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それじゃー落語がんばりましょー! 百神前日、演者3人合宿所で練習するかと思えば、 向かった先はいなげや。 紫蘇さん「それじゃー百神がんばりましょー!カンパーイ!!」
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よつばさんが入室しました よつば- ―――えぇ、(Evアジト内 よつば- 大丈夫。出場自体は問題無いわ、壱葦兄さん。(場所は安静室 誰かと携帯で通話する患者衣姿の男 よつば- 別に負傷してぶっ倒れてたってワケじゃないんだから(笑ってさくっと嘘吐いて よつば- ぇぇ、詳細は後で確認しとく。当日はヨロシクね。 よつば- それじゃ、またね。 よつば- ――(pi、と よつば- …… よつば- …はー……(ベッドに腰掛けて よつば- 気ー失ってて着信気付かねェとか……(重い頭を片手で押さえて よつば- 言い訳にもなんねー…絶対弐棋兄さんに何か言われる(ボソッと よつば- …ま、それは仕方ねー、な、(ベッドに手付いて立ち上がり よつば- (ふらっと洗面台に歩いて行く よつば- …ぁ、(ドア閉めて よつば- …今回は着替えあるのか。(なんか呟く よつば- ――――(しばらくお待ちください よつば- ――――(ピンポンパンポン♪ よつば- (扉を開けて出てくる――ポニテに三角巾、ロンスカメイド服姿 よつば- さーて、 よつば- (本来はこの後――長時間意識消失の原因究明の為、トランクィッロ先生から診断という名の質問責めを受ける予定――なのだが よつば- よし、 よつば- 行くか。 よつば- (さっさと病室から出ていく よつば- (ピピッ、(安静室の一室を出、廊下に イクスさんが入室しました イクス- (ちょうど廊下を通りかかる イクス- (黒色ライダースーツにサングラスのお姉さん イクス- あら、もう平気なのね。 よつば- あら。イクスちゃん?(鉢合わせて よつば- ええ。お陰様でね。(ニコッと イクス- 良かったわ。 イクス- これからという時に貴方に離れられては困るから。 よつば- ごめんなさいね。変な形で不覚取っちゃって。 イクス- 原因は私の知る所ではないわ。回復してくれればいいの。 イクス- 後に上がってくるトラン隊員からの報告を読むわ。 私には同じ話をしなくていいわよ。 よつば- ハーイ。了解よ。 イクス- ところで、 イクス- アイズィミーレ隊員にはもう会ったかしら。 よつば- あら。 よつば- んーん、まだ会ってないわよ。さっき起きた所だったから。 イクス- そうなの。 よつば- また協力任務でもあるのかしら? イクス- いえ、私の指示ではないわ。 イクス- ただ、貴方の事、心配していたみたいだったから。 よつば- ぁぁ、…そうだったのね。 よつば- アハ、じゃ、無事な姿見せてあげないとね。ありがと、イクスちゃん。(イクスに笑って イクス- 別に礼はいらないわ。 イクス- それじゃ、何かあったら報告なさい。(そう伝え イクス- (別室へ向かってゆく よつば- ハーイ。(イクスの背に イクス- (曲がり角に消える イクスさんが退室しました よつば- ……。 よつば- (カツ、とブーツを踏み出し、廊下を歩きだす よつば- (安静室からは少し離れた、談話室やトレーニングルームのある方向へ ナナエさんが入室しました ナナエ- (談話室から出てくるナナエの姿 ナナエ- (プリントTシャツ、パーカー、ダメージデニムミニスカート、黒ブーツ。両腕にレッドリングのアクセ。手には携帯ゲーム機を持っている よつば- あら。(廊下でばったり ナナエ- っはぁ? よつば- こんばんは。ナナエちゃん(笑って ナナエ- アンタ男女になんかした?(よつば睨み よつば- 、ぇ?(不意打ちに驚き よつば- あら、何かって…何かあったの?麗に。 ナナエ- っはぁ!? アンタじゃないの!? ナナエ- アイツなんかここ2日ぐらい落ち着かなくってイライラすんだけど。 ナナエ- 超なっがい夢みさせられた次の日はまあ別に良いわよ、でもその次の日もよ? よつば- ……、 ナナエ- うろちょろうろちょろ安静室やらメディカルルームやらの周りうろついて、 ナナエ- 馬鹿みたいにカッコつけてた男女はどうしちゃったワケ?って感じ。目障りなのよ。 ナナエ- そんなにうろちょろされるとアタシがソコでゆっくり出来な――なんでもないっての! ナナエ- とにかくアンタなんか知らないワケ? よつば- …………。 よつば- …さぁ。 どうしたのかしら? よつば- アタシには心当たり無いけど…。 ナナエ- っはぁー? つっかえないわねー。 ナナエ- 昨日一緒に紅椿家行かされた時はお姉様達の前だったからか、少しはマシになってたみたいだけど、 ナナエ- ほんとあのまんまじゃウザったすぎて糸目に縛り上げてもらいたく―…は、流石にならないけど、、 ナナエ- とにかく目障りだっての。 よつば- …そんな風なの。心配ね。 ナナエ- っはぁ。 ナナエ- なんにも知らないんじゃどうしようもないっての。 ナナエ- アンタからも何か言っておきなさいよ女男。 よつば- …そうねぇ。元気出してもらいたいものね。 ナナエ- じゃ。そんだけだから。 ナナエ- アタシはこれから………ま、どっかの部屋行くっての。(歯切れ悪く ナナエ- そんじゃ。(携帯ゲーム片手によつばの隣をすれ違ってゆく よつば- あら。じゃあメディカルルームにはいないのね?(その背に ナナエ- っはぁ!? ど、どこだって良いでしょ!?(よつばに振り返り ナナエ- 男女なんとかしときなさいよ!? ナナエ- (理不尽に頼み事叩きつけて ナナエ- (どっかの部屋 へ 向かってゆく よつば- あらあら。(笑って手を振り どっかの部屋 に行くナナエを見送る ナナエさんが退室しました よつば- ……。 よつば- さーて、(少し考え、 よつば- (再び廊下を歩きだす よつば- (談話室の入り口を抜け、どっかの部屋も抜け、 よつば- (会議室の扉の前で立ち止まる よつば- …… よつば- (談話室でも、メディカルルームでも、安静室でも無いなら、きっと… よつば- (歩を進め、会議室の中へと 藍住麗さんが入室しました 藍住麗- ♫ポロロン♪ 藍住麗- (会議室に置かれたグランドピアノを弾く灰色タキシード 藍住麗- ♫ジャジャーン♪ 藍住麗- (誰もいない会議室で1人。ピアノを演奏していた。 よつば- ………… よつば- (カツ、ブーツを鳴らし、その背に歩みを進める 藍住麗- ♫ジャジャーン♪ 藍住麗- (自動ドアの開く音もブーツの音も当然彼女の耳には届いている―それでも演奏を続けた。 よつば- …………(カツ、カツ、カツ、カツ、 藍住麗- ♫ジャジャーン♪ 藍住麗- (いつもどおり、即興の演奏をつなげる。 藍住麗- (優雅であるために。また普段通りであるために。もう大丈夫と伝えるために。 よつば- …………。(ピアノを引く麗の背に、少し距離を置いて立ち止まる よつば- …… よつば- ごめんね、心配掛けて。(優雅で美しい演奏の中、その背に投げかける 藍住麗- ♫♫♫♫―z___ 藍住麗- (演奏が急に止み よつば- …もう大丈夫だから。 よつば- (言い、演奏が止まったのも気にしていない風に 藍住麗- ・・・・・・(指を止め、動きを止める よつば- (くるりと背を向け、出口まで歩き出す 藍住麗- ・・・・・・(動きを止めたまま振り返りもせず 藍住麗- 「・・・・・・待って!」 よつば- っ、 藍住麗- (よつばの耳元に直接響く声 藍住麗- ・・・・・ 藍住麗- (立ち上がり、ピアノから離れ、よつばの方へ振り返る 藍住麗- ・・・・・・待って。 よつば- ・・・・、・・・・(背を向けたまま立ち止まる 藍住麗- どうしてあの時1人で・・・・・・ 藍住麗- 私を遠ざけてあんな事・・・・・・ よつば- ・・・・、 よつば- ・・・・近付けたら、 よつば- ・・・・傷付けるから。 藍住麗- ・・・・・・ 藍住麗- どういう・・・・・・事・・・・・・ よつば- ・・・・、 よつば- あんまり近付いてちゃ、護れないでしょ?(振り返り気味に、自嘲するように笑って 藍住麗- ・・・・・・ 藍住麗- いつも・・・・・・ 藍住麗- 護られてばかりね・・・・・・ よつば- …いーえ。 よつば- アタシが勝手に護りたがってるだけよ。 藍住麗- ・・・・・・ 藍住麗- 私が・・・・・・ 藍住麗- 私がもっと・・・・・・ 藍住麗- 護られなくても良いぐらい強くなれば・・・・・・ 藍住麗- ・・・・・・ 藍住麗- また隣に立ってくれる・・・・・・? よつば- ・・・・、 よつば- ・・・・、、(イエス、とは言わず よつば- ……護りたがるのは、 よつば- アンタの所為じゃない。……蒼菖蒲家の――いえ、 、 よつば- オレの、悪い癖みたいなもんだ。 よつば- ……護りたいものを、近付けたくないのも。 藍住麗- ・・・・・・ 藍住麗- それじゃ・・・・・・ よつば- …………、 藍住麗- 私、近づかない方が・・・・・・ 藍住麗- 良いのかな・・・・・・ よつば- ・・・・、 よつば- ・・・・、、 よつば- ・・・・ よつば- そ、 よつば- そうだよ よつば- そっちの方が・・・・ よつば- アンタは幸福な筈だ・・・・、 藍住麗- ・・・・・・ 藍住麗- ・・・・・・(視線を下ろし 藍住麗- ・・・・・・ よつば- …………、 よつば- 突き放、させてくれ、 よつば- オレは、 よつば- 傍に置いてアンタを傷付けるのは、嫌だ・・・・ 藍住麗- ・・・・・・ 藍住麗- フッ………………(小さく笑みを浮かべ 藍住麗- それもまた……運命か…… 藍住麗- (スッ胸に手を当て凛として立つ よつば- ………… よつば- ・・・・ よつば- じゃ、 よつば- アタシ、そろそろ行くわね?(ぱっと「よつば」の笑みを浮かべて 藍住麗- ええ……お足を引き止めさせました……(フッと優雅に笑みを浮かべ よつば- いーえ。 よつば- それじゃ、またね。(軽く手を振り、自動ドアへと よつば- (自動ドアが閉じられる よつば- ・・・・、(これで、 よつば- (これで、いい筈、だろ・・・・ よつばさんが退室しました 藍住麗- えぇ。さようなら。(サッと腕を振るい頭を下げる 藍住麗- ……………… 藍住麗- (指を鳴らし 藍住麗- (グランドピアノと共に、 藍住麗- (どこか床下の 藍住麗- (真っ暗で 藍住麗- (暗く 藍住麗- (光も声も届かない防音室へ 藍住麗- (幽閉されてゆく 藍住麗さんが退室しました
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【登録タグ 曖昧さ回避】 曖昧さ回避のためのページ なるての曲今日も明日も/なるて はなぽの曲今日も明日も/はなぽ ミヤケンの曲今日も明日も/ミヤケン 曖昧さ回避について 曖昧さ回避は、同名のページが複数存在してしまう場合にのみ行います。同名のページは同時に存在できないため、当該名は「曖昧さ回避」という入口にして個々のページはページ名を少し変えて両立させることになります。 【既存のページ】は「ページ名の変更」で移動してください。曖昧さ回避を【既存のページ】に上書きするのはやめてください。「〇〇」という曲のページを「〇〇/作り手」等に移動する場合にコピペはしないでください。 曖昧さ回避作成時は「曖昧さ回避の追加の仕方」を参照してください。 曖昧さ回避依頼はこちら→修正依頼/曖昧さ回避追加依頼
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唯「それじゃ、ダメかな?」 - 前編 - 14P/swimmerさん 唯「それじゃ、ダメかな?」 - 後編 - 32P/swimmerさん 絵師様 swimmerさん 戻る
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* 「それ、なに?」 じっと男が見下ろしていた縁台に、屋台で串焼きを買ってきたチャトラが近寄ってきた。 色とりどりの組み紐が、一本一本丁寧に台の上に並べられていて、それを男は眺めていたのだった。飾り紐?聞いた傍らの首筋をぐいと掴んで引き寄せる。彼女の首には細い皮の紐が結ばれており、その先に小鈴が結んであった。所有の証と主張するには小さいそれ。男が付けさせたものだ。 皇宮のあちらこちらとせわしなく動く彼女に合わせて、ちりちりと涼やかな音を立てる。もしかすると空耳なのかもしれないけれど、どこか別の場所、別の部屋にいても、耳を澄ますと聞こえてくる時があった。そんな時、ふと執務の手を止めて音を探している自分がいる。また何かに首を突っ込んで大騒ぎしているのか。想像するだけで、どこか胸の片隅の部分が温かくなるような気がした。 その革紐が、最近白茶けてきていることに気付いていた。そろそろ新しいものに変えた方がよいか、そんなことを思っていた。 徐にこれをもらおうか、と並べられたうちの一つを指して、男は店主に声を掛ける。薄織物を目深に被り、じっと品物を見定めていた男に胡乱な視線を投げかけていた店主は、買うと知れた途端に愛想よく笑って見せた。現金なものだと思う。 現金と言えば、皇宮で何不自由なく過ごしている皇帝に、持ち合わせと言うものはなかったけれど、城下にでてすぐに指輪の一つを金に換えた。それなりに良い品物であったはずなのに買い叩かれかけ、相場はそんなものかと引いた男に替わって、チャトラがしぶとく交渉した。しらを切っていた店主も、そのうち苦笑いをしてチャトラの言い値で良いと頷いた。おかげでかなりの額になった。 受け取った組み紐を、男を見上げていたチャトラの首に当てる。 古い皮ひもを解いて鈴を抜き取り、新しいものへと通す。ちり、と音を立てて収まったそれを、チャトラの首に改めて巻きつけた。巻き付けかけて少しだけ困ったなと思う。解くことは簡単にできても、片腕の男では結ぶのが難しい。見兼ねたのか、自分でやるよと後ろに回してくるチャトラの腕を軽くはね除けて、男は時間をかけて丁寧に紐を結んだ。 結び終わると少し離れて眺める。 抑えた紺地に、銀と朱の絹糸が木目細かく編み込まれているそれは、真っ直ぐに男を見上げてくる緑青色によく似合った。 「ありがと」 礼を述べたチャトラの顔が、嬉しそうで良いなと思った。 「大事にする」 真面目に答える様子を見て、そう言えば男が直にチャトラに何かものを贈る、という行為が初めてであることに気が付いた。と言うより、皇宮においてチャトラに限らず、誰かに何かを贈ったことはあったろうか。自問した。 わざわざ男が気を揉まなくても、そうした役職のものに丸投げしておけば、だいたいチャトラが皇宮で生活していくのに必要なものは揃えられていたし、それでいいと思っていた。ものの本では、男が女に何かを贈ることに心を砕いたりだとか言う描写が出てくるので、そうした心持ちも頭では理解できる。出来るけれど、それを自分がするかどうかは別の話だ。そもそも贈りたい相手がいたためしがない。 そうして、チャトラから差し出された串を、通りの脇の石段に二人で並んで座って食べた。ぶつ切りに切った豚肉を、濃い目のタレに絡めてじっくりと炙って焼き上げてある。仕上げにスパイスを振りかけたそれは、男が初めて食べるものだった。 「うまいだろ」 ここの店のはタレがうまいんだ、だとかどこか嬉しそうと言うか誇らしそうに教えてくれるチャトラの顔を見て、男はゆっくりと頷く。確かに美味い。適度に焦がされた表面からぷんと漂う炭の匂い。少し砂埃が立つ往来で食べるにその大柄な味はとても合う。ここの所また忙しくて、食事らしい食事もとっていなかった男にしてみれば、それは久しぶりのまともな食べ物だった。 ナイフもフォークもない、串から直接噛み千切る食事と言うものも良いものだな、だとかのんびりと男は思い、いつの間にか苛立ちが消えていることに気が付いた。 「アンタと、こんな風に歩いてるなんてなんか冗談みたいだ」 先に食べ終わったチャトラが日が落ち暗くなった通りを眺めながらぽつ、と呟く。 「絶対こんなこと出来なさそうな人種だよね」 「そう見えるかね」 「見えるも何も、そういうもんだろ」 「そうか」 「今でも半分、昼寝の中なんじゃねェのかなって思う」 「残念ながら、現実だ」 ちりちりと鳴る喉元をいじりながら、 「アンタとさ」 チャトラが男を見て言った。 「うん――?」 「アンタと見たい場所が本当はたくさんある」 都で一番安いのに酒がうまい店。鳥の集まるパン工房の前の公園。午後になると噴水に虹がかかる、中央通りの石畳。赤茶の煉瓦に映える楡(にれ)の大木。生誕祭でにぎわう灯篭の掲げられた裏通り。 指折り数えて、本当にいっぱいあるんだよとそんなことを言う。 「アンタが治めてるエスタッドって国の、アンタが治めてる都ってすげェって思った。綺麗なんだ……そりゃもちろん、人間が住んでるんだから汚ねェところも悪ィ所も色々あるんだろうけど、でもやっぱり都はとっても綺麗だった。道が真っ直ぐだとか、建物の形とかそういうんじゃなくて……それもすごいことなんだろうけど、オレが言いたいのはそういうことじゃなくて」 伝えたい言葉が見つからなくて、少し歯痒そうな顔をしたチャトラへ、男は静かに口を開いた。 「そのひとつひとつを見せてもらいたいものだね」 「……え?」 今? 驚いて見張っただろう薄暗がりの向こうの目に、そうじゃないと薄く笑って返す。目深にフードを被っているので、チャトラからは口元しか見えないだろうけれど、それで十分だろうと思った。 「また次の時。――そうしてまた次の次の時」 次、があるのだろうか。男はふと思う。もう少ししたら戻らなければならないことは判っていた。抜け出して二刻にはなる。男が皇宮内のどこにもいないと知れたら、大騒ぎになるに違いない。騒ぎになってしまえば、監視の目がますます厳しくなることは容易に想像ができるし、そうなっては男が今口にした「次」の機会も遠のいてしまう。だから、今すぐにでも腰を上げて大通りを戻り、何もなかった態で裏庭あたりから顔を出すのが良いと言うことは判っていた。 夕日が沈み、夜の気配が忍び寄る通りで、けれどもう少しだけこうして黙って座っていたいと男は思った。特に会話することもなく、食べ終わった串を弄びながらただ、行き交う雑踏を眺めていたいと思った。 その時、隣に並んだチャトラの体に、さざ波のような緊張が走った。見ていてはっきりと判る変化だったので、どうしたのかと男は小声で尋ねる。あのひと、と通りの一点を見ながら、チャトラが鋭い目になって囁いた。 「あのひと、尾けられてる」 言われて何気ない動作で同じ方角を見た。夕餉の買い出しをするもの、家路に急ぐもの、早くも少しばかりの酒精を入れてほろ酔い気分で練り歩くもの。雑踏の中、いったい彼女がどの人間を指したのか、男には判らなかった。 「――どこへゆく」 不意に動き出しかけた彼女の体を咄嗟に捕まえて、尋ねると助ける、と短い返事が返ってきた。 「助ける――、」 「赤んぼ抱えてる。見捨てられないだろ」 「どうやって」 「わかんねェ。場のノリで考える」 アンタはここで待ってて、そう言いかける口を軽く手のひらで押さえて男も立ち上った。困ったように見上げてくる、頭一つ半分下の顔がある。 「アンタついてくるつもりなのかよ」 「一人より二人の方が何かと便利なのではないか」 「……オレ、アンタが怪我でもしたら、たぶん各方面から相当な確率でブッ殺されるんだけど」 「何、自分の身は自分で守れる」 「どの口で言うんだよ」 無駄口を叩いているように見えて、チャトラの視線は、捉えた女から目を離していない。本気で事を起こすつもりなのだな、と男も忍ばせた獲物の感触を確かめながら、 「行くよ」 言った。 * やめてくださいまし。 女は小さく悲鳴を上げた。胸に抱いた赤ん坊を強く抱きしめる。 路地裏で囲い込まれていた。 どうしてこんなことに、だとか麻痺しかけた頭で思う。今日も何の変哲もない、ごく普通の一日だと思ったのに。 朝早く、勤めに出る夫の弁当を作り、持たせて見送り、それから生まれてふた月の我が子をあやしながら、洗濯をし、掃除をし、買い物に出たのだった。夫が毎晩、飯の席でのんびりと傾けている果実酒の残りが、もう少なくなっていることに気付いたからだ。買い足すついでに夕飯の材料も見繕うつもりで、編み籠を持ってまず酒屋にむかった。 通りに面して酒を販売している店先で、店の親父と世間話を交わしているあたりから、妙に首の後ろあたりにちりちりとした視線を感じた。嫌だな、と何となく思った。その後ぶらついたいくつかの店舗で、相変わらず嫌な視線が追ってくることをはっきりと認めて辺りを見回す。少し離れた馬止めに妙に下卑た顔付きの男が三人。何気ない態を装っているが、時折ちらりと自分へ視線を流していた。 何の用か、と思う。 もちろんその品のない破落戸(ごろつき)の中に見知った顔はなかったし、一瞬夫の仕事関連かとも思ってみたけれど、それにしても酔った視線に品がない。夫が家へ連れてくる同僚は、みなそれぞれにきちんとした身だしなみをしていたし、はきはきとした受け答えをするものが多かった。気持ちの良い人たちだ、と言うのが彼女のざっとまとめた感想で、それはいやな視線を投げかける男たちとは明らかに違う。 男たちは、通りで一定以上彼女に近寄ってくることはなかった。なので、もしかすると自分の気のせいなのかもしれない、赤ん坊を抱えた母親の過剰な自己防衛心とでもいうものかもしれない、と理由を付けて納得させて、足早に我が家へ戻ろうとした。 それがいけなかった。 今になって思えば、店先の親父の誰でもいい、助けてだとか、何か一言救いを求めても良かったのだ。 後から思い過ごしだと笑われようが、あすこの奥さんはやけに神経質でいけねぇ、だとか噂されようが、自衛すべきだったのだ。 一瞬人通りの途切れた隙を突いて、一人が女の前に回った。ひやりとして方向転換しかけた背後に、やはり一人。少し離れて一人。嫌な予感にぎゅっと心臓を掴まれたようになりながら、追い込まれて路地裏へ足を踏み入れていた。逃げる余地のある空白が、そこにしかなかったからだ。 一本隣の大通りには、都の警護に当たる者たちの宿舎がある。彼らにも任務と言うものはあるから、ほとんどの人間は出払っている。とは言え、あちらこちら行き来する中か、もしくは門前に数人、屯(たむろ)しているはずだった。そこへ辿り着きさえすれば、保護してもらえるだろう。 一本向こうの通りへ、行けば。 踏み入れて直ぐにはっと気づいて背後を向く。ここは駄目だ。一見通り抜けができるような間口の広さを見せておいて、袋小路の造りになっている。通り一本向こうにでるには、隣の細い通路でなければいけない。 通路を押し塞ぐように、男の体が滑り込んできて、女は今更通りへ戻れないことを知った。路地の壁に背を当て、せめてもの気丈さで男たちを睨みつけながら青ざめる。 「何のご用です」 囲んだ今、絡みつくと言うよりは、べたつく視線を男たちは彼女へとはっきり向けてきながら、にやにやと笑う。 男たちの目的が一体何であるのかが判らないのが怖かった。酔った勢いの体目的なのだろうか。金目もの目当ての強盗なのかそれとも。胸元に視線をちらと落とすと、息子はぐっすりと安心して眠っていて、咄嗟にこの子だけは守らなければ、と思った。 でも、どうやって。 「何のご用です」 不安に泣きだしそうになりながら、女は自身を叱咤する。震える声は隠しようがなかったけれど、常に堂々とした夫の立ち姿を思い出して、少しだけ心強く思った。挑むように男の一人を見据えてやる。その視線が気に食わなかったのか、僅か顎を引いた男が、口元を歪めて彼女へ向けて腕を伸ばしてきた。どうか、我が子だけは。 無意識に庇い、背を向けた女の耳に、がっ、だとかばき、とだとか力任せに鈍器を投げつけたような妙にくぐもった音が飛び込んで、 「……にしやがるこの糞ガキ!」 思わずきつく瞑っていた目を開いて、彼女は振り返った。 遅れてじゃりじゃりと耳慣れた――貨幣が大量に道に転がる音――が聞こえてこんな時だというのに、誰かが小銭でもぶちまけたのだろうかと好奇心をくすぐられて下へ目をやる。驚くほど大量の銀貨や銅貨が、もったりと大きな金入れからこぼれて散らばっており、男が一人白目をむいて悶絶していた。随分大きな音がしたから。そう女は思う。それから、その向こうに悔しそうだとか怒っていると言うよりは、何だか泣きだしそうな顔をした少年が一人立っていた。こういった状況に颯爽と現れた英雄にしては、情けない顔をしていると言うのが、彼女の正直な感想だ。 勿体ねェ、と少年は言った。 「いい獲物だったのに」 「――物は使いようと言うだろう」 涼やかな声が続いて、目深に織物を被った長身が、少年の脇に現れた。少年と並んで頭一つ半は高い。声の調子からして男だとは思うのだが、それにしてはゆらゆらと頼りなく細かった。身長だけで比べれば彼女の夫と同程度。ただ、安定感と言うか横幅、例えば隣の少年が思い切り当て身でも食らわせたとしたら、簡単に長身はよろめくのではないか。 そんなことを思った。 そうして女が場違いに感想を抱いている間、仲間の一人を転がされて頭に来たらしい破落戸の残り二人が、拳を固めて少年と長身に襲い掛かる。うわ、と首をすくめて間一髪身を躱した少年は、なるほど確かに身のこなし生来のものであるように見えたが、だからと言って男二人に、その身軽さだけで対応しきれるとは到底彼女には思えなかった。 長身の方は、泰然と佇んだままである。与し易しと判断されたのだろう、小さい方を掴みかけてかわされ、よろめかされた男たちが、次はこいつとばかり歯を剝きだしてその長身へ腕を伸ばすのへ、 「へぇ……見た目よか案外金持ってるんだな」 挑むような声が、二人と女の背後から投げかけられる。なんだと振り向いた男たちに、少年がこれ見よがしに掲げてみせる二つの金袋。二人が慌てて己の懐をまさぐった。 「てめェ……!」 怒声。少年が男たちからすれ違いざまに掏ったのだと、女は気付いた。 ――見えなかった。 掏摸なのだ。驚きに目を見張る。確かに自分は今、瞬きもせずに、掴みかかった破落戸どもと掴みかかられ慌てた様子の少年を眺めていたはずで、もちろん彼の腕の動きを特別注視していた訳ではないけれど、それにしてもこうまで気が付かぬものなのかと感心した。 気が付かないと言うよりは気が付けないと言うのかもしれない。そんな風に思う。それが手練手管(そう言うものあるものかどうかは判らないが、)の上手下手の線引きなのかもしれない。 感心する女を襲っていたことなどすっかり頭から離れた態で、破落戸二人は唸り声をあげ、頭から首のあたりまで真っ赤になりながら、完全に標的を少年に移し替える。 庇ったのだ、と女は思った。 一見すると、酔いどれ三人に絡まれた女自身を、少年は引きつけたともいえる。けれど渦中にありながら、つい第三視点で眺めてしまった彼女には、このなよやかな男から酔いどれどもの意識を逸らすために、少年が挑発したさまがはっきりと判ってしまった。 手にした一つの金入れを、少年は高々と宙に投げ、それからくるりと踵を返して表通りへ走り始めた。待てこら、とありきたりの怒声を上げて男二人がそれへ続く。今しがたまで自分たちが何をしていたのか忘れてしまう程度の、頭の足りない連中だったに違いない。 「――こちらへ」 それでも思わず呆気にとられた女の腕を引いて、長身の男が囁いた。 「あの、……あの、お連れさまは、」 「貴女の家へまず向かおう」 「……私の?」 私を知っておられるのですかと、問うた声に返事はなかった。ただ、すっぽりと被った薄布から覗いた薄い唇に見覚えがあるようなないような、よく判らない。顔が見えないので、もしかするとこの男と面識はあるのかもしれないが、先程のすばしこそうな少年は明らかに初対面だと思う。 進もうとした女の体が、裾を引かれてつんのめる。驚いて振り返ると、泡を吹いていたはずの男がいつの間にか立ち上がり、剣呑な面構えで構えていた。ひ、とわななく彼女の前に滑り出るように長身は立ち、こちらも文字通りの目にもとまらぬ早業で、どこからか取り出した短刀を男の首筋の上に容赦なく当てていた。迷いなく頸動脈の上である。 「邪魔をするな。――去ね」 長身の殺気は間違いなく本物で、頭の足りない大男にもそれは十分伝わったのだろう。両手を上げ、ずるずると壁伝いに這い進むと、凍りついたまま路地奥へ尻餅をつく。腰が抜けたらしい。 「さあ」 促されるままに、半分頭が痺れた状態で、彼女は赤ん坊を抱えなおす。もしかして悪い夢でも見ているのかと思った。我が子の顔を覗き込むと、騒ぎに目も覚まさずぐっすりと眠っている。 「――良い子だ」 彼女の視線を追って同じように腕の中を覗いた男が、つと口の端を上げる。 「豪気」 褒め言葉だったのだろう。ありがとうございますと、女は思わず呟いていた。 * 脇に並んで歩く男は、一体どこの何者なんだろう、と家に近付くにつれてようやく女に警戒心が沸き起こる。本当だったらもっと早くに起こって良いものなのだろうけれど、事前の破落戸どもに囲まれたことで、そうした常識的な警戒心がおよそ麻痺していた。 長身と少年が、無害を示すものはどこにもなくて、ただ彼らはあの状況から救ってくれただけだ。ひねくれた見方をすれば、もしかするとこうして女に近付くために破落戸どもをけしかけたと言う可能性も否定できない訳で、やすやすと信用した自分が少しだけ恨めしい。 どうしたものかと脇の男をちらりと見やる。視線の意味はとっくに判っていたのだろう、 「……気になるか」 前を向いたまま男が歌うように呟いた。薄布を目深に被っているので、下から見上げた彼女にも男のはっきりとした容姿は伺えない。ただ、えらく整った顔立ちをしていることは確かなようだった。それと、身に着けている絹物が乱雑に組まれているようで、実際街中でなかなか目にしないほどの高級品だと言うことにも、彼女は気が付いた。 「は――はい」 身分を隠した貴族の何某かが、忍んでそぞろ歩きでもしているのだろうか。 「だいたい、合っている」 考えが顔に出たのか、それとも読心術でもあるのか、長身は彼女が口にする前にゆっくりと頷いた。答えにぎょっとする。ぎょっとした彼女を見て、少しだけ男が薄絹をずらした。垣間見えた白皙に、あ。女の口から声が零れる。あまりに綺麗な顔だったので。 「覚えておられるかな」 「あ……え、」 判らない、とは言えなかった。どこかで確かにまみえた顔だと思う。いや、絶対に知っていると言い切れる。一度目にしたら忘れられないほど印象深い顔であったし、彼女の知り合いに、ここまでの容姿の人間はそうそういない。だからすぐにでも名前が出てきて良いはずなのに、女は男の名前を思い出すことができないのだった。 「ああもう、勝手に行くなよ」 不意に後ろから声がかけられて、少年が走り寄る。破落戸を引きつれて走って行ったはずの背中の後ろに、二人の影は見当たらない。 「迷子になったかと思っただろ」 「守備は」 「上々、とか言うんだっけこういう時。アイツ等ちょっとからかったら、頭に血が上りすぎてなーんも見えなくなって、だからそのまま兵舎に飛び込んでやった」 「……兵舎に」 会話を端聞いて、女は目を見張る。実際に見た訳ではないのに、何故かその光景が容易に思い浮かべることができた。 「そうそう。すげェ形相で追っかけてくんだぜ。食われそうな勢いだったな、あれは」 「大丈夫だったのですか」 「うん。警護兵が何人かヒマそうに突っ立ってやがったから、ちょっと演技して、たすけてーとか叫んで、突っ込んでやった」 「まぁ」 「仕事を与えてやって彼らも救われたろう」 「どんなもんなんだろうな。やたら張り切ってお縄にしてたけどな」 な。 女に目を向けて少年は人懐こい笑みを浮かべた。ほとんど表情の動かない長身に比べて、こちらはくるくると実に目まぐるしく色が変わる。つられて女は思わず微笑んだ。得体の知れなさでは少年も長身の男も大した違いはないが、少年は明らかに邪気がない。 「お怪我は、無いのですか」 「ん?オレ?ないない。……でも」 でもあの金入れはもったいなかったな、と肩を落として少年は呟いた。 「……久しぶりの大物だったのに」 「あの。……お尋ねしても、よろしいでしょうか」 がっくりと項垂れている少年に、女は尋ねた。長身の男は、会話を交わすにはどうにも人間離れしすぎて、どうにも会話がしにくい。その点少年は親しみやすいと言うか、つまりは「人並み」に見えたので、聞く方も気が楽だ。 疾うに自宅の前に着いていたけれど、このまま素性の知れない人間を家に上げる訳にもいかず、しかし本当に窮地を救ってくれた人間であるならば、相応の形を取るべきだと思った。 「どうして私を助けて下さったのですか」 「……どうしてって」 聞かれた少年が、初めて困ったように首を傾げた。ちり、と喉元に結わえた鈴が小さな音を立てる。音に釣られて目をやった女は、そこで目の前の恩人が、少年ではなく少女なのだとようやく気が付いた。鈴の下の首筋は、男のものにしてはあまりに滑らかだったからだ。喉仏が見当たらなかった。 「アンタが、母さんだったから、じゃ理由にならない、かな」 つっかえながら答えた娘に、聞いた女の方も困惑する。 「母……ですか」 「女と子供は大事にしろってオレは思ってるから。赤んぼ抱っこしてる母さんなんか、一番に大事にしないといけない相手だろ」 「……けれど」 それだけで見ず知らずの自分を助ける理由になるのだろうか。 「――助ける理由になるのだよ」 互いに戸惑った女と娘の助け船を出すように、それまで面白そうに眺めていた長身が口を挟む。 「少なくとも、『これ』にとっては十分に理由になるのだろうよ」 説明されていたはずなのに、はあ、と彼女は頷けはしなかった。体が反射的に硬直する。男の言葉は上滑りしただけで頭の中まで染み入ってはこなかった。唐突に、目の前の長身の声の正体に思い当たったからだ。 「貴方さま……」 まさか、と思った。どうしてこんな時間、こんな場所に。 「……陛下。皇帝陛下……!」 ぎゅうと抱きしめる力がこもったものか、それまでおとなしく眠っていた胸の中の赤ん坊が、急にむずかり始めた。ああ、と慌てて娘が赤ん坊を覗き込む。 「オイこの莫迦!脅かすなよアンタ。赤んぼ泣いちまったじゃねェか」 だいじょうぶ、なにも怖くないよと赤ん坊に語りかける娘の背後で、長身の男がうっすらと笑むのが見えた。そうだ。どうしてその笑みを見た時に、すぐに気付かなかったのだろう。その実決して笑っていないのに、表面だけ取り繕って笑って「見せる」男。一番表層の薄皮一枚動かして、相手を無意識に魅了しようとする男。 「久しいね、――ディクス夫人」 エスタッド皇帝はそう言って、薄織物の中から艶然と視線を流した。 * 「息災であったかね」 御口に合いますかどうか、恐縮しながら置いた紅茶に口を付けながら、男は言った。 「おかげさまで元気でおります」 「不自由なく暮らしているか」 「はい。ありがとうございます」 応えながらディクス夫人は緊張に体を固くした。どうしよう、そんな言葉が頭の中を回る。茶の用意をしたのはいいが、それからどうしたらいいものか判らなくなった。男の前で、立ったまま話を進めてもいいものか、それとも向かいの席に座るべきか、一体どちらの方が失礼にならないのか、どうにも判らない。世間一般的な躾と言うか、「表に出されても恥ずかしくない」程度の教養は習ったつもりではいたけれど、夫の雇い主でもあり、そもそも一国の主でもあるという人物と、同じテーブルについてもいいものなのかどうかまでは、誰も教えてくれなかった。盆を持ったまま彼女が迷っているのが判ったのか、男――エスタッド皇帝――は、さり気なく席を指し示した。 「招かれざる客なのだ。――そう固くならずとも良い。貴女も座りなさい」 そういわれても正直困る。固くなるなと言われてならずにいられるのなら、何も苦労はしないのだ。 「はい、あの……、でも」 「……あのなぁ」 座れるわけねぇだろ。 横から呆れた声が挟まれた。 「絶対いるハズのない皇帝サマがいきなり目の前に出てきて、でもって家にまでやって来て、そんで緊張すんなとか言ったって、ムリに決まってんだろ」 声の出所に目をやると、チャトラと名乗った娘がこちらを向いて赤ん坊を胸に抱え、ソファの上に足を崩して座っていた。あやし方がなかなか様になっている。同じように思ったのか、皇帝がそう言って褒めた。まぁな、と娘が胸を張る。 「日払いで子守りとかしたことあるしな」 「ほう」 「やっすい駄賃だったけどな。負ぶった肩は痛いし、ガキんちょは背中で、でっかいのも小さいのも遠慮なくやってくれるし、偉そうにババァは用事言いつけてくるし、何度もやめてやろうかと思ったけど。……けど、なんでも経験しとくもんだなァ」 ババァときた。悪気はないのだろうけれど率直な物言いに、聞いて思わず夫人の頬が緩む。 むずかっていた赤ん坊は夫人の乳を飲み、チャトラに抱かれて大人しくなっていた。今は彼女の動きを目で追い、腕の中で機嫌よさそうにニタニタと笑っている。最近人見知りし始めた息子にしては、珍しい懐きようだった。視線を落として、同じようにニタニタと笑って返すチャトラを見て、夫人の頬がますます緩む。 「チャトラさまは子供がお好きなのですね」 「赤んぼは好きだよ」 なにしろ、やわらかくてあったかくていい匂いすんだぜ。そう言って笑って赤ん坊の頬に顔をすり寄せた本人のほうが、やわらかくてあたたかい顔をしていることに気付いているのだろうか。いい子なのだなと思った。掏摸と知った時はいくらか驚きもしたけれど、根は素直で良い子のだろうと思った。 笑って緊張がいくらか解けて、それでも躊躇いがちにディクス夫人は皇帝の向かいの席へ腰を下ろした。何気ない言葉ではあったのだけれど、自分の緊張をほぐすためにチャトラが声を発したことには気づいていた。それがチャトラにとって、意識的なものか、無意識なのかまでは判らない。 「お二人さまはこれから如何なさるのですか」 「そろそろ、皇宮に戻るつもりであるよ」 「大騒ぎされてそうだもんな」 皇宮をこっそり抜け出して市中をそぞろ歩いていた。たまたま通りで見かけた女を助けてみたら、知人だった。知らないふりをしても良かったが、折角だから声を掛けてみた。――だとか最初に説明をされた時は、担がれているのかと疑ってしまったのだけれど、どうやら本当に二人でブラついていたらしい。それはそれで問題があるように思うし、と言うより皇帝が現在目の前にいるとして、その皇帝の警護の任についているはずの自分の夫は、今頃どこで何をしているのやら、生真面目な夫の顔を思い描いて気の毒なことだ、だとか少しだけそんな思いも頭をかすめたが、 「皇帝陛下」 「うん、」 「先程は本当に、どうもありがとうございました」 それよりもまず、とディクス夫人は礼を述べ、頭を下げた。 「私はともかく――この子がどうなりましたことか。何かありましたら、夫に顔向けができません」 年の離れた夫は、彼女をまるで壊れ物のように扱ってくれる。病弱な訳でもどこか体に悪い所がある訳でもないのだけれど、彼女が、息子を孕んでいた時分に体調を崩したことがよほど気になるらしい。あの時はひどかったな、と思う。最悪の場合は子供の命は諦めろとまで医者に告げられ、意地でも産もう、と思った。我が子をこの手に抱きたい気持ちも勿論そこにはあったのだけれど、夫が何より子供を望んでいたことを、口には出さないけれど彼女は理解していた。十月十日経ち、我が子を夫が抱いた時、いつも無口な目が潤んだことを彼女は知っている。 そんな我が子に何かあったら。 改めて思い出して、体の芯までぞっと冷える心持がする。何が目的か知らないけれど、あのまま彼女一人ではひどいことになっていたに違いない。そう言って頭を下げた夫人へ、少し考え込むような視線を向けていた皇帝が、杞憂に越したことはないが、と口を開く。 「あのものたちは、貴女の知り合いではないのだね?」 「はい。初対面です」 「――そう」 どうしてそんなことを聞くのか、首を捻って答えた夫人に、赤ん坊を膝の上で左右に揺らして喜ばせていたチャトラがアイツ等、と言った。 「アイツ等、アンタをアンタと知って狙っている気がする」 「私を――、ですか?」 「正確にはディクスの細君だからであろうね」 「主人の」 言われてますます判らない。仕事付き合いの何某かなのかもしれないけれど、紹介された覚えもない。どういうことですかと尋ねると、皇帝がわずかに俯いた。それだけで憂鬱な顔になるのは元の造形が整っているからだろうか、だとか思わず見とれて彼女は考えた。 さっきから一度に体験したこともない出来事が起こりすぎて、ついついこうして家に招き入れ、向かいに座って茶を飲んでいるけれど、よくよく思えばとんでもない話だ。改めて気が付いた。エスタッド皇帝と直接話をする機会なんて、こんなことでもなければ一生有りえない。「こんなこと」という自体も相当ありえない。 そう思うと急にどうでもいいことが気になって、ディスク夫人は慌てた。例えばテーブルクロスの見えない部分ではあるけれどちょっとした染みであるとか。壁が少しくすんでいたな、だとか。ああこんなことならもっときちんとしておくのだった、そう考えたところへ、 「アイツ等、酔ってなかった」 深刻そうなチャトラの声が響き、我に返った。 「は。……え?」 「酔ったふりをして、アンタに絡んで難癖付けようとしてたみたいだけど、酒の臭いがしなかった。アイツ等、誰でもいい、適当な女を狙ってた訳じゃないと思う」 そう、言葉を受けて頷いた皇帝が唐突に、 「護衛を付けた方がよいだろうね」 そう言った。 「護衛……ですか」 彼女は目を瞬かせる。想像もしなかった提案だった。 確かに襲われたことは事実だけれど、あまりにも物々しすぎるのではないだろうか。逆に不安になる。二人の言う通り、あの破落戸どもはもしかすると酔っていなかったかもしれない。けれど、だからと言って護衛を付けて身辺を守るとは、随分と話が穏やかではない。護衛された経験もないので余計に困る。例えば目の前の男のように、貴人クラスの人間に護衛を付けるならまだしも、軍人の家に嫁いだ自分にそう価値があるとも思えなかった。 「ディクスは何も言わ――……ああ。言わないだろうね」 「……主人が?」 聞き返した彼女の前で皇帝が目を閉じる。 「あれの良い所は、余計なことを口にしない所ではあるが――必要なことまで口にしない。言葉ではなく、行動で示すべきだと考えているような所があるね」 「……あの……あの。主人が、何か」 「ああ――……いや。咎めた訳ではないのだ」 言って皇帝は一旦口を噤み、言葉を選んでいるようだった。 「そう……、一言でいうと、最近どうもエスタッド周辺の不穏分子と呼ばれる者どもが、あまり良くない動きをし始めている、と言ったらよいだろうか。なるべく大事にならないよう努めてはいるし、そうした解決方向へ向けて目下、鋭意努力中であるのだが、あれらはどうも過激でいけない。争いごとを起こしたくてたまらないのだね。そうなると、真っ先に狙われるのは抵抗が少なく、けれどある程度、抑えて脅しの利く相手――つまりは要職に就くものの家族、なのだよ」 「……家族」 「親の、子供の命が惜しければ要求を呑めと――連中の使う手はいつも同じだ。そうして癪なことに、いつも同じ手がその実一番有効であるのも確かだ」 言われて彼女は息を呑む。 「留守の間、頼む」 初めてこの家に来た日に、えらく真剣な顔で、夫から告げられたことを思い出した。あの時はただ家事であるとか近所付き合い、仕事が忙しい夫の手を煩わせないように、身の回りのこまごまとした雑務をこなしてほしい、そう言われたのだと思っていた。子供を産まれて後は、世話をよろしく頼む、そういう意味だと安易に解釈していた。 (あなたが頼んでいたことは、そんなことではなかった) 気付いて、彼女は今更ながらひやりとする。 夫の仕事はエスタッド現皇帝の護衛であり、夫は皇帝の側近であり、つまり皇帝から物理的に一番近い場所にいる。一番近い場所と言うことは、皇帝に害を成そうとしたときに一番有利な立ち位置だと言うことである。皇帝の背後から、周囲が気を抜いた瞬間、切りつければそれで済む。簡単なことだ。 勿論夫は、そんなことをするような人間ではない。仕事に対するクソ真面目さは傍で見ている彼女が呆れるほどで、叛意を抱くこととはまるで真逆の位置に夫はいる。自分に何より厳しい人間で、妥協を許さない。 けれど、と思う。 その何よりも妥協を許さない人間が、例えば家族を質に取られて、家族の命と引き換えに皇帝を狙えと脅迫を受けたとしたら。 夫は家族と主と、どちらの命を取るのだろうか。 愕然とし――、そうして彼女は何故か悲しいと思った。場違いな感傷なのかもしれない。けれど、初めて夫の立場と言うものを理解したような気がする。 彼女との婚姻の話が持ち上がった当初、夫は快諾しなかったと、間に立った人間からそれとなく聞いていた。ずるずると答えを渋り長引かせ、周囲が押し切って漕ぎ着けたようなところもあったから、最初彼女は夫に愛されていないのだと思っていた。それもそうか、とも思っていた。家と家同士の婚姻に反撥したい気持ちもあったろう。もしかすると好いた女の一人でもいたのかもしれない。勧めた人間の言葉を断りきれなかったのだと思っていた。だったから、初めて対面した時に、それほど嫌がっていた自分に対して優しかったことが意外だった。無口ではあったけれど、見つめてくる視線は温だった。だから彼女は夫との結婚を決めたのだった。 あの時から、夫はきっと決めていたのだ。 仕える主と家族の二択を迫られた時に、自分がどちらを選択するか。判っていて、だから婚姻を渋った。勝手に悩み、勝手に心を決めて、そうして彼女を愛おしんだ。壊れ物のように扱ってくれた。それはきっと、夫が心に抱いている疾しい気持ちの裏返しだ。 忠か情かと聞かれたら、夫は黙って忠を取るだろう。彼女には判る。夫はそういう人間だ。 (悲しい人だ、あなたは) 黙った彼女を気遣ったのか、大丈夫、とチャトラが近くに寄ってきていた。赤ん坊を揺らしながら、下から覗き込んでいる。眉尻の下がった顔は心底彼女を心配しているようで、気を取り直した彼女は取り繕って笑って「見せた」。 笑いながらああ自分は今、先程の皇帝と同じような笑みを浮かべているのだろうなと思った。笑う以外の表情で、本心を隠すことはできない。だから笑うのだ。常に誤魔化して「見せる」目の前の相手も、きっとそうして悲しいのだろうと思った。 「――今帰っ」 そこへ、場の空気をぶった切るように突然部屋の扉が開いて、帰宅した夫が顔を見せる。いつもと大差ない時間、同じような恰好で同じように片手で襟元を緩め、そうして。言葉途中で、そのまま取手に手をかけ固まった。 「……」 「おかえり、ディクス」 「……へ……い、か?」 あんぐりするというのは、こういうことを言うのだろうなと夫人は思った。おそらく喜怒哀楽どれも今、夫の頭に浮かんではいなくて、思考はただ真っ白なのだろう。冷たい訳では決してないけれど、沈着で寡黙な風を崩さない夫の、幽霊に出会っても驚かなそうな夫の、引っくり返った声を初めて聞いた。 信じられん。 言葉に言い表すとそんな感じかもしれない。 「あの。えっと。……オレ、説明しようか?」 それぞれの顔を見比べ、躊躇いがちにチャトラが口を開いた。 (20110509) --------------------------------------------
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それじゃあ、バイバイ。 「御渡りをお待ちいたしております」 開口一番告げられた。 珍しくまだ日のある時間に、アウグスタ補佐とセヴィニア補佐が、そろってエスタッド皇の執務室を訪れた。珍しいなと思うとともに、後宮の部屋をいくつか改装したのでいずれ訪れを、と不躾に報告されて小さく眉をひそめる。セヴィニアに言われた意味が、判らなかった訳ではなくて、事後承諾の形を取られたことが気に入らなかっただけだ。 「――どういうことかな」 聞き返していた。低い声になった自覚はある。 「皇帝ともあろう御方が、いつまでも御一人身では体裁が整いませぬ故」 「君に小姑になってほしいと頼んだ覚えは、私にはないが」 ペンを走らせていた手を止めて、掬い上げるように睨めつける。小憎らしいことに対したセヴィニアは動じない。動じるだけの思いやりだとかやさしさだとか言うものは、きっとお互いに一片も持っていないのだ。 後宮の部屋を改装した、とセヴィニアは言った。つまりそこに、幾人かは知らないが「そうした」役目の女を配置したと言うことだ。家柄がよく、見た目も美しく、男に傅き、決して逆らわない。世間一般で言うところの「側室」としての一定条件を、満たした上に更に審査で選考されてきたような、申し分のない女どもであったのだろうが、けれど頼んだ覚えはない。そうした女をはべらせる気もない。男にしてみれば余計な話だった。 数年前に、シュイリェから使節と言う形で訪れていた女はともかく、男が現エスタッド皇の座に就いてから今まで、身辺に花の香りの漂うことはなかった。現皇帝は体が弱い。事に及べば腹上死するのではないかと、近習辺りまで噂していることを男自身は知っていたし、訂正する気もなかった。試したこともない。そう思われていた方がよほど便利だ。 「側女を持つ気はないよ」 「持つ気が無かろうと構いませぬ。世間体の問題もございます」 「――世間体」 ひそめた眉をますます大きくさせて、苛々と皇帝は髪を掻き上げた。 「君が今さらに世間体を気にするとは思えないね」 「私はいたって普通に世論に怯える男にござりますれば」 「言ってくれる」 そうして溜息を吐き、並ぶアウグスタに目をやった。セヴィニアと違ってやや世渡りが不器用な男は、皇帝の視線に怯みはしなかったものの、どこか居心地悪そうな顔になる。 「アウグスタ。君もかね」 「陛下」 渋い顔をしてアウグスタが重い口を開いた。 「その……つまり、ですな」 「――判っている」 言葉を濁すアウグスタから、手元の書き散らしへ視線を移して、 「つまり君たちは、私が自室に『あれ』を置いているのが気に入らないと、そう言いたいのだろう」 単刀直入に皇帝は言った。自分がする分には何ら気にも留めないが、相手から回りくどいことされるのは嫌いだ。 「判っておられるなら話は早い」 手にした書類をつと差し出しながら、セヴィニアは上段から男へ斬り込む。 「今すぐにでも、暇を出すべきです」 「あれは君の姪御であったと、記憶しているが」 「私の姪であれば既に皇宮にはおりますまい」 言い切った。仮令本当にチャトラがセヴィニアの遠戚であったとしても、彼は平気で切り捨てるだろうと思わせる口ぶりだった。家族ですら手駒の一つに過ぎないと、表でも裏でも酷評されている男である。 「……警護の、問題もあるのです」 言葉が過ぎるぞと、態度で牽制しながら、今度はアウグスタが一歩前に出た。 「このひと月、皇宮内にて不審人物を捉えたのが三件。うち一件は娘への接近に成功しております。小脇に抱えられたところを警護のものが気付き、事なきを得ましたが」 「接近に――成功」 言われて男の視線が鋭いものになった。 ひと月。そんなことがあったことすら知らなかった。部屋に戻るといつでも猫は猫のままで、おかしな素振りを見せてはいなかった。接近というものがどの程度か想像で補うしかないが、それでも拉致されかけた事実を猫は男に隠していたと言うことになる。 ――また我慢していたのだろうか。 「皇宮の警護は、君たちの管轄であったと記憶しているがね。宮内にそれだけの不審人物の侵入を許しておいて、何が警護か。笑わせてくれる。己の不手際を棚に上げて意見するとは、物事の順番と言うものが逆ではないかね」 男が思わず辛辣な口調になると、対するセヴィニアとアウグスタは、豪く慇懃に頭を下げて見せた。 「ごもっともにございます。しかし、御怒りを承知の上で、敢えて言わせていただきます。政に御執着は不必要かと思われます」 「足元を掬われると言いたいか。――私がそうした人間に見えると、そう言うことかな」 「……さて。今はまだ私どもの内、詮議の段階でございます。しかし今後そうした件が増えるとも限らないのです」 あれを放逐しろ、と。補佐官二人が厳しい顔になっている。女が必要ならば後宮を利用しろと、情愛の交歓のない無味無臭の女どもと褥を共にしろと、 「留意しておこう」 その生温かい肉の感触を思い出して、男は一気に不快になった。媚を含んだ視線を思い出す。吐き気がする。話を強引に打ち切って立ち上る。まだいくつか、今日中に仕上げなければいけない書類が残っていたなとちらと頭の隅で思ったけれど、知ったことかと投げ捨てた。補佐はそれも承知で、話を持ちかけてきたに違いないからだ。 慇懃に頭を下げる二人は、それ以上の用事もないらしい。一瞬だけ視線をやって、それから皇帝は執務室を後にした。 無表情の内にも不機嫌に退出した主を見送って、それからセヴィニアとアウグスタはどちらからともなく顔を上げる。 差し出したものの受け取ってもらえなかった書類を、本日片付けられるはずだった束の上に重ねて、それから何事もなかった態で、皇帝と同じように退出しようとしかけたセヴィニアを、アウグスタは背後から呼び止めた。 「……セヴィニア公」 「何か」 返った声は鋭い。かけられることも予想していたのだろうと思う。 「陛下に……、陛下の……、いや。……本当にこの方向でよいのか」 「この方向」 振り返ったセヴィニアは肩をそびやかして見せた。 「何を今さら」 「お嬢ちゃんが来てから、何も悪いことばかりだったわけでもあるまい。……確かに陛下は以前と比べると少し変わられた。だが、それは良い方の変化であったのではないかと俺は思う。御食事を召し上がられるようになったし、睡眠もとられる。この間の遠出の時は、いつお倒れになられるかとヒヤヒヤしたが、なんの、以前と比べて大分、丈夫になっておいでだ。この際、陛下の御健康を思、」 「御健康はどうとでもなる」 言葉は中途で遮られた。冷酷な視線は相変わらずだ。 「肝要なのは、屋台骨が揺るぐことのないよう、我々が支柱を差し込まなければならぬこと」 「お嬢ちゃんはいい子だろう」 感情の薄い視線に怯むことなく、大柄なアウグスタは眉根を曇らせる。三補佐の中でも皇宮内の担当する仕事の割り振りはあるもので、彼は全体の警護の報告を受ける立場にあった。実際現場を指揮するのは、護衛騎士団長であったり、側近のディクスだったりする訳なのだが、それらすべてを統括する、つまりは「何かあった時の責任者」的な役割にアウグスタは置かれている。 当然、皇宮内のあちらこちらよりさまざまな報告が入ってくるわけで、チャトラが拉致されかけただとか言う情報や、 「あそこまで自分の仕事に熱心なものがおるか。一生懸命、一つのことに打ち込めるものがおるか。泡だらけになって浴場を洗えるか。真っ赤に日焼けしながら剪定を手伝い、誰に言われるでもなく回廊を掃除し、木の上に引っかかった洗濯物を取りに行って、枝ごと折れても笑っていられるか」 あの子はどこの子なのだい。あの子は本当にいい子だ。 尋ねて回ると、実際に皇宮の生活を支える裾野の部分の人間が、口をそろえてチャトラのことをそう言う。一つ一つは、たいして褒められることでも、話題に上げることでもないのだ。だのに、チャトラを評するとき、聞いた誰もが嬉しそうに話す。 「良い、悪いで政治が務まると公は思っておられると言うなら、浅慮と返そう」 「政のことを持ち出すな。感情論を俺は言っておるのだ」 「感情で国は動かぬ」 「国を動かすのは人間だろう」 アウグスタに即座に切り替えされて、セヴィニアは一瞬言葉を失い、しばらくしてから苦笑いを浮かべた。 「埒が明かぬ。貴殿と私はいつもそこで対立する」 「セヴィニア」 公、とは敢えて呼ばずにアウグスタは苛立たしげな声を発した。 「陛下も人間であらせられる」 「判っている」 話は終わりにしたいとでも言うように、手を振り再び背中を向け扉に手をかけたセヴィニアが、 「公はここをどこと心得る。皇宮ぞ」 咎めるように最後にぽつ、と呟いた。 「皇宮に、良いものは要らぬ」 ここは魑魅魍魎の跋扈する世界であるから。弾かれたように顔を上げたアウグスタの目に、戸口をすり抜ける同僚の姿が最後に見えた。 「あれ……おかえり」 窓際で膝立ちになり、布きれを左右に持っていたチャトラが、少し驚いて振り向いた。何をしているのかと皇帝は目を細めて観察する。どうやら枠にはめられたガラスを磨いていたものらしい。 「昨日雨降っただろ。砂埃付いちゃってたから……どうよ、きれいになったろ」 入室して一瞬足を止めた男の視線の意味を、今の自分の恰好を問われているのだと解釈したらしい。言いながらまたガラスへはぁっと白い息を吹きかけて、手にした白布で擦り磨いた。それを眺めて思う。 猫は何も変わらない。多分最初から毛筋ひとつほども、その本分に変わりはない。すぐにむきになるところも、何にたいしても必死であるところも。では、と男は考え込む。変わったのは自分なのだろうか。補佐官どもが余計な気を回すほどに。がらんどうで小気味良いと思っていた後宮の部屋へ女を入れるほどに、 「明るいうちからアンタが帰ってくるとか。珍しいけどなんかあったの」 何も知らないチャトラが言った。 夕食を一緒に食べたいから待っていると、毎日部屋を出る時に声を掛けられ、三度に二度は深更に戻って反故にする。罪悪感はない。一人でもきっとうまそうに平らげているに違いなく、逆に男は食事の席に着くのが割と億劫だ。空腹感は確かにある。腹が減ったなと思うことだけは思うのだけれど、そうして目の前に出された何もかもがすべて、粘土のように味気ない。言うと笑われた。アンタ、疲れてるんだよ。そうして働きすぎなのだとも。自分でもそう思うが、では具体的にどうしたら、と考えるには至らない。面倒くさいからだ。 「なんか飲む」 言ってもう一度こちらを伺ったチャトラへ、男は不意に近付いてその体を引き寄せた。うわ、だとか小さく驚いた声を上げて、チャトラは窓枠から転がり落ちる。すっぽりと腕の中に納まる小さな体。 これを、手放せと言う。 「補佐どもから聞いたのだよ」 「補佐?……なにを?」 不思議そうに見上げてくる緑青。どこまでも透きとおったものならば成程作り物であると納得もするけれど、それはどこかくすんで濁っている。淵の深み。よどみの色だ。 「かどわかされかけたと――そう」 「……」 言われて困ったように八の字に眉尻を下げた顔が、アウグスタの言葉を裏打ちした。小脇に抱えられたと言っていた。この軽さなら、仮に暴れたとしても恐らく簡単なことだったろう。大したことはなかったんだよ、と言い訳のようにチャトラが歯切れ悪く呟いた。 「中庭歩いてたらなんか急に……」 「囲まれた?」 「いや、囲まれたって言うか、なんつーか……その。ちょっと」 「脅された?」 繰り返す男に慌てて、大したことはなかったんだよ、とチャトラはもう一度言った。口ごもる様子が言葉を裏切っている。脅されたのだろう。 哀れな、と思った。 それこそ物心つく前から、今現在の地位をある程度約束されていた男にとって、不意の襲撃は日常茶飯事だった。最初は怯えていたような記憶もあるけれど、そのうち億劫になった。人間、どんな刺激にもそのうち慣れてしまうものらしい。ぎらつく刃を向けられて襲い掛かられてきても、ああまたかと冷めた目で眺めていられるのは、鈍感になったと言おうか度胸がついたと言おうか、自分自身よく判らない。腕を切り落とされた時もそうだった。死ぬのだろうなとひどく冷たい霧のような思考が、脳裏を横切りはしたが、それで怖かったかと聞かれると、どうにもよく判らない。 しかし自分はともかく、チャトラはそうした状況にまるで慣れていない。小さな襲撃ですら、その動揺は見ていて大丈夫かと心配になるほどで、それを生来の強気と言うか負けん気で、はね除けているようなところがある。仕方がないとも思う。生きてきた世界があまりに違うのだ。 たぶん、彼女の人生での「死」と言うものは、飢えたり、寒さだったり、病によってもたらされるものなのだ。他人の意思によっていきなり断ち切られるような、そうした事故にも似た、けれど事故では決してありえない、 「――まだ――、日が高い」 考えを振り払いたくて、男は不意に話題を変えた。どうせ、怖かったかと聞けば怖くないと猫は答えるだろうし、何故言わなかったと聞いても、困ったように口を噤むのは目に見えている。そうして訪れる沈黙は嫌だった。 「あ?」 「この間、約束したろう」 「は?……約束?アンタと?」 振られた話題に付いていけなくて、チャトラが目を白黒させている。それを見て男はようやく強張っていた頬を緩めた。 「私の時間が欲しいと」 「え?時間?……ってあの。もしかして、こないだ言ってた、誕生日にほしいものとかの……アレか?」 冗談だろ。 探りを入れる目の色に変わるのがおかしい。 十日ほど前、裏庭の枝垂れ桜の木の下で、人目を避けるようにこっそりと、チャトラが一人宴会をしているところに乱入した。構ってほしくない瞬間にあえて近付き、無音の威嚇をされることが好きだ。誰に言っても悪趣味だと必ず顔を顰められるので、口には出さないが。 ほしいものが何かないかと尋ねると、しばらく悩んだ後に、男自身の時間が欲しいとからかうように口にされた。アンタ出来ないだろう?揶揄されていると言うよりは、すこしだけ諦観が混じっているようにも聞こえて、だから男は心が動いた。残念だがそれは無理だ、と切り捨てるのは容易かったのだけれど、 「行くよ」 「は?え?どこに?」 「支度をしなさい」 「今から?え、アンタ本気で言ってんの?」 言われている意味は判っても、それが本気かどうかチャトラには判らないらしい。 ――いいや。 本当は判っているのだ。男がとっくにその気になっていることが判っていて、だのに判らないふりをしてなんとか事態を回避しようとする。小賢しいと言えば小賢しい。 「ちょ、ちょっと待てって。そもそも行くったって、どうやって行くつもりなんだよ」 「お前の抜け道を使う」 「ディクスさん一緒に引き連れてか?」 「彼には用事を言づけた。今日はもう戻らない」 つまり今、部屋の外に常駐する護衛兵以外、うるさい目付け役はいないのだ。言ってやると、あからさまにチャトラが狼狽えるのが判った。 「……んなこと言ったってどうやって部屋でるんだよ」 「窓から出ればいいだろう?」 指し示してやると窓へ顔を向け、数呼吸黙って考え込んでいるように見えた。見ていて面白い。できないから、実現不可能だと思っているから、彼女は黙り込んだわけではなくて、どうやったら男と一緒に皇宮を抜け出るかもう考え始めている。それが、手に取るように判る。顔に出る性分なのだろう。 「……判ったよ」 しばらくして、手筈が頭の中でまとまったのか、チャトラが溜息を吐いた。 「アンタに付き合う」 「それはありがたいね」 「けど、アンタどうやったって目立つんだから、せめて顔隠せ。せいいっぱい地味な格好にしろ」 言いながらてきぱきと準備を始めるチャトラを見て、男は低く忍び笑った。どうかしている。そうかもしれない。いくら補佐どもから諫言を食らったからと言って、腹いせに彼女を巻き込み、護衛を外して場外に出るなど、統主の行動としてとても思えない。 頭では判る。だのにそうしたい自分がいる。 そのまま外で、誰とも判らない相手にすれ違いざまに命を狙われたら、それはそれで楽しいかもしれない。そんなことを思い、そうなったらこれはまた泣くのだろうか、だとか考えても先のないことを思った。 そう、どうかしている。 * もっと手こずるかと思った場外への脱出は、裏木戸あたりから割とあっさりと成功した。肩透かしにも近い。皇宮の警備は、入る方はともかく出る方はかなり楽だと、以前にダインと話していたような気もするが、本当にその通りのようだった。事が発覚した場合、もしかすると警護のものはものすごい勢いで責任を問われるかもしれないが、知ったことかと開き直る。自暴自棄になっているのかもしれない。 最初は困惑顔で、こちらを窺っていたチャトラも、皇宮が遠くなるにつれていつもの調子を取り戻しつつあるようだった。こちらもある種の開き直りをしたのかもしれない。既に膨らんだ金入れをひとつ、手にしている。見事なものだと褒めると不思議な顔をされた。 「そういえば、前から聞いてみたかったんだけどさ」 そんなことを言う。 「なにかな」 「アンタ、オレが掏摸だって知っても態度変わらなかったけど、なんか言おうとか思わなかったの」 「何か――とは」 言われた意味がよく判らなくて、男は首を傾げた。普段ならその動きで肩から胸へ流れるうっとおしい髪は、今は被った布の中に収まっている。 己の見た目に興味がまるでない男であっても、やはり市内でやれ皇帝だ何だと騒がれ囲まれることだけは避けたかったから、頭からすっぽりと薄布を被っていた。人目について連れ戻されることも面倒だ。 「だからさ。よく言うだろ。人さまの懐を狙うなんてとんでもないことだ、良くないことはやめろ、とか。そんなことしていると必ずそのうち罰が当たるぞ、とか」 「言ってほしかったのかな」 「まさか」 肩をすくめて苦笑いを返された。そんなこと、言われなくたって判ってる。 「でも、普通は言うだろ……実際オレが掏摸だって知ったヤツァみんな、そんなようなこと言ったし。それが当然だとも思ってるし」 「言われたいのなら言うが」 「だからそうじゃなくて」 「それに」 と男は言った。 「何を基準にして良くないことを決めるのだろうか」 思った通りに呟くと、ひゅ、とチャトラの喉が鳴った。驚いて息を飲んだのだと気が付いた。 「生まれてよりこの方――、飢えたことも凍えたこともない私が、何をもってお前を非難するのだね」 「……でも」 「責められるべきはどこにもない。前にも言ったかもしれぬが、お前は『そう』するしかなかったからそうしたのだろう。それに良しも悪しもない」 他人を批判できるほど、男は清廉潔白な人生を過ごしてきた覚えもない。よくよく眺めれば実に血塗れの人生だ。自分が生き延びるためには大抵のことは何でもやったし、そうしなければ自分は生きてはこられなかった。 そう思うことで己を保って生きてきた。 毒杯を握りしめ、仰向けになって玉座の上で冷たくなっていた、父と呼ぶべきだった先代。その盃を設えておくように指示したのはいったい誰か。公式記録には残らない。だから誰も知らない。そんな事象が思えば皇宮にはいくらでもある。 「とはいえ、統治していくのには一定の決まりごとがなければ、人間の集合体である街としての機能を果たさないのもまた確かだ。仮に、統治者としての私へ判断を求められたのだとしたら、相応の刑罰と言うものが必要なのだと答えるけれど、ここにいるのは一個人としての私でしかない。――であるので、ここだけの話であるが、個人的に私がお前の行為に対して好嫌を覚えることは――ないよ」 「……」 「――そうしてこれもここだけの話ではあるが、まず罪を問われるのだとしたら、お前ではなく、私が糾弾されるべきだと思うのだよ。ひと一人が生きて行くのに、『そう』するしかない状況に陥らせた政治責任は重い。その責任を転嫁して、声高に罪をなじる――、施政者としてあるまじき行為だ」 「……」 「それを言い出し始めたら、国なぞ統治できないと、頭の固い議会辺りには言われそうではあるがね。だから口にはしない。すべきではない。だが、個としての意見はそういうものなのだよ」 「……」 「それではいけないだろうか」 「……」 言葉を探しあぐねてしばらく口を噤んでいたチャトラが、アンタ変わってる。たっぷり間を開けた後に、ようやく絞り出した。 「そうか」 良く言われる。僅かに口の端を上げてみせると、本当に変わってる、繰り返したチャトラがふと通りの向こうへ目を転じた。 「でも」 「うん?」 「ありがと」 「――そうか」 それは彼女なりの照れ隠しであったのか、施政者としての自分への労わりであったのか、その一言だけでは男にはよく判らなかった。 それでよいと男は思う。そうして、その曖昧な言葉をもっと聞いてみたいとも思う。 「そういやあっち、仲見世が出てるんだよな」 「ほう」 「なんか食おうぜ?オレが奢ってやるから」 な。手にした金入れを指し示してチャトラがにやにやと笑う。痛み分け。共犯者に仕立て上げるつもりなのかもしれない。面白くなって、いいだろうと男は小さく頷いた。 (20100505) -----------------------------------------------------
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autolinkTOP>【あ】>明日も勝つ! 「明日も勝つ!」 (あしたもかつ) 分類1【言語全般】 ジャンル4【阪神タイガース関連】 元タイガース新庄選手の名言。 1999年6月12日の阪神巨人戦で敬遠のボールをサヨナラヒットにした新庄剛志選手がヒーローインタビューでこう言ったが、その翌日チームは負ける。 のちに懲りずに再び言ったが、やっぱり翌日は負けた。 以来、ヒーローインタビューでこう言うと翌日は負けるジンクスが誕生した。 登録日 2004/03/10 【あ】一覧 あ・・・ アートネイチャー 哀 愛【あい】 亜依 iアプリ アイアンキング 合鍵 愛妻弁当 愛してる 開いた口が塞がらない IT革命 アイビーシート 相棒 アイマスク あいりん地区 アオレンジャー 赤井秀一 赤い玉 赤川次郎 阿笠博士 あかひげ薬局 赤福餅 赤星憲広 赤星ラーメン あかんたれ 秋山莉奈 アクマイザー3 浅井良 浅香唯 浅野温子 足跡 アジアン あした天気になあれ あしたのためにその1 明日も勝つ! 味道楽 アッチソン アデランス アトランジャー アナザーアギト あなただけ見えない アフター あぶない刑事 APTX4869 アマゾン 天邪鬼 綾波レイ 新井貴浩 新たなる変身 A-LA-BA・LA-M-BA アリバイ アルティメットフォーム アルプススタンド 泡踊り 暗号 アンコウの餌待ち 暗黒時代 安全日 安全ピン あんた誰や? アンディー・シーツ あんパン アンフェア ■ トップページへ移動 ▲ このページ上段に移動
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日向坂46です。ちょっといいですか? #25 スクープでバズれ!!ゆりやんレトリィバァvs日向坂46 高瀬はとらえどころのないゆりやんにも対処できる。 ダイエットに成功し、異性から(預かった荷物を)モテるようになったゆりやん。 「今好きな人はいらっしゃるんですか?」と問う齊藤記者に、「ザック・エフロンという方なんですけど」と答えるゆりやん。 「こういう状況(コロナ禍)なのでなかなか会えないんですけど…」と残念そうなゆりやんに、高瀬は「こういう状況じゃなくてもなかなか会えないんじゃないですか」と冷静に返した。
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唯、中学三年生の頃 和「唯、進路決めたの?」 唯「まだ」 和「まだってあんた、そろそろ願書提出の時期よ?」 唯「でもでも私、頭良くないし、高校なんてよくわかんないし……」 和「なんだかあんたは三年後も似たような事言ってそうね」 唯「えへへ」 和「えへへじゃない」デコピン 唯「いたーい」 和「その気になったら凄いのにね」 唯「なかなかその気になれないもん」 和「自分で言わないの」 唯「和ちゃんはどこ受けるの?」 和「私は桜ヶ丘かな、そこそこ近くてそこそこ偏差値良いし」 唯「じゃあ私もそこにする」 和「あんた内申点足りないから入試でよっぽど取らないと無理よ」 唯「う、うーん」 和「ま、それほど時間は残ってないわよ。中卒ニートになるなら話は別だけど」 唯「ニート……なんだか魅力的な響き」 和「こらこら」 平沢家 母「唯、高校決めたの?」 唯「どうしよう」 母「あなたが自分で決めなさい」 父「そうだぞ、自分で決めさえすれば僕達は文句は言わない」 唯「はぁ……自分の部屋で考える」トボトボ 母「うちの子は二人とも自主性が足りないわねぇ」 父「憂はしっかりしてるじゃないか」 母「そうでもないわよ、唯にべったり過ぎて……それで唯がしっかりしなくなったところもあるし」 父「教育間違えたかな」 母「こんな時は」 父「旅行でスカッとしよう」 唯「進路かぁ……とりあえずパンフレットを取り寄せてみたものの」 唯「どれも同じに見えるよ」 唯「何か決め手があればなぁ」 唯「そもそも私の頭で行ける学校が少ないんだけど」 唯「あーもう、どれでも良いや! 全部紙飛行機にして、と」ゴソゴソ 唯「一番飛んだ高校に行こうっと」ヒュン スコン 唯「痛い! なぜ戻ってくるの……?」 ドタンバタン 憂「何してるのお姉ちゃん?」 唯「紙飛行機にお仕置きしてた」 憂「?」 翌日 和「で、一晩考えたけど決めれなかったと」 唯「うん」 和「ふぅ、ちなみに桜ヶ丘の願書締め切りは三日後よ」 唯「早いよ!」 和「他の皆はとっくに決めてるから問題無いの」 唯「そんなぁ」 和「高校でやりたい事とか無いの? それを基準に決めてみたら」 唯「ごろごろ……かな」 和「決め顔で言っても全くカッコ良く無いからね」 唯「部活かぁ、考えた事も無いや」 和「考えてる場合でも無いけどね」 唯「やっぱり和ちゃんと一緒が良い!」 和「桜ヶ丘?」 唯「うん!」 唯「和ちゃんと一緒に高校行って」 唯「和ちゃんと一緒に授業受けたりお弁当食べたりするんだ~」 唯「和ちゃんさえいてくれれば、きっと毎日楽しいよ!」 唯「それでそれで、たまに宿題見せてもらったり、勉強教えてもらったりして」 唯「てへへ、今と変わらないけど」 和「……本当に、それで良いの?」 唯「和ちゃん?」 和「ねぇ唯、私達っていつまで一緒にいれるのかしら?」 唯「え、ずっとじゃないの?」 和「私は唯の事を親友だと思ってるわ」 唯「私もだよー」 和「でも、一生一緒にいれるかは解らない」 和「だから、いつまでも私に頼らないで」 和「私だっていつまでも唯を助けてあげられない」 唯「和ちゃん? 何言って……」 和「私がどうとかじゃなく、自分の事は自分で決めなさい。それだけよ」 キーンコーンカーンコーン 和「あ、授業ね。じゃあ」 唯「う、うん」 唯(自分でか……お母さんもお父さんも和ちゃんも同じ事言うなぁ) 唯(私ってよっぽど自分で決めれない子に思われてるんだろうな) 唯(まぁその通りなんだけど……) 唯(でも……自分で決めるってどういう事?) 唯(学力に合わせれば良いの? 部活で選べば良いの?) 唯(わかんないよ~) 先生「平沢さん、この問題をやって下さい」 唯「ほえ?」 男子(やっぱ平沢萌えるな……) 放課後 男子「な、なぁ平沢、携帯のアドレス……」 唯「和ちゃん! 帰ろう!」 和「ごめんね唯、このまま塾に行くから無理なの」 唯「そっか……しょうがないね、じゃあまた明日ね!」 和「うん、バイバイ」 男子(俺はあきらめんぞ平沢) 下足 憂「あ、お姉ちゃん」 唯「憂!」 憂「丁度終わりが同じだったんだね、一緒に帰ろう?」 唯「おー!」 憂「お姉ちゃんと帰るのも久し振りだね」 唯「だねー」 憂「そうだお姉ちゃん、進路決めたの?」 唯「憂まで訊くの……」 憂「ご、ごめん、気になるからつい」 唯「いいよ気にしないで、決めてない私が悪いんだもん」 憂「和さんに相談したりしないの?」 唯「毎日説教されとります」 憂「あはは……」 唯「決め方がわかんないんだよね~」 憂「そうなの?」 唯「そうそう、いっそ誰かが勝手に決めてくれたら良いのにって思うよ」 憂「うーん、お姉ちゃんが決めたいように決めたら良いんじゃないかな」 唯「だから私の決めたいようにって言うのがわかんない」 憂(なんだかこんがらがってるみたい) 唯「はぁ……時間も無いし、さすがにもう決めないとなぁ」 憂「時にお姉ちゃん」 唯「なに?」 憂「どこに行くかの前に……受験勉強は大丈夫なの?」 唯「憂、覚えといてね、現実は目を逸らす為にあるんだよ」 憂「お姉ちゃんがニート化していく……」 塾 和(今日はちょっと言い過ぎたかな) 和(嫌われたりして……) 和(でも唯の為だもん、我慢しなきゃ) 和(とか言って、一緒に帰る事も出来ずに塾へ逃げ込む根性無しの私) 和(せめて勉強はちゃんとしなきゃね)カリカリ 和(唯も、いつかは私から離れるのよね) 和(たとえ一緒に桜ヶ丘に行っても、三年後にはまた大学進学がある) 和(大学が終わったら就職) 和(縁が切れる事は無くても、一緒にいれる時間は減っていく) 和(だったら、早くに離れた方が良いよね。お互いの為に) 和(でも……やっぱり少し、さみしいな) 平沢家 唯「我が家に到着……あれ?」ガチャガチャ 憂「鍵掛かってるみたいだね」 唯「お母さん買い物かな?」 憂「さぁ? 鍵持ってるから大丈夫だけど」ガチャリ 唯「ただいまー」 憂「ただいま」 母「お、お帰りなさい」アタフタ 父「は、早かったな」ゴソゴソ 唯「あれ? お母さんいたの? お父さんまで」 父「う、うん、唯と話したい事があってね」 唯「なんで二人とも慌ててるの?」 憂(これは……私もお姉ちゃんになる日が来るのかな?) リビング 父「ごほん」 唯「ねー、なんで家にいたのに鍵を」 母「唯、余計な事は言わないで」 唯(なんで怒ってるの?) 父「唯、いい加減に進路は決めたか?」 唯「まだ」 父「さすがにそろそろタイムリミットも近い」 父「教育パパなんて気取る気は無いが、このご時世だ、中卒というわけにもいかないだろう」 唯「うん」 母「私達が強制的に決めちゃうわよ?」 唯「別にそれでも……」 父「それで唯は本当に高校生活を楽しめるか?」 唯「う……わかんない」 父「お父さんの経験上、間違いなく楽しめないぞ」 唯「じゃあどうしたら……」 父「難しく考えなくていいんだ」 母「唯が行きたいところに行けば良いのよ、偏差値や学費なんて気にしなくて良いわ」 父「昨日も言ったが、唯自身で決める、条件はそれだけだよ」 唯「うん……」 母「唯」 唯「?」 母「もし少しでも行きたいところがあるなら、迷わず一直線に目指しなさい」 父「本気になった唯は、誰よりも凄い事をお父さん達は知ってるからね」 唯「ありがと」 2
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澪には律の声は聞こえなかったが、 律が何かを叫んだというのを感じとった。 澪「律……?」 『私はお前と一緒に居たかったんだ! だから障害者学校になんか行かせなかった! お前と同じ学校で普通の学校生活を送りたかった、 ただそれだけだ!』 澪「でもそれだと周りに迷惑がかかるんだよ、 私が障害者学校に行けば、 それで全て解決することなんだ! 障害者学校に行っても会えなくなるわけじゃないだろ」 『会えなくなる! 澪と同じ学校に行けないのは会えないのと同じだ!』 澪「律、バカなことをいうな! なんでそんなワガママばかり言うんだ!」 『ワガママじゃない! 澪のためでもある! 澪だって唯やムギたちと一緒に居たいだろ!? 同じクラスで勉強して部活だってやりたいだろ!?』 澪「授業なんてろくに受けられないじゃないか、 数学の問題も解けないし、 国語の教科書は読めないし、 化学も物理も世界史も、 律が私の手に書くだけで理解できるわけないだろ? 体育だってずっと見学っていうか なにも見えないからもはや『見学』でもないしな! それに部活も、みんなの演奏も聞こえないし 目が見えないから楽器だって弾けない! 私が目と耳を潰してからまともに練習したことがあったか? 学園祭も出てないし新勧ライブもやってないだろ? 唯や梓だってちゃんと練習やライブしたいと思ってるんだろ? だから私の代わりにベーシストを探せって言ったのに、 お前は『澪の代わりなんていない! HTTのベーシストは澪だけだ! 澪のためにも軽音部はこのままでいく!』 なんて寒いセリフを吐いて、5人だけの軽音部を守ろうとしたな! そんなものを守っても意味ないんだよ、 演奏できないんじゃそれはもう軽音部じゃないの! 唯やムギや梓もそれで困ってたんじゃないのか? お茶だけ飲んで帰る部活はもう軽音部じゃない! 私がこうなってしまった時点で放課後ティータイムは終わってるんだ! 大体その『澪のため』ってのが迷惑なんだよ!!!」 律「……」 澪は今まで思っていたことを全部一方的にぶちまけた。 澪「律の好意を無下にしないようにしてきたけど、 律のゴキゲンを損ねないようにしてきたけど…… 私にも限界がある。 悪いけど、もうこれ以上は無理だ……」 律「……」 澪「……」 律「……」 澪「なんとか言えよ……」 律「……」 澪「何も言うことがないんなら…… 私は旅館に戻って、みんなに謝る。 そして障害者学校に転校することを伝える」 律「……」 澪「……じゃあな、律」 律「……」ガシッ 澪「な、なんだ……?」 『分かったよ、澪。 お前は障害者学校に行け』 澪「律……分かってくれたか」 『でも私はずっとお前と一緒だから』 澪「ああ、学校が違っても、ずっと友達だよ」 『ずっと一緒だ。ずっと一緒。ずっと』 澪「律?」 『一緒だ、学校も』 澪「え……?」 『今まで澪に迷惑をかけてきて悪かったな。 これは私の罪滅しだと思ってくれ』 澪「えっ、律!?」 『一緒の学校に行こうな』 澪の手のひらにそう書き残すと、 律は車道に飛び出した。 ―― ―――― ―――――― 音楽室。 ガチャ 梓「こんにちはー」 唯「おー、あずにゃん久しぶり~」 紬「今お茶淹れるわね」 梓「ムギ先輩のお茶も4日ぶりですね」 唯「京都土産もあるよ! ほらほら」 梓「しば漬け、千枚漬け、すぐき…… なんで漬物ばっかりなんですか!!」 唯「まあまあ、美味しいよ」ぽりぽり 梓「ホントですか……?」ぽりぽり 紬「生八つ橋もあるわよ」 梓「最初からそれを出してくださいよ…… あ、そういえば律先輩が交通事故で入院したって本当ですか」 唯「あー、ほんとほんと。 命に別状はないらしいけど、 両腕を切らなきゃいけないんだって」 梓「えー、そりゃ災難ですね」 紬「それと、実は事故じゃないらしいの。 りっちゃんが自分から車の前に飛び出したって」 梓「え、自殺ですか」 唯「さあ、知らない。 澪ちゃんと一緒にいたらしいけど、 メクラツンボが周りのこと分かるわけないしね」 梓「ところで澪先輩は?」 唯「障害者学校に転校するらしいよ。 りっちゃんも同じとこに行くんだって」 梓「……へえー」 唯「ふふん、あずにゃんが今考えていたことを当ててみせよう」 梓「ど、どうぞ」 唯「『律先輩は澪先輩と同じ学校にいくために わざと轢かれたんじゃないか』……でしょ?」 梓「すごいですね、大体当たりです。 なんで分かったんですか?」 唯「そりゃー分かるよ、 クラスのみんなだってそういう噂してるもんね。 ムギちゃんも私も真っ先にそう思ったし」 梓「で、真相はどうなんですか」 唯「そんなの分かるわけないじゃん」 梓「ですよねー」 唯「でもそれが真実だとしたらさ、 りっちゃんもう腕がないから、 澪ちゃんと一緒にいても意思疎通できないんだよね~、 あははははは、あははははは」 紬「足で手のひらに字を書いたりとか」 唯「それ澪ちゃんが嫌がるでしょ~」 紬「それもそうね」 唯「あははは、澪ちゃんと一緒にいるのに、 もう会話もできないんだから笑えるね、あははは、 ヘソで茶が沸くわ、あはははは」 梓「ヘソで茶が沸くなんて言う女子高生は初めてみました」 唯「いやーでもいい気味だよ。 私たちに障害者の世話を押し付けてた本人が 今度は世話される側になるんだよ? 大爆笑じゃん、あはははは」 梓「……」ぽりぽり 唯「いっそのこと目も耳も潰れてくれたら良かったのに! ていうかもう死んでくれればよかったね! 澪ちゃんも一緒に! 障害者なんてウザいだけだし!」 梓「……」 唯「ねえ、あずにゃんもそう思わない? 障害者なんて死んだほうがいいよね」 梓「はあ……ていうか、 唯先輩は律先輩が嫌いなだけだと思ってたんですが、 障害者そのものも嫌いなんですか?」 唯「うん、障害者嫌い! 障害者なんて社会のゴミじゃん! 生きる価値なし! 私がデスノート拾ったら障害者の名前書きまくるね」 紬「あら、でも唯ちゃん、 澪ちゃんをいじめてたのはりっちゃんに 自分のエゴを気づかせるため…… って言ってなかった?」 唯「そんなの建前に決まってんじゃん。 澪ちゃんがいたときは 堂々と障害者をボコれて楽しかったよ~、あはははは。 いやー、もっと蹴り飛ばしたかったな~」 梓「……」 唯「とにかく障害者なんてゴミだよゴミ。 みんな死んで欲しいね、社会のために」 梓「はあ」 唯「まあいいや、この話これで終わり! 障害者の話なんてしてても不愉快だしね。 ほらあずにゃん、もっとお漬物食べて」 梓「はい」ぽりぽり 紬「そうだ、これからの軽音部はどうするの?」 唯「ちょうど3人だし、スリーピースバンドでいこう」 梓「ギター2人キーボード1人のスリーピースバンドなんて 聞いたことないですよ」ぽりぽりぽり 唯「それはほら、今までになかった感じで」 梓「今までになかった理由を考えましょう」ぽりぽりぽりぽり 唯「うーん、じゃあやっぱり新しい人を入れた方がいいかな」 梓「ま、それが現実的でしょうね」ぽりぽりぽりぽりぽり 唯「よーし、じゃあ明日から、 また新入部員の勧誘活動を始めようか」 紬「そうね、私チラシ作ってくるわ」 唯「うん、お願い」 梓「新入部員か~」ぽりぽりぽりぽりぽりぽり 唯「じゃあ今日はもう帰ろうか」 紬「そうね」 梓「ごちそうさまでした」 唯「帰りにカラオケ行こうよ」 紬「いいわね、行こう行こう」 梓「ムギ先輩、もう演歌メドレーはやめてくださいね」 紬「梓ちゃんだって80年代アイドルメドレーはダメよ」 唯「まーまー、好きなの歌えばいいじゃん。 ほら早く行くよ」 紬「あ、私お手洗い行ってくるから。 先に行っといて」たたっ 唯「はーい」 梓「じゃ行きましょうか、先輩」 唯「そだね」ぽとっ 梓「あれ、唯先輩、なんか落としましたよ……」 唯「!!」さっ 梓「……」 唯「見た……?」 梓「手帳ですか」 唯「うん、手帳……最近使ってるんだ、メモ用に。 憂に言われてさ、『お姉ちゃん忘れっぽいから』って」 梓「あ、そ、そう……ですか」 唯「じゃあ行こう、あずにゃん」 梓「…………」 唯はごまかしていたが、 梓にははっきりと見えていた。 落ちた手帳の表紙に、 「障害者手帳」と記されていたのを。 今までの唯の言動が突然に思い出され、 梓はそこから一歩も動けずにその場に立ち尽くした。 お わ り これでおしまい 池沼ネタは飽きられたみたいなので身障ネタで 先の展開を読まれまくってしまったのが反省点である 戻る