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第一部『ゼロのルイズ』 ■ DIOが使い魔!?-1~10 ├ DIOが使い魔!?-1 ├ DIOが使い魔!?-2 ├ DIOが使い魔!?-3 ├ DIOが使い魔!?-4 ├ DIOが使い魔!?-5 ├ DIOが使い魔!?-6 ├ DIOが使い魔!?-7 ├ DIOが使い魔!?-8 ├ DIOが使い魔!?-9 └ DIOが使い魔!?-10 ■ DIOが使い魔!?-11~20 ├ DIOが使い魔!?-11 ├ DIOが使い魔!?-12 ├ DIOが使い魔!?-13 ├ DIOが使い魔!?-14 ├ DIOが使い魔!?-15 ├ DIOが使い魔!?-16 ├ DIOが使い魔!?-17 ├ DIOが使い魔!?-18 ├ DIOが使い魔!?-19 └ DIOが使い魔!?-20 ■ DIOが使い魔!?-21~30 ├ DIOが使い魔!?-21 ├ DIOが使い魔!?-22 ├ DIOが使い魔!?-23 ├ DIOが使い魔!?-24 ├ DIOが使い魔!?-25 ├ DIOが使い魔!?-26 ├ DIOが使い魔!?-27 ├ DIOが使い魔!?-28 ├ DIOが使い魔!?-29 └ DIOが使い魔!?-30 ■ DIOが使い魔!?-31~40 ├ DIOが使い魔!?-31 ├ DIOが使い魔!?-32 ├ DIOが使い魔!?-33 ├ DIOが使い魔!?-34 ├ DIOが使い魔!?-35 ├ DIOが使い魔!?-36 ├ DIOが使い魔!?-37 ├ DIOが使い魔!?-38 ├ DIOが使い魔!?-39 └ DIOが使い魔!?-40 ■ DIOが使い魔!?-41~48 ├ DIOが使い魔!?-41 ├ DIOが使い魔!?-42 ├ DIOが使い魔!?-43 ├ DIOが使い魔!?-44 ├ DIOが使い魔!?-45 ├ DIOが使い魔!?-46 ├ DIOが使い魔!?-47 └ DIOが使い魔!?-48 第二部『ファントム・アルビオン』 ■ DIOが使い魔!?-49~50 ├ DIOが使い魔!?-49 └ DIOが使い魔!?-50 ■ DIOが使い魔!?-51~60 ├ DIOが使い魔!?-51 ├ DIOが使い魔!?-52 ├ DIOが使い魔!?-53 ├ DIOが使い魔!?-54 ├ DIOが使い魔!?-55 ├ DIOが使い魔!?-56 ├ DIOが使い魔!?-57 ├ DIOが使い魔!?-58 ├ DIOが使い魔!?-59 └ DIOが使い魔!?-60 ■ タバサの安心・キュルケの不安 ├ タバサの安心・キュルケの不安-1 ├ タバサの安心・キュルケの不安-2 ├ タバサの安心・キュルケの不安-3 ├ タバサの安心・キュルケの不安-4 ├ タバサの安心・キュルケの不安-5 └ タバサの安心・キュルケの不安-6 ■ 親友 ├ 親友-1 ├ 親友-2 └ 親友-3 外伝 ~『恋愛貧乏、モンモランシー』~ 外伝~オスマンの過去~-1
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キュルケとタバサは、 ルイズがレビテーションも使わずに見事地表に到達してみせたことに対して、 激しく引いていた。 2人とも何も口にせず、 ただシルフィードがバッサバッサとはばたく音しかしない。 「……………………」 「……………………」 おそらく、考えていることは一緒なのだろうが、 それを口に出すのは、何というか ……とてもルイズに対して失礼な気がして、憚られた。 しかし、その気まずい沈黙をキュルケが破った。 「………………ねぇ」 「…………………?」 「人間って、こんな高い所から飛び降りても、 動けるんだ………」 「………………さぁ」 下ではルイズが、 ゴーレムをあっさりと倒したDIOと何やら話をしていた。 これからフーケを拘束する手順でも確認しているのだろうか。 そう思い至ったら、今まで呆けていたキュルケの心に、 メラメラと自尊心の炎が燃え上がった。 自分達は、ほとんど何もしてない。 ルイズを助けるためにゴーレムと一戦したが、 ほんの3、4合だけ、交えただけだ。 これではまるで、ルイズ…ヴァリエール家とDIOが主役で、 自分たちは引き立て役みたいに見えはしないか。 そんなこと、ツェルプストー家の血を引くキュルケが 許すはずがない。 ゴーレムを失ったとはいえ、 フーケはまだやられてはいないだろう。 イタチの最後っ屁くらいのことはする可能性が十二分にある。 それなら、自分たちがそこをやってしまえばいい。 ルイズよりも先に、フーケを捕らえるのだ。 何だか横取りするみたいだが、 それはツェルプストー家とヴァリエール家では日常茶飯事だから問題ない。 フーケを捕まえれば、美味しいところも取れるし、 フーケに対する意趣返しにもなるし、 何よりルイズはさぞ悔しがるに違いない。 油揚げをさらわれて、 顔を真っ赤にして地団太踏むルイズを想像して、 キュルケはウキウキしてきた。 善は急げと、キュルケはタバサに話しかけた。 「タバサ、私たちも降りるわよ!! ヴァリエールなんかに手柄を独り占めさせてたまりますかってぇの! GOよ、GO!」 バタバタと急かすキュルケに、タバサは普段と変わらない無表情で頷いた。 タバサ自身もそうするつもりだった。 今、あの2人をフリーにしておくのは、危険だと思ったからだった。 タバサの脳裏に、ブルドンネ街での出来事がフラッシュバックした。 (無駄無駄…) あの時のルイズの威圧感に、 珍しくタバサは逃げの一手を打った。 自分たちの知らないところで、 何かとても恐ろしい事が進んでいるのではという不安が、グルグルと渦を巻く。 目の前でやきもきしているキュルケは、 ルイズに対する対抗心や、功名心でフーケと戦おうとしているが、 それに比べて、ルイズはどうだろう。 名誉だとか、貴族としての誇りだとか ……そんなものよりも、もっと俗っぽくて、 大きな野望の為に杖を振るっているような印象を受けた。 その姿勢が微かに自分と重なって、 タバサはルイズに対して、奇妙な親近感も覚えていた。 タバサはシルフィードに、降下の指示を出した。 シルフィードがきゅいと主に応じて、ゆっくりと高度を下げていく。 半分ほど下がったところで、キュルケが疑問の声を上げた。 「……あら、ルイズの使い魔がいないわ。 どこ行ったのかしら? トイレ?」 ……………いない? それを聞いて、ゾワッと身の毛がよだつ感覚が、 タバサを包んだ。 今まで積んだ経験が、やかましく警報を鳴らす。 このまま降下することは、非常にマズいことだと直感で確信し、 タバサは1も2もなく上昇の指示をシルフィードに出した。 シルフィードは忠実に主の命令に従って、下降を止めた。 ――――しかしそれも失策だった。 一時的にだが、シルフィードの体が低空で停止してしまったのだ。 「失礼、お嬢様方」 突如、その場にはいないはずの、 第三者の声がして、2人は弾かれたように後ろを振り向いた。 ルイズがいなくなったことで出来たスペースに、 1人の男が腰を掛けていた。 脚を組んで、綺麗な紅い瞳で2人を見つめているその男は、DIOだった。 いつのまにか、そしてどうやってか、シルフィードに乗り込んでいたのだ。 いきなり積載人数が3人に増えたことに驚いたのか、 シルフィードの体は硬直してしまった。 DIOが瞬間移動らしき技を使える事は、 2人は先ほどのゴーレムを見て重々承知したが、 こうして音もなく背後に迫られると、改めて脅威を感じざるを得ない。 しかし、彼は現在ルイズの使い魔であり、 自分たちサイドであるはずだ。 まさか襲ってくるなんてこと、 あるはずがない………。 DIOに対する恐怖が、そのまま微かな甘えにつながり、 キュルケに間違った行動を取らせた。 キュルケは少々キョドった調子でDIOに話しかけた。 「な………何か用なわけ? あんた、御主人様を1人きりにしちゃ 危ないんじゃないの?」こっそりと距離を取りつつそう言うキュルケに、 DIOは静かに笑って、立ち上がった。 風竜の背中は、凹凸があってバランスが取りにくいにもかかわらず、 身じろぎすることなく、しっかりと両足で立っている。 その腰には、デルフリンガーが下げられているが、 鞘に入れられていて、沈黙を保っている。 ブロンドの髪が、風に吹かれてフワフワ揺れる。 キュルケを見下ろすDIOは、 キュルケから視線を外さずにゆっくりと背中に手を回して……………… "ズジャラァアァア!!" と、どこからともなくナイフの束を取り出した。 まさに魔法のズボンだ。 ジャラジャラと金属の擦れる音を鳴らせながら、 これ見よがしにナイフを握った手を揺らすDIOを見て、 キュルケの顔から、一気に血の気が引いた。 「あ………………まじ?」 その光景に、かつての決闘の折りのギーシュの末路が連想され、 キュルケはゴクッと唾を飲み込んだ。 「突然で不躾だが…私と一曲お願いできるかな、 ミス?」 フフフ…と妖しく微笑む様は、一見冗談めかしたようにも思えるが、 放つ殺気が、これは冗談ではないということを 雄弁に物語っている。 突如牙を剥いたDIOに、 キュルケはすぐさま杖を向けようとしたが……それよりも先にタバサが動いた。 タバサが高速で詠唱を行い、杖を振っていた。 次の瞬間、質量を持った風がキュルケ越しにDIOを襲い、 DIOはシルフィードの上からドカンと吹き飛ばされた。 「エア・ハンマー……!」 空中に投げ出されたDIOが、木の葉のように落下していく。 タバサはそれをじっと眺めていた。 「…ありがと。 助かったわ」 しかしタバサはキュルケに答えなかった。 下の森へと姿を消してゆくDIOを見て、 タバサは周囲に視線を巡らせる。 果たして、森へ墜落したはずのDIOが、2人の目前の宙に浮かんでいた。 瞬間移動だ。 気付いたと同時に2人ともが詠唱を行うが、 DIOはそれを許さなかった。 「視界が効くからな……空にいられては困る。 そら、そんな魔法より、 レビテーションとやらを唱えた方がいいぞ」 からかうように忠告をした後、DIOが軽く手を振った。 DIOの体から『ザ・ワールド』が浮かび上がり、 シルフィードの顎を強打した。 鋼鉄をも粉砕する『ザ・ワールド』の一撃で 脳をシェイクされたシルフィードは、白目を剥いて気絶した。 今度は、キュルケ達の方が木の葉のように落下する番だった。 2人とも大慌てで自らにレビテーションをかけ、 そのあと、タバサがシルフィードにもレビテーションをかけた。 ゆっくりと地面に降り立った2人は互いに背合わせに構え、 隙をなくす。 すると、時間的にはまだ宙にいるはずのDIOが、 木の陰から姿を現した。 不可解な現象を疑問に思う暇もなく、 2人は攻撃魔法を詠唱した。 最初に詠唱が完成したキュルケの『フレイム・ボール』が、 唸りをあげてDIOに飛来した。 しかしDIOは、飛んでくる炎の玉を避ける仕草すら見せず、 パンパンと手を二度打った。 すると、炎の玉がDIOの体をすり抜けた。 DIOが一瞬で2人の方へと移動したからだ。 炎の玉は、虚しく空気を裂きながら、 森の奥へと消えていった。 キュルケはその光景に唖然としたが、 惚けている暇などもちろんない。 「ラグース・ウォータル・イス・イーサ・ ハガラース……」 再び詠唱を始めるキュルケの隣で、 タバサが呪文を完成させて、杖を回転させた。 大蛇のような氷の槍が何本も現れ、 回転を始め、太く、鋭く、青い輝きを増していく。 「"氷槍(ジャベリン)"!!」 タバサの声と共に、トライアングルスペルであるジャベリンが、 DIOに襲いかかった。 それを見て、DIOは手を軽く振る。 『ザ・ワールド』が、DIOの体から浮かび上がり、 両の拳の壮絶なラッシュで、ジャベリンを迎え撃った。 「えぇい、貧弱!貧弱ゥ!」 拳と氷の槍が交差する。 『ザ・ワールド』によって亜音速で繰り出される拳の弾幕は、 ジャベリンを1本も後ろに通すことなく、 その全てをガラスのように粉々に砕いた。 トライアングルスペルが真正面からあっさりと破られ、 流石のタバサも動揺を隠せない。 攻撃の手が緩まったその一瞬の間をとって、 DIOがタバサに話しかけた。 「面白い魔法だ。 お前のような攻撃をする者を、私は1人知っている。 ………死んだがね。 もちろん私が殺した。 お前もあいつのようになりたいかな?」 タバサは聞こえない振りをした。 今や敵となったDIOの言葉など、聞くだけ無駄だと思ったからだった。 すぐに次の魔法を唱え始めるタバサだったが……… 「…やはり君は彼に似ている。 彼もそうだった。 心にぽっかり穴が開いていて、 決して満たされることがない。 心から望むものを、手に入れていないからだ。 ………違うかな?」 DIOの、心の隙間をつく言葉にタバサの詠唱が止まった。 ピンで止められたみたいに、 タバサは微動だにできなかった。 「私はそれを君に与えてやることができる。 …教えてくれ。 お前が欲しい物は……何だ?」 ―――私が、欲しい、物…………。 タバサはDIOの目を見た。 優しげな紅い瞳が、タバサを見返した。 その慈愛に満ちた眼差しに包まれて、 タバサは微かな安心を感じ始めてしまっていた。 まるで、母に抱きしめられているような安らぎを。 この人なら…………… 私の望みを叶えてくれるのではないか…? そう考えてしまうほど、 DIOの言葉は不思議な魅力に溢れていた。 ぱったりと攻撃の手を休めてしまったタバサを、 キュルケが叱責した。 「タバサ!! 何やってるの!!!」 キュルケが再びフレイム・ボールをDIOに放った。 しかし、やはりそれは瞬間移動によってかわされてしまう。 戦場で攻撃を躊躇するなど、 普段のタバサではありえないことなのだが、 キュルケの叱責をうけてもなお、 タバサは詠唱を再開することはなかった。 挙げ句の果てに、ぺたんと座り込んでしまい、 考えごとをするように沈黙している。 攻撃するのがキュルケだけになってしまい、 その結果、攻撃の間の隙が大きくなってしまった。 その隙を縫って、 DIOがゆっくりと近づいてゆく。 やろうと思えば、瞬時に距離をゼロにすることだってできるだろうに、 DIOは何故かそれをしない。 まるで時間稼ぎをしているようだった。 しかし、徐々に徐々に距離が縮まっていく様は、 逆にキュルケの神経に負担を掛ける。 それがさらなる隙につながり、ついに2人はDIOの射程圏に入ってしまった。 約8メイル。 まずい、と思う暇なく、 『ザ・ワールド』が現れた。 まさしく幽霊のような、 軌道を読ませない動き方でキュルケに迫った『ザ・ワールド』は、 その拳でキュルケの杖を弾き飛ばした。 「くっ…!」 杖を握っていた手に、鈍い痛みが走り、 キュルケは苦悶の表情を浮かべた。 「杖が無ければ、メイジはかくも無力だな。 我が『ザ・ワールド』の敵ではなかった」 もはや警戒する必要すらなくなり、 DIOはスタスタとキュルケに歩み寄った。 タバサはその傍で座り込んだままだ。 「なんで、いきなりこんなこと………! わけわかんないわよ!!」 理由もなく、突然襲いかかられたことに対する怒りから、 キュルケは怒声を張り上げた。 「残念ながら、私には答える必要がない。 ……雷に打たれたと思って、諦めるんだな」 キュルケの言葉をそう受け流し、 DIOはとどめをさすべく『ザ・ワールド』ではなく、 自分自身の手を振り上げた。 それを見たキュルケは、 直ぐに襲いかかるだろう痛みに備えて、体を硬直させた。 ―――そのとき、遠くから何かが爆発する音が聞こえた。 すると、DIOの左手のルーンがぼぅっ…と怪しい光を放ち始めた。 その光が輝きを増すにつれて、DIOが苦痛に身を捩る。 「……ッ! 良いところで茶々を入れるか…!! ………わかった。 すぐにそっちに行けばいいのだろう、ルイズ」 忌々しげな口調でブツブツと呟きだしたDIOに、 キュルケはただただ狼狽した。 暫くしたあと、DIOがキュルケに向き直った。 「『マスター』が呼んでいる。 残念ながら、ここまでだ。 もう少しだったが……まぁいい、収穫はあった」 チラリとタバサに視線を向けてそう言ったDIOは、 最後とばかりにナイフの束を取り出して、優雅に一礼した。 「途中でおいとまさせてもらう、私なりのお詫びだ。 遠慮なくとっておいてくれ」 DIOはパチンと指を鳴らした。 すると、DIOの姿が忽然と掻き消えた。 キュルケは、いきなりDIOが姿を消した事にも驚いたが、 目の前に広がる光景には更に驚いた。 何と、幾本もの鋭いナイフが、2人めがけて飛来してきていたのだ。 「ひぃぇ!?」 キュルケは情けない悲鳴を上げた。 "ドバァアー!" と、凄まじい勢いで接近するナイフを見て、いつぞやのギーシュのように、 ハリネズミになってしまう自分の姿が想像される。 しかし、そのナイフは2人に到達することはなかった。 キュルケの隣から発生した風の壁が、 ナイフを弾き飛ばしたのだ。 「ウィンド・ブレイク…」 力のない詠唱は、タバサから発せられたものだった。 魔力は精神力。 今、精神的に沈んでいるタバサでは、 いつものような烈風は起こせなかったが、 それでもナイフを弾き飛ばすには十分であった。 ガチャガチャと音を立てて落下していくナイフを見て、 安堵のため息をついたキュルケは、隣に座り込んでいるタバサを見た。 力の込もっていない瞳が、虚空を見つめていた。 タバサの杖が、コロンと転がった。 「タバサ……?」 キュルケの呼びかけに、タバサは虚ろな目をキュルケに向けた。 「………なさい」 「…え?」 「……ごめんなさい」 キュルケに視線を向けてはいるが、しかし、 キュルケではない誰かを見ているような視線で、 タバサはそう呟いた。 キュルケは一瞬、 あのとき詠唱を止めてしまったことを謝っているのかとも思ったが、 どうも違うようである。キュルケはひとまず、タバサに手を差し出して、 彼女が立ち上がるのを助けた。 しかし、立ち上がってからもタバサはただ、 ごめんなさい…と繰り返すだけだった。 それが誰に向けた謝罪なのか、 キュルケにはようとして分からなかった。 to be continued……
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ルイズはニヤニヤしながら自分の使い魔の背中を見送った。 ルイズには考えがあった。 どうせ怒りのやり場を失っているギーシュは、DIOに決闘を申し込んで憂さを晴らそうとするに決まっている。 平民が貴族に勝てるわけがないという前提がその根拠だ。 しかし、ルイズにとっては、DIOがギーシュに勝とうが負けようがどうでもよかった。 DIOがギーシュに勝てば……それでいい。 自分は何もする必要がない。 ただ、DIOがギーシュを殺そうとしたなら、それを止めればいいだけだ。 万一DIOが逆らっても、強制執行してしまえばいい。 気絶してでも。 それは別にいい。 DIOがメイジに勝つほどの強さを秘めているのなら、それくらいの覚悟はしよう。 そしてもしDIOが負けたなら、ルイズはDIOを吹き飛ばすつもりだった。 所詮カリスマだけの使い魔なら、ルイズは用はなかった。 ルイズが求めるのは、真に力を持つ使い魔だ。 ギーシュ程度におくれをとるなら、問答無用で吹き飛ばして、改めてサモン・サーヴァントを行えばいい。 『ゼロ』と呼ばれることには変わりないけど、少なくとも安穏とした生活が戻ってくる。 『旧い使い魔を殺せば、新しい使い魔を召喚できる』 これはルールだった。 つまり、どう転ぼうがルイズに損はないのだ。 ルイズは、自分がDIOを吹き飛ばして、粉々の肉片にする様を想像して、ウットリした。 正直に言うと、どちらかというとルイズはDIOに負けてほしかったのだった。 だが、ルイズにとっての目下の問題は、これから起こる決闘の行く末ではなく、目の前に置かれているワインだった。 ルイズはDIOが飲み残した、アルビオン産のワインボトルに手を伸ばした。 一口飲む。 実に旨かった。 ギーシュは、突如後ろからメイドの両肩に手を乗せた男に、鋭い視線を向けた。 メイドが振り向いて一言「DIO様」と呟いた。 DIOはシエスタの肩に手を置いたまま、ギーシュに言った。 「『君が軽率に…香水の瓶なんか落としてくれたおかげで…二人のレディと、私のメイドの名誉が傷ついた。……どうしてくれるんだね?』」 DIOはクックッと笑った。 明らかに先ほどのギーシュの言葉に対する当てつけだった。 ギーシュの取り巻きが、どっと笑った。 「そのとおりだギーシュ!お前が悪い!」 ギーシュの顔が、屈辱で真っ赤に染まった。 「ふん……!お前は確か、平民だったな。あの『ゼロ』が呼び出したっていう」 ギーシュはルイズの方をチラと見た。 ルイズはワインを飲んでいた。 いい具合にほろ酔いなルイズは幸せそうだった。 こちらを全く気にした様子もないことが、ギーシュの癪に障った。 「そろいもそろって、貴族に対する礼儀を知らない奴らだ。 君たちのようなものを野放しにしたら、我々貴族の沽券に関わる!」 自分はともかく、己の主をこき下ろされて、シエスタの目が怒りに染まった。 ギロリと睨みつけてくるシエスタに、ギーシュは思わず気圧された。 「だとしたら、どうするかね…?」 DIOはシエスタを抱き寄せながら言った。 シエスタの顔が嬉しそうにほぅと和らいだ。 ギーシュはそんな二人にますます顔を赤くし、マントを翻して言い放った。 「よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ」 DIOはギーシュに分からぬようにほくそ笑んだ。 「ヴェストリの広場で待っている。 いつでも来たまえ」 ギーシュの取り巻きが、わくわくした顔で立ち上がり、ギーシュを追った。 ギーシュの姿が見えなくなると、DIOはシエスタを放した。 シエスタはその場に畏まった。 「申し訳ありません、DIO様! 私が至らぬばかりに、DIO様にとんでもないご迷惑を…!」 「シエスタは自分の仕事をしただけだ。 気にするな」 「あぁ、DIO様。御慈悲に感謝いたします……!」 さっきのギーシュに対する謝罪とは全然違うシエスタの態度に、ルイズは笑いを堪えきれなかった。 クスクス笑っているルイズの席の方へ、DIOは戻っていった。 シエスタはしずしずと彼に従った。 ルイズは、決闘になることは分かっていたが、それをDIOの方からけしかけていたことが、不思議だった。 ルイズは笑いながらDIOに聞いた。 「どうしたのよ?自分からふっかけるなんて。 キャラじゃないわよ?」 ルイズの問いに答える前に、DIOは空になったグラスにワインを注ごうとボトルを傾けた。 が、何もでてこない。 DIOははぁ、とため息をつき、ルイズを見た。 ルイズはチシャ猫のような、してやったりの表情を浮かべていた。 「……君の話と、さっきの授業で、この世界の魔法という技術体系は概ね把握したつもりだ。 私はそれを身をもって知る必要がある。 そしてもう一つ……」 ルイズは微笑みながら先を促した。 「私の『スタンド』の回復具合のチェックだ」 聞き慣れない単語に、ルイズは首を捻ったが、ようは自分の実力試しをするつもりなのだろうと結論した。 「まぁ、別にアンタの意図はどうでもいいわ。 でも……」 途端に、ルイズの笑顔がピタリと消えた。 さっきまでの微笑みが嘘のような無表情だ。 ルイズはDIOの目を覗き込んだ。 「でも、さっきアイツは私のことを『ゼロ』と呼んだわ」 DIOは何も言わない。ルイズは続ける。 「もし…アンタがギーシュに勝ったら、構わないわ……そのままギーシュを殺しなさい」 許可でも懇願でもない、冷徹な命令だった。 「だが…色々と問題があるんじゃないか?」 そういうDIOに、ルイズは一転して笑顔になり、杖を取り出した。 「あら、大丈夫よ。粉々に吹っ飛ばすから。 それに、使い魔の責任は、御主人様の責任よ?」ルイズは笑顔で言った。 ルイズの杖が"ミシッ"と音を立てた。 今にもへし折れそうだ。 DIOは一言「おぉ、コワい」と言った。 しかし、言葉とは裏腹に、DIOの顔には笑みが浮かんでいた。 「そう?これでも最初は死人沙汰は避けようと思って『いた』のよ?」 ルイズはDIOからちょろまかしたワインの最後を飲み干した。 どうやら彼女は、まだあの授業の時にからかわれたことを根に持っているようだった。 「で、これからどうするの?すぐにヴェストリ広場まで行く?」 そう聞いてくるルイズに、DIOはかぶりを振った。 「いや、これから少し厨房に寄る。色々と入り用のものがある」 ルイズはそれまで一度も 厨房に入ったことがなかったので、興味をそそられた。 ついて行くと言うルイズを、DIOは無言で承諾した。 「DIO様、ミス・ヴァリエール、どうぞこちらへ」 シエスタの案内で厨房についたルイズは、予想外にごちゃごちゃしている様子に眉をひそめた。 こんな汚い場所に、何の用があるというのだろうか。 すると、奥で鍋をふるっていた男がこちらに気づき、ドスドスと音を立てて近づいてきた。 「おぅ、誰かと思ったら、DIOじゃねぇか!」 そう叫んでDIOを歓迎したのは、料理長のマルトーであった。 DIOにワインを振る舞った人物である。 彼は平民なのだが、魔法学院の料理長ともなれば、その収入は身分の低い貴族なんかは及びもつかなく、羽振りはいい。 そしてマルトーは、そんな裕福な平民の多分に漏れず、貴族と魔法を毛嫌いしていた。 シエスタは二人の邪魔にならないように、少し離れた場所に控えた。 豪快なマルトーの態度だが、意外にもDIOは気にせず答えた。 「やぁマルトー。君のイタズラは、どうやら大成功のようだったな」 マルトーはそれを聞くと、喜びと苛つきが混ざったような矛盾した顔をした。 ルイズはわけがわからず二人の顔を交互に見やった。 「ハンッ、それみたことか! 貴族の連中め、散々っぱら威張り散らすくせに、味の違いもわからねぇときたもんだ。恐れ入るぜぃ!」 そういうと同時に、マルトーがルイズに顔を向けた。 「誰でぇ?貴族様がこんなところに、何か用かい?」 「彼女は、私のご主人様だよ、マルトー。 ルイズ、という」 DIOがそういうと、マルトーはその大きな目をさらに大きく見開いて、ルイズを見た。 そして、大声で笑いだした。 「ブッハハハハ! ご主人様!?この小娘が?お前さんの?冗談きっついぜおい!」 ガハハと笑うマルトーに、DIOは低い声で言った。 「ルイズは、君のイタズラに気付いていたぞ?」 マルトーの笑いがピタリと止まった。 そして、しげしげとルイズを眺め回した。 その視線を不快に感じて、ルイズは一歩退いた。 「何よ、さっぱり話が見えないんだけど!? 説明しなさいよ!」 マルトーは頭にかぶっている大きな帽子をかぶりなおした。 「……俺は貴族が嫌ぇだ。奴らは口を開けばやれ魔法だの、やれ貴族の教養だのとぬかしやがるからな。 だから、俺はチョイと試してみたくなったのさ」 ルイズは未だに話が見えず、首をかしげた。 「俺は今日の生徒の昼食にだすワインを、普通の庶民が飲むような安物にすり替えてやったわけよ。お嬢ちゃんは気づいたみてえだがな」 ルイズはハッとした。 あのワインはそういうことだったのか。 貴族である自分を試されたと言う事実と、一口とはいえ、安物を飲まされたという事実に、ルイズは腹を立てた。 そんなルイズを見て、マルトーは反論した。 「お怒りのようだがよ、お嬢ちゃん。あんたの周りに気づいた奴がいたか?これっぽっちでも、怪しんだ奴がいたか?」 ルイズは言葉に窮した。誰も少しもおかしいと思っていなかったのは事実だ。 「おたくらが豪語する貴族の教養ってのは、所詮そんなもんなんだよ。 その点、DIOは本物だ。こいつは違いが分かる奴だ。こいつに飲まれたあのアルビオンのワインは幸せものってやつよ」 ルイズは何も言い返せなかった。 「だが、あれに気づいたお嬢ちゃんも、てえしたもんだ。 次からは、お嬢ちゃんにも他の奴らよりチョイと良いヤツを出してやるよ」 ルイズは何だか納得がいかなかったが、相手が料理長ということもあり、その場は矛を収めた。 「ところで、マルトー。……頼みがあるんだが」 話の区切りを見たDIOは、自分の用事に入った。 自分には関係ない話だと思い、ルイズはその場を離れた。 ふと横を見ると、シエスタがこちらをじーっと見つめていた。 「……何よ?何か用?」 「いえ、何も、ミス・ヴァリエール」 それっきり、シエスタは視線を逸らした。 そんなシエスタの態度にルイズが居心地の悪さを感じていると、DIOがルイズの方に戻ってきた。 話は終わったようだ。 シエスタがDIOに深くお辞儀した。 「で、一体何の用だったわけ?」 とりあえずルイズは聞いた。 「……ちょっとした借り物だ」 DIOは答をはぐらかしたが、ルイズはそれ以上追及しなかった。 「では、ヴェストリ広場とやらに向かうとするか。 シエスタ、案内しろ」 シエスタはかしこまりましたと言った。 ルイズはマルトーの言葉の意味を深く考えていた。 to be continued…… 22へ
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六体のワルキューレを捌きつつ、DIOは己の半身である『ザ・ワールド』を見て歯噛みする。 これが、我が最強の『スタンド』の……そして、このDIOの成れの果てなのだ、と。 何と無様な姿ではないか。 以前のような勢力は伺えようもない。 これでは、『ザ・ワールド』の真の能力など、発揮できるはずがない。 しかし、とDIOは思い出す。 しかし、あの授業の時ルイズの策謀が実を結ぼうとしていた時、自分は確かに『動けた』。 一秒にも満たない時間だったが、とにかく動けたのだ。 それこそが、この下らない決闘の真似事をする気になった最大の理由なのだが……『動けない』。 あの時はただの偶然だったのだろうか? (………ジョースターめ!!) DIOは焦っていた。 ギーシュは、六体のワルキューレが平民を翻弄する様を見て、決闘の勝利をほぼ確信した。 どうやらあの平民は、例の幽霊と同じくらいの腕力を有しているようだが……それだけだ。 四方八方から襲いかかるワルキューレに、段々対応しきれなくなってきている。 平民と幽霊が、いくら青銅をへこませようと、無機物であるワルキューレにとっては屁でもないのだ。 ギーシュは、圧倒的優位によって、自分の貴族としてのプライドが満たされ、満足していた。 (これでいい、これでこそが貴族さ) ギーシュは余裕の笑みを浮かべた。 同じくルイズも、決闘の勝敗をほぼ確信していた。 やはり平民は貴族に勝てないということかと思うと同時に、珍しくDIOが焦っている様子を見て、何だか心がざわついた。 あれは、使いたいものがあるけど、それを使えない人間が浮かべる表情だ。 たとえば、コモン・マジックは使えるのに、普通の魔法が使えない、自分のような人間の。 ルイズはDIOを爆破するのはもう暫く後にしようと考えた。 ルイズの杖は、早いとこギーシュかDIOのどちらかの血をすすりたいと、慟哭していた。 ズバッと肉が切断される音が響き、DIOの左腕が宙を舞った。 周囲の人間がキャアと悲鳴を上げた。 DIOの傷口から、血が吹き出した。 ワルキューレに蹴り飛ばされて、DIOは地面に転がった。 ギーシュは微笑みながら薔薇を振った。 一枚の花びらが、一本の剣に変わる。 その剣は、うつ伏せに転がるDIOの隣の地面に突き立った。 DIOはチラとそれを見た。 「君、これ以上続ける気があるのなら、その剣を取りたまえ。 そうじゃなかったら、こう言いたまえ、ごめんなさい、とな。それで手打ちにしようじゃないか」 DIOは何も言わない。 ルイズは黙して動かない。 シエスタも黙して動かない。 「わかるか?剣だ。つまり『武器』だ。 平民どもが、せめてメイジに一矢報いようと磨いた牙さ。まだ噛みつく気があるのなら、その剣を取りたまえ」 と、DIOがそろそろとその剣に右腕を伸ばした。 ルイズは、その様を見て唾棄した。 そろそろ消し時かしら、と思った。 しかし、DIOがその剣をつかんだ瞬間、その剣が、あたかも繊細なガラス細工のようにコナゴナに砕け散った。 DIOの体がブルブルと震えだし、辺りに嫌な空気が漂い始めた。 ギーシュは、むっと方眉を上げた。 DIOがぽつりと呟いた。 「……よくも。この若造が…!」 DIOがばっと顔を上げた。 地獄から響き渡る、悪鬼の雄叫びだった。 世にも恐ろしい怒りの形相だ。 ギーシュはジリジリと後退した。 急に口調が変わったこともそうだが、何よりもDIOが放つ威圧感に、ギーシュを含めたその場の全員が気圧された。 さっきまでの嵐のような歓声が、嘘のような沈黙だ。 「カエルの小便よりも……! 下衆な! …下衆な魔法なんぞでよくも! …よくもこの俺に…!」 DIOがむくりと立ち上がった。 傷口から数本の触手が生え、地面に転がる左腕にピタリとくっついた。 左腕が引き寄せられ、傷口と接合し、瞬く間にそれは『馴染んだ』。 DIOの左手の甲のルーンが、まばゆい光を放った。 瞬間、左腕のみならず、いままで思うように動かせなかった己の肉体が、あっと言う間に『馴染んで』ゆくのを、DIOは感じた。 不可解な現象に、DIOは一瞬戸惑ったが、次第にそれは歓喜に変わった。 「……フ、フフフフ……」 のどの奥から笑いが溢れて止まらなかった。 「…フ、フハ、ハハハハハハハハハハハハハハ! 『馴染む』! 『馴染む』ぞぉ! 実に! フハフハフハフハフハハハハハハ!!!!」 DIOは己の頭を掻く。 行き過ぎた握力が、頭皮を抉って血が吹き出たが、DIOは構わず掻き続ける。 ブシュブシュという嫌な音が周囲に響く。 その傷は、掻き抉るそばから治っていった。 狂気の表情を浮かべるDIOに、ギーシュはひどい吐き気と怯えを感じた。 恐怖に駆られ、ギーシュは慌てて薔薇を振るう。六体のゴーレムが、DIOを取り囲み、一斉に踊りかかった。 「『ザ・…………」 それに対して、DIOは喜びで口を歪めながら、両腕を広げて高らかに言い放った。 「………ワールド(世界)』!!!!!!」 to be continued…… 24へ
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"ドォォオオオン!!!!" そして、DIO以外の全ての時が停止した。 観衆は思い思いに身を固めたままで動かない。 6体のワルキューレは、DIOに飛びかからんと、飛んだまま空中で停止している。 ギーシュは冷や汗を流して、うろたえた表情を浮かべたまま止まっている。 タバサは杖を握りしめたまま停止している。 キュルケはルイズを見て、完全にビビった表情を浮かべたまま止まっていて、結構間抜けだった。 見ればルイズは、懐から杖を取り出しかけていた。 どうやらDIOはあと少しでルイズに爆破されるところだったらしい。 DIOは、全員のそうした姿を見て、満足げに口元を歪めて、ギーシュを見た。 「これが……『ザ・ワールド』だ。 もっとも、時が停止しているお前には、見えもせず、感じることもないがな……。 思えばこのDIOは、ジョースターに敗れ……せっかく抜き取ったジョセフの血を奪い返され、あまつさえナイル川に落とされて日光で完全に消されかけたところでこの世界にやってきた。 この世界は、どうやら太陽光の波長が、元の世界とは違うらしい。 俺にとっては幸運だな。 日光に当たっても、何ともない。 ……少々体が重いと感じるのは、精神が日光を拒絶しているからだろう。 だが、まさか3日足らずで、再びあの時のような屈辱を味わうことになるとは、思わなかったぞ、小僧……! 傷が『馴染んだ』とはいえ、俺はまだ、3秒ほどしか動けないらしいが、3秒あれば十分だ!」 DIOはワルキューレの円陣から脱出した。 ~1秒経過~ 「このような鉄クズに、このDIOが…!」 忌々しげに吐き捨てて、DIOは右拳を突き出した。 何もできないままワルキューレの1体がそれをモロに喰らい、粉々に砕け散った。 そのままの勢いで、DIOは両の拳を亜音速で繰り出した。 瞬く間に6体のワルキューレがぼろクズのようになる。 おそらくは自分と同じく復活しているだろう『ザ・ワールド』で砕いてやってもよかったが、それではDIOの気が収まらなかった。 ~2秒経過~ 鉄クズと化したワルキューレを尻目に、DIOはその血のように赤い目でギーシュを射抜いた。 「次は貴様だ、小僧。 拭えぬ絶望をその身に焼き付けるがいい」 DIOは、近くに転がっていた石ころを拾い上げ、ギーシュに投げつけた。 結構な速さで飛来していくそれは、ギーシュの額に激突する数サント寸前のところで停止した。 たいしたダメージにはならないだろうその石ころは、いつでもお前を殺せるぞという合図だった。 DIOは腕を組んだ。 ~3秒経過~ 「そして時は動き出す」 DIOの宣言に従うように、周囲の時間が進み始めた。 小石がギーシュの額に直撃するのと、青銅のワルキューレだった物が地面にガシャガシャとやかましい音を立てながら散らばっていくのは、全く同時だった。 ギーシュは、突然額に感じた痛みに、一瞬目を瞑ったが、すぐに痛みは消え、目を開いた。 そこには、信じられない光景が広がっていた。 自分の自慢のワルキューレが、6体とも、スクラップになっていた。 しかも、そのワルキューレたちが取り囲んでいたはずのDIOが、いつの間にか自分の前に佇んでいる。 「なっ!あ!?うっ?」 目の前の状況に頭がついていかず、ギーシュは意味不明な声を出した。 だが、わけがわからないのは、その場にいた全員もだった。 観衆は、何が起こったのかわからず、ザワつきながらお互いに顔を見合わせた。 タバサはその綺麗なブルーの瞳を、大きく見開いていた。 杖を握る手は若干震えている。 キュルケは、先ほどの光景を見逃したらしく、首をかしげていた。 ルイズは、その様を見て、無言で杖を収めた。 何が何だか分からないが、どうやらこの杖の出番はもう少し先らしいと、ルイズは思った。 ルイズは再び腕を組んだ。 DIOは、余裕の表情を浮かべてギーシュを見た。 ギーシュがダラダラとヘンな汗を掻きながら、DIOから離れた。 DIOはそれを黙って見逃した。 距離をとったギーシュは、気を取り直して、再び薔薇を振るった。 花びらが7枚宙に舞い、7体のワルキューレが、現れた。 しかし、次の瞬間そのワルキューレ達は再びスクラップと化した。 ガシャガシャという音が、またしても広場に響いた。 「…あ、……あぁ…!」 ギーシュの顔が真っ青になった。 膝がガクガクと笑い出す。 「な、何を…!何をした、平民…!?」 震える膝を誤魔化すように、ギーシュは叫んだ。 もはや形勢は完全に逆転していた。 そんなギーシュに対し、DIOは腕を組んだまま、ふむと言った。 「別に、一体何が起こったかなんて、君は気にする必要はないさ…。 それよりも、これから何が起こるかということを気にするべきだと思うがね?」 ギーシュは分けが分からなかった。 そんなギーシュの内心を悟ったのか、DIOは親切に教えてやることにした。 「つまりだ、君はこれからこのナイフに、ズタズタに串刺しにされるということさ」 "ズジャラァアア"と、金属が擦れる音を立てながら、DIOは隠し持っていたナイフを取り出した。 服の内側に隠されていたそれらは、マルトーから許可を得て、厨房から持ってきた物であり、一本一本がとても鋭かった。 よく切れそうだ。 その数実に十数本。 DIOはそのうちの8本ずつを両手に構え、これ見よがしにギーシュに見せつけた。 青かったギーシュの顔が、さらに絶望に青ざめた。 震えは止められそうにもない。 DIOはその様を見て、フフフと笑った。 「おやおやまた青ざめたな…このナイフを見て、さっきのガラクタよりも恐ろしい結末になるのを悟ったか…!」 ギーシュは恐怖の悲鳴を上げながら、薔薇を振ろうと腕を上げた。 だが、それより先にDIOが動いた。 「フン!逃れることはできんッ!貴様はすでにチェックメイトにはまったのだッ!」 そのままDIOが、処刑の宣言をした。 「『ザ・ワールド(世界)!!』」 そして、ギーシュはいつの間にか、全身に無数のナイフを生やしていた。 「うが…あ…!…ああぅ…」 ズシャア、とギーシュが地面に倒れた。 ルイズがペロリと舌なめずりした。 to be continued…… 25へ
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ルイズとDIOは、お互いに背中合わせに立ち、 腕を組んでいる。 鏡に合わせたように同じポーズだが、生憎とルイズの身長は、 DIOの腰よりちょっと上の辺りまでしかない。 傍から見たら、背伸びをした子供が、 父親の真似をしているようにも見えるかもしれない。 「ご苦労様。 でもちょっと遅いわよ、DIO」 背中を合わせたまま、ルイズはふてくされたようにDIOに言った。 本当は、DIOが来てくれたことに安心していたし、 ちょっぴり………ほんのちょっぴりだけ嬉しかったりしたのだが、 ルイズは決してそれを態度には出さなかった。 ルイズのセリフに、DIOが肩をすくめた。 「せっかく助けてやったというのにそれか。 君はもう少し、感謝という言葉を覚えた方がいい」 言葉だけとってみれば、不満を漏らしたようにも聞こえるが、 その口調はどこか楽しげだった。 それを受けてルイズは、 やはり振り向きもしないままで軽口を叩いた。 「使い魔が御主人様を助けるのは当然なのよ? "ありがとう"なんて言葉は、あんたにはもったいないわ」 直ぐ目の前に巨大なゴーレムがいるにもかかわらず、 2人は声もなく、静かに笑った。 ―――と、2人が会話をしていると、 空から無数の氷の槍が、ゴーレム目掛けて飛来した。 ゴーレムは、肩に乗っているフーケを庇うように、 両腕を頭上でクロスした。 ルイズは弾かれたように上を見た。 シルフィードに乗ったキュルケとタバサが見えた。 どうやら先程の攻撃は、 タバサの風魔法によるものらしかった。 ゴーレムに気付いた2人が、駆けつけてきたのだ。 タバサの魔法のレベルの高さに、ルイズは一瞬だけ舌を巻いたが、 直ぐに気を取り直して、DIOの方を向いた。 「DIO! 『破壊の杖』、ちゃんと持ってきてるでしょうね!?」 DIOは無言で頷いた。 ルイズは慌てた様子で先を続けた。 「私に貸しなさい!」 ルイズの命令に、DIOはどこからともなく ズルリと『破壊の杖』を取り出した。 一体どこに仕舞っていたのか、ルイズは激しく疑問に思ったが、 残念ながら気にしている暇はない。 ルイズはDIOから『破壊の杖』をもぎ取ると、 一つ質問をした。 「爆発するって言ったわね。 どれくらいの規模なの?」 「…………少なくとも、十数メートル……おっと、 十数『メイル』は離れることをおすすめする。 細かい距離までは、分からんよ。 ……あのゴーレムに使うのか?」 何かを確かめるように『破壊の杖』の表面を撫でていたルイズは、 DIOの質問を、首を横に振って否定した。 その目は、フーケに対する憎悪で満ち満ちていた。 途端にルイズの声のトーンが下がる。 「そんな…もったいないこと……するわけないじゃない。 こいつの出番は、もう少し後よ。 ゴーレムは、あんたに任せるわ。 何が何でも倒してもらうから」 ルイズの空恐ろしい狙いを汲み取ったDIOは、 フフフ…、と笑った。 「これはこれは……フーケとやらに同情せざるを得ないな。 ……いいだろう。 可愛い『マスター』の願いを、叶えてやろうじゃあないか」 ルイズは、DIOを向いたまま、ニッコリと笑った。 そしてルイズは、ゴーレムに対して一瞥もくれずに、 笑顔のままゴーレム目掛けて杖を振り下ろした。 それに際して、ルイズは詠唱を行わなかった。 にもかかわらず、ゴーレムの足下で爆発が起こり、 ゴーレムの片足が吹き飛んだ。 バランスを崩したゴーレムは、片膝をついた。 詠唱を行う素振りを見せなかったルイズに、 DIOは興味津々といった表情を浮かべた。 そんなDIOの様子に気づいたのか、 ルイズは頭の傷を押さえながら、ぶっきらぼうに言った。 もうおおかた塞がってはいるが、未だに血が滲んでいる。 「戦闘経験を積んだメイジともなればね……、 詠唱しながらお喋りすることだって出来るのよ」 それは、以前フーケが、ルイズに向けて言った言葉だった。 ルイズは、フーケが使った技法をそっくり吸収していたのだ。 あのとき受けた屈辱を思い出し、 ルイズは唇をきつく噛み締めた。 血がつぅーと垂れて、血涙痕と相まって、ルイズの顔に新たなアクセントが加わる。 ゴーレムがバランスを崩したのを好機と見たのか、 キュルケとタバサを乗せたシルフィードが、2人の近くに降り立った。 「乗って!」 風竜に跨ったタバサが叫んだ。 ルイズは、後は任せたとばかりに"ポンッ"と DIOの胸を軽く叩いて、風竜に駆け寄り、跨った。 「あなたも早く!」 タバサが珍しく、焦った調子でDIOに言った。 しかし、DIOは風竜に乗らずに、 体勢を整えつつあるゴーレムに向き直った。 「私はいい」 短くそう告げるDIOを、タバサは無表情に見つめていたが、 ゴーレムをチラリと見やり、やむなく風竜を飛び上がらせた。 それとほぼ時を同じくして、 足の再生を終えたゴーレムが、ゆっくりと立ち上がった。 肩に乗るフーケが、空に舞い上がるシルフィードを見て、 忌々しげに呟いた。 「まったくどいつもこいつも…… ハエみたいに人を怒らせるのが得意だね!」 それから、ただ一人地表に残ったDIOに視線を向けた。 「あらあら、あなたご主人様に見捨てられちゃったみたいね。 捨て駒にされた気分はどう? 同情はするけど、容赦はしないわよ、私」 矛先をDIOに向けたフーケは、残酷な笑みを浮かべた。 しかし、DIOはフーケの言葉を華麗に無視して、 逆に質問をした。 「お前が欲しい物は?」 DIOの肩の後ろにある星形のアザが、鈍く輝いた。 人の内面を深く抉るDIOの言葉に、 フーケの体が硬直した。 鎧でガチガチに固められたはずの心に、 そのわずかな隙間を縫って針が突き立てられたような衝撃を、 フーケは感じていた。 自分の大切な部分に土足で入り込まれて、 思わず激昂する。 「!!………ッッぶっ殺してやる!!!」 心に忍び寄る闇を振り払うように吐き捨てたフーケは、 ゴーレムの左手を鋼鉄に変え、DIOめがけて振り下ろした。 DIOはつまらなさそうに、フンッと呟き、片手を振った。 それに応じたように、DIOの体から半透明の人影が浮き出てきて、 迫るゴーレムの拳を、殴りつけた。 "ゴワァアアアン!!" と、クラクラするような轟音があたりに響き、 次の瞬間、ゴーレムの拳にヒビが入り、 やがてガラガラと崩れ落ちた。 「何!?」 フーケは、自分の予想とは全く異なる展開に、 ひきつった声を上げた。 フーケは以前、オスマン達とともに、DIOの戦いを見たことがあった。 そのときの……ルーンが怪しい光を放つまでのDIOは、 先程の幽霊のような物を使役していた。 その存在にフーケは少し驚きはしたものの、 その幽霊の腕力は、せいぜい青銅を凹ませる程度だったのだ。 フーケはその時のデータを参考にした上で、ゴーレムの拳を鋼鉄に変えたのだった。 しかし、これでは話が違うではないか…! 以前よりも強力になった幽霊に、 フーケは少し浮き足立った。 その隙を狙う形で、DIOは剣を2本、 やはりどこからともなくズルリと取り出した。 デルフリンガと、シュペー卿の剣だった。 一体どこに仕舞っていたというのだろうか? 「まぁ……すごい! DIOのズボンって、魔法のズボンみたいね。 何でも出てくるもの!」 上空から、キュルケの感心したような声が聞こえた。 勢いを削がれたDIOは、いかんともしがたい表情を 上空のシルフィードに向けた。 to be continued…… 43へ
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DIOは、キュルケの場の空気を読まない発言のせいで、 力が抜ける思いだったが、 気持ちを新たに2本の剣をじっくりと眺めた。 やがてどちらを最初にするのか決めたのか、 その内の1本を手に取ると、 フーケに向けて槍投げよろしく投擲した。 意外な行動に少々驚いたフーケだったが、 流石は百戦錬磨といったところか、 弾丸のように回転しながら向かってくるソレを、 残ったゴーレムの片腕で、やすやすと叩き落とした。 "パキィン!"という甲高い音とともに、 投擲した剣は脆くも砕け散った。 だが、せっかくの武器を破壊されたというのに、 DIOは涼しい顔をしている。 「うむ、やはりか。 ルイズめ………まだまだ子供か。 ナマクラを掴まされおって」 果たして投擲された剣は、 ルイズが結構な金(といっても裏金だが)をはたいて購入した、 シュペー卿の剣であったのだが、 どうやらただのナマクラだったようだ。 あのオヤジに一杯喰わされたということらしい。 ルイズの教育は追々にするとして、 DIOの興味は、すでに2本目……デルフリンガーへと移っていた。 DIOは、デルフリンガーを鞘から引き抜いた。 途端に、デルフリンガーの柄がパクパク動いた。 「デェェエエエ!!?? な、なんか用なんすかぁぁぁあああ!? 後生だから、あの店に戻しちくり!! お願えだぁあぁあああ!!!」 抜かれるや否や、 ゲドゲドの恐怖ヅラで命乞いを始めるデルフリンガーの言葉に、 DIOは恍惚とした表情で耳を傾けた。 「次はお前の番だ。 せいぜい気張れ。 さっきのナマクラみたいに、 へし折れたくなければな」 「いぃやぁあああああ ああああああああ!!!!!」 「実にナイスな返事だ」 DIOは躊躇なくデルフリンガーを掴むと、ゴーレムに踊りかかった。 ゴーレムが、再生させた片腕で殴りかかるが、 DIOはそれをヒラリとかわし、 逆にその腕の肘から先を、デルフリンガーで切り飛ばした。 「ほほう。 錆びだらけの割には、なかなかどうして頑丈じゃないか。 ただの剣ではないようだな、デルフリンガよ」 所々に錆が浮かんでいるデルフリンガーを、DIOはしげしげと眺めた。 「ほ、褒めるくらいなら、 せめて名前を直して………」 顔色を窺うようなデルフリンガーの言葉は、 残念ながらDIOの耳には届かなかったようだ。 DIOの視線は、ゴーレムに注がれていた。 ゴーレムは、切り飛ばされた腕を再生しようとしていたが、 その速度は先ほどに比べると緩慢だった。 どうやら、再生能力にも限界があるらしい。 そのあたりは、吸血鬼である自分とほぼ変わらないようだ。 ―――つまり、再生仕切れないほどの損傷を一気に与えてやれば、 ゴーレムを倒せる。 そう判断したDIOは、唇を笑みで歪めた。 一気に。 瞬時に。 時間差もなく。 これは、DIOの最も得意とするところであった。 DIOはデルフリンガーを片手に、地面を蹴った。 凄まじい跳躍力で、瞬く間にゴーレムの顔辺りまで上昇する。 奇しくもそれは、ルイズのとった行動の焼き直しだった。 肩に乗るフーケと、目が合う。 しかし、同じ手に二度は驚かぬとばかりに、 フーケは切り飛ばされなかった方のゴーレムの腕を、 即座にDIOめがけて振るった。 ルイズの時より断然早い。 タイミングから言えば、ルイズだったらモロに喰らって ミンチにされていただろう。 それほどの瞬速の一撃だったが、DIOは何食わぬ顔だ。 唸りを上げて迫るゴーレムの一撃を意に介すことなく、 言葉を紡ぐ。 それは、 世界の全ては自分の支配下にあるという宣言に近かった。 「『ザ・ワールド(世界)』!!!!」 ―――ドォオオオオン!!!――― ………そして、時が停止した。 ゴーレムは、ただの石像のように固まった。 フーケは明確な殺意を顔に浮かべたまま動かない。 いつも騒がしいデルフリンガーは、水を打ったように沈黙していた。 上空のシルフィードも、 はばたいていないにも関わらず、墜落しない。 ワイヤーで吊り下げられたみたいに空中で停止している。 キュルケとタバサも、心配そうな顔で地面をのぞき込んだ状態で、止まっていた。 「時は止まった………」 ゴーレムの鼻辺りで、何故か空中浮遊しているDIOが呟いた。 重力を軽く無視した行為なのだが、 幸いにもそこに突っ込んでくる相手は、 ここにはいなかった。 しかし、いつぞやの決闘の時と違って、 左手のルーンは輝きを放っていない。 つまり、長く『止める』ことは出来ないということだ。 どうしてなのかは分からないが、分けの分からない力を頼りにするほど、 DIOはお人好しではなかった。 グズグズしている暇はない。 DIOは、物言わぬフーケを指差した。 「私『は』お前には手出しをせん。 ルイズがお前をご所望のようだからな」 そういって、沈黙するデルフリンガーを横に薙いだ。 "ズバァッ"と形容しがたい音を響かせて、 ゴーレムの首が飛んだ。 間髪いれずに手を振ると、 DIOの体から幽霊……『ザ・ワールド』が現れ、 亜音速で両の拳を繰り出した。 『無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄ァ!!』 上半身のみの『ザ・ワールド』が、 嵐のようなラッシュをゴーレムの頭部にお見舞いし、 ゴーレムの頭部は、無残な『土くれ』へと還った。 ~1秒経過~ ようやっと落下を始めたDIOは、 落下するに任せて、デルフリンガーを縦横無尽に振り回した。 吸血鬼の腕力も手伝って、 ゴーレムがあっさりと細かく切り刻まれていく。 切り刻まれたゴーレムの破片を、 『ザ・ワールド』が正確に打ち砕いていった。 ~1秒半経過~ 上半身から下半身へ………DIOが着地した時、 ゴーレムはもうほとんど原型を留めていなかった。 かろうじて、DIOの手が回らなかった四肢の末端部分だけが、 虚しくゴーレムの名残を残す。 足場をなくしたというのに、 フーケの体は、 先程と変わらぬ姿勢で宙に浮いている。 後が大変そうだ。 軽やかに着地したDIOは、空を仰いだ。 「さぁ、これでいいのだろう、ルイズ。 ……後はお前の出番だ」 どうやら、時間切れらしい。 時間にしてみれば、2秒ほどだったが、 DIOにとっては深い意味を持った。 2秒。 ルーンに頼らず、2秒。 以前はルーンの助けを借りて、3秒がやっとだった。 DIOは己の力の回復を、 「時間」という形で実感していた。 ~2秒経過~ ―――この間、 止められる時間が短かったせいか、 それともあまり深く考えていなかったせいか、 DIOがルイズを注視することは 遂になかった。 ……だから、DIOは気づかなかった。 時の停止した空間の中、シルフィードに跨るルイズの指が、 僅かに……髪の毛ほどの刹那、ピクリと痙攣したことに。 …DIOは気づかなかった。 「そして時は動き出す」 to be continued…… 44へ
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トリステイン魔法学院、学院長室。 この部屋の主であるオールド・オスマンは、戻った4人の報告を聞いていた。 もっとも、報告をしていたのは専らルイズであった。 オスマン氏は、キュルケとタバサにも状況報告を求めたのだが、 フーケとの戦いで疲労が限界に達したのか、2人の返答は要領を得ない。 キュルケは暇さえあればチラチラとルイズとDIOを見ているし、 タバサは俯いて黙ったままだ。 オスマンは、ルイズの報告を鵜呑みにするしかなかった。 「ほほぅ。 では、『破壊の杖』は取り戻したが、 『土くれのフーケ』は取り逃がしてしまったと…… そう申すのじゃな、ミス・ヴァリエール?」 泣く子も黙るオスマンが、偽証を許さぬ鋭い視線をルイズに向けるが、 ルイズは堂々と胸を張り、ハキハキと嘘八百を並べ立ててみせた。 どうせ確認する方法など、無いのだから。 「はい。 そしてロングビル……つまりフーケがわざわざこのような遠回しな罠を仕掛けたのは ……これはフーケ自らが言ったことですが…… どうやら『破壊の杖』を私達に使用させ、 使い方を知るためだったようです。 私もそれで間違いないと思います」 「お主個人の感想など無用じゃ」 「その通りであります。 お許しを」 ルイズはビシッとあらたまった。 オスマンは顎髭を撫で回すと、深いため息をついた。 年相応の、そして、深い苦悩が混じったため息であった。 「ミス・ロングビルがか……そうか…………そうじゃったか……」 裏切りなど日常茶飯事だろうに、 オスマンは珍しく辛そうな表情を浮かべた。 しかし、それも一瞬のこと。 すぐに鋼鉄の仮面がオスマンを包み込み、あたりに威圧感をばらまき始める。 その空気に当てられて、キュルケとタバサもその場にあらたまった。 「さて、諸君。 よくぞ『破壊の杖』を取り戻した」 ルイズが礼をし、それに続く形でキュルケとタバサが、ぎこちない礼をした。 DIOは壁にもたれかかって、本を読んでいる。 「『破壊の杖』は、無事に宝物庫に収まった。 これで我が学院の体裁は、一応保たれたことになる。 一件落着とまではいかんが、後は我々の……いや、ワシの仕事じゃ。 諸君はゆるりと休むがよい」 後始末をすると言うオスマンの言葉に、コルベールの肩が少し震えたような気がした。 おそらくは、隠蔽のためにクビを飛ばされることになるだろう教師達の何人かのことでも考えているのだろう。 「フーケを取り逃がしてしまったからのぅ、 『シュヴァリエ』の爵位を申請するとまではいかんが、 王宮には報告をしておくぞい。 目をかけてくれることじゃろうて」 ルイズ達は、特に反応を返さなかった。 オスマン自身もどうでもよいのか、少々投げやりだった。 「ふむ、そういえば、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。 予定通り行うこととなった。 今日の主役は君たちという事になっておる。 せいぜい着飾るが良いぞ」 ふぉっふぉっと笑うオスマンに、3人は礼をするとドアに向かった。 ルイズはDIOをチラッと見つめて、立ち止まった。 「先に行くといい」 DIOは、本に目を落としたままルイズに言った。 ルイズは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐにどうでも良くなったのか、 さっさと部屋を出ていってしまった。 ルイズが出ていった後、DIOは本を閉じ、オスマンに向き直った。 「用がある……とでも言いたげじゃのう。 残念ながら、お主には報酬はだせん。 貴族ではないからのう。 代わりにといっては何じゃが……二、三の質問には答えてやろう」 オスマンは、DIOが何故この場に残ったのか、おおまかに把握しているようであった。 引き出しからパイプを取り出し、 煙をふかし始めたオスマンに、DIOは質問をした。 「『破壊の杖』……あれは、 私が元いた世界の人間達が作り出した武器だ。 なぜここにある?」 「ほっ、『元いた世界』とな?」 オスマンの目が光った。しかし、オスマンの言葉をDIOは無視した。 質問をしているのは、DIOなのだ。 「あれは何故……どうやってここにやってきた」 取り付く島もないDIOに、オスマンはつまらなさそうなため息をついた。 それと一緒に煙が吐き出され、DIOにかかる。 「あれを私にくれたのは、ワシの命の恩人じゃ」 オスマンは己の過去をあまり話さない。 しかし、今回ばかりは話さないことにはどうにもならない。 仕方なしといったふうに、オスマンは三十年前の過去を話した。 ワイバーンに襲われたこと。 突如あらわれた異様な身なりの男が、『破壊の杖』で助けてくれたこと。 看護をしたが、死んでしまったという事。 話を全部聞き終えた後、 DIOは一つだけ気になる事を尋ねた。 「その男の遺体は、墓の下にあるのかな?」 DIOの奇妙な質問に、オスマンは怪訝な表情を浮かべたが、答えてはいけないというわけではない。 オスマンは答えた。 「墓はこの学院内にある。 しかし、遺体はもう存在しておらんよ」 それを聞いて、DIOは顔をしかめた。 「ない……だと?」 「彼の遺言での。 骨も残さずに焼き尽くしたのじゃ。 ワシが責任を持って執り行った」 元の世界に戻る手掛かりが一つ消えたことに、DIOは舌打ちをした。 骨さえ残っていれば、瞬く間に屍生人として再生させて、 尋問をすることも出来ただろうに。 しかしすぐに気を取り直し、 DIOは己の左手に刻まれているルーンをオスマンに見せた。 「では次に、このルーンだ……。 このルーンが光ると、私の傷は瞬く間に塞がり、『馴染んだ』。 今まで一度しか光っていないが……何故だかわかるか?」 オスマンは、話すべきかどうかしばし悩んだ後、口を開いた。 「お主の言う『馴染む』が、どういう意味なのかは分かりかねるがの……。 まぁよい。 それは、ガンダールヴの印じゃ。 お主達が出かけておった間に、コルベールが文献を見つけだした。 伝説の使い魔の印じゃ。」 「伝説?」 「そうじゃ。 伝説によるとガンダールヴは、ありとあらゆる『武器』を使いこなしたそうじゃ」 DIOは首をかしげた。 「……なんとも言いがたいな。 この世界にきて、今まで私が触れてきた武器は、 どれもこれも使い方を知っているものだらけだ。 全く使い方のわからない武器があれば、確かめようもあるが…… この世界の文明レベルでは、無理だろうな」 話はこれまでと、DIOは踵を返した。 部屋の出口まで進み、扉を開けたところで、DIOは思い出したように振り返った。 「あぁ、ところで、鏡の調子はどうかな?」 オスマンがピクリと反応したが、すぐに嘘にまみれた笑顔を向けた。 「おぉ、どこかの誰かさんのおかげさんでの。 しばらく再起不能じゃ。 まったく困った事じゃて」 ホッホッホッと屈託ない(ように思える)笑い声を上げるオスマンを、 DIOはしばらく眺めていた。 が、やがて興味がなくなったのかパタンと、扉を閉めた。 DIOがいなくなった後、オスマンはおもむろにパイプを口から放し、 地面に叩きつけた。 そして、忌々しげにグジグジと踏みにじった。 木屑になるまで踏みつけていても、 オスマンは無表情のままだった。 ――――――――― アルヴィーズの食堂の上の階。 そこが、『フリッグの舞踏会』の会場だった。 着飾った生徒や教師達が、 豪華な料理盛られたテーブルの周りで歓談している。 だが、この舞踏会は、 いつもと少々様子が異なっていた。 土くれのフーケが、学院に現れたという話は、 既に学院中に広まっていた。 そして、3人のメイジによって撃退されたという話も。 だから、今回の舞踏会はどちらかというと、 祝勝会という色合いの強いものであった。 しかし、その主賓……つまりはフーケを撃退したメイジ達の顔は、 ちっとも晴れやかではない。 黒いパーティードレスを着たタバサは、ただ黙々とテーブルの上の料理と格闘している。 だが、タバサが無口なのはいつものことなので、 誰もそんなに気にはとめなかった。 問題はキュルケであった。 ゲルマニア出身の彼女は、 引っ込み思案な傾向のあるトリステインの女性と比べて、 情熱に溢れた積極的な性格をしている。 ダンスパーティーともなれば、 それこそ取っ替え引っ替えで男達と友好を深めたりするはずなのだが…… それをしない。 憂鬱な顔をして壁にもたれ掛かり、 ただぼんやりとパーティーの様子を眺めているだけだ。 幾人もの魅力的な男達がダンスに誘っても、 彼女はやんわりと断るばかり。 中には、いつも明るいはずの彼女が見せる、 物憂げな表情に心打たれて、などという輩もいたが、 彼女はそれも断った。 男達はがっかりしたものだが、 やがては各々別のパートナーを見つけ、それぞれにパーティーを満喫し始めた。 そこに、ホールの壮麗な扉が開いてルイズが姿を現した。 門に控えた呼び出しの衛士がルイズの到着を告げると、 その場にいた貴族達の視線が彼女に集中する。 そして、彼女の美しさに息をのんだ。 バレッタにまとめた桃色の髪。 肘までの白い手袋。 ホワイトのパーティードレス。 どれもこれもが、彼女の高貴さを輝かせている。 その姿と美貌に、ダンスを申し込む男達が列をなすかと思われたが、 不思議なことにそうはならなかった。 誰も彼もが、遠巻きに彼女を眺めるだけ。 彼女を中心にして、まるでドーナッツのような現象になっていた。 それは、彼女の纏う雰囲気のせいとでもいうのだろうか。 貴族達がダンスを申し込むにしても、彼女は高貴にすぎた。 いや、高貴というよりも、何者をも近づけない絶対的な何か…… それこそ王が身に纏うようなオーラが、 まだ弱いながらもしっかりと彼女から振りまかれている。 そのオーラのせいで、誰も近づけないでいたのだ。 ルイズ自身も、他の男には興味がないのかサクサクと歩を進めて、 バルコニーへと姿を消した。 突如現れた一輪の華に、一時は会場も静まり返ったが、 やがて元の喧噪を取り戻し始めていった。 バルコニーに姿を現したルイズは、その贅沢っぷりに頭を押さえた。 バルコニーに急遽設置されたテーブルの上には、 パーティー会場のものもかくやというほど豪華な料理が並べられ、 DIOが1人でそれを楽しんでいる。 給仕をしているのはシエスタのみだが、 それで十分事足りているようだった。 テーブルにはイスが2脚あった。 ルイズの為に、予め用意されていたのだろう。 当たり前のように、ルイズはそこに座った。 「お楽しみみたいね」 「……君は踊らないのか?」 ルイズはふっと笑った。 「相手がいないのよ」 「そうか」 それっきり2人は黙り込み、しばらく料理に舌鼓を打つ。 やがて、ゆっくりとルイズが沈黙を破った。 「ねぇ、帰りたい? 元いた世界へ」 つまり、ルイズはDIOが異世界から来た者であると認めたのだ。 「帰りたい? ……そうだな、帰らなければならないな。 やり残したことがある」「例えば?」 DIOは珍しくも苦々しげな表情を浮かべた。 「私の運命という路上から、取り除かねばならない汚点がある」 「へえ」 「だが、今はまだ帰るわけにはいかないな」 ルイズは首をかしげた。 「この世界を私のものにしてからでも、 帰るのは遅くない」 ルイズは溜息をついた。 このDIO、やはり冗談を言っているのか、 真面目なのか、判断に困る。 取り敢えずさらっと受け流すことにして、 ルイズはワインを飲み干し、ゆっくりと立ち上がった。 DIOに歩み寄り、すっと手を差し出す。 「えぇっと、まぁ、今回は、 あんたのお陰で事をうまく運ぶことができたわ。 そこの所は……認めてあげる」 それを受けてDIOも席を立つ。 「だから、その、踊ってあげてもよろしくてよ?」 DIOは静かに笑って、御主人様の求めに答えてやることにした。 素直でないルイズは、男性の方から誘うという形を取らねば、 すぐにヘソを曲げてしまうことを、DIOは朧気ながら理解していた。 ルイズの手に接吻をして、ダンスを申し込む。 「私と一曲踊っていただけますか、ミ・レイディ?」 ルイズは微笑んでDIOの手を取った。 2人は並んで、ホールへと消えていった。 ……ちなみに、このときDIOはまだ上半身裸で、 オーダーメイドの服が届くのは、舞踏会が終わってからしばらくあとの事になる。 ―――――――――― 第一部、『ゼロのルイズ』終了!!! 第二部、『ファントム・アルビオン』へと続く!! 47へ 戻る
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DIOは、ギーシュが倒れるのを見てから、一歩一歩ゆっくりとギーシュに近づいた。 うつ伏せに倒れるギーシュは、身を捩って喘いだ。 全身をくまなく苦痛が襲い、涙が溢れる。 気が触れる寸前だった。 そんなギーシュを、DIOは見下ろす。 片膝を地面につけ、ギーシュの肩にポンと手をおいた。 「『安心』しろよ小僧。 今すぐ医者に見てもらえば、助かるさ……多分な。 ほら、見ろよ。心臓も肺も無事だぞ?よかったな」 既にギーシュは目の焦点が合っていないのだが、そんなことはDIOには関係なかった。 「なぁ、小僧。俺は知っているぞ。俺のこの状態は、決して長続きしないことを。 …恐らく、ほんの束の間さ、俺がこうしていられるのも。 すぐに元の木阿弥さ。 わかるんだ」 ギーシュは急性出血からショックを起こし、体がガクガク痙攣している。 「今お前を、地面を這いつくばるカエルみたいにペチャンコにしてやってもいいんだが、そうすると後が問題さ。 ここは人目が…メイジが多すぎる。 さすがの俺でも、少々困ったことになってしまう」 チラッとDIOは振り返った。 ルイズが無表情で、右手の親指でクビをギィッと掻き切る真似をした。 GOのサインだ。 「かわいい『マスター』は、お前を殺して欲しいらしいぞ……だが、貴様は殺さん。かといって、このままでは俺の気が収まらん。 そこで……!」 DIOはおもむろに、その五本の指を、ギーシュの胸に突き刺した。 ギーシュがコフッと、血を吐いた。 体が痙攣して、杖をぽとりと取り落とす。 "ズギュン" "ズギュウン" "ズギュゥゥウン…!" DIOはその指を通じて、ギーシュの血を三回ばかり吸った。 貧血により、本当に顔面蒼白となったギーシュは、あっさりと意識を手放した。 DIOは指をギーシュから引き抜き、その指についた血をペロリとなめた。 勝負ありだった。 「シエスタ」 「はい、DIO様」 DIOの呼びかけに、シエスタが即座に応じた。 しずしずとDIOのそばに歩み寄り、お辞儀をする。 「邪魔だから、片付けておけよ……そのボロクズを」 DIOはきびすを返し、広場を立ち去ることにした。 その左手の甲のルーンの光が、ふっと消えた。 DIOが近寄ると、輪をかいていた観衆のその部分が、モーゼのように二つに割れた。 シエスタは、かしこまりましたと言い、ギーシュのそばに近寄った。 何をするのかと思いきや、シエスタは一言"よいしょ"と気合いを入れると、ギーシュを軽々とその肩に担いで、医務室の方へと背筋を伸ばしたまま歩いていった。 ---あれなら石像を運んだと言われても納得だろうか、とルイズは思ったが、そんなことはどうでもよかった。 さっきギーシュがナイフに全身を貫かれた時、そして、血を吹き出すのを見たとき、自分は何を思ったか。 それだけが重要だった。 …………なんとまぁ、あの赤い生命の旨そうなことか…そう思ったのだ、確かに。 これは、おかしい。 まるで自分がギーシュの血を飲みたいと思っているみたいではないか。 二重に契約したことで、自分はDIOと精神的により深い面でつながっていることをルイズは知っていたので、それのせいだろうか、とルイズは思った。 そして、考えていたせいで、ルイズはギーシュを爆殺する機会を逃したことを知り、舌打ちした。 いずれにせよ、DIOはまたしても、命令不履行を働いたことになる。 ルイズは、ギーシュを殺さなかったDIOの後を走って追いかけた。 結局ルイズは、DIOが向かった自分の部屋にたどり着いても、少しも息を切らすことはなかった。 ギーシュ……全身にナイフが刺さり、瀕死の重傷。早退(リタイア) to be continued…… 26へ
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上空、シルフィードに跨るルイズは、 頭の傷を手で押さえて止血していた。 一度は塞がりかけたものの、フーケとの戦いで 再び傷口が開いてしまい、治癒が遅れてしまっていた。 ルイズの頭に、フーケの高笑いがガンガン響く。 怒りと屈辱のあまり、ぬうぅ…、と野獣のような唸り声をあげていると、 心配になったキュルケが、おっかなびっくり聞いてきた。 「ル……ルイズ? えぇっと、そのキズ…痛むの?」 「KUAAAA!!!」 ご機嫌斜めのルイズは、ギロリとキュルケを睨みつけた。 眼球の端からダラダラと血が頬に垂れており、 純白だったはずのブラウスはもう真っ赤っかになっているので、 はっきりいって今のルイズは直視に耐えない。 そんな状態にも関わらず、 ルイズが異様にギラギラした目で見つめてくることが、 余計にキュルケの恐怖を煽った。 キュルケは、うっ…と仰け反った。 幽霊系が大の苦手なタバサは、 出来うる限りルイズの方を見ないようにしている。 タバサに半分幽霊扱いされている事などつゆ知らず、 ルイズはブルブルと頭を振った。 ピシャッと血が辺りに飛び散って、キュルケはさらに仰け反った。 「あぁ……ゴメン。 ちよっとイライラしてたから。 大丈夫、大丈夫よ……」 ルイズが人並みな会話をしてくれたおかげで、 キュルケはちょっと安心した。 (よかった…まだ人間だわ、この子……) 近頃、ますます人間離れしてゆくライバルに、 キュルケは気が気でなかった。 さっきだって、自分の知らないところで、 ルイズが越えてはならない一線を越えたような 嫌な予感がしたものだが、どうやら杞憂だったようだ。 頭の傷も、よくよく見てみたら、 皮膚が裂けているだけだ。 ―――そうだ。 なんてことはない。 フーケを捕まえたら、全て元通りになるに決まってる。 キュルケは、自らの胸に渦巻く得体の知れない疑惑を そう結論づけて、地面を見下ろし、 ゴーレムの肩に乗るフーケを見た。 フーケが持つ、流れるようなエメラルドの髪に、 キュルケはどこかで見覚えがあった。 「ねぇ……あのフーケ、 どことなくミス・ロングビルに似てると思わない……? ほら、髪の色とか」 キュルケは、思ったことをそのまま口に出した。 「ミス・ロングビルがいない」 タバサがポツリと呟いた。 そういえば、辺りにミス・ロングビルの姿が見当たらない。 まさか、とキュルケは目を見張った。 「ウッソ!? そ、それじゃあ、ミス・ロングビルが………!!」 「そ。 『土くれ』のフーケよ。 まんまと騙されてたのよ、私たち」 キュルケの続きを、ルイズが取った。 ロングビル=フーケの事実に、キュルケは唖然としたが、 直ぐに意識を切り換えて、DIOを見た。 その存在感は、ゴーレムを目前にしても、なお揺るがない。 「ルイズ。 あいつ1人だけ残しちゃったけど、大丈夫なの? はっきり言って、あのゴーレム、 反則スレスレの代物よ?」 キュルケは先ほどの僅かな攻防で、 フーケのメイジとしての実力の高さを痛感していた。 フーケは『トライアングル』クラスだと聞いたが、 自分だって『トライアングル』だし、タバサだってそうだ。 どうにかなるさと高を括っていたが、どうやら認識が甘かったようだ。 何せあのゴーレム、自分たちの魔法が通用しなかったのだ。 どれだけあの使い魔が化け物だろうと、 1人で立ち向かうには荷が重すぎるのではないかと、キュルケは感じていた。 「…………………」 しかし、キュルケの率直な質問に、ルイズは何も答えなかった。 『破壊の杖』をしっかりと抱きしめたまま、目をつむり、呼吸を整え、 完全に休息の体勢をとり始めていた。 「なによ、もう……!!」 無視されたのが面白くなかったのか、キュルケはふてくされたように髪をかきあげた。 再び下に視線を向けると、 ゴーレムの拳撃に対抗すべく、DIOの体から半透明の幽霊が浮き出て来ている様子が、 視界に入った。 「……ざわーるど」 タバサが、若干変なアクセントでその名を呼んだ。 聞き慣れない異国語の名前を持つ幽霊もどきに、タバサの視線は珍しく釘付けだった。 これから何が起きるのか、カケラも見逃さないと言わんばかりだ。 ゴーレムの鉄拳を破壊したDIOは、 どこからともなく剣を2本取り出した。 上半身裸のDIOには、物を入れる場所は、ズボンしかない。 しかしあのズボン、剣を出す前と後で、見た目が全く変わっていない。 ズボンじゃないとしたら、どこに仕舞っていたというのか。 穴が開くほど見ていたタバサにもサッパリわからないようだ。 首をかしげている。 キュルケは、すべての秘密はあのズボンにある、 とばかりに叫んだ。 「まぁ……すご(ry」 キュルケの間の抜けた発言に、タバサが溜め息をついた。 DIOが何ともいえない表情でキュルケを見上げた。 シルフィードが、『空気を読め』と、きゅいきゅいと抗議の声を上げた。 ルイズはスルーした。 そのうちに、戦いは佳境に入り、DIOがデルフリンガーを片手に大ジャンプをした。 たちまちゴーレムの顔まで上昇したDIOの身体能力には驚かざるを得ないが、 空に跳んだのはとんでもない失敗ではないかと、キュルケもタバサも思った。 空中では、身動きが激しく制限される。 あれではゴーレムのいい的だ。 案の定、上昇を止めたDIOの体目掛けて、ゴーレムの鉄拳が迫った。 あのタイミングでは、避けられる可能性は絶望的だ。 しかし、ギーシュの時も、DIOは脱出不可能の状況から見事に抜け出し、 あっという間に逆転してみせた。 ここからは、決して目を離すべきではない。 キュルケとタバサは、まばたき1つせずに身を乗り出して成り行きを見守る。 鉄拳が迫る。 キュルケが息を呑む。 タバサが杖をギュッと握る。 シルフィードが緊張で震える。 DIOが笑う。 ルイズが欠伸をする。 そして…………………… 「『ザ・ワールド(世界)』!!!!」 ―――――――――ドォオオオオン!!!――――――――― ……………気がついたら、DIOは地面に降り立っていて、 ゴーレムは無惨なボロキレと化していた。 一気に。 瞬時に。 全ての出来事が時間差もなく。 キュルケとタバサは、こういう結果になることを心のどこかでわかっていながらも、 ブルッと震えた。 「タ………タバサ、今の見えた?」 呆然と顔を向けるキュルケに、タバサはフルフルと首を振った。 ゴーレムがガラガラと音を立てて崩れ落ち、 肩に乗っていたフーケも、一緒に地面へと吸い込まれていった。 何やら叫んでいたが、ゴーレムが崩れ落ちる音にかき消されて、 何を言っているのかは分からなかった。 ―――と、地に立つDIOが、何かを伝えようとしているのか、 シルフィードを見上げたた。 キュルケもタバサも、DIOの何かを促すような視線に、覚えはなかった。 しかし2人の背後、まるでそれを待っていたように、 ルイズがカッと目を見開いた。 呆然とDIOを見下ろしていた2人は、それに気づかなかった。 ルイズは『破壊の杖』を懐にしまうと、ズルズルと全体を引きずるように移動して、 シルフィードから身を投げ出した。 視界に、落下してゆくルイズの姿がはっきりと映り、 キュルケは叫んだ。 「ルイズ!!!!!」 キュルケはルイズにレビテーションを掛けようと、慌てて杖を取り出そうとしたが、 その間にもルイズはグングンと地面に近づいてゆく。 よそ見をしていたキュルケでは、もはや間に合わなかった。 "ズドォン!"と地鳴りをさせながら、ルイズは四つん這いで地面に墜落した。 結局レビテーションが間に合わなかったキュルケは、 ルイズが全身打撲で昇天してしまったと思ったが、 意外にもルイズは、すっくと立ち上がった。 何事もなかったかのようにスカートに付いた埃を払うルイズを見て、 キュルケは安堵のため息をついてタバサを見た。 「ナイス、タバサ!! レビテーション、間に合ったのね!!!」 タバサが代わりにレビテーションを掛けてくれたと思ったキュルケだが、 予想に反して、タバサは首を横に振った。 心なしか、彼女は冷や汗をかいている 「………てない」 「…え?」 「私、レビテーション掛けてない。 ……間に合わなかった」 「……………は、はいぃ?」 キュルケはもう、何が何だかわからなかった。 ――――地面に降り立ったルイズは、すっくと立ち上がると、 スカートに付いた埃をポンポンと払った。 辺りを見回すと、ちょっと離れた所にDIOがいた。 「要望通り、あの土人形は破壊したぞ、『マスター』。 私の仕事は、これで終わりかな?」 「いいえ、まだよ。 ここはもういいけど あんたには、あいつらと遊んでもらうわ」 ルイズは首を横に振って、上空のシルフィードを親指でクイと差した。 「ほほぅ、友人に見られるのは、まだ気が引けるのか?」 「それもそうだけど、目撃者がいたら、あとあと困るでしょ? フーケはあくまで、『行方不明』になるんだから」 面白そうに問いかけるDIOに、ルイズはあっさりと答えた。 「殺してもいいけど、その時は、あの竜も含めて、 全員纏めていっぺんにしなさい。 それ以外の場合は、殺しちゃダメよ」 「注文の多いご主人様だ。 最後に私まで食ってくれるなよ」 「はぁ? 分けわかんないこと言ってないで、さっさと行きなさい。 ほら!!」 冷やかしに気づくことなく、 ルイズはせかせかとDIOを追い立てた。 機嫌がいいのか、煙幕になれと言うルイズに、 DIOは静かな微笑みを浮かべたまま、森の奥へと消えていった。 それを見送ったルイズは、さて…、と一息入れると、 ゴーレムが崩れた方向を見やった。 そこには、地面に横たわるフーケがいた。 その距離、約17メイル。 目にした途端に、ルイズは無表情になった。 フーケはピクリとも動かず、死んだようにも思える。 30メイルの高さから、地面に叩きつけられたのだ。 打ち所が悪くて、命を落としてしまったのかもしれない。 しかしルイズは感情を押し殺し、至極冷静な、 何故かフーケにも聞こえる位の声量で言った。 「死んだ……………か? いいや、『土くれ』のフーケは、あなどれないわ………。 死んだふりをしてだましているかもしれないわね……。 念には念を入れるとしましょうか」 フーケの体が、微かに震えた気がした。 ルイズは、まるで誰かに話しかけているかのような調子で続ける。 「完全なるとどめを………刺す!!」 "ゴゴゴゴゴ…" 「こいつで………」 "ドドドドド…!" 「跡形もなく吹き飛ばしてね………!」 ルイズは懐からズォオオオ、と長さ1メイル程の 金属の筒を取り出した。 果たしてそれは、『破壊の杖』であった。 フーケが、ビクッと怯えたような気がした。 to be continued…… 45へ