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anko2311 野生の掟 前編 anko2312 野生の掟 後編
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ベビンネを3匹飼っている。 経験値狩りに遭ったらしい母親の死体の傍でチィチィ泣いていたので、まとめて拾ったのだ。 時々つついたり転がしたりはしたが、それなりに可愛がっていたつもりでいた。 ある日、高性能のポケリンガルが発売されたと聞き、面白半分で買ってみた。 ベビンネ達が俺の事をどう思っているのか、聞いてみようと思ったのだ。 帰ってみると、俺の姿を見た途端、3匹のベビンネは寄り添ってケージの隅のほうに逃れた。 今日はつねったり触覚を引っ張ったりして、ちょっとやり過ぎたか。怯えるのも止むを得まい。 購入したヘッドセット式のポケリンガルを装着し、スイッチを入れると合成音声が聞こえてきた。 「おねがい、いじめないで、もうゆるして、おそとにだして」 対象のポケモンの年齢も判別できるのか、ちゃんと子供の声になっている。なかなかの優れ物だ。 だが、外に出たいという言葉には少々ショックだった。 今日はちょっと虫の居所が悪かったのは確かだが、日頃可愛がっていたのはすっかり忘れ、 出て行きたいとまで言われるとは思ってもみなかった。 「なるほど、外に出たいのか」 俺がポケリンガルのマイク越しに話しかけると、自分達の理解できる言葉でしゃべった事に驚いたようだが、 話が通じるとわかって、必死で訴えかけてきた。 「おねがい、おそとにでたいよう!」「もう、いたいのやだ!」「だして!だして!」 ベビンネ達は口々に懇願してきた。しばし考えた後、俺は返事をする。 「いいだろう、自由にしてやる。だがお前ら、巣を作ったり餌を獲ったりできるのか? それに外には俺よりもはるかに怖い肉食ポケモンもいるんだぞ、お前らなんか一口で食われるぞ」 「えさくらい、かんたんだよ!」「できるよ!できるもん!」「こわくないもん、だからだしてぇ!」 俺は苦笑した。とにかくここから出られれば何とかなると思っているらしい。 だったらお手並み拝見といこうじゃないか。お前らが独力で生きていけるかどうかな。 「わかったわかった。さあ、どこにでも行きな。後で戻ってきたいって言っても知らんぞ」 俺は部屋のドアを開け、ケージの柵も持ち上げてやる。ベビンネ達の顔が、ぱあっと輝く。 「チィチィチィチィ!!」 俺の気が変わらない内にと、ベビンネ達は転がるように部屋の外へと駆け出した。 だがそこで立ちすくむ。この部屋は2階だ。地上に降りるには、当然階段を下りなくてはいけない。 しかしベビンネ達の体躯からすれば、階段の一段一段が身長の倍近くある非常な高さであり、 その全容は断崖絶壁に等しい。 階段越しに地上をそっと覗き込み、ベビンネ達の足はガクガク震えている。 「こわいよ、こわいよ」「でもおりなきゃ」「たかいよ、いやだよ」 おろおろしているベビンネ達に、俺はニヤニヤしながら声をかけた。 「どうした、怖いんなら戻ってきてもいいんだぞ」 からかう声に多少迷ったようだが、俺のところに戻るよりはましだと腹を括ったらしい。 「チ、チィィ!」 おっかなびっくり、そろりそろりと階段にぶら下がりながら降りようとするが、 いくら足をばたつかせようとも、2段目にすら足が届くわけがなく、宙ぶらりんでもがくだけだ。 3匹そろって宙ぶらりんになって足をパタパタさせる姿に、俺は思わず吹き出した。 「おいおい、もっと頑張れよ。そんなんじゃ地上に着く前に日が暮れちまうぞ」 そんな俺の声に焦りを感じたのが、1匹が手を放して2段目に着地しようとした。 「チィッ!!」 だがその体は、階段の2段目でバウンドするとそのまま地上まで転がって行った。 「チビャァーッ!!」 その声にビクッとしたはずみに、残りの2匹も手を滑らせ、同様に階段落ちしてゆく。 「チヒィィィ!!」「チィィーーーッ!!」 3匹ともころころ転がって地上にべちゃっと叩き付けられ、ピクピク痙攣しているが、 さすがにタフさと生命力が売り物のタブンネらしく、息はあるようだ。 その一部始終を見守りつつ、俺は笑いを堪えるのを苦労していた。先が思いやられるな。 「チィィ…」 痛む体をさすりつつ、3匹のベビンネはよちよち歩き始めた。俺もその後を追う。 それに気づいたらしく、ベビンネ達は振り向いて俺を睨む。 「ついてこないでよ!」「またいじわるするきでしょ!」「くるな、あっちいけ!」 解放された途端に強気になっている。現金なものだ。しかしその程度では腹は立たない。 「心配するな、何もしないよ。お前らがどういう巣を作るのか興味があってな」 「うるさい、あっちいけ!」「おしえないよ!」「しっしっ!」 悪態を突かれても、俺はニヤニヤしつつ、少し距離をとりながらベビンネ達の後を付いていった。 しばらく歩いて、ベビンネ達は近くの公園にたどりついた。手頃な草むらと、近くに小さな小川がある。どうやらここが気に入ったようだ。 「ここがいいよ、おうちつくろうよ」「おうちおうち!」「はやくつくろ!」 ベビンネ達は雑草をむしって、巣らしきものを作り始めた。なかなか微笑ましい。 しばらくすると、ごちゃごちゃと雑草を寄せ集めただけの、巣と呼べるかどうかも怪しい代物ができあがった。 それでもベビンネ達にとっては立派な『我が家』が完成したつもりなのだろう。歓声が上がった。 「やったー!できたー!」「おうちおうち!」「ぼくたちのおうちだー!」 会心の出来らしい巣の中でキャッキャとはしゃぐベビンネ達だったが、たちまち厳しい現実がやってきた。 一陣の強い風が吹き、巣を形成していた雑草の大半が、あっという間に吹き飛ばされてしまったのだ。 「チィチィチィ!?」 大慌てで、吹き飛んだ雑草を拾おうと追いかけるベビンネ達。俺はそれを眺めつつ、苦笑しながら公園を後にした。 こんなのは序の口だ。この後、どんな試練が訪れることやら。 月曜日。 出勤する途中に、元飼い主としての親心と、野次馬根性もあって、ベビンネ達の様子を見に行った。 3匹のベビンネは身を寄せ合ってチィチィと心細そうに鳴いていたので、 カバンからポケリンガルを取り出し、装着して何を話しているのか聞いてみる。 「おなかすいたよ」「えさってどうやってとるの?」「わかんないよう」 案の定だ。俺は基本的に、飯だけはちゃんと与えていた。 俺に拾われる前は、おそらくママンネの母乳しか飲んでいないはず。こいつらが自力で餌を獲る術など知るはずがないのだ。 「どうした、餌くらい簡単に獲れるとか言ってなかったか?」 俺の声に3匹はビクッとしながら振り向いた。声の主が俺だと知って嫌そうな顔をする。 「こないでよ!」「めっ!きたら、めっ!」「おなかすいてないもん!」 小さいなりに意地はあるらしく、俺に対して精一杯虚勢を張ってみせる。可愛いものだ。 「やれやれ、嫌われたもんだな。じゃあこれはいらないな」 俺はポケットからオボンの実を出してみせた。時々、これを絞ったジュースを与えていたものだ。 ベビンネ達はゴクリと唾を飲み込んだ。どうしようかと迷っていたが、せっかく手にした自由の方が大事と見えて 「い、いらないよ!」「おなかすいてないもんね!」「おなかいっぱいいっぱい!」 などと、無理をして俺の誘いを突っぱねた。なかなかの根性だ。 「そうか、残念だな」 ポケットにオボンの実をしまい、踵を返して立ち去ろうとすると、 「チィ…!」 と背後で声がした。やはり空腹には勝てず、俺を呼び止めようとしたのだろう。 だが聞こえないふりをしてそのまま歩き、ベビンネ達から見えない木の陰に隠れて、様子を伺ってみた。 「いっちゃった…」「いいよ、あんなやつからもらわなくても!」「ぼくたちでごはんさがそうよ!」 空腹で力の入らないベビンネ達は、ふらふらとおぼつかない足取りで巣を這い出ると、餌を探しに行った。 だがおそらく何も見つかるまい。ベビンネの足では遠くまで探しにはいけないだろうし、 この公園近辺には食べられる木の実などなかったはずだ。さて、どうするのかな。 火曜日。 今朝も公園に立ち寄った。巣は空だったので辺りを見ると、小川で水を飲んでいる姿を見つけた。 ポケリンガルを取り出し、ベビンネ達に見つからないよう忍び寄って耳を澄ませてみる。 「おなかすいたよう」「がまんしなきゃ、がまん」「きょうこそはなにかみつけようね」 予想通り、昨日は何も食料が見つからなかったらしく、水で飢えをしのいでいるようだ。 だが水だけで幼いベビンネがそう長く持つ訳がない。早く食糧問題を解決しないと死んじまうぞ。 生憎、俺は救いの手を差し伸べる気などないからな。俺の家から出て行くことを選んだのはお前らなのだ。 最後まで自分の力で生き抜いてもらおうか。 会社の帰りにまた覗いてみる。3匹ともだいぶ参っているようで、巣の中でぐったりしていた。 でも俺が近づくと気づいたらしく、弱いところを見せまいとまた空元気を振り絞った。 「なにしにきたの、かえれ!」「ぼくたちおなかいっぱいでひるねしてたの!」「あー、おなかいっぱい」 「はいはい、わかったわかった」 俺は笑いながら公園を後にした。まだ意地を張れるのは大したものだが、命を縮めるだけなのにな。 水曜日。 今朝はだいぶ様子が違った。いつも3匹そろって行動していたのに1匹姿が見えない。 さらに巣の中の1匹は左腕がなくなっており、片割れがその無残な傷跡をペロペロ舐めている。 チィチィと泣いているその有様を見て、何が起こったのか想像がついた。手厳しい野生の洗礼が来たのだ。 「おい、1匹いないな。それにその腕はどうした?」 「たべられちゃった…そらからきたこわいやつに」「ぼくのうで、とられちゃった。いたいよ、いたいよう」 やっぱりか。この辺りは時々ムクホークが出没するらしいから、そいつにやられたに違いない。 1匹は食われ、こいつは左腕をもぎ取られたというわけだ。命があっただけ有難いというものだろう。 「たすけて」「もうかえりたい」 ベビンネ達は目に涙を一杯に溜め、すがりつくような視線を俺に投げかけている。 あれだけ突っ張っていた威勢の良さはもう欠片も見えない。飢えと、死の恐怖でついに心が折れたのだ。 しかし俺は無言でその場を離れた。「チィィ…!」という悲痛な声が背後から聞こえてくる。 今更帰りたいだと?冗談を言うな、今はここがお前らの帰る家だろう。 俺はお前らを見捨てるのではない、自然の成り行きに任せるだけだ。 木曜日。 さらに1匹減っていた。『腕無し』がいない。失血死したか、またもムクホークの餌食になったのか。 巣の中には1匹だけ横たわっていて「チィ…」と弱々しく鳴いている。 耳と触覚が垂れ下がり、顔つきに生気がない。もうグロッキーのようだ。 「一人ぼっちになっちまったな、あいつも食われたのか?」 「かわにおちて、ながされちゃった。たすけたかったのに、ちからでないよ…」 その光景が目に浮かんだ。相変わらず餌が獲れず、やっとの思いで水辺までたどりつき、 せめて水で腹を膨らせようとしたが、衰弱した上に左腕を失っているのでバランスが崩れて川に落ちたのだ。 手を伸ばしてもお互いその手に力が入らず、もはや泳ぐことすらままならず流されていく『腕無し』を、 こいつは滂沱の涙を流しながら見送ったことだろう。 「たすけて、ごめんなさい、だから、たすけて…」 消え入りそうな声でベビンネは訴えた。もう限界のようだ。 だが俺は今日も冷笑を浮かべ、踵を返して会社に向かった。もう声が出ないのか、後ろからは何も聞こえなかった。 金曜日。 朝起きた時、ちょっとだけ厳粛な気分になった。おそらく今日はあいつにお別れすることになる予感がしたからだ。 だいぶ冷え込んでいるので、もう凍死しているかもしれない。 だが巣を覗くと、ベビンネは辛うじて生きていた。口の周辺から吐かれる白い息が弱々しい。 体を丸めてプルプル震えており、触ってみると全身は氷のように冷えきっていた。 「どうだ、わかったか。これが野生の世界の厳しさだ。お前らはもう少し我慢すべきだったんだよ」 「…チィ…」 「俺は言ったよな、餌は取れるのか、巣は作れるのか、怖いポケモンがいるぞ、ってな。 その忠告も無視して、後先も考えずに飛び出した結果がこれだ。」 「…チィ…」 「引き返すこともできたはずだ。だがお前らはそれを拒絶した。当然の結果だ。」 「…………」 「ちょっとからかいすぎたのは悪かった。でもそれで今まで可愛がったことまで全て帳消しにされたんだからな。 俺も悲しかったんだぞ」 返事はなかった。口からは白い息がもはや出ていない。 家を出てからわずか5日、束の間の自由と引き換えにこいつらが得たのは、それを上回る苦痛と恐怖と悲しみだけだった。 俺はしばらくその死に顔を眺めた後、立ち上がっていつも通り会社に向かった。 墓など作ってはやらない。お前の死体はムクホークに啄ばまれるか、腐って土に返るかだろうが、知ったことではない。 それがお前の選んだ運命であり、野生の掟なのだから。 (終わり)
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ベビンネを3匹飼っている。 経験値狩りに遭ったらしい母親の死体の傍でチィチィ泣いていたので、まとめて拾ったのだ。 時々つついたり転がしたりはしたが、それなりに可愛がっていたつもりでいた。 ある日、高性能のポケリンガルが発売されたと聞き、面白半分で買ってみた。 ベビンネ達が俺の事をどう思っているのか、聞いてみようと思ったのだ。 帰ってみると、俺の姿を見た途端、3匹のベビンネは寄り添ってケージの隅のほうに逃れた。 今日はつねったり触覚を引っ張ったりして、ちょっとやり過ぎたか。怯えるのも止むを得まい。 購入したヘッドセット式のポケリンガルを装着し、スイッチを入れると合成音声が聞こえてきた。 「おねがい、いじめないで、もうゆるして、おそとにだして」 対象のポケモンの年齢も判別できるのか、ちゃんと子供の声になっている。なかなかの優れ物だ。 だが、外に出たいという言葉には少々ショックだった。 今日はちょっと虫の居所が悪かったのは確かだが、日頃可愛がっていたのはすっかり忘れ、 出て行きたいとまで言われるとは思ってもみなかった。 「なるほど、外に出たいのか」 俺がポケリンガルのマイク越しに話しかけると、自分達の理解できる言葉でしゃべった事に驚いたようだが、 話が通じるとわかって、必死で訴えかけてきた。 「おねがい、おそとにでたいよう!」「もう、いたいのやだ!」「だして!だして!」 ベビンネ達は口々に懇願してきた。しばし考えた後、俺は返事をする。 「いいだろう、自由にしてやる。だがお前ら、巣を作ったり餌を獲ったりできるのか? それに外には俺よりもはるかに怖い肉食ポケモンもいるんだぞ、お前らなんか一口で食われるぞ」 「えさくらい、かんたんだよ!」「できるよ!できるもん!」「こわくないもん、だからだしてぇ!」 俺は苦笑した。とにかくここから出られれば何とかなると思っているらしい。 だったらお手並み拝見といこうじゃないか。お前らが独力で生きていけるかどうかな。 「わかったわかった。さあ、どこにでも行きな。後で戻ってきたいって言っても知らんぞ」 俺は部屋のドアを開け、ケージの柵も持ち上げてやる。ベビンネ達の顔が、ぱあっと輝く。 「チィチィチィチィ!!」 俺の気が変わらない内にと、ベビンネ達は転がるように部屋の外へと駆け出した。 だがそこで立ちすくむ。この部屋は2階だ。地上に降りるには、当然階段を下りなくてはいけない。 しかしベビンネ達の体躯からすれば、階段の一段一段が身長の倍近くある非常な高さであり、 その全容は断崖絶壁に等しい。 階段越しに地上をそっと覗き込み、ベビンネ達の足はガクガク震えている。 「こわいよ、こわいよ」「でもおりなきゃ」「たかいよ、いやだよ」 おろおろしているベビンネ達に、俺はニヤニヤしながら声をかけた。 「どうした、怖いんなら戻ってきてもいいんだぞ」 からかう声に多少迷ったようだが、俺のところに戻るよりはましだと腹を括ったらしい。 「チ、チィィ!」 おっかなびっくり、そろりそろりと階段にぶら下がりながら降りようとするが、 いくら足をばたつかせようとも、2段目にすら足が届くわけがなく、宙ぶらりんでもがくだけだ。 3匹そろって宙ぶらりんになって足をパタパタさせる姿に、俺は思わず吹き出した。 「おいおい、もっと頑張れよ。そんなんじゃ地上に着く前に日が暮れちまうぞ」 そんな俺の声に焦りを感じたのが、1匹が手を放して2段目に着地しようとした。 「チィッ!!」 だがその体は、階段の2段目でバウンドするとそのまま地上まで転がって行った。 「チビャァーッ!!」 その声にビクッとしたはずみに、残りの2匹も手を滑らせ、同様に階段落ちしてゆく。 「チヒィィィ!!」「チィィーーーッ!!」 3匹ともころころ転がって地上にべちゃっと叩き付けられ、ピクピク痙攣しているが、 さすがにタフさと生命力が売り物のタブンネらしく、息はあるようだ。 その一部始終を見守りつつ、俺は笑いを堪えるのを苦労していた。先が思いやられるな。 「チィィ…」 痛む体をさすりつつ、3匹のベビンネはよちよち歩き始めた。俺もその後を追う。 それに気づいたらしく、ベビンネ達は振り向いて俺を睨む。 「ついてこないでよ!」「またいじわるするきでしょ!」「くるな、あっちいけ!」 解放された途端に強気になっている。現金なものだ。しかしその程度では腹は立たない。 「心配するな、何もしないよ。お前らがどういう巣を作るのか興味があってな」 「うるさい、あっちいけ!」「おしえないよ!」「しっしっ!」 悪態を突かれても、俺はニヤニヤしつつ、少し距離をとりながらベビンネ達の後を付いていった。 しばらく歩いて、ベビンネ達は近くの公園にたどりついた。手頃な草むらと、近くに小さな小川がある。どうやらここが気に入ったようだ。 「ここがいいよ、おうちつくろうよ」「おうちおうち!」「はやくつくろ!」 ベビンネ達は雑草をむしって、巣らしきものを作り始めた。なかなか微笑ましい。 しばらくすると、ごちゃごちゃと雑草を寄せ集めただけの、巣と呼べるかどうかも怪しい代物ができあがった。 それでもベビンネ達にとっては立派な『我が家』が完成したつもりなのだろう。歓声が上がった。 「やったー!できたー!」「おうちおうち!」「ぼくたちのおうちだー!」 会心の出来らしい巣の中でキャッキャとはしゃぐベビンネ達だったが、たちまち厳しい現実がやってきた。 一陣の強い風が吹き、巣を形成していた雑草の大半が、あっという間に吹き飛ばされてしまったのだ。 「チィチィチィ!?」 大慌てで、吹き飛んだ雑草を拾おうと追いかけるベビンネ達。俺はそれを眺めつつ、苦笑しながら公園を後にした。 こんなのは序の口だ。この後、どんな試練が訪れることやら。 月曜日。 出勤する途中に、元飼い主としての親心と、野次馬根性もあって、ベビンネ達の様子を見に行った。 3匹のベビンネは身を寄せ合ってチィチィと心細そうに鳴いていたので、 カバンからポケリンガルを取り出し、装着して何を話しているのか聞いてみる。 「おなかすいたよ」「えさってどうやってとるの?」「わかんないよう」 案の定だ。俺は基本的に、飯だけはちゃんと与えていた。 俺に拾われる前は、おそらくママンネの母乳しか飲んでいないはず。こいつらが自力で餌を獲る術など知るはずがないのだ。 「どうした、餌くらい簡単に獲れるとか言ってなかったか?」 俺の声に3匹はビクッとしながら振り向いた。声の主が俺だと知って嫌そうな顔をする。 「こないでよ!」「めっ!きたら、めっ!」「おなかすいてないもん!」 小さいなりに意地はあるらしく、俺に対して精一杯虚勢を張ってみせる。可愛いものだ。 「やれやれ、嫌われたもんだな。じゃあこれはいらないな」 俺はポケットからオボンの実を出してみせた。時々、これを絞ったジュースを与えていたものだ。 ベビンネ達はゴクリと唾を飲み込んだ。どうしようかと迷っていたが、せっかく手にした自由の方が大事と見えて 「い、いらないよ!」「おなかすいてないもんね!」「おなかいっぱいいっぱい!」 などと、無理をして俺の誘いを突っぱねた。なかなかの根性だ。 「そうか、残念だな」 ポケットにオボンの実をしまい、踵を返して立ち去ろうとすると、 「チィ…!」 と背後で声がした。やはり空腹には勝てず、俺を呼び止めようとしたのだろう。 だが聞こえないふりをしてそのまま歩き、ベビンネ達から見えない木の陰に隠れて、様子を伺ってみた。 「いっちゃった…」「いいよ、あんなやつからもらわなくても!」「ぼくたちでごはんさがそうよ!」 空腹で力の入らないベビンネ達は、ふらふらとおぼつかない足取りで巣を這い出ると、餌を探しに行った。 だがおそらく何も見つかるまい。ベビンネの足では遠くまで探しにはいけないだろうし、 この公園近辺には食べられる木の実などなかったはずだ。さて、どうするのかな。 火曜日。 今朝も公園に立ち寄った。巣は空だったので辺りを見ると、小川で水を飲んでいる姿を見つけた。 ポケリンガルを取り出し、ベビンネ達に見つからないよう忍び寄って耳を澄ませてみる。 「おなかすいたよう」「がまんしなきゃ、がまん」「きょうこそはなにかみつけようね」 予想通り、昨日は何も食料が見つからなかったらしく、水で飢えをしのいでいるようだ。 だが水だけで幼いベビンネがそう長く持つ訳がない。早く食糧問題を解決しないと死んじまうぞ。 生憎、俺は救いの手を差し伸べる気などないからな。俺の家から出て行くことを選んだのはお前らなのだ。 最後まで自分の力で生き抜いてもらおうか。 会社の帰りにまた覗いてみる。3匹ともだいぶ参っているようで、巣の中でぐったりしていた。 でも俺が近づくと気づいたらしく、弱いところを見せまいとまた空元気を振り絞った。 「なにしにきたの、かえれ!」「ぼくたちおなかいっぱいでひるねしてたの!」「あー、おなかいっぱい」 「はいはい、わかったわかった」 俺は笑いながら公園を後にした。まだ意地を張れるのは大したものだが、命を縮めるだけなのにな。 水曜日。 今朝はだいぶ様子が違った。いつも3匹そろって行動していたのに1匹姿が見えない。 さらに巣の中の1匹は左腕がなくなっており、片割れがその無残な傷跡をペロペロ舐めている。 チィチィと泣いているその有様を見て、何が起こったのか想像がついた。手厳しい野生の洗礼が来たのだ。 「おい、1匹いないな。それにその腕はどうした?」 「たべられちゃった…そらからきたこわいやつに」「ぼくのうで、とられちゃった。いたいよ、いたいよう」 やっぱりか。この辺りは時々ムクホークが出没するらしいから、そいつにやられたに違いない。 1匹は食われ、こいつは左腕をもぎ取られたというわけだ。命があっただけ有難いというものだろう。 「たすけて」「もうかえりたい」 ベビンネ達は目に涙を一杯に溜め、すがりつくような視線を俺に投げかけている。 あれだけ突っ張っていた威勢の良さはもう欠片も見えない。飢えと、死の恐怖でついに心が折れたのだ。 しかし俺は無言でその場を離れた。「チィィ…!」という悲痛な声が背後から聞こえてくる。 今更帰りたいだと?冗談を言うな、今はここがお前らの帰る家だろう。 俺はお前らを見捨てるのではない、自然の成り行きに任せるだけだ。 木曜日。 さらに1匹減っていた。『腕無し』がいない。失血死したか、またもムクホークの餌食になったのか。 巣の中には1匹だけ横たわっていて「チィ…」と弱々しく鳴いている。 耳と触覚が垂れ下がり、顔つきに生気がない。もうグロッキーのようだ。 「一人ぼっちになっちまったな、あいつも食われたのか?」 「かわにおちて、ながされちゃった。たすけたかったのに、ちからでないよ…」 その光景が目に浮かんだ。相変わらず餌が獲れず、やっとの思いで水辺までたどりつき、 せめて水で腹を膨らせようとしたが、衰弱した上に左腕を失っているのでバランスが崩れて川に落ちたのだ。 手を伸ばしてもお互いその手に力が入らず、もはや泳ぐことすらままならず流されていく『腕無し』を、 こいつは滂沱の涙を流しながら見送ったことだろう。 「たすけて、ごめんなさい、だから、たすけて…」 消え入りそうな声でベビンネは訴えた。もう限界のようだ。 だが俺は今日も冷笑を浮かべ、踵を返して会社に向かった。もう声が出ないのか、後ろからは何も聞こえなかった。 金曜日。 朝起きた時、ちょっとだけ厳粛な気分になった。おそらく今日はあいつにお別れすることになる予感がしたからだ。 だいぶ冷え込んでいるので、もう凍死しているかもしれない。 だが巣を覗くと、ベビンネは辛うじて生きていた。口の周辺から吐かれる白い息が弱々しい。 体を丸めてプルプル震えており、触ってみると全身は氷のように冷えきっていた。 「どうだ、わかったか。これが野生の世界の厳しさだ。お前らはもう少し我慢すべきだったんだよ」 「…チィ…」 「俺は言ったよな、餌は取れるのか、巣は作れるのか、怖いポケモンがいるぞ、ってな。 その忠告も無視して、後先も考えずに飛び出した結果がこれだ。」 「…チィ…」 「引き返すこともできたはずだ。だがお前らはそれを拒絶した。当然の結果だ。」 「…………」 「ちょっとからかいすぎたのは悪かった。でもそれで今まで可愛がったことまで全て帳消しにされたんだからな。 俺も悲しかったんだぞ」 返事はなかった。口からは白い息がもはや出ていない。 家を出てからわずか5日、束の間の自由と引き換えにこいつらが得たのは、それを上回る苦痛と恐怖と悲しみだけだった。 俺はしばらくその死に顔を眺めた後、立ち上がっていつも通り会社に向かった。 墓など作ってはやらない。お前の死体はムクホークに啄ばまれるか、腐って土に返るかだろうが、知ったことではない。 それがお前の選んだ運命であり、野生の掟なのだから。 (終わり) ーーーー 餌もらえて飼い主に可愛がられてるのに、外に出たいとか生意気な糞ベビだな。母親殺されてるのに、外に出たいとか馬鹿すぎる -- (名無しさん) 2013-11-24 12 00 19 この3匹はもし無事に成長しても、碌な奴にならないだろうな -- (名無しさん) 2016-06-21 02 48 16 名前 コメント すべてのコメントを見る
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野生の掟 後編 24KB いじめ 自業自得 群れ ゲス 自然界 独自設定 惜しくも一つにまとまらなかった ありすが群れに加わってから少しばかり月日が経過ていた。 「ゆひい!ゆひい!」 ズリズリと音を立てながら、惨めに群れの近くの狩場を這いずり回っているゆっくりがいた。 元金バッジのとかいはなありすだった。 「こ、こんなのまちがってる!なんでとかいはなありすがこんなめに…」 誰にともなく文句を言いながら、狩りをするありす。 狩りといっても、ありすにはそこらへんに生えている、とても食えたような代物ではないまずい草を積むのが精一杯だった。 だがそれも仕方のないこと。ありすにはそのぐらいしかできることがないのだ。 「ゆうう!ゆっくりできないいいいいい!」 群れに住むことになってまず始めにありすを襲ったのは食料問題だった。 今まで食料は奴隷が持ってくるのが当然のことと思っていたありすは、そもそも狩りという概念がない。 長ぱちゅりーが何か言っていたが、そんなことをありすが理解できるはずもなかったのだ。 そのため、おうちで待っていれば、誰かがその内食料を持ってくるものだろうと思っていた。 だが、当然そんなことはなく、待てど暮らせど、誰も食料を運んでこない。 仕方なしに、おうちを出て村のゆっくりに食料を請求しに行ったところで初めて、みなが狩りというものをしていることを知ったのだ。 群れの広場では毎日狩り場についての情報交換が行われている。 どこどこには沢山木の実があった、あっちには虫さんの巣があった、むこうには特に食料になるようなものはなかった。 などなど、日々変化する食糧事情に対応するため、群れのゆっくりたちが情報を持ち合うのだ。 だが、極端に機動力が低く、行動範囲が狭いありすは、その話題に入ることができない。 提供する情報もなしに、一方的に有益な情報だけ得ようとする行為を他のゆっくりが許さないからだ。 まあ、仮に情報を得ても、ありすがそこまで到達できるかどうかは疑問が残るが。 そんなわけで、ありすが手にできる食料は、群れの周りに生えている誰も狩らないような、まずい草程度のものだったのだ。 だが、それすら、緩慢な動作のありすは、一日分集めるだけで精一杯である。 「はあ、はあ、やっとついたわ……」 少量の草を抱えて、ようやく自分の殺風景なおうちにたどり着くありす。 今まで人間の許で快適な室内暮らしをしてきたありすは、ゴツゴツとした地面では満足に眠ることも出来ず、 また自身を癒してくれる、クッションや家具の類も無いため、まったくゆっくりできていなかった。 が、しかしこんな狭く、何もないようなおうちでも、雨風が防げるだけ、何も無いよりも数段ましである。 もし長ぱちゅりーがこの場所を与えてくれていなかったら、ありすは群れに来た初日で恐らく永遠にゆっくりしてしまっていただろう。 「ゆうううう…どれいがもってきていたあまあまさんがたべたいわぁ……ううう」 目の前に積んだまずい草をぼんやりと眺めながら呟くありす。 当然ならがその辺に生えている草と、以前食べていたゆっくり用フードとは味も栄養も満足度も天と地ほどの差がある。 本来ならこんなまずい草など、口にするのも嫌なのだ。しかしそれでも空腹には勝てない。 ありすは、意を決するといつものように無理やり草を口に押し込む。 「むーしゃむーしゃ、ぐええええええええええ!ふしあわせええええええええええ!!!」 あまりの苦味に思わず吐き出しそうになるが、何とか堪える。 ただでさえ少ない食料だ。ここで戻してしまうわけにはいかない。 「ゆっ…ぐっ…うううう」 自身の余りにも惨めな境遇に思わず涙するありす。 それは自由を目指し、夢見ていたのとはあまりにも遠い生活。 「なんで…ありすはとかいはなのに、…きんばっじなのに…」 群れに訪れる前は、自分は誰からもうやまれる存在だと信じて疑わなかったありすだが、 今や群れで一番ゆっくりしてないゆっくりとして、みんなから嫌われているのである。 ありすとて、ただ黙って今まで過ごしてきたわけではない。 とかいはなゆっくりとして、認められるために群れのゆっくりたちに様々なアクションを起こしてきた。 だがそれらはことごとく失敗していたのだ。 あるときは、とかいの知識をいなかのゆっくりに教えてあげた。 とかいを知ることによりゆっくり群れのゆっくりがゆっくりできると思ったからだ。 「ゆふふふ!とかいにはね、でんとうさんがあって、よるでもくらくないのよ! それにて、れびさんというのもあって、そのなかでは、まいにちたくさんのおはなしがうつるのよ!どう?とかいはでしょ!」 「ふーん、それで?」 「えっ、えっと、ほら!とかいのはなしがきけてゆっくりできたでしょ!だからしょくりょうをちょうだいね!」 にっこり笑うありす。 だが群れのゆっくりたちは呆れ顔であった。 「わかるよー!たかりなんだねー!」 「そんなどうでもいいはなしよりも、むれのまわりのしょくりょうの、じょうほうのほうがずっとやくにたつよ!」 「じかんをむだにしたよ!みんなさっさといこう!」 ぞろぞろと去っていく群れのゆっくりたち。 こうしてありすは群れのゆっくりたちから無能なゆっくりと認識されるようになった。 またあるときは留守のおうちに忍び込み、とかいはにこーでぃねいとしてあげた。 自分がこーでぃねいとすることにより、ゆっくりできるようになると思ったからだ。 「ゆがあああああ!なんなのこれええええええええ!」 「あられいむ!どう?おうちをとかいはにこーでぃねいとしておいてあげたわよ! とってもゆっくりできるおうちになったでしょ! おれいはしょくりょうでいいわよ!はやくちょうだいね!」 「ふざけるなああああああああああああああ!」 ドン! 「ゆひゃあ!」 れいむの怒りの体当たりよって簡単に吹っ飛ばされるありす。 「にどとれいむのおうちにはいらないでね!まったくなにがとかいはだよ!ただたんにちらかしただけだよ! まだなにもしらないおちびちゃんだって、こんなめいわくなことはしないよ!」 ありすをなじるれいむ。 こうしてありすは群れのゆっくりたちから迷惑なゆっくりと認識されるようになった。 そしてまたあるときは、とかいはな愛を与えてあげようとした。 群れで一番狩りが上手いまりさに、すっきりを迫ったのだ。 「まりさあああああああああああ!とかいはなあいを、あたえてあげるうううううううううう!」 「ゆげげありす!なにをするきなのぜ!」 「きまってるでしょおおおおおおおおお!すっきりしましょおおおおおおおおおおおおお!」 「ふん!」 ドカ! 「ゆぎゃああああああああああ!」 まりさのぶちかましによって、やはり簡単に吹っ飛ばされるありす。 「ありすはばかなんだぜ!むやみにおちびちゃんをつくっちゃいけない、むれのおきてをわすれたのかぜ! だいいち、まりさはくちだけで、なにもできないありすと、すっきりするのはごめんなのぜ!」 「なんですってええええええ!こんなとかいはなびゆっくりをつかまえてええええええええええ!」 まりさの発言は流石にありすの癇に障ったのか、吹っ飛ばされつつも気力で起き上がるありす。 「たしかにありすは、びゆっくりなのかもしれないのぜ!でもそれだけなのぜ! しごともしないで、いえでふんぞりかえってるだけのつがいはごめんなのぜ! それにまりさは、だれかれかまわずすっきりしようとするびっちはごめんなのぜ!」 それだけ言うとさっさと、その場を去っていってしまうまりさ。 こうしてありすは群れのゆっくりたちから、誰彼かまわずすっきりしようとするゴミクズゆっくりと認識されるようになった。 「ゆうううう!こんな!こんなはずじゃあ……」 おうちで一匹嘆くありす。 だが嘆いたところで状況は何も変わらない。 明日も明後日も、群れ中のゆっくりに嘲笑われながら、ズリズリとまずい草をかみ締める毎日が続くことだろう。 どうしてこんなことになってしまったのだろう。自分はとかいはなはずなのに。 「むきゅ!こんにちはありす!ゆっくりしているかしら?」 ありすが一匹途方にくれていると、突然長ぱちゅりーがありすの元を訪ねてきた。 「ゆゆ!ぱちゅりー!いったいなんのようなの!」 「別に用ってわけじゃないけど、ちょっと近くを通りかかったから、様子を見にきたのよ。 どう?ありす?越冬の準備は進んでいるかしら?」 「………は?」 ありすは目をパチクリさせる。 越冬?何だそれ? 「ああ!やっぱりね!ありすは都会のゆっくりだから知らないんじゃないかと思って。 この辺は冬さんが来ると、あたり一面雪が積もって、まったく食料が取れなくなるの。 だからそのときに備えて、今の内に沢山食用を備蓄しておく必要があるの。 そうじゃないと、冬さんが来たときに、永遠にゆっくりしちゃうからね。 まっ、とかいはなありすなら、越冬用の備蓄なんて楽勝だと思うけど、念のために忠告しておくわ! 今のうちから食料を集めておかないと、あっさり死ぬから」 「………………」 「それじゃあね!ありす!言いたいことはそれだけよ!ゆっくりしていってね!」 いつものように、自分の言いたいことだけ一方的にしゃべり終えると、長ありすはどこかへ去っていってしまった。 その場に残ったのは、呆然と巣穴にたたずむありす。 越冬?なにそれ?え?備蓄?そんなの無理だ!でも集めておかないと死ぬって! え?死ぬ?死ぬの?このありすが?こんないなかで? いやだ!いやだ!いやだ!いやだ! 「いやだあああああああああああああああああああああああああああ!!!」 ありすはようやく理解したのだった。野生というものの厳しさを。 数日後、 「みょん!たいへんだみょん!」 長ぱちゅりーのおうちに、みょんが慌てた様子で、入ってくる。 「むきゅ!どうしたのかしらみょん、そんなに慌てて。なにか事件でも?」 長ぱちゅりーが何事かと尋ねる。 だが、その様子は幾分か余裕が見られ、大体何が起こったか見当がついている風にも見える。 「みょん!あのしんいりのありすが、やまをおりて、にんげんさんのむらにむかったみたいなんだみょん!」 「あらそう、それは大変ね」 と、ぜんぜん大変そうじゃない風に言うぱちゅりー。 「みょん!おいかけなくていいのかみょん」 落ち付いた様子のぱちゅりーに問いかけるみょん。 「放っておきましょう。下手に追いかけて、複数のゆっくりが、麓の村に入ってしまうほうがまずいわ。 大丈夫よ、群れの掟を破った時点で、あのありすと、この群れはなんの関係もない赤の他ゆ。 それにこの付近特有の事情もあるしね。人間さんたちはそこまで狭量じゃないわ」 「みょん!そういえばそうだったみょん!」 安堵したような表情になるみょん。 「あのありすともついにお別れね。残念だわ。本当に」 そう本当に残念そうに言う長ぱちゅりーであった。 所変わってここは麓の村。 「おねがいします!ありすをかってください!ありすはきんばっじでした! きっとゆっくりできますから!おねがいしますうううううううううううううう! ああああああ!まっでええええええええええ!にんげんさんいがないいでえええええええ! もうやせいはいやなんですうううううううう!ゆっくりさせてえええええええええええ!」 ゆっくりたちが暮らしている森の麓にある村にて、汚らしいゆっくりが、必死に自分を飼いゆにしてくれと叫んでいた。 その姿は、髪はベタベタで、目はどんよりと曇っており、歯は所々掛けている。 栄養状態が悪いのか肌はガサガサであり、形も所々へこんでおり、見栄えも悪い。 唯一の長所は、ありすの特徴でもあるお飾りの赤いカチューシャに、何かを無理やり引き剥がしたような小さな傷が付いていることで、 それがかろうじてもと飼いゆだと判断できる材料だということだった。 が、それも些細な事。道行く人間たちの目には、このありすはさぞかし汚らわしいゆっくりに映ることだだろう。 「ほら、じゃまだよ!」 ドカ! 「ゆべろばああああああ!」 通行人の一人に軽く蹴られて、道の端っこに投げ出されるありす。 ちなみに、このときありすが踏み潰されなかったのは、通行人の優しさではない。 ただ単に、自分の靴や道がクリームで汚れるのが嫌だった。それだけが理由だ。 いつ通行人たちの癇に障わって、踏み潰されるともわからない状況。 だが、それでもありすは叫ぶのを止めなかった。 もう野生はいやだ!いなかはいやだ!せまいおうちは嫌だ!不味い草はいやだ! 帰るんだ!とかいに!帰ってまた以前のように暮らすんだ! 快適なおうちに、おいしいごはん!ああ!自分はなんてバカだったんだろう! 自らそんな天国のような生活を投げ出すなんて! もう二度と我侭なんて言いません!だから!だから!飼いゆにしろおおおおおおおおおおおおおお! 「おねがいですうううううううう!ありすをかいゆっくりにしてくださいいいいいいいいい! ありすはきんばっじでしたあああああああああああああああ!」 再び人が通る気配を感じたありすは、必死に自分をアッピールする。 その甲斐あってか、やってきた男は足を止めてありすを見下ろす。 「あん?」 「むきゅ?」 立ち止まった人間を見た瞬間ありすは、しめた!と思った。 この人間さんからは、どことなく都会の雰囲気を感じるのだ。きっとこの村の人間ではないのだろう。 しかも同じゆっくりであるぱちゅりーを連れている。ゆっくり好きな証拠だ。 さらに良い事に、この男が連れているぱちゅりーは、どこにもバッジをつけていないのだ。これはチャンスだ! 「にんげんさん!ありすをかいゆっくりにしてくださいいいいいいいいいい! ありすはとかいはなきんばっじでしたああああああああああああ! きっとそんな、ばっじなしのぱちゅりーなんかよりもずっとゆっくりできますうううううう!」 ここぞとばかりに自分をアッピールするありす。 特に、自分は金バッジであることを重点的に主張する。 が、しかしそんなありすの様子に男はまったく表情を変えることなく、 「ふーん、金バッジねえ…。てことはお前さん、もと飼いゆかね」 と、呟いた。 「むきゅ!あの、人間さん、言いにくいのだけれど、村内に野生のゆっくりがいるって不味くないかしら? その、協定的な意味で……」 側にいるぱちゅりーが恐る恐るといった感じで男に尋ねる。 「まあ、よくはないよな。でもまあ、ここら辺の村はある意味仕方ないっていうか… とにかくこいつみたいなゆっくりが協定を破って村にいても、とりあえずは大目に見ようって感じなんだよな」 「むきゅ?」 「ええっと、つまりさ……」 男が説明しようとしたその時、 「なにごちゃごちゃはなしてるのおおおおお!はやくそのげすぱちゅりーをすてて、 とかいはなありすをかいゆにしろおおおおおおおおおおおおお! ありすはきんばっじだぞおおおおおおおおお!そんなばっじなしとくらべるまでもないでしょおおおおおお!」 意味不明な会話をしている男とぱちゅりーに我慢できなくなったのか、ありすは声を荒げる。 その荒ぶるありすの様子を見ていた男は、やれやれとため息をつきながら、ひとまずぱちゅりーとの会話を中止し、 荷物から一冊の雑誌を取り出した。 その雑誌の名は『月刊ゆっくりマガジン』ゆっくりの専門雑誌だ。 男はその雑誌ををパラパラとめくり、の飼いゆっくり特集コーナを開くと、ありすに見せた。 「えっーと、これは単純に興味本位で聞くんだが、お前さんがつけてた金バッジってのは、このページに載ってるどれのことだい?」 「ゆ?」 ありすは、男に見せられた雑誌のページを凝視する。 そこには大小さまざまなバッジが掲載されていた。それぞれみな形が違うが、唯一の共通点として全てのバッジが金色をしていた。 なんだそういことか!と、ありすは唐突に理解する。 つまりこれは、人間さんがありすが本当に金バッジだったかを確かめるためのテストに違いない! そうとわかればなんら恐れることはない! 何故ならありすは、正真正銘の本当にゆっくりした、とかいはの金バッジだったのだ! 他のニセモノの金バッジなどに騙されるはずもない。 「ゆゆ!それ!それよにんげんさん!そのいちばんみぎしたのやつが、ありすのばっじよ!」 ありすは、以前自身がつけていたバッジを見つけると、すぐさま勢いよく主張した。 やった!これでありすが本当に優れた金バッジだったことが証明された。 これで飼いゆ間違いなしだ!人間は、あんなバッジなしのぱちゅりーなんかさっさと捨てて、ありすを飼うに違いない! ゆふふふふ!金バッジでごめんねーーー!さあ!はやくありすの金バッジを褒め称えなさい! 「あちゃー、これかー。これ最近参入してきたばっかの評判最悪の企業の金バッジだな。 なるほど、確かにこりゃ酷いわ。間違って買っちまった元飼い主はご愁傷様だなこりゃ」 「……………へ?」 男の予想外の言葉に目を点にして呟くありす。 「不思議そうだな。まあでも別に大した話しじゃないんだ。 ただ単純に金バッジにもいろいろ種類があってね、中でもお前のは最低クラスだったってだけの話だ」 淡々と真実を述べる男。 そうなのだ。実は一口に金バッジといっても様々な種類があるのだ。 初期の初期、ペットゆっくりというものが認知されはじめた当初は、バッジといえば男が所属する国営機関が正式な試験の元で発行する、 正規のバッジしか存在していなかった。 が、ペットゆっくりの需要が増えるにつれ、その利潤に目をつけた様々なメーカーがペットゆっくり業界に参入してきたのだ。 それら各企業は、独自ブランドと称して、自身たちで勝手に金バッチゆっくりを販売し始めたのだ。 それはさながら携帯などに様々な機種が存在するのと同じように、市場には様々なメーカーの金バッチが溢れる結果となる。 かくして、現在の飼いゆ業界は、様々なメーカーの金バッチが氾濫しているカオスな状況になっていたのだ。 そしてそれらの中には、金バッジとは名ばかりの、見栄えだけよくしたパチもんゆっくりもよく混じっていた。 特にこのありすが付けていた金バッシは、最低クラスの評価の、エセ金バッジともいえるタイプのもので、 男が所属している組織が発行している金バッチはもとより、他の企業が出している金バッチよりも遥かに劣るという、 詐欺まがいの代物であった。 もし、ペットショップで他の金バッジよりもやたら安いメーカーの金バッジを見かけたら、それはまず粗悪ゆだと見てまず間違いないだろう。 ちなみに今月号の『月刊ゆっくりマガジン』の、ありすがつけていた金バッジのメーカーに対する読者レビューは以下の通りだ。 ★☆☆☆☆(星一つ評価) 『最低の一言です。私は様々なメーカーの金バッジを見てきましたが、この金バッジほどひどいものはいまだお目にかかったことはありません。 恐らく見栄えのみを判定基準にして、まったく飼いゆとしての教育を行っていないのでしょう。 購入した時点で、すでに性格はゲスの一歩手前。飼いゆとしてごく普通の飼育をしたとしても、容易にゲス化してしまいます。 これからゆっくりを飼おうとしている人は、安い値段につられても、絶対にこのメーカーのゆっくりを買うべきではありません。 ゆっくりそのものが嫌いになってしまう可能性があります』 ★☆☆☆☆(星一つ評価) 『私は飼いゆっくりについては、まったくの素人で、初めて飼いゆを購入する際に、恥ずかしながら金バッジという響きと、 値段の安さ、それに見栄えのよさにつられてこのメーカのゆっくりを購入してしまいました。 そしてその結果は散々でした。 私が飼っていたのはありすだったのですが、どれだけごはんを与えても、感謝どころかもっとよこせといい、 部屋を散らかすので、それなりにひろいスペースを区切り、そこをおうちとして与えても、せまいせまいと常に文句をいっていました。 しかもそれだけならまだしも、散歩の時に人様のゆっくり相手に勝手にスッキリしようする始末。 段々このありすを飼っているのが苦痛でしかなくなっていき、一時期はゆっくり嫌いになってしまいました。 が、友人の勧めで、国営機関が発行している正規の銀バッシゆっくりのちぇんを飼って考えが変わりました。 このちぇんはきちんと礼儀正しいし、言う事もちゃんと聞くし、かわいいしで、前のありすとは天と地の差です。 飼いゆっくり初心者の方は、決して私と同じように値段に釣れられて、このメーカーのゆっくりを買ってはいけません。 きっと後悔します』 ★☆☆☆☆(星一つ評価) 『見栄えがよく、また成長段階でその見栄えを維持するために甘やかされたためか、非常に生意気で自尊心が強いので、虐待用として最適です。 ただ余りにも自我とプライドが強いので、種族にもよりますが、あまり子ゆっくりを欲しがらない傾向にあります。 そのため子ゆっくりを作らせて、親の前で虐待するプレイを楽しみたい人には不向きかもしれません。 え?このゆっくりは虐待用じゃないって? はは、そんな馬鹿な。こんなふざけたゆっくりを金バッジの飼いゆとして本気で売り出してるわけないでしょう? きっとこれは金バッシの虐待プレイ用のゆっくりなんですよ。 もしそうじゃないとすれば、消費者やゆっくりブリーダーの方々をバカにしてるとしか思えませんね』 と、まあこんな感じで評価一がずらりと並んでいる。 ここまで低い評価が並ぶ金バッジも珍しいものであった。 「むきゅ!人間さん!そこまでよ!そんなこといちいち捨てゆっくりに言うことじゃないわ!」 「ああそうね、確かに他ゆの素性を暴くなんて、あまり趣味のいいと言える行いではなかったな。 いやすまんね、お前さんがあんまり金バッジ金バッジ叫ぶから、どこのメーカーの金バッジなのかちょびっと気になってね。 まあ、悪かったよ」 素直に詫びる男。 男の言った事は全て真実だった。 別に惨めな捨てゆであるありすの、唯一の拠り所であった金バッジの優位性を否定して、 嘲笑ってやろうなどという意図は男にはまったくなかった。 ただ単純に、ありすの金バッジがどこのメーカーの物か、ふと疑問に思い、確認しただけだ。 その結果たまたま、それがそのへんの賢い野良ゆ以下のゲロカスバッジだったということが明らかになっただけの話だ。 「そんな!そんな…ありすは……」 金バッシは沢山ある?その中でも最低?じゃあ自分はとかいはじゃないの? いやそれ以前にもう人間さんには飼ってもらえない? じゃあどうするの?群れに戻る?無理だ!人間さんに飼ってもらえる様お願いする?だから無理だって! え?じゃあ、ありすはどうやってゆっくりすればいいの? ……む……り? 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 突然奇声を上げるありす。 ありすは壊れた。自らの価値を知り、未来に待ち受ける絶望を知って。 心を深く閉ざし、ただ叫ぶだけの物になった。 そうすることがありすに残された、唯一の防衛手段だったから。 「よっと!」 ボスッ! 男は荷物から取り出した、ゆっくり捕獲用の麻袋の中にありすを放り込むと、声が漏れないように袋の口を固く縛る。 「別に虐めるつもりはまったくなかったんだがなぁ。なんか悪い事した気分だ」 麻袋をかつぎながらそう呟く男。 「むきゅ!人間さん、そのありすはどうなるのかしら?」 「どうもこうも、捨てゆっくりだからなぁ。保健所に送って、そのあと飼い主が見つからなければ処分されるんじゃないか」 「……そう」 うつむくぱちゅりー。 「ん?お前コイツに同情してんの?」 「少しだけ。ぱちゅだって、運が悪ければ同じような目に遭ってたかもしれないわけだし」 ためらいがちに言うぱちゅりー。 「いや、お前はこういう風にはならんとは思うけどな。 でもまあ、もしもを考えだしたらキリがないぜ。大切なのは今どうするかだよ。 てなわけで、さっさとこの先にある山の群れの視察に行くとするとしよう」 「むきゅ!それもそうね!」 そう言って男とぱちゅりーは山に向かって歩きだしたのだった。 所変わって再び山のゆっくりたちの群れ。 長ぱちゅりーはおうちで一匹、静かにゆっくりしていた。 考えているのはあの金バッチありすのこと。 今頃は人間さんの村に降りて、飼いゆにしてくれとでも頼んでいるのだろうか? バカなありすだ。 そういえばあのありす、自分は都会からきたとしきりに自慢していたっけ。 ふん、ばかばかしい。 この辺の森では都会のゆっくりなどそれほど珍しくもないのだ。 何故ならここは都会に一番近い山。 だからよく、あのありすのような元飼いゆが山に捨てられるのだ。 その多くはそのまま山を降り、人間さんたちの村へ向かう。 再び飼いゆにしてもらうためにだ。 そういった事情から、明らかに元飼いゆとわかるゆっくりが、麓の村に現れてもそれは協定違反とは見なされず大目に見てもらえる。 飼いゆが捨てられるなどの問題は、ある意味人間自身の問題だからだ。それを山に住んでいる関係ないゆっくりの所為にされても困る。 だから今まで捨てゆ問題は、この群れとは直接係わり合いのない問題だった。 だが、あのありすは人間の村に向かわず、何故かこの群れにやってきた。 すぐに追い返してもよかった。いや、実際にそうするべきだったのだ。 元飼いゆは、かなり高い確率でゲスだ。そんなのが群れにいても害でしかない。 しかし、私はこの群れに住むように勧めた。 何故か?一言で言えば癇に障ったのだ。 あのありすの世の中を舐め切った態度が、なんでもかんでもとかいはは、素晴らしいという根拠のない自信が。 自分から人間さんの元を出て行った?ふん、よくそう都合よく解釈できるものだ。 大方、我侭放題の態度に呆れられて捨てられたに違いないのだ。 そして、そんなありすの態度を見ているうちに、だんだん我慢できなくなってきた。 このふざけたありすに、野生で生きることの厳しさを叩き込んでやりたい。そう思った。 その行為は、はっきり言って何の意味もないことだとはわかっていた。それが何かを生み出すことは決してないだろう。 だがそれでも見てみたかったのだ。あのありすが現実を知り、絶望していく様を。 これは決して褒められた感情ではないだろう。ゲス的と言ってもいいかもしれない。 しかし、それでもやめらなかった。 簡単に死なないように、おうちを与えて、あのありすが、日々実践するとかいはな行為とやらを観察してやった。 私が自分から何かをすることはない。だがあのありすは、勝手に失敗し、勝手にゆっくりできなくなっていった。 そのマヌケな様を見て、私は思う存分ゆっくりすることができたのだ。 実にゲス的な行為である。だがその後ろ暗い感情を自覚しながらも、あのありすが日々弱っていくのを見る愉悦はたまらないものがあった。 しかし流石にもう頃合だろう。 群れのみんなから嫌われている汚物を、いつまでも群れに置いておくのもよくない。 若干名残惜しいが、そろそろお別れの時だ。 だから教えてやった。これから先、確実に訪れるであろう未来の事を。 案の定あのありすは血相を変え、そして数日後には群れのを抜け出し、人間さんの村へと向かった。 きっと自分を、飼いゆにしてくれるかもしれないという浅はかな希望にすがったのだろう。 まあそこから先のことは知ったこっちゃない。後は人間さんが適当に処分してくれるだろう。 ただ、唯一残念なのは、あのありすが村の人間たちに対して、飼いゆにしてくださいと、 ボロボロの姿で無様に懇願しているところを見れないことか。 きっと自分は元金バッジだったとでも言って、必死にアッピールしていることだろう。 そういえばこの群れでも同じように、やたら自分は金バッジだと強調していたっけ。 ありすがはじめて金バッジだと主張したとき、周りにいたゆっくりは驚いていたが、それはありすが凄いから驚いたわけじゃない。 ただ単に珍しかっただけの話なのだ。 「まったくバカなゆっくりね。野生の掟の前ではバッジなんて何の意味もないのにね」 そう一匹呟く長ぱちゅりー。 だがそのセリフとは裏腹に、ぱちゅりーのおうちの奥深くには、捨てきれない小さな未練として、銀色の何かが鈍く光っていた。 おしまい 以下全然読む必要のない後書き。 こんな拙い文章を最後までよんでくださってありがとうございました。 というわけで、元飼いゆっくりのお話しでした。 今回は、軽い話で行こうと思っていたので、ゲスな飼いゆが捨てられて酷い目に遭うというテンプレっぽい話を一つやってみました。 やはり王道はいいですね。そんなわけで、楽しんでもらえたら幸いです。 あ、それと、感想サイトのほうでいつの間にか、自分のスレができててビックリしました。 あれ?でもまだ十作も書いてないような……。投稿数が十を超えていればいいということなのかしら? まあ、とにかく立ててくださった管理人の方はありがとうございます。 と、まあそんところで、また次の機会があったときはよろしくお願いします。 ナナシ。 過去作品 anko1502 平等なルールの群れ anko1617 でいぶの子育て anko1705 北のドスさま 前編その1 anko1706 北のドスさま 前編その2 anko1765 北のドスさま 後編その1 anko1766 北のドスさま 後編その2 anko1845 お飾り殺ゆ事件 前編 事件編 anko1846 お飾り殺ゆ事件 後編 解決編 anko1919 とってもゆっくりできるはずの群れ anko2135 ぱちゅりー銀行 前編 anko2134 ぱちゅりー銀行 後編 anko2266 長の資質 前編 anko2267 長の資質 後編
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野生の掟 後編 24KB いじめ 自業自得 群れ ゲス 自然界 独自設定 惜しくも一つにまとまらなかった ありすが群れに加わってから少しばかり月日が経過ていた。 「ゆひい!ゆひい!」 ズリズリと音を立てながら、惨めに群れの近くの狩場を這いずり回っているゆっくりがいた。 元金バッジのとかいはなありすだった。 「こ、こんなのまちがってる!なんでとかいはなありすがこんなめに…」 誰にともなく文句を言いながら、狩りをするありす。 狩りといっても、ありすにはそこらへんに生えている、とても食えたような代物ではないまずい草を積むのが精一杯だった。 だがそれも仕方のないこと。ありすにはそのぐらいしかできることがないのだ。 「ゆうう!ゆっくりできないいいいいい!」 群れに住むことになってまず始めにありすを襲ったのは食料問題だった。 今まで食料は奴隷が持ってくるのが当然のことと思っていたありすは、そもそも狩りという概念がない。 長ぱちゅりーが何か言っていたが、そんなことをありすが理解できるはずもなかったのだ。 そのため、おうちで待っていれば、誰かがその内食料を持ってくるものだろうと思っていた。 だが、当然そんなことはなく、待てど暮らせど、誰も食料を運んでこない。 仕方なしに、おうちを出て村のゆっくりに食料を請求しに行ったところで初めて、みなが狩りというものをしていることを知ったのだ。 群れの広場では毎日狩り場についての情報交換が行われている。 どこどこには沢山木の実があった、あっちには虫さんの巣があった、むこうには特に食料になるようなものはなかった。 などなど、日々変化する食糧事情に対応するため、群れのゆっくりたちが情報を持ち合うのだ。 だが、極端に機動力が低く、行動範囲が狭いありすは、その話題に入ることができない。 提供する情報もなしに、一方的に有益な情報だけ得ようとする行為を他のゆっくりが許さないからだ。 まあ、仮に情報を得ても、ありすがそこまで到達できるかどうかは疑問が残るが。 そんなわけで、ありすが手にできる食料は、群れの周りに生えている誰も狩らないような、まずい草程度のものだったのだ。 だが、それすら、緩慢な動作のありすは、一日分集めるだけで精一杯である。 「はあ、はあ、やっとついたわ……」 少量の草を抱えて、ようやく自分の殺風景なおうちにたどり着くありす。 今まで人間の許で快適な室内暮らしをしてきたありすは、ゴツゴツとした地面では満足に眠ることも出来ず、 また自身を癒してくれる、クッションや家具の類も無いため、まったくゆっくりできていなかった。 が、しかしこんな狭く、何もないようなおうちでも、雨風が防げるだけ、何も無いよりも数段ましである。 もし長ぱちゅりーがこの場所を与えてくれていなかったら、ありすは群れに来た初日で恐らく永遠にゆっくりしてしまっていただろう。 「ゆうううう…どれいがもってきていたあまあまさんがたべたいわぁ……ううう」 目の前に積んだまずい草をぼんやりと眺めながら呟くありす。 当然ならがその辺に生えている草と、以前食べていたゆっくり用フードとは味も栄養も満足度も天と地ほどの差がある。 本来ならこんなまずい草など、口にするのも嫌なのだ。しかしそれでも空腹には勝てない。 ありすは、意を決するといつものように無理やり草を口に押し込む。 「むーしゃむーしゃ、ぐええええええええええ!ふしあわせええええええええええ!!!」 あまりの苦味に思わず吐き出しそうになるが、何とか堪える。 ただでさえ少ない食料だ。ここで戻してしまうわけにはいかない。 「ゆっ…ぐっ…うううう」 自身の余りにも惨めな境遇に思わず涙するありす。 それは自由を目指し、夢見ていたのとはあまりにも遠い生活。 「なんで…ありすはとかいはなのに、…きんばっじなのに…」 群れに訪れる前は、自分は誰からもうやまれる存在だと信じて疑わなかったありすだが、 今や群れで一番ゆっくりしてないゆっくりとして、みんなから嫌われているのである。 ありすとて、ただ黙って今まで過ごしてきたわけではない。 とかいはなゆっくりとして、認められるために群れのゆっくりたちに様々なアクションを起こしてきた。 だがそれらはことごとく失敗していたのだ。 あるときは、とかいの知識をいなかのゆっくりに教えてあげた。 とかいを知ることによりゆっくり群れのゆっくりがゆっくりできると思ったからだ。 「ゆふふふ!とかいにはね、でんとうさんがあって、よるでもくらくないのよ! それにて、れびさんというのもあって、そのなかでは、まいにちたくさんのおはなしがうつるのよ!どう?とかいはでしょ!」 「ふーん、それで?」 「えっ、えっと、ほら!とかいのはなしがきけてゆっくりできたでしょ!だからしょくりょうをちょうだいね!」 にっこり笑うありす。 だが群れのゆっくりたちは呆れ顔であった。 「わかるよー!たかりなんだねー!」 「そんなどうでもいいはなしよりも、むれのまわりのしょくりょうの、じょうほうのほうがずっとやくにたつよ!」 「じかんをむだにしたよ!みんなさっさといこう!」 ぞろぞろと去っていく群れのゆっくりたち。 こうしてありすは群れのゆっくりたちから無能なゆっくりと認識されるようになった。 またあるときは留守のおうちに忍び込み、とかいはにこーでぃねいとしてあげた。 自分がこーでぃねいとすることにより、ゆっくりできるようになると思ったからだ。 「ゆがあああああ!なんなのこれええええええええ!」 「あられいむ!どう?おうちをとかいはにこーでぃねいとしておいてあげたわよ! とってもゆっくりできるおうちになったでしょ! おれいはしょくりょうでいいわよ!はやくちょうだいね!」 「ふざけるなああああああああああああああ!」 ドン! 「ゆひゃあ!」 れいむの怒りの体当たりよって簡単に吹っ飛ばされるありす。 「にどとれいむのおうちにはいらないでね!まったくなにがとかいはだよ!ただたんにちらかしただけだよ! まだなにもしらないおちびちゃんだって、こんなめいわくなことはしないよ!」 ありすをなじるれいむ。 こうしてありすは群れのゆっくりたちから迷惑なゆっくりと認識されるようになった。 そしてまたあるときは、とかいはな愛を与えてあげようとした。 群れで一番狩りが上手いまりさに、すっきりを迫ったのだ。 「まりさあああああああああああ!とかいはなあいを、あたえてあげるうううううううううう!」 「ゆげげありす!なにをするきなのぜ!」 「きまってるでしょおおおおおおおおお!すっきりしましょおおおおおおおおおおおおお!」 「ふん!」 ドカ! 「ゆぎゃああああああああああ!」 まりさのぶちかましによって、やはり簡単に吹っ飛ばされるありす。 「ありすはばかなんだぜ!むやみにおちびちゃんをつくっちゃいけない、むれのおきてをわすれたのかぜ! だいいち、まりさはくちだけで、なにもできないありすと、すっきりするのはごめんなのぜ!」 「なんですってええええええ!こんなとかいはなびゆっくりをつかまえてええええええええええ!」 まりさの発言は流石にありすの癇に障ったのか、吹っ飛ばされつつも気力で起き上がるありす。 「たしかにありすは、びゆっくりなのかもしれないのぜ!でもそれだけなのぜ! しごともしないで、いえでふんぞりかえってるだけのつがいはごめんなのぜ! それにまりさは、だれかれかまわずすっきりしようとするびっちはごめんなのぜ!」 それだけ言うとさっさと、その場を去っていってしまうまりさ。 こうしてありすは群れのゆっくりたちから、誰彼かまわずすっきりしようとするゴミクズゆっくりと認識されるようになった。 「ゆうううう!こんな!こんなはずじゃあ……」 おうちで一匹嘆くありす。 だが嘆いたところで状況は何も変わらない。 明日も明後日も、群れ中のゆっくりに嘲笑われながら、ズリズリとまずい草をかみ締める毎日が続くことだろう。 どうしてこんなことになってしまったのだろう。自分はとかいはなはずなのに。 「むきゅ!こんにちはありす!ゆっくりしているかしら?」 ありすが一匹途方にくれていると、突然長ぱちゅりーがありすの元を訪ねてきた。 「ゆゆ!ぱちゅりー!いったいなんのようなの!」 「別に用ってわけじゃないけど、ちょっと近くを通りかかったから、様子を見にきたのよ。 どう?ありす?越冬の準備は進んでいるかしら?」 「………は?」 ありすは目をパチクリさせる。 越冬?何だそれ? 「ああ!やっぱりね!ありすは都会のゆっくりだから知らないんじゃないかと思って。 この辺は冬さんが来ると、あたり一面雪が積もって、まったく食料が取れなくなるの。 だからそのときに備えて、今の内に沢山食用を備蓄しておく必要があるの。 そうじゃないと、冬さんが来たときに、永遠にゆっくりしちゃうからね。 まっ、とかいはなありすなら、越冬用の備蓄なんて楽勝だと思うけど、念のために忠告しておくわ! 今のうちから食料を集めておかないと、あっさり死ぬから」 「………………」 「それじゃあね!ありす!言いたいことはそれだけよ!ゆっくりしていってね!」 いつものように、自分の言いたいことだけ一方的にしゃべり終えると、長ありすはどこかへ去っていってしまった。 その場に残ったのは、呆然と巣穴にたたずむありす。 越冬?なにそれ?え?備蓄?そんなの無理だ!でも集めておかないと死ぬって! え?死ぬ?死ぬの?このありすが?こんないなかで? いやだ!いやだ!いやだ!いやだ! 「いやだあああああああああああああああああああああああああああ!!!」 ありすはようやく理解したのだった。野生というものの厳しさを。 数日後、 「みょん!たいへんだみょん!」 長ぱちゅりーのおうちに、みょんが慌てた様子で、入ってくる。 「むきゅ!どうしたのかしらみょん、そんなに慌てて。なにか事件でも?」 長ぱちゅりーが何事かと尋ねる。 だが、その様子は幾分か余裕が見られ、大体何が起こったか見当がついている風にも見える。 「みょん!あのしんいりのありすが、やまをおりて、にんげんさんのむらにむかったみたいなんだみょん!」 「あらそう、それは大変ね」 と、ぜんぜん大変そうじゃない風に言うぱちゅりー。 「みょん!おいかけなくていいのかみょん」 落ち付いた様子のぱちゅりーに問いかけるみょん。 「放っておきましょう。下手に追いかけて、複数のゆっくりが、麓の村に入ってしまうほうがまずいわ。 大丈夫よ、群れの掟を破った時点で、あのありすと、この群れはなんの関係もない赤の他ゆ。 それにこの付近特有の事情もあるしね。人間さんたちはそこまで狭量じゃないわ」 「みょん!そういえばそうだったみょん!」 安堵したような表情になるみょん。 「あのありすともついにお別れね。残念だわ。本当に」 そう本当に残念そうに言う長ぱちゅりーであった。 所変わってここは麓の村。 「おねがいします!ありすをかってください!ありすはきんばっじでした! きっとゆっくりできますから!おねがいしますうううううううううううううう! ああああああ!まっでええええええええええ!にんげんさんいがないいでえええええええ! もうやせいはいやなんですうううううううう!ゆっくりさせてえええええええええええ!」 ゆっくりたちが暮らしている森の麓にある村にて、汚らしいゆっくりが、必死に自分を飼いゆにしてくれと叫んでいた。 その姿は、髪はベタベタで、目はどんよりと曇っており、歯は所々掛けている。 栄養状態が悪いのか肌はガサガサであり、形も所々へこんでおり、見栄えも悪い。 唯一の長所は、ありすの特徴でもあるお飾りの赤いカチューシャに、何かを無理やり引き剥がしたような小さな傷が付いていることで、 それがかろうじてもと飼いゆだと判断できる材料だということだった。 が、それも些細な事。道行く人間たちの目には、このありすはさぞかし汚らわしいゆっくりに映ることだだろう。 「ほら、じゃまだよ!」 ドカ! 「ゆべろばああああああ!」 通行人の一人に軽く蹴られて、道の端っこに投げ出されるありす。 ちなみに、このときありすが踏み潰されなかったのは、通行人の優しさではない。 ただ単に、自分の靴や道がクリームで汚れるのが嫌だった。それだけが理由だ。 いつ通行人たちの癇に障わって、踏み潰されるともわからない状況。 だが、それでもありすは叫ぶのを止めなかった。 もう野生はいやだ!いなかはいやだ!せまいおうちは嫌だ!不味い草はいやだ! 帰るんだ!とかいに!帰ってまた以前のように暮らすんだ! 快適なおうちに、おいしいごはん!ああ!自分はなんてバカだったんだろう! 自らそんな天国のような生活を投げ出すなんて! もう二度と我侭なんて言いません!だから!だから!飼いゆにしろおおおおおおおおおおおおおお! 「おねがいですうううううううう!ありすをかいゆっくりにしてくださいいいいいいいいい! ありすはきんばっじでしたあああああああああああああああ!」 再び人が通る気配を感じたありすは、必死に自分をアッピールする。 その甲斐あってか、やってきた男は足を止めてありすを見下ろす。 「あん?」 「むきゅ?」 立ち止まった人間を見た瞬間ありすは、しめた!と思った。 この人間さんからは、どことなく都会の雰囲気を感じるのだ。きっとこの村の人間ではないのだろう。 しかも同じゆっくりであるぱちゅりーを連れている。ゆっくり好きな証拠だ。 さらに良い事に、この男が連れているぱちゅりーは、どこにもバッジをつけていないのだ。これはチャンスだ! 「にんげんさん!ありすをかいゆっくりにしてくださいいいいいいいいいい! ありすはとかいはなきんばっじでしたああああああああああああ! きっとそんな、ばっじなしのぱちゅりーなんかよりもずっとゆっくりできますうううううう!」 ここぞとばかりに自分をアッピールするありす。 特に、自分は金バッジであることを重点的に主張する。 が、しかしそんなありすの様子に男はまったく表情を変えることなく、 「ふーん、金バッジねえ…。てことはお前さん、もと飼いゆかね」 と、呟いた。 「むきゅ!あの、人間さん、言いにくいのだけれど、村内に野生のゆっくりがいるって不味くないかしら? その、協定的な意味で……」 側にいるぱちゅりーが恐る恐るといった感じで男に尋ねる。 「まあ、よくはないよな。でもまあ、ここら辺の村はある意味仕方ないっていうか… とにかくこいつみたいなゆっくりが協定を破って村にいても、とりあえずは大目に見ようって感じなんだよな」 「むきゅ?」 「ええっと、つまりさ……」 男が説明しようとしたその時、 「なにごちゃごちゃはなしてるのおおおおお!はやくそのげすぱちゅりーをすてて、 とかいはなありすをかいゆにしろおおおおおおおおおおおおお! ありすはきんばっじだぞおおおおおおおおお!そんなばっじなしとくらべるまでもないでしょおおおおおお!」 意味不明な会話をしている男とぱちゅりーに我慢できなくなったのか、ありすは声を荒げる。 その荒ぶるありすの様子を見ていた男は、やれやれとため息をつきながら、ひとまずぱちゅりーとの会話を中止し、 荷物から一冊の雑誌を取り出した。 その雑誌の名は『月刊ゆっくりマガジン』ゆっくりの専門雑誌だ。 男はその雑誌ををパラパラとめくり、の飼いゆっくり特集コーナを開くと、ありすに見せた。 「えっーと、これは単純に興味本位で聞くんだが、お前さんがつけてた金バッジってのは、このページに載ってるどれのことだい?」 「ゆ?」 ありすは、男に見せられた雑誌のページを凝視する。 そこには大小さまざまなバッジが掲載されていた。それぞれみな形が違うが、唯一の共通点として全てのバッジが金色をしていた。 なんだそういことか!と、ありすは唐突に理解する。 つまりこれは、人間さんがありすが本当に金バッジだったかを確かめるためのテストに違いない! そうとわかればなんら恐れることはない! 何故ならありすは、正真正銘の本当にゆっくりした、とかいはの金バッジだったのだ! 他のニセモノの金バッジなどに騙されるはずもない。 「ゆゆ!それ!それよにんげんさん!そのいちばんみぎしたのやつが、ありすのばっじよ!」 ありすは、以前自身がつけていたバッジを見つけると、すぐさま勢いよく主張した。 やった!これでありすが本当に優れた金バッジだったことが証明された。 これで飼いゆ間違いなしだ!人間は、あんなバッジなしのぱちゅりーなんかさっさと捨てて、ありすを飼うに違いない! ゆふふふふ!金バッジでごめんねーーー!さあ!はやくありすの金バッジを褒め称えなさい! 「あちゃー、これかー。これ最近参入してきたばっかの評判最悪の企業の金バッジだな。 なるほど、確かにこりゃ酷いわ。間違って買っちまった元飼い主はご愁傷様だなこりゃ」 「……………へ?」 男の予想外の言葉に目を点にして呟くありす。 「不思議そうだな。まあでも別に大した話しじゃないんだ。 ただ単純に金バッジにもいろいろ種類があってね、中でもお前のは最低クラスだったってだけの話だ」 淡々と真実を述べる男。 そうなのだ。実は一口に金バッジといっても様々な種類があるのだ。 初期の初期、ペットゆっくりというものが認知されはじめた当初は、バッジといえば男が所属する国営機関が正式な試験の元で発行する、 正規のバッジしか存在していなかった。 が、ペットゆっくりの需要が増えるにつれ、その利潤に目をつけた様々なメーカーがペットゆっくり業界に参入してきたのだ。 それら各企業は、独自ブランドと称して、自身たちで勝手に金バッチゆっくりを販売し始めたのだ。 それはさながら携帯などに様々な機種が存在するのと同じように、市場には様々なメーカーの金バッチが溢れる結果となる。 かくして、現在の飼いゆ業界は、様々なメーカーの金バッチが氾濫しているカオスな状況になっていたのだ。 そしてそれらの中には、金バッジとは名ばかりの、見栄えだけよくしたパチもんゆっくりもよく混じっていた。 特にこのありすが付けていた金バッシは、最低クラスの評価の、エセ金バッジともいえるタイプのもので、 男が所属している組織が発行している金バッチはもとより、他の企業が出している金バッチよりも遥かに劣るという、 詐欺まがいの代物であった。 もし、ペットショップで他の金バッジよりもやたら安いメーカーの金バッジを見かけたら、それはまず粗悪ゆだと見てまず間違いないだろう。 ちなみに今月号の『月刊ゆっくりマガジン』の、ありすがつけていた金バッジのメーカーに対する読者レビューは以下の通りだ。 ★☆☆☆☆(星一つ評価) 『最低の一言です。私は様々なメーカーの金バッジを見てきましたが、この金バッジほどひどいものはいまだお目にかかったことはありません。 恐らく見栄えのみを判定基準にして、まったく飼いゆとしての教育を行っていないのでしょう。 購入した時点で、すでに性格はゲスの一歩手前。飼いゆとしてごく普通の飼育をしたとしても、容易にゲス化してしまいます。 これからゆっくりを飼おうとしている人は、安い値段につられても、絶対にこのメーカーのゆっくりを買うべきではありません。 ゆっくりそのものが嫌いになってしまう可能性があります』 ★☆☆☆☆(星一つ評価) 『私は飼いゆっくりについては、まったくの素人で、初めて飼いゆを購入する際に、恥ずかしながら金バッジという響きと、 値段の安さ、それに見栄えのよさにつられてこのメーカのゆっくりを購入してしまいました。 そしてその結果は散々でした。 私が飼っていたのはありすだったのですが、どれだけごはんを与えても、感謝どころかもっとよこせといい、 部屋を散らかすので、それなりにひろいスペースを区切り、そこをおうちとして与えても、せまいせまいと常に文句をいっていました。 しかもそれだけならまだしも、散歩の時に人様のゆっくり相手に勝手にスッキリしようする始末。 段々このありすを飼っているのが苦痛でしかなくなっていき、一時期はゆっくり嫌いになってしまいました。 が、友人の勧めで、国営機関が発行している正規の銀バッシゆっくりのちぇんを飼って考えが変わりました。 このちぇんはきちんと礼儀正しいし、言う事もちゃんと聞くし、かわいいしで、前のありすとは天と地の差です。 飼いゆっくり初心者の方は、決して私と同じように値段に釣れられて、このメーカーのゆっくりを買ってはいけません。 きっと後悔します』 ★☆☆☆☆(星一つ評価) 『見栄えがよく、また成長段階でその見栄えを維持するために甘やかされたためか、非常に生意気で自尊心が強いので、虐待用として最適です。 ただ余りにも自我とプライドが強いので、種族にもよりますが、あまり子ゆっくりを欲しがらない傾向にあります。 そのため子ゆっくりを作らせて、親の前で虐待するプレイを楽しみたい人には不向きかもしれません。 え?このゆっくりは虐待用じゃないって? はは、そんな馬鹿な。こんなふざけたゆっくりを金バッジの飼いゆとして本気で売り出してるわけないでしょう? きっとこれは金バッシの虐待プレイ用のゆっくりなんですよ。 もしそうじゃないとすれば、消費者やゆっくりブリーダーの方々をバカにしてるとしか思えませんね』 と、まあこんな感じで評価一がずらりと並んでいる。 ここまで低い評価が並ぶ金バッジも珍しいものであった。 「むきゅ!人間さん!そこまでよ!そんなこといちいち捨てゆっくりに言うことじゃないわ!」 「ああそうね、確かに他ゆの素性を暴くなんて、あまり趣味のいいと言える行いではなかったな。 いやすまんね、お前さんがあんまり金バッジ金バッジ叫ぶから、どこのメーカーの金バッジなのかちょびっと気になってね。 まあ、悪かったよ」 素直に詫びる男。 男の言った事は全て真実だった。 別に惨めな捨てゆであるありすの、唯一の拠り所であった金バッジの優位性を否定して、 嘲笑ってやろうなどという意図は男にはまったくなかった。 ただ単純に、ありすの金バッジがどこのメーカーの物か、ふと疑問に思い、確認しただけだ。 その結果たまたま、それがそのへんの賢い野良ゆ以下のゲロカスバッジだったということが明らかになっただけの話だ。 「そんな!そんな…ありすは……」 金バッシは沢山ある?その中でも最低?じゃあ自分はとかいはじゃないの? いやそれ以前にもう人間さんには飼ってもらえない? じゃあどうするの?群れに戻る?無理だ!人間さんに飼ってもらえる様お願いする?だから無理だって! え?じゃあ、ありすはどうやってゆっくりすればいいの? ……む……り? 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 突然奇声を上げるありす。 ありすは壊れた。自らの価値を知り、未来に待ち受ける絶望を知って。 心を深く閉ざし、ただ叫ぶだけの物になった。 そうすることがありすに残された、唯一の防衛手段だったから。 「よっと!」 ボスッ! 男は荷物から取り出した、ゆっくり捕獲用の麻袋の中にありすを放り込むと、声が漏れないように袋の口を固く縛る。 「別に虐めるつもりはまったくなかったんだがなぁ。なんか悪い事した気分だ」 麻袋をかつぎながらそう呟く男。 「むきゅ!人間さん、そのありすはどうなるのかしら?」 「どうもこうも、捨てゆっくりだからなぁ。保健所に送って、そのあと飼い主が見つからなければ処分されるんじゃないか」 「……そう」 うつむくぱちゅりー。 「ん?お前コイツに同情してんの?」 「少しだけ。ぱちゅだって、運が悪ければ同じような目に遭ってたかもしれないわけだし」 ためらいがちに言うぱちゅりー。 「いや、お前はこういう風にはならんとは思うけどな。 でもまあ、もしもを考えだしたらキリがないぜ。大切なのは今どうするかだよ。 てなわけで、さっさとこの先にある山の群れの視察に行くとするとしよう」 「むきゅ!それもそうね!」 そう言って男とぱちゅりーは山に向かって歩きだしたのだった。 所変わって再び山のゆっくりたちの群れ。 長ぱちゅりーはおうちで一匹、静かにゆっくりしていた。 考えているのはあの金バッチありすのこと。 今頃は人間さんの村に降りて、飼いゆにしてくれとでも頼んでいるのだろうか? バカなありすだ。 そういえばあのありす、自分は都会からきたとしきりに自慢していたっけ。 ふん、ばかばかしい。 この辺の森では都会のゆっくりなどそれほど珍しくもないのだ。 何故ならここは都会に一番近い山。 だからよく、あのありすのような元飼いゆが山に捨てられるのだ。 その多くはそのまま山を降り、人間さんたちの村へ向かう。 再び飼いゆにしてもらうためにだ。 そういった事情から、明らかに元飼いゆとわかるゆっくりが、麓の村に現れてもそれは協定違反とは見なされず大目に見てもらえる。 飼いゆが捨てられるなどの問題は、ある意味人間自身の問題だからだ。それを山に住んでいる関係ないゆっくりの所為にされても困る。 だから今まで捨てゆ問題は、この群れとは直接係わり合いのない問題だった。 だが、あのありすは人間の村に向かわず、何故かこの群れにやってきた。 すぐに追い返してもよかった。いや、実際にそうするべきだったのだ。 元飼いゆは、かなり高い確率でゲスだ。そんなのが群れにいても害でしかない。 しかし、私はこの群れに住むように勧めた。 何故か?一言で言えば癇に障ったのだ。 あのありすの世の中を舐め切った態度が、なんでもかんでもとかいはは、素晴らしいという根拠のない自信が。 自分から人間さんの元を出て行った?ふん、よくそう都合よく解釈できるものだ。 大方、我侭放題の態度に呆れられて捨てられたに違いないのだ。 そして、そんなありすの態度を見ているうちに、だんだん我慢できなくなってきた。 このふざけたありすに、野生で生きることの厳しさを叩き込んでやりたい。そう思った。 その行為は、はっきり言って何の意味もないことだとはわかっていた。それが何かを生み出すことは決してないだろう。 だがそれでも見てみたかったのだ。あのありすが現実を知り、絶望していく様を。 これは決して褒められた感情ではないだろう。ゲス的と言ってもいいかもしれない。 しかし、それでもやめらなかった。 簡単に死なないように、おうちを与えて、あのありすが、日々実践するとかいはな行為とやらを観察してやった。 私が自分から何かをすることはない。だがあのありすは、勝手に失敗し、勝手にゆっくりできなくなっていった。 そのマヌケな様を見て、私は思う存分ゆっくりすることができたのだ。 実にゲス的な行為である。だがその後ろ暗い感情を自覚しながらも、あのありすが日々弱っていくのを見る愉悦はたまらないものがあった。 しかし流石にもう頃合だろう。 群れのみんなから嫌われている汚物を、いつまでも群れに置いておくのもよくない。 若干名残惜しいが、そろそろお別れの時だ。 だから教えてやった。これから先、確実に訪れるであろう未来の事を。 案の定あのありすは血相を変え、そして数日後には群れのを抜け出し、人間さんの村へと向かった。 きっと自分を、飼いゆにしてくれるかもしれないという浅はかな希望にすがったのだろう。 まあそこから先のことは知ったこっちゃない。後は人間さんが適当に処分してくれるだろう。 ただ、唯一残念なのは、あのありすが村の人間たちに対して、飼いゆにしてくださいと、 ボロボロの姿で無様に懇願しているところを見れないことか。 きっと自分は元金バッジだったとでも言って、必死にアッピールしていることだろう。 そういえばこの群れでも同じように、やたら自分は金バッジだと強調していたっけ。 ありすがはじめて金バッジだと主張したとき、周りにいたゆっくりは驚いていたが、それはありすが凄いから驚いたわけじゃない。 ただ単に珍しかっただけの話なのだ。 「まったくバカなゆっくりね。野生の掟の前ではバッジなんて何の意味もないのにね」 そう一匹呟く長ぱちゅりー。 だがそのセリフとは裏腹に、ぱちゅりーのおうちの奥深くには、捨てきれない小さな未練として、銀色の何かが鈍く光っていた。 おしまい 以下全然読む必要のない後書き。 こんな拙い文章を最後までよんでくださってありがとうございました。 というわけで、元飼いゆっくりのお話しでした。 今回は、軽い話で行こうと思っていたので、ゲスな飼いゆが捨てられて酷い目に遭うというテンプレっぽい話を一つやってみました。 やはり王道はいいですね。そんなわけで、楽しんでもらえたら幸いです。 あ、それと、感想サイトのほうでいつの間にか、自分のスレができててビックリしました。 あれ?でもまだ十作も書いてないような……。投稿数が十を超えていればいいということなのかしら? まあ、とにかく立ててくださった管理人の方はありがとうございます。 と、まあそんところで、また次の機会があったときはよろしくお願いします。 ナナシ。 過去作品 anko1502 平等なルールの群れ anko1617 でいぶの子育て anko1705 北のドスさま 前編その1 anko1706 北のドスさま 前編その2 anko1765 北のドスさま 後編その1 anko1766 北のドスさま 後編その2 anko1845 お飾り殺ゆ事件 前編 事件編 anko1846 お飾り殺ゆ事件 後編 解決編 anko1919 とってもゆっくりできるはずの群れ anko2135 ぱちゅりー銀行 前編 anko2134 ぱちゅりー銀行 後編 anko2266 長の資質 前編 anko2267 長の資質 後編
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野生の掟 前編 23KB いじめ 自業自得 群れ ゲス 自然界 独自設定 気軽に読める話をめざして ・いつも通り過去作品の登場人物が出ますが読んでなくても大丈夫です。 「ふん!まったくとんでもないどいなかね!まったくさいごまできがきかないどれいだったわ!」 とある大きな山の森にて、一匹のゆっくりありすがぶつぶつと不服そうに文句を言っている。 ありすが今いるこの森はとても大きく、人間と簡単な協定を結んだ群れが存在しているぐらいなので、 この場にゆっくりであるありすがいること自体は、なんら特別なことではない。 が、しかしこのありすをよく観察してみると、どうもその場に相応しくないような印象を受ける。 その違和感の正体はありすの見かけにあった。このありす、山や森で生活している野生のゆっくりにしてはやたら小奇麗なのだ。 髪の毛はサラサラで、おめめはパッチリ、歯もキラキラと光輝いている。 栄養状態が良いのか肌はもちもちであり、形も適度な楕円形をしており見栄えもなかなか悪くない。 唯一の欠点は、ありすの特徴でもあるお飾りの赤いカチューシャに、何かを無理やり引き剥がしたような小さな傷が付いていることだ。 が、それも些細な事。同属であるゆっくり同士の目には、このありすはさぞ美ゆっくりに映ることだろう。 しかし何故こんなゆっくりがこの森にいるのだろうか? 「ふん!まあいいわ!あんなゆっくりできないどれいのところは、もういいかげんうんざりしていたしね! それにくらべれば、こんないなかでも、ひゃくばいはましなはず!これでおもうぞんぶんゆっくりできるってものだわ!」 そう言い放つありす。 どうやらこのありすは、この森で生まれ育ったわけではないらしい。 なるほど。それならば、このありすのやたら小奇麗な見かけにも納得がいくというものだ。 そもそもゆっくりが独力でこれだけの健康状態と見栄えを維持することなど至難の技だ。不可能と言ってもいい。 となれば、このありすが言っている奴隷というのも同じゆっくりのことではなく、人間のことだと気づく。 そう、答えは至極簡単な事。このありすは元飼いゆっくりで、捨てられてこの場にいるのだった。 飼いゆっくりだったころ、ありすは毎日まったくゆっくりできていなかった。 何故なら自分の世話係のはずの奴隷が、ちっとも自分の言う事を聞かないからだ。 ありすは奴隷にいつも問いかけていた。なぜこんなゆっくりできないことをするのかと。 それに対する奴隷の答えはいつも意味不明で、まったくゆっくりできないものであった。 ありすは不満だった。いつも奴隷が決められた時間に、決められた量しかごはんがを持ってこないことに。 何故好きなだけむしゃむしゃしてはいけないのか?そう問いかけると、奴隷は、 「それはありすの体型を維持するためだよ。食べ過ぎて身動きできないほど太ったらゆっくりできないだろ?」 と、まったく意味不明なことを言う。 まったく理解できない!好きなものを好きなだけ食べてゆっくりできなくなるはずもないだろうに! だからさっさとあまあま持ってこい! ありすは腹立たしかった。ここはありすのおうちで、そこの奴隷を住まわせてやっているというのに、 奴隷はおうちの一角を柵のようなもので囲って、そこからありすが一匹で出られないようにしていたのだ。 何故ありすをこんな狭い場所に閉じ込めておくのか?そう問いかけると、奴隷は、 「そりゃそうしておかないと、ありすは家中メチャクチャにしちゃうからね。その柵の中なら自由にしてもいいよ」 と、まったく意味不明なことを言う。 はあ?ふざけるのもいい加減にしろ!そもそもこのおうちはありすのおうちなのだ! 自分のおうちを自分の好きなように、こーでぃねいとしてなにが悪いというのだ! だからさっさとこの狭い場所から出せ! ありすは不服だった。自分ほどの美ゆっくりならば、当然毎日それに見合うだけの美ゆっくりが、代わる代わるスッキリ奉仕しに訪れるべきなのだ しかしそんな気配は一向に無い。それならばしかたがないと、たまに奴隷と散歩に行くときに見かける町の他の美ゆっくりたちとスッキリしてやろうと思い近づく。 しかしそうすると、必ず奴隷に邪魔されるのだ。 何故すっきりしてはいけないのか?そう問いかけると、奴隷は、 「当たり前だろ!そんなむやみやたらスッキリして、子どもが出来ても面倒みきれないよ。 それに、散歩中にほかの飼いゆに手を出そうとするなんて、事前に止められたからいいものの、 もし相手に無理やりスッキリなんてことになったら飼い主になんて詫びればいいか……」 と、まったく意味不明なことを言う。 無理やり?いったいこの奴隷には目がついているのか? ありすほどの美ゆっくりとスッキリできて誰が嫌がるものか!あれはただ単にツンデレなだけだというのに! 他の美ゆっくりに、とかいはない愛を与えることは自分の使命なのだ! だからさっさとすっきりするための美ゆっくりを連れて来い! 度重なる意見の衝突、対立、争い。そしてついに最後の一線を越える日がくる。 何故こいつは奴隷の分際でありすにこうも楯突くのか! 何故ありすの命令に従い、ただ言うとおりにするという簡単な仕事さえできないのか! もういやだ!もうこんな狭い場所でゆっくりできない生活をおくるのはもうゴメンだ! 外で暮らしたい!こんなところ出て行ってやる! そして大量の食料を好きな時に好きなだけ思う存分むしゃむしゃし、広大なおうちを自由にこーでぃねいとし、 美ゆっくりたちと思う存分スッキリするのだ! 出せ!ここから出しやがれこの奴隷が!せいっさいするぞ! 奴隷はふう、とため息をつくと、こんなことを言った。 「チッ、ゆっくりってのは、多少我侭なところがあるって本には書いてあったけど、まさかここまでとは思わなかったよ。 一度飼った以上責任があるから今まで置いていたけど、自分から出て行きたいってのなら話は別だよな。 お望み通りここから出てってもらうことにするよまったく。せいぜい外でゆっくするんだな」 それだけ言うと、奴隷はありすの口に何かを無理やり押し込んだ。 それを口に含んだ途端、ありすの意識は途絶えた。 「ふう。やっぱり興味本位でゆっくりなんかに手を出すんじゃなかったかな。 おっと、そうだ、これは外しておかないと」 男は、ありすのカチューシャについてるバッチを無理やり引き剥がした。 「流石に殺したりこの近くに捨てるのは寝覚めが悪いな。 …そうだな、少し面倒だけど、森にでも捨てに行くか…」 そう言い、男はありすを抱えると、そのまま車に乗り込み森を目指して出発した。 この飼い主はゆっくりについてはまったくの初心者だった。 しかし、きちんと、飼いゆっくり初心者用のテキストの通りに飼育しており、 別段甘やかしすぎたり、厳しすぎたりなどはせず、その飼育の方法はそれ程誤ったものではなかった。 ただ、まあ彼はいろいろと運が悪かったのだ。 その後飼い主は、友人の勧めで今度はちぇんを飼う事になったらしい。 そしてその嘘の様な聞き分けの良さに驚くことになるのだがそれはまた別の話。 とにかくこうしてありすは捨てゆっくりとなった。 といってもありす視点からすれば、自分は捨てられたのではなく、自ら不自由な奴隷の下を去ったという感覚なのだが、 それは見方の違いというやつで、現状が変わるわけではない。 捨てられた場所が都会ではなく、田舎の森の中だったことは、飼い主の最後の情けだったのかもしれない。 とにかくありすはこの広大な森にて、第二のゆん生を生きることとなった。 「ふう!とにかく、ずっとここにいてもしかたないわね!とりあえず、むれというのをさがしてみようかしら!」 一匹森の中で呟くありす。 以前聞いた奴隷の話によると、どうやら田舎の野生ゆっくりたちは、群れというものを作って集団で生活しているらしい。 きっと一匹では満足に生活することすらできない無能ばかりなので、みなで助け合って何とかやっていっているに違いない。なんとも効率の悪いことだ。 もしそんな中に、このとかいはない自分が現れたどうなるだろうか? きっとみなその威光に無条件でひれ伏してしまうに違いない。 あるいは群れの長というやつに、是非なってくれと頼まれるかもしれない。 そんな面倒なことは正直ごめんだったが、群れのゆっくり全員が土下座して頼むならまあ、考えてやらないでもなかった。 そのときは精々奴隷として使ってやろう。とかいはな自分に、いなかものが奴隷としてでも仕えることができるなんて、 これ以上の幸福はないだろう。まったくこの森に住んでいる連中はついている。 と、そんな妄想をしながらありすが森を進んでいると、目の前にきょろきょろと周囲を見回しているれいむに遭遇した。 「れいむ!ゆっくりしていってね!」 早速声を掛けるありす。 「ゆゆ?ありす!ゆっくりしていってね!」 突然声を掛けられたれいむは、やや驚いたものの、すぐに挨拶に応じる。 が、すぐに首をかしげて疑問を口にする。 「ゆん?みたことのないありすだね!いったいどこからきたの?」 れいむの疑問にありすは、待ってましたとばかりに胸を張ってこう答えた。 「ゆふふふふ!きいておどろきなさい!ありすはとかいからやってきたのよ! こんないなかのやまとはわけがちがう、しょうしんしょうめいのとかいよ! どう!すごいでしょ!わかったらあいりすのこと、すうはいしてもいいのよ!」 そう堂々と言い放つありす。 ありすの考えでは、自分がとかいからやってきたと知ったら、あのれいむはきっと腰を抜かして、 自らとかいはのありすの奴隷にしてくださいと懇願するはずであった。 少なくとありすはそう信じて疑ってなかった。 が、れいむは 「ふーん、そうなんだ!すごいんだね!……それじゃあねありす!れいむはいそがしいからもういくよ!」 そう微妙なリアクションをして、そのままくるりと背を向け跳ねて行ってしまおうとするれいむ。 「ちょちょちょちょっとまちなさいよ!」 予想外の事態に、慌ててれいむを呼び止めるありす。 何なんだこのれいむは!このとかいはなありすを目の前に残しておいて、どこかに行こうとするなんて信じられない! このいなかものがぁ! 「ゆん?どうしたのありす!」 まだ何かあるのかと疑問げな様子のれいむ。 「あ、あなたいま、だれをめのまえにしてるかわかってるの!とかいよ!とかいはなのよ! もっとほかにいうことがあるでしょうがああああああああああああああああああ!」 「ゆう?」 ありすの激しい物言いに対して、頭にクエッションマークを浮かべて首を傾げるれいむ。 だめだ!きっとこのれいむは、あまりにもいなかものすぎて、とかいの意味すらわからないような底抜けのバカなのだ。 恐らく、とかいがどれだけ素晴らしいかという想像力すらも持ち合わせていないのだろう。 だめだ!だめだ!こんなれいむじゃ話にならない!もっとまともなゆっくりに会わなくては! 「しかたがないわね!いいわ!れいむ、ありすをむれというところまであんないしないさい!」 高圧的に命令するありす。 「ゆーん……うん、いいよ!れいむもそろそろかえろうとおもってたところだしね! それじゃあれいむについてきてね!」 れいむは少し考えた後、うなずくと、ありすについてくるよう促し、さっさと移動しはじめた。 「まっ、まちなさいよ!は…はやっ…い」 ポヨンポヨンと軽快に跳ねるれいむの後を必死になって追いかけるありす。 こうしてありすは、ゆっくりの群れへ向かうこととなった。 「ゆっ!ここがれいむたちのむれのちゅうしんぶだよ!ゆっくりしていってね!ありす!」 そう満面の笑みで言うれいむ。それに対して、 「はー、はー、ぜい、ぜい、ふう、ふう」 ひたすらに荒い呼吸をくり返すありす。 生まれてはじめての全力疾走に疲れ、息も絶え絶えのありすは、れいむに返事をする余裕すらないようだ。 「ゆう!それじゃ、れいむはもういくね!あ、むれにいれてほしいなら、まずおさにあうといいよ! それじゃあね、ありす!ゆっくりしていってね!」 それだけ言うと、今度こそいずこかへ去っていってしまうれいむ。 「はあ、はあ、なんだってのよあのいなかものは……」 れいむが去った後、一息ついたありすは群れの様子を見回してみる。 大きな山だけあって、群れの規模もそれなり大きいようだ。 大小さまざまな種族のゆっくりたちが、そこかしこに散らばって、思い思いにゆっくりしたり、何かの作業をしていたりしている。 都会ではまず見られない光景だった。 「へ、へえ!いなかもなかなかやるじゃないの!」 今まで主に室内での飼いゆだったありすは、これだけの数のゆっくりを一度に見たことがなかったため、その迫力に少々圧倒されていた。 これだけの数がいれば、きっと中には自分のとかいてきな素晴らしさを理解できる固体もいるだろう。 よくよく見れば、群れの中には自分ほどではないが、そこそこの美ゆっくりも混じってはいる。 うん!なかなか悪くないじゃないか! はじめに会ったれいむみたいな、いなかものばかりだったらどうしようかと思ったが、これならまあ何とか許容できそうだ。 「ちょっと!そこのまりさ!」 ありすは近くを通りかかったまりさに声を掛ける。 「ゆん?なんなのぜ?」 「むれのおさのところにあんないしてほしんだけど!」 相変わらずの命令口調でまりさに言うありす。 「ゆゆ!みたことないありすなのぜ!さてはしんいりなのかぜ!おさのおうちは、このさきをずっといったところにある、どうくつにいるのぜ! むれにはいりたいのなら、しっかりあいさつしておくといいのぜ! それじゃありす、まりさはいそがしいからもういくのぜ!」 それだけ一方的に言うと、まりさはどこかへと跳ねていってしまった。 「あ!ちょっと!……もう!なんだっていうの!ゆっくりしてないわねえ!」 自分は、長のところまで案内しろと言ったのに、まりさは道を教えるだけで、さっさとどこかへ行ってしまった。 さっきのれいむといい、どうもこのいなかの連中はゆっくりしてない。 やはりとかいてきなゆっくりの精神をいなかに求めるのは無理があったのだろうか? いやいやと、ありすは思い直す。奴らはきっとただ無知なだけなのだ。 とすれば、素晴らしいとかいはなゆっくりを奴らに教えられるのは自分しかいないじゃないか。 そう!これは使命なのだ!このいなかものどもに、とかいの素晴らしさを広めなくてはならないのだ! 「そうときまれば、さっそくおさにあいにいくとしましょう!そしてさっさとこのむれのおさのちいをゆずってもらわないとね!」 長など面倒だと思っていたが、こういう事情があるならばそれもやむを得えまい。 このいなかの群れを都会的にするという使命を胸に秘め、まりさに教わった道を一直線に突き進むありす。 ちなみにありすの、群れのみんなのためにとかいはなゆっくりを広めるというこの考えは、 表面だけみればいかにも群れを思っての行動のように思えるが、 結局は、都会を認めさせる=自分の価値や凄さを認めさせるという利己的な行動だと言える。 無論ありすはそんなこと少しも意識してはいなかったが。 「あなたがこのむれのおさかしら!」 長のおうちへ向かう道の途中での開けた場所で、一匹のぱちゅりーが数匹のゆっくりと一緒になにやら話をしていた。 ありすは、このぱちゅりーに、自分ほどではないが、都会的な気配を感じたのだ。 きっとこのぱちゅりーが群れの長に違いない。そう感じたありすは早速話しかけることにしたというわけだ。 「むきゅ!その通りよ!あなたは?この辺じゃ見ない顔だけど…」 「ゆっふっふ、ありすはありすよ!とかいからやってきたの! このいなかもののむれに、とかいはのすばらしさをしらしめるためにね!」 ドドンと胸を張って答えるありす。 それに対して長ぱちゅりーは訝しげな表情で、 「都会からきた?あなたもしかして、元飼いゆだったのかしら?」 と、そう尋ねる。 「ゆ?かいゆ?…ああ、そういえばとかいにはそんなやつらもいたわね! じぶんからにんげんのどれいになるような、とんでもないいなかものたちのことでしょ! ふん!ありすはちがうわ!ありすはにんげんをどれいにしていたの!あんなれんちゅうといっしょにしないでしょうだい!」 そう憤慨した表情で語るありす。 その様子を見ていたぱちゅりーは、何か呆れたものでも見るかのような目つきでさらにこう尋ねた。 「その人間さんを奴隷にして、快適な生活をしていたありすが、なんだってこんな田舎の群れにいるのかしら? ずっとそこに住んでいればよかったじゃない」 ぱちゅりーの最もな疑問に対して、ありすはなんだ、そんなことかという風に答える。 「あのどれいが、あまりにもやくたたずだからよ!まいにちごはんは、きめられたじかんにきめられたりょうしかもってこないし、 ありすを、へやのいっかくのしきりにとじこめるし、あまつさえ、すっきりすることさえきんしときたわ! だからでていってやったのよ!きっといまごろありすがいないから、ゆっくりできなくなってないてるわね!」 「…………ああ、そう。だいたい事情はわかったわ」 今までの流れで、何かを悟ったかのように呟く長ぱちゅりー。 「それでありすは、ぱちぇにいったい何の用かしら?」 「ゆゆ?いままでのはなしのながれで、わからなかったのかしら?まったくこれだからいなかものは! ありすはとかいはなの!だからありすをこのむれのおさにしなさい!そうすれば、みんなとかいてきなゆっくりをきょうじゅできるようになるわよ!」 ありすは、早速自分を長にするようにと要求しはじめる。 とかいはな自分が長をやることにより、この群れの全体がとかいはになり、みなゆっくりできるというのがありすの理屈だ。 「むきゅう、いきなりやって来て、急に長にしろっていわれてもねえ? だいたい都会に住んでたからって、かならずしもとかいはとは限らないんじゃない?」 「な、な、なんですってええええええええええええええええ!」 自分がとかいではないと言われて顔を真っ赤にしてプルプルと震えるありす。 というか、とかいはうんぬん以前に、ありすの主張は突っ込みどころ満載である。 でもそんなことで言い合いしても埒が明かないと思った長ぱちゅりーは、恐らくありすが一番反応するであろう点を意図的に指摘したのだ。 「んほおおおおおおおおおおおおおお!しつれいしちゃうわああああああああああああああああああ! こんなとかいはなありすをつかまえて、とかいはとはかぎらないなんてええええええええええ! いいわ!おしえてあげる!ありすがとかいはなしょうこを!」 それだけ言うと、ありすは一息ついてから、スゥと大きく息を吸い込み、 「ありすはねぇ!きんばっじなのよ!!!」 と、これ以上ないくらいのドヤ顔で言った。 「ゆゆ!きんばっじさん!」 「ゆーめずらしいね!」 「はじめてみたよ!」 「わかるよー!きんばっじはゆっくりできるんだねー!」 金バッジと聞いて、今まで周囲にいたゆっくりたちもざわめきだす。 さすがにこんなド田舎の群れでも、金バッジ効果は絶大のようだ。 「ゆふふふふ!」 周りのゆっくりのざわめきに有頂天になりながら、ありすはほくそ笑む。 そう!ありすは金バッジゆっくり! 本当にゆっくりした、特別なゆっくりのみ、つけることが許される金バッジをつけていたのだ! これこそが、ありすが真のとかいはであると信じて疑わないことの所以!絶対の自信の源! 本来ならば、こんないなかものどもでは、一生口を聞くことすら出来ない天上の存在! それが群れの長をやってやると言っているのだ!断る理由などないはず! そもそもこの群れのゆっくりどもは…………。 「で?その金バッジは?」 己の妄想に舞い上がっている最中のありすに、長ぱちゅりーが一言冷静なツッコミを入れる。 「そっ、それは…」 途端に現実へと引き戻されるありす。 そうだった、金バッジは寝ている隙にあの奴隷に奪われてしまったのだった。 くっ、なんてことだ、最後の最後まであの奴隷はありすの邪魔をするというのか。 「バッジがないのなら、信じろっていうほうが無理ね!」 長ぱちゅりーがそう冷たく言い放つ。 「ちっ、ちがうの!ほんとうにありすはきんばっじなの! ほ、ほら!わからない?このからだぜんたいからあふれる、とかいはな、きんばっじのおーらが!」 「むきゅ!生憎とぱちぇは、いなかもでねぇ、そんなの全然わからないわ!」 「そ、そんな……」 がっくりとうなだれるありす。 そんなありすに長ぱちゅりーは、 「まあ、でも落ち込むことはないわありす!貴女が本当にとかいはで、金バッジのゆっくりなら、 そのゆっくりとした様を、この群れで実践してみんなに見せてあげればいいのよ! その上で、みなが貴女のことを、とってもゆっくりできる金バッジのゆっくりだと認めれば、 ぱちぇの長の地位を譲ってあげてもいいわ!」 と、こんな提案をした。 「ゆゆ!ほんと!それはとかいはなていあんね!ぜひおねがいするわ!」 ぱちゅりーの話に、一も二もなくとびつくありす。 自分のとかいはなゆっくりした生活を見せ付けることで、ありすを長へと認めさせる。 それは、この群れをとかいはにしようと考えているありすにとっては、願ってもない話しだったのだ。 「むきゅ!それじゃきまりね!今からありすは、この群れの一員よ!」 そう宣言する長ぱちゅりー。 それを聞いたありすは、満足そうにうなずくと、 「それじゃあさっそくありすのおうちにあんないしてもらえるかしら?」 「むきゅ?」 「とうぜんでしょ!ありすはむれのいちいんなのよ!さっさととかいはなおうちにあんないしなさい!」 当然のことのようにおうちをよこせと要求しはじめた。 通常群れの所属することと、衣食住を保証されることは同一ではない。 なので、群れ入ったからといっておうちを要求することは筋違いである。 普通ならそれくらい自分で探すなりつくるなりしろ、と言われるところであろう。 が、ぱちゅりーは、 「ああ、そうね。そういえば、空いている巣穴があったわね!早速案内しましょうか!ゆふふふ!」 と、あっさりとありすの要求を受け入れたのだった。 その際に、ニヤリと口の端を持ち上げて、一瞬だけ邪悪な笑みを形作る長ぱちゅりー。 が、それはほんの僅かの間のことだったので、ありすはおろか、周りにいた他のゆっくりの誰もが、そのことに気づくことはなかった。 「な、なんなのおおおおおおおおおおおお!このせまいおうちわあああああああああああああ!」 案内されたおうちを目の前にして、叫ぶありす。 ありすが長ぱちゅりーによって案内されたおうちは、洞窟タイプのもので、 その広さは、ごく普通のゆっくり一家が全員入って、まあまあゆっくりできる程度のスペースが確保されており、 さらに、奥には食料を貯蔵できるスペースがあるつくりのものであった。 この群れでは一番標準的なおうちだ。 ありす一匹で住む分には何の問題もないはずである。 が、しかしありすは不満な様子だ。 「こんなせまいばしょで、ゆっくりできるわけないでしょおおおおおおおおおおおおおおおお! きはたしかなのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 そう長ぱちゅりーに噛み付くありす。 狭い!狭すぎる! 以前の奴隷と住んでいたおうちの、囲まれていた部分のさらに半分の半分よりも狭いんじゃないだろうか? いったい何を考えているんだこのいなかものは! 「あら?お気に召さなかったかしら?生憎今はそこしか空きがなくてね。 でもこの群れでは、どこのおうちもこんなもんよ。 それに別に無理して、このおうちに住む必要はぜんぜんないのよ!自分でもっと広くて、とかいてきなおうちを作ればいいじゃない! とかいはな貴女なら、それくら簡単なことじゃなくて? これからは、自由におうちをコーディネイトするといいわ!」 長ぱちゅりーは淡々とありすに語る。 「ゆぐぐぐぐ!もういいわよ!そんなことより、ごはんはいつになったらもってくるの! ありすはいいかげんおなかぺこぺこよ!」 そう浅ましくも食料を要求するありす。 「あら、おうちの次は食料?流石にそこまではサービスできないわね。 野生で生きていくつもりなら、自分の食料くらいは自分で確保しないと。 群れの広場にいけば、どこでどれだけの食料が取れるかの情報交換をしているから、利用するといいわ! ま、もっとも、とかいはな貴女なら、そんなこと不要でしょうけどね! これからは、好きなものを、好きなだけ、好きなときにむしゃむしゃすればいいわ!」 「ゆ?……え?」 ありすは長ぱちゅりーが何を言っているのか理解できなかった。 自分の食料は自分で確保?何を言ってるんだ?食料は奴隷が持ってくるものじゃないのか? いや、待てよ、そもそも奴隷はいつもどこから食料を持ってきているんだ? わからない。わからないが、なんだか腹の底から未知の不安がせり上がってくるようなそんなゆっくりできない感じが……。 「あ、そうそう!肝心なことをいい忘れていたわ! この群れは人間さんと、協定むすんでいるの!だから絶対に守らなくちゃならない掟があるの! まず、山を降りたところにある人間さんの村には絶対近づかないこと! つぎに、むやみにおちびちゃんをつくらないこと!とはいえ別に、つがいになるのはかまわないわ! これからは、誰に邪魔されることなく、好きなだけほかのゆっくりと、とかいはな愛とやらを語ればいいわ! ま、もっとも、相手にも選ぶ権利があるけどね!ゆふふふふ!」 意地悪く笑う長ぱちゅりー。 何故笑ったのかありすには理解できない。 だがその笑みには、何となく悪意のようなものがあることは理解できた。 「掟はほかにも、群れのゆっくりに迷惑をかけないとかいろいろあるけど、詳しいことは、群れのみんなにでも訊いてちょうだい! 掟を破ると、せいっさいされたり、群れを追放処分になったりするから気をつけてね! それじゃあねありす!貴女がこの群れで、とかいてきなゆっくりの生活とやらがおくれるかどうか、期待してるわ!」 自分の言いたいことだけ言うと、さっさと長ぱちゅりーはその場を退散していってしまった。 「あ、ちょ、ちょっと」 その場に一匹ポツンと残されるありす。 何だ?何なんだいったい?何かがおかしいぞ? ひょっとして自分はなにかとんでもない思い違いをしていたのではないか? そんな恐怖にも似た不安がありすをじわじわと苛む。 それは、いままで決して崩れることがないと思っていた頑丈な足元が、突然何の前触れも無く崩壊していくような感覚…。 いや!いやいや!そんなことあるはずがない! そうだ!自分はとかいはじゃないか!それは以前つけていた金バッジが証明してくれている! 何も悩むことはない、全ては思い通りにいくはずだ! 今は、いろいろなことが一度に起きたから、ただ単に疲れているだけなんだ! もう今日はさっさと寝てしまうとしよう。 明日になれば、きっと全て上手く回りだすに違いない! そう思い、ありすは自分のおうちをきょろきょろと見回し、 「………………?」 そしてあることに気づいた。 「どうしてふかふかのべっどさんがないのおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 ない!とってもとかいはな、ふかふかとしたベッドさんがない!あれがないと、ゆっくりと気持ちよく眠ることもできないじゃないか。 こんなゴツゴツとした地面で眠れというのか!ゆっくりできないなんてもんじゃない! いやそれどころじゃないぞ、ゆっくりとした、だんりょくのくっしょんさんも!とかいはないんてりあなかぐさんも!そのほかにも、 奴隷のおうちにあったものがなんにもない!これじゃとかいはなこーでぃねいとだってできやしない! 「こんな!こんなのゆっくりできないいいいいいいいいいいい!」 ようやくありすは少しずつ気づき始めてきていた。 人間の元を去り、野生で生きるということがどういうことかということに。 後編へ続く
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野生の掟 前編 23KB いじめ 自業自得 群れ ゲス 自然界 独自設定 気軽に読める話をめざして ・いつも通り過去作品の登場人物が出ますが読んでなくても大丈夫です。 「ふん!まったくとんでもないどいなかね!まったくさいごまできがきかないどれいだったわ!」 とある大きな山の森にて、一匹のゆっくりありすがぶつぶつと不服そうに文句を言っている。 ありすが今いるこの森はとても大きく、人間と簡単な協定を結んだ群れが存在しているぐらいなので、 この場にゆっくりであるありすがいること自体は、なんら特別なことではない。 が、しかしこのありすをよく観察してみると、どうもその場に相応しくないような印象を受ける。 その違和感の正体はありすの見かけにあった。このありす、山や森で生活している野生のゆっくりにしてはやたら小奇麗なのだ。 髪の毛はサラサラで、おめめはパッチリ、歯もキラキラと光輝いている。 栄養状態が良いのか肌はもちもちであり、形も適度な楕円形をしており見栄えもなかなか悪くない。 唯一の欠点は、ありすの特徴でもあるお飾りの赤いカチューシャに、何かを無理やり引き剥がしたような小さな傷が付いていることだ。 が、それも些細な事。同属であるゆっくり同士の目には、このありすはさぞ美ゆっくりに映ることだろう。 しかし何故こんなゆっくりがこの森にいるのだろうか? 「ふん!まあいいわ!あんなゆっくりできないどれいのところは、もういいかげんうんざりしていたしね! それにくらべれば、こんないなかでも、ひゃくばいはましなはず!これでおもうぞんぶんゆっくりできるってものだわ!」 そう言い放つありす。 どうやらこのありすは、この森で生まれ育ったわけではないらしい。 なるほど。それならば、このありすのやたら小奇麗な見かけにも納得がいくというものだ。 そもそもゆっくりが独力でこれだけの健康状態と見栄えを維持することなど至難の技だ。不可能と言ってもいい。 となれば、このありすが言っている奴隷というのも同じゆっくりのことではなく、人間のことだと気づく。 そう、答えは至極簡単な事。このありすは元飼いゆっくりで、捨てられてこの場にいるのだった。 飼いゆっくりだったころ、ありすは毎日まったくゆっくりできていなかった。 何故なら自分の世話係のはずの奴隷が、ちっとも自分の言う事を聞かないからだ。 ありすは奴隷にいつも問いかけていた。なぜこんなゆっくりできないことをするのかと。 それに対する奴隷の答えはいつも意味不明で、まったくゆっくりできないものであった。 ありすは不満だった。いつも奴隷が決められた時間に、決められた量しかごはんがを持ってこないことに。 何故好きなだけむしゃむしゃしてはいけないのか?そう問いかけると、奴隷は、 「それはありすの体型を維持するためだよ。食べ過ぎて身動きできないほど太ったらゆっくりできないだろ?」 と、まったく意味不明なことを言う。 まったく理解できない!好きなものを好きなだけ食べてゆっくりできなくなるはずもないだろうに! だからさっさとあまあま持ってこい! ありすは腹立たしかった。ここはありすのおうちで、そこの奴隷を住まわせてやっているというのに、 奴隷はおうちの一角を柵のようなもので囲って、そこからありすが一匹で出られないようにしていたのだ。 何故ありすをこんな狭い場所に閉じ込めておくのか?そう問いかけると、奴隷は、 「そりゃそうしておかないと、ありすは家中メチャクチャにしちゃうからね。その柵の中なら自由にしてもいいよ」 と、まったく意味不明なことを言う。 はあ?ふざけるのもいい加減にしろ!そもそもこのおうちはありすのおうちなのだ! 自分のおうちを自分の好きなように、こーでぃねいとしてなにが悪いというのだ! だからさっさとこの狭い場所から出せ! ありすは不服だった。自分ほどの美ゆっくりならば、当然毎日それに見合うだけの美ゆっくりが、代わる代わるスッキリ奉仕しに訪れるべきなのだ しかしそんな気配は一向に無い。それならばしかたがないと、たまに奴隷と散歩に行くときに見かける町の他の美ゆっくりたちとスッキリしてやろうと思い近づく。 しかしそうすると、必ず奴隷に邪魔されるのだ。 何故すっきりしてはいけないのか?そう問いかけると、奴隷は、 「当たり前だろ!そんなむやみやたらスッキリして、子どもが出来ても面倒みきれないよ。 それに、散歩中にほかの飼いゆに手を出そうとするなんて、事前に止められたからいいものの、 もし相手に無理やりスッキリなんてことになったら飼い主になんて詫びればいいか……」 と、まったく意味不明なことを言う。 無理やり?いったいこの奴隷には目がついているのか? ありすほどの美ゆっくりとスッキリできて誰が嫌がるものか!あれはただ単にツンデレなだけだというのに! 他の美ゆっくりに、とかいはない愛を与えることは自分の使命なのだ! だからさっさとすっきりするための美ゆっくりを連れて来い! 度重なる意見の衝突、対立、争い。そしてついに最後の一線を越える日がくる。 何故こいつは奴隷の分際でありすにこうも楯突くのか! 何故ありすの命令に従い、ただ言うとおりにするという簡単な仕事さえできないのか! もういやだ!もうこんな狭い場所でゆっくりできない生活をおくるのはもうゴメンだ! 外で暮らしたい!こんなところ出て行ってやる! そして大量の食料を好きな時に好きなだけ思う存分むしゃむしゃし、広大なおうちを自由にこーでぃねいとし、 美ゆっくりたちと思う存分スッキリするのだ! 出せ!ここから出しやがれこの奴隷が!せいっさいするぞ! 奴隷はふう、とため息をつくと、こんなことを言った。 「チッ、ゆっくりってのは、多少我侭なところがあるって本には書いてあったけど、まさかここまでとは思わなかったよ。 一度飼った以上責任があるから今まで置いていたけど、自分から出て行きたいってのなら話は別だよな。 お望み通りここから出てってもらうことにするよまったく。せいぜい外でゆっくするんだな」 それだけ言うと、奴隷はありすの口に何かを無理やり押し込んだ。 それを口に含んだ途端、ありすの意識は途絶えた。 「ふう。やっぱり興味本位でゆっくりなんかに手を出すんじゃなかったかな。 おっと、そうだ、これは外しておかないと」 男は、ありすのカチューシャについてるバッチを無理やり引き剥がした。 「流石に殺したりこの近くに捨てるのは寝覚めが悪いな。 …そうだな、少し面倒だけど、森にでも捨てに行くか…」 そう言い、男はありすを抱えると、そのまま車に乗り込み森を目指して出発した。 この飼い主はゆっくりについてはまったくの初心者だった。 しかし、きちんと、飼いゆっくり初心者用のテキストの通りに飼育しており、 別段甘やかしすぎたり、厳しすぎたりなどはせず、その飼育の方法はそれ程誤ったものではなかった。 ただ、まあ彼はいろいろと運が悪かったのだ。 その後飼い主は、友人の勧めで今度はちぇんを飼う事になったらしい。 そしてその嘘の様な聞き分けの良さに驚くことになるのだがそれはまた別の話。 とにかくこうしてありすは捨てゆっくりとなった。 といってもありす視点からすれば、自分は捨てられたのではなく、自ら不自由な奴隷の下を去ったという感覚なのだが、 それは見方の違いというやつで、現状が変わるわけではない。 捨てられた場所が都会ではなく、田舎の森の中だったことは、飼い主の最後の情けだったのかもしれない。 とにかくありすはこの広大な森にて、第二のゆん生を生きることとなった。 「ふう!とにかく、ずっとここにいてもしかたないわね!とりあえず、むれというのをさがしてみようかしら!」 一匹森の中で呟くありす。 以前聞いた奴隷の話によると、どうやら田舎の野生ゆっくりたちは、群れというものを作って集団で生活しているらしい。 きっと一匹では満足に生活することすらできない無能ばかりなので、みなで助け合って何とかやっていっているに違いない。なんとも効率の悪いことだ。 もしそんな中に、このとかいはない自分が現れたどうなるだろうか? きっとみなその威光に無条件でひれ伏してしまうに違いない。 あるいは群れの長というやつに、是非なってくれと頼まれるかもしれない。 そんな面倒なことは正直ごめんだったが、群れのゆっくり全員が土下座して頼むならまあ、考えてやらないでもなかった。 そのときは精々奴隷として使ってやろう。とかいはな自分に、いなかものが奴隷としてでも仕えることができるなんて、 これ以上の幸福はないだろう。まったくこの森に住んでいる連中はついている。 と、そんな妄想をしながらありすが森を進んでいると、目の前にきょろきょろと周囲を見回しているれいむに遭遇した。 「れいむ!ゆっくりしていってね!」 早速声を掛けるありす。 「ゆゆ?ありす!ゆっくりしていってね!」 突然声を掛けられたれいむは、やや驚いたものの、すぐに挨拶に応じる。 が、すぐに首をかしげて疑問を口にする。 「ゆん?みたことのないありすだね!いったいどこからきたの?」 れいむの疑問にありすは、待ってましたとばかりに胸を張ってこう答えた。 「ゆふふふふ!きいておどろきなさい!ありすはとかいからやってきたのよ! こんないなかのやまとはわけがちがう、しょうしんしょうめいのとかいよ! どう!すごいでしょ!わかったらあいりすのこと、すうはいしてもいいのよ!」 そう堂々と言い放つありす。 ありすの考えでは、自分がとかいからやってきたと知ったら、あのれいむはきっと腰を抜かして、 自らとかいはのありすの奴隷にしてくださいと懇願するはずであった。 少なくとありすはそう信じて疑ってなかった。 が、れいむは 「ふーん、そうなんだ!すごいんだね!……それじゃあねありす!れいむはいそがしいからもういくよ!」 そう微妙なリアクションをして、そのままくるりと背を向け跳ねて行ってしまおうとするれいむ。 「ちょちょちょちょっとまちなさいよ!」 予想外の事態に、慌ててれいむを呼び止めるありす。 何なんだこのれいむは!このとかいはなありすを目の前に残しておいて、どこかに行こうとするなんて信じられない! このいなかものがぁ! 「ゆん?どうしたのありす!」 まだ何かあるのかと疑問げな様子のれいむ。 「あ、あなたいま、だれをめのまえにしてるかわかってるの!とかいよ!とかいはなのよ! もっとほかにいうことがあるでしょうがああああああああああああああああああ!」 「ゆう?」 ありすの激しい物言いに対して、頭にクエッションマークを浮かべて首を傾げるれいむ。 だめだ!きっとこのれいむは、あまりにもいなかものすぎて、とかいの意味すらわからないような底抜けのバカなのだ。 恐らく、とかいがどれだけ素晴らしいかという想像力すらも持ち合わせていないのだろう。 だめだ!だめだ!こんなれいむじゃ話にならない!もっとまともなゆっくりに会わなくては! 「しかたがないわね!いいわ!れいむ、ありすをむれというところまであんないしないさい!」 高圧的に命令するありす。 「ゆーん……うん、いいよ!れいむもそろそろかえろうとおもってたところだしね! それじゃあれいむについてきてね!」 れいむは少し考えた後、うなずくと、ありすについてくるよう促し、さっさと移動しはじめた。 「まっ、まちなさいよ!は…はやっ…い」 ポヨンポヨンと軽快に跳ねるれいむの後を必死になって追いかけるありす。 こうしてありすは、ゆっくりの群れへ向かうこととなった。 「ゆっ!ここがれいむたちのむれのちゅうしんぶだよ!ゆっくりしていってね!ありす!」 そう満面の笑みで言うれいむ。それに対して、 「はー、はー、ぜい、ぜい、ふう、ふう」 ひたすらに荒い呼吸をくり返すありす。 生まれてはじめての全力疾走に疲れ、息も絶え絶えのありすは、れいむに返事をする余裕すらないようだ。 「ゆう!それじゃ、れいむはもういくね!あ、むれにいれてほしいなら、まずおさにあうといいよ! それじゃあね、ありす!ゆっくりしていってね!」 それだけ言うと、今度こそいずこかへ去っていってしまうれいむ。 「はあ、はあ、なんだってのよあのいなかものは……」 れいむが去った後、一息ついたありすは群れの様子を見回してみる。 大きな山だけあって、群れの規模もそれなり大きいようだ。 大小さまざまな種族のゆっくりたちが、そこかしこに散らばって、思い思いにゆっくりしたり、何かの作業をしていたりしている。 都会ではまず見られない光景だった。 「へ、へえ!いなかもなかなかやるじゃないの!」 今まで主に室内での飼いゆだったありすは、これだけの数のゆっくりを一度に見たことがなかったため、その迫力に少々圧倒されていた。 これだけの数がいれば、きっと中には自分のとかいてきな素晴らしさを理解できる固体もいるだろう。 よくよく見れば、群れの中には自分ほどではないが、そこそこの美ゆっくりも混じってはいる。 うん!なかなか悪くないじゃないか! はじめに会ったれいむみたいな、いなかものばかりだったらどうしようかと思ったが、これならまあ何とか許容できそうだ。 「ちょっと!そこのまりさ!」 ありすは近くを通りかかったまりさに声を掛ける。 「ゆん?なんなのぜ?」 「むれのおさのところにあんないしてほしんだけど!」 相変わらずの命令口調でまりさに言うありす。 「ゆゆ!みたことないありすなのぜ!さてはしんいりなのかぜ!おさのおうちは、このさきをずっといったところにある、どうくつにいるのぜ! むれにはいりたいのなら、しっかりあいさつしておくといいのぜ! それじゃありす、まりさはいそがしいからもういくのぜ!」 それだけ一方的に言うと、まりさはどこかへと跳ねていってしまった。 「あ!ちょっと!……もう!なんだっていうの!ゆっくりしてないわねえ!」 自分は、長のところまで案内しろと言ったのに、まりさは道を教えるだけで、さっさとどこかへ行ってしまった。 さっきのれいむといい、どうもこのいなかの連中はゆっくりしてない。 やはりとかいてきなゆっくりの精神をいなかに求めるのは無理があったのだろうか? いやいやと、ありすは思い直す。奴らはきっとただ無知なだけなのだ。 とすれば、素晴らしいとかいはなゆっくりを奴らに教えられるのは自分しかいないじゃないか。 そう!これは使命なのだ!このいなかものどもに、とかいの素晴らしさを広めなくてはならないのだ! 「そうときまれば、さっそくおさにあいにいくとしましょう!そしてさっさとこのむれのおさのちいをゆずってもらわないとね!」 長など面倒だと思っていたが、こういう事情があるならばそれもやむを得えまい。 このいなかの群れを都会的にするという使命を胸に秘め、まりさに教わった道を一直線に突き進むありす。 ちなみにありすの、群れのみんなのためにとかいはなゆっくりを広めるというこの考えは、 表面だけみればいかにも群れを思っての行動のように思えるが、 結局は、都会を認めさせる=自分の価値や凄さを認めさせるという利己的な行動だと言える。 無論ありすはそんなこと少しも意識してはいなかったが。 「あなたがこのむれのおさかしら!」 長のおうちへ向かう道の途中での開けた場所で、一匹のぱちゅりーが数匹のゆっくりと一緒になにやら話をしていた。 ありすは、このぱちゅりーに、自分ほどではないが、都会的な気配を感じたのだ。 きっとこのぱちゅりーが群れの長に違いない。そう感じたありすは早速話しかけることにしたというわけだ。 「むきゅ!その通りよ!あなたは?この辺じゃ見ない顔だけど…」 「ゆっふっふ、ありすはありすよ!とかいからやってきたの! このいなかもののむれに、とかいはのすばらしさをしらしめるためにね!」 ドドンと胸を張って答えるありす。 それに対して長ぱちゅりーは訝しげな表情で、 「都会からきた?あなたもしかして、元飼いゆだったのかしら?」 と、そう尋ねる。 「ゆ?かいゆ?…ああ、そういえばとかいにはそんなやつらもいたわね! じぶんからにんげんのどれいになるような、とんでもないいなかものたちのことでしょ! ふん!ありすはちがうわ!ありすはにんげんをどれいにしていたの!あんなれんちゅうといっしょにしないでしょうだい!」 そう憤慨した表情で語るありす。 その様子を見ていたぱちゅりーは、何か呆れたものでも見るかのような目つきでさらにこう尋ねた。 「その人間さんを奴隷にして、快適な生活をしていたありすが、なんだってこんな田舎の群れにいるのかしら? ずっとそこに住んでいればよかったじゃない」 ぱちゅりーの最もな疑問に対して、ありすはなんだ、そんなことかという風に答える。 「あのどれいが、あまりにもやくたたずだからよ!まいにちごはんは、きめられたじかんにきめられたりょうしかもってこないし、 ありすを、へやのいっかくのしきりにとじこめるし、あまつさえ、すっきりすることさえきんしときたわ! だからでていってやったのよ!きっといまごろありすがいないから、ゆっくりできなくなってないてるわね!」 「…………ああ、そう。だいたい事情はわかったわ」 今までの流れで、何かを悟ったかのように呟く長ぱちゅりー。 「それでありすは、ぱちぇにいったい何の用かしら?」 「ゆゆ?いままでのはなしのながれで、わからなかったのかしら?まったくこれだからいなかものは! ありすはとかいはなの!だからありすをこのむれのおさにしなさい!そうすれば、みんなとかいてきなゆっくりをきょうじゅできるようになるわよ!」 ありすは、早速自分を長にするようにと要求しはじめる。 とかいはな自分が長をやることにより、この群れの全体がとかいはになり、みなゆっくりできるというのがありすの理屈だ。 「むきゅう、いきなりやって来て、急に長にしろっていわれてもねえ? だいたい都会に住んでたからって、かならずしもとかいはとは限らないんじゃない?」 「な、な、なんですってええええええええええええええええ!」 自分がとかいではないと言われて顔を真っ赤にしてプルプルと震えるありす。 というか、とかいはうんぬん以前に、ありすの主張は突っ込みどころ満載である。 でもそんなことで言い合いしても埒が明かないと思った長ぱちゅりーは、恐らくありすが一番反応するであろう点を意図的に指摘したのだ。 「んほおおおおおおおおおおおおおお!しつれいしちゃうわああああああああああああああああああ! こんなとかいはなありすをつかまえて、とかいはとはかぎらないなんてええええええええええ! いいわ!おしえてあげる!ありすがとかいはなしょうこを!」 それだけ言うと、ありすは一息ついてから、スゥと大きく息を吸い込み、 「ありすはねぇ!きんばっじなのよ!!!」 と、これ以上ないくらいのドヤ顔で言った。 「ゆゆ!きんばっじさん!」 「ゆーめずらしいね!」 「はじめてみたよ!」 「わかるよー!きんばっじはゆっくりできるんだねー!」 金バッジと聞いて、今まで周囲にいたゆっくりたちもざわめきだす。 さすがにこんなド田舎の群れでも、金バッジ効果は絶大のようだ。 「ゆふふふふ!」 周りのゆっくりのざわめきに有頂天になりながら、ありすはほくそ笑む。 そう!ありすは金バッジゆっくり! 本当にゆっくりした、特別なゆっくりのみ、つけることが許される金バッジをつけていたのだ! これこそが、ありすが真のとかいはであると信じて疑わないことの所以!絶対の自信の源! 本来ならば、こんないなかものどもでは、一生口を聞くことすら出来ない天上の存在! それが群れの長をやってやると言っているのだ!断る理由などないはず! そもそもこの群れのゆっくりどもは…………。 「で?その金バッジは?」 己の妄想に舞い上がっている最中のありすに、長ぱちゅりーが一言冷静なツッコミを入れる。 「そっ、それは…」 途端に現実へと引き戻されるありす。 そうだった、金バッジは寝ている隙にあの奴隷に奪われてしまったのだった。 くっ、なんてことだ、最後の最後まであの奴隷はありすの邪魔をするというのか。 「バッジがないのなら、信じろっていうほうが無理ね!」 長ぱちゅりーがそう冷たく言い放つ。 「ちっ、ちがうの!ほんとうにありすはきんばっじなの! ほ、ほら!わからない?このからだぜんたいからあふれる、とかいはな、きんばっじのおーらが!」 「むきゅ!生憎とぱちぇは、いなかもでねぇ、そんなの全然わからないわ!」 「そ、そんな……」 がっくりとうなだれるありす。 そんなありすに長ぱちゅりーは、 「まあ、でも落ち込むことはないわありす!貴女が本当にとかいはで、金バッジのゆっくりなら、 そのゆっくりとした様を、この群れで実践してみんなに見せてあげればいいのよ! その上で、みなが貴女のことを、とってもゆっくりできる金バッジのゆっくりだと認めれば、 ぱちぇの長の地位を譲ってあげてもいいわ!」 と、こんな提案をした。 「ゆゆ!ほんと!それはとかいはなていあんね!ぜひおねがいするわ!」 ぱちゅりーの話に、一も二もなくとびつくありす。 自分のとかいはなゆっくりした生活を見せ付けることで、ありすを長へと認めさせる。 それは、この群れをとかいはにしようと考えているありすにとっては、願ってもない話しだったのだ。 「むきゅ!それじゃきまりね!今からありすは、この群れの一員よ!」 そう宣言する長ぱちゅりー。 それを聞いたありすは、満足そうにうなずくと、 「それじゃあさっそくありすのおうちにあんないしてもらえるかしら?」 「むきゅ?」 「とうぜんでしょ!ありすはむれのいちいんなのよ!さっさととかいはなおうちにあんないしなさい!」 当然のことのようにおうちをよこせと要求しはじめた。 通常群れの所属することと、衣食住を保証されることは同一ではない。 なので、群れ入ったからといっておうちを要求することは筋違いである。 普通ならそれくらい自分で探すなりつくるなりしろ、と言われるところであろう。 が、ぱちゅりーは、 「ああ、そうね。そういえば、空いている巣穴があったわね!早速案内しましょうか!ゆふふふ!」 と、あっさりとありすの要求を受け入れたのだった。 その際に、ニヤリと口の端を持ち上げて、一瞬だけ邪悪な笑みを形作る長ぱちゅりー。 が、それはほんの僅かの間のことだったので、ありすはおろか、周りにいた他のゆっくりの誰もが、そのことに気づくことはなかった。 「な、なんなのおおおおおおおおおおおお!このせまいおうちわあああああああああああああ!」 案内されたおうちを目の前にして、叫ぶありす。 ありすが長ぱちゅりーによって案内されたおうちは、洞窟タイプのもので、 その広さは、ごく普通のゆっくり一家が全員入って、まあまあゆっくりできる程度のスペースが確保されており、 さらに、奥には食料を貯蔵できるスペースがあるつくりのものであった。 この群れでは一番標準的なおうちだ。 ありす一匹で住む分には何の問題もないはずである。 が、しかしありすは不満な様子だ。 「こんなせまいばしょで、ゆっくりできるわけないでしょおおおおおおおおおおおおおおおお! きはたしかなのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 そう長ぱちゅりーに噛み付くありす。 狭い!狭すぎる! 以前の奴隷と住んでいたおうちの、囲まれていた部分のさらに半分の半分よりも狭いんじゃないだろうか? いったい何を考えているんだこのいなかものは! 「あら?お気に召さなかったかしら?生憎今はそこしか空きがなくてね。 でもこの群れでは、どこのおうちもこんなもんよ。 それに別に無理して、このおうちに住む必要はぜんぜんないのよ!自分でもっと広くて、とかいてきなおうちを作ればいいじゃない! とかいはな貴女なら、それくら簡単なことじゃなくて? これからは、自由におうちをコーディネイトするといいわ!」 長ぱちゅりーは淡々とありすに語る。 「ゆぐぐぐぐ!もういいわよ!そんなことより、ごはんはいつになったらもってくるの! ありすはいいかげんおなかぺこぺこよ!」 そう浅ましくも食料を要求するありす。 「あら、おうちの次は食料?流石にそこまではサービスできないわね。 野生で生きていくつもりなら、自分の食料くらいは自分で確保しないと。 群れの広場にいけば、どこでどれだけの食料が取れるかの情報交換をしているから、利用するといいわ! ま、もっとも、とかいはな貴女なら、そんなこと不要でしょうけどね! これからは、好きなものを、好きなだけ、好きなときにむしゃむしゃすればいいわ!」 「ゆ?……え?」 ありすは長ぱちゅりーが何を言っているのか理解できなかった。 自分の食料は自分で確保?何を言ってるんだ?食料は奴隷が持ってくるものじゃないのか? いや、待てよ、そもそも奴隷はいつもどこから食料を持ってきているんだ? わからない。わからないが、なんだか腹の底から未知の不安がせり上がってくるようなそんなゆっくりできない感じが……。 「あ、そうそう!肝心なことをいい忘れていたわ! この群れは人間さんと、協定むすんでいるの!だから絶対に守らなくちゃならない掟があるの! まず、山を降りたところにある人間さんの村には絶対近づかないこと! つぎに、むやみにおちびちゃんをつくらないこと!とはいえ別に、つがいになるのはかまわないわ! これからは、誰に邪魔されることなく、好きなだけほかのゆっくりと、とかいはな愛とやらを語ればいいわ! ま、もっとも、相手にも選ぶ権利があるけどね!ゆふふふふ!」 意地悪く笑う長ぱちゅりー。 何故笑ったのかありすには理解できない。 だがその笑みには、何となく悪意のようなものがあることは理解できた。 「掟はほかにも、群れのゆっくりに迷惑をかけないとかいろいろあるけど、詳しいことは、群れのみんなにでも訊いてちょうだい! 掟を破ると、せいっさいされたり、群れを追放処分になったりするから気をつけてね! それじゃあねありす!貴女がこの群れで、とかいてきなゆっくりの生活とやらがおくれるかどうか、期待してるわ!」 自分の言いたいことだけ言うと、さっさと長ぱちゅりーはその場を退散していってしまった。 「あ、ちょ、ちょっと」 その場に一匹ポツンと残されるありす。 何だ?何なんだいったい?何かがおかしいぞ? ひょっとして自分はなにかとんでもない思い違いをしていたのではないか? そんな恐怖にも似た不安がありすをじわじわと苛む。 それは、いままで決して崩れることがないと思っていた頑丈な足元が、突然何の前触れも無く崩壊していくような感覚…。 いや!いやいや!そんなことあるはずがない! そうだ!自分はとかいはじゃないか!それは以前つけていた金バッジが証明してくれている! 何も悩むことはない、全ては思い通りにいくはずだ! 今は、いろいろなことが一度に起きたから、ただ単に疲れているだけなんだ! もう今日はさっさと寝てしまうとしよう。 明日になれば、きっと全て上手く回りだすに違いない! そう思い、ありすは自分のおうちをきょろきょろと見回し、 「………………?」 そしてあることに気づいた。 「どうしてふかふかのべっどさんがないのおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 ない!とってもとかいはな、ふかふかとしたベッドさんがない!あれがないと、ゆっくりと気持ちよく眠ることもできないじゃないか。 こんなゴツゴツとした地面で眠れというのか!ゆっくりできないなんてもんじゃない! いやそれどころじゃないぞ、ゆっくりとした、だんりょくのくっしょんさんも!とかいはないんてりあなかぐさんも!そのほかにも、 奴隷のおうちにあったものがなんにもない!これじゃとかいはなこーでぃねいとだってできやしない! 「こんな!こんなのゆっくりできないいいいいいいいいいいい!」 ようやくありすは少しずつ気づき始めてきていた。 人間の元を去り、野生で生きるということがどういうことかということに。 後編へ続く
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この3匹はもし無事に成長しても、碌な奴にならないだろうな -- (名無しさん) 2016-06-21 02 48 16
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餌もらえて飼い主に可愛がられてるのに、外に出たいとか生意気な糞ベビだな。母親殺されてるのに、外に出たいとか馬鹿すぎる -- (名無しさん) 2013-11-24 12 00 19
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野生の(非)証明 ★――『実験』開始前のとある会話より 「カーズ様、カーズ様。 ホントに会場に行くつもり?」 「当然よ。 有冨の実験になど興味はないが、エイジャの赤石……あれだけは放っておく訳にはいかん。 究極生命体として私が覚醒した以上、あれを残しておくのは不確定要素でしかない」 「ま、話をした手前止めはしないけどさ。 究極生物になった今のキミなら、別にあんなのはどうでもいいんじゃないの?」 「そうはいかん。 『ゲート』によってこの世界へと呼びこまれる前……私はあの石によって敗北を喫した。 限定された状況下での、小癪な策によってでの物ではあるが……私が敗北に至る要素は全て消さねばならぬ!」 「あ、そう……。 ま、キミがそういうのを決めたらもう変えないのは知ってるし、そういうんだったらもう止めないよ。 頑張ってね」 「貴様に応援される謂れはないが――『HIGUMA細胞』を移植され究極羆生命体となったこのカーズに不可能などない。 それを思い知らせてやろう。 ――ではな。 貴様の事はいけすかんが、エイジャの赤石の事を話したのは感謝してやろう。 『モノクマ』よ」 「……行ったか。 ええと……シーナーに話をしたから、今頃はアイツも他のヒグマを外に出してる頃だろうし…… 後は何をするんだったかな」 △ ▼ 言峰綺礼がウェイバーの腕を貪る事を止めたのは、30分程してからだった。 それも自分からではなく、見かねた周囲のヒグマ達に窘められての事である。 それ程までに、彼の中のシーナーへの警戒は強かった。 (……あの能力は“強力すぎる”。 それこそ、人間が作ったとは思えぬ程に) 固有結界。 自身の心象風景で、世界を侵食し塗り替える大魔術。 あの『治癒の書』は己の認識した対象を、侵食するのではなく――逆に自身の中へ取り込むのだ。 そもそもが特例である固有結界の中でも、その特異性は群を抜いている。 それも、サーヴァントであるライダー、そしてその固有結界である『王の軍勢』ごと取りこむ霊格。 幻想種――いや、違う。 アレもサーヴァントだ。 聖杯戦争に関わったこの身ならば理解できる。 既に他のサーヴァントが召喚されている以上、驚く事ではない。 思えば、このような地に我々が拉致された事から気付くべきだったのだ。 他にも魔術師はいただろうに、何故聖杯戦争に関わる者だけが拉致されたのか。 何故サーヴァント達も共に拉致されたのか。 間違い無い。 この島には、聖杯が存在する。 聖杯の器であるホムンクルスも共に拉致されたのか、あるいは他の形で聖杯が存在するのかは不明だが、シーナーとあの少女が召喚したヒグマはそこから現れたのだ。 バーサーカーやギルガメッシュ、ライダーは、その魂で聖杯を起動させる為に拉致された。 ――これは危険だ。 この事実は、聖杯を利用しようとする者がこの島の中にいる事を意味する。 あるいは、聖杯を使おうとしたのは既に捕食されたSTUDYの構成員だったのかもしれないが――危険度は変わらない。 ヒグマ帝国の手に万能の願望機が渡れば、何が起こるか想像も付かない。 それを防ぐ手立ては――やはり、あの少女。 あの少女とサーヴァントには、聖杯戦争を勝ち抜いてもらわなければならない。 (……布束博士、とやらは後回しだな。 まずは少女を探し、マスターとしての自覚を持ってもらわなければならないが――) ウェイバーの腕に喰らいついている間に、少女ともう一人は遠くに行ってしまったらしい。 屋台の近くには、その姿は見つからなかった。 仕方がないのでヒグマ帝国の中を探しまわる事にした。 下手に周囲のヒグマに聞き回るのは目立つ要因になりかねない。 一度シーナーに目を付けられたかもしれない以上、細心の注意を払うに越した事はないだろう。 幸い無秩序に徘徊するヒグマも少なくはない。 少しは歩き回っても怪しまれる事はなさそうだ。 △ ▼ ヒグマ、空を舞う。 そして穴持たず4は思考する。 自分は何故未だに生きているのか。 強き者が己の我を通し生き、弱き者は強き者の糧となる―― それが穴持たずの生きる野生の理だった筈だ。 だが今の自分はどうだ? 最初に出会ったハンターには負けた。 奴は自分より弱かった。 だから命は奪われた。 しかし、奴の執念は死を超えて尚自らに敗北を与えた。 次に出会ったマタギはどうだ。 決着こそ横入りで着く事はなかったが、それさえなければ奴は自分の命を確実に奪った筈だ。 自分は奴に勝てなかった。 明らかに、自分は奴より弱かった。 その勝負を邪魔した小娘に至ってはどうだ。 相手にすらされていない。 ただ投げ捨てて、そのままだ。 奴にとって自分は、そこにあったゴミとなんら変わらなかったのだ。 野生の主であるヒグマ。 その自分が、どうしてこうも――。 鬱々とした思考は、地面に叩き付けられた事により中断させられた。 いっそこのまま打撲で死ねれば。 そうも思ったが、HIGUMAの体は嫌になるほど頑丈らしい。 ――俺がまだ生きている理由とはなんだ。 何故俺は弱肉強食に逆らってまだ生きている。 地面に大の字に転がり、空を見上げる。 聞こえるのは、ただ流れる水の音だけ。 このまま転がっているのもいいかもしれない。 自分の他にもヒグマはいる。 参加者達を減らす役目は、彼等がやるだろう。 今は、このまま自分を見つめ直したい―― 『あれれ? 折角来てやったのにその有様なんて、拍子抜けだなぁもう』 喋りかけられた、と察するのに、少しの時間がかかった。 それほどまでに自分は放心していたらしい。 ゆっくりと体を起こし、周囲を確認する。 ――緑と青。 小高い丘の周囲は、いつの間にか水の中へと沈んでいる。 そして目の前にいるのは、白と黒が入り混じった、小さな熊。 『メインサーバーが止まって、衛星写真が使えなくなったから人海戦術……いや、クマ海戦術で探したっていうのに。 すっかり腑抜けちゃって、ガッカリだよ!』 『――貴様はなんだ。 ヒグマ語が使えるという事は、貴様もヒグマか』 煽るような物言いは無視。 聞くべき事を聞かねばならぬ。 ヒグマ語は単なる唸り声ではない。 HIGUMA達の為に開発された、彼等の共通言語だ。 それを操るという事は、実験に無関係なクマではあるまい。 『ボクの名前はモノクマ。 ヒグマ帝国の……えーと、一の幹部なのだ!』 『ヒグマ帝国とはなんだ』 『ヒグマ帝国はヒグマの帝国だよ。 有冨に反旗を翻したヒグマ達の作った国さ。 キングヒグマが統治する、ヒグマ達の理想郷なんだよ!』 『そうか。 ――くだらんな。 ヒグマの社会だと? ヒグマ同士群れて暮らす? 馬鹿が。 野生の掟に従い、共食いも厭わぬ――それがヒグマの筈だ。 それが国を建てるなど、恥を知れ』 そうだ。 ヒグマは本来群れない動物だ。 親や子供こそ持つが、そうでない相手に対しては共食いさえ辞さない。 それが野生の、弱肉強食の掟の筈だ。 『わかっちゃいたけど、唯我独尊だなぁ……でもさ、その野生に生きてる穴持たず4クンは、今まで何をしてたの? 負けっぱなしじゃない。 誰か一人でもその弱肉強食に付き合ってくれた人はいた?』 二度目の煽るような言葉を、しかし無視できなかった。 そうだ。 自分はこの会場に降りてから、一度も勝っていない。 強さを見せつけていない。 自分に敗北感を与えたハンターとマタギは、二人とも既に死んでいる。 故に、その敗北感は永遠に拭えない。 自分を投げ捨てた小娘は勝負の土俵にすら立っていない。 戦いもせず、自分を格下と見下げている。 もはや強い弱いの問題ですらない。 ――自分は、最早野生の掟に従えていない。 『死』を告げる穴持たず4の証は、『生ける屍』の4へと変わってしまっている。 『――だからさ、ヒグマ帝国に来なよ。 ナンバー10以前のHIGUMAが帝国に来たなら尊敬の象徴さ。 立派な地位が何もせずに手に入る。 力が欲しいなら、再調整して他のヒグマよりも強力な体をくれてやるよ?』 目の前のクマの誘惑は甘美だ。 奴の甘言を聞き入れれば、自分の欲するモノは手に入るだろう。 そう、『強さ』も、そして――いや。 『――悪いが断る』 決断は今度こそ言葉を断ち切った。 『確かに貴様の言う通り、そこには俺の望む物が全てあるのだろう。 だが足りない。 それは『飢え』だ。 野生から生み出される闘争心、そして渇望がそこにはない。 故に俺の存在意義は、そこでは果たされない。 そう――そこに行けば、俺は本当に死んでしまう』 そうだ。 野生の掟は、弱肉強食だけではない。 飢え。 そこから生み出される生存競争、闘争。 それもまた野生ではなかったか。 敗北した今の自分に、残されているのはそれだけだ。 逆説。 それを失えば、もはや自分はヒグマですらない何かに堕ちてしまうだろう。 だから、従えぬ。 『――ま、そう言うと思ったけどね。 キングやシーナーにキミを抹殺対象として進言したのはボクの為でもあったけど、キミ達がヒグマ帝国に賛成しないだろう事は事実だったからさ。 だから――死んでもらうよ』 交渉は決裂。 目前のクマは爪を剥き出しにし、最早殺意も隠さぬ。 ならば、こちらも遠慮する事はない。 己の誇りを突き通す為に――戦うのみ。 △ ▼ 巨体が唸る。 轟音を響かせ、大地を踏みしめる。 通常のヒグマでさえ、その速度は60Kmにも及ぶ。 しかし穴持たず4の速度はその3倍、180Km。 その瞬発力と合わせれば、到底至近の相手に回避できるものではない。 相手との体格差は歴然、このまま轢殺する――! しかし突進は手応え無く空を切る。 一瞬で減速、急速旋回し影を探す。 左右。 いない。 ならば――上! 上空へと跳び上がったモノクマが急降下、鋭い爪を振りかざす。 それを確認するより早く野生の勘がバックステップを選択。 回避。 空中で腕を振り切り無防備な姿勢を晒す相手へと、予備動作の時間も惜しいとばかりに再度体当たり。 今度は直撃。 吹っ飛んだ。 ――が、軽い。 空中の相手にダメージを与えるには踏み込みが浅かったか。 構えを取り直し、空中で体勢を整え着地する相手を見据える。 『ま、初期ナンバーだけあって流石に強いね。 じゃ、ちょっと本気で行くよ?』 言うなり、相手の動きが変わった。 人間で言うボクシングの選手のようなフットワーク。 小柄なクマが左右に揺れ、その度に彼我の距離は近付く。 変幻自在のステップだ。 ヒグマの動体視力をもってしても、それは見切れない。 ――ならば、勘で叩くのみ。 半ば当てずっぽうに近い形で放たれた拳は、確かに敵を直撃。 その体を抉る。 しかし今度は踏み込みが深すぎた。 カウンターの形で放たれたコークスクリューブロウが、鳩尾に入る。 『ぐ、っ……!』 肉は抉られていない。 だが内臓にまで響く打撃は確かなダメージをこの体に与えている。 『オラオラオラオラオラオラオラオラ……!』 反撃はあちらの方が早かった。 続けて拳が雨霰のように降り注ぐ。 滅多打ち。 重い一撃を喰らった体では腕を交差させてのガードしかできない。 『モノクマ天国ズドア~!』 更に一発が来た。 何をされたかわからないが、奇妙な生命のエネルギーを感じる――! ガードを弾かれ、直撃する。 悲鳴にも近い唸り声を上げながら吹っ飛ばされ、木に背中を打ちつける。 衝撃にへし折れる木を背にしながら、ふらつく足で立ち上がった。 そこへ追撃が――来ない。 敵は腕を組み、わざとらしい程の余裕を見せている。 『一応聞くけどさ。 今なら命乞いとかしてもいいよ?』 『くどい。 獲物を前に舌舐めずりでもしているつもりか?』 『あっそ。 そういや――オマエ、自分を殺せる相手を探してるんだっけ? ボクが殺してやるよ、絶望的にね――!』 来た。 今度は一直線に、こちらより速く。 視認できても、身構える事はできぬ速度。 回避すら考えられない突撃。 それに対して――ただ、踏み込んだ。 穴持たず4は特殊な能力を持たない。 ヒグマとしての戦闘能力だけを純粋に強化し、ヒグマとしての戦いだけで絶対的な強さを手に入れた彼は自らのナンバーをもじってこう呼ばれる。 ――死熊。 ただ、腕を突き出す。 それだけの動作に全力を費やした。 クロスカウンター。 拳が直撃する。 剥き出しにした爪が、敵の頭部を抉る。 フェルト地と綿が破れ、中の電子部品が零れ出す。 敵の拳は、こちらの拳に勢いを殺され外皮を傷付けるのみに留まった。 ――そして、動かない。 『……勝ったか』 如何に傷を恐れぬロボットヒグマと言えど、制御部品を破壊されればそれ以上の動作はできない。 こちらの決死の一撃は、確かに頭部に収められていた制御部品を破壊したようだ。 『さて、これからどうしたものか……ヒグマ帝国には興味はないが、この島を縄張りにするというなら戦うべきか。 それとも、もう戦いの事など忘れて北海道に行くのもいいかもしれんな……』 ――戦いが終わって油断した、と言うのは易しい。 けれど、それは本当にここが野生の中だと言うのなら、絶対にしてはいけない事だった。 大自然の中では、獲物を仕留めても、更に襲いかかって来る敵も、その獲物を奪うハイエナも居たというのに。 だから彼は本当に、野生を忘れてしまっていたのだろう。 『あーあ……やめてよね。 変わりはあるけど、できるだけ無駄にしたくないんだ。 ここはジャバウォック島じゃないからさ』 ――そして、それが彼の本当の敗因となってしまった。 ――ドスッ。 『な……に……?』 背中を貫く、爪。 つい先ほど砕いた筈の相手は、しかし無傷で三日月のような皮肉気な笑みを浮かべている。 『……ボクを殺せたと思った? 「やっぱり自分には生きる価値があるんだ」なんて思っちゃった? あまつさえ、「これからは自由に生きられる」とか希望を抱いちゃった?』 『甘いよ! 絶望的に甘々だよ!』 背を抉る爪が、更に深く差し込まれる。 内臓を文字通り掻き混ぜられ、激痛が走る。 なんとか振り払おうと、足を踏み締め―― ――ドスッ。 噴き出す血と共に、バランスを大きく崩した。 脚に力が入らない。 自重を支え切れず、膝をつく。 2匹目――いや、3匹目のモノクマが、膝を深く抉っていた。 『一匹二匹で終わると思った? 残念! 三匹目でした!』 引き?がそうと、腕を振り上げる。 ――ドスッ。 振り上げた腕に四匹目の爪が突き刺さる。 身を捩ろうと力を込める。 ――ドスッ。 今度は腹を、五匹目が貫いた。 ――動きが、読まれている。 こちらが何か反抗しようとする度に、新たなモノクマが現れ的確にその動きを潰してくる。 何時しか体は、無数のモノクマに群がられていた。 このような形でなくとも、近くに仲間がいる事を想定していなかった訳ではない。 しかし、この数は想定の範囲を超えている。 そもそもこれだけの数がいるなら、最初から出していれば何の被害もなく勝てていた筈―― 『オマエのデータ取りがしたかったのもあるけど……希望を抱いてから、それを奪われる。 それってさ、とても絶望的でしょ?』 『――』 慟哭とも激怒ともつかぬ咆哮が、口から溢れ出る。 底知れぬ感情に突き動かされ、体が動く。 その度に傷が深く抉られる。 血が流れる。 咆哮はやがて、呻き声へと変わり、そして――。 【穴持たず4 死亡確認】 △ ▼ (見れば見るほどに……このヒグマ帝国は妙だな) サーヴァントを召喚した少女を探し、ヒグマ帝国内を歩く。 地下に築かれた帝国の風景を見る度に感じていた違和は、既に無視できぬ程に大きくなっていた。 状況に対する違和感――ではない。 『ヒグマ帝国』そのものだ。 ヒグマは本来、群れを作る生き物ではない。 彼等が作る集団は最大でも家族が限度だ。 それが帝国を作り、それを一時でも正常に運営できている現状が異常なのである。 力による支配、ならばまだ納得がいった。 だが、ヒグマ帝国を探索している内に見た限りでは恐怖は彼等が従う一因であれど主因ではない。 『そうするのが当然』だから、彼等はヒグマ帝国で働いているのだ。 同じように支配者階級であるシーナーも、『王の軍勢』に飲まれた同胞を救出していた。 自らより脆弱な者を助ける。 通常のヒグマならば、そのような事は行わない。 同族意識と、社会性。 それはヒグマが持つ物では当然ない。 そう――彼等は、酷く人間らしい。 言峰綺礼という人間に、人間性が欠如しているからこそわかる。 今のような状態は、ヒグマが自然に思いついたり、発想したりするような物ではない。 そう。 誰かが教育、または刷り込まなければ。 ヒグマ達が研究所を乗っ取ってからは彼等が教育、或いは製造時に刷り込みをしているのだろう。 だが、それ以前は? 最初はSTUDY研究員かとも考えたが、おそらく違う。 人間性はともかくとしても、同族意識や社会性までもを与える必要はない。 実験を円滑に進める為の知性と、ヒグマ達の団結を促しかねない理性は別の物だ。 実効的な支配者の一人――それも番号から考えてかなりの古参であろうシーナーが、このような行動に及んだ理由とは何か? 実験動物の立場から逃げだしたかった? それもあるだろう。 が、ここまで事を大規模にする必要が見当たらない。 極端を言えば、シーナー一人でもSTUDYは十分制圧し得た。 キングなどを担ぎ上げ、ヒグマ帝国など作る必要性は存在しない。 そもそもそのシーナーの来歴も、こうなってしまうと疑問がある。 シーナーの『治癒の書』は、『一度自分の認識外に出てしまえば、その相手の感覚は元に戻る』と言っていた。 それが虚偽でなければ、『彼一人でSTUDYの研究員を騙し通すには効果範囲が狭すぎる』。 視覚を欺瞞するだけでも、自らの視野に研究員達を入れていなければならない。 多くは無いとは言えど複数存在する研究員達の行動を常に把握し、彼等の持っている情報を管理するという芸当がクマ一匹で可能か? 否。 そんな訳が無い。 他に『STUDY内部の情報を混乱させていた者』が存在しなければ、そんな事は不可能だ。 (そう――いる。 STUDYを欺きヒグマを叛乱させ、気付かれないようにヒグマ達を影から操り、誘導し、扇動する者が。 そしてそれは恐らく、ヒグマではない) 【??? ヒグマ帝国/午前】 【言峰綺礼@Fate/zero】 状態:健康 装備:ヒグマになれるパーカー、令呪(残り10画) 道具:なし [思考・状況] 基本思考:聖杯を確保し、脱出する。 1 ヒグマのマスターである少女およびあの血気盛んな少年に現状を教え、協力体制を作り、少女をこの島での聖杯戦争に優勝させる。 2 布束と再び接触し、脱出の方法を探る。 3 『固有結界』を有するシーナーなるヒグマの存在には、万全の警戒をする。 4 あまりに都合の良い展開が出現した時は、真っ先に幻覚を疑う。 5 ヒグマ帝国の有する戦力を見極める。 6 ヒグマ帝国を操る者の正体を探る。 ※この島で『聖杯戦争』が行われていると確信しています。 ※ヒグマ帝国の影に、非ヒグマの『実効支配者』が一人は存在すると考えています。 △ ▼ 島の地下にあるSTUDYの“元”研究施設――その更に地下。 モニタとサーバー――研究所のメインサーバーに比べれば小さいが、それでもその性能は学園都市製のものと遜色はない――と、ヒグマがすっぽり入ってしまうような大きさの複数のシリンダー。 ただそれだけが設置された、殺風景な部屋。 そこに、モノクマは穴持たず4の死体を運び込んでいた。 「……コイツのDNAじゃ研究は進展しないけど。 ま、肉体の強度補強にはなるか」 そう言うと、穴持たず4の死体をシリンダーへと押し込む。 特殊な溶液を満たされたシリンダーは穴持たず4の肉体を分解し、もう一つのシリンダーの中身へと配合。 シリンダーの中に浮かぶヒグマとも人間とも付かない物体は、穴持たず4の因子を受け更なる肉体の変化を遂げていく。 「カーズ様の死体が残ってれば、こんな事をしなくてもすぐ完成するんだけどねぇ」 そのシリンダーの中の物体を眺めながら、モノクマは呟く。 カーズが敗北した事は傍受した首輪の盗聴回線からわかっているが、その細胞の一辺足りとて見つかる事はなかった。 その上にこの津波があった以上、もはや究極生物の細胞を手に入れる事は叶わないだろう。 「ま、安心しなよ……有冨。 オマエの研究成果はボクが使ってやるからさ……」 ――穴持たず2・工藤健介、羆の独覚兵・樋熊貴人、烈海皇。 彼等は『人間からヒグマへと変わった』者達である。 人間の可能性を追い求めた有冨が何故、人間をヒグマへと改造するような真似をしたのか? 答えは、簡単な話だ。 穴持たず00――ルカの計算能力。 穴持たず1――デビルの肉体変化能力。 あるいは、『人間型の悪役』を模して作られた穴持たず13・ヒグマン子爵。 これらは全て、『ある目標』へと向かって作られている。 そう。 有冨春樹の最終目標は―― 「……『ヒグマを人間に変える研究』をね」 モニターに、一人の少女の姿が写る。 桃色の髪を白と黒のクマの髪留めでツインテールにした、衆目秀麗な女子高生。 その姿を知る者は、彼女をこう呼んだ。 『超高校級のギャル』――江ノ島盾子。 そして、もう一つの異名を知る者は、彼女を畏怖――あるいは、敵意を込めてこう呼ぶ。 ――『超高校級の絶望』。 正確には、彼女は江ノ島盾子本人ではない。 ある人物が彼女を模してプログラミングし――『超高校級のプログラマー』の成果を乗っ取った、アルターエゴ(もう一人の自分)。 現世に肉体を持たぬ彼女だったからこそ、有冨の研究に協力し――最悪の、彼女にとっては最高のタイミングでひっくり返した。 ――だってさ。 ヒグマに人類が乗っ取られるって、絶望的じゃない? 理由がないから対策もできない。 理由がないから理解もできない。 理解も対策もできない理不尽さ――それが超高校級の絶望。 「……そういや、ヒグマ提督は艦これ楽しんでるかな? 是非満喫してもらいたいよねぇ……ハッキングされるまではさ」 ハッキングに備えてメインサーバーへの回線を準備しながら、モノクマはそう呟いた。 【??? ヒグマ帝国/午前】 【モノクマ@ダンガンロンパシリーズ】 [状態]:万全なクマ [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本行動方針:『絶望』 1:前期ナンバーの穴持たずを抹殺し、『ヒグマが人間になる研究』を完成させ新たな肉体を作り上げる。 2:ハッキングが起きた場合、混乱に乗じてヒグマ帝国の命令権を乗っ取る。 ※ヒグマ枠です。 ※抹殺対象の前期ナンバーは穴持たず1~14までです。 ※江ノ島アルターエゴ@ダンガンロンパが複数のモノクマを操っています。 現在繋がっているネット回線には江ノ島アルターエゴが常駐しています。 ※島の地下を伝って、島の何処へでも移動できます。 ※ヒグマ帝国の更に地下に、モノクマが用意したネット環境を切ったサーバーとシリンダーが設置されています。 サーバー内にはSTUDYの研究成果などが入っています。 No.119 Hidden protocol 本編SS目次・投下順 No.121 Ancient sounds 本編SS目次・時系列順 No.097 気づかれてはいけない 言峰綺礼 No.140 環太平洋擬装網 No.108 老兵の挽歌 穴持たず4 死亡 No.107 CVが同じなら仲良くできるという幻想 モノクマ No.127 てんぷら☆さんらいず