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午後五時半になりました。陽は沈みかけて、差し込む西日が眩しいですね。 あ、私ですか? 私はこの学園で養護教諭を勤めている天原ふゆきといいます。 この時間になると保健室へと駆込む生徒の姿はほとんど見られなくなり、私はいつものように一人、日誌を書いています。 誰もこないということは、とてもすばらしい事です。さすがにこの時間に睡眠のためにベッドを借りに来る生徒はいません。 ……生徒、はいないのです。 「おーす、ふゆきー」 その声と同時に、保健室を包んでいた静寂は壊されました。 「あら、桜庭先生。今日は職員会議はもう終わりですか?」 白衣をひらりと翻すと、桜庭先生は気だるげに頷いて、ポケットから取り出した煙草に火をつけました。 「ん。退屈だった」 「そうですか……あら、保健室は禁煙なんですよ?」 「まあ、そういうな。どうせもう生徒はこないんだろう?」 「部活で怪我をした生徒がくるかもしれないんです」 「若いうちは気合で治る、そんなもの」 煙草をくゆらせて白い煙を吐くと、桜庭先生は開け放した窓の外を怪訝そうに眺めていました。 光る眼鏡とそばかすに、真っ赤な西日が当たっています。運動なんて興味ない、といったことを考えているのでしょうか。 グラウンドで声を張り上げているのは野球部の生徒達ですね。保健室のお世話になる回数が最も多い部活です。 「ところで今日は宿直なんだ」 「あら、そうなんですか? 頑張ってくださいね」 「それでだな、ひとつ不安な点がある」 「なんですか?」 桜庭先生はまた大きく、天井にめがけてたくさんの煙を吐いたら、吸いかけの煙草を携帯灰皿に入れました。 「今日は少しばかり疲れててな、眠気がどうもおさまらないのだ」 「お疲れさまです。冷蔵庫に栄養ドリンクがありますよ? それともコーヒーをいれましょうか?」 「それはそれであとでもらう。しかし、今すぐ保健室を閉めるわけじゃないんだろう?」 「うふふ……言わなくてわかっていますよ?」 私の言葉を聞くと、桜庭先生は少し含んだようなしたり顔を見せました。 「桜庭先生のこのお願いは、一度や二度じゃありませんもの」 「それなら話が早い。ベッドをひとつ、借りるぞ」 「はいはい。時間になったら、起こしますね」 「助かる。ふゆきは理解があって助かるよ」 「きちんと『天原先生』って呼んでくださいね」 私の後ろで衣擦れの音がしています。皺にならないようにと桜庭先生が白衣を脱いでいる音ですね。 「最近寝つきが悪いのだが、保健室のベッドはなぜかよく眠れるんだ」 「疲れが溜まっているのでしょうか? 適度に息抜きをしたほうがいいんじゃないですか?」 「そうだな。ふゆきが添い寝でもしてくれれば気持ちよく寝られるかもしれないのだが」 「もう……そんなところまで面倒は見られませんよ?」 「よし、結婚してくれ」 「睡眠不足はストレスからもきている場合が多いんですよ。仕事でなにかあったんでしょうか」 「いや、これといったストレスはないな。案外、学校のほうがかえって安心するのかもな」 「桜庭先生がワーカホリックには見えませんが……」 「空気的というか、環境的にな。結婚してくれ」 「慢性的に眠れないというのもりっぱな体調不良です。保健室のほうがよく眠れるというのなら、いつでもお貸ししますよ」 「ベッドを借りるいい口実ができたな。まあ、ふゆきはそうでなくても貸してくれるだろうけどな」 「私も甘いですね。でも先生は特別ですからね?」 「わかってるよ。なあ、ふゆき」 「はい、なんでしょう」 「結婚してくれ」 桜庭先生が寝やすいように、ベッドのシーツを整えてあげました。 二本目の煙草を味わう桜庭先生は少しばかり目をうつろにしています。寝不足でも煙草は美味しいんでしょうか。 「まいった。灰皿がいっぱいだな……」 「私が捨てておきますので、そこに置いていてください」 「む、すまない」 携帯灰皿を机に置くと、倒れ込むようにしてベッドに潜り込む桜庭先生。本当にお疲れのようですね。 「一時間以上は寝られるはずです。私はここで日誌を書いていますので」 「ありがとう。結婚してくれ」 「では、おやすみなさい」 「……ああ、ようやくわかったよ」 「何がですか?」 「保健室だと安心してよく眠れる……理由が……」 「理由?」 「ふゆきが……そばに……いるからぁ……」 やがて、小さな寝息が聞こえてきました。毛布に包まった小さな身体が、規則正しく上下しています。 私が窓を閉めると、グラウンドからの喧騒は消えて室内に再び静寂が訪れました。 毛布から顔だけを出している桜庭先生に近付き、その寝顔の様子を確かめます。 寝付きが悪いと言っていましたが、子供のようによく寝ついています。寝心地はそれほどのものでしょうか。 「……また眼鏡をかけたまま、寝ちゃったんですね」 眼鏡をそっと外してあげると、少しだけむず痒そうに顔をしかめながら、再びいつもの寝顔に戻る桜庭先生。 (寝不足……ですか。桜庭先生、何があったんですか?) ストレス? それともなにか体調不良の表れ……? 私は養護教諭の知識をフル活動して、睡眠不全の原因と治療法を追求しました。出来る限り薬には頼りたくありません。 (ただでさえそんなに健康的な生活は送ってないのに……それが原因なのかしら……) 泥のように眠る桜庭先生の頭を撫でてあげると、むにゃむにゃという声を漏らしました。 『ふゆきが添い寝でもしてくれれば気持ちよく寝られるかもしれないのだが』 桜庭先生の言葉が私の頭によぎります。 (それでよく眠れるのなら、いつでも私はかまわないのですが……) それにしても本当に、桜庭先生は心臓に悪い事をいうものです。今日は何度心臓が止まりそうになったことでしょうか。 この人は私の気持ちに気付いているのでしょうか? 冗談を冗談と受け取れないくらい、余裕の無い私の胸の内に。 (悪魔のような人ですね、本当に) 普段の言動からは想像も出来ないくらい、幼い寝顔。身体の大きさにはよく合ってはいるんですけれど。 (そ、それにしても……) 私は穴が空くのではないかというくらいに、桜庭先生の寝顔を凝視していました。 じゅるり、という音が聞こえます。というよりは、その音は私が発していたのですが……。 (本当に可愛い寝顔ですね……) きっと私の顔は真っ赤になって、恍惚とした表情を浮かべていたことでしょう。とても人様には見せられないような……。 桜庭先生の天使のような寝顔を見る度に、私の心臓は爆発しそうなほどに踊ります。 誰にも言えません。桜庭先生の寝た後のベッドにこっそり潜り込んで残り香をかいだりしているなんて……。 時折毛布からはみ出る桜庭先生の生足を、息を荒くしながら見つめているなんて、とてもとても……。 気だるげに煙草の煙を吐き出す姿に、胸を射すくめられて動けずにいる。そんなこともあるんです。 携帯灰皿から吸い殻を取り出して、間接キスを楽しんでいることだってもちろん秘密です。 ……どれもとても、桜庭先生に言える事ではありませんけれど。だって、冗談では済まされませんから。 (はあ……桜庭先生……好きです……) 昔から、桜庭先生に想いを寄せていました。もちろんそれを伝える事は決してありません。 そしておそらく、これから先もなのでしょうけれど……。 桜庭先生お得意の『結婚してくれ』なんて言葉も、全て冗談からでるものですから。 ……わかっていても、ダメになりそうなくらい魅力的な響きなんですけどね。 (忍ぶ恋は苦しいものですよ? それも知らずにこんなに寝ちゃって) 胸の奥がぐっと苦しくなります。添い寝……そんなことは冗談で言い合えても、私は実はそれを求めていて。 でもどんなに冗談にできても、それを現実にすることは絶対にありえなくて。それは『結婚してくれ』も同じこと。 世界一残酷な冗談を言い合う私達。何気ない会話でも、私だけ気持ちは空しい方向にいったりきたりなんです。 (今のうちにこの寝顔を写真におさめようかしら) そんなことを考えとていると、桜庭先生が急に寝返りを打って……私の白衣の袖をがっしりと掴みました。 「ひゃっ……!」 一瞬桜庭先生が起きたのかと思って、間抜けな声を出してしまう私。 ……しかし、桜庭先生の瞼は固く閉じて、小さな寝息を立てたまま。それから口をむぐむぐと動かして……。 「ふゅ……ふゆきー……」 「は、はい。なんですか?」 「……けっこん、してくれー……」 「え、ええと……」 「……みゅう」 赤面して戸惑う私を横に、再び寝息。 (寝言、ですか……) 聞きなれた冗談でも、寝言で聞くとまた斬新で恥ずかしいものです。 罪な寝顔……私は心臓の高鳴りをなんとか制止して、今度は袖を掴んだままの桜庭先生の手に自分の手を重ねました。 (日誌書かないといけませんね……でも、離れたくない……) 時刻は六時。本来なら日誌を書き終わっている時間帯です。 ふと、その手のひらに桜庭先生の手の感触を感じているうちに、 (あっ……いけません……!) 私の中にぐるぐるとしたものが渦巻いて、それはやがて熱になり、身体の奥へと伝わっていきました。 残念なことに、私は……欲情してしまったみたいなのです。 (どうしましょう……さすがに、ここは学校ですし、桜庭先生がいますし……) こうなってしまった時の解決策にはいつも、恥ずかしながら自分を慰めているわけなのですが……。 もちろんそれは桜庭先生がお相手、という失礼な妄想で、もちろん自分の部屋でしか行いません。 なのでいくら欲情したとはいえ、もう立派な社会人、それも女となると気を使わなければならないことなのですが……。 「すー……すー……ふゅ……」 眼前のその寝顔を見つめると、自制心がついに活動をやめてしまいました。獣欲のみが心を支配していきます。 (私のせいじゃありません……桜庭先生がいけないんですからね?) 私はずいぶんと身勝手な責任転嫁をすると、桜庭先生の温もりが残る手をそっと白衣の中に差し入れて……。 「……んっ……ふぅ……はあっ……」 静かだった保健室の室内には、途切れ途切れに私のみっともない声、荒い息が響いています。 (こんなところ、桜庭先生に知られたら、絶対に嫌われますね……) そうは思っていても私は自分の欲望に抗う事ができずに、自分を慰め続けました。 桜庭先生、ごめんなさい―――そんなことを考えつつ、心とは裏腹の行為に耽ったままの私。 「くっ……すきです、桜庭先生……」 何を考えていたのでしょうか。桜庭先生に愛されたら、抱かれたら、キスされたら、触れられたら、そんなこと? どれも明確にはわかりません。ただひとつ、桜庭先生への感情が、暴力的なまでに膨れ上がっているというだけです。 「き、気持ちいいです、先生……あっ、ううんっ……!」 異質な状況のせいでしょうか。自分でも驚くぐらいに溢れていて、桜庭先生への想いと比例するようにも思えて…… いつもよりも強い快感に溺れていた私は、桜庭先生が目の前にいることも忘れて、はしたない声を上げていました。 「ひぁ……もう、ダメですっ……あっ、ああ、んっ……!」 激しく身体を痙攣させると、いつもより何倍も早く、私は達してしまいました。 頭の中がぼやけて、身体の中の獣欲はするすると姿を消してゆき、荒い息を整えると、徐々に冴え渡っていきます。 (してしまいました……どうしましょう……) 大人の女としてのプライドが戻ってくると同時に、悲しみと空しさとでやりきれない気持ちになってしまいました。 桜庭先生は相変わらず、瞼を閉じたまま。小さな唇は、見た目からもわかるくらいの弾力を感じます。 すると……愛しい寝顔のはずなのに、私の中に怒りが込み上げてきました。それは次第に大きさを増していきます。 (安心して眠れる理由……私がいるから、そういいましたよね?) 答えてくれるわけでもないのに、私は桜庭先生にそっと質問を投げました。怒りは燃え滾ったままです。 (私を信頼してるから。私に全て任せているからなんですよね? 私に色々面倒を見させるのも、そうだからなんですよね?) 下唇を噛んで、桜庭先生を睨みつけます。ここまで怒りや敵意を込めた目を桜庭先生に向けるのは、きっと初めてでしょう。 ただでさえ私は怒ることが少ないつもりなのですが……ここまで大きな怒りを、まさか愛する人に向けているだなんて。 (それなのに、今もこんなに近くにいるのに。なぜあなたを手に入れられないんですか? 理不尽すぎると思いませんか? こんなの、耐えられるわけないじゃないですか。……なんで、私がいると安心するとか、そんなこと言うんですか? 『結婚してくれ』なんて言うんですか!? 人の気持ちも知らないで、子供みたいに眠って、そんな桜庭先生なんかもう……) 涙腺が緩んでいくのを感じていました。それでも、あれだけ大きかった怒りが少しづつ諦めへと姿を変えていって……。 (……好きなんです……) 桜庭先生を包んでいる毛布をギュッと引っ張ると、私は涙が零れないようにぐっと顔をしかめていました。 この人が目が覚ましたときに、私の目が赤くなって心配されたら、申し訳無いですからね。 (もっとあなたに触れたいんです、桜庭先生。無理だとわかっていても) 桜庭先生の唇に視線が注がれ……少し前歯が見えます。私の胸は再び高鳴っていき、 (こんなに苦しい思いをしてるんですから……このくらい、かまいませんよね?) 私は身を起こすと、あおむけになっている桜庭先生に向かって顔をおろすと、かかりそうなロングヘアをかきあげて、 それからゆっくりと、愛する人の寝顔に向けて顔を近付けていきました。心臓はすでに、早鐘を打っています。 残り10センチ。私の唇はまるで、ファーストキスのように小さく震えて……。息も少し不規則に荒れていました。 (本当はもっときちんとした形で、あなたとこうしたかった……) 再び悲しみが私の中に込み上げてきました。今日は私にしては本当に、感情が忙しない日だと思います。 残り5センチ。残り3センチ。すでに桜庭先生の吐息が、私の唇に感じる距離まできました。残り1センチ。 ……私は唇を触れさせる事無く、顔を離しました。立ち尽くしたまま、桜庭先生を見下ろしています。 (……これ以上、桜庭先生に嫌われるようなことも、自分を嫌いになることもできません) 桜庭先生の眠るベッドから離れると、私はテーブルの上の携帯灰皿に目を落としました。下着には違和感があります。 「……そんなに美味しいのでしょうか、煙草なんて」 私は煙草を吸えません。時折その匂いが気になることもありますが、桜庭先生の場合だと特に気にはなりません。 携帯灰皿から綺麗な吸い殻をひとつ取り出すと、それをそっと口にくわえました。二人の口紅のあとが残りました。 結局、また桜庭先生に嫌われそうな事をしてしまいました。常習なので、私はずいぶんと性質が悪いみたいです。 (やっぱり、変な匂いがしますね……) 「煙草は火をつけないとうまくないだろ」 「いえ、私にはどのみち味の良し悪しは……」 唇から離れた吸い殻が床に落ちたことも気にせず、私はその声に反応して、素早く後ろを振り返りました。 「おはよう、ふゆき。結婚してくれ」 「さっ、桜庭先生!? お、起きられたんですか?」 「いや、まだ眠いんだけどな」 「えと、これは……」 桜庭先生は寝ぼけまなこで頭をかいています。混乱した私は落ちている吸い殻を拾って……。 「す、すみません……煙草に少し興味がありまして」 「なら吸ってみるか? ……って、嘘つけ。煙を全く受け付けない身体のくせに」 「……ごっ、ごめんなさい。他意はないんですけれど」 「他意か。他意ね……」 私は笑顔をつくってみせたのですが、内心は心臓が張り裂けそうになっていました。間接キス狙いだと思われませんように。 「桜庭先生、まだ眠っていても大丈夫ですよ? 私、起こしますから」 「いや、寝れないだろう。横であんなことされちゃ」 「えっ?」 「びっくりしたぞ。ふゆきはああいうのに縁が遠いと思っていたからな」 心臓が止まったかと思いました。全身に冷たいものが走りぬけて、私は崖から突き落とされたような気持ちになり……。 あの痴態を桜庭先生に見られていた? あのあられもない姿を、聞かれたくなかった言葉を聞かれていた? 「あの……あ……桜庭先生」 「やっぱりあれはいただけないな。別に行為自体は構わないけど、お前ともあろうやつが時と場所を選ばないのはな」 そう言うと、桜庭先生は大きくため息をついて、私は頭を思いきり殴られたような衝撃を受けました。 終わりがきた。私と桜庭先生が歩んできた長い歳月は、育んできた関係は、全て私のミスで壊されたのです。 桜庭先生からの拒絶。呆れたような顔を私に送っていました。その奥にあるのは、きっと軽蔑と嫌悪。 「しかし、私のことが好きか。そうか、好きなんだな」 「さ、桜庭先生……」 「なるほど。だからこんなことをしちゃったわけなのか」 「……ご、ごめんなさい!」 もう生きていけない。愛する人から嫌われえしまえば、さすがにもう笑顔に戻る自信は無い。 何よりもこれからを考えると心がもたない。きっと桜庭先生はもう、冗談として受けとっていないはず。 いたたまれなくなった私は、その場から立ち去ろうとしました。桜庭先生を残すのも最低だとは思っていたのですが……。 「待て、ふゆき」 「私、学校やめます。だから」 「いいから、待て!」 桜庭先生の珍しい大声に、背を向けて走りかけていた私は足を止めました。 そのまま桜庭先生を振りかえらず、自分からは言葉を見つけられなくて、桜庭先生の言葉を待っていました。 「ふゆき……お前は告白をしておいて、返事も聞かずに帰る気か?」 「し、しかし桜庭先生……」 「つれないな。私とふゆきの仲だろう」 「だって、もう結果は見えているじゃないんですか?」 私は白衣を握って一生懸命に耐えていました。今の私には桜庭先生の声が、棘の付いた鞭のように効いています。 当の桜庭先生は何でもないとでも言いたげに、飄々と答えています。これが『結婚してくれ』を冗談にできる力……。 「それは違うな。生物の行動に、確実な結果が見えているなんてことは絶対にない」 「でも、いきなり告白されても、どうしようもないじゃないでしょう」 「いきなりじゃないな。ふゆきが私のことを好きだってことくらい、私はずっと前から気付いてたぞ」 「……!」 私は振りかえって、桜庭先生のほうを向き直りました。ベッドの上で桜庭先生は、なぜか得意げな顔をされています。 前から気付いていた……ということは今まで、自制心を効かせていた私の闘いは無駄だったということ。 「……いつからですか?」 「具体的な日にちは知らん。でも私は鈍感ではないからな。それにお前と何年一緒にいると思ってるんだ。 ただ、寝顔凝視されたり、足を舐めるように見られたりっていうのは結構辛いぞ。私も一応女だからな。 そういうことには割と注意してるんだよ。ていうか、お前も女ならなおさら自重すべきじゃなかったのか? そんな思春期の男子みたいなことしなくても……まあふゆきだから別にイヤってわけじゃなかったけどな」 私のしていたことは全部バレていたということでしょうか。だとしたら、私はすごく滑稽な存在でしょう。 それでも私には言い返す余地が十分あります。いいえ、桜庭先生を責める資格もあるということでした。 「だとしたら、酷過ぎます」 「何がだ?」 「私の気持ちを知っていて、『結婚してくれ』とか、そんな冗談を口にしていたんですよね? あんまりですよ。 こんなに桜庭先生のことを好きなのに、そんな気持ちを弄ぶようなことばかり言って、今日だって……」 私の中で膨らむ怒りと悔しさ。またも涙腺が緩み、肩を震わせて桜庭先生に吠えていました。 桜庭先生は失敗したというように自分の頭をパチンと叩くと、姿勢を正してしずしずと私に向き直しました。 「それは謝る。きちんとお前の気持ちに対して言葉で答えられずに、結果としてお前を辱めた。それはすまない。 しかし、言い訳をさせてくれ。私はお前とは長い付き合いだ。お前に好かれてイヤだったらイヤだと言えるし、 それを隠してお前の気持ちを弄ぶなんてことは絶対にしない。ただ、私はこういうことに関して少し不器用なんだ」 ぺこりと頭を下げる桜庭先生。簡単な動作だったけれど、それだけで反省しているのだという事は十分に伝わってきました。 「私の答えも少しくらいはお前に伝わっていると過信しすぎていた。もうほとんどわかりあえているものだとばかり。 だって、考えてもみてくれ。好かれてイヤだと思った相手に、甘えたり、寝顔を見させたり、足を見させたり、 ましてや添い寝を頼んだり『結婚してくれ』なんて、さすがの私でも口にするわけがないだろう。わかるよな? 不器用ですまないとは思う。でもこれだけは言っておく。私はお前を悲しませたりするのが一番イヤなんだぞ」 熱弁する桜庭先生。私はそれを聞いているうちに、自然と冷静さを取り戻す事ができました。 もしかしてこの人が言っていることは、私にとっては嬉しい事なのかもしれません。けれど……。 「私はそれをどう受け取ればいいんですか? もう、何を信じたらいいのかわからないんです」 「……すまないが、ちょっとこっち来てくれるか?」 桜庭先生の手招きに応えて、私はベッドへと向かいます。 ベッドの横に立った瞬間、強く腕をひっぱられ……私は桜庭先生に倒れ込むように、ベッドに横になっていました。 「さ、桜庭先生……?」 「ふゆき。これが答えじゃダメか?」 「ど、どういう、んっ」 気が付くと私の唇は桜庭先生に塞がれていて、ほのかに煙草の香りが鼻腔をくすぐりました。 横になったままの2~3分のキスが終わってようやく唇が離れたときには、私は桜庭先生に目を合わせることができずに。 「……これは、冗談じゃないんですよね?」 「当たり前だ。私は最初からずっと本気だったぞ。伝えるのが遅すぎたみたいだけどな」 「ちょっと下手すぎますよね」 「だからすまないって」 「……でも、女同士なんですよ」 「そんなこと、私とふゆきの間ならいまさらなんてことないと思っていたんだが」 今度は我慢しませんでした。喜びが胸に溢れるのを感じて、私は少しばかりの涙を零しました。 桜庭先生はそんな私への対応に少しばかり困ったみたいでしたが、すぐにその涙を拭ってくれました。 「なんで私が寝不足になったか、知ってるか?」 「……いえ」 「ふゆきがいるから眠れるってことは、ふゆきがいないから眠れないんだ。さっきも言ったが、私も曲りなりに女だ。 寂しくて寝れない日もあるんだぞ? 好きな相手を想う日には、特にな。ふゆきならこんな気持ちわかるだろう?」 「眠れないのは……私のせいですか?」 「まあ、そうなるんじゃないのか?」 「……そんなこと言われても、面倒見切れないかもしれません」 「ぶつくさ言わず、私の睡眠不足を治してくれるな? 養護教諭だろう?」 「……それは、養護教諭としてですか?」 「……いや、違ったな。とにかく、治してもらわないと困る」 すると桜庭先生はまるで母親に甘える幼い子のように、私の胸に顔を埋めてきました。私はその頭をそっと抱き締めます。 どうやらこんなところでも私達は、世話をする者とされる者に別れてしまっているようです。でもそれで構いません。 今はお互いにようやく、求め合う事が出来ました。桜庭先生の小さな身体はやっぱりちょっと暖かくて、煙草臭くて。 「……好きです。大好きなんです、桜庭先生」 「ああ、私もだな。ふゆきのことが好きだ」 「本当は天原先生なんかじゃなくて、ふゆきって呼んでもらいたいんです」 「ああ、だからずっと呼んでる」 「結婚してください、桜庭先生」 「ああ、しよう。それよりもふゆき、私のことは『ひかる』と呼べ」 「……全部いつもと逆ですね」 「ああ、逆だな。こうしてるとやっぱり、ふゆきのそばは一番安心するな。これでよく眠れる」 「私のほうが、寝不足になりそうですよ?」 「今は寝よう。起きたときに、全部始めればいい」 白衣が皺になってしまう……それに桜庭先生は宿直なのに、誰が起こさないといけないんでしょうか。 そんなことを考える余裕はありませんでした。私達は寄り添って、互いの温もりを確かめあってます。 起きたらコーヒーをいれましょう。桜庭先生は煙草を吸うから、目覚めのコーヒーがちょうどいいかもしれませんね。 今だけは桜庭先生って呼んでしまいますね。二人きりのときにそう呼ぶのは、これがもう最後になりそうですし。 目が覚めたときには何もかも変わっている世界。今日は幸せな夢が見れそうですけど、どうか夢ではありませんように。 コメントフォーム 名前 コメント なんか、凄く良い作品!話がわかりやすい し、す〜っと頭に入り込んできますね! -- チャムチロ (2012-09-19 21 35 43) 夢を見てるみたいなお話で。 -- 名無しさん (2008-02-22 10 50 08) 日常のなかに、幸せは案外転がっていたりするのだなあ。。 -- 名無しさん (2008-02-07 02 41 19)
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あなたが好きなライブ!ファンイェジンの心、それは、ハード、鼻といくつかの酸味、ちょうど再び死の縁を感じ、ほとんど落ちる涙が深く自分自身感じた絶望の完全な弱さ、。 あなたが離れて得れば不滅日間のナイフ星から来たあなた と他の武器は、同じではありません! "薪旧道、みんなを命じた。 ファンイェジンはまた、注文した、唯一のニュースは若い天皇の兵士や戦車も臨時スワロー日であるということである、と彼は二人の巨人と別の日を戦うことになるナイフ。 テキスト第一千七百八章風ポワレそれは言葉の秘密の世界に比 類のないである場合、優れたライン?戦星から来たあなた術を持っていない場合は、瞳孔が、大きな被害を残し、彼は戻ってくるかもしれません。 ファンイェジンのヘルプでは、彼は血の蒸散に覆われていた の瞳はありませんどのように危険なこの戦争、ほぼ背面に見られる身体、どちらの皇帝、古代の王子との戦争が、そう重いけがをし、葉来ました。 目炎鼓動 さて星から来たあなた、この悲惨な状況はほとんど彼が見る人、しない彼の受動的な性格、物事の洞察以来、彼らは完全にブロックされただろう、大手を明らかにし、それ以前に起こっ攻撃を開始する。 アラ ンの星を打つマスターは、鳴ります!花は新しい状況を受け、それを報告しようとしたが、彼の顔は青白い。 ファンあなたがたは、暗い顔を聞いて、より醜い、長い時間何を話すには、駐留天の天上記の星を、シンク、宇宙塵になる運命にされていません。 ニュースだけ "などヤン?それは?ファンイェジンは尋ねた。 彼は道の果星から来たあなた http //www.buydvd.jp/dvd-12116.html 実を練習し、統合するだけではどこに行ったか分からない。人間的な、人々は行方にそこに行くのサポートに連絡して戻って報告された。 しかし、最近準皇帝になる?ヨンヒは、単独で、一時的に天との接触
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星座が恋した瞬間を。(楽) 曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FA(SA) その他 星座が恋した瞬間を。 BEMANI Sound Team "DJ TOTTO feat.MarL" A 楽7 186 231 / 2 BEMANI SUMMER GREETINGS STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 38 46 10 4 0 楽譜面(7) / 踊譜面(9) / 激譜面(12) / 鬼譜面(-) 属性 同時踏み、縦連、ラス殺し 譜面 http //livedoor.blogimg.jp/yanmar195/imgs/c/5/c5e0cee2.png 譜面動画 https //youtu.be/3Fh326vCYXA (x1.25, NOTE) 解説 前半は足7にしてはあまりにも密度が薄い。徐々に4分縦連や連続同時が登場し始めるが、それでもまだ足6クラス。 足7たる所以は、ラス殺しの8分の「2P←←1P→→」縦4連。とにかくスコアもコンボも最後が肝心かなめ。 名前 コメント コメント(私的なことや感想はこちら) 名前 コメント
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あなたがきらったせかい【登録タグ あ ちんまりP 初音ミク 曲】 作詞:ちんまりP 作曲:ちんまりP 編曲:しま 唄:初音ミクAppend(Sweet) 曲紹介 『夜が壊れるのを見つめていた』 ちんまりP の12作目。 写真を 山梔子氏 が、マスタリングを なぎ氏 が、編曲を しま氏 が手掛ける。 歌詞 静かに沈んだ太陽と その色を変えた水平線 星の瞬きの淵で 小さな君を見つけたんだよ 離れた月日はあまりに長く 歩けやしないよ 世界をずっと信じるには 君は痛みを知りすぎたんだ 「またいつか会おうか」なんてあなたは とても辛そうな顔で笑うから 僕らは明日の光を信じて 夜が壊れるのを見つめていた そんな日 くだらない嘘で泣くほど あなたは白い 怖いくらいに 短い会話の糸と 夜は緩く解けていった アパートの隅、二人は身を 寄せ合って温度を作った 世界を信じることよりも よほど簡単なことだった 「また今日も会えた」なんてあなたは とても幸せそうに笑うから 僕らは明日の別れを忘れて 微睡みが誘った夢すら覚えて 「私は幸せでした」 なんて とても辛そうに涙を流した 言葉も感触も届かない あなたが嫌った世界を 僕も嫌うよ コメント 声も歌詞もメロディもきれいで泣ける・・・ -- 名無しさん (2013-10-30 13 15 16) 追加おつ! -- 名無しさん (2013-10-30 19 26 10) とっても綺麗な世界です。 -- 名無しさん (2014-01-02 19 33 43) こういうバラード曲がもっと広まればいいと思う。素敵な曲です。 -- 綿雪 (2017-04-09 18 54 46) 名前 コメント
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幸せになりましょ 2人で馬に乗り 世界中旅する 何者にも妨げられず 自由に 生きて行くのよ 皇帝に 自由など無いのだ 皇后も等しく 義務を負う 妨げるものなどないわ 厳しい道だ あなたがいる ふたり 寄り添えれば 全てに 堪えることができる 勇気を失い くじけた時でも あなたが 側にいれば 義務の重さに 夢さえ消える 夢はそこに ささやかな幸せも つかめない 私がつかめる いつか私の目で 見てくれたなら 解り合える日が来るでしょう これを君に 愛の証なんだ もったいない つけてごらん とても重い 勇気を失い くじけた時でも あなたが 側にいれば 好きよ(好きだ) あなたが 必要よ(だ) -
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曲名 アーティスト フォルダ 難易度 BPM NOTES/FREEZE(SHOCK) 星座が恋した瞬間を。 BEMANI Sound Team "DJ TOTTO feat.MarL" A 踊9 186 342/5 STREAM VOLTAGE AIR FREEZE CHAOS 56 61 23 12 9 踊譜面(9) / 激譜面(12) 譜面 http //livedoor.blogimg.jp/yanmar195/imgs/8/a/8a76a9f6.png クリア難易度投票 スコア難易度投票 動画 https //www.youtube.com/watch?v=A61dixTWTnM ( x2.75 , NOTE ) 解説 2018/08/30以降、EXTRA SAVIORの課題曲として登場。楽譜面を解禁した次のプレーから解禁可能になる。 イベント「BEMANI SUMMER GREETINGS」の一曲。 コメント コメント(感想など) 最新の10件を表示しています。コメント過去ログ
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お昼寝しようとしたら幻想入り 動画リンク コメント お昼寝しようとしたら幻想入り 作者 通称:神楽 ひとこと 休日に昼寝ようとしたらスキマが現れ、幻想入りとなる。 現時点では二話まで。一話にてルーミアに遭遇。 二話にて幽々子に助けられ、そのまま白玉楼へ。 三話の時点でも特に動きは無し。 状況:夕食を終え、散歩の際に行った庭へ再度行き 散歩時は呼び止められて行けなかったところまで行ってみると、そこには墓が 墓に触れようとした瞬間に父の姿が頭をよぎる… うp主より:似たようなタイトルの幻想入りがありますが 「お昼寝しようとしたら」幻想入りなので他とは別物です、ご了承下さい 主人公 名前:蒼川 玲奈 性別:女 見た目:ロングヘアー、多少ウェーブが掛かっている。 アイコンの部分にはなかったが眼鏡を掛けている絵がおまけ部分で見受けられる。 能力:不明 年齢:不明 性格:ルーミアに説得を試みる辺り、温厚と思われる。 「幻想郷に来た」ことをいち早く自覚した為冷静な判断力の持ち主。 動画リンク 新作 一話 コメント・レビュー 名前 コメント すべてのコメントを見る ※この作品のレビューを書いてくれる方を募集しています。レビューについては、こちらもご覧下さい。
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Lioleia-side Hunter-side また、茹だるような暑さの照り付ける季節がやってきた。 不思議な絆で結ばれた人間と愛娘を森に残してこの鬱蒼とした木々の茂る密林に移り住んでから早4週間。 毎晩のように降り頻る激しい雨や涼しい洞窟の中に巣食う不快な虫どもに幾度となく辟易しながらも、私は何とか新たな塒となりそうな美しい縦穴のある洞窟を見つけてほっと胸を撫で下ろしていた。 今頃はもう、あの娘も成体といって差し支えない程に大きく成長しているに違いない。 それにあの人間も・・・ 私はそこまで考えると、滝の流れる涼しげな巨洞の地面に蹲ったまま大きく溜息をついた。 この先、もう人間如きとあれ程深く関わることはないだろう。 この密林には私の敵となるハンター以外の人間などは滅多に訪れぬだろうし、あの可愛い娘と離れてしまった今となっては目の前に現れた人間どもを生かしておいてやる道理はどこにもない。 かつてあの娘が生まれる前にもそうしていたように、ちっぽけな虫けらなど散々に蹴散らしてやればよいのだ。 大きな空洞から洞窟の中へと吹き込んでくるそよ風に体を冷やしながら静かに目を閉じると、私はもう1度心地よい眠りにつくことにした。 翌朝、私は雨上がりの晴れ渡った空へと舞い上がって朝食となる獲物を探していた。 そして崖のそばの草原で呑気に草を食む草食竜達が群れを成しているのを見つけると、空腹だった腹がまるで食事を催促するかのようにグルルと唸り声を上げる。 これは丁度いい・・・食いでのある獲物は大歓迎というものだ。 それに満足のいくまで腹を満たせたなら、今日は気分よく木陰で昼寝と洒落込むのも悪くない。 私は草食竜の群れの中から獲物となる不運な1匹を見定めると、自慢の巨大な鉤爪を翳しながら大空を勢いよく滑空していった。 ガッ!ズザザザーッ ゆったりとした時間の流れる平和で長閑な静寂を最初に切り裂いたのは、鋭い鉤爪が群れの中でも1番大きな草食竜の背に突き立てられた鈍い音だった。 そして強烈な爪撃の勢いをそのままに、巨大な草食竜の体を草の地面の上へと押し倒す。 惨劇の周囲でのほほんと食事に没頭していた他の草食竜達は突然の襲撃者の出現に肝を潰し、グオオオ~というくぐもった悲鳴を上げながらまるで蜘蛛の子を散らすように逃げ出していた。 まあいい・・・この大きさの獲物ならば、たった1匹でも今日1日くらいは空腹に悩まされることもないだろう。 私は背から血を流しながら足元でバタバタと悶えている憐れな獲物と一瞬だけ目を合わせると、その太い喉元に牙を突き立てて一思いにとどめを刺してやることにした。 大きく牙を剥いた顎が近づけられる気配に、獲物の顔に諦観の表情が浮かんでいく。 バクッ・・・グギッ 「グ・・・ゥ・・・」 そしてか細く短い断末魔の声が途絶えると、私は飛竜としての本能のままその生肉をガツガツと貪り始めていた。 バサッ・・・バサッ・・・ 太陽の光も遮る程の厚い木々に覆われた森の中、私はすっかり満腹になった腹を抱えて涼しい木陰に降り立つと、巨大な尾を振り回して辺りでやかましく喚き散らしていた邪魔なランポスどもを茂みの向こうに追い払った。 潮の匂いを含んだ爽やかな海風がどこからともなく吹き込んでくるここは、私が新たに見つけたお気に入りの場所なのだ。 かつて森と丘の周辺に住んでいた時も、私はよく澄んだ泉のある木々に囲まれた回廊で翼を休めたものだった。 今頃はきっと、私の代わりに娘があの場所で転寝に耽っていることだろう。 ふふ・・・また、あの娘か・・・ これまでの生涯で子供を産んだことなど数え切れぬ程あるというのに、あの人間との奇妙な関わりのせいなのか最後に産んだ娘だけは、何時まで経っても頭から離れそうにない。 だがそんな淡い思い出もやがて襲ってきた睡魔に押し流されてしまうと、私はそっと暖かい地面の上に蹲って甘い眠気に身をまかせていた。 「ふぅ・・・それにしても、何であいつらいきなり飛び出してきたんだろう?」 心地よいまどろみの中に微かに聞こえた、若い人間の男の声。 薄っすらと目を開けて辺りを見回すと、私のほんの目と鼻の先に1人の人間が立っていた。 しかもあのランポスどもが逃げていった背後を頻りに気にしているらしく、まだ私の存在にも気がついていないらしい。 背に何やら武器のようなものを背負っていることから察するに、恐らくはハンターなのだろう。 だがこれまでに見慣れたハンター達のような分厚い防具を身に着けている様子は一切なく、随分と軽装のようだ。 「グルル・・・」 私は幸せな眠りを邪魔された怒りを込めながらも、低く抑えた唸り声を上げてやった。 それに気付いた人間が何やらキョロキョロと辺りを見回し始めるが、くすんだ緑色の体色が薄暗い森の景色に溶け込んでいるのか、あまりに近くにいるせいで逆に私を見つけられないでいるらしい。 だが人間がこちらを向いたときにそっと体を揺らしてやると、どこかあどけなかった彼の顔に途端に驚きと恐怖の表情が浮かび上がった。 「なっ・・・あ・・・」 突如として目の前に現れた巨大な飛竜を前にして、人間の息の漏れるような声が途切れ途切れに聞こえてくる。 あの様子からするとこの私と戦いにきたわけではなさそうだが、もしこれ以上私の邪魔をするというのなら生かしておくわけにはいかぬだろう。 寝起きの眠気のお陰で体を起こすのも煩わしく、私は相変わらず地面の上に蹲ったまま眼前の人間の動向をじっと見つめ続けていた。 だが流石に逃げ出すだろうという私の予想を裏切り、人間が何を思ったのか背中に掲げていた武器を取り出す。 まさかという思いとともに、私はほんの少しだけ首を地面から持ち上げていた。 やがて細く尖った矢をそれに番えると、人間が情けない声を上げながら弦を引き絞った手を離す。 「う、うぅ・・・うわああっ!」 ヒュン!キン! 次の瞬間至近距離だというのに山なりに飛来した矢は甲高い音とともに私の顔を覆っている甲殻に弾き返され、サクッという小気味よい音を立てて湿った土の地面の上へと突き刺さった。 「グルォ・・・!」 あのまま逃げ出していれば命は助かったというのに、馬鹿な人間め・・・! 私は眠気を運んでくる睡魔を噛み潰すと、ギラリと人間の顔を睨みつけながら体を起こしていた。 その圧倒的な体格差を見せつけられて、憐れな獲物と化した未熟なハンターの腰が砕けてしまう。 「あ・・・ぁ・・・」 ズシッ・・・ だがまだ生に対する執着は残っていたのか、私が肉薄を始めた途端に人間が地面の上を這って逃走を始める。 逃がすものか・・・この私に弓を引いた報い・・・たっぷりとその身に刻んでくれる! ズシッ、ズシッ、ズシッ・・・ 「う、うわあああ・・・い、いやだ・・・」 私に追われながらも必死に助けを求める人間の声が、森の中へと響き渡る。 そんな無力な獲物を見つめる私の怒りの表情は、いつしか嗜虐的な愉悦の表情へと変わっていたことだろう。 やがてあっさりと地面を這い回る人間に追いつくと、私は薄ら笑いを浮かべながら巨大な脚を振り上げていた。 ドシャッ! 「がっ・・・は・・・」 潰さぬように加減したとはいえ、背に振り下ろされた強烈な一撃に人間の体が地面に強か打ちつけられる。 踏みつけられて首を仰け反らせたその人間の苦悶の表情は、私の怒りを和らげるのに十分なものだった。 ドスッ!ズン!グシッ!ゴシャッ! 「あっ・・・が・・・た・・・すけ・・・」 力も無いくせにこの私に楯突いて眠りを邪魔した愚行を詰るように、私は幾度となく人間の体を踏み拉いた。 脚を振り下ろす度に柔らかな地面の上へ人間の体がめり込み、苦しげな声が激しい足音に重なって聞こえてくる。 だがやがてその声すら上げられなくなる程に人間が弱ったのを確認すると、私はぐったりと弛緩したその体をゴロンと蹴り転がした。 「う・・・ぅ・・・」 痛みに顔を顰めながら呻く人間は一見して怪我を負っているようには見えなかったものの、やはり体を動かすことはできないのか少しもその姿勢を変えようとはしなかった。 そろそろ、とどめを刺してやるとしよう。 私は虚ろな眼差しで虚空を見つめる人間の顔を眺めながら脚を上げると、仰向けになったその脆い体をそっと踏みつけた。 メキッ・・・ミシッ・・・ 「ひっ・・・や、やめ・・・て・・・」 かける体重を増していく度に人間の細くて柔な骨が上げる悲鳴が聞こえ、脚の裏に頼りない弾力が返ってくる。 呼吸をするのも辛いのか、人間は両目に一杯の涙を浮かべながら爪の間から出ていた手や足を滅茶苦茶に暴れさせて悶え狂っていた。 だがやがて激しい圧迫に窒息してしまったのか、不意に人間がガクリと意識を失ってしまう。 その瞬間、私は思わず慌てて人間を踏みつけていた脚を離していた。 この光景を、私は前にも見たことがある。 2ヶ月近く前、あの人間と初めて出会った日のことだ。 卵から孵った我が子に手を出そうとしていた人間を痛めつけ、そして踏み潰そうと脚を振り上げた瞬間・・・ 唐突に脳裏に蘇ったその忘れたはずの記憶に、私は気絶した人間を間近で覗き込んだ。 一体何故だ・・・?この人間は間違いなくハンターだ。しかも、この私に攻撃まで仕掛けてきたのだぞ? それなのに、どうして私は心の底でこの人間を殺すことに躊躇いを感じているのだろう? 最初から最後まで、こやつに私に対する敵意がなかったからだろうか? 確かにこの人間は私に向けて弱々しい矢を放ちはしたものの、それも飛竜との突然の邂逅に気が動転していたというのならわからぬ話ではない。 だが仮にそうだったとしても、それはこやつの命を奪えぬ理由にはならぬだろう。 そこまで考えた時、私は無意識の内に辿り着くのを避けていたある結論を見出していた。 もしかして私は・・・またあの人間との奇妙な共生を欲しているのだろうか・・・? ハンターと呼ぶのすら憚られるこの未熟な人間の姿が、私の存在に怯え切っていたあの男と重なって見えてくる。 馬鹿な・・・そんなことなど認めるものか! 私は力なく足元に横たわった人間を殺そうと、鋭い牙の生え揃った顎を大きく開いた。 「グルルルル・・・」 そして目の前の獲物に対する殺意を滾らせるかのように唸り声を上げてはみたものの・・・ やはり、その牙を振り下ろすことはどうしてもできなかった。 ほんの一月にも満たぬ程に短かった人間との生活。 それが今、数十年にもなる私の生涯の大部分を侵蝕しようとしている。 気を失っている今なら、この人間を密かに塒へ連れ込むことなど簡単に・・・ そんな心の内に芽生えた甘い誘惑を振り切るように、私はブンブンと頭を震わせた。 何故火竜である私が、わざわざ人間如きと共に暮らすことを望まなければならぬというのだ? どうしても殺せぬというのなら、こやつをこのままにしてここを立ち去ればよいだけのことだ。 だがそう心に決めてその場を飛び去ろうと翼を広げた瞬間、さっき1度は追い払ったはずのランポス達の鳴き声が私の耳へと届いてきた。 ギャーギャーとけたたましく喚き散らしながら、茂みの向こうで青い姿をチラチラと覗かせている。 もしや、この人間を追ってきたのだろうか? いや・・・仮にそうではなかったとしても、この人間をこのままここに放置していれば確実に奴らの餌食になってしまうことだろう。 最早是非もない・・・私は茂みの奥に隠れている邪魔者どもをキッと睨みつけると、仰向けに寝ていた人間の体をそっと口に咥えていた。 背骨を舌で持ち上げるようにして支え、両顎から生えた幾本もの牙が刺さらぬように優しく包み込んでやる。 そしてバサッバサッという音とともに左右に広げた翼を勢いよく羽ばたくと、私はかつてもそうしたように人間を咥えたまま新たな塒に向かって飛び上がっていた。 幻想的な雰囲気を放つ大きな洞窟の奥に、私の見つけた新たな塒が静かに佇んでいる。 かつて他の飛竜どもが住んでいたのか、あの森と丘の塒と同じように岩棚の上に子育てに丁度よい小さな寝床が築かれており、どこからともなく吹き込む風が適度な気温を保っていた。 更にはそこから空へと向かって大きな縦穴が伸びており、実に理想的な住み処が自然に形成されているのだ。 私は気を失った人間を咥えたまま洞窟の中へ降りていくと、硬い岩の地面の上にそっと彼を横たわらせてやった。 飛竜に対する殺気を漲らせた他のハンター達とは違う邪気のない童顔が、私に踏みつけられた痛みと息苦しさに醜く歪められている。 勘違いしている人間達も多いようだが、私は・・・いや、多くの飛竜達は、人間を食料とは見ていない。 私はただ身を守るために、或いは自らの縄張りを侵す邪魔者を排除するためだけに、目に付いたハンター達に襲いかかっているだけなのだ。 だがこの密林は・・・まだ移り住んで1月と経たぬ私にとって縄張りと呼ぶには性急過ぎるというものだろう。 それに落ち着いてよく見てみれば、このハンターも私に危害を加えられるような危険な人間には見えなかった。 だとすれば、一体私にこの人間を殺すどんな理由があるというのか。 私はそんな自らの取った行動に尤らしい理由をつけて納得すると、しばらくして息を吹き返した人間の様子をじっと見守っていた。 「ぐ・・・う・・・げほっごほほっ・・・」 滞っていた酸素の供給を取り戻すかのように苦しげな咳を漏らしながら、人間が薄っすらと目を開ける。 そして地面に横たわったままゆっくりと周囲を見回したものの、どうやら少し距離を取って頭の方に蹲っていた私の姿は視界に入らなかったらしい。 だが自分が何故こんな所にいるのか理解できないといった表情で体を起こした次の瞬間、何の気配が伝わったのか人間が背後に佇んでいた私の存在に気が付いていた。 やがてあからさまに不安げな表情を浮かべてこちらを振り向いた人間としっかりと目が合い、その口から押し殺した悲鳴が漏れ聞こえてくる。 「ひっ・・・」 それに続いて、何やら武器を探るように人間が何もない辺りの地面へと手を伸ばす。 まあ・・・無理もない反応というべきだろう。 経緯はどうあれ、彼が今味わっているのは飛竜に痛めつけられて巣へと運ばれた憐れな獲物の恐怖に他ならない。 やがて彼はどこに隠し持っていたのか私の鉤爪よりも小さなナイフを取り出すと、それをブルブルと震える手で私の前へと突き出した。 「く、来るなっ・・・」 だがいくら精一杯の強がりを口にした所で、逃れ得ぬ死を目前に膨れ上がった恐怖は確実に溢れ出している。 ズッ・・・ 私はそっと静かに1歩を踏み出すと、相変わらずカタカタと怯えている人間に首を伸ばした。 そして私に向けて構えたナイフが十分に届く所にまで顔を近づけ、なおも動こうとしない彼の今にも泣き出しそうな情けない顔にフッと湿った息をかけてやる。 更には限界まで張り詰めた人間の緊張の糸を引き千切るように、悪戯っぽい笑みを浮かべて喉を鳴らしてやった。 「グルル・・・」 「ああ・・・ぅ・・・」 カララァン・・・ 全ての希望が潰えたことを象徴するかのような、力のない嗚咽。 やがて抵抗は無駄だと悟った人間の手からポロリとナイフが取り落とされ、しんと静まり返った洞窟の中に金属の弾ける音が尾を引いて響き渡る。 だが後はとどめを刺されるのを待つだけだとばかりにきつく目を閉じた人間の様子は、彼を殺す気の無い私にとってはどうしようもなく滑稽で、そして憐れに見えた。 ペロォ・・・ 目頭に浮かべていた大粒の涙がポロリと零れ落ちたのを目にして、そっとその塩辛い雫を舐め上げてやる。 熱湯のように熱く滾った唾液を纏った舌が顔に触れた途端に人間がビクッと身を強張らせるが、余程恐ろしいのかその目が見開かれることはなかった。 ただただ声にならない短い喘ぎが体の震えとともに吐き出され、私の鼻先に人間独特の匂いを運んでくるばかり。 可愛いものだ・・・ 森と丘で人間と暮らしていた時は娘のことばかり気にかけていて全く気がつかなかったが、私に対して必死に恭順さを示す人間の不思議な魅力に思わずまじまじと魅入ってしまう。 だが、これ以上彼を追い詰めるのはよくない。 そろそろこのいつ終わるとも知れぬ恐怖と緊張と絶望の底から救い出してやらなければ、彼の心の表面に走ったひび割れが大きく裂けてしまうのは目に見えていた。 「・・・・・・・・・?」 しばらくして、何も起こらぬことを怪訝に思ったのか人間の身に微かな変化が起こった。 じっと辺りの音を聞くようにして耳を澄まし・・・私の息遣いを聞き取ったのか人間の喉が嚥下の蠢きを見せる。 そして恐る恐るといった様子で薄目を開けて周囲を見回し、人間の様子を観察していた私と目が合った。 彼は恐らく意識していなかったのかも知れないが、その顔に深い疑問の表情がありありと浮かび上がる。 「グルゥ・・・」 だがそんな人間を安心させるように溜息にも似た小さな声を漏らすと、ようやく彼は自身の安全を悟っていた。 しかし・・・これ以上一体どうすれば私はこの人間に歩み寄ることができるのだろうか? 一応は顔に安堵の表情を浮かべているものの、あの人間がまだ私に強い警戒心を持っていることは否めない。 だが下手に無言で近づけば無為に彼を怯えさせてしまう結果になるだろうし、そうかといって言葉も通じぬのでは意志の疎通もあったものではないだろう。 とその時、私の脳裏にかつての森で人間と暮らしていた頃の記憶がまざまざと蘇ってきた。 その記憶を辿るようにゆっくりと地面の上に低く身を伏せ、人間の方に向けた片翼を少しだけ持ち上げる。 そして言葉など発さずとも心に訴えかけるような切なげな視線を投げかけてやると、人間が意外なほど大きな反応を示していた。 「僕に・・・こっちへ来いって言うの・・・?」 不安げに漏れたその言葉の意味はわからなかったが、恐らく彼は私の不可解な行動を問い質したのだろう。 だが、安易に頷くわけにはいかない。 命を盾に取った高慢な命令などではなく彼自身の意思で私のもとへと来てもらわなければ、とても彼からの信頼を勝ち取ることなどできないからだ。 肯定も否定も含まない、それでいて彼を引きつけて逃がすまいという鋭い眼差しを注ぎながら、私は長い間地面の上に根を下ろしている彼の腰が上がるのを辛抱強く待ち続けていた。 しばらくして、人間がゆったりとした動きで地面から立ち上がる。 そしてギシギシと悲鳴を上げているであろう重い体を引きずりながら、少しずつ私の方へと近づいて来た。 やった・・・! 胸の内一杯に広がった歓喜を彼に悟られぬように必死で押し殺し、そばへとやって来た人間を迎え入れるように翼をもう少し高く上げてやる。 その様子に流石に人間の方もどうすればよいかわかったのか、やがて彼は何も言わずに私の隣へとその小さな身を滑り込ませて来た。 地面に寝そべった私の胸にその柔らかな体を押しつけてくる人間は、もう私に対する恐れなど全く抱いていないように見える。 ハンターなど敵でしかないと思っていたのが馬鹿らしくなり、私は人間の上に優しく翼をかけてやった。 「ああ・・・」 心地よさそうにうっとりと声を上げる人間の様子に、私は何故か心の底から安堵していた。 もしかして私は、番いとなる火竜のいないこの密林に移り住んでからの1ヶ月間、打ち解けられる仲間のいない孤独を憂えていたのではないだろうか? 思えばあの娘を育てていた時の私は、今までにないくらい充実した生活を送っていたような気がする。 娘のための獲物を仕留めた後、今度は人間の食料を求めて豚や猪どもを追い回しては思う存分に炎を吐いて暴れたものだった。 何故あの生活を手放してしまったのか・・・そんな後悔がなかったといえば嘘になるが、心の奥底にこびりついていた人間に対する憎悪のようなものが頑なにそれを認めようとしなかったのだろう。 だからこそ、産まれたばかりの娘は何の抵抗も無く人間との共生を受け入れたのに違いない。 だが私は、またあの充実した日々を取り戻せるかもしれないという期待が胸の内に湧き上がってきたのを感じていた。 この人間が私に心を許してくれたという事実が、あらゆる不安を吹き飛ばしてくれたのだ。 ふと気がつくと、私の耳にスースーという人間の静かな寝息が聞こえていた。 翼を少しだけ持ち上げて中を覗いてみると、人間が気持ちよさそうな寝顔を浮かべて眠っている。 無理もない・・・あれほど私に踏みつけられて気を失った挙句、つい数分前まで私に殺されると怯えていた身だ。 その緊張の糸が切れて、溜まっていた疲れが一気に溢れ出してしまったのだろう。 私も、このまま一眠りすることにしよう。 洞窟の外に覗く薄暗い夕焼け空を眺めながら、私は自らもそっと人間の体に身を摺り寄せると静かに目を閉じた。 ザァーー・・・ ぼやけた意識の内に割り込んでくる、嵐のような激しい雨音。 毎晩のように降り続く密林の豪雨の匂いに、私は珍しく目を覚ましていた。 辺りは既に真っ暗な闇に覆われていて、厚い雲間から漏れた薄い月明かりが長い縦穴を通して洞窟の中に心許ない光の筋を落としている。 一面岩で覆われている地面は縦穴から流れ込んできた雨にしっとりと濡れていて、静かに吹き込んでくる生暖かい風だけが湿り気を帯びた私の体を頼りなげに摩っている。 ふと気がついて温もりを持っていた片翼を持ち上げてみると、人間は相変わらず私の腹にしっかりと体を押し付けながら夢の世界を彷徨っているようだった。 「グル・・・ルルル・・・」 遠慮がちに漏らしてみた唸り声にも、人間が反応する様子は全く無い。 彼はもう、すっかり私のことを信頼しきっているのだろう。 かつて共に暮らした人間もそうだったが、彼らは何故1度は命を奪われかけた相手にこうも安心してその身を委ねることができるのだろうか? 野生の動物達であれば、1度敵と判断した相手に対して警戒心を解くなどということはまず有り得ない。 いつも死と隣り合わせの過酷な環境で生きている者達にとっては、危険に対する妥協などあってはならないのだ。 だが、どうやら人間というものはそうではないらしい。 いつ飛竜に、或いはそこかしこに巣食っている危険な生物達に逆に命を奪われかねないという危機的な状況に身を置くハンターですらが、今もこうして火竜である私の隣で緩んだ寝息を立てている。 彼らにしてみれば、時に命すらもが相手への信頼を表す道具の1つでしかなくなるのだろうか。 私は隣の人間を起こさぬように努めて静かに立ち上がると、心地よさそうな寝顔を浮かべている彼をじっくりと眺め回した。 あまりに無防備なその寝姿を見ている内に、だんだんと説明のつかない妙な疼きが込み上げてくる。 そしてゆらゆらと定まりなく辺りに漂っていた私の視線は、やがて薄い腰皮で覆われていた彼のある場所に釘付けになっていた。 「グ・・・ルゥ・・・」 だがだらしなく弛緩した顎の端からトロリと唾液が零れ落ちた途端、思わずハッと我に返る。 わ、私は今・・・一体何を考えていたのだ・・・? 逆らい難い本能に突き動かされそうになった所までは辛うじて覚えているものの、私はこの数十秒の間の記憶がぽっかりと抜け落ちてしまっているのに気がついた。 まるで何かに焚きつけられるかように体が内側から火照っていく感覚が、たった今感じた不可解な衝動の正体へと私の意識を導いていく。 馬鹿な・・・いかに互いに心を許しているからとはいえ、こやつは人間・・・所詮私とは生きる世界が違うのだ。 こんな吹けば飛ぶようなか弱い命を灯している人間などに、あの雄々しい火竜の代わりなど務まるわけが・・・! 激しい葛藤が、私の中で終わりの見えぬ戦いを繰り広げていた。 いや寧ろそれは葛藤などという生易しいものではなく、深い懊悩というべきだったかも知れない。 かつては虫けらと嘲笑っていたちっぽけな人間に、ともすればこの身を許してしまいそうになることへの抵抗。 そして孤高に生きる飛竜であるが故に、そんな種族の壁に突き当たってしまうことに対する悲しみ。 世に生まれ落ちてから長い時間をかけて醸成してきたはずの高貴な自尊心は、ふと胸の内に湧いたたった1つの極めて単純な欲望の前に敢え無く瓦解の時を迎えようとしていた。 この人間が・・・欲しい・・・ その瞬間理性と野生を隔てていた最後の堤防が砕け散り、本能に支配された甘い奔流が全身を駆け巡っていく。 私は大きく息を吸い込むと、人間の身に着けていた薄手の防具に尖った牙を剥いて荒々しく襲いかかっていた。 ビッ・・・ビリッ・・・ブチッ・・・バリリッ・・・ 胸当てを留めていた皮紐が勢いよく引き千切れ、腰巻きが派手な音を立てて破れ落ちる。 そんな欲情した雌竜の暴挙にされるがままに翻弄されて、人間が慌てて目を覚ましていた。 「うっわっ・・・な、何をするんだ・・・レ、レイア・・・!」 ドスッ・・・グッ・・・ 「うあっ・・・あ・・・はぁ・・・」 だが突然の事態に思わず起き上がろうとした人間を逃がすまいと、巨大な顎を押しつけて地面の上に縫いつける。 強く胸を圧迫されて漏れた苦しげな声も意に介さず、私は疲れ切った人間の体が動かなくなるまでグリグリと顎を擦りつけるのを止めようとはしなかった。 「ぐぅ・・・うぅ・・・」 やがて私からは逃れられないと悟った彼の目に諦めにも似た切ない光が宿ったのを確認すると、ボロボロに破れた服の間から何時の間にか顔を覗かせていた肉棒へと視線を移す。 これが・・・彼のモノ・・・ 巨大な雄火竜のそれとは比べるべくもない小さな小さな雄の象徴が、彼の荒くなった呼吸とともに揺れていた。 パクッ・・・ 「ふあっ・・・」 そんな肉棒の挑発的な誘いに打ち負けて、私は吸い込まれるように彼のモノを口に含んでいた。 そして鋭く尖った牙で傷つけてしまわぬように熱く燃える雄を舌先で絡め取り、敏感な粘膜に高温の唾液をたっぷりと擦りつけてやる。 ジュル・・・ズ・・・ズリュゥ・・・ 「うあっあっ・・・レ、レイアッ・・・」 バタバタと体を捩りながら、人間が艶のかかった声を上げていた。 そんな女王に備わった嗜虐心を煽り立てるかのような声の響きが何とも耳に心地よく、なおも人間の喘ぎを絞り出そうと執拗に肉棒を揉み拉いてはドクンドクンと脈動を繰り返す固い鏃を舐め上げる。 ギュゥ・・・グリュッ・・・ヌチュッ・・・ 「はぁっ・・・レ、レイア・・・もう、だめ・・・」 やがて赤黒い舌のとぐろに捕えられて責め苦を受けている肉棒が、間近に迎えた絶頂の予感にブルブルと戦慄いていた。 「グルッ・・・ガァ・・・ゥ・・・」 そして無心に雄を求めようとする衝動が空気を震わす唸りとなって漏れ出し始めると、とどめとばかりに彼のモノを渾身の力を込めてきつく締め上げてやる。 グジュッジュルルッヌチャ・・・ギギュゥッ 「レ、レイッ・・・う・・・うあああああ~!!」 ビュビュッビュルルルルルッ・・・ 次の瞬間、激しい噴出音とともに苦い粘液の味が口内に広がった。 だが勢いよく精を吐き出した肉棒は快楽の余韻に震えながらもなお固く張り詰めていて、限界を迎えた今もなおその奥に熱い滾りを隠していることが窺える。 これで終わりになどするものか・・・! ジュッジュルルッズゥ~ 「あっだ、だめ・・・吸わないで・・・ああ~!」 仕留めたと思った獲物にまだ余力が残っていたことが許せずに、私は射精直後の彼の肉棒を思い切り啜り上げていた。 再び襲ってきた凄まじい快楽に人間の体が激しく跳ね回るが、そんな必死の足掻きも今の私には無駄なこと。 1度交尾の相手に選んだからには、私はたとえそれが人間であろうとも容赦するつもりなど一切なかった。 ズッ・・・ズズッ・・・ズルルッ・・・ ビュルッ・・・ビュルルッ・・・ やがて成す術もなく2度目の限界を迎えてしまったのか、今度は一言の声もないままに勢いを失った精の飛沫が肉棒の先から発射される。 そしてその薄味の白濁も淫靡な表情を浮かべながら残らず飲み干すと、私はようやく人間の肉棒から口を離した。 「はぁ・・・はぁ・・・」 「グルル・・・グルルルル・・・」 長く濃厚だった前戯が一応の終わりを迎えたのをきっかけに、お互いに荒い息をつきながら見詰め合ってしまう。 私は本能の赴くままにあんなに激しく、そして強引に彼を犯してしまったというのに、意外にも彼の顔からは私に対する不信感や警戒心は全くと言っていいほどに何も感じられなかった。 こんな崇高な火竜らしからぬ私を、彼は許してくれるのだろうか? だがやっとの思いで築いたはずの人間との信頼関係を自ら壊してしまったのではないかという私の危惧をよそに、人間が心底呆れたといったような口調で何かを言い放つ。 「あはは・・・何だ、大したことないじゃないか・・・もう終わりかい?」 何だと・・・!? 正直なところ彼が何と言ったのかはよくわからなかったものの、その言葉の調子から私は何だか酷く侮辱されたような印象を受けていた。 「グオアァッ・・・!」 試しに冷たい殺意を漲らせた威嚇の声を上げてみると、流石にたじろいだのか人間の顔が一瞬だけ引き攣る。 だがすぐにその顔に私を小馬鹿にするかのようなニヤついた笑みが戻ってくると、私は大きな眼を見開いて人間を睨みつけていた。 おのれ・・・この生意気な人間めが・・・! 「ガアァッ!」 ドンッ 「うぐっ・・・」 激しい憤りを込めた短い咆哮を轟かせ、地面の上に座っていた彼を顎の先で乱暴に小突き倒す。 そして威圧するように大きく翼を広げながら倒れ伏した人間の上へと覆い被さると、私は無駄な抵抗を封じるようにその小さな顔をベロリと思い切り舐め上げてやった。 人間の分際で私を侮辱するなど、身の程知らずにも程があるというものだ。どうするか思い知らせてくれる! 腹下に組み敷いた人間の卑小な肉棒を呑み込もうと昂ぶる私の秘所が、早くも熱い粘液に濡れ始めている。 「グルルルル・・・」 怒りに荒らぶる巨大な火竜に組み敷かれて、人間はさぞ絶望的な表情を浮かべていることだろう。 だがそう思って彼の顔を覗き込んで見てみると、そこには先程までと違って驚くほど邪気のない落ち着いた笑みが貼り付いていた。 もしや・・・私は彼の言葉にいいように乗せられてしまったのだろうか? 人間に嫌われてしまうことを恐れていた私に陳腐な慰めの言葉や憐れむような視線を投げかける代わりに、彼は私を挑発することで自然にこの状況を誘発させようとしたのだろう。 一切の抵抗もせずに静かに私の全てを受け入れようとしている彼の表情から、それが私の自尊心を傷つけまいとしての気遣いであったことは十分に理解できた。 人間などに気を遣われるとは、何とも気恥ずかしいものだ・・・だが、さして悪い気がしないのは何故だろうか。 いや・・・種族の違いなどという些細なことにいつまでも拘り続けるのは、もう止めるとしよう。 今はただ、何も考えずに目の前の人間と互いの体を求め合えばよいだけなのだ。 私は自分の心にそう踏ん切りをつけると、長いこと焦らしてしまった秘所を花開いて彼の雄へと狙いをつけた。 ズ・・・ズプッ・・・ズズ・・・ 「くっ・・・はぁっ・・・」 火竜独特の高熱を帯びた愛液が淫唇に咥え込まれた肉棒に塗り込められた途端、人間がかつて味わったことのない未知の快楽に火照った喘ぎ声を上げる。 まだ腰も膣も全く動かしてはいないというのに、そんな彼の肉棒は既に限界にまで漲っていた。 ヌリュッ・・・リュリュゥ・・・ 「あっく・・・うはぁっ・・・」 「グルゥ・・・グゥゥ・・・」 キュッと収縮した膣が捕えた人間のモノを更に奥深くへと吸い込むと、私と彼はほとんど同時に喜びの声を上げていた。 欲しい・・・彼が・・・彼の全てが・・・力尽くでも構わない・・・! 私の体内で無上の刺激にドクンドクンと力強く戦慄いている彼の雄さえも、熱い欲と肉で容赦なく嬲っては愛し、弄んでは慈しみ、そして何もかも・・・丸呑みにしてしまいたい・・・! 「グルオァァァーー!」 私は逞しく鍛え上げられた両脚でしっかりと濡れた地面を踏み締めると、激しい野生の解放に身を震わせた。 グッ、グシュッ、ヌチャッ、グチュゥッ そして山のように大きな体を激しく前後上下に振りながら、欲望の赴くままに人間のモノを貪り尽くす。 「くぁっ・・・かっ・・・ふぁっ・・・うあああっ・・・!」 無防備な肉棒に無慈悲に叩き込まれていく快楽に人間が悲鳴とも嬌声ともつかない大きな声を上げたものの、それは寧ろ私の暴力的な興奮を何倍にも増幅させた以外に何の効果も発揮することはなかった。 「ガアッ!グ、グオガッ!グルルァッ!」 「ぐ、ぐうぅ~~・・・!」 頭の中で、白い光が花火のように弾けていく。 彼を、人間を、愛する者を一方的に犯しているという倒錯的な状況が、込み上げる快楽を際限なく膨れ上がらせていく。 ギュッ、ギュウウッ・・・! 「ぐっ、うあああああああ~~~~!」 「グガアアアアアアァーーーーッ!」 深い密林中に響き渡った絶頂の断末魔は、やがて激しく降頻る雨音の中へと溶け込んでいった。 「・・・ア・・・僕・・・お前が好きだよ」 不意に現実へと引き戻された意識の中に飛び込んでくる、甘い人間の囁き声。 私はそのままの姿勢でゆっくりと目を開けると、翼の下に寝転んでいる人間の顔をじっと見据えた。 彼は今、一体何を私に囁きかけたのだろうか? 人間の言葉などまるでわからないというのに、何だかとても大事なことを言われたような気がしてしまう。 だが・・・今はそんなことなどどうでもいい。 私にとっては、こうしてこの人間と平和な時間を共有できていること以上に大切なものなど有りはしないのだ。 「グルゥ・・・」 そして人間の言葉に小さな声で一応の返事を返すと、私は再び幸せな眠りの世界へと旅立っていた。 完 感想 名前 コメント
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……なんだろう。最近どうもよく頭が痛くなる。おねえさんが最近よく出かける。それと関係があるのだろうか。……何を考えているんだ。関係のあるはずがない。……私は、どうしたんだ……。 こういうときは人形を見るにかぎる。今にも動き出しそうなたくさんの人形は、私の心をほっとさせてくれた。……そうだ。充分に食べられ、充分に眠れる。これ以上何をのぞむことがあろうか。人形は、食べたくも眠たくもならないのかな……。 棚には私を模した人形もある。私が始めて人形棚を見たときにはすでに並んでいた。おねえさんは実に早く人形を作るんだな、と感心したのをよく覚えている。 ……この人形、実際にどれぐらい私に似てるんだろうか? たしかとなりの部屋には鏡がある。人形を持っていけば、比べることができる。しかし、おねえさんに家の物には触るなと言われている。……さからったらどうなるか? いや、何を考えてる。そうじゃない、私は人形が取りたいんだ。ひかくしたいんだ。さからったときのことじゃなくて……いや、そもそもおねえさんに禁じられていて…… ! 気づくと私は、口元に人形を加えていた。しまった、これはまずい。戻さないと…… ? これは……確か、写真? 私と……この女性は? 人形のうらにしゃしん? わたしと、女性? ??? ………… 「シャッターチャーンス!」 「わっ!」 「ふふ、アリスさん激写です」 「いきなりなんなの!」 「この写真によると、アリスさんは本を読んでますねー。タイトルはー、『記憶……?』その後は影になって読めません! 残念」 「目の前にいる本人に聞こうって言う気にはならないの?」 「頼んで教えてくれそうならぜひそうしたいですね」 「お生憎様。人間だろうが天狗だろうが、非礼を礼で返すほど私はお人よしじゃないわ」 「そうは思えないですけどねえ」 「……なによ」 「さあ、なんでしょう?」 「言いたいことがあるならねえ、はっきりと「はいっ!」 アリスの言葉を遮るように、目の前に写真が差し出された。 「これ……私? 笑ってる……」 「そうです。半年ぐらい前のですかね。今はアリスさんちょっと怒ってました。皺がこう眉間にぐわっと寄って」 「……」 「笑うのもそうですけど、怒るのも大事ですよ。それから、泣くのも。どれも感動してるってことですからね。そう言った瞬間を探し求める、これぞ記者魂ってやつですね」 「支離滅裂よ。結局、何が言いたいの」 「……私があげた写真、大切にしてくれてます?」 「全く、最初からそう訊けばいいのに。どうだったかしら。人形の後ろにでも放り込んでおいた気がするわ」 「ふふ。それは安心です。撮った甲斐があります」 「ところで、私はその笑っている写真を撮ってもらった覚えがないのだけど……」 「ととと盗撮ちゃうわ!」 「まだ何も言ってないわよ。……ま、いいわ。私は忙しいから、じゃあね」 「てっきり怒るかと思ったのに……ええと、あっちは確か紅魔館。何冊か本を持ってたし、図書館に用があるのかな?」 「おねえさん、こんにちは!」 「はい、こんにちは。食事、水……オーケー。水が残り二週間分ってところかな……次来るとき持ってこないと」 「おねえさん!」 「はい?」 「いつもご飯とお水、ありがとう!」 「な、何よあらたまって……」 「物をもらったらお礼を言うものだよ!」 「じゃあなんで今まで言わなかったの」 「ありがとうの安売りはよくないの」 「結構深いこと言うのね、あんたは」 「ほんとはわすれてただけだけどね!」 「……一瞬見直した私が馬鹿だったわ。さて、じゃあ今日も演りますか」 「じゃかじゃーん、じゃかじゃんじゃんじゃんじゃーん」 「いやそういうの要らないから」 「そう?」 「そうよ。……さて、今日の主演人形は……」 (わくわく) 「この子です!」 「!」 「さて、この子は誰でしょう?」 「まりさだー!」 「その通り!(ふふ、短期間で作ったとはいえ出来は最高級よ)すごいぞー、かっこいいぞー!」 「まりさ、かっこいい!」 「そして助演は……」 (どきどき) 「お友達の子供達でーす!」 「! …………」 「?(受けが悪いわね。人数が足りてなかったかしら)……続いての助演は……」 (…………) 「やさしいおばさんです!」 「!!」 「あれ……?」 「……う……お、う……あ」 「ど、どうしたの」 「う、お、おばさん……おばさん、会いたいよう。お、……おともだちと、……あそびたいよう。」 「ちょ、ちょっと」 「うわーーーーーーーーーーーーーーーーん! おばさーーーーーーーーーん! ああああああああーーーーーーーーーーん! あうううう……うああううう……うううううう、うっ、うっ、うっ、うあーーーーーーーーーーん」 (……そうね) 「あう、あっ、あっ、あうううう、あーーーーーんうあぐっ、ぐ、ひぐっあうう……」 (寂しくないわけ、ないじゃない) 「……ごめんね」 「お、お、おねえさん、んんん……あったかいよ、ん、ん、おばさんも、よく、まりさ、だっこしてくれ、た……」 「……会いましょう」 「う……あ、ん、ん?」 「おばさんに、会いましょう」 「……でもおばさん、こない」 「私が今から連れてくる。必ずすぐに戻ってくる。……だから、待ってて」 「……」 「……」 「……って……しゃ……」 「?」 「いってらっしゃい! ……大好きな人がお出かけするときは、こういうんだよね」 「……うん。いってきます、まりさ」 初めてそう呼んだ。 ただの人間が情に絆されると碌なことにならない。彼らは大抵非力であるからだ。――しかし、彼女なら――魔法使いの、彼女なら――アリス・マーガトロイドなら―― 「……お久しぶりです。(……声を潜めて)」 「! マーガ(……トロイドさん! 私は、私は……)」 「(積もる話は後で。……この家の周りは随分と不逞の輩が多いこと。苦労なされたようで……)」 「(そうなんです、何度もあの子のところへ向かおうとしましたが、監視が、尾行が……)」 「(わかります。正面から出るのは無理です。なので上から行きます。私に掴まってください)」 「(ええっ、上から!? 上からとは……)」 「(いいから掴まってください!)」 「(きゃっ……う、浮いてる……)」 「(このまま行きます)」 「(えっ、そっちは壁……ああっ!! ……?)」 空に舞い上がった二体の肢体は、存分に夜風を浴びて、その衣を棚引かせた。 「抜けました。もう普通に喋っても大丈夫ですよ」 「え、あ、あ、壁は……? 浮いて……飛んで……?」 「壁はすり抜けました。浮いてるのは私の魔法です。飛んでるのは私が魔法使いだからです。他に質問は?」 「…………あの子は、まりさはどうしているんですか」 アリスはほほ笑んだ。 「敵わないなあ」 速度をあげ、うっとおしい雲を突き切るほどの勢いで、一人の女性の想いを載せて魔法使いは飛ぶ。 「……おばさん……ぐすっ、」 「……さ」 「!」 「ま……さ」 「お、ば……」 「まりさ!」「おばさああん!」 扉を開くや否や、まるでそれがなかったかのように、一人と一匹は走って寄り添った。 「……」 「おばさああああん、おばさあ、ああん!!!」 泣きわめくまりさに対し、ただじっと抱きしめる様子がアリスの目には印象的に映った。 ――だが、いつまでも感傷に浸ってる程彼女は人間的ではない。 「……お邪魔して申し訳ありません。貴女のことを前に少し調べさせていただきました。貴女は、魔理沙の……」 「昔の話です」 「……」 「血縁でもないのに……馬鹿な女と思うでしょう。でも、貴女も女なら、わかりませんか」 「おばさん、おばさん……」 「女性だからなのかはわかりませんが……今は少し、わかります。まりさは、いい子です」 「っ、おねえさん、ありがとう……。あ、ありがとうの安売りしちゃった。てへっ」 まりさがほほ笑む。アリスもほほ笑む。 それから幾許かの余韻を経て、二人は目を合わせる。 「……まりさを、私に預けていただけませんか?」 「……はい。……はじめから、そうお願いするべきだったんです。私は、心のどこかで、この子を……まりさを手放したくないと思っていた。せめて自分の目の届くところにおいておきたいと思った。……今度こそは、そうしたいと思っていた。でも違うんです。それは大人の勝手。あの子は……魔理沙は、少し急ぎ過ぎたけど、自立したんです。……私はそれを認めきれなかった……近所の人々よりも、霧雨家の人々よりも、誰よりも…………」 「おばさん、まりさよくわからない……あたまわるいから」 「あなたは優しい子よ。それだけで充分なの。魔理沙だって……いや、あなただから、あなた自身が、それでいいの。あなたは他の誰でもない、誰の変わりでもない、やさしいまりさなの」 「(ずいぶん冗長で、不格好な表現ね……伝えたいことはわかるけど)」 まあ今だけはそれも悪くないかな、とアリスは心の中で付け加えた。 魔法使いは夜空を飛ぶ。なぜではない。どうしてではない。もともとそういったものであり、理由は後から付いてくるのだ。今回の彼女のケースは、夜遅くなったのと、気分がいいからだ。 「最後に一晩だけ一緒に、か……」 アリスはほほ笑んだ。……今日はよく笑っている気がする。 「人間ね。実に人間。余韻に飢えてるのね。でも、今夜の空は荒れそうだから、それもいいでしょうね。不安な天気の夜は、母親は子を寝床で宥めるものよ」 こうして独り言つ自分も実に人間。そんなことはわかっている。わかっていても止められない。しかし、こういうときがたまにはあってもいいではないか。 (……まりさが家に来たら、新しい帽子でも作ってあげようかな。今のは結構ボロボロだったし) (あ、リボンを新調するのもいいな。ちょうど大きな生地が余ってたのよねえ) (それから、それから……) 想像を膨らます少女には、豪雨さえも小鳥のさえずり程度にしか聞こえてこない。無意識に魔力の層を敷き、雨粒を弾くことができるアリスほどの魔法使いになると、尚更である。 「おばさん」 「なあに?」 「たくさん雨ふってるね」 「そうねえ……風も強いみたいだし。そう言えば昨日から雲行きが怪しかったわねえ……」 「おばさん」 「なあに?」 「雷、うるさいね」 「まりさにはおへそがないから、雷も大丈夫よ」 「おばさん」 「なあに?」 「……なにか、いる」 「……へ?」 「なにか、いる。いるよお。おばさん」 「お化けなんていないわよ。寝ぼけた人が見間違えたって、よく言うじゃない」 「ちがう。ちがうよお。いる。あ、あ」 「まりさ、なにを……!」 「う、あ、あ」 「……誰」 まりさをしっかりと、守るように抱きかかえ、上体を揚げる。 ―――― 「誰なの! 出てらっしゃい!」 「お、おばさん……」 「まりさ、黙ってて!」 「でもおばさん! おばさんの腕が、腕がないよおおお!!!」 「あ……ぎゃああうっ!!!」 紅色の小球が描く曲線を、稲光が一瞬露わにした。その先には、指に激しく痙攣を起した腕――血線を描いた『筆』――が、暗闇でも輪郭のはっきりした、なにものかに咥えられぶらついていた。 「あ、う、あ……よ、よう……」 雨は更に激しさを増し、鋭い稲光が夜空に轟く。 「ようか……」 (僕知ってるよ! 急に大雨を降らして、家に閉じこもってる人間を襲う妖怪がいるって!) 「ゆぎゃあああああああああああ!!!」 「まりさ! 大丈夫よ、まりさ! ……今度は、今度こそは何があっても離すものですか!!」 「オッス、オラ魔理沙!」 「コンニチハ、私は博霊霊夢。ではさようなら」 「なんだよ、つれないなあ」 「いきなり気持ち悪い挨拶をする人間に釣られたくはないわね」 「挨拶もそろそろ新規開拓すべきと思ってな。温故知新してみた」 「微妙に使い方を間違えてる気がするけど……で、今日はどういった大義名分で、他人の家の軒下で図々しく茶をすするのかしら」 「下見」 それだけ言うと魔理沙は再び箒に乗って、ゆっくりと奥に進んでいった。 「家主をほっぽいて上がりこむ人がありますか……ったく」 「それでー、拙宅は今日の宴会にふさわしい場所だったでしょうか?」 霊夢がお茶を渡しながら訊く。魔理沙がお茶を受け取りながら答える。 「うむ、広さも充分、貯蔵してある密造酒も充分。よきに計らえ」 「あんた、勝手に何見てんのよ」 「茶がうまいのう」 「……誤魔化すこともしなくなっちゃ、人間としてお終いね。どうせ化け物だらけの場所で生活してるんだし、妖怪にでもなったらどう?」 「よしてくれよ。私ほどの影響力がある妖怪じゃあ、いつ博霊の巫女の標的になるかわかったもんじゃない」 「腕が鳴るわ」 「鳴るな。……霊夢、妖怪と言えば、珍しく妖怪を単品で撃墜したそうじゃないか」 霊夢は些か不自然に宙を眺め、それから思いついたかのように答える。 「神社の敷居内で騒いでたから黙らせただけよ。……ちょうど雷で鳥居が一つ壊れて、腹が立ってたし」 「そうか」 「そうよ」 「……」 「……」 「『普段凶悪だったり、へそ曲がりな人間がちょっといい事をすると、途端にすごく善良そうに見える現象』、いやこの場合幻想かな……」 「何が言いたいのよ」 「お、空飛ぶアリスだ」 魔理沙が空を指さす。 「また意味もない嘘を……あ、ほんとだ」 「降りてきそうにないな。仕方ない、こちらから出向くか」 「永遠にさようなら」 「確実にまた今度」 そう言い始める頃に箒にまたがり、言い終わる頃には鋭い初速で飛び出していった。 「おうアリス。元気か」 魔理沙はアリスのすぐそばで静止し、箒から手を放し腕を組んだ。 「あんたの顔を見るまでは元気だったわ」 「はっはっは。元気みたいだな」 「魔理沙もいつもに増して元気ね。馬鹿みたいに」 「後ろにいらんものつけるな。でもまあ、いつもより元気ってのはあってるな。なんせ、今日は大宴会だからな」 人間めいた話をするには、人間めいたふるまいをしなければならない。その真正は全く証明されていないにもかかわらず、異を唱える者は不思議と少ない。彼女たちもそうであった。一人は『種族』魔法使い、一人は『職業』魔法使い。似通っていて、微妙に異なる彼女らが選択した人間性、人間的ふるまいは――歩くことである。 「……」 「……」 「彼女は、厳しかったの?」 先に口を開いたのは、意外にもアリスだった。 「ああ。ずいぶん扱かれたな。……でも、褒めるものうまかった。こう、ぎゅっとな、熱い抱擁をなだな……」 腕の中で微笑んでいるまりさの顔がアリスの頭をよぎった。 「わかるわ」 「わかるか。……親と随分揉めたときも、ずっと庇ってくれてたなあ。『教育係風情が……』って下りの親父の言葉にはキレそうになったもんだ」 「最後まで庇ってくれたんでしょう」 「ああ。……結局は私が堪え性がないせいで、家を飛び出しちまって、それっきりになっちまったんだけどな」 「馬鹿ね。昔から」 「うるせえ。……」 「……」 「……実はそれっきりじゃなくて、一度こっそりと実家の近くまで戻ってみたことがあるんだ」 「へえ。恋しくなったのは両親? それとも彼女?」 「無論後者。そのときにはもう、離れに引っ越しててな、……事実上霧雨家を追い出されてて、会いに行くには好都合だったんだが、かなり後ろめたく思ったね」 「その百万分の一でもいいから、私にも後ろめたく感じて欲しいものね」 「……お前、今日はやたらと話の腰を折るな」 「そんな気分なの」 「そうか。じゃあ気にしないことにする。んで、まあそれでも会いたいって気持ちが強かったから、門を叩いたんだ」 「どうだったの?」 「顔を合わすなりおもいっきりぶたれたよ。貴女の意思はそんなものか、決めたのなら二度と帰ってくるな、ってね」 「いい気味ね」 「ああ、そう思う。おかげでここまで辿り着けた。……でも思うんだよ。私と同じで、おばさんも迷ってたんじゃないかなあって。迷ってたけど、必死で迷ってないふりをしてたんじゃないかなあって」 「人間はそうかもね。特に、歳を取ってくると」 「なあ、アリス」 魔理沙が歩を止めて、アリスの方を向く。アリスも一歩送れて歩を止めて、魔理沙の方を向く。 「お前も、そうなんじゃないか?」 「……」 「なんとか言えよ」 「私は、彼女から相当な額の金銭を受け取った。受け取りっぱなし、ってのは、性に合わないから、きちんと代金分の世話は……」 「永琳は何て言ってた」 「!」 「パチュリーから本を貸して貰うのは骨が折れただろう」 「……貴女みたいに盗んだりはしないからね」 「話を逸らすなよ。紫、慧音、文……他にもいろいろ聞いてるぞ」 「……」 「お前、どうして全部一人で背負いこもうとするんだ。そりゃあ、あいつ等は他所者を好んで助けようとしたりはしない。でも少しなら、退屈しのぎや面白半分かもしれないけど、少しなら手を貸してくれる。その少しを借りて、なんとかすればいいじゃないか」 アリスはまりさを説き伏せていた彼女の姿を思い出した。……今の魔理沙とは状況も、言葉も、意味も全く違っている。それゆえ、我慢がならない。 「よくもまあ、長々と……。言えば言うほど陳腐になるってことを知らないの? ますますあんたが嫌いになったわ」 「ああ、私だって大嫌いだぜ。大嫌いだから、どんなことを言うと効果的な嫌がらせになるかもよく知ってる。……ところで私は、天邪鬼なところがあってな」 溜息。 「……負けた」 「勝った。では改めて。まず、私には何ができる?」 「最後の記憶の衝撃が強すぎるから、無理して思い出させようとせず、引き出された記憶に対してなるたけ自然な対応をすること……薬師の受け売りだけどね」 「なんだよ、結局私がはじめに言ってたことと同じじゃないか」 「『面倒なことを考えずに、自然にやればいい』だっけ? ……認めたくないけど、今回ばかりはそういうことになるわね」 「結局他の奴らも、適当に振る舞えばいいってことか。……なんか、大きな回り道をした気分だぜ。幻想郷の端から端まで一週分ぐらい」 「同感だわ」 「お」 「あ」 二人が正面を向くと、いつの間にか扉が目の前にあった。 「歩いてるとどうも距離感が掴めないな」 「……職業病、とでも言うのかしら?」 「いい表現だ。さて、今日の主役を連れ出しに行くか」 今日は楽しいことがある。楽しいこと……なんだろう。しゃしんを見てからというもの、そこにうつっている女性のことばかり気になっていたが、そのもやもやも吹き飛んでしまった。なにがあるんだろう、たのしみだなあ。 「ただいまー」 「誰の家だと思ってるの」 おねえさんと……変なぼうしをかぶった人が家に入ってきた。 「おお。本当に私にそっくりだな。可愛いぜ」 変な人はずかずかとわたしのほうにきて、わたしをもちあげた。 「そうねえ、可愛げがあるってところ以外は、そっくりねえ……はい、まりさ」 おねえさんがわたしのあたまの上になにかをのせた。 「お揃いだぜ」 へんな人がじぶんのぼうしをゆびさした。 「これで、身なりは元通り。後は―― 「えー、一番、神奈子。脱ぎます! ……早苗が」 「え、ちょ」 たじろいだ早苗を、背後から構えていた諏訪子がキャッチし、早苗が驚いて背後に気を取られている隙に神奈子が文字通り神速で早苗の肩に手をかける。 「やめ、やめ、わーーっ!!」 みるみるうちに身ぐるみを剥がれていく早苗に、ある者は好奇の目を向け、ある者は掌で思わず目を覆う(しかし、指の隙間からバッチリ見ている)。 そしてある者は、遠くで酒をちびりちびりと嗜みながらぼうっと眺めている。 「あら魔理沙、駄目じゃない。馬鹿騒ぎが起こってるのに、肝心の馬鹿がこんなところで酔いどれてちゃ」 「逆だな。賢い私は、馬鹿騒ぎなんかに巻き込まれない」 そう言って魔理沙はぐい、と酒を書き込み、ぷは、と大袈裟に息を吐いた。 「……結局実家には行かなかったの?」 「ああ。実家をぶっ飛ばすよりも、宴会開いて大酒飲んで騒ぐ方が霧雨魔理沙らしいからな」 「騒いでないじゃない」 「ん……ああ、そう言えばそうだな。霊夢、お前頭いいな」 「あんた、酔ってるわね」 「ふふ。騒いでくるぜ」 てんぐさん……ふみさんのおててはいがいとごつごつしてた。 「おお、思ったよりモチモチですね。被写体に触れるということの重要性を感じます……なんですか、レミリアさん。その物欲しげな眼は」 「お嬢様、これの体液はお身体によくないかと……」 「違うわよ。普通に触ってみたいの」 「渡しませんよお。『たーべちゃうぞー』ってオーラが出てますもん」 あれっ、うえにすいよせられる? 「独占禁止法に抵触したので、没収とのこと」 ふりむくとひらひらのひと……ゆかりさんがすきまからからだをはんぶん出していた。おててにすこししわがおおい……あっ、いたっ。いまつねった、つねったこいつ。 「ねえ、それこの兎と交換してくれない?」 おいしゃさん……えいりんさんが、ちいさなうさぎさんをもってゆかりさんにていあんした。うさぎさんはぐったりしてうごかない。……ひどい。 「いーーーーーーやっほおぅ!」 うわっ! 「あら、取られちゃった……乱暴ねえ。魔法を使うと、がさつになるのかしら」 「……心外だわ」 ぱちゅりーさんがぼそっとつぶやいた。そのとおりだとおもう。こんなにへんなやつは、まほうつかいといえどもひとりだけ。そいつは―― 「魔理沙! そんなに乱暴に扱わないで!」 そう、まりさ。わたしとおなじなまえ。 まりさはおねえさんのいうことをきかないで、わたしをかたてにかかげてぶんぶんぐるぐるとびまわっている。 「いいぞー魔理沙、もっとやれ!」 「魔理沙さんは相変わらずですね」 「魔理沙、楽しそう……」 まりさ。まりさ。まりさ。たくさんのひとが、そういっている。……たくさんのひとにかこまれて。いっしょにわらって。まりさ、まりさとよばれたからわたしはまりさで………… ――― わたしは。わたしは、まりさ。 「魔理沙! いい加減にしないと撃ち落とすわよ!」 「へっへー、この麗しき霧雨魔理沙様をうっちおとせるかなー?」 まりさは、みんながすき。だれといてもたのしい。 「あれっ?」 「あっ! 何てことするのよ、いきなり手を離すなんて!」 「ち、違う、そいつが自分から飛び降りたんだ! 冤罪だ!」 でも、いちばんすきなのは。 「言い訳はいいわよ! ……まりさ、怪我はない?」 『おねえさん』 まりさはそう言うと、アリスの胸に顔をうずめた。 「ま、まりさ?」 おねえさんに、おばさんに、おともだちに、みんなにおそわったんだ。 「……みたい」 「痛い? どこか痛むの?」 すきなひとには、とびっきりのえがおで。 「人形劇……観たい」 「え……?」 その場の全員の動きが止まる。近くはアリス、遠くは霊夢まで。 「おいまりさ、今何て……」 おねえさんのおなまえ。ずっとおしえてくれなかったけど、まりさはちゃんとおぼえてるよ。 「アリスおねえさんの人形劇がまた観たいな」 ― ―― ――― 「「うおおおおおおおおおおーっ!」」 「思い出した! 思い出したのか!」 「よかった……!」 叫び、喚き、唸り、叩き、頷き、呟きなどなど一切の音が集まり、一瞬にして響めきが作りだされた。続いて飛び、跳ね、歩き、走り、果ては転がるなどの躍動も伴い、喧々囂々と止めどなく続く。 そんな中、酔いがすっかり冷めた魔理沙は、ただ茫然と俯いているアリスの肩に手をかけた。 「アリス! よかったな、アリス! ……!」 「そ、そんなに大、声出さなくても、聞こえて、てるわよ、馬鹿魔理沙……」 魔理沙は振り向きながら、独り言のように呟く。 「お前の今の顔の方が、よっぽど間抜けだぜ。くしゃくしゃで皺がれて、見られたもんじゃない」 突如、萃香が奥から巨大な樽を持って現れた。 「さあさあ、皆の衆、ご注目あれ。愛でたい席にはまりさが似合う。そして目出度い席には美酒が似合う! ここに有るは博霊神社の奥底に眠っていた超度級秘蔵の酒!」 今まで傍観者に徹していた霊夢の顔色がみるみるうちに焦燥の色に染まっていった。 「ちょ、ちょーーーっ! それは、それは魔理沙にも見つからないように結界に結界を張り巡らせて貯蔵しておいた、云百年の年季がついたお酒!」 「うむ、霊夢、説明御苦労さま」 「す、萃香。それを」 「無論、飲む」 「そ、そんなの駄「さすが霊夢! 私たちにできないことを平然とやってのける!」 「え、え」 レミリアが咲夜に目くばせした。 「そこにシビれる、あこがれるぅー……と、こんなもんでどうでしょうか、お嬢様」 「素敵よ、咲夜」 「す、素敵じゃなーい!」 「いやーとっても大きな樽酒ですね。割る前に写真撮っときましょう」 「わ、割らない割らない!」 「あ、もし良かったら、チョップで割りましょうか? 気を込めると、すごく綺麗に割れるんですよ」 「西瓜割り、もとい西瓜斬りで鍛えた腕を振るうとき。それは今!」 「真っ二つにするとお酒も零れちゃうんじゃない、妖夢?」 「だ、駄目だこいつら……早く何とかしないと……」 霊夢の目が騒ぎの中心に佇むアリスに向けられた。周りの騒々しさと比較すると、まるで台風の眼のようにまりさを抱えておとなしくしていた。 「あ、アリス。あんただけが頼り。この酔っぱらいどもに何か言ってあげて……」 アリス、と霊夢が発した瞬間、皆の注目が一斉にアリスに向けられた。 「……確かに、勿体ない」 「うん! うんうんそうそう!」 「こんなに皆が盛り上がってるのに、美酒だけでは勿体ないわ。ここは一つ、美酒に加えて、不肖アリス・マーガトロイドがとっておきの人形劇をご披露いたします!」 「「「「「おおーーーっ!」」」」」 「そうそう……ってちっがーう!! 馬鹿! 馬鹿! みんな馬鹿!」 「霊夢!」 霊夢の傍で、爽やかな声がする。振り向くと、爽やかな顔をした魔理沙がいる。爽やかな魔理沙は、爽やかな声で、爽やかにこう言った。 「あきらめたら?」 「あーもう! 好きにしなさーーーーーーい!」 両の手指をすべて使っても足りないほどの役者たちを、人形遣いはいとも容易く躍らせる。声亡き骸の前で何度も練習した演舞。それは、すべてこの幸福な瞬間のために。 十の指に滑らかに連動した人形たちは、飲み、歌い、踊る人々に負けず劣らず饒舌に振る舞う。 ここにいる人形達は、そのすべてが宴会の参加者の移し身。人形遣いの織り成す個性が、観客の心を酔わせ、心の酒気で博霊神社が一杯に埋め尽くされる。 劇の特等席は、人形劇を一番好きな者のために。 劇の主演の座は、人形師を一番好きな者のために。 終演の時まで、彼女たちの笑顔が尽きることはなかった。 ――そして、これからも、きっと。 お疲れ様でした。 いろいろ不満な点は残っているのですが、とりあえずこの辺りで皆様にお披露目したいと思います。今後多少加筆修正することがある……かも。 今回の実験的試み(ほぼ自分用メモ) 会話文と地の文をほとんど混ぜないようにした(どちらかを密集させる) 二つの時系列を並行して列記した(流れが追いにくいかも……) ウザいぐらいキャラの言い回しを仰々しくした ! とか ? とか …… とか ― とか(約物?)の使い方をいろいろ凝ってみた できる限り説明臭くなくして、二度読んでようやく意味がわかるぐらいを目指してみた(最後の魔理沙とアリスの会話で台無しかも……) 頑張って書きました。時間かかりました。自分の作品の中では、最も長いです。 相変わらず陳腐なレトリック、可読性に乏しい行間、個性の死んだキャラクターのオンパレードで、及第点には程遠い出来です。それでもプロットを練り、構成を考えて書くこと自体が楽しいと再認識できたのはよかったと思っています。 感想ください。批評をください。辛辣でも構いません、むしろ大歓迎です。一字一句逃さず、皆さんに楽しんでいただける文章を書く肥やしとさせていただきます。 では。 ゆっくり視点っていうのが新鮮でした。ああ、ゆっくり視点のネタは使って見たいなあ。霧雨家のこととかいろいろ深いストーリーがあって楽しめました。バカな俺はあんまり理解できてなかったんですけどねw -- 名無しさん (2008-10-05 13 00 11) ゆっくりまりさのパートは、平仮名ばかりなのに加え、まりさが言葉足らず過ぎて、情景の表現が非常に難しかったです。そのせいで、会話に頼り切ってます。……それと、東方原作に寄り過ぎかも。まりさが充分に愛でれてません。……猛省。 -- Jiyu (2008-10-05 22 50 10) 名前 コメント
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