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『隻眼のまりさ プロローグ』 9KB 戦闘 群れ 新シリーズの序章です。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 新作です。 ――――――――――――――――――――――――――――― まりさは、違和感を感じていた。 初めは本当に、ただそれだけだったのだ。 ――――某日、朝方―――― まりさは自宅で目を覚ました。 木の根元を掘り進んで作ったいつもの見慣れた巣穴。 入り口には木の皮が被せてあり、朝日が皮の隙間から覗いている。 ここにいるのは一匹の野生のまりさ。 番はいないので、一匹で寝起きをする普通のまりさである。 だがこのまりさ、少し変わったところがある。 目を覚ましていても左目が開かないのだ。 顔には左目を跨ぐように大きな亀裂が入っている。 跡が残ってしまっているが今はくっついているし痛みもない。 「ゆっくりしていってね」 ゆっくり特有の挨拶。 誰が聞いているわけでもないが、朝起きたら誰でも言うことだ。 そこに違和感はない。今はまだ。 家から出るとそこには多くのゆっくり達が行き交っていた。 紅白リボンに黒髪のれいむ種。 黒いトンガリ帽子に金髪のまりさ種。 赤のカチューシャに同じく金髪のありす種。 紫のナイトキャップに長い髪のぱちゅりー種。 緑のかぶり物に頭に突き出した耳と二本の尻尾があるちぇん種。 ここは深い山中のゆっくり達が住まう集落。 特に珍しい個体もおらず平和で皆とてもゆっくりしていた。 隻眼のまりさもここで生まれ、育ってきた。 両親はもういないがすでに成体であるまりさは生活に不自由はない。 秋風に吹かれてまりさは目を細める。 風に乗って紅葉が舞っている。 皆一様に冬篭りに備えて食糧の備蓄を行っている最中だ。 実りの秋ということもあり、皆忙しそうに働いていた。 「まりさ、ゆっくりしていってね!」 お隣に住むれいむに声を掛けられる。 「ゆっくりしていってね」 そう返事を返す。 「今日もドスのところに行くの?」 「うん。『ぶりーふぃんぐ』をしないと」 「じゃあまたね。ゆっくり行ってらっしゃい!」 「うん、行ってくる」 笑顔での見送りに首肯するまりさ。 そこに違和感はない。今はまだ。 「おはよう」 「ゆ!まりさ、おはよう!」 「ゆっくりしていってね!」 長であるドスの巣穴に来ると三匹のまりさが来ていた。 この三匹、トレードマークの帽子がボロボロだったり 三つ編みの『おさげ』がなかったりする。 この三匹は隻眼のまりさの幼馴染でいくつもの 修羅場をくぐってきた古強者達だ。 ゆっくりにとって装飾品は大切だが集落の中で最も強く 勇敢に戦う姿を見たゆっくり達はそれを馬鹿にしたりすることはない。 「ゆ~!みんな、集まってるね!」 「長(おさ)!」 「ゆっくりしていってね!!」 「むきゅ、じゃあ『ぶりーふぃんぐ』を始めましょう」 洞窟の奥からドスまりさとぱちゅりーが出てくる。 このドスは三匹と同じ幼馴染の一員だった。 だがある日気がついたらとても大きく成長していた。 元々強かったリーダー格のまりさがドスになったことで 皆一様に喜び、村長に祭り上げた。 今でもドスを含めた五匹は仲がよく、うまく集落を統率していた。 そして横の元人間の飼いゆっくりであったぱちゅりーは 家から追い出され、行き倒れていたところをこの集落に拾われた。 そしてゆっくり達では知りえない有用性の高い情報をもって 集落の参謀役を務めている。 「今日は左のまりさ達には赤松林の方へ狩りに行ってきてね」 「ゆっくり行くよ!」 「右の二人は狩人のありす達と一緒に洞窟の裏の森へ行ってね」 「わかったんだぜ!」 「ドスは昨日の続きで開拓ね、私も行くわ」 「分かったよ、ぱちゅりー」 ブリーフィングと言うには簡単だが ゆっくりとしては上出来な作戦会議だ。 ドスは長く大きな舌でぱちゅりーを帽子の上に乗せると移動を始める。 隻眼のまりさも同様に、赤松林で取れるものを思い浮かべながら洞窟を出た。 ――――同日、昼前―――― 赤松林に到着したまりさは、狩りを始めていた。 大小さまざまなキノコや、昆虫がひしめいている。 「はっ!!」 体当たりを食らわしてカマキリを仕留めた。 昆虫は植物と違い保存が利かないので主に今日明日の食事になる。 そしてまりさが任務として狙うのはキノコ類。 甘党であるゆっくりはトマトやにんじんのような野菜 そしてリンゴやミカンといった果物を好む。 まりさが今狙っている松茸や毒キノコであるテングダケなどは 無用の長物である。 だが、驚くことにこの集落はドスの確かな統制とぱちゅりーの交渉により 人間と不可侵協定と等価交換による取引を交わしている。 ぱちゅりーが言うには松茸は人間の間では法外な価値で取引され 毒キノコでさえも利用方法があるという。 まりさ達が回収したそれらのゆっくりにとって無用な物を 人間の栽培した野菜や果物と交換しているのだ。 人間なら力ずくで奪うということもできるのだろうが 確かな実績、毎年の安定した供給量を約束することで もうすでに二年以上協定は破られていない。 特に秋に手に入れた野菜は冬篭りで役に立つので 松茸の存在はまさに渡りに舟だった。 「ゆ!あったよ!」 まりさは松茸を見つけると舌で回収し帽子にしまった。 まりさ種は頭より身体能力に優れた種だが キノコに関する知識だけは豊富だった。 元となったキャラクターがどうである、などと言うつもりはないが。 ――――同日、夕刻―――― 「帰ったよー!」 隻眼のまりさはぴょんぴょん跳ねながらドスのいた洞窟に戻ってきた。 「むきゅ!いっぱい取れたわね! これなら人間さんからたくさんお野菜がもらえて皆ゆっくりできるわ!」 「今日は持ちきれなかったけど、まだいっぱい生えてたから明日も行くね!」 「分かったわ、じゃあ今日はお仕事おしまいね 明日までゆっくりしていってね!」 「わかったよ、ぱちゅりー」 まりさは上機嫌で返事をすると帰路に着く。 そこに違和感はない。今はまだ。 ――――同日、深夜―――― 「れみりゃだあああああああああああああ!!!!」 自宅で眠っていた隻眼のまりさは 悲鳴を聞いて飛び起きた。 その後すぐに思考を巡らすことなく外に向かって跳ねていた。 そこには数匹のれみりゃがいた。一匹は胴付きだ。 「やめろおおおおおおおおおおおお!!!」 「ゆっくりしね!!!」 幼馴染の三匹も出てきた。 「うー☆あまあまいっぱいだどぅー!」 胴付きれみりゃが手に持っているのはれいむ。 子供であるらしい頭だけのれみりゃがかぶりつこうとする。 「れいむを放せええええええええ!!!」 もみ上げのないまりさが子れみりゃをれいむに触れる直前に 体当たりで弾き飛ばす。 「うー!?いたいんだどー!いたいんだどー!」 衝撃で失速し地面を転がったれみりゃは翼をばたつかせながらもがいている。 「うー!よぐもおぢびぢゃんをー!!」 怒った胴付きれみりゃが四匹のまりさ達に手を伸ばす。 「れいむ!今のうちにゆっくりにげるよ!」 「ゆっくりにげるよ!」 まりさ達は散り散りになって動き回りれみりゃを撹乱する。 れいむが離れるのを確認してから四匹が集まった。 「ゆ!『ふぉーめーしょん』を組むよ!」 「ゆっくりりかいしたよ!」 隻眼のまりさの号令で隻眼のまりさを先頭に 三角形の陣を取る。 先頭のまりさは地面を踏みしめ、ジャンプの体勢。 「まりさのくせになまいきなんだどー!!」 一層怒りをあらわにした胴付きれみりゃは歩み寄って 隻眼のまりさに右手を伸ばす。 (今だ!!) れみりゃが身体ごと腕を突き出してきたところを 身体を縮めた反動でれみりゃの顔面めがけ全力の体当たりを叩き込む。 「ゆ゙ゔっーーー!!!」 「うー!!??」 自分の体重とまりさの体重分とジャンプ力の加わった一撃が れみりゃの額を捉え仰向けに倒されてしまう。 「止めだよ!」 「ゆっくりしね!」 「ゆっくりしね!!」 後ろにはじけとんだ隻眼のまりさを飛び越え残りの三匹が れみりゃの顔面を狙って踏みつけ攻撃を仕掛ける 「うー!?うー!!!??ゔゔゔゔーーー!!!」 しばらくうめいていたれみりゃだが執拗な三匹の踏みつけに 顔面が変形していき、ついには頭部を完全に潰されてしまった。 「おがーじゃーーーーん!!」 「よぐもおおおおおお!!!」 残った子れみりゃがまりさたちに襲い掛かろうとした時 「皆避けてね!!」 その声を合図に四匹のまりさはすばやく れみりゃから離れるように左右に分かれる。 「くらえーーーーーーーー!!!!」 「うーーーーーーーーーーー!!??」 ドスの放ったドススパークが闇夜を切り裂き 残ったれみりゃを全て消し炭に変えた。 ――――翌日、日の出―――― 「昨日はすごかったよー!」 「れみりゃを倒したんだねー!わかるよー!」 「れいむはまりさたちに助けられたよ!」 集落は昨晩の戦いの話題で持ちきりだった。 頭部のない胴付きれみりゃがその証。 あの時れみりゃに捕まっていたれいむが噂話の中心だ。 「それでね、まりさ達がれみりゃに攻撃を仕掛けた後ね ドススパークで皆やっつけたんだよ!」 「すごーい!!」 「かっこいー!!」 そんな噂話を横目に隻眼のまりさは物思いに耽っていた。 昨日の戦い。 負傷者もおらず集落にとってにとって最高の内容だった。 れいむが捕まったときはまずい、と思ったが 胴付きが自分で食べなかったのが幸いしてれいむは無傷で生還できた。 自分の放った渾身のカウンター。 数年前、れみりゃに対抗する必殺の武器を探していたまりさは 体当たりを磨きに磨いた自分の攻撃力のさらに増大する この技、カウンターを編み出した。 習得したての頃は一回二回ではタイミングをつかめずに一度失敗。 交差する瞬間にれみりゃの右手の爪が まりさの左目を切り裂いたのだ。 最終的にはドススパークで決着がつき命は助かったが まりさの左目に光が戻ることはなかった。 そんな思いをして習得した必殺技。 今ではチームの切り込み隊長として存分にその力を振るっている。 そして、そんな想いが隻眼のまりさに一つのしこりを生み出していたのだ。 しばらくすると、昨日助けたれいむが駆け寄ってきた。 「まりさ!昨日はありがとう!! お礼に今日は皆を招待してうちでご馳走するから ゆっくりしていってね!!!」 嬉しそうな顔でそんなことを言うれいむを見て 隻眼のまりさは今度ははっきりと 確かな違和感を感じていた。 続く あとがき 独自設定多数の新シリーズです。 ゆっくり達が妙に賢すぎねぇ?という人も多いと思いますが 基本的にプロローグで紹介したような世界観で物語は進みます。 虐待、愛で、その他シュールなギャグのない冒険活劇です。 山場と帰結は大体構想があるのですがそこまでの道中に 靄がかかった状態で書き始めています。 あまり評判がよくなければ 某ソードマスターのようにラ~ララ、ララララ~♪と 唐突なハッピーエンディングを迎えるかもしれません。 また、駆除業者のお仕事風景も終わりではないので よければそちらもよろしくお願いします。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。
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『隻眼のまりさ 第八話』 18KB 戦闘 群れ ゆっくりって可愛くかけば可愛いのだよなぁ…。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第七話~ ドスの思い!その存在が生み出すものは… ――――同日、深夜―――― 自分の知識をもって皆のために働こうと そう決心したぱちゅりーにはもう迷いがなかった。 たとえ嫌われようとも自分の理論武装は完璧だ。 何を言われても言い返せる自信がある。 そう考えたぱちゅりーは隻眼のまりさとドスを呼び ここで話の決着をつけようと思った。 それに自分も含めて三匹をとも お互いを大事に思っているのだ。 話をして、わだかまりをなくせば この一件は収束に向かうであろうと そういう思いもあった。 「まりさ、とりあえずドスにも同じ話をしてあげて」 「うん…」 「……………」 だからぱちゅりーは、自分の口からではなく 隻眼のまりさに自分で言わせようとしたのだ。 「ドスは、きめぇ丸って知ってるかな?」 隻眼のまりさは言いにくそうに切り出した。 この二匹は自分より付き合いが長い。 何よりチームを組んでいたもの同士だ。 悪い言い方をすればその裏切り行為とも言える 考えを持っていたことに後ろめたさもあるのだろう。 だがそれも、直接思いを伝えれば理解し合えるはずだ。 その行動は違っても、その思いは同じなのだから。 少し長くなりそうなので、次にどうするかなどを 考えていた矢先 「ゆんやあああああああああああ!!! れみりゃがああああああああああああ!!!」 「!!!」 れみりゃだって、とぱちゅりーは思った。 なんて悪いタイミングで出てくるのだろう。 だが実際今のところはれみりゃの対応が先だろう。 「まりさ!ドス!」 「う、うん!!」 「いくよ!!」 やはり一番切り替えの早かったのは自分だ。 まあでも重い話をしていたのだからそいう言い方は酷かなどという どうでもいい思考をしながらぱちゅりーはドスの帽子に乗った。 「ドス!ドス!前見て!!」 「う、うん!!」 「何よ…これ…」 まさしく自分が危惧していた状況。 例の取引がすんだ直後の出来事。 タイミングから考えてこのれみりゃ達は 人為的に放たれたものと疑いようがない。 二年前のあのときでさえデタラメな数だと思っていたのに 見える範囲でもあの時のざっと倍近く捕食種がいるかもしれない。 「………!!ドス!ドススパークを!!」 「わ、わかったよ!!」 考えるのは後だ。 とにかく今は最低でも自分は冷静でいなければならない。 ドスはもうほとんど自分の指示があるまで動かない、というくらいに 自分の指示につき従っている。 逆に言えば自分が崩れたらこの集落は一気に 崩壊するおそれがあるという危惧もしなければならなくなっていた。 「ドス!かまわないわ!薙ぎ払って!!」 「ドス!一旦洞窟の中に下がって!!」 「ドス!!いいわ!!その位置から仰角10!真っ直ぐ発射!」 ぱちゅりーに言わせればれみりゃに限らず 一般的なゆっくりは動きが単純で至極読みやすい。 特に応用力のなさと行動前の発言がそれに拍車をかけていた。 『目の前にあるものに対してしか反応しない』 これは位置取りにさえ気を使えば全く同じ行動しかしないということ。 『何かをする際、ゆっくり~するよ!と言う』 こちらは実際に自分から何をするか教えてくれるので 指示さえ追いつけば簡単に対応が出来る。 ぱちゅりーの頭には同じような文章が多く並んでいる。 これは敵に限らず味方にも言えるので 指示を出す際にもうまく誘導してやれば こちらの意図を伝えなくても思い通りに動かすことが出来る。 頭の回転が或いは人間より早いぱちゅりーにとっては チェスや将棋をしているのと変わらない。 敵も味方もまさに盤上の駒だ。 「いいわ!!第一次攻撃は成功!!まりさ達は前進して! 私が合図するか危ないと思ったら左右の木の枝の中に避難して! 決して自分たちだけで戦おうとしないでね!!」 隻眼のまりさに指示を出してからしまった、と思う。 あの力を今この場で使ってしまったら ドスだけでなく集落の皆全員に見せることになってしまう。 そう思ってからまあいい、と思い直す。 隻眼のまりさは自らの責任で行動を起こしたのだ。 それに、あれは強力な力だ。 集落が受け入れれば戦力になる。 万が一受け入れられなくとも自分にはもう 理論武装もあるしドスの後ろ盾もある。 なんだ、自分はこんな単純なことに悩んでいたのかと可笑しくなった。 冷静に考えれば当然のことだ。 隻眼のまりさ自体がどうこうではなく 起こった事態に対して必要な対応をしていくだけのことだ。 自分は少々感情で考えすぎていた。 …が、どういうわけか隻眼のまりさは例の攻撃を使わないでいた。 少しはまりさも考えて行動しているのか、とぱちゅりーは感心。 まりさ三匹がれみりゃを倒した。 次にかかってくるふらんに対して回避運動をとっている。 練習どおりの型が出ている。 これなら心配ないなと、地上の戦闘を見ながらぱちゅりーは 既に次の考えに入っていた。 敵を散らして、集まってきたところをドススパークで粉砕。 これを繰り返せば大した危険もなく殲滅は可能。 だがその使用回数には制限がある。 とりあえず次を撃たせたら洞窟の中に引っ込もう。 地上のまりさ達の援護もあればさほど難しくはないはず。 れみりゃはなんだかんだと言っても夜間しか行動しない。 朝まで持ちこたえれば戦術的勝利は収められる。 「ドス!発射準備!!私の言うタイミングに合わせて!」 「ゆっくり分かったよ!!」 まりさ達が周囲のれみりゃに気付かれ包囲され始めたのを確認。 ドスにドススパークの発射体勢をとらせる。 「ドス!!カウントダウン!!3、2、1!!…発射!!」 「発射あああああああああああああ!!!!」 発射直前まりさ三匹はぱちゅりーから見て左に避けた。 上からではドススパークの光が激しくて見えないが きちんと回避できていることだろう。 「ドス!キノコは後いくつあるの!?」 「あと二つしかないよ!!」 あと二発か。 三発ならどうしようかと考えたが 二発分しかキノコが残っていないのであれば 隻眼のまりさ達を再突撃させるのは危険だ。 そう判断したぱちゅりーは後退の指示を出す。 「じゃあすぐに後退!!篭城戦に入るわ!! ドスはすぐに奥へ!!だけど外を見ながら後ずさるのよ!! まりさ達は私の部屋に入って!!」 「ゆっくり分かったよ!!」 ドスがずりずりと後退を始める。 あとは洞窟の中で最低限の迎撃をしながら朝を待てばいい。 ドスはなりが大きいためれみりゃ達の目に付いてしまい 集中攻撃を浴びる危険があるのだが 洞窟に入ってしまえば一、二匹程度が散発的に襲ってくるだけだ。 連携して同時に洞窟の中に突入されれば危険だが 捕食種は通常種よりも優れているという心の余裕からか 連携は勿論のこと戦闘中に他の個体の話を聞くことすらない。 仮に彼らがただ漠然と加工所で生きてきただけである連中ならばなおさらだ。 「まりさ!?」 「何処行くの!?ドスの洞窟の中が安全だよ!?」 隻眼のまりさだけが急に外へ飛び出していった。 まさか、自分の指示に従わない気なのか。 「ゆっくり追うよ!!」 「駄目!!言ったでしょう!?勝手に行動しないで!! ついていったら死ぬわよ!!」 そう考えて先ほどの答えをすぐに打ち消した。 そうだ、隻眼のまりさは単独で戦う練習をしていたのだ。 ならばあえて一匹にさせてみるのも手かもしれない。 このまま外で戦ってくれれば洞窟に入ってくる敵の数も減るだろうし なにより自分達にかまうことなく例の技を使うことが出来るはずだ。 「ぱちゅりー!!どうしてそんなこと言うの!?」 「まりさを助けに行かないと!!」 まりさとドスが的外れなことを言う。 むしろ助けが必要なのはこっちかもしれない。 ドスの大きさに対して護衛が二匹では心もとないし なにより地上戦の指揮を一番うまく執れるのが隻眼のまりさだ。 「あなたたちはもう忘れたの!? 助けることよりも、生き残ることを考えなさい!!」 自分には理論武装がある。 何よりこの状況は利用できるし 仲間が離脱した時の対処法に関しても既に伝えてある。 勝手な行動をした者は自らの力のみで責任を取る。 他者に迷惑をかけた場合はそれも含めてだ。 それに全員が予定外の行動をとればその一匹だけでなく チーム全体に危険が迫る。 「ドスは、村長なんだよ!?皆を守るドスなんだよ!?」 ドスの言葉に苛立ちを覚える。 今はそんなことを言っている場合ではないだろう。 何より、目の前のことにとらわれて何の考えもない行動は 危険であるということを理解していないのか。 「駄目!私にも状況がつかめていないのよ!」 この状況。まりさが一匹いないし 人間達の動向もわからない。 ただ、もしかしたら集落のゆっくりの増加に対する 対策のために捕食種を送り込んだという可能性もある。 本当に集落を壊滅させるつもりなら人間が直々に駆除に来るはずだ。 ならば、集落の肥大化という問題を これにかこつけて解決してしまってもいい。 「れみりゃが何匹いるか!まりさが何処へ行くのか!」 なによりれみりゃがどれくらいいるか 分かったものではない。 隻眼のまりさもこれからどうするかはっきり分かっているわけではない。 ただもしこのまま死んだら問題は自動的に解消されるかもしれない。 それもまたよし、とぱちゅりーは考える。 「この状況で動けば悪い方向にしか行かないわ!」 ただ漠然と戦ったら命を落とすだけだ。 二年前のドスも半死半生だったのだ。 この戦いに出て行けば危険であるだけ。 「自分のことだけ考えて!でないと全滅するわ!」 所詮はゆっくりの身だ。 自分を守ることすら怪しいのに 他者を戦闘中に守りながらなどというのは不可能だ。 「戦えるものだけでも生き残らないと!」 自分達が崩れてしまえば集落に戦えるものがいなくなる。 自分達が残っている限り集落は壊滅しない。 自分達が集落にとっての最後の砦なのだ。 「じゃあぱちゅりーは、ぱちゅりーが生き残ればそれでいいの?」 状況に全くそぐわないドスの冷たい声が聞こえた。 「何を言っているのドス!早く下がらないと危険よ!」 ぱちゅりーは相変わらず早口でまくし立てる。 先ほどの第三射でれみりゃが散っている間に引っ込まないと危険だ。 今は議論している暇などない。 「ぱちゅりー答えて。 ぱちゅりーの作戦は何をするためのものなの? 集落を守るために戦うためなんだよね?」 「今はそんなこと言っている場合じゃ」 「駄目。答えて。 答えてくれないとドスは下がれない」 何を言っているんだ。 死にたいのか。 これは戦いだ。 生か死しかない。 「ぱちゅりーの作戦は生き残るためのものよ! 死にたくなかったら早く下がりなさい!」 ぱちゅりーは焦っていた。 まさか、こんな状況でドスが自分に対して疑念を抱くなんて。 ぱちゅりーの存在意義は物事を考え物事を効率よく進めることだ。 だがそれは考えを実践する者がいるから成り立つのだ。 自分自身に出来ることは少ない。 だからこそ言葉を尽くさなければならなかった。 自分だけがいかに正しいことを考えていたとしても それを信じてついてきてくれる者達がいるからこそ意味を成す。 ドスの考えが及んでいないというのは 頭が悪いというわけではなかった。 ぱちゅりーの頭の回転が早すぎるのだ。 生かすところは生かし、捨てるところは捨てる。 普通に考えれば当たり前のことなのだが それが村長としてドスが決心した内容と食い違ってしまったのだ。 そして今は、この食い違いを議論して解決に導いていくだけの 言葉も時間もない。 ドスの帽子のつばに乗っているぱちゅりーには ドスの表情も考えも全くうかがい知れなかった。 せめて、もう少し早くこの疑問にぶつかっていれば。 せめて、もう少し遅くこの疑問にぶつかっていれば。 袋小路に入り込んだ思考は、そんな意味のないことを考えた。 そして、その疑問に答えられるものなど誰もいなかった。 ――――同日、同時刻―――― 「ドス!危ない!!」 「むきゅっ!!」 「うわあ!!」 危なかった。 出たとたんドスの鼻先にれみりゃが向かっていったので 思い切りジャンプして止めた。 これだけ高く跳べるならもうドスの帽子に自力で乗れるほどかもしれない。 「………!!ドス!ドススパークを!!」 ぱちゅりーの声がする。 隻眼のまりさの位置からではぱちゅりーの姿は見えない。 だが以前上から見ることであたり一体を 全て見渡すことが出来るのだ、と言っていた。 地上から見えない部分を上から見ているため 指示が出せるのだ、と。 自分も、あそこまで跳べるようになれば 指示を出す立場になることが出来るのだろうか。 「……っ!!!」 ドススパークが木々をなぎ倒す。 やっぱりすごい。 自分が使ったあの技の威力もすごかったが 流石にこれほどのことは出来ない。 が、もう自分はかつてのリーダーを、今ここにいるドスを 目指しているわけではないと自覚できているので特別な感慨はない。 ドススパークは撃てなくても 同じことが出来る何かを掴めばいいだけのこと。 そう思った。 「いいわ!!第一次攻撃は成功!!まりさ達は前進して! 私が合図するか危ないと思ったら左右の木の枝の中に避難して! 決して自分たちだけで戦おうとしないでね!!」 「分かったよ!」 「突撃するよ!!」 いつの間にかいた二匹のまりさを連れて 隻眼のまりさは飛び出していく。 もうれみりゃなど全く怖くなかった。 遅いし弱いしとどめも刺せる。 二匹のまりさが足手まといになるとすら考える。 「行くよ!!『あろーふぉーめーしょん』!!」 「「ゆっくり理解したよ!!」」 『ゆっくり理解した』という台詞に怖気を感じた。 何を言っているんだこいつらは。 だったら勝手にゆっくりしてれみりゃに討たれていろ。 自分についてこれるのはリーダーと同じように ついてこようとしている者だけだ。 帽子を少し傾けて木の棒を取り出す。 しかしこれはもう棒というよりは破片などという表現のほうが正しい。 口にくわえてみると鋭い先端が数センチでる程度だ。 まりさはそれを口の横のほうへ移動させる。 正面に突き出して突き刺すのではなく 横に構えて斬るための装備だ。 「あまあまがあったんだどー!」 こちらを目で捉えたれみりゃが嬉しそうな顔で向かってくる。 間抜けめ。 今すぐその表情、潰してやる。 「ふっ!!!」 手を伸ばしてきたれみりゃの左頬にカウンター。 同時にくわえた木の棒で目元に浅く斬り込む。 深く刺さってしまったのなら手放すことも視野に入れる必要があるが 手ごたえはゆるい。 隻眼のまりさはそのまま反動でれみりゃから離れた。 「うー!?いぎゃああああああああああ!!! でびでゃのおべべがああああああああああ!!」 ざまあみろ。 自分があの時どれだけの痛みを味わったか思い知ったか。 「とどめだよ!!」 「ゆっくり死ね!!」 「うー!?いだいいいい!!やべろおおおおおおお!!!」 そのまま顔を押さえてバターンと仰向けに転んだれみりゃに 二匹のまりさが襲い掛かった。 どちらにしてもそう簡単に戦闘復帰できる状態ではなかったが とどめを刺しておくにこした事はないか。 「立ち止まらないで!着いて来て!!」 「分かってるよ!!」 死んではいないが明らかに致命打を食らわせたれみりゃから なかなか離れようとしなかったまりさ二匹を叱咤する。 やはり完全に動かなくなるまで攻撃しないと不安なのだろうか。 それでも自分が走り出すと斜め後方から 二匹のまりさが何とかついてきた。 「右に避けるよ!」 「「ゆっくり理解したよ!」」 「よぐもおおおおおおおおおお!! じねえええええええええええええ!!!」 隻眼のまりさ一匹なら正面から迎え撃つことも出来ただろうが 厄介なのは突き出された『ればていん』とふらんが呼んでいる 木の枝を危惧して回避の指示を出した。 カウンターをとっても後方二匹のどちらかに ふらんの攻撃が当たるのはよろしくない。 胴付きふらんが向かってくる。 ふらんはれみりゃより強いと噂されていたが実際どうなのだろう。 「うー!?どこいったー!?」 「後ろを取ったよ!!回れ、右!!」 「「回れ、右!!」」 正面しか見ていないふらは目の前の目標が消えたことで そのまま前の方をキョロキョロと見回している。 そして方向転換の指示。 だが隻眼のまりさの中ではだんだんと二匹が足手まといだという 想いが強まってきていた。 はっきり言ってこの二匹は遅い。 せっかく修行で得た自分のスピードという特性が 殺されてしまっているのではないかと思い始めていたのだ。 「一点集中!!」 「「一点集中するよ!!」」 まず最初に無防備なふらんの後頭部に体当たりを当てる。 そのままうつぶせに倒れてしまったふらんに集中攻撃。 「ゆっくり死ね!!」 「とどめだよ!!」 「ゆぐびぃ!!」 ふらん撃破。 以前なら一匹倒すたびに嬉しさがあったものだが 今の隻眼のまりさには何の感慨も沸かなかった。 ただ冷静に次にとるべき行動を考える。 「よぐもおおおおおお!!!」 「おがーじゃんがあああああああ!!!」 「ばりざなんがゆっぐりじないでじねえええええええええ!!!」 頃合だ、とまりさは思う。 この数は流石の自分でも手に余る。 これだけの敵を全て避けきるのは大変だろう。 「――――!!??」 その時、自分の中に何かが宿るのを感じた。 そして隻眼のまりさの見えない左目に何かが映った。 それは、無数の『何か』。 それを遊びのように避ける自分。 何か、同じようで違う場面を自分は目にしたことがある。 それが何かは全く分からない。 だが、隻眼のまりさは間違いなく何かの『既視感』を感じた。 一瞬の思考だった。 「ドスのところに戻るよ!!」 「「ゆっくり理解したよ!!」」 すぐに思い直しドスのところへ引き上げるように指示をする。 このような状況、通常のゆっくりなら恐怖のあまり逃げ出していただろう。 だが、なまじ訓練や実戦をこなしてきていた二匹のまりさは 逆に指示があるまで逃げ出さないようになっていた。 故に逃げろ、と言わなければ逃げないのだ。 ドスのところまでは20m程度。 人間のスケールサイズに合わせて言うなら100m以上だ。 急がなければ戻れなくなる。 「ドス!発射準備!!私の言うタイミングに合わせて!」 「ゆっくり分かったよ!!」 ある程度近づいたところでぱちゅりーがドスに発射体勢をとらせた。 今度は間違いなく足元も含めて狙ってくる。 そう判断したまりさは徐々に右へとずれていく。 あまり横に大きく回避したらついてきているれみりゃ達を ドススパークの射線軸上から外してしまうことになる。 「まりさ!!れみりゃが来るよ!!」 「急いで!!頑張って走るんだよ!!」 「頑張ってるよ!!」 「ドス!!カウントダウン!!3、2、1!!」 カウントが始まると同時にさっと横に避けた。 それにならって後ろの二匹が回避行動をとる。 「発射!!」 「発射あああああああああああああ!!!!」 ドススパークが発射された。 そしてその瞬間、例の『既視感』がまたきた。 この技、何か感じるものがある。 いや、ドススパークは二年前リーダーがドスになったときから見ていた。 しかし、それとはまた違う何かを感じていたのだ。 「ドス!キノコは後いくつあるの!?」 「あと二つしかないよ!!」 「じゃあすぐに後退!!篭城戦に入るわ!! ドスはすぐに奥へ!!だけど外を見ながら後ずさるのよ!! まりさ達は私の部屋に入って!!」 「ゆっくり分かったよ!!」 そこで隻眼のまりさは『え?』と思った。 何で?まりさはまだ戦えるよ? 集落のゆっくり達はどうするの? ドススパークもあと二発残ってるんでしょう? こんな弱い奴らから逃げるの? なんで? なんで? 隻眼のまりさだけはそこで固まった。 そして、先ほどのフラッシュバックをもう一度思い浮かべた。 思考も停止していたので先ほどとは違い余裕を持って思い出せた。 あれは何だ? 赤や青の何かがたくさん飛んでくる感じ。 それを何の危機感もなく遊びのように避ける自分。 分からない。分からないけど。 自分はそれを知っている。 そんなまりさの思考に誰も気がつくことなく 洞窟へ下がっていっていた。 隻眼のまりさの頭の中で様々な物が渦巻いていた。 あれは何だ?分からない?でも知っている? 誰が?何故?いつ?何処で?どうして? それもまた一瞬の思考。 その一瞬の間に様々なものが駆け巡った。 以前から、あの時違和感が形になってからずっと考えていた。 ゆっくりって何だ? ゆっくりすることはいいことなのか? ゆっくりすることって何だ? 次の瞬間、隻眼のまりさは洞窟の外に飛び出していた。 「まりさ!?」 「何処行くの!?ドスの洞――――」 後ろから何かが聞こえた。 だが聞こえただけで理解してはいなかった。 恐らく、この戦いの中で何かを見出すことが出来る。 そういうある種の確信が隻眼のまりさの中にあった。 危険だって?無謀だって?悪いことだって? かまわない。 コイン一個じゃ命も買えやしない。 この辺は死臭で一杯だ。 狂うのには慣れている。 構わないさ。 こんなにも高揚したのは、初めてなんだから―――― 続く 次回予告 すれ違った思いはそれぞれの願いの元に動き始める。 もう何も譲れないから。 もう何も、失いたくないから。 次回 隻眼のまりさ ~第九話~ それぞれの孤独な戦い!そして時は動き出す… 乞うご期待! あとがき 結局こういう展開になってしまうのはご愛嬌。 やっぱり私は場面場面を切り抜いて書くより 物語を作ってそれに沿った中でキャラクターを動かす方がいいようです。 結末は既に決まっているのですが なかなか整合性をとるのが大変な気がします。 言い訳がましいですね。すみません。 今後も頑張っていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
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『隻眼のまりさ 第六話』 18KB 群れ サブタイトル難しいです。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第六話~ ぱちゅりーの疑念!ドスとまりさと戦いと… ――――某日、未明―――― 最近になってぱちゅりーは一つの問題を抱えている。 それは集落の拡大についてだ。 ゆっくり達の欲望に任せていては集落の存続に関わる。 繁殖力の高さ、そして食欲の旺盛なところ。 このまま数を増やしていけば食糧難に陥るのは時間の問題。 ドスの力を借りて道路整備などもやってみたが そんなものは場当たり的な対応だ。 今年は何とかなったとしてもいずれは限界がくるだろう。 十分な『ゆっくりできる』環境を整えれば数が増加していくのは必然。 ぱちゅりーが食物連鎖による淘汰を理解していたが故の悩みなのだ。 弱いものが自然界において強者の食料となるのは当然。 そうしなければ強者だけでなく弱者である自分達も危機に陥る。 そしてこの集落はあろうことか強者であるはずのれみりゃさえ 撃退しながら平和を保っているのだ。 仲間がやられたほうがいいと言うつもりはない。 しかし同時にこのままでは集落の未来に関わる。 今年の秋に入ってからずっとぱちゅりーはそんな板ばさみに苛まれていた。 そして目下のところ食物連鎖に対する『歪み』の象徴。 ドスまりさ、自分、そして最大の問題である隻眼のまりさだ。 ドスはれみりゃに対抗しうる武器を持っている。 まりさ種にたまに現れる突然変異体とも言われる存在だ。 体長は2mにもおよびドススパークと呼ばれる必殺技を持つ。 ただしそれには使用制限があるし、何より動きが遅く 一匹ならともかく五匹、六匹とれみりゃの一家に襲われれば無事ではすまない。 次にぱちゅりーである自分。 自惚れでなく、自分は通常のゆっくりを 遥かに凌ぐ頭脳があるという自覚がある。 しかもこれは人間の知識だ。 ゆっくりの範疇では知りえない情報をゆっくりだけで構成される集落に持ち込み それを生活や戦闘に活かしている。 ゆっくりの視点で言えばそれは素晴らしいことで 皆がゆっくりするための要因の一つでしかないのだろう。 だが、俯瞰して見ればどうだ。 自分の存在はゆっくり達のコミュニティのバランスを崩し 常に崩壊の危機が付きまとう。 そして、今はまだ大丈夫だが数が増えて人間にとって不都合な存在となれば 駆除業者が現れて集落ごと潰していくことだろう。 そして、一番のイレギュラーが隻眼のまりさ。 昨晩見たあれは一体なんだったのだろうか。 あの力は隻眼のまりさにのみ発現したスペシャリティの高い能力か。 あるいは全てのゆっくりに発現の可能性のありえる 習得可能な技術なのだろうか。 それ以上に心配なのが 自分の知識は誰かの助けがなければ活かせないし ドスは単独では大した力が発揮できない物なのだが 隻眼のまりさは他者の援護なしにあれだけのことをやってのけたのだ。 そのことが最も大きな問題だ。 隻眼のまりさは単独でさらに強大な力を得るかもしれないし、或いは…。 いや、これ以上はただの憶測になる。 ともあれ、直接話を聞いてみないことには結論も出しようがない。 ぱちゅりーは、自分ひとりで考えすぎだと思考を打ち切った。 ――――翌日、日の出―――― 早朝に隻眼のまりさとぱちゅりーは早起きをしていた。 「ドスは起きてこないかな?」 「大丈夫でしょ。朝までは何があっても起きないわ」 ここはドスの洞窟にある横穴。 ぱちゅりーの家、というよりは部屋と言うべきだろうか。 あの戦闘の後二匹は別々に家に戻り眠った。 まりさはすぐに詰問されるかとも思ったが 他のゆっくり達に感づかれたり集落全体に 影響が出たりするのはまずい、と夜ではなく朝に話し合うことにしたのだ。 「まりさ…貴方は、どうして皆に黙ってああいう訓練をしていたの?」 ぱちゅりーは慎重に言葉を選んだ。 このまりさは今までのまりさと何かが違う。 何が起こってもおかしくないと本能的に感じ取っていた。 実際のところぱちゅりーは隻眼のまりさが何をしてきたか大体は掴んでいる。 昨晩の攻撃を見て集落の行方不明者もひょっとしたら このまりさが殺したのかもしれないという疑念もあった。 故にもしかしたらそれを見た自分も殺されるかもしれないという危険性も。 「………………」 まりさも言葉を選んでいた。 ゆっくり断ちがぱちゅりーに気付かれていると思っていない。 それを知られたら集落にいられなくなるかもしれないという思いがあったから。 故にもしかしたらこのぱちゅりーすら殺すかもしれないという焦燥感も。 「………………」 「………………」 重い空気が二人を包み込む。 だがやはりというべきか、先に口を開いたのは学のあるぱちゅりーだった。 「私は、話が聞きたいだけ。 貴方は二年間生死を共にした仲間だと思っているし あれだけの強さを頭ごなしに否定するつもりはないわ。 だからせめて包み隠さず言って。 その後どうしようと私は抵抗できないから」 「ぱちゅりー…」 まりさはその言葉に温かみと同時に後ろめたさを感じた。 皆を置いて行こうとした自分だが少なくともぱちゅりーは あれを見ても自分を仲間だと言ってくれた。 だけど、その言葉で腹が括れた。全てを話そう、と。 その後隻眼のまりさは一部始終をぱちゅりーに話した。 話に偽りを一つも込めずに。 ――――同日、朝方―――― 「むきゅ、皆集まったわね。 それじゃあ『ぶりーふぃんぐ』を始めるわ」 皆が集まったところでブリーフィングが始まる。 皆とは、ドス、ぱちゅりー、隻眼のまりさ、残り三匹のまりさだ。 だがここに集まった合計六匹は、かつての合計六匹とは 全く違う様子を見せていた。 かつての思惑の違いも、疑念も後ろめたさもなかった 幼馴染六匹のまりさとは全く違ったものだった。 その違いが、それぞれの行く末を左右することになろうとは誰も知らずに…。 ――――同日、昼前―――― ここは集落付近の狩場。 ドスは、一匹で越冬のための餌を集めていた。 「む~ん…」 食料集めはいまひとつはかどっていなかった。 それというのもぱちゅりーと隻眼のまりさの様子がおかしかったからだ。 よく分からないが、ギスギスしたものがあった。 ぱちゅりーというよりは、主に隻眼のまりさに。 昨日話した時にも感じた悩んでいるような違和感が 今朝になってさらに増大していたのだ。 かといってブリーフィングの場で聞くこともできなかった。 皆の前で話すかどうかという問題もあったが 何より二匹を信じていたから。 後任のリーダーに推薦したつもりのまりさもそうだが 何より自分より頭が良く思慮深いぱちゅりーがいたから。 あの様子から恐らく、ぱちゅりーは事情を掴んでいたのだろう。 だったら、自分の出る幕ではないのかもしれない。 頭ではそのことを理解していたがやはり寂しさはあった。 でも自分は、ドスになっただけの普通のゆっくりだ。 頭のいいぱちゅりーにしかこの件は解決できないだろう。 自分は本当に身体が大きいだけのただのゆっくりだった。 ドスは自嘲的な笑みを浮かべる。 何が村長だ。 『特別』な存在にはなれないし、最初からなろうとは思っていなかった。 自分の母も村長となって働いていたが自分にとっては普通の母だった。 皆と何も変わるところはない。 ドスになったのも、あの夜たまたま帰りが遅れて外で寝る羽目になったから。 つまりは自分の間抜けなミスを発端にした本当の偶然だ。 自分はぱちゅりーのような勉強熱心さもないし 隻眼のまりさのように修行熱心でもなかった。 ただ、皆とゆっくりしたいと思っていただけだ。 そこには『普通』のゆっくりの在り方があっただけだ。 何で、自分はドスになったのだろう。 足が速かったから?集落で一番強かったから? それはおかしい。 今の隻眼のまりさはかつての自分より遥かに強い。 走る速さだけとっても信じられない速さになっている。 あの分だと或いはれみりゃより速く走っているかもしれない。 自分は皆とゆっくりしたいがために自らの力を限定してしまったが あのまりさは全てを振り切って走っていく。 そこには枷も限界もない。 何で、自分はドスになったのだろう。 結局自分は特別な存在にはなれなかった。 ドススパークを得たとは言っても見方を変えればただのドスまりさだ。 ドスである、ただそれだけの違い。 しかもそれすらも偶然の産物である自分に何ができるというのだろう。 だがもう二年間、そのことにしがみついてしまった。 村長でなくなった、ドスであることを放棄した自分には何が残るだろう。 もう、大きさの違いからかつての幼馴染とは一緒にいられない。 ぱちゅりーは村のために働くだろう。 だが自分は村長である威光を失えば自分のためにしか生きられない。 ドスになった以上、もう普通のゆっくりと子を成すことも出来ない。 自分に残されたのはただ、ドスとして生きる宿命だけだ。 「ドスー!!」 「ゆゆっ?」 「ドスー!まりさ達も一緒に狩りをするよー」 そこに現れたのは残り三匹の幼馴染まりさだ。 悪く言えば能天気な表情や台詞だが 負のスパイラルに陥っていたドスにとってはありがたかった。 何よりも、変わらずにいてくれたことに。 そして、他のゆっくりの邪魔になるため一緒に狩りが出来ないという 自分の寂しさを打ち砕いてくれたことに。 「うん!一緒に狩りをしよう!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 そうだ、何も自分は孤独ではない。 仲間はぱちゅりーと隻眼のまりさだけではないのだ。 皆守らなければならない大切な仲間だ。 誰だって悩むことはある。 だったら今は皆でできることをやって 支えあえるところは支えあって また皆で笑い合えるように努力しよう。 だからせめて最後まで『みんなのむらおさ』としての役を演じきってやる。 その意地だけがドスに貫き通せる信念だ。 そのドス自身が偶然と評した立場がドスの最後の支えだった。 そして、もう一度信じてみよう。 みんな、ゆっくりできる仲間なのだから。 ――――同日、昼過ぎ―――― ぱちゅりーは困っていた。 ドスの洞窟で資材の整理をしながら考え事をしている。 悩みの種は勿論隻眼のまりさのことだ。 普段から判断の早いぱちゅりーの考えを ここまで鈍らせた事件は初めてだ。 何より、ぱちゅりーの考えの全く及ばない範疇の事件が。 いくらぱちゅりーの知識が豊富とは言ってもあんな事態は初めてだ。 人間で言えば『人知を超えた』事態である。 あの時はブリーフィングを始める時間になったので とりあえず話はまた夜に、ということで別れた。 こんなのははっきり言えばただの時間稼ぎだ。 ぱちゅりーの中では、実はある種の回答が出ている。 ただ、それを伝えることは躊躇われた。 なぜなら今のまりさはもう何を言っても遅い気がする。 まりさの『進化』とも言える特別な能力はもう発現してしまっているのだ。 今更何を言ったところでその変化にブレーキをかけるのがいいところ。 完全に元通りにはならないことは明白だ。 何より、止めようとしたところで反発されるだろう。 最悪の場合自分も殺されるかもしれない。 殺される、という可能性の考慮は何もぱちゅりーが薄情というわけではない。 冷静な思考ができるゆえの危惧だ。 同時にぱちゅりーは自分のとりえの危機を感じていた。 このまりさの変化は止めることができず 集落に何らかの波紋をもたらすことだろう。 そうなった時、自分にはなす術がない。 同じ領域に到達したいと言い出す者もいるだろう。 ゆっくりすることをやめたことを追求する者も現れるだろう。 そして何より、自分に解決策を求めに来るだろう。 責任の押し付け、などと言うつもりはない。 自分は知恵を出すことが仕事なのだ。 誰にでも知らないことはある、それは当たり前のことだが そのようなことを言ったところでブリーフィングに出ている 残りの五匹はともかく集落のゆっくり達が理解を示すとは思えない。 そして、集落の中で一番頭がいいのは自分なのだ。 つまりこのことに限らず物事を考えるに当たって ぱちゅりーは誰にも相談することができないのだ。 ここに来て、何物にも馴染まず孤高を決め込んでいたことが仇になる。 自分が被害者でいることは出来ないだろう。 誰かが自分を非難すればその非難はたちまち集落全体の非難に繋がる。 ぱちゅりーはそんな崖っぷちの状態で今まで良く持ったものだ、と 自嘲的な笑みを浮かべる。 この世の全てを知ることなど不可能だ。 いつかはこうなることは分かっていたはずなのに どうして何も手を打てなかった。 滑稽だ。自分にある知識など他から受け取ったものだけだ。 自分から調べて得たものではない。 皆が一様に呼ぶ『もりのけんじゃ』などちゃんちゃらおかしい。 自分自身のことが何一つ出来ないではないか。 しかし、実際こうなってしまった以上何が起きても受け入れるしかない。 どの道二年前に終わっていたはずの命だ。 どの道完全なしあわせなどあり得ない一生だ。 ならばせめて最後まで『もりのけんじゃ』としての役を演じきってやる。 その意地だけがぱちゅりーに貫き通せる信念だ。 そのぱちゅりー自身が滑稽と評した知識がぱちゅりーの最後の支えだった。 そして、もう一度信じてみよう。 みんな、ゆっくりできる仲間なのだから。 ――――同日、夕刻―――― いつものデブリーフィングの集合時間が迫る。 ゆっくり達に時計などという都合のいいものはないが ドスの洞窟の入り口から見て太陽が山間に隠れるより前に 始めるというのが決まりごとになっていた。 無論季節によって日没の時間は変わってくるのだが どちらにしても日が沈んで暗くなってしまえば 外出するわけにはいかないのでこの方法で問題はなかった。 洞窟には現在、元々外に出ていないぱちゅりーと 早めに戻ってきていた隻眼のまりさがいた。 「みんな、遅いね」 「…そうね」 お互いに表情は暗い。 例の話をいつ皆が戻ってくるか分からない今の タイミングにするわけにもいかない。 かといってお互いのわだかまりが残る状態で 自然に会話が出来るはずもなかった。 隻眼のまりさは一つ思いを巡らせなければならないことがあった。 それはこの先どうするかということ。 自分はもう、歩みを始めてしまった。 皆の元から離れて、自身の目標に向かう歩みを。 このまま歩みを止めて元の生活に戻ろうとしたところで ずれてしまった感覚が元に戻ることはないだろう。 場合によっては止めようとしても止まらず いずれ皆の前で同じような事態を引き起こすだろう。 そういう戻れないところまで来ていた。 そして自分の浅はかさを呪った。 なんて甘い考えだったのだろう。 皆と一緒にいるから大丈夫だと? 皆と違う段階に進もうとしながら良くそんな言い訳で 自分が納得したものだ。 あの時の自分を張り倒したくなる。 根源的な概念である『ゆっくり』を捨て去ってしまって 普通のゆっくりでいられるはずがない。 そんなことをすれば、たとえ皆と一緒にいても 自分とのずれが大きくなる一方だ。 そんな状態が長続きするはずがない。 隻眼のまりさは自分のあまりの浅はかさに 自嘲的な笑みを浮かべる。 自分はどれだけバカなのだろうと。 ぱちゅりーのような知識や思慮深さも リーダーのような心優しさも仲間を思う気持ちも これっぽっちも持ち合わせていなかった。 自分のしたことはただ己の力だけを悪戯に増大させた。 『特別』な存在ではない。『特別なバカ』になっただけだ。 自分がかつて思い浮かべた理想像。 それはリーダーの背中だったはずなのにいつしか 届くかどうかも分からない正体不明の存在にすり替わっていた。 そもそもあいつがゆっくりだと思ったのは自分の勘だけ。 もしかしたらあいつはゆっくりじゃないのかもしれないし 最悪の場合自分の白昼夢だったとさえ思えてきた。 だが、なんの偶然かベクトルを失ったその力への欲求は 全くおかしな方向に発現してしまった。 自分にはその力がなんなのかも知らずにそれを磨くことを徹底した。 せめて、もっと早い段階で誰かに相談すべきだったんだ。 ゆっくりしない、という帰結にたどり着いた時点で その選択肢が埋もれてしまった。 隻眼のまりさは誰も信じずに ありもしなかった自分の自身に頼ってここまできてしまった。 そして結局のところ考えを巡らせたとて バカな自分ではこの先どうするかという問題に答えが出せないでいた。 ならばせめて最後まで『特別なバカ』としての役を演じきってやる。 その意地だけが隻眼のまりさに貫き通せる信念だ。 そのまりさ自身がバカと評した自分の力がまりさの最後の支えだった。 そして、もう一度信じてみよう。 自分はもうゆっくりすることが出来ないが 他のみんなは、ゆっくりできる仲間なのだから。 ――――同日、日没―――― デブリーフィングの終了。 それはつまりぱちゅりーとの話し合いの時間が 迫っているということでもある。 「むきゅ、遅くなっちゃったけど 今日はこれでおしまいね。皆解散よ」 「ふ~」 「ゆっくり帰るよ!」 三匹のまりさが洞窟を出て行く。 彼らの日常的な行動が残りの三匹には眩しかった。 どうしてこうなってしまったんだろう。 いや、問題なのは自分だ。 それは三匹同時の同じ思考。 自分が変わってしまったから。 自分の知識が足りないから。 自分に器量がないから。 ゆっくりにとって二年間という時間はとても長い。 一年間生きることすら怪しいのだ。 様々な自然の驚異に立ち向かいながら 共に手を取り合って生きてきた。 しかし、今はお互いにお互いが距離を感じている。 相手が離れていってしまったのか。 自分が距離をとってしまったのか。 分からない。 でも自分達はどこか信じていたのだ。 もとより、お互いがお互いを想っているのだ。 たとえ問題が起きても最悪の結果にはならないはずだ。 「まりさ、ドス、奥へ…」 ぱちゅりーが口を開く。 隻眼のまりさとドスがそれについていく。 ドスの同行は想定していなかったわけではないのだが少々意外だった。 一旦自分達だけで決着をつけてからとも思っていたのだが。 ――――二年前、れみりゃ襲撃の翌日、夕刻―――― 「ドスー!!」 「むきゅ!?まりさ!!大丈夫だったの!?」 「まりさは大丈夫だよ!皆は!?」 それはれみりゃを一通り撃退することができた次の日だった。 そこにいるのはその時はまだ隻眼でなかったまりさと、ぱちゅりーだ。 「ドスは!?ドスは大丈夫なの!?」 「いっぺんに聞かないで。ドスは何とか生きているわ。 集落の方の生存者も一杯戻ってきてる」 「じゃあ皆は!?」 「あなた達の中で戻ってきたのは貴方が最初よ」 「そうなんだ…ドス!?大丈夫なの!?」 まりさが洞窟の奥に目をやるとそこには傷だらけのドスがいた。 あれほど弾力があり、つやのあった皮があちこち千切れて 見るも無残な状態になっている。 「大丈夫よ、怪我はしているけど命に別状はないわ。 今は戦いで疲れて寝てるだけ」 「…ぱちゅりー…まりさ達戻ってきたの……?」 「ドス!?まりさだよ!!大丈夫!?」 ドスが目を開けてまりさの声に反応する。 「何とか無事だったよ…まりさは大丈夫?」 「うん…だけど、皆も、村も…」 「皆頑張ったよ…れみりゃ達はまりさ達が考えていたよりずっと強かったけど まりさ達が頑張ってくれたから、ぱちゅりーがいたから、何とかなったよ…」 「むきゅう…ドス、今は休まないと…」 「うん…でもまりさ…やっぱり…まりさは皆の力がないと何もできなかったよ…。 ぱちゅりーも、まりさも、やっぱり自分だけじゃ何もできないんだよ…」 まだ意識がはっきりしないのか、同じような内容の言葉を発する。 「むきゅ!ドス、今は寝てなさい。 元気になったらしっかり働いてもらうからね!」 「ゆっくり分かったよ…」 ドスは頭の中でぼんやりと起きろと言われることは多々あったが 寝てろと言われるのは初めてだな、などと考えていた。 「まりさ、あなたたちの言うとおり私は戦えないわ。 でも私達はゆっくりだから、皆の力を合わせないのとこうなるのよ…」 「うん…ごめん。まりさ達はぱちゅりーみたいに頭がよくないから 力を合わせるって事の本当の意味が分かってなかったよ…」 ――――現在、深夜―――― あの日、この三匹は連携することの大事さを知った。 ただしその連携が成り立つには互いの意識統一が重要であることを 二年越しにしてようやく気付いた。 いつからだろう。こんな軋轢が生まれたのは。 どうしてだろう。それに気付こうとしなかったのは。 なんなのだろう。こうして三匹の間にある違いは。 なぜなのだろう。こんなに向いている方向が違ってしまったのは。 三匹は、ここに来てようやく事の顛末に触れようとしている。 お互いに隠すものは隠して、などという甘い考えはもう通用しないだろう。 この先どうなるか、どうすればいいのか、なにがあるのか。 ゆっくり達には何も分からない。 続く 次回予告 それは輝かしい日々の終わり。 変わらないものなどないのに。 ゆっくりすることがどういう結果を生むのか。 誰も、特別な存在になどなりえないのか。 次回 隻眼のまりさ ~第七話~ ドスの思い!その存在が生み出すものは… 乞うご期待! あとがき ノベル作品を読むとき、工夫された文章構成を見るとおお、と思うので 自分も似たような工夫を施してみました。 自分が書いた物ではわざとらしいとか、読みにくいなどの印象も残りますが 自己満足は得られました。 あとは、この六話は心理描写ばかりで話がほとんど進んでいないのも問題ですね。 この話も中盤を迎え、山場の入り口に差し掛かっているので どうぞこれからもお付き合いください。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
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『隻眼のまりさ 第五話』 18KB 戦闘 群れ やっぱり私は厨二が治りません。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第五話~ まりさの戦い!その力は誰がために… ――――某日、日の出―――― 今日も今日とて、隻眼のまりさは修行に明け暮れていた。 「…………………」 ただ、今は動いていない。 意識を集中しているのだ。 「…………………」 思い浮かべるのは例の攻撃イメージ。 冷静でありながら熱い闘争心。 目の前に敵がいるイメージを持ちながら ひたすらに神経を尖らせ続ける。 「…………………ふぅぅぅぅぅ!」 そこには敵がいるんだ。攻撃するんだ。 自己暗示のように頭の中でひたすらに繰り返す。 「はっ!!!」 体当たりを実行。 だが、対象もいなければ体当たり自体が 特別なものでもなかった。 ――――同日、朝方―――― 「じゃあ、今朝の『ぶりーふぃんぐ』はおしまいね。 まあ今年は『とりひき』も終わったし 後は大体自由に冬篭りに備えていけばいいのだけれど」 「うん!まりさも冬篭りのごはんさんをあつめないと!」 「ドスもがんばってね!」 「ゆっくりがんばるよ」 「じゃあ解散」 「ゆ~!」 皆が上機嫌でドスの洞窟を出て行くのだが 隻眼のまりさの足取りだけは重かった。 あのレイパーありす事件以降、まりさは トレーニングの効果をはっきりと実感することがなくなっていた。 勿論身体的なジャンプを始めとした足回りの強化には励んでいる。 始めた当初は走る速さの向上などすぐに効果が現れたのだが 最近では特別こうなった、と言えるものがなかった。 その原因をまりさなりに考えた結論は二つ。 実戦経験と新しいトレーニング方法。 前者は難しい問題ではない。 常時に敵がいるイメージを浮かべながら 精神修行してもなかなか効果は上がらない。 集中力はともかく、やはり実戦時の緊張感が持てないのだ。 かといってそいこらのゆっくりに喧嘩を売るわけにもいかない。 仲間を傷つける云々もあったが このことはあくまで自分だけで取り組むのだと決めていたから。 それでも、そのうちれみりゃが襲ってくれば試すこともあるだろう。 問題は後者。 早く言えば、どうしたら自分は強くなれるのかという漠然とした問題。 これだけの命題では思いつく方が不思議だ。 現在のまりさが考えられたのは足の強化だけ。 せめて何か理想の戦い方を考え付けば それに向けた努力が可能であるのだが。 「うーん…」 ぱちゅりーに話を聞けば何か取っ掛かりが見つかるかもしれない。 彼女の知識は本物だ。 知識はいくらあっても困らない。 雑多な知識は持っててどこかで役に立つかもしれない。 そう言った本人の言葉通りちょっとした知識を様々な場面で役立てている。 もう少し自分で考えてみようと思った。 ぱちゅりーになら相談する価値は十二分にあるのだが やはりこれは自分だけで考えるべきだ。 ぱちゅりーに頼るのは最終手段だ、と結論付けた。 ――――同日、昼前―――― 越冬に向けての食料集め。 秋も半ばに到達するころ皆のために働いていた 精鋭のまりさ達やドスも自分達の食料集めに 入らなければならない。 隻眼のまりさは単独で食料集めをしていた。 秋は様々な食料が見つかる。 いつも食べている雑草や花も食べられるが 保存には向いていない。 ゆっくりの間で保存食として優先的に収集されるのは ドングリやマツボックリなどの固い物。 ドングリの中身の味はそこそこだが何より固いので噛み切るのは大変である。 丸呑みしたりするケースが多いが 赤ゆっくりにとっては大きすぎて食べようがない。 越冬時に繁殖すると苦労する原因の一つでもある。 「いっぱいあるね。 今年の『えっとう』は苦労せずにすみそうだよ」 隻眼のまりさも例外でなくドングリを多く集めている。 マツボックリはまだちらほら見かける程度だ。 「ん~。そろそろ帽子がいっぱいだよ」 食料を集めてしまいこんでいる帽子は午前中で一杯になってしまった。 ゆっくりは物を口の中に入れて運ぶのが一般的だが まりさ種は割と体積のある帽子に物が収容できるため 狩りをするのに一番適した種族である。 自然、活動的な性格の者が多かった。 「まりさ!」 「??…れいむ?」 一旦帰ってからまた来ようかと考えていたまりさに 狩りの途中らしきれいむが寄ってきた。 「まりさ!ゆっくりしていってね!!!」 「どうしたの?」 狩りに来ている、というのは不正確かもしれない。 なぜなら帽子という収容する物のないれいむ種が 狩りをしてる最中なら口の中に物を入れていて 積極的に会話するはずがないからだ。 「その食料は重そうだかられいむが持って帰ってあげるよ! とっととそれを寄越してね!」 「何言ってるの?これはまりさが集めたんだよ?」 「れいむは『しんぐるまざー』だからたくさん食料が必要なんだよ! 狩りをする番がいないから大変でかわいそうなんだよ! ゆっくり理解してね!!!」 「何言ってるの!れいむに子供はいないでしょう!?」 このれいむは最近この集落に越してきたゆっくりだった。 ドスに『めんかい』した者は基本的に誰でも住むことができるというルール。 ぱちゅりーはそこで一応そのゆっくりがゲスかどうか見極める。 馬鹿なゲスはそこで命令口調で話したり 自分がこの集落を統括するなどと言い出したりして返り討ちにあうのだが このように嘘をついたり演技をしたりして入ってくるゲスもいる。 「どうしてそんなこと言うのおおおおおお!!?? れいむは嘘なんかついてないよおおおおおお!!??」 「だったらその子供達をまりさに見せてね! 嘘をつくゆっくりは集落には住めないよ!!」 「ゆ…ゆううう」 ゲスれいむは完全に計算が狂ってしまったことに戸惑っている。 まりさ種は運動能力に優れているが頭が悪いと思っていた。 れいむは自分が一匹だということを 知らないだろうと高をくくっていたのだ。 実際全く外れというわけではないのだが 隻眼のまりさだけでなく精鋭達は一様に頭もいい。 「ゴチャゴチャ言わないでとっととよこしてね!! グズなまりさはゆっくりできないよ!!」 「ゆっ!?」 れいむがピョンピョンと跳ねながら向かってきた。 どうやら力ずくで奪うらしい。 だが、今のまりさにはその攻撃が さながらスローモーションに見えていた。 「ゆっくりしないで寄越してね!!」 「ゆっ!?うわ!!」 直前で回避しようと思ったまりさ。 だが直撃は免れたものの体半分くらいの位置で 体当たりを受けてしまった。 コテンと転ぶと荷物の重さでぐらついた帽子が地面に落ち 食料が辺りにブチ撒けられてしまった。 (油断した…!?いや、あの攻撃くらいよけれるはず…!) 「ゆふん!初めから素直に渡さないからこうなるんだよ! 馬鹿なまりさはとっとと死んでね!!」 回避失敗に戸惑うまりさ。 「グズなまりさはまりさのせいで散らばったれいむのごはんを れいむのおうちに運んでね!のろまは嫌いだよ!!」 そう言うとれいむはまりさを心底馬鹿にしたような顔で見てきた。 すると、まりさはカチンときた。 自分は一番足が速いからのろまではないとか まりさが集めた食料をいつの間にか自分の物と主張するなとか 言いたいことはすべて吹き飛んだ。 その感情は、怒りのベクトルを得た。 「………………………!!!」 「ナニダマッテルノ! 『カタメ』シカナイミニクイマリサダケド トクベツニレイムノドレイニシテアゲルカラトットトハコンデネ!!」 れいむが何か言っているが隻眼のまりさに声は届いていたが 意味が全く伝わっていなかった。 一旦爆発した感情がまりさの攻撃意志に集まっていく。 「ハヤクシナイトセイッサイスルヨ!! ホントウニグズナマリサダネ!! イクラレイムガヤサシクテモ」 「黙れ」 「っ!!」 れいむは一瞬気圧された。 だがすぐに調子を取り戻して再びまりさを罵ってくる。 「――――!!!――――!!!!」 隻眼のまりさにはもう何も聞こえていない。 まりさの自意識は全て自分の中に集中していた。 増大した攻撃意志が一点に集まっていくイメージ。 落ち着いて、だけど怒る。 攻撃しようという意志が実際の攻撃力になる。 静まれ、それが集中力になる。 高まれ、それが攻撃力になる。 「でいぶをむじずるなああああああああああああ!!!」 面倒くさがりらしく今まで仕掛けてこなかったれいむが ついに痺れを切らして突っ込んできた。 (ここだ!!!) 「ゆうううううううううう!!!!」 「じねえええええええええ!!!!」 ドン、と交差法の体当たりが炸裂。 それは二回目の成功。 れいむは、バラバラに砕け散って死んだ。 ――――同日、昼過ぎ―――― 隻眼のまりさはあの時散らばった食料を集めて 集落に戻ってきていた。 家に入って荷物を下ろす。 例によって単独で行動していたことが幸いした。 またも同族殺しを犯したまりさ。 だがそんなことが瑣末なことであるかのこととしか 思えないほどに上機嫌だった。 なんといっても試行錯誤しても 全くできなかった攻撃がついに成功したのだ。 これ以上の成果はない。 そしてこの戦闘では様々な物を得た。 まず二つはっきりしたことだが あの攻撃を発動するには攻撃意志が不可欠であるということ。 それと今更だがあれは普通の攻撃ではないということ。 あの攻撃は単なる体当たりなどではない。 れみりゃへの攻撃もそうだが 止めを刺すには体重に任せて連続で踏みつけるしかない。 一撃でそれ以上の効果が得られるなどありえないと 隻眼のまりさの餡子脳でも理解できた。 攻撃意志の方は重要だが厄介だ。 はっきりと相手がいて、それに攻撃するつもりじゃないと あの攻撃は使えない。 つまりは練習ができないということ。 以上の二つについては気付きだが 正直どうしようもないことだ。 とりあえずまりさは頭の隅に追いやる。 問題は先ほどの攻撃の回避失敗だ。 後から考えれば当たり前のことだった。 あれは荷物の重さで回避力が落ちていただけだ。 そして、それはトレーニングに応用できる。 重いものを持って移動できるようになれば それを下ろしたときにさらに高い機動力が得られるはずだ。 新しいトレーニング方法を思いつき 隻眼もまりさはウキウキしていた。 「まりさ、もう戻っていたの?」 「ドス。うん、そうだよ」 家から出てみるとドスがいた。 どうやらドスも荷物が一杯になったため 早めに戻ってきていたらしい。 「ドスは越冬の方大丈夫?」 「うん。一杯ドングリやお花さんが集まってるから 冬さんが来ても大丈夫。 まりさは?」 「まりさも大丈夫だよ。 そういえばぱちゅりーは?」 外出時はほとんどの場合帽子に 乗っているぱちゅりーがいなかった。 「ぱちゅりーはまりさの家の食料庫で 食料の整理をするって言ってた。 ぱちゅりーがいても重いだけで役に立たないって」 「そうなんだ」 なんだかもうぱちゅりーはドスのおかざりの 一部のような感覚があったのでちょっと違和感があった。 「ドスはもう一度集めに行くの?」 「ううん。今日はもうやめとこうかなって思ってる。 まりさは足が遅いしね」 隻眼のまりさはその台詞にちょっとだけ寂しさを覚えた。 もう自分の前を走ってくれるリーダーはいないんだな、と。 そういえばいつからだろう。 リーダーをリーダーと呼ばなくなったのは。 今では皆、ドスか長と呼ぶ。 自分も気がついたらドスと呼んでいた。 六匹で集まって遊んでいたころにはリーダーはずっと まりさ達のリーダーであってくれると思ってたのに。 あの多数のれみりゃ襲撃の際に一匹は行方不明となっていた。 数週間、数ヶ月と待ち続けたが、それだけ時間がたてば もう生きてはいないだろうということを納得せざるを得なかった。 そして、リーダーがドスになったため 六匹はもう四匹になってしまった。 そこまで考えて、隻眼のまりさはハタと気付いた。 三匹になってしまう。 自分はゆっくりとは違う段階に入るなどと 思い上がったことを考えいたのだが 要するに自分も幼馴染のグループから抜けて 新しい一歩を踏み出そうとしているのだ。 そういえばいつからだろう。 自分が単独行動をするようになったのは。 しかも行方不明となったまりさとリーダーとは違い 自分は自らの意志で抜けようとしている。 皆と一緒にいるからなどというのは言い訳だ。 「そういえばまりさ、最近『とれーにんぐ』を 頑張ってるんだって?ぱちゅりーから聞いたよ。 …まりさ?」 「……………」 まりさから反応が返ってこないことを心配するドス。 ドスはそれほど頭のいいほうではない。 だが仮にも村長で六匹のまりさの元リーダーだ。 隻眼のまりさが何かを抱えていることだけは分かった。 「まりさ、何か悩みでもあるの?」 「…うん」 隻眼のまりさが抱えているのはリーダーのかつての言葉だった。 皆で走ることが重要、と。 それはいつかの約束ごと。 リーダーは一番速かったけど一人先を進むことはなかった。 結局皆ついてこられるから、とその時は言っていたが それが間違いだったと気付いた。 リーダーについて行けていたのではない。 リーダーが皆を置いていかなかったのだ。 なのに自分は、自らが特別な存在になるのだと考え 皆を置いていこうとしている。 「ねぇドス」 「何?」 「ドスは…ドスになった時どう思った?」 「え?」 まりさは知りたかった。 ドスがどうしてドスになったのか。 リーダー自身が否定していた『特別』な存在になった時 ドス自身はどう思っていたのか。 ――――同日、同時刻―――― ドスは最近穏やかではないものを感じていた。 それがぱちゅりーの焦燥感や 隻眼のまりさの違和感だったりするのだが ドス自身はこれだ、と気付けるものはひとつもなかった。 「これからどうしようかな…」 ドスは一旦食料を持ち帰ってぱちゅりーに整理を任せたのだが 中途半端に時間が空いてしまった。 今からまた食料を探しに行ってもいいのだが また帽子一杯にして戻ってくるには短いし ただぼーっと待つには長い時間だった。 せっかくなので集落を見て回ることにした。 長なのでそれ位してもいいだろう。 ぱちゅりーの方が頭がいいし長に向いているのではないかと 考えなくもなかったが拾われた一匹のぱちゅりーより 『いげん』のあるドスの方がいいと長に推された。 実際村はうまく回っているので恐らくそれが正しい選択なのだろう。 「まりさ、もう戻っていたの?」 「ドス。うん、そうだよ」 幼馴染の一匹、隻眼のまりさが家から出てくるのが見えた。 最近のまりさは難しい顔をしていることが多い。 ぱちゅりーが考えことをしている姿を多く見るので 割とすぐに気付いた。 「ドスは越冬の方大丈夫?」 「うん。一杯ドングリやお花さんが集まってるから 冬さんが来ても大丈夫。 まりさは?」 「まりさも大丈夫だよ。 そういえばぱちゅりーは?」 「ぱちゅりーはまりさの家の食料庫で 食料の整理をするって言ってた。 ぱちゅりーがいても思いだけで役に立たないって」 「そうなんだ」 ぱちゅりーは長としては器の足りない自分を しっかりサポートしてくれる。 せめて頭を使わない仕事くらい自分だけでやりたかった。 「ドスはもう一度集めに行くの?」 「ううん。今日はもうやめとこうかなって思ってる。 まりさは足が遅いしね」 そう言うとまりさが複雑そうな表情をした。 慌ててその場を取り繕おうと口を開く。 「そういえばまりさ、最近『とれーにんぐ』を 頑張ってるんだって?ぱちゅりーから聞いたよ。 …まりさ?」 「……………」 「まりさ、何か悩みでもあるの?」 「…うん。ねぇドス」 「何?」 「ドスは…ドスになった時どう思った?」 「え?」 唐突な質問。 今度はドスが複雑そうな表情をする番だった。 ドスが一番気にしていること。 それは自分がドスになって幼馴染の輪に 一緒にいられなくなってしまったこと。 ドスにとっての、唯一の脛の傷。 「どうして?まりさもドスになりたいの?」 答えになっていないが、それだけ言うのが精一杯だった。 「ううん、そういうわけじゃないけど…」 隻眼のまりさも押し黙ってしまう。 実はドスはこのまりさに自分の後を継いで 残った四匹のリーダーになって欲しいと考えていた。 このまりさに前を走れ、と言ったのはそういう意味も含んでいた。 自分は、何の因果かドスになってしまった。 皆が喜んでくれたので自分もちょっとは嬉しかったが ドスになって自分自身が得られたものなど何もない。 「…ドスは、ドスになれて嬉しかったよ。 ドススパークも使えるようになったし長にもなれたしね」 完全な嘘だ。 「そうなんだ。やっぱりドスも 皆のリーダーになれたことは嬉しかったの?」 「うん、皆で力を合わせれば何でもできると思ってたけど ドスになったからできることがもっと増えたよ」 これも嘘。 実はドスの巨体は食事量や歩く位置など気を 使わないといけないケースが多いので以前より 不便になったとすら感じる。 思い返してみて自分でも意外だった。 そしてドスという存在が少し嫌になった。 やはり自分は、特別な存在にはなりたくなかった。 平凡な、ただ一匹のまりさでいたほうが幸せだった。 番も持たず、仲間も持たず、皆のために働くヒーロー。 そこに、ドス自信の幸せなど欠片もなかった。 そしてその思いは一つの形となった。 それは誰にもそのことを悟られないこと。 ドスは皆のヒーローで居続けようと決心をした。 ――――同日、深夜―――― 隻眼のまりさは自宅に居た。 トレーニングの方法を考えて頭をひねっていたのだが 次第に眠くなってきて気付いたら寝息を立てていた。 だが、今は起きている。 それが偶然なのか、第六感なのかは分からないが 確かな何かを感じていたのだ。 まりさはガサガサと巣を覆っていた木の皮をどけると単身外に出た。 時刻は深夜。しかも森の中なので月明かりも僅かにしか入ってこない。 ピョンピョンと辺りをうろつく。 何故だかはわからない。 だが夜という時間、そしてゆっくりの身であるまりさに 当然の脅威が襲ってきた。 「うー、まりさがいるどー」 「あまあまたべるんだどぅー」 れみりゃだ。 胴付きが一匹。そうでないのが三匹。 「こんなところにいるなんてれみりゃはうんがいいんだどー おちびちゃんにかりのしかたをおしえるんだどー」 「うー、おかーしゃんがんばれー」 「ぷっ」 隻眼のまりさは思わず噴き出してしまった。 あんなに脅威に感じていたれみりゃが こんなにも滑稽に見えたのは初めてだ。 のろいし頭も悪い。 そして何より運が悪い。 自分と会ったのだから。 「かくごするんだどー」 「ふっ」 伸ばしてきたれみりゃの手をさっとかわす。 遅い。こんなものでは当たりようがない。 「うー?おとなしくするんだどー!」 「ふっ!とっ!!」 次々と攻撃を繰り返すれみりゃの腕を 右へ左へと簡単に回避する。 少々暗くて攻撃に移り辛いと思っていたが そろそろ目が慣れてきた。 「おかーしゃん!れみりゃもてつだう!」 「まりさなんてらくしょうなんだどー!」 「うー、さすがれみりゃのおちびちゃんなんだどー!」 四匹による一斉攻撃が始まる。 「ふっ!ふっ!ふっ!」 「うー!ちょこまかとうっとうしいんだどー!」 まりさは連続のバックステップで距離をとる。 流石に囲まれたら危ない。 回避は大して難しくないのだがまりさは一つの問題を抱えていた。 れみりゃ達が弱すぎて怒りが沸いてこない。 例の攻撃の発動条件が満たされないのだ。 その時だった。 「なにやってるの!」 「!!!」 なんとドスの洞窟からぱちゅりーが出てきたのだ。 「うー、ちょうどいいんだどー ぱちゅりーはもっとよわいからねらいやすいんだどー」 「あんなのろまならおちびちゃんでもやれるんだどー」 (まずい!!) れみりゃがすばしっこいまりさから 体力的に弱いとされるぱちゅりーに標的を変える。 (ぱちゅりーを守らないと!!!………!!!) きた。あの感覚だ。 頭が冷えていき、身体が熱くなる。 ピョンピョンと跳ねながら急いで攻撃態勢を整える。 間合いまであと三歩。 頭が妙に冴え渡る。 あと二歩。 何故だか標的の胴付きれみりゃがよく見える。 あと一歩。 他の全てが意識から消える。 間合いに入った。 全力で踏み切る体勢に入る。 「うああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 ぱちゅりーは見た。隻眼のまりさが光り輝くのを。 そして聞いた。れみりゃの断末魔を。 まりさがジャンプするたび、一回ずつの悲鳴。 最後に見たのは、バラバラに砕け散ったれみりゃ四匹の残骸と 隻眼じゃない、両目の開いたまりさだった。 続く 次回予告 隠し通していた姿を見られた隻眼のまりさ。 ぱちゅりーはその姿から様々な思いを巡らせていた。 それでも歩みの止まらない進化をどのように判断するのか…。 次回 隻眼のまりさ ~第六話~ ぱちゅりーの疑念!ドスとまりさと戦いと… 乞うご期待! あとがき 相変わらず厨二設定の強い作品ですが楽しんでいただけたでしょうか? 今でこそどんどん文章が書けますが 同時にいつ失速するかとびくびくしながら書いています。 予告は付けてから必要がないかと思うんですが結局そのまま投稿してしまいます。 蛇足な上にどうでもいいことですが 私は本物の饅頭を食べるのがあまり好きではありません。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
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『隻眼のまりさ 第七話』 17KB 戦闘 群れ ちょっと自分推敲が足りないかもしれませんね。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第七話~ ドスの思い!その存在が生み出すものは… ――――同日、深夜―――― 隻眼のまりさ、ぱちゅりー、ドスは皆が寝静まった深夜に ドスの洞窟の中で一箇所に集まっていた。 今までのことを、そして今後のことを話し合うために。 洞窟の中は真っ暗だった。 中で行動するのに慣れていてもそろりそろりと移動しないと危険だ。 「まりさ、とりあえずドスにも同じ話をしてあげて」 「うん…」 「……………」 ドスは黙ってことの推移を見ていた。 ぱちゅりーの行動、つまりは自分に話を通すということが意外だったからだ。 それはつまり、自分の予想が全く追いつかないことが分かったから。 いちいち話の腰を折って状況説明を求めるより 全て聞いてから自分の判断や意見を言おうと思った。 「ドスは、きめぇ丸って知ってるかな?」 「きめぇ丸…?ひょっとしてあの全然ゆっくりしてない ゆっくりのこと?」 隻眼のまりさはその言葉に少々ズキンときた。 やはりゆっくりしていないゆっくりはドスでもいやなのか、と。 「何日か前に狩りに行ったときそのきめぇ丸に会ったんだ」 「そうなの?」 「それで、きめぇ丸が」 「ゆんやあああああああああああ!!! れみりゃがああああああああああああ!!!」 「!!!」 「れみりゃ!?」 集落のゆっくりの悲鳴が聞こえてきた。 「まりさ!ドス!」 「う、うん!!」 「いくよ!!」 ドスはぱちゅりーを帽子に乗せ、洞窟の外へ向かう。 緊急事態だからしょうがない。 三匹とも同じように考えていたが同時に この話を先延ばしにできたことに僅かな安堵を得ていた。 でもやはり、この話には早々に決着をつけておくべきだったのだ。 まず隻眼のまりさが外に出て、それに続いてドスが洞窟から顔を出す。 「ドス!危ない!!」 「むきゅっ!!」 「うわあ!!」 ドスの顔めがけて飛んできたれみりゃをまりさが体当たりで引き離した。 「え…?まりさ…?」 ドスは驚いた。ドスの顔の高さは1m以上ある。 にもかかわらず隻眼のまりさはその高さにいたれみりゃに体当たりを当てたのだ。 「ドス!ドス!前見て!!」 「う、うん!!」 そうだ、それどころではない。目の前にはれみりゃがいるのだ。 自分のドススパークは最大戦力。 とにかく今は戦闘に集中しなければならない。 「何よ…これ…」 洞窟の入り口から見た光景はまさに二年前の再現だった。 満月の月に照らされた夜の森に翼を持った悪魔が飛び交っている。 数は無数。あの時以上かもしれない。 「………!!ドス!ドススパークを!!」 「わ、わかったよ!!」 しかし呆けてなどいられない。 とにかく、守れるものは守らなければならない。 「うー!おっきなやつがいたんだどー!」 「みんなでたべるよ!!」 ぱちゅりーの思惑が成功したのかそうでないのか定かではないが 集落のゆっくり達は巣の中にいるようだ。 外には誰もいない。 しかしそれが故にドスを確認すると辺りにいたれみりゃが一斉に殺到してきた。 ドスもそうだがドスの帽子に乗っているだけのぱちゅりーが最も危険だ。 「ドス!かまわないわ!薙ぎ払って!!」 「ゆっくり理解したよ!!」 ドスは専用のキノコを咀嚼せずにそのまま飲み込む。 ぱちゅりーに教わった発射時間の短縮方法だ。 「ゆぅぅぅぅ…あああああああああ!!!!」 「……っ!!!」 隻眼のまりさはあまりの光と轟音に目を背けた。 ドスはレーザーを照射しながら右から左へと頭を振り上空の連中を一斉攻撃したのだ。 ただし、この方法では周囲の木々も同時に薙ぎ払ってしまう。 巣の支柱とされていた木を破壊してしまわないためにも 緊急時以外は使用を禁じていた方法だ。 「うわあああああああああああああ!!!」 「ゆゆーーーーーーーーーーーー!!!???」 「おがーじゃあああああああああああん!!??」 バキバキと木が倒れる音。 上空の捕食種は直接薙ぎ払われ、目を戻したところで 今度は倒れてくる木の上部にある葉や枝によって地上のゆっくりに襲い掛かる。 「ドス!一旦洞窟の中に下がって!! このままじゃ三方向かられみりゃに襲われるわ!!」 「分かったよ!!」 「まりさ!!聞こえてる!?中に入ってくるれみりゃを撃退して!!」 「聞こえてるよ!!分かった!!」 周りの音がうるさくてお互いに大声で会話する三匹。 前方90度にあった木がドススパークによってバランスを崩し ドシンドシンと次々と倒れる。 そして倒れた中は地獄絵図と化した。 れみりゃ達にも多大な被害を与えたが集落のゆっくり達も 驚いて外に出てきてしまった者がいた。 だが、この混乱もぱちゅりーの狙いの一つ。 集落に住む者たちにも被害が出てしまったが れみりゃ達の行動がバラバラになった。 とりあえず、一点集中の攻撃は避けられたのだ。 「ドス!大丈夫!?」 「まりさ達も来たよ!」 残りの精鋭まりさ二匹が洞窟の前に躍り出てきた。 「助かるわ!ドスの洞窟の前に陣取って! ドススパーク発射を援護するのよ!!」 「ゆっくり分かったよ!」 「待って!もう一匹は!?」 「まりさは見てないよ!」 「きっと大丈夫だよ!!」 「とりあえず目の前に集中して!!」 お互いの声を聞いていなければ右も左も分からなくなりそう。 そんな思いを持ちながら自らを奮い立たせて目の前の脅威に立ち向かう。 「ドス!!いいわ!!その位置から仰角10!真っ直ぐ発射!」 「え!?何だっけ!?」 「地面よりちょっと上!正面の木の枝をすべて排除するの!!」 「ゴメン!!分かったよ!!」 ぱちゅりーの戦術は木の枝という障害物を作り そこに真っ直ぐ穴を開けるというもの。 そうすればよりドススパークの有効範囲内に 敵が侵入してくるようになる。 「うー!よくもやったなー!」 「ゆぅぅぅううう!!」 「ふらん!いっしょにあいつをたおすどー!!」 「くらええええええええええええ!!!」 第二射。正面に集まってきたれみりゃとふらんが一斉に消し飛んだ。 この集落で一番の脅威であると理解してドスに攻撃をしようと集まってきたのが災いした。 「いいわ!!第一次攻撃は成功!!まりさ達は前進して! 私が合図するか危ないと思ったら左右の木の枝の中に避難して! 決して自分たちだけで戦おうとしないでね!!」 「分かったよ!」 「突撃するよ!!」 まりさ達三匹が隻眼のまりさを先頭にドスの元を離れて ドススパークでできた道へ前進する。 再び敵をここに集めるのが目的だ。 「ゆわーん!!こわいよおおおおおおおお!!!」 「みゃみゃあああああああああああ!!!」 「うー!にげるんじゃないんだどー!!」 「えださんじゃまなんだどー!!」 混乱して巣から出てきたゆっくり達が辺りに散らばり始めた。 しかし密度の高い障害物である木の枝に遮られて 地上を這い回るゆっくり達より 三次元移動をするれみりゃ達はさらに行動し辛くなる。 「行くよ!!『あろーふぉーめーしょん』!!」 「「ゆっくり理解したよ!!」」 そう言ってから隻眼のまりさは木の枝を帽子から取り出す。 それを口にくわえると正面の胴付きれみりゃに向かっていく。 「あまあまがあったんだどー!」 「ふっ!!!」 手を伸ばしてきたれみりゃの攻撃にあわせてジャンプした。 すれ違いざまに木の枝の先端で相手の左目を切り裂く。 「うー!?いぎゃああああああああああ!!! でびでゃのおべべがああああああああああ!!」 これはかつて自分が受けた左目の怪我を思い出して考えた技だ。 『刺す』のではなく勢いに任せて『斬る』攻撃。 「とどめだよ!!」 「ゆっくり死ね!!」 「うー!?いだいいいい!!やべろおおおおおおお!!!」 転んだれみりゃが後ろの二匹のまりさに踏みつけられる。 斬る攻撃なら武器の木の枝を失わずにすみ 刺してれみりゃの顔を踏む追い討ちの邪魔にならないし 裂けた部分から中身が漏れ出すというダメージ増加に繋がる。 カウンターに加えた一石三鳥の攻撃だ。 「立ち止まらないで!着いて来て!!」 「分かってるよ!!」 立ち止まってはやられる。 先頭のまりさを矢尻の先端に見立てた三角の陣形。 その形を保ちながら後ろの二匹がついてくるのを確認しながら 隻眼のまりさは大きく方向転換する。 「右に避けるよ!」 「「ゆっくり理解したよ!」」 「よぐもおおおおおおおおおお!! じねえええええええええええええ!!!」 真っ直ぐ向かってくる胴付きふらんの進行方向に対して 垂直になるように回避運動をとる。 通常のまりさよりも早く動ける捕食種に対しては 最も効果的な回避だ。 「うー!?どこいったー!?」 「後ろを取ったよ!!回れ、右!!」 「「回れ、右!!」」 胴付きふらんが自分達の進路を横切ったところで180度の方向転換。 先頭のまりさを一旦追い越してから残りの二匹が同様に向きを変える。 陣形を維持したままの方向転換だ。 「食らえ!!」 「うー!?」 隻眼のまりさが後頭部に体当たりを当てるとふらんはうつぶせに倒れた。 「一点集中!!」 「「一点集中するよ!!」」 そこへ今度は三匹一斉の踏みつけ攻撃。 一斉にその頭部に向かってジャンプする。 「ゆっくり死ね!!」 「とどめだよ!!」 「ゆぐびぃ!!」 ふらんの頭部が帽子ごとグチャッと潰れた。 その手ごたえを感じたら再び前進を開始。 「よぐもおおおおおお!!!」 「おがーじゃんがあああああああ!!!」 「ばりざなんがゆっぐりじないでじねえええええええええ!!!」 「ドスのところに戻るよ!!」 「「ゆっくり理解したよ!!」」 上空の敵がまりさ達に照準を定めたところで退却を始める。 パワーや柔軟性は胴付きの方が胴無しより優れているが 地上戦を主眼に置いた胴付きより飛んでいる胴無しの方が まりさ達には仕留めにくい。 何より胴無しは胴付きより数が多い。 無理に立ち向かおうとせずドススパークに頼るため ドスの洞窟の方へ向かって移動を始めた。 「ドス!発射準備!!私の言うタイミングに合わせて!」 「ゆっくり分かったよ!!」 ことの一部始終を見ていたぱちゅりーが再びドスに発射態勢をとらせる。 ドスはキノコを飲み下すと息を吸い込んでそのまま止める。 十秒程度しか持たないが時間差射撃の体勢だ。 「まりさ!!れみりゃが来るよ!!」 「急いで!!頑張って走るんだよ!!」 「頑張ってるよ!!」 「ドス!!カウントダウン!!3、2、1!!」 三匹のまりさがカウントを聞いてさっと右に避けた。 「発射!!」 「発射あああああああああああああ!!!!」 三度(みたび)夜の森がドススパークに照らされた。 「ドス!キノコは後いくつあるの!?」 「あと二つしかないよ!!」 「じゃあすぐに後退!!篭城戦に入るわ!! ドスはすぐに奥へ!!だけど外を見ながら後ずさるのよ!! まりさ達は私の部屋に入って!!」 「ゆっくり分かったよ!!」 そこで隻眼のまりさは『え?』と思った。 何で?まりさはまだ戦えるよ? 集落のゆっくり達はどうするの? ドススパークもあと二発残ってるんでしょう? こんな弱い奴らから逃げるの? なんで? なんで? 隻眼のまりさだけはそこで固まった。 ドスは既に前を見ながら後ろ向きに移動を始めている。 二匹のまりさも洞窟に向かって走り始めていた。 第一に、この認識のずれが先に話し合っておくべき内容だった。 「まりさ!?」 「何処行くの!?ドスの洞窟の中が安全だよ!?」 「ゆっくり追うよ!!」 「駄目!!言ったでしょう!?勝手に行動しないで!! ついていったら死ぬわよ!!」 第二に、それぞれの思惑の方向性について先に話し合っておくべき内容だった。 「ぱちゅりー!!どうしてそんなこと言うの!?」 「まりさを助けに行かないと!!」 「あなたたちはもう忘れたの!? 助けることよりも、生き残ることを考えなさい!!」 「ドスは、村長なんだよ!?皆を守るドスなんだよ!?」 第三に、各々の立場を再確認することが先に話し合っておくべき内容だった。 この三つが互いにとって最低限、話し合っておくべきことだったのだ。 奇しくもれみりゃに襲われたタイミングは三匹にとって最悪のタイミングだったのだ。 ――――同日、同時刻―――― ドスは前に出て戦う隻眼のまりさを見てずっと考えていた。 あの三匹は見事な軌跡を描いてれみりゃ達を討っていた。 その様子から自分が考えていたことは杞憂だったのではないかと思い始めていた。 見事なフォーメーションと指揮だ。 かつて自分が先頭を走っていた時とは比べ物にならない。 ぱちゅりーの作戦もあるのだろうが それを聞いていたとしてもかつての自分にあれだけできただろうか? だが同時に今はもうそれでもいいか、と思う。 自分が果たせなかった思いをあのまりさが引き継いでくれている。 そう思った。 帽子の上にいるぱちゅりーの様子は自分からは確認することができない。 だがきっと自分と同じようにその姿を見て感心しているはずだ。 自分はもう、まりさ達と走ることはできない。 だが、まりさ達は自分達でチームを組み 自分が必要ない段階まで成長してきている。 隻眼のまりさが皆を統率してくれる。 あのまりさに皆はついていくことだろう。 そしてそう思うことで自分は彼らに対する未練を完全に 断ち切ることができるだろう。 今日の決意がもう揺らがないように。 ドスは幼馴染の輪から完全に抜けることを決心した。 もう自分はまりさ達のリーダーなのではなく 集落のリーダーなのだから。 「ドス!発射準備!!私の言うタイミングに合わせて!」 「ゆっくり分かったよ!!」 自分は、自分に与えられた使命を果たす。 今できることはドススパークでれみりゃを出来るだけ倒し 集落の皆を助けることだ。 キノコを口に放り込みそのまま丸呑みする。 口に合わせて喉も大きいので特に苦にならない。 そしで息を吸い込んで止める。 「ドス!!カウントダウン!!3、2、1!!」 思い切り息を吸い込んで止めるのは結構苦しい。 ぱちゅりーのカウントがものすごく遅く聞こえる。 「発射!!」 「発射あああああああああああああ!!!!」 全力で叫んでドススパークを発射。 いつもながら自分で発射しているのにもかかわらず れみりゃや大木をなぎ倒すこの威力には全く現実感がない。 ドスでなかった頃からは全く考えられないものだ。 「ドス!キノコは後いくつあるの!?」 「あと二つしかないよ!!」 「じゃあすぐに後退!!篭城戦に入るわ!! ドスはすぐに奥へ!!だけど外を見ながら後ずさるのよ!! まりさ達は私の部屋に入って!!」 「ゆっくり分かったよ!!」 ドスはそう言われ感心した。 本当にぱちゅりーはすごい。 こういう練習はたまにしてきたけど 何もかもその練習通りになる。 まるで自分だけでなくまりさ達やれみりゃまで ぱちゅりーの言いなりに動いているかのような錯覚に陥る。 その知識と判断力は驚嘆に値する。 ぱちゅりーがいれば、その言葉に従えば 集落全てのゆっくりを助けることが出来る。 ドスはそう考えていた。 「まりさ!?」 「何処行くの!?ドスの洞窟の中が安全だよ!?」 唐突に隻眼のまりさが外へ飛び出していった。 え?なに?ぱちゅりーは洞窟に入れって言ったよ? 皆と戦うためには、集落の皆を守るためには 皆で力を合わせないといけないんだよ? ドスはその行動に虚を突かれた。 なぜなら隻眼のまりさはあの二匹を放り出して出て行ってしまったのだ。 まりさ達のリーダーになるんじゃなかったの? 「ゆっくり追うよ!!」 「駄目!!言ったでしょう!?勝手に行動しないで!! ついていったら死ぬわよ!!」 「ぱちゅりー!!どうしてそんなこと言うの!?」 そうだ、どうして。 それに隻眼のまりさはどうして出て行った。 それでどうしてぱちゅりーは追いかけるのを止めるんだ。 まりさが勝手に行動したのは確かに悪いことだけど それを見捨ててここで待つというのか? 「まりさを助けに行かないと!!」 ドスは思う。 二年前のあの時六匹が五匹になってしまったのは 力がなかったからであることが原因だ。 そして自分達の力を過信してちゃんと力を合わせて戦えなかったからだ。 「あなたたちはもう忘れたの!?」 忘れてなどいない。 あんな思いはもう御免だ。 それ以前に既に一匹見当たらないのだ。 その見つからないまりさも探しに行かなければならない。 目の前にはまだ何十匹も敵がいるのだ。 一匹で行動していては危険だ。 「助けることよりも、生き残ることを考えなさい!!」 何を言っているんだ。 助けることと生き残ることは一緒だ。 助けなければ皆生き残れない。 仲間がやられて自分だけになってしまえばすぐにやられてしまう。 だから助けないと。 生き残るために。 戦うために。 皆を守るために。 村長としての役目のために。 そう思うと自分は声を張り上げていた。 「ドスは、村長なんだよ!?皆を守るドスなんだよ!?」 それが自分が自分が決心したこと。 村長としての役割を演じるための。 皆で笑いあうために。 これからもゆっくりするために。 少なくともその思いはぱちゅりーだって同じはずだ。 ぱちゅりーの知識なら何とかしてくれるはずだ。 そう思ってぱちゅりーの反応を待った。 しかし返ってきた言葉は 「駄目!私にも状況がつかめていないのよ! れみりゃが何匹いるか!まりさが何処へ行くのか! この状況で動けば悪い方向にしか行かないわ! 自分のことだけ考えて!でないと全滅するわ! 戦えるものだけでも生き残らないと!」 それは、絶対だと信じていたぱちゅりーの知識の限界。 ぱちゅりーにも分からないことがある。 だが、自分の考えの及ばないところで考えている ぱりゅりーの知識の限界にドスは全く気付いていなかった。 気付いていなかったが故に ぱちゅりーが自分のことしか考えていないと 考えることを放棄してドスである自分の力を利用することしか頭にないのだと。 ドスはそう思ってしまった。 自分は、皆を助けるために戦っているのに。 どうしてそんなこと言うの? だったらどうして自分に指示を出すの? 自分が指示に従っているのはぱちゅりーを信じているからなのに。 ぱちゅりーは皆を信じていないの? ぱちゅりーは皆を守る気がないの? ぱちゅりーは皆と生きたいと思わないの? ドスは生まれて初めてものすごい速さで頭の中が回転していた。 今までの二年間。自分はぱちゅりーを信じていたし ぱちゅりーも自分を信じてくれているものだと思っていた。 自分は集落のためになるとぱちゅりーの指示に従ってきた。 実際集落は以前より活気付いて皆ゆっくりした顔をすることが多くなった。 だけど。けれども。 ぱちゅりーの行動が長としての役割と一致しないのなら? ぱちゅりーの指示が皆のためでなく、ぱちゅりー自身のためなら? ぱちゅりーの考えが自分の及ばない範囲だと村長として考えることを放棄しているのなら? ぱちゅりーの独自の考えで動く大きいだけの傀儡と化しているのなら? 村長である自分は、どうするべきなのか? 続く 次回予告 それぞれの思いは一つ。 ただ自分の信念を貫こうとすること。 その思いの根底は同じはずなのに。 どうしようもなくすれ違ってしまう。 なぜなら、皆が違う存在なのだから。 きちんと言葉で伝えられなかったから。 それぞれの信念はたとえ戦場においても互いを傷つけてしまう。 次回 隻眼のまりさ ~第八話~ ぱちゅりーの思い!その言葉は伝わるのか… 乞うご期待! あとがき 相変わらずくどい文章ですがご容赦を。 餡子脳にここまで出来るのかどうかは自分としても疑問ですが こうして進めてしまった以上最後まで突っ走る所存です。 心理描写は書いて手時間がかかりますが 戦闘描写は書き手というより中のキャラクターが 自然に動いてくれるので書きやすいですね。 ちなみに作中でれみりゃとふらんを目の敵にしていますが 私はれみりゃとふらんがまりさ種より遥かに好きです。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
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『隻眼のまりさ 第三話』 17KB 戦闘 群れ 例によって続きです。どうぞよろしく。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ――――某日、日の出―――― ここはいつものゆっくり達が住む集落。 まだ日が昇ったばかりでゆっくり達はまだ夢の中。 ただし、現在広場にいるゆっくりを除いてだ。 隻眼のまりさは早めに目を覚ましていた。 早起きをしてトレーニングをしていたのだ。 「ゆ゙っ…ゔっゆ゙ゔゔ………!!」 まりさは直立姿勢から比べて大きく右に傾いていた。 斜めに立っていると言った方が正しいかもしれない。 足である底面全体を地面につけるのではなく 足と側面である場所ギリギリのところに力を集中し 不安定な姿勢で立っていた。 「ゆっ!あっ!うわ!!」 バランスを崩し横にコロンと転がってしまった。 ふぅ、と一息つくと今度は足の左側に力を込めて身体を左に傾ける。 「ぐっ…ゆ゙っ…ゆ゙ゆ゙っ………!!」 これは、あの時のきめぇ丸の状態を必死に思い出して考えた 隻眼のまりさの新しいトレーニング方法だった。 あの時、きめぇ丸はものすごく横に傾いた状態で平然と立っていた。 自分が真似してみると、ものすごく辛い。 人間で言えば片足立ちで横に重心をずらしているようなものだ。 まりさはただ走るだけのトレーニングでは限界と考え とにかく新しい方法を試しているのだ。 「よっ!わっ!ぐぐぐぐ……!!」 バランスを崩しそうになったが何とか踏みとどまった。 以前ぱちゅりーに強くなるのにどうしたらいいか、と 聞いたことがあったのだがその時人間さんは 様々な方法で身体を鍛えているそうだが その方法のほとんどが手足を使ったものばかりなので 今のまりさに真似できるものではない。 だが一つだけ、鍛えたいところがあるなら その部分を使い続ければいいということだけは はっきり分かっている、と。 「ぬ゙っ…ゔっ…ふぅ……」 今度は自発的に力を抜いた。 ここで無理をして狩りのほうに影響が出ても困るので 体力全てをつぎ込もうとは思っていなかった。 まあ要するに、走るのが速くなりたければ 足を使い続けて強化するしかないということだ。 そこにあのきめぇ丸を真似してみた結果が今のトレーニングだった。 ――――同日、朝方―――― 集落のゆっくり達が起き始める時間だ。 仕事始めと言ってもいい。 「あ、まりさ!ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっく…おはよう!」 まりさの試行の二つ目。それはゆっくり断ちだった。 あの日感じた違和感が形となっていたのは『ゆっくり』という 単語であったことに気が付いたのだ。 自分は速く走りたいんだ、ゆっくりじゃなく。 これがどのような結果を生むのかは、或いは何も起きないかもしれないけど ゆっくりすることを至上とするゆっくりという種のとっては壮大な試みだった。 場合によっては集落から追放なんて事態もありうると 考えたまりさはこのことについては誰にも相談していない。 実際、他人を罵るときに『ゆっくりできない』なんて物言いがあるくらいだ。 その単語を発することをやめるなどと言い出せば何が起こってもおかしくない。 だが、断ってみて気が付いたのだが別にゆっくりという言葉を発しなくても 『おはよう』とか『こんにちは』とか代用できる単語はあるし ゆっくりしなくても食事や狩りは出来る。 「じゃあゆ…じゃなくて、早く『ぶりーふぃんぐ』に行くよ!」 『ゆっくり○○するよ!』などと言葉を発して行動するのが多いゆっくりだが だからこそ逆にこの隻眼のまりさが気付くことができたことなのかもしれない。 「むきゅ?早いわね。もう来たの」 「うん。ドスは?」 「まだ寝てるわ…」 ドスの洞窟に行ってみるとぱちゅりーがすでに動き回っていた。 ぱちゅりー種は身体が弱いと聞くし、実際斜向かいに住んでいる 親ぱちゅりーは家にこもりがちなのだが 集落の参謀を務めるこのぱちゅりーは肉体労働こそしないものの 大声を出したりするとても元気なぱちゅりーだ。 さすが子育ての上手いと言われた前村長が育てただけのことはある。 「おはよー!!ゆっくりしていってね!!!」 「おはよう」 幼馴染のまりさの一匹が洞窟へやって来た。 今度はゆっくりと言いかけることもなく挨拶ができた。 「ぱちゅりー!今日は何をすればいいの?」 「待ちなさい。皆で聞かないと駄目よ」 それからしばらくして。 「むきゅ、それじゃあ『ぶりーふぃんぐ』を始めるわ」 皆がぱちゅりーに注目いつもの光景だ。 だが、隻眼のまりさにとってはここで一つの問題にぶつかった。 そういえば、みんなと走れというのがリーダーの言葉であり 自分の守ってきた行動理念だ。 だが、今のまりさは一人で走ろうとしている。 そのことを誰かに相談すべきではないか? 自分ひとりの考えで行動することがどういうことか分かっているのか? 「じゃあ今日はあなたが皆を連れて虫さんのいっぱいいる 森に行ってね」 「え?ああ…うん…」 「どうしたの?まりさ」 「なんでもないよ」 ぱちゅりーの言葉に反応するのが送れたためか 横にいたまりさが少し心配そうに声をかけてくる。 そうだ、自分は何も皆から離れようというわけではない。 いつも通り仕事をこなして、いつも通り行動し その合間に自分が気付いたことを試していくだけだ。 そこには問題はない。 それにまりさ自身分からない領域に踏み込もうというのだ。 他者に理解してもらえるなどと初めから思っていない。 やれるだけのことをやって自分が満足すればそれでいいのだ。 隻眼のまりさはそのように自己弁護して自分を納得させた。 「じゃあドスは、私と『ばりけーど』のために使う 資材を探しに行くから」 「ゆっくり理解したよ」 以前までなら何気なしに使っていた表現に 我知らず嫌悪感すら覚えるようにまでなっていたことには 目をつぶりながら。 ――――同日、昼前―――― 「ま、まってよー!!まりさー!!」 「れいむは疲れたんだねー、わかるよー」 「こんなに早いなんてとかいはじゃないわ!」 隻眼のまりさは集落の若いゆっくり達を連れて狩りをしていた。 「大丈夫!まりさは遠くへは行かないよ! 皆が離れてきたらまりさが自分から戻ってくるからー!!」 まりさは左右ジグザグにぴょんぴょん飛び跳ねながら大きな声で答えた。 これはまりさが戦闘スタイルを見直す意味で考えた 新しいフットワークだった。 ゆっくりの戦闘スタイル、というよりは唯一の攻撃手段は体当たりだ。 場合によっては噛み付き攻撃もするが通常種には れみりゃのような鋭い牙も中身を吸い出すような器用な真似はできない。 加えて、体当たりによる攻撃は直線的だ。 昔から破れかぶれに真っ直ぐ突進して痛い目にあったなどという 例は数え切れないほどあった。 「ゆっ!ほっ!やっ!!とうっ!!」 そこでまりさが考案した左右の高速シフトだ。 早朝のトレーニングで鍛えた左右への力の強化が活きてくる動き。 れみりゃの直線的な動きはれみりゃの周りを回ることで回避するという 方法が考案されていたがそれだけでは攻撃に移れない。 が、左右への動きが可能ならば回っている最中に 突然真横に飛んで体当たりしたり 場合によっては直線の攻撃は避けながら接近が出来る そんな攻防一体の戦闘スタイルだった。 これを思いついたきっかけもやはりあのきめぇ丸だった。 あんなに速い奴の攻撃を目で見て避けるなんて不可能だ。 だからこそ全く止まらずに左右に移動し続け的を絞らせない作戦。 「蝶がいたよ!」 木の根元に生えている花に大きな蝶が止まっていた。 まりさは蝶の正面に回りこみ、花ごと噛み付くつもりで飛び掛った。 「はっ!!」 接触寸前に蝶が横へ飛んだ。 まりさは蝶野位置を横目で捉えると 「えいっ!!」 横っ飛びで木に体当たり。 蝶を挟み込む要領で潰して仕留めた。 この行動には、連続攻撃の意味合いもある。 攻撃位置への移動、そして連続でジャンプをすることで 外れた対象に方向転換することなく着地の瞬間真横や真後ろに向かって再び攻撃ができる。 今仕留めた蝶もそうだが、動く敵には攻撃し辛いし 自分が縦横無尽に動けるのならば回避行動も攻撃行動もとりやすいという 利点を併せ持っていた。 「いたたたたた…蝶々は…それなりー」 あまりにうまくいったため調子に乗って思い切り体当たりをしてしまった。 木と衝突した身体がちょっと痛かった。 ――――同日、昼過ぎ―――― 太陽が真南を通過する頃、一行は目的の狩場で狩りをしていた。 隻眼のまりさはというと、木の枝をくわえては下ろしている。 「これは大きいかな…こっちは細いかも…」 ここでまりさが行っているのは武器の選定だ。 戦闘において、敵に止めを刺すには必ず二匹以上での連携が不可欠だ。 というのも、ゆっくりの死亡条件である中身の喪失という条件を ゆっくりの身であるまりさが満たすには、相手の頭部を潰すしかないのだ。 そして頭部を潰すには囮役となり敵の攻撃を回避する役 敵を倒すか止まった敵に一撃を加えてフィニッシュに持っていく もう一匹がどうしても必要。 それが必要なのもゆっくり同士で相手を損傷させるのが 困難であることに起因する。 そこでまりさが取った方法の一つがみょん種のやっている 木の枝を使った戦闘方法である。 だが、みょん種が特別強いというわけではない。 問題は致命打を与えるかどうかということ。 一対一でならともかく、多数対多数の戦闘で 木の枝を使って攻撃を仕掛けたとて、一匹にダメージを与えるだけで 殺すことはできないし、刺した棒を再び武器として使うには 抜いてから再び構えないといけない。 だからまりさは使い捨てで使える木の棒を選定しているのだ。 長すぎると取り回しが悪いし持って戦うにしても邪魔になる。 そして実際使うに当たって基本的には口にくわえて 体当たりの攻撃力を増大させるのが目的。 故にインパクトの瞬間折れることがないもの つまりは真っ直ぐであり、鋭く、なおかつくわえるグリップ部分が 太めになっている枝がベストなのである。 「っ!つっ!!」 口にくわえたまま例のステップを敢行。 一通りステップを踏んでみた結果、一本いいものを見つけた。 実戦で使ってみるまで使い勝手は分からないが 役に立たないのであれば捨てて戦えばいいのだ。 「まりさ、何してるの?」 「ん、別に…」 ありすが近づいてきた。 元々誰かに話すつもりはなかったし このありすに話しても理解できるとは思えなかった。 「最近まりさ、かっこよくなったわよね…」 「え?そ…そう…?」 なんだか様子がおかしい。 このありすはこの夏独り立ちをしたばかりで 越冬に向けての食料集めが難航してるという話を聞いた。 今回の狩りにどうこうしたのもそれが理由だ。 「なんて言うのかしら…変わったというか強くなったというか… 前のまりさと今のまりさは全然違う…」 「…………?」 なにやら身の危険を感じ始めた隻眼のまりさ。 が、仮にも集落の一員だ。 いきなり攻撃するわけにもいかない。 ともかく、話してみないことにはどうにもならない。 「ありす、狩りの調子はどう? 越冬に向けて秋のうちにたくさん食料を集めないと大変だよ?」 「まりさ…私とずっとゆっくりして!!」 ありすの唐突な言葉。 『自分とゆっくりして』はゆっくり達に共通する求愛の言葉だ。 そう言えばこのありすはまだ番がいなかったな、と頭の片隅で考える一方 隻眼のまりさは今回も『ゆっくり』という言葉に反応した。 「いやだよ!ありすとゆっくりするつもりなんかないよ!!」 ついつい怒鳴ってしまった。 今のまりさはゆっくりするつもりなど全くない。 ありすのゆっくりして、がまりさにとっては嫌悪感を感じさせる 言葉以外の何者でもなかったのだ。 ちなみに否定したのはゆっくりすること、なのだが ありすにとっては致命的な言葉。 そしてその一瞬の感情の爆発は 「まりさあああああああああああああああああ!!! つんでれなのねええええええええええええええ!!!」 ありすをレイパーとして覚醒させる起爆剤となってしまった。 「うわあああああああああああああああああ!!!」 飛び込んできたありすをバックステップで緊急回避。 危なかった。 今回自分が考えた戦闘スタイルがなければ こんな回避方法は取れなかっただろう。 そして自分が考えた方法が決して間違いでなかったことを 感じさせるには十分だった。 「まりさああああああああああああああ!!!」 そこでまりさは一つのことを考え付いた。 自分は武器の選定を誰にも話すつもりはなかった。 故に、ここには誰もいない。 そして、今自分の下には丁度いい枝が一本だけ。 レイパーと化して他のゆっくりを死なせた者は 例外なく制裁か追放だ。 だからこそ、このありすで模擬戦闘を行おうという考えに至った。 「まりさあああああああああああああ!!! すっきりしましょおおおおおおお!!!!」 「……っ!!!」 真っ直ぐ突進してくるありすを今度はサイドステップでかわす。 目を見開き涎をたらすありすは今までのすました ありすのイメージとはかけ離れている。 髪の毛を振り乱して突進してくる様はれみりゃとは 違う恐怖心を煽られる。 「どぼじでにげるのおおおおおおおおお!!??? どっでもぎもぢいいのよおおおおおおお!!??」 まりさに回避されたありすがこちらに顔を向けてきた。 顔面から地面に激突したありすはさらにひどい顔になっている。 正直直視したくない。 まりさは連続でバックステップを踏んで距離をとる。 「まりさあああああああああああああ!!!!」 それしか言えないのか、と冷めた感情を持ちながら サイドステップで接近。 「まりさああああああああ!!! やっどうげいれでぐれるのねえええええええええ!!」 冗談じゃない。 まりさの心はますます冷え切っていく。 すれ違う瞬間、まりさはカウンターチャンスを見ていた。 ゆっくり同士が衝突する場合、顔面から正面衝突するより 人間で言うショルダーチャージの要領で斜めから 当たるほうが有利だ。 その方が顔面が痛くないし側面のほうが凹凸が少なく頑丈 なおかつ痛みが少ないので手加減なしで体当たりが可能だ。 「どぼじでよげるのおおおおおおおおおおお!!!!」 連続で突っ込んでくるありすを最小限のサイドステップで回避。 まりさの回避運動が闘牛士のように冴え渡る。 普通のゆっくりなら背を向けて逃げてしまうため なりふり構わない突進をしてくるレイパーに体力差で 捕まってしまうのだが 今のまりさは最低限度の動きで回避しているのだ。 このペースで行けばありすのほうが先に力尽きるのがオチだろう。 「ばりざ!ばりざ!ばりざ!ばりざああああああああああ!!!」 ありすの顔はもう先ほどと同じゆっくりとは思えないほどに変貌していた。 その場ですっきりするつもりで仕掛けてきたのだろう。 連続しておあずけを食らって頭がおかしくなったのかもしれない。 が、ありすの熱が高まれば高まるほどまりさの心は冷え切っていった。 そして冷え切るのと同時に、これまでにない昂ぶりも感じていた。 ゆっくりしていた頃には考えられない。 冷めれば冷めるほど、冷静な回避ができた。 高まれば高まるほど、強力な攻撃が出せる予感がした。 「…!!」 そうか、と隻眼のまりさは唐突に気付いた。 これが戦闘だ。 ゆっくりにとって制裁やゲスの攻撃など単なる暴力だ。 相手がまともに抵抗しないように数や力だけで圧倒する 単純なものではない。 確実に、残酷に、相手の命を奪うことに特化した 命、誇り、信念をかけた戦い。 「ま…………まり…………………まりざぁ……… まりざああああああああああああああああああ!!!」 「うわああああああああああああああああああ!!!」 隻眼のまりさは全身に力がみなぎるのを感じた。 それは、不思議な感覚だった。 カウンターを発動するときの緊張感じゃない。 突進するときのがむしゃらさでもない。 最後の力を振り絞って向かってくるありすに まりさは、全力の攻撃を仕掛けていた。 ――――同日、夕刻―――― 隻眼のまりさは連れて行った狩りに行った皆と共に 集落へ帰還していた。 …件のありすをのぞいて。 「じゃあ、結局見つからなかったの?」 「うん、遠くに狩りに行ったのかもしれないし 気付いたらいなくなってたんだよ。 一人立ちしてからまだ狩りになれてなかったからかも…」 嘘だ。 ありすはまりさが殺したのだ。 「ごめんね。 まりさがしっかりしていなかったから…」 「仕方がないわ。 いくらまりさでも全部のゆっくりを見張ることなんてできないわ」 あの後、まりさが集合をかけて皆を集めた時 ありすは当然戻ってこなかった。 皆で少しだが辺りを探してみたが 地面に埋められたありすの死骸を 他のゆっくりが発見できるはずもなく やむなく集落に戻ってきた、という形を取ったのだ。 現在ブリーフィングでその旨を報告しているところである。 「ありすの家族は?」 「あのありすは一人だったし、おかあさんとおとうさんも もう死んじゃってるから…」 「…そう、わかったわ まりさ、今日は大変だったわね。 日が暮れるからもう休みましょう」 「分かったよ」 そう言ってぱちゅりーは自分の部屋であるドスの 洞窟の横穴に入っていった。 ――――同日、日没―――― まりさは、あの時のことを思い出していた。 『うわああああああああああああああああ!!!』 『まりさあああああああああああああ!!!ぎゅぶぇっ!!!』 いつものカウンターとは全く違う感覚。 木の枝をくわえて突進してくるありすに対して 交差法での体当たり。 それだけのはずだったのだが あの時の体当たりは全く違うものだ。 なぜならば、体当たりのヒットしたありすは見事に 『バラバラに砕け散って』死んだのだ。 その直後、我に返ったまりさは急に別の意味で頭が冷えていき 大変だ、どうしよう、と焦りに焦った。 だが少ししてからだったら埋めてしまおう、と思い 武器の候補として集めていた木の枝を使って ありすの死骸を地面に埋めてやり過ごした。 ありすがレイパーに名って襲ってきたと言えば 理解が得られるかもしれないが 何よりまりさはあの状況、あの感覚を 誰かに説明する気になれなかったのだ。 ゆっくり殺しの汚名を着せられることでもなく ただあの時の一瞬の感覚と 戦いの中で得たものをごたごたのせいで失くしてしまうことが まりさにとっては一番の損失だった。 そしてまりさはこの一件ではっきりと分かった。 自分を縛っていたのはゆっくりだ。 ゆっくりしていたらあのありすに襲われていただろう。 そして、ゆっくりしていたらあの感覚は得られなかっただろう。 もう二度とゆっくりするものか、と思いつつ 隻眼のまりさは倫理や、秩序、規範 そしてゆっくりとしての概念や矜持を捨ててでも この先にあるものを見てやる、と意識を新たにしながら眠りについていた 続く あとがき まず最初に、掲示板での様々なコメントありがとうございました。 下げた頭が上がらないというのはこのことです。 あれほどの反響が得られるほどこの作品が読まれていたことを そして続いて欲しいという言葉を嬉しく思います。 感想を一通り読ませてもらいましたが 全ての意見の中でおおよそ共通するのは 『評価されたきゃ完走しろ』というのがありました。 人気がないのであれば投稿自体が邪魔になってはいないかとも思っていたのですが 僭越ながら続けさせてもらおうという思いを新たにしました。 本当にありがとうございます。 加えて、感想を下さいなどということをあとがきに載せた事 本当に申し訳ありませんでした。 ご迷惑になっていなければいいのですが。 まあこの話題はこれくらいで。 この作品の特徴ですが ゆっくりがゆっくりらしくない 心理描写が多すぎ の二つを含むところはテーマ上変わらず続いていくので ご了承ください。 これからは私は九郎ver.2とまでは行きませんが 九郎ver.1.01位の気持ちでやっていきたいと思います。 お気に召しましたら、今後もどうぞよろしくお願いします。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 anko3053 ゆっくり駆除業者のお仕事風景2 前編 anko3054 ゆっくり駆除業者のお仕事風景2 後編 anko3060 ゆっくり駆除業者のお仕事風景3 anko3061 隻眼のまりさ プロローグ anko3075 隻眼のまりさ 第一話 anko3084 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 幕間 anko3091 隻眼のまりさ 第二話 anko3101 ゆっくり駆除業者のお仕事風景4
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『隻眼のまりさ 第九話』 17KB 戦闘 群れ 独自設定 全速前進DA! 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第九話~ それぞれの孤独な戦い!そして時は動き出す… ――――同日、同時刻―――― 「ぱちゅりーの作戦は生き残るためのものよ! 死にたくなかったら早く下がりなさい!」 これが、ぱちゅりーの考えた最高の回答だった。 誰だって死にたくはないはずだ。 細かい理屈や理論が通じない場面故に 最も根源的な『生きる』という欲求に訴えかける。 「…そう、分かったよ」 「…?」 今の答えで納得したのだろうか。 ドスの意図は分からないがとりあえずドスは 洞窟の中に引っ込んでいく。 ぱちゅりーは頭を切り替えた。 いずれにしても自分の指示に従ってくれるのなら 全く問題はない。 「まりさ達もゆっくり下がるよ!」 「ドス!まりさ達がしっかり守るからね!」 「…うん」 ドスは感情のこもらない声で答えた。 ぱちゅりーの位置からドスの表情が窺えなかったのは 幸いだったかもしれない。 ドスは幽鬼のような表情をしていたから。 こんな顔を見てしまったら指示など出せるはずがなかったから。 ――――同日、同時刻―――― 隻眼のまりさはいつも走っていた。 それがいつからなのかはもう分からない。 物理的にではなく、観念的にだ。 きめぇ丸と会ってから? 違う。あれは自分がそれを自覚するためのきっかけだった。 リーダーがドスになってから? 違う。それは自分が目標を見失った瞬間だ。 じゃあいつからだ? 二年前からか?それ以上前か?或いは ――――生まれる前から、か? 「うー、まりさがいたんだどー! つかまえるんだどー!」 「ふらんもたべたいー!」 「おかーちゃんふりゃんもー!」 今のまりさの頭は完全に混乱していた。ただしそれは半分。 もう半分は妙に冷静だった。 れみりゃの攻撃を左右のステップでかわし カウンターで木の枝の斬撃を叩き込む。 「いじゃいいいいいいいいいいいいい!!!」 れみりゃの叫びもまるで遠くの出来事だ。 頭の冷静な部分は最低限のことだけを考えていた。 「よぐもおおおおおおおおおお!!!」 だが混乱した部分では戦闘とは全く関係ないことを考えていた。 隻眼のまりさの見えない左目。 その真っ暗な部分には何かの光景がフラッシュバックする。 そのフラッシュバックは意味のある物ではなく この状況とは全く無関係の世界の一場面だった。 だが、隻眼のまりさはそれこそが 自分の求めていたものだと言わんばかりに 戦闘よりもむしろそちらに意識を集中していたかもしれない。 「っ!!!!」 「うー!?」 短く息を吐いて地面を蹴る。 カウンターだ。 この行動は既に反射の域に達している。 一瞬の状況判断。 相手の行動を読むのではなく 自身の反射神経だけに頼って 目の前にある状況にただ対応していく。 後先考えない、ただの特攻。 そうだ。この感じ。覚えがある。 一瞬の差を見極めての緊張感。 攻撃の命中するか否かの見極めの冷静さと その瞬間に自分の最高の一撃を叩き込む豪胆さ。 自分の中に相反する二つのものがある。 まさに今見ている情景そのものだ。 まさに左目の見えない自分だからこそ気付いた境地だ。 「もうゆるざないいいいいいいい!!! みんなでごのまりざをごろずううううううううううう!!!」 「ゆっぐりじねえええええええええええ!!!!」 「っ!!とっ!!」 まりさは攻撃をかわす。 右へ。左へ。前へ。後ろへ。 ただそこにあるものをかわす動き。 違う。似ているが違う。 『どのような加速度を持とうと、究極的には直線になるんだよ』 意味のある言葉のフラッシュバック。 それが頭に響く。 まだわからない。 でも何かが見えてきそうだ。 赤い霧が。 歪な形の月が。 そしてれみりゃとふらんに似た何かが。 まりさは、何かと戦っていたのだ。 だけどそこに緊張感はあっても危機感はない。 「うー!!!」 右から来るれみりゃを左に跳んで避ける。 ジャンプした先にはさらにれみりゃがいた。 突き出してくる手にカウンターをあわせる。 狙うは左側頭部。 真っ直ぐに。 「ぶべ!!」 れみりゃの頭部を捉えたその攻撃は たやすく相手の頭部を粉砕した。 でも違う。 これじゃない。 この攻撃は確かに強力だが何かが違う。 自分が思い描いているそれとは違う。 見えている右半分の思考でそう考える。 自分は生まれてからこんな光景を見た覚えはない。 しかし、その『記憶』は確かに自分の中にあったものだ。 暗い中、寒い中、暑い中。 空中で、室内で、地底で。 そのロケーションは見たことがないのに見覚えがある。 見えていない左半分の思考でそう考える。 「じねえ!!!!」 左から来るふらんを避ける。 思い出せ。形となれ。 『記憶』がないわけじゃない。 忘れているわけでもない。 思い出せないだけだ。 「にげるんじゃないんだどー!!」 真正面。胴付きれみりゃが迫ってくる。 月を背にした敵。 赤い館で戦った記憶。 右目には捕食種の胴付きれみりゃが見える。 左目にはもっと大きなれみりゃに似た何かが見える。 手を振りかぶってこちらを潰しに来た。 れみりゃの手が届くまであと1秒。 霞がかった左目のフラッシュバックが像を結び始める。 れみりゃの手が届くまであと0.7秒。 隻眼のまりさの体は光り始めている。 れみりゃの手が届くまであと0.5秒。 イメージに時間は必要ない。 れみりゃの手が届くまであと0.3秒。 イメージする必要はない。 れみりゃの手が届くまであと0.1秒。 なぜなら自分はそれを知っているのだから。 れみりゃの手の指先が隻眼のまりさに触れた。 そう、これだ。この瞬間だ。 忘れていたものは。 鍛えていたものは。 全てはこの瞬間のために。 「ファイナルスパーク」 隻眼でない、両目を開いたまりさがそうつぶやいた。 ――――翌日、朝方―――― どんな夜にでも朝は来る。 それがどんな悪夢にうなされる夜でも例外はない。 勿論今も。 れみりゃ襲撃から8時間ほど経過していた。 日が昇ってすぐ。湿った風が集落を吹き抜ける。 おそらく今日明日にでも雨が降るだろう。 水分を嫌うゆっくりは湿気も好かない。 それでもこういう日は次の日のために食料を 積極的に確保するのが賢い選択だ。 「ひどいものね」 ぱちゅりーは珍しく単独で集落にいた。 ずりずりとゆっくり移動しながらあたりの様子を見る。 あちこちに甘い臭いが立ち込めていた。 ゆっくりの餡子の臭いだ。 あまあまにしか目に入らない状態になっているゲスはともかく 今のぱちゅりーにとってはそれが死臭にしか感じなかった。 「…」 いやでも目に入る同族の死体と目が合ってしまった。 口を大きく開け、絶命している。 おそらく最後の最後まで死にたくないと叫んだのだろう。 片方しかない目は大きく見開かれており正面を見ていた。 見えていても、認識できていたかどうかは定かではないが。 「むきゅ…」 自分はなんて無力なのだろうと情けなくなった。 結局昨晩、洞窟内に現れたれみりゃは数えるほどだったのだが 外はこのような有様。 朝一番に出てきた自分だが まだ生存者とは一匹も会っていない。 「だれか、いるー?」 壁に近い斜面に掘られた巣穴を覗き込む。 この家庭は、独り立ちしたみょんが 友達と一緒に住んでいたかなり広い家だ。 中に誰か残っていないかと入ってみる。 例によって餡子まみれだった。 中に胴無しれみりゃでも入り込んだのだろうか。 みょん、ちぇん、まりさなどの活動的な種類が軒並み食われている。 けれどもこれは最後の意地か、れみりゃの死骸も一つあった。 みょんの『はくろうけん』に貫かれ翼は食いちぎられている。 口には餡子がついているため文字通りの死闘を演じたのが分かる。 「むきゅぅ…」 ぱちゅりーの判断には何の間違いもなかった。 これほどの被害だ。 ドスが外に出て行ったとしてもそれは無駄死にという 結果をもたらしただけだろう。 自分は最善の判断が出来た『もりのけんじゃ』として。 でもそれは小さくまとまっただけの おろかな行為だったのではないだろうか。 そんなことも考えてしまう。 それでも、自分にはそうするしかなかった。 自分には戦う力がない。 もし戦う力があるのなら 自分も仲間を守るために戦おうと思っただろうか。 そして戦う力があればそんな無茶な考えを持つことが出来るだろうか。 結局あのあと隻眼のまりさは戻らなかった。 どうなったか少なくとも今のところは分からない。 ぱちゅりーに言わせれば死骸が見当たらないのと 死亡してしまったのはイコールで繋がる。 いずれにしてもいないのだから 自分の対応は死んでいる場合と変わらない。 「まりさ…あなたはなにがしたかったのかしら」 今のぱちゅりーにはもう分からない。 いくら力を持っていてもそれを活かす術がなければ意味がない。 それがいかに強大でも単独で戦い続けることは出来ない。 ぱちゅりーは自分の弱さを知っているからこそ 強さを活かす方法が分かる。 それを知らなかった、というより弱さを捨て去ろうとした 隻眼のまりさにはそれが分からなかったのかもしれない。 「そうね。まりさは生きていたとしてももう戻れないかもしれないわ…」 自分達はこうも食い違ってしまった。 最後のチャンスはもう潰されてしまっている。 流石にそれは偶然だろうが結果が全てだ。 ぱちゅりーは帰路に着く。 いつもの道のはずなのに全く違う道。 「ぱちゅりー!?ぱちゅりー大丈夫だったの!?」 「むきゅ!?れいむ、無事だったのね!」 唯一動くれいむが寄ってきた。 ようやく生存者を見つけたぱちゅりーはれいむを連れて 洞窟へ向かった。 ――――同日、昼前―――― 「ドスー!!まりさの『ハニー』がー!!」 「ゆえーんゆえーん!!おかーじゃーん!!」 ドスの洞窟には生存者が集められていた。 精鋭のまりさも二匹しか帰って来ていない。 結局姿を見せなかった一匹は現れなかったのだ。 「ゆっくり静かにしてね!」 「どぼじでごんなごどにいいいいいいいい!!!」 「おにゃかしゅいたよおおおおおおおおお!!!」 生存者はぱちゅりー、ドス、精鋭のまりさ二匹。 あとは集落の普通のゆっくりが七匹だ。 親の口の中にいたがために生き残った赤ゆっくりもいた。 朝方皆で捜索したが結局この合計11匹しか残っていない。 ドスは結局ここで生き延びた。集落の皆を犠牲にして。 正直に言って自分は少々味方であるぱちゅりーも 敵であるれみりゃたちも甘く見ていたのだ。 自分はただのゆっくりと理解していたはずなのに 他のものには、いや、何者にも成し得ない事をしようとしていたのだ。 ぱちゅりーの言うことが全面的に正しいとは今でも思っていない。 ただぱちゅりーは出来ることは何か、出来ないことが何か それを的確に理解していたのだ。 「ゆぅ…ごはんさんあるよ、ゆっくり食べてね」 「むーしゃむーしゃ…」 「ゆぅぅぅぅ……」 貯蔵していた食料を皆に配る。 一応冬篭りに備えていた食料があるので 当面の食事には困らない。 それでもここで食べてしまえば また探しに行かねばならないわけだが。 「むきゅ!戻ったわよ!」 「ゆわーん!みんなー!!」 「れいむ!れいむが戻ってきたよ!」 「大丈夫だったれいむ!?」 ぱちゅりーが生き残りのれいむを連れて帰ってきた。 これで12匹になった。 「ぱちゅりー、大丈夫?」 「むきゅぅ…さすがに疲れたわ… ちょっと休ませて貰うわ」 「ぱちゅりー…」 ぱちゅりーは消耗しているようだった。 当然だ。昨日から全く寝ていなかったのだ。 ドスも一応捜索に出たのだが疲れたという理由で仮眠を取っていた。 ぱちゅりーは戦闘中はずっとれみりゃを警戒して起きていたというのに。 頭が上がらないとはこのことだ。 戦闘中も、今も、そして二年前でさえ ぱちゅりーは集落のため、皆のため、自分のために 完璧な思考をめぐらせていたのだ。 それに比べて自分は何だ。 二年前の戦闘ではぱちゅりーの指示がなければ死んでいた。 そして今回の戦闘でも自分はドススパークを撃っただけ。 ましてや標的になると集落の仲間達を ほとんど囮にするような形で生き延びた。 自分には何も出来なかった。 場合によっては最初から最後まで洞窟にいても 今と状況は変わらなかったかもしれない。 ぱちゅりーと違い、自分は明確な実績など 何一つ残せてはいない。 「ドス、これからどうするの?」 「皆いなくなっちゃったよ?」 「ゆぅぅ……ドスにもわからないよ…」 「どうしてぇ…?」 皆不安がっている。 自分には何も出来ない。 一番頼りにしていた隻眼のまりさも戻ってこない。 或いは、自分はドスになるべきではなかったのだろうか。 思い返せば運命に左右されてばかりの一生だった。 ドス自身は何も望んではいなかったのだ。 かつてリーダーをやっていたのも自分から望んだわけではない。 村長になったのも偶然ドスになったからだ。 自分自身がなそうとしてなしてきたものが一つでもあっただろうか。 もう、それも分からない。 が、ドスには不安はあってももう迷いはないのだ。 自分はドスとして在ることを決意しているのだ。 集落もまた立て直していくことになる。 そこに本当に自らの意思が介在するかどうかなどは知らない。 ぱちゅりーの指示を優先的に採用する以上 初めからないかも知れない。 それでもいいのだ。 そんなことは、考える余裕のあるときにすればいいのだから。 ――――同日、夕刻―――― 「ドス、いる?」 「ぱちゅりー、起きたの?」 「ええ、皆はどうしたの?」 「とりあえず皆のおうちに戻ったよ。 冬さんが来るしドスの洞窟は広くて寒いから」 「そう…」 夕刻になった集落は、多くの帰宅していくゆっくり達の話し声と 夕食を食べている家族の「むーしゃむーしゃ、しあわせー!」が 聞えてくるというのがいつもの光景だった。 「ぱちゅりー、ぱちゅりーはこれからどうするの?」 「どうするって?勿論冬さんに備えてごはんさんの……あ…」 ぱちゅりーは口ごもってしまう。 そうだ、自分には満足に狩りをするだけの体力などない。 そんな様子を知ってか知らずか、ドスが口を開く。 「ぱちゅりー、ドスはね、あの時まりさを追うつもりだったんだよ」 「………………」 「でもね。ぱちゅりーが生き残るためって言ったから ドスはものすごく頭にきたけど、それでも、生きるために我慢したよ」 「………そう」 ぱちゅりーは自分の部屋の入り口からドスを見上げる。 「でもね。まりさは戻らなかったんだよ…?」 ドスは泣いていた。 「ドス…………」 「ぱちゅりー、ぱちゅりーはまりさが死んでもよかったの?」 「そうじゃないけど…でも…」 「ドスは…ドスはどうすればよかったの? 生き残ればよかったの?逃げればよかったの?」 「………………」 「ドスは戦いたかったよ。れみりゃ達が憎かったよ。 ドススパークがなくなったならジャンプで戦いたかったし ジャンプが出来なくなったら噛み付きでも舌でも 戦える限り戦いたかったよ…」 「ドス、そんなことでは何も得られないわ」 「ううん、ドスは、逃げたから失ったんだよ…?」 「そんなこと言わないで。戦っていても失われていたわ」 「ドスは…ドスは、皆で走るのが好きだったんだ。 ドスは…ううん、まりさは、さびしがりやだったんだ。 いつもおかーさんにすーりすーりしてたよ。 でも、独り立ちするときが来て、皆と一緒に走って まりさはずっと皆と一緒にいたかったよ。 まりさはあの時のまりさ達と一緒に戦いたかったよ。 まりさは…自分だけ生き残るのは嫌だよ…」 ぽろぽろと落涙する。 ずっと我慢しようとしている涙。 失ったら、失っただけ涙を流していたのだ。 ドスの心根は、どこまでもただのまりさだった。 ――――某日、某時刻―――― そこは、とある山道だった。 別に実際に舗装された道路があるわけではない。 山道だ、というのは獣道も道だと考えるならばという話だ。 そこを、一匹のゆっくりが走っていた。 「はっはっはっはっ!」 …いや、もうそれはゆっくりではないのかもしれない。 身体は饅頭。中身は餡子。 人間の幼児レベルの知能を持ち 場合によっては群れを形成し生きることもある準生命体。 ゆっくりの定義など、実際は曖昧だ。 そこに何があるかなど、ましてや自分が何者であるかなど 明確に説明できるものなどいない。 「ふぅ…ふぅ…」 『それ』が立ち止まる。 ここはまだ山の中。 この山の中にいる限りは何処へ行っても森の中だ。 既に涼しくなってきている山の中は肌寒い。 しかも木々に遮られて日の光の届かぬ地面は冷たかった。 山頂付近に行けばさらに寒くなっていることだろう。 ゆっくりならとっくの昔に冬篭りをして穴倉の中かもしれない。 『それ』は考える。 どうしてこうなったのか。 知識もある。経験もある。分別もある。 ここまで来た道のりもきちんと覚えている。 だが、スタート地点が思い出せない。 自分は一体最初は何処にいたのだろうか。 どのような物語にも始まりはある。 その始まりの地点が分からない。 分からない、というのは不正確かもしれない。 知っている気がするのだがひどく曖昧なのだ。 自分の知っている記憶が本当に始まりなのだろうか。 『それ』は悩む。 これからどうすればいいのか。 何の因果があったのかは分からないが自分は気付いてしまった。 自分の存在の根底にあるものを。 だが、気付いたところでどうしようもないのだ。 変わってしまったのは中身だけだ。 能力も外見も存在も何一つ変わっていない。 要するに自分に出来ることも変わる前と 対して変わっていないのだ。 『それ』は想像する。 これからどうなるのか。 このままいけばただ一つのちっぽけな存在として消える運命だろう。 だが、気付いてしまったのだ。 気付かなければよかったことに。 気付いていたのはいつからだったか。 違和感を覚えたときだろうか。 変わってしまったときだろうか。 それとも、これから戻れない道を行った先だろうか。 『それ』は探す。 これからなにが出来るのだろうか。 気付いてしまったことに振り回されるのは世の常だ。 知らなければそのままでいられたものを 気付いてしまったが故に一生それを背負っていくことになる。 そしてこの変化は『知ること』『気付くこと』が 鍵となっているのではないかとも考える。 だが、それが故に気付くことが重要なのではなく 気付いた後に何がなせるかが重要なのだ。 ひょっとしたら自分以外にも気付いたものがいるかもしれない。 場合によっては自分が想像しているよりもずっと多くのものが気付き 何も出来ずに散っていったのかもしれない。 『それ』は走り出す。 これから何かをなすために。 自分は変化を求めた。 だが、その変化は決して特別な何かではなかった。 自分と同じ存在ならいつそうなってもおかしくない変化だった。 もしかしたらこれから自分が出来ること、やろうとしていることも 決して特別ではないのではないか。 そして、何かをなそうとして何も出来ないことも 予定調和として決められているのではないだろうか。 それでも『それ』は走り始めてしまった。 思い返せば、これは決して戻れぬ道ではないのかもしれない。 気付いてしまった違和感を一生隠し通して ただひとつの存在として埋没してしまってもいいのかもしれない。 それでも『それ』は走ることをやめなかった。 それが何を意味するのか。 それが何をもたらすのか。 それすらも分からずに。 自分には何も出来ないかもしれない。 それでも何かをせずにはいられない。 『魔理沙』には何も分からない。 続く 次回予告 気付いたことは本当なのか。 知らなければ良かったことなのか。 それに気付いてしまった自分は どうあるべきなのだろうか。 分からないと逃げ、知らないと言い訳し 聞こえぬと耳を塞げばいいのかもしれない。 それでも『隻眼のまりさ』は走り続ける。 意味のある、何かを求めて…。 次回 隻眼のまりさ ~第十話~ まりさの歩み!冬の山をただひた走る… 乞うご期待! あとがき またちょっと好き勝手にやりすぎたと言い訳しそうになる展開です。 それでも、プロローグに載せた『靄のかかっている部分』は 大体終了いたしましたので最終回に向けて 隻眼のまりさと共に突っ走りたいと思います。 また本作品は、私が読んだ様々なノベル作品の 影響を多大に受けています。ご了承ください。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
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『隻眼のまりさ 第二話』 17KB 群れ 続きです。プロローグからどうぞよろしくお願いします。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― まりさは、一人プライドを抱えていたのだ。 初めは本当に、ただそれだけだったのだ。 ――――某日、昼前―――― 隻眼のまりさは単身、森の中にいた。 今日の『ぶりーふぃんぐ』は ぱちゅりーから特に指示の無い日だったので 一匹で行動していた。 どうしようかと思ってドスと話すと 道路整備が終わったということなので ならば今日は一番遠くまで狩りをしに行ってみようと思ったのだ。 障害物が無く、なだらかな道を走っていた。 走るとは言ってもそれほど急いではいなかった。 実はここは以前ぱちゅりーに言われて調査をしたことがある。 ドスの道路整備をどの方向にするかを決めるための判断材料として。 そのため特に脅威は感じていなかったし実際危ない目にはあっていない。 それに変な奴が出てくれば得意のカウンターで倒してやる、と 少々思い上がったことも考えていた。 「着いた…ここがそうだ」 道路の終点があった。そこからさらに進んでみると そこには多くの食糧があった。 そこは一面の花畑だった。 「ちょっと休んでいこうか…」 ここまで移動して多少体力を使った。 せっかくだから秋の風が運んでくる花の匂いをかぎながら 休憩を取ろうと思った。 花の種や茎はゆっくりにとっての貴重な食糧源だ。 だが一番の目的は花の蜜。 ゆっくりに蜜を集めて保存することなどできないが 花を咀嚼している時、たまにとても甘い味が口の中に 広がることがあるのを知っている。 彼らにとっての一番のご馳走、あまあまというやつだ。 自分の亡き親はハチミツと呼ばれるあまあまを口にしたことがあると 聞いたことがあるが自分は存在すら知らない。 ぱちゅりーから聞いた話によれば 『とても危険な虫さんが守ってるから 自分から取ろうとは考えないほうが身のためよ』 とのこと。 ならば親はどうやって入手したのかとも思うが ぱちゅりーの知識の正確さは確かなので すでに探すのをあきらめている。 「ちょっと食べようかな…」 隻眼のまりさは手近な花に舌を伸ばす。 花の部分を引っ張って千切り、口に運ぶ。 「なかなかおいしいね」 通常のゆっくりなら 『むーしゃむーしゃ、しあわせー!』 と言う所だがまりさは言わない。 家の中ならともかく外で大声を出していれば余計なものが 集まってくるのを嫌というほど体験してきたし それをするとせっかくの食べ物を撒き散らして 量を減らすことを知っているから。 「これはどうかな?」 別の花に舌を伸ばす。 最初はただ食事のために食べたのだが こうして味見してから持って帰る餌を選定するのも悪くない。 「ん~…」 微妙だった。味が薄い。 まりさは分かっていなかったがそれは枯れかけの花だった。 植物のみずみずしさも感じないしましてや蜜の味など全くしなかった。 「こっちの花はおいしいかな?」 また別の花に舌を伸ばす。 そんな作業をしばらく続けた。 ――――同日、夕刻―――― 「遅くなっちゃったよ!!」 まりさは急いで来た道、道路を走っていた。 あの後夢中になって花を食べまくって昼寝までしてしまった。 持って帰る分の花を摘んでいたら日はすでに傾き始めていた。 帰りの時間を考えて早めに帰路に着いたつもりだが 戻る頃には日が落ちるかもしれない。 「ぱちゅりー怒るかなぁ…」 『ぶりーふぃんぐ』は毎日朝夕欠かさず行なわれる。 今からでは完全に遅刻だ。 参加するのはぱちゅりーとドスと『まりさ四天王』だった。 ぱちゅりーは四匹のまりさを見てそう呼ぶことがあった。 なんでも、強い四匹をそう言う風に呼ぶのが 『とれんでぃー』なんだそうだ。 その呼び名は決められていたのだが公然と呼ぶ者は 少なくとも幼馴染のまりさ達の中にはいなかった。 なぜなら自分達は六匹だったのだから。 「大変だよ!日が落ちるよ!」 すでにあたりは暗くなり始めていた。 日が落ちればれみりゃに襲われるということくらい 赤ゆっくりだって知っている。 まりさは一層走る速度を速めた。 「おお、ゆかいゆかい」 唐突にそんな言葉が聞こえてきた。 しかも上からだ。 「ゆぅっ!!??」 空を飛ぶ種族はれみりゃとふらんしかいない。 そう思ったまりさはとっさに戦闘体勢をとる。 複数ならば逃げるしかないが一匹くらいなら何とか応戦できる。 自分には必殺のカウンターだあるんだ、れみりゃなんて怖くない! そう思って上を見上げるとそこにいたのはれみりゃではなかった。 「ゆううう!?あんた誰!?」 「相手に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものですよ」 そんな言葉が聞こえた瞬間、木の枝の上にいたそいつが急に消えた。 「ゆゆっ!?どこ!?」 「おお、おそいおそい」 きょろきょろと辺りを見回したあと、後ろから馬鹿にしたような声。 振り返るとそこには見慣れないゆっくりがいた。 まりさ自身、そいつを見たことが無かったし誰だか分からなかった。 だが、ゆっくりの本能か、そいつがゆっくりであることだけは分かった。 「まあ、あなたが誰かなど見れば分かりますがね。 私はきめぇ丸と申します」 きめぇ丸と名乗ったその胴付きゆっくりは身体を傾けた不安定な姿勢で平然と立ち 首をヒュンヒュンと左右に振っていた。 「まりさはまりさだよ!何か用!?」 「いいえ?ただ見えたから個人的な感想を述べただけですよ? 話しかけてきたのはあなたの方だと記憶していますが」 相変わらず神経を逆なでするような物言い。 まりさはだんだん腹が立ってきて、声を荒げた。 「まりさは皆の村に帰るところだよ! 邪魔しないでね!邪魔をするなら制裁するよ!!」 「おお、こわいこわい」 そう言った瞬間またきめぇ丸が目の前から消えた。 瞬間移動ではない。ただまりさが目で追いきれないだけだ。 「ゆ?ゆゆうっ??どこ!?」 「こちらですよ」 そう言って振り向くとまた真後ろにきめぇ丸が。 そして、その手に見覚えのある帽子がぶら下がっていた。 「…ゆ?ゆゆうううう!!! まりさのお帽子返してね!!!」 帽子だけではない。せっかく集めた食料も一緒に入っている。 「じゃあ返しますよ」 シュバッと音がした。 頭には食料の入った帽子の感触。 今度は、まりさにも何が起きたのか分かった。 自分のすぐ横を走り抜けて帽子を頭に乗せたのだ。 「ゆ?ゆ?ゆゆ~~~~~!!!??」 「あなたと遊んでもつまらないですね。 そろそろお暇しますよ。 あなたも帰ったほうがいいんじゃないですか?」 そう言うと信じられない速度で木の上に飛び乗り あっという間に見えなくなってしまった。 「ゆ…ゆゆ…」 きめぇ丸との出会い。 これが、隻眼のまりさの転機となることを今は誰も知らない。 ――――同日、日没後―――― 隻眼のまりさは自宅に戻っていた。 今日集めた食糧から貯蔵分を差し引いた残りを 遅い夕食として食べている。 集落に帰ってきてドスの洞窟に行くと 皆がすでにブリーフィングを始めていた。 真っ先にぱちゅりーに怒られた。 遅れたのは事実なので素直に ブリーフィングに遅れてごめんなさいと言うと これはブリーフィングとは反対のデブリーフィングだと 重ねて怒られた。意味はよく分からなかったが。 仲間達はよかった、無事だったんだねと喜んでくれた。 ぷりぷりと怒っていたぱちゅりーも最終的には よく戻ってきてくれたわね、と言ってくれた。 もう少しで捜索隊を出すところだった、とも。 だが、隻眼のまりさはすでにそんなことは記憶の隅っこに追いやって 今日であった奇妙なゆっくりのことを思い出していた。 『おお、おそいおそい』 その台詞を思い出して再びムカッときた。 だがすぐに落ち込んだ。 あれほどの敏捷性を見せ付けられては話にならない。 自慢のカウンターを取ることもできない。 そもそも、大事な帽子をあっさりと奪われた上に あっさりと返されてしまったのだ。 カウンターを取るどころではない。 あいつがその気だったら自分に命は無かったはずだ。 にもかかわらず、こうして生きている。 「ゆぅぅぅぅぅぅ……!!」 実はこの隻眼のまりさ、足の速さにはこだわっていたのだ。 それは、ドスがドスになるよりも以前の話。 自分たちの切り込み隊長であった頃だ。 リーダーは六匹の幼馴染の中で最も足が速かったことを皆認めている。 そして、それが故に体当たりの威力が一番強いということも。 ――――二年前、某日、夕刻―――― これは、あの地獄からさらに数ヶ月前。 ぱちゅりーがこの集落にやってきた頃の話だ。 「長ー!大変だよ!リーダーが戻らないんだ!!」 「ゆゆっ!?どうして!?」 一匹のまりさが長の家に飛び込んできた。 今はまだ隻眼ではないが、例のまりさだ。 当時の長は今は亡きれいむだった。 集落で一番強いリーダーまりさの母であり、数十匹の子ゆっくり達を育てた上で 自立させるまでに至った経緯が皆の尊敬を集め、前の長に推薦されたのだ。 「早くしないとれみりゃに食べられちゃうんだねー!わかるよー!」 「そんなことないんだからね!れいむの産んだあの子は れみりゃに食べられるほど鈍臭い子じゃないよ! 必ず無事でいるはず!皆で探しましょう!」 「むきゅ!駄目よ!探しに行っては!」 ぱちゅりーが長の家の奥から出てきた。 拾われたぱちゅりーは最も子育てのうまいと言われる長の下で暮らしていた。 長は番のまりさを亡くし、子供も皆自立してしまって寂しかったので ぱちゅりーを受け入れることを快諾したのだ。 そして同時に、ぱちゅりーの知識はいずれ必ず集落のためになると。 それを活かす事ができるだけの立派なゆっくりに育て上げるのだと。 「どうしてそんなこと言うの!? リーダーは必ず生きてる!皆で助けないと!」 「だからよ!あなたたちのリーダーはたとえ れみりゃに襲われても自力で戻ってこられるわ! だけどあなた達以外のゆっくりは 今から出て行ってれみりゃに襲われたら助からないわ!」 ぱちゅりーの言うことは正しい。 まりさも言われて頭では納得した。 だが、リーダーが危険な目に合ってるかもしれない。 場合によっては動けない状況にあるかもしれないと思うと いてもたってもられない。 「だったらまりさだけでも!! 今ぱちゅりーはまりさ達以外って言ったよね!? まりさは助けに行っていいんだよね!?」 「む…むきゅぅ…」 思わぬ切り返しを受けてぱちゅりーが言いよどむ。 それを見て仕方がない、というように長のれいむが口を開く。 「分かったわ、貴方は行ってきてもいい。 他のまりさにも声をかけておくから。 でも一晩中探すとかは駄目。れみりゃが来る!危ない!と思ったら すぐに帰ってくること。いい?」 「分かったよ!!」 まりさはそれを聞くやいなや長の家を飛び出した。 ――――二年前、同日、日没―――― 「リーダー!!リーダー!!いるー!!?」 日没のすぐ後。 まりさはまだ森の中にいた。 この時間になると鈴虫が鳴き始めあたり一面が 現在は夜であるというような主張をしている。 「リーダー!!聞こえたら返事してー!!!」 ゆっくり達が『リーダー』という呼び名を使うのは極めて珍しいことだ。 おとうさん、おかあさん、おちびちゃん等は当たり前に使われる。 『長』も必ずいるとは限らないが群れがあれば決して無いとは言えない。 だが、幼馴染同士での『リーダー』という呼び名は通常使われることは無い。 「リーダーーーーーーーーーーーーー!!」 あらん限りに大きな声を出す。 「はあっ…はあっ…はあっ…」 少し立ち止まって休む。 大声で叫び続けて、思い切り走り続けて、まりさは体力が底を突きかけていた。 リーダーを心配する思いから体力配分など考えずに探していたのだから当然だ。 「リーダー…」 少しかれた声でつぶやく。 幼馴染六匹の中で最も足の速かったリーダー。 自然、移動する時はいつも皆の先頭に立っていた。 自分は二番だ。 リーダーの背中を見失わないように そして誰にも二番を渡さないように ただひた走った。リーダーの背中を追って。 追い抜けたことは一度も無い。 それでもよかった。 リーダーは自分が一番であることを特別なことではないと言っていた。 空を飛ぶれみりゃの速度には敵わないし 結局六匹全員がついてこれているのだ。 狩りや戦いでは皆の力を合わせなければならない。 だからこそ自分が速ければいいのではなく 皆が、全員が速くなれればいいのだと。 だからこそまりさは追いつこうとは思っても 追い抜けなくてもいいと思っていた。 一番になるのは特別なことじゃない。 皆で走れることが特別なのだと。 「リーダー…」 そしてこうも言っていた。 皆で走れることが重要なんだ。 だから一人で走るな。 たとえ誰かのためであっても今いる皆と走ることを考えろと。 それが意味することをまりさは今気付けた。 「リーダーぁ…!!」 自分はこれ以上走ると疲れて集落に戻れなくなる。 それに長と約束したんだ。 危ないと思ったら戻れと。 まりさは涙が止まらなかった。 今ここで前に進めば自分は生か死だ。 でも戻れば高い確率で命が助かる。 でもリーダーは? 少ない可能性であっても助けに行くべきじゃないか? 今、リーダーはあと少し進んだ先で助けを求めているんじゃないか? そんなことは分からない。 分からないから、戻るしかない。 まりさは歯を食いしばって集落の方向に向かって走り出した。 リーダーではなく、約束を守るために。 ――――二年前、翌日、朝方―――― まりさは沈んだ思いのまま眠りについて次の朝を迎えていた。 眠らずにリーダーを待とうと思ったが疲れていたので眠ってしまった。 そして朝日を見たまりさはすぐに長の元へ向かっていた。 「長!!長!!リーダーは!?」 長の家の前で大声を出す。 出てきたのは長ではなくぱちゅりーだった。 「戻っていないわ…」 「………っ!!」 まりさは歯噛みする。 しかし取り乱すことは無かった。 予想できた結果なのだから。 「まりさ、あのね…」 「うるさい!!」 「むきゅ!!」 大声を出してぱちゅりーを黙らせる。 八つ当たりではあるが、今のまりさには我慢ができなかったのだ。 「まりさ!聞いて!」 「何!?」 再び大声を出す。 一瞬びくっとしたぱちゅりーだが再び口を開く。 「長からの伝言よ。 日が昇ったらあなた達のリーダーを探しに行ってもいいって。 勿論日が沈むまでだけど…」 「…わかったよ、ありがとう」 まりさは背を向けて歩き出した。 今から探す?気休めもいいところだ。 夜間はれみりゃやふらんが飛び交ってまりさ達を探している。 奴らだって生きるためなのだ、必死で探しているだろう。 そして一匹でいるところを見つかれば、助かるはずが無い。 今から探すことができるのは、リーダーではなくリーダーの死骸だ。 そんなことを考えながら昨日行った森へ もう一度探しに行こうと考えいていると 「皆ー!!ドスだ!!この群れにもドスが来てくれたよー!!!」 「…!?」 群れのちぇんがそんなことを言いながら走ってきた。 まりさはぱちゅりーと顔を見合わせると ちぇんが来た方向へと走っていった。 「みんなー!ただいまー!!」 「…え?」 まりさは思わず間抜けな声を出してしまった。 そこにいるのはまごう事なきドスだ。 体長は2メートル前後。体重は数十キロに及ぶだろう。 だが問題は、その見たことがある黒いトンガリ帽子。 「リー…ダー……???」 「まりさ!!うん!!そうだよ!!リーダーだよ!! まりさもドスになれたんだよ!!」 ――――二年前、同日、夕刻―――― まりさ達のリーダーを探しに行っていた皆も戻ってきて リーダー帰還とドスの登場にお祭り騒ぎとなっていた。 ぱちゅりーが人間の世界で仕入れていた情報によると ドスになる条件の一つに屋外で一晩寝るというのがあるそうだ。 家の中にいては巨大化できない。それはある種理解できる。 そしてもう一つ。 身体能力が十分備わっていること。 これも理解できる。 自分達幼馴染六匹は群れの中で屈指の実力者だったし なんといってもリーダーはリーダーだ。 村の中で一番強かったと言ってもいい。 他にも条件があるかもしれないが、人間にも 全てが分かっていなかったそうだ。 ぱちゅりーに言わせれば、れみりゃに襲われなかったことも含めて 運がよかっただけかもしれないと言っていたが まりさとしては最強がより強くなっただけなので それほど疑問を持たなかった。 その後あれよあれよという間にリーダーは長に祭り上げられた。 元村長のれいむの推薦もあり、トントン拍子に話は進んだ。 でも、件のまりさはちょっと複雑な気持ちだった。 自分が背中を追い続けてきたリーダーは皆のリーダーになってしまった。 リーダーがドスになったことが嬉しくないはずがない。 村長になったことも祝福すべきことだ。 ドススパークで岸壁に穴を開けるのには自分だけでなく皆が狂喜乱舞した。 でも、一つだけ。 新しくできたドスの家に向かうリーダーと一緒に走ったら あろうことか、追い抜かしてしまったのだ。 え?と思って振り返りどうしたの、と聞いてみると 照れたような、困ったような笑顔を浮かべながら 大きくなって跳ねるのが億劫になった、と これからはまりさが一番前を走るといいよ、と言っていた。 まりさは、それがショックだった。 一番になることは特別なことじゃないというのはリーダーの言葉だ。 でもリーダーが一番であることは、やはりまりさにとっては 特別なことだったのだ。 ――――元の日付、同日、深夜―――― あれから、まりさは走る練習を繰り返した。 体当たりを磨きに磨いた。 リーダーの言葉はいつだって正しかったけど やっぱりまりさにとって一番はリーダーであって欲しかった。 そしてリーダーを追い抜いてしまったことで一つの目的ができた。 それは誰にも抜かれないこと。 今の自分が一番速い存在であること。 もし、自分が追い抜かれてしまえばその時はリーダーが追い抜かれる時だ。 少なくとも二番目に足の速かった自分が追い抜かれない限り あの時のリーダーは最速のままだ。 しかし、その誇りもあっさり砕かれてしまった。 れみりゃは別だ。確かに直線移動は多少速いかもしれないが動作は遅い。 自分にカウンターが取れるくらいなのだから。 だがあいつは? あんなに速いなんて反則だろう。 走って走っていつかはれみりゃより速く走ってやるなんて思いはあったが あそこまで速く走るなんて想像もつかない。 だがあいつもゆっくりだ。自分にもできないはずがないんだ。 自分には何が足りないんだ? 練習?冗談じゃない。自分は走る練習を怠ったことなどない。 才能?冗談じゃない。自分はともかくドスになれたリーダーが才能に優れていないはずがない。 食料?冗談じゃない。この森で取れるものは殆ど食べたことがある。 じゃあ何が足りないんだ。 あのきめぇ丸とか名乗った奴は胴付きだった。 胴があればいいのか?でも、空を飛んでいた以上 あの長い足があるかどうかはあまり関係ないのだろう。 再びあいつの顔が浮かんできた。 腹が立つ。記憶の中のあいつはとてもゆっくりした顔をしていた。 ……………………………ゆっくりだって? 冗談じゃない。自分は今速く走る方法を考えているんだ。 ゆっくりしている暇などない。 まて、自分達は狩りをするのも番を見つけるのもゆっくりするためだ。 いや、ゆっくりしていたらあいつだけじゃない。れみりゃにだって食われるかもしれない。 ゆっくり?ゆっくりってなんだ? そこまで考えたとき、隻眼のまりさの頭の中にあるパズルのピースが 例の違和感のあった隙間に、ぴったりはまるのを感じた。 続く あとがき 過去パートばかりでなかなか先に進めませんね。 決して急ぐ意味もないんですが。 あと第一話のところで『プロローグを見てください』と 書くのを忘れてしまいました。なんてこったい! それになんかいまひとつ人気ないですねー。 結構ここで書こうとしているテーマ気に入っているんですが…。 まあそんなこんなで皆様のお目汚しになっているかもしれませんが 非公式の感想掲示板などでもいいので悪いところを指摘してもらえれば もっと面白くなるかもしれませんし 再生数が伸びれば私もフオオオオオオオオオオオッ!!と やる気が出るのでお時間があれば応援していただければ幸いです。 催促するのもどうかとは思いますが。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 anko3053 ゆっくり駆除業者のお仕事風景2 前編 anko3054 ゆっくり駆除業者のお仕事風景2 後編 anko3060 ゆっくり駆除業者のお仕事風景3 anko3061 隻眼のまりさ プロローグ anko3075 隻眼のまりさ 第一話 anko3084 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 幕間
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『隻眼のまりさ 第四話』 21KB 群れ ようやく序盤終了というところです。 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第四話~ ぱちゅりーの葛藤!その想いの向かう先には… ――――某日、朝方―――― ぱちゅりーは早起きだ。 基本的に体力のない方だがそれが故に せめて模範的な生活を送ろうと思っていた。 ドスのいる洞窟に横穴を掘って住んでいて 集落の参謀として常に知恵を絞ってきた。 ぱちゅりー自身そのことを誇りに思っているし 皆も自分の知恵を信じて働いてくれるようになった。 ぱちゅりーだけではの知恵を形にすることができない。 だからこそ、自分の知識を役立ててくれる仲間を 守りたいと思っているのだ。 「おはよう!ぱちゅりー!」 「あら、今日も早いのね。おはよう」 最近隻眼のまりさは朝起きるのが早くなっていた。 それまではいつも自分が最初に起きて 『ぶりーふぃんぐ』のために集まってきた皆を迎えながら 話す事を考えていたのだが。 まあ別に懸念することは無い、とぱちゅりーは思った。 このまりさが自らを鍛えるために早起きしているのは知っていたし ドスを除けば集落で一番強いかもしれないのだ。 自分では頭が上がらないだろう。 「おはよー!ゆっくりしていってね!!!」 「むきゅ!いきなり大声出さないでよね!!」 「ごめん!今日はいい天気だね!すごくゆっくりできるよ!」 上機嫌なまりさがブリーフィングのためにやってきた。 「まりさも!おはよう!ゆっくりしていってね!」 「おはよう」 そしてぱちゅりーは、なんとなく気付いていた。 隻眼のまりさが『ゆっくり』を口に出すことを避けているのを。 「まりさ、昨日は大変だったわね。 ゆっくり眠れた?」 「よく眠れたよ。大丈夫」 やはり。 『ゆっくり~した?』と聞けば普通は『ゆっくり~した』と答えるものだ。 「皆集まったよ!」 「ドスはまだなの?」 「まだ寝てるみたいね…全くいつもいつも…」 しかし幸いというべきか 人間の知識を多く吸収したぱちゅりーは理性的な思考ができるため どうしてなのか聞くことをしない、という判断ができた。 別に今のところは実害はないし、万が一この隻眼のまりさが 『ゆっくりしてないゆっくり』などと言って追放されたりでもすれば大きな損失だ。 自分以外の者に話せば『どうしてゆっくりしないの?』とか 聞きかねないので黙っておくことにした。 ドスの寝床にたどり着くと、ぱちゅりーはあらん限りの声で叫んだ。 「ドスー!!起きなさあああああああああああああい!!!」 「ゆぅーーーーーーーーーーー!!!???」 ドスはいつも通りビックリして飛び上がる。 普段あれだけジャンプが面倒だというドスが飛び上がるのだから その威力は推して知るべし。 身体が弱く、咳き込むことの多いぱちゅりー種からは考えられないことだが。 「ぱ、ぱちゅりー、ごめんね。 すぐ起きるからね…」 「もう、しっかりしてよね」 ぱちゅりーは口を尖らせながらも、気持ちはとてもあたたかかった。 実はドスに恋心を抱いているのだ。 ドスになる前は強いまりさ種としか思ってなかったし ドスになった後も頼りになる長、程度の認識しかなかった。 だが、前村長が亡くなってドスと一緒に暮らすようになり そのたくましさやとてもゆっくりした性格 そして戦闘の時だけ見せる凛々しい顔などにすっかり惚れ込んでしまった。 今ではこの一つの番のような共同生活に幸せすら感じている。 「もう皆集まってるから、早く来てね!」 「ゆっくり理解したよ…」 寝ぼけ眼でのそのそと顔を洗おうとするドスを やれやれという表情で見ながらも ぱちゅりーは上機嫌で皆の元に戻って行った。 ――――同日、昼前―――― 「ぱちゅりー、これはどうかなぁ?」 「むきゅ、良さそうね。拾っておきましょう」 「分かったよ」 ドスが河原に転がっていた石の一つを拾う。 「こっちはどうかな?」 「ちょっと小さすぎるわね…」 「うーんそうか」 現在ドスとドスの帽子に乗っているぱちゅりーが やっているのは緊急用バリケードに使う石の選定。 成体ゆっくりより一回り大きい石の収集だ。 「む~。地面がじゃりじゃりしててゆっくりできないよ…」 「そこは我慢するしかないわ。 石が一番いっぱいあるのはここだもの」 通常、巣には木の皮や枝などをドアとして入り口を塞ぐ習慣がある。 だがその程度の扉では偽装効果は多少あるが強度はないに等しい。 捕食種のみならず通常種でもその気になれば突破できる程度の物。 同時に通常種に撤去できなければドアとして機能しないのだが。 が、現在集めている石はそのドアに使用するために用意するものだ。 成体ゆっくりよりも大き目の石は捕食種であろうと通常のゆっくりに動かすことは困難。 破壊するなど逆立ちしても無理だ。 だからこそ、ドスにしか動かすことのできないこの石で 各所にある無数の巣穴を塞げばそこは立派なシェルターになるのだ。 「そろそろ重いよ~」 「むきゅ、じゃあ一旦戻りましょうか」 成体ゆっくりよりも大きい石を三つも四つも持ち歩くのは楽ではない。 収集も、設置も、そして撤去もドスにしかできない仕事だ。 同時にこれは、ドスが戦闘で死亡、或いは再起不能となる負傷をしてしまえば 巣穴を塞いだゆっくりは脱出が困難になってしまうという側面もある。 だがぱちゅりーとしてはドスを信じているし そうしなければならないほどの懸念があったのだ。 ――――同日、昼過ぎ―――― 「じゃあこの家はこれでいいわね」 「大丈夫よ。これでありすとまりさの家は安全ね!」 集落に戻ってきたドスとぱちゅりーは石を 各家庭に一つずつ配っていた。 れみりゃが襲ってくるのはもっぱら夜。 石を使って中に引きこもってしまえば中は安全。 そう言うと皆喜んで石を巣の近くに置いていた。 中にはれみりゃの事を馬鹿だの弱いだの言って 調子に乗っている個体もいたがぱちゅりーは無視した。 ぱちゅりーは実はこのバリケード作戦の本意を誰にも話していない。 実際のところ戦闘が始まってしまえばドスがそこらじゅう回って 石を動かしているような暇など一瞬たりともない。 このバリケード設置の意味は『戦闘員以外を外に出さないこと』だ。 二年前の大戦の中ではっきりしたことは れみりゃが来た、という事実を怖いもの見たさというか 確認のために家からわざわざ出てくる奴が多発したのだ。 なお悪いことに家の中で引きこもっていれば被害は最小限なのだが 外へ逃げる、という選択肢を取った固体が多くいるということも 犠牲者を増大させる要因になっていた。 ゆっくりは恐怖に煽られるとしばしば恐慌状態に陥る。 騒ぎ立てて好き勝手に動き回ってしまうのだ。 実際戦闘状態に陥った時、戦闘はまりさ四匹とドスに任せたほうがいい。 その間巣の中に引きこもっていてもらわないとドススパークの邪魔になるし 繰り返すが外で動き回っていれば被害が増える。 それゆえに『巣の中は安全』ということを錯覚でもいいので 覚えこませた上で外に出る数が減ればそれでいい。 勿論恐慌状態に陥った連中にどこまでこの話を遵守するだけの 余裕があるか分からないが ぱちゅりーとしては打てる手は全て打っておきたかった。 「ぱちゅりー、この石はどうするの?」 「え?ええ、もう石を設置していない家はないわね。 とりあえず予備として洞窟に保管しましょう」 「ゆっくり分かったよ」 石を配り終えた二匹は巣に引き上げていく。 ――――同日、夕刻―――― 「じゃあ今日のお仕事はここまでね」 「ゆっくり帰るよ!」 「また明日ね!」 四匹のまりさ達は各々の家に帰っていった。 「ぱちゅりー、まりさ達もごはんにしよう」 「ええ、そうね」 ドスが保管庫から貯蔵された餌を取り出す。 ドスの収集量はサイズに比例して多い。 今日は石を集めるために餌を集めていないため貯蔵の中から餌を用意する。 貯蔵量が多いし重要な物資も保管しているため ドスにしか取れないように高めの位置に横穴を空けてある。 飛行能力を持たない通常種ならばかっぱらっていくこともできないだろう。 「むーしゃむーしゃ、しあわせー!」 ゆっくり特有の食事方法。 もっとも、このドスは年齢的にこの食事方法が よろしくないことを知っている。 咀嚼して口の中が空になってから『しあわせー』を言う。 これで被害は最小限になる。 「むきゅ…」 ぱちゅりーは違う。 元飼いゆっくりであり、同時に元金バッジの名残で この常套句を言わないように教育されていた。 「むーしゃむーしゃ、しあわせー!」 ぱちゅりーは台詞どおり幸せそうに食事するドスを見て 幸せを感じていた。 本当に、こんな幸せな日々がいつまでも続けばいい。 自分の懸念が現実になることなどないほうがいい。 ぱちゅりーは、全ての始まりであった 二年前の夏の終わりを思い出していた。 ――――二年前、某日、昼過ぎ―――― 「おにいさああああああああああああん!!! まって、まってよおおおおおおおおおお!!!」 「うるせぇってんだよ!!ついてくんな!!」 「むぎゅ!!……エレエレエレ」 軽く蹴飛ばされて中身を吐いてしまうぱちゅりー。 「まったく…機械音痴がパソコンなんて買うもんじゃなかったな…」 「ごめんなさい!ごめんなさい!! ぱちぇが悪かったです!!!」 ぱちゅりーの飼い主は浪人生だった。 高校生になって下宿するようになって、そのまま大学受験を 受けたのだが落ちてしまった。 何とか両親に浪人を認めてもらった彼は勉強に明け暮れる日々。 夏休みのシーズンを迎えてストレスは最高潮に達していた。 「建武の新政をしたのが後醍醐天皇だぁ!? おめーがそれを答えたからなんだってんだよ!! 勉強ってのは分からんことが分かるようになるためにするモンだろうが!! いちいち口出ししてくんじゃねーよブァーーーーーーーーーーカ!!!!」 「ごめんなさい!!もう『おべんきょう』の邪魔しませんから!! ぱちぇを捨てないでええええええええええ!!!」 彼は自分からぱちゅりーを買ったわけではない。 受験のストレスで参っているのではないかと下宿先に やってきた母親が置いていったのだ。 母がゆっくりを飼うことが上手なのは知っていた。 そしてこのぱちゅりーは身体が弱く大人しい上に 通常種としては数が少ないためか頭がそこそこいい。 初心者向きと言われていたのだが…。 (全く…金はかかるくせにかわいくもねぇし パソコンで好き勝手やるし、お袋の義理立てでも飼わなきゃよかった) 「おにいさん!!おにいさあああああああああん!!!」 ぱちゅりーは決してゲスではなかった。 だがパソコンのことをよく知らない自分だが ぱちゅりーにパソコンを教えると瞬く間に自分より詳しくなってしまった。 そして、捨てることの決定打になったのは ぶつぶつ言いながら試験の過去問をやっていた自分に ネットで知った知識をもって答えを言うこと。 そしてあろうことかカードを勝手に使って課金サイトにアクセスしてたことだ。 「おにいさん!!まっでよおおおおおおおおお!!! むじじないでええええええええええ!!!」 森の入り口に放り出され、ついに飼い主は黙って去ろうとしている。 ぱちゅりーはあらん限りの声で止めようとしたが 最終的には自転車に乗って行った彼を見失ってしまった。 「む…ぎゅうぅ…むぎゅぅぅ…………」 ぱちゅりーは力なく立ち止まる。 無意味に知識があるから知っている。 捨てられたゆっくりの末路を。 ただでさえ身体が弱いぱちゅりー種だ。 このまま行けばのたれ死ぬか、駆除か。 最悪、虐待鬼意山に捕まって生き地獄を味わう可能性もある。 「む………きゅぅぅぅぅ……………」 絶望したぱちゅりーはその場で気絶してしまった。 ――――二年前、同日、夕刻―――― 「起きて!ぱちゅりー!起きて!! 「む………きゅう?」 ぱちゅりーは何かに呼ばれて目を覚ます。 しばらくしてから何とか目が見えるようになってきた。 「むきゅう……ここは…?」 「ぱちゅりー、大丈夫?」 「……?おにいさん?おにいさんは?」 横にいたのはまりさだった。 野良は見たことがあったが完全な野生のゆっくりは初めて見た。 「おにいさんどこ!?おにいさん!?」 「ぱちゅりー、もしかして飼いゆっくりだったの?」 「だった、じゃないわ!ぱちゅりーは飼いゆっくりよ!」 「ぱちゅりー……」 「むきゅううううう!!!………エレエレエレ」 「ぱちゅりー!?」 ショックから再び中身を吐いてしまった。 それを見たまりさはそこらから食べやすそうな草を集めて ぱちゅりーに差し出す。 「むきゅ……?雑草なんてだべれないわ…」 「食べなきゃ駄目だよ!中身吐いたからごはん食べないと死んじゃうよ!」 「うううぅぅぅ…」 理屈では分かっている。 だが腐っても元飼いゆっくりだ。 面倒くさがりな飼い主とはいえ与えられていたのはゆっくりフードだ。 そこらへんの雑草とは比較にならない。 それでも、とぱちゅりーは舌を伸ばし、口に含む。 「むぎゅ…!に…にぎゃいぃ……」 「吐いちゃだめだよ!食べなきゃ!」 「むぎゅううううぅぅぅぅ……!」 何とか飲み下した。 野生のゆっくりが普段何を食べているかも知っている。 それでも、これほどまずいとは思わなかった。 数十分かけてなんとかある程度の量を食べ さらに数時間休憩して何とか動けるようになった。 動けるようになったのを確認するとまりさは ぱちゅりーを自分の集落へ案内した。 これが、いずれドスになるリーダーまりさと ぱちゅりーの馴れ初めであった。 ――――二年前、同日、日没―――― 「おかーさ、じゃない。長ー!長ー!!」 「どうしたの?もう寝ないとれみりゃが来るよ?」 ぱちゅりーを連れて集落へ着く頃には すっかり日が落ちてしまっていた。 それでも、母であり長であるれいむにこのことは 相談しなければならない。 「ぱちゅりーが、飼い主さんに 捨てられちゃったんだって!どうしよう?」 「むきゅぅ…」 ぱちゅりーはリーダーまりさの後ろに隠れて長と対面。 このまりさはたまたま親切だったが 野生の群れにはレイパーやゲスが現れ とても危険だとぱちゅりーは思っていた。 「そうなの?大丈夫、ぱちゅりー」 「むきゅっ…」 「大丈夫だよぱちゅりー。長はとってもいいゆっくりだよ!」 まりさを中心にれいむとは反対側に移動する。 だが、まりさが横に移動したため遮蔽物がなくなり 正面かられいむと向き合った。 「怖がらなくてもいいよ。 ぱちゅりーはこれから、れいむといっしょにゆっくりしようね」 「むきゅ…?いいの…?」 「れいむにはもう子供も番もいないから これからはれいむの子供になって一緒に暮らそう」 「…?ぱちゅりーには、お母さんはいないわ」 「いいの。これからはれいむがぱちゅりーのお母さん」 ペットショップで生まれたぱちゅりーは 親の顔を知らずに育った。 だが家族というものを概念的に捉えていたぱちゅりーにとって 母親になる、という意味がよく分からない。 「ぱちゅりーには、飼い主さんがいたんだよね?」 「…うん」 「だかられいむが、これからその飼い主さんに代わって ぱちゅりーに色々教えてあげる。 ゆっくりなんだから、ゆっくりしなきゃ、ね?」 れいむはぱちゅりーに寄り添うとすーりすーりしてあげた。 ゆっくりにとっての最高の愛情表現であり 冷たかった飼い主からは得られなかった温かみだ。 「む…むきゅうぅぅ…うう… うわああああああああああああああん!」 「ゆゆゆ。ぱちゅりー、ゆっくりしていってね!!!」 ぱちゅりーは泣いた。 ペットショップでの辛く厳しい金バッジ試験。 餌はもらえたけどほとんどかまってもらえなかった飼い主。 そんな苦労を積み重ねてたどり着いた先は ぱちゅりーにとって最高のゆっくりプレイスだった。 その後ぱちゅりーは村長のれいむの下で暮らしていた。 食べ物は馴染むまで少々時間がかかりそうだったが 自分を拾ってくれたリーダーまりさ、長れいむを始めとした 皆がぱちゅりーに親切にしてくれた。 その恩に応えるようにぱちゅりーは 人間の世界で手に入れた様々な知識を披露した。 草花を腐らせないためには 穴を掘るときの道具について 昆虫が持っている死角。 ただ興味本位で集めていた雑多な知識だったが ぱちゅりーは通常のゆっくりを遥かに凌ぐ知識量と それを活かすだけの思考力と応用力、柔軟性を兼ね備えていた。 瞬く間に集落の生活レベルは向上し 皆から日常的に質問攻めにあう毎日になっていた。 そんな日々が一度、大勢のれみりゃたちに脅かされたが ぱちゅりーはドスと一緒にいたおかげで何とか生き延びた。 ――――二年前、某日、某時刻、れみりゃ襲撃から数週間後―――― ある日、四匹の精鋭まりさの一匹があるものを拾ってきた。 「それは、『ほうたい』ね。 人間さんが怪我をした時に使う物よ。 ゆっくりには使えないと思うけど…」 「ゆうう…そうなんだ」 「!…でも、面白い使い方ができるかもしれないわ!」 「本当?」 ――――二年前、数日後、昼前―――― 「…ん?」 そこにいたのは山菜取りに来ていた老人だった。 そして山の奥のほうからゆっくり達が来るのが見える。 「また来たってのか…餡子脳め…」 老人はゆっくりを単なる害獣としか考えていなかった。 一週間前にもここでゆっくりを潰したばかりだったのに 近くに群れでもあるのだろうか?と考えていた。 「わざわざ殺されに…」 「ゆゆっ!!?待って!!白旗よ!!」 「…はぁ?」 やってきたのはまりさ種が数匹とれいむ、ぱちゅりーが一匹ずつ。 気になるのは、先頭のまりさが妙なものを咥えていた。 それは木の棒に包帯を巻きつけたもの。 確かに、一見すると白旗に見えなくもない。 「ぱちゅりー達は話し合いに来たの! 『みつぎもの』として松茸さんを持ってきたわ! 話を聞いて!!」 「…なんだって?」 ついてきていたまりさ種が帽子の中から何かを取り出す。 確かにそれは松茸だった。 ぱちゅりーの作戦はこうだ。 まず、人間に接触する。 この時、できれば一人で、年老いていればなお良い。 攻撃してきても散り散りに逃げればやられる数が最小限ですむからだ。 そして白旗。 ぱちゅりーは人間はゆっくりの特異な行動に目を見張ることが 多いようだ、ということをネットの書き込みなどから感じていた。 ただ単に話を聞いて、というよりは効果があると思ったのだ。 三つ目が貢物。 人間が松茸を法外な値で取引しているのを知っていた。 甘くないこのキノコはゆっくりにとってはさほど必要のないものだ。 人間に渡すのにこれほど適したものはない。 「人間さん!ぱちゅりー達は人間さんの村には絶対に行きません! だから村に行ってぱちゅりー達と『ふかしんけいやく』を 結ぶように言って欲しいんです!!」 「あぁ?何で俺がそんなことを」 「その代わりぱちゅりー達は毎年秋になったら 松茸さんを人間さんに渡します! 場所は集落の皆が知っていますがとても遠くにあります! その遠くから出来る限り松茸さんをとってきますから どうかお願いします!!」 老人は松茸を手に取ってみた。 確かにそれは松茸だった。 「集落の方にはもっとあります! ぱちゅりー達と『ふかしんけいやく』を交わしてくれれば 取った松茸さんは全部人間さんに渡しますから!!」 「ふ~ん…面白いことを言うな、お前。分かった。 町長に…いや、俺達の長に話しといてやるから。約束はできんぞ」 「あ、ありがとうございます!! 一週間後、またここで会いましょう!! 松茸さんの用意をしておきますから!!」 それから一週間後、協定が結ばれた。 勿論文書や社会的責任のない口約束だが 有益な約束である限りそう簡単に破られることはないだろう、と ぱちゅりーはとりあえずの安心を得た。 なぜなら、この協定にはもう一つの意味があるのだから。 ――――元の日付、翌日、某時刻―――― 次の年の秋からは松茸だけでなく テングダケやトリカブトなどの毒キノコも取引材料になっていた。 薬が転じれば毒になる、逆もまた然りということを 覚えていたぱちゅりーは人間に提案してみたのだ。 そしてそれとは引き換えに虫食いなどの原因により 売り物にならない野菜類を交換条件としてもらっている。 「よし、饅頭共、とりあえずこれはくれてやる。 また持って来いよ」 「ありがとうございます!!ありがとうございます!!」 ひたすらに頭を下げた。 この取引でぱちゅりーは卑屈な態度を取る、ということを覚えた。 周りには無表情で人間から受け取った野菜類を運ぶ集落のゆっくり達が。 事前に絶対に言葉を発しないこと、と口をすっぱくして伝えてある。 人間は明らかにゆっくりを見下している。 だが、それは同時に人間とゆっくりの絶対的な力の差の表れでもあるのだ。 反抗的なことを言えばそれをきっかけに、或いは口実に 何をされるか分かったものではない。 もっとも、いつもこのような人間が来るわけではない。 取引に来る人間は親切だったり尊大だったりと様々だ。 今回はハズレを引いたらしい。 人間が立ち去るのを確認した、と斥候のまりさが戻ってくると ようやくといったように皆が喋りだす。 「ふううううううぅぅぅ~~~~~!」 「怖かったよーーーーー!!!」 そしてそれを合図にしたのか、上の方からドスがやってきた。 「皆、お疲れさまー!」 「ドスー!!」 「長ー!!」 「じゃあ、お野菜さんをゆっくり運ぶよ!」 体の大きいドスは野菜の運搬役だ。 他のまりさ達も運ばないわけではないが積載量が違う。 ドスは舌で拾い上げては帽子の中にしまっていく。 「むきゅ、今回の分もなかなかね。 食べ物の少ない越冬中にはいいご馳走になるわ」 「うん。今年も何とか乗り切れそうだね!」 「やっほー!」 ドスは上機嫌で取引の収穫を回収していく。 他のゆっくり達も先ほどの人間の侮蔑もどこへやら、といった具合に はしゃぎまくっている。 「じゃあ、皆帰ろう、ぱちゅりーも」 「ええ」 回収を終えると最後はぱちゅりーを舌で持ち上げ帽子に乗せる。 皆も思い思いに集落へ足を向け始めた。 道中、ドスがぱちゅりーに話しかける。 「ねえぱちゅりー。やっぱりまりさも『とりひき』を見たいよ」 「駄目よ。ドスは最高戦力だからいざとなったときに 人間さんをドススパークで狙撃してもらわなきゃ」 「でも、それなら近くにいても撃てるよ?」 「確かにそうだけど、ドスは強いから 人間さんに見つかったら駆除されちゃうわ」 「じゃあ、ドススパークを撃ったら一緒じゃないの?」 「いざという時のため。撃たないのが一番いいんだから。 長なら、一匹や二匹の犠牲は目をつぶらなきゃ」 「でもそれじゃあ、ぱちゅりーが一番危ないよ!」 「ぱちゅりーはいいのよ。 もう皆、ぱちゅりーの知識を十分知っているでしょう? ぱちゅりーがいなくなっても皆やっていけるわ」 「そんなの駄目だよ!ぱちゅりーがいてくれなきゃ ドスは皆を守れないよ!!」 「…………………」 ぱちゅりーはその言葉が嬉しかった。 ドスは、自分を必要としてくれているのだから。 でもその言葉は辛かった。 自分の知識はあくまで『皆』を守るためなのだから。 ぱちゅりーは『皆』のうちの一匹ではなく ドスにとっての『特別』になりたかったのだ。 でも、それは叶わない。 前村長のれいむも、長になったときには番がいなかったと聞く。 長は、皆に公正であるために番を持たないのが通例だった。 それはこのドスでも同じ。 それ以前に、体格差からすっきりー!!することもできないし ただでさえ体の弱いぱちゅりーは 生活面において全面的にドスに頼りっきりだ。 これでは、番になるなど夢のまた夢だ。 だからぱちゅりーは、自分の知識が続く限り ドスを助けて生きたいと思っている。 自分がドスのそばにいられるのは知識があるから。 ドスが必要としているのはぱちゅりーの知識だけなのだから。 そして、もう一つ。 ぱちゅりーは一つの危機感を常に持っていた。 例のれみりゃ襲撃事件。 それは、飼いゆっくりでなければ知らないこと『加工所』の存在だ。 ずっと以前から気にはなっていた。 ゆっくりを食用として飼育する施設。 ならばれみりゃやふらんだってゆっくりだ、あそこに大量に飼われていてもおかしくない。 あの襲撃は加工所がれみりゃを逃がし わざと駆除目的で集落を襲わせたのではないだろうか? ゆっくりの集落は人間から見れば小さく、発見が一番面倒と聞く。 ならば大量の捕食種を放てば集落を見つけて壊滅状態に追い込める。 場合によってはれみりゃがそこに住み着けばれみりゃは残るが 圧倒的に数の多い通常種の数は激減する。 元々ゆっくりを絶滅させるなど不可能に近いのでそれで十分だ。 だからこその不可侵協定。 この推測が正しければ少なくとも向こうから一方的に 協定を破らない限りれみりゃの襲撃はないはずだ。 これが本当に事実なのか今のぱちゅりーに知る術はないが。 ぱちゅりーは常にそんな危機感や焦燥感、寂寥感などと 戦い続けながら生きている。 そして、ぱちゅりーがこのような状況下に身を置く限り 完璧な幸せなど訪れないことを自分自身が一番よく分かっていた。 続く 次回予告 様々な思いが交錯する集落で隻眼のまりさは多くの問題に思い悩んでいた。 自分自身が特別な存在になることと皆と一緒にいることの矛盾。 さらにはレイパーありすに対してのみ発動した渾身の体当たりが練習では一度も出ないことに。 そしてそんな思惑とは関係なく、集落に迫る捕食種の影。 まりさが得たものは、まりさが求めるものは一体何処にあり、何処へ向かうのだろうか…。 次回 隻眼のまりさ ~第五話~ まりさの戦い!その力は誰がために… 乞うご期待! あとがき さて、ここまで来るともうお気づきの方もいるかもしれませんが 実はこのシリーズ、主人公はドス、ぱちゅりー、隻眼のまりさの三匹です。 ようやく三匹の過去パートが終了し物語が本格的に動き出します。 彼らが様々な思いで現実に立ち向かい、戦っていく様をどうか応援してやってください。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景
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『隻眼のまりさ 第十話』 17KB 次の投稿は少々間が開くと思います 初めましての方は初めまして 他の作品を見てくださった方はありがとうございます。 投稿者の九郎です。 タイトルどおり前作の続編です。 ――――――――――――――――――――――――――――― ~第十話~ まりさの歩み!冬の山をただひた走る… ――――某日、朝方―――― 既に寒くなった冬の山。 そんな中単身山を移動する者がいた。 通常のゆっくりなら食料のあるなしかまわずに 冬篭りをして外に出いてるはずがない。 今では雪がちらついている。 積もりはしないようだが寒さを感じさせるには十分で 『それ』は震えながら移動していた。 それでも、雨が降るよりは雪が降るほうがましだ。 直接的に水分を浴びることがないので 動き回っていれば命の危険がない。 だが、実は今水に飛び込もうとしているのだ。 「本当に寒いな…」 隻眼のまりさが誰にというわけでもなくつぶやく。 ゆっくりの身でも寒いものは寒い。 特に冬篭りをする性質を持つので 暑さには多少慣れているのだが寒さにはめっぽう弱かった。 それでも今は水に飛び込まなければならない理由がある。 それは川魚を取るためだ。 ザーッと水の流れる音。 気温としても流れの速さをとっても凍結するような川ではないようだ。 水の中にはチラチラと川魚の泳ぐ姿が確認できる。 そして相手の位置を確認すると木の枝を構えて踏み切る体勢に。 意識を集中させる。 普通のゆっくりならこんな川に飛び込めばまず助からない。 だが自分にはできる。 イメージするのは川に飛び込んで再び脱すること。 ジャンプしてそのまま向こう岸まで渡ること。 まりさの身体に光が宿る。 もう意識を集中させるだけで出来るはずだ。 これは或いは自分に元々備わっていたかもしれない力だ。 大丈夫。 やれる。 目標を右目でしっかり捉える。 両目ではないので距離感が掴み辛い。 かまわない。 もとより何かにぶつかるまで、渡りきるまで突っ切るつもりだ。 ぱちゅりーがしていたようなカウントダウンはしない。 自分は自分が一番いいと思ったタイミングで踏み切ればいい。 「ブレイジングスター」 バシャッと川の中に飛び込んだ。 冷たい、と思ったのも一瞬。 水の抵抗を受けながらもくわえていた木の枝に手ごたえを感じる。 「…っ!!!」 川底を蹴って再びジャンプ。 反対側の岸の砂利に着地した。 くわえられた木の枝には小魚が突き刺さっていた。 ――――同日、昼前―――― あの一件から随分時間がたった。 襲撃からこちらの日数はしっかり覚えている。 今日で丁度二ヶ月になる。 感覚でしか分からないがもう既に 冬の半ばを通り過ぎる頃かもしれない。 「ここは食べられない…ここは…」 まりさは魚を解体していた。 はっきり言って植物のほうがおいしいと思うのだが 冬の季節には葉をつけている植物も大分減る。 ゆっくりの身であればその気になれば 地面に落ちている葉でも食べられるのだが それよりはこの川魚の方がましだった。 なにより、魚肉はそれなりの量がある。 肝や頭部は苦くて食べられたものではないが そういう要らない部分を取り除けば食べられる部分も多い。 保存が利くわけでもないしとるのも大変なのだが とりあえず腹が一杯になるので最近ではよくやっていることである。 「寒くて死にそうだ…」 死にそう、とは言ったが言葉だけ。 実際のところゆっくりは寒さが直接的に死因になることはない。 普通のゆっくりならば寒さでゆっくり出来ないと 『ゆっくり欠乏症』にでもなるのだろうが もうゆっくりすることをやめている身はそんな事態には陥らないだろう。 「とにかく食べよう…」 ――――同日、昼過ぎ―――― 隻眼のまりさはただ移動している。 特に行くあてはない。 だが、まりさにはとりあえず自分が出来ることをもう考え付いていた。 それはまず最初に自分が知ることになった内容を他者に伝えることだ。 ここで言う『他者』とはゆっくりのことではない。人間だ。 まりさの身はゆっくりのままだったがある『人間』の記憶を見ていたのだ。 その人間の全てを見たわけではない。 まして、その人間が誰なのかもはっきりとは分からない。 しかしその内容はある者に伝えなければならない内容だったのだ。 故に、当面の目標はまず生き残ること。 そのためにまりさは冬の山をただ移動する。 「皆、大丈夫だろうか?」 あのあと、まりさは逃げた。 無数に襲い来るれみりゃ達をかわしながら。 あの時得た力は戦う力ではなかった。 生き残る力だったのだ。 ぱちゅりーの言葉が思い出される。 『ぱちゅりーの知識は人間の知識。 人間同士が助け合って生きていた証よ』 まさにその通りだ。 人間の知識は戦うものもなかったわけではないが 生活の、収穫の、防衛の、生きるためのものだった。 今だから分かる。 ぱちゅりーは生き残る知識しか持っていなかったから 自らは頑として戦うことがなかったのだ。 なればこそ理解できる。 ぱちゅりーがあの時の自分を咎めなかったとことが。 自分は、変化を求めた。 ぱちゅりーは、現状を求めた。 ただそれだけの違いだ。 そして、それはドスも同じ。 ドスは自分が特別な存在になりたいと考えていなかったのだ。 自分とは正反対の道を歩もうとした。 あるいは、ドスもドスにならなければ 自分と同じようになっていたかもしれない。 自分と同じように『記憶』を見ていたかもしれない。 ドスになったのはそれを無意識に拒絶した結果かもしれない。 全ては推測だ。論拠も証拠もない。 ただ、一つ言えることは自分は道をたがえてしまったが おそらくぱちゅりーとドスが生き残っているならば 二匹の行き着く先は同じ。 今回の一件を通して理解し合っているだろうと。 そして道をたがえてしまった自分には 自分の役割があるような気がしたのだ。 この『記憶』を誰かに伝えること。 今回の一件をゆっくり以外の者に伝えることだ。 『記憶』は自分の見たことのない存在の一部だった。 直接目にしたことはないがこの『記憶』の主が人間であったことを 『記憶』自体が雄弁に語ってくれていた。 それは紅い館で戦った緊張感であったり キノコを採っている日常風景であったり 自分がそうであったように誰かと共にいた記憶だった。 自分と同じ名前を冠するその人間が何者かは分からない。 中には今の自分には理解できない単語や記号もあった。 分からない部分にはあまり興味も関心もない。 興味や関心のある部分も無くはなかったが。 例えばそれが金髪の人形遣いであったり 本を抱えた魔法使いであったりしたのだが それはただの興味だ。意味がない。 何より重要だったのは、その『記憶』が 何らかの緊張感をはらんだものであったことだ。 それが『危機』なのか『警告』なのか 或いはもっと違う何かなのか。 だがそれがなんなのか自分には全く分からない。 自分以外の誰かに代わりに考えてもらわなければならない。 これが、この『記憶』を誰かに 伝えなければならないと考えた根幹であった。 あのぱちゅりーでさえ及ばなかった知恵の持ち主、人間に。 ――――同日、夕刻―――― 既にれみりゃ達も越冬のために冬篭りをしているため 夜走り回っていたとしても捕食種に狙われる心配は少ない。 それでも夜になったら眠るという感覚は ゆっくりではなくなった自分にも残っていた。 野宿にはもう慣れた。 それに幸か不幸か今の寒さでは雨は降らず全て雪になっている。 寒いことを除けば屋根のない場所でも何とか眠ることは出来る。 落ち葉を集めて寝床を作る。 地面は元々土だ。 自分に必要なのは敷布団ではなく掛け布団。 ゆっくりには元々体温などない。 故にいくらからだが冷えても凍らない限りいくらでも動ける。 だが、やっぱり寒さは感じる。 人間の知識を持ってしても全くゆっくりは不可解な存在だな、と ぼんやりと考えていた。 『記憶』の中を探してみて暖を取るには 火を起こせばいいということだが生憎とそれは叶わなかった。 『記憶』によれば自分と似た帽子の中にしまっていた 六角形の何かを使えば代わりになるらしいのだが それも持っていない。 持っていたとしても使い方がよくわからない。 これもぱちゅりーの受け売りだが 何かをなす時、或いは説明する時 知っていて当然の知識は省いて話すのが当たり前らしい。 ぱちゅりーの説明が分かりにくいと抗議した時の台詞だった。 この『記憶』の中の人間にとっては火というものの概念が 当たり前の知識だったようだ。 火の使い方の部分が欠落してしまっていたため 自分には使えないかもしれない。 ――――二ヵ月後、某日、昼過ぎ―――― ただずっと真っ直ぐ進んでいた。 森を脱出するつもりだったのだ。 人間に捨てられたというぱちゅりーが 集落にやってきたという前例がある。 そのために集落の位置を人間のいる場所から遠ざけたのだが まさかこれほど時間がかかるとは思っていなかった。 だがそんな単調な日々に一つの変化があった。 ついに森を抜け自分にとって初めて目にする 人工物を見つけたのだった。 「あれは…?」 木でできた一つの建物。 ただ人間が住んでいるようには見えなかった。 窓は割れ、ドアはドアとして機能しないくらいにボロボロだった。 それでもひょっとしたら人間がいるかもしれないと思い そこへ向かっていった。 「ゆゆっ!?まりさが来たよ!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「…………」 自分を迎えたのは期待していた存在ではなくゆっくり達だった。 皆一様に飼い主を持たぬものたちらしい。 ただ、幸いなことに反応は友好的だ。 自分もとりあえずここを拠点に人間の存在を探ることにしようと ここにいるゆっくり達に会話を試みる。 「ここは、お前らの家なのか?」 「そうだよ!」 「まりさもゆっくりしていってね!」 「そう、私が住んでも大丈夫だろうか?」 「大丈夫だよ!春さんが来たから皆番を見つけて とてもゆっくりしてるよ!」 「皆で一緒にゆっくりしようね!!」 「「「ゆっくちー!!」」」 なるほど、子供達も含めて確かに仲良く暮らしているようだ。 自分は人間の知識は持っていても経験では知らない。 だからこそ森を抜けた今人間の町よりも そこから少し離れた場所に拠点を構えるのがいい。 ここのゆっくり達は屈託もなく、皆ゆっくりしているようだ。 つまりは人間の脅威にさらされていないということ。 そのような条件下での家があるなど渡りに船だ。 しばらくはここにいさせて貰おうと考えた。 ――――同日、夕刻―――― 「みんな!狩りに行ってきたゆっくり達が戻ってきたよ!」 「ごはん!ごはんだよ!」 「ゆっくり食べるよ!!」 食料を集めてきたらしいゆっくり達が戻ってくると ここに集まっているゆっくりは四、五十匹には及ぶであろうか。 これだけのゆっくりを統率するにはかなりのカリスマ性が必要だ。 そして、彼らを統率していたのはぱちゅりーだった。 「むきゅ!がっついちゃ駄目よ! 『けんじゃ』のぱちゅりーが公平に分配するわ! 皆はそこで待っていなさい!」 なんだか以前の集落のことを思い出すな、などと考えているうちに 横一列に並んでいたゆっくり達の前に食料が運ばれていく。 「ゆっくりいただきます!」 「むーしゃむーしゃ、しあわせー!!」 自分の分の分配が与えられたゆっくり達は 後の者を待つこともなく食事を始めていた。 そしてぱちゅりーが徐々に自分の前に近づいてくる。 別に意識してそうなったわけではないが 自分は一番最後の場所にいた。 「ゆーしょ、ゆーしょ、れいむはこれだけね。 つぎのありすはこれだけ。 次は…むきゅ?」 自分の前に来たぱちゅりーが疑問符を浮かべる。 分配するための食料が自分の前で全てなくなっていたのだ。 「む、むきゅう!?そんな、どうして!?」 「ぱちゅりー!公平に分けるんじゃなかったの!? どうしてあのまりさの分がないの!?」 「ぱちゅりー!?どういうこと」 「む、むきゅ!?」 実際は単純な話で新入りの分の数を計算に入れるのを忘れていたのだ。 これで終わりだ、と思っていたところにもう一人分必要になって うろたえるぱちゅりー。 最初のほうに配られた中にはそうしているうちにもう食べ終わっているものもいた。 「私はいいよ。今日来たばっかりだし 今日は私は狩りをしていないんだから」 「駄目だよ!みんなで分けるからって 全てのごはんをぱちゅりーに任せてたのに!」 「ぱちゅりー!ちゃんと分けられないのなら ぱちゅりーにごはんの管理を任せられないよ!」 「むきゅ!?むきゅう!?」 ぱちゅりーは皆から非難され完全に針のむしろになっていた。 「馬鹿なぱちゅりーはゆっくり死んでね!」 「「そーだそーだ!!」」 「むきゅー!!『けいさん』もできない『ぐじゃ』に言われたくないわ! そうよ!勝手に入ってきた新入りがいけないのよ! 今日は狩りもしてないんだからあんな奴にあげるごはんなんか 最初からなかったのよ!」 「そんなのおかしいよ!」 「皆でゆっくりするって決めたじゃない!」 元々食料を公平に分配するのが気に入っていなかったゆっくりが ここぞとばかりにぱちゅりーを猛烈に非難していた。 「もうれいむ達はぱちゅりーについていけないよ!」 「まりさもだよ!まりさ達は今日から向こうの ゆっくりプレイスに引越しするよ! まりさについて来るゆっくりは皆来てね! こっちでは頑張ったら頑張っただけごはんがもらえるよ!」 「ま、まりさがそう言うんだったら行ってあげてもいいわよ!?」 「れいみゅもいきゅー!!」 「まりさも行くよ!狩りもしないでごはんを食べてる ぱちゅりーなんてもう知らないよ!」 「まちなさい!行ってはだめよ!」 「うるさいよ!あっちはまりさ達のゆっくりプレイスだから 勝手に入ってこないでね!」 「ぱちゅりー、れいむはここに残るよ! あんなゆっくりできないこと言うまりさなんてほっとけばいいよ!」 「そうよ!とかいはじゃないわ!」 「まりさ!まりさも行こう! ごはん抜きなんて言うぱちゅりーなんか無視して あっちで一緒にご飯食べようね!」 「…ああ、そうだな」 そう言われ、少し迷ったが結局移動組についていくことにした。 ぱちゅりーには悪いが、プライドを傷つけてしまった以上 自分がいては折り合いが悪くなるのは明白だった。 ――――翌日、朝方―――― 建物は大きく分けて三つあった。 自分たちはぱちゅりーがいなかった方に移動し 朝を迎えている。 「今日も狩りに行くよ!」 「ゆゆぅ…れいむは昨日のすっきりーで子供が出来ちゃったから…」 「大丈夫だよ!子供たちの分もまりさがごはんとってくるよ! 昨日までと違っていっぱい取ってくればたくさん食べれるからね!」 「自分の分は自分でとろうね!あっちで何の役にも立たなかった ぱちゅりー達がごはんを集める前に全部とっちゃおうね!」 「まりさも一緒に行こうよ!たくさんお花さんがはえてるところを教えてあげるよ!」 こちらの陣営に来てみて最初に思ったのは 向こうの陣営よりゲスに近い存在が多いということが分かった。 ぱちゅりーの分配法は昨日見た限りでは決して不公平と呼べるものではなかった。 たまたま自分がいたからミスをおかしただけ。 そしてこちらには後先考えず今食事が出来ればいいと考えるものが多く 向こうにいるのは恐らくちゃんと共生することを 考えられるものが多いのだろう。 そんなことを考えながら自分も一応食事をしなければならないと 誘われるままに狩りに行った。 ――――数日後、夕刻―――― 「まりさはすごいね!いつもいっぱいご飯と取ってくるよ!」 「すごくゆっくりしてるね!」 自分はいつも周りのゆっくりよりも多くの食料を確保できていた。 別に特別なことはしていない。 他のゆっくりよりも精力的に動き 近くにある森の入り口まで狩りに行っているだけだ。 「よかったら少し食べる? 私だけでは食べきれないから」 「ゆゆっ!?くれるの!?」 「あっちのぱちゅりーなんかとは全然違うね!」 「皆で一緒にゆっくりしようね!」 「むーしゃむーしゃしあわせー!」 ――――さらに数日後、朝方―――― 自分は人間に話をするということもそっちのけで考え事をしていた。 それは数は多いが簡単なこと。 自分が生まれ育った集落の方にいたぱちゅりーの話を信じるなら これだけのゆっくりが一箇所に集まっていることは危険だ。 人間はゆっくりと共生することもあるが 基本的には敵視しているという話を聞いた。 その行き着く先は『駆除』と呼ばれるもの。 そこにいるゆっくり達をただ殺して回る作業。 それが目前に迫っているかもしれない。 だからこそ自分はいざというときにどこか隠れる場所を 考えておく必要があるだろう。 他にもここら一帯は決して食料が多く取れる豊かな場所ではないこと。 たまにここではゆっくり出来ないと街の方に行って二度と戻らぬ者。 そして向こうに残ったぱちゅりー達一団と小競り合いを始める者。 そういったいくつもの問題があった。 そして一番重要なことがある。 それはただの思いつき。 この状況が或いは利用できるかもしれないという点だ。 ここのゆっくり達は極度の緊張状態にある。 その気になれば戦闘が始まるほどに。 そう、戦闘だ。 自分が『記憶』を得ることのきっかけとなったもの。 この状況を利用して戦闘を起こせれば自分と同じような状態になる者が また現れるかもしれない。 かつての集落でも戦闘はよく起こっていたが 皆は捕食種から逃げ惑うばかりで 実際に戦っていたのは自分を含めて六匹だ。 だが、ここにいるのは全て通常種。 しかもこちらに来ている連中は荒っぽい性格をしていて 増長した、好戦的な者が多くいる。 よって、ここで何とか日常的な戦闘に 持ち込める状況を作り出せないかと考えていた。 そして、そのための一石が現れたのだ。 「みんな私に従いなさい!『けんじゃ』のお見えよ!」 そんな言葉と共に現れたのが妙にこぎれいなぱちゅりーだった。 いかにもいいものを食べていそうなつやの良さ。 「なんでれいむ達がぱちゅりーに従わないといけないの!?」 「まりさ達は自分達の力で生きるよ! 馬鹿なぱちゅりーは出てってね!」 「ぱちゅりーは元飼いゆっくりよ! 野良のあなた達よりずっと頭がいいわ!」 その台詞を聞いたときこの状況は使えると思った。 「なあ皆!ここはぱちゅりーの力を試してみないか?」 「ゆゆっ!?何言ってるの!?」 「ぱちゅりーは言葉だけで何も出来ないグズだよ!」 「むきゅー!失礼な奴らね!!」 この程度の反応は予想済みだ。 さらに言葉を続ける。 「待って欲しい、皆は今の状態で満足してるのか!?」 「ゆっ!?」 「そんなわけないでしょ!向こうのゆっくり出来ない ゆっくり達がれいむ達のごはんを横取りしてるんだからね!」 自分は現在この陣営内で最も狩りのうまい者として ある程度の尊敬を集めている。 一応話くらいは聞いてくれるようだ。 「だからだ!向こうの連中をいい加減排除しようぜ! そのためには私達をまとめる役が必要だ! そしてぱちゅりー、ぱちゅりーなら皆をうまくまとめられるよな!?」 「むきゅ!勿論よ!ぱちゅりーは『けんじゃ』だから 何でも出来るわ!」 「そういうわけだ!だからぱちゅりーの指示に従って 向こうの奴らと戦おうぜ!」 「だけど、どうしてぱちゅりーの言うこと聞かないといけないの!?」 「そうだよ!まりさが一番強いんだからまりさがやってよ!」 当然の不満。 だがゲスであればあるほどちょっとしたおだてに弱いものだ。 「向こうの連中なら私達で楽勝だよな? だから全然問題ない!ぱちゅりーもうまく指示を出せるよな?」 「ゆっ!勿論だよ!」 「あっちの奴らなんて敵じゃないよ!」 「そうだよな!だから深く考えなくても楽勝だ! ガンガン行こうぜ!」 「「「ゆっくりー!!」」」 単純な奴らめ、と内心思いながら意気揚々と 出撃する一行についていった。 ――――運命の日、某時刻―――― あれから、幾度となく戦闘があった。 勿論自分が本気を出せば決着がつくかもしれないので 適当に力を抜きながら参加していた。 そんなことを続けていたある日だった。 突然ここに数名の人間が現れたのは。 しまった、駆除かと思い自らの陣営に いくつか目をつけていた場所に隠れることにした。 案の定、いくつものゆっくりが犠牲になっていたが 横から見ているうちにこの人間はある程度話が出来ることがわかった。 まず最初に話をしてからどうこうするというタイプのようだ。 「むこうにいるゆっくりはくずばっかりなんだぜ!! まりさがひゃっぴきころせば『せんそう』はおわりだぜ!!」 「そーだそーだー奴らを血祭りに上げろー(棒)」 「ゆっゆっゆっないてあやまってまりささまの うんうんをたべたらとくべつにゆるしてやるんだぜ!」 しかも、少々自分が話していたやり方に少々似ている。 ひょっとしたら、この人間なら例の話をまともに 聞いてくれるかもしれないと訳もなく思った。 ちゃんと接触できるタイミングを見極めて接触してみようと。 続く あとがき 一応次回で最終回となります。 ここに書きたいことはいくつもあるのですが 最終回の方で書いた方がいい内容ばかり思いつくので そちらの方で記したいと思います。 こんなあとがきですみません。 最後に、この作品を読んでくださった全ての方に無上の感謝を。 私がここに投稿させて頂いた作品一覧 anko3052 ゆっくり駆除業者のお仕事風景 以降そのシリーズ anko3061 隻眼のまりさ プロローグ 以降そのシリーズ anko3127 ゆっくり加工業者のお仕事風景