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866. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 43 42.59 ID OJ4BIl990 □o0( 863が含まれていたらこんな面倒なことには……) □o0(しかたないなぁ)カタカタ H.N.ELLY 次のお題は 870 です 870. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 44 37.59 ID FRXUiXnO0 夜の○○ 873. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 49 10.29 ID OJ4BIl990 □o0(【夜の○○】………ドゥフwwwww) □o0(いけないいけない、取り乱したわ)カタカタ H.N.ELLY それでは【夜の○○】で、締切は23:10とします。どうぞ! □o0(そういえばコテのエリーは潜伏してるのかしら?) 874. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 49 25.46 ID Au7Ypw9z0 さやか「単語に夜の、って付けると卑猥じゃない?」 まどか「何言ってるのさやかちゃん///」 さやか「つれないなーまどか、転校生はそういうのない?これが付くとえろえろー、みたいな」 ほむら「まどか」 さやまど「え?」 ほむら「まどかの○○、興奮するわ」 875. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 51 01.72 ID kHPi6CfzO ほむら「夜の××(チョメチョメ)の方が」 まどか「うるせぇよ」 876. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 51 09.57 ID d3vne8jl0 マミ「夜の○○?創作意欲が沸くわね」 877. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 51 17.30 ID cARLBTA50 詢子「夜の知久///」 知子「相変わらずなのね…」 878. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 55 27.69 ID RhqSP5Pq0 夜のまどか「うぅ〜、帰るの遅くなっちゃった……暗いよぉ、怖いよぉ……帰ったらママに叱られそう……」 夜のさやか「んんー、むにゃむにゃ……恭介ぇ……zzz……」 夜の杏子「夜は暗くてすることないな……腹も減るし、寝るか」 夜のほむら「夜のまどかはかわいすぎて天使だわ、風呂上りのまどか天使ね水の天使だわ天使まどか天使だわ」 夜のマミ「今宵は右目が疼く……見える、世界の真実の姿が! さぁ夜の嵐が来るぞ! 私だけが本当の漆黒の闇と絶望を知っているのだ!」 夜のキュゥべえ(今日も寝てるフリしよう) 879. @ 2011/08/20(土) 22 55 38.32 ID bSJm85tb0 ワル「アハハーーン……ウフフフーーーン」 ほむら「夜のワルプルギス……」 市役所カー「同ネタ多数が予想されます。付近の住民は避難を」 880. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 57 47.83 ID P1/LCdVy0 ほむら「夜のまどかは××をはじめとしてピーやピーやピーーーー、それに△△したり」 まどか「ほっ…ほむらちゃん…やめてよ、はずかしいよぉ…」 ほむら「夜だけじゃないわ、まどかのことはすべて熟知しているの、自分の事よりまどかの事のほうが知識が多いもの」 ほむら「朝のまどかと昼のまどか、それに夕方のまどかと明け方のまどか、深夜のまどか…」 ほむら「どれでもいつでもどんなふうにでも話してあげるわ」 ほむら「さぁ、あなたはどんなまどかを知りたいかしら?」 881. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 22 59 57.64 ID AwVayLU3O まどか「『夜のたっくん』は夜泣きがひどい」 詢子「あんたも昔はひどかったのよ」 まどか「あはははは……」 詢子「白いお化けがいるーっ! ってよく泣いてたんだから」 ほむら「……」チャキ QB「それはもちろん有史以前から観察してるからね」 882. @ 2011/08/20(土) 23 01 17.40 ID NQS2cVbb0 みんなを象徴するもの(自己申告)に『夜の』をつけて一番いやらしい人がドすけべ王! まどか「夜の魔法少女ノート!」 ほむら「夜の砂時計」 さやか「夜のレア物CD!」 杏子「夜のDDR!」 マミ「夜のティータイム」 QB「夜の契約」 少女一同「このドすけべ淫獣王!!」 QB「理不尽だよ…こんなのってないよ」 883. 東真一郎 ◆ELTiIq166E 2011/08/20(土) 23 01 23.48 ID JVFO4cAdP BE 1348087267-2BP(3000) sssp //img.2ch.net/ico/2nida.gif マミ「夜の自分は昼の自分とは考え方が変わるみたいわ」 マミ「だって、夜になんか書いておいて、寝てから朝か昼になって 読み返るとものすごく恥ずかしくなるの」 マミ「特に一夜漬けの多い宿題や試験勉強などは特にそうね」 884. @ 2011/08/20(土) 23 02 50.84 ID rTogTFje0 さやか「夜のあたし」 ほむら「肉食系女子ね」 さやか「うん。 海に引きずり込んでバクバクー!」 ほむら「超怖い」 さやか「でも昼間は美声で船を誘い込んでモグモグー!」 ほむら「てら怖い」 さやか「ふふふ、あたしの歌を聞けー!」 ほむら「主にどういう曲を歌うのかしら」 さやか「津軽海峡冬景色とか?」 ほむら「まどかほいほいね」 さやか「つがるーかいっきょぅー」 ほむら「ふゆげっしーきー」 まどか「杏子ちゃん歌うまいねー」 杏子「そうか? ぇへへ」 まどか「じゃあ次はわたしがー。 ばいばいばいよん〜♪」 885. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 03 00.92 ID oJTo+vY20 マミ「マミマミナイト〜」 マミ「こんばんマミマミ。今夜も始まりました、マミマミナイト。最近暑くなってきましたね、夏風邪ひいてませんか?」 マミ「本日の放送はなんと!第!4!4!4回!のスペシャルデイ!」 マミ「今日はいつもより気合入れて喋っちゃいますよ〜」 マミ「いつもとは一味違う巴マミ、期待しててね」 マミ「それでは恒例の『オープニングお悩み相談』のコーナー!」 マミ「見滝原にお住まいの『漆黒の天の川』さんからのお便り」 マミ「『マミさん、こんばんマミマミ』 はい、こんばんマミマミ。『いつも楽しく聴かせてもらってます』 ありがとう」 マミ「『私は先日友達と些細なことで喧嘩してしまいました。仲直りしたいのですが、どうしたらいいでしょう?』」 マミ「ですって。う〜ん・・・」 マミ「お茶会に誘う」 マミ「はい、今日も万事解決ね!」 マミ「それでは今夜もいってみましょう!第!4!4!4回!のマミマミナイト〜!」 QB「マミ、テープの置き場がもうないよ・・・いつまで続けるんだい?これ・・・」 886. @ 2011/08/20(土) 23 03 45.57 ID TZRB68iQ0 ほむら「夜の○○だなんて……」 まどか「なんだかえっちな感じがするねほむらちゃん///」 マミ「違うわね」 ほむまど「えっ」 マミ「――常闇の○○、でどう?」 さやか「ですね」 887. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 04 38.76 ID kHPi6CfzO さやか「名詞に『夜の』をつけるとハードボイルドに本当になるのか!?選手権!」 一同「イエーイ!」 まどか「夜の都会(まち)!」 一同「Hard Boiled!」 さやか「夜のバイオリニスト!」 一同「Hard Boiled!」 杏子「夜の灯(あかり)!」 一同「Hard Boiled!」 ほむら「夜の銃声!」 一同「Hard Boiled!」 マミ「夜の行進(ナイトメア・パレード)!」ドヤァ 一同「ハフッ…………………」 888. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 05 17.54 ID pBCCJ+ZD0 さやか「恭介の下へ【夜のお見舞い】に行って、そしてそこで二人っきりの【夜の演奏会】を…でへへ…」 あんこ「こ、これが【夜のさやか】…」 まどか「恋する乙女は満月の晩に妄想力が5倍になるんだよ…」 ほむら「だけど、【夜の巴マミ】の妄想力はこの比ではないわ…」 QB「削除人の手が伸びるからここで晒せないのは残念…いや、むしろ幸いか…」 889. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 07 21.90 ID kHPi6CfzO ホスト2人組「俺達夜の蝶☆」 890. @ 2011/08/20(土) 23 08 59.41 ID 85rVOCq80 マミ「夜の食事、略して夜食はどうしてこんなに美味しいのかしら。 幾らでも食べれるわ」 QB「だからといってラーメン三杯は食べ過ぎじゃないかな? そんなだからふとr」ターン 891. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 09 28.35 ID ypQudvlzO まどか(おはようございます) さやか(今日はマミさんに寝起きドッキリを仕掛けたいと思います) まどか(QBから貰った合鍵でマミホームに侵入ー) さやか(……キッチンから気配を感じる) マミ「この状態でオーブンで10分……熱っ!火傷しちゃった…」 まどか(マミさん、何か作ってる)コソコソ さやか(もしかして、夜通しやってるのかな)コソコソ マミ「でも、明日は鹿目さん達が新作ケーキ食べに来てくれるんですもの、この位の火傷なんて平気よ!」 まどか(……さやかちゃん、帰ろう) さやか(うん、そうだね) マミ「ああっ分量間違えて爆発してるっ!?」 892. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 10 58.11 ID FRXUiXnO0 マミ「そろそろ寝ましょ……明かりを消して、と」パチッ キラリ 「あら? ふふ、キュゥべえ目が光ってるわよ」 「そうかい? 僕の目は猫を模しているからね」 「こうして見ていると昔を思い出すわ……」 「マミがトイレに起きたとき、僕に光る目を頼りにトイレまで案内させたんだよね」 「今思うと暗闇で目を光らせて『こっちだよ』なんてちょっと怖いわね、ふふ」 「そうかな」 「そうよ」 893. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 11 55.40 ID OJ4BIl990 H.N.ELLY そこまでー H.N.ELLY だいぶ投稿されたけれど、皆付いていけてるかな? H.N.ELLY それじゃあ23:25までに投票をおねがいしまーす 894. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 14 02.59 ID RhqSP5Pq0 880 黄昏のまどか! 895. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 14 17.48 ID 1gxQTZ/10 892 896. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 14 17.69 ID cARLBTA50 891 頑張る女の子はいいね。 897. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 14 19.94 ID AwVayLU3O 885 細かいことはいい ただ単純にワロタ 898. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 14 59.95 ID Au7Ypw9z0 885 うわあ・・・ 899. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 15 18.86 ID ypQudvlzO 878 安定と信頼のマミさん 900. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 15 32.78 ID TZRB68iQ0 892 この空気好き 901. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 15 53.98 ID FRXUiXnO0 881 妖精とか言わない辺りがいいな 子供ってたまに鋭いんだよな 902. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 17 55.48 ID P1rvMzmL0 888 どんだけだよマミさん 903. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 18 03.14 ID pBCCJ+ZD0 892 904. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 19 07.27 ID P1/LCdVy0 885 見てるとなんか死にたくなる 905. 東真一郎 ◆ELTiIq166E 2011/08/20(土) 23 20 36.00 ID JVFO4cAdP BE 1155502894-2BP(3000) sssp //img.2ch.net/ico/2nida.gif 887 なにこの落差 906. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/08/20(土) 23 27 21.41 ID OJ4BIl990 H.N.ELLY はい、結果ど〜ん 3票 885 892 1票 878 880 881 887 888 891 H.N.ELLY というわけで 885と 892が同着!次の進行は 885の方お願いします! **ティロ☆ さんがログインしました** □o0(げ……) **H.N.ELLY さんがログアウトしました** ティロ☆ どうしていつも誰もいないのかしら。盛り上がっていると聞いたのに
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エルダーあきのSS感想用掲示板はこちら anko1339 売れるゆっくりを開発せよ!! まりさつむり量産計画Ⅴ anko1335 売れるゆっくりを開発せよ!! まりさつむり量産計画Ⅳ anko1332 売れるゆっくりを開発せよ!! まりさつむり量産計画Ⅲ anko1326 売れるゆっくりを開発せよ!! まりさつむり量産計画Ⅱ anko1317 売れるゆっくりを開発せよ!! まりさつむり量産計画Ⅰ anko0978 越えられるものなら越えてみやがれ! 序章 anko0757 似非 anko0655 胴付きにしてやったぞ anko0605 売れるゆっくりを開発せよ!! プロローグ anko0604 ドスの上手い活用法 anko0581 採用通知? anko0562 投稿しよう 転・結 anko0530 投稿しよう 起・承
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レミリア分を受信した・・・長いので分けます 「○○は、ずっと此処にいてもいいと思っているの?」 唐突に、レミリアが声をかけてきた。 俺は外から迷い込んできた人間だ。 最初は見知らぬ世界へ来た事への戸惑いと驚き、そして不安に翻弄されっぱなしであった。 もちろん今もそうだ。異世界が存在したというだけでも驚きなのに、その上様々な妖怪を目にするのだから。 それは目の前に座る少女、レミリアも例外ではない。彼女は吸血鬼だというし、人の血も吸う。 それでも、当面は紅魔館にいる気なのだが。 俺はそのような事を何度もレミリアの前で口にしてきた。今も同じような事を伝える。 「……貴方って本当に危機感がないのね。そんな事を、正直に私の目の前で言うなんて」 「そうか?俺は素直に、思ったままの事を口にしてるだけだけど」 「ほとんどの人間は震えながら私を敬うわ。レミリア様、貴女は素晴らしいお方です、って」 「吸血鬼だしなあ……血を吸われるとでも思ってるんじゃないか?まあ、俺もやっぱり怖いが」 「だから……!そういうところが危機感がない、って言ってるのよ。そんな事を言って、普通の人間なら真っ先に血を吸われているというのに」 「へえ。じゃあ俺は、普通じゃないのか」 「……っ!!」 レミリアは立ち上がると、ドアの方へ向かう。出ていくようだった。 「―――覚えておきなさい。貴方はただの血袋。私の食料としてここに置いてあげているの。せいぜい、私へ捧げられる事への恐怖と栄誉を噛みしめながら待っている事ね」 そう言い残して、彼女は出ていってしまった。 ……去り際。レミリアの顔がほんの少しだけ赤くなっていたのは、何故だろうか。 「んー……女の子はよくわからんなぁ」 そんなだから外の世界でも朴念仁と言われていたのだが。 ……でもレミリア、悪い。さっきのような事をもう何回も言われているのに、俺はお前に血を吸われる日が来るということが、どうしても想像できない――― 廊下を小走りに進む。無性に腹が立っている。 それも、あの男のせいで―――ということが、また余計に腹立たしい。 なんで私が、あんな人間一人のために。 「………っ」 思えばなんであんな質問をしてしまったのだろうか。 『ずっと此処にいてもいいと思っているのか』 それは、あいつが決める事ではない。○○の命は私にかかっているのだから。 本当に、何故なのか。 ○○は私を敬うという事を知らない。 食料としてここに拾われてきた事も知っているのに、いつまでたっても恐怖心を見せない。 いや、吸血鬼に対しての恐怖はあるのだろうが、私個人となると少女扱いしてくるから手に負えない。 頭を撫でられた事もあった。苛立ったのでその日は館から追い出した。 いつも笑顔で笑いかけてくる。人間の分際で。あんな人間は見た事がない。 冷たくしても普通に接してくる。あの無神経さをどうにかできないのか。 私を怖がらない。私に優しくする。私を怖がらない。優しい。でも、それは嫌だ。だってそれ以上は、 「……あんなの……っ!」 あれは食料だ、それ以外に何がある! 早く血を吸ってしまえばいい、あの赤い血を全て、骨の髄まで貪りつくして、恐怖に怯える瞳を見て、私しか見えないようにして、全部、ぜんぶ、私のものに――― 「……なんで……」 ○○の事を考えると、いつもこうなってしまう。どこかおかしいのは自覚している。 体中が熱くなって、冷静な判断ができなくなって、彼の血を吸いたいと思ってしまって、でも吸えなくて、何故だか声が聞きたくなって……… そして、そして、 彼の全てが欲しいと、……思って、しまうのだ。 月の光に照らされた紅魔館を歩く。 そこは平常時と何ら変わりのない我が館。闇に沈みながらもその尊大さを失わない、歴史の刻まれた場所。 そうだ、何も変わりない―――あの男が、来るまでは。 一人夜闇の館を歩きながら、こうして思い悩む事もなかったのだ。 ただあいつがここに存在している、たったそれだけの理由で……なんて。 「・・・馬鹿馬鹿しい」 それは、あの男に対してだろうか―――いや違う。あの男は確かに色々な意味で馬鹿だが、そんな人間一人にこうして心乱されている自分こそがどうしようもなく馬鹿に思えてならない。 そして、何故こうにもあいつの事ばかりを気にかけてしまうのか……それすらも謎だ。 …本当に、あいつを拾った事が間違いだったのかもしれない。 あいつさえ来なければ、私はこれから先も変わる事無く、心動かされずにいたことだろう。 じゃあ、追い出すのか?あいつを。 そうしてまた元の生活に戻る? 「・・・そんな事するくらいなら、私が」 私が全部貰う。 勿体ない、だけだ。せっかくの食料を逃してしまうのは、勿体ない。 だから置いている。実際、今までにも血を目当てにここに置いていた人間などいくらでもいた。それだけの存在価値。 だからあいつの手の感触なんて忘れてしまえ。優しい言葉も何もかも。人間はすぐに心変わりする卑しい・・・私の血袋なのだから。 あれもきっと、嘘。私に取り入ろうとするための――― その時。 「・・・あれは」 廊下の突き当たりで、その頭痛の種らしき人影が見えた。 でもそこにいたのは、○○だけではなく――― 「あら、○○。こんな所でどうかして?」 「あ・・・咲夜さん」 廊下の突き当たりで何ともなしに呆けていると、メイド長である咲夜さんが声をかけてきた。 彼女は働き者だ。ここに来てすぐ分かった事だが、その時を操る能力を使い一日中働いている。 むしろ休んでいるところを見る方が少ない。 彼女は俺にも礼儀正しいし、レミリアに何か言われるたび声をかけてくれたりもする。 あの中国風な門番よりはやはり気難しそうだが、それでも俺にとっては数少ない相談相手でもあった。 「いや、女の子ってよく分からないな、と。またレミリアを怒らせてしまったようで」 「またですか?貴方も学ぶという事を知りませんね。お嬢様に何を言えば機嫌を損ねてしまうか、貴方ならもうよく分かっているはずでしょう?」 「まあ・・・それもそうなんですけど。でもそれは、俺の気持ちじゃないから」 正直に言えば、レミリアを怖がっていればいいのだと思う。 あいつは見るからにそういうのが好きそうだし。前にも言われたように、震えながら彼女を敬えばきっとレミリアは喜ぶだろう。 レミリアもそれを期待しているはずだ。 「きっとレミリアは、俺が怖がっていれば満足なんだと思います」 「あら、分かっているじゃない。お嬢様は自らを恐怖の対象として捉えている人間の血を吸うのがお好きよ。でも貴方が自分の意に沿わないから、それで怒らせてしまうのでしょうね」 「はあ・・・って、この話前にもされた気がします」 「正確に言えば五回目よ」 彼女は苦笑する。 「貴方だって、お嬢様がまるっきり怖くない、というわけではないのでしょう」 「それは勿論。人の血を吸う、って事は怖いのに変わりありません。・・・でも」 でも。 俺は何故かレミリアの事を、吸血鬼としてではなく、普通の少女として捉えてしまう。 それが彼女を怒らせていると分かっているのに、いつか俺が血を吸われる事も知っているのに。 『レミリア』という少女を恐ろしいとは、・・・どうしても、思えない。 「でも・・・ね。その先は言わなくてもよく分かるわ。それも、何回も言われてきた事ですから」 そうだ。 俺の気持ちは、ここに来た時から何も変わっていない。 初めてレミリアの事を聞かされた時だって、どうしても怖いとは思えなかった。 むしろ。 彼女を初めて見た時のあの鮮烈な印象を、何と言えばいいのだろう。 一瞬で目に焼きついた真紅。 深い色の瞳。 惹きつけられてやまなかった、その気持ちは――― 勿論、今でも変わる事無く。 「重要なのは、気付く事・・・かしら」 「・・・気付く、って何に?とりあえずこの馬鹿さ加減ならもう十分に理解してますけど」 「そんなだから朴念仁て言われるのよ」 「う」 それも十分に理解してるって。悲しいけど。 「もう少し、お嬢様ときちんと向き合って素直になってみなさい。・・・まあ、この一件はお嬢様にも少し非がありますけど」 「お。咲夜さんがレミリアに対して何か意見したの初めて見た」 「私の事はどうでもいいのです。あとこれは意見ではなく、煮え切らないお嬢様に対してのコメントですから、お取り違えなきよう」 「はいはい。・・・けど、これ以上何を素直になれって言うんだ?」 結構素直、というか正直なつもりなんだが。そしてまさにそのせいでレミリアを怒らせてるんだが。 百面相をしてると、彼女がまた微笑んだ。嫌みのない綺麗な笑みだった。 「まあ、私は結構応援してますよ、貴方達のこと。・・・あら、それでは私はこれで」 「え?応援って何のこと・・・行っちまった」 咲夜さんは急に仕事に戻り、続く闇の中へと消えて行ってしまった。 何かに気付いたようだったが・・・ 「って、レミリアじゃないか」 彼女が消えていった廊下の先には、話題の渦中であったレミリアが佇んでいた。 「・・・随分と楽しそうに話していたじゃない。いい御身分ね」 …何故だ。こんな事ぐらいでムキになって、頭が熱くて、私はどうなっている? 咲夜とこいつが笑って話しているのを見かけただけじゃないか。たったそれだけの事。 だというのに、私はまたもや冷静な思考ができていない。最近、こういう事が多すぎる。 「楽しそう、って・・・じゃあお前も入ってくればよかったじゃないか」 いつもと同じ笑顔の○○。それもまた私を苛立たせる要因になる。 「あのね・・・!そういう問題ではないわ、大体私は今来たの。むしろ貴方が私を構いなさい、そしてせいぜい命乞いしてその短い寿命を延ばす事ね」 「・・・なんだ、構ってほしかったのか?ほれ」 ○○の手が頭上に伸びてきた。 それはもう何度も繰り返された仕草。 大きくて無骨なそれが私の頭を撫でる度に、子供扱いされているようでたまらなく嫌で、その度に私は彼を叱りつけて、でも腹立たしい事に温かな手の感触がどうにも離れなくて、それも大嫌いで――― 「―――ふざけないで」 ぱしっ、とそれを払いのける。 その手を拒否したのは初めてだ。今までは不意をつかれたりなし崩しにさせていた事もあったが、今はとてもそんな気分じゃない。 手を叩かれた○○はその痛さより先に、不思議そうな顔で私を見ていた。 「何だよ、今日はまたご機嫌斜めだな」 「私が貴方に対して機嫌が良かった日などないわ。本当に―――貴方は、私を怒らせる事だけは一級品のようね」 …顔が、アツイ。 私らしい今の言葉でさえ、ちゃんと言えていたかどうか気になるくらいだ。 認めよう、今の私は少し変だ―――しかもこの男のせいで! 脳裏にちらつくさっきの二人の姿。何を話していたかは知らないがあんな楽しそうな顔で――― 「・・・違う。何も思ってなんか」 「ん?何か言ったか、レミリア」 その言葉に我に返り、何でもないような顔を取り戻す。そうしてまた取り繕う。 「何でもないわ。それより貴方、自分の立場を本当に理解しているの?」 彼には分からせなければいけない。 私の食料なのだから、私の思い通りにならなくてはならないという事を。 でなければ、私がどうにかなってしまう。 「・・・立場、か。それはまあ、一応は」 「嘘ね。それを理解しているのなら、私にあんな愚行を働いたりしないわ」 「愚行って何だよ。言っとくけど、俺はお前を不必要に敬ったりなんかしないし、こうして普通に喋る事を止めたりとかしないからな」 「―――どうして」 なんでいつまでも分からないのか。 こいつがわざとこうして私を遊んでいる、なんて事は考えられない。きっとこの馬鹿な男は、心の底からそう思っているに違いない。 「・・・ああ。もう分かってると思うけど、俺はレミリアを吸血鬼として見れない。血を吸われるなんて想像も出来ない。 いや、このままだといつかお前は俺の血を吸うんだろうが・・・こうして話している今、レミリアがそんな事をするとは思えないよ」 ○○の発言は矛盾している。 血を吸われる事に確信を持っているのに、この私に吸われるという可能性を微塵も考えていない。 私はそんな馬鹿で浅はかな発言に一瞬心を奪われて、 「・・・それは、何故?」 なんて、弱々しく尋ねてしまった。 ○○は私の目の前でいつもの笑顔になる。 いつもは無性に腹が立って、その表情が苛立つのに、でも今の私はそれを何の感情もなく見つめていた。 「ん、そうだな・・・俺はレミリアの事をとても大切に思ってる。命の恩人だし、少し話してみれば分かるけどお前はすごくいい奴だ。俺が保証する」 「・・・そんなの。それは違う。○○は、何も分かってない。私は、」 「吸血鬼、か?確かにお前は吸血鬼だ。でもそれにこだわる必要はないんじゃないか?俺はお前の事女の子として見てるし、お前だってそうだろ? それともこうして普通に扱ってもらうのは嫌いか?」 「・・・嫌いよ。今だって、こうして普通に話している事も、いつもへらへらと笑っているところも、馴れ馴れしいところも、全部、全部、何もかも・・・!」 声が震えている。 それに気付いているのに、私の口からはとめどなく言葉が溢れてくる。 「そうよ、貴方は何も分かってない・・・!何度言っても自分の立場が分からなくて、私の事を恐れないで、大人しく私に下ってしまえばいいのにそれもなくて! いつも私ばっかり気を揉んで、それに気付いてないくせにまた笑顔で話しかけてくる! 早く私のものになってしまえばいい、そうしたら私も何も悩まないですむのに、貴方のせいで、貴方がいるから、どうして私のものにならないの・・・!」 紡ぎ出す言葉はもはや悲鳴に近い。 これほどまでに早口でまくし立てたのは何十年振りか。そして、こんなに素直に自分の気持ちをさらけ出してしまった事も。 私のものにならないあいつが悪いのだ。 あいつが私の意を汲み感じ取ってくれたら、こんな思いもしなくて済むのに。 言う通りにならないあいつが悪いのだ。 この私の言いなりになって怯えながら喘いでいれば今まで通りだったというのに。 私の意のままにならない○○は嫌いだ。 大嫌いだ。 そのせいで、私はこんなにも心を乱されてしまっている・・・! 「・・・レミリアは、俺がお前の思うように動かないから嫌いなんだな」 「何度もそう言ってるじゃない、人間の分際で私にこんな・・・」 こんな、思いをさせるなんて。 何よりもその事が信じられない。 彼が何かするたびに気に障って、その行動を目で追ってしまうのも、 彼の血が無性に吸いたくなってしまう事も。 早くそうすればいいのに出来ない自分も。 何もかもが初めてだ、こんなもどかしい私なんてあり得ないのに―――! 「・・・私。きっとこのままだと、貴方を今すぐに殺すわ。本当に貴方に腹が立っているの」 血を吸うだけでは済まされない。 もう自分を制御できそうにない。 ぽつりと呟いた言葉は、確かな鋭さと冷たさを含んでいた。 しかし彼はいつまでも表情を崩さないまま。 「そりゃあ、俺はそのためにここに連れて来られたんだからな」 …なんて、いつまでも呑気に。 今、自分の喉元にナイフが突き付けられている状況なのも知らないで。 ああ―――本当に、愚かな人間。 「・・・それでもいいって言うの?私は本気よ。殺すわ。 貴方がどんな口車を使ってみせても―――今度こそ、ありとあらゆる方法で殺してみせる」 今までの人間は、この牙を見せて殺すとちらつかせただけで恐れおののいていた。 それでいい。 それでこそ、私の求める『人間』の姿。 きっと○○も、最後には自分の命が惜しいはずだ。 だから貪欲に求めろ。自分の生を。 最後まで人間らしく、華々しく命を散らせ。 「―――」 微かな沈黙の間。 再び口を開くであろう○○の言う事が予想できる。 止めてくれ、か。 俺が悪かった、考え直せ、か。 「・・・・・・」 だって人間はそんなもの。 すぐに変わってしまう心。手のひらを返したように変わる、気持ち。 でも―――― 何故だろうか。 心の何処かで、この馬鹿な男は私の予想と違う答えを口にするだろうな、と思っている自分がいる。 彼が命乞いの言葉を言えば、私は嬉しく思う反面、落胆もするだろう。 彼の事を侮辱の眼差しで見るに違いない。 …だって私の知っている○○は、そんな事は言わない。 いつだって自分に正直で、そんな上辺だけの言葉など口にしない。 (・・・ふ。私も少し馬鹿になったのかしら) あんなにも彼が思い通りになる事を期待していたはずなのに、心はそれと裏腹だなんて。 そして案の定。 「・・・いや、殺されてもいい。 レミリアが俺を殺すって言うんなら、それに従う」 ○○は馬鹿正直にまっすぐに、私を見据えて言った。 「馬鹿な人間。生きたいとは思わないの?」 「いや、思ってるさ。でも、それでレミリアが喜ぶのなら」 「私がいいなら自分の命はどうなってもいいと?―――は、とんだ浅はかさね。 私はそんな人間が一番嫌い」 …ああ、やっぱり。 彼が何を言おうとも、私の心は静まらない運命だったらしい。 全部、○○がいるから。 結局、彼が何をしても、私の感に障るのなら――― 「・・・本当に、腹立たしい。貴方みたいな人間は、自分より誰かを大切にしようなんて奴は―――」 消えた方がいい。 私の目の前から、今すぐに。 私が殺してあげる。 血の一滴も残さないようにしてあげる。 全部、全部―――今度こそ本当に、私のものにするのだ。 もう言い残す事はない。 彼の前から立ち去ろうと歩みを進めた瞬間、 「―――レミリア」 頭上から声が降ってきた。 「・・・何?」 もう言う事は何もないし、彼の方も言い残す事はないと思うのだが。 「・・・ごめん。さっきのやっぱ、嘘だ。 俺だって、殺されそうになったら抵抗する。みすみすレミリアに殺されたりなんかしない」 …やっぱり。 まあ、少しは分かっていた事だから、それで表情を変えたりなんかしない。 「そう・・・出来るなら抵抗してみなさい。十秒もったら死体はフランドールの玩具にでもしてあげるわ」 「俺は」 私の話なんか全く聞いていないとばかりに、彼が話を続ける。 「俺は―――レミリアの事、やっぱり好きだから。 好きな女の子に殺されたりは、しないつもりだ」 「・・・ふん」 たったそれだけ。 その短い問答は、そこで終わりを告げた。 彼は走り去る。 私ももう何も思わない。 殺すと決めた相手に、何を期待しろと言うのだ。 そう、今の言葉も、全てまやかしに過ぎないのだから――― ◆ 夜は更ける。 全ての密やかな想いを胸に秘めたまま、ただ夜明けが近づいてくる。 「・・・」 寝台に横たわりながら、ずっと胸の中に残り続けているものは、 『好きだから』 「・・・違う」 あれは気にしない方がいい。きっと嘘に決まっている。 でなければ―――逆に私が崩壊してしまうような、気がする。 今までの私が全て覆されてしまうような。 そんな危険な響きだったのだ、あれは。 「深く考えない方がいいわね・・・」 そして、気付かないままでいい。 結局、彼に対して抱いていたもどかしさは何なのかわからなかったけれど――― 彼を私のものにするのだから、変わりはない。 あの言葉は忘れろ。 その方が、楽になれる気がするから。 「お嬢様。よろしいですか?」 「・・・咲夜」 いつものかっちりしたメイド服を携えて、咲夜が部屋に入ってきた。 こんな時間に、私の呼び付けもなしに来るとは珍しい。 「何か用・・・ああ、いいわ。私もちょうど言いたい事があったから」 「・・・はい、何でしょうか」 彼女をちらりと横目で見やる。 そこには何ら変わりのない咲夜がいる。この館にぴったりとはまったように似合いだ。 これで―――いい。 これ以上、余分なものは必要ない。 「明日、○○を殺すわ。・・・満月が一番高く昇る、真夜中に」 「了解しました。彼にもそのように伝えておきます」 「伝える必要はないわよ。どうせ、もう逃げる気力なんて失ってるんでしょう?」 「ええ・・・実はその事だったのですが。彼があまりにも静かだったもので。 しかし、お嬢様が何か言われていたのなら、もう言う事はありません」 「何よ。何か文句でもあるの?」 「いえ、そのような事は。では、私はこれで」 いつもの慇懃無礼な調子を崩さぬまま、咲夜は部屋から出ていこうとする。 …いや、そのはずなのだが、今日はなかなか出ていこうとしない。 「まだ何かあるの?」 「・・・いえ。ですが、お嬢様も少し元気がないようでしたので」 元気がない、か。 「見間違いよ」 吸血鬼の私に元気も何もない。元から人間とは違う作りだ。 「もう下がっていいわ」 「・・・はい」 …何故だろうか。 今日は咲夜もおかしい。何がとは言えないが、いつもとは違った。 「まあ、どうでもいい事だけど」 明日で全部終わるのだ。 このわけのわからないもどかしさも。思い悩んでいた気持ちも。 全て、終止符が付く。 彼の首筋に牙を立てたその瞬間、私は何も考えられなくなってしまうだろう。 眷属にするまでもなく、首ごと引きちぎってしまうかもしれない。 それほどまでに、私は彼を欲しがっている。 このままだと―――本当にあいつを壊してしまう。 そのうち抑えがきかなくなって、滅茶苦茶にしてしまう。 腹が立つ。苛立たしい。 あいつの行動全てが。私に優しくしようと接するその全てが、どうしようもなく憎い。 「・・・だって、そんなものを貰っても、私は何も返せない」 温かな手のひらが打算でない事を知っているから、余計に嫌いになる。 あんな温もりを貰った事なんてなかったから、バラバラに壊したくなる。傷つけたくなってしまう。 そんな自分がもっと嫌で、彼を自分の思い通りにさせたくなってしまう。そうすれば彼は私の言いなりになり、心乱される事もない。 でもそれも叶わないから、何もかもが嫌になって――― 「○○は、私のものにならない。なってくれない」 …優しくしないでほしかった。 最後にあんな言葉を言わないでほしかった。 そのせいで、私はこんな土壇場になっても苦しんでいる。 …本当に。 私の言う事を聞かない○○が、何より大嫌いだった――― ◆ ―――・・・。 そして、満月の夜になり、約束の時間が来て―――、 「―――嘘」 扉を開けても、そこには誰もいなかった。 そこには○○がいるはずだったのに。 「なんで、なんで、なんで・・・・ここにいるはずなのに」 ○○が、部屋のどこにもいない。 今夜、貴方を殺しに行くから、と。 しっかり伝えさせておいたはずなのに。 もう逃げる気も失せていたはずなのに・・・・・! 「・・・咲夜」 傍らに控えていた彼女を恐ろしい形相で睨みつける。 「貴女が見張っていたのよね」 「・・・は。申し訳ございません。 これは私の失態です、どんな罰でも受ける覚悟で・・・」 彼女は何の言い訳もせず、静かに申し訳なさそうに首を下げただけだった。 ―――その程度の謝罪で治まるはずがない。 だって、私が本当に聞きたいのは・・・!! 「貴女・・・逃がしたのね、○○を」 「・・・・・」 咲夜は何も言わず俯いている。 沈黙は肯定と同議だ。 その仕草に、私の熱が高まっていく。 「主人を裏切ったのね・・・貴女!! ○○は私が殺すはずだったのに、どうして貴女が・・・!何故逃がしたりしたの!!」 怒りは抑えきれず、直接彼女へと向かう。 渾身の力を持って、何も考えられない真っ白な頭のまま、咲夜を壁へ叩きつけた。 「くっ・・・」 「どうして!?・・・貴女も知っていたのに、私が○○を殺すんだって事・・・! 一番、一番殺したかったのに・・・殺して私だけのものにしたかったのに・・・!!」 怒りは止まらない。 憤りはそのまま言葉となって降り注ぐ。 体の熱は収まらず、目は憤怒の表情に染まっている事だろう。 ぎりぎりと、彼女の首を締め付ける。もう力の加減も出来ない。 だが―――そのような怒りを目の当たりにしてもなお、咲夜は私から目を逸らさない。 「何よ・・・何か言いたい事があるのなら、言ってみなさい」 「く・・・はっ・・・お、嬢様・・・・っ」 このままでは、先に彼女の首から引きちぎる事になるかも知れない―――それでも、力は緩まない。緩もうとしない。 「・・・っ、お嬢様、も・・・、期待、していたのでは・・・ないので、すかっ・・・」 「・・・期待?何のことかしら」 「わざわざ、私に・・・、彼を殺す事を、お教え、なさったのは・・・! 心の、どこかで・・・っ、私に彼を、逃がすように仕向ける、事を、考えていたからでは・・・ないのですか・・・っ?」 「―――っ!」 あまりにも馬鹿なその言葉に、一瞬力が緩む。 それでも彼女の細い首を解放するには十分だったようで、彼女は地に伏し呼吸を荒げていた。 「・・・私が、貴女に彼を逃がすように仕向けた、ですって?冗談は止めなさい、そんなつもりは微塵もなかったわ」 「うっ・・・く、それは、どうでしょうか・・・・。 実際、お嬢様は今、安心なさっているのではありませんか・・・? 彼が約束通りここにいたのなら、自分は彼を滅茶苦茶に壊してしまっていた・・・ ・・・でもこれでまだ、彼が生きているという希望が持てる」 「―――咲夜。それ以上そんな戯言を吐くようなら、今度こそその首を引きちぎる」 どこまでも冷たい双眸が、彼女を射抜く。 だが彼女はそれにも怯む事無く続ける。 「・・・ええ、これで私が罰を受けるというのなら、どのような責め苦にも耐えてみせましょう・・・ しかし、私はこれ以上お嬢様が苦しんでいるのを黙って見過ごすわけにはいきません」 「苦しんでいる?私が? これから○○を殺せると思って興奮していたのに?」 「・・・お嬢様が○○を殺せば、彼はいなくなります」 当然の事だ。 今更そんな事を言って何になる? 「何が言いたいのよ」 「お嬢様は本当に、それでいいのですか・・・? 彼は確かに貴女の思い通りにならなかったかもしれません、そのせいでお嬢様を怒らせた事も多々あったでしょう・・・ ・・・でも。それがなくなったらどうなるか、考えた事がありますか・・・?」 そんな事は知らない。いや、分かりきっているのか。 彼がいなくなってもまた元の生活に戻るだけだ。そこに彼がいた頃との何の差異もない。 …ただ、少し。 私を悩ませていたものが一つなくなるだけ。 いつも私を撫でていた温かい手のひらと、 冗談混じりに話しかけてくるあの声と、 優しく私を見つめていた瞳と、 私に殺される事なんて少しも考えていなかった馬鹿で愚かな男が消えるだけだ。 そう たった それだけ―――― 「・・・っ」 何でこんな時に限って、あいつの残像がちらつくのか。 憎い。私のものにする。私の思い通りにする。 でもそれが出来ないから、殺す。 「・・・お嬢様?」 「あいつを探してくるわ。殺してくるけれど―――もう今更文句なんてないわよね?」 「・・・はい。どうか、ご無事で」 咲夜を一人残し、窓から飛び出す。 真紅の羽を羽ばたかせ、高く高く、何も考えなくていいように、ずっと高い所へ。 「・・・もう、どうにもできないなら。殺すだけ」 前からそうだった。 あいつの事を考えるだけで冷静な判断が出来なくなった。 それが何故かはわからない。あいつが馬鹿で変な行動ばかりとるせいだと思っていた。 私の方にも原因はあった。 ただ、今はその気持ちがよくわからないだけで。 …どうして私は、○○の全てが欲しいと 思い始めたんだっけ―――。 ◆ 「・・・寒いな」 いつのまにか雨が降っていた。 雨は冷たく、肌を直接刺してくるかのような鋭さを持っている。 最初は小降りだったものがどんどん激しさを増し、今では到底止まないような大雨になっていた。 空は曇天、灰色のまま。依然として変わる気配を見せない。 「それにしても、どこだ?ここ」 咲夜さんにわけもわからぬまま逃がされ、館を出て辿り着いた先は木の生い茂った森だった。 いや、迷い込んだ、の方が正しいかもしれない。この森は相当深く、道も道を成しておらず戻るにも戻れない状況だった。 「そういえば、あんまり紅魔館から出たことなかったな・・・」 こんな時に地理を学んでおかなかった事を悔む。 しかし進まなければ何事も始まらない。 というわけで傘も持たぬ濡れ鼠のまま、俺は森を彷徨い歩いているのだった。 「・・・レミリア・・・怒ってるかな」 逃がされた時は本当に突然だった。 『レミリア様は次の晩に貴方を殺す、と仰っています。どうかその前に逃げてください』 『え、いやその、咲夜さん?』 『私の事は構いません。お嬢様はお怒りになるでしょうが・・・』 「『お嬢様が自らの手で貴方を手にかければ、きっととても悲しまれるでしょうから』・・・か」 レミリアは本当に俺を殺したがっているようだった。 あれで悲しむというのだろうか。 …しかし、悲しんでくれるのなら不謹慎だが嬉しい。 それは、レミリアの中に俺という存在が少しでも残ってくれていた、という事なのだから。 「考えてみれば、一目惚れだったんだよな」 今まで気付いていなかったのが恨めしい。 あの時は勢いに任せてしまい「好きだ」などと言ってしまったが、よくよく考えてみればあれはとても重大な事だった。 レミリアに出会い、レミリアという少女を知り、そして好きになった。 でもそれ以前に、初めて彼女を見た時から、俺の心は奪われていたに等しい。 あの真紅の羽を見た時から。 あの瞳で射抜かれてから。 あの存在を目の当たりにした時から。 …全てに、惹かれた。 今まで見てきた他の「綺麗なもの」が霞むほどに鮮烈に焼きついたその姿。 二重の意味で俺の世界が変わった日。 「・・・本当に、何やってるんだろうな俺」 だというのにこのザマだ。 レミリアを怒らせた挙句本当に殺されそうになっている。 そういえば、咲夜さんは大丈夫だろうか。 レミリアは何かあるとすぐに彼女に当たるから、何もなければよいのだが。 「・・・でもごめん、咲夜さん」 せっかく貴女が逃がしてくれたのに、馬鹿な奴なのは分かってる。 このまま逃げてどこかの里で暮らした方が安全なのは分かってる。 でも俺は、紅魔館に帰らなくてはならない。 帰って、レミリアにもう一度自分の気持ちを伝えなくてはならない。 命乞いというわけではないし、それに今更何を言ったって変わらない。 俺がどんなに「違う」と思っていても、レミリアは人を殺す事に何も厭わないのだから。 だけど――― 「・・・うん。やっぱり、好きだしな」 何よりもう一度、会いたい。 そして叶うものなら、彼女をまた撫でてあげたい。 レミリアは嫌がるだろうが、一番最初に頭を撫でた時、不意を突かれて少し満更でもなさそうな顔だった事を知っている。 …俺だって死にたいわけではない。レミリアがそれで喜ぶと知っても、やはり何事も生きていないと始まらない。 けど、この大馬鹿者は自ら死にに行くような選択肢を選んだ。 咲夜さんの気遣いも無駄にして、結局ふり出しに戻るという、それしか出来ない木偶の坊。 …でも、それでも。 こいつは目の前の安全より、一瞬先の死を選んだのだ。 そこにどんな理由があったかなんて、そんなのは彼女の事しか考えてないに決まってる。 自分に自信が持てた日などないが、今だけはこいつの選んだ道を信じたい。 ―――それは決して、間違いではないはずだから。 激しい雨の中進む。 ここがどこだかなんて分かるはずもないけれど、歩いていればいつか届くものもある。 それが強く願っていたものなら尚更だ。 ―――だが。 俺はそこで、本当にアリエナイものを見た。 …森の中、少し開けた場所にあった赤い塊。 「―――おいおい、あれはまさか」 でも見てしまったからには幻覚とかでは済まされない。 済まされないので――― 「レミリア―――――――――――っ!!」 その、レミリアらしき塊目がけて、全速力で走って行った。 ◆ 「―――」 温かい。 さっきまではとても冷たくて暗かったのに、今はとても優しい温かさが私を抱いている。 これは、知っているようで知らないような微妙な温度。 でもいつも傍にあったような、懐かしくて近いぬくもり。 …そうだ。 急に雨が降ってきて、でも今はそんな事考えられなくて、あいつを探そうと躍起になってて、でも結局ふらついてきてしまって・・・ それで、手頃な広場で休んでいたのだっけ。 羽で冷たい雨から身を守っていたのだが、それも限界で、突然眠くなってきて、それで――― 「・・・ア、リア・・・」 誰かが呼んでいる。私の、名前。 …そうだ、この声も知っている。 本当に近かった人、でも思い出せない―――思い出さなくちゃいけないはずなのに。 「リア、レミリア・・・!!」 その人は必死に私を呼んでいる。 心の底からの訴えのように、ものすごく懸命に。 …私が目覚めるかどうかも分からないのに。ほんとうに、ばかな、ひと。 …私が一番馬鹿だと思って、一番愚かだと思って、 そして最後まで私の思う通りにならなかった、そうだ・・・彼は、初めての――― 目を開ける。 「レミリア・・・!よかった、無事か!?」 「・・・・・」 そして、虚ろな瞳で彼を見つめた。 ああ―――どうして彼がこんなところにいるのか―――これだけ時間があったならもっと遠くへ行けただろう―――いや、そんな、ことより。 こいつは―――私に殺されに、出てきたとでも言うのか。 「・・・放しなさい」 「え?」 「放せ、と言ったのよ」 彼に抱きすくめられていた体を無理やりよじり、その拘束から抜け出す。 「レミリア?それより大丈夫か、お前」 「私の心配をしていていいの?そんな事より、逃げる事を考えなさい。 ―――まあ、どうせ逃がさないけれど」 「・・・っ!」 一息で彼をぬかるんだ地面に押し倒す。 鋭く尖った爪は彼の首元に突き付け、もう一方の手は肩をしっかりつかんで放さない。 これでもうチェックメイトだ。 行動に移してみれば、何という事のない、実にあっけないものだった。 「・・・レミリア」 「何?遺言なら聞かないわよ」 これでようやく―――彼を殺せる。 それで、言う事を聞かない心も静まってくれるはずだ。 今まで苦しんだこと。 こいつを思うだけで苛立たしかったあの感情も、これで終わりになる。 言う事を聞かないのなら、全部私のものにしてしまえ。 「レミリア・・・お前」 「―――煩い。もう喋らないで」 その声も。 何もかも、壊してやる。 「・・・ずっと、貴方に悩まされてきた。 貴方が傍にいて、何かしてくる度に煩わしかった。 貴方が変に私に構うから―――いつまでも私の言う通りにならないから。 こんな人間一人に悩まされているという事実が嫌だった。 どうにもならないのに貴方の事で悩んでしまうのが、一番嫌だった」 「レミリア」 「でもそれもこれで終わる。 ・・・貴方を殺せば確実に何かが変わる。それなら、殺してみるのも悪くない」 感情のない声。自分でもぞっとする。 「・・・○○。あなたを、ころす」 あくまで静かに。 …この心の内が痛いくらいに叫んでいるのは気にしない。 そんなもの気にしてはいられない。 本当に、こいつのせいで・・・ずっと、こいつを壊したいというこの衝動と戦ってきて、 壊してしまえば―――○○は永遠に私のもの。 …爪を突き立てる。 あと少し力をいれてしまえば、ここから血が噴き出て首は飛び○○はいなくなり――― 「・・・さようなら。○○」 すっ、と爪を滑らせ――― ぽたり。 血が、彼の首から滴った。 「――――え?」 それは、ほんの数滴だった。 首を飛ばすにはあまりにも足りない量。 爪がかすった程度の傷。 なぜなら――― 「・・・○○」 彼の腕が私を包み込む。 私が行動を仕掛ける前に―――、○○が、私を抱きすくめていた。 「・・・体、冷えてるだろ」 真横に見える彼の耳は真っ赤で。 こんな状況なのに―――こんな状態なのに! 「○○、何、を」 「だから。体が冷えてるって! このままだと風邪ひく。いや、吸血鬼って風邪とかひくのか?そもそも・・・」 「―――ふざけないで!」 もがき脱出を試みるが、彼は意外とがっしりと私を捕まえており、びくともしない。 …こんなに、力が強い、男の人の体であったことを実感する。 「貴方、今の状況が分かってるの!?私は貴方を殺「分かってるさ、そんな事」 遮られるように言葉が入り込んでくる。 「でも・・・レミリア、寒いだろ。 俺はお前が寒い思いをしてるのは我慢ならない。だから、こうした」 「さ、寒くなんか・・・!」 「体が冷えてるって。芯から冷えてるから、こうした方が早い」 …なんて理由だ。 彼は本当に、それだけの理由で、あそこで一歩間違っていたら死んでいたのに、それなのに、それなのに――― 「・・・・」 彼の腕の中に収まっていて初めて、本当に体が冷えていた事を知った。 彼も雨の中を歩いていた筈なのに―――私とは正反対で、じんわりと温まってくる。 さっきまでは、彼の事で必死で、こんな事全然気が付かなかった。 でも、○○は―――。 「・・・貴方って本当に馬鹿」 「ん・・・」 「馬鹿中の馬鹿よ、今こうしている時だって、私に殺される事なんか考えていないんでしょう!?」 「・・・ああ。レミリアは今そんな事をするような子じゃないからな」 「貴方に、私の何が分かるって言うの・・・っ」 彼の馬鹿さと自分の愚かさに腹が立ってくる。 今だ。今、殺してしまえばいい。 距離はないのだから、容易く殺せるはずだ。 それなのに、それなのに・・・!! 「・・・離してよ」 「嫌だ」 「放しなさいって言ってるでしょう」 「まだ温まってない。・・・俺はレミリアが好きだからな、ここで放す訳にはいかないんだよ」 「・・・・っ」 まただ。 またそんな風に簡単に、私の心を乱していく。 乱すだけ乱しておいて、そして自分は何もしないのだ。 迷惑極まりない。 人の心に土足で踏み込んでおいて、○○のせいで私はこんなに苦しいのに・・・! 「○○は、何も分かってない・・・っ! 私の言いなりにならないし、すぐ頭とか撫でてくるし突飛な行動ばかりとるし! 私にも予想がつかないから、悩んで悩んで、すごくすごく苦しいのに・・・!」 いつも○○の事で悩んできた。 私の言う事を聞かない人間なんて、初めてだったから。 優しくされる度に、○○を思う度に、○○が他の女と一緒にいるのを見る度に、 苛々は募っていった。 その何もかもが本当に苛立たしくて、何故苛々しているのかよくわからないから余計に悩んで、 私一人じゃどうにもできなくなって、○○を私のものにしたいと思って―――、 そして、殺すという行動に出た。 「○○は、私の気持ちなんて知る由もないからっ」 「・・・馬鹿言うな。俺だってずっと悩んでたんだぞ!」 耳元で必死な声が響く。 その声は、今まで聞いたどんなものより辛そうで―――苦しそうで。 「・・・俺はいつもレミリアを怒らせてばかりだった。 普段通りにしてるだけなのに、レミリアは俺が何かすると怒るし。 どうすればお前が怒らないのか、何をすれば喜んでくれるのか―――ずっと、不安だった」 「・・・あ」 「俺はレミリアの笑顔が見たかった。 一度も見たことがないし、それに―――笑ってほしかった。 お前に、幸せだと感じてもらいたかった。 俺がお前を幸せにしてやりたかった。・・・レミリアの事が、好きだから」 「あ・・・」 「でもお前は何をしても逆に怒る。 それどころか―――お前をここまで追い詰めた。 お前を信じていたから殺されないと思っていたけど、ここまで俺が追い詰めた。 ・・・・本当に、ごめん」 「え・・・○○」 ○○がまっすぐに、私の瞳を見据えてくる。 申し訳なさそうな表情で、今にも泣き出しそうな表情で。 「でも、俺がレミリアの事を好きなのは、間違いじゃない」 「・・・っ」 「好きだ。レミリア」 …なんで。なんでいつも、そんな事。 お願いだからこれ以上言わないでほしい。 これ以上深く私の中に踏み込んできてしまえば―――また私は滅茶苦茶になってしまう。 ○○への感情が抑えきれなくなって、私、わたし、は――― 「私・・・もう、どうしたらいいかわからない」 「レミリア・・・」 「○○がいるから、○○のせいで悩んでるのに、○○なんて大嫌いで、今も憎いのに――― また○○のせいで悩んじゃう。心を乱されてしまう。 もう、これ以上悩むのは、嫌なの・・・・っ!」 嗚咽を繰り返す。 なんで泣いてるかすら分からないのに、こうして○○の前で涙を見せている事がとてつもなく恥ずかしい。 酷く―――心を乱されていた。 その涙の意味も分からないのに、止まる事はない。 すると――― 「あ・・・」 「ん、よしよし」 ○○の手が、私の頭を撫でている。 …一番嫌いな行為。 見下されているようでいつも嫌だった。 でも拒否したのは一回だけ。 止めさせよう止めさせようとずっと思っていたのに、最後まで自由にさせていた大きくて温かな手のひら。 本当に、嫌、なのに。 …何故なのか。 今はこの温かさを拒否する事が、どうしてもできない――――。 「・・・ほら、な?やっぱり嫌じゃないだろ?」 「何、勘違い、してるのよ・・・嫌よ、こんなの、一番大嫌い・・・っ!」 今は何を言っても虚勢にしかならない。 私はひどく惨めな泣き顔のまま、○○の朗らかな笑顔を見つめていた。 …あたたかい、手のひら。 それはまるで私を守ってくれているようでもあり、 大切にしてくれているようでもあった。 見上げればそこには必ず○○の笑顔があって、 そしてそれを叱りつける私がいる。 それはもう、他愛ない日常の一部。 もう二度と帰ってこないような、素晴らしかった日々の欠片。 そうだ――― 私が一番欲しかったものは、 「・・・レミリア、今は悩んでもいい。俺も悩んでるんだからな。 でも、そうだな・・・俺も勇気を出して言ったんだから、レミリアもちょっとだけ勇気を見せてほしい」 物言わぬ死体として私のものになった○○じゃなくて、 「・・・馬鹿、私から言う事なんて、何にもないわよ・・・っ! なんで言わなくちゃいけないのよ、嫌い・・・なんだから・・・っ」 「はは、そっか。まあ、いつか素直になってくれることを祈ろう」 この温かな笑顔でいつまでもいてくれる○○だ。 きっと、そう。 今はよくわからないけれど、これが私に必要なものなのだと、感じ取ることができるから。 だから、もう少しだけ。 あともう少しだけだから、撫でていてほしい。 私はもうこの温もりを知ってしまったから、簡単には手放す事ができなかった。 …きっと、これからもできないだろう。 ○○が悪いのだ。 私にこんなに悩ませて、きっとこれからも悩んでいく。 この手のひらのことも。全部。全部。 でも今は、ただこの温もりを感じていたい。 どうか、今だけは―――― …最近、少し変わった事がある。 それは俺からしてみれば何の変わりもないけれど、 それでも確実に何かが動き出した特別な日々。 それはレミリアからしてみればきっと大きく変化した日々。 …いや、そう思いたい。 そしてそれは俺がいるからなんだと・・・少しだけ自惚れてもいいんだろうか。 まあ、とにかく。 俺は相変わらず背の低い彼女を笑顔で見下ろしていて、 彼女は顔を赤くしてそれに怒って、 でもその表情が可愛いから思わず抱きしめたくなって、本当にそうしようとするともっと赤くなってしまって、 …まあ、結局俺がひっぱたかれて終わりなんだが。 それはそれは愛しい彼女と俺の、他愛もないやり取り―――。 ◆ 話は少し前にさかのぼる。 「う~・・・」 「何変に唸ってるのよ、少しは静かにしてちょうだい」 …あの激しい雨の中、レミリアを連れて帰ったその次の日。 当然といえば当然なのだが、俺はばっちりと風邪をひいてしまった。 そんなわけで俺がいるのはベッドの中だ。 たくさん服を着こんで(咲夜さんに着こまされて)、情けない事に鼻水をすすりながらベッドで大人しくしている。 さっきまで咲夜さんが付きっきりで看病していてくれたのだが、その時から一緒にいたレミリアは今も俺の隣で悪態をつきつつも傍にいてくれている。 レミリアも雨で少しばかり弱っていただろうに、それでもここにいてくれる事が素直に嬉しい。 はっきり言ってベッドはふかふかだし、部屋はなんか豪華で暖かいし、レミリアがいてくれるしでいい事づくめな状態なのだ。 …でもここ、レミリアの私室じゃなかったっけ? 熱出してぶっ倒れて目覚めたらここにいたから詳しい事が何も分からない。 いや、そんな事ないと思うが・・・熱で朦朧としているのかもしれない。 そうだとしたら大変だ。主に俺の精神が耐えきれない。 「・・・る、○○・・・何ボーッとしてるのよ」 「ん、レミリア・・・」 「もう、さっきよりひどくなってるんじゃないの?とっとと治しなさい。じゃないと許さないわよ」 「・・・もしかして、心配してくれてるのか・・・?」 「っ!! ・・・それくらいの減らず口が叩けるなら、もうここにいて様子見る必要もないわねっ」 それは困る。 今の俺にとってレミリアだけが命綱のようなものなんだ。 レミリアを見ているといくらか元気が出る気がするから。お願いだから傍にいてくれ。 せめてレミリアと一緒にいたいんだ。それだけなんだ。 ぼごっ 「い、痛っ!!」 「な、なんて事言ってるのよっ!!」 殴られた。 …どうやら思っていた事がそのまま声に出ていたらしい。 とりあえず、レミリアの顔は林檎みたいに真っ赤でした。 「・・・ふん。そこまで謝るなら許してあげない事もないわ」 「お前が謝らせたんだろうが・・・っと、もうグーは勘弁してくれ。スペルカードを出すのもナシだ」 ああもう、なんだって俺は風邪をひいて辛いというのにレミリアを命がけでいさめなくちゃならんのか。 お願いだから今はあんまり気苦労をかけすぎないでくれよ。 「・・・人間って、弱いのね」 「・・・ん?なんだいきなり」 さっきまでの威勢の良さもどこへやら、レミリアは立ち上がると物憂げな顔をしてそう言った。 「少し雨に打たれただけで風邪なんてひくし、脆いからすぐ死んじゃうし」 「何をそんなに心配してるか知らんが、俺は今のところ丈夫だから死ぬ予定はないぞ。風邪もすぐ治る」 「・・・はあ・・・そこは『心配するな』とか言うところじゃないの? 真面目な雰囲気を進んで壊しに行かないで頂戴」 「なんだよ、言って欲しかったのか?結構ロマンチックだったんだな、レミrぐはっ!!」 蹴られた。 痛い。真面目に痛いですレミリア様。 貴女に蹴られて回ってる頭が高い熱と相乗効果で俺を苦しめてきやがります。 「・・・もういいわ。はぁ、やっぱり悩んでるのは私だけか・・・」 「いや、ちょっと待てレミリア。あの雰囲気を戻す訳じゃないが、一つ頼みがある」 うん、やっぱり風邪で寝込んでる女が看病してくれてる男にお願い事をするのはセオリーだよな。 …ちょっと男女が逆転してるが。 「何よ、改まって・・・別に本気で出て行くわけじゃないわよ、・・・その、貴重な非常食の世話をするのも、やぶさかじゃないし」 とりあえず俺は非常食という立ち位置に収まったらしい。 まあ、それはともかく。 「・・・あのさ」 「な、何?えっと、ご飯ならもう食べたわよね。それとも別に食べたい物があるとか? 持ってきてほしい物でもあるのかしら。暇つぶしの道具が欲しいの? で、でもその、えっと・・・」 妙に慌てているレミリア。さっきから背中の羽が落ち着かない様子でパタパタやっている。 その悩ましげな表情は非常に愛らしいのだが、言いたい事があるなら言ってくれ。 「そ、その―――か、体を拭いてほしいとか言うのはダメよっ! 私にそんな事できるわけないじゃない、それに軽々しく肌を晒すのもいけないわ、そういうのはメイドに頼んで・・・ ・・・・・・や、やっぱりメイドもダメっ!」 「・・・俺が女の子にそういう事を言うわけないだろうが」 大体まだお互いの肌を見せ合ってすらいないのに。 「そ、そう・・・じゃあ、何かしら」 どこかホッとした様子のレミリア。 俺はそんな彼女の手を取って言う。 「・・・手、少しでいいから貸しててくれないか」 「え・・・って、ええっ!?ま、○○、手っ」 「・・・ダメか?レミリアの手、冷たくて気持ちいいんだけど」 そして、その白くて小さい手のひらを自分の頬にそっと当てる。 …うん、やっぱりひんやりして気持ちいい。 火照った頬が少し落ち着いてくる気がする。 レミリアはまだ動揺していた。 「な、なんで、その勝手にっ、私の手を無断で借りるなんていい度胸ねっ・・・!」 「いいだろ、少しくらい。俺は病人だ」 頬に当てた小さな手が震えている。 心なしか、レミリアの頬も赤いようだ。 「・・・ふん、仕方ないわね。少しの間貸してあげる。人間の分際で私を独占できる事、光栄に思いなさい」 「はいはい。ありがたき幸せ。・・・あ、もう一個も貸してくれないか?そしたら幸せになれるんだけど」 「なっ・・・」 今日は熱でボーッとしているせいなのか、えらく積極的だと自分でも思う。 驚いているレミリアのもう一方の手も取り、空いている頬にくっつけた。 …熱のせいにしといてもらいたい。元気になって理性が戻ればやった事を思い出して恥ずか死ぬだろうから。 「んー・・・気持ちいいよ、レミリア」 「今日はとことん勝手ね、○○」 「あと・・・少しで、元気になるから。だから・・・今はそうしててくれ」 「・・・わかったわよ、もう・・・まるで幼子みたいなんだから」 レミリアが薄く笑った。 …ん、何気に始めてかも知れない。レミリアが素直に微笑んでくれたのって。 それが俺が風邪の時だというのが惜しまれるが・・・。 「ほら、こうしててあげるから・・・少し寝なさい」 「サンキュ、レミリア・・・じゃあ少し寝させてもらうかな」 レミリアはずっとここにいてくれるというし、冷たい手はこのまま触れ合ったままだし。 よく考えてみれば人生に一度あるかないかのすごい幸福なのだが、今は素直に寝た方がよさそうだ。 体もそれを訴えている。 それに、早く治して、レミリアにこの恩返しをしなくちゃな・・・ 「・・・ん、でも、その前に」 「レミリア・・・?」 彼女の突然の声に、眠りに移行しかけていた意識が再び浮上する。 …俺を上から覗き込むその視線は、どこまでも熱かった。 「・・・貴方、顔が真っ赤よ。血よりも赤いわ」 「おいおい、それはないだろ・・・それに、レミリアも赤いぞ?」 「私の事はどうでもいいのよ・・・それより」 何故だろう。 その時、確かな確証もないのに、俺はレミリアが熱に浮かされていると思ってしまった。 瞳は熱く蕩けるように俺を見据え。 そして、赤い顔がゆっくりと俺に近づいてきて――― 「って、ちょっと待てレミリアっ」 「何よ」 今度は俺が驚く番だった。 「あのさ、その、顔が近、」 「―――熱」 「え?」 「熱を―――測ろうとしてるのよ」 「・・・額をくっつければ、熱が測れるんでしょう? ○○が、あまりにも赤いから・・・測るだけよ、それだけだからね」 囁く声は甘く。 うってかわって毒のように、脳に直接響く。 「いや、その―――」 「断るなんて許してないわよ。・・・今くらい、私の言う事を聞きなさい」 心臓の音が、やけにうるさい。 みっともないくらいにバクバクとその鼓動を高鳴らせている。 ええい、落ち着け。こう言って落ち着いた試しなどないがとにかく落ち着くんだ。 そうだ、こういう時はアレだ、奇数、じゃなくて素数を数えればいいんだっけ?1、2・・・・・・ …ダメだ、続きやしない。 …ぐらぐらと、湯気が立ち上っているような錯覚。 熱い。 顔が熱くて、ふらふらする。 確実に、熱が出ているせいだけではなく――― 「・・・レミリア」 「ん・・・じっとしてなさいよ」 レミリアの両手は俺の頬に添えられたまま。 彼女の顔はどんどん近付いてくる。 これでは、傍から見るとまるで、彼女の方から俺に、 「・・・・・」 言葉はもうない。 彼女の顔が驚くほど近く、少し動けば口づけ出来てしまうそうな距離。 そんな―――何よりも近い距離。 静まり返った部屋には時計の針の音だけが緩やかにこだましている。 お互いの息遣いが何よりも鮮明に聞こえる幸福。 彼女の吐息が俺にそっとかかり、ああもうどうにでもなれと小さな勇気を振り絞って――― 「レミリア様ー!!永遠亭から追加のお薬届きましたよーっ!! あ、やっぱりここにいた。もう門番の仕事ほっぽり出して来ちゃいましたよ、○○さんもお見舞いしたいし! でもこれ注文間違いじゃないんですか、精力増強のお薬なんです、けど・・・・・・・・ ・・・・・・・・・あ」 …いや、まあ。 こうなる事を予想していなかったわけじゃない。 でも。 でもだな。 …これだけは、言わせてくれ。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・この」 「ひっ・・・そ、その、レミリア、様? わ、私何も見てませんから、見てないったら見てないですから、メイド長にかけて誓いますから、だから、どうか落ち着いて・・・!!」 「こ、の・・・・・・・・・・・・!!」 「ひぎぃっ!!だ、弾幕やめてくださいっ、それだけはーーーっ!!!」 ぴちゅーん。 …それはあまりにも、ベタすぎやしないか・・・・・・・? ◆ 「―――だからっ、○○がすごく腹が立つのよ!聞いてるの、パチェ」 「ええ、聞いてるわよ一応は」 今日は久しぶりにレミィとお茶会である。 ダージリンの紅茶にちょうどいい焼き加減のサブレ。 この二つをお供にレミィと色々語り合う事は結構楽しみな私の定例行事―――だったのだが。 「何をしても言う事を聞かないし、私を子ども扱いしたような態度を取るのよ」 「はいはい。・・・それもう三回目」 ぼそりと呟く。 案の定レミィは今の呟きに気付いていないようで、つまりはこのままだと話が無限ループに陥ってしまいそうだ。 うん、仕方ない。 彼女が思う存分語りつくすまで、この甘いサブレを味わっているとしようか。 レミィの話題の渦中にある、彼の事を考えながら。 …○○という男は、ある日ふらりと紅魔館にやってきた。 いや、連れて来られた、の方が正しいかもしれない。実際彼は自分でそう言っていた。 『レミリアに連れて来られたんだ。あれは有難かったな、右も左もわからなかった俺を館に入れてくれて』 …それは決して親切心ではないという事を私は知っていた。 今まで何人も同じような人間がいたから。 彼女は外から来る、後腐れのない人間の血を好むから。 だから教えた。 彼は見るからにお人好しそうでこのままだとすぐにレミリアを信じ切ってしまうだろう。 そうなる前に、せめて自分を喰う者の正体くらいは見定めておけるように、そんな何の手助けにもならないような忠告をした。 もう手遅れだと分かっていながら。 (・・・ああ、でも) その時から、彼は少し変わっていたのかもしれない。 そしてだからこそ―――レミリアの目に止まった。否、止まってしまった。 『俺は、レミリアはそんな事しないと思うよ』 『理由は何?信じるに足る根拠を貴方は持ち合わせているの?』 『いや、ないけど・・・これは俺の直感。 なんでだろう。・・・そうだな、ちゃんと理由はあるんだろうけど、今の俺じゃまだそれに気付けない。 でも、それでもいいから、今の俺は彼女を信じ続けていたいんだ』 …そんなの、理由にもなっていない。 言い訳としては三流以下。 いくらでもその隙間をついて疑心暗鬼を呼び起こす事は出来た。 でも、そう言いきった彼の瞳が全てを物語っていて。 …悔しいけれど、その時の私には、何も言い返す事ができなかったのだ。 (信じ続けていたい・・・か) 目の前の友人は、はしたない事に彼への怒りを言いながらサブレに噛り付いている。 …彼の事となると、見事に見境がなくなるらしい。 まあ、もうこんなのは慣れっこだったが。 何せ、彼が来てからこの方、その一挙手一投足が話題にのぼらなかった事などない。 正確に言えば、レミィが一方的に怒って私はそれに相槌を打っていただけだったのだが。 見境がなくなると言えば、つい一週間ほど前まで彼女は別の意味で見境がなくなっていた。 とにかく、情緒不安定だったのだ、あの頃は。 お茶会の度に○○への恨み事を聞かされるこっちの身にもなってほしかった。 いや、恨み事というのなら今でも同じなのだが、あの頃はどこか違った。 雰囲気・・・とでも言えばいいのだろうか。 今なら感じられる微笑ましさというものが、全くもって皆無だったのだ。 彼が欲しいという、衝動。 一人の人間に悩まされているという嫌悪。 そして、それを解決できない自分へのもどかしさ。 これらがない交ぜになって、・・・つまり、人間でいう軽い鬱状態だったのだと思う。 でも、私にはどうする事も出来なかった。 私が何と言っても、「どうにもできない」「どうしたらいいのかわからない」とかぶりを振るだけ。 そこに私が何を言おうとも根本的な解決にはならないような気がしたのだ。 本当に、彼の事で頭がいっぱいだった。 彼女の表面上は正常に見えても、心の奥底に何を潜ませているのか不安になった事もあった。 けれど。 それを解決したのも、また○○だったのだ。 「そうそう、この前の看病の時だって・・・!」 顔を赤くしながらレミリアは熱弁している。 そう、変わったのはそこだ。 ○○の話をしている時は決まって頬が紅潮し、照れ隠しするように俯き、そしてその時の表情といったらまるで――― 「・・・恋する乙女、ね」 これは手がつけられないのも納得だ。 まあ、乙女・・・と称するには少し素直さが足りない気もするが。 「何?何か言った、パチェ」 「ううん何も。いいから続けて、レミィ」 「・・・もう、パチェはどうしたらいいと思う?○○ってばね―――」 何処からどう見ても惚気。 他人の惚気は聞いていて決して良いものではないらしいが、彼女の惚気は聞いていて気持ちがいい。 気持ちがいい・・・というか、まるで娘を見る母親の目線だ。 昔は人間になんて興味がなかったというのに、この成長ぶりと言ったら。 (本当に、○○のおかげね) レミィは少し丸くなったような気がする。いや、体型ではなく性格が。 それもこれも、彼がいてくれたからなのだろうか。 レミィは彼の事でとても悩んでいるというが、それはむしろ幸せな悩みだ。 …吸血鬼にも青春はあったらしい。 …でも、少しだけ悔しい。 今の私は母親目線だから、例えるなら娘を男にとられてしまったようだ。 お茶会という二人きりの時間でさえ、○○はレミィの心を支配して離さないのだから。 だから、友人がどこか遠い所にいってしまったような気がして、少し・・・寂しい。 「私もまだまだなのかしら・・・」 「ぱ、パチュリー様、真顔で私の羽を引っ張るのはお止めください~っ」 「あら、いたの小悪魔」 「ひとの羽引っ張っておいて何言ってるんですか!」 いつのまにか私の手は小悪魔の羽をつまんでいたようだ。 くいくい。 …何だろう、この気持ちは。 ちょうどいい手触りだ。 「結構いいわね。暇つぶしに使えそう」 「暇つぶしって・・・れ、レミリア様まで!なんなんですか二人して私の羽をっ」 「(くいくい)・・・あら、何か気持ちいいじゃない」 「でしょ?この伸縮性もいい感じだし」 「だから、お二人とも放してください~っ!!」 小悪魔はすでに涙目である。 …少しくらい構ってくれてもいいんじゃないだろうか。 どうせこれからこの友人は、さらに彼につきっきりになってしまうだろうから。 その前に人間と吸血鬼じゃ釣り合わないだとか、寿命の問題とか色々山積みだが――― きっとレミィは何とかするのだろう。 私が思うに。 もう、二人は離れられない気がする。 …特にレミィのこの執着心を見てると。 ○○も朴念仁に見えてあれはあれで、レミィの事をしっかり愛しているし。 あと何年かしたら挙式かしら。なんか複雑。 「それはそうと、その○○はどこにいるの?」 ぴくり。 緩やかな笑顔だったレミィの顔が突然強張った。 「・・・レミィ?」 「・・・・・・・・・の、・・・ろ」 「何?」 「・・・フランの、ところ・・・・!」 おや。 それはそれは大層な表情でレミィは震えながら言い放った。 その威圧にティーカップも震えている。 小悪魔なんか青ざめてるし。 「それはまた、どうして?」 「知らないわよ!どうしてか知らないけどフランが○○の事気に入った、とか言って・・・!! おかげで朝から付き合わされっぱなしなのよ・・・っ、全く・・・私を放っておいて何を・・・!」 「いいい痛たたたたレミリア様っ、そんなに強く引っ張るとっ」 レミィの怒りはそのまま指先へ、ひいてはつままれている小悪魔の羽がヤバイ事になっている。 …あれは結構薄そうだし、そんなに強い力で引っ張ると破れてしまうんじゃないだろうか。 でも今は何を言っても無駄だ。それにレミィの八つ当たりを止めるとこっちに被害が及んでくる。 「○○もなかなか大変ね、あの妹の相手をするなんて」 妹にとっては遊びだろうが、そのままだと彼はいつか死んでしまうと思う。 今頃は弾幕を避けるのに大忙しな事だろう。 「で、レミィは大事な○○が妹にとられて悔しいと」 「だ、誰もそんな事言ってないじゃない!あいつは私のものなんだから、まず私を優先しなさいって事よ」 つまり自分の事だけ考えていろと。 この傲慢ぶりが今は微笑ましい。 「ちなみに、○○が毎朝中国と門の所で太極拳の練習してるのは知ってる?」 「・・・もちろんっ、知ってるわよ!ああもう苛々するわ! ちゃんとお仕置きはしたけどねっ!」 ぎゅぎゅぎゅーーっ 「あう、だ、だから痛いですってばレミリア様ぁ!!これ以上するとホントにもげ・・・」 ぎゅぐぐぐーーーっ! 「うぎゃああああああぁぁぁ理不尽!」 余談だが○○は私のいる地下図書館にも通っている。 なんでも幻想郷の事をたくさん勉強したいんだそうだ。本当にここにいる決意を固めたらしい。 あと魔理沙も○○と知り合いだったりする。彼女が本を狩りに(誤字にあらず)来た時に仲良くなったらしい。 …でもそれを言うと大変な事になるから絶対に言わない。君子危うきに近寄らず。 でもそれでも彼を束縛しきれないのがレミィらしい。 本当は、自分以外の女と話してもらいたくはないんでしょう? ずっと傍にいてほしいんでしょう? 咲夜の手伝いも、中国との修行も、妹とも遊んでもらいたくはないんでしょう? …だったらそう言えばいいのに。 お人好しな彼は言っても聞かないだろうけど、 少しはレミィの真剣さが伝わるんじゃないかしら。 この調子だと、言えるようになる日が来るのかどうかわからないけど。 「・・・本当に、素直じゃないんだから」 呟く。 本当に、素直じゃなくて怒りっぽくて嫉妬深いレミィ。 でも、そんなレミィだからこそ○○が愛した。 貴方の彼女はとても我が儘だけれど。 …私の大切な友人をこれからもよろしくね、○○。 ◆ 「・・・宴会?」 「何呆けてるのよ○○。これから神社に行くんだから、早く支度なさい」 そろそろ夜かという頃、レミリアが唐突にそんな事を言った。 レミリアらしい、尊大な物言いで。 しかし宴会?この俺が? 「・・・宴会って、俺が行くんだよな。レミリアと」 「さっきからそう言ってるじゃない。何?それとも○○は私と行くのが嫌だって言うの?」 「いや、そんなつもりじゃないけど・・・」 「ならいいでしょう。ほら、急ぐわよ。咲夜はもう行っちゃったし。 それに大勢人が来るんだから、遅れないようにしないと」 情けないのだが、まだ状況がつかめていない。 レミリアが俺を宴会に誘ってくれたのは分かる。レミリアはこの世界に顔が広そうだし、きっとたくさんの妖怪もお呼ばれしてるんだろう。 だが、しかし。 何故レミリアはそんな気になったのだろう。 「あのさ、レミリア。お前この前まで咲夜さんと二人で行ってなかったか?」 「そうだけどそれがどうかした?」 「なんで俺を連れていくんだ?俺を連れて行って得になるような事なんか何もないだろ? 妖怪だらけの中に俺が突然入っていくのは変じゃないのか」 「人間もいるわよ。少し特殊な奴だけど」 「そういう問題じゃなくて・・・お前、今まで俺を外に出さないようにしてたのに、どうして」 レミリアは俺を外に出したがらなかった。 譲歩して湖の周囲を歩くだけ、そこから先は絶対に出さないようにしていた。 非常食である俺に逃げられるのを防ぐため・・・だと思っていたのだが、今になってどうして急に。 「・・・それは、その・・・そろそろいいかなって」 「何がさ」 「・・・紹介。しても、いいかなって」 レミリアは、頬を染めてそんな事を言った。 …やばい。 つまり、紹介って事は、その――― 「何勘違いしてるのよっ」 殴られた。 「ぐっ・・・馬鹿な、俺の考えてる事が何故分かった!?」 「あんたの思考なんて穴だらけで見破れない方が難しいのよ!・・・ふん、紹介は別にそういう意味じゃないわ」 なんだ、違うのか。 実は少し期待していたのだが・・・肩を落とす。 「まあ、あながち間違いじゃないけどね」 「何っ!?」 「・・・そ、そんなに喜ばないでよ・・・調子狂うじゃない」 レミリアはこほんと咳払いを一つ。 「・・・今のところは、そうね・・・私の従者として紹介しておこうかしら。 私のモノだって言っておけば、誰も手を出したり取って食ったりしないものね」 「・・・レミリア」 まずい、かなり嬉しい。 だってそれは、つまり。 「―――俺の事信頼してくれてるってことだよな?」 「当たり前じゃない。こんなの・・・○○しかいない。 だから、光栄に思いなさい」 レミリアが、自信に満ちた眼差しを俺に送ってきた。 …珍しい事もあったものだ。 レミリアが怒らずに俺に応えてくれるなんて。 もちろん嬉しくないわけがない。むしろ飛び上がってしまいそうだ。 「その代わり、私の従者として恥ずかしくない振舞いをしなさいよ。 幽霊とか鬼とか獣娘とか色々いるけど、その一つ一つに驚いていてはダメよ」 「げ、そんなに・・・」 いやその他にも色々いるのか。この世界は広い。 「まあ、お手柔らかにお願いします」 「どうかしらね?ここで生活していくんだから、多少の事は慣れておきなさい。 ・・・じゃないと私の隣にいるなんてもたないわよ」 そんなの、とっくに知ってる。 その全てを知って、それでもレミリアの隣にいたいと思った。 「それじゃ、行こうかレミリア」 「何勝手に私の前を歩いてるのかしら。むしろ貴方が私について来るのよっ」 それはいつものやり取り。 でも、明らかに何かが変わった会話。 二人でこれから歩んでいく道。 俺は何事も勇んでしまう急ぎ足だからすぐすっ転ぶ。 しかし彼女はそれにも動じず悪態をつきながら隣に来てくれる。 そして、相変わらず素直じゃないなと思いながら差し出された手を掴むのだ。 そうしてまたそれを繰り返しながら歩んでいく。 ちぐはぐな二人。 でも、俺の隣にはレミリアがいて、 レミリアの隣には俺がいる。 そしてそこにどんな壁があっても、手を繋いでいれば二人が離ればなれになってしまう事はない。 だから――― 「○○っ、何で手を繋いでるのよ!」 「こうしとけば迷子にならないだろ?それに―――」 俺が、いつまでもレミリアを感じていたいから。 これからも、ずっと。 あとがき 一応完結編。 そしてレミリア様別人。前作品とも別人。 相変わらず足りないイチャ分。オチのつかない話。 それはともかくレミリア様は俺の嫁、というお話でした。 愛は十分だぜ! 10スレ目 377-378 414 434 ───────────────────────────────────────────────────────────
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○○はこの数ヶ月、常々『偶然』というモノに感謝していた。 死を覚悟して樹海に入るも、気が付けば何故か偶然幻想郷に迷い込み。 森の中をなんとなしに彷徨っていると、これまた偶然空を飛んでいた烏天狗こと射命丸文に見つけられ。 とある事情で幻想郷に永住を決め、働き先を探していれば、またまた偶然里に下りて来ていた文に仕事を手伝って欲しいと頼まれ。 手伝い中に働き先と住居について相談すれば、更に偶然とばかりに、住み込みで仕事を手伝ってくれる人を探していた、と文に告げられる。 そしてこの世界に身寄りも頼る宛ても無い彼は、そのまま済し崩し的に射命丸文と同居生活を送ることとなった。 ……最後の二つの偶然については、偶然でもなんでもなく狙ってやられたということを、彼は知らない。 『偶然こそが人生を面白くする』 昔、彼の友人が良く言っていた言葉だ。 当時の彼は、その意見に賛同出来なかった。 何も起こらないのが最良、普通が一番。 それが昔の彼のモットーであった。 平和が良い、何も無いのが良い、吃驚することなど起きなくて良い。 外の世界での彼は、日々をそうして生きてきた。 けれど、今の彼ならば、僅かばかりだがその意見に同意することだろう。 何故なら今彼がこうしているのは、その『偶然』のお陰なのだから。 彼は考える。 もし、今まで起こった偶然の内の一つでも欠けていたらどうなっていただろうか。 もし、幻想郷に迷い込んでいなかったら? もし、射命丸文と会っていなかったら? それらのことを考え、そして、考えても仕方無いことだ、と彼は結論付けた。 全ては起こるべくして起こったのだろうから。 きっとこの先も偶然という名の出来事が、自分の目の前に現れるのであろう。 そう考えると、彼はこれからが楽しみで仕方が無かった。 そう…… 「おおっ、○○じゃねえかっ!」 「ちょっ!? なんでお前が此処に居るんだよ!?」 一ヶ月前の、あの日、あの時までは。 そして彼の運命のレールはこの日を境に、とんでもない方向へと敷かれていくこととなる。 「ありがとうございました!」 営業スマイルでそう言いながら礼儀正しく頭を下げた後、それでは失礼しますと言って、彼はゆっくりと戸を閉めた。 其処から少し歩いた後、彼はぐっとガッツポーズを取る。 「よしっ、一件ゲット!」 嬉しそうに声を上げて、片手に持っている封筒を見る。 その中に入っているのは数枚の紙、所謂契約用紙だった。 彼は現在、俗に言う営業回りの最中である。 各家屋を回っては、彼の同居人、射命丸文の発行している『文々。新聞』の契約取りを行っているのであった。 今日の新規契約は、先程のを合わせて三件。 普段に比べても、大漁と言って差し支えない収穫だった。 彼がこのような行動をしているのには訳があった。 事の始まりは三ヶ月程前に遡る。 その日、○○と文は自宅にて、次に発行する新聞の記事を書いていた。 文の書いた記事の添削を行うのが、○○の主な仕事である。 偶に記事が少なかった時、空いたスペースに○○がコラム等の軽い記事を書いたりすることもあるが、それでもまあ、主な仕事は添削である。 「次、お願いします」 「はいよ」 書きあがった記事を、互いに一言二言の言葉を交えつつ受け取る。 そしてまた互いに、黙々と記事書く作業、添削をする作業へと戻った。 二人の作業風景は、いつもこんな感じであった。 別に普段からこのような雰囲気、という訳ではなく、これは仕事中に限られた光景である。 このことを○○は不満とは、毛の先程も思っていない。 作業中の人の大半は、このような姿勢だということも、彼は良く知っていた。 ……同居を始めた当初は別の意味で緊張してしまい、ぎこちなかったが。 しかし今では慣れたものであった。 慣れてしまえばどうということはなく、比例して作業も早くなる。 それもその筈である。 外の世界で彼は、広告関係の仕事に勤めていたのだ。 その彼にとって、添削などという初歩中の初歩の作業など、何の苦にもならない。 だが、今の彼は少し悩んでいた。 もっと他のことがしたい。 最近の彼は、そう思うことが良くあった。 別に今の仕事が嫌だとか、そういう訳ではない。 ただ、今やっていることが余りにも楽(というか単純)過ぎて、彼女に申し訳無く思えてくるのだ。 なんせ添削(偶にコラム)以外の作業を全部彼女が行っているのである。 これは非常にまずい。 ネタを集めて記事を書く、という新聞を作る上で一番疲れる作業を彼女一人でやっているのだ。 正直言って肩身が狭い、もとい心苦しかった。 出来ることなら手伝いたい。 しかし、それは出来ぬ相談事であった。 何故なら自分は空も飛べない只の人間なのだ。 そんな自分が彼女の様に幻想郷中を駆け巡り、ネタを集めること等、到底出来る筈も無い。 なら記事を書くのはどうか。 そちらは別の意味で無理だった。 文々。新聞は彼女の新聞だ。 彼女が精根込めて作った、謂わば彼女の子供のようなもの。 それに手を出すことがどうして出来ようか。 否、それは間違っても出来ない、しちゃいけない。 そう考えている内に、案件は手詰まりになってしまう。 ……結局、何も手出し出来ることは無いのかなぁ。 途方に暮れる思いで○○は天井を見上げた。 そういえば、と彼はふと思った。 この新聞、購読者はどれ位居るんだろう? 考えてみれば、自分はその点について全くの無知である。 どのような層に読まれているのか。 どれ位の人数に配っているのか。 そういう、読者についての情報を彼は一つも持ち得ていなかった。 まあ、今まで気付かない方もどうかと思うのだけども。 もしかしたら、何か手伝うことが出来るかもしれない。 そう考えた彼は、聞いてみようと文の方を見る。 タイミングの良い事に、文は一区切りとばかりに伸びをしていた。 「射命丸さん、ちょっと良い?」 声を掛けられたことに気付くと、文は笑顔でこちらに振り向いた。 「はい、なんですか○○さん?」 笑顔の文を見た○○は、軽く安堵し、聞きたかった質問をする。 「いや、大したことじゃないんだけどさ。この新聞の購読者層とかって、どうなってるのかなぁ……と思って」 その質問に、文は微妙な顔を浮かべた。 「ん? どうしたの射命丸さん?」 何か問題でもあったのであろうか。 事情を全く知らない○○は、その表情の意味が分からない。 もしかして、あまり多くないのだろうか? 彼が考えていると、やがて文は気まずそうに口を開いた。 「……ないんです」 「え?」 文の言ったことが良く聞き取れなかったため、もう一度聞き返す。 「そういうの……調べたことが、無いんです」 彼女は顔を俯かせ、説明を始めた。 話の要点をまとめると、こうなる。 一、基本的に新聞は押し売りという形で無理矢理置いていっている。 二、置かれた新聞を見て、続きを読みたいという人には定期的に新聞を届けている。 三、その際に、契約等の手続き行為は行っていない。 以上が、文々。新聞購読者の現状であった。 「それはまた……」 話を聞いた○○は若干唖然としていた。 それもその筈であろう、彼女の話した現状とは、殆ど何もしていないと言って良い程の状態だったのだから。 「お恥ずかしい限りです……」 そう言って、文は面目無さそうに頭を垂れた。 しかし○○に彼女を責める気は無かった。 確かに今の現状を聞けば、抜けているとしか言い様が無い。 だが考えてもみれば、今まで彼女は一人で新聞を作っていたのだ。 記事を作るだけでも重労働だというのに、其処までやれと誰が言え様か。 第一、それは営業の仕事である。 記者のする仕事では断じて無い……ん、営業? その単語に彼の頭の中で閃くことがあった。 「あぁそうか、その手があったか」 「どうかされたんですか、○○さん?」 「うん。俺、営業をしようと思う」 「営業……ですか?」 「うん、営業」 突拍子の無い発言に、不思議そうに文は首を傾げる。 その様子を気にせず、彼は嬉しそうに笑った。 そうだ、彼女が出来ないのなら俺がすれば良い。 何てったって自分は暇だ、丁度良い。 添削という仕事もあるが、夜にやっても充分間に合うだろう。 山と里の往復は疲れるだろうが、やってやれないことは無い。 何より…… 「よし決めた、俺は明日から営業マンになる!」 何より、彼女の力になることが出来るのだ。 そのことが、彼に一層のやる気を出させていた。 突然飛び出した彼の提案に、一人置いてきぼりの文は戸惑うだけだった。 彼女が何かを言う間に、彼はテキパキとその準備を進め…… そしてその翌日、営業マン○○が誕生したのであった。 身体に吹き付ける寒風に○○は身を竦めた。 「う~、さむ~……」 ごちながら羽織っているジャケットのジッパーを首元まで閉じる。 気が付けば、もう日は暮れかけていた。 オレンジ色の太陽が里中を紅く染めている。 そろそろ帰ろうかと思い、彼は里の中心部を目指して歩き始めた。 歩きながら、今日の夕飯は何にしようかと○○は考える。 本日の夕食当番は○○であった。 本日の、とはいっているが、実際の所、夕食を作っているのは○○と言っても過言では無い。 別に無理矢理させられている、という訳ではない。 彼の同居人、射命丸文は新聞記者であるため、ほぼ毎日といって良いほど帰宅時間が遅い。 そのため、夕食を作るのはどうしても○○になってしまうことが多いのである。 そのことに対し、○○は文句の一つも言わない。 寧ろ仕事を終えて帰ってきた彼女に、食事を作って上げれることを嬉しく思ってさえいた。 再び風が吹いた。 先程よりも強い風が、彼の横っ腹の辺りを冷やしていく。 今日はまた、一段と寒いな。 冷える身体を手で擦りながら彼は決めた。 よし、今夜は鍋にしよう。 寒い日には鍋が一番。 と、誰が言ったのか分からない言葉を後押しに、彼は鍋の材料を買いに行くことにした。 まずは八百屋、その後に魚屋と、目的地とそれに向かう最短ルートを頭の中で検索する。 時間が無い訳ではないが、それでも早く行った方が良いだろう。 彼は早足で歩き始める。 異変が起きたのは、その時だった。 「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 若干の必死さの篭った叫び声が、○○の耳に届いた。 その声を聞いた彼は、顔を引き攣らせ、その場に立ち止まった。 直後、声のした方向から爆発音が響いた。 「うおわぁぁぁぁあああああっ!? ちょっ! やべええええええええっ!!」 爆発音に混じって聞こえる叫び声。 再び聞こえたその声に、彼は眼を顰めた。 まさか、という思いと。 またか、という思いが頭の中を交互に巡る。 半場予想はしつつも、間違いであってくれと願いながら彼は声のした方角に視線を向ける。 其処には夕陽をバックに、ありえない速さでこちらに向かってくる、見慣れたくないが悲しくも見慣れている、一人の男の姿があった。 その表情は険しい……が、何故か口元には笑みを浮かべている。 更にその後ろには、紅白の巫女服に身を包んだ空飛ぶ少女、博麗霊夢の姿。 顔には憤怒を張り付かせ、真っ赤な顔で目の前を走る男に玉櫛や御札を投げつけていた。 様子から、怒りの原因が目の前の男であることは明白であった。 巫女は彼以外には目もくれずに、ありったけの玉櫛を投げつける。 飛来した玉櫛を、男は紙一重のところで身体を逸らして避けていた。 この状況を見た人達の考えは須らくこうであろう。 関わったら危ないから、放って置こう。 その考えを実行するように、村の人達は彼等から距離を置くような位置に立ち、ことの成り行きを見守っていた。 全く以って正しい行動だと、彼も思う。 出来ることなら彼も同じ行動を取りたかった。 しかし、彼にはその行動を取れない理由があった。 それは…… 「おっ、○○じゃねえかっ! 良い所に!」 追いかけられている男は、彼の姿を見つけると嬉しそうに声を掛けてきた。 足の速度は緩めず、手を振りながらこちらに向かってくる。 だから何で俺に声を掛ける、と彼は口元を引き攣らせ、ちょっとヤケ気味に声を張り上げた。 「一応聞いておこうか、お前は一体何してる!?」 「今霊夢から逃げてんだ! お前も逃げた方が良いぞっ!」 そんな彼の様子、言ってること等お構い無しに、男は後ろを指差して叫んだ。 見れば博麗の巫女は、男のすぐ後ろの上空に迫ってきていた。 先程の投げた分で玉櫛は尽きたのか、手には大量の御札を持っている。 「よっしゃ、逃げるぞ○○っ!」 「なんで俺まで逃げる……」 すぐ傍まで来ている男の誘いに断りを入れようとして、彼は見てしまった。 彼の後ろ上空に居る博麗の巫女が、自分が居る場所目掛けて腕を振りかぶっているのを。 「必要があるんだよなチクショオオオオオオオオオオオオッ!!」 瞬間、彼は叫び声と共に駆け出していた。 「そうだろ~~?」 男もそれに習い、スピードを上げて彼に並ぶ。 元居た場所が爆発したのは、加速した男が○○に並んだ直後であった。 爆風が追い風の如く、二人の背中を押し付ける。 「うわぁおっ! 危機一髪だったな○○っ!」 「お前のせいだろうが、この野郎っ!!」 後ろを見ながら上がった男の声に、○○は怒鳴り声を被せた。 叫びつつも、走る速度は緩めない。 緩めた次の瞬間に、やられるのは目に見えているからだ。 「俺のせいじゃねえってーの!」 「黙れ馬鹿! じゃあその頭と首に着けてるのは何だよ!?」 怒鳴りながら○○は、男の頭と首元を指差す。 男の頭には、女性用と思われる純白のパンツ、首元にはこれまた純白のブラジャーが装着されていた。 つまり彼は今、頭にパンツを被りブラジャーを首からぶら下げて走っているのである。 誰がどう見ても変態の二文字しか思い浮かばない格好の男は、その質問に眩しい笑顔で返した。 「仮面ライダーごっこって、知ってるか?」 「知るかぼけえええええええええええええええっ!!」 男の笑顔に、彼は最大級の声量を持って怒鳴り返した。 二人が異常に気付いたのはその時であった。 突然彼等を中心にして、大きな影が広がったのである。 「おお?」 「なんだ?」 突如発生した異常事態に彼等は驚きの声を上げる。 何だこの影は? 彼と男は、共に同じ感想を抱いた。 日が落ちたにしては早すぎる、時刻はまだ夕方過ぎの筈だ。 なにより、日はまだ落ちていなかった。 彼等の背後には、紅く染まった夕陽が本日最後の明かりを提供中である。 不思議なことに、薄暗いのは彼等の周囲だけだった。 これは一体どういうことだ? その答えを、彼等は身を以って知った。 「死ねええええええええええええっ!!」 怒りの込められた絶叫が、後ろ上空から届く。 反応した二人が後ろを向くと、其処にはこちらに向かって投げられた陰陽玉が。 通常の陰陽玉の何倍、何十倍、何百倍もの大きさの陰陽玉が。 彼等に急スピードで迫ってきていた。 「ちょっ、やめ……」 ○○は静止の声を掛けようとするも、それが手遅れだと気が付いた。 何故ならこの陰陽玉は彼女の手から離れているのだから。 手綱から解き放たれた暴れ馬を止める手立てが無いように。 今目の前に迫る物体を止めるなど、誰にも不可能だった。 「あらら~、こりゃマズイわ……」 隣から聞こえる諦めを込めている様で、実のところ何も考えてない声。 その声の主に対し文句を言おうかと、彼が男の方に振り向いた瞬間だった。 辺りに響く、先程とは一線を画した音量の轟音。 その轟音と共に起きた爆風により、彼と男は吹っ飛ばされた。 自分より更に上昇する男の身体を眺めつつ、彼が思ったことは一つだけ。 ああ、やっぱり。 やっぱりコイツと会うと、碌なことにならない。 その思考を最後に、彼は意識を暗闇の中へと手放した。 眼を覚ました○○が紅い空を見つめて最初に思ったことは、まだ買い物に間に合うな、であった。 見上げた空は、彼が吹き飛ばされる前に比べると若干暗くなっていたが、それでもまだ紅みは残っていた。 「お、やっと起きたか」 覚醒したことに気付いたのか、声を掛けられる。 声を掛けられた方に○○が視線を向けると、其処には先程まで一緒に疾走していた男の姿があった。 男は先に眼が覚めたのか、暢気に煙草をふかしていた。 「お互い派手にやられたな~」 男は愉快気にそう言って煙を吐く。 見れば、男の服装は所々破けていていた。 肌が露出している部分には、擦り傷らしきモノが多々見える。 それは○○も同じであった。 「誰のせいだと思ってんだよ……」 擦り傷で痛む身体に顔を顰めつつ、身体を起こしながら、○○は唸る様に言った。 「霊夢のせいだな!」 教師が生徒にモノを教える様に、人差し指をピンと上げながら、彼は大真面目にそう言った。 口の端からは煙草の煙が漏れている。 その顔を見て彼は溜息を吐いた後、男に向けて手を差し出した。 「はいよ」 差し出された手の意味を訪ねるまでもなく理解している彼は、ポケットから煙草の箱を取り出し、その内の一本を○○に差し出した。 ○○がそれを口に咥えると同時に、男が百円ライターに火を点け、○○の口元に近づけた。 数瞬の後、○○の口から大きな紫煙が上がった。 「良いのか、文ちゃんにバレるぞ?」 「うるせえ、これが吸わずに居られるか」 微妙に心配したような口調に○○は乱暴な言葉で返し、そして大きく煙を吸い込んだ。 肺の奥深くまで満遍なく煙で埋め尽くされる感覚を堪能し、煙を外界に吐き出す。 その行為を数回繰り返した後、幾分か落ち着いた○○は男に訪ねた。 「で、今度は何をやらかしたんだ?」 「それがな~……」 男の話はこういう内容のモノだった。 霊夢のところに遊びに行った彼だったが、霊夢は出掛けていて居なかった。 このまま帰るのも癪なので、暇潰しに箪笥の中を漁っていると、ブラジャーとパンツを発見したという。 霊夢も大人になったんだなぁ、としみじみ彼は思う。 が、そこで彼の脳裏に、昔の記憶が鮮明に映し出された。 それは仮面ライダーごっこと少年時代の彼が名付けた遊び。 過去を懐かしげに振り返っていると、何故だか無性に今すぐやりたい衝動に彼は襲われる。 幸いにして、今此処には誰も居ない。 ならば迷う必要は無いとばかりに彼は瞬く間に下着を着け、否、装着した。 少年の頃に描いた憧れのヒーロー、それが再び誕生した感動的瞬間であった。 久しぶりの装着感に少年時代の懐かしさが溢れ出した彼は、夢中になって何度も真似をしたヒーローの技を繰り出す。 パンチ、キック、チョップ。 其々の技を三巡程繰り返した時、脅威は現れた。 障子を開いて現れるは紅白の巫女。 目の前の状況を理解し切れていないのか、口を開いたまま硬直している。 彼女の姿を見た彼は、役に入りきっていたためか、逃げれば良いのにこんなことを口走ってしまった。 出たな、怪人ワキバサミ! そしてその後は察しの通り、怒り狂った腋巫女もとい怪人ワキバサミとの弾幕鬼ごっこが始まったのであった。 男は話し終えると、ぐいと、汗も掻いてないのに額を拭う動作をした。 「ふぅ~、熱いバトルだったぜ……」 そしてやり切った漢の顔でそう言った。 一方、話を聞き終えた○○は、頬をひくつかせていた。 彼の顔には、げんなりとした空気が漂っている。 「まあ、大方の予想はしてたさ……」 顔と同じくげんなりとした口調で彼は言った。 いつものことだが聞いた俺が馬鹿だった、と彼は自分を責める。 男の思考・行動パターンを思い出せば、それはすぐ分かる話だったのだ。 「でもな……」 ○○は言葉を続ける。 そう、それでも。 それでも納得が行かないことが一つだけあった。 たった一つのソレに、精一杯の抗議を込めて彼は叫ぶ。 「どうしていつも俺を巻き込むんだよっ!?」 彼の全力の抗議に男は笑って言った。 「そんなつれないこと言うなよ○○~。友達だろ~?」 男の馴れ馴れしい笑顔と声を切り裂く様に○○は吼えた。 「ああ、そうだな●●! なら、その友達を巻き込むような真似なんて、普通しないよな!?」 「其処はほら、俺達の友情は特別だから。友情パワーって素晴らしいな!」 ●●と呼ばれた男は、○○の抗議にそう切り返しながら眩しいばかりの笑顔を見せる。 と、己の笑顔に受けたのか、勢い良く笑い出す。 もはや怒る気力も失せた○○は、疲れたと言わんばかりにがくりと肩を落とした。 この男の名前は●●。 今から一ヶ月と少し前に、此処幻想郷に迷い込んだ外来人である。 とある理由から、幻想郷に永住することを決め、今に至っている。 彼、○○とは外の世界に居た時からの付き合いであった。 ○○とは所謂悪友と呼ばれる間柄で、外の世界に居た時から親交はかなり深かった。 普段は大人しく礼儀正しい○○が、彼の前では幾段か活発、もとい凶暴的になるのは付き合いが深いためである。 所謂二人は、気の置けない仲、というものであった。 しかし、余りにも暴力的な言動が見られるため、○○は寧ろこっちが素なのではないかと思う人も少なくないという。 閑話休題。 彼、●●の性格は、明朗快活で楽天的、好奇心旺盛で無鉄砲、豪放磊落で荒唐無稽、そして人妖問わず好かれやすい、という良く分からない人柄である。 まあそれらに関しては別にそれ程の問題も無く、そのことが原因で何か事が起きたとしても、笑って済ませられる範囲であった。 ただ、一つ彼には別の問題があった。 寧ろ上記のことなど、どうでも良くなる程の大問題が。 この男、●●は、とてつもなく女好きであったのだ。 それは人妖問わず、可愛い子なら問答無用に。 なにせ幻想郷に永住を決めた理由が、最初に会った博麗霊夢が可愛かったから、という理由なのだ。 この事柄だけでも、彼の女好き具合が伺えるであろう。 幻想郷に俺のハーレムを作る。 永住を決めた時、最初に彼が言った言葉がこれである。 この言葉からして、彼の馬鹿さ加減が伺えるであろう。 そして彼の意志は鋼より固く、行動は稲妻より早かった。 幻想郷に永住を決め、ハーレム宣言をしてから一ヶ月。 その一月の間に、彼はあの伊吹の鬼を攻略し、八雲一家と協力関係を結ぶという快挙を成し遂げた。 彼の本気と馬鹿さと実行力を、周りの人間が理解したのはその時であった。 『本気でやるとは思わなかった、止めなかったことを今は反省している』とは、里の守護者の言である。 ある意味妖怪より恐ろしい人間、それが●●であった。 だが、彼の野望はまだまだ終わっていない。 彼の目的はハーレムなのだ、この程度では到底足り得ない。 そんな彼は現状に甘んじることなく、目下博麗神社と守矢神社を攻略中であった。 これが終わったら次は紅魔館だ、とは彼の談である。 だが、○○にとって彼の野望云々は、別にそこまでの問題では無かった。 別に彼がどの女性とくっつこうが、○○は特に興味が無い。 そして迫られている側の彼女達も、実はそこまで彼のことを嫌っている訳ではないことを、彼は知っていた。 無理強いで無いのならば別に問題は無い、そう彼は思っていた。 まあ多数の少女と関係を持つのはどうかとは思うのだが……これは言っても聞かないので○○は当の昔に諦めている。 一つだけ問題があるとすれば、それは彼が『彼女』に手を出した時だと○○は思っていた。 その時だけは、幾ら友とはいえ、実力行使で排除させて貰う。 ○○は本気でそう考えていた。 だが、彼はその点に関してはちゃんと考えているらしく、既に交際中の者や想い人の居る者には、手を出さないようにしているらしい。 交際相手という言葉に、その時の○○は若干心苦しい気分になったのだが、それはまた別の話である。 ちなみに、先程の内容は彼の悩む問題とは関係が無い。 では彼の悩む問題とは何か? ○○の悩む問題とは、これらとは別次元の処にあった。 別次元の問題。 それは『●●が起こした騒動に、ほぼ必ず○○が巻き込まれる』というモノだった。 そう、何故かは分からないがそうなのだ。 一月程前に幻想郷で再び彼と出会ってから今までずっと。 彼が騒動を起こした際、ほぼ九割九分の確率で○○は巻き込まれいるのだった。 まるで磁石のS極が、N極を引っ張ってくるかの様に。 この一ヶ月の間に、彼が空を飛んだ回数は軽く二桁になっていた。 彼の起こす騒動に偶々○○が居合わせるのか、●●が寄って来るのかは定かではない。 思えば外の世界に居た時からそうだった。 トラブルメーカーと聞いて○○が浮かび上がるのは、何時も彼だった。 ○○が巻き込まれるハプニングの裏には、いつも●●の影があった。 そのことを事有るごとに言及しても、その度●●は偶然って怖いよなぁ、と笑って言った。 彼の言葉に対し、そんな偶然欲しくねえよと○○は常々思っていた。 ……余談ではあるが『偶然こそが人生を面白くする』とは、彼のモットーである。 「はぁ、もう良いよ。いつものことだし」 「そうそう。いつものことだから、あんま気にすんなって」 溜息を吐く○○の肩に手を置きながら●●が明るく言った。 お前が言うな、と言外に含みながら睨みつけるも●●はそしらぬ風であった。 一発殴っても良いよなと思って居た時、○○は自分が今買い物に行く途中だったのを思い出す。 見ると夕陽は沈み掛けていた。 「これはまずいな……今から行って間に合うか?」 書類を手に持ち駆け出す。 それに伴うように●●も駆け出した。 「なんだなんだ? なんか用事でもあったのか?」 ●●の問い掛けに、○○は顔を合わせず答えた。 「買い物の途中だったんだよ。今から行っても間に合うか……」 「オッケー、じゃあ手伝うぜ! 二人でやれば早いだろ?」 ●●の提案に、彼はにべもなく頷いた。 「じゃあ八百屋を頼む、鍋の材料を買って来てくれ。金は後から払う」 手短にそう説明すると、○○は魚屋の方向目掛けて走り出そうとした。 ……が。 「鍋とはまた豪勢だな! 俺ってばラッキー!」 ●●の口から出た、有り得ない言葉が耳に届いた瞬間、彼はその場でターンを決めた。 そして走り出そうとせんばかりの●●の襟首を音速の速さで掴んだ。 「ぐえっ」 突然掴まれたためか、●●の口から気味の悪い呻き声が零れ出る。 それを気にせず○○は襟首を掴んでいた手を離し、咽ている目の前の馬鹿目掛けて冷たく言い放った。 「誰がお前を招待すると言った?」 「うえっ!?」 本人にとっては予想外だったのか、●●は○○の方に顔を向ける。 子犬の様な視線には、自分は招待してくれないのかという言葉が書き込まれていた。 懇願の視線を無視して○○は告げた。 「言っとくが、買うのは二人分だげだぞ。三人分じゃなくて、二人分だ」 「俺の分と○○の分ですね、分かります!」 尚も抵抗するかの様に●●は軽口を叩く。 その軽口に○○は取り合わなかった。 「死ね。俺と射命丸さんの分に決まってるだろうが」 「軽々と死ねとか言うなよ! 傷付くだろ、俺が!」 「分かった、本気で死ね」 「ちょっ!?」 冷たい対応に、●●は驚愕の顔を大げさに作って○○を見つめた。 だがそれに対して○○は何の突っ込みも入れずに言うべきことだけを言った。 「兎に角、買ってくるのは二人分だ。わかったな?」 「じゃあ俺は、今日何処で晩飯を食えば良いんだYO!?」 「知らん」 危機感が有るのか無いのか分からないラップ調の言葉を、○○は修羅の如く一太刀で切り捨てる。 「ぬぅ……」 最後の一言で、○○に救いの手を差し伸べるつもりが全く無いと悟った●●は、黙り込んだ。 彼が考えるのは今後の身の振り方だ。 霊夢の処は今日は無理っぽいし……さて、どうしようか。 何か良い手は無いモノかと考える。 数秒後、●●の頭の中の電球が点灯した。 彼の脳裏に移るは、山の上にある神社の姿。 其処に居るのは現在攻略中の少女達……よし。 そして●●は決断を下した。 ○○に視線を向ける。 その顔は、去り際の悪役に良く似ていた。 「そこまで言うなら仕方ねえ、今日の処は守矢神社で勘弁しといてやるぜ!」 やられた悪役のお約束とばかりに、高らかに守矢神社に夕餉を集りに行くことを宣言する。 そして彼は守矢神社に狙いを定め、勢い良く駆け出した。 「じゃあな、ヘタレ○○! いい加減、文ちゃんとにゃんにゃんしろよ~!」 悪役御馴染みの捨て台詞も忘れずに。 最後の台詞に、○○は瞬間湯沸し器の如く顔を紅くした。 そして紅い顔のまま怒鳴り返そうとしたが、一瞬の内に加速した●●の姿は、今や米粒の如く小さくなっていた。 「はえぇよ……」 呟きは届かず、その場には○○だけが取り残された。 「まあ仕方無い……か」 友人の突然の裏切りに、別段憤慨する様子も無く○○は溜息を吐く。 彼との付き合いの長いに○○とって、その行動はある程度予想出来ていたことだった。 なのでこれといって文句も出ず、あっさりと気持ちを切り替え、彼は再び買い物を再開した。 「さてと、行きますか」 一言自分に呟いて、彼は駆け出した。 現在地から最も近い八百屋目掛けて、全速力で疾走する。 道のド真ん中を疾駆しながら○○は神様に願った。 今日の晩御飯のため、彼女のため。 どうかお店が開いてますように。 モノのついでに彼はもう一つ願った。 世界の平和のため、俺のため。 どうか。 どうかあの馬鹿の巻き込えにあいません様に。 真摯に願いながら彼は走った。 二番目の願いごとに対し、蛇と蛙が『そりゃ無理だわ』と言ったのを、彼は知らない。 ぐつぐつと煮えっている鍋の中にお玉を入れ、出し汁を軽く掬い、味を確かめる。 口にした瞬間、昆布の出汁と鮭の旨味、野菜の甘みが口内に広がった。 「よし、良い感じだな」 出来上がりに満足して、○○は鍋の蓋を閉めた。 あれからなんとか買い物を終え、夜の帳が降りる間際に自宅に辿り着いた彼は、現在夕餉の準備をしていた。 「さてと、後は弱火にして、射命丸さんが帰ってくるのを待つだけだな」 エプロンを外しながら腕に嵌めた外界産の時計を見ると、時計の針は八時前を指していた。 もうそろそろ帰ってくるだろうと思った○○は、食器の用意を始める。 食器棚に向かい、二人分の取り皿を出す。 不意に視界に飛び込んだ、皿に彫られた文字に、○○は顔を綻ばせた。 彼の持った皿に彫られているのは、○○という文字。 それはその食器が彼専用ということに他ならなかった。 もう一つの皿には、文の文字。 こちらは彼女専用の食器であった。 この家には、二枚ずつ存在する食器が多数ある。 そしてその二枚ずつの食器全てには、彼と彼の同居人の名前が彫られていた。 名前が彫られている食器は、彼が此処に住む様になってから新しく買った食器であった。 そのことを彼は無性に嬉しく思っていた。 止めようと思っても、笑みは収まらず彼の顔に有り続けている。 ○○と射命丸文は、同居人で仕事仲間である。 現在のお互いの関係を示す言葉はこれだけだ。 否、その中にもう一つ入れるべき単語がある、と○○は思った。 それは周りに言ったら信じてくれるとは思うが、言った当人は苦笑いを浮かべてしまう様な言葉。 恋人関係。 ○○と文は、世間的にはそう言われる関係であった。 それが何故苦笑いなのか? 別にお互いに好きと言い合っていない、所謂友達以上恋人未満などということでは決して無い。 二人はちゃんと、互いのことを好きと認め合っている(告白の際、しどろもどろだったことは、彼にとって忘れたい過去ではあるが) では何が問題なのか? それは彼の性格に起因する。 彼は外の世界では、俗に言う『良い人』であった。 好きな子にアタックするよりも、周りの輪を大事にする。 自分が惚れていた子を、他の友達が好きだと言えばそちらを応援する。 彼はそんな人間であった。 自分よりも他者、自分よりも場の空気を大事にする、それが彼という男であった。 だから、今こうして文と恋人関係になれたという事実は、彼にとって偶然の奇跡としか良い様が無い。 だが此処で、一つ問題が発生することとなった。 それは彼の恋愛レベルの低さである。 昔から他者の恋を応援していただけの彼が、女の子との付き合い方など当然ながら知っている筈も無かった。 故に、告白して恋人関係になった今も、彼等の関係は今までから何も進展していないのであった。 別に○○もその関係に甘んじているばかりではない。 時には彼氏らしく振舞おうと努力した時もあった。 だが生来の度胸の無さが、それらを悉く邪魔していき、結果としていつも通りの日常を送る羽目となっていた。 彼の友人が先程去り際に放った『ヘタレ』という言葉も、あながち間違いではないのである。 唯一の救いは、射命丸文もその点に関して純情だったということだろう。 付き合ってそろそろ半年、何とかして一歩先へと進みたい。 そう思ってはいても、彼の前に立ちはだかるのは、行動がそれに追いつかないという現実であった。 もやもやとそんなことを考えている彼の耳に、がちゃ、と玄関の鍵が開く音が届く。 それは彼女の帰宅を伝える音であった。 お、帰って来たみたいだな。 ダイブしていた思考をストップさせ、彼女を出迎えるため持っていた食器を卓袱台に置いて、彼は玄関に向かった。 「ただいま帰りました~!」 元気良く帰宅の声を上げる天狗少女を、彼は穏やかな笑顔で出迎える。 「おかえり、外寒かっただろう? もう夕御飯出来てるよ」 「ありがとうございます! おおっ! この匂いはお鍋、石狩鍋ですね!?」 「正解。今出来上がったばっかりだから、ナイスタイミングだったよ」 くんくんと鼻を鳴らす文に、○○は顔を綻ばせて言った。 「こっちもナイスタイミングです! これなら一人増えても大丈夫ですしね!」 「ん? 誰か連れて来たの?」 文の発言に、疑問を浮かべながら○○は訪ねた。 来客とは珍しいこともあるものだと、彼は思った。 文は自分の家に人を入れたことが余りない。 別に人を入れるのが嫌ということではなく、外出するのが基本なので家に居ることが無いためだ。 まあ偶に、部下の白狼天狗の犬走椛や、河童の河城にとりを連れて来ることもあるのだが。 それも稀れなことであった。 「どうぞ、気軽に上がって下さい!」 文は玄関から一歩下がって、隣に居るであろう来客を促した。 誰が来たんだろう。 犬走さんか、にとりさんか、それとも別の方か、特に危惧せず客の予想をしていた○○は、来客の姿を見た次の瞬間絶句して固まった。 急遽断絶された思考回路が悲鳴を上げ、警告音が鳴り響く。 「いや~悪いね~!」 姿を現した人物は、文に軽く手を上げて玄関の中、○○の前に立った。 ○○は凍りついた様に動けないでいた。 「よっ!!」 びしっと効果音が付きそうな程に上げられた手と、ノリの良い声。 その声を聞き、僅かながら声帯の機能が回復した○○は、口をぱくぱくと動かす。 「な……」 そして、彼の口から出たのは絶望と驚愕であった。 「なんでお前が此処に居るんだよおおおおおおおおおおおおっ!?」 大絶叫と呼ぶに相応しい叫びが辺りに轟く。 発言の内容に、お前と呼ばれた人物は楽しげに口元を歪ませた。 「文ちゃんに誘われたんだよ、なあ文ちゃん?」 「はい。帰る途中、山の中を歩いている●●さんを見掛けたモノですから」 夜道は危ないと思いまして、と、にこやかに文は事の経緯を説明した。 何も知らずに笑う彼女に対し、○○はこの時初めて思った。 空気を読んでくれ、射命丸さん…… 自身の恋人が連れてきた最悪の客に、頭痛がしたような気がした○○は、親指で眉間を押さえた。 「えっと……何か問題でもあったんでしょうか?」 神妙な○○の様子に何か感じたのか、文はおずおずと尋ねた。 その瞳には、不安が少量入り混じっていた。 「いや、なんでもないよ。ちょっと驚いただけだから」 震える小鳥のような瞳に気付いた○○は、眉間に当てた指を離して慌ててフォローを入れる。 「そうですか……良かったぁ」 ○○の言葉に、文はホッと胸を撫で下ろす。 文の様子を見て、○○は一安心し、そして思った。 そうだ、別に彼女が悪い訳じゃない。 彼女は自分の友人に気を遣っただけだ。 そう彼女の行動、●●の身を案じての行動だったのだ。 其処には善意以外含まれていない。 寧ろ他者の友人にまで気遣いが出来る彼女を、○○は好ましく思った。 文はこちらの様子を伺うように上目遣いで○○覗いていた。 それに気付いた彼は、文の不安を取り除くため、彼女の頭に手を置いた。 優しく頭を撫でる。 サラサラとした黒髪が手に心地良い、と彼は思った。 「○○さん……?」 突然の行動に、眼を丸くして文は○○を見る。 気にせず○○は頭を撫で続けた。 ポンポンと軽く頭を叩いた後、彼は言った。 「気を遣ってくれて、ありがとう射命丸さん」 彼の言葉に、文は破顔した。 向日葵の様な笑顔を○○に向けた後、はい、と頬を桃色に染めて彼女は小声で言った。 若干甘い雰囲気が彼等の間に流れる。 「そうかそうか、俺が来たのがそんなに嬉しかったのか! いや~、俺って愛されてるぅ!」 その雰囲気をブチ壊す様に、●●は暢気に笑った。 彼に対しては心の中で、死ねよもう、と○○は呪い混じりに呟いておいた。 突然の●●来訪から数分後、彼等は卓袱台を囲んで鍋を突付いていた。 煮込まれ程良い触感を持った鮭が、シャキシャキとした長ネギが、出汁をたっぷりと吸ってクタクタになった白菜が、それぞれの口の中に放り込まれていく。 「美味し~」 文が感嘆の声を上げる。 鮭を頬張った口元は幸せそうに緩んでいた。 「それは何より」 満足気な文の声に、○○は嬉しそうに返事を返し、口に含んだ長ネギの触感を楽しんだ。 シャキシャキと歯触りの良い触感に○○はこれぞ長ネギと、一人満足する。 「白菜うめぇ~……あ、長ネギ入ってる。○○~、長ネギやるわ~」 自身の嫌いな長ネギを箸で掴んで、○○の器に入れようとする●●。 その彼を、○○は無言で殴った。 ごすっ、という音が部屋の中に響く。 呻き声と共に●●は頭を押さえながら苦言を吐いた。 「いって~! なにすんだよブラザー!」 「うっせえ、好き嫌いせずに黙って食え!」 文句を言う●●を、彼は一喝した。 「大体、いい年して嫌いな食べ物があるとか、子供かお前は!?」 「嫌いなモンは嫌いなんだからしょうがねぇだろ~?」 「五月蝿え馬鹿、少しは射命丸さんを見習え!」 言いながら○○は文の座っている方向を指差す。 突然指名されたことに気付いた文は、こちらに目線を向けつつ、鍋の具をお玉で掬っていた。 こちらに意識を向けつつも、手は食事を放棄しておらず。 手に持った箸は、手際良く口に食材を運んでいた。 その食への姿勢に●●は納得したように頷いた。 「成程。つまり文ちゃんみたいに食い意地を張れと、そう言いたい訳だな?」 「まあ、確かにアレは食い意地張ってると思われても仕方無い……って違うわーーーーーーーっ!!」 途中まで同意しかけた発言を掻き消すように○○は叫んだ。 指摘された文は恥ずかしそうに顔を紅く染めて俯いた。 しかし、箸を動かすその手は止まっていない。 その飽くなき食への執念に、『あ、結局食べるんだ』と、二人は心の中で突っ込みを入れた。 「はぁ、もういいや。そういえばさ……」 溜息と一緒に気を取り直した○○は、話題を変えることにした。 「お前、守矢神社に行くって言ってなかったか?」 その疑問に●●は残念そうな顔を作って答えた。 「いや~、行ったんだけど居なくてさ~」 ○○と分かれた後、●●は山の上にある、守矢神社へと向かった。 が、神社には誰も居なかったため、仕方無くその場を後にした。 その帰り道に文ちゃんと会った、と●●は続けた。 「鍵掛かってなかったら、中で待ってたんだけどな~」 「それは良かった」 ●●のif物語に、○○はお玉で具を掬いながら言った。 気の利かない発言に、●●はムッとして反論する。 「いやいや、良くねえだろ」 「良かったっていうのは、東風谷さん達に対して言ったんだよ」 「なんでよ?」 「博麗さんみたく、お前に変なことをされなくて良かったなぁ、と思ってさ」 言いながら○○は、鮭の切り身を口の中に放り込む。 魚の旨味を堪能しながら咀嚼していると、何時の間にか復活した文が話に入ってきた。 「変なことって、何かあったんですか?」 文は好奇心を宿した瞳で、○○を見つめた。 両の瞳は既に記者のソレへと変化している。 「いや、コイツがまた馬鹿をやったっていう話だよ」 言いながら視線を●●に向ける。 「おっ、何だ俺に説明しろってか? まあ別に良いんだけどさ~」 彼の視線に気付いた●●は、話しをするのが楽しいのか、嬉しそうに笑った。 助かった、と○○は思った。 詳しい説明を彼はしたくなかったのだ。 自分がやったことでは無いにせよ、女性に『女物の下着を被って遊んでいた男の話』など、どうして話せ様か。 特に彼女、射命丸文に対しては尚更だった。 「じゃあ話すとしますか」 笑顔で会話を始めようとする●●を見て、文は愛用の手帳を取り出した。 ふぅ、危なかった。 二人を見て、○○は安堵を漏らす。 だが、その安心も一瞬のモノであった。 「さてと……それじゃあ文ちゃん、早速で悪いんだけど下着貸してくれねえ?」 ●●の口から飛び出した基地外染みた発言。 文がその言葉の意味を理解するよりも早く、彼のやろうとしていることが解った○○は己の右拳を友人目掛けて叩き付けた。 錐揉み状に回転しながら部屋の端までブッ飛ぶ●●。 突然の出来事にあっけに取られている文。 鍋は未だ冷めず、温かな湯気と香しい匂いを発していた。 ご馳走様でした。 騒がしかった夕餉は、三人が口を揃って言った言葉により終わりを迎えた。 始まる前には盛り沢山の食材が詰まっていた鍋は、今や外見だけそのままに、中は綺麗な空洞と化している。 卓袱台の周りには、○○、文、そして左頬を赤く腫らした●●が、形は其々に、食後の余韻に浸っていた。 「う~食った食った、食いすぎた~……っと」 腫れた頬のことなど気にも留めずに、●●は満腹々々とその場に寝転がり、腹を押さえて唸る。 「ホント、お前は良く食いやがったよ……」 ぐでっと倒れる●●の姿を、食後のお茶を啜りながら見つめ、○○は苦言を漏らした。 「遠慮無しに馬鹿々々食いやがってコノヤロウ……」 「まあまあ、良いじゃないですか○○さん」 愚痴る○○を、同じく食後のお茶を啜っていた文が窘める。 それに乗る様に、●●は調子に乗って追従した。 「そうだそうだ、こまけぇこと気にすんなって~。若い内からそんなだと、禿るぞ~?」 「禿たらお前を真っ先にしばきに行くから安心しとけ」 「おお、こわ。文ちゃ~ん、○○が俺のこと苛めるよ~!」 いじめられっこが親に泣き付く様に、起き上がって文に抱きつこうとする彼を、○○は思い切り蹴飛ばした。 「ノゥフ!」 意味不明の悲鳴を上げて彼は部屋の隅まで転がっていった。 「死ね!」 部屋の隅で倒れる●●にそう吐き捨てた後、○○は食べ終わった食器類を洗うため、鍋を掴んだ。 「あ、私が洗いますから」 声を掛ける文に、○○は微笑で返す。 「良いよ良いよ、疲れてるだろ? ゆっくりしてなって」 「でも、悪いですよ」 「気にしなくていいって」 そうして両者譲らないでいると、不意に鍋を持つ○○の手と、鍋を持とうとする文の手が触れ合った。 「っ!!」 息を呑んだのはどちらだったのか、二人共かもしれない。 触れ合った手の温もりは共に温かく、両者の頬がそれに伴う様に熱く紅く染まってゆく。 鼓動が早くなるのを○○は感じた。 何かに絡め取られているかのように、○○は動けないでいる。 目と目が合った。 潤んだ文の瞳が○○の瞳に映った瞬間、○○の動悸は一層激しくなった。 その時、○○の中にある願望が芽生えた。 これはもしかして、キスとかしても良い雰囲気、なのか? ○○と文は恋人同士である。 だが、それは名前だけの関係で、今まで恋人らしいことなど一度も経験していなかった。 そう、キスさえも。 ○○は桃色に染まり掛けている脳細胞をフル活動させ、現状を解析する。 これは果たして、してしまっても良いのだろうか? ……いや、手が触れ合っただけだぞ、流石にまだ早くないか? けどこの機会を逃したら、次は何時になるかわかんねえぞ? 結論の出ないまま、ぐるぐると巡る頭を回転させていると、文が瞼を閉じた。 そして可愛らしい唇を○○の方に、軽く突き出す。 間近に迫った彼女の頬は、薄紅色に染まっていた。 その行動に、これはいけると○○は確信する。 そして彼にしては珍しく早く、覚悟を決めた。 よし、やってやる。 意気込みを実現するかのように、○○は空いた手で、文の肩を掴む。 いきなり肩を掴まれたためか、ぴくん、と文は肩を震わせたが、それも一瞬のことだった。 眼前にあるは、愛しい少女の顔。 ○○はその少女の唇に、己の唇をゆっくりと近づける。 五十、四十、三十、二十、と彼と彼女の距離は徐々に零へと近づいていく。 ああ、遂にこの時が来たのか。 父さん母さん婆ちゃん、俺は今日、一歩大人になります。 外の世界に居る家族に報告する。 感動の瞬間まで、残り十。 距離が狭まるにつれ、背中合わせの興奮と鼓動がビートを刻む。 あと少し、あと少しで。 そして悲劇は残り五センチのところで起きた。 突然、巨大な何かが倒れるような音が辺りに響いた。 「なっ、なんだ急に!?」 「なんですか一体!?」 ○○と文は二人の世界に割り込んできた破壊音に自我を取り戻し、揃って疑問の声を上げる。 声を上げる間にも、何かが倒れる音は止まらない。 めきめきと音を立て、振動と共に轟音を上げる。 状況が全く掴めない二人は、警戒しながら周囲を見回す。 何処ぞの妖怪でも襲ってきたのか、否、それはありえない。 相手は天狗なのだ、生半可な妖怪では相対することすら避けるであろう。 近くで妖怪同士が争っている、否、それもありえない。 此処は哨戒天狗の監視エリア内だ、わざわざそんなところで争う必要など有る筈も無い。 ならば、何だ? ○○は警戒しつつ、思考を進めた。 その時、二人の耳に巨大な声が飛び込んで来た。 「■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」 雄叫びと呼んでも差し支えの無い程の気迫を込めた叫びに、○○と文は互いの顔を見合わせる。 「射命丸さん、今の聞こえた?」 「はい、何を言っているのかは聞き取れませんでしたが……」 その咆哮、もとい声は、二人にとって聞き覚えのある声だった。 山の上の神社に住む巫女。 ○○と同じく外の世界から来たという一人の少女の姿が、彼と彼女の脳裏に思い浮かぶ。 「さっきの声って、東風谷さん……だよな?」 「聞き間違いではなければ、そうだと思うんですけど……」 声の主に辺りを付けるも、二人はその答えに何処か否定的であった。 何故あの子がこんなことをしているのか? 彼等の知る東風谷早苗は、優しくて礼儀正しい少女だ。 最近少し常識に囚われなくなっていると聞くが……それでも理由無く、もし理由があってもこんな乱暴なことはしない。 その彼女が何故? 疑問に、○○と文は同時に首を捻らせる。 首を捻らした二人の視線の先、其処に彼等の疑問の答えは、居た。 「あ~、やっぱり来たか~」 つい先程まで甘い世界の傍観者となっていた男は、響く轟音と咆哮に、頭を掻きながらそう言った。 その様子を見て○○は、本日何度目かは分からないが、本日最絶頂の怒りを迎えた。 やっぱりお前かこの野郎っ!! 怒りの赴くまま、犯人であろう友人を問い質すため駆け出す○○。 しかしその途中に浮かんだ疑問に、ちょっと待て、と行動にストップを掛けた。 待てよ、何かがおかしい。 突如自身の中に浮かび上がったハテナマーク。 確かコイツはさっき…… そして○○は、新たに浮上した疑問を問い質すより先に口にした。 「待て。さっきお前、神社には行ったけど、誰も居なくて鍵が閉まってたって、言ってなかったか?」 「おう、言ったな」 問われた●●は、それは嘘じゃないぜ、と語尾に付け足して頷く。 「なら……」 一体何をしたんだコイツは? 神社には誰も居なかったのに、●●は何をして彼女を怒らせたのか? 激昂した精神状態のまま、○○は考える。 ハテナの解消は悪戯小僧が行った。 眉を顰めて睨みつける○○に、彼はニヤリと笑ってこう言った。 「ただ、洗濯物が干してあったからさ~」 そして左右のポケットから、二つの布の塊を出し、左右に持って広げた。 その光景に、○○はこれでもかと自身の両眼を見開いた。 右手には、薄緑の小さくフリルの付いたブラジャーが。 左手には、同じく薄緑の小さなフリルの付いたパンツが。 真ん中には、それらを嬉しそうに見せびらかせる馬鹿の顔が。 そして馬鹿は、してやったりと言わんばかりに口を開いた。 「早苗の下着、ゲットだぜ!」 「この大馬鹿やろおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 ○○が怒鳴り声を上げると同時に、大量の米粒(のような弾幕)が彼等を襲った。 色取り取りの様々な色彩の米粒型弾幕が問答無用とばかりに彼等を襲う。 当然の事ながら、彼等に逃れる術は無く…… 「うわっほおおおおおおおおおおおおおおおおいっ!!」 「おわあああああああああああああああああああっ!!」 二人分の悲鳴と壮大な破壊音が妖怪の山に響いた。 爆風に巻き込まれた二人は夜空を翔る。 遥か上空を飛行しながら○○は思った。 やっぱりコイツと居ると碌なことが無い、と。 夜空を流れる一筋の星に成り掛けながら●●は思った。 しまった変身するのを忘れていた、と。 逸早く戦線離脱を果たしていた射命丸文は、遥か彼方へと飛んでゆく二人を遠巻きに眺めながら思った。 これは永遠亭コースですね、と。 それぞれの思いは満天の星空にまもなく消え、そして夜は更けていった。 ○○が目覚めた時、最初に視界に映ったのは板張りの天井であった。 「知らない天井だ……」 まだ覚醒しきってない、朧げな意識の中、彼は呟いた。 彼の視界に映るのは、年季の入った和式の板張り。 当たり前のことだが、知らないということは無い。 何故なら彼にとってこれは、もはや見慣れた光景だったから。 未だぼんやりとしていた○○であったが、部屋の戸が開く音が聞こえたことにより、意識をはっきりとさせる。 「あ、起きてたんですか」 入ってきた女性は彼が起きたことに気付くと、明るさのレベルを一段階上げた。 「うん、おはよう射命丸さん」 「はい、おはようございます○○さん」 挨拶を交わし、二人は微笑みあう。 彼が今居る場所は、竹林の奥深くにある『永遠亭』という場所であった。 月の姫とその従者、その他多数の兎達の住まう土地である。 何故彼が此処に居るのかというと、治療のために運ばれたからであった。 月の姫の従者、八意永琳は、月の頭脳とも呼ばれる程の天才である。 その知能は主に薬学に特化し、様々な薬を製造することが可能だ。 彼女はその知識を生かし、此処永遠亭にて診療所を開いているのであった。 そして彼は一月程前から、この診療所の常連となっていた。 理由は言わずもがなである。 「此処へは射命丸さんが?」 「はい、頑張って運びました!」 訪ねる○○に、腕まくりをする動作をしながら文は答えた。 「迷惑を掛けちゃったみたいだな」 「気にしないで下さい、好きでやってるんですから」 申し訳無く頭を下げる○○に、文は気にしてないといった風に手を振った。 「でも、仕事とかマズイんじゃないか? そろそろ仕上げの段階だろ?」 案じる様に言う。 ○○の心配はどうやら的中したみたいだった。 「え、いや、そんなことはないですよ?」 しどろもどろになって弁明する文を見て、○○はやっぱりと思った。 「俺のことは気にしなくて良いから」 だから早く仕事に戻ってくれ。 と言外に付け足して言うも、文は首を縦には振らなかった。 「いいんです、今日は一日中○○さんの傍に居ます」 「いや、それはマズイだろ……」 「いいんですっ!」 仕事に戻る様促す○○の言葉を、文は頑なに断る。 何を剥きになってるんだ? 不思議に思う○○は、文の頬が紅く染まっていることに気付かなかった。 微妙な雰囲気になり、気まずくなった○○は大人しく黙った。 暫くして文が口を開いた。 「その代わり、昨日の続きをして下さい」 「はい? 何の……」 何のことだと文に問い掛ける時、○○は見てしまった。 昨晩、あの時、あの瞬間の様に、潤んだ彼女の瞳を。 そして○○は文の言葉の意味を動揺と共に理解した。 彼女の求める行為に、彼は眼を見開く。 文の求める行為とは、つまり…… つまり、キスしろってことか!? 今、此処で!? …………マジで!? つまり、そういうことであった。 文は昨晩の続きを○○に所望していたのだった。 幾ら純情な文であっても、流石に昨日のお預けはクルものがあったらしい。 しかし、もう一方の純情青年はそれどころではなかった。 急展開に○○の思考回路はパンク寸前に陥る。 元々恋愛事には不慣れな人間なのだ、昨夜の行動は奇跡といっても良い。 その奇跡をもう一度起こさなければいけないという事実に、○○は混乱した。 そんなの、無理に決まってるだろーーーっ!! 心の中でそう叫ぶも、誰も助けてはくれない。 そうこうしている内に、文は準備を終えていた。 「っっ!?」 気が付くと、すぐそばには少女の端正な顔。 好奇心旺盛の大きな黒い瞳は今は閉じられている。 瑞々しい唇は、受け入れやすいよう軽く突き出していた。 甘い香りが○○の鼻腔を擽った。 ごくり、と喉が鳴った。 今、彼の目の前に居るのは、自身の求めた只一人の少女。 いつも自分に笑いかけてくれる、天使の様な女の子。 こんな自分を好きだといってくれた彼女。 その彼女に俺はキスの一つも出来ないのか? 彼女自ら、して欲しいと願っているのに? そこまで自分は根性無しなのか? 彼は全力でソレを否定する。 ふざけるな、そんなことがあるものか。 好きなんだ。 大好きなんだ。 泣きたくなる位、キミのことが好きなんだ。 キミの居ない世界なんてもう考えられないんだ。 なら…… ならば、それを伝えれば良い。 そして彼は覚悟を決めた。 自身の震える両の手を、彼女の両の肩に置く。 以前とは違って、受け入れる準備が出来ていたのか、文は震えず、眼を閉じたまま微笑んだ。 その微笑に力を貰い、彼は茹蛸の如く真っ赤に染まった顔を唇を彼女に近づけた。 大切な少女の唇を奪うまで残り五。 四。 三。 二。 一。 「のおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」 そして再び悲劇は舞い降りた。 いざめくるめく愛の世界へと飛び立たんとする二人の耳に今度届いたのは、非常に聞き慣れた叫び声だった。 お約束の様だが、あまりにもあんまりなムードブレイクに、○○と文はまたもや呆然とする。 「入院したって聞いたから折角見舞いに来てあげた結果がコレとはどういうことじゃああああいっ!!」 「自分が悪いと思っていた私が馬鹿でしたーーーーーーーーーーっ!!」 「おまっ! ちょっ、待てっ! 落ち着けマイラバーズっ!!」 「ちょ、ちょっと待ってっ! 私は関係無いんじゃないのっ!?」 呆けている二人の耳に、次から次へと多様な轟音と多人数の叫び声が届く。 一人は男性、三人は女性のモノだった。 そのどれもが聞き覚えのあるモノだったが、○○はその内の一人に対して猛烈な殺意を抱かせた。 殺意を抱かれた男の名は、●●という。 気配だけで相手を殺せそうな程の殺意を、笑顔で隠蔽し、○○は文に告げる。 「射命丸さん。申し訳無いけど、この続きはまた今度ということで良いか?」 その笑顔に隠された意味を理解した文は、困った様に笑って頷いた。 「仕方ありませんねぇ、次が早く来ることを期待しています」 「善処する!」 気合の入った声で叫ぶ様にそう答えると、○○はベットから飛び出し、爆音のする方へと駆け出して行った。 彼が出て行くのを見送った後。 走り去った方向を見ながら、射命丸文は片目を閉じ…… 「延長コース、決定ですね」 そう、呟いた。 そしてその呟きの約三分後。 「●●の馬鹿たれえええええええええええええっ!!」 「●●さんのアホーーーーーーーーーーーーーっ!!」 「ちょっ、おまっ、ダブルはキツイって! ちょ、ギャーーーーーーーーーーーース!!」 「てめえ●●コノヤロウっ! 折角の良い雰囲気をよくも邪魔して……って、うおおおおおおおおおおおっ!?」 「だから何で私までーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」 彼女の予感は二人の巫女の怒号と、愛しの恋人と男女の悲鳴、それらを掻き消すような盛大な爆発音と共に見事的中し…… ボロボロになった○○と消し炭寸前の●●、そして何故か黒焦げの鈴仙は、速やかに永遠亭のベッドに運ばれることとなった。 こうして彼、○○の運命のレールは、悪友の出現により未だ迷走中である。 再び彼が元の日常に戻ることは、果たしてあるのだろうか。 それは誰にも分からない。 気紛れに彼の運命を見た吸血鬼が、爽やかな笑顔で親指を立て『頑張れ』と言ったことを、○○は知る由も無かった。 新ろだ520 ───────────────────────────────────────────────────────────
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永光あき(サムチャンあき) 最近配信スレで配信させてもらっている新参者です 基本マニアックな台しか購入してない気が・・・ 台を置ける部屋が狭いのでミニ卓上メインです =追記= 今年導入のとんでもない超○台を購入 家に着くのは年末か年始頃 おそらく購入したのは他の所を含めても自分だけな気がする・・・! ちなみに会社のHPにすら存在を抹消されている模様・・・扱いが酷え! 所持機種 ※機種名クリックでパチンコ図鑑に飛びます(外部リンク) 機種名 大当たり確率 確変率 時短 CRサムライチャンプルーMTW 1/315.5 56.7% 100回 CRAサムライチャンプルーASW 1/85.7 100%(4回まで) 20or50回 CRサムライチャンプルー2フウver. 1/99.9 100%(8回まで) 0or28or58回 CRマーベルヒーローズ NTX 1/315.5 60% 100回 CR伝説の巫女MTZ 1/315.5 56.7% 100回 CR萌えよ剣 STX 1/97.7 60% 20or50回 CR中森明菜・歌姫伝説~甘いささやきに応えたい~ 1/100.25 100%(34回まで) 0or30回 CRA戦国乙女9AX 1/99.45 100%(8回まで) 0or100回 CR戦国乙女2 M9AX 1/299.3 72% 9回or19回or29回or電サポ当選後70回 New!!???? 1/??? ???? ????回 購入検討リスト 買うというわけではなく欲しいなぁくらいのリストです 忘れないようにここに書いてるだけのものです買うとしても来年以降かと ※は特に欲しいものとなります 下に行くほど古くなります ・CR火曜サスペンス劇場 ・CR不思議のダンジョン 風来のシレン すずね姫とまどろみの塔 ※ ・CR戦国乙女3 M9AY ※ ・CRAセクシーフォール99VM ・CRスーパーマン・リターンズ ~危機からの脱出~ ※ ・CR餓狼伝説~双撃~ 1/99ver. ※ ・CRルパン三世 World is mine 不二子99.9Ver. ・CR元禄義人伝浪漫 明日は明日の風が吹く ・CRAライディーン フェードイン ・CRAロミオ×ジュリエット75A ・CRA弥次喜多3 舞姫バージョン ・CR新お天気スタジオ コメント 何かご意見ありましたらここで書いて下さると助かります また何か一言でも言いたいことがありましたらここで ちゃんぷるあき -- 名前の案 (2013-06-08 00 40 56) 名前 コメント
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立っていた。 いや、別に立っていること自体はおかしくはないのだ。 ただ、あまりにも唐突だったので、こんな単純な事さえも、大きな出来事に感じられる。 というのも、僕はついさっきまで床に就いていたはずだった。 布団を被って、そのまま、明日を待つはずだったのだが……。何故か僕は、立っている。 服もおかしい。肌には、いつも着るパジャマの感覚は伝わって来ず、外出用の私服を、これまた理由はわからずに着ていた。 場所も変だ。ここは明らかに家の中ではない。ここが外の、広々とした空間だという事を、空気の流れが伝えてくれているのが証拠だ。 耳を澄ます。風が、穏やかに流れている。時折、カサカサと音を立てるのは、樹木の葉っぱが擦れ合うものか。 息を吸う。空気が澄んでいる。病院の診察室や、都会のビル街などの空気とは、比べ物にならないくらい綺麗だった。 ということは、ここは山の方か? 仮にそうだとして、僕は何故こんな所にいるのか? そもそも、僕の住んでいるところは── 「誰かしら?」 突然、前方から声がした。女の声で、凄く若い人だと思う。僕と同じくらいか、その前後といったところか。 コツコツと、足音が近づいてくる。音からして、地面は結構堅い。石畳の上にでもいるのだろうか。 「私の神社に、何か用?」 じ、神社? ……ああ、そうか。寝ぼけて僕は、家の近くの神社まで来てしまったのかもしれないな。 しかし、着替えまでこなすとは。僕はある意味凄いやつだ。 ……いや待て、僕の住む場所周辺には、神社なんてないぞ? まして、あんな大都市圏の中に、神社なんてほとんどないじゃないか。 「ねえ、何とか言いなさいよ」 「えっ、あ、いや、その……」 ええい! 僕の脳はどうしてこうも重要な時に働いてくれないんだ! 知らない声の人に対しては、ちゃんとした態度で臨め! 「えーと……ここは、どこですか?」 まずは場所を聞かねば。初対面の人に場所を聞くなんて滅多にしないけれど、僕は女の人に尋ねてみた。 「んー? ここは誰がどう見ても博麗神社よ、博麗神社。それと素敵なお賽銭箱はあっち。変な事聞くのね。外の人かしら?」 博麗、神社……? 聞いた事がない。 他の地域の神社だろうか。いや、そんな神社、どこの県でも耳にしないぞ? 本当に、僕は一体、どうしちゃったんだ? 夢にしては現実味があるし、現実にしては話が成り立たない。何なんだ、この感じ……。 「んもう! 質問に答えてくれないとわからないじゃない!」 女の人も、少しずつイライラしてきているようだ。これ以上黙っていても仕方がない。とにかく、わからないことはこの人に聞くことにしよう。 「大体ねぇ、何よ、その目に付けてるものは……」 女の人が、僕がしているアイマスクを指差した、ような気がした。このアイマスクは、僕が事故に遭った日に、母さんから貰ったものだ。 そう、「あの」事故の日に。 『わー。きれいだなー』 助手席の窓ガラスから、幾つにも連なる山々を、幼い頃の僕は見つめていた。まだ雪が残る山は輝いていて、まるで銀色のオブジェだ。 その日は1月1日。父さんと、山の神社へ初詣に行く途中だった。母さんは、「正月くらいゆっくりしたい」とか言って、早起きを断った。 山道のカーブを次々と曲がっていく。曲がるたびに、僕の顔が窓ガラスに張り付いたり、離れたりを繰り返すので、 父さんがそれを見て笑っていた。僕も、窓に映っている父さんに笑顔を返す。 『ねえねえお父さん、あとどのくらいでつくの?』 『うーん、そうだなぁ。後5分もすれば──』 突如、上の方でゴゴゴゴゴッと、かなり大きな音が聞こえた。瞬間、父さんの顔が凍りつく。 落石だ! 車より少し前で、次々と大きな岩が降ってくる!! 『顔を伏せろ! ○○!!』 『え?』 父さんが急ブレーキを掛ける。キィーッという甲高い音が、車中に、山中に響き渡る。だが、車は路面凍結もあってか、止まろうとしない。 たった今生成された岩の山に、僕の家の車は、もの凄い音を立てて、突っ込んだ。 時がゆっくり進む。ガッシャーンっと、フロントガラスが粉々に砕け散っていく。右には、下に顔を伏せ、苦しそうな表情をしている父さん。 前に視線を戻すと、ガラスの破片が僕に向かっていた。伏せようとは思ったが、ショックで、考えることなど、無理に等しかった。 僕は、目の前が真っ暗になった。 幸い、神社の住職の人が気付いてくれたみたいで、僕達はすぐ、救急車で運ばれた。 後日、病院の検査によると、父さんは奇跡的に両肩の擦り傷、打撲で済んだらしい。本当に運のいい人である。 僕の方はというと、右の眼球にガラスの破片が突き刺さり、失明。左目にも粉になったガラスが入り、視力を失った。 僕は永遠に、光を見ることができなくなった。 医師の話によると、何かの拍子に視力が戻る可能性が僅かにある、いつ治るかは定かではないが、とりあえず様子を見よう、 と、リハビリを勧めた。リハビリなんてしたことがないが、目の為だったら、やってやると思った。 尖っている物が再び目に刺さるのを恐れて、母さんが僕にアイマスクをくれた。「してもしなくても見えないのに変わりはないけどね」と、 そこまで僕の心配をしなかった。僕を信じているのか、それとも、自分の子にあまり関心がないのか……。 失明してからの僕の生活は、まさに地獄だった。学校では障害者扱い。毎日のように通院、リハビリ。何故か、凄い苦い薬も飲まされた。 今まで仲良しだった友達も、心配はしてくれていたが、迷惑を掛けたくなかったので、僕は自分から、友達ともあまり口を利かなかった。 そして今、視力は一向に戻らない。回復しようともしない。「生涯」ずっと、この「障害」が付きまとうのだと、僕は確信した。 「聞・い・て・る・の!!!」 大きな声で、我に返った。回想が過ぎたか。女の人の顔が目の前まで迫っている。感覚でわかる。 「あっ! す、すみません……」 「まったく、ホントに変な人なのね」 女の人はふぅとため息をつくと、顔を引っ込めた。 「申し訳ない、ちょっと、目が見えないもので……」 「あー、あなた、鳥目なの? 鳥目だったらどっかの夜雀がヤツメウナギ売ってるから行くといいわ。ヤツメウナギは鳥目に効くのよ」 雀? ウナギ? 何のことだかさっぱりだ。本当にこの人、僕が失明してるってことわかってないのか? 「いえ、そういうのじゃなくて……。完全に見えない、というか、そう、失明ですよ。しつめい」 「……え?」 どうやら、僕の勘は当たった。この人は今まで、僕のことを目に謎のアクセサリーをつけた変人だとでも思い込んでいたことだろう。 女の人は少し困惑した様子だ。目の不自由な人を見るのは初めてなのか。 「……う、嘘でしょ? ちょっと、とって御覧なさいよ、その目隠し」 言われたとおりに、僕はアイマスクをはずした。この動作も、リハビリや、友達に馬鹿にされるため、もう何千回と繰り返されてきた。 事故の恐怖のせいか、僕は目を半分も開けられない。まあ別に、開いても開かなくても同じなのだが。 「これ、何本かわかる?」 出た。これだから目が見える人は困るんだ。僕が見えないって言ってるのに、指の本数なんてわかるわけがないじゃないか! 「全然。その前に挙げているのが右手なのか左手なのかもわからないです」 「あら、そう……」 何だか残念そうな口調で、女の人は手を下ろした、と思う。長年目が見えないので、人の行動も、空気の流れや感覚でわかる。 普通の人は、「じゃあこれは?」とか言って、僕に指を近づけるが、この人は一回でやめてしまった。僕はアイマスクを掛け直す。 「あのー、あなたは一体、誰なんです?」 話題を急に変えてみる。そういえば、この人の名前をまだ聞いていなかった。まずないと思うけど、もし知り合いだったら……。 「ん、私は博麗 霊夢。ここの神社の巫女よ。あなたは?」 全然、知らなかった。でも、知り合いじゃなくて逆にホッとした気がする。大抵知ってる奴らは、僕のことを馬鹿にして帰っていく。 それが嫌だった。用もないのに人を貶しては去っていくという、奴らの行動が憎かった。 「えーと、僕は○○。××町に、と言ってもわからないか……」 「○○さんね。目が見えないんじゃ大変でしょう? 幻想郷からはそう簡単には出られないから、とりあえずうちで話を聞かせてくれる?」 なんと。初対面にして、いや、知り合いの人でも、こんなにも優しくしてくれる人は初めてだ。うちに招待だって? ありがたいものだ。 でも、「幻想郷」って、何だ……? 「あ、はい! では、よろしくおね──」 握手を求めるため、手を差し伸べる僕。しかし、僕の手が10センチも伸びないうちに、ムニッと、変に柔らかい感触が指に伝わった。 「きゃっ!!」 「うわっ!?」 反射的に手を引っ込める。何だ今のは!? 胸ではない、と思うが……。肌に触れたようだ……。まさか肩か!? 生肩か!!? 「ちょ、ちょっと! いきなり何よ! びっくりするじゃない!!」 「ご、ごごごめんなさい! 本当に、見えないのは事実なので……」 これは焦った。こんなに距離が近かったなんて、僕としたことが……。僕は霊夢さんに、ペコペコと、二度三度謝った。 「もう……。まあ、いいわ。見えないんじゃ、仕方ないわよね」 あれ? もう少し怒ると思ったが、霊夢さんは、すぐにさっきの口調に戻った。気遣ってるのか、単純なのか……。 「じゃ、ついてきて。こっち」 「え、あ、どっち……?」 どぎまぎしながら、右手をうろうろさせる僕。すると、霊夢さんがそれをぎゅっと掴んだ。 「ほら、行きましょ」 「あ、どうも、ありがとうございます」 「堅苦しいわねぇ。敬語しか使えないの?」 「いや、そんなわけじゃ……」 「だったらいつまでもがちがちしない!」 「は、はぁ……」 霊夢さんは真横に立ち、僕を前へと導いてくれた。 「はい、改めて、今あなたの目の前にあるのが博麗神社よ」 木材の匂いがする。風の吹き具合からして、大きさは中ぐらいか。左手で辺りを探ると、木箱のようなものに触れた。 「それが素敵なお賽銭箱。お金持ってたら、是非入れて頂戴」 今の台詞と同時に、手を強く握り締められた気がするが、気のせいか……。そういえば、服のポケットに何故か財布が入ってたな……。 僕はそれを左手で取り出すと、片手で開けて、 「どれでもいいから貰っていいですよ。一種類だけなら」 と、霊夢さんに中身を見せた。 「あら、じゃあ遠慮なく頂くわね」 そういうと霊夢さんは、お札の入っているポケットからシュパッと、僕の千円札を一枚引き抜いたようだ。迷わず最高額を選ぶとは……。 「ありがとう」 お金が手に入った霊夢さんは、嬉しそうだった。そんなに貧乏なのか、この神社……。 「さ、入って」 靴を脱いで、社殿の中へと入る。僕があがるとすぐに、霊夢さんが手をつなぎなおしてくれた。 少し進むと、足が止まった。客間に入ったらしい。 「ここに座って」 霊夢さんは僕の手を離し、隣の部屋へ行った。僕は腰を降ろす。テーブルのようなものに触れた。ちゃぶ台だろうか。 少しして霊夢さんが戻ってきて、僕と向かい合わせになる様に座った。 「私はあなたの前にいるわ」 「わかっています」 「お茶、持ってきたから飲んでね」 「ありがとうございます」 コト、と湯呑みが置かれる。僕は右手で湯呑みを探し、それを手前に引き寄せた。 「あ……大丈夫? 飲める?」 僕が湯呑みを必死で探していたのを察したのか、霊夢さんは心配して声を掛けた。 「あ、いえ、いつものことです。大丈夫です」 「そう。……それじゃあ、あなたが失明するまでのいきさつを話してくれるかしら」 僕はそれから、霊夢さんに事故の日のことを話した。あの時見た山の景色から、アイマスクのきっかけまで、全部話した。 「へぇ……それはお気の毒様ね」 「ええ、もう随分前の話ですから、見えないのには慣れてしまいましたが……」 「ふーん」 その後霊夢さんは、僕が何故いきなり神社の前に立っていたのかを説明してくれた。 博麗神社は、「幻想郷」という世界の中にある。幻想郷は日本のどこかにあるが、 「博麗大結界」という結界によって、外界とは隔離している。 博麗神社は幻想郷と外界の丁度境目にあり、正確に言えば、博麗神社は外界の方に位置する。 外界の人間が幻想郷入りすることはしばしばあるらしく、人はそれを「神隠し」と呼ぶとか呼ばないとか。 「つまり僕は、神隠しにあった、と?」 「うーん、まあ本当はもっとややこしいんだけど、そういう風に解釈してもらって構わないわ」 要するに、よく意味が分からないという事である。 ……とにかく、ここは普通の世界ではないことは確かだと思う。 幻想の郷、か……。とうとう僕は、地球にも見放されたか? いや、幻想郷も地球にあるか……。 「……ねぇ」 「はい?」 「私の顔、本当に見えないの?」 突然、霊夢さんは質問した。今まで会ってきた人の中で、こんな質問をされるのは初めてだ。僕はかぶりを振って、 「残念ですが、本当です」 と答えた。そう答えるしかなかった。嘘はつけない。見えないのは真実だ。 「そう……」 霊夢さんはとてもがっかりしていた。何故だろうか。 確かに僕も、他人の顔や、外の風景を見てみたいと思ったことはあった。 でも、相手から見てもらいたいなんて説は聞いたことがない。何か見せたいものでもあるのだろうか? それとも……ひょっとして── 「……あら? もうこんな時間ね」 「ん? 何時?」 「6時半。18時半よ」 18 30か……。時間の流れからして、僕が幻想郷に入ったのは、午後3時から4時くらいだろうか。 「そうですか。じゃあ、僕はそろそろ──」 立ち上がろうとする。が、 「あ、待って!!」 呼び止められた。今度は何だ? 「はい?」 「外に出たって、あなたは帰れないわ。行ったでしょ? ここからはそう簡単には出られないの」 確かにそうだ。ただでさえ隔離された幻想郷。神社から出たって、外界に帰ることはできない。 「それに、夜は妖怪がたくさん出て危険だわ」 「よ、妖怪?」 「そ。妖怪。妖怪は、幻想郷に迷い込んだ人間を餌にしているの。今出て行ったら、あなた、すぐに死んじゃうわよ」 妖怪なんてものは、ただの噂話に過ぎないと思っていたが、本当にいたとはな……。 「だから、その、ね……」 なんだかもじもじしている。どうしたというのか。 …ま、まさか……。 「きょ、今日は、うちに、泊まってもらっても、構わない、んだけど……」 「なんだって!!?」 思わず叫んでしまった。今日初めて会った人、しかも女の人、その家、いや神社に、泊まれと!? いや、待て……。落ち着いて考えると、食事、睡眠、安全を確保できるのはここしかない。 僕は旅人ではないので、非常食も寝袋も、当然持っていない。だとしたら、やっぱり……。 「……イヤ?」 この念押しが決め手だった。断るのは無理だ。 「い、いえ! そんなことは全く! そちらがよければ、是非お願いします!」 「本当? よかったぁ……。でもまあ、死んじゃったら元も子もないわよね」 この嬉しそうな口調……一体何なのだろうか……。 そんなこんなで、僕は博麗神社に泊まることになった。夕飯などの炊事は、全部霊夢さんにまかせっきりで、何だか申し訳なく思った。 夕飯を口に運ぶ時も、霊夢さんが心配そうに何度も声を掛けた。いつもやってることなんだけどな……。 入浴を終えて、寝室に案内される。部屋は結構空いているとのことだ。 「布団はもう敷いておいたわ。この中だったら、自由に使っていいから、って言っても何もないけどね」 「はい。……あの、なんだか、色々とすみませんね」 「何が?」 「いや、こうやって自分は、何もできなくて、全部あなたにやってもらってしまって……」 「あら、いいのいいの。ただでさえあなたは、目が不自由なんだから」 「はぁ……」 「そうそう。遠慮しないの。じゃ、おやすみなさい。朝になったら起こしに行くわ」 「はい。では、また明日」 そう言うと、障子がゆっくりと閉じられた。足音が遠ざかっていく。 僕は、布団の上に寝転がった。そして、今日あったことを振り返る。 幻想郷、博麗神社、雀、ウナギ……。僕の頭の中は、まだ、状況を把握できていないようだ。 この世界には謎が多い。神社の外は、どうなっているのだろう? 人間はいるのか? 妖怪とはどんな生物なのか? 見てみたかった。凄く、見てみたいと思った。しかし、それはもう、叶わぬ夢に過ぎない。 もし視力があったら、この世界の観光でもしたいところだったが……。そうはいかないようだ。危険も多いようだし。 明日になったら、霊夢さんが外の世界へ戻してくれるかもしれない。あまり気が進まないが、ここにずっと居るのも気まずいしな。 博麗 霊夢……か。一体、どんな人なんだろう……。 色々考えているうちに、眠くなってきてしまった。そろそろ寝るとしよう。 ちなみに僕は、アイマスクをしたまま寝る。別にそれがどうという訳でもないんだけどね。 僕は、既に閉ざされた目を閉じ、眠りについた ───────── 時は、丑の刻。現代の表記で言えば、午前1~3時のことだが、実際の今の時刻は午前1時である。 夜はすっかり更け、外では妖怪が森や山で暴れていたり、人里の店でわいわいと酒を飲み合っていることだろう。 そんな中、幻想郷の東端にある博麗神社の一部屋で、まだ、眠りについていない少女が、一人いた。 霊夢は、布団に潜って、寝ようとせずに考え事をしていた。 『完全に見えない、というか、そう、失明ですよ。しつめい』 『あなたは一体、誰なんです?』 『本当に、見えないのは事実なので……』 今日会って、更に神社にまで泊めた、○○という少年の言葉が、頭の中で反復する。 初めは、見えないというのは単なる冗談だと思っていたが、後々にそうではないということに気付いて、かなり焦った。 霊夢は、これまで目の不自由な人に出会った事がなかった。失明に関しては医学に詳しい永遠亭の連中から聞いた事はあったが、 実際にその人物を見たことは、今日(昨日)まで一度もなかったのである。 とりあえず、してあげられることは積極的にやった。歩く時には手をとってあげたり、物が掴めない時には教えてあげたり。 過保護だと思われるかもしれないけれど、それでも、相手の為なら、中途半端な事はせずに、しっかりやろうと思った。 けれど、そうやって守られる彼は、何だか悲しそうだった。 おそらく、外界の人間にもああやって支えられてきたのだろう。 目が見えないのだから、誰かによる保護は、必要不可欠なのだ。 目が見えないのだから、誰かに頼らざるを得ない。 目が見えないのだから、他人と同じ行動はできない。 彼はその、「目が見えないのだから」という常識的理由を、嫌がっている様子だった。 できることならば、あの人にこの世界を見せてあげたい。 そういう願望が、巫女の思考回路を彷徨う。しかし、そのようなことを実現させるのは、無理に等しいのだ。 いっそ永遠亭の医者に頼んでみようか? でも、自分がここを空けている間、彼は何もできないし、危険すぎる……。 魔理沙あたりに面倒を見てもらおうかと考えたが、彼はそういうのは好きそうじゃないし、魔理沙自身、あまり乗ってくれそうにない。 ふいに○○のことが気がかりになったので、霊夢は布団から出て、立ち上がった。障子を開けて、彼の部屋へと向かう。 幻在の幻想郷の季節は冬。真夜中は特に冷え込むので、人間はよっぽどの理由がないと、外へは出てこない。 部屋の中では、静かに寝息を立てる○○の姿があった。寝相はよく、まっすぐ天井の方を向いて寝ている。 そっと歩み寄り、座った。突然の幻想郷入りで疲れたのだろう。霊夢がすぐそばにいても、○○はびくともしなかった。 (こんなときでも、はずさないのね……) 目隠しをしたまま寝ている姿があまりにも不自然だったので、霊夢はそっと、○○の耳にかかっているゴム紐に手を伸ばし、はずした。 改めて見ると、とても整った顔をしている。外見に関しては、何も問題ないのに、この人には、目という、体の大事な部分が欠けている。 それを思うだけで、霊夢は久々に、他人のことを「可哀想だ」と本気で思った。 手に持っている目隠しを胸に当て、ぎゅっと握り締め、目を瞑る。 (とにかく、今は私が、この人を守ってあげなきゃ──) 霊夢は、誓った。 30秒ほど経って、再び立ち上がる。目隠しは○○の顔の横に置き、部屋を後にする。 「……おやすみなさい」 障子はゆっくりと、音を立てずに閉まった。 夢を見ていた。 夢の中では、視力がある。そもそも夢というものは、自分の願望が見せる幻覚のようなもので、実際に目で見ているものではないと、 父さんが、僕が小さい頃に教えてくれた。果たして本当にそうなのかは定かではないが。 僕は仰向けに寝転がって、天井を見ていた。木の板一枚一枚が、規則的な間隔を空けて並んでいる。どうやらここは和室のようだ。 ふと、すーっと、部屋の障子が開く音がした。顔を上げる。厳密に言えば、顔が上がった、と言うべきか。 女の人が、立っていた。 影ではわかるが、外の月明かりが逆光となって(ということは、今は夜か、と僕は思った)、姿形はよくわからない。 こちらに歩み寄ってくる。僕のそばに静かに座った。僕は顔を下ろす。 顔を見たいと思ったが、夢の中なので、そういうわけにもいかないのだ。顔を下ろしてからは、僕の首は動かなかった。 しかし、見てみたいという願望が通じたのか、女の人が僕の顔を、ゆっくりと覗き込んできた。 やっぱり逆光ではっきりとは見えないが、今度は顔を確認できる。といっても、目の大きさとか、鼻の形とかまではわからなかったが。 頭に、大きめのリボンのようなシルエットがある。髪の毛は長め、服は……よく見えない。女の人は、暫くの間僕の顔を見つめていた。 ふと、月が雲で隠れたのか、逆光がなくなり、女の人の顔が浮かび上がってきた。 少しずつ、はっきりと。黒髪の……。服の色は、紅と、白で──。 「誰!!?」 「きゃあっ!!」 目が覚めた。体が座った状態になっている。今の「誰!!?」と同時に、僕はガバッと体を起こしたらしい。 外から鳥の声が聞こえる。朝が来たのだ。見えなくてもちゃんと、あぁこれは、朝の爽やかな空気だ、ということくらいわかる。 では、今の悲鳴の主はというと……? 「き、急に何よ!? 危うく頭同士でぶつかるところだったじゃない!!」 霊夢さんだ。丁度、僕を起こしに来た、というところか。僕の意味不明な寝起きのせいで、脅かしてしまったようだ。 「ん……おはよう」 寝ぼけてて言える言葉がそれぐらいしかない。 「おはよう、じゃないわよ! 全く、起こしに来たと思ったら、あなた、うんうん唸ってるからどこか悪いのかと思って、 必死に呼んでも何も言ってくれないし……そしたらこれよ! もう! 紛らわしいことしないで! 心配するでしょう!!」 朝っぱらから説教とは……。参ったな。両手を腰に当てて、僕を見下ろす霊夢さん、といったところか。 「いやしかし、紛らわしいといってもねぇ、僕には寝てて何が何だかさっぱり……」 「言い訳は無用。ほら、さっさと起きなさい!」 そういうと霊夢さんは、僕の両腕を掴んで、ぐいっと、僕を立ち上がらせた。 急に立ったせいか、僕はふらっと、バランスを崩してしまった。 「おっと」 咄嗟に右手を出すと、何かに触れた。そのおかげで、倒れることはなかった。 「ぅんっ……」 霊夢さんが、詰まらせた声を出す。気付いたら僕の右手は、また霊夢さんの肩を掴んでいたようだ。 そうだとわかったらすぐに手を離して、 「あ、ごめんね」 と、昨日とは打って変わって、落ち着いた口調で謝った。 「いいえ、大丈夫よ……」 霊夢さんも昨日のようには怒らず、優しく答えた。 僕が触れたら落ち着いたのは、気のせいだろうか……。 それにしてもこの人、ただでさえこんな季節なのに、肩なんか出してて寒くないのかな? 「着替えはそこ、枕の右に置いてあるわ。一応男の人も着れるから、安心して使っていいわよ」 「どうも」 「じゃあ、朝ご飯用意するから、出来たら呼びに行くわね」 そう言うと霊夢さんは台所へと移動した。足音が遠ざかっていく。 僕は枕の周辺を探り、綺麗に畳んである布の山を見つけた。 早速、手に取ろうとしたところで、一番上に、薄っぺらい物が乗っているのに気付いた。 僕のアイマスクだった。今更だが、僕は起きた時にアイマスクをつけていなかったみたいだ。 でも、何故だ? 今まで、寝相のせいでアイマスクがとれてしまったなんて話はなかったと思うが……。 まあ、どうでもいいか。僕はアイマスクを掛け直し、着替えを始めた。 用意してくれた服は、肌ざわりは悪くなかった。サイズも丁度いいし、動きやすい。 けれどこの服、どんな色してるんだろう? 霊夢さんは「男も着れる」って言ってたけど、やっぱり心配だなぁ……。 「入っていい?」 霊夢さんが戻ってきた。 「ああ、もういいよ」 障子が開く、霊夢さんがこっちに歩み寄って、ふむふむといった声を出した。 「なかなか悪くないわね。サイズもぴったりで安心したし」 「そ、そうかなぁ? ……あの、ところでこの服、何色なの?」 「ん? それはあえて言わない事にする」 何だその、余計に疑問を増やすような言い方は……。ピンクとかだったらどうしよう、と変な事を考えてしまった。 食事の場所へ向かうため、霊夢さんと手をつなぐ。 「冷たぁっ。前から思ってたけど、まるで亡霊ね。あなたの手」 「あ、よく言われるよ。冷え性なんでね」 僕の手が冷え性という事もあるだろうけれど、霊夢さんの手は暖かかった。人と手をつなぐ事はよくあったけれど、 霊夢さんの手は特にそうだった気がする。理由はわからないけど。 促されて、客間のちゃぶ台に腰を下ろす。座った瞬間、焼き魚の匂いが鼻を衝いた。まさに、日本の朝ご飯、といったところか。 「御飯茶碗は目の前。その右に味噌汁。魚は中央にあります」 霊夢さんが丁寧に説明してくれたが、そのくらいわかってるよ、と返した。第一、御飯の右隣は絶対味噌汁だろうが……。 箸を取ったところで、朝の食事が始まった。 一応、魚はどこの物なのかを聞いてみたら、「幻想郷に海はない」と言われて驚いた。では川魚か、と聞いてみると、 「それもわからない」と言われたので、この魚は本当に食用なのか、少々不安になった……。 とりあえず、中央の魚に手を伸ばすと、箸から固い感触が伝わった。焼き魚にはお決まりの骨だ。 普段僕が魚を食べる時は、母さんに一度崩してもらってから食べる。でも、霊夢さんにそんな手間をかけさせたくないからなぁ……。 僕が箸で魚をぐりぐりやっていると、予想通り声を掛けてきた。 「あ、食べづらかったかしら?」 あまり心配させたくなかったが、ぐりぐりやってても仕方がないので、とりあえず、普段は崩してああする、と教えてあげた。 「もう、しょうがないわねぇ……」 そういうと、霊夢さんの箸が、魚の上で動いた。よかった、これで食べられる。と思ったが、霊夢さんの行動は、僕の予想と少しずれた。 「ほら、口開けなさい」 「……へ?」 「あーん、てしろっていうの。わかる?」 説明不足だったかな……。何もそこまでしなくてもいいのに。 断っても聞かなかったので、僕は仕方なく口を開けて、魚を霊夢さんの箸から貰った。食べてみても、何の魚かはわからなかった。 「美味しい?」 少し怖い口調だったので、頷くしかなかった。別に不味くはなかったけど。 「よかった。ちょっと生焼けだったかなぁって思ってたのよねぇ」 気持ちの転換が激しい人だなぁ……と、改めて思った。 食事を終えて、霊夢さんがこんな事を提案した。 「少し、散歩でもしてみない?」 確かに僕は幻想郷に来て、博麗神社から一歩も出なかった。いや、「出られなかった」の方が正しいか。 霊夢さん曰く、神社の周りを少し歩いて、外の空気を吸うのも悪くないだろう、とのことだ。 「でも、神社の外は妖怪が居るんじゃ……」 「あら、私が巫女だという事を忘れたのかしら?」 「どういうこと?」 「妖怪退治は巫女の仕事なのよ。それに、こんな早い時間に妖怪が出るなんてことはあまりないわ。あまりね」 よくわからないが、仮に妖怪が出たとしても、霊夢さんが追い払ってくれるそうだ。ホントに何者なんだ? この人……。 「うーん、でも、やっぱりなぁ……」 「あー? 私を信じきれないって言うの!」 「うい、いえ、そんな訳じゃないです!」 まあ、これだけ強気なら心配も要らないか……。霊夢さんはふふっと笑うと、 「それじゃ、行きましょ」 と言って立ち上がった。僕も立ち上がって、一緒に外に出る。 ふと、僕が幻想郷入りしたときに、いつも日常生活で使っている盲目者専用の「杖」を持っていなかった事を思い出した。 通りで動けないと思ったら……。いつも肌身離さず持っているので、手放した実感が湧かなかったのだろうか。 境内から出る際にその辺の木の枝でも拾おうと思ったけど、たまには一日中人に甘えるのも悪くないかなぁと思って、 僕は霊夢さんの手についていくことにした。 靴を履きなおし、相手の手を握る。霊夢さんも、ぎゅっと、しかし優しく、僕の手を握り返した。 長いのか短いのかわからないけど、僕たち二人の散歩が始まった。 それと、言い忘れていたが、僕はもう霊夢さんに敬語を使わなくなった。 また、「堅苦しい」だとかなんだとか言われたくないんでね。 ──────── 「失明した○○ 第二日~後編~」 やはり、外は凍えるくらい寒かった。思わず身震いしてしまう程、顔に身体に、冷気がぶつかってくる。 ただ手は、右手だけは暖かかったが。 「ねえ、この服ちょっと、薄すぎないかなぁ?」 あまりにも服の隙間から冷たい風が通るので、霊夢さんに聞いてみた。 「んー? 誰がどう見てもれっきとした冬服よ。寒い?」 「うん……少しね」 幻想郷の気候というのは、一体どうなっているのだろうか。 場所が日本と同じだったとしても、僕の住む地域と比較すると結構な温度差だ。 平野にしては寒すぎるし、高大な山地にしては、そこまで空気が薄いとも言えない。 そういえば昨日霊夢さんは、「幻想郷は外界とは隔離されている」と話していた。 つまり、外界の技術はあまり取り入れられていない。ということは、開発がある時期を境にストップしている……? だとしたら、周りの環境は自然だらけ。こんなに寒いのも頷ける。 だけど、時々外界から色んな物が流れてくると聞くし……。 ひょっとして、幻想郷と外界を行き来できる人物がいるのだろうか? 「何ぼーっとしてんのよ」 霊夢さんに頬をツンと小突かれた。少し、考えすぎだったかな。 足の感覚からして、道はコンクリートではない。やはり、技術の発展は見込まれていないようだ。 でも、それはそれで歩く者には優しいのだろうと思う。 ビル風に吹かれ、アスファルトの照り返しを絶え間なく受け続ける都会なんかよりずっとマシだ。 「おーぃ、霊夢ー」 突然後ろから、いや正確には上の方からこちらを呼ぶ声が聞こえた。女の声のようだが、少し低めで、男に近い声でもあった。 霊夢さんの手が止まったので、僕も慌てて足を止める。急に止まったので、危うく転びそうになった。 「あら、魔理沙」 ズササーッという土の擦れる音。魔理沙と呼ばれた人は、霊夢さんの隣に着地したようだ。 ……着地した? 普通、人間って空飛べたっけ? 「いやぁ、これで神社に行く手間が省けたぜ」 「そんなに距離は変わってないじゃない」 「ふん、魔法使いにとっては少し移動距離が違うだけで、労力にかなり違いが出るんだぜ。 ま、巫女のお前にはわからないだろうけどな」 「はいはい、所詮私にはわかりませんよーだ」 どうやらこの二人、友達らしい。会話の弾み具合からして、かなり付き合いが長そうだ。 それにしても、この魔理沙という人、「魔法使い」って言ったけど、一体どういう事だ? 幻想郷には魔法使いが存在する……? 「ところで、お隣の変な眼鏡をした奴は誰だぁ?」 眼鏡? アイマスクだよ……。どこをどう見れば眼鏡に見えるんだ? 「あ、紹介するわ。昨日から幻想郷(ここ)に来た○○君よ。ほら、挨拶」 繋がれている手が右に引っ張られて、僕は強制的に右を向かされた。これじゃまるで操り人形だ。 「どうも、初めまして……」 「おう! 私は魔理沙。霧雨 魔理沙だぜ。こう見えても、結構普通な魔法使いだ」 どう見ればいいのやら……。女の癖に「だぜ」を付けるなんて、独特な喋り方をする人だな。 まだ信用し難いけれど、さっきの声の方向といい、着地音といい、どうやらこの人は「魔法使い」という種族を持っているようだ。 だとしたら、空を飛ぶ方法は……魔法使いといったら箒、かな。いやその他に何があるかは知らないけれど。 「この人はね、目が見えないの。失明してるのよ」 「あー? 失明だぁ? そのヘンテコ眼鏡してるんだから見える訳がないだろうが。ジョークにも程があるぜ」 だから眼鏡じゃないって。それに霊夢さんの方ももうちょっと詳しく説明をだな……。 仕方なく、僕は魔理沙さんに過去の事を昨日と同じように打ち明けた。同じことを何度も人に説明するのは面倒なんだけど……。 「なるほど。つまり、『セルフ鳥目』だな。八目鰻いらずってことだぜ。よかったな。悪い意味で」 魔理沙さんは楽しそうに話しているが、こっちの気持ちは複雑だ。 僕の機嫌を取ろうとしているんだろうけど、むしろ逆効果なのである。 ちょっとこの人とは相性が合わないだろうと暫定する。……初対面だからまだわからないが。 「でも、見えないんだったら別に眼鏡することないよな。何か理由があるのか?」 「えーと、この人はね、目に光を浴びると妖怪になっちゃうの。だから、そうならないための目隠しなのよ」 おいおい待ってくれ。僕がいつそんな狼男みたいなやつになったんだよ……。変な冗談はごめんだぞ霊夢さん。 ふと、繋いでる手が動いて、僕の太ももを軽く叩いた。「ジョークだ」という合図だろうか。 多分、僕がかなり不機嫌そうな顔をしていたのを見て、霊夢さんが察してくれたのかもしれない。 とりあえず、僕は小さく頷いておいた。ついでに表情も戻しておく。 「へぇ、そりゃ凄いな。そんな危険なやつが幻想郷に来るとは、ここも人気になったもんだ」 「冗談よ」 「知ってるぜ」 相手もわかっていた。そんな事だろうとは思っていたけれど。 ということは、さっきの眼鏡がなんだって話も、わかってて言ってたのかな? 「それで、うちの神社に今日は何の用なのかしら?」 「そんなもの決まってるだろ。私が博麗神社に行く理由はただ一つ」 「暇つぶし」 「正解だぜ。よく当てたな」 「どこぞの難題よりも簡単よ」 二人の間で会話のキャッチボールが繰り広げられていく。のんびりしているようで、それなりに楽しそうだった。 対して僕の方はというと、黙る一方である。二人が嫌なんじゃない。話に入っていけないのだ。 思えば、学校生活での僕も、今の状況とまるで変わらなかった。 4,5人いた僕の「友達」とはいえない友達と一緒に会話をしていても、他の人たちだけでどんどん話を進めていってしまう。 僕以外の人たちは、ちゃんとした話題を持っているのだ。 ……そう、視覚があるから。この世界の、色々な情報を取り入れることが出来るから。 仕方なく僕は、最初は和に入っていても、すぐにその場から引き下がる。呼び止められる声も無視して、そそくさと立ち去る。 自分から逃げたわけじゃない。相手が僕を避けているんだ。 僕が、僕自身が、失明していることを理由に誰ともふれあおうとしてないわけでは、絶対に、ないんだ……。 ──結局、全て「言い訳」……。僕による他人との交流は、「逃げ」と「言い訳」で構成されている。 周りが僕を嫌ってたわけじゃなかった。僕が周りを嫌っていたんだと、こんな時になって、やっと気付いた。 「……○○君?」 「おーい、どうした?」 二人の声で、ハッと顔を上げた。目頭が熱くなっている。 アイマスクのおかげで、二人にはわからなかったが、僕の目は微かに潤んでいた。 また変なことを思い出してしまったようだ。どうも僕は、回想の世界に取り込まれやすい。 今更だが、霊夢さんは僕のことを「○○さん」から「○○君」と呼ぶようになっていた。本当に今更ではあるが。 「あっ、ごめん、ちょっと、考え事しちゃって……」 平静を装って言葉を返す。 「そうだよな。そんな苦しい重荷抱えてるんじゃ、悩みって物は尽きないよな」 「えっ……」 その言葉が、確かに僕の胸を強く打った。 「ま、何かあったら言ってくれよ。年中無休で私が相談に乗るぜ」 「そうそう。全部一人で抱え込まないの」 人は、見かけで価値を判断するような存在ではないことを、この人は、さり気なく教えてくれた。 肩にポンッと、優しくも力強く手が乗る。 「そんなわけで、宜しくな、○○!」 「あ……うん、宜しく」 心の内側から、熱いものがぐんぐんと込み上げてきた。相手に気付かれないよう、必死で堪える。 「固いやつだな。私が怖いのか?」 「いやだって、初対面の人には誰でも固くなるのは仕方ない……」 「あー? 何言ってんだ」 「はい?」 「お前と私はもう、出逢った時点で友達だぜ」 込み上げていた何かが、一気にスピードを増して僕の感情の中を駆け巡った。 それは僕の開かずの目を一瞬で水で満たし、涙となって流れ始める。 僕は急いでアイマスクをはずし、腕で自分が泣くのを隠した。 「ちょ、ちょっと○○君!?」 「おいおい、何だよ? 私は何もしてないぜ!?」 二人がびっくりして詰め寄る。 僕は、折角霊夢さんが用意してくれた服の左袖を涙で濡らしながら、ひくひくとしゃくり上げた。 自分の泣き顔は、何があろうと誰にも見られたくはなかった。 「失明してるのに涙を流すなんて、変わったやつだな」 「大丈夫? 苦しい? どこか痛いの?」 霊夢さんが、僕に向かって必死に問いかける。 「……僕は……人と、人とふれあおうと……しな、かっ……」 「えっ、な、ホントにどうしちゃったの急に? 何言ってるのよ?」 「とりあえず落ち着いてくれ。落ち着いて、話を聞かせてくれないか?」 博麗神社から、少し離れた小道のど真ん中、泣き佇む一人の少年と、それを宥める二人の少女。 あまりにも不自然すぎるその光景も、僕の顔を覗き込む二人の心配そうな顔も、僕が目にすることはなかった。 僕たち三人は一旦博麗神社に戻り、客間に円を描いて座った。 「はい、お茶」 「頂くぜ」 霊夢さんが湯呑みを置いた音を境に、辺りがしんと静まった。微かに聞こえるのは、外から吹き込む風の音か。 初めに話を切り出したのは、魔理沙さんだ。 「それで……一体どうしたというんだ、○○?」 「『人とふれあおうとしなかった』って、どういうことなの?」 霊夢さんも重ねて質問する。 「昔何かあったのね?」 ゆっくりと頷く。 「大した事ではありません、ただ、あの時──」 僕は、さっきの回想について、途中お茶で喉を潤しながら全て語った。 二人なら、この二人なら、僕の気持ちをわかってくれると思ったから。 「──そうか。なんだか、悪かったな、お前の胸に響くようなこと言っちゃって……」 魔理沙さんが俯き加減で(声が少し篭ったのでそんな気がした)僕に謝った。 「いや、そんなことはないよ。何だか、逆にすっきりしたような気もするし」 確かに涙を流した事で、ほんの少し気持ちが軽く感じられるようになった。 あの涙は、魔理沙さんの言葉に対する感動と、自分の惨めさに対する憎しみだったのだ。 「しかし、ちょっと涙脆すぎるぜ。いきなり泣かれちゃ、こっちも白旗だ」 「はい、すみません……」 「本当、私達が何か悪いことしたかと思ったわ。泣いててもわからないから、 急に何か辛いこと思い出したら、ちゃんと私達に言ってね」 「ごめんなさい……」 「謝る事はないぜ」 「そうよ。別に怒ってる訳じゃないし」 「ま、そんなことは早く忘れて、だな」 「はい。ありがとう」 少しずつ、元気を取り戻しつつあった。 その後の僕らは、フリートークで盛り上がった。 魔理沙さんが「魔法の森」という所で見つけた珍種のキノコを霊夢さんに無理矢理食べさせようとしたり、 (彼女自信効能を知らないらしく、「多分」死にはしないとのことだ) 妖怪の種類や(前から話に出ていた夜雀の事についてもしっかり聞かせてもらった)、 この世の戦いの掟「スペルカードルール」の話など、幻想郷に関する様々な知識をを教えてもらった。 スペルカードルールの開発に霊夢さんも加わっていたという事を聞いて、僕はかなり驚いた。 「まあこいつは、幻想郷を丸ごと守っているようなもんだしな」 話によると、幻想郷を守る博麗大結界は、霊夢さんの下で管理されているとのことだ。 「そんなに偉いの!?」 思わず叫んでしまった。 「何よその言い方!! 悪かったわね偉そうに見えなくて!!」 「まあまあ、そんなムキになるなって」 この世界はまだまだ奥が深い。一度詳しく調べてみたいと僕は思った。 「おっと、もうこんな時間だ」 話に区切りがついたところで、魔理沙さんが口を開いた。 「え? 何時?」 「16時。もうすぐ日が落ちるから、私はこれで失礼するぜ」 僕は、外まで送ってあげたいと霊夢さんに言って、一緒に社殿から出た。 「何もそこまでしなくていいぜ。私は珍客じゃないからな」 「毎日のように暇つぶしに来るくらいだから、充分珍客よ」 「どちらかというと常連客だぜ」 「ちゃんと日が落ちる前に帰りなさいよ」 「心配するな。私はそれなりに強いからな」 「自分で言う事かしら?」 「何なら今度撃ち合うか?」 「遠慮しとく」 「だろうな」 「気をつけて。魔理沙さん」 「おう! 何だか今日は盛大に見送られてるようだが、どうせ明日には会うと思うぜ」 カサカサと乾いた音が鳴る。魔理沙さんが箒に跨ったみたいだ。 「ところで、お前さん達さっきからずっと手繋いでて、何だかいい雰囲気出してるじゃないか。お似合いだぜ」 「「なっ……!」」 繋いだ右手が僅かに動く。 同時にニヤニヤしている魔理沙さんの顔が脳内で作成された。あくまで自分の想像である。 「べ、別にそういうわけじゃないわよ! ただ、○○君は誰かがいないと行動できないってだけで──」 「はいはい。言い訳なんかいらないぜ。まったく霊夢も、素直じゃないよなぁ……」 「違うってば!!」 顔を真っ赤にして反論する霊夢さんの顔も、不思議と簡単にイメージすることが出来た。やはりあくまで自分の想像ではある。 「それじゃ、またな! それと○○、私に『さん』は付けなくていいからな」 ブワッと、風が舞う。魔法使いの箒は勢いを持って飛び立っていった。 「もう、言いたいこと全部吐き捨てて帰るなんて、なんて卑怯なのかしら!」 霊夢さんは色々文句を吐いていたけれど、僕の手は離そうとしなかった。 僕がどこかへ行っちゃわないようにする為だと思うけど……。 ……たぶん。 再び、辺りが静かになった。日が徐々に落ちるこの時間は、夜の寒さを宣言するかのように、一気に冷え込み始める。 僕と霊夢さんは暫くの間、ずっとここで立っていた。 魔理沙さん改め魔理沙が帰った後の余韻を味わうかのように、黙って立ち竦んでいた。 風は朝よりも強く、動かずとも乾いた冷気が顔にかかってくる。 ふと、彼女はふぅとため息をつくと、空を仰いで(腕の方が少し動いた気がしたから上を向いたんだと解釈しただけである)、 「綺麗な夕焼けね」 と、独り言のような言い方で、僕に振った。いや、本当に独り言なのかもしれないけど。 「え……うん、そうだね」 見えないけど、一応僕は返した。 言ってから霊夢さんは、はっと息を吸いこんだ。おそらく僕には見えない情景を、口に出してしまったことに後悔したのだろう。 「ごめんなさい……」 すぐに謝られた。 「ううん、いいんだ。僕には想像力がある。僕が想う景色と、君が見ている景色は、ほとんど一緒なんじゃないかな」 「そ、そうかしら」 僕は泣いてから今まで、アイマスクははずしたままにした。今日になってやっと、身に着けているのに違和感を感じたのだ。 それに、また他の人間が来たときに「眼鏡」だとか何だとか、言われたくなかったのも理由の一つである。 「……ねえ、○○君」 「はい?」 「もし、あなたの視力が元に戻ったら、一番最初に何を見たいと思う?」 「うーん、そうだなぁ。視力が戻った瞬間に目にしたものが最初に見たものになるから、よくわからないや」 「ふーん……」 「まあ多分、今の感じなら目の前にはあなたがいるんだと思いますよ」 「……」 「霊夢さん?」 突如、右手にある感覚がなくなった。 霊夢さんが手を離したのだ。つられて自分の手も前に動いたので、霊夢さんが前に歩いていくということがわかる。 「あれ、ちょっ、霊夢さん! どこ行くの──」 勘を頼りに、前にいる霊夢さんを追いかける。 かなり強い風が、僕の身体に吹きつけた──。 そして、2,3歩もしないうちに、霊夢さんの腕が、僕の身体を優しく抱きしめた。 「っ……!!!」 腕は僕の二の腕を過ぎ、背中で交差して戻る。相手の髪が、僕の耳を掠めて、顔が左肩に乗った。 「早く、治るといいわね」 息がかかる位、耳元で囁かれた。 今起きている出来事が、頭に入って来ない。声にならない声を漏らして、僕はただ唖然とするしかなかった。 時間が止まっている。先程まで吹いていた風も、しだいに増してきている冷気も感じる事ができない。 ただ温もりは、彼女の腕に宿る温もりだけは、強く、正確に感じることが出来た。 暖かい──。 数十秒経っただろうか。ようやく彼女の腕は少しずつ離れていく。 それと同時に強い風と冷気の感覚、次いで自分の意識も戻りつつあった。 まだ今起こったことが把握できていなかった。女の人に抱かれるなんて、幼い頃に母さんにあやされる時以来だ。 思い返すと、頭の中がごちゃごちゃし始めて、望んでもいないのに赤面してしまう。僕は慌てて俯く。 「あら、どうしたの? 顔真っ赤じゃない」 霊夢さんは、からかうように僕に問うた。 「あ、あ……」 返事に困る僕。 「な、ななな、今、な、え、なんで!?」 完全に混乱している。 「ん? そんなの、決まってるじゃない」 決まってるって、当たり前のように言わないで欲しい。色んな意味で心臓に悪い訳だし。 「あなたに、私の体格はこんなんですよーって教えるためよ」 「……はい?」 「こう見えても私、結構可愛い方なのよ。……胸はないけど」 それは自分で言う事ではない! 「こうでもしないとあなた、わかんないでしょ? 人の体つきなんて」 「いやいやいや! わざわざここまでしなくていいですから! 大胆すぎる!!」 「慌てすぎよ。少しは落ち着きなさい」 慌てずにいられる訳がない。異性の人間にいきなり抱かれたら誰でもパニックに陥るに決まってる。 本当にこの人、気遣ってるのか単純なのか、よくわからない……。性格が掴めないのだ。 「さ、風邪ひかないうちに戻りましょ」 そういうと霊夢さんはパッと、僕の手を握った。 今の霊夢さん、何だかか楽しそうだ……。 「あ、あぁ、はい……」 僕は生返事で、彼女の手に引っ張られていった。 「そういえば」 「ん?」 「また敬語使ってるわね」 彼女に不機嫌そうな口調で言われてしまうと、まるで歯が立たない。 「ごめんなさい」 「ほら、また」 「うぅ……」 二日目の晩餐が訪れた。昨日と同じような和食のメニュー。 それでも、毎日食べても飽きないという点が、和食特有の性質と言えよう。 「ごめんね、今日も泊めて貰っちゃって……」 僕は味噌汁を啜りながら、霊夢さんに深々と謝罪した。 「あら、全然、気にしなくていいわ。あなた一人で里に行かせるのは心配だし、だからといってここを離れるわけにはいかないの」 「そうかなぁ……」 しかし、いつまでもここに居座るのは流石に迷惑だ。食料等の事情もあるし、こちらは男子、自分も相手も気まずいはず。 かと言って、僕が神社を飛び出したところで、何の意味もない。飢えるか喰われるかの二択であろう。 やっぱり、外の世界に帰して貰おうか……。 初めのうちは、ここの環境も良い上に、幻想郷という、謎の多い世界に流れ着いたことに感動し、僕は外の世界に戻るのを拒んだ。 けれど次第に、先の様なことを考えるようになると、僕の気持ちは少しずつ外の方に向いていった。 本来僕が「帰りたい」と言えば、彼女も素直に帰したくれたかもしれない。 (先程の魔理沙の話で、霊夢さんの手によって現世に戻る事ができるということを聞いた。 それまで僕も知らなかったし、彼女も何も言わなかった) 兎にも角にも、まずは相談するべきだよな……。 僕は一度箸を置くと(危うく湯呑みの上に置きそうだったので、真剣な空気が台無しになりかけた)、口を開いた。 「霊夢さん」 「あん?」 一つ間を空ける。彼女には申し訳ないが、ここからは敬語で話させてもらう。 「僕は、本当にずっと、幻想郷(ここ)にいていいんでしょうか……」 「……えっ?」 いきなりの質問に、戸惑う声を発する彼女。 僕は、前から思っていたことを彼女に話した。彼女の方も、途中で口を挿まず黙って聞いてくれた。 「──だから僕は、もう外の世界に戻るべきでは、と思ったんです」 「……」 「どう、思いますか?」 チャッという軽い音。相手の箸も置かれたのだ。 20秒位の沈黙のあと、霊夢さんの口が静かに開いた。 「あなたは、ここに居るのが、嫌なの?」 意外な発言だった。 無論、そんな事は全くないのだ。ただ、迷惑だけは掛けたくないのだと、僕は言った。 「そんな、迷惑だなんて……」 仮に、相手が「帰って欲しくない」と言うのならば話は別だが、相手は女性。そう何日も異性を泊める訳がない。 まして、一日泊めてくれたこと自体奇跡なのだ。こうなる前に、あっさりと帰してもらうべきだったか。 「○○君、私はね……」 「はい」 僕と同じぐらいの間を空けて、彼女は切り出した。 「あなたには、帰って貰いたくないわ」 「っ!!!」 驚いた表情を見せた彼。私はそのまま、自分の思いを続ける。 「確かに、あなたがここに居るのは気まずいかもしれない。私だってそうよ。男の人泊めるなんて、初めてだもん。 でもね、あなたがこの前、外の世界(あっち)の話をしてる時、凄く悲しそうだった……。こっちも見てるのが辛かった」 外がどんな世界なのかは詳しくはわからないが、彼に適した環境ではないことは、彼の表情からして明らかなのだ。 仮に失明者専用の開発が進んでいたとしても、彼はそれを拒否する。 自分の身に、「失明者」という、周りから特別扱いされる様な看板を立てられたくないのだろう。 「戻るのは自由よ。あなたが望むならいつでも帰してあげる。でも、あなたはあっちでも楽しく生活できると言い切れるのかしら?」 「それは……」 「あっちのことを忘れている時のあなたは凄く楽しそう。魔理沙と話してたって、ずーっとニコニコしてた。 どうせ帰ったって、また一人ぼっちで暮らすか、周りから苛められる生活の繰り返しなんじゃないの?」 言ってから、私は後悔した。彼の心の穴を掘り下げるような事は口にしてはならないのだ。 間に合わず、彼は嫌悪の表情で反論する。 「それは違う! さっきも言ったはず、悪いのは僕だ! 友達を作らなかったのも僕! 人を避けたのも僕! 帰ったらじきに和解するつもりだし、また新しく──」 バンッ! 私は堪忍袋の緒が切れて、ちゃぶ台を両手で思い切り叩いた。 ちゃぶ台の上の食器が、ガチャッと騒がしい音を立てる。お椀が倒れそうになった。 「ムキにならないで!!」 突然怒った私にびっくりして、彼もたじろぐ。 私は彼の後ろ向きな意向が大嫌いだった。反省した事をバネに立ち直るなんて、容易い事ではないのだ。 「じゃああなたは、それを必ず実行に移せるって言い切れるの!? 人との関係がそんな簡単に取り戻せるとでも思ってるのかしら!? どうなのよ! 言ってみなさ──」 はっと、そこで正気に戻った。言い争いなど無意味だとわかっていたのに、どうして私は……。 「……ごめんなさい、ムキになってるのは、私の方だったわね……馬鹿みたい」 俯いて、謝った。彼は黙ったままだった。 「私、嫌なのよ。あなたの悲しい顔見てると、こっちまで悲しくなってきて、胸が苦しくなるのよ……。 あっちに戻るのを嫌がっているのに、わざわざ自分から行く必要は無いと思う。 確かに、私の生活の事情はあるかもしれない。っけど、けどね、あなたの、っあなたの途方に暮れた背中を、見送る事に比べたら、 ずっと……っずっとマシよ……」 何故だろうか。目から勝手に涙が零れ出し、頬を伝って落ちていく。歯を喰いしばっても、それは止まろうとはしなかった。 「霊夢さん……」 「私は、幻想郷(ここ)の管理者でもあるから、あまり他人に特別な振る舞いはできないけど、 あなたには、そうせざるを得ないかもしれないわね」 私は指で涙を拭うと、顔を上げて、彼の開かずの目を見つめる。 あのとき誓ったから。守ってあげると、誓ったから── 「……どういうこと?」 「私が、治るまであなたの面倒を見るわ」 「ええぇっ!!?」 その時の僕には、まさに「びっくり顔」という言葉がぴったりだったであろう。文字通り、僕はかなりびっくりしたのであった。 「そ、それは即ち、下手すりゃ生涯ずっと僕の世話をすると……?」 「まあ、そういうことになるわね」 霊夢さんは、泣いた時の作用のせいか鼻声ではあったが、いつもの余裕そうな口調に戻っていた。 「いやしかし、それは流石にまずいでしょう……僕は幼子じゃあるまいし」 当然僕は反対を選んだ。だったら、神社を空けてでも里に連れてってもらって宿を探した方がずっといいと思うのに。 「……イヤ?」 出た。これを言われると断ろうにも断れなくなるという恐ろしい魔の言葉「イヤ?」。 もし視力があったら、上目づかいで強請る彼女を見れたかもしれ……って何を考えているんだ僕はぁっ!! どうも幻想郷に来てから思考回路が狂い始めている。これが狂気というやつか? 「イ、イヤではないけど、本当にいいのかい? 結界の管理や、家事などの妨げになるのは承知の上なんだろうね?」 「しょうがないわね」 「買出しのときは?」 「あなたを連れて行くか、誰かに見てもらうか」 「万が一、異変が起きたら?」 「それも、誰かが見てくれると思う」 参った。この人本気で考えてる。……冗談でしょ? このままじゃ神社の住民になっちゃうよ。 それに、こっちで暮らすってことは、母さん達が心配するんじゃないだろうか。 と一瞬考えたものの、母さんなんかは「どうせ家出だろう」とか思い込んで、気にしない可能性もあるかな……とも思った。 「ま、それは後で考えましょ。とにかく」 ちゃぶ台の上の右手に、暖かく柔らかい感触が乗った。右手は彼女の両手に持ち上げられ、片手と両手の握手となった。 「改めて、これからも宜しくね、○○君!」 表情は見ることは出来ないが、その口調から、ニッコリと笑う彼女の顔を感じ取る事はできた。 「……はい」 僕も左手で彼女の手を取る。 魔理沙の時と同じ台詞だったが、もう泣きたくなるような気持ちは込み上げてこなかった。怒られたくないし、心配されたくもない。 いつも思うけど本当、暖かい手だよなぁ……。 「何だか、強引だけど」 小言で言うと、 「何か言った?」 すぐに気付かれた。 「いえ、別に……」 彼女は手を離すと、「あら、ご飯冷めちゃったわね」とまた独り言なのかよくわからないことを漏らした。 そして僕は、一日でも早く視力を回復させなければ、と心の中で強く思った。 彼女にできるだけ、世話を焼かせるようなことはさせたくないから──。 夕食が終わり、僕達はお茶で口を直す。僕は霊夢さんから更に幻想郷に関する知識を詰め込み、 ここに関するほとんどのことを知った。 彼女が解決してきた異変、それに関わる多彩な人物、場所。名前は全ては覚えきれなかったが。 「あ、お風呂沸いてるから、先入っていいわよ」 「では、お言葉に甘えて」 僕は、残りをお茶を飲み干す。お茶の味はいつもぶれず、美味しい。彼女は淹れるのが上手なんだな。好物なだけある。 「そういえば昨日、お風呂、平気だった?」 「んー? (何が?)」 僕はお茶を口に含んで聞き返す。 霊夢さんはもじもじしながら、とんでもない事を口にした。 「その……見えないから、一緒に、一緒に入ってあげた方がよかったかなーとか、思ったんだけど……」 「がはっ!!!」 咽た。耳にする前に呑み込んでおかなければ、絶対に吐き出すところだった。変な場所にお茶が入ってしまって、咳き込む。 「ちょっと、大丈夫!?」 彼女は傍に来て、僕の背中をさする。 「う、げほっ……あ、あのねぇっ!!」 流石の僕でもこれは叫びたい想いだ。 「あん?」 「あん? じゃないよ! 普通に考えてぇっ! 男と女が一緒に風呂に入ると思いますかぁっ!!?」 「まあ、ある時はあるわよねぇ」 「今はどう考えたってないでしょうがぁっ!!」 「……イヤ?」 「そういう問題じゃなぁぁい!!!」 (でも、ちょっとだけならいいかもしれな──) ダン!! 僕はちゃぶ台に倒れ込むように思いっきり頭突きした。 「馬鹿だ、僕は本当に、大馬鹿だ……」 「……変な人ね」 「あなたもね……」 結局僕は霊夢さんに押し切られ、一緒に入浴する事になった。 もう一度言う。一緒に入浴する事になった。 「どうしてこんな事に……」 僕は天を仰ぎ、ため息を吐いてから項垂れた。嬉しいけど、嬉しくない。嬉しくないけど、嬉しい。 「別にいいじゃない。あなたは見えないんだから」 「絶対アイマスクはずさないでよ! 絶対だからね!」 「わかってるわよ。そこまで言わなくても」 僕はさっき、いざ入る直前というところで、自分の方は彼女に身体を見られてしまうのだという事に気付いて、 霊夢さんに僕のアイマスクをかけるようせがんだ。 彼女は「それじゃ一緒に入る意味がないじゃない」と言い放ったが、 僕は「水代が浮くからいいでしょ」だとか、適当な言い訳で乗り切った。 僕は既に身体を洗い終えて湯船に、彼女の方は今身体を洗っているという状況である。 風呂はいい。冬の寒さを和らげるほか、今日溜まった全ての疲れを洗い流す場所だ。 ただ今は、二人いるという事だけがいつもと違った点であり、 空気は一変、一人の時とは別物である。しかも男と女。しかも一人ずつ。 こういう時ばかりは、視力がなくてよかったと思ってしまう。当然だが。 「入るわ」 「はい」 霊夢さんが洗い終わったので、僕は足を引っ込めて、体育座りの形を取る。 ところでこの湯船は、どの位の大きさなのだろうか。 僕の勘が正しければ、二人位ならちゃんと入れるスペースはあるんだろうと思うけど……。 お湯が波を立てる。彼女は僕と向かい合わせに座ると、ふぅ、と疲れを癒すかのように息を漏らした。 彼女の伸ばした足が、僕の足に当たったので、びくっとして僕は更に身を縮ませた。 「そんなに私が怖いのかしら?」 僕はかぶりを振った。 「女の人と風呂に入るなんてしたことないよ……」 身内ならまだしも。 「あなたはしょうがないのよ。その目なんだから」 「昨日は普通に入れたじゃないか」 「まあまあ、いいじゃないの。たまには」 「良くないって……」 突然、膝に彼女の両腕が乗った感覚が伝わった。 更にその上に彼女の顎が乗り、僕の顔を間近で見つめる形となっている。……だろう。 「ひっ!?」 「本当のことを言うと?」 15cmにも満たない距離で彼女に問いかけられた。彼女のニヤニヤした顔が目に浮かぶ。 (本音を読まれている……) 耳の辺りが急に熱くなったので、反射的に僕は下を向いた。 「やっぱり入ってみたかったんでしょう?」 彼女はふっ、と笑うと顔を引っ込めた。一日目の時と同じだ。……尤も、場所は全くの大違いであるが。 「あなたは、僕と入るのを何故望んだんだい?」 「言ってるでしょ。たまにはいいじゃないって」 恥という物を知らないのか? まさか好んで僕と入りたがる訳じゃないだろうに。 「鈍感……」 「何ですって?」 「何でもありませんっ!」 無事、入浴は終わり(無事?)、いよいよ就寝という時が訪れる。 「申し訳ない、これから何日も服を借りると思うと……」 「別にいいのよ。自分の服と交互に着ていけばいいんだし、結局一着しか貸してる事にならないわけだし」 「絶対に一日でも早く治すから。そのつもりでいてね」 「あら、あなたにしては前向き発言ね」 「有言実行。やる時はやる」 「遠慮しなくていいって言ってるでしょ」 同じ会話の繰り返し。邪魔はしたくないと言う僕と、問題ないと言う彼女。対称的な意見。 結局最後は、彼女の意見が上回ってしまうのだが。 突如、霊夢さんは僕の左肩に手を乗せて、耳元で優しく囁いた。 「無理しないで。時には他人に甘えなさい」 ね? と彼女は一音加える。僕はゆっくりと頷いた。そうするしかなかった。 とにかく今は、向こうの事は忘れよう。のんびりした幻想郷ライフも悪くない。 「それじゃ、おやすみなさい」 「あぁ、おやすみ」 障子がゆっくりと閉じられる。静寂と沈黙が、同時にやってくる。 僕は布団に倒れこんだ。枕に数十秒顔を埋めてから、仰向けに戻った。 昨日と同じく、今日の事を日記の様に振り返る。 まず第一に、もの凄く疲れた。 喜怒哀楽、全ての感情を一日で発散ような気がする。ここまで感情の揺れが激しくなったのは初めてだ。 第二に、魔理沙と出会った事。 霧雨 魔理沙──明るくて、少し男気のある人。からかいもするけれど、それでいて頼もしい。 会話がしやすい魔法使い。そして、友達。 明日も来るって言ってたし、今度はあの人自信について語ってもらおうかなと思う。 そして第三は──。霊夢さんの行動だ。 食事での気遣い、突然抱きつく、入浴、接近……。誰がどう見てもこれは過保護としか言いようがない。 たとえ僕が失明してたとしても、母さんでさえあんなことはしなかった(母さんは何もしな過ぎだが)。 何故そこまでして、僕を守ろうとするのだろう? まさか、僕のことが──。 ……いやいや、それは確実にない。僕みたいな普通過ぎる人間が、人に好かれることなんて、ありえないと言ってよい。 でも霊夢さんて、どんな顔してるんだろう? 体格を教える為に抱きついたって言ってたけど、びっくりしてあの時はそれどころじゃなかった。全く覚えていない。 あれだけやっといて実は結構おばさんでしたーみたいなことになったらショックだよなぁ……。 ってそんな事言ったら彼女に可哀想か。まあ声も肌も若そうだったから、それはないとは思うし。 眠くなってきた。そろそろ夢の中へ入っていくとしよう。身体と精神を布団に預け、眠りの態勢をとる。 しかし気になる。幻想郷の風景云々の前にまず、霊夢さんのことが一番気になる。何なんだ、この感覚……。 ん? これってもしかして僕も、霊夢さんのことが──。 ぼやっとそんな事を考えたが、僕の意識は途中で途絶えた。 冬の夜はまだ、始まったばかりである。 第三日に続く── ──────── 静寂。 即ち無音。 冬の夜は永い。単に夜明けが来るのが遅いだけではなく、中々寝付けることが出来ない、というのも理由の一つ。 たとえどんなに厚い布団を被っていようと、肌にはひりひりと、すり抜けた寒気が襲う。それ故に、眠りは浅いものとなるのだ。 ただそれ以前に、霊夢の心は大きく揺れ動いていた。眠りにつけぬ最大の理由がそれなのである。 無論全ては彼、○○に対する想い──。 私は、知らぬ間に○○の事が好きになってしまった。 一日目から、いやあの時、初めて目にした瞬間から、何か自分の気持ちに変化が表れているのは感付いていた。 私はそれを振り払おうとした。これは何かの間違いだろう。今までこんな感情になった事は一度もなかったはずだ、と。 しかしそれはしだいに、真実となり始めた。嘘なんかじゃない。私は、本当に彼の事が好きになっていたのだ。 その結果、彼にはかなり度の過ぎた行いをしてしまった。 気がつけば異常なほど気を遣っていたり、寄り添ったり、抱き締めたり、挙句の果てには混浴までこなすといった有様だ。 そしてこれらの行為は、全てが自分の意思による物だとは言い切れなかった。 彼に対する欲望が、普段の自分を掻き消し、無意識のうちに身体が実行へと移ってしまうのだ。 逆に自分の方が受身の立場にある場合も、何かが違った。何処かおかしい。 彼が誤って私の肌に触れてしまったときなんかは、特に払い除けようともせず、むしろドキッとした後逆に落ち着きを得る位だ。 (私……どうかしてるかしら) 思い返してみると、彼にはかえって不快な思いをさせていないか不安になる。 私を避けてはいないだろうか。若しくは、正直私の事を嫌いになっているのでは──。 (あぁもう! 一体何だっていうのよ、この気持ちは……) 思考の整理が訊かない自分の頭を抱え込む。そのまま、横向きに寝返りを打つ。 「はぁ……」 深いため息が漏れた。同時に両手も、布団の上にストンと落ちる。 「でもやっぱり……好き、かも……」 霊夢は今宵も、様子を見に行く事にした。彼がちゃんと眠っているかどうか確認しないと、こっちが眠れないからだ。 縁側に出ると、空からしんしんと、白い宝石が夜空を飾っていた。 「雪……」 夜になってから天気が崩れたのだろうか。雪はやむ事を知らず。言わば「本降り」であった。 「こりゃ朝は雪掻きするようかしらね」 障子を開ける。こちらの部屋の方が自分の部屋より幾分か寒い。広めの空間に対して人口が少ないせいだろうか。 今日の○○も、静かな寝息を立ててお休み中だ。寝相は相変わらず乱れず、まさに理想の姿勢、といった感じで眠っていた。 側に寄って座る。当の○○は目隠しを着けておらず、その寝ているのか起きているのかわからない目(というよりも瞼)を 曝け出していた。 (何回見ても、綺麗な顔立ちしてるわねぇ……) この整った形相に自分は虜になってしまったのだろうか。 いや、それだけではないだろう。彼の落ち着いているようで本当は恥ずかしがりや、という 少し変わったようでよくある性格にも惚れているのかもしれない。 「やだもう、私ったら……」 何を考えているのだろう、と顔が赤くなる。 とにかく、ぐっすり眠っているようなので安心した。霊夢はほっと胸を撫で下ろす。 (それにしても……あなたは本当に、私の事をどう思っているの?) 答えるはずもない○○に、一つ想いを寄せる。 すると連鎖するかの様に、二つ三つとそれが募っていく。 どんな夢を見ているだろうか。陰でまだ辛い思いをしていないだろうか──。 遂に、積み重なった想いは、自身の体をも動かし始めた。 「あっ……」 顔が勝手に、彼の方へゆっくりと近づいていく。 (駄目よ、そんな事したら起きちゃうじゃない……) 自分ではそう思っているのに、身体の方がまるで言う事を訊かない。 距離がどんどんと縮まる一方、迫る顔はブレーキを掛けようとしない。掛からないのだ。 あまりの近距離に、霊夢は目を瞑る。 (あぁ、もう駄目……○○君、ごめんね……) 霊夢が今まさに口付けようとした、その時だった。 「ぅ、ん……」 ○○が起きてしまった。彼は頭をもぞもぞと動かし、元の位置に戻す。 瞼が微かに震え、そしてゆっくりと開かれた。 瞬間、霊夢も正気に戻った。顔が、何事も無かったかのようにぴたっと止まる。 「え……?」 その距離、僅か5cm。霊夢の判断が正しければ、今、○○は確かに大きく目を見開いている。 瞼の裏から突如として現れたその黒色の眼球には、自分の姿がはっきりと映し出されていた。 時間が完全に止まった。霊夢は退こうともせず、迫ろうともしない。その零距離の位置で硬直していた。 ○○の方は、寝ぼけた顔でびくともせずに霊夢を見つめている。 暫くして再び、○○の瞼はゆっくりと閉じられた。同時に、静かな寝息が戻ってくる。 霊夢はそっと体を起こす。 「い、今……何で……」 驚きを隠せない。証拠として、身体が震えを上げている。 一体、何が起こったのだろうか。 これまでの理論を全て覆すような事が、たった今為された。 ○○が、失明しているはずの○○が、はっきりと目を開いたのだ。 「どういうこと……?」 自室に戻りながら、霊夢は推理する。雪は勢いを増し、庭にも少しずつ積もり始めていた。 初日、半分も開かなかった彼の目は、たとえ瞼から眼球を覗かせようと、景色を捉えることは不可能だった。 それに対して先程はどうだ。突然の出来事を把握できない霊夢のポカンとした顔を、彼の眼球はしっかりと映したのだ。 ということは、○○の視力は元に戻ったいう事を確定せざるを得ない。 確か○○を診た医者は「時期は不明ではあるが、治る可能性もゼロではない」という判断をした。○○自身が既に語っている。 だとしたら突然としてそれが発揮されるのも頷ける。 (だがいくら何でもタイミングが悪すぎやしないかと、霊夢は悔やんだ) 再び布団に潜る。少し移動しただけなのに、身体がかなり冷えてしまった。余計に眠れない。 しかしその前に、いくつかの矛盾点が生じている。 彼の瞼は「事故の恐怖によって」開かずの門と化したはず。 はずなのに何故開く? 寝ぼけていれば開ける事が出来るとでも言うのか? 事故の恐怖によって……? 「あぁっ!!」 突如、巫女の直感が電気のように走った。勢い余って飛び起きてしまった。 自分の思考が正しければ……。 途中で回復する失明なんて有り得ない。 完全なる失明ではなかったのだ。 事故に対する恐怖は、精神から瞼の筋肉機能を停止させ、 更には視力をも奪い去った。 そして、幻想郷に来た所為で恐怖を取り除かれた事によって、 彼の目は完治した、ということか──? 今日も、夢を見ていた。 僕は昨日の夢の続きを見ているらしい。目に映る風景から今の体勢まで全く同じ。 まるで、同じラベルを貼ったビデオテープを何度も再生しているかのようだ。 すーっという障子の開く音。今日も女の人が入って来て、僕の側に座る。 今日も出てきて何だか不気味だけど、別に怖くは無かった。 大概こう、夢に出てくる人っていうのは、自分が強く想いを馳せている人だとか、 逆にその人の方が自分に想いを寄せているケースがあるのだと、父さんが語っていたと思った。 まあ、やはりそれも定かではないのだが。 いずれにせよ、この人から悪意という物は少しも感じられない。暖かい安堵感があった。 「……君」 女の人が呟いた。 何処かで、聞いた事のある声だった。 「……○○君」 もう一度、今度ははっきりと僕の名を呼んだ。 この声、間違いない。彼女の物だ。 「……霊夢さん?」 横目で見ようとするが、僅かに視界に入らない。 「霊夢さんっ!?」 意を決して、思いっ切り身体を右に捻る。 夢だろうが何だろうが構わない。ただ、彼女の顔を見てみたい。その一心で──。 しかし、「夢」という題名の付いたビデオは、そこで黒くフェードアウトする。 ドンッ! という鈍い音がした。同時に鼻にツーンと来るような衝撃が走る。 布団から飛び出し、硬い畳に顔を叩きつけたらしい。 「痛ぁ……」 顔を上げる。鼻の周辺が熱を持っている。出血していないだろうか。 それにしても眩しい。朝が来たみたいだ。昨日と同じ鳥のさえずりが、遠くから聞こえてくる。 ……眩しい? はっと、僕はそのまま、天井を突き破るのではないかと思うほどの勢いで飛び起きた。 一度宙に浮いてから、胡坐の体勢になった。 手をゆっくりと前に突き出す。袖からのびる手の甲、更にその先を行く十本の指。 その両手が指す方向には、抹茶色に塗られた壁、少し左に、部屋を、神社を支える黄土色の柱。 右を見る。白地でセンターに黒いラインの入った引き違いの戸。襖だ。 僕は今、和室の真ん中で座っているという事を、確認する事ができている。 「見える……!?」 すーっと、聞き慣れた障子の開く音。それと共に耳を通る、聞き慣れた声。 「おはよ……」 霊夢は、障子に掛けている手を止めた。 ○○が、背を向けて座り込んでいた。独りでに起きてしまったのだろうか。 上から吊るされているような位ぴんとした背中には、微かながらも驚きを感じさせる。 「……○○君?」 小さく、しかしはっきりと、彼の名前を呼ぶ。彼は俯き、こちらに顔を向けようともしなかった。 「どうしたの?」 その時、彼の右手がシュパッと伸び、畳んである服に乗った目隠しを鷲掴みにして、目にも留まらぬ速さで身に着けた。 彼はようやく振り向いて、 「何でも無いです。ともかく、朝御飯にしましょう」 慌しい口調で応答した。 「え、えぇ、そうね……。今用意するわ」 霊夢はその場から立ち去って、台所へと向かった。 今の焦った素振りから、霊夢は確信した。○○の視力は完治している。 恐らく目が覚めた瞬間、眩しさを感じられたことに吃驚したのだろう。数年間光を目にしていないのだから、驚くのは当然だ。 では何故、目隠しを手に取ったのか。突然の視力回復に対して、新たな恐怖でも覚えたのだろうか? 自分の顔を見られるのが恥ずかしい? それだったら今までに目隠しをはずす理由が無いか……。 (私が怖いのかな……) やっぱり自分を避けているのではないかと、不安感が過ぎる。 (でもそうだったら、今まであんなに素直にしないわよねぇ……) 足音が完全に消えたのを確認してから、僕はアイマスクをゆっくりとはずした。 何度目をこすろうと変わらない。僕の視力は、昨晩の間で完全に回復したようだ。 未だに信じられない。どうしてこんなに唐突だったのかはよくわからないが、とりあえず今は驚きと喜びで一杯一杯である。 霊夢さんが入ってきた時には、すぐさま報告しようかと考えたが、僕はそうせずいつものように平静を装った。 ここで治った事がわかってしまえば、僕がここにいる意味が無くなる。博麗神社に、幻想郷に居座る意味が無くなるのだ。 正直、僕はまだ彼女と一緒にいたかった。母さんなんかよりずっと親切だし、何よりも環境がいい。 できることならば、ずっと──。 ……って、何を言ってるんだか。前言撤回。「もう少し長く」に修正する。 「準備できたわよー」 障子越しに霊夢さんが呼びかけた。僕は急いで服のボタンを締め(この時は自分の服である)、アイマスクを再び掛けた。 「今行くよ」 無言の朝食だった。僕も彼女も、噛む音すらも立てずに黙々とご飯を食べていた。 具合でも悪いのだろうか。いつもなら、何か話を持ちかけてくるのに……。 「どうかしたの?」 僕は昨日の残りの煮物を口に運びながら、何事も無いように問いかけた。 「ううん……」 どうにも様子が変である。まさかもう既にばれていたりして? 結局、僕達が朝食の間に交わした言葉は、その一言だけで終わった。 食後は、勿論のように霊夢さんが片付けを行った。本当は治っているのに、何もしないというのは流石に気まずい。 (やっぱりはっきり言った方がいいのかな……) でも今更「実は今朝治ってました」なんて言ったって聞いてくれないよなあ……。完璧に暴露するタイミングを逃してしまった。 霊夢さんが戻ってきて座る。再び物音は消え、両者沈黙の世界。 「……ねえ」 5分は経っただろうか。彼女がようやく口を開いた。 「散歩、しない?」 「また?」 「イヤ?」 「全然」 「ならいいわ」 霊夢さんは立ち上がって、僕の左腕を掴んだ。 「行きましょ」 僕も立ち上がって、霊夢さんについていく。 「昨日の続き?」 「そんな所ね」 外へ足を踏み入れた瞬間、ザクッと、土やアスファルトとはまた違う感覚が足にあった。 「これは……雪?」 「昨夜積もったのよ。参道の所以外は結構深いから、気をつけてね」 先程の眩しい光とは裏腹に、外は昨日以上の冷え込みだった。薄着だったら半日もすれば凍死する程の勢いだ。 まもなく神社から出るだろうと思う位の距離を歩いたところで、霊夢さんがピタッと足を止めた。 すると彼女は手を離して、前に2,3歩歩いた。 「霊夢さん?」 僕の問いかけには応えず、彼女は僕に背を向けたまま(声が背中で遮られていたので)、話し始めた。 「もう、治ってるんでしょ?」 「っ……!」 私はもう、彼の核心を衝く事にした。 それで平静を装ったつもりなのだろうか。ばればれである。芸が下手である。 私の事を気遣ってやっているのだろうけど、彼だって本当は、目隠しなんて物はもうしたくないに決まってる。 ここからは、全ての景色を一望できる。彼には是非、この雪に覆われた幻想郷を見て貰いたかった。 「治ってるんでしょ?」 彼の方に向き直って、もう一度問う。 「な……」 彼は唖然としている。そんな別に、悪い事をしたわけじゃあるまいし。 「な、治って、治ってないよ! まだ治ってない!」 「はーぁ……」 呆れてため息しか出てこない。何がそんなに嫌なのか。まさか治ったとばれたら、私が外に強制追放するのだとか、 また訳のわからない事を思っているのか? (そんなこと、私がするわけが無いでしょう……) ゆっくりと、ゆっくりと彼のもとへ歩み寄る。 (何故なら、私は──) 彼の耳元のゴム紐に、手を掛けた。 左耳に唐突に感じられる指の温もり。指はアイマスクのゴム紐に手を掛け、それを僕の耳からはずしていく。 身動きが取れなかった。暴れる気にも、止めさせようともしなかった。 アイマスクは完全に外れ、僕の目には再び光が飛び込んできた。 女の人が、僕の目の前に立っていた。 厳密に言えば、僕と同じくらいの身長で、どちらかというと「女の子」と言った方が近い。 頭に大きなリボンを着け、髪を背中辺りまで伸ばし、耳にかかる一部を髪留めで留めている。 服は、肩から二の腕の半分くらいまで露出した、一風変わった紅白の巫女服。袖は別になっている。 女の子は僕のアイマスクを右手の人差し指でくるくる回しながら、口に笑みを浮かべていた。 「嘘つき」 声が出なかった。 「初めまして、○○さん。私が、博麗 霊夢です」 博麗 霊夢と名乗った女の子は、ぺこりと頭を下げた。 僕は口をパクパクしながら、彼女の顔を見つめていた。 言葉が出てこない。今にも溢れ出てしまいそうな感情だけが僕を満たし、僕の身体を、思考を停止させる。 「か……」 「ん?」 「可愛い……」 ようやく出た単語が、それだった。冗談などではない、本心である。本当に、可愛いかった。 「あら……ありがとう」 彼女は頬を赤らめて、目を逸らした。 「随分率直な意見ね」 「はい……」 「吃驚した?」 「はい……」 つまり僕は今まで、 こんなに可愛い子と、手繋いだり、抱き締められたり、泊めて貰ったり、仕舞いには一緒に風呂まで入ったりして……。 顔がどんどん熱くなっていく。僕は下を向いた。 赤面すると俯く、という行動パターンは、もう身体にインプットされしまったらしい。 「何恥ずかしがってんのよ」 霊夢さんが僕の顔を覗き込んでくる。僕の顔は更に熱くなってしまう。 こちらが顔真っ赤にしているのを知っててやっているようにしか思えない。 「あーあ」 彼女は顔を引っ込め、横を向いて空を仰ぐ。 「治っちゃったから、あなたとはもうお別れなのよねぇ……」 寂しいなぁ、と一言加えて、彼女は僕の答えを待った。とてもわざとらしい言い方だった。 「え、ちょっと待って……」 「何よ?」 「いや、その……」 「帰るんじゃないの?」 僕はこの時点で決めていた。 もう帰らないと。幻想郷の、博麗神社の住人になると。 きっと彼女だって、それを望んでいるはず。 (何故なら、僕は──) 「僕は、」 「うん?」 「僕は……君とまだ、一緒に居たい、ですっ!!」 言いたいことを、はっきりと相手に伝えたつもりだ。何年か振りに、腹から声を出したような気がする。 これが僕の、今の想い。外の世界に帰る気は、もう微塵も無い。 彼女は、一瞬だけ驚いた顔を見せると、すぐに肩を落として、表情を緩めた。 「駄目、かな?」 「……いいえ」 彼女は首を振る。 「真逆ね」 その時いきなり、彼女は僕の方へ駆け寄って来た。 彼女はその勢いのまま、僕の両肩に手を乗せ、少し背伸びする──。 「ちゅ」 「っ……!」 意識が戻った時には、彼女は僕の一歩前で、もじもじしながら、僕の方を上目で見ていた。 頭が真っ白になっていて、先程の部分だけ記憶が曖昧である。 「ど、どうしたのよ……顔、真っ赤じゃない……」 言っている割に、彼女の顔も相当赤かった。 大胆である。非常に、大胆である。 「あ、あ……」 再び返事に困る僕。 「な、ななな、今、な、え、なんで!?」 昨日と全く変わらない、慌てふためいた台詞。 「……決まってるじゃない」 彼女も同じ言葉を持ちかける。 しかし今度は、何をどう言おうと、彼女から出る答えは一つしかない。 「……きだから」 「え?」 「……すき、だから」 「はい?」 予想通りの言葉だったが、あえてもう一度聞く。 「あぁ、もう!!」 何度も聞き返した僕に苛ついたのか、彼女は僕に突っ込むように抱きついてきた。 「本っ当、鈍いのね! あなたって人は!」 彼女は僕の肩に顔を埋めて、僕に怒った。 そして、抱き締めた腕の力を強くして、されど優しく僕に言った。 「好きだって、言ってるでしょう……」 今、確かに僕と彼女の、心臓の鼓動が高鳴っていくのを感じた。 無意識に、彼女の背中に手を回す。これ以上距離は縮まらないのに、彼女を両手で引き寄せようとする。 「両想い、って事か……」 「そうね」 「何か、変な感じだね」 「うん……」 もしかしたら、 僕はこの子のお陰で、視力を取り戻せたのかもしれない。 この世界、幻想郷を、全ての情景を、そして彼女を目にしたいという気持ちが、僕の重い瞼を後押してくれたのかもしれない。 何にせよ、僕が彼女に言えることは、 「……ありがとう」 この一言に尽きる。 「何が?」 「全部」 「……そう」 彼女はニッコリと笑って見せる。僕も、今まで誰にも見せた事の無い程の、満面の笑みを返した。 僕と霊夢さんは暫くの間、黙って抱き合った。 風の音が聞こえる。木の枝が揺れている。落ち葉が舞う。はためく彼女の服。揺れる髪。 僕は初めて、風を「見る」、という事を実感した。 博麗神社からそこそこ離れた小道を、互いに肩を寄せ合い、互いに手を繋ぎ歩く、一人の少年と、一人の少女。 僕と霊夢さんは、散歩の続きを始めていた。道に積もった雪は何者かによって両脇に退かれ、歩けるようになっていた。 「わぁ……!」 思わず歓声が上がった。 右前方、方角で言うと北の方に、大きく聳え立つ山があった。「妖怪の山」という。 山の頂上から4合目位までを、雪の笠が覆っていた。 「綺麗だな……」 「あの日」と同じ、銀色のオブジェ。それは太陽に照らされて、本当に銀色に輝いているようだった。 「これが、幻想郷──」 「あら、山だけで判断されちゃ困るわね」 霊夢さんが口を挿んだ。 「素敵なものなんて、案外身近にあるものなのよ」 頬を膨らまして僕に言った。 「……お賽銭?」 コクッと頷かれる。 「そういえば、あなたがくれたお賽銭、あれって外の物でしょ? あれはこっちじゃ使えないわ。全くと言って価値が無い」 ダメ出し。 「じゃあどうしろと……」 「いや、別に働けって言うわけじゃないんだけどね」 そう言うと彼女は、僕の右手に腕を回して、 「一緒に居てくれれば、それでいいわ」 僕の方を見て、笑って見せた。 「……へぇ」 僕は巻きついた彼女の腕を解き、彼女の右肩に手を掛けて寄りかからせた。 「結構、簡単じゃない?」 彼女の肩が、だんだんと熱を持ち始めると共に、顔も赤くなり始めていた。 「そうね……」 目を閉じて、僕の肩に頭を預ける。 冬の乾いた空気に紛れて、僅かに、本当に僅かに穏やかな風が流れ込んだ。 寒さは昨夜で峠を越えたらしく、 間もなく、春の準備が始まろうとしている。 ─終─ うpろだ1358、1360、1391、1435 ───────────────────────────────────────────────────────────
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【ブルガリアからの危機】 スラブ系ブルガリア人移民のメイジとヨーロッパのマフィア、 クローヴィス家を舞台とした物語。 実家(クローヴィス)から仕送りを絶たれた日本のとしあきと メイジは麻薬とぬいぐるみと拳銃だけを渡されて日本の都心で 18歳と12歳のサバイバル状態になる。 【メイジ・ヴァレンチーノ(クローヴィス)】 スラブ系移民、イタリア→ブルガリア→ドイツ→日本へ 今までのふたなりメイジと違い、性転換手術を受けた男。 性転換といっても陰茎を残したままで胸に詰め物をされただけ。 どのような意味があるのかというと身元を不明にするためと 死体が発見されても「まともな人間ではない」と警察に暗示させる為。 【双葉としあき・クローヴィス】 クローヴィスの外戚に当たる日本人。 典型的な根暗なヲタクでメイジによってDVを受けている。 【クローヴィス家】 二人の実家。正体不明のマフィア的組織らしい。 ※元ネタ・・・【クローヴィス1世】 5世紀にフランク人を率いてガリア地方を征服。 メロウィング朝フランク王国を建国したゲルマン人の王。 現在のドイツ名でルートヴィッヒ、フランス名はルイ、イギリス名でルイス、イタリア名はルイージ。 女性型にするとルイーザ、ルイーズ。(苗字じゃなくて名前。ミドルネーム?) (だからイタリア名ならばメイジは「メイジ・V・ルイージ」になるはず、 でも「ヴァレンチーノ」も名前だから・・・単なる設定ミス) ポセイドンの子孫、トロイヤの子孫、イエスの子孫などを騙ったといわれている。 現在のゲルマン人社会の基盤を作った。 【スラブ人(スラヴ人)】 英語の奴隷(スレイヴ)の語源でロシア語で栄光(スラーヴァ)という意味。 ロシア人、ウクライナ人、ブルガリア人などを指す。 ブルガリア人は元々は非スラヴ人だったが同化してスラヴ人となった。 【ブルガリア人】 7世紀の成立当初はブルガール帝国を母体とした南スラブ人の一派。 現在でも多くはバルカン半島やブルガリアに住んでいる。 後にビザンツ帝国に吸収され、従属するが独立国としてブルガール帝国を自称していた。 オスマン=トルコ帝国に征服され、ルーマニアなどのスラヴ人国家同様に属国となる。 マケドニア共和国のマケドニア人とは曖昧な民族関係ではっきり分かれているわけではない。 また、500年近いトルコ人の支配によりトルコ人化も進んでいる。 EU加盟後、西欧に労働者として流入して問題となった。 某国内相の問題発言などでも分かるように外国人労働者として差別されていることは事実である。 ブルガール人の文化では「YES」では首を横に、「NO」は縦に振る。 △
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