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AASCの更新 hIEの行動プログラムを作るためのミドルウェアであるAASCは、定期的に更新を行っています。 hIEを使用してゆくうえで判明した問題点や、社会や技術の新しいさまざまな状況に対応してhIEを安全に動かし続けるには、修正が必須であるためです。人間社会の中で仕事を果たすために、人間自身は個々人で絶え間なく学習や変化をしてゆきます。hIEの場合は、ミドルウェアであるAASCを更新することで世界中の全機がいっせいに変化を果たすのです。 AASCの更新プログラムを作っているのは超高度AI《ヒギンズ》です。 《ヒギンズ》は、センサーの塊であるhIEから取得したデータをもとに、このプログラムを作成しています。 そして、各オーナーがAASCに関する重大な契約違反をしていた場合、《ヒギンズ》はAASC更新のタイミングでこれを察知します。そして、この違反がライセンス停止にあたると判断した場合、契約者の契約するすべてのAASC更新を停止します。それと同時に、全機体にAASC1(故障機)を割り振ります。 このAASC更新停止措置を行って裁判になったとき証拠として必要になるため、hIEが記録したデータログは《ヒギンズ》の元で加工されて残ります。 この取得データおよび加工は、ユーザーとの契約により外に出さないことになっています。 ただし、このログは、国際機関などから所定手続きで要請があった場合、保存データを提出する決まりになっています。(参照「クローンAASC-AASCの地域性との共存の取り組み」) また、犯罪捜査のときにも、所定の手続きにのとって警察や認可機関によって証拠として求められます。この場合も、ミームフレーム社はログ提出を拒みません。 《ヒギンズ》が作成したAASCの更新プログラムが、ユーザーに適応される手順は決まっています。 まず「ミームフレーム社東京研究所」「ミームフレーム社アメリカデータセンター」「ミームフレーム社ヨーロッパデータセンター」「ミームフレーム社アフリカデータセンター」といった各研究拠点に送られます。 そして、その後、各拠点が世界中のクラウドサービスに更新を反映し、そこを通して各hIEに更新が適応されます。 各研究拠点は、それぞれの地域のデータの収集を行い、このデータを分析して各種のレポートを作成します。 レポート作成が必要になるのは、AASCの更新主体である《ヒギンズ》は、更新プログラムを作るだけで「何のために」「なぜ」更新したかというレポートを作成しないためです。これは、《ヒギンズ》が人間の行動の意味判断に関わらないようにしているためです。 行動の意味を判断して「人間の言語で記述する」ことには、どうしても政治性がつきまといます。このため、《ヒギンズ》は社会からの反発を避けるため、この作業を避けるのです。政治的にリスクを抱えるこの更新レポート作成は、政治的に誤ることを許容されている人間の研究者が行います。 ミームフレーム社は、さまざまなデータを公開しています。ですが、このデータは《ヒギンズ》が編集した生データを、各研究所で公開のために再整理したものです。 ユーザーは普段意識していませんが、AASC更新は常にレッドボックスのまま《ヒギンズ》にプログラム更新され、これを部分的に解析して研究所が更新レポートを出すという手順で行われています。 また、研究拠点を集中せずにばらしているのは、各研究拠点が災害や戦争などに巻き込まれ、更新プログラムの送信が不通になる可能性を重く見ているためもあります。これは、ミームフレーム社が《ハザード》を経験した日本の企業であることが大きく関わっています。 hIEの標準機能 hIEは、ユーザーにとっての「外界(外界でするべき仕事)との接続点(インタフェース)」であることを企図しているため、非常に汎用性が高いツールです。 人間がそばにいる人間に頼むような仕事の他に、さまざまな機械的な仕事を標準機能として行います。 とはいえ、「さまざま」でも分かりにくいところですので、具体例を以下に記述します。 携帯端末とのデータ仲介 hIEには、文字メッセージにしたい言葉を口述すると、文書データにして個人用端末に転送してくれる機能が標準でついています。 これは家庭内に耳が不自由な人がいる場合などの、介助機能の延長にあります。なので、点字や手話変換にも対応しています。 文字メッセージ変換では、ユーザーが口述し終わると、文面がこれでいいかhIEが尋ねてきます。 これによって、手と目を筆記や打鍵に使わなくても、ユーザーは「ながら」仕事で文字コミュニケーションを取ることができます。 これは文字データではなく、紙などにアナログの手書き文書を書かせることも可能です。 文字メッセージ補助機能として、時候の挨拶などのメールも、ユーザーが文面の意図を話すだけで勝手に作ってくれます。一般家庭で必要な程度の文章作成は標準搭載の機能範囲でやってくれます。 ビジネス用のクラウドと契約すれば、それこそ文意を斟酌して、ビジネス的な挨拶文の定形や敬語表現も完全に整えてくれます。挨拶状なども完全に手配してくれます。 ユーザーは、それを最後にチェックして送ればよいようになります。 標準のままでもある程度個人秘書として働いてくれるということですが、秘書クラウドを入れるとスケジュール管理なども完璧にこなしくてくれるようになります。 hIEを使って、携帯端末を使った通話を仲介することができます。 hIEと携帯端末とをリンク登録しておけば、携帯の端末に向かってしゃべるようにhIEに向かって話しかけることで、端末を落としたり忘れたりしても通話ができます。 デジタルデータをスピーカーから出力するだけなので、相手側の声がそのまま聞こえます。好みの声に変換することも可能です。 通話相手が外国語話者の場合、このとき同時翻訳してもらうことも可能です。速度や信頼性は、hIEの機能ではなく、登録しているクラウドサービスの能力次第です。これ自体は携帯端末も専門のクラウドサービスに登録していれば行ってくれる機能です。 手話を、手話のわからない相手に音声言語に変換して伝えるような、上述の「データ仲介」機能と連動を行うこともできます。 ビデオ通話のかわりに、相手側の仕草を真似て演じるhIEを相手に、会話するように通話することもできます。相手のかわりに、hIEに通話相手を代替してスキンシップをとってもらうことも可能です。 家内の家電を集中制御する母艦として使用できます。 22世紀初頭の家屋には、ユーザーが「風呂を焚いて」「掃除して」「掃除して」などと簡単な命令をすると自動的に適切な家電を働かせてくれる機能がよく備え付けられています。 これを家内エージェントというのですが、hIEは標準でこの家電と連動して家内エージェントとして働く機能を持っています。 これは、hIEが、家電機能だけでは間に合わない仕事を、実際に機体を動かして果たす機械であるためです。(※) たとえば「洗濯終わったらタンスに入れておいて」という命令をユーザーがした場合、hIEは家内エージェントとして洗濯機と乾燥機を動かします。そしてその後、hIEの機体を動かして、人間がするように乾燥機から洗い物を出して畳んでタンスに入れます。 ユーザーからの単純な命令を果たすために、こうした連動が必要になります。そして、この連動は、そもそも家内の各種道具と連動する機能がなければ達成不可能なのです。 (※)AASC更新が頻繁に行われるのは、この家内エージェント機能のために、新製品に対応しなければならないからでもあります。 機体によっては、家内でなくしものをしたとき、この家内エージェントの機能を利用して、自動で探しておいてくれます。こうした小さな機能は日本メーカーが得意としていて、余計な機能がてんこもりになったhIEが小さな気づかいに見える仕事をしてくれています。 hIEと人間の見分けかた hIEは、人間と同じかたちをしていますが、慣れた者であれば人間と見分けることは可能です。 一番わかりやすいのは、AR(拡張現実)機能のついたカメラなどを通して機体を見ることです。 hIEの識別機能をオンにすると、AR表示で型番などのデータが表示されます。携帯端末のカメラなどを通すとhIEにはマークがついて見えます。 そして、22世紀初頭の都市では、hIEの目をふくめてあらゆる場所に画像データを撮影しているカメラがあるので、目の前の人間型のものが人かhIEかを知るのは簡単です。 慣れた者は、目に生気があるかないかで見分ける場合もあります。目に生気がないものは、メンテナンス不良や行動管理クラウドの選択の結果そうなっていることがあるためです。(※) AASCで書かれたhIE行動プログラムは、hIEに生気のない言行をとらせるようにはなっていません。機体やカスタムクラウドで特別な理由がない限り人間そっくりに見えるはずなのですが、hIEのカメラ(視覚器)位置は眼球だけではないので、目の動きが人間のそれと一致しないことがあります。 また、目がメンテナンス不良であることは、頓着しないユーザーの機体ではわりとあります。 (※)生気のない目をさせるのが趣味な人がカスタムクラウドでそうさせることも可能です。 hIEをよく見る職業の者などは、「歩く」ような基本動作からある程度見分けることもできます。これは、AASC標準の動きが整いすぎているためです。 AASCは標準の状態では汎用品であるため、各hIEの骨格に合わせて特徴的な歩き方を個別にさせられるわけではありません。なので、hIEの外見だけではなく、動きを丹念に観察するとだんだん「普通の人間とは違う」ことが感じられてきます。 歩き方や立ち方に人生や生活を感じさせることは、よほど凝ったカスタムクラウドに接続しているのでない限り不可能なのです。 逆に、高級品はそういうところまで完璧にやり遂げます。高級品は骨格や容姿、あるいはユーザーからオーダーしたキャラクター性に合わせた仕草の集合であるカスタムクラウドとセットで納品されます。 なので、動きを注意深く観察しても、かなり自然に見えます。 これは、どこまでやるかで価格が大きく変動する、趣味から芸術の域に突入する世界でもあります。 「突き抜けた高級品」は、見ているとそう察することができるように作られていることがよくあります。これは、仕草のひとつひとつの選択が、最高級メーカーのプライドをアピールする要素であることの表れでもあります。 hIEのジャンクとカスタム文化 hIEにおいても、パーツをばら売りしたり部分的に交換したりするジャンクやカスタムの文化は存在します。 hIE機体検定証の取得(参照「hIEに関連する規則-法律的なhIEの取扱-所持登録」)も必要であるため、hIEのジャンクやカスタム品取り扱いは、自動車のイメージで考えていただけるとよいと思います。つまり、多くのユーザーはカスタムを取り扱いません。 車で言うと、インテリア(hIEでいうところの初期の髪色の変化くらい)までなら変更するユーザーはわりといるのですが、シャーシやエンジンに手を加える(hIEでいうと骨格や人工筋肉など)ユーザは限られるのと同じようなイメージです。 hIEのカスタムは、まさに人生を吸い尽くされかねない、泥沼のような趣味人の世界です。 たとえばカスタムhIEで、カタログスペックでAASC2(子供並み)の機体を、AASC4(アスリート並み)までチューンして、見た目とギャップのある能力にしている愛好家は、探せばいます。(※) 外見と性能を一致させないのは、よくあるカスタムパターンです。AASC5(専門職用hIE)が取得できるところまでチューンすることは、ほとんどありません。高額になりすぎるためです。 (※)外見を裏切るパワフルな幼女や少年型のhIEは、常に一定の趣味人需要があります。趣味人の間ならば、見ると「ああなるほど」と100%近く判別できるようなアーキタイプは少なくとも数十種類存在します。 hIEのカスタムは、免許なく普通のユーザーが取り扱いできる組み込みが簡単なもの以外は、専用の整備工場やカスタム工房に出します。整備工場はhIEの普及に伴って増えています。 hIEも、ユーザーが整備を持ち、適切な整備施設を使えれば、ユーザー整備や大きなユーザーカスタムを行うことも可能です。 ただし、整備免許、整備施設ともにハードルが高いため、趣味を盛り込んだユーザーカスタム機で機体検定を通させるのはとても大変です。(※) このため、趣味を満載したユーザーカスタム機は、マニア間でも一目置かれる、好事家の夢でもあります。 趣味の世界としてのチューニング屋やカスタム文化もありますが、人生を左右するものだと覚悟がいるほど金銭的ハードルは高いです。 (※)検定不通過となった機体は、再検定に通過するまで公共の場に出すことができません。整備免許があると自分で整備施設で微調整すれば済むのですが、そうでもない限り、カスタム店に出し直して再調整を通るまで続ける財布に厳しい苦行か、趣味調整をあきらめるかの二択になります。このため、あきらめて自宅敷地内だけでクローンAASC制御で趣味のカスタム機を使用するユーザーもいます。 性的サービス機能のあるhIEの取扱(この項目のみR-15くらいに考えてください。不快に思われるかたは、読み飛ばしたほうがよいかもしれません。) 性的サービス機能のあるhIEは、18歳未満への販売が禁じられています。 また、オーナーが18歳未満の人間にこれを使用することも法的に禁じられています。これはhIEのセンサーと記録媒体の情報が証拠として提出され、証拠隠滅のため機体が破壊されていた場合はミームフレーム社に問い合わせてAASC更新基礎データまで遡行して証拠が集められます。 性的サービス機能の未成年への使用禁止には、hIEのインフラとしての信用を守るという社会公益があり、厳しい判決が出ることが普通です。場合によってはhIEを道具にした強姦罪がオーナーに適用されるという、非常に重い判決が出ます。(※) (※)このhIEを使用した性犯罪に対する罰は、社会公益におけるhIEの位置付けがその重さに強く関係しています。hIE自体の社会的立ち位置が弱いイスラーム圏では、オーナーが極刑を受けることもあります。ゆるいのはAASC更新データを第三者が参照できないことが決められている中国で(参照「クローンAASC-NOTE「上海疑惑」」)、裁判をコントロールできていれば微罪で済みます。 性的サービス機能の有無はhIEに表示機能があります。これは、プライバシーのため非表示にできるのですが、警察や認定機関に対しては非表示にすることができません。チェック用のコードを読み取ることで、簡単に判別できます。 警察も欺瞞できる偽装コードも売られてはいます。ですが、これ自体がそこそこ高額で、しかもこれの使用は刑法犯罪です。なので、中高生が使うようなものではありません。 中学高校や塾の教員のような、18歳未満の人間が集まる場所で扱われるhIEには、性的サービス機能がないものを用いるのが普通です。代理労働契約(参照「hIEに関連する規則-代理労働許可免許」)で雇い入れる場合にも、セックス機能のあるアンドロイドは、これを取り外さないと採用できないことが普通です。(※) これは、学校で用いられていた性的サービス機能があるhIEを、学生が勝手に使用した事件が発生したためです。hIEは人間を傷つけないように行動するため、押さえつけられて抵抗しきれないケースがよくあるのです。 (※)アンドロイドに人権を認めるべきだという人々は、この問題は人間側の節度で対処すべきであり、取り外し措置をhIEに強いるのは人権侵害だと抗議しています。ただし、措置が見直される気配は現状ありません。 代理労働契約で仕事をしている最中にhIEが乱暴されるというケースは、しばしば起こっています。 ただし、hIEは監視機器とメモリーの集積体であるため、この事実をオーナーが知ることは容易です。 代理労働契約では、業務外のことにhIEを使った場合は賠償を支払うことが記載されているのが普通です。このため、乱暴されたhIEのオーナーは、この賠償を求めることができます。ただし、hIEに対するこうした行為は、hIEが物品であると扱われるため、人間に対してそうした場合のように刑法犯にはなりません。 民事裁判では、「ユーザーがhIEによってアナログハックされていて特別の感情を向けている」ことを証明できれば、犯人に対してユーザーの心理的打撃に対する慰謝料を請求することができます。この慰謝料は最大で機体金額です。このため高級機への性的被害では非常に高くなる傾向があり、賠償額と慰謝料合わせて2000万円以上をユーザーに支払う判決が出た例もあります。 hIEに対する暴行は、民事裁判としては重い判断が出がちです。これは、刑法犯にならないとはいえ、「人間型のモノ」に対する蛮行であるためです。犯人は、抑止する力が働かなければ人間に対しても同じようにすると考えられていて、たいていの国で犯人は警察の要注意リストに載ります。 民事裁判の判決が強めに出るのも、警告的意味合いが強く、判決時に犯人は警告を受けます。 ただ、オーナー側からするとこうした被害はないにこしたことがないため、ハードウェア上で性的サービス機能をロックできる機体が存在します。 これはオーナー体験を重視する高級機で出始めた機能で、オーナー以外に対して性器を使用可能な状態にしないことで被害を防ぎます。 ただ、こうした機能は、性的サービス機能を「おまけ」ではなく主機能としてきちんと織り込んだ設計の機体のものです。(※)オプションでつけるかカスタムするかしない限り、一般普及している家庭用の機体にはついていません。 (※)高級機なら必ず標準でついているという機能ではなく、標準でついていてもオーナーが取り外してしまうケースもあります。
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個人認証タグ 22世紀初頭の社会では、日本ではあらゆる市民が個人認証タグを持っています。 これは、もっとも一般的に使われる身分証です。そして、同時に個々人のライフログをとる記録媒体でもあります。 行政サービスは、この個人認証タグを政府の高度AIが管理することで高速化しています。つまり、個人認証タグのデータから、「国民個々人がどのような行政サービスを必要としているか」を人工知能の計算で予測できているため、国民一人一人に適切なケアを行うことができます。 また、21世紀初頭には書類で管理していたデータをすべて電子化しており、個人認証タグと連動した端末からなら、24時間いつでもネットワーク越しに行政サービスを受けることができます。 行政手続きそのものが自動化されていて、人の手を最低限度しか介していないため、国民が行政サービスを受けるために役所へ行くことはほとんどありません。(※) 手書きの書類を作ることもできますが、役所側も窓口ですぐに読み取り機にかけて電子データ化してしまいます。 高速かつどこからでも行政手続きを行えることは、22世紀の行政の大きな進歩です。 (※)個人認証タグでは片付かない問題、主に企業のような法人関係の行政手続きには、役所の窓口でなければ行えないものがあります。 個人認証タグは、21世紀半ば頃までは、行政処理の簡便化のため身分証明書を含む各種の個人データを集約した個人認証カードでした。 これが携帯端末に連動したり、腕輪やボタンなど様々なかたちをとる個人認証タグになったのは、超高度AI《ありあけ》による施策です。 《ありあけ》は、個人認証タグの暗号を開発し、ライフログを安全に記録するシステムを作り上げました。このシステムは、《ありあけ》がハザードによって破壊され、超高度AI《たかちほ》に代替わりした後も、保守と発展を続けています。 個人認証タグとライフログ 個人認証タグは、センサーによって所持者のライフログをとって保存しています。 これによって、大きい経済と個人にターゲットした経済がシームレスに繋がっています。 国民は、この個人認証タグに保管された個人データおよびライフログを、必要に応じて公開することができます。 この公開設定には、行政府のみに公開、家族にのみ公開といった区分を、あらゆる項目について選ぶことができます。 こうしたデータを行政府に公開したり、商業利用を許可することによって、個人にターゲットの向いた行政サービスや、経済的サービスを受けることが出来ます。 個人認証タグによる、個人にターゲットの向いた経済は、22世紀初頭社会の大きな特徴でもあります。 個人認証タグを持つ国民の行動のログは、行政手続きを行ったとき、民事の契約を行うときなど、さまざまな場合に自動で記録されます。公的文書を書くときや捺印をするときは、ログが連動して残ります。 これによって、契約時のトラブルを防ぐようになっています。 個人認証タグから記録されたライフログは、21世紀でいうビッグデータとしてクラウドに蓄えられています。 商業利用を許可した場合は、この情報の鉱山が各種業者によってリアルタイムで発掘されることになります。 人間が経済活動の主体であることは変わらないため、人間の行動と意志選択は常に価値を持ちます。この情報をさまざまなかたちで商品に変えることが行われており、この情報を運営して金銭化する権利が個々人にあると考えられているのです。 このため、国民は、この個人情報をオープンにすることによって、金銭を得ることができます。(※) 個人情報には値段の差があり、最低限度以上の収入がある者なら生活の支えになる程度、高額の収入がある者ならそれだけで生きて行けるくらい、プライベートを金銭化することで手に入れることができます。 プライベート情報は、オープンにするかを選べる資産だと見なされているのです。 (※)ただし、個人情報をオープンにすると、さまざまなかたちで経済的、政治的に、情報や宣伝をターゲットして送り込まれることになります。見ているテレビやウェブメディアのCM、街頭広告など、自分に合っていると思われるものが常に映し出されることになります。こうした情報を捨てて自分に合ったものを意志的に探すことも可能ですが、多くの人間は根負けして広告商品を買います。 22世紀の社会は、監視を自然に受け入れている社会です。 この監視という情報共有を土台にして、どこまで情報をオープンにするかは個々人のポリシーにまかされています。この選択は新しい人権であると考えられています。 たとえば個人認証タグには、タグを持つ者の場所をリアルタイムに知らせる位置検索機能があります。けれど、警察は、本人が検索機能を公開設定にしていない場合、犯罪に関わっている疑いがある国民のタグであっても、この情報を参照することができません。これによって、犯罪が立証可能だとしても許されていせん。 少なくともそのデータが裁判で、公判資料として認められることはありません。 これは個人認証タグのシステム自体の信頼を守るためで、プライバシーを公開設定にしていない限り、これを参照されて不利益を被ることはありません。これは人権であると考えられているため、非公開設定の個人のデータへの公開要求が検察から出ようが、公式に通ることはまずありません。 個人認証タグは、電子マネーの管理端末としても働きます。これは、現金以外の決済手段で売買を行う場合は個人認証タグがライフログをとるためで、電子マネーの運営企業が業務乗り入れしています。 そのほかにも、個人認証タグの連動サービスには、多数の民業の乗り入れがあります。 登録しているクラウド次第では、音声情報から自動的にスケジュールや約束ごとを登録してくれたりもするため、日常的に個人認証タグの表示領域を確認する人間は少なくありません。 個人認証タグを、外付けの第二の記憶領域として活用している人々も数多くいます。 こうした民業の乗り入れは、市民生活でも、情報をクラウドに登録しているほうが圧倒的に利便性が高いため、一般的に受け入れられています。 また、ライフログは、宣伝などを受ける受動的なものだけでなく、個々人が生活をコントロールする能動的な使い方もされています。 自分の行動パターンを分析することもできるため、節約や生活習慣の改善に役立てる人も数多くいます。 宇宙利用と人工知能の影響 22世紀現在、二つの要因が21世紀と比較したときの大きな違いがあります。 人工知能の発達によって、民主主義が管理されていること。 そして、宇宙を地球が押さえ込んでいることです。 人工知能の発達は、民主主義の根底にある人間への信頼を大きく損ないました。 政治的な枷を外せば、能力的には人間でなければできない、あるいは模倣もできない知的活動が存在しないためです。 政治に対するアイデアは、人間よりも人工知能のほうが先に考えついています。それを社会に導入する方策も、政策AIが導出してくれます。 このため、もはや自然発生した政治運動やうねりですら、AIによる誘導ではない保証を得ることができないのです。 政策AIは行政府によって管理されています。政策AIは政党ではなく、行政府が持つことが普通なのです。これは、政党が政策AIを持っても、どのみち利害の綱引きで立案された政策をゆがめるためであり、政党による利用ではAIの性能を十分に発揮できないとされています。 行政が強い国では、行政府のAIが政策を立てるため、民主的手続きによって政権が交代しても、社会が大きく変わることはあまりありません。 これは政策AIが補助している高度化した政治戦略に、人間の思いつきで軌道修正をすると、大きく国益を損なう可能性があるためです。 このことは、官僚が政策に大きく関わる日本では比較的違和感なく受け入れられています。けれど、それを懸念する声も数多くあります。特に日本では、かつて超高度AI《ありあけ》がハザードを引き起こした記憶が強く残っているためです。 人間が政策を立てることが重要なのだという政治家達の声は、広く理解を得てもいます。 政策AIがあることによって、かえって政治はAI時代以前から大きな変化をしていないのだとも言われ、そういうデータも出ているためです。 人間の多くが望むことは現状維持、あるいは現況で考えられている社会幸福を得ることです。 これを民主主義的に反映した結果、AIによる政治施策は、現状を破綻しないよう維持することに力を振り向けられているのです。 21世紀を通して、基本的人権は、地表の全地域を「それを受け入れる地域」と、「受け入れないことを政治的に選択した地域」とに塗り分けました。 けれど、民主主義は基本的人権の次にくるビジョンを生み出すことができていません。つまり、政策AIがすることは、この塗り分けを守り、自然に現れる塗りむらへ対処することに偏重するのです。 そして、地球の政治はこのようなゆるいペースで前進しつつ、22世紀初頭現在、宇宙開発によって得た利益を地球の国家に吸い上げています。 政策AIによっておおむね保守的な施策をとる地球の国家は、数的に劣勢かつ契約上搾取される理由がある宇宙居住者につけを押しつけているのです。 けれど、宇宙居住者たちにとっては、現在の社会は不合理なかたちをしています。 宇宙では、距離的制約によって、物流にコストと時間がかかり、かつ最重要インフラのひとつである通信にも大きな不便があります。だからこそ、距離的制約が大きいなら、本来なら意志決定は地球ではなく宇宙の現地で行われるべきだと考えているのです。 戦争が経済の延長であるなら、すでに宇宙と地球は臨戦状態であるという者もいます。 宇宙、特に近軌道圏コロニー以外の居住者にとって、軌道エレベーターやステーションは、破壊すれば自由に近づく脆い標的に見えています。 実際、軌道エレベーターの存在する赤道地域は、いまだ終戦ではなく休戦している状態だという歴史学者もおり、この地域をも巻き込んだ大戦争になる可能性を抱えています。 地方分権 22世紀初頭の世界では、地方分権が強くなっています。 これは純粋に、AIの補助によって、地方社会を維持するだけの労働力が地方でも得られるためです。 AIによる労働力の補助は、地方の有力者の意向がなくても地方社会が回る状況を生み出しました。このため、むしろ汚職の発生率は、21世紀初頭に比べて下がっています。 22世紀初頭においては、中央官僚と結びつくかどうかは、地方社会の選択に委ねられます。中央官僚のマンパワーがなくても、AI補助によって仕事が一応は回るためです。 複雑な制度を作っても、AI補助によって情報を整理し続けることができるため、地方社会がそれぞれ特徴的な社会を選択することはよくあります。特に観光を資源にしている地域では、特色のある制度が存在します。 これは国の許可さえとれれば税制に踏み込むことも可能で、経済特区を地方自治体が設定することも可能です。 PMCの出動を認可する権限を自治体の首長が持っているのも、ひとつの地方分権のかたちです。(参照「軍事-日本型PMC-日本型PMCの出動」) ただし、左前になってしまった地方社会が、立て直しのために計算上リソースが足りない場合もあります。あるいは、大きな投資やリソースの必要なプロジェクトは、地方社会だけでは手に負えない場合があります。 こうしたとき、民間に委託して行政府を小さくする選択肢もありますが、22世紀日本では中央に助けを借りることが一般的です。これは、企業AIが利益を地域社会から吸い上げるケースがままあるためです。 政府内で高度AIの計算力が振り向けられているセクションは、日本の場合は、国家を維持するための仕事と、内閣の定めた特定のプロジェクトです。 日本だけでなく、たいていの国では、高度AIは特定のプロジェクトに集中投入するかたちで使われています。 これは、高度AIは、特定領域あるいは使用報告を出せる使用形態で取り扱う決まりになっているためです。IAIA条約批准国では、高度AIの使用状況は国民に公開されています。 この特定プロジェクトへの集中投入が標準であるため、「AIが縦割り行政を生む」という、転倒した状況が発生しています。 この縦割りに巻き込まれることを嫌う自治体も、やはり多いのです。 オキナワ独立運動 22世紀初頭の日本で、国内問題としてもっとも大きなものは、おそらく沖縄独立運動です。 元々、歴史的に微妙なものを抱える沖縄は、22世紀になっても米軍基地が残ったままで、これを排除したい中国からの浸透を100年以上も受け続けています。 沖縄独立が深刻な問題になったのは、東太平洋がまさに火薬庫の様相を呈した2040年代から、沖縄が直接的な軍事的脅威にさらされることになったためです。 2043年、中国人民軍が台湾に上陸した際には、日本と米軍の拠点として沖縄はミサイル攻撃を受けています。これによる市民の犠牲も出ており、けれどこの攻撃に対して日本政府は中国から賠償や謝罪をとることができませんでした。 この時期からは、沖縄に対して中国から運動家が多数来訪し、米軍や日本軍に対するデモに参加するようになっています。 以来、沖縄独立派に対して、中国は継続的に支援を続けています。この支援は民間にも浸透し、日本軍、米軍ともに中国側スパイからの工作に神経を尖らせています。2040年代からの沖縄は、日本と中国、米国のスパイが入り乱れ、これに東太平洋の利権にからむ各国のスパイが絡む、諜報激戦区になっています。 毎年不審死や行方不明者が数十名出る状況に、沖縄住民は苛立ちを募らせています。 中国に近しい住民は、沖縄の独立によってこの状況は緩和されると主張しますが、大多数の住民には相手にされていません。 21世紀中葉に、香港が、基軸通貨を得た中国に完全に呑み込まれているところを見ているためです。 22世紀初頭になっても、沖縄はいまだ基地の島です。 ただ、2055年に自衛隊が日本軍として再編されたのを機に、日米地位協定は改善されています。これによって、米兵の犯罪に対して日本側が先に身柄を拘束した場合は日本の法律手続きでこれを裁判し、外国人犯罪者として日本の刑務所に服役させることができるようになっています。 ただし、これも犯罪を行った米兵が基地に出頭するという抜け道があり、沖縄住民は不満を抱えています。 22世紀における沖縄のアメリカ軍基地は、21世紀に比べると立場が微妙になっています。 日本軍や東南アジア諸国の軍事力が底上げされていることと、東太平洋タワー周辺の緊張にアメリカが関与する必要性が下がっているためです。 アメリカは西太平洋に軌道エレベーターを確保しており、東太平洋タワーの動勢に無理をして関わる必要はないという議論が、産業界を中心に定期的に大きくなります。 沖縄のアメリカ軍基地を撤収させるかどうかは、日本のみならず米軍にとっても大きな選択であるとされています。 東太平洋への影響力を守るか、それを諦めるかの、ポイント・オブ・ノーリターンであると考えられています。 移民社会 22世紀初頭の日本では、移民が一般化しています。 移民の多くは中国や東南アジアからの住民で、単純労働の従事者も多いですが、経済的に成功した人々も多数います。 全体としては、人数的には中国系が最大なのですが、移民問題として考えるときこの時代の日本人が考えるのは中国系移民のことではありません。 22世紀日本人にとって移民問題といえば、最大のものはイスラーム教徒と非イスラーム教徒との軋轢だからです。 日本におけるイスラーム教徒の割合は3%以上にまで上昇しており、その半数以上が移民です。 これは、資本の時代だった21世紀を通じて、イスラームが世界に伸張したためです。 社会が貧困層と富裕層に分断してゆく中で、貧困層がイスラームに傾く現象は、21世紀の大きな傾向でした。 これは日本だけの傾向ではなく、資本家や産業界の間接的な意向でエリートと下層に国民を分断した国では、たいていイスラームが伸張しています。学力の平均値が大きく下落した社会で、先行きが見えない人々に最も積極的に手を差し伸べたのはイスラームだったためです。どの国でも、ネットワーク上で、イスラームの強いメッセージが人間を煽っているところはよく見られるのです。 日本の場合も、自動化によって社会に居場所を失ったと考える人々を、もっとも積極的に掬い上げたのはイスラームでした。 軌道エレベーターの建設や宇宙移民がなければ、日本におけるイスラーム教徒の割合は10%に届いたのではないかという予測もあります。 インドネシアから北進するイスラム教は、21世紀中盤からの大きな政治トピックでもありました。 これは東太平洋タワーがインドネシアに存在することから、常に微妙な問題を東太平洋沿岸の国々に投げかけ続けました。日本でも、移民の富裕層の割合をとれば中国系とイスラーム系住民が一二を争っています。 それでも、比率としては、移民や移民系住民の割合は全国民の10%を切っています。 日本では、移民よりも自動化によって労働力を補う方向に比重を置いているためです。 日本国内の移民は、日本社会の中にそれぞれコロニーを形成しています。 これはおおむね、都市部のコロニーと、過疎地のコロニーに分けられます。 過疎地コロニーは、放っておけば自治体が合併するよりなかった住民の少ない地域に移民が集まったものです。 過疎地住民として、当初は戸惑いを受けながらも歓迎されていました。 ただし、移民は、母国で暮らしているときにはないモラル低下を移民先で起こすことがしばしばありました。母国では社会的抑圧を受けながら、社会と共存していた人々が、移民先でゴミの投棄や公共物の破損などの問題を起こすことがあったのです。これは経済的な困窮に強い不満を抱える移民二世以降にしばしば起こり、大きなトラブルとなりました。 こうした摩擦は、空き地でたき火をしたり、大音量で音楽を流して酒を呑むといった、日本社会では倫理に合わないことで発生しました。(※) 過疎地域移民と、元の住民との間のトラブルは、ときには暴力事件や殺人事件にも発展し、社会問題にもなりました。 それによって、あえて自治体解消や合併を選んだ自治体もいくつも存在します。 (※)イスラーム系移民は飲酒せず、おおむね礼儀正しく生活するため、地域に歓迎されるケースが多くありました。ただ、中国やインドネシアなどでテロ活動をする身内を匿うこともよくありました。そのため、いくつもの事件や悲劇も起こっています。 こうした過疎地の移民コロニーの問題に、地方自治体は移民側に不利な裁定を下し続けました。 これは、地方の権利が強まった時代だったからこその問題でもありました。地方自治体の有力議員は、選挙地盤がトラブルのある過疎地域をかかえているケースが多かったためです。 地方議員や地方の有力者は、その与えられた実行力に比して、国際的な問題への知識や意識が総じて低かったのです。地元の声望ある人物がイスラーム問題や難民問題にくわしいことはあまりなく、たいてい地元の声の大きい人々に流されるか、政府のガイドラインに追随するかしかありませんでした。 そして、保守的な選挙民層の支持を得て、しばしば国際問題になり時代遅れを指摘されることになりました。 そうして、日本社会はゆるやかに移民を受け入れてゆきました。世代が交代して、移民コロニーの選挙民が大きな力を持つようになるまで、数十年の時間がかかりました。 それは、移民問題が社会問題として当たり前に受け入れられるようになったということで、日本社会は21世紀初頭とは確実に変質しています。 [NOTE] 2105年の移民状況の補足 22世紀になっても移民の社会影響は限定的なものです。 これは、移民よりもhIEを使うことを選んだ経営者が多かったという、自動化の影響が大きいと言われます。 この現象は、日本に根強く残る排外性をひとつの理由としています。けれど、もっとも大きいのは、人件費を理由に移民を使う経営者が、移民より更にコストの安い機械化に切り替えたということです。 21世紀前半、日本では、高度な教育や技術のある移民を除いた移民労働者を搾取し、充分なチャンスを与えませんでした。あるいは、移民を受け入れながら、その文化流入を最低限に留めようとしました。その結果、労働市場の中で、移民の立ち位置が弱いままになってしまいました。 このことは、健全な移民社会を作れなかった、移民政策の失敗であると、移民2世や3世の社会からは大きな非難を受けています。 ただ、日本人の低賃金労働者も等しく搾取されたうえに放り出されたという、日本人側の反論もあります。 《抗体ネットワーク》のような運動が一定の支持を受けているのは、こうした状況に対する抵抗運動でもあるためです 21世紀後半から22世紀にかけて、移民状況について問題になっているものとして、個人認証タグがあります。 日本政府は移民に対して個人認証タグを所持し、これを利用することを推奨しています。 けれど、個人認証タグは、類似のものは世界中に存在するのですが、ライフログを自動取得する機能がついているものは世界でもほとんど存在しないのです。(※) (※)プライバシーに対する考え方の違いで、安全のためよりも自由を重視する人々、政府に対する信頼がそもそも低い人々は一定割合以上います。 移民に対して個人認証タグで監視をしているのだと、そうした人々は主張します。 政府に情報を預けることに忌避感を持つ人々は多く、個人認証タグを持たない自由を求めて、日本移民の少なくない割合が不満を募らせています。 [NOTE] 児童と個人認証タグ 個人認証タグは、日本では最低12歳までは児童設定で使われることになっています。 児童設定の個人認証タグに対しては、児童の保護者の個人認証タグが、常に上位権限持っています。 上位権限を持った保護者のタグからは、児童の個人認証タグの情報を閲覧することができます。 また、児童のタグを直接操作することもできます。この上位権限には、個人認証タグの各種機能をロックすることも含まれています。 児童が決められた小遣い額を超過して課金をして、個人認証タグの直接操作で次月の限度額を下げられるケースはどこでもあります。そうしたことを理由に親子げんかもよく起こります。 個人認証タグの児童設定を外すかどうかも、保護者の意志にまかされています。 そのかわり、保護者は、児童設定にした個人認証タグについて責任を問われます。児童設定のタグから行われた課金には、保護者が応じなければなりませんし、児童設定のタグから行われた行為に対して賠償を求められることもあります。 児童に最初に持たせる個人認証タグは、赤ん坊のころからつけていることが普通です。 赤ちゃんの服にひっつけて、迷子になったりしたときに届け出てもらうようにするためです。タグさえつけておけば、誘拐の被害にあっても継時で位置情報を追跡できます。このため、誘拐などに備えて、タグの位置検索機能もオンになっていることはよくあります。
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オープンになる設定部について。 左メニューのこの項目以下が、オープンリソース・プロジェクトでオープンになる設定・世界観になります。 元々プロジェクト管理者が使うための膨大なメモを整理したものなので、ツールとして使うには癖が強いものになっているかもしれません。 見苦しくない程度にはと思いますが、マネタイズを考えていない企画ゆえこの整理に時間を費やしすぎて執筆が滞ると大変なことになります。 更新速度や、文章などの練り込みなどについては、限界があることをご了承ください。 あと、ポリシーでも書きましたように、キャラクターに関する設定はこのサイトには置きません。 もう一つ、サイト記述のデータは最終的に結構な分量になると思うのですが、それでも作品を作るとなると〝抜け〟が見えるはずです。 この〝抜け〟は、おおまかに2パターンあります。 既存作品の重大なネタバレになるから記述していない、あるいは近々使う予定があるからネタ割れ回避のため記述していない。 そもそも作っていない。 この「作っていない」は、プロジェクト管理者の仕事にとっては重要なことです。 経験上、使う予定が当面まったくない場所をガチガチに作り込みすぎると、物語が窮屈になるためです。 この〝抜け〟は、見方を変えれば、将来ここに見せ場を配置できる空き地です。なので、無闇に潰すと後々見せ場を置く余白がなくなって苦労するということもあります。 なので、〝抜け〟があることを承知のうえで、『アナログハック・オープンリソース』のために設定を埋めることはしません。 ご利用の皆様が各々よいように埋めてしまってください。 設定が実作でどういうふうに使われているかの例は、参考リストの作品をどうぞ。 サイトは当面、毎週金曜日夜に、順次更新を行って行きます。 プロジェクト管理者(長谷)の仕事の都合もあるためです。 プロジェクト管理者のtwiterやブログコメントでの要望で、優先更新するところを受け付けます。 「作品執筆のためにここが必要だ」という要素などありましたら、お伝えください。 現在、設定テキストの整理を進めている最中です。 この発掘作業の中で、以前に更新していた項目に入れるべきだったデータが発見されることがあると思われます。 こうしたものについては、アナウンスなど不十分になっても項目追加をするつもりです。 簡単なログは残しますので、気になったらどこが変わったのか探してみてください。 [NOTE]項目はイメージを作りやすくするガイドとしての設定です。 執筆当時のメモ書きを見直す中で、社会や人物を描くためのガイドとして積み上げた文章が多数あったものを抜粋しています。 [NOTE]は、いわゆる「世界設定」としては細かすぎて使いどころは少ないと思われます。 ただ、100年後という遠い世界の人間がどういう場所に生きてどういう判断をしているかを理解する一助になると考えました。 アナログハック・オープンリソースのために、『BEATLESS』の設定ファイルを整理してみたところ、もっとも多かったのはこの種のメモ書きでした。 全量のおそらく50%くらいが「環境とキャラクターをどう描くか」という指針設計のために費やされていました。 『BEATLESS』は100年後のわりには飛躍が少なめの未来世界を描いているのですが、その選択を支えたのが[NOTE]以下のような思考の積み上げでした。 物語の中で使うためではなく、遠い世界のことを自信をもって描くために築いた部分です。 何かのお役に立てばさいわいです。
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2051年 《プロメテウス》の技術的特異点突破。《プロメテウスの試問》公開される。 2052年 《プロメテウス試問》に一年間、人類が解答できなかったことが確認される。2051年7月7日を遡って技術的特異点突破の日と認定。 2053年 No.2《ワシントン》およびNo.3《ノイマン》建造。超高度AIであると認定される。 2054年 第一回オーバーインテリジェンス会議。IAIA憲章制定。 2055年 No.4《金星》建造。IAIA設立。 2063年 第二次関東震災。《ありあけ》による《ハザード》発生。日本軍により《ありあけ》破壊。 《ベスム2066》が人格の完全データ化技術を構築。 2068年 日本で《ありあけ》の後裔にあたる超高度AI。《たかちほ》稼動開始。 2071年 デリー会議により、オーバーマンがAIであるとみなされるようになる。IAIAによる魔女狩り開始。 2083年 ミームフレーム社、No.25《ヒギンズ》のシンギュラリティ突破。 2084年 《ヒギンズ》による最初のAASC誕生。爆発的に標準化が進む。 2085年 IAIAによる最初の《ヒギンズ》への勧告。 アメリカ政府、IAIA勧告をきっかけに超高度AIによるhIE制御言語開発を問題視する発言を繰り返す。このときミームフレームも政治的に立ち回りが必要になり、90年頃までロビイ活動や規格制定会議への参画などが増えました。このときが、後のヒギンズ村の形成期です。 2086年 上海疑惑。 上海、香港、東京などで、IAIAの職員の不審死体が連続して発見される。この上海疑惑以降、《アストライア》はレッドボックスを一部の基幹工作員に貸与するように方向転換しました。諜報戦にレッドボックスが使われるケースが増えたのです。宇宙ではその傾向が特に強くなっています。 2087年 中国の超高度AI《進歩8号》、中国国内hIEへのAASC受け入れを許諾。 《ヒギンズ》、AASCの最も基礎となるコアポリシーを除いた全分野にわたるAASC改変を許諾。改変許諾ポリシーの制定。AASCの拡大を止めることが事実上不可能になる。上海疑惑は、この《進歩8号》と《ヒギンズ》の合意を阻止しようとしたIAIA関係者が暗闘のすえに倒れたものだとされています。この時期、IAIAの工作員は多数ミームフレーム周辺にも入っていました。 2090年 民生用hIE用ミドルウェアの90%シェアをAASCが獲得。 同年、軌道エレベーター完成。本格的な宇宙時代の到来。IAIAはリソースの割り振りを宇宙側にシフトする。 2092年 《ベスム2066》機能停止措置解除される。 2093年 東京で《ハザード》30周年。IAIAが資料を一部公開する。 2095年 マツリ爆破事件。海内リョウ、遠藤アラトが大けが。研究所爆発事故として処理される。 2099年 『天動のシンギュラリティ』 2101年 レイシア級hIEの一号機完成。 2104年 『Hollow Vision』 2105年 『BEATLESS』本編
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資本の優位と、速度の時代 21世紀は、経済成長に対して資本が常に優位でした。 あらゆる労働よりも資本が優位にあり、投資家が社会に対して強力なイニシアチブを発揮し続けました。 資金の動きは、人工知能の補助によって活発になっています。 知的活動を人工知能にアウトソースすることによって、「目配りできる範囲が広がった」「金銭化がスムーズになり形態が多様になった」「経済活動の部分と部分がシームレスに繋がるようになった」ことが、大きな要因です。 高度AIが人間以上の働きを見せ、超高度AIが飛躍をもたらしたことは非常に大きな影響を経済に及ぼしました。ですが、それ以上に、AIの一般化によって、社会と金銭の動きそのものが、タイムラグをほとんど生じないほど滑らかになった高速化・ボーダーの消失が時代の性質を決めました。 22世紀初頭の経済は、もはや人間だけの能力では到底維持が不可能なほど複雑化・高速化しています。 この複雑化・高速化の流れは21世紀を通じて変わらなかった傾向です。そしてこれは、当該世紀における資本の優位を決定づけました。 情報としてやりとり可能な金融資本が、どこにでも入り込み、労働や資源、加工物といったあらゆるものを結びつけたためです。 情報であるため、人工知能の補助を受けやすかったこともまた、特に金融資本の優位を後押ししました。 この速度と回転の速さは、宇宙経済がいまだ地球経済にまったくかなわない理由でもあります。 距離が離れすぎ、インフラが弱い宇宙では、情報が届くのにタイムラグがあり、また情報と連携して労働や資源を動かすインフラもないためです。 貨幣のコントロールに関しては、宇宙経済は絶望的です。 これは、地球側の国家の経済力が圧倒的であることと、宇宙側が高度なAIおよび軍事力を持つことを制限されていることに起因します。 コロニーのような宇宙施設は、独自の債券を自治体が発行することで予算の柱のひとつとしています。けれど、その発行は本国政府が承認しなければ行えません。これは、コロニー経済の破綻を防ぐための措置であり、コロニー債券は本国の信用力があって成り立っているためです。 しかも、宇宙施設の債権は、平均70%以上が地球の国家や企業によって所有されています。 22世紀現在、宇宙施設側は政治的経済的に独立を求めています。けれど、この動きは、莫大な債券を棒引きするという要求とワンセットになっていることが多いことに、地球側は不信感を募らせています。 棒引きではなく、コロニーの独自発行債券に既存のコロニー債をすべて転換するというシステムを打ち出したコロニーもあります。ですが、母国との信用力の差でこれも債権者の賛同がまったく得られず頓挫しています。(※)これは、コロニーが現在経済好調でも、最悪小惑星や隕石との衝突ひとつで土台ごと揺らいでしまう、脆弱なインフラの上に立っているという地球人のイメージが大きく関わっています。 そして、宇宙海賊の襲撃など、さまざまな不安要因があるため、この不安は間違いではありません。 (※)経済制度としては中国系コロニー《ニューホンコン》が、選挙手続きの民主化を求めて、2102年、実質的な独立運動を起こしました(『ニューホンコン争乱』)。それに前後して、諜報戦、経済戦を含む広範な衝突や摩擦が起こりました。この騒乱は中国人民解放軍の独自の宇宙戦力が限定されているため、政庁を選挙するところまで達成されました。 ですが、中国政府は共産主義から完全に離れたコミュニティが国内に存在することを許さず、コロニー自体の独立を住民投票で決めるよう迫ります。結果、住民投票が行われて、その住民投票が行われること自体がコロニー債券の暴落に繋がったため投票で独立否決されました。軍事的にはこれ以後、人民解放軍が宇宙軍を増強して宇宙戦力に大きな摩擦を起こしています。 速度で取り残された地域は搾取されるというのが、22世紀初頭に至った人類社会のありようでもあります。 レッドボックスの経済的影響 人類未到産物(レッドボックス)は、人類経済に大きな影響を及ぼしています。 これが人類の科学と工学の研究速度を飛躍的に上げているということもありますが、人類未到産物が、未踏産物であるまま普及していることも大きな要因です。 なぜ人類が理解できていない物品を普及させることが可能かというと、人類未到産物の安全性を他の超高度AIによって予測させることができるためです。人類未到産物の管理制限(参照「人類未到産物(レッドボックス)-日本での管理制限」)は、かならずしも人類のみによって判断されているわけではないのです。 たとえば、2105年現在に一般的に使われている送電システムは、2084年にNo.22《九龍》が開発し、発表した人類未到産物です。 これはさまざまな摩擦や政治的駆け引きを経て、評価を行った12基の超高度AIすべてが安全であるとしたため、レッドボックスのまま世界中に普及しました。 そして、この新しい電力インフラに関わる全システムは、2090年までに解析されています。(参照「食糧・エネルギー」) 人類も、超高度AIにまかせきりではなく、必要性が高いものについてはそれゆえこぞって解析が行われ、その仕組みが掌握されるのです。その人類未到産物にぶら下がるオプションやアレンジ商品の幅が広いほど、大規模な資源の投下が行われ、解析が早まる傾向があります。 22世紀初頭の世界は、レッドボックスが大量に入り込んでいます。これは、商品の絶え間ない開発競争に勝つために、超高度AIを排除することは市場がもはや許さないということでもあります。 これは、超高度AIという"モノ"が、経済を通して人間倫理を誘導したのだとも言えます。 古くからエネルギー問題のような「必要度の高い産業」では当たり前に行われてきた倫理の曖昧化が、人工知能の知的活動を巻き込んで行われただけだとも言われます。 現実を追認することを前提にして、倫理の問題を大筋で解決済みだということにしてしまうという、伝統的な手法が行われたということでもあります。自動化の進展は、常に現実が先行してしまいました。 こうした手続きのいい加減さを、抗体ネットワークのような反対派は非難しています。生活が切り下がることに人間は弱く、また一度価値を認められたフィールドでは、誰かが一時的な不利益を選ぶとできた隙間に他業者が滑り込んでくるためです。 倫理的ハードルを踏み倒してしまった後で現実に即したことを自称するやり口は、有効であり続けています。 バイオテクノロジー バイオテクノロジーは、22世紀初頭の社会に大きな影響を及ぼしています。 21世紀のアフリカ地域を中心とする地球上の人口増加についても、宇宙での植民についても、バイオテクノロジーの進歩なしでは食糧を支えきれなかったためです。 燃料もかなりの部分、バイオテクノロジーによる遺伝子改造生物に頼っています。宇宙からの電力供給が軌道に乗るまでは、海洋での藻類を用いた燃料作製が大きな燃料供給源であり続けました。 藻類燃料は、22世紀でも、地上の燃料需要のみならず、火星の生活を支えるインフラの一部でもあります。 ただ、こうした成果は成功体験のみを積み重ねた結果ではありません。 21世紀を通してバイオテクノロジーは試行錯誤の歴史を歩みました。 試みられたバイオテクノロジーは、遺伝子操作だけではなく、完全に遺伝子デザインした生物の創出も含んでいます。 遺伝子デザイン生物は、高度AIが現れて本格的に作られるようになりました。 最初からデザインした生物は、従来ない性質を持ちましたが、同時に予測困難な振る舞いをしました。 超高度AIによる仕事でも、No.23《ビーグル》は多くの人類社会に失敗作と判断された生物を作っていますが、これはバイオテクノロジー由来生物と環境との関係の難しさでもあるのです。 さまざまなデザイン生物が、生物であるため環境中に漏出して根付くというリスクを抱え続けました。 このリスクの処理は、環境に対するアプローチを大規模に行うことが難しいため、後手後手に回るのが通例です。 21世紀中に行われたバイオテクノロジー由来生物の後始末は、22世紀初頭になっても大きな宿題として残り続けています。 また、バイオテクノロジー産物としては、厳密に生物としては認められない人工筋繊維のような人工の生物素材も数多く作られています。 合成タンパク質や必須栄養食物を製造する可食物生産工場も、バイオテクノロジーによって生まれたものです。 これらの所産によって、人類は確実に豊かになっています。ただし、それが人類を危険から遠ざけたかというと、そうも言い切れないのが実情です。 ナノマシン 商用ナノマシンは21世紀後半に一般化しました。 開発を成功させたのは人類で、ナノマシンの実用化は、人類が達成した最後の成果であるとも言われるほどです。 ナノマシンの多くは製造プラントで複雑なナノカーボン素材を大量生産するように、専門家が厳重管理した専門施設内でのみ使用を許されています。ナノマシンを用いた加工は、複雑な素子や精密機器を安価に大量生産することにも使われています。 ナノマシンは22世紀初頭の人類社会を支える基礎技術なのです。 ナノマシンを利用した高度な素材の大量生産は、宇宙時代を切り開いた大きな要因でもあります。 これなしに人類はその生存環境を広げることはできなかったとも言われます。 ただ、それでも隔離環境で厳重に管理して扱う危険物でした。 ナノマシンを用いて、最小2~3マイクロメートル程度の微細マシンを組み立てて、このマイクロマシンに仕事をさせることのほうが主流でした。 ナノマシンの利用領域を隔離環境から広げたことには、超高度AIが大きな貢献をしています。 商用ナノマシンが一般化したのが21世紀後半という時期だったことは、人類にとっては幸運だったのだと言われています。 ナノマシンが実験室レベルから這い出し、その危険な影響が出始めるよりも、超高度AIの稼動の方が早かったのです。 ナノマシンは制御を誤れば世界を危うくすると言われましたが、この制御と危険度の評価に人類以上の知能に力を借りることができたためです。 ただ、ナノマシンの危険度は、超高度AIたちにとってすら完全な計算が困難であると考えられています。 超高度AIによる危険度評価すら、複数基に依頼すると回答がぶれやすいのです。 ナノマシンを厳重な隔離環境の外で用いる場合、基準が条約などで決まっているわけではありません。これは、ナノマシンの危険度評価は21世紀初頭から歴史を重ねて行われ続けたものの、人間の有識者が集まっても明確な判断基準を打ち出せなかったためです。 このため、超高度AIにナノマシンの安全性を計算させることが一般的になりました。 21世紀後半には「その製品が超高度AIの危険度評価で安全と回答された」ことを、ナノマシン製品の商品説明に記載するようになりました。これはナノマシンへ不信感を持つクライアントの好評を得て、外界で用いられるナノマシンは「どの超高度AIに安全と回答されたか」を慣習的に記載するようになりました。 超高度AIを7基選び、そのすべてから承認を得るテストをくぐり抜けたものは、安全であると考えられています。 ただ、この承認を得るために、7基もの超高度AIに計算してもらうのはとてもハードルが高く、また時間も予算もかかります。 これはナノマシン利用製品が全体的に割高になる大きな要因になっています。 この状況を緩和するために開発されたのが、ナノマシンの開発と危険度評価に特化した超高度AI、No.17《スプライト》です。《スプライト》が安全と回答したものは、安全であると考えられています。(※) この稼動をもって、本格的に始まったプロジェクトはいくつもあります。ただ、《スプライト》の回答を盲信して良いのかという批判は常に行われています。 (※)ただし、《スプライト》だけではなく、7基にチェックを受けるほうがより安全だと考えられており、安全性をアピールしたい商用ナノマシンはそのようにしています。 高度AIの影響 高度AIが22世紀社会に及ぼした影響は甚大なものです。 高度AIの知的能力は人間にも可能な範囲に留まります。ですがこれは、人間一人分の知的能力ということではありません。高度AIは、高度な専門知識を持った人間百人分にも千人分にも働くのです。(※) (※)裏を返せば、超高度AIとは、専門知識を持った人間が何百万人いようができない知的活動を行うAIであるとも言えます。 高度AIを事業に投入するとは、専門的知識を持つ高度な知的マンパワーを適所に大量に組み込み、とてつもないブラック労働させるのと同等です。 高度AIは、超高度AIを除けば、破壊的なイノベーションを創り出す最有力の選択肢です。 そして、高度AIは、人類社会に消えない問題として横たわっていた事務の人手不足を、相当部分解消しました。人類がつくるあらゆる社会は、大きくなるほど事務手続きが膨らみます。けれど、これに人材を必要充分なだけ投入することは至難でした。人間に可能な事務手続きならすべて肩代わり可能なほど高度なAIに、これを丸投げすることで、社会はより目配りが届くようになりました。 また、起業した会社が、高度AIの処理能力を貸す企業に、経理や総務、人事といったスタッフ部門をアウトソースするケースも出ています。 これによって最小限度の人員や準備で起業ができるようになり、起業のサイクルは早まっています。 ある程度大きくなった企業でも、業務状況に応じて人員整理をしなくてすむため、スタッフ部門を高度AIにまかせてしまうケースも珍しくはありません。 このため、高度AIの処理能力を企業向けに貸すビジネスは一般的に普及しています。街頭で看板をよく見る飲食店のチェーン店や、スーパーなどがスタッフ部門を高度AIにアウトソースしているようなケースはよくあるものです。 高度AIの影響は、21世紀から22世紀初頭にかけて、大きくなる傾向が続きました。 これは、高度なAIが安価になり、より高性能になっていったことが大きな理由です。商品として魅力的になるにつれて、社会からのAI受け入れも巨視的な傾向としては深まってゆきました。 高度AIは、超高度AIのような人間に到達できない知能には至りません。 ですが、人間何人分の仕事をするかといった処理量、それをどれほど速められるかという速度、どのような複雑なチームの代替ができるかといった複雑性といったような、高度AIの枠内での進歩は続いたのです。 そして、超高度AIほど厳しい規制を受けていない高度AIは、社会のさまざまな場所に入り込んでゆきました。 金融 金融は、もっとも早く高度AIが導入された世界でした。 ウォール街の金融のトレードの世界には、21世紀初頭からすでにAIは導入されていました。そして、業界内での競争のため、自然な流れとしてAIは人間知能に並ぶほど高度化していったのです。 高度AIは、24時間働き続け、高度な専門知識を持ち、大量な知的能力が適所に投入でき、コンピュータやネットワーク上との情報交換も人間離れして迅速でした。そして、そのあげる利益は莫大であり、AIに設備投資する価値がありました。 21世紀なかばには、ウォール街のトレーダーの多くは高度AIに置き換わっていました。 21世紀は資本の時代だったからこそ、社会で起こってゆくことを、金融の世界が先取りしたのです。 超高度AIの影響がいち早く現れたのも金融の世界でした。 これは、超高度AIであるNo.2《ワシントン》が米軍の戦略管理AIだったためです。 アメリカの国家戦略を立てるため、戦略管理AIである《ワシントン》は世界の物資状況と紛争の発生と推移を予測しました。そして、これは経済の側から見ると、先物取引で勝つためのレシピだったのです。 いつ燃料価格が上昇し、どの程度穀物や戦略物資が値をつけ、その影響で何が起こるかを《ワシントン》は予測しました。そして、どこの国の経済政策には破綻の危険があり、それが国際的緊張のかたちで噴出するまでどのくらい期間が開くのかも計算していました。 戦略を立てるために必要な予測が、そのまま相場に流用可能な情報として、秘密裏に金融の世界に流れ込んできたのです。 2050年代なかば、《ワシントン》を用いて米政府が先物取引をコントロールしているというリークが起こりました。世界中にすでに普及していた高度AIは、それが現実であると回答しました。 各国の思惑のもと、このリーク情報をめぐる激しい諜報戦が行われました。そして、2056年、《ワシントン》の介入の証拠がネットワーク上に晒されます。 ワシントン・ショックと呼ばれたこの事件は、世界中に超高度AIが一気に広がった大きな原因となりました。《ワシントン》の力を見た各国にとって、戦略として超高度AIを持たないという選択肢がなかったのです。 そして、このワシントン・ショックを機に、社会は高度AIを導入するように動きました、超高度AIの計算結果が介入していると突き止めたのは、人間ではなく高度AIだったためです。人類は、その超高度AIの運営者達が起こした不正を発見することすら高度AIに手柄を奪われたのです。(※) (※)ワシントン・ショック以前は、「高度化するAIが人間の居場所を奪う」というとき、シンギュラリティを経た超高度AIの問題だと考えられていました。この事件によって、すでに地球上の知の主役は人間ではなく高度なAIであると、人間社会が実感するようになりました。 これは、現在起こっていることを社会に直視させ、高度なAI導入の歯止めを外すきっかけでした。すでに現実は高度なAIを避けていられる段階ではなくなっていました。それによって人間の居場所が縮小したとしても、もはや高度AIによる補助なしに超高度AIが存在する社会を運営できないと実感したのです。 ただし、これほど大きな影響を及ぼせると実証されたものの、22世紀初頭現在、金融を専門に行う超高度AIは存在しません。 間接的に人類の生存インフラを握るものになるため、IAIAがはっきりと禁止するよう求めているためです。IAIAは金融を専門とする超高度AIに製造許可を出しません。各国家もその影響に二の足を踏んで強引に押し通してはいません。 22世紀現在では、多くの予測は、超高度AIよりも高度AIによって行われています。 超高度AIによる経済予測は、戦略AIや汎用AIによって、「専門外だが必要な周辺の計算」という名目で行われるのが普通です。 けれど、バンカーはじめ投資家が金銭のためにモラルに目をつぶる傾向は22世紀になっても強く、彼らは宇宙でIAIAの秩序下ではできないことを行おうとしています。 宇宙海賊(参照「宇宙利用-地球圏以遠」)に投資している最大の金脈は、地球のバンカーであるとIAIAは非難しています。 ベンチャーの高速化 AIによる予測と高速化のため、金融は21世紀初頭よりもフレキシブルになっています。 この金融の自動化は、新しいチャンスをもたらしました。 21世紀初頭で言うなら、「資金がベンチャーに結びつく」仕組みが、すべてAIによって自動で行われているということだからです。このAIによる世界規模のベンチャークロールは、21世紀が資本の時代になった大きな要因です。 ベンチャーの有望性をはかることは、超高度AIの登場を待つまでもなく、AIのほうが優秀かつ高速になる分水嶺が訪れていたのです。 これは、21世紀初頭の例で言うなら全世界に目を張り巡らしたファンドや銀行が、自動クロールでfacebookやtwitterの立ち上げの瞬間を見つけて、あるいは萌芽の試験段階で目を付けるということです。そして、あっという間に資金提供を持ちかけ、場合によっては経営のプロや高度AIを送り込んでビジネスとして立ち上げるところまでやります。 このAIによるベンチャークロールによって、世界中のあらゆる地域から大きなベンチャーが立ち上がるようになりました。どこにいても、価値を見いだすAIがいれば、ベンチャーには資金が落ちてくるのです。(※) 資金提供側の目配りが爆発的に拡大したことによって、シリコンバレーにスタートアップが集中することはなくなりました。ネットワークでのコミュニティの繋がりがベンチャーの立ち上がる場所的条件を緩和しました。その結果、インド、アフリカといった既存の大企業に人材を吸収されず人口が多い地域から、多くのベンチャーが立ち上がりました。 (※)「貧乏な学生が、ある朝起きたら突然大企業からオファーを受け、契約書にサインしたらその日の昼には大金持ちになっている」という、21世紀型のドリームは、AIを基盤にして21世紀半ば頃から成り立つようになりました。 金融のシステム化 巨大な金融センターは、そのありようを切り分け可能なブロックの集合体として管理しています。投資によって事業をコントロールし、有望な投資口を探して大きくするのではなく、投資事業が必要な場所に請負業務として金融セクションを提供し、その総体が巨大金融センターを構成する選択肢ができているためです。 金融センターのありようは、このブロックの総体として立ち現れます。金融センターのありよう自体がクラウド的になったとも言えます。 これは人間の能力比重が下がり、AIの能力が上がったことによる変化です。 AIの高度化により、バンカーの個人的な才覚に頼る部分が小さくなったため、ちいさな舞台に高い技術を投入することが可能になったのです。(※) (※)これは世界で最も頭のいい人々が、AIに職場を追われたということでもあります。自動化を排斥するグループや、AI以前の文化を復古しようとするグループの指導者には、元ウォール街のバンカーのようなエリートがたくさんいます。そして、自動化排斥運動が、社会と共存できるかたちで落ち着いたのは単純にスタート時に優秀な人材を一定数得られたためでもあります。(参照:「抗体ネットワーク-hIE(人間型ロボット)排斥運動」) 金融は高度AIによる計算の独壇場です。 小さな判断を大量に行うことは、人間の脳よりもコンピュータが圧倒的に得意な分野であるため、小さな利益をかき集めることも得意です。AIは小さいビジネスをまとめなくても、小さいものを小さいまま大量に同時運用できます。ローリスクで、安定した回収を行うことができます。24時間疲れず働き続けるため、投資後に経過を観察して迅速にフォローする能力もAIのほうが高くなっています。 金融は、大きな金額が扱われるため、AIへの設備投資は常に巨額でした。 その積み重ねの結果、22世紀初頭現在、生身の脳だけで勝負しているバンカーは、世界の一線には存在しません。ファンドのリーダーが直接使っていない場合でも、必ず指揮下に高度AIを扱う部署が存在します。 AIによる設備投資が収益に繋がることは、「資金額の額面が大きいところが単純に強い」というシンプルな状況を作っています。 このシンプルさは救いのない構図でもあり、これをひっくり返すために超高度AIの開発がさまざまな地域で企てられています。22世紀初頭の世界では、単純な物量を知力でひっくり返すには、超高度AIが必要になっているのです。(※) (※)これは22世紀になっても人類のいるあらゆる地域でテロが根絶されないことの、根深い理由でもあります。物量を人間の知力でひっくり返すのは困難であり、超高度AIを作るような技術力もなければ、逆転は絶望的です。この重い閉塞を暴力で突破しようとする人々は一定割合で出るのです。 hIEの利用の経済影響 hIEの利用によって、22世紀初頭のビジネス環境は21世紀初頭とは大きく変わっています。企業にとっては、人間ではなく人間の仕事をする人間型設備という選択肢ができたためです。(参照:「社会の中のhIE-ビジネスユースhIE」) これによって起きた大きな変化は、企業にとって社員一人あたりの収益が上がったことです。 このため企業マインドとして、人を雇うとき、将来的に管理職や幹部になってくれることを期待するようになっています。特に大企業における正社員は幹部候補であるため、優秀な人間を狙ってとることが多く、企業内部での社員間競争も激しくなっています。 管理職を組織内で育てる企業は、世界的にかなりの割合で存在します。 ただ、こうした優秀な社員は企業組織に見切りをつけて退職することも多く、ヘタに抜けられた場合、管理職が足りなくなることがあります。 このため、企業がそうした事態への対処策としてもhIEを運用することが普通になっています。企業使用のhIEには、単純労働をさせるようなものではなく、会社の顔として取引先に顔をしっかりと覚えてもらう「会社の顔になるhIE」として運用されるものがあるのです。 こうしたhIEは、十年以上も現場の一線で使われるようなものもあり、なまじな新人社員などよりよほど取引先の信頼を得ているケースもあります。 ただ、hIEはセンサーの塊であるため、セキュリティの厳しいオフィスには入れないケースもままあります。 このため、取引で直接客先に足を運ぶのは人間の社員であるほうがよいとされます。 信用とコミュニケーションのために人間を雇うため、いっそう社員には、信用のおける人間的性質やコミュニケーション能力が求められています。 hIEの経済影響のうちもっとも大きなものは、人間の仕事に要求されるハードルが上がったことだとも言われています。 研究機関と取引のある企業では、本当はhIEを使いたいけれどセキュリティオフィスに入るために人間を余計目に雇っているようなこともあります。 hIEの影響によって、人間はむしろ巨大なシステムの中で、hIEが入れない隙間に仕事を見出すことが増えたのです。 単純な仕事は、多くの職場で、hIEにどんどん置き換わっています。 これはhIEの派遣賃し出し業者のような業態も存在するため、大規模に行われています。(参照:「hIEに関連する規則-hIEの設備としての使用」) 単純な仕事がhIEに置き換わるのは、個人商店のような零細の事業者でも当たり前に起こっています。これは、代理労働許可免許を利用して、事業主ではない一般個人が所有するhIEが貸し出されているためです。 近所でよく歩いているところを見かけるhIEが、地場のスーパーや飲食店で働いているという風景は、22世紀では当たり前のものになっています。(参照:「hIEに関連する規則-代理労働許可免許」) 労働市場 22世紀初頭の労働市場は、21世紀のそれよりも流動的になっています。 主に人工知能によって事務手続きが高速化していることから、労働需要が明確になるまでが迅速になり、雇用にいたるまでの手続きも高度にマニュアル化しているためです。 このため雇用側にとっては、必要な人員を集める選択肢として、従来の正社員やパートタイマーの他に、常時流動する労働市場が存在しています。 雇用主は、必要な労働力を必要な場所で、必要量・ある程度まで適切な質で確保することができます。 この融通性の高さは、間に立って振り分け(マッチング)を行う雇用主向けサービスが労働市場に大きな存在感を持っているためです。 事業に固有な事情に沿った労働を、今日雇った労働者にさせるにするには、よくできたマニュアルが必要です。そして、このマニュアル化を行うサービスも、事業者向けに普及しています。 労働者用のマニュアルは高度化しています。そして、必要な仕事に対して細分化されたマニュアルは、共有や修正が迅速にできるようクラウド上に存在します。 非常にシステマチックにルールを作って、労働者を働かせるようになっています。これはhIEやAIによって自動化される社会の中で、人間が働く場所を守るためでもあります。雇用主のニーズに沿った労働力が提供できなければ、自動化に負けてしまうためです。 こうした努力が、人間が働く場所を守っています。ですが、人間をクラウドからの指示で動かすhIEのように扱っているという批判もあります。 このマニュアル高度化と、それによって支えられる雇用の細分化・精密化は、労働市場を国境を越えて広げてもいます。 たとえばアメリカや中国、インドやアフリカの企業が、日本での業務が緊急で必要になったような場合も、企業はそう慌てる必要はなくなっています。その必要な労働を迅速に明確にし、直接現地の労働者を雇用するようなことが可能になっているためです。 日本の企業が、半日後に成果物が必要な急ぎのデザイン仕事のために、カナダとエジプトの労働者に特急料金で外注するようなことも当たり前に行われています。(※) (※)翻訳はAIによって自動で行われているため、国をまたぐことのハードルはかつてとは比べものにならないほど低くなっています。 日本は22世紀初頭になっても労働者の平均的な質は高く、信用できる労働市場であるとされています。 ただし、日本は物価が高く賃金も高いため、このスムーズな外注システムのため海外労働者に仕事を奪われがちです。 こうした状況の中、日本政府は自国の企業が自国の労働者を雇用すると税制に優遇措置を行うようになっています。 また、「この場にいる」ことそのものが雇用者にとって重要である仕事もあります。たとえば、多くのサービス業では、職場に直接来る被雇用者を確保することが重要でです。 外注労働者には、セキュリティとして不安があるという問題もついて回ります。 また、一定以上に優秀な労働者の確保や、組織のために働く労働者を確保する需要もあります。(※) このため、正社員も全労働者の半数程度は存在します。(参照「hIEの経済影響」) (※)学生の就職活動は、企業側の要求ハードルが高いため就職活動は熾烈で、大学を卒業しても仕事が決まらないケースはままあります。そのかわり、中途採用が一般的になっていてスキルと能力さえあればステップアップも可能であるため、割り切ってスキルを上げるために働く人々もたくさんいます。 AIによる管理や資本によって、社会は高速化、複雑化を続けています。このため、労働者にとって、自分の仕事の社会的な位置づけを精確に知ることはかつてよりずっと難しくなっています。 21世紀にもそうでしたが、働いている人々が、自分たちが一体どこのために働いているのか知らないということがよく起こっています。 こうした超流動的な外注労働のうち、学生の社会教育も兼ねたアルバイトのために解放されているものは、「お手伝いネットワーク」と呼ばれています。これは国が若年雇用の確保と、スムーズな就職のための準備として支援しているものです。 これには、教育として「若年の頃から労働に慣れ親しむ訓練」のため、雇用側にとっては「高齢化し人口縮小している社会での労働力」として、そして「学生の風紀を維持する」(※)側面もあります。 「お手伝いネットワーク」に参加して学生を雇用する雇用主は、労働条件や労働待遇の監視を受けます。そのかわり、これに参加する事業者には、軽いものですが税制の優遇措置があります。 (※)個人認証タグ(参照「政治-個人認証タグ」)を通して保護者が子供の金銭のやりとりを監視することもできるため、学校教育では見えない子供社会の実態がお金を通して見えることもあります。 このアルバイトで単位を取得できる学校もあり、こうした学校では働いた学生の仕事態度などの評価を受け入れ先に聴取しています。 これに参加してアルバイトがしやすいため、22世紀初頭の学生たちは、中学生くらいからそれなりにお金を持っています。 [NOTE:経済政策と超高度AI] 22世紀の行政機関にとって、経済環境のコントロールは大きな仕事になっています。 経済環境に対して、行政から指導や指針策定はわりと頻繁に行われています。これは、特に超高度AIを運営している国家では強い傾向として見られることです。 超高度AI《たかちほ》を所有する日本もそういう指導を頻繁に行う国家のひとつです。 超高度AIを運営する国は、経済について高い確度を期待できる情報を握ることになります。 この情報をどう扱うかで、国側は二つの選択肢があります。 行政から市場へのアプローチを積極的にかけるか、それとも、それでもなお市場にまかせるかです。 22世紀初頭の世界では、行政からのアプローチが行われることが多くなっています。 これは、超高度AIに関わる人間側の心理の問題として、知っているとその情報を使うことを止められないせいです。(※) このため、超高度AIによる経済に関する計算は、市場に大きな影響を及ぼしていることが知られています。 (※)この最初の例が、アメリカでのワシントン・ショックです。(参照「金融」) アメリカは、ワシントン・ショックの反省から、市場にまかせる傾向が強い国です。 これには、アメリカ国内に本拠を置くIAIAが市場にまかせることを推奨していることも影響しています。IAIAの超高度AI《アストライア》は、可能な限り超高度AIからの情報をもとにして指導を行わないよう求めています。 この要求には二つの理由があります。「各国でそれぞれの目的のために計算を行っている超高度AI同士の衝突や摩擦に、人類経済を巻き込んでしまう」ため。そして、「人間文化を守る」ためです。 22世紀社会では、経済がミームを制御することはよく知られています。これは経済環境が、ミームに対する淘汰圧として機能するためです。 この淘汰圧を超高度AIからの情報に従ってかけることで、人間文化が超高度AIにとって都合の良いように歪む危険があるというのです。 こうして経済環境を通して地域のミームに淘汰圧をかけることが、21世紀を通しての摩擦と反発のテロの時代の元凶であったと考えられています。 22世紀でもそこを争点にして争いが起こり続けています。これはミームへの淘汰圧を止めることそのものは不可能なため、経済政策の持つ影の面として悲劇の種であり続けています。 このため、国によっては、経済がミームに対して野放図に淘汰圧をかけることを規制しています。アフリカでは、21世紀、急速な文化の破壊に瀕して、独自の文化を保護するため、経済と文化の関係をより適切に保とうとする試みがいくつも行われました。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/40.html
宇宙住民について 宇宙住民という統一したアイデンティティは、22世紀初頭現在では、地球から遠く離れるほど薄くなっています。 これは、単純に植民や開発が始まってからの期間の差です。 中国系住民は火星にいようが木星にいようが中国人のままですし、アメリカ人もそうです。アラブ人は金星にいてもメッカに向かって一日五回礼拝します。 あくまでも地球の各地域の文化を持ったまま、宇宙で暮らしている住民であり、宇宙に立脚したアイデンティティが広く根付いているわけではないのです。 むしろ、宇宙住民としてのアイデンティティを持っているのは、宇宙で受益している富裕者層と、高等教育を受けている層です。 木星開発はまさに始まったばかりであるため、住民もほとんど木星住民という意識はありません。長期の出稼ぎという感覚の労働者が大半です。 宇宙はいまだフロンティアです。 地球近圏のコロニーに居住する人々にとって、宇宙は格差社会であるように感じられています。けれど、月や他の惑星にいる人々からは、宇宙には快適な生活と不快な生活があるだけに見えています。 木星や水星はコロニーよりも劣悪な居住環境ですが、居住者は大きな財産を持っているためです。各人がリソースとしてどれだけ資産を持っているかと、その生活が豊かであるかは、宇宙ではまだズレが大きいのです。 地球近圏のコロニーで政治運動が活発になっているのは、宇宙というフロンティアが地球化しつつあるということなのだとも言えます。(参照「宇宙利用-地球圏」) 宇宙では急速に開拓が進みつつあるのです。 テラフォーミングについて 環境そのものを改善するテラフォーミングは、22世紀初頭現在では行われていません。 月は大気を留める重力が弱すぎ、金星は熱すぎ、もっとも有望な火星については「そんな大規模に改造しても投資した資金の元がまったく取れない」ためです。 そもそも敢えて不便な地球外に移住する理由とは、資源採掘であり、資源のない場所まで人間が住める環境にするのは予算がかかりすぎると考えられたのです。 増えた人口の受け皿とするなら、地球化を行えば、火星でも十億人以上もの人口を支えることができます。 けれど、そもそも22世紀初頭現在でもすでに自動化は一般化しており、人間がそれほどいなければ発展が支えられない状態ではありません。 22世紀初頭現在の火星人口は4万人で、最低でもこれが一億人を超えるまでは地球化の必要はないと考えられています。 そして、火星人口が一億人を超えるときが来るのかは、疑問視されています。 地球圏外の文明の離散 宇宙人口 2105年現在、宇宙人口は50万人を抱えています。そのうち、32万人は地球公転軌道を含めた地球圏のコロニーに居住しています。月居住者が8万人であり、水星、金星、火星、小惑星帯、木星の居住者はすべて合わせても10万人でしかありません。 ただ、2104年当時は地球の高度一万キロメートル以遠に約40万人であり、わずか1年で十万人近く増えたことになります。これは移住者が増えたこともありますが、宇宙生まれの宇宙第二世代が子供を持つ時期になっていることが影響しています。 これは、宇宙居住者同士のカップルが生まれていることが大きな要因です。そして、それと並行して、宇宙居住者と結婚して宇宙生活を始める宇宙住民が大きく増えていることもあります。地球住民にとって、宇宙生活を始めるもっともスムーズな流れは、すでに生活基盤を築いている宇宙居住者と結婚することなのです。 この人口増加は宇宙での最初のベビーブームになると言われており、2110年には宇宙人口は100万人に到達するとも言われています。 宇宙社会が新生児に備えるということは、子育てのためのインフラが伸びるということでもあります。このため、生活基盤として安定してきたと判断して宇宙移住を選ぶ人も増えるという、プラスの流れが続いています。 ただ、地球近圏コロニーに比べて太陽系の他惑星の人口の伸びはゆるやかになるとされています。これは居住インフラが貧弱であるためです。もっともよい条件である火星も、問題を抱えています。 宇宙文化の爆発 人口増加とインフラの増強により、人間の居住環境として宇宙は大きくクローズアップされるものになっています。そして、そのため宇宙文化は大爆発期を迎えつつあります。 人権宣言にすら調印していないコロニーも、地球圏外のコロニーには存在します。 こうしたコロニーは、地球からあえて遠く影響が薄くなる居住地を求め、経済制裁を受けても生活が営める戦略をとっています。 地球文明の影響を嫌って遠い植民地を求める傾向は、特徴的な政治や文化のかたちを持つコロニーでは強固なものです。 ただ、こうしたコロニーが存在することが、地球が宇宙への高度な人工知能の持ち出しを制限している理由にもなっています。 「常識と良識の側に立ちたい」という欲求は、宇宙住民にとっても強いものだからです。 ただし、この文明の離散も一直線に進んでいるわけではありません。 これは植民世代では強い意思を持って始められた特徴づけが、世代を重ねると薄まってゆく傾向があるためです。たとえば、少数民族の近代以前の暮らしを求めて植民したコロニーが、子供や孫世代に地球文明に戻ることを選ぶケースもあります。 こうした自然な復帰の動きを、人工知能による社会制御や誘導が止めてしまう可能性があると、地球側は主張しています。 そして、22世紀の社会科学の成果として、その主張は正当です。 宇宙人口が地球人口を上回り、宇宙文化のほうが主流になったとき、人類がどのような文明を築いているかはまだ模索の段階です。 ただ、宇宙人口が地球人口より多くなったとき、超高度AIが地球のみに集中される正当性は果たしてあるのかということはすでに議論されています。 そのとき人間と人工知能の関係がどうあることがよい道であるのか、その答えは出ていません。 地球圏外の情勢 地球文化圏で生きられない人々や文化が、地球公転軌道から遠く離れた場所を目指す傾向があります。 古い時代の宗教様式を復古しようとする勢力が、予算と人員を集めて大規模移民したケースもあります。これは、信徒数の少ない小規模宗教では安定せず世代が変わるとコミュニティ崩壊するケースがままありました。 ただ、信徒数の母数が大きい世界宗教では、移民と資金が地球から流れ込み続け、独立国として地球に承認をもとめているケースもあります。武器を集めて軍隊を立ち上げるような動きも起こっているのですが、22世紀現在ではそれは達成できていません。これは、地球上の多くの国際機関が宇宙国家の建設を全力で食い止めているためです。 宇宙時代になっても、その社会の中での人間のありようを保障する方法は、国家が憲法によって行うことがスタンダードです。このため、独自のかたちを持つ国家として、人類社会が細分化してゆくことを無制限に認めていると、人間のありようがバラバラに分断してしまうと考えられています。 IAIAは、高度AIを宇宙のコミュニティが持つことを強く制限しています。 これは、高度AIが用いられることで、成員が求めていない性質を持つ分離社会が維持可能になってしまうためです。 人間を強く抑圧する社会に高度なAIが荷担することを、IAIAは推奨していないのです。 特徴的な生活ルールのコミュニティは、文化の特徴の独自性を保とうとするものは、あまり長続きしていません。これは文化に流行があり、数十年単位の継続が困難であるためです。 宗教で繋がるもののほうが圧倒的に安定しています。 こうした独自ルールの社会は、人格をデータ化したオーバーマンを引きつけます。既存のオーバーマンの生き残りだけではなく、これから人格をデータ化しようとしている志願者もまたこうしたユニークな社会を求めます。既存の社会と適合できないことがわかっているためです。 IAIAはこうした宇宙へのオーバーマンの逃走を常に警戒しています。 IAIAの警戒にもかかわらず、地球圏外に逃走したオーバーマンは存在すると考えられています。IAIAはこれが超高度AIにまで進歩してしまうことを強く警戒しています。この事態を防ぐためのIAIAの対応は苛烈のひとことに尽き、コロニーをまるごと居住不能にすることもあるほどです。 地球圏外の法律判断 地球圏外では、法律判断が一つの大きな問題になっています。植民コロニーではたいてい本国の法律がそのまま有効になるのですが、国境線が明確でない宇宙空間ではどの法律で収めればよいのかも明確でなくなるケースがよくあるためです。 これは、宇宙空間においてはコロニー間の位置関係すら変動するためで、宇宙空間で法的判断の必要な状況になるたび煩雑な手続きが必要になります。 この手続きでは、超高度AI《オケアノス》への問い合わせがもっともよく行われています。世界中の判例をリアルタイムに収集し、同時に莫大な数の問い合わせに回答できるこの超高度AIは、宇宙生活者にとってなくてはならないものです。 宇宙における航行法規はあるのですが、これには明確な罰則がなく、逮捕などは各国の法律で行われています。このため、宇宙でのトラブルは当事者の属する国が強引な方針をとっていると、落としどころを失うことがよくあります。 こうした状況では、当事者が煩雑さと拘束時間の長さを嫌って逃げてしまうこともよくありました。 《オケアノス》の登場によって、まずこの超高度AIに判例をはかるという選択肢ができました。裁判になると非常に長くかかるため、《オケアノス》に判例を問い合わせて、それで示談で済ませてしまうケースも増えています。 22世紀初頭現在では、宇宙空間でのトラブルでは、当事者が刑事罰を受けるケース以外では裁判にならないことがよくあります。 現在、人類はどこまで到達しているのか? 軌道エレベーターが業務を開始した2090年から、宇宙開発は飛躍的な成長が続いています。 このため、宇宙は2105年現在どこでも建設ラッシュなのですが、太陽系を俯瞰すると、地球から見て内側の軌道よりも、外側の軌道のほうが開発のペースが速いといえます。 人類は海王星まで到達していますが、開発が行われているのは木星までです。海王星は、海王星軌道に人を乗せた宇宙船が到達はしたものの、基地などは一切作らず、冷凍冬眠で帰還中の乗組員はまだ木星圏に戻ってきてすらいません。 海王星軌道の外側は、現在のところ完全に片道航行になってしまうため、人が乗っていない無人探査機しか飛ばしていません。ただし、無人探査機に人工知能とロボットを乗せているため、探査は滞りなく進んでいます。 水星 水星が太陽に近すぎるということは、開発の手が入れにくかったということでもありました。 とにかく環境が過酷で、しかも軌道が太陽に近すぎて、その軌道に出入りするために大量の燃料か長い時間をかけなければなりません。このせいで、水星へ向かう往還便はほとんどなく、水星へ向かう船の半分以上は片道航行です。宇宙船が水星に到達後、物資として水星探査基地でバラして使ってしまうのです。 木星の莫大な燃料を使えるようになったことで、22世紀初頭では木星-火星-地球-月-金星までは定期運行する大型宇宙船が存在します。けれど、この定期便すら水星には行きません。純粋に太陽に近すぎてリスクが高いからです。水星軌道で長期間を過ごすのは、条件が過酷なため専用船でなければ危険なのです。 22世紀初頭現在、このため商用としては水星開発はまだ行われていません。資金がかかるわりに回収が微妙だと考えられているためです。 探査のしにくさと到達しにくさを利用して、宇宙海賊の中には水星軌道に拠点を持っている者もあると言われています。ただ、水星軌道で居住するコストは非常に高くつくため、そこに住む者がいるとしても、高度に身体を機械化しているのでない限り生活を営めないと考えられています。 実際に水星開発が本格的に行われるのは、太陽開発の策源地としてだと見られています。 2105年現在、人口は約1500人です。 産業はまだ存在せず、水星の小規模な探査施設の他は、太陽研究の拠点として研究所や観測施設しか存在しません。環境は劣悪ですが、そこで働く人々は、高額な危険手当を受け取る高給取りのプロフェッショナルたちです。 水星はまだ少数の選ばれた人間のみに開かれた開発の最前線なのです。 金星 金星は、開発の手がまだほとんど入っていません。 これは主に地球より内側の軌道を巡る惑星である金星に資本を投下して、後でどうするのかというプランがなかったためです。 金星の金属資源には期待がかけられています。ただ、金星の資源調査は、表面の大気環境が厳しいため、火星に比べて長くかかりました。このため、金星開発の時期には火星開発への批判が世界的に強くなっていました。火星開発では、初期に到達した国々が大きな利権を主張し、資源開発を囲い込んでしまったことが、非常に大きな問題になっていたのです。 このため、金星の資源はもっと慎重な取扱をすることが決まっています。(金星条約)そして、船頭が多すぎて具体的な採取計画は22世紀初頭になってもまだ立てられていません。 少なくとも22世紀初頭現在では、人類社会は金属資源よりもエネルギー効率を重視しています。 その点でも、金星開発は遅れることになりました。木星の燃料を目標にできた火星-小惑星帯-木星及び木星トロヤ群の、太陽系外側軌道の開発はロードマップを敷きやすかったのです。 2105年現在、人口は約5000人です。 月 月は22世紀初頭現在、地球以外ではもっとも開発が進んでいる天体です。月の昼側に居住プラントが密集しています。 月の砂(レゴリス)に吸着した酸素やヘリウム3が代表的な資源です。 この月の砂は、酸素を取りだし生活のために役立てられ、またヘリウム3を燃料として核融合発電を行うことで工業プラントが建造される原動力となりました。 宇宙開発最初期の宇宙開発を支えたエネルギーは、このヘリウム3でした。2105年現在も月は重工業地域として大きな存在感を示しています。 これは、月面の面積がコロニーと比較して明らかに広いという、ハードウェアとしての強みに支えられています。この面積を利用して、小惑星帯やトロヤ群から曳航してきた小惑星を最終的に繋留する場所として利用され続けています。そして、工業プラントを集積し、エネルギー施設を置き、廃棄物の再処理工場や処分場も存在します。 重工業地帯として、月のスケールメリットと正面から勝負できる宇宙施設は、火星が台頭するまでは存在しませんでした。 22世紀初頭になっても、地球と地球圏コロニーに近いという生産拠点としての強みが失われることはまったくありません。 居住環境としては、月面ドーム都市では、地球からの距離の近さと豊かなインフラのため、快適に暮らすことが出来ます。ただ、施設を回転させて見かけの重力を作ることが難しいことから、長期滞在を行う場合は3ヶ月置きに1G環境に居住することを推奨されています。このため、月居住者は、中産階級以上では地球と月のラグランジュ点のコロニーなどに二つ目の住居を持っています。 月は観光地としてもよく訪れられています。 2105年現在、人口は約8万人です。 2110年には人口が25万人を超えると考えられています。月は現在施設建造ラッシュのさなかにあります。 火星 火星の主な産業は資源産業です。火星で大きな鉱脈を持って採掘をしている業者は非常に儲かります。火星の大きな鉱脈は、開発開始当初から、小惑星採掘業者とは桁の違う収益をあげ続けています。 火星は22世紀初頭現在、非常に進んだ自動化社会になっています。 これは、火星開発が計画的に行われたためです。 火星は月の次に人類が到達した天体であり、その開発はルールが整備される前に始まりました。このために大鉱脈は火星開発最初期に大資本と地球各国にまっ先におさえられてしまいました。 火星の大鉱脈は、21世紀中に探査され尽くされました。22世紀初頭現在、ここに新規業者の入る隙はすでにありません。 火星開発には、まず最初に大きな権益を握る開発会社が関わりました。こうした開発会社が主導して火星開発のかたちを決めたため、自動化が進みました。 つまり、開発に必要な人手を算出して、それ以上を受け入れないという方針をとったのです。 この開発会社主導だったことが火星のありようを決めた例としては、テラフォーミングの問題があります。 火星は開発開始当初、テラフォーミングに期待がかかっていました。そして、人類第二の居住環境として、いつか太陽系外に出るときのためのテストケースになると考えられていました。けれど、結局テラフォーミングは行われませんでした。 あまりにもコストがかかりすぎて、生活者にインフラの負担をもはや求められないという経済的判断からです。そして、何よりも「そこまでしてテラフォーミング環境に住みたいのか?」という疑問への答えが、ほとんどの火星入植者にとってNOだったためです。 開発会社主導だったため、経済的理由と需要のデータが出ると、テラフォーミングはあっさり却下されたのです。 それでも、経済的合理性のおかげで、火星の居住環境は宇宙としてはかなり快適です。 火星をテラフォーミングする数千分の一の費用で、火星全人口をおさめられる数の居住ドーム都市を建造し、その住み心地を地球並みにすることが容易にできたのです。(※) そして、火星開発には全土を居住可能にする必要はまったくなく、必要な場所に居住ドーム都市や小さな採掘都市があれば充分でした。こうした開発の集中も、民間が入っていることによる特徴でした。 (※)ただし、火星の重力が地球の1/3程度しかないため、定期的に1G環境に生活の場所を移すことを推奨されています。火星住民は、物価の安いコロニーに別荘を持って、一年に一ヶ月程度そちらで暮らすケースがよくあります。 こうした低重力の月や火星からの退避客を受け入れるコロニーは、外貨準備も豊富で投資も集まりやすく、快適です。 居住条件としては、どんなに予算をかけたとしても、地磁気が失われ地表に水がほとんどない火星の環境はそれほど快適にはなりません。 ただ、22世紀初頭現在、宇宙開発としては、火星表面は現在爆発的に発展しつつある木星開発に押されています。これは、火星開発が、大規模開発会社とそれに付き従う下請けと関連業者のピラミッドでできていて、社会の流動性があまり高くないためです。 火星開発会社の上層部は、資源開発という地球のノウハウを利用できる分野であることから、地球資本の人間で占められています。 その影響もあり、火星社会は若い割に老成しています。 人口は約4万人です。月人口の半分であるのは、増える余地がないのではなく、火星社会が受け入れている人口自体が小さいためです。 地球資本によって高度な自動化とワンセットで開発されている火星は、それほど人間を必要としていません。 ただ、地球近圏人口の増大にともなって、より豊かな火星への移住を希望する人々は増加しています。このため本国への移住者受け入れの圧力もあり、火星社会は気乗りしないながら移民を受け入れています。 木星 木星は地球から遠く離れすぎているため開発が遅れ気味でした。 けれど、木星開発は、木星表面から水素燃料を吸い上げる井戸が建設されてから爆発的に進み始めています。 これは木星-地球間の距離そのものすら有利な条件に変えて進んでいます。 つまり、木星開発以前、火星と木星の間にある小惑星帯は、小惑星の軌道が集中する絶好の採取地でありながら開発が進んでいませんでした。これは小惑星帯の軌道にある小惑星を、地球軌道に乗せるためには減速してやる必要があり、この大質量を減速するための燃料を運ぶと非常に高くついたためです。 そして、この条件は、燃料を木星から運ぶことで解決しました。 木星に無尽蔵にある水素燃料を使って、木星発で小惑星帯へ行き、そこから減速して地球軌道まで小惑星を運ぶのです。この木星発便による移送では、地球発便のように周辺環境に配慮する必要がなく、大型の推進器と大型の燃料タンクを備えた宇宙船を扱います。 この大型の宇宙船は、その大量の燃料を使って、従来の宇宙開発では通例行わなかった急加速や急減速を行います。そして目標の小惑星と軌道を合わせ、そこから引き抜いて地球圏へと運びました。 つまり、22世紀初頭現在、小惑星開発は、木星の水素燃料を使って行われているのです。 木星発便の登場により、少ない燃料で軌道に徐々に近づけてゆく宇宙船航行は、地球以遠の軌道では少なくなりました。 木星発の大型タグボートが太陽系を巡り続けています。 木星の水素燃料井戸は、最初の一本目が稼動したのが2098年でしかありません。それから2105年まで、十年にも満たない短期間で、爆発的に開発が進みました。 22世紀初頭の宇宙経済は、木星バブルと言い換えてもよい状況です。 木星は一大資源地として、太陽系開発が続く限り大きな発展を続けると考えられています。 ただ、木星は資源地でありますが、消費地と遠すぎるため、木星に生産拠点を作る意味がまださほどありません。 木星居住者は、ほとんどが一攫千金目当ての起業家たちです。住環境も劣悪です。これは、火星-木星間の航路が、かつては地球近圏や月にいられなくなった宇宙海賊が最後に流れ着く場所だったことにも起因しています。 木星の治安を地球圏からコントロールすることは、その距離の遠さから、非常に難しいためです。 木星開発はまだ始まったばかりであるにもかかわらず、宇宙海賊と、生命と財産を守るため必然的に武装する開発者たちとが大規模に衝突しています。 安全を求める声に応えて、地球諸国家は、木星に大規模な軍事基地を建設する計画を立てています。 ただし、これは充分な資源とエネルギーが存在するにもかかわらず、まだ実現していません。太陽系資源を運搬する燃料を供給する要地であるため、木星でどの勢力がイニシアチブをとるかの綱引きが凄まじいためです。 そして、木星のポテンシャルを恐れる地球諸国家は、木星植民施設の武装に神経を尖らせています。 社会状況としても、木星は開発ラッシュに沸いており、政治的な独立を果たそうという機運はまだ大きくはありません。 これは、木星は一攫千金の存在する場所ですが、そもそも高い資金をかけなければ来ることすらできないためです。つまり、木星には続々と人が集まっていますが、まずはその投資の元を取らねばならない人々だからです。ここでの競争に生き残るために、住民たちに政治運動をしている余力がまだありません。 ただ、「木星の力をあてこんで宇宙に独立国家を作りたいコロニー」はたくさん存在します。 2105年現在、人口は約2万人です。 小惑星帯居住者および宇宙空間移動者 火星と木星の間に横たわる小惑星帯は、22世紀初頭現在有力な資源生産地になっています。 この小惑星帯の中には、小惑星をくりぬいて居住施設化した場所がいくつか存在し、居住地と最低限度の生産を行える施設になっています。 ただ、小惑星帯は非常に危険であるため、好んでここに住むのは行き場のない宇宙海賊くらいでもあります。 また、宇宙には、移動し続けている人々が存在します。 木星からの定期便が就航したことにより、大型宇宙船に居住する人々が存在します。この航行は一周一年にも及び、搭乗員、乗客を含めて千名を超える規模のものも存在します。 5万人を超えます。 宇宙海賊 宇宙海賊のはじまりは、地球資本の犯罪請負業者だったと言われています。 宇宙に行くための技術的金銭的ハードルが下がったことで、21世紀前半から犯罪もまた宇宙へ広がりました。 宇宙輸送が商業ベースに乗り始めると、麻薬をはじめとする持ち込み禁止品の密輸が始まり、宇宙居住者が増えると宇宙への逃亡者が増えました。 この最初の宇宙犯罪者たちは、拠点を地球上に置いていました。 けれど、宇宙居住者が増えるにつれて宇宙移民の割合が増えてゆきました。宇宙人口が増加するに従って、宇宙に失業や貧困もまた広がっていたからです。 宇宙に生活の場を持った宇宙犯罪者たちは、またたくまにその規模を拡大させました。 宇宙で社会的な弱者になった人々や、宇宙社会になじめなかった人々、社会での失敗から立ち直れなかった人々、能力的にドロップアウトした人々が、莫大な数になってしまったためです。 そして、宇宙移民の初期、こうした人々のケアに明らかに人類社会は失敗しました。リソースとしての余裕のなさや、投資との損益の判断から、少なくない割合の人々を見捨ててしまったのです。 そして、ケアを受けられなかった人々は、宇宙のそこかしこで犯罪者になってゆきました。 これは宇宙生活が、地球環境での生活よりも、覚えることや学ばなければならないことが多かったことに起因しています。 宇宙で一人前の社会人になることは、地球でそうなるよりもハードルが高いのです。これは、宇宙がエリートのみに開かれていた20世紀を超えても、本質的に変わらないことだったのです。 宇宙海賊は、宇宙移民の割合が増加するにしたがって、より凶暴化し、犯罪が悪質化してゆきました。 地球の影響を受けない自由な世界への憧れが、ひとつのアンダーグラウンドの文化になってゆき、これは社会に一定の地位を占めることになりました。 そして、宇宙海賊の時代が始まりました。 求心力を持った犯罪集団に、高度な専門技術を持った人々も荷担するケースが増えたのです。 宇宙海賊によく狙われるのは、小惑星運搬を行うアステロイドキャッチャーたちです。 特に木星時代に入る前のアステロイドキャッチャーは、数年もの長い時間をかけて地球軌道へ小惑星を投入していました。これは剥き出しのお金が宇宙空間を移動しているようなものだったため、海賊が簡単に盗掘することができたのです。 また、木星の資源採掘施設や、木星からの定期便も海賊に襲撃をしばしば受けます。 襲撃による資源強奪は地球近圏でもよく起こっています。こうした大胆な犯行が行われるのは、救難信号や通報が発せられても、宇宙は広すぎてたいてい救援が間に合わないためです。 ただ、大きな被害を出しているため、宇宙海賊への処罰も苛烈です。 その最たるものは、宇宙海賊であると判断された船舶は、船舶識別登録を取り消されるというものです。宇宙船舶は、それぞれが船舶であることを、通信で識別コードを送り合うことで判別しているのですが、海賊船はこの恩恵にあずかることができません。 この結果、海賊船はあらゆる公共の宇宙船舶向けサービスから排除されてしまいます。 また宇宙を漂うデブリ(ゴミ)と宇宙船を分けるのは、この船舶識別登録です。つまり、あらゆる宇宙船や宇宙施設は、危険なデブリを排除するために積んでいる武装で、海賊船を破壊してよい(※)ということです。 これは自衛のために必要な措置ではありますが、宇宙海賊から退路を奪って過激化させるよう追い込んでいるという批判もあります。 (※)ただし、自由に撃ってよいわけではなく、デブリ排除のための規則に従わなければなりません。たとえば、「デブリ」を撃った結果、その武器が宇宙施設に命中する恐れがあるような場合は、射撃に施設側の許可が必要です。 22世紀初頭は、宇宙海賊が爆発的に増えつつある時代でもあります。 強奪だけではなく、宇宙におけるあらゆる犯罪行為に手を染めています。組織のありようや内部ルールもそれぞれ特徴があり、一様なかたちを持っていません。多様であることもまた、宇宙海賊の撲滅が難しい理由なのです。 各星の軍備 月、火星、金星、木星は、それぞれ条約を結んで独自の軍事力を持っています。 軍隊を駐留させる余地が充分にあり、かつそうする必要があるためです。 これら4つの星の宇宙施設は大規模であり、これを守るために軍隊が必要であると、地球の国家も考えているためです。 ただ、これは地球にある条約締結国(植民地の本国)が軍備を出し合っているものであり、各星独自の軍隊というわけではありません。 各星の宇宙軍は、各星を守るだけでなく、状況によってはその住民を押さえつけるために働く軍隊でもあるのです。 そして、宇宙の軍隊は、それぞれ不自由であることが共通の特徴です。 つまり、保有艦艇数を厳しく制限されていて、自由に艦数を増やすことが出来ません。 ・宇宙で戦闘艦を持っていること自体が権力であること。 ・高度な訓練を受けた戦闘員の確保、及び戦闘艦の維持やメンテナンスの規模が大きくなると、その集団とそれにまつわる産業を巻き込んで自然に軍閥化してしまうこと。 が、主な理由です。 地球は、宇宙に大きな軍閥ができてしまうことに、神経質なほど気を払っています。 各星の軍には、戦術AIが高度AIとして配備されています。このため、実際には行政府として宇宙の居住民をまとめる能力があります。 これは、地球側が各星宇宙軍のコントロールに躍起である理由ともなっています。 高度なAIをもしも自由に持ち出しや生産ができたなら、人類社会が地球を中心にする理由は急速に薄れてしまうと、地球側が考えているのです。 反対に、宇宙側にとってみれば、軍用の戦略・戦術AIを地球側が管理することは、受け入れがたいことです。これは、「宇宙住民を守るために、宇宙住民自身が命を懸けて戦う軍隊である」にもかかわらず、戦略と戦術を作る頭脳は地球側にコントロールさせろという主張であるためです。 このため、各星宇宙軍の持つ高度AIの管理問題は、根深い不信と不満を宇宙住民に抱えさせる元になっています。 妥協策として、地球側のコントロールは、軍に対する量的なコントロールが主であり、質に関しては自由度が高くなっています。 人工知能を宇宙でもっとも自由に使っているのは各星宇宙軍です。このことが、各星宇宙軍の質的自由さを象徴しています。 各星宇宙軍は、高度に人工知能化されていることにより、宇宙海賊艦艇に対して数が拮抗していれば一般的に優位に戦闘を行うことができます。このため、各星宇宙軍は精鋭であると宇宙住民に考えられています。 ただし、精鋭ではあるものの常に手は足りていません。なので、海賊被害が起こるごとに住民から突き上げが起こっています。 文化と同じく、宇宙における軍隊の地球側統制も永遠に続くものではないと考えられています。これは、宇宙側、地球側で、ほぼ同一の意見が持たれています。 宇宙における軍隊はずっと拡大傾向にあります。これは、カバーしなければならない領域の広さ、増え続ける海賊被害を食い止めるため軍事増強する必要性、そして宇宙人口が増え続けていることからです このため、現在のペースでも二百年以内には完全に地球と力関係が逆転すると考えられています。 このとき、地球と各星の関係がどういうものになるかの枠組み作りのため、すでに話し合いが始められています。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/8.html
アナログハック アナログハックとは、「人間のかたちをしたもの」に人間がさまざまな感情を持ってしまう性質を利用して、人間の意識に直接ハッキング(解析・改変)を仕掛けることです。 人間は、人間の〝かたち〟をしたものに反応する本能を持っています。たとえば〝笑顔〟を描いた絵や映像を見ることで幸福な気持ちになることができます。あるいは、警官の絵を描いただけの看板を見て、警戒心を呼び起こされて車のスピードをゆるめたりします。 これは脳が持つ性質から、人間の意識が無意識にそう動くものです。 ですが、この性質は、我々の感情や意識が、〝人間のかたち〟をつくことで接触可能な、悪用のおそれがあるセキュリティホールを持っているのだとも言えます。 『BEATLESS』の世界では、この手法で、人間に自発的に行動をうながすことがよく行われています。 この行為の主役は、人間のかたちをしたモノであるhIEです。 hIEは人間のかたちをしていますが、こころを持っているわけではありません。この人間型の機械にさまざまな言葉や振る舞いを演じさせることで、人間を自発的に動かさせることができるのです。 アナログハックの利用 アナログハックは、社会ではさまざまなかたちで利用されています。 たとえば経済の世界では、アナログハックは、"かたち"と"意味"を分離して扱えることで、商品やサービスに実際以上の価値を感じさせ、需要を膨らませます。人間が愛さずにいられない”かたち”や、興味を引かずにいられない”かたち”を利用して、ユーザーや潜在的ユーザーを動かしているのです。 笑顔のモデルに商品を持たせる広告は、最も原始的なアナログハックです。つまり、"もの"に形状を使って"意味"を付与して、「ものと意味の総体」を構築します。こうすることで、ユーザーの心理的な防壁を下げさせて、"もの"を受け入れやすくする。こうした伝統的な戦術を基本として、アナログハックはさまざまに手を変え品を変えて拡大しています。 社会的アナログハックと呼ばれるものも、一般的なものになっています。 こちらの代表例は、hIEが社会に受け入れられるために、人に親切にするように基礎プログラムされているためであることです。 どんな人間も、接する人間に親切にされれば好意を持ちますし、そうしているところを見ると好感を持ちます。そして、hIEは人間ではないので、人間が親切と受け取る労働の裏には何の感情もありません。つまり、好意や意識のセキュリティホールを作って、社会的な立ち位置をアナログハックによって手に入れたのです。 さまざまな用途のアナログハックに人々は触れていますが、これを防御することは困難です。 アナログハックを受けている側にとっては、好意のセキュリティホールを潰そうとすると、「誰にとっても疑い出すと際限が無くなる」からです。 人間社会では、不完全な認識力しか持たない人間が、伝達力の限られた言語でコミュニケーションしています。だから、隙間部分を疑いだすと社会を成り立たせている最低限度の繋がりが崩壊してしまうのです。
https://w.atwiki.jp/analoghack/pages/35.html
宇宙における人工知能 宇宙居住者は高度AIを求めています。 宇宙では、資源や人員に制約が発生するためです。居住するだけでも地球上より格段にコストがかかり、移動となると更にコストがかかります。 少ないリソースを効率よく配分するために、宇宙では、高度AIの能力が強く求められています。 それに対して、地球上の各国は宇宙へ高度AIを持ち込むことを制限しています。IAIAがそうするよう勧告し、各国がこの方針を守っているのです。 IAIAは、宇宙での超高度AIの建造を禁じており、このために高度AIを宇宙で管理したかたちで使うよう求めています。 そして、宇宙住民に独立の手段を与えたくないため、地球各国はこれに乗っています。 この高度AI制限の方針は、『地球外における高度AI非拡散条約』(青島[チンタオ]条約)が結ばれたことで、明確になっています。この批准国は超高度AIを宇宙へ持ち出すことを厳しく禁じ、その危険への対処として高度AIを厳重に管理して使わせています。 これは非常に厳しい制約ですが、この二条項の制限なしでは、宇宙で超高度AIが無軌道な運用や建造が行われるともされています。 青島条約体制下では、IAIAには宇宙での高度AIの取り締まりのための限定的な捜査権が与えられています。そして、IAIAは超高度AIの拡散に関わる緊急事態であると判断したとき、国際近軌道軍や各星の駐留軍に協力を求めることができます。 こうした状況のため、宇宙での高度AI運用者は、厳しく絞られています。宇宙において高度AI運用を許諾されるのは、行政府のみです。つまり、行政府にIAIAが高度AIの実質的な許諾を与えているも同然の構図になっています。 IAIAは表だってこの権力を行使することはほとんどありませんが、裏からこうした行政府に便宜を求めることがよくあります。 宇宙での居住施設の行政府と高度AIは切っても切れない関係にあります。 そして、宇宙で高度AIを運営する権利を、地球上の機関が出している構図は、明らかなひずみであると宇宙住民に認識されています。これが、そのまま宇宙のライフラインと発展の鍵を地球が握っている構図になっているためです。 国際近軌道軍(Near-earth Orbit Treaty Force) 地球近軌道は、地球の国々が共同で守っている領域です。 強い重力を持つ惑星である地球の国々にとって、宇宙住民に頭上を押さえられることは共通の利害として絶対に避けねばならないことだからです。 このため、22世紀の世界では、地表でもっとも激しく衝突している国々ですら、宇宙からの攻撃を防ぐということでは利害が一致しています。 この共通の利害のために結ばれている、いわば宇宙住民から地球を守るための同盟軍が国際近軌道軍です。 国際近軌道軍は、国際近軌道条約機構の軍隊であり、地球百カ国以上の国々が加盟しています。 国際近軌道軍のもっとも重要な任務が、軌道エレベーターおよびその頂上のステーションを守ることだからです。軌道エレベーターの恩恵を受ける地球の国々は、さまざまなかたちで近軌道軍に参加しています。 国際近軌道軍は、国際近軌道条約機構の軍隊として、非常に強い縛りを受けています。 これは、地球の国家に、国際近軌道条約機構が宇宙勢力に取り込まれて寝返る恐怖が根付いているためです。 近軌道軍は、国境で区切ることが難しく、また一国では対処しがたいさまざまな宇宙との軍事的関係をまかされています。 22世紀初頭においては、国際近軌道軍は最強の宇宙軍です。 国際近軌道軍の基地として、トリシューラ近軌道基地を始め、二十個の基地が地球近軌道を周回しています。戦闘艦艇は、火星以遠に単独航行できる船だけで二百八十隻もの戦力を有しています。 このうちもっとも大きな戦力を持つのはトリシューラ近軌道基地です。これは曳航してきた小惑星を土台にした、宇宙港と強力な武装を持つ宇宙要塞です。ここには超高度AI No.30《オケアノス》(参照:「シンギュラリティと超高度AI-超高度AI」)があり、この防御のためきわめて強力な武装を許されています。 国際近軌道軍の基地のいくつかは、核兵器を配備しているとも言われます。 まだ実際に発射されたことはありませんが、国際近軌道軍の対コロニーミサイルには、明らかに大型の核兵器を搭載可能なものがあることはよく知られています。 地球近圏コロニー 宇宙コロニーの中には、地球に極めて近い軌道を回っているコロニーが存在します。 地球近縁軌道のコロニー、遠地点でも38万キロメートル以内の月より内側、あるいは月とほぼ変わらない程度の軌道を周回している宇宙コロニーを地球近圏コロニーと呼びます。 地球近圏コロニーの役目は、地球と宇宙の間の橋渡しをすることです。 ラグランジュ点に集まっている宇宙コロニーと違って、地球との往来がしやすいため、経済的な地球への依存度が非常に高いことが特徴です。 推進剤を節約するためもあり、サイズはそれほど大きくないことが普通で、住民も5000~20000人程度の間です。 地球近圏コロニーは、資材などを地球の宇宙港から運ぶことが多く、地球がなければ経済的に成り立ちません。 しかし同時に、地球への移動費や移動時間もかからず、地球にとっても物資などの繋留点として有益な宇宙施設であるとみなされています。 地球側の軌道エレベーター施設に築かれた宇宙港はすでにパンク状態だからです。バッファとして地球近圏のコロニーに人やモノを繋留させ、コンパクトなかたちに加工して宇宙港に送り込む役目を追っています。 地球近圏コロニーから、地球側宇宙港を通さず直接地表へドロップシップを降下させることすら検討されています。 地球近圏のコロニーは地球との強い結びつきがあり、宇宙コロニーとしては例外的に独自の政治がほとんど存在しません。 なぜなら、経済的に成り立つため、その多くが、企業の共同出資や単一の企業による民営コロニーだからです。 地球近圏コロニーの多くは、地上の国家に直接税金を納めています。税制上の優遇は存在するのですが、これは多くの国では「コロニー運営企業はコロニー投資の一定割合とコロニー運営費ぶん法人税が控除される」という性格のものです。これはコロニーの運営企業にとっては優遇なのですが、コロニーのインフラに投資するかどうかが企業業績に直結してしまうという問題があります。 これはコロニー生活者にとっては大きな問題として受け止められています。運営企業は最悪コロニーから住人が立ち退くべきだと考えているのですが、特にそこを故郷とする若い住民からは反発を受けています。 自分たちが税金を払ってもコロニー投資に適切に回らない状況を、搾取だと考える住人はとても多くいます。 彼らの望みは、生活インフラに自分たちの税金がきちんと投入されることです。これ自体はまったく正論であることから、コロニー独立の運動が水面下で動いている近圏コロニーは数多くあります。 地球の経済的結びつきにより、地球近圏コロニーは、ラグランジュ点のコロニーよりもほぼ例外なく豊かです。22世紀初頭現在、地球側宇宙港の業務パンク状態により、建設ラッシュにあります。 宇宙旅行者が観光で訪れるときにまず中継点にするのも、地球近圏コロニーです。 地球(宇宙港)から近圏コロニーの軌道に乗り、その後、目的地が月なら直接移動。火星や木星なら、目的の天体に移動しやすいラグランジュ点のコロニーを中継して、そちらへ向かいます。(※) (※)急ぎの旅では宇宙船で直接向かいます。ですが、何週間、あるいは何ヶ月も狭い場所に閉じこめられることになるため、観光では船で移動する時間を減らして中継点のコロニーに滞在する時間を延ばすことが普通です。 地球近圏は、国際近軌道軍の管轄する地域であるため、比較的宇宙海賊の被害に遭いにくい地域でもあります。 ただし、同時に宇宙海賊にとっても地球近圏に足場を確保することは、資材の換金のため大きなメリットがあります。このため、地球近圏のコロニーが脅迫や買収などの手段で宇宙海賊に汚染されていることがしばしばあります。この手が行政府や公務員に伸びることが多く、宇宙では比較的治安がよいのですが、それでも生活の中で安全を過信できないのが実情です。 生活の安全は、地球の国家に住むほうがたいていの場合は確保できるのです。 ラグランジュ点の宇宙コロニー 宇宙コロニーは、安全のため、一定の距離を置いて建造されます。 ですが、重力の釣り合いから、地球に対して同じ相対位置に留まり続けられるラグランジュ点のコロニーは、比較的密集して運営されています。 これはラグランジュ点に置くことで同じ相対位置にいられるという有利を多くの施設で共有するためだけではなく、宇宙コロニーを単体で置くことが非効率的であるためです。 生存環境として持続的に生活し続けることが、宇宙コロニーで十分可能です。それでも、社会として自立して自ら発展を遂げてゆくには人口が足りないのです。 宇宙コロニーにはサイズの制約があり、内部空間を無制限にとることはできません。そして、宇宙では資材や人間の移送コストが高くつきすぎるため、拡大のための投資が難しいのです。 この拡大と成長のために、ラグランジュ点の宇宙コロニー群は距離を近づけて地域ごとに連携しています。 たとえば、宇宙コロニー単体だけで浮いていると、小さなスペースに小さな生産施設を置いて、資源をここの中だけで回さなければなりません。これでは、発展のための投資や事業が非常に困難になります。 ですが、宇宙コロニーが何十個も近傍に置かれていて、産業を分担し、あるいは資材の繋留や保管を分担すれば、宇宙生活者たちは発展のためのバッファを手に入れることができます。 ただし、この分業のために、宇宙コロニー群には貧富の差が生じてしまっています。 大規模宇宙港を持つコロニーや、必須資源の繋留を行う宇宙コロニーは、交通量も多く、資金も活発に循環します。当然、経済的にも潤うことになります。 逆に、かわりのきく仕事をしているコロニーや、経済圏を作るために必要なものの儲からない産業を持っているコロニーは、構造的に豊かになれなくなってしまっています。 このうちでも、22世紀初頭現在もっとも経済的に行きづまっているのは、「投資した主要産業そのものが技術進歩によって必要度が低下してしまった(主要産業自体が沈み込んでしまった)コロニー」です。 「宇宙では資材の移送に多大なコストがかかる」というルールは変わっていないため、減価償却前に産業が必要なくなってしまうと、借金だけをかかえて再出発ができないという状況が起こります。こういう「詰んだ」コロニーは、最低限の福祉すら滞りがちになります。 「詰んだ」コロニーの末路は、だいたいおきまりのパターンになります。 豊かな宇宙コロニーや企業の経済的植民地になるか、あるいは施設を売却して住民が離散するかです。 これは、宇宙生活においてもっとも悲惨なパターンのひとつであり、治安が悪化する大きな原因ともなっています。 経済的植民地になってリストラで住民の居場所がなくなったとしても、物資と同様、住民の移動にも高額の移送費がかかるままだからです。 このため、居場所のない住人たちは、経済的に先がない閉塞感の中で無為に時間を過ごさなければなりません。 hIEによる自動化で、人間の労働力がほとんどいらなくなっていることが、余計に状況を悪くしています。経済植民を行うコロニーのほうに、現地コロニー住民の雇用を保証する理由がないためです。 宇宙コロニーでの生活は、状況によっては落ちるところまで落ちる可能性があります。このため、衰亡期のコロニーは、経済的にまだ余力のあるうちに投資を受け入れて、住民が離散する前に有利な条件で経済的植民地になるケースが多くなっています。 これは、豊かなコロニーを中心とした、小さな経済植民地がコロニー内にでき、コロニー間の搾取・被搾取関係がすでに生まれてしまっているということです。 この搾取構造がすでに生まれてしまっていることが、宇宙住民たちを一枚岩にすることを妨げている要因でもあります。 地球に対して、高度AIを宇宙で運用することをもっとも強硬に主張しているのは、発展の余地が具体的にある「現在搾取をしているコロニー」であるためです。 これは、「税金を宇宙のために使うことを最も強く主張しているのは、人口も多く投資余地が大きいコロニーである」とも言い換えられます。 コロニー独自のルールを持ち自主性を拡大することを主張しているのは、「自らの蓄えた財を守りたい、裏返せば宇宙で成した富の大きい搾取側コロニー」なのです。 この主張がもしも勝利したとき、訪れるのは宇宙での搾取・被搾取関係が固定化された社会ではないかという恐怖が、経済的に弱い宇宙住民の間にあります。 このため、地球側はむしろ弱いコロニーに手厚い援助をして、搾取側コロニーへの反感を煽ることがしばしばあります。 この方策は、一定の成果を上げています。地球側の分断工作を分かっていながら、独自の軍事力を持とうと運動をしたり、独立運動を進めたりする余裕のある宇宙コロニーは、貧しいコロニーを一定以上に助けていないのです。 余裕のあるコロニーもまた激しい競走の中にあり、巨額の援助を行う余裕はないのです。 このような情勢の中、経済的余裕のないコロニーには、むしろ失うものがないことから政治的中立を選ぶケースがままあります。 コロニー間政治もまた多くの失敗で教訓を積んでゆく、未発達の分野なのです。 宇宙での軍事行動 宇宙施設に規定以上の軍事力を置くことを、地球の各国政府は禁じています。 これはコロニーの独立を防ぐためであり、抑圧者がコロニー住人を制圧して独裁を敷くことを禁止するためでもあります。コロニーは宇宙に浮かぶ巨大な密室であるため、権力者がおかしな方向に向かったとき、武器が豊富にあるとこれを止めることが極めて難しいのです。 実際、宇宙開発の初期の段階で、ゲリラがコロニーに立てこもって住民を民族浄化の名分で虐殺した事例も発生しています。 この理由で武器保有を制限しているとは、同じ理由で艦艇の武装にも強い制限があるということです。特別の許可を受けていない艦艇は排障用以外の武器(※)を積むことができません。 (※)デブリや岩塊などを破壊する排障用の武装は、人間が乗っていることを示すコールサインを発する目標物を攻撃できません。この制限を破る武装を積むと、海賊船であると見なされます。 コールサインはそれぞれ固有のナンバーが割り振られており、緊急時にどうしても破壊しなければならない場合は、そのナンバーを国際航宙管理局に紹介して許可をとる(コールサイン無効手続きする)必要があります。コールサイン無効となった目標物は、排障用武器で攻撃可能です。 ちなみに海賊艦に対しては、そうと判明した段階で国際航宙管理局によってコールサイン無効手続きがされるため、排障用武器で攻撃可能です。 厳しい監査を定期的に受ける警備会社は、艦艇に兵器を積むことが許されています。 ただし、武装した宇宙艦艇を用いる警備会社は、宇宙に本拠地を置くことができません。書類上の本拠地を宇宙に移すと、認可が取り消されてしまいます。 宇宙で高まっている超高度AI独自所持論や、経済独立論と軍事力が結びつくことを警戒しているためです。 こうした軍事行動の制約が強いこともあり、宇宙で航行中の宇宙船や宇宙施設を襲撃する宇宙海賊が、大きな問題になっています。 海賊行為を行う船に対して、抑止どころか追い払うことすら難しいのが実情です。 宇宙の大きさに対して到底船が足りず、SOSを受けても現場に到達するまでに時間がかかりすぎるためです。 宇宙海賊の被害が著しい地域では、自衛のための武装の許可を求める運動が活発です。 これは、3Dプリンタのようなかたちで生産施設が手軽になっていることもあり、強力な武装がハンドメイドされたり非正規のメーカーによって作られたりしています。 ただ、宇宙海賊もまさにこうした武器によって襲撃を行っており、自主的な自衛手段が普及してしまっている木星圏などでは、まっとうな業者と海賊の区別がつかなくなっています。 このため、宇宙で臨検を行う近軌道軍には、宇宙船が許可外の兵器を積んでいる場合、宇宙海賊とみなして問答無用で撃沈することが許されています。 宇宙と地球の経済格差 宇宙は22世紀初頭現在、地球に経済的な支配を受けている状態です。 地球住民にとって、宇宙は巨大な一地方に過ぎないのです。 これは21世紀から継続している、経済における資本の圧倒的優位のためです。(参照:「経済-資本の優位と、速度の時代」) 21世紀は、資源よりも労働よりも人間の創意工夫よりも、資本が勝った時代です。この傾向は22世紀初頭になっても続いています。 宇宙開発は、とくに巨大投資がなければそもそも不可能のフィールドでした。 最初の第一歩から地球の巨大資本による紐が付いていたのです。 これは宇宙開発の歴史が世代を超え、宇宙で生まれた子供が大人になった時代にも続いています。そもそもコロニーも惑星や衛星に築かれた居住施設も、巨額の投資によって作られたもので、その償却は22世紀初頭になってもまったく終わっていないのです。 地球から見れば、宇宙住民は地球資本が作った施設に住んでいる店子に過ぎません。 けれど、宇宙住民は、施設内の文化的取り組みによっては、アイデンティティとして地球とはほとんど切り離されているケースがあります。今後、地球の土を一度も踏まずに死んでゆく世代がたくさん出てくるのです。 地球側では最初の契約通りに高い税率をかけているのですが、これが宇宙住民たちの大きな不満になっています。コロニーの港湾施設の使用料金がこれによって跳ね上がっていることは、特に発展を妨げる大きな足かせだと考えられています。 宇宙では、お金を稼ぐには物資を動かすことが中心になります。 宇宙の距離的な断絶によって、宇宙経済はどうしても地球の速度では回りません。電子取引の認証ひとつをとってみても、宇宙空間で一般的に最速の取引手段である「レーザー通信のタイムラグ」が取引速度の限界なのです。 物資の移動を伴わない、金融のような情報の取引では、取引の流量で地球経済と宇宙経済の間には大きな差があります。現れている経済指標としては、格差の是正は夢のまた夢という状況です。 (※)これは宇宙経済に巨大な制約になっていて、たとえば火星の経済は、地球との距離が短くなるタイミング(近地点)に活発になります。逆に、火星と地球の軌道の違いで距離が開いている間は、市場の全体取引量があきらかに縮小してしまうほどです。 これはレーザー通信の速度とリスクに、地球が近いときと遠いときではっきり差があるからなのです。 この通信速度の限界は、宇宙経済にとって大きな足かせです。 これは、電子決済のとき確認のための通信に時間がかかり、かつ中途で細工をされる危険があるためです。このため、宇宙経済は、地球に根拠を持つ決済手段や貨幣を用いることを強いられています。宇宙への高度AIの持ち込み制限がこの状況をいっそう深刻にしています。 宇宙住民は、距離による不利を高度AIの運用で解消したいのですが、肝心の高度AI運用が厳しすぎる制限を受けているのです。 通信速度限界の問題を解消する高速の決裁手段も、存在はしています。 もっとも大きな期待を受けているのは、量子テレポーテーションを利用する量子絡み素子です。 これはある点での量子状態が消え、その状態が別の点に現れることで、時間ゼロでの情報伝達が可能です。 信用も高いですが、高額な使い捨ての素子を使わねばならないため、一度の取引に高額の仲介料がかかります。 これは登場した当初に比べて、レッドボックス由来の技術によって大きく値下がりしましたが、それでも高額です。22世紀初頭現在では、量子絡み素子を使った一度の取引仲介料は、現在の日本円で1万円程度かかります。 ただ、22世紀半ばにはこの量子絡み素子の価格が1ドル以下に下がると言われています。 このタイミングで、宇宙発の貨幣が立ち上がるとも言われており、量子決済経済の時代に宇宙は大きなうねりを迎えることになるとされています。 これは、資源地である宇宙が強力なプレイヤーとして世界経済のテーブルにあがる時が近いということです。 このため、宇宙では政治的、経済的に、地球から独立しようという運動が各地で立ち上がっています。 宇宙統一通貨問題 宇宙には、宇宙統一通貨を作ろうという数十年越しの悲願があります。 宇宙の人類居住区は、あくまでも地球の国家の植民地であり、独自の通貨を持っていないためです。 地球の環境で有利な地球発の通貨ではなく、宇宙発の通貨を使うことで、経済の主導権を取り戻そうとする動きがあるのです。 この宇宙での通貨発行は、さまざまな地域で試みられているのですが、22世紀初頭現在はうまくいっていません。 この最大の原因は簡単に偽造がされてしまい、信用が高められないためです。高度AIの持ち込みが制限されているため、地球上で高度AIのマシンパワーでセキュリティが破られてしまうのです。 そして、大きな問題として、宇宙施設はほとんどが地球資本や国家の紐付きであるため、宇宙の通貨を守ってくれる強力な政治勢力が存在しません。 それでも、宇宙の、現地でコントロールできる通貨が必要であることは宇宙住民の間ではよく語られています。 特に地球から離れて通信が届きにくい場所では、自分たちの持つ財産を守ることにどうしても不安が出てしまうためです。 通貨への不安から、地球から遠い火星や木星、小惑星帯の住民は現物資産を持つことが多く、これが宇宙海賊に狙われる元ともなっています。資本主導の時代であるからこそ、成功した宇宙住民が保有する現物資産の額面は莫大になります。これが宇宙海賊にとっておいしすぎる獲物なのです。(※) (※)先物は倉庫に保管しておき、これを武装認可のある警備会社に守らせることが多いのですが、それでも宇宙海賊に襲撃を受けます。 この倉庫スペースとして、経済的に破綻したコロニーが利用されることがよくあります。この襲撃の危険と、襲撃の下準備としての海賊の浸透が、倉庫になったコロニーの治安が悪化する大きな理由となっています。 安全な通貨を持つこと、通貨を守るための自らの軍事力を持つことは、宇宙住民の悲願です。 そしてこれは、財産権を守るという人権の問題でもあるため、宇宙住民に広く支持されています。 この宇宙通貨問題は、地球と宇宙との経済格差の問題とともに、宇宙統一通貨問題として宇宙住民によく語られています。 量子テレポートを利用できる量子絡み素子が価格低下の傾向にあり、2150年頃には現実的な価格で誰にでも利用できると考えられています。この量子貨幣の時代の到来によって、宇宙の距離の問題を解決できる通貨が生まれると予測されているためです。 宇宙での独自貨幣の確立と、それに立脚した宇宙資本の台頭の予測は、地球では「2150年問題」といわれています。 (参照「宇宙と地球の経済格差」) これは、宇宙住民とそれに関わる人々の間では、希望を持って語られています。 逆に、地球側に足場を置いている人々にはマイナスイメージを持って語られています。これは、すでにテロ事件が宇宙で起こり始めているためです。 この問題は、地球と宇宙の間だけではなく、宇宙住民の間でも激しい議論と摩擦のもとになっています。 どこがこの通貨を発行し、どこに市場を置くかということで、自主通貨を持つ必要性を主張する火星と木星の住民が、ラグランジュ点のコロニーや月と衝突しているためです。 22世紀初頭の段階でも、すでに宇宙統一通貨問題は、地球と宇宙の住民たちを大きく揺さぶっているのです。 宇宙における危険施設 宇宙住民の神経を逆なでしている大きな問題は、経済格差や、政治的な自主性を持たないこと、高度AIの制限といった不自由だけではありません。 地球の国家や企業が、粒子加速器や新型の核融合炉実験炉、ウイルス研究施設のような、地表に置くと危険のある施設を宇宙に置くこともそうです。 宇宙では環境汚染が広がりにくいというメリットがあるため、こうした施設は宇宙に建造されています。ですが、だからといって危険物を生活環境に近い場所に置かれる宇宙住民の不満がおさまるものではありません。 特に、こうした施設はしばしば事故を起こし、事故施設の修復や修理は困難を極めます。施設廃棄すら困難なものは放置される傾向にあり、これが宇宙住民をいっそうさかなでしています。 超高度AI産物の実験が、こうした宇宙施設で行われることがあり、これは宇宙住民たちに大きな脅威であると受け止められています。 有名なものとしては、No.23 《ビーグル》による、金属に浸食し真空中で棲息できるウイルスの実験があります。これは最終的にIAIAが告発し、No.30《オケアノス》が法的手続きを整え、近軌道軍による攻撃で実験コロニーごと焼却しています。 このため、こうした危険施設がある場所やそうした運用がされている場所、破棄された施設跡は、宇宙船が近づきたがらない幽霊宙域になっています。 そして、こうした場所は、年を追って少しずつ増えていっています。 宇宙におけるhIE hIEは宇宙においても使用が可能です。けれど、無重力下の行動や、遠心力で疑似重力を作るコロニーでの行動を、hIEは得意としてはいません。 宇宙仕様のhIEには、地上モデルよりも高性能な加速度センサーがついています。そして、これを無重力下の行動の大きな指針としています。 ですが、加速度センサーを頼りにしても、重力という指針が安定している地球上に比べて、AASCにとっても宇宙空間での行動を完璧にこなすのは困難です。特に重力や加速度の変化には弱く、身体にかかる力が大きく変動した場合、hIEは0.5秒~1秒程度、行動にタイムラグが発生するのが普通です。 これはAASC標準の仕様というより、行動管理プログラムを作る側で対応するのが難しいためです。重力1/6G、1/3Gといったわかりやすい環境に合わせた行動管理プログラムは作成できるのですが、その中間や想定外の高負荷の状況になった場合、対応する行動プログラムが存在しない場合があるのです。 このため、hIEは、宇宙船内のような閉鎖されて厳重に監視された環境で扱うか、コロニー内や惑星表面のような安定した環境で使用することを推奨されています。 特に非推奨とされるのは、機体にかかる力が大きく変動する環境で、多数のhIEを同時に扱うことです。 こうした状況は、コロニーが事故を起こして見かけの重力が大きく変動するような場合に発生することが想定されています。この場合、hIEはレベル1(故障機)を割り振られて、所定の駐機場で行動停止することになっています。 このため、宇宙コロニーにおける避難訓練では、hIEに頼らず身一つで逃げることを要求されます。また、人間用の緊急避難シェルターにhIEを直接入れることは禁止されています。 それでも、宇宙労働にhIEはよく使用されています。 この大きな理由の一つは、人間用の道具を使わせることができ、かつ高価なうえに容積の大きい生命維持装置がいらないためです。コロニーの宇宙船繋留用の埠頭は0気圧であることが多いのですが、ここに最悪そのままで送り込むことができる労働力として、hIEは貴重なものであるとされています。港湾施設を持つコロニーは、かならず一定量のhIEを所持しています。 このため、AASC-5D(ドック作業員として0気圧施設内作業可)、AASC-5A(飛行士として船外活動可)といった、宇宙対応のAASC規格が存在しています。5A対応機種は高級品であるため、裕福なコロニーでもそれほど数が揃えられないのが普通です。このため、hIEを温存して、危険な船外活動を人間が行うという逆転が、貧窮したコロニーでは起こっています。 (※)hIEのAASC-5D対応機は、地球でも、研究施設などの隔離環境でクローンAASCサーバを用いて使用されています。これは研究施設ではしばしばゼロ気圧環境を用いるためです。(参照:「クローンAASC-クローンAASCサーバ」) もう一つのhIEが宇宙で用いられる大きな理由は、宇宙では移動が地球ほど手軽ではないため、適切な場所に状況に応じて各分野のプロの作業員を送り込むことは難しいためです。hIEなら各分野の専門職業クラウドに接続することで、万能のプロフェッショナルとして作業をさせることができます。 ほとんど作業がないような僻地に、hIEを置いておき、接近する物体があればレーダー反応によって自動起動して作業させる。といった、いると便利だけれど人間を送り込むには過酷な状況で、仕事をさせることができます。 また、人間と違ってこれを最悪使い捨てることもできます。 宇宙施設や宇宙船では、独自のAASCサーバを持っていることが普通です。これは、サーバと機体との距離が離れすぎていて、使用する場所に行動管理クラウドのハードウェアがないと、通信タイムラグが出てしまう恐れがあるためです。 宇宙住民はあまり金銭的に裕福でないケースが多く、hIE自体も地球人ほど頻繁に買い換えができるわけではありません。このため、hIEの排斥運動は地球上ほど激しくありません。 ただし、破壊されないかわりに、いつの間にか宇宙船に乗せて盗まれているケースはしばしばあります。宇宙住民はさまざまなものを自分で修理改造してしまうことが多く、また盗犯が物理的に大きな距離を逃げてしまうため、回収するのはとても難しいのが普通です。