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幼少時に交通事故にあい,長期間経過した後に症状が固定した女性について,後遺症逸失利益を算定するにあたり,症状固定時の現価ではなく事故時の現価が算定された事例。 判 決 主 文 1 被告は原告に対し2410万円とこれに対する平成2年8月28日から支払いずみまで年5%の割合による金員を支払え。 2 原告のそのほかの請求を棄却する。 3 訴訟費用は40%を原告の60%を被告の負担とする。 4 この判決は第1項にかぎり仮執行をすることができる。 事実および理由 第1 請求 被告は原告に対し3799万5118円とこれに対する平成2年8月28日から支払いずみまで年5%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 基本的事実関係(当事者間に争いがないか【】内の証拠により認める) (1) 交通事故の発生 原告(昭和58年9月生まれの女性)は下記の交通事故にあい負傷した。 日 時 平成2年8月28日午後2時20分頃 場 所 甲府市○○先路上 事故概略 道路脇に停止した自動車から原告(当時6歳)が降り,道路を横断しようとしたところ,反対車線を直進してきた被告運転自動車が原告に衝突した。 (2) 被告の責任 被告は前方不注視の過失により本件事故を起こしたので,不法行為に基づき原告に生じた損害を賠償する義務を負う。 (3) 入通院治療【甲5】 原告は傷害の治療のため下記のとおり入通院治療を受けた。 ア 治療期間 4901日(平成2年8月28日~平成16年1月27日) イ 入院日数 271日 ウ 通院日数 84日 (4) 後遺障害【甲4の1・2,乙2】 原告は本件事故により後遺障害を負い,その症状は平成16年1月27日固定した。損害保険料率算出機構は,同年8月11日,この後遺障害につき自賠等級併合第7級と判断した。その理由は以下のとおりである。 ア 右足関節骨端線損傷による右足関節の可動域制限については,画像上で骨折治癒後の右足関節面に明らかな不正像が認められ,関節面の変形が認められる。その程度は,右足関節の運動可能領域が自動値・他動値ともに完全強直と認められるので,「右足関節の用を廃したもの」第8級第7号該当と判断する。 イ 右下腿部から右足背部にかけての挫滅創による右下肢の瘢痕については,「手のひらの大きさ」の3倍程度以上の瘢痕を残しているものと認められることから,自賠法施行令別表備考6を適用し第12級相当とする。なお,左下肢の採皮痕については,その大きさが「手のひら大」にいたらないものであり,自賠責保険の後遺障害には該当しないと判断する。 ウ 右下肢の短縮との訴えについては,現時点では両下肢に左右差がなく,短縮障害として認められないものであり,自賠責保険の後遺障害には該当しないと判断する。 エ 上記ア,イの障害を併合して,併合第7級とする。 2 争点 (1) 事故態様(過失相殺) 【被告の主張】 原告は,片側1車線道路に停止した祖父の運転する車両から下車し,右側後方から来た2台の車両が通過するのを確認した後,左側からは車両が来ないだろうと思いこみ,道路の反対側にある商店に行こうとして,被告車両の至近距離で,祖父の車両後方のかげから反対車線に飛び出した。幼児もしくは児童の加害者至近距離での急な飛出しとして最低でも50%の過失相殺をすべきである。 【原告の主張】 祖父の運転する車両の助手席に乗っていた原告は,停車後,道路の反対側にあった自動販売機に向かおうとして車両から降りた。祖父も運転席から降りようとしたが,対向車線から被告運転車両が直進してきたのでドアを開けなかった。このとき,祖父運転車両の後方に後続車が2台停止しており,被告運転車両が通過するのを待っていた。原告は,祖父運転車両と後続車両の間から道路を横断しようとしたが,そのまま直進してきた被告運転車両にひかれた。被告が前方の確認を怠って漫然と走行したことに事故の致命的原因があるのは明らかであるから,原告の過失はせいぜい15%である。 (2) 労働能力喪失率 【原告の主張】 原告の後遺障害の自賠等級は第7級であり,労働能力喪失率は56%である。 原告は高校卒業後英語の専門学校に2年通ったが現在にいたるまで定職につくことができずにいる。専門学校卒業後CDショップでアルバイトをしたこともあったが,後遺障害により約2か月しか続けることができなかった。 原告は,左足に負担をかけた結果背骨が湾曲してしまい,長時間立ち続けるのも不可能である。補装具がなければ歩くこともできない。さらに,右足の醜状障害によりスカートや水着を着ることができず,補装具のため女性らしい靴をはくこともできない。 【被告の主張】 原告の後遺障害のうち,労働能力の喪失に関係するのは右足関節の機能障害のみであり,醜状痕は関係しない。原告の労働能力喪失率は,右足関節の機能障害に対応する自賠等級第8級の45%を原則とすべきである。さらに,原告は実際にはアルバイトをするなどして就業しているので,これも考慮すべきである。 (3) 損害額 【原告の主張】 本件事故により原告が被った損害は下記のとおりであり,損害残額は3799万5118円である。よって原告は被告に対しこの金額とこれに対する不法行為の日(事故日)である平成2年8月28日から支払いずみまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払いを求める。 ア 治療費 347万0642円 イ 付添看護費 61万6500円 ウ 通院費 25万5130円 エ 入院雑費 32万5200円 オ 文書料 800円 カ 交通費 210万1610円 キ 装具代 121万7247円 ク 傷害慰謝料 263万円 ケ 後遺障害逸失利益 2853万4552円 コ 後遺障害慰謝料 1000万円 サ 過失相殺後の損害額 4177万8929円(ア~コの合計額の85%) シ 損害の填補 ▲723万7912円 ス 弁護士費用 345万4101円 セ 損害残額 3799万5118円 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(事故態様)について (1) 認定事実 証拠(甲6,9,10,乙1,3の1~8,証人A,原告,被告)と弁論の全趣旨により以下の事実を認める。 ア 事故現場は,車両の通行量も歩行者の通行量も多くない,片側1車線(両側2車線)の東西方向にのびる直線道路である。東方からも西方からも前方の見通しはいい。 イ 事故の前,原告は祖父の運転する普通乗用自動車の助手席に乗っており,この車両は上記道路を東方から西方に向けて走行していた。原告が道路北側にある自動販売機でアイスクリームか何かを買いたいというので,祖父はこの自動販売機を通過してすぐのところで停車した。原告はただちに助手席から降り,祖父の車両の後方にまわった。そのとき,この車両のうしろから2台の車両がついてきており,この2台の車両は,祖父の車両をよけて反対車線に出て,そのまま西方に進行していった。原告は,この2台の車両が通過した後,左方を確認しないで,道路の反対側の自動販売機に向かって道路を横断していった。 ウ 被告は,事故の前,普通乗用自動車を運転して上記道路を西方から東方に向けて走行していた。前方に原告祖父の車両が停止していること,そのうしろから車両が走行してくることに気がつき,スピードをゆるめて進んでいった。原告祖父の車両をよけて被告進行車線に入ってきた2台の車両が対向車線に戻ったので,被告はスピードをあげて原告祖父の車両の横を通りすぎようとした。その直後,道路を横断中の原告に衝突した。 (2) 事実認定の説明 上記認定事実のうち,原告祖父の車両のうしろからついてきた2台の車両の動きについては,被告の供述と原告の祖父(証人A)の証言が対立している(なお原告は記憶がないと述べている)。当裁判所は被告の供述を採用してこれにそった認定をした。その理由は次のとおりである。 原告の祖父は,自分の運転する車両のうしろからついてきた2台の車両は,追い越していったのではなくうしろで止まったままであったと証言する。しかし,この証言は,被告の供述とくいちがうばかりでなく,本件訴訟における原告の当初の主張とも異なる。原告は,訴状において「原告・・・が,2台の後続車を見送って道路を横断したため,折から反対車線を直進してきた被告加害車両と衝突した」と主張していたし,平成17年11月10日付けの準備書面においても「本件事故は,被告が反対車線に停車中の車両を対向車が2台通過したのを見て,安易にもう安全であると誤信して,前方の確認を怠って漫然と走行したことにより横断中の原告を自車に衝突させたことにより起きた」と主張していたのである。原告がこう主張したことにはそれ相 応の理由があったはずである。このような主張をしたのが事故から15年もたったあとであることを考えれば,関係者のたんなる記憶ちがいだとか原告訴訟代理人の聞き取り不足だとしてかたづけることはできない。また,2台の車両が後方で停車していたのであれば,その運転者は事故の状況を間近で目撃しているのであり,警察で事情聴取を受けるなどして事故後の処理に関与しているはずである。しかし,原告の祖父はなぜかこの運転者についてまったく語ろうとしないのであり,不自然である。以上の検討によれば,2台の後続車両の動きに関する原告祖父の証言は信用できないといわざるをえない。 一方,被告の供述は事故後から現在まで一貫していてその内容もとくに不自然なところはなく,本件訴訟における原告の当初の主張とも一致するから,その信用性を肯定することができる。 (3) 過失相殺 上記認定事実によれば,本件事故は,交差点以外の場所で横断歩道のない道路を横断した歩行者に自動車が衝突したという事故類型であり,基本となる過失相殺の割合は20%である。被告は原告が車両のかげから飛び出してきたことを強調するが,そのような歩行者がありうることは自動車の運転者として予想すべきことであるから,この点をことさらに重視することはできない。ただし,事故の状況からして,原告は被告運転車両の直前を横断しようとしたと認められるし,被告運転車両が到達する前に原告祖父の車両のわきを2台の車両が通過していったことは被告にとって有利に斟酌すべき事情である。一方,原告が児童であったことは原告に有利に斟酌すべきである。これらの事情を総合的に考慮した結果,本件では,基本となる割合のとおり20 %の過失相殺をするのが妥当であると判断する。 2 争点(2)(労働能力喪失率)について 原告の後遺障害は,右足関節の障害が自賠等級第8級,右足の醜状痕が第12級で,併合して第7級というものである。第7級の労働能力喪失率は56%,第8級のそれは45%とされている。 まず,右足関節の障害は「関節の用を廃したもの」に該当し,原告の供述によれば,この後遺障害による労働能力喪失率が通常の第8級の喪失率を下回るとは考えられない。したがって原告の労働能力喪失率が45%以上であることは優に認められる。 次に,醜状痕については,被告は,これは労働能力喪失率とは関係がないと主張するが,原告の供述によれば,醜状痕のために着る服も制約される状況にあるというのであり,その心理的負担感をも考えれば,この醜状痕が原告の労働能力を減殺する方向に強く影響していることは明らかである。もっとも,醜状痕はその性質上身体機能を損なわせるものではないし,右下腿部から右足背部にかけての瘢痕であるから,つねに人前にさらされる部位ではない。これらのことを考慮すると,併合で第7級となるからといって,通常の第7級の労働能力喪失率を適用するのはやはり妥当でないと考えられる。そこで,第7級と第8級の中間的な数値を採用することとし,原告の労働能力喪失率は50%とする。 3 争点(3)(損害額)について (1) 治療関係費 ア 入通院治療費 347万0642円 証拠(甲5)により認める。 イ 付添看護費 61万6500円 付添看護日数は証拠(甲5)により137日と認める。1日あたりの金額は4500円とすべきであるから,合計で61万6500円である。 137×4,500=616,500 ウ 通院費 25万5130円 証拠(甲5)により認める。 エ 入院雑費 32万5200円 入院日数は合計271日であり,1日あたりの金額は1200円とすべきであるから,合計で32万5200円である。 271×1,200=325,200 オ 文書料 800円 証拠(甲5)により認める。 カ 交通費 210万1610円 証拠(甲5)により認める。 キ 装具代 121万7247円 証拠(甲5)により認める。 (2) 後遺障害逸失利益 1584万8754円 基礎収入は,賃金センサス平成15年第1巻第1表産業計・企業規模計・女性労働者学歴計全年齢平均の年収額349万0300円を採用する。原告は20~24歳の平均年収を採用すべきであるとしているが,年少時の事故であること,労働能力の喪失は一生にわたって続くと認められることを考慮し,全年齢平均年収を採用することにした。 労働能力喪失率は,争点で判断したとおり,50%である。 事故時6歳,症状固定時20歳であり,原告の供述によれば,原告は高校卒業後2年間専門学校に通い,症状固定時まで就労していなかったが,その時点で就労可能な状態ではあったと認められる。したがって就労可能期間は20歳から67歳までとする。 以上の条件を前提に,中間利息控除のためにライプニッツ係数を用いて計算すると,後遺障害逸失利益(事故時の現価)は次の計算式により求められ,1584万8754円である。なお,18.9802は,61年(67-6)のライプニッツ係数であり,9.8986は14年(20-6)のライプニッツ係数である。 3,490,300×0.5×(18.9802-9.8986)≒15,848,754 ここで症状固定時の現価ではなく事故時の現価を算定したのは次の理由による。すなわち,逸失利益は,治療費や交通費などといった実際に支出を余儀なくされた損害項目とは異なり,純粋に計算上の損害である。このような損害については,「不法行為に基づく損害賠償債務は不法行為時に発生しかつ遅滞に陥る」とする確立した判例にしたがい,計算により事故時の現価を求めるのが正当だと考えるからである。原告は,症状固定時の現価を算定するのが実務の趨勢と考えるようであるが,必ずしもそのようにいうことはできない。現に,最近の裁判例を検討した本田晃「逸失利益の現価算定の基準時」東京三弁護士会交通事故処理委員会・財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部共編『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準2003(平成15年 )』(赤い本)303頁は,大多数の裁判例は症状固定時を基準として逸失利益の現価を算定しているとしながらも,有力な異論があるとし,事態はなお流動的であると結論づけている。 (3) 過失相殺後の財産的損害 1906万8706円 上記(1),(2)の合計額に20%の過失相殺をすると1906万8706円である。 (3,470,642+616,500+255,130+325,200+800+2,101,610+1,217,247+15,848,754) ×(1-0.2)≒19,068,706 (4) 慰謝料 ア 傷害慰謝料 210万円 事故態様,傷害の部位,程度,入通院期間,本件訴訟までの経緯等の事情を総合的に考慮し(※),傷害慰謝料は210万円とする。 イ 後遺障害慰謝料 800万円 事故態様,後遺障害の部位,程度,本件訴訟までの経緯等の事情を総合的に考慮し(※),後遺障害慰謝料は800万円とする。 ※ 当裁判所は,慰謝料は,財産的損害において過失相殺の基礎とした事情を含むすべての事情を考慮したものと考えるので,慰謝料についてあらためて過失相殺はしない。 (5) 損害の填補 ▲723万7912円 当事者間に争いがない。 (6) 損害残額 2193万0794円 上記(3),(4)の合計額から(5)の額を控除すると2193万0794円である。 19,068,706+2,100,000+8,000,000-7,237,912=21,930,794 (7) 弁護士費用と認容額 上記損害残額を基準にして,本件訴訟の経緯をふまえ,弁護士費用は216万9206円とする。弁護士費用を加えた認容額は2410万円である。 21,930,794+2,169,206=24,100,000 4 結論 原告は被告に対し不法行為に基づき2410万円とこれに対する不法行為の日である平成2年8月28日から支払いずみまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を請求することができる。原告の請求はこの限度で理由がある。 甲府地方裁判所民事部 裁判官 倉 地 康 弘
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判 決 主 文 1 被告は,原告に対し,2723万2538円及びこれに対する 平成13年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員 を支払え。 2 被告は,原告に対し,81万1958円を支払え。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用はこれを10分し,その3を原告の,その余を被告の 負担とする。 5 主文第1,2項は仮に執行することができる。 事 実 及 び 理 由 第1 請求の趣旨 1 被告は,原告に対し,4184万7767円及びこれに対する平成13年10月6日から支払済みまで年5分の割 合による金員を支払え。 2 被告は,原告に対し,81万1958円を支払え。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 仮執行宣言 第2 当事者の主張 1 請求原因 (1) 交通事故(以下「本件事故」という。)の発生 ア 発生日時 平成13年10月6日午後7時30分ころ イ 発生場所 松山市a町b番地先路上 ウ 加害車両 被告運転の普通貨物自動車(以下「被告車両」という。) エ 事故態様 直線道路である本件事故現場において,道路を横断しようとしていた原告に被告が運転する被告車両が衝突し,よって,原告に後記傷害を負わせた。 (2) 責任原因 被告は,車両を運転して道路を走行するときには前方を注視し,横断しあるいは横断しようとする歩行者が存するときには,その横断を妨げないよう徐行ないし停止すべき義務があるのにこれを怠り,上記道路を横断しようとしていた原告に後記傷害を負わせた過失がある。 よって,被告は,民法709条に基づき,本件事故により原告に発生した後記損害の賠償責任を負う。 (3) 原告の傷病の内容及び治療経過 ア 傷病名 頭部外傷,脳挫傷,急性硬膜下血腫,外傷性くも膜下出血,左顔面神経麻痺,左聴の障害,症候性てんかん イ 治療状況 (ア) A病院 入院 平成13年10月6日から同年10月22日まで 通院 平成13年10月23日から平成14年7月24日まで (イ) B病院耳鼻咽喉科 入院 平成13年10月26日から同年10月29日まで 通院 平成13年10月24日から平成14年8月2日まで (ウ) C病院 入院 平成14年10月1日から平成14年10月3日まで 通院 平成14年9月12日から平成14年10月1日まで (エ) B病院精神科・神経科 通院 平成15年1月14日から平成15年2月20日(症状 固定日)まで 事故日から症状固定日まで 503日間(入院日数24日) ウ 後遺障害の内容・等級 (ア) 9級10号(神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限される もの) (イ) 9級9号(一耳の聴力を全く失ったもの) (ウ) (ア),(イ)により,併合8級 (4) 原告の損害 ア 治療関係費 87万9320円 (ア) 治療費 38万6550円 (イ) 入院雑費 3万6000円 1日1500円,24日間 (ウ) 通院交通費 19万2370円 病院へのタクシー代 (エ) 付添看護料 26万4000円 入院期間中の24日間は毎日付添看護を要した。近親者付添費の日額は8000円が相当である。したがって,入院中の付添看護料は,19万2000円となる。 さらに,通院の際も付添が必要であった。近親者通院付添費の日額は,4000円が相当であり,通院実日数は18日であるから,通院付添費は7万2000円となる。 (オ) 文書料 400円 イ 逸失利益 3452万6225円 (ア) 基礎収入 565万9100円 原告は,本件事故時満10歳であったが,今後成長して就労すれば,賃金センサスの平成13年男子労働者学歴計全年齢平均賃金である565万9100円程度の収入を得られる蓋然性があった。 (イ) 労働能力喪失率 45パーセント 原告の後遺障害等級は第8級であり,自賠責保険も認定するとおり,精神障害によって今後就労可能な労務が制限され,かつ左耳の用廃によってもさらに労働能力が制限される。 これを割合で評価すれば,原告は45パーセントの労働能力を喪失したものといえる。 (ウ) 労働能力喪失期間 49年間 原告は,高校を卒業する満18歳から満67歳に至るまでの49年間就労が可能であった。 (エ) 中間利息控除 ライプニッツ係数13.5578 原告は,症状固定時満12歳であったから,労働開始可能な満18歳までは6年間の非就労期間が存する。したがって,用いるべきライプニッツ係数は,12歳から67歳までの55年間のライプニッツ係数から,18歳までのライプニッツ係数を引いたものになる。 18.6334-5.0756=13.5578 (オ) 計算式 5,659,100×0.45×13.5578=34,526,225.7 ウ 慰謝料 1191万円 (ア) 傷害慰謝料 191万円 上記のとおり,症状固定日までの入院期間は約1か月間であり、その余の通院期間は約15か月に及ぶ。 したがって,傷害慰謝料としては上記金額が相当である。 (イ) 後遺障害慰謝料 1000万円 原告の後遺障害は,精神障害と左聴力障害によって併合8級であり,それ以外にも等級認定はされていないものの,本件事故を原因として顔面麻痺なども発症している。これらの慰謝料増額事由を考慮すれば,後遺障害慰謝料としては,1000万円が相当である。 エ 損害の填補 (ア) 自賠責保険 859万4540円(被害者請求) (イ) 任意保険 67万7580円 自賠責から任意保険会社が回収した金額 (ウ) 上記損害額の合計は4731万5545円であり,上記損害填補の結果,損害額は3804万3425円となる。 オ 弁護士費用 380万4342円 カ 損害合計 4184万7767円 (5) 確定遅延損害金等 ア 自賠責保険からの給付分について 原告は,自賠責保険金859万4540円を受領しているが,これは後遺障害分819万円と傷害分40万4540円の2回に分けて振り込まれた。 上記保険金の給付は,本件事故による損害の填補に当たり,上記金員に対する本件事故発生日から上記支払日までの民法所定年5分の割合による確定遅延損害金についても,原告は請求権を有している。 本件では,後遺障害分819万円は平成15年8月26日に,障害分40万4500円は平成15年9月9日に支払われている。よって,確定損害金は,81万1958円となる。 〔計算式〕 後遺障害分 8,190,000×0.05×689÷365=773,001.36 傷害分 404,540×0.05×703÷365=38,957.75 計 811,958 イ 残損害賠償金について 事故発生日から支払済みまでの遅延損害金について,原告は請求権を有している。 (6) よって,原告は,被告に対し,次の支払を求める。 ア 民法709条に基づく損害賠償請求権として,4184万7767円及びこれに対する本件事故日である平成13年10月6日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金 イ 上記損害賠償請求権の一部(自賠責保険による填補分)である859万4540円に対する確定遅延損害金81万1958円 2 請求原因に対する認否 (1) 請求原因(1)〔本件事故の発生〕は認める。 (2) 同(2)〔責任原因〕は認める。 (3)ア 同(3)ア〔原告の傷病名〕は認める。 イ 同(3)イ〔治療状況〕は認める。 ウ 同(3)ウ〔後遺障害の内容・等級〕について,原告主張のとおりの自賠等級が認定されていること,原告が左耳の聴力を完全に失っていることは認めるが,神経系統の機能又は精神の障害が自賠等級9級10号に該当することは争う。原告の症状は,9級10号より軽いものである。 (4)ア(ア) 同(4)ア(ア)〔治療費〕は認める。 (イ) 同(4)ア(イ)〔入院雑費〕は認める。 (ウ) 同(4)ア(ウ)〔通院交通費〕は認める。 (エ) 同(4)ア(エ)〔付添看護料〕は否認ないし争う。付添看護料は,入院1日当たり4000円,通院1日当たり2 000円が相当である。 (オ) 同(4)ア(オ)〔文書料〕は認める。 イ(ア) 同(4)イ(ア)〔基礎収入〕は争う。 (イ) 同(4)イ(イ)〔労働能力喪失率〕は争う。原告の労働 能力喪失率は,35パーセントが相当である。 (ウ) 同(4)イ(ウ)〔労働能力喪失期間〕は認める。 (エ) 同(4)イ(エ)〔中間利息控除〕は争う。本件では,逸失利益の現価算定の基準時として,事故時と考えるのが妥当であり,中間利息控除に当たっては,事故時から逸失利益発生期間の終期までのライプニッツ係数から,事故時から逸失利益発生期間の始期までのライプニッツ係数を引いたものを係数として用いるべきである。これによれば,ライプニッツ係数としては12.298が相当である。 (オ) 同(4)イ(オ)〔計算式〕は争う。 ウ(ア) 同(4)ウ(ア)〔傷害慰謝料〕は争う。 (イ) 同(4)ウ(イ)〔後遺障害慰謝料〕は争う。 エ(ア) 同(4)エ(ア)〔自賠責保険〕は認める。 (イ) 同(4)エ(イ)〔任意保険〕は認める。 (ウ) 同(4)エ(ウ)〔損害額合計〕は争う。 オ 同(4)オ〔弁護士費用〕は争う。 カ 同(4)カ〔損害合計〕は争う。 (5) 同(5)〔確定遅延損害金等〕について,原告主張のような計算方法があることは認めるが,その余は争う。 3 被告の主張(過失相殺) 原告には,夜間,南方約37メートルに近接する信号機のある横断歩道を渡らず,また北側40メートル先の横断歩道も渡らず,被告車両が走行していることを知りながら,その前に道路を横断できると判断し,突然被告車両の前方を斜めに走って横断した過失がある。 原告の過失割合は50パーセントとするのが相当である。 4 被告の主張に対する認否及び反論 被告の主張は争う。本件事故現場には横断歩道はないから,本件事故はいわゆる横断歩道のない交差点又はその直近における横断時の事故であり(原告の基本的過失割合20パーセント),これに原告が児童であること(5パーセントの減算),被告車両の著しい過失(10パーセントの減算)の修正要素を加味すれば,原告の過失割合は5パーセントを上回ることはない。なお,当時は夜間であったとはいえ,本件事故現場は明るかったから,夜間であることを理由に過失割合を修正すべきではない。また,原告には斜め横断,直前横断の過失もなかった。
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平成24年7月12日 説明会内容~育成室原価。 説明会における質疑にあった「育成室保育料」の原価算定の 答弁に加えて区議からも詳細な説明を頂きました。 原価 ①人件費等原価 小計 550.752.000円 内訳 正規職員 8,065,000円 x49人 ※1 常勤職員 4,220,000円 x5人 非常勤 2,624,000円 X2人 バイト 9,497,000円(40人分) ②維持管理費 小計 41.100.000円 内訳 〈行事等引率旅費、父母会主催キャンプ日当、事務連絡旅費、非常勤職員行事等引率旅費、 育成室光熱水費、教材及び行事用消耗品購入、教材用図書購入、育成室通知用封筒印刷、 ミシン・冷蔵庫・湯沸かし器等修理、有料ゴミ処理券・腰改修業務委託育成室分、 電話料金、CATV視聴料、緊急地震速報機器情報料、※2畳替え工事、行事等引率時の入場料、 学童保育システムリース料、保育料口座振替磁気テープ作成業務委託、 根津、目白第二育成室業務委託・・・等々〉 ③施設管理執行額 小計4.437.000円 内訳 〈※2修繕費〉 利用人数14.136人 算定〈平成24年4月1日時点1.178人×12ヶ月=14.136人(1140世帯) 原価算定 (①+②+③)÷人数 =596.289.000円÷14.136人=42.182円 疑問点 ※1正規職員人数が多業務との兼任を兼ねているとすると算定数に疑問が残る。 ※2一般的修繕項目が二つの算定原価に含まれている。
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【妄想属性】実験 【作品名】超比較級認定の基準 【名前】記述可能級(1) 【大きさ】【攻撃力】【防御力】【素早さ】【特殊能力】【強さ】 【説明】 「~為のあらゆる全てが書いてある」といった強さがあるが、 その質、量、表現方法、優先度、有利度等が如何なるものでも記述可能な程度の強さ。 このキャラは記述可能な程度の強さに勝利出来る程強い。 【名前】記述可能級(2) 【大きさ】【攻撃力】【防御力】【素早さ】【特殊能力】【強さ】 【説明】 「~為のあらゆる全てが書いてある」といった強さがあるが、 その質、量、表現方法、優先度、有利度等が如何なるものでも記述可能な程度の強さ。 これより下には、このキャラが記述可能な程度の強さより強いという事を示す為のあらゆる全てが示されている。 【名前】記述可能級(3) 【大きさ】【攻撃力】【防御力】【素早さ】【特殊能力】【強さ】 【説明】 「~為のあらゆる全てが書いてある」といった強さがあるが、 その質、量、表現方法、優先度、有利度等が如何なるものでも記述可能な程度の強さ。 このキャラは記述可能な程度の強さに勝利出来る程の強さであり、実際に勝利したという実績がある。 【名前】記述可能級(4) 【大きさ】【攻撃力】【防御力】【素早さ】【特殊能力】【強さ】 【説明】 「~為のあらゆる全てが書いてある」といった強さがあるが、 その質、量、表現方法、優先度、有利度等が如何なるものでも記述可能な程度の強さ。 これより下には、「記述不可能な程強いから記述可能な程度の強さより強い」という理屈よりも納得度の高い理屈で 記述可能な程度の強さより強い強さが示されている。 226◆z1qWXXpLbtDS 2022/07/30(土) 20 25 10.58ID K6y06SIw 記述可能級(1)~(4) 考察 記述可能級(1)から 「~為のあらゆる全てが書いてある」といった強さがあるが、 その質、量、表現方法、優先度、有利度等が如何なるものでも記述可能な程度の強さ。 このキャラは記述可能な程度の強さに勝利出来る程強い。 書いてある系を記述可能とするが、このキャラが記述不能とは書かれていないので超比較にはならない 書いてある系より強いとほぼ一緒。同列 記述可能級(2) これより下には、このキャラが記述可能な程度の強さより強いという事を示す為のあらゆる全てが示されている。 このキャラもがっつり記述可能。 いかなる質や量の記述よりも強いが、ただ強いだけでなく書いてある級の強い しかしただし質や量が書いてある級になるわけではないのでアイラヴィには負ける アイラヴィ 記述可能級(2) 母なるテンプレ 記述可能級(3) このキャラは記述可能な程度の強さに勝利出来る程の強さであり、実際に勝利したという実績がある。 強さか記述可能級(1)と変わらず。実績があるかないかは大して関係ない気がする 書いてある系より強いと同列 記述可能級(4) これより下には、「記述不可能な程強いから記述可能な程度の強さより強い」という理屈よりも納得度の高い理屈で 記述可能な程度の強さより強い強さが示されている。 記述可能な強さより強いことの納得度は超比較より強いかもしれないが、実際の強さが超比較より強いとは限らない。このキャラは記述できるので少なくとも超比較以下 そもそも納得度ってなんだ。それ自体が記述の質や量に影響するわけでもないし。 「成人女性より成人男性の方が強い」より「成人女性より成人女性より強い人の方が強い」の方が正しい可能性は高いけど、だからといって「成人男性より成人女性より強い人の方が強い」とは限らない。 同じ様な強さのキャラにあたったときに優先される程度な気がする。 つまり記述可能級(2)の直上 0226◆rrvPPkQ0sA 2023/10/11(水) 23 50 01.45ID 3SzcjC3T 記述可能級(4)再考察 強さ欄は空欄。 説明欄にすごい強い強さが書いてあるようだが、記述可能級(4)の強さとどう関係しているか不明なので無視する。 つまり唯の空欄キャラなので、空白テンプレと同列。つまりテンプレ不備
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気管カニューレを装着した患者について,医師らに,痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止すべき注意義務を怠った過失を認めた事例 平成18年3月6日判決言渡 平成15年(ワ)第17379号 損害賠償請求事件 判 決 主 文 1 被告は,原告Aに対し,5774万3296円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告B及び原告Cに対し,それぞれ440万円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告らの,その余を被告の負担とする。 5 この判決は,1項及び2項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,1億2019万5395円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告B及び原告Cに対し,それぞれ550万円及びこれに対する平成14年3月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,原告A(昭和19年○月○日生。)が被告の経営する亀有中央病院(以下「被告病院」という。)において入院加療中,同人に装着した気管カニューレ(気管切開術後,開窓された部位から気管内に挿入されるパイプ状の医療器具)が痰によって閉塞したことにより窒息して低酸素脳症に陥り,その結果,植物状態になった(以下「本件事故」という。)などとして,原告A,同人の子である原告B及び原告Cが,被告に対して,原告Aは診療契約上の債務不履行又は不法行為に基づき,原告B及び原告Cは不法行為に基づき,それぞれ損害賠償及びこれに対する本件事故の発生した日である平成14年3月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提となる事実(証拠等の摘示のない事実は,当事者間に争いがない。) (1) 当事者 ア 原告Aは,現在,低酸素脳症による遷延性意識障害が後遺症として残っており,事理弁識能力を欠く常況にあるとして,平成15年4月2日,東京家庭裁判所の審判により後見が開始した(甲B1)。 イ 原告B及び原告Cは,原告Aの子である。原告Bは,上記後見開始申立事件において,同日,成年後見人に選任された(甲B1ないし3)。 ウ 被告は,被告病院を経営する医療法人である。 (2) 診療経過の概要 ア 大学病院における診療経過 原告Aは,平成元年ころ,くも膜下出血を発症し,クリッピング手術を受けた。また,平成12年12月ころ,交通事故による外傷性脳内出血と骨盤骨折のため,大学病院に入院したことがあった。(乙A6) 原告Aは,平成14年2月11日(以下,平成14年については月日のみを記載する。),自宅のトイレで倒れたため,救急車で大学病院に運ばれ,そのまま入院した。入院時の原告Aの症状は,意識障害と右片麻痺であり,同院医師は,左視床出血及び脳室内穿破と診断し,血圧コントロールによる保存的治療を開始した。(甲A1,乙A6) 原告Aは,大学病院に入院中,嘔吐や痰が多く,呼吸状態の悪化等が心配されたことなどから,気管内挿管による呼吸管理が行われた。さらに,同月19日,肺炎及び誤等の予防のため,気管切開術を受けた。なお,細菌培養検査の結果,原告Aの痰からMRSAが検出された。(乙A6) その後,原告Aは,左視床出血及び肺炎等の症状が安定してきたため(乙A6),3月1日午前10時30分ころ,被告病院に転院した。 イ 被告病院における診療経過 原告Aの被告病院における診療経過は,別紙診療経過一覧表記載のとおりである。 原告Aの現在の遷延性意識障害は,3月6日,同人の気管カニューレに痰が詰まって気道が閉塞され,低酸素脳症となったことによる。 なお,別紙診療経過一覧表記載のとおり3月5日原告Aに発熱があったこと,血液の細菌培養検査においてグラム陰性桿菌が検出されたこと(この結果は,原告Aが大学病院に転院後の3月8日ころ判明した。)及び同月6日に行われた血液検査においてCRP値20.11,白血球数22000であったことに照らすと,原告Aは,3月5日ころには敗血症に罹患していたものと判断される。 ウ 現在の診療及び看護の状況 原告Aは,被告病院からの転院先であった大学病院を退院して,現在,D病院に入院して看護を受けている。 2 争点 本件の争点は,次の3点である。 (1) 呼吸管理に関する過失の有無(争点1) (2) 救命救急処置に関する過失の有無(争点2) (3) 損害額(争点3) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(呼吸管理に関する過失の有無)について (原告らの主張) 以下の点にかんがみれば,被告病院の医師らは,原告Aに対し,その呼吸状態を綿密に観察するとともに,頻回な痰の吸引,気管カニューレの交換及びネブライザーによる噴霧処置を行い,これらの処置によっても痰の排出ができない場合には,気管支鏡を用いた吸引処置又は気管内洗浄による痰の排出を行い,痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止する注意義務があったにもかかわらず,これを怠った点において,過失がある。 ア 気管内切開をした患者の痰の喀出能力 原告Aは,痰の量が多く,自力で痰を喀出することが困難であり,それがゆえに気管切開をした患者である。しかも,気管切開をした患者は,胸腔内圧を高められないため,勢いの強い痰の喀出運動ができない。したがって,原告Aの痰の排出は,医師や看護師にゆだねられていた。 イ 大学病院からの申し送り 原告Aが被告病院へ転院する際,大学病院から被告病院に対し,申し送り事項として,原告Aは,MRSA肺炎に罹患しており,最低1時間に1度は口腔,側管,気道からの吸引を行うべき旨の注意喚起がされていた。 ウ 被告病院における原告Aの状態 被告病院入院時の原告Aの以下の状態に照らせば,被告病院の医師らは,原告Aに対して厳格な呼吸管理をすべきであった。すなわち,① 原告Aは,右片麻痺があり自力で体位の変換ができず,左腕もベッドに拘束されていた。② 痰の量が多く,しかも,その性状は粘稠で,硬く,血性であった。③ 3月4日から発熱し,同月5日には体温が39度3分に達していた上,同月6日のCRP値及び白血球数は異常なほど高値であり,かつ,意識混濁状態にあったことに照らせば,原告Aは,当時,重篤な敗血症に陥っていた。④ 原告Aは,被告病院入院時からMRSA肺炎に罹患していたが,同月5日から6日にかけてこれが悪化し,痰は粘稠で吹き出すほどの量であり,気管カニューレも詰まり気味であった。⑤ その動脈血酸素飽和度(SpO2)は,同月4日には98%であったものが,翌5日には92%と低下しており,呼吸不全に近い状態であった。 エ 被告の主張に対する反論 本件気管カニューレ閉塞の原因が径1.0cm前後の肉芽組織に似た凝血塊によるという被告の主張には,何ら根拠はない。 仮に,その凝血塊が痰吸引用カテーテルの内径を超えるほど大きなものであったとしても,そのような痰の塊が気管内に生じていたならば,シューシューという高調性の気管支呼吸音が聴取されるとともに,ぜい鳴音及び呼気性の呼吸困難や異物感から咳がみられていたはずであるから,被告病院の医師及び看護師は,これに容易に気づくことができたはずである。 また,被告主張の凝血塊に対しては,カニューレの交換,表面活性剤や粘液溶解剤等の噴霧,気管支鏡の使用及び生理食塩水による気管内洗浄等の処置を行うことにより,その詰まりを避けることができた。 (被告の主張) ア 被告病院における呼吸管理の十分性 被告病院の医師らは,頻回に原告Aの病室を訪問し,吸引を実施するとともに,聴診器による呼吸状態の聴取,胸郭の動きの程度の観察及び気管カニューレの交換を行っていた。 また,被告病院の医師らは,痰の排出を容易にするため,1日4回の頻度で定期的にネブライザーによる噴霧処置も実施した。この点について,看護記録に記載はないが,本件のように頻回に吸引を実施するような場合には,看護師らが実施したすべての処置を看護記録に記載するわけではない。 したがって,被告病院の医師らは,原告Aに対し,呼吸管理の処置を十分に行っていた。 イ 閉塞の原因となった痰の特殊性 本件において,原告Aの気道閉塞の原因となったのは,「径1.0cm前後の肉芽組織に似た凝血塊」のような大きな痰の塊であった。そして,この塊は,気管カニューレの交換又は痰の吸引処置の際にわずかに損傷された気管内壁から滲出した血液と気管内の分泌液が絡まって一体となり,時間の経過に伴って固まることにより有形化して形成されたものと考えられる。上記痰の塊が,このような特異な経緯で気管内に形成されるというようなことは,通常予想することはできない。 また,上記痰の塊は,痰吸引用カテーテルの内径(約3mm)を優に超える大きさであり,また,相当の硬さであったから,ネブライザーによる噴霧処置によって痰を柔らかくする効果は期待できないし,上記カテーテルを挿入して吸引処置を頻回に実施しても,これを排出することは不可能である。 ウ 原告ら主張に係る気管支鏡及び気管内洗浄の措置について 気管支鏡を用いた吸引処置は,胸部X線検査で無気肺と診断されるような場合において,気管支を閉塞する可能性のある癌や喀痰等を検索する際に,訓練を受けた医師のみがなし得るものである。本件において,原告Aに無気肺の診断はされていなかったのであるから,気管支鏡を用いた吸引処置を行うべきであるとはいえない。 また,気管内洗浄の処置は,その手技に通暁した医師により,手際よく実施することが要請されるものであって,そのような医師が在勤していない病院においては実施困難である。被告病院のようなレベルの病院において通常行われるべき処置とはいえない。 (2) 争点2(救命救急処置に関する過失の有無)について (原告らの主張) 原告Aは,上記のとおり右片麻痺があり自力で体位の変換ができず,左腕もベッドに拘束されていたことから,自らナースコールをすることもできなかった。また,自力で痰を喀出できず,その呼吸状態及び全身状態が極めて悪かったのである。したがって,被告病院の医師らは,原告Aの状態を常時慎重に観察し,呼吸停止等が生じた場合は直ちに救命処置を行う注意義務があったにもかかわらず,これを怠った。 (被告の主張) 原告Aの急変を発見した経緯は以下のとおりであり,このような事実からすれば,被告病院の看護師及び医師らは,心拍モニターのアラームが鳴った後,原告Aに対し,直ちに救急蘇生術を開始したことは明らかであるから,被告病院の医師らに救命救急処置に関する注意義務違反はない。 ア 3月6日午前11時30分ころ,原告Aに装着した心拍モニターのアラームが鳴ったため,看護師がすぐに原告Aの病室を訪問したところ,原告Aは,呼吸が停止しているような状態で,チアノーゼを呈していた。そこで,同看護師は,同じフロアで回診していた医師のもとに急行し,原告Aの状態を報告した。 イ 同医師は,ナースステーションの心拍モニターで心拍数が20台に低下しているのを確認した上,原告Aの病室に行き,同人を診察し,呼吸停止であると判断した。そこで,看護師に対し,心拍モニターを病室に移動するように指示するとともに,アンビューバッグを気管カニューレに装着して強制呼吸を開始した。 ところが,アンビューバッグで空気を送ることはできたが,空気が戻ってこないことなどから,同医師は,原告Aの気道が痰で詰まったものと判断し,吸引カテーテルを挿入して看護師に吸引を行わせたところ,この吸引により中等量の粘稠性の痰が排出された。さらに,医師による心マッサージの実施中に,気管カニューレの体外部の口から「肉芽組織に似た凝血塊のような痰」が噴出した。 ウ 上記痰が排出されてからは換気も良好となり,人工呼吸器を装着して呼吸管理を行った。 (3) 争点3(損害)について (原告らの主張) ア 治療関係費 (ア) 平成15年4月30日までの治療関係費 133万0266円 原告Aは,本件事故の日である3月6日から平成15年4月30日までの間に治療関係費として289万5873円を支出した。他方,区から高額療養費として152万8567円の支給を受けた。また,平成14年8月分の治療関係費についても,身体障害者程度等級1級の認定を受けたことにより,3万7040円の還付を受けた。 したがって,原告Aが出捐した同期間の治療関係費は,合計133万0266円である。 (イ) 平成15年5月から平均余命までの間の治療関係費 1669万3020円 平成15年5月から平均余命までの間の治療関係費の現価は,上記の治療関係費を基礎にして算定すると,以下のとおり,1か月当たり平均9万5000円となるので,平均余命までの27年間(ライプニッツ係数14.6430)で合計1669万3020円となる。 133万0266円÷14か月=9万5019円 9万5019円×12か月×14.6430=1669万3020円 イ 入院雑費 (ア) 平成15年5月31日までの間の入院雑費 67万8000円 原告Aは,本件事故発生日である3月6日から平成15年5月31日までの間,1日当たり1500円,合計67万8000円の入院雑費を負担した。 (イ) 平成15年6月1日から平均余命までの間の入院雑費 801万7042円 上記期間の入院雑費の現価は,1日当たり1500円として算定すると,以下のとおり,平成15年6月1日から平均余命までの27年間(ライプニッツ係数14.6430)で合計801万7042円となる。 1500円×365日×14.6430=801万7042円 ウ 逸失利益 5247万7067円 (ア) 原告Aは,現在,低酸素脳症による遷延性意識障害となっており,いわゆる植物状態となっている。よって,同人に生じた後遺症は,後遺障害等級1級に該当し,その労働能力喪失率は100%である。 (イ) 原告Aは専業主婦であったが,平成13年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計・女性労働者の全年齢平均の賃金額によれば,その年収額は,352万2400円となる。 これをもとに,原告Aの本件事故日における平均余命である28年分(ライプニッツ係数14.8981)の逸失利益の現価を算定すると,以下のとおり,5247万7067円となる。 352万2400円×14.8981=5247万7067円 エ 原告Aの慰謝料 3000万円 原告Aは,被告によるずさんな呼吸管理により,苦しみながら窒息し,その後,いわゆる植物状態となってしまったのであるから,その精神的苦痛に対する慰謝料は,3000万円を下らない。 オ 近親者慰謝料 各500万円 原告B及び原告Cは,原告Aの生命が害された場合にも比肩すべき精神的苦痛を受けたが,その精神的苦痛に対する慰謝料は,それぞれ500万円を下らない。 カ 弁護士費用 合計1200万円 原告Aについて1100万円,原告B及び原告Cについて各50万円が相当である。 (被告の主張) 原告らが主張する損害については,いずれも争う。 本件の損害の算定に当たっては,以下のとおり,原告Aの従前の脳内出血による障害を考慮する必要がある。 ア 原告Aの脳内出血による障害 原告Aは,平成元年にくも膜下出血を起こし,クリッピング術を受けている上,平成12年12月に交通事故で外傷性脳出血の傷害を受け,本件当時もリハビリのためE病院に通院中であった。したがって,原告Aには,本件以前から身体の機能障害があり,日常生活において種々の制約があった。 また,原告Aは,2月11日の大学病院入院時,既に視床出血及び脳室内穿破であった。そして,同人のMRI検査画像によれば,その出血量は相当なものであり,搬送時の意識レベル及びその後の意識レベルの低下の状況からすれば,上記脳内出血は重症であった。大学病院における治療中に施行されたMMT(徒手筋力テスト)の結果は,同月14日に「0」であり,同月21日においても「1~2/5」までしか改善していなかった。 このような点にかんがみれば,原告Aの従前の脳内出血による後遺障害は,後遺障害等級3級程度の障害に該当し,医療施設に収容入院して介助を受ける必要があった。また,仮にそうでないとしても,その後遺障害は,少なくとも5級程度の障害に該当し,自力で日常生活を送ることはできず,相当の介助を要する状態であったといえる。 したがって,原告Aの損害の算定に当たっては,以下のとおり,この点を減額要因として評価すべきである。 イ 逸失利益 (ア) 発生の有無 一般に家事労働者の逸失利益は,事故の被害者が家庭内で家事労働を担当している状況を前提として認められるものであるところ,原告Aは,上記アのとおり,そもそも相当の介助を要する状態であったのであるから,家庭内で家事労働を担当していたとは考えられない。 したがって,原告Aに家事労働者としての逸失利益の損害は発生しないというべきである。 (イ) 生活費控除 仮に逸失利益が認められるとしても,原告Aは,遷延性意識障害を有しており,医療施設への収容入院が不可欠であるから,その生活に必要な費用は,医療施設への収容入院に伴う医療費用とその他の関連諸費用に限られ,通常の後遺障害の場合に必要とされる稼働能力の再生産に必要な生活費の支出を免れることになる。 そこで,医療施設への収容入院に伴う医療費用とその他の関連諸費用を損害として認めるときには,その逸失利益を算定するに当たって,相当割合の生活費を控除すべきであり,本件においては,30%を控除すべきである。 そうすると,以下の計算式に従い,原告Aの後遺障害割合を79%(5級程度とした場合),生活費割合を30%として逸失利益を算定すると,結局原告Aに逸失利益は発生しないことになる。 通常年収×{1-(後遺障害割合+生活費割合)}×ライプニッツ係数 ウ 慰謝料 原告Aの脳内出血による後遺障害は,上記アのとおりと判断されるので,後遺障害慰謝料は,後遺障害等級1級の慰謝料相当額から,後遺障害等級3級ないし5級の慰謝料相当額を差し引いた金額とされるべきである。具体的には,後遺障害等級3級とした場合は810万円,5級とした場合は1400万円が相当である。 また,仮に脳出血による後遺障害と遷延性意識障害による後遺障害との質の違いを考慮し,上記のとおり単純に慰謝料額を差し引くべきでないとしても,原告Aの素因として脳内出血による高度の後遺障害が残ったことは明らかであるから,その後遺障害慰謝料は,1800万円程度にとどまるというべきである。 エ 入院を余儀なくされたことによる費用 (ア) 被告病院における医療費用 被告病院における医療費用は,原告Aに施行した医療行為の正当な対価であり,損害と判断されるべきではない。 (イ) D病院の医療費用 D病院の医療費用は,急性期を経て身体状態が安定してからの栄養点滴及び輸液等の医療費並びに遷延性意識障害の後遺障害のため医療施設に収容入院することに伴う諸費用であり,これを損害として認めるのであれば,上記イ(イ)のとおり,原告Aの逸失利益の算定に当たって相当割合の生活費を控除すべきである。 (ウ) 医療用品販売会社の費用 医療用品販売会社(オムツ,タオル,病衣等のリースを行う株式会社)の費用は,遷延性意識障害の後遺障害のため医療施設に収容入院することに伴う諸費用であり,これを損害として認めるのであれば,上記イ(イ)のとおり,原告Aの逸失利益の算定に当たって相当割合の生活費を控除すべきである。 (エ) 将来の医療費 将来の医療費を損害とするのであれば,原告Aの急性期の身体状態における医療費を基礎として算定するべきではなく,口頭弁論終結当時の身体状態において必要な医療費を基礎として算定すべきである。 第3 争点に対する判断 1 前記前提となる事実(第2の1)及び証拠(甲A1ないし4,甲B5,6,10ないし12,17,乙A1,2,6,8)によれば,次の事実を認めることができる。 (1) 大学病院における診療経過 前記前提となる事実アのとおり。 (2) 大学病院における原告Aの症状 原告Aは,2月11日に大学病院に入院して以降,嘔吐が頻回で誤の危険が強かったことなどから,気管内挿管による呼吸管理がされた。その後,肺炎及び誤等の予防のため,同月19日,気管切開術が行われた。この気管切開により,原告Aは,胸腔内圧を高められず,勢いの強い痰の喀出運動ができない状態となった。 また,原告Aは,大学病院に入院中,よく痰がからんでおり,その喀痰の細菌培養検査において,痰からMRSAが検出されていた。 このようなことから,大学病院の医師らは,転院先である被告病院に対し,診療情報提供書において,2月20日ころから原告Aに発熱及び喀痰の増加が認められたこと並びに喀痰の細菌培養検査においてMRSAが検出されたことを記載するとともに,NURSING SUMMARYにも,「問題点」として「呼吸状態悪化の可能性」を指摘し,「解決法」として「最低1時間に1度は口腔,側管,気道からの吸引を行う。」旨記載した。 (3) 被告病院における原告Aの症状及び呼吸管理の状況 被告病院は,3月1日,大学病院から原告Aをリハビリテーション,呼吸管理を含むフォロー・アップの目的で受け入れた。その過程で,大学病院から上記診療情報提供書及びNURSING SUMMARYの交付を受けた。 被告病院における原告Aの症状及び呼吸管理の状況は,別紙診療経過一覧表記載のとおりであった。 ところで,被告病院の医師らは,原告Aに対して3月1日に実施した喀痰の細菌培養検査の結果,原告Aの痰からMRSAが検出された旨の報告書を同月5日に受領したことから,MRSA感染の可能性があると判断して,同日,同人の血液の細菌培養検査を実施するとともに,その結果が判明するまでの間の処置として,MRSAに対して効果があるバンコマイシンを投与することにした。 (4) 原告Aの急変後の処置 ア 3月6日午前11時30分ころ,原告Aに装着した心拍モニター(設置場所はナースステーション)のアラームが鳴ったため,F看護師がその画面を見ると,心拍波形が長く伸びて正常な形ではなく,心拍数も28と低下していた。そこで,F看護師は,直ちに病室に赴いたところ,原告Aの呼吸が停止しているようで,顔色不良(チアノーゼ)であったため,同じ3階の病棟で回診していたG医師に対し,その旨を報告した。 イ G医師は,直ちにナースステーションの心拍モニターで心拍数を確認した上,原告Aの病室に赴き,同人を診察したところ,血圧は測定不能で,自発呼吸は見られなかった。そこで,G医師は,看護師に対し,心拍モニターを病室に移動するように指示するとともに,気管カニューレに接続されていた酸素供給用チューブを外してアンビューバッグを接続し,強制呼吸を開始した。また,G医師は,その途中でアンビューバッグによる強制呼吸を看護師に行わせ,自ら心マッサージを行うなどした。 ウ ところが,アンビューバッグで空気を送ることはできたが,空気が戻ってこない(呼気がない)ため,次第に原告Aの胸部が膨満状態となり,また,アンビューバッグを押す手に抵抗が感じられるようになったことから,G医師は,気道が痰で詰まったものと判断し,アンビューバッグを外し,吸引カテーテルを挿入して看護師に吸引を行わせた。この吸引処置により,原告Aから中等量の粘稠性の痰が排出されたが,その呼気は戻らないままだった。このような状況の下で,G医師が原告Aの心マッサージを行っていたところ,気管カニューレの体外部の口から最長径0.5ないし1cmの痰の塊が噴出した。 エ 上記痰の塊が排出されてからは,原告Aの換気が良好となり,約5分後には血圧が触れるようになり,心拍数も増加したため,人工呼吸器を装着しての呼吸管理が行われた。また,同人に対し,ボスミン及びアトロピンが投与された。その結果,原告Aは,午前11時39分ころまでには,心拍数120台,血圧167/74に回復した。 (5) 原告Aの治療の経過等については,以上のとおり認められる。 ところで,原告らは,ア 3月6日午前10時30分に痰の吸引をした旨の看護記録の記載は,記録者のサインがないことなどから信用できず,そのような事実はない旨主張する。しかしながら,記録者において,そのサインを失念することも考えられる上,記載の体裁についても,それまでの記載と大きく異なるところはないと認められるから,上記原告らの主張は,採用することができない。 また,原告らは,イ 原告Aが被告病院入院当初からMRSAに感染していた旨主張する。しかしながら,MRSAが検出されたのは,原告Aの痰からのみであり,3月1日に実施された導尿の細菌培養検査及び同月5日に実施された血液の細菌培養検査からは検出されていない。また,大学病院においても,原告Aの痰からMRSAが検出されたというのみにとどまり,その感染について確定的な診断はされていない。したがって,原告Aが被告病院に入院した当初からMRSAに感染していたとまでは認めることができない。 さらに,原告らは,ウ 原告Aの診療録及び看護記録にネブライザーによる噴霧処置を行ったという記載がないことから,同処置は行われていない旨主張する。しかしながら,診療録中の「注射・検査・処置・指示票」の「処置」欄には,ネブライザーによる噴霧を1日4回施行すべき趣旨の記載(ネブ×4)がされており,また,被告病院の診療報酬明細書(乙A2)にも,ネブライザーによる噴霧処置が1日4回行われた旨の記載があることからすれば,上記指示票の記載に従ったネブライザーによる噴霧処置が行われていたものと認められる。 他方,被告は,本件のように頻回に吸引を行う場合には,そのすべての処置が看護記録等に記載されるわけではないから,原告Aに対して看護記録に記載されている以上に吸引が施行されていた旨主張し,F看護師もその陳述書(乙A9)中において,その旨記載している。しかしながら,本件において,吸引が施行された日時を具体的に示した証拠は,診療録及び看護記録のほかに存しない。そうであるとすると,同記載の限度を超えて,吸引がされた回数及び時刻を明確にすることはできないといわざるを得ない。 2 上記認定事実及び前提となる事実(第2の1)に基づいて,過失の有無について検討する。 (1) 争点1(呼吸管理に関する過失の有無)について ア 上記認定事実によれば,次のことが明らかである。すなわち,被告病院の医師らは,大学病院からの診療情報提供書等を通じて原告Aの症状を認識し,大学病院からの申し送り事項として,その呼吸状態の悪化の可能性につき注意喚起を受けていた(上記1(2))。また,原告Aの喀痰からMRSAが検出され,同人がMRSAに感染していた可能性があり,現に,被告病院の医師らも,MRSA感染の可能性があると判断し,バンコマイシンを投与していた(上記1(3))。さらに,原告Aは,3月5日ころには敗血症に罹患しており,そのことを示す発熱及び血液検査所見が出ていた(前記前提となる事実(2)イ及び上記1(3))。また,原告Aの痰は,粘稠で硬く,ときに痰が吹き出したりしており,時折血や血塊が混じっていることもあり,同人の気管カニューレが詰まり気味になることも少なからずあった(上記1(3),特に別紙診療経過一覧表)。 そして,本件事故の前日の3月5日午前6時には,動脈血酸素飽和度が92%に低下して,呼吸不全に近い状態にあり,気管カニューレが詰まり気味であることも疑われていた(上記1(3),特に別紙診療経過一覧表)。 イ 上記アの事実のほか,上記のとおり,原告Aの痰は,粘稠性で,時折血が混じっていたことからすると,通常の痰とは異なる凝血塊のようなものが生じる可能性も十分考えられたことなどにも徴すると,被告病院の医師らは,本件事故当時,少なくとも,原告Aの呼吸状態を綿密に観察するとともに,頻回に,痰の吸引,気管カニューレの交換を行い,痰による気道閉塞及び呼吸困難を防止すべき注意義務を負っていたものというべきである。 しかるに,上記1(4)認定のとおり,原告Aは,3月6日午前11時30分ころ,血圧が測定不能で,自発呼吸が見られない状況で発見された。そして,その後の救命救急措置の過程で,同人に装着されていた気管カニューレの体外部の口から痰の塊が噴出し,その後は原告Aの換気が良好になり,約5分後には,血圧が触れるようになり,心拍数も増加したというのであるから,被告病院の医師らには,特段の事情のない限り,上記注意義務を怠った過失があるといわざるを得ない。 ウ そこで,上記特段の事情の有無について検討すると,被告は,(ア) 本件において,原告Aの気道が閉塞した原因となった痰の塊は,「径1.0cm前後の肉芽組織に似た凝血塊」のような大きな痰の塊であるが,そのような痰の塊が気管内で形成されるようなことは,通常予想することはできない旨主張する。 しかしながら,上記認定のとおり,原告Aの痰には時折血が混じっており,しかも,その痰は粘稠性で硬いものであったことからすれば,そのような凝血塊が形成されることも十分予見可能であったというべきである。 また,被告は,(イ) 上記痰の塊は,吸引カテーテルの内径(約3mm)を優に超える大きさであり,また,相当の硬さであったなどとして,痰吸引用カテーテルを挿入して行う吸引処置を頻回に実施しても,これを排出することは不可能である旨主張する。 しかしながら,被告は,上記痰の塊について,気管カニューレの交換又は痰の吸引処置の際にわずかに損傷された気管内壁から滲出した血液と気管内の分泌液が絡まって一体となり,時間の経過に伴って固まることにより形成されたものである旨主張している。そうであるとすると,痰が時間の経過に伴って固まる前に吸引処置を行えば,これを除去することは可能であるということになる。そして,上記イ認定の注意義務を尽くしていれば,そのことは可能であったものと判断されるので,被告の上記主張は採用できない。 そして,他に,上記特段の事情を基礎付けるに足りる事実を証する的確な証拠はない。 エ 以上によれば,被告病院の医師らには,上記イの注意義務に違反した過失があるというべきである。 そして,以上の認定,説示によれば,被告病院の医師らの過失と,原告Aに生じた後遺障害との間には因果関係があるものと認めることができる。 (2) 争点(2)(救命救急処置に関する過失の有無)について 上記1(4)認定事実によれば,F看護師は,心拍モニター上,原告Aの急変が疑われたことから,直ちに,その病室に赴いて原告Aの状態を確認の上,それをG医師に報告をしたこと,G医師及びF看護師らは,原告Aに対し,即座にアンビューバッグによる強制呼吸及び心マッサージを行い,痰による閉塞が疑われたため,吸引カテーテルによる吸引を行ってその除去に努めたこと及び心拍等の改善後は,人工呼吸器を装着して呼吸管理を行ったことが明らかである。 このような事実に徴すると,本件全証拠によっても,被告病院の医師らが原告Aに対して行った救命救急処置について不適切な点があったとまでは認めることができない。 したがって,争点2に関する原告らの主張は,採用できない。 3 そこで,本件事故により原告らが被った損害額(争点3)について検討する。 (1) 治療関係費 502万1296円 ア 既払分(平成16年10月31日まで) 証拠(甲C1ないし4,7及び8)によれば,原告Aは,平成14年3月1日から平成15年4月30日までの間に,被告病院,大学病院及びD病院に対し合計202万8803円(なお,被告病院に対しては12万6250円),同年5月1日から平成16年10月31日までの間に,D病院に対し合計43万4350円を支払ったことが認められる。 ところで,平成14年3月1日から同月6日までの被告病院における治療費のうち,上記2(1)アの被告の過失と相当因果関係のある損害は,本件事故以降に行われた治療に対する支払分のみに限られるというべきであるが,本件全証拠によっても,その具体的な支払額を認定することができない。 そうすると,上記2(1)認定の被告の過失と相当因果関係のある損害は,上記各支払済み額から被告病院における治療関係費12万6250円を除いた合計金額である233万6903円ということになる。 イ 将来分(平成16年11月1日以降) 原告Aの将来における治療関係費は,同人の遷延性意識障害の状態が固定したと考えられる時期において必要となることが見込まれる医療費を基礎とするのが相当である。 このような観点から検討すると,原告Aは,D病院に対し,平成15年5月1日から平成16年4月30日までの1年間に医療費として29万0830円を支払っている(甲C7の1ないし25)ので,これを基礎にして算定するのが相当である。 そして,平成16年11月1日当時,原告Aは60歳であり,その平均余命は27年余であるから,27年に対応するライプニッツ係数である14.6430により中間利息を控除して,平成16年11月1日以降の医療費の現価を算定すると,その額は次のとおり算出されるので,425万円をもって損害と認める(こうした方式による損害の算定においては,その性質に照らし,算出の結果得られた数値の1万円未満を切り捨てることとする。)。 29万0830円×14.6430=425万8623円 ウ 高額療養費等による控除 証拠(甲C6)によれば,原告Aは,区から高額療養費として152万8567円の支給を受けたことが認められる。また,原告Aが平成14年8月分の治療関係費について,身体障害者程度等級1級の認定を受けたことから,3万7040円の還付を受けたことについて,当事者間に争いがない。 よって,以上合計156万5607円については,上記治療関係費から控除するのが相当である。 エ 小計 上記アないしウによれば,治療関係費の損害額は合計502万1296円となる。 (2) 入院雑費 1252万2000円 ア 既払分(平成16年10月31日まで) 証拠(甲C5及び9)によれば,原告Aは,平成14年4月25日から平成16年10月31日までの間に,医療用品販売会社に対し,合計184万2000円を支払ったことが認められる。 イ 将来分(平成16年11月1日以降) 上記医療用品販売会社への支払額にかんがみれば,将来における入院雑費を算定するに当たっては,1日当たりオムツ代1400円,タオル他500円及び病衣100円の合計2000円を基礎とするのが相当である(甲C5及び9)。そこで,上記(1)イと同様,60歳女子の平均余命に対応するライプニッツ係数14.6430により中間利息を控除して平成16年11月1日以降の入院雑費の現価を算定すると,その額は次のとおり算出されるので,1068万円をもって損害と認める。 2000円×365×14.6430=1068万9390円 (3) 逸失利益 1500万円 ア 証拠(甲A5,甲B6及び乙A6)によれば,原告Aは,低酸素脳症による遷延性意識障害を残しており,いわゆる植物状態となっているが,今後も現在の状態から大きく改善することはないと認められるから,その障害は後遺障害等級1級に該当し,労働能力は100%喪失しているものと認められる。 イ ところで,原告Aは,前記前提となる事実(第2の1)のとおり,2月11日の大学病院入院時,既に視床出血及び脳室内穿破による障害を負っていたので,本件障害の算定に当たっては,この点についても考慮する必要がある。 (ア) 前記第2の1(2)アで認定した事実及び証拠(甲B14,17,19,乙A1,6,B11,12)によれば,原告Aが平成14年2月に大学病院に入院した当時の障害の状況について,以下の事実が認められる。 a 原告Aは,平成元年ころ,くも膜下出血を発症し,クリッピング手術を受けた。また,平成12年12月ころ,交通事故による外傷性脳内出血と骨盤骨折のため,大学病院に入院したことがあった。 さらに,原告Aは,2月11日,自宅のトイレで倒れたため,救急車で大学病院に運ばれ,そのまま入院した。入院時の原告Aの症状は,意識障害と右片麻痺であり,左視床出血及び脳室内穿破と診断され,血圧コントロールによる保存的治療が行われていた。 しかしながら,原告Aは,2月11日の左視床出血発症以前は,他人の手を借りることなく乗馬及びリフトの乗降等を行うなど,既往症であるくも膜下出血等の影響は少なく,むしろ一般の日常生活における一通りの判断力及び活動性は保たれていた。 b 2月11日の大学病院入院時,原告Aの意識レベルは,グラスゴー・コーマ・スケール(意識障害の評価分類。開眼機能E,言語機能V及び運動機能Mをそれぞれ評価するもので,合計点数が小さいほど重症である。)で「E3V1M4」(8点)であったが,同月21日には「E4VTM6」と回復し,3月1日の被告病院転院時においても「E4VTM6」であった。なお,「VT」とは,気管切開のために発語状態の評価が不可能であることを示すが,原告Aは,被告病院入院時に医師により「簡単な命令に従う」,「話して理解できる」旨判断されており,また,被告病院入院後,家族に対し,かすかな声で「ありがとう」,「さ○み,○ゆみ」等と述べており,簡単な会話が正確にできているので,言語機能についてはV5と評価することができる。また,原告Aには,脳内出血における予後不良因子とされる知覚及び認知障害も特段見られず,その意識レベルは着実に向上していた。 c また,右麻痺については,MMT(徒手筋力テスト)が2月14日には「0」であったが,同月21日ころには少なくとも「1~2/5」までに回復しており,一般に麻痺の回復が不良とされる完全麻痺が3週間以上にわたって持続する状況にはなかった。 d さらに,原告Aは、被告病院に転院されたときにはリハビリテーションが行える状況にあり,被告病院において,理学療法としてマッサージ程度以上のリハビリが施行された。 (イ) ところで,原告Aが2月11日に大学病院に入院した当時負っていた障害について,本件事故が発生しなかったと仮定してその予後を予測することは,発症後3週間余りの時点で本件事故に遭っているため,事柄の性質上困難を伴う面があるといわざるを得ない。しかしながら,上記(ア)認定事実に加え,乙B11及び12(本件を調停に付した手続において専門的な知識経験に基づく意見を聴取した過程で提出された民事調停委員作成の意見書)をも総合的に検討して,その予後を予測すると,長期的には,原告Aの日常生活動作は半介助ないし軽度介助という程度にまで改善することが期待できたものと判断される(それ以上に身辺の自立ができる可能性についても,補装具着用を要するとしても,完全には否定しきれない。)。そして,これを後遺障害等級に当てはめると,7級(この労働能力喪失率は56%とされている。)程度に該当するものと判断される。 この点について,被告は,原告Aの従前の脳内出血による後遺障害は重症であり,後遺障害等級3級又は5級に該当する旨主張し,乙B9及び乙B10の1中にはそれに沿う記載が存在する。しかしながら,上記認定のとおり原告Aの意識レベル及び右麻痺等は着実に改善していたこと,寝たきりの場合に発生する易感染症及び床ずれ等の合併症についても,上記原告Aの回復経過に照らせば,同人に寝たきりの状態が長期間継続してそのような合併症が発生するに至る可能性は高くないと考えられることなどのほか,上記調停委員意見書の内容に徴すると,被告の上記主張は採用できない。 (ウ) 原告Aの逸失利益の算定においては,上記(イ)で検討した問題に加え,本件事故発生前に同人が負っていた障害が,どのような過程を経て,何時症状が固定するに至るのかを明らかにすることも課題となるが,本件においてこのような予測を立てることには相当な困難を伴うといわざるを得ない。こうしたことを総合的に考慮すると,原告Aの逸失利益については,損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき(民訴法248条)に該当するものというべきである。 ところで,a 仮に,上記回復に至るまでの期間を1年と仮定して,原告Aが本件事故により喪失した逸失利益のうち,上記程度に回復した後の後遺障害に伴うそれを試算すると,次のとおりとなる。すなわち,本件事故後1年経過した平成15年3月当時,原告Aは59歳近くに達しているので,その平均余命は29年余であるから,一般的には,その2分の1程度の14年間を上記逸失利益算定の対象期間とすることになる。そして,平成15年の賃金センサスによれば,その平均年収は349万0300円であるから,これを基礎にして,一般的な方法により逸失利益の現価を算定すると,14年に対応するライプニッツ係数である9.8986により中間利息を控除することになるので,以下のとおり算定される。 349万0300円×(1-0.56)×9.8986=1520万1596円 なお,b 被告は,もともと原告Aは,相当の介助を要する状況にあったのであるから,家事労働者としての逸失利益の損害は発生しない旨主張する。しかしながら,上記(イ)認定のとおり,原告Aの日常生活動作は半介助ないし軽度介助という程度にまで改善することが期待できたものと判断される(それ以上に身辺の自立ができる可能性についても,補装具着用を要するとしても,完全には否定しきれない。)のであるから,少なくとも家族の協力を得るなどして,その能力相応の家事を遂行することはなお可能であったというべきである。そうすると,原告Aは,本件事故によりこのような内容・程度の稼働能力を喪失させられたものと認めるのが相当であるから,被告の上記主張は採用できない。 また,c 被告は,原告Aは医療施設への収容入院が不可欠であるから,その生活に必要な費用は,医療施設への収容入院に伴う医療費用とその他の関連諸費用に限られるので,そうした費用を損害として認めるときには,逸失利益の算定に当たって,相当割合の生活費を控除すべきである旨主張する。しかしながら,生活費は,必ずしも稼働能力の再生産費用だけを内容とするものではなく,また,原告Aの入院雑費の内容は,オムツ代,病衣等のみを基礎とするものであり,その余の費用についてはなお逸失利益中から生活費として支出されることが見込まれる。そうすると,逸失利益の算定に当たり,生活費を控除することは相当でなく,被告の上記主張は採用できない。 そこで,当裁判所は,以上の認定説示,特に,原告Aの左視床出血発症前の状況,左視床出血発症後の回復の状況及びその予後の見通し並びに弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,原告Aが3月6日の本件事故により喪失した逸失利益相当額の損害額を1500万円と認定することとする。 (4) 原告らの慰謝料 以上認定した諸事実,特に,原告Aは,被告病院の医師らから適切な呼吸管理を受けられずに,気管カニューレに痰を詰まらせて窒息し,低酸素脳症による遷延性意識障害となり,いわゆる植物状態となっていること,他方,もともと原告Aは,2月11日の大学病院入院時,既に視床出血及び脳室内穿破による障害を負っていたものであり,その予後は上記(3)認定のとおり見込まれることのほか,本件事故後の原告B及び原告Cによる看護の状況,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,本件事故により原告らが被った精神的損害を慰謝するには,その慰謝料を,原告Aは2000万円,原告B及び原告Cはそれぞれ400万円と認めるのが相当である。 (5) 弁護士費用 本件事案の内容,本件訴訟の審理の経過及び本件の損害額等の事情を総合すると,本件提訴のために要した弁護士費用のうち,原告Aについて520万円,その余の原告らについてそれぞれ40万円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 4 結論 以上によれば,原告らの不法行為に基づく損害賠償請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余は失当として棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第35部 裁判長裁判官 金 井 康 雄 裁判官 森 脇 江 津 子 裁判官 小 津 亮 太
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判示事項の要旨: 交通事故で死亡した18歳女性の逸失利益の算定に当たって,男女計の平均年収額ではなく,女子労働者の平均年収額を算定の基礎とした事例 主 文 1 被告らは連帯して,原告Aに対し3988万4961円,原告Bに対し3858万4961円及びそれぞれ平成13年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し,その1を原告らの,その余を被告らの負担とする。 4 この判決の主文第1項は,仮に執行することができる。 事 実 及 び 理 由 第1 原告らの請求 被告らは連帯して,原告Aに対し5365万7441円,原告Bに対し5236万1441円及びそれぞれ平成13年3月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,交通事故によって死亡した被害者の両親である原告らが,加害自動車の運行共用者である被告Cに対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき,加害自動車の運転者であった被告Dに対しては民法709条に基づき,当該事故に基づく損害賠償金及びこれに対する事故の日から支払済みまで民事法定利率による遅延損害金の連帯支払を請求する事案である。 1 当事者間に争いのない事実及び証拠等によって容易に認定することができる事実(証拠等の掲記がない事実は争いがない。) (1) 本件事故の発生 平成13年3月27日午前9時27分頃,埼玉県加須市埼北自動車学校建物玄関に,被告Dが運転する普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)が暴走して突っ込み,折から,同玄関前階段に腰をかけていたEに衝突して,Eに対し,脳挫傷等の傷害を負わせ,同日午前10時50分頃死亡させる交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。 (2) 責任原因 ア 被告Cは,本件車両の運行共用者であるから,自動車損害賠償保障法3条に基づき,本件事故によるEの身体生命の侵害に伴って生じた損害の賠償責任を負う。 イ 被告Dは,速度超過,運転操作の過誤等の過失によって,本件事故を引き起こしたものであるから,民法709条に基づき,本件事故によって生じた損害の賠償責任を負う。 (3) 相続等 Eは,昭和58年1月28日生であって,死亡当時満18歳の女子であり,その相続人は両親である原告A及び原告Bのみである。 2 争点 本件の争点は,E及び原告らに生じた損害の額である。 (原告らの主張) (1) Eに生じた損害 ア 逸失利益 6396万5633円 Eの逸失利益は,賃金センサス平成13年第1巻第1表による産業計・企業規模計・学歴計の全年齢労働者平均年収額502万9500円を基礎として算出することが相当であり,生活費控除率を30パーセントとし,ライプニッツ方式により18歳時から67歳時まで49年間の中間利息を控除して(49年間の係数18.1687)算出した額は,6396万5633円となる。 イ Eの慰謝料 2500万円 ウ 合計額 8896万5633円 エ 相続 原告らは,各2分の1の相続分に応じ,4448万2816円ずつ相続した。 (2) 原告Aに生じた損害 ア 葬儀費用 120万円 イ 固有の慰謝料 400万円 ウ 合計 520万円 (3) 原告Bに生じた損害 固有の慰謝料 400万円 (4) 弁護士費用 原告Aにつき397万4625円,原告Bにつき387万8625円を要する。 (5) 損害合計額 原告Aにつき5365万7441円,原告Bにつき5236万1441円となる。 (被告らの主張) 原告らの主張のうち,(2)のアの葬儀費用の額は認め,その余は不知。 逸失利益の計算につき,Eは,死亡当時,高校を卒業し,短大への進学が決まっていたのであるから,賃金センサス平成13年第1巻第1表による産業計・企業規模計・短大卒の全年齢女性労働者の平均年収額379万1600円を基礎とし,生活費控除率を30パーセントとし,ライプニッツ方式により20歳時から67歳時まで(2年後から49年後まで)の中間利息を控除して(49年間の係数18.1687,2年間の係数1.8594)算出すべきであり,その額は4328万6839円となる。 第3 当裁判所の判断 1 争点について (1) Eに生じた損害 ア 逸失利益 (ア) 上記第2の1の事実に,甲第2号証,原告A本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると,①Eは,平成13年3月,埼玉県久喜市所在の県立高校を卒業して,同年4月から東京都所在の文化女子大学短期大学造形学科に進学することが決定しており,その間の休暇中に自動車運転免許を取得すべく埼北自動車学校に通っていて本件事故に遭遇したこと,②Eは,文化女子大学短期大学のほか,同大学の4年制大学の入学試験も受験して合格しており,将来,インテリアデザイン関係の仕事に進むことを志望して造形学科への進学を決めたものの,将来の希望職種の変更を考慮し,改めて他の学科を選択する余地も残した上で,4年制大学に編入することを考慮に入れ,短期大学に入学することにしたこと,③Eの父である原告Aは,建築会社 を経営しており,Eを4年制大学に編入させるに当たって経済的に特段の問題はないこと,以上の事実を認めることができる。 (イ) ところで,原告らは,Eの逸失利益を算出するに当たり,賃金センサス平成13年第1巻第1表による産業計・企業規模計・学歴計の全年齢労働者平均年収額,すなわち,男女計全労働者の平均年収額を基礎とすべき旨主張する。 確かに,雇用機会均等法等の法的・制度的整備により,男女間の収入格差は減少する方向にあり,また,女性が従来よりも多様な就労可能性を有するに至っていることからしても,男女間の収入格差は解消される方向にあることを考慮すれば,未就労の女子年少者の逸失利益の算定において,男女計全労働者の平均年収額を基礎収入とすべきであるとの見解は,傾聴に値するものである。 しかしながら,逸失利益の算定において,その性質上,仮定的要素を多分に含まざるを得ない将来の収入につき,合理的かつ公平な認定をするためには,将来あり得る多様な可能性の中から,現時点において最も高い蓋然性を有する要素を選択するほかはないところ,現在,なお男女の平均収入に格差が存在し,これが近い将来において解消されるとの蓋然性は認められず,また,女性の就労可能性の多様化についても,現実に男女間の平均収入の格差の解消に直接的に結びついているとも即断し得ないところである。 そうすると,現時点において,Eの逸失利益を算出するに当たっては,なお,賃金センサスの女性労働者の平均年収額を基礎とした上,男女格差については,生活費控除割合を単身者であっても30%とすることにより修正するのが相当であると解する。 (ウ) しかして,上記(ア)の認定事実によれば,Eは,短期大学卒業後,4年制大学に編入する意欲を有し,また,能力的,経済的条件も備わっていたと推認されるから,本件事故がなければ,Eが4年制大学を卒業して就職したであろうとの蓋然性が認められる。 そうすると,Eの逸失利益は,賃金センサス平成13年第1巻第1表による産業計・企業規模計・大学卒の全年齢女性労働者の平均年収額453万0100円を基礎とし,生活費控除率を30パーセントとし,ライプニッツ方式により22歳時から67歳時まで(4年後から49年後まで)の中間利息を控除して(49年間の係数18.1687,4年間の係数3.5459)算出すべきであり,その額は4636万9922円となる。 (算式)4,530,100×(1-0.3)×(18.1687-3.5459)=46,369,922 イ 慰謝料 (ア) 上記第2の1の事実に,甲第2,第3号証,乙第1号証,原告A本人尋問の結果,被告D本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 a 被告Dは,本件事故当日,本件車両を運転して,東武伊勢崎線の東側にあって,これと並行して南北方向に通ずる道路(歩車道の区別あり,片側一車線,以下「本通り」という。)に,東武伊勢崎線の西側から踏切を渡って入り,直ちに右折して,本通りを約25メートル南下した後,東西方向に通ずる埼北自動車学校前の道路(歩車道の区別,中央線なし,幅員約6m,以下「自動車学校前道路」という。)が東側から本通りに突き当たる丁字路を左折しようとして,速度超過のため廻り切れず,タイヤがスピンし,自車前部右側を同丁字路南東角に設置されていた道路標識に衝突させた後,アクセルペダルをブレーキペダルと踏み誤り,自動車学校前道路を約10メートル斜めに逸走した上,左側(北側)に路外逸脱して埼北自動車学校玄関 前の2段ほどの階段に乗り上げ,折から同階段上に腰をかけていたEに衝突した。Eは,脳挫傷のほか,ほぼ全身に挫傷・骨折を負い,事故の約1時間後に死亡した。 b 被告Dは,本件事故後,Eの救護及び警察官への事故報告をせずに現場から逃走したが,30分余り後に逮捕された。 c 被告Dは,本件事故の4日前に運転免許を取得したものであった。 d Eは,原告らの長女であって弟妹各1名がおり,原告らをよく助け,その期待を一身に受けていた。 (イ) 上記(ア)の認定事実及び上記アの(ア)の認定事実によれば,以下のようにいうことができる。 Eは,本件事故につき何らの落ち度もなく,将来の志望に沿って選択した大学進学を目前にして唐突にその命を奪われたものであり,本人及び原告らその家族の無念さ,悲しみ,憤りは察するに余りある。 他方,被告Dは,本件車両を運転し,本通りに入ってから約25メートル進行する間に,自動車学校前道路との丁字路で廻り切れない程の速度に加速した挙げ句,左折しようとして自車をスピンさせ,標識に衝突させて,逸走,路外逸脱させて本件事故を起こしたものであり,このような事故態様に照らして,本件事故は,被告Dの無謀運転というほかない重大な過失によって引き起こされたものである。本件事故当時,被告Dが,免許取得後数日しかたっておらず,運転技量が未熟であって,アクセルペダルをブレーキペダルと踏み誤って本件車両を逸走させたという事情があるとしても,そのような時期に上記のような無謀運転を敢行し,その結果として標識に衝突して,これに慌てて操作を誤ったものと推認されるから,上記事情が被告Dの 責任を軽減するものということはできない。 あまつさえ,被告Dは,本件事故後,いわゆる轢き逃げ行為に出ているものであり,これによって,現実にEに対する救護活動が遅れたか否かはともかく,強く非難されるべき事情であるといわざるを得ない。 (ウ) 以上の事情を総合すれば,本件事故により死亡したことに対するEの慰謝料額は,2200万円とすることが相当である。 ウ 上記ア及びイのEの損害額の合計は,6836万9922円であり,原告らは,各2分の1の相続分に従い,3418万4961円ずつ相続したものと認められる。 (2) 原告らに生じた損害 ア 葬儀費用 Eの死亡に伴い,原告Aが120万円の葬儀費用に係る損害を受けたことは,当事者間に争いがない。 イ 原告ら固有の慰謝料 上記(1)のイの事実関係によれば,Eの両親である原告らの,Eの死亡に伴う慰謝料額は,各150万円とすることが相当である。 (3) 弁護士費用 ア 原告Aの弁護士費用に係る損害額は,上記(1),(2)の損害額(相続承継分を含む。)の合計が3688万4961円であること等を考慮すれば,300万円とすることが相当であり,これを加えた原告Aの損害額合計は,3988万4961円となる。 イ 原告Bの弁護士費用に係る損害額は,上記(1),(2)の損害額(相続承継分を含む。)の合計が3568万4961円であること等を考慮すれば,290万円とすることが相当であり,これを加えた原告Aの損害額合計は,3858万4961円となる。 2 以上によれば,原告Aの請求は,被告らに対し,3988万4961円及びこれに対する本件事故の日である平成13年3月27日から支払済みまで民事法定利率年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告Bの請求は,被告らに対し,3858万4961円及びこれに対する上記平成13年3月27日から支払済みまで上記年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 よって,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 さいたま地方裁判所第1民事部 裁 判 官 石 原 直 樹
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歯科医院における抜歯手術の麻酔に際して使用された注射針が折れて患者の右上顎部組織内に迷入したことにつき,担当した歯科医師に過失があるとして不法行為に基づく損害賠償が認められた事例 主 文 1 被告は,原告に対し,1717万8985円及びこれに対する平成15年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを5分し,その2を原告の,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,原告勝訴部分に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,2903万6708円及びこれに対する平成15年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は,被告の開設する歯科医院で原告が被告から抜歯手術を受けた際,麻酔に使用する注射針の選択を誤るなどの被告の過失により,使用した注射針が折れて原告の右上顎部組織内に迷入し,これにより後遺症が残存したと主張して,原告が,被告に対し,不法行為又は診療契約の債務不履行を理由として,損害の賠償を求めた事案である。 1 争いのない事実並びに証拠(甲C29)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実(なお,甲C29以外で認定に供した証拠は,各項目末尾に記載する。) (1) 当事者等 被告は,肩書住所地において「A歯科医院」の名称で歯科医院を開設している歯科医師である(以下,同歯科医院を「被告歯科医院」という。)。 原告(昭和52年10月13日生)は,平成15年1月10日の後記本件事故当時,B大学大学院工学研究科(システム情報工学専攻)の大学院生であり,同年3月に同大学院を卒業して,同年4月にC会社に就職し,東京都武蔵野市所在のC会社研究所に配属されて,肩書住所地から通勤している。 (2) 原告の右上顎部組織内に注射針が迷入するに至った経緯 ア 原告は,顎を開閉するたびに右耳の奥でゴリゴリと音がする症状があったことから,平成15年1月10日午前10時30分ころ,右顎の痛みを主訴として被告歯科医院を受診し,もって,被告との間で歯科治療のための診療契約を締結した。 被告は,原告を診察した結果,右側上顎第3大臼歯(いわゆる親知らず,以下「本件智歯」という。)と右側下顎第2大臼歯の咬頭干渉による顎関節症と診断し,原告に対し,治療方法として本件智歯の抜歯を勧めたところ,原告はこれに同意した。 イ 被告は,同日午前11時ころ,本件智歯を抜歯するため,1.8ミリリットルの麻酔液を3回に分けて注入することとし,長さ21ミリメートル,太さ0.3ミリメートルの注射針を本件智歯の根尖相当部と口蓋側の2箇所に刺入したところ,刺入部の組織が硬かったため,針尖が丸くなり刺入しづらくなった。 そこで,被告は,組織の損傷防止と刺入し易さを考慮して,長さ14ミリメートル,太さ0.26ミリメートルの注射針(以下「本件注射針」という。)に替えた上,同注射針を電動麻酔器を用いて強圧をかけずに刺入し,麻酔液を注入した。その後,被告が本件注射針を抜こうとしたところ,同注射針は,電動麻酔器本体の根元から折れ(長さは約14ミリメートル),原告の右上顎部組織内に破折した注射針が迷入した(以下,本件注射針のうち原告の体内に残存した部分を「本件残存針」といい,本件残存針が原告の体内に残存したことを「本件事故」という。)。 被告は,本件智歯を抜歯した後,オルソパントモによるX線撮影を行い,その画像により,原告の上顎頭の近心付近に本件残存針があるのを確認した。そこで,被告は,札幌医科大学医学部附属病院口腔外科(以下「札幌医大」という。)に事情を説明して,診断と治療を依頼するともに,原告に対し,注射針が折れて原告の体内に迷入したことを説明し,札幌医大を受診するよう勧めた。原告はそれを受けて,同日直ちに札幌医大を受診し,CT撮影を行った結果,上顎結節から翼状突起にかけて破折片(本件残存針)が認められた(甲A1)。 ウ 本件事故が発生したのは,被告が,本件注射針刺入部位の組織が硬かったにも拘わらず,細い針である本件注射針を使用したため,刺入後にこれを抜くに際して本件注射針が破折して,本件残存針が原告の右上顎部組織内に迷入,残存したものであり,被告の注射針の選択に過失があったものと認められる。 (3) 本件事故後の原告の治療経過の概要 ア 原告は,本件事故当日の平成15年1月10日から同年2月19日まで札幌医大に通院して診察を受けた(通院実日数6日間)後,同日以降北海道大学病院(当時は北海道大学歯学部附属病院,以下「北大病院」という。)に通院し,本件残存針を摘出するため同月28日に同病院に入院し,同年3月3日に右上顎異物除去術(以下「本件摘出術」という。)を受けたが,本件残存針を摘出することはできなかった。その後,原告は,同月8日に同病院を退院し(入院日数9日間),同月26日まで経過観察のため同病院に通院した(通院実日数8日間)(甲A1ないし4)。 イ 原告は,同年4月に肩書住所地に転居した後,同年6月17日から同年7月10日まで防衛医科大学病院(以下「防衛医大」という。)に通院した(通院実日数3日間)が,本件事故後の経過観察については,北大病院における本件摘出術の担当医であったD歯科医師(以下「D歯科医師」という。)が原告の状態を最もよく理解していること,防衛医大の診療体制等が原告の都合に合わなかったことなどの理由により,同年5月以降も,北大病院への通院を継続している(同年12月26日までの通院実日数は12日間。甲C1,2の3,2の5)。 2 争点及びこれに対する当事者双方の主張 (1) 原告に生じた後遺障害の程度(争点(1)) (原告の主張) ア 原告には,本件事故による後遺症として,以下のような症状が出ている。 (ア) 本件残存針の存する箇所付近(以下「本件患部」という。)に違和感,痛み,痺れを感じ,また右前頭部の頭痛を断続的に感じており,痛みが強い時には痛み止めを服用している。 (イ) また,本件患部に違和感を常時感じているため,右肩に何かが乗っているようで右半身に疲れを感じる,集中力を維持するのが困難である,すっきりと眠れず睡眠不足を感じるなどの状態が続いている。 (ウ) さらに,1月に1,2回の頻度で,約1週間にわたって,本件患部の痛みや痺れと頭痛がひどくなり,本件患部から右肩及び右手に痺れやけだるさが広がり,右半身に痺れを感じて,足もとがふらつくほどである。 (エ) また,仕事上のプレゼンテーション等で長時間の会話をした後や,食後などに本件患部に痛みが発生し,また常時ある鈍い痛みのせいでけだるさがあり,疲れも感じる。 イ 本件患部の痛みや痺れ等は,本件残存針が多くの血管や神経のある部位に残存し,針が神経等に触れることにより発生する神経症状である。そして,自動車損害賠償保障法施行令2条による後遺障害別等級表所定の後遺障害等級(以下,単に「後遺障害等級」という。)は,その12級12号として「局部に頑固な神経症状を残すもの」を定めているところ,これは他覚的所見のある神経症状に適用されるものであり,本件では本件残存針の存在がCTやレントゲン画像上明らかであるから,原告の症状は同等級12級12号に当たるし,少なくともそれと同等の等級であることが明らかである。 (被告の主張) ア 原告の現在の症状については不知。 イ Eクリニック歯科医長F歯科医師作成の意見書(乙A2,以下「F意見書」という。)によれば,本件残存針の迷入部位が上顎結節から翼状突起にかけてであれば,この位置は上顎神経及び視神経の分枝される正円孔・眼窩下孔には遠く,大きな神経節もないので,上顎歯牙及び口蓋部に知覚障害(痛み及び痺れ)が出現する可能性はあるものの,全身に影響を及ぼし,かつ日常生活に障害が出る程の痛みや痺れが発生するとは考えにくいとされているから,原告に現在生じている痛みや痺れは,日常生活に障害が出る程のものではなく,原告の神経症状は後遺障害等級12級12号の「頑固」なものに当たるとは認められない。また,一般に組織内へ埋入した破折針は,数回の顎運動によって筋繊維の走行やその運動方向に沿って無害な位置に移動し,長期間にわたってその部位にとどまり,後遺症をきたすことがほとんどないと言われている(甲B4)。さらに,F意見書によれば,原告は本件口頭弁論終結時27歳であり,コンタクトスポーツを常時行うなどの職業上の問題がなければ,時間の経過とともに残存針の周囲は線組化(周囲組織に包まれてカプセル化すること)し,このまま同じ位置に残存する可能性が高いとされている。よって,本件残存針が原告の体内に存在しているからといって,原告に後遺症をきたすことはほとんどない。以上を総合すれば,原告の後遺症が後後遺障害等級12級12号に当たるということも,それに相当するということもできず,原告の後遺障害は,せいぜい後遺障害等級14級10号の「局部に神経症状を残すもの」に当たるというべきである。 (2) 本件事故により原告に生じた損害の額(争点(2)) (原告の主張) 原告は,被告の前記不法行為又は債務不履行により,後記アないしエのとおり,合計2903万6708円の損害を被った。 なお,原告には,本件残存針の今後の移動により,より重篤な後遺症や死亡等の結果が発生することも考えられ,それにより新たな損害が生じうるところ,原告は,本件訴訟において,上記の将来の損害については請求しておらず,本件請求は,上記の将来に生じうる損害との関係では,本件不法行為等に基づく全損害の一部請求となるものである。 ア 治療費及び交通費等の実費 28万6365円 平成15年12月26日から平成17年1月7日までの治療費及び交通費等として,合計28万6365円を要した。 イ 慰謝料 500万円 本件事故後の入院及び通院期間,後遺症の状況,今後3年程度は半年に1度の割合で北大病院に通院が必要であり,その後も1年に1回程度の通院が一生涯必要となること,脳の近接部位に鋭利な金属が残存していることに対する恐怖感・不安感等を考慮すれば,慰謝料としては500万円が相当である。 ウ 逸失利益 2105万0343円 (ア) 基礎収入 原告は,本件事故時である平成15年1月当時25歳であり,同年4月に就職しているところ,原告のような若年労働者の場合,同年代の者の平均賃金と異ならない賃金を得ている場合には,全年齢の平均賃金をもって逸失利益を算定すべきである。そして,原告の平成15年4月から11月までの平均月収が24万3311円,同年6月のボーナスが11万0341円,同年12月のボーナスが44万2470円であることから,これを年収に換算すると347万2540円となり,また,平成16年1月から6月までの平均月収が30万0524円,同年6月のボーナスが45万1959円であることから,これを年収に換算すると450万0721円となるところ,平成14年賃金センサスの第1巻第1表産業計・企業規模計・男子労働者・大卒の25歳ないし29歳の平均賃金は437万2200円であるから,原告は同年代の平均賃金と異ならない収入を得ているということができ,原告の逸失利益は,同賃金センサスの男子労働者・大卒・全年齢平均の年収である674万4700円を基礎収入として計算すべきである。 (イ) 労働能力喪失率 前記争点(1)の原告の主張に記載のとおり,原告の後遺障害は後遺障害等級12級12号に当たるから,労働能力喪失率は14パーセントというべきである。 (ウ) 労働能力喪失期間 本件事故当時,原告は25歳であったところ,再手術が困難で本件残存針が一生涯体内に残存することから,労働能力喪失期間は67歳までの42年間である。 (エ) 中間利息の控除方式 まず,中間利息の控除割合については,最高裁判所平成16年(受)第1888号,平成17年6月14日第三小法廷判決(以下「平成17年判決」という。)がなされたことから,これに従って年5パーセントを採用することとするが,年5パーセントという数値は,現価算定の割引率として実社会における実質的な運用利益と比較してあまりにも高率に過ぎるところ,控除率につき,社会の実態を無視した利率を採用しながら,控除方式のみは社会の実態に合わせてライプニッツ方式を採用し,複利とするなどということは,一貫しないばかりか,結果の妥当性を欠くものである。また,同判決は,控除率を年5パーセントとする理由として,民事執行法88条2項,破産法99条1項2号,民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項1号,2号を援用しているところ,これらの規定はいずれもホフマン方式による中間利息控除を定めたものであるから,将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息についても,ホフマン方式を採用することが論理的に一貫する。さらに,同判決が金員は年5パーセントの割合で増殖することを擬制するのであれば,それに重ねてライプニッツ方式を採用することにより,金員は年5パーセント複利で増殖することを擬制する結果になるが,そうすると,加害者が損害賠償の支払を遅らせた場合には,加害者は支払うべき金額につき年5パーセント複利で利殖をすることになり,一方で損害賠償請求権の遅延損害金は年5パーセント単利であるため,加害者は支払を遅らせれば遅らせるほど,複利と単利の差額分を利得してしまうことになる。よって,ライプニッツ方式の採用は,遅延損害金により加害者の債務の履行を促進するという法の趣旨とも矛盾するというべきである。 以上によれば,中間利息を控除するに際しては,ライプニッツ方式ではなく,より被害者に有利なホフマン方式を採用し,42年のホフマン係数22.2930を用いるべきである。 (オ) 以上に基づき,原告の逸失利益の現価を算定すると,下記計算式のとおり,2105万0343円となる。 (計算式) 6,744,700×0.14×22.2930=21,050,343 エ 弁護士費用 270万円 原告は,本件訴訟手続を原告訴訟代理人らに委任し,弁護士費用相当額として270万円の支払を約束した。 (被告の主張) 原告の主張のうち,原告が本件訴訟手続を原告訴訟代理人らに委任したことは認めるが,その余は不知ないし争う。 第3 争点に対する当裁判所の判断 1 原告の本件事故後の症状及び生活状況等について 前記争いのない事実等,証拠(甲A1ないし4,甲C29,34の2,乙A2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同認定を左右するのに足りる証拠はない。 (1) 原告は,本件事故後に札幌医大で診察を受けた際,担当医から,本件残存針が迷入した部位は細かな血管や神経が多数存在するところであり,手術で摘出するのは困難であって,本件残存針がこのままの状態で安定していれば問題はないと思われるが,何かのきっかけで針が移動する可能性はあり,針が脳に近づいた場合には,生命の危険がある上,手術で摘出することは今以上に困難になるなどと説明を受けたため,平成15年3月のB大学大学院卒業を控えて修士論文を作成しなければならない時期に,生命の危険が生じうる可能性があるほどの事態が生じたことで強く悩んだ。その後,同医大の担当医から,摘出術が成功する可能性が低いため経過観察する方針である旨告げられた原告は,本件残存針が脳近くの体内に残ったままとなり,さらに移動して神経,血管,脳を傷つける可能性があることを強く心配して,他の医師の見解を聞くことを希望し,北大病院の紹介を受けて同病院で診察を受けることとした。そして,北大病院では,摘出術は難しい手術で,成功率は50パーセント程度であると思われることや後遺症があり得ることなどの説明を受けたが,手術を受けることを決意し,同月3日に5時間に及ぶ本件摘出術を受けたものの,本件残存針を摘出することはできなかった。同手術後,原告は,手術部位に大きな腫れがあったものの,卒業及び内定していた現在の職場への就職準備のため,抜歯前の同月8日に退院し,痛み,不安,それらによる食欲不振や寝不足等を抱えながら,修士論文の作成や就職準備をすることを余儀なくされ,また同手術の影響で口を開けることができなくなり,強い痛みに耐えながらリハビリをする必要があったため,卒業旅行に参加したり卒業生同士の会合に出席することもできなかった。 (2) 原告は,本件摘出術を受けた後,平成16年8月ころまで,常時,本件患部に違和感,痛み,痺れを感じ,また右前頭部の頭痛が断続的にあって,痛みが強い時には処方を受けた痛み止めを服用していた。また,上記違和感から,右肩に何かが乗っているような感じがして右半身に疲れを感じ,集中力の維持が困難であったり,すっきりと眠れないため睡眠不足を感じるなどの状態が続いた。さらに,1か月に1,2回の頻度で,約1週間にわたって,本件患部の痛みや痺れ,右前頭部の頭痛がひどくなり,本件患部から右肩及び右手に痺れやけだるさが広がって,右半身に痺れを感じて足もとがふらつくといった症状が生じることもあった。特に,平成16年4月末に北大病院で診察を受けた帰りの飛行機内では,息が一瞬止まり,深呼吸を数回して息を整えるのに数分かかるほどの激痛を右顎部分に感じて,右顎部分から右半身にかけての痛みが2週間ほど続き,同年8月に飛行機に乗った際にも,右顎の部分に強い痛みを感じ,しばらく頭痛が続くことがあった。また,同年6月末の仕事上の企画発表を準備するため,議論を頻繁に行うようになった際,顎の部分に違和感を感じ,20ないし40分程度の口頭発表の練習をした後には,痺れるような痛みを感じた。 平成16年8月以降は,原告は激しい痛みを感じることは大分なくなってきたものの,仕事上のプレゼンテーション等で長時間の意見発表や会話をした後,風呂に入った後及び食後は鈍い痛みが出現し,また,右半身のけだるさや倦怠感,右顎の後の方からの鈍い痛みと頭痛は継続しており,集中力や仕事の能率はかなり低下していると感じている。 (3) 北大病院における原告の担当医であるD歯科医師は,上記の原告の症状のうち,「通常はそれほど強い痛みではないが,時々1週間くらい続けて痛み,痺れが強くなることがあり,その場合には頭痛も生じる。仕事で長時間にわたって企画発表などをした場合には患部に痺れるような痛みがある。入浴後,食後にも頭痛が生じることがある。」という症状は,本件残存針が直接的に作用しているというよりは,むしろ本件摘出術が原因ではないかと考えられるところ,これらの症状は少しずつ良くなってきているようであるが,今後どれくらいの期間で改善していくか,また完全に消失するか否かは何ともいえず,本件摘出術の手術侵襲が及んだ部位は常時動きがある部位であるため安静を保つことは困難であり,治療に時間を要していると思われ,今後もいわゆる「古傷が痛む」という症状が生じる可能性があるとしているほか,航空機内での原告のいう「激痛」については,気圧の関係があると思われるものの,詳細な医学的機序は不明であるとしている(甲C34の2)。 (4) また,D歯科医師によれば,本件残存針は,平成15年5月2日撮影のレントゲン写真及び同年7月18日撮影のCT画像においては,それぞれ前回の位置よりやや後方に移動していたが,同年12月26日,平成16年4月及び同年7月26日撮影のCT画像においては,明らかな移動は認められず,遅くとも甲C34の2の意見書を作成した平成17年2月の時点では,本件残存針は外側翼突筋の後面に付着したような状態で安定していると思われ,この状態のままで安定していれば,大事に至る可能性は低いだろうと思われるとし,今後の経過観察については,特に異常がなければ1年に1回程度の定期的な経過観察とCT撮影で足りるが,症状の悪化や新たな症状の発現がある場合には,CT撮影等の検査を早急に行う必要があると判断している(甲A3,4,甲C34の2)。 なお,本件残存針の残存部位は,細かな血管や神経が多数ある所であり,現時点では,本件残存針の摘出は困難な状態である(甲C34の2,乙A2)。 2 争点(1)(原告に生じた後遺障害の程度)について 上記認定事実に基づき,原告の後遺障害の程度について判断するに,本件残存針の上記移動状況に照らすと,本件残存針は,遅くともCT画像上明らかな移動が認められなくなった平成15年12月ころには外側翼突筋の後面に付着したような状態で安定するに至り,原告の右上顎の神経等が集中している部位に残存して摘出困難な状態となっているものというべきであるから,その症状の推移をも併せ考慮すると,この時点で症状は固定したものと認めるのが相当である。そして,原告の現在の症状は,前記1(2)で認定したとおりであって,激しい痛みを感じることは大分なくなってきているものの,常時ある鈍い痛みのせいでけだるさがあり,特に仕事のため長時間の発表や会話をした後などには,通常より強い鈍い痛みが出現し,原告としては本件患部の痛みなどのため集中力や仕事の能率が低下していると感じているというのであるから,これらの事情を総合すると,原告は通常の労務に服することはできるものの,ときには労働に差し支える程度の神経症状が出現しており,その原因は本件残存針の存在ないしその摘出術の合併症によるものということができ,これらは本件残存針の存在という他覚的所見の裏付けがあるということができるから,原告の後遺障害の程度は,後遺障害等級12級12号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」の程度に達していると認めるのが相当である。 これに対し,被告は,本件残存針の残存部位から,上顎歯牙及び口蓋部に痛み及び痺れが出現する可能性はあるものの,全身に影響を及ぼしかつ日常生活に障害が出る程の痛みや痺れが発生するとは考えにくく,原告の神経症状は後遺障害等級12級12号の「頑固」なものに当たるとは認められない旨,時間の経過とともに本件残存針の周囲は線組化し,このまま同じ位置に残存する可能性が高く,本件残存針が存在しているからといって,原告に後遺症をきたすことはほとんどないのであり,本件残存針の存在をもって原告の後遺症が同等級12級12号に当たるということも,それに相当するということもできないなどと主張し,その主張に沿う証拠として,F意見書などを指摘する。確かに,F意見書には,被告の上記主張を裏付けるかのような記載があるものの,同意見書は,平成15年9月1日までに作成された甲A1ないし4の各診断書及び同年1月10日に被告歯科医院において撮影されたレントゲン写真3枚を資料とし,同年9月1日の時点で迷入異物(本件残存針)がやや移動していることを前提に作成されたものであって(乙A2,弁論の全趣旨),原告を直接診察してはおらず,また,原告に関する診療録を具体的に精査した上での意見でもないことから,原告の症状の推移及び現在の状態を正確に反映したものということはできない。また,その内容も,本件残存針の残存部位等の状況を基にして,後遺障害が発生する可能性について一般的な医学的知見を述べるという側面が強い上,残存針に起因する神経症状について特段の臨床的裏付けが示されているわけではなく,前記認定のような原告が現実に感じている症状自体を否定するような内容のものということもできない。さらに,前記認定のとおり,原告の現在の症状の原因は,本件残存針の存在そのものではなく本件摘出術の影響であるとも考えられるとされているところ,そうであるとすれば,仮に本件残存針の残存部位が後遺症の発生をきたすようなものでないとしても,それによって直ちに原告に後遺症が生じたこと自体が否定されるものということもできない(なお,本件摘出術は,本件事故に対する治療行為として実施されることが通常予見可能というべきであるから,原告の後遺障害の原因が本件摘出術であるとしても,それにより本件事故との間の因果関係が否定されるものではない。)。よって,同意見書があることを考慮しても,前記認定が左右されるものではない。 そして,他に前記認定を左右するのに足りる的確な証拠はない。 3 争点(2)(本件事故により原告に生じた損害の額)について (1) 前記争いのない事実等(2)の事実によれば,被告には,原告に対する治療行為として麻酔注射を行うに際し,患者の体内に注射針を迷入させることのないよう,適切な太さの注射針を選択した上で注射を行うべき注意義務があるのにこれを怠り,注射針の刺入部位の組織が硬かったために注射針を刺入しづらい状況があったにも拘わらず,径の細い本件注射針を選択して麻酔液を注入したため,これを抜くに際して同注射針を折って本件残存針を原告の右上顎部組織内に迷入させた過失があるというべきであるから,被告は,原告に対し,上記不法行為に基づいて,原告が被った損害を賠償すべき責任がある。 (2) そこで,被告の不法行為によって原告の被った損害額について以下検討する。 ア 治療費及び交通費等の実費について 28万6365円 証拠(甲C1,2の1ないし7,3,4の1ないし4,31,32の1ないし9,33,35)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成15年12月25日から平成17年1月6日までの間,肩書住所地から北大病院に通院したことにより,診察料,薬代,航空運賃等の交通費,レントゲンフィムルコピー代として,合計28万6365円を支出したことが認められ,これらはいずれも本件と相当因果関係の範囲内の損害と認められる。 イ 慰謝料について 400万円 まず入通院慰謝料については,前記争いのない事実等で認定したとおり,北大病院への入院日数が9日間,症状固定日ころである同年12月26日までの通院実日数が札幌医大6日間,北大病院12日間(ただし,平成15年2月19日は両病院に通院している。),防衛医大3日間の合計20日間であり,これに,本件事故が発生するに至る経緯,本件残存針が迷入した部位,本件残存針の残存状況,原告に対する治療経過,その間の原告の症状,原告の大学院卒業及び就職に関する経過その他一切の事情を併せ考慮すれば,原告の入通院慰謝料としては,100万円が相当である。 次に後遺障害慰謝料については,前記のとおり原告に生じた症状の後遺障害等級は12級12号の程度に達しているものと認められること,原告の右上顎部組織内に本件残存針が存在しており,その部位に照らすと,今後本件残存針が何らかの原因で移動した場合には付近の神経等を傷つけて重篤な後遺症が発生する可能性がないとはいえず,その不安を原告が払拭できていないこと,本件残存針を摘出することが極めて困難であることから,今後も経過観察のための通院が一生涯必要であると考えられること,その他本件に顕れた一切の事情を併せ考慮すれば,原告の後遺障害慰謝料としては,300万円が相当である。 以上より,本件で原告の被った精神的苦痛を慰謝するには,合計400万円の慰謝料の支払をもってするのが相当である。 ウ 逸失利益について 1139万2620円 (ア) 基礎収入について 前記争いのない事実等並びに証拠(甲C5の1ないし9,27の1ないし5,29)及び弁論の全趣旨によれば,原告は平成15年1月の本件事故時点では,25歳の大学院生であり,その後同年4月に現在の就職先に就職して,同年4月から11月までの給与等として合計183万1451円,同年6月の特別手当として11万0341円,同年12月の特別手当として44万2470円の合計238万4262円の支給を受け,また平成16年1,2,5,6月の給与等として合計116万5081円,同年6月の特別手当として45万1959円の合計161万7040円の支給を受けていることが認められ,以上によれば,原告の年収は,平成15年には約360万円程度,平成16年には約485万円程度であったことが推認できる。 一方,平成15年賃金センサス第1巻第1表産業計・企業規模計・男子労働者・大卒の25歳ないし29歳の平均年収額が435万2700円,同賃金センサス男子労働者・大卒・全年齢平均の平均年収額が658万7500円であることは,当裁判所に顕著である。 以上を総合すると,原告は,平成15年から平成16年にかけて,上記賃金センサスの男子労働者・大卒の25歳ないし29歳の平均年収額におおむね相当する額の収入を得ていたというべきであるから,生涯にわたって男子大卒者の平均年収と同程度の収入を得る蓋然性があると認めるのが相当である。よって,逸失利益算定の前提としての原告の基礎収入は,上記全年齢平均の年収額に相当する658万7500円とするのが相当である。 (イ) 労働能力喪失率について 原告の後遺障害は,前記認定のとおり,後遺障害等級12級12号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」の程度に達しているということができるが,その労働能力喪失率については,前記認定のとおり,本件患部の違和感,痛み,痺れが常時あったものの,北大病院における主治医であるD歯科医師によれば,その症状は少しずつ良くなってきているようであり,原告本人としても,平成16年8月以降は激しい痛みを感じることが大分なくなっているというのであるし,長時間のプレゼンテーション等でなければ仕事上の影響もそれほど大きいとまでは言い難いことも窺われることに照らすと,その労働能力喪失率は10パーセントを超えることはないと認めるのが相当であり,他に同認定を左右するのに足りる的確な証拠はない。 (ウ) 労働能力喪失期間について 前記2で認定したとおり,原告の症状固定時期は平成15年12月ころであるから,その時点で原告は26歳に達しているところ,そのころの原告の後遺障害は,当初に比べて少しずつ良くなってきていると一応評価できるものの,本件残存針を摘出することは極めて困難であって,その原因を除去することができず,また,D歯科医師の前記意見書(甲C34の2)によれば,原告の症状が完全に消失するか否かは何とも言えず,現在でも痛み止めを処方していて,手術侵襲の及んだ部位が常時動きのある部位で安静を保つことが困難であることから治癒に時間を要していると考えられることなどの事情を総合考慮すると,原告の労働能力喪失期間は,就労可能年齢67歳までの41年間に及ぶと認めるのが相当であり,同認定を左右するのに足りる的確な証拠はない。 (エ) 中間利息控除について 民法404条において民事法定利率が年5パーセントと定められたのは,民法の制定に当たって参考とされたヨーロッパ諸国の一般的な貸付金利や法定利率,我が国の一般的な貸付金利を踏まえ,金銭は,通常の利用方法によれば年5パーセントの利息を生ずべきものと考えられたからであり,現行法は,将来の請求権を現在価額に換算するに際し,法的安定及び統一的処理が必要とされる場合には,法定利率により中間利息を控除する考え方を採用している。例えば,民事執行法88条2項,破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様),民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項1号,2号等は,いずれも将来の請求権を法定利率による中間利息の控除によって現在価額に換算することを規定している。損害賠償額の算定に当たり被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するについても,法的安定及び統一的処理が必要とされるのであるから,民法は,民事法定利率により中間利息を控除することを予定しているものと考えられる。このように考えることによって,事案ごとに,また,裁判官ごとに中間利息の控除割合についての判断が区々に分かれることを防ぎ,被害者相互間の公平の確保,損害額の予測可能性による紛争の予防も図ることができる。上記の諸点に照らすと,損害賠償額の算定に当たり,被害者の将来の逸失利益を現在価額に換算するために控除すべき中間利息の割合は,民事法定利率によらなければならないというべきである(平成17年判決)。 次に,中間利息控除の控除方式については,従来の最高裁判決において,ライプニッツ方式又はホフマン方式のいずれによって算定しても不合理ではないとされていたところ,特に控除すべき中間利息の控除期間が長期にわたる若年者等の事例において,全年齢平均賃金とライプニッツ係数の組合せによるいわゆる東京方式と初任給固定賃金とホフマン係数の組合せによるいわゆる大阪方式のいずれを採用するかによって算定結果に大きな差異が生じることが問題とされ,東京地方裁判所,大阪地方裁判所及び名古屋地方裁判所それぞれの交通事件を専門的に取り扱う部が協議した結果,平成11年11月,大量の交通事故による損害賠償請求事件の適正かつ迅速な解決の要請,地域間格差の是正,被害者相互間の公平及び損害額の予測可能性による紛争の予防などの観点から,交通事故における逸失利益の算定方式について共同提言がなされるに至った。同共同提言によれば,原則として,幼児,生徒,学生の場合,専業主婦の場合及び比較的若年の被害者で生涯を通じて全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金程度の収入を得られる蓋然性が認められる場合については,基礎収入を全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金によることとし,中間利息の控除方法については,特段の事情のない限り,年5パーセントの割合によるライプニッツ方式を採用することとされ,実務上,同共同提言が取り入れられて,現在においては,逸失利益算定に関する中間利息の控除につき,実務の大勢は,賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計・男子又は女子労働者の全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金を基礎収入とした上,年5パーセントの割合によるライプニッツ方式を採用して逸失利益を算定しており,このような取扱いは一定の合理性を有するものというべきである。 そして,逸失利益の算定において,適切かつ妥当な損害額を定めるためには,基礎収入の認定方法と中間利息の控除方法とを,具体的妥当性をもって整合的に関連させることが必要であると解されるから,本件において原告の逸失利益を算定するについても,前記共同提言の趣旨及び裁判実務の運用状況をも併せ考慮すると,基礎収入につきいわゆる全年齢平均賃金を用いるとともに,年5パーセントの割合によるライプニッツ方式を採用するのが相当である。 これに対し,原告は,平成17年判決のとおり控除率を5パーセントとするとしても,控除方式としては被害者に有利なホフマン方式を用いるべきであること,同判決は民事執行法88条2項,破産法99条1項2号,民事再生法87条1項1号,2号,会社更生法136条1項1号,2号を援用しているところ,これらの規定はいずれもホフマン方式による中間利息控除を定めたものであるから,逸失利益の算定において控除すべき中間利息についても,ホフマン方式を採用することが一貫すること,同判決が金員は5パーセントで増殖することを擬制するのであれば,それに重ねてライプニッツ方式を採用することにより,加害者が損害賠償の支払を遅らせれば遅らせるほど,複利と単利の差額分を利得してしまうことになって,遅延損害金により加害者の債務の履行を促進するという法の趣旨と矛盾することなどから,中間利息控除方式としてはホフマン方式を採用すべきである旨主張する。 しかしながら,平成17年判決は,中間利息の控除割合を民事法定利率(年5パーセント)によらなければならないとしているにとどまり,控除方式については何ら触れていない。そして,年5パーセントの割合によるライプニッツ方式を採用することに一定の合理性があることは前記説示のとおりであり,また,原告が指摘する法の各規定については,破産法99条1項2号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条5号も同様)の趣旨は,破産法99条1項1号(旧破産法(平成16年法律第75号による廃止前のもの)46条1号も同様)において破産手続開始後の利息請求権を劣後的破産債権としたこととの均衡上,無利息債権についても破産手続開始後弁済期に至るまでの中間利息を控除するとしたものであり,民事再生法及び会社更生法の各規定は,それぞれ再生債権者及び更生債権者間の議決権の衡平の観点から期限未到来の無利息債権について中間利息を控除することとしたものであり,民事執行法の規定は,期限未到来の無利息債権につき,配当における他の債権者との衡平の観点から実質的に中間利息を控除することとして定められたものであると解されるから,これらの規定があることをもって,中間利息控除方式について一般的にホフマン方式を採用する趣旨であるということはできない。さらに,中間利息の控除割合を年5パーセントとした上で控除方式をライプニッツ方式とした場合には,履行を遅らせる加害者に利得を得させる結果となり,法の趣旨に反するとの点についても,民法404条所定の民事法定利率は不法行為等の加害者のみに適用されるものではなく,同法は加害者の履行を促進する趣旨で定められたものとはいえないから,その前提の理解において不適切であり,これを採用することはできない。 以上のとおりであるから,原告の主張をたやすく採用することはできない。 (オ) そうすると,原告の逸失利益を算定するについては,658万7500円を基礎収入とし,これに労働能力喪失率10パーセントを乗じた上,ライプニッツ式計算方法を用いて(年5分の割合による41年間のライプニッツ係数は17.2943である。)中間利息を控除して計算すると,下記計算式のとおり1139万2620円となる。 (計算式)6,587,500×0.1×17.2943=11,392,620(小数点以下切捨て) エ 上記アないしウの合計額は,1567万8985円となる。 オ 弁護士費用について 弁論の全趣旨によれば,原告は,本件訴えの提起,追行を原告訴訟代理人らに委任し(この点は当事者間に争いがない。),相当額の報酬の支払を約束したことが認められるところ,本件事案の内容,主な争点,難易度,審理経過,認容額等の事情を総合考慮すると,本件における被告の不法行為と相当因果関係のある損害として被告に請求しうる弁護士費用としては,上記認容額の約1割に相当する150万円と認めるのが相当である。 第4 結論 以上によれば,原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は,1717万8985円及びこれに対する不法行為の日である平成15年1月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官 奥 田 正 昭 裁判官 鈴 木 秀 行 裁判官 金 田 健 児
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医療被曝 / 福島原発事故 / 武谷三男 ■ 武谷三男編 安全性の考え方 岩波新書 「ブログ(2011.10.20)」より / 利益と有害のバランスが許容量 それでは「許容量」というものは、どういう量として考えたらいいのであろうか。米原子力委員のノーベル賞学者リビー博士は「許容量」をたてにとって、原水爆の降灰放射能の影響は無視できると宣伝につとめた。 日本の物理学者たちは、討論を重ねた。こうして日本学術会議のシンポジウムの席上で、武谷三男氏は次のような概念を提出した。 +続き 「放射線というものは、どんなに微量であっても、人体に悪い影響をあたえる。しかし一方では、これを使うことによって有利なこともあり、また使わざるを得ないということもある。その例としてレントゲン検査を考えれば、それによって何らかの影響はあるかもしれないが、同時に結核を早く発見することもできるというプラスもある。そこで、有害さとひきかえに有利さを得るバランスを考えて、“どこまで有害さをがまんするのかの量”が、許容量というものである。つまり許容量とは、利益と不利益とのバランスをはかる社会的な概念なのである。」 この考え方で、ようやく「許容量」というものが、害か無害か、危険か安全かの境界として科学的に決定される量ではなくて、人間の生活という観点から、危険を「どこまでがまんしてもそのプラスを考えるか」という、社会的な概念であることがはっきりしたのである。 そして、この考え方がしっかりしたことによって、原水爆実験という原子力の軍事利用が、人間の生活、人間の生存にとって、決してプラスにならず、マイナスの死の灰をまき散らす“百害あって一利なし”のものである以上、決して認められるべきものではないという、原水爆反対のための、一つの確乎とした論理が導き出されたのである。まして、原水爆実験の死の灰に“許容量”などという概念が存在しないということもはっきりしたのである。このことについては、岩波新書『原水爆実験』に詳しい。 ーーーーーーーーーーー ■ 利益と不利益とのバランスをはかる社会的な概念 「コメ自由化への試案 日本人が作りだした農産物 品種改良にみる農業先進国型産業論」より (※ ブラウザの検索から「武谷三男」で検索を) / 武谷三男が提示した「安全性を考える」は遺伝子組み換え作物の安全性・社会的費用にもどのように考えたらいいのか?問題を投げかけている。 ここではその解答は用意できない。組み換え作物の開発はさらに進んでいく。それを容認しながらも答えを出すべき課題を抱えている、ということをここでの姿勢としておこう。 ◆ @yuzupon_panda @bilderberg54 @y_itoh 親としての意向を否定はしませんが、政治家としての決断を否定すべきではありません。政治的決断とは利益と非利益の比較によって行うべきものです。経済優先という批判は誤りです。 「[Twitter]princeofwales1941」より ☆ 医療被曝pdf / Q: X線検査やCT検査はがんのリスクが高くなると聞いたのですが? A: 最近は福島原発事故等の影響で放射線検査や治療を嫌がる患者さんが増えているよ うです。 放射線は現在、医療に欠かせないツールとしてX線写真、CTやPETなどの診断、X線や粒子線を用いた治療など幅広い分野で利用されています。確かに、少量であっても被ばくはしますので、無害とはいいきれません。しかし放射線検査や治療による、病気の早期発見、治療効果などの有益性もあります。 今のところX線撮影やCT検査などの少量の放射線量が、がんのリスクを増加させるかどうかについては、まだ科学的に明らかにされていません。 (※ 中略) / 医療被曝の線量については国際的な規制値はありません。これは、線量が単に少なければいいというわけではなく、必要な検査結果や治療効果が得られなければならないからです。放射線検査による被ばくのリスクとともに、検査を受けないことで、病気の発見が遅れたり、治療のタイミングを逸したりするリスクもあります。被ばくという不利益と早期発見・治療という利益をてんびんにかけ、医学的に検討することが必要です。 ■ フクシマの放射線量規制値引上げを支持する 「地下生活者の手遊び(2011.5.31)」より / 放射線というものは、どんなに微量であっても、人体に悪い影響をあたえる。しかし一方では、これを使うことによって有利なこともあり、また使わざるを得ないということもある。 その例としてレントゲン検査を考えれば、それによって何らかの影響はあるかも知れないが、同時に結核を早く発見することもできるというプラスもある。そこで、有害さとひきかえに、有利さを得るバランスを考えて、【どこまで有害さをがまんするかの量】が、許容量というものである。 つまり許容量とは、利益と不利益とのバランスをはかる社会的な概念なのである。 岩波新書「安全性の考え方」*1武谷三男編 P123 引用者が適時改段 許容量(=規制値)とは社会的な概念 ここで重要なのは、放射線(に限らず、化学物質などへの暴露についてもいえるだろうが)の許容量とは社会的な概念であるということですにゃん*3。「許容量とは自然科学的な概念ではなく、社会的なものである」ということは、許容量のことを考えるにあたって、決してはずしてはならにゃーだろう。 許容量は社会的概念であるので、例えば原発で働く労働者や、病院のレントゲン技師などは許容量が一般人より大きめに設定されているわけですにゃ。放射線を取り扱う職業につくことで利益を得ているわけだから、がまんできる不利益の大きさもでかくなるということですにゃー。 というわけで •職業被曝規制値50mSv/年 公衆被曝規制値1mSv/年 という現行法の設定になっているわけですにゃ(現行法では公衆被曝の規制値はないとコメ欄にて指摘をうけました。6/1 15:45ごろ追記)。 職業という利益と引換に、公衆被曝のにゃんと50倍の被曝が認められているわけですにゃー。 しかし、いくら利益と引換だからといって、何の条件もなしに50倍もの被曝が認められているわけではにゃーのだ。 (※ 以下略) .
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(損害の額の推定等) 第一〇二条 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額に乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができない事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。(本項追加、平一〇法律五一) 2 特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。 3 特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。(改正、平一〇法律五一) 4 前提の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重要な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。(改正、平一〇法律五一) 旧法との関係 当該条文なし 趣旨 本条は、民法七〇七条の特別規定である。民法七〇七条は「故意又は過失によって他人によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた賠償する責任を行う。」べき旨を規定しているが、この場合の損害の額の立法責任はいうまでもなく請求する者の側にある。ところが特許権侵害の場合にあってはその立証は容易なことはない(他の場合も決して容易なわけではないが、特許権侵害の場合はとりわけ容易ではない。)ために十分な賠償を受けることができなかったという事例も少なくない。このような事情にかんがみ、本条は、特許権侵害があった場合の損害額の算定方式を定めたものである。 一項は、平成一〇年の一部改正により新設された規定で、特許権の侵害により生じた損害(逸失利益)の額の算定方式を定めるものである。 平成一〇年の一部改正前においても、特許権を侵害する製品が販売された結果、特許製品の販売数量が減少したことに伴う損害(逸失利益)の賠償は、民法七〇七条に基づき請求することが可能であった。しかし、こうした請求に対するこれまでの判決をみてみると、市場構造が極めて単純で、「侵害製品の販売数量すべてを権利者が販売し得た」ことの立証ができた場合にしか逸失利益の賠償が認められておらず、それ以外の場合は、妥当な損害の補填がなされているとはいえない状況であった。 こうした問題を解決するため、一項は、①侵害品の譲渡数量に権利者の製品の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、実施能力に応じた額の限度において、損害額とする。②ただし、侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を権利者が販売することができない事情が存在するときは、その事情に応じた額を控除する旨規定し、侵害者の営業努力や代替品の存在等の事情が存在し、侵害品の譲渡数量すべてを権利者が販売し得たとはいえない場合でも、それらの事情を考慮した妥当な逸失利益の賠償を可能とするものである。 二項は侵害者が侵害の行為により受けた利益の額をその請求をする者が立証すれば、その利益の額が損害の額と推定される旨を規定したものである。したがって、この利益の額の立証がなされた後に侵害者が相手方(権利者)の損害の額を立証しない限りその利益の額が損害の額と認定されるわけである。侵害により自己が受けた損害の額の立証をすることの困難に比べれば相手方の受けた利益の額の立証の方が幾分でも容易である(常にそうであるとはいえないが)ことを考え権利者を保護するために規定が設けられたものである。審議会の答申においては、民法七〇七条の不法行為の規定と同趣旨の規定のほかに「故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害の行為によって受けた利益の返還を請求することができる。」旨の規定をおくこととしていたが、利益が損害の額を超える場合にまでそのすべてを返還せしめるのは侵害者に苛酷であり、民法の原則から著しく逸脱することになるというような理由から、これを改めて利益の額は損害と推定するという二項のような規定にしたものである。 三項もまた侵害の額の立証が容易でないということにかんがみて設けられた規定である。本項の趣旨は、故意又は過失により特許権又は専用実施権の侵害がされたときは、その特許発明の実施料相当額の賠償として請求することができるというのである。 平成一〇年の一部改正前においては、その特許発明の実施に対し「通常」受けるべき金銭の額に相当する額の金銭の賠償を請求することができる旨の規定であったが、侵害訴訟で認定される本項の実施料相当額については、特許権者が既に他者に設定している実施料率や、業界相場、国有特許の実施料率に基づき容認された例が多く、特許発明の価値や、当事者の業務上の関係や侵害者の得た利益等の訴訟当事者間において生じている諸般の事情が考慮されないとの問題点が指摘されていた。こうした問題は、規定振り(特に「通常」という文言)によるところが大きいと考えられたため、平成一〇年の一部改正において、「通常」という文言を削除し、訴訟当事者間の具体的事情を考慮した妥当な実施料相当額が認定できるようにしたものである。 また、本項の規定に基づき請求できる実施料程度の金銭は最小限であって、四項前段に規定しているようにより多くの損害があったことを立証してその賠償を受けることを妨げるものではない。しかし、一度本項の規定による実施料相当額を損害の額として賠償を受けその訴訟が完結したときは、その後にたとえその実施料相当額以上の損害額の立証をしたとしても、その請求をすることはできないことはいうまでもない。 四項前段は、先にも述べたように三項に規定する実施量相当額は最小限を示すものであって、特許権者等がそれ以上の損害の額を立証して賠償を請求することを妨げるものではない。しかし、実施料相当額以上の賠償を請求した場合において、当該侵害行為が軽過失によってされたものであるときは、その軽過失であるという事実を損害の賠償の額を定めるについて参酌することができる、というのが四項後段の規定である。参酌することができるというのは、実際の損害額より少ない額で賠償額を定めることができるということであり、その参酌の結果、どの程度に定めるかは裁判所の裁量権に属する。ただ、その実施量相当額以下に軽減することはできない。この規定は、侵害者の具体的な責任の程度に応じて賠償額を定めようとするものであるが、請求する者にとっては、賠償額が裁判所の裁量によってきまるのである程度の不安は免れないであろう。 なお、平成一〇年の一部改正において、新一項の創設に伴い、従来の一項から三項を二項から四項へ条文移動する改正を行った。 [字句の解釈] 1 <侵害の行為による利益>侵害の事実がなかったと仮定した場合に予想される財産の総額とその事実の発生した後の現実の財産の総額との差である。したがって、その侵害の行為によって財産が積極的に増加する場合と財産が減少するはずであったのを免れた場合とを含む。 2 <重大な過失>抽象的には善良な管理者の注意を甚だしく欠いた心理状態であるということができるが、具体的にはそれぞれの事例について定めるより仕方がない。過失のうちの重大な過失でないものが、軽過失である。我が国の法令用語にいて軽過失という語が使われていないので、「故意又は重大な過失がなかったとき」という表現を用いたのである。 3 <参酌することができる>民法七二二条二項は過失相殺について「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と規定しているが、この場合の「考慮して…定めることができる。」と同じ意味である。債務不履行の場合にも過失相殺の規定がある(民法四一八条)が、この場合には、考慮して…定める。」となっていて、過失があれば必ず考慮すべきものと解釈されているが、本条の場合は民法七二二条の場合と同じく裁判所が考慮する必要がないと考えれば考慮しなくてもよいのである。 [参考] <利益の返還>審議会の答申は「特許権者は故意又は過失によって自己の特許権を侵害した者に対しその侵害の行為によって得た利益の返還を請求することができる」旨の規定を設けるべきことを述べている。これは、民法七〇三条及び七〇四条の規定による利益の返還に関する規定が権利者の損失の額を限度として返還することになっていることと著しく違う。その意味では、この答申はいわゆる不真正事務管理の説における結論と同じことを述べたものということができる。この審議会の案に対して立案の過程において権利者の保護が不当に厚くなりすぎるという意見が強く述べられ、結局採用に至らなかった。その代案ともいうべきものが本条二項の規定であるが、ただ、本条二項は審議会の結論の代案としてはかなり性質の違ったものとなっている。すなわち、審議会の結論は不当利益の返還として問題を捉えているのに対し、本条は不法行為による損害の賠償として問題をとらえているのである。(青本第17版)
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基本的に既存設定との極端な矛盾がなく、『ファンタジー世界・ロクシア』に存在し得るであろうものであれば掲載していく方針です。 逆に、蒸気機関を始めとする産業革命以降の要素についてはスレで精査されるまで保留する方針となります。 ここで言うファンタジー世界とは、基本的に『剣と魔法が主役の世界である』と考えてください。 画像掲載について 基本的に500×500前後(もしくは以下)のサイズに縮小して掲載します。 AI作成イラストでも可能ですが、グレーな案件が発生する可能性も依然高い界隈です。なので『人物系』の場合は表立っての掲載が『し難い』と思ってください。(その際はクリックによる別表示、及びページ下部にある添付ファイル収納になります) 勿論ですが、過度にセンシティブな物は不可とします。 その他、余りにも完成度が低いと判断された物も不可とさせていただきます。 ※以下に該当する設定は基本的に掲載対象とはなりません。 ゲームのシステムや現代の各種常識や風潮等に寄り過ぎている設定 完成度が低く、相当量の推敲を必要とする設定 既存のもの(他作品・神話・童話含む)とあまりにも類似していると思われる設定 身の丈に合わない、理由も薄い過度なインフレ(下記パワーインフレについてを参照) 既存の設定内容と大幅に矛盾している設定 他の設定や創作を妨げるような設定 設定という名の悪ふざけ・パロディ・中傷等 他からの転載等、他者の著作権を侵害するようなもの その他、個々の編集者がなしと判断したもの ※ただし編集者による推敲や設定変更の後に掲載される可能性もあります 編集者による既存設定の変更について(既存設定とは掲載済みの設定を指します) 誤字脱字等の修正、改稿は常に行います。 他の投稿者による変更案は協議の上で可能とします。 可能なかぎり、編集者が世界観やパワーバランスに対しておかしくない形に修正・添削・編集してください。 他設定との兼ね合いで発生しうる矛盾や問題点等は大幅な設定の変更や削除、他設定との統合による「すり合わせ」を可能とします。 スレッドに投稿する際の注意事項 『必ず「句読点」を使いましょう』 物を書く事においての基本です。 読みやすさは読者だけでなく、編集者にも好印象を与える事でしょう。 『設定を創る際に気をつけるべき二つの事』 ①『旧世紀の超科学発掘品による無双や現代科学の再現』 古代兵器や機械、戦車や戦艦や戦闘機といった物、拳銃や時限爆弾etc。 もしこれらの設定を書く際は、読み手が納得するきちんと作り込まれた理由を書く必要があります。 最初に問いますが、今あなたが考えている物は『剣と魔法の世界』に必要ですか? 存在すると仮定して、世界観は壊れませんか?? どうしても必要という場合は前述した通り、しっかりと書いてください。 無理なら大人しく諦めましょう。 これらは必ずしも禁止という訳ではありません。 ですが、それでも微量程度でお願いします。 何事も盛り過ぎると世界観が薄れ、やがて確実に崩壊します。 ②『他作品設定の転載(一部改変しただけの物も含む)』 論外、もってのほかです。絶対にやめてください。 元ネタがあるものを書くのは結構ですが、パロディは度が過ぎるとアウトです。 節度を持って楽しみましょう。 全体を通して言うと『お、このロクシアっての面白そうだな』『この世界観を使って創作活動してみたいな』と抱く人が一人でも現れてくれるよう願っての事です。 こればかりは一参加者だけでは難しいかもしれませんが、参加者全員が意識すれば可能な事だとは思います。 パワーインフレ等について その1 【世界観における基本的な強さのランク分け】 + ... 【神格クラス】 wikiガイドラインにもある通りロクシア世界の強さの上限。 世界法則・因果律に干渉できる世界規模の存在。 ロクシアの人類が交戦した存在では変遷の三獣・黒滅竜・eater of dimensionが此処。 その中でも唯一神や各神話体系の最高神や破壊神、戦神等は神格でも上位の戦闘力を持つと目される。 (純粋な神は確実に神威が使えるので例外なく此処となる) 少なくとも単独でまともに対抗出来るのは同じ神格、もしくは半神や亜神等と言った存在のみ。 【眷属クラス】 亜神、眷属神、半神といった神の力の一部を何らかの形で受け継ぎ、それに比するまでに強大になった存在。 神直属の最高位天使・最高位の悪魔・神獣や神格が転生や変化をした存在も此処。 後天的要素ではロクシアの世界法則の外に由来する力や神の持つ権能に触れた者、神の武器や道具を手にした者も含まれる。 ただし神の力をどの程度使いこなせるかによってその力には差が出てくる可能性もある。 ~~~~←超常存在の壁 【伝説級】 勇者や魔王やドラゴンの中でも更に伝説的として語り継がれる存在。 英雄や超越者に至った者が尋常ならざる試練や奇跡の末に到達出来るかもしれない場所。 天文学的な確率ではあるが、生まれ持った才能や努力で此処に至る可能性もある。 【超越者】 通常の生物の枠組みを遥かに超えた戦闘能力の持ち主。 最高位の魔物・最上級の天使や悪魔・上位種のドラゴン、そして魔王候補の中から覚醒した『魔王』が此処に至る。 この魔王を打倒する事の出来た勇者候補こそが真に『勇者』として呼ばれる事となるだろう。 ~~~~←人間としての壁 【英雄】 偉業を成し遂げた、または将来確実に偉業を成すと思われる者達。 才能ある者が厳しい鍛錬と幸運の末に到達出来る人間の限界地点。 勇者候補の中でも数々の冒険を乗り越えた極々限られた強者が到達しているであろう位置。 ドラゴン(真竜)・ハイエンジェル・ハイデーモン、そして魔王候補が該当。 【傑物】 特に優れた戦闘能力の持ち主。 Aランク冒険者の多くが該当。 高位レッサードラゴン・竜人・鬼人・グレートオーガ・高位魔族・バトルデーモン等がこの位置。 ギルド所属の冒険者であれば、所属国の冒険者名鑑に必ず掲載されていると言っていい強さ。 有事の際は国からお呼びがかかる事もある。 【達人】 かなりの戦闘能力の持ち主。 ギルドより指名でクエストが来る事がある。 冒険者の皆さんで手練(Bランク相当)とされるのがだいたいこの辺り。 勇者候補と呼ばれて旅立った者の多くは大抵この辺りで落ち着いたりする。 グリル帝国軍人の平均~上位がこの一歩手前ぐらい。 単独で一般魔族・レッサードラゴン・ヘルゴブリンと互角に戦える程度。 数人がかりでデーモンやエンジェルを倒せる。 ~~~~←才能の壁 【戦闘職】 大多数の国の兵士がこの辺りを平均としている。 ギルドから戦力として数えられ、人数も多いCランク冒険者もこの辺り。 リトルデーモンと互角に渡り合える戦闘能力を持つ。 数人でレッサーオーガやレッサーデーモン、リトルエンジェルと戦える程度。 【鍛えてる人】 初々しいE~Dランク冒険者の皆さん。 その幅は実に広く、荒くれ者的な腕に覚えのある人達や村の狩人等も此処に該当。 猪やオーク等の低位魔物と渡り合えるぐらいの強さで、頑張ればハイゴブリンと一対一で戦える。 強めなゴブリン数体、またはスライムの小集団ぐらいは倒せそう。 【一般人】 所謂普通の人。 戦う才能や経験が無いからと言って悲観する事は一切無く、単独で行動するジェルやゴブリン程度なら武器を持てば充分に倒せる。 概ね冒険者Fランク(見習い)程度。 その2 【強さに関する指針や上限、設定作成に関する注意事項】 + ... パワーインフレの上限は神、及び三獣・黒滅竜・eater of dimension等と言った神と同等とされる存在【神格クラス】まで。 (設定上による力関係の優劣等はありますが、基本的に神は全てが同格と考えてください) “神を超える神”や“神以上の別存在”と言ったような設定は不可とします。 【亜神・眷属神・半神クラス】は純粋な神以下という扱いであり、上記に該当しません。 また、【超越者】からは現在のロクシアの国々を直接攻撃しないよう配慮してください。 (過去の歴史上の出来事で現在の均衡状態を保てる程度、もしくは数年以上先に攻撃予定の設定であれば可) 史上最強の敵は黒滅竜。 現生最大陸上生物はビッグラージ・グレートレックス、水生生物は海であれば数キロくらいが限度。 狭義のドラゴンや魔物を除く、生命活動を行う純粋な生物であれば現行の最大種を基準として以降は要相談。 陸上・水中生物の瞬間最大速度は300km程度、巡航速度は150km程度。 飛行生物の最大速度は亜音速まで、急降下中はマッハ1弱でも可。 人やモノを載せられる大きさの飛行生物の航続距離は半径500kmまで。 目安としてはオートデザイス-ロゼルス間を移動できないくらい。 積載量は小型の荷馬車程度。 (飛行機械はこれらの制限や搭載重量を易々と突破してバランスが崩れる可能性がある事も禁止している一因) 歴史上存在した過去の個体は現生生物の倍程度、伝説上の存在で実在したか不確かなものはさらに倍まで可。 キャラ単騎の戦闘時における瞬間的な速度は音速未満まで。 “通常攻撃”での地形(山河や都市等)に対する大規模な破壊、及び城等の頑丈な建築物を遠方から一撃で吹き飛ばすようなものは不可。 建築物をまとめて消し飛ばす攻撃も遠方まで吹き飛ばす事になるので不可となります。 武器・魔法の最大射程距離は1キロ未満としてください。 (俗に言う“溜め”、長文詠唱のような準備動作や儀式のような下準備が必須で、一戦闘中一回のみ使用できる“超必殺技や極大魔法”のような扱いなら要相談。 ただし何かしらの制限が科せられる可能性があります) つまり、格闘戦や気軽に連打できる魔法や気功術のような単純攻撃で、敵や要塞や大地が簡単に消し飛ぶ。 空を飛びながら目に見えない戦闘を繰り広げる『ドラゴンボール的』な行為はダメという事になります。 病気については『現存している国が崩壊、種族根絶レベルの病気が現在蔓延している』と言ったような設定や『あからさまなネタやギャグ的要素が強い』ようなモノは不可とします。