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地元の消防団に所属していた被告人が,ストレス解消のため,約1年余りの間に,合計5件の放火を敢行した連続放火事案 主 文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中140日をその刑に算入する。 理 由 (犯罪事実) 被告人は, 第1 平成16年2月5日午後11時45分ころ,当時の山梨県東山梨郡○○町○○番地の○A廃車置場において,同所に置かれていたB所有に係る車両の助手席シートに所携のライターで点火し,その火を同車に近接して置かれていた同人所有に係る車両合計17台に順次燃え移らせ,よって上記車両合計18台(損害額合計約137万円相当)を焼損し,もって他人の器物を損壊した 第2 同年3月8日ころ,同町○○番地所在のCが現に住居に使用している木造トタン葺き平家建居宅(床面積約172.24平方メートル)に放火しようと企て,同人方風呂場外壁脇に設置されたボイラー用灯油タンクを引き倒して灯油を流出させ,同所付近にあった紙に所携のライターで点火し,その火を灯油に引火させるなどして火を放ったが,自然鎮火したため,凍結防止用水道管カバー,ボイラー送油管等を焼損させたにとどまり,その目的を遂げなかった 第3 同月16日午前零時45分ころ,同町○○番地有限会社D車庫兼資材置場において,同所に置かれていたE所有に係る車両の助手席シートに所携のライターで点火し,その火を同車に近接して置かれていたF所有に係るエアーコンプレッサーカバー等4点に燃え移らせ,よって同車及び上記エアーコンプレッサーカバー等合計5点(損害額合計約16万7810円相当)を焼損し,もって他人の器物を損壊した 第4 同月23日午前2時ころ,同町○○番地所在の同町所有に係る現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない○○町消防団第2部詰所(木造モルタル2階建て,床面積合計約95.79平方メートル)に放火しようと企て,同詰所2階に置かれた段ボール箱在中の空き袋に所携のライターで点火した上,同所に置かれたポリタンク入りの灯油をその周囲の畳の上等にまき,その火を同所の壁,柱,天井等に燃え移らせて火を放ち,よって,同所2階部分(床面積約49.26平方メートル)を焼損させ,もって現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建造物を焼損させた 第5 平成17年2月25日午前零時ころ,山梨県山梨市○○番地所在G敷地内のH所有に係る車庫内において,同所に置かれていた同人所有の木炭在中の段ボール箱に所携のライターで点火して火を放ち,同段ボール箱を焼損し,そのまま放置すれば,同段ボール箱に近接して駐車中の普通乗用自動車を焼損させ,さらにその火を周囲の人家に燃え移らせるなどのおそれのある危険な状態を発生させ,もって公共の危険を生ぜしめた ものである。 (法令の適用) 被告人の判示第1及び第3の所為はいずれも刑法261条に,判示第2の所為は同法112条,108条(有期懲役刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第4の所為は同法109条1項(刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においては上記改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に,判示第5の所為は刑法110条1項にそれぞれ該当するところ, 所定刑中判示第1及び第3の各罪については懲役刑を,判示第2の罪については有期懲役刑をそれぞれ選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重をすることとするが,平成16年法律第156号の施行前に犯したものと施行後に犯したものがある場合であるから,同法付則4条本文により同法による改正前の刑法14条の制限内で加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役6年に処し,刑法21条を適用して未決勾留日数中140日をその刑に算入し,訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 本件は,地元の消防団に所属していた被告人が,ストレスを解消するため,約1年余りの間に,現住建造物等放火未遂1件,非現住建造物等放火1件,建造物等以外放火1件,器物損壊2件の合計5件の放火を敢行した連続放火事案である。 被告人は,妻との間で生活費や子育て等をめぐり諍いが絶えなかったこと,実父との間で仕事等をめぐり意見の対立等があったこと,消防団内部での自己の立場や人間関係にも不満を抱いていたことなどから,日々ストレスを蓄積していたところ,些細なことをきっかけに怒りを感じてはストレス解消をすべく本件各放火行為に及んだものである。しかも,被告人は,放火をするのであれば,実父や消防団の人間,近所の住人等に不安を与えたいなどと考え,消防団の管轄地域の中で放火を行っているのであって,幼稚で身勝手な発想に基づく独善的な犯行というほかなく,動機に酌量の余地はない。 犯行態様を見ても,深夜の時間帯に人気のない場所を選んで放火に及んでいる上,判示第2及び第4の事件についてはその場にあった灯油を利用するなど火勢の拡大を意図しつつ放火しているものであり,放火の犯意は強固で危険な犯行である。被告人は,判示のとおり1年余りの間に5件も連続的に放火行為を繰り返しているほか,被告人の供述によれば,これら5件を含め全部で約12件の放火を敢行していたというのであって,常習性も顕著である。 本件各犯行による財産的損害は約1300万円余りにものぼっている上,消防団詰所の2階部分は全焼(判示第4)し,数多くの自動車を焼損させる(判示第1及び第3)など,結果も重大である。これまでに判示第2の犯行について25万4000円の保険金が,判示第4の犯行について1157万4000円の災害共済金がそれぞれの被害者に支払われているものの,これらは保険ないし共済によるものであって,いまだ被告人による被害弁償ないし補償は講じられていない。本件各犯行による被害者らの処罰感情に厳しいものがあるのは当然であり,また,判示第5の犯行により被告人が逮捕されるまでの間,被告人による連続放火が地域住民に与えた不安感は相当なものであったとうかがわれるほか,地域住民の防災に尽力すべき消防団員がストレス 解消のために放火を繰り返したという本件犯行が地域住民に与えた衝撃も軽視することはできない。 他方,被告人は,本件各犯行の重大性を自覚して真摯な反省の態度を示し,被害者らに対する謝罪の意思を表明していること,社会復帰後は父親との関係を修復するなどして更生することを固く誓うとともに真面目に稼働して被害弁償にも努めたい旨述べていること,被告人には道路交通法違反の罪による罰金前科以外に前科がないこと,その他被告人の年齢など,被告人にとって酌むべき事情も認められる。 そこで,当裁判所は,これらの被告人にとって有利,不利な一切の事情を総合考慮し,主文のとおりの刑を量定した次第である。 (検察官佐藤方生,国選弁護人水上浩一各出席) (求刑 懲役7年) 平成17年11月10日 甲府地方裁判所刑事部 裁判長裁判官 川 島 利 夫 裁判官 矢 野 直 邦 裁判官 肥 田 薫
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平成17年(わ)第88号 現住建造物等放火,殺人被告事件 主文 被告人を懲役9年に処する。 未決勾留日数中60日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実) 被告人は,父A(当時55歳)の自己に対する冷たい態度に絶望して自暴自棄となり,同人らとともに居住していた自宅に放火して同人を殺害するとともに自殺しようと決意し,平成17年5月1日午前3時ころ,富山県a市内の同人方において,木造瓦葺2階建居宅(床面積合計約197.27平方メートル)の2階寝室前廊下の床上に,ガソリン及び潤滑油の混合油を入れたプラスチック製バケツを置いた上,同混合油を染み込ませた新聞紙に所携のライターで点火して放火し,その火を同建物の2階壁面等に燃え移らせ,同壁面等合計約93平方メートルを燃焼炭化させて焼損するとともに,同寝室で就寝していた同人に全身火傷の傷害を負わせ,よって,同日午前10時30分ころ,同県b市内のB病院において,同人を焼死させて殺害したものである。 (法令の適用) 被告人の判示所為のうち,現住建造物等放火の点は刑法108条に,殺人の点は同法199条に該当するが,これは1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重い殺人罪の刑で処断することとし,所定刑中有期懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役9年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中60日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (弁護人の主張に対する判断) 1 弁護人は,被告人が本件犯行当時発達障害であるアスペルガー症候群により心神耗弱の状態であったと主張するので,その責任能力の程度について検討する。 2 犯行に至る経緯 関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 被告人は,父Aと母Cとの間に一人っ子として生まれ,幼いころから学校でいじめを受け,親しい友人もなく,大学中退後は自宅に引きこもり,母が唯一の話し相手であるなど,同人に依存する生活をしていた。しかし,被告人の母は,平成16年8月,交通事故により意識障害に陥って入院し,それ以来,被告人にとって,寝たきりの母の見舞いが生活の中心となっていた。 被告人は,平成17年4月30日の夕食時,自宅でAに対し,母の日のプレゼントについて相談したところ,同人からそっけない態度をとられ,十分に話を聞いてもらえなかった。そのため,被告人は,Aに疎ましく思われていると感じ,いっそ自殺しようなどと思い,度胸をつけるため台所で飲酒していたが,これを見たAにしかられ,怖くなって家を出て付近で身を潜めた。被告人は,Aが心配して捜しにくることを期待していたが,同人は家の外に出たものの,被告人を捜すことなく家に戻ったため,不審に思いAにその真意を尋ねたところ,被告人の飲酒運転を防ぐために車庫の鍵を掛けてきたと言われた。これを聞いた被告人は,Aが世間体を気にする一方,自分に対しては無関心であるとして,その冷たい態度に絶望して自暴自棄となり,Aを殺害して自殺することを決意した。 被告人は,日ごろ,母のいない静まりかえった家が寂しく,嫌いであったため,心中の方法として自宅に対する放火を思い立ち,勝手口付近で自宅にあった草刈機の燃料を染み込ませた新聞紙にライターで点火して火勢を確認した後,自宅2階のAの寝室前に燃料を入れたプラスチック製バケツを運び,その中の燃料を新聞紙に染み込ませた上,これにライターで点火し,本件犯行に及んだ。 3 医師D作成の簡易精神鑑定書によれば,被告人の本件犯行当時の精神状態は,アスペルガー症候群かつ一過性の抑うつ状態であり,是非弁識能力は不十分で行動制御能力にも欠損が認められるが,一般的な精神病水準の状態ではないと診断されている(同医師による診断の経過・方法等に照らし,その診断の信用性を疑わせる事情は認められない。)。これに加え,本件犯行の動機は,被告人のこれまでの生活状況に鑑みれば一応了解可能であり,犯行の準備状況や態様等を見ると,被告人の行動には合目的性が認められ,また,本件犯行直後には,火勢に驚いて現場から離れて隣家に助けを求め,その後,犯行を後悔して警察に電話をかけたことも認められるのであるから,被告人は本件犯行時及びその前後を通じ,被告人なりの判断に基づき,合理的に行動していたものということができる。そして,犯行状況に関する被告人の捜査・公判段階における供述は詳細かつ具体的で,犯行当時の被告人の記憶は概ねよく保たれていることが認められる。 そうすると,本件犯行当時,被告人の是非弁識能力及び行動制御能力はいずれも若干低下していたものの,著しく減退してはおらず,完全責任能力を有していたと認められるから,弁護人の主張は採用できない。 (量刑の理由) 本件は,被告人が実父を殺害して心中するため自宅に放火してこれを焼損するとともに,実父を焼死させたという現住建造物等放火及び殺人の事案である。 本件犯行に至る経緯は上記のとおりであり,短絡的かつ自己中心的な動機に酌むべき点はない。その態様も,確定的殺意に基づき,木造家屋内に燃料油を用いて放火し,就寝中の被害者を焼死させようとした残忍かつ危険なものである。一人の生命を失わせたという結果は誠に重大で,落ち度が全くないにもかかわらず,息子によって自宅に放火され,無念の思いで絶命した被害者の胸中は察するに余りある。加えて,本件が,周辺住民や地域社会に大きな不安感を与えたことも軽視できない。 以上の点に鑑みると,被告人の刑事責任は相当重大である。 しかしながら,他方,本件犯行当時,被告人の是非弁識能力及び行動制御能力はいずれも若干低下しており,本件は衝動的に行われたものであること,火災は被告人宅内部にとどまり隣家に延焼の被害が及んでいないこと,被告人は,犯行後,自首して反省悔悟していること,いまだ20歳代前半と比較的若年であること,介護を要する母がいることなどの被告人のために酌むべき事情も認められる。 そこで,以上のような諸情状を総合考慮し,主文の刑に処するのが相当であると判断した。(求刑 懲役13年) 平成17年9月6日 富山地方裁判所刑事部 裁判長裁判官 手 崎 政 人 裁判官 大 多 和 泰 治 裁判官 五 十 嵐 浩 介
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平成17年(わ)第161号 公務執行妨害,殺人未遂被告事件 平成17年(わ)第167号 殺人未遂,現住建造物等放火被告事件 主 文 被告人を懲役10年に処する。 理 由 (罪となるべき事実) 第1 被告人は,Aと同棲関係にあったところ,共通の知人である女性(ホステス)と交際しようとしたことから,Aから同女との関係を厳しく責め立てるような態度をとられて,立腹するとともに,Aとの関係をもはや修復することができないと将来を悲観したあまり,Aが経営する飲食店内でAを殺害した上で,同店の建物に放火して焼き払って自殺しようと決意し,平成17年8月9日午後3時15分ころ,富山県内の飲食店内において,殺意をもって,所携の洋包丁(刃体の長さ約21.4センチメートル)で,Aの右腹部を1回突き刺し,さらに,同日午後3時25分ころ,Aが現に住居として使用する同飲食店の店舗兼居宅(木造瓦葺2階建,床面積合計約66平方メ-トル)1階居間において,置かれていた紙製手提げ袋にマッチで点火して火を放ち,その火を衣装ケースに吊されていた衣類を介して,同建物の壁及び柱等に燃え移らせ,同建物を全焼させて焼損し,これを経て,同建物の北側に隣接し,Bほか1名が現に住居として使用する木造瓦葺2階建建物に燃え移らせるとともに,同飲食店の建物の南側に隣接し,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない建物で,Cほか1名が所有する木造瓦葺2階建の倉庫兼車庫,同建物の南側に隣接し,Dほか1名が現に住居として使用する木造瓦葺2階建建物,同建物の南側に隣接し,Eが現に住居として使用する木造瓦葺2階建建物に順次燃え移らせ,これら建物の各一部を焼失させて焼損したが(焼損面積合計約122平方メートル),Aが警察官によって救出されたため,Aに全治約2か月間を要する肝刺創の傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかった。 第2 被告人は,同日午後3時28分ころ,前記飲食店内において,同店従業員から前記第1の事件に関する通報を受けて現場に臨場した富山県警察官Fが,被告人を検挙し,Aを救出するために,同店南側便所の腰高窓から店内に突入したことから,逮捕を免れるとともにAの救出を妨げようと企て,そのころ,Fに対し,殺意をもって,所携の前記洋包丁で,Fの腹部を突き,あるいは切りかかるなどして,もってFの職務の遂行を妨害するとともに,Fに約2週間の安静加療を要する右小指皮膚剥脱創,右前腕切創等の傷害を負わせたが,他の警察官に制圧されたため,殺害の目的を遂げなかった。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,同棲相手であったAに対し,殺意をもって,Aの腹部を包丁で刺して,全治約2か月間を要する肝刺創の傷害を負わせ,もって殺人未遂を犯すとともに,Aが現住する店舗兼居宅用建物に放火し,同建物を全焼させて焼損し,これを経て,隣接する4軒の建物をそれぞれ一部焼損し,もって現住建造物等放火を犯し,その後間もなく,事件通報を受けて犯行現場に駆けつけ,被告人を検挙し,Aを救出しようとした警察官Fに対し,殺意をもってFの腹部を包丁で刺すなどして,約2週間の安静加療を要する右小指皮膚剥脱創,右前腕切創等の傷害を負わせ,もって公務執行妨害及び殺人未遂を犯したという事案である。 2 本件のAに対する殺人未遂及び現住建造物等放火は,被告人が,他の女性(ホステス)との関係について,Aから厳しく責め立てるような態度をとられて,立腹するとともに,Aとの関係を修復できないと将来を悲観したことから,Aが経営する飲食店内でAを殺害した上で,同店の建物に放火して焼き払って自殺しようとしたものである。これら犯行の動機は,極めて短絡的かつ身勝手なものである上,放火によって,Aだけでなく,近隣住民の生命,身体又は財産に被害が及ぶおそれがあることを省みないものであり,酌量の余地はない。 被告人は,長年にわたりAと同棲して,Aのために家事や前記飲食店の手伝いなどをしてきたところ,Aは,被告人と前記女性との関係を知った後,自宅から被告人の荷物を撤去するとともに,被告人に知らせずに自宅の鍵を交換しようとしたり,あるいは,被告人に貸していた自動車や携帯電話を利用できない状態にしたり,さらに,被告人の面前でその行動を激しく非難するなどして,被告人を厳しく責め立てるような態度をとったことが認められる。しかし,Aがこのような態度をとったのは,被告人が前記女性がホステスとして勤めているクラブを利用して高額な料金を掛け払いにしたり,同女を自宅に連れ込み,あるいは,同女と自動車内で一夜をともにし,その際に同女に性的関係を迫ったりしたことに加え,被告人が,定期的な就労により十分な収入を得ることをせずに,Aの収入に頼り,Aからもらった金員を自分の飲酒や遊興等に費やしていたことなど,被告人の生活態度や行動に対する不平不満によるものと認められる。これに対し,被告人は,このようなAの心情をあまり察することなく,Aとの関係を修復する手立てをそれほど講じないまま,Aに対する怒りを一方的に募らせた上,同人と心中しようと勝手に思い詰めた末,Aに対する殺人未遂及び本件の現住建造物等放火の各犯行に及んでいる。したがって,Aが被告人に対して厳しく責め立てるような態度をとったことをもって,被告人にことさら有利に斟酌すべきものとはいえない。 Aに対する殺人未遂は,刃体の長さが約21.4センチメートルであり,鋭利で殺傷能力の高い包丁を用いて,逃れようとするAを追いかけた上,人体の枢要部であるAの腹部を1回突き刺したというものである。また,本件の現住建造物等放火は,木造家屋等が密集する住宅地域にあり,古い木造家屋数軒が長屋のように隣接している建物内において,包丁で腹部を刺されて倒れていたAを救助しようとせずに,Aの衣服等の可燃物が多く存する場所で紙袋に着火して放火したものであり,A及び近隣住民に対して,建物,家財道具等の焼損等によって,著しい財産的損害を与え,その生命又は身体に危害を及ぼしかねないものである。これら犯行の態様は,著しく危険かつ残虐なものであり,極めて悪質である。 Aは,被告人によって腹部を包丁で刺され,傷口が肝臓内に及ぶ重傷を負い,本件現住建造物等放火によって店舗及び居宅として長年使用してきた建物や多くの家財道具を焼失し,多大な財産的損害を被った上,警察官に救出されなければ,放火された建物内において生命を奪われかねない危険にさらされており,著しい精神的苦痛を被っている。Aは,これらの犯行によって長年にわたり生活をともにしてきた被告人との信頼関係を完全に失い,被告人に対して,複雑ではあるが,厳しい被害感情を訴えている。 本件の現住建造物等放火によって,近隣建物4軒が一部焼損し,その焼損面積は合計約122平方メートルにも及んでいる。これら建物はいずれも焼損等によって事実上使用できない状態になり,中には生活の本拠を失った者もいる。これら被害住民はいずれも被告人に対する被害感情を強く訴えており,また,放火後の消火活動等により損害を受けた近隣住民も被告人に対する怒りを訴えている。 3 本件の公務執行妨害及び警察官Fに対する殺人未遂は,被告人を検挙するとともに,Aを救出しようとした警察官Fに対し,殺意をもって,前記包丁で警察官Fの腹部を突き,その身体に切りかかるなどし,よって公務の執行を妨害するとともに,約2週間の安静加療を要する右小指皮膚剥脱創,右前腕切創等の傷害を負わせたというものである。 これら犯行の動機は,被告人を検挙し,放火された建物内に倒れていたAを救出するために,公務を執行していた警察官に対し,包丁を用いて暴行を加え,逮捕を免れるとともに,Aとの無理心中を妨げられないようにするというものであって,極めて自己中心的であり,酌量の余地はない。犯行の態様も,警察官Fに対し,殺意をもって,前記のとおり殺傷能力の高い包丁で,人体の枢要部である腹部を包丁の刃先が折れるほどの力で突くなどして,繰り返し警察官Fの身体に危害を加えようとするものであって,極めて執拗かつ危険であり,悪質である。 これら犯行によって,警察官Fは,耐刃防護衣を着用していたため腹部の重傷は免れたものの,右腕及び右指に加療約2週間を要する傷害を負い,生命まで奪われかねない危険にさらされており,被告人に対する厳重な処罰を求めている。 4 以上のとおり,被告人は,本件各犯行によって,多数の者に対して著しい被害を与えているが,各被害者に対し,被害弁償を含め,慰謝の措置をとっていない。 さらに,本件各犯行は,その態様に照らし,地域社会に対して相当な不安を与えたものと認められ,その社会的な影響も考慮すると,被告人に対する刑罰によって,同種事犯の予防及び治安の維持を図る必要があると認められる。 そして,被告人は,平成3年4月1日,けんかの際に所携の刀剣(刃渡り相当部分の長さ約44.1センチメートル)を取り出したことから,同年10月2日,銃砲刀剣類所持等取締法違反の罪により罰金8万円の略式命令を受けた前科も有している。 以上によれば,被告人の刑事責任は誠に重大である。 5 他方において,Aは,警察官に救出されて治療を受けたため,幸いにも死亡するには至らず,また,被告人が他の警察官に制圧されたため,警察官Fも前記の傷害を負うにとどまったこと,被告人は,本件各犯行によって身柄を相当期間拘束されて,反省の機会を与えられ,公判廷においても,犯行を悔いて反省の情を示していること,被告人には近所に住んでいた兄がいること,被告人には前記の罰金刑を除いて前科前歴がないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。 そこで,これら被告人のために有利,不利な一切の事情を考慮して,被告人に対し,主文の刑を科すのが相当と判断した。 (求刑 懲役12年) 平成18年2月1日 富山地方裁判所高岡支部 裁判長裁判官 藤 田 敏 裁判官 源 孝 治 裁判官 細 川 二 朗
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被告人を懲役11年に処する。 未決勾留日数中210日をその刑に算入する。 理 由 (犯行に至る経緯) 被告人は,平成13年ころ,行きつけのゲームセンターでAと知り合って,以後,共にゲームセンターで遊んだり,後記A方居室を訪問するなどして親しく付き合っていた。そのうち,被告人にとって,Aが弟のような存在と感じられるようになったこともあり,被告人は,Aのことを心配して,身なりを整え,部屋を掃除し,貯金をするように注意したり,ゲームセンターでのマナーを叱りつけたりするようになった。 被告人は,平成16年8月6日午前0時30分ころから,別の友人と居酒屋で酒を飲み始め,同日午前2時過ぎころ,いずれ一緒に飲む約束をしようとして,Aの携帯電話に繰り返し電話をかけたが,着信拒否のアナウンスが流れるのみでつながらなかった。被告人は,以前にも,Aから着信拒否をされたことがあったため,今回も再び自分からの着信を拒否されたと思い込んで,無性に腹が立ち,直接問い質すなどして自分の怒りをぶつけようと考え,Aの住む加須市内の後記社員寮に向かった。 被告人は,Aの住む寮に到着した時点で,Aの住むa号室には明かりがついていなかったが,1階b号室には明かりがついており,駐車場にも二,三台の車がとまっているのを現認して,時間帯も深夜であったため,寮内に何人かの人がいることは認識していた。被告人は,Aが寝ているかもしれないと考えて,無施錠の玄関から同室内に上がりこんだ。室内は暗く,被告人が,所携のライターをつけて,その明かりで辺りを見渡すと,室内には,紙くずやビニール袋,雑誌,衣類,ごみ等が散らばっており,足の踏み場もない状態であった。被告人は,以前にも,Aに部屋を片付けるように注意していたのに,Aがそれを無視したとして,一層腹を立てた。 (罪となるべき事実) 被告人は,友人のAが,携帯電話の着信を拒否したり,自己の忠告を無視して部屋の片付けをしていないことに憤慨し,同人が不在のため,やり場のなくなった怒りを晴らすとともに,同人を脅して懲らしめるためにも,その場に散乱していたごみ等に火をつけて,埼玉県加須市内のAほか8名が現に住居に使用している株式会社B社員寮(木造スレート葺2階建共同住宅,床面積合計約198.74平方メートル)a号室のA方居室を焼損しようと企てたが,同室に放火すると,上記社員寮の他の部屋にまで延焼し,ひいてはその居住者の生命にも危害の及ぶおそれのあることを認識していたのであるから,厳にこれを慎むべき注意義務があるのにこれにも違反して,平成16年8月6日午前2時40分ころ,同室内において,ごみ袋等4か所に,所携のラ イターで点火して火を放ち,さらに,同所に置かれていたライター用オイル約20ミリリットルを室内の壁等にまき散らして引火させるとともに,その火を同室内の壁,柱,天井等に燃え移らせ,よって,同室及び同室直上のc号室のC(当時25歳)方居室を全焼(焼損面積合計約39.74平方メートル)させるとともに,上記放火行為をした重大な過失により,そのころ,上記c号室内において,Cを焼死するに至らせた。 (証拠の標目) 省 略 (補足説明) 1 弁護人は,①本件犯行当時,被告人は火災をぼや程度にとどめる考えであり,人の死亡については予見可能性がなかった,②仮にその予見可能性があったとしても,被告人の行為と被害者の死亡との間には,消防当局の過失行為が介在しており,因果関係が遮断されるとして,被告人については結局,重過失致死罪が成立しない旨主張しているので,これらの点に関する当裁判所の判断を示すこととする。 2(1) まず,死の結果の予見可能性の点についてみるに,関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。すなわち, ア 本件建物は,木造スレート葺2階建共同住宅で,壁面や天井は石膏ボードが張られ,界壁内や天井の上には断熱材が入れられているなど,防火措置は施されていたが,床,柱,梁等の構造材,下駄箱,ミニキッチン等の建具等は木製であり,その一室に火を放てば建物全体に延焼する可能性の十分にある木造集合住宅であった。そして,これが,通常の火災による火熱に長時間耐えられるような耐火建築物ないし準耐火建築物に該当しないことは,その外観からも,容易に看取できるものといえる。 イ また,被告人は,Aによる着信拒否等に強く憤慨して,A方居室の中にあったごみ袋等4か所に見境なく火を放った上,ライター用オイル約20ミリリットルを壁等にまき散らして引火させようとまでしており,しかも,この放火の際に,消火用具等の用意も全くしておらず,オイルに引火して炎が燃え上がったときには,慌てて布でたたくことしかしていないのである。 (2) この点,被告人自身,捜査段階では,本件建物が鉄筋コンクリート造りの建物などではなく,一室から火が出れば,建物全体にまで燃え広がる危険性があることは分かっていたことを認めており,そのことは,公判段階でも,否定していない。しかも,被告人は,公判段階でも,1階b号室には明かりがついており,駐車場に車がとまっているのを現認したことを認めているほか,犯行時刻が,午前2時40分という深夜で,居住者の中には当然就寝中の者が多いと考えられることにも照らすと,被告人としても,A方居室に火を放てば,他の部屋にも延焼して,場合によってはその居住者らの生命に危害の生ずるおそれのあることを認識していたと優に推認することができる。 そして,被告人は,本件犯行に際し,延焼防止のための措置を特に講ずることもなく,憤激の赴くまま,室内4か所の可燃物に火を放ったにとどまらず,わざわざ燃え広がるようにライター用オイルまでまき散らしているほか,炎が燃え上がった際には,完全に消火しようとすることもなく,衣類等でたたいて消そうとしたのみであったというのであるから,このような被告人の行動は,延焼のおそれや他の部屋の居住者の生命への危険について頓着することもなく,感情の赴くままに犯行に及んだことをうかがわせるものであり,このことも,上記推認を客観的に裏付けるものである。 (3) この点,被告人は,捜査段階では,ごみ袋等に火をつけて,A方居室の壁や床に燃え移らせ,同室を多少燃やしてぼや騒ぎを起こしてやろうと思った,同室の広い範囲が燃えてしまう可能性があることや,火が他の部屋にまで燃え移って,その部屋の人が火事で死ぬ可能性があることも分かっていたなどと供述しており,この供述は,上記推認に沿うものであって,高い信用性を認めることができる。 (4) これに対し,被告人は,公判段階では,最初から自分で消すつもりであり,ぼや程度になればいい,周りが焦げていればいいという考えで火をつけただけで,Aの部屋の中を燃やしてしまおうという気持ちはなかったとして,延焼の可能性さえ認識していなかったかのような供述をしている。 確かに,被告人が直接に意図したものがA方居室にぼや程度の火災を起こすことであったことは,オイルに引火して炎が燃え上がった際,被告人が狼狽して,慌てて消火しようとしたことからもうかがわれる。しかし,前認定のように,被告人は,あらかじめ延焼防止のための措置を講じていないばかりか,火の範囲を限定しようとすることなく,わざわざ燃え広がるようにライター用オイルまでまき散らしており,しかも,炎が燃え上がった後も,水を掛けるなどして容易に消火できたはずであるのに,そのような措置もとっていないのであるから,被告人として,自ら放った火を確実に消火しようとする意図があったなどとは到底認められない。 したがって,被告人の上記公判供述は,前記推認に反するばかりか,自らの行動にもそぐわない不自然・不合理なものであって,これを信用することは困難である。 (5) そうすると,被告人は,前記推認のとおり,A方居室に放火すると,本件建物の他の部屋にまで延焼し,ひいてはその居住者の生命にも危害の及ぶおそれのあることを認識しながら,殊更この点には頓着することなく本件犯行に及んだものと認められるのであって,その居住者の死亡の結果についても予見可能性があったことは明らかである。 3 次に,因果関係の点についてみるに,弁護人は,被告人が犯行当日の午前2時57分と午前3時4分に119番通報をした際,消防当局がいたずら電話と即断せず,直ちに出動していたならば,消防車が来る二,三分前まで生存していた被害者が助かっていた可能性が極めて高かった旨主張している。 しかしながら,関係各証拠によれば,被告人は,その日の午前2時57分に,「加須のBの寮が火事です」など,午前3時4分には,「B,火事になってんですよ。早く消しに来てください。」などと119番通報をしたものの,その通報内容自体,上記程度にとどまり,自らの氏名も名乗らず,火災現場の住所はおろか,その手掛かりさえも明らかにしないまま,一方的に電話を切っており,しかも,被告人は,犯行の発覚を恐れて,自分の携帯電話ではなく,公衆電話から電話したために,消防士が発信元に確認の電話をかけ直しても通じなかったことが認められる。さらに,電話を受けた消防士が,その通報がいずれも早口のため内容をほとんど聞き取れなかったと述べていることも考慮すると,その消防士が被告人の上記通報をいたずらと認めたこと はやむを得なかったというべきである。 したがって,被告人の上記通報の処理について消防当局に過失があったとはいえないから,被告人の放火行為と被害者の死亡との間の因果関係も優に認めることができる。 (法令の適用) 省 略 なお,弁護人は,重過失致死罪は現住建造物等放火罪に吸収され,別罪を構成しない旨主張する。しかし,重過失致死罪は,人の死亡という極めて重大な結果を構成要件とするものであって,公共危険犯である現住建造物等放火罪が,放火行為により生じるそのような重大な結果まで当然に評価しているとして,重過失致死罪を吸収するものと解することは困難である。したがって,本件においては,両罪の成立を認めた上,これらが1個の行為によることから,観念的競合の関係に立つものと解するのが相当である。 (量刑の理由) 1 本件は,被告人が,友人から携帯電話の着信拒否をされたと思い込み,その怒りを晴らすなどの動機から,社員寮の1室である同人方にぼや騒ぎを起こそうとして放火し,寮の2室を全焼させるとともに,その火災により,寮の居住者1名を焼死させたという現住建造物等放火及び重過失致死の事案である。 2 被告人は,深夜2時半過ぎに,友人の留守宅に無断で立ち入った上,紙くずやビニール袋,雑誌,衣類,ごみ等の可燃物の散乱する室内でぼや騒ぎを起こすことを企て,室内4か所の可燃物に火を放ち,たまたま目にしたライター用オイルをまき散らすことまでして,一般住宅の建ち並ぶ中に所在し,9名が居住する木造の社員寮の2部屋を全焼させており,他人の迷惑はもとより,人の生命や財産,公共の安全への配慮をも全く欠いた反社会的な言語道断の犯行である。 しかも,被告人は,オイルに引火し大きく燃え上がった炎を見て,その場にあった布類でたたき消そうとしたのみで,確実な消火活動もせず,鎮火も十分に確認しないまま,すぐに現場を逃走しており,無責任極まりない対応であって,厳しい非難に値する。しかも,被告人は,その後も,119番通報はしたものの,犯行の発覚を恐れて,公衆電話から,早口で断片的な情報を話しただけで,一方的に電話を切ったため,消防士が内容を把握できず,確認のすべもないまま,いたずら電話として処理せざるを得なかったのであり,結果発生の防止に向けて真摯誠実な努力をしたとも言い難い。加えて,被告人は,オイルを散布する際には,指紋が付かないようにオイル缶をハンカチで包み,また,十分な消火もしないまま立ち去る際でさえ,ドアノブの指紋 を拭き取ることは怠らないなど,自己の犯跡隠蔽工作は抜かりなく行っており,その態度は狡猾かつ悪質でもある。 なお,被告人は,犯行の動機について,判示のとおり,友人から携帯電話の着信拒否をされたことや,友人が自己の忠告に従わず部屋を片付けていなかったことに立腹したというのであるが,たかだか携帯電話の着信を拒否されただけで,相手の事情を聞くことさえせずに立腹するというのは,余りにも短絡的である。まして,部屋の片付けの問題は,被告人に迷惑を掛けるわけでもなく,その母親の供述からもうかがわれるように,自分の部屋も片付けようとしなかった被告人には,友人を非難する資格などないというべきである。ところが,被告人は,平成13年にも,交通トラブルから暴行事件を起こし,起訴猶予処分となった前歴があるというのに,上記のような些細で愚にも付かない動機から,一時の怒りに任せて,本件のような重大な犯行に及ん でいるのであって,犯行の経緯に酌量の余地が皆無であることはもとより,身勝手にもこのような犯行を安易に敢行する被告人の犯罪性向は,顕著というほかない。 3 本件の結果も,極めて重大である。 (1) まずもって,本件犯行によって,寮の居住者1名が死亡するという誠に痛ましい結果が生じている。被害者は,本件の前日,夜勤を終えてから上司や同僚らとプール遊びに出掛け,飲酒することもなく,買い物や食事を済ませて帰宅したのは午後7時半ころであり,本件の起きた深夜2時を回ったころは,疲労しきって眠りについていたことがうかがわれる。ところが,その睡眠中,突然,階下の部屋から出火して,またたく間に延焼し,被害者は,燃えさかる炎に逃げ場を失い,「助けてくれぇ」,「どっちに逃げればいいんだ」,「どっちに出ればいいのか分からない」などと悲痛な叫びを上げながら,助けを求めてさまよった末に,その火に巻かれて死亡してしまったのであり,その被ったであろう精神的・肉体的苦痛や衝撃,恐怖感や絶望感は想 像するに余りある。 被害者は,就職のため,北海道から単身,埼玉県内の社員寮に入り,母親に夜勤の苦労を訴えつつも,精一杯真面目に仕事に励んできており,周囲からも厚い信頼を得ていたものである。そして,いずれは家庭を持って,子供が生まれたときには,その子とキャッチボールをするというささやかな夢を抱いていた前途ある青年が,本件犯行の巻き添えを食って,無惨にもその夢を断たれ,僅か25歳という春秋に富む年齢で生涯を終えることを余儀なくされたのであり,余りに理不尽で,被害者の無念さは計り難いものである。 被害者の遺族も,遠方に長男を送り出し,年数回の帰省を待ち望んでいたところ,事件当日,突然の悲報を受けて,警察署に駆け付けると,焼けただれ,変わり果てた姿の長男と対面するに至ったものである。最愛の長男の最期をこのような形で迎えざるを得なかった被害者の両親の衝撃と苦悩もまた,甚大なものであるが,被告人は見るべき慰謝の措置も講じていないのであり,被害者の父親が,「なぜ,何の落ち度もない息子が死ななければならないのでしょうか。法が許されるなら,私はこの場で息子の無念を晴らしたい気持ちです。」などと述べ,母親も,「犯人は,息子の夢を一瞬にして断ち切り,私たち家族をどん底に突き落としたのです」などと述べて,異口同音に被告人の極刑を望むなど,その被害感情が峻烈であることも,当然というべき である。 (2) また,社員寮の居住者らは,それぞれに,間近で起きた火災に多大の恐怖を感じ,家財道具が煤や消火時の放水で使えなくなるなど,有形無形の損害を被っているほか,転居による不便も強いられている。とりわけ,自宅に放火された被告人の友人は,家財道具のすべてを火災で失った上,被告人が逮捕されるまでの2か月足らずの間,失火の張本人として周囲から疑惑の目を向けられ,結果的に,勤務先を退職するに至るなど,その被害は甚大である。 建物の損害についてみても,本件火災により,上記2部屋の床面積合計約39.74平方メートルが焼失しただけでなく,火災や消火活動の影響で建物全体が使い物にならなくなって,本件建物自体の解体が余儀なくされている。その結果,本件建物の所有者は,建築費3600万円の本件建物のみならず,月々40万円余りの賃料収入も失い,100万円を超える建物解体費用も負担するのやむなきに至るなど,その被害は重大である。そして,建物を賃借していた被害者の勤務会社も,解体費用の一部を負担するなど,相応の財産的損害を受けている。 (3) 以上みてきたとおり,本件犯行では,被告人の意図した範囲を大きく超えて燃え広がったように,重大な公共の危険が現実化している。さらに,本件建物には,これにわずか約2.7メートルの距離で隣接する民家があるように,住宅街の真ん中に位置する共同住宅が炎上したことで,消防隊員等が合計180名以上,消防車等が22台出動する騒ぎとなり,しかも,それが放火によるものであり,死亡した犠牲者も出たことが判明しているのであるから,付近住民に与えた恐怖心や不安感も相当のものであったとうかがわれる。 4 加えて,被告人は,事件後,警察官の来訪を受けて本件との関係を尋ねられた際,友人と飲酒していたため知らない旨虚偽の供述をした上,その友人にアリバイ供述を依頼するなどしており,犯行後の情状も芳しいものではない。 5 以上に照らすと,被告人の刑事責任は誠に重大である。 6 他方,犯行当時,被告人が意図していたのは,友人方にぼやを起こす程度であり,被告人は,意図した以上に炎が燃え上がるや,極めて不十分ではあるものの,一応の消火活動を行っており,逃走後も,再び火が燃え広がることを懸念して現場に引き返し,被告人なりに消防への通報を試みた上,遅きに失したとはいえ,消火・救命活動に出た様子もうかがわれる。また,被告人は,重過失致死事件の被害者の遺族に宛てて謝罪文を作成し,遺族の代理人弁護士がこれを保管するに至っている。建物の損害については,建物所有者の加入していた火災保険により,被害金額のうち2300万円余りが填補されている。さらに,被告人は,意図したものとはかけ離れた重大な結果を生じさせたことについて,被告人なりに悩み苦しみ,反省している様子がう かがえる。そして,被告人と二人暮らしをしていた病身の母親が,被告人同様に被害者への謝罪文を作成して,被告人の帰りを待っている。その他,被告人のために酌むべき事情も認められる。 7 しかしながら,本件犯行の結果の重大性,犯行態様の危険性・悪質性,犯行動機の余りの身勝手さ,被告人の犯罪性向等にかんがみると,被告人に対しては厳罰をもって臨むほかはなく,以上の諸事情を総合考慮すると,被告人を懲役11年に処するのが相当である。 よって,主文のとおり判決する。 さいたま地方裁判所第二刑事部 (裁判長裁判官中谷雄二郎,裁判官蛯名日奈子,裁判官髙嶋由子)
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刑法入門 刑法入門 ■2008年度前期 刑法入門 担当内山良雄 穴埋め形式。簡単な記述 ■2009年度前期 刑法各論 担当:中空壽雅 殺人罪、傷害罪、胎児傷害、不作為による殺人罪? ■2009年度後期 刑法各論 担当:中空壽雅 窃盗罪、禁制物の横領罪、殺害後の財物奪取+占有離脱物横領罪、1項詐欺、現住建造物放火罪
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住宅ローンや親族からの借金の返済等に苦慮した被告人が,まず,実兄を殺害して借金の返済を免れようと企て,睡眠薬で実兄を昏睡させた上,その居宅に放火したが殺害に至らなかったという事案と,次に,経済的に苦しくなった原因を作ったなどとして自らの夫及び義理の息子に対して憎しみと恨みを募らせた挙げ句,両名を殺害して生命保険金及び手持ちの現金を得ようと企て,睡眠薬で両名を昏睡させ,現金を盗んだ上,両名が現在する居宅に放火し,その結果,夫を殺害し,義理の息子については重傷を負わせるに止まったという事案 主 文 被告人を無期懲役に処する。 理 由 (身上関係) 被告人は,秋田県北秋田郡において出生し,中学校卒業後は工員として稼働していたが,勤務先の倒産を契機に17歳のころ上京し,以後,賄いや溶接工等をしていた。その後,昭和62年,被害者A(以下「A」という。)と婚姻し,本件当時は,東京都八王子市の自宅にAらと共に居住していた。 被告人の夫Aは,山梨県北都留郡○○村で出生し,同村で土建業等を営んでいた者であるが,後記のとおり平成14年1月に発生した従業員2名が死亡する労災事故を契機に土建業を廃業し,本件当時は,八王子の自宅で被告人と同居していた。 被害者B(以下「B」という。)は,Aとその前妻との間の長男(被告人の義理の息子)であり,Aが○○村で経営する土建業の手伝いをしていたが,Aが土建業を廃業してからは,○○村の一軒家で単身居住していた。 被害者C(以下「C」という。)は,被告人の実兄であり,きょうだいの中でも被告人と懇意にしていたが,本件当時は,愛知県豊橋市内の一軒家の棟割西側部分で単身居住していた。 (犯罪事実第1の犯行に至る経緯) 被告人とAは,婚姻して間もないころ,住宅ローンを組んで八王子市内に自宅を新築し,Aがその返済を続けていた。しかし,平成14年1月,Aの経営する土建業に関してBが責任者として作業していた工事現場で従業員2名が死亡する労災事故が発生し,その遺族に対する賠償金の支払い義務が生じてからは,被告人一家の経済状態は苦しくなり,被告人も,仕事に励む一方,親族等から借金を重ねるなどして住宅ローン等の支払いに苦慮しなければならないようになった。 被告人は,上記金策の過程で,同年2月及び12月の2回にわたってCから合計330万円の借り入れを行っていたが,Cからの借金が親族からの借金の中で最も高額であったことや,借りた時期も早かったことなどから,次第にCからの借金の返済を親族からの借金の中で最も気にかけるようになっていった。被告人は,当初,平成15年8月にAが元請業者を相手に提起した民事訴訟で勝訴すれば,それを元手にしてAがCからの借金の返済をしてくれるだろうと期待していたところ,Aが,同訴訟に関し和解金を取得したことを当初被告人に黙っていた上,平成16年4月上旬ころ,そのことに気づいた被告人がCへの返済を求めたのに対しても快い返事をしなかったことから,Cへの返済のあてを失い,ますます思い悩むようになった。 そのような中,住宅ローンの支払いが滞りがちになり,せっかく手に入れた自宅が差し押さえられる可能性まで出てきたことなどから,被告人は,同月中旬ころ,Cがいなくなれば330万円を返さなくてすむ,そうすれば金銭的にも大分楽になるなどとCを殺害してCからの借金の返済を事実上免れることを考えるようになり,その方法として,当時精神科で処方されていた睡眠導入剤をCに飲ませて昏睡させた上で殺害することを思い立った。その後,被告人は,同年5月上旬ころまでの間に殺害計画の実行を決意し,同月11日,睡眠導入剤の粉末を携帯してC宅を訪れた。その後,C宅の玄関に灯油のポリタンクがあったことや,Cから2階でストーブを使っているなどと聞いたことなどから,被告人は,Cを昏睡させた上,その家屋に放火して,ス トーブの火の不始末に見せかけてCを殺害することとした。 (犯罪事実第1) 被告人は,C(当時69歳)を昏睡させた上,その現在する家屋に放火して同人を殺害することにより同人からの前記借金の返済を免れようと企て,平成16年5月12日午前1時ころ,愛知県豊橋市○○同人方1階居間において,同人に対し,睡眠導入剤であるトリアゾラムを含有する薬品を混入した焼酎を飲用させて同人を昏睡状態に陥らせ,同日午前1時40分ころ,同人方2階3畳間に置かれたストーブ周辺の床に灯油約1200ミリリットルを撒き,同所にあった衣類を床の上に置いて,これにライターで点火して放火し,その火を床板,柱等に燃え移らせて,同人が現在する木造瓦葺2階建て2棟割り住宅(総延べ床面積132平方メートル)のうち2階部分約66平方メートルを焼損したが,同人が救助されたため,同人を殺害して財産上不法 の利益を得る目的は遂げなかった。 (犯罪事実第2の犯行に至る経緯) 被告人は,犯罪事実第1の犯行後も,その経済状態自体は改善されなかったことなどから,今後の生活について思い悩んでいたところ,平成16年6月になると,Aが体をこわして仕事を辞め,その後一時的に入院するまでになったことから,ますます経済的に困窮するようになった。被告人は,かねてからAに対し,Aが家計を掌握してきたことや,自分には一切小遣い等をくれなかったことなどについて不満を抱いていたこともあって,次第に,苦労して働いても自分の自由になる金が残らず,惨めな生活を送らなければならないのはAのせいであるなどと,Aに対する恨みや憎しみを募らせるようになり,また,このような生活状況に陥らせた原因は,そもそも平成14年1月の労災事故を起こしたBにあるなどと,Bに対しても恨みや憎しみを募らせ るようになった。そのうち,被告人は,以前A及びBの両名がそれぞれ2000万円分の生命保険を契約していると聞いていたことから,両名を殺害すれば保険金収入により借金の返済ができ,大切な自宅を手放さなければならない事態も回避できるし,自分の自由に使える金も手に入り,今までとは違う余裕のある生活ができるなどと考えるようになり,平成16年8月上旬ころまでの間に,A及びBを,○○村のB宅において睡眠導入剤を飲ませて昏睡させた上,家に放火し,不慮の火災に見せかける方法で殺害することを決意した。被告人は,同月17日,殺害計画を実行するためにAを伴ってB宅を訪れたが,その後,殺害の準備をする過程で,Aの財布の中に現金があるのを知り,また,Bが自室の押し入れに現金等を入れているのを思い出したこと から,両名を睡眠導入剤で昏睡させた後にそれらの現金をも手に入れることにした。 (犯罪事実第2) 被告人は,A(当時68歳)及びB(当時33歳)を昏睡させて両名が所有する現金を盗んだ上,両名が現在する家屋に放火して両名を殺害しようと企て,平成16年8月18日午後9時ころから午後9時15分ころまでの間,山梨県北都留郡○○村○○B方において,A及びBに対し,睡眠導入剤であるトリアゾラムを含有する薬品等を混入した牛乳を飲用させてこれにより両名を間もなく昏睡状態に陥らしめた上,同日午後10時ころ,B方内で,B所有の現金5万3820円を盗み,次いで,A所有の現金2万1000円を盗み,引き続き翌19日午前零時ころ,B方1階居間の畳に灯油約500ミリリットルを撒いた上,新聞紙にライターで点火してこれを畳上に置いて放火し,その火を襖,天井等に燃え移らせて,現にBが住居に使用し,同人及び Aが現在する木造トタン葺き2階建家屋(床面積合計約73平方メートル)の1階部分のうち約36平方メートルを焼損し,よって,そのころ,同所において,Aを上記火災による一酸化炭素中毒により死亡させて殺害するとともに,Bに全治約2か月を要する一酸化炭素中毒症,火傷等の傷害を負わせたが,Bについては,救助されたために,殺害の目的を遂げなかった。 (法令の適用) 被告人の犯罪事実第1記載の所為のうち,現住建造物に放火した点は刑法108条〔有期懲役刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。〕に,強盗殺人未遂の点は刑法243条,平成16年法第156号附則3条1項により上記改正前の刑法240条後段に,犯罪事実第2記載の所為のうち,現住建造物に放火した点は刑法108条〔有期懲役刑の長期は,行為時においては上記改正前の刑法12条1項に,裁判時においては上記改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があった ときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。〕に,強盗殺人の点は平成16年法律第156号附則3条1項により上記改正前の刑法240条後段に,強盗殺人未遂の点は刑法243条,平成16年法律第156号附則3条1項により上記改正前の刑法240条後段にそれぞれ該当するところ,犯罪事実第1は1個の行為が2個の罪名に,犯罪事実第2は1個の行為が3個の罪名にそれぞれ触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条によりいずれも1罪として,犯罪事実第1については犯情の重い強盗殺人未遂罪の刑で,犯罪事実第2については犯情の最も重い強盗殺人罪の刑でそれぞれ処断することとし,各所定刑中いずれも無期懲役刑を選択するが,以上は同法45条前段の併合罪であるところ,犯情の重い犯罪事実第2の 罪につき無期懲役刑を選択したので,同法46条2項本文により他の刑を科さないこととして,被告人を無期懲役に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由) 1 本件は,住宅ローンや親族からの借金の返済等に苦慮するようになった被告人が,まず,330万円を貸してくれていた実兄を殺害してその返済を免れようと企て,睡眠薬で実兄を昏睡させた上,その居宅に放火したが,殺害に至らなかったという現住建造物等放火,強盗殺人未遂の事案(犯罪事実第1。以下「豊橋市事件」という。)と,その約3か月後,今度は,経済的に苦しくなった原因を作ったなどとして自らの夫及び義理の息子に対して憎しみと恨みを募らせ た挙げ句,両名を殺害して生命保険金及び手持ちの現金を得ようと企て,睡眠薬で両名を昏睡させ,現金を盗んだ上,両名が現在する居宅に放火し,その結果,夫を殺害し,義理の息子については重傷を負わせるに止まったという現住建造物等放火,強盗殺人,強盗殺人未遂の事案( 犯罪事実第2。以下「○○村事件」という。)である。 2 異常なまでの金銭欲に根ざした極めて悪質な動機に基づく犯行である。 判示のとおり,豊橋市事件は,借金の返済等に苦慮していた被告人が,貸し主である 実兄のCを殺害することによって事実上その返済を免れようなどと考え,敢行したものである。 あまりにも身勝手かつ短絡的で利欲的な発想に基づく犯行であって,人命軽視も甚だしく,動機として極めて悪質である。被害者Cは,被告人の実兄であり,かつ,懇意にしていた被告人のためを思って快く大金を貸してくれていた被告人にとっていわば恩人というべき存在であったのであり,被告人の行為 は,文字どおり恩を仇で返す所業である。 また,○○村事件も,経済状態に苦慮した被告人が,夫や義理の息子に対する不満等も重なって,両名にかけられている保険金に目を付け,両名を殺害し,保険金や所持金を得ようなどと考えて敢行したものである。豊橋市事件同様,あまりに短絡的,独善的で利欲的な発想に基づく犯行であって,動機として極めて悪質である。 確かに,本件当時,被告人が借金の返済等に相当苦慮していた事実は認められるものの,Cを初めとする債権者から厳しい取立てを受けていたというわけではないし, また,○○村事件についてみても,精神的に切羽詰まった状況にまで追い詰められたというより,むしろ, Aに家計を掌握され,自分が自由に使える金がなかったなどという金銭に関する積年の恨み辛みや,大切な自宅を手放したくないという気持ち,あるいは保険金への欲求などといった利欲的な意図が,Aらに対する殺意に転じたものと 認められるのであって,殺害にまで至る経過として特段酌量しうるものではない。 自らの利欲的な目的を実現するためには,血を分けた実の兄や長年連れ添った家族であってもそ の命を奪うことを厭わないという被告人の考え方は, 常軌を逸したものがあり,被告人には,異常なまでの財産に対する執着心や金銭欲に根ざした冷酷で危険な人格をもうかがうことができるところである。 強固な犯意に基づく計画的で極めて悪質な犯行である 。 犯行の態様をみると,被告人は,いずれの犯行においても, まず,被告人のことを何ら疑っていなかった被害者らに対し,密かに睡眠導入剤を飲用させて被害者らを昏睡状態に陥れるとともに,灯油を撒くなど火勢が強くなるようにして木造の家屋に放火し,家屋を焼損するとともに被害者を殺害しようとしたものであって,強固な犯意に基づく,巧妙かつ卑劣な手口による非常に危険な犯行である。 また,被告人は,いずれの犯行に際しても,予め被害者を昏睡させて殺害することを計画した上,自宅から睡眠導入剤を携帯して犯行に及んでいるほか,豊橋市事件においては,自分が被害者宅に向かった事実を秘匿すべく,同居の家 族にことさら同窓会の集まりがあるなどと虚偽の事実を伝えておいたり,ストーブの火の不始末に見せかけるためことさらストーブ周辺に灯油を撒いて放火したりしている。また, ○○ 村事件においては,突然B宅を訪れたのでは怪しまれるなどと考え,犯行以前に下見をかねてB宅を訪れていたほか,2階部分の焼損のみに止まった豊橋市事件の経験から,今度は1階に着火することとしたり, 発見を遅らせようと隣家が寝静まるのを待ってから放火したり,第三者による放火と見せかけるため に居宅の外側のビニールシートにもわざわざ放火したり,放火後に命からがら逃げ出したようなふりをして隣家に飛び込んだりもしている。このように,被告人は,いずれの犯行においても,殺害を確実に遂行するとともに自分に疑いが向けられないような巧妙で計画的かつ冷静な行動をとっているのである。 もたらした結果はあまりに重大である。 本件各犯行の結果,二名の被害者が殺害されそうになるとともに,一名の尊い命が失われるという悲惨かつ重大な結果が発生している。もとより,いずれの被害者にもこのような凶行に遭わなければならないような落ち度は認められない。 死亡したAは,被害当時こそ病気により仕事を辞めており,経済状態は芳しくなかったものの,子供や孫にも恵まれた晩年の生活を過ごしていたものとうかがえる。ところが,安心できるはずの息子の家で,あろうことか 長年連れ添ってきた妻の手にかかって昏睡状態のまま 無惨にもその生涯を閉じなければならなかったものであって,事件の真相を知ったとした場合の驚愕,無念さは測り知れないものがある。突如Aを失ったAの子供たちの悲しみや怒りも甚大であり,Aの娘(被告人の義理の娘)は,被告人に対し,「法律で決められている中で一番重い刑にしてもらいたい」と峻烈な処罰感情を示している。 近隣住民等による迅速な救助活動によって火災の中を昏睡状態のまま助け出されたC及びBについても,犯行の全容を知らされた際の驚愕は相当なものであったと推察される。被告人に対する処罰感情について,現在は被害感情が和らいでいるとうかがえるCは別として,Bは,「どうしてそこまでされなければならないのかが今でも納得できないし,悔しくて仕方がない。父の無念を晴らすためにも,できるだけ重い刑にしてもらいたいと思う。」などと厳しい処罰感情を吐露している。 それにもかかわらず,被告人は,いまだ各被害者やAの娘等に対しては,具体的な慰藉の措置は講じていない。 さらに,いずれの事件についても,建物を半焼させるなどしたことによる財産的損害にも大きなものがある。豊橋市事件においては焼損した家屋を含む損害全額について保険金が支払われているものの,いずれの事件についても被告人による被害弁償ないし補償は未だ一切講じられておらず,その見込みもない。 加えて,いずれの事件も,住宅の密集地を現場とした犯行であり,周辺に焼損被害を拡大しかねないものであって,各放火行為が地域住民に与えた不安も少なくなかったとうかがえるし,利欲的動機に基づき自らの親族の命を立て続けに狙ったという被告人の犯行が社会に与えた影響も看過できないものがある。 被告人の規範意識の欠如は明らかであり,人命軽視の態度も甚だしい。 前記のとおり,被告人は,もっぱら利欲的な動機の下,実兄を殺害すべく豊橋市事件を敢行し,これに失敗したにもかかわらず,悔い改めることなく,その約3か月後に,今度は,長年連れ添った夫や義理の息子を狙った○○村事件を敢行したものである。このこと自体からも,被告人の規範意識の欠如は明らかである上,人命軽視の態度には甚だしいものがあると言える。 また,被告人は,いずれの犯行に際して も,冷静に行動し,当初の計画を着実に実行に移していたほか,犯行後も,臨場した警察官に対し犯行隠蔽のためにことさら虚偽の事実を述べたり,豊橋市事件においては,鎮火後の被害者宅において借金の証文である借用書を発見すると,これを自宅に持ち帰って隠匿したり,○○村事件においては,夫の通夜や葬儀において喪主を務める一方,その翌日には生命保険金受領に向けて積極的に行動するなど,罪証隠滅行為や当初の目的を達成するための周到な行動に出ていたものである。 加えて,被告人は,当公判廷においても,「労災事故さえなければこんなに苦しむことはなかった。」とか,「Aから金をせびられ奴隷のように働かされた。」などと,この期に及んでA及びBに対する恨みがましい発言をしている部分もあり,深い自己洞察に基づく真摯な反省を表しているとも言い難い。 このような被告人の行動,態度等をあわせみると,被告人の人格的問題も大きいものがあるといわざるを得ない。 以上のとおり,もっぱら利欲的な動機のもと,計画的かつ極めて悪質な方法で,連続的に合計3名の肉親の命を奪おうとし,うち1名を死亡させるなどした本件犯情は極めて悪質であって,被告人の人格的問題も大きいと認められることなどをも踏まえると,被告人の罪責は重く,極刑の選択をも含めて量刑を検討しなければならない事案であると考えられるところである。 3 しかしながら,他方で,被告人については,以下のような酌むべき事情が認められる。 まず,何より,不幸中の幸いではあるが,Cは命に別状がなく,Bも最終的には判示の程度の傷害に止まったものであり,3名全員が生命を奪われるという最悪の事態には至 っていない。 また,生存被害者のうちCは,犯行発覚当初こそ厳しい処罰感情を示していたが,その後,「被告人が罪を償って社会に出てくることができ,その時自分が元気でやっていたなら,被告人の面倒を見たいと思う。」旨述べるなど,その処罰感情が和らぐとともに,むしろ理不尽な犯行の被害に遭いながらも被告人に対し肉親としての暖かい情を示しているようにうかがえる。 Bについても,前記のとおり被告人に対する厳しい処罰感情を述べつつも,「血は繋がっていないとはいえ母親なので,率直に死刑にしてくれとは言いにくいことも事実です。ですから裁判でできるだけ重い刑を言い渡して欲しいとしか今は言えない。」などと,義理の母親に対する複雑な心情をうかがわせる供述もしているところである。 さらに,被告人は,逮捕後は自らの犯した罪については素直に認め,動機や経過も含め詳細に供述しているほか,前記のとおり反省の真摯さについてはやや疑問の残る部分があるとはいえ,当公判廷において,被害者らの命を奪い又は奪おうとしたこと自体については反省の弁と被害者らに対する謝罪の気持ちを示し,特にAに対しては毎日冥福を祈っている旨述べている。このことに,豊橋市事件においては実兄を殺害することについて心理的に葛藤していた経過も見受けられることや,被告人には古い罰金前科しかなく,本件各犯行を除けばこれまで基本的に問題なく社会生活を送ってきたとうかがえることなどもあわせみると,被告人については,今なお人間性をもうかがうことができ,改善・矯正が不可能であるとの域に達しているとまでは断じが たい。 4 そうすると,本件は,前記のとおり誠に悪質な事案であるが,極刑選択がやむを得ないとまでは認めがたく,被告人に対しては,自己の罪業の深さを真摯に悟らせ,その生涯をかけて死亡させた被害者に対する冥福と,その余の被害者に対する贖罪の人生を歩ませるのが相当と考えられるから,主文のとおり,無期懲役の刑をもって臨むものとした。 (検察官折原崇文,国選弁護人深澤一郎各出席) (求刑 無期懲役) 平成17年12月8日 甲府地方裁判所刑事部 裁判長裁判官 川 島 利 夫 裁判官 矢 野 直 邦 裁判官 肥 田 薫
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建造物 惑星に建造物を作ることによって惑星は発展していきます。 建造物にはレベルが設定されていて、まずは建造物自体の作成→アップグレードという風に進んで行きます。 建造物を立てる際には時間とコストが必要です。 一般にレベルが高くなるほど建造に必要な時間は増えます。 一般にレベルが高くなるほど建造に必要なコストは増えます。 メタル採掘所 クリスタル採掘所? デューテリウムシンセサイザー? ソーラープラント? フュージョン反応炉? ロボティック工場? ナノマシン工場? 造船場? メタル貯蔵庫? クリスタル貯蔵庫? デューテリウム貯蔵庫? リサーチセンター? テラフォーマー? ミサイル搭? ・コストについて 建造物にはメタル、クリスタル、デューテリウムごとにベースコストというものが設定されていて、レベルが上がったときのコストはこれを元に計算されます。 レベルがあがった際のコストは ベース×2^(建造物のレベル-1) で表されます。 ついでにコスト表載せておきます 構造物名 メタル クリスタル デューテリウム メタル採掘所 60 15 0 クリスタル採掘所 48 24 0 デューテリウムシンセサイザー 225 75 0 ソーラープラント 75 30 0 フュージョン反応炉 900 360 180 ロボティック工場 400 120 200 ナノマシン工場 1,000,000 500,000 100,000 造船場 400 200 100 メタル貯蔵庫 2,000 0 0 クリスタル貯蔵庫 2,000 1,000 0 デューテリウム貯蔵庫 2,000 2,000 0 リサーチセンター 200 400 200 テラフォーマー 0 50,000 100,000 ミサイル搭 20,000 20,000 1,000 ただしメタル採掘所、クリスタル採掘所、デューテリウムシンセサイザー、ソーラープラント、フュージョン反応炉については例外です。それらについては以下に記します。 メタル採掘所、デューテリウムシンセサイザー、ソーラープラント ベース×1.5^(建造物のレベル-1) クリスタル採掘所 ベース×1.6^(建造物のレベル-1) フュージョン反応炉 ベース×1.8^(建造物のレベル-1) またここでいう建造物のレベルとはアップグレード後のレベルです。 例.メタル採掘所を14→15へとアップグレードした場合 メタル採掘所のベースコストは、(60,15,0)左からメタル,クリスタル,デューテリウム なので、 メタル 60×1.5^14=17515 クリスタル 15×1.5^14=4378 デューテリウム 0 となる。 ・建設時間について Ogameにおける建設時間にはレベルのほかにコストの量が関わってきます。 また、ロボティクス工場、ナノマシン工場のレベルによっても補正をうけます。 メタル+クリスタル/2500*(1+ロボティクスlv)*2^(ナノマシンlv) ここででてきた値は"時間"のため分以下は60進数に変える必要があります。 例.メタル採掘所を14→15へとアップグレードした場合(ロボティクス5ナノマシン0) メタル採掘所を14→15へアップグレードする際のコストは メタル 17515 クリスタル 4378 です。 よって 17515+4378/2500*(1+5)*1=1.459533・・・ (一応書いておきますが2の0乗は1です。 まず小数点以下が60より小さいので"時間"は1で決定。そこで、45を60で割ってあまりを下にたして・・というのをやると1h 27m 34sとなります。
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被告人が,被害者が経営する工場の土地の賃料を被告人に支払わないことに対する不満を晴らすため,被告人が経営していた飲食店の従業員及びその友人と共謀し,被害者が経営する工場を放火したが,同工場の外壁を燻焼したにとどまり自然鎮火したため未遂に終わった事案 (主 文) 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中160日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 (犯行に至る経緯) 被告人とVは,Vが被告人の前妻の兄であり,被告人から賃借した土地で,板金塗装工場「甲」を営んでいた関係にあったが,Vは,平成11年1月ころ,青森市a番地bの土地に工場を移転したものの,その後も賃料を支払わないまま,被告人から賃借した土地に車を置くなどしていたため,被告人はVに不満を抱いていた。平成11年10月14日夜,被告人は,当時経営していた飲食店「乙」の従業員であるAが被告人に対して店を辞めたいと申し出たことから,Vに対する不満を晴らすべく,Aを使って甲に放火するとともに,敷地内に置かれている車を破壊することを決意し,Aを青森市内のコンビニエンスストア「丙」駐車場に連れて行き,乙の従業員でAを従業員として入店させたBも呼び出した。被告人は,「丙」駐車場に駐車中の自動車内において,A及びBに対し,Aが甲に放火し,車を壊すこと,Bがそれを見張り,見届けることを指示し,車に積んでいたポリタンク2缶,新しい軍手2双及び長靴2足をB及びAに渡した。このころ,被告人及びBの間で,甲を放火することについて共謀が成立した。Bは,Aの交際相手が妊娠中であったことから,自分がAに代わって放火することを決意し,Aと共に知人のCの家に行き,Cに対し,Aが被告人から甲の放火等を指示されたこと,自分がAの代わりに放火するつもりであること等を話し,AをCの家で預かってもらうよう頼んだところ,Cは,Bと一緒に放火等を実行する旨申し出たため,BとCが甲の放火を実行することになり,ここに,被告人,B及びCの間に,甲の放火について,順次,共謀が成立した。BとCは,AをCの家に残し,Bが被告人に渡されたポリタンクの代わりにC宅にあった灯油入りポリタンク2缶,被告人から渡された軍手,長靴に加え,タオルや新聞紙等をCの母親の車に積み込んで,甲に向かった。 (罪となるべき事実) 被告人は,Vが使用している土地の賃料を支払わないことに不満を抱いていたことから,B及びCと共謀の上,板金塗装工場「甲」(V経営)に放火しようと企て,平成11年10月15日午前2時5分ころ,青森市a番地b上記「甲」(軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建,床面積206.57平方メートル)敷地内において,上記「甲」事務所兼作業所の外壁の一部を四囲の壁面のうちの一面として利用し同事務所兼作業所に密接して設置されたコンプレッサー収納用木製小屋の壁及び同事務所兼作業所壁等に所携の灯油を撒布した上,灯油が染み込んだ段ボール紙片及び紙テープ紙片に所携のライターで点火し,その火を同木製小屋の壁等から同事務所兼作業所に燃え移らせようとして火を放ち,もって,現に人が住居に使用せず,かつ,現に人がいない同事務所兼作業所を焼損させようとしたが,同木製小屋及び同事務所兼作業所の外壁を燻焼したに止まり自然鎮火したため,その目的を遂げなかったものである。 (事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被告人がA及びBに甲の放火を指示した事実はなく,Bと共謀した事実は認められないから被告人は無罪である旨主張し,被告人も当公判廷において,これに沿う供述をするので,以下この点について判断する。 2 関係各証拠によれば,まず次の事実を認めることができる。 (1) 被告人は飲食店「乙」の経営者,B及びAは同店の従業員,Cは同店に客として出入りしていた者であり,B,A及びCは親しく付き合っていたが,3人とも,被告人は怒ると何をするか分からないので恐れていた。 (2) Aは,平成11年10月中旬ころ,被告人に対して,乙を辞めたい旨告げたが,被告人は,これを了承せず,同月14日夜,丙駐車場に駐車した自動車内で,A及びBと話をした。その際,Aが甲に火をつけるという話が出た。 (3) B及びCが甲に放火した。 (4) 本件犯行時刻ころ,Bの携帯電話から被告人の携帯電話に連絡があり,Bが被告人に対し,甲に放火がされた旨伝えた。 (5) B及びCは,本件と同じ公訴事実について,平成13年5月10日に執行猶予付きの有罪判決の宣告を受けている。 3(1) 本件においては,被告人とB及びBとCとの共謀を基礎づける証拠として,共犯者Bの供述があるので,その信用性について検討する。 (2) B供述の内容 Bは,捜査段階において概要以下のとおり供述する。 甲の場所は,以前被告人に連れられて行ったことがあったので,知っていた。平成11年10月14日夜,自己の携帯電話に被告人から電話があり,Aが乙を辞めると言っているのを知っているか聞かれた。自分はそのような話は聞いていないと答えると,被告人から,その件で話があるから,丁の近くのコンビニエンスストア丙に来るように言われた。そこに行ったところ,被告人の自動車が止まっており,運転席に被告人,助手席にAが乗っていて,自分は運転席側後部座席に座った。被告人は,「Aが店を辞めると言っている。Aには義理がある。それだけは返してもらわねばまいね。甲に火をつけて車壊してこい。A一人で行ってこい。」と言った。甲については,被告人から,甲の社長にはαにある土地を貸しているが,その代金を支払ってくれないこと,車を置きっぱなしにして勝手に使われては困るという話を何回か聞いており,被告人がVに対して腹を立てていることは知っていた。被告人は,このような恨みを,工場を焼いたり,工場の敷地内に置いてある乗用車を壊すことで晴らそうとしているのではないか,それを自分でやらないで,乙を辞めると言いだしたAから義理を返してもらうということで,Aに放火等を命令していると思った。自分は,Aの彼女が妊娠していたことを知っていたので,Aに放火等をやらせるのは気の毒だったことから,自分がAの代わりに被告人の命令を実行するしかないと考えた。被告人は自らAと一緒に行くと言ったが,Aは自分の後輩だからと説得して,自分がAと一緒に甲に行くことにした。被告人は,自分に対して,「Bは火をつけるなよ。車を壊すなよ。Aにやらせて,その見届け役で行け。」と言った。そして,被告人から,被告人の車のトランクに積んでいたポリタンク2缶,新品の軍手2双及び新品の長靴2足を渡された。また,被告人から,車を壊すつるはしは乙にあるから持って行くように言われたので,自分は,Aと乙に行き,倉庫のような小屋からつるはしを取り出してトランクに積んだ。その後,Aを預かってもらうためにAとC宅に行った。自分が,Cに対して,被告人から指示された内容,Aの彼女が妊娠しているためAに放火等をやらせるのはかわいそうなので,預かってほしいと頼んだ。すると,Cは,自分も行くと言い,結局,自分とCとで甲の放火等をすることになった。そして,AをC宅に残し,自分とCとで出発した。被告人からはガソリンを使って放火するように言われたが,ポリタンクでは一般的にはガソリンを売ってくれないこと,知り合いに分けてもらう時間もなかったことから,C宅にあった灯油2缶を持って行くことにした。また,被告人から渡された長靴と軍手,乙から持ち出したつるはし,火をつけるための新聞紙と段ボールもCの母親の車に積み込んだ。そして,同月15日午前零時過ぎにC宅を出発し,戊温泉で時間調整してから,午前2時ころ,甲に向かった。甲に着いたのは,同日午前2時5分ころだった。自分もCも白いタオルで顔を覆い,自分はトランクからつるはしを取り出し,Cは灯油入りのポリタンクを取り出した。自分は敷地内に止めてあった車のうち,あまり価値のないと思う車だけ選んでつるはしの先でつぶすように叩き,凹損させた。あまり損害を与えないように加減して叩いた。壊した車は3台だった。Cが工場の小屋の右側の外壁の土台辺りに灯油をかけていたのを見た。また,自分は,工場の外壁に密接している小屋の前辺りにマスキングテープが散らばっていたので,それに持っていたライターで火を付け,小屋の中に放り込んだ。Cは,段ボール紙片にライターで火を付け,灯油をかけた小屋につけた。すると,小屋の左側土台付近のベニヤ板が燃え出したので,Cと逃げた。 (3) B供述の信用性 ア Bは,平成11年10月14日,夜に被告人から呼び出され,丙駐車場に駐車中の被告人の自動車内において,被告人からAを実行役,Bを見張り兼見届け役として本件放火を実行するよう指示されたこと,その後BがAの代わりに放火をする決意をした経緯,C宅に向かった経緯及びCに本件犯行について打ち明け,Aを預かるよう頼んだ経緯,Cが本件放火に加わるに至った経緯,放火の準備状況,本件放火行為の内容等について,その時の心理状況も含め具体的かつ詳細に供述している。 イ 甲の敷地内に置いてあった車の破損方法に関する供述は,客観的な破損状況とほぼ符合するほか,マスキングテープに火を付けたとする点についても,コンプレッサーが収納されている小屋内にマスキングテープの残存物があったこととほぼ符合している。 ウ A供述との符合性 (ア) A供述の内容 Aは,当公判廷において概要以下のとおり供述する。 平成11年10月14日夜,被告人に乙を辞めたい旨話したところ,被告人に丙の駐車場に車(M)で連れて行かれた。そこに,被告人に電話で呼び出されたBが来て,自分たちが乗っていた車に乗り込んできた。被告人は,自分に対して,「恩は返してもらう。自分がやろうと思っていた甲に火をつけ,車を壊せ。1人でやれ。俺も一緒に行く。」旨言った。するとBが,「被告人には行かせられないですよ。Aは俺の後輩だから,俺が行く。」と言い,最終的には,自分が実行役,Bが見張りと見届け役ということで話がまとまった。また,被告人は,ポリタンク2つ,新しい軍手と長靴を2つずつを自分たちに渡し,ガソリンで火を付けること及び車を壊すために乙にあるつるはしを持っていくよう指示した。そこで,Bと自分は乙につるはしを取りに行き,Cの家に行った。Bは,Cに対して,「被告人がAに甲に火を付けて車を壊してこいと言った。Aには子供も生まれるし,Aにやらせるわけにはいかないから,自分が1人で行く。Aをここに置かせてくれ。」と言った。自分は,Bの言葉を聞いて,「俺が行く。」と言ったが,Bは,「お前にはやらせられないから。」とC宅で待っているように言った。Cは,「Bが行くなら俺も行く。」と言い,結局,BとCが甲に行くことになった。2人は同月15日午前3時過ぎくらいにC宅に戻ってきた。Bは,自分に対し,「甲に火を付けて,車を壊してきた。おまえがやったということにしろ。」と言った。その後,Bに乙まで送ってもらった。Bは,乙に向かう車の中で,被告人に,「Aが1人でやった。」と,放火等についての報告を電話でしていた。 (イ) B供述は,丙駐車場に駐車中の被告人の自動車内における被告人とBの会話の内容,C宅におけるBとCの会話の内容,BとCがC宅に戻った後のBの発言やBの被告人に対する報告内容等について,A供述と概ね符合している(なお,A供述はそれ自体具体的かつ詳細であり,C宅におけるBとCの会話内容等について,後記Cの供述とも符合する。)。 エ C供述との整合性 (ア) C供述の内容 Cは,当公判廷において概要以下のとおり供述する。 平成11年10月14日午後10時半か11時ころ,被告人からBの携帯電話に電話がかかってきた。その後,同日11時30分ころにBとAが自分の家に来た。Bは,「Aが乙を辞めると言ったら,辞めるなら甲に行って車を壊して火を付けろと被告人に命令された。Aには子どもが生まれることなどから,自分が代わりにやってくるから,Aを預かってくれ。」と言った。その際,Bは,被告人からAが火を付けたことの確認の役として一緒に行くように言われたというようなことを言っていた。自分は,Bの話を聞いて,被告人がVに対して何か恨みや不満があるのだろうと思った。そして,Bが助けてほしいと思っているのではないかと感じたことから,「B一人で行かせるわけにはいかない。自分も行きます。」と言った。そして,Bと自分が,甲に火をつけることとそこに置いてある車を壊すことになった。同月15日午前零時半ぐらいにBと一緒に自宅を出た。その際,玄関に置いてあった灯油,新聞紙,Bの車の中に入っていたつるはし,顔を隠すためのタオルを持っていったほか,Bから新しい軍手と長靴を渡されたので,玄関で長靴に履き替えた。ポリタンクは,Bが空のポリタンクを2つBの車に積んでいたが,それを自宅玄関に置き,そこに置いてあった満タンに入っていたポリタンク2つを持っていった。自宅を出た後,戊温泉で時間を調整し,甲に火をつける心の準備をして,同日午前2時ころに戊温泉を出発し,同日午前2時5分ころに甲に着いた。放火と車の破壊は,Bと手分けをして行った。甲では,自分は,持っていった2缶の灯油をコンプレッサーが入っている小屋の中央辺りから右側,左部分は建物にもかかるように撒き,小屋の中にも撒いて,段ボールを火種にして,コンプレッサーの入っている木でできた小屋の右端に火をつけた。Bは,持っていったつるはしで車を叩いていた。帰りに乙に寄ったが,そのとき,Bは車からつるはしを下ろしたので,つるはしを片付けに行ったと思った。事件後,甲が以前被告人が所有する山で営業していたが,その土地を買うかどうかでもめていたという話を聞き,それで被告人は甲に火をつけるように言ったのかなと思った。 (イ) B供述は,C宅におけるCとの会話の内容,放火の準備状況,BとCの放火等の行為の内容等について,C供述と概ね符合している(なお,C供述はそれ自体具体的かつ詳細と言え,灯油を撒布した場所,放火した場所,放火に段ボール片を使用したこと等について,客観的事実(甲13)と符合するほか,C宅におけるBとCの会話内容等について,Aの供述とも符合する。)。ところで,Bは,Cと同じ警察の留置場で逮捕・勾留されていたが,そのことから直ちに両者の間で口裏合わせが行われたとまでは認められず,Bの供述は身柄が拘束されていないAとも供述内容がほぼ符合していることからすれば,Cと同じ場所で身柄拘束されていたことが,B供述の信用性に影響を与えるものではない。 オ 以上によれば,B供述は信用性が高いと認められる。 (4)ア(ア) 以上に対し,弁護人は,B供述について,①被告人は,平成11年10月14日以前に,所有していた車Mを第三者に売却しているのであって,Mに乗っていた事実はないこと,②ポリタンクでガソリンを購入しろとの指示について,被告人はポリタンクではガソリンを購入できないことを知っていたのであるから,そのような指示をしたこと自体不自然であり,Bもポリタンクでガソリンを購入できないことを知っていたというのであれば,そのことを被告人に指摘しなかったことも不自然であること,③Bは,捜査段階で甲の敷地内の自動車を破壊した状況を再現した際,つるはしを片手で持っているが,一般的なつるはしを片手で持つことは不可能であること,④Bは本件当時,被告人が開業した中古車販売を主とする会社「亥」に勤務していたことを供述していないのは,同店における仕事に関してVに憤懣を抱いたことが原因で自分が本件を行ったことを隠すためであること,⑤Bは,平成12年1月に被告人から「亥」を解雇され被告人を恨んでおり,また,執行猶予付き判決を獲得するために,被告人を引っ張り込んだ可能性があることから,B供述は信用できないと主張する。 (イ)a しかし,①については,そもそもBは,平成11年10月14日に乗り込んだ被告人の自動車がMであると供述しているわけではないので,この指摘は当たらないが,一般に車検証記載の名義人と実際の使用者が必ずしも同一人であるとは限らないから,車検証記載の名義人が被告人ではないことをもって,同人が平成11年10月14日にMに乗っていなかったとまで認めることはできない。 b ②については,被告人は,ガソリンの引火性が強いことからその購入を命じたとも考えることができ,ガソリンを購入するよう指示したこと自体,必ずしも不自然とまでは言えず,また,被告人はBらにとっては恐れられていた存在であったことから,Bが被告人に指摘しなかったことについて,不自然とまでは言えない。 c ③については,弁護人の主張する「一般的な」つるはしとはどのようなものを指すのか明確ではないが,つるはしには大小様々なものがあることから,つるはしを片手で持つことが絶対に不可能とまでは言えず,また,この点に関するBの供述が不自然であるからといって,直ちにB供述の信用性が低下するとも言えない。 d ④については,後記のとおり,BがVに憤懣の情を抱いて本件犯行を行ったとは認められず,この点に関する被告人の供述は信用できない。 e ⑤については,前記のとおり,Bの供述が具体的かつ詳細で客観的証拠や関係者の供述と符合しており,その信用性は高いと言うべきであって,Bが執行猶予付き判決を獲得するため被告人を引っ張り込む可能性は抽象的なものに過ぎず,また,Bが被告人を恨んでいたことについても本件全証拠をもってしてもそのような事情は認められない。 (ウ) 以上から,弁護人の主張はいずれも採用できない。 イ(ア) また,弁護人は,A供述について,①前記のとおり,被告人は平成11年10月14日以前に所有していたMを第三者に売却し,それに乗っていた事実はないこと,②同日夜,被告人が乙に行った時間と,Aが被告人に乙から連れ出されたとする時間がほぼ同時刻であって不自然であり,被告人が乙に行くことになった経緯についても曖昧であること,③Aは被告人から放火等を指示されたとするが,甲のA確な場所は知らなかったのは不自然であること,④Aが,B及びCが実行行為を行っている際に,C宅で単に待っていただけであるというのは不自然であること,⑤被告人との関係ではAが本件犯行を行ったことになっているはずであるところ,Aは,本件犯行について被告人に対して何ら報告を行っていないのは不自然であること,⑥乙を辞めたいという話から本件犯行を被告人に指示されたのであれば,Aは本件放火直後に乙を辞めているはずであるところ,同年12月に逃亡するまで乙に勤めているのは不自然であることから,A供述は信用できないと主張する。 (イ)a しかし,①については,前述のとおり,被告人が本件当時Mに乗っていなかったとまで認めることはできない。 b ②については,被告人が乙に行った時間と,Aが被告人に同所から連れ出された時間が近接していても,特に不自然とまでは言えない。また,同年10月14日に被告人が乙に行くことになった経緯についても,被告人を電話で呼び出したか否かはっきりしないからと言って直ちにA供述の信用性が低下すると言うことはできない。 c ③については,A供述によれば,被告人の指示によりBもAに同行して甲に行くことになっていたのであるから,A自身が甲の場所を知らなかったこと,場所についての被告人の指示内容に関するA供述が具体的ではないことをもって,被告人から本件放火についての指示そのものがなかったとまでは言うことはできない。 d ④については,Aは被告人を恐れていたことや,BとCが自分の代わりに放火をすることになったことからすれば,Aが,B及びCが本件放火行為等を行っている間,C宅で待っていたとしても,あながち不自然,不合理とまでは言えない。 e ⑤については,Aは,Bが本件犯行後に被告人に対して電話で報告したと供述しているが,Bが本件犯行についての見張り兼見届け役であったことから,Bが被告人に報告したことは自然であるとも言える。 f ⑥については,Aは,被告人から本件放火を指示された際,放火をすれば乙を辞めてよいと明言されておらず,乙を辞める時期についての話も出なかったことからすれば,本件後も乙に勤めていたとするA供述が,特に不自然,不合理とまでは言えない。 (ウ) よって,弁護人の主張はいずれも採用できない。 ウ(ア) 弁護人は,C供述についても,同人の犯行現場における行動について,新聞紙の出所や新聞紙を投げ捨てたとする場所に関する供述は曖昧であり,段ボールに灯油を染みこませていないという供述は,灯油が染みこんだ段ボールが発見されている事実と符合せず,放火行為の具体的内容についても,小屋内のホースの焼け方と符合しないなど,C供述は不自然であり,犯行現場の状況からすればB及びC以外の第三者も加わっていたとして,C供述は信用できない旨主張する。 (イ) しかしながら,Cの当公判廷における供述は,本件犯行から6年以上,自身の公判から4年半以上(甲44)も経過してなされたものであることから,新聞紙の出所や新聞紙を投げ捨てた時の状況等の細かい事実についての供述が具体的かつ詳細でないとしてもやむを得ないし,本件犯行時刻は真夜中で,犯行場所も山の中にあったことからすれば,Cは暗い中で本件犯行を行ったと推認でき,そうであれば,供述に曖昧な点があるのはむしろ自然であるとも言える。 また,仮に,弁護人の主張するように,B及びC以外の第三者が本件犯行に関与していたとしても,そのことからB及びAとの共謀についてのC供述の信用性が減殺されることにはならない。 (ウ) したがって,弁護人の主張は採用することができない。 (5) 被告人の供述の信用性 ア 被告人供述 以上に対し,被告人は,当公判廷において,概要以下のとおり供述する。 Bは乙で働いていたが,平成11年9月終わりに中古車販売を業とする亥の立ち上げと同時に,本人の希望もあって,乙から亥に移った。Bは,同月の終わり又は10月初めに,中古車の販売の仕事を受注してきた。それは,Bにとってはもちろん,亥にとっても初めての仕事だった。その車の塗装を甲に依頼したが,10月11日に塗装を仕上げる約束であったにもかかわらず,その日には仕上がらず,12日の午後2時ないし3時ころにようやく塗装が終わった。被告人らは,その日が納車日であったこと及び塗装が遅れたことから,Vに対し,バンパーの取付け作業を依頼したが,請負代金で折り合いがつかず,甲の敷地を借りて,被告人らが作業をしなければならないことになった。ところが,Vは,被告人らが希望する工具を貸さなかったばかりか,Bがアドバイスを求めても素っ気なく,作業が未だ終わっていないにもかかわらず,夕方には作業をやめるように強く求めた。被告人らは場所を移動して作業を続けるために片づけたが,Vの指示により,3回も片づけをやり直させられ,3回目には,懐中電灯で辺りを照らされて地面のボルト拾いをさせられるなどしたため,BはVに大きな不満を抱いた。被告人自身もBと一緒に作業を行い,片づけも3回したが,Vを以前から知っていたことや,Bを抑えることに一生懸命だったことから,Vに対して特に怒りなどは感じなかった。Bは,翌13日にも,代金が高いことやVの態度について不満と怒りを露わにしていた。同月12日の夜にAが乙を辞めたがっていることを聞き,翌13日に,Bに対し,Aにあと一,二か月乙で働くように説得することを依頼した。同月14日,BにAの説得についての様子を聞き,Bに再度説得を依頼した。同日夜10時前ころ,丙の駐車場に駐車中の車内で,B及びAと話をした。車内で,Aは「燃やしに行きます。」と言い,Bは「こいつ燃やしに行くって聞かないんですよ。」と言ったので,自分は,Aを思いとどまらせて,あと一,二か月乙で働くことを承諾させた。同月15日午前零時半から1時の間ころ,Dと一緒にいたときに,Bから電話があり,甲を燃やしていると言われ,Bの背後から多人数の声が聞こえた。Bとの電話は何回か切れたが,4回ほど話した。自分は,Bに対して,「何やっているんだ,おめえ。」「誰と話しているんだ。」「離れろ。」「なんで甲なんだ。」などと大声で叫んだ。Bとの電話が終わった後,Dに対して,Bが甲に放火し,そこに置いてある車を壊したようだということなどを話した。Vが工場の土地代を支払っていなかったことは,本件後に知った。また,本件後,Bから,中古車販売の件でVに対して不満があったので,Aがやらなくても自分で甲の放火等をするつもりだったと言われた。 イ 被告人供述の信用性 (ア) 被告人は,Bが本件犯行を計画し,自ら実行したと供述し,その動機として中古車に絡むVとのトラブルを挙げているが,そもそも中古車の塗装を甲に依頼したという点については被告人の供述以外何らの証拠もない。 また,被告人は,BとVとのトラブルの場に居合わせ,被告人自身,Vの指示の下,ボルトを拾わせられたりしたことや,Vの塗装の遅れから亥の初めての仕事が期限どおり納車できなかったにもかかわらず,被告人がVに対して怒りを全く感じなかったというのは不自然であり,BとVとのトラブルについて,被告人の供述は全体として詳細で迫真的であるが,本件から6年以上経過していることからすればかえって不自然とも言える。 そして,被告人は,捜査段階において,本件については覚えていない旨供述し,当公判廷においても,捜査段階では8割くらい覚えていなかったと供述するところ,本件について,公判になって急に詳細に供述すること自体,不自然,不合理であると言わざるを得ない。 (イ) 本件犯行時刻ころにBから電話があった際の状況について,被告人は,Bに対して大声で叫び続け,複数回電話をした後,Dに対して一連のことを話した旨供述するが,Dは,複数回の電話の間,被告人の「何やっているんだ」という言葉しか聞いておらず,その後は被告人からBが甲に火を付けたらしいということしか言われていないと供述しており,本件犯行に関する電話の状況という最も根幹に関わる部分において,D供述と合致していない。 (ウ) 被告人供述によれば,Bは,10月14日夜の自動車内において,「こいつ,燃やしに行くって聞かないんですよ。」と,Aの放火について否定的ととることができる話をしていたにもかかわらず,本件後は,「Aがやらなくても,自分で甲に放火するつもりだった。」と話したことになっており,不自然であるばかりか,仮に自ら放火するつもりであったのであれば,自動車内で持ち出すまでもなく実行するのが自然であり,この点から見ても,被告人の供述は不自然,不合理と言える。 (エ) 以上によれば,被告人の供述は全体として信用できない。 (6) 以上のとおり,信用できるB供述によれば,被告人は,Aから乙を辞めたい旨聞き,平成11年10月14日午後11時ころ,丙駐車場に駐車した被告人の自動車内において,Aに対して甲への放火及び敷地内の車の破壊を,Bに対して見張り兼見届け役を指示し,両名がこれを承諾したこと,被告人が,B及びAに対し,ポリタンク2缶,軍手2双及び長靴2足を渡したこと,B及びAは,被告人の指示により乙から車を破壊する道具としてつるはしを持ち出したこと,同日午後11時30分ころ,両名はC宅に赴き,BがCに対して,被告人からのA及びBへの指示の内容を伝えたこと,B,A及びCの間で,B及びCが放火等をすることに決まったこと,B及びCは,C宅に置いてあった灯油等を車に積み込んで甲に赴き,同月15日午前2時5分ころ,甲のコンプレッサー収納庫等に放火したことを認めることができる。 これに,被告人が,同月14日夜に丙駐車場に駐車中の車内において,B及びAと話をしたこと及びその際にAが甲に放火するという話が出たことを認めていることを併せ考慮すれば,本件において,被告人とBの間で甲への放火等についての共謀が成立し,その後,BとCの間で順次共謀が成立したと認めることができる。 4(1) 弁護人は,B及びCとの共謀について,①被告人は,Bには放火の実行行為をしないよう指示したのであるから,被告人がBに放火を指示し,Cと謀議するという順次共謀は成立しないこと,②被告人が実行行為を指示したAから,B又はCに対して放火の指示が行われたわけではないから,この点からも順次共謀は成立しないこと,③被告人がAに放火を指示したところ,実行行為をしないように指示したBが被告人と関係なく積極的に関与してきたCと実行行為を行ったのであるから,被告人にはB及びCの行為を利用する意思はない上,B及びCは,被告人の指示内容を実行しておらず,被告人が用意した道具も利用していないのであるから,被告人,B及びCは相互に利用補充し合う関係にはないこと,④Aが共謀関係から離脱し,Cが加入した時点で,被告人がAに対して行った指示と本件との因果性は切断されていることから,被告人とB及びCとの間での共謀は成立していない旨主張する。 (2)ア ①及び②については,被告人は,Bに見張り兼見届け役を指示したものであって,被告人とBの間の本件放火についての共謀を認めることができる。そして,その後,C宅において,BとCが本件放火を実行することになったのであるから,被告人とB及びCとの間で,本件犯行についての共謀が成立したと認めることができる。 イ ③については,被告人はAに実行行為,Bに見張り兼見届けを指示したのであって,Bとの関係で相互に補充し利用する意思は認められる。そして,順次共謀の場合,共犯者全員が面識を有していることは必ずしも必要ではなく,数人中のある者を通じて他の者相互間に犯意の連絡があれば足りる(大審院判決昭和7年10月11日刑事判例集11巻1452頁)から,被告人において,Cを利用する具体的意思を有している必要はない。 また,共謀の成立には,犯行の手段の具体的内容についての微細な点に至るまで相互に意思が合致することまでは要しないから,B及びCが,被告人の用意したポリタンクや軍手を使用しなかったとしても,被告人との共謀の成立には何ら影響はない。 ウ ④については,本件では,被告人,B及びCの間で放火の共謀を認定したものであり,Aの離脱は,被告人,B及びC間の共謀の成否には影響しないが,Aは,C宅において,B及びCに対し,自分が実行行為を行う旨告げ,自らは本件から離脱する意思を表明していないこと,B及びCが本件犯行から帰宅するまで両名をC宅で待っていたこと,被告人に対しても離脱の意思を表明していないことからすれば,Aの共犯関係からの離脱は認められないと解するべきである。 (3) したがって,弁護人の主張はいずれも採用することができない。 (量刑の理由) 本件は,被告人が,被害者が経営する工場の土地の賃料を被告人に支払わないことに対する不満を晴らすため,被告人が経営していた飲食店の従業員及びその友人と共謀し,被害者が経営する工場を放火した事案であり,犯行の動機は自己中心的で酌量の余地はない。犯行態様も,ポリタンク2缶分の灯油(約38リットル)を工場に近接するコンプレッサー収納庫の壁の下部分にほぼ満遍なく撒布した上で放火したもので,撒布した灯油の量,当該工場には可燃性の高い有機溶剤等が保管されており,敷地内には自動車も複数置いてあったことからすると,一歩間違えばより重大な結果を招く危険性が高く,悪質である。被告人は,BやAが自己を恐れていることを利用して,本件放火を指示し,犯行に用いる軍手や長靴のほか,ポリタンクを用意してBらに渡してB及びCに本件放火行為を行わせたもので,本件犯行において首謀者としての役割を果たしたものである。本件犯行による被害額も109万円余りと高額である。被害者Vには工場に放火されるまでの落ち度はなく,同人の被害感情が大きいのも当然である。また,被告人は,捜査段階から一貫して本件犯行を否認して縷々弁解しており,反省の態度は見て取れない。以上によれば,被告人の本件行為は厳しく非難されるべきである。 しかしながら,他方で,本件被害場所の付近に人家はなく,本件工場が山中にあったこと,本件犯行は幸いにして未遂に終わっていること,被告人は正式裁判を受けるのは今回が初めてであることなどの被告人にとって有利な事情も認められる。 そこで,これらの諸事情を総合考慮し,主文掲記のとおりの刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑 懲役4年) 平成18年3月9日 青森地方裁判所刑事部 裁判長裁判官 髙 原 章 裁判官 室 橋 雅 仁 裁判官 香 川 礼 子
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現住建造物等放火被告事件において,任意同行中の被告人(当時は被疑者)に対し,同人が放火を否認し電気的火災によるものではないかとの弁解を述べているにもかかわらず,担当警察官が,具体的証拠に基づかずに被告人が放火等の犯人であると決め付けた上,被告人と肩を組んだり,その両肩に両手を置いて揺するなどしながら,大声で「真実から逃げるな。」「正直になれ。」などと叱るように繰り返し追求したことは違法な取調べであって,その結果作成された警察官調書・検察官調書も基本的に上記自供書等にその内容を依拠するものであって,任意同行中の上記違法な取調べの影響を遮断するような措置も講じられていないから,同様に任意性に疑いがあるなどとして,捜査段階での各自白調書の取調べ請求が却下された事例。 主 文 被告人の検察官調書2通〔乙2,8〕及び警察官調書2通〔乙6,7〕に関する検察官の証拠調べ請求をいずれも却下する。 理 由 第1 争点と当事者の主張 検察官は,罪体を立証趣旨とする被告人の供述調書として,被告人の警察官調書5通〔乙3~7〕,検察官調書2通〔乙2,8〕の取調べを請求しているのに対し,弁護人は,このうち警察官調書3通〔乙3~5〕の取調べに同意し,これらについては既に取り調べ済みであるが,その余の供述調書,すなわち警察官調書〔乙6,7〕及び検察官調書〔乙2,8〕については供述の任意性を争っている(以下,これら任意性が問題となっている各供述調書を総じて「係争供述調書」という。)。 したがって,被告人の係争供述調書に任意性が認められるか否かが当面の争点であるが,この点に関し,弁護人は,本件出火当日,被告人は,警察官Aと同Bの取調べを受けた際,放火を自白する旨の被告人の供述書1通(以下「最初の自供書」という。)と同内容の被告人の警察官調書1通(録取者はB刑事。以下「最初の自白調書」という。)が作成されているが,これらは,A刑事による予断と先入観に基づく追及的尋問や身体的接触を伴った違法・不当な取調べの結果なされた虚偽自白を内容とするものであって,任意性がないし,その後警察官Cや検察官Dの取調べの下で録取・作成された係争供述調書は,P署での同一身柄拘束下にある被告人が,自白を撤回して否認するとA刑事から再度違法な取調べを受けるのではないかとの恐怖心から,取調官に迎合し,その誘導に乗って行った虚偽自白にすぎず,その内容も,最初の自供書・自白調書(以下,総じて「最初の自供書等」という。)を真実と措定しこれを詳細・具体化したものにすぎないのであって,実質的には最初の自供書等と一体をなすものであるから,同様に任意性はないと主張している。 これに対し,検察官は,A刑事が被告人の身体に接触しながらの取調べを行ったことは事実だが,これは暴行・脅迫・利益誘導と評価されるようなものではなく,むしろ被告人の心を開かせるとの目的に沿った穏当なものであって,取調べ方法として許容される範囲内のものであるから,到底自白の任意性に影響を及ぼすものでもないし,黙秘権侵害と評価されるようなものでもない,そして,その後の取調べにはA刑事は関与しておらず,C刑事らは一から取調べを行っているから,A刑事の取調べの影響が残存しているとは認められず,したがって,C刑事らの取調べの下で録取・作成された係争供述調書に任意性があることは明らかであると主張している。 そこで,当裁判所は,以上のような当事者の主張に鑑み,検察官に係争供述調書の提示を求めるとともに,捜査段階におけるその余の被告人の供述書・供述調書(取り調べ済みの同意書証を除く。)を「供述状況等(任意性・信用性の判断資料として)」という立証趣旨の下に取り調べ,さらに,取調べ状況に関するAの証人尋問や被告人質問を実施し,その余の関連証拠の取調べを行った上で,次のとおり判断した。 (以下の判断中においては,日時はすべて平成17年のそれを指すものとする。) 第2 当裁判所の判断 1 本件の捜査経過とその余の関連事実 まず,以下の各事実経過等は,当事者間に概ね争いがなく,関係証拠に照らしても動かし難いものとして認めることができる(以下「動かし難い事実(1)」などとして引用することがある。)。 (1) 被告人は,公訴事実記載の共同住宅「Q荘」(以下「本件アパート」という。)1階a号室の住人であるが,5月27日午前5時ころ被告人の居室を火元として発生した火災により,本件アパートは全焼し,同アパート2階の住人2名が焼死した。 (2) 本件火災当時,被告人は,まだ本件アパート1階に煙がうっすらと漂っている段階で,1階玄関前の廊下に俯せの状態で倒れ込んでいるのを2階の住人に発見されて起こされ,自力で本件アパートの玄関前に脱出したが,その後,火元が被告人の居室であること聞知した警察官から同日午前7時25分ころ任意同行を求められたことから,これに素直に応じ,同日午前7時30分ころ,警察官と共に所轄のP警察署に到着した。 (3) その後,被告人は,同日午前中,P署の警察官から取調べを受けたが,その際,被告人の居室が火元であることを指摘し被告人の放火ではないかと追及する取調官に対し,出火原因について,「ホットプレートか漏電ではないか。」などと供述し,自己が放火したことを否認する供述をしていた。 (4) その後昼食時間となり,被告人はP署内で昼食をとったが,この間,P署は,本件火災で焼死者が2名も出ていることから,R府警本部捜査1課の火災班に応援を求め,その求めに応じて同日午後1時ころ来署した同課同班のA刑事とB刑事は,火元が被告人の居室であることや被告人の上記弁解内容などをP署の者から聞き取った上で,同日午後2時10分ころから,P署の警察官と代わり,2人で被告人の取調べを開始した。 (5) そして,このA刑事らの取調べの際,同刑事が黙秘権を告知したか否か,同刑事がどの程度の身体的接触を被告人に行ったのか,被告人に対し具体的にどこまでの発言をしたのかについては,後述のとおり,被告人とA刑事との間に供述の食い違いがあるものの,少なくとも, ア 取調べの最初の段階では,被告人は午前中に行っていたのと同様に,出火原因について「分からない。」「漏電ではないか。」「ホットプレートで焼き肉をしようとして電源を入れ,そのまま眠ってしまった。」などと放火を否認し,漏電の可能性を示唆する供述をしていたこと イ その後,被告人の弁解は嘘であると思い込んだA刑事が,被告人に対し身体的接触を伴いつつ大声で叱咤するような取調べを行った結果,夕方ころには,被告人は,泣き出してしまい,「やりました。」と自白したこと ウ その後,被告人は,A刑事のアドバイスを受けつつ,別紙のような最初の自供書を作成する一方,A刑事が取調室から退席後,B刑事が単独で行った取調べにおいてほぼ同内容の最初の自白調書が録取・作成されたこと 以上の事実は明らかである。 (6) そしてその後,被告人は,同日午後7時40分に,最初の自供書等を疎明資料として発付された通常逮捕状により現住建造物等放火を被疑事実として逮捕され,翌28日には勾留された。 (7) 上記逮捕後,被告人の警察での取調べはR府警本部捜査1課のC刑事とP署の警察官Dが担当し,検察での取調べはE検事が担当した。この間,被告人に対しては警察・検察においてほぼ連日取調べが行われ,同年6月16日に起訴されるまでの間,下表に記載のとおり,数多くの被告人の供述調書・供述書等が作成された(同表中,係争供述調書についてはゴシック体で記載している。)。 なお,最初の自供書等以降の各供述調書・供述書は,係争供述調書を含め,いずれも最初の自供書等の内容を踏襲しこれを具体化したものであり,核心部分の供述内容はほぼ一貫している。 日 付 作成された書面 取調官 書面の概要 5月27日 【本件火災発生】 最初の自供書 最初の自白調書 【逮 捕】 弁解録取書(警察) 乙10 乙11 乙12 A・B B F刑事 犯行動機,犯行状況,犯行後の行動等 犯行動機 犯行動機,犯行状況 28日 警察官調書 警察官調書 弁解録取書(検察) 勾留質問調書 【勾 留】 乙13 乙14 乙15 乙16 C,D C,D G検事 犯行動機,現住性の認識 身上,経歴等 犯行を認める。 犯行を認める。 29日 供述書 警察官調書 乙18 乙17 C,D犯行に至った理由 自白に至った経緯,供述書(5月29日付)作成時の状況 30日 (取調べのみ) 31日 供述書1通 乙21添付 放火に使用したライターについて 6月1日 (取調べのみ) 2日 供述書8通 乙21添付 自室内の家具等 3日 検察官調書 乙2 E自白に至った経緯 4日 警察官調書 乙3 C,D現場アパートに入居した経緯,同アパートの構造・入居状況 5日 警察官調書 供述書2通 乙4 乙21添付 C,D本件火災前日の行動 放火直前の行動等 6日 警察官調書 供述書7通 乙5 乙21添付 C,D自室の家具の設置状況等 放火時の被告人の服装等 7日 警察官調書 供述書2通 乙6 乙21添付 C,D犯行状況,犯行後の行動 犯行状況,犯行後の行動 8日 (現場引き当たり) C,D 9日 (犯行再現) C,D 10日 (燃焼実験) 警察官調書 乙19 C,D 現場引き当たり(6月8日)や犯行再現(同9日)時の状況 11日 警察官調書 乙1 C,D身上・経歴等,犯行に至った経緯 12日 警察官調書 乙7 C,D犯行動機 13日 検察官調書 警察官調書 乙8 乙20 E C,D犯行動機,犯行状況 被害者に対する感情 16日 【起 訴】 (8) なお,本件アパートの被告人方居室においては,本件火災の約半年前,被告人とその友人とがホットプレートで焼き肉をしている際に,コンセントから煙が出てコンセントが溶けてしまうという事件が発生した事実がある。その後,電気工事業者によりコンセント自体は交換されたものの,ホットプレートを使用中にコンセントから煙が出るという事態の根本原因については解明されたり改善されたりしないまま事件当日に至っており,事件当夜も,被告人は仕事先の者に帰宅後自室で焼き肉をする旨話しているほか,焼き肉用の肉も前夜に購入済みであった。また,本件アパートの消火終了後行われた実況見分の折りには,被告人方居室の床面から,発熱体部分と本体とが分離した状態でホットプレートが発見された。 2 最初の自供書等の任意性について (1) 検討の必要性 以上見たとおり,係争供述調書は,いずれも最初の自供書等の内容を踏襲しこれを具体化したものに他ならないのであるから,係争供述調書の任意性を判断するには,まずその大前提として,最初の自供書等の任意性の有無を検討することが不可欠である。 (2) A刑事の下での取調べ状況に関する被告人と同刑事の各供述状況 そこでまず,最初の自供書等が作成されるに至った本件火災当日午後のA刑事らによる被告人の取調べ状況について見るに,被告人とA刑事がそれぞれ語る取調べ状況は,以下のようなものである。 ア 被告人の公判供述の概要 まず,被告人は,A刑事の証人尋問に先立つ第2回,第3回公判における各被告人質問において,概要,次のように供述している。 (ア) 昼食後,P署警察官による取調べが再開されたが,しばらくすると,その警察官と入れ替わるようにしてA刑事とB刑事が取調室に入って来,A刑事が机を挟んで私の向かい側に,B刑事が私の左斜め前にそれぞれ座って,取調べを始めた。A刑事は,取調室に入ってくるときから「とぼけているらしいな。」などと言いながら入口のドアを閉めていたが,着席後も,黙秘権の話はしないまま,いきなり「放火して,とぼけている悪いやつがおるということで,おれらがわざわざ来たんや。」などと告げるとともに,持参した大きなかばんを見せながら,「かばんの中に証拠が入っている。」「科学捜査というのがあって,とぼけてもすぐに発見できるんや。」などと言ったり,「人が一応2人死んでるんや。」などと言ったりもした。 (イ) これに対し,私は,午前中と同様,「やっていない。」と言い,漏電やホットプレートからの出火の可能性がある旨述べたが,A刑事は,それに全く耳を貸そうとしないばかりか,「このままとぼけてると不利になるぞ。」「大悪党になってしまうぞ。」と強めの口調で言ったり,「供述しないなら『もう供述しません。もう何も言いません。』と一筆書け。その代わり,書いたらこれを裁判所とかに提出して,お前を完全に不利にしたる。」などと言ったりした。その間,B刑事は,あまり話をしなかったが,私の左斜め前から身を乗り出すようにして間近からのぞき込んできたので,威圧感を感じた。 (ウ) その後,A刑事の指示で両刑事が席を替わり,B刑事が私の正面に座り,A刑事が私の左横で私の方を向いて座った。B刑事は,やや強めの口調で「本当のことを言った方が身のためやぞ。」などと追及してきた。それに対し,私が「やっていない。」と答えたが,耳を貸してくれる様子はなく,左に座っていたA刑事が,右手で私の左肩を掴み,私の顔の間近に自分の顔を近づけつつ「お前がやったんだろう。白状せえ。」「本当のことを言え。白状せえ。」などと何度も言ってきた。そしてさらに,A刑事は,私の耳のすぐ近くまで顔を近づけながら大声で「H〔被告人の姓(仮名処理者注)〕,正直になれ。」などと10回以上も言っただけでなく,次第に興奮してきたA刑事は,右手で私の後頭部の髪の毛を掴み引っ張って,私の顔を上げさせた上,「正直になれ。」などと何回も繰り返し言った。 (エ) 私は,そのようなことを繰り返しされているうち,精神的に耐えられなくなり泣いてしまった。A刑事らの取調べがつらかったし,自分の言い分を聞いてもらえず,犯人扱いされたことに耐えられなかったからである。そして,A刑事が「H,正直になれ。」などと何回も繰り返し言われているうち,もう精神的に耐えられなくなり,「やりました。」と嘘の自白をしてしまった。嘘でも白状すればとにかく楽になれると思ったのと,私の部屋から火を出してしまい2名の方が亡くなったことに対して申し訳ないという気持ちがあったからである。 (オ) その後,A刑事は,B刑事とまた席を交替して正面に座り,「どこに火をつけたのか。」などと尋ねてきたので,私は初め「畳に火をつけました。」と適当に答えたが,A刑事から「違うやろう。」と言われたので,思いつくまま「布団です。」と答えた。そして,とりあえず「(布団の)端っこの角に火をつけた。」と言うと,A刑事から「この1か所だけやったら,こんな火事にはならん。もっとつけたやろう。正直に言え。」などと言われたので,順次,最初の自供書の原案である別の紙に印を書き加えながら,3か所につけたなどと答えた。また,火をつけた方法については,A刑事が「ライターかマッチか。」などと聞いてきたので,当時勤務先にあったライターを家によく持って帰っていたことから,思いつくまま「ライター。」と答えた。さらに,火をつけた動機については,A刑事から尋ねられたものの,私がずっと黙っていたところ,A刑事の方から「いらいらしとったんか。」「ストレスたまっとんか。」「仕事のことで,むしゃくしゃしとったんやろ。」などと聞いてきたので,「はい。」と答えた。火をつけた後の行動についても,私は「布団のところで(火を)見ていた。」と言った。 (カ) 放火の状況について一通り取調べが終わると,A刑事から正式の供述書を書くよう求められたので,私は,先に別の紙に書いた原案を見ながら部屋の見取図を書き,何を書けばいいかA刑事に確認してその都度指示を受けながら,最初の自供書を書いていった。そして,その後,B刑事の作った同じ内容の最初の自白調書にも署名した。 イ A刑事の証言の概要 これに対し,A刑事は,第3回公判において,被告人質問に引き続いて行われた証人尋問で,概要,次のとおり供述した。 (ア) 私は,R府警察本部捜査1課火災班に所属しているが,上司の命によりP署に赴いてB刑事と2人で被告人の取調べを担当することになった。本件火災当日の午後1時前ころP署に着いて,同署警察官から約1時間ほど話を聞いた。その際,本件火災の火元が被告人の部屋であること等は聞かされたが,被告人の部屋の間取りや出火原因等については全く聞かなった。そして,被告人が「覚えていない。」「漏電ではないか。」などと供述していると聞いて,私は被告人が事実を隠しているのではないかと思った。 (イ) その後,私とB刑事は取調室に入り,私は机を挟んで被告人の正面に,B刑事は被告人の左斜め前にそれぞれ座って,被告人の取調べを開始した。まず冒頭,私は,名前を名乗った後,「今から話をきくんやけども,言いたくないことは言わないでいいけども,うそをつかんと正直に話ししてくれよ。」というような言い方で黙秘権を告げた。その後,被告人は,自分の部屋から火が出てるんと違うかとの私の問いかけに対し,下を向いたまま顔を上げず,たまに「分からない。」「漏電ではないか。」「ホットプレートで焼き肉をしようとして電源を入れ,そのまま寝てしまった。」などとぶつぶつ言うのみで,供述が定まらなかった。私は,その供述態度を見て,いわゆる刑事の勘で,被告人は放火か少なくとも重過失の失火を犯したのにその事実を隠していると直感した。 (ウ) そのため,私は,被告人の心を開いてやらないといけないと思い,取調べ開始後30分ほどして,B刑事と交替して被告人の左横に被告人の方を向いて座るとともに,「火をつけたん違うんか。」「たばこなんか投げ捨てたりしたん違うんか。」などと追及する一方,「なあ貸してみい。」と被告人の手を取りその膝の上で被告人の手を私の両手で握りしめたり,私の右腕を被告人の肩に回して肩を組むようにしたりしながら,被告人の耳元近くで,「逃げたらあかん。自分のしたことは正直に言わなあかん。自分に正直になれ。」などと大きな声で子供を叱るような口調で繰り返し言った。被告人はそれでも目を合わせようとしなかったので,被告人に対して「こっち向け。」「おれの目を見てみい。」などと言って私と向かい合うように被告人に座り直させた上で,被告人の両肩に私の両手を置いて叩いたり揺すったりしながら,被告人の顔の近くで繰り返し「H,逃げるな。」「正直になれ。」「うそをついたら,これから先,人生しんどくなるぞ。」「君は大悪党じゃないだろう。」などと大声で叱るように言って,約30分にわたり説得を続けたところ,そのうち,被告人はわっと泣き出して,「すみません,僕がやりました。」と言った。 (エ) その後私は,B刑事と交替して再び机を挟んで被告人の正面に座り,自分から積極的に話そうとはしない被告人に対し,放火の動機,放火の方法,放火後の行動などについてひとつずつ聞いていった。被告人がそれらについて供述するのに対し,私が「ほんまか。間違いないんか。」などと確認すると被告人が供述を変えることがあったりしたが,20~30分ぐらいで本件について大まかな供述を得ることができた。 (オ) 被告人から本件について一通り話を聞き終わったところで,私は,被告人に対して供述書を書くよう求めた。そして,その書き方が分からない被告人に対して,「間取りをまず書いて欲しい。」「何が置いてあったか書いて欲しい。」「火をつけた順番に番号を打っていったら分かりやすいんと違うか。」「火つけたところを赤でかいたほうがええんとちゃうか。」などと適宜指示をしながら供述書を書かせていった。 (カ) 被告人が供述書を書き終わったところで,私は,供述書の内容と火災現場の状況が符合するか確かめるために,供述書のコピーを持って火災現場へ行ったため,その後の取調べはB刑事が担当した。 (3) A刑事の取調べ方法の違法性と被告人供述の任意性に与える影響 ア A刑事の下での取調べ状況に関する被告人とA刑事の各公判供述は以上見たとおりであって,身体的接触を伴いながら「H,逃げるな。」などと大声で叱りつけるような取調べを受けたという点など,被告人の公判供述の重要部分は,その後行われたA証言によってかなり裏付けられたといえる。 もっとも,細かな点の相違はともかく,重要な点では,① A刑事が取調べの冒頭で黙秘権を告知したか否か,② A刑事が被告人の後頭部の髪の毛を掴んで引っ張り同人の顔を上げさせるような暴行を加えたか否かに関しては,両者の供述が完全に相反しているが,まず,②の点に関しては,A刑事自らが認めるような常軌を逸した被疑者への身体的接触傾向に照らすと,A刑事が,取調べ中の被告人と肩組みしたり,正面から被告人の両肩を持って揺するなどしているうち,俯いたままA刑事の思うように自白しない被告人の髪の毛を掴んで顔を上げさせるようなことは大いにやりかねないと考えられるのであって,この点に関する被告人の供述を虚偽であると排斥できるだけの材料はないし,また,①の黙秘権告知の点に関しても,仮にA刑事の証言するように,形の上では黙秘権告知らしきことが行われていたとしても,A刑事の証言する表現方法(すなわち「今から話をきくんやけども,言いたくないことは言わないでいいけども,うそをつかんと正直に話ししてくれよ。」というもの)では,それが被疑者の法律上の権利であることなどは全く伝わっておらず,ほんの枕詞的な意味合いを有するにすぎないのであって,その後の取調べ状況に照らしても,被告人がA刑事の形式的告知に気づかなかったとしても,全く無理からぬことだと言わねばならず,この点に関する被告人の供述も,これを虚偽であると排斥できるような要素は乏しいといわざるを得ない。 そうすると,A刑事の取調べ状況に関する被告人の公判供述は基本的に信用できるものと評価することができるが,ここでは,被告人供述によるまでもなく,A刑事自身が証人尋問で自認しているような取調べ方法だけでも十分に任意性に関する判断は可能であると考えられるので,以下,A証言を基礎に置いて,その判断を行う。 イ A刑事の証言によれば,同刑事は,任意同行中の被告人(当時は被疑者)に対し,漏電等による火災ではないかとの被告人の弁解に全く耳を傾けようとせず,何ら客観的・具体的な根拠に基づかないまま,本件火災が被告人の放火か少なくとも重過失による失火によるものであると決めつけ,その結論に沿う供述を被告人から引き出すために,相当時間にわたり,被告人の膝の上でその手を自分の両手で握りしめたり,被告人の肩に手を回して肩を組むようにしたりしながら,被告人の耳元近くで,「真実から逃げたらあかん。自分のしたことは正直に言わなあかん。自分に正直になれ。」などと大きな声で子供を叱るような口調で繰り返し言ったものの,それでもなお被告人は目を合わせようとしなかったことから,被告人に対して「こっち向け。」「おれの目を見てみい。」などと言って自分に向かい合うように座り直させた上で,被告人の両肩に自分の両手を置いて叩いたり揺すったりしながら,被告人の顔の近くで繰り返し「H,逃げるな。」「正直になれ。」「うそをついたら,これから先,人生しんどくなるぞ。」「君は大悪党じゃないだろう。」などと大声で叱るよう繰り返したというのである。そもそも,当時は,まだ本件火災後間もない時期であり,出火原因についても,未だ何人かの放火又は失火によるものか,それとも電気的火災によるものかなどは全く明らかになっていなかったのであって,殊に本件は,事後的・客観的に見ても,動かし難い事実(8)に記載のとおり,漏電や過電流等が原因で本件火災が生じた可能性も現段階では排斥仕切れない事案(なお,S消防署消防士長作成の火災実況見分・原因判定書〔甲22〕は,火災原因として,電気配線に起因する短絡出火により出火した可能性も否定できないとしている。)であったにもかかわらず,A刑事は,被告人の居室から出火したことや取調べ時の被告人の応答態度のみから,いわゆる刑事の勘に頼り,被告人の犯行により本件出火が起こったなどと自分の中で独善的な「真実」を作り上げた上,被告人の言い分に全く耳を貸そうとしないまま,「真実から逃げるな。」「うそついたら,人生がしんどくなるぞ。」などと被告人に対し自己の「真実」を一方的に大声で押しつけたばかりか,あろうことか,任意同行中の被疑者に対し,なれなれしくも肩を組んだり,その両肩を揺すぶったりと常軌を逸した身体的接触まで行って,その押しつけを一層強めていたのである。関係証拠によれば,被告人は,これまで前科がなく,逮捕されたことすらない当時31歳の青年であって,あまり恵まれた人生は歩んでこなかったとはいえ,平素は温厚かつ気弱な性格であったところ,本件火災当日も,動かし難い事実(2)に記載のとおり,火災当時は廊下に倒れていてもうろうとしており,その後玄関前に立っていたところを,警察の任意同行により,心の準備をする間もなく,いきなり被疑者扱いされ,果ては,同日午後から上記のようなK刑事の常軌を逸した取調べにさらされたというのであるから,体格の点でも勝るA刑事(同証言によれば,身長174.5㎝,体重92㎏で,以前柔道をやっていたとのことである。)を,被告人が痛く恐怖し,その取調べに精神的に耐えられなくなり,最後には自己の意思に基づかない虚偽自白を行ってしまったとしても,当時の状況に照らすと,それ自体無理からぬものがあると言わねばならず,自白に至る心理過程に関する被告人の公判供述は十分に信用することができる。 そうすると,上記のようなA刑事の取調べ方法は,その後の捜査や裁判の方向性を歪めかねない悪しき「見込み捜査」との誹りを免れないばかりか,社会的に相当なものとして是認される限度をはるかに超えた身体的接触を伴う過度に強圧的で執拗な追及により自己の意図する「真実」に沿う自白を強要したものであって,違法であると断ぜざるを得ないし,また,それにより被告人が自由な意思に基づいて供述し又は供述しないことを非常に困難にしたという点では,被告人の黙秘権を実質的に著しく侵害するものである(なお,A刑事が被告人に対して黙秘権の告知をしたか否かについては前記のとおり供述が対立しているが,上記のような過酷な取調べが現になされている以上,被告人の黙秘権が実質的に損なわれていることは明らかであって,仮に黙秘権の告知が形式的になされていたとしても,それは単なるリップサービス以上の意味を有するものではない。)。 この点に関し,A刑事は,その証言において,上記のような取調べ方法は「被疑者の心を開かせるためのスキンシップ」であるなどと称しており,検察官も,同刑事の取調べ方法は被疑者の心を開かせるとの目的に沿った穏当なものであり,許容される範囲内のものであるなどと主張しているが,同じく公正な手続的正義を追求する者として,およそ理解に苦しむ主張であるというほかない。A刑事がその証言で自認する限度での取調べ方法だけ見ても,それが「穏当」であるなどとは到底言い得るものではないし,ましてこれを「心を開かせるためのスキンシップ」などと称するのは,要するに最初から被疑者が犯人であるとの前提に立った取調官側の一方的な思い上がりの論理にすぎないように思われる。A刑事や検察官の上記各主張には到底賛同することができない。 ウ そして,上記のようなA刑事の違法な取調べ手法によって,被告人の供述の任意性が著しく損ねる結果となったことは既に述べたとおりであって,その後の最初の自供書等の作成経過等に鑑みても,その自白内容に任意性が認められないことは明白であるといわねばならない。 この点に関し,検察官は,① 逮捕後当番弁護士と3回にわたり接見している被告人が,同弁護士に対してA刑事らの違法な取調べによって虚偽自白をしたことを訴えていないこと,② また,被告人が,逮捕後起訴に至るまで,裁判官や検察官,C刑事らに対して,同様の訴えをしていないことをもって,被告人がA刑事らの説得に応じて任意に自白したことの証左である旨主張しているが,被告人の公判供述によれば,起訴後拘置所に移るまでの間は,ずっと同じ警察署の留置場内に留置されており,それまでの自白を撤回したり,A刑事の取調べの不当性を訴えたりすると,またA刑事によるつらい取調べが再開される可能性があったので,それが恐ろしくてできなかったと供述しており,前述のようなA刑事の取調べ実態,被告人の年齢・性格や,これまで逮捕・勾留されたことすらなく,捜査手続もよくわからない状況にあったことなどを併せ考えると,その供述には十分な真実味が認められるというべきである(なお,付言すれば,上記当番弁護士の接見は,形式的には確かに3回に及ぶとはいえ,被告人の公判供述やその余の関係証拠によれば,2回目は弁護士会側の手違いによりだぶって派遣された1回目と異なる弁護士と15分程度接見しただけであり,また,3回目は1回目に接見に来た弁護士に私選の依頼を断るため9分間接見しただけであって,実質的な接見は1回目の34分のみであることが認められる。そして,被告人の公判供述によれば,1回目の弁護士は,年配で頼りなさそうに見えたのであまり話ができなかったというのであって,その後私選依頼を断っている事実に徴しても,その供述には相応の説得力が認められよう。)。 3 係争供述調書の任意性について そこで,以上を前提に,係争供述調書の任意性について検討する。 関係証拠によれば,係争供述調書を録取・作成したE検事やC刑事らによる被告人の取調べ方法には,それ自体,特に違法・不当な点はなかった(特に,C刑事らの取調べについては,被告人は「優しかった。」と供述している。)ことが認められる。 ただその一方,係争供述調書が最初の自供書等の内容を踏襲し具体化したものにすぎないことは,動かし難い事実(7)において認定したとおりであるが,本件では被告人の検察官調書〔乙2〕や任意性の判断資料として取り調べた被告人の警察官調書〔乙17〕からも明らかなとおり,E検事とC刑事は共に,A刑事の懇篤なる取調べにより被告人が真実の自白をするに至ったことを強調するような供述調書をわざわざ作成しているのであって,係争供述調書の任意性・信用性が最初の自供書等のそれに基本的に依拠していることはその供述調書の作成経過からも明らかであるといわねばならない。そして,E検事やC刑事が,A刑事の取調べ手法の問題性を認識し,その影響を遮断する措置を講じた上で,自ら被告人の取調べに臨んでいたのであればまだしも,本件では,両取調官は,それを知ることが全くないまま,何らの遮断措置も講ずることもなく,かえってA刑事の取調べを称えるような供述調書まで作成しているのであるから,最初の自供書等における任意性に関する瑕疵はその後の係争供述調書にもそのまま承継されるものと解するほかない。現に,被告人の公判供述を見ても,前述のとおり,取調官がA刑事からE検事やC刑事に代わっても,自白を撤回するといつまたA刑事の取調べが再開されるかもしれないと恐怖し,本当のことは言えなかったというのであるから,この点からしても,係争供述調書については,最初の自供書等同様,その任意性に疑いがあるといわざるを得ない。 4 係争供述調書の信用性について 最後に,係争供述調書の信用性についても一言言及しておきたい。その信用性に重大な疑問があることは,被告人がA刑事の違法な取調べの下で自己の意思に基づくことなく虚偽の自白を余儀なくされたという被告人の公判供述を強く裏付けることになり,同供述調書の自白に任意性がないことの一つの重要な現れともみなし得るからである。 係争供述調書の骨子は,別紙最初の自供書等の内容と同様,要するに「仕事のことでイライラして,火をつけたらスカッとするんじゃないかと思って,火をつけた。部屋に敷いていた布団の3か所,すなわち図の①②③の順に順次ライターで火をつけた。火をつけた後,5分ぐらい部屋の中で炎が大きくなっていくのを見ていたが,煙などで苦しくなって部屋から逃げた。」というものである。 しかしながら,関係証拠に照らすと,その自白内容には,以下の2点で重大な疑問があるといわねばならない。 (1) 自白の不自然・不合理性について ア この自白を読んで何より疑問に思われるのは,当時被告人にいくらストレスが溜まっていたとしても,本件アパート以外に帰るべき家があるわけではない被告人が,ストレスを発散するだけの目的で,後先も考えず自分の部屋に放火するようなことが果たしてあるのだろうかという点である。自殺願望の者や精神に異常を来している者が自室に放火する事件は少なくないが,被告人は,当時ある程度アルコール酩酊をしていたとはいえ,特に精神異常を来していたわけでもなく,また,自殺願望もあったわけでもないのに,これまで前科もなく市井の一社会人としてそれなりに安定した生活を送ってきた被告人が,上記のような程度の理由で自室に放火するというのは非常に不自然・不合理であるように思われる。 イ さらに,上記自白によれば,スカッとするために放火したというのであるが,それならば,もっと燃えやすい衣類やゴミ袋類等はいくらでも被告人の居室に存在したのであるから(被告人の公判供述),これに放火すればよいものを,警察官調書〔乙6〕によれば,被告人は自分が着座している敷布団の角をわざわざめくり上げて放火したというのであって,これも理解し難い。このような着火方法は,火を見たいと思ってとっさに放火した者の行為として不自然といわざるを得ないであろう。 ウ さらに,警察官調書〔乙6〕等によれば,被告人は,苦しくなって自室から逃げた際,部屋を出たところで倒れて一時意識を失ったというのであるが,特段自殺願望があったわけでもない被告人が,自ら火の勢いを見ていたというにとどまらず,苦しくなって倒れる直前まで平然と部屋の中にいたとするのもまた不自然の感を否めない。 (2) 自白と客観的証拠関係との不整合について しかし,(1)以上に疑問に思われるのは,被告人の自白内容が客観的証拠関係と不整合を来していることである。 ア 布団の焼け残り状況との不整合 まず,最初の自供書等や係争供述調書によれば,被告人は,別紙最初の自供書にあるように布団の角3か所(①~③地点)にライターで着火したというのであり,警察官調書〔乙6〕によれば,①③付近も②付近もそれぞれ40~50㎝位の炎が上がり,②付近の炎は近くにあったビニール袋(ゴミ等の入ったもの)に燃え移り,たちまち80㎝位の高さに燃え上がったというのである。 火災事件においては,特別の事情がない限り,出火場所付近が最もよく焼損しているものであるというのは捜査・消防における一般的経験則であるが,これによれば,本件でも,②付近のみならず,①③付近においても上記のように40~50㎝まで炎が立ち上る状態にあったのであるから,当然のことながら,①③付近も②付近と並んで,最もよく焼損していてしかるべきであろう。ところが,本件火災後行われた警察と消防のそれぞれの実況見分の結果によれば〔甲3,22〕,本件居室に敷かれていた布団のうち唯一焼け残っているのは,①③の布団の角を中心とした付近(及び,布団の中心部2か所)なのである。この点に関しては,本件全証拠を通覧しても,その焼け残りの原因がなぜなのか全く解明されていないし,①③付近のみが焼け残るだけの原因も見出し難い。 これは,上記自白内容に根本的な疑問を抱かせる要因である。 イ 燃焼実験結果との不整合 それだけでなく,これだけの火災事件になれば,捜査手法としても,被疑者の自白どおりの燃え上がり方が生じるのかを検証すべく燃焼実験が行われるのが通例であり,現に,本件においても,「模擬室内に敷いた敷き布団の角にガスライターで着火した場合に室内はどの様な燃焼状況になるか。」を鑑定事項として府警本部刑事部科学捜査研究所技術吏員において燃焼実験が実施されているのである(鑑定書〔甲14〕)。 しかし,同鑑定書中には,別紙①~③の各地点に該当する布団部分に着火した場合に布団自体がどのような燃え方をするかについては,全く明らかにされておらず,そこに記載されているのは,②に該当する布団部分に着火し,これがまだあまり燃え上がっていない状態で,これにビニール袋(ゴミ入り)に接着させた場合,その炎が同ビニール袋に燃え移っていくという当たり前の過程だけであって,前記自白のように,②地点付近の炎が40~50㎝立ち上がった後,近くにあったビニール袋に燃え移るという機序すら実験・検証されている様子がないのである。常識的に考えても,布団の裏に火を付けて,これを元に戻せば,酸素の供給がないため火はすぐ消えてしまうか,また仮に火が残ったとしても燻り続けた末ににやっと燃え上がるというのがせいぜいではないかと想像されるが,上記のような一般的な鑑定事項にもかかわらず,自白内容に沿うような実験が前記鑑定書中に全く現れていないのは,むしろ,①~③の各地点に該当する布団部分に着火しても,被告人の自白にあるようなやり方ではその供述どおり燃焼することがなかったからではないかと推認されるのである。 5 結 論 よって,以上いずれの観点からしても,係争供述調書の任意性には疑いが残るので,主文のとおり,その証拠調べ請求を却下することとする。 平成18年2月3日 大阪地方裁判所第7刑事部 裁判長裁判官 杉 田 宗 久 裁判官 鈴 嶋 晋 一 裁判官 小 畑 和 彦
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ホクドウ地方の建造物の設定です。 ここでの建造物は、大規模のオブジェも含みます。