約 268,053 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2137.html
「Grand Theft Auto Liberty City Stories 」のトニー・シプリアーニ GTA:LCS-0 1 GTA:LCS-0 2 GTA:LCS-0 3 GTA:LCS-0 4 GTA:LCS-0 5 GTA:LCS-0 6 GTA:LCS-0 7 GTA:LCS-0 8 GTA:LCS-0 9 GTA:LCS-0 10 GTA:LCS-0 11 GTA:LCS-0 12 GTA:LCS-0 13 GTA:LCS-0 14 GTA:LCS-0 15 GTA:LCS-0 16 GTA:LCS-0 17 GTA:LCS-0 18 GTA:LCS-0 19 GTA:LCS-0 20 GTA:LCS-0 21 GTA:LCS-0 22 GTA:LCS-0 23 GTA:LCS-0 24
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3631.html
屋敷の母屋は、思ったほど広くはない。照明に所々蝋燭は立っているものの、継ぎ接ぎだらけで有っても無くても変わらない有様だった。 だから、軽い変装でも十分潜入が容易なのだ。それでも極力人には見つからずに目的の部屋を……どうせあの変態貴族は今頃物色した女と イタしている真っ最中だろう。まぁ、そんな写真が流出しても制裁ものだろうから十分なんだろうけどな。 (……分かりやすいな、多分あれだ……) 難しく考える必要はなかった。母屋の屋敷の最上階は一面変態貴族の寝室になっているのだろうが、扉は全く閉められておらずに開けっぴろげ られており、隠す気はサラサラ無いようだ。まぁ、隠したところでおかしな物言いをする家臣など居ないだろうから、好き勝手なものだ。 俺は見える距離まで近寄り、この乱痴気騒ぎを少々観察した。 (流石にイカレた光景だな) 真っ先にそう言う感想が思い浮ぶほど、滅多にお目にかかれない光景が広がっている。と言うのも、変態貴族は優雅に豪華なダブルベッドの 真ん中に寝そべり、ワインに舌鼓を打っている。その左右には際どいランジェリーに身を纏った美女が添え寄っていた。それに加えてベッドの 左右に同じように際どいランジェリーを纏っている美女が均一の間隔で並んでいる。流石にシエスタは居なかったが、やれやれ、こんな狂気に 満ちた状況は俺たちの世界でもそうお目に掛れるものではない。 「……」 ここには警護の者も関係者もあまり立ち寄らないようで、隠れてその様を窺い知るには十分だった。その中でも変態貴族は反吐が出るような 手つきで寄添っている女の尻やら胸を撫でまわしている様は、最早貴族と言うよりは単なるエロオヤジ以外の何者でもない。 「!!」 そんな見ている此方が不快になってくる様な情景が広がっている中で、変化が起こったのを俺は見逃さなかった。 「さて、そろそろストレス発散しようか」 変態貴族はワイングラスを立っている女に手渡すと、クローゼットを自ら開けて何かを取り出そうとしていた。 「………!?」 だが次の瞬間、俺は我が目を疑うよりも先に己の正気を疑うような光景が広がった。 「今日は、これで楽しもう」 左右に控えている女達は動揺を隠さない。変態貴族は腰に白い布を巻き、首元にはフリルの付いた白い前掛け、おしゃぶり、白い帽子を 被っている姿が現れた。 「あ…あの、伯爵様……それは何の御冗談で……?」 どうして良いのか分からない様子で左に控えていた女が口に出す……それもそうだろう、多少の差異はあれ、誰がどう贔屓目に見ても 『赤ちゃんプレイ』以外の何者でもないのだからな!人間の変態性癖なんて、どの世界でも変わらん。 「冗談じゃないぞ、今日は、誰がこの私のママになってくれるのかな?」 この言葉で場の空気は一気に緊迫し、女達はどう対処して良いのか分からずでいた。俺自身、吹くのを堪えてこの光景を見ている。 「は…伯爵様、私には子供が居りませんので……」 「私もです……お相手出来ず申し訳ありません……」 女達は当り障りの無い言葉で何とか逃げようとするが、それを見て逆に俄然やる気が出てしまった変態貴族は、こう言い放つ。 「では、私が捕まえた者がママになって貰おう」 この言葉が合図となり、女達は必死で、見ている此方がそう思えてしまうほど必死に部屋中逃げ惑っていた。そりゃそうだろう、こんな 変態の相手など、本能的に拒絶するなんて当たり前だ。 (よし、この光景を写真に収めてやる……) 俺はカメラを構え、連続写真で収めてやった。シャッターの音?そんなの、女達の必死な悲鳴に全て掻き消されて、変態貴族には気取られ なかったようだ。 絶好のトラウマ、いや文字通り立ち直れなさそうな写真を収めた俺は、何事も無かったかのようにその場を離れて母屋に出ようとしたとき、 予想外の出来事に出くわしてしまった。 「きっ…貴様、そこで何している!?」 手薄だと思っていた邸内は、何故か先程とは思えぬほど警備が重くなっていた。 「おっお前はっ!!トニー・シプリアーニ!!貴様だな、俺たちの仲間を殺りやがったのは!!」 どうやら俺を監視していた、始末した兵士の死体が見つかったらしい。この為警備が厳重になってしまったのか。 「俺は知らん、便所を借りていただけだぜ」 「つまらぬ御託は要らん!!ぶっ殺してやる!!」 ★★☆☆☆☆ どうやら言いくるめも出来ない有様なくらいに頭に血が上っているらしい。仕様が無い、適当にあしらって逃げ遂せるか。 「死にやがれ、トニー・シプリアーニ!!」 俺は咄嗟に取り出した手榴弾のピンを抜くと、集まっている中心目掛けて投げつける。この場を切り抜けるには、今の所は最も最適かつ セオリーな方法かもしれない。容赦はないが。 「……これでも喰らえ!」 ドゴオオォォォォォォォォォォオオン……!! 手榴弾が炸裂すると、その場に集まっていた警備兵達を無慈悲に薙ぎ倒して行った。だが安心は出来ない。さっさとこの地を離れないと これの繰り返しになりそうだからな。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3681.html
★★☆☆☆☆ 「そっ…それ俺の馬やっちゅうねん!!」 手榴弾を炸裂させて注意が集中する事を考えた俺は、可及的速やかに敷地よりずらかる事だけを考える。馬に乗って巡回している警備を 見つけた俺は、横から飛び蹴りを御見舞いさせて落馬させると成り代わって鞍に乗り込み、門に向って全力疾走した。 「おっおい止まれ!!聞こえてるのか!?止ま……うわあああああああっ!!!」 案の定門には数人の警備が居たが、俺が盗んだこの馬で轢き殺して勢い良く門を抜けると、先程隠しておいた馬車まで戻る。 「馬車は無事だな」 馬から飛び降りて馬車に駆け寄り、繋いでいたロープを外すと御者の席に乗り込んで馬車が出せる限界のスピードを出して、魔法学院への 道を駆けて行く。これで首尾良く逃げる事が出来たなと考えたのだが、実は状況は俺が考えていた以上に深刻なものになっていた。 「畜生!!あの野郎、まだそんなに遠くに逃げてねぇ!!」 「……やれやれ、まだ諦めちゃいねぇんだな」 幾人の人の怒号と数頭の馬の蹄の音が後ろから聞こえてくる。本気で俺を殺しに掛っている事を実感した俺は、ウージーに持ち替えて来る べき状況に備えた。 「おい、あの馬車怪しい!早く行って止めろ!!」 馬車に察知した兵士が声を上げると、一頭明らかに急速接近してくるのが分かる。流石に馬単騎で来られては、全力疾走の馬車でも容易に 追いつかれてしまうだろう。 「……おい、そこの馬車……うぐあぁぁぁっ!!」 横に付かれたのと同時に、持っていたウージーを横に向けて射撃し火の粉を振り払う。所謂『ドライブ・バイ』と呼ばれる技術だが、馬車に 乗ってするなんて、この世界に来てから二回目だ。何か間違っている気がしない訳でもないけどな。 「な…な!?……あの馬車だ!!逃がすなっ!!」 ウージーで撃たれて仲間が落馬したのを目撃した兵士達は俺を目標と認識、本格的に追撃を開始する。その証拠に馬の蹄の音が一斉に近寄って くるのが理解できる。 「待ちやがれトニー・シプリアーニッ……ギャアアアッ!!」 横につけられた瞬間にウージーを躊躇なく発砲、追撃者をその都度追い払う。この時代のことだ、槍なんか持たれていたら本気でヤバイからな。 近寄られる前に始末しないと此方が危ない。 「待てと言われて待つ奴いるかよ……スピードが落ちて行く……Fuck!!」 しかしながら、車とは呼んでも結局は馬が引く物だからな……疲れてくるのは当然か。馬の息が荒くなり、泡まで吹き始めたのと同時に馬車の スピードは徐々に落ちて行く。かなり火の粉は払った気がするが、それでもまだ追撃者の兵士の数は蹄で判断するに大勢居ると推測できる。 「おい見てみろ!馬車のスピードが落ちてきたぜ!!」 「馬が疲れてきたんだろうよ、このままぶっ殺しちまえ!!」 兵士達は速度が落ちてきた俺の馬車を見て狂喜に満ちた歓声を上げつつ、俺の馬車に殺到する……俺は……そうだな、殺られる前に殺るさ。 俺は徐々にスピードを落として樹にぶつかるように馬車を運んで飛び降り、草叢に転がるように隠れる。一方の狂喜の兵士達は先頭の数人が 喜び勇んで馬を下りて馬車に駆け寄るが、俺が居ない事に雰囲気は一転する。 「……おい!馬車に野郎居ねぇぞ!!?」 「馬鹿な!野郎馬車にぶつかって……!!」 「探せ!そう遠くには逃げられんだろ!!くまなく探すんだ!!」 一気に殺気に満ちた状況に俺が隠れている位置から見て、馬から下りた兵士達は背を向いて立っていた。そんな隙を逃す俺ではない。俺は、 馬車が巻き込まれない位置を推測し、手榴弾のピンを抜いて投擲してやった。 ドゴオオォォォォォォォォォォオオン……!! 手榴弾の強烈な爆発音が辺りに響き渡ると、無慈悲に数人の兵士達を吹き飛ばした。ある者は馬が暴れて落馬し、そしてある者は爆音に気を失う。 ある意味奇襲は成功しているが無事な者は状況が読めなかったらしく、まだ戦闘意欲が有った。俺が手榴弾を投げて飛び出したのを確認した連中は 目の色を変えて向き合ってきた。 「て…手前っ!!何て…何て事しやがる……おっ…おいっ!!俺のシルバー持って行くなよ!!」 俺は騎乗している戦意喪失していない奴を正面から飛び蹴りをお見舞いして馬から叩き落すと、そのまま馬に飛び乗る。そしてまるでバイクに でも乗っているように走りながら方向転換すると、そのまま下馬している兵士達を次々と轢き殺してやった。 「ひっ!ひいっ!!」 例え兵士だとはいえどもこんな残虐な光景はそうお目に掛れるものではない。まぁ無事に残ったのは数人だが、流石に戦意喪失して俺に背を向けて 引き返していった。 「やれやれ」 俺は下馬して馬の尻にムチを入れて走らして帰すと、馬車を元に戻して馬を休ませ、魔法学院への帰路についた。 とんだ災難に巻き込まれたが、何とか無事に魔法学院への帰路に着くことは出来た。だが学院に到着した頃は先程より闇に包まれており、恐らく 時間にして深夜2時頃だろう。ルイズも恐らく寝ているだろうし、キュルケは男誘って遊んでいるだろう。恐らく何処にも帰れないだろうから、 馬車を片して馬を休ましていると、後ろをマルトーが通り掛った。 「お前トニーじゃないか、何やってたんだ?ヴァリエールの令嬢がヒステリー撒き散らしてたぜ」 「ああ、ルイズには何も言わずに出掛けたからな……すまないがマルトー、ワインを売ってもらえると嬉しいんだが?」 俺がこうお願いすると、マルトーは嫌な顔はしないが不思議そうな表情を浮かべていた。 「それ位はお安い御用だが……今日はもう寝た方がよく無いか?」 「いや、俺が飲む訳ではないんだ。ちょっとな」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3626.html
「いや、だからだなキュルケ、気持ちは有り難いのだが、俺は貰う筋合いの無いそう言った高価なものは……」 「ふふ……遠慮しないで良いのよトニー」 キュルケは俺を物で釣ろうとしてるのか。こんな時ふと思う、ルイズが何時もどおり、ワンパターンに乗り込んで来てくれると正直、結構 嬉しいんだがなぁ……。 「やっぱり、成就が困難なほど、恋は燃えるのよね」 「ヤるだけが恋愛じゃねぇんだけどなぁ……」 呆れ混じりに言ってみる。シチリアンとしてみれば、もう少し雰囲気くらい楽しみたいものだぞ。それに、あのルイズの膨れっ面を見るのも 勘弁して欲しいしな。 「お前さんは美人だが、早急にってなると話は別だぜ?」 「ふふっそう来なくちゃ♪」 やばい、火に油を注いでしまったか?好意を持って貰えるのはありがたいが、やっぱりなんか違うんだな。そんな事を考えていると、回廊 から騒がしい音が聞こえてきた。多分ルイズだろう、助かった。 「トニー!!何で何時も何時もツェルプストーと一緒にいるのよ!!」 やっぱりルイズだった。ワンパターンなのかもしれないが、こんな時はこれが嬉しかったりする。 「茶に誘われただけだ、そう頬を膨らますな……紅茶美味かったぜ、有難うよ。今日はこれ以上このお姫様の機嫌が悪くならん内に帰るぜ」 「あらそう?……なら、またお誘いするわね」 茶の礼を言ってそそくさと部屋から出るが、ルイズの頬は膨れたままだった。嫉妬深いのか? 「どうして茶なんかで誘惑に乗るのよ!!」 「社交ってやつだ、気にするな」 油を搾り取られたのも併せ持ち、今のルイズの機嫌は最悪でヒステリックだった。 「お茶飲みたいならどうして私に言わないのよ!!」 ヒスを起しているのも併せ持って言っている事もかなり滅茶苦茶なものだが、今日は何も言わずに聞き流す。 「ならルイズ、お茶貰えるか?一緒に飲めるのなら尚嬉しいのだが?」 「……!!わっ分かったわよ!!……イスに座って待っていなさい!!ツェルプストーとは比べ物にならない程の美味しいお茶を煎れるから!」 上手く乗せたともいえなくも無いが、向かい合って座って飲んだ紅茶は中々美味しかった。 ――翌日。 ルイズを起して洗濯を済ませると、マルトーに結構豪勢な朝食を振舞ってもらう。だが、場の雰囲気は何か足りなかった。料理ではない。 人的で、だ。 「マルトー、何か寂しくねぇか?」 「んん?料理物足りないか?」 「違う、人数的にだ。普段いる奴……そう言えば、シエスタいねぇな」 気になって言葉に出してみると、雰囲気は一気に暗くなった。 「トニー、お前シエスタから何も聞いてねぇのか?」 「何、辞めた?」 「ああ、今朝早く迎えの馬車が来て出て行ったよ。ジュール・ド・モットと言う貴族のところへ行ったさ」 そう言われると、昨夜のシエスタの雰囲気は合点が合う。恐らく、本人は此処を辞めたくはなかったのだろう……いや、違うな。人身御供に なると分かってだろうな。 「結局、平民は貴族の言いなりになるしかねぇのさ」 「……気にいらねぇ」 mission:『シエスタ:メイドの危機 act.1』 「この世界での貴族が直々って事は、要は人身御供、まぁマシな言い方をすれば『妾』『愛人』目的だろ?」 『そうだな、良く分かってるじゃん相棒』 誰もいない隠れ家で喋る剣デルフリンガーに話し掛けると、気のない返事と言うか、軽い返事が返ってくる。 「最悪だな……デルフリンガー、俺今日遅くなるってルイズに言っておけ」 『何?……お前、まさか……』 「何、ちょっと軽~く頭を叩きに行って来るまでさ。朝までには帰ってくる」 ―― ギーシュを探せ あんな気立ての良い子を人身御供に出来るか。だが、そのヘンタイ貴族の所在は分からん。とは言え、ルイズやキュルケには聞けないので、 一番聞きやすいギーシュを探してみるか。あのバカは愛の語らいに最適な場所に絶対居るだろうから、探しやすいのもあるしな。 (やっぱり、こんな所に居たか) 軽く目星を立てて、来た初日にルイズに追っかけ回された逃走経路に噴水があるのに気が付いた俺は、迷わずその場に行ってみると案の定、 ギーシュがモンモランシーと、まぁ甘ったるい言葉の遣り取りをしていた。こうしてみると、多少はよりが戻ったのだろう。 「ようギーシュ、元気そうだな」 「おお……トニー」 俺を見たギーシュはちょっとビクッとはしたが、昨日の今日もある為外見は平静に対応してきた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2593.html
★★★★★☆ 「わ…わしの馬車あああぁぁあぁぁぁぁ!!」 「ト…トニー!!何やってるんだ!?」 「ギーシュさっさと馬車に乗れ!!」 主人と御者を蹴落とすと馬車を奪い、馬車を調達する。ギーシュはその光景に唖然としていたが、首根っこを掴んで後部座席に放り 投げると、何事も無かったかのように馬車を走らせる。はっきり言って野郎二人で歩いて行くプランは無い。 「何で馬車盗むんだ!」 「黙って乗ってろ!俺の町ではよくある事だ……さて、薬屋の道を案内しろ」 ギーシュを黙らせると、俺はギーシュに薬屋を案内させる。こんないかがわしい仕事、さっさと終らせたいからな。 「ここの路地を入るんだ」 ここは確か、ルイズが俺の傷を治す為に用いた薬を買った店では無いか。横の武器屋で思い出した。ここならば……まぁおそらくは モンモランシーを振り向かせる為の『媚薬』だろうが……効果は期待できるのだろう。 「ここで待ってるからな、早く買って来い」 ギーシュに薬を調達に行かせると、直ぐに戻ってくる。予め薬屋が用意していたのだろう。これで仕事は終わりか。 「後、もう一軒あるんだ。そっちにも行って欲しい」 「はぁ?薬屋にもう一軒行くのか!?」 薬なら、この薬屋で事足りるのじゃないのか!?何だよ、面倒だなぁ……。 「そう言わずに……頼むよ。色々と試したいのだ」 「仕様が無い」 本気で面倒臭いのだが、仕事である以上仕様が無い。ギーシュに案内を続けさせて向う事にする。 「なぁ……ここはスラム一歩手前じゃないのか」 「そうだな、でも此処なのだ。薬屋」 ギーシュに再び案内された場所は、一般人が知識無しに入ってはいけない良い言い方をすれば雑居な歓楽街、悪い言い方をすれば治安の 悪いスラム一歩手前とでも言うべき地区だった。入った瞬間胡散臭さが漂うのだが……本当に大丈夫か?ギーシュよ。 「じゃあ買ってくる。待っててくれ」 「待て、今回は俺も行く……あのワルキューレを出して馬車を守らせとけ」 俺は持って来た『軍用ショットガン』を直ぐに出せる準備をして、ギーシュの後に付いていった。 「グラモン様、お待ちしておりました」 俺とギーシュが入ると、店そのものは怪しくは無いものの、どうにも形容し様の無い胡散臭いオヤジに出迎えられる。 「注文していた物、用意できたか?」 「ええ……少々お待ちください」 怪しいオヤジが対応すると、そのまま裏に下がっていく。だが俺は見逃さなかった、このオヤジの口元を。 (……トニー、大丈夫そうだぞ) (油断するな……何か来る!!) ギーシュが余裕の笑みを見せた瞬間、俺の懸念は的中する。右の勝手口より2名、入り口より2名、奥の口よりオヤジ含めた3名計7人、 レザーアーマーに剣携えて突入してきた。 「こんな事だろうと思ったぜ!!」 「出来れば生け捕りにしろ!!幾らメイジでも多勢に無勢なら勝てるだろ!!」 オヤジは叫ぶ。野郎、数的優位に粋がってやがるな……。 ――全員始末しろ!! チンピラ共は突入したのと同時に剣を抜く。数的優位にある為、全員余裕すら感じられる。 「平民殺しちまえば後は貴族だけだ!!掛れ!!」 「野郎……ギーシュ、右のチンピラ共をバラせ!」 「分かった!」 立ち上がったのと同時に黒光りしている『軍用ショットガン』を取り出し、急いで入り口に向って発砲。響く銃声と共に入り口側の チンピラ2名が吹き飛ばされて転倒、出血の量から見て絶命しただろう。 「なっ…何が起こったんだ……ええいっ早く始末しろ!!」 一気に二人を倒されたオヤジはうろたえる目の前の二人を一喝し、俺を殺そうとけしかける。 「うおおぉぉぉぉぉ!!死ねえぇぇぇ……グオッ!!」 半ば半狂乱になって掛ってきたチンピラに再度ショットガンを発砲、同じように後ろに吹き飛ばされるように転倒し、絶命する。 至近距離で撃たれて無事では済まない。もう一人のチンピラはこの光景が止めになったのか、剣を持って一歩足を出したものの、 後ろからショットガンを再度発砲し仕留めた。咄嗟に右を見ると、ギーシュはチンピラにをワルキューレをけしかけて嬲っている。 格好つけて戦ってやがるな……。 「ギーシュ何モタモタしてるんだ!!格好つけてないでさっさと始末しろ!!」 「分かってる!!」 余りの状況にオヤジはとうとう戦意喪失、後ろを振り向いて逃走を試みる。だが逃さない。 「待ちやがれ」 「ひいっ!!」 後ろから殴りつけて転倒させると、額にショットガンの銃口を向けた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2202.html
ここの貴族と言うか、メイジと言うか、股の緩いのが多いのか?思春期と言うのはどいつもこいつもこんな感じか……。いやいや、そんな 事を考えている暇なんてない。 「あれは……ゼロのルイズの……」 俺の姿を見て反応する二人。まぁ当然か。人間呼んだだけでもあの騒ぎなのだ、そんな俺が全力疾走で駆けていれば嫌でも目立つだろう。 横を見ずに駆け、突き抜けるように表に飛び出す。しかし状況に猶予はない。明らかに後ろからルイズとそれ以外の人間の声が聞こえる。 「いいから捕まえて!!」 まずい、見下していたがこうも行動が早いとは……庭に出た俺は、咄嗟に持って来た手榴弾のピンを抜いて明後日の方向に投げ、何食わぬ 顔でそのまま走り抜ける。 ドゴオオォォォォオオン……!! 「キャア!!」 「なっ何!!?」 手榴弾が炸裂。爆音に驚いた後から来たルイズ達は地響きと共に尻餅を付いている。少しばかり時間稼ぎできるか……余計に別の学生が 何人か色めきたててしまったが、ここから先は何とかなるだろう。急いで別の入り口に飛び込み、今度は逆にメイジを探す事にした。何せ コルベールの部屋を知らない。ちんたらしていても、地の利で負ける。 手榴弾の効果は予想以上に効果的だったようだ。探すまでもなく、大勢のメイジが賑やかに(?)騒いでいる。大方手榴弾の炸裂に驚いた メイジのガキ共だろうが、興奮しているこいつらではダメだ。一歩下がった奴に……丁度良いのが居た。 「姉ちゃん姉ちゃん、そうそうアンタだ」 金髪で前髪をオールバックにして、大きな赤いリボンをつけた後ろ髪が満遍なくロールしている姉ちゃんが一歩離れた場所で事の推移を 確かめている。そんな姉ちゃんに声をかけるとキョロキョロと見渡すが、自分以外誰も居ないと悟ると自分に指を指して『私?』という ジャスチャ―をする。 「貴方はゼロのル……」 「すまねぇ、悠長に話している時間がねぇんだ。少しトラブルが起きて、つるむ事になったルイズが癇癪起してな、Mr.コルベールを 呼びたいのだが生憎と部屋が分からなくてね……」 大げさにするために半分大嘘を並べて言うと、ニコニコと笑いながらこう答えた。 「有り得るわね。それは困るでしょ……いいわ、付いていらっしゃい」 「助かったぜ、恩に着る」 助かった。喧騒を背に俺はこの姉ちゃんの背に付いていき、やれやれ、何とかこの場は切り抜けることが出来たか。 「ねぇ、さっきのけたたましい音は何が起こったのかしら?」 「ああ、あのルイズが俺に魔法をかけたんだよ」 本当は俺の手榴弾だが、こう言っておけば切り抜けられるから不思議だ。ルイズには悪いがこう言っておく必要がある。 「ここよ」 「助かったぜ姉ちゃん、この借りは必ず返すぜ……姉ちゃん名前は?」 「モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ」 こりゃまた長い名前だな……。 「待ちなさい、貴方の名前は?」 「トニー・シプリアーニだ、恩に着るぜ」 ――…コルベールの自室。 「……それは困りましたな……」 「あの『お嬢様』には困ったものだ」 半分嫌味にしか聞こえない言い方で言う。 「俺にはこの世界の金や財と呼べるものがない。食事とかの手配を頼みたいのだが……」 「……うーん……そうか、厨房に行って話をつけましょう。一人分の食事くらい準備できるでしょうから」 「流石教師の立場にある人だ、話がわかるぜ」 ――…食堂。 「美味いな……恩に着るぜ、Mr.コルベールとえーと……」 「マルトーだ」 この世界に強制的に来させられて初めての食事だ。しかしながら空気の良さや思った以上に高級と言っても差し障りない物が出て来て 相当美味かった。 「すまないな、こんな美味い料理を用意してくれてな。ママ以上に美味い」 礼のつもりで言った言葉だが、マルトーは少々眉をぴくっとさせる。 「それはどう言う意味かい?」 ああ、なるほど。けなされたと思ってしまったのか。 「ん?……ああ、別の意味で捉えてしまったか。俺たちイタリア人はな、どんなに美味い飯を食べても最後には『ママの料理の方が美味い』 って言っちまう人種なんだよ。習慣的なものでね……意味合い的には飛び切り美味いって言ってるんだよ」 そう補足するとマルトーは表情を崩す。てっきり馬鹿にされたと思ったのだろうよ。 「口が上手いな、気に入ったぜ。腹減ったら来ると良い、一人分の食事を用意するくらい手間じゃないぜ」 「有り難い」 「子供とは言え貴族だ……舌肥えちまって文句ばっかり出てきやがる……その点、今の言葉は嬉しかったぜ」 そこまで嬉しがられるとは思わなかったが、言われて気分が悪い物ではない。だが、食事が終わり一息ついた頃、大勢の生徒が食堂に乗り 込んできた。勿論ルイズが先頭で。 「見つけたわよ!!」 「遅ぇよ」 俺の姿を見た大勢のメイジ達は一瞬で棒切れのような物を此方に向けてくる。これが拳銃かなんかだったら、チェックメイトなんだろうがな。 「やめなさい!手を下ろしなさい!!」 そんな光景を見たコルベールは一瞬で生徒達を一喝する。大方の生徒たちはコルベールの姿を見て『なんで先生が居るんだ?』と言う顔で 思わず手を下ろす。だがルイズとキュルケ、応急処置された金髪の優男は手を下ろそうとしない。 「Mr.コルベール、その男は危険です!!」 「言うに事欠いて何を言ってるんですかミス・ヴァリエール!……それ程説教を受けたいと言うならそれも良いでしょう……ミス・ヴァリエール とミス・ツェルプストー、Mr.グラモン、三名とも私の自室に来なさい……」 穏やかそうな人が怒ると怖いものだ、あっという間に全員パクられた。大勢居たメイジも戦意喪失したのか、しげしげと集団が解散されていく。 「しかし何があったんだ……アンタ…そう言やアンタの名前を聞いてなかったな」 「トニー・シプリアーニ、トニーと呼んでくれて結構だ」 「トニー、どうだい?ここにワインがあるんだが飲むか?」 おお、今日の夕食には酒付きか……こりゃ有り難いな。 「それは嬉しいな、頂くよ」 今回のおまけ mission completed! ルイズの部屋に棍棒が届いた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2318.html
――朝。俺はこいつら貴族よりも早く食事を済ませると、ルイズの汚れた洋服の洗濯をしてやる事にした。俺に色気のない下着と 言われた影響もあり、男の俺では理解できないが……と言うよりは穿きづらいだろうと率直に感じるフリルのショーツが数多く 出て来る。いやいやいやいや……逆に子供っぽいんだよ。まぁ、本人は本人なりに努力しているのだろうが。 「……しかし、目立っているな……」 洗濯が終わり授業に付き合うと、昨日のように後ろの席ではなく《意図的》に真ん中の席に座る。これは恐らく昨日の一連の騒動が 原因で、全員俺を見張っているのだろう。加えて教室を見渡してみると優男の姿はない。 「なぁルイズ、あの優男いねぇな」 「ギーシュ?……魔法で治療したけど、心が挫けて今日は休みよ」 ああ、なるほど。こいつらメイジだったな……だが、心の傷までは治せねぇか。 「今まで《属性》が一つも……あっ…!」 シュヴルーズの授業の最中《属性》の話になった時、ルイズを指差してモンモランシーが言おうとしたが寸前で口を閉じる。これは キュルケから聞いた事なのだが、どいつもこいつも俺が恐ろしいらしい。ルイズに何か言うものなら殺されかねない、何をされるか 分からないという恐怖心から、一歩下がって様子を見ている。何だ、まるで俺は《腫れ物》じゃねぇか。まぁいいか、結構ルイズに 向けられる野次はきついからな。それ位の威圧があったほうが、こいつもやりやすくなるだろう。 「すまないなマルトー、今日も酒まで頂いちまってな」 「気にするな」 夜になりマルトーから結構豪勢な夕食を振舞われると少し庭を散歩して『隠れ家』に帰る。だが、今日はちょっとした異変に遭った。 帰り道に見覚えのある火の点いたトカゲが横たわっている。こりゃキュルケのヤツじゃねぇか。 「ん?……おいおい冗談はよせ……おおお!?」 俺を見かけるとすぐさま寄ってきて、トカゲが取らないであろうモモンガのような姿になって俺を包み込むように被さってきた。 突然の事に何も出来なかった俺は押し倒され、がぶっと噛み付かれてそのまま口に咥えられながら拉致された。 「バカお前何すんだ、咥えるなっ!」 何とも格好悪い姿で運ばれると、さも当然のようにこのトカゲは手を使ってドアを開けて俺を恐らくキュルケの部屋だろう薄暗い ……いや、相当暗い部屋に押し込み、絨毯の上で解放する。 「……生まれて初めて、動物のように運ばれたな……」 ある種の屈辱的な運ばれ方をされた俺は少々現状の把握に苦しむのだが、目の前にはネグリジェ姿のキュルケが月光を背に立っていた。 何か本気で嫌な予感はするものの、好意的に接するキュルケには恐怖心は感じない。しかしながら、16歳にしては色気があるものの、 俺からすれば幼く見えてしまい、どうにもこうにも対応に苦慮する。 「色っぽい格好だな」 「ふふふ……」 誉められたと思ったのだろうか初めて見るような微笑をみせる。そこには恍惚とした表情があるのは気のせいだろうか。 「ようこそ私のスゥイートルームへ、トニー・シプリアーニ」 色目を使ってる?……マジか。 「そう言えばどちらが本名?トニー?アントニオ?」 「どちらも間違っていないが、トニーと呼んでくれたほうが嬉しい」 俺は多分変わらない表情でこう返した。恐らくこんな状況でも、多分俺はにやける事は無いだろう。 「分かったわトニー、いけない事だとは思っているけど、でも私の二つ名は『微熱』……たいまつみたいに燃え上がりやすいの」 目を潤ませながらこんな事をのたまう。お前本気で言ってるか?16歳のガキの台詞じゃねぇぜ……。キュルケは胸を寄せる仕草や 背を伸ばして色っぽく見せる仕草は最早恋愛馴れしていないガキが出来る芸当ではない。手馴れているな……。 「お分かりにならない?……恋しているのよ私、貴方に」 ……正気か?今日日のガキはどこでこんな事を覚えてくるのだろうか不思議でならない。 「恋は全く突然ね」 待て、一歩間違えばそれは自分の股が緩いと言う事を意味しかねないぞ。やれやれ、キュルケの眼はマジだ。 「貴方がギーシュを倒した姿……格好良かったわぁ……あれを見て、『微熱のキュルケ』は『情熱のキュルケ』になってしまった……」 そう言って顔を近付けてきた刹那、目の前の窓から二日前に噴水の前でキュルケと一緒にいた老け顔のメイジが顔を覗かせる。 ……こいつは……やれやれ。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2244.html
――ルイズ側。 私は心配だった。貴族と平民が喧嘩して怪我で済めばいいほうだから。魔法を使えない平民は、貴族からしてみれば赤子の手を捻るもの だから。怒り任せに貴族が魔法を使えば、平民なんて消し飛んでしまう。だけど――― 「逃げずに来たのは誉めて……アッ―――――――――――――――――――――!!」 私はトニーが対峙した瞬間眼を背けた。だけど、視点を戻したら聞いた事の無いギーシュの悲鳴と火だるまになっている姿。信じられ なかった。魔法?……そんな筈ない。トニーは魔法の存在しない世界から来たと言う事は知っているから。疑問は多かったけど、この時に 私の脳裏をある台詞が過ぎる。 《『殺られる前に殺れ』、これが俺たちの生き残る唯一の手段だ》 ―――怖い!!私が最初にトニーを見たときに感じた冷淡な感覚のその一端の正体を垣間見えた気がする。だけど、授業で私を庇った 姿や、クールでニヒルな姿が重なるとその感覚が陰に潜む……。 予想通りギーシュのワルキューレによる反撃を被った。あの大きい体が何度も揺さぶられた様は、見ていられなかった。シエスタも 眼を背けてた……でも正直、ここからが理解に苦しむ。トニーの凄い走行量とワルキューレが四散した事。なんであのワルキューレが 砕け散ったのかが分からない。気が付けば、体が焦げて血だるまになったギーシュが運ばれていく姿と、皆で必死になって止めていた トニーの姿だった……。 「な…何があったの?」 思わず横にいたシエスタに聞いてみた。でも、彼女は両手を口に置き、何も言葉が出せなかった。 俺は治療を受けながら、メイジ達から茶とケーキを振舞われた。なぜこんな事になっているのか俺には少々理解に苦しむ事態なのだが、 メイジ達は複雑な笑みを浮かべながら、俺に飲んでくれ、食べてくれ、おかわりはいかが?と振舞ってくる。気持ちの悪い事この上無い のだが、折角振舞われたのだから美味しくいただく事にする。 「どうぞ、お茶のおかわりです」 分からないのが、このシエスタが心なしか楽しそうに俺に振舞う姿がある。 「なぁキュルケ、これはどう言う風の吹き回しだろうか」 「深い意味はないと思うわ、遠慮なく頂けば良いと思うわよ」 キュルケに聞いてみてもこんな返事が返ってくる。首を捻りたくなる状況だが、こんなのも悪くはないだろう。 「ところでトニー、私が聞きたい事あるんだけど、聞いて良いかしら?」 「答えられる事ならな」 一息ついた頃、キュルケとルイズが俺の正面に座りこう切り出す。 「「なんで、ギーシュが火だるまになったの?」」 二人が声を揃えて聞いてくる。思わず吹きそうになったが、何とか表情を変えずに答える事が出来た。 「それはだな、これを使ったからだ」 そう言って俺は、火の点いていない火炎瓶を取り出す。これを見たキュルケとルイズは二人して首を捻った。この二人、仲悪いが実は 相性いいんじゃないのか? 「これで何で燃えるのよ」 「先に詰め込んでいる紙があるだろ?これをだな……」 俺は火炎瓶の仕組みと簡単に説明する。実に単純なものなのだが、この二人熱心に聞いている。この世界はまだ実用的なものではない ようにも見えるが、仲の悪い二人が並んで聞いている様は正直面白い光景だ。 夜は夜で食事もマルトーから結構豪勢なものとワインを振舞われ、気持ちの良い気分になる。久しぶりに腹一杯食べた俺は、済んだ良い 空気と、地球では見る事はまずないであろう二つの月の素直に綺麗と言える風景に包まれながら煙草に火を点けて一服をしていた。 ……これで元の世界に戻れれば、御の字なのだろうがな。 「トニーさん、どうなされたのですか?」 煙草を吸いながら散歩をしていると、シエスタが後ろから声をかけてくる。 「ああ、食事の後の散歩だ。元の世界に居た時はこんなのんびりな事は出来なかったのでな」 「トニーさんの居た世界は、どんな世界なのでしょう?」 気がつけば、このシエスタと並んで歩いていた。 「知らん方がいいと思うぜ」 流石にこんな娘に《アメリカ最悪の街》リバティーシティを教える気にはならなかった。俺みたいな人種には居やすい街だが、もし自分が 堅気だったなら、絶対住みたくはない町だろう。 「ふふふ」 シエスタは優しい微笑を見せ、 「トニーさん、今度二人で一緒に居ませんか?」 思っても見ない台詞が出て来る。 「ん?おいおい、俺でいいのか?」 「ふふふふ……おやすみなさいトニーさん、また後ほど」 「ああ、おやすみ。シエスタ」
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/3609.html
4人が散々油を絞られている最中に俺は食事を済ますと、澄んだ闇夜が包む学院内を散策していた。取り合えず今日は喰っちゃ寝の一日に なっちまうからな。 「こんばんわ、トニーさん」 聞き覚えのある声がする方に向くと、シエスタが石段に腰を下ろしている。この娘も気晴らしの散策だろうか。 「よう、シエスタ」 この娘は丁寧に挨拶を返してくる。全く、ここの連中に見習わせたいものだな。 「それにしても、昨日と今日の事で叱責が有ったとか無かったとか聞きましたけど?」 「はははは……そりゃ貴族の連中だ、付き添いの俺までそんな事されちゃたまらん」 ルイズ・タバサ・キュルケ・ギーシュが一同に揃って説教と言うのは珍しいらしく、内容の詳細は漏れてはいないものの笑い話のネタには されており、こうやって平民でも声を上げて笑ってしまうようなものだという。ああ、詳細知ったらきっと『引く』だろうよ。 「ふふふ……そう言えば、トニーさんはどちらの出身なんですか?」 会話が一段落すると、シエスタは自分からこんな事を尋ねてきた。前にも一度こんな事を聞いてきて、答える気にはならなかったが、今回は どう言う訳かすらすらと答えてしまった。気分的なものだろう。 「アメリカ合衆国の『リバティーシティ』って場所だが、この世界とは違う。多分異世界の住人だよ、俺は」 煙草に火をつけながら俺はこう答えた。多分間違ってはいないのだろう。だが、この言葉の後のシエスタの言葉は続かなかった。それどころか、 「あの……トニーさん、ありがとうございます」 「んん?」 行き成り礼まで言ってきた。 「行き成り何だ?俺は礼を言われる事はしていないぜ」 「いえ、何が起こってもめげずに、平民なのに貴族に立ち向かったり、そんなトニーさんに一杯勇気をいただきました」 礼の意味を聞くと、とても礼を言われる物ではない。 「トニーさんのお陰で、これからも頑張れます」 この言葉が大きく引っ掛かる。どうして引っ掛かるのかは詳細は分からないが、何か引っ掛かる。物凄く悪い意味合いで。 「おやすみなさい」 「……おやすみ」 俺は見逃さなかった、この娘の寂しそうな横顔を。 何ともしっくりと行かない挨拶をすると、俺は何をするのでもなく隠れ家(ルイズの部屋)に足が向いていた。そろそろ、油絞りも済んだ頃 だろうよ。 「……」 だが、何と言うか、帰路の途上にはやっぱりと言うか、子供が着けるにはちと早い気もするランジェリーに身を包んだキュルケが手薬煉引いて 待っていた。 「……キュルケ……何と言うか、すげぇ格好だなオイ」 「貴方を待っていたの、トニー」 この女の辞書には、疲労と言う言葉は存在していないらしい。ルイズ・タバサ・キュルケ・ギーシュは揃って説教されていたと思うのだが、 やはり子供は元気なものだ。 「おめぇも好きだねぇ」 半ば呆れが入った言葉と共に言うと、かなり年齢不相応な笑みを浮かべてこう言ってきた。 「ふふ、今日はトニーにあげたい物があるのよ……この間買ってきた金の剣なのだけど、どうせ私じゃ使わないから」 「いらねぇよ」 元々、あの煌びやかな剣は出所も存在も気に入らなかったし、剣を振り回す前に、ピストルの引き金を引いる方が早いかも知れん。第一、 実戦に耐えられるのかも正直微妙だしな。 「あら、御不満かしら?」 「元々剣を振り回す文化で生きていた訳じゃないしな」 ルイズが絡んだ厄介事にはしたくなかったので、当り障りの無い言葉を選んでその場を切り抜けようとする。だが、 「なら折角私の部屋の前を通り掛ったのだから、お茶の一杯位は召し上がっていってよ」 「……仕様が無い、御馳走になろう」 多分暫くこの世界に留まる事と、ルイズと付き合っていくと当然何かと世話になるかもしれないと言う事を考えると、無下に断わる事もできず 茶の一杯位なら付き合っても罰も当たらないだろう。 だが、この考えが甘かった。キュルケは性的な意味で俺を落とそうと本気で狙ってやがる。 「このトルマリンリングなんて、どうかしら?」 「……」 確かに茶は出て来た、かなりの上物が。多分、リバティーシティでもこれだけの上物の紅茶は手に入るまい。そう思えるほどの紅茶が出て来た までは良かったのだが、此処からがキュルケの策だった。 「いや、ただ茶に誘われてきたのに、そんな上等な宝物受け取れるわけが無いだろ」 「別にそうは思わないけどねぇ」 一緒に向かい合って茶を御馳走になったまでは良かったのだが、キュルケは自分の宝箱とも思える小さい箱からこれでもかと、宝物と言っても 差し障りの無い金・貴金属・豪華な細工物を出して俺に勧めてくるのだ。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2509.html
「ギーシュ、お前ルイズに何て聞いて何て答えられた?」 宛ら頭痛すら感じるこの状況で俺はこう切り出す。本気で余り関りたくはないのだが、状況が読めない以上仕方ない。 「いや……ルイズに『トニーを少しの間貸してくれ』って言ったら『私は嫌。だけどトニーの返答如何では考えなくも無いわ』って」 「ならダメだろ。ルイズが嫌だって言ってんだから」 逃げる口実が出来てすかさず俺は逃げる。自業自得で陥ったこの状況に巻き込まれるのはごめんだ。 「そこを何とか!……ほら、ルイズだって考えなくも無いって言ってる事だし……」 「……ルイズどうする?正直、俺は二股の自業自得を助ける気は無いがね」 俺に判断を振られたルイズは、苦悶の表情を浮かべながら苦し紛れとも言うべき答えを述べる。 「うーん……仕方ないわねぇ……トニー、気が向いたら助けてあげて」 「ああ、わかった」 ルイズの答えにパッっと笑顔になる優男。現金な野郎だ。 「すまない、恩に着る」 「だが今直ぐじゃない。明日は用があるから明後日以降だ」 流石にキュルケと青髪で短髪の姉ちゃんをドライブに連れて行くなどと言える筈も無いからな。 ――翌日。 「どうしてルイズが居るのよ」 「さぁな」 翌日、講義が終った後約束の待ち合わせ場所であるガレージに行き、キュルケと青髪で短髪の眼鏡を掛けた姉ちゃんと待ち合わせを した所、ガレージの裏からルイズが出て来た。待ち伏せしていやがった。 「……トニーの後を付いて来ただけよ。主人として当然じゃない!」 ストーカーかヒットマンやらに間違われるぞ。 ルイズとキュルケは本当に仲が良いので後部座席に乗せ、こちらの青髪の姉ちゃんを助手席に座らせる。察してくれ。 「あなたトニーが来た日にクルマに乗ったのだから、乗らなくても良いのに」 「別に良いじゃない」 別にそんなものでもないのだがな……それにしても、この青髪の短髪の姉ちゃんは静かに風景を眺めているな。ほぼオフロードだから 下は凸凹なのだが、後ろの二人の憎まれ口の言い合いに比べれば可愛いものだ。 「姉ちゃんは可愛いな、他の貴族のように憎まれ口一つ叩かないしな」 「……そう?」 何気なく言った一言だが、この青い髪で短髪の姉ちゃんはそう答えながら赤くなっている。しかし余計なものも釣れた様で、ルイズと キュルケはまんまと釣れてしまった。 「「それはどう意味!?」」 「言葉のあやだ、気にするな」 その後も他愛のない会話が続きながら、学院周辺を走る。でも何処もオフロードだからボコボコでケツが痛い。 「それにしても、前から気になっていたんだけど、どうしてモンモランシーの事を知っていたのよ?」 「ああ、あれはルイズに名状し難い何かを喰わされそうになった時に俺逃げただろ?……あの時にMr.コルベールの部屋を案内して 貰ったんだよ。お陰で命拾いをしたよ」 こう言うとキュルケは爆笑し、この短髪の姉ちゃんは笑いを堪えていた。だが事実だから仕様がない。黙っていたら本当にあの猫でも 喰わなそうなモノを喰わされそうになったんだぞ。 「あとさ、いい加減名前覚えてあげなよ……タバサの」 「んん?この姉ちゃんの名前か……そう言えば聞いてなかったからな」 タバサと言うのか、以後覚えておこう。 「なぁ、ここだけの話だが……極めてここだけの話だが俺の質問に答えてくれ」 一心地ついたところで、俺は引っ掛かっていた事をぶつけてみる事にした。 「何かしら?」 「昨日、学院内をふら付いていただろ?その時に俺は学院内でおかしな女に誘惑された。見た目この学院の関係者だろう容姿で、緑の髪で ポニーテイル、実際は若いんだろうが年増風で眼鏡を掛けた女なのだが、誰だか分かるか?」 この質問に少々場が沈黙する。 「多分……容姿的に合っているのは……だろうけど、誘惑……ううーん……」 あのキュルケが本気で悩んでいる。 「分からないか?」 「いや、思い当たる節は大いにあるのだけど、イメージがねぇ……イメージを無視すれば、多分間違ってなければ、ミス・ロングビル……」 捻り出した答えは『ミス・ロングビル』。そのロングビルがどうして俺を?……全く意味が分からん。 「生真面目そうでお堅そうな年増が誘惑……少々イメージがねぇ……トニー、何かされたの?」 「いや、文字通り誘惑されただけだ。身をかわしたら今度は『男好きか?』と言いやがった。思わず俺は『Fuck you!!』って言っちまったね」 キュルケとルイズは爆笑している。リアルな事だけに面白いのだろう。 「はははは……可笑しい。その時のミス・ロングビルの表情見たかったわ……」 キュルケがこれほど笑うほど、あの女は真面目なのだな……これは注意深く見ていた方が良さそうだな、必ず何かしでかす。 「それにしてもさトニー、ギーシュのあの一件本当に手助けするの?」 ああ、面倒臭い懸案を今持ち出さないでくれルイズ。折角気の良い姉ちゃんに囲まれてドライブに勤しんでいたのによ。 「やるって言っちまった以上、やるしかあるまい」 mission:『ギーシュ・ド・グラモン:I Scream You Scream』