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若頭は12才 129 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 01 46 58 ID I9H6LykR スレ2>>129 凶器 おっぱいおっぱいおっぱいいい! そういえばおっぱい先生は何て名前なんだろう。 気張って描いたらサイズがばかでかくなってしまった… こっちはオリジナルで極道目指そうとして玉砕。
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単行本 若頭は12才:参之巻 包帯に滲んでいる血、微量だけど考慮してクッション 217 名前: 創る名無しに見る名無し [sage] 投稿日: 2008/11/29(土) 15 18 33 ID EUM5Oypw 単行本 若頭は12才:参之巻 とりあえず単行本風に。こういうパロディ系統は描いてて1番楽しい… いつか中身も雑誌風に描きたいなあ。
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スレ5 978 若頭は12才,好評連載中 お嬢違い埋め違い(?) 何ちゃって雑誌風2、柱とかは某月刊少年誌参考に
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若頭は12才 DVD Vol.3 946 名前: 創る名無しに見る名無し [sage] 投稿日: 2009/01/12(月) 01 12 29 ID Hs2PtdDc _ ∩ ( ゚∀゚)彡 おっぱい獅子宮!おっぱい獅子宮! ⊂彡 帆崎は悩んだ挙句「乳がけしからんのでもっとこうソフトに」とか 言って右ストレートくらってそう。 「若頭~」の名前をちらほら出して貰って嬉しかったので、漫画表紙ぽく 描いて調子にのった。今は反省している。あとリオたんお嫁に来て下さい。
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若頭は12才・次期頭首は虚弱男児
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凶器 129 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/24(金) 01 46 58 ID I9H6LykR おっぱいおっぱいおっぱいいい! そういえばおっぱい先生は何て名前なんだろう。 スレ2≫129 若頭は12才 気張って描いたらサイズがばかでかくなってしまった… こっちはオリジナルで極道目指そうとして玉砕。
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単発作品 名前がないものは申し訳ないですが、勝手に名前をつけさせていただきました 本スレで名前が出た場合、すぐに変更します ※1が付いてるのは、ちょっとだけえっちぃです、ワンクッション置いてます。 ※2が付いてるのは、血糊・出血有、ワンクッション置いてます。 単発絵 単発絵 初出 作者(敬称略) 備考 オフィス獣人 スレ1 29 ミニチュアダックス スレ1 53 獣人の定義 スレ1 58 ギャルソン犬 スレ1 98 メイドイヌさん スレ1 104 花束と猫 スレ1 116 獣人のは毛で隠れる? スレ1 151 リスっ娘 スレ1 193 ライオン娘 スレ1 225 肉食?雑食?獣子さん! スレ1 225 漫画 鈴リボン スレ1 246 ハムッ子 スレ1 250 FF式獣人 スレ1 257 闘わねぇ豚は……ただの豚だ スレ1 344 ひっかき注意! スレ1 356 お茶にしましょう スレ1 420 猫の姐さん スレ1 467 お茶にしましょう(カラー) スレ1 468 チャイナ羊っ娘 スレ1 535 羊のメイドさん スレ1 540 ウール100%羊娘 スレ1 544 うしひと スレ1 547 ※1 幼女羊っ娘 スレ1 640 師匠と弟子 スレ1 679 狐さん スレ1 680 とりっくおあとりーと スレ1 742 ダチョウさん スレ1 925 鳥獣人 スレ1 928 シエラわんとダナエにゃん} スレ1 932 相棒はアルマジロ スレ1 937 妖狐 スレ1 956 「全額弁償してくださいね」 スレ1 972 豚娘さん スレ2 54 若頭は12才 スレ2 129 エアロバティック スレ2 288 わん娘 スレ2 347 ※1 ネコ娘さん スレ2 459 もふもふ^10 スレ2 833 単行本 若頭は12才:参之巻 スレ3 217 ※2 愚者への断罪 スレ3 323 漫画 ゆ(っくり)きだるま スレ3 573 かざりつけ スレ3 703 長靴を履いた猫・フラウ・ニー スレ3 827 若頭は12才 DVD Vol.3 スレ3 946 武器っ娘+α/1,2,3,4,5,6,7,8 スレ4 18,32 見習い◆zYSTXAtBqk氏 次期頭首は・スピンオフ! スレ4 78 カードゲーム化決定・その2・その3 スレ4 88,239,247 ◆gRK4xan14w氏 風にお願い スレ4 197 見習い◆zYSTXAtBqk氏 獣人・男女についての考察/その1・その2・その3・その4 スレ4 276,286,291,295 いくぜ! スレ4 300 八頭身 スレ4 334 ハリネズミさん スレ4 501 零れてますが、何か スレ4 517 まったくもう… スレ4 554 お茶くださーい。 スレ4 575 汚名挽回 スレ4 577 漫画 造ればいい スレ4 914 それでは スレ4 992 あっさりコーン スレ4 994 SALE スレ5 86 猫妻 スレ5 200 ぬこぽ! スレ5 275 F-22 ラプター スレ5 320 お嬢様と下僕達 スレ5 325 九尾 スレ5 352 花見 スレ5 387 激励 スレ5 416 ウサモフ スレ5 416 しーさーあんだぎー スレ5 427 ハルト・フェルト スレ5 444 和猫 スレ5 562 夢の国? 伊豆新園 スレ5 764 色鉛筆わんこ スレ5 820 イヌ-ワン準優勝 スレ5 917 若頭は12才・次期頭首は虚弱男児 スレ6 239 ●゛んぎつね スレ6 363 元ネタは某洗顔パスタ スレ6 482 暑中見舞い スレ6 644 ラッシュアワー…? スレ6 771 で スレ6 861 August スレ6 873 サマーウォーズ? スレ6 881 サンダーストライク スレ6 948 ふもふもわんこ スレ7 54 新ジャンル:ブルデレ スレ7 127 マウント スレ7 134 まじかる!フェネック スレ7 175 眼鏡三つ編み委員長制服ニーソ スレ7 182 つばめおとこ スレ7 393 キジトラたくさん スレ7 433 罠 スレ7 517 ブルーインパルス&サンダーバーズ スレ7 521 忠犬クヴィレット スレ7 651 ピースとクヌート スレ7 654 ことらさんた スレ7 659 おとなの虎サンタ スレ7 679 2010謹賀新年 スレ7 881 オオカミと少女#1・#2・#3 スレ8 310-316 オオカミに会いたい 女子高生の憂鬱日記 スレ8 389 シェルティ彼女 スレ10 129 猪鹿「蝶」 スレ10 184 両手に花 スレ10 233 単発SS 単発SS 初出 作者(敬称略) 備考 この世には不思議なことなんて スレ1 298 チウ+スプリンターvsロウエン+ガロン スレ1 706 未完 Mammoth Hunter スレ1 762-765 あにといもうと スレ3 356-358 SS+絵 牡丹雪 スレ5 189 さざんこんふぉーと スレ5 527 葉月のこと スレ6 835-838 わんこ ◆TC02kfS2Q2氏 マウントからファンタジーへの変換 スレ7 144 SS+絵 つるつるのおんがえし スレ8 190 オオカミに会いたい スレ8 302-303 わんこ ◆TC02kfS2Q2氏 オオカミと少女#1・#2・#3 蛇と平和 スレ8 421-426 wHsYL8cZCc氏 無の天使 スレ8 461 ややグロあり・ヤオイ臭い? タヌキと酒 スレ10 779-780 単発その他 単発その他 初出 作者(敬称略) 備考 置いてけぼり スレ4 968 ペーパークラフト 待ち惚け? スレ5 24 ペーパークラフト 作ってみた スレ5 30 写真 助けて!ネコ崎先生 スレ6 699 見習い ◆zYSTXAtBqk氏 FLASH+設定画
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前編へ スレ3 47-81 ひみつの風紀委員長 後編 ―――昨日の惨劇から立ち直れず、意気消沈のままのわたしは、朝の電停で耳を垂らしていた。 しかも、今日は委員会活動の為いつもより早く行かなきゃならない。テンションが下がる一方。 マオと更紗の二人してわたしのことを笑うんだろうな。弟のことだ、ぜったい笑う。そして更紗から白い目で見られる。 それにしても電車が来ない、電車にまでバカにされている気がする。と、ようやく朝のラッシュを掻き分けて 電車が轟音を立ててやって来た。お客で一杯の電車には、今日は座れそうにも無いな。 空気の音と共に電車の扉が開くと、わたしが今いちばん目を合わせたくない子がいた。 更紗だった。 なんと悲しいことに、わたしの通う学校の制服と同じだ。もちろん中等部なのは分かっている。 確かにマオと同じ学校とは聞いてはいない。よりによってウチの学校だなんて、なんたる不運。 「お、おはようございます…マオくんのお姉さん」 「おはよ」 すっと立ち上がり、お辞儀をしている更紗。その隙にキツネのおじさんに席を取られてしまった。 もう、このまま学校近くの電停を通り越して、どこか遠くに行きたい気分だ。 立っているだけでも拷問なわたしの真正面には、更紗が少し恥ずかしげにつり革に捕まっていた。 「同じ学校だったんだね…」 お姉さんぶって更紗に話しを振るが、きっと更紗は内心わたしのことを蔑んでいるんだろう。 更紗の髪からシャンプーのいい香りがする。若い子にはお似合いの石鹸の香り。 ガタゴトと電車はわたしたちを揺らし、朝の街を駆けてゆく。他の子たちはあんなに楽しそうなのに、 わたしの心境を考えると納得いかないこの社会。しかし、学校では『みんなの風紀委員長』、明るく振り舞わなきゃ。 突然、聞き覚えのある曲の着メロが聞こえた。朝っぱらからえっちなサイトを覗くような背徳感がよぎる。 ……『若頭は12才(幼女)』のオープニング曲だ。 このアニメの曲を着メロにしているとは、なかなか侮れない。一体何処のどいつだ? 更紗だった。 なんですと?何故、この曲を知っているの?この曲を着メロにしているなんて? もしかしたら、更紗も実はわたしのようにこっそりと2次元ライフを過ごしている子なんじゃないのか。 慌てて簡易留守電モードに切り替えている更紗、なんだかさっきとわたしの見る目が変わった気がする。 微かな心のときめきが輝く中、運転手のアナウンスが現実に引き戻す。 「東通り16丁目ですー」 わたしたちの学校の最寄り電停に着くと、バラバラと乗客が降りてゆく。人の波に埋もれながら、 学校までの坂道を歩いていると、後ろから更紗が付いてきていた。彼女もまた、何某の委員会らしい。もうすぐ学校。 午前中の授業は眠い、眠いというより退屈だ。ツキノワグマの熊牟田先生の授業は悠長で困る。 カツカツとチョークの音と先生の声は、睡魔を召喚するには最高位の呪文。 これに耐えられないわたしは、まだまだ経験値は低い。どんどんHPが削られていくのが、からだ全体で分かる。 こういう時は妄想するのに限るのがわたしの中では常識だ。更紗を森三ゆみみにしてしまって、何か妄想しよう。 他人に見つからぬようペンを動かすと、みるみるうちにノートの余白がマンガ雑誌の紙面に変わり始めた。 「ゆみみ姐さん!やつらが組を割ろうって話を小耳に挟みましたぜ!」と、舎弟の熊牟田。 更紗もとい、ゆみみは落ち着き払って「まあ、これでも食べな。話は落ち着いて!」 「うう…ハチミツ饅頭ですと?どこから…??」熊牟田、目に星を浮かべる。 更紗「その箱を上げてみな」と、熊牟田に。ハチミツ饅頭の上げ底の中には、インクの香り芳しい万札の群れ。 「こ、これは!!」 「ふっ、県警も悪よのお。いまどきこんな時代劇みたいな手を使いやがって」 「ま、まさか?」 「鎌田警部も、わたしたちのことを分かってらっしゃるね。早朝、こっそり届けてきやがったんだ」 「ふっ、しかし…どうして?」と、むしゃむしゃとハチミツ饅頭を頬張る熊牟田。 「ポリ公もわたしたちの力が欲しいんだってことね。ふふ」と、更紗もハチミツ饅頭をぱくり。 気のせいか本当に何かを食べている音が近くでする。マンガから抜け出せないとは重症だな、わたしも。 いや、これは現だ。ふと隣を見ると、教科書を盾にこっそりとお弁当を食べている輩が。お昼までには3時間も早すぎる。 カマキリの鎌田だ。寒がりだから食べていないと、体温が保てないからなのか?だが、風紀を乱す者は許さない。風紀委員の血が騒ぐ。 「先生!鎌田くんが!!」 「なに!!鎌田くん、こっそりと何ば食っとるとですかあ!」 「ふぁっ!今度は堂々と食べます…」 「この、ばかちんが!!」 バカだ、鎌田は。しかし、授業中マンガを描いていて人の不逞を暴くなんて、わたしはなんという都合のいい女なんだ。 ―――そして、本当のお昼休みの時間。 鎌田はお腹をすかせて泣いていた。もう、食べる弁当もない。パンを買うお金もない。 悲惨の限りの鎌田くん、自業自得のいい見本をみせてもらったと思うぞ。この、ばかちんが。 「鎌田くん、ほら…わたしのサンドウィッチ半分あげるから、泣かないの」 「因幡…恩に着るよ」 コイツは弟より手が掛かるな。弟の生意気な顔を思い出す。 お昼の間に更紗の教室にお邪魔する。クラスは電車の中で聞いておいた。 しかし、中等部に来るのは久しぶりのこと。わたしより若い子たちが、廊下を走り回っている。まるで嫌味のように。 更紗のクラスに着くと、教室入り口にたむろしていた男子三人組を介して、更紗を呼び出してもらう。 「あの…、高等部の因幡って言うものですが、美作更紗さんいますか?」 「ん?美作?ちょっと待っててください」 ぱたぱたと奥から更紗が駆けてきた。そして、こけた。 「大丈夫?」 「う、うん。マオくんのお姉さん」 「リオでいいよ。せっかく同じ学校って分かったんだからさ。…一緒にジュースでも飲も」 こくりと頷き、青空と緑の芝生広がる中庭へと向かう。 池の側で二人して腰掛けて、わたしはキャロットジュース、更紗は烏龍茶を飲んでいる。 こうしているとアニメに出てくる『お姉さま』とやらを思い出す。いや、そんなつもりは毛頭ない。 「更紗ちゃんは…テレビとか良く見る?」 「え、ええ。良く…見ます」 「夜更かししてとか?」 「時々…したり…します」 そうか…、当然深夜アニメは良く見ているんだろう。 ごくりと烏龍茶を飲む更紗の横顔は、少し赤らんでいるようにも感じる。一方、わたしは心臓が激しい鼓動を打っている。 もしかして、初めてじぶんと同じ趣味の子が現れたのかもしれないからだ。 笑われるから、謗りを受けるから、弟がうるさいから…と、ひたすら自分の趣味を隠し続けて、 終いにはクラスの風紀委員長として『嘘っぱちの人気者』を演じてきた一羽のウサギ・因幡リオ。 こうしてちゃんと話せるヤツもいるんだってことが分かれば、もう負い目を感じる事も無い。 もう、寂しくするとウサギは死んでしまうなんか言いません。ハイ、言いません。 わたしはこの子の虜だ。 わたしの夢である『若頭』に相応しい、わたしのヒロイン。 そして更紗、もとい森三ゆみみからこんな言葉を言われてみたい。 「やっちまいな!」 ―――その夜、わたしは自室のPCの前にいた。 目的は森三ゆみみの衣装を揃える為。ネットでお買い物できるなんていい時代になりましたね。 でも、結構高いんだな…コレ。予想外の財政難で今月はDVDもゲームも買えないよ。 と、思いつつクリックをすると購入完了。あとはATMで入金するだけ、クレジットカードが早く欲しいと思う今日この頃。 衣装はおよそ一週間後に到着のこと。この『わくわく週間』が堪らない。 玄関の開く音がする。塾からマオが帰ってきた。 万が一、わたしの部屋に入ってきた時の為にPCの画面は消しておく。壁紙は…ちょっと見せられない。 みしっみしっと階段を昇る軽い音が聞こえる。丁度、わたしの部屋の前か、その時ヤツの携帯が鳴った。 ……なんですと?更紗と同じ着メロ? そう、『若頭は12才(幼女)』の曲ではないか。 マオはわたしの趣味をバカにするようなヤツだ。何故にマオがこの曲を選んだのか、甚だ疑問が残る。 わたしの部屋の扉を開けると、制服姿のマオが携帯をいじりながら突っ立っていた。 「姉ちゃん…。何?」 メガネ越しにマオの携帯をよく見ようとすると、少しムッとして素早く携帯を折りたたんでしまった。 「マオ?その曲…」 「これ?更紗から貰ったんだけど…」 わたしの予感はあたった。更紗は紛れもなく、わたしの趣味と同じだ。 そして、わたしと同じようにこの趣味がばれることをビクビクしながら恐れているような子だ。 わたしの更紗!いや…わたしの森三ゆみみ!尻尾を振ってこっちへおいで。お姉さん、もう泣かない。 森三ゆみみの服が届く日が楽しみだ。わくわくしているわたしにまたしても弟が水を刺す。 「姉ちゃんさ、ただでさえおかしい顔なのにもっとおかしくなってるよ」 「……電気アンマ、試してみる?」 日曜日に美作更紗を個人的に因幡家へと誘い込む事に成功した。厄介者のマオも、図書館に出かけていて夕方まで戻ってこない。 出来れば夜まで戻って来なくていいよ。わたしだけの更紗、わたしだけのゆみみ。マオの目なんか気にしなくてもいい至福の一日。 『森三ゆみみ』の衣装を通販の袋から開けるのを待ち構えながら、更紗の訪問を待つ。 約束の時間より5分遅れてチャイムが鳴った。インターホン越しに声が聞こえる。 「あの…、因幡さん…の」 「更紗ちゃん?」 「あ!マオくんのお姉さん!!」 キタキタキタキタ!!世界中がこの少女を待っていた!玄関を開けると、紛れも無く美作更紗であった。 うーん、かわいい。食べ…いや、わたしには百合っ気なんぞないぞ。一言もそんなこと言っていないし。 わたしの部屋へ通すことは自殺行為に等しいので、居間へとご案内。 ここでも更紗は何もないところでずっこけていた。 「更紗ちゃん…ね。わたしからいいものプレゼントしようと思って、今日は呼んだのね。ごめんね」 「プ、プレゼントですかあ!?ありがとうございますう!!」 更紗の笑顔は、わたし糧だ。その季節外れの向日葵のような笑顔を見ながら、通販の紙袋を取り出す。 そして、中から出てきたのは、ご存知『森三ゆみみ』の衣装。 「ねえ、更紗ちゃんに似合うと思って買ってきたんだけど、どう?」 「素敵ですう!!」 ならば、早速。ストライプのタイツに、プリーツスカート。赤いリボンをカチューシャ代わりにつける。 更紗のきれいな黄金色の髪に丁寧にワックスを付けて、ドライヤーをかけながら更紗をゆみみに仕立て上げる、と。 そこにいるのは、誰が何と言おうと『若頭は12才(幼女)』のヒロイン、『森三ゆみみ』であった。 尤も、『若頭』のファンしか言わないだろうが。 「かわいい!似合ってるよ!」 「そ、そうですか?えへへ」 犯罪的な笑顔がわたしを萌え殺す。 しかし、ゆみみは若頭だぞ。強いんだぞ。えへらえへらと笑っている子じゃあない。 龍をも殺しかねない舎弟を引き連れるような子だ。みっちり『若頭』になる特訓をしなければ。 「さあ、更紗ちゃん。『お前らすっこんでろ!このこわっぱ侍め!!』って言ってごらん」 「ええええ?」 「『お前らすっこんでろ!このこわっぱ侍め!!』って言ってごらん」 「お、お…おまいら…しゅっこんで…。わーん!」 ゆみみはそんな子じゃない。涙を流すことは、舎弟の血が流れるのと同じなのだ。 もう一度言うぞ。 「『あたしのシマで狼藉をするヤツは、食っちゃうぞ!』はい!」 「あ、あたしの…しまでろうぜき…あーん!!」 更紗は若頭になれないのか。わたしの夢が、がらがらと音を立てて崩れてゆく。 もしや、この子は『若頭は12才(幼女)』を知らないのではないのか? あの着メロは何かのまやかしなのか?思い切って更紗に聞いてみた。すると、意外…と言うか当然の答えが返ってきた。 「わたし、そんなマンガ知りません」 「そう…」 わたしの目の前にいるのは、森三ゆみみではなく美作更紗なのだ。 ならば、あの着メロはどうして知ったのだろう。あの曲はわたしたちファンでなきゃ知らないぞ。 「あの曲は…、マオくんから教えてもらって…」 なんだと。マオのヤツが?散々わたしの趣味をバカにしておいて、これか。 とりあえず、マオが帰ってくるまで更紗ちゃん、私の家でゆっくりしてってね!! そして、因幡マオよ。覚悟しなさい。 その夜は、戦争だった。勝っても負けても何の得もない、誉れだけの戦い。 攻撃こそ最大の防御、マオに向かって出来る限りのダメージを与える。形振りなんか構っちゃいられない。 「マオ!更紗に何をした!!」 「なんだよ、いきなり。このオカチメンコ」 涼しい顔をしながら、図書館で借りてきた本を読もうとするマオ。わたしの戦意高揚には十分すぎる憎たらしさだ。 マオの部屋は戦場。最前線にて玉砕覚悟でマオを攻め立てる。敵もさるもの、わたしに倍以上の銃弾を浴びせ返す。 「更紗に余計なことしないでよ!姉ちゃんは2次元の子としか仲良くなれないんだからさ!」 「言ってくれるね…バカ!!チビ!!」 「アホ!!ブス!!」 もう、こうなったら散華するしかない。失うものは何もないからね。 マオの小生意気な頭にわたしは両手のげんこで、こめかみをグリグリっと捻じり込む。 うはは、本を落っことして観念しやがった。早くからそうしなさいね、わが愚弟よ。 慌てて逃げ出した弟を捕まえようと、壁際に追い詰める。とうとう弟は白旗を降り始めた。 「ぼくが、教えたんだよ。その着メロ」 「はあ?」 「ごめんなさい。この間、姉ちゃんのPCをこっそり覗いた時に、ブックマークが気になってさ。 つい、覗いちゃったんだ。で、そのマンガのHPで『着メロダウンロード』ってあったから…。つい」 部屋の壁にへたり込んだマオは続ける。 「試聴で気に入っちゃって、ぼくの携帯に登録してさ…そしたら、たまたま更紗も気に入ってからさ」 事の顛末はそうだったのか。ところが、白状したマオはするりとわたしの包囲網から抜け出す。 気が付くと扉を開けて逃げようとしていた。 「そしたら、あんたが言った『更紗から教えてもらった』ってのは?」 「嘘っぱちだよ。バーカ」 脱兎の如く逃げ出すマオ。ウサギだからか、そんなことはどうでもいい。 結局残ったのは、わたしの恥だけか。 翌日、学校への坂道の途中、更紗が駆け寄ってきた。 この間のこともあり、あんまり顔を合わせたくない。しかし、学校では『みんなの風紀委員長』。98%の笑顔で更紗に振り向く。 「マオくんのお姉さん!」 「あ、おはよー。リオでいいよ」 「リオさん!あの…何でしたっけ『わかあたまは12さい』。面白いですよね!!」 「え、何のことかな?」 「ほら!この間、リオさんの家で言ってたあのマンガ。ネットで調べてみたんですよ。 そしたら、動画サイトが見つかってですね、あたし…はまっちゃいました!!」 大変だ。わたしは更紗を『若頭』ファンにしてしまったようだ。ファンが一人でも増えるのは、嬉しいことだが 心配の種が一つ増えることにもなる。もちろんそれは…言うまでもない。 「あの第3話の少年との闘い。もう、舎弟の前での強さと一人きりになったときの脆さ…。 あたし、萌え死にそうになっちゃいましたよ!」 「そ、そうね。わたしも…きゅんってきちゃったね…」 「でも、第4話が『諸般の事情で配信を中止します』ってのが悔しいんですう!」 う、わたしもその第4話については、辛酸をなめている。しかし、もうすぐ校門が近い。クラスメイトもたくさんいる。 新たな趣味が見つかりおおはしゃぎの更紗の声は、残念なことによく響き渡る。 「でも、第5話の契りを交わすシーンは名作ですよ!」 「そ、そうそう…、あのシーンね!」 「おはよー、リオ!」 追い討ちをかけるように、モエさんが短いスカートを翻し駆けて来た。 モエさん、俯き加減のわたしの顔を覗き込みながら笑っている。 「『あのシーン』って…何?」 「ええ?えっとね!昨日の…ほら!キタムラくんが出てるやつ!」 「昨日は臨時ニュースでドラマはなかったんだけどな…」 朝からもう、泣きたい。そんなわたしをよそに更紗はニマニマ笑っていた。 走り出したくても、更紗に悪いからそれは出来ないので、一緒に校門を潜る覚悟を決めなければならない。 そう…わたしは『みんなの風紀委員長』なのだ。 ―――そして、その夜もまたもや戦争となった。 「姉ちゃんが余計なことをしてくれたから!!」 「何が余計なことよ!チビ!!」 「コスプレとか、同人とか…更紗が姉ちゃんみたいになっちゃうじゃんか!」 「何が『姉ちゃんみたい』よ!?いいじゃない、好きにさせなさいよ」 「……バーカ!!」 この夜こそ、本当に森三ゆみみに助けられたいと思ったのは、言うまでもないお話なのだ。 おしまい。 関連:鎌田 モエ ケモノ学校シリーズ SSへ戻る ケモノ学校シリーズ TOPへ戻る
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スレ3 47-81 ひみつの風紀委員長 前編 「そこの男子!窓のさんに腰掛けない!」 「サーセン!」 素っ頓狂な男子の声でわたしへの返事が返ってきた。なのに、彼らは一向にも窓のさんから降りようとはしない。 クラスメイトの不躾な行動は他のクラスに対して失礼極まりない。それを正してゆくのが、風紀委員長であるわたしの役目だ。 とくにここの男子。まるで子供のように、はしゃぎまわり『高等部』の自覚を持つことはまるで無い。 更に追い討ちをかけるように、サン先生までもがその輪に加わるということはわたしとしては非常に遺憾。 こうして、わたしの長い耳を揺らしメガネを光らせながら、生活指導のホイッスルを鳴らす日々が続く。 放課後の職員室、国語科の泊瀬谷先生と一緒に雑用をしていると、モエさんが提出するプリントの束を携えてやって来た。 しかし、モエさんよ。あなたの身なりを見てふと思う。 そのスカート丈は少し短いと思わないか。 自慢気な太腿が眩し過ぎないか。 ケモノの誇りを捨ててはいないか。 わたしのメガネがまたも光る。モエさんに疑問を問いかける。だが返ってきた答えはわたしの予想を上回るものだった。 「だって、このほうがかわいいもん」 「だって、って…。膝上何センチって決まってるか知ってる?」 「わっかりませーん」 「ちょっと!先生!!これっていけないと思いませんかっ!!」 泊瀬谷先生は少し困った顔をして、生徒に注意をすることをまるで申し訳なさそうにしていた。 ここでビシッて言ってもらわなきゃダメなんです!先生! 「リオ、まった明日ー!」 先生が照れ笑いをしている間にモエさん、プリントを泊瀬谷先生のデスクに置くと、短すぎるスカートを翻して帰ってしまった。 「因幡さん…ごめんね」 いいんです、先生。生徒の乱れを食い止められないのは不肖・因幡リオのせいなんですから。 学校の帰り道、いつものように街の書店に寄り道。校舎の中では風紀委員長でも校門を出れば、一羽のウサギの女の子へ戻りたいものなんです。 インクの香りも初々しく、わたしの知的好奇心を刺激すること心躍るではないか。ひくひくと鼻を揺らす。 平積みされた発売されたばかりの雑誌をしげしげと見渡し、「確か、今日だったよね…」と考えながらゆっくり本棚の周りを歩く。 わたしの住むような地方都市では必ず発売日より二、三日遅れて入荷してくるので、少し損した気持ちだ。 わたしより先に内容を知っているヤツがこの世に居るって分かると、多少なりとも悔しいということは分かってもらえるだろうか。 そんな誰も聞いちゃいない愚痴を口にしながら、店内を物色すると…、 「あった!」 思わず小さく声を出す。よしっ!ちゃんと出ている!きちんと書店にお目当ての雑誌が並んでいる事を確認すると、 わたしは今日その雑誌を買わずに家路へ。だって…制服のままじゃ…、恥ずかしいからね。 翌日の放課後、わたしは呑気にお買い物。 ジージャンにかわいい黒のミニスカート。目深に被ったニットの帽子にかくれんぼするように、ウサギ耳が飛び出している。 使い捨てのコンタクトをはめて、今日だけは相棒のメガネもお休みだ。 髪型もいつもの簡単なボブショートからちょっと外跳ねの元気な感じにしてみた。ワックスつけるのにも気合が入ってるんです。 足元も最近買った編み上げブーツで決めてみたのだが、こんなわたしに似合うかな。街いちばんの書店を目指す。 時は夕暮れ、茜色の空がわたしたちを空と同じ色に染めて、秋風はひたすら街を冷やしてゆく。 けっして都会ではないわたしたちの街は一日の疲れを癒すように、明日に備えて休もうとしている。その隙を突いて、わたしは書店へ。 お目当ての雑誌はいつものように本棚に居座っていた。その雑誌と、 気まぐれで買う予定ではなかったファッション雑誌を重ねて持ってお会計へと小走りする。 「今が…チャンス!」 なんたることだ。今日に限って長蛇の列、しかもレジ係は新人の子らしい。だからレジはオロオロとしているばかり。 こうして待っている時間がいちばんむず痒いのに、「もっとテキパキ働きなさい」と余計なお世話を焼いてしまうのは職業病か。 周りの目が全てわたしに注がれているようにも思えてきた。わたしの番になってお会計を済ませる瞬間、 そのレジの子は小銭を落としてしまった。早く帰らせてくれ。 「ただいまあ」 「姉ちゃん!ご飯もう出来てるよ」 中学生になったばかりの弟のマオが、ぴょんと跳ねて玄関のわたしを迎える。マオはわたしに似て女の子みたいな顔をしているが、 それを言うと本気で怒るのでそれはそれで面白い。たまにからかってみるのもご一興。 後で行く、と伝えてわたしの部屋へ一旦引っ込み着替えをする。 わたしの部屋が弟と別になって、もう4年になるだろうか。扉を開くとわたしだけの自由な国。 女王はわたし。不思議の国のウサギは時間に追われているけれど、ここの国のウサギはのんびりしてもいいんです。 パソコンにぬいぐるみ。ポスターに…アニメのDVD。本棚はもちろん、まんがで一杯。 さて、ご飯を食べたら買ってきた雑誌でも読むかな。 いやいや、今週の録画分がDVDレコーダーにたんまりと溜まっている。そろそろ一気に見ないと、ネットで話についてゆけない。 今週はゲストにあのアイドル声優が起用されているから楽しみだな…いや、演出がアイツだから…。 …あれ。…わたし、少しおかしなことを言っていますか?ちょっと、待って欲しい。いやいや、わたしは他の人より ちょっとだけまんがやアニメに詳しく、ちょっとだけかわいい女の子のキャラが好きなだけで…。 ただそれだけの事なのに、あんまり他の人にこの趣味を知られたくないんです。 それもこれも、弟のマオのせいだ。マオが騒ぐからわたしが気を使わなきゃいけないのだ。 頭の回転だけはムダに速く、しょっちゅうわたしを困らせてばっかりいる愚弟のせいだ。 「姉ちゃん!ごはんだよ!」 わたしの耳は長いから、そんなに大声を出さなくても分かってます。帽子を取って、ジージャンを脱いでいると再び弟の声が響く。 「姉ちゃんの、お・た…」 わたしはマオが全て言い切るまでにリビングまで駆けつけ、クソが付く位生意気な弟に跳び蹴りを食らわせた。爽快爽快。 こんなに優しいお姉さん、他にはいませんよ。 夕飯を済ませるとマオはテレビにかぶりつき、そしてわたしは部屋に篭る。扉には「リオのへや・かってにはいるな」の掛札。 こうでもしないと弟が入ってくるし、仮に進入してきても跳び蹴りを食らわせる大義名分もできるってこと。 忙しい風紀委員長としての一日の勤めを終え、家に帰ってこの時間がいちばんホッとする。 バッグから書店の袋を取り出し、インクの香る真新しい雑誌を取り出す。 分厚い雑誌を捲ると、楽しみにしていた『若頭は12才(幼女)』の巻頭カラーが飛び込んできた。 この雑誌ナンバーワンの人気を誇るこの作品。メディアミックスのグッズも溢れ、わたしたちファンを魅了してやまない。 ヒロインである『森三ゆみみ』は、ひょんなことから若頭になってしまう。しかし、その肝っ玉の強さから舎弟には慕われ、 対立する組の者もひれ伏すと言う『幼女系痛快任侠娯楽漫画』なのだ。 そのヒットを受け、アニメ放送も始まったのだが、一部の地上波やネット配信で、 第4話があまりにも過激すぎると、その回の放送・配信を自粛したとの武勇伝をもつ逸話もある。 原作でいちばん好きなエピソードだっただけに、抗議のメールを放送局に送ったほどわたしには、とても思い入れのある作品でもある。 おっと、今日もいい所でずっこけた。うーむ、かわいい。 今クールからアニメも始まり、わたしとしてはこれからの期待大の作品。巻頭カラーがこの人気を物語っている。 では、じっくり読ませていただこう。お邪魔はしないでね…。 ―――今月の内容は大満足。 では早速、ネットで今月の『若頭』について検索するかな。人様のブログを覗くのは楽しい。 最近気付いたことなんだが、わたしの巡回するブログの主はウサギが多いのだ。 やっぱりウサギは放っておくと寂しくって死んでしまうんだろうか。コメントを残しておこう。 うっ、コイツは酷評しやがる。アンチはいるからね…どこの世界にも。 でも、『若頭』はいいなあ。頼もしい若い衆を引き連れて、いざとなったら矢面に立って降りかかる火の粉を蹴散らす頼もしいヤツ。 わたしなんぞクラスのために矢面に立っても、男子には気の抜けた返事を付き返され、女子には上っ面の笑い声で返される。 さしずめ、わたしの舎弟は弟のマオか。憎たらしいけど、頼りになるわたしだけの分身。 するとマオがお菓子を食べながらわたしの部屋の中に入ってきた。 「ここの部屋はどうも耳はキンキンするし、目もチカチカするなあ」 憎たらしい台詞を吐くマオのお菓子をひったくった。 昼間のわたしはいつもの風紀委員長。そしてクラスメイトのよき友として愛嬌を振りまいているのだ。 休み時間は友達と談笑をして青い春を送ってゆく。なにがなんだか。 話題は昨日のドラマの話。友人たちは「キタムラくんカッコいい」やら「それがしキモイ」と言っているが、原作を読んでいたわたしにとっちゃ 「ふざけんな、脚本家め。原作を愚弄しやがって」と言ってやりたい気分なのだ。しかし、こんな所で水を差しちゃいけない。 わたしだって、一応『風紀委員長』と言う、クラスから注目を浴びるみんなの人気者でなくちゃいけない。 ウソも方便。そんなことを言い訳にして、うんうんと相槌を打つ。 「そうね、わたしもキタムラくん大好きだな」 ウソだ、大っ嫌いだ。キタムラとか言う大根役者は。あーあ、疲れる。 クラスのみんなに気を使いながら、なんでもない一日を過ごし電停で帰りの電車を待つ間、空を見上げると、 晴れ晴れとした秋の空。なのに、わたしの考えていることはゆううつなことばかり。 天地全てをもってわたしをうんざりさせているのね。神様なんか死んでしまえよ、糞野郎。 「ゆみみはいいなあ」 今日はそんなことばかり口ずさんでいた。ゆみみは、みんなから尊敬されて、若い衆の為に一生懸命でおまけに愛嬌もあるし、 それにまわりには頼りになる組長さまや舎弟だっている。 それに比べてわたしはみんなに気に入られようとウソばっかり演じて、かつメンドクサガリ屋さんで、 それにまわりには困ったクラスメイトや弟ぐらいしかいないのだ。 「ゆみみになりたいな…」 何言ってるんだ、わたし。なれるわけないじゃん。でも…。 うちに帰ると、弟のマオがそわそわしていた。ただいまを言っても、無愛想な返事だけ。 ただでさえ生意気なのに、それを上回る生意気さでわたしを出迎える。 そんな弟を逆上させるのは、すこぶる痛快だ。 「もしかして…デート?」 「ち、ちがうよ!」 「うそばっかり!鼻がヒクヒクしてるよ」 弟のうそは分かり易い。これはデート確定だ、因みにマオのガールフレンドの顔は未だ見たことが無い。 ここはひとつ、姉として、女の子代表としてアドバイスをしてあげなければ。 「どれどれ…、ここはお姉さんがお見立てしてあげよう」 ところが、ただでさえ生意気なのに、それを上回る生意気さをもっと上塗りの生意気な返事が、わたしの純粋な気持ちを逆撫でる。 「姉ちゃんなんか、2次元の女の子にしか心開けないんでしょ?まったく、同じ学校じゃなくてよかったよ!ブス!!」 ムカつく!鼻でせせら笑い、お姉さんを完璧にバカにしている弟よ。 きみには、愛溢れるお仕置きだ。耳を引っ張ってやれ、自慢の耳なんかもっと長くなってしまえ。 そして、ガールフレンドに笑われて振られてしまえ。バーカ。 マオの快い悲鳴の中、玄関のチャイムが鳴る。こんな楽しい時にお客さんですか。 「いてて!来たんだよ、放してよ!」 わたしに耳を掴まれながら、マオは玄関に走る。そこでわたしは勝手に「どうぞ」と返事。 開かれた扉から現れたのは…ネコの少女だった。 …似てる。あの子に似ている。 あの子って誰?そう。『若頭は12才(幼女)』のヒロイン『森三ゆみみ』そのもの…。 「はじめまして」 その『はじめまして』が『はじめまして』じゃない気がする。 もちろん嘘っぱちなんだが、わたしにとっちゃ毎月会っている気がするのだ。 「マオくんのお姉さんですね…。同じクラスの美作更紗です」 ふと、邪な考えがわたしによぎる。 この子を『森三ゆみみ』にしてしまえ。 わたしはウサギ、ネコである森三ゆみみになんかになれっこない。でも、彼女にはそんな素質が仄かににおう。 腰まで伸びた長い金色の髪、冷たいようでコケティッシュなルックス、アニメから飛び出したような声。 そして決定的なのは、廊下を歩いていた時に何も無い所でずっこけていたこと。 活きのいい、天然もののドジっ子だ。羨ましい、羨ましすぎる。こんな子を連れてきたマオに感謝、でかした!わが弟よ。 しかし、乗り越えることさえ困難な問題点がひとつ。 その問題とは、わたしの趣味がこの子にばれてしまうこと。わたしの趣味がばれたら間違いなく、バカにされてしまうだろう。 こんなにかわいい子だ、クラスでも人気者に違いない。まったくヤツとは何処で知り合ったんだか。 「え、えっと。更紗ちゃんはマオと何処で知り合ったのかな…?」 「マオくんとは、塾で一緒のクラスなんです。おねえさんのことはよく聞いてます」 なんだと。マオのやつ、余計なことを言ってなければいいが。 自室に引っ込んだマオと更紗は、隣のマオの部屋では楽しそうに会話をしている。 一方、わたしはネット動画でわたしの地域で放送されていない今クールのアニメを鑑賞中。 もちろんヘッドフォンは必須、こんな音声マオどころか更紗に聞かれちゃ一生の不覚。 時々、隣が気になり音声を緩めて長い耳で潜めてみる。わたしがウサギでよかったよ、こういうのは得意中の得意。 よくよく聞いてみると、内容がまったく無いどうでもいいお話ばかりなのだが、マオにとっちゃ仕合せな時間なのだろう。 扉の音がする。お客さん、もとい更紗が廊下に出たのか、ご不浄にでも行ったのだろう。 しばらくすると、いきなりわたしの部屋の扉が開く。マオか?いや、ノックをすることを義務付けているので違うか? 予想だにしていない出来事だったので、ブンと振り向いてしまう。 「誰!?」 「ご、ごめんなさい!!」 入って来たのは更紗だった。急いで追い返そうと立ち上がると、その弾みでヘッドフォンのプラグがはずれ、 アニメのエンディングの電波ソングが、部屋中に溢れかえってしまった。 更紗もわたしも固まる。もうだめ…人生終了。こんなわたしは、生きていてもいいのですか…。 後編へ 関連:サン先生 泊瀬谷先生 モエ ケモノ学校シリーズ SSへ戻る ケモノ学校シリーズ TOPへ戻る
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第一章 続き 「どうしたの?礼人君?」 「いや…俺のことは触らないでほしい…」 疲れた… 入学式が終了して、先ほど始業式を行った。 前まで新入生とその親族でいっぱいだった講堂は、今度は生徒と教論でいっぱいになった。4回目の始業式となるとさすがに飽きも生じ、校長の話をなるとクラスの2分の1が寝る程になった。俺はその間乱れまくっていた呼吸を落ち着かせることに気を使っていた。 というか、みんなの視線が痛かった。 事情を知らないうちの馬鹿どもは、「なぁ、あいつなんであんなゼエゼエになってんの?」「朝から何してたんだか」「エバちゃん、なんで礼人があんな疲れてるか知ってる?」「えっ…それは…わ、わからないよ」「おい、聞いたか。あのたどたどしさ。何か隠してるぜ」「人に知られたくないことで息が切れること…まさかっ!」「れ、礼人…き、貴様、エバちゃんに、ぐひゃぁっ」と勝手に盛り上がっていた。 因みに、最後のは俺が顔面を殴った時の悲鳴。 でも、やかましい輩一人殴っただけで体力をかなり消費する程疲れ切っていた俺は、黙って質問攻めにされるのを耐えるしかなかった。 だって、いきなり襲われて、相手のパンツを見たから追いかけまわされたなんて言ったら、この馬鹿どもになんと言われるか… 「お前、女のパンツを見たっていう様な顔してるな」 ぎくり。 「な、何言ってんだアドリフ。意味わかんねぇよ」 隣の席に座っていたアドリフが詰め寄ってくる。 ちなみに、今は教室――――新クラス『高2β組』にいる。 エバもβ組だ。それも、隣の席。 本人いわく、神様って本当にいるんだねっ、だそうだ。 俺と一緒のクラスになることを願っていたのだろうか。 そして、俺のもう片方の隣に君臨する生粋の馬鹿は、 「いや、サティ家の血がそう言っている。お前、今日女の子のパンツ見ただろ」 どんな根拠だよ。本来誇りにするべき血筋の使い方が違ってるぞ。しかも、ピンポイントに当ててきやがる。 本当のことな上に、明美がその理由を主張するから余計たちが悪い。 「金持ちは何を言い出すかと思えば…古い血筋にあてられたんじゃねぇの?」 とりあえず、バレたら色々とまずいのではぐらかす。 「その減らず口は相変わらずだな。あまり調子に乗ると家が爆破されそうだ」 「まさか。火薬使用が許可されているのは親父だけだ」 「そうなのか?」 「そんなもんだ。世の中っつーのは」 ちなみに、こんな物騒な会話はいつも通りだ。我ながら育った環境に絶望する。 だが中学時代からの腐れ縁と話していると、午前中の大騒動が嘘のような完璧な日常に浸っている気分にんなるなぁ。 「でも、礼人君本当に大丈夫?」 「ん? ああ、平気だよ」 「本当? お昼の時も随分疲れてたみたいだけど…」 ああ…持つべきものは幼馴染…優しい! そう! この世を制す物は、そう! 隣人愛! キリスト教最高! 「え? 何? 礼人っちなんかやらかしたの?」 また俺のそばに新しい人間が寄ってきた。 「いや…まあ、その、なんだ?若干疲れただけだ」 「へぇ、ランニングでもしたわけ?」 「っつか、梅花もβ組か」 「そ。また一年よろしくぅ!」 梅花はそういってこっちに笑顔を向けてくる。 アドリフも梅花もいるのか…。このクラス、相当にぎやかになりそうだな。 しばらく、二大ムードメーカーと話をしていると、袖をひっぱられる感覚にあった。 振り向くと、エバが複雑な表情を浮かべていた。 どうしたのかと口を開こうとすると、 「…ねえ、礼人君」 「ん? 何だ?」 「その人達は、礼人君の知り合い?」 あ、そうか。さっきこの二人と話してたときに静かにしてたのは、アドリフや梅花に初めて会ったからか。 「あ、そっかそっか。じゃあ紹介するよ」 そういって、今度はムードメーカーコンビに目を向ける。 「こいつはエバ・トゥリヴェント。俺の幼馴染だ。ロッスィの社長の娘さ」 「エバ…エバちゃん…」 俺がエバのプロフィールをむちゃくちゃ端折って説明すると、アドリフが目を丸くしてエバの顔を見つめ始めた。 「あ、え、えっと…よろしくね」 この馬鹿の気迫に相当押されているのか、しどろもどろになりながらエバがぎこちない笑顔を作る。 そんなエバを品定めするかのように見た後、 「礼人、ちょっと耳を貸せ」 「ちょ、お、おい!」 俺の腕を思いっきり引っ張って、教室の角まで引きずっていった。 そして、俺の背中をどん、と壁に押し付けて、 2mを超える図体に迫られるってぇのは親父以来だな、どうでもいいが。 「エバちゃんに、彼氏はいるのか?」 文字通りずっこけた。 ものすごく真剣そうな顔をしていたから何を言い出すかと思えば… 「お前ってやつは…」 「だから、いるのかって聞いてんだ」 真面目に俺はこいつが馬鹿に見えてきた。いや、前からこいつが馬鹿だってことは知ってたが。 「いや…いないと思うが…」 おずおずと答えると、雄と化したアドリフは俺を突っ放してエバのもとによっていった。 ふっとばされた俺は、壁に腹をぶつけて情けないうめき声を上げる。 だからそこはさっき負傷した以下略。 「え、えっと…」 電光石火の速さでそばに寄られたのに驚いたのか、エバがたじろいている。 そして、あの雄はエバが姫であるかのように、地面に片膝を立てしゃがんだ。 「私の名前はアドリフ・サティ。17世紀、ルイ14世の配下においてに数々の戦功をあげた史上最高の騎士、クリストフ・サティの末裔でございます」 「は、はぁ…」 何だあいつ。いきなりモード変えやがって… 周りの女子たちがドン引きしているのに気がついてやってんのか? こんなのがルイ14世の側近の末裔か…DNA鑑定を一度してもらうことを全力で推奨する。 「エバちゃんの様な儚げで可愛らしい女子に悪い虫がつかないか、私は不安でございます。何か男子の汚らわしい行為にさらされた時は、誇り高き騎士の血をひくサティ家の末裔、アドリフ・サティにご相談を」 「あ…はい…分かりました…」 おい、男子の汚らわしい行為=今のお前、だよ馬鹿。 状況が全く飲みこめていないエバは、ことの流れに身を任せるかのように無理やりにうなずいた。 エバに向かって頭を垂れているあの雄の顔がにやけていたことには、あいつは気がつかなかっただろう。 そのとき、 「エバちゃん、チョーーー可愛い!」 梅花がエバに思い切り抱きついた。 「うわ、あ、ちょ…」 「なに、このおっとりキャラ! 私完全にツボッたわ! そう! この世を制するのは、そう! 可愛さ!」 一瞬でも、梅花と似たようなことを考えていたことにかなり反省。 「ああ…せっかくエバちゃんにいいところを見せるチャンスだったのに…でも、美少女二人が抱き合ってる…」 結果、梅花にエバを横取りにされた形になったアドリフは、目を細くして、よだれを垂らしながら二人の様子を見ていた。 純粋に気持ち悪い。 周りの女子の目も俺と同じ答え出したようだ。 「うにゅう…」 エバは思いっきり抱きつかれているせいか、息ができていない。 「おい梅花、抱きつくのはいいがエバが息してないぞ」 厳密に言うと抱きつくのもやめてほしいが。 そういう体勢をとると一人喜ぶやつがいるんだよ。お前達のすぐそばでしゃがんでる男が。 見かねたので、そんなことを思いつつ助け船を出すと、 「え? あ、ああ! ご、ごめーん!」 エバの顔から色がなくなって来たのを見た梅花は、予備動作なしに飛びあがってエバから離れた。 今どうやって飛んだし。人間業じゃなかったぞ。 「私は煉梅花。一応、中国商業組合会長の娘っていう肩書き。おしゃれが大好きでたまらない、見ての通りのムードメーカーだよ!」 今度はちゃんと笑顔を作って、手を差し出しながら言った。 「ああ…うん、よろしく」 エバは、梅花の差し出した手をおずおずと握り返した。 アドリフはともかく、梅花がなにかエバにするといえば、抱きつくとか胸を揉むとかしか考えられない。その点では、俺は安心できた。 まあ、その行為が既にアウトなのかもしれないが。 アドリフよりはましだろ。 「ほら、お前ら席につけ」 教室に担任が入ってきたので、一度各々は席に戻る。 「あー…早速だが、今日このクラスに転入してきた奴の紹介をする」 転入、という言葉を聞いてクラスが喧騒の輪に囲まれた。 各国のエリートが通う帝王高校に転入するには、転入する前のカリキュラムをたたきこむほどの価値がある人間だけに収まり、それに伴いこの学校に転入入学できる人間は全世界を探しても10人程度しかいないといわれている。 そんな超スーパースターが登場したことがすごいのも確かだが、こともあろうがそのスーパースターが我がクラスに入るとなれば、クラスが騒然となるのも無理はない。 現に、俺だって驚きを隠せない。 「あー、うるさいうるさい。確かにこの高校に転入してくる奴は珍しいが、お前らが黙らなきゃ紹介ができん」 担任がいかにもだるそうにクラスの連中を黙らせる。 「さて、入れ」 クラスがある程度静まったところで、担任がそいつに教室内に入るように促した。 そして、そのスーパースターが俺の視界に入った瞬間に… 俺は椅子から転げ落ちた。 ドガシャアン! 「ちょ、礼人君!?」 ものすごく驚いた様子のエバが、俺の体を起してくれる。 「いきなり椅子から落ちるなんて、どうしたの!?」 「…いや…椅子で木馬みたいなことしてたらバランス崩した」 ……ちなみに、この言い訳は全部嘘。言い訳下手だな俺…。 本当は、椅子から転げ落ちるほどびっくりするほど価値がある事態が目の前で起きたから。 その「ある事態」とは、 「あの破廉恥男…後でこらしめてくれる…」 『そんな超スーパースター=黒髪のロングで、黒い瞳のつり気味の目をしていて、薄い唇で、均整のとれた顔立ちをしている日本人=駒萩明美』という三段論法が成立したことに他ならない。 担任の目配せで、淡々と自己紹介をし始めた。 「駒萩明美、日本総理大臣駒萩草太郎の孫であり、東京都中心域警察特別部署特一級事件捜査部署所属の巡査である。以後、このクラスで世話になる」 あ、そーかー、にほんのそーりだいじんって駒萩ってなまえだったねー。 と目の前の異常事態を漫然と受け取るしかない俺を含め、辺りに沈黙が流れる。 そして、その沈黙を破ったのは先ほどエバに騎士の誓いをしたアドリフだった。 「明美さあん!」 どんな術を使ったのか、一秒前まで俺の隣にいたその雄は、一瞬にして明美の隣でひざまずいていた。 「な…何だ貴様は…」 ここにきて、初めて明美が戸惑う姿を見た。 しかし、アドリフはそんな明美の様子にお構いなく手を取り、 「私の名前はアドリフ・サティ。十七世紀、ルイ一四世の配下においてに数々の戦功をあげた史上最高の騎士、クリストフ・サティの末裔でございます」 おい、さっきエバに言ったのと一字一句変わらねぇじゃねぇか。テンプレート化してんぞ。 「私たちは、雇い主には絶対の忠誠を誓います。どうか、私達を臣下においていただけないでしょうか」 いかにも恰好がついたと奴は自負しているだろうが、言っていることは傭兵とかわらない。 そして、アドリフのそれが導火線に火をつけたのか、他の馬鹿男子どもが祭りの様に騒ぎ始めた。 「明美ちゃん!そんな古くせえやつじゃなくて、俺を!」「俺のお嬢様になってくれ!」「いや、俺が一番明美ちゃんを幸せにできる!」「お前ら、俺が一番最初だ! 引っこんでろ!」「腐れ騎士こそ引っこんでやがれ!」「てめぇはα組だろ! これはβ組の問題だ!」 などと言い争いをしまくっている。朝から元気な馬鹿どもだ。 っつか、なんで他のクラスの奴いんだよ。まだホームルーム終わってないだろ。 「あー、うるさい。黙ってろ。じゃあ…」 しかも、あわや喧嘩になりそうだった男子らを得意のボクシング技で黙らせた後、担任俺の後ろの空席を指さして… 「明美の席はあそこだ」 といったものだから、俺は短時間で二回椅子から落ちなければならなかった。 このエピソードは、長い間アドリフによって語り継がれることになった。 「もう駄目だ…」 今日の学校が終わり、寮のベットに倒れこんだ。 今日だけで、一月分の運動はしてしまっただろう。 理由は、学校にいた時中といっていいだろう。 まず、明美は俺の後ろに座った途端、器用にも椅子の底と腰かけの間の隙間から本気の蹴りを俺の脇腹めがけてはなった。すでにホームルームで前までに三回もそこを殴打していた俺は、その一撃でリスニングの授業にもかかわらず盛大な悲鳴を上げ、そののち教論にこってりしぼられた。 そして、何故かそのことがいつのまにかクラス中に広がり、先ほど明美に群がっていた連中が休み時間になると。「おい、明美ちゃんとどういう関係だ?」「彼氏とか言ったら殺す」的なことを喚きながら俺のことを追いかけまわしやがった。 俺は、その集団から必死に逃げなければならないというはめになり、結果、ここまでへとへとになるということになった。 いつもなら、ホット紅茶をすすりつつ外の景色を楽しむのが日課だったが、今日はそんな余裕が残っていなかった。 ベッドに顔面から倒れこむ。枕がぼふっという音とともに空気を吐き出した。 (疲れた…) 階段とかを登ったり降りたりを繰り返したせいで、足がパンパンに張ってしまった。 普通に痛い。 もう、こんなことは勘弁願いたい。 (もとはと言えば、明美が転校したからなんだよな…) 明美は、今日転校してきた。 その前には、初めて出会った俺に向かって思いっきり刀を振り上げてきた。 確か、明美は「ジョヴァンニを壊滅させる」とか言ってた気がするな。 転校するほどなのだから、本気なのだろうな。 ちょっと親父に相談しないとまずいな… などと考えていると、 ピンポーン 「あー…」 空気を読まない奴だ。 正直、出る気がしない。 どうせ男子どもが追い打ちをかけてきたのだろう。 「…居留守を使おう…」 そう決めて寝がえりをうった。 ピンポーン またなった。 「大事な用なのかね…」 もう一度寝がえりをうつ。 ドガシャーーン うるさいなぁ… と、もう一度寝がえりを… … …… 「はぁ!?」 遅れて、異常事態に気がついた。 ものすごい爆音が玄関で鳴り響いたおかげで、俺はベッドから跳ね起きなければならなくなった。 え? 今の何? 普通の玄関じゃあ絶対に起こり得ない音したよな? 爆発でも起きたわけ? 国連がバックにあるこの学校でテロとか、国際問題だぞ。 「な、何事!?」 慌てて寝室のドアを開けて外、主に玄関の様子を確認しようとする。 だが… 開けた瞬間、体が固まった。 昔、アドリフが熱弁していたことがあった。 曰く… 『人間はあまりにも刺激なことが起きると、ショックで思考回路がとまるんだよ』 その時は、まさかぁ、と思っていた。 アドリフ、すまん。 お前の言うとおりだ。 呆然としたまましばらくその場で動きを止め、 俺は一つ小きくうなずいた。 そして、 スーーッ、バタン。 「何も見ていない、何も見ていない、俺は何も見ていない!」 ドアを静かに閉めて俺はそう唱えた。 なるで何もなかったかのようにふるまいつつ、またベッドにもぐりこんだ。 ははっ、あり得ないじゃないか。 だって、こんな平和主義者のいる部屋の玄関のドアが、盛大に吹っ飛ばされてあり得ない形に歪んでいるなんて誰が信じられるのだろうか。 いくらきれた男子でも、あそこまではしない。 というか、あんなことができるほどのパワーを持っている奴なんてこの学校にはいない。 要するに、この学校にあんな芸ができるやつがいないのだ。 それに、ふっとばされたドアを受け止めたのであろう廊下の鏡は木っ端みじんに砕け、破片が床のありとあらゆるところに散らばっていた。 あの鏡、2万ドルするんだぜ? そんな物がこんな超現実的な現象で壊されるわけがないって。 そこまで一気に考えて、一つ大きくため息をついた。 「…寝よう」 気がつくと、そんな言葉をボソリと呟いていた。 そうだ。俺は今日男子に追いかけまわされまくったから、幻覚が見えるほどに疲れたんだろう。 そういう日は早く寝るに限る… そうして俺がベッドにあおむけになるようぐるりと回転した。 しかし、超現実的現象はそれだけでは終わらなかった。 バキイィィン! またもやものすごい破壊音。今度はものすごい近くで発生した。 それだけならまだいい。まだ現実逃避を続けられた。 だが、自体は完全に悪化していた。 完全にその音に無反応だった俺の目の前を、 ヒュンッ! ものすごいスピードでなにかが吹っ飛んで行った。 慌ててそれが飛んで行った先を見る。 そして、俺は目が飛び出るぐらいに驚いた。 吹っ飛んで行った何かは、長方形の板だった。 ちょうど人が立った時に手の位置にあたりそうな所に銀色のノブが付いている。 つまり――――ドアだった。この部屋の。 その光景が何を意味するかを意味するかが頭の中で結び付いた瞬間に… 俺はベッドからガバッと起き上がった。 もはや現実逃避とかそういうことを言っている場合ではない。具合によっては死んでしまうかもしれない。 胸ポケットの拳銃を取り出し、慣れた手つきで相手に銃口を突き付けた。 そして、 「てめぇ! 俺が誰だとわかってやっているのか! 俺は暴力団ジョヴァンニの若…頭の…」 名乗りの後半のほうがしぼんでいったのは、脳が拒み続けていたこの状況が理解できたからである。 俺の部屋をたった1分でぐしゃぐしゃにしたその怪物は、 カツ、カツ、カツ と、品のいい足音を鳴らして部屋に入って来た。 そして、そこにいたかなりのつり目で美しいロングの髪をした完璧美少女の日本人がが誰だかも把握して… 「ああ、よーくわかっている。女の下着を意地でも見たがる破廉恥男、ラニエロ・チェッリだ」 俺は窓から逃げることを試みた。 しかし当然、 「逃げれると思うなよ」 服の裾を刀の先でひっかけられて阻止される。 「う、お、おい、や、やめろって!」 「ほう、先ほどの威勢をもう一度見せる気すら失せたか」 声が怖いです、明美さん! 「どうした、完全に怯えきって…」 振り向くと、悪魔としか思えないような微笑がそこにあった。 「完全に殺す気だろ!」 刀にひっかけられて空中に浮いた状態で、手足をばたつかせて脱出を図る。 「なるほど…鼠をとらえた猫はこういう気持ちになるのか…実に愉快だ」 いや、もはや蛇とカエルです。 俺、もうすぐで被食者にされそうなんですから。 「とりあえず下ろせ! 話は聞くから!」 「逃げるだろう、貴様は」 「お前から逃げられると思うほどうぬぼれてねぇよ! とりあえず下ろしてくれ!」 「ふむ…いいだろう」 俺はホッと一息ついた。 さっきから宙につるされている状態なので、引っかかっている下腹部が悲鳴を上げたくなるほど痛かった。 だが、それで解放されると思った俺が馬鹿だった。 「ただし、まだ貴様に信頼がおけん。こうさせてもらおう」 明美は俺の服を引っかけた刀を力いっぱい引っ張った。 自然俺は刀が引っ張られた方向に吹っ飛んでいく。 向かっていく先は、さっきまで俺が寝ていたベッドだった。 ぎしぃぃいっ! 思いっきりベッドに投げられ、ベッドが大きな音を立ててきしんだ。 当然ベッドだから投げられても背中が痛くないが、解放してくれると言ったのに投げられたことに少し怒りを覚えた。 「ちょ、いくらんでも投げだすことはないだろ――――」 俺は明美にそう反抗して、 絶句した。 理由なんて、簡単すぎて説明もいらないほどだ。 投げ出されて大の字になって倒れた俺の上に、明美は覆いかぶさって来たのだ。 手首はがっちり明美の手によって握られ、俺の脚に明美の足が複雑にからんできている。 俺は全く身動きが取れない状態になった。 それだけでもやばいのに、明美の顔が俺の顔の目の前にあった。 視界には明美の顔しか映らない。 体重は全部俺に預けた状態だ。俺の上に寝っ転がっているといっても過言ではない。 大きすぎず、かといって小さ過ぎでもない、意外と大きめの大きさの胸が俺の胸に抑えつけられている。 明美の端正な顔を眺めると、 ドクン 心臓が大きく高鳴った。 これだけ密着しているのだ。今の胸の高鳴りは確実に明美に知られてしまっただろう。 実際、明美はニヤリと笑った。 「ちょ…何をする気だ!」 「こうすれば、何をしても逃げられないだろう?」 「くっそ…本気を出せばこれくらい…」 明美が俺の顔から自分の顔を遠ざけ、肩にのっけた。 何をするかと思えば、明美は肩から俺を上目遣いで見つめ、 「私は、乱暴に扱う男が嫌いだ…」 囁くようにつぶやいた。 (反則だろ!) 驚異的な可愛さに、思わず生唾を飲み込んでしまう。 明美の罠だとわかっているのにもかかわらず。 そして、明美は罠にかかった獲物を見るような目つきになって顔を元の位置に戻した。 「やはり破廉恥男は破廉恥なのだな」 あんたが全部仕掛けたんだろ! と大声で叫び高くなったのを懸命にこらえた。 明美の背中に下げられている刀を見たからだ。 もし反抗すれば、あれで斬られるかもわからない。 大人しくすることにした。 それよりも… 「なんでこんなことするんだよ」 そうだ、わざわざ玄関を破壊してまで俺を取り押さえる理由が分からない。 もしかして、今日の朝の復讐か? 「別に今日の朝の件について復讐しに来たわけではない。ただ、借りは返してもらおうと思ってな」 違うのか。ならなんで来たんだよ。 「私は、どうしても貴様を信用することができない。今朝の様な破廉恥な行動を他の女子にするかもわからん」 「ちょ!? しねぇよ!?」 「前科があると聞いたぞ?」 「誰から!?」 「サティからだ」 …あの馬鹿野郎。少しぼこぼこにする必要があるな。 「私は警官だ。そういうことを看過することはできない。貴様が私の命令を拒否しづらくするようにこういう状況も作らせてもらった」 色気作戦とか手段がきたないだろ。 「汚いとは失礼な。立派な交渉手段の一つだ。第一、それに惑わされえている貴様の破廉恥さに問題があるのではないか?」 「ぐっ…」 そりゃお前がそんなきれいな顔してるんだから、そんな女にここまで密着されたら動揺するだろ! とは死んでも言えない。 「さて、貴様に命じよう」 そういうと、明美は俺の耳元に口を寄せてきた。 明美の吐息が耳にかかる。 こいつ…なんてこと覚えてやがる… 明美の美しい黒髪が顔に覆いかぶさった。 桃の甘い香りがする… ドクン 一際心臓が大きく跳ね上がった。 明美の外見とのギャップで驚いたのだろうか。自分でもわからない。 っつか、これは明美は意識してやってんのか? …意識してやってんだろうなぁ。 さっき自分で色気作戦認めてたし。 「許可なく人物を殺傷することは日本国の法律で固く禁じられている。残念ながら貴様を殺して、破廉恥な行動を未然に防ぐことはできない。代わりに…」 明美は、次の言葉を唇と耳が触れ合うほどの距離でささやいた。 そして、その言葉が俺の日常をぐしゃりとつぶした。 「貴様の行動を監視する。速やかに私の部屋を用意しろ」 … …… 「は?」 声が裏返ったのにも気がつかなかった。 「もともとこの部屋は二人部屋だったのだろう? だったら人一人いられるスペースを確保するのにそこまでてこずることはないだろう」 何を言っているのか、始めはよくわからなった。 私の部屋を用意しろ?どこに?ここに? 俺の行動を監視する?どうやって?どうして? そして、ようやくその2つが何を意味するのかがわかった。 「だ、駄目に決まってんだろーが!」 明美の押さえつけていた手と足を振りほどき、壁際に後ずさった。 部屋を用意して、監視するって… 「お前、俺と一緒に住む気かよ!」 「何か異論があるのか?」 「大ありだよ!」 「理由を言ってみろ」 明美はあくまでサバサバしている。 こいつ…正気かよ… 「校則で寮は男女別って決まってんだろ!」 そうだ。エバがこの部屋に住むことを提案したときだって学校側が駄目だといったから、明美だって駄目なはずだ。 なんて考えていた俺が甘かった。 「転入してきた生徒への待遇は知っているか?」 「なんだよ。それ」 「転入してきた生徒というのは例外なく優秀な生徒が多い。だから、転入生には重要度A以外の校則は適用されないのだ」 「なぁ!?」 そんな…初耳だぞ!? 「知らないという顔をしているな。転入生にはそれだけ信頼がおかれているということだ。残念だったな」 明美の長い髪が鼻をくすぐった。 「で、聞くのが無駄だと思うが寮についての校則は?」 「重要度Bだ」 「…ですよねー」 体が一気に重くなったような衝動に駆られた。 「では、私は荷物をこの部屋に運んでくるので部屋の用意を頼んだ」 そういって明美はドアの無くなった寝室をでていった。 でていく間際、 「そうだ、私はどれだけ凄いことなのか分からないが、今朝のニュースのヴェルディ幹部四人を逮捕したのは私だ。逃げられるとは思わない方がいい」 といった時の顔は、さっきの微笑に勝るにも劣らない完璧な笑顔だった。 「……」 俺はベッドの上で呆然とせざるを得なかった。 こうして、暴力団の次期ボスという名目の男と、後に世界最強の巡査と言われた女という対極の二人が同居することになったのだ。 … そーっとドアの無くなった玄関から部屋をのぞく。 きょろきょろとあたりを見渡す… 「玄関先にターゲットの姿はなし…」 ドアの無くなった玄関をすり抜け、服と服の擦れあう音が出ないよう、全神経を集中させてうつぶせに寝る。 そしてまるでスパイが潜入しているかのように、ゆっくりだが確実に廊下を匍匐前進で進む。 服と絨毯がこすれる音にさえ気を配る。 玄関から廊下になる角を曲がり、バスルームのドアの前を通り… そして、リビングに近くなったところで、 ジャキン 懐から取り出した銃に弾を装填する。 そのまま廊下を進み、リビングのドアの手前で一度止まる。 緊張で荒くなって息を静かな深呼吸で整え、自分の装備を再確認する。 左手にはイスラエルの刃物会社「Leace」の暗殺用短刃式ナイフ、右手にはイランKD社のC001型9mm弾。弾はフルに装填した。 完璧だ。 うつぶせに倒れている状態から僅かに腰を上げる。 慎重にリビングの引き戸に手をかけ… ガラガラガラッ 「斬るなよ! 斬るなよ! 斬ったらこれを…」 盛大な音を立てて引き戸を開け、前転しながらリビングに入り、そのまま銃口をソファの上に向けて、思考が止まった。 「あれ?」 そこには、ターゲット(というか、捕食者)である明美の姿が無かった。 てっきりリビングにいたのだと思っていたから間が抜ける。 だが、若干期待していた。 (あいつ帰ったか? 帰ってるかな? 帰っていろ!) だが、 シャーーーー 「なんだ。シャワーか」 風呂場から水の流れる音がしたのは神のいたずらだろうか。 ここから去っていったことを期待していた俺はがっかりして、拳銃をまた懐にしまう。そして、リビングのソファに座り、先ほどコンビニで買ってきた映画雑誌を読む。 なんで俺がこんな007ごっこをしていたかって? 明美が荷物を取りに行った後、俺は自分の身を守るためいやいやバスルームの向かいの部屋から自分の荷物を撤去していた。 昔、俺がめちゃくちゃハマってた、車やらどこぞの機動戦士のプラモデルとか道端で拾ってきた不可解なエンジンとかがそこらじゅうに転がっていた部屋だったから、掃除するのに一苦労だった。 ただ、他の部屋はまた別の目的で開けられなかったので(危険物が大量に散らばっていて、下手に触るとまずいことになる部屋とかがたくさんあるのだ)、そこしか開けられなかったのだから仕方がない。 もちろん部屋は隅もピカピカになるまでに掃除した。 たった十分で部屋における二人の上下関係が逆転したことについては何かコメントした方がいいんだろうか。 いや、やめよう。一日中泣いていられる自信がある。 そんな風に必死に片づけをしていたというのに荷物を持って帰って来たとたん、あの捕食者は「準備をするからどっかに行け」というもんだがら、ここは俺の家だぞふざけんなと思いながら、でも反論してまた追いかけられるのが嫌だったのでおとなしくこの家を出て行った。 我ながら情けねぇ… そのあと、近くのコンビニに立ち寄ってマンガを立ち読みして時間をつぶし、毎週買っている映画の情報誌を買ってから戻って、今に至る。 見つかった時の莫大なリスクを背負ってまでちらっと部屋をのぞかせていただいたが、まだ荷物を持ってきただけでどうやらセッティングまではしていないようだった。 それにしてもあいつ荷物多かったな。 これから住みつくと言っているといっても、ボストンバッグが5個以上って相当な量だぜ。 …… 何が入っているのかなあ? 気になるなぁ… 後で聞いてみよう。 いや、でも変なものだったら聞いた瞬間にぼこぼこにされそう… なんてことを頭の隅で考えつつ、映画雑誌のページをめくっていく。 今年の十月に公開されるハリウッドの新作映画の特集に目を通したところで、喉が渇いたので台所に行った。 俺は、昔から紅茶という飲み物に異常なまでの好意を寄せている。 というのも、マフィアのボスでもあるあの無愛想な親父がはじめて俺に作ってくれたものがアップルティーだった。 ちょうどその時の俺は物心がつく年頃だったみたいで、それがすごく印象的だったのだろう。その時の記憶はうっすらとしか残ってはいないが、それ以来喉が渇けば紅茶というのが俺の中のルールになるような生活を送って来た。 ただ、紅茶をよく飲むからあまり夜は寝ない、というわけでもなくて毎日しっかり寝ている。 カテキンに対する自分の体の免疫が高いのだろうか。よくわからん。 そして、その異常なまでの紅茶コンプレックスの具合は台所にもはっきり表れている。 普通、貴族の家にしかないようなものすごく高性能且つ美麗な紅茶淹れがいくつも台所には並び、茶葉だってジョヴァンニの幹部が「若頭の為っすから!」といって産地直送の最高級の茶葉を送ってくれる。 こういうのを権力の濫用っていうんだよな。 別に俺が頼んでるわけじゃないんだけど。 味にもいろいろと種類があり、定番なアップルティー、ピーチティーからある地域でしか飲まれないような紅茶まで、ざっと五十種類が用意されている。 因みに俺が一番好きなのは、アップルティーに少しハーブティーを淹れて香りをつけたブレンドの物だ。 台所でボーっとそのブレンドの紅茶(俺はそれをエクセレントブレンドと呼んでいる)が湯に出るのを待っていると、 「ん?」 ふとあるものに目がとまった。 洗面所の上の棚にシャンプーが放置されていた。 パッケージに大きく桃の絵が描かれている。当然俺の物ではなく、そうなると必然的に持ち主が分かり… 「はぁ…」 一つだけその場でため息をついた。 「面倒だなあ」 俺はそのシャンプーを手に取ってみる。 パッケージに大きく桃の絵が描いてあるということは、このシャンプーで洗えば髪に桃の香りがつくのだろうか。 それなりにガサツな男人生を歩んでいた俺はこういうことには疎い。 だが、その入れ物から僅かばかり香りがするのでなんとなく予想がついた。 ふいにさっきのごたごたを回想する。 あの時、ベッドに俺を引っ張り倒したときにちょうど髪から香ったにおいと同じだなとふと思った。 その瞬間恥ずかしさが一気に込み上がってきてしまい… (何を考えているんだ俺は…) 誰も見ていないというのに目を手で覆った。 もともと整った顔だなと思ってはいたが、いざあそこまでの距離にあの顔が近づいてきたとなると… いかんいかん。自分でも顔が赤くなってきたのがわかるぞ。 首を左右に振り、天井を見上げてため息をついた。 「所詮、俺も男か…」 こんなことで少なからず動揺した自分に幻滅した。 一応若頭やってるから、他の暴力団から美女が来て結構俺に仕組んで来てたたんだけど…。 比べ物にならなかったな。 あのまま夢中にされて殺されるとかいうシチュだったら、絶対終わってたな。 「まあ、監視程度ならいいか…」 それよりも、シャンプーがここにあるのは入浴中の明美にとっては困ることなのは容易に予想がつく。 ただ、確か明美は入浴中だったはずだから、脱衣所から声をかけて置いていけばいいか と思い、シャンプーを持って脱衣所へ向かった。 幸い、脱衣所のドアは元気に残っていた。 ガチャ 「おーい、お前のシャンプーがあったから置いとくぞー」 脱衣所に入り、明美を呼ぶ。 ザ――――ッ 風呂場からはシャワーが出ている音が響く。 「明美ー!」 もう一度声をかける。 ザ――――ッ 「聞こえてないのか?」 風呂場からは規則正しいシャワーの音が響くのみだ。 明美からの返事がない。何かあったのか。聞こえてないだけなのか。 しっかりしている明美に限ってそんなことはないだろうと不安になっていると、 『♪~』 シャワーの音からかすかに鼻歌が聞こえた。 ホッと一息つく。 どうやら、俺の声が聞こえなかっただけの様だ。 もしぶっ倒れてたらどうしようかと思ったぜ… 「やれやれ…」 武者口調で話す生真面目な明美、ベッドで詰め寄った時のやけに女っぽい明美、風呂場で鼻歌を歌う無邪気な明美。 あんたは一体どれだけの顔を持ってんだ。 とはいえ、鼻歌を歌うほどご機嫌なバスタイムを邪魔するのも気が引ける。 ここにシャンプーは置いておくか。 いずれ使う時に気付くだろ。 と予測して、洗面台の横のスペースにボトルを置いた。 「さて、紅茶でも淹れっか」 と、脱衣所から出ようとしたところで… なにかが足に引っ掛かった。 なんか布の感触がある。 足の指と指の間に挟まったようだ。 (なんだ?) 下を見てみると、俺の脚の指には黒い布地の物が絡まっていた。 それを手に取って、広げてみる。 何やら紐みたいなものがついていて、それぞれの紐は二つの三角の布につながっている。 暫く、これは何だろうとあれこれ、考え… 「っ!」 硬直した。 これ、あいつのブラじゃねぇか… 急いで洗濯かごに目をやると、そこには女物の制服がきれいに畳んで置いてあった。 そこには、同じく黒の下につける方もある。 どうやら、こいつを入れるのを忘れてしまったらしい。 (ちょ…どうすんだよ、これ) 今日から同居する女の下着を手にとって、完全にパニクってしまった。 すぐさま脳内会議だ。 『いや、まあ落ちつけよ俺。ちょっと気を使って洗濯かごに入れちまえば、何もなかったことになるぜ。明美だってそんなくだらないことで詮索しねぇよ。』 と俺1。 『いや、わからん。明美は俺達を破廉恥男を呼んでいる。もしかしたら、これは罠かもしれないぞ。』 と俺2。 『じゃどうするんだよ?』 と俺1。 『でも、ここは洗濯かごに入れておいて、気が利く紳士ってところを…』 と俺3。 「まずいな、シャンプーをどこに置いただろうか」 と明美。 … …… 明美? 「へ?」 「あ…」 明美が脱衣所に入って来た。 どうやら、ようやくシャンプーを持っていき忘れたことを思い出したようだ。 そして、俺は脱衣所で明美の下着を持っている。 「き…貴様…」 それを見てガクガクと体を震わせるのも無理はないよな。 「いや、これは違…」 本当は、俺の脚にブラが引っ掛かってそれを洗濯かごに入れようとしたのだ。 でも、今この状況でそれを言って、どれだけの説得力を持たせられうかなぁ。 「ぁ……」 かくいう俺も、途中で言葉を失った。 明美は風呂場から出てきた。 それは、明美が何も身にまとっていない状態で出てきたのを意味し… 一つ一つの水滴が、全てをさらした明美の白く透き通るような肌を艶めかしく流れ落ちるのをじっと見ていた。 見てはいけないと思うことも許されなかった。 ただ、その妖艶な姿から目が離せなく… 「ヤ…」 明美が下を向いてぽつりと何かをつぶやいた。 「ヤ?」 「ヤァ――――ッ!」 金縛りから解放された明美が、右手で胸を隠し、左手で俺の頬を本気で殴って来た。 俺は、されるがままに頬を殴られ、床にぶっ倒れた。 脳震盪で意識が消える前にふと思った。 あれ、Dはあるだろ。 前(1) 次(3) to HOME