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<2日目/二条乃梨子/三階廊下> ……ん? 何が起こってるんだろう……。よくわからない。 悲鳴が聞こえて、それで、志摩子さんと一緒にここまで来て……。 「──由乃を殺したのは誰──」 ……そうだ、由乃さまが、血まみれで、いや、その前に、江利子さまが。 「乃梨子、逃げて!」 え、どうしたの、志摩子さん──。 「由乃を殺したのは誰!!」 突然、私の身体に衝撃が加わった。そのまま壁に叩きつけられ、胸元をぐいと引き上げられた。そこでようやく、私は今の状態を理解した。 目の前には、怒りを全身からあふれ出させている令さま。ギリギリと歯を食いしばり、今にもこの場にいる全員を殺してしまいそうだ。着ている服は血で汚れている。由乃さまを抱きしめたからだった。 「止めろ、令!」 「令、落ち着いてちょうだい!」 聖さまと祥子さまが令さまを私から引き剥がす。 私はどうやら息をするのを忘れていたらしく、床に尻餅をついてからようやくその場に溜まった焦げた臭いと血の臭いのする空気を肺に取り入れだす。 「乃梨子、大丈夫!?」 志摩子さんが私のところに駆け寄り、心配そうに覗き込む。 「大丈夫、大丈夫だよ」 私はそれを言うのが精一杯で、でも、視線は目の前の令さまを捉えていた。凛々しい姿でも、優しい姿でもない。全てを憎み、全てを怨み、全てに絶望した姿だ。 「放せ! 祥子、放せっ!!」 「令、駄目! 今貴方を放したら、私きっと後悔する!!」 しかし、令さまは。 「放せぇっ!!」 「きゃあっ!」 「うわっ!!」 力任せに祥子さまと聖さまを振りほどき、一旦資料室に消えたかと思うと、大降りな日本刀を持ち出してきた。たっぷりと血が付着しているところを見ると、由乃さまはそれで殺害されたのだろうか。 とにかく、私たちは令さまから離れるしかなかった。志摩子さんをかばう様に、祥子さまは祐巳さまの手を握り、そして聖さまは──可南子さんの肩を抱き、令さまから距離をおく。 剣道の達人である令さまが真剣を手にしているのだ。それに、今の状況……。間合いに入れば、斬りかかってくる可能性だってある。 「乃梨子……」 志摩子さんの消え入るような声が耳に入った。 「元はと言えばねぇ、祥子ぉ。あんたが私たちをこんなところに連れてきたからよぉ」 「な、何を言うのよ、令!」 「あんたがこんな島に私たちを誘わなかったらぁ、由乃は死んだりしてなかったのよぉ!!」 まずい。令さまが日本刀を構えた。完全に目が据わっている。 「令……そんな、私は、ただ、みんなに楽しんでもらおうと……」 祥子さまが涙を流し、そのままその場に泣き崩れた。祐巳さまがキッと令さまを睨みつける。まるで「祥子さまを斬るなら私を斬ってからにしろ」と言わんばかりの眼差しだ。私も、無意識に志摩子さんをかばうように立っていた。 「祥子ぉ……、祥子が悪くないのはわかってるわよぉ……。でもぉ! 何かに当たらなきゃどうしようもないのよぉ!!」 令さまが叫んだ。それと同時に雷が激しく鳴り響いた。ずいぶんと近くに落ちたらしい。 「あっ、令!」 令さまが資料室に入り、中から鍵を閉めてしまった。 「近寄らないで! 私は、ここから一歩も出ない!!」 「令、駄目だ! 私たちと一緒にいよう!!」 聖さまが説得を試みる。しかし、令さまはより大きな声を出した。 「私は……私は! みんなを信じられない!!」 「……令……。どうして、どうして!」 「……聖さまは、お姉さまの部屋で火の手が上がったことを気がつかなかったんですか!? どうして、どうして可南子ちゃんが聖さまの部屋にいたんですか!? 瞳子ちゃんは何処へ行ったんです!! どうして……どうして、由乃が、閉じこもったはずのこの部屋で殺されたんですか!! 私には、もう、訳がわからない!!」 「令、令!」 聖さまは何度も呼びかけたが、二度と令さまは返事をしてくれなかった。 私は無意識に──聖さまと可南子さんを見ていた。 <2日目/細川可南子/三階廊下> ……。 ……聖さまは、私に優しくしてくれた。 あの時だけは、祐巳さまを忘れていた。 あの時だけは、この惨劇を忘れることができた。 聖さまの部屋のベッドの上で、私と聖さまは──。 「……可南子ちゃん。どうやら私は、みんなに疑われているみたいだ」 聖さまが呟いた。 「無理もないか。江利子が死んで、蓉子も死んで、由乃ちゃんまで──」 うつむき、しかし口元は──笑っている? 「江利子の時は、私に動機があるって……可南子ちゃんが言ったんだよね」 「え、あっ……はい……」 聖さまが私の首筋に指を這わせた。 「確かに私は、階段で江利子に突き落とされたよ。そこには蓉子がいて、幸いにも階段から転げ落ちはしなかったんだけど──。その蓉子が死んだグラスに毒を仕込むのは、誰にでもできた。当然、この私にもね。そして、江利子を焼いて、由乃ちゃんを──まぁ、密室に近い状態だったあの部屋でどうやって殺したのかはアレなんだけど──殺せる可能性があったのも、私だけだね」 「そんな、それだったら、私にも」 私がそう言うと、聖さまはそっと唇を重ねてきた。少し触れ合うだけのキスだったけど、私が言葉を失うには十分だった。 「可南子ちゃんはやっていないよ。私が保証してあげる」 聖さまはそう言って、みんなに向き直った。 「さぁ、筆頭容疑者の私をどうしようか、乃梨子ちゃん」 「え、えっ!?」 慌てる乃梨子さん。志摩子さまも目を大きく見開いている。 「なんだか、一番私を信用してなさそうなのは乃梨子ちゃんだったからね。じっと見てたし」 「そ、そんなつもりじゃ」 「まぁ、私はおとなしくどこかに閉じこもりますよ。なんなら、ドアが動かないように何か物を置いてもいい。──だから、可南子ちゃんだけは疑わないでくれないかな。私がここまでするんだから」 聖さまは部屋に入ろうとする。その手を私は握り、 「だったら、私も一緒に入ります!」 と言った。 「私だって、聖さまが犯人じゃないことを証明できますから」 続く
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<2日目/二条乃梨子/3階廊下> 蓉子さまのお部屋と、聖さまのお部屋から、動かせそうな家具は全て廊下に移動させた。それを使って、聖さまのお部屋のドアを塞ごうというのだ。 提案者は聖さま自身。あの時、疑わなかったといえば嘘になる。でも……。 信じたくなんかない。江利子さまや蓉子さま、それに由乃さまが殺されたなんて。令さまがあんなに取り乱すのも見たくなかった。姿を消した瞳子だって。それに、聖さまが犯人かも知れないなんて。 「乃梨子ちゃん」 聖さまの声。私は部屋の中を覗いた。 困ったような表情を浮かべる聖さまと、可南子さん。聖さまは犯人じゃない、と言い、可南子さんも一緒に残ると言ったのだ。 「志摩子や、祐巳ちゃんのことをお願いね」 「……はい」 「じゃあ、バリケードお願いね。──ごきげんよう」 ゆっくりとドアが閉まる。閉まったと同時に、少し離れた場所にいた祥子さまと祐巳さまがため息をついた。志摩子さんは、ずっと廊下にしゃがんだままだ。 「──祐巳さま。バリケードを……作りましょう」 「うん……」 <2日目/支倉令/資料室> 冷たい。 冷たい。 頬をそっと撫でる。 瞳は濁ったまま。 心臓は動いていない。 両手はだらりと下がったまま。 口は少しだけ開かれて、端から血の筋が一本。 それを舌先で舐めとる。 由乃の味。 由乃の血の味。 ざっくりと裂けた背中。 溢れ出た血液。 凶器は目の前にある。 この大きな日本刀が、由乃の命を奪った。 「由乃」 名前を呼ぶ。 「お姉さま」 あの笑顔はもう見れない。 「蓉子さま」 あの声はもう聞けない。 「……由乃……お姉さま……」 涙は出ない。 枯れたかも知れない。 壊れたかも知れない。 「私は、どうしたら……」 そう呟いた時、気づいた。 強く握られた由乃の右手。 何かを、握り締めている。 「……」 私は、そっと開かせた。 血で汚れた紙。 そこにあったのは──。 「……蓉子も、聖も、仲間よ……」 誰だ。 この文面を書いたのは誰なんだ。 蓉子さまたちを呼び捨てにできるのは、ここに来たメンバーではただ一人。 「お姉さまが……、お姉さまと、蓉子さまたちが、仲間?」 何のことだ。 ただ一つだけ言えるのは、これを書いたのがお姉さまだとして、三人の中で生き残っているのは聖さまだけだということ。 何かの計画があり、三人の中で仲間割れがあったとか? ──聖さまに訊かなくては。 場合によっては、聖さまを殺さなくてはいけない。 犯人である可能性が俄然高いのは、あのお方なのだから。 私は由乃をそっと床に寝かせて、廊下に出た。 「──バリケード……?」 一番奥の部屋は聖さまの部屋だが、そのドアの前には棚や椅子が積み重ねられている。 あれはバリケードなのだろうか。 聖さまは、あの部屋の中にいるのか。 私はゆっくりと廊下を歩く。 右手には、ああ、愛する妹の、私の唯一の女神の血を吸った、日本刀を持って。 <2日目/???/3階のとある部屋> ──処理は終わった。 最初に私の姿を見たとき、この目の前に倒れている長身の少女はとても驚いたっけ。 悲鳴をあげる間もなく、スタンガンで気を失わせた。 異変に気づいたときにはもう遅く、白薔薇さまも今は深い夢の中。 二人で生まれたままの姿になって、まるで獣のように身体を重ねていたわよね。 リリアンの乙女が、はしたない。 そんな二人には、罰を与えなくてはね。 だから眠らせてあげた。 そして、二人の手足を縛ってあげたのは私。 小さく開かれた口に猿轡を噛ませたのも私。 このまま殺すのは簡単。 でも、このまま殺すのは面白くない。 今は、別のメンバーがどう動くかを観察しようじゃないか。 ああ、資料室のドアが開いた。 ミスターリリアンがどう動くか楽しみにしながら、私は自慢の髪型を少し整え、にこりと微笑んだ。 続く
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<1日目/二条乃梨子/一階広間> 「大丈夫ですか、黄薔薇さま」 令さまを椅子に座らせる。普段は凛々しく強いイメージの黄薔薇さまは、両目をまるで獣のように見開き、全身を小さく震わせていた。何かをブツブツと言っているが、私には聞き取れなかったし、正直言って聞く気もなかった。 ……いくら学校の中とはいえ、絆で結ばれた姉をあんなかたちで亡くしたのだ。もし、それが志摩子さんだったらと思うと、きっと私は令さまと同じかそれ以上に泣き叫び、狂うだろう。 「お水、お持ちしましょうか」 返事はない。令さまは、遠くを見ているのだ。きっとそこには江利子さまがいるのだろう。 一方、由乃さまも放心状態だった。普段なら真っ先に令さまに駆け寄るのだろうが、それすらもできない程にショックを受けたようだ。 「……失礼します」 私は令さまに一言声をかけて、その場を離れた。 人が死んだ。赤の他人ではあるが、見知らぬ人ではない。同じ屋根の下にいた、学校の先輩が──。 「うぅっ」 私は咄嗟に口元を押さえた。吐き気が瞬間的にこみ上げてきた。小走りに食堂を突っ切って厨房に行くと、流し台に残っていた食器を左右に押し分け、上半身を突っ込み、げえげえと胃の中身を戻した。涙も流れ、すぐに息ができなくなった。 ある程度戻したら今度は急激に喉が渇き、蛇口に直接口をつけて水をがぶがぶと飲んでいく。しかし途中でむせてしまい、激しく咳き込み、私は言いようのない脱力感に襲われ、床に座り込んだ。 (……何やってるんだろう、私) 気づいて見れば、電気もつけずに私は──。 「……乃梨子?」 聞きなれた声が耳に入った。志摩子さんが入口に立っている。 「志摩子さん」 「大丈夫? 乃梨子、大丈夫なの?」 「志摩子さん……、志摩子さぁん……」 本当に心配そうな声に、私は再び涙を流しながら、まるで子供が自分の母親を呼ぶように、ただただ志摩子さんの名前を繰り返していた。 <1日目/松平瞳子/広間> 乃梨子さんも志摩子さまも広間には戻ってこない。二人とも厨房にいるのか、ひょっとしたら二階のどちらかの部屋に閉じこもってしまったのかもしれない。 可南子さんが私の隣に座り、額に手を当てて首を振っていた。ほんの十数分で。まるで一生分の疲れを背負ったみたいだった。ため息も聞こえる。 蓉子さまはソファに寝かされていた。気がついたのか、両目はうっすらと開けていた。 「お姉さま、大丈夫ですか」 祥子お姉さまが蓉子さまのそばに座り、声をかけている。すると、蓉子さまが左手を上げて、祥子お姉さまの頭を優しく撫でた。 祐巳さまも浮かべていた涙を拭い、由乃さまの隣に座って手を握っていた。 そんな中、一人だけ──聖さまだけ、窓際に立って外を見ていた。近寄りがたい雰囲気。声もかけることもできない。そう思った時、可南子さんが立ち上がり、聖さまの隣に立った。 「──聖さま。ちょっといいですか」 「……なぁに?」 気だるそうな返事。少し睨むような目つき。 気がつけば、部屋にいる人たちみんなの視線が二人に集まっていた。 「私、あの時見たんです」 「何を」 「江利子さまと聖さまのいざこざです」 聖さまがピクリと反応した。 「……ふぅん、見たんだ。で? その腹いせに私が江利子を殺したとでも?」 「私はそこまでは言っていません。ですが、あれは一歩間違えたら聖さまが怪我を負っていたはずです。それの報復になにかがあったと考えても不思議では」 パシン、と音が響いた。聖さまの右手が可南子さんの頬を打ったのだ。 「ふざけないで。貴方に江利子と私の何がわかるっていうのよ!」 「……何も知らないから、考えれたんです。ひょっとしたら、元々恨んでいたのかも」 「あんたなぁ!」 聖さまが可南子さんに飛び掛った! 慌てて私や祐巳さま、祥子さまが二人を引き離しにかかる。由乃さまも令さまもさすがに正気に戻ったのか、しかし咄嗟に動けずにいた。 騒ぎに気づいたのか、廊下側の入口から志摩子さまと乃梨子さんが入ってきたのが見えた。 「あんた、殺してやる! どうせ私が江利子を殺したって言うんなら、あんたも殺してやるわよ!!」 聖さまが感情に任せて大声を出した時、それに負けないような声が私たちの背後から聞こえた。 「もうやめて!!」 蓉子さまがソファから立ち上がり、頭を両手で抑えていた。 「もうやめて! もう沢山よ! もう嫌!」 「お姉さま……」 「蓉子……」 聖さまの表情が普段のそれに戻った。可南子さんも「ごめんなさい、ごめんなさい聖さま」と小声で繰り返している。 「もう、嫌ぁ……。帰りたい……帰りたいわ、祥子……」 ソファに座り、蓉子さまはうわ言のようにしばらくつぶやいていたが、急に立ち上がった。その表情は能面のようで、私は小さく「ひっ」と声を出したほどだ。 蓉子さまは背筋を伸ばし、スタスタと食堂に入っていく。 「蓉子さま、あの、どこへ」 令さまが尋ねると、蓉子さまは今度は聖母のような微笑みを浮かべて、言った。 「食器を、洗わないといけないでしょう?」 <1日目/水野蓉子/厨房> 厨房に入ると、私は流しに向かった。汚れていたので、水道の蛇口を捻る。水を流しながら、皿を手にした。 結局江利子が食べることはなかった料理。令や祐巳ちゃんが腕によりをかけて作ったのに、残念。とても美味しかったのに。 「蓉子」 声をかけられた。振り向くと、そこにはヘアバンドの似合う彼女がいた。右手にはコップを持ち、左手には胸に刺さっていただろう、刃物を持って。 「江利子」 「蓉子、お料理、美味しかった?」 「ええ。貴方も、死んでなければ食べれたのにね」 ああ、きっとこれは夢なのだ。そうでなければ、部屋であんな姿になっていた江利子が、この場にいる訳がない。 「喉渇かない?」 江利子はスタスタと流しに向かい、手にしていたコップに水を注ぐ。 「はい、蓉子」 目の前の江利子はとても優しい。 「これは夢なのかしら」 「うふふ、どうかしらね。ひょっとしたら、私が死んでいるのが夢かもよ」 「ふふ、そうだったら嬉しいわね」 江利子が手渡してくれたコップを一気にあおる。喉を鳴らして水を飲み干す。 「蓉子」 「江利子……」 江利子は、微笑んで言った。 「バイバイ」 ぐらり、と世界が回った。ああ、きっと夢から覚めるのね。起きたら、江利子の部屋にいかなくちゃ──。 喉が、とても熱かった。 <1日目/支倉令/広間> 誰も動こうとしない。聖さますら、蓉子さまの後に続かない。追おうともしない。 「……由乃。蓉子さまの様子を見てくるよ」 「令ちゃん」 「大丈夫。すぐ戻るから。祥子、ここを頼んだよ」 食堂を通り、厨房に入った。 大きな調理テーブルを迂回するように歩き、流しに向かう。 ──そこに、あの方がいた。割れたコップ、床に広がった水。 両手で自分の首を何度も引っ掻いたらしく、首に血が滲んでいた。 あまりの苦しさに顔を歪め、大きく開かれた口からは舌がだらりと覗いている。 口元は真っ赤だった。血を吐いたらしく、胸元や床に点々と垂れた痕があった。 「ふ、ふふふふふふふふふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ、あはははははははははははははははははははは」 私はこみ上げる笑いが我慢できなかった。おかしくて仕方がない。 「令!?」 「令ちゃん!!」 広間から、祥子や由乃の声がして、バタバタと駆け寄る音もする。 私は笑いながら流しの前に倒れた物言わぬ死体を指差し、集まる皆に言った。 「蓉子さまが、蓉子さまが! あっははははははははははははははははははは!!」 私はおかしくなんかなっていない。 自分が狂ったことを冷静に捉えているのだから。 <1日目/???/???> ああ、可愛そうな二人。 いつも知的な魅力に溢れていた水野蓉子はコップに仕込んだ毒にかかり、凛々しくて頼もしい支倉令はあちらの世界に行ってしまった。 それにしても。彼女には本当に、鳥居江利子の姿が見えていたのだろうか? 毒を仕込んだコップを厨房に持ち込んだのは事実だが、さて。 私は調子の外れた笑い声を聞きながら、心の中で微笑んだ。 続く
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~裏・没ネタ~ 天子が駆け付けるのでなく、星さんが駆け付けた場合。 星 「このあたりに聖さまがいると聞いたが、確かに黒い服をまとっているが仮面で顔がわからない。 天狗とキツネに襲われているが助けた方がいいのだろうか」 妖夢「こーほーこーほー」 星 「むむっ、『弘法』と言ってらっしゃるではないか! あれは間違いなく聖さまだ! お助けいたさねば!」 星さんがあまりにアホなので没に。 ~裏終わり~
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「これは遊び? それとも人生のすべて? ひとかけらのパンかしら? それとも人類の歴史のすべて?」 ──森博嗣「有限と微小のパン」より <2日目/細川可南子/???> ここはどこだろう。気がつけば、こんな場所に。 聖さまの部屋? それとも、まさか犯人の部屋? 手足がしびれている。縛られていたから、血が止まってしまったのか。 喋れない。口に、布が──。 ──ドアが、開いた。 ああ、あの人は、私を──。 <2日目/福沢祐巳/広間> 雨が、降る。 ああ、とても嫌な雨。 いつかの、お姉さまとの出来事を思い出す。 窓の外を見ることを拒否した私達は、カーテンを完全に閉め切っていた。 頭上の部屋で起きた、連続事件。 たった一日で、江利子さまが、蓉子さまが、由乃さんが……。 聖さまと可南子ちゃんが、二人で聖さまの部屋に閉じこもった。 令さまは全てを呪い、由乃さんが眠る資料室に閉じこもった。 そして、瞳子ちゃんが姿を消した。 全てが嫌になっていた。 あの令さまの一件から、どれくらい経ったのだろう。 部屋の真ん中に椅子を動かして、私とお姉さまはそこに座っていた。志摩子さんと乃梨子ちゃんも同じように座っている。二人も疲れているようで、うつむいたままだ。 沈黙は続く。聞こえる音は、自分の呼吸音と、激しい雨の音。 「──祐巳」 お姉さまが口を開いた。 「は、はい」 「……瞳子ちゃんを、探してくるわ」 ゆっくりと腰を上げるお姉さまの腕を、私は慌ててつかんだ。 「駄目です、お姉さま!」 咄嗟に言ったが、何が駄目なのか自分でもわかっていない。 お姉さまを一人にするのが? それとも、自分がお姉さまと離れるのが? 志摩子さんたちを置いていくのが? ──瞳子ちゃんが、もし犯人だとしたら? 「……祐巳さん、どうしたの?」 「祐巳さま……」 志摩子さんと乃梨子ちゃんがこちらを見ているのに気づく。お姉さまは、少し眉をひそめていた。 「あ、す、すみません……」 私は手を離すと、お姉さまが頭を撫でてくれた。 「大丈夫よ。瞳子ちゃんは、私の大事な……」 そこまで言うと、お姉さまは目を閉じた。 「そして、祐巳にも、乃梨子ちゃんにも、志摩子にも……大事な人なんですもの」 <2日目/佐藤聖/???> 私は、必死に縛られた手足をもがかせていた。 早く、ここから逃げなければ。 早く、犯人をみんなに伝えなければ。 祐巳ちゃんを、志摩子を──可南子ちゃんを、守らなければ。 床の上を転がる。縄は緩む気配を見せない。 いや、少しだけれど緩みだした。いける、これなら……! <2日目/支倉令/広間> 「だから、犯人なはずはない、って言うの?」 私はドアを開け放つと同時に言った。祥子や志摩子が、ハッとした表情で私を見る。 「令……」 祥子はよほど驚いたらしい。他の三人も、私をじっと見ている。 それもそうか。私はまだ、右手に日本刀を持っているのだ。 「みんな、聞いて。……可南子ちゃんが、殺されたわ」 「そんな!」 勢いよく立ち上がったのは乃梨子ちゃん。志摩子は口を押さえている。 祐巳ちゃんも、そして祥子も、口をパクパクと動かしているだけ。 「……嘘だ! 可南子さんが!」 乃梨子ちゃんは私が日本刀を持っているのも忘れて、こちら目掛けて走ってくる。私は避けない。 「あんたが! あんたが殺したに決まってる!!」 私を思い切り突き飛ばすと、階段に向かって走っていった。 床に座り込んだ私。カラン、と音を立てて、刀が床に落ちる。 「……令、本当なの?」 祥子の声に、私は頷くことしかできなかった。 <2日目/二条乃梨子/三階廊下> 嘘だ。嘘だ。可南子さんが殺されるなんて。 だって、聖さまと一緒に部屋に閉じこもったじゃないか。 聖さまはどうなったんだ。どうしてあの人だけ。 聖さまが犯人か。それとも、令さまがあの刀で斬りつけたか。 ──まさか、瞳子が? そんなはずは無い。 でも、もう、ここにいるのは──。 三階に上がると、私はあのバリケードに飛びついた。しかし、聖さまの部屋のドアを塞いでいたバリケードは、どかされていた。ドアが開いている。人が一人、通れるくらいのスペースが出来ている。 令さまがどかしたに違いない。外からこれを動かせるのは、あの人しかいない。 私は、そのスペースに身体を入れ、部屋を覗いた。 聖さまはいなかった。可南子さんもいない。 まさか、と思う。 まさか、令さまは「可南子さんが殺された」と嘘をついたのではないだろうか。 そうすれば、きっと私か祐巳さまが動くと思ったのだ。そうすれば、残るのは祥子さまと……。 「志摩子さん!!」 志摩子さんが危ない。あの刀で、令さまは──!! 私がそう叫んだ瞬間、嫌な臭いが鼻に届いた。 もう、嫌だ。この、血の臭いを嗅ぐのは! しかし、私は部屋に足を踏み入れていた。 クロゼットが開いているのが見えた。そして、そこから、すらりとした足が見えている。 可南子さんは、そこにいた。 不自然なポーズだ、と一瞬思ったが、それは、首が胴体と離れているせいだ、と気づいた。 「う、うわあああああああああああああああああああ!!!!!」 私は叫んだ。 その場に座り込む。頭を抱える。 「もう嫌だ、嫌だ!」 もう、こんなのは沢山だ。いくら日常から離れた場所だからとはいえ、悪夢を見るなんて。 そうだ、早く志摩子さんを連れて逃げよう。嵐だからって構うものか。この館にいるよりはマシだ。 この天候に、小笠原の人が様子を見に来てくれるかも知れないじゃないか。 あと何時間も、ここで迎えを待つなんて! ……ズシン、と重い衝撃が。 痛みは感じない。視界がぼやける。 ゆっくりと振り向く。 右腕が、無いのに気づいた。 「……は、はは、あははは、はははっ」 笑いがこみあげてきた。そして、もう一撃。 倒れる私の視界に見えた人物が誰なのかわかった瞬間、私は「ちくしょう」と呟いた。 大振りな斧の三撃目が、私の意識を切断した。 <2日目/???/聖の部屋> 何回か痙攣を繰り返して、二条乃梨子は動くことを止めた。 彼女は、どうやら死の間際に、私がどうやってこのゲームを行ってきたかを悟ったらしい。 でも、遅かった。 誰も、この空間からは逃れられない。 誰も、このゲームから逃れられない。 このゲームを終わらせる方法はただ一つ。 誰か、私を殺して。 続く
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凛世教のことばに「その凛世すき」という言葉があります。凛世さまへの親愛をあらわす尊いことばで、私たちの間では挨拶といってもいいほど親しまれている言葉です。しかし、改めて考えると不思議な言葉でもあります。「その凛世」とはどの凛世さまのことなのでしょうか? 実はずっと昔に、このことを疑問に思った凛世教の高僧さまがおりました。名を凛世毎晩夜這聖(りんぜ・まいばん・よばいせい)さまといい、大変な人格者として多くのお弟子さんに慕われていたそうです。 凛世毎晩夜這聖さまは、毎日のように口にする「その凛世すき」を、自分はどの凛世さまに向けて言っているのだろうと随分と思い悩んだそうです。凛世さまの1/8スケールフィギュアを眺めてはその凛世すきと言い、凛世さまのタペストリーを見てはその凛世すきと言い、時には自ら筆を取り描いた凛世さまの絵に対してもその凛世すきと言ったそうです。 そうしているうちに、凛世毎晩夜這聖さまは「どの凛世さまもすきなのだ」と考えるようになったそうです。凛世さまの一挙手一投足すべてに惜しみない愛情を向けることこそがその凛世すきなのだと、その凛世すきの普遍性を見出したそうです。 悟りを開いた凛世毎晩夜這聖さまはその後。凛世さまの絵をたくさん描き広め、やがて幕府によって危険な異教徒として処刑されてしまいますが、今日の凛世教の教えをより確固たるものにしました。 あなたが本当に凛世のことをすきなのか、ただすきと言っているだけではないかと自信を疑ってしまった時、凛世の胸に手を当ててこのことを思い出してみてください。あなたの凛世への愛情は本物だと、改めて感じられると思います。
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<1日目/佐藤聖/厨房> 何故だろう。江利子に続いて蓉子が変わり果てた姿になったというのに、悲しくもなければ、怒りも湧かない。 令は音の外れた笑い声を響かせていたが、つい数分前にそれは泣き声に変わり、今は広間に戻って大泣きしている。由乃ちゃんは勿論、祥子や祐巳ちゃんたちもそれに続いて広間に戻り、今厨房にいるのは私と可南子ちゃんしかいない。 「……ねぇ、可南子ちゃん」 一際背の高い少女は一瞬身体をビクッと強張らせたが、すぐに私を見て「はい」と返事をした。先程の広間での取っ組み合いを思い出したらしい。 「蓉子を、このままにしておくのは可哀想だと思うんだ」 「……同感です」 彼女は小さく頷くと、蓉子を一瞬だけ見て、すぐに目を逸らした。 苦悶の表情を浮かべた、私の親友。口から流れ出た血や喉を掻き毟った痕が痛々しい。 「部屋に、寝かせてあげたいんだ。手伝ってもらえるかな?」 「私でよければ、お手伝いさせていただきます」 可南子ちゃんはそう言ってくれた。私は「うん」と言って、 「広間のみんなにも伝えなくちゃ」 食堂を通って広間に入ると、どうやら人数が減っている。部屋の隅ですすり泣いている令と、それに寄り添う由乃ちゃん。祥子は近くの椅子に座って目を赤くしていて、どうやら泣いたようだ。祐巳ちゃんも祥子の手を握ったまま、私を見ている。 「祐巳ちゃん、志摩子と乃梨子ちゃんは? あと、瞳子ちゃんの姿も見えないようだけれど……」 私が訊ねると、祐巳ちゃんは慌てて答えた。 「し、志摩子さんは乃梨子ちゃんが気分を悪くして、洗面所に行きました。瞳子ちゃんも、それを追って、ここを出て行きましたっ」 「そう。ありがと。──私と可南子ちゃんは、蓉子を部屋まで連れて行くよ。志摩子たちが戻ったら、そう伝えておいて」 <1日目/藤堂志摩子/洗面所> 「乃梨子、大丈夫?」 私は乃梨子の背中を何度かさすった。鏡越しに見えた乃梨子の表情はとても青く、やがて口元を拭い、小さく言った。 「……ひょっとしたら、私が死んでいたかも知れない」 「な、なにを言うの乃梨子。どういうこと?」 「私、あの時流しで思いっきり吐いてたんだ。そうしたら今度は凄く喉が渇いちゃってさ、蛇口から直接水を飲んで、そしてむせちゃって……その時に志摩子さんが来てくれたんだけどさ」 私は頷く。廊下側から厨房に向かうと、激しく咳き込む声が聞こえて、慌てて厨房に入ったのを覚えている。流しに背中を預けるように座り込んでいた乃梨子。あの場所に、ほんの数分後に蓉子さまがあんな姿で──。 そこまで思い出した時、私ははっとした。乃梨子の言いたいことがわかったのだ。確かに、乃梨子は……。 「もしあの時、私が流しのところにあったコップで水を飲んでいたら、私、私……」 私の腕を握り、乃梨子は小さく震える。あの時の判断が乃梨子の生死を分けたのだ。そして、蓉子さまの生死も、また──。 「乃梨子!」 私は咄嗟に抱きしめていた。 「志摩子さん……」 「乃梨子、大丈夫よ。私が守ってあげる。お姉さまも、祐巳さんや令さまも、祥子さまも、由乃さんも、瞳子ちゃんも可南子ちゃんも! みんな、みんな、私が……」 <1日目/細川可南子/階段> 一時間前だろうか、私は気を失った蓉子さまを、聖さまと一緒に下へ運んだ。それが、まさか──まさか、冷たくなった蓉子さまを、再び三階へ運ぶことになるなんて。 聖さまも同じ思いなのだろう。時折目を伏せ、小さくため息をついている。たった一日の間で、親友を二人も失ったのだから、無理はないだろう。 ……無言で階段を上がる中、私は考えていた。それは、この事件の『犯人』についてだ。 どこをどう考えても、江利子さまと蓉子さまは事故で亡くなったのではない。じゃあ、自殺? ──ありえない。蓉子さまが江利子さまの後を追ったとでもいうのか。それに、江利子さまは何故この島でわざわざ死を選んだ? 考えが行き着く先はただひとつ。それは『殺人』。 江利子さまを夕食前に殺害し、コップに毒を仕込む。あるいはそれは前後していたのかも知れない。とにかくそのコップに水を注ぎ、蓉子さまはそれを口にした。言わば時限爆弾のようなもので、最後まで誰も使わないかも知れないし、別のタイミングで蓉子さまではない誰かが──ひょっとしたら私が──命を落としていたのかも知れない。 そしてそれを仕込んだ『犯人』は必ずいる。私は私が犯人でないことを一番よく知っている。じゃあ、誰が? 疑うとキリがなくなってしまう。令さまの取り乱したあの態度は演技なのかも知れない。演技といえば、それが一番上手なのは演劇部の瞳子さんなのではないか。別荘に招いた主人が犯人というのは、由乃さまの好きな推理小説ではよくあるパターンだ。となると犯人は祥子さまなのか。祐巳さまが犯人とは考えたくない。しかし──。 推理小説に詳しそうな由乃さんが犯人という可能性もある。あの人畜無害そうな志摩子さまが? それとも、乃梨子さんがある計画を企てて……。 共犯がいるのかも知れない。ひょっとしたら複数犯で、三人、あるいは四人? ……まさかいつか見たことのある小説のように、探偵と被害者以外が全員共犯者という訳ではないだろう。 そして──この目の前にいる、笑みの消えたこの先輩こそが、犯人なのかも知れない──。 ……私は頭を振る。いけない。疑ってはいけない。このメンバーの中に犯人がいるわけがない。きっとそうだ。そうに違いない。 そうこうしているうちに、私たちは三階に到着した。蓉子さまの部屋は鍵がかかっていなかった。ベッドに蓉子さまを横たえて、シーツをかけた。聖さまがそっと目を閉じさせて、「行こう」と小さく呟いた。 ドアを閉じて、階段に向かおうとした時、聖さまがその場から動かないのに気づいた。振り返ると、ゆっくりと壁に背中をもたれさせ、そのまま床に座り込んだ。 「聖さま……?」 「……蓉子。蓉子、蓉子……」 うなだれた聖さまは、何度も蓉子さまの名前を繰り返していた。私はゆっくりと聖さまに近寄り、隣に座り、そっと身体を抱き寄せた。 「……止めてよ。子供じゃない……」 聖さまはそう言いつつも、私に身を預けて、いつしか涙を零していた。 下に戻るのは、少し遅くなりそうだ。 続く
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第164話:力 作:◆cCdWxdhReU 「そんな……由乃さんが、信じられない」 あの保健室でのとき、廊下に出ていた潤さんの様子が少しおかしくなり、 理由は言わず「ここはなにかやばい」と言って私を連れて学校を出、東へ移動したのでした。 そしてここの位置は……石段があるので地図と照らし合わせてみると多分D-4だと思います。 私は放送というまるで実感のない手段で死を知らされた少女のことを思い浮かべる。 昨日まで一緒に机を並べていた、一年生の頃からの大事な友達が。 心臓の手術をして、元気になって微笑んでいたあの少女が。 「私たち親友だよ」そう言った彼女が。 今はもういない。死んでしまったというのだ。 「知り合いがいたのかい?」 潤さんが心配そうな目で私を見つめる。 「……ええ、親友が」 「……そうか」 多弁なはずの潤さんはそれきり何も言いません。 「潤さん、私、私どうしたらいいかわかりません。 由乃さんはなんで死ななきゃいけなかったんですか? 他の人もなんでそんな簡単に人が殺せるんですか? どうして殺しあわなきゃならないの……」 「祐巳……気持ちはわかるが、あたしたちも、あんたのお姉さまとかいう人も、 こんな馬鹿げた状況にもう巻き込まれちまったんだ。 なぜこんなことになってるってのは誰にもわかんねーだろうな。 だからこそ『なぜ』じゃなく『どう』するかを考えようぜ。 後ろ向きに考えるな。おまえはお姉さまを探すんだろ」 潤さんは私の眸をじっと見つめ、真剣な表情でそう言いました。 きっと私のことを真剣に心配して励ましてくれているんでしょう。 「でも、でも私は、潤さんみたいに強いわけじゃないただの女子高生です。 そんな人間があんな吸血鬼までいるこの島から生きて脱出できるわけないじゃないですか!」 私の眸から一粒の涙が今頃忘れていたかのように零れ落ちる。 由乃さんの死を聞いたときに流れるはずだった分の涙が、堰を切ったように流れ出す。 由乃さん。楽に死ねたんだろうか? それとも苦しんで死んだのだろうか? 彼女は心臓の病でもう十分に苦しんだのに。マリア様は何故こんな仕打ちをするのだろう。 「私は、無力です。負け犬です。由乃さんの代わりに私が死ねば良かったんです。 今だって潤さんに守ってもらっていなければすぐに野垂れ死んでます。 お姉さまに会ったって、私がしてあげられることなんてないんです。 ただ不安だから、心配だから一緒にいたい。そう思っただけなんです」 私は心の中の言葉を、思考せずそのまま口から放つ。 そんな私を見て潤さんはさらに私の顔を見つめる。 「……祐巳、あんたの言ってることは事実かもしれない。 だけどな、こんな状況で誰かのために涙することができるってのはすげーことなんだぜ。 たしかにあんたはその吸血鬼なんかよりは弱いかもしんねー。だけど心はずっとつえーよ」 そう言いました。 「でも、――」 そのときでした。 【ブラボー! おお…ブラボー!!】 私と潤さんの前に血の文字が浮かび上がってきたのは。 「きゃぁっ!!」 驚いてとっさにその血文字を避けて私は潤さんに抱きつく。 「む、手前ぇ! 新手のスタンド使いか!? チャリオッツか? チャリオッツなのか?」 潤さんは私を守るようにそのまま背に隠すと、なにやら変なことを叫びました。 【いやいや待たれよレディ達、 私はただ単にそこの赤いお嬢さんの言葉に感動して賞賛をあげたままに過ぎない】 そのまま赤い文字が素早く動き、上のような文字になります。 「……生き物なのか? これ?」 流石の潤さんもこの血文字には驚いたのか、驚嘆の声を漏らします。 【ふむ。これは確かに私は生き物であると言えよう。 だが赤いお嬢さんもまた生き物であり、後ろのかわいらしい看護婦、 いや正確には看護師であったかな? とにかく看護師さんもまた生き物だ。 また、私たちの周りにある草木も生き物と言っていいであろうし、 それならば私たちが暮らすこの地球も生きていると言っていいのではないかね】 「おまえ最後の方、血が足りなくなって文字が霞んでるぞ」 【これは失礼。何時間かぶりに自由に動けるので思わず長く喋りすぎてしまったよ】 また血文字が綴らていきます。まるで魔法でも見ているようです。 「……あの、潤さん。この人、って言っていいのかわかりませんけど、敵意はなさそうです」 「そうみたいだな。ただし極度のお喋りみたいだが」 そう言って潤さんは張り詰めていた警戒を解きました。 【わかってもらえて何よりだ。私はゲルハルト=フォン=バルシュタイン子爵、 お嬢さん方と同じようにこのゲームに巻き込まれた一人の紳士だ。 子爵と呼んでくれたまえ。美しきレディたち】 子爵さんはそう文字を紡ぐとそのまま文字を分解、 血の塊になりペコリとお辞儀の形になりました。 「生きた血なんて初めて見るぜ。本当に漫画の世界に入ったみたいだな」 そう言うと潤さんは敬礼するように右手を頭の横に構えて 「哀川潤だ」 「えっと、福沢祐巳です。よろしく子爵さん」 私は先刻よりは幾分落ち着いた心で、子爵に言います。 【よろしく、祐巳くん。君の心から少しは悲しみは逃げてくれたかね?】 ……私はその時になって気付きました。 さっきまで抑えきれなかった悲しみの荒波は消えてはいませんが、 落ち着いたお陰で抑えきれない激情はなくなっていました。 「あの、子爵さん。ありがとうございます」 【別に私は何もしてはいないよ祐巳くん。君を元に戻したのは君自身だ】 「あーっと、ご歓談のとこ悪いんだが子爵、それでお前はなんであたしたちに声をかけてきた?」 潤さんがそう疑問を口に出す。 【それは先刻言ったように君の祐巳くんに対する言葉に感動して声を……おお、そうだった、 頼みがあってきたのだ。私にはどうにも出来ないことができてな】 「三点リーダまで律儀に付けることには敢えてツッコまないでおくぜ。それでなんだ?」 【ちょっとついて来てくれたまえ。来てもらえればわかる】 そう子爵に言われれるままに私と潤さんは子爵について行きます。 そして石段の前の草叢の影、一本だけ大きな木が生えた気の根元に私たちを案内します。 そこには一人の傷だらけの女の子が横になっていました。 あまり見たこと無い格好をしたその女の子は気を失っているようです。 「酷い……この女の子は?」 【崖の下で発見して運び込んだのだよ。 あんなところに置いておくよりはこの場所のほうが少しはましだろうと思ってね。 しかし私は治療する能力も道具も持ち合わせていない。 そこに消毒液の香りをさせた看護師がきたというわけだ】 「匂いもわかんのかよ。すげーな。それであたしたちに治療して欲しいってわけね」 たしかにこの女の子の状態は酷いものだ。 虫の息という言葉がしっくりくる。私はそう思った。 「わかった。目の前で死なれるってのも夢見がわりーかんな。 あ、一応言っとくけど治療するのはあたしがするよ。 祐巳はナースじゃなくてナースのコスプレってだけだからな」 【そうであったか。どちらにせよ感謝するよ潤君】 「あ、あの私コスプレじゃっ!」 【わかっているよ。祐巳くん。これでも私はジャパンの文化には興味があって知識も豊富なのだ。 ジャパンではコスチュームプレイは一般的に恥ずかしいということなのであろう? 人の趣味は様々だ。私は応援するよ、祐巳君】 ほくそ笑むように子爵さんの文字が揺れます。 「いや、違うんですってば私は」 「静かにしろ祐巳これから治療始めんだから」 潤さんはそう言ってバックを開き、保健室から持ってきたメディカルキットを取り出した。 「あ、潤さん。私に手伝えることありませんか?」 きっとこの女の子の治療は時間がかかるだろう。私は潤さんに少しでも力になってあげたくてそう言った。 「いや、あたし一人で十分だ。 祐巳みたいな女の子にはちょっと見せらんないくらいグロいことになるかもしんねーからよ」 【そうだな祐巳くん。君は私とあちらのほうで見張りをしていよう】 子爵はそう言って『あちら』を起用に血で『⇒』と書いて指し示しました。 「でも……」 【それが今の一番の仕事なのだよ祐巳くん】 「……はい」 私は子爵とともに崖と反対方向に歩みを進めます。 「おい子爵! 祐巳ちゃんがあんまりかわいいからってセクハラしたりすんじゃねーぞ」 潤さんがそう声をあげます。 【私は紳士だ、そんなことはしないから安心したまえ】 潤さんには見えないので子爵は私に向かって文字を紡ぎました。 「さーて、んじゃ頑張りますか。哀川潤の治療術とくとご覧あれ」 誰に向けるわけでなくそう言って、哀川潤は女の子、アメリアの治療を開始した。 「あの、さっきのコスプレってのは」 草原に座り、私は子爵に弁解を試みる。 【わかっているよ。おおよそ服の代わりがなくって仕方なく着ているといったところだろう?】 「わかってたんならそう言ってくださいよ」 子爵も聖さまのように私をからかうのか。なんで私ってこうからかわれやすいんだろう。 そう考えたとき、私の脳裏に聖さまの姿が浮かぶ。 目の前で牙を剥き出し襲い掛かってくる聖さま。 涙を流しがらも吸血の衝動を抑えきれず自分を襲った彼女を救ってやることもできず、私は逃げた。 私は、卑怯者だ。 聖さまに血を捧げればいいとそこで考えを放棄した。 死ねばその後のことは考えなくてすむから。 【どうしたのだ祐巳くんっ。また突然泣き出して。からかったのは悪かった。 泣き止んでくれないか、紳士がレディを泣かせたとあっては子供たちに顔向けが出来ない】 「う、くっ、えぐ、違うんです」 私は今までにあった事柄をすべて子爵に言った。 聖さまが吸血鬼になってしまったこと。その聖さまを救うことができず逃げ出したこと。 お姉さまをさがしていること。潤さんに出会ったこと。そして、由乃さんが死んだこと。 【ふむ、君の先輩が吸血鬼になったというのか。そしてお友達が死んだ】 「私は、無力なんです。聖さまを助けられないことを自分の弱さのせいにして、 行動することを放棄しました。泣きながらごめんねって言ってる聖さまを救えなかった」 【それは君のせいではないんではないかね?】 「いいえ。なにもしなかったことが私の罪です」 【君は本当に今時の娘とは思えないくらいまっすぐな娘だね】 「……力が欲しいです。お姉さまを守れる力が。聖さまを救う力が。 由乃さんの分も生きる力が。でも、私にはそんな力ない」 私がそう呟くと子爵さんは少しの間考えているように、黙り込んでしまった。 【………………………………。 …………祐巳君。君は本当に力が欲しいかね?】 「――はい。無力なままの私では、潤さんの足さえ引っ張っています。そんな自分はもう嫌です」 いったい子爵さんはなにを言っているのだろう。まさか一緒にいてやるとか言うのではないだろうか? だがそれは私の力ではない。 【もう一つ聞こう。祐巳君、君は覚悟があるかい? 力をもつことの。 力を得るということは何かを捨てなければいけないということだ。 それは例えば尊厳だったり、私のように姿を失うということでもあるのだよ】 ……捨てなければいけないこと。私は一瞬の思考の後すぐに答えを出す。 「それは聖さまを救えなかったり、お姉さまを守れなかったり、 友達を亡くすことより酷いこと? 私は何かを失ってもいい。 この目を失っても、耳を失っても、鼻を失っても、手を失っても、足を失っても、口を失っても。 だから、力が欲しい」 【……わかったよ祐巳くん。君の覚悟、しかと見せてもらった】 そう言うと今までと違い子爵は時間をかけ達筆な文字へと変化した。 【君に、力を与えよう】 【残り94人】 【チーム紅と赤】 【D-4/草原/一日目、06 35】 【福沢祐巳(060)】 [状態]:看護婦 [装備]:保健室のロッカーに入っていた妙にえっちなナース服 [道具]:ロザリオ、デイパック(支給品入り)、 [思考]:お姉さまに逢いたい。潤さんかっこいいなあ 聖への責任感、由乃の死によりみなを守れる力を欲する 【哀川潤(084)】 [状態]:アメリアを治療中 [装備]:不明 [道具]:デイパック(支給品入り)、メディカルキット [思考]:小笠原祥子の捜索 アメリアの治療 【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン子爵】 [状態]:体力が回復し健康状態に [装備]:なし [道具]:デイパック一式、「教育シリーズ 日本の歴史DVD 全12巻セット」 [思考]:どこまでも真っ直ぐな祐巳に対し、好感を持つ 【アメリア・ウィル・テスラ・セイルーン】 [状態]:瀕死、重傷 哀川潤により治療を受ける どの程度まで回復するかはあとに任せる [装備]:なし [道具]:なし [思考]:生きる/リナ、ゼルガディスと合流する ※アメリアの所持品(支給品一式+獅子のマント留め@エンジェル・ハウリング) はC-4の高架近くの森に落ちてます 2005/04/03 修正スレ15 ←BACK 目次へ(詳細版) NEXT→ 第163話 第164話 第165話 第238話 時系列順 第205話 第142話 アメリア 第221話 第142話 子爵 第165話 第106話 福沢祐巳 第165話 第106話 哀川潤 第165話
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「ごき (略) ある。 このご時勢、何かと物騒な事件が多い。 ほぼ毎週のペースで高校生による犯罪や自殺などが相次ぎ、ニュースも暗いものばかり。それでもリリアンに通う乙女達は明るく過ごしている──はずだった。 たぬ・きねんしす・あん・ぶとぉーん、福沢祐巳。 彼女もまた、まったりほのぼのなマイナスイオンを周囲に撒き散らしながら日々を過ごす天然少女の一人だった。 並木道を歩きながらマリア像を目指す彼女の前に、見慣れない物が銀杏の木からぶら下がっているのを見つけ、それが何なのか理解した途端、「ひょえっ」とおかしな悲鳴をあげてそれに駆け寄った。 「せ、せせせせせ、聖さまっ!?」 銀杏の木の太い枝に結ばれるのは丈夫で使いこなれた縄。片方だけ落ちた靴と、踏み台らしき丸い椅子。白いセーラーカラーは翻さないように、スカートのプリーツは乱さないように、ゆっくりとぶら下がるのがここでのたしなみ。 佐藤聖はだらんと両手足を垂らし、風に吹かれるままにそこでくるくると回っていた。 祐巳は驚きのあまり、その場から動けずにいた。聖はゆっくりと祐巳の方に青白い顔を向け、そこで静止し、そして──。 「死んだらどうする!!」 両目をぐわばと開き、祐巳に向かってそんな言葉を発したのである。 「どうして助けたのよ、祐巳ちゃん」 必死こいて縄を切り落としたってのにその言葉はなんですか、とのセリフを飲み込み、祐巳は聖の顔を見た。 「でも『死んだらどうする』って……」 「し、死ぬ気だったわよ」 「でも」 「いいわよ、私別の木で首つるから」 立ち上がって隣の木に縄を巻き付け出す聖。 その背中を見ながら祐巳も立ち上がると、少し離れて「ふぅ~」と息をはき、首を左右にコキコキと動かしてからクラウチングスタートの体勢をとった。 「……っ」 ぐん、と加速する祐巳。そして。 「死んだらだめですぅ~っ!!!!」 「ほぐうぅぇえええぇぇぇ!!!!」 綺麗なフォームでのタックルが聖の背中に入り、丁度輪になっていた縄の真ん中に、聖の首が入ってしまった。 「聖さま、辛いことがあったなら私でよかったらお話を聞きますから、だから!!」 「ぐ、ぐるじい! ゆみひゃん、やめれぇ……っ」 首にくっきりとした痕をつけた聖が、祐巳に向かって怒鳴った。 「死んだらどうする!!!!」 「……死ぬ気、ないんでしょ」 「あ、あるに決まってるじゃない!」 「じゃあ、さっきあのままでも良かったじゃないですか」 「いやいや、あれだと祐巳ちゃんが殺人犯になっちゃうじゃない。私はあくまでも自殺でね?」 「でも、目の前で死なれると夢見が悪いです」 「ていうか殺そうとしたでしょ」 「『高瀬舟』ですよ、聖さま」 「あはは、面白いこと言うねこの狸娘。食べちゃうぞ」 「いざという時は何も出来ない、令さま以上のヘタレのくせに」 「蓉子だな、蓉子から聞いたんだな!?」 「カマをかけてみたんですよっ!」 「こ、こんな駆け引き上手な祐巳ちゃんなんて……。絶望した! 黒狸な祐巳ちゃんの心理作戦に絶望した!!」 地面に額をぐりぐりと押し付ける聖。それを見てニヤリと笑う祐巳。前半と後半の祐巳の性格が違うなんて気にしない。 「聖さま、最近アニメ見てるんですね?」 「だってあのOPエロいんだもん」 「縛ってたりしてますからね」 「ねー」 「死ねばいいのに」 「絶望した!! さらりと笑顔でそゆこと言っちゃう祐巳ちゃんに絶望した!!!!」 白黒反転した空間でわめき散らす聖。 「そうよ。この世の中には絶望することが沢山あるのよ!!」 祐巳ちゃんに手を出しすぎて、祥子からの視線が冷たい たまに出す志摩子の目だけ笑っていない笑顔 乃梨子ちゃんのせいで薄まる元祖ガチレズの威厳 静がイタリアから毎日無言電話をかけてくる 未だに進展しない祐巳ちゃんの妹問題 ちょっとセクハラしたら加東さんが口を聞いてくれない 髪を切ったらデコに「誰?」って言われた 「不感症か」って言ったらマジで殴られた 予想以上にツンデレだった瞳子ちゃんの性格 「そう、だから私はこの醜くも美しい世界から脱出するのよ!!」 「美しいならいいじゃないですか」 祐巳は微笑んで答える。 「……そ、それはそうだけど、でもこんな世界嫌でしょ? 銀杏じゃない王子が法廷で読みふけっているこんな作品は嫌でしょ?」 「嫌じゃないですよ。それを認めてくれた裁判長だっているんです。いい世界じゃないですか」 「うん、だんだんネタが危なくなってきたからこの辺りでしめようか」 「えー、いいじゃないですか。なんだか元ネタみたいで」 「いや、もういいもういい。──うん、まぁ、美しいからいいのかな」 「そうですよ、エロ薔薇さま」 「エロ薔薇っていうなああああああ!!!!!!」 マリア(太郎)「オチテナイヨ」