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第2話 長門有希 文芸部員の正体 SOS団設立直後のごたごたは・・・俺にもかなりのトラウマとなっているのでふれたくない。 まあ、SOS団室(正式には文芸部室)にいろいろなものが増えたことだけ報告しておこう。 団長の机とパソコン、それにハルヒ手製と思われる団長と書いた三角錐。 やかん、急須、カセットコンロ・・・後、朝比奈さんにトラウマを田植え機のごとく植え続けているコスプレ衣装の数々である。 ちなみに、ハルヒと朝比奈さんの活躍?によりSOS団の知名度はうなぎの滝登り(ハルヒ談)である。 俺の評価がナイアガラの滝から落ちる樽のように下がっているのは触れたくない。国木田や朝倉だけじゃなく谷口にまで同情されたさ・・・ そして、SOS団に五人目がやってきた。 そのときまで、ハルヒは口癖のように、「無口キャラと萌えキャラは揃えたわ。次は謎の転校生よね。」といっていた。 まだ、5月である。普通に考えて、転校生の来るような時期ではない。そんなに都合良く転校生がくるわけないだろ。という俺の考えをわざわざ否定するように、その転校生は文芸部室にやってきた。 「みんな、紹介するわ。即戦力の転校生、古泉一樹くんよ。」 と紹介されて姿をみせたのは、ほとんどの人間がイケメンと評価するような顔に人畜無害を形にしたような笑顔を貼り付けた男子生徒だった。 部室に入るなり、古泉一樹の視線が長門と朝比奈さんへ向けられたのを俺は見逃さなかった。 古泉の前に立つハルヒには見えなかっただろうけどな。 「古泉一樹です。よろしくおねがいします。」 とまるで入学試験の面接のような挨拶をしたそいつは、言葉を続けた。 「すいません。SOS団に入るという件は涼宮さんから伺っているのですが、それは一体どんな活動をする団体なのですか?」 ・・・いきなり、核心をつくやつであった。 俺は、朝比奈さんと長門にまず視線を向けたが、朝比奈さんは首を横に振り、長門は本から視線を外そうとはしなかった。 結果、俺はハルヒにいい加減説明しろ!という風に視線を送るしか選択肢がないことに気づいた。 ハルヒは待ってましたという表情で、満面の笑みと共に宣言した。 「SOS団の目的!それは、超能力者とか未来人とかそうね・・・妖怪とかそういう不思議な存在と友達になって一緒に遊ぶことよ!」 ・・・・・・世界が止まったかと思った。というのはうそであるが、俺はハルヒの最初の自己紹介を思い出していた。 『妖怪』が加わっているのがちょっと気になったが、それ以前に呆れていた。 ちょっと落ち着いて、周囲を見渡すと、朝比奈さんは呆然としている。長門ですら、本からハルヒに視線を向けていた。 古泉の表情は読み取れないが多分呆れて入団をやめるといいだすだろうと思ったよ。 しかし、古泉は再び朝比奈さん、長門、俺を一通り見回した後、 「さすがは涼宮さんですね。わかりました、入りましょう。」 と予想外の答えを返していた。こいつも変わっているな・・・と自分のことを棚にあげて思ったものだ。 そろそろ部活動の時間も終わりに近づいていた。 明日は土曜日だから、やっとゆっくりできると考えている俺の思考を断ち切るように、ハルヒの声が再び室内に木霊した。 「SOS団もメンバーが揃い、本格的な活動をすべきときが来ました。不思議な存在というものを待っている時代は20世紀で終わりました。現在は21世紀、あたしたちは積極的に不思議な存在を探すべきだと思います。明日土曜日午前9時に駅前に集合し、SOS団全員で不思議探しを決行します。来ない場合は死刑よ!」 とまあ、理不尽な宣言と共にその日の活動は終わり、解散となった次第である。 帰り際、長門が珍しく声をかけてきた。 「本読んだ?」 「ん?いやまだだが、返したほうがいいか?」 一頁も読んでないとは答えられん。 「必要ない。でも、今日読んで」 有無をいわさないという視線で長門はそういってきた。ふむ、あの本になにかあるのだろうか。 長門は表情には出さないが、文芸部室占領という事態に直面しているわけだし、いつの間にやらよくわからない団体の一員扱いだ。 しかも、SOS団の存在は学校中の噂になっている。 この無口無表情でおとなしい文芸部員が本で何かを伝えようとしてるのだろうか? 帰宅してすぐに借りていた本を開いてみると、栞が落ちてきた。これかな?などと思いながら目を通す。 『貸した日に読んでくれると思ったのにキョンたんひどいよ~っ!(。>0<。) 今日の午後七時。光陽園駅前公園で待ってるから、絶対に来てね♪絶対だよ! by長門有希』 ・・・えっと、ずいぶんと長門のイメージと違う内容なのだが、というか俺の名前と最後の部分がなかったら、前に読んだ人宛てのものだと判断して間違いなく無視したな。 年賀状印刷の毛筆のようなきれいな字で書かれたその内容を無視するには謎が多すぎた。 まあ、長門の悪戯という可能性もないわけではないが、一応、指定の場所に向かって、自転車を飛ばすことにした。誰もいなかったら笑うしかないな。 まあ、笑わずに済んだ。公園のベンチにいつもの制服姿の長門がいて、本を読んでいた。どこか寂しげな印象は否めない。 「待たせたか?」 俺に気づいて無感情ないつもの視線を向けてきた長門にそう声をかける。さっきみた栞のイメージとはかけ離れたいつもの長門だった。 「少し」 まあ、家から公園までは20分近くかかる。7時を5分ほど過ぎてしまったことはやむを得ない事情と理解してほしいものだ。 「あの栞はお前からだったのか?」 「そう」 「部室や学校では話せないことなのか?」 「そう」 「ここならばだいじょうぶなのか?」 長門は目線を落とす。おそらく、ここでも話せないことなのだろう。 「わたしの家に来て」 唐突な発言だった。しかも、長門はそのままおそらく家のある方向に歩き出していた。なるほど、家でなければ話せないほど困っているということなのか・・・と思った。 まてよ、家といえば、この時間だ。親御さんがいるはず・・・俺の頭の中にひとつのストーリーが生まれた。 長門はもの静かでおとなしい性格だ。しかし、こいつの親もそういうキャラとはかぎらない。モンスターペアレントなんて言葉もあるくらいだしな。 で、長門に文芸部のことを尋ねた親が、今の状況を聞いて・・・ 怒り心頭して、学校に殴りこみに行こうと言い出し・・・ 長門はなんとかそれを止めようとして、しかし、ハルヒには連絡できないから、俺をここに呼び出したんじゃないか? とすると、俺はハルヒの暴挙の協力者として、長門の親に釈明しないといけないのか・・・どうやって? SOS団なる団体の説明をして、喜んで娘を差し出す親がいるだろうか? まして、学校での噂というかやっちゃったことを見聞きしていたら、orz。 気分は失意体前屈だった。キョンたんぴんちってやつだ。 そんなことを考えながら、長門に案内されて、家だというマンションの一室の前についた。ここは相当な高級マンションだったはず。 ・・・やばい。マジやばいって。 防刃ベストを着てくるべきだったか? 「防刃ベストって何?」 「いや、なんでもない。ここがお前の家なのか?」 しまった口に出ていたか。親馬鹿な父親が包丁を持ち出してくるところまで想像して、俺の中の長門の親御さん釈明プロジェクトは立案途中で中断を余儀なくされた。 「そう、入って、中に」 中は、3LDKクラスの普通のマンションだった。 いや、普通というと語弊があるな。なにせ、玄関から見える範囲のほぼすべてを本棚が占領していて、しかも全部本がぎっしりつまっていた。 古本屋かここは?と思ってしまうような光景だった。 「奥に」 そういわれて、室内に入ると、コタツ机がひとつ。 向かい合わせに腰を下ろすと、長門は電気ポットからお茶を入れてくれた。 ・・・・・・ しばらく、沈黙が続いた。いたたまれない気分でお茶を飲んだ後、俺から話を切り出した。 「長門、一人暮らしなのか?」 そうなのだ、親御さんの姿が見えないし、この部屋の状態で複数人が生活してるという感じはない。 「そう、最初からわたししかいない。」 おいおい、それじゃあ、別の意味でやばくないか?とりあえず、釈明プロジェクトを実行しなくて済んでほっ、としたが。 「すごい本の量だな。本が本当に好きなんだな。」 「この本はわたしの・・・一部。」 えっと、この本はわたしのコレクションの一部とでもいいたいのか?ってことはこいつはちょっとした書店より大量の本を持っていると? まあ、娘に高級マンション暮らしをさせている親なのだから、それなりに金持ちなのかも。 「それでだ、学校や公園で出来ないような話って何だ?」 本題をきりだす。 「涼宮ハルヒのこと・・・それと、わたしのこと」 長門は背筋を伸ばしたきれいな正座で話始めた。 「あなたに教えておく」 といって、また黙った。沈黙が痛い。長門はうつむいて俺の方の茶碗をしばらく凝視している。もしかして、躊躇しているのか? 「涼宮とお前がなんだって?」 俺がそういって即すと、長門は立ち上がり、本棚から一冊の本を取り出してきた。 「うまく音声化できない。文章化でも情報の伝達に齟齬が生じるかもしれない。でも、読んで。」 そういって、その本を渡してきた。 題名は・・・なんだこれ? 『涼宮ハルヒとSOS団』 しかも、著者名が、俺?俺は夏休みの日記を書くのも31日にまとめてやるくらい文章を書くのが嫌いだ。当然こんな本を書いた記憶もない。 「読んで」 これはなんだ?と聞く前に長門はこちらをじっとみてそういった。 パラパラとめくると、へんな本であることに気づいた。この本、最初の一部を除いて全部真っ白じゃないか。 とりあえず、空白を読むのは無理なので、文章が書かれている最初の部分から目を通した。 そこには高校入学時のハルヒとの出会いからSOS団設立までの経緯が書かれていた。俺の言葉で・・・だ。 そして、ここで長門と会っている部分まで書かれている。 ---------------------------------------------------- 長門有希はその夜はじめて自分の正体を俺に明かした。長門の説明によると、彼女は『妖怪』なのだという。 この本を読んでいるやつ、笑うなよ。こいつは本当のことなんだからな。 妖怪なんて古臭い存在、俺も信じてはいなかったさ。このとき、俺が信じられなかったことはいうまでもないことだろう。 まあなんだ。まず『妖怪』とやらの説明をしとかないといけないな。俺たちが普通に思う『妖怪』とはちょっとばかし違うんだ。 『妖怪』と長門たちが自称している存在を生み出しているのは、人の想いであるらしい。 たとえば、狸が人を化かすと人々が信じていれば、人を化かす『妖怪』化け狸が生まれると・・・ じゃあ、長門の正体とやらはなにか?というと、文車妖妃(ふぐるまようび)という『妖怪』だ。 メルヘンチックにいうと本の精というか、文字の精とでもいうのかね。つまりは、こいつは文章に込められた想いが『妖怪』化したもの。 ちなみに、3年前に前世と呼ぶべき存在が東京で起こったあれのせいで滅んでいるが、人の文字への想いの強さのおかげで再生したのが今の長門有希なのだそうだ。 まあ、俺にもよくわからなかったがね。 そうそう、重要なことを書き忘れてしまうところだった。 その長門有希の説明によると、ハルヒも普通の人間とは違うらしい。 長門とは違い、ハルヒは普通の人間として、生まれている。 事情が違ってしまったのは、3年前・・・つまり、長門の前世とでもいうべき存在が滅んだのとほぼ同時期だ。 『妖怪』たちのなかでも最強クラスのやつがそのとき滅んだのだが、そいつは自分の力をある呪いと共に人間に宿らせることを考えたらしい。 ・・・で、選ばれちまったのが、涼宮ハルヒだった。 その力は、相当なもので使い方次第では人類を滅ぼすことも容易なほどだという。正直、今でも信じられないがね。 その強大な力とやらに、長門の仲間たちが気づき、再生したばかりで過去の記憶と知識を失っていた長門に白羽の矢が立ったというわけだ。 長門自身も本来ならば相当強い妖怪であったから、ハルヒの力の歯止めとしての期待もあったし、人間社会と自分の力の制御をもう一度学習するよい機会にもなるだろうというのが、その仲間たちの主張であった。 そんなわけで長門は中学時代からハルヒと同じ学校で離れた位置から監視していたらしい。 長門に言わせると、ハルヒの中学時代にも多少の事件はあったが、大事にはいたらなかったとのこと。 そして、高校もおなじ学校へ進学し、文芸部で本に囲まれながら、監視を続けようと考えていた矢先に、涼宮ハルヒの強襲を受けたというわけだ。 「妖怪と妖怪は惹きあうもの仕方ない。」とは長門たちの発言である。 しかし、SOS団に俺が巻き込まれたことは・・・ ---------------------------------------------------- ここで文章は終わっていた。 「長門、この本は何だ?」 こういう本を書くのが趣味なのかね、こいつは。 「書いてあるとおり。その本は書かれなかった本の一部。わたしの力。」 正直よくわからなかった。 「文字での情報伝達にも限界がある。でも、理解してほしい」 んなこと言われても。 「何で俺なんだ。本当にお前が妖怪だとして、ハルヒに特別な力があるとしてだ。なぜ、俺にそのことを教えたんだ?」 「あなたは選ばれた存在。妖怪と妖怪は惹きあう関係にある。だから、わたしと涼宮ハルヒは出会った。しかし、あなたは普通の人間、あなたが選ばれたのには理由がある。」 「ねーよ」 「ある。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。あなたと涼宮ハルヒが、すべての可能性を握っている。」 「本気で言っているのか?」 こくり、と長門ははっきりとわかる動作でうなずいた。 俺は、今までになくマジマジと長門有希の顔を直視した。度を越えた無口なやつと思っていたが、頭の中ではこんな電波なことを考えていたのか。ここまで変なやつだったとは・・・ 妖怪?文車妖妃(ふぐるまようび)?ありえん・・・ 「あのな、そんな話なら直接涼宮に言ったほうが喜ばれると思うぞ。あいつはそういう話題には飢えているからな。悪いが、俺はそういう話題にはついていけないし、今信じることはできないな。」 「わたしの仲間たちの意見では、呪いの影響で直接伝えることはできない。もし、伝わったとしても、現在の涼宮ハルヒでは自分の力を自覚した場合、その力を制御することは困難。」 「俺が今の話をそのまま伝えたらどうするんだ?」 「涼宮ハルヒはその話を信じない。信じることができない。それが彼女が受けた呪い。」 呪い云々はともかく、確かに信じないのは事実だろうな。 「涼宮ハルヒの周りにいる妖怪はわたしだけではない。また、妖怪の中にはあの力を利用しようという動きもある。あなたは涼宮ハルヒにとっての鍵。危機が迫るとしたらまずあなた。」 付き合いきれなくなってきた。 これ以上、電波話を聞くのはさすがにつらいので、長門の部屋からおいとまさせてもらうことにした。まあ、お茶はおいしかったよ。 長門もこれ以上留めようとはしなかった。ちょっと、寂しそうではあったが・・・ 家に帰って、親に遅くなった言い訳をして、自分のベッドに横になった。 妖怪 文車妖妃(ふぐるまようび)ねえ・・・ 気になって仕方が無いので家のパソコンで検索すると、確かにそんな妖怪が紹介されているページはあった。まあ、絵の方は長門とはイメージが違う。 そりゃそうだ。妖怪なんて実在するわけがない。実在すれば、ハルヒは喜ぶだろうがな。 あんな風に本に囲まれて一人寂しく生活しているから、長門もあんな妄想に取りつかれたのだろう。思春期の少女に集団妄想などが起こるケースがあるというのもそのホームページには書かれていた。 『妖怪』 この言葉と俺がこれから長きわたり付き合っていくことになるとは、このときひと欠片も思っていなかった。 しかし、おだやかな俺の日常はこのときすでに圧倒的な存在により激変しつつあったのだ。
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第3話 ネットワーク 『鶴屋家』と『機関』 土曜日、朝、9時5分前。 昨日の長門の話を聞いて、インターネットで調べたり、考え込んだりして夜更かししてしまった結果、約束の駅前に到着したのはその時間である。普通に考えれば間に合ったというべきなのだが・・・ すでに俺を除く4人が揃っていた。昨夜電波話をしてきた長門も含めてだ。長門は文芸部員ではなかったのか? 「遅い。罰金!」 顔を合わせるやハルヒは言った。 俺の約束の時間には間に合っているだろうという反論を無視して、SOS団規則第9条を押し付けてきた。ちなみに、団則はすべてハルヒの頭の中にしかなく、俺たちに確認することはできない。 しかたなく、渡橋おばさんからもらった福沢さんが財布から消えていくのを心の中で嘆きつつ、駅前喫茶店でおごることになった。 そして、店内でコーヒーを飲みつつハルヒ団長様から今日の計画を拝聴したわけだ。 ハルヒの提案はこうだ。 5人で二つの班に分かれて、市内の探索を行う。不思議なものを発見したら、即座に互いの携帯で連絡を取る。12時にはまた駅前に集合するという単純かつ多分無意味なものだった。 3時間程度で見つかる不思議なんてあるわけないからな。 で、くじ引きで班分けが行われたわけだ。 結果、俺と朝比奈さんの二人とハルヒ、古泉、長門の三人の二組に分かれた。 ハルヒはしるしのついていないくじ(楊枝)を不満そうに睨んでいたが、まあそれはそれだ。俺としては朝比奈さんと二人というくじ運に感謝したいところだ。 「キョン解ってる?デートじゃないんだからね。まじめに探索しなさいよ!」 「わあってるよ」 と答えはしたものの、俺の頭の中は3時間弱のデートの時間をどう過ごすかで埋め尽くされていた。 そして、俺と朝比奈さんは川沿いを歩いていた。 傍目にはデート中のカップルに見えるだろうか?などと不埒な考えを抱きつつ、朝比奈さんと手をつなぐタイミングを狙っていたりした。 「水がきれいですね。」 朝比奈さんは、川面を覗き込みながらそういい、川の中から石を拾いあげようとしていた。 「きゃっ!」 このかわいい悲鳴も朝比奈さんのものだ。そして、俺の体に朝比奈さんのやわらかい・・・胸があたっていた。どうやら、石の裏にくっついていた変な虫に驚いたらしい。 つい、俺が抱き寄せようと考えたのは、まあ、健全な男子高校生の思考としてはごく普通だと信じたい。 「ちょい、少年!うちのみくるにおいたはダメにょろよ!」 へっ? 今日は土曜日だというのに近くに犬の散歩をしている人もめずらしくいない状況で、つまり周囲には誰もおらず、俺と朝比奈さんだけだ。 今の声はいったい何だ? 「あの~、鶴屋さん。声を出しちゃだめですよ。」 朝比奈さんがへんなことを言い出していた。 「大丈夫っさ!『人払いの結界』は張ってあるにょろ!」 また、聞こえた。どうやら幻聴ではないようだ、朝比奈さんのポーチの中から聞こえてきている。 「みくる・・・そろそろ出してほしいにょろ。めがっさ息苦しいっさ。」 「あっ、はい」 朝比奈さんがポーチから出したのは、人形?人形というかぬいぐるみというのか、コロボックルのような髪の長いそれを朝比奈さんは取り出し、そして地面に置いた。 「ふ~、息苦しかったにょろ。ポーチの中は無理があったにょろ。」 ・・・こいつ、動いてるぞ。 俺は、とうとう幻をみるようになったらしい。その人形は背伸びをして、こっちに目をむけてきた。ちょこちょこと動き回る姿はちょっと愛らしかった。 「きみがキョンくんだね~?みくるからよっく話は聞いているよ~。ふーん。へえーっ。」 などと言ってきた。 俺は生きてるかのように話す人形のせいで固まってるし、朝比奈さんは真っ赤になって慌てていた。 俺の状態を把握したらしいその人形は、 「この姿に驚いているにょろ?みくる~、スモークチーズはあるかい?」 などと言い出すしまつだ。 ここでなぜ、スモークチーズなのか?夢をみているにしても意味不明だ。 しかも、朝比奈さんはポケットからスモークチーズを取り出して(持ってるんですか!?)人形に手渡していた。 人形の方もそれをかじってるし・・・そして、次の瞬間・・・ 目の前にいたのは、ポーチサイズの人形ではなく、かつてのハルヒ並みに腰まで届くきれいな髪をした女の人だった。 「自己紹介が遅れたね。あたしは鶴屋、みくると同じクラスなのさ。鶴にゃんと呼んでくれてもいいにょろよ?」 鶴屋さんは自己紹介をしてくれたわけだが、一番重要なことが欠けている気がする。つまり、自分は何者かってところだ。 「えっと、朝比奈さん・・・」 俺は助けを求めるように朝比奈さんの方をみる。 朝比奈さんは、何かを決心したかとような真剣な表情をしていた。 「キョンくん」 朝比奈さんの栗色の髪がふわりとゆれた。 「お話したいことがあります。」 小鹿のような瞳になにかを決意したようすが浮かんでいた。 「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと未来から来ました。それに・・・普通の人間とも違います。」 桜の木の下のベンチに座り、朝比奈さんは語り始めた。かなり躊躇していたようで、鶴屋さんから、あたしが話そうか?といわれてはじめて口を開いた。 「歴史を改変してしまう可能性がありますから、わたしがいつの時代から来たのかをお話することはできません。ただ、わたしがこの時代に来た目的はお伝えできます。」 昨日に引き続きいろんなことが起こるものだとある意味関心していた。 ちなみに、鶴屋さんは俺たちからちょっと離れて、川で石投げをして遊んでいる。おっ、8回か。 「涼宮さんのことです。」 また、ハルヒか・・・ 「涼宮さんは時間の流れに影響を与えるほどの力を持っています。彼女の行動がわたしたちの未来に大きな影響を与えることがわかり、監視を行うことを決定し、わたしが派遣されてきました。」 つまり、未来からの監視役ってことか・・・信じられない話ではあるが、 「で、あの人は?」 俺はさっきから無邪気に遊んでいる人を指差して尋ねた。 「鶴屋さんはわたしのこっちに来てからの友人です。鶴屋家に代々伝わる人形に魂が宿った存在、『妖怪』ちゅるや人形が鶴屋さんの正体です。それ以上のことはわたしからはちょっと・・・」 また、『妖怪』かよ。 「あとは、あたしが補足するっさ。」 さっきまで離れた川面で遊んでいた人が目の前にいた。 「あたしたちもハルにゃんには注目していたのさ。まあ、あたしは『鶴屋家』の方が忙しいという事情もあったけど、なにより、みくるがハルにゃんに選ばれたので『鶴屋家』としてみくるに協力することにしたというわけ。」 鶴屋さんの家に朝比奈さんが下宿でもしているのだろうか?押入れの上段で寝ている朝比奈さんのイメージが・・・ 俺の勘違いを否定するように、鶴屋さんはやれやれと続けた。 「違うさ。『鶴屋家』はあたしたちの所属する妖怪ネットワークさ。」 まあ、鶴屋さんの説明を要約するとこうだ。 鶴屋さん自身は齢数百歳という古い人形に魂が宿った存在で、代々鶴屋というそれなりに知られた名家の主であり、かつ、この付近の妖怪を束ねる『鶴屋家』という妖怪集団(これをネットワークと呼んでいるらしい)のリーダーを務めている。 『鶴屋家』のような妖怪集団は各地にあるらしいが、『妖怪』には単独行動を好むものや対立するものもいるため全体像は不明らしいが。 『鶴屋家』の存在もあって比較的安定した状態だったこの街に降って沸いたのが、『涼宮ハルヒ』という存在。 それに対する各所からのアプローチに対応するのに『鶴屋家』が手一杯になっていたところに、未来から朝比奈さんがやってきたと。 朝比奈さんたちと自分たちの利害が一致したことから、同盟関係を結び、『鶴屋家』は朝比奈さんに協力しているというわけである。 「個人的にもみくるのことがめがっさ気に入ったというのが本当のところ。みくるは面白い子だからっさ。ハルにゃんもそれでみく るに目をつけたと思うにょろ。」 と鶴屋さんが屈託のない笑顔で付け加えたとき、朝比奈さんはちょっとはずかしそうにしていた。 「えっと、信じてもらえないでしょうね。こんなこと。」 鶴屋さんの説明が終わった後、朝比奈さんは川面を眺めながら、つぶやいた。 まあ、今目の前で起こったことは普通でないとは理解し始めていた。本当に『妖怪』とやらがいるということも納得しないといけないようだ。 しかし・・・ 「いや・・・でも、お二人は何で俺にそんな話をしたんですか?」 「あなたが涼宮さんに選ばれた人だからです。」 と俺の方に振り向いて朝比奈さんは真剣な表情で、 「さっきいったように未来のことを伝えるのは禁則事項だから、詳しくお教えすることはできません。でも、キョンくんは涼宮さんにとってとても重要な人なんです。」 「長門や古泉はどうなんです?」 たしか長門も自分は『妖怪』だといっていた・・・しかし、古泉はどうなんだ。あの人畜無害そうな笑顔が頭に浮かぶ。 「あの二人はあたしたちに近い存在っさ。正直、ハルにゃんがこれだけ的確にみくるたちを集めるとは思わなかったにょろ。」 「そうなんです。わたしも距離を置いて観察するつもりでした。まあ、『妖怪は妖怪と惹きあうもの』ですから。」 また、その発言か・・・あれ、そうすると・・・ 「おそらくハルヒにそのことを伝えるとかは禁則事項ってやつでしょうが、ひとつだけ教えてください、朝比奈さん。」 「はい・・・?」 「あなたの正体はなんですか?」 朝比奈さんは微笑んだ。いい笑顔だった。 「いまは・・・禁則事項です♪」 彼女はいたずらっぽく笑った。 そろそろ、駅前に戻ると正午になりそうな時間だった。鶴屋さんもついてくるというので、3人で駅前に向かうと、すでにハルヒたちが戻ってきていた。 「遅い!ってその人誰?」 ハルヒは文句を言いかけた後で、鶴屋さんに気づいたらしくそう問いただしてきた。 「えっと、わたしのクラスメイトで友人の鶴屋さんです。」 朝比奈さんが鶴屋さんを3人に紹介した。 「みくるちゃんの友達ね。よろしく、鶴屋さん。」 「よろしくっさ、ハルにゃん、あたしのことは鶴にゃんでいいにょろ?」 ハルヒはちょっと戸惑っていた。おそらく、先輩からこんな風に声をかけられたことはないんだろうな。 「えっと、鶴屋さん。あたし、名前言ってないけど・・・」 鶴屋さんはあだ名で呼んでもらえないことがちょっと不服そうだったけど、さすがに鶴屋さんの雰囲気は朝比奈さんと違って上級生っぽいというか、大人っぽいもので、さすがのハルヒでもちゃんづけで呼ぶのはためらわれたようだ。 「みくるからよーく話は聞いているっさ。こっちの眼鏡っ子が有希っこで、そっちが古泉くんだね。あっ、そうにょろ。みんなはご飯まだにょろ?」 鶴屋さんはハルヒにこれ以上問いただされないようになのか、上手に話を変えた。 「この近くに知り合いの店があるっさ。あたしのおごり。一緒にご飯たべるにょろ。」 「それはありがたいですね。どんなお店なのですか?」 これは古泉の発言である。ずっと、鶴屋さんを見つめていたが、惚れたか?古泉よ。 「ん~、なんでも大丈夫っさ。和洋中からタイ料理までこの辺にあるにょろ。」 さすがに驚いた。発言からすると、この付近の数店舗のお店が知り合いというか、おそらく鶴屋系列のお店なのだろう。 「じゃ、ご飯にしゅっぱーつ!」 団長の元気な言葉と共に、俺たちは鶴屋さんに案内されて、近くのイタリア料理店に向かった。 「おいしかったー♪学食とはえらい違いだったわね。」 3人前くらい食べた後、ジェラートをぱくつきながら、ハルヒは料理の感想述べている。よく入るな。ちなみに、長門とハルヒ二人で6人前を食べているわけで・・・鶴屋さんもちょっと驚いていたぞ。 「鶴屋さん、これ本当におごりで大丈夫なんですか?」 普通にパスタを堪能した後、コーヒーを飲みながら尋ねた。それなりに高級そうなお店だったし、全員で10人前食べたわけだ。福沢さん2枚でも足りそうにない。 「大丈夫っさ。」 鶴屋さんは軽くながした。さすがは鶴屋当主ってことなんだろうな。 「さて、午後の部を開始しましょう。鶴屋さんはどうするの?」 ハルヒは不思議探索とやらを、午後も続けるつもりらしかった。 「あたしは午後は予定があるっさ。だから、みくるのことよろしく頼んだよ。」 と言い残して、鶴屋さんは去っていった。『鶴屋家』が忙しいというのは本当らしい。 ちなみに、午後の部もくじ引きで班分けされたわけだが、今回は、俺と長門がペアで、もう一班はハルヒと朝比奈さん、古泉の3人となった。ハルヒが不満そうにくじを睨んでいたのも、出発前にデートじゃないと釘をさされたのも午前中とおなじだった。 ハルヒたち3人が出発した後、俺と長門が残された。 「・・・」 「どうする?」 長門は無言。 「・・・行くか。」 とりあえず、ハルヒたちと逆の方に歩きだす。長門も無言でついてきた。 「長門、昨日の話だけどな」 「なに?」 「信じざるを得ないような気がしてきた」 「そう」 長門と会話を試みるも、成功とはいえない状態が続いた。昨日の夜同様にいたたまれない沈黙が・・・ どこか時間をつぶせる場所はないかと脳内検索をかけると、昨日の長門の部屋を思い出した。こいつは部屋を本で埋めるくらいの本好きだ。ということは、図書館あたりにいけばいいかもしれない。 「長門、この街の図書館へ行ったことはあるか?」 「ない」 ちょっと意外ではあったが、好都合でもあったので、図書館へ向かうことにした。 図書館に来るのは久しぶりというか・・・小学生依頼だったかもしれない。以前の記憶よりかなりきれいになっていた。 館内に入ると長門は、夢遊病患者のようにふらふらと歩いていった。とりあえず、退屈することはないだろう。読み終わるのに数時間は軽くかかりそうな分厚い本を手に取って、立ち読みをはじめた長門の様子を見てから、俺は手ごろな本を一冊みつけて、席に座り読み始めた。 『おーともないせかいにー』 やばっ!本を読みながら寝ていたらしい。しかも、携帯をマナーモードにするのを忘れて・・・自分の携帯の着ウタが流れたのに気づき、大慌てで携帯を取り出す。周囲の迷惑そうな視線に目であやまり、携帯を受けられる場所に向かう。 「何やってんのこのバカ!」 ハルヒの声がこだました。おかげで目がはっきりと覚める。 「今何時だと思ってるの!」 時刻を確認すると、4時をまわっていた。 「すまん、寝過ごした。」 「はあ!?なにやってんのよ、このアホンダラゲ!」 「すぐ戻る」 「30秒以内にね」 「長門とはぐれたんだ。さがしてすぐ戻る。」 「はあ・・・一分待つわ。すぐ来なさい。」 長門とはぐれたと言った後、なぜかハルヒの声に安心したような感じが混じっていた気がしたが、気のせいだろうな。 その後が大変だった。 長門はさっきの場所にいたんだが、 「まだ、読み終わっていない。あと、352ページ。2時間39分で読み終わる。」 多いって!てか、閉館時間は5時だ。 「その本は貸し出し禁止じゃない。借りていけばいいだろ?」 「借りる?」 どうやら、図書館で本を借りた経験はないらしいので、大慌てで図書カードの作成手続きをして、本を借りて・・・ 駅前に戻ったときは4時30分になっていた。 その結果・・・おろおろする朝比奈さんと肩をすくめる古泉、そして、怒った顔のハルヒと合流し、 「遅刻!罰金!」 という託宣をいただいた次第である。財布が軽くなっていく・・・ 最後に、朝比奈さんから、 「今日はわたしたちの話を聞いてくれてありがとう。」 という言葉をいただいたのが、まあ、最大の戦果だな。 長門の 「ありがとう」 という声も聞こえた気がするが、小さい声だったのでほんとうにそういったのか自信はない。 月曜日・・・朝からハルヒは不機嫌だった。 まあ、さわらぬ神に祟り無しということで、その日は声をかけるのは避けた。俺も考えることが多かったからな。 放課後、ハルヒは掃除当番に当たっていたので、部室には、古泉と長門の二人だけだった。朝比奈さんも不在らしい。 さて、最後の一人か・・・こいつもなのだろうか? 「古泉、お前も俺に涼宮のことで話があるんじゃないのか?」 古泉の口元の笑みがほんの少し意味合いを変えた。 「お前も、ということは、すでにお二方からアプローチをうけているようですね。」 図書館で借りてきた本を読んでいる長門の方を一瞥して答えた。まるで、何でもわかっているような表情が気に入らない。 「場所を変えましょう。涼宮さんに聞かれてはまずいですからね。」 古泉と俺は食堂の屋外テーブルに自動販売機でコーヒーを買ってから向かった。コーヒーは古泉のおごりだ。 「どこまでご存知ですか?」 古泉はすべてお見通しというような笑顔で質問してきた。 普通に答えるのはしゃくだが・・・ 「涼宮がただものじゃないってことくらいだな。」 「それなら話は早い。その通りなのです。」 まあ、この返答は予想の範囲内だった。土曜日の会話でも人間は俺だけといわれていたからな。 「お前も『妖怪』とかいう存在なのか?」 「先に言わないで欲しいですね。それに、僕は人間ですよ。」 ほう、ちょっと意外だ。朝比奈さんたちの間違いだったのだろうか? 「ただし」 そうきたか。 「普通の人間か?と問われたら『いいえ』と答えないといけないでしょうね。」 「どういう意味だ。」 「そうですね・・・今の僕は超能力者ってことになると思います。」 超能力者か・・・たしかにハルヒの望みの中にもあった言葉だな。 「『妖怪』と無関係か?という問いにも『いいえ』と答えますよ。僕に超能力と呼ぶしかない力を与えている存在は、『妖怪』とでも呼ぶべきものですから。」 そこで『妖怪』なのかよ。 「本当はですね。この段階で接触する予定ではなかったんです。しかし、あのお二人がこうも簡単に涼宮ハルヒと結託するとは思わなかったもので、急遽転校してきたら、涼宮さんに捕獲されたという次第です。」 ハルヒが虫取り網で古泉を捕獲しているイメージが浮かんだ。 「僕の所属しているネットワーク『機関』は涼宮さんをずっと監視していました。距離を置いてですね。彼女の力は危険ですから。」 ストーカーかよ。 「我々も必死なんですよ。自覚されていないとはいえ『神』の力というのは危険きわまりないものですから・・・」 はあ? 「なんだ、その『神』の力というのは?」 「おや、まだ聞いていませんでしたか。涼宮さんに力を与えた存在、それは『神』という妖怪です。」 「・・・それは、貧乏神とか厄病神のたぐいか?」 古泉はやれやれという風に顔を横に振った。 「たしかに貧乏神という『妖怪』も存在しています。しかし、ここでいう『神』は違います。僕としては、それを『神』とは呼びたくないんですけどね。 しかし、それを表現する言葉は『神』しかないんですよ。数十億の人々がその存在を信じている唯一絶対の存在、それゆえに最強の存在だった『妖怪』・・・それが『神』です。」 とうとう、神様まで『妖怪』かよ? 「これは聞いていませんか?人がその存在を信じたら、『妖怪』が誕生すると。」 長門の本に書いてあった気がする。 「ならば、『神という妖怪』が誕生してもなんの不思議もないでしょう?」 ふむ 「しかし、涼宮に力を与えた存在は滅んだんじゃないのか?『神』は死んだとでもいうのか、ニーチェが言ったように?」 「僕自身は3年前のことには直接関わっていなかったので、これは『機関』の仲間からの受け売りですが、涼宮さんに力を与えた『神』というのは旧約聖書などの神が妖怪化したものだったそうです。旧約聖書を読んだことは?」 「ほとんどないな。アダムとイブとか、ノアの箱舟とかその程度の知識だ。」 「それならわかると思いますよ。ノアの箱舟で神は何をしましたか?」 まわりくどい言い方だな。こいつの癖なのだろう。 「雨を降らせて洪水を起こし、ノアの箱舟に乗ったもの以外を絶滅させただったかな。」 「ご名答です。ある意味残忍な殺戮者だと思いませんか?動物を含めて自分が選んだもの以外を絶滅させる。『神』とはそんな存在だったわけです。」 「まあ、物語の上ではそうだな。」 「そこが重要なのです。そのような『神』の実在を人類が信じたから、『神』はそのように妖怪化したのです。」 わかるようなわからないような話だ。 「しかし、その『神』は滅んだと・・・」 「その通りです。考えてもみてください。我々が今現在イメージしている神は、どのような存在でしょう?人類を殺戮し、選んだものだけを天国へ送り、自分に従わないものを地獄へ送る。そんな存在をイメージしていますか?あなたは望んでいますか?」 「少なくとも俺は望まないな。」 古泉はうなずくと話を続けた。 「そういうことです。その結果、『神』は二度目の滅びを迎えた。しかし、強大な力を持っていた『神』はその力をこの世界に不満をいだく誰かに託し、世界を破滅させる最後の賭に出たのです。そこで選ばれたのが・・・」 「涼宮というわけか・・・」 「そういうことです。」 いつもの笑顔で古泉はうなずいた。その目に真剣さが垣間見えた気がした。 「さっきお前は、長門と朝比奈さんが涼宮と結託するのが都合が悪いような言い方をしていたが、どういうことだ?」 「それも簡単にご理解いただけるかと思いますよ。核ミサイルをどこかの一ヶ国だけが持っている世界があったら、その世界はどれほど危険だと思いますか?」 強大な力をどこかが独占してはまずいということか。 「今は僕たちの『機関』も、『バロウズ』も、『鶴屋家』も比較的友好な関係を結んでいます。それ以上にたちの悪い存在があるものですから。」 「なんだ、『バロウズ』というのは?」 「ああ、それもご存知でなかったですか。3年前の『神』との戦いにおいて重要な役割を果たしたネットワークの後身にして、長門さんが属しているネットワークですよ。」 なるほど、長門のいっていた仲間たちか。 「僕としては一番不思議なのがあなたの存在なのです。」 「俺がか?」 「その通りです。僕たちの『機関』も『バロウズ』や『鶴屋家』、おそらく対立組織もですが、お互いの存在を調べようとやっきになっています。知っている分有利になりますからね。しかし、あなたはごく普通の人間です。これは僕たちが保障します。」 うれしいような微妙な気分だな。SOS団内では俺だけが普通の人間というわけか。普通なら逆なのだが・・・ 「そうではありません。『妖怪と妖怪は惹きあうもの』ですし、それは僕に力を与えている存在にしても同じです。しかし、あなたにはそんな存在は確認できない。それなのにSOS団にいて、しかも重要な存在となっている。これはちょっとした謎ですよ。」 たまたまってやつじゃないのか? 「神はサイコロを振らないといいますから。」 いやそれは否定されてるだろ。 「いずれにせよ、今お話したことは涼宮さんには話さないでください。まあ、話しても信じないとは思いますが、『神』は涼宮さんが間違ってもこの世界に満足してしまわないように、彼女の願望を実現しない、もしくは、実現していることを自覚させないという呪いをかけているらしいのです。」 やっかいなものだな。 「ふたつ質問していいか?」 「どうぞ」 「涼宮の力がそれほど危険なら、涼宮を消すとかという方向に流れてしまいそうなものだが・・・」 「そのような強硬意見や世界の破滅をむしろ望む存在もいます。しかし、それでは『神』のおもうつぼと僕たちは考えています。 涼宮さんは今は潜在的とはいえすさまじい力を秘めています。僕たちとしては、爆弾の解体に自信がない以上解体よりもその力が潜在状態で維持されることを望んでいるわけです。」 「ふたつ目だが、お前は超能力を持っているといったが、それなら、証拠をみせてみろよ。例えば、この冷めたコーヒーを温めるような。」 その問いも予想していたかのように古泉は肩をすくめてみせた。 「申し訳ありません。超能力者ではあるのですが、超能力の矛盾も同時に持ってしまっているのです。 観測条件下などでは超能力は使えないのです。例えば、ほら、そこの監視カメラとかね。 わずかでも超能力が記録に残る可能性のある場所では使えない。それが僕の超能力の欠点なのです。 僕に力を与えた存在がそのように生まれたためだと思われます。カメラ付き携帯電話には参りました。 おかげで超能力が使える場所なんてほとんどありませんから。」 しょうがないので、冷めたコーヒーをのどに流し込んだ。たしかに冷めたままだった。 「そうそう、『機関』でこの学校の監視を担当しているのは僕だけではありません。その人の能力ならお見せできますよ。」 ほう、みせてもらいたいものだ。 「それでは先に戻っていますね。多分、すぐにわかると思いますよ。」 特になにをするでもなく、古泉は部室の方へ歩き去っていった。何がわかるというのだ?と思いながら、紙コップをくずかごに捨てようとしたとき、紙コップがきれいに真っ二つになっていることに気づいた。 おいおい、なにがおこったんだ。カマイタチでもあるまいし・・・
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第一話 ジ・O すべてのはじまり サンタクロースをいつまで信じていたか、なんてことはたわいのない世間話にもならないどうでもいいような話だが、サンタクロースが実在することを知ったのは、実にごく最近のことである。 まあ、年に一日クリスマスにしか仕事をしないと信じられている北欧にいるらしい赤服の爺さんに実際に会ったわけではないのだが、それが存在することを信じるに足る体験を、俺は高校一年の若さでするはめになった。 とりあえず、俺をこんな状態に追い込んだ元凶との出会いから語ることにしよう。 そう、それは忘れもしない入学早々、真後ろの席から聞こえてきたこんな発言からはじまった。 「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、異世界人、超能力者、その他普通の人間ではな いものがいたら、わたしのところに来なさい。以上。」 ここで振り向いていなければという考えは、今ならば浮かぶが、こんな電波な自己紹介を聞いて振り向かない人間はいないだろうな。俺の記憶ではクラスの全員が振り向いていた気がする。 当然、俺も振り向いて、そこにえらい美人の姿を見出すことになった。 それが、俺の脳内自叙伝の中では、おそらく涼宮ハルヒとの最初の出会いという題になるのだろう。 最初の電波な自己紹介の件を除けば、涼宮ハルヒはごく普通の女子高生にみえた。そう、当時はそう見えた。俺が、やつのまん前の席であることもあって声をかけてしまったことはそれほど不思議なことではないだろう。 それが、平凡な日常の崩壊のはじまりとも知らずに・・・ 「なあ、しょっぱなの自己紹介のアレ、どのへんまで本気だったんだ?」 腕組みをして不機嫌そうな表情・・・この表情は入学式の日から一度も変化していなかった・・・をデフォルトにしていた涼宮ハルヒは、眉ひとつ動かすことなく、その睨むような視線を俺に向けてきた。 「しょっぱなのアレって何。」 「いや宇宙人とか人間じゃないものがどうとか?」 「あんた、宇宙人なの?それとも幽霊とでもいうつもり?」 俺を睨む目がさらに鋭くなっていた。 「・・・違うけどさ」 「違うけど、なんなの?」 「・・・いやなんでもない」 「だったら話かけないで。時間の無駄だから」 思わず、謝りたくなるようなそんな視線だった。ただひとつ、こいつが自己紹介でいったことが、冗談などではないこと、真剣な発言であったことだけが伝わってきた。まさしく、鋭い針で刺すようにではあったが・・・ 涼宮ハルヒの過去の奇行の数々が耳に入りだしたのは、それから間もなくのことだった。 中学時代クラスメイトだった国木田の近くの席になった谷口というやつが、涼宮とおなじ東中出身で三年間ずっと同じクラスだったことから、実に様々な情報をご教授くださったわけである。 校庭一面に絵文字を書いた事件。(これは市内でもちょっと話題になった、なにぶん関東であんなことがあった後だったため、何か起こるのではないかとかデマすら飛び交っていたな) クラス中の机を廊下に出して教室いっぱいに赤チョークで魔方陣のようなものを書いたこと。 廊下中に御札を貼ったなどさまざまな武勇伝(というのかね?)を聞く羽目になった。 また、涼宮ハルヒの男性遍歴とやらも教授してくれた。まあ、男性遍歴といっても、性的な意味じゃなく、最長一週間、最短五分という告白されてから振るまでの話題ではあったが。 ちなみに谷口は否定していたが、振られたやつのひとりはおそらく谷口であろうというのは、俺と国木田の感想である。 というか、谷口よ、もうちょっと上手に誤魔化さないとバレバレだと思うのだが。。。なんで最短五分のやつの展開だけみょーに丁寧だったのかね?しかも、心理描写のオマケつきで。 四月は、涼宮ハルヒも比較的おとなしかった。まあ、後になれば比較的おとなしかったなあ。。。という程度ではあったが・・・涼宮ハルヒのハルヒらしい行動の片鱗はその頃徐々に現れていたわけだ。 片鱗その1 髪型が毎日変わる。腰に届くほどの長髪なのだが、月曜日はストレート、火曜日はポニーテール(これがまた、よく似合っていた)、水曜日にはツインテールになりと髪を結ぶ箇所が増えていく。日曜日は一体どんな髪型なんだ? 片鱗その2 体育の授業は2クラス男女別で行われるので、男子は隣のクラスで着替えることになっているのだが、ハルヒはまだ男子がいるうちに服を脱ぎ始めたのだ。 その結果、体育の授業の直前の休み時間になり次第、男子一同は着替えを持って、隣のクラスへ移動するのが規定事項になってしまった。 ハルヒには、普通の男子高校生はジャガイモ程度にしか思えないらしい。 片鱗その3 休み時間、放課後にはすぐに姿を消す。 休み時間には、プールやら部室棟やらはては校長室まで、学校中すべてを確認しているかのように見て回っているらしい。四月のプールになんの用があるというのだろうか?屋外プールだから水は緑色してるぞ?ミジンコの観察かね。 放課後消えるのは、帰宅しているのかと思えば、実はすべての部活動に仮入部していたらしい。ちなみに、そのすべての部の先輩方から入部を勧められていた。 これは休み時間になると訪ねてくる上級生が現れるようになってはじめて知ったことである・・・涼宮ハルヒは例によって姿を消していたのだが。 まあ、やつの奇行はすぐに話題になり、北高のほとんどの人間が涼宮ハルヒという奇妙な新入生の存在を認識し始めていたが、これがこれから起こることの序章であるなんて誰も予想してなかったはずだ・・・俺を含めて。 カレンダーのいたずらで普通よりちょっと長いゴールデンウィークが訪れた。谷口はゴールデンウィークには女の子とデートだ、と休み前に言っていたが、結局のところそれはまさしく企画倒れに終わったらしい。 俺の方は、親に言われて、小学生の妹と高校入学祝いのお礼も兼ねて、島根の祖母の家に出かけたものだ。 特に変わったことはなかったと思うが、偶然訪れていた遠縁という渡橋のおばさんから臨時収入を得られたのは、ゲンキンなことだが、ちょっとラッキーと思ったものである。 そう・・・今まで一度もあったことのないおばさんだったことを気に留めなかったとしてもそれは仕方ないことだろう? そして、運命のカミサマとやらが悪戯をはじめたのは、ゴールデンウィーク明け初日だった。まあ、その頃はそんな存在まったく信じてはいなかったがね。 俺より先に席についていた後ろのツインテールに、なんの気の迷いか再び声をかけてしまった。 「曜日で髪型を変えるのは宇宙人対策か?」 ハルヒはデフォルトの表情を崩すことなく視線に鋭さを加えた。驚きが混じっていたのだろうが、ハルヒ研究家(この頃はまだいなかった)以外にはわからなかっただろう。 また、氷の槍(アイスランス)のような返答が来るだろうと身構えていたが、ちょっとだけ違っていた。 「いつ気付いたの。」 そう言われればいつからだっただろう。 「んー・・・ちょっと前」 「あっそう」 ハルヒは頬杖をついて、こっちを凝視しながら面倒くさそうに答えてきた。 「あたし、思うんだけど、曜日によって感じるイメージってそれぞれ異なる気がするのよね。」 初めて会話が成立した瞬間だった。 「色で言うと、月曜は黄色、火曜が赤で水曜が青で木曜が緑、金曜は金色で土曜は茶色、日曜は白よね。」 陰陽五行説かね。とも思わないでもなかったが、わからなくもなかった。 「つうことは、数字にしたら月曜が零で日曜が六なのか?」 「そう」 「俺は月曜が一って感じがするけどな」 「あんたの意見なんか聞いてない」 「・・・・・・そうかい」 投げやりな返事を返した俺が気に入らなかったのか、ハルヒはデフォルトの表情にさらにきつい眼光を乗せてこっちを睨んできた。 さすがに沈黙が続くと精神的に厳しいな・・・と感じた頃、 「あたし、あんたとどこかで会ったことある?ずっと前に」 と訊いてきた。 「いいや」 あるきっかけが状況を一変させることがあることは、本などで読んだことがないわけでもないが、自分の身に降りかかるなんてほとんどの人間は予想しないものだ。 しかし、まさしくそれがきっかけだったわけだ。 運命の歯車というのか?それは静かにしかし着実に動き始めていた。 翌日、俺を驚かせたのはハルヒが法則に反した髪型だったこと・・・というか、腰まで届くほど長かった麗しい黒髪を肩の辺りで切りそろえていたのだ。 それは活動的な性格を表しているようで実にハルヒらしくめちゃくちゃ似合っていたんだが、しかしなんの心境の変化だ? 俺が指摘した次の日に短くするってのも短絡的にすぎないか? そのことについて尋ねたが、まあ予想通りまともな返事は返ってこなかった。 それでも、それから俺とハルヒが会話する機会がわずかに増えた。まあ、ハルヒは休み時間や放課後はすぐ姿を消すから、朝のHR前のわずかな時間だけであったが。 クラブ活動のこと、中学時代の男性遍歴のこと・・・ まあ、たわいもない話ではあった。 その中でわかってきたことは、涼宮ハルヒは何か面白いことを求めることに実に真剣であるということだった。 その点に関して、十年近く前にそんな気持ちを失い、平凡というか倦怠した日々に満足している俺がわずかながらうらやましいと感じたなんてことは否定したい。絶対に。 数日すると、俺とハルヒの関係がクラス中の話題になっていることを自称親友の谷口が教えてくれた。 最初はなんのことかわからなかったが、谷口に言わせると、中学時代を通して、ハルヒとこれほど会話を成立させたやつはいなかったとのことであった。 ハルヒの心境の変化じゃないのかね?とも思ったが、クラス委員長になった朝倉 涼子やふるい付き合いの国木田にまでそれを指摘されるとさすがに否定することは困難だった。 しかし、ハルヒの友達として公認というのが。。。ちょっとな。俺は、ハルヒのデフォルトの不満げな表情しかみていないし。 それからも、ハルヒとは毎日のように会話を交えていた。まあ、ハルヒの愚痴を聞く日々だったわけで・・・さすがに飽きてきた俺は、変わらない日常と仮入部して納得いく部活に出会えないことへの不満を今日も漏らしていたハルヒに意見してやった。 「結局のところ、人間はそこにあるもんで満足しなければならないのさ。それが出来ない人間が、発明やら思索やらをして文明を発達させてきたんだ。 空を飛びたいと思ったから飛行機を作ったし、楽に移動するために車や電車を作り上げたんだ。でも、それは一部の特別な人間の才覚や発想によって生じたものなんだ。 まあ、天才がそれを可能にしたわけだ。凡人たる俺たちは、人生を凡庸に過ごすのが一番であってだな。分不相応な冒険心なんか出さないほうが・・・」 「うるさい」 ハルヒは俺の演説を中断させて、窓の外に目線向けた。かなり、機嫌を損ねたのはさすがにわかった。 しかしなあ、ハルヒよ、現実から乖離した現象なんて、そうそう起こるものじゃない。それはお前だってよくわかっているんじゃないのか? 普通の日々に感謝する気持ち持っても悪くはないだろ?などと思っていたが、このときハルヒの心情に大きな変化が生じているなんて思いもしないさ。俺は読心術なんて使えない普通の高校生だったからな。 しかし、さきほどの会話がネタ振りにだったのは間違いない。 それは突然やって来た。 春のうららかな日差しは実に眠気を誘う、まして午後の授業となればなおさらだった。 うつらうつら授業を聞き流していたのはたしかに咎められることかもしれないが、襟首をわしづかみにされて後ろに引っ張られ後頭部をハルヒの席の机の角にぶつけられるとは思わなかった。 うむ、頭に強い衝撃を受けると目の前に星がチカチカするというのは本当だな。 などと思いながら、俺は振り返り、叫んでいた。 「何しやがる!」 そこには驚くべきものがあった。 それは、俺が初めて見る涼宮ハルヒの笑顔だった。 それは真夏のひまわりのようで、ハルヒの強い意志を示す大きな瞳に映えるもので・・・なんというか、子供が宝物を見つけた表情とでもいうのだろうか。まあ、それなりに魅力的ではあったさ。認めたくはないけどな。 「気づいたのよ!」 ハルヒは唾を飛ばして叫んでいた。 「どうしてこんな簡単なことに気づかなかったのかしら!」 ハルヒは一光年先に接近した天狼星もかくやという輝く瞳を俺に向けてきた。しかたないので、俺は尋ねた。 「何に気づいたんだ?」 「ないんだったら自分で作ればいいのよ!」 「何を」 「部活よ!」 めまいを感じたのは、頭を机にぶつけたせいではないだろう。 「そうか。そりゃよかったな。ところでそろそろ手を離してくれ」 ハルヒが無意識に締め上げる襟首の手を離すようにと俺はいった。 「なに?その反応。もうちょっとあんたも喜びなさいよ。この発見を」 「その発見とやらは後で詳しく聞いてやる。状況しだいではよろこびをわかちあってもいい。ただ、今は静かにしろ」 「なんで?」 「授業中だ」 ようやくハルヒは俺の襟首から手を離した。 おれは、教卓の方に振り返り、こちらを見つめる全クラスメイトと今にも泣き出しそうな表情を浮かべている今年から教壇にたっているという女教師を視界に確認することになった。 どうぞ、授業の続きを・・・と手で合図した。ハルヒはなにやらぶつぶつ言っていたが、とりあえず授業中は無視した。 で、俺はなんでこんなところにいるんだ? 俺は今屋上へとつながる踊場で、涼宮ハルヒにネクタイをつかまれている。うむ、状況次第ではほぼ間違いなくカツアゲの風景にみえるな教師が見かけたらなんといわれることやら。まったく、こんなところに連れ込んで俺をどうするつもりなんだ? 「協力しなさい」 ハルヒは言った。 「あたしの新クラブづくりに協力しろといってるのよ!」 俺がいまいち理解できない表情をしてるのを読み取ってハルヒは言い直した。ちょっと語気が強くなってる。 「なんで俺がお前の思いつきに協力しなければならんのか、それをまず教えてくれ」 「あたしは部室と部員を確保するから、あんたは学校に提出書類を揃えなさい」 ああ、聞いちゃいないし。 「ああ、そうそう実は部室は確保してあるのよ。ついてきなさい。」 俺はそのまま引きずるように引っ張るハルヒを止めるのに必死で、協力の有無を答える余裕すらなかった。 「なによ?」 「部室とやらにいくのはいいのだが、まず教室に戻ってかばんをとってこないと、週番が帰ったら、教室に鍵がかけられるぞ?」 「教室の鍵ねえ。外すのは簡単だけど・・・まあ、一理あるわね。」 物騒な発言があった気がするが、それは無視しよう。 で、かばんを回収した俺は、結局ハルヒに引きづられるように、部室棟へいくことになった。あれ、なんでこんなことに? その疑問の答えを得る前に、部室棟三階のひとつのドアをハルヒは壊れるんじゃないかという勢いであけた。 「ここよ!」 その部屋は意外と広かった。長テーブルとパイプ椅子がいくつか。まあ、意外なほどに多いのは左側の壁天井までの全面とドア左側の一部まで覆うように存在する本がぎっしり詰まった本棚くらいだった。 老朽化が目立つこの建物の床が抜けるんじゃないか・・・などといらぬ心配をしながら、室内を見回す。 そこにはこの部屋のオマケのように、一人の少女がパイプ椅子に腰掛けて分厚いハードカバーを読んでいた。 「これからこの部屋がわたしたちの部室よ!」 両手を広げてハルヒが宣言した。まあ、神々しいまでの笑顔に彩られている。普段もその表情なら、教室でも孤立することはないだろうに。などとは口にはしなかったが、かわりに俺はひとつの疑問を口にした。 「ちょっと待て。どこなんだよ、ここは」 「文化系の部活動のための部室棟よ。そしてここは文芸部の部屋」 「じゃあ、文芸部なんだろ」 「でも今年の春三年が卒業して部員ゼロ。新たに誰かが入部しないと休部が決定していた唯一のクラブなのよ。でこの子が一年生唯一の新入部員」 「てことは休部になってないじゃないか」 「似たようなもんよ。一人しかいないんだから。それにこの子の許可は取ったわよ」 そういわれて、俺はさっきから俺たちを無視して読書に耽る少女に目を向けた。眼鏡をかけた髪の短いおとなしそうな少女だ。 「本当に許可を取ったのか?」 脅迫とかしたんじゃないかと心配して確認してしまった。 「前に仮入部で知り合っていたから、休み時間に会いにいって部室貸してって言ったら、どうぞって。本さえ読めればいいらしいわ。変わっているといえば変っているわね」 ハルヒよ、お前がいうかね。 しかし、本当にいいのか?とその少女に視線を向けていると、ふいに少女が本から目線をあげて、俺たちの方をみた。 「長門有希」 と平坦な声でいった。どうやら自己紹介だったらしい。 それで用が済んだとでもいうように、少女は本に目線を戻し、再び読書に戻った。 「長門さんとやら」俺は声をかけた。「こいつはこの部室を何だか解らん部の部室にしようとしてんだぞ。それでもいいのか?」 「いい」 長門有希は本から目をそらすことなく答えた。 「いや、多分ものすごく迷惑をかけると思うぞ」 「別に」 「そのうち追い出されるかもしれんぞ?」 「どうぞ」 うむ、まるで無感動というか感情がないかのような返答だ。心の底からどうでもいいと思っているのだろうか? 「まっ、そういうことだから」 ハルヒが先ほどの宣言を続ける。 「これから放課後、この部室に集合ね。絶対来なさいよ。来ないと死刑だから」 お前は小学生か!というツッコミは封印した。ハルヒの満開の笑顔で言われたから、不承不承ながらうなずいた。 死刑はいやだったからな・・・そういうことにしておいた。 次の日の放課後。 俺が文芸部室を訪れると、俺より先に姿を消していたハルヒの姿はなく、今日も本を読みふける長門有希の姿だけがあった。 沈黙・・・静寂・・・ うわあ、いたたまれねえ。 しかたなく、パイプ椅子のひとつに腰掛け、本棚に目を向けていたが、特に興味を持つ題名も見当たらず、長門有希の方を見れば読書に没頭中。この頃の俺はまだ長門の沈黙に慣れていなかった。 「・・・・・・何を読んでいるんだ?」 沈黙に耐えかねて、俺は長門有希に声をかけた。長門有希は返事の代わりにハードカバーの背表紙を俺に見せてきた。睡眠薬かなにかみたいなカタカナが踊っている題名でSF小説らしい程度しかわからなかった。 「面白いのか?」 俺のその問いに、長門有希は眼鏡に手をやり、平坦な声で答えた。 「興味深い」 とりあえず答えているという感じだ。その後も、本が好きなのかとか、たわいもない質問とそれに対する最短の答えの応酬を行った。質問をすると律儀に答えてくれたのには、助かったさ。 この少女は本は相当好きらしい。わかったのはそれくらいだったがな。 ドアを蹴破るように涼宮ハルヒが入ってきた。 「ごめんごめん!ちょっと捕まえるのに手間取っちゃって!」 と満面の笑顔で入っていたのはいいが、そのまるで逃げた子猫を捕獲してきたような発言はなんだ? ハルヒは後ろ手に誰かをつかんでいた。その人物が部屋に入ったのを確認すると、がちゃりとドアの鍵を閉めた。 よくみると、ハルヒが捕まえているのはまたしても少女だった。 不安げに震えた小柄な体の少女は、うん、すんげー美少女だった。しかし、今日ハルヒは「適材な人間」に心当たりがあるからと部活の勧誘に行ったはずだ。 この子のどこが、「適材な人間」なのだろうか? 「なんなんですか!」 その美少女は気の毒にも半泣きの表情だ。 「ここどこですか、何であたし連れてこられたんですか、何で、かか鍵を閉めるんですか?いったい何を」 「黙りなさい」 ハルヒの押し殺した声に少女はビクッと固まった。 「紹介するわ。朝比奈みくるちゃんよ」 おい、それで紹介終わりかよ。 「っていうか、どこから拉致してきたんだ?」 と俺がいうと、「拉致」と言う部分で朝比奈みくるという美少女はビクッと不安げに反応した。いや、俺はなにもしませんし、何も知りませんよ?共犯者じゃないですから。 「拉致じゃなくて任意同行よ」 いや、それもどうなんだ? ハルヒの説明によると、朝比奈みくるさんはこの高校の二年生でハルヒが書道部に仮入部したときから気にいっており、今回部活を立ち上げるにあたり、この部活の萌えキャラとして任意同行を求め、そのまま引っ張ってきたとのことであった。 かなり、問題な行動じゃないのか? しかし、その後の朝比奈みくるさんの行動も俺の予想外ではあった。 拉致同然につれてこられたというのに、ハルヒの書道部をやめてわが部活にという指示にしたがったのだ。そのとき、ほんのわずかだが、長門有希の方をみたような気がする。 「とりあえず、四人揃ったところで、紹介するわね。」 「そこのぼーっとしてるのが、団員一号のキョン、で窓際で本を読んでるのが、団員二号の長門有希。そして、わたしが団長の涼宮ハルヒよ!」 うむ、ツッコミどころ満載なのだが、まず最初にこのSSは現在第一話終盤になろうとしているのだが、俺の名前でやっと出てきたと思ったら「キョン」というのはどういうことだ? 作者の悪意を感じるぞ。・・・と、この世界に存在しないものに不満を述べてもしかたないので、とりあえず、目の前の存在に苦言を呈しておくとしよう。 「団とはなんだ?そもそもどんな部活をつくるつもりかそろそろ明らかにしてもいいんじゃないのか?」 「あれ?言ってなかった?まあ、いいわ。とりあえず、名前なら決めたわよ。」 「・・・いってみろ」 期待感ゼロの状態俺の声に反して、涼宮ハルヒは満面の笑みで命名宣言を行った。 ・・・とりあえず、お知らせしよう。 なんだかよくわからない涼宮ハルヒの思いつきではじまった部活動設立計画(現在総員4名)の活動の名前は、 「SOS団」 と相成った。 別に、救難信号ではなく、いや、そっちの方がよかったかもしれん。しかし、ハルヒの宣言文には違う言葉が書いてある。 S=世界を O=大いに盛り上げるための S=涼宮ハルヒの 団 で略してSOS団だそうだ。うむ、呆れてよいとおもうぞ。 とりあえず、その日は下校時刻になり、解散した。 今日最大の謎について、俺は朝比奈さんに問わずにはいられなかった。 「朝比奈さん」 「なんですか、キョンくん」 ・・・あなたもその名前で呼ぶのですか?と名づけた親戚のおばさんと広めた妹をうらめしく思ったものだ。 「書道部をやめてまで、こんな活動に参加することはないと思いますよ。あいつのことなら気にしないでください。俺が後から言っておきますから。」 「いえ、いいんです。入ります、あたし」 「でも、多分ろくなことになりませんよ」 「大丈夫です・・・それにおそらくこれは必然・・・なのでしょうし、長門さんがいるのも気になります。」 「気になる?」 「え、や、何でもないです」 朝比奈さんは慌てた感じで首を振った。ふわふわの髪の毛がふわふわと揺れた。 そして、朝比奈さんは俺の方を向いてお辞儀をしながら、 「ふつつかものですが、よろしくお願いします。」 「まあ、そこまで言われるんでしたら・・・」 「それから、あたしのことでしたら、どうぞ、みくるちゃんとお呼びください」 とにっこり微笑む。ハルヒの笑顔とは違うめまいを覚えるほど可愛い笑顔だった。 そういえば、帰る直前、長門から本を渡された。 「貸すから」 読めということだろうか?しかし、こんな分厚い本を読む習慣は俺にはない。 「いつ読み終わるかわからんぞ?」 「いい」 それだけ言って、長門は帰っていった。 ジ・Oはこうして動き出した。
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ツレちゃんのゆううつ 夢からさめないで -ツレちゃんのゆううつ-/羽田恵理香 imageプラグインエラー ご指定のURLはサポートしていません。png, jpg, gif などの画像URLを指定してください。 羽田恵理香「夢からさめないで」(Amazon) 発売元・販売元 株式会社ポニーキャニオン 発売日 1992.07.17 価格 971円(税抜き) 内容 夢からさめないで -ツレちゃんのゆううつ- 歌:羽田恵理香 With Me 夢からさめないで -ツレちゃんのゆううつ-〈オリジナル・カラオケ〉 With Me〈オリジナル・カラオケ〉 備考