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凸者はバイオ いんふぃにてーでの記念すべき初凸者。 しかし宝塚のバイオ嫌いを利用して、ゾンビのうめき声で凸ってくるというドSぶり。 勿論のこと宝塚は悲鳴を上げて怖がり、スネークに助けを求めた。
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REさいくりんぐdays 589 名前: 名無したちの午後 投稿日: 02/09/06 00 12 ID WtNhQbnw なんでしゃぶっちゃうかねぇ。 そういやREさいくりんぐdaysに眼鏡っこ手コキから眼鏡ぶっかけがあったよ。 途中、主人公がしゃぶって欲しいとぬかすが見事に拒否。 関連レス
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びーてぃんぐはーと【登録タグ ひ 二次P 初音ミク 曲】 作詞:二次P 作曲:二次P 編曲:二次P 唄:初音ミク 曲紹介 二次P の5作目。 気になるあの人の為に色々工夫しているのになかなか気がついてくれない、でもなんだかどきどきしてしまう。そんな気持ちをイメージしてみました。(作者コメ転載) イラストは 香絵氏 の描き下ろし。 「ぼからん#176」のEDに採用。 歌詞 君はいつでも気がつかないふり イジワルだよ 少しくらいは褒めてくれたって いいと思わない? 時々コロンとか変えてみても 反応ナシ いつも近くにいる私のこと 見てくれてるの? もっと私のこと気にしてよ 私は君だけ いつでも見てるから 急に振り向かれて驚いた胸は beating heart 抑え切れない気持ちに気がついて 真っ新な空へ吹き抜ける風みたいに純粋な その瞳で私を見て欲しい ずっと ずっと… 何も言わずに手を繋ぐなんて 反則だよ ご機嫌斜めの私の気持ち 解ったのかな ドキドキしてるとは気がつかない 甲斐性ナシ いつも近くにいるせいで逆に 伝わらないの? ずっと見てる私のまなざし 私は君だけいつでも見てるから 急に見つめられて戸惑う小さな beating heart すぐ逸らしちゃう視線を戻せない 真っ白なキャンバス開いて二人の色で染まった この世界で私を見て欲しい ずっと ずっと… いつでも君の側にいたい 私の気持ちが 触れ合う指先流れて 伝わってゆく いつでも近くに居て欲しい 些細な願いも 考えるだけでドキドキ 収まらない抑え切れない 急に振り向かれて驚いた胸は beating heart 抑え切れない気持ちに気がついて 真っ新な空へ吹き抜ける風みたいに純粋な その瞳で私を見て欲しい ずっと ずっと… コメント 名前 コメント
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ふぃんがあ★ふらっしんぐ メーカー アフェクト 発売日 1999.7.15 対応機種 PS.PSN"GA" 「じゃんけん」のルールで進める奥深いパズルシューティング は行 ゲームアーカイブス プレイステーション PR ふぃんがあ ふらっしんぐ
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473 名前:爺モナー ◆gGMONacQ6. [sageまいっちんぐマチコ先生] 投稿日:04/02/06(金) 14 43 ID ??? ,. "´~ ̄ ̄``丶、 /,.‐ "´_, ‐ ´_/ \ / ノ- ,=_三_彡イ///. ヽ / ノr ⌒i ,.ニヽ{ .| | |. i. /^ノ {^l {^l / / { ∩ノ /, 、 !ヽ| |. ! l / / `’`’ /./ f`ー ´ i._ ’ ノ ゝ ゞ | ( く rf^i⌒ヽ i 八 ┬―─,` ´ |`ー} l \\ ⊂{.|. !_ノミ_\ | \ `v--v / / ! rt ̄ n /`¨´ `^\. ゝ \`ニ ___/ / i^i^f h、 | L | | // | ! \ ゞ_`_/⌒`Yヘ _j/ /{ .{ ! / ノ レ’ U // | l `ー |____|___V<_ノ-`ラ⌒`ソ! L,,,_ `ー--- ---- // /, ! < ̄ , ‐‐、 彡 // ノ⌒ゞ \ / ⌒) 〃f^i/⌒! _ __,.、、、.._ \ _/ 〕`ー、 /しイ .レ ´  ̄ `丶、 \/^\ _づ乙\_ // .| ./ \ ,. "´ ̄ ̄``丶、 ./ √ `、ヽ  ̄¨`ー一/./ 八」 r、 <_ i /_ V、 /、 `、`、 / /ハ __,,>フ,二、ヽ `、 ! /./__レi ,ィ-、\ `、 / \. Vヽ ∧ / .l、 .| / ! / i ’ / | i//-‐-.Vr /-‐-、 ゝ ! ./ \_/ ヽ / \ / l ト.| | n.j |n .} ヽ .| ||.l.f⌒i li| .f⌒ i. ! 〉. レ / i、 ./ .V l {_,」 n- ゙ `、_ノ レ⌒jノ n!| { {0.j |ハ i、0.ノ ノ‐く _/ ! !. / ゙i、 l { _,..- ")_t_=彡 i 」 ゝ-cノ ゝ- ゙_,..レ6 } l l、 ., | l `ー`≦丁_|⊥-亠「  ̄ .,r ─-、,,. -─ゝ⊂__,.-‐i  ̄| i ト_ノ | !、 ! | .l ヽ |~|」__| { || `亠⊥__|_, ⊥-亠 / | V | ! \ | | | i { || _, ─-、 (⌒) / | .l .| l `!.| .| ヽ ゝ,_,ノ ̄ l (⌒) / | l. | | | | ヽ / (⌒) / | l | | |. | ヽ 787 名前:MONO ◆8KG.IFw64o [sage] 投稿日:2005/06/15(水) 18 57 06 ID 4s99VofP _... --―-、 / `ー-、 / , j, 丶 / r‐‐x j/r弋_、 i i `r‐ ,ニ-.´ ,-、, | l | |`i 。| |。 i | i | | i | ,,. - ,、 - ..、| ! | | i !ト. |. | . l ! l| \ _ 0 __...‐ j , / \ ,_ヾ//j ̄´|ヽ-/,/ / _ ....-‐ / / .. _,,.\ \ ‐-.... __ ---f ̄`iー ´ ̄ 7ヘ_/ 〈⌒`  ̄ ¨ ‐-r--、_____ ,...___} _j_ _____{ イ 》____ / {  ̄  ̄ ̄´ V||。 、 . 。 }〉 ` ̄ ̄ ̄`--‐ ⌒ |!ト-r -= イ.| |,| ^=ヘ/^ / 丨 | 35 名前:● アーマーゲー ◆//AMG.R64E [sage] 投稿日:03/10/23(木) 00 52 ID ??? _ , - ‐ - 、 _ / ヽ, / ヽ. / ハ ヽ i _,,ノノノヽ ; i、 冫 T フ-、 r ヽ.ヽ、 l / i i ;;i, i;; i ! | | l ー ヽ- ! l i . | ヽ. 、ー, ノ / リ リ . ヽ ヽ、_ ` _ , - リ / / / / ヽ ノ`´ ト ノ ノ / `_,- ´ `ー、_ ノ まいっちんぐマ●コ先生 526 名前:コピペ[sage] 投稿日:01/11/25(日) 10 25 _ ,. ‐ "´~ ~`ヽ, . ,. ´ ,人. ヽ ( ∠lノ,ノ‐-、ヽ i i イ、, -、 、, -、 ゝ、 i { | i 0 i^ i │ │ | l ` i~ `ー ,, | } / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ . ! { i⌒、 / ! | . ! ヽ ヽワ / ノ < まいっちんぐ ? ヽ、 ` t-‐i "ノ i ./ | 、ゝ/| / しiノヽ、し \_________ ,Tヽ|/へ、| { i´ /〈 l .i 770 名前:ボボ[0] 投稿日:01/12/02(日) 05 14 _ ,. ‐ "´~ ~`ヽ, . ,. ´ ,人. ヽ ( ∠lノ,ノ‐-、ヽ i i イ、, -、 、, -、 ゝ、 i { | i 0 iぐ i │ │ | l ` i~ `ー ,, | } / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ . ! { i⌒、 / ! | . ! ヽ ヽノ / ノ < まいっちんぐ ヽ、 ` t-‐i "ノ i ./ | ちょい修正、どうですか? 、ゝ/| / しiノヽ、し \_________ ,Tヽ|/へ、| { i´ /〈 l .i 652 名前:コピペ[] 投稿日:01/11/29(木) 00 32 _,,,,,,__ /´ ̄ \, r ノ ノ ヽ ツ J 人 ゝ ヤ こ ノィテyノ ⌒ヽ、 ー ! _________ / |(!$l ,--、 T | / ,! ! ー、_,、 ! ! ) | < ( ( へ、丶ノ_ ソ ノ / / \ y n/ ⌒ ̄ ゙゙/ノノリノし  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ,uヘヘゝ 〃 ;! . / ;/ ( / ;/ . ゝ-ヘ ;(_ 〉-一  ̄ ⌒二ニー ⌒ ヽ | ,r  ̄ 、;;;;;;;;;;;;;;;;;;) . i ,く ,ノ ヽ,;;;;;;;;/ i ,i Y;; レ . i / .|;; i |ー ゙ .|;; / | i;; / . | |;; i ,,,,,_ f ̄ ---- 、 | レ ⌒  ̄ `ー-r_ i . ! 〈 _,,、-‐ ¨´ ̄  ̄¨´ | ト‐‐ ^¨´ . | i ! .} ! i ! .! . ! ! | .{ _ | / ヽ /!/ ,f ̄! r ゛ / ̄「 ゙゙゙゙ ̄ ̄ ̄ ゙゙゙゙ ̄ ̄ ̄ 846 名前:AA見習いさん[sage] 投稿日:2001/08/12(日) 14 01 ,,-= ´._ `ヽ、、 〃. ヽ、_ / ヽ / 、 ヽ / _ ノ,,-/ ノ人 ヽ | イ′⌒ ⌒ヽ乂 | | | , = = 、 | | 丿 | | 0i i0 | | | ( | L 」 L 」 |_ | | | く | | l に __ | l ゝ \ ゝてフ | ノ \ / ノ / ゝ l丶 ′ // // ゝ l二二二二二|l レノ/ / / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ _L_____」 < 舞っちん具 >- 、 \ \_  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 851 名前:(U。ω゚) ◆oQoQ.Gq6[sage] 投稿日:2001/08/12(日) 15 41 _ ,. ‐ "´~ ~`ヽ, . ,. ´ ,人. ヽ ( ∠lノ,ノ‐-、ヽ i i イ、, -、 、, -、 ゝ、 i { | i 0 i^ i │ │ | l ` i~ `ー ,, | } / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ . ! { i⌒、 / ! | 846 . ! ヽ ヽワ / ノ < あまり小さくないけどどうぞ。 ヽ、 ` t-‐i "ノ i ./ | …と思ったら自分で作ってたのね。 、ゝ/| / しiノヽ、し \_________ ,Tヽ|/へ、| { i´ /〈 l .i 847 名前:AA見習いさん[sage] 投稿日:2001/08/12(日) 14 53 〃 ⌒丶 / ヽ / ノ,,-/ノ人 | / イ ⌒ ⌒乂 | | | 「_n n_) | l | | ヾ | l ゝヽ ワ イ l ヽ ヽ __ /l ノ ヽ L__」ノノ / 848 名前:TEMPTER[sage] 投稿日:2001/08/12(日) 15 09 / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ | まいっちんぐ~ \ /  ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 〃⌒⌒ヽ、 /┃ Σ( ノハヾ ゝ / ┃ ((´Д`ノ ノ / ┃ m/^~し~ / ┃ (__/ / 。/ ┃ ノ~ ̄\___J ┃ | γ⌒) ノ ∧___∧┃パンーツ | γY レ^つ (・∀・ ┃ |〃 .|、__/ /  ̄_つ `| | / ~ _つ . | | _/ /^〉 ┃ (__シ (_/ \_) 156 名前:まいっちんぐマチコ先生[sage] 投稿日:04/01/20(火) 07 51 ID ??? [オート専用スレより] __,,,,,,,......,_ ,..- ゙゙´;;;;;;;;;;;;;;;;;;;゙ ゙―、 ,/゙;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;` 、 / ;;;;;;;;;;;;;;_ン ゙ ̄;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ヽ /;;;;;;;;;;;;;_./ ;;;;;;;;,.;;;;.,-、;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;; l /;;;;;;;;;;.. ´.ー,,./ /゙;;../ .l; ぃ;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.l, ヽ;;;;,i-- ニ-、┴ " .,i--、゙ 〈;;丶;;;;;;;;;;;;;;;;;.! /;;;;} ./ ● ● .ヽ . !;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;.! ,i、 /;;;;;;.リ .l゙ } l. .| .!;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|;| ,! ,ト!ュ;;;;│ ." ...|. ` - .` |;;;;;;;;;;;;;;;;i;;|;;| l-ン゙, l!i;;;| _..........、 l;;;;.;;;;;;;;;;.!;.!│ ! "ノ゛.| !;;;ヽ . ヽ.;..../ .,,,!;;i!;;;..;;;/;;; ! ! .゙〔;;;;;;;;~ -..、 ヾ ._,, i‐ ´il!/;;,i ゙;;.!;;;;;; ! l l;;;;;;;;;ゞ;;;;;;;`゙ ,゙リ´ |_;;_,l/.il|i..,,_;;;;;,/ lii_ .ilミ;;;;;;_ン ,|リ!タУ ."/゙,!.ilリl"; ; ; ; ; ;゙゙.l l; ;ゝ二!ミjl!!; i;,,rー、 l゙;";;/;;;;|il> |,;./ ; ; ; ; .! /; ; ; ; ; .!干゙.,ill"; ;/ !;;;;;;",/./ ; ; ; ; ゙]; ; ; ; ; ; │ /゙; ; ; ; ; ; ; ; |;iレ゙.У,! i |..,,,il|、 .l!、; ;,/゙}; ; ; ; ; ; ; | l; ; ; ; ; ; ; ; ; /l゙. "; ;.!l,ノ "_,,.. . `゙ !ii、__;!、; ; ; ; ; ; ..l, │; ; ; ; ; ; ; .,l,l゙;ミ; ; l!ri;;> 二i... . ゙l゙リl!!llw,_; l │; ; ; ; ; ; ; ;l".l; .. ! .`゙゙!! !`- l / ッ" l/; ; ; ; ; ; ゙ !"! ヽ_; ; ; ; ; _,./ ゙L; ; ;! .|,i"; ; l兀、; ; ; ; ; ; ; ; ; ;|  ̄゛ .゛ .゛゙ " ‘゙ ″ ′ 323 名前:(*゚Д゚)さん[sage] 投稿日:04/06/13(日) 21 08 ID ??? [オート専用スレより] 無修正 _..-ー ― 、 ___. ,r " ` 、 _.. ..,, " ̄´゛ ./ _. .\ ./ .゙ i. / ,i ´ .! ヽ ヽ ! -、、 ,i′ ./ ! /゙l、 l .ヽ / ~ t .,, ./ ././.!/ ` ┐ .! |′ ..ソ/゛ ! .ン ヽ ./,´ v .! .l .l. l.、 ,! ,,..ィ " ! .|, ! .ト" l .| │ l l..l l ,! ! ." L、, ! .l │ .l l/.! | - ヾ .! .! ,! l ! .! ,! .,,........ 、 ,./ l゙ .! .l !│l .!-.._, . l, / ,..r " / | l.! l l | ! ` ー.l゙‐ ´ / | |l│.l. .lー!、 |、___ / ! | l、 l、 .l, . .. . ̄´゙ 〈、 .! .| .!’ ` -、 ヽ ⊂ニ-、,,`、 ! .!│ `゙゙゙ " /゛`. ` ヽ、 .l l ! _..- , ゝ-..、 ` 、 ゙ ―--.! .l ″.l, `l゙ ` l‐i . .l ! .! l v .} + !,! l !│ l / ./ ! .! !│ .l . .. ‐" .イ゛.l.゛ │ │.! .| l ヽ / ! l .| l .`ー ′ l .! .! ! l l ./ ! "" ″ ′
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『てーと金メッキ』 94KB 愛で 独自設定 帝都あき ※ご注意を 一話完結となっていますが、過去のてーシリーズを読んでいただかないと話が意味不明です。 anko4095 てーとまりしゃ anko4099 てーとまりしゃとれいみゅのおとーさん anko4122 てーありしゅのおかーさん anko4203 4204 てーと野良と長雨 前後編 anko4254 てーと野良と加工所と愛護団体 anko4308 てーとみなしごゆっくり anko4460 4463 てーと猛暑日 午前 午後 最後の最後まで愛でられる希少種がでてきます。優遇どころの話ではないです。 愛でられるゆっくりはほとんどオリキャラのようになっています。 飼いゆっくりを愛称で呼びます。 鬼意惨に恋人がいます。 これでも注意書きが足らないかもしれません。 以上、少しでも嫌悪感を抱かれましたら、読まれると不快な思いさせてしまうかもしれません。 「マサとしぃちゃんってさ、ゆっくり飼ってるんだよな?」 ゼミが終わり教授が去っても室内は話し声で溢れていた。 饅殺男と虐子に話しかけてきたのもゼミの友人である。 「ああ、三年前くらいからな」 「てんこ種の子だよー」 「そっかそっか!」 茶髪を揺らしながら笑う友人、カチャカチャと金属のアクセサリーが音をたてる。 彼はいつでも笑顔で居る印象がある。 「いやーさ、実は結局ゆっくり買ったんだよ」 「おっ、ちゃんと金バッジにしたん?」 「したした、二人がしつけーから」 「絶対金バッジ以外の選択肢はないよー」 例えるなら銅は、野良を拾って身体を綺麗に洗った程度。ゲスの度合いも運しだい。 銀は最低限の躾と人間との力関係は教育済み。しかし放って置く、ましてや甘やかすと劣化する恐れがある。 金は人と暮らす事に特化教育し、その過程で所謂ゆっくり“らしさ”を矯正している。 「で?何種よ?」 「フツーにれいむ」 「れいむはトシくんも飼ってたよね。うちのてーちゃんもよく遊んでもらってるよー」 金バッジの両親から産まれ、そして赤ゆっくりの頃から厳しく躾られて育つのだ。 通常種とはいえ金バッジともなれば相応の値段になる。 「いくらだったん?4、5万くらい?」 「ん?いや、5000円」 「ごせっ!?え?それ本物?」 あまりの安さに驚く二人。いくらなんでもおかしい。 所謂“記念受験”を避けるために受験料がそもそも5000円なのだ。 「ははは、本物ってなんだよ。ははは!」 「いや…………まぁお前がいいならいいんだけさ。うまくやれてんの?」 「んーまぁ見てて飽きねぇし、そこまで手間かからないし。 うるせー時はなんか一緒についてきた薬飲ますとすぐ寝るしな」 「それって……」 どうも特徴を聞くに金バッジとは思えない。 “電源を切る”ための強制睡眠剤がついてくる金バッジなど聞いたことがない。 「そんでさ、れいむが他のゆっくりに会いたいとか言うからさ。こんどアイツと遊んでやってくんね?えっと、てーちゃんだっけ?」 「あー、まぁ……てーも友達が増えれば喜ぶタイプだし、いいんだけど……」 「いいんじゃない?――――でも、てーちゃんもまだ幼いからわがまま言っちゃって、れいむちゃん怒らせちゃったりしたらごめんね?」 「ん?あーおっけーおっけー、とりあえず会ってくれるだけでいいからさ」 気づけばゼミ室には三人以外誰も居なくなっていた。 「じゃぁ、今度の土曜に縦浜の公園行こうぜ。結構飼いゆっくり連れてくる人多いし」 「おおーまじか、サンキュー!」 「あ、私もいくよー」 「いやーありがと、れいむも喜ぶわ。あっ、細かいことはメールしてくれ。もちろんそっちの都合に合わせっから」 「あいよー」 友人は手を振ってゼミ室を出て行く。 残ったのは饅殺男と虐子の二人だけ。 「ねぇ?どう考えてもさ、“金メッキ”よね」 「だろうねぇ」 通常金バッジといえば、加工所が定めたバッジシステムに乗っ取った試験、それも高等に合格したゆっくりだけに与えられるものだ。 しかし近年ゆっくりを飼う人口が増加し、優秀な飼いゆっくりの需要が増えた。 そうなると、やはり違法スレスレの“汚い”商売をする店も出てくる。 つまりバッジシステムとは全く関係の無い、ただの金色のバッジをつけたゆっくりを売るのだ。 「一緒に暮らしているってことはそこまでゲスじゃないのか、それともアイツが何でも許しているのか」 「さぁ?でもさすがにゲスってことはないでしょ」 『元気のよさ金バッジ!』なんてフレーズと一緒に、金色のバッジつきゆっくりが平然と売られているのは珍しくない。 ゆっくりの飼い主、特に加工所認可の金バッジを飼っている者達からは、“金メッキ”などど蔑称されている。 「そうだといいんだが……。まぁ、最悪アレなら逃げよう。てーもいるし久しぶりに浜ボウル行こうぜ」 「いいわね、曲げる練習でもしようかしら」 「ただいま、れいむ生きてるかー?」 「ゆっ!おそいよぉぉぉぉ!!おにぃさぁぁあん!!すぐかえってくるっていったのにぃぃぃ!!!」 お兄さんの帰りを一日中待っていたれいむが叫んでいる。 リボンの先端では金色のバッジがその存在をアピールしている。 特に室内を荒らすような事はしないため、ケージ等に入れているわけではない。 もともとれいむが金バッジだと思っていることもあり、ある程度の自由が許されているのだ。 「おー、ワリィワリィ」 「れいむのおといれからくさいくさいがするしぃ!おなかもたくさんぺーこぺーこだよぉぉぉぉ!!」 「ん、おおー、ちゃんとトイレ使ってるな。偉いぞれいむ」 「あたりまえでしょぉぉ!れいむはきんばっじさん!なんだよ!」 「わかったわかった。ほら土産あるから落ち着けよ」 そう言ってお兄さんが取り出したのは、ごく普通のたい焼き。 れいむのために、小倉とクリームの両方用意してある。 「ゆゆうぅ!?たいやきさんっ!!はやくっ!はやくちょうだいねっ!!」 「おまえは本当に喰うよなぁ、はは、ホレ」 お兄さんがたい焼きをれいむのエサ皿に置いてやる。 するとれいむは目を細め、にんまり口を歪ませる。 「ゆふっ!ぐふふっ!あまあまざん!れいむがたべてあげるからこうえいにおもってねっ!! がーつがーつ!!ぐっちゃぐっちゃ!むじゅるむじゅる!!けっちゃっけっちゃ!!」 「あわてんなっての」 エサ皿の外まで食べかすを飛び散らせながら、れいむがたい焼きを食い漁る。 包装紙をといてやっていなければ、恐らく紙まで食べていただろう。 「ゆふぅ、おいじがったよ!ありがとうおにいざん!……でもまさかこれだけじゃないよねぇ?」 「ははは、ホレこっちはクリームだ」 「ゆふふふ!!さすがおにーさんだね!!」 そしてまたグチャグチャとクリームを顔の周りに散らかしながら、たい焼きを貪る。 「おれもクリーム食うか」 「ゆっじゅくっちゃ、ゆゆっ!?だめだよぉぉぉっ!! おにーさんはそとでおいしいものたくさんたべたんでしょぉぉぉぉっ!!!」 「いやいや、食べてねーよ」 半分ほど残ったたい焼きをもみあげでしっかりと自分に寄せながられいむが言う。 「いいでしょぉぉ!ちょうだいよぉぉぉ!!そっちのおさかなさんもおいしそうだよぉぉ!!」 「はっはっは!どっちも変わんねーっての、お前ほんとバカだなー」 「ゆっ!!ばかでもいいよ!ばかでもいいからちょうだいね!!」 ピョンピョンと跳ねて抗議しながら、お兄さんに向かって舌を突き出す。 「はやぐぅ!ばやぐぅぅぅ!!れいむのぉぉぉ!れいむのぉ!! ぞっちのがおおきいよぉおぉぉぉぉ!!!ほらぁぁぁ!!!」 「ソレはお前が食ったからだろ!っはっはっは!」 「れいむまだそっちだべてないよぉっ!?はやくかえしてぇぇ!!」 「そうじゃねぇって!はっはっは!!」 もうれいむは涙まで流している。 その顔があまりにも面白いのでお兄さんは笑う。 「はー、はー、くくっ。わかったわかった、やるよしゃーねーな」 「ゆぶぅ!やっだぁぁぁぁ!!!れいむのおさかなさんおかえりぃぃぃぃ!!! ゆっちゃくっちゃ……げふぅ、こっちもおいしぃぃよぉおぉっ!!」 「はっはは!同じなんだからあたりめーだろ!」 「ねっちゃにっちゃびゅるぐじゅる、うっめっ!がっつぐっちゅ」 もうれいむは何も聞いていない。 両のもみ上げでガッシリとたい焼きを抱え込み、食べること以外に口を動かそうとしない。 「おいじぃぃぃぃぃよぉぉぉぉお!!これぜんぶれいぶのだよぉぉぉぉぉ!!」 「なんでそんなに必死なんだよ」 大量のガムをかき混ぜているような音を出しながら、れいむはたい焼き二つの所有権を声高に主張する。 アンコもクリームもグチャグチャに混ぜ合わせながら、魚とは程遠い姿になったたい焼きをたるんだ腹に詰め込んでいく。 自身には色々なものを飛び散らしてはいるが、奇跡的にゆかは汚していない。 一応そこの所の最低限の教育は積んでいるらしい。とはいえあくまで人によって上下する最低限だが。 「ゆぶひゅ、ゆひゅぅ……げっぶっ!ゆふぅ、たくさんおいしかったよぉ!ありがとねおにいさんっ!」 「おう、ってかお前体汚ねぇな」 「ゆゆっ!!れいむはおでぶじゃないよぉおおおおおお!!れいむおこるよぉぉぉっ!?」 「言ってねぇから馬鹿。ホラ、コレで体拭けよ」 「ゆっ!」 れいむにタオルを投げ渡す、両のもみあげで受け取るとゴシゴシと身体を拭うれいむ。 いちいち動きが遅いのが気になるが、それでも容姿は綺麗に保ちたいらしく表情は真剣だ。 「ゆゆぅ、れいむはとってもびゆっくりだよねぇ!」 「それいつも言ってんな。ああそうだ、他のゆっくりに会いたいつってたよな?次の休みに会えるぞ」 「ゆゆぅぅ!?ほんとぉぉっ!?ゆっ!?れいむのらはいやだよっ!?のらなんてぜったいやだよぉぉっ!?」 「あー大丈夫、飼いゆっくり」 「ゆっ、あ!あとれいむにつりあうびゆっくりじゃないとだめだからねっ!?」 「あー?知らねぇけど希少種っつってたから平気じゃねぇの?」 「ゆっ!きしょうしゅ!……ゆふふふっ!!それならいいよっ!!とってもつごうがいいよっ!!ゆぶぶぶぶっ!!」 ぐふぐふお腹を波うたせながられいむが笑う。 そして仰向けに転がり、大きく長いあくびを一つ。 食欲が満たされれば眠くなる。当然欲求に素直なれいむは躊躇無く眠る体制へ移る。 「ゆはぁぁぁーあ、おにいさん!れいむくっしょんさんがほしいよ」 「あ?もう寝んのかよ、早ぇな」 ご飯が安全に満足な量手に入る幸せ。 飼いゆっくりなら当然だとれいむは考えているが、一応お兄さんのおかげで飢えずにすんでいると言うことは理解している。 だからこそれいむは最大限譲歩し、お行儀良く振舞ってあげているのだ。 ああ、なんて謙虚で素晴らしいゆっくりなのだろう。 当然こんなにも優秀なれいむは、もっと多くのゆっくりを望んでも許されるはずだ。 「ゆふん!れいむがねむいからねるんだよ!あたりまえでしょ! ……ゆっ!そうだよ!れいむのあさごはんさんはしっかりよういしておいてね!」 「あー、わかったわかった」 「たくさんだよっ!!」 そう念押ししてれいむが渡されたクッションを引きずりながら奥の部屋へと這って行く。 れいむが目覚めるのは身体が空腹を訴えた時だ。そうなるとれいむはもう我慢できない。 お兄さんが眠っていようと関係ない。れいむはお兄さんにご飯を用意させるためにのしかかって起こす。 以前一度寝起きで機嫌の悪いお兄さんが朝まで待つように言ったときには、大声で泣き喚いて抗議した。 「ふぅ……」 れいむが眠ると室内に静寂が戻る。 食事以外の殆どの手間がかからないのは助かるなと、お兄さんは自身の夕食を作りながら考える。 口を開けばほとんど空腹を訴えるだけだが、ちょっかいを出せばそれなりの反応は返ってくる。 一応上下関係を弁えているれいむは、致命的なわがままは言わない。 ――――もっともそれだけでは銀バッジすら取得できないのだが、あまつさえお兄さんはさすが金バッジなどど思っている。 そういう事情も含め、お兄さんとれいむの関係は今のところおおむね良好だ。 「ゆっくりショップねぇ……」 最初はなんとなくで入ったゼミ、せっかくゆっくり関係を学んでいるのだからと勢いで購入した金バッチ。 五千円は大きい出費だったが無駄ではない。 前々からゼミメンバーが飼いゆっくりの話題で盛り上がっているときは、輪に入れずにいた。 その心配もこれからは必要ない。 「へぇ、ゆっくり用品もこんなあんだな……」 お兄さんはネットで飼いゆっくり用品を見ているのだが、これがなかなか面白い。 服や装飾があるのは知っていたが、トレーニング器具や種ごとのオモチャなどユニークなものが溢れている。 もちろん今すぐに買う気はないのだが、こうやって見ているだけでもゆっくりを飼っている気分が高まる。 夢中になっているときは時間を忘れるもので、睡魔に肩を叩かれたときには時刻はとっくに深夜を回っていた。 「やべっ!明日一限じゃねぇかよ!」 慌てて歯を磨き、眠りについたお兄さんはれいむがあれほどうるさく注意した事を忘れてしまった。 お兄さんがれいむとの約束を忘れても――――れいむは空腹を忘れない。 「ゆゆ……ゆっ!れいむがゆっくりおきるよ!」 明け方近くになって目を覚ましたれいむは、カーテンに遮られた朝日の薄明かりの中にあっても正確に餌皿に直行する。 その口端からはポタポタと涎が零れ落ち、まるで足跡のように床をネラネラと滑らせる。 食事とはれいむの全てだ。 れいむの行動、思考は必ず食べることに繋がる。 運動するのはお腹を空かせてより多くのご飯を食べるためであり、眠るのは次の食事まで時間を早送りするためだ。 「ゆぐふっ、ゆぐふふふふふっ!」 れいむは我慢は大嫌いだが、テーブルに着き料理を待っているような、このワクワク感だけは別だ。 要するにれいむは食べるために生きているのであり、れいむにとって食事と幸せは同義なのである。 おいしいはしあわせ、しあわせはおいしい。 「ゆぶふぅ!れいむのぉぉ、すぅばぁむじゃむじゃだいぶ!はっじま――――え?」 だからこそ空の餌皿を見た瞬簡にれいむに走った衝撃は凄まじく、ガクンと下あごを落として数秒固まってしまった。 少し間を空けて、わなわなと震え出す。 「なんで……どうじでごはんざんないのぉおおおおおおおおおおっ!?」 明け方であり、お兄さんはもちろん近隣住民の殆どが眠っているだろう事はれいむに関係が無い。 山盛りで用意されているはずのゆっくりフードが存在しないのだ。 目を見開き大声で叫びながら、れいむがお兄さんの寝ている部屋へと跳ねて行く。 「おにいさんぅうう!!どういうことなのぉおおおおお!!おきてぇぇぇ!!おきろぉおおおおお!!」 そのままお兄さんを怒鳴りつけるが、返事は無い。 仕方が無いから諦めてお兄さんが目覚めてから存分に文句を言ってやろう――――などとれいむが引き下がるはずはなく。 そのままお兄さんに飛び乗ってもみあげで顔をピシピシと叩く。 「ん……なん……?ああ?」 「なんでごはんがないんだぁぁぁぁ!!でいぶおながずいだよぉぉぉぉ!!」 「うおっ!?なんだよっ!ああぁっ!?どけっ!」 「いだっ!いだぃいいいいいいいいいい!!!」 わけもわからず文字通り叩き起こされたお兄さんが、眼前で絶叫するれいむを思わず払いのける。 横っ面を張られ、畳に後頭部から落下したれいむが痛みにあえぐ。 苛立ち気味にお兄さんが上半身を起こす。 窓の外が薄暗い事を確認しまだ起床時間には遠いことを知る。 「なんなんだよ、うっせーな……」 「どうじででいむをぶつのぉおおおおおおおおおお!?おにいぃざんがわるいんでしょぉぉぉぉっ!?」 「ああぁっ!?」 多少の差はあれど人は誰しも寝起きは機嫌が悪い。それが耳元で大声を出されて起こされたのだとすればなおさらだ。 お兄さんはれいむを睨みつけながら理由を問う。 「れいむはちゃんとごはんをよういしてっていったでしょぉおおおおおおおおおお!?」 「あ?メシ?……ッチ、ああ」 お兄さんがようやく餌の用意を忘れていたことに気づいたが、だからといって素直に謝る気にはならない。 お兄さんにとっては些細な理由でこんな中途半端な時間に起こされたのだ。 「メシがネェくらいで騒ぐんじゃねぇよ……!」 「はあああああああああああ!?ごはんさんがないんだよぉぉぉ!?おにいさんはれいぶにあやまるのがふつうでしょぉぉ!?」 「だからウルせぇっつてんだよ!」 「おにいさんこそゆっくりしないでごはんさんをよういしろぉおおおおお!!すぐだぁぁぁぁ!!」 ゆ虐などしたこと無いし興味も無いお兄さんだが、この時ばかりはとっさに手が出そうになった。 そうならなかったのは、餌の用意という飼い主として最低限の役目を忘れてしまった負い目があるからだ。 これが飼い犬で、腹が減ったと吠えて起こされたのならここまで腹が立つことはなかったし、謝っていただろう。 会話のフリが出来るゆっくりだからこその弊害、それをお兄さんはたっぷり味わうことになったのだった。 ――――――結局お兄さんはしぶしぶ餌を用意したが、同時に強制睡眠剤も食べさせた。 かなり強力な薬のため、完食するとすぐにれいむは眠る。 やっと静かな朝を取り戻した部屋でお兄さんはため息をつく。 「はぁ、金バッジつっても所詮ゆっくりか……」 ゼミでゆっくりが自分本位であることは嫌というほど聞かされた。 野良にも絡まれたことはある。だからこそ金バッジを取得させる事がどれほど困難な仕事なのかも理解している。 しかしそのせいで少々期待しすぎてしまったようだ。 飼っている友達達の話では人間の都合を理解し、驚くほど聞き訳がいいとの事だったのだが。 「飼い主の贔屓目ってやつなのかね」 自分はそこまで寛大に慣れそうにないと、お兄さんは覚めてしまった目を無理やり閉じ込め、もう一度布団に入った。 「だでぃ、だーでぃー!おきて、おーきーてー!」 「ん……おぅ……。……おーけー、おはようのチューしてやる」 「うわっ!はーなーせー!んー!」 朝の七時、饅殺男はペチペチと胸をてーに叩かれて目覚めた。 ここは夕栗家、最近の週末はほとんど泊まらせてもらっている。 饅殺男を起こしたてーが次は虐子の上に乗る。 「まみぃまみぃ!おきてー!」 「う……んー!……おはよーてーちゃん」 「うん!おはよー!まみぃ!」 ついこの間まで暑さに辟易していたはずなのに、今朝はかなり冷える。 今年の秋は海外旅行にでも出かけてしまったのだろうか。 この調子では野良はともかく、越冬しなければならない野生のゆっくり達は悲惨なことになっているだろう。 「おはよ」 「おう」 勝手知ったる他人の家とばかりに朝ごはんを準備する。 虐子の両親は二階でまだ眠っている。てーがクリームパンを頬張る。 「今日何時に公園って言ってた?」 「あーっと、確か昼前?十二時頃だったか?」 「じゃあコンビニでお昼買って行きましょうか、ビニールシートでも持って」 「……弁当を作る女子力を発揮してくれないんですか?」 「そんなものはない」 「力強いな」 饅殺男が食べ終わる頃になってもまだてーは半分以上残る菓子パンを抱えている。 やはり顔の周りはクリームでベタベタだ。 「あはは、てーちゃんほらこっち向いて?」 「あ、うー」 「ははっ!ヒゲみたいになってんぞー」 「ひゅひゅさぃー!んー」 顔の周りを拭った後は、少しずつ食べさせてやる。 二人に撫でられながらご機嫌なてーは、気持ち咀嚼スピードを速める。 「うーん、晴れてるけど気温は低いみたいねー」 「風が冷たいってのは勘弁してほしいな」 「だでぃ、じゅーすとってー」 「ん、ほれ」 「ありがと!」 早くもてーの服装を悩み始めた虐子、饅殺男は確認のメールを友人のお兄さんに送る。 昼食まで準備して公園に行ったが、友人が寝坊したためにただのピクニックになりました、なんて事は避けたい。 すぐに返信が来た。しっかり起きていたらしい。 「さてさて、どんなれいむが来るのかなー?」 「愛嬌のある馬鹿ならいいけどな、それなら付き合っていけるんだけど」 「れいむおねーちゃんもくるの!?」 「あー、いつものれいむちゃんじゃないんだよー。新しいお友達……かな?」 「んー?」 今日まで会うたびに友人からいろいろ話を聞いていた。 テレながらそれでも少しだけ嬉しそうにれいむとの生活を語っていたのが二週間前の話。ここ一週間はほとんどが愚痴ばかり。 つまり恐れていたとおりハズレを引いたのだろう。 早くも金のメッキが剥がれてきたらしく、こないだもつい怒鳴ってしまったと聞いた。 「ほんとに、どんなヤツがくるのやら……」 「んー?」 「仲良くできるといいねーって事だよー」 コンビニに寄り道してから公園に到着。 先に着いていた饅殺男と虐子と合流し、二人の飼いゆっくりを紹介されたお兄さんは言葉を失っていた。 「こんにちは!てんこはてーです!」 「ちゃんとですって言えたねー」 「うん!」 希少種だとは聞いていたが、胴付だなんて聞いていない。 胴付ゆっくりと会話すること事態初めてなら、こんなに間近で見るのも初めてだ。 ともかく胴付ゆっくりは高価というイメージしかなかったので、物珍しさからついつい呆け見てしまう。 「えっと、うん、こんにちわ」 挨拶を返すとニッコリ笑って饅殺男の方へと戻っていく。 二人は娘のように接していると言っていたが、確かにそのほうがしっくりくる。 人間用と区別がつかない服を着ている事もあって、幼児にしかみえない。 「お邪魔しますっと」 「はいはいー」 そのまま二人が持ってきたシートに座らせてもらう。れいむはまだキャリーバッグの中で眠っている。 てーと名乗った子は、まさにちょこんなんて感じで饅殺男の胡坐の上に座る。 なんというかいちいち可愛らしい。 本来ペットというものはこういう挙動の一つ一つに癒されるものだったなと、どこか他人事のように関心する。 考えてみれば自分のれいむで笑った事はあるが、可愛いなんて思ったことは一度もない。 「そっちのれいむは?」 「ああーっと、この中で寝てる。……悪いけど多分腹減るまで起きねぇ」 「おーけー」 無理矢理起こしたられいむは騒ぐだろう。それも公園全体に響くような声で。 仕方が無いので先に昼食を取ることにする。それにお兄さん自身てーに興味が出てきた。 少し二人の話を聞いてみようと思う。 「てーちゃんとは普段どんな感じなん?」 「うん?ああ、まぁ普通だよ。一緒に飯食って、風呂入って、ちょっと遊んで、眠くなったら寝る……みたいな」 「遊ぶってどんなことしてんの?」 「あのね!だでぃにのぼるの!でもだでぃがつかまえてくるからにげるの!」 「……ま、こんな感じに」 「すげーな……」 水はゆっくりの天敵の一つだったはずなのに入浴できるとは驚きだ。 姿形の変化以上に、何か根本的に変わるらしい。 「まぁてーが絵本読んでる横で俺はテレビ見てたりするし、常にべったりって訳じゃねーけど……」 「え?字読めんの?マジで?」 「は?」 思わず身を乗り出して聞き返してしまったお兄さん。 ゼミの教授からはゆっくりの自己最優先の思考、友人からはゆ虐用ゆっくり達の理解不能な言い分を散々聞かされてきたので、 ゆっくりが字を理解できるなんてにわかには信じられなかった。 「いや、金バッジなら普通にひらがなくらいは読めるはずだぞ?」 「トシくんとこのれいむちゃんは常用漢字とかはスラスラ読んでたよー」 「……うちのれいむひらがなっていうか、文字って概念すら理解できてないんだけど。変な絵だと思ってる……」 「それってさぁ……」 『ゆっくりフード』と大きく書かれた餌袋になんの興味も示さないのがその証拠だ。 今までゆっくりだからしょうがないと、許してきたれいむの数々のわがままは実はとんでもなく醜い行為だったように思えてきた。 というよりもなぜ目の前の“てーちゃん”はそんなにお行儀よくしているんだ。 ゆっくりでしかも幼いといったら自分勝手に騒ぎ散らし、所構わずうんうんしーしーを撒き散らすものではないのか。 口に食べ物が入っていない時は寝ているか、食べ物を探しているかの二つしかないれいむ。 それを今この場で自分の飼いゆっくりだと紹介するのが急に恥ずかしくなってくる。 「まぁいいや、飯食おうぜ。買ってきたんだろ?」 「ん、ああ……」 「てーちゃんはオムライスだよー」 「やったー!なまえかく!」 「あはは、ケチャップでお絵かきするのはお家じゃないと出来ないよー」 「うい!」 コンビニで温めてもらってから多少時間はたったが、まだ弁当は温かさを失っていない。 蓋を留めている外れにくかったり逆に簡単に剥がれてしまったりするテープを切ると、食欲を誘う臭いが溢れてくる。 それを誰よりも早く嗅ぎ取ったのはお兄さんでも饅殺男や虐子ましてやてーではなく、眠っているはずのれいむだった。 「ゆ、ゆゆゆ……、そのごはんはれいむのだよ……?」 「あ、起きやがったコイツ」 「あ、ホント?てーちゃん、れいむちゃん起きたってー」 「んー?」 「あ、待て動くな、次右手拭くから」 寝ぼけながらもしっかりと所有権を主張するあたりはさすがれいむだ。 もしくは夢の中でも思う存分食事を楽しんでいたのか。 狭い暗いと騒ぐ前にお兄さんはキャリーバックから出してやる。 「ゆゆっ!!ごはんさんがあるよぉおおおおお!!ゆゆ!?なんでおにいさんがたべようとしてるの!? それはれいむのものでしょぉおおおおおおおおお!?」 「あーうるせー!それよりまず挨拶しろ!ほら、わざわざ会いにきてくれたんだぞ」 「――――ゆ?」 そう言われて、れいむが他の飼いゆっくりと会う日であった事を思い出し、お兄さんが指差す方向へと身体を向ける。 ギョロリと目玉を動かすれいむは、てーの姿を捉えると挨拶するよりも先に震える声でお兄さんに尋ねた。 「ね、ねぇおにーさん、まさかこのおちびちゃんがれいむにあわせてくれるっていってたゆっくりじゃないよね……?」 「は?そうに決まってんだろ」 「――――はああああああああああああああああっ!?」 それを聞いてれいむがいきなり大声で怒りだした。 あまりにも突然だったためにお兄さんは勿論、饅殺男や虐子まで驚いてれいむに注目する。 ただてーだけは、そんな両親をぽかんと眺めている。 「おちびちゃんじゃいみないでしょぉぉぉぉぉぉっ!?なにかんがえてるのぉぉぉっ!?」 「静かにしろっ!いきなり叫んでんじゃねーよっ!!」 「はああああああ!?おにーさんがわるいのになにいってるのぉぉぉぉっ!?」 お兄さんは思わず乱暴に押さえつけそうになったが、友人二人とそしてその幼い飼いゆっくりの前である。 何とか自分を抑えつつも恥ずかしさで顔を真っ赤にしながられいむを静めようとするが、れいむは口を閉じない。 「ほんとしんじられないよっ!もういいからはやくごはんさんをちょうだいねっ!!」 「あー、ウッゼ…………ごめん、マジで」 「あー、大丈夫大丈夫、あはは……」 饅殺男と虐子は苦笑いしか出来ない。 れいむは結婚相手を探しに、そう見合い相手を望んでいたのだ。 毎日たっぷり食べられる生活は幸せだが、たっぷり食べられるのならおちびちゃんがいてもいい。 だから美ゆっくりで希少種な夫が欲しかった。自分がさらにゆっくりするために。 「なにしてるのぉぉっ!?はやくれいむにたべさせてよぉぉっ!!」 「ッチ、ほら」 お兄さんがビニール袋にいれておいたゆっくりフードを、同じく持ってきておいた小皿に入れてれいむの目の前に少し乱暴に置く。 れいむはお兄さんの手が引っ込むのも待たずに、皿ごとかぶりつく勢いでフードを味わう。 見ているものの食欲を削ぐ最悪なテーブルマナーに、先ほどから下落の一途を辿るれいむの株はそろそろ便所紙より価値を落とす。 もしもれいむが少しでも空気を読もうとする性格ならば、眉をヒクつかせるお兄さんの静かな怒りに気づけたずだ。 「二人ともホントごめん……てーちゃんも驚かせちゃったよな」 「いやマジで気にしなくていいって。街歩いてると野良が大声で絡んでくるし、てーもこういうのは慣れてるんだわ。 ほら、平気で弁当食べてるし」 「んー?……えへへ」 コンビニで貰えるプラスチックスプーンはてーの手には大きすぎるため、虐子が食べさせている。 お兄さんと饅殺男の視線に気づくと手を振ってニッコリ笑う。 家の中ではないからなのか、普段よりも汚らしい食事を続けるれいむを視界の端に映し、お兄さんはそっとため息をついた。 「なんで同じ金バッジでこうも違うのかね……、やっぱり希少種だから?」 「あーいや、そんな事はないな。トシんとこのれいむちゃんは一緒に映画見て感想語り合えるくらいらしいし……っていうか」 そこでいったん言葉を区切り、この先をどう伝えたものか考える饅殺男。 責めるような口調にならないよう、慎重に言葉を選ぶ。 虐子は何も言わず、スローペースで咀嚼するてーを眺めている。 「実はさ、そのれいむ……ちゃんさ。金バッジじゃねぇんだわ」 「へ?……え?」 さすがにその返答は予想していなかったお兄さんは、思わず握っていた箸を落としかける。 れいむが金バッジではないだと?通常種のゆっくりに五千円も払ったのに? その値段がれいむに甘かった大きな理由だというのに。 当然その先を急かすお兄さん。 「なになに?マジでどういこと?」 「ほら、これてーの……帽子とるぞー?」 「うい!」 饅殺男がてーの帽子ごとついている金色のバッジをお兄さんに見せる。 「あれ、これ確か…………そうだ、加工所のロゴ……!」 「そう、それでお前のれいむがつけてるのにはこのロゴ入ってないだろ?」 「ああ、っていうか比べると全然違うな」 れいむのつけている金バッジは鮮やかな金色をしているが、てーの帽子についている加工所認可の金バッジは光を必要以上に反射しない。 偽者だと聞いてから改めてこの色の違いを考えてみれば、金色である事を過剰にアピールしているのは、つまりそういことで。 客の注意をつけているゆっくりよりもバッジ自体に引きたいからなんだろう。 「普通金バッジゆっくりって聞けば加工所が“このゆっくりは優秀です”って認めたゆっくりの事だと思うだろ?」 「ああ……」 「でも別に加工所の許可取ってなくても、ロゴなしでただ金色なだけのバッジをつけた馬鹿ゆっくりを売るのは可能なんだよ」 「……ああ」 やっと理解できた、自分が騙されていた事を。いや勝手に勘違いしていただけかもしれないが、それでも腹は立つ。 だってそうじゃないか、金バッジと言えば優秀なゆっくりを指すと思うに決まっている。 詳しくない人間はバッジのロゴなんてたいして注目しない。 「ほとんど詐欺じゃねぇかよ……」 「かなり批判もあるし、多分近いうちに取り締まられると思う。 まぁ加工所の高等ゆっくり試験合格証明バッジが、金バッジなんて通称で呼ばれてるからそういうことが起こるんだわ」 「試験名とか知らねぇし……」 「最近じゃあ一般人が一からゆっくり勉強させて、金バッジ取らせるなんてほとんどやんねぇからな。 ……ゼミでもちょいちょい名前は出てたけど」 もう既にれいむの光り輝く金色のバッジがなんとも安っぽいものに見えてきてしまっている。 これでれいむにもう少し愛嬌とか、可愛げがあれば良かったのだが、バッジの事を聞いた今、もはやれいむに対する情は限りなく薄い。 今までの細かいわがままの数々や、そして金バッジだと勘違いしていた事への怒りが混ざり合い、なんとも不快な気分になる。 饅殺男はそんなお兄さんの心境を気遣うように、声と口調を和らげそっと続ける。 「正直、最初に五千円で買ったって聞いたときにおかしいなとは思ったんだわ。 けどもしうまくやれてんなら、余計な事言って水を差すのもどうかと思って気を使ったつもりだんだけど……すまん」 「いや、謝んないでくれ。こっちこそアホな勘違いにわざわざつき合わせてすまん」 「それこそ全然気にしなくていい。 ただ……まぁ、あんま説教臭い事は言いたくねーんだけど、ペット飼うときはもうちょっと慎重になった方が良かったかもな。 特にゆっくりは……さ」 「そう……だな」 お兄さんがその場のテンションに任せてゆっくりを買ってしまった事を今更ながら後悔する。 ゆっくりをペットとして、つまり生き物として扱う以上はそれなりに考えるべきだった。 過去の自分が軽率だったとお兄さんが評価を改めたところで――――ゆっくりフードを食べつくしたれいむが、 いつものように空気を読まず、無駄に大きな声量でお兄さんに強請ってきた。 「ゆうぅぅ、おにぃさぁんっ!れいむまだたべたいよぉ!」 「……これだもんな。言われてみりゃいくらなんでもこれが金バッジはネェな。気づけよ俺」 「はははっ」 お兄さんが自嘲気味に笑う。こんな事を教授に話したら怒られそうだ、それとも逆に笑うだろうか。 もみあげでグイグイと袖口を引っ張っるれいむ。 飼い始めの頃はこれも可愛いわがままと許せたのだろうが、今はとてもそんな気分にはなれない。 それにゆっくりフードは十分な量与えたのだ。 「ほらぁ!おにぃさぁん!あのにんげんさんたちおいしそうなのたべてるよぉぉ!!れいむたべてないのにぃ!」 「お前は自分の食っただろ?れいむ、お前いい加減にしろよ?」 「ゆぅ、ゆぐぐぅ…………」 お兄さんに強く睨まれ、さすがにれいむが怯む。 だがそれでもれいむの食欲は抑えきれない。 それに相手が人間の場合ならばれいむは多少、本当に少しだけ遠慮するのだが、ゆっくりが相手であればその限りではない。 そんなれいむがやっとオムライスを半分ほど食べ終えたてーに気づいた。 「ゆゆうぅっ!!あのおちびぃ!すっごくおいしそーなのたべてるよぉっ!!」 「だからなんだよ、つーかいちいちデケぇ声だすんじゃねぇよ」 「あのおちびからもらうならいいでしょぉぉっ!?おにーさんにもにんげんさんにもめいわくかけないからぁっ!!」 「は?何言ってんだ?」 れいむが考える飼いゆっくりとしての最低限のルールとは、とりあえず人間にはあまり暴力的な行為にでないと言う事だ。 逆に言うとそれさえ守っていればゆっくりするために何をしてもいいと思っている。 当然お兄さんの友人関係など知ったことではないし、他の飼いゆっくりに危害を加えることが、 その飼い主はもちろんお兄さんにも迷惑がかかるという事にまでれいむの思考が及ぶ事はない。 そして何よりれいむの愛して止まないご飯さんを独り占めしているなんて到底許せる事ではないのだ。 「ゆゆぅ!ちょっとまてぇっ!!それいじょうむしゃむしゃするなぁっ!!れいむのぶんがなくなるだろぉ!」 「オイッ!れいむ!マジで黙れよっ!」 お兄さんが我慢できずに声を荒げても、てーに、そして残り少ないオムライスに夢中なれいむにはもう聞こえない。 おちびちゃんにあんなにたくさんのご飯さんはいらないだろう。もっと少なくていいはずだ。 それなのに今なおむーしゃむーしゃしているし、人間さんも食べさせるのを止めない。 そんなのは貴重なご飯さんの無駄遣いだ。それならばとってもお腹が空いているれいむに譲るべきだ。 それをこうしてわざわざ教えてやっているのに、一向に理解する気配が無い。 ――――これだから馬鹿なおちびは嫌なのだ! 「おにぃさんぅ!あいつがぁぁ!!れいむにわけてくれないよぉぉぉっ!!」 「……わかった、お前にも食わせてやるからちょっと待ってろ」 「ゆああああっ!?れいむのごはんさんをどうするきだぁああああ!!」 お兄さんは諦めて強制睡眠剤を飲ませる事を決めた。 興奮しきったれいむの様子に虐子は気を使って一度食事を止め、容器をれいむの視界から外そうとしたが、それは逆効果だった。 れいむは自分の餌を奪われると焦り、激怒したのだ。 ご飯を何処に持っていくきだ、れいむから隠して後であのおちびに全部食べさせる気だろう。 あのおちびは一言もお腹がすいたなんて言っていないじゃないか、れいむはたくさん言った。 それなのにれいむにくれない、あのおちびが食べようとしている。 このままではれいむの、れいむの大事な、大好きなご飯さんが――――――――食べられない。 「ふっざけるなぁああああああああああ!!」 「なっ、おいっ!」 突如としてれいむは猪のようにてーに向かって突進した。 まさかそんな暴挙に出るとは露ほども予想していなかったお兄さんは対応が遅れる。 勢いを殺さず、一切躊躇わずにれいむは咆哮しながら突撃していく。 愛しいご飯さんを強奪したゲスちびの怯えた顔めがけて飛び上がったところで――――――バチン!と饅殺男に渾身の力で打ち払われた。 「いっだぁああああああああああああぃぃぃ!!」 「すまんマサっ!て、てーちゃんは大丈夫かっ!?」 「おお、大丈夫。こっちこそごめん、おもいっきりひっぱたいちまった」 「う、あ、……ふ、ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 「よしよしー、ビックリしちゃったねー。でももう平気だよー」 初めて味わう強烈な頬の痛みに上から下から砂糖水を撒き散らし悶え転がるれいむ。 燃え広がるように大きくなる激痛の中、それでもれいむは必死にオムライスを探していた。 しかし見当たらない、なぜか?それはゲスちびを抱いている人間が隠したからだ。 それだけでは飽き足らず、れいむに暴力まで振るった。許せない、万死に値する行為だ。 「おにいさんぅぅぅ!!このげすどもをせいさいしてよぉぉぉっ!!れいむ――いだぁああああああああ!!」 「…………これはもう無理だわ。申し訳ないけどちょっと席外すわ」 「ん、了解。ソイツをどうするにしろ、まぁほどほどにな」 「いだぃいだぃいだぁぁぁぁぁっ!!はなじでよぉっぉぉ!!いだいぃぃぃ!!」 お兄さんは低い怒りと諦めを顔に浮かべ、れいむの髪の毛を鷲掴みにしながら人気の無い公園の奥へと歩いて行く。 なぜ自分がこんな仕打ちをうけなければいけないのか分からないれいむは、下半身をもわんもわん振り回して抵抗する。 動けば動くほど髪の毛はミチミチ引っ張られ、それが余計な苦痛を生むのだがれいむは止まらない。 「はなぜっていってるでしょぉおおおおおおお!?おにぃさんはじぶんがなにしてるのか、わかってるのぉぉぉっ!? れいむはおにいさんのかわいいかいゆっくりなんだよぉぉぉっ!?」 「もう違ぇよ」 「――――ゆへぇ……?」 頭部の鋭い痛みをこのときばかりは忘れる事が出来た。そんな事に構ってる暇が無いほど、お兄さんは恐ろしい事を言わなかったか? 宙吊りのまま呆けているれいむにお兄さんは自己決定した事実を淡々と宣告する。 「今からそこの林にお前捨てっから。もう飼いゆっくりじゃねぇよ」 「はああああああああああああ!?れいむはきんばっじさんなんだよぉぉぉっ!?すてるなんてっ! だめにきまってるでしょぉおおおおおお!?」 「お前、金バッジじゃないんだってさ」 「ゆはっ!?……なにいってるのぉぉぉっ!?れいむのばっじさんはどこからどうみてもきんいろでしょぉぉぉおっ!?」 「そうだよな、普通そう思うよな。……何が金バッジだクソが」 お兄さんは独り言のように吐き捨てると、歩みを速める。 一向に自分を離そうとしないお兄さんにれいむの怒りは捨てられる恐怖へと変わっていく。 膨れていた頬はしぼみ、目じりが下がり、瞳は左右に泳ぐ。 「お、おにいさんほんとはじょうだんなんだよね……?れ、れいむをびっくりさせようとしてるんだよね……?」 「この期に及んでそう思うほど俺はチョロイと……いや実際甘かったのか」 「も、もしかしておにいさんおこってるのかな?わ、わかったよっ!! あのちびからごはんさんをとりかえしたら、おにいさんにもちゃんとわけてあげるよっ!! れいむはちゃんとおにいさんのことかんがえてあげてるからねっ!ゆうしゅうでごめんねっ!!」 「もういいから黙ってろ」 視線をれいむから外し、ひたすら足を前に前に動かす。 置き去りにするのと直接殺す事がどう違うんだと聞かれれば、お兄さんは答えられない。 どちらも結果は変わらないのはわかっている。それでもやはり自身が手を下す事への戸惑いはある。 だから捨て去る、その後どうなるかは考えない。もう二度と会う事もないだろうから。 れいむのわめき声と共に誰に向けるわけでもない言い訳を考えていたら、公園の端に着いた。 内部と外部を分ける柵から先は緩やかな斜面になっており、その奥には雑木林が広がっている。 まさに境界線である柵の上にそっとれいむを乗せる。 不安定なバランス、体以上に不安で揺れる心情をそのまま表情に出し、れいむがお兄さんに目で縋る。 しかしもはやれいむの姿は瞳に映っていても、お兄さんはれいむを見てはいない。 「……じゃあなれいむ」 「えっ……?ちょ、ちょっとまってよぉおおおおおおおお!!うそでしょぉぉぉぉっ!! ふざけるなぁぁぁぁ!!おにいさんがいなくなったら!れいむのごはんさんはだれがよういするのぉぉぉっ!? れいむおなかすいてるんだよぉぉぉぉっ!?ごはんさんがたべられないとゆっくりできないでしょぉおおおおおおっ!?」 「結局、お前は最初から最後まで食べる事にしか興味なかったんだな……」 「あたりまえでしょぉぉぉっ!?たべるからゆっくりできるんでしょぉぉぉっ!?」 静かに呟いたお兄さんは、自分がまた言い訳をしているだけだという事に気づき、自嘲気味に笑う。 そしてグネグネ揺れるれいむを数秒だけ見つめ――――そっと指でれいむを柵の上から押し出した。 「ゆっ!?ゆわあああああああああああああああああああああああ!!どまらない!!!!たずげでぇえええええええええ!!!」 れいむがころころと緩やかな雑草の上を転がり坂下へと遠ざかっていく。 滑稽なその様子とは裏腹に、泣き叫ぶれいむの形相は酷く歪み、土と千切れた草で荒れる。 「ひぃいいいいいいいいい!!ゆっぐりぃゆっぐりぃいいいいいいいいいい!!」 お兄さんはれいむの悲鳴に背を向け来た道を引き返す。 直前のれいむの許しがたい暴挙の数々のせいか、あまり罪悪感は無い。 「ただいま、れいむ捨ててきたわ」 「…………ん、そっか。蓋は閉めてきたか?」 「うん?よくわからんけど、まぁあいつは騒いでたな」 饅殺男と虐子の間で手を繋がれながら、ぴょんぴょん跳ねているてー。 二人が腕を上に伸ばすだけでてーは宙に浮く、それが楽しくて仕方が無いらしく歌うように笑っている。 羨ましい、素直にお兄さんはそう思った。 「はぁ、ツイてないわ」 「ドンマイ、だな」 「痛い出費だよねー、でもそのお店も酷いよね」 饅殺男も虐子も運やれいむだけでなく、お兄さん側にも原因があった事を承知の上で気休めを口にする。 確かに大学で野良の生態、人間への悪影響、関連の条例は学んでいる。 だが野良ゆっくりと飼いゆっくりは違う。 それは食べ物や住まいといった表面だけではなく、思考や性格といった内面まで、いっそ種類が違うといっても過言ではない。 それほどゆっくりが人間に合わせて生きていくというのは大変な事のなのだ。 それこそ生まれつき価値観を人間よりに形成していかなければとても耐えられるものではない。 銀バッジは人間との生活の中で何かしら我慢している。どうしてもそれだけはゆっくり出来ないと思っていることがある。 我慢は積み重ねていくといずれ崩れるか、天井につっかえる。 例えば食事の時間が不規則である事や、飼われている以上制限される自由など。 金バッジは我慢が飼い主をゆっくりさせることが出来ると教えられている。そう思えるように育てられている。 だからこそそれらの制限を受け入れられるのだ。飼い主と互いにゆっくりさせ合っている事が理解できるから。 頭がいいから金バッジなのではない、ペットとして優秀だから金バッジなのだ。 それを知らず、また自身のライフスタイルを考慮しないでゆっくりを飼ったのだから、失敗は決まっていたようなものだった。 「まぁ、勉強代だと思ってさ。もう衝動買いは止めようぜ?」 「十分懲りたわ、二度としねぇよ」 「ゆっくりはホント、種類も性格も色々だから、しっかり選ばないと飼えないからねー」 「半月前の俺にぜひ教えてやってくれ……はぁ……」 頭をかきながらお兄さんはシートに座り込む。 すると両親に振り回されていたてーが、勢いあまってよたよた飛ばされてきた。 それをそっと受け止めると、感触は柔らかいのにしっかりとした重さが備わっている事がわかった。 「あうっ!!……あ、ごめんなさい……」 「痛くなかった?」 「うん!ありがとー!」 そっと頭を撫でてやると笑顔を見せてくれる。 てとてと二人の下へ帰っていくてーを眺めながらお兄さんは饅殺男に尋ねた。 「なぁ、てーちゃんがいた店教えてくれよ。そこなら大丈夫だろ?」 「おいおい」 「いや、さすがに今から買いにいくわけじゃねーよ。金もねーしな。 ただれいむのせいでもうゆっくり飼うのが嫌になったってのも、なんか悔しいだろ」 「なるほどね。でも今度はマジでちゃんと考えろよ?店員さんかなり親切だから相談してみ?」 「ああ」 近くならこの後見に行くのもいいかと、早くもお兄さんはその気になっていた。 結局彼は“本物”の値段に驚愕し、しばらくバイトを増やす事になるのだった。 突き落とされたれいむは未だに叫んでいた。姿の見えないお兄さんに向かって。 涙と泥と雑草が張り付いた顔よりもさらに汚い言葉を吐き続けている。 「ぐぞおにいぃいざんぅぅううううう!!はやぐもどっでごいぃいいいいいいいい!!ふざげるなぁあああああ!!」 大声をあげながら坂を駆け上がろうとするが、数回跳ねた所でずるずると重力に引っ張られ、元の場所まで戻される。 それでも諦めるわけにはいかない。絶叫し、もみあげを振り回し、お兄さんを罵倒する。 このままではれいむは口にするだけで嫌悪感が溢れてくる野良になってしまうではないか。 恐怖と不安が吐き気という形で表に出ようとする。 「ゆげぇぇぇぇぇっっ!!ゆぼぇぇぇぇぇぇっ!!おにいざっ!!おにいざぁぁぁぇぇえええええ!!」 ドロドロの体内餡に咽ながらもれいむは叫ぶ事を止めない。 嫌だ、野良は嫌だ、野良なんかになりたくない。 焦れば焦るほど視界は歪み、不安が呼吸を妨げる。 徐々に目が霞む。 このまま意識を手放したくなるが、そうすると次に目覚めたときには手遅れになっているであろうことを、漠然と理解している。 「おねがいじまずぅううううう!!もどっでっ!たずげぇっ!!だずげでぐだざいぃぃっ!!おにいざぁあああああああんっ!!」 れいむの怒声は無意識のうちに懇願に変わっていた。 殴りつけるような声から足元にねっとりと絡みつくような声になり、人気の無い雑木林にむなしく響く。 どんなに勢いをつけても斜面を登りきることは出来ないし、振り返った先の木々の迷宮は薄暗く、 踏み入れれば二度出て来れそうにないと思わせる雰囲気がある。 ガチガチ、カチカチと震えるれいむの歯が一定のリズムを刻む。 「やだよぉぉ……のらはいやぁだぁ……!ゆげっほっ!!おえぇぇぇぇぇえっっ!!」 喉が破れそうになるほど叫んでも、柵の上にお兄さんの姿が現れることはなかった。 それでも口に餡子の泡を露出させ、何度も何度もれいむにとっては絶壁に等しい斜面に挑戦する。 転げ落ちそうになれば数本の草に齧りついて耐えるが、腕も足も無いゆっくりでは無駄なあがきだ。 そんな事は百も承知でれいむはしかし口から力を抜く事が出来ない。 遠い遠い山頂へとあまりにも短いもみあげを伸ばし、なんとか、なんとかして公園に、お兄さんの所へ―――― 「ゆわぁぁぁぁぁぁっ!!!」 ブチンとあっけなくれいむがしがみ付いていた雑草は千切れ、再びれいむは自身の涙で濡れた地面の上に転げ落ちる事となった。 「ゆげぇぇっ!!げふっ!!」 何度も揺さぶられた中枢餡へのダメージは決して無茶を通せるほど軽くは無い。 最後に大きく餡子を噴出し、れいむはたれ流した排泄物と吐瀉物の海に潰れこんだ。 あれからしばらくたって目を覚ましたれいむは、また斜面を登ろうと試みたがもはやそのような体力は残っていなかった。 倒れこむように上を見上げても当然お兄さんが自分を呼んでいるなんて事は無く、ただ遠くで誰かの笑い声だけが微かに聞こえた。 最後に一度だけ自分はここだと叫んでみたが結果は同じだった。 ゆっ、ゆっ、ゆっ、と涙を落としながら斜面に沿ってれいむはのろのろと進んでいく。 このまま同じ場所に留まっていてもゆっくり出来ないのは分かる。 だからといって何処へ向かえばいいというのか。 “ゆっくり”と自己暗示のように呟きながられいむは歩き続け、いつの間にか大通りに出ていた。 「ひっぐぅ……ゆっ、ゆっぐぅぅうううううう!!」 夕方の街はそれなりに賑やかで、れいむの目にも多数の人間が映っている。 当たり前だが呆然と立ち尽くしているような者は一人もいない。皆目的を持って移動している。 それが――――ひどくれいむの不安を煽った。 「どうしよぅ!!れいむどうしよぉおおおおおぉぉっ!!どうすればいいのぉぉぉぉっ!?」 いくらお気楽ゆっくりとはいえ、ここまできてお兄さんが自分を迎えに来てくれる事を期待するほどれいむは馬鹿ではない。 しかしれいむは眠って歌って時折覗いてくる人間を無視していれば店員がご飯を持ってきてくれる生活と、 眠って歌ってよく勝手にいなくなるお兄さんにご飯を持ってこさせる生活しか知らない。 そんな快適な室温と柔らかな布団と食事の保障、そして何よりも大事な保護者の庇護を突然奪われ、冷たいコンクリートに放り出されたのだ。 誰に助けを求めればいいのかわからない。どう助けを求めればいいのか分からない。お腹は空いている。 何かしなければゆっくり出来ないという、身を内側から突き刺されるような不安だけが強くなり、焦るばかりで考えがまとまらない。 お腹は空いている。 「ゆひぃぃっぃぃぃ、だ、だれかぁぁぁぁぁ!!だれかきてよぉぉぉぉぉっ!!」 街の人々はゆっくりが叫んでいる程度でわざわざ注目したりはしない。 ビラ配りの人間に見せるのと同じ反応で、近づきはしないが必要以上に遠ざかるわけでもない。 無関心、それは野良と長く接してきた街が出した一つの答えだった。 「ゆっぐ、おうちぃ、れいむのおうちぃぃぃ!!」 帰ろうにもどちらへ進めばいいのか。距離はどれほどなのか。 頼る相手がいない事がこれほどまでに恐ろしいとは思わなかった。 全てに依存してきたれいむにとっては目や耳といった五感を奪われたに等しい。 見えないから動けない、聞こえないから分からない。 「はっぐぅ、うっぐぅぅぅぅ……ゆひゅー、ゆひゅぅぅぅぅ」 深く深く息を吸い込み、必死で落ち着こうとする。 まずは考えなくてはならない。 どうにかしてお兄さんのいるれいむの家に帰るか、新しい飼い主を見つけるか。 それが出来なければ野良――――最低のゆっくりだ。 それだけは絶対に嫌だ。 「だ、だれかぁっ!!れいむをかってぇっ!!だれでもいいからぁあああああ!!」 れいむは新たな飼い主を探す事を選んだ。お兄さんの家へ戻ろうとするよりはマシな選択ではある。 自分は野良ゆっくりなんかとは違い清潔で美しい。そして何より自分にはそう、金バッジさんがついているのだ。 「みてぇぇっ!!れいむはきんばっじさんなんだよぉぉぉっ!!れいむゆうしゅなんだよぉぉぉぉっ!! おにーざんでもおねーざんでもゆっぐりさせてあげるよぉぉぉぉっ!!」 確かにれいむのお飾りには金のバッジがついている、それは多少泥がついたところで色褪せたりはしない。 ただ他ならぬれいむがそれを否定してしまっている。 街中で叫ぶようなゆっくりが優秀なわけがない、もし仮に金バッジだったとしても捨てられる理由としては十分だ。 人々の目にれいむの行為は自身の無能を叫んでいるとしか映らない。 「ねぇぇぇっ!きいてるのぉぉぉぉぉっ!?きんばっじさんのれいむがかいゆっくりになってあげるっていってるんだよぉぉぉっ!?」 とはいえそういった事情などれいむには知る由も無い、誰でもいいから自分に注目しろとわめいて近づいていく。 そんなれいむを止めたのは狂声に腹を立てた人間ではなく、少なくともれいむよりは街に詳しい――――そう野良だった。 「ゆぶへっぐぅぅぅっ!?」 パスン!と横からひっかけるようにれいむに身体を当てた野良は、振り返らずそのまま跳ねて行く。 体制を崩し床に突っ伏したれいむが顔を上げるころには、建物の隙間へ引き込んでいく犯人の後姿が見えるだけだった。 怒りで餡子が熱くなる、邪魔された。れいむの飼い主探しがよりによって野良なんかに邪魔された―――― 「ゆっざけるなぁぁぁっ!!どうしてじゃまするのぉおおおおぉっ!!しっとはゆぐぅっ!!いだぁぁぁっいぃ!!」 また当てられた、今度は逆側から。 しかも別の野良だ。軽く舌を噛んでしまった。痛いし腹が立つ、なんて醜い嫉妬なんだ。 れいむは元いた場所へ戻ろうとしてるだけだ。それを自分達は飼いゆっくりになれないからと妬んで邪魔するなんて。 どこまでコイツらはゆっくりしていないんだ! 「ぐっぞぉぉぉぉっ!!ぐぅぅ!!にんげんざぁんっ!!だずげでぇぇっ!!のらがいじめぶぅぅぅっ!!ぐっ!ゆぶっ!!」 今回の一撃は重かった。 野良に攻撃されている事を利用して同情を引こうと人々の足元へ這う無防備な背中を、思いっきり突き飛ばされた。 れいむはコンクリートの上を転がり、うめき声を数回漏らした後に止まると、グネグネと体内餡を動かして悶えた。 この痛みはしばらく治まりそうも無い。霞む視界で恨みを込めて去っていく乱暴者を睨む。 しかしそのまりさだけは、ゆっくりと自分で吹き飛ばしたれいむに近づいてくる。 「なんでぇ……?どうじでごんなひどいごとできるのぉ……?」 「つぎにさわいだらころしてやるのぜ」 「ゆぇ……?」 それだけ言うとまりさは他の乱暴者と同じように去っていった。 ――――懇願だろうが要求だろうがどう喝だろうがジョークの披露だろうが関係ない。 馬鹿なゆっくりが人間を刺激する。これほどそこに住む野良達にとって迷惑でそして恐ろしいものはないのだ。 確かに大抵の人間は無視する、それこそいきなり加工所職員が飛んでくることなど有り得ないだろう。 しかし一人でも暇な人間、潰す事を楽しむ人間が、不快感に押されて街の野良の数を少し減らす事に時間を割く決心をしたとしたら。 それは野良ゆっくりにとって余計な犠牲であり、負う必要の無い危険だ。 彼らは自分達の境遇が人の手によって向上する事を諦めている。 だからせめてこれ以上過酷にはしないで欲しい。 悪意も好意もいらない、このまま無関心で現状維持を貫いて欲しい。 自分達を放っておいてくれ、それがれいむを突き飛ばした野良達の総意だった。 「もう……なんなのぉぉっ……?なんなのぉぉぉぉぉっ!!!」 いよいよ何も分からなくなってれいむは言葉を失い、遠ざかる背中を眺め続けた。 そしてようやく気づいた、自分を見張る複数の冷たい視線に。 建物の隙間、看板の下、植木の中、場所は違えどその全てがれいむを見ている。 殺す――――あのまりさはハッキリとそう言った。 「ひっぐぅ……ゆっぐぅぅぅ……!!」 痛めつけられた身体をかろうじて操作しながら、れいむは路地裏を目指す。 あそこまで明確にそして強烈に警告されて、それでもまだ大声を出せるほどれいむは馬鹿でも強くもない。 ずるりずるりとお腹を引きずってれいむは街の影へと逃げていく。れいむの知らない――野良ゆっくりの領域へと。 そうしてれいむは暗い暗い路地裏で隠れるように泣いた。 殺すと言われた、そして実際れいむにとっては死ぬほどの痛みを味わった。 怖くて痛くて涙が止まらない。 だがそれよりも問題なのはこれでもう新しい飼い主を探す事が出来なくなったという事だ。 もちろん時間を空けて他の場所で試す事は出来る。 野良ゆっくり達の注意を引かずに人間だけの注目を集める事が出来ればの話だが。 その前に夜が来る。勝手の分からないこの場所でゆっくり出来るおうちも無しに一夜を明かさなければならない。 それが恐ろしくて仕方がない。そして何よりお腹がすいている。 「ぎゅぶべぇぇぇぇ、べへぇぇぇぇえっっ!!」 本当なら今頃はいつものお皿に大盛りでよそられたご飯さんをたくさんむーしゃむーしゃしてるはずだったのだ。 それがどうして、本当にどうしてこんな事になってしまったんだ。 れいむは何も悪い事していない、本当だ。ただゆっくりしていただけなのに。 それをゲスちびが邪魔した、ゲス人間が邪魔した、ゲスな飼い主が邪魔した、ゲスな野良が邪魔した。 ――――みんなみんな、れいむの邪魔ばかりする。 「くそぅぅぅ!!ゆぐそぉぉぉぉぅ!!」 悔しさが溢れて止まらない。なぜこんな理不尽な目にあわなければならない。 全ての責任を外に押し付けながら硬い足元を濡らし続けるれいむに、今日になって初めて同情が混ざった声がかかった。 「……にんげんさんにすてられたのぜ?」 「ゆばばべえ?だ、だれなのぉっ!?れ、れいむは」 「びびんなくていいのぜ。で?ばっじさんもってるのにすてられちゃったのぜ?」 「ゆ、ゆぅぅぅ!!ぞうだよぉぉぉぉ!れいむゆうしゅうでとってもいいこだったのにぃぃ!!」 突然話しかけてきたまりさが、自分の言葉に耳を傾けてくれそうだと思った瞬間にれいむの口は勝手に動いていた。 誰でもいいからともかく話を聞いて欲しかった。溜まったものをぶつけさせて欲しかった。 れいむの口は止まらない、どれだけ残酷な事をされたのか、どれほど不幸な一日を過ごしたのかを語り続ける。 「それでぇぇ!れいむはごはんさんをそまつにするのがゆるせないからぁぁっ!!だからたべようとしたのにぃぃ!! おにいさんがおこってぇぇぇっ!!れいむにひどいことしたんだよぉぉぉぉっ!!!」 「……………よくあるはなしなのぜ」 「ゆゆゆぅっ!?れ、れいむかわいそうでしょぉぉぉぉっ!?」 その長い舌で音を鳴らすとまりさはおさげで壁を叩いた。 人間の身勝手には生まれてから何度も何度も無理矢理つき合わされ、我慢に我慢を重ねてきた。 それでも一向に復讐の機会は来ない、恐らく、この先も無い気がする。 ――――それにしても本当に人間はろくなことをしない。 勝手に飼って、中途半端に世話して、飽きたら捨てる。 このれいむは三日も生きられないだろう。人間がそれを分からないはずはない。 死んでもかまわないと思っているのだ。それとも死んでくれと願っているのか。 ふざけている、何でもかんでも思い通りにさせてたまるか。 「ついてくれば……おしえてやってもいいのぜ」 「ゆえぇ……?」 「どうせいくあてなんてないのぜ?すこしだけせわしてやるのぜ」 「ゆぅ……」 もとより途方にくれていた身だ。れいむに選択の余地など無い。 まりさの顔を背けたくなる臭いは正直堪えるが、自分を助けてくれるらしい。 言われるがままにまりさの背中について行く。 狭くて汚くそして固い道をあんよの皮をすり減らしながら跳ねる。 建物のせいで光の入らない路地裏は薄暗く、そしてこの狭さでは人間は入って来れない。 れいむは飼いゆっくりに戻りたいのに、これでは逆にどんどん野良に近づいているみたいじゃないか。 「そこがまりさのおうちなのぜ」 「え……?どこ……?」 れいむの目の前には何も無い。太いパイプと灰色の壁と汚れた床とゴミの小山。 その中に家のドアらしきものを探すが見つからない。 まりさは答えずに壁の窪んだ部分に身体を落とす。 「れいむもすわればいいのぜ」 「は……え……?おうちって……いったでしょ?ゆぇ……?」 「ここがまりさのおうちなのぜ?」 「は、え……?うそ……でしょ……」 このれいむのトイレよりも酷い臭いのするこの場所がおうち? 屋根すらないじゃないか。 野良の生活がゆっくり出来ない事はもちろん知っている。 知っているが――――おうちは生きていくためにかかせないものだ。 だがこのゴミの、汚染された、いるだけで悪臭が染み付きそうなこの最悪な場所は、その最低レベルを大きく下回っている。 今すぐにでもこの場を離れたいが、号泣するお腹が引き止める。 「ま、まりさ!れいむをたすけてくれるっていったよねっ!」 「たすかるどうかは、れいむしだいなのぜ。まりさがこれからのらの――――」 「じゃ、じゃぁごはんさんをちょうだいねっ!!れいむすっごくおなかがすいてるんだよっ!!」 まりさの野良として最低限のルール講座はその序盤でれいむの食欲によって遮られた。 耳があったら塞ぎたい。まりさの心境を代弁するならこれしかない。 まずはこの大声をあげるクセを矯正する必要があるなと首を振り、まりさは食料を入れているビニールをおさげでつかみ出す。 「もちろんぜんぶじゃないのぜ、それにくちにあうかどうかもわからないのぜ?」 「ゆっ……そ、そうだね。……でもれいむおなかすいたんだよ」 「ふん」 飼いゆっくりだったれいむはさぞかしイイものを食べていたのだろう。 臭いだのマズイだの言うに決まっている。 だが最後には空腹に耐え切れずに食べるはずだ。 その時もまた大泣きするだろうが、脳内と現実のギャップを埋めるにはなかなかいい薬になる。 ここではお飾りについてるキラキラのバッジは何の役にもたたないのだから。 「じゃ、じゃあはやくだしてねっ!!もうれいむはたくさんたべてなくて、たくさんおなかぺーこぺーこなんだよっ!!」 「はん!じゃあえんりょうせずにたべればいいのぜ」 「ゆふふふ…………ゆっ!ちょっとなにするのっ!!」 まりさがれいむに向かって食料――――生ゴミに雑草が混ざった物を放る。 ペチャリと音を立て、仰け反ったれいむに飛沫がかかる。 不快感をあらわにしながられいむが吠えた。 「いきなりごみなげるなんておかしいでしょぉぉぉっ!!れいむをばかにしてるのぉぉぉぉっ!?」 「そういうとおもったのぜ」 「はあああああああああ!?ねぇぇっ!!からかってるならもういいよ!!」 「ははっ……ふん」 まりさは軽く笑ってれいむの足元にあるソレを舌ですくって口にいれた。 「え……?」 「むーしゃむーしゃ、ふん、それなりってやつなにのぜ」 「な、なにしてるのぉおおおおおおおおおおっ!!」 「ごはんさんにきまってるのぜ」 さも当然のように言うまりさの口内では今も生ゴミと草のブレンド品がすり潰されている。 ネチネチョとした音がれいむの皮から中身に響く。 食べているのだ。腐臭がする、汚物としか言いようが無いアレを。 意識してしまうと強烈な吐き気がこみ上げてきた。 「ほ、ほんとうに……なまごみをたべてるの……?うそでしょぉぉぉっ!? だってっ!そんなっ!!なまごみをたべてるっていうのは、わるぐちじゃなかったのぉおおおおおお!?」 「は!ずいぶんしあわせなあたまをしてるのぜ」 叫ばずにはいられない。どうしてあんなものを口に入れて飲み込むことができるんだ。 断言してもいい、絶対にれいむのうんうんの方が綺麗だ。 “生ゴミ漁り”だなんて野良への蔑称だと思っていた。 それか人間の捨てた道具でおうち作るためにゴミを漁るのだろうと。 れいむの認識は甘かった。 ここまで醜い生き物が存在しているなんて! 「なんでなまごみなんてたべてるのぉぉぉぉっ!!おかしいよぉおおおっ!!」 「ほかになにたべるのぜ?」 「はぁぁぁぁっ!?そんなのふーどさんとかぁぁぁっ!!たいやきさんとかぁぁぁっっ!!いろいろあるでしょぉぉぉっ!!」 「ゆ………ははっ!ゆっはっはっは!!」 れいむの声を跳ね返すような笑い声は、もちろんまりさから放たれている。 大げさに、おさげで身体を叩きながらお腹をそらす。 挑発されているようにしか思えないれいむは一瞬で怒りに火がつく。 「なにわらってるのぉぉぉぉっ!!れいむは――――」 「そんなものどこにあるのぜっ!!!!」 「ひっぇっ!!」 れいむが思わず命乞いしてしまいそうな迫力があった。 それほどまりさの変貌は一瞬で圧倒的なものだった。 声だけではなく表情も険しくなり、戦闘態勢と言ってもいいほどだ。 「……これがいちばんいいものなのぜ。これだってたくさんみつけるのはむずかしいのぜ」 「う、うそでしょぉっ!?だ、だってこんなの、たのまれたって!ゆぅぅ……」 「ふん、ならいしでもすなでもくってればいいのぜ。 ああ、それともあまいくささんがみつかるまで、てあたりしだいたべるってのもいいのぜ。 みつけたらぜひおしえるのぜ?もっとも、へたなものたべるとまりさでもしんじまうからちゅういするのぜ」 「ゆっぐぅ……!」 反論してやりたい。草や生ゴミが小石や泥とどう違うのだと。どれも食べられる代物ではないはずだ。 しかし現に目の前のまりさは食べた。 別段おいしそうだとか幸せそうではなかったが、辛そうではなかった。 毎日食べているという言葉は真実なのだろう。 だがれいむにはとても無理だ。 口に入れるどころか舌で触るのももみあげで掴むのも絶対に嫌だ。 「ま、まりさ!れいむには、ちょ、ちょっとこれはむりだよ!!だからまりさのおやつをちょうだいねっ!」 「ゆあ?なにいってるのぜ?おやつ?」 「ゆゆっ!?かくすきなのっ!?だってれいむはこんなのたべれないんだよっ!!しょうがないでしょっ!?」 「――――れいむ」 「ゆひっ!!お、おこらないでねっ!だ、だって……れいむは、そ、その、きんばっじさんだし……」 ジロリとまりさが睨むとれいむが二歩後退する。 怯んだが食事に関することにだけは強気なれいむはなおも食い下がる。 こんなものだけで生きていけるわけが無い。本当は何処かにあまあまを隠しているはずだ。 これが金バッジを名乗るれいむの推理である。 「どこにかくすっていうのぜ?」 「ゆへ?」 「このおうちのどこにかくすところあるっていうのぜ?」 「そ、それは……」 家具も屋根も隣家との区切りすらないまりさのおうち。 勿論、何かを隠せるような物は置いてないし、そもそもまりさはあまあまなど持っていない。 「じゃ、じゃぁおぼうしのなかとかに……」 「ふん」 おさげで器用に自分のお帽子を半回転させ、れいむに何も入ってない事を確認させる。 まりさが帽子を外した瞬間に漏れた臭いでれいむは顔をしかめたが、帽子の中身を覗き信じられないという顔でその場にへたりこむ。 「な、ないの?ほ、ほんとうにないのぉぉぉぉっ!?」 「そんなものあったらとっととくってるのぜ」 「ゆ、ぐふぅぅぅぅっ!!れいむおなかすいてるのにぃぃ!どうしよぉぉぉぉ!!」 こんなにも長時間自分のお腹を泣かせ続けていた事は無い。 しかも生ゴミとはいえ他ゆんの食事を同じ席で眺めていたのだ。 自分の料理が運ばれてきていないのに店を出てたまるか。 しかし、今のれいむの要求は例えるなら、高校生の文化祭の出店で満願全席を頼むようなものだった。 「で?どうするのぜ?いらないならまりさがぜんぶたべるのぜ?」 「ゆぐっ!!あうっ、ぐうっ……」 「いちおうこんなんでもうばいあうこともあるのぜ。もっとはっきりいうのぜ? これくえないなら、まちでくえるもんなんてないのぜ」 「そ、そんなぁぁぁぁっ!?」 今日はもう一生分の驚きを使い果たした。 そのせいで余計にお腹がすいた。チラリと散らばる最高級品だと言われた水っぽいソレを見る。 見た目以上に酷い臭いがするが、もしかしたら味は案外マトモなのかもしれない。 そんな事を考えてしまうくらいにはれいむは追い込まれていた。 「ま、まりさ、それはもしかしてとってもおいしいの…………?」 「ふん!そんなわけないのぜ」 「ゆぐぅぅぅぅぅ!!!」 恐る恐るれいむは悪臭の元へ近づいて行く。 強烈だ、頭が痛くなってくる。そして実に汚く、そして時折何か動いているように見える気がするのが余計に気持ち悪い。 これを食べようとしているのか自分は? 「むりだよぉぉぉっ!!こ、こんなのたべられないよぉぉぉっ!!」 「じゃぁ、しぬのぜ?」 「やだよぉぉぉぉぉぉっ!!」 泣きながられいむが舌を伸ばしていく。 れいむはそれなりに甘いゆっくりフードを毎日食べて生活してきた。 人間のおやつもチョコレートから、ドーナッツ、たい焼きなど、メジャーなものは大抵食べた事がある。 味覚が人間寄りならば当然、好みや食への意識も同じようにひっぱられる。 ――――つまり、突然ジャングルの奥地に放置され、数日間絶食した人間は果たして腐りきった生ゴミを食べるだろうかという話。 幸いな事にそんな極限状態に追い込まれた事は無いので分からないが、少なくともれいむは食べようと思ったようだ。 「ゆぐっ、ゆげぇぇぇぇぇっ!!ずっばいよぉぉぉっ!!」 「……がまんするのぜ。それくらいじゃ、しにゃしないのぜ」 「ひっ、ひぶぶぇぇぇぇっ!!ゆべぇぇぇぇぇっ!!」 舌を夏場地上に出たミミズのように動かしながら、れいむは“食べ物未満”に挑戦する。 餡子脳ごと吐き出しそうになる嫌悪感なんて初めだ。 まだ飲み込んでもいないというのに。 舌の感触が粘りつくソレにそのまま汚染されていくようで嫌だった。 涙が止まらない、力を入れすぎたもみあげが小刻みに震える。 「べべぇぇぇっ!!べっげえっぇえぇぇぇっ!!」 「さっさとくちのなかにもってくのぜばか!なんどもなめるほうがつらいにきまってるのぜ!」 「ゆぐふぅぅぅ!!ゆぐふぅぅぅっ!!」 あまりにも哀れな様子に見かねたまりさが助言する。 その意見には賛成なのだが、こんなにも苦い物を一気に口に放り入れる覚悟が一瞬で決まるわけが無い。 助けを求めるように涙腺が全開の目でまりさを見るが、覚悟を促してくる。 ためらう舌が何度も口を往復する。 「ゆっぐぅっ!ほ、ほがのごはんざんはぁ」 「ないのぜ!ほかはもっとからくていたいいたいのぜっ!」 「ゆべええええええええええ!!ひぐぅぅぅ!!」 「ほらっ!!はやくかきこむのぜ!!」 涙で視界がぐちゃぐちゃで、苦しくて痛くてうまく考えられない。 それなのにまりさは急かしてくる。 食べてしまえば全てから解放される気がして、れいむは夢中で一塊、舌でからめて押し込んだ。 「ゆぼっへええええええっっ!!がっほっ!げっほっ!!ゆべぇぇぇぇぇ!!」 「ふん、とうぜんなのぜ」 噛むとか、あまり舐めないようにしようとか、そんな余裕は一切無かった。 感じたのは痛み、“痛味”とでも呼べばいいのか。まるで無数の針を口内に突き入れたかのようだった。 全身が全臓器が一体となって吐き出すために協力した。 餡子がまとわりついた生ゴミがビチャビチャと地面に広がる。 「ゆげぇぇぇっ!!おえげぇえっぇぇぇっ!!」 「……たえるのぜ。ともかくいっかいぜんぶはくのぜ」 「ゆべぇぇぇぇっっ!!えげぇ、うぇぇぇぇ!!……ゆはぁっ!ゆばぁぁぁっ!!」 吐瀉物であんよを汚したれいむの荒い呼吸を、まりさは何も言わずにじっと聞いていた。 そしてれいむは後ろに倒れこむと、もみあげをばたばた振って泣きわめく。 「むりだよぉおおおおおおおお!!むりぃいい!!!」 「おちつくのぜ」 「おちつけるわけないでしょぉぉぉっ!?ごばんじゃんがぁっ!!ごばんざんがだべれながっだんだよぉぉっ!?」 「よくみるのぜ、ほら。れいむのあんこがついてるのぜ」 「はぁぁぁぁっ!?だからぁぁぁっ!?くるしかったんだよぉぉっ!?あたりまえでしょぉぉっ!!」 吐いた生ゴミにはれいむの体内餡が付着している。 「それならたべれらるはずなのぜ」 「ゆ……!?あ、で、でもきたない……」 「いまさらそんなことくちにするのぜ?いいからもういちどたべるのぜ!さっきよりはましになってるのぜ」 自分が吐き出したものを再び食べるなんてゆっくり出来ないが、それを言うならそもそも食べようとしているものがものなのだ。 改めて考えてみると信じられない。どうして、本当にどうしてこんな事になってしまったのだろうか。 これではまるで野良ゆっくりそのものだ。自分は誇り高き金バッジ、飼いゆっくりの中でもさらに優れたゆっくりなのに。 それがどうして――――飢え死にの心配なんてしなければいけないんだ。 「ゆぶっ、ゆべぇぇぇぇ……やだよぉぉっ!!なんでれいむがぁぁっっ!!!もうやだぁぁぁっ!!」 「ここまでやってあきらめるのぜ!?たべればすくなくともおなかはふくれるのぜ!」 「ぐっ、おなか……!ゆっ、ゆぅぅっ!!ゆがっ!!ゆがぁぁぁっ!!ぐざぃぃっ!!むじゃっ!がじゅがつ!」 半ば自棄になったれいむは舌を使わず、地面ごと噛み砕く勢いで生ゴミの餡子がけに喰らいつく。 嫌悪感が舌を操って押し戻そうとするが、我慢できる。たしかに針で刺される痛みは無くなった。 だが今度は布を飲む込むような息苦しさが続く、味なんて一つではないからわからない。 「ゆぐっ、ゆぼぉぉぇぇっ!!」 「のみこめ!くちをとじるのぜっ!!」 「ゆぐっっ!!…………んっ!!…………ぜはっ!ゆはっ!!」 何とか飲み込んだれいむが大きく息を吐く。 大好きな食事を終えた後だというのにその表情は歪み、未だ涙は止まらない。 今までの幸せだった食事が全て否定されたような気がする。 「はじめてのごはんさんは、みんなそうなのぜ」 「ゆ、ゆえ……?」 「まりさも、おちびのときはくるしくていっぱいはいちゃったのぜ」 「まりさ……」 にっこりと初めてまりさがれいむに笑いかけた。 お腹は苦しい、どう考えても幸せな気分ではないがそれでも空腹は和らいだ。 それは確かだ。れいむは少し迷って、礼を述べた。 「ゆ……その、ありがと、まりさ」 「きにするななのぜ。まりさはにんげんがきらいなだけなのぜ。……おみずさんでも――――」 「ぎっ!?がっげっ!!ゲベヒッ!クヒッ!ユゲェッ!ゲゲゲッ!」 「――――れいむ?れいむっ!?どうしたのぜっ!!れいむっ!!」 突然れいむの身体が激しく痙攣した。 目から黒が消え、真っ白になり口の端から餡子の泡をぶくぶくと吹いている。 もみあげはデタラメに動き、れいむは顔から地面に倒れこむ。 一番焦ったのはまりさだ。 「れいむっ!!しっかりっ!しっかりするのぜぇぇっ!!」 「ギュヒッっ!ゆげぇぇっ!ぼげぇぇぇぇぇぇっ!!おげぇぇぇっ!!」 「ゆぐうっ!!あんこさんはいちゃだめなのぜっ!!れい――――ゆぇ?こ、これいまたべたなまごみさん? どうじでぇぇぇっ!!れいむちゃんとたべたのにどうしてはいちゃうのぜぇぇぇぇっ!!」 結局、まりさは知らなかったのだ。 “舌が肥える”その意味を正確には理解していなかった。 贅沢になるだけだと、要は気持ちの問題だと思っていたのだ。甘えてるだけで、そのうち慣れると。 実際は違う。そうではないのだ。 「えべべべべべええええっ!!おでぇぇぇぇぇぇっ!!」 「れいむっ!く、くちをっ!おくちをとじるのぜぇぇっ!!」 生まれた時から生ゴミを食べて来た野良と、人間と同じようなものを食べて来た飼いゆっくり。 違うのは趣味思考だけではない。 当たり前の話だが、人間だって生ゴミを食べれば腹を壊すし、年齢や量によっては深刻な事態にもなる。 ゆっくりには食物を餡子に変換する力が多かれ少なかれ全種にある。 中身が餡子のゆっくりに生ゴミは毒だ。草だって決して良い食べ物とは言えない。 だが野良は生まれた時から少しずつ摂取し慣れて行く。そして親は生ゴミを食べて育った。 その餡子を受け継いでいる。だからこそ生ゴミなどの腐敗物を食べて生きていられるのだ。 しかし甘味と餡子変換効率の良いフードだけを食べて育った飼いゆっくりにそんな力は無い。 「ゆっげぇぇぇ、おげぇぇぇぇぇっ!!がっほっげっっ!げっほっ!!」 「れいむっ!れいむぅぅっ!!がまんしろっ!とじるのぜっ!!のみこむのぜっ!!」 どんなにまりさが呼びかけても無駄だ。 頭や脳で制御できる部分ではない、これは反射だ。 体の奥、意識できない中枢案が拒絶する。 体内に入り込んだ異物を吐き出すために、全身全霊少しの欠片も残すまいと押し出す。 自身の命を削りながら。 「かっ……!……けぇっ!!……くへぇっ!」 「ゆっぐっ、れいぶっ!!ゆぐぅぇぇぇっ!!でいむぅぅぅぅっ!!」 大量の液状になった体内餡の海に沈むれいむ。 かすかに動くもみあげと漏れるうめきがかろうじてれいむに息がある事をまりさに教える。 こんな事になるなんて想像していなかった。れいむは死に掛けている。 野良にとっては普通の、ごくありふれた食べ物を飲み込んだだけで。 「ゆっ……ゆっ……ゆがっ……」 「こ、こんなのってぇぇぇぇっ!!こんなのひどすぎるよぉぉぉぉぉっ!! だってっ!これじゃぁいきていけないでしょぉぉぉっ!?ぜったいむりだよぉぉぉっ!!ひどいよぉぉぉっ!!」 生ゴミを少し食べただけでこれでは、もうれいむが野良で生きていく事は不可能だ。 あまりにも脆弱で、哀れなほど何も知らない。 だがれいむをそう仕立て上げたのは人間なのだ。それもれいむのためでは無い、全て自分達の都合だ。 それなのに生きていけない事を承知で捨てた。 これは拷問だ。殺すよりもずっと残酷で恐ろしい。あまりにも冷酷な仕打ちだ。 「ひどずぎるっ!ごんなっ!!ごんなぁぁっ!!ちぐしょぉぉぉぉっ!! にんげっほっ!がっほっ!!……にんげんめぇぇぇっ!!ゆっぐりじでないにんげんっ!!ちぐじょぉぉぉぉっ!!」 「……ゆっ……けぽっ、こぷっ」 止め処なく泡を吐き続けるれいむと、まりさの慟哭。 他の野良達が見守る中、まりさは怒りと恨みを吐き出し続けた。 れいむが意識を取り戻すと、既にまりさの姿は無かった。 身体が重い、頭がガンガンと痛むし、視界は暗い、何も見えない。 それらの全ての原因が空腹にあることが分かる。 だってこんなにも――――お腹がすいている。 「ゆっ……ゆげぇぇぇ……きもぢわるぃ……」 身体を起こしただけで強烈な吐き気がこみ上げてきた。 あんよには冷たく、そして硬い感触。 ここは何処なのかと考え、そしてやっと今が夜であることに気づいた。 「ざむいぃ……さむいよぉぉ……」 風が冷たい、吹き止んでも寒い。 もしかしてれいむは“れいぞうこさん”の中にいるのかもしれない。 「ゆぶぅ!ゆふうっ!!」 恐怖につつかれ、周辺を見渡せば前方から明かりが見えた。 ぶるぶる震えながられいむがそちらへ進んでいく。 徐々に光が大きくなり、やがてれいむは大通りのすみに立っていた。 「ゆあ……」 そこはまるで別世界のようだった。 光と喧騒に溢れ、お腹をすかせているものは何処にもいない。 ただ残念なのは彼ら全員が人間であり、ゆっくりの姿はこの明るく暖かい世界には存在しないという事だ。 「ゆぅ、あぐっ」 れいむは歩みだす事が出来なかった。 一歩でも進み、明かりに照らされるのが怖かった。 こんなにもゆっくりしてそうな場所なのに、他のゆっくりの姿が見えないのは何故だ。 寒い、自分の歯がたてる衝突音がうるさい。考えに集中する事が出来ない。 「どうしよう……れいむは……」 向こう側はとても暖かそうだ。この暗い路地裏の世界とは比べ物にならないほど。 ふらふらとおぼつかない足取りで前に進もうとしたれいむ。 そんなれいむに横から静かだが強い声がかかった。 「どこいくのぜ?」 「ゆっ!?れ、れいむは、その」 「またにんげんさんにおおごえでけんかうるきなのぜ?ひるまみたいに?」 「ゆゆぅぅぅっ!!ど、どうしてそれをぉぉっ!!」 「そのぶさいくなばっじさんはめだつのぜ」 助けてくれたまりさとは声も姿も全く違う。 あらためて近くで見るととても大きく、そして迫力のあるまりさだ。 無意識にれいむは一歩後退する。 「つぎにさわいだらころすっていったはずなのぜ?」 「ゆっ、で、でもさむくて……れいむはあまあまがひつようでっ!もうしんじゃいそうだからっ!そ、そのっ!」 「いましにたいのぜ?」 「ゆひぃっ!!」 暗いこの場所でもまりさの恐ろしい形相だけははっきりとれいむの瞳に映る。 もう何も言えない。じりじりとれいむが後ずさっていく。 まりさはれいむを睨んだまま動かない。 「つぎににんげんさんのちかくでおまえをみつけたら…………かんたんにはしねないのぜ?」 「ゆっ、ゆわぁぁぁぁぁっ!!」 れいむは必死で跳ねた。途端に全身が悲鳴を上げるが、それを恐怖が押さえつけた。 まりさの姿が見えなくなっても自分が見られている気がして、あんよを止められなかった。 「ゆぶぶぶっ、ううううぅぅぅ……」 そして結局れいむはまたこの真っ暗な路地裏で震えることになった。 寄りかかる建物と前方の壁以外風を遮ってくれるものは無い。 もみあげの感覚がどんどん薄れていく。 「おふとんさん……れいむの……くっしょんさん……」 寒いとクシャミが何度も出て、背筋がゾクゾクする――――そんな想像がどれほど甘いものだったのが実感している。 自分が切り離されているような感覚、身体が石に変えられていくようだ。 魂が揺すられているような苦痛と、表面を虫が這っているかのような気持ちの悪さ。 「ひゅぶぅぅぅっ!!…………かぜざんやべべぇっ!!」 それに加えてほぼ丸一日食事をしていない空腹。 せめて幸せな幻覚でも見れればとは思うが、身体が冷えれば冷えるほど意識だけは逆に鮮明になる。 「ざぶぶぶぶぅぇ!!ぼがぼがじでぇぇぇ!!おねがいだがらららあっ!!」 身体がもうほとんどうまく動かせない。 凍えというよりは息苦しさ、体内が徐々に凍りついていく。 長時間氷のようなアスファルトに触れ続けたあんよは本当にまだ身体にくっついてるのかどうか。 確かめたくてもこの闇はれいむから視界を完全に奪い去っている。 あんよの感覚がないために本来ならあるはずの痛みも無いのがせめてもの救いだ。 「おわっでよぉぉっ!!はやぐおわっでぇぇぇっ!!」 何も見えない夜と残酷なほど冷たい風。 どちらかだけでも死ぬほどゆっくり出来ないのに、両方が一遍に来てしまった今、れいむに何が出来るというのか。 せめて片方だけでもどこかに行ってくれと頼むも、風の音が一層強く拒絶した。 「ゆぶぶぅぅっ!どうしてれいむばっかりつめたくずるのぉぉぉっ!!!れいむきんばっじざんなだよよよよっ!!」 縮こまって文句を言うだけでは、野良の世界で何一つ得る事も変える事も出来ない。 今日一日の経験だけではれいむは学べなかったようだ。 最もそれが分かったところで必ずしも結果を変えることが出来ないのが、野良生活の厳しいところなのだが。 「……っ、……っっ!」 そしてさらに三十分ほどたった頃には、とうとうほとんど声を出せなくなったれいむはただただ震えていた。 役目を果たさない目はそれでもつりあがり、口は上下の歯を打ち鳴らすのみ。 ――――それでもれいむは生きている。 中枢餡が完全に凍結するほどでもない限り、寒さで死んでしまうことはない。 そのくせ餡子は硬くなっているのでストレスで液状にもなり難い。 れいむは一秒でも早く解放される事を心から願っていた、眠りたい、気絶してしまいたいと。 眠ってしまったら目覚めないと分かっていたとしても、その願いは変わらないだろう。 初めて体験する自然の責め苦は人間よりも容赦がなく、そしてしつこかった。 「……っひ、ゆひひっ……ひひっ、ひひひひっ……」 この寒さが原因なのか、それともあるかどうかもわからない防衛本能によるものか。 ついにれいむの頭は少し、ほんの少しだけヒビ割れた。 「あっだ、がぐぐで、おいじぃ……ぺろ……ぺろ……」 壁を舐めている。 冷たくて硬くて苦いだけの壁を狂気の笑顔で。 震える身体から突き出された舌が力なく緩慢に上下する。 「あはっ……つめたぁ……あははっ」 とうとう身体が限界を迎え、もたれたままずるずると崩れ落ちていく。 コテンと横向きに倒れ、引っ込めることが出来ない舌がだらりと地面に投げ出される。 震える力があるのなられいむのいうことをきいてくれと、自身の体にお願いしても自由は戻らないし震えも止まらない。 「さむい…………」 一言だけ呟きれいむはそっと目を閉じたが――――いつまでたっても眠りは訪れなかった。 もう動こうとせず、れいむの瞳からツーと涙がこぼれる。 空と街が明かりを取り戻した頃、やっとれいむの意識は闇に落ちた。 「……びゅ」 夕方になって死体と区別のつかなかったれいむが動いた。 何度体験しても目が覚めた時、無機質な壁と腐敗した臭いに“おはよう”を言われるのには慣れない。 「ぐっ!……あぃぃ」 起き上がる事はこんなにも難しかっただろうか。 体中が痛む、まるで木材を擦り合わせているような不快感。 「ゆはぁ……ゆはぁ……」 空腹が限界を超えたれいむは、激しい無気力に支配されていた。 身体はまだノロノロと動くが、ほとんど頭は働かない。 力の入らない身体が、餡子が欠乏していると訴えている。 ここまでくるとさすがのれいむも、すぐそこまで死という現実が迫っている事に気づいている。 だからといってれいむはもう完全に手詰まりなのだ。 野良ゆっくりに頭を下げてまで食べ物を分けてもらったのに無駄だった。 あんなにも苦しみながら、みじめな思いに耐えながら飲み込んだものは猛毒だった。 そして親切なまりさでさえ、生ゴミを食べられないれいむを見捨ててどこかへ消えてしまった。 乱暴なまりさに脅され、人間に助けを求める事も出来ない。もしかしたらまだどこかで見張っているかも知れない。 これ以上、れいむに何が出来るというのか。 「ゆ……ぅ……」 暗い野良の世界の出口から、明るい通りを眺めている。 たまに人が通っても、焦点はどこにも合わない。 口は半開きでその場に座って動かない。 考えてみれば喉も渇いているはずなのだが、あまりにも巨大な飢えに潰され自分でも判断できない。 ――――車の音、響く足音、何処かの店のドアが開く音に、時々聞こえる足音。 全てれいむにとって意味はない。雑音、れいむの注意を引く事はない。 「……………いき!」 「……ゆ……?」 何か聞こえた。 人間の話し声ではない、れいむと同じゆっくりの声が聞こえた。 もう何年も聞いていないような、とても楽しげな声で。 ゆっくりしている野良が“しあわせー”しているのだろうかと、れいむがそちらに身体を向ける。 そしてれいむには見覚えがあった。そのゆっくりに。 「平気でもマフラーはしとけって」 「えー?でもごわごわする」 「マミィとおそろいだよー?」 「じゃあつける!」 れいむの目は最大限に開き、霧のかかっていた頭の中は一気に鮮明になる。 忘れるはずがない。あいつは、あのおちびは。れいむがこんなにも惨めな姿に落ちる事になった元凶。 あのゲスちびさえいなければれいむは今も満たされていた、幸せなはずだった。 それなのに、れいむがこんなにも苦しんでいるというのに、あいつは笑っている。 とても――――許せるはずがなかった。 「おばええええええええっっ!!おまえばぁぁぁぁぁぁ!!」 「うぉっ!?」 噴出した怒りが理性の許可を待たずにあんよを無茶苦茶に跳ねさせる。 吐き気や痛みも今のれいむには届かない。 全力で走り怒りが動かすままにあのゲスチビに突っ込む。 大きなまりさから警告された事も、標的は人間に抱かれている事も全て忘れ、れいむはアスファルトを蹴った。 「じねぇぇぇっ!!おまえのぜいでぇぇぇっ!!れいむはぁぁぁぁぁっ!!」 「あ、やっぱり目的はてーなのか。こういう馬鹿は久しぶりだなー」 「遊ぶ気?」 「いや、今日だけは早く帰んねーとな」 ただの野良で遊ぶ暇もなければ、いちいち潰して街を綺麗にする趣味もないと、饅殺男達は無視してれいむを避ける。 ビリビリとあまった皮が震えるほど叫んでいるのに、人間達は足を止めない。 さらにゲスチビにいたってはれいむから露骨に顔を逸らし、人間に抱きついている。 体内が燃えているような怒りがれいむを更に狂わせる。 「そいづをおろぜぇぇぇっ!!れいむがころじでやるぅぅっ!!」 「しつけーな、一発蹴っ飛ば…………ん、こいつのバッジ……?」 「あれ、これって確か……」 饅殺男と虐子がれいむ一日で灰色に変わったリボン、そこに未だついている汚れた金のバッジに気づいた。 れいむの態度の理由がやっと分かった。 「……アイツめ、回収箱に捨てたんじゃなかったのかよ」 「あー、そういう事か」 「きいてるのかぁぁぁぁっ!!れいむはおごっで――――いっだぁっ!!ゆべっ!」 パチンと饅殺男が取り出した棒でれいむを叩く。 たったそれだけで弱りきったれいむの身体は真後ろに倒れた。 もみあげだけが最後の抵抗とばかりによろよろ突き出されている。 怒りに誤魔化されていた体は、痛みによって極度の衰弱を思い出し、起き上がる力を忘れる。 「いだぃよぉっ……ひどいぃ……!!」 「えっと、君は昨日僕らにあったれいむだよね?」 「そうだよぉぉぉっ!!れいむは……れいむはぁぁっ……!おまえだちのせいでぇっ!のらになっぢゃったんだよぉぉっ!」 饅殺男の口調が変わるのはゆっくりで遊ぶ際のクセであり、れいむがオモチャにされる合図である。 最初は後ろ暗い喜びを有耶無耶にする演技だったが、今ではすっかり慣れてしまい照れくささもなくなった。 れいむの方も叫ぶ事を止め、仰向けのまま弱弱しく天に訴えた。 「れいむなにもわるいことしてないよぉ……!ゆっぐりしてただけなのにぃ……!」 「うーん、そうだねぇ。確かに君が悪いって訳じゃないね」 「ゆえっ……?」 予想外の肯定が聞こえ、れいむが饅殺男を見つめる。 笑っているわけでも怒っているわけでもなく、ただ自分を見下ろしていた。 「そんな風にしか振舞えないのはショップの教育のせいだし、金バッジなんて主張するのもそう店員に言われたからだもんね。 捨てられただいたいの原因もその嘘だし、正直アイツが騙されたのも下調べしなかったせいで、れいむが何かしたわけじゃないしね」 「ゆ、あ……?そ、そうでしょ……?で、でもじゃあ!なんでれいむはすてられたのぉぉっ!? なんでこんなくるしいおもいをしなきゃいけないのぉぉぉっ!?ねぇ!おしえてよぉぉっ!!」 「――――運かな。ツイてなかったね」 「ゆは……?」 れいむの血を撒き散らすような一日、あの地獄に落ちた理由が、ただ運が悪かっただけ。 それで諦めろというのか、あの屈辱を仕方が無かったのだと。 「ふっざけるなぁぁぁぁっ!!そんなのなっとくできるわけないでしょぉぉっ!?」 「そう?でもれいむ、君は今までだって人間に流されて生きてきたんじゃない? 何か一つでも自分で決めた事あったのかな?その金バッジをつけることとか、誰に飼われるか、とかさ」 「ゆゆっ!?あ、あるにきまってるでしょ!れ、れいむはぜんぶじぶんで、きめて……」 例えばお店にいた頃、れいむのお腹が空いてくると人間がご飯を持ってきた。 人間がご飯を用意してくれるのだから、できるだけ感謝しろといわれてしぶしぶ従っていた。 金バッジをつけてやると言われたのでつけた、悪い気はしなかった。 この人がお前の飼い主だと言われておうちから取り出された。これで念願の飼いゆっくりになれると喜んだ。 広くなったれいむのおうちで、ご飯さんをたくさん食べる事が出来て幸せだった。 思う存分ゆっくりしていたら、理不尽にお兄さんが激怒し、訳も分からぬままにれいむは捨てられた。 それからの一日は思い出したくもない。 「ゆ、あ……」 「ね?全部人間次第なんだよ。れいむは人間の都合に振り回されてただけ、確かに何も悪くないね」 「ひ、ひどいよぉぉぉっ!!なにそれぇぇぇっ!!れいむだっていきてるんだよぉぉぉっ!?」 「そうだね、生きてるけど…………一人じゃ生きていけないでしょ?」 「そ、それは……だ、だって!」 「捨てられてから、今まで一人で頑張ってたんだよね。 ご飯はちゃんと見つかったかな?おいしかった?暖かいお家はあった?ゆっくり――――出来たのかな?」 「ゆぐっ………!!」 自分がどれほど凄惨な体験をしたのか、教えてやりたい。 味わった苦しみ、痛み、悲しみ、その全てを言葉で伝える事が出来るなら、二度としゃべれなくなってもかまわない。 「できるわけないでしょぉぉぉぉっ!?おにいさんがれいむをすてたせいでぇぇぇっ!! にんげんがだれもたすけてくれなかったせいだよぉぉぉっ!!」 「お家もご飯も全部人間に頼ってたならさ、気分次第で捨てられても文句は言えないんじゃない?」 「はあぁぁぁぁっ!?だっておにいさんがれいむをかいたいからかったんでしょぉぉぉっ!?」 「その通り、飼いたいかられいむの世話をしてたんだよ。だから飼いたくなくなったら捨てられるよね? れいむは努力した?おにいさんにずっと飼って貰えるようにさ」 「ゆ……!そんなの……!!」 そんな事考えた事もない。 だってれいむはゆっくりしていた。それ以外に何が必要だというのか。 「さっきも言ったけど、人間が全部れいむの生き方を決めてきたんでしょ?れいむは一人じゃ生きれないんだし。 文句を言いたくなる気持ちはわかるけど……どうしようもないよね?」 「ど、どうしようもないって、だ、だってれいむはきんばっじさんなのに……!!」 「金バッジか、ふぅ……じゃあ、その金バッジつけてて何かいい事あったかな?」 「ゆ?」 いい事と言われても、人間は誰もれいむの話を聞いてくれなかった。 いくら金バッジだと叫んでも、確かめる事すらしてくれなかった。 そればかりかあのれいむを脅してきたまりさに、顔を覚えられる要因になった。 「…………なにも、なかったよ……」 「……結局さ、捨てられたら生きていけないんだから、もう少し我慢するべきだったんだよ。 君のお兄さんを怒らせないように、ずっと飼って貰えるように」 「だって……そんなこと、そんなことだれもおしえてくれなかったよぉぉ!!だからしょうがないでしょぉぉっ!?」 「うん、だから最初に運が悪かっただけだって言ったじゃないか」 「ゆ、あ……」 うなだれるれいむ。諦観が顔に浮かぶ。 怒りの矛先を削られてしまっては、もう何も言い返せない。 「れいむは悪くないし、飼い主のアイツも悪くない。ただちょっと、お互い運がなかった。 だから、何度も言うけど仕方ないって諦めるしかないんだよ。もう終わっちゃったんだから」 「ゆっく、ゆっぐぅ……ゆ、ゆあぁぁぁぁぁぁ……!ゆえぇぇぇぇ!!!」 運がなかった、その意味がやっと分かった。 “どうしてれいむがこんなめに”その“どうして”を責めるべき相手は人間ではない。 運命とでも言えばいいのだろうか。 悲劇のヒロインなんてれいむは望んでいなかったが、つまりはそういう事で、不運以外の敵などいない。 ――――だからもう、どうしようもないのだと。 「ゆっふっぐっ、れいむもうのらはいやだよぉぉっ!!かいゆっくりになりたいよぉぉぉっ……」 「その気持ちが飼われてるときにあれば良かったね。今更言っても嫌味にしかならないか」 「ゆぇぇぇぇぇぇぇっ!!ゆびぇぇぇぇぇっ!!」 心配も不安も関係なく、れいむはただ泣いた。 受け入れたくなくても、もう手遅れになってしまった事に気づいたから。 「あれ?まだやってたの?」 「だでぃだでぃ!おっきいのかったよっ!!こーんなおっきいの!」 「おかえり、何ケーキにした?」 「えへへ、ないしょ!」 「……ゆっ、あまあまのにおい……」 左手にケーキの袋をぶら下げ、右手でてーと手を繋ぎながら虐子が戻ってきた。 れいむがその紙袋から微かに漏れる甘い香りに反応する。 「けーきさんあるの……?れいむに……?」 「ごめんね、悪いけど君の分はない」 「…………れいむたくさんおなかすいてるんだよ?わかる……?ずっとたべてないの、れいむ」 「今日はこの子。僕のおちびちゃんの誕生日なんだよ。だからお祝いにケーキを買ったのさ」 「たんじょうび……?」 れいむの知らない言葉だ。“たんじょうび”とはなんだろう。 それがあるとケーキを食べられるのだろうか。 甘い香りに期待した体内餡が、早くもケーキを受け入れる準備をする。 「れいむのたんじょうびさんはどこにあるの……?れいむももってる……?」 「んー、誕生日っていうのは生まれた日の事だよ」 「うまれたひ……!!じゃ、じゃあれいむのたんじょうびはいつなのっ!?いつけーきさんもらえるの!?」 目に小さな光を取り戻したれいむが尋ねる。 饅殺男は肩をすくめ、そっと屈みれいむに顔を近づける。 「それを知らないって事はさ、誰も祝ってくれる人がいないって事だよれいむ」 「ゆえ……?」 「自分だけ誕生日を知っててもほとんど意味ないんだよ。 君が生まれてきてくれて嬉しい、そんな気持ちの誰かがいてくれなきゃ。 だって祝ってくれる人がいないと、ケーキだって貰えないだろ?」 「おいわいしてくれるひと……?」 おとーさんとおかーさんは顔も知らない、ショップの店員さんはほとんど顔も覚えていない。 自分を捨てたお兄さんが『生まれてくれてありがとう』なんて言ってくれるはずはないだろう。 ――――他にれいむは誰を知っている? 後思い浮かぶのが生ゴミをくれたまりさはともかく、殺すと脅してきたまりさしかいない時点で、答えは決まっていた。 誰もれいむを、れいむが生まれた事を祝福してくれない。 「ゆ、ゆあああああああああああ!!もう、もうやだああああああああ!!」 「……さて、じゃぁ僕はもう行くね。てーおいで…………よっと。 これからうちに帰って誕生日会の準備するからさ」 「ゆゆっ!?」 あっさりと悲しむれいむを放置する事を宣言し、てーを抱き上げて歩き出す饅殺男。 慌ててれいむが叫んだ。 「まってっ!!まってくださいぃぃぃぃっ!!れいむもつれてってぇぇぇぇっ!!」 「無理だよれいむ、説明しただろう?」 「れいむはんぜいじまじだっ!!たくざんはんぜいしたがらぁぁぁぁっ!!」 「ははっ、じゃぁれいむ――――どうしたら君のお兄さんはれいむを捨てなかったと思う?」 「ゆっ!?え、えっと、そ、っそれは、ゆっと、ゆ、ゆーん、ゆゆゆ……」 なんと答えればいい? この質問にしっかりと答えることが出来れば飼いゆっくりに戻れるかもしれない。 バクンバクンと激しく鼓動する中枢餡。 れいむはお兄さんをゆっくりさせてあげていたと思っていた。 でもそれは勘違いだったのかもしれない。 足りなかった、そうだお兄さんは少ししかゆっくりできなかったんだ。 もっとゆっくりするために必要なのは――――――おちびちゃんだ。 「れ、れいむがおちびちゃんをつくってあげてればよかったんです!!」 皮肉な事に、あの日お兄さんがれいむの結婚相手をちゃんと連れてきてくれていれば、すぐにでもおちびちゃんを作ったというのに。 やはり全面的にお兄さんが悪かったのだが、ここでそれを言えば折角のチャンスをふいにしてしまう事は理解できる。 「…………残念、不正解だよれいむ」 「――――ゆっ!?なんでぇぇぇぇぇぇっ!?どうしてなのぉぉぉっ!? あああああまってぇぇぇっ!!いかないでぇぇぇっ!!」 「れいむ、あんまり騒ぐとそこにいる――――」 「せ、せめてごはんさんだけでもくださいぃぃっ!!にんげんさんのごはんさんがいいんですっ!! た、たいやきさんっ!!しっぽだけでもいいですからぁぁぁっ!!たべたいんですぅぅぅっ!! もういちどだけぇぇっ!!もういっかいだけだべさせてくださいぃぃっ!!おねがいですぅぅっ!!」 必死だった。 人間なら誰もが持っているご飯さん、しかもこの人間はゲスとはいえおちびを飼っている。 ならばケーキ以外にもたいやきだって持っているはずだ。 この人間に飼ってもらう事は諦めた。違う場所で、今度は優しそうな人間がたくさんいる場所で頼もう。 そのためには体内を新しい餡子で満たさなければならない。 しかしれいむが食べられるものは人間しか持っていないのだ。 れいむは頭部だけを大きく振って懇願する。 「おねがいじまずっ!!れいぶにっ!!くだざいっ!! …………そっちのとってもがわいいおちびちゃんっ!!れいむにもごはんざんをわげてくだざいっ!!」 「ゲスって呼んでたのにねぇ……。悪いけどれいむ僕は――」 「おもいだしたよぉぉぁぉっ!!!いまおもいだしたんだけどれいむきょうがたんじょうびさんだったよぉぉっ!! う、うそじゃないよっ!!れいむのたんじょうびさんなんだよきょうっ!!おいわいしてねぇぇぇっ!!!」 「あははっ!!」 思わず饅殺男だけではなく、虐子も笑い出す。 てーはマフラーの位置が気になるようで両手でひっぱり、二人が笑った事でれいむは希望を見る。 「誕生日か、そっかそっか。じゃぁ食べ物は無理だけど、すっごくいい事を教えてあげるよ」 「ゆっ?い、いいこと……?」 「そう、いい事――――――アッチを見てごらんれいむ。 なんだか強そうなまりさがれいむを睨んでるよ?とっても怒ってるみたいだね」 「え――――?」 恐る恐るれいむが顔だけ動かし饅殺男の指を追う。 そこには弱ったれいむの倍は体重がありそうな、タカのような目でれいむを睨むまりさがいた。 思い出すなんて作業はいらない、あれはれいむを脅したまりさ。 そして恐らく――――れいむを殺そうとしている。 今はれいむの目の前に人間がいるからなのか、近づいてくる様子はない。 ただこの人間が去ったとき、あのまりさは躊躇しないだろう。 「ゆっ、ゆわあああああああああああ!!にげなきゃっ!にげなきゃぁぁぁぁっ!! ゆぇぇぇっ!?あ、あんよさんうごかないぃぃっ!!どうしてっ!!うごいてぇぇぇっ!!」 逃げようと跳ねたつもりでも、動いたのは頭ともみあげだけだった。 動く力が無いのとは違う、あんよがまるで消失したかのような感覚。 れいむは半ばパニック状態になりながら、しーしーで汚れるのもかまわずにもみあげであんよを叩いた。 「うごいてぇぇぇっ!!なんでぇぇっ!!あんよさんどうしちゃったのぉぉぉっ!?」 「誕生日らしいから、サービスでその理由も教えてあげるよ」 「ゆぇぇぇっ?」 今れいむの目の前に突き出されたのは細長くそして黒い棒。 特別先が尖っているというわけでもない。 それが何だというのか。 「カラスって名前なんだけど、それはどうでもいいよね。 これで叩かれたゆっくりは移動できなくなっちゃうんだ。 ゆっくりのお医者さんに貰ったやつだから信用してもらっていいよ」 「…………ゆ?え?えええええええええっ!?なんでぇぇぇっ!!どうしてぇぇぇっ!! ふっざげるなぁぁぁぁっ!!もどせぇぇぇっ!!れいむをもとにもどせぇぇぇぇっ!!」 怒りに任せて身体でこの人間を殴りつけようとするが、言われた通りあんよにまるで命令が届かない。 最後にニッコリ笑うと今度こそれいむから視線を外し、饅殺男は歩き出した。 「ゆひぃいいっ!?までぇぇぇぇぇっ!!いぐないくないくないぐなぁぁぁっ!!」 「ハッピーバースデーれいむ。ゆっくりしていってね」 「ゆっ――――ひぃぃいいいいいいい!!ごっちにぐるなぁぁぁっ!!ちがうよぉぉぉっ!!れいむはちがうよぉぉぉ!! いっっだぁあいぃいいいいいい!!ひっばるなぁぁぁっ!!!いだぁああああああああああ!!!」 やがて響いたれいむの悲鳴は、祝福を受けながら誕生したてーの耳には届かず、やがて路地裏へと吸い込まれていった。 「いだぃぃぃっ、れいむのがみさんぬげちゃうぅぅっ!!いだいぃよぉぉぉっ!!」 もみあげを含む髪の毛に食いつかれながら、ずるずると光の届かぬ世界へ引きづられて行くれいむ。 荒い地面にこすられているはずのあんよから痛みの信号は届かず、それがかえってれいむに不安と逃げられぬ絶望を与える。 「ころざないでぇぇっ……れいむじにたくないよぉぉっ……」 「あんしんするのぜ。かんたんにはしねないっていったのぜ?もしかしてわすれちまったのぜ? ああ、だからあんなにさけんでたのぜ。れいむはおっちょこちょいなのぜー」 「ゆびぃぃぃっ!!やだあぁぁぁっ!!はなじでぇぇぇっ!!」 口調こそ軽いがまりさは笑わない。むしろ歯が食い込む感触は更に強くなり、恐怖を煽る。 「れっれいむはおなががすいてただけなんでずっ!!おなかがへっでしんじゃいそうだからぁぁぁっ!!」 「ゆっはっは、そいつはこうつごうなのぜ。あんしするといいのぜ?たっぷりたべさせてやるのぜ」 「ゆへぇ?ゆぎゃっ!」 まりさが止まった。頭を急に離され地面を枕にしたれいむから悲鳴が上がる。 雑誌や壊れたプラスチックケースや空き瓶などで仕切りと屋根が作られた、まりさのおうちだった。 「おとーしゃんおかえりなしゃい!」 「ま、まりさおかえり!え、えっとそ、そのれいむはもしかして……」 「……ただいまなのぜ。こいつがあたらしい“ちょうみりょう”なのぜ」 「そ、っそう……やっぱりそうなんだよね……」 まりさの妻とおちびらしきゆっくりが、おうちから出てくる。 会話の意味はわからないが、妻の哀れむような視線にれいむの恐怖と不安は失神寸前まで高まる。 具体的に何をされるか告げられないというのは、ゆっくり出来ない想像を無限に広げる。 「な、なんなのぉぉぉっ!?れいむになにするつもりなのぉぉっ!?」 「ゆん?なにってたべさせてやるのぜ。おなかすいてたのぜ?」 「え、ゆ?れ、れいむにごはんさんくれるの……?」 「ああ、たっぷりくうといいのぜ」 そういってまりさがれいむの口元へ運んだのは、もとが何であったのか全く想像できない腐敗した何か。 貫くような臭いがれいむに警告する。 「ゆっ!ま、まってまってまってぇぇぇっ!!れいむはなまごみさんたべれないんだよぉぉぉぉっ!!」 「だからやってるのぜ」 「や、やめ――――んぶぶぶぶぶぅぅぅっ!!んぐっ!!うっばああああああああ!!」 閉じた口ごと押し込むようにねじ込まれた腐食の塊が、れいむの奥へと侵入する。 容赦も慈悲もなく、まりさは次々に押し込んでいく。 れいむの目玉が裏返り、早くも身体が痙攣する。 「ゆっぼぼぼぼおぼぉおおおおおっ!!」 「ん、それでいいのぜ」 ダムの放水のようにれいむが体内餡と押し込まれた異物を吐き出す。 まりさはためらいなくおさげを伸ばし、表面が餡子に包まれた生ゴミを取り出すと家族に投げる。 「くっていいのぜ、おちび」 「ゆっ!おとーさんありがとぅ!」 吐いた生ゴミと餡子をもう一度食べる事で、生ゴミの腐臭と痛味を誤魔化す。 その餡子ごと生ゴミを吐かせる役をれいむにやらせる事がまりさの目的だ。 この調理方法の優れた点は死臭がしない事であり、欠点はいずれ嘔吐役が死ぬ事だ。 「ほら、つぎいくのぜ?」 「やめぇでぇ……しんじゃう……れいむほんとにしんじゃうよぉぉ……!」 「じゃぁはきださなきゃいいのぜ。まりさはくえっていってるだけなのぜ」 「ぞんなぁ……むり――――ゆべべべべべべっ!!んぼぉぉぉぉっ!!!」 まりさはもちろん舌と身体の肥えたゆっくりが、生ゴミほどの刺激物を食べられない事を知っている。 同族へのこれほど残酷な仕打ちである、周囲から咎められることもあるだろう。 しかしリボンの金バッジがれいむが元飼いゆっくりである事を証明している。 飼いゆっくりを嫌う野良は多い、他の野良に迷惑がかかっていない以上、まりさの行為が罰せられる事はないだろう。 「ゆげげぇぇぇぇっ!!あえでべぇぇぇぇぇぇ!!」 生ゴミと自身の血肉を吐き出し、また生ゴミを押し込まれ血肉と一緒に吐き出す。 長持ちさせるために時折吐いた餡子を戻される。 『カラス』によって狂わされたあんよが治っても、れいむには逃亡はもちろん儚い抵抗すら出来ないだろう。 「もうたべだぐないぃぃっ!!もうたべたぐないよぉぉぉぉっ!!」 「なにいってるのぜ、こんなにはいちゃおなかすいてるはずなのぜ。 ごはんさんはぜんぶまりさのおごりなのぜ?」 「いやだぁぁぁっ!もういらないがらぁぁぁぁっ!!ごはんざんいらないぃぃぃっ!!」 吐き気と重苦でぼやける思考は別れ、かすかに残るれいむの意思が確かに悲しんだ。 あれほど大好きで幸せだった食事が、苦しくて痛い。 それは幸せだった甘い食べ物達との思い出まで汚されていくようで、痛涙とは違う涙が混ざった。 思い出そうとするのは、最後の幸せだった食事。 あの時、ご飯の用意を忘れたお兄さんに怒ったれいむ。 信じられない、少し食事の時間が遅れたくらいなんだというのだ。それで痛かったり死んでしまうわけではないというのに。 ――――ああもしかして、それがいけなかったのだろうか。それがお兄さんを怒らせてしまったのだろうか。 あの後もお兄さんはご飯を用意してくれた。れいむはお礼も言わなかった。 当然だと、むしろ特別なあまあまを用意するべきだと内心愚かな怒りすら覚えていた。 世の中には――――こんなにも酷い食事があるというのに。 「ゆぼぇっぇぇぇ……ごめんなざぃ……おにいざんぅ……ごめんなざぃぃっ……」 「きゅうになにいってるのぜ?ほらっ!これできょうはさいごなのぜ!」 「ゆぼごごごごぉぉぉぉっ!!んんんんぼぼぼぼへっ!!」 遅すぎる後悔がれいむの中で膨らんでいく。 届かない謝罪が口から這い出て、生ゴミと共に押し戻されていく。 「ゆべぇ…………あでぇ……」 「おそまつさまなのぜ。じゃあしたのあさごはんさんをたのしみにしてるのぜ!」 今後れいむはもう二度と幸せな食事を味わう事はなく、腐臭と酸味をかみ締めながら徐々に内側から腐っていくのだろう。 完全に腐るのが先か、それとも体内餡を全て吐き出して衰弱死するのが先かはわからない。 ただれいむにとって食事は痛くて苦しくて嘔吐する行為に変わり、 心から食事を望んでいた時の気持ちをどんなに頑張っても思い出すことはついに出来なかった。 「イェー!ハッピバースデー!!てー!」 「誕生日おめでとーてーちゃん!」 「おめでとう、てーちゃん」 「四歳の誕生日おめでとうございます、てーちゃん」 「ありがとー!ふーっ!」 桃の花をかたどったバースデーケーキに立てられた四本のロウソクを、一本一本吹き消していくてー。 見守る四人からの祝いの言葉と笑顔を送られ、それ以上の満面の笑顔を返す。 豪華な料理とケーキを前に散々写真とビデオを取った後、五つに切り分けていく。 「四歳になった感想はいかがですかね?てーさん」 「んー?えっとね!すごい!」 「はっはっは」 「あ、ケーキはご飯食べ終わるまで我慢だよー?」 「うい!」 男性陣にアルコールが入り賑やかさは増して行く。 もともとテンションが高いてーも更にハイになり、騒がしくも幸せな食事は長引く。 プレゼントはもちろん用意してあるが、それよりもこうして一緒に話して、歌う事を最も喜ぶ子だ。 少々のマナー違反も今日はお咎めなし、水を差すのはお酒だけにしよう。 「明日は何処にいこーかー?」 「あしたもおでかけ?やったー!」 「はっは、今日は私達が一緒にいけなかったからなぁ。明日こそは一緒に遊ぼうなーてーちゃん」 「うい!」 ボウリングにスケートさらには遊園地まで。 飼いゆっくりブームは様々な施設をゆっくりに開放し、そして新たな市場を生んだ。 人と暮らすゆっくりは増え続けている。 全ての関係がうまくいくわけもなく、加工所がどんなに努力しても捨てられるゆっくりをなくす事は出来ないだろう。 ただ野良は捨てゆっくりすらも歯車にし、街での生活を回して行く。 人間が直接野良に関わる事が少なくなっても、全ての行動の結果は野良に大きく影響する。 売る人間も飼う人間も殺す人間も、ゆっくりを利用して生きている事には変わらない。 そういう意味では、ゆっくりが人間をゆっくりさせているというのは間違いではない。 「ぐらんぱ!おんぶ!おんぶして!」 「よし!さあ乗りなさいてーちゃん」 「どーん!」 「こらこらっ!ジャンプタックルはやめなさい!」 「うっ!……はっはっは!き、今日は特に元気だねぇ」 「……お父さん腰大丈夫?」 夕飯とデザートを食べ終えるとすぐに、遊べと人を引き込むのは四歳になっても変わらないようだ。 四年という月日は途方もなく長く思えるのに、過ぎてみればあっという間だった。 途中胴付になる大きな変化はあったものの、中身は変わらず甘えん坊で意外と人見知り。 「ふぅ、寝てしまったようだね」 「いつものより一時間早いですね、よっぽどテンション上がってたみたいです」 「楽しんでくれて何よりだが…………プレゼントを渡しそびれてしまったな」 「あー……」 「別に明日渡せばいいんじゃない?ちょっとおでかけの出発が遅れるだろうけど」 虐子父が用意した、てーがすっぽり入ってしまうほど大きくて鮮やかなリボンがついた箱。 正直中身が気になって仕方が無いが、全ては明日のお楽しみだ。 「久しぶりに麻雀でもと思うが、起こしてしまうかな?」 「いや、絶対起きないと思います」 「そ、そうか。ではやろう。……てーちゃんにプレゼントを渡す順番を賭けるというのはどうだい?」 「うわー、あの大きさのプレゼントの後に渡すのだけはちょっと……」 「どうせへたくそなイカサマして、罰符だけでトブんでしょ?」 「…………賭けの対象は決まりという事でいいね?」 「ふふっ」 ジャラジャラとマットの上の牌達が音を立てる。 酔いもあってどこか危ない虐子父の目と手つきを覗けば、白熱した試合は夜中まで続いた。 ――――勝負の結果を語る意味は無いだろう。 翌朝誰よりも早く目を覚ましたてーがプレゼントを見つけ、危うく贈り主はサンタクロースになるところだったのだから。 焦る虐子父の様子に、休日の夕栗家は笑い声が溢れた。 最後までお読みいただきありがとうございました。 帝都あき 過去作については『ふたばゆっくりいじめss保管庫ミラー』 にて作者別のページを作っていただいたのでそちらをご覧ください。
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今期履修情報いっしょに授業受けてください><! のじゅきんぐと銀マットの履修情報だよ 前期 ・コミュニケーションの質的分析法Ⅰ ・国際私法Ⅰ ・文学史A ・外交史Ⅰ ・音楽史A ・福祉と人間A ・民族問題A ・ヨーロッパ文化論 ・戦略論Ⅰ ・平和経済学Ⅰ ・フランス語ⅡA
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虫虫しゅ〜てぃんぐ 【サイト名】昭和レトロゲーム 【ジャンル】縦シューティング 【課金体系】月額315円 【容量】442KB 【通信機能】ランキング送信時など 【簡易評価】あなたの評価点をクリック! plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. 2007/01/13 【使用機種】 41CA 【プレイ時間】1時間 【評価・点数】 ★★★☆☆ 虫取り少年が自機で、敵が虫 武器が六種類あって、自由に2つ選べる(二連銃!) 片方だけ発射するとか、両方撃つとか選べる。 ボムもある 難易度は低い。ステージ数は4つ。 背景はチープだが、ステージの合間合間にある演出には凝ってるようだ。 あと、好感を持てるような虫(カブトムシとかバッタ)とかは攻撃しないで捕まえると高得点。 虫虫いっぱいキモくて面白いけど、つまんないから長くは遊べない。 あと移動スピードが遅いのが気になった(人間が移動してるみたいで、これはこれでいいけど) サイト別/さ行/昭和レトロゲーム
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タグ一覧 作品データ タイトル Doki Doki る~みんぐ 発売日 2008/09/26 名義 遠野そよぎ キャラクター名 榊曜子 制作元 Gash 霊媒師見習いとして、常に巫女服を着用した姿でいる女の子。 現われる時はどこからともなく「ちりーん」と鈴が鳴り、おどろおどろしい雰囲気をまとっているが、それは彼女が数年来霊に取り憑かれ続けているため。 曜子に取り憑いた霊は「兵隊さん」と呼ばれ、他の住人たちもすっかり認知した存在。 それもそのはずで、曜子は時間によって彼女自身と「兵隊さん」の意識が入れ替わってしまう特殊な体質。
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2010年8月