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「ふ~む」 「むー」 初瀬達の案内で椎倉達3年生がいる場所まで来た花盛の先行組。彼女達の役割は後発組が来るまでの下準備である。 その筈であったのだが、先程から抵部と寒村がお互い睨みあったまま動こうとしないのである。 「う~む」 「ふむー」 別に睨めっこをしているわけでは無いのだが、お互い視線を逸らさないよう真剣な顔付きをしている。そして・・・ ガシッ!! 「きゃあああ!!痛い、痛い!私のアタマはボールじゃないよぉ!」 「莢奈!」 「てめぇ!あたしの後輩に何しやがる!!」 寒村がその大きな手で抵部の頭を掴み、そのまま持ち上げたのである。当然痛がる抵部。その光景に敵意を露にする渚と閨秀。 「貴殿・・・本当に風紀委員なのか?」 「あ痛たたっ!そ、そうだよー!じゃっじめんとだよー!!」 「・・・フ、フフ、フハハハッッ!!」 「な、何がおかしいのよー!!あなたもバカにするの!!」 「誰が馬鹿になどするものか!!貴殿のようなか弱き女子(おなご)がその身を賭して学園都市の治安を守っているのだ!! その意志を尊重こそすれ馬鹿になど絶対にするものか!!何と逞しき意志よ!そうであろう、勇路?」 「確かに。君のような人間がいる限り、学園都市の平和は保たれるだろうね」 「・・・でも、あそこの2人は私をバカにした・・・」 「・・・それは本当か?初瀬・・・押花よ・・・!?」 「初瀬君・・・!?押花君・・・!?」 「「イエ!!ソンナコトスルワケナイジャナイデスカ!!ハハハ!!!」」 「すっごいカタコトだよ!?っていうか、早くアタマをはなしてよ~」 いまだ寒村に頭を掴まれたままの抵部が抗議の声を挙げるが、そんな抗議を無視するかのように寒村と勇路は初瀬と押花に詰め寄っていく。 「何て言うか賑やかですねぇ。男子校の方々は」 「あたしから見れば、ただうるさいだけのような気もするけどな。そんなことより抵部はいいのか、渚?」 「私の言うことを聞かずに変な対抗心むき出しで、あの大きい人に突撃して行った莢奈の自業自得です。ほっときましょう」 「・・・ご愁傷様、抵部」 同僚2人にも見放された抵部。そんなことも知らずにぎゃーぎゃー喚いている抵部だったが、そこに後発組が到着した。 「椎倉先輩!花盛学園の風紀委員の方々をお連れしましたよー!」 「・・・あぁ、ご苦労だったな、速見」 実は速見は椎倉達とは別行動を取っていた。それは、現場までの道案内という役割であった。 ある意味今回の騒動で最大の被害者となった速見を向かわせることで、花盛側の反論・異論を少しでも封じるためでもあったのだが。 そして、後発組の面々が姿を現す。すなわち、 ―篠崎香織―が「お待たせしました。今日はよろしくお願いします」 ―六花牡丹―が「今日は合同見分の前に色々説明して頂きたいこともありますけどね」 ―冠要―が「何か面倒そうだな。やっぱ居残って支部周りのゴミ拾いでもしとけばよかったかな」 ―幾凪梳―が「何暢気なことを言ってるんですか、先輩!今回のことは私達の存在価値を問われることなんですよ!」 これにて花盛学園の風紀委員が勢揃いしたのである。 「あー!やっときたー!おそいよ~」 「抵部さん?どうしたんですか?涙目になっちゃって」 「あの筋肉のバケモノにつぶされそうになってたんだよー!」 「それは災難でしたね」 「あれ?かおりん、なんだか冷たくない?」 「どうせ、自分より大きい人に対抗したくて無茶な行動をしたのでしょう?ね、渚さん?」 「うっ!!」 「さすが香織。その通りよ」 「月理ちゃんまで~!ひどいよぉぉ」 まるでどこかの漫才みたいなやり取りを繰り広げる3人。抵部、渚、篠崎の3人は同じ学年というのもあってか、非常に仲が良い。 「美魁・・・貴方達には現地に先行して下準備しておくように言ってなかったですか?」 「あぁ・・・悪ぃ、牡丹。あたしがちょっと抵部から目を離していた隙にあいつが成瀬台の連中とトラブっちまったんだ」 「はぁ・・・いつものことですね」 「ああ、いつものことだ」 六花と閨秀が事前の打ち合わせについて話し合っていた。この2人も同学年ということもあってか比較的仲が良い。 ちなみに、この2人が知り合ったのは風紀委員に入る前のこと。共通の友人を介して知り合ったのが切欠であったらしい。 「あ、こんなところに空き缶が。ったく、拾う身にもなれと・・・」 「冠先輩!今はそれどころじゃないでしょう!!さ、早くこっちへ」 どこからともなくゴミ袋を取り出し空き缶拾いをしようとする冠を幾凪が無理矢理引っ張って行く。 冠は花盛支部でも最年長で、リーダー的存在である。そんな冠に幾凪は昔助けられたことがある。 それ故に幾凪は冠を慕っており、そもそも風紀委員に入った理由も冠に憧れたのが理由である。 「さすがお嬢様学校なだけあって美人揃いだなあ・・・一部を除いて」 「そうだなあ・・・一部を除いて」 「なによー!!ちゃんと聞こえてるわよー!!その一部って私のこと!?」 どうやら初瀬と押花の話は抵部にも聞こえていたようだ。 「はいはい、抵部。しょうもない雑談はお終いです。今から大事な話がありますから静かにしていて下さいね」 「えっ、しょうもないことなの?」 六花の発言にツッコミを入れる抵部だったが、当然のことながら彼女のツッコミは誰からも無視される。 「さて・・・自己紹介が遅れました。私は花盛学園高等部2年生の六花牡丹と申します」 「・・・ご丁寧にどうも。俺は成瀬台3年の椎倉だ」 どうやら会話の主導権は六花と椎倉が握るようだ。 「まずは本日の実況見分ですが、そちらの速見さんにお聞きした所、テストが終わった直後らしいですね」 「ああ、そうだな」 「テスト終了後間もないのに実況見分にお付き合い頂いたこと、誠にありがとうございます」 「いや、こちらこそ。この事件はさっさと片付けたいって気持ちが強くてな。実況見分も早いに越したことはない」 「その事件ですが・・・異常なまでのスピード解決だったとか。事件の全貌が発覚したその夜に鎮圧してしまったと聞き及んでいます」 「(・・・早速切り込んできたか)」 六花の容赦ない切り込みに気を引き締める椎倉。 予想はしていたが、やはり自分達の管轄内で他支部の風紀委員が乗り込んで来たことについて説明しなければならないようだ。 「後で詳しく説明するが、何分今回の事件は一にも二にもスピードが求められていた。何せウチの速見がダシに使われたくらいでな。 敵さんも中々頭が回る奴だった。正直な話、このテスト期間が終わるまでに解決できなかったら、今こうやってのんびりしていられなかっただろう」 「実況見分がのんびりというのは語弊があるかと思いますが・・・確かに速見さんについては災難だったとしか言えませんね」 「そうだろ?ある意味今回は俺達風紀委員も被害者ってわけだ。わかってくれたようで何より。さあ、さっさと実況見分に移るとするか」 これで話が終わったとばかりに実況見分へ移ろうとする椎倉。しかし、そうは問屋が卸さない。 「しかしながら、それなら何故私達花盛支部に事前にご連絡を頂けなかったのでしょうか?」 「(うっ!!)」 「確かにスピードが求められていたというのは理解できました。 であれば、なおさら私達が貴方達成瀬台の方々と協力すれば迅速に解決できたのではないでしょうか?」 「いや・・・それはだな・・・」 「それは?」 「・・・正直な所、あんた等に連絡すれば、やれ説明だ、やれ会議だって流れになることは目に見えていた。 合同捜査ってのは、えてして時間的ロスが大きくなる。そして、俺達にはそんなロスを許容できる程余裕は無かった」 「・・・」 「そのロスが敵さんに準備の時間を与えてしまいかねない。だから、俺達だけで事を終わらそうと思ったんだ。・・・あんた等には悪いとは思ってるよ」 正直『でもある』部分を話す椎倉。これで納得までとは言わずとも理解まではいけるか。そこに、 「おいおい、そりゃあちょっとおかしくねぇか。テメェ等・・・1つ嘘を付いてねぇか?」 閨秀が割り込んで来た。その目は鋭く、態度はどこか挑発的だ。 「嘘?」 「ああ、嘘。確かテメェは今『俺達だけで事を終わらそう』と言ったよな?」 「・・・ああ」 「確かに今回の事件の調書にはテメェ等成瀬台の風紀委員の手によってスキルアウトの連中がしょっ引かれたって載ってたよ。 実はよ、風紀委員の権限使って昨日の内に今回捕まったスキルアウトに話を聞きに行ったんだ」 「え?そんなこと私は聞いていませんよ?」 「そりゃあ誰にも言ってないし。牡丹、あんたにもね」 「美魁・・・」 「そしたらよ、スキルアウトの連中はこう言ったんだ。『俺は風紀委員にボコられたんじゃない。別の奴にやられたんだ』ってな」 「・・・どういうこと?」 「他にも同じことを証言した奴等はいるぜ。具体的な名前もあたしは聞いてる。どうりでカタが速攻で付いたわけだ。 まあ、警備員の連中は外面もあってか成瀬台の風紀委員の手によって解決したってことにするつもりらしいが」 「・・・」 「テメェ等・・・何か隠してんな。何で外部の連中を事件に巻き込みやがった?」 「椎倉さん・・・どういうことか説明して下さいますか?」 閨秀と六花の殺気と疑念が篭った視線が椎倉に突き刺さる。 実の所、今回の事件に関する調書には『シンボル』や荒我達が関与していた事実は記されていない。 「(おい、ヤバくなってねーか!?)」 「(でも、でも、“だるまさんが転んでも漢は踏み止まれゲーム”で引き分けたからなんて口が裂けても言えないっつーの!!)」 理由は初瀬と押花のコソコソ話にあるように、女にアピールするために催したゲームで引き分けたからなんて絶対に調書に書けるわけがないからである。 主に、男の意地で。追い詰められた椎倉。だがそこに。 「私達に接触しなかった理由?そんなものは決まってる。私と会いたくなかったから・・・だよな、撚鴃?」 「ぐっ・・・要」 「冠先輩!?」 花盛支部のリーダー的存在である冠が突如割り込んで来た。手には空き缶が詰まったゴミ袋を抱えている。 「冠先輩・・・椎倉さんをご存知なんですか?」 「何を言っている、六花。存じているも何も、撚鴃は私の元カレだ。話したこと無かったか?」 「「「「「「「「「「「ええええぇぇぇぇ!!??」」」」」」」」」」」 これには成瀬台・花盛双方の風紀委員達が驚愕の声を挙げる。 「ど、ど、どういうことですか!!椎倉先輩!!!」 「椎倉先輩が彼女持ちだった・・・?この世は終わりだー!!」 「え、え、僕はどうしたらいいの?こ、こんな時は・・・“速見スパイラル”!!」 ドカーン!! 「驚いたね。まさか椎倉が・・・」 「我輩、涙が止まらんぞ!!あの椎倉に春があったとは!!」 「かん先輩!!彼氏がいたんですかー!!」 「冠先輩!!私聞いていませんよ!!」 「・・・どう思う、香織」 「どう思うって・・・元なんですし、そこまで騒ぐことじゃないと思いますよ、渚さん」 「美魁!美魁ってば!!」 「くそ・・・くそ・・・何であたしには・・・ブツブツ」 驚愕の声と言うよりは妬みの声と言った方が正しいのかもしれない。 「お前等、少し落ち着け。要とはもう別れてるし、とりたてて騒ぐ程のモンじゃあ・・・」 「ケッ、彼女経験有りの人は余裕ですよねー」 「ケッ、ホントそうだよなあー。こちとらどうやって女性の気を引こうかいっつも悩んでいるのにねー」 椎倉の言葉にそっけない反応を示す初瀬と押花。それは致し方無いこと。 だって椎倉は裏切り者なのだから。彼女経験無し集団成瀬台風紀委員支部の。 「そっちにも面白い連中がいるようだな、撚鴃?・・・お前、何だか私と付き合っていた頃よりかっこよくなってないか?」 「・・・お前と付き合っていた頃の俺の顔に比べたらな」 「あの~、先輩達は何時から付き合っていたんですか?」 冠と椎倉の会話に渚が首を突っ込む。 「2年くらい前か。確かゲームセンターで出会ったのだ」 「あの時はお前がUFOキャッチャーに手こずっていて、無意識に能力でガラスを溶かそうとしていた所を俺が慌てて止めに入ったんだよ」 「そうそう。それが出会いで、その後もちょくちょく会って・・・何となく付き合いだしたのかな?」 「何となくって・・・。ちゃんと言ったじゃねぇか。『俺と付き合わない?』って」 「すっごいナンパ台詞ですね」 「そうだったか?まあ、そういうやり取りがあって私と撚鴃は付き合い始めた。半年程で別れたがな」 「ど、どうしてですか?」 渚が疑問の声を挙げる。いつの間にか周囲のメンバーも静かに話を聞いているようだった。 「それは私にもよくわからない。私は撚鴃を嫌ってはいなかったし・・・それは今でもな。そもそも別れ話を切り出したのは撚鴃だ」 「ど、どういうことっすか、椎倉先輩!!女性をふるって・・・」 「あー、うるさい押花。ちゃんと理由はあるんだよ。別れに至った理由がよ」 「・・・その理由とは?」 固唾を呑んで椎倉の言葉を待つメンバー。 「・・・コーヒー好き過ぎるんだよ」 「「「「「「「「「「「はっ?」」」」」」」」」」」 「こいつは引っ切り無しにコーヒーを飲んでやがる。自動販売機のコーヒーを1日で飲みきっちまう程のコーヒー中毒だ」 「コーヒー中毒とは酷い表現だな。愛好家と言ってくれよ」 「どっちでも一緒だ!要と付き合っている間、俺はずっとコーヒー地獄だった。三度の食事はいつもコーヒーを3缶飲まされた。 弁当を作って来たときもコーヒー付。しかもおかずに何故かコーヒー豆がびっしりと。そもそも俺は・・・コーヒーが苦手なんだよ!!!」 「「「「「「「「「「「あ~」」」」」」」」」」」 合点が入ったメンバー達。自分が嫌いなものを毎日多量に押し付けられるというのは、地獄意外の何物でもない。 半年もよく持ったという表現の方が正しいかもしれない。 「冠先輩・・・彼氏さんがコーヒーを苦手としていることは知ってたんですか?」 「知ってたよ。さすがにそれが別れる原因になっていたことは知らなかったけど。 でもなあ、やっぱり自分が好きな物を彼氏と一緒に楽しみたいと思うのは自然なことだろう?」 「(それって強制って言うんじゃないだろうか?)」 幾凪と冠のやり取りに心の中でツッコミを入れる初瀬。いくら付き合っているとはいえ、毎日嫌いな物を強制させられるのはたまったもんじゃない。 「まあ、なんだ。そういうわけだから撚鴃は最初から私達の力を借りたくなかったんじゃないか?」 「そういえば、花盛の生徒と接触するのを嫌がってたっすね、椎倉先輩」 「やはりな。全く人を何だと思っている。今でも私はお前のことを嫌ってなどいないのだぞ?」 「そりゃあ俺だってお前が心底嫌いになったわけじゃないし」 「そうか。それじゃあ・・・また付き合うか?」 「い、い、嫌だ!!俺をまたあの地獄に引き摺り落とすつもりか?」 「はい、復縁のコーヒー」 「人の話を聞けー!!」 「・・・どうします美魁?まだ探りを入れますか?」 「そういう空気じゃねぇだろ・・・。下手に深入りしたら他人の色恋沙汰をさらに穿り返す羽目になりそうだ。・・・あたしは聞きたくない(ボソッ)」 怪我の功名というか、椎倉の失恋話によってこれ以上の追求を免れることとなった成瀬台風紀委員達。 「それじゃあ、さっさと実況見分を終わらせちまおうぜ。こちとら暇じゃねぇんだし」 「それもそうね。手早く済ませてしまいましょう」 「お忙しいみたいですね。そちらでも厄介事が発生しているんですか?」 閨秀と六花の会話に初瀬が思わず問う。そんな彼に六花が事の外重苦しい言葉を発する。 「ええ。丁度ウチの管轄で非合法の薬物が横行しているの」 「薬物?」 「何でも『レベルが上がる』というのを売り文句に大量に捌いている組織だったグループがいるみたいなの。 その薬物には・・・快楽性や中毒性等危険性が大きいものも含まれています」 「!!そ、そんなヤバい代物が?」 「実を言うと、私達がここのスキルアウト達に気が付かなかったのも、そちらの方に調査の手が割かれていたからなの。 本当なら私達の方が貴方達に礼を言わなければならないでしょうに」 「おい、牡丹。それは・・・」 「わかっているわ、美魁。成瀬台の方々が私達に無断で処理したこと自体は頂けないわ。だから・・・これでおあいこ。それでいいですか?」 「は、はい!!」 何とか自分達の行動が許されたと判断する初瀬が、実況見分に入る前にもう1つだけ質問を投げ掛ける。 「そ、その薬物を扱っているグループって」 「・・・かなり大きいスキルアウト集団らしいけど詳細は掴めていません。もしかしたら私達だけじゃ手に負えないかも」 「それって・・・」 「他支部と協力して事に当たらないといけない可能性も否定できない。そんな現状だけど、唯一の手掛かりとしてグループの名前だけは突き止めています」 「その名は・・・」 初瀬の問いに六花は重く口を開く。 「『ブラックウィザード』。そう呼ばれています」 continue…?
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この街はいつも切ないリズムをかかえたまま 重たい空が街の熱を奪う 窓の向こうを見つめたまま 悲しみばかり形になってゆく そうやって歩いてきた いつからだったろうか ずいぶん歩いたなぁ 靴もボロくなった 明日消えてしまうかもしれない世界 永遠に続くかもしれない世界 だけど一つだけ確かなのは 命は限りあるものだから 上手に描いて 色を塗って 消えないようにする 言葉は魔法で 心は広がる海で そこに日常の 雲が広がってゆく 涙がこぼれて 悲しい順に雨になる 聞こえる雨音は こだまする悲しみか 耳をすませば 遠くで聞いた声で感じたい やさしさを 信じたい いつの日か 雲のすき間から走り出した光り 心の闇を照らしながら 涙をひとつ抱えていく 雨のち晴れを待ってる まだ悲しみがこだまする refer to 『かよわきエナジー』 投稿日:2013/03/28(木) 23 56 05.73 0
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第二章 十一月のとある日 錬金術師との親交Ⅰ バチカンの大聖堂 そこは世界最高峰の霊地にある世界最大の聖域ともいえる。その地下深くにその部屋はある。 部屋の前には13~14歳ぐらいの東洋人…日本人らしき少年が立っている。少年は部屋には入ろうとせず作業が終わるのを待っていた。前にこの部屋が開いたのは三日前のこと。そろそろ終わるはずだ。 「憮然。ホテルで待っていろと言ったはずだが?」 三日ぶりに部屋から出きたのは15歳ぐらいのこれまた少年だった。 緑色に髪を染めオールバックにしブランド物の衣服で身を固めている。しかし良くみれば髪は所々はねており着ていた衣服もシワができていた。如何にも今まで徹夜してましたと言っているようなものだ。名をアウレオルス=イザート。ローマ正教に属する錬金術師だ。 「アウレオルス。君さ仕事熱心なのはいいけど。たまには休むことを覚えれば?」 「愚問。未だ我が目的も果たせぬというのに休むなど考えられぬ」 やれやれと日本人の少年が苦笑する。持っていたカバンから何かを取り出した。 「とりあえず英国行きのチケットと宿泊先の手配。そして清教側との密談場所の確保。その他もろもろ君に言われたモノは揃えといた」 「当然。わざわざその為に貴様を呼んだのだ。しかし礼を言おう。清教側に知り合いなどそうそういるものではない」 正、清、成。 ローマ正教は、「世界の管理と運営」 イギリス清教は「魔女狩りや異端狩り」 ロシア成教は「オカルトの検閲と削除」 と十字教の三大宗派はそれぞれ異なる方向へと進化し個性化していった。その為互いに相容れずにいた。 そしてそれこそがアウレオルスが決断した理由でもある。 魔女の脅威から罪なき人々を助ける。その為に教会に属しながらもアウレオルスは魔道書を書き続けた。それは確かに人々を助けた。しかしローマ正教は自分ら正教徒にしか助けなかったのだ。 アウレオルスは清教と接触することにした。多くの人を助けるために。 そして仲介役にこの少年を選んだ。特定の組織に属さずに聖人というチカラを武器にあらゆる組織との繋がりをもつこの少年に。 第二章 十一月のとある日 錬金術師との親交Ⅱ 「まぁ君には黄金錬成(アルス=マグナ)について色々教えてもらったし…でもいいのか本当に?」 他組織との無断で接触することは裏切りにとらえられない。(一応この接触は非公式での会談という形であり事前に許可をとっている。まぁ、世間話程度なら問題はないのだが) 「当然。貴様にも叶えたいモノがあるように私にも叶えたい願がある」 一年ほど前にアウレオルスが初めてこの少年に会った時に少年は言っていた。友を救いたいと。 それ以来親交が続いている。 「魔女、魔術師、幽霊や悪魔に、狼男、吸血鬼。いまだこれらを退ける手段は乏しく人々は苦しんでいる。それを救いだすのが我が命題だ」 「狼男に吸血鬼ねぇ…」 「無論例えだ。カインの末裔など在ろうはずない。だが仮に存在していても私はすべての人々を救う。ただそれだけだ」 危うい。 少年は何時も思う。この錬金術師は気づいていない。その命題の矛盾に。悪がなければ正義などない。全ての人を救うというならば悪すら救わなくてはならない事。そして悪など他人からの評価でしかない事に。 「どうかしたのか?」 「いや何でも…。そういえば学園都市には『吸血殺し(ディーブブラット)』という能力者がいるらしい」 「『吸血殺し(ディーブブラット)』?」 「そう。問答無用でカインの末裔を誘いだし自身を咬ませ灰に戻すチカラさ」 「否定。ありえないな。そもそも科学主義の連中が吸血鬼の存在を肯定するわけがない」 「別にどっちでもいいんだよ。あいつ等にはただ珍しいチカラだから研究しようってだけなんだから」 「正に都市伝説だな」 付き合いきれないとアウレオルスは歩き出す。時間は無限ではないのだ。これから英国に向かう。 「ああそうだ忘れてた。はい」 少年はカードを投げアウレオルスは受けとった。 「何だこれは?」 カードには『Index-Librorum-Prohibitorum』としか書かれていない。 「禁書目録?」 「そう入館(面会)許可状だよ」 聞いたことがある。英国の叡智の結晶。10万3000冊の魔道書を記憶する生きる魔道図書館だと。 「特別に許可を取った。役にたつだろ?」 「自然。楽しみが増えた」 「じゃな。俺はお土産を買って帰るよ」 少年は歩きだす。少年は予測もつかなかった。この事で錬金術師が道を踏み外す要因になるのを。そして救いたい友がそれに巻き込まれることを…。 Next 第三章 十一月のとある日 右方と原石の聖人
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第1話「お嬢様、干し首を欲しがる」 オカルトグッズ集めを趣味とするヴァージニア=リチャードソン。 今日も彼女は、見るからに妖しい物を見つけ、それを譲ってくれないかと頼み込むのだが。 2話「ヤール・エスペランの憂鬱」 昔に、ちょっとした一件で、ヴァージニア=リチャードソンと交友関係が出来たヤール・エスベラン。 そんな彼の悲喜劇と事件の始まり。 3話「余りにも早すぎる襲撃」 野郎二人と少女二人のドキドキお泊り会!?――だと思いきや。
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SSスレまとめ とある世界の『告白儀式』(ハートトゥハート) 【本文】 『第一話』 『第二話』 『第三話』 『第四話』 『第五話』 『第六話』 『第七話』 『後日談』 【初出】 2007/02/14 禁書SS自作スレに2・14チョコパニ上条当麻の受難(第1話)掲載。 2007/02/17 改題&連載化。 2007/03/04 完結。 2007/03/05 後日談掲載。 【著者】 トリップ:◆Oamxnad08k 【含有】 禁書が上条の元にいないif世界 【あらすじ】 2月14日、乙女たちが勇気を手に意中の相手へ向き合う日。 そんなこともお構いなしに生きている上条だったが、自らのカバンの中に覚えのない包みを見つける。 名前が書かれていないため送り主は不明、そしてクラスメイトの誰でもなく。 当然、出動する旗男撲滅部隊(クラスの野郎ども)。 しかし、この一件は彼の受難(というか、女難)の幕開けに過ぎなかった。 【解説】 バレンタインデー企画として投下されたSS。第7話で完結となっている。 本来は多くの謎を残したまま1話で終わる予定のパロディ入りの短編コメディ。 当初は『2・14チョコパニ上条当麻の受難』というタイトルだったが、 第3話投下時点で作者がタイトルを「とある世界の『告白儀式』(ハートトゥハート)」へと改変。 聖バレンチヌスの大魔術として『告白儀式』(ハートトゥハート)という大魔術が登場する。 随所に判りやすいのと判りにくいのも含めていろいろ小ネタが多い。 判明しているところで 機動戦艦ナデシコ、ひぐらしの鳴く頃に、逆転裁判、ドラゴンクエスト、らき☆すた、 機動戦士ガンダム、覚悟のススメ、砂の覇王、逆転裁判、天空の城ラピュタ、 リングにかけろ、サザエさん、すごいよマサルさん、金田一かコナンかわからないが探偵ぽい台詞 どうもIF世界の出来事のようで禁書が当麻の側にいなかったりする。 投下時点での誤字や脱字はまとめの方でいつの間にか修正されている。 美琴のはっちゃけ具合が大分激しい。 後日談はステイルの視点で書かれており、ステイル×月詠小萌のお話である。 アンジェレネ、ルチアのキャラが完全にギャグキャラ。
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「ゴホン。えー、ではこれより会合を再開する。各自手に入れたり聞き及んだりした情報を報告してくれ!」 時刻は午後10時半を回った。すったもんだの末にようやく会合を再開できる運びとなり、花多狩主導の下進行していく。 「くそっ!思い出せない!!俺は何をしようとしたのだ!?七刀の奴め・・・」 「誰かさんをボコった罰でも当たったんじゃねぇの?」 何箇所か切り傷のある雅艶に界刺が小さい声で話し掛ける。 雅艶は七刀の『思想断裁』により、各救済委員の裸身及びヌード絵を描きたがる理由に至る記憶を“断裁”された。 故に、『ヌード絵を描く』という思考そのものが成立しなくなっているのだ。 「フン。お前如きに説教される筋合いは無い!」 「ハン。その記憶の忘却こそ、他の連中がお前の思考を否定したっていう証明なんじゃねぇのか?」 「何だと!?」 「そこ!!雅艶と刺界!!うるさい!!」 「くっ!」 「ふふ~ん」 花多狩の叱責を受けて押し黙る雅艶と気分を良くする界刺。 「はい、それじゃあ報告を再開して頂戴、峠」 「最近『書庫』で色々調べてたんだけど、どうやら低能力者を中心に違法ドラッグが拡大的な情報があったわ」 「違法ドラッグ?」 「ええ。“レベルが上がる”を謳い文句にしているみたい。確かにレベルが上がったって情報もあるみたいだけど・・・それと引き換えに薬物中毒に苦しむ的なオチみたい」 「(あの峠って娘・・・風紀委員なのかよ、雅艶?)」 「(馴れ馴れしく呼ぶな。峠は元風紀委員、それだけの話だ)」 「(ふ~ん)」 花多狩と峠の会話を聞きながらコソコソ話を展開する界刺と雅艶。 「そのドラッグの出所って判明しているの?」 「ええ、一応」 「・・・何処?」 「『ブラックウィザード』よ。あの過激で有名な大型スキルアウト組織」 「『ブラックウィザード』!?」 「な、何よ、荒我。いきなり大声を挙げて」 峠の口から『ブラックウィザード』という単語が零れた途端に荒我が大声を挙げた。他のメンバーも荒我に注目する。 「まさか・・・あの時薦められた薬や注射って・・・」 「もしかしてあなた・・・『ブラックウィザード』に所属していた的な過去でもあるの?」 「んなわけねぇだろ!!誰があんなトコに入ったりするかよ!!」 「落ち着け、拳。峠・・・拳はな、昔自分が所属していたスキルアウトを『ブラックウィザード』に潰されてんだよ」 峠の疑問に反発する荒我を抑え、荒我の過去を説明する斬山。彼は、『ブラックウィザード』に所属するスキルアウトを潰され、その後も転々とする荒我を救っていた。 「成程。そんな過去が・・・。荒我。『ブラックウィザード』に関する情報をあなたは何か知っているの?」 「・・・姐さんには悪いけど、余り有益な情報は無ぇな。その所属していたスキルアウトでも俺は下っ端だったし。 『ブラックウィザード』と接触したのは、上の連中だ。どうやらその違法ドラッグを薦められて上の連中が断ったのが理由で潰されたみたいだけど」 「そう・・・」 「でもよ、その違法ドラッグ・・・当時と一緒かは知らねぇが、確かに“レベルが上がる”って言ってしきりに俺達に薦めていたぜ。 俺は薬や注射が昔から大嫌いだったからしなかったけど。んで、俺達の仲間がその薬を打って・・・おかしくなった。それは今でもよく覚えている」 かつて荒我が所属していたスキルアウトに違法ドラッグを薦めた『ブラックウィザード』。その目的は何なのか。 当時の荒我には知る由も無かったが、確かなことは1つ。『ブラックウィザード』によって荒我の居場所は潰されたということ。 「あいつ等・・・まだ性懲りも無くそんなくだらねぇ真似してやがったのかよ!」 「はいはい、許せないのはわかったけど。そんな正義感燃える的な気概を見せても、あなた1人でどうこうできないわよ?」 「確かに・・・。『ブラックウィザード』は数あるスキルアウトの中でも、かの『軍隊蟻』に比肩する巨大な組織よ。しかも『軍隊蟻』とは違って過激って言われるし」 「ぐっ・・・」 峠と花多狩の冷静な意見に声を詰まらせる荒我。『ブラックウィザード』という組織の強大さは荒我も身に染みてわかっている。 だが、この心の底から湧き上がる怒りは、中々抑えられるものでは無い。 「ハハッ!昔の犬小屋も無残に潰されていたってワケ。つまり、負け犬なのね。数ある犬の中でも特に悲惨な負け犬。フフッ!」 「てめぇ・・・!!」 「はいはい~!!姐さん!その『ブラックウィザード』に関連して報告したいことが」 何度目かになる躯園の挑発に苛立つ荒我。その空気をすぐにでも払拭したいかのように、金属操作が報告のための挙手をする。 「何かしら、金属操作。その『ブラックウィザード』関連の報告って」 「麻鬼と色々調べてたんだけど、最近その『ブラックウィザード』と小さな衝突が何回か発生しているスキルアウトがあるみたいなんですよ」 「あの『ブラックウィザード』と?確かに『ブラックウィザード』は弱小スキルアウトを無理矢理吸収合併して大きくなった組織だから、 短期間の内に結構な回数の縄張り争いが多発しているってよく耳にするけど。・・・もしかして『軍隊蟻』と?」 「いや、違う。『軍隊蟻』は基本的に専守防衛というか、定まった縄張りからは出てこないみたいだから。つまり、今回報告するスキルアウトじゃ無いよ」 「じゃあ、一体何処のスキルアウトなの?」 『ブラックウィザード』程の大型組織になれば、そんじょそこらのスキルアウトでは即座に潰されている筈。 その『ブラックウィザード』と“数回”衝突しているということは、そのスキルアウトには『ブラックウィザード』と対抗できる戦力があるということを示している。 それ程のスキルアウトを救済委員として無視することはできない。花多狩は金属操作に問う。 「え~とっすね、そのスキルアウトってのは・・・」 「『紫狼』。だろう?」 「「?」」 今まさに金属操作が答えようとした瞬間に、先回りするかのようにその組織名を挙げたのは―界刺。 「『紫狼』って、確か路地裏にたむろしているようなスキルアウト同士が集まったコミュニティ的形態で・・・どっちかと言えば穏健派だったわ。 そんなスキルアウトにあの『ブラックウィザード』を迎え撃つ戦力なんて無かった筈。刺界・・・あなた、何を知っているの?」 花多狩だけでは無い。この場にいる救済委員全員が界刺に注目する。 「その情報は古い。確かに昔の『紫狼』は姐さんの言う通りの組織だったけど、今は事情が違っているよ」 「事情?」 「ああ。そんなに前の話じゃないけど、そこのリーダーを務めていた男が何者かに襲われて重傷を負ったそうだ。 その為に、当時『紫狼』の幹部だった男の1人が新しいリーダーに就いた。そいつがヤバいらしくてね、 一気に過激派っぽい真似をするようになった。以前には無かった一般人や風紀委員に危害を加えるような真似をし始めている」 「そ、そんな・・・」 「いや、姐さん。刺界の言う通りだぜ。なあ、麻鬼?」 「ああ」 界刺の発言を信じられない花多狩だったが、界刺の発言が真実であることを金属操作達が証言する。 「確かに姐さんの言う通り、昔の『紫狼』はスキルアウトにしては大人し目のグループだったけど、 刺界が言った通りリーダーが代わって以降は戦力を増強しているみたい。縄張りも段々拡大しつつあるって話もある」 「どうやら、以前のリーダーに不満を持つ者も少なからずいたらしいな。それに、今の『紫狼』は加入に能力者のある無しという制限を設けていないようだ。 中には高位能力者も居ると聞く。後、これはあくまで未確認情報だが現リーダーがある傭兵を雇ったそうでな。その男・・・とてつもなく強いそうだ」 「傭兵?もしかして・・・そいつも能力者なの?」 「その当りについては未だ不明だ。だが、その傭兵の力であの『ブラックウィザード』の猛攻を押し返したという情報が幾つかある」 「マ、マジかよ・・・。あの『ブラックウィザード』を相手にたった1人で・・・!!」 「!!・・・その戦績が、もしあなたの言う傭兵単独でもぎ取ったものだとしたら・・・脅威という言葉すら生温いわ」 麻鬼の調査を聞いた荒我と花多狩は身震いを止められない。『ブラックウィザード』の実力は実際に見たことは無いものの、その逸話は何度も耳にしている。 その巨大な組織を単独で相手取るような人間がいたとしたら・・・そいつは“怪物”としか言いようが無い。 「なぁ、刺界。もしかして、その傭兵について何か知ってたりする?」 「・・・いや、俺もその傭兵に関しては初耳だ。よくその情報を拾ってこれたね」 「そりゃあ麻鬼だからな。情報収集に関しては風紀委員顔負けさ」 「・・・」 界刺と金属操作の会話に麻鬼は反応しない。むしろ、金属操作の言葉を受けて不機嫌になったように見える。 「あ、あれ?俺って何か変なこと言った?」 「・・・別に」 金属操作の質問にも素っ気無く答える麻鬼。その反応に困惑する金属操作だが、会合はその間にも進んで行く。 「とりあえず、その『紫狼』についても注意が必要ね。もしかしたら、『軍隊蟻』も動く事態になるかもしれないし」 「確かに注意を払うに越したことはない。フッ、全くの期待外れと思っていたが、案外役に立つじゃないか。なぁ、刺界?」 「・・・」 花多狩の意見に同意する雅艶が界刺を挑発するように言葉を向けるが、界刺は反応しない。 「他に報告のある者は・・・・・・いないみたいね。もう11時も過ぎているし、ここら当りで閉幕にしましょうか」 午後11時を回ったのを確認した花多狩が会合の閉幕を提案する。各メンバーに異論がある筈も無く、 「他に意見も無いようだから、これにて会合は終了します!各自今回の報告で話題に挙がった『ブラックウィザード』と『紫狼』についてはよくよく注意してね」 こうして、色んな波乱が起きた会合も無事に閉幕と相成ったのである。 continue!!
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛 格差社会、地位が高い人が異常に優遇され低い人が冷遇される。 学園都市も格差社会で、そういうシステムはいつの間にか出来上がっていた。 『レベル』という明確なランク付けが出来る以上、そうなる可能性もあった訳だが。 明確に記すと、無能力者の奨学金は月に四万円。 切り詰めて切り詰めてで一ヶ月を暮らせていける。 逆にレベル5は学園都市からの奨学金と研究費を合わせても数千万はくだらない。 また高位能力者は『黒服学生(スティルバトラー)』や『学生女中(ハウスキーパー)』を雇用出来る。 黒服学生や学生女中になるのはレベル1からレベル3が多く、無能力者は雇用できないケースがあるらしい。 「……なんで『CTRR事件』の大罪人を雇うなんて思ったのかしらね。まぁ後悔はしてないけどさぁ」 そんな格差社会の頂点に立っている御坂美琴は金箔入りの椅子に腰掛けて高級磁器のコーヒーカップで紅茶を飲んでいた。 シャァァァァァと水の音が風呂場から聴こえてくる。 上条当麻が風呂に入っていた。数カ月ぶりだという風呂らしく、服はボロボロで泥だらけで繊維に砂が混じっていた。 ゴミ箱にポイっと捨てると、フランス製の机に置かれた退職届を電気で燃やしてそれさえもゴミ箱へ投げ捨てた。 学生女中も中途半端な黒服学生も要らない。 そう思い、適当に買ってきた着替えを風呂場の前に置いておく。 「着替え、外置いとくからね」 「……すまねぇな」 「気にしないで、ゆっくり入ってよ。シャンプーとか久しぶりなんでしょう?」 御坂は若干、猫を被りながら再び椅子に腰掛ける。 そして、テレビを付けようとリモコンを手にとったが、溜息をついて机の上にリモコンを置いた。 『女王』なんて呼ばれている御坂は、『大罪人』と呼ばれている上条当麻の顔を思い浮かべた。 意外に悪そうに思えなかった。理由はまた訊けばいいし、それ程気になるモノでもない。 学園都市ではレベル5達の知名度にもムラがあり、第一位と第三位が有名で第二位と第四位、第五位、第六位もそれ程有名じゃない。 第七位はそもそもこの格差社会体制が気に入らないと現統括理事会の本部へ単独で殴りこんで、三人を怪我させた『大罪人』だから有名だ。 それでもシンボルを穢したと言われている上条当麻よりは幾分かマシだが。 「……あがったぞー」 気持ちよさそうな表情を浮かべて、風呂場から出てきた上条。 ドロドロだった体は綺麗な肌色に戻っていて、服装もなかなか似合っていて。 「でもどうしてこんな待遇を?」 「そーね。簡単に言うとアンタを私の専属黒服学生(オンリースティルバトラー)にしようと思って」 「……は?専属黒服学生?」 「そう、アンタは今日から私の専属。衣食住を提供する代わりにアンタは私の……秘書みたいなモノね」 「で、でも俺。黒服学生の資格持ってないぞ?」 そういった上条に溜息をついて御坂は首を振った。 御坂は細く綺麗な指を上条の目の前に突きつけて、顔を近付けた。 「いいわね。アンタに拒否権は無いわ。資格については必要ないわ。ある制度があってね」 「そ、そうか……」 「返事は」 「し、しっかりお勤めさせて頂きます、お、お嬢様?」 第二話 『専属黒服学生としての役割』 『特別高位能力者雇用制度』 高位能力者……主にレベル5の事を指す名だが、黒服学生と学生女中の雇用についての制度だ。 レベル5ならば資格を持っていなくとも、『見習い』として雇用する事によって資格無しでも雇えると言ったモノだ。 この『見習い』は雇用者本人が認める事によって訓練所の資格許可証無しに資格を獲得出来るという。 御坂が使う制度はこの『特別高位能力者雇用制度』だ。 『見習い専属黒服学生』なんてのは前代未聞だろうが。 上条当麻は高級な黒服に身を包むと、案内された部屋で突っ立っていた。 貧乏人が急にレベル5級の暮らしにクラスチェンジしたのだ。無理もない。 それ程大きな部屋じゃないが、置いてる家具や、装飾品なども一品物らしく上条は壁に触ることすら躊躇してしまう。 「……落ち着かないな」 上条の元住んでいた家を丸ごと突っ込んでもこれ程の広さにはならないのだが。 金箔入りのベッドを遠目で眺めて溜息をついた。 「どうすんだよ……俺」 そう呟いた時、金色のドアノブがガチャリと音を立てた。 ドアはゆっくりと空いていき、ドアの隙間から御坂が顔を覗きこませる。 上条と目を合わすと、ホッとしたようにドアを開けてえへへと気味の悪い笑みを浮かべながら入ってくる。 「ほ、ほら?な、ナニかしてたら困るし……ね?」 「ノックしろよ……で?御坂様、美琴様、お嬢様?何をすればいいんでしょうか?」 「ああ、御坂様とか呼ばなくていいわよ?御坂とか美琴で呼ぶように。あと敬語は無し。雇用主の私が決めたから大丈夫よ」 「……ああ、わかった御坂。で?何をすればいいんだ?」 御坂はスカートのポケットから四つに折りたたまれた紙を取り出して上条に渡す。 中には『雇用者と黒服学生の関係や、任されている仕事』などが書かれてあった。 「でもさ、この館内の掃除って俺が終わらせれる量じゃないぞ?メイドさんとか辞めたんだろ?」 「まぁ、余裕よ。募集かければ一時間で数十は希望が来るわね」 「す、すげぇな」 「さっ、アンタの初仕事は学生女中の審査ね」 「わ、分かった」 * 「面接官とか初めてだ……」 上条当麻は正装に身を包み、綺麗な身なりをして殺風景な個室で待っていた。 ガチャリ、とドアノブの音がして少女が入ってくる。 上条はこの面接を一任されている。最低条件は特に無かったが、採用する基準としてはレベル0を雇いたいらしい。一人目の少女……常盤台中学の生徒だ。 特に悪い印象は見られなかったが、強いて言うなら『やる気はないがキャリアの為にやる』という感じだ。 上条は無いな、と思い少女の履歴書に×を付けて封筒になおした。 二人目……は柵川中学の生徒だった。 「えーと、佐天涙子と言います」 「……佐天涙子さん。柵川中学に通ってるのか。俺もそこだったよ。 ところで……何で学生女中募集に来たんだ?」 「……実は最近、自転車で人を轢いてしまって……『罪人』になっちゃって三ヶ月間の奨学金が減らされて。月二万じゃどうやっても生きていけないから 働こうかなと思って……。『罪人』でも良いと書いてあったから……」 「はい……十分です。今日の所はお帰りになって頂いて結構です。結果は後日発送するよ」 「はい、失礼します」 上条は佐天涙子の履歴書に○を付けて、封筒の中に入れた。 そして三人目、四人目と続いてきたが、上条的には『キャリア』が欲しいだけだと感じ取り不採用にした。 その点、佐天涙子は生活がかかっている為、必死にやるだろうなと思いそれ程良くもない人材だが消去法的に採用した。 雇ったのは『佐天涙子』と『白井黒子』だった。 白井黒子は御坂と同じ学校らしく、相談した所快く承諾してくれたらしい。 上条の二日目の仕事が終わり、鮭の残り物と腐りかけでカチカチの白ご飯じゃない高級な料理を食して、ダニとカビだらけの布団じゃない羽毛の布団で眠る。 そんな学園都市で最高の幸せを得た上条だったが、それも長くない事は上条自身が良く分かっていた。 この世間とこの風潮が生み出す負の連鎖に巻き込まれるのは、『御坂美琴』だと言う事も。 それでもこの立場に甘んじて生活する上条は自分の事を何と思っているのか。『本当の大罪人』だと思っているのか。 「……はぁ」 「どうしたのよ、そんな溜息なんてついて」 「なんでもねぇよ。……なぁ御坂。俺のせいでお前の立場が危うくなったとしたらお前は俺を追い出すか?」 「……フフッ。そんな事考えてたの?ンな訳ないじゃない、私がアンタを雇ったのよ?責任は取れるわ」 「そうか、ならいいんだ。じゃあ俺寝るな。明日の早朝から風呂場の掃除と朝食の準備だな?」 「頼んだわよ?あと制服は部屋のクローゼットに掛けてあるから。ここからじゃ少し遠いだろうけど頑張ってね」 「それぐらいできるさ。じゃあおやすみー」 「おやすみ」 上条は布団に入った。 フカフカで温かい布団が上条の眠気を誘う。 ものの数分で眠りについた上条だったが、その上条の部屋で御坂はボーッと突っ立っていた。 「はぁ、アンタの言いたい事は判るわ。ホントは追い出すかもしれない。自分が可愛いのは誰でもだから」 上条の顔を見つめながら、御坂は目を伏せる。 「じゃあね、おやすみなさい。大罪人の上条当麻さん」 帽子をかぶり、薄いTシャツを着る。 無地の短パンをはいて、手元にある地図を見ながら屋敷を出た。 学生手帳を後ろポケットに入ってるのを確認して彼女は夜中、街を暗躍する。 * 「チッ、ホントはこんなモンじゃなかったのによォ」 白髪の少年はビルの非常階段で寝転がっていた。 彼は『一方通行(アクセラレータ)』。学園都市最強の能力者であり『王子様』と呼ばれている少年だ。 しかし彼はこの地位に納得していなかった。 彼の言う『最強』は誰かに崇められ、弱者より最高の暮らしをして優越感に浸るようなそんなチンケなモノだったのか。 二年後にはつまらない政略結婚という謎のイベントが待ち受けているし、正直何も考える気になれなかった。 と、ビルとビルの間からピカリ、と光が見えた。 磁力で空に浮いている第三位、超電磁砲の御坂美琴だ。しかし起き上がる気にもなれずただ見慣れたその顔を見るだけだった。 確か、『専属黒服学生』を雇ったという噂を訊いたな、と思い出す。 しかもCTRR事件の犯人の大罪人を。 「第三位も何を考えてンのだか」 カツン、と足音がする。 一方通行はその殺意の大きさからそれ程強大な敵じゃないと判断して、首だけを足音に向ける。 スーツを崩して着ている金髪の男、垣根帝督だ。 知名度は低く、女子中学生の間で第二位の理想図を描くのが流行っているらしい。 「今のは超電磁砲か?」 「ああ」 「……そうか。ところで……テメェ中学生と婚約してるんだって?このロリコン野郎」 「否定はできねェなァ、まぁ学園都市の体裁の為の……要するに政略結婚だ。クソが」 毒づく一方通行。 垣根は壁に体を預けながら、寝転がっている一方通行へ視線を向けた。 「第四位……原子崩しが動き出したってよ。『エレティス電子書庫攻撃事件』の大罪人を捕まえて何か調べたい事があるらしい」 「はァ?エレティス事件の犯人は拘置所だろォが」 「逃げ出した。第七位の手を借りてな」 一方通行は興味が無さそうに溜息をこぼした。 立ち上がると、服についた砂を払って非常階段前から消えた。 垣根は唾を吐くと、背中に六枚の羽を出現させ非常階段から消える。 * 上条当麻は早朝に風呂場で汗をかいていた。 かなり暑い。風呂場は男女共用で洗う手間は少なくていいんだが……、その分銭湯並に広かったりする。 制服姿になって掃除をしていたが、ズボンはかなり濡れている。 泡だらけの地面で何度も滑ったからだと言える。 「さて、後は流すだけか」 上条はホースを引っ張ってきて、勢い良く水を噴射させた。 泡は水とともに排水口に流れていき、上条の仕事は終わった。訳ではない。 朝食の準備だ。一応、和食を作るスキルならあるので、お嬢様を満足させられると思う。 (ちなみに昨日はデリバリー)。 ホースを決められた位置になおして、朝日に反射する風呂場を見て「うん!」と言った。 次は台所に向かい、冷蔵庫の中身を確認する。 「うげ、洋食モンばっかかよ……パンとかグラタンか……」 上条は冷蔵庫を探っていると、鯖の切り身と卵を発見しフライパンを用意する。 鯖はちょうど二人分あったので焼く。 取り敢えず、朝のメニューは白ご飯と目玉焼きと鯖の切り身のウィンナーだ。 実際、冷蔵庫にはこれぐらいのモノしか無かったし、あの細い体だったら足りるかと思い机の上に並べていく。 時間は風呂場の掃除を始めたのが4時30分くらいで、今は6時半。 眠いな、と目を擦りながら御坂の部屋をノックする。 「……入るぞ」 中にはだらしない格好で寝ている御坂が。 ゲコ太というキャラクターがプリントアウトされた緑のパジャマを着ていて、上条は苦笑いした。 トントン、と御坂の肩を優しく叩く。が起きる気配はしない。 次は……、と悪巧みをするように呟くと耳元に顔を近付けて、ふぅーっと息をふきかけた。 「ひやっ!?」 「起きろ御坂―」 「……へ?へ?なんでアンタがここに……ってまままま、まさか?」 「そんな趣味あったんだなー、天下の美琴様も少女趣味が……」 「ああああああああアンタァ!!!こ、ここで黒焦げになりなさい!」 掌から数万ボルトの電気が上条に向けられる。 「ちょっ!?」 右手をかざし、電気は右手に触れた時点で霧散し御坂は唖然とした。 何度も電気をぶつけるが、結果は同じで。 「……は?」 「えっ、と、取り敢えずご飯にしません?上条さんはお腹が空いて……」 「そ、そうね……」 上条を部屋から追い出して、取り敢えず制服に着替える。 部屋の前で待っていた上条と一緒に長い廊下を歩いていく。 目的地の大きな部屋に長い机が置かれていた。 しかし今の従業員は上条1人。家主の御坂含めても二人しか居ない状況で20人以上が座れる机が必要なのかと。 向い合って座るのは当たり前だが、この机に質素で普通の家庭の朝ごはん風景は何か合わない。 しかし御坂は、満足しているようで箸を持って「いただきまーす」と言った。 「ん!アンタ料理うまいわねー」 「そ、そうか」 「やっぱり日本人って感じよねー。フランス料理とか、イタリア料理とか高級料理よりも和食の方が美味しいわね」 「そうか?昨日のイタリア料理は美味かったぞ?」 箸を上条に向けた。 「アンタにはわかんないわよ……、風呂場も掃除してあったみたいだし良い感じね」 「昨日、どこ行ってたんだ?」 「秘密よ、秘密。お、こんな時間か。アンタも学校行くんでしょ?鍵渡しとくから勝手に出入りして頂戴」 上条もそうだ!と思い出して学生鞄を取りに行く。 さて、今日も一日が始まる。 二人は同時に家を出て、それぞれ学校に向かう。 御坂達の住んでいる『コーラスフラン地域』から無能力者地域まではそう遠くない。 常盤台が何故、無能力者地域にあるのかが不思議でならない訳だが。 無能力者地域、文字通り無能力者が集められた地域でコーラスフラ地域と隣接している。 コーラスフラン地域と無能力者地域は元は『第七学区』と呼ばれ、学区制だったのだが五年前から地域化された。 また窓のないビルという難攻不落の城と言われていた今は廃墟のビルがあり、その中には『何もなかった』。 青く、長い髪の毛が落ちていたらしいが調査は行われていないらしい。 まだ『第七学区』の名残があるのか『第七学区、無能力者地域』といわれる事が多い。 「何でさぁ、コーラスフラン地域に常盤台が無くて、無能力者地域にはあるんだろうな」 「さぁ?前の内戦で常盤台は無能力者側に立ってたって聴くし、その名残なんじゃない?」 「それにしても、人権団体とかは批判したりしないのかねぇ?」 「……私にも分かんないけど。恐らく何かの圧力でもかかってるんじゃないかな」 御坂は常盤台中学へ行く道に向かい、上条とわかれた。 一人になった上条は最悪の学校と最高のクラスへ向かっていく。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある底辺と頂点の禁断恋愛
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前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある二人は反逆者 第2章 ①安らぎの時 「あのー、美琴さん」 「なーに?」 「そろそろ帰らないと寮の門限に間に合いませんよ」 「…これから一緒に暮らすのに何言ってるのよ?」 「はぁ!?」 一昨日の夜から付きっ切りで美琴に夏休みの宿題を手伝ってもらっていた上条は、 何とかこの日…夏休みの最終日の午前中に宿題を無事に終わらせることに成功していた。 そして息抜きに外で散歩をしていたところ絶対能力進化の実験に関わっていた芳川に救援を要請され、 一方通行をギリギリのところで救い出し、最後の妹達…打ち止めも無事に助け出すことが出来たのだった。 そして先ほどまで例の病院で調整を受けることになった打ち止めと仲良く会話を楽しんでいたところである。 その場には一方通行も居合わせ、一方通行と美琴の間には終始気まずい空気が流れていたが、 打ち止めの放つ無邪気さがその空気を緩和していた。 そして先ほど二人は上条の部屋に戻ってきたばかりなのである。 自分が作るものとは比べものにならないほど美味しい美琴の手料理をここ数日食べ続けて、 このまま休みが続いていたら完全に餌付けされてしまうという危機感に襲われていたらの爆弾発言である。 「一緒に暮らすって常盤台は全寮制だろ? それに年頃の男女が一緒に暮らすなんて許されるわけ…」 「常盤台のほうには家の都合で寮を出るって伝えてあるから心配しないで。 パパが色々とコネを使って周りにも了解を得てるから何も問題ないわよ」 「いや、それだけじゃなくて倫理観の問題が…」 「何よ、インデックスとは暮らせて私は駄目なわけ?」 「駄目に決まってるだろ!! インデックスは妹みたいなもんで、美琴は俺の恋人だ!! こういうことを口にするのは憚られるけど、どうしたって異性として意識しちまう。 美琴はまだ中学生だし、俺は正直理性を保つ自信がないんだよ」 「わ、私だってそういうことはまだ早いと思ってるわよ。 でもどうしても少しでも長く当麻の傍にいたいの」 美琴の表情を見て上条は我に返る。 上条と美琴は学園都市に対して喧嘩を売ろうとしている。 美琴の父である旅掛はいずれ反撃の狼煙をあげるタイミングが来ると言っていたが、それが何時になるかは分からない。 いつまで平穏な時を過ごせるか美琴も不安なのだ。 ましてや先日になって、やっと悪夢のような日々から抜け出せたばかりだ。 もしかしたら一方通行に会ったことによりトラウマが蘇ったのかもしれない。 (美琴を一生支えるって誓ったのは他でもない上条当麻、お前だろ!! お前が理性が持たないとか倫理観とかを言い訳にして美琴のことを第一に考えられないっていうなら、 そのふざけた幻想をぶち殺す!!) 「…分かった、俺も美琴と少しでも長く一緒にいたいって気持ちは同じだ。 美琴が望むなら一緒に暮らそう」 「ゴメンね、我侭言って」 「いや、上条さんもずっと美琴の傍にいられるのは幸せですよ」 「…ありがとう」 そうして上条は床に布団を敷いてベッドに並ぶ形で横になる。 そしてその手は美琴の手をしっかりと握っているのであった。 次の日の夜明け前、上条は鼻を燻るいい香りで目を覚ますことになった。 そして自分の前方に妙な温もりを感じる。 上条が何事かと思って目を開けると、まず初めに目に飛び込んできたのはサラサラとした茶色い髪だった。 美琴が上条に抱き枕の要領で抱きついているのだ。 上条の胸のあたりにちょうど美琴の顔があり、 そしてお腹の辺りに慎ましいながらも女性であることをハッキリと主張する双丘が当たっている。 これは色々と拙い。 決して美琴を傷つけまいとする上条の鋼の精神に早くもヒビが入り始めた。 しかしそのヒビは美琴の顔を見た瞬間に、すぐに修復された。 美琴の顔には一筋の涙が零れ落ちた跡があった。 今の状況で美琴が涙する理由など一つしか考えられない。 (やっぱり無理してるんだな。 大丈夫、何があっても俺は美琴のことを傍で支え続ける。 だから安心して今はゆっくりお休み…) 上条は心の中でそう言うと優しく美琴のことを抱きしめ返すのだった。 美琴が目を覚ますと自分の置かれた状況に激しく赤面するが、平静を装い朝食の準備に取り掛かる。 しかし目玉焼きを作るのに卵を二つも犠牲にしてしまったところを見ると、どうやら見た目以上に動揺が激しかったようだ。 そして食事中も顔を赤く染めながら上条の顔を直視できない美琴に対し上条は言った。 「…悪かった、気付いた段階ですぐに布団から出れば良かったんだが」// 「ううん、私もその…当麻の温もりが感じられて気持ちよくてつい」// 少々過酷な運命を背負った以外は初々しいカップルそのものである二人はお互いに顔を染めながら食事を進める。 「今日って常盤台も午前中授業なのか?」 「うん、新学期初日だからね」 「それじゃあ午後から合流して何処か遊びにいかないか?」 「え?」 「付き合い始めてから実家に帰った時も両親と挨拶しただけだし、帰ってきても俺の宿題で夏休みは潰れちまったからな。 出来れば美琴とゆっくり何処か遊びに行きたいわけですよ。 もちろん妹達と打ち止めにも何かお土産を買ってさ」 「…今も当麻と一緒にいられてこんなに幸せなのに、私だけ楽しむようなことをしてもいいのかな?」 「…気持ちは分かるけど、美琴の幸せを妹達も願ってくれてると思うぞ。 過去を忘れずに目を背けないことも大事だけど、それ以上に前に進むことも大切だと思う。 美琴が抱えてるものが簡単に消えないのは分かっているけど、少しずつでいいから美琴の重荷を軽くしていってあげたい。 だから上条さんのデートのお誘いを受けていただけませんか?」 「…うん」 朝食を食べ終えると二人は出掛ける準備をして玄関を出る。 今日の夜前に美琴の荷物が届くらしいので、それまでに帰ってこなければならない。 そこで今日のデートは遊園地など一日遊べる場所はまたの機会にして、 屋内のアミューズメント施設など比較的気軽に遊べる場所で行うことにした。 二人はしっかりと手を繋いで学校へ向かう道を歩いていく。 本当は上条は電車を使ったほうが早いのだが常盤台と上条が通う高校との間に位置する駅がないため、 二つの学校の分かれ道まで一緒に歩いて通学することに決めたのだった。 しかしその光景を上条は記憶にないクラスメイトに見られており、 上条は殆ど知らない人間に囲まれて自分のクラスでの立ち位置というものを知ることになる。 「上条当麻」 「はい」 おでこな巨乳少女の有無を言わさぬ迫力に教室の真ん中に正座させられた上条は完全に萎縮していた。 「貴様が常盤台の生徒と手を繋いで登校していたという目撃証言があるのだが、それは本当か?」 「はい」 別にやましいことをしている訳ではなく普通に恋人である美琴と登校していただけなので、 上条は特に警戒することなく返事をしてしまう。 しかしこれが上条の運命の分かれ道だった。 「そんな、あの上条君が夏休みの間にフラグを回収しちゃうなんて!?」 「くっ、上条がフラグを回収したのは喜ばしいことなんだろうけど相手が常盤台のお嬢様とは納得出来ねえ!!」 「でも夏休みの浮ついた雰囲気による関係なら、私達にもまだチャンスがあるかも…」 どうやら記憶を失う前の上条は相当モテたらしい。 実は今の上条も俗にいうカミジョー属性と言われるフラグ体質を引き継いでいるのだが、 今の上条は完全に美琴一筋な為その体質が今のところ顕著に現われたことはなかった。 しかし思いがけぬ形で前の自分のツケが回ってくる形になり、上条は前の自分に対して心の中で恨み言を呟く。 いっそのこと記憶喪失であることを話してしまおうとも思ったが、 何となくこの状況で自分の弱みを喋って同情してもらうのも躊躇われた。 「上条当麻、貴様はその常盤台の生徒と付き合っているのか?」 「ああ、ちゃんとご両親の許可も貰ってる」 「そんなカミやん、僕達デルタフォースは永遠の負け組みのはずじゃ!?」 「黙れ、青髪ピアス!! 上条当麻、それはこれから不用意にフラグを立てないと受け取っていいのか?」 「フラグっていうのが何のことかは分からないが、俺は完全に美琴一筋だ」 「…どうやら本気のようだな。 なら私達も貴様のことを祝福しよう」 「あ、ありがとう」 「だが貴様が今までに数多くの女子を泣かせてきたことは事実だ。 だから貴様に判決を言い渡す」 「え、判決?」 「死刑」 「えっ、何? 上条さんは訳も分からぬまま殺されちゃうの!?」 そうして上条は名前も知らないクラスメイトから祝福という名のリンチを喰らうことになるのだった。 壮絶な祝福を乗り越えたり、とある事件から救い出した少女…姫神秋沙の転入イベントがあったり、 記憶喪失である上条の新学期デビューは中々騒がしいものだったが、お陰で自然とクラスに溶け込むことが出来た。 そしてあっという間に放課後になり上条は美琴との待ち合わせ場所に向かおうと学校から出ると、 何と美琴が校門のところで上条のことを待っていた。 あくまで上条の通う学校は一般的な学校であり、 お嬢様学校である常盤台の制服を着ている美琴が立っているだけで異彩を放っている。 美琴は上条がやって来たのを確認すると顔を輝かせて、上条のところに駆け寄ってきた。 「当麻!!」 「えっと、美琴さん…何故ここに?」 「当麻に早く会いたくて、待ちきれなくて来ちゃった」 周りからの嫉妬という名の殺意を上条はヒシヒシと感じていた。 そんなことは露知らず、美琴は上条の腕に手を回してくる。 (朝はあまりデートすることに乗り気じゃなかったのに。 まあ俺と一緒に出掛けることをここまで楽しみにしてもらえるのは嬉しい限りですが… はぁー、明日も騒がしくなりそうだ) 明日の我が身への危機感に襲われながらも、愛しい恋人である美琴と並んで上条は歩き始める。 そして美琴のことを猛烈に慕う一人の後輩がそんな二人の後をつけているのだった。 上条と美琴がやって来たのは第六学区にある地下街だった。 第六学区にはアミューズメント施設が集中しており、今日はどの学校も半日授業だったためか多くの学生で賑わっていた。 一つの地域に同じような施設が集中していると施設のいくつかは寂れてしまいそうなものだが、 そこは各施設がターゲットとする客層を暗黙の了解で分けているので、 ある程度の人気の優劣はあっても完全に寂れてしまう施設が出ることはなかった。 そして二人は屋内のアミューズメント施設の中でも比較的中規模なゲームセンターに来ていた。 このゲームセンターはいくつかの別料金であるゲームを除き、少し高めの入場料を払えば基本的に遊び放題という ゲームセンターというよりは一般的な遊園地のような料金プランを採っていた。 これなら一回料金を払ってしまえばお金を気にすることなく遊ぶことが出来るので、懐が寂しい上条にも安心だった。 「お昼ごはんはどうしようか?」 「うーん、俺は何でもいいぞ」 「もう、そういうのが一番困るんだって」 「だってさ、美琴の作る料理のほうが美味しいんだから何処で食べたって変わらないって」 「あ、ありがとう」// 自然と惚気る上条だったが、突然背中に学校で感じたものとは比較にならないほど鋭い殺気を感じる。 空耳かどうかは分からないが、類人猿という訳の分からない叫びまで聞こえた気がした。 美琴も背筋が凍るような悪寒に襲われたが、取り敢えず二人は施設内のレストランに入るのだった。 レストランで簡単な昼食を済ませると、二人は施設内のアトラクションを制覇するべく歩き始める。 仮想空間内でのシューティングゲームや実際の動きのモーションを読み取って戦う対戦ゲームなど、 二人は時間が許す限り施設内のアトラクションを楽しむのだった。 上条が美琴の横顔を見ると、今は辛い過去を忘れて楽しんでいるように見える。 実際はそんなことはないのだろうが、それでもこの一時が美琴にとって安息の時になるよう上条は願うのだった。 そして二人で施設内を歩いていると、有料コーナーのスペースにUFOキャッチャーが置いてあった。 その中の一つに美琴の目が留まる。 「何だ、そのカエルが欲しいのか?」 「カエルじゃなくてゲコ太!! 今まで気付かなかったけど、こんな所にも限定のラヴリーミトンのシリーズが置いてあるのね」 UFOキャッチャーの中にあるのは宇宙服を着たゲコ太だった。 「欲しいならやればいいじゃねえか?」 「うーん、そうなんだけど私ってどうもこの手のゲームが苦手みたいで…」 「よし、それなら上条さんに任せなさい!!」 「えっ、でも当麻もゲーム関係は…」 「この手のゲームは運ではなく実力で勝ち取るのだよ、美琴さん!!」 上条は財布からワンコイン取り出すと機械の中に放り込む。 そのまま前後左右の位置取りを完全に計算すると、 以前テレビでやっていたUFOキャッチャーの達人が言っていた技術を上条は実践する。 そして見事一発で宇宙服ゲコ太のぬいぐるみを手に入れるのだった。 「ほら」 上条が美琴にゲコ太を手渡すと、美琴は嬉しそうにゲコ太のことを抱きしめる。 「何だ、そんなに欲しかったのかよ? もし欲しいものがあった時は上条さんに言ってくれれば…」 「ううん、当麻からの初めてのプレゼントだから嬉しいのよ」 「うっ、初めての彼女へのプレゼントがゲームセンターの賞品とは。 男として少し情けない気が…」 「そんなことないわよ、当麻が私だけのために取ってくれたものだもの。 一生大事にするから!!」 「…俺も美琴のことを一生大事にするよ」 「ちょっ、いきなり何言ってるの!?」// 「別にー? ただ上条さんは少しそのゲコ太に嫉妬しただけですよ」 「もう!! …私だって当麻のことを一生愛し続けるんだから!!」// そう言って美琴はゲコ太を抱きながら上条の腕に抱きつく。 そして上条も美琴の肩を抱きよせるのだった。 そんな二人の様子にとある風紀委員の我慢の限界が頂点に達しようとしたその時… 「―――見いつっけた」 異形の目玉が上条と美琴を捉えた時、初めての科学と魔術が交差する戦いが始まる。 前ページ次ページ上条さんと美琴のいちゃいちゃSS/とある二人は反逆者
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成瀬台に通う男子高校生が日常よく目にしている恒例行事がある。それは何かというと 「退いてくれ!!君達!!」 「おわっ!?」 「ぬおっ!?」 もう少しで遅刻しそうなある成瀬台高校生2人に大声が掛けられる。 何を隠そうその声の主こそ成瀬台高校2年で風紀委員も務める速見翔が必殺技!!“速見スパイラル”なのだ。 能力としては気流操作系に属し、足に噴射点を設置・噴射することでロケットの如き加速を実現させているのだ!! 速見の声を聞き慌てて左右へ跳ぶ2人がさっきまで居た場所を速見は突っ切っていき・・・ 「うおおおおおーーーー!!!!」 ドカーン!!! 「「あ~」」 お約束の如く電柱に衝突した。何を隠そう“速見スパイラル”を繰り出したら最後、速見は自分の意思で停止することができないのだ!! 正確には止まる気が無いだけなのだが。そんな速見を見慣れている2人がだるそうに声を掛ける。 「お~い、大丈夫か~」 「死んでないよな~」 「・・・・・・」 『返事が無い。ただの屍のようだ』 「何か聞こえたような・・・?気のせいか」 とりあえず返事が無いのでちょっぴり心配になった2人が近くに駆け寄ると、 「むくり!!」 「「うわっ!!」」 電柱の前にぶっ倒れていた速見が反動も無しに急加速で起き上がった。そして・・・ 「早朝から全力の“速見スパイラル”・・・すっっごく気持ちいい!!!そう思わないか君達!!」 「いや、知らねえよ」 呆れて返事を返す2人の反応を碌に聞いていないのか、速見はクラウチングスタートの構えを取り、 「さあ、学校まで後曲がり角5つ!“速見スパイラル”ならあっという間に到着間違い無しだ!!飛ばすぜ!!Ready~GO!!!」 「・・・」 「・・・はっ!おいやべーぞ。このままじゃ遅刻だ」 「はっ!ウソ!?マジでか!?くっ、とにかく走るぞ!!」 呆気に取られていた2人も遅刻を避けんがために全速力で突っ走っていく。そして・・・ 速見翔だけが遅刻した。 continue…?
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事の始まりは少女の何気ない一言だった。 「ショッピングというものに行ってみたいってミサカはミサカは頼んでみたり」 「あァ?」 茶色いショートカットの少女は病院のベットに掛かるテーブルの上に乗っていた。 青色のワンピースに身を包み、頭頂部から出ている一本の毛が風も無いのに揺れている。 其れに対して眉を顰めるのは少女の目の前でベットに横たわる白髪の少年だ。 見ただけでは男か女か判別不可能の中性な顔立ちと体つき。 学園都市内にその異名を轟かす白の最強能力者―――"一方通行"。 その最強の能力者は現在、目の前の少女を見て面倒臭そうに首を傾げていた。 少女は一方通行の次の言葉を待つかのように輝いた瞳で一方通行を見ている。 「……」 「お?お?もしかして好感触?ってミサカはミサカはかなーり期待してみる」 「寝ろ」 「いえーい!なんか久しぶりに聞いたよ、ってミサカはミサカは久しぶりに拳をつき上げてみたり!」 打ち止めはヤケクソ気味に拳を天に向かって突き出すが、一方通行はそれを面倒臭そうに見ていた。 「そもそも、俺ァまだ動けるような状態じゃねェだろうがよォ」 一方通行は八月三十一日にとある事件に巻き込まれ普通なら死んでもおかしく無いような傷を負っている。 その事件とは、この目の前の少女―――"打ち止め"を中心に起こった事件だった。 とある研究員が埋め込んだウィルスに侵されていた打ち止めを一方通行が自らの傷と引き換えに助けた。 端的に言ってしまえば、そんなところだ。 その間にも色々な話が詰め込まれているのだが、今は割愛するとしよう。 しかし、そのウィルスを消す際に記憶も一緒に消去された筈の少女は事もあろうに自らその記憶を補完して こうして目の前でにこやかな笑顔を一方通行へと向けていた。 その上、何故か事件の後も済し崩しに一緒にいる形となっていた。全く持って謎である。 「あ、その点については大丈夫、ってミサカはミサカは胸を張りつつ言ってみる」 「あン?」 打ち止めはなにやらベッドから飛び降りると病室の隅へと向かう。 其処には何時の間にやら黒い紙袋が置いてあった。 怪しい。とにかく怪しい。 レベルを強いて言うならば、開けるな危険のオーラを醸し出すほどの怪しさだ。 というか、黒い紙袋なんてとてもじゃないが普通の生活では滅多に御目にはかからないだろう。 そして、打ち止めはご機嫌に鼻歌を歌いつつ黒い紙袋の封を開け、中へと手を突っ込んだ。 暫く中を探っていた打ち止めだったが、何か見つけた様に笑顔になり、腕を紙袋から引っこ抜く。 その手にあるのはチョーカーの様な黒い帯の付いた小型の携帯音楽プレーヤーのようなものだった。 じゃーん、と黒い帯の先に付いた小さい棒状の機械の様な物を揺らしつつ一方通行へと向き直る。 「何だァそりゃ」 「演算補助のための変換機ってミサカはミサカはもったいぶらずに答えて見る」 加えて言うが一方通行は八月三十一日の事件で傷を負い、その最強の所以たる能力の大半を失っている。 現在ではこの視線の先でほれほれ、と楽しそうに変換機と呼ばれた物体を揺らす少女と、 その姉妹の様な存在である"妹達"によって演算能力の大半を補っている状態だったりする。 「よし」 「おぉ、アナタがそこまで良い笑顔を見せるなんて始めてかもってミサカはミサカは喜びを体で表現してみたり」 一方通行は彼を知る者が見たならば、即座に裸足で逃げ出すようなとてつもなく良い笑顔で頷きを一つ。 「そこに直りやがれ、クソガキ」 「ひゃっほう、やっぱりこうなるのねー!ってミサカはミサカは現実から目を背けずに嘆いてみる」 打ち止めは其の場でよよよ、と座りながら手で顔を隠して嘘泣きをし始めた。 一方通行は気にせずに寝転がり、頭まで全身を布団で包んで寝る準備をし始める。 「あーッ!ってミサカはミサカは指差して驚いて見る!人が嘆いているのに放置して寝ようとするだなんて、 それでも人なの!?ってミサカはミサカは抗議してみたり!というか、これはアナタのためでもあるんだよー! ってミサカはミサカは必死に叫んでみる!」 「あン?俺のためだァ?」 「そうそう、ってミサカはミサカは内心ホッとしつつ正座してみる」 今まさに飛び掛らんとしていたのか、打ち止めはベッドに掛かるテーブルの上に乗っていた。 そのまま打ち止めは正座しつつ目を閉じて腕を組み、尤もらしく何度か頷く。 「実はリハビリも兼ねてたりするのってミサカはミサカはあのカエル顔のお医者さんが言ってたって言ってみる」 ほほゥ、と一方通行は改めて体を起こし、打ち止めを見やる。 「で、本音は?」 「暇だからどこかに連れてって、とミサカはミサカは正直に本音を――って、ふぎゅっ!?あ、やめてやめて。 布団でくるむのは御勘弁をってミサカはミサカはなんだか前も言ったことあるような台詞を言ってみるー!」 結局カエル顔の医者が回診に来るまでこの馬鹿騒ぎは続くのであった。 ○ そして現在。 「なんで、こうなりやがンだァ!いきなり蒸発するかァ、普通よォ!?」 多くの人々が出歩く街の中心で、病院着から私服に着替えた最強の能力者は天に向かって叫ぶ。 詰まるところ、連れ添いであるはずの打ち止めと完全無欠に離れ離れになっていたのだった。 その叫びを聞いて一部過去に彼を襲撃して返り討ちになった不良達がすいませんでしたー!、等と 叫んで逃げて行くが、一方通行はそれらは全く気にせずに周囲を見渡した。 見渡す限りの人、人、人、馬、人。 見事に人だらけである。正直気が滅入った。 打ち止めの身長はそこらの小学生と変わらない。 この人の多さでは埋もれてしまい、見つけるのはとてもでは無いが無謀というものだ。 しかし、一方通行は、そんな事など知らないとばかりに足を動かし始める。 「あァ、なンでこンなトコで居なくなりやがンだァ……俺に恨みでもありやがンのかァッ!?」 恨み言を吐きつつ、一方通行は身体の状態も気にせず突っ走りはじめた。 速い。 地面に敷き詰められたアスファルトを砕くとまではいかないが、相当強い踏み込みの音が周りに響く。 その音に驚き、道を開ける人々。 一方通行は打ち止めを探して周りを見渡しつつ、モーゼの十戒の様に割られた人の群れの中を走っていく。 しかし、それでも人の流れというものは常に変化するものだ。 「きゃぁっ!?」 突如響く悲鳴。 走ってでもいたのか、開いた道のど真ん中に飛び出して一方通行にぶつかり、勢い良く尻餅をつく少女。 「あァ?悪りィな、ぶつかっちまったかァ?」 一方通行はそれを見て、自らにかかる慣性を適当に反射分散させて急ブレーキをかけた。 一応、一方通行も僅かばかりの礼儀作法というものは身に付けているのだ。 それでも、打ち止めと出会ってから大分マシになったという程度だが。 「あたた……うぅ、あなた、あぶな――ひッ!?」 「あン?」 少女は一方通行の姿を見るといきなり怯えた表情になり、固まってしまった。 一方通行は訝しげな顔をして目の前の少女を見る。 紺色の、前のチャックを開けたジャージを着込み、長髪を後ろで二つに結った髪型。 その髪の下には今にも泣き出しそうな怯えた少女の顔。 どこかで見た事があった、と一方通行は思う。しかも、極最近に。 「ひ、あ……」 一方通行が首を捻りながら誰だったか、と考えている間、少女は起き上がろうともせずに固まっていた。 どうやら腰が抜けているようだ。 ちなみに一方通行には怖がられる心当たりはありすぎる程あったりするので相変わらず気にしてはいない。 その間にも一方通行は思考を走らせ、記憶を掘り起こす。 学園都市最高の頭脳を持つ一方通行の記憶力は伊達では無い。 目の前の少女と一致する姿を検索する。 そうして数秒後、該当したのは―――、 「あァ、そうだ。オマエはあれか。あン時の三下かァ?」 ビクリ、と少女の肩が跳ね上がる。 少女は咄嗟に立ち上がって逃げようとするが、一方通行はそれを許さない。 逃げようとする少女の両肩を掴むと、少女が以前に見た事があるような邪悪な笑みを浮かべて言った。 「丁度良い。オマエ、確か"空間移動"出来たよなァ?ちょっとやって貰いてェ事があンだけどよォ」 一方通行の目の前では、少女が寒さに震えるハムスターの様に涙目で凄い勢いを付けつつ頷いていた。 突然だが、結標・淡希は"空間移動"の亜種である"座標移動"という珍しい能力の持ち主である。 簡潔に言えば、手で触らずとも物体を座標Aから座標Bまで移動させる事が出来るという能力だ。 しかし、結標の肩をガッシリと掴んでいる最強――"一方通行"の能力はその更に上を行っている。 その能力とはあらゆる力の"ベクトル"の操作。 ありとあらゆる攻撃を跳ね返し、己の力を倍加する能力はまさに最強の名に相応しいものだ。 その最強は現在結標の肩をガッシリと掴んでいた。 その表情はとても嬉しそうだ。 まるで獲物に狙いを付けた肉食動物の様な獰猛な笑み。 ……あ、死んだ。 結標は知らず絵的に真っ白になった。 金属を叩く音でも鳴らしたら良く響きそうな程の静寂が満ちる。 周囲の雑踏などまるで気にしない。 というか、まるでどこかのステージの様に結標と一方通行の居る場所は開けていた。 なんだか他人が遠い。 今居るのは狩人と獲物の二匹のみである。アデュオス、この世。こんにちはあの世。 一方通行は魂の抜けている結標の肩から手を離しつつ、凶悪な笑みを引っ込めた。 どうやらもう逃げる心配は無い、と思ったようだ。 魂が抜けたままの結標は勿論、なんの反応も寄越さない。 「ンじゃ、いっちょ高く飛ばせ」 いきなりの命令系。 この少年、能力どころか性格まで理不尽のようだ。 ハッ、と一方通行の声をきっかけに意識を三途の川付近に飛ばしていた現実へと戻ってくる結標。 見上げてみれば、辺りをキョロキョロと見回している一方通行が目に入った。 何か探し者だろうか、と結標は呆然とした頭で首を傾げるが、その様子に気づいた一方通行は、 「トロトロしてねェでさっさと飛ばせ」 「と、飛ばす?」 イライラしたような視線を向けられて思わずたじろぐ。 結標は状況を理解しようと脳が全力回転するがまだ結果を導き出すまでには至っていない。 地響きがしたと思ったら誰かとぶつかり、注意の一つでもしてやろうかと思ったら、目の前には最強の能力者。 これはなんの悪夢だろうと思う。 「だァーから、とっとと飛ばせつってンだろォが!」 「は、はひっ」 声が思わず上擦る。 しかし、結標は、そんな事すら気になら無い程混乱したまま能力を行使した。 勿論そんな状況で使った能力が上手く行くはずもなく。 「……」 一方通行がぽふ、と地面に着地した。 総飛距離十センチ。結標・淡希、夢の新記録である。 「あァ~……」 一方通行は呆れた様な顔で声を出した後、表情をすぐさまとてつもなく良い笑顔に切り替る。 そして、結標を首だけ動かして見下ろし、 「よォし、いっぺン死んでみっかァ?」 「ごごごご、ごめんなさいぃー!」 涙目のまま左右へと凄い勢いで顔を横に振る結標。 それにしてもこの結標、ビクビクである。 「次はねェと思え?」 「うぅぅ……なんなのよぉ……」 良い笑顔のまま肩を叩く一方通行。なにやら肩がビリビリと痺れる。 顔を向けて見れば、なにやら一方通行の手から青白い火花が出ていた。 「生体電気って、やろうと思えば結構出力出るンだよなァ」 「つ、謹んで受けさせていただくであります、ハイ!」 尻餅をついたまま思わず敬礼をしてしまう。 かなり間抜けな格好の上に涙目と合わさって何やら一種の同情すら感じさせる光景だ。 実際、周囲の人々の哀れみの視線が痛い。 「悪りィな。ちっとバカがどっかにいっちまったもンだからよォ」 「悪いと思うなら最初から―――」 「血行を良くしてやンのもオツだよなァ?」 「と、飛んでけーっ!」 即座に計算式を組み上げて一方通行を空高くに"座標移動"させる。 先ほどまで一方通行が立っていた位置の遥か上空で、彼は何かを探すように周囲を見渡している。 ……そういえば、"バカ"って誰の事かしら……? 目の前から一時的にとは言え、悪夢が消え去り少しはまともな思考になる。 一方通行が探すような重要人物。 ……まさか、あの資料に載っていた女の子? 写真で見た一方通行を支える少女が脳裏に浮かぶ。 成る程、必死になるわけだ。 あの少女が居なくなればあの学園都市最強は最強ではいられないのだから。 そう、仮初でも"目的"が無ければ生きていられない、今の結標の様に。 「……」 少しだけ。ほんの少しだけ、何故だか結標は一方通行に親近感を覚えた。 ……何を馬鹿な。一方通行は復讐すべき敵なのよ。敵。 頭を振ってその考えを振り払う。 罅割れた心を支えるために必死になって否定する。 それを認めたらまた心が砕けてしまいそうだから。 「っと、いやがらねェ。あのクソガキ……どこに行きやがったンだァ?」 唐突に軽い足音を立てて着地してくる一方通行。 十何メートルは飛ばしたはずなのにほとんど音も無く着地してくるなんてやっぱり化物だ。 一方通行はコチラへと向き直り、何故か少しだけ驚いた顔をする。 何かおかしい事でもあっただろうか、と首を傾げるが該当件数は零だ。 ふと、一方通行は表情を切り替える。 予想もしない表情、僅かながらも自然な笑みを漏らすものへとだ。 「あァ?まだ居やがったのか、三下」 「は、え?」 思わぬ一方通行の表情と言葉に呆然とする。 それもそうだろう、先程まで一方通行は遥か上空だったのだ。 そんな状態で人探しとなれば、下にいる雑魚の事など、彼が気にすることはまずないだろう。 それでも結標は逃げずに残っていた。 心配されたとでも、一方通行は思ったのだろうか。 実際はそんな事考えてもおらず、ただ単に考え事に耽っていただけなのだが。 「まァ、取り敢えずはだ――」 一方通行はそのまま愉快そうに背を向け、片手を上げた。 そのまま一歩歩き出して、呆然とする結標へと声をかける。 「――"アリガトウ"ってなァ。手伝い、感謝するぜ、三下」 思わぬ発言だった。 絶対にお礼なんて言うはずが無いと思っていた人物からの不意打ち。 しかし、結標は何故か少しだけ、ほんの少しだけその言葉に妙な安らぎを覚えた。 今はまだその妙な安らぎこそが結標の求めるもの、必要とされたいという願いの延長だという事も わかってはいないのだが――確かに結標の心に一つの強い願望が生まれた。 その少しの、ほんの少しの妙な安らぎを、もっと欲しいと思ってしまったのだ。 だから、計算なんかよりも先に体が動いた。 「ちょ、ちょっと待って!」 「あン?」 気づいた時には結標は何故か一方通行の腕を掴んでいた。 キョトンとした顔で振り向く一方通行。 弾き飛ばされないトコロを見ると、どうやらぞんざいに扱う気はないらしい。 「なんだァ、三下。もう用はねェぞ?」 「そ、そうじゃなくて……」 思わず手を離して、もそもそと結標は口の中で呟く。 一方通行は呼び止められた事に少しだけイライラしているようだったが、 取り敢えずはその様子を訝しげに見るだけだ。 結標は深呼吸を一つ。思い切り勢いをつけて一方通行を指差しながら告げる。 「わ、私も人探しを手伝うから、携帯番号教えなさい!」 「……はァッ?!」 間を置いて、考えを纏め、思わず間抜けな声を雑踏の中で上げる一方通行。 もう結標にも何がなんだかわからなかった。 ○ 「あれ?ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」 青いワンピースを着込んだ幼い少女は、とある歩行者用道路の上で可愛らしく首を傾げた。 薄い茶色というよりもオレンジ寄りのショートカットに頭頂部で揺れる髪の毛。 ただいま現在進行形で自分で絶賛迷子中の"打ち止め"はうーん、と唸り始める。 「やっぱり離れ離れになってるんだなぁ、あっはっは、ってミサカはミサカは自暴自棄になってみる」 腰に手を当て、豪快に笑う打ち止め。 色々いっぱいいっぱいなのだ。 「はぁ……って、ミサカはミサカは一人寂しく溜息をついてみたり」 しかし、その強がりもいつまでも続くわけでは無い。 一頻り笑った後に来る虚無感。簡単に言えば虚しいだけだったりする。 「待てや、この馬鹿猫ぉおおおお!何時まで走らせる気だ、ぜぇぜぇ、おおおおおお!」 何か暑苦しい叫び声が打ち止めの向いている方向。 その右側に並ぶビルの間、恐らくは路地裏へと続く道から気合の声と共に凄まじい足音が聞こえてくる。 そして飛び出してくる毛並みの良い猫とツンツン頭の少年。 一瞬何事かと思ったが、ツンツン頭の少年の方には覚えがあった。 打ち止めが直接会ったわけでは無い、しかし、確かに覚えがある顔だ。 約一万人の同じ遺伝子を使って作られたクローン"妹達"。 その一万人が己の能力を使い構成するミサカネットワークにより、打ち止めは少年を知っていた。 上条・当麻。 その右手に"最強"であろうと殴り倒すような力を秘めた"最弱"だ。 つい数週間前に起こった事件でも"妹達"の一人、一〇〇三二号、御坂妹が世話になった少年だった。 「うぉおおおおおおおーッ!」 太陽を背景に猫へと飛び掛る少年。 そのまま見事に猫を抱きしめ、地面を二転、三転。停止する。 「……ミサカはミサカは思わぬデッドヒートに言葉を無くしてみる」 「あだだだ、つぅ、肘擦り剥いたぁ~」 むしろ其の程度で済んでいるのはおかしいと思うのだが。 呆然としている打ち止めを余所に猫を抱きかかえて起き上がる少年。 打ち止めはそれよりも先に動きを取り戻し、少年へと駆け寄った。 そのまま笑顔で頭を撫でている少年へと声をかける。 「大丈夫?ってミサカはミサカは優しげに心配してみたり」 「ん?あぁ、大丈夫って、ミサカ?ミサカって……ってうぉい、御坂妹が小さくなってやがる!?」 「む、失礼な。これでも一応ミサカは立派なレディだよ?ってミサカはミサカは胸を張りつつ主張してみる」 猫が暴れるが上条は全く動じない。 というよりも目の前の小さくなった御坂妹こと打ち止めに視線が釘付けになっていた。 「ど、どういう事でせうか!?これは狸型ロボットの新兵器のせいでございますか!?そうなんですね!?」 「あのー、もしもーし、聞こえてるー?ってミサカはミサカはジト目で手を振ってみたり、聞いて無いですか、そうですか、 ってミサカはミサカは疲れたように肩を落としてみる、よよよとミサカはミサカは嘘泣きもしてみたり」 暫くの間、猫が暴れる音と、少年の叫び声、そして少女の落胆の声が響いていた。 道を行く人々が変な視線を送ってくるが気にしもしないそんな二人と一匹の組み合わせであった。 一方其の頃、かなり離れた場所で結標が一方通行に対してある種の爆弾発言を放っていたのを打ち止めは知らない。 学園都市のとある商店街。 其処を疾風のように走り去る一つの人影があった。 「ああぁあああああ―――ッ!」 馬鹿みたいな叫び声が商店街に響く。 道を行く人々の幾人かが驚きの表情で人影を見るが、その時には既に遥か遠くに走りさった後だった。 その人影の正体――結標・淡希は顔を真っ赤にして走っていた。 結標は数十秒前までの出来事を思い起こす。 『あァ?なんで俺がオマエに携帯の番号なんか―――』 『良いから教えて!』 あの爆弾宣言から暫く固まっていた両者だったが、先に沈黙を破ったのは一方通行の方であった。 しかし、一方通行の発言はすぐさま結標の悲鳴にも似た叫びに掻き消される。 結標は自分でも何を言っているのかわからなくなりつつも、必死に一方通行を睨みつける。 顔を真っ赤に染めた涙目の表情で迫られ、流石の最強も怯んだのか渋々と言った感じでポケットに手を突っ込む。 一方通行の取り出した携帯を見るなり、結標も慌ててジャージの上着ポケットから携帯を取りだす。 そして、互いの登録情報を交換して即座に、 『そ、それじゃ、見つかったら連絡するわ!じゃあね!』 『あ?って、速ェな、ォイ!?』 そのまま背を向けて走り去っていってしまったというわけだ。 そして、現在に至る。 正直なトコロ、結標は混乱していた。 一体自分は何を考えているのか、それすらもわからないのだ。 いや、本当はわかっているのだろう。 しかし、それを認めてしまっては、それをキッカケに己の心を"以前"の様に自分で壊しかねない。 それとは別の理由もかなりの割合で混じっている気もするのだが、それには目を向けようともしない。 ……これは敵の情報を知るため!知るためなのよ! そう自分に言い聞かせてなんとか心の均整を保つ結標。 その間にも彼女の疾走は止まらない。 ついには商店街を抜け、道路へと出た。 目の前にはアスファルトで固められた道路とそれを渡るための横断歩道。見上げてみれば信号が設置してある。 結標は信号を碌に見ずにそのまま横断歩道を渡りきる。 途中、なにやら叫び声と共に車のクラクションが鳴り響く。どうやら赤信号だったらしい。 渡った場所から少し走ると今度は緑が豊かな公園へと突入した。 と、ふと其処で結標は足を止める。 そして、ジャージの上着ポケットから携帯を取りだす。 二つ折りになるタイプの携帯を開き、幾つか操作をして電話帳を開いた。 緊張のためか顔が真っ赤になっているが、それは走ったせいだと自分を納得させた。 「えぇっと……一方通行の電話番号は……」 確認、確認、と携帯を弄り回す結標。 そういえば本名知らないわね、などと思いつつ見覚えの無い名前を探して行く。 暫くの間、平日のためか誰も居ない公園に携帯のボタンを押す電子音が響いた。 しかし、一方通行の本名と思わしきものは一向に見つかる気配が無い。 ……? 首を傾げる結標。 もう一度見るが、やはり見慣れた感じのする名前しか並んでいない。 例えば、一方通行とか。 「………」 見間違えたのかと、目を擦ってもう一度画面を見直す。 『一方通行 プロフィール』 「って、そのまま!?」 期待を大きく裏切る変化球に思わず叫びを上げる結標。 まさか呼び名をそのまま自分の携帯に登録するなど夢にも思わないだろう。 面倒臭がってこんな風にしたのだろうか、それとも名前すら忘れたか。 後者はなさそうなので恐らくは前者だろう、と結標は結論を出すと携帯を閉じて上着へと仕舞った。 深呼吸を一つ。 酸素を取り入れ、冷静になるため、脳を正常化させた後、すぐさま全力回転させ始める。 よし、と気合を入れるために声を上げる。 まずは状況の整理。 一つ、少女を探しだして、一方通行に連絡する。 二つ、少女から一方通行の弱点を聞きだす。 三つ、少女を一方通行へ引き渡し、褒めて貰う。 実は未だに冷静ではない思考の結標であったが、全く気にする様子もなく顎に手を当てて考えるポーズをとる。 ……問題はどうやってあの子を探すかよね。弱点を聞きだすとしたら一方通行より先に見つけなきゃいけないし。 一方通行がアレだけの上空から探したのに見つからなかったのだ。 恐らくは、かなり遠く。 もしくは何かビルの影になる様な場所に居るかのどちらかだろう。 取り敢えずは、 「足を使うしかないわね」 そう言って結標は早速一歩踏み出す。 何か踏みつけた。 「ひゃぁっ!?」 「だーうー」 何事か、と結標は妙な感触のした地面を見る。 其処にはなにやら白い衣装に身を包んだ少女が倒れていた。 なにやら力無く倒れる少女の身を包む衣装は良く見れば昔見た本に乗っていた修道女の服の様にも見える。 その暫定修道女は情けない声を上げつつ、コチラを見やる。 「お~な~か~す~い~た~」 「……」 捨てられた子猫のような目と言うのが、この場合の表現としては正しいだろう。 実際、少女の脇の下辺りから子猫が出てきて『いきなりすまないね、お嬢さん』的な視線を送っている。 この場合、飼い主と猫と見るべきだろうが、なんとなく結標には逆に見えた。 猫が保護者で少女が子猫っぽいのだ。 「おなかすいたって言ってるんだよ?」 「えぇっと……」 今度は体を引き摺るようにしてコチラへと方向転換する少女。 猫の方はしっかり少女の背中の上に避難している。 「……」 目の前の少女はなんなのだろうか、と結標は考える。 ……シスター、かしら?神学系の学校はこの辺りには無かったと思うけど。 それにしても妙な衣装だと思う。 なにしろ妙に豪奢な布を強引に安全ピンで止めている様な状態なのだ。 見た目としてはかなり豪華さと仕上げのバランスが悪い。 なんらかの意味合いがあるのだろうか、と結標が少女を凝視していると少女は、 「あのー、もしもし、聞いてる?」 「あ、ごめんね。なにかしら?」 ハッと思考の海に埋没していた結標は現実に戻ってくる。 それと同時に困ったような笑みを浮かべて目の前の暫定修道女である少女の目を見た。 綺麗な碧眼に腰まではありそうな銀髪。 どこをどう見ても日本人ではなさそうであったが、どうやら日本語は通じるようだ。 「えっと、とうまが道端で困ってたおばあさんの猫を探して走り去っちゃったから、お昼ご飯がないの」 とうま、というのはどこかで聞いた事があったが、取り敢えずは保護者の事だろう、と結標は納得する。 「大変ね。それで、私はどうすればいいのかしら?出来る限りの事なら手伝うわよ?」 すっかり子どもの相手モードに入った結標は笑顔を浮かべつつ腰を落として少女の顔を見る。 整った可愛らしい顔だ、と結標が評価を下していると少女はパッと顔を輝かせるように表情を変えた。 要求の予想は大体ついていた。 恐らくは、保護者である"とうま"という人物を一緒に探して欲しいとかそういうものだろう。 見た目でしか判断出来ないが、この年頃の少女は強がりと同時に寂しがり、怖がりでもあるのだ。 ……人探しなら、コチラの探し人も見つけられて一石二鳥というものだし。 結標は頭の中で人探しの計算も整えつつ、少女の次の言葉を待つ。 少女は流石に初対面の人になにかを要求するのは躊躇っているのか、モジモジとした後、 「ほ、ほんとう?」 「ええ、本当。お姉さんになんでも言ってみなさい?」 やはり躊躇いがちに聞いてくるが、結標は至って笑顔で応える。 こういう子の相手は怖がらせてはいけない。 笑顔で、優しく語りかけて上げるのが重要なのだ。 「それじゃあ……」 言葉を続ける少女。 なんとなく力がさっきより失われているようにも見える。 そして、飛来した少女の言葉は少々結標の予想とは違うものであった。 「なにか、食べ物を分けてほしいかも……げふ」 その言葉を最後にまた倒れ伏す少女。 暫しの間。 それほど長く無い間の後結標は思わず頬を書きつつ困ったような表情で苦笑いを一つ。 なんだか今日はまだまだ忙しくなりそうであった。 ○ 「つまりアナタはおばあさんにこの猫を届けるの?ってミサカはミサカは並んで歩きつつ聞いてみる」 「ミサカはミサカは、って重複してるよなぁ――まあ、そうだな。家までの地図も貰ってるし」 打ち止めと上条・当麻はとある商店街の道路を並んで歩いていた。 先程、上条が歩道で、ついに猫を捕獲した時に出会ったのだが、最初は随分と驚いた。 なにしろ、知っている少女が頭二つ分ほど縮んだように見えたのだ。 それはもう、新手のスタンド攻撃とかそういうものかー!などと意味不明な事を叫びそうになるほどだった。 なんとか落ち着き、自己紹介を済ませ、逃げようとした猫を確保するのに数十分。 随分と時間が経ってしまった。 周りでは、昼時だからか、この都市の象徴は科学だというのに無駄に熱い売り文句を叫ぶが響いている。 『安いよ安いよ!今ならこのサーモンピンクの河豚から取り出した実験食材がたったの――』 訂正しよう、やはり此処も例に漏れず科学万歳な場所のようだ。 その事実に半場安心しつつ、上条当麻は隣に並ぶ少女を見やる。 つい一ヶ月とちょっと前に知り合った少女達、御坂妹を含む約一万人の"妹達"。 その"妹達"全員に会ったわけでは無いが、この目の前の少女はなんとなく"妹達"の中でも特殊な気がした。 なんとなくあの"妹達"独特の雰囲気とは違い、妙に活発的な雰囲気が漂っているのだ。 今も物珍しそうに辺りを見回しては、変な物に興味を惹かれているようだ。 「おぉ、あれなんて中々格好良いかも、ってミサカはミサカは埴輪を見つつ目を輝かせてみる!」 本当に楽しそうだなぁ、と上条は笑顔で打ち止めの指さした方向を見る。 其処には、山積みにされた、妙にリアルに人の顔を模した埴輪があった。 正直、それが山積みになっている景色は不気味を通り越してある意味、荘厳だ。 「はは……」 思わず笑顔が引きつる上条。 やはりこの少女の感性は特殊で、少々斜め上に行っているようだ。 「おぉ、あれも珍しい!ってミサカはミサカは駆け寄って行ったりするー!」 楽しそうに左右に展開する店の前に飾られた展示品などの前を行ったり来たりする打ち止め。 どうやら出かけたりするのは稀らしい、と上条は微笑ましい光景を見つつ思う。 猫が腕の中で欠伸をかく。 どうやら追いかけている間に良きライバルとかそういうものと思われてしまったらしい、妙に友好的だ。 「まぁ、取り敢えずは……」 今日は平和だなぁ、と何か記憶の隅で蠢く白い悪魔の存在を敢えて忘れつつ、上条は空を見上げる。 取り敢えずは商店街の空はテントの様な物で隠されていて見えなかった。 視線を戻せば、打ち止めがまだまだ元気そうに走り回っていた。 そういえば、と上条は頭の隅に引っかかった事を言葉にする。 「そういやさ、お前、一体誰と此処まで来たんだ?」 「あ、そうそう。とミサカはミサカはアナタの下へ戻ってきつつ頭の中で情報を整理してみたり」 独特な口調にもそろそろ慣れ始めた上条の腕の中で猫が鳴く。 再び上条の横に並んだ打ち止めは自分が何故一人で居たか、何故相方が迷子になったか。 その理由を、色々改変しつつ話始めるのであった。 ○