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ルールを守って楽しくデュエルしよう! 今までこんなに手数の多い魔術師とは交戦した事は無かった。 眼前の少年は使い魔を巧みに使い、バインドや自動追尾の呪文を回避する。 幸いヴォルケンリッターのように高度な知性や強さは無いが、数が多いのだ。 いくら倒しても新しい使い間を召還する。今まで倒した使い魔の数は12匹、全て異なる容姿と能力を持っていた。 それに加え妨害や攻撃、使い魔の強化といった呪文も使用する。 「これで13種類の呪文と12匹の使い魔・・・手数が多すぎで流石に疲れちゃうかな」 さすがに膨大な魔力量を持つなのはでも消耗戦は避けられなかった。 だが勝機はある、少年のデバイスはカードを読み込ませて発動させるらしく、 デバイスにセットされているカードは半分近く減っていた。 「俺の手数を数えてるなんてよく見てるな。そうだなこれで俺の手札は半分を切った、俺の手札が無くなればあんたの勝ちだ」 「・・・!?」 少年は自ら弱点を言ったのだ、だがその眼は全く勝利を諦めていなかった。 「今度の使い間は一味違うぜ・・・あんたと同じ魔術師だからな」 少年は勝負に出る気を感じたなのははレイジングハート変形させる、勝つには大出力の魔術で一気に攻撃するしかない! 「待たせたな・・・マハード!お前の力を見せてやれ!」 ちゃ~ちゃららっら♪ちゃらっららら~♪ ヽ(`Д´)ノHA☆NA☆SE 単発総合目次へ 遊戯王系目次へ TOPページへ
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マクロスなのは 第3話『設立、機動六課』←この前の話 『マクロスなのは』第4話「模擬戦」 設立から1ヶ月。 スターズ分隊の3(スバル)、4(ティアナ)。そしてライトニング分隊の3(エリオ)、4(キャロ)。この4人の新人達、通称『フォワード4人組』に対する訓練は熾烈を極めていた。設立式の次の日から始まった訓練は、朝から日の暮れるまで続いた。 簡易ストレージデバイス(別名「手作りデバイス」)であったスバルとティアナのデバイスは、過酷な訓練によって3日でおシャカになってしまってしまい、ヴィータを初めとする教官達に 「そんなデバイスで戦場を生き残れると思っているのか!」 ときつくなじられた。 しかしそれは教官達には「装備は常に万全でなければならない」ということを体に教えるための予定だったようだ。なぜなら宿舎にトボトボ帰ってきた4人を出迎えたのはシャーリーと、新しいデバイスだったからだ。 ティアナには拳銃型のインテリジェントデバイスである『クロスミラージュ』。 スバルには、ローラースケート型のアームドデバイス(ミッドチルダ式に多い杖のようなものではなく、剣やハンマーなどその名の通り武器の延長のようなベルカ式のデバイス。ベルカ式カートリッジシステムがほとんどの場合で搭載される)『マッハキャリバー』。 ちなみに右腕の籠手(こて)型ストレージデバイス「リボルバーナックル」は、彼女の母の形見で、十分実戦に耐えるため共用となった。 一方フェイトの与えたデバイスを使っていたエリオとキャロも、それぞれ槍型のアームドデバイス『ストラーダ』と、グローブ型のインテリジェントデバイス『ケリュケイオン』をアップデートして継続使用することになった。 そしてそれらのデバイスには新機軸としてPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)が装備されたことは言うまでもない。 次の日の訓練は、ガジェットⅠ型のホログラムを相手に行われた。 スバルとエリオは近接戦闘を。ティアナは指揮と援護射撃を。キャロは3人の魔法の出力を上げるブーストの訓練だ。 しかし、教官側に誤算があった。 PPBSの存在である。 本来この訓練は、AMFを展開する敵機の恐ろしさを体感する目的で行われた。 魔力素を空中で結合して実体化させる物理的なシールドである魔力障壁は、AMFの影響を諸(もろ)に受けてしまう。しかしPPBSは、術者体内のリンカーコアで魔力素を結合して魔力エネルギーに変換、そのままデバイスに流し込んでさらにバリア用に時空エネルギーへ再変換する。そうした過程をたどるため、空気中での魔力素の結合に頼らないエネルギーシールドであるPPBSの効果は並のAMF中では全く揺らがない。 また、ベルカ式カートリッジ1発で数度の展開に耐えられ、強度も通常時展開の魔力障壁に匹敵するため、防御力も抜群であった。 特にスバルは打撃系のため、PPBパンチというおまけ以上の攻撃力を与えた。 なのは達が気づいた時には4人は完全にPPBSを使いこなし、ガジェット相手に無双を演じていた。残念ながらすぐさま禁止令が出て、本来の地獄を味わうことになったが・・・・・・ その後PPBSの存在の重要性は格段に上がり、遂には六課の実戦部隊全てのデバイスに標準装備されることになってしまった。 また、どんどんOTM(オーバー・テクノロジー・オブ・マクロス。主に初代マクロスから入手した技術)や、OT(オーバー・テクノロジー。人類がプロトカルチャーの遺跡やゼントラーディの艦などを研究して開発した後発的な技術)を解析してしまうシャーリーは、その後も慣性を抑制するOT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』など次々開発、採用していった。 つい1週間前には近接戦闘の多いスバルやエリオ。そして出力が大きい隊長や副隊長のデバイスのフレームに、VF-25でも使われる『アドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)』が採用されていた。 六課に少しずつオーバーテクノロジー系列の技術が採用されていく中、アルトとランカはそれら技術の漏洩については沈黙を守った。 アルトはこの1ヶ月、4人と一緒に訓練などをして過ごしていた。そのためEXギアを模したインテリジェントデバイス『メサイア』の扱いにも慣れ、なのはに習った魔力誘導弾『アクセル・シューター』を改良した『ハイマニューバ誘導弾』(バルキリーのミサイル同様、打ちっぱなし式。誘導はメサイアが担当。誘導中メサイアの処理容量の大半を持っていかれるが、デバイスとしての付与機能が封印されるのみであり、EXギアとしての機能に支障はない。)、そしてリニアライフルを自在に使いこなし、生身でも並みの空戦魔導士を優に越える技能を手に入れていた。 またランカも、隊長、新人問わずSAMF(スーパー・アンチ・マギリンク・フィールド。効果範囲内の全ての場所で魔力素の結合を、空気中では完全に、リンカーコア内でも99%不能にさせるAMF)下の訓練へ協力や広報で働き、金食い虫であったVF-25の改修をして余る程の資金を獲得するなどそれなりに成果を納めていた。そして――――― (*) 「みんな。今日の午前は、模擬戦を行います」 早朝のウォーミングアップと軽い基礎演習が終わった4人に、なのはは本日の訓練内容を告げた。フォワード4人組はいままでずっと基本練習だったため、自らの腕がうずくのを感じた。が、それは次の言葉で脆くも打ち砕かれた。 「相手は私とフェイト隊長、そしてアルト君の〝バルキリー〟で~す」 瞬間4人から笑みが消え、可哀想なほど全員の顔が青ざめる。 しかし隊長陣は不敵な笑みを浮かべていた。どうやらマジらしい。 バルキリーは前日改修が終了し、テストとしてヴィータ副隊長との模擬戦が行われていた。結果はバルキリーに軍配が上がっている。つまり、バルキリーはヴィータ副隊長より強い敵なのだ。 「私達の内、誰か1人に一撃を与えればあなた達の勝ち」 微笑を浮かべながら言うなのは。しかし4人には今、それは死神の笑顔だ。 だがアルトには事前に話されていなかったようだ。なのはに反論する。 「おい、なのは。さすがにそれは厳し過ぎるんじゃないか?」 「うん? じゃあ、アルト君1人でやる?」 「え!?」 「あぁ、やっぱり負けるのが怖いんだ?」 「怖かないさ!条件はなんだ!?」 「バルキリーの出力の8割カットと、MHMM(マイクロ・ハイ・マニューバ・ミサイル)の使用禁止。」 なのははさらっと言ったが、それはバルキリーの可変機構が使えず、PPBSもエネルギー転換装甲すら起動できない。かろうじてバトロイド形態で通常の戦闘機動をするのがやっとというレベルだろう。 ちなみにここで言うMHMMとは、純正のMHMMの改良型だ。これは特殊化学燃料ロケットモーターではなく、新開発した魔力推進ロケットモーターを装備している。 また、爆薬やMDE弾頭の代わりにベルカ式カートリッジシステムの大容量カートリッジ弾(直径15mm全長45mm。大出力を要するなのはなどが使用する)が8発封入されており、それを強制撃発させた魔力爆発となっている。さらに噴射ノズルに通常、魔力砲撃を行う時展開される偏向・集束バインド(環状魔法陣)を掛け、それをまた推力偏向ノズルとするので、機動性能も純正以上の優れ物だ。 このミサイルは現在六課の隊舎に整備される自動迎撃システムの一端を担うことになっている。また、六課隊舎を守るシールドを展開するために本格的な大型反応炉の敷設が計画されている。これが実現したとき、六課は完璧な要塞となるだろう。 ちなみに六課解体後は、時空管理局本部ビルから地上部隊司令部が独立して六課隊舎に移転することが予定されており、上層部もこの要塞化に乗り気だったようだ。 ここで話は戻るが、この魔力推進のマイクロミサイルは、はやての要請でミサイルランチャーと共に潤沢な予算を注ぎ込んで急遽開発、生産されたもので未だ先行試作量産型。配備数がまだ少ない。だから実戦用に取っておくつもりなのだろう。 どうやらなのははフォアード4人組と同時に、アルト自身の実力をも計るつもりのようだった。 「面白い・・・・・・その条件乗った!」 アルトは言い放つと、バルキリーの待つ格納庫へ飛翔していった。 これまでの話を見ていたティアナは内心歓喜していた。 (あんな大きな的にどうやって外すのよ) 大きくてのろくさい質量兵器1機の撃墜。それは容易いことに思えた。しかし、それが間違っている事が分かるのはすぐのことだった。 (*) 訓練場 そこは海上を埋め立てて作られた台地にあり、普段はまっさらな300メートル×300メートルの見た目コンクリート打ち付けの島だ。しかし、そこはホログラムによって市街地から森まで自由に再現できる訓練所だった。 ホログラムとは光子によって物質を擬似的に構成させるもので、設定の変更によってそれを触ったりできるようになる。 これはアルト達の世界(管理局では『第25未確認世界』と呼称されている)ではOTMによって初めて触ることが成し遂げられたが、この世界では独自で開発していた。これはミッドチルダの技術力が魔法だけでなく科学でも進んでいる事を示していた。 すでになのはのレイジングハートからデータを受け取ったコンクリート島は市街地となっている。なのはによると、そこは比較的開けた市街地で、撃墜されたら逃げ込む避難所以外は破壊可能な設定らしかった。 すでにアルトの操るバルキリーは、4人とは建物を挟んだところで準備はOKだと言う。 「みんな、相手はアルト先輩とはいえ、とろい大きな的よ。相手がこっちに来たら、まずわたしが先制の砲撃をかける。そしたらスバルとエリオは挟み撃ちで一気に白兵戦に持ち込んで。キャロは、私のところで全体の魔力ブーストをお願い」 「「了解!」」 3人の声が唱和した。 現在ティアナ達は公園のようなところに陣取っていて、ずいぶん開けており、彼女らの作戦のフィールドには最適だった。 「はーい、それではこれより模擬戦を開始します。アルト君の勝利条件は制限時間の10分が経つか、4人の撃破。フォワードの4人の勝利条件は指定した的5個の全撃破とします」 今回VF-25には胴体、両腕、両足にそれぞれ1個ずつ直径1メートルぐらいの的がついている。それらすべてにティアナなら魔力弾を。スバル、エリオなら直接攻撃を。キャロならば持ち竜『フリードリヒ』のファイヤーボールを当てることが撃破条件であった。 「・・・・・・それではよーい、始め!」 開始と同時に4人が動く。スバルとエリオは左右に、自分とキャロは後方の一軒家に。 典型的な待ち伏せ陣形だが、アルトに・・・・・・いや、ヒトに対して使うのは初めてだ。 果たしてアルトは来た。 丁度ティアナ達がいる一軒家とは公園を挟んで対面となるため遮蔽物がなく狙いやすい。 現在クロスミラージュからは赤外線など各種センサーを騙すためにジャミングが行われている。本来ならば全域にバルキリーの高性能な電子機器を騙すほどのジャミングなど無理な相談だが、キャロの魔力ブーストがそれを可能にしていた。 『(みんな、準備はいい?)』 全体に念話で呼び掛ける。 『(いつでも)』 右側のアルトから死角になった建物からスバルの声。 『(どこでも)』 今度は左側のこちらも死角になった草むらからエリオの声。 「どこへでも」 すぐ後ろからキャロの声。そして目の前には砲撃用の魔法陣。 「『(いくわよ!)』ファントム・・・・・・ブレイザー!」 放たれるオレンジ色をした砲撃。必中の思いを込めたそれは的のあるバルキリーの胴体にに吸い・・・・・・込まれなかった。 当たる直前にバルキリーが射軸から消えたのだ。よくみると、バルキリーは前のめりになっている。 (転倒?) 彼女はそれを見てそう思った。確かにその挙動から転倒にも思えるが、実は違う。 バトロイド形態のバルキリーは、ただ立っているだけで大きな位置エネルギーを持っている。そのためティアナの砲撃を普通の機動では避けられない。と判断したアルトは重力の加速を使ったのだ。 バルキリーはそのまま前転を繰り返し、前、つまりティアナ達のいる一軒家に急速に近づいていった。 最初の挙動を転倒と捉えたティアナ達の対応は遅れに遅れる。 気づくとそれは目の前にいた。 壁が破壊され、巨大な頭が現れる。そして顔に着いた緑のバイザーがこちらを向き、2対の頭部対空レーザー砲がこちらに向け───── とっさにキャロを巻き込んで左に跳ぶ。 すると、先ほどまで自分達の居た場所をレーザーが赤く染めた。 即座に次なる回避場所を探すが、残念ながら部屋に隠れられる場所はなかった。 (万事休す・・・・・・!) しかしバルキリーは次の攻撃をせず、横っ飛びに退避する。 「え?」 キャロがその行動に疑問の声を上げる。直後に聞こえる相棒の突撃する叫び声。どうやら足の速いスバルが間に合ったようだ。だがそれはすぐに悲鳴に変わった。 「わぁーーー!ティア援護ぉ~!!」 キャロと共にすぐに一軒家から出てスバルを探す。すると彼女はウイングロードを展開してバルキリーから必死に離脱をかけていた。後ろには魔力誘導弾(そのくせ青白い尾を引いている)が、親についていく子供のように大量についている。 どうやら誘導性を優先したため弾速の遅いその玉は、必死に離脱するスバルを嘲笑うようにつきまとう。 「キャロ、エリオとこの戦線の維持をお願い。私はスバルの援護に行くから!」 「はい!」 ティアナはスバルの援護に走った。しかし、それがアルトの狡猾な罠とは見抜けなかった。 (*) 3区画離れた場所(最初の場所から500メートル以上走った事になるが、訓練場から足を踏み外す事はない。理由は後述する)でスバルを捕まえ、迎撃を始める。 「遅い遅い・・・・・」 20秒ぐらいだろうか、その全てを簡単に叩き落とした。 礼を言う相棒を尻目に、エリオ達と合流するために念話を送る。しかし耳障りなノイズ音しかしなかった。 (しまった、ジャミングか!) つい最近まで念話を阻むものがなかったことが仇となる。 VF-25に装備されていたそれは、元々バジュラ達のフォールド通信を妨害するためのものだったが、フォールド波の応用である念話にも使う事ができた。 3区画離れた場所にバルキリーが現れた。それと同時に雑音が消える。 『(すみません・・・・・・)』 エリオの申し訳なさそうな声。そして報告を続ける。 ティアナとスバルの戦線離脱直後 「僕がアルト先輩の動きを封じるから、キャロはフリードで隙のある時に攻撃して!」 「うん!」 キャロが返事をするのを確認すると、自身は迷いなく突入する。なんてことはない。これまで彼女と重ねた訓練が信頼と、魔力ブースト以外の強力な力を与えていた。 彼はフェイト直伝の高速移動魔法とOT『イナーシャ・ベクトル・キャンセラー』の慣性制御を使って、まさにイナズマのような強烈な戦闘機動でハイマニューバ誘導弾の雨の中を突破。バルキリーへと肉薄する。 「ハァ!!」 踏み込みによって最終加速されたエリオはストラーダを突き出してバルキリーへ。しかしその渾身の一撃は紙一重で回避された。 「フリード!」 そこにキャロの命令が放たれる。バルキリーの死角で待機していたフリードリヒは鳴き声とともに火球を放つ。それは見事バルキリーの右肩に付けられていた的に着弾。真っ赤なペイントがそこを装飾した。 攻撃はそれにとどまらない。バルキリーの関心がフリードリヒに向いたと見るやエリオが再び突撃して左足の的をその槍で貫いた。 しかしバルキリーは脚部の推進エンジンを吹かして猛烈なバックステップを行い、同時にガンポッドが火を噴く。おかげで右足まで彼の攻撃は通らず、エリオ自身も緊急離脱を余儀なくされた。 しかしエリオもキャロもこの接敵で味を占めてしまっていた。 「自分たちだけでもアルト先輩に勝てる」と。 不意打ち、大いに結構だが、そのような戦術が何度も通じるわけがなかった。 もしもここにティアナがいたなら2人の増長を必ず防げただろう。 だがいなかった。 エリオは今度も一撃離脱を狙って高速で接近。ストラーダを突き出す。 フリードリヒも同様に死角へと隠れる・・・・・・つまり多少の機動の違いはあれど、まったく同じ作戦だった。 エリオはバルキリーが自身の攻撃を回避してくれることを疑っていなかった。だからそれが突然黒い煙を散布し始めたときには焦ってしまった。 どうやらスモークディスチャージャー(煙幕発生機)で文字通りこちらを煙に巻くつもりのようだ。 (煙に隠れられたら厄介だ・・・・・・!) 瞬時に判断を下すと、今までしていたジグザグの回避機動を捨ててバルキリーへと直線的に向かう。しかしバルキリーは突然こちらに向き直ると神業とも取れる精妙な動きでストラーダのみを掴み、こちらの攻撃を完全に止めた。 (は、嵌められた!) アルトは最初からこちらを煙に巻くつもりはなかったのだ。 (こっちが回避機動をやめて、機動が直線的になるのを待ってたんだ・・・・・・!) 煙幕のせいでフリードの支援も絶たれ、武装を封じられたエリオは手も足も出ず、即座にバルキリーのアサルトナイフで無力化された。 その後移動能力の低いキャロが撃墜されるのには時間はかからなかった。 その報告でようやくティアナは自分がアルトに嵌められたことに気づいた。 スバルをすぐに撃破しなかったのは、自分が彼女を助けるのを見抜いたため。確かに非常時には念話があると思って行動したが、それもお見通しだったのだ。 結果としてそれは戦力の分断と指揮系統の混乱という、戦いを統べる者なら誰もが学ぶ基本原則を成功させてしまった。しかもアルトはそれを数の劣位と出力ダウンという大きなハンデを背負った上で行ったのだ。なんというしたたかさ。そして計算高さだろうか。 ―――――読み飛ばし可――――― さて、少し話はそれるがここで問題となるのが発生する戦闘音であり、同時に訓練場の広さの問題だ。 前述した通り300メートル×300メートルの広さしか持たないこのコンクリート島からなぜ彼らは足を踏み外さないのだろうか。 それは結論を言ってしまえば〝ほとんどその場を動いていない〟からだ。 読者の皆さんはルームランナーをご存知だろうか? 幅のあるベルトの回るグラインダーのような台の上を、人間が走る機械の事だ。 これを使えば我々は無限に走ることができる。 だが無論そんなものがここに敷き詰められているわけではない。だが、もしあなたがこの訓練場に顕微鏡を持ち込んだのなら謎はすぐに解けるだろう。 そこに広がるは、外見から予想されるコンクリートの平面ではなく、たくさんのパチンコ玉が整然と並べられたような光景が広がっているはずだ。 本当はこれだけでは正常な走りは再現はできないのだが、このホログラム機構を語ることは本稿の主旨に合わないのでまたの機会に譲る。 つまるところ彼らはお互いに100メートル程しか離れていないのだ。 そしてティアナが実質100メートル先で行われていたエリオ達の戦闘に、気づかないほどの音の問題だが、そこは逆位相の音波の照射による相殺や遮音シールドなどで補っている。 ちなみにそれほどの広さを必要としない場合は、実測の建物等を普通にそのまま具現化する。 ―――――ここまで――――― ティアナはアルトの老獪な作戦に舌打ちした。しかし、まだ諦めるつもりはなかった。 「スバル、私が援護するからアイツに特攻かけて!」 「OK!」 ティアナの不屈の精神を感じ取ったスバルは親指を立ててウィンク。 「制限時間はあと3分。一気にカタをつけるわよ!」 「了解!」 スバルはアスファルトの地面を駆ける。その進攻を援護するためクロスミラージュを1挺にし、機関銃顔負けの連射でバルキリーの動きを抑える。 順調に突撃は進行していた。しかし、突撃開始からずっと小さな違和感に苛まれていた。 (なぜ攻撃してこない!?) いくら頭を抑えたといっても、近づくスバルに牽制ぐらいの反撃は出来るはずだ。しかし目の前のバルキリーは巨大なミッド式魔力障壁を展開したまま動かなかった。 『エネルギーコンデンサのチャージだろうか?』とも思ったが、反撃しなければジリ貧であるこの状況。それでも沈黙を守る理由・・・・・・そこでようやく気づいた。しかし、それはまたしても遅すぎた。 (*) 肉薄していたスバルは、バルキリーまであと5メートルほどのところで信じられない物を見ることになった。 突然バルキリーの姿が、バラバラになってかき消えたかと思えば、そこに浮かぶは先ほどと同じハイマニューバ誘導弾。 「ちょ!幻影!?」 実際はVF-25に装備されていたイベント用のホログラム投影機からの映像だったが、魔法のそれと同じ効果を発揮した。 数瞬後、容赦なく音速で突入してきたハイマニューバ誘導弾はあやまたずスバルに命中。ド派手な爆発が彼女を包んだ。 「ああ・・・・・・」 煙が晴れると、模擬弾が命中したことを示すホログラム製白ペイントが彼女のあちこちに付着していた。・・・・・・そのある意味扇情的な光景のなか、スバルはトボトボと近くの避難所に歩いていった。 (*) ティアナはスバルの撃墜直後にアルトからの奇襲を受けていた。 最初の攻撃はガンポッドの一斉射だったが、その攻撃を回避できたのは奇跡だった。目の前の青くペイントされたアスファルトを見て、背筋に悪寒が襲う。 しかしバルキリーはすぐに街頭から飛び出すと、間断なくホログラム弾による砲撃を浴びせかけてくる。 その砲撃は鉄筋コンクリートの壁をまるでベニアのように易々と貫通していった。 (これが質量兵器の力・・・・・・か!) 破壊によって吹き上がった粉塵の中滑り込んで瓦礫に隠れると、幻術を展開した。 対するバルキリーは、確認できる全ての敵へのマルチロックによる全力射撃で広域掃討。 その隙をついたティアナの狙撃に右肩の的が吹き飛ぶ。 応射としてガンポッドの砲弾が雨あられと降るが、ティアナはすでにその場から退避していた。 (*) 「予想以上だな・・・・・」 アルトは下界で孤軍奮闘する少女をそう評した。 まず基本がよくわかっている。射撃に関わる者の基本である「撃ったら逃げろ」というものだ。 ティアナはずっとヒット・アンド・アウェー(一撃離脱)戦法に徹している。 これはわかっていてもなかなかできるものではない。急ぎすぎるとまともに照準できない。しかし遅いと命取りになる。この場ではそうゆう繊細な戦術だった。 「さすがアイツが教導してるだけのことがあるな・・・・・・」 彼女を教導した栗色の長い髪した教導官に改めて感心した。 「う!?」 突然の揺れ。どうやら左足もやられたようだ。 「あと1枚か・・・・・・そろそろ本気にならないとダメだな・・・・・・」 アルトは機体のパワー配分をセンサーと機動につぎ込むと、ハイマニューバ誘導弾を生成した。 (*) 「あと1枚!」 ティアナは自身の魔力弾が命中するのを確認すると、すぐにガンポッド、頭部対空レーザー、そしてハイマニューバ誘導弾の応射が来た。 「やっば!」 どうやら眠れる獅子を起してしまったようだ。これまでとは比較にならない攻撃が一挙に集中した。 クロスミラージュを含め六課の戦闘員全てのデバイスにはエリオと同じ重力制御で慣性を抑制するシステム、OT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』が装備されている。しかし機動が限界に達し、それで拾いきれない慣性が発生すれば、術者は制動を失う事になる。 ティアナがまさにそうだった。 この状況から脱しようと建物から建物への迅速な移動をしようと思い立ったティアナは、デバイスに内臓されたビームアンカーを対面のビルに固定、一気に乗り移った。 しかしそこで連続使用に耐えかねた搭載バッテリーが干上がり、来ないと思っていた横への慣性ベクトルが足元をすくいあげ、転倒させてしまった。 「しまっ―――――!」 アルトにはその一瞬で十分だった。ガンポッドの一斉射が彼女を襲う。咄嗟に展開したシールド型PPBと魔力障壁はその嵐のような猛攻によく耐えたが、続くハイマニューバ誘導弾を止めるには足りなかった。 (*) 5分後 そこには青(ガンポッド)、赤(頭部対空レーザー)、黄(アサルトナイフ)、そして白(ハイマニューバ誘導弾)に芸術的にペイントされた4人。そしてバルキリーから降りたアルトがなのはの前に集合していた。 ちなみに、フェイトとヴィータは模擬戦終了と同時に 「「アルト(君)に負けられるか(られない)!」」 と言って今は海上で演習中だ。 「今日は初めての対人模擬戦なのによく頑張りました。今日の訓練はここまで。4人は午後に今日の模擬戦についてのレポートを書き、提出してください。以上。では解散」 皆一様に疲れた様子でトボトボ歩き出す。 アルトは所々跳弾でペイントされた純白の愛機に向かうところをなのはに呼び止められた。 「ちょっと来て。」 手招きされるままにホログラム製の木の影に入る。 「・・・・・・どうだった、うちの新人は?」 「そうだな・・・・・・基本はよく訓練されている。指揮もしっかりしていれば、分隊として十分機能するだろうよ。」 なのはの問いにアルトは実感で答える。でなければ指揮系統の混乱など思いつかない。最初からそれほどにはティアナの実力を評価していた。 「わかった。でもあともう1つ。アルト君、最後まで手加減してたね?」 表面上は疑問形だが、その有無を言わさぬ迫力に少したじろいだ。 「〝FASTパック〟の使用許可は出したはずだよ。」 「いや、それは・・・・・・」 しかしアルトはすぐに持ち前の役者精神が復活。 「ただ、新装備で魔力消費を心配しただけだ」 と、強がった。 そんな2人を遠くから隠れて見る真っ白な1人の少女がいた。ティアナだ。 彼女には〝ふぁすとぱっく〟がなんのことかわからなかったが、手加減されたということへの悔しさたるや壮絶なものだった。そしてその事が、彼女に1つの決意の炎を灯した。 (次は絶対アルト先輩に勝ってみせる!) ティアナはそう心の中で誓うと、2人に見つからぬように宿舎に戻って行った。 (*) 模擬戦2週間前 クラナガン郊外の地下に作られた秘密基地では、ある科学者が狂気の笑みを浮かべていた。 「なにがそんなに面白いのかしら?」 そこに現れたのはグレイスだった。 「アぁ、君か。まったく君の世界の技術は素晴らしい。魔法に頼らず、ここまでできるとは、ハッハッハッ・・・」 狂気の天才科学者ジェイル・スカリエッティは額を押さえて笑う。彼の目の前には、ある機体の設計図があった。それはグレイスと手を組む時に渡されたものだった。 「そう・・・・・・とりあえずレリックのほう、お願いするわよ。」 「あぁ、わかっている。あれはこちらでも必要なものなのでね。」 彼はそう返すと、図面に向かい格闘を再開した。 OTやOTMに初めて触れて4ヶ月。もう適応してしまった彼はさすが天才であった。 彼の格闘する図面には前進翼と1基の三次元推力偏向ノズルを備えた機体が描かれている。しかしそこには戦闘機最大の弱点とよばれるシステム〝パイロット〟の乗るスペースがなかった。 今1つの世界を震撼させた幽霊の名を冠された先祖が、ここに復活しようとしていた。 次回予告 ひょんなことからVF-25を壊してしまうアルト。 それを修理するため地上部隊傘下の技術開発研究所に向かうことになるが――――― 次回マクロスなのは、第5話『よみがえる翼』 不死鳥は、紺碧の翼をもって再び空へ! シレンヤ氏 第5話へ(現在修正中)
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古えからの因縁。未知の世界への恐れ、若しくは憧れ。 真理の探求。或いは権力への欲望。 ただ、私達が知らなかっただけで、大勢の人が痛み、涙を流していた。 三つの世界の様々な人の想いが絡まりあって、それはやがて巨大な流れになる。まるでそれが『世界の理』であるかのように。 私達は皆、その流れに呑み込まれ散り散りに別たれるしかなかった。 だけど、遠く離れ離れになっても想いは繋がりあっている。 私も、私達が出会う人達も、誰もが心のそれを信じて戦っていく。たとえ、私達が『芝居の歯車』でしかなかったとしても。 それは友と、或いは兄弟や愛する人と。見ず知らずの少年と交わした絆。 心に刻んだ真赤な誓い。 なのは×錬金(仮) 第一話 郷愁/黒死の蝶 幼い頃のあの日、魔法という非日常と出会ってから色んなことがあった。 戦ったり、傷ついたりもしたけれど、かけがえのない仲間が――友達ができた。 中学校を出てからミッドチルダに住むようになったのは、この力をもっと知りたかったから。この力で誰かを助けたかったから。 そして鳥のように、雲のように天辺まで届くくらいに大空を舞いたかったから。 ミッドチルダと海鳴市――二つの世界を行き来するようになり、いつしか非日常も日常へと変わっていった。 ミッドでもやっぱり傷つけたり傷つけられたりはある。それでもフェイトちゃんや、はやてちゃんを始めとして多くの人に支えられてなんとかやってこれた。 そして海鳴に帰れば家族や友達が暖かく迎えてくれる。帰省の度に少しずつ変化してはいるけれど、それでも懐かしい平穏がそこにはあって――。 いつからだろう。それが無くなるなんて、ミッドチルダでの目まぐるしい生活に追われて考えもしなかった。 海鳴の景色も匂いも――。 お兄ちゃんも、お姉ちゃんも――。 アリサちゃんも、すずかちゃんも――。 私が帰れば、決して変わることなく迎えてくれるのだと信じていた。 「はーい!今日はここまで!」 号令をかける高町なのは。その前にはボロボロで座り込んでいるスバル・ティアナ・エリオ・キャロの姿があった。 いつものように訓練を終えた彼らはかなり消耗しており、表情からも疲労が窺える。 だが、そんな4人を見守るなのはの表情は柔らかいものだ。全員が毎日の訓練にもよく耐え、確実に上達している証拠だろう。 「ありがとうございました!」 一礼して撤収していく新人達。 空を仰ぐといつの間にか辺りは赤く染まっていた。 身体には僅かに疲れを感じる。 これから訓練のまとめや残務を整理して、夕食。部屋ではヴィヴィオやフェイトが待っているだろう。 それから入浴。そしてヴィヴィオを寝かしつけて、フェイトと今日のことを話したりして眠りに就く。 それが彼女の日常だ。きっともう暫くはこうして過ぎていく。 新人達を訓練し、教導官として隊長として事務系の仕事もこなす。そして任務があれば出動する多忙な日々。 レリックやスカリエッティ、戦闘機人等、懸案事項もまだまだ尽きない。 それでも、一日の終わりには充実した気持ちで眠れる自分は幸せだと思える。 願わくばもう少しだけこのままで――。 それが彼女の偽らざる気持ちだった。 「ねえ、フェイトちゃん。今頃海鳴市のみんなはどうしてるかなぁ」 入浴後、寝る前に少しフェイトと会話していると、ふとそんな言葉が出た。 二人の間ではヴィヴィオがすやすやと寝息を立てている。 「どうしたの?二ヶ月くらい前に会ってるじゃない」 「うーん。そうなんだけど、あんまりゆっくりとも出来なかったからかなぁ……」 何故そんなことを思ったのだろう。自分でもよく分からない。 「そうだね。最近は向こうのお正月やお盆に合わせて帰るくらいだし。もっとゆっくりできたらいいけどね」 「アリサちゃんもすずかちゃんも、お父さん達も元気そうだったし。エイミィさんや子供達も変わりなかった――あ、子供達はちょっと大きくなってたね」 一度思い出話に花が咲くとなかなか止まらない。自分は勿論、フェイトにとっても約6年を過ごした街なのだから当然ではあるが。 年中行事や学校のこと、家族や友達のこと。思い出すときりがないくらい。 懐かしくなってしまい、結局1時間程話してしまった。 「――そろそろ寝よっか。また、みんなと一緒に帰れたらいいね」 「そうだね……。おやすみ、フェイトちゃん」 明日も頑張ろう。 そう思ってなのはは目を閉じる。明日も多分いつもと変わらない大切な一日。 だから精一杯頑張ろう。そう心に決めて――。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 海鳴市の隣町である銀成市からの帰路、何の前触れも無く『それ』は現れた。 緑の皮膚、細く伸びた首が街頭に照らされ全貌が見えてくる。 その頭はトカゲのそれにしか見えない、見えないのだが――。 二足で立ち、大きさは大人と同じ。異様に鋭い手足の爪は明らかに自然の生物ではない。胸や関節は金属で固められており、赤い六角形の金属が身体に埋め込まれている。 生物と呼ぶには余りにも外観が機械的であり、機械と呼ぶには動きが生物的だ。 機械で出来た生物――いや、機械と融合した生物という表現が適当かもしれない。 動物型ホムンクルス――そんな名前など今のアリサとすずかには解る筈もなく、知ったとしてもどうでもいいことだった。 アリサ・バニングスと月村すずかは今も同じ聖祥大学に通い、小学校以来の付き合いは今も変わっていない。 今日も銀成市へ今噂の『蝶人』を見に行きたいとアリサが言い出したので遊びに出ていたのだ。結局現れなかったのだが、買い物や食事は楽しめたので二人はそれなりにご機嫌だった。 電車を降りると、そこはもう海鳴市である。辺りは既に暗く、人影もない。 それほど大きな街でもないので、中心部でなければ夜になると人がいなくなることも珍しくない。 「すずか、これからどうする?もう帰る?」 「そうだね。もう暗くなってきてるし……」 アリサは携帯を取り出し迎えを呼ぼうとする。 「あれー?繋がらない?」 携帯に向かって一人呟く。全く反応がないのだ。 「おかしいなぁ。これまでこんなことなかったのに……」 アリサは怒るよりも不思議な気持ちだった。周囲に誰もいないことが更に不安を煽る。 (何かがおかしい?) 海鳴で降りたのは自分達だけ。そういえば駅員もいなかった。 暗闇が深まる中で、二人はただ佇む。幾らなんでも静か過ぎる。 その時、何の前触れもなくそれは現れた。 どうやらトカゲは自分達を獲物と見なしたらしく、じりじりと距離を詰めてくる。 何の感情も浮かばない爬虫類の瞳は恐怖の対象でしかなかった。 「逃げよう!」 アリサがすずかの手を引いて逆方向へと走り出す。と、同時にトカゲも走り出す。 「警察!?警察でいいの!?」 半ばパニックになりながらも携帯電話を操作する。 だが、何度掛けても聞こえてくるのは無慈悲なコール音のみ。 「アリサちゃん!こっちも駄目!」 隣を走るすずかも青ざめた顔で携帯を振る。 こうなればなんとか振り切るしかない。二人は夜道を全力で走り続ける。 どれほど走ったか――振り向くとまだ追ってきてはいるものの、距離は離れていた。それほど足は速くないのかもしれない。 幸い二人とも足は速いほうだ。 「やった!これなら逃げ切れ――――!?」 一縷の希望は曲がり角を曲がった瞬間に打ち砕かれる。 そこには鏡に写したように同じトカゲの化け物が目の前に立っていた。 思わず足を止めてしまった二人を見るトカゲの口元がニヤリと引きつったように見えた。 鋭い爪を振り上げ、自分に近いすずかへと振り下ろす――。 咄嗟にアリサは飛び込むようにしてすずかを突き飛ばした。 振り下ろされた爪はアリサの左胸と腹部を貫いた。白い爪がアリサの胸から突き出す。悲鳴を上げる暇も無かった。 トカゲが素早く紅く染まった爪を引き抜く。すると、ぱあっと鮮血が飛び散った。 「いやああああああああああ!!」 すずかは鮮血が顔に降り注いだ瞬間に、頭の中が真っ白に光り全てが消えてしまった。 悲鳴を上げ、何の抵抗もなく崩れ落ちるアリサを見ているしかなかった。 後ろからはもう一匹のトカゲが迫っているだろう。 眼前のトカゲは血に濡れた爪を美味そうに舐めている。目線を既に次の獲物に捉えながら。 「アリサちゃん!アリサちゃん!!」 (すずかがまた泣いてる……。あたしや、なのはよりもずっと運動神経いい癖に、肝心なところで鈍いんだから……) 早く逃げろ、と口を動かそうとするが血のせいか上手く話すことができない。 朧気な視界にはぼんやりとトカゲが映る。爪を振りかざして最後の獲物を狙っている。 それすらもぼやけてきたアリサの目に突如として蝶が映った。 鮮やかな模様の美しい蝶ではなく、全てが真っ黒な蝶。 まるで点描画のように無数の粒子で形成された黒死の蝶。 蝶が大きく開いたトカゲの口に飛び込んだ瞬間――二つの爆音と共に蝶が爆ぜた。 トカゲの頭が吹き飛び、硬い音が地面に幾つも響く。 その音を最後に、やがて全ての感覚が無くなってきた。もう目を開くことも難しい。 そして力尽きる彼女の前に舞い降りたのは純白の翼の天使ではなく、黒い羽を羽ばたかせる蝶人――『パピヨン』。 「パピ……ヨン……?」 降臨した彼の異様さに唖然とし、すずかは思わず呟いていた。 彼はそれを聞き逃さなかった。すずかに向き直り、チッチッチと舌を鳴らしながら人差し指を振る。 「パピ・ヨン(はあと☆)――――もっと『愛』を込めて!!」 蝶人パピヨン――誰が最初に呼び出したのか、誰が最初に出会ったのか誰も知らない。だが、その存在は誰もが知っている。 所謂、都市伝説である。本人が目立ちたがりなのか人面犬やUFOよりは遭遇したという人間は遥かに多い。 その為、一年程前から現れ出した彼には数多の情報が語られている。 銀成市に住む人はほとんどが見たことがある。 東京タワーの天辺に立っていた。 だから高いところから呼ぶと現れやすい。 銭湯でもマスクは絶対外さない。 ●●●で洗面器を支えることができる。 『ロッテリや』が大のお気に入りで一日店長をしていた。 実は錬金術の秘術で生まれ変わった怪人である。 etc…………最後の項目のように明らかに嘘臭い情報も多いが、ともかく彼に関する伝説は数え上げればきりがない。 すずかはその姿を暫し呆然と見つめる。その姿は一言で表すならば『変態』。 全身を包む黒のスーツはぴったりと身体のラインを浮き彫りにし、スーツの中心はへそまで大きく開いている。 微妙に盛り上がった股間にも紫の蝶のマークがあり、彼が腰を前後に揺らすのに合わせて揺れるのはなんとも形容し難い気分になること請け合いだ。 そして最大の特徴にして彼のアイデンティティとも言われる蝶々覆面〔パピヨンマスク〕。 鮮やかな紫と赤紫に彩られたそのマスクの下を見た者はいないらしい。 このトカゲ達を吹き飛ばしたのはおそらく彼だろう。 もっとも、それが彼の黒色火薬〔ブラックパウダー〕の武装錬金、『臨死の恍惚〔ニアデスハピネス〕』であることなどは知る由もなかったが。 だが、そんなことはどうでもいい。すずかが見ていたのは彼の眼だ。その眼は暗く輝きを感じられない。 彼はすずかを、そして身体に虚ろな穴を開けたアリサを見ても表情一つ変えることはなかった。 そして、一言も発することなく、二人を見下ろしている。数秒の沈黙――。 「そうだ……!救急車!」 すずかは正気に帰って、震える指で119を操作する。 ――通じない。結果は分かっていた。それでも認めたくなかった。 こうしている間にも徐々にアリサの体温は失われていく。 「お願い……!助けてください!!」 すずかはパピヨンに救いを求めた。 こんな得体の知れない変態に助けを求めるなど、どうかしているかもしれない。手の打ちようがないことも本当は解っている。 それでも、彼女には失われていく親友を前にそれしか術が無かった。 神に祈るような気持ちで縋る言葉に、初めて蝶人は口を開いた。 一言、「断る」と。 「そんな……」 愕然とするすずかに彼は淡々と説明を始める。 「俺にはそんな義理はない。それに――その女はもう助からん」 すずかが必死に否定しようとしていた事実を、彼は実にあっさりと告げた。 他者から告げられた死亡宣告は、すずかの中で急激に現実味を帯びてくる。 「うっ……うっ……」 もう、すずかには嗚咽を漏らすことしかできなかった。 パピヨンはそんなすずかを尻目に、地に落ちた二つの正六角形の金属を拾い上げる。動物型ホムンクルスが飲み込んでいたものだ。 アリサの血に染まって二つとも型番は確認できない。 (何故、動物型ごときがこれを……?こいつらに斃される連中とは思えないが……。まあいい) 「そこの女」 パピヨンはそれを二つともすずかへと投げ渡した。 「これは……?」 正六角形のそれをすずかは不思議そうに見ている。 「核鉄〔かくがね〕だ。それには自動治癒の効果がある。そいつを心臓代わりにしている奴もいる」 紅く染まっている上に、暗くて色も識別できない。 すずかに選択肢は無かった。 アリサの胸の空洞にそれを当てて押し込む。 核鉄はすぅっと吸い込まれ、一定のリズムで微弱な金色の光を脈打ち出す。空洞を直視するのは苦しかったが、徐々に埋まっているようにも見える。 「やった!?」 すずかの顔が一瞬明るくなるが、すぐにそれは絶望へと変わる。 アリサの容態に変化は見られず、光は弱まり、やがて消えた。 「どうして……」 「その女は腹も貫かれている。それに血を流し過ぎだ」 一つでは効果が足りないのだ。それなら――と、もう一つの金属を腹部に当ててみる。 「駄目……!」 傷が塞がる様子は無く、出血も止まらない。ようやく希望を手にしたと思ったのに――。 悔しくて核鉄を握り締める手に力が入る。角に食い込んでも握る力を緩めない。既に真赤に染まった掌を一筋の血が流れた。 だが、その傷もすぐに治癒した。傷が深すぎて修復できないのだと気付く。 「どうすれば……どうすればいいんですか!?」 すずかは再びパピヨンに救いを求めた。 パピヨンはすずかを突き放すように指を突きつける。 「足掻け!」 「え……?」 「足掻け……と言った。貴様が本当にその女の命を諦められないと言うのなら……もがいてみせろ。自分の力で」 「足掻く……」 「運が良ければ……何か出るかもしれんぞ?」 「足掻く……」 すずかはその言葉を復唱する。足掻けと言われてもどうすればいいのかわからない。 やっぱり自分のできることは一つしかなかったから。 「お願い……!」 両手で核鉄を包み、アリサの腹部に押し当てながら力を込める。 それでも変化は現れない。 「お願い!!」 まだ変化は現れない。 思いを注ぎ込むように、もっと強く力を入れる。 行為は同じだとしても、それは神への祈りではない。それは彼女なりの、アリサの死に対する最大限の否定であり抗いだった。 「お願い、アリサちゃん!死なないで――――!!」 すずかの叫びに呼応するように、手の中の核鉄が紅く発光した。 その光景を蝶人パピヨンはただ見ていた。 「月夜の散歩はいいことがある――これは俺の言葉じゃあないが……」 傷女の真似事をしたようで気色は悪いが、これはそれを補って余りあるものかもしれない。 「どうやら面白いものを見つけたようだ」 そう呟きながら、パピヨンは二人を包む光に顔を歪ませた。 錬金術の粋を集めて生成された、超常の合金『核鉄(かくがね)』。 人の闘争本能によって作動するそれは、持つ者が秘めたる力を形に変え、唯一無二の武器を創造する。 それが『武装錬金』である。 次回予告 銀の風が煙る街――人々は倒れ、青年は『剣』を求め、彼の半身はそれに応える。 そして次元の海――金の瞳を持つ青年もまた、遥か遠くに在る己の片割れを探し求めていた。 『海鳴の途絶える日/Link』 目次へ 次へ
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ユーノがなのはと一緒に風呂に入ったことがあると聞いてアテムまじギレ アテム「覚悟しろよ、この淫獣野郎!」 ユーノ「な、何で怒ってるのさ!?」 アテム「ドロー!モンスターカード!」 デーモンの召還 ユーノ「うわあああ!」 アテム「ドロー!モンスターカード!」 カースオブドラゴン 淫獣 「ああああ!」 アテム「ドr(以下略 単発総合目次へ 遊戯王系目次へ TOPページへ
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マクロスなのは 第7話『計画』←この前の話 『マクロスなのは』第7話その2 「ど、どうして止めるんですか!?」 なのはが珍しく声を荒げる。 「これ以上聞くのは勧められない。・・・・・・きっと君は後悔する」 「構いません!お願いします!」 なのはの懇願にレジアスは彼女に再度答えが変わらない事を確認すると、再生を押した。 沈黙 ただ爆音が響く時間が10秒ほど続くと、微かな声がした。 『・・・・・・ぃゃ、いやだよ!わたしまだ死にたくない!なのはちゃん、誰かお願い、助けて!私にはまだやりたいことがたくさん残ってるの!私には、私にはぁぁぁーーーーー!!』 恐らく最終防衛ラインであった全方位バリアを破られたのだろう。直後ガラスが割れるような音とスピーカーを割らんとする程の断末魔の悲鳴が部屋を包んだ。 そこで今度こそ再生が終わった。 しかしアルトはなのはの顔を窺うことができなかった。彼女はそれほどの負のオーラを放っていた。 「さて、君はガジェットとの戦闘に慣れている。その見解から聞かせてほしい」 「・・・・・・はい、なんでしょうか?」 なのはが顔を上げ気丈に振る舞う。目に涙を溜めて・・・・・・ 「シングルAランクの空戦魔導士部隊1編隊(3人)と、ガジェットⅡ型の10機編隊が会敵した場合、どうなると思うか?」 「適切に対応すれば十分ガジェットの撃破は可能であるはずです」 なのはのセリフに自信がこもる。 彼女は教導という仕事にはまったく妥協を許さず、しっかりした人材を育てることを誇りとしていた。それは短期の教導をしてもらった俺やフォワードの新人達だけではなく、以前からそうであったはずだ。 彼女の自信はそうした自負と誇りを背景に確立されたもののようだった。 しかしその自信も現実の前には脆かった。 「ではAランクをリーダーに置き、大多数のB,Cランクの魔導士で形成されている現状の部隊ではどうだ?」 「それは・・・・・・」 なのはは口を濁す。 彼女が担当したのは彼女が確立した戦法が使いこなせる最低クラスAの魔導士に限定されていた。しかしクラスAのリンカーコア保有者はキャリア組といわれるようにエリートに分類され、その数は極めて少ない。 なのは自身そうした背景を十二分に知っていたのでそれに対応するべく彼らにできうる限りのことを教えていた。だが相手が予想を超えて強大であった場合、その被害は恐ろしいものになることは不可避であった。 「すみません・・・・・・」 なのははもう俯いて喋れなくなっていた。 「甘いよ、高町空尉。これが現実だ」 映り変わったディスプレイには予想される1年後の損耗率が表示される。 〝Aランク 25% Bランク 50% Cランク 75%〟 なのはは遂に堪えきれず泣き出し、その数字が的外れでないことを表した。アルトは彼女の背中をさすりながら呟く。 「これほど逼迫していたのか・・・・・・」 この損耗率ならばまだ殉職者が12人〝しか〟いないというレベルだ。なぜならもし、Aランク1人、Bランク4人、Cランク5人で1部隊の場合、最悪半数以上が帰還できない。 アルトの驚愕に、レジアスは追い討ちをかける。 「加えて、先ほど六課から報告があった。君達は確か、今回の戦闘で新型空戦ガジェットと遭遇したそうだね?」 アルトは背筋から血の気が引くのを感じた。あいつら―――――「ゴースト」は能力リミッター付きとはいえ、最精鋭たる六課が苦戦した。つまり彼ら、現状の空戦魔導士部隊が会敵した場合など、考えるまでもなかった。 (*) 今、応接室にはアルトとなのはの2人しかいない。それはレジアスが 「高町君が落ち着くまで我々はフェニックスを見に行ってこよう」 と言って田所を伴い、部屋を出ていったからだ。 あれから15分。なのははまだ嗚咽を漏らしながら涙を流している。 無理もないことだった。彼女が友人をどれほど大切にしているかをアルトはよく知っている。 そんな彼女がそういう友人の無惨な死を知らされ、今後も死者は増えるというのだ。その心中、察するに重かった。 アルトは根気よく彼女が落ち着くよう努力したところ、だんだん嗚咽が少なくなってきた。 そしてなのはは訥々と喋り始めた。 「・・・・・・栞とはね、教導隊の同期だったからよく話したの。生い立ちとか、夢とか。その時の私はみんなを守れる気でいたの。・・・・・・でも結局私は、自分の見えてる範囲の人達しか・・・・・・いや、誰も救えてなかったんだ・・・・・・大切な友達だって・・・・・・ほんとダメダメだよね。私なんて・・・・・・」 普段の彼女、エース・オブ・エース『高町なのは』からは想像できない弱音の数々。それは彼女がいままで1人でため込んでいたものだ。 幼少期から受け継がれているこの、悩みを1人でため込んで処理しようとする悪い癖はいまだに彼女を束縛していた。 「・・・・・・俺は、そうは思わない」 アルトは立ち上がると、俯くなのはに昔話を始める。 「あれは、フロンティア船団がバジュラに初めて襲われた時だった―――――」 ―――――――――― 燃え上がる市街地。 コンサートを開いた歌手(シェリル・ノーム)に、混乱への対応をしないでそそくさと逃げようとしている事に対する文句を言いに行ったアルトは、彼女のボディガードによって気絶させられていた。 「くそ!統合軍はなにをやってやがる!」 地面に叩きつけられた痛みでガンガンする頭を上げ、野外を見渡すと、その赤い圧倒的な存在があった。 よくみれば防衛出動したらしい統合軍のベアトリーチェ(8輪の装甲偵察車。偵察車とあるが、実際には105mm速射砲塔を搭載しているため従来の戦車のように運用される)があちらで数両大破している。そして目の前の怪物(バジュラ)には被弾したらしき弾痕があった。 つまり統合軍は必死に戦ったが、敵が圧倒的だった。 そういうことなのだろう。 逃げられないアルトは統合軍の質の低下を招いた、時の政府に悪態をつき、後ずさる。 「いやぁぁーっ」 場違いな悲鳴がしたのはその時だった。驚いてそこを見ると、先ほど道案内した緑色の髪をした少女だった。ビルの壁面に追い詰められ、腰を抜かしている。 なお悪いことに怪物は彼女に興味を持ったらしく、そちらへと方向を変えた。 (どうする・・・・・・俺は・・・・・・!) 逃げるなら絶好のチャンスだ。今怪物の意識は完全にそれている。しかし――――― (見捨てるのか!?) 怯え、すくみ、ただ恐怖するしかない少女を。 だが助けるにも今のEXギアでは、彼女を助けて2人で離陸するだけの推力はなかった。 怪物の頭らしき物に付いた無数の目が、妖しく光る。しかし次の瞬間、その頭を曳光弾混じりの機関砲弾が殴打した。それを行ったのは純白に赤黒ラインの映えるVF-25Fだった。 『さっさと逃げろ坊主!仕事の邪魔だ!』 そのバルキリーのパイロットのものであろう割れた声がEXギアの無線を介して届く。 VF-25Fはガウォーク形態に可変するとバジュラを抑え込んだ。 だがアルトは言われた事と正反対の行動に出ていた。先ほどの少女に向かって全速力で走り出したのだ。 しかし、怪物の爪が抑え込んでいたVF-25Fのコックピットを襲い、キャノピーを大破させた。 『負けてたまるかよ!』 パイロットは自衛用のリニアライフルを1挺担ぎ、EXギアで飛翔する。パイロットにもアルトの意図がわかっていたのだろう。彼女から数十メートルも離れていなかった怪物を、1区角先まで誘導する。 『やらせるかよ・・・・・・!ここは俺たちの船、フロンティアなんだからよぅ!!』 彼はそう叫んでリニアライフルで4.5mmケースレス弾を怪物に叩き込む。しかし、VF-25Fの50ミリ超級の機関砲すら効かない相手には全く効果がない。 「やめろ!死んじまうぞ!」 アルトは叫ぶが、パイロットは 『・・・うるせぇ!坊主、早くお嬢ちゃん連れて逃げるんだよ!』 と、まったく取り合わなかった。 ―――――――――― 「それでパイロットさんはどうなったの?」 なのはが先を促す。 「あの後、バジュラがパイロット―――――ギリアムを掴んで―――――」 アルトが広げた手を閉じ、強く握る動作をする。それを見たなのはは痛々しい顔をして背けた。 「だがな、彼は最後の最後まで撃つのをやめなかった。多分彼は守ろうとしたんだ。悪態をつくことしか出来なかった俺や、怯えることしかできなかったランカを。だから俺は周りの人間・・・・・・いや、目の前の人間を守ろうとするだけでも尊いと思うんだ。そうでなければ、あのVF-25を遺してくれたギリアムに、なんと言えばいいかわからない・・・・・・」 悲しそうに握りこぶしを振るわせて語るアルト。その時なのはの脳裏に2週間前の光景がフラッシュバックした。 それはVF-25の魔導兵器への改装が終わって、ついでに塗装も変えるか?という話になった時のことだ。 アルトはSMSの国籍表示マークはともかく、その純白に赤黒ラインの塗装を断固として譲らなかった。 今思えば、彼の3代目VF-25にも引き継がれたこの塗装は、アルトに掛けられたカース(呪い)なのだ。ギリアムを初めとする散っていった者の意志を継ぎ、人々を守るための・・・・・・ 「・・・・・・ありがとう、アルトくん。おかげで元気が出てきた!でも、今日はみっともない所ばっかり見られちゃったな~」 テヘへ、という笑顔はいつもの彼女のものだった。 その時、計ったかのようにドアが開き、レジアス達が入って来た。 (*) 「それでは続きに入ろうか。この損耗率に憂いた我々は、低ランク魔導士でも運用可能な装備の開発に着手した。今回リニアレール攻防戦でその実用性を示した新型デバイスもこれに当たる。これは陸士達の装備だが、空戦魔導士の装備を考えた結果出たのがバルキリーだ」 ホロディスプレイにバルキリーを使うことの有用性を箇条書きにしたものが示される。 MMリアクター(擬似リンカーコア)の導入でリンカーコア出力がクラスCならBへ。クラスBならAへ。クラスAならSという超絶的な火力になる。(事実、クラスAAのアルトのガンポッドから撃ち出される最大出力時の魔力砲撃は、シングルS+の威力を有している) 全体的に魔導士ランクが低くできるため、管理局の規定にある『1部隊が持ちうる魔導士ランクの限界』がほぼ無視できる。 非魔力資質保有者を整備員や生産工として大量雇用し、非魔力資質保有者の就職氷河期に歯止めをかける。 ファイター形態は速度が速い(音速以上)ため、即時展開性が向上し、素早い対応ができる。 局員の生存性の向上。 それらを見る限り悪いことはないように思えた。 「これらの理由からバルキリーの制作は決定された。わかってくれたか?」 2人は異論なく頷いた。 「我々はこのように公表するつもりだ。あと、彼女の遺言も・・・・・・。これで世論はわかってくれるだろうか?」 レジアスが2人に再び問う。 「レジアス中将の考えは間違ってないと思います。だからみんなにも―――――栞にもきっとわかってもらえると思います」 なのはの同意にレジアスは 「ありがとう」 と礼を言いい、田所に報告を続けるよう促した。 (*) 田所の報告が終わり、4人で修正点などを協議して一段落したのは昼の12時だった。 「そろそろ私は本部に戻らなければならない。田所所長、バルキリーの開発を急いでくれ」 レジアスは立ち上がると、田所に向かい合って小さく頭を下げる。 「承りました」 そしてレジアスはアルト達を振り返ると、深く頭を下げ 「ミッドチルダをよろしく頼む」 と言い残し退出して行った。 アルト達はまだ、彼の言葉の裏に隠された重さには気づいていなかった。 田所は深呼吸をすると、アルト達に向き直って言う。 「さて、アルト君や高町君ももうお昼だろう? 食堂に行くか?」 田所の提案に2人は頷く。そして 「考えて見れば俺はまだ朝飯前じゃないか!」 と悪態をついたアルトに、なのはと田所は一様に笑う。 「じゃあ行こうか。ああ、アルト君。昨日君が作ってくれた料理だがね、料理長にも食わせたらいたく気に入ったらしくてね。作り方を教えて欲しいと言っていたんだ」 昨日の料理とは、田所と談笑する時に、小腹が空いたアルトが作ったつまみだった。 「え?アルトくん、料理上手なんだ。私も食べたいなぁ~」 なのはが上目遣いに見てくる。アルトは胸を叩き、宣言する。 「いいだろう、みんな俺にまかせとけ!」 「やったぁ!」 ―――――さっきの重い雰囲気はどこへやら。 2人は田所を加え、食堂へと向かった。 (*) 食堂には、昨日のコンサートの熱気は完全になく、閑散としていた。 やはり研究職。昼の12時と言えど、机や実験施設からなかなか動けるものではないようだ。 そして全員で厨房に行くわけにも行かないので、なのはと田所は席で待つことになった。 (*) 「え?この肉使うの?」 まだ若い料理長はアルトの手際の良さに感心しながら訊く。 アルトの作ったつまみとは唐揚げだった。しかし彼が手に取ったのはミンチになった牛肉。そのため怪訝に思ったのだろう。 「そう、ここがポイントなんだ」 そう言ってアルトはもったいぶりながらその秘密の具材を料理長に示す。 「それは・・・・・・!?」 彼は絶句する。 アルトの手に乗ったもの、それは豆腐だった。 <作り方は家業秘密により伏せます> 「すごい!食感が、肉のそれと同じだ!それどころか柔らかくて美味しい!」 料理長は歓喜しながら、2個目を口に運んだ。 (*) 結局料理長に10個以上持っていかれたが、材料費がかからないため大量生産に向いたこの唐揚げ団子はその程度では減らなかった。 (ちょっと作りすぎたな・・・・・・) しかし、結果としてアルトの反省は無用なものとなった。 (*) なのは達の座っていた席の周りになぜか20人以上の人が集まり、黒山のひとだかりになっている。 研究員かとも思ったが、着ている服は技研の正装である白衣やツナギではなく、地上部隊の茶色い制服だ。 そこからは会話が聞こえてくる。話しているのはなのはと、制服を着た少女だ。 内容から察するに、空戦のアドバイスのようだ。 制服を着た少女が彼女1人しかいないためか、その存在感は群を抜いている。 年の頃は15,6だろうか。幼さを残す顔立ちのなかで、大きな目を見開き、頬を赤く染めている。特に大きな赤いリボンで後ろに結わえた黒髪は、まるで川のせせらぎのような清らかな印象を与えた。 「よう、アルト姫」 なのはの対面に座っていたミシェルがこちらに気づいて片手を挙げる。その一言に周囲の顔がアルトに集中し、一様に納得した顔になった。 「・・・・・・なんだよ?」 舞台で聴衆に見つめられることには慣れていたが、この違った雰囲気に気圧される。 「あぁ、アルトくん。この子達がバルキリーパイロット候補の1期生なんだって」 なのはの説明に、生徒一同はアルトに敬礼した。 とっさに答礼しようとして両手がふさがっている事に気づく。仕方なく苦笑しながら両手を差し出したなのはに皿を渡し、ようやく答礼した。 「ミシェル教官からお話は聞き及んでおります」 生徒のリーダーらしき25歳くらいの青年がアルトに言う。その言葉には敬意の念があるが、何かのスパイスが効いている。 「おい、ミシェル。コイツらになにを話した?」 「・・・・・・さあ、ね」 イタズラっぽい笑み。 (コイツ、いったいなにを吹き込みやがった・・・・・・!) アルトは胸の内で悪態をついた。 (*) 結局スパイスの中身はわからなかったが、山と積まれた唐揚げはアルト達や昼飯前の生徒達の胃袋に消えるのに時間はかからなかった。 そうして昼食を済ませると、田所からある提案がなされた。 「今日はうちのパイロットの卵の授業を見学するのはどうだろう?」 その提案は、生徒達の大賛成という空気に流され、2人はそれを飲む形になった。 つづく ―――――――――― 次回予告 1期生達の訓練を見学することになったアルトとなのは。 しかしそこにはマクロス・ギャラクシー出身と名乗る者が・・・ 果たして彼は敵か?味方か? 次回マクロスなのは、第8話『新たな翼たち』 管理局の白い悪魔が今降臨する! ―――――――――― シレンヤ氏 第8話へ
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AMF内―― 幾重にも施された結界により 飛行能力を封じられた高町なのはの前に立ちはだかる法衣の男 死力を尽くした戦闘は、既に2時間にも及んでいた 尋常ならざる相手――瞬き一つで絶命させられかねない―― 目の前の男に高町なのはは かつて無い戦慄を覚える 自分より強い敵なんていくらでもいた 武装隊、そして戦技教導隊での過酷な鍛錬 どのような強大な敵を前にしても、恐れない………恐れないだけの事をしてきたつもりだった 「貴方が今までどんな思いをして生きてきたのか、私は知らない… しかし、それでもいつものように戦えない焦燥感 AMFや空戦を封じられたという戦力的なものでは断じてなかった 高町なのはは混乱していた 目の前の男は自分を「悪」と断じている 他人の不幸が愉悦とまで 倒すべき悪に違いない相手……彼を放っておけば、間違いなく多くの人が災厄に見舞われる 故に倒す……救うために 正しい事をしてる、迷いもない、いつもと同じだ なのに――― 「もし貴方が、不幸な過去を背負っていて それで歪んでしまったのならば 私達の言葉は、今は甘い戯言に聞こえるのかも知れない…… 」 彼女は、目の前の男を計れないでいる 今まで会った敵や犯罪者、「狂気」 「悲しみ」 「憎しみ」 歪んだ思いを抱いたものに常に感じてきた負の感情 それが目の前の男から感じられない いや、不吉なのだ 不吉な気配を漂わす男なのは間違いない だが、しかし………それはどこか純粋で―― 一寸も気を緩める事なく、言葉を紡ぐなのは 「でもね……それでも歩んできた道がある!」 桃色の魔力の奔流が 気を吐くような咆哮と共に翻る 「築いてきた世界がある! 守ってきたという誇りがある!! 信じてきた正義がある!!! 」 と、同時に30を超える魔力の弾丸を、目の前の男に叩き込む 「だから他人の不幸が愉悦だなんて言う人は許さない! 絶対に負けない!! 」 非殺傷とはいえ、相手の魔力、活動力を削り取るスフィアの直撃 ただの人間ならば、これでKO 耐えられるハズがない――― ………だがしかし、なのはは微塵も構えを崩さない 果たして硝煙の中 何事も無かったように立っているのはヒトのカタチをしたナニカ―― 「思い上がるな 小娘 」 「ッ!?? 」 警戒していたにも関わらず、懐に入られた 刹那の一瞬 神速を超えた躍歩からの頂肘が なのはの鳩尾を穿つ 「あ、 ぐッ !!!?? 」 「日の当たる道しか歩んで来なかった者が 道 を語るな 」 そう、彼は既に人間ではなかった 聖杯の力を得たスカリエッティによって現世に蘇った サーヴァントの如き存在 でありながら、かつて馴染んだアンリマユの力を切り取り スカリエッティの支配をも跳ね除けた魔人 それが今の彼である 「祝福された世界しか知らぬ者が 世界 を語るな 」 「つッッッ! レイジングハートッ! バリアを捨ててBJを強化ッッ 」 重装甲Sランク魔道士の神域の守りは三重の鉄壁 生半可な事では突破出来ない 故に いかな絶技とはいえ、生身の拳が なのはに届く事などあり得ない しかし、目の前のこの男は聖杯の泥の 侵食 を持ってバリアを犯し 八極の内功を持って フィールドとBJの上から、なのはの肉体を削っている 100%には程遠い……80%は威力を殺された打 しかし、その20%で十分なのだ 数分違わず急所に打ち込まれる一撃必殺の絶招、その20%の衝撃が もともと頑健でない、なのはの身体を貫くには十分な威力なのである 「踏み躙られた事もない者が 誇り を語るな 正義の本質も知らぬ者が 正義 を語るな 」 正中線に矢継ぎ早に叩き込まれる殺撃の崩拳 ミリ単位で急所を外すのが精一杯のなのは 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……は、 、ぅ……」 「偽善の極みだ」 「バインドッッ! 」 捕らえられない 単純な速さならフェイトの方が断然速い 威力ではヴィータに遠く及ばない しかし、彼女は知る 鎧も盾も持たない身で ただひたすらに己の五体のみを鍛え上げた者の技を その踏み込みの鋭さを 「ッッ (距離をッ この間合いはダメッ…) 」 「この期に及んで、まだお前は殺さずに私を退けるつもりか 以前にも、お前のように青臭い正義を語る小僧と戯れたが……」 「ッレイジングハート!! フラッシュム――」 遅い 黒鍵にて逃げ道を塞がれた中 練られた渾身の一撃により 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるなのは 「あうぅっっ!!! 」 「まだ、奴のほうが……救える者と救えない者の分別はあったぞ」 ずる、と崩れ落ちるなのは 視界が定まらず、意識が混濁する かつて悪魔と罵られた事を思い出した 憎しみの 恐れの 感情をぶつけられた事もあった 悲しかった 杖を持つ手が震えた でも感情を殺して耐えた それが皆を救える道だと信じて耐えた 名前を呼んで貰った 嬉しかった 諦めなかった 絶対に諦めなかった そうしたら救えた 嬉しかった どんなに辛くて苦しくても その先に何かを見いだせるのなら 耐えられる ……進めるんだ それが彼女がこの道を選んだ理由 そして全てだった ガムシャラに突き進み、どんな辛い訓練にも耐え、ひたすらに高みを目指して飛んだ そして今 自分はここに立っている ならば―――― この男は何なのだろう 自ら悪を担っておいて何を求めているのか 救いも幸せな未来も 自分の身すら求めずに どんな世界を求めているのか 意識が、崩れ落ちる―――寸前で踏み止まる 息が出来ない 打ち込まれた箇所が痛い 口内から血の味がする だが、男とて無傷ではない あらゆる攻撃を弾き返してきた、なのはのBJを素手で殴り続けているのだ 叩き付けた拳から血が滴っている 「何が、、いけないの…?」 「なに? 」 「全てを救いたい! そう考える事の何がいけないの!!? 」 裂帛の気合と共に、愛杖を振るうなのは 先端のACSが翻り、言峰の身体を薙ごうとするが 「皆が皆、初めから幸せだったわけじゃない 辛い目にあったりキツイ思いをしたり…」 それは空を捕らえるばかり 接近戦における錬度 技術の違いは圧倒的だった それでもなのはは引かない 男の虚無の瞳を見据えて叫ぶ 「でも皆、頑張って幸せな世界を作ろうとしてるんだよ! 誰もが優しい時間の中で過ごせる 誰も傷つけ合わない 争わなくて良い世界を! 」 至近距離でシューター 交わす男 拳打による致命傷 かろうじて外すなのは 魔弾と魔拳の応酬 もはや、それは常人の視認すら許さない域での戦闘 「大事な人のため 守りたいもののためにっ!! 」 「黙れ 」 男は遮る まるで汚泥なるものを見るような目で彼女を一瞥し 「そのような虫唾の走る妄言を、これ以上私に聞かせるな」 「…………… 」 男に初めて、感情のようなモノを見た それは嫌悪 「一つだけ忠告してやろう」 「…………」 「その考えでは世界の半分の人間しか救えない お前の側にいる人間だけだ」 「……」 「お前は自分が、裁かれる側から何と呼ばれているか分かっているのだろう? 管理局の悪魔 法の番犬、、」 ズキンと―――胸が痛む 「分かってる……それでも、例え恨まれても…」 そう続けようとした言葉を―― 「正義を為して、何故悪の称号を携わる? お前はそれに何の疑問も抱かないのか? 貴様に撃たれ 捕らえられ 誇りを失い 首輪を繋がれ 怨嗟の声を上げる者を尻目に――それでも管理局とやらの尖兵になるか…… はたまた 牢に繋がれた不心得者達に 今 貴様が説いたゴミのような説法を得々と聞かせてまわるか……」 更に男に遮られる 「狗の人生だな…」 自分 を 自分の人生 をはっきりと否定される言葉…… 侮蔑に、屈辱に歯を食いしばる いつもの彼女なら、こんな言葉に揺れたりはしない しかし、この男の言葉は 一つ一つが鉄鎖の呪いのようで… 問答無用で薙ぎ払う事がどうしても出来ない 「じゃあ――大事な人が傷つけたり傷ついたり争ったりするのを見過ごせって言うの? 私は……そのための力が欲しかった 子供の頃、身近な人が傷ついても何も出来ない そんな自分が嫌いで………だから――」 思いを喉から搾り出す 目の前の男に負けないように 折れないように 「貴方こそそれだけの力があるのに、どうしてそれを良い事に向けないの!? どれだけの物が救えるか、どれだけの事が出来るか分からないのに」 「争いを無くしたいのなら人間全てを滅ぼす事だ」 「なっ……………… 」 絶句して立ち尽くす 戦闘中だという事も忘れて、呆然と相手の顔を見る 「はっきり言ってやる お前の進む道に未来などない 誰も傷つかなくて良い世界? そんなモノがこの世界のどこにある?」 降り注ぐ言葉はあまりにも無慈悲で、救いがなくて―― 「人は黙っていても殺し合い憎みあう ソレは理想として成立しない 10年……戦場で力を振るい続けても、まだその真理に気づかないとは …………………………そうか」 何かに気づいたように男は笑う 子供が昆虫をカイタイする時のような 純粋で、無垢な残酷さを思わせるそんな表情―― 「お前も、、なのだな……お前も 奴らと一緒か クク……ククク 哀れすぎて笑えるぞ小娘 ようやくこのくだらない茶番に愉悦を感じるようになった」 取り出したる黒鍵は左右6本 悪魔と呼ばれ、正義を為してきた若き英雄 その前に立つのは、道を見失い彷徨った末に 己の本質に辿り着いた本物の純粋悪 「……………そうやって、、ずっと世界を敵に回すつもり?」 「私は世界の敵として生まれた 初めからな」 「やり直せるんだよ……いくらでも なのに、いつまで、、、いつまで続けるつもりなの!」 「死してなお――だ 管理者よ」 「貴方はッ!!!」 桃色の光が周囲を覆い尽くす 高町なのはの最終リミッター 限界を超えた魔力行使 己の肉体を超えた負荷と、魔道士の命である魔力を引き換えにした 一撃必殺の砲殺戦闘モード 「ブラスターモード! リリース!!!!」 その封印が、今解かれる 黒鍵の投擲、と同時に炸裂弾の如き激しさで肉薄しようとする その男の周囲、あらぬ方向から飛来する短剣のような何か 「ぬうっ!?? 」 男の前進を止めたもの それは砲撃魔道士・高町なのはが、クロス~ミドルレンジでの弱点を 克服すべく選んだ、空間制圧の切り札 五門ものビット――― それが縦横無尽に飛び交い、男の動きを制限していく 「悪魔と呼ぶならそれでもいい――」 黒鍵がフィールドに阻まれ力なく堕ちる 仁王立ちに構えるなのは、男に対し かつてない闘志を奮い立たせ…… 「私の中の 悪魔 が―― この世全ての悪 を、、、薙ぎ払ってあげる!!」 剥き出しの感情で吼えた……ケモノのように なのはを知る者が、今の彼女を見て それがなのはだと信じられるだろうか ここまで感情をあらわにした事など、、彼女自身の人生の中でも数えるほど 男も感じている もはや、眼前の敵に気後れなどない 受けた傷を 痛んだ身体を まるで意に返さぬ その威圧感 その、並のサーヴァントを凌駕し兼ねない 強大な魔力の塊を前にして―― 「そうだ 殺すつもりで来い その力で私の存在を否定して見せよ! 最早、双方の死を以って以外に決着はあり得ないのだから」 男は嘲う 壮絶に 「殺さないよ………貴方の思い通りにはならない ―――でも………」 弾けたように飛ぶのは男 敵の中心線を穿つ 狙うはそれだけ 「かなり痛いから覚悟してッ!!!!」 対してなのはも下がる気はない 八極の震脚じみた踏み足で地面を噛み、迎え撃つ 誰も気づかない なのはの目からこぼれた、一筋の涙、その意味 それは決して相容れない者との邂逅による絶望か 不甲斐無さか 今は分かり合えないのかも知れない 恐らくは自分よりも遥かに多くの物を見、聞き そして今に至ってきたであろうこの男 そんな男と自分とでは、今の段階では話をする事さえ出来ない でも、負けてしまえば救えない 折れてしまえば全てが終わる それは変わらないのだと自分に言い聞かせ 「エクセリオン・ ・ ・ ・ ・ ・バスタァァァ!!!!!!」 全力全開の砲撃を男に放つ 戦いはまだ、始まったばかりである 小ネタへ
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マクロスなのは 第5話『よみがえる翼』←この前の話 『マクロスなのは』第6話「蒼天の魔弾」 地球環境の破壊が叫ばれる今日この頃。 その森は広大で、自然保護区にでも指定されているのだろうか? この時代にあって人工物がほとんど見られない。 だが唯一、明らかに人工物とわかる幅5メートルぐらいのコンクリート製の溝が山から山へと渡っていた。 その溝の上に1羽の小鳥が羽根を休めている。しかし何か危険を感じ取ったようだ。それは溝から飛び立つと空中に退避した。直後、小さく〝キーン・・・・・・〟という空気を切り裂く音と共に静かに鉄の箱が通り過ぎていく。 鳥は 「近所迷惑だ!」 とでも言いたげにそれに爆撃すると、豊かな緑に包まれた安住の地へと飛翔していった。 (*) 山間部を時速70キロメートルで走る貨物用リニアレールは戦場と化していた。 ヘリから飛び降りたティアナ達は、上空に展開するガジェットⅡ型を警戒しながら10両目に着地。なのは達の支援砲撃でガジェット達が気を取られている隙に10両目の車両の中に滑り込んだ。 「うわ・・・・・・」 ティアナは床を見て顔をしかめた。 そこには寝かされた陸士達の姿があった。全員出血性の外傷があるところを見ると殺傷設定で戦闘不能にされたらしい。 続いて突入してきたスバル達も血臭ただようこの車内で、真っ赤になってなお血の滴る包帯を顔面蒼白になりながらも必死に抑える者など痛々しい光景に絶句してしまったようだった。 その時まるで工事現場のような轟音を轟かせながら敵を迎撃していた前線から声が聞こえた。 「あぁ、増援か!」 最前線の9両目から1人の陸士が仲間に援護を頼み、敵の怯んだ隙にこちらへ走って来た。 「我々は第256陸士部隊、第5小隊所属、第1分隊だ。増援に感謝する」 どこか・・・・・・いや完璧に非魔法文明の意匠のバリアジャケット。質量兵器を忌み嫌うティアナはあまりいい気はしなかったが、ヘルメットの下に見えた彼の顔からは見捨てられていなかったことへの歓喜の表情がうかがえた。 どうやら猫の手も借りたい状況らしい。待ちに待った増援が子供であったことすら気にしていない様子だ。 「機動六課、スターズ、ライトニング分隊です。現状は?」 簡潔な状況確認要求にすぐ彼は応じ、開いたホロディスプレイを指差しながら説明する。 現在、運転室を含む前方8両は敵に完全制圧されていること。 撤退しながら構築した9両目の臨時トーチカ(防衛陣地)が最前線であること。 9両目で切り離すと電力供給が止まり、電磁気で浮いている車体がレール(溝)に墜落、大破してしまうのでできないこと。 敵はⅠ型だけではなく、新型(仮にボールと呼ばれている)が混じっており、逆侵攻はできないこと。 説明を聞くうちに、ティアナ達は素直に陸士部隊の手際に感心した。 もし、訓練でガジェットとの戦闘に中途半端に慣れた自分たちが守っていたとしたら彼ら陸士部隊のように臨機応変に行動出来ただろうか? 答えは否だ。 おそらく力を過信して突撃、その新型の返り討ちにあっただろう。 特に彼らの造った臨時トーチカの完成度は手放しで賞賛できるものであった。 彼らはリニアレールで唯一大型貨物が集中している9両目に初期の頃から陣地構築を計画。形勢不利とみるとすぐさまトーチカの構築を始め、撤退中に完成させた。 それは狭い入り口から入ってくるガジェット達に対応不能なほどの十字砲火(クロスファイア)を行えるように巧みに計算し、構築されていた。 しかしそれだけでは持ちこたえられなかったろう。〝従来の〟陸士部隊の装備なら。 予算の問題が解決した陸士部隊は、急ピッチで装備の改変が行われている。 デバイスはほぼ全員がアップデートしており、それらは対AMF戦を想定した設計になっている。現在彼らの撃ち出すのは魔力砲撃や魔力弾だけではなく、〝フルメタルジャケットの徹甲弾〟だ。 「それは最早質量兵器ではないか!?」 という反対を押しきって採用されたそれは、バルキリーと同じレールガン型発射方式だ。(この方式は最低のCランク魔導士でも使用でき、うってつけだった) 反動を伴ってしまう物質投射型武器のノウハウのなかった管理局が参考にしたのは、第97管理外世界のJSSDF(ジャパン・サーファス・セルフ・ディフェンス・フォース。日本国陸上自衛隊。)の装備だった。そのため使用時形態のそれはJSSDFの制式装備である『89式小銃』と『MINIMI(ミニミ)軽機関銃』に酷似していて、事実そう呼ばれる。 機能もほぼ同じで、配備数は89式小銃の方が多い。なぜなら分隊支援火器と呼ばれるMINIMIはいわゆるマシンガンで、稼動を始めたばかりの弾丸製造工場への負担が大きいからだ。 ちなみにティアナ達は知らなかったが、バリアジャケットも同様にJSSDFの装備を元にしている。 ともかく、彼ら陸士の善戦は彼ら自身のたゆまぬ努力と新装備によって支えられていた。 「佐藤陸曹、弾を持ってこい!もうすぐ弾切れだ!」 前線からの要請。佐藤と呼ばれたさっきの陸士は、床に転がる弾丸ケースを抱えると敵のレーザーの雨を掻い潜って前線に届けようと走る。 しかし、一瞬停まった所をレーザーが狙い撃ちした。 展開した魔力障壁もAMF下では敵の集中射には耐えられず貫通。胴体はバリアジャケットの分厚い防弾チョッキがそれを受け止めたが、リンカーコア出力が低いと薄さに比例してバリアジャケットも弱くなってしまうため、足に着弾したレーザーが貫通してしまった。 しかし、4人の対応は早かった。 足の速いスバルが倒れる彼を抱き止め、負傷者の待つ後方へ。エリオが彼の仕事を継ぎ、ケースを前線に届ける。キャロは応急の治療魔法にティアナとフリードリヒはその間の援護射撃。 絶妙な連携で敵を退け、友軍である陸士を救う。この勇気ある組織立った行動が陸士達の若すぎる彼らに対して抱いていた評価を変えた。 「痛っつぅ・・・・・・!」 「・・・・・・あの、大丈夫ですか?」 足を抑える佐藤に、治療魔法をかけるキャロが心配そうに呼び掛ける。 「・・・・・・ああ、助かった。ありがとう」 彼は礼を言うと、八角形をした箱を指差す。 「あれが連中の狙っているロストロギアの入った箱だ。なんとか守ってほしい」 そうして佐藤はスバルに止血帯を絞めて止血してもらうと、足を気遣いながらも再び戦線に復帰した。 ティアナは3人に床に積まれた弾丸ケースのピストン輸送と負傷者の治療などの指示を出すと通信を放つ。 「こちらスターズ4。陸士部隊と合流。これより車内のガジェットの掃討に入ります!」 ティアナはクロスミラージュにカートリッジを装弾すると陸士逹の戦列に加わった。 (*) 10分後 防戦が続くが、全く突入のタイミングが計れなかった。そのもっとも大きな理由はボールの存在だ。 そのボールは後に『ガジェットⅢ型』と呼ばれ、強力なAMFと帯のような格闘兵装がある。そのためレーザーを撃つだけのⅠ型と違って数段に戦いにくい相手だった。 おそらくスバルの突貫力でも1体倒したら進撃が止まってしまうだろう。 (でもなんとかリニアレールを停めなきゃ、みんなが・・・・・・) リニアレールを停められれば、地上からの増援も期待でき、負傷者の搬送もできる。 先ほどティアナはなのはに支援砲撃の要請をして、 「わかった」 と返事が得られた。しかし例の新型空戦ガジェットに苦戦しているらしい。5分待ってもなのは達は来なかった。 すでに後ろには防衛していた第1分隊12人のうち7人が寝かされている。時折聞こえるうめき声が彼らの負傷の大きさを物語った。 それに敵のAMFはランカのSAMFと違い魔法の発動ができる。しかしいちいち干渉して体力を削るため、忌々しい限りだった。 「畜生!〝虫〟の次は機械かぁ!どうして俺はいつももこうなるんだぁ!俺らは〝フロンティア〟でも、ミッドでも、ただ平和に暮らしたいだけなのに!」 ティアナの隣の陸士が叫ぶ。彼女には彼の真意は理解できなかったが、極度の緊張で発狂しそうなのだろうと結論づけた。 そしてそれがさらに「時間がない!」と彼女を焦らせた。すでに陸士達の生命線である弾丸ケースも残り少ない。 そうして上を見上げると取っ手があった。それは整備用のハッチで、大柄な陸士と違って小柄な六課の4人なら上にあがれそうだ。 ちなみに入った時のハッチは場所が悪く、降りられても登れなかった。 ティアナは即座に判断すると、陸士部隊の隊長を探す。 「隊長は俺だ」 名乗りをあげたのは、さっき〝虫〟とか〝フロンティア〟とか訳のわからないことを口走っていた人だった。 しかし確かに階級章は部隊で最高位の准陸尉だ。それに思ったよりまともな応対をしていた。 ティアナは意を決し、作戦を話した。 「・・・・・・つまり君らが、上に登って直接運転室を制圧するんだな?」 「はい。それまでここをお願いできますか?」 彼は床の弾丸ケースや自身のマガジンを確認する。 「・・・・・・持って、15分だ。それまでに頼む」 「了解!後方へ行くので3秒間援護願います」 「わかった。・・・・・・お前ら!5秒後に3秒間入り口に向けて全力射撃!給弾忘れるな!」 「「了解!」」 彼はMINIMIを持つ隊員2人に叫ぶように命じると、カウントしつつ彼自身も床に転がっていたMINIMIに箱型弾倉を装着。ジャラジャラうるさいベルトを給弾部に装填した。 自分もいつでも飛び出せるよう身構える。 「―――――2、1、GO!」 途端地獄の釜を開けたような轟音が車内を包んだ。3挺の機関銃のそれぞれから毎分750発にも昇る弾丸が飛び出し、敵の頭を完全に押さえ込んだのだ。 そしてティアナは「GO!」のカウントと同時に迷いなく遮蔽物から走り出し、規定の3秒経つ前に10両目に飛び込んだ。 (*) 「しかし隊長もお人が悪い。この残弾じゃ、あと25分以上は持ちますよ」 先ほど彼女らに助けられた佐藤曹長が発砲音に紛れぬよう、耳元で言う。 スバルという少女が10両目に積載していた弾丸ケースを次々ピストン輸送してくれたおかげで、前線には十分長期戦に耐えうる数がそろっていた。 「まぁ、お手並み拝見ってことだ。15分過ぎてもあの子達が到達できなければ侵攻して援護してやろう」 「了解!」 佐藤は答えると、憎憎しいガジェットⅠ型に89式小銃をぶっ放した。 (*) ティアナは10両目につくと、弾丸ケース運びに勤しむスバル、負傷した陸士達に治療魔法を行使し続けるエリオとキャロに指示を出す。 「スバル、このハッチを吹き飛ばして。エリオとキャロも行ける?」 「「はい!」」 2人の元気のよい返事に、破砕音が混じる。 スバルのリボルバーナックルが、ハッチをロックごと吹き飛ばしたのだ。そこからのぞく南海の海のように透き通った青い空。 ティアナは頭を慎重に出す。ガジェットⅡ型はなのは隊長達によってほとんど掃討されたはずだが、油断はできない。 果たして打ちもらしが1機飛んでいた。 ティアナは素早く照準し、一発ロード。それを対AMF炸裂弾1発で見事撃破した。 「よし!」 自らを勇気付けるようにかけ声を上げると、這いずるように外に躍り出る。暴力的な風が吹き荒れているが前に進めない程ではない。 周囲を警戒するうちにスバルも登って来て、エリオ、キャロもすぐに引っ張り上げられた。 「行くわよ!」 上にいても聞こえる『タタタッ』という三点射のスタッカート。それが聞こえている間は、彼ら陸士達の生存の証だ。 陸戦型ガジェット達も上がって来れないらしく、順調に行軍は続いた。 余談だがこの時キャロが鳥のフンに滑って谷底に落ちそうになるというハプニングがあったが、その他には問題なく、運転室まであと2両に迫っていた。 (このまま行けば・・・・・・!) ティアナの中でフォワードの初陣を白丸で飾れると期待が膨らんだ。 (*) 漆黒の邪悪なる翼はすぐそこまで迫っていた。 しかし、4人にそれに対する効果的な対処法はなかった。 (*) ティアナがジェットエンジンの轟音に気づいて音源を視認した時にはもう目と鼻の先だった。 突然山肌から出てきたのは例の新型空戦ガジェットらしかった。それはアルトがいればすぐに、統合戦争で使われた統合軍無人偵察攻撃機「QF2200 ゴースト」だと看破しただろう。 このゴーストは未確認情報だが、統合戦争末期に当時の先行試作人型可変戦闘機、VF-0『フェニックス』のブースターパックとして無理やり装備されたことがあるという。 しかし装備は当時のものより遥かにグレードアップしている。ミサイル数発、12.7mm機銃1挺だった武装はマイクロミサイルシステムの進歩によって装弾数が数倍にはね上がり、機銃は魔力素粒子ビーム機銃に換装されている。更に機体下部には20mm3連装ガンポッドが追加装備されていた。 また、運用当時以上の高機動で長時間の飛行を維持していることから推進系も通常のジェットエンジンからバルキリーと同種の熱核タービンに換装されているようだった。 無論そんな考察はティアナ達には行えなかったし、ガジェットの5~6倍は大きいその機体に圧倒されて声もあげられなくなっていた。 そのゴーストは、マイクロミサイルを乱射すると即座に退避した。 置き土産たるミサイルは直後到着したなのはの支援砲撃と、ティアナのとっさの迎撃が食い止める。しかし、ワンテンポ遅れてやってきたミサイル1発は運悪く撃墜出来ず、4人の足下に着弾した。 恐らく殺傷設定だったミサイルだが、デバイスが緊急展開したシールド(シールド型PPBと魔力障壁)が破片を防ぐ。しかし、爆発の衝撃までは殺しきれなかった。 結果として着弾地点からリニアレールの前方にティアナ。後方にスバル。そしてエリオとキャロは谷底へ落ちていった。 (*) 頭がクラクラする。意識も混濁し、視界もブラックアウトしたまま回復しない。どうやら頭を打ったらしい。しかし自分がなぜこんなことになっているかがわからなかった。 (あれ・・・・・・なんで・・・・・・) 「ティア!」 「!」 親友の呼び掛けによって前後の記憶が蘇る。 こうしてはいられないと頭を振って視界を回復させると、すぐに立って対応をしようと手を床に付いた。瞬間、自分を優に越える大きさの影が覆った。 例の新型空戦ガジェットだ。おそらくトドメをさしに来たのだろう。しかし迎撃しようにも、気づいたときには手の内にクロスミラージュがなかった。どうやらさっきの衝撃で落としたらしい。 視界の端にスバルの姿が写る。彼女は自分の元に駆けつけようと急いでいるが、穴から出てきた新型、ボールに阻まれ間に合いそうもない。 自分の名を叫ぶスバルの悲痛な声が聞こえる。その間にゴーストのセンサーがこちらをロック。その重たそうな3砲身の銃口が向けられ、回転を始める。 デバイスのない今、兵器レベルの物理投射攻撃を受ければおそらく即死。自らの体はバラバラになり、原型が何かすらわからないだろう。 (・・・・・・痛くなければいいな) 頭も依然として朦朧とするし、助かるはずもない。完全に観念して瞼を閉じた。 しかしそこで彼女はあり得ないものを見た。 大好きだった兄と誰かが肩を取り合って笑っている。あれは――――― (アルト先輩・・・・・・?) 刹那、爆音のような発砲音が耳を塞いだ。 しかし、体を裂くような感覚はやってこなかった。 瞼を開けると、目の前のゴーストが真横からハンマーで殴られたようにひしゃげている。おかげで射軸から逸れたらしい。その打点とおぼしき場所には見覚えある青白い尾を引いていた。 『(無事かティアナ!?)』 同時に念話が届き、ひしゃげてバランスを崩していたゴーストを純白の巨人が殴り飛ばした。 ティアナはしばらく惚けたようにその機体を見つめていると、やっと何が起きたかを理解した。 『(は・・・はい!)』 やっとの思いで返事をすると、VF-25は安心したようにバトロイドからファイター形態に可変。 アルトは 『(あの機体には気をつけろ)』 と言い残し飛び去った。おそらくなのは達の支援に行ったのだろう。 ティアナは救援に来たスバルが彼女の肩に触れるまで、その後ろ姿を見つめていた。 (*) そのガジェットは手強かった。 まず機動が読めない。敵はなんらかの慣性制動装置と多数のスラスターを併用して、無人機最大の強みである機体の耐G性能の限界まで引き出し、大気圏内にもかかわらずほぼ直角の回避運動を行う。 ちなみにこの武装、スラスターを含むオーバーテクノロジー系列の慣性制動システム、そして反応エンジンは元の設計にはなかったものであり、スカリエッティの改良の成果だった。 今回のデバイスの改良で多数のOT・OTMを装備したフェイトは、彼ら相手にほぼ互角の戦いを繰り広げていた。 フェイトが銃撃しながら接近してきたガジェットに攻撃するため逆に肉薄する。 機械の軌道理論と確率論に沿った火線を避けることは、神速を誇る彼女には容易いことだ。しかしそれが2本、3本と増えると事情が変わってくる。 次の瞬間にはフェイトに向かい、違う射角から2本の集中射が襲う。 なのはとしても他の2機の突入を阻止するのが精一杯でそこまで手が回らない。 フェイトは自身の超高速移動魔法によって稲妻のようなハイマニューバでその火線から逃れるが、肉薄していたガジェットがマイクロミサイルを斉射。8発ほどのミサイルが白い尾を引いてフェイトに迫る。 このまま突入するのは危険だ。しかし、いかが彼女の超高速移動魔法でも前進へと向けられた音速レベルの慣性を瞬時に消滅させることはできない。 そこでフェイトは1発ロードしてOT『イナーシャ・ベクトル・キャンセラー』を最大。そして今回の改修で新たに装備されたOT『キメリコラ特殊イナーシャ・ベクトルコントロールシステム』を起動する。 このシステムは第25未確認世界ではクァドランシリーズの慣性制御装置として使われ、安価でVF-25のISC(イナーシャ・ストア・コンバータ)に劣らぬ性能を誇る。しかし、ミッドでは技術的な問題から最大出力での稼働時間が極端に短い。そのためここぞというときに使う装備だ。 起動と同時に2発ロード。その能力を保持するため魔力で形成された黄金色の羽根のようなフィンが足首に展開され、時をおかずに急制動を掛ける。 音速で飛行していたフェイトは1秒でその速度を零に持ってくると、周囲にプラズマランサーのスフィアを生成。それを置き土産に一気に反転して全速で離脱する。 すると彼女を追っていたミサイルはフェイトの狙い通りスフィアの目と鼻の先を通り、直前に射出されたランサーがその全てを見事に叩き落した。 ミサイルを発射してそのまま直進してきたガジェットにもその必殺の矢が4本ほど向かうが、元来直進しかしないそのランサーは容易くかわされてしまった。 フェイトの命令さえあれば再び方向転換して再追尾できるのだが、残念ながらランサーはガジェットが出しうるらしい音速の2~3倍という速度についていけない。これが対魔導士を念頭に置いて開発された現状の魔法の出しうる限界値だった。 こうしたことが続き、敵もこちらの支援砲撃が邪魔で5対1による物量戦術には訴えられず、フェイトもまた敵を捉えられなかった。 しかしガジェットと違い生身であるフェイトの消耗は目に余る。 例え魔法と新装備である各種慣性制動システムを全力で駆使しようと、音速レベルではその慣性を全て吸収してはくれない。 さきほどの緊急制動では単純計算で34G掛かる。各種慣性制動システムを使って軽減しても少なくとも5G、最悪10G近い重力加速度がフェイトの華奢な体にかかっていた。 このような状況では自分が支援砲撃をしなければ彼女は1分ほどしか持たないだろう。 ティアナの砲撃要請を受けていたなのはだったが、そのためこの戦線から抜けられず、どうにもならない気持ちにイライラしていた。 そこに自分達から遥か遠方で現場の指揮を取るロングアーチ分隊から緊急通信が開いた。 『敵の新型空戦ガジェットが1機、リニアレールに接近中!屋根から運転室を奪取しようとしているスターズ、ライトニング両分隊に奇襲をするつもりのようです!』 通信士を務めるルキノがガジェットの機関銃のように報告する。 新型の空戦ガジェットは周囲1キロ近くの全周波を常に撹乱―――――つまりジャミングしているので遠距離にいた自分に通信を送ってきたようだ。 気づけばフェイトと戦闘している敵が4機に減っている。 なのははルキノの滑舌のよさと、一歩下がった位置で戦局を冷静に見てくれている友軍がいることに感謝すると、リニアレールに飛ぶ。 4機ならばフェイトは少なくとも1分は持ち応えられる。しかしあの4人では10秒持つかどうか・・・・・・ ロングアーチの警告通りリニアレールを襲ったガジェットのミサイル迎撃を支援する。 だが、自分にはここまでしかできなかった。 いつの間にかフェイトと交戦していた4機のうち2機が、そして列車を攻撃していた1機が自分を包囲。徐々に範囲を狭めつつあったからだ。 スケジュールの関係でまだ大規模なOT・OTM改装の進んでいないレイジングハートには、フェイトや新型空戦ガジェットのような超高速の戦闘機動を行えなかった。また、能力限定リミッターがかかっていることも彼女の足を引っ張った。 空戦ガジェットから伸びる光の矢。受け止める魔力障壁が不自然に歪んだ。 (これは魔力レーザー? いや、実体弾みたいだね) 正体を見切ったなのははシールド型PPB(ピンポイントバリア)に切り替える。連続的で強力な物理攻撃に対して魔力障壁はあまりに脆かった。 なのははカートリッジを2発ロードするとレイジングハートを胸に抱き、突撃体勢をとる。 「レイジングハート!」 自らの呼びかけに、レイジングハート本体の赤い球がわかったように点滅する。そして時を置かず杖の後方に魔力球が出現。瞬時に自爆して突発的な魔力爆発を起こした。 なのははそれにバインドを掛け、四方に広がろうとする爆圧を後ろに集束させた。それによってレイジングハート・エクセリオンのSランク時のA.C.S(瞬間突撃システム)に匹敵する莫大な推進力を得たなのはは目前のガジェットに突撃する。 これまでの戦い方からこちらが間接攻撃しかできないと認識していたらしいガジェットは、突然の特攻に対応が遅れている。 その隙を突いてバルキリーのPPBパンチの要領でPPBをレイジングハート先端部に集中、泣けなしで相手の発射した機関銃弾数発を弾くと、あやまたずそれは機体本体に直撃する。 結果、AMFもPPBSもないガジェットの外壁をそれはいとも容易く貫いた。 「シュート!!」 宣言と共に放たれたゼロ距離砲撃によって機体のメインフレームを寸断。10メートル近い巨大な黒鳥は空中分解しながら急速に金属部品へと還元していった。 しかし、残り2機が機首に付けられたカナード翼と三次元推力偏向ノズルを上向き最大角にし、ほぼ機首を軸に急旋回。おそらく動きの遅くなったなのはを機銃弾で一気に撃破する腹づもりなのだろう。 なのはは2方向からの同時攻撃には通常バリアでは対応できないと判断。カートリッジのロックをフリーにしてレイジングハートに命令する。 シレンヤ氏 第6話 その2へ
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全てのジュエルシードをかけて全力で戦うなのはとフェイト。お互いの魔法を駆使した攻防は一進一退を続けていた。 周囲の苦言を受けながらも、『ジュエルシードを封印する』『フェイトとも和解する』の両方をやり抜く事を選んだなのははその心に秘めた『覚悟』によって、プレシアへの盲信で動き続けるフェイトと渡り合う。 そして、最後の瞬間の決め手となったのが、その受動的ではない自分自身を貫き続けたなのはの覚悟だった。 フェイトをバインドで捕える事に成功。抵抗するフェイトの魔法弾が全身を襲っても、なのははバインドを解除しなかった。 『いったん食らいついたら、腕や脚の一本や二本失おうとも決して『魔法』は解除しない―――』 幼い少女が胸に宿らせた鋼の信念は、襲い掛かるダメージを凌駕し、ついに最後の一撃によって雌雄は決したのだ。 激戦の果て。自らの敗北を受け入れたフェイトはなのはへジュエルシードを渡す事を決意したのだった。 スター・ライト・ブレイカーの直撃を受けたフェイトが束の間の眠りから目を覚ますと、体を支える暖かい腕の感触をまず感じた。 自分を容赦なく叩きのめした少女<高町なのは>の腕の中だった。 「……わたしの勝ちだね」 傷ついたフェイトを見下ろし、なのはが厳かに現実を突きつける。敗北した者に対する情けは、そこには無かった。 初めてなのはを見た時感じた儚さ、日常生活の中で偶然出会った時に見た柔らかな笑顔、それらの少女らしい雰囲気を一切削ぎ落とした戦士の顔がそこにある。 それはなのはの戦う時の顔だった。『やる』と決めた時、戦い抜く『覚悟』をした時、彼女はいつも変貌する。 自分は、その『覚悟』に負けたのだ―――フェイトは理解した。 「そう、みたいだね……」 敗北した僅かな失望感を抱き、フェイトは呟いた。 負けてしまった。母の為の戦いに敗北してしまった。これからどうなるのか、フェイト自身にも分からない。 しかし、不思議と不安や焦燥のようなものは感じていなかった。 何もかもなくしてしまったような消失感を感じながら、自分を抱く小さな少女の腕がとても暖かい事に奇妙な安らぎを感じる。 幾度も戦い、その容赦の無い戦い方に何度も戦慄した目の前の敵である少女に、今はもう全てを委ねてしまいたい気持ちすらあった。 戦いの中で、なのはは何度もフェイトを叱った。 敵から浴びせられる罵倒とも取れる叱責は、しかしプレシアがフェイトに叩きつける言葉とは全く違い、厳しさに隠された思いやりがあったのを、今の彼女は半ば悟っていたのだった。 『よし、なのは。ジュエルシードを確保して。それから彼女を―――』 クロノからの通信をなのはは無視した。 ただ、腕の中のフェイトを静かに見つめている。彼女が何かを言いたいのだと、なのはは分かっていた。 「……私は、これからどうなるんだろう?」 未だ茫然自失とした心のまま、フェイトは虚空を見上げたままポツリと呟く。 「アナタに負けて、ジュエルシードも全部失って……そして、母さんの願いも叶えられないまま、管理局に連れて行かれる……。私はこれからどこへ行くの?」 心の亀裂から漏れるように流れていくフェイトの呟きは徐々に震え始める。 現実感を取り戻してきた心が、滲んでくる黒い染みのように、不安を感じ始めていた。 「……フェイトちゃんがこれからどうなるのか? わたしの考えではたぶんこうだよ……。 まずフェイトちゃんのお母さんを捕まえる。裁判の流れによっては、罰も軽くなるかもしれない。そして、フェイトちゃんはそんなお母さんと一緒に罪を償いながら暮らしていく……。きっと遠い国で……少しずつ『普通の幸せ』を手にしながら暮らすんだよ……」 震えるフェイトになのはが紡いだ言葉が、静かに心に染み込んでいく。心に広がる黒い滲みを白く消していく。 不安に震える迷い子のような未来が、その言葉で明るく済んでゆくような錯覚をフェイトは感じた。 なのはが言った内容が、本当に現実となるのではないか―――そう信じてしまうような優しい響きが、なのはの淡々とした話の中にあった。 「……本当に、そうなるのかな? 私、本当に母さんと、そんな風に支え合って生きていけるのかな……?」 「そんな事を心配する親子はいないよ」 一見すると素っ気無いなのはの断言には、フェイトの不安をかき消す強さがあった。 「……そうだよね。その通りだよね……そんな事心配するなんて、おかしいよね……」 フェイトに小さな微笑みが浮かぶ。 全てが、なのはの言うとおりに進んでしまうような説得力。それがフェイトの心に安らかな気持ちを与えていた。 初めて出会った時から圧倒され続けていた、なのはの傲慢とも言える『貫く意志の強さ』 その強さが、こんなにも暖かくて心地良いものなのだと、フェイトは初めて理解したのだった。 フェイトの笑みに対して、なのはもようやく微笑みを浮かべる。 それが、本当に救いに思えた。 『Put out』 主の敗北を認めたバルディッシュが、収納していたジュエルシードを全て解放する。 全ての始まりだったジュエルシード―――それが今、ようやく終結に向かう。 なのはの手を離れ、向かい合う形になったフェイトは奇妙な清々しさの中ジュエルシードを渡そうと手を伸ばし―――。 次の瞬間、上空から巨大な魔力の雷がフェイトに飛来した。 「が……ぁ……っ!!」 「フェイト、ちゃん……?」 すでに魔力を使い果たしていたフェイトは、成す術も無く第三者の攻撃を受けるしかなかった。 不意の攻撃に呆然とするなのはの目の前で、フェイトが禍々しい雷光に包まれ、悶え苦しむ。主の代わりにダメージの大半を引き受けたバルディッシュが砕け、待機モードへ強制的に変化した。 「なにィィィィッ―――ッ!! フェイトちゃん!!!」 なのはは目の前の光景を理解し、湧き上がる驚愕と怒りの感情を爆発させた。 「まさかッ!」 この攻撃は、『誰』がしたものなのか。 「そんなッ! まさか―――ッ!」 この戦いを見ている可能性のある者の中で、こんな事をするのは、一体誰なのか! 考えたくはなかった。 高町なのはが生きていく上で、もっとも信じがたい現実が目の前にある事を認めたくはなかった。 家族とは守るもの。家族とは愛するもの。 優しい家庭で生まれ、育ったなのはにとって、それは最も度し難い許されざる事実! 有り得ない! 『母』が『娘』を手に掛けるなんてッ! 「プレシア・テスタロッサ―――ッ!!」 力尽き、落ちていくフェイトを慌てて抱き上げ、なのはは空を睨みながら呻くようにその名を口にした。 幸福に包まれた人間は、不幸な人間に言葉を掛けるべきではないのだろうか? 高町なのはには母親がいる。優しく、正しく、自分を生み出してくれた母親が。 苦しみの中で手にする力もあれば、優しさによって育まれる力もある。なのはの持つ力は、まさに後者であった。 彼女の目覚めは一人の少女との出会いだったが、彼女が正しい道を歩めるように教え導いてくれたのは、彼女の母であり家族であったのだ。 家族は、なのはをこの世のあらゆる残酷さから今日まで守ってくれていた。 ―――だから、今目の前で人生の全てを否定されたフェイトという少女に対して、自分はどんな慰めの言葉も掛ける資格はないのかもしれない。 目の前のモニターに映るプレシアから紡がれる言葉と、叩きつけられる現実。 それはおおよそ、誰も想像し得なかった最悪の現実だった。 『折角アリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、私のお人形』 事故で亡くした実の娘<アリシア>の代わりとして作り出されたクローン<フェイト> 『作り物の命は所詮作り物……失ったものの代わりにはならないわ』 そのフェイトを娘として愛せないプレシア。 『いい事を教えてあげるわフェイト。アナタを作り出してからずぅっとね……私はアナタが、大嫌いだったのよッ!!』 「―――ッ!」 そして、決定的な一言が、フェイトを支える最後の柱をへし折った。 「フェイトちゃん!」 エイミィの叫びは悲鳴に近い。今、目の前の少女は心を深く刺されたのだ。 全てを失い、フェイトは気絶する。 倒れ込む彼女の体を、その場の誰よりも早く支える腕があった。 「……」 「なのは……」 高町なのはだった。 目の前で繰り広げれる悲壮な光景を、一番嘆き悲しむ筈の少女は、今の今まで無言を貫き、ただプレシアの映るモニターを見据えていた。 しかし、一見無表情に見えるなのはの内に燃え盛る業火を、誰よりも付き合いの長いユーノだけが正確に感じ取っていた。 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「―――吐き気を催す、『邪悪』とは」 「な、なのはさん……?」 これまでの行動から、逆上しかねないなのはを落ち着かせようとするリンディだったが、歴戦の彼女すらも今のなのはの静かな迫力には圧された。 力なく横たわるフェイトを抱き締めたまま、なのははモニター越しにプレシアを睨み据える。 「何も知らない無知なる者を利用する事なの……。自分の利益だけのために利用する事なの…………」 「なのは……お、落ち着いて!! 魔力が溢れ出してる、危険だ!」 彼女を中心に湧き上がる見えない圧力に誰もが押し黙る中、言葉は静かに紡がれていたが、なのはの変化は確実に現れていた。 フェイトとの戦いで疲弊した筈の体から、マグマのように吹き上がる攻撃的な魔力の奔流。 なのはの内なる怒りを現すように、その魔力は放出されるだけで艦内の電子機器に異常な反応を起こさせる。 「母親がなにも知らぬ『娘』を!! てめーだけの都合でッ! ゆるさないッ! あんたは今、再びッ! フェイトちゃんの心を『裏切った』ッ!!!」 なのはの中で、これまで感じた事の無い『怒り』が爆発した。 「なのは……」 『怒り』を言葉にした少女を誰もが見つめる中、それは誰が呟いたものか。 ただ、その場の誰もが高町なのはに圧倒されていた。誰もが時空の秩序を守る組織に属する『正義の執行者』を誇りながら、彼女のあまりにも純粋で強烈な『間違った事への怒り』に呑まれていたのだ。 なのはの怒りには『正義の心』へ向かう意志があった。全員が、それを理解出来た。 『……『何』を、そんなに怒っているのかしら? 理解できないわ』 念話越しにすら感じるなのはの怒りの魔力は、プレシアの意識すら引き付けた。ただ、彼女にはなのはの怒りの意味を理解出来なかったが。 「フェイトちゃんが目を醒ましたのなら―――母親なんて最初からいなかったと伝えておくよ……」 『……フェイトですって? フェイトがなんだというの? その人形の事はアナタには何の関係もない!』 「貴女にわたしの心は永遠にわからないのッ!!」 最悪を告げる鐘が鳴る。 九つのジュエルシードがその力を解放され、次元を歪ませるようなエネルギーが荒れ狂う。狂った願いは、幾つもの想いを呑み込んでいく。 その渦中で、狂気に支配された魔法使いが一人。 その渦中に、自ら飛び込む魔法使いが一人。 最後の戦いが、今始まろうとしていた―――。 バ―――――z______ン! リリカルなのは 第十一話、完! to be continued……> <次回予告> ジュエルシードが発動し、次元震のアラームが鳴り響く中、なのははクロノ達と共にプレシア・テスタロッサの根城へ突入する事を決意する。 慌しく動き始める事態の中で、全てを失い傷ついたフェイトは、戦いながらも自分を導いてもくれたなのはに縋るのだった。 「クロノ君は『逮捕』と言うけれど、わたしはこれが『命の遣り取り』になると思っているの。そして、プレシア・テスタロッサは必ず倒す! ……フェイトちゃん、あなたはどうするの?」 甘えを許さぬなのはの視線を受けながら、目の前に置かれた残酷な選択に苦悩するフェイト。 「わ、わたし……」 母親に捨てられた今、傷を抱えてただじっとしているのか、それともなのはと共に全ての決着を付けに行くのか。 「ど……どうしよう? 私? ねえ……私、どうすればいい? 行った方がいいと思う?」 全てを失った今、フェイトは『何か』が欲しかった。否定された自分を現実に繋ぎ止める為の何かが。 「怖い?」 「うん……す、すごく怖いよ。 で……でも『命令』してよ……。『いっしょに来い!』って命令してくれるのなら、そうすれば勇気が湧いてくる。母さんの時みたいに、アナタの命令なら何も怖くないんだ……!」 しかし、目の前の厳しい少女は、フェイトに無条件でそれを与えてはくれない。 「だめだよ……こればかりは『命令』できない! フェイトちゃんが決めるんだよ……。自分の『歩く道』は、自分が決めるんだ……」 「わ……わからない。私、もうわからないよォ……だって、だって私は……」 「だけど、忠告はするよ」 人間であるという人としての基盤さえ失ったフェイトに、あまりに過酷な選択肢を与えたなのはは、答えを聞く前に踵を返した。 「『来ないで』フェイトちゃん……。アナタには向いてない」 傷ついたフェイトを置いていく厳しさと、母親と思っていた相手と戦わなければならない場所へ連れて行かない優しさを合わせ持つなのはの言葉が、最後まで彼女の胸に残った……。 一個の石から始まった物語。 多くの出会い、多くの別れ、多くの悲しみ、多くの痛み―――全てがここの結集する! 「バルディッシュ、私達の全ては……まだ、始まってもいない!」 立ち上がれ、少女! 「『なのは』ァアアアア!! 行くよッ! 私も行くッ! 行くんだよォ―――ッ!!」 目醒めろ、戦士! 「私に『来るな』と命令しないで―――ッ! このまま終わるのなんて嫌だ! 本当の『自分』を始める為に、今までの『自分』を終わらせるんだ!!」 次回、魔法少女リリカルなのは 第十二話『宿命が閉じる時なの』 「『友達だ』なら使ってもいいッ!!」 リリカルマジカル燃え尽きるほどヒート! 魔法少女の最終決戦、ここに決着ゥ―――ッ!! 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第19話『ホテルアグスタ攻防戦 後編』←この前の話 『マクロスなのは』第20話「過去」 オークションが終わって隊長陣の警備任務が解けた頃、地上部隊の技研の調査隊がすでにガジェットの破片の調査を開始していた。 「・・・・・・えっと、報告は以上かな?現場の調査は技研の調査隊がやってくれてるけど、みんなも協力してあげてね。あとしばらく待機して何もないようなら撤退だから」 普段の動きやすい青白の教導官の制服に戻ったなのはが、フォワードの4人を前に告げる。 ティアナ達は返事をすると、きびきびと陸士部隊の土嚢の撤去や調査隊の手伝いに散っていった。 (*) ホテル内の喫茶店 そこには警備を終えて一息入れているフェイトとはやて、そしてオークションが終了して手持ち無沙汰になったユーノが仲良く談笑していた。しかし、そこで少し寂しい話題が提供された。 「そう・・・・・・ジュエルシードが・・・・・・」 「うん。局の保管庫から地方の施設に貸し出されてて、そこで盗まれちゃったみたい」 「そっか・・・・・・」 寂しそうな顔をするユーノ。仕方ないだろう。彼がその災悪の根源であるジュエルシードを掘り出した張本人なのだから。 「まぁ、もちろん次元の海は本局が目を光らせているし、地上も私たち六課が追っていく。だから必ず見つかるよ」 「・・・・・・うん。ありがとう」 そこに、この話題には沈黙を決め込んでいたはやてが話に介入してきた。 「・・・・・・実はまだ非公開なんやけどな、この前ガジェットについての報告書が回ってきたんや」 元々物理メディアだったらしい。ホロディスプレイに表示される報告書の表紙。提供は地上部隊・技術開発研究所。しかし表紙には『SECRET(シークレット)』の印が押されている。 「・・・・・・これって僕が見てもいいのかな?」 ユーノが戸惑いながらはやてに聞く。SECRET(機密)の印が押されている書類は規定では管理局の佐官以上でなければ閲覧すらできない。 フェイトですら一等海尉なのに、管理局員でもない民間人に見せていいものではないはずだった。 「大丈夫や、問題あらへん。どうせもうすぐ公開される。・・・・・・でや、まずこの動力機関なんやけど、どうやら簡易化されたジュエルシードみたいなんや」 「「!!」」 「どうやら泥棒さんはジュエルシードの簡易量産に成功したみたいやな」 ホロディスプレイに映し出されているバッテリーに相当する部分の中枢は、ジュエルシードに間違いなかった。 「でも悲観することはあらへん。これと同時にガジェットの製作者も判明した。それが現在、違法研究で広域指名手配されているこの男─────」 ホロディスプレイの画像が切り替わる。瞬間、フェイトの顔色が変わった。 「スカリエッティ!?」 「ん?フェイトは知ってるの?」 ユーノが問う。 「うん。なのはが次元航行部隊、機動課(ロストロギア探索を主な任務にする部隊)に協力していた5年前に。その時、なのはとヴィータ、それと私で彼の秘密基地を強襲したの───── ────────── フェイトは何十体目になるだろう魔導兵器をバルディシュで一閃のもとに葬ると、周囲を見渡す。 周りには太古の遺跡があり、岩でできた建造物が朽ちている。 またすでに魔導兵器の大半は撃破されて、雪の積もる大地に遺跡同様構成部品をさらしていた。 「ヴィータちゃん!」 「おうよ!」 「「これでラストォォ!!」」 上空からのヴィータの魔力球が敵を囲むように着弾。追い詰められて集まった敵を、続くなのはの砲撃で全て葬った。 「ナイスショット。2人とも!」 フェイトの掛け声に、なのはとヴィータはハイタッチした。 (*) 「さて、ここが入り口だね」 フェイトの撫でたその扉は鋼鉄製で、なのはの砲撃でもなかなか破れそうにない程に頑丈だった。 しかし押しても引いてもダメ。無論スライドさせることもできず、開けられなかった。当然だが鍵がかかっているようだ。 「『鍵開け』するから、2人は周りの警戒をお願い」 「うん、お願いね。フェイトちゃん」 「周りは任せときな」 ヴィータとなのははそれぞれ別方向に飛んでいった。フェイトはそれを見送ると高ランク魔法である『鍵開け』を実行する。 この魔法は電子ロックから物理的な鍵までほぼすべての鍵に有効だが、時間がかかるのが難点だった。 フェイトが動けないそんな時、それは起こった。 「なのは!後ろ!」 「え・・・・・・!?」 ヴィータの警告に振り返るなのは。彼女はその半透明の何かを見切ると間一髪で回避。空に退避する。 そしてそれはヴィータの放った鉄球によって大破、沈黙した。 しかし姿を晒したそれが足の付いた地上型だったことや、それが撃破された安心感でなのはは1つの可能性を見逃していた。 『地上型がいるなら、理論上より簡単に姿を消せる航空型がいるかもしれない』と言うことを。 寸前で気づいたなのはは、優秀の一言に尽きる。そして普通の状態であれば問題なく回避できたはずの攻撃。しかし溜まった疲労は彼女の回避行動を寸秒遅らせた。 「「なのはぁぁぁ!!」」 フェイトは確かに見た。空に浮かぶなのはの、小さな体を貫く刃を。 彼女の赤い鮮血によって目視出来るようになった鋭い刃はまるで悪意の塊が友人の体から〝生えた〟ように見えた。 それは人間ならば絶対傷ついてはならない器官の納まっている胸の真ん中から生えていた。 次の瞬間には彼女の体は5メートルほど落下。その衝撃は雪が受け止めるが、ドクドクと怖いほど流れ出る鮮血が雪を染めた。 力なく横たわる大親友の姿と半泣き顔になって彼女に駆け寄るヴィータの姿がぼやけていく。 目の前の光景に現実感が失せていき、いつの間にか視界はブラックアウトしていた。 ────────── 「そんなことがあったんだ・・・・・・」 ユーノが呟く。 この案件は『TOP SECRET(最高機密)』とされていて、彼女の経歴を見てもその事実は確認できず、半年近い入院期間は『持病の悪化に伴う病養』となっている。 そのため家族など極めて親しい者しかこの事実を知らなかった。 だがここで1つ疑問が浮かぶ。 『なぜたった1人の撃墜をそうまでして隠さねばならないか?』という疑問が。 実はすでに流星の如く突然現れ『エース・オブ・エース』という二つ名で呼ばれていたなのはは世間一般に知られ、ヒーローとして祭り上げられていた。 事実それだけの実績もあったし、実力もあった。クラスSのリンカーコアを有しているいわゆる超キャリア組でも、たった14歳で一等空尉に登り詰めるのは容易ではない。 その頃のフェイトやはやてですら、両名とも地上部隊で三尉相当の階級であったことが比較としては適当だろう。(しかし断じて2人が無能な訳ではない。フェイトの所属する本局は事件が少なく、1発が大きい。はやては上級士官を目指し、ミッドチルダ防衛アカデミーの学徒となっていたためだ) そんな出世街道まっしぐらで国民的人気を誇る彼女が撃墜され、瀕死の重傷を負ったのだ。 それがどんな理由であれ公表されれば、管理局全体の士気と信用に関わる。こうなると管理局としては隠さざるをえなかった。 「そう。なのはは今でこそ元気に振る舞ってるけど、一時は「二度と歩けないんじゃないか」って言われて・・・・・・」 俯くフェイト。その背中からは、なのはを撃墜したスカリエッティに対する負のオーラが立ち昇っていた。 「それにあいつは母さんの─────プレシア母さんの研究を続けているらしくて、それがわたしには許せないんだ」 フェイトの母であるプレシア・テスタロッサは、かつては管理局の大魔導士として日夜研究を続けていた。 しかしある日、彼女の実の娘であるアリシアを事故で亡くしてしまった。そこで悲しみに暮れた彼女が手を出したのが禁忌の技術として知られる全身のクローン技術と人造魔導士技術だった。 こうして誕生したアリシアのクローン、それが彼女『フェイト』だ。しかし結局プレシアには受け入れてもらえず、とても悲しい思いをしていた。 「・・・・・・まぁ、とりあえずガジェットの製作者はそのスカリエッティや。ゴーストは第25未確認世界の元の設計から反応エンジンを主機に据えた独自のものらしい。「使われてるオーバーテクノロジーと設計が管理局から漏れたのか?」って揉めてるみたいやけど、当面六課はスカリエッティの線で追っていく。だからユーノくんは無限書庫で関連しそうな情報を調べて欲しいんや」 (そうか。わざわざ機密を聞かせたのはそういうことか) ユーノは納得すると、その依頼を引き受けた。そこに1人の女性が喫茶店の入り口に現れた。 「あ、なのは・・・・・・」 「久しぶりぃ~ユーノくん、元気だった?」 その笑顔に一点の曇りなく、さっきのフェイトの話が嘘だ。という錯覚をおぼえた。 「あ、なのは丁度よかった。これから交代しに行こうと思ってたところなんだけど、交代できる?」 「うん。フォワードの4人は調査隊と陸士さん達の手伝いに行ってるから見てきてあげて」 「わかった。はやても行こう」 「了解や。じゃあお2人さん、〝ごゆっくり〟ぃ〜」 はやてはそう意味ありげに言って外に出ていった。 (はやてここでそのセリフじゃ気まずいよ~!) こころの中で涙声になってしまう。 2人っきりの現状でそのセリフを吐かれては、どうしても彼女を意識してしまうではないか! それについさっきまでその彼女の話をしていたのだ そうでなくとも相手は意中の女性であるというのに・・・・・・ その想いを本人はともかく、周囲に隠し果せているつもりの青年は 「いってらっしゃ~い」 と見送るなのはに視線を向ける。―――――と同時に彼女が振り返った。 「本当に久しぶりだね!ユーノくん!」 「う、うん・・・・・・」 (ダメだ!まともに顔見られない~!) しかしいつまでもこうしているわけにもいかない。相手がいつも通り接して来てくれている以上、こちらもそれに応えなくては嘘だ。 ユーノは何とか自分に言い聞かせながら顔を上げる。 するとどうだろう?なのはもこちらの事を直視しているなどということはなかった 彼女は少し視線を逸らしつつ、頬を赤らめて口を開く。 「えっと・・・・・・今日は偶然、なのかな?」 (か、可愛い・・・・・・) ユーノはそんな幼なじみの仕草に無意識のうちに胸を高鳴らせていた。だがお互いに意識し合っていたらしいことがわかって反対に落ち着くことができた。 「うん。そうだと思う。聖王教会の騎士カリムからの直々の依頼でね」 カリムによれば、どうやらはやてが 「考古学者さんを探しているんだけど、いい人紹介してくれない?」 というカリムに自分を紹介したらしかった。 「それにオークションの鑑定も本命の1つなんだけど、騎士カリムはこの玉の調査を「どうしても」ってお願いされたんだ」 ユーノの手にはさっきフェイトが落下から救った紫色の水晶が乗せられていた。 (*) 所変わってはやてとフェイトの2人は出入り口の玄関で2人の人物と鉢合わせしていた。 「お、アルトくんにさくらちゃんやないか」 「よぉ。やっと見つけたぜ」 「なんや? 探しとったんか?」 はやての問いに、さくらが答える。 「はい。ちょっと今回の敵がどうも妙だったので、そちらはどうだったのかな?と思いまして」 「そっか・・・・・・実はこっちも妙な報告が上がって来ててな。立ち話もなんやし、もっかい喫茶店に行こうか。フェイトちゃんは外の方をよろしく」 ことの成り行きに戸惑うフェイト。なぜなら今あそこは───── 「・・・・・・それはいいんだけど、今喫茶店に行くのはちょっと・・・・・・」 「あ、そうや。なのはちゃんが─────」 「お、なのはもいるのか。丁度いい。頼みたいことがあったんだ」 スタスタ・・・・・・ 喫茶店に向かって歩いていく2人。それを見たはやては人生でそうない大ポカをしたことを悟った。 5日前にカリムにユーノを紹介したのも実は伏線だった。 カリムにその日 「ある〝物品〟の調査ができそうな人と、ホテル『アグスタ』のオークションで鑑定してくれる人を探しているのだけど、いい人知らない?」 と問われたはやては、迷わずユーノの名を出していた。 能力面になんの問題もなかったし、なにより都合がよかった。ユーノはなのはの撃墜事件以降お互い顔を合わせた事がない。 それはなのはが 「こんな姿を(彼に)見せて心配させたくない」 と言ったことにある。 またユーノも、以前地上本部ビルで偶然会った時、仕事の都合でなのはと全く会えないと嘆いていた。 そこではやてはお節介かもしれないがこんな方法をとったのだった。しかし───── (どないしよう!?2人をくっ付けるなんて簡単やと思っとったのに!) そう、このままアルト達が行けばせっかくの2人きりの雰囲気が台無しになる。 はやての頭はフルドライブ。脳内緊急国会を召集、急いで審議が始まった。 第1案、今すぐ呼び止める。 しかし野党の 「何か言い訳はあるのか?」 という反論と牛歩戦術によってタイムオーバー。廃案。 第2案、なのは達を通信で呼び出す。 衆議(直感)院は通過。しかし有識者(理性)会である参議院が 「それでは本末転倒ではないか!」 という理由で否決。衆議院での再可決は見送られ廃案。 第3案、本当のことを話す。 内閣は衆議院解散(思考停止)を盾にごり押し、参議院を通過させる。しかし肝心の衆議院の大多数が 「なんか嫌な予感がする・・・・・・」 と独特の理由で難色を示し、否決。廃案となった。 それによって脳内人格八神はやて内閣総理大臣は伝家の宝刀を行使。衆議院を解散した。 こうして思考停止に陥った〝はやて〟は、『これだから人間は何にも決まらんのや!』と自らの脳内人格(政治家)達を批判する。そして───── (ええい!もう、なるようになれ!) 彼女はついに最終手段である神頼みに入った。 (どうかお願いします。神様、仏様、夜神月様─────あれ?) しかし天はご都合主義(クリスマスも祝うし、正月には神社・お寺に参拝に行くため)で基本的に無信教の彼女を見捨てていなかったようだ。 なんとアルト達が乗ろうとしていたエレベーターになのはとユーノの2人が乗っていたのだ。 「あれ?どうしたんだ?喫茶店にいるんじゃなかったのか?」 「ああ、うん。そうなんだけど人がいっぱい来ちゃって、席が足りないみたいだったから出てきたの」 なのはのセリフを聞いた時、はやては神の存在を信じたという。 自分達が席を離れた時、まだ客は自分達しかいなかった。でなければ、公衆の場で堂々と機密情報の漏洩などやれるはずがない。当に神のみわざといえるピンポイントさだった。 「そうですか・・・・・・どうしましょうアルト隊長?機密もありますし、ここはまずいと思いますが・・・・・・」 「う~ん・・・・・・」 頭をもたげるアルト。胸をなでおろしていたはやては彼らに他の場所を提案した。 「じゃあヴァイスくんのヘリに行こう。あそこなら機密も保てるし、この人数でも十分や」 この案は即採用され、新人たちの所へ行くフェイト以外はヘリに向かった。 (*) 「―――――で、お前は誰なんだ?」 ヘリに入るとアルトは単刀直入にユーノに問うた。 「彼はユーノくん。私達の幼なじみで、管理局の情報庫である無限書庫の司書長をしてるの」 「なるほど。俺はフロンティア基地航空隊の早乙女アルトだ。ついこの前まで六課で世話になってたんだが、異動になってな。よろしく」 「こちらこそよろしくお願いします。・・・・・・ところでそちらの方は?」 ユーノがフロンティア基地航空隊のフライトジャケットを着た黒髪の少女を示す。 「彼女は俺の小隊の2番機を務める工藤さくら三尉だ」 「はじめまして、真宮寺・・・・・・いえ!工藤さくらです」 なぜかは知らないが彼女がいつも使う偽名を名乗ろうとしたが、アルトが先に紹介してしまったことに気づいたのか軌道修正した。 一方ユーノはなぜか『なるほど』という顔になった。 「はじめまして。やはりあなたがあの〝工藤家〟の当主になられたさくらさんですね。騎士カリムからお話は伺っております」 ユーノがおずおずと頭を下げる。 「そんな、頭をお上げになってください。あたしそんなたいそうな者ではありません。ただ工藤家に生まれてきただけの小娘ですよ」 (工藤家?あいつの家そんなに有名なのか?) しかし周りを見ると六課のみんなも知っていたようだった。 そこでよく知っていそうなはやてに念話を送る。 『(すまん。水をさすようだが、工藤家ってなんだ?)』 『(・・・・・・なんや知らんかったんかいな。通りでさくらちゃんを普通に使ってると思った)』 すると彼女は懇切丁寧に説明してくれた。 工藤家とは100年前のミッドチルダ、ベルカ間の全面戦争を終わらせた者の末裔らしい。 元々聖王教会とはその彼らが作ったもので、伝承によれば今では主神として祭られている聖王の力を借りて戦争を終わらせた。 聖王は当時の核兵器や衛星軌道兵器、ベルカ側陣営による隕石の落下すら無力化し、この地に平和を呼び込んだという。 映像や写真すら残っていないが、小学校の教科書にすら載っているこの実績ある神を崇める者も少なくない。そのため聖王を使役した工藤家は代々神との対話役として大切にされていた。 そして工藤家は管理局の魔導士になることが伝統とされており、彼女をバルキリー隊へ推薦をしたのは聖王教会らしい。 さくらはこの工藤家の末裔で、両親が早くに事故で死んでしまっていた。 そのため聖王教会に所属する騎士カリムは工藤家最後の1人になってしまった彼女の身を案じているという寸法だったらしい。 また、あの偽名も工藤家という事を隠したかったのだろう。との事だった。 (育ちがいいとは思っていたが、まさか本物のお嬢様とはな・・・・・・) アルトは彼女のトレードマークである大きな赤いリボンで結わえた麗しい黒髪を見た。するとそれが右に流れていき、さっきまであった場所が少し赤く染まった肌色に変わった。彼女が振り返ったのだ。 「・・・・・・どうしました?」 「いや、なんでもない。それでな、はやて、こっちではゴーストの連中と交戦に入ったんだがいつもより動きが良かったんだ。ここまでは聞いてるか?」 「うん、シャマルから報告は受けとるよ。なんでも賢くなったとか」 「そうだ。それでうちの3番機が早まって特攻しやがった。そしたら奴らどう対応したと思う?」 アルトの問いかけになのはが 「普通に考えたら迎撃だと思うけど、違ったの?」 と問い返す。 「違うんだよ。アイツらギリギリまで逃げて、激突寸前に自爆しやがったんだ。お陰でバカなまねした3番機は無事だったんだが、どうも解せねぇ」 「なるほど・・・・・・」 はやては腕組みしながら自らの考えを更に補強した。 今回ガジェット達を操作した召喚士は、本気で人死(ひとじ)にが出ることを恐れているらしい。 でなければ無人機とはいえ〝タダ〟ではないはずだ。トチ狂った敵のために自爆など、そうそうできることではない。 「聞いた話によればそっちも何かあったみたいだが、何があったんだ?」 アルトの問いに、はやてはガジェットの非殺傷設定と戦闘員への選択的攻撃について話す。 「─────と、こういう訳で陸士部隊の被害が少ないのや」 はやてはヘリの窓から近くに設営されている野戦病院を指さす。 確かにそこにいる陸士達はいずれも軽傷で、陸士部隊の救急搬送用のドクターヘリも駐機したまま、飛び立つ様子はなかった。 「でもおかしいよ。目的がわからない。こっちの被害がないんじゃ『本気を出せばこんなんなんだ!』って言いたい訳じゃなさそうだし・・・・・・」 ユーノの言に、なのはも 「そうだよね・・・・・・」 と同意する。 「やっぱり、シグナムが言っとった車上あらしが怪しいんかな・・・・・・」 はやての呟きに視線が集まる。 「どんな車上あらしだったの?」 「うん、実はな、人間じゃなくて召喚獣や使い魔らしいんや」 はやてはシグナムからの報告を全て話した。手法から撤退まで。ちなみにトラック自体は盗難車であることがわかっていた。 「この流れで行くとその召喚獣が本命っぽいね」 「でも、何を盗んだのかわからないのが困りますね」 「「う~ん・・・・・・」」 一同頭を捻るが、そこまでだ。 ホテル側やシャマルとシグナム、そしてAWACSに聞いてもそれ以上の情報はなかった。 こうなると、今後は調査隊の報告を待つしかなさそうだった。 (*) 「ところでアルトくん、なんかなのはちゃんに頼みごとがあったんやなかったか?」 「え? アルトくんどうしたの?」 考え込んでいたなのはがアルトに向き直る。 「ああ。それなんだがな、さくらがお前のところで1週間でいいから戦技教導してくれって言うんだ」 えっ!?となるなのはにさくらが畳み掛ける。 「お願いします!今日アルト隊長や天城さん─────僚機を守りきれなくて・・・・・・あたし、もっと強くなりたいんです!やる気はありますから、どうかお願いします!」 深々と頭を下げるさくらになのはは困った顔をした。 「え~、う~ん・・・・・・アルトくんやミシェル君には教えてもらえないの?」 「いえ、アルト隊長にもミシェル隊長にもよくしてもらっています。・・・・・・ただミシェル隊長は長距離スナイピングしか教えてくれないし、アルト隊長も主戦術が高速機動による撹乱と誘導弾との連携攻撃なので、あたしの特性に合わないんです。・・・・・・あっ、アルト隊長、全く役に立たないなんて言ってませんからね!」 あたふたしながら否定するさくらに、アルトは 「仕方ないさ。人それぞれの特性があるんだから」 と流した。 「そっか・・・・・・でも私はうちの新人達の面倒を見てあげなきゃいけないからなぁ・・・・・・さくらちゃんは何がやりたいの?」 「近・中距離での機動砲撃戦です。今日の戦いで、長距離からの援護狙撃という戦術に限界を感じたんです」 長距離からの狙撃にはどうしてもタイムラグが出てしまう。そこがスナイパーの腕の見せどころだったりするが、彼女には今が限界だった。 さくらの言った戦術はなのはの十八番とも言える戦術で、彼女が魔法を手にしてから10年間磨いてきた戦術機動だった。 「だったら1週間、なんて中途半端な期間はダメだね。さくらちゃん、3週間でも頑張れるかな?」 「はい!もちろんです!!」 さくらが嬉々として応える。なのはは頷くと、人指し指と中指を立てていわゆる〝ピース〟の動作をすると続ける。 「でも条件が2つ。まず1つ目に、アルトくんがさくらちゃんの面倒をみてあげること。わたし、魔導士としてのスキルしか教えられないから、それをバルキリー用に転換してあげないと」 アルトは仕方ないな。と肩をすくめる。 「2つ目に、どうしてもうちの新人の教導がメインになっちゃうから、教導は早朝と夕方ぐらいしかできないんだけど、それでもいい?」 「はい、構いません!お願いします!」 「うん、いい返事。明日の早朝には始めたいから、部隊に帰ったら荷物をまとめて、アルトくんと一緒においで」 「はい!ありがとうございます!」 さくらは最敬礼して言った。 これが地獄への入り口であった。 To be continue・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 試験駐屯を名目に機動六課に派遣されるサジタリウス小隊 しかし開始されたさくらの教導はあまりに――――― 次回マクロスなのは第21話「サジタリウス小隊の出張」 『なのはさんが、あんな人だったなんて・・・・・・』 ―――――――――― シレンヤ氏 第21話へ