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ミッドチルダ海軍および管理局次元航行艦隊において主に使用されている巡洋艦。 L級からより進化した艦隊防空任務を主眼にいれて設計された。 派生型として攻撃魔法の搭載量を増やしたXJR級があり、ミッドチルダ海軍で使用されている。 主な艦はクロノ・ハラオウンが指揮するクラウディアが所属。 前級:L級巡洋艦 次級:- 派生型:XJR級巡洋艦 全長:242.5メートル 全幅:51.8メートル 全高:58.4メートル 排水量:31,220トン 主機:M9S型誘導式魔力炉 1基 定格魔力値:120億 兵装: アウグスト艦首魔導砲 1門 Mk99 5インチフェーザーガン 3基 Mk58 誘導魔法発射機 1基 Mk104 対潜ミサイル発射機 2基 CBR-25 対空パルスレーザー 4基 乗員定数:76名
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第1世界ミッドチルダ所属の次元航行艦隊 保有艦艇 戦艦 LZ級 RX級 LFA級 巡洋艦 XV級 XJR級 L級 LS級 GS級 空母 CS級 駆逐艦 揚陸艦 E級 フリゲート IS級
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名前 地位 愛称 備考 なのは 軍団長 運をください 不屈のエース・オブ・エース 聖剣xカリバ 副軍団長 龍琥 副軍団長 乗換準備中 べイロープ >×< エリオ 槍騎士 クロノ XV級艦船艦長 カリム 聖王教会 騎士 キャロ 竜召喚士 ティアナ 執務管 ヴィータ 鉄槌の騎士 まどか 平凡な中学2年生 リインフオース 祝福の風 シャマル 湖の騎士 闇統べる王 ロード・ディアーチェ はやて 夜天の主 シグナム 剣の騎士 桃子ちゃん 黒帝 朝霧麻衣☆ 真紅音 怠情の歌姫 kengo ケン とちおとめ 碧の軌跡買う! ヤマト♪ ken/ 養老 紡 紡 キーリア 綺海虎羅 藍桜霧一 妖夢 なのはのペット育成係 半分幻の庭師 斬れぬものなどあんまりない silfea シルフィーア 弥宵 氷天月華 クラーチ ラタン 真理
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「結局のところ、管理世界と第97管理外世界が抱く互いへの危機感は、同じ要因に端を発するのだろうね」 唐突に発せられたその言葉に、シャリオ・フィノーニ執務官補佐はウィンドウへと落としていた視線を上げる。 此処は本局の一画、研究区画。 時空管理局が誇る最精鋭技術達の居城。 其処で彼女は、久方振りに技術者としての才能を発揮していた。 彼女が補佐すべきフェイト・T・ハラオウン執務官は、対バイド攻勢作戦「ウイング・オブ・リード」へと参加・任務遂行中であり、もう1人の補佐官であるティアナ・ランスターも同様。 非戦闘員である彼女は独り取り残され、法務も特に存在しない事から技術部へと出向したのだ。 技術部は優秀な技術者である彼女の出向を歓迎、本局上層部もロウラン提督の根回しにより問題なくそれを認めた。 それは喜ばしかったが、同時に幾つか彼女にとって予想外の事が起こる。 ひとつは、幼馴染であり嘗ての同僚でもある、グリフィス・ロウランが技術部に出向していた事。 事務官として搭乗していた次元航行艦を地球軍による本局襲撃時に失い、以降はバイド及び地球軍の戦力解析に尽力していた筈の彼が何故ここに居るのか。 シャリオは混乱し、しかし答えは当のグリフィスよりあっさりと齎された。 要するに彼は母親であるロウラン提督より、とある人物の監視任務を言い渡されたのだ。 何故、事務官である彼がそんな事を、と疑問を抱きはしたが、少々考えれば納得もできた。 旧機動六課に於いては部隊長補佐として活躍し、はやてをして非凡と言わしめる指揮能力、そして洞察力を兼ね備える彼だ。 ほぼ全ての方面に於いて人手不足となっている現状にて、優秀な人材である彼を遊ばせておく余裕など管理局には無い。 ロウラン提督がグリフィスの洞察力を活かせる最適の任務を宛がった事は、長い付き合いもあり容易に想像できた。 だがシャリオにとって真に予想外であったのは、その監視対象たる人物そのものだったのだ。 少なくとも、この本局に居る筈のない人物。 濃紺青の長髪、白衣を纏ったその男性。 嘗てミッドチルダを騒乱の只中へと落とし込み、本局をも震撼せしめた広域次元犯罪者「ジェイル・スカリエッティ」。 彼が第14支局跡より回収された「フォース」の解析に携わっていた事、魔力増幅機構「AC-47β」及び「AC-51Η」の設計主任である事などは、既にシャリオも知り得ていた。 JS事件収束から約半年後に本局との司法取引に応じ、ナンバーズの長女であるウーノを助手に第5支局ラボ主任として活動していた事も、技術部への出向から間もない頃に説明されている。 しかしその言葉が正しいならば、彼等は第5支局に事実上の幽閉状態である筈だ。 何故、此処に居るのか? その答えもまた、グリフィスより齎された。 要するに彼等を含む第5支局ラボ所属研究員は、状況によっては戦闘艦として運用される可能性のある支局艦艇より本局に移され、バイド体に対するより詳細な解析と応用技術の開発に充てられたという訳である。 確かに本局の設備ならば、支局よりも更に詳細に、更に早急にバイド体の解析作業を行える筈だ。 未だブラックボックスの塊であるとはいえ、既に魔力増幅触媒として常軌を逸した成果を齎しているバイド体である。 上層部が彼等に向ける期待は並々ならぬものだろう。 そしてスカリエッティもまた、自身の知識欲を満たす為にそれを望んだであろう事は、容易に想像できた。 しかし彼は異動に際して、条件を1つ持ち掛けたらしい。 それが、各地の軌道拘置所に収監されているナンバーズ、計3名の本局への移送だった。 スカリエッティ曰く、何処に居ようとバイド、または地球軍の脅威から逃れる事はできないであろうが、しかし本局以上に安全な場所はあるまいとの事。 彼女等の安全確保が為されなければ、これ以上の解析及び開発には一切協力しない、との要求を上層部へと突き付けたというのだ。 本来ならば一蹴されて然るべき要求。 しかし上層部は、交渉に費やす時間すらも惜しいと云わんばかりの速断で、3名の本局移送を了承した。 3名は各々が別区画に隔離されている上、固有武装すら持ち得てはいない。 ISの解析も終了している事から、重大な脅威にはなり得ないと判断したのだ。 スカリエッティとしても、この結果は予測済みだったのだろう。 彼は3名の本局移送完了を待たずして、ウーノと共に解析作業を開始したという。 これまでの経緯を聞かされたシャリオは、個人としては複雑な感情を抱きながらも、スカリエッティがこの場に居る事を納得した。 だからと言って親しくなろうという意思がある訳でもなく、時折データの遣り取りがある以外は特に接触もない。 しかしこの時、偶然にも彼の言葉を聞き止めた彼女は、何の気なしにそちらへと視線を投じた。 スカリエッティはウィンドウの1つへと目を落としたまま、流れる様にキーウィンドウ上の指を走らせている。 ウーノは言葉を返す訳でもなく、自身の作業に没頭している様だ。 そして、其処から然程に離れてはいないコンソールでは、グリフィスが感情の窺えない瞳で以って彼を視界へと捉えていた。 彼の傍らには、2名の武装局員が控えている。 誰も、言葉を返す気配はない。 独り言だったのだろうか、と首を傾げるシャリオを余所に、スカリエッティは再び声を発した。 「こちらにしてみれば、魔法では到底及びも付かない破壊を齎す質量兵器を無尽蔵に生産し、しかも実際にそれを運用している勢力だ。第97管理外世界は我々にとって、理解などできない正しく異端そのものと云える」 またも呟かれる言葉。 どうやら特定の人物に向かって放たれたものではなく、半ば独り言の様なものらしい。 周囲からの反応があるか否かは問題ではなく、単に自己の内での確認とでもいうべきものだろうか。 しかし、その内容を理解したシャリオは数秒ほど思考に沈み、暫しの後に納得した。 彼の言っている事は正しい。 管理局、延いては管理世界が第97管理外世界を危険視、或いは敵視する最大の理由。 戦略級質量兵器の大量保有と使用、当該世界の歴史上に於ける実際の使用事例の存在。 暴走とも云える軍事技術の異常発達、際限の無い軍拡競争の歴史と各国家間に於ける一触即発の現状。 そして何より、あの事件だ。 22世紀地球軍とバイドによる、クラナガン及び本局襲撃。 クラナガンに於いては31万、本局では1300名もの生命を奪ったあの事件は、純粋科学技術体系を基盤として発達を続ける第97管理外世界、その発展が秘める危険性を浮き彫りにした。 それだけではない。 管理世界に於いては、唯でさえ反感を以って捉えられる質量兵器。 その恐ろしさと危険性・非人道性を身を以って体験した局員、そしてクラナガン市民を中心とするミッドチルダ住民。 直接的に被害を受ける形となった彼等がそれらを運用する第97管理外世界に対し抱く感情は、もはや反感と呼べる様な生易しいものではなく、敵愾心とも呼ぶべきものと化していた。 公然と質量兵器を運用する、危険極まりない次元世界文明。 その存在を野放しにした結果が、時間さえ超越しての他次元文明に対する無差別攻撃。 そもそも魔法技術体系及び次元間航行技術を持たないからといって、2世紀にも満たない短期間で異常な科学技術の発達を成し遂げる様な文明が管理体制下に置かれる事もなく存続している、それ自体があってはならない事なのだ。 彼等が将来、極めて侵略性の高い巨大軍事勢力となる事は明らかになった。 ならば、摂り得る選択は1つしかない。 現時点での当該世界、21世紀地球に於いては次元間航行技術は確立されておらず、現状では決定的に管理局が優勢だ。 となれば、すぐにでも艦隊を送り込み、第97管理外世界を武力統治すべきである。 彼等が質量兵器廃絶の要求に応じる可能性は無に等しく、平和的な交渉など徒労に終わるのは明らかだ。 彼等の主権を奪ってでも統治下に置き、質量兵器技術をその根幹より廃絶する事が望ましい。 否、それでは足りない。 より確実を期すならば、軌道上より戦略魔導砲の一斉射により、当該文明そのものを消去する方法が最も安全且つ堅実だ。 縦しんば第97管理外世界を統治下に置いたとしても、同時に複数の反管理局勢力の発生は避けられない。 そうなれば危険に曝されるのは、第97管理外世界製の強力な質量兵器と相対する事となる、前線の局員達だ。 更にテロリズムともなれば、各管理世界の一般人までもがその脅威に曝される事となる。 管理世界の平和を最重要視するならば、人道を無視してでも危険要因たる当該世界を完全に排除すべきだ。 無論の事ながらこの様な過激な思想は、管理局内部に於いては極一部の強硬派が提唱しているものに過ぎない。 大多数の局員は、第97管理外世界の隔離・相互不干渉状態の維持で十分であると考えているし、先制攻撃によって文明自体を破壊する等という非人道的な措置を望んではいない。 質量兵器に関しても、第97管理外世界の置かれた状況とその性質からして、仕方のない事であると頷ける事もある。 何より、地上の治安回復に尽力した故レジアス・ゲイズ中将が、スカリエッティとの取引をせざるを得ない状況へと至るまでの過程に関する負い目も相俟って、本局の中ですら強制執行には反対する意見が多い。 魔力資質因子保有者の存在しない世界から唯一の自己防衛手段である質量兵器を奪う事が、どれだけの流血を伴うものか。 彼等はそれを、正確に理解しているのだ。 強いて言えば、関わり合いにはなりたくない、というのが本音だろうか。 どちらにせよ各管理世界を含め、大多数は武力衝突を望んではいない。 しかし事は、そう単純なものでは終わらなかった。 問題は多数の穏健派ではなく少数の強硬派、前線の局員及び高ランク魔導師達だ。 管理世界の中心地であるミッドチルダの住民、そして管理局上層部の一部が強制執行を支持する事は予測された事態だった。 厄介なのは、管理局の行動方針について強い発言権を持つ高ランク魔導師、その殆どが強硬論を支持している現状だ。 彼等は過去、最前線へと投入され、其処で文字通りの命懸けで任務を遂行してきた、筋金入りの現場主義者達だ。 自らのみならず、数多くの戦友達の血と遺族の涙を以って、現体制の維持に尽力してきた。 そんな彼等が、自身等が血を流して守ってきた体制とは相容れない文明、管理局とそれの妥協とも取れる穏健派の思想に賛同できる筈もない。 元来、組織が掲げる思想の実現に於いて、根幹から魔導資質を持つ人材に依存しているのが時空管理局の実状である。 魔導資質因子を持たない者と比して、魔導師の発言権が増大する事は避けられない事態だった。 結果として上層部の殆どは魔導師に占有される事となり、非魔導師の意見は通り難くなる。 幾度となく改革が行われてはいるものの、それらの試みが実を結んでいるとは云い難い。 そんな状況の中で、魔導資質因子を持たないレジアスが地上本部のトップに就任した事実は、ある意味では奇跡の様な出来事だった。 だがレジアスが築き上げた体制も結局は本局と地上、魔導師と非魔導師との軋轢の中で瓦解し、現在は再び本局より派遣された高ランク魔導師が地上本部の総司令として君臨している。 そして、JS事件の真相を知った陸士の殆どは新しい総司令を毛嫌いしている上、レジアスの遺した体制より新たな方針へと転換後、犯罪検挙率は減少の一途を辿っていた。 その事実こそ故レジアス中将が築いた体制の優秀さを証明するものだったが、実際にそれを評価しているのはミッドチルダを含む各管理世界主要都市の住民と陸士達だけだった。 この現状だけを見れば、陸士が本局上層部と高ランク魔導師の唱える強硬論に賛同する要素など、何1つ存在しない様に思える。 だが多くの陸士部隊は、地球軍及びバイドによるクラナガン襲撃時に於いて多大なる犠牲者を出していた。 現在の彼等は、本局との軋轢を気にしている余裕など無い。 如何にしてバイド及び地球軍へと報復するか、以後に発生の予測される悲劇の芽を摘み取るか、それだけが思考を支配していると云っても差し支え無いだろう。 更にそれを後押しするのが、31万もの生命を奪われたミッドチルダ住民の存在だ。 家族を、知人を奪われた彼等は、口々に地球軍と第97管理外世界への報復を叫んでいる。 現在のところ穏健派が主流であるのは、単にミッドチルダと隔離空間内へと取り込まれた41の世界を除く各管理世界が、第97管理外世界との相互不干渉を望んでいる為に過ぎない。 冷静さを保っている上層部の大多数も、その方針を挙げている。 信管に火の入った爆弾に近付こうとする者は居ない。 だが、いずれ強硬派の不満が爆発するのは、誰の目にも明らかだった。 シャリオ個人としては、なのはやはやての出身世界である第97管理外世界に対する武力行使については賛同しかねている。 しかし当の2人は、然程に現状を憂いている気配はない。 大して気に掛けてもいないのか、或いは強硬派の動向について情報操作が為されているのか。 少なくとも、戦略魔導砲による無差別攻撃案の存在については、情報部が全力を挙げて隠蔽しているのだろう。 本局内のシステムを利用すれば、彼女達に気付かれずに周囲の音声、情報媒体を統制する事も可能だ。 強硬派の動向を、彼女達の耳に入れる訳にはいかない。 何せ第97管理外世界には彼女らの肉親、友人、知人が多数存在するのだ。 アルカンシェルによる文明の破壊などという手段は到底、受け入れられるものではないだろう。 たとえ彼女達が、管理局による第97管理外世界の全面統治に肯定的であるとしても。 シャリオがそんな事を思考していると、現在の作業に一区切り付いたらしきスカリエッティがキーウィンドウより手を離し、回転式の椅子に座したままウィンドウへと背を向ける様が目に入る。 彼は脚の上で手を組み、何処か楽しそうに周囲へと視線を遣っていた。 「そして、地球軍にとっての管理局もまた同様だ」 その言葉に、幾人かの作業の手が止まる。 シャリオもスカリエッティの言葉を訝しみ、知らず視線を彼へと固定していた。 奇妙な静寂の中、聴き慣れた声が鼓膜を叩く。 「リンカーコアを持たない彼等にとって、質量兵器を使用する事もなく、個人単位で戦術兵器に匹敵する攻撃を実行可能である魔導師という存在は、決して受け入れる事のできない異端であり、排除すべき危険因子と認識される可能性が高い」 それは、グリフィスの声だった。 その内容にシャリオは愕然とし、母親に良く似た容姿の幼馴染を視界へと捉える。 冷然と構えるその姿は、何処か生気を感じさせないものだ。 そして、相も変わらず楽しげなスカリエッティの声が響く。 「その通り。彼等にしてみれば魔導師という存在は、核弾頭が自由意志を持ち、自らの価値観に基づいて行動しているに等しい。何時、何処で爆発するかは弾頭自身の気分次第。これ程に恐ろしいものはない」 違う、と否定する感情的な声は、区画の何処からも上がる事はなかった。 知っているのだ。 グリフィスの、スカリエッティの言葉は正しいと。 シャリオを含め、この場に存在する者の殆どは技術野の出身だ。 魔導資質因子を持つ者も居るが、総じて実戦に出られる程の魔力保有量は有していない。 だからこそ、魔法技術体系からなる自身の組織とその主張を、客観的に評する事ができた。 そう、確かに彼等にとっての魔導師とは、暴走した戦術兵器そのものだ。 彼等の存在そのものだけでなく、その在り方を許容する管理局の体制すらも警戒の対象となるだろう。 出力リミッターという形での制限機構も存在はするが、それは魔導師の暴走を抑える為というよりは、組織内の公平さを保つ為の手段だ。 リミッターを使用するに至らない低ランク魔導師については、一切の制限手段が無いに等しい。 無論、低ランク魔導師が犯罪行為に至ったとして、大した脅威とはなるまい。 しかしそれは、鎮圧する側もが魔導師であればの話。 魔導資質因子非保有者にとっては、何にも勝る脅威に違いない。 Cランク、Dランクの魔導師であっても、拳銃弾に匹敵する魔導弾を放つ事は可能だ。 つまりそれは、生身の人間が質量兵器を用いずに、暗殺を初めとする各種破壊工作が可能である事を意味する。 第97管理外世界の住民にしてみれば、正しく制御されない脅威そのものだろう。 自らの隣に居る人物が、突如として魔導弾を乱射するかもしれない。 人混みの中から、あらゆる物を巻き込んで砲撃が放たれるかもしれない。 都市の一画が、たった1人の生身の人間によって灰燼に帰すかもしれない。 実際にそれらの行動が成される必要はない。 その可能性があるというだけで、魔導師を危険視するには十分に過ぎる。 魔法技術体系を持たない次元世界に於いて魔導師の価値は、正しく核弾頭と同じく、抑止力としての威力さえ発揮する程のものなのだ。 そんな異端の存在を、第97管理外世界が容認する事などある筈が無い。 「管理局が質量兵器の廃絶を望むのと同じく、彼等は魔導師の根絶を望むだろう。それこそ、ありとあらゆる手段を用いて、だ」 「彼等が管理世界に対し、強硬派が提唱する以上の非人道的手段を用いて攻撃を行うと?」 更に発せられたスカリエッティの言葉に、グリフィスが声を返す。 この狂気に侵された科学者との遣り取りの中から、少しでも有用な情報を拾い上げようとしているのか、グリフィスの目は猛禽の様に鋭い。 「そうだ。私に言えた義理ではないかもしれないが、これまでに観測された行動と得られた情報を見る限り、如何にも彼等は生命倫理というものに対しての関心が薄い様だからね」 「魔導資質の封印のみならず、管理世界全域に対する無差別攻撃を実行する可能性が高い。少なくとも、貴方はそう考えている」 「態々、千数百億もの管理世界住民を検査する程、彼等は時間も人員も持て余してはいないだろう。そんな事をするよりも、次元世界そのものを消し去ってしまう方がよほど効率的だ。 あのパイロット達の証言が真実ならば、少なくとも22世紀の第97管理外世界はより上位の空間構造を把握し、活動範囲へと加えている事になる。私達の知る次元世界そのものを消滅せしめる事も、或いは可能だろう」 「もし、その推測が的を射ているのならば、強硬派の主張は全く以って正当なものとなる。貴方はそれを望んでいる様にも見えますが」 「勿論」 その瞬間、幾つもの緊張を孕んだ視線がスカリエッティへと注がれた事が、シャリオにも感じ取れた。 彼女自身も例に漏れず、殺気にも似たものを含んだ視線を彼へと向けている。 当のスカリエッティは、先程までの楽しげな雰囲気を消し去り、真剣な様相でグリフィスを睨んでいた。 「勿論だとも、ロウラン事務官。私の娘達の安全は、管理局の対応に懸かっている。誤った対応を採られれば、彼女達はその巻き添えとなるしかない」 「彼女達の生命を守りたいと?」 「尊厳を、だ。戦闘機人である彼女達が地球軍に捕らえられれば、その先に待つのは一切の倫理を無視した、私にさえ想像も付かない凄惨な実験・研究だろう。彼等はそうやって、R戦闘機やフォースを開発した。 バイドとの戦いが続く限り、彼等は技術の革新に対し異様なまでに貪欲であり続ける。これは疑い様の無い事実だ」 其処まで言い切ると、スカリエッティは僅かに息を吐き、目に見えて肩の力を抜く。 そして、何処か諦めた様な声で続けた。 「彼等がバイドとの間に繰り広げているのは、戦争じゃない。生存競争だ。勝てば相手を喰い殺して力を得るが、負ければ喰い殺される。互いに進化し、相手を出し抜き、出し抜かれぬ様に手段を講じ続けている。私達は、其処に取り込まれた・・・取り込まれてしまった」 「取り込まれた?」 堪らず、シャリオが割り込んだ。 スカリエッティは驚いた様子も無く、彼女へと視線を移し言葉を続ける。 「そうとも。これは、単なる質量兵器と魔法の戦いでも、思想の衝突でも、況してやロストロギア・バイドを巡る事件でもない。紛れもない生存競争であり、管理世界は新たな捕食者にして被食者として、舞台に上がる事を余儀なくされたのだ」 「喰い殺さなければ、喰い殺される。そう言いたいのですか?」 「そうだ」 そう答えると、スカリエッティはキーウィンドウの一角を指先で叩いた。 瞬間、ハッキングツールの発動を、シャリオはウィンドウ上に情報として捉える。 咄嗟に警告の声を上げようとするが、それより早く1つの受像システムが中空に現れた。 スカリエッティ、違法アクセスによるプログラム干渉により、室内の魔力式光学迷彩解除。 受像システムの映像受信先を逆探知し、それを表示しているであろう空間ウィンドウの前に存在する人物の姿を、リアルタイムで室内のウィンドウ上へと表示する。 その容姿に、シャリオは息を呑んだ。 幼馴染と同じ、濃紫色の髪。 その少し後方に、若緑色の髪も見える。 共に若々しく、しかし確かな威厳を感じさせる、女性上級将校2人。 スカリエッティは臆する事もなく、彼女達へと語り掛けた。 「よって・・・ロウラン提督、ハラオウン総務統括官」 こちらを監視していたのであろう、無言の儘にスカリエッティを見据えるリンディとレティに対し、彼は言葉を投げ掛ける。 彼女達の、管理局の意識を揺さ振る、言霊とも云える声。 「貴女方が良心の呵責に囚われる必要はない。穏健派と強硬派との折衷に腐心している事は予想できるが、それよりも如何にしてバイドと地球軍の脅威から生き延びるかを考えた方が良いだろう。 管理世界の置かれている状況には最早、第97管理外世界の住民の尊厳に気を配っていられる程の余裕などありはしない。躊躇う必要はない。強制執行を実行すると良い・・・尤も」 警報。 咄嗟に周囲を見回すシャリオの意識に、うろたえる局員達の声と大音量の警告音が飛び込む。 怒号と混乱の叫び。 そんな中にあって、スカリエッティの言葉は奇妙に澄んで聞こえた。 「それまで此処が保てばの話だが」 続く中央センターからの警告が、シャリオの意識を揺さ振る。 それは、本局内に存在する12万の人間を戦場へと誘う、悪夢の始まりを告げていた。 『隔離空間、領域拡大! 空間歪曲面、高速接近! 接触まで15秒!』 * * 「ルクレツィア、戦術級光学兵器被弾! 艦体左舷部爆発、轟沈します!」 「シャーロット、敵機動兵器撃破! ファインモーション、残存数7!」 「第16支局艦艇、敵機動兵器による体当たりを受けました! Dブロック崩壊!」 「敵機動兵器、自爆! 第9、第13支局艦艇ほか7隻が爆発に・・・いえ、各艦健在です! 敵機動兵器、残存数5!」 「第8、10、15支局艦艇よりMC305砲撃、総数60! 来ます!」 「ユージェーヌ及びローロンス、アルカンシェル発射! 弾体炸裂まで4秒!」 「総員、衝撃に備えろ!」 3隻の支局艦艇より放たれた総数60発もの大出力魔導砲撃、そして複数のXV級からの砲撃が彼方より飛来し、5機の大型無人機動兵器へと殺到する。 外殻装甲を閉じ、重力偏向フィールドによる防御幕を展開していた3機が砲撃に耐え抜いたものの、次いで炸裂した2発のアルカンシェル弾体による高密度次元震に巻き込まれ、閃光と共に全ての機動兵器が跡形も無く消え去った。 異層次元巡回警備型無人機動兵器「ファインモーション」40機、殲滅。 しかしクロノは気を緩める事なく、矢継ぎ早に指示を下す。 「被害報告」 「システムに異常ありません。機関部にて負傷者2名、いずれも軽傷です」 「艦隊の損害は?」 「第12支局艦艇及びXV級11隻を喪失、いずれもクルーの生存は絶望的です」 「第8支局艦艇より入電。攻撃隊デバイス追跡信号、約半数を発見。いずれも人工天体内部に存在、バイタル異常はなしとの事です」 「了解した。周囲警戒、大質量物体転移に注意せよ」 他の艦艇との連絡を取りつつ、クロノは新たな敵襲に備えるべく艦の態勢を整えた。 攻撃隊の安否が気に掛かるものの、第8支局が追跡信号を捉えたとの報告に幾分ながら安堵する。 残る半数の安否は未だ不明だが、全滅という最悪の事態だけは避ける事ができたのだ。 寧ろ、この規模の転送事故にあって半数が生存という結果は、最悪どころか最良とも云える。 そう時間を掛けずとも、攻撃隊の現状については情報が入ってくる事だろう。 この時クロノは、そう考えていた。 少なくとも、続くクルーの報告を聞くまでは。 「第8支局艦艇へ報告。これより本艦はシャーロット、ローロンス両艦と連携し、人工天体への・・・」 「警告! 後方、空間歪曲境界面、相対距離増大! 隔離空間全体が拡大しています!」 「バイド係数増大! 16.52・・・17.80・・・19・・・22・・・27・・・!」 「大規模空間歪曲発生、総数300以上!」 瞬間、クロノはブリッジドーム内部へと表示された外部映像上に、信じられない光景を見出した。 隔離空間内の至る箇所で可視化された空間歪曲が乱発生し、数秒後に1つの天体が出現したのだ。 何が起こったのか、理解などできる筈もなかった。 つい数秒前まで何も存在しなかった空間に、恒星の光を鮮やかに照り返す巨大な球体が浮かんでいる。 それが管理世界の1つだと気付いた時には、更に数十もの天体が出現していた。 秒を追う毎に増えゆくそれらを、クロノは呆然と見詰める。 しかし、警告音と共に表示された情報、そしてクルーの報告が、彼の意識を強制的に覚醒させた。 「各天体付近に艦隊の展開を確認! 照合結果・・・第88管理世界、フォンタナ政権正規艦隊、及び反政府軍艦隊!」 「第179観測指定世界、エムデン連邦軍ルフトヴァッフェ所属、第1から第9次元巡航艦隊までの72隻、全次元航行艦艇を捕捉。管理局監視指定質量兵器、シュヴァルツガイスト2機の配備を確認」 「第66観測指定世界バルバートル合衆国艦隊、及び第71管理世界メイフィールド王朝王家近衛艦隊、確認! 両惑星間にて交戦中・・・いえ、戦闘中断!」 「第148管理世界、成層圏に不明艦隊を捕捉。管理局のデータベースには登録されていませんが、当該世界の艦艇と同一の設計です。これは・・・未登録戦力の保有、違法艦隊です!」 「小型次元航行機、総数544機、交戦中・・・第133管理外世界、ツェルネンコ政権正規軍、ダニロフ解放戦線です」 次々に飛び込む報告は、各世界の固有戦力が、本星もろとも隔離空間内へと取り込まれている事を告げる。 更には他の艦艇との情報共有により、読み上げる暇さえ無い膨大な各世界及び固有戦力の情報が、多重展開されたウィンドウ上を埋め尽くす様に表示されていた。 本作戦が立案された際、管理局は各管理世界に戦力の提供を求めていたが、それらの要求は全て撥ね退けられている。 どの世界も管理局に事態の解決を委ね、固有戦力を自世界の防衛に充てていた。 汚染艦隊の脅威、クラナガンの惨状を鑑みれば当然の事かも知れないが、それら以外にも狙いがあるのは明らかだ。 この機会に体制の転覆を狙う者、敵対する他世界との拮抗状態により動くに動けない者、管理局の疲弊を狙い実質的な侵略行為を開始する者、停戦監督者の不在を狙い一気に紛争の終結を狙う者。 其々の思惑を内包し、彼等は戦力抽出要請を蹴ったのだ。 管理局としても、バイド制圧後の各世界に於ける軍事的拮抗の崩壊については頭を悩ませていたが、かといって隔離空間内部の各世界を放置する訳にもいかず、局内に於ける多数の反対意見に曝されながらも次元航行部隊の半数を本作戦へと投じる事となる。 各次元世界は自らの世界を離れ、バイド制圧作戦へと赴く管理局艦隊を、内心では諸手を挙げて歓喜しつつ見送った事だろう。 ところが今、それらの世界は固有戦力もろとも隔離空間に取り込まれてしまった。 単に本星の防衛に当たっていた勢力、内紛による戦闘中の勢力、他世界との全面戦争中の勢力。 中には管理局でさえ把握していない、つまりは違法に保有する次元航行戦力までをも取り込まれた世界すらある始末だ。 それどころか、どの次元世界に属するものかは窺い知れないが、次元世界を航行中の艦隊、或いは独航艦までもが出現している。 それに加え、数千隻もの非武装民間船舶までもが、数百もの世界と艦隊の合間を縫う様にして浮かんでいるのだ。 「管理局艦艇、捕捉! XV級76隻・・・78・・・84・・・増え続けています! 第2、第7支局艦艇、捕捉!」 そして遂に、管理局艦艇の存在までもが捕捉される。 残る7隻の支局艦艇と共に本局、及びミッドチルダ周辺世界の防衛に就いていた筈の次元航行部隊が、次々に隔離空間内部へと転移を始めたのだ。 加速度的に数を増しゆくXV級の艦体を見詰めつつ、クロノは唐突に理解する。 同時に、全身が氷漬けになったかの様な悪寒を感じた。 気付いたのだ。 この状況の意味する事を、何が始まったのかを。 「空間歪曲境界面、ロスト! 相対距離、計測不能です!」 「天体数、更に増大・・・管理局が捕捉する世界の総数を超えました!」 「前方、人工天体付近に大規模空間歪曲・・・あれは・・・あれは・・・!」 拡大した隔離空間。 各世界の転移。 際限なく増えゆく天体数。 詰まるところ、この状況が意味する事は。 「本局です! 時空管理局、本局艦艇、捕捉! 人工天体より距離86000!」 「ミッドチルダ、転移確認! 繰り返す、ミッドチルダの転移を確認!」 バイドは、次元世界そのものを「侵食」した。 全ての管理世界・管理外世界、そして観測指定世界までもが、否応なくバイドとの戦争の場へと引き摺り出されたのだ。 「第97管理外世界、捕捉!」 その報告が艦内に、延いては時空管理局艦艇の全てに行き渡った時、それまでとは別種の緊張がクロノに走る。 咄嗟にブリッジクルーへと目をやれば、彼女達は後ろ姿からでもそうと判る程、憎々しげに1つの管理外世界、その表示画像を見据えていた。 彼女達の心境を慮り、クロノはそれを理解すると同時に、遣り切れないものが込み上げるのを感じる。 妻であるエイミィ、そして息子カレルと娘リエラの3人は、一連の事件発生直前にミッドチルダへと帰省していた。 東部のテーマパークを訪れ1泊した後に本局を中継し、地球へと戻ろうとした矢先に地球軍の襲撃に遭ったのだ。 子供達、そして実戦を離れて久しい妻にとっては、余りに恐ろしい体験だったのだろう。 子供達を安心させ、彼等と離れた後に止まらない自身の震えを吐露した妻を慰める為に、クロノは少ない猶予の中で最大限の時間を割いた。 彼女達は今、聖王教会の守護するミッドチルダ北部で、リンディが手配したホテルのスイートに宿泊している。 地球へと戻れない以上、仕方のない事だった。 よって今、クロノの家族は地球には居ない。 しかしあの世界にはなのはの家族を始めとして、彼女やフェイト、はやての友人達が存在している。 彼女達は勿論の事、あの世界の住民は次元世界で何が起こっているのか、何1つ知らない。 少なくとも、21世紀に於いては。 しかし次元世界に於いては、第97管理外世界はこの事態の元凶の一端として捉えられている。 その事実が、クロノには歯痒いものとして感じられるのだ。 あの世界は今、自身を襲っている幻想をどう理解しているのか。 次元世界に対する観測手段を確立してはいない以上、通常通りの宇宙空間を観測しているのだろうか。 バイドによって取り込まれ、そして管理世界にすら敵視される世界。 何も知らないのは、彼等自身だけ。 しかし百数十年後、彼等は異常極まる戦力を以って次元世界へと介入するのだ。 次元世界の存在を知る誰もが出現を予想だにせず、今この瞬間でさえ解明されてはいない超高度科学技術を以って次元の壁を乗り越え、バイドと共に管理世界を、延いては次元世界全体を危機へと陥れる、正に災厄の申し子とすら呼べる世界。 しかしバイドは、何を考えてこんな事を? 如何に汚染艦隊が圧倒的な戦力を有しているとはいえ、各世界を合わせれば軍用次元航行艦の総数は1500を超えるのだ。 未確認の世界が有する艦艇数を考慮に含めればその倍以上、3000を超える事さえあり得る。 何せ、隔離空間は今も拡大を続けているのだ。 艦艇の数は、際限なく増え続けるだろう。 管理局としても危険な事ではあるが、何よりもバイドにとっては不利になる事さえあっても、決して有利とはなり得ない。 一体、何の為に? 「第9支局艦艇より警告! 空間歪曲反応、多数観測! 総数・・・」 「どうした?」 クロノが抱いた疑問。 それに答えるかの様に、報告が飛び込む。 同時に、隔離空間内を映し出すブリッジドーム内面に、空間歪曲の発生を意味する赤い波紋が表示された。 その数、数十か、数百か。 クルーより齎された報告は。 「総数・・・4000以上! 繰り返す! 総数4000以上! 大質量物体転移まで5秒!」 壁が、出現した。 少なくとも、その感想を抱いたのはクロノだけではなかったろう。 先程の機動兵器群など比較にもならない、大型次元航行艦に匹敵する敵影が、赤く光るイメージとしてドーム内部を埋め尽くしている。 それらの約半数は、次元世界の艦船だ。 古代ベルカ艦艇、及び古代ミッドチルダ艦艇などの歴史的遺物にも該当する艦から、退役した筈の管理局旧型次元航行艦、明らかに新造艦と判る所属不明艦まで、世界も時代も問わず、無数の艦艇が等距離を保って壁を形成し、艦首をこちらへと向けている。 「何だ、これは・・・」 「不明艦隊よりバイド係数検出! 13.86で変動停止、汚染艦隊です!」 「約500隻、こちらへ向かってきます! 距離25000、残る汚染艦艇は各方面へ!」 「聖王のゆりかご、捕捉しました! 総数・・・40! 40隻です!」 『第8支局より全艦隊へ! 異常係数検出個体を確認! 総数20、接近中! 画像を確認せよ!』 「目標、拡大映像を出せ!」 攻撃艦隊へと向かって接近を開始する汚染艦隊。 その中に、幾つかの異形が紛れ込んでいる。 支局艦艇より齎されたデータに基き、それらを拡大表示するようクルーに命じるクロノ。 そうして表示された映像、浮かび上がった異形の全貌に、クロノを含め誰もが言葉を失う。 「・・・これが、戦艦だと?」 それは「艦」と呼称するには、余りにも歪な存在だった。 通常の艦艇の様に前後に伸長する形ではなく、上下に伸びたメインユニットを挟む様にして、左右に張り出した巨大なエンジンユニットらしき部位が付属している。 メインユニット下方には、騎士甲冑の腰部装甲を思わせるサブエンジンユニットらしき左右一対の部位が存在し、上部エンジンユニットとの間には左右二対、計4門の砲撃兵装らしきユニットが見て取れた。 全体からは複数の槍状構造物が突出し、本来ならば無機質とも取れるであろう外観を、防衛本能を剥き出しにした生物、即ち有機的生命体にも似たそれへと変貌させている。 メインユニット最下方には、三方に延びる巨大な槍状構造物。 外殻装甲は血とも赤錆とも取れる、黒ずんだ闇色の赤に彩られている。 少なくとも、塗装による色彩ではない。 前方から捉えたその全貌はまるで、肩部装甲を残し四肢と頭部をもぎ取られた、巨大な騎士甲冑の様にも見える。 計測結果、全高817m、全長790m、最大全幅635m。 「第10支局より入電。敵性体、詳細判明。地球軍識別コード、B-BS-Cnb。コードネーム「COMBILER」。艦船の残骸を中心として無数の推進機構及び兵装が融合した後、汚染により機械生命体として活動を開始した複合武装体。 小型及び中型汚染体の母艦としての機能を持ち、陽電子砲を始めとする複数種の武装を内包。メイン・サブ含め6基の独立可動式エンジンユニットに計18基の核融合パルス、バサード・ラムジェット複合サイクル推進機構を持ち、空間跳躍及び浅異層次元潜航機能を搭載。過去に確認された事例では多数の核弾頭を搭載し、上部発射機を用いての戦略攻撃により、単体にて大規模人工居住空間1基を破壊、地球軍艦艇2隻を大破させているとの事。 第一次バイドミッションに於いて武装体形成途上の個体を確認、R-9A単機により撃破した記録あり」 第10支局艦艇にて監視下にあるR戦闘機パイロットより齎された情報、その余りに出鱈目な敵性体の性能に、クロノは小さく悪態を吐いた。 陽電子砲などという常軌を逸した兵装だけに飽き足らず、核弾頭で武装した巨大な機械生命体。 それが今、明確な攻撃の意思を以ってこちらへと接近している。 しかもその数は20体、更には1体につき2隻のゆりかご、恐らくはコピーであろうそれらの護衛付きという有様だ。 余りに絶望的な戦力差に、眩暈さえ起こしそうである。 「・・・アルカンシェル、バレル再展開。攻撃管制システムを各艦とリンク、距離15000で発射と通達せよ」 「バレル再展開、距離15000で発射、了解」 「システム、リンク要請・・・要請通過、リンク完了」 しかし、此処で絶望している訳にもいかない。 クロノは提督だ。 多くのクルーを抱え、艦と共にその生命を背負っている。 責任を放棄して蹂躙を受け入れる事などあってはならないし、元より受け入れるつもりなど無い。 『ローロンスよりクラウディア、第13支局艦艇よりリンク要請があった。発射は距離20000にて行う。支局艦艇とリンクし、タイミングを修正しろ』 「クラウディアよりローロンス、了解。リンクを許可する」 「リンク完了。全艦艇、バレル展開」 白光を放つ環状魔法陣がクラウディア艦首へと幾重にも展開され、その中央に閃光が集束を開始する。 形成された弾体はクロノが火器管制機構の鍵を捻り、自身を束縛する膨大な魔力が霧散する瞬間を待ち侘びていた。 炸裂と同時、広域に亘り高密度次元震を引き起こすそれは、目前の「壁」を食い破らんと白光の牙を剥き出しにする。 その牙はクラウディアのみならず、185隻のXV級、その全ての艦首へと現出していた。 「目標、距離196000!」 「速度、進路、共に変わりなし」 「第102管理世界艦隊、汚染艦隊との交戦を開始! 次元航行機による近接攻撃です!」 「第18観測指定世界、地表部からの迎撃を開始・・・第33管理世界艦隊を巻き込んでいます! 艦隊、地表部への反撃を開始! 魔導砲撃です!」 汚染艦隊の射程内到達を待つ間、各方面で汚染艦隊と各世界の保有する戦力との戦闘が開始される。 恐らくは、汚染艦隊による攻撃を受けたのだろう。 状況を理解し切れていなかったであろう世界も、既に他世界との戦闘状態にあった世界も、例外なく全てが汚染艦隊との戦闘を余儀なくされてゆく。 「194000!」 「空間歪曲、観測! バルバートル艦隊及びメイフィールド近衛艦隊による戦略攻撃です! 汚染艦隊、約40隻が消失!」 「汚染艦隊、約300! 第97管理外世界に向け進攻中!」 「汚染艦隊、加速! 距離188000!」 「アルカンシェル、発射まで60秒」 報告の中にあった第97管理外世界の名称に、クロノは思い入れの深いその惑星へと視線を投じた。 恐らくは戦闘が発生している事すら気付いてはいないであろう、その青く美しい惑星の住人達。 十二分に戦闘を行える兵器を保有しつつも、次元世界を観測する手段を持たないが故に未だ宇宙を見ているであろう彼等は、惑星へと接近しつつある300隻の汚染艦隊の存在すら捕捉してはいないのだろう。 付近にはXV級次元航行艦が20隻ほど存在してはいるものの、自らの安全を優先したか、はたまたこの機会に第97管理外世界を消し去ろうというのか、惑星へと向け進攻する汚染艦隊を迎撃する素振りは全く無い。 思わず、クロノは通信を繋ごうと手を動かし、しかし寸でのところで思い止まる。 これで第97管理外世界が滅んだとして、それはバイドの攻撃によるものだ。 手を出さずに見ているだけで、将来的に管理世界の、延いては次元世界の安寧を脅かす勢力となる、危険な世界が1つ潰える。 それは己が手を汚さずに望んだ結果を得る事のできる、最良の手段ではないか? 「184000!」 「第97管理外世界へと向かう汚染艦隊、質量兵器を発射! 核弾頭と思われます!」 「発射まで50秒」 事実、管理局艦隊を含め、第97管理外世界に程近い空間に位置する複数の世界の艦隊も、汚染艦隊の通過を許容している。 この時点で交戦を開始すれば、確実に優位を確保できるであろう位置に存在するにも拘らず、一切の攻撃行動を見せない。 狙いは明らかに、汚染艦隊による第97管理外世界の抹消だ。 そして彼等の望み通り、汚染艦隊は核弾頭らしき質量兵器を発射した。 後は、見ていれば良い。 フェイトやなのは、はやてには悪いが、これが次元世界にとって最良の選択かもしれない。 「質量兵器群、第97管理外世界、大気圏突入まで30秒!」 「180000!」 「40秒前」 此処で、ふとクロノは気付いた。 決定的な違和感、奇妙な感覚。 何かが足りない。 何か、この場にあるべきものが無い。 本来ならば存在して然るべき筈のものが、決して欠ける事など無い筈のそれが、切り取られたかの様にこの戦場から抜け落ちている。 一体、何が? 「30秒前」 そうだ。 「彼等」が存在しない。 本来ならば、自身等が隔離空間内部に突入した際、既に存在しなければならなかった筈の「彼等」。 この作戦が始動してからというもの、唯の1度もその姿を現す事が無かった「彼等」。 「彼等」がこの戦場に存在しないなどという事は、ある筈がない。 未知の隠匿機能か、浅異層次元潜航か。 「彼等」は間違いなく、この空間内に存在する。 「172000!」 「20秒前」 「警告! ゆりかご全艦艇より高密度魔力反応! 次元跳躍攻撃の可能性大!」 「カウント中断! 即時発射態勢を取れ!」 「敵複合武装体より高エネルギー反応! 陽電子砲、発射態勢!」 「汚染艦隊より人型機動兵器、多数出現! ゲインズです! 凝縮波動砲タイプ及び陽電子砲タイプ、確認! 敵影多数の為、詳細な数はカウントできません!」 「未確認の人型機動兵器及び多脚型機動兵器群の出撃を・・・第10支局より入電。人型機動兵器、Bh-Tb02「TUBROCK 2」及びB-Urc-Mis「U-LOTTI」ミサイルタイプと判明。共に誘導兵器群による長距離攻撃を主体とする機動兵器との事」 汚染艦隊、アルカンシェル射程外からの超長距離砲撃態勢に移行。 クロノは迎撃の為、アルカンシェル発射制御を攻撃管制から迎撃管制へと切り替える。 空間歪曲と高密度次元震による極広域破壊を齎すアルカンシェルは、時空管理局艦艇にとって最も強大な矛であると同時に、最も強固な盾でもあった。 如何なる攻撃をも呑み込み、虚数空間の彼方へと葬り去る戦略魔導砲撃。 しかし、不安要素はある。 陽電子砲や波動砲の迎撃など、管理局の歴史上にも前例が無いのだ。 理論上は問題なく迎撃できる筈なのだが、しかし地球軍による本局襲撃時に、無視する事のできない現象が観測されていた。 襲撃の結果、管理局は14隻のXV級を喪失。 それらの約半数が、長距離支援用と思われる波動砲の砲撃によって撃破されていた。 発射点の特定にすら至る事の出来なかったそれは、アルカンシェル弾体の炸裂範囲、即ち空間歪曲発生領域を貫いて飛来していたのだ。 襲撃当時のアルカンシェルは機能的欠陥を抱えていたとはいえ、俄には信じ難い事実である。 つまり、地球軍の兵器が空間歪曲回避、或いは時空間異常遮断能力を備えているのならば、バイドもまたそれらを備えていたとしても、何ら不自然ではないのだ。 R戦闘機を始めとする第97管理外世界の兵器群は、彼等の言う異層次元全域での作戦行動を想定して建造されているという。 ならば、それらが相対する事となる汚染体群もまた、同様の機能を有しているのではないか? 凝縮波動砲は、陽電子砲は空間歪曲によって無効化できるのだろうか? 「質量兵器群、大気圏突入まで10秒!」 「聖王のゆりかご群、艦首より凝縮魔力拡散を確認! 次元跳躍砲撃、来ます!」 「アルカンシェル、自動発射!」 瞬間、艦内に魔力素の力場が立てる高音、それが解放される轟音が連続して響き渡り、振動が艦体を揺らす。 ドーム内面を埋め尽くす、白く眩い閃光。 XV級185隻、アルカンシェル同時斉射。 光り輝く185発の弾体が、通常魔導砲と比して僅かに劣る速度で飛翔する。 数秒後、それらが不可視の空間歪曲を捉えるや否や、弾体群は凝縮された魔力を解放、極広域空間歪曲を引き起こした。 40隻のゆりかごより放たれた次元跳躍砲撃は、連鎖発生する高密度次元震の壁へと接触し反応消滅を誘発され、次々に炸裂しては空間を閃光に染め上げる。 十数秒にも亘って継続する空間破壊は、続けて連射される砲撃までをも完全に無効化。 ゆりかご群から飛来する、一切の砲撃を消滅させる。 魔力炉が最大稼動、「AC-51Η」による魔力増幅を受け、膨大な魔力をアルカンシェルへと再供給。 発射より僅か8秒程度にして、戦略魔導砲の再発射態勢が整った。 減衰を始めた第一斉射の空間歪曲発生領域、その消滅を待たずして第二斉射が自動発射され、更に放たれ続ける次元跳躍砲撃を無効化してゆく。 このペースならば大丈夫だと確信し、クロノが通常魔導砲撃の発射態勢を命じようとした、その矢先。 「前方、高エネルギー・・・」 クルーの警告よりも遥かに早く、空間歪曲発生領域を貫いて飛来した巨大な赤い閃光が、十数隻のXV級を呑み込んだ。 「な・・・」 「陽電子砲! 陽電子砲による攻撃です! XV級、17隻ロスト!」 「更に高エネルギー反応、来ます!」 「緊急回避!」 クロノによる咄嗟の指示により、クラウディアは急激な機動で回避運動へと移行する。 付近に位置する艦艇の機動を確認すれば、ローロンスとシャーロット、他4隻がクラウディアの後を追う様にして回避行動へと移行していた。 しかし、間に合わない。 飛来する巨大な赤、鋭利な青、2種の光条。 それらの陽電子砲撃は、最も回避の遅れていた2艦、その右舷を食い破り、または艦全体を呑み込んだ。 1隻が内部より爆発を起こし轟沈、残る1隻は破片すら残らなかった。 クルーの報告が、力なく響く。 「XV級・・・19隻ロスト」 クロノは呆然と、ただ呆然と、味方艦艇の消え去った空間を見詰めた。 其処には、何も無い。 数十名のクルーを乗せた時空管理局最新鋭の次元航行艦が、1発の砲撃で跡形も無く消滅したのだ。 恐らくは艦長以下、クルーの全ては、自らの死を認識する暇さえ無かっただろう。 余りにも呆気なく、軽過ぎる。 数十の、全体としては千数百もの生命が失われたというのに、余りにも現実味が薄く、認識が及ばない。 初めからそんな生命は存在しなかったのだ、と言われれば納得してしまいそうな無だけが、陽電子という名の死神が通過した跡に拡がっている。 軽過ぎる。 人間としての生命が、尊厳が、余りにも軽過ぎる。 それらの存在価値さえ、疑問視してしまう程に。 「空間歪曲発生領域、消失します!」 「・・・進路変更。目標、汚染艦隊。MC404、砲撃準備」 やがて、アルカンシェルによる空間歪曲の壁が、減衰により消失を始めた。 閃光が徐々に衰え、可視化された空間の歪みが消えてゆく。 その向こうに展開する汚染艦隊、その各所に点在するゆりかごと複合武装体の姿に、クロノは知らず歯軋りしていた。 「距離は?」 「・・・145000。全兵装、有効射程外です」 思わず、血が滲む程に拳を握り締める。 完敗だった。 通常魔導砲撃も、アルカンシェルも届かぬ超長距離から、汚染艦隊は次元跳躍砲撃と陽電子砲とを撃ち込んできたのだ。 こちらが距離を詰めようとする間、汚染艦隊は一方的に打撃を与える事ができる。 打つ手は、無い。 絶望と共に、クロノが息を吐く。 もう、撤退しかない。 席に座し、同じ決断を下すであろう支局艦艇からの通達を、静かに待つ。 そして、自身等に敗北を突き付けた存在、恐るべき未来からの来訪者達の全貌を眺め始めた。 だがその時、彼は汚染艦隊の奇妙な行動に気付く。 全艦艇がこちらへと舷側を曝し、回頭を開始しているのだ。 すぐさま身を乗り出し、映像を拡大表示する。 クルーも、他の管理局艦艇も気付いたらしい。 通信が慌しくなり、無数の単語が入り乱れる。 その中に、第97管理外世界という名称が含まれている事に気付いたクロノは、反射的にその惑星の映像を表示した。 ウィンドウへと映し出される、青き惑星。 特に先程との差異は無く、クロノは何が他艦艇の注意を惹いているのか理解できない。 地球は、特に変わりも無く存在しているというのに。 其処まで思考し、クロノは気付いた。 「・・・なに?」 地球が「変わらず」存在している? 何1つ異変も無く? 馬鹿な。 21世紀時点での第97管理外世界には、次元世界を観測手段など存在しない筈だ。 にも拘らず、あの惑星が今も健在であるならば。 「第97管理外世界近辺、所属不明艦隊捕捉! 総数40!」 汚染艦隊が放った核弾頭は、何処へ消えたのだ? 「艦長! 汚染艦隊、所属不明艦隊へと向け転進します!」 「画像拡大、不明艦隊を映せ!」 「映像、拡大します!」 クルーの報告により判明した、所属不明艦隊の出現。 クロノは、その艦隊が核弾頭の消失に関わっていると確信し、ウィンドウへと表示させる。 汚染艦隊が、管理局艦隊に背を向けてまで優先する、艦艇総数、僅か40隻の艦隊。 映し出されたその全貌に、彼は凍り付いた。 「表示しました・・・しかし、これは・・・」 既知の世界、そのいずれとも異なる艦艇の造形。 個人携行型質量兵器にも通ずる、余りにも無骨な外観。 管理局のそれとは異なり、優雅さなど欠片も存在しない、ただ只管に効率と機能性だけを突き詰めたかのような艦艇の集団が、其処にあった。 刃先の様に平坦な艦首から、後方へと向かうにつれ体積の膨れ上がる艦艇。 真横からならば、直角三角形に小さな艦橋が付いたかの様にも見えるだろう。 艦橋前方に主砲らしきユニットが2つ、艦首上部が大きく前方へと突き出た艦艇。 自動小銃にも似たその全貌は、艦の存在意義そのものが管理世界とは相容れない事を声高に主張しているかの様だ。 明らかに戦艦と判る、正しく大型銃器そのものとも云える全貌の巨大艦艇。 2連装砲塔6基、ミサイル格納ユニットらしき無数のハッチ、艦首に備えられた、XV級で云うアルカンシェルに相当するであろう、戦略兵装らしき大型ユニットは、見る者に圧倒的な重圧感を与える。 これらの艦艇ですら、既に管理世界の理解の範疇を外れている。 しかし、それ以上に無視する事のできない異形が、艦隊には存在した。 最早、艦と呼称する事すら躊躇われるそれらは、生理的嫌悪感をすら齎す全貌をウィンドウ上へと曝している。 先の戦艦とほぼ同じフォルムの艦体ながら、全長・全幅・全高、全てがそれを遥かに上回る艦艇群。 その巨大さは、信じ難い事にゆりかごにも迫る程だ。 艦体下部および後部には無数の槍状構造物が伸び、有機生命体の断面より垂れ下がる生体組織、それらを目にした際にも似た嫌悪感を見る者に植え付ける。 同じく、艦体下方側面より艦尾下方へと角度を付けつつ延びる翼状構造物は、その先端より多数の槍状構造物を伸ばしている。 恐らくは高度な知性と技術力を有する存在が建造した艦艇に、有り得ない事ではあるが、独自の生命が宿り、生物個体として成長したかの様な外観。 艦首兵装ユニットは、周囲に配置された槍状・板状構造物の存在と更なる大型化により、恐怖感すら伴って視界へと映り込んだ。 無機的構造物でありながら有機的生命体。 正しく、その表現が当て嵌まる。 そして、その異形を基に、更なる改良が加えられたのであろう巨艦。 全長が更に増大し、槍状・翼状構造物もその数を増している。 最早、人工建造物として認識する事すら困難な、異形の艦艇。 そして、何より。 他の2種を更に突き放す、余りにも巨大、余りにも異様。 より生物としての成長が進行し、成体として完成されたと云える外観。 巨大な翼、下方・前方・後方のほぼ全てを覆う槍状構造物。 巨獣の口腔とも取れる艦首兵装ユニット。 兵装と艦橋らしき部位を除けば、もはや生命体である事を疑う事さえ困難だろう。 「全長・・・3900m!? 全高1800m、最大全幅1300m・・・!」 「この艦・・・艦長、構造物が・・・!」 「分かっている」 そして、何かを発見したクルーが、怯えるかの様にクロノへと語り掛ける。 クロノにも、それは見えていた。 不明艦艇より伸びる、無数の槍状構造物。 それらの一部が、不自然に揺らめいている。 初めこそ見間違いかと考えたが、画像を拡大するや否や、その可能性は潰えた。 棘皮動物の棘にも似たそれらが、何らかの事象に反応して各々に独立可動、僅かながら管足の如く蠢いているのだ。 その事実を認識した瞬間、言い様の無い悪寒がクロノの背を駆け上がった。 それは正しく、人間が原生動物などに対し抱く、生理的嫌悪感と全く同じもの。 個人としての印象は兎も角、対象は明らかな人工建造物と判明しているにも拘らず、クロノは醜悪な生命体に相対した際と同じ感覚を抱いていた。 彼は既に、あの存在が生命体ではないと、知的存在によって建造された戦艦であると、そう云い切れなくなっている自己に気付いている。 それだけではない。 彼は何か、言い様のない不快感と嫌悪、生理的なものとは源を異にするそれらを覚えていた。 だが、それらの感覚が何処から生じているのか、それが判然としない。 一体、この感覚は何なのか。 「第10支局より入電・・・所属不明艦隊、詳細判明。第97管理外世界、国連宇宙軍・第17異層次元航行艦隊。艦隊編成、ニヴルヘイム級戦艦3隻、ムスペルヘイム級戦艦4隻、ヨトゥンヘイム級戦艦6隻、テュール級戦艦8隻、ガルム級巡航艦12隻、ニーズヘッグ級駆逐艦7隻。 計40隻の艦艇から成る、独立遊撃艦隊との事。艦載機はR戦闘機を中心に、総数500機前後・・・」 「警告! 本艦側面60m、空間歪曲発生!」 「何だと!?」 咄嗟に、ドーム側面へと視線を投じるクロノ。 果たして其処には、5機のR戦闘機が忽然と現われていた。 データ照合、該当記録あり。 クラナガンにて確認された、高圧縮エネルギー障壁発生機構搭載型。 それらが何故、管理局艦隊の只中に現れたのか。 クロノが理解するを待たず、5機は一斉に機体下部より大型ミサイルを放つ。 見れば、管理局艦隊の其処彼処より、計30発以上ものミサイルが放たれているではないか。 如何やら他にも、艦隊の隙間を縫う様にして同型機が出現しているらしい。 そして、ミサイルの飛翔する先に存在するは、地球軍艦隊へと向き直り後背を曝す汚染艦隊。 即座に迎撃が開始されるも、高度な欺瞞装置が搭載されているらしきミサイル群の数は一向に減らない。 それらは驚くべき速度で飛翔、150000もの距離を僅か十数秒で詰め、遂に汚染艦隊の只中へと突入。 瞬間、視界を焼かんばかりの閃光が、ブリッジを埋め尽くす。 同時に、強大なエネルギーの炸裂の余波が、クラウディア艦体を激しく打ちのめした。 座席より投げ出され、コンソールへと打ち付けられるクロノの身体。 ブリッジドーム内に、クルーの悲鳴が響く。 数秒後、何とか身を起こしたクロノは、外部映像を映し出すドーム内面に、驚くべき光景を見出した。 しかし、彼の口から零れた言葉は、まるでその有様を予測していたかの様なもの。 口内に溜まった血を吐き捨て、侮蔑の表情を隠そうともせずに呟く。 「ああ、そうだろうさ・・・貴様等が、通常の弾頭など用いる訳がない。狂人共にそんな良識がある訳がない」 そう呟く彼の視線の先には、未だ消えぬ数十の巨大な火球、その中に浮かぶ、大きく数を減らした汚染艦隊の影があった。 画像には、火球を生み出した現象についての解析結果が表示されている。 其処には、唯1つの単語のみが記されていた。 「核爆発」と。 そして、クロノは理解する。 先程の疑問、理由すら判然としない不快感と嫌悪。 彼はその明確な答えを、はっきりと自覚していた。 あれらの艦艇は、非常に「似ている」のだ。 気の所為などではない。 明らかに、紛れもなく、疑う余地すら無く。 あれらは余りにも酷似しているのだ。 彼等が打倒せんとする存在、打倒すべき存在。 今この瞬間、クラウディアの遥か前方で核の焔に呑まれ、なお滅びぬ異形の群れ。 生物と見紛うばかりの全貌、複合武装体。 間違いない。 彼等が、地球軍があれらの艦艇を建造するに当たって摸した、その存在とは。 「R戦闘機、発艦確認!」 「汚染艦隊残存勢力、本艦隊へと向け再転進!」 「バイド」だ。 直後、第8支局艦艇より全艦隊に警告が奔る。 空間歪曲多数、及びバイド係数の上昇を確認。 大質量物体、転移まで20秒。 クロノは三度、アルカンシェルのバレル展開を命じる。 生存か、破滅か。 選び得る道は、1つしかない。 管理局が全てを取り戻すか。 地球軍が全てを灰と化すか。 バイドが全てを呑み込むか。 「AB戦役」最大にして最悪の戦闘と云われる、隔離空間内部艦隊戦。 その中でも最も長い期間に亘って継続し、最も多大な被害と犠牲を生み出した「極広域空間融合・第二次遭遇戦」。 大義も思想も朽ち果て、理性も尊厳も消失し、人が人たる所以を失い、「バイド」と「人間」、双方の「本性」のみが全てを支配した、悪夢の戦闘。 全てはまだ、始まりに過ぎなかった。
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設定資料を整理するためにまとめています by Gulftown ◆mhDJPWeSxc 次元世界 第1世界ミッドチルダ 第511観測指定世界惑星TUBOY 第3管理世界ヴァイゼン 第6管理世界アルザス 第16管理世界リベルタ 第17無人世界 第66管理外世界オルセア 第97管理外世界地球 次元航行艦 最新話まで登場分 LS級巡洋艦:ヴォルフラム XV級巡洋艦:クラウディア LZ級戦艦:アドミラル・ルーフ RX級戦艦:リヴェンジ ラピッド ロイヤル・オーク ラミリーズ レゾリューション LFA級戦艦:アイギス フューチャー E級揚陸艦:ホーミー ヴォクシー XJR級巡洋艦:ソヴリン レパード クーガー ジャガー スワロー 17級航空戦艦:チャイカ CS級空母:ビルシュタイン グリーン・ファクトリー 登場人物 [要整理] 高町なのは フェイト・T・ハラオウン 八神はやて 守護騎士ヴォルケンリッター:シグナム ヴィータ シャマル ザフィーラ リインフォースII ティアナ・ランスター スバル・ナカジマ エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ ギンガ・ナカジマ ヴァイス・グランセニック レティ・ロウラン ヴェロッサ・アコース ユーノ・スクライア クライス・ボイジャー クロノ・ハラオウン リンディ・ハラオウン エイミィ・ハラオウン ギル・グレアム リーゼアリア リーゼロッテ レジアス・ゲイズ ジェイル・スカリエッティ 元ナンバーズ:ウーノ・スカリエッティ トーレ クアットロ チンク・ナカジマ セイン セッテ オットー ディエチ・ナカジマ ウェンディ・ナカジマ ディード 伝説の三提督:ラルゴ・キール レオーネ・フィルス -ミゼット・クローベル 聖王教会:聖王ヴィヴィオ カリム・グラシア シャッハ・ヌエラ シャリオ・フィニーノ マリエル・アテンザ リオ・ウェズリー コロナ・ティミル アインハルト・ストラトス ヴォルフラム乗組員:エリー・スピードスター ルキノ・ロウラン レコルト・ガードナー フリッツ ヴィヴァーロ アギーラ カリブラ・エーレンフェスト アストラ・ボーア トゥアレグ・ベルンハルト イリーナ・M・カザロワ アルティマ・ヤナセ アンソニー・カワサキ シルフィ・テスタロッサ プラウラー・ダッジ ハーディス・ヴァンデイン デビッド・バニングス シェベル・トルーマン マシュー・フォード トレイル・ブレイザー 管理局魔導師:ジル シロッコ ジュリア デバイス レイジングハート バルディッシュ リボルバーナックル マッハキャリバー レヴァンテイン グラーフアイゼン ジェットエッジ 管理局標準デバイス 警察官標準デバイス 施設、ランドマーク 無限書庫 ミッドチルダ国立天文台 クラナガン宇宙港 中央第4区 シダーミル区 メープル川 コヴィントン大橋 ノースミッドチルダ第1魔力発電所 企業 カレドヴルフ・テクニクス ヴァンデイン・コーポレーション アレクトロ・エナジー バニングス・テクノクラフト アークシステム・マイスター 第97管理外世界地球における各国軍・公的機関・情報機関 アメリカ軍 自衛隊 ソ連軍 NASA(アメリカ航空宇宙局) ESA(欧州宇宙機関) ソ連宇宙アカデミー JAXA(宇宙航空開発研究機構) FBI(連邦捜査局) CIA(中央情報局) NSA(アメリカ国家安全保障局) MI6(イギリス情報局秘密情報部) NORAD(北アメリカ航空宇宙防衛司令部) 内閣情報調査室 香港国際警防隊 CERN(欧州原子核研究機構) まずはこちらをご覧ください。 @wikiの基本操作 用途別のオススメ機能紹介 @wikiの設定/管理 分からないことは? @wiki ご利用ガイド よくある質問 無料で会員登録できるSNS内の@wiki助け合いコミュニティ @wiki更新情報 @wikiへのお問合せフォーム 等をご活用ください @wiki助け合いコミュニティの掲示板スレッド一覧 #atfb_bbs_list その他お勧めサービスについて 大容量1G、PHP/CGI、MySQL、FTPが使える無料ホームページは@PAGES 無料ブログ作成は@WORDをご利用ください 2ch型の無料掲示板は@chsをご利用ください フォーラム型の無料掲示板は@bbをご利用ください お絵かき掲示板は@paintをご利用ください その他の無料掲示板は@bbsをご利用ください 無料ソーシャルプロフィールサービス @flabo(アットフラボ) おすすめ機能 気になるニュースをチェック 関連するブログ一覧を表示 その他にもいろいろな機能満載!! @wikiプラグイン @wiki便利ツール @wiki構文 @wikiプラグイン一覧 まとめサイト作成支援ツール バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は? お手数ですが、メールでお問い合わせください。
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mttp //infinity-library.int/r-type_lyrical 概要 「AB戦役」。 一般にそれは次元世界では、新暦78年に発生した大規模次元間戦争のことをいう。 この事件では、ある管理世界が遭遇した未来時空から来襲した生物兵器の存在が中心となり、次元世界各国に波紋をもたらした。 それは、「バイド」なる超大型生物兵器システム群の存在である。 遭遇 最初の契機は、新暦77年暮れ頃から頻繁に発生していた時空嵐である。 多数の次元断層が発生し、民間航路への危険が増したことから、時空管理局は軍艦によるパトロールの強化を決定した。 哨戒任務についていた管理局所属艦船クラウディアは、次元間航路付近で不審な行動をとる国籍不明艦を発見、追跡を開始した。 接近し、その不明艦が管理局において使用されているL級に酷似していることが判明した。 さらに同じく国籍不明の小型戦闘機が不明艦に対し攻撃をかけており、交戦状態にあるとみなされた。 不明艦は軍艦旗を掲げておらず、不明機も識別信号を発信していなかった。 クラウディアでは国際遭難信号の周波数で警告を行った。 不明艦、不明機ともに応じなかったため、クラウディアでは民間航路内での戦闘行為を禁じる管理局法に基づいて不明艦および不明機の拿捕を試みた。 クラウディアが接近すると、不明機は搭載していた大型砲で不明艦を破壊、さらにクラウディアにも攻撃をかけてきた。 クラウディアはただちに応戦、対空砲火で不明機を撃墜した。 不明機の機体を確保することには成功したが、破壊された不明艦は損傷が酷く曳航は不可能と判断され、接舷してひととおり調べた後に撃沈処分とされた。 だがこのとき、不明艦に書かれていた艦番号のマーキングから、この艦がかつて「闇の書事件」の際、暴走したロストロギア闇の書と共にアルカンシェルによって消滅したL級2番艦、「エスティア」であることが判明した。 クラウディア艦長であるクロノ・ハラオウン提督は、闇の書事件当時エスティアを指揮していたクライド・ハラオウン提督の息子である。 時空管理局本局に帰還したクラウディアは、不明機との戦闘で受けた損傷の修理を急ぐと共に、次元航行艦隊司令部にも仔細の報告を行った。 場合によっては、非正規武装組織が管理局艦を偽装していた可能性がある。 調査の結果、不明機は第106管理世界アイレムにおいて使用されているR-9A型戦闘機と判明した。 管理局の信頼に係わる重大な問題であるとされ、第106管理世界に対し、事実関係を明らかにするよう要請および抗議が管理局より行われた。 当該宙域においてアイレム地球軍が何らかの作戦行動をとっていたのかである。 第106管理世界アイレムの動き 当世界では、数十年前よりUFO目撃例が多発し、未知の世界からの侵略がまことしやかにささやかれていた。 それは突如太陽系内に出現した生物兵器群により真実と信じられるようになった。 新暦69年(当世界における西暦2169年)、アイレム地球軍ではバイドと呼ばれるこの生物兵器が26世紀の未来からやってきたことを突き止め、その大元を探った。 その未来が、現在より400年後の第97管理外世界であることが判明し、新暦77年(西暦2177年)、地球軍はひそかに艦隊を発進させた。 しかしそれは出港よりまもなく、管理局哨戒艦により探知される。 管理局の動き 第106管理世界の大規模な軍事行動に伴い、周辺世界への影響を懸念した管理局は介入を検討する。 拘束されたR-9Aのパイロットは管理局執務官フェイト・T・ハラオウンが聴取を担当した。 また、R-9Aの機体は管理局本局に移送されたが、管理局の質問に対しても第106管理世界は機体の返還要求等を行わなかったため、倉庫にそのまま留め置かれることになった。 第106管理世界艦隊が第97管理外世界に向かっていることが明らかになり、管理局はその事実を同世界出身の高町なのは一尉へ伝えた。 第97管理外世界の動き 次元間航行技術を持たない同世界では、第106管理世界および管理局の動きを把握していなかった。 しかし、第106管理世界艦隊の出現は第97管理外世界からも探知され、管理局に報告された。 管理局提督リンディ・ハラオウンは警戒のため、近傍宙域にいたXV級艦船3隻を第97管理外世界に向かわせるよう命令した。
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融合騎(1) 古代ベルカの叡智が生み出した、騎士を補助する人格型デバイス。 「ロード」と呼ばれる術者と「融合」することで、圧倒的な感応速度を持って魔法管制を行い、ロードを強力に補助する。 融合には「適性と相性」という要素が存在し、ロードと融合騎の融合相性は極めて微妙なバランスの元に成り立っている。 初代リインフォース(闇の書の意志)のような初期の融合騎は人間と同サイズだが、 開発後期においてはアギトのような小型サイズが主流となった歴史があり、リインフォースIIのサイズはそれを参考に設定されている。 融合騎(2) 等身大サイズのメリットは、単身で「武器・徒手戦闘」が行えること、融合後に、重傷を負ったり意識を無くしたロードを内部空間に保護し、 融合騎自身が活動する「入れ替わり」が可能なことがあげられるが、融合相性は極めて厳密。 小型は単身での近接戦闘や入れ替わりが行えないかわり、融合相性に若干の余裕を作りやすく、適合相性が良い複数の相手と自由に融合、 活動することが可能となる。 融合騎にとって「ロード」は特別な存在であり、ロードやその仲間たちのために行き、ともに戦ってゆくことを「生きる意味」と感じる者がほとんど。 アギトもリインフォースIIも、それは同様である。 シスターシャッハ 双剣ヴィンデルシャフト カリムの秘書にして護衛、近代ベルカ式陸戦AAランクを保有する武装シスター、シャッハとその武装、ヴィンデルシャフト。 ヴィンデルシャフトは独特なグリップ形状を持つ平型の剣で、二刀一対で使用する「双剣」。 グリップ形状を利用した回転力を加えての切断をはじめ、自身の肉体の延長として扱う攻防一体の武具として、 シャッハは子供時代からこの武装を愛用している。 ヴィヴィオ 謎の少女。現時点で判明している事実は「人造魔導師素体として生み出されたらしい子供」ということのみ。 名前や言語といった記憶があることから、人工授精による培養児ではなく、出生については何らかの秘密があると見られている。 左右色違いの瞳は、様々な世界で時折見られる身体特徴。左右の瞳で色素量が異なるために発生し、ほとんどの場合、片目は色素「赤」になる。 古代ベルカでは「聖者の印」として尊ばれた歴史がある。 「預言者の著書」プロフェーティン・シュリフテン 古代ベルカ式、カリム・グラシアの保有する稀少技能。タイムパラドックスの観点からも、 「未来の知識を知る」という形の「予言」は否定されているが、この能力は世界中に散在するあらゆる「情報」を統括・検討し、 そこから予想される事実を詩文形式で導き出すという、「データ調査・管理系」に分類される魔法技能であるとの研究が成されている。 教会や管理局の関わる「事件」に関する預言が多く現れるのは、 各世界の各地に散在する管理局のデータベースや教会からデータを収集しているためとの見識も提出されてもいる。 「占い程度」とカリムは謙遜するが、大規模な災害や大きな事件に関しての的中率は高く、 クロノの言う「見識者からの予想情報」として管理局や教会からの信頼度は高い。 機動六課 迅速に動くことができて、常に事件にまっすぐに向き合えるエキスパート部隊。 かつてはやてが夢見たそんな「部隊構想」は、いくらか皮肉な形で実現したことになる。 強力な魔導師の過剰保有(オーバーホールド)と、後見人たちからの保護による事件専任・独立行動の代償は、 部隊として保護されることなく、危険な任務の最前衛として戦い、問題を起こすか期間が過ぎれば解体される。 そんな薄氷の上に乗ったような状態で、「信用に値しない、ありえないほどに馬鹿げた事件」を未然に防ぐため。 八神はやてが望んだ機動六課は生みだされ、任務に当たる。 闇の書事件(1) 八神はやてが渦中の人物となった、ロストロギア「闇の書」を巡る事件。 この事件を通じてなのは・フェイトとはやてや守護騎士たちは出会い、戦った。 たったひとつのロストロギアとわずか数人の関係者によって中規模次元浸食を引き起こしかけ、提督や執務官長を勤め上げた本局の重鎮、 ギル・グレアムが管理局を去ることとなった直接の原因として、局員歴の長い者たちにとっては苦い記憶ばかりが蘇る事件。 罪に問われた「闇の書の主」八神はやては管理局の保護責任下において執行猶予期間を終え、その期間中も局員として働いていたが、 キャリアを重ねてゆく彼女やその「家族」たちを快く思わないものもまた多い。 闇の書事件(2) 実際に、八神はやては事件そのものに深く関わっていたわけではなく、状況的には明かに「単なる被害者」であるのだが、 事件記録のみを見れば、闇の書の主であった八神はやては紛れもなく「事件の首魁」である。 八神はやてはそれを否定することなく罪を認め、守護騎士たちとともに、人々の平和を守るため日々を過ごす。 「リインフォース」 「闇の書」の管制プログラムであり、融合騎。破損したプログラムによって悲劇の連鎖を生みだしながら、 4人の守護騎士たちとともに永遠のような旅路を続けていた。 最後の主・はやてによってその心は救われたが、はやてと守護騎士たちを守り生かすため、自らその生涯を閉じた。 リインフォースははやてが贈った名であり、リインフォース自身が生涯を閉じる際、 いつか生まれる「二代目」にその名を譲り渡すことを願った名前。ずっとそばにいながら出会うこと適わず、 共に戦えたわずか一夜の後に別れることとなった彼女との別離は、はやての心にいまだ深く静かに残っている。 セカンドモード フォワードメンバーの「モード2」。形状変化がシステム構想に入っているストラーダとクロスミラージュは形状変化。 変化しないマッハキャリバーとケリュケイオンは出力アップのみとなっている。 オフシフト 「自由待機」とも表記される、24時間勤務体制の部隊においての休暇。 隊舎~寮内・もしくは隊舎まで30分~1時間以内に戻れる地点に滞在することを条件とした休息と自由行動。 訓練と各種任務に追われるフォワードメンバーたちは、もっぱら寮内でのんびりぐったり過ごすことを至福の一時としている。 艦船「クラウディア」 XV級の大型次元航行艦。次元巡回を主目的とするが、戦艦としての戦闘能力も常時保有する。 現在は同型のXV級が管理局の次期主力艦として多数生産されている。 質量兵器 広義では「物理効果によって対象を破壊する兵器」を指すが、実質は爆薬による大規模爆発を旨とした兵器や化学兵器など、 「魔力によらず大量破壊を生みだす兵器」を指す。 魔力兵器は「純粋魔力効果」によるクリーンかつ、生命や建築物に深刻なダメージを与えることなく制圧を行えるものと異なり、 質量兵器は生物・建造物・環境を含めて無差別に破壊することから、管理局は黎明期からこの質量兵器を忌避・根絶させる動きを行ってきた。 可能な限り無血に、安全に対象を制圧する能力。それが平和のために管理局が選択した武力であり、 それに答えたのが「魔法」というシステムだった。 普通と違うこと 「普通」の定義は難しいが、生まれや育ちがその世界での一般定義から逸脱する場合、社会に受け入れられるためには困難が伴う場合がある。 機動六課のメンバーの多く……特に前線メンバーは、それを良く知っている。 艦船「アースラ」 かつてリンディ・ハラオウンが艦長を務めたL級次元航行艦。 なのは・フェイト・はやてにとっては、母艦として事件の日々をともに過ごした思い出深い艦。 現在は艦船としての寿命を終え、解体されることが決まっている。 稀少技能「レアスキル」 古代ベルカ式に多く見られる、稀少な固有技能。 八神はやての、蒐集修得した魔法をミッド・ベルカ両式の魔法をフルパフォーマンスで使用できる「蒐集行使」やカリムの「預言者の著者」等がその代表例。 キャロやルーテシアの「召喚行使」も稀少技能とされる。 テンプレート 戦闘機人たちが使用する、魔法陣状のエネルギー制御陣形。主にIS発動の際に展開することから、「ISテンプレート」とも呼ばれる。 戦闘機人 人の体に機械を融合させ、戦闘力や行動力を飛躍的に高める研究。 人造魔導師とは異なるアプローチながら、天賦の才や地道な訓練に頼る「魔導師」に頼らず、 その誕生に人為的な力を介在させることによって確実に安定した数を揃えることができる武力という点で、思想と到達点は同一線上にある。 ストームトゥース シューティングアーツの打撃コンビネーション。左拳の二連撃で、打ち下ろす防御の破壊と、打ち上げる直接打撃を連続で撃ち込む。 プロテクション なのは直伝、ヴィータが叩いて鍛え上げたスバルの防御魔法。防御膜によって対象の攻撃を受け止める。 集中防御 防御膜を一点に集中することで、防御力を飛躍的に高める。 防御面が狭くなるため的確なアクションと勇気が必要な防御だが、高度の集中したバリアは、 打撃のみならずバリアブレイクに対しても一定の耐久力を持つ。 ディフェンサー ギンガの防御魔法。スバルと比較してシールドや回避、ブロックを多用するギンガはバリア系防御をあまり得意としない。 それでも前衛として、高いバリア硬度を誇るのだが……。 リボルバーキャノン スバルオリジナルの打撃技。リボルバーシュートで中距離発射する衝撃波を、飛ばさずに拳に収束。打撃に込めて対象に叩き込む高威力技。 高い破壊力はもちろん、防御された際にもノックバック効果が高く、個人戦でも仲間との連携でも使用しやすい打撃。 なお、指導したなのはの構想では、今後は発動速度をさらに上昇させ、 いずれ「すべての拳による打撃」にリボルバーキャノンと同等の威力と効果を持たせるとのこと。 ギア・セカンド マッハキャリバーのモード2。出力向上のリミッターが一段解除され、より早く、より鋭い機動やダッシュが可能となっている。 なお、開放初日にうっかり調子に乗ったスバルとマッハキャリバーがコーナリングフォースの計算を怠って全開にしてしまい、 ウイングロードを逸れて海に落下したのは、スバルとマッハキャリバー2人の重要な反省事項として記録されている。 (なお、現在はきちんと制御できているようである) ウイングロード スバルのウイングロードの最大進展距離はさらに伸び、マッハキャリバーのフォース グリップコントロールによって、 もはや「空戦」に近いレベルで空中を移動できるようになっている。 隊長戦 フォワード4人にとっては、恐怖を伴う模擬戦。 容赦なく襲いかかる隊長たちとの戦いは、痛みと恐怖、撃墜の瞬間には絶望をもたらし、 撃墜後に仲間たちが落とされていくのを見守るのは悔しく、苦しい訓練。 だが、これまでの訓練成果を確かめつつ「絶対的な強敵対策」として学ぶことの多い訓練でもある。 動作データ継承 戦闘機人「ナンバーズ」は、姉妹間で動作データを共有している。 自分に必要なデータを抽出することで常に最適かつ優良な機体動作を可能とし、 連携行動を取る際にも姉妹の動作タイミングを計算できるため、コンマ1秒単位での正確なコンビネーションを行うことが可能となる。 最高評議会 管理局を創設した数人の初期メンバーのうち、現在も生存している3名。 現在も管理局の最高意思決定機関として活動を続けている。平時は運営に口出しを行うことはないが、 次元世界の長期に渡る平和のため、思案と行動を行っている。 ノーヴェ ウェンディ No.Xノーヴェと、No.XIウェンディ。ナンバーズ中、前衛を担当する2人。ナンバーも近い同時誕生機であり、 今後、チームやコンビで活躍してゆくこととなる。 レリック スカリエッティが機動六課や地上の管理局員たちから、認識すらされずに蒐集したレリック、その数およそ50前後。 「素晴らしくも楽しい一時」とその後の愉悦のため、このレリックは使用されることとなる。
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■ 18 哨戒任務などで既に大西洋に進出していたイギリス海軍艦は、バイオメカノイドとの交戦に突入した米空母ジョン・C・ステニスの救援に向かう事を決定した。 北極海に現れたバイオメカノイドの個体量は想像を絶するものであり、アイスランドからは、極夜の空に塵雲の帯が伸びているように見えていた。 アメリカ空軍はただちに可能な限りの戦闘機にスクランブルを発令し、迎撃態勢に入った。 また海軍でも、大西洋艦隊の艦を急ぎラブラドル半島沖に向かわせ、バイオメカノイドの進撃を食い止めるように陣を展開した。 この時点で洋上にあって戦闘行動が可能な米軍艦のうち、タイコンデロガ級については全兵装を使用しての全力射撃を行った場合、約160秒ですべてのミサイルを撃ちつくすと計算された。 また既に交戦していたプリンストンやシャイローからの報告で、バイオメカノイドのうち小型個体についてはミサイルによる攻撃は携行弾数や1発で撃破可能な敵の量などから効率が悪いとされ、艦砲による攻撃を主軸にするべきと提案された。 同様に戦闘機においても、1機に搭載できる対空ミサイルの本数はF-15Eであってもたかが知れており、航空機関砲による攻撃が効率が良いとされた。 作戦司令部では、従来の戦術の常識からは外れるがAC-130のような大量の砲兵装を搭載できる重航空機による空対空迎撃が効果が高いと検討されていた。 大型の機体なら積める弾薬の量も多く、また少々の攻撃には耐えられる。 敵は空中運動性能自体はさほど高くないので対空ミサイルのような強力な誘導は必要なく、火力あたりのコストの低い艦砲やロケット弾などによる攻撃が適する。 バイオメカノイドと戦う場合において最も気をつけなければならないのは手持ちの武器が尽きてしまうことである。 それは地球でもミッドチルダでも同じく、残弾がなくなったのに無理をして戦い続ければあっという間にやられてしまう。ミサイルや砲の弾が尽きたら、あるいは魔力カートリッジが尽きたら、ただちに撤退して交代し、補給を受けなければならない。 ノーフォークの海軍基地では、各水上艦艇に対する砲弾の積み込み準備が開始された。 ミサイルは再装填作業に時間がかかるため、艦砲を優先して補給する。 さらに短時間サイクルでの砲身交換を必要とするパルスレーザー砲の予備砲身も運び込まれ、光学兵装CIWSを装備する各艦へ順次積み込まれていく。 隣接するラングレー空軍基地でも、戦闘機および爆撃機がハンガーから出され、出撃準備を進めていた。 爆撃機には爆弾ではなく、ガンポッドを積み込む。この際、使えるものはとことんまで使う。米軍は高度にシステム化されながら、実戦経験の豊富さによる柔軟性をも併せ持っている。 B-52を運用する爆撃機部隊はさらに、通常爆弾の時限信管を調整し空中で爆発させるようにしてバイオメカノイドの群れの中に投げ込むプランを独自に検討し始めた。 全世界のあらゆる陸海空軍が、その持てる力のすべてを発揮する。 そうしなければ、この危機を乗り越えられない。 奇しくも人々の意思は、宇宙より現れた危機によってひとつにまとまりつつあった。 各地の米軍基地で働く兵士、そしてソ連軍兵士たち、航空自衛隊の隊員たち。彼らは自身の職務に希望を見出そうとしていた。 それは人間の人間らしい心が、戦いによってこそ磨き清められるという意味でもあった。 各国軍および政府がそれぞれ超法規的措置による対バイオメカノイド作戦を検討する中、いち早く日本は護衛艦による対宙攻撃の準備を開始した。 すでに出港させていた護衛隊群の搭載するスタンダードミサイルは、宇宙から降下してくる大型個体を成層圏で迎撃することが可能である。 また、種子島および内之浦のロケット発射場に、日産自動車を母体とするIHIエアロスペース社がL-5(ラムダ・ファイブ)対宙ミサイルランチャーの設置作業を開始した。 最大射程距離12万キロメートルを持つ同ミサイルはペイロードに大型徹甲爆弾を搭載し、軌道上のインフェルノを狙うことができる。 ミサイルを運搬する日産ディーゼル「クオン」キャリアートレーラーの後ろには、例によってマスコミの車がぞろぞろと列をなし、カメラマンが窓から身を乗り出してミサイルのロケットノズルにビデオカメラを向けている。 既にソ連がR-7ミサイルに熱核弾頭を搭載してインフェルノへの攻撃を行ったことは報道されたので、特に中国などの周辺諸国が日本も核攻撃を行うのではないかと警戒している、とマスコミは報道している。 もちろん日本は核保有国ではない。 しかし、その技術力から常に、持とうと思えばすぐにでも核兵器を製造配備できる能力があるとみなされているのも事実だ。 日本特有の事情もある。 沿道にところどころできている人だかりを、高台から伺うようにあちこちに警備の人員が配置されている。彼らは地元の警察官だけでなく、自衛隊などから送り込まれた部隊も混じっている。 特に沖縄諸島に近い立地である。いわゆる過激派団体が集まってくることが予想される。 実際のところ、日本国内におけるSP(セキュリティポリス)が請け負う業務の中で最も一般的なものというのはこういった、軍需分野に携わる大企業からの、自社製品や要人の警備任務である。 日本の企業が武器を製造し輸出などしているということも、一般の国民からすればぴんとこないことかもしれないが、実際には欧米やソ連など世界各国で日本製高性能兵器は活躍している。 一般道を封鎖し、トレーラーの前後左右について警備を行う自衛隊車両には小銃を携えた隊員が乗り込んで周囲を警戒している。 いつ、見物人の人だかりの中から銃弾が飛び出してこないとも限らない。 今回の事件をまだ、テレビの中の出来事としかとらえきれていない国民が多いだろう。そんな隙に付け込んで、日本の社会を破壊する事をもくろむ人間は周辺諸国に幾らでもいる。 まだ日本のキー局はどこも放送していないが、すでに米軍経由で、北極海バフィン湾においてアメリカ大西洋艦隊とバイオメカノイドが本格的な戦闘に突入したという情報が伝わってきている。 日本のマスコミがニュースを流し、国民がバイオメカノイドの姿を目の当たりにするのは、すでにカナダ東海岸が襲われた後の事になるだろう。 敵の巨大要塞、インフィニティ・インフェルノは軌道速度が通常の人工衛星とは異なりかなり速く周っているので、軌道はしだいに日本上空から太平洋上へと移動していく。 最初の接近では東シナ海から日本海を縦断していったが、その後は日本アルプス上空、太平洋沿岸部と、周回ごとに日本から離れる方向に軌道が移っていく。 インフェルノは軌道を操作し──すなわち自己動力を持たない小惑星には不可能な航行である──地球上空に滞在する位置へ移動している。ただの小惑星なら、地球の引力につかまって何周かまわっても、遠心力ですぐにはじき出されてしまうか地上に落下する。 異星人の戦艦、数百隻からの猛攻撃を受けてなお生きている。 地球の科学力をはるかに凌ぐ異星人艦隊の兵器でも、この要塞を落としきれない。 それほどの脅威が出現したのだ。 もはや映画やアニメの中だけの出来事ではない。宇宙にはエイリアンがいる。これまで人類が試みてきたあらゆる地球外生命探索プロジェクトをあざ笑うかのように、バイオメカノイドは異次元より現れたのだ。 しかもそれは、これまでの人類の想像とは全く異なった異形のロボット生命体だった。 日本政府としても、これが本当に役に立つ研究かと内心半信半疑に思っていた者も、現場の人間ですらかなりいた。 超能力は確かに存在し、それが過去に何らかの超文明が存在したのだと考えればうまく説明できるが、まさか本当に存在するとは確信してはいなかった。 異星人すなわち地球外知的生命体の存在については、次元世界人類の来訪により少なくとも20世紀半ばには確信をもたれていたが、超古代先史文明に関しては異星人たちの側でも研究途上であり断定はできていなかった。 それが、今回、バイオメカノイドの襲来という未曾有の事態によって証明された。 テレビに映る種子島射場の中継映像を見ながら、高町士郎は画面を見る自分の視線がSPのそれになっていることを意識していた。 すでに現役を退き、自営業で喫茶店をやっているといっても、長年、続けてきた仕事の癖はそう簡単には抜けないものである。 日本がこれほど緊張した軍事作戦を展開したことは、ここ数十年では初めてのことである。 訓練や試験ではない実戦経験は、やろうと思ってやれることではない。実戦は相手のあるものであり、その相手はいつどこから現れるかわからないからだ。 そして今回、その実戦の相手が、宇宙から現れた。 日本に限らないが、世界のほとんどの国では、地球外生命体との交戦を法律に定めていない。 軍隊とは、主に他の──おのずと地球上に限定される──国家との紛争解決を目的にしている。災害対策などを抜きにすれば、その職務(戦闘行為)は交戦法規に基づいて行われ、やたらに武器を撃ちものを破壊し人を殺せばいいというものではない。 破壊されるべきものは敵の兵器やその支援施設などでなければならないし、殺害されるのは敵の戦闘要員である。 あくまでも紛争の解決手段として、相手の実力を減衰させ意志を挫くことが戦闘の目的である。 宇宙怪獣に、それが通じるかはわからない。 異星人、少なくとも言葉を持ち文明を持っていれば、交渉が通じる可能性はある。 少なくともミッドチルダをはじめとした次元世界においても、戦闘によって実力の差を見せ付けた上で国家間の交渉に臨むという作法は地球とさほど違わないということがわかっている。 だが、バイオメカノイドは違う。 彼らには少なくとも文明はなく、知能は低い。動物のようなものである。 日本なら、たとえば山から里へ下りてきた熊や猪などの野生動物には、最初から銃や罠などで攻撃を行うだろう。 それと同じだ。バイオメカノイドが地球へ降りてくるなら、余計なことは考えず最初から全力で攻撃しなくてはならない。 次元世界でも、この初動対応を誤り1つの世界が──すなわち1つの惑星が──壊滅してしまった。 アルザス壊滅の報せは管理局よりエイミィにももたらされた。 バイオメカノイドの群れがアルザスに出現したとき、人々はそれを最初は単なる変わった野生動物だと思っていた。 この世界にはもともと竜型の生物種が生息していたので、三つ首ドラゴンを見ても人々はさほど重大なことだと気づけなかった。 続いてワラジムシとアメフラシの群れが押し寄せ、異常事態だと気づき始めたときには、すでにアルザスのいたるところにバイオメカノイドが出現していた。 金属質の身体を持つ彼らは、不気味で耳障りな摩擦音を出して歩行する。 ロボットではない。人工物ではない。惑星TUBOYに最初に植え付けられたのは人工的な機動兵器だったかもしれないが、もともとの住人がいなくなり、孤独な活動を続けた結果、もはや独立した生命と呼ぶべき生態を獲得した。 機械生命。次元世界で、人造魔導師の実現手段としてサイボーグよりもセルフクローニングが選ばれたのは、ヒトより強い生命を生み出してはならないという理由が根源にある。 クローン技術であれば、たとえどこまでいっても生身の人間であることは変わらないが、サイボーグが極限化していった場合、人間ではない、機械が意志を持ってしまう危険がある。 サイボーグはあくまでも、戦闘機人のように生身を主、機械を従とした、人体の補強にとどめるべきである。 スカリエッティが開発した人機融合技術はその危険と予見をはらんでいた。 それゆえに、最高評議会はこの事実を封印しようとした。 しかしもはや、その封印は解かれようとしている。 新暦65年の闇の書出現、新暦75年の聖王復活、新暦83年のバイオメカノイド襲来、そしてそれらの背後に横たわるエグゼキューター計画。 次元世界人類は、ロストロギアたる災厄をもたらしてきた超古代先史文明の残滓の由来を解き明かし、そしてそれに挑む。 人類の誇りと、存在意義を懸けた戦い。 管理局システムの真価が問われるときである。 設立理念上、管理局は次元世界国家に対する強制力を持たない。 そして、ミッドチルダとヴァイゼンは次元世界最強の軍事国家である。 この時点で既に、管理局はミッドチルダよりも立場が下も同然である。 そのミッドチルダが解き放ってしまった封印を、管理局は、またミッドチルダ自身も、全次元世界の協力と共に立ち向かっていかなければならない。 ミッドチルダだけに責任を押し付けては、この問題は解決しない。 そして同様に、地球もまた、管理外世界だからと傍観を決め込むわけにはいかない。 敵戦艦インフェルノは地球を目指している。 インフェルノをも含む、超古代先史文明の残滓たるロストロギア。それは管理世界、管理外世界の区別を問わずどこにでも分布し、そしてその根源がついに第97管理外世界テラリア──地球であると判明してしまった。 地球ともっと早期に交渉を持ち、管理世界への加盟を要請していれば──というが、今となっては結局はたらればである。 管理局艦隊に先んじて地球人に公式な接触をクラウディアが持ったことは、管理局がこの対地球政策においてイニシアチブを取れる材料になる。 もちろん、本局にいるレティもリンディもそのことは理解しているだろうし、クラウディアが第97管理外世界へ向かったという報せを受けた時点でこのプランを検討の俎上にあげただろう。 たとえ何十光年も離れていても、直接の対話でなくても、情報によって、人間は互いの意志が通じ合う。 管理局提督としてのクロノの類稀な政治力である。 リンディもまた、自分の息子の成長ぶりと、それを確かに見初めていたレティの手腕を改めて理解した。 再び、エイミィの端末が鳴らす新着メッセージのアラームが、ハラオウン邸のリビングに響いた。 アルフは居室に引っ込んだまま、リビングにいるのはエイミィ、デビッド、士郎の3人だけである。 空中投影式の魔導タッチパネルを操作し、メッセージを表示させる。既にこの程度のデバイスならば、デビッドと士郎には見せても問題はない。 映像はない文字のみの、ミッドチルダ語の文章がスクリーンに現れる。 「──始まったそうです。ミッドチルダ宙域、距離27万キロメートルの第1月軌道を越えてバイオメカノイドが侵入し、管理局次元航行艦隊による攻撃が開始されました。 現在、艦砲および魔力ミサイルによる迎撃を行っている──とのことです」 エイミィの言葉に、デビッドも士郎も、無言で重く頷く。 もはや事態は、自分たちが口出しできる領域を超えている。 次元世界人類の持つ強力な宇宙戦艦が、その搭載する魔法兵器をもって戦闘に突入した。 あとは、彼らの健闘を祈るのみである。 ミッドチルダは惑星の昼の面をバイオメカノイドに向け、海軍艦隊は輝くミッドチルダの惑星を背にする格好になる。 バイオメカノイドの知覚を光でごまかせるかは不明だが、海や雲での太陽光の反射を浴びれば艦の姿をまぎれさせることができる。 距離15万キロメートル、静止衛星の軌道を避けて高軌道宙域へ上昇したミッドチルダ艦隊は、艦首に装備された大口径魔導砲による統制射撃を開始した。 アウグストをはじめとした艦首砲は砲口が艦の中心線上に固定されているため、照準操作は艦の機動によって行い、敵に真正面を向ける必要がある。 砲塔のように回避運動をしながらの攻撃はできないので、長い射程距離が要求される。 艦隊司令は主砲を用いての砲撃戦への移行タイミングを、距離8万キロメートルに設定した。バイオメカノイドがこのラインを突破してくれば、被弾率が高まるために回避運動をとる必要があり、そうすると艦首砲は使えなくなる。 いくつかの艦は、機関全速で艦を振ったまま惰性航行で敵へ艦首を向け砲撃を行うことも独自に検討していた。 時空管理局本局艦艇はクラナガン直上の静止軌道に位置しているため、クラナガンが昼になった現在、ちょうど艦隊の真後ろに位置し、艦隊越しにバイオメカノイドの群れを見る位置にある。 本局艦艇そのものに武装は無く、巨大な人工衛星という形態の施設だが、防御力は堅牢である。 艦隊はそれぞれ、バイオメカノイドの射線上に本局が位置しないように艦の進路をとった。 後方へ抜けた流れ弾が本局施設に被害を与えることは避ける必要がある。 これまでの戦闘で観測されたデータで、バイオメカノイドは主にプラズマ弾などの荷電粒子砲を使用してくることがわかっていた。 粒子砲の場合、大気圏内に入れば濃密な空気分子との衝突で急速に減衰し、また宇宙空間であっても射程距離は数十万キロメートル程度と短く、また質量の重い粒子を飛ばしているため、原理的に光速で飛ぶ魔導砲と比べて比較的に弾速は遅い。 十分な砲戦距離をとっていれば、敵の発砲を見ながら、未来位置予測による回避が可能である。 月面泊地から出撃したGS級2艦は、ミッドチルダ海軍の主力艦隊とは離れた方角にいる。 バイオメカノイドたちも、わずか2艦がぽつんと孤立している状態に対しては魅力的な獲物と映らないのか、近くにいた小型個体がふらふらと寄っていく程度で大きな動きは見せない。 敵は、戦術に基づいた動きをしない。あくまでも機械的に、より近くにいる目標、より大きな出力を発している目標に引き寄せられる。 すなわち、大出力魔力炉を多数内蔵する本局艦艇、そして惑星ミッドチルダ、多数の艦船が近くに固まっているミッドチルダ艦隊。 相対的に、GS級程度の小型艦は、バイオメカノイドにとって対処の優先度が下がる。 その隙を突き、2隻のGS級はバイオメカノイド群の隊列の横に回りこみ、攻撃を開始した。 敵大型輸送艦に対して長距離魔導ミサイルを発射し、艦砲で邪魔な小型個体を打ち落とす。 これまでの戦闘で、敵はミサイル迎撃をほとんど行わないことが知られていたが、これほど敵の数が多いと誤誘導や迷走を起こす危険がある。 なるべく宙域をクリアにし、敵にミサイルが届きやすくする。 「本艦の対艦ミサイル飛翔中、目標命中まであと90秒です」 「2番主砲、カートリッジ再装填にかかります」 「1番主砲、目標群アルファに照準。優先度を再割り当てせよ」 GS級は、艦の規模としてはXV級とLS級の中間あたりになり、艦載魔導砲が管理局の最新型であるMk99フェーザー5インチ砲ではなく一世代古い軽量型3インチ砲になっている。 長砲身小口径で対空砲撃に重点を置いた性能のため、連射速度は速いが一発あたりの威力が弱く、有効射程も短めである。 レティ指揮下のGS級は2隻とも、砲雷科員たちが全力でカートリッジの供給作業を急ぎ、切れ目のない弾幕を張ってバイオメカノイドを押し込んでいる。 GS級の魔力光は白色であり、軽量な砲塔はダメージコントロールの観点から開放式になっている。単装の旋回砲座に最低限のシールド魔法と覆いをかぶせただけの構造のため、発砲時には砲塔後部から白い余剰魔力ガスを噴出する。 使用後のカートリッジは排莢箱によって回収され、パッキン交換後、魔力結晶を充填しなおして再使用される。 補給科では、戦闘と並行してのカートリッジ再処理作業を急ぐ。 バイオメカノイドを相手にしたとき、いかに次元航行艦であっても1隻だけの搭載弾薬量では心もとない。 可能な限り、撃てる弾数を増やす必要がある。 「敵小型バイオメカノイド、上方へ2つの群れに分かれて移動中」 「対艦ミサイル、次弾装填完了」 直撃による起爆ではなく、精密に距離測定を行い近接信管で爆発させ、いちどに大量の敵を撃破することを狙う。 「目標への発射解析値でました!」 「よろしい、発射しろ」 GS級巡洋艦の艦橋両脇に設置されている対艦ミサイルランチャーから、魔力結晶を詰め込んだミサイルが発射され、ロケットモーターに点火されてバイオメカノイド群に向け飛翔する。 これも推進薬は魔力素を添加した金属混合型のコンポジット燃料である。 比推力は従来型の固体燃料ロケットよりも大きい。ノズルに転移魔法の術式を施すことで、反動推進による加速力以上のスピードで通常空間を飛行することができる。 「ロウラン総長より入電です!」 通信士官が本局からの電文受信を報告する。 「副長、暗号鍵を」 「何と言ってきていますか」 操艦の指示を出しながら、航海長も本局からの新たな指令に注意を向ける。 「──今本局から新たに、ヴォルフラムが出撃した。例の事故があった技術部実験棟モジュールから八神二佐を回収し次第戦列に加わるとのことだ」 「八神艦長が」 「無事だったんですか!話では、第511観測指定世界での戦闘で重傷とのことでしたが」 「そこは技術部ががんばってくれたんだ──ヴォルフラムも、まだ修理が完全じゃあないが、大丈夫だ。八神さんならやれる」 この2艦の艦長はいずれもリンディとは同期の提督であり、同じロウラン閥で付き合いもある。 艦を連携させるコンビネーションは優れている。 本局艦艇との距離はこの位置ではおよそ40万キロメートルと離れており、通常航行では数十分かかる距離だ。 ミッド艦隊および本局艦隊は静止軌道付近からの遠距離砲撃を行っているため、月面泊地から出た艦たちは互いに距離が離れている状態である。 バイオメカノイド群はミッドチルダの公転軌道のやや内側に位置した次元断層から向かってきており、ミッドチルダが公転軌道上を進む軌道速度と合成した速度で進撃してくる。 太陽の重力に引かれるため、軌道を曲げながら、月の横をよけるようにしてミッドチルダに向かっている。 「艦長、月面泊地より連絡です!ゼータ・カリーナの出撃許可がおりたそうです、すぐに救援に駆けつけると!」 GS級に続いて、定期整備のためにドック入りしていたミッド海軍所属のLZ級戦艦の1隻もようやく発進した。 現代ではもはや骨董品とも呼べるような大口径艦砲を搭載し、コストのかかる荷物とされてきた大型戦艦だが、今はその主砲が強力な武器になる。 LZ級戦艦は当時(新暦ゼロ年代)で標準的だった16インチ魔導砲を3連装砲塔で4基、計12門搭載しており、これは1門だけでもXV級やLS級のもつアウグストを軽く凌ぐ破壊力を持つ。 大戦後の建造となった新しいRX級では、コスト削減と軽量化のためにより口径こそ同じ16インチだが短砲身化され砲塔の装甲もオミットしている。また搭載数も連装3基で計6門と減らされ、大出力砲撃魔法に耐える砲身強度も備えない。 かつてのような艦隊決戦のための大口径砲ではなく、支援砲撃に用いることが多くなったため、破壊力向上のための大口径化は必要性が薄れている。 より小型の巡洋艦や駆逐艦では、すでに単装砲が主流である。 かつて戦艦が活躍していた時代は、砲撃魔法の精度が低かったため、いちどに多数の魔法を発射しその中のどれかひとつでも命中すればよいという、いわゆる公算射撃が行われていた。 艦載クラスの砲撃魔法を撃つ砲身は機械式魔法陣を必要とするため占有スペースが大きく、中世時代の露天砲台から、1基の魔法陣で複数の砲撃を放つための多連装砲塔が開発された。 また艦船どうしの砲撃戦のために、砲塔には強固なシールド魔法による装甲が施された。 デバイスの性能が上がり、射撃指揮装置や魔力レーダーも進歩してくると、砲の門数が少なくても命中率がじゅうぶん期待できるようになった。 空戦魔導師の機動力が重視されるようになり、高速で移動する目標への追従性能が高い軽量砲が求められた。 また、誘導魔法の発明と術式改良により、単発の砲撃魔法では届かないような超長距離まで魔力弾を届かせることができるようになったため、新しい艦ほど、艦砲の数は減らされるようになった。 これらの次元航行艦の装備の変遷も、あくまでも人間同士の戦いであることが前提であった。 今、相手にしているバイオメカノイドは、これまでの人間同士の戦いの常識を超えた存在である。 より強大な敵を倒すために、武器は進化し、変化していく。 それは魔法でも、人間でも変わらない。 本局ドックでは、インフェルノ内部での戦闘で損傷したヴォルフラムの修理が急ピッチで進められていた。 もともと、再度第97管理外世界へ向かうため出航予定は10日後とされていたが、ミッドチルダにバイオメカノイドが侵攻してきたことでその余裕はなくなった。 戦闘を行うための最低限の兵装と電子機器の機能回復を行い、船体の外板などは後回しになる。 見た目はぼこぼこの状態だが、シールド魔法を展開すれば防御力は発揮できる。 ルキノは最後のエンジン点検を行い、魔力炉の出力が70パーセントまで発揮できることを確かめた。 インフェルノのトラクタービームを受けて船体が転覆したとき、魔力炉内部の圧力容器にダメージが加わった可能性がある。もし圧力容器が損傷していれば、最大出力で運転すると炉が破裂する危険がある。 完全な修理を行うためにはいったんエンジンを降ろさなくてはならないため、そうなると工期は1週間以上のオーダーになる。 それを待っている余裕はない。 ルキノはエリーに報告を行い、現在のヴォルフラムの装備で、戦闘が可能であるという見通しを立てた。 どのみち、主砲3基のうち艦首の1番砲塔はターレットごと大破していて修理はされていないため、残る2番、3番砲塔のみで戦い、これら2基を動かすだけであれば魔力量は足りる。 あとは魔力レーダーも、ヴィヴァーロの作業によりほぼ機能を回復した。 火器管制装置と艦砲があれば戦闘は可能だ。また、エリーはすでに技術部から報告を受け、はやての現在の状態に予想をつけていた。 本局はまだ、よみがえったはやてと闇の書をどう扱ったものかと手をこまねいていたが、エリーは決意を固めていた。 自分なら、はやてに呼びかけ、対話をすることができる。そしてそれは、ヴォルフラムの全乗組員が同じ思いだ。 自分たちの大切で信頼できる艦長を、助けに行く。もう一度会いに行く。そのためならば、何だって信じる。 はやてを信じている。 ドック内作業員を退避させ、エリー・スピードスター三佐はヴォルフラムの機関始動を指令した。 艦をドックに固定していたガントリーロックを解除し、舫い綱を解く。 解放された船体はゆったりと無重力の中に浮かび、再び、宇宙へ向けて動き出す。 「副長、エンジン出力70パーセント可能、魔力発揮値50億まで可能です!」 「わかりました。補助バッテリーへバイパス回路を接続、機関故障に備えます」 「了解!」 エリーとルキノがエンジンの処置を確認し、ヴォルフラムの後部メインノズルに再び、魔力光の輝きが復活した。 エンジンはインフェルノ艦内での戦闘で受けたダメージが修理しきれておらず最大出力を発揮できないが、この状態で戦闘行動が可能と判断した。 チャンバーへの魔力チャージが必要なアウグスト魔導砲は使用せず、誘導魔法発射機と主砲2門を使っての防空戦闘に専念する。 三つ首ドラゴンのブレスで大破した1番主砲は、砲塔を撤去した上からバーベット開口部に鋼板を張ってふさいでいる状態だ。 ダメージを受けていた2番主砲は取り急ぎ旋回装置と揚弾装置を修理し、カートリッジロードを連続して行えるようにしている。 船体がゆがむほどのダメージを受けると、砲塔も歪んで回らなくなったり、カートリッジを送り込めなくなったりする。そうなると手動装填が必要になり発射速度が落ちてしまうので、ここを最優先で修理した。 「速力120ノット、面舵10度、艦傾斜右15度!フリッツ、ガス防御帯に気を付けて!」 「了解です副長、かっ飛ばしますよ!ポルテさん、少し揺れますから席につかまっててください!」 本局から出港する際にはそれぞれの航路にかなり低速の制限速度がある。ただでさえ平時でも多数の艦船が出入りし、また施設そのものの防御のためにシールド魔法が張り巡らされているため、実質的に航路として使える空間はごく狭い。 フリッツも若い操舵手だが、ルキノから直伝を受けた操艦術の腕は確かだ。 総質量9000トンにも達するLS級の船体を、1フィートの誤差もなく正確に飛ばす。 「速力120に達しました!」 「よろしい、発令所より電測、こちら副長。ガス防御帯の位置を正確に測定してください。モジュール爆発の影響でガス帯が移動している可能性があります」 「了解!出港水路、本局より距離16キロ地点の旋回ポイントでターンです!左回頭して抜けます、ここはいつも通り進路2-7-0でいけます!」 「操舵手、左回頭用意!ロール戻して、旋回開始まで180秒!船体の慣性に気を付けて!機関室、推力で艦尾を振ります!魔力炉の出力変動に注意してください」 「はい!フリッツ、こっちはまかせて!大丈夫、あなたならやれるわ」 「まかせてくださいルキノさん!」 フリッツは舵輪を握り直して構え、エリーは海図卓に向かって航路計算を行う。計算尺に速力120を入力し旋回開始ポイントを割り出す。 これほどの速力を出すことを想定して港湾水路は設計されていないが、それでも120ならいけるとエリーは判断した。 本局艦艇などの軌道上泊地では、次元航行艦といえども水上艦程度の低速での航行になる。宇宙空間では広大なため速度感覚が異なるが、120ノットということは時速に換算すれば220km/h以上に達する。 一方、ガス防御帯の隙間は軍艦用航路では1800メートルと規定されており、もちろん隙間が一直線に空いていては隕石が素通りしてしまう危険があるため何重にも折れ曲がっている。 まさにわずかな隙間を潜り抜けるような操艦となる。 ヴォルフラム自身が発するシールド魔法とガス防御帯のシールド魔法が干渉し、虹色の波動が放たれる。 高速で飛ぶ次元航行艦が、惑星の磁気圏などに接触したときに見られる現象だ。 「次の旋回ポイントまで速力120で直進!左ロール30度、アップトリム5度に修正!航海長、速力を再計算!」 海図卓に向かうルキノは航法用デバイスを起動させ、空間投影式のキーボードを叩き、ヴォルフラムがとるべき針路と速度を計算する。 全速航行で艦の外壁が細かくきしみ、艦橋内の各種機器が魔力光を明滅させる。 「はい副長!速力120から105に減、旋回開始まで55秒です!」 「よろしい、発令所より機関室へ、15秒後に減速開始、45秒後に速力105まで減速!ルキノ、あなたの合図で旋回!」 「了解!私の合図で旋回、星図に進路をマーク、旋回開始まで50秒!」 「よーしこいこい来い……そこだ、来い……!──副長!こちら電測、左側上方のガス帯が崩れてます、幅おそらく700、左舷側から狭まっていきます!」 防波堤のようにスペースデブリをさえぎるシールド魔法が、本局の受けた衝撃によって魔法陣発生器の取り付け位置がずれたため、航路を狭めるように動いてしまっている。 航路の幅そのものはある程度余裕をもって設定されているが、本来の港湾内制限速度の3倍近いスピードを出しているヴォルフラムにとってはまさにジェットコースターのような操艦になる。 LS級の小柄な船体は、大型の巡洋艦や空母などに比べると動揺も大きく、乗組員たちはそれぞれに艦内の手すりや自分の座席につかまり、踏ん張って重力に耐える。 人工重力は常に艦の真下に向いているため、急旋回では外側に振られる感覚がある。 平衡感覚と方向感覚を失わないために必要だが、本来の設計を超えた急速度ではまさに、乗数的に増加していく重力を感じられる。 「……旋回10秒前、進路マーク!5、4、3、2、1……!操舵手、取舵一杯、右舷エレベータ上げ一杯、左舷スポイラー展開!全速前進、そのまま左ロール90まで増加、アップトリム10度に修正! 今よフリッツ!舵を目一杯引っ張って!機関室、速力105を維持!重力パラメータを忘れずに補正して!」 ルキノが声を張り上げて指示を飛ばし、ヴォルフラムの艦橋の窓に、太陽風と魔力残滓を浴びて激しく蛍光を発するシールド魔法の帯が広がっている。 壁のように迫るシールドの手前、至近距離での旋回で、滝のように魔力光の奔流が舞う。 これほどの強度の本局艦艇のシールドに激突すればこちらは大破は必死だ。ぎりぎりで、側壁のすぐそばを掠めるようにして旋回する。 「見えました!敵バイオメカノイド群を目視で確認!電測、敵艦隊の位置は測定できますか!?」 「お待ちを副長!ガス防御帯の誤差を補正します!」 「本局艦艇の上部へ向かいます、敵バイオメカノイド群の距離を測定!艦首2番主砲、艦尾3番主砲、砲塔旋回、右舷対艦戦闘用意! 副長より機関室へ、魔力炉出力70パーセント最大!出港水路の最峡部を抜けたらメインノズル推力全開、いっきにターンします!」 「っとっ……ここだ!出ました!副長、敵艦隊までの距離、約17万4千キロメートル!敵艦隊針路、方位3-5-5から0-4-5へ、ミッド艦隊と正面から激突する構えです! この分だとこっちには気づいてません、今なら本局の壁面に沿っていけます!」 「了解……!ルキノ、上昇反転用意!トリムを左15度まで戻して、艦の視界を確保してください!」 「はい副長!フリッツ、あなたの腕の見せ所よ!航海より機関室、魔力炉出力70パーセント!メインノズル推力最大!」 本局ドックの外壁から20キロメートル、ガス防御帯を離脱したヴォルフラムは大きく左へ舵を切り、本局の北側、はやてがいるはずの実験棟区画へ向かう。 接近するバイオメカノイドからの攻撃をかわすため、使用可能な全砲門を右舷側へ向け、ミッドチルダ海軍本隊へ向けて突進しつつあるバイオメカノイド群への注意を保つ。 暗緑の闇のような雲に包まれた本局艦艇の影を浴びるミッドチルダは、接近する宇宙船からは巨大な暗黒星雲を衛星に従えた特殊な惑星に見えるだろう。 それは高度科学技術文明を獲得した人類の、技術の結晶である。 文字通り結晶のように成長した本局艦艇の、わずかな小さな隅の一角に、はやてが待っている。 愛すべき友が待っている。戦友のために、親友のために。 皆の思いを守り、そして伝え、参じる。それが自分たちの、生きていく理由。その意識を持つことが、挫けない意志の原動力になる。強い意志を持つためには、強い動機が必要である。 人類、ミッドチルダ人類、次元世界人類、という以前に、八神はやてという友人をまず第一に守る。 その意思を抱え、LS級艦船ヴォルフラムは宇宙を飛翔する。 バイオメカノイド群との距離が11万キロメートルを切り、ミッドチルダ海軍艦隊の最前線に出ているLZ級戦艦たちは主砲の発射準備にかかった。 XV級のアウグストは艦首砲という形態もあり射程距離も長いが、射線が艦の真正面に固定されていること、また魔力炉出力の大半を砲に回してのチャージが必要ということから運用には制限が多い。 昔ながらの大口径主砲を持つLZ級が、皮肉にもバイオメカノイドとの戦いでは有利であるという状況になっていた。 各艦が機関出力を最大にしてエンジンの魔力光と魔力残滓の排気をきらめかせ、戦艦群が艦隊前列に進出し、巡洋艦群は後方へ下がり対空迎撃戦のシフトを敷く。 各戦艦群の砲塔要員は、主砲の砲身へ、発射用大型魔力カートリッジを装填する作業にかかる。 通常の携行型デバイス向けのカートリッジシステムと違い、特に6インチ以上の大口径砲では弾体と装薬がそれぞれ別のカートリッジになっている。ミッドチルダ海軍の戦艦用16インチ砲では、発射用カートリッジは標準発砲では6発ロードする。 砲塔1基につき3門、その1門につき6発、さらに1艦あたり砲塔4基を搭載する。掛け掛けで、全砲門斉発では72発ものカートリッジをいちどに消費する。 カートリッジのサイズは直径と長さがそれぞれ16インチの円筒形で携行型デバイスに比べて寸胴であり、しかし詰め込まれた魔力は現代型の小型艦船であれば文字通り一撃で粉砕できる量になる。 「全艦、主砲射撃用意」 「ロムニーより入電、第2戦隊全艦、砲撃準備完了しました。ワイドエリアサーチおよび主砲射撃指揮レーダー目標連動、自動追尾装置リンク良好です」 射程距離はこちらの方が長い。 現時点で観測できている敵の個体の種類では、近距離での攻撃手段しか持たないはずだ。少なくとも今まで確認できた個体の中では、次元航行艦と宙間戦闘を行えるバイオメカノイドはいない。 アウトレンジできる、と艦隊司令は判断した。 いずれこの状況では敵は距離を詰めてくるほかない。それまでにどれだけこちらが攻撃を打ち込み、敵戦力を漸減できるかが勝負どころだ。 勝負は先手必勝、掛かりの勢いがカギだ。 太陽光を真横から浴びる角度になり、バイオメカノイドの群れが、宇宙空間に突如湧き出した光の雲のように見える。 艦隊前面に出ているLZ級戦艦各艦はそれぞれの戦隊ごとに左右に分かれ、12門の主砲を敵バイオメカノイド群に向けて指向しロックオンする。 各艦の艦長、砲術長、砲術科員たちが固唾をのんでその瞬間を待つ。 惑星ミッドチルダの青い輝きを背に、砲塔基部のターレット内に、機械式魔法陣から発せられるミッドチルダ式の4連サークル砲撃術式、そして緑白色の魔力光が浮かび上がる。 「全艦、砲撃開始!撃ちー方はじめー!」 「撃ちー方はじめー!」 ミッドチルダ海軍艦隊司令より全戦艦群へ、主砲射撃開始の号令が下る。 命令を復唱確認する手順を置き、各艦の戦闘士官の操作による術式接続が行われる。ターレット内に据え付けられた魔法陣から砲撃魔法の術式が砲身に送り込まれ、装填されたカートリッジの魔力を得て、魔力弾術式を起動させて弾丸を砲身内に生成する。 直線的な動きで接近してくるバイオメカノイド輸送艦、改ゆりかご級へ向け、16インチ魔導砲の全門斉射が行われる。 真空であるはずの宇宙空間が激震するほどの強烈な魔力光を発砲炎として放ち、数百発もの大口径砲弾が発射される。 発砲遅延装置のわずかなそして正確なタメを踏んで、空間が爆発するような強烈な魔力光と魔力残滓の噴射がほとばしった。 戦艦クラスの大口径艦砲では、カートリッジは発砲と同時に燃焼して空薬莢を残さないようになっている。発砲炎に続けて、砲塔内の余剰魔力をパージするブローバルブが白い灰を噴射し、大きく駐退した砲身を装填位置に戻して次の砲弾とカートリッジをロードする。 青白い、また緑白にも輝く魔力光の帯を伸ばし、戦艦群からの砲撃がバイオメカノイド艦隊に殺到する。 最初の爆発は、艦隊最前縁を飛ぶ小型個体を蹴散らしたものだった。高密度のエネルギーを浴びて金属がプラズマ化し、蒸発しながら閃光を発生させる。なおも突進する魔力弾が大型輸送艦に命中し、数瞬おいて、内部から大爆発を起こす。 搭載されていた大型個体に命中し、詰め込まれていた金属や有機物が一瞬で加熱され、気化して体積を瞬時に膨張させた。それはまさに爆発的な膨張である。内部の圧力が瞬間的に上昇し、宇宙空間の真空の中で、輸送艦はあっというまに船体を崩壊させる。 おそらくバイオメカノイド群は、この距離で使える攻撃手段を持っていない。XJR級打撃巡洋艦およびXV級巡洋艦による威力偵察で、敵艦隊の中でもっとも大型のものは改ゆりかご級であり、これは大型バイオメカノイドを運ぶためのもので武装はほとんどない。 それ以外は、ユスリカやマリモなどの小型個体が浮遊しつつ随伴している程度で、また輸送艦に乗らずに単独航行している三つ首ドラゴンなども、さすがに艦船ほどの射程距離のある武器は持っていないようだった。 空間の位相を揺さぶる高密度魔力弾が、10万キロメートルの距離を文字通り一瞬で飛翔する。この距離では、発砲から着弾までに要する時間はわずか0.3秒だ。 発射した魔力弾を真後ろから見る場合、透明な空間の歪みの形で飛んでいく魔力弾の軌跡を目視できる。 発砲に要した魔力はすべて砲身内で弾体を加速するために費やされ、目標に命中する弾体は砲身から飛び出した後は純粋な魔力の塊となって空間を突き進む。 この弾体カートリッジは敵にダメージを与える術式のみを充填され、その術式に使用される魔力は別途、発射用装薬カートリッジから受け取る。 戦艦主砲の破壊力とはそれだけ強大である。 それゆえに、運用に多数の人員を必要とすることや、威力が大きすぎるためにかかる手間とコストの割に使用可能な状況が限られていることから、現代魔法戦闘ではもはや時代遅れで役に立たないものとされた。 取り回しやすい小型砲や、個人携行型デバイス、搭乗型のバリアジャケットなどが発達した。 空戦魔導師の出現によって、戦艦は時代遅れの兵器となったはずだった。 より多くの魔導師をより迅速に展開できる空母や、僻地あるいは管理外世界への進出、長期哨戒にも適した巡洋艦が現代の次元航行艦では主力となった。 また巡洋艦という艦種そのものも、主力艦を護衛する補助艦艇というものから、前線に出る空戦魔導師のサポートをする後方支援基地というふうに役割が変わり、それによって装備も変わっていった。 多数の電子装備を搭載し、転送魔法を使用するための設備、艦載魔導師が乗り込むため揚陸能力や彼らの居住設備などが重視され、船体は大型化し、また艦そのものの攻撃力は優先度が下がっていった。 戦艦の乗組員とは、海軍兵学校を出た若い水兵が船の扱い方を覚えるまでの練習艦のような役割になっていた。 いわゆる旧暦大戦時代の最後のクラスであるLZ級でさえも、半数近くが退役し記念艦になったり解体されており、その後に建造されたRX級も、主砲の数や装甲強度は減らされ、兵装や電子機器の自動化もすすめられ、旧来の戦艦とはだいぶ趣が変わっている。 敵艦船の撃滅を専門とする旧来の戦艦ではなく、艦載魔導師の運用を含めた総合的な能力を求められる中であくまでももっとも大きい砲を積むクラスというものだ。 ミッドチルダ海軍で最新の、次元世界最大最強を誇るLFA級にしても、その主な運用目的としては最新技術のデモンストレーション的な意味合いが強く、個艦戦闘能力のみを追求したその艦容はむしろ用兵的には使いにくいものである。 どれほど強力な戦艦をつくっても、現代では次元破壊魔法があり、これを受けてはどんな分厚い装甲も、シールド魔法も、巨大な主砲も意味をなさない。 しかし同時に、それを使用することは最終戦争の引き金を引くことであり、実際にいくら次元破壊魔法を配備したとしても実戦でそれを撃てる状況とは、その時点ですでに、全宇宙規模の次元震で人類滅亡が決定した状況である。 第97管理外世界の兵器でいうなら核砲弾あたりに相当する艦首砲型アルカンシェルが、ぎりぎり戦術使用が可能な限界だ。 これを超えるものは、もし惑星系や恒星系の中で発射してしまえば取り返しのつかない二次災害をもたらす。 そこに、新世代の戦艦が発達してくる余地はあった。 RX級1番艦の進宙は新暦12年でありL級よりも古い。これ以降、新たな戦艦は建造されず、このまま次元航行艦の艦種としては消滅するかに思われていた。 しかし、ミッドチルダ海軍はこの現代に至って、実に60年ぶりの新型戦艦となるLFA級の建造を決定した。 この力が必要になる時が来ることは、すでにミッドチルダだけでなく各国首脳陣の間では確信を持たれていた。 ヴァイゼンでも、ミッドチルダにやや遅れながら、17級の後継となる大型戦艦──同次元世界における艦種類別としては重ロケット巡洋艦──を開発している。 バイオメカノイドの群れが、光る雲のように見えるそれが瞬間的に膨張したように、遠目からでもわかるほどに激しい爆発を起こした。 主砲弾が命中した個体が爆発し、金属が魔力と反応して燃え上がり蒸発し、大量のプラズマガスを放ってあたりを吹き飛ばした。直撃を免れた個体も衝撃波で吹き飛ばされ、他の個体と衝突し、外殻が割れて体液が漏れ出し、そこから爆発や炎上を起こした。 各艦隊は、さらにそれぞれのタイミングで斉射撃ち方による砲撃を続行する。 砲塔に装備された冷却装置が、余剰魔力の排気と同時に砲身冷却を行う。戦艦主砲はそれ自体が巨大なデバイスとみなせる。 インテリジェントデバイスのような情報処理能力や、ストレージデバイスのような術式記憶能力は持たず、単一の砲撃魔法を発射することのみに特化した大型デバイスである。 「次弾装填、急げ!」 「余剰魔力排気完了、尾栓開放よし!」 「レバー(棹桿)揚げ!ストライカーボルト後退、20!」 「後退20よし!」 砲身内に残った余剰魔力をブローバルブから排気し、次の装填のために尾栓を開く。 砲塔直下に位置する弾薬庫では、次に発射する弾体カートリッジを揚弾装置にセットし、装薬カートリッジを別途エレベータで砲室へ送る。 このあたりの機力装填装置も、戦闘での抗甚性を考慮して物理機械によって組み上げられており、魔法術式の使用は最低限にとどめられている。 「砲弾揚げます!」 「砲身装填位置へロック、砲弾よし!」 「砲弾位置合わせ!ボルト前進30、弾込めよし!」 「レバー下げ!カートリッジロード用意!ボルト後退15!」 「カートリッジロード、6よし!」 「ロード6よし!ボルト前進50、ゆっくりだ!」 携行型デバイスでは、デバイス自体の動力により自動で行われるカートリッジのロードも、戦艦主砲ともなると人力で、慎重に作業を進めなくてはならない。 ただでさえカートリッジシステムというものは魔力を高密度に充填した薬莢を使用し、暴発の危険が常に伴う。 次元航行艦では、砲塔内でのカートリッジ爆発はもっとも恐れられる事故だ。そして戦闘艦の喪失原因として宿命のように避けられないのも、被弾によって弾薬庫内のカートリッジが誘爆することだ。 個人携行用の小型デバイスでさえ、古代ベルカ時代のリボルバー・メカニカルシリンダーから、ミッドチルダ式で実現されたオートマチックスライドチャンバーに移行するまでには幾多の試行錯誤があり長い年月がかかっている。 高濃度の魔力素を防御する専用の砲術科員用バリアジャケットを装備した砲撃魔導師が、それぞれ連携して主砲へのカートリッジロードを行う。 1本の砲身につき6発の16インチカートリッジが装填され、砲術長へ発射準備ができたことを伝える。統制射撃を行うため、砲術長は各砲塔の発射準備が完了するのを待ち、4基の砲塔すべての準備ができたところでCICへ連絡する。 CICでは各砲塔へ射撃指揮レーダーからの発射解析値を転送し、敵バイオメカノイド群へ向けて照準の微調整を行う。 ここまでで、訓練されたLZ級の砲撃魔導師たちは45秒で発射準備を完了した。 「第3斉射用意完了!中砲でいきます!全艦耐衝撃体勢!ブザーならせ!」 艦内各所では主砲発射の衝撃に備え、電測員はレーダーの作動状況をチェックする。 砲術長が射撃の合図を行い、それにしたがってCICの射撃方位盤から発射指令が送られ、LZ級の艦橋を挟んで前後に2基ずつ、計4基据え付けられた砲塔から、4発の16インチ砲が発射される。 3連装砲塔の場合、通常、左、右、中の砲を順番に撃ち、ひとつの砲が発射を行っている間に他の砲が装填作業を行う。 これにより切れ目なく砲撃を放つことができる。 「発砲!!」 激しく魔力光を吹き散らし、LZ級およびRX級のミッドチルダ戦艦群は砲撃を続ける。 大きく目立つ敵輸送艦、改ゆりかご級を優先的に狙い、距離が詰まる前になるべく敵を撃ち減らす。時折、外に這い出してきたらしい大型個体に砲弾が命中したと思しき大爆発が起き、続いて周囲の小型個体が巻き込まれた小爆発が連鎖的に広がる。 各艦の電測員は敵群との距離を慎重に計測する。 このままの速度でバイオメカノイド群が接近してきた場合、おそらく距離5万キロメートル前後から敵の攻撃がこちらに届き始めると思われる。 注意すべきは三つ首ドラゴンのプラズマブレス、改ゆりかご級の荷電粒子砲、大クモのメーザー砲だ。 これら大型個体は、その体格なりの強力なエネルギー弾を撃ってくる。そこで重要になるのは、XV級をはじめとした防空巡洋艦である。 いちどに多数の対空目標を追尾し攻撃できる誘導魔法で、敵の弾丸を迎撃する。 各戦隊では、それぞれの担当宙域を割り振り、弾幕を張るように防空弾幕を構築する。綿羽根を飛ばすように、アクセルシューターの弾幕がひらひらと舞う様が見える。 戦艦群が両翼から撃ちあう中、駆逐艦戦隊は上下に展開し、雷撃戦を仕掛ける。 大出力魔力弾を詰めた誘導魔法を放ち、大型個体の破壊を狙う。 距離およそ18万キロメートル、艦砲よりも遠距離からの攻撃が可能だ。 それを察知したのか、小型個体の群れが進路を変えて向かってきた。ユスリカは速度がはやく、機動性が高いようだ。 誘導魔法を発射し終えた駆逐艦戦隊はただちに対空戦闘の準備にかかる。 「敵機接近、数およそ8000以上!方位3-4-5から3-2-5へ、左舷上方対向角プラス20!」 「対空戦闘用意!」 「対空戦闘用意、前部VLSへアクセルシューター弾丸装填!」 「目標群捕捉、先頭よりトラッキング、順に狙います!」 艦橋直前に設置された対空魔法の発射台となる機械式魔法陣が起動され、対空誘導弾が発射される。 術式の名前こそレイジングハートが使うアクセルシューターと同じだが、その威力は段違いだ。魔力弾の飛翔速度は秒速数百キロメートルに達し、射程距離も1万キロメートル以上、一度に512発の魔力弾を個別の目標へ誘導可能である。 赤い魔力光を吹き散らして、文字通り無数の魔力弾が駆逐艦戦隊から発射され、バイオメカノイド群へ殺到する。 激しい閃光とともに爆発が起き、アルカリ金属の破片が飛び散る。 それらを押しのけるようにしてユスリカの群れが、耳障りな羽音を立てて突っ込んでくる。 速射砲の射程距離内に入り、駆逐艦が砲撃を開始するのとほぼ同時に、ユスリカもプラズマ砲を放った。 針のような火線が交差し、それぞれの隊列群の中で閃光が瞬く。 駆逐艦の76ミリ砲を食らったユスリカの1体が粉々に飛び散り、プラズマ砲を受けた駆逐艦も左舷船体の中央部の外板が破裂したように割れてめくれ上がった。 装甲が施されていない場所のため、破損したシールド魔法がただちに修復され気密は保たれるが、シールドに接触しているゆがんだ外板が激しく魔力残滓を散らして火花を飛ばしている。 「ひるむなっ!撃ち続けろ!」 駆逐艦は船体が小さく、真空の宇宙空間であっても被弾すれば激しく揺さぶられる。 砲塔に次々とカートリッジが供給され、速射砲は桃色の魔力弾を撃ち続ける。アクセルシューターの垂直発射ランチャーはおよそ7秒に1斉射のペースで赤色の誘導弾を発射する。 戦隊はそれぞれ広く展開し、押し寄せる小型個体を掃討していく。 戦艦群からの主砲弾が突き抜けていった空間は一時的に敵がいなくなるが、すぐにその空間にもバイオメカノイドがあふれるように押し寄せてくる。 艦隊防空の中核となるXV級およびXJR級はラインを一段下げて待機し、より長射程の誘導魔法を構えている。 「目標群にロック完了、発射準備よろし!」 「了解、全艦誘導弾発射!サルヴォー!」 「ってー!!」 駆逐艦戦隊のさらに上下を大きく覆いかぶせるようにして、XV級、XJR級からの誘導弾が飛来する。 直射砲であるアウグストはもはやこの間合いでは使えず、大型の船体を生かした大規模マルチタスク戦術コンピュータと高性能魔力レーダーに基づいた火器管制装置の性能が発揮される。 バイオメカノイドの群れはまさに無数に広がっており、普通にレーダー電波を発射したのでは反射波が入り乱れてほとんど探知不能になってしまう。 魔力レーダーでは、目標物体が放射している魔力光をスキャンするという性質上、見えなくなってしまうということはないが、レーダースクリーン上では砂を撒いたように、小型個体の反応がスクリーンを埋め尽くすように広がっていた。 ひとつひとつ撃破していくよりも、いちどに薙ぎ払う方が効率的に、見るからにそのように印象付けてくる。 左右に展開している戦艦からの砲撃で、主砲弾が通過したと思われる一帯の敵の反応が瞬間的に消えて、ほこりの積もった床を指でなぞったように一瞬クリアになり、しかしそこにじわじわと周囲から反応が流れ込み、埋まっていく。 それが繰り返されている。 倒しても倒しても湧き出てくる、という印象を地上戦ならば受けただろうが、ここは宇宙である。宇宙では、隠れる場所はない。バイオメカノイドの群れの中に、次元断層がないことはすでに確認できている。 現在、このミッドチルダ宙域で戦っているバイオメカノイドは、今見えているぶんがすべてだ。 XV級巡洋艦戦隊が偵察艦隊として宙域外縁部に広く展開し、敵群の分析を行っている。 ミッドチルダの公転軌道速度はおよそ29.78km/sであり、また次元断層自体も固有速度を持って移動しているため、このままいくとあと60時間で次元断層がミッドチルダに最接近、およそ22万キロメートルの位置を通過して外惑星軌道へ離れていくとみられた。 月軌道の内側まで次元断層が入り込む状態は相当に危険である。もし人工衛星などが接触すればたちまち飲み込まれ、戻ってこれなくなる。また、万が一ではあるがミッドチルダ地表に接触した場合大規模な次元震が発生し、地殻が破れマントルまで抉り取られる。 次元断層への対処をさておいても、ともかく目下最重要課題となるのは押し寄せるバイオメカノイド群の迎撃である。 遠距離から撃ちこまれるミサイルは、ユスリカをはじめとした小型個体の密度があまりにも高く、群れの内側にいる改ゆりかご級まで弾が届かない。はるか手前で小型個体に激突し、軌道を乱されて故障するか、誘導を失って迷走、誘爆してしまっていた。 戦艦による、可能な限りの精密砲撃で狙い撃つしかない。 それもあまり距離が近づくと、小型個体を迎撃しながらの砲撃戦は非常に困難になる。 高速な小型個体はすでに、先行している駆逐艦戦隊との接近戦に入っている。こうなると、さながら空襲を受ける水上艦のように、対空砲を全力で撃ち続ける戦いになる。 わずかでも弾幕が途切れれば、被弾、轟沈という結末が待っている。 戦闘開始からおよそ18分、今のところ撃沈された艦の報告はないが、それでもじりじりとおされつつあることが予想された。 戦艦戦隊では航行速度をぎりぎりまでおさえ、魔力炉の全エネルギーを砲撃に回す。どのみち、艦の速度を出せたところでどうにもならない。浮き砲台のようにその場にとどまって、敵を食い止める。 砲撃のたびごとに、砲塔後部から余剰魔力の排気が行われ、それは次第に圧力が上がり、噴射が激しくなってくる。 砲身が過熱し、冷却時間を長くとらなければ連続しての発射が困難になってくる。 随伴する補給艦が交代で各艦に接舷し、主砲の冷却とカートリッジの補給を行う。 各戦隊では1隻ずつをいったん後方に下げて補給作業を行い、順次艦列の最後尾に戻して砲撃を続けさせるよう命じた。 37回目の斉射で、先頭の艦がまず補給のために隊列外側へ向けて転針した。後続各艦は前後の間隔を200キロメートルにとり、バイオメカノイド群へ砲撃を続ける。 長時間の連続発射で、主砲砲身はまさに焼け爛れ、魔力光だけでなく砲身そのものが赤熱していた。 砲術科員にも休息が命じられ、水と戦闘糧食が配られた。 大量の魔力素を浴びて、リンカーコアが中毒を起こしていないか、軍医によるチェックが行われる。 艦外モニターでは、バイオメカノイド群の周囲、塵の雲のように見えるかたまりのふちのあたりで閃光を放っている物体が見える。 強行突入を試みているミッドチルダ海軍のHS級駆逐艦戦隊だ。 小型個体は駆逐艦にまとわりつき、プラズマ砲で攻撃してきている。中には船体や甲板にとりつくものもいて、乗組員がデバイスを持って砲撃して追い払ったりしている。 ミッドチルダ艦隊から見て右手側、月面基地から、GS級2隻、LZ級1隻が増援に向かい、LZ級の主砲射程に入り砲撃を開始している。 こちらは管理局指揮下にある艦だ。月面基地には、こちらも数隻の改ゆりかご級が向かっており、GS級の対艦ミサイルでどうにか撃破したところである。しかし船体はまだ形を保っており、炎上はしているが、内部に積まれているであろう大型個体の消息は分からない。 外に飛び出してこないとも限らないので、慎重に監視を続ける。 「艦長!敵大型輸送艦から、大型個体の出現を確認!少なくとも20体以上が向かってきます!」 ミッドチルダ艦隊との距離が7万キロメートルに近づき、ここでバイオメカノイド群は輸送艦より大型個体を発進させた。 ある意味ここからが本番である。 この距離になるまで、敵はまだミッド艦隊に届く武器を持っていなかったのでひたすら距離を詰めるために前進していた。 ここからは、敵の武器もこちらに届く。 互いに、全力での撃ち合いとなる。一方的な戦闘はできない。こちらが撃つということは向こうも撃ってくる。こちらの弾が当たるということは、向こうの弾を食らうこともありうるということだ。 「全艦砲撃体制維持。敵大型輸送艦の殲滅を最優先せよ。砲雷長、大型個体を主砲で狙えるか」 「速度次第です。これまで観測された情報では、三つ首竜は比較的遅いですが、大クモは、接近された場合追い切れないおそれがあります」 「そうか……」 戦隊司令は、戦艦群の作戦として2つのパターンを考えていた。このまま全艦で改ゆりかご級への砲撃を続行しこれを殲滅するか、あるいは各砲塔ごとの独立射撃に移行して大型個体を狙うかである。 改ゆりかご級には、それほど脅威となる武装もなく、低速の鈍重な目標である。大型個体も輸送艦に積まれている状態では動けないので、発進前の敵を叩くことで敵戦力の減衰を狙う。 大型バイオメカノイドは、速力も速く、耐久力、攻撃力ともに小型個体よりもはるかに大きい。 小回りの利かない戦艦では、接近戦を挑むのは危険である。大口径の主砲は砲塔の旋回や砲身の俯仰も遅いので、近づかれると追尾しきれなくなってしまう。 快速の駆逐艦でも、空戦魔導師のようにひらひらと舞うユスリカには、なかなか振り回されている。 ましてや戦艦ではというものだ。 「巡洋艦部隊は対空迎撃戦用意。全艦火器使用自由、全力射撃だ。戦艦部隊は砲戦距離6万を目標に左右へさらに展開、敵大型個体を目標に砲撃せよ」 「了解しました……!」 「戦艦部隊全艦へ、回避運動よりも攻撃を最優先させろ。ここを絶対に突破させないつもりでかかれ」 アルザスの結末はすでにミッドチルダ軍将兵のほとんどに伝わっていた。ひとたびバイオメカノイドに惑星地表への上陸を許してしまえば、もはや人間の力では太刀打ちできない。 敵が宇宙にいる間に、なんとしても食い止める。 管理局クラナガン地上本部、またミッドチルダ陸軍でも防衛線は構築しているはずだが、果たして彼らでさえどれだけ持ちこたえられるか。 大気圏内では、次元航行艦の戦闘力はかなり制限される。主砲を含む多くの武装は大気圏内では威力が大きすぎて使えず、航行速度もかなり遅くなる。 LS級やIS級のような小型艦でなければ身動きがほとんど取れない。 ミッドチルダを含む次元世界では、惑星大気圏内では空戦魔導師による戦闘が主流となっていたため、特に大型の戦闘用航空機が発達しなかったという事情がある。空戦魔導師どうしの魔法戦闘か、さもなくば艦船による砲撃と切り込み戦が主体だった。 それゆえに、バイオメカノイドに大気圏内への降下を許してしまうといっきに不利になる。 この間合いでは、こちらは使えるオプションが少なくなる。 宇宙空間でなら、こちらが有利とまではいかなくとも強力な武器が使える。 空間を張り裂くような爆音を轟かせて、戦艦部隊の砲撃が続けられる。 空気の無い宇宙空間では音は伝わらないが、魔力光が低周波領域で空間を振動させ、乗組員たちのリンカーコアに直接はたらきかけていた。 群れの中から飛び出してきた大クモがメーザー砲をなぎ払うように発射し、射線上に接触したLZ級戦艦が前甲板の舷側付近から激しい放電を生じさせた。 距離が遠く、メーザーが減衰したためこれだけではダメージは無かった。しかし続けざまに別の大クモからのメーザー砲が、今度は集中的に撃ち込まれ、艦首非装甲部が貫通され、船体の破片が破裂するように飛び散った。 「右舷艦首に至近──ッ、いえ、直撃弾!艦首被弾!」 「応急班いそげ!損害報告せよ!」 ただちにシールド魔法の術式を操作し、船体への二次被害を防ぐ。艦中央部のエンジンや弾薬庫などのバイタルパートが無事ならば戦闘続行は可能だ。 「艦首右舷錨鎖庫に被弾、重力アンカー損傷!ですが戦闘に支障ありません!」 「第3兵員室内壁破損、区画を閉鎖します!」 「主砲作動問題なし!このままいけます!」 「よろしい、射撃続行!目標を再設定、発令所よりCICへ、輸送艦から出てきた大型個体の位置を正確に測定しろ!」 カートリッジロードを終えた主砲が射撃位置に戻され、砲身を細かく動かして照準を調整する。 3連装砲塔の3本の砲身のうち、左側の砲だけが持ち上げられ、残りの2本は装填位置のままで待機する。 魔力光の爆炎がほとばしり、斉射された魔力弾がバイオメカノイド群へ向け飛翔していく。 大きくリコイルした砲身はすぐさま伏せられて装填位置に移動し、続けて右側の砲身が射撃位置に上がっていく。 バイオメカノイド群からのプラズマ弾が宇宙空間を背景に飛び交い、艦に接近してくるものは後方のXV級が迎撃ミサイルを放っている。 およそ30秒後に続けて次の斉射、1艦あたり4基の砲塔から4発の16インチ魔力弾が発射され、濃い緑色に輝く魔力光が、LZ級の重厚な艦体を彩る。 多数の戦闘艦に攻撃されているという状態をついにバイオメカノイド群も理解し、群れの中から小型個体が集団でいっきに加速してくる。 各艦のレーダーでそれは探知された。 攻撃力の高い武器と、強い魔力反応を持つ戦艦群に向かってくる。 入れ替わりに放たれた砲撃が小型個体の群れに飛び込むが、群れは広く散らばり、全体を1回の砲撃ではつかまえきれない。 XV級のワイドエリアサーチでは、あたかも触手を伸ばすアメーバのようにバイオメカノイドの群れが散開しつつある様子が観測されていた。 「全艦、敵機襲来に注意!対空警戒を厳にせよ!」 艦隊司令から戦艦群、および巡洋艦戦隊へ指令が飛ぶ。戦艦では、主砲射撃を行う際は他の武器を止めなくてはならない。16インチ砲がまき散らす余剰魔力と衝撃波はすさまじいものがあり、艦外に露出している小火器を破壊してしまう恐れがある。 対空誘導魔法発射機を使う場合、あらかじめ主砲射撃をいったん止めておく必要がある。 その場合射撃速度の低下は免れない。あるいは対空戦闘に専念させたとしても、その分主砲火力が減り、敵大型個体をおさえきれなくなる危険がある。 「レグナム、敵バイオメカノイド射程距離内に入ります!敵機接近、方位0-7-0対向角上方55度、距離8000!」 「艦長、敵が来ます!」 「砲撃中止!対空戦闘用意!」 左翼に展開していた戦艦群で単縦陣の先頭にいたRX級戦艦「レグナム」が、まずバイオメカノイド小型個体の攻撃範囲に入った。レグナムの艦長は主砲での敵艦砲撃を中止し、小型個体の迎撃に移行することを決断した。 RX級戦艦では近接防空火器である魔力パルスレーザーを6基搭載しており、また遠距離の対空目標に対しては誘導魔法発射機2基がある。 レグナムは最初から全力攻撃を行うことを決定した。 誘導魔法は反対舷の目標にも撃てるので、艦橋を挟んで両側にある発射機から魔法陣が展開され、いちどに200発以上のアクセルシューターが発射された。 続けて、副砲である5インチ連装フェーザーガンでも対空砲撃を行う。こちらは弾体と装薬が一体化したタイプのカートリッジで、LS級などの主砲に使われる速射砲とほぼ同じだものだ。 砲身は短く切り詰められて連装砲塔に収められており、すばやい敵への追従性を高め、航空目標に対する弾幕を展開する。 押し寄せる小型個体に向け、青白い魔力弾が激しく舞いながら飛びかかっていく。 バイオメカノイドは攻撃を受けても回避をしない。そのまま、射程距離に入った順に弾を撃ちはじめる。独特の羽ばたき音を出して飛ぶユスリカの尖った嘴から、青いプラズマ弾が次々と発射された。 高速の荷電粒子が、重い衝撃を持った横殴りの暴風雨のように戦艦部隊に降り注ぐ。 断続的に閃光が瞬き、プラズマ弾を浴びた各艦が燃焼する金属原子の破片を飛ばす。 主装甲帯ではじき飛ばせる分だけでなく、艦首や艦尾の非装甲区画、外部に露出したセンサー類などの装甲を施せない部分に命中した砲弾がシールド魔法に衝突して激しくエネルギーを発散させ、魔力残滓を吹き散らす。 戦闘配置では艦内通路なども可能な限り閉鎖され、破口からの艦内へのダメージの浸透を防ぐ。 閃光を放ちながらレグナムは突進し、上空で大きくターンしてきたアクセルシューターの弾丸がユスリカを薙ぎ払う。 爆風が艦上構造物を覆い隠し、燃え盛るプラズマガスが飛び散る。宇宙空間では空気抵抗がないので大気圏内に比べて煙の拡散は速い。小さなチリを吹き飛ばし、視界を確保するように舵を切る。 後続する他艦の射程を空け、敵群に照準を取りやすくする。 バイオメカノイド群の進路はまっすぐミッドチルダに向かっており、直進を続けている。 群れの幅はおよそ2万キロメートル程度に広がり、外側にいる個体がミッドチルダ艦隊へ向かいつつも、中央付近に固まった300隻以上の改ゆりかご級が依然としてミッドチルダ地表、クラナガン、そして管理局本局艦艇への進撃を続けている。 冷静を欠いてはならない。 集中力を切らせば、操艦ミスを犯し撃沈される危険が高まる。もしわずかでも戦闘意欲にほころびが生じれば、そこからいっきに総崩れになってしまう。 「大型個体接近!魔力光スペクトル照合、三つ首ドラゴン2体、大クモ3体、後方38000に新たな輸送艦確認!」 「艦長!」 「先頭の大型個体を狙え!目標敵先頭艦、主砲、砲撃開始!全艦シールド魔法を再点検せよ!」 レグナムは再び砲戦体制に入る。艦中央部に配置された対空パルスレーザーが弾幕を張って小型個体を追い払いつつ、4基の主砲塔を右舷に指向し、向かってくる大型個体をロックオンする。 「距離26000、目標内部に高魔力反応、魔力発揮値上昇していきます」 「的速20、射撃方位盤データリンクオールグリーン……!」 瞬く閃光が、虚無の宇宙空間に沈んでいくように見える。夜光雲のようにも、次元船にとりつく虚数空間の船幽霊のようにも見える。 艦内の空気が、魔力素濃度を増して、粘つくように感じられる。 「発砲!」 先行してきた三つ首竜を狙い、レグナムの主砲が魔力光の発砲炎を放つ。同時に発射されたプラズマ弾を蹴散らして緑白色の魔力弾が突進し、3本ある首のうち左側の1本と、左前脚が爆発してちぎれて吹き飛ぶ。 その斜め後方、爆炎を振り払うようにして大クモが黄白色の粒子砲を放った。 砲戦体制で回避運動をとっていないレグナムは、これを出力全開のシールド魔法で防ぐ。 電測士は目を見開いて索敵術式の操作を行い、レーダーが破損しないよう注意する。同時に、艦橋へ被弾のタイミングを伝える。それによって艦内の乗組員たちはそれぞれに耐衝撃姿勢をとる。 轟音──宇宙空間では音は伝わらないといわれるが、海で戦う船乗りたちは砲撃音を聞く。 それは高出力の砲撃魔法が発する魔力の衝撃波だ。これは宇宙空間でも魔力光すなわち電磁波を放ち、それはリンカーコアによって知覚される。 大クモの粒子砲が舷側に命中したレグナムは反動で船体を左へ傾斜させ、慣性制御装置によってゆっくりと水平に戻される。 激しい魔力残滓が吹き散り、自動修復をかけるシールド魔法が光度を増す。ダメコン要員によって切断処置をとられた船殻外板がワイヤーバインドで艦内に引き込まれ、金属がこすれあう火花を飛ばす。 「ダメージリポート!」 「右舷後部、3番主砲付近に直撃弾!火災の発生無し、3番主砲発砲可能!」 「よろしい、砲撃続行!電測、レーダーの作動状況に問題はないか!」 「はい艦長!先ほどの本艦の砲撃、敵先頭三つ首竜に少なくとも2発が命中、炎上しつつ落伍します!代わって大クモ2番個体が増速、上がってきます!速力37!」 「よし、発令所よりCICへ、砲雷長、目標を2番個体に変更。砲撃準備だ」 「アイサー!」 「いけるな……」 「大丈夫だ、戦艦はこれくらい耐える」 艦橋に詰める幹部乗員はそれぞれの部署へ指示をだし、心配をおさえるようにつぶやいた航海長に、レグナムの艦長は力強く言葉を発した。 今の大クモの砲撃は、次元航行艦ならアウグストにもひけをとらないほどの威力だった。巡洋艦クラスの艦船なら、まともに喰らえば船体を貫通されていてもおかしくない。 戦術的には、発掘されたロストロギアを緊急破壊する際の使用を目的とした大口径艦首砲であり水上艦隊戦闘での発砲は想定されていなく、それだけに大威力の砲である。 アルカンシェルとアウグストの装備により、戦艦の装甲も存在意義を失ったと思われていたが、バイオメカノイドとの戦いに際して、高耐久力の戦艦は大きな力を発揮できる。 バイオメカノイド群の中に、くさびを打ち込むように単縦陣で突入した戦艦戦隊の乗組員たちは、その思いを叩きつけるようにそれぞれの受け持ちの機器を操作し、ありったけの砲撃魔法を放つ。 6門の主砲を速射するRX級レグナムに後続し、世代的にはひとつ古い短砲身両用砲を副砲として搭載するLZ級フェルディナンドが、5インチ魔力弾の文字通り圧倒的な弾幕を、畳み掛けるように発射する。 舷側の2段の雛壇に並べられた連装砲塔は片舷に12基ずつがあり、それぞれを発砲間隔をずらして切れ目なく、大威力の対空砲弾を放つ。 ミッドチルダ式による高精度な近接信管術式が仕込まれた対空榴弾が、バイオメカノイドの群れの中で炸裂し、小型個体をはじき散らすように撃墜していく。 戦乱時代、空戦魔導師による航空攻撃が全盛を極めた時代では、これでもかというほどの砲台を甲板に並べて防御しなければ、艦船は圧倒的に不利だった。 エースランクの魔導師なら、たったひとりで何隻もの艦を沈めることができた。また誘導魔法の術式がミッドチルダ式において偏執的ともいえるほどに作り込まれているのは、艦船に乗り組んで迎え撃つ陸戦魔導師が、敵の空戦魔導師を撃墜するためである。 基本的には一対一の近接戦闘を想定するベルカ式では、射撃魔法で誘導能力を持つものは少なく、あっても術者の手元で操作できる範囲で、艦船搭載型の砲撃魔法はほとんどない。 次元航行艦の魔力弾とバイオメカノイド小型個体が衝突して爆発する炎が、ある一面で膜を作ったように、その境目をじりじりと押し広げていく。 群れの中に突入した戦艦戦隊は、左右両翼から進路を中央に向け、改ゆりかご級の船団中央へ向け突撃していく。 「見えた──あれが次元断層だ」 つぶやき、そして艦長は艦内放送のマイクを手に取り、乗組員たちにその存在を知らせた。 艦橋の窓と、そこから転送された艦内テレビのスクリーンに表示された宇宙空間の様子、その中に映るバイオメカノイド群の輝点の向こうに、淡い薄光の揺らぎを纏う次元断層が見える。 真っ黒い宇宙空間を背景にすると、次元断層は至近距離では肉眼でも判別できる。 虚数空間に落ち込む素粒子が対消滅を起こし、それがかすかな光を発するのだ。 「電測、次元断層のスキャンは可能か」 「お待ちを艦長──、はいわずかですが見えます、距離およそ22万、大きさは長辺側が少なくとも800、活動はほとんど停滞してます」 もしバイオメカノイドが次元断層を経由して今も湧き出し続けてきているのなら、強い魔力光が観測されるはずだ。それがないということは、バイオメカノイドの戦力は、少なくともミッドチルダ宙域にあるものは現在がすべてだ。 最初に次元断層の探知に成功したXV級巡洋艦「アエミリア」では、電測士がさらに精密な測定を試みていた。 バイオメカノイドの出現が最初に探知されたのはおよそ10時間前、今ならまだ痕跡が残っている可能性がある。バイオメカノイドたちが次元間航行に使用した航路を特定すれば、他の次元世界での戦闘でも防衛線を設定しやすくなる。 あるいは敵に先回りし、次元間航路で迎え撃つこともできるだろう。 「魔力光スペクトル採取、30秒お願いします!」 「よろしい、発令所より機関室、エンジン出力50パーセントにダウン、CIC、撃ち方やめ。艦回頭、取舵20度。次元断層の精密観測を行う!」 僚艦にバックアップを頼み、アエミリアは隊列を離れて観測に適した位置へと進出する。 飛び交う小型個体の動きに注意を払いつつ、魔力レーダーを次元断層に向けて走査を開始する。 「これで敵の全貌がわかりますね」 「今見えているぶんで敵は全部だ──あとどれくらいやっつければいいかがわかる、それだけでもだいぶプレッシャーが軽減される。もうひとふんばりだ」 「了解です──」 CICでレーダーを操作する電測士は、ベテランの電測長に話しかけた。少しでも不安を取り除きたいという行動だ。 だが同時に、ここで気を抜いてもいけない。伝達した情報に誤りがあればそれは他の全員に影響する。ミッドチルダ海軍そして管理局艦隊の乗組員たち皆を危機にさらしてしまう。 一歩引いたところから、冷静に全体を見渡すことができなければならない。 アエミリアの背後、後方7時方向に、紺色の靄のような防御魔法を纏う本局艦艇が、こちらもあたかもある種の次元断層のように、深く輝きながら佇んでいる。 バイオメカノイド群は陣形を大きく広げ、輸送艦から飛び立った大型個体は両翼に展開した戦艦戦隊に向かっている。 その様子を後方のXV級巡洋艦戦隊では油断なく捜索し、敵の動きを分析している。 中央に、護衛役の大型個体に守られた改ゆりかご級が少なくとも100隻以上あり、こちらは変わらず本局そしてクラナガンに向け前進している。 残りの隙間を、ユスリカやマリモなどの小型個体が埋めている状態だ。 全体的に見て、分布する範囲が広がったのでその分密度が薄くなっていると分析された。 本局艦艇の司令室から戦況を見守るレティも、そう読み取っていた。 ここを押し返せば、当座をしのぐことはできる。そうしたら、各次元世界へ向かっていった他のバイオメカノイド艦隊にも追撃をかける。 そして最後には、第97管理外世界にいる敵の巨大要塞、インフィニティ・インフェルノを今度こそ確実に殲滅する。 戦闘には必ず、達成されるべき目標がある。それが明確であれば、作戦を立てやすくなる。 具体的に何をすべきかがわかっていてこそ、兵士は力を発揮できる。 現在、迎撃に向かっているミッドチルダ海軍艦隊、もちろん全軍全艦艇ではない。ドックで整備中の艦もあるし、一部の戦艦などは記念展示状態からの再活性化作業に既に入っている。 カワサキ次官からの個人的な連絡では、一部の元乗組員有志たちが準備をしていてくれたおかげで予想外に多くの艦船を出すことができそうだとの連絡が入っていた。 LZ級よりさらに古いY級戦艦などもあるが、搭載する砲撃魔法は口径が若干小さいくらいでその破壊力は現代艦に比べてもなんら遜色はなく、戦力的には十分だ。 司令室に詰めている別のオペレーターが、ヴォルフラムからの報告を受信した。 同艦は、技術部実験棟モジュールから出現した闇の書に接触を試みている。 モジュールの中には、はやて、ユーノ、マリーが取り残されているはずである。 「ロウラン総長、ヴォルフラムより報告です!闇の書の戦闘端末、起動を確認とのことです!」 「八神二佐の安否は」 「依然として不明ですが、これより確認を試みると」 転送されてきた映像からは、その発する光で本局外壁を照らしつけている葉巻型発光体の姿が見える。 表面は驚くべきほどに平穏を保っており、まったく動く様子がない。 かつての戦闘記録からは、この姿は闇の書が覚醒してから、防衛プログラムが実体化するまでの一時的な形態であったことが伝えられている。蒐集した魔法に応じて、その術者または魔法生物の姿が浮かび上がるようになっている。 それが起きないということは、現時点で蒐集物が無くなっているからなのか、あるいは制御されているからなのか、外部からは読み取れない。 ヴォルフラムは現在、闇の書の戦闘端末に対し正面やや横から向かい合う位置で、距離12キロメートルまで接近していた。 宇宙空間での艦船操縦には、惑星大気圏内とも次元間航路とも違う独特のむずかしさがある。さらにその質量の大きさから微弱な大気層を独自に持っている本局艦艇周辺ではさらに勝手が違ってくる。 エリー・スピードスター三佐は、ヴォルフラムを闇の書の戦闘端末にぎりぎりまで接近させるよう指示した。 「艦長なら──、まわりくどいことはしません。必ず、核心をついて、最短距離を行きます」 ヴォルフラムが向かってきたとき、闇の書の戦闘端末は光り方が強い頭部を月面泊地へ、光度がやや小さい尾部をクラナガンに向ける姿勢で、本局艦艇から距離1200ヤードの位置に停泊していた。 通常の艦船操縦の感覚なら、ほぼ本局外壁に張り付いている格好である。 発せられる魔力光は、可視光線領域および紫外線・ガンマ線領域では本局艦艇に遮られ、地上には見えない。 はやてが自分の姿を見せたい相手とは現時点では本局の人間のみである──と、エリーは理解した。 現時点で自分を見るべき者とは管理局の人間である、ということだ。 「エンジン出力18パーセント、フリッツ、最微速前進!艦首を修正、取舵2度!」 「取舵2度アイ!外壁を這います!」 ヴィヴァーロは下方スキャンレーダーをにらみ、ヴォルフラムの艦体が本局艦艇に接触しないよう距離を測る。 闇の書の戦闘端末に対し、きちんとこちらの面を見せる。向かい合い、対話の意志を示さなくてはならない。 ポルテは念話回線の受信状況を全周波数帯にわたって何度もチェックし、はやてが何か声を発していないかをさぐる。 「艦長、お願いです──無事なら、知らせてください──わたしたちは、来たんです──!」 ヴォルフラムの全乗組員が固唾をのんで見守る中、エリーは艦橋のシールドスクリーンに映る闇の書の戦闘端末を見つめ、洞察をめぐらせていた。 はやてならどうするか。もし自分がはやての立場なら、自分はどういう行動をとるか。この状況で、どうやって仲間に自分を知らせるか? 闇の書の戦闘端末は人型をしていない。幾何学的な、抽象的な無機質(プレーン)な何も特徴のない姿である。 身振りや手振りは使えない、もちろん言葉などは望むべくもない。 そして忘れてはならないこととして、全次元世界人類の──このプロジェクトに携わっていたごく少数を除けば──共通認識とは、闇の書は人間の理解が遠く及ばない、異形のロストロギアであるはずだ。 それは現時点でも、ヴォルフラム以外の艦、今まさにバイオメカノイドと戦っている艦たちの乗組員は同じはずだ。 もしこのままはやてがバイオメカノイド群に突進していき、ミッド艦隊に加勢しようとしても、ミッド艦隊の側はその意図を認識できないだろう。 正体不明物体が突然戦闘に乱入してきて、敵か味方かわからない第三勢力が現れた、としか認識できないだろう。 それではいけない。重要なことは、意志の疎通を図ることである。 選択肢は複雑なように見えて、必ず二つに一つだ。それは正解か不正解かであり、モアベターというようなあいまいなものではない。 自分なら、はやてを理解できる。こういうとき、はやてがどうするかを、わかるはずだ。 エリーは胸を押さえ、息をつき、そして艦内放送のマイクを取った。 マイクの発信ボタンを押すのとほぼ同時に、あたかもエリーのその感情を読み取っていたかのように、それは起きた。 一瞬上ずった声を上げ、ヴィヴァーロが魔力ディスプレイに手をかけて身を乗り出しながら叫ぶ。 「っ、と──副長!闇の書が動き出しました、直進──増速、加速していきます、針路0-9-0、本局から離れる方向に──!」 「──副長より機関室へ!機関全速、魔力炉出力最大70パーセント、メインノズル推力最大!航海、闇の書を追跡します!フリッツ、面舵一杯全速前進!」 「あっ、ぜ、全速前進、面舵一杯アイ!」 2基のノズルが魔力光をほとばしらせ、出力を上げる飛行魔法がヴォルフラムの艦体を大きく震わせる。 加速をつけながらいっきに右へ回頭し、ヴォルフラムは闇の書の戦闘端末の横に並ぶ形になった。 「トリムを左舷寄りに!距離300まで寄せてください!」 「副長、これは──!」 ヘッドセットを押さえながらポルテが振り返る。相変わらず念話回線への入電はない。 この距離で念話が届かないということはありえないはずだ。はやてはヴォルフラムが使用するチャンネルの周波数を知っている。 LS級は何百隻も建造されているが、何より自分の艦であるし、艦首の艦番号を見なくとも、シルエットだけでこの艦は、今自分の隣にいるのはヴォルフラムだとわかるはずだ。 闇の書の戦闘端末とヴォルフラムの速度は星系内航行速度に達し、その向かう先には今まさに激戦を繰り広げている、バイオメカノイドの群れとミッドチルダ海軍艦隊がいた。 見渡すほどに広がった塵雲のようなバイオメカノイド小型個体群、その中にところどころ点在する大型個体からはこの距離でも視認できるほどの大出力エネルギー弾が放たれ、それにミッドチルダ海軍の戦艦が応戦している。 さらに群れのほぼ中央に、ひときわ強い輝きを放つ、超大型艦船──改ゆりかご級がいる。 本命はこの大型輸送艦だ。外に出ている大型個体はほんの一部で、バイオメカノイドたちの作戦は改ゆりかご級からミッドチルダ惑星へ向け大型個体を降下させることである。 大気圏内に降りられてしまうと、魔導師による迎撃は困難を極める。数からいっても、地上の対空砲台では火力が足りない。 闇の書の戦闘端末と完全に並走する形になり、ヴォルフラムはバイオメカノイド群に向け突進していた。 現在の針路と速度では、あと2分でバイオメカノイド群の射程距離内に入り、そして5分で敵陣中央、改ゆりかご級に接触する──もちろん、それより先にバイオメカノイドからの猛攻撃でひとたまりもなく撃沈されるだろうが。 死地に向かう突撃?特攻? 違う、とエリーは独白した。 信じるならついてこい、そこに答えはある。 言葉も、念話も、何もない。何もないが、しかし、想いがある。 「副長──!」 ポルテが震えながら不安を口にする。誰しもが、それは同じはずだ。 ヴォルフラムはまだ損傷から完全に復旧しておらず、またもし全力発揮可能な状態であっても、LS級1隻だけではこの無数のバイオメカノイドに突っ込んでいくのは自殺行為だ。 一方、ミッド艦隊の側でも闇の書の戦闘端末の接近を探知し、XV級の何隻かがワイドエリアサーチの走査を開始した。 各艦のセンサーが健在ならば、魔力発揮値1億、それから速力と針路がわかるはずである。 そして、そのすぐそばに管理局所属のLS級巡洋艦が従っているのが見えるはずである。 管理局艦がいるということは味方である。少なくともヴォルフラムは識別信号を発しているので艦名が特定でき、ミッドチルダ海軍のデータベースに登録されているはずだ。 だから、ミッドチルダ側からは即座に発砲できない。 闇の書の戦闘端末にとっては、ヴォルフラムが盾になる格好である。 そしてヴォルフラムにとっても、これからまさにバイオメカノイドの群れの中に突っ込んでいくのに、闇の書の戦闘端末が盾になる。 現在、闇の書は蒐集した魔法を持たず、攻撃または防御に使用できる術式は一つもない状態だ。 だがそれでも、闇の書がそれ自身の機能として持つ自己再生能力はあり、これ自体が防御力となる。 「機関室へ!速力35宇宙ノットに増速、闇の書の前に出ます!ルキノ、なんとか魔力を絞り出して!フリッツ、慎重に、距離を合わせて!」 「はいっ……!大丈夫です、艦長が、背中を守ってくれてます……!」 目の前を横切っていく格好になっていたミッドチルダ艦隊の司令部旗艦からは、闇の書の戦闘端末が、ヴォルフラムの艦尾にまさに衝突寸前、いやすでに衝突し船体にめり込んでいるように見えていた。 表面の突起物がない平坦な発光体のため、輪郭がぼやけ、ヴォルフラムと接近しすぎてくっついているように見えていた。 『こちらヘリ格納庫、副長──もう、闇の書は、本艦に接触してます──後部甲板は真っ白です、宇宙空間が見えません!』 甲板員が知らせてくる。闇の書の戦闘端末は、ヴォルフラムの後部船体に乗り上げるような格好になり、頭部を艦上構造物に突っ込ませるようにしている。 ミッドチルダ艦の乗組員からは、闇の書がヴォルフラムに突進しているように見えたが、しかしよく見てみれば、艦橋が押しつぶされたり、アンテナマストが捻じ曲げられたりはしていない。 透き通るように、闇の書の戦闘端末はヴォルフラムに重なりつつあった。 周囲に戦艦が多数いる状況であり、バイオメカノイドの側も突っ込んでくる闇の書とヴォルフラムに対して反応が遅れる。 ヴォルフラムは2番主砲を真正面に、3番主砲を左舷側に指向し、即時応戦に備える。 「ふ……副長、闇の書の戦闘端末、本艦にさらに接近──、反応が、後部甲板──いえ、本艦に接触します──!」 「通信士、念話回線は!」 「っ、い、今のところ入電なしです!」 「了解──」 エリーは確信を深め、マイクを握る。 「シールド魔法を艦首に集中!索敵スウィープ、艦首側へ指向!対潜捜索ソナーおよび誘導魔法イルミネーター停止、魔力供給をカットしてシールド魔法へバイパス処置を!」 「副長!?ど、どういうことですか、それでは後ろが無防備に」 「大丈夫です──。艦長が、守ってくれてます」 「艦長が……?」 『こちら電測、闇の書の戦闘端末は本艦へさらに接近、現在距離20フィート、……17、15、毎秒0.6フィートの速度で接近中、距離10、──現在距離10フィート未満』 ヴィヴァーロの報告に、ポルテとルキノは息をのみ、エリーは面を上げて艦長席のアームレストを握る。 艦橋の窓は既に、闇の書が発する温白色の光に包まれ、正面のわずかな角度に黒い宇宙空間が見え、そこには、何かに遮られたように近づくことができないでいるバイオメカノイド小型個体の姿が見えた。 シールド魔法により、小型個体の放つ砲弾は防御し、大型個体も、闇の書の戦闘端末の体当たりにはじき飛ばされている。 『闇の書の戦闘端末、本艦までの距離10フィート──計測限界です、闇の書の正確な位置が掴めません、本艦のレーダーアレイ基線より短い距離まで接近しています』 「副長……」 「──待っていました。私はずっと、信じていました──艦長、貴女のことを」 ふわり、と立ち上がり、振り返る。 ヴォルフラムの艦橋に、壁をすり抜けて、光が差し込む。 転送魔法が発動されている。距離を正確に合わせ、通常転移の術式を使用した。これならば、これほど艦が接近している状態で外部から探知されることはない。 フリッツもそれを理解し、ヴォルフラムの速度と針路を、わずかの揺れもないように正確に固定して闇の書の動きに合わせている。 現れたのは、ベルカ式の魔法陣。 皆が待ち望んだ、エリーにとってはずっと待ち焦がれていた、その人物の姿が、黒翼を纏った聖白色の魔力光に包まれて浮かび上がる。
https://w.atwiki.jp/gxv6/
GameX Ver.6 (이하 GXV6) 용 위키 헬프 페이지 본 프로그램의 권한은 이민섭 본인에게 있음을 알립니다.
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3841.html
「増大だと? 計測系異常の可能性は」 『所属勢力を問わず、本艦を含めた全ての魔導兵器で同様の現象が確認されているとの事です。間違い在りません、明らかに炉心出力が上昇しています』 隔離空間の拡大より87時間、本局の陥落確認より82時間後。 無数の勢力が入り乱れての隔離空間内部艦隊戦、その戦局は混沌の様相を呈していた。 質量・魔導兵器、既存兵器と未確認兵器の砲火が入り乱れる戦場。 だが、戦域に存在する勢力の数は、極端に言い表してしまえば僅か3つに過ぎない。 バイド、地球軍、その両者を除いた全勢力による混成艦隊戦力。 物量も技術体系も異なるそれらが、互いの存在を否定し合い、同時に互いを喰らい合っているのだ。 そして現在、管理局艦隊を含めた混成艦隊の様相は、その勢力に属する当人達でさえ全容を捉え切れないまでの多様性を誇り、度重なるバイドの大規模攻勢に対し正面から抗戦できる程の規模と戦力を有するまでに到っていた。 魔導兵器と質量兵器、既知の魔法技術体系を始めとした無数の未知なる技術体系が入り混じる、次元世界史上にも類を見ない大規模混成艦隊。 数万隻もの戦闘艦が入り乱れる、巨大という形容すら生易しい程の規模となった艦隊の中、百数十隻のXV級次元航行艦は、とある一勢力による協力の下、艦体に負った損傷の修復措置を受けている最中であった。 「暴走、或いは爆発の危険性は」 『全く以って不可解な事ですが、炉心内部に出力元不明の4重結界が展開しているんです。明らかに外部からの干渉によるものですが、どの勢力が如何なる目的で実行したかについては全く不明です』 「「彼等」はどうだ、干渉は不可能か?」 『難しいでしょうね。「彼等」の艦艇や機動兵器は外観から判別できる様に、我々とは異なる技術体系を基に構築されています。どちらかと云えば、地球軍に近い。艦の兵装は全て質量兵器だし、何よりこの状況下でも一切の魔力反応が検出されません。「彼等」の技術体系は、提示された情報通りに純粋科学技術から成っている』 「地球軍と同等の科学力を有しているという訳でもない限り、こちらへの干渉など在り得ないという事だな」 『残念ながら「彼等」の科学力では、其処までには至っていないと考えられます。艦艇も兵器も我々より遥かに強力ですが、魔法技術体系に関する知識は無きに等しい。魔法との接触すら初めてであるとの情報を信じるなら、炉心制御どころかシステムへの簡易介入すら困難な筈です』 「「AC-51Η」は? 増幅率はどうなっている」 艦隊中枢であった第10支局艦艇は、約80時間前にバイドの複合武装体からの攻撃を受け轟沈。 総数90を超える陽電子砲撃を全方位より浴びせ掛けられ、巨大な支局艦艇は爆発すら起こす事もできずに消滅した。 僅かに残された残骸だけが空間を漂う中、残存艦艇は宛ら発狂したかの様な激しさで以って、アルカンシェルによる連続砲撃を全方位へと放ち続けたのだ。 その砲撃により、常に相対距離を詰めんと迫り来る中距離および短距離運用型機動兵器群については、文字通りの一網打尽とする事ができた。 しかし、陽電子砲を始めとする超長距離砲撃兵装を備えた大規模兵器群および艦艇群については、それらの兵装とアルカンシェル、双方の間に存在する圧倒的なまでの射程の差により、効果的な打撃を与える事は不可能。 せめてもの抵抗として「AC-51Η」により増幅された魔力、その全てを注ぎ込んでの超長距離通常魔導砲撃を実行してはいたが、建造構想を無視しての運用を実行した結果として、攻撃全般に関するシステムがダウンする艦艇が続出する事態となったのだ。 そしてクロノが指揮を執るクラウディアもまた、同様の事態へと陥った艦の1つであった。 抵抗手段が失われつつある中、艦隊の壊滅は時間の問題と思われた。 だが、そんな絶望的な状況下で、救いの手は意外な方向より齎される事となる。 第66観測指定世界バルバートル合衆国、第71管理世界メイフィールド王朝。 互いに敵対状況下に在る2勢力の艦隊が、共同作戦行動として管理局艦隊に対する援護を開始したのだ。 更には第179観測指定世界エムデン連邦、第148管理世界ダオイェン共和国、其々が有する艦隊戦力の一部が合流。 それだけに止まらず、既知か否かを問わず無数の勢力に属する艦隊戦力が次々に合流し、徐々に大規模な混成艦隊を形成し始めたのである。 『機能していません』 「何だと?」 『「AC-51Η」は魔力供給系統から隔絶されています。6つもの結界が、バイド体を完全に封じ込めているんです。当然ですが、我々の手によるものではありません』 「では、それも外部からの干渉なのか」 『ええ、間違いなく。誰が何の為に、と訊かれてもお手上げですが』 各艦隊が他勢力との合流を選択した背景には、複数の理由が在った。 自身等の戦力のみでは継戦不可能と判断した勢力も在れば、静止衛星軌道上の大規模施設内に存在する民間人の保護を求めてきた勢力も在る。 戦後の管理世界に於ける発言力の強化を狙っているらしき勢力も在れば、守護するべき自らの世界をバイドによって完全に破壊され、帰るべき地を失った勢力すらも在った。 これまでに存在が観測されていた世界から、初の接触となる未知の世界まで。 あらゆる世界の有する艦隊戦力が其々の意図を以って集結し、圧倒的な物量と技術力を有するバイドに対し、辛うじて抗し得る巨大勢力を形成するに至ったのだ。 だがそれでも、想像を絶する物量で以って押し寄せるバイド群を前にして、合流を重ねてなお数で劣る混成艦隊が遠からず押し潰される事は明白だった。 各勢力間での艦艇性能の差、兵装の相違等により、総合的な戦力ではバイドのそれに後れを取っていたのだ。 このままでは、いずれ圧し潰される。 焦燥に駆られたか徐々に統制を失い始める混成艦隊を救った存在は、未知の超高速航行技術によって空間の彼方より現れた、1隻の巨大な戦艦を旗艦とする大規模な艦隊だった。 現在は巨大なバイド体と成り果てた、時空管理局・本局艦艇。 それですら、なお当該戦艦には遠く及ばないという、常軌を逸した巨大さ。 全長68km、全高10km、最大全幅12kmにも及ぶそれが、数千隻もの艦艇群を引き連れて出現したのだ。 『ただ、今のところそれ以外に異常は発生していません。それどころか、出力の増大に伴って攻撃システムへの魔力供給量が跳ね上がっています』 「具体的には」 『現時点でMC404の射程が約314%に増大、アルカンシェル・バレルプログラムへの魔力供給量最大値が407%に増大しています。推進系の出力は193%に増大、防御障壁の魔力密度は89%上昇です』 「・・・凄まじいな」 無論の事、混成艦隊は混乱。 想像を絶するほどに巨大な戦艦と大規模な艦隊が、一切の前触れなくバイド群の中心域に突入してきたのであるから、その瞬間を観測した混成艦隊を襲った衝撃は凄まじいものだった。 バイドの増援ではないかとの通信が交わされもしたが、その言葉はすぐに途絶える事となる。 出現直後に不明艦隊の周囲を埋め尽くした爆発は、全てバイド群が破壊された際に発生したものであったのだ。 不明艦隊は、バイドのみを選択的に攻撃している。 その事実を理解すると同時に、混成艦隊内部で飛び交う通信には無数の歓声が上がった。 巨大戦艦と周囲の艦隊が放つ高密度の砲火により、周囲のバイド群が薙ぎ払われるかの如く破壊されてゆく様は凄まじく、混成艦隊に希望を齎すには十分に過ぎたのだ。 だが、その希望が畏怖へと変貌するまで、然程に時間は掛からなかった。 爆発。 正にそうとしか、その攻撃を形容する術はなかった。 巨大な艦体の各所、無数に設置された兵装の全てが、一斉に砲撃を開始したのだ。 それらは全て質量兵器による攻撃であり、ミサイルを始めとする有実体弾と光学兵器、更には明らかに波動粒子を用いていると判断できる砲撃すら含まれていた。 巨艦を中心として、爆発としか言い表し様のない砲撃の壁が形成され、それらは一瞬後に全方位のバイド群を呑み込む。 混成艦隊が展開する方面ですら例外ではなく、無数のミサイルが艦艇群の間を縫う様にして通過し、その先に存在するバイド群の中心へと踊り込んでいた。 『それと、もうお気付きかもしれませんが・・・』 「リンカーコア、だろう?」 『ええ』 そして、閃光。 全てが白く染まり、XV級のブリッジドーム内が眩い光に埋め尽くされた。 十数秒後、衝撃。 クロノを含め、全てのブリッジクルーが自らの持ち場から弾き飛ばされる程の衝撃が、数十秒に亘って荒れ狂った。 衝撃は余りにも凄まじく、漸くそれが収まった時には、激痛に耐えているらしき複数の呻きがブリッジドーム内に響いていた程だ。 クロノも例外ではなく、コンソールへと強かに打ち付けた額からは夥しい量の血液が流れ、更には左前腕部の骨格に罅が入っていた。 それでも、一定の間隔を置いて襲い来る激痛を無視しブリッジドーム内を仰ぐと、其処にはクラウディアへと襲い掛かる業火の壁が在ったのだ。 再度に襲い掛かった衝撃を認識した、その場面を最後にクロノの記憶は途切れ、次に意識を取り戻した時には艦長席にて医療魔法による治療を受けていた。 クラウディア被害状況、重傷者11名、右舷推進ユニット停止。 混成艦隊を襲った閃光と衝撃、そして業火の壁が無数の核爆発により発生したものであったとの報告が他の艦艇より齎される頃には、既に探知可能域内のバイド群は極一部を残し消滅していた。 圧倒的な密度を以って嵐の如く襲い掛かった砲火の前に、迎撃も回避も儘ならず一方的に殲滅されたというのだ。 信じ難い報告ではあったが、事実としてバイド群の反応を示すものは、嘗ての本局艦艇を含む極僅か。 30を超える惑星を物理的に崩壊させた戦略級大規模光学兵器運用施設でさえ、その構造物の殆どを失い単なるデブリと成り果てていた。 そして、クロノを始めとする全てのブリッジクルーが、ドーム内に浮かび上がる隔離空間内部の映像を唖然として見上げる中、事態は更なる急転を迎える。 巨大戦艦から全方位へと、未知の言語による合成音声の通信と共に、複数パターンでの呼び掛けが開始されたのだ。 『私自身はリンカーコアを持たないので何とも言えませんが、複数の部下が異常を訴えています。皆、魔導師としての活動に従事できる程の適性は有していない筈なのですが、この数時間で明らかに総魔力量が増えているそうです』 「だろうな、僕もそうだ」 『やはりですか。第8支局の連中が言うには魔力保有量、制御能力、変換効率から瞬間最大出力に到るまで、あらゆる魔導資質が無条件で強化されているらしいとの事です。今この瞬間も、更なる強化が持続的に起こっていると』 予想だにしなかった事態の変化に、混成艦隊を成す各勢力は、各々が知り得る限りの言語を以って返信を開始した。 意味を為さない遣り取りが十数分間に亘って続く中、エムデン連邦艦隊に属する通信技師が、特定パターンでの意思の疎通に成功。 当該パターンは混成艦隊に属する全勢力へと直ちに公開され、不明艦隊とのシステムを介した自動翻訳、音声ではなく文面による意思疎通が開始される。 その後の遣り取りによって明らかとなった事実は、既知の認識を超える次元世界の広大さ、そして予測以上の事態の深刻さであった。 管理世界による探索の手が及ばぬ、深次元世界。 彼等はその更なる深淵、数百にも及ぶ世界に跨っての一大文明圏を築く、既知の人類とは起源を異にする高次知的生命体群であった。 非常に高度な科学力を有する彼等ではあるが、しかし魔法技術体系については全く知識を有してはいない。 管理世界の概念にして千数百年という、膨大な時間を掛けて発達させてきた純粋科学技術のみを以ってして、管理世界に匹敵する巨大文明圏を構築するに至ったというのだ。 「・・・魔導兵器の性能向上に、魔導師の資質強化か。兵器に関しては、御丁寧にも暴走を抑制する為の結界付き。だというのに、何処の誰が何の為に、更に云えばどうやってこんな事をしているのか全く判らない。何とも薄気味の悪い話だな」 『バイドでしょうか? 何かを企んでいるのでは・・・』 「敵対勢力の戦力を向上させて何になる・・・まあ、在り得ない話とは言い切れないが。今更何が起こっても、もう驚かないさ」 『同感です。もう一生分の驚愕を使い果たした気分ですよ』 それだけでなく、彼等が提示した情報を信用するのならば、当該文明圏は眼前のそれと同規模・同型の巨大戦艦を計7艦、其々に異なる武装が施されたそれを有しているという。 現在、それらの艦艇は隔離空間内部の各所に於いて不明勢力、即ちバイド群との交戦を継続しているとの事。 更に、隔離空間内部各所に於いて、この宙域と同様の複数勢力による混成艦隊が形成され、周辺惑星を護るべく激しい戦闘が展開されているというのだ。 余りにも信じ難い規模の情報ではあるが、次元世界の広大さを考慮するならば、然るべき状況と云えるのだろう。 そして、バイドに対する大規模抵抗勢力が多数存在するという事実は頼もしいが、しかし少し観点を変えたならばその情報は、バイドが無限とも思える程に広大な次元世界、その全てを呑み込んだのではないかという最悪の推測が事実であると証明するものでもあるのだ。 状況が好転していると判断するには、余りにも懸念要素が多過ぎた。 予期せぬ巨大勢力の出現、そして錯綜する大量の情報に混乱し掛ける混成艦隊。 しかし結果として、艦隊戦力は大幅な強化が為された。 不明艦隊との意思疎通の結果、混成艦隊は彼等との共闘体制を取る事となったのである。 そして今、クラウディアを含む20隻のXV級次元航行艦は、巨大戦艦内部へと収納された上での修復措置を受けている最中だ。 20隻ものXV級を同時に収納可能という点はともかくとして、艦艇内部での修復措置そのものについては正に技術の差を明確に見せ付けられた。 数十万ものパーツに分割された修復機器、一見しただけでは壁面としか判別できぬそれが津波の如く蠢き、クラウディアの艦体を完全に覆い尽くしてしまったのだ。 直後、要請に従いリンクを実行したシステムを介し、ブリッジドーム内には艦体修復状況および修復措置完了までの予測所要時間が表示された。 予測所要時間、410秒。 現在、残り60秒弱である。 『そういえば、地球軍の挙動にも異変が見られるそうです。R戦闘機群の機動が鈍くなった、等という報告が飛び交っていますが、そちらでは確認していますか?』 「ああ、複数の勢力が確認している。どういう訳か、彼等は急激な戦闘機動を控えている様だ。高速性は相変わらずだが、物理法則を無視した異常な機動などは実行頻度が下がっている。尤も、それも観測し得る範囲では、の話だが」 『やはり、地球軍艦隊にも何らかの異常が起こっているのでしょうか』 「分からない。だが、希望的観測に基いての状況判断は禁物だ。他のクルーにもそれは言い聞かせてくれ・・・以上」 『了解しました』 ウィンドウを閉じるとほぼ同時、スクリーン上に修復措置完了との文面が表示された。 巨大戦艦内部との情報交換に関しては、音声による意思疎通は一切用いられていない。 全て、文章での遣り取りとなっている。 当初に巨大戦艦側が用いていた未知の言語による合成音声での通信は、これまで解析に成功した他文明の言語を基に構築したものであるという。 彼等自身の文明圏にて用いられている言語については、何ひとつ明らかとなってはいないのだ。 こちらからの情報提供に関しては、システムを介する事によって音声をパターンへと自動変換する事が可能である為、特に不自由は無かった。 だがそれでも、意識中へと生じる僅かな違和感ばかりは如何ともし難い。 何よりこちらには誰1人として、彼等の生命個体としての外観を目にした者が存在しないのだ。 こちらと同様、既知の人類と似通った共通点を多く有する姿なのか、或いは全く異なる外観なのか。 若しくは存在概念からして、こちらとは根本的に異なる存在なのかもしれない。 現時点に於いて判明している事実は、彼等が非常に高度な純粋科学技術から成る巨大文明圏を築き上げた存在であり、実際にその文明圏が有する戦力の一端が眼前に存在し、そしてこちらに対して協力的な姿勢を保っているという、この3点のみである。 『艦長、自動修復措置の完了を確認しました。艦体外殻損傷率、各箇所とも0%です・・・完全に修復されています』 「右舷推進系はどうだ」 『小型リペアユニット、数百体による修復を確認しました。メカニズムに関わる情報を収集された虞は在りますが、現時点では・・・』 「それは気にするな。どの道、他の艦艇からも情報は収集しているだろう。本艦だけが機密を保ったとしても、何の意味も無い」 『了解しました・・・修復機器群、本艦より離れます。前方、隔壁開放』 『艦長、巨大艦艇内部より指示が在りました。微速前進し、艦艇外へと離脱せよとの事です』 「こちらでも確認した。送信準備、彼等に礼を言わなければな」 ともかく、彼等にこちらへの敵対的意思が無い事だけは、既に確定しているのだ。 少なくとも地球軍と比較すれば、遥かに友好的な勢力であると云えるだろう。 クラウディアの周囲を覆う無数の修復機器群が離れ行く様を、ドーム内の映像越しに見つめつつクロノは思考する。 地球軍は敵か、それとも味方か。 本局艦艇の陥落とバイド汚染による変貌を確認した直後に、本局直衛艦隊より地球軍からの攻撃を受けているとの通信が発せられていた、と伝える情報も存在するが、真偽は定かではない。 こちらから情報の詳細を問う前に、その報告を齎した情報通信艦艇が数十機のゲインズから陽電子砲の一斉砲撃を浴び、僅かな残骸のみを残し消滅してしまったが為だ。 他の艦艇に関しては、バイド群からの激しいジャミングによって通常通信の維持すら覚束ない状況であり、それ以上の真偽を追求する余地など在りはしなかった。 少なくとも現時点では、真相を知り得る術は無い。 そして現在、第97管理外世界の静止衛星軌道上付近に留まる地球軍艦隊は幾分かその艦艇数を減じ、しかし今なお健在と云える様相であった。 クラナガンでの戦闘に於いて捕虜となったR戦闘機パイロット、第10支局艦艇と共に塵となったその人物は、国連宇宙軍・第17異層次元航行艦隊の艦艇総数を40隻と供述していたが、当該艦隊の実態は更に多くの艦艇によって構成されるものであったらしい。 艦隊出現直後に確認された艦艇数こそ供述通りであったものの、更に20隻以上もの艦艇が浅異層次元潜行状態にて潜んでいたのだ。 艦艇総数70を超える規模かとまで思われた艦隊は、しかし常軌を逸したバイドの物量を前に、50艦前後にまでその数を減じていた。 大型バイド体と化した本局艦艇、其処から放たれた対浅異層次元極広域戦略攻撃により撃沈されたであろう浅異層次元潜行中艦艇の存在を考慮すれば、本来ならば艦艇総数80隻以上もの規模を有する艦隊であったと推測できる。 彼等は現時点までに、30隻前後の艦艇を失っている筈だ。 『接続を確認。艦長、どうぞ』 「こちら時空管理局次元航行部隊所属、XV級次元航行艦クラウディア。損傷箇所の修復完了を確認、貴艦の厚意と支援に心より感謝する。幸運を・・・以上」 『送信を確認』 だが、それ程までに損害を受けておりながら尚、地球軍艦隊は圧倒的な脅威として戦域に君臨していた。 浅異層次元潜行状態に在ったのだろう、艦隊旗艦である「UFBS-AE3 NIFLHEIM」に匹敵する程に巨大な、箱状の艦艇。 艦隊が有する数百機のR戦闘機、それらの母艦として機能していたと推測される空母型らしき3隻の巨大艦艇は、バイド化した本局からの戦略級対浅異層次元攻撃によって破壊され、デブリとなって隔離空間内部へと出現した。 これによりR戦闘機群は、帰るべき母艦を失った事となる。 他の艦艇にも機体収容機構が備わってはいるのだろうが、それらの能力は空母には及ぶべくもないだろう。 補給や損傷を負った機の修復が滞る事は避けられず、地球軍の継戦能力は大きく殺がれる筈だ。 そんな他勢力の予想を裏切り、3隻もの空母を失いながら、地球軍艦隊の継戦能力は一向に衰える様子を見せなかった。 彼等は未だに、無尽蔵かとすら思える数の核弾頭を絶え間なく放ち続け、偏向光学兵器と荷電粒子砲、更には波動砲と陽電子砲によって、周囲のバイド群に対する殲滅作戦行動を継続しているのだ。 出現より40時間を超え、なお尽きる兆候すら覗えぬ地球軍艦隊の弾薬類に、如何なる技術が用いられているのかと誰もが疑問を覚えたが、それに関しては約34時間前に解消される事となった。 地球軍艦隊が、奇妙な行動を執り始めたのだ。 あらゆる勢力が警戒の意図を以って観測を継続する中、戦域を漂う無数の残骸、友軍艦艇からバイド群のものに至るまでを含むそれらを、作業機らしき機体群および偏向重力によって収集し、貪欲に艦艇内部へと収納し始める地球軍艦艇。 何をしているのかと訝しんだクロノであったが、その地球軍艦隊の行動が示す意図を見抜いたのは、既に混成艦隊所属艦艇群に対する修復支援を開始していた巨大戦艦、それを運用する勢力だった。 彼等がシステムを介した自動翻訳文面にて指摘した事実は、超高効率原子変換による弾薬製造の可能性。 どうやら彼等の巨大戦艦も原子変換による弾薬製造機構を備えているらしく、地球軍艦隊の行動の真意を見抜くに至ったのだ。 彼らより齎された事実はその時点でも驚愕すべきものであったが、続けて更に信じ難い情報が告げられる事となる。 少なくとも彼等の技術では、地球軍艦艇程度の規模しか有しない構造物内に、原子変換設備を内蔵する事など不可能であるというのだ。 更に云うならば、恐らくはバイドの複合武装体にも、同様の機能が備わっている可能性が高いという。 即ち、地球軍とバイドに関して云えば、弾薬の枯渇など期待するだけ無駄であるという事だ。 地球軍、そしてバイドは、核を始めとする各種戦略級兵器を、限定条件が存在するとはいえ、半ば無尽蔵に使用する事が可能なのであろう。 「微速前進、艦艇内部より離脱せよ」 『不明勢力より返信・・・クラウディア、貴艦の健闘を祈る。幸運を・・・以上です』 「・・・了解した」 新たに発覚した恐るべき事実に、混成艦隊内には動揺が拡がった。 だがそれも、現在は完全に収束している。 地球軍艦艇と同じく原子変換機構を有する巨大戦艦が、各種弾薬および補給物資提供の実行を提言した為だ。 既に、質量兵器を運用する艦艇については弾薬の供給が開始されており、その他にも燃料から医療品に到るまで、あらゆる物資が巨大戦艦から提供されている。 そして、管理局艦隊を始めとした魔法技術体系から成る兵器群については、数時間前から原因不明の出力増大現象が確認されていた。 圧倒的出力で以って各システムへと供給される魔力は、単純に艦載兵装の性能を底上げするだけではなく、機動性についても劇的な向上という恩恵を齎している。 懸念事項を挙げるとするならば、増大した魔力量に供給系が耐えられるか、といった点だろう。 だがそれも、各勢力に於いて独自に対処できる程度のもの。 魔法技術体系全般に共通する柔軟さこそが、この状況に対する兵器群の適応を可能としているのだ。 だが一方で、気掛りな事象も在った。 確認し得る範囲、その内で例外なく発生している魔導資質の強化である。 魔力炉の出力増大と時を同じくして始まったこの現象は、今この瞬間でさえ全ての魔導師が有するリンカーコアを強制的に進化させているのだ。 先程の通信では強化の程度について触れはしなかったが、実際には信じ難い程の魔力が自身の内に渦巻いている事を感じ取っていた。 クロノ自身の魔導師ランクはS+だが、魔力保有量はAA+相当の筈である。 ところが現在、彼が自身の内へと感じ取っている魔力量はSランクどころか、この魔力は本当にリンカーコアより齎されているものなのか、との疑いを抱く程に強大なものであった。 何せ、小型魔導兵器への搭載を目的とした汎用魔力炉の出力、それに匹敵する程の魔力が常に満ち満ちているのだ。 微細な量の魔力を常に放出し続ける事で安定を保ってはいるものの、宛ら自身が高密度魔力結晶体そのものと化したかの様な緊張がクロノを支配していた。 恐らくは、この隔離空間内部に存在する魔導師、その全てが同様の感覚に襲われている事だろう。 全く、生きた心地がしない。 何処からか際限なく供給される魔力は、次第にその瞬間量を増し続けている。 通常、これ程の量の魔力がリンカーコアを圧迫し続ければ、魔導資質それ自体が損なわれる例を始めとして、最悪の場合は死亡する可能性すら在るのだ。 にも拘らず自身は現在、身体にもリンカーコアにも、僅かなりとも異常を覚えてはいない。 その事実こそが、逆に自身の違和感と不安を煽っている。 継続的な魔力の放出も、自身が暴走を危惧して実行している事だが、恐らくは止めたところで何ら異常など起きはしまい。 リンカーコアに関しても魔力炉と同じく、暴走阻止を目的とした何らかの干渉が為されているのだ。 だが、何処の勢力が如何なる目的で以って、この様な干渉を実行しているのか。 バイドと次元世界、双方の相打ちを狙う地球軍の工作か。 或いは、侵蝕によって高性能な戦力を手中に収める事を目的とした、バイドからの干渉なのか。 そのどちらでもない新たな不明勢力による、予測の付け様も無い恐るべき目的に基いた作戦行動なのか。 『艦長。エムデン連邦軍ルフトヴァッフェ所属、第3次元巡航艦隊旗艦「マエル・ラデック」より入電。巨大戦艦の艦種および艦名を特定したとの事です』 「艦名だと?」 『疑似的ではありますが、近似の意義を持つ単語を特定したと伝えています』 並列思考の一端を状況分析へと当てつつ、クロノはクルーからの報告に異なる区画の思考を加速させる。 巨大戦艦の明確な艦種および艦名については、今に至るまで確定してはいなかった。 当該情報の提示を要請はしたのだが、該当する概念を示す言語が存在しない、との答えが返されたのだ。 どうやらエムデン連邦軍内では、それ以降も艦種と艦名の特定を諦めてはいなかったらしい。 散発的ながら大規模な戦闘、そして艦艇群の修復と補給作業とが続いていた為に、未だ巨大戦艦については仮の名称となるコールサインすら決定されてはいなかった。 だが少なくともこれからは、何と呼称すべきか、という疑問について悩まされる事は無いだろう。 そんな事を思考しつつ、クロノは念話にて加速を指示した。 周囲を覆う金属製の構造物内より脱したクラウディアは、すぐさま指示通りに加速。 ブリッジドーム内に映し出されるは、隔離空間内に浮かぶ無数の艦艇と天体群。 それらを視界へと捉え、何処からか供給され続ける膨大な魔力によって疲労すら解消された身体を深く艦長席へと預けながら、クロノは報告の続きを促す。 「それで、詳細は」 『お待ちを・・・読み上げます』 クラウディア、転進。 ドーム内の映像反転、表示対象は天体と艦艇群から巨大な「壁」へと移行。 「壁」は明らかに人工物であり、また各所に備えられた無数の巨大な砲塔から、恐らくは軍事目的によって建造されたものであると判断できる。 砲塔の規模はユニット単独でさえクラウディアの倍近くも在り、更に単砲身型と連装回転式多砲身型の存在が見て取れた。 更にはミサイル発射口であろうか、無数のハッチが各所に設置されている。 それらはクラウディアが離脱した艦艇格納デッキへのハッチを更に上回る規模であり、予測ではあるが1箇所毎に数百基ものミサイルが装填されているのであろう。 次いで映像が下方へと移動すると、其処にはブースターノズル4基が列を為して配置されていた。 円形のノズルは単基につき直径3kmを超えるという、途方も無く巨大なものだ。 注意深く観察すれば、4基のノズルを挟んだ反対側に、更に同型のノズルが複数存在していると分かる。 ノズルの総数、計8基。 推進系の一端を担っているらしき周辺部位のみですら、12km以上にも亘る巨大な構造体を形成していた。 そして何よりも、異様なその外観、「壁」のほぼ全体を覆う「緑」掛かった特殊外殻装甲。 極大という概念ですら、なお及ばぬ程の圧倒的な規模。 暴虐という表現ですら、なお及ばぬ程の絶対的な暴力。 未知なる文明、未知なる技術によって建造された、余りにも巨大、余りにも強大なる異形の「壁」。 『目標艦艇、完全独立型移動重拠点艦「グリーン・インフェルノ」。繰り返します。目標艦艇名、グリーン・インフェルノ』 数万隻の艦艇群、その中枢に君臨する「緑の地獄」。 異形の巨大戦艦に対して与えられた、管理世界周辺域での新たな言語による呼称。 損傷艦艇群に対しての修復支援を継続するその艦は、これより移動を開始するとの警告、そして目標宙域の座標を周囲へと発信しつつ、徐々に加速を開始していた。 新たなバイド群の出現を探知、守勢より積極的攻勢へと移行したのだ。 寸分違わず全くの同時、一斉に稼働を開始する無数の巨大砲塔。 その規模と外観に見合わぬ、有機的な動作と速度で以って旋回し、砲口をバイド群へと突き付ける。 新たな警告、砲撃余波影響範囲外への離脱指示。 クロノは即座に、再度の転進を命じる。 「進路変更、モード4。第11分艦隊と合流後、データリンク実行」 『了解』 クラウディア、自動航行。 無重力下での艦艇運用に於いて、口頭を用いての正確にして迅速な指示の実行は困難を極めるものだ。 よって管理局艦艇に於いては、艦艇とクルーとを念話によって接続し感覚的な運用を可能とする操艦支援機能および、状況に応じてシステムが操艦全般を管制する自動航行機能が備えられている。 現在はクロノの指示によって操艦を実行しているものの、正確な方位等の設定を担っている存在はクルーではなく、艦のシステムだ。 他艦艇とのデータリンクが実行されれば、単独ではなく複数のシステムが互いの操艦機能に干渉する事となる。 否、操艦のみではない。 艦隊防衛から攻撃行動に到るまで、その殆どの情報管理がクルーの手を離れ、各艦艇のシステムによって構築された大規模情報網へと委ねられるのだ。 それは最早、システムの創造主である人間にすら理解できぬ複雑さ、そして規模で以って構築された情報の砦と云えよう。 だが、クロノは思考する。 今ならば、今ならば或いは。 この艦のシステムが負担している膨大な量の情報、その大部分を自身の能力で以って処理できるのではないか。 魔導資質の強化の度合いは、この数分間で更に増大している。 並列思考の数は既に40を超え、しかし脳には僅かたりとも負荷など掛かってはいない。 思考速度は通常時の数倍にも達し、全ての感覚を介して得られる情報は瞬く間に処理され脳内へと蓄積される。 自身の全てが研ぎ澄まされ、洗練された感覚。 僅かでも緊張を緩めようものならば、己に不可能な事など何も無いと、途端に錯覚しそうな危うさが自身を満たしている。 だが、それは完全な気の迷い等ではなく、現実としてリンカーコアより齎される膨大な魔力、そして加速し拡大してゆく自身の感覚が、その様な認識の構築を助長しているのだ。 「厄介な・・・」 歯痒い。 この状況が、とても歯痒い。 今ならば魔導師として、即ち1個体としてすら、バイド体と渡り合う事が可能であるとすら思える。 バインドで敵のあらゆる動きを封じ、膨大な投射量の直射弾幕にて兵装を破壊し、欠片の生存すら許さぬ極寒の牢獄に陥れた後に粉砕できるという自信が在る。 だが、飽くまで自信であって確信ではない。 この感覚が単なる錯覚ではないと、そう断言する事は誰であろうと不可能だ。 バイドは、そして地球軍は、飽くまで生身の存在でしかない魔導師が抗し得る程、生易しい存在ではない。 単体の兵器を相手取るならばともかくとして、組織または群体としての彼等と渡り合うには、彼等が運用する兵器群、それと亘り得る能力を有する兵器を、それこそ彼等を上回る規模に至るまで生産、保有し運用せねばならない。 現時点でそれに該当する存在は、管理局に於いては次元航行艦に他ならない。 戦略魔導砲アルカンシェルを始めとする、魔導師には決して到達し得ない射程と効果範囲を備えた、攻撃目標とその周辺域に対し圧倒的な破壊を齎す魔導兵器群。 魔導師の有する資質が大幅に強化されたとはいえ、同じく強化された魔導兵器となど比較の仕様もない。 その様な考察は無意味であり、正しく愚の骨頂と云えるだろう。 だが、それを理解した上で尚、自らの内にて荒れ狂う魔力が、こう訴えるのだ。 今なら、戦える。 次元航行艦の艦長、巨大な兵器を稼働させるシステムの一部としてではなく、単体の魔導師として敵と渡り合い、その上で打倒できる筈だ。 魔導師は、魔法は、無力などではない。 この隔離空間内部で展開する艦隊戦、それに於いてすら有効戦力たり得る存在なのだ。 それを、証明してやる。 次元航行艦も、通常魔導砲も、戦略魔導砲も必要ない。 核、波動砲、陽電子砲、全て不要。 自身が有する魔導師としての力量のみで以って、眼前に存在する脅威の全てを排除してやる。 「思い上がるな・・・」 声を発した自らですら聞き取れぬ程の小声、しかし確固たる意思を込めて、クロノは自身を罵倒する。 己の力を過信するな、身の程を知れ、その様な思考は正常ではないのだ、と。 次元空間での戦闘に於いて魔導師は全くの無力であり、だからこそ魔導兵器運用プラットフォームとしての次元航行艦が開発され、現実として管理世界での戦場に於いて主力の座に君臨しているのだ。 魔導師の有する資質が強化された、その程度の事で次元空間での戦闘に適応できると云うのならば、始めから艦載型魔導兵器の開発など行われてはいない。 魔導兵器を開発する為に注ぎ込まれた資本も技術も、魔導師またはデバイスの強化・発展に充てられていた事だろう。 それを実行したとして、次元空間に於いて有用たる戦力とは成り得ないからこそ、殆どの世界は次元航行艦隊を保有しているのだ。 勘違いをしてはならない。 現在、隔離空間内部に存在する全ての魔導師を襲っているであろう、この抗い難い誘惑は、現状に於いて魔導師の有用性を示すという機会を与えるものではない。 逃れられぬ死へと誘う死神の鎌、甘い蜜の香りを帯びた死毒なのだ。 そう、如何に魔導資質の強化が為されているとはいえ、この隔離空間内部に於いて魔導師は未だに無力。 魔導兵器群もまた魔導師と同様に強化が為され、質量兵器群に於いては比較する事すらおこがましい程に強大なものばかりが跋扈している。 況してや、現在の空間内は真空状態なのだ。 観測初期に於いては何らかの不明物質により満たされていた隔離空間だが、現在の状態は次元空間、或いは宇宙空間と何ら変わりが無い環境なのである。 その様な通常生命の存在を許さぬ死の空間に於いて、生身の魔導師が長時間に亘って戦闘を行う事など不可能だ。 それでなくとも、眼前の戦場では途轍もない速度と射程、規模での戦闘が繰り広げられている。 状況は魔導師の能力で以って適応できる範囲を遥かに逸脱しており、それを理解できぬ者など存在しないであろう事は明白であった。 『警告。グリーン・インフェルノ、砲撃を開始します』 「了解、第11分艦隊との合流を急げ」 だが、もしもだ。 もしも魔導師を運用する上での、最低限の条件が揃っていたのなら。 そんな状況下に、魔導師が存在したのなら。 彼等は、戦う事を避けられるだろうか。 敵対勢力と自身等との戦力差を冷静に分析し、戦闘の回避を選択できるのか。 異常なまでに強化された魔導資質によって翻弄されるが儘に、勝機など在りもしない戦闘へと自ら突入するのではないか。 『砲撃開始!』 巨大戦艦とクラウディアとの相対距離、約11km。 グリーン・インフェルノ、砲撃開始。 弾体射出時に砲口より拡散する余剰エネルギーが、艦体各所を青白く照らし上げた。 更に、無数のミサイルが各所ハッチより射出され、青白い燐光を空間へと残しつつ前方および下方のバイド群、総数1万体を優に超える複合武装体の直中へと突入してゆく。 数千発の砲弾と、同じく数千基のミサイル群。 その全てが核弾頭を搭載していると知り得た際、クロノの心中へと去来した感情は憤り等ではなく、諦観そのものだった。 最早、管理局の理念が通用する状況ではないと、既に解り切っていた筈の事実を改めて眼前へと突き付けられたのだ。 だが、今は違う。 少なくとも魔導兵器に関しては、辛うじて質量兵器と同一次元での戦闘が可能となったのだ。 『リンク完了、各艦砲撃態勢』 『核弾頭、起爆!』 「機関、最大戦速。アルカンシェル、バレル展開」 核弾頭、全弾体起爆。 核爆発の衝撃が艦を揺るがす中、白光に埋め尽くされるブリッジドーム内に、機関最大出力を示す警告音が響く。 アルカンシェル、バレル展開。 有効射程は通常の3倍以上にも伸長してはいるものの、それでもなおバイド群が有する質量兵器のそれには遥かに劣る。 よって管理局艦隊を始めとする、魔法技術体系により構成された兵器群を運用する勢力には、核爆発直後の混乱を突いて距離を詰め最大射程距離より魔導兵器を撃ち込む、それ以外に執り得る戦術は存在しなかった。 だが、このまま原因不明の強化が進行するならば、その問題についても解決は時間の問題だろう。 『前方49000、敵複合武装体を探知』 「MC404、自動砲撃!」 ドーム内の一角、無数の核爆発を掻い潜ったらしき、3体の複合武装体が拡大表示される。 コードネーム「ボルド」2体、及びコードネーム・コンバイラ1体。 信じ難い事に、バイド群は核爆発の直中に在りながら、その破滅的なエネルギーの輻射に耐え抜く事が間々在った。 しかし確かに損傷を負ってはいる為、残存を確認する度に他の艦艇が突撃、殲滅行動を繰り返している。 そして、今回もまた同様の状況であった。 残存バイド群は既にこちらを探知している筈だが、管理局艦隊を含む数千隻の艦艇が同時に、更に後方より超長距離運用型質量兵器群による援護を受けつつ突入するのだ。 如何に高性能の複合武装体とはいえ、効果的な迎撃の術など在ろう筈もない。 忽ちの内に、クラウディアを含む8艦からの同時砲撃を受けた2体のボルドが爆発、四散する。 残るコンバイラは上部ハッチよりミサイルを放ったものの、その全てを射出直後の加速開始前段階にて小型次元航行機群により撃破され、更に数機が翼端より展開した巨大な魔力刃によって推進ユニットを引き裂かれ、完全に行動能力を奪われた。 其処へ後方より数十発もの荷電粒子砲撃が飛来し、回避行動を取る事すら不可能となったコンバイラの中央ユニットを貫く。 コンバイラ、爆発。 クラウディアは他の艦艇群と共に前進、その爆発を一瞬にして後方へと追い遣り、更に数百体の複合武装体を補足する。 『目標補足、距離142000!』 「リンク再確認、距離85000にて砲撃と通達せよ」 『機関部より緊急。艦長、炉心出力が更に上昇しました』 「推進系への供給率は?」 『現在218%を超えました。尚も上昇中、よって更なる加速が可能です。しかし・・・』 「最大戦速を維持、指示が在るまでは決して減速するな」 『距離95000! 艦長!』 「各員、衝撃に備えよ!」 長距離攻撃に対し応射するバイド群、その正面へと突撃する第11分艦隊、XV級8隻。 ドーム内へと映り込むその全艦が、クラウディアと同じくアルカンシェル・バレルプログラムを展開していた。 そして遂に、目標バイド群を射程内へと収めた、その瞬間。 『85000!』 「発射!」 一斉砲撃。 8艦が同時に、アルカンシェル弾体を解き放った。 白光を放つ弾体は85000の距離を数秒にて翔け抜け、バイド群の中央へと踊り込む。 ほぼ同時、バイド群が無数のミサイルを放った。 数千発、恐らくは全て核弾頭。 だが、もう遅い。 『弾体炸裂、今!』 アルカンシェル弾体、炸裂。 先程以上の強烈な閃光と共に、空間歪曲発生を示す警告音が響く。 衝撃に揺さ振られる艦体。 「目標の状態を報告せよ」 『目標、反応を確認できません。複合武装体、総数447・・・殲滅を確認』 発光が止んだ後、其処にはバイド群も、数千基の核弾頭も存在しなかった。 第11分艦隊のみならず千数百隻の艦艇が一斉に放った戦略魔導砲撃、それらの炸裂により発生した大規模空間歪曲に呑み込まれ、全てが消滅したのだ。 本来ならば空間歪曲すら耐え抜いたであろう複合武装体群は、しかし先の核爆発により重大な損傷を受けていた為か、僅かなりとも破片を残す事すらなく消失していた。 クロノは並列思考の一端にて全方位索敵情報を解析し、全ての敵影が排除された事を確認する。 「敵増援の殲滅を確認した。進路変更、モード3。第2戦速にて母艦隊との合流を目指せ」 クラウディア、自動回頭。 百数十秒前まではバイド群が存在していた空間へと背を向け、グリーン・インフェルノを中枢とした母艦隊を目指す。 数十時間前には予測だにしなかった、対バイド戦に於ける圧倒的な勝利。 そんな現状を前に、クロノの胸中を満たすものは希望ではなく、際限なく湧き起こる疑心と不安だった。 この状況は、何時まで続くのか。 敵大規模増援とその殲滅は、既に7度に亘って繰り返されている。 戦域に存在するバイド群の殲滅後、増援が出現するまでには常に一定の間隔が在った。 約8時間。 多少の差異は在れど、それが次なる増援の出現までに残された猶予である。 バイドの物量は、文字通りの無限なのか。 恐らくは全次元世界を呑み込んだ隔離空間、その全域にて大規模艦隊戦を展開し、更に幾度となく殲滅されながらも、なお尽きる事なく送り込まれる膨大な戦力。 この戦域のみに於いてすら、既に150000を超える数の複合武装体が撃破、殲滅されている。 隔離空間全域にて同様の状況が発生していると仮定するならば、既に撃破された複合武装体の総数は10000000を超えている可能性すら在るのだ。 グリーン・インフェルノが出現し状況が好転した後に於いてすら、戦闘の度に混成艦隊は少なからぬ被害を受け続けている。 この状況が延々と続くのならば、いずれ艦隊戦力は摩耗し、圧倒的な物量によって圧し潰される事となるだろう。 本当に終わりは在るのか、無いならば如何にしてこの状況を打ち破るのか。 そして、地球軍。 今なお勢力として独立状態を保つ彼等は、今後に起こり得る状況の変化に於いて如何なる行動を執るのか。 飽くまでも中立に近い位置を保つのか、或いは敵対を選択するのか。 バイドに対する積極的攻勢を示すのか、このまま何らかの要因による状況の変化を待つのか。 本局艦艇陥落との関連性は在るのか、それとも全くの無関係か。 それだけではない。 本局より脱出したと思われる、直衛艦隊を含めた数百隻もの次元航行艦は、何処へ消えたのか。 それらを探知したとの報告は本局の陥落直後に齎された僅かな数のみであり、バイド群からのジャミングが消失した後には完全に途絶えていた。 そもそも、本局あるいはそれらの艦艇群が何らかの信号を発してはいない限り、こちらがその存在を感知する事は不可能なのだ。 隔離空間拡大時に各世界および勢力の探知と特定に至った理由も、それらより発せられる各種信号を受信・解析したが為である。 だが今、本局より脱出したらしき小型次元航行艦群および直衛艦隊のそれは、受信が全く確認されない状況にある。 彼等はどうなった、無事なのか、バイド或いは地球軍によって撃沈されたのか。 『艦長!』 複数の並列思考へと沈み掛けていたクロノは、クルーからの呼び掛けによって我へと返る。 現在の状況認識すら維持できないとは、これでは並列思考を用いる意味が無いではないか。 内心にて自身を叱責しつつ、クロノは問いを返した。 「どうした」 『後方161000、敵複合武装体を探知しました』 「増援か」 『いえ、それが・・・敵複合武装体、1体です』 「何だって?」 『目標、コンバイラ単体。周囲に他の複合武装体は確認されません・・・グリーン・インフェルノより入電、砲撃警告です』 クロノはウィンドウを展開、クラウディア後方の映像を表示する。 果たして其処には、クラウディアからすれば左前方の下方より見上げる形で、1体のコンバイラが映り込んでいた。 先程までは確かに存在などしなかったそれは、何らかの行動を起こすでもなく、ただ空間中に在る。 一体あれは何なのか、等と思考する暇も在ればこそ、グリーン・インフェルノよりコンバイラへと強烈な砲火が叩き込まれた。 目標が単体の複合武装体である為か、核弾頭による攻撃ではなく、大口径電磁投射砲によるものだ。 4発の弾体が一瞬にして数十万もの距離を翔け抜け、微動だにしないコンバイラの各ユニットをいとも容易く貫いた。 『目標撃破』 コンバイラを中心に、膨大な量の火花と破片が噴き上がる。 業火を噴きつつ空間中へと四散してゆく、巨大な2基のメイン・エンジンユニット。 セントラルユニットは中心部を2発の弾体によって貫かれ、小爆発を繰り返しつつ崩壊してゆく。 その様をウィンドウ越しに見据え、クロノは浅く息を吐いた。 複合武装体が単体にて出現した、との報告を受けた際には嫌な予感がしたものだが、どうやら単なる思い過ごしだった様だ。 目標は呆気なく撃破され、小爆発を繰り返すその姿は、今にも塵と化さんばかりだ。 だが、気を弛める事はできない。 遅くとも8時間後には、次なる増援が出現するのであろう。 根本的な打開策を探らねば、無為な戦闘を重ねての消耗の果てに圧殺される、等という最悪の事態にもなり兼ねない。 どうにかして、バイドの根源に当たる部位を叩かねばなるまい。 そんな事を思考しつつ、クロノはウィンドウを閉じた。 回頭は必要ないとの指示を下し、艦長席の背凭れに深く身体を預ける。 肉体的にも精神的にも、疲労は無い。 だが一方で、張り詰めた精神の何処かは、安らかな眠りを欲していた。 根を詰め過ぎても、それにより真っ当な判断が下せなくなったのでは意味が無い。 そろそろ仮眠を取るべきだろうか。 『目標に異変!』 クルーからの報告が、クロノの思考を打ち砕く。 即座にウィンドウを展開し、破壊された複合武装体の残骸を拡大表示。 そうして映し出されたものを視界の中心へと捉えた瞬間、クロノは己が目の異常を疑った。 「何だ、これは?」 脈動。 少なくともクロノは、その現象を言い表す為に用いる事ができる単語を、それ以外に知り得なかった。 4発もの電磁投射砲弾によって貫かれ、完全に機能を停止したかと思われた複合武装体、コンバイラ。 その外殻装甲表層部が、細かく規則的に蠢いているのだ。 それは正しく、既知の生命体の大多数が有する、血管系の脈動とも云うべきもの。 細かく幾重にも枝分かれしたそれらが、セントラルユニットの残骸、その表層全体を覆っているのだ。 それだけではない。 脈動する血管系にも似た網目状の何かは残骸表層のみならず、周囲の空間中にまで拡がっていた。 宛も血管系が生命体の皮膚を内から食い破り、外部の空間そのものを侵蝕しているかの如き異様な光景。 否、その様に見えるのではない。 事実、あれらは空間を侵蝕しているのだろう。 脈動する何かは徐々にその範囲を拡げ、それに沿う様にして複合武装体の残骸が膨張を始めたのだ。 瞬間、叫ぶクロノ。 「MC308、全バレル展開! 目標、複合武装体残骸!」 『バレル展開、確認しました!』 「撃て!」 クラウディア後方、4門のバレルプログラムが展開し、それらが同時に魔導砲撃を放つ。 クロノと同様の危機感を覚えたのであろう、周囲のXV級からも後方への砲撃が放たれていた。 彼等のみならず、遠方より超長距離支援を行っていた他勢力艦隊も、同様に異常を感じ取っていたらしい。 荷電粒子砲撃と電磁投射砲弾、更に無数のミサイルが複合武装体を目掛け、空間を引き裂きつつ殺到してゆく。 これだけの一斉砲火を浴びれば、それこそ僅かな残骸すらも残るまい。 そして、数秒後。 『着弾・・・いえ、違います! 目標失索!』 「馬鹿な!」 着弾の直前、複合武装体は霞の如く消失していた。 信じ難い現象を前に無数の通信が錯綜し、全ての艦艇があらゆる索敵手段で以って周囲の空間を探り始める。 クロノもまた、クラウディアが有する全ての索敵機能を用いて、消えた複合武装体の行方を探り始めた。 だが数秒後、目標は実に呆気なく発見される。 在り得る筈のない方位、在り得る筈のない位置に。 『敵複合武装体、再探知! 本艦前方266000!』 新たなウィンドウが展開し、遥か前方の空間に浮かび上がる目標が拡大表示される。 映し出されたそれは紛れもなく、クラウディア後方にて消失した複合武装体。 先程よりも更に範囲を広げた網目状の揺らぎ、それに沿う様にして各ユニットが分離してゆく。 目標が瞬間的な空間転移を行ったのだと思い至った時には既に、異変は止め様が無い時点にまで進行していた。 『目標、大きさが・・・凄まじい速度で肥大化しています!』 「詳細を報告せよ!」 『不明です! しかし、間違いなく大型化しています・・・信じられない、明らかに形態が変わっている!』 明らかな動揺を孕んだ、クルーの声。 クロノは数秒と掛けずに、彼女の内心を理解した。 彼の視界にも明確に映り込む、異形の変貌。 それが如何に異常な光景であるのか、何と呼称すべき現象であるのかを、彼は正確に理解していた。 「成長・・・進化している・・・?」 外殻から内部機構までを電磁投射砲弾に貫通され、徐々に崩壊を始めていた筈の巨体。 だが今、分離した各ユニットは再接合し、更に大型かつ歪な形状となっている。 左右のメイン・エンジンユニットは全体的に膨脹し、外観的には特に下方への伸長が著しい。 宛ら腕部の如くセントラルユニットの両側面へと接合したそれは、推進部というよりは巨大な盾としての機能を有しているか様に見受けられる。 一方でセントラルユニットもまた、更なる異形へと変貌を遂げていた。 ユニットの全高および全幅は70%程度の伸長だが、全長は3倍以上にも膨れ上がっている。 そして何より、肥大化したセントラルユニット前部中央の僅かに下方、前方へと突き出した長大な構造物。 4つの部位に分かれた先端部、その中央に覗く環状機構は、明らかに何らかのエネルギーを集束・凝縮する為のものだ。 恐らくは陽電子砲なのであろうが、ユニット単体にも拘らずXV級の倍に相当する全長と、常軌を逸した規模である。 そして、それら全てを総合し、判明した異形の全体像。 全高1390m、全長、1911m、全幅2085m。 変貌以前より形容し難い全貌ではあったが、今や完全に理解を超える異形と成り果てた複合武装体、コードネーム・コンバイラ。 否、今となっては、その呼称が適切なものであるかすら疑わしい。 名称不明の存在となったその異形は、圧倒的な存在感を放ちつつ空間中を漂う。 ところが数秒後、その巨体が唐突に姿勢を変えた。 その瞬間、クロノは脳裏へと生じた危機感に急かされる様にして、鋭く指示を発する。 「機関、最大戦速! 目標をアルカンシェル射程内に捉えろ!」 『目標、後部ノズル発光!』 だが、僅かに遅かった。 複合武装体、両舷メイン・エンジンユニット後部。 複数のブースターノズルを発生源として、巨大な噴射炎が爆発する。 『目標、急加速!』 「逃がすな、追撃せよ!」 加速してゆく複合武装体。 その進行方向には、グリーン・インフェルノを中心とする母艦隊が存在する。 目標が実質上の艦隊旗艦である当該艦艇、その撃沈を狙っている事は明らかだった。 無論、周囲の艦艇群がそれを許す訳はない。 クラウディアは最大戦速にて、目標の追撃を開始した。 しかし数瞬後、凄まじい加速によって徐々に分艦隊を引き離し行く目標より、40基を超える大型ミサイルが放たれる。 それらが如何なる弾頭を有しているか、そんな事は思考するまでもない。 クルーより警告。 『目標、核弾頭発射!』 「最大戦速を維持、迎撃は他艦に任せろ!」 クラウディア、追撃継続。 迎撃態勢を取るまでもないと、クロノは判断した。 その任については、より攻撃精度に優れた兵装を有する艦が担うのだ。 そして、クロノの判断は正解だった。 複数の艦艇より連続して、電磁投射砲を始めとする超長距離精密砲撃が放たれ始めたのだ。 無数の弾体が核弾頭群へと殺到し、起爆前のそれらを次々に破壊してゆく。 だが、全ての弾頭を撃破するには至らなかった。 激しい迎撃を掻い潜った2基の弾頭が、遂に起爆したのだ。 凄まじい閃光とエネルギー輻射、そして未知の粒子拡散技術により齎される強烈な衝撃。 座席より放り出されそうになる身体を必死に押さえつつ、クロノは叫ぶ。 「目標を補足し続けろ! 母艦隊への突入だけは何としても・・・」 『反応数、増大・・・艦長!』 だが、その言葉を最後まで紡ぐ事はできなかった。 十数秒後、漸く視界を再確保した彼は、ドーム内の映像上に信じ難い光景を見出す。 核爆発の発生直前までには、決して存在しなかった、異常な光景。 クロノの視界、ドーム内に映し出された隔離空間内部。 「・・・どうなってる?」 加速中の目標と同型の複合武装体群が、空間内を埋め尽くしていた。 「索敵、出現の瞬間は」 『不明です! システム混乱中の数秒間で転移したのではないかと・・・』 『新型複合武装体、総数6250!』 こんな馬鹿な事が在り得るのか。 複合武装体が成長、或いは進化とも云える変貌を遂げたのは、僅かに数十秒前の事だ。 だがこの瞬間、艦隊による探知可能範囲内には、6000を超える複合武装体が存在しているという。 これは、如何なる現象なのか。 既に進化は完了しており、その上で1体の複合武装体のみを戦域へと転移させたのだろうか。 或いは。 或いは、想像するだに恐ろしい可能性だが。 数十秒、実に数十秒の間に。 僅か1体の複合武装体が遂げた進化を、他の全ての個体へと反映させたとでもいうのか。 『グリーン・インフェルノより警告! これより核弾頭による敵性体群の殲滅へと移行、直ちに安全圏へと退避せよとの事です!』 「・・・了解した。転進、モード2・・・待て! 進路戻せ、モード4!」 この様な状況となっては最早、グリーン・インフェルノによる殲滅に頼る他ない。 当該艦艇が有する圧倒的な火力の前には、XV級による援護など足手纏いとしか成り得ないだろう。 そう判断したが故の指示は、直後に発言者であるクロノ自身の言葉によって撤回された。 目標、複合武装体群に異変。 『複合武装体群、不明物体を射出!』 「数は?」 『カウント不能! 目標物の数が多過ぎます!』 『画像、拡大します』 複合武装体群より射出される、明らかにミサイルとは異なる無数の物体。 拡大表示されたそれらを視界へと捉え、クロノは眉を顰める。 その物体は何らかの機動兵器の残骸、或いは基礎フレームとしか思えぬ外観だった。 最小限の質量しか持たぬ、僅かな負荷が掛かっただけでも折れてしまうのではとすら思える、余りにも脆弱な構造。 更に云えば中枢らしきユニット、翼部、尾部の3つのユニットから構成されているらしきそれは、しかし互いのユニットが完全に独立していた。 3つのユニットは物理的接合が為されておらず、互いに一定の距離を維持しつつ単体としての構造を為しているらしい。 余りにも歪で、何らかの正常な機能体であるとは到底思えぬ、奇妙な物体。 だが、それらは決して単なる残骸などではなく、構造体の後方より噴射炎を煌かせつつ、明らかに自身が生み出した推力によって加速してゆく。 『不明物体群、接近』 『光学兵器搭載艦艇、不明物体群を攻撃します!』 1つ確かな事は、あれらの正体が何であろうと、詰まるところバイド以外では在り得ない。 その点については、深く考える必要すら無かった。 そして、クラウディアを始めとする管理局艦艇が手を下すまでもなく、質量兵器搭載型艦艇群より長距離光学兵器の光条が放たれる。 無数の光条は狙い違わずに接近中の不明物体群を捉え、その脆弱な外観の構造体を容易く貫いた、かに思われた。 だが、数瞬後。 『目標撃破・・・いえ、お待ちを。目標・・・目標、健在・・・?』 「回避されたのか」 自らの判断に確信が持てないのか、報告を口籠るクルー。 その頭上に拡がるドーム内の映像は、1体たりとも欠ける事なく接近中の目標群を映し出している。 瞬間的な事が故にセンサーを介して得た情報となるが、レーザーは目標群を正確に捉えていた筈だ。 だが現実には、それらは無傷のままにこちらへと接近し続けている。 一体、何が起こったのか。 『確かに目標を捉えた筈なのですが、特に変化は・・・目標群、更に加速。急速接近!』 「迎撃開始! MBS自動管制!」 直後、目標群は突如として急加速。 クロノは直射魔導弾幕による迎撃を指示、すぐさま命令が実行された事を確認する。 クラウディアより放たれた無数の直射弾は、他艦艇群より放たれたレーザー、魔導弾と共に目標群へと殺到、着弾し。 『目標・・・!?』 そのまま、霞の如く掻き消えた。 「MC404、自動管制!」 最早、クロノは動じない。 光学兵器による撃墜が確認されなかった時点で、こうなる事は半ば予測していたのだ。 状況を苦々しく思いつつ、彼は小さく息を吐く。 バイドは恐らく、光学兵器および魔導兵器による攻撃に対して、ある程度の無効化を実現するシステムを開発したのだ。 直撃したかに思われたレーザー、そして直射弾は何らかの原理により急激に減衰され、目標を構成するユニットを傷付ける事もできずに消失。 そして今、目標群は健在にして、更に高速で接近中という訳である。 目標は明らかに攻撃態勢を取っており、すぐにでも撃破せねば何らかの攻撃を受ける事となるだろう。 だからこそ、より強力な魔導砲による砲撃を指示したのだ。 直射弾程度の魔力密度では、弾体が目標へと達する前に減衰、消滅してしまう。 では、圧倒的魔力密度を有する集束魔導砲撃ならば、どうか。 『MC404、砲撃開始!』 『各勢力艦艇群、物質弾体型質量兵器による攻撃を開始!』 どうやら意見を交わすまでもなく、周囲の艦艇群も同様の結論へと達したらしい。 各勢力艦艇が次々に魔導砲撃、そして質量弾体による攻撃を開始。 直後に他艦艇より通信が入り、ほぼ同時に砲撃が数体の目標を纏めて撃破した。 『「オリオール」より全艦隊へ、警告! 目標周囲、何らかの気体が防御膜層を形成している! 低集束魔導弾および光学兵器は目標に対して無効、高出力兵装および質量弾体にて迎撃に当たれ!』 『目標撃破! 艦長、砲撃は有効です!』 「砲撃続行! 第3戦速、モード2!」 クロノは指示を下し、目標の1体をウィンドウ上へと拡大表示する。 果たしてオリオールからの報告通り、目標の周囲を包み込む様にして何らかの気体、霧状のそれが密集していた。 更には数秒後、その気体が高密度の魔力素を内包している事実がセンサー群の解析によって判明し、クロノは自身の推測が的を射ていたと確信する。 高密度魔力素によって形成された、対光学・魔力兵器防護膜。 光学兵器類による攻撃は防御膜を構成する粒子への乱反射により減衰し、魔導兵器による攻撃もまた高密度魔力素による干渉から霧散してしまうのだ。 超高機動体に対し、最大の威力を発揮する筈である光学兵器および魔導弾幕が全く通用しない、強力な防御策を備えた敵性体。 恐るべき存在だが、仕掛けさえ見抜いてしまえば対処法は幾らでも在る。 防御膜による干渉を受けない質量弾体で以って攻撃するか、或いは高密度魔力で以って防御膜もろとも撃ち抜くかだ。 『迎撃、問題ありません! 接近中の目標群、約20%の撃破に成功!』 「砲撃を継続せよ。各分艦隊に混乱の様子は見受けられない、このまま母艦隊まで圧し進むぞ。機関、最大戦速」 暴風の如き激しい砲火が、接近中の不明物体群へと殺到する。 次々に巻き起こる爆発、襲い掛かる砲火の僅かな間隙を縫って接近を試みる不明物体群。 その総数は余りにも膨大であり、これだけの砲火が浴びせ掛けられているにも拘らず、未だ6割が健在であった。 だが、殲滅の完了は時間の問題だ。 そう判断し、クロノは増速を命じた。 『目標に異変!』 直後、新たなウィンドウが展開される。 拡大表示されたそれ、接近中の不明物体。 霧状の防御膜に覆われたその先端部付近に、青白い光を放つ粒子が集束を始めているではないか その光景を目にしたクロノは、唐突にある事実へと思い至った。 目標物体、その構造。 明らかに酷似している。 同一という訳ではないが、各ユニットの基本構造が確かに似ているのだ。 あの忌まわしき存在、第97管理外世界の人間達が造り出した、悪魔の兵器体系に。 「R戦闘機・・・なのか?」 そんな筈は無いと、クロノは自身の思考を否定する。 キャノピーなど、何処にも存在しない。 ノズルすら見受けられない。 余りにも薄い板状のユニットを中心に、辛うじて戦闘機としての面影が見受けられるだけの構造を成した、兵器とも単なる残骸とも付かぬ存在。 そんな物体が何故、R戦闘機に酷似していると思えたのだろうか。 第一にあれらの不明物体は、地球軍ではなくバイドによって運用されているのだ。 バイドがR戦闘機を有している可能性など、僅かたりとも考慮されてはいなかった。 だが、現実として不明物体群は、明らかに波動粒子の集束を行っている。 目標群、波動砲発射態勢。 「砲撃中断、回避行動!」 『回避、モード7! 各艦艇、散開します!』 『目標2体「カタリナ」に接近! 回避、間に合いません!』 そして、数秒後。 更なる加速によってXV級カタリナへと接近した、2体の目標。 その前方部より、それは放たれた。 『目標、砲撃・・・いえ、これは・・・霧・・・?』 霧の爆発。 正にそれとしか表現の仕様がない、異様な砲撃。 指向性を有する爆発、それと見紛うばかりの威力で以って目標より噴出した、膨大な量の霧状気体。 それは一瞬にしてカタリナの艦体を覆い尽くし、更に予測される進路上へと散布され霧の集合体を形作る。 咄嗟に叫ぶクロノ。 「本艦へと接近中の目標を優先的に追跡! 通信士、カタリナに繋げ!」 『ローロンス、目標撃破!』 両艦からの砲撃により撃破される、カタリナを攻撃した2体の目標。 だが、それらより放たれた霧は空間に留まり、一向に薄れる様子は無い。 霧状気体によるジャミング効果か、繋がっては途切れを繰り返す通信状況を苛立たしく思いつつ、クロノはカタリナへと呼び掛ける。 「こちらクラウディア、ハラオウンだ。カタリナ、貴艦の状況を知らせよ」 『通信状態が維持できません。霧によるジャミングかと』 「回復操作を継続せよ。カタリナ、こちらクラウディア。応答せよ、カタリナ! ベルトラン艦長、イグナシオ!」 『通信、エリア非限定にて回復しました。繋ぎます』 「カタリナ、聞こえるか? こちらは・・・ッ!?」 通信状態が回復し、通信士が音声を出力した瞬間。 クラウディアのブリッジドーム内に、耳を覆いたくなる様な絶叫が解き放たれた。 クロノは思わず身を強張らせ、驚愕と困惑とに目を見開く。 艦長席の下方では、クルー等が狼狽えつつ掌で耳を押さえていた。 無数の絶叫、即ち悲鳴は、未だにドーム内へと響き続けている。 これは本当に人間の声なのかと、そんな疑いすら生じる程に獣染みた絶叫。 状況からしてそれを発している者は、カタリナのクルー以外には在り得ない。 だが、彼等は何故、こんな絶叫を上げ続けているのか。 これは1人、2人という程度の人数から発せられているものではない。 エリア非限定での通信である事を考慮すれば、恐らくはカタリナに搭乗する全クルーの悲鳴なのだろう。 生きながらにして臓腑を抉られているかの如き、それを聴く者の心底から潜在的な恐怖を呼び覚ます叫び。 眼下のクルー達の中には掌で耳を塞ぎ、闇に怯える子供の様に背を丸めている者達の姿すら在った。 気の所為か、彼等の身体は震えているかの様にも見える。 強制的に認識させられる死という概念への恐怖に耐え切れず、只管に身を縮めて叫びが止む時を待ち侘びているのだ。 クロノ自身とて例外ではなく、僅かでも気を緩めようものならば即座に、心中より際限なく湧き起こる恐怖に呑み込まれるであろうとの自覚が在った。 だが、彼の中に息衝く矜持と艦長としての責務が、恐怖に屈するという選択を許しはしない。 上擦りそうになる声を強靭な意志で抑えつつ、クロノは通信越しに響き続ける壮絶な悲鳴、それを掻き消さんばかりに声を振り絞り叫んだ。 「目標群から目を離すな! 次は我々がやられるぞ! 右舷前方40、不明物体接近中!」 『・・・MC404・・・優先目標設定しました!』 「カタリナはまだ沈黙していない! 観測を継続、変化が在れば・・・」 『艦長、カタリナが!』 クルーからの報告に接近中の不明物体から視線を外し、再び霧の集合体を見やるクロノ。 雲の様な集合体の表層から時折、カタリナの白い艦体が覗いている。 カタリナが増速した事によって、徐々に霧が引き剥がされているらしい。 気付けば何時の間か悲鳴は止み、入れ替わるかの様に低い呻きがブリッジドーム内に響いていた。 異物の詰まった排水口が立てる様な、空気が漏れる際のくぐもった音。 まだ、誰かが生存している。 そんな希望と共にドームの一角を見上げるクロノの視線の先、霧の壁を切り裂いて現れた白亜の艦体は。 「・・・何て事だ」 原形を留めない程に「腐食」し、溶け落ちていた。 「イグナシオ・・・!」 クルー達の悲鳴。 次いで複数のウィンドウが展開し、解析結果を自動表示。 リンクを通じ、情報を艦のシステムより直接取得したクロノは湧き起こる絶望に圧される様にして、無意識の内に友の名を呼ぶ。 そんな彼の眼前で、本来有すべき質量の約60%を喪失したカタリナは、辛うじて前進を続けていた。 単なる汚泥の塊の如き惨状となりながらも尚、推進機関が機能を維持しているのだ。 そして、通信越しに響く無数の呻き声は、未だ途絶えてはいない。 艦内に、生存者が居る。 如何なる惨状となっていようとも、カタリナのクルーはまだ生きているのだ。 クロノは咄嗟に、周囲の艦艇へと救援要請を発するべく、ウィンドウを展開していた。 だが、彼が言葉を紡ぎ出す、その直前。 『艦長・・・カタリナが・・・!』 カタリナが、艦体の半ばより「折れた」。 宛ら、熱によって融け出した飴細工の様に、呆気なく。 その瞬間、通信越しに響き続けていた呻きが唐突に途絶え、静寂のみがブリッジドーム内を支配した。 下方でクルー達が息を呑んだ、その程度の微かな音ですら確かな波となり、リンクを介す事もなくクロノの聴覚を、意識を揺さ振る。 そして、視界が歪むかの様な錯覚が襲い来る中、クルーの掠れた声がリンク越しに意識内へと響いた。 『カタリナ・・・轟沈』 崩壊は止まらない。 2つに分かたれたカタリナの艦体は更に腐食が進み、徐々に細分化されてゆく。 そうして十数秒後、宙域には僅かな破片と、大量の細かな粒子だけが残された。 カタリナ、消滅。 「アルカンシェル、バレル展開! 照準、目標群B!」 『バレル展開、確認!』 クロノが、吼える。 アルカンシェルによる砲撃を指示、接近中の目標群へと照準。 ドーム内に映し出される無数の敵機群、それら全てに友軍艦艇の照準を示すマーカーが重なっていた。 「目標個体をR戦闘機16番として登録! 以後、敵機と呼称する!」 『目標を16番として登録、確認しました』 『前方、強烈な発光!』 遥か前方、黄昏時のそれにも似た色の光が、無数に炸裂する。 その光が何を意味するものか、クロノは既に知り得ていた。 母艦隊が、複合武装体群の射程内へと捉えられたのだ。 『陽電子砲撃です! 無数の大規模爆発を確認、母艦隊に被害が!』 「通信状態維持、情報を随時報告せよ! 目標群、及び他艦艇とのリンクはどうなっている!」 『目標群を射程内に捕捉しました! リンク維持を確認、砲撃可能!』 「発射は「ハンナ・カティ」が管制する。各員、衝撃に備えよ!」 新たにウィンドウが展開され、アルカンシェル発射までの秒数が表示される。 ドーム内の正面には前方より接近中の敵機群と、その遥か先にて発生する無数の巨大な火球が映り込んでいた。 爆発はグリーン・インフェルノを始めとする無数の艦艇、それらより放たれた核弾頭によるものだろう。 陽電子砲撃による被害は受けたものの母艦隊は未だ健在であるらしく、猛烈な反撃による無数の核爆発、そして空間歪曲が前方の宙域を埋め尽くしてゆく。 一方で、クラウディアが属する分艦隊もまた敵機群による砲撃を耐え抜き、反撃の瞬間を迎えつつあった。 アルカンシェル、発射まで15秒。 『友軍勢力艦艇より、核弾頭の発射を確認!』 「減速、第2戦速へ! 弾頭の炸裂に巻き込まれるな!」 『発射まで10秒!』 「本艦は敵機群の殲滅を確認の後、複合武装体の追撃へと・・・」 『目標、散開!』 だが、発射まで5秒と迫った、その時。 前方の集団を含む全敵機群が、一切の前兆なく散開した。 どうやら友軍艦艇が放った核弾頭に反応し、攻撃よりも回避行動を優先したらしい。 その突然の変化にクロノの思考へと一瞬の躊躇が生じたものの、もはや発射の中断は不可能と判断し、彼は攻撃行動の継続を選択する。 『発射!』 衝撃と共に放たれる、純白に輝く弾体。 第11分艦隊、撃沈されたカタリナを除く7隻による、アルカンシェルの一斉砲撃。 7条の光の尾が、敵機群を目掛け空間中を突き抜ける。 そして砲撃は、第11分艦隊が実行したそれのみならず、全ての友軍勢力艦艇より放たれていた。 戦略魔導砲、電磁投射砲、荷電粒子砲、ミサイル。 光学兵器および低集束型魔導兵器を除く、あらゆる兵器の弾体が巨大な壁を形成し、敵機群へと襲い掛かる。 直後、無数の爆発。 「MC404、バレル展開数最大! 中距離拡散砲撃、用意!」 『艦長!?』 「核弾頭を迎撃された! 来るぞ、波動砲だ! 撃たれる前に撃墜しろ!」 『弾体炸裂、今!』 アルカンシェル、弾体炸裂。 第11分艦隊より放たれた7発を含む、計60発以上ものそれらが、極広域に亘って空間歪曲層を形成する。 だが、無意味。 敵機群は核弾頭の迎撃によって生じた複数の間隙、其処を急激な加速で以って突破しており、既に空間歪曲層のこちら側に位置していた。 戦略魔導砲撃による敵機群迎撃、失敗。 『バレル展開、確認!』 「撃て!」 バレルプログラム展開数20超、高密度魔力による集束砲撃。 敵機群の撹乱を目的とする中距離拡散砲撃が、複数の分艦隊を形成する管理局艦艇の全てより放たれていた。 艦艇搭載兵装の射程距離が比較的短い為、管理局艦隊を含む幾つかの勢力は全艦隊の中で常に、交戦中の敵勢力へと最も近い位置に展開しているのだ。 そしてこの瞬間もまた、艦隊最前列にてXV級による敵機群の迎撃が開始された。 魔導兵器が有する運用面での柔軟性を活かし、中距離拡散砲撃による高密度魔力の防壁を形成したのだ。 だが、その結果は望ましいものとはならなかった。 『撃墜3、確認! 残存敵機群、尚も接近中!』 「砲撃を継続しろ! 敵機を見失うな、常に捕捉して・・・」 『目標失索! 目標失索です! 敵機群の反応消失、捕捉不能!』 撃墜数、僅かに3機。 更にシステムが敵機群を失索、捕捉不能との報告。 そして事実、リンクを介して得られた情報は、敵機群の反応が完全に消失した事を告げていた。 余りに異常な事態に、クロノは愕然としつつもドーム内の映像、その隅々にまで視線を走らせる。 敵機を捕捉・拡大表示していた複数のウィンドウは、敵機群の反応消失と同時、それら映像の全てがエラーメッセージの表示に取って代わられていた。 表示が意味するもの、それは敵機群そのものが消失したという事実に他ならない。 「・・・在り得ない!」 クロノは最終的な捕捉座標および各種情報より、現在の敵機群の位置を予測、周辺宙域を視覚的に拡大表示する。 敵機群は消失などしていない、何処かに存在する筈だと、彼は確信していた。 転送、或いは浅異層次元潜行の可能性も存在するが、何故この距離でそれを実行したのか、論理的な説明ができない。 何より、これまでの戦闘を通じてバイドが浅異層次元潜行を使用した形跡など、1度たりとも観測されてはいないのだ。 未知の技術による転送こそ幾度となく実行されてはいるものの、少なくともこちらが観測できる形での浅異層次元潜行運用方法を執ってはいない。 接近中であった敵機群もまた同様であるのならば、観測し得る状態として周辺の宙域に存在する筈なのだ。 「見付けたぞ!」 その予測は的中した。 分艦隊後方、敵機群発見。 砲撃の壁を微々たる損害にて容易く突破し、既に後方の艦隊を射程内に収めている。 敵機群は迎撃に当たっていた艦隊を無視し、その後方、より大規模な分艦隊の集団に対する攻撃を選択したのだ。 こちらの存在を完全に無視した敵戦術、それに対し湧き起こる憤りを堪えつつ、クロノは敵機群を光学的に分析する。 余りに奇妙な状況。 光学的に捕捉した敵機群だけであっても、その構成機体数は数百に達していた。 1体の複合武装体が40機前後の機体を射出していた事実より推測すれば、戦域には実に250000機もの敵機が存在している事となる。 分艦隊への攻撃に当たっているのはその半数であると仮定しても、周辺宙域には125000もの敵機が潜んでいる筈だ。 ところが、センサー群には何ら反応が無い。 明らかな能動的妨害、バイドによる何らかの工作が為されているのだ。 『ダニロフ解放戦線第2艦隊所属「ユーリ・アレクサンドロフ」より、全方位通信。敵機群内に、球状兵装を備えた個体を確認、撃墜・・・』 「撃墜だと? 目視で?」 唐突に思考へと割り込んだ報告の内容に、クロノは驚きの声を漏らす。 システムが目標を捕捉できぬ状況下にも拘らず、敵機の撃墜に成功したとは凄まじい。 偶然の結果であったとしても、驚くべき事だ。 だが、真にクロノを驚愕させる情報は、続くクルーの報告によって齎された。 『直後、撃墜した個体周辺の敵機群に対する索敵機能が回復。現状では推測の域を出ないものの、ジャミング機能を有しているのは機体側ではなく、球状兵装側である可能性が高いとの事です』 球状兵装、恐らくはフォース。 センサー群による索敵を妨害しているジャミング・システムは、機体にではなくフォースに搭載されているのだという。 その報告を受けるや否や、クロノは新たな指示を発していた。 「敵性ジャミングの解析を開始しろ! 全艦艇と情報を共有、障壁の解除を許可する! MC404及び308、手動管制! 友軍艦艇とのリンクを再確認し、誤射対策を・・・」 『閃光を確認! 敵機群、砲撃!』 指示の言葉も終わらぬ内、艦隊各所にて閃光が奔る。 直後に発生し、空間を埋め尽くさんばかりに膨脹する、霧の集合体。 また、あの強力な腐食性ガスが撒布されたのかと警戒するクロノであったが、状況は彼の予測を超える程に悪化していた。 『全方位通信、発信多数・・・艦長!』 新たに展開したウィンドウ上、表示される拡大映像。 霧に呑まれる友軍艦艇、そして発生する無数の細かな閃光。 その光景を目にするや否や、クロノの意識へと生じる微かな違和感。 霧の中で発生している、この閃光は何なのか。 『友軍艦艇より警告! 艦体が霧に接触すると発火、いえ、爆発すると・・・これは・・・これはカタリナを撃沈したものではありません! 爆発性の・・・』 クルーが、その報告の内容を言い切る事はなかった。 拡大映像を表示しているウィンドウのみならず、ドーム内の全てが閃光に埋め尽くされたのだ。 複数の小さな悲鳴が上がる中、クロノは一瞬だけ翳した掌で視界を庇い、すぐさま状況の把握に移る。 センサー群および通信系統の出力を最大にまで引き上げ、効果範囲内の情報を貪欲に収集。 結果、判明した事実は。 「・・・やってくれたな」 被害状況。 分艦隊群を形成する全艦艇、その約20%に当たる1600隻前後が轟沈。 対して、敵機群の損害状況については、一切の情報が得られていない。 被撃墜数は何機か、或いは1機たりとも撃墜されてはいないのか。 何1つ、判明してはいないのだ。 だが、敵機群が用いる砲撃については収集した情報を基に、ある程度の予測を立てる事ができた。 先程の閃光、巨大な爆発。 敵機群が搭載している波動砲は極強酸性、或いは爆発性のガスによる砲撃を行うものだ。 特に爆発性ガスによる砲撃については、複数機体からの同時砲撃によって効果範囲、威力共に破滅的なものとなるらしい。 砲撃により発生した霧は、他の物質に触れる事で強制的に化学反応を起こし、小規模爆発を連鎖的に誘発する。 単独では大した脅威とはなり得ない規模の爆発だが、しかし一瞬たりとも間隙を挟む事なく連続発生するそれらは、総合的には複数の次元航行艦を数秒と掛からずに解体する程の破壊力を有しているのだ。 更に厄介な事に、霧は空間中に留まる性質が在るらしい。 砲撃直後からの数秒、その間に他物質との接触による化学反応を起こすに至らなかった霧は、同じく化学反応段階へと至らなかった霧の集合体群と融合を重ね、極広域を覆う大規模ガス雲を形成。 そして時間経過、或いは一定以上の規模に達する事により、ガス雲は突如として激しい自己反応を起こし爆発。 大気が存在しない空間にも拘らず、自由空間蒸気圧爆発と同様の現象を引き起こすのだ。 だが、その威力は通常の蒸気雲爆発とは比較にならない。 核爆発にすら耐え得る艦艇群を破片すら残さずに消滅せしめる爆発が、単なる既知の蒸気雲爆発などである筈がない。 『敵機群を視認、接近中! 明らかにこちらを狙っています!』 「砲撃継続! 回避運動、モード4!」 超高機動にて襲い来る敵機群。 目視にて一時的にその全貌を捉える事は可能なものの、センサー群による捕捉は未だ不可能。 クルーとシステムとのリンク構築による手動管制砲撃は、敵機が有する馬鹿げた機動性により目標機体へと掠りもしない。 気休めとは知りつつも展開される直射弾幕は、稀に目標を捉えても防御膜によって弾体の魔力結合を解かれ、機体構造物へと達する前に霧散してしまう。 クラウディアには最早、ランダムパターンでの回避運動を継続しつつ照準すら定まらぬ砲撃を放ち続ける、それ以外の選択肢など残されてはいなかった。 それは、他の艦艇についても同様だ。 本来の所属を問わず、周囲に展開する全ての艦艇が手動管制砲撃を実行しつつ、のた打ち回る様にして敵機群より逃れんと足掻いていた。 追い詰められたが故の行動か、システムからの警告を無視しての砲撃が繰り返されているらしく、戦域の其処彼処で友軍艦艇への誤射が発生。 艦隊の瓦解は、もはや時間の問題だった。 「リンクだけは何としても維持しろ! 他艦艇に接触すれば終わりだ!」 『直上98000、敵機群捕捉! 機数100機以上!』 そして遂に、最も恐れていた事態が現実のものとなる。 クラウディア直上、拡大表示された映像の中心に、オレンジの光が6つ。 フォースを装備した1機を中心に20機前後の敵機から成る集団、それが6つ寄り集まった総数120機前後の敵機群。 明らかな攻撃態勢にて接近中のそれらを、この距離に至るまで見落としていたのだ。 既にこちらは、敵機群の砲撃射程内へと捉われ掛けている。 否、クラウディアだけではない。 恐らくは20秒以内に、第11分艦隊の全艦艇が敵機からの砲撃に呑み込まれ、跡形もなく消滅する事となるだろう。 アルカンシェル及びMC404については射界外、直射弾であるMBSは通用しない。 他勢力艦艇より放たれた電磁投射砲弾が、辛うじて数機を撃墜したものの、既に状況は手遅れだ。 「全速後退、艦首仰角最大! MC404、バレルプログラム仰角最大!」 だが、クロノは抵抗を選択した。 艦を後退させつつ、艦尾からの下降を指示。 バレルプログラム群、最大仰角。 「炉心出力の全てをMC404に回せ! 長距離拡散砲撃、用意!」 クルー達は、何も言葉を挟まない。 皆、クロノの真意を理解しているのだろう。 淡々と指示に従い、迎撃態勢を整えてゆく。 クロノが選択した戦術は、極めて単純なものだ。 接近中の敵機群を長距離拡散砲撃の射程内へと捉え、砲撃により撹乱、あわよくば殲滅を狙う。 他の管理局艦艇にしても、同様の判断へと至ったらしい。 分艦隊に属する全XV級が、MC404による長距離迎撃態勢へと移行している。 敵機群が運用する波動砲は霧状のガスを噴出するという特性上か、これまでに観測された他の波動砲による砲撃と比較して、幾分か射程が短い。 MC404への魔力供給値を限界まで引き上げれば、敵機が有する波動砲の射程を僅かに上回る事ができるだろう。 だが、それでも砲撃のタイミングは、殆ど同時となる筈だ。 相討ちとなる事は確実、避けられはしない。 「機関停止、惰性航行! MC404、魔力集束継続! 危険域は無視しろ!」 それでも、この戦術により6つもの敵集団を撹乱、或いは殲滅できる。 ジャミングを実行している機体を撃墜するだけでも、状況は著しく改善される筈だ。 後の事は残存艦艇群に任せる他ないが、混成艦隊を成す彼等の技量と戦力ならば、必ずや活路を切り開いてくれる事だろう。 『敵機群、射界に捉えました! 砲撃準備完了!』 「射程内へと確実に侵入するまで待て! カウント15!」 『15秒前!』 艦首が敵機群の方角へと向き、全バレルが目標を射界へと捉える。 敵機群、MC404射程内侵入までの予測時間、15秒。 ウィンドウ上に表示される数字が0を示した数瞬後に、クラウディアは艦内のクルー諸共、宙域を漂う微かな残骸と化す事だろう。 或いは、これまでに撃沈された艦艇群と同じく、破片すらも残さずに消滅するかもしれない。 だが同時に、それなりの代償を得る事はできる。 こちらが滅せられる時は、敵機群も道連れだ。 そんな事を思考しつつ、クロノは艦内の全区画へと音声を繋ぎ、言葉を紡ぐ。 「ハラオウンより総員。君達と共に戦えた事、何よりも光栄に思う・・・ありがとう」 クラウディア、全クルーへの感謝を示す言葉。 続けて放たれた謝罪の言葉は、システムを介する事なく、小さな音となって宙空へと溶けて消えた。 クルー等からの返答は無いが、反発の言葉が上がる事もない。 MC404、砲撃まで5秒。 クルーの誰もが、数秒後に訪れる結末を静かに受け入れんとしている。 その事実を理解し、彼等に対する深い感謝の念を抱くクロノ。 同時に彼は、生死不明となったままの母と義妹、ミッドチルダに残される妻と子供達の無事を願う。 しかし直後、クロノの意識からは一切の柵が掃われ、彼の思考は決定的な支持を下す為だけの機構と化した。 そして、ウィンドウ上の数字が0となった、その瞬間。 「撃て!」 衝撃。 これまでのものとは比較にならぬ程に強烈な閃光が、ドーム内を埋め尽くす。 最大数にまで同時展開したバレルプログラム、それら全てより発せられた閃光。 MC404、長距離拡散砲撃。 光のカーテンの反対側では、恐らくこちらと同様に、敵機群が波動砲による砲撃を放っている事だろう。 数瞬後には、霧がクラウディアの艦体を覆い尽くす筈だ。 リンカーコアの過剰な強化、更には極限の集中により、異常とすら云えるまでに加速した思考。 一瞬が10秒程にまで引き延ばされた体感時間の中、終わりの時が訪れる瞬間を、不思議と穏やかな心持ちで以って待ち受けるクロノ。 そんな彼の視界、その端へと映り込む奇妙な影。 幻覚だろうか。 その白い影はこちらが放った砲撃の手前、空間中に忽然と出現したかの様に思えた。 奇妙な形状の、翼部らしき左右一対の構造物。 それらに挟まれる様にして存在する中心の構造物は、下方へと近付くに従って窄まり、円錐に近い形状となっていた。 中心構造物には淡く青い光が灯っており、その数は10を超えている。 ふと、意識中に過ぎる奇妙な既視感。 影の全体的な形状に、クロノは見覚えが在る様な気がした。 何処かで目にした、何らかの存在に似ている。 その疑念を受け、40を超える並列思考の一部が影に対する分析、そして記憶情報の検索を開始。 刹那の間に完了したそれらの処理は、幾つかの異なる答えを導き出した。 ある思考は訴える。 純白の小さな翼、まるで神話に描かれる天使の様だと。 ある思考は分析する。 不自然なまでに整った左右対称の形状、明らかな人工物であると。 ある思考は警告する。 現状下に於いて出現する存在など、何らかの兵器以外には有り得ないと。 「回避運動!」 刹那、クロノは叫んでいた。 思考の結果、等という悠長なプロセスを経ての行動ではない。 これまでに蓄積された膨大な情報、そして1生命個体としての本能より発せられた、致命的な危機を回避せんとするが為の絶叫。 同時に、彼は操艦をクルーに任せる事なく、システムとのリンクを介して強制的に転舵を実行する。 左舷傾斜-70度、艦首仰角110度。 巨大な艦体が左舷方向へと傾斜し、更に急激な上昇機動により、当初の進路を大きく逸脱する。 ブリッジドーム内に響く、幾重ものクルー達の声。 多くの者は、状況を把握できないのか困惑の声を上げつつも、手先だけは休む事なく各々の操作を継続している。 ドーム内に表示される外部映像は艦の機動に合わせ流れゆき、空間中に存在する無数の影を次々に捉えていた。 影は、1つではなかった。 無数の、それこそバイド群の個体総数に匹敵するかと思われる程のそれらが、光学捕捉可能域内の空間中を埋め尽くしていたのだ。 センサー群より得られる情報もまた、艦体周辺を無数の不明物体が取り囲んでいるとの事実を示している。 そして今や、影は複数の光源からの光を反射するだけの存在ではなく、自らが眩い光を発し始めていた。 正確には影そのものではなく、その前面に集束する紫掛かった光の粒子、その集束体が放つ輝き。 ドーム内へと映り込む無数の同型の影、その全てが同様の粒子集束を実行していた。 これから何が起こるのか、クロノが予想し得る可能性は、唯1つ。 『ガス雲、接近!』 「砲撃」だ。 「総員、衝撃・・・」 クルーへの警告。 その言葉を、最後まで言い切る事はできなかった。 閃光がドーム内を埋め尽くし、拡散粒子を介してのエネルギー移動によるものか、強烈な衝撃が艦体を揺るがす。 悲鳴、そして警報。 同時に、クロノの身体は前方へと投げ出され、赤く明滅する警告ウィンドウによって埋め尽くされたコンソールへと、強かに打ち付けられる。 胸部から腹部に衝撃、口内に拡がる鉄分の臭い。 思考速度低下、薄れる意識。 「くそ・・・ッ」 だが、彼はコンソールに手を掛け、床面へと崩れ落ちそうになる身体を無理矢理に引き起こす。 一体、何が起こったのか。 それを確認する前に意識を失う事など、彼の艦長としての矜持が許容しなかった。 システムとのリンクは、既に断たれている。 咳込みつつも、ドーム内の各所へと視線を走らせるクロノ。 下方に位置するクルー等は、床面に蹲り咳込む者から、果ては伏したまま微動だにしない者も居る。 負傷者、多数。 次に、クロノは外部映像を見やった。 だが、警告灯の赤と黄色の光が明滅するドーム内には、本来の壁面が拡がるばかり。 映像途絶、外部状況の確認不可能。 クロノはシステムの修復を試みるべく、ウィンドウを展開せんとした。 だが、反応が無い。 幾度か同じ試みを繰り返すも、システムは沈黙したままだ。 「どうなっているんだ・・・」 呟きつつ、立ち上がるクロノ。 艦体が崩壊した訳でもなく、自身の身体も意識も消失していない事から推測するに、敵機群の霧による砲撃を受けた訳ではないらしい。 下方では比較的軽傷で済んだらしきクルー等が、微動だにしない他のクルー等を助け起こしている。 クロノは待機状態のデュランダルを手に、コンソールから身を乗り出した。 自身も重傷者の介助に加わり、更にシステムの復旧を行うべく、下層に直接下降しようと考えたのだ。 だが、その直前に映像表示機能が再起動、ドーム内に展開したスクリーン上をノイズが埋め尽くす。 クロノはデュランダルを懐に戻し、再度ウィンドウの展開を試みた。 問題なく展開されるウィンドウ、システム自動復旧中との表示。 直後、ドーム内のノイズが消え去り、外部映像が正常に表示された。 映像表示機能、復旧完了。 クロノは隔離空間内部の映像を視界へと収め、其処に映り込んだものを余す処なく意識へと捉える。 そして、絶句した。 「何だ、こいつらは?」 ドーム内へと映し出される、隔離空間内部。 其処にはもう、無数の敵機群も、迫り来るガス雲も存在しない。 広大な空間には、敵機群の攻撃を掻い潜る事に成功した友軍艦艇群、そして無数の奇妙な飛翔体群のみが存在している。 空間中を縦横無尽に翔ける飛翔体、その1群を静止画像として撮影し拡大表示。 そして、とある事実に気付く。 飛翔体は、全てが同型ではなかった。 先程、クラウディアの眼前に現れた、あの個体。 前後に伸長した奇怪な形状の頭部、半月状の胴部。 その左右側面に突き出した翼状の腕部構造物、其処から前方へと伸長する槍状構造物。 頭部先端付近に点る、センサー群によるものらしき3つの赤い光。 人型とも、戦闘機型とも付かぬ、奇形としか云い様のない全貌。 それ以外に、明らかに別種と判る個体が存在していた。 中枢部より後部下方へと突き出した三角翼、垂直尾翼としては余りに重厚な上部構造物。 キャノピー、或いはセンサー群であろうか、微かな青い光を纏った鋭い先端部。 そして、巨大な針にも似た外観、中枢部下方に備えられた砲身らしき構造物。 明らかな戦闘機型でありながら、機械的な直線と有機的な曲線が混在する全貌。 更に、無数に飛び交う小型の飛翔体、それら以上に信じ難い存在が出現していた。 隔離空間内部を埋め尽くす、白に近い灰色の装甲に覆われた、無数の巨大な影。 クラウディア直上、そして直下を追い抜いてゆくそれらの影を、呆然と見つめるクロノ。 その思考は、既に正常な機能を失い掛けている。 何が起きているのか、理解などできる筈もない。 彼の眼前に現出している光景には、理解の余地など微塵も存在しない。 そんな中、回復したリンク越しに意識へと届く、色濃い混乱が滲んだクルーの声。 『艦長・・・見えておられますか? センサー群は正常です・・・これは、これは幻覚では・・・』 「解っている・・・見えているさ、僕にも」 三角状の艦体、艦首となる頂点付近の上部には奇妙な形状の砲塔らしき構造物が2つ、後方となる辺部中央には艦橋らしき構造物。 更に、艦橋を挟む様にしてエンジンユニットらしき左右一対の構造物が存在し、それらは艦体を挟んで反対、即ち下方へと伸長している。 一方で、艦首からも下方へと構造物が伸長し、それらは宛ら、艦体を支える三脚の様な配置となっていた。 XV級の約3倍にまで達する巨体にも拘らず、中型次元航行機のそれと錯覚する程の高機動。 戦闘機宛らに3隻毎の集団を形成し、一糸乱れぬ編隊行動にて空間中を徘徊する。 もう1種の艦艇、先の艦艇と比較しても、更に異様な外観を有するそれ。 円柱状の艦体を中心とし、その中央部から後方に掛けてエンジンユニット、艦橋構造物等が密集。 艦体後部の体積は、前部と比較して実に3倍程度にまで膨れ上がっている。 全幅および全高は三角状艦艇と然程に変わらぬものの、全長は明らかにその倍以上は在るだろう。 一方で、艦橋構造物の外観は、三角状艦艇と何ら変わりが無い。 そして、円柱状の艦体先端部、半球状の艦首付近。 艦体より両舷斜め上方45度および下方垂直へと突き出す、アンテナ群にも似た3つの構造物。 余程に頑強な物質にて形成されているのか、其々の構造物は細い支柱1本によって艦体と接続されているのみ。 にも拘らず、それら支柱の中間部には、XV級の艦体にすら匹敵する規模の構造物が接続されている。 支柱は構造物との接続箇所から更に伸長した後に分岐、艦体前方への伸長部位から更に2本へと分岐していた。 巨大なレーダー群にも思えるそれらは、如何なる運用目的の下に設置された物なのか。 現状に於いては、何ら判明してはいない。 異形の飛翔体群、異形の艦艇群。 空間を埋め尽くさんばかりに存在するそれらを、誰もが言葉少なに呆然と見つめている。 クロノもまた、その内の1人だった。 先程、クルーからの報告に言葉を返して以降、彼は何をするでもなく映像を見つめ続けている。 次に執るべき行動を判断するどころか、現状を理解する事すら不可能なのだ。 十数秒ほど思考を放棄し、理解の及ばぬ光景を眺めていたところで、誰がそれを責められようか。 「冗談だろう・・・」 それでも、彼はクルーの誰よりも早く意識を持ち直した。 そして、眼前に拡がる光景を改めて意識中へと捉え、思わず呻きにも似た言葉を漏らす。 光学的に捕捉し得る数だけでも、明らかに500隻は存在するであろう大型艦艇。 それらの艦艇は、各々が周囲に三角状艦艇の集団、3隻毎に形成されるそれを3集団まで引き連れ、計10隻の艦艇から成る分艦隊を形成している。 即ち、光学的捕捉可能域内に限定しても、大型艦艇500隻以上、及び三角状艦艇4500隻以上が存在する計算となるのだ。 各種センサー群による捕捉可能域内では、反応総数は既に40000を超えている。 同様の現象が戦域全体にて発生していると仮定すれば、その数は数倍、或いは数十から数百倍にも達する事だろう。 飛翔体群に関しては、艦載機である可能性が高い。 飛翔体のサイズからして、各艦艇につき少なくとも数十機、多ければ100機以上が搭載されていると見るべきか。 となれば、戦域全体に存在する飛翔体の総数は、どれだけ少なく見積もったとしても優に1000000機を超えるという事か。 混成艦隊の総戦力は疎か、バイドの物量さえ凌駕し得る、圧倒的なまでの戦力。 そんなものを有する不明勢力が、僅か十数秒の内に戦域へと出現している。 だが、真にクロノを驚愕せしめた事実は、不明勢力の規模などではない。 空間中に漂う僅かな粒子、明らかに波動粒子と判るそれ。 先程の飛翔体群による砲撃、その残滓らしきそれを、各種センサー群が解析していた。 その結果、システムを介してクロノの意識中へと転送された、とある情報。 俄には信じ難い、しかし紛れもない真実。 クロノは、呆然と呟く。 「魔力反応・・・だって?」 その数値は、戦略魔導砲のそれと比較すれば、決して大きいものではなかった。 艦載型通常魔導砲による砲撃と大差ない数値、魔法技術体系から成る兵器としてはごく平凡なもの。 だが、その反応が波動粒子の観測と同時に検出されたとなれば、話は全くの別物となる。 魔力と波動粒子、双方を用いての攻撃を実行する兵器に関しては、現在に至るまで1種しか確認されてはいなかった。 地球軍およびバイドによるクラナガン襲撃時に確認された、漆黒と濃紫色の装甲を有するR戦闘機。 魔力を集束し、更には波動粒子としての性質をも付与した上で砲撃と為す、次元世界に於ける技術体系と22世紀の第97管理外世界に於ける技術体系、双方の融合により創造された兵器。 地球軍を除き、短期間の内にそれを実現し得る勢力など、バイド以外には存在しないと思われていた。 そして事実、当該兵器種を運用する新たな勢力の存在は、これまで確認されなかったのだ。 だが、今は違う。 周囲の空間を埋め尽くす不明勢力、それが運用する兵器群は、明らかに魔力と波動粒子の双方を用いての砲撃を実行したのだ。 それも、唯の砲撃ではない。 バイドにより繰り出されたR戦闘機群、それらが放った波動砲による霧の砲撃を相殺するに止まらず、霧の壁の先に展開していたR戦闘機群をも殲滅して除けるという、異常な攻撃。 そんな攻撃を放つ兵器が艦載機に搭載されているという、少なくとも次元世界に於いては他に類の無い兵器体系。 恐らく、単機に於ける各種性能は、地球軍が有するR戦闘機のそれには及ぶまい。 彼等が創造した兵器群は、他と比較するという行為、それ自体が愚かしいと思える程に異常な存在だ。 飛翔体群が放った砲撃は確かに強力だが、それでも地球軍が運用する波動砲には及ばない。 しかし、それは飽くまで単機ならばの話だ。 複数の飛翔体からの同時砲撃ともなれば、その威力および範囲は、R戦闘機のそれを大きく凌駕する事となる。 10機も集まれば、戦略級とも云える規模にまで膨れ上がるだろう。 では、100機での同時砲撃ならば、どうか。 1000機では、10000機では、100000機では。 1000000機での同時砲撃ならば、如何なる規模となるのか。 『大質量物体、転移・・・バイドです! 新型複合武装体を確認、無数!』 『未確認機体群、魔力素の集束を・・・いえ、艦艇もです! 不明勢力艦艇群および機体群、魔力素の集束を開始!』 新型複合武装体群、再転移。 不明勢力、攻撃態勢へ移行。 今度は飛翔体群のみならず、三角状艦艇の艦首構造物下方、そして巨大艦艇の艦首にまで、魔力素を含んだ光の粒子が集束してゆく。 全戦力を用い、出現直後のバイド群を殲滅するつもりか。 「総員、身体を固定しろ! 衝撃が来るぞ!」 クロノは、語気も鋭く叫んだ。 先程の衝撃、あれは間違いなく魔力素によるものだ。 本来、真空中で衝撃は伝播しない。 たとえエネルギーの発生源が核爆発であろうと、それを伝播する物質が存在しない以上、直接的なエネルギー輻射による破壊以外に効果は望めないのだ。 だが、地球軍およびバイドを含む複数の勢力は、管理世界に於いては未知となる粒子拡散技術を各種弾頭に搭載しており、大気中と同等か、或いはそれ以上に強力な衝撃波の伝播・拡散を可能としていた。 それら以外にも、波動砲を始めとする粒子集束型質量兵器の砲撃時に於いて、波動粒子を伝播物質とするらしき強烈な衝撃波の発生が観測されている。 一方で魔導兵器群についても、アルカンシェルを始めとした戦略魔導砲等による砲撃時に於いては、大量の魔力素を伝播物質として衝撃波が発生するのだ。 先程の、飛翔体群による一斉砲撃。 クラウディアを襲った衝撃は、魔力素と何らかの粒子を伝播物質として齎されたものだろう。 今度の砲撃は、艦艇群のそれをも含めた更に大規模なものだ。 砲撃の余波だけで艦体が破壊されるとは流石に考え難いが、しかし艦内のクルーは徒では済むまい。 よって、出来得る限り衝撃に備え、身体を護る必要性が在る。 クロノもまた、身体を固定するべく艦長席へ戻らんとした。 だが、唐突に鳴り響く警告音に、彼の動作が停止する。 友軍艦艇より長距離全方位通信、緊急。 余程に急いでいたのか、暗号化すら為されてはいない。 リンクを介し、音声としての出力を設定するクロノ。 直後、ドーム内へと響き渡った言葉に、彼の思考が硬直した。 『警告! 不明勢力艦隊、地球軍艦隊へと急速接近中! 艦艇群及び艦載機群、攻撃態勢!』 クロノは咄嗟に、隔離空間内部に浮かぶ第97管理外世界、その惑星を新たに展開したウィンドウ上へと拡大表示する。 映像上にて、地球軍艦隊の艦影を捉える事はできなかった。 しかし一方で、第97管理外世界へと向けて殺到する無数の艦艇群、それらの艦影については鮮明にウィンドウ上へと映し出されている。 全艦影の前部、艦首に集束する紫掛かった光の粒子。 同じく粒子の集束を開始している飛翔体群を周囲へと無数に展開し、艦艇と艦載機による壁そのものとなって第97管理外世界へと迫る。 彼等の狙いは、明らかに地球軍艦隊だ。 「馬鹿な、正気か!?」 クロノは自身の思考を、意図せず声にして叫んでいた。 彼の驚愕は、2つの事柄に関して生じたもの。 共に信じ難く、理解できない事実に対する困惑でもあった。 1つは、このタイミングで地球軍艦隊への明確な敵対的行動を開始するという、不明勢力の戦略。 地球軍艦隊が恐るべき総合戦力を有しているとの事実については、既に全ての勢力が知り得ていると云っても過言ではない。 無尽蔵とも思える物量にて押し寄せるバイド群に対し、単独勢力での抗戦にも拘らず互角、或いは優勢とすら判断できる戦況を維持する事すら可能という、常軌を逸した戦力。 それ故か彼等は、これまで如何なる勢力に与する事もなく、只管に自身等と第97管理外世界の防衛に務めていた。 混成艦隊としても、小規模ながらバイドに対する最大の有効戦力であり、同時に決して友軍とは為り得ず、しかし明確に敵性であると断言する事もできぬ地球軍艦隊に対し、これより先の状況に於ける対応内容の決定という問題を先送りにし続けていたのだ。 友軍として混成艦隊へと加わる事を要請したところで、地球軍艦隊がそれを受け入れるであろう、との予測を導き出した勢力は皆無。 かといって明確に敵対を選択すれば、彼等が有する恐るべき戦力の一端、その矛先が遠からず次元世界へと向けられる事は明らかだ。 よって、現状での最善策とは地球軍艦隊に対して不干渉を維持しつつ、出現したバイド群を殲滅する際に彼等の戦力を利用する事であるとの認識が、混成艦隊内部に於いては浸透していた。 だが、不明勢力はその認識を完全に無視し、地球軍に対する攻撃を独善的に実行せんとしている。 その攻撃は不明勢力単独での判断により実行されるものであるが、しかし地球軍が事実の通りに状況を認識するとは限らない。 不明勢力による攻撃が次元世界の総意によって為されたものであると判断されれば、直後から混成艦隊は地球軍の積極的攻撃対象に加えられる事となるだろう。 状況は、極めて危険だ。 そしてもう1つは、展開する地球軍艦隊の背後、第97管理外世界の存在を無視した不明勢力の行動。 惑星を背に展開する地球軍艦隊に対し、不明勢力が全方位より飽和攻撃を仕掛ける心算である事は、誰の目にも明らかだ。 当然ながら、その様な戦略攻撃が実行されれば、第97管理外世界にまで被害が及ぶ事は避けられない。 数万、数十万もの砲撃は地球軍艦隊のみならず、大気圏を突き抜け地表へと到達、少なくとも上部マントル層までを容易く貫く事だろう。 海洋の消滅、大陸の崩壊、そして遂には惑星全体の破壊へと至るであろう事は、想像に難くない。 無論の事、惑星上に存在する総数200にも迫る国家群も、其処に暮らす70億もの地球人も、残らず消滅する事となる。 如何なる勢力であろうと、その事実に思い至らぬ筈がないのだ。 だが、その事実にも拘らず、不明勢力は今まさに砲撃を実行せんとしている。 地球軍艦隊の殲滅が最優先であると云わんばかりに。 第97管理外世界の存亡など知った事かと云わんばかりに。 否、その様な生易しい戦略に基いての行動ではない。 不明勢力の動向からは、明らかな意思が読み取れる。 理解できぬ訳ではないが、しかし決して理解してはならない意思。 同意する思考は在れど、しかし決して同意する事など在ってはならぬ意思。 彼等は、明らかに彼等は。 「ふざけるな・・・」 「地球軍」諸共、「地球」を滅ぼす心算なのだ。 「認めるか・・・ッ!」 知らず、クロノは呟いていた。 無駄な足掻き、意味の無い行動とは知りつつも、その腕をドーム内に映る「地球」へと伸ばす。 宛ら、その手に「地球」を掴み取らんとするかの様に。 友人達、知人達、それらの家族。 意識中を翔ける記憶、幾つもの顔。 彼等は知らない。 何も、知らないのだ。 あの惑星は飽くまで「21世紀の地球」であり、地球軍が所属する「22世紀の地球」ではない。 バイドとの接触も、異層次元への進出も遂げてはいない、閉塞された世界。 其処に暮らす70億もの人々は、この瞬間に自らの頭上に拡がる隔離空間、その存在すら知り得る事はない。 他の世界は独力で、或いは他勢力からの干渉によって、惑星と隔離空間内部とを隔てる偽りの空、微細空間歪曲による通常宇宙空間環境の限定的光学反映技術を用いて形成された極薄膜層空間を破壊し、惑星外の状況を正確に把握している。 しかし21世紀の地球には、当該空間消去が可能となる技術など存在しない。 また、地球軍により構築された異常なまでに強固な防衛網の存在下、他勢力からの干渉など成功する筈もなく、またバイドを除いて積極的な干渉を試みる勢力も存在しなかった。 結果として、地球の国家群は隔離空間を観測するに到らず、依然として通常宇宙空間を認識し続けている筈なのだ。 彼等には、抵抗の為の術が無い。 逃げる事もできない。 認識する事もできない。 1度でも攻撃を受ければ、惑星の周囲で何が起こっているのかを欠片ほども知る事なく、数十億の人命が消え去る事だろう。 そんな事は、全ての勢力が理解している。 否、理解できない訳がない。 にも拘らず不明勢力は、そんな地球をも巻き添えにして、地球軍艦隊に対する戦略攻撃を実行する心算なのだ。 「止せ・・・」 際限なく上昇し続ける、外部検出魔力値。 集束される魔力と波動粒子は更にその密度を増し、今や映像の殆どが紫光によって埋め尽くされている。 艦のシステムを介さずとも、直接にリンカーコアを圧迫される感覚。 心臓を握り潰されるかの様なそれに息を詰まらせながらも、クロノは病的とも云える様相で呟き続ける。 「御願いだ・・・!」 殺される。 殺されてしまう。 妻の、母の、義妹の、娘の、息子の、自身の。 友人が、知人が、その家族が、その周囲の人々が。 海沿いの都市、爽やかな潮風が吹き抜ける、あの美しい町に暮らす、優しく温かな人々が。 理不尽に、一方的に、不条理に。 無慈悲な、魔力素と波動粒子の奔流によって。 「止めてくれッ!」 存在した証ごと、殺されてしまう。 「止せぇッ!」 爆発。 強烈な光が、ドーム内を完全に埋め尽くす。 衝撃に弾かれる身体、轟音に破壊される聴覚。 肉体を襲う衝撃、精神を襲う絶望、そしてリンカーコアを襲う強大な負荷。 知らず放たれた懇願の絶叫は何処へと届く事もなく、無情な轟音に呑まれ掻き消えた。 誰に対するとも知れぬ怨嗟と憤怒により加速する思考は、しかし直後に襲い掛かった更なる衝撃によって粉砕される。 クロノの身体は周囲の構造物へと幾度も打ち付けられ、漸く静止した頃には全身が血塗れとなっていた。 艦内重力発生機構が停止したのか、奇妙な浮遊感。 同時、奇跡的に機能を維持していたらしきシステムを介し、新たな情報が齎される。 隔離空間内部、バイド係数増大。 本局艦艇変異体、形状変化および移動開始を確認。 大質量物体複数、転移確認。 転移物体規模、計測不能。 クロノは、行動を起こさない。 否、起こせない。 彼は、既に理解していた。 理解せざるを得なかった。 仰向けのまま宙を漂い、咳込み、吐血し、擦れた呼吸を繰り返すクロノ。 戦局は、変化するものと考えていた。 魔導兵器群の強化、リンカーコアの強化。 大規模戦力の増援、新たな協調体制の形成、圧倒的な攻勢の実現。 バイドも、地球軍も、戦略の変更を余儀なくされるものと考えていたのだ。 現実には、何も変わらなかった。 管理局艦隊を含む混成勢力が如何に強大になろうとも、バイドと地球軍はそれまでと同様の戦略を堅持し続けたのだ。 即ち、圧倒的な物量による殲滅戦、他を超越する各種性能を有した兵器群による独自継戦。 それだけならば、まだ対処の仕様は在っただろう。 だが、バイドは新型複合武装体群および独自開発したらしきR戦闘機群を投入し、地球軍の継戦能力は衰える兆候すら見せはしない。 挙句、新たな不明勢力までもが出現し、地球軍とバイド双方への攻撃を開始する始末だ。 何も、変えられなかった。 光の壁を形成する光学兵器も、射程が向上した通常魔導砲も、機銃の如く連射される電磁投射砲も、出力が増大した戦略魔導砲も、嵐の如く放たれ続ける核弾頭も。 何1つ、変えられはしなかった。 管理局は、混成艦隊は。 未だに状況へと対応しているに過ぎず、自らが戦場の中心とは成り得ていない。 自らの世界が脅威に曝され、それに抗うべく戦いを選択したにも拘らず。 「・・・ふざけてる」 クロノ達は、傍観者に過ぎなかった。 「畜生・・・ッ!」 意識が、闇に呑まれてゆく。 安息を齎すそれではなく、無慈悲なまでに無機質な闇。 コールタールの如く絡み付く絶望の中、クロノは自身の中で決定的な何かが変化した事を自覚する。 決して譲れない筈であった、自己の中心を成す何か。 完全に意識が失われるまでの僅かな間、崩れ去ったそれが全く別のものへと再構築されてゆく事を、クロノは不思議と醒めた感覚で以って捉えていた。