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「Rozen Maiden」の桜田ジュンと真紅 参考リンク:ウィキペディア (Wikipedia) フリー百科事典 ローゼンメイデンの項より 第一部 プロローグ 薔薇乙女も使い魔 1 第一話 1 薔薇乙女も使い魔 2 第一話 2 薔薇乙女も使い魔 3 第一話 3 薔薇乙女も使い魔 4 第一話 4 第二部 薔薇乙女も使い魔 5-1 第二話『決闘』 上 薔薇乙女も使い魔 5-2 第二話『決闘』 下 薔薇乙女も使い魔 6 第三話『トリステイン魔法学院での一日』 薔薇乙女も使い魔 7 第四話『ルーン』 薔薇乙女も使い魔 8 第五話『ヴァリエール家の娘達』 薔薇乙女も使い魔 9 第六話『フーケ捜索隊』 薔薇乙女も使い魔 10 第七話『ルーンと指輪とデルフリンガー』 薔薇乙女も使い魔 11 第八話『月夜に踊るは』 第三部 薔薇乙女も使い魔 12 第一話『禁じられた遊び…?』 薔薇乙女も使い魔 13-1 第二話『北花壇騎士』 上 薔薇乙女も使い魔 13-2 第二話『北花壇騎士』 下 薔薇乙女も使い魔 14 第三話『アルビオンへ』 薔薇乙女も使い魔 15 第四話『城が沈む時』 第四部 薔薇乙女も使い魔 16 第一話『男と少年』 薔薇乙女も使い魔 17 第二話『休暇の終わり、戦の前』 薔薇乙女も使い魔 18-1 第三話『北花壇騎士、再び』 上 薔薇乙女も使い魔 18-2 第三話『北花壇騎士、再び』 下 薔薇乙女も使い魔 19-1 第四話『作戦』 上 薔薇乙女も使い魔 19-2 第四話『作戦』 下 薔薇乙女も使い魔 20 第五話『虚無』 第五部 薔薇乙女も使い魔 21 第一話『課外授業』 薔薇乙女も使い魔 22 第二話『その炎は罪深く』 上 薔薇乙女も使い魔 23 第二話『その炎は罪深く』 下 薔薇乙女も使い魔 24 第三話『墜落』 薔薇乙女も使い魔 25-1 第四話『乙女達』 上 薔薇乙女も使い魔 25-2 第四話『乙女達』 下 第六部 エピローグ 薔薇乙女も使い魔 26 エピローグ 薔薇乙女も使い魔 27 おまけ
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next 「困ったわねぇ」紅いドレスの人形がつぶやいた 「困ったなぁ」眼鏡の少年がため息をついた 「あたしだって困ってるのよ」ブロンドの少女がぼやいた 二人の戦いで吹っ飛ばされて気絶したジュンは、ルイズの部屋に運ばれていた 日も暮れた頃、ようやくお互いの事情を語り始めることができた 三人でテーブルを囲み、どうにかこうにか語り合った ジュンと真紅は地球の事、ローゼンメイデンの事、アリスゲームの事、ジュンが真紅のミーディアムである事、nのフィールドを通過して帰宅している途中にハルケギニアへ来てしまった事、etcを話した。 ルイズはハルケギニアの事、トリステイン魔法学院の学生である事、春の使い魔召喚中であった事、サモン・サーヴァントによって彼らが召喚された事、コントラクト・サーヴァントによってジュンが使い魔にされてしまった事、etcを話した。 そう、今ジュンは、真紅と翠星石のミーディアムである上に、ルイズの使い魔でもあるのだ。それが証拠にジュンの左手の甲にはルーンが、左薬指には薔薇をあしらった巨大な指輪がある。 「それで僕は、どうすればいいんだ?」 左手をじっと見つめながらジュンが何度もつぶやいた。ここぞと言わんばかりにルイズが立ち上がり、ジュンを指さして高らかに宣言した。 「使い魔として当然!あたしに仕えてもらうわよ!!」 「無理ね」 真紅が紅茶を飲みながら、しれっと口を挟んだ。体に似合わぬ大きさのティーカップを両手で持ち上げながら 「無理ってどういう事よ!?使い魔のクセに主人に逆らう気?」 「ああまったく飲みにくいったらないわ」 真紅は優雅に?カップを更に戻した。人間用のイスにちょこんと座る真紅の姿に、ルイズは密かに (あぁ、なんてくぁわいいのかしらぁ。これであの口の悪さがなければねぇ) と思っていた。 「答えなさいよ、なんで主人の命令が聞けないって言うの!?」 真紅はキッとルイズを睨み付け、淡々と語り出した。 「まず第一に、使い魔なのは私じゃなくてジュンよ」 「な、何いってんのよ!?あんた、その平民の人形なんでしょうが。 そしてその平民は私の使い魔なの。つまり、使い魔の所有物は主の所有物。 だから、あんたもあたしのモノなのよ!!」 「違うわ、私は私だわ。別にジュンが私を所有しているワケじゃないの。ただ契約をしているだけなの」 相変わらず真紅は淡々と語る。真紅は更に続ける 「それにあなた、使い魔とかなんとか言ってるけど、全然ジュンを支配出来ていないみたいね。 ジュン、この子の事をどう思う?何か、威圧されるとかある?」 問われたジュンは顔を上げ、ルイズをじぃっと見つめた 「うーん・・・確かに何か、ちょっと・・・」 「ジュン、ハッキリいってちょうだい」 「う~ん~、綺麗だなって」 ぱちーん 真紅の髪がムチの如くジュンの頬を打った ルイズは、綺麗だと言われ、ちょっと頬を朱く染めた 「そういう話をしているんじゃないわ。ジュン、他に何かないの?」 「いててて。いきなり何すんだよ、まったく えーっと、まぁ、ぶっちゃけ、別になんにもねぇ」 「そ!そんなバカな!ホントになんにもないの!?」 焦るルイズににじりよられ、ジュンはコクコクと頷いた。 真紅はルイズにニッコリ笑いかけた 「ルーンの魔力による精神支配、指輪で邪魔させてもらってるの」 うぐっ そんな擬音が聞こえそうなほど、ルイズは目に見えて動揺した それでも必死に胸を張って言い返した。 「ふ、ふん!何言ってるのよ、そんなの、これからゆっくり躾ければいいのよ。 なにしろあんた達はこの異世界に召喚された以上、あたしに頼らなきゃご飯も食べられないんだから!」 ふっふーん♪ そんな感じで余裕をみせるルイズだが、それでも真紅は微笑んでいた 「そうね。この世界で暮らすなら、あなたの使い魔をする事も受け入れる必要があるわ」 「なんだ、わかってるじゃなーい☆」 ルイズは更に鼻高々でふんぞり返った。 だが真紅は、そんなルイズにとって死刑宣告にも等しい一言を発した。 「でも私達、そろそろ帰らせてもらうわ」 「な``っっ!!」 ガタッバタンッ たじろいだルイズがイスを倒してしまった。 「な、ななな、なに無茶苦茶を言ってるのよ!? あんた、ひ、人の話をきいいてなかったっていううわけぇ!? いーい?あんた達はあ・た・し・が!召喚したの、このハルケギニアに! で、異世界へ送り返す呪文なんて、無いの! だから!あんた達は帰れないの!あたしの使い魔をやるしか」 「お帰りホーリエ、とても早かったわね。頑張ったのね」 真紅はルイズを無視して鏡台を見ていた。 鏡台は、何故か鏡面が淡く輝いていた。 そして、鏡面に波紋のような模様が広がると、中心から光の玉が飛び出した。 光の玉はジュンと真紅の間に来て、ふよふよと飛び回っていた。 「真紅、どうだった?」 「大丈夫よ、ジュン。スィドリームを見つけたって言ってるわ」 「よかったぁ♪これで帰れるな」 「でも、相当遠いみたいよ。ジュンの力を必要とするかもしれないわ」 「帰るためだからな、我慢するさ。遠慮無く使えよ」 と言ってジュンと真紅は立ち上がり、鏡に向かって歩き出した。 「ま、まま、待ちなさいよ!主ほったらかしてどこ行く気よ!?」 呼び止められてジュンが振り向き、頭を下げた。 「ルイズさん。お茶とお菓子、とっても美味しかったです。ありがとうございました。 少しだけど異世界観光も出来て、楽しかったです。 それでは僕達は、さっき話したnのフィールド経由で帰らせてもらいます。 ルイズさんは新しい使い魔を召喚して下さいね」 と言って再び鏡に向かっていった。 真紅もちょっとだけ振り向き 「さよなら。お茶はとっても美味しかったわ」 と言ってさっきの光球と共に、さっさと鏡の中に入っていった ルイズは唖然としていた。 幾たびの失敗の果てに、やっと召喚した使い魔が それも、平民の子供はともかく、子供に付き従う超レアものゴーレムが 魔法まで駆使する高度な知性と魔力を持った自律式自動人形が ファーストキスまで失ったのに さっさと異世界へ帰ろうとしている 「それでは失礼します」 と言って、ジュンも鏡に入ろうと手を「まちなさい-----いっっ!!」 ルイズが思いっきりジュンにタックルした! 「う!うぅわぁあ!何すんだよ!?は、はなせぇ!!」 「離すモンですか!!あたしの使い魔が、進級が!レアものがあぁ!!」 「だ、だから新しいのを召喚すれば良いだけって、う、うわ!ぅあああ!!!」 かたや渾身の力で、それこそ命がけの必死さで掴みかかるルイズ。 かたや長期間の引きこもり生活で、すっかり体がなまっていたジュン いくら学校への復帰を決意し、真紅や雛苺や翠星石との遊びに付き合わされて、 毎日激しくもみくちゃにされていたとはいえ、ジュンにはルイズを引きはがせず その結果 「ぅあ!うわあああああああああああああ!」 「ひぃ!きゃあああああああああああああ!」 二人とも、絡み合いながら鏡の中へ転落していった back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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薔薇乙女も使い魔menu/ next ・・・・・ やわらか くちに なにか さわった 何が起こったんだろう? 唇に柔らかい感触を感じ、意識を取り戻した 目に光を受け、ゆっくりと瞼を開けていく 突如、体が燃えるように熱くなった! 「ぐああああああ!あぁあ!ぃぎゃああああああっっ!!」 散々のたうち回った末に、ようやく収まった 脂汗をたらし、ハァハァと息をつきながら、ようやく体を起こし、周囲を見た 「あんた誰?」 抜けるような青空をバックに、桜田ジュンの顔をまじまじと覗き込んでいる女の子が言った。何か制服のようなものを着た、長いブロンドの女の子だ。 ジュンは顔を上げて辺りを見回す。草原の中に、同じ制服を着た沢山の生徒達がいる。その向こうには大きな城だ。 「・・・、・・・。・・・・、え?」 ジュンは一瞬ほうけてしまった 「名前よ、なーまーえ」 女の子は更に問いかける。 ピンクがかった長いブロンドの髪、白い肌。外人かな?でも、日本語でしゃべってる 「・・・ジュン。桜田、ジュン・・・・です」 『薔薇乙女も使い魔 プロローグ』 ここは・・・どこだろう?えーっと・・・なぜここにいるんだろう? さっきの熱さは何だったんだろう? ・・・・・ そうだ! あの「お父様」の偽者のせいで、真紅達ローゼンメイデンが戦わされて 薔薇水晶にローザミスティカを奪われて、でも薔薇水晶も6つのローザミ スティカに耐えられなくて自滅して、偽物と一緒に消えて、そんで「ロー ゼン出てこい!」とか叫んだら、ホントに来てくれたらしくて、 目を覚ました真紅と一緒に帰ろうと、扉をくぐって・・・・ 「真紅!?真紅は!!」 狼狽した彼は、すぐに向こうで眠る紅いドレスのアンティークドール--ローゼンメイデン第五ドール「真紅」--を見つけた。 「よ・・・よかった。ふぅ、どうやら戻って来れたんだ」 「ちょっと、何を無視してくれてるのよ。何が良かったのよ!? あんたどこの平民?」 「へ、平民?なにそれ?? ・・・あの、すいません。ここってどこ? 見たとこ日本じゃないよな」 キョトンとしたジュンの言葉は彼女の耳には届いていなかった 「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできたね」 黒いローブの男が彼女に言った 「相手がただの平民のガキだから契約できたんだよ」 「そいつが高位の幻獣だったら契約なんか出来ないって」 何人かの生徒が笑いながら言った 「バカにしないで!私だってたまにはうまくいくわよ!」 「ホントたまによね、ゼロのルイズ」 「ミスタ・コルベール!洪水のモンモラシーが・・・」 彼女は生徒達のからかいに必死で抗議していた。 何がなんだか分からないぞ。 あのルイズという女の子は、あのコルベールという男は、生徒達は何の話をしているんだ?周囲にいるモンスターみたいなのは何なんだ?まるで本物みたいだ 一体何が起きたんだ?? ジュンは、ルイズと呼ばれた少女に声をかけるのは後回しにした。状況はどうあれ、彼には一番にしなければいけない事があった。 「おい、真紅。起きろよ。おい真紅」 ジュンは真紅の体を優しく起こし、軽く頬を触れた コルベールはジュンの声を聞き、何気なく彼を見て、固まった 隣にいたルイズも何気なくコルベールの視線の先を見て、やはり固まった 「コルベール先生・・・これって・・・」 「し、信じられん。そこの少年の人形じゃなかったのか? まさか、2体も召喚していたのか!?」 2体、といわれて周囲の生徒達も一瞬で静まりかえり、こちらをじっと見つめる 「お、おい・・・あれ、人形じゃなかったの?ゴーレムか?」 「まさかぁ、どうみても生きてるわよ」 「えーっと、人間じゃないわよね、小さいし。亞人かなぁ、小人?」 「もしや、ただの子供なんじゃ?でも、それにしては何かヘンな・・・」 最初は笑っていた生徒達が、一瞬で静かになり、次に何か妙な雰囲気でさわさわと話し始めた。 生徒達が見つめる先には、目を覚まして立ち上がった真紅がいた 周囲をキョロキョロと見回している そして、その小さく可愛い口から、言葉がもれた 「ジュン、ここはどこなの?」 「え?いや、さぁ・・・日本語通じてるから、日本なのか?」 「どうなってるのかしら? 確かにnのフィールドを通って家に帰るところだったわよね?」 「うん、扉を通って帰ろうとして・・・真紅の知らない場所?」 「知らないわ」 「困ったな・・・おまけに真紅をこんな沢山の人に見られたぜ」 真紅とジュンは困っていた。そして、傍らのコルベールとルイズも 「あ、あの!コントラクト・サーヴァントをやり直させて下さい!」 いきなりルイズが叫んだ コルベールは困った顔で、首を横に振った 「言いたい事は分かるよ。そこの平民じゃなくて、えと、ゴーレム?の方と契約し直したいんだね」 「そ、そうです!きっと私が呼び出したのは、そっちのゴーレムの方です! お願いします!もう一度コントラクト・サーヴァントを!」 「これは…伝統なんです、ミス・ヴァリエール。例外は認められない。」 「そんな!」 懇願するようなルイズの叫びにも、しかしコルベールはただルイズに視線を送り、宣告する。 「もう、契約してしまったんだ。すまない。この春の使い魔召喚は神聖な儀式だから、事情はどうあれ、もう変更できないよ」 「でも!神聖な儀式だからこそ!正しく契約を行うべきでは!?」 あの大爆発の連続も正しい契約なのだろうか、というコルベールの突っ込みは口にはされなかった。口にしたのはもっと冷静で冷酷な決定事項だった 「そう、そしてあの2体が召喚された。そして、平民の少年と契約してしまったんだ。 本当にすまない、もう少し早くあの、えと、亞人?の存在に気付いていれば」 「でも!2体も召喚されるなんて!平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!」 ルイズがそういうと、事態の推移を眺めていた周囲の生徒達がどっと笑う 「いやまぁ、ゼロのルイズには平民の方がピッタリなんじゃないか?」 「ん~残念な結果ねぇ~。でも2体も召喚だなんて、さすがはルイズかしら?」 ルイズは人垣を睨み付ける。だがそれでも笑いは止まらない 「真紅、一体どうなってるんだ?」 「分からないわ。ところでジュン、その左手は何?」 ジュンは自分の左手を見た。そこには見慣れない文字が躍っている。 「ふむ・・・珍しいルーンだな」 コルベールが何時のまにやら近寄って、左手の文字をメモしていた。 「あのぅ、えと、コルベールさんでいいですか?」 「うん?ああ、なんだね少年」 「えーっと、その~・・・聞く事が多すぎて、何から聞けば良いやら」 「ふむ、当然の事だと思う。だが、残念ながら時間がないんだ。 詳しい事は君の主、ミス・ヴァリエールから聞くといい。 それにしても・・・」 コルベールは真紅をまじまじと見つめた 「うーん、人間にしか見えないな。でもさっき確認した時は、確かに人形だったし」 「レディをジロジロ見つめるのは失礼でなくって?」 真紅に咎められ、慌ててコルベールは一歩下がった 「これは失礼致しました。 お初にお目にかかります、レディ。私はこのトリステイン魔法学院で教師を務めるコルベールと申します。失礼ながら、お名前を教えて頂けますか?」 丁重に頭を下げて自己紹介するコルベールに、真紅もドレスの裾をつまみ上げ、チョコンと頭を下げた。 「よろしいですわ。私の名は真紅。ローゼンメイデンの第五ドール。 お会い出来て光栄ですわ、ミスタ・コルベール」 「ドール!?するとあなたは、やはり人形なのですか!?」 この言葉を聞いた周囲の生徒達もどよめいた --まさか、本当にゴーレムなのか。でもろーぜんめいでんって何だ? --そんなはずない、自律式の自動人形を完成させた魔術師は未だにいない --どう見ても亞人よ。それにしても、可愛いわねぇ --でもさっきコルベール先生が、手足が球体関節だって。腹話術ってヤツか? --インテリジェンスソードみたいなもんだろ?きっと誰か完成させたんだ --待って。すると、その所有者は、あの平民!?まさかあの子、あれで貴族!? --いや、杖もないし、貧相だし、何かヘンよ 周囲の生徒達の混乱は、ますます深まりつつあった 「さぁ諸君!ともかく春の使い魔召喚は全て終わった 聞きたい事は山ほどあるだろうが、今は教室へ戻ろう」 ここでコルベールが大きな声で叫び、きびすを返して宙に浮いた 他の生徒達も一歩遅れて、一斉に宙に浮いた 「ルイズと使い魔達、お前達は走ってこいよ!」 「後でその子達の事教えてねー」 「急げよー」 そういって、生徒達は飛び去っていった。 後に残ったルイズ、ジュン、真紅は立ちつくしていた 「ジュン・・・みんな飛んで行ったわ」 「真紅・・・・みんな飛んでいったな もしかして俺たち、まだnのフィールドに居るんじゃないか?」 「それは無いわ、確かにここは現実よ ねぇ、そこのあなた。確かルイズって言ったかしら? そろそろ事情を教えてちょうだい」 そう問われたルイズは、ゆっくりとジュン達に向き直り、押し黙り、肩をわなわなと振るわせ始めた。 「あら、どうしたの?」 「あんたら!なんなのよ!!なんでこんな事になるのよ!!どうしてよりによって平民のガキと契約しなきゃなんないのよー!!!」 「聞いているのはこっちよ。 答えなさい、ここはどこなの?どうして私たちはここにいるの?」 「なぁんですってぇえっ!!貴族に対してなんて口の利き方!」 そう叫んだルイズは、真紅につかみかかろうとした ビシィッ!「触れるな」 ルイズは、真紅の平手打ちに、つかみかかった手をはじかれた 「まったくなんて下品で粗暴なのかしら? それで貴族を名乗るなんて、おこがましいにもほどがあるわね」 「ぬ、ぬぁあんですってぇえええっ!!」 激怒したルイズが杖を真紅に向けた 「まま、まった!二人とも落ち着いて!ここでケンカしても何にもならないぞ!」 間に割って入ったジュンが二人を止め、ルイズに頭を下げた 「と、ともかく!失礼な事を言ったのは僕からも謝ります。すいません でも、僕らも何がなんだか分からなくて困ってるんです とにかく事情を教えて下さい、お願いします!」 「あらジュン、ずいぶんと紳士になったのね」 「いいから真紅も、ホラ!」 「そうだわね、私も少々無礼だったわね ごめんなさいだわ」 真紅も素直に頭を下げた。ルイズはようやく杖をおさめ、ジュンと向き合った 「ふ、ふんっ!まぁいいわ。あなた達もいきなり召喚されて混乱しているでしょうし。 まずは名乗りましょう。我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたの主よ」 「僕は桜田ジュンです、初めまして・・・・あるじって、何が?」 「ああ、寝ている間だったから気付かなかったでしょうね。 その左手にルーンがあるでしょ」 「ああ、あるな」 ジュンには読めない文字が、左手に踊っている 「あたしはあなたと契約したの。『コントラクト・サーヴァント』を」 「へ・・・・こんとら・・・?」 ジュンは首をひねって考えた。そういえば、目が覚める時、何か口に触れて、体が熱くなってたような 「それよ。・・・か、感謝しなさいよ!貴族が平民にあんなことするなんて、普通は一生ないんだから」 「てことは・・・あれは、まさか、き、キ・・・」 ジュンは真っ赤になった ルイズも真っ赤になった 二人の視界まで真っ赤になった 「「え?」」 真っ赤な薔薇の花びらが、二人の周囲を覆い尽くしていた 「あなた・・・私が寝てる間に・・・まさかジュンに!私のミーディアムに!!」 怒りで震える真紅の左手から、大量の薔薇の花びらがわき出していた。 そしてその花びらはルイズを包囲し始めた。右手にはステッキも構えている 「う、うっさいわね!あたしだって、あたしだってファーストキスをこんな平民なんかとしたくなかったわよ!!」 ルイズも杖を構える 「ま、まてぇ!だから、話をぉぉ!!」 ジュンが間に割って入って止めようとした ちゅどーん 夕暮れの草原に、派手な爆発音が響いた 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next 「まったく二人とも、何をしているの?」 真紅は大きな葉っぱの上にジュンとルイズを乗せて、呆れていた。 「いつつつつ・・・何すんだよルイズさん!」 「な、何をするって、それはこっちのセリフよ! 使い魔が逃げ出せば、追いかけるに決まってるじゃないの!?」 「だから~、新しい使い魔を召喚すればいいだけでしょう?」 「うっ!」 ルイズは、みるからに動揺した。冷や汗もダラダラと流し始めた 「・・・もしかして・・・出来ないんですか?」 「そっ!・・・そんなわけ、ないでしょうが!で、でもね」 ルイズはすっくと立ち上がり、ビシィッっとジュンのルーンを指さした。 「あたしはあんたと契約したの!それが証のルーンよ 新たな召喚をして契約するには、前の使い魔が死ななきゃいけないのよ!」 「え」 ジュンは左手のルーンをじっとみつめた。 「あんた、あたしに殺されたい?」 「え・・・いや、それは困る。これじゃ、まるで奴隷っつーか、奴隷以下? というか、なんだよその契約は!?呪いじゃねぇか!!」 「知らないわよ!そういう契約なのよ!!」 ジュンはルイズとルーンと薔薇の指輪を見比べた。 なんだか、真紅と契約したときもこんな感じだった気がする。 「そして、あたしも使い魔が居なきゃ困るの。メイジとしてね 何しろ、メイジの格は使い魔を見れば分かるって言われるくらいなんだから」 「う~ん、けど、こっちも帰らなきゃいけないしな。勝手な事言われても困るぜ。 なんとかこれ解除できないかな」 「殺す以外の方法?聞いた事無いわね」 ジュンは頭を傾けて、どうしようかと考えていた そしてルイズは爆発寸前なほどイライラしていた。 周囲の状況も見えないほどに 「ルイズ、そんなに使い魔が必要なの?」 「そりゃそうよ、これはあたしのメイジとしての一生が・・」 突然後ろから声をかけられ、ルイズは振り向いた。 そこには、真紅が立っていた。 突き抜けるような青空の向こうに、何か木のようなものがかすんで見える 何もない空の中に、真紅が浮いていた ルイズは大きな葉っぱの下を覗き込んだ。 雲海で何も見えない空が 「キャアアアアアアアアア!!!!!」 ルイズは葉っぱの上にへたりこんでしまった 「な!何よここ!?どこなのよ!??どうしてこんな所にいるのよぉ!」 葉っぱにしがみついて叫び続けている そんなルイズを尻目にジュンと真紅は視線を合わせ 真紅は意地悪っぽくウィンクして ジュンは、にひひぃ~♪ と、こっそりニヤニヤ笑った 真紅はルイズに近寄り、優しく話し始めた 「ここはnのフィールド。さっき話した人間の夢の世界よ あたし達はここを通っていろんな場所へ行けるの でもここはとてもとても迷いやすい場所だわ あたし達ローゼンメイデンしか、この空間を通り抜けられないわ」 「そして私も、ですよ。可愛い迷子達」 突然何もない空間に、白い裂け目が出来た そこから飛び出したのは、ウサギ頭に燕尾服 「やっぱり来たわね、ラプラスの魔」 真紅はラプラスの魔に正面から向き合った ジュンは葉っぱの上に立ち上がり、油断無くウサギを睨み付ける 意識を左手の指輪に向ける。いつでも真紅に力を送れるように ルイズはガタガタ震えながら、視線だけ動かして、その怪人を見た 「道化だけではありませんよ。薔薇乙女の半身達も、またここに」 そう言うと同時にラプラスの背後から、3つの光球が飛び出した 3色の光が真紅とジュンの周囲を嬉しそうに飛び回る 「あら、スィドリームだけじゃなくってピチカート。 それにメイメイも・・・」 「メイメイって、あの水銀燈の?へぇ、あいつが俺たちを捜しに・・・」 何か二人だけで分かる単語が飛び交い、ルイズは完全に置いて行かれた 分かったとしても、この高さ。恐怖に震える彼女に届く言葉ではない ウサギ頭が大仰に両手を広げ、朗々と語り出した 「嵐に巻かれた船員さん達 そろそろ港に帰る時間ですよ。 人形達が居なければ、人形劇が始まりません それはとてもとても退屈な時間です。」 「ふざけるな!お前の暇つぶしのために真紅も、雛苺も、蒼星石も・・・」 握り拳をわなわなと振るわせ、ジュンはラプラスの魔へ飛び出そうとした 「待って、ジュン」 真紅はジュンに振り向き、飛びかかろうとするジュンを制した 「なんでだ真紅!?こいつはあの偽物野郎と」 「そうかもしれないけど、今は帰るのが先よ」 「くっ・・・」 ジュンは震える拳を下げ、黙ってラプラスの魔を睨み続けた 「さすがは聡明なる第五ドール それではウサギの穴から帰りましょう でもお気を付け下さい、この穴は長く暗く、そしてまぶしくもろい ゆめゆめ闇と光にまかれることの無きよう、ご注意を」 ラプラスの魔は背後の空間を白く切り裂き、きびすを返した 「おい、イタズラウサギ」 「なんですか?ネジを巻いただけの少年」 ジュンがラプラスの魔に向け、口を開いた 「時間が惜しい、飛ばすぞ」 「ほう、よろしいのですか? あなた方はともかく、そちらの迷子のお嬢様には、少々刺激が強いかと」 「構わないさ。真紅もいいよな?」 「ええ、急いでちょうだい」 そんな話をする三人を見て、恐怖で動けないルイズは、更にイヤなモノを感じた 話を終えた三人がルイズを見て、少し笑った 何か、イヤなものが混じった笑みを 「あ・・・あの、ちょっと待って、いいいったい、何の話を・・・ひいいぃぃいええええええええっっっ!!」 言うが早いかジュンとルイズ、そして真紅も乗った巨大葉っぱが ラプラスの魔と光球達に先導されて、もの凄い加速で飛び始めた! 「ぃぃぃっぃいいやあああああああああぁぁぁぁぁ・・・」 ルイズの悲鳴はドップラー効果を残して消えていった 大瀑布の中を突っ切った 矢が飛び交う戦場を駆け抜けた 密林の木々をすり抜けた 一寸先も見えぬ暗黒の地下に潜った 見た事もない巨大な遺跡の門をくぐった 幻獣達が牙をむく草原を渡った 悪臭を放つ汚泥を彷徨った 病と死に支配された貧民街を飛び去った 果てしなく巨大な樹の根本まで落ちていった 光のささぬ深海から浮上した ラプラスの魔と、一行をのせた葉っぱは、時には風よりも速く、音よりも速く飛んだ 数多の夢と現を 闇と光の中を いくつもの次元の扉を 世界と世界の狭間を 悠久の時を あるいは雷よりも速く駆けていった そして 「楽しき旅も、しょせんはうたかたの夢 目の前にあるは、穏やかだがけだるい日常 それでは皆様、しばしの別れ 道化師は再び舞台裏へ」 そういってラプラスの魔は、また次元の狭間へ消えていった 残されたのは、大きな葉っぱに乗ったヘロヘロの乗客だった 「はぁ・・・やっとついた。うあー、かなり力吸われたぁ」 「お疲れ様だったわ、ジュン。でも結構元気そうね じゃ、ルイズはよろしくね」 ルイズは、とっくの昔に気絶していた 真紅と、ルイズを抱えたジュンが出た先は、桜田家の倉庫だった。 いつもの鏡から出てきた真紅達の前に、 翠星石 「真紅ぅ!ジュンん~~~!!心配したですぅ~!!」 金糸雀 「真紅!ジュンも!無事だったのかしらーーーーっ!!」 桜田のり 「ジュンくん、真紅ちゃん・・・良かった、無事だったのね」 柏葉巴 「必ず戻ると信じてたわ。二人とも・・・・お帰りなさい」 草笛みつ 「よ、よかったわぁ。ホント良かった。これで一安心ね」 柴崎さん 「おお、ジュン君も無事じゃったか、良かった良かった。ほんに良かったわぃ」 みんなが泣きながらだきついてくる ようやくの再会を喜び合う 「ただいま、みんな心配かけたわね」 「ねえちゃん、翠星石、みんな。ただいま。 どうにか帰って来れたぜ」 ちくしょう、泣けてくる。涙がとまらねぇ そして倉庫の入り口からは黒い羽根の先が見える。水銀燈だ さすがに中には入りづらいらしい ようやくの再会を喜び合い、その後 「えーっと、もしかして金糸雀のマスターですか?」 「あ、はい。初めまして。草笛みつと言います へぇ~、あなたがローゼンメイデンを2体も所有するミーディアムですかー」 「みっちゃんもあなたたちを心配してぇ来てあげたの。感謝するかしら?」 と言う風に、なんだか和気あいあいと茶飲み話に花が咲きそうになった だが、水銀燈が倉庫の中に、決定的に空気を凍り付かせる一言を放った 「真紅・・・蒼星石と雛苺のローザミスティカはどうしたのぉ?」 back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next ・・・・・ まぶしいなぁ もう、朝なのかな? 起きなきゃ 起きて、また授業に出て、魔法失敗して、ゼロってバカにされて なによ!次こそやってやる!!絶対成功させてやるんだからぁっ!! 見てなさい、ぎゃふんといわせてやるわ!! ルイズはゆっくりと目を覚ました だが、おかしな事に気が付いた ベッドが固い、小さい、肌触りも悪い これ、あたしのベッドじゃない あれ?なんだっけ、えーと、何か忘れてる。 えーっと~ ルイズは目を開けた 見知らぬ天井があった ヘンな部屋ね、おまけに小さい狭い ゴチャゴチャしてるし、見た事もないモノが並んでいるし もしかして、これって平民の部屋? 窓から外を見ると、見た事もない不思議な町並み 狭苦しく、幾何学的で、やたらと四角い建物が並んでいる ここはどこだろう? へいみん・・・・へいみん、平民、えーと。 平民って、何か、思い出しそうな 平民 「あーーーーーーっっっ!!!」 ここは!ここはまさか!!あの平民の!? 異世界ぃっ!! そそそそんなまさかまさまさまさかさか どどどどどど、ばたん! 「○△×◇→! ̄?¥^@-。!!」 突然扉が開けられ、平民の女が慌てて飛び込んできた だけど、何を言っているのかまったく分からないわ 「wt―∩^pl?・・・。;lk、:;」 優しく微笑みながら何かを言って、手をおずおずと差し伸べてくる どうやら、大丈夫だから安心して欲しい、と言いたいらしいわね あら。その後ろから、小さな人影がこちらの様子を覗いている 大きさは、あの真紅というゴーレムと同じくらいね 緑の服に、赤い右目と緑の左目 「・・・あのゴーレムの仲間?」 「だぁれがゴーレムですぅ!?失礼極まりないですねぇ、このちんちくりんはぁ」 というが速いか、ささっと女の影に隠れた。 「ち、ちんちく・・・」 さっきの女が緑のゴーレムと何か会話している。 「つgc(`ゞm(_ __T)」 「ええ、そうですぅ。まあぁ、そうなんですかぁ」 不思議ねぇ、まったく違う言葉を使ってるのに、会話ができてるなんて 緑ゴーレムがこっちを向いた。 「えっとです、まず、私の名前は翠星石、ローゼンメイデン第三ドールですぅ。 はじめましてですぅ、ちんちくりん」 「ち、ちんちくりんなんかじゃないわ! わ、わたしは・・・我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたは私の言葉が分かるのね?」 「もちろんですぅ♪それでは、真紅もジュンも待ってるですから、こっちに」 と言って部屋を出ようとした緑ゴーレムは、ふとこちらを振り返った 「それと、私たちローゼンメイデンはゴーレムなんかじゃないです! れっきとした人形ですぅ」 「そ、そうなの?あたしも、ちんちくりんじゃなくて、ルイズよ ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「分かったですぅ。それじゃルイズさん、こちらへ来やがれです」 「き、きやが・・・」 なんだか頭が痛い だが、この程度の痛みは、まだ序の口だということを、ルイズはまだ知らない 桜田家の応接室に、夕日が差し込んでいる ルイズの寄宿舎の部屋より狭い部屋に、様々なモノが詰め込まれている どれもこれもルイズが見た事のないモノばかりだ よく見れば、沢山の人が来て、そして既に帰った後だということが分かったろう。 だが、今のルイズにそんな事を気にする余裕はなかった テーブルを挟んで座る真紅・翠星石、そしてジュンを睨んでいた 紅茶を運んできたのりは、おろおろしていた 「か・・・帰れないって、帰さないってどういうこと!?」 バンッ!っとルイズは机を叩いて立ち上がった 「簡単な事よ、あなたは使い魔としてジュンと私が欲しいのでしょう? でも私たちはこの家に帰りたい だったら、あなたがこの家に来ればいいのだわ これで全て解決ね」 真紅は自分用の小さなティーカップで、悠々と紅茶を飲んでいた 「ば!バカ言わないで!?私だって家に帰らなきゃいけないのよ!!」 「どうやってですぅ?」 翠星石は悪女のような微笑みで尋ねた。 「ど、どうやって、どうやってって・・・それは、あなた達なら・・」 「うっせーなー。なんで僕等がそんなメンドクセー事しなきゃいけねーんだ? 第一、ここに来るまでにどんだけ僕が力を使ったか、分かんないクセに」 ジュンはそっぽを向いて、吐き捨てるように言った 「 ̄_kご(^_;・・・km」 のりがなんとか彼らを仲裁しようと必死になっている 翠星石の通訳のおかげで大体の話は分かるが、いかんせんルイズの言葉が話せない。おかげで言いたい事が伝えられず困っている 「そ、そんな・・・さ、桜田ジュン!我が使い魔よ!」 ルイズはジュンをキッと睨み付けた 「・・・んだよ」 ジュンはじろっとルイズを見た。 「あ、主としての命令です!私をハルケギニアに送り返しなさい!」 ジュンはゆっくりとルイズに向き、ハッキリと言った。 「やだね」 「な!?主の命令が聞けないっていうの!?」 「主の命令を聞かなかったら・・・何だ?」 「な、何だって、その、あの・・・」 ルイズは自分の状況をよく考えてみた。いや、考えるまでもなく絶望的だった 杖は無い、部屋に置いてきてしまった あっても魔法は爆発するだけ。爆発で彼らを死なせたら、本当に帰れなくなる いえ、仮にまともな魔法を使えても無駄。時空を渡る魔力すら持つ人形。それも2体。スクウェアクラスでも勝てるかどうか 使い魔への衣食住の提供も出来ない。自分の分すら、ここにはない 私はこの世界の言葉すらしゃべれない。ジュンや真紅が話せるのは、おそらくルーンの力。ルーンと指輪を通して会話しているから。だから、あの女の言う事も分からない ルーンの精神支配も妨害されてる。いえ、妨害されているからこそ、私は無事なんだ。もし、本当にルーンの精神支配が効いていたら、人形達が、ルーンを消すために、私を殺そうとする どっちにしても、彼らにとって邪魔なルーンの主である私を生かしておく理由が、ない 私は、この世界では、生きられない。 まさか、まさか今すぐにでも・・・こ、殺される!? 翠星石が邪悪な笑顔と共に、更にダメ押しをした 「ようやく分かったようですねぇ、ちんちくりーん♪ 今、お前の命は我々が握っているのですよぉ~。 さぁ~あ、分かったら今からこの私を「翠星石様」と呼ぶのです! あなたは我々の使い魔、いいえ!奴隷となるのでぇ~~~す♪」 翠星石がテーブルの上に立ち、おーほっほっほっほ、と高笑いをした ルイズは、力なく床に座り込んだ うなだれたまま、ピクリとも動かない そして、しばらくの後 「・・・ごめん、なさい・・・」 ルイズは、力なくつぶやいた 「あぁ~~んん?何か言ったですかぁ~~??」 翠星石がいやらしい笑顔と共に、わざとらしく耳を寄せる 「ごめん・・なさい、本当にごめんなさい!どうか、許して下さい!! こんな、こんな事になるなんて思わなかったんです。 使い魔にしようとしたこと、謝ります。本当にごめんなさい だから、だから、助けて、下さい。お願い・・・しま・・・す・・・」 ぽろぽろと大粒の涙を流しながら、ルイズは必死に謝った それを見たジュンと真紅、そして翠星石も、困った顔で見合わせた そして、のりが三人の頭を、軽くぺしっとひっぱたいた 「(-lい-)6^_^;7」 「分かってるよ、ねえちゃん。ちょっとやりすぎたよ」 「ええ、そうね。そろそろ許してあげましょう」 「ふふふ~ん、感謝するですよぉ、ルイズさん」 三人ともさっきとはうってかわって優しい笑顔でルイズを見つめた ルイズは、涙と鼻水でクシャクシャになった顔を、恐る恐る上げた 「エグッウッ、あ、あ``の``、それって、ゥッ、もじがじで」 真紅は優しく微笑み、ルイズに語りかけた 「ええ、最初からすぐに送り返すつもりだったわ。 その前に、あなたがジュンにしようとしていた事を反省してもらおうと思ったの」 ジュンもニッコリ微笑んだ 「まったくだよ。いきなり呼びつけて、無理矢理洗脳して、命がけでただ働きしろ? ルイズさん、その理不尽さはよく分かったでしょ。もうこんなことしちゃダメだよ」 翠星石は、エッヘンという感じだった 「それじゃ、善は急げです。さっそくハルケギニアに向かうです! 道は人工精霊達みんな知ってるので、遠いけど大丈夫ですよ」 「あ``、ありがどうございばずぅ!」 ルイズはジュンや真紅、翠星石にのりにまで抱きついて、泣きじゃくりながらお礼を言い続けた。ルイズに抱きつかれて真っ赤になってるジュンを見て、真紅と翠星石がこっそりジュンをつねったりもしたが。 二人につねられて、ようやく我に返ったジュンが、ルイズに話し始めた 「それでねルイズさん、帰るにあたって、一つお願いがあるんだ」 「は、はい。なんでしょうか?」 ルイズはジュンに敬語で尋ねてしまった。もはや貴族のプライドもあったものではない 「交換条件って言うワケじゃないんだけど、このお願いはルイズさんにも得だと思う」 「はい、あの、私が出来る事なら、なんとかします」 「簡単な事なんだ。実は・・・」 ジュンは、ルイズの瞳をまっすぐ見つめた。 「実は、僕をルイズさんの使い魔にして欲しいんだ」 ルイズは、自分が何を言われたのか、まったく分からなかった 自分が最も望んだ言葉であるにもかかわらず 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 寄宿舎の部屋を出た所で、むせるような色気を放つ巨乳の女に出会った 「あなたの使い魔って、それ?」 平民にしか見えない少年を指さして、バカにした口調で言った 「そうよ」 「あっはっは!ホントに人間なのね!すごいじゃない! サモン・サーヴァントで、平民を喚んじゃうなんて、あなたらしいわ。 さすが、ゼロのルイズ」 「ええ、すごいでしょ♪ほら、自己紹介しなさい」 ルイズに促された少年は、一歩前に出てキュルケの真正面に立った 「初めまして、僕は桜田ジュンと言います。 ルイズさんに召喚されて使い魔の契約を結びました。 どうかヨロシクお願いします」 そう言って、ペコリと頭を下げた。 「え?えーっと、まぁいいわ。 あたしはキュルケ、微熱のキュルケよ。こっちがあたしの使い魔のサラマンダー フレイム~いらっしゃぁ~い」 と喚ばれて、キュルケの部屋から出てきたのは、巨大な火トカゲだった 「うわぁ!真っ赤な何か!」 ジュンは慌てて後じさった 「傍にいて、熱くないの?」 いきなり、あらぬ方向から女性の声がした キュルケはその声の主を捜した。キョロキョロ周囲を見回って、ようやく足下に小さく紅い人影を見つけた。 それは、昨日噂になっていた人形だった。 「あら、この子って確か昨日のお人形よね? 結局この子ってなんなの?」 「そうそう、この子も自己紹介しなくっちゃね」 紅い人形はドレスの裾をつまみ、ちょこんと頭を下げて名乗った 「初めまして。私は真紅。ローゼンメイデン第五ドールであり、ジュンの人形です。 お会い出来て光栄ですわ。微熱のキュルケさん」 ジュンの人形、という言葉を聞いて、キュルケは唖然としてしまった そんなキュルケを無視して、ルイズは自分の部屋へ声をかけた 「それと、ほら、おいで。あなたも自己紹介しなさいよ」 その声の先には、ドアに隠れている小さな影があった 「だ、大丈夫ですかぁ?噛みますかぁ?」 「大丈夫よ、使い魔は主の命令もなく襲いかかったりしないわ ほら、こっちへいらっしゃい」 ルイズに言われて、ようやくチョコチョコと走ってきたのは、緑の服の人形だった ジュンの足に隠れながら、こわごわキュルケと火トカゲを見上げている オッドアイの、小人か何かにしか見えない人形は、顔だけ出して自己紹介した 「あ、あのですねぇ・・・私は、翠星石、ですぅ ローゼンメイデンの第三ドールでしてぇ、ジュンの人形です」 そういってすぐまた隠れてしまった 「ちょ、ちょ、ちょっとルイズ!」 キュルケはようやく我に返って、歩き去ろうとするルイズ達を呼び止めた 「あ、あんた、その人形達、一体!?」 「ジュンの人形って、本人達が言ってたでしょ」 「ちょっと待ってよ!それってあんた、まさか、使い魔をもつメイジを使い魔にしたってことなのぉ!?それに、第三とか、第五とか、いったいどんだけいるのよ!!」 「さぁ~ねぇ~、ウフフフ♪そんなことより、早く朝食にしましょ」 ルイズ達はキュルケが叫ぶ質問達を無視して、歩き去った 「どうだ?真紅、翠星石」 「ダメですぅ、この辺にローザミスティカの気配はないですぅ」 「やっぱり最初の広場から探しましょうか。 くんくん探偵でも言ってたでしょ?捜査の基本は現場だって」 「そう、まぁ焦らず行きましょ。それに、やることは他にも沢山あるんでしょ? 動かない人形さん達を直すための、魔法の勉強とか 水銀燈、だっけ?その人形のためにお薬探すとか とにかくまずはご飯よ♪エネルギー補給しなきゃ、なんにもはじまらないわよ」 そんな話をしながら、彼らは食堂に向かっていた 蒼星石と雛苺のローザミスティカが見つからないのだ 今現在確認されている4体のローゼンメイデン。その誰も、蒼星石と雛苺のローザミスティカを持っていなかった。戦闘があったnのフィールドを始め、様々な場所を探したが、見つからなかった。 ジュンは、薔薇水晶との戦いの後、お父様が6つのローザミスティカを持っていたのを見ていたという。そして、お父様が「蒼星石と雛苺の事は、自分たちで解決しなさい」との言葉を聞いている。 では、二人のローザミスティカはどうなったのだろう? 皆が考え抜いた末に出した答えは、「サモン・サーヴァント」。 二人のローザミスティカは、それぞれの体に戻るか、他のローゼンメイデンの誰かに宿るハズが、真紅・ジュンと同じくハルケギニアに召喚され、迷ってしまったのでは? 想像の範囲を超えるモノではないし、この広大なハルケギニアからどうやって探せばいいのか。雲を掴むような話だが、今の真紅達には、他に可能性を思いつかなかった。 だが、異世界であるハルケギニアを探索するには、どうしてもバックアップしてくれる人物が必要になる。確かな身分もないと、何をするにもどこへ行くにも不便だし、あらぬ疑いをかけられたりもする。 そこで思いついたのは「使い魔」という身分だった。 「さて、ジュン。あんたたちに協力してあげるんだから、このルイズ様の使い魔として、主人の顔に泥塗るんじゃ無いわよ!」 「そうね、下僕の不始末は主の不始末。ジュン、気をつけてちょうだいね」 「そうですよぉ!ただでさえチビなんですから、しっかりしないとナメられるです」 「な、なんでみんなして俺を下僕扱いなんだよ!?」 「だって、それが事実なんですもの。ねぇ、翠星石?」 「そうですぅ。ねー、ルイズ♪」 「まったくよねー♪みんな良くわかってるわね~☆」 「お、お前等・・・」 ジュンは、これからの地球・ハルケギニア二重生活を思うと、頭が痛くなってきた。ついでに、往復のために吸われる力の量を考えただけで、疲れてきた。 ルイズは絶好調な上機嫌だ。 やったわ!とうとうキュルケにぎゃふんと言わせたわ!!あたしついにやったのよ! さぁこれから忙しくなるわよぉ~。 この子達、みんなにたぁっぷり見せびらかせなきゃね~えへへへへ ジュンには魔法知識たっぷり教えて、主人の有り難さを教えてあげるわ♪ それでっそれでっこの子達連れてお買い物とかして あ、平民のジュンには剣が必要ね。片手剣、やっぱりレイピアかな 服もこの世界のモノがいるわね、特に人形達にはかぁわいいの買わなきゃ♪ えと、それからそれから・・ ルイズはスキップで空でも飛びそうだ。 さてさて、これから彼らはどうなりますことやら それは異世界をまたにかけた冒険譚か、はたまた血濡れの悲劇か 道化の人形劇においてか 王宮の歴史書においてか いつか語られる日もありましょう 『薔薇乙女も使い魔 プロローグ』 END back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next 幼いルイズは屋敷の中を逃げ回っていた。 迷宮のような植え込みの陰に隠れ、追っ手をやり過ごす。 二つの月の片一方、赤の月が満ちる夜。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?ルイズ!まだお説教は終わっていませんよ!」 遠くから母の声が聞こえる。いつものように、出来の良い姉たちと比べられ、叱られて いた。 探しにくる召使い達。皆が私の出来の悪さを噂している。 哀しくて、悔しくて、誰にも見つかりたくなくて、『秘密の場所』へ逃げ出す。 あまり人の寄りつかない、中庭の池へ。 池の周囲には季節の花が咲き乱れ、小鳥が集う石のアーチとベンチがあった。池の真ん 中には小さな島があり、そこには白い石で作られた東屋が建っている。島のほとりには、 小舟が一艘浮いていた。 ルイズは小舟の中に忍び込み、用意してあった毛布に潜り込んだ。 「泣いているのかい?ルイズ」 霧の中から声が聞こえる。 「子爵さま、いらしてたの?」 島の岸辺に現れたのは、マントを羽織った若くて立派な貴族。憧れの子爵。 つばの広い、羽付帽子に隠れて顔は見えない。 でも、帽子の下でニッコリ笑った。 島の岸辺から、そっと手を差し伸べてくる 「子爵さま・・・」 「また怒られたんだね?安心しなさい。僕からお父上にとりなしてあげよう」 ルイズは頷いて、その手を握ろうとした。 その時、風が吹いて霧が晴れた。 東屋の中に人がいた。 貴族を背後からジッと見つめる、子供の姿があった。 子供は両手に人形を抱き、背中に皮布で包んだ長剣をさしている。 みんな・・・ 幼いルイズは、子供と人形達に呼びかけようとした だが、声が出ない。誰も答えない 月明かりの下、ただ無表情にジッと貴族を見つめていた。 ルイズはさらに声をかけようとした。 やはり声がでない。体も動かない。 子爵が子供に向き、杖を構えた。 子供は手に長剣を構える。 人形達も宙に浮き、手にステッキや如雨露を持った。 やめて ルイズは叫んだつもりだった。だがどうしても声にならない。 顔も分からない貴族と、表情のない使い魔達が、睨み合う。 「やめてっ!」 ようやくルイズは叫んだ。 だが、その叫びを合図にしたかのように、彼らは駆け出した。 人形達は貴族の杖で、一瞬で粉々に砕かれた 杖と、剣が、ゆっくりと交差する そして互いの武器は、相手の胸を貫いて 「いやああああっ!」 ガバッ! ルイズは飛び起きた。 はぁっはぁっはぁっ・・・ 肩で息をする。布団を握りしめる手が、いや、全身が冷たい汗で濡れていた。 ルイズは外を見た。まだ夜明け前、空に光が差してきていた。 額の汗をぬぐうルイズの周りを、小さな赤と薄緑の光がクルクルと回っていた。 「ホーリエ、スィドリーム・・・大丈夫、ちょっとうなされただけよ」 「どしたい?ちょっとって感じじゃなかったぜ?」 壁に立てかけたデルフリンガーも声をかける。 「そ、そう・・・でも、もう大丈夫よ」 大きく息をつき、汗でじっとりと濡れたネグリジェを脱ぎ捨てる。ベッドを降りて、ク ローゼットの一番下の引き出しから下着を取り出した。 「なんで・・・なんであんな夢見たのかしら・・・」 少しずつのぼていく太陽を横目に、ノロノロと服を着始める。 ぼんやりと、さっきの夢を思い出す。 そして、ふと鏡台に視線を移した。 そこには、不安げな自分の顔があった。 そんなルイズを心配するように、二つの光球はふよふよと彼女の頭上に浮いていた。 アルヴィーズの食堂には、まだ人影はまばらだ。 ルイズは自分の席に着き、ぼんやりとしていた。 彼女の目の前には二つの光球がふよふよ漂っている。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 珍しく早起きしたキュルケと、相変わらず無表情なタバサが彼女に寄ってきた。 「今朝はどうしたのよ、いきなり悲鳴なんか上げて。おかげであたしまで目が覚めちゃっ たわ」 「ああ、ごめん…ちょっとね、イヤな夢をみてね」 「ふーん。あんたでも悪夢なんか見るんだ」 「それくらい見るわよ」 軽く挑発したキュルケだったが、ルイズは浮かない顔でため息をついた。 二人は入り口横に置かれたテーブルを見た。イスには誰も座っていない。 「ところで、あんたの使い魔達はどうしたの?」 「あ、今はちょっと用事をいいつけててね。しばらく帰って来ないわ」 「あ~、なるほど。大好きな坊や達がいなくて寂しいんだぁ♪」 「ばっバカ言わないでよね!あんなヤツら、ちょっといないくらい・・・」 赤くなって否定したルイズだったが、その声はだんだん小さくなっていった。 「まぁまぁ、いいじゃないの。あたしだってフレイムがいなきゃイヤだもの。 ・・・さっきから気になってるんだけど、それ、何?」 キュルケは、タバサがさっきからじっと見つめている二つの光球を指さした。 「ん・・・ホーリエとスィドリーム」 ルイズは、ぼんやりと二つの光球を見つめながらつぶやいた。 「えっと、名前は分かったけど、何なのそれ?」 「使い魔」 「使い魔…誰の?」 「あたしの」 「…はいぃ?」 「あたしの、というか、真紅と翠星石の」 キュルケの口があんぐりとあいた。 タバサは、目が僅かに見開いた。 「使い魔・・・あのお人形達の?」 「ええ、使い魔、だと思うわ。あたしもよく分からないけど」 ルイズは魅入られたように、宙を舞う二つの光を見つめている。 「…え~っと、それってつまり、ルイズはぁ…その光のタマを使い魔にするお人形を使い 魔にする平民の少年を使い魔にした、て…事?」 「うーん、簡単に言うとそうなるかな?」 ようやくルイズはキュルケ達に向き直って答えた。 「ぜんぜん簡単じゃないわ・・・あんたの使い魔って、どんだけ増えてくのよ!」 ルイズはアゴに人差し指をあて、首をかしげた。 「えっと~、今のところ、これ以上増える予定はないかな?」 「普通、使い魔は増えないんだけど・・・」 絶句するキュルケと、やっぱり無表情なままのタバサをよそに、ルイズはぼんやりと考 えていた。 地球の学校って、どんなのかな・・・ 焼け付くような日差しに照らされたアスファルトの道路を、セーラー服と学生服の二人 が並んで歩いていた。 「みんな、ビックリしてたわね」 「まぁ、しょうがないさ。しばらくはヘンな目で見られるだろうなぁ」 「大変ね。でも、梅岡先生はとても喜んでいたわ」 「別に、そんなの関係ないよ。あれこれ気を使われて、鬱陶しいだけだ」 「そうね、しばらくは我慢ね。トリステインでも色々と注目されてるんでしょ?」 「うん。でも、いい加減慣れてきたよ。まだ油断は出来ないけどな。 そっちはクラス委員、やっと辞めれたな」 「ええ…後は、部活も辞めて、受験勉強に専念したいわ」 「受験、かぁ」 ジュンは、空を見上げた。 季節は、まだまだ夏。もくもくと天に昇る入道雲。 始業式と、二学期のクラス委員選挙を終え、ジュンは柏葉巴と帰るところだった。 「ねぇ、桜田君の家に行っていい?雛苺に会いたいの」 「…ああ、来なよ。あいつもきっと喜ぶ」 「…うん」 桜田家のリビングにはトランクが二つ、テーブルに置かれていた。 ソファーに座る巴は、雛苺を膝に乗せ、髪をすいていた。ジュンも蒼星石を抱えて、並 んで座っている。 TVはワイドショーを映していたが、見てはいない。二人とも人形達をじっと見つめて いた。 いつも無邪気に笑っていた雛苺も、生真面目で常識的な意見ばかりを言っていた蒼星石 も、今はもう、その口を開く事はない。二人とも瞼を閉じたままだ。あれほど元気に飛び 回っていた彼らの体は文字通り、ただの人形になっていた。 「ねぇ、ハルケギニアの人形も、雛苺みたいに笑うの?」 雛苺の大きなリボンを直しながら、巴が尋ねた。 「いや、こいつ等みたいな人形は、ハルケギニアでもありえないんだってさ」 巴は、僅かな失望を含む目でジュンを見つめる。 「でも、ガーゴイルっていう、ローゼンメイデンに近いモノはあるんだ。特にガリアって いう魔法先進国では、すごいのになると擬似的な自我を持たせた、人間と見分けのつかな いモノもあるってさ」 「あ、それじゃぁ」 巴の表情に光がさす。 「ん~、それでもローゼンメイデンにはほど遠いと思う。やっぱり、エルフの技ってやつ が鍵かもしれないなぁ。でも、ハルケギニアの連中って、エルフとすごく中が悪いんだっ てさ」 「エルフまでいるんだ。本当にファンタジーの世界なんだね」 「ああ。どんな姿の連中かまでは知らないんけどな。それにオークとかサラマンダーとか もいるし。でも、ファンタージって言うほど、夢のお伽話じゃぁないよ。現実世界なのは 地球と同じさ。なんでも魔法でお手軽解決、とはいかないな」 「そっか・・・先は長そうだね。ローザ・ミスティカも見つからないし。」 「うん。出来る事から少しずつやってくしかなさそうだなぁ」 「そう・・・」 二人はそれぞれの人形を膝に乗せて、しばらく庭を眺めていた。 TVのワイドショーでは『・・・の上空を飛び回っていた謎のトランクは、ここしばら く目撃情報が無く、警察では単なる愉快犯という可能性を・・・』というレポートを流し ていた。ジュンと巴は、薔薇乙女達がトランクに乗って街を飛び回っていた頃を思い出し ていた。 今はもう、ジュンの部屋のガラスが突っ込んできたトランクで、めったやたらに割られ る事もない。だが、そのホッとして良いはずの事実が、ジュンの胸に針を刺すような痛み を生む。 ジュンが、ふと口を開いた。 「まずは、協力してくれそうな『治癒』の使い手を捜そうと思う」 「ああ、水銀燈が探していた件ね」 「僕たちの秘密を守ってくれて、しかも心臓移植しか助かる手が無いような病気を治せる ような水のメイジとなると、そうそういないけど。それでもまだ、他に比べれば見つかり やすいと思うんだ」 「あらぁ、つまんないこと覚えてるのねぇ。もう忘れてると思ってたわぁ」 二人の背後から声をかけたのは、何時のまにやら来ていた水銀燈だった。 「ああ、お帰り水銀燈。捕まえた?」 「ええ。本当に手間かけさせるわねぇ。まったく恥知らずだわぁ」 ジュンに問われた水銀燈は、ヤレヤレという感じで廊下の方を振り向いた。廊下からは きゃーきゃーごめんなさいーだってだって私だってハルケギニア見たかったのー ごめんかしらーゆるしてー命ばかりはお助けなのかしらー という情けない叫び声が聞こえてきた。 そして、真紅と翠星石に廊下をズルズルと引きずられてきたのは、ツタでぐるぐるまき にされ、薔薇の花びらと黒い羽に埋もれた金糸雀と草笛みつだった。 「なーにを考えてるですかあんた達はー!あたし達の苦労を全部パーにするですかっ!」 「おまけに、わざわざ私達が帰ってきた時を狙うなんて、悪質にも程があるわ」 「だって、だって、見つかったら怒られるかしら?」 「か、カメラマンは時には命を賭けて写真を撮るのよ!芸術に妥協は許されないの!」 「あんた達の命なんか賭けなくていいのよぉ、おバカさぁん。真面目にやんなさぁい」 真紅と翠星石と水銀燈にとっちめられる二人を見て、巴はプッと吹き出した。ジュンは 本当にこんなんでやっていけるのかなぁ、と思いつつも顔はほころんでいた。 ふとジュンと巴は目が合い、さらに二人でクスクスと笑い出してしまった。 「それじゃ姉ちゃん、みんな、行ってくるよ」 「うー、でもジュンちゃん、たった一晩しか休んでないでしょ?今日も学校で色々疲れた んでしょ?出発は今でなくても、もう一晩休んで、土曜の朝からでも」 「ダメよ、のり。あたし達には使い魔としての役目もあるの。ルイズとの約束よ」 「そうですよぉ、その事は何度も説明したですぅ。あんのちんちくりんはスッゴイ寂しが り屋のクセに意地っ張りなんですからぁ。あたし達がついていてやらないとダメダメなヤ ツなんですぅ」 「うう、ジュンちゃん・・・」 ジュン達との再びの別れを寂しがるのりの肩に、ポンっと手が置かれた。 巴が真剣な顔で、首をふる。 桜田家の倉庫、大鏡の前には、彼らが初めてハルケギニアから帰還した時と同じく、何 人もの人と人形がいた。 その時と違うのは、今度はジュン達の出発を見送るために集まった事だ。 水銀燈は、相変わらず倉庫の外で背を向けている。黒い翼がパタパタとはためいてる。 水銀燈は肩越しに鏡前の真紅を睨み付けた。 「ふんっ、何をゴチャゴチャ言ってるのよ。鬱陶しいわね、さっさと行きなさぁい」 「分かってるわ水銀燈、後の事はよろしくお願いするわ」 水銀燈は悪態をサラリと返した真紅を見て、忌々しげに顔を背けた。その頬は、少しだ け赤かった。 「それじゃ、またな」 「心配しなくても、また戻るわ」 「あたし達がいなくてもしっかりしやがれですよー!」 輝く鏡面の中へ消えていく三人の背に、激励の言葉が贈られる。 「ジュンちゃーん!体にだけは気をつけるのよー!」 「頑張ってね。こっちの学校の宿題は任せてね」 「しっかり勉強するんじゃぞ、ジュン君。蒼星石を頼むぞい」 「あの、あの!向こうの写真、沢山取ってきてね!そのデジカメ小さいけど、メモリーは 8Gだからムービーも沢山入るからね!」 「頑張れかしらーっ!悪い魔法使いなんかに負けたら許さないかしらー!」 光の波が広がる異空間への扉は、ただの鏡へと戻っていった。 「頑張ってと言われてもなぁ。何からやったもんだろ」 「おいおい、しっかりしろよなぁ」 トリステイン魔法学院の早朝。 ちらほらと朝食に向かう貴族達を遠目に眺めつつ、広場でジュンは途方に暮れていた。 背中に皮布で包まれたデルフリンガー、腰にナイフ。服装は、先日街でデルフリンガー を買った日に一緒に買った小姓の服。人形達やルイズはいない。 珍しく一人で行動しているジュンの姿に気付く貴族もいたが、特に気にするでもなく食 堂へ歩いていく。 今はもう学院の中にジュンを知らない者はいないので、不審に思われる事はない。武器 を身につけていれば、ルーンの力で少々の危険からは自分で身を守れる。ルイズや真紅・ 翠星石も学院内にいるので、すぐに駆けつけれる。何より、『巨大ゴーレムと戦える剣技 を持つ平民』『マジックアイテム使いの少年』として知られたため、無意味に挑発される 事もないだろう。学院から出れば、小姓の服を着た彼は、どこかの貴族に奉公する平民の 少年にしかみえない。 そんなわけで、ようやくジュンも一人で堂々と行動出来るようになった。なので、朝の 着替え中なルイズの部屋から逃げてきた。 ジュンはストレッチをしながら、朝メシまで何しようかなぁ~っと考えていた。 「うーん、朝メシまで時間あるけど、今できる事は・・・」 ふと目を横に向けると、朝食の準備をするメイド達がいた。 「よし、仕事手伝うついでに情報収集」 「おめーさんは真面目だねぇ」 ジュンは厨房へ行く事にした。 「まさか・・・ホントにあるんですか?」 「ええ、『竜の羽衣』って言うの。地元の皆は、えと、タルブっていう村で、ラ・ロシェ ールの向こうにあるんだけどね。寺院に飾って拝んでるのよ」 「おいおい、いきなりだな」 ジュンは食堂の皿を並べるのを手伝いながら、シエスタに、何か珍しそうな『秘宝』を 知らないか尋ねていた。コルベールから頼まれた『異世界召喚物探索』について、軽く学 院の人々から情報を集めるため、とりあえず学院の人々の中で一番話しかけやすいシエス タに尋ねてみたのだった。 だが、いきなり『秘宝』の情報が出た。 「それって、どんな秘宝なんですか」 「えっとね、それを纏った者は空を飛べるっていうんだけど…まぁ、ぶっちゃけインチキ よ。ひいおじいちゃんは、あっと、『竜の羽衣』を持ってきたのは、あたしのひいおじい ちゃんなんだけどね。飛んでみろって言われても飛べなかったんだもの」 「なーんだぁ」 高価そうな花瓶に色とりどりの花を挿しつつ、ジュンはがっかりした。 「まぁそんなもんさ。お宝なんて、そじょそこらに転がってるもんかよ」 デルフリンガーの意見は、とってももっともだった。 だがジュンは花の配置を整えながら、せっかくの情報だし少し詳しく聞いてみよう、と 考え直した。 「あの、それってどんな形なんですか?」 「え?えーっとね、すっごく変わった形をしているの、あのね…」 と言ってシエスタは、花瓶の水を少し手につけて、水で秘宝の形を描いてみた。 だんだんと形になる『竜の羽衣』を見たジュンは、次第に目を見開き、最後には絶句し た。 「あのっ!これ、今でもあるんですか!?」 「え?もちろんあるわ。父が管理してるの。固定化の魔法もかけてあるのよ」 「見せて下さい!ぜひ、急いでお願いします!」 唐突に頭を下げたジュンにシエスタは驚き、だが何故か哀しそうに目を逸らした。 「う…ん、みせてあげれればいいんだけど…ちょっとすぐには無理だと思う」 「あ、すいません。それほど急いでませんから、いずれ暇が出来た時でいいですよ」 「あ、あの、そういう事じゃなくて…」 シエスタは、うつむいて唇を噛み、苦しそうにつぶやいた。 「あたし…ここを辞めるの。モット伯のところで奉公することになったの…」 それだけ言って、シエスタはトボトボと厨房へ去っていった。 ジュンは、何も言えず彼女の背中を見つめていた。 「辛いねぇ、シエスタも」 ジュンに声をかけたのは、籠いっぱいのフルーツを抱えたローラだった。 「あの子、あのモット伯に目をつけられてねぇ。可哀想に…おっと、子供に言う事じゃな かったわね」 口を手で塞いだローラは、さささっとテーブルに果物を置いていく。 「目をつけられて…デル公、もしかして」 「ああ、ボウズの想像通りだろうさ。貴族に泣かされるのは平民の常だけどよ。むごいわ なぁ」 ジュンはハルケギニアの身分制度に対する怒りと悔しさで、肩が震えそうになる。だが 同時に、モット伯という名に引っかかるモノを感じた。 彼はルイズの部屋に戻った。 ――ルイズの部屋 翠星石・ルイズ・真紅 「え~っとですねぇ、モット伯…確かに聞いたですねぇ。ルイズ、分かりますかぁ」 「ええ。王宮の勅使として時々トリステイン魔法学院に来てるわ。平民の若い娘に目を着 けると自分の屋敷に買い入れてる、ドスケベな中年貴族よ」 「でも、私やジュンはそんな事知らないわ。なのに名前は覚えてるのよね…なんだったか しら?」 頭を捻った彼らは、ふと隣の部屋を見た。 ――キュルケの部屋 キュルケ 「ああ、モット伯ね。ほら、『召喚されし書物』を欲しがってたっていう貴族よ。書物コ レクターなの」 ルイズ達は顔を見合わせた。 ――アルヴィーズの食堂 コルベール 「なるほどなるほど、そういう事ですか!では、私からモット伯に話してみましょうぞ。 急いでモット伯に連絡しましょう」 ルイズ達はコルベールに頭を下げた。 ――教室前 コルベール 「先ほど返答がありましたぞ、申し出に応じてくれましたぞ!」 ルイズ達は明るい顔で、キュルケを探した。コルベールも一緒に。 ――本塔バルコニー キュルケとタバサ 「え?あの本ならオールド・オスマンが資料にって」 ルイズ達もコルベールも呆れ果てた。 ――学院長室 オールド・オスマン 「いやじゃいいやじゃい!これは、大事な研究資料なんじゃー!」 「えーい!恥を知りなさい!」 オスマン氏は、エロ本をコルベールに奪われた。見苦しい学院長の姿に、ルイズ達も、 キュルケも、冷たい視線を送った。タバサは半泣きの老人を指さし、「セクハラ」とつぶ やいた。 ――モット伯邸執務室 モット伯 「おお!これだよコレッ!うむ、感謝しよう。約束通り、シエスタは諦めるとしよう」 ルイズ達は胸をなで下ろした。同時に、スケベなオヤジがエロ本をニヤニヤ読んでる姿 を、ルイズ達もコルベールもキュルケも、彼らを風竜で乗せてきたタバサまで、白い目で 見ていた。 ――――そして、次の日の朝。学院正門前 「それじゃ、いきましょー」 「ボウズの事はまかしときな」 「では、タバサどの。頼みましたぞ」 「うわあああ、すっごおい、あたし、竜の背中に乗ってるぅ~!」 いつものように本を読むタバサと、デルフリンガーを背負ったジュンと、コルベールと シエスタを乗せて、ルイズと人形達とキュルケに見送られて風竜は翼を広げた。 「ああんもう!なぁんであたし達は居残りなのよう」 「しょうがないでしょ、キュルケ。私達は授業があるんだから」 「だってタバサはどうなのぉ~特例だなんてずるーい!」 残されたキュルケとルイズは不満げだ。そして真紅と翠星石は不安げだ。 「一人で大丈夫ですかねぇ?あのチビだけじゃ不安ですぅ」 「まぁデルフリンガーもいるし、ルーンの力もあるし、大丈夫とは思うわ。それに、狙わ れるとすればあたし達ローゼンメイデンの方よ。あたしと翠星石が離れるのは危険だわ」 「うう~でもですねぇ~」 そんな彼らの想いをよそに、風竜は飛んでいった。 そして、タルブの村―――― 素朴な小さな村。上空から見ると、広大な草原が海のようで美しい。 そんなありきたりな村に、ありえない程場違いな建物が見えた。上空からでも一目で分 かるほど、ありえない。 このハルケギニアにしめ縄と鳥居なんて、絶対あり得ない。なのに、あった。 『竜の羽衣』は、明らかに和風な寺院の中に鎮座していた。 ジュンは、その姿に驚愕した。シエスタからの話で予想はしていたが、まさかコレだっ たとは。 「これが『竜の羽衣』ですな!?これが飛ぶのか!はぁ!素晴らしい!」 「これは、飛行機です。いえ…信じられないけど、これはゼロ戦って言います。僕たちの 国の、空を飛ぶための道具ですよ。 まさか、セスナとかじゃなくて、これだったのか…」 「へぇ~!それじゃ、ジュンさんとあたしって、同じ国の血が流れてたのねぇ」 「いやまったくおでれーた!奇遇も奇遇、しんじらんねーな~」 ゼロ戦が、くすんだ濃緑の機体が作られた当時のままに、静かに佇んでいた。 コルベールが、うーむ見た事もない金属だ翼は羽ばたかないのかうーむ、と唸ってる。 タバサはやっぱり無表情で無言だが、興味があるらしく機体をじっと見ている。 ジュンが機体に触れると、左手の包帯から光が漏れる。 なるほどな、これも確かに『武器』だよな ジュンは感心しながら、機体をなで続ける。 中の構造、操縦法が、ジュンの頭の中に鮮明なシステムとして流れ込んでくる。僕はこ れを飛ばせるんだ、と理解した。 燃料タンクを探し当て、そこのコックを開いてみた。なるほど、案の定そこはからっぽ だった。どれだけ原型を留めていても、ガス欠じゃ飛ばす事は出来ない。 「そ!それではジュン君!さっそくこれを飛ばして見てくれんかね!?」 コルベールが手を興奮で振るわせながら、ジュンににじり寄ってくる。ジュンは困った ように頭をかいた。 「いえ、これを飛ばすにはガソリンがですね。えと、ほら、この前研究室でぴょこぴょこ とヘビの人形が動いてたでしょ?」 「愉快なヘビ君の事かね?」 「油で動かしてましたよね。あれが、いえ、あれとはまた違ったガソリンというのが必要 なんです」 と言ってジュンは燃料タンクのコックから、コルベールに臭いをかいでもらった。 「この中に、ほんのちょっとだけどガソリンが残ってるようです。これを…樽五本分くら いあれば。まぁ、これが壊れてなければ、ですけど」 「おお、そう言う事か!なに、大変そうだが、必ず練成して見せよう!それにしても、僅 かな量が暖められもせずにこれだけ臭うとは、相当の爆発力だな…これだけでも素晴らし いというのに…それに翼の風車を回転させるという発想は…ううむ…」 コルベールはもう、ゼロ戦に釘付けだ。 「なぁ、ジュンよ」 「なんだいデル公」 背中のデルフリンガーがつぶやいた。 「このままほっとくとあのハゲ、ゼロ戦とやらをバラバラにしちまうかもな」 コルベールは、ベタベタと機体に触りまくり、舵面をキコキコ動かし、プロペラを回そ うと 「ちょ、ちょっと先生!あの、今日はこれくらいにして、どうやって学院に持ち帰るか考 えましょうよ」 「え?あ、いや、でももう少しだけ」 「あの~これはシエスタさんちの家のものですから、まずはシエスタさん家のご主人に言 わないと」 「う~うむ、そうですな。ではシエスタさん。君のお父さんに会わせてもらえますか?」 「はい、承知しました。おそらく父も快く譲ってくれると思いますわ」 村の共同墓地。 白い石で出来た幅広い墓石が並ぶ中に、黒い直方体の墓石があった。 「これですよ、旦那様方。この墓は生前、祖父さまが自分で作ったモノです。この墓碑銘 を読めた者に『竜の羽衣』を渡せと言う遺言でした」 シエスタの父に連れられて、コルベール達は共同墓地へ案内されてきた。 ジュンは墓石の前に座り、手を合わせ目を閉じた。 デルフリンガーが不審そうに尋ねてくる。 「んー?ジュンよ、そりゃ何の呪いだ?」 「僕の国の、日本でのお参りの仕方なんだ」 目を開けたジュンは墓石を読む。 「海軍少尉佐々木武雄 異界ニ眠ル・・・日本語だ。あの、この人はいつ頃亡くなられた んですか?」 「ん?じーさんが死んだのは、もう随分前だよ。うーん、何年くらい前だったかなぁ」 「いや、いいですよ。間に合わなかったのは同じなんだし」 「ジュン君…故郷が懐かしいのかね?」 「いえ、そういうわけじゃないんですよ。ただ、会えれば…と思って」 コルベールが気遣ってくれるのはジュンも分かっていた。タバサも黙ってジュンを見つ めている。だが、まさか『すいません、昨日自宅に帰ってました』とは言えない。 佐々木武雄が死ぬ前に会う事が出来れば、地球に連れて帰れたのに。そう思ってシエ スタの父に尋ねたジュンだったが、もはや意味のない考えと思い直した。 「ともかく読めましたから、『竜の羽衣』は持ち帰っていいですね?」 「ああ、構わんよ。どうせ管理費も高くて困ってたし」 「ではついでに、形見の品を見せて頂けませんか?僕の国のやり方で供養しようと思うん ですが」 「ふむ、どれでも持って行ってくれて構わんよ。同じ国から来た人になら、じーさまも喜 ぶだろうよ」 一行はシエスタの家に戻る事にした。ジュンは『地球から新たに持ってきたデジカメと かは、この佐々木さんの遺品やゼロ戦の中にあったモノなんだよー、て言う事にしよーっ と。これでかなり自由に地球からの品を持ってこれるぞ。しめしめ…』とか考えて、ほく そえんでいた。 夜 今夜はシエスタの生家で泊まる事になった。 こんな村で貴族を迎えるなどめったにないし、その後シエスタから詳しい経緯を聞いた シエスタの父は『そ、そんな事情だったとはつゆしらず、娘の恩人に対して無礼の数々、 平にお許し下さい!』とコルベールに平身低頭して恐縮しまった。 ぜひ村長の家で村を挙げての歓迎会を、と村長まで挨拶に来たが、ジュンもコルベール もタバサも、騒がしい事は望まなかった。 シエスタの家で歓迎の夕食を囲み、シエスタ達八人兄弟と父母を紹介された。久しぶり に家族に囲まれたシエスタは幸せそうで、楽しそうで、ジュンは羨ましくなった。 最後に家族がみんな揃ったのって、いつだったろう ジュンの周りには、以前とは比較にならないほど沢山の人がいる。 姉ののり、真紅、翠星石、ルイズ、幼なじみの巴、金糸雀、草笛さん、水銀燈・・・ なのに何故か、ずっと会っていない両親の事が思い出される。 ふとジュンは横のタバサを見た。 いつもと同じ、無口で無表情。なのに、何故だろう、自分と同じ目をしている、いや自 分より遙かに寂しく暗い目だ、ジュンはそう感じていた。 「おっほん。二人とも、故郷からも家族からも遠く離れて寂しいとは思う。だが、今は学 院で、仲間達に囲まれておるのですぞ。決して寂しいだけの毎日ではないことを忘れては いけませんぞ」 「そーだぜ。第一ボウズ、おめーにゃあんな可愛いご主人様までいるじゃねーかよ」 二人に気を使って、コルベールと、壁に立てかけられたデルフリンガーが励ましてくれ る。 「そだな、うん、そーですよね。んじゃ、とにかく食べるとしましょう!」 食事に手をつけるジュン。もちろん、学院の貴族向けな食事とか、地球のジャンクフー ドに比べれば、質素で味気ないモノばかりだ。それでも、何故かジュンにはとても美味し く思えた。 タバサは何も言わず、黙々と食べていた。どこにそんなに入るのかというくらい。 夕食後、ジュンは村はずれに腰をおろし、草原を眺めていた。 月明かりの下、草原の中を風が渡っている。 風が吹いている所だけ草が頭を垂れ、月明かりをキラキラと反射する場所が移動してい く。まるで波打つ海原のように、草原が煌めいていた。 デルフリンガーもシエスタの家に置き、今は腰のナイフしかもっていない。 「静か、だな」 ジュンは、久々に一人っきりになった事に気がついた。 ローゼンメイデンが来て以来、常に彼の周りには誰かがいた気がする。一人になったの はトイレと風呂くらいだろうか。 特にハルケギニアに来てからは、真紅と翠星石と共に、ルイズの後をついていっていた し、背中のデルフリンガーも四六時中しゃべりっぱなしだ。 「不思議だな、あれだけ一人でいたいと思ってたのに。今は一人が寂しいや」 ジュンは、草の中に大の字で寝っ転がった。 目の前には、地球の都会ではありえない星空が広がっている。 「どこに行ったかと思ったら、ここだったのね」 声の方を見ると、シエスタが立っていた。 「あ、探しに来たんですか。すいません、勝手に外に出て」 「いえいえいーのよ。横、いいかな?」 「ええ、いですよ」 シエスタは、ジュンの横に腰をおろした。 茶色のスカートに木の靴、草色の木綿のシャツ。広がる草原のような姿だった。 なら風に揺れる黒髪は、この星空だろうか。 「あの、本当にありがとう。助けてくれて」 「こっちこそ助かりましたよ。ゼロ戦が手に入るなんて」 シエスタは、草原を見渡した。 「この草原、とっても綺麗でしょ?」 「うん…こんな広い原っぱ、生まれて初めて見たよ」 「ジュンさんの国にはないの?」 「無いよ。僕の国は山だらけ、草原はほとんど無いんだ。平地は全部街と畑だから」 「へぇ~。ねぇ、ジュンさんとひいおじいさんの国の事教えてよ」 「ん・・・と、僕の国の事、かぁ」 ジュンは、当たり障りのない範囲で、日本の事を話した。 シエスタは目を輝かせながら、彼の話を聞いていた。 「凄いなぁ。ひいおじいさんもジュンさんも、そんな国から来たんだ」 「いや、別に凄い国でもないよ。むしろ僕にはハルケギニアの方が凄いよ。特に魔法がホ ントに」 「あら、あなたのお人形さん達って、ハルケギニアのゴーレムとかより凄いって噂じゃな いですか。なら、ジュンさんの国の魔法の方がもっと凄いですよ。『東の世界』かぁ、凄 いなぁ、憧れちゃうなぁ」 「あー、う~…」 ジュンは、なんだかロバ・アル・カリイエについて誤った情報が一人歩きしそうで困っ てしまった。とはいえ、次元の壁を越えて来ましたとも言えない。 「それにしても」 シエスタはジュンをじっとみつめた。 「ジュンさんって、14歳だったんですね」 「そうです・・・あの、言っときますけど、僕の国では同年代の子は、これで普通なんで すよ。みんな大体あと数年で、もう少し、30サントくらいは伸びると思います」 そんな保証はないけれど、つい言ってしまう。 「へぇ・・・そうなんだ」 シエスタは、ジュンの顔を覗き込んだ。彼女とジュンとの間が、すすっと狭まる。 「驚いたなぁ、あたしと3つしか違わないなんて」 シエスタの瞳に、何かゆらめく焔の様なモノが見えた気がした。 「ねぇ、ジュンさん」 「は…はい、なんでしょう?」 と答えつつ、ジュンはゆっくりとシエスタから間を開けようとする。 だが、同じようにシエスタも寄ってくる。 「今、好きな人とか、いるの?」 「え?えと、その、あの、まだ、いない、はい、いません・・・」 「そっか、いないんだ・・・」 しどろもどろで、目が泳ぐ。 そんなジュンにシエスタが、ピッタリと身を寄せた。 「あ、あの、その・・・」 「助けてくれたお礼、まだしてなかったよね」 「…え?」 ジュンの上に、シエスタが覆い被さった。 細い指が少年の頬を捕らえ しなやかな腕が彼の体に巻き付き 柔らかな胸が乱暴に押しつけられ 彼女の唇は、彼の唇と重ねられた。 二人の鼓動が、早鐘のように鳴り響く拍動が、互いに伝わる。 一瞬か、永劫か。どれくらいの時が過ぎたか、ジュンには分からなかった。 ようやく唇を離したシエスタは、硬直するジュンを熱い目で見下ろしていた。 ゆっくりと、名残惜しそうに体を離す。 「風邪、ひくわ」 シエスタに手をひかれ、ぎこちなく立ち上がるジュン。これ以上ないほど赤面して、言 葉も出ない。うつむいて、シエスタの顔もまともに見れない。 「うふふ…確か『契約』の時やってるから、まだ2度目かな?」 「う・・・」 ジュンはモジモジして、答える事も出来ない。今起きた事が、シエスタの唇の感触が、 ふくよかな胸が、からみついてきた腕が、シエスタが頭の中を駆けめぐり、他に何も考え られなかった。 「さ、帰りましょ。・・・キスとか、したい時は言ってね。待ってるわ」 そういってシエスタは、ジュンの腕を取って家へと戻っていった。 そんな彼らを遠くから見ていた影が4つ、正しくは二人と一本と一匹。 木陰のコルベール「いいですなぁ若いって。羨ましいですぞ」 屋根の上に伏せるタバサ「ショタコン」 タバサの横に置かれたデル公「かー!情けねー。それでも男か!?最後まで行けっての!」 家の影から頭だけ出した風竜「きゅいきゅい」 第一話 禁じられた遊び…? 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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next 窓から見上げれば、夜空に月が二つ輝く 月を飾るように数多の星が煌めいている でもそんな風情に目もくれず、ルイズはキュルケとタバサを自分の部屋へ押し込んだ。 続いて真紅と翠星石を抱えたジュンも部屋に飛び込み、扉に鍵をかけた。 「ちょっと待って。一応覗き見とか、調べとかないとね」 キュルケはそういうと、タバサと共に杖を掲げてルーンをつぶやいた。二人の杖から広 がる光の粒が、ルイズの部屋を舞う。 「そうね。私たちも覗き見されるのは好きじゃないわ」 真紅はそう言うと、手から薔薇の花びらを数枚湧かせ、ジュン・真紅・翠星石から光の 粒をはじいた。 「あら、ごめんなさいね。気が付かなくて」 キュルケはニッコリ微笑んで謝った。タバサも黙ったまま僅かに頭を下げた。 「大丈夫のようね。さぁてルイズぅ、いろいろと聞きたい事があるのよぉ♪」 ベッドに座るルイズ。その左右には真紅と翠星石も座る。 小さなテーブルには、タバサとキュルケが席に着いた。キュルケは興味津々という感じ で真紅達を見つめている。タバサも今は本を読まず、皆の話を聞き入っていた。鞘に入っ たままのデルフリンガーは、壁に立てかけられていた。ジュンは窓の横に立っている。 一難去ってまた一難、そんな言葉がジュンの脳裏をよぎった。 ルイズは胸を張り声を震わせて 「あ、あんた達!今日見た事は絶対に、絶対に秘密にしないと許さないわよっ!」 と、虚勢を張っていた。天真爛漫に笑うキュルケの返答は、 「そのつもりよ。ただしぃ~、あなたの使い魔達の事を色々教えてくれたら、だけどね」 だった。 そんなわけで、ルイズは先日オールド・オスマンに話した、『ジュンはロバ・アル・カ リイエ出身。ローゼンメイデンはジュンの国の伝説的人形師ローゼンの作品。全部で7体 のはず。ローゼンの弟子の槐とかいうヤツも作ってたけど、詳しくは分からない』 との内容を語っていた。 窓の横で黙っていたジュンだが、正直気が気ではない。何しろ、この部屋にはジュンが サモン・サーヴァント後に地球から持ってきた目覚まし時計などがあるのだから。一応隠 してはあるし、魔力を帯びていないから、この世界の魔力探知系魔法では見つからないは ずだ。 とは言え、何かの拍子に見つかったら、入手ルートについて、あれこれ突っ込まれるこ とは間違いない。 実際、6人が部屋に入ると同時に、キュルケとタバサは室内にディティクトマジックを かけていた。その結果、覗き見の類は無いと二人は言っていた。でも、魔法を使えないジ ュンにはそれを確認する術はない。また、あくまで『キュルケとタバサにとって不都合な 覗き見が無い』というだけの意味かもしれない。 さらにジュンの不信感をかきたてたのは、ディティクトマジックの光の粉が、真紅と翠 星石にも降りかかりそうだったことだ。真紅の薔薇で光の粉を防いだので、探知はされな かったと思うけど、絶対わざとだろうな、とジュンは考えていた。 いずれにせよ、ジュンは目の前の紅い髪の巨乳な女性も、青い髪の無口で小柄な少女も、 全く信用していなかった。 そんなジュンの警戒心をよそに、キュルケは真紅と翠星石に思いっきり好奇心を向けて いた。 「へぇ~、全く凄いじゃない、ジュンちゃんの国って。こんな凄い人形がいくつもあるな んて。ねぇねぇジュンちゃん、お姉さんに、ちょっとだけこのお人形さん達を抱かせてく れない?」 「…本人に頼んでみて下さい」 キュルケに頼まれたジュンは、そっぽを向いて答えた。だがキュルケは、ジュンの冷た い態度を気にする様子もなく、相変わらずニコニコしたまま、真紅と翠星石を見比べた。 「お断りだわ」ぷぃっと横を向く真紅 「やぁーです」ルイズの後ろに隠れる翠星石 「あぁーんっ!もう、かぁわいいぃ~~っ!!」 キュルケは二人に冷たく断られたというのに、まるで子猫でも見つけたかのように興奮 していた。なんだか、手がワキワキと動いてる。飛びかかってでも抱きしめるつもりかも しれない。 ジュンは、この人なにしにきたんだろう、と半ば呆れていた。 「でさぁ、ジュンちゃん」 キュルケが急に立ち上がり、ジュンに話しかけた。 「…ちゃん付けは、よして下さい。呼び捨てで良いです」 「あーら、別にいいじゃない、子供なんだから」 「あの、確かに僕は皆さんより年下ですけど、3つくらいしか違いませんよ」 「「「3つ!?」」」 キュルケにタバサ、さらにはルイズまで驚いて声を上げていた。 「そ、そうですよ。僕は今14歳です。ルイズさんも知らなかったんですか?」 「知らなかったわよ」 ルイズは目を丸くしていた。キュルケもじーろじろと、ジュンを上から下まで舐め回す ように見ていた。 「まさか、タバサと一つしか違わないなんて、そうは見えないわねぇ~。あんたの国って みんなそんな子供っぽいの?」 「僕の国では同い年の男子は、みんなこんな感じですよ。…一体、何歳くらいだと思って たんですか?」 キュルケとルイズとタバサが互いの顔を見合わせ、同時に口を開いた。 「「「10歳」」」 ガクッと来た。真紅と翠星石は、プッと吹き出した。 でも、ホントはハルケギニアの方が一年の日数が多いから、この世界の14歳より、僕 はもっと年下なんだよな…ジュンはそう考えていたが、言う必要も無いし黙っていた。そ れに、ジュンは日本でも背が高くない方だし、ハルケギニアの人々は背が高いので、実際 より年下に見られてもしょうがない。 「それにしてもねぇ・・・」 キュルケが、真紅達に視線を戻した。 「本当に凄いお人形さん達ね。おまけにとっても可愛いし」 可愛いと言われ、真紅も翠星石もちょっとだけ嬉しそうにしたが、すぐにツンとそっぽ を向いた。そんな二人にキュルケは目を輝かせていた。 「んじゃ、そろそろ本題入ろっか。ぶっちゃけ言うと、あたしも一つ欲しいわ」 タバサもコクコクと頷いた。そして二人でジュンを見た。 「あげません」 「でも、一つくらい良いんじゃない?」 「ダメです」 「んじゃさぁ、少し貸してよぉ。タダとは言わないわよ」 「貸しません!」 「それじゃ、我が家の家宝『召喚されし書物』と交換でどう?これはねぇ、殿方の欲情を 駆り立て」 「ちょっとキュルケ!いい加減にしなさいよ!!」「そーですぅ!あたし達はあなたみた いなチチオバケの所には行かないんですぅ!」 ルイズがとうとう肩を振るわせて立ち上がった。翠星石もルイズの後ろからトンでもない 事を叫ぶ。真紅もキュルケ達をキッと睨んだ。 「キュルケさん。エレオノールを退けてくれた事には感謝致します。ですが、それとこれ とは話が別ですの。第一、あなたは私たちローゼンメイデンのミーディアム、主として相 応しくないわ」 「あら、大丈夫よ。その子の着けてる指輪さえあれば、平民でもいいんでしょ?なら、魔 力を持つメイジが指輪を持てば、あなた達ローゼンメイデンにも得と思わない?」 キュルケはフフフッと不敵に笑い、ジュンの左手にある大きな薔薇の指輪を指さした。 ジュンは慌てて左手を背後に隠し、キュルケをキッと睨み付けた。 「無理ですよ。この指輪を外そうとすれば、肉が削げます」 「あらそうなの、不便ねぇ。 でも、その指輪がお人形さん達にとっても大事なモノって事は確かだったみたいね」 ジュンが一瞬たじろいだのを見て、キュルケは小悪魔のように笑っていた。 「まぁまぁ、そう怒んないでよ。いくらなんでも無理矢理奪おうなんて事は考えていない わよ」 「どーかしらねぇ」 ルイズが口を尖らせた。そんなルイズを見て、キュルケはさらにニコニコしだす。 「ほぉんとうよぉ!確かに、ウチのひい祖父さまはあなたの所のひい祖父さまから奥さん を奪ったり、ひいひい祖父さまは婚約者を奪ったりしたけどね」 「あんた、どうあってもあたしを怒らせたいようね…」 ルイズが杖を構えてプルプルしてる。 「やーねぇ、遠い昔のご先祖の話じゃないの。それに、これは恋とは関係ないし…」 と言って、キュルケは急に黙り、ジュンの顔を真顔でジッと見つめた。大人の色気たっ ぷりの美女に見つめられて、ジュンは思わず赤くなっていまう。 「・・・あの、恋が何か関係あるんですか?」 黙って見つめられる緊張感に耐えきれず、ジュンがあさっての方を向きながら尋ねる。 「・・・うんとね、五年後が楽しみだから、今から手をつけちゃおっかなーって♪」 「あんたって人はー!」 グーで殴りかかるルイズを、キュルケはひょいっとかわした。 「あらあら怖いわぁ、冗談よジョーダン。ウフフフ」 「冗談でもよっ!小鳥一匹だってツェルプストー家のヤツに渡すモンですか!」 「わかったわよ、まったく冗談のわかんない子だわ」 と言ってキュルケは立ち上がり、タバサに目配せした。タバサも頷いて立ち上がる。 「それじゃ皆様、もう夜も遅いし、今夜はここで帰るわね」 「もー来なくて良いわよ!」 ルイズは腕組みして、フンッと鼻を鳴らした。キュルケは相変わらずニコニコ笑ってい た。 「あーらそうは行かないわよ。だって、どんな風に借りを返してもらうか、相談しなきゃ いけないんだものー」 「い、いろいろ教えてあげたじゃないの!?」 「あーらら、牢獄行きとか、王室からのお咎めを受けずに済んだお礼が、それだけ?まぁ 慌てなくても、どうやってあたしに借りを返すか、みんなでゆっくり考えましょうねぇ」 「うぐぐぐぐ…」 ルイズは怒りのオーラをまとい、拳を握りしめて震えていた。 「んじゃねぇ~」「ちょっと待って!」 扉に向かおうとしたキュルケとタバサを、ジュンが突然呼び止めた。 「あら、もしかしてお人形貸してくれる気になったの?」 「いや、そうじゃなくて、さっき言ってた本なんだけど」 「本?」 キュルケとタバサは顔を見合わせた 「これよ」 キュルケが部屋から持ってきた本を示されてジュンは、いや真紅も翠星石も、口をあん ぐりとさせていた。 「あたしの祖父が買ったのよ。書物マニアでは有名で、モット伯爵も譲って欲しいって来 たそうよ。留学の時に嫁入り道具として渡されたの。でも、あたしこんなの必要ないのよ ね」 ルイズは、呆れてモノも言えなかった。 真紅は、こめかみを手で押さえていた。 翠星石も、真っ赤になってそっぽを向いていた。 タバサは、一瞥しただけで興味なさげに無表情だった。 ジュンは、タイトルを声に出して読んだ。 「エロ凡パンチ、 75年4月号…」 「あらっ!?この字読めるんだ!へぇ、ということはジュンちゃんの国の本なのね」 「そうですけど、これ、どうやってハルケギニアへ来たんですか?」 「なんでも、誰かが昔、魔法の実験中に偶然召喚しちゃったって」 ジュンが何気なしに開いたその本には、一昔前のセクシーな女性があんなことやこんな 「「「何を読んでるのよ!」」」 ルイズに殴られ、真紅の髪ではたかれ、翠星石に跳び蹴りを喰らった。 「むふふぅ~♪やっぱりジュンちゃんも男の子なのねぇ~」 「からかわないで下さい!それじゃ、お返しします」 「あらぁ、いらないの?無理しなくても良いのよ?」 「いりませんよ。そ-ゆ-本は、僕の国では珍しくもなんともないんです」 「あらそうなの、ざーんねん。んじゃ、また明日ね~♪」 ようやくキュルケとタバサは自室へ戻っていった。 「はぁ・・・疲れた」 残った4人がへたりこみ、誰ともなくつぶやいた。 もうフラフラだ。この一日で、いったいどれだけの事が起きただろうか。ルイズがだる そうに口を開いた。 「あうぅ・・・もういい。何にも考えられない。ともかく寝ましょ」 「そーですねぇ…もう眠いですぅ」 「ええ、それが一番ね。それじゃ、おやすみなさい」 「そだな、僕ももう限界だぁ」 4人とも、這うようにそれぞれの寝床に入り、即熟睡してしまった。 翌朝、学院はハチの巣をつついたような大騒ぎが続いていた。 被害は宝物庫のカベ、そして秘宝『破壊の杖』。宝物庫の壁に『破壊の杖、確かに領収 いたしました。土くれのフーケ』との犯行声明文。 宝物庫には学院中の教師達が集まり、壁の大穴を見て口をあんぐりさせていた。次に、 当直の貴族は誰だとか、平民の衛兵なんか役に立たないとか、責任の押し付け合いを始め た。 犯行現場の目撃者であったルイズ・キュルケ・タバサ、そしてジュン・真紅・翠星石も 呼ばれていた。彼らはコルベールの後ろで、黙って教師達の有様を見ていた。ジュンは、 せっかく買ったのでと、デルフリンガーを背中に担いでいた。 ついでに、当直だったミセス・シュヴルーズがミスタ・ギトーに責任追求されているの をオールド・オスマンがかばって、感激して抱きついてきたシュヴルーズのお尻をナデナ デしていた。 全員、真顔のままだった。 場を和ませようとしたジョークだったのに、誰も突っ込んでくれない。オールド・オス マンは咳払いをして、真面目な顔に戻った。 「で、犯行の現場を見ていたのは誰だね?」 「この3人です」 コルベールが自分の後ろの若いメイジ達を指さした。ジュン達は使い魔なので数に入っ ていない。 「ふむ…。君たちか」 オスマン氏は、ジュン達も含めた6人を見渡し、コルベールに改めて尋ねた。 「これだけかね?」 「…はい!この者達だけです。間違いありませんぞ!」 オスマン氏は、ルイズと彼女の使い魔達にも尋ねた。 「ここにいるのが目撃者の全て、ということで間違いないかな?」 「ま、間違いありませんわ。おほほほほ…」 ルイズが、引きつった笑顔で答えた。 「ええ、その通りですわ。ねぇタバサ?」 キュルケが、ニヤニヤしながら答えた。タバサは無言で頷いた。ジュン達は、目をそら して知らんぷり。 「ふむ、そうかね…では、詳しく説明したまえ」 オスマン氏の態度に、ジュンは正直イヤーな予感を感じてはいたが、それを口にする勇 気はなかった。 ルイズは、この場の目撃者達が何をしていたかは触れず、純粋に何を見たかだけを説明 した。 オスマン氏は教師達に向き直り、ふと気付いたようにコルベールに尋ねた。 「ときに、ミス・ロングビルはどうしたね?」 「それがその…朝から姿が見えませんで…」 「この非常時に、どこに言ったんじゃ?」 「どこなんでしょう」 そんな風に噂をしていると、ミス・ロングビルが宝物庫に入ってきた。 「ミス・ロングビル!どこに行っていたんですか!大変ですぞ!事件ですぞ!」 興奮した調子で、コルベールがまくし立てる。しかし、ミス・ロングビルは落ち着き払 った態度で、オスマン氏に告げた。 「申し訳ありません、朝から、急いで調査をしておりまして」 「調査?」 「そうですわ、今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこの通り。 すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中の貴族を震え上がらせている大怪 盗の仕業と知り、すぐに調査を致しました」 「仕事が速いの。ミス・ロングビル。で、結果は?」 「はい、フーケの居所がわかりました」 「な、なんですと!」 コルベールが、素っ頓狂な声を上げた。 「誰に聞いたんじゃね?ミス・ロングビル。」 「はい。近所の農民に聞き込んだところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのロー ブの男を見たそうです。おそらく、彼はフーケで、廃屋はフーケの隠れ家ではないかと」 ルイズが叫ぶ。 「黒ずくめのローブ?それはフーケです!間違いありません!」 ジュンはコケそうになった。ルイズの脇を肘でつついて、ひそひそとささやく。 (ちょっと、ルイズさん。僕らは遠目で見ただけじゃないですか。おまけに暗くて、ロー ブの色だって) (うっさいわね!こーなりゃヤケよ!ぜーんぶフーケのせいにしてしらばっくれてやるん だから!) (そもそも男かどうかだって) (だまらっしゃい!こっちにとばっちりがこなけりゃい-のよ!) ジュンは真紅に目配せすると、彼女は肩をすくめて教師達を眺め続けた。ともかく黙っ て事の運びを眺める事にした。 オスマン氏は目を鋭くして、ミス・ロングビルにたずねた。 「そこは近いのかね?」 「はい。徒歩で半日、馬で4時間といったところでしょうか。」 それからも、コルベールが王宮に報告しようとするのをオスマン氏が反対し、フーケが 逃亡する前に自力で奪還する事を主張。捜索隊を募るが教師達は誰も名乗りでない。困っ たように顔を見合わすばかりだった。 ミス・ロングビルは、この答えを待っていたかのように微笑んでいた。 ジュンと真紅と翠星石は、ともかく黙っていた ルイズはうつむいていたが、すっと杖を顔の前に掲げた。ミセス・シュヴルーズが驚い て声を上げた。 「ミス・ヴァリエール。あなたは生徒じゃありませんか。ここは教師に任せて…」 「誰も掲げないじゃないですか。」 ルイズはまっすぐな目で、オスマン氏を見返す。が、それをみていたジュンは『まさか フーケの口封じをする気じゃぁ…』と、イヤな予感をさらに強めていた。 ルイズが杖を掲げているのを見て、キュルケもしぶしぶ杖を上げた。 「ふん、ヴァリエールには負けられませんわ。」 それを見て、タバサも掲げた。 「タバサ。あんたはいいのよ。関係ないんだから」 そう言ったキュルケに、タバサは 「心配」 と告げ、ちらりとルイズを見る。キュルケは感動した面持ちで、タバサを見つめた。ルイ ズはそんな二人を見て驚き、少し嬉しそうだ そんな三人の様子を見て、オスマン氏は破顔する。 「そうか。では、頼むとしようか」 ごすっ いきなり、コルベールがオスマン氏の脇腹を思いっきり肘で突いた 「ぐおふぉっ!げほっ!いきなり何をするんじゃコルベール君!」 「うぉっほん!」 コルベールは、これでもかと言わんばかりに思いっきり咳払いをした。 「ん?あ、ああ、そうじゃな、そうじゃった」 不自然極まりない二人のやりとりを見て、シュヴルーズはハッと我に返った。 「何がそうじゃったですか!?生徒達にこんな危険な任務をさせるなんて、何を考えてい るんですか!?」 「では、君が行くかね?ミス・シュヴルーズ」 「い、いえ、私は体調がすぐれませんので…」 「彼女たちは、敵を見ている。その上、ミス・タバサは若くしてシュヴァリエの称号を持 つ騎士だと聞いている。加えて、ミス・ツェルプストーはゲルマニアの優秀な軍人を数多 く排出した家系の出で、彼女自身の炎の魔法も、かなり強力と聞いている」 教師達もキュルケも、タバサがシュヴァリエと聞いて驚いていた。 「あの…私は?」 ルイズは、おずおずと尋ねた。 「うぉっほんっ!その、き、君は、だのぉ…」 つんつん 今度は、すすすっとオスマン氏の横に来たミス・ロングビルがつついた。 「う…わ、わかっとるわい」 そんな様子を見て、ルイズが不審がり尋ねる。 「あの…オールド・オスマン。私の実力の事でしたら、この使い魔達が」 「う、うむ、その、なんだ。あー、ミス・ヴァリエールの使い魔達の実力なら、というか 人形達の事は知っておる。それに、その…ミス・ヴァリエール自身も数々の優秀なメイジ を排出したヴァリエール公爵家の息女で、その、うむ、なんだ、将来有望なメイジと聞い ておる」 うぉっほん、とオスマン氏は大きな咳払いをして、ルイズの前に立った。 「うむ、で、だね」 「なんでしょうか、オールド・オスマン」 「ヴァリエール家の長女、エレオノール女史が昨夜学院に参られてのぉ」 ぎっくー! ルイズと使い魔達は、一瞬飛び上がったかのような錯覚を感じるほど、動揺していた。 キュルケは『あらららぁ~』という感じで顔を手で押さえていた。タバサは無表情なまま だった。 「で…ちょっとその事で、急いで話があるんじゃよ」 ジュンは、どーしてイヤな予感ってよく当たるんだろう、と理不尽な世の中に怒りを感 じていた。 第六話 フーケ捜索隊 END back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next 第五話 『ヴァリエール家の娘達 』 月光に照らされて、門をバックに一人の女性が仁王立ちしていた。 ルイズの気の強い部分を煮詰めて濃縮させて熟成したら、こんな風だろうか。 かなりキツめの、見るからに男勝りなブロンド美人だ。 突然の突風に吹き飛ばされて広場に倒れたルイズ達四人を、まるで下らぬものでも見る かのようににらみ、見下ろしている。 「まったく、なんて落ち着きのない子なの!ヴァリエール家の一員としての自覚をもって いないの!?」 「は、はい…でも、そのあの、こんな急に」 「言い訳するんじゃありません!ちびルイズ、そこに座りなさいっ!!」 「はいぃ!」 ルイズはエレオノールの前に、チョコンと正座させられた。 「ふん…よろしい。今日は、実はあなたに確認したい事があって、急遽来たのです」 「あの、姉さま。もしかして、ずっと待ってたんですか?」 「ええ、夕方頃からずっとですよ。それが、まさかこんな遅くまで歩き回っているなんて …どういうつもりなの!?」 「そ、それは、姉さまが来ると知らなかったから」 「私が来るかどうかは関係ありません!確かに今日は連絡無しに来ましたが、淑女として 夜中に歩き回るのは・・・」 ルイズは正座させられたまま、延々と叱られていた。 後ろのジュン達は、どうしようかと顔を見合わせた。 回れ右して、抜き足差し足こっそりと立ち去ろうとしていた。 「お待ちなさいっ!」 ジュン達の背中を、エレオノールの冷たい声がむち打った。 ジュンは、ギクシャクとぎこちなく、肩越しにエレオノールを振り向いた。 「えーっと・・・なにやらお取り込み中のようですので、その、部外者は、向こう行って ますね」 だが、エレオノールは冷たい視線をジュンに投げかけ続けた。 「今日は、あなた達の事を知って、慌てて来たんですよ」 ジュンの背中を、冷たい汗がダラダラと流れる。 いつかこうなるかも、とは予想していたけど、とうとう来てしまった…どうやってこの 場を切り抜けよう? そんな思考がジュンの頭を駆けめぐっていた。この難局を乗り切るため、ジュンの頭は フル回転し始めた。 「あなたが、噂の平民使い魔ですね?」 ジュンの心臓が、口から飛び出しそうになった。もう、誤魔化せるレベルの話ではない だろうと理解できてしまった。 ジュンは覚悟を決め、大きく深呼吸をして、エレオノールに振り向いた。そして、自分 が知ってる、最高に礼儀正しいお辞儀をした。 「はい。私は先日ルイズお嬢様に召喚され、使い魔の契約をいたしました。桜田ジュンと 申します。以後、お見知りおきを」 「平民の名前なんてどうでもいいわ」 一瞬、伏せたままのジュンの顔がこわばり、紅潮した。 ギーシュと最初に会った時も同じような事を言われた。だが、あれは『ジュンがどうい う人間か知るために、あえて挑発した』という類のものだ。対してこれは、明らかにそれ とは違う。間違いなく、このルイズの姉はジュンの存在を、平民を、『どうでもいい』と 考えている。 この世界の身分制度、その現実をジュンは思い知らされた。同時に、ふつふつと怒りが 体の奥底から湧いてきた。 「私が今夜、こんな急に来たのは、あなたが召喚した…ちょっと!そこの小さいの!!」 エレオノールは、さらに忍び足でそぉ~っと立ち去ろうとしていた、真紅と翠星石を呼 び止めた。 二人とも、やれやれしょうがないといった感じで振り向いた。 「私達に、何かご用でしょうか?」 真紅が嫌々ながらという感じで答えた。翠星石はエレオノールに睨まれ、真紅の後ろに 隠れてしまった。 「もちろん。私はあなた達皆に用があって来たのですから」 正座したままのルイズが、不安そうにエレオノールを見上げた。 「あ、あの、姉さま。一体、私の使い魔に何の用が…」 聞くまでもない事だが、ルイズは聞かずにいられなかった。 「何の用、ですって?では、改めて教えてあげましょう。 『ヴァリエール家の三女、ルイズがサモン・サーヴァントで平民の少年を召喚した。し かも、エルフの技で作られたゴーレムを2体も所有し、並のメイジでは歯が立たない。も しや聖地からの間者では?』 そんな噂がアカデミーや王宮で流れているからですよ!!」 「ちっ!違います姉さま!!彼らは聖地よりも遙か遠くの出身です!私が偶然トリステイ ンに召喚してしまっただけです!あの人形達もエルフとは関係ありませんっ!」 「お黙りおちびっ!だから私がこうして確かめに来たんです!!」 そんなやりとりを聞いて、ジュンは内心『うっひゃー』と思っていた。予想していた中 でも、最悪に近い展開だった。 だが、同時に疑問も感じた。聖地が何かは知らないけど、どこかのスパイじゃないかと 疑っているなら、疑われるのは自分自身。なのに、何故自分が『どうでもいい』のか。な ぜ王宮の人間ではなく、姉とはいえ、アカデミーの人間が派遣されたか。 考えられるのが一つ。スパイは大義名分。真の目的は・・・ 「というわけで!あなたの使い魔達は取り調べのため、アカデミーで身柄を預かります」 エレオノールが胸を張って宣言した。 やっぱりか・・・ジュンは予想通りと思いつつ、顔を覆いたくなった。 「そんな!?姉さま、無茶苦茶です!!お願いです…あの子達、ジュンを、真紅を、翠星 石を、あたしから取り上げないで下さい!どうか、どうかそれだけはお許し下さいっ!」 「なりません!これはヴァリエール家にかけられた、あらぬ疑いをはらすために、どうし ても必要な事なのです!!」 すがりつき懇願するルイズの願いを、エレオノールは全く聞こうとはしなかった。 ジュンは、後ろの真紅と翠星石に目配せした。二人も無言で頷く。 「エレオノール様、ですね。ルイズお嬢様よりお名前は伺っております」 ジュンは、これでもかと言わんばかりに礼儀正しく、ルイズをしかり続けるエレオノー ルに話しかけた。震えそうになる足を、必死で押さえつけながら。 「その通りですわ。ふん、どうやら平民の子供の割に、礼法は少しは知っているようね」 「恐れ入ります」 執事のように頭を下げるジュン。額に浮かぶ汗を見られぬように、深々と頭を下げ続け た。 「用件の程は、お嬢様方のお話から理解致しました。つまりは、私たち3人をアカデミー で取り調べたい、ということですね」 「3人?平民とゴーレム2体よ」 エレオノールは、明らかに見下した目でジュンと真紅と翠星石を見下ろした。ジュンは 怒りに震えそうになる手を、胸に押さえつけ必死でこらえる。 「なるほど。ですが、間者か否かを確かめたいのであれば、私め一人で十分なはず。どう ぞ私だけをお連れ下さい。人形2体は、続けて使い魔としての務めを果たさせたく存じま す」 「そ、そんな!?だめよジュン!!」ルイズが叫ぶ。 「平民の子供が出る幕ではないっ!黙って皆ついてくればよい!!」エレオノールが一笑 に付す。 ジュンは、頭を下げたまま押し黙った。ルイズもジュンの姿を見つめ続ける。 「・・・あくまで、我ら全てを、アカデミーに連れて行くとおっしゃられますか?」 「当然です!」 ジュンは頭を伏したまま、静かに、しかしハッキリと、口を開いた。 「・・・申し訳ありませんが、承知致しかねます」 「なんですって!?平民ごときが、貴族に逆らうというかっ!!」 「いいえ。私はルイズ様の使い魔にございます。ですから、主たるルイズ様の命令もなし に、勝手に主のもとを離れるわけには参りません」 その言葉を聞き、ルイズもハッと我に返る。 「そ、そうよジュン!真紅も翠星石も!私のもとをはなれることはなりませんっ!」 「主もかように申しております。どうかここは、お引き取り下さい」 「だまらっしゃいっ!!」 エレオノールが一喝する。ルイズがひぃっと首をすくめる。 ジュンと真紅と翠星石は、微動だにしないかに見えた。だが、僅かに、ゆっくりと、体 勢が低くなり始めていた。いつでも素早く動けるように 「下らぬ戯れ言を弄する、小賢しい子供だこと」 「いいえ。使い魔として当然の義務にございます」 「ふん、そこの少年。確か話では、お前がルーンを刻まれたのですね?」 「さようです。これにございます」 包帯でまかれたジュンの左手を掲げた。エレオノールは怪訝な目をする。 「ルーンを刻まれた人間、というのは、いささか奇異な目でみられます。ですので普段は 包帯で隠しています」 「そんなことはどうでもよろしい。ともかくお前自身がルイズの使い魔なのだな?」 「御意」 『御意』の意味は知らないけれど、TVなんかではこんな時使ってたなと思い出し、と にかくジュンは言ってみた。 ジュンは内心コルベールに感謝した。コルベールが『珍しい』と言っていたルーンを見 られたら、今度は何を突っ込まれるか、分かったものではない。 「ならば話は簡単です。ルイズの使い魔ではない、その人形2体を連れて行く。これで話 は終わりです」 ルイズも、ジュンも、黙って聞いていた真紅も翠星石も、一瞬あっけにとられた。 「な!?姉さま!どういうことですか!?この子達とて私がサモン・サーヴァントで呼び 出した、れっきとした私の使い魔です!」 「ですがルーンはその少年にのみ刻まれている。つまり、おちびの使い魔は、その少年で す。人形達は関係ありません」 「ち、違います!あの子達も私の、私の!」 「いいえ、それは違いますわ。エレオノール様」 真紅が、不敵な笑みを浮かべながら、口を開いた 「ほう、ゴーレムのクセに、よく舌が回るではないか?」 「恐れ入りますわ、レディ。ですが私たちはゴーレムでなく、ただの人形にございます」 エレオノールの氷のごとき視線を、真紅は正面から受けとめた。 「そして、あいにく私たちローゼンメイデン第5ドール真紅と、後ろの第三ドール翠星石 は、あなたが言う『平民』のジュンを主としております。ゆえに、主の命無く主のもとを 離れるワケにはいきませんの」 「そーですそーですぅ!あなたみたいなコーマンチキに用は無いです、さっさと帰りやが れですぅ!」 真紅の後ろから翠星石も抗議する。 「このエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリ エールの命が、聞けぬと、申すか…」 「はい、聞けませんわ」「おとといきやがれですぅ」 「ゴーレムの分際で、貴族を愚弄するか…」 「愚弄はしませんわ、ただ当然の筋を通すまで」「無茶言ってるあなたが悪いですぅ」 「ヴァリエール家の長女より、平民の小僧の命が上だと、申すかぁっ!!」 「私どもはこの国のものではありませんの」「だからぶりえーるも何も知らないですぅー だっ!」 エレオノールの髪が逆立ち、体は小刻みに震えだした。右手がゆっくりと、彼女の杖へ とのびる。 「・・・ルイズ」 「はっ!?・・・・はい」 わなわなと怒りに震えるエレオノールが、杖を構え、ゆっくりとルイズを見下ろした。 「これが最後です・・・そこの平民に、アカデミーに来るように命じなさい」 ルイズは地面にへたりこんだまま、恐怖で震えていた。すでに涙がこぼれそうだ。 「・・・い、い…いや…いや」 「・・・もう一度だけ聞きましょう。返答は?」 「いやですっ!!!」 ルイズは立ち上がり、ジュン達の前に立った。胸元から杖を引き抜き、まっすぐ彼女の 姉へ向けた。 驚き呆れた表情で、エレオノールはルイズを睨み付けた。 「ルイズ、ちびルイズ。いつからあなたはそんなにお馬鹿になったんです?」 問われたルイズは一瞬ジュン達を振り返り、キッとエレオノールを見据えた。 「この子達は・・・ジュン達は、あたしが召喚したんです」 「知ってるわ、おちび」 「やっと、やっと召喚したんです。何回も何回も失敗して、ゼロのルイズってバカにされ 続けて、それでも諦めず必死で、進級したくて、周りを見返したくて、やっとの思いで、 この子達が来てくれたんですっ!! そりゃ、人間喚ぶなんて前代未聞だし、しかも何人も喚んじゃったし、ちょっと生意気 で自分勝手な連中だけど。でも、でも!あたしの使い魔に、使い魔になるって、言ってく れたんです。 キュルケをギャフンと言わせて、ギーシュだってギタギタにして、ゼロのルイズって言 われる、魔法がほとんど使えない私のこと、全然気にせず、ずっと、いえ、ずっとじゃな いけど、でも、一緒にいてくれる子達なんですっ! ・・・渡さない・・・絶っ対に渡さない!アカデミーの研究材料なんかに、させるもん ですかっ!!!」 ルイズの瞳は、もはや僅かの迷いも恐怖も含んではいなかった。 そしてエレオノールの目も、もはや交渉の余地がないほどの怒りに燃えていた。 「おちび…この姉の命が、聞けないと?」 「たとえ姉さまの命でも、これだけは聞けませんっ!」 「いいでしょう…」 エレオノールのブロンドが逆巻く。その唇からは呪文の詠唱が聞こえる 「ちびルイズ・・・久しぶりに、折檻してあげましょう!!」 『ウィンド・ブレイク!』 広場の草が舞い上がる!ルイズ達に向けて、突風が走るっ! バシィ!「おっそいですぅ!」 翠星石が一瞬早くルイズの前にツタのカベを生やした!風は虚しくツタを揺らした。真 紅の左手からは竜巻の如く赤い薔薇が舞い上がる! 「何ぃっ!?詠唱も無しにっ!!」 一瞬動揺するも、間をおかずエレオノールは右へ駆け出した。唇からは続けて詠唱が漏 れている。 「逃がさなくってよっ!」 真紅の手から放たれた薔薇の帯がエレオノールに追いすがる! 「なっ!?速い!!」 薔薇の触手がエレオノールに触れる瞬間、彼女の魔法が発動した。紅い触手の手前で発 生した竜巻が、全ての花びらを吸い込んでいく。 「キャアッ!」 だが、エレオノール自身が竜巻に近すぎた。彼女自身が竜巻に巻き込まれそうになる。 それでも新たな呪文を詠唱し続けている。 「ファイヤーボールッ!」 ルイズがエレオノールに杖を向けて叫んだ! ドゥンッ!! エレオノールの後方、塔のカベが大爆発した。 「あぅっ」 ルイズがガックリした。 そのルイズに向けて、エレオノールが杖を向けた!杖が雷を帯び始めるっ!! シュパパパッ! 何かが切り裂かれる音がした エレオノールの杖が、一気に飛び出したジュンのナイフでバラバラに切り刻まれた! ナイフが、エレオノールの首もとに突きつけられる。 両者の間に、張りつめた沈黙が流れる 「・・・これ以上戦うというのなら、次は本気でやります」 ジュンの目は、さっきまでの彼からは想像付かないほど鋭かった。彼の意識は左手の指 輪に向いている。脅しではなく『本気』で戦うために。 「うっぬぅうぅぅ!た、たかが平民が、ヴァリエール家に刃向かってただで済むと思って いるのですか!?」 「…何か忘れておられますね。我が主もヴァリエール家の三女ですよ、長女様」 「くっ!なんて口の減らない小僧かしらね!?」 二人が更に睨み合う。 どどどぉぉぉ・・・・・ 遠くで大地が揺れるような音がした。 ジュンがナイフをエレオノールの首筋にゆっくりと押しつける。ジュンの頬を冷たい汗 が幾筋も流れ落ちる。そしてエレオノールの全身にも。 「…どうやら、引き下がっては頂けないようですね…」 「な!?何の話をしているの??私は何もしていませんよ!!」 「ほぅ?では、後ろのゴーレムは何ですか?」 「・・・え?」 エレオノールはゆっくりと視線を背後へ向けた。 そこには、身の丈30メイルはあろうかという土のゴーレムがいた。ゴーレムの肩の上 には、黒いローブに包まれた人影がある。 「3つ数えます。お供のメイジに、ゴーレムを戻すように命じて下さい」 「ちっ!違う!!あれは知らないっ!」 「ひとつ」 「やっやめ!やめてっ!!誤解ですっ!!!」 「ふたつ」 「る、ルイズッ!!たすけ、たすけてっ!!!」 「じゅ、ジュン!ちょっと待って!!姉さまを!」 「みっ!」 瞬間、ルイズの声を聞く前に、ジュンの動きが止まっていた。勢いで思わずカウントを 始めたけど、数え終えたら僕はこのナイフを、どうすればいいんだろう?という事に気が 付いたから。 だが、どちらにしても、カウントは最後まで行けなかっただろう。 ドッゴオォォォン・・・・・ ゴーレムは、塔のカベを殴ってぶち破った。ローブの人物はゴーレムの腕を伝って塔の 中に侵入した。 「「「「「え?」」」」」 エレオノールも、ジュンも、ルイズも、真紅も、翠星石も、いきなりの展開に、目が点 になって動けない。 少しして、塔から出てきたローブの人物が、再びゴーレムの肩に乗った。ゴーレムはそ のまま、学院の城壁をまたいで、草原へ去っていった。 残された5人は、何が起こったか分からず、ぼけーっとしていた。 「あーらららららぁ!これは大変だわねぇっ!!」 いきなり上空から、のんきな女性の声が降ってきた。 5人が上を見上げると、ウィンドドラゴンが彼らの頭の上を旋回していた。 舞い降りてきたウィンドドラゴンの背に乗っていたのは、キュルケとタバサだ。 あっけにとられる五人をニヤニヤと見渡し、キュルケは勝手にしゃべり始めた。 「あーら大変なことだわぁ!学院に泥棒が来たみたいよぉ」 タバサがこくりと頷いた。 「あれは今、巷で噂の『土くれのフーケ』だわね。巨大ゴーレムを使っての力技。間違い ないわ。まさか学院の宝物庫を狙うとは、ビックリねぇ~」 また、うなずくタバサ。 「でもヘンね、学院の宝物庫には、スクウェアクラスのメイジが何人もかかって強力な防 御をかけてたはずよねぇ」 コクコク、とさらに頷く。 「それに固定化の呪文もしっかりかけてあるし。いくらフーケのゴーレムが凄くても、そ んな簡単にカベを破れる分けないわよね。どうしてかしらねぇ?」 「ありえない」 タバサがようやくしゃべった。 「あーっ!わかったぁっ!!さっき学院の広場で大喧嘩してた、どっかの貴族達のせいだ わぁ~♪」 「んなっ!?」 エレオノールが、やっと、彼らが何を言ってるのか気が付いて声を上げた。だが、もう 遅かった。 「街からの帰り道に見つけたゼロのルイズをコッソリ追いかけていたら、タァイヘンなモ ノを見つけてしまったわぁ~♪まさか、姉妹喧嘩の果てに学院の宝物庫のカベをぶっこわ して、泥棒さんの侵入を許してしまうなんてえ~☆どぉしよぉ~?」 「ビックリ」 タバサが、全然ビックリしてない風にポツリと言った。 「こおんな事がアカデミーや王宮に知られたら、ヴァリエール家にはどれほどの不名誉な のかしらぁ?もしかして、貴族の娘が二人も、牢獄行きっ!?やーん!あたし、しーんじ られなーい。キャハハハッ!!」 「あはははは」 タバサは棒読みで笑い声を言った。 「あ、そぉれぇとぉもぉ~。『アカデミーによる使い魔強奪未遂事件』ッて言った方がい いかしらねぇ~?」 「どっちもぐー」 タバサは、無表情なまま、指でマルを作った。 「アカデミーの人間ってイヤよねぇ、神聖なる使い魔とメイジの関係も、ただの研究材料 にしちゃうなんて~。 ねぇ、そこのお・ね・え・さ・ま!」 キュルケはいきなりエレオノールを指さした。 「どぉっちのタイトルがいいと思いますぅ?あたしぃ、わっかんなーい♪」 エレオノールの顔色は、高速で赤と青と白を行き来していた。その表情は、もはや表現 する言葉が見あたらないほど、あらゆる感情が入り交じっていた。 ようやく、エレオノールが、まるで地獄の底から響くような声をだした。 「そ…そこの二人に、ヴァリエール家の名において、命じます。今夜、ここで見た事は、 口外しては、なりません」 「あっらー!大変な事だわぁ、ヴァリエール家の長女エレオノール様に、命令されちゃっ たぁ。やぁねぇ、さっそく周りの人たちにも、教えてあげようと思ってたのにぃ~」 タバサが杖で寮塔と本塔を示した。そこには、大音響を聞きつけて駆け出してきた学生 達が見えた。 「くうぅっ!!も、もし口外するような事があれば!あなたの命は」 「あら!面白いわねぇ、このキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ ツェルプストーの命を奪うというわけね!」 「なっ!ツェルプストー!?」 エレオノールは彼女の姿を改めて見直し、目を白黒させた。 「ならば話は早い。祖先より紡がれし両家の因縁、血塗られし歴史、今ここに再び幕を開 けようぞっ!!」 叫んだキュルケが杖を手にする。 「まっ!待ちなさいっ!!早まってはなりませんっ!」 後じさったエレオノールだったが、自分のすぐ背後に、ナイフを持ったままのジュンが いる事を思い出した。しかも、杖は彼に切り刻まれた。おまけに、彼に付き従う魔法兵器 が2体。ルイズも彼女の味方をしない。 もはや前にも後ろにも行けず、彼女は哀れなほどオタオタしていた。 「・・・な、何が望みですか・・・」 肩をわなわなとふるわせて、エレオノールがキュルケに、敗北宣言とも言える言葉を発した。 「・・・帰りなさい」 「「「「「「…な?」」」」」」 キュルケの答えは、余りにも予想外の言葉だった。エレオノールはおろか、その場にい た全員が驚いて聞き返してしまった。 「大人しく引き下がれば、この場は不問に処す、と言ってるのよぉ。不服かしらぁ?」 まともに考えれば、キュルケの要求は明らかにおかしい。先祖代々続く宿敵ヴァリエー ル家の大スキャンダル。表沙汰になれば、ヴァリエール家は王家からどれほどのお叱りと 処罰をくらうか。その結果得るツェルプストー家の利益はどれほどか。たとえ利益が全く 無くても、腹を抱えて大爆笑出来れば十分だろう。 だが、エレオノールには、これを拒む選択肢を与えられていない。どこをどう見ても、 彼女の明らかに裏がある要求を、飲まざるを得ない。 そして、周囲には学園の生徒や使用人が集まって「なんだどうした」と訝っている。も はや考える時間もない。 エレオノールは、果たして人間はこれほどまでに汗を流せるのか、というくらい滝のよ うな汗を流して迷っていた 「姉さま、ここは引いて下さい」 ルイズが、静かに、だが力強く声をだした。 「キュルケには、私から話をつけます。ですが、アカデミーの人間である姉さまがここに いると、話がヴァリエール家の中だけでは済まなくなります。どうか、アカデミーに戻っ て下さい。そして、二度とアカデミーに、私たちに手出しさせないで下さい。 姉さま、この通りです。お願いします」 ルイズは、深く頭を下げた。 エレオノールは、淑女にあるまじき歯ぎしり音を響かせ、とうとうため息と共に肩を落 とした。 「わ・・・わかりました。今は、帰りましょう」 それだけ言って、彼女は野次馬を押しのけ、馬車に乗った。 馬車はゴーレムの御者に操作され、急いで学院を出て行った。 馬車の窓からエレオノールが、ルイズ達を憎々しげに睨んでいた。 「ふひゃあぁあぁあぁ~~~・・・・」 情けない声を出したのは、ジュンだった。ナイフを放り出し、広場に大の字でぶっ倒れ ていた。 「よくやったわジュン」「見直しましたですよ!もうチビ人間じゃないですよぉ!」 真紅と翠星石がかけより、今頃になってダラダラと大汗をかいてる少年を激励した。駆 け寄ってきたルイズの瞳には、涙が浮かんでいる。 「ジュン…真紅も、翠星石も、ありがとう。ホントに、ありがとう」 「いーよいーよ、どうせいつかは必ず来るって思ってたんだから」 ジュンは大の字で伸びたまま、手をヒラヒラさせた。 「さーって、ルイズちゃあ~ん♪」 キュルケが、ウィンドドラゴンから降りてきて、クネクネしながら彼らにニッコリと微 笑んだ。 「このお・れ・い・は♪どうやって払ってくれるのかしらねーっ!」 その笑顔は、明らかに見返りを要求していた。しかも、もんのすげーでっかい報酬を。 ルイズはタジタジで、引きつった笑顔で目を逸らす。 「えーっと、そのぉ~、なんの事かしら・・・」 キュルケが、さらにニコニコと、最高の笑顔を見せる。 「このまま、王宮いこっかなー?それともぉ、オールド・オスマンに全部話しちゃおっか なー♪ねぇタバサ、どっちが良いと思う?」 タバサも頭をかしげた。 ぐゎしっ! ダダダダダ・・・・ ルイズは、キュルケとタバサを掴んで、寮塔へ走っていった。 しょうがないのでジュンも真紅と翠星石を抱えて、慌てて後を追った。 後には大穴が開いた塔を見て騒然とする人々が残った。 ルイズを追いながら、ジュン・真紅・翠星石は、ホントにこの世界に来て良かったのか と、真剣に悩んでいた。 第五話 『ヴァリエール家の娘達 』 END back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next アルビオン~トリステイン戦争 二日目 ―――ラ・ロシェール 朝 アルビオンへ行くフネのための港町であり、世界樹の枯れ木をくり抜いた立体型の桟橋 や、メイジが岩から切り出して作った建物群が峡谷にある。 そんな賑やかだったはずの街も、今は人影もない。桟橋に係留される船もない。かつて は貴族達が泊まった高級宿屋『女神の杵』亭は、フーケに破壊されたままの状態で放置さ れていた。 その上空を、数騎の風竜騎士が飛び回っている。 竜騎士が一騎降下し、『女神の杵』亭を窓から覗く。かつては高級貴族だけが使用した 一番高級な部屋も、テーブルや鏡台にホコリが積もりはじめている。他の竜騎士も降下し て、いくつかの建物を見て回る。ほとんどの荷物は持ち去られ、あるいは盗まれ、あとに は脱ぎ捨てられた服、小さな鞄、ガラクタ、子供の人形、ボロボロに錆びた剣やらが床に 散乱するばかり。 しばらく旋回した後、全くの無人である事を確認して、上空へ急上昇。竜騎士が向かう 雲の間には、アルビオン艦隊が滞空していた。 「本当に無人なのか。やつら、まさかラ・ロシェールまで放棄するとはな」 偵察隊からの報告を聞いて呆れているのは、艦隊司令長官兼トリステイン侵攻軍総指揮 官、といっても本職は貴族議会議員という政治家のサー・ジョンストンだ。 「兵力集中は基本ではあります・・・が、ここまで徹底するとは、驚きです」 そういって隣の上官に同意したのは侵攻艦隊旗艦の艦長、サー・ヘンリ・ボーウッド。 二人が前を見ると、遮るもののない青空と雲海が広がっている。 サー・ジョンストンの声は神経質そうで、心配げだ。 「大丈夫かね、艦長。やつら、何かとんでもない秘策をもって待ち受けているのではない かな?」 「もちろん。やつらも少ない戦力を少しでも集中させ我らに奇襲をかけるべく、あれこれ と努力している事でしょう」 「い、いや、私が言ってるのはそういう事ではなくて、だな」 「ガリアからの情報、謎の使い魔…ですか?」 「そ、そ、そうだ。信じたくはないが・・・」 「そうですな。無論、それも含めての艦隊編成をしております。今は、作戦を実行すると しましょう」 ボーウッドは内心、この臆病な長官を『クロムウェルの腰巾着』と軽蔑していた。もと もとレコン・キスタに共感もしていない。軍人は政治に関与すべきでない、との信念の下 で、レコン・キスタに就いた上官の命令のままに戦っていたら、ずるずると昇進して旗艦 の艦長にまでなってしまったのだから。 そんな、任務に私情を挟まぬ優秀な軍人ボーウッドでも、隣で恐怖に震える上司の気持 ちには共感していた。 「あの異常な警備態勢、そしてこの奇妙な艦隊を見れば、私とて不安にはなります。です が、兵達の前で指揮官が動揺を見せてはなりませんぞ」 「う、うむ、わかっている、わかっている」 ボーウッドが『奇妙な艦隊』と評したアルビオン艦隊はラ・ロシェール上空を通り、雲 の中を一路トリステインへと向かった。 竜騎士が艦隊に戻ると、床に散乱していたガラクタの中で、うつぶせの人形の指ががピ クリと動く。 白銀の髪に黒いドレスを着た人形はゆっくりと顔を上げ、竜騎士が飛び去った事を確認 すると、窓からアルビオン艦隊を見上げた。 『ふぅん・・・あれがアルビオン艦隊ね』 ボロボロに錆びた剣が答えた。 「ああ。まちがいねぇな。それにしてもおでれーた、すっげぇ大艦隊だ」 水銀燈は床に放り出していた鞄の中から、巨大な望遠レンズ付きデジカメを取り出し、 最大望遠でカメラを覗く。 『本当に変な艦隊ねぇ、ほとんどが普通の船…というか、ボロくて小さいわねぇ』 デルフリンガーはサビを取り、自身を輝く刀身に戻した。 「ああ、ボロいのは焼き討ち船だ。敵艦隊に突っ込ませて自爆させるんだぜ。でも、そん なに多いのかよ?」 『ええ、半分以上がそうよぉ。他に、大砲はないけどやたら大きな船とかもいるわねぇ。 それが三列に並んでるわ。全部で・・・53,かしらぁ?左に17,真ん中が18,右が 18…やたらと間を空けて並んでるのねぇ?』 「大きいのは補給船だろうけど、半分以上が焼き討ち船ってのはヘンだなぁ。もともと戦 艦の数で勝ってるのに」 『なんだかわかんないけどぉ、とにかくあたしの役目はこれで終わりよぉ。帰るわねぇ』 カシャカシャとシャッター音を響かせた後、水銀燈はデルフリンガーを抱えて鏡台の中 に入っていった。 「へぇ~。あいつら、ラ・ロシェールを素通りしたのねぇ」 キュルケがデジカメのモニターを食い入るように覗き込んでいる。 「桟橋破壊は、後の艦隊運用、交易に支障がでる。トリステイン艦隊を、倒さないで占領 しても、維持が手間」 タバサもメガネをクイクイと直しながら、艦隊の映像を見つめている。 「それにしても、この三列の艦隊…やっぱりだ。ルイズさんの『エクスプロージョン』を 警戒してるんだ。これだけ各列が離れると、真ん中の一番でっかい戦艦、旗艦からの指揮 に問題が出る。なのに、あえてそれをするってことは・・・」 ジュンは手にするカメラの映像を次々と映し、奇妙なほど各列の間が空いた艦隊を見続 けた。 「各列のどれに『エクスプロージョン』が来ても、残った二列は無事・・・というわけだ わね」 真紅がベッドに座って顎に手をあて、推理している。 「気になるのは、その戦艦達の後ろにいる、焼き討ち船の多さですねぇ。トリステイン艦 隊と戦うだけなら、そんなにいらないかもですぅ」 翠星石も真紅の横に座り、頭をひねっている。 厚くカーテンが引かれたルイズの部屋では、水銀燈が撮影してきた映像からアルビオン 艦隊の情報が分析されていた。 『その辺の事はあんた達で考えなさぁい。それじゃ、頑張りなさいよぉ』 「おう!お疲れさーん」 デルフリンガーに送られて、水銀燈はnのフィールドへ帰っていった。 コココン…ココン…コン 扉が奇妙なリズムでノックされた。 「あ、ルイズさん。おかえりなさーい」 ルイズは扉を開けて入ると同時に、はあぁ~っと大きな溜め息をついた。 「その様子ですとぉ、どうやら待機命令のままのようですねぇ」 「そのとーりよ、スイ。 まったく父さまったら『我が娘は大砲や火矢ではありませぬ』て軍議でタンカきったん ですって! ・・・んな事言ったって、『虚無』無しじゃ勝てないわ!あたし、歩いてでもトリスタ ニア行くわよ!」 「まぁまぁルイズさん、ちゃんとゼロ戦で運ぶからさ」 「ええ!運んでくれるだけで良いわ。お願いするわね」 「ああ、でも今はギリギリまで待とうか。でさ、ルイズさん。これ見てよ、この艦隊。全 部で53隻だけど、これはどうみても・・・」 カーテンの引かれた薄暗い部屋では、デジカメを囲んで小さな軍議が続いていた。 トリスタニアに近づくアルビオン艦隊の姿は、カラスやフクロウなどの使い魔を有する メイジ達にも捕らえられていた。 トリステイン艦隊旗艦『メルカトール』号に乗り込んだマリコヌルその他のメイジが、 艦隊司令長官ラ・ラメー伯爵へ報告する。 「本当に、そんな編成で向かってきているのか?」 「は!はひぃ!間違い、あっありません!」 「そうか、ご苦労だった。各員持ち場に戻ってくれ」 マリコルヌは太った体を揺らしながら甲板へ戻っていった。 ラ・ラメー伯爵はトリステイン艦隊をぐるりと見渡す。 トリステイン艦隊は旗艦『メルカトール』号を中心とした輪陣形をとっていた。といっ ても戦列艦は10隻しかいないので、円というよりはいびつな八角形。その周囲に、やは り焼き討ち船としての古めかしい船が10隻浮いている。 輪陣形とは、旗艦を中心に円を描くような陣形だ。旗艦周囲を守る多数の補助艦と、小 型高機動な大量の空戦力によって成り立つ。現在トリステイン艦隊は、トリスタニア上空 に滞空している。このため首都警護竜騎士連隊はじめ、トリステイン全土から集結した竜 騎士・グリフォン等の空兵力が艦隊周辺を飛び回っている。 「どう読む?艦長」 ラ・ラメー伯爵は隣に立つ『メルカトール』号艦長フェビスに尋ねる。フェヴィスは口 ひげをいじりながら、しばし思案した。 「・・・ガリアの、ヴェルサルテイル宮殿の噂を信じたということでしょう」 「やはりそうだろうなぁ。まさか、ここまで信じてくれると、驚いてしまうな」 「意外と真実だったのかもしれません」 「ふふ、さあな。いずれにせよ、これは我らにとってチャンスだということだよ!」 「各個撃破の絶好の機会、千載一遇の好機ですな」 ラ・ラメー伯爵が飛ばした指示は、手旗信号や信号旗によって艦隊各艦と周囲を飛ぶの 騎士達へ伝えられた。艦隊はゆっくりと形を変え、まだ見えないアルビオン艦隊へ艦首を 向けて横一列に並んでいく。 艦隊一番右に並ぶ先導鑑に対し、最後尾となる鑑として『イーグル』号が一番左にあっ た。 「ふむ、単横陣か…敵艦隊の射程直前で面舵にて一斉回頭、敵横陣列の右鑑列へ向かい、 すれ違いざまに撃ちのめす…というわけだ。敵戦列艦は18隻だが、3つに分かれれば6 隻前後。数で勝る事が出来る」 『イーグル』号ではウェールズが、艦隊の陣形から作戦の意図を読み取っていた。 「さようでございますな、おう」「おっと!私はもう皇太子でもなんでもないと、何度も 言ったろう?パリーよ」 「そ、そうでござったな、こほんっ。改めて、う、ウェールズ艦長」 パリーと呼ばれた労メイジは、言いにくそうにウェールズの名を呼んだ。 もう一度こほんっと咳払いをして、誤魔化すように話を続けた。 「それに、『ロイヤル・ソヴリン』号に積める竜騎士の数は20。例え他の艦にも無理矢 理積んだとしても、トリステインが数で上回る事が出来ますぞ!」 そういうと、パリーは拳を握りしめて涙を流し始めた。 「くぅ~!ニューカッスル城では、平民達を無事に投降させるため、共に城を出ざるをえ んかった!もはやこの老骨も、路傍の石の如く屍を晒すか…と世をはかなんでおったが、 よもや再戦の機会を得るとは! 自害せなんで、ほんによかったぁ!これで、これで陛下に胸を張って会いに行く事が出 来ますぞ!!」 「よさないか、パリー、縁起でもない。これは死ぬための戦いじゃない、生きるための戦 いだ」 「お、おっと、失礼致しました」 ウェールズは伝令管を全て開け放ち、艦内全体に声を響かせる。 「諸君!よく聞いて欲しい、これより本艦はレコン・キスタ艦隊と砲火を交える。 だが、これは決してアルビオン王家の復讐でも捲土重来のためでもない。我らは皆、ト リステインに亡命したのだ。だから、私も諸君等も、等しくトリステインの一国民に過ぎ ない。 蛮勇は許さん、特攻も自害も認めん!生きろ。戦って戦って、戦いの最後の瞬間まで生 きるんだ!我らの新しい故郷、トリステインのために、這い蹲ってでも生き、杖が折れて も戦うんだっ!!」 艦内各所から雄叫びや歓声が帰ってくる。ブリッジも皆が拳を振り上げ、口々に始祖へ の祈りと必勝の誓いを叫ぶ。 「さぁパリーよ、この戦は速力が勝負だ。焼き討ち船をかわして、他の2艦列が駆けつけ る前に、どれだけ敵の数を減らせるかが鍵となる。遅れを取るなよ!」 「ははっ!」 ―――アンリエッタ、必ず私は帰る。待っててくれ――― 横一列に並ぶ全艦艇が船首を向けるその先に、アルビオン艦隊がポツンと見えたのは、 それからすぐの事だった。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ 注 艦隊簡易展開図 戦 戦艦 ・ 小型船 ○ 中型船 ◎ 大型船 ←トリステイン艦隊進行方向 メ:『メルカトール』号 イ:『イーグル』号 戦戦戦戦メ戦戦戦戦イ・・・・・・・・・・ 戦 戦 戦 戦 戦 戦 戦 戦 戦 レ 戦 戦 戦 戦 戦 戦 戦 戦 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ◎ アルビオン艦隊 レ:『レキシントン』号 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ 「見えました。・・・敵艦隊、単横陣です」 報告を聞いたボーウッドは、満足げに頷いた。 「うむ、予想通りだ。やつらは左右いずれかの艦隊に速攻をかける気ですな」 「だだ、大丈夫かね?特に左翼は戦艦が5隻しかいないんだよ!?やつらは10隻で、こ れでは」 サー・ジョンストンの震える声に、ヤレヤレという感じでボーウッドは答えた。 「狙わせるために5隻にしたのですよ、作戦通りです。これでヤツらの動きは読めるし、 問題ありません」 「しっ!しかしだねっ!」 「大丈夫です。様々な事態に対応した作戦が練られてあるそうですから、今はこれで大丈 夫ですよ」 「そ、そう信じているが・・・そもそも、あの者の言うままに動いていていいのか?」 「閣下の作戦案は全て、あの女性が記憶しているそうですから。少なくとも、現在の所は 問題は生じていません。 ともかく、予定通りに始めましょう」 そういってボーウッドは、様々な指示を飛ばしながら、中央艦列最前列の艦首を見た。 そこには黒いコートをまとった痩身の女性が立っていた。 アルビオン艦隊中央艦列の先頭艦船首で、足下に大きな鞄を置いたシェフィールドが、 猛禽類のような笑みを浮かべている。 「・・・まったく、あたしがいない間に、ジョゼフさまの所で勝手してくれたようじゃな い!」 そう吐き捨てると、シェフィールドは右腕を高々と掲げた。 「おかげでジョゼフさまと来たら、寝ても覚めてもあいつらの事ばっかり・・・ホント、 嫉妬しちゃうわねぇ」 高く掲げた右手を、一気に振り下ろす。と同時に、凄まじい熱気が中央戦列艦の後方で わき起こる。 「さぁ、次はこちらのターンよ・・・楽しく遊びましょう!!」 戦列艦の後方から、シェフィールドの左右を通り抜け、燃えさかる船が次々と疾走して いった。紅蓮の炎に彼女の黒いローブまでが赤く照らされ、激しくひるがえる。 「や!焼き討ち船、来ます!」 アルビオン艦隊の列の間を、真っ赤に燃える船が向かってくるのは『メルカトール』号 からでも見えていた。 だが・・・ 「や、焼き討ちせ・・・ん・・・来ません!」 「な…んじゃっそりゃあー!!」 目の前で見えてる事実に、フェヴィス艦長は思わずおかしな叫びをあげてしまった。焼 き討ち船はトリステイン艦隊に向かうかと思いきや、途中で失速し、落ちていってしまっ たのだ。 トリステイン艦隊にいるほとんどの人間が、あっけにとられて呆然と、落ちていく船の 列を見ていた。 間の抜けた沈黙が広がる中、甲板からマリコルヌの悲鳴が艦内にまで響いてきた。 「うわああーーー!!ま、街があーーーー!!!」 真っ赤に燃え上がった船が、次々とトリスタニアに落下していく。 ブルドンネ街大通りに、貴族達が住まう屋敷に、橋に、街のあらゆる場所に…いや、街 の風上全体に、中央艦列後方にいた11隻中9隻が、燃えさかりながら落ちていった。 「ばっバカな!?城下を全て焼き払う気か!?」「占領が目的じゃ・・・」「第一、この 艦隊を無視してまで街を焼いてどうすんだよぉ!?」「ち、地上が、陸軍が!」「俺の、 家があ、店があああ」 「落ち着け!とにかく我らは艦隊に集中するんだ!」 艦長の叫びに、熟練した乗員達が我を取り戻し、次の指示を待つ。それを見て急遽乗り 込んだ学生の士官候補生なども、ようやく落ち着いた。 ラ・ラメー伯爵が咳払いと共に、声を張り上げる。 「心配するな!城下の避難は既に済んでいる。街は再建出来る!今は、この一戦に集中す るのだ!!」 そして伯爵は右手を振る。と同時に、艦隊は一斉に右へ回頭し、最大戦速で疾走し始め た。周囲の竜騎士始め全ての幻獣も、その動きに併せて右へ駆ける。 フェヴィスが力の限りに声を張り上げ、艦内に檄を飛ばし続ける。 「大丈夫だ!右の艦列は僅か5隻、そして騎士の数はこちらが上だ!あの艦列を速攻で潰 し・・・他の、艦を・・・」 だが、彼の指示は途中で止まってしまった。 彼は、いやトリステイン艦隊の全ての人々が、目を奪われた。 アルビオン艦隊後方の、補給艦と思われていた大きな2隻の艦から飛び立つ竜騎士の群 れに。 「て・・・敵艦隊より、竜騎士が続々と離艦、来ます!その数、42…57!?か!数え 切れませんっ!!!」 士官からの報告は、悲鳴となった。 「戦列艦は5隻でも、動きの速い竜騎兵が圧倒していますからなぁ」 アルビオン艦隊旗艦では、ボーウッドは相変わらず冷静に戦況を分析している。 「大型商船を急遽改造しての竜騎士専用艦、『竜の巣』号と『母竜』号か…閣下の発想に は驚かされるよ」 サー・ジョンストンも、相変わらずビクビクしながら戦況を眺めている。 天下無双と名高いアルビオン竜騎兵100騎が、竜騎兵以外も入れて半数にも満たない トリステインの騎兵と、艦隊へ襲いかからんとしていた。 その下では、トリスタニアが炎に包まれていた。 第2話 その炎は罪深く END back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next
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back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next 夕暮れの商店街。 冴えない時計屋の中で、老人が少年に古い懐中時計を見せていた 「ええ!これですコレ!こういうのが要るんですよ!」 「本当にいいのかい?若いのに、こんな年代物の懐中時計なんて」 「いえ、これが必要なんです。トリステインに、あんまりこの世界のハイテク品を持って 行くわけにはいかないから。 …ホントはこの古時計でも、かなりヤバイかもしれないけど」 「ふ~ん、そういうものなのかねぇ。まぁいい、大事にしてくれよ」 「はい。で、いくらですか?」 「いや、代金はいらんよ。持って行きたまえ」 「え、いやそいういうわけには」 「蒼星石を目覚めさせるために頑張ってるんじゃろう?だったら、蒼星石のミーディアム じゃったワシも、手を貸さねばなるまいよ。 いつまでかかっても良い。必ず、必ずや、蒼星石を目覚めさせてくれ」 「分かりました。頑張ります」 ジュンは蒼星石の元契約者である時計職人の老人、柴崎氏の時計屋を後にした。 ここは地球、ジュンの住む町。 ジュンは一時ハルケギニアから帰ってきていた。 見慣れたはずの夕暮れ、ヒグラシが鳴き始めた帰り道。だが、何か新鮮に感じる。 木々の代わりに林立する電信柱。、草一本生えないコンクリとアスファルトの地面。前 に立つと当たり前のように開閉する自動扉。火トカゲよりよっぽどモンスターっぽい車。 トリステインではありえない、信じがたい蒸し暑さ・・・ 「ほんのすこし異世界にいってるだけで、何もかも違って見えるんだな…」 ジュンが帰宅すると、リビングでは一騒動起きていた。 「やだー!カナも行きたいー!絶対、頑張れば、みっちゃんと一緒なら、トリステインへ 行けるのかしらー!?」 ダダをこねる人形が、床を転げ回っている。 「なぁ~にを言ってるのですか!?このバカカナは。話を聞いてなかったですかぁ?召喚 されてもいないはずの金糸雀に、みっちゃんさんまで来たら、あたし達が自由に異世界を 往復出来るのが、ばれてしまいますぅ!!」 「そうよ金糸雀。翠星石を連れて行くのだって、本当はかなり危険だったのよ。 幸い翠星石の服がたまたま緑色だったから『最初からジュンや私と一緒に召喚されてい たけど、草むらの中に隠れて見えなかった』とごまかせたのよ。もうこれ以上は、ごまか しようがないわ」 「あ、あたしの髪と瞳も緑なのだけど、どうかしら?」 ジュンは「むりむり」とつぶやいた。 黄色のベビー服みたいな服にオレンジ色のドロワーズ、 緑の髪を、お下げのロールヘ アにしているのは、ローゼンメイデン第2ドール金糸雀だ。 ハルケギニアに行きたいとダダをこねて、ソファーで紅茶を飲んでいた真紅と翠星石に 怒られていた 「でも、でも、みっちゃんも向こうの世界が見たいって、すっごく見たいって、写真も沢 山たっくさん撮りたいって言ってるから…」 ジュンはため息と共に、泣きそうになりながらダダをこねる金糸雀の肩を叩いた。 「あのさ、金糸雀…草笛さんの気持ちは分かるけど、でもさ…向こうの言葉、分かんない だろ?」 「う、そ、そうなのかしら?」 「そうだよ。僕と真紅と翠星石がハルケギニア語を話せるのは、この左手のルーンのおか げなんだ。ルーンと指輪を通して会話出来るから、向こうの世界でもなんとかやっていけ るんだよ」 「うう…いくら薔薇乙女一の頭脳派、この金糸雀でも、異世界の言葉は無理かしら…」 金糸雀は今にも鳴き出しそうなのを我慢していた。 「で…ねえちゃんは何してんの?」 ジュンは、ハァヒィ息つきながら大荷物を両手に抱えてやって来たのりに、冷たい視線 を送っていた。 「はぁふぅ…これはねぇ、ジュンくんの着替えでしょ、お弁当でしょ、それからルイズさ んへのお土産と、あと、巴ちゃんからもらった夏休みの宿題と」 「却下!」 「ええぇ!?ダメよぉ、ちゃんと着替えないと服だって汚れるでしょ?ご飯だって、たま には日本食食べたいでしょ?それにルイズさんにも世話になってるし」 ジュンは頭を抱えた。 「ねえちゃん、イマイチ分かってないだろ…僕はトリステインからは遙か遠くの異国から 召喚されたって事になってるんだよ?それも、着の身着のままで!その僕が、異国の服を ポンポン着替えたりしたら、その服どっから持ってきた?って話になっちゃうじゃない か!」 「うーん、やっぱりそれがばれるとマズイかなぁ?」 「当たり前だろ!ソッコーでトリステイン王宮のメイジ達が、僕らをとっつかまえに来る だろうね。最悪、異世界侵略戦争くらい起きるカモよ」 「あうう…」 のりはがっくりと肩を落とした。 「ちょっとぉ、あんた達ぃ…何を遊んでるのよぉ」 廊下から現れたのは、逆十字の柄が入ったスカートに、黒と白の編み上げドレスの小柄 な女性の姿。背中には黒い翼。水銀燈だ。 「お帰りなさい水銀燈。ご苦労様ね。こっちへ来てお茶を飲みなさいな」 相変わらずソファーで優雅に紅茶を飲む真紅が、水銀燈に紅茶をすすめる。 「ハッ!お断りよぉ…それより、首尾はどうなのぉ?」 「やっぱり時間がかかりそうね。ローザ・ミスティカの情報も無いし、それに…」 真紅は水銀燈をじっと見つめた。 「向こうの薬は、かなり高価よ。おまけに、最大限の効果を発揮させるには、『治癒』の 魔法を使える水系メイジが、魔法をかけながら使う必要があるみたい。でも、それ相応の 効果は期待出来るわ」 「だぁったら話は早いわねぇ…水系メイジとやらを薬ごととっつかまえて、連れてくれば いいんだわぁ」 水銀燈の赤い瞳が危険な光をはらむ。 「止めた方が良いわね。強力な治癒の魔法を使えるメイジであれば、当然強力な戦闘力を 持つわ。それに、ヤケになったり混乱されて、病室で大暴れされたりしたら、もともこも 無いわよ」 「くっ…」 さらりと真紅に受け流された水銀燈は、ぷいっと顔をそらす。そんな水銀燈の横顔に、 真紅は優しく微笑んだ。 「めぐの事がとっても心配なのね。でも、焦っちゃダメよ」 「!・・・なにいってんのよ、だあれがあんな・・・」 水銀燈は真紅達に背を向けた。哀しげにうつむく顔をみられないように。 「ふん。まぁどうせ蒼星石と雛苺のローザ・ミスティカが見つかるまでは、アリスゲーム は中断するしかないんだしねぇ。暇つぶしに、あんた達の異世界冒険に付き合ってあげる わぁ」 そういって、水銀燈は再び倉庫の大鏡へ去っていった。 「さぁ!真紅、翠星石、そろそろ行くとしよう」 懐中時計の時間を合わせたジュンが、二人に檄を飛ばした。 「そうね、そろそろ行きましょう」 「そうですねぇ。ジュン、体力は大丈夫ですかぁ?」 「バッチリだ!んじゃ、ねえちゃん、金糸雀、後を頼む」 残る二人は、涙目だ。 「ジュンくん、無茶しちゃだめよ?ルイズさんの言う事よく聞くのよ?生水飲んじゃダメ よ?なにかイヤな事あったら、すぐ帰ってきてね。それから、それから・・・」 「頑張るのかしらー!ジュンー!真紅ー!翠星石ー!カナは応援してるのかしらー!!お 土産も少し期待してるかしらー!?」 そんな応援を背に受けつつ、ジュンはリビングに置いてある二つのトランクをチラッと見た。 待ってろよ、蒼星石も雛苺も、必ず目覚めさせるからな ジュン達は倉庫の大鏡に入っていった ルイズの部屋には、日の出の朝日が差し込んでいた。 ベッドに座るルイズが、不安げに鏡台を見つめている。 「あいつら・・・いつまでかかってるのかしら。まったく、主を心配させるなんて…」 不意に鏡台が輝いた。 と同時に、どさどさどさっとジュン達三人が折り重なるように鏡面から飛び出てきた。 ジュンがピクピクしながら、震える手で懐中時計を取りだした。ぎぎぎぃ~…と首をき しませ、ルイズの部屋に置いてきた目覚まし時計とも見比べる。 彼は、絞り出すような声でつぶやいた。 「・・・や、やったぁ。しぃ、新記録ぅ・・・」 「なにが新記録よっ!!」 ルイズの枕がジュンの頭に命中した。 第四話 『ルーン』 虚無の曜日の午後。 トリステイン城下町ブルドンネ街大通りに、ルイズ達はいた。 看板や通りを目印に進むルイズ。ジュンは右手に真紅、左手に翠星石を抱えて後ろをつ いている。白い石造りの街、道ばたには露店があふれている。ジュンも真紅も翠星石も、 珍しげに周囲を見物していた。 真紅と翠星石をチラッと見る人はいるが、別に気にするでもなく通り過ぎていく。はた 目には『貴族の娘と、彼女の人形を抱えた小姓』だと思われているに違いない。 ルイズはなんとなく、上機嫌だ。やっぱり買い物はスキなのだろう。 ジュンの左手には、コルベールに言われたとおり包帯を巻いていた。 「えーっと。秘薬店近くだから・・・あ、あった」 汚い路地裏を抜け、四つ辻を曲がって、剣の形をした看板がかかった店を指さした。 薄暗い店内はランプで照らされ、所狭しと剣や槍や甲冑が並べられていた。店の奥で店主の親父がルイズのマントと五芒星に気付いた。ルイズはツカツカと店主の前へ行く。 「旦那、貴族の旦那、ウチはまっとうな商売して・・・」 「客よ。この子に合う武器を・・・」 店の奥でそんな話をしている店主とルイズ。ジュンはと言えば、真紅達を抱えたまま、 店の武具を珍しそうに見回っていた。 「へぇ~、すげぇ~。やっぱ全部本物なんだなぁ…ネットやTVで見るのとは、ワケが違 うなぁ」 ふと真紅と翠星石を見ると、二人とも何か感慨深げに武具を眺めていた。 「なんだ、二人とも武器に興味があるの?」 「そ、そんなワケないですぅ。こんな野蛮な物、大嫌いですぅ」 「私も好きではないわ。でもね…」 真紅は、ふと遠い目をした。 「こういうのを見ると、やっぱりどこの世界も戦いとは無縁でいられない、そう思うの」 ジュンは、黙っていた。彼にとって戦いとは、ゲームやTVの中にしか無い事だ。アリ スゲームに関わってはいるが、彼自身が命がけで戦闘をするというわけではない。 だが、目の前にあるのは本当の武器。皮膚を刺し、肉をえぐり、骨を砕き、効率よく人 を殺すための道具の数々… 真紅が、重苦しく口を開いた。 「私が前に水銀燈と戦ったのは、第二次大戦のまっただ中だったわ」 「え・・・」 ジュンはぎょっとした。完全な少女『アリス』を目差すはずの薔薇乙女から、血生臭い 人間の戦争が語られるとは、あまりにイメージからかけはなれていた。 「今でもよく覚えてるわ。月が綺麗な夜でね、戦車の砲撃や爆撃でボロボロになった教会 の敷地で、お互い必死で戦ったわ。その教会の周りには、沢山の兵士が折り重なって倒れ ていたの。でも、その中のどれだけの人が、まだ生きていたのかしらね」 翠星石も、哀しげに口を開く。 「あたし達ローゼンメイデンにとっても、戦う事は、生きる事ですぅ。それはあたし達の 宿命ですぅ…でも、でもぉ、ケンカはイヤです。姉妹どうしが戦って、誰かが永遠に失わ れるくらいなら、翠星石はアリスにならなくていいですぅ」 ジュンは黙って、壁に掛かる武器を見つめた。 自分はこのハルケギニアでやる事がある。でもこの異世界を動き回れば、当然危険もつ きまとう。真紅や翠星石が守ってくれるとはいえ、いつも必ず傍にいるというわけでもな い。だから、自分も護身用に武器が必要だ。 だが、この武器を手に取れば、自分も相手を殺すということだ。 そんな事を真剣に考えるジュンの背後では、ルイズが店のオヤジと「…剣ならどんなに 安くても200…」「100しか…」なんてやりとりをしていた。すでに足下を見られて いるようだ。 ジュンは、真剣に人間の宿命を考えた自分がバカらしくなった。 「ねえルイズさん。どうせ僕は剣なんかロクに使えないんだから、安物の小さいヤツで良 いよ」 「そーも行かないわよ!こっちも貴族としてのプライドがあるんだから!」 「そうですぜ旦那。それに最近は『土くれのフーケ』なんて盗賊が貴族のお宝を散々盗み まくってるって噂で。貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせてる始末で。へぇ」 「でも、使えない武器持たされてもなぁ」 「おう!わかってんじゃねぇか坊主!」 いきなり、乱雑に積み上げられた剣の中から、男の低い声がした。 ルイズとジュンは声の方向を見たが、誰もいない。店主が頭を抱えている。 「そのボウズのちっこい体じゃ、長剣なんか抜く事すらできねーぜ!悪いこたいわねーか ら、そのボウズのいうとーり、ナイフ辺りにしておきな!」 ジュンは後じさった。声の主は、剣だった。積み上げられた剣の一つから声が発せられ ていた。 ルイズが駆け寄ってきて、サビが浮いたボロボロの長剣を手に取った。 「これってインテリジェンスソード?」 「そうでさ、若奥様。意志を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさあ。ったく、いった いどこの酔狂な魔術師が始めたんでしょうかねぇ?剣を喋らせるたぁ…」 「これにするっ!!」 ジュンが即決した。ルイズはキョトンとして、ジュンと手の中の剣を見比べる。 「ちょっとジュン。何もこんなサビが浮いたヤツにしなくても」 「いや、武器としてじゃなくて!しゃべるって方!」 真紅と翠星石もジュンの腕を降りて、ボロ剣を興味深げに触っていた。 「すごいわ…人形以外で、こんなに強い力を持つなんて」 「おまけに大声でしゃべってるです!信じられんですぅ。どっから声出てるですか?」 ジュンは、お前等の方が遙かに信じられねーよ!っと突っ込みたいのを我慢した。 「へえぇ、これが噂のインテリジェンスソードかぁ」 「おうよ!デルフリンガーってんだ。おめぇ、俺を買う気か?」 「うん、そう、ぜひ!」 「何いってやがんでぇ!自分の体をよく見ろよ、剣をふるどころか、剣に振り回されるの がオチだぜ」 「ふれなくていいよ」 「あん?」 「僕は、魔法の勉強をしたいんだ。特にゴーレムとか、魔法のアイテムとか」 「…おめぇ、俺を分解して調べてぇってのかい?」 「え?いや、そんなつもりはないけど。でも、どうやって作られたのか知りたいんだ。な ら、作られた本人に聞ければいいと思わない?」 「へぇ、なるほどね。平民のクセに魔法を勉強してぇとは…」 剣は黙った。じっと、ジュンを観察するかのように黙りこくった。 しばらくして、剣は小声でしゃべり始めた。 「おでれーた。見損なってた。まさか、こんなちびっ子が『使い手』とは」 「使い手?」 「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい、ボウズ、俺を買え」 「うん、そうするよ。僕はジュン、桜田ジュン。よろしくな。 じゃ、ルイズさん。これでお願いします」 ルイズはちょっと不満げだ。 「え~?それでいいのぉ?もっとちゃんとしたのを買わないと、武器として役に立たない わよ」 「それじゃ若奥様。こちらのナイフもおつけして、100でいかがで?」 「あら、安いじゃない」 「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ。なにせ口は悪いし客にケンカ売るし で困ってましたんで。鞘にいれてれば静かになりますよ。 おいデル公!観念してバラされて溶かされちまいな!」 「うるせぇ!もうこんなシケた店とはおさらばだぜ、せいせいすらぁ!」 武器屋を出たルイズ達は、道ばたで悩んでいた。ナイフは腰のベルトに付けるとして、 どうやってこの1.5メイルほどもある長剣をジュンが持つかで悩んでいた。 腰に差したら地面にズリズリ擦る。デルフリンガーが「勘弁してくれ」と訴えた。 背中にまっすぐさしたら、鞘が足に当たって歩きにくい。 あんまり斜めにしたら、彼の横を歩く通行人に当たる。 あれやこれやと四苦八苦し、鞘のベルトを色々調節したりずらしたり。 どうにかこうにか、周囲の邪魔にならない程度に、背中に斜めにさせた。だが、歩きや すいよう、かなりベルトの位置を下にずらした結果、背後に出た柄部分が、不自然にひょ こっと飛び出ていた。 …ぷっ ルイズがふきだした。真紅も翠星石も、顔を伏せて笑い出したいのをこらえてる。 ジュンも、なんだか恥ずかしかった。それに、どうやって抜けば良いんだろうと悩んで いた。どう考えても、これは鞘から抜き出せない。 試しに、デルフリンガーの柄を掴んで引き抜こうとした。だが、ちょっと柄から引き出 しただけで、案の定腕が伸びきって、それ以上引き抜けなくなった。 「うぷ!ぷ、く、くくくく…」 ルイズは腹を抱えていた。 だが、ジュンはキョトンとしていた。真紅と翠星石はハッとして、顔を見合わせた。 なんだ?なんだか・・・体が、軽い。まるで羽みたいだ 「ジュン!手を離して!」突然、真紅が叫んだ 「へ?」ジュンはキョトンとした。 「え!?なになに?」ルイズは笑いすぎて涙目になりながら、顔を上げた。 「おう、ちびっ子共は鋭いねぇ」少し抜かれたデルフリンガーが、とぼけた声を出した。 「いいから離すですっ!」ボカッ! 飛び上がった翠星石が、ジュンの後頭部を蹴り飛ばした。その拍子にデルフリンガーか ら手が離れた。 「あれ?・・・れ?体が戻った」 ジュンは頭をひねって、自分の体をあちこち確かめるように叩いていた。ついで背中の 剣をおろし、じっと見つめてみた。 「なんだ?今の」 「ジュン!大丈夫なの!?」 「チビ人間!気を確かにもつですよっ!」 真紅と翠星石が慌てて駆け寄ってきた。 「え?へ?な、なに、何の話?」 ルイズも何事かと駆け寄ってきた。 ジュンは自分の体を、手をじぃっと見渡した。 「え~っと…何ともない。でも、さっきちょっと体が軽くなった気が」 「体?頭じゃなくて?」「ジュン、意識はどうですかぁ?」 真紅と翠星石が、ジュンの顔に思いっきり顔を近づけた。 「あの、ホントに、頭は何にもないけど…何が?」 真紅と翠星石は、どいうことだろう、と顔を見合わせた 「ちょっと、一体何なのよ!?」 ルイズは、全く話が見えなかった。 「あたしがつけたルーンの効果が、おかしいっていうの?」 「ええ。つまり、精神支配が弱すぎるの」 「使い魔を支配するためのものなのに、これはありえんですぅ」 「んで、それと僕の頭蹴り飛ばすのと、どんな関係があるんだよ」 城下町からの帰り道、馬に乗った一行はポックリポックリのんびりと、夕暮れの街道を 学院へ向けて進んでいた。 ルイズは後ろにジュンを、真紅と翠星石を前に載せている。馬の鞍には大きな袋が結び つけられ、買ってきた衣類やデルフリンガーが突っ込まれている。 真紅が怪訝な顔で話し出した。 「つまりね、メイジは生物を召喚して、契約して、使い魔にする。そうよねルイズ?」 「ええ、そうよ」 「でも、普通いきなり呼びつけられて絶対服従しろなんて言われて、従うわけがないじゃ ない。だから、コントラクト・サーヴァントは召喚された者の精神を支配するはずよ。で ないと・・・ホラあれ」 真紅が空を指さす先には、ウィンドドラゴンが学園へ向けて飛んでいた。遠目に、長い 赤毛と短い青い髪の人影が乗っているのが見えた。タバサとキュルケだ。彼女らも城下町 から帰ってきた所だろう。 「あんな凄いドラゴンを呼び出したはいいけど、召喚したメイジが食べられましたって結 果になってしまうわ」 ルイズも頷く。 「ええ、その通り。だから使い魔をみればメイジの格が分かるって言われるの。高位の存 在を使い魔にするには、相応の強力な魔力が必要よ」 真紅もうなずき、ジュンの左手を見た。彼の左手はルーンを隠すため、包帯を巻いてい る。 「でも、ジュンのルーンは普段、ほとんどジュンの精神を支配出来ていないの」 ルイズが眉をひそめ、口をとがらした。 「何よぉ~、それって真紅が指輪で邪魔してるからでしょぉ~?召喚した夜に自分で言っ てたじゃないのよぉ~」 「ほとんどって言っただけよ。全く効果が無いワケじゃないわ。でも、この程度ならジュ ンは指輪無しでも、平気でルイズの命令に逆らえるわ。いえ、ルイズがジュンに無茶な命 令なんかしたら、ジュンは腹いせにルイズの顔に落書きしたり、下着のゴムを切ったり、 教室で悪い噂流したりとか、いろんな嫌がらせをしてくるわよ」 「僕は、そんな、ガキっぽいイタズラしないぞ…」 ジュンがジト目で真紅を睨んだ。翠星石がにひひぃ~っと笑いながら答えた。 「例えばの話ですよぉ。まぁその僅かな効果も、あたし達の指輪で妨害しているんですけ どねぇ。ほんのちょっとの力で抑えれてますよぉ。 僅かな効力でも、長期間あびれば、同じ事ですからぁ」 「やっぱり、あたしのメイジとして力が低いからかな…」 ルイズは力なくつぶやいた。だが真紅はルイズをまっすぐ見て、力強く言った。 「そうじゃないわ。いえ…さっきまではそう思ってたけど。でも、その剣を握った瞬間、 違うって分かったの」 「何が違うの?」 ルイズが視線を上げて真紅に尋ねる。 「さっきジュンが剣の柄を握った瞬間、強力な魔力がジュンに流れ込んだの。指輪の力を 軽く上回るほどの、ね」 「剣を握った時?…ね、ねぇジュン!」 ルイズは背後で、左手をジッと見つめるジュンをビュンっと振り返った。 「今、あたしの事どう思う!?えと、こう、何か神々しいなぁ~とか、大好きになっちゃ ったとか、あたしのために何でもしてあげちゃう♪とかさ!」 目を輝かせながら、鼻をくっつける程の勢いでジュンに詰め寄った。 「…えっと、ルイズさんを、今、僕が、どう思うかって…?」 「そう、そうそうそう!!」 「…え~っと、えっとね、えと…」 「…ねぇ~どうなのぉ~?正直にオネーサンに言ってよぉ~♪」 「正直に、言って良いの?」 「も、もちろんよ!」 「…わかった。そ、それじゃ言うよ?あのさ…」 「うんうん!」 「もうちょっと、女性としての慎みを持って欲しいというか…僕の目の前で、平気でネグ リジェに着替えるとかいうのは、どうかなぁ~っと」 「・・・そんだけ?」 「うん、そんだけ」 どげしっ ジュンはルイズに、馬から蹴り落とされた。 「キャハハハッ♪ざぁんねんでしたねぇルイズさぁ~ん。話は最後まで聞くですよぉ。確 かにルーンから凄い魔力が流れましたけど、精神支配の方はたいしてかわってまっせーん なのです♪」 翠星石がルイズを指さしながら、爆笑して言った。 「で、でも!だったらその魔力って!?」 「そぉれはですねぇ…ジュン、腰のナイフを手に持ってみてくださぁい」 「いつつつ・・・全くなんだってんだよ…たく、尻いってー」 腰をさすりつつ、ジュンは右手で腰に挿したナイフを引き抜いた。 「!?」 瞬間、ジュンはハッとした顔になった。ルイズが怪訝な顔でジュンを見つめる。 「どうしたの?ジュン」 「尻が・・・」 「尻?」 「尻が、痛くない!」 ガクッ そんな効果音が聞こえそうなほど、ルイズは落胆した。 「何バカなこと言ってんのよアンタはー!」 と言って彼女は荷物のデルフリンガーを引っこ抜いてジュンに投げつけた。 パシィッ! 彼は、左手で投げつけられたデルフリンガーの柄を掴んで受け止めた。鞘だけが慣性の 法則に従って、後ろの草むらまで飛んでいった。 「あら?」「あれ?」 投げたルイズも、受け止めたジュンも、予想外の結果に目が点になった。 「なんだ、おめぇ。ジュンとか言ったか?自分の力も知らなかったのかよ」 「自分の力?」 いきなりデルフリンガーに言われ、ジュンは更に訳が分からなくなる。 「左手の包帯、外してみな」 「包帯・・・」 ジュンは右手のナイフで、包帯を切り裂いた。そこには、光り輝くルーンがあった。 「「ルーンが光ってる…」」 ジュンとルイズの声がハモる。二人ともルーンを凝視し続ける。 翠星石が馬の頭に立ち、ビシィッとルーンを指さした。 「それこそが、そのルーンの力なのでぇーっす!そのルーンは、体を強化したり、痛みを 消したりする力があるんでぇす! 翠星石がジュンの頭をけっ飛ばしたのはぁ、最初、ルーンの精神支配が強化されるかと 思ったからですぅ。だから柄を急いで離させたんですぅ。でも、どういうわけか、強化さ れたのは体だけでしたぁ」 「ええ、それも桁ハズレにね」 真紅は不安げにルーンを見つめる。 「それを一発で見抜くチビッ子共は、本当に鋭いやな。俺はおでれーたぜ」 剣の表情は分からないが、確かに驚いたんだろう。 ジュンが、ゆっくりとデルフリンガーに視線を移した。 「なぁ、デルフリンガー…お前、僕を『使い手』って呼んだよな?」 「おう、呼んだぜ」 「『使い手』って、何だ?」 「忘れたっ!」 全員見事にズッコケた。 「いやー、昔むかしに覚えがあるんだよ、そのルーンの感じはよ。でも6千年も生きてる とよぉ、昔の事なんか一々覚えてられねーだろよ?」 「6千年って…」 ジュンがあからさまにうさんくさそうな顔をした。 「そうあやしそうな顔するなって。ともかく、俺はおめぇの力を知ってる。そして、そい つは武器を手に持つと発動する。そういう事だ」 「ホントかなぁ…確かに体はホント軽いんだけど」 ジュンは相変わらず半信半疑だ。 「使い魔として契約すると、ただの猫がしゃべれる猫になったりとか、特殊能力を得る事 があるって言うけど、おそらくそれね。 よし、試してみましょ。とりあえず、ジュン。走って」 「ルイズさん…まさか学院まで、走って帰れッて言うの?」 ルイズはにんまり笑った。 「そのまさかよ、頑張ってね♪」 「冗談はおいといて、そろそろ後ろ乗せてよ」 「あらあら、あたくしは由緒正しい貴族のレディですものぉ~。殿方と一緒の馬に乗るな んてはしたないマネ、とても出来ませんわぁ~♪」 ジュンは、やっぱりどう思ってるかなんて正直に言うモンじゃない、と悟った。 しょうがなく、左手の包帯をまき直し、右手にデルフリンガーを握ったまま、馬の横を 走ってみた。 既に夜も更け、月明かりに照らされた静かな草原。 少女を乗せた一頭の馬と、長剣を持つ少年が疾走していた。 「すごい・・・信じられない!」 ジュンが叫んだ。長い間引きこもり、人並みの体力など無いはずの彼が、人間ではあり えない速度で走っている。 ルイズ達も目を丸くして、何も言えなくなっている。 「へへ、本気になったらもっとすげぇぞぉ」 デルフリンガーだけが、いつものとぼけた調子だった。 「なぁ、僕、思うんだけど、ルーンが指輪の魔力を上回るって事は、ずっとこの状態でい ると、僕、洗脳されるってこと?」 ジュンが、馬と一緒に走りながら、息を切らせる事もなく、尋ねてきた。馬は小走りで 走っている。それでも人間が長距離走り続けれる速さではないはずだった。おまけに月明 かりがあるとはいえ薄暗い夜道だ。道を知っているルイズはともかく、初めて通るはずの ジュンが、全く足を躓かせることもなく、馬と同じ早さで走れるはずがない。 そんなジュンの姿は、ジュンを含めた全員にとって『ありえない』としか言いようのな いものだった。 ルイズの前に座る真紅が、少し不安げに答えた。 「大丈夫と思うわ。確かにルーンの魔力は高くなってるけど、こと人間の精神に関しては、 私たち薔薇乙女の方が上手のはずよ。ルーンの精神支配だけは、変わらず妨害出来ている と思うわ まぁ、ついでにルーンの力も全体的に、少し抑えられてるかも知れないけど」 翠星石はうんうんうなずいて答えた。 「無意識の海にまで潜れるあたし達の前には、そんなルーンなんて安上がりなライトも同 じでーっす!もし洗脳されちゃっても、夢の庭師であるこの翠星石が、必ず助けてあげる ですよ」 だが、ルイズは明らかに浮かない顔だった。 「でも、やっぱり長い間ルーンを使っていたら、身も心もあたしの使い魔になったり、す るのかなぁ…?」 「おう、なんでぇ貴族の娘ッ子。メイジのクセに、使い魔が忠誠誓うのが気にいらねぇっ てか?」 すごい勢いで振り回されているはずのデルフリンガーが、全くいつもと変わりない調子 でルイズに話しかけた。 「いえ、それは嬉しいわ、メイジとしてね。でも…」 ルイズは、馬と共に駆けるジュンを見つめた。しばし、ジュンと見つめ合う。 「そんな事でジュンがあたしの使い魔になっても、あたし、あんまり嬉しくないなぁ…」 そうつぶやいて、ルイズは視線を落とした。 ジュンも、真紅も、翠星石も、うつむくルイズをじっとみつめた そんな彼らの視線に気付いたルイズは、慌てて胸をはった。 「か!勘違いしないでよね、あたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴ ァリエール、誇り高きヴァリエール家の貴族よ。あんたみたいなお子ちゃまなんて、ルー ンに頼るまでもないってことよっ! 見てなさいよ!いずれハルケギニア全土に知られるような凄いメイジになって、ジュン が自分から土下座して『下僕にして下さい、犬と呼んで下さい』なんて言わせてやるんだ からね!!」 「ありえねー」 ジュンが呆れてつぶやく。 「う、うるさいわねっ!ゴチャゴチャおしゃべりしてる暇ないわよ!?キリキリ走りなさ いっ!!」 「そろそろ疲れてきたから、馬に乗せて欲しいンだけど」 「そしたら馬が疲れるじゃないの。あんたは黙って走りなさいっ!」 「ひでー!おにー!僕は馬以下かぁ!」 ルイズとジュンを見て、真紅と翠星石はコロコロと笑っていた。 「へへ、貴族の娘ッ子は素直じゃないねぇ」 デルフリンガーは半ば呆れていた。 馬に乗る3人と、走る少年は、月明かりの草原を風のように駆け抜けていった。 「ぜぇー、ひぃー、はぁー・・・ホントに、学園まで、走らせる、なんて・・・」 もう夜も遅くなった頃、フラフラのジュンが学院の門にたどりついた。後ろから馬に乗 ったルイズ達もやってくる。 「いやぁ、頑張ったなぁジュンよ、見直したぜ。これからよろしくな、相棒!」 「凄いですよチビ人間!ちょっとだけ大きくなったかもですねぇ」 「本当に大したものよ。ちょっと見直したわ」 そうデルフリンガー・翠星石・真紅に褒められたジュンだが、もうヘロヘロで、全然耳 に入ってない。学園の門に倒れかかって、ゼーゼーと肩で息していた。 「ほら、ジュン。学院に入ったら、剣はしまいなさいよ。それと、馬を返してきてね」 「わーったよー・・・ゲホゲホ、ほんと、人使いが、荒い、んだから」 ジュンはデルフリンガーを鞘にしまって背中に担ぎ、真紅と翠星石を乗せたままの馬を 馬小屋へ連れて行く。 学院の門をくぐると、誰もいない広場に見慣れぬ馬車が停まっていた。 「あら、あれ・・・何かしら」 ルイズがトコトコと馬車に近づき、紋章を確認した。 「おーい、馬は戻してきたよ~…って、あれ?」 広場に戻ってきたジュン達が見たのは、まるで幽霊に追われているかのごとく、全力疾 走で向かってくるルイズだった。 何かこっちに向かって叫んでる。 「どうしたですかぁ?」 「さぁ?」 翠星石と真紅がそんな事を言ってる間に、ルイズはジュン達の所へ駆けてきた。 「にっにっにっ!!」 「「「に?」」」 「逃げるわよっ!!」 「「「え?」」」 「いいから!早くっ!!」 言うが早いかルイズはジュンの手を引っ張って、門から逃げ出そうとする。だが、走り 続けてフラフラのジュンは、もう走りようがない。 「ちょ、ちょっと待ってよ。ルイズさん、一体何なの?てか僕もう疲れて」 「あ!あれは、あの馬車がっ!」 と叫んでルイズは広場の馬車を指さす。 「あれは!あ、ああ、姉さまの馬車っ!」 と言ってルイズはずるずるとジュンを引きずっていこうとする。ジュンはもう、訳が分 からない。 「あの、ルイズさん。お姉さんが来たら、なんで逃げるの?」 ルイズはジュンを引きずりながら、必死で声を押し出した。 「姉さま!エレオノール姉さま!アカデミー!王立魔法研究所の、主席研究員なの!!」 アカデミーが何かはよく知らないジュンだったが、言いたい事は分かった。 「逃げるぞ!」 「ですねぇ」 「いきなりだわね」 ジュン達も門へ向けて走り出した。 ゴゥッ!! 「きゃぁっ!」「うあっ!!」「か、風!?」「な、なんですかー!?」 突然、ルイズ達の前に突風が吹いた。4人とも風に飛ばされ、広場に押し戻された。 門の前に一人の女性が、見事なブロンドを風になびかせて舞い降りた。 「ちびルイズ!どうして逃げるんですか!?」 「ひいぃっ!ね、姉さま…す、すいません~!」 震えてひれふすルイズの前に降り立ったのは、ルイズによく似た20代後半の女性。 王立魔法研究所『アカデミー』の主席研究員。ラ・ヴァリエール家の長姉。 エレオノールだった。 第四話 『ルーン』 END back/ 薔薇乙女も使い魔menu/ next