【保有スキル】 水晶の枷:B 水晶の環と黄金の鎖でできた足枷。 反応STによる回避に失敗した敵一体の敏捷を二ランク下降させる。 元々は『外の影』のリス王がアーサーを束縛しようとしていた品である。 情報抹消:E 真紅の剣が血に染まっている間、 すなわち剣で誰がしかを傷つけてから治癒能力を行使するまでの間、 人々の記憶から彼の真名情報が消失する。 反骨の相:- 最初の剣の逸話により、本人の性質とは無関係に アーサー王や円卓の騎士が有するカリスマスキルの影響を受ける事ができない。 危難の剣:C 不運、致死に類する呪いや運命干渉への耐性。 不適格者が持てば即日命を落とす『真紅の剣』の反転作用。 【宝具】 『地に眠る遺贈の剣(メルヴェイユーズ)』 ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~9 最大捕捉:10人 父ブレエリスの遺品である選定の剣。 範囲内の任意対象に全能力をワンランク下げる“重圧”を課す事ができる。 ただし、武勇と美貌双方においてセイバーを上回る者は ターン終了時に自動的に、ないし一行動を消費して即座に解除する事が可能。 『銘秘する真紅の剣(ヴェルメイユーズ)』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0~2 最大捕捉:1人 祖父とセイバー自身の名が刻まれた剣。 不治の傷をつける力と、 不治の傷をも癒す力を併せ持っている。 【Weapon】 『最初の剣』 騎士叙勲の折にアーサー王から与えられた剣。 真紅の剣を手にした後「剣は三本もいらん」と母親のもとに置いて行かれてしまった。 叙勲時からの成長の証、或いは彼とアーサー王世界の間に距離がある事を示すとか。 【解説】 アーサー王に仕える騎士の一人メリヤドゥック。 王から叙勲時に得た剣と、将来の妻となる女性から得た(実は亡き父の)剣により ケイ卿から『双剣の騎士』の綽名を付けられた男性。 同時期に書かれた別の『双剣の騎士』とは違って別に不幸にはならない。 父は邪な騎士ブリアンの画策によってガウェインと戦い、敗れて亡くなっていた。 メリヤドゥックはその事実を知らぬまま、宮廷でガウェインの近習になっていた。 ある時、剣を帯びた一人の乙女が宮廷に現れ「かつてこの剣を手にしていた騎士に 美貌と武勇で匹敵する立派な騎士にしか、自分からこの剣を外せない」と告げた。 366人が失敗した後に彼がこれを成し、若者はケイに『双剣の騎士』の呼び名を受ける。 双剣の騎士は、アーサー王の敵リス王を捕えて宮廷へ送りつける等の功績を挙げ、 武名を轟かせて行く。彼はガウェインと互いの正体に気付かぬまま争い、和解し、 だが父の仇と知って一旦袂を分かった。その後、彼は真の仇敵であるブリアンを討ち、 ガウェインはブリアンの子ガリアンを討って彼の母を救い、やがて二人は和解が成る。 ところで、彼は未だ自分の名を知らなかった。 拭っても洗っても落ちない血で染まった『真紅の剣』にまつわる冒険を果たした時、 彼はそれまで血で隠されていた「メリヤドゥック」の文字を見る。祖父の名であり、 また彼自身の名でもあった。真紅の剣は唯一人これを振るうべき者以外が持てば その日のうちに死ぬという代物であったが、彼がその「唯一の者」だったのである。 冒険を終えたメリヤドゥックはアーサー王宮廷に帰還し、 父の剣を持って来た乙女と結婚してカラディガン王になり、子宝と長寿に恵まれた。
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『アルコイリス クロニクル』 虹陰暦999年/6の月/第3巡り/紫の日 “幻霧の”マックスが魔術学院の客員教授に復帰!! 7の月の第1巡り赤の日よりマクシミリアン・ベッテンドルフ氏が魔術学院の教壇に立つこととなった。 月に数回ほど幻術科目の特別講義を担当することになった氏は「久しぶりに魔術に真摯に向き合う時間を生徒たちと共に作りたい」と語っている。 ベッテンドルフ氏は幻術の使い手として魔術学院の教授を務めていたが、近年は各国を巡り見聞を広める旅に出ていた。 “幻霧”の魔術号を戴くベッテンドルフ氏の教授復帰は魔術学院の生徒にとっても非常に有益なものとなることは間違いないだろう。 金縁の装飾を施した濃緑色のローブと紫水晶が嵌ったローブ留めを身につけ“蜜月(ハニームーン)“の大通りを颯爽と歩く男が一人。 大通りでも“虹蛇の導き(ユルング・ライン)”が消えて暫くすると、多くの遊び場は店じまいを始め、客引きも干潮のように姿を見せない。 そんな場所を朝早くから颯爽と歩く者は、そう多くはいなかった。 時折、すれ違う商店主達から声をかけられる男は「マクシミリアン」だとか「先生」だとか「マックス」と親しげに呼ばれていた。 「先生はやめてくれよ。少なくともおっちゃんの“先生”じゃないんだからよ…。」 苦笑しながらも気さくに声を掛け合う姿は魔術師の堅苦しさは微塵も感じさせないほどだった。 アルコ・イリス中央塔“虹星の叡智(アルマゲスト)”に近付くと、魔術学院の生徒らしき制服姿の少年少女が仲良く談笑しているのが見えた。 「やぁ、おはよう!早く行かないと遅刻だぞ。」 「……あ、お、おはよう、ございます!?」 怪訝な表情を浮かべた生徒は一応の挨拶はした。 当然である、未だ生徒にしてみればローブ姿の男は教授という認識はされていないのだから……せいぜい、魔術師らしき男。 「今日は朝集会があるから遅刻は厳禁だぞ。いや、もちろん毎日遅刻はしてはいけないけども…とにかく急げよ!」 と、自ら少し小走りになってみた。 朝集会の後、講義準備室では幾度となく同僚と挨拶を交わし、同じような世辞に頭痛がするほどであった。 しかし、部屋にいても興味を示さない者もいた。その中でも体格の良い初老の男性の威容を誇る姿には何かを感じずにはいられなかった。 自分の席を離れ、男性に近付き声をかけてみた。 「クラウディオ=ブルンホルンベルグ・アードラー師?」 「ん?なんだ。名乗った覚えはないが、その通りだ。」 と、教官は横目で確かめるようにゆっくりと顔を向けた。 「いえ、あなたの勲功は何処の街に行っても聞いていて、魔術学院の教官になったとも聞いていたので、“もしや”と。」 「フムン。マクシミリアン教授も魔術師としての功名は確かで、近年は隠遁していたと聞いたが、その割には随分若く見えるな。」 「あ、童顔なんで、これでも今年で40歳に。あと、敬語とか苦手ですみません……呼び方はマックスでお願い、します。」 「そうか、失礼した……俺を呼ぶなら“ミスター”と呼んでくれ。」 「では、“ミスター”。幻術と戦術、論ずるに共通するところがあると思っているんで…時間があれば話でもしません?」 「共通するところか、面白い。魔術師であるのに戦術が分かっているようなことを言う。」 「そういうわけでは…ただ、“どんなときにでも通用する術が存在しない”というのは違いますかね?」 「フムン。」 “ミスター”の瞳が初めてマックスの瞳の奥を捉えた。 「ところで、マックスはカーロウ・ラザロという魔術師を存じているか。」と、少し声を潜めた。 「カーロウ・ラザロ?ああ、導師の…いや、今は元・導師だったか。知ってるも何も同期くらいだったかな。いや、違ったかも。」 そんなマックスのふざけた返答であっても“ミスター”は話を続けた。 「少し会ってみたい人物でな。何か知らないか?」 「追放された導師に会いたいと?まぁ、別に理由は聞かないですけど、ラザロってのは偉そうな態度で好かれていた人間ではないけど禁呪に手を出すような感じではなかった。まぁ、それも数年前の話で、会うどころか最近のことは…ただ、根拠はないけども塔を追放されただけでアルコ・イリスまで出て行くような人間ではないよ。」 記憶というよりは情報として頭の片隅に詰め込まれたものを引っ張り出した。 「つまり、この街のどこかにいると?」 “ミスター”の鋭い眼光を受けながらマックスは 「いや、本当に根拠はないけども。」 と、付け足した。 授業開始を告げるベルが部屋に鳴り響く。 「あー……そういや、次は講義でした。すみません、語り合うのは是非とも今度に。」 「ああ、また会おう。」 と、話をしながらも準備を手早く済ませていた“ミスター”は言葉と同時に講義準備室の扉に移動していた。 周囲を見渡すマックスは完全に取り残されていた。 自分の話し好きと、高名な魔術師の話や思いもよらない出会いを楽しんでしまっていた。 “虹星の叡智(アルマゲスト)”の大階段と呼ばれる場所を右手に進み、そのまま奥に進むと第13講義室がある。 そこがマックスの講義を行なう部屋であり、既に講義室には多くの生徒達が着席していたが、騒がしかった。 木製の扉を閉めると「―――コンッコンッ!」とノックをして注意を促すと教壇に向かった。 「えー、どうも、朝集会でも紹介があったが、今日から幻術の特別講義を受け持つことになった。俺はマクシミリアン・ベッテンドルフ、40歳、独身、恋人募集中…なぁんてね。」 と、おどけて見せるが生徒達は唖然としたまま特にリアクションはなかった。 「おお、思った以上に反応悪いなぁ……では、講義を始めますか。幻術についてだが、一番大事なものは何だと思う?」 そのあまりにも唐突な問いかけに最も早く反応したのは、赤毛のおさげ髪と雀斑(そばかす)が印象的な少女だった。 「はい!先生。」 「ん、では、君…名前は?」 「ソフィア=ランズウィックです。幻術に一番大事なことはどうやって相手を騙すか、偽るかです。」 「うん、じゃあ、ソフィアは嘘をつくのが得意かい?」 「いいえ、苦手なほうだと思います。」 「じゃあ、幻術師には向いていない?」 「それは…わかりません。」 「んー、ソフィアの答えでは不十分なんだよ。その答えでは50点てとこだ。」 というと、マックスは教壇の下で指を動かした。 「――コンッコンッ!――ギィ、バタン!」と扉の方で音が鳴り、生徒達の視線が講義室の後ろに注がれる。 しかし、部屋の扉は開いた形跡もなければ、誰かが入ってきたということもなかった。 「つまり、幻術と言うのは相手を騙すために用いる術ではあるが、一番大事なのは【真実】を知るということ。」 「【真実】?」 ソフィアは首をかしげた。 「簡単にいうと、その場に相応しいものを選ぶために本物を知らなければいけないってことだよ。部屋の扉を叩く音、扉を開ける音を知らなければ全員が振り向くような“幻音(ゴースト・サウンド)”はできない。幻術はよっぽど魔術に疎くない限りは誰でも使うことができるが、【真実】を知っているものが使う幻術は幻ではなくなる。巧く幻術を使いたいなら、好奇心を持ち、物事を多角的に見る眼を養うことだ。」 生徒達はマックスの講義に耳を傾け、真剣な眼差しを向け始めた。 「では、もう1つだけ質問をしよう。では、続けてソフィア、物事を多角的に見る時にはどうする?」 「多角的に……ですか?私なら五感を全て使い、あらゆる知識を用います。」 と、ソフィアは自信のある答えだと胸を張って答えた。 「これまた、惜しい答えだね…80点。五感を全て使うには必要な能力がある、それは【想像力】だ。」 ソフィアは悔しそうな眼でマックスに訴えようとしたが、マックスは気にも留めずに続けた。 「【想像力】がなければ、五感で確かめた事象を上手く整理して捉えることができない。水は冷たい、お湯は熱いだけでは幻術を構成するには不十分であり、今までの経験から【想像力】と共に引き出してこそ、即座に用いることができるんだ。それが、【真実】に少し近付いたということなんだよ。」 「【想像力】で補って、【真実】に近付く?矛盾しているような気がします。」 「まぁ、幻術って矛盾しているもんさ。とりあえず、基本的には色々なことを見て、学んで、吸収してもらえれば、いつの間にか巧く幻術が使えるもんだ。」 「先生の講義日数は少ないのに気楽なんですね。」 「ソフィアは勉強が好きみたいだけど、俺は嫌いなんだよね。」 と、マックスが冗談っぽくいうと講義室の中にいた生徒がクスクスと笑ったところで、授業終了のベルが鳴った。 これが今日の講義で一番の盛り上がりと言っても過言ではなく、ソフィアは顔を真っ赤にしながら肩で風を切りながら講義室を後にしていった。
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「大丈夫? イリヤさん」 「うん、ありがと。美柑さん」 「熱いからゆっくり飲んで」 結城美柑が淹れたホットココアを受け取り、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンはぺこりと小さく会釈をした。 シャルティアとの交戦を終えた後、孫悟飯に担がれ雪華綺晶と共にイリヤは美柑の待つ民家へと運び込まれた。 「しかし、ローゼンゆうのもけったいな奴やなぁ。こんな呪いの人形7体も作るなんてなぁ。 まあ腕のええ魔術師は大体変人なんやけども、クロウの奴もせやったわ」 「あの、呪いというのは訂正して欲しいのですけれど」 「ほんま苦労しとるみたいやな。なあ? きらきー!」 「き、きらきー……」 目が覚めた時、知らない女の子の美柑に顔を覗き込まれ驚いたが、美柑と一緒に居た空飛ぶぬいぐるみケルベロスが陽気な性格なのが幸いした。 ずかずか話してくれるケルベロスのお陰で自然と会話が弾み、お互いの警戒は解けていく。 些か強引で人の話を聞かないケロべロスに、雪華綺晶は振り回されているが。 「ケロべロスさん、そして雪華綺晶さん……僕は、ニンフさんと美遊さんを埋葬してきます」 僅かな休息すら拒むように悟飯は急いていた。 「悟飯、死んだ子らが気になるんは分かるで。せやけど……」 「あの女、グレーテルやシャルティアが何をするか分かりません。 遺体でもあいつらの好きにはさせられませんよ! それに、のび太君もまだあの辺に居るかもしれない!!」 一方的に叫んで、悟飯は仮の拠点としていた民家から飛び出す。 ケルベロスと雪華綺晶が止める間もなかった。 「あの坊主、人の話も聞かんでほんまに」 悟飯からシャルティアとの激戦とその後の悲劇に関しては聞いていた。 美柑を置いてけぼりにしたのはともかく、結果としてイリヤと雪華綺晶が助かったのは良かったのだろう。 ケルベロスも自分の反対を押し切られたことは良く思えないが、犠牲者が減った事は認める。 その後に出来事も無理をしたとは思うが、状況を思えば一概に責める事もできない。 のび太という少年の介入がなければ、きっと悟飯の思惑通りに進んだ筈だ。 だからこそ、まだ一回放送前だ。放送まで時間を置いて休息を取りながら、埋葬に向かっても遅くはないだろうに。 戦闘が出来るらしいイリヤも目を覚ましたとはいえ、美柑に介抱されている状態で置いて行かれても困る。 「きらきーも戦えるとは言え、そのシャルティアゆうバケモンやさっきの黒ドレスの女がこっちに来たら、どうしようもないやろに」 「ケルベロスさんは……」 「ワイも真の姿になれれば戦えるんやけどな。 ほんまカッコええんやで、ワイの真の姿。きらきーに見せてやりたいもんや。 でっかい翼が生えてな? 顔もイケメンなんや!!」 余計な情報は頭から排除しつつ、雪華綺晶はこの場の戦力を数える。 正直に言えば相当辛い。 シャルティア程ではなくても、グレーテルやクロ等に襲撃されれば応戦も難しい。 実体を得た事で弱体化した雪華綺晶と、連戦を重ねたイリヤでは誰の犠牲もなくそれを凌ぐのは現実的ではない。 やはり、悟飯にここに残って貰う方が最善だったのではと思う。 「ケルベロスさん、悟飯さんの事なんですが……」 「言いたいことは分かるで。明らかに様子がおかしいわ」 美柑達と合流した時、悟飯と一切目も合わさずぎこちない会話をしていたのを雪華綺晶は印象深く覚えていた。 そういう女の子なのかと思っていたが、イリヤと美柑は普通に会話しており何ならとても大人びた雰囲気を醸し出している。 「ワイが起きた時には、もうギスギスしっとたからなあ……」 だからこれは、きっと悟飯との間に問題が生じているのだろう。 「あのイリヤの嬢ちゃんが復帰して、そんで悟飯が戻ってくるまでここで息潜めて大人しくするしかないわな。 まあ、この家あんま目立たんとこにあるさかい、余程の事がなければ大丈夫やろ」 「ええ……」 ──── 乃亜の放送が流れた。 内容はイリヤにとって予測できたものだった。 友である美遊・エーデルフェルトと乃亜に抗うと誓った仲間ニンフの死。 だが、それは更に最悪の情報で更新されていく。 「美遊……まさか、嘘だよね……」 ────クク、誰とは言わないけど仲間がいるか確認もせず、早とちりして意味なく死んだ馬鹿な女の子も居たからね。 これだけなら、まだ違うと言い切れる。 ────何やら祈って死んでたけど、あれは見てて傑作だったよ。 だが、この最期をイリヤは目撃していた。目の前でシャルティアに殺害されたのだ。 その時、美遊は祈っていた。イリヤの無事を。 最後まで紡がれることはなかったけれども、その真意はイリヤにも伝わっていた。 「乃亜……何がしたいの? 貴方は……」 名簿を最初から開示しなかったのは、美遊を誘導する為だったのか。 『姉さん……』 考えたくはないが、美遊とルビーの態度は妙だった。 彼女達がどんな心境だったのかは分からないが、名簿を確認させない事で美遊を殺し合いへ乗るよう仕向けた。 そして、美遊とイリヤが再会できるように近くに配置した。 「はあ~やっぱりおるんかぁ」 開示された名簿を見て、ケルベロスは溜息を吐きながら「さくらが居る」と呟く。 これは想定内で、ケルベロスも事前に皆に説明をしていた。 自分を道具扱いで放り込んだのだから、その主のさくらも巻き込まれているだろうと。 恋人と友人の李小狼や大道寺知世もあるいはと考えていたが居ないのは嬉しい誤算だった。 「黒薔薇のお姉様がいらっしゃるようです」 雪華綺晶は少し予想外の知人の名に驚いていた。 究極の少女をテーマに生み出された薔薇乙女全員に、欲しくもないこの殺し合いの参加資格があるのは理解していたが、それでも呼ばれるのは第6ドールの雛苺だと思っていたからだ。 末妹の自分が居るのなら、無難に考えればその次の姉の彼女の可能性が高いだろうと。 「非常に強いお姉様です。戦いという点では……私達、薔薇乙女の中では恐らく最強でしょう」 「その娘は……」 イリヤが不安そうに声を上げる。 雪華綺晶が、殺し合いに巻き込まれる以前の話は大体聞いていた。 アリスゲームという別の殺し合いの渦中に居て、雪華綺晶もかつては積極的に戦いを加速させていたとも聞く。 その中で戦いを得手とするのなら、好戦的で殺し合いに乗っているかもしれないからだ。 「大丈夫です」 以前の水銀燈ならば、雪華綺晶も危険人物だと警戒を強めていた。 だが、アリスゲームを経て真紅を勝者と認めた水銀燈なら別だ。 素直じゃないが、ローザミスティカを失った真紅を復活させる為に、桜田ジュンに助力もしている。 ここでも嫌味や愚痴を散々聞かされるだろうが、きっと力を貸してくれるだろう。 「今のお姉様なら、きっと力になってくれる筈ですわ」 まさか、この島に居る水銀燈は自分と敵対している時間軸から呼ばれたのだと、雪華綺晶は思いも寄らない。 「ヤミさん……!」 そして、一番有力な情報なのが美柑の言う金色の闇という少女だった。 殺し屋という経歴はともかく、現在は美柑と接することで日常に馴染み温厚は思想になっている。 何より戦力として、非常に頼もしい。 美柑の話す範疇でも、高い規模の戦闘力を有しているのが伝わってきた。 その人柄も名簿に名を見付けた瞬間、安堵感から今にも泣きそうな顔になった美柑を見れば信用もできそうだった。 美柑もヤミが居ない方がいいのは分かっているが、やはり力になってくれるのなら心強い。 (……私、勝手だ。悟飯くんにもあんな態度取って、それにヤミさんだって殺し合いなんかに居てくれた方が良いわけないのに) より強く自分への嫌悪感を強め、そして罪悪感も募らせながら。 それを悟らせないように、顔を俯かせる。 「おーい、イリヤ!! どこー!!?」 名簿を確認した頃合いを見計らったかのように、少年の声が響き渡る。 小柄で気付かれ辛い。仮にバレても、お互いぬいぐるみと人形のフリをするよう打ち合わせたケルベロスと雪華綺晶が、こっそりと窓から外の様子を伺う。 「のび太さん?」 声も容姿も雪華綺晶の知る野比のび太その人だった。 「本当だ。のび太さんだよ」 イリヤも確認するが間違いない。 「のび太っていうと、イリヤの嬢ちゃん達の仲間やったな……じゃあ横の姉ちゃんもそうなんか? あの恰好、おかしいやろ」 『あんな痴女、見覚えはありません』 「どう考えても変やで。 あんなけったいな格好した姉ちゃんが横に居るんは」 ケルベロスの言うように、のび太の横に居た金髪の少女。 ルビーのような真紅の瞳にシミ一つない白い肌、そして整った美貌は人目を惹く。 ただ、その服装が常軌を逸していた。 黒い布っ切れのような衣服で、雑に小ぶりな乳房と股を覆うだけの露出過多な格好。 尻など布が割れ目に食い込んでいた。 この場に居る全員が、あれは変態だと確信する。それ以外のワードが浮かばない。 「あれが本物ののび太か分からへんな」 ケルベロスの知る中ではミラーのカードなら、他人と同じ容姿になることが叶う。 これがそうかは判断が付かないが、のび太に成りすました別人ということもありうる。 「……私が最後に見たのび太さんとは、少し様子が変です」 「雪華綺晶ちゃん?」 「マスター、ケルベロスさんの言うように警戒した方がいいかと」 気絶したイリヤは見ていないが、雪華綺晶は悟飯とのび太の一部始終をその目で見ている。 悟飯がニンフを誤殺した際ののび太のパニックさが嘘のようだ。 痴女の同行者が落ち着かせたとも考えられるが、果たしてシャルティアやグレーテルもまだ近くに居るかもしれない場で大声などあげるか? 「ヤミさんだ。ケロちゃん! ヤミさんだよ!!」 「……なんやて? 嘘やろ…」 ケルベロスは引き気味に尋ねる。 美柑の語る金色の闇とは月とスッポン程の落差がある。 真面目でクールで頼りになる少女という話が、実際には痴女でニタニタと艶めかしい笑みを浮かべた変質者だ。 「ヤミさんだよ。間違いなく……」 しかし、様子がおかしいのは美柑から見ても明らかだった。 確かダークネスという形態で、色々あったのは聞いている。角は知らないが、リトと変な格好でくっ付いていた時と同じ服装なのもきっとその証拠だ。 「……多分、ダークネスって言う力で」 ヤミの力が暴走したが、モモ達の協力もあり、リトがそれを食い止めた話は美柑は聞いていた。 これも同じように暴走しているのか。 しかし、それならきっとあののび太という少年はただでは済まない。 「制御、出来てるのかな……」 「暴走する代物なんかいな」 それは美柑からしても判別が付かない。 「だけど、のび太さんを放っておけないよ」 ヤミ一人であれば、気付かれないようやり過ごすという選択肢もあった。 イリヤにとって仲間であるのび太が居るのであれば、偽物の可能性があっても見過ごせない。 彼は射撃の飛び抜けた才能はあるが、それ以外の戦闘手段をほぼ持たない無力な子供だ。 暴走しているかもしれないヤミと一緒になど出来ない。 「のび太さん」 今、この場で一番体力を温存し戦える雪華綺晶とヤミについて知っている美柑が二人に接触する。 そしていざという時は、雪華綺晶の茨でヤミを足止めし、ケルベロスとサファイアと共に潜んだイリヤが転身し美柑とのび太、雪華綺晶を連れ飛んで逃げる。 雪華綺晶は言わずもがな、美柑とのび太は子供で体重も軽い。 イリヤにかなりの無理を強いてはしまうが、逃げられなくはないだろうという判断だ。 「良かった……無事だったんだね」 「あの、横の彼女は……」 怪訝そうに見つめる雪華綺晶の心境など知らないまま、のび太は朗らかに言う。 「大丈夫、僕はこの人に助けて貰ったんだ」 ──── のび太が目を覚ました時、ヤミは彼に心を落ち着かせるマッサージを施した。リンパの流れを正したと話した。 当初は目が覚めたら、今度こそ絶頂させてそのまま殺害しようと考えていたが、ここまで碌に参加者と出会えずにいたのを思い出す。 ここは一度、のび太から別参加者との接触はあったか情報を引き出すのも悪くない。 また我慢するのは腹正しいが、一度のび太のお漏らしで楽しめたのもある。 その為に話したマッサージという嘘も、性知識がまだ不十分なのと、小学生の浅い教養なのも影響したのだろう。のび太はそういうものなのかと納得し、あろうことかヤミに感謝までしていた。 落ち着けた事で、凄惨な光景を作り出してしまった自責の念や悟飯への反感や恐怖について、改めて向き合うことができた。 取り合えず、一度はイリヤ達と合流しなくちゃいけない。そこに悟飯が居たとしても、ちゃんと話し合う方がきっと良い筈だ。 それらの考えをのび太が口にした時、ヤミはのび太にもう一つの利用価値を見出した。 自分は変態の格好をしている。その自覚はある。 それではやはり無駄に警戒を誘発し抵抗されてえっちぃ事から遠ざかる。 だが、仮にものび太を保護した善良な対主催の体であれば、警戒はされ辛い。 「さ、サファイア…リンパって……そういう、あの……」 『イリヤ様、それ以上はいけません』 「あの姉ちゃん、マッサージ師には見えへんけどなあ」 隠れながら、のび太の様子を伺うイリヤ達。特にイリヤはマッサージと語るのび太の顔が気まずそうなのが気になる。 しかし、それ以外の話の筋は通っているようにも聞こえた。 混乱状態ののび太を落ち着かせ、ここまで守って連れてきてくれたのだけは確かだ。 「……」 雪華綺晶は警戒を維持したまま、自分の横の美柑へと一瞥する。 「美柑、フフ……ようやく会えましたね」 「ヤミさん……?」 美柑も困惑していた。 改めて対面したこのヤミが、自分の知るヤミとあまりにも違っていることに。 服装を除いても、口調や容姿も全く同じなのに、見たことのない艶めかしい笑みとそこから滲ませる冷たい雰囲気が美柑を凍てつかせた。 かつて出会った地球に来た当初のヤミのような孤独感とも違う。 あの頃のヤミですら、こんなにも冷たい殺意は持っていなかった。 「雪華綺晶さん────」 友達であったが為に、この場の誰よりもヤミの異変を感知し警鐘を鳴らす。 名を呼ばれた雪華綺晶もただならぬ美柑の荒げた声に茨を展開する。 「な、なにをするん……うげっ……!!」 自分と美柑を覆うように茨を広げ、そしてのび太を絡めとり引き摺るように雪華綺晶の背後へと放り投げる。 「勘が良いですね。流石、美柑」 次の瞬間、ヤミの金色の毛が二つの拳へと変身し数十以上の打撃を打ち込んできた。 自らの前に広がる茨の棘を物ともせず、何度も殴りつけてくる拳の圧力が雪華綺晶の顔を歪ませる。 「ぐっ……!」 何重にも重ねた茨の盾が破られ。金髪の拳が雪華綺晶へと打ち込まれる。 その小さな体躯はあまりにも呆気なく、バットで打たれたボールのように軽々跳ね飛ばされていく。 そのまま地べたを転がって、純白のドレスは泥に塗れ汚されていった。 「砲射(フォイア)!!」 「!?」 ヤミの危険度を察知したイリヤが雪華綺晶とヤミの合間に割り込む。 サファイアを介し形成した魔力の砲弾。 仮にも美柑の友達であり、何かの外的な理由により自分の意思ではなく、こちらを襲っているかもしれないと考え、イリヤは一定の加減をした。 だが、相手は仮にも数多の標的を葬ってきた最上位の殺し屋。 そんなものでは、到底ヤミには通用しない。 ヤミはそれを笑みを絶やさぬまま、金髪の拳で弾く。それどころかより笑みを深めていた。 「あ……ぁ、……あなた……あなた……あなたって……!」 「な、なに……?」 「とーーーーーーーーーーーーーっっっっても♪ えっちぃ」 イリヤの美貌に見惚れ、そしてヤミは頬を紅潮させる。 絹のように滑らかで、雪のように透き通った白銀の髪。 汚れ一つない白の美肌と、強い意志を秘めたルビーの瞳も美しい。 小さく膨れた胸の丘は、未成熟で生意気な自己主張をし自然と目線が吸い寄せられてしまう。 腰のくびれも艶めかしいウェーブが生まれていて、背にある桃尻が前面からでも見て取れる。 そんな秘めたる少女の肢体が薄っぺらな水着のような紫色の布っ切れ一つで覆われているのだ。 ぴっちりと密着し、布はイリヤの乳房の形を精密に浮き上がらせる。同時に無駄な贅肉のない均整の取れた腹筋をヘソまで浮かばせ、より官能的に彩っていく。 しかも本人はそれに気づいていない。何食わぬ無垢な顔で、あんなハレンチな格好を平然としている。 見ているだけで、ヤミは自分の息が上がり興奮していくのを自覚していた。 自らも含め、結城リトの周りには美女が多い。地球はおろか、全宇宙からトップクラスの美女たちが集っていると言っても過言ではない。 その中にも食い込めるであろう美貌とスタイルの持ち主だった。 更に恐ろしいのは、彼女はまだ幼く成長途中の青い果実。高い成長性を秘めているという点だろう。 いずれにしろ。一つだけ言えるのは、この女えっちぃ過ぎる。 「宣言します。貴女は最高にえっちぃ事をして殺しますから」 「ええーっ!? ど、どういうことなのぁー!!」 少なくない戦闘の経験から、相手が殺意を滾らせているのは分かっている。 だが、それ以上に発情した獣の表情にイリヤは理解が追い付かない。 「決まっているでしょう。貴女にはとっても気持ちよくなって貰って、とってもえっちぃな痴態を晒して貰って……そして、絶頂を超える絶頂の快楽の中、死んで貰うんですよ。 そうして────あの人へ捧げる手向けになる」 「あの人って…リトのこと、言ってるの?」 ヤミの言うあの人、それは美柑の兄である結城リトの事を言っているのだろう。 「ええ、貴女も大好きな結城リトのことですよ」 「……うそ、でしょ」 ヤミがリトを好きなのは知っている。だけれど、こんなのは違う。 人を手向けと言って殺して、それでリトが喜ぶ筈なんかないのに。 「私はこの殺し合いを終わらせて、そして結城リトを殺して一つになる。 美柑、貴女も────」 あなたも……もう一度、そう言いかけてヤミは言葉に詰まった。 リルトット・ランパードの交戦後と同じように、疑問が生まれる。 こんな殺し合い、真っ当な手段で抜け出すなど不可能なのだから、全員えっちぃ目に合わせて殺して、結城リトの元へ帰還しそして彼も殺す。 美柑もこのまま怖い目に合うよりは、自分の手で殺した方がずっと良い筈だ。何も間違ってなどいない。 「させないよ」 イリヤはヤミを強く見つめる。 自分の横の美柑も。 結城という苗字は美柑と同じものだった。 きっと、兄妹でお兄ちゃんなのだろうと思う。兄を好きな気持ちは、イリヤにも痛い程理解できる。 イリヤにとって妹がお兄ちゃんを好きだなんて、当たり前の事なのだから。 それにヤミの事も、とても大事な親友だと美柑から語られたのを覚えている。 「イリヤさん?」 「大丈夫、美柑さん。 絶対に二人を死なせる事なんて、私がさせないから!」 訳が分からないまま、美遊と死に別れてしまった自分と違って美柑とヤミは生きている。 まだ間に合う。 あの変態的な思想に憑りつかれた少女を正気に戻し、二人の友情と絆を取り戻してあげたい。 『イリヤ様……』 「分かってるよ。無茶をしてるって」 シャルティア戦後からまだ時間はあまり経っていない。 体力も魔力もまだ回復しきらず、底を突きかけている。 「だけど……」 殺し合いに乗ったかもしれない美遊(ともだち)を止める事も怒る事も、もう自分には叶わない事だから。 「もう、こんな悲しい事は私達で最後にしないと」 まだ間に合うかもしれないこの二人には、同じ轍を踏んで欲しくなんかない。 「言いますね。ハレンチ小学生の癖に」 「ハレンチじゃない!」 「鏡見たことある?」 『失礼な! れっきとした魔法少女の正装だというのに』 魔力の砲弾を掻い潜りながらヤミは一気に肉薄する。 「そんな、スク水みたいな衣装で言われも説得力ないかな」 お互いの唇が触れ合いそうな程の距離の中、ヤミの甘い香りが鼻腔についた。 イリヤが見惚れる程に美人で、こんな時でなければ同性のイリヤもドキドキしていたに違いない。 (きた────) ヤミの金髪が蠢く。変身(トランス)の前兆だ。 「斬撃(シュナイデン)!」 魔力を鋭利な刃物へと変える。球状の砲弾のような用途から一変した事に、ヤミも反応が遅れた。 拳を形作ろうとした髪が断髪され、ボリュームのある金髪が舞っていく。 (やっぱり、基本は髪の毛なんだ!) 能力の大本は髪の毛。 その性質は、刃物であっさりと斬れるものだ。 それならば戦い様はある。 髪を操り武器へと変身する前に、斬撃をメインに攻撃を封じる。そして本体への攻撃を砲弾で直撃させれば、殺すことなく無力化出来るかもしれない。 「ふーん、私の能力を髪を操る程度のものだと思ってるなら────」 「駄目、イリヤさん!! 変身能力は……」 全身を変えられる。 その声が届くより先に、ヤミの右手が一振りのハンマーへと変身する。 イリヤの顎下、鳩尾に吸い寄せられるようにハンマーが叩き込まれた。 「───ッ?」 光と共に、巨大な縦長の岩がヤミのハンマーを遮る。 先程まで存在しなかったそれは無骨でありながら、人が握るよう設計された剣だった。 だがそれ一本の全長は人間が使うことを想定していない巨大さ。 「乱入?」 別の第三者が割り込んだ可能性を考慮し、ヤミは岩剣から退き周囲を警戒する。 この岩剣はイリヤが扱えるような代物ではない。つまり、別人が使用したものではないか。 体躯の違う異星人も存在する事から、このような岩剣を軽々と振り回す戦士を抵抗なく想定してしまったが故の行動だった。 「違うよ。これは────」 岩剣が再び光に包まれた瞬間消失し、イリヤが杖として使用していたサファイアへと変化する。 サファイアを手に取ったイリヤは雷のように加速し、ヤミの懐へと潜り込む。 『変身は貴女だけの専売特許ではありません!!』 英霊の力を秘めたクラスカード。イリヤ達の主な用途は二つ。 いわゆる、特撮ヒーローのようなフォームチェンジに当たる夢幻召喚(インストール)。 これは英霊と同化することで、肉体のスペックもスキルもほぼ同等のものを再現する。 疑似的な英霊の召喚であるが、魔力や体力の摩耗に加え場合によっては大きなデメリットも存在する諸刃の剣の一面もある。 だが、もう一つ。その劣化とも、あるいは限定的な英霊の行使とも言える用途が存在する。 限定展開(インクルード)。 英霊の力の一部をステッキに宿し、顕現させる召喚方法。 それはステッキを英霊の宝具のみを呼び出すという形で行使し、使用者の負担も少なく済む。 宝具単体で使用可能な代物であれば真名解放することも可能だが、この岩剣のような並外れた怪力を必要とするような特異な武器では召喚するだけで、持て余すという事態にもなりうる。 だが召喚し、その場に留めることだけでも価値はある。 バーサーカーのクラスカードの限定展開はその岩剣のみを呼び出す。 ナザリック最強の守護者シャルティア・ブラッドフォールンが武装した上で、終ぞ打ち砕く事も叶わなかったほどの硬度と強度を誇るその武器は、一度限りの盾と目晦ましには十分すぎる。 「砲射!!」 超至近距離から、残った魔力を溜めに溜めた魔力弾の放出。 この一撃でヤミの意識を奪えさえすれば、一時的にでも拘束し彼女を美柑の知る元のヤミへ戻す方法もあるかもしれない。 「貴女って、とっても健気で可愛くて……」 魔力の光に照らされたヤミの顔は、未だ彷彿とした不気味な笑みを浮かべていて。 「イリヤ!!」 何かに気付いた雪華綺晶が痛む体を酷使しながら茨を伸ばす。 遅れてイリヤも異変に気付く。 「───えっちぃ」 ヤミのランドセルから海水が飛び出す。 帝具、水龍憑依ブラックマリンによる海水の操作。 ありとあらゆる液体を操作するその能力は液体があればあるだけ力を増す。 ヤミとて、リルトットとの交戦以降のび太と出会うまで、ずっと遊んでいた訳ではない。 支給されたランドセルに質量を無視する性質を持っていることに気付いた後、時間が許す限り水をランドセルに詰め込んでいた。 「なに、これ…ちょっと……!」 水は雪華綺晶を茨ごと吹き飛ばし、その後細長い触手のように枝分かれし、イリヤの未成熟なボディラインをなぞっていく。 魔力弾を放出する寸前、イリヤの全身から甘い感触が迸る。 痛みとは別の感覚、痛みであれば一定の範囲で耐えきれたが、まだ幼い少女のイリヤにとっては未知に等しい触感と愛撫の悦楽にイリヤは僅かに思考と動きを停止した。 「その杖は没収♪」 「あ、っ……」 触手と化した水によりサファイアも絡めとられていく。 サファイアを遠ざけられた事で、イリヤの戦闘手段は絶無となる。 『イリヤ様!』 元より、イリヤも自覚する程に無茶を押し通した戦いだった。 今のイリヤは絶不調の頂だ。 クラスカードの使用も限定展開に留まっているのも、夢幻召喚を使わないのではなく使えないから。 今の状態では負担が重すぎて、それを維持できない。 シャルティアとの死闘の影響は大きい。僅かな休息では埋められない程に。 「こういうのも、中々えっちぃくて良いですね」 水がイリヤの服の下を弄る。 「ん、ぁ……♡」 ひやりとした水の冷たさと、意志を以て統制された水流の動きがこそばゆい。 腰を撫ぜられ、尻を揉みしだかれ脇の下を擽られていく。 「あれ? まだえっちぃ所、何も触ってないのに……イケない娘」 「ふ、ぅ……っ♡」 水がイリヤの身体の熱を吸い、表面の温度が温かくなっていく。 ブラックマリンの細かな調整によるものだ。常に人体に触れる箇所を同じにし、人体とほぼ同じ熱を保つように操作している。 完全な体外の物質であった冷ややかな水が、人にとって最適な温かみを含んでいくとき、違和感が心地よさへと変わっていく。 冷たさで微かに震えた体は、その硬直を解き抵抗を和らげていく。 愛撫に耐えていたイリヤの身体から力が抜けていく。 「っ~~~~~~♡!!?」 温水に触れていたイリヤの体が突然の違和感に反応する。 胸の周りを水が弄った時、ヤミはそれを敢えて冷水の表面で触れた。 小ぶりな乳房を冷水で撫で、揉みしだく。 温水の心地よさに慣れていたイリヤは、冷たい水で触れられる乳房に意識を割いてしまう。 胸だけが冷やされ、イリヤの神経は乳房のみ鋭敏にされていく。 「見て、貴女のここ……とってもえっちになってますよ」 ぴっちりと体のラインを浮き彫りにするマジカルサファイアの服は、その下の痴態を包み隠さず露わにしてしまう。 まだ発育途中の青い果実の丘にある桃色の頂が、ぷっくりと服を押し上げイリヤの意思に反して強く己を主張する。 「胸を揉んだだけで、こうなるだなんて……。 ねぇ? 吸ったらどうなっちゃうのかな」 「ぁ、ぁっ~~♡」 胸の周りの水が形をうねうねと変えていく。 変身のような要領で、それが人の口を形作っていく。 模倣するのはハレンチの化身、結城リトのそれ。 どんな女であろうとも、いとも容易く感じさせ快楽を齎す口技。 乳房の先、その根元からから嘗め回し、舌先で擽られてから一気に先の小さな丘の頂が加えこまれる。 冷たい水の触感が、その口内は温かな人肌の温度で保たれていた。 疑似的に再現された他人の口内、ねっとりした生暖かさと強い吸引を受けながらイリヤは喘ぎ声を漏らしだす。 「こ、こ…ん、なぁ♡……こん、にゃ……ぁ、っ……♡♡」 「あぁ……本当に、ほんっとうにぃ…えっちぃ……」 快感に喘ぎながら、呂律も回らない。 そんな無様な有様を晒しながら、その宝石のような瞳に宿った火は未だ消えていない。 より強く、ヤミを睨む。 だからこそ、ヤミはその視線だけで感じてしまう程だった。 キウルのように、男なのに女のように悶えるのも。 小恋のように、心に決めた相手とは違う相手によって、気持ちよくさせられてしまう背徳感も。 のび太のように、男としてありえざる強制放尿によるお漏らしも。 ヤミに新しいえっちぃ事を教えてくれた。 「ぜ、ぜ……っらい……♡ わ、ら……ひ、ぃ…♡ は、ぁ……ッ!」 こんなにも可愛くて。 こんなにも美しくて。 こんなにも子供なのに性的な体つきをしていて。 こんなにも気持ちよくさせられて。 こんなにもよがらせているのに。 まだ諦めていない。まだ折れていない。まだ屈していない。 こっから抜け出す方法なんて、もうない癖に。 とっても滑稽で哀れで切なくて。 もっともっともっともっと、虐めてあげたくなってしまう。 「貴女が何処まで耐えきれるか、私見てみたくなっちゃった」 「ひ、ぐっ……♡」 精神は高潔で、その目はまだ死んでいないのに。 体はどんどんえっちぃ事に染まって犯され侵食されていく。 肉体の電気信号はイリヤの意志の及ばない脳にまで到達し、その刺激によって別のスイッチを押していく。 まだ子供が行ってはいけないとある行為へと。 生き物が共通して備える本能を刺激し、理性を退けその欲望を解放させようとしていく。 異なる性を受け入れようとする準備を完了させてしまう。 「さあ、もっと見せて……イリヤスフィール」 イリヤの股下の異変に気付いたヤミは嗜虐的で艶めかしい笑みを浮かべる。 「なん、だ……これ………」 目の前で、一人の少女の尊厳を奪い去ろうという蹂躙劇を目の当たりにして、のび太は呆然としていた。 何がマッサージだ。何が落ち着かせてくれただ。 こんなの、間違っている。 どうしてこんなことに気付けなかった。どうして、あの女の子の危険さに気付けなかった。 どうしてあんな女の子を、イリヤの元へ連れて行ってしまったんだ。 「僕の、せいだ……」 自暴自棄になって。 逃げ出して。 出会った女の子に言い様にされて。 何も考えないで。 考えてしまえば、リップの死んだ姿を思い出してしまうから。 ニンフの死に顔が自分を恨んで、呪っているように見えてしまって。 自分のせいで起きた惨劇を、あの胴着の男の子に押し付けようとする自分の嫌らしさから目を背けたくて。 だけど、その罪と向き合う程の強さも勇気も自分にはなくて。 「何やってたんだよ……っ! 僕は!!」 女の子の前でおしっこなんか漏らしてる場合じゃないだろ。 「やめてよ! ヤミさん!!」 「坊主、アカンで!」 のび太は叫びながらヤミに向かっていく。 勝ち目などなくても、自分のせいでこんな酷い目に合わされてしまったイリヤを何とか逃がさないと。 ほんの一瞬でも、自分に気を取られてくれればイリヤが逃げるくらいの隙にはなるかもしれない。 「野比のび太、貴方には感謝しないと。 貴方のお陰で私はイリヤスフィールに出逢えましたから」 こんなえっちぃさを小さな体に秘めたドスケベハレンチ小学生との邂逅は、ダークネスとなったヤミには衝撃的だった。 だから────。 「貴方も最高にえっちぃイリヤスフィールを一緒に見ましょう? そして、とっーーーても気持ち良くしてから殺してあげる」 「あ、ぁ……あひいいいいいい!!」 先程と同じように水が服下に潜り込み、乳首とチン〇ンとその下の弱点を掌握される。 もうこうなると、のび太にはどうにもならない。 アヘアヘしながら、喘いでいく。 「ど……どうしよう……わたし……どうしたら、わたし……」 「落ち着き! ダークネスちゅうんは、一度は止める事が出来たんやろ? その方法はなんや!?」 ケルベロスの推測通り、ヤミは一度暴走したダークネスを仲間と友の力によって静止させられた事がある。 結城リトへの恋心でバグが生じたダークネスには、その方法が存在する。 「確か、リトが……ヤミさんにハレンチなことして、セクハラして止めたってモモさんが……」 「あのなッ! ワイは今、真面目な話しとるんや!!」 「……真面目だよ。ほんとうに……それしか知らなくて」 「嘘やろ!?」 それもモモから聞いた話で、どう具体的に止めたのか美柑にも分からない。 「はぁ……はぁ……♡ んっ、ぁ……あぁ♡」 あられもない姿を晒し、気付けば衣服も全て剥ぎ取られたイリヤ。 嬌声と共に体を何度もびくびくと痙攣させる姿は官能的だ。 だが、イリヤは消耗している。そんな体力ない状態でこのような蹂躙が継続されれば、恥辱に塗れた最悪の死に方を迎える事になる。 「雪華綺晶…ちゃん、起きて、お願い!!」 水流に吹き飛ばされ、水と泥に塗れて倒れ伏す雪華綺晶に駆け寄り、美柑は雪華綺晶を揺さぶる。 雪華綺晶の目は閉じており、まるで死んでいるかのようだった。 「わたし……だけじゃ……」 ヤミさんもイリヤちゃんも、あののび太って男の子も助けられない。 縋るように何度も声を掛けるが、雪華綺晶は返事をしない。 「どうしよう……ケロちゃん、わたし────」 「お前、何やってるんだ」 その時、大きな力の主の到来をヤミは鋭敏に感知した。 ──── 最悪だった。 シャルティア達と交戦した戦場に戻った時、そこに広がっていた光景はその一言に尽きる。 赤黒い人だった肉片の残骸がこれ見よがしに置いてあった。 「どっちだ……シャルティアか、あのグレーテルという女か」 最初こそ激しく動揺した悟飯だが、しかしそれもすぐに冷静になる。 何故か、死体を損壊させたのはニンフのものだけだったのが引っかかった。 首から上の頭部こそないが、ご丁寧に並べてあった妖精のような羽が、彼女が装備していた天使の翼の武器を連想させた。 恐らくだが、この死体はニンフのものだ。 なら、何故他の死体はないのだろうか。辺りを注意深く探せば、土が掘り返された場所がある。 他の二人の死体は埋葬されたのだ。シャルティアがこんな事をする理由がない。 「あ…あいつだ。ふざけやがって……!」 普段の丁寧な言葉使いが鳴りを潜める。 犯人は間違いない。グレーテルだ。 そして、死体を損壊している際にクロから妨害にあったのだろう。 リップとは組んでいたようだし、美遊という少女とは親しい仲だと聞く。 シャルティアが負け惜しみにやるなら、残り二人の死体もズタズタに引き裂くはずだ。 ────殺し合いをより促進させてくれることを期待している。 そして流れた一回目の放送。 死者は既に30人を超えたハイペースで、殺し合いが進行している。 この人達、全員シュライバーが殺したんじゃないか。 そんなありもしない。少なくとも最低でも、美遊とリップとニンフはそうではないと分かっているのに、妄想が浮かぶ。 次に浮かぶのはあの黒いドレスを着た不死身の女、さらにその後に戦ったシャルティアとグレーテル。 あの死んだリップという少年もだ。 どいつもこいつも、身勝手に殺し合いに乗って悪戯のに人の命を奪う悪党どもだ。 何故、こうも簡単に乃亜の言う事を聞いて人を殺す事が出来る? 怒りが、憎しみが、義憤が破裂しそうなほどに激しく渦巻く。 同時に、そんな奴等を仕留め損ねた自分を激しく責め立てていく。 殺さないと。 殺さなくちゃ駄目じゃないか。 こんな殺し合いに乗るマーダーは全員皆殺しにしないと。 「───ふざけるな」 「……チッ」 滾る殺意は十分、それに伴う実力もヤミの知る中でも最上に位置する。 面倒な相手に出くわしたものだと、ヤミは溜まらず舌打ちした。 「~~~~~~~~ッッッ!!!」 「ひああああああ!!!」 全裸で空飛ぶお風呂に入って喘いでいるイリヤ。 アヘアヘしているのび太。 何をしているか分からないが、とにかくこの金髪の少女もシュライバーのような人を簡単に殺すマーダーなのだと理解した。 ここで始末してやる。 気を全開にし、ヤミを睨みつける。 「はぁ……面倒だけど、先に貴方から殺してあげる」 顔は良い。 男前だ。 だが、鍛えられた体は幼い体躯には不釣り合いすぎる。正直に言えば、タイプじゃない。 ここには幼い少年も大勢集められているらしい。だから、男でもキウルのようにえっちぃ子が一杯いると思っていたが、今回はハズレのようだ。 「待って、悟飯君……ヤミさんを────」 「やってみろ。その前にお前を殺してやる」 殺さないで。 そう言おうとして、悟飯の殺意に充てられてしまった。 「……っ、ひ」 恐怖で竦み、声が出ない。 「はあああああ!!」 ヤミの金髪の拳と悟飯の拳が激突する。 耳の鼓膜が張り裂けそうなほどの轟音を響かせ、ヤミが後方へ吹き飛ばされる。 華麗に慣れた仕草で受け身を取り、改めてヤミは悟飯を睨み返す。 その眼前に悟飯が迫る。素早い動きで肉薄し、ヤミの顔面に拳を突き刺した。 「がっ…あぁぁ!!」 少女とは思えぬ野太い声を上げながら、ヤミは頬を殴り飛ばされる。 そのまま、追撃のラッシュを叩き込もうとした悟飯に水が纏わりつく。 「こんなもの!」 気を放出し水を弾く。 ブラックマリンの操作すら及ばない程の勢いで、水が吹き飛ばされていく光景にヤミは唖然とする。 「終わり────」 殴り飛ばされ、地べたを転がるヤミの頭上へ。 悟飯は拳を振り上げ、その可愛らしい美顔を叩き潰すべく降り下ろす。 顎がジンジンと痛む。 「なん、で……」 足元を見下していた視線は、気付けば朝空を仰ぎ見ていた。 全身を大の字の形にして、悟飯は転がっている。 自分は蹴り飛ばされたのだと、遅れて理解するが。何故、急にこうなったのか納得がいかない。 さっきまで優勢だったのは、自分だったはずだ。 「人の恋路を邪魔するお邪魔虫は、馬に蹴られて死んじゃえってね?」 わざとらしく、馬の脚へと変身させた髪の毛をうようよと悟飯の頭上で浮かばせる。 刹那、踏み潰すように足が振り落とされた。 悟飯は横へ転がりながらそれを回避し、一息に飛び上がる。 「あーもう、さっさと死んでよね!」 落ち着け。 落ち着くんだ。 僕は少なくとも、この娘よりは強いんだ。 だから、勝てない戦いじゃない。 拳を強く握り込み。そして悟飯はヤミへと迫る。 「───ッ」 簡単に距離を詰められた。 よし、後は殴るだけだ。難しい事じゃない。 こんな悪い奴、いくらだってぶん殴ってやればいいんだ。 「今の、ちょっといい表情(かお)してるかも」 「───どう、して……?」 避けられた。 凄く簡単に。 「自分が絶対に強いと思ってる男の子が、鼻っ柱をへし折られてプライドを傷つけられた顔────それも、えっちぃくて…良い」 殴る。蹴る。 殴る殴る殴る殴る蹴る蹴る蹴る蹴る。 全部が当たらない。空ぶっていく。 どうしてだ? 「なんで、なんでだ……!!」 シュライバーのような絶対回避の能力を持っているのか? それなら何か、作戦を立てないと。 弱点を見付けるんだ。 「単に、ペース配分が滅茶苦茶なんですよ」 悟飯の鳩尾にヤミの拳が減り込んだ。 「ご、ほ……ッ!」 肺から息を吐き出し、唾液が口から飛び出していく。 気を抜けば拳が体を突き抜けそうなほどの激痛。 「貴方、ここまでパワーを全開にして戦ってきちゃったでしょう?」 「ッッ!!?」 「駄目じゃない。あの乃亜って子は、私達に制限を掛けてるんだから」 膝を折り、鳩尾を抑えながら悟飯は思い出す。 シュライバーとの初戦でも、スーパーサイヤ人の使用制限に加えて、戦闘時における普段以上の疲労感があった。 あのシュライバーですら、本来存在しない疲労という概念を付け加えられ休息を必要としたのだ。 「ようするに、貴方の敗因はスタミナ切れってコトかな」 特に悟飯に至っては、この島でも上位の実力者たちと連戦を重ねてきた。 碌に休まず戦いを続けていれば、体は限界を迎えかけていても、何ら不思議はない。 「どうして……」 疲労のピークに至った肉体は動きが鈍り遅くなる。当然の帰結だ。 鈍い攻撃なんて、避けられて当たる筈がない。 そんなことになる前に、どうして気付けなかったのだろう。 怒っていたからだ。 ここまでずっと、シュライバーと戦ってから強い憎しみに支配される事が多くなった。 それが、自分の肉体を蔑ろにしてしまった原因なのか? 怒りが自らの不調を無視してしまったのか。 振り返れば、ヤミと相対してからも無暗に気を解放していた。 制限下ではそれは自爆行為だと、分かるようなものなのに。 (僕は、一体……どうしてしまったんだ────) 分からない。 セルの時に十分懲りて、後悔してもしきれなかった筈の過ちを何度も犯している。 更にもっと被害を拡大させてしまっている。 いくらなんでも、ここまで短期間で何度も怒りに呑まれるだなんて、自分でも信じられない。 「はぁ……く、ぐぅ…ぅ────波ァ!!!」 「ッッ────」 残された気を全て掌の一点に集約させる。 この至近距離とヤミが己の勝利を過信していた完璧なタイミング。 膝を折ったまま、油断しきったヤミへとエネルギー波を解き放つ。 エネルギー波はヤミを飲み込んでいき、そしてより大きいエネルギーの渦に覆われる。 「舐めないでくれる? わたしだって惑星の一つや二つ、制限がなければ消せるんだから」 「なっ……!」 同じく掌から光を放出するヤミが呆れたように呟く。 気付けば、残された力を込めた渾身の一撃は呆気なく消失していた。 「ぐわああああッ!!」 そのまま金髪の拳の連撃が全身を打ち付け、悟飯は吹き飛ばされていく。 「なんだか、貴方って……」 せめて、僅かでも休息を取れていれば。 イリヤを運んだ時、埋葬ではなく体を休める事を優先していればこうはならなかった。 仮にそうでなくとも、怒りに支配されず冷静に残った気と体力の配分を計算して戦えば。 スタミナ切れで、ここまで劣勢に追い込まれる事なんてなかった。 「とっても弱い」 顔を女の子に足蹴にされ、心底侮蔑するような嘲笑した顔で見下される。 ここまでされても、何もやり返す事も出来ずにいる。 力が入らない。 (ま、最初から冷静なら、ちょっとヤバかったかもしれないけど) 見誤っていた。 この少女は、あのシャルティアにも勝るとも劣らない程の強者だったのを。 イリヤとのび太に変な行為を仕掛けていたのを見て、悟飯は完全に力量を計り損ねた。 少なくともこの島の中で、絶対に勝てる相手だと軽く見ていいような相手ではなかった。 (その悔しそうな表情がえっちぃから内緒♪) ヤミの足の下で踏まれている悟飯の視線、それを浴びているだけでゾクゾクしてくる。 全く、この島には新しいえっちぃことが溢れかえっている。 「ヤミさん」 悦に浸っていたヤミは、声を掛けられてようやく美柑の事を思い出した。 いけない。いけない。 彼女にえっちぃことをして殺してあげないといけないのに。 どうして、さっきまでずっと忘れていたんだろう。 「お待たせしましたね。美柑……」 「私、良いよ」 涙を目じりに浮かべて、小さく肩を震わせながら美柑は自ら体を差し出すように胸元を開ける。 「え?」 「ハレンチなこと、えっちぃこと、一杯してくれていいよ」 普段、もっと気丈で賢くて大人びていて、みんなから頼りにされている美柑とは思えない弱弱しさと、ハレンチさ。 そのギャップが溜まらなく、えっちぃのに。 (何も感じない────) 美柑からえっちぃ事を求めているという願ってもない中で、満たされるはずの欲がすり抜けていく。 「その代わりに、もうこれで最後にして」 「最後?」 「そう、私の事は何でもしていいから……だから、もうみんなを…傷つけないで。 またヤミさんが独りぼっちになって、寂しくなるのなんて嫌なんだ」 独り? 誰が? 様々な女の子を手向けにして、結城リトを殺す事で1つになる。 それの何が独りぼっちなのか。 「リトへの手向けなら、私一人で十分でしょ?」 寂しさなんてあるわけがない。自分の中で、結城リトは永遠に生きていくのだから。 「ヤミさんになら、私……」 怖くて引き攣りそうになる表情を、無理やり笑顔を作って美柑は誤魔化そうとする。 やっぱり今のヤミは恐ろしかった。 いつもの、リトを中心に繰り広げられるエロコメディとは違って、ヤミは冷たく殺意を尖らせている。 今までに美柑が見てきたヤミとはまるで違う。本当に別人のように怖い。 「あひいいいい……」 「ぁ、っ、ん……?」 水に囚われてイカされ続けているのび太とイリヤも、本当に洒落にならない程に衰弱している。 こんなことを平気で出来るような人じゃなかった。 こんなことをして、もし後で正気に戻ったら、きっとヤミはもっと深い悲しみと絶望と孤独に苛まれてしまう。 そうなる前に止めなくちゃいけない。 「殺されたって良いから────」 だから、もうこれしか方法が思いつかない。 これでここに居る参加者の人達を誰も死なせないで、殺し合いから抜け出して。 もしリトに手を出しても、その時はララやモモ達が守ってくれる。 リトさえいればヤミは元に戻れる。 だから、その時にヤミが失ってしまうものが最小限に済むように。 美柑が犠牲になればいい。 「み、かん……」 嬉しくない。 全く、これっぽっちも嬉しくない。 それがどうしてなのか、分からなくて。 大事なことを忘れているのかなって思いだそうとすると、頭が鈍くなって。 段々と苛立ちが増していく。それを美柑にぶつけようとして────。 「うわああっ!!」 足元の悟飯を思いっきり蹴り飛ばしていた。 美柑がやめてと叫ぶのを聞きながら、ヤミはより困惑を深めていく。 ────私は、何がやりたいの。 「さ、させにゃ…ぁ、い、からぁ…んっ♡ そんな、のぉっ…ま、ちが、あっぁぁんっ♡ 友達が…死んだ、ら……貴女ずっと、ずっとぉ…んっ♡ 後悔し、あっ♡ ぁん…つ、づ…ける、ぁっからぁっあぁぁぁっ♡!!」 あのイリヤという娘は、どうしてまだ折れない? 快楽という快楽を体に刻み込み、常人ならそのえっちさに耐え切れず屈するだろうに。 一体何を支えにして、まだ抗えるというのか。 何を懸命に訴えかけているのか。 その懸命さに、ヤミは忘れていたモノを思い出しかけそうになる。だけれど、まだ分からない。 「だりゃあああああああああ!!!」 「────ッ!」 咆哮が木霊する。 美柑に気を取られた一瞬の間に、悟飯が僅かに残った気を噴射し加速する。 水の触手に囚われていたイリヤとのび太、そしてサファイアへと体当たりのように突っ込む。 盛大な爆音が響き渡り、水は爆散し二人を抱えたまま悟飯は転がっていく。 「っ、ぁ”ーーッ??」 「アア~」 脇に抱えた二人から、嬌声が上がる。 「だ…大丈夫、ですか……?」 『あまり……触れないであげて下さい』 何なんだこの人たち。 苦しんでるのか、満更でもないのかよく分からない顔だ。 気味の悪さを覚えながら、悟飯は困惑した表情を浮かべた。 「ふざけないでよ! もうっ!!」 ヤミのなかで苛立ちが募る。 せっかく、えっちぃの素質の塊であるイリヤと出会えて、途中まで凄く楽しめていたのに。 気付けば、そんなことどうでも良くなるような変な感情に支配されている。 美柑をこの手で、殺さないといけないのに。迷いが生じて何も出来なくなってしまう。 「……謝っておきますよ、美柑」 「ヤミさん?」 「こういう、展開になってしまって」 ヤミが黒い翼を背に生成し、天空へ飛翔する。 「あ…あいつ……」 その光景を見て、悟飯が唖然としながら肩を震わせる。 何をするつもりか、この場で一番先に予想が付いたからだ。 その予想通りに、ヤミの掌に光が収束する。これは美柑も見たことのある変身の光だ。 「貴方達、全員消し飛ばしてあげる」 美柑を狙うのではなく、悟飯達を狙った大規模攻撃を放つ。 この周囲一帯を薙ぎ払える程のエネルギーを放射すれば、その余波で美柑だって死ぬだろう。 きっと苦しみも味合わずに、一瞬で楽に。 あくまでこれは、悟飯達を殺す為に放つ物であって、美柑を殺す為の物じゃない。 たまたま、彼女が巻き込まれてしまうだけ。 それならこの迷いを抱えたままでも、戦うことは出来る。そう自分の疑問に答えを出す。 本当ならたくさんえっちぃことをしてあげたかったけど。 今のヤミにできるのはこれが精一杯だ。 「クッソ……!」 悟飯は思い切り地面に拳を叩き付ける。 完全に王手を掛けられたと、分かってしまったからだ。 あの膨大なエネルギー波に対抗する術がない。 気も体力もほぼ使い切った悟飯に、あれを迎撃するエネルギー波は作り出せない。 ────フルパワーだ!!! あの時、シャルティアとの交戦さえなければ。 奴は退こうとしていた。その時に追撃をせず、戦いを避けていればこうはならなかった。 気と体力を温存して、ヤミとの戦いは別に展開へと変わっていたのに。 「クソォ!!」 武空術で飛んで、ヤミがエネルギー波を放つ前に本体を潰す? 駄目だ。制限下でかつ今の残された気では、空中戦もままならない。 なんで、いつもこうなってしまうんだ。 どれだけ強くなっても、やることが全て最悪の方向に向かってしまう。 「私が…あれを相殺します」 「なにを────」 悟飯の耳に響く、少女の声。 これは忘れもしない。 「無理だ……君じゃ、あれには」 「いえ、手は一つだけあります」 リップ達を殺めた後、イリヤ達への助けを求めたあの白薔薇の人形の声だ。 ──── 「しっかりせい! きらきー!!」 私が目を覚ました時、つぶらな瞳でケルベロスさんが私を覗き込んでいた。 ケルベロスさんはぺちぺちと私の頬を叩いている。 そう、確か私は金色の闇という美柑さんの友達が、正気を失っていてそれで戦っていた。 だけど彼女は強くて、攻撃を何度か受けてしまって螺子が切れてしまい意識を失くしてしまっていた。 「私は……」 「ようやく、気付いたんか! やっぱネジ回して正解やったで!!」 口調は関西弁の変な方だけれど、私のランドセルから螺子を探してそれが私達ローゼンメイデンにとっての動力源であることに気付いてくれていた。 流石は高位の魔術師の使い魔だ。 ケルベロスさんは力を失くしているらしいけど、サファイアさんと一緒で魔術の知識や洞察力は優れている。 「ただ……状況はもう、最悪や」 ケルベロスさんの言うように、それは酷い有様だった。 イリヤとのび太さんはとんでもないことになっている。 悟飯という男の子は、体力が底を突いて、ヤミという娘に負けていた。 無理もない。あの、シャルティアという化け物を相手にあれだけ立ち回って、ろくに休息すら取っていないのだから。 いずれにしろ。本当に状況は芳しくなかった。 「あれ、なら」 「きらきー、なんや考えがあるんか」 一つ、確証はないけれどもしかしたらと思うことがあった。 今の私のマスターであるイリヤの武器、夢幻召喚。なんでも、英霊の力をその身に宿して戦うんだとか。 きっとそれは、あのカレイドランナーへと変身させるサファイアさんと、イリヤ自身の特殊な力によるところが大きいと思う。 でも────私ならそれを再現できると思った。 ──── 「……な、何を言っているんだ」 悟飯は驚いた顔をして、雪華綺晶を見つめていた。 「雪華綺晶ちゃん、本気なの」 悟飯の横に居るイリヤも同じように信じられないといった顔をしていた。 「ええ……かつての私のようになれば」 英霊をその身に降ろす夢幻召喚。 なるほど、人知を超えた力を宿すというのは非常に強力で絶大だ。 しかし、雪華綺晶から見た欠点は一つ。それは英霊自身に完全に成り代われる訳ではない。 元の体を維持した上で、英霊の力を具現化する必要がある。その為にバーサーカーであれば、使用者の精神に狂化の影響が及び、その精神を汚染してしまう。 その他にも膨大な魔力を消費し、使用者に大きな負担を及ぼしている。今のイリヤのように。 なら、実体がないのであれば? 物質世界に囚われずに英霊の力を具現化するのならばどうか。 「アストラル体に戻れば、私は」 実体の体を持たないアストラル体。 それは以前の雪華綺晶にとって、どんな薔薇乙女にでも着替えられると豪語する特殊な存在。 「どんな英霊にだって着替(なれ)るかもしれない」 形のない幻影を形作る事に長けた薔薇乙女は、ドールズの中でも雪華綺晶を置いて他にはいない。 この今の体を捨てて、アストラル体に戻ればあるいは────。 「ただ、必要なのはマスター。 イリヤの道標だけなのです」 一つだけ分からないのは、英霊の召喚たる手順。 これだけは雪華綺晶も過程を知らない為に模倣しきれない。 「お願いです。マスター、私のバックアップを」 英霊召喚の召喚、その道標をイリヤに提示して貰う。その英霊への接続後に雪華綺晶がその力を引き出す。 少なくない負担を強いる事に、雪華綺晶は申し訳なさそうに肩を竦める。 「……雪華綺晶ちゃんはどうなっちゃうの」 『イリヤ様……』 「体を失くしたら、雪華綺晶ちゃんは……!」 アリスゲームの事は聞いていた。 雪華綺晶は実体を持たず、孤独に苛まれていたことも。 それが狂気を駆り立て、アリスゲームを促進させドールズ達と矛を交えた事も。 いくつかの戦いを超えて、そして紅薔薇の姉、第五ドール真紅の手によって実体を手にし、掛け替えのないマスターと愛しい姉妹との?がりも生まれた。 「雪華綺晶ちゃんにそんなことさせられない! 私が戦う!!」 「体が無くなるって、どういうことなの! ねえ!?」 遅れてのび太も話を理解する。 のび太の認識からすれば、英霊どうこうはともかく体が消えればそれに直結するのは死だ。 「駄目だ。やめてよ、僕が悪いんだから、雪華綺晶が死んじゃうなんて……」 自分のせいだ。 自暴自棄になって、まともな判断力も消えて。 ヤミをこんな場所にまで連れてきてしまって それで、またニンフに飽き足らず雪華綺晶まで。 もっと色々、上手くやれたはずなのに。 駆け巡る後悔がのび太を苛む。 やり直したい。こんなことになる前に全部。 それか自分が責任を取りたい、ここで消えるべきは自分なのに。 「……のび太さん、貴方は優しいのですね」 「な、んで……」 のび太の頬を伝う涙を小さな指ですくい、雪華綺晶は微笑む。 「昔の私では考えられない事でしたもの。 私の為に泣いてくれる方が居るだなんて」 「僕は……っ!」 アストラル体であった頃、まだ何も持たずにいた頃。 雪華綺晶は独りぼっちだった。 別のドールのマスターを奪い去り、糧とする。 でもそこには何の繋がりもなくて、他のドールズが築き上げる絆もない。 ただ満たされぬ愛慕を満たすために、他人の物を横取りする卑しい欲しがりな壊れた子。 「こんな私の為に、涙を流してくれる方が居るのなら……それは命を掛けるに値するでしょう?」 「ぼ、くは……ぼくは、ぁ……!!」 項垂れて、涙を流し声を上げるのび太の頭を小さく撫でて。 「きっと、ニンフさんも同じ思いだったのだと。私は思っています」 そう囁いてから、雪華綺晶はイリヤを一瞥すると、振り返る。 天上に座する黒い悪魔とも取れる金色の少女へと向かって。 「ここに居る誰も。 誰一人として、死なせたりはしません」 そして、その小さな背を不安げに見つめる美柑にも語り掛けるように。 「雪華綺晶ちゃん……どうして、そこまで……」 誰一人死なせない。それは敵であるヤミすらも含まれている。 美柑にとっては大事な友達だ。だけど、それは他の人達にとっては当て嵌まらないもの。 むしろ、イリヤ達にとっては痴態を晒させた怨敵と言っても過言ではないのに。 雪華綺晶はヤミも助けたいと、そう口にしている。 「……独りの寂しさは、私も良く知っていますから」 ────殺されたって良いから。 あの時、美柑にそう言われた時のヤミの表情は、きっとかつての自分と同じだったのだと雪華綺晶は思った。 本当に欲しい物も分からずに、悪戯に誰かを傷付けるしか知らない頃の自分と。 だけど、あの頃の雪華綺晶と違うのは、ヤミはそれを一度認識し手に入れている事。 それを乃亜の手によってゆがめられた事。 「じゃあ、死んじゃってよ! お邪魔虫共!!!」 チャージを完了させたヤミがその膨大なエネルギーの塊を解き放つ。 「イリヤッ!!」 もう時間がない。 「やろう……サファイア!!」 瞳に溜まる涙を拭って、イリヤはサファイアを手にする。 全裸だった肢体にカレイドサファイアとしての衣装を身に纏う。 その姿に、イリヤは親友の姿を連想する。 『イリヤは、生き……』 まだ確証はないが、美遊は殺し合いに乗ったかもしれない。 乃亜の放送時の言及や彼女の妙な態度を合わせれば、その可能性は高い。 再会した後、ルビーをイリヤに託さずサファイアを預けたままだったのは、一人と一本がその罪を背負ってしまったから。 それをイリヤとサファイアに背負わせない為に。 (美遊……) きっと、友達のイリヤの為に。 それは過ちであるけれど、その行いは間違っていたけれど。 自分のせいで、死ななくても良い人が亡くなってしまったのかもしれない。 (その罪に、どうやって償えば良いのか……まだ、私には分からない……) もう一枚のクラスカードを手にし、イリヤは叫ぶ。 美柑が持っていた新たなるクラスカード。 この場の希望を繋ぐ、最後の切札。 (だけど今、私の仲間が命を懸けて私達と、私達みたいな女の子達の絆を守ろうとしてる) サファイアを握る手に力を入れる。 このステッキの本来の主に向けて祈るように。 ────力を貸して、美遊!! もうこれ以上、友達が引き裂かれる場面なんて見たくない。 友情を否定し悦に浸るような、あんな乃亜なんかの思い通りになんかさせない。 ────夢幻召喚!!! 英霊の召喚までの道標を、そこに至るまでの過程を構築しその道(ロード)をイリヤと契約し繋がっている雪華綺晶が辿る。 (ありがとう。イリヤ……私の、マスター……) 離れていく。 実体の感触が消えていく。 もう、あの温かさを感じることが出来なくなる。 ああ、それはなんて悲しくて寂しくて冷たくて。 だけど、あんなにも拒んだ孤独がまたやってくるのかもしれない。 でも怖くない。 (だって、私には涙を流してくれるような仲間が居てくれる) 雛苺の無垢さも。 金糸雀の愛しさも。 真紅の気高さも。 翠星石の烈しさも 蒼星石の切なさも。 水銀燈の孤高さも。 幾つもの私になれるのなら。 人の願いによって形作られた幻想であろうとも、私はなってみせる。 真紅(おねえさま)から頂いた体を失くしてしまうけれど。 きっと、お姉様が私ならこうしただろうから。 「約束された(エクス)────」 イリヤが道を示し、雪華綺晶が具現化した英霊は青き甲冑の騎士。 ブリテンの王、アーサー王その人。 束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流。 意志を持たず具現化したアーサーが駆る聖剣の光が集約する。 「────勝利の剣(カリバ―)!!!」 天から降り注ぐ破壊の光と、大地より放射される人の願いを集った光。 二つの光の放流が衝突する。 今、ここに最強の対惑星兵器と人々願いが集った最強の幻想が激突した。 「邪魔、を……しないでよ!! このガラクタァ!!」 二つの巨大なエネルギーの塊の衝突は、その余波だけで莫大な破壊を齎す。 雪華綺晶の周りのコンクリートは耐え切れず罅割れ、その閃光は太陽の光すら凌駕する程に暴力的な眩さで輝く。 雲はその風圧により蹴散らされ、今空には雲一つない。 「いえ……退きません。ここで退けば、貴女は本当に独りになってしまう……ッ!」 「うる、さいなァ!!」 押し切れない。 あんな小さな人形の何処にあれだけの膨大なエネルギーを持っているのか。 制限さえなければ、惑星を軽く数回は吹き飛ばされるだけの攻撃なのに。 「さっさと、潰れてよ!!」 よりエネルギーの圧を強めていく。先ほど悟飯にペース配分を指摘したヤミとは思えない程に、今はヤミが感情に支配されていた。 「────ッ!?」 こいつは必ず倒さなくていけない。 イリヤにえっちぃ事を完遂せずに殺すのは非常に惜しいが。 それ以上に、この妙な感情の沸き上がりを抑えないと。 自分を否定されているようで、間違っていない事を無理やり正されるようで。 「とにかくもう、全員消えて!!」 結城リトを手に入れるのなら、誰だろうと何だろうと消す。 それでいい。それで間違ってない。その筈だ。 だからもう、邪魔をするな。私を乱すな。私を惑わすな。お願いだから────。 (なんて力強さ……これほどとは……) 約束された勝利の剣、その光の放流が徐々に弱まっていく。 ヤミのエネルギー波が大地へと距離を縮める。 実体を捨てアストラル体に戻り、英霊という最上位の幻想を具現化するという荒業を顕現させた。 その上で、宝具の解放まで行う。一度はドールズを全滅寸前にまで追い込んだ雪華綺晶でなければ出来なかった神業だ。 だがその英霊もその宝具も、本来想定された召喚方法ではないイカサマで具現化したもの。 性能は著しく劣化している。 それはともすれば、ヤミに科せられた制限以上の枷となって雪華綺晶を苛む。 (駄目……なんて、燃費の悪さ…力が、抜けて……) 死した英霊を現世に繋ぎとめるには、想像もできない奇跡と魔力を消化する。 例え、幻を現実のように作り上げる事に長けた雪華綺晶も例外ではない。 ここに為した奇跡は、だが長くは持たない。 「せめて、マスター達が逃げられる時間だけでも……!」 現実という物質世界に拒絶され、召喚された騎士王の幻影諸共、雪華綺晶は消失していく。 それでも抗い続ける。 確定された破滅を、突き付けられようとも。 その意思を託した仲間を生かす為に。 この島を支配する神が決定する惨劇に逆らう為に。 「サファイアさん、私の力を雪華綺晶ちゃんに送れないの?」 悟飯に抱えられる中、美柑が思い付きを口にする。 ローゼンメイデンについて詳しい事は知らないが、人間と契約し力を分け与えるというのは聞いていた。 だからサファイアの返事も待たずに、イリヤの握るサファイアへと触れる。 (ヤミさんは私の友達なのに、私は何も出来ない。何もしてあげられない……! せめて、これくらいは…雪華綺晶ちゃんにちょっとでも、力をあげられたら) 『美柑様……』 「ぼ…僕も、やるよ! 少しでも雪華綺晶の力になるんだ! 僕だって、少しは魔法が使えるんだ!!」 ────チンカラホイ!! のび太も美柑と同じように手を伸ばしサファイアへ触れる。 「ッ────こ、これは…結城リt…いや、ちが……ぁ♡」 その時、ヤミに異変が起こった。 股下の細い布が突如として浮かび上がり、ヤミの股間へと食い込んだのだ。 それも的確に、ヤミの性感帯(じゃくてん)を突くように。 まるでそれは結城リトの愛撫もように。 何もハレンチの化身は結城リトただ一人ではない。 長年、ただ一人の少女の入浴現場に何度も突撃し続けてきたこの少年、野比のび太もまたハレンチの化身たる存在。 「ゆ、ゆう…き……リ、ト、いが、い……に、ぃ……」 怒りと快感が入れ混じった表情で、のび太を睨む。 悟飯がヤミの実力を見誤ってしまったように、ヤミもまたのび太の潜在能力を誤認していた。 初対面の女の子の前で、お漏らしできる男だ。結城リトに並ぶハレンチでない筈がない。 (力が流れ込んでくる……これらなら……!) ヤミが一瞬隙を作り、攻撃の手を緩めたこと。 そしてもう一つ、イリヤを通じて美柑とのび太の力が魔力へと変換したこと。 それが騎士王の幻影と雪華綺晶を存続させる糧となる。 簡単なことだ。 イリヤの内に秘められた願望機の力、それは人の願いを叶える。 極めて限定的ではあるが、イリヤと契約し繋がっていることでそれを通じ美柑とのび太の願いを小規模の範囲でイリヤも意図しない内に叶えたのだ。 「う…鬱陶しい、んだって…もう!!」 怒りに駆られ、股下の布を引き千切り快感の元を断つ、 そのままヤミは再度攻撃に力を込める。 結城リト以外に感じさせられた。その事実に怒りを覚える。 殺す。あの男、野比のび太は絶対に殺す。あのスケベガキ、絶対に許さない。 「な!? ぐ、ぁぁああ!!」 より強大さを増した攻撃に雪華綺晶の顔は歪んでいく。 まだこれだけの力を残していたなんて。 あの少女は見掛けと言動と行動以上に、巨大な力を秘めている。 「負けません……! 絶対に、私は……」 「しつこいって言ってるでしょ!!」 ウザイウザイウザイ。 もう本当に、誰も彼も邪魔しかしてこない。 そんなにも自分と結城リトが結ばれるのが、気に入らないのか。 「早く、消えてよォ!!」 「ッッ!!」 雪華綺晶が押し返した攻撃はより強い圧力を伴い押し返される。 イリヤとのび太と美柑の力を上乗せしても。 それでも、まだ届かない。 どんなに強い思いを抱いても、それを貫く強さがないとでもいうのだろうか。 (そ、んな……いえ、まだ私は……) 絶望が迫る。 それでも、耐えて抗い続ける。 最後の最後まで。 この身を捨てて、イリヤと仲間達の想いを乗せたこの一撃を無駄にするわけにはいかない。 きっと、諦めない。 あの人なら。 誇り高きローゼンメイデン第五ドールなら。 気高い紅薔薇の姉ならば。 「あと、もう一押しっと……」 「ぐっ…!?」 そんな雪華綺晶を嘲笑うように、ヤミは残ったエネルギーを一点集中させる。 拮抗が完全に崩される。 己の光がヤミの放つそれに飲み込まれていく。 破壊の権化が大地へと降り注ごうとする。 僅かに背後を見る。 流石の悟飯といえども三人を抱き抱えての移動では、1エリアを抜け出すには時間が掛かる。 その背はまだ雪華綺晶の視界の中に小さく留まっていた。 これでは、ヤミの攻撃で全員が死んでしまう。 「そん────」 駄目だ。いけない。 そんなの。 自分は良い。だけど、せめて皆だけは。 「全く、手の掛かる末妹なのだわ」 「え?」 ぴしゃりと、鞭のようなもので叩かれる。 いや鞭ではなく、それは髪の毛だった。 細長い絹のような金髪のツインテールで、その主は赤いドレスを着て。 「何を呆けた顔をしているの?」 その瞳は、イリヤに似ていて。 「な、にが────」 赤い光と共に紅の薔薇の花びらが瞬く。 上空のヤミからは何も見えない。 エネルギーの激突による閃光が、彼女の視界を狭めている。 ただ、視界の節々に赤い薔薇の花弁が写りだす。 そして、何よりも重大なのは。 (どうして、私は圧されて……!!) 理由もなく、突然雪華綺晶の攻撃が重くなったことだ。 どうして? 私が戦っているのは、ただの一人。 ただ一体の小さな人形の筈なのに。 「真紅……お姉様────」 雪華綺晶は体を捨てた。 元のアストラ体に戻る為に。 それは、真紅から与えられた体を放棄し、そして真紅がアリスとなり再分配したローザミスティカを放棄したということ。 言い方を変えれば、雪華綺晶は真紅へと体と薔薇乙女の魂であり命でもあるローザミスティカを与えたとも言える。 「お姉様……どうやって……」 ああ、きっとそれは永くはない。本当の奇跡なのだろう。 「決まっているでしょう。この真紅は貴女の姉なのだもの────」 イリヤと契約しパスが繋がった事で、聖杯の力が僅かに雪華綺晶にも現れたのだ。 そして、雪華綺晶が放棄した肉体とローザミスティカという条件を満たした事で、その願いを叶えるに至った 「妹が助けを求めているのなら…私は、貴方を一人にはしないわ」 だけど、それはあまりにも無理を通した限定的な復活。 真紅の魂も定着しきれていない。 雪華綺晶が具現化した騎士王のように、一時の幻でしかない。 「だから、もう泣かないで」 しかし、そんな理屈は必要ない。 「泣いて、なんか……いま…せん……」 妹の涙を姉が拭うのに理由など要らないのだから。 ──── 「嘘でしょ、どうして、私が……」 ヤミの放つ攻撃をより膨大な力に飲み込まれていく。 分からない。急なことだった。 赤い薔薇の花弁が舞い始めてから、急激に力が増していって────。 「そんな、どうして……これ、は……」 ────ヤミお姉ちゃん。 なんで、こんな時にメアの事を思い出してしまうのだろう。 なんで、この薔薇を見ると、おねえちゃんという響きを心地よく感じてしまうのだろう。 まるで私が置き去りにした大事なものを、今目の前で見せられているようで。 聖剣の光を浴びて、だが直撃は避けたものの撃墜されてしまった。 悟飯に偉そうに言った癖に、自分も後先考えず全力全開になってガス欠だ。 凄い上空から飛ぶ余力もなくて落っこちていく。 まあ、この程度で死にはしないからいいけど。 「美柑……メア……私、は……」 もう考えるのも疲れてきてしまった。だからいいや。 取り合えず落下に身を任せて、それで……後で考えれば……。 「どうして、こんなに悩んでるのに……貴方は来てくれないんですか、結城…リト……」 疲労とダメージに耐え切れず、ヤミはそのまま意識を手放した。 【一日目/朝/E-8】 【金色の闇@TOLOVEる ダークネス】 [状態]:ダメージ(中)、疲労(極大)、興奮、ダークネス状態、迷い(極大)、気絶 [装備]:帝具ブラックマリン@アカメが斬る! [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0~2(小恋の分) [思考・状況] 基本方針:殺し合いから帰還したら結城リトをたっぷり愛して殺す 0:……。 1:えっちぃことを愉しむ。脱出の為には殺しも辞さない。もちろん優勝も。 2:えっちぃのをもっと突き詰める。色んな種類があるんだね...素敵? 3:さっきの二人(ディオ、キウル)は見つけたらまた楽しんじゃおうかな♪ 4:あの女の子(リル)は許せない。次に会ったら殺す。 5:もしも美柑がいるならえっちぃことたくさんしてあげてから殺す。これで良い…はず。 6:イリヤもえっちぃことをたくさんして殺す。 7:のび太は絶対殺す。 [備考] ※参戦時期はTOLOVEるダークネス40話~45話までの間 ※ワームホールは制限で近い場所にしか作れません。 悟飯さん達は、無事逃げられたみたいだった。 あの攻撃を跳ね返して、それで最期に確認したのは自分の期待通りのもの。 良かった。 さよなら、悟飯さん、美柑さん、のび太さん…そして二人のマスター、イリヤと巻かなかった世界のマスター。 私は、あなた達の幸せな……お人形。 全ての戦いが終わった後に残されたのは。 力を使い果たし、自ら魂を消失させた。一体の罅割れた物言わぬ白薔薇の少女人形だけだった。 【雪華綺晶@ローゼンメイデン 死亡】 【一日目/朝/F-8】 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]:全身にダメージ(大)、疲労(極大)、精神疲労(大)、雪華綺晶と契約、全裸、全身敏感状態(極大) [装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、クラスカード『アサシン』&『バーサーカー』&『セイバー』(美柑の支給品)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、雪華綺晶のランダム支給品×1 [思考・状況] 基本方針:殺し合いから脱出して─── 0:雪華綺晶ちゃん……。 1:美遊、クロ…一体どうなってるの……ワケ分かんないよぉ…… 2:殺し合いを止める。 3:サファイアを守る。 4:みんなと協力する [備考] ※ドライ!!!四巻以降から参戦です。 ※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。 ※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。 のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました 【孫悟飯(少年期)@ドラゴンボールZ】 [状態]:疲労(極大、スタミナ切れ気味)、ダメージ(小)、激しい後悔(極大)、SS(スーパーサイヤ人)、SS2使用不可、雛見沢症候群“???”、普段より若干好戦的、悟空に対する依存と引け目 [装備]:無し [道具]:基本支給品、ランダム支給品0~2(確認済み、「火」「地」のカードなし) [思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。 0:イリヤ、のび太、美柑を連れて安全な場所まで退避する 1:眼鏡の子や魔法少女の子を美柑さんの所に連れて行って、それから。 2:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。 3:お父さんを探したい。出会えたら、美柑さんを任せてそれから……。 4:美柑さんを守る。 5:スネ夫、ユーインの知り合いが居れば探す。ルサルカも探すが、少し警戒。 6:シュライバーは次に会ったら、殺す。 7:雪華綺晶さん……ごめんなさい。 [備考] ※セル撃破以降、ブウ編開始前からの参戦です。 ※殺し合いが破綻しないよう力を制限されています。 ※SSは一度の変身で12時間使用不可、SS2は24時間使用不可 ※舞空術、気の探知が著しく制限されています。戦闘時を除くと基本使用不能です。 ※雛見沢症候群を発症しました。発症レベルはステージ1です。 ※原因は不明ですが、若干好戦的になっています。 ※悟空はドラゴンボールで復活し、子供の姿になって自分から離れたくて、隠れているのではと推測しています。 【結城美柑@To LOVEる -とらぶる- ダークネス】 [状態]:疲労(大)、強い恐怖、精神的疲労(極大)、リーゼロッテに対する恐怖と嫌悪感(大) [装備]:ケルベロス@カードキャプターさくら [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(確認済み、「火」「地」のカードなし) [思考・状況]基本方針:殺し合いはしたくない。 0:海馬コーポレーションに向かってみる。それからホグワーツも行ってみる。 1:ヤミさんや知り合いを探す。 2:沙都子さん、大丈夫かな…… 3:正直、気まずい。 4:リト……。 5:ヤミさんを止めたい。 6:雪華綺晶ちゃん…… [備考] ※本編終了以降から参戦です。 ※ケルベロスは「火」「地」のカードがないので真の姿になれません。 【野比のび太@ドラえもん 】 [状態]:強い精神的ショック、悟飯への反感(緩和気味)、疲労(大)、肩に切り傷(小) [装備]:ワルサーP38予備弾倉×3、シミ付きブリーフ [道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス- [思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る 0:雪華綺晶……。 1:ニンフ達の死について、ちゃんと向き合う。 2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる? 3:みんなには死んでほしくない 4:魔法がちょっとパワーアップした、やった! [備考] ※いくつかの劇場版を経験しています。 ※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。 「やったぜ!!」BYドラえもん ※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています ※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました ※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)。 ※リップが死亡したため、肩の不治は解除されています。 077 不平等な現実だけが、平等に与えられる 投下順に読む 079 空と君のあいだには 時系列順に読む 056 BATTLE ROYALE 命尽き果てるまで戦い続ける者たち 孫悟飯 082 スプーン一杯のグロテスク 結城美柑 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 雪華綺晶 GAME OVER 060 Escape~楽園の扉~ 野比のび太 082 スプーン一杯のグロテスク 金色の闇 106 贄【わたしのはじめて】