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翼をください つはさをくたさい【登録タグ アダルトゲーム作品 品つ】 曲一覧 phantasia ballad 映像に翼をくださいを使った動画のある曲の一覧 まだ曲が登録されていません コメント 名前 コメント
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登録日:2010/06/09(水) 21 47 25 更新日:2021/10/23 Sat 00 57 54 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 skysphere エロゲー エンディング エヴァ ゲーム ループ 卒業ソング 実は悲しい歌 打ち切り 映画 曖昧さ回避 曲 未完成 百合 翼 翼をください 音楽 1.フォークグループ「赤い鳥」が1971年に発表した楽曲。 のびのびとした歌声に旅立ちをイメージさせる歌詞が好評で老若男女に人気があった。 学校の音楽の教科書にも歌詞が載るようになり、卒業ソングとして多くの学校が卒業式に歌う事が多かったらしい。 しかし最近は、多くの学校が生徒達の意見を聞いて曲を選ぶ方針になり、レミオロメンの『3月9日』等オサレな曲を選ぶ学校が多く、歌われる事が少なくなった。 また、学園物のアニメ等では劇中のシーン等にカバーしている事もある。 ■主にこの曲が使われた作品 ドラゴンボールZ 燃えつきろ!!熱戦・烈戦・超激戦(歌 クリリン) ヱヴァンゲリヲン新劇場版 破 女子大生家庭教師濱中アイ けいおん! CANAAN CLANNAD レッドカーペット(イケメン部) 因みに、この曲をモデルにしたドラマもある。 ただ、内容はかなり微妙で、視聴率も一桁台だったらしい。 2.翼をください(Lost and Delirious) 2001年にカナダで製作された映画。 監督はレア・プール。 原作はスーザン・スワンの小説「The Wives of Bath」。 1978年に実際にトロントで起きた殺人事件をもとにしている。 女子寄宿学校に入学した少女メアリー(ミーシャ・バートン)の視点から、同室の少女たちポーリー(パイパー・ペラーボ)とトリー(ジェシカ・パレ)の恋愛関係が絶望的に破綻していく姿を描く。 要するに悲劇的百合映画。 大きな賞などは特に取ってないが、美しい少女たちによる葛藤描写はその筋に評価されている。 しかし、進歩的観点からすると古すぎる感傷主義と悲劇主義にとらわれてるという意見もある。 3.翼をください(Fallen Wing) 2010年2月26日に発売されたアダルトゲームブランドskysphereのデビュー作。 天使伝説が伝わる空中に浮いている「汐碕市」を舞台にした作品。 ループ系の話で実質的にストーリーは一本道。 全体的にミステリアスな雰囲気を醸し出しており、時折ホラーな展開もある。 前半の評価は高いが、打ち切り全開な終わり方から賛否両論となっている。 ただ、余りにも不評が多かった為か続編が作られる事が決定したみたい。 昨今で問題になっている未完成商法の一つでもある。 キャラクター 天野光人 主人公。 エロゲ主人公なのに文武両道の完璧超人で早寝早起き。 しかし、完璧過ぎるので夢中になる物が無いという贅沢な悩みを持つ。 後に探偵部部員になる。 神宮司雛子 声…桃井いちご 探偵部部長。しかし、基本は読書しかしていない。 無口の文学少女に見えるが、思いたったらすぐに行動する無茶な面もある。 橘瑠璃火 声…葉村夏緒 雛子の知り合いで、彼女の依頼が切っ掛けで光人は探偵部に入部した。 朝比奈やすら 声…倉田まりや 光人の幼なじみ。 いつも光人に起こされると立場が逆。 水帆 声…そらまめ 水翼 声…佐藤あゆ 探偵部に入っては遊んでいる双子。 熾永豊 声…湖月紅れ葉 保険医兼探偵部顧問。 稲置涼子 声…氷室百合 生徒会の人間。光人を邪魔したり助けたりしている。 明らかに彼女のグラフィックだけ浮いている。 追記・修正お願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] 「赤い鳥」はこの曲しか取り柄が無い一発屋かと思いきや、実は自作曲、提供曲、スタンダードナンバー、あらゆるジャンルを高いレベルで歌いこなせる超実力派バンドでメンバーは解散後も活躍し、今でもファンは多い。いっぺんくらいは聴いておいても損は無いかも。 -- 名無しさん (2013-11-01 23 37 28) 小学生時代のクラスメートが作った『お金を下さい』 -- 名無しさん (2013-11-01 23 54 57) ↑ってのがあった。 今私の 願い事が 叶うならば お金が欲しい このカバンに 億万長者のように 束にした万札 詰めて下さい この大空にお金を撒いて 賄賂で逮捕 悲しみも無い 不自由な牢獄へ ブチ込まれて 無期懲役 -- 名無しさん (2013-11-01 23 57 40) ↑『クスリを下さい』じゃないぶんまだ健全 -- 名無しさん (2014-01-06 20 50 40) リコーダー盗んだ奴、今ならケツに縦笛突っ込んで翼をくださいを演奏するぞー -- 名無しさん (2014-06-20 19 39 47) この手の曲にはよくある話だけど、有名すぎてパロディのほうが近年ではよく見かける気がする -- 名無しさん (2014-06-20 19 40 41) ク....クリリンの野郎、許さん!! -- 名無しさん (2014-06-20 21 02 10) 個人的に旅立ちは旅立ちでもあの世への旅立ちを示唆してるように感じてあんまり好きじゃなかった。曲調もそこはかとなくもの悲しいし…… -- 名無しさん (2015-08-14 17 50 00) 替え歌 -- 名無しさん (2015-08-23 20 51 01) この歌を口ずさんでいた右腕切断の少女の「翼は心につけて」という映画がある。題名は変更されてるけど、ストーリーは歌詞そのもの(実話 -- 名無しさん (2015-08-23 21 39 02) (翼をください) -- 名無しさん (2015-09-19 18 44 01) 名前 コメント
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タグ 作品名つ 翼をください 初回限定版 曲名 歌手名 作詞 作曲 ジャンル カラオケ OP phantasia ballad nao nao 新井健史・寺前甲・寺前直 かっこいい
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277 名前:名無シネマさん:02/06/05 22 32 ID RxYSD441 あの「翼をください」はどうかな?かなりいいセンいってない?
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翼をください 題名:翼をください 上/下 著者:原田マハ 発行:角川文庫 2009/9初版 2005/1/25 文庫化 2022/6/10 30刷 価格:各¥600 フランス語では小説をRomanと言う。壮大な夢を見させてくれるロマン。それは小説という表現形態が持つエネルギーのことであり、作者から読者へと伝わる広大な夢の世界でもあると思う。例え現実を基にした作品と言えども、作者がそれを夢やロマンという形で言葉にし、文章にするとき、完成されたものとしての小説=ロマンを読む人の心は、その作品に呼応した心の化学反応のようなものを少なからず見せるものなのだろう。 小説の持つ力をあなどるべきではない。そんなことを感じさせるのが最近ぼくが集中して向き合っている原田マハの作品である。この作家、実は彼女のどの作品からも、何故か心に共鳴する言葉たちが感じ取られる。読者の心の中でいくたびも再生されてゆく物語の持つ力。読んでいる間も読後もおのずと立ち昇る夢のような世界。言葉と、人々の心の美しさとを、何もなかった虚空に蘇らせて満たしてしまう力。 いつの時代にも地球は住み心地の良いものとは言い難く、欲望・悪意・戦争・悲惨等々に満ち溢れている。時代により、国により、それは雑多な人間の業の集合体のような巨大な罪までをも想像させられる。でも小説はそれらの世界から人間やその物語を思いのままに切り取る力を持っている。大法螺であれ、儚い夢であれ、それを、その時代を選択した作者の世界観や物語力に、ぼくら読者は身を委ねることができる。それがイコール現実でないとしても、我々の生きる時間に間接的にであれ確かな力を与えてくれることがある。 本書は、世界横断飛行という夢というかたちで壮大なロマンを提供してくれるスケールの大きな歴史冒険小説である。我らが主人公は、実在した女性飛行士アメリア・イヤハートを基に、新たにフィクショナル・キャラクターとして創り上げられている。夢と心と人間的魅力とを、作者は作品の主人公であるエイミー・イーグルウィングという架空の女性に、限りなく真実に近いかたちで託しているように思う。 原田マハがなぜこの題材に出会ったのかは、作品のご本人のあとがきに詳しい。毎日新聞社の社用機「ニッポン」という飛行機が、かつて太平洋戦争直前に初の世界一周を成し遂げたこと。その事実が戦後GHQによって隠蔽されていたこと。このニッポン号のことを小説に書いてほしいと、飛行機マニアの作者の知人に提案されたばかりか、その知人がニッポン号快挙の70周年企画として毎日新聞社との渡りをつけるなど諸々の手配もされた裏話等々である。いわばデビュー後、間もない原田マハという作家が、時代と社会のニーズに応え、このような夢と冒険に満ち満ちた作品を書く運命となったということである。史実に基づく題材だから相当な下調べ期間を要したことだろう。巻末の参考文献や資料、実際のニッポン号と乗組員の1930年代の写真なども生々しい。相当な準備なしに書ける小説ではなかった、ということである。 作品前半は、世界一周チャレンジ中に消息を絶ったエイミーの冒険を主軸に描く。彼女を取り巻く世界緊張のシチュエーション下で、エイミーの淡い恋の気配、飛行仲間たちとの連帯、さらに米軍部のスパイ活動が彼女のフライトに謎めいた気配と緊張感をもたらすという、素晴らしい描写に盛り上がる。 対する後半部は、主編とも言うべき史実に基づくニッポン号の冒険譚である。この冒険飛行に関わってゆくニッポン号乗員7人のそれぞれの個性や役割はもちろん、飛行そのもののスリリングな描写、世界に影を落とし始めた第二次世界大戦のきな臭い空気など、スケール感のある小説世界に息を飲むことになる。 準備にも執筆にも相当の時間をかけたであろうこの作品の重さ、大空を舞台に広がる夢の大きさ、登場する男女たちの個性や友情やロマンスなど、第一級のスケールと高いエンターテインメント性を感じさせる傑作であり、文字通りの労作と言える。物語と歴史的事実を重ね合わせて、多面的に読むことができる歴史冒険小説である。また、現代を見る鏡としての役割も果たしているようにぼくは思う。この作品が描いた大戦直前という時代と、現在の世界に漂いつつある緊張感がどことなく共通しているようにも思えるところから、今、多くの方に手に取って頂きたい作品である。 (2022.12.31)
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267 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 28 24 ID vLX1Uc3s #3-1 御鏡夜空の朝は早い。朝の陽射しが登りきっていないころに目を覚まし、道着に着替える。 まず1時間ほどの軽いジョギングの後、家の道場に戻り、竹刀を持ち鍛練を行う。 ほぼいつものようにそこには夕陽もいるが、ほとんど共に鍛練を行うことはない。 勿論夕陽は誘って来るのだが、他の武道ならともかく、剣道において夜空と夕陽では格が違いすぎて練習にもならないのである。 かといって、護身術と剣道以外は、夜空もほぼ素人の域であり、今更それらを底上げするよりも得意なものを伸ばすほうが効率がいい。 そう夜空は考えて、最近は剣道の素振り等をひたすら1時間ほど行っている。 気分が苛々しているような時は、あえて夕陽と試合を行い憂さ晴らししているが、今日の夜空にその必要はない。 練習を終え、シャワーで汗を流した夜空がいの一番に向うのは、離れに建つ使用人棟。目的地は、朝陽の部屋、である。 「――♪」 その足取りは軽く。濡れ羽色の髪が朝の光を受けて艶々と。小鳥のようにささやかな、けれど耳触りのよい鼻歌を零しながら。 朝日の部屋まで来た夜空は、おもむろにドアをつかみひねる―― 「――む?」 ドアには鍵がかかっている。 当然何度ひねってもドアが開く手ごたえはない。 「むむむっ、私と朝陽の間を阻むなんて身の程知らずね」 若干弾む声でおどけたように呟いて、夜空はポケットの中から銀色のカギを取り出した。 こういうときのために作っておいた合鍵、である。 夜空はさも当然といった様子で、鍵を差し込み、くるり。 あっという間に、夜空を阻む扉は道を明け渡した。 夜空は何の躊躇もなく部屋に踏み込み、朝陽の元へ近寄っていく。 ベッドの上で、朝日はぐっすりと眠っている。どうやら寝相は良いようで、乱れた様子はない。 そのことを少々残念に思いながらも、夜空は朝日に声をかける。 「朝陽ー。もう朝だよ、起きないといけないよー」 しかし、朝陽が起きる様子はない。 今度は朝陽の体を軽くゆすりながら呼びかけてみるが、むずがるだけである。 以前の朝陽はここまで眠りが深い様子はなかった。というよりも、夜空や夕陽同様の生活を送っていた。 これもあの事故の影響であろうか。このままにしておけば、朝陽はずっと眠り続けてしまいそうな―― かすかな焦燥感に駆られて、夜空は朝陽の上に飛び乗るように自らの体を放り出した。 「っどーん!!」 「ぎゃん!?」 これには朝陽もたまらず少々間の抜けた悲鳴とともに、目を覚まさざるを得ない。 唐突な痛みと覚醒に混乱していた朝陽であったが、自分の上に夜空が乗っているのを見つけ、ぎょっとした顔ののち、呆れ顔に変わる。 「姉さん、痛いんだけど……というか重、痛っ」 不穏な言葉を言おうとした朝陽の機先を制し、夜空が朝陽のほおをつねった。 「朝陽、デリカシーがないよ」 「デリカシーって……」 最もなことを言っているような夜空ではあるが、いきなり人の部屋に忍び込み、フライングボディプレスをかます人には言われたくない、と朝陽は思う。 しかし朝陽のじとっとした視線に気付きながら、夜空は自らも身を倒し、朝陽に絡みつく。 「姉さん!?」 268 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 28 59 ID vLX1Uc3s またか。朝陽は心の中で呟く。 隙があれば抱きついて来る夜空に、朝陽は自分がすでに慣れ始めていることに気づく。 といっても胸の動悸は依然変わらず、湧きあがろうとする沸々とした感情からは目をそらして、ただ、耐える。 耐えろ、耐えろ。 これはどこにでもいるような、ごく普通の姉弟のスキンシップなんだ。 そう念じながら数秒、しかし朝陽にとっては数分にも等しい間の後、 「ほら、もう満足しただろ。早く離れてくれ」 「はーい」 夜空は満足したのかするりと朝陽から離れ、ベッドから降りた。 彼女の反省の色など欠片もない能天気な声に朝陽は頭をかきながら、 「で、どうしたのさ、いきなり」 「ん?だって朝だから、朝陽を起こしてあげようかなーって」 「それなら普通に起こしてくれよ……」 「む、普通に起こそうとしても起きなかったのは、朝陽だもん。何度呼びかけても起きないから、だから、仕方なく」 「フライングボディプレス、というわけね」 「そそ」 無邪気にうなずく夜空に対して、げんなりとした表情の朝陽である。 もう何を言っても無駄なのであろう。 それにしても、夜空に呼びかけられていた記憶はない。 入院していたころから自分が朝に弱いことは気づいていたが、まさかここまでとは。 もしかしたらこのベッドがふかふかだったから、余計に眠りが深かったのかもしれない。 使用人部屋に押し込められた朝陽であったが、ベッドやテーブルといった調度品はかなり値の張るようなものばかりである。 おそらく夜空が手をまわしてくれたのだろう。あの祖父がそのような事をするとは思えない朝陽であった。 朝陽が祖父に会ったのはまだ一度であるが、それくらいは推察できた。 「さ、それじゃあ、朝ごはんももう出来てる頃だし、制服に着替えてきなさい。あ、荷物もちゃんと持ってくるのよ?」 「あー、うん」 確かに此処と食堂を往復するのは時間がもったいない。いろいろと準備を済ませてからのほうがいいだろう。 朝陽は着替えようとして、はたとある事に気付いた。 脱ごうとした服に手をかけたまま、夜空をじっと見つめた。 その視線の真意に気付かないのか、そうでないのかは朝陽には分からないが、夜空は、ん?と首を傾げて、 「ほら早く朝陽着替えないと、時間無くなっちゃうよ?」 「いや、姉さんがいるのに着替えられるわけないって……」 「もう、なに恥ずかしがってるの。あ、そうだ、私が着替え手伝ってあげ――」 「――いいから、もうさっさと出って行ってくれ!」 朝陽は夜空の言葉をさえぎり、背中を押して部屋の外へと追い払った。 もう、と不満げな様子の夜空であったが、大した抵抗もなく、朝陽のされるがまま部屋を出た。 「全く、恥ずかしがり屋さんなんだから。それじゃあ、私、先に行ってるからね」 そう言って去っていく夜空の背中を見届け、朝陽は部屋のドアを閉めた。 そして無駄だとわかってはいるが、鍵をかけて、はあ、と一息。 全く、朝から騒々しい。 「もしかして、これから毎朝、これ?」 朝陽の絶望にも似た呟きは、朝の涼しい空気と小鳥の囀りにかき消えた。 269 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 29 35 ID vLX1Uc3s 私立尚学院。 御鏡家も理事の中に名を連ねているその学院は、全国においても有数の進学校である。 設備は私立なだけあり、そこそこ整っているが、スポーツ推薦を行っていないためスポーツはそこまで強くはない。 近隣の学生からはガリ勉ばかりだと揶揄される事も少なくない。 しかしこのご時世、すこしでもいい学校に行かせたいと思う親は少なくなく、毎年入学試験の倍率はかなり高いというのが現状である。 学院は御鏡家の邸宅がある町の隣町に存在し、徒歩で行けるような距離でない。 その隣町は県庁所在地でありそれなりに栄えていて、学院の他にも学校も多く存在する。 そんな町の隣でありながら、山に囲まれたその立地のせいか田舎の域を抜け出せない朝陽の生まれ故郷に住む学生が高校に行こうとするならば、電車等で通うしかない。 そこで朝陽も電車で通うのだろうと思っていたのだが、その予想は外れてしまった。 漆黒の車体を春の陽光に輝かせ、朝陽を乗せたベンツは学院への道をなぞる。 「こんな車で登校とか、初日から絶対浮きまくるだろ……」 学校に高級車で送り迎えをしてもらう高校生。 自分だったらそんな奴とは余りお近づきになりたくないな、と朝陽は思う。 「でも、電車かバスで通学となると本数少ないし、不便だよ?」 朝陽の呟きに同情している夜空が答えた。 彼女は昨日朝陽が見た制服に身を包んでいる。 「いや、そうかも知らないけど、せめて違う車でとかさ……」 「大丈夫だってば。私もこの車でもう3年も通学してるんだよ。それでも特に問題はないし」 「んー、それなら何とかなるかなあ」 夜空に言われ楽観的な朝陽のことである、直ぐに、別に気にするようなことではないか、と思い直してしまう。 うんうん、何とかなるよー、と夜空は頷いて、そう言えば、と話題を変える。 「今日は入学式だから、新入生たちは午前で放課だけど、私達は授業があるの。朝陽、お昼御飯はどうする?」 「そんなの帰り道で適当に食べるって」 「適当にって、むう、やっぱりお弁当作ってくれば良かったかしら」 「いや、学院周辺も色々回ってみたいから。これから3年通う事になるんだし」 「そう?でも、明日からはちゃんとお弁当作ってあげるからね、私が」 「姉さんって、料理できるの?」 朝陽は少々驚いたような顔をする。 見た目は深窓の令嬢然としていて、実際料理人や使用人がいる御鏡家において夜空が、料理をはじめとする家事に触れる機会があるとは思えなかった。 朝陽の驚きに、夜空は不満げに頬を膨らませ、 「それはどういう意味かな?料理くらい出来るもん。これでも花嫁修業はバッチリなんだから」 「へぇ……」 凄いでしょう、とそのふくよかな胸を張る夜空。 そんな子供っぽいしぐさを見せる夜空に苦笑しつつ、朝陽は夜空の隣に座る人物を窺う。 学院へと向かう車。 そこには当然、朝陽と同様、今日から学院生となる夕陽も同乗している。 その夕陽であるが、車に乗ってから暫くは夜空に話しかけていたが、素っ気ない反応しかもらえず、今は不貞腐れた様に窓の外を眺めている。 その様子に、朝陽は若干の違和感を覚えた。 昨日の夕陽との接触において、朝陽が抱いた夕陽への印象と若干のぶれがあったのだ。 傲岸不遜な夕陽が、少しばかり相手に素っ気ない態度をとられたくらいで子供の様に拗ねてしまうとは。 そう言えば昨日の夕飯の時もそうだった。 夜空に話しかけようとして、一度無視された形となった夕陽は再び声をかけようとはせず、不機嫌そうに食事を再開していた。……時折、朝陽を睨みつけながら。 この車内でも、夜空と会話している朝陽を何度か横目で睨んでいた。 昨日の夕飯の時は何故自分が睨まれるのか理解できなかった朝陽であるが、今は何となく推測できる。 ――詰まる所、夕陽は自分に嫉妬しているのではないだろうか。 全く推測の域を出ない結論であるが、かなり正答に近いような気もする。 と、そこで朝陽の視線に気づいた夕陽が振り向いた。 「何だよ」 ぎろりと睨みつけてくる。 その視線を浴びながらも朝陽は怯むことなく、肩をすくめた。 その態度が癪に障ったのか、 「おい、お前」 夕陽が朝陽に何かを言おうとしたところで車が停まった。 「到着ー。ほら、朝陽降りて降りて」 剣呑な雰囲気にも夜空はマイペースを崩さず、能天気な声を上げた。 夜空に急かされながら車を降りると、朝陽の目の前には立派な校門があった。 270 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 30 06 ID vLX1Uc3s 「へえ……」 朝陽の口から思わず感嘆の吐息が漏れた。 学院の外観などはパンフレットなどで見た事があるが、実物を実際この目で見るとまた違う。 白亜の校舎は美しく、校舎へ続く坂道の両脇に咲く桜のトンネルが趣深い。 この学院に入学するための病院での猛勉強を思い出した朝陽は、より感慨深い気持ちになった。 「入学おめでとう、朝陽」 後ろから夜空に声を掛けられて、朝陽は思わず涙ぐんでしまう。 夜空はくすりと笑って、 「私、色々用事があるから先に行くね。入学式、頑張って」 と、朝陽に手を振りながら、坂道を急ぎ足で登って行った。 朝陽も手を振り返しながら、坂道を登る。 「ふん、頑張るっつっても、お前は座ってるだけだけどな」 朝陽の隣には、何故か夕陽が足並みをそろえていた。 夕陽は不機嫌さを隠す事なく、はん、と朝陽を鼻で笑った。 朝陽は相手をせず無視しようかとも考えたが、先程浮かんでいた推測をこの機会に口にする事にした。 「お前ってさ、もしかして、シスコン?」 「あ?」 夕陽が激昂して掴みかかってくるかと身構えていた朝陽であったが、予想に反し夕陽は、はっ、と嘲笑するだけであった。 「シスコン?あり得ねーな。俺は夜空を愛してるからな」 「は?」 思わず目が点になってしまう朝陽である。 「愛してるって、お前……。もしかして姉さんと血が繋がっていないのか?」 「は?繋がってないわけないだろ。俺にとってもお前にとっても、夜空は実の姉だよ」 「いや、それで愛してるって……」 「何か問題があるか?血のつながり?はっ、そんなの枷にすらならねえな」 堂々と言ってのける夕陽に、朝陽は奇妙なものを見る視線を向ける。 その視線をものともせず、夕陽は続ける。 「俺は夜空を愛しているし、夜空は俺と一つになる運命なんだよ。血の繋がりとか倫理だとか、知った事かよ」 トチ狂っているとしか思えない、と朝陽は思う。 記憶を失っている朝陽はともかく、これまで十何年一緒に過ごしてきたはずの夕陽が、夜空に恋慕の情を抱くとは。 全く、常軌を逸しているとしか思えなかった。 それにその自信はどこから来るのか。朝陽の見る限り、夜空が夕陽を思っている可能性は万に一つもない様に思えた。 むしろ嫌われているか、歯牙にもかけられていないかのどちらかではないだろうか。 「アホだろ、お前……」 朝陽は、それら諸々の感情をこめて呟く。 「言ってろ。そうやって上から物を言えるのも今のうちだけだからな」 そう言い残して夕陽は足を速めた。 朝陽はその背中を目で追いながら、 「やっぱり嫉妬、か?」 朝陽と夕陽とでは夜空の対応が全く違っている。 夜空が何を考えているのかは朝陽には知る由もないが、どちらも彼女にとっては弟であるのに、それこそ如実にその差は表れている。 夜空から可愛がられている朝陽に対して、夕陽は面白く思っていないのだろう。 ふう、と朝陽は一つ息をついて、空を仰いだ。 視界には桜の花と突き抜けるような空がある。 美しい景色。 それがはたして朝陽の門出を祝しているのか、それとも。 271 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 31 42 ID vLX1Uc3s #3-2 入学式は特筆すべきこともなく、つつがなく終わった。 朝陽は夕陽のスピーチを失敗すれば面白いのに、などと思いながら聞いていたのだが、夕陽は堂々とした風でスピーチを終えた。 その姿が妙に堂に入っていて、おそらくこのような場に慣れているのだろうと思わせた。 全体的に退屈な入学式であったが、夜空が上級生代表として壇上に登った時は、朝陽も目を丸くした。 どうやら夜空は、学院の生徒会長を務めているようだ。 彼女も夕陽と同様、堂々と、そして凛として音吐朗々と挨拶を述べていた。 その姿からは、普段朝陽と接している夜空の様をかけらも見いだせず、朝陽には全くの別人に見えたほどである。 何と言えばいいのか、そう、二人とも自分を相手に如何によく見せるか、その術を体得していた。 そのあたりは矢張り、御鏡家、古くより栄えてきた名家の令嬢子息というべきか。 二人の姿に朝陽は、すべてを失くした偽物の自分との違いをまざまざと見せつけられたような気がした。 入学式の後は自分たちがこれから一年間を過ごすことになる教室に向かう。 当然というべきか、クラスメイトの中に朝陽の知る人物はいない。 それぞれ知り合い同士が固まって会話に花を咲かせる中、朝陽はひとり、ポツンと座っている。 やがて担任となる教師が教室へ入ってくると、皆各々の席へ戻る。 それを確認した担任教師は軽い自己紹介の後、生徒へと自己紹介をするようにと告げた。 その言葉に従って、クラスメイト達は一人ずつ出身中学校や趣味などを述べていく。 中には笑いを取りに走り盛大に滑るものもいて、この辺りはいかに名門校といえども普通の学校と変わらないと言えるのかもしれない。 朝陽のひとつ前の順番まで来て、朝陽は自分の出身中学を知らないことに気付いた。 朝陽はどう説明しようか悩むが、それは結果として杞憂と終わる。 朝陽の順番が回ってくると担任が、 「あー、次の御鏡君だが、皆も知っている通り、不幸な事故に遭い記憶を失ってしまっている」 という前置きの後に、朝陽の出身中学校を告げた。 教室は色めき立ち、クラスメイト達は朝陽をちらちらと見ながら、なにやら近くの席の者同士ひそひそと言い合っている。 そんな好奇の視線に晒されながら朝陽は立ち上がり、 「えっと、まあ、そういうことで分かんないことだらけなんで、色々教えてもらえると助かります。これから一年間、よろしくお願いします」 順番が回ってくるまで何か面白いことを言ってクラスをドッカンドッカンわかせようかと考えていた朝陽だったが、ネタが思い浮かばず、結局無難なものに落ち着いた。 そのことを残念に思いながら、椅子に座り、はあ、と小さく息を吐いた。 その後も自己紹介はすすむが、クラスメイト達の関心は朝陽に向けられたままである。 その様子を見て、色々と噂が飛びかっているんだろうか、と朝陽は若干の不安に駆られた。 朝陽自身、自分がどのような経緯で1年も眠りこけ、挙句記憶を失ってしまったのか理解していない。 真実は闇の中、しかも朝陽は全国でも有名な企業家のお坊ちゃんである。周囲の関心は高く、それに比例して根も葉もない噂が流れている可能性は否定できない。 この環境の中、朝陽は一から、いやゼロから円滑な人間関係というものを築いていかなければならない。 前途多難な船出に朝陽は再びため息をつきそうになり、寸でのところで堪えた。 ため息をつくと幸せが逃げる。そんな言葉を信じているわけではないが、気分が沈んでしまうことは事実である。 クサクサしていても何も始まらない、きっと、何とかなるだろう。 朝陽は依然向けられる視線を受け止めながら、半ば口癖と化している言葉を心の中で呟いた。 夜空が朝言っていた通り、その後は担任による伝達事項があり、すぐに放課となった。 学院生初日の下校をどう楽しむか、各々が話し合いをしている中、朝陽はスクールバッグに配られたプリント類を詰めながら、これからの計画を練っていた。 まずは昼食。朝、車の中から見た感じでは、学院周辺にはかなり商店が立ち並んでいた。コンビニもあったし、最悪、食いっぱぐれるという事態はないだろう。 それよりも昼食の後、である。 学院から駅までの道のりは基本的に一本道で、事前に把握はしていたが、実際に歩いたことはなく、ルートを外れてしまうと迷ってしまいかねない。 今後のためにも探検しておきたい朝陽であるが、まずは正規のルートになれる方が先決であろうと思いなおす。 つまり、ここから駅までのルートを外れることなく昼食を摂らないといけない。 272 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 32 11 ID vLX1Uc3s ちなみに朝陽の中に自宅で食べるという選択肢はない。 すでに空腹である、というのも大きな理由であるが、あの家での食事に気が進まないのも事実であった。 それに、昨夜から考えていた自炊のためにレシピ本やある程度の調味料や雑貨なども買っておきたい朝陽である。 自宅周辺には小さなスーパーしかなく、そこで目当てのものをそろえるには少々心もとない。 書店や雑貨屋が駅までの道のりにあるかどうかは分からないが、とにかく歩いてみるしかない。 バッグにすべてを詰め込み、立ち上がろうとした朝陽の肩が後ろからポンポンと叩かれた。 朝陽が振り向くと、男子生徒がにかっと笑った。 夕陽のような美少年ではないが、笑顔が印象的な少年。まだ春先だというのに、若干の日焼けが見て取れるのは体質か、常に陽の下にいるからか。 朝陽が戸惑いの表情を浮かべると、少年は、 「あー、もしかして自己紹介聞いてなかった?俺は小野淳平、よろしくな、朝陽」 差し出された手を、朝陽は戸惑いながらも握り返した。 その手はごつごつして、マメのようなものができている。何らかの運動をしているのは事実のようだ。 「って、そうかいきなり下の名前で呼ぶのはなれなれしすぎたか。でも一応御鏡とは、同じ中学出身でさ」 クラスも違って、あまり親しいわけじゃなかったけどな、と小野は苦笑した。 そこに来てようやく朝陽も戸惑いの色を消した。 「いや、同じ学年に弟がいるから、朝陽でいいよ。色々とややこしいだろうし」 「あーそうだったな。あいつがいたか」 「あいつ?」 「あ、悪い、気を悪くしたか?でも、俺あいつ苦手なんだよな。だって、ずるいだろ?イケメンで頭もよくて、運動もできてって。完璧すぎて話しかけ辛いんだよ」 それなら双子である自分にはどうして話しかけたのか、理由を聞いてみたい気にもなった朝陽だが、愛想笑いを浮かべるにとどめた。 無闇に藪をつつくのは、朝陽の趣味ではない。 せっかくの友人候補である、ここでの対応は大切にしたい。 「わかるよ。兄である俺でも、そう思うからな」 そう言うと、おや、という表情を小野は浮かべた。 どうした、と朝陽が尋ねると、 「いや、何か中学の時と印象が違うなー、と思ってさ。いや、中学の時も接したことがないから勝手なイメージだけど、もうちょっと大人しい奴かと思ってたんだよ」 なるほど、と朝陽は思う。 昨日も夕陽から以前とは印象が変わったというような趣旨の言葉を言われた。 どうやら以前の朝陽は、今の朝陽と違い消極的であったようだ。 小野は理由を述べた後に、朝陽の記憶喪失云々に思い当ったらしく、しまったという顔をした。 朝陽は、気まずい空気が流れそうになるのを感じ、 「ま、高校デビューってやつだよ」 と軽い調子で、髪をかき上げる仕草、小野も朝陽の意図を察したのか、 「何だよそれ、今時流行んねー。っていうか、地味すぎるし。どうせなら金髪にするくらいしないとな」 と茶化すように笑った。 その小野の対応に、朝陽は、こいつとならいい友人になれるかもしれない、と嬉しくなるのだった。 野球部の見学のため、学内で時間を潰すという小野と教室で別れ、朝陽は一人校舎を出た。 友人と一緒に寄り道という、如何にも青春な初体験を果たせなかった事は残念ではあるが、中々幸先のいいスタートをきれた事に朝陽は満足していた。 ホクホク顔で駅までの道のりをなぞりながら、何処か昼食のとれるような場所を探す。 喫茶店や定食屋、ファミレス等を幾つか見つける事が出来たが、朝陽の意識は大手ファストフード店に引き寄せられた。 格安でハンバーガーを販売しているその店に、引き寄せられるように歩いていく。 朝陽は、入院していた頃にその店のテレビCMを何度も目にしており、退院したら行ってみたいと思っていたのだった。 273 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 33 34 ID vLX1Uc3s 朝陽が店内に入ると、いらっしゃいませ、という溌剌な声と笑顔に迎えられた。 朝陽は気圧される様に会釈を返しつつ、カウンターへと向かい注文を済ませた。 ハンバーガー一つとシェイクを頼むと、テイクアウトか店内で食べるのかを尋ねられた。 朝陽が店内をざっと窺うと、満席状態で座れるような場所はない。この時間帯である、仕方がないだろう。 取りあえず待つのは面倒だったので、テイクアウトにして直ぐに出てきた注文の品をもって朝陽は店を出た。 何処か座れる所を探しながら歩く。最悪、駅の構内ならば座る場所の一つや二つあるだろう。 朝陽はそう思っていたのだが、幸運にもすぐ傍に公園を見つける事が出来た。 都市緑化という事なのだろうか、やたらと木が植えられた公園。その端の方に設置されているベンチへと座る。 木漏れ日が春風に合わせてゆらゆらと揺れる。 朝陽は、わくわくしながらハンバーガーを取り出し、一口ぱくり。 んー?と首を傾げた。期待が大きすぎたせいもあるのか、感想は、こんなもんか、といったところ。 次はシェイクに手をつけた。 バニラの甘さが程良く、冷たい喉越しが心地よい。こっちは朝陽のお気に入りになりそうだった。 全てを食べ終えた朝陽は、電車の時刻表を取り出し、これからの計画を立てることにする。 電車の時間は一時間に2本程度はあるので、余り気にする必要はないようだ。 ここに来るまでに一つ本屋を見つけていて、そこに行こうかと立ち上がりかけた朝陽の耳が何かの音を拾った。 何かの鳴き声のような音。それは木が多く植えられた林の様な場所から聞こえた。 朝陽が近づいていくと、その音の正体がはっきりとした。 猫である。小さな猫が箱に入れられて、か細い鳴き声を漏らしていた。 真っ白な体の猫。ペットに詳しくない朝陽は、当然その猫がどういう種類なのかは分からない。 朝陽が近づくと更に声をあげる。餌をねだっているのかもしれない。 朝陽は箱の前に屈み、何やら思案顔で猫を見つめる。 やがて考えがまとまったのか、徐に立ち上がると猫の傍を離れ、公園を出た。 行き先は当初の予定通り、本屋。店内に入ると、朝陽はペットの飼い方などの本が置いてある場所を探し、一冊の本を手に取った。 そしてもう一冊、料理のレシピ本も適当に一冊選び、レジにて清算を済ませた。 猫の飼い方について書いてある本によると、普通のミルクは子猫には好ましくないらしく、朝陽はペットショップを探して辺りをうろつく。 運よく十分ほどで目当ての店を見つけ、そこで猫を飼うために必要な物をそろえ、再び公園へと戻った。 猫のもとに駆け付けた朝陽は、哺乳瓶にミルクを入れ猫の前に差し出した。 「ほら、飲め飲め」 猫は暫し哺乳瓶をじっと見つめるだけであったが、目の前で小さく揺らしてやるとおずおずと手を伸ばし、哺乳瓶に口をつけた。 「おー」 朝陽は思わず感嘆の声を漏らした。 小さな猫が一生懸命になって哺乳瓶を吸う姿は、感動的に見えた。 「美味しいか?」 朝陽は問いかけながら、子猫の頭を撫でた。 少々うざったそうにしながら、子猫はそれでも哺乳瓶を離さない。 それだけお腹がすいていたのだろう。 一体誰がこの猫を捨てたのだろう。こんなに可愛くて、力強い命を。 ある程度満足したのか、子猫は哺乳瓶から口を離し、朝陽をじっと見上げてくる。 朝陽もその目を覗きこむように見下ろした。 「お前も、居場所がないんだな」 そ、と朝陽は子猫を抱きあげた。 訴える術も、生きる術も持たない子猫は、ただ流されるまま、緩やかに死を待つばかりなのだろうか。 「――お前、ウチに来るか?」 同情、という面も否めない。というより、7割方同情である。 けれど、このまま放置しておくことなんて朝陽には出来なかった。情が移ってしまった、という事なのだろう。 「まあ、俺も居場所がある訳じゃないけどな」 朝陽は猫に語りかける様に呟き、苦笑した。 夜空は朝陽に良くしてくれるが、それでも朝陽は居心地の悪さを感じていた。 どうしても、夜空も以前の朝陽が戻ってきてくれるのを望んでいるのではないか、今の朝陽が消え去る事を待っているのではないかと邪推してしまうのだった。 卑屈な考えだと言う事は、朝陽も分かっている。 まるで、世界中で自分が一番不幸だと信じて疑わない人間みたいだ、と朝陽は思う。 思うが、しかし、この事ばかりは、如何に楽観的を自負する朝陽といえど自制する事が出来なかった。 274 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 34 43 ID vLX1Uc3s 「あー、俺、何こんな所で、一人で鬱に入ってるんだ……」 今の自分を傍から見れば、さぞかし痛い奴に見える事だろう。 「帰るか……」 本当はもっと色々と町中を回ってみたかったが、気付くと結構いい時間になっていた。 電車の中に猫を堂々と連れて行くのはさすがにどうかと思い、スクールバッグの中にタオルを敷いて、その上に猫を下ろした。 「頼むから、少しの間静かにしててくれよー」 きょとんとした顔で朝陽を見上げてくる子猫。 電車に乗っている時間は30分程で、その間に窒息したりする事はないだろうが、一応、若干チャックを開けたままにしておく。 そして極力バッグを揺らさないように注意を払いながら、朝陽は、ゆっくりと駅へ向かい歩き始めた。 #3-3 家に帰りついた朝陽は、始めに子猫が過ごすスペースを作る事にした。 作る、といっても使用人に段ボールを貰い、その中にタオルやトイレ用の砂を入れたトレイを入れるくらいの簡単なものだ。 あっという間に準備を済ませた朝陽は、子猫と戯れる。 そこでふと、ある重大な事に気付いた。まだ名前を付けていない。 朝陽は猫を抱きあげて、下から覗きこんだ。 ……ついていない。雌である。 朝陽のされるがままの猫だが、そのくりっとした目に咎められているように見えて、 「悪い悪い、レディに失礼だったなー?」 朝陽は優しく猫を下ろしてやり、そっと体を撫でる。 猫は心地よさそうに目を細め、にゃーと鳴き声を上げた。 その様子に朝陽も嬉しくなりながら、猫の名前を考える。 女の子の名前を思い浮かべて、朝陽は直ぐに一つの名前に行きついた。 「ヒカリ!ヒカリにしよう!」 なーと猫が鳴く。 まるでヒカリという名に応えてくれた様に感じて、朝陽はうんと頷いた。 「気に入ったか?よし、今日からお前は、ヒカリに決定だ」 朝陽はヒカリを最後にひと撫でして、段ボールハウスの中に戻してやる。 その中に一つボールを入れてやると、ヒカリはボールと戯れ始めた。 その姿を朝陽はニコニコしながら眺めていたが、はたとある事に気づいて今日購入したばかりのレシピ本を手に取った。 今日は食材はおろか、調理器具すら整っていないので料理は出来ないが、何が必要なのか本を眺めるだけでも十分だろう。 朝陽は流し読みしながら、ペラペラとページをめくっていく。 暫く真剣な表情の朝陽だったが、次第に顔が曇っていき、最後まで見終わると、ぽいと本をベッドの上に放り投げた。 「あー、なんかかなり面倒くさそうだな……」 朝陽は床に大の字になって、天井を見上げたまま呟く。 食べられるようなご飯くらいなら簡単に作れるだろう、と朝陽は軽く考えていたのだが、本を見た限りそうは問屋がおろさないらしい。 一から調理器具や調味料をそろえるとなるとかなりの出費になるし、毎回毎回食材を買うとなると、今渡されている小遣いでは心もとなくなってくる。 こうなると、ヒカリを飼うための道具による出費がかなり痛くなってくる。勿論、朝陽はそのことを後悔していないけれど。 見通しが甘かったと言わざるを得ない。 それに、もともと自炊しようと思った切欠は、食事の場で夕陽や智と顔を合わせる事が嫌だと言う理由だけだということも朝陽の熱を冷ますのに拍車をかけている。 それさえ我慢すれば、準備や後片付けの面倒もなく、美味しい食事が食べられるという、まさに至れり尽くせりといったところなのである。 275 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 36 28 ID vLX1Uc3s 「どーすっかなあ……」 そう言葉にはするものの、既にほぼ答えは出ていると言ってもよい。 一度冷めてしまった熱は、もう戻る事はない。朝陽は自炊する気力を完全に失ってしまった。 朝陽はずりずりと床を這って、段ボールハウスを上から覗きこんだ。 ヒカリはボール遊びに疲れたのか、体を丸めて眠っている。 「なあ、どうすりゃいいと思う?」 朝陽の言葉は、一体何を指してのものなのか。 当然、ヒカリからの返答はない。 しかし元からそんな事期待していない朝陽は、ヒカリをただじっと見つめる。 壊れてしまいそうな小さな体。これ程小さいのに、きっとそれなりに、壮絶な過去があるのだろう。 けれどきっとヒカリはそれを忘れて、或いは深く考える事なく生きている。 それは幸運なことなのだろうか。ヒカリは失った過去を惜しむ事はないのだろうか。 ただ流されるだけの、抗う術を待たない己の無力を呪う事はないのだろうか。 朝陽は取り留めもない事を何の脈略もなく考えている自分に気付き、苦笑した。 さっきから思考が変な方向に飛んでいる。もしかしたら、初めての学校生活などで精神的に疲れているのかもしれない。 「一緒に、頑張って生きて行こうな」 何の疑心もなく、ヒカリだけは自分を裏切ったりしないと朝陽は信じる事が出来た。 それは、相手が人間ではなく猫だからという事もあるが、それ以上に何か、そう信じさせるものがあった。 ヒカリを見つめる朝陽の表情は、慈愛に満ちていて。 満たされた気持ちに気をとられている朝陽は、先程から都度都度胸に去来する微かな痛みに、気付かない。 「―――」 夜空は扉を開け、手をドアノブにかけたまま、硬直していた。 視線の先には、朝陽がダンボールの中を見つめる姿がある。 ダンボールの中には何故か猫がいて、その事についても夜空は戸惑ったが、問題は朝陽の表情であった。 慈愛と優しさに溢れた表情。それは何かを愛おしむ表情だ。 そんな満ち足りた朝陽の表情を、夜空は見た事がなかった。 否、見た事がない、というと語弊があるかもしれない。 朝陽が記憶を失う以前ならば、この類の表情をした朝陽を何度か見た事があった。 人格を失い、今の朝陽になってからは、という言葉が正しい表記であろう。 そして今の朝陽も、愛しいものを見る表情で、それは矢張り夜空には向けられていない。 「あ――」 朝陽。そう呼ぼうとして、夜空は一度躊躇した。 それは、朝陽との時間を一秒も無駄にしたくないと考える彼女にとって、珍しい事であった。 ぶるり、と夜空は体を小さく震わせた。 予感。そんな形をもたない不確かなものが、彼女を恐怖させた。 声になれなかった細い息を吐き出して、もう一度息を吸った。 「朝陽」 漸く言葉にした呼びかけも、朝陽には届かなかったのか、彼は微動だにしない。 視線は変わらず、小さな猫を愛でている。 夜空の存在に気付く事なく、それはまるで、あの時の―― 「――朝陽!!」 276 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 37 01 ID vLX1Uc3s 一瞬浮かびかけた考えと、誰かの顔を頭の中から掻き消すかのように、夜空は声を荒げた。 さすがに今度は朝陽も気付き、びくりと体を跳ねさせて、夜空の方を見た。 「……姉さん?」 困惑した声をあげる朝陽であるが、夜空は自分の声に朝陽が気付いた事を安堵した。 夜空は普段よりも不出来な笑みを浮かべて、 「ただいま」 「え、あ、ああ、おかえり……」 その笑みが朝陽には何故か恐ろしいもののようにみえ、朝陽は更に戸惑いの色を濃くした。 不機嫌なのだろうか、朝陽は心の中で呟いた。 「それ、何?」 夜空は顎で猫を指して問う。 「何って、猫、だけど」 「そうじゃなくて。何で、猫が朝陽の部屋にいるの?」 「あ、ああ、実はさ駅近くの公園に捨てられててさ、拾って来たんだ」 「拾って?」 そう、と頷きながら、朝陽は猫をその腕に抱いて見せた。 眠っていた猫は目を覚まし、朝陽の方を見上げて、にゃあ、と小さく不満げに鳴いた。 ごめんなー、と朝陽は謝りながら、猫の体を軽くゆする。 「ほら、こんなに小さくて可愛いのに、そのままにしておくわけにはいかなくてさ。それで、ここまで連れてきたんだ」 説明する朝陽の声には、善い事をした満足感からくる誇らしげな声色が混じっていた。 それは、朝陽は意識していないが、まるで自分の善行を褒めて貰いたくて親に自慢する子供の様で。 そう、偉いわね、と夜空は流されるように呟いた。 朝陽も満更ではないといった様子で、照れくさそうに笑った。 「ほら、ヒカリ、あの人が俺の姉さんだぞー」 朝陽は腕を小さく揺らしながら、子猫に語りかける。 朝陽の言葉に、え、と夜空は声を漏らした。 「今、何て言った?」 「へ?」 「その猫の名前、何?」 尋ねる夜空から、何か鬼気迫る迫力の様なものを感じ、朝陽は怯えながら、 「ヒカリ、だけど……」 「――ヒカリ」 呆然と鸚鵡返しに呟いて、夜空は朝陽の元へ歩み寄った。 ごっそりと表情が抜け落ちたまま近づいてくる夜空に、朝陽は思わず後ろに一歩下がろうとして、けれど床に足が張り付いたかのように動けない。 ゆるゆると夜空が、朝陽の腕に抱かれたヒカリへと手を伸ばす。 その腕をじっと見つめていたヒカリだが、突然夜空の手を引っ掻いた。 「おっ、おい」 突然の事に朝陽はワンテンポ遅れて、夜空から一歩分、距離をとった。 朝陽に対しては最初の方こそ警戒していたが、それ以降は直ぐになついたヒカリの行動に朝陽は目を丸くした 277 翼をください 3 ◆.MTsbg/HDo sage 2011/01/28(金) 22 37 22 ID vLX1Uc3s 「こら、ダメだろ人を引っ掻いちゃ。……だ、大丈夫?姉さん」 夜空は引っ掻かれた手を抑えて、ええ、と頷いた。 ふー、とヒカリは依然夜空を威嚇している。 その行動に朝陽は戸惑うばかりである。 もしかしてヒカリは人嫌いの傾向にあるのだろうか、と疑うが、自分には直ぐにな懐いたことから、朝陽はヒカリの突飛な行動に首を傾げる。 夜空は無表情のまますっと目を細め、ヒカリの視線を受け止めている。 朝陽には、夜空が果して怒っているのか窺う事が出来ない。 そのまま数秒の時が流れ、 「そう、また、邪魔をするの」 やがて夜空がぽつりと呟いた。 「え?」 上手く聞き取れず、聞き返す朝陽に夜空は、何でもないわ、と首を振った。 「それよりも、その子の名前の由来は何?」 「由来?んー」 夜空に問われ、朝陽は思案するもハッキリとした答えは出てこない。 「……何となく、かな」 そう、正に何となくであった。 名前を考えるときに、一番初めに浮かんできた名前がそれで、別の言葉にするならば、ピンと来た、というべきだろうか。 しかしよく考えてみると、ヒカリという名前を猫に付けるのは珍しいのかもしれない。 何でだろう、と朝陽も改めて首をひねった。 「もっといい名前があるんじゃない?タマとかシロとか、ヨゾラとか」 「ヨゾラって、姉さんの名前じゃないか……。でも、うーん、やっぱりヒカリが一番いいよ。コイツも気に入ってるみたいだし、今さら変えられないって」 「そう……」 「それよりお腹減った。もう夕飯出来てるかな?」 「え、ええ。多分、もうそろそろじゃないかな」 既に窓の外はどっぷりと暗くなっていた。 朝陽は抱いていたヒカリをダンボールに下ろす。 ヒカリの視線は今も夜空に向けられたまま、まるで招かれざる侵入者を咎めているかのようである。 睨み返している夜空を、その奇妙な緊張感を打破しようと朝陽は、 「ほら、早く行こう、姉さん」 そう急かし、夜空の背中を押しながら、廊下に出た。 食堂に向かうまでの間、夜空は何か考え込むようにして、朝陽も声をかけられず、二人無言のまま。 戻る 目次
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8 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 31 21 ID Wzq3ITKE #2-1 「あ、あの……」 使用人と思われる女性に導かれるまま、黙って屋敷の中をきょろきょろしながら歩いていた朝陽であったが、とうとう声をかけてしまった。 「はい、何でしょうか」 女性は立ち止まり、朝陽の方を振り返った。 あれから当然のように部屋まで付いて来ようとした夜空を使用人の一人が呼びとめ、何処かへと連れて行ってしまった。 何でも、“旦那様”が呼んでいるらしい。その時の夜空の機嫌が悪くなったように見えた朝陽であるが、確かめる間もなかった。 それから朝陽は、自分の荷物を持っている女性に連れられてここに至る。 何となく、そう、何となくではあるが、夜空と別れてから朝陽に対する態度が険悪になったような気がする。 ――気にしない、気にしない。 朝陽は心の中で自分を励ましつつ、 「俺の部屋に案内してくれているんです、よね?」 「はい」 即答、である。 「こっちで、あってるんですか?」 「はい」 再び即答され、成程な、と朝陽はこっそり嘆息する。 朝陽を連れた女性は庭に面した廊下を進み、その道中にあるどの部屋に入る事もなく屋敷の奥へ進み、庭を横切るように繋がった渡り廊下を渡ろうとしたのである。 その先には小ぢんまりとした離れがある。こぢんまり、と言ってもそれさえ普通の家より若干大きくはあるが。 その離れは屋敷とは異なり純和風ではなく、窓が多く、二階建てのアパートの様な外観であった。 朝陽の立つ所から少し離れた場所にも渡り廊下があり、その先には矢張り少々小ぢんまりとした、けれどそちらは和風建築の平屋がある。 「向こうにありますのは道場です」 朝陽の視線を察したのか、女性が簡潔に述べた。 「道場?」 「はい。御鏡家は、古くは武によって栄えた家でございますので。商業や政治へと宗旨替えしたのちも武道は御鏡家にとっての柱なのです」 「ふぅん。じゃあ、俺も武道やってたんだ……」 「はい。2年前まで、朝陽様も夜空様や夕陽様と同様、己を磨いてらっしゃいました」 「姉さんも……」 朝陽は脳裏に夜空の姿を思い浮かべてみる。 あの華奢で柔らかそうな体躯からは、とても武道をたしなんでいるようには見えない。 武道といっても幾許かの護身術とか、精神を鍛えるためとかその辺りなのだろう。そう朝陽は推測する。 自分も体を鍛えていたらしいが、既に2年ものブランクがあるし、何より覚えていない。 以前の朝陽が恐らくコツコツ積み上げてきたものは、全くの無意味となり塵と消えているのだろう。そう考えると、朝陽は少しやるせない気持ちになるのだった。 一つの溜息をこぼし、朝陽は自分の部屋があると言う離れと、今まで歩いてきた母屋の方を見比べてみる。 ――気にしない、気にしない、気にしない。 朝陽は首を二三度軽く振り、再度歩き出した女性の後をついていく。 9 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 32 26 ID Wzq3ITKE 「こちらになります」 「あ、はい、ありがとうございます」 離れの中は、そのままアパートの様であった。 廊下を挟んで、部屋へ続く扉が並んでいる。 それは二階へ上っても全く同じ光景で、そのうちの一つの扉の前。この扉の先が朝陽の部屋だという。 女性から荷物を受け取ると、彼女は一度頭を下げた後、さっさと帰って行ってしまった。 朝陽は小さく溜息をつきつつ、その扉を開いて―― 「――よお」 これから朝陽の私室となるはずの場所に、先客がいた。 8畳ほどの、一人部屋には十分以上の広さのフローリングの部屋。 大きな窓からベランダに出られるようになっていて、勉強机とベッド、そして本棚が一つずつあるだけの簡素で殺風景な部屋。 その勉強机の椅子に座り、一人の青年が部屋に入って来たばかりの朝陽を眺めていた。 「……はあ」 その姿を見て朝陽は、こいつはチャラい、という確信をもった。 髪型はどこぞのホストの様な長髪。黒縁の眼鏡は、所謂おシャレメガネという奴だ。 対人経験の少ない朝陽にとって、初めてといっていい人種との出会いであった。 朝陽は、闖入者を窺うようにしながら部屋の中に入り、軽い鞄をベッドの上に下ろした。 近づいてみて、青年だと思っていたが自分とそれほど変わらないように感じた。 青年というよりは、少年。黒縁の眼鏡をかけた彼の顔には、まだあどけなさが残っているように見える。 美少年。成程、彼の様な少年を人はそう呼ぶのであろう。 「そのバッグ、やけに軽そうだな」 「まあ、なんも入ってないし」 何となく敬語を使うのが憚られた朝陽である。それは対面の少年の態度が原因であろう。 尋ねる彼のその表情には、何となく人を食った様な成分が含まれているような気がした。 「で、アンタ誰?」 その表情が癪に障った朝陽は、少しばかりつっけんどんな尋ね方になってしまう。 対して少年は、少しばかり驚いたような顔して見せた後、くくくと笑い声をこぼし始めた。 その態度からは、もはや朝陽をバカにしている事がありありと察せられる。 更にムッとする朝陽であるが、少年の答えを待つ事にして堪える。 「そうか、やっぱ、忘れてんのか」 「やっぱり?」 「いや、話には聞いてたけど、実際に忘れていると分かると何つうかおかしくて……」 そして再び、くくくと笑う。 ここにきて漸く朝陽は、自分が挑発されているであろうことを悟った。 「……もしかして、俺、喧嘩売られてる?」 「俺?……くくく、そうか、俺、ね」 「……」 「とと、冗談だからそう睨むなよ。俺が知っていたアンタとは明らかに違ってたからさ」 矢張り知り合いか、朝陽は少年を観察しながら推察する。知り合い、それもかなり近しい関係であるようにも思う。そうなれば……。 「成程、アンタが俺の弟って奴か?」 朝陽の言葉に少年はにやりと笑って見せた。 その所作はさぞ様になってはいたが、朝陽にとっては癪に障るもの以外の何物でもない。 「ご名答!つっても、ま、そのくらいバカでも分かるか。ご推察の通り、俺はアンタの弟だよ」 「……弟だというなら、それらしい態度をとったらどうだ?」 「ハッ、冗談だろ?俺は確かに弟だが、年が離れているわけでもなし、ちょっと生まれる時間が早いだけで兄貴面されてもな」 「ああ、そう……」 傲岸不遜な少年の言葉に、朝陽はげんなりする。 そう言えば、夜空が言っていた。朝陽には弟がいて、その弟というのは双子であると。 一卵性ではなく二卵性という事だそうだが、確かに朝陽と彼はあまり似ていなかった。 決して自分よりも向こうのほうがイケメンだとかそういうわけではないが。そう、決して。 半ば自分に言い聞かせるようにしてうなずいた朝陽は、彼に呼びかけようとして名前を知らないことに気付いた。 「そういや、名前聞いてなかった。知りたくはないが、知らないといろいろ不便だし、一応聞いとくよ」 「ん?ああ、俺は夕陽。御鏡夕陽だ。どうだ、如何にもな名前だろ」 「……朝陽に、夕陽、か。確かにな」 誰が名付け親か、朝陽には分からないが、確かにいかにも双子という感じの名前だと思う。 それに、姉である夜空の名前も同一人物がつけたのだろう。そのセンスの是非はともかく、何らかの関係を意識しやすい名ではあった。 10 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 33 52 ID Wzq3ITKE 「で、その夕陽が一体何の用だ?暇人じゃあるまいし、俺をおちょくりに来ただけってわけじゃないよな」 いくばくかの皮肉を込めた朝陽の言葉に、 「いや、そのつもりだったんだけど」 と、夕陽はあっさりと頷いた。 へえ、と冷静を装って呟く朝陽ではあるが、怒りの感情は隠し切れていない。 朝陽の額には漫画でよくあるような怒りマークが浮かんでいるようである。 「にしても、御鏡家の長兄がこんな使用人部屋に押し込められて。何ともまあ、哀れだねぇ」 そんな朝陽の怒りを絶対に気付いていながら、夕陽はさらに燃料を投下する。 「……使用人部屋?」 「そうそう。ここはただでさえ田舎で、交通機関もあまり発達していないというのにこの立地だろ?だから、この家は住込みの使用人のほうが多いんだよ」 ま、それでも最近は人手不足が深刻なんだけどな、と続く夕陽の言葉も今の朝陽の耳には入ってこない。 ……使用人部屋。なるほど、ね。なるほど、なるほど。 やはり、自分は歓迎されている存在ではないようだ。本当、一体何をしたんだ、前の自分。これからここで暮らす俺の身にもなってくれよ。 朝陽はそうやって、過去の自分に呪詛の言葉を投げかけるが、その言葉は結局自分へのものだと気付き、はあ、と嘆息する。 一年間眠りこけ、更には記憶を失うという普通では絶対にできない事を経験し、かなり楽観的な思考の朝陽ではあるが、やはりテンションは下がってしまう。 これから毎日の様にこの態度の悪い弟と、まだ見ぬ、しかし自分を嫌っている事は確実の祖父と接していかなければならないというのか。 途端に夕陽の相手をするのが面倒になった朝陽は、しっしと手を振りながら、 「もう充分俺をおちょくっただろ、満足したなら、もうこの部屋から出て行ってくれ」 そう言ってベッドへごろりと横になる。 既に朝陽の意識の中から、嫌味な双子の弟の事は抜け落ちていた。 甘いものが食べたい。朝陽はそんな衝動に駆られる。 今日一日色々あって、疲れ切った体や脳が糖分を欲しているという理由もあるが、朝陽は甘いものが大好きなのだった。 記憶の中にある、朝陽が口にしたものと言えば殆どが味気ない病院食ばかりで、たまにデザートとして付いてくるフルーツやプリン、ゼリー等が朝陽の楽しみだった。 それが転じて無類の甘いモノ好きになり、退院したらケーキだけを食べて一日を過ごしてみたいなどと考える始末であった。 ――ま、それもこの家じゃ無理かもしれないな。 そのことを少しだけ残念に思いながら、うとうとと眠気に意識をかすませていく。 そんな朝陽の様子に、ち、と夕陽は舌打ちした。 既に朝陽にとって自分は眼中にない存在になっているようだ。 まるで子供だ、夕陽は毒づく。自分を前にしてこんな態度をとるなんて、以前の朝陽にはあり得なかったことである。 どうやら朝陽は、記憶喪失を経て一人称だけでなく、性格まで代わってしまったようである。 夕陽の前にいる少年は、以前の朝陽を知る夕陽にとって朝陽とは言えない存在と言えた。 そこにいるのは、顔や声、名前が同じだけの夕陽が知らない誰か、だった。 「おい」 夕陽は苛立ちの滲んだ声で呼びかけるも、やはり朝陽は応えない。 仕舞いには、寝息までが聞こえてくる始末である。 まるであの朝陽にバカにされているようで、夕陽の中の怒りが膨れ上がっていく。 いっそ朝陽に飛び掛かり、マウントパンチの雨を降らせようかと考え、しかし行動に移すような事はしない。 体を鍛えている夕陽にとって朝陽の反撃が怖いわけではない。もっと怖いもの、それが夕陽に行動を躊躇わせた。 朝陽はもう一度舌打ちを残して朝陽の部屋を出た。 やり場のない怒りに、肩で風を切るようにして使用人の部屋が集まっている離れの廊下をドカドカと大股で歩いていると、丁度離れへとやって来た少女と鉢合わせした。 黒髪をなびかせ、柔らかい笑みを浮かべた大和撫子。御鏡夜空である。 「夜空!」 瞬間、夕陽は先程まで感じていた苛立ちをすっかり忘れ、彼にとって姉であるはずの少女を呼び捨てにして駆け寄っていく。 駆け寄ってくる夕陽に気付いた夜空の顔から笑みが消え、眉がひそめられるが夕陽の目には映らない。 彼女の傍にたどり着いた夕陽は、尻尾を振る犬よろしく、全身で喜びのオーラを発しながら、 「学校から帰ってきてたのか。探したけど居なかったし、休日出勤でこんなに遅くなるほど忙しいのか?それなら、俺が手伝って――」 夕陽は姉であるはずの夜空に対し、常日頃から同等かもしくは上からの目線で接している。 11 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 35 18 ID Wzq3ITKE 夜空も、今更そんな夕陽の態度を咎める事はせず、けれど夕陽の言葉を遮って、 「――今日は朝陽を迎えに行ったから遅くなっただけよ。それと、未だ入学していない貴方に手伝ってもらう様な事はないわ」 ぴしゃりと言い放つ。 これで話は終わりとばかりに夕陽の横を通り過ぎようとした夜空の手を夕陽は、はっしと掴んだ。 「ちょ、何処行くんだよ」 そんな夕陽の答えが分かり切った質問に、夜空は首を傾げた。 「そんなの言わなきゃ分からないこと?」 「っ……」 冷たい瞳。彼女の名前と同じように暗く。お前には興味がないと雄弁に語る。 凍てつく視線は、彼女の類まれなる容貌と相まって氷の杭となり夕陽の心の臓に、深く、突き刺さる。 夕陽がこの瞳を向けられるのは初めてではなく、もう何度目か、数える事こそ馬鹿らしくなるくらいだ。 その度に、夕陽は全身全霊をもって恨みの炎を燃やす。 と言っても、その炎が焦がすのは当事者たる夜空ではない。当然だ、どうして愛しい女を業火で焼くような事が出来ようか。 ――朝陽。そう、全部アイツのせいだ。あんな奴、あのまま死ねばよかったのに。 夕陽は先程まで顔を合わせていた、形ばかりの兄の姿を思い浮かべ、ぎり、と歯を噛みしめた。 「そろそろ、手、離してくれる?痛いんだけど」 「っ、あんな、あんな落ちこぼれのどこがいいんだよ!」 夕陽は、思わず声を荒げた。 夜空の手首を握る手にも、知らず力が入る。 けれど夜空は痛みを表情に見せる事はせず、寧ろ愉悦の表情すらうかべて見せて、 「どこが?ふふ、そんなの簡単よ」 言いながら、夜空は掴まれた方の手を引いた。体勢を崩した夕陽に追い打ちをかける様に、足をかけた。 それから夜空の腕が複雑な動きをして、夕陽はいつの間にか廊下の床に叩きつけられていた。 夕陽も、生まれた頃より御鏡の慣習に従い武道で研鑽を積んできた。 しかしそんな彼が、今は受け身すらまともに取れず床へと放り出されていた。 ふん、と夜空は一つ侮蔑とも呆れともとれる吐息を漏らして、夕陽を見下ろす格好で、 「全部、そう、私はあの子の全てを愛しているの」 そう言って、投げられた拍子に緩んでいた夕陽の手を払うと朝陽の部屋へと向かう足を進める。 そんな夜空の背中に向けて、夕陽は立ち上がり、しかし床に片膝をついた状態で言葉を投げつけた。 「だとしても!今のアイツは、2年前のアイツとは全くの別人だ!記憶をなくして、人格すら変わってるじゃないか!」 その言葉に夜空はぴたりと立ち止まり、振り返った。 「あら、それに何か問題がある?」 「な――」 夕陽は絶句してしまう。本気で何の問題も感じていないと言うかのように、夜空は首をかしげていた。 「言ったでしょ。私は朝陽の全てを愛していると。朝陽の顔も、体も、声も、そして魂すらも。全て、全て。ふふ、人格なんて些細なこと」 夜空は恍惚とした表情を浮かべ、妖艶に嗤う。 狂喜と狂気が併存した笑み。それすらも夜空を一際美しく彩る。 「それよりも、私はあの子が記憶を失ってくれて嬉しいの。そう、神様にでも感謝したい気持ち。否、そうね――」 不意に夕陽を見下ろす夜空の視線が鋭さを増した。 先程突き刺さった氷の杭すら生温い、それだけで人が殺せるような本物の刃の如き視線。 視線を受けた夕陽は、ゾクリと総毛立つのを感じた。 ごくり、と夕陽は唾を飲み込む。 「――夕陽、貴方にもありがとうと言っておいた方がいいかしら」 「……まさか、気付いて、」 「それ以上は言わない方がいいわよ。あなたを許したわけじゃないんだから。それこそ、ほんの拍子に殺しちゃうかも」 「……」 「ふふ、冗談よ。今や貴方は御鏡家次期当主筆頭。さすがにそんなことすれば、色々とややこしいもの」 再び夜空が踵を返す。 「っ!あ、朝陽は当主にはなれないぞ。元々なれるはずもなかったが、今回の事で決定的だ。いずれ、間違いなくこの家から追い出される」 再度、夜空の背中に投げかける夕陽の言葉は、力なく、何処か負け惜しみじみて。 夜空も今度は振り返らず、立ち止まる事もなく、 「その時は、私が養ってあげるの。だって、私は、姉さんだもの」 嬉しそうに笑いながら去っていく夜空の背中を、夕陽は今度こそただ見送ることしかできなかった。 夜空は以前、そう2年前まで朝陽を当主にしようと、躍起になっていたはずだ。 朝陽が記憶を失った事を切欠に、夜空も朝陽との接し方を変えたということか。夕陽は唇をかんだ。それこそ、唇が破れ、血が出てしまいそうなほどに。 12 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 35 59 ID Wzq3ITKE 夕陽をあしらった夜空は、朝陽の部屋の前で一度深呼吸した。 夜空の心臓はドキドキと跳ね、気分の昂揚を伝えてくる。 今日一日、ずっとこんな調子だ。無理もない、朝陽と2年ぶりに顔を合わせる事が出来たのだから。 いや、一つだけ例外がある。あの老獪との対話の時ばかりは、事情が違った。 先程の夕陽との会話も不愉快な部分こそあれど、正直どうでもいい、瑣末なことであった。 しかし、あの、時代遅れの老害との会話では、殺意を抑えるのに一苦労した。 朝陽への面会を許さなかった事もそうだが、御鏡家の人間である朝陽をこんな使用人部屋に押し込むなんて。 威張り散らすしか能のないその男は、孫であるはずの夜空にとって不倶戴天の敵でしかなかった。 ――まあ、そんな事今はどうでもいいか。 そんな事よりも今は、朝陽である。2年も我慢をしたのだ、朝陽と過ごす時間は一秒でも無駄にしたくない夜空である。 ふふ、人知れず夜空の頬がほころぶ。 清潔で、無垢な、まるで花の咲くような笑み。 これから朝陽と過ごす毎日に、心踊らずにはいられない。 よし、と一つ気合を入れて。コンコンとドアをノックした。 「朝陽、夜空だけど、夕食までまだ時間があるようだから、家を案内しながらお話しよ?」 しかし、朝陽の部屋から返答はない。 あれ、夜空は首を傾げた。 部屋は間違えていないはず、もしかして一人で家の中を探検しているのだろうか。 今の朝陽はかなり好奇心旺盛の様だったから、あり得なくもない。 でも、夕陽の後に擦れ違わなかったし。夜空は心の中で否定する。 どうやら夕陽は朝陽と会っていたようなので、その後で探検に出かけたのならば擦れ違うはずだ。 「朝陽?」 再び呼びかけながらドアノブをひねると、ドアが開いた。鍵は掛かっていないようだ。 はいるよー?と一応の断りを入れながら、夜空は部屋の中に足を踏み入れた。 朝陽の姿は簡単に見つける事が出来た。ベッドの上、うつ伏せになって寝転んでいる。 耳を澄ますと規則正しい呼吸音。どうやら眠っているようだ。 夜空は、そっと朝陽へと近づいていく。ベッドの脇に座り、朝陽の顔を覗きこんだ。 あどけない寝顔。夜空は、それを眺めているだけで幸せな心地に包まれた。 この寝顔を見ると言う行為ですら、夜空にとってどれだけ大切な事か。失いかけて、強く実感させられた。 そ、と朝陽の元へと手を伸ばし、その頬に触れた。 柔らかくて、そして何より、温かい。それは、朝陽が今ここに生きている証。 無性に嬉しくなった夜空は、何となく朝陽の頬を、ぎゅ、とつねった。 「あ痛たたた?!」 思いがけず力が入り過ぎていたのか、直ぐに朝陽が跳ねる様に起き上がった。 その勢いに驚き、夜空は、ぱっと頬から手を離してしまった。 「???」 頭の上に多くのクエスチョンマークを浮かべ、頬をさすりつつ、朝陽はきょろきょろとあたりを見渡した。 そしてベッドの横に座る夜空を見つけ、 「……あれ、姉さん」 「ふふ、おはよ、朝陽」 「え、あ、ああ、おはよう」 夜空が笑いかけると、照れたように頬を染める朝陽。 その仕草がたまらなく愛おしくなって、思わず夜空は朝陽に抱きついた。 彼女の突然な行動に、朝陽は目を白黒させる。 「ちょ、ちょ、姉さん!?」 「ぎゅうー」 夜空は、態々声に出して朝陽を抱く腕に力を込めた。 朝陽の匂い。それは、記憶を失っても尚、変わっていないように夜空には感じられた。 朝陽が、今、こんなにも自分の近くにいる。その事を全身をもって実感する。 抱きつき癖がついてしまいそうだと夜空は思った。 朝陽の体、呼吸、気配、何もかも全てを近く出感じる事が出来るこの行為に、夜空は病みつきになってしまいそうだった。 「い、いきなり、どうしたのさ」 「見て分からない?朝陽分を補給してるの。さっきまで、立て続けに不愉快にさせられたから」 「へ?」 不愉快とはどういう事だろう。そう言えば、夜空は当主であるという祖父に呼び出されたはずだ。 ……あまり、祖父との仲は良くないのだろうか。 寝起きのぼやけた頭で考える朝陽だが、そも、祖父がどんな人物か知らないのだ、答えも出しようがなかった。 13 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 36 59 ID Wzq3ITKE 「って、それよりも、早く離れてくれ!」 朝陽が夜空を引き剥がそうとすると、以外にも簡単に夜空は朝陽から離れた。 「んもう……まだ恥ずかしいの?いい加減になれなさい」 こんなのまだ序の口なんだから、と妖艶に見つめてくる夜空に、朝陽はドキリとさせられながら、 「それで、どうしたのさ。何か用?」 「む、用事がないと来ちゃ駄目なの?」 「い、いや、そんな事はないけどさ……」 可愛らしく頬を膨らませて不満を伝えてくる夜空に、朝陽は言葉を濁した。 夜空の方は朝陽に対し、家族相応に馴れ馴れしく接してくるが、朝陽の夜空に対しての接し方は聊かぎこちない。 今までの記憶がないので朝陽にとって、結局夜空は、今日初めて会ったきれいな女性でしかないのだ。 呼称だけ姉さんと呼ぶようにしたところで、それ相応の距離感を掴むにはまだまだ時間がかかりそうだった。 「でも今回は用事がないってわけでもないの。朝陽に家の中を案内してあげようと思って。それと……」 そこで夜空の端正な顔が悲しげに歪められた。 「ごめんね」 唐突な謝罪の言葉。 朝陽は何の事か分からず、 「へ、何が?」 「この部屋。朝陽だって御鏡家の一員なのに、こんな使用人部屋なんかに押し込んで……。態々ここまでする必要なんてないはずなのに」 次第に夜空の表情が悲しみから憤怒へと移り変わっていく。 朝陽は初めて夜空が怒っている所を見て、その迫力に、彼にとって情けない話ではあるが気圧されてしまった。 美人が起こるとこれほどの迫力なのか。朝陽は、これからは出来るだけ夜空を怒らせないようにしようと、心に誓うのだった。 ビクつく朝陽であったが、夜空の怒りは幾分早く冷めた様で、直ぐにまたあの温かい笑みが戻っていた。 そして、何か明暗を思いついたとでも言うかのように、パンと手を打ち合わせ、 「そうだ、私の部屋で一緒に暮らそ?そこまで広い部屋じゃないけど、そっちの方が一杯一緒に居られるし、色々便利だし、ね?」 「いや、ね?って言われても……それは無理」 「えー」 さすがにそれはまずいだろう、朝陽は夜空の提案に呆れかえってしまう。 一緒の部屋という事は、毎日夜空と一緒の部屋で眠るという事。 そんな事態になった日には、朝陽の思春期真っ盛りの性が暴走してしまう事は必至だろう。 朝陽は夜空の体をそっと窺う。 学校の制服は着替えたようで、白いワンピースを着ている。 フリフリの可愛らしい装飾やリボンが付いていて、きっとかなり値が張るのだろう。 その可愛らしい服は確かに夜空に似合ってはいたが、幾分子供っぽく、夜空のイメージとは少し違っていた。 夕陽は家の外観や、使用人が着物を着ていたのを見て、夜空も普段着は着物なのだろうとぼんやりと思っていた事も手伝って、かなり意外に感じていた。 「というか、普段着、着物じゃないんだね」 「え?ああ、着物は私にはあまり似合わないから、普段は着ないようにしてるの」 「……あ、あぁ、な、成程」 ちら、と朝陽が視線を下ろすと、そこには自己主張の激しい胸部。 胸の大きい女性には着物が似合わないと言う迷信は本当だったのか、などと朝陽はぼんやりと思う。 と言っても夜空がいつも洋服を着ているのではなく、御鏡家に客人が訪れた場合や社交の場などでは着物を着る事が多い。 それでも夜空は自分に着物は似合わないと思っているし、着物を着るために腰にタオル何かをぐるぐると巻きつけないといけないので、あまり好きではなかった。 「そんな事よりも、家の中の案内。早くしないと夕飯の時間になっちゃうし、今のままだったら、きっと朝陽、家の中で迷っちゃうよ?」 「いや、さすがにそれは……」 ない、とは言い切れない朝陽である。 この家はかなり広いようであるし、普段使うような場所くらいは知っておいた方がいいだろう。 「というか、夕飯は一緒に食べるんだ……」 朝陽の部屋には必要最低限という感じではあるが、台所も完備していて自炊しようと思えばできないわけでもないようだった。 ……ただ、料理経験のない朝陽が果してまともな料理を出来るかというと、それは無謀と言わざるを得ないが。 「当たり前でしょ。そんなところまで使用人待遇にしやがったら、さすがの私も黙っていないもん」 語尾は可愛らしく言って見せる夜空であるが、その言葉には妙な迫力が内包されていた。 もしかして姉さんって、凄く怖い人? 朝陽は、今日会ったばかりの温厚で綺麗な姉というイメージを少しばかり修正しなければならない可能性に背筋を震わせた。 14 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 37 45 ID Wzq3ITKE #2-2 夜空との自宅探検は、つつがなく終わった。 少し気になっていた道場はそこそこに広く、所々古さはあったが、個人の所有とは思えないほどのものであった。 朝陽がこれから自分も武道をしなければならないのかと夜空に聞いたところ、その必要はないということにほっとするのだった。 ちなみに武道と一口に言っても剣道や柔道など節操無くかじるようで、夜空の一番得意なものは剣道だと言う。 夜空の華奢な腕に竹刀は不釣り合いの様に思えたが、華の女剣士という感じで逆に似合っているかもしれないな、と朝陽は妙な納得をした。 その他にも様々なところを回ったが、一番気になった所は、屋敷の外観に比べてその中はそれ程和風でもないと言う事だった。 客室の幾つかの部屋はフローリングの床であったし、今現在朝陽がいる食堂にもテーブルとイスがある。 豪奢なテーブル。その上にかけられたテーブルクロスも丁寧に刺繍がしてあり、椅子も含めて幾らするのか考えて朝陽は、ゾッとしてしまう。 もし何かこぼしたりした日にはと思うと、目の前に並ぶこれまた豪勢な夕飯の味が分からなくなってしまいそうなので、考えないように自分に言い聞かせる。 それにしても、この料理、かなり美味しい。それこそ病院食ばかりだった朝陽にとって、両者が同じ食べ物とは思えないほどである。 だからこそ、そう。 ――もっと、違う場所で、気楽に味わって食べたかったなあ。 朝陽は鳥肉を咀嚼しながら、心中で愚痴をこぼした。 そして、こっそりとそちらの方向を窺う。朝陽とテーブルを挟み、右前方。朝陽の対面に座る夕陽の隣。 朝陽の祖父であり、御鏡家で今現在、最も発言権を持つ男がそこにいた。 名は御鏡智(みかがみ さとる)。齢60を超えても尚、御鏡の企業グループを纏める傑物とも言うべき人物。 小柄ではあるが、眼光鋭く厳めしい容貌はいかにもといったところだろうか。 その深く刻まれた皺すらも朝陽には恐ろしく見えてしまうのは、智戸の初めての対面の時に睨まれてしまった事が原因だろう。 睨まれる、といっても智は一瞥を朝陽にくれたのみで、その後は声をかける事も朝陽の方を向こうともしないのだった。 夕陽は何故か先程からじっと朝陽を、此方はあからさまに睨んでくる。 唯一の頼みの綱であるはずの夜空も、先程から一言も発することなく食事を続けている。 しん、と静まり返った食堂にフォークやナイフの音が響き渡る。 朝陽を除く3人はテーブルマナーも身に付いているようで、朝陽のそれがやけに大きく響き目立っていた。 もしかしたら御鏡家の慣習として、食事の時は無駄な会話はしないようになっているのかもしれないが、今日は朝陽が2年ぶりにこの家に帰って来た日である。 何か積もる話があってもおかしくはない。それこそ、朝陽が嫌われているのであるならば、恨み辛みの一言でもあってしかるべきだろう。 しかし、それすらもなく、ただ時間と皿の上の料理だけが淡々と消化されていく。 これが毎日2回ずつあるのだ。朝陽は、自炊を本格的に始めるべきではないかと本格的に考え始めていた。 経験のない朝陽の作るものである、目の前の料理より格段に劣るのであろうが、それでもいいと思わせる状況であった。 「そういえば」 地鳴りのような声が食堂に響いた。 朝陽はびくりとして、声の主、智を見やるが、智は朝陽ではなく夕陽の方を見ていた。 「明日から、高校入学だったな」 「はい、おじい様」 おじい様!? あの傲岸不遜な夕陽の口から出たとは思えない言葉に朝陽は、思わず口の中のモノを吹き出してしまいそうになった。 笑いを堪えるが、肩が震えてしまう。 そんな夕陽の様子に、智は不愉快そうに眉をひそめた。 げ、と朝陽は肩をすくめ、縮こまった。 「入学式で入学生代表として意気込みを述べるよう頼まれましたし、まあ心配されるようなことはありませんよ」 ふん、と心なしか夕陽は朝陽を蔑視しながら、智に述べた。 いや、智にというよりも朝陽に、かもしれない。 入学式で入学生代表に選ばれたと言うならば、それは夕陽が入学試験において首席合格を果たしたという事だろう。 朝陽も特別に病院で受験したのだが、正直合格できるかどうか合格通知が来るまでハラハラしっぱなしだった。 その事を夕陽が知っているはずもないが、彼が朝陽よりも成績が上位だった事は確実で、その事を朝陽に対して自慢しているという可能性もあった。 15 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 38 34 ID Wzq3ITKE 「ふむ、そうか。これから3年間、精一杯励む事だ」 「はい、御鏡の名に恥じぬよう頑張ります」 御鏡の名。21世紀のこの時代に、何とも時代錯誤な事だと朝陽は思う。 そんな気持ちが態度に出ていたのか、智がぎろりと朝陽を睨んだ。 「貴様も、せめて名に泥を塗るような事はしないことだな」 「……」 智は鼻で不快の念を表し、静かな食事を再開した。 朝陽も何も言えず、ただ目の前の料理を消費する事に専念する。 夕陽は朝陽の姿に嫌味な笑みを微かに浮かべて、自らの左前方、朝陽の隣に座る夜空に目を向けて、 「そうだ、夜空――」 「――ごちそうさまでした」 しかし、夜空は聞こえていないか、まるで気にしていないかのように、すっくと立ち上がった。 そんな夜空を、智は、 「夜空、行儀が悪いぞ」 と、咎めるが、夜空は、 「あら、申し訳ありません」 と、全くそう思っていない態度で、形ばかり頭を下げた。 再びその態度を咎められる前に、夜空はさっと踵を返した。 朝陽の後ろを横切る時、女性特有の甘い香りが朝陽の鼻腔をくすぐった。 その香りに惹かれて、朝陽は思わずその後姿を目で追ってしまう。 朝陽の視線を感じたわけではないだろうが、夜空は食堂を出る寸前で朝陽の方を見やり、朝陽と目が合うとウインクをひとつ。 そのまま廊下へと消えて行った。 胃の痛い食事を終えてすぐに、朝陽は使用人から風呂に入るよう勧められた。 御鏡家の風呂は朝陽の想像通り大きく泳げそうな程であった。 実際に泳いだ朝陽は、御満悦の表情で風呂を出た。 この家で数少ない楽しみを見つける事ができた彼からは鼻歌さえも零れていた。 上機嫌のまま離れへ続く渡り廊下を行き、使用人部屋が集まる別館へ。 その事に付いて朝陽は既に気にしていない、というか感謝すらしていた。 夕陽と智。朝陽の弟と祖父であるはずのあの二人、母屋の方に部屋があればばったりと出くわす確率も高くなるだろう。 それならば、此方の離れの方がよほど気も楽というものだ。 部屋に篭っていれば、向こうが訪ねてこない限り会う事はない。 「食事も自分で作れるしな」 明日、学校帰りにレシピ本でも買ってみようか。夜空から暫くの間の小遣いは渡されている。 ひと月一人暮らしするに少々心もとない額ではあるが、食費のみと考えれば十分であろう。 そんな事を考えながら、朝陽は自室の扉を開いて―― 「おかえりー」 矢張りそこには先客がいたのだった。 「……ちゃんと鍵、かけておいたはずなんだけど」 事実、今も朝陽は鍵を開いてドアを開けたばかりである。 「そんなの、合鍵があれば一発だよ?」 「……」 朝陽の部屋、ベッドの上。 ちょこんと座る夜空は、手に持った鍵を揺らして見せて可愛らしく小首を傾げた。 その姿は彼女も風呂あがりなのだろう、髪はしっとりしているし、何よりも薄着だ。 その姿を極力見ないようにしながら、朝陽は部屋の中に入った。 合いかぎを作り、態々中から鍵をかけて待ち伏せとは。全く用意周到というものである。 「ほら、こっちにおいで」 夜空がベッドをぽんぽんと叩き、隣へ座るよう催促してくる。 そのはずみで彼女のふくよかな胸が薄着越しにぷるんと揺れる。……間違いない、ノーブラである。 「いや、さすがにそれは」 「なに、お姉ちゃんの隣が嫌なの?」 理性が保てるか怪しい朝陽はもちろん断るが、夜空は途端に目を潤ませた 嘘泣きの可能性が高いと踏んだ朝陽ではあったが、女性の涙を見せられて自分の意志を貫き通せるべくもない。 それが例え、真実の輝きであろうと偽りであろうと、女性、とりわけ美しい人の涙というものは男に有無を言わせぬ魔力をもっている。 嫌な予感しかしない朝陽であったが、夜空に誘われるようにふらふらと彼女の元へ歩み寄り、隣へと座った。 そしてその嫌な予感は、見事的中する。 16 :翼をください 2 ◆.MTsbg/HDo :2011/01/05(水) 21 39 02 ID Wzq3ITKE 「んー」 「ちょ、やっぱり!?」 本日だけで3度目のハグ。朝陽は、風呂上がり特有の一際強い女性の香りにくらくらしてしまう。 豊満な胸は、薄着、ノーブラで破壊力倍、更に倍。やわらかやわらかー、と朝陽の頭の中で誰かが叫んでいる。 瞬間沸騰機よろしく朝陽の顔面は赤く、熱く煮えたぎる。 そのうち血管が切れて死んでしまうんじゃないか、と朝陽はぼやけた意識の中で思う。 絶世の美女に抱かれたまま死亡。まあ、わるくはない死に方ではある朝陽はまだ若い、しかも相手は姉。 ある意味何とも最低な死に方ともとられる。少なくとも、世間的には。 朝陽は、奔流に流されてしまいそうになってしまいそうな自分を叱咤し、後ろ髪をひかれまくりながら、べりべりっと夜空を引き剥がした。 夜空の方に手を置いてグイっと押す。それだけの行為なのに、朝陽は既に青色吐息、いやむしろ桃色吐息とでも言うべきかもしれない。 「やん、もう、寝る前に朝陽分補給しないと、朝まで何時間もあるのに……」 「……いや、ほんと。勘弁して、つかーさい」 「つかーさい?……何か疲れてるみたいだね。まあ、今日は色々と大変だっただろうし、明日は入学式だし、早く寝た方がいいかな?」 しょーがないね、と夜空は残念そうに息を吐いて、ベッドを立ち上がった。 そしてドアのところまで歩き、朝陽の方を振り返った。 「それじゃあ、おやすみ。……あ、ちゃんと明日の準備しておくのよ?」 悪戯っぽい笑みを残し去っていく。まるで、台風一過、朝陽は疲れの色濃い溜息を吐きだして、ベッドに倒れ込んだ。 「やべー」 やべー、である。 夜空の一連の行為が自覚的であるならば小悪魔、無意識であるならば悪魔。どちらにせよ女性の扱いに長けていない朝陽に防ぐ術などない。 朝陽の頭の中にある明日からの学校生活を含めた未来への不安は隅に追いやられ、年相応のピンク一色である。 悶々と、夜空の体の感触が蘇る。 彼女の美しい顔、豊満な肉体、妖艶な吐息、甘い香り。 全身の血が頭に上っているように顔が熱いが、ある一部にも確りと血が集まっている。 朝陽は自らのテントを見て、苦笑した。 「姉さん、か」 朝陽は、天井を見つめてぽつりと呟く。 姉。血のつながった、綺麗なひと。そんな女性に興奮している自分は、正常ではないのだろうか。 実姉に対する性欲。それは、世間からすれば十分気持ちの悪い感情なのだろう。 朝陽はその感情を鎮めようと心掛けるが、上手くいかない。 血の繋がり。朝陽はそれを実感できないのだ。 当然だ、それは実体をもたないのだから。 普通ならば日々を近くで過ごし、その過程において実感するものではないか。 そうすることで、家族と異性の境界が引かれていく。朝陽はそんな風に考えている。 しかし朝陽の中にその記憶はないのだ。 今日会ったばかりの異性に対して、血の繋がりだとか遺伝だとかそんなモノ、どうやって感じろと言うのか。 「ああ、もう。やめやめ」 朝陽は首を振って、答えの見えない問いを追い出した。 朝陽の考えのように、血の繋がりというモノが日常の中で積み上げられるものならば、これから積み上げていけばいい。 きっと、直ぐにどこにでもいるような仲のいい実の姉弟として日々を過ごせるようになる。朝陽はそう信じ込むことにした。 夜空が言った通り、明日は入学式。 これから朝佐陽は、自分と同世代の人間ばかりの空間で、1日の大半を過ごす事になる。 明日はその重要な一歩、である。そこで地雷を踏もうものならば、高校3年間が灰色に煤けてしまいかねない。 只でさえ朝陽には重大な問題があるのだから、せめて気力くらいは十分で挑まないといけないだろう。 そんな事を考えていると、どっと眠気が朝陽に襲いかかって来た。 きっと、肉体的にも精神的にも疲れ切っていたのだろう。朝陽はゆっくりを瞼を閉じた。 すぐに泥の様に眠る朝陽の、規則的な呼吸音が聞こえ始めるのだった。 戻る 目次 次へ
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292 :翼をください 1 ◆.MTsbg/HDo :2010/12/16(木) 22 25 48 ID +Dw3/ozY #0-1 ゆっくりと、視界が開けて行く。淡い光。 目を覚ました、彼の事を考えてなのか、節約のためなのか、部屋の照明は落とされて、カーテンの閉じられた窓から射す光が仄かに室内を照らしている。 目覚めたばかりの彼、御鏡朝陽(みかがみ あさひ)の視界いっぱいに天井が広がっていた。 所々がくすんだ白い天井。見慣れない天井だな、と思う間もなく、目を反らした。 起きぬけの彼にとってはくすんだ白い天井さえも眩しく感じられた。目を反らすだけでは足らず、首をひねり、顔を横向けに。勿論、光の漏れる窓ではない方向を。 ――何故だろう。 首をひねる。たったそれだけの動作が、妙に鈍かった。ばきばき、と首から不穏な音さえ聞こえてくる。 まるで、寿命が近づいて、処理が重くなってしまったPCのような、そんな感覚。 自分の身体は、もう年老いてしまったのだろうか。朝陽は、こちらも処理の重い頭で状況を掴もうとする。あの日から、どれくらいが経ったのだろう。 「――?」 あれ?そう朝陽は呟いたつもりだった。しかし、喉がへばりついてしまっていて、どうにもうまく声が出せない。結局、ひゅう、と細い息が漏れただけであった。 しかし、そんな異変もいまの朝陽にとっては、優先順位が後であった。 そんなことよりも。 朝陽は、先の自分の思考に疑問をもった。 あの日っていつだ?自分の身体は、年老いているのか?じゃあ、自分は一体何歳なのだ? 朝陽の中に、ふつふつと疑問がわいてくる。それは、濁った泉に浮かぶ泡のように、弾ける事なく、次から次へと。 ここはどこだ。どうして、僕はここで寝ているのか。僕の身体はなぜ動かないのか。 僕?一人称が僕という事は、性別は男なのか?それとも、女なのか?一人称が僕である女というのも存在しないわけではない。 そもそも。 ズキンと頭に鋭い痛みがはしった。朝陽は、反射的に頭を抑えようとして、けれど腕は持ちあがらなかった。 そもそも、僕は、誰なのだ? 通常ならば、おかしな疑問だ。けれど自分という輪郭がぼやけて、掴めない。まるで雲をつかもうとしているかのような。 朝陽は、自分を探して記憶を探っていく。言葉をはじめとした知識はある。どうやら、記憶が全くないわけではないようだ。 けれど、思い出がひとつもない。 思い出の欠片を探して、更にさらに奥へ。不意に、朝陽の中で何かが過った。 ――ゾクリ、とした。 黒く澱んだ塊のような感情。それは後悔や悲しみ、憎悪、罪悪感や無力感、そんな昏い感情を濃縮し凝らせたような。 恐怖に、体が震えそうになった。自分の意志では、上手く体を動かせないというのに。 怖いのに、朝陽の思考は止まらない。一歩一歩、確実に近づいていく。 ソレは暗闇の中、目を光らせてじっとこちらを見ている。 やがて、すぐ傍にたどり着いた。 朝陽の思考は、ゆるゆるとソレへと手を伸ばし―― ――触れた。 「……っぁぁあああああ―――!?」 瞬間、泉一面を漂っていた泡が、計ったかのように一斉に弾けて行く。 原因は分からないのに、ただ昏い感情だけが朝陽を急き立てて。 朝陽は、無我夢中にへばりついた喉を乱暴に引き剥がしながら、叫んでいた。 その声は、まるで産声の様に白く、暗い部屋に響き渡った。 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 叫びながら、朝陽はその言葉をまるで呪詛の様に、心の中で呟いていた。 ああ、どうして。 どうして目を覚ましてしまったのだろう。 ひときわ強い後悔の念が朝陽の胸をぎゅうと締め付ける。 つ、と朝陽の瞳から涙が伝う。 その涙が一体何に齎されるものかも分からないまま、朝陽は、一人涙を流し続けた。 陽の昇らない毎日は、ゾッとするほど退屈で、色あせたものだった。 彼女の陽が沈んで既に1年が経とうとしていた。 彼女は、表面上はいつもと変わらぬ凛とした様を見せながら、心の中を巧みに覆い隠してこの1年を過ごしてきた。 もしこの世に他人の心の中が覗ける超人がいて、彼女の心の中を覗いたならば恐怖に怯え、眠れぬ日々を過ごす事になっただろう。 そして、人を超えた力をもって生まれてきた事を心から後悔する事になる。そのくらい、彼女の心中は澱み、蠢いていた。 2年前は、特に気にする理由もなかった何気ない日常の何もかもが、彼女をイラつかせた。 彼がいなくなった事を蔭ながら、けれど聡い彼女にはありありと分かるくらい喜んでいる親族。昔からそうだったが、最近、何かにかけて纏わりついてくる弟。 それら取るに足らなかったはずの事柄が、あの子が居なくなった途端に彼女の気に障るだけのモノになり果てた。 「ああ――」 そして今夜も、鬱陶しい弟を適当な理由でかわし一人部屋に篭り、月を見上げ嘆いている。 あの子がまさかこんな事になってしまうなんて。 全ての元凶は、あの女だった。思い出すだけで、ぎりり、と歯軋りが鳴る。あの女が忌々しくてたまらない。いや、あの女だけではない。 あれほど目にかけてやっていたのに、裏切られた。今より少し幼かったとはいえ、のうのうと信じ切っていた自分が忌々しいのだった。 それでも、何とかあの女に裁きを与えたまでは良かった。しかし、そこで想定外の失敗が生じた。 素性も知れない野蛮な屑共に任せたせいで、あの子にまで被害が及んでしまった。ぎゅう、と彼女は拳を握りしめた。あの屑共。怨嗟の言葉を呟く。 あの屑共には、ありとあらゆる苦痛と絶望を味あわせたのちに処分したけれど、それでも気持ちがおさまる事はなく、思い出すたびに腸が煮えくりかえる思いだ。 「ああ、朝陽」 彼女は、月を見上げたまま愛しい弟の名を呼ぶ。 あと数時間後には月は沈み、朝の陽が世界を照らすだろう。しかし、その陽は彼女の世界を照らす事はない。 そんな彼女をあざ笑うかのように、でっぷり肥った月が夜空を漂っていた。 彼女は、何を思ったのか、知らず、その月に向かって手を伸ばそうとして―― 「夜空様」 ――闖入者の声に、はっと我にかえる。 彼女の部屋、障子の戸の向こう、正座する男が頭を下げているシルエットが映っていた。彼女の事を夜空様とよんだその影の主は、彼女の家の使用人であった。 ……こんな夜更けに訪問してくるなんて、少し配慮に欠けるわね。彼女は、形のいい眉をひそめた。 「何か用?」 底冷えするような、低い声で答えた。 例え自ら望んでの思考ではなかったとはいえ、思考を無遠慮に邪魔され、彼女、御鏡夜空(よぞら)の機嫌は一気に急降下していた。 これで下らない用事だったならば、この男の未来は暗く閉ざされることになるだろう。 夜空の八つ当たりの感は否めないが、彼女はこの家における法に近い存在、仕方ないと諦めるほかはない。 彼女の声の異質を感じ取ったのか、男の身体が一度小さく震えあがった。 「ご、御報告が……」 声も幾分か、震えている。しかし、そんな事は気にも留めず、 「それは、こんな夜分に、女性の部屋に押し掛けて来てまで、話すこと?」 むしろ、態と威圧するかのように、一つ一つ言葉を区切って聞き返した。 障子の前に座る男は、まるで断頭台に座っているかの気分であろう。彼女は、障子越しとはいえ男の気持ちが手に取るように分かった。 「あ、朝陽様の事でございます……」 そして、この報告が果して夜空にとって良いものなのか否か、男には判別がつかない、その事が一層恐怖を駆り立てていた。 御鏡夜空が弟の一人、御鏡朝陽に可愛がっていた事は、御鏡に仕える者たちの間では周知の事実である。 更にその中でもごく一部が、それが並々ならぬ執着である事を知っている。男は、その中の一人だった。障子の向こう、夜空が蠢いた音に微かに体を震わせる。 「話しなさい」 ぴしゃりと凛とした声が、静かな夜に響く。は、と男は声を震わせた後、 「朝陽様が、今日、目を覚まされたとの事です」 「……何ですって?」 それは、夜空がこの二年間で最も待ち望んでいた言葉だった。しかしそれ故に、疑心の様なものが彼女のなかに芽吹く。 「朝陽様が、今日の正午ごろに目を覚まされたと、医師の方から報告がありました」 「……正午?私の方には、今の今まで、何の報告もなかったのだけれど?」 朝陽が目を覚ました事実が今の今まで、自分に届いていないと言うのはおかしな話だった。 朝陽の入院する病院は、御鏡の息のかかった病院で、普通ならば、いの一番に医師から直接報告が来るはずではないか。 それともまさか、またあの糞爺の介入があったのだろうか。ありえない話ではなかった。あの老害ならばやりかねない。 「実は、その……し、少々、問題がありまして……」 男の更に縮こまった声が夜空の不安を更に煽ってくれる。 この先を聞きたくない、耳をふさいでしまいたい。そんな気持ちに駆られてしまう。そんな気持ちとは裏腹、実際は耳を澄まし、神経をとがらせている。 「そ、その……医師の話によると、朝陽様は、どうやら記憶を失ってしまわれているご様子で……」 「――記憶を?」 夜空は思わず怪訝な声を漏らした。その声に何を感じ取ったのか、ひ、と男の息遣いが聞こえた。 「そ、ど、どうやら今までの、思い出全てを失われているようで……」 勉強したことや、一般常識などの知識は忘れていらっしゃらないようなのですが、そう男は続けているが、既に夜空には聞こえていなかった。 記憶を失った。あの子が? 「それは、記憶喪失という事かしら?」 「え、えと、そうですね。一言で述べるならば」 ピントの何処かずれた夜空の問いに、男は戸惑いの色を見せる。 夜空は、そう、記憶喪失。と小さく呟いた。 記憶喪失。テレビや漫画などを殆ど見ない夜空にとっては、あまり耳慣れない言葉であるが、その症状くらいは分かる。 朝陽が記憶を失った。それは、話を聞く限り、今までの事全てを忘れているという事。 夜空と朝陽が今まで過ごした、彼女にとっては一つとして無駄なものなどない十何年もの日々を、全て。全て。全て。 一緒の布団で眠った事も、笑いあった事も、喧嘩をした事も、鍛錬しあった事も。何もかも、全て。 「そん……」 呆然とつぶやこうとして、はたと気付いた。全て忘れた? がばっと、夜空は立ち上がった。二三歩大股に進むと、障子の前に立つ。頼りない壁を挟み、頭を下げていた男が、気配と物音に身を固くした。 「それは」 夜空の声は抑揚がなく、やけに平坦に響いた。 「それは、朝陽が生まれてこれまで出会った人間の顔も、名前も、まるっと忘れてしまったという事でいいの?」 「は、そう言う事になります。残念ながら、夜空様の事も――」 「――あの女の事も忘れた、そう言う事?」 「……」 「どうなの?」 「今のところ、れ、例外はないと言う事を聞いております」 「そう」 そう。そう。何度か呟いて、夜空は、ふらふらと数歩後ずさりした。 自らの、長い髪をかきあげて視線をさまよわせる。視線が、月を捉える。銀の月。何を思い、彼女を見下ろしているのか。夜空と月の視線が交錯する。 意識せず、夜空は口元をゆがめていた。何か、大きな感情がこみ上げてくる。 遠くから獣の遠吠えが聞こえる。ぐおお、ぐおお。喝采があがる。 夜空は、この時ばかりは感情に流されるまま表出する。 ――くつくつ。 男は、笑い声を聞いた。 何か、地獄の底から這い上がってくるような、怖気の走る、そんな笑い声。大の男を逃げだしたい気持ちに駆らせ、けれど、その場に磔にする、そんな。 「ふ、ふふふふふ。そう、そう、そう。全て、あの女の事も……それは、それは」 笑い声の主は、当然夜空である。形の良い唇を下弦の三日月に歪め、いとも嬉しそうに。 「あの女、死んでも尚、無様な事ね。ふふふ、滑稽だわ。ねえ、そう思うでしょ?」 「……は」 「これは僥倖。不幸中の幸い、というのは、ふふふ、こういう事を言うのかな。考えうる最高の結末。ねえ、そう思わない?」 「……は……」 僥倖。弟が記憶喪失になった事をそう呼び、笑う夜空の気持ちを計りかね、男は曖昧な答えを返す。 夜空は、男の態度を気にした風もなく、笑い続けている。 「これはいいわ、最高よ。あの女のことも、かつての想いも全て忘れて、なかった事にして。 これからは、私と全部一から創り上げていくの。あの忌々しい女は、もういないのだから」 まっさらな朝陽。あの女は居ない。夜空と朝陽二人の間の障害は消え去ったのだ。朝陽の中の記憶ごと。 あの屑共も結果的には役立った事になる。 処分するのはやめにして、海外に奴隷として売り払うくらいですませてやればよかったかしら。ああ、でもそちらの方が苦痛かな。 そんな事を考えて、けれど、直ぐに彼女の思考は朝陽の事で埋め尽くされる。 漸く、彼女の世界を朝陽が照らす。けれど、浮かれ過ぎるのも良くない。今度は、二度と同じ過ちを繰り返さないようにしなければ。慎重に、確実に。 この機会を失えば、もう二度とこんな奇蹟は訪れないだろうから。 「朝陽、待っていてね、直ぐにお姉ちゃんと幸せになれるから」 漆黒の大海に浮かぶ満月に向かって、夜空は声を弾ませた。 ――もう二度と、月のためになど泣いてやらない。今度こそ、唯一、望むものをこの手に。 #1-1 桜の花びら、桃色の花弁がいくつも風に舞っている。ゆらゆら、ゆらゆら。 木製のベンチに腰掛けて、ポカンと口をあけたアホ面でその様を眺める朝陽の身体も、自然と花びらの動きに合わせて揺れていた。ゆらゆら、ゆらゆら。 傍から見れば、まんま変人に変わりない朝陽の行動ではあるが、朝陽の周りには見事なほど人の姿がない。 朝陽が電車を何本か乗りつぎ降り立った小ぢんまりとした駅は、駅員の姿のない無人駅だった。 この駅で数人の乗客が乗り降りしていたが、その場に止まる者はおらず、朝陽はこうして一人ぼんやりとまちぼうけをくらっていた。 朝陽が確認したところによると、この駅には多くて1時間に2本しか電車が通らないので、朝陽の奇行を見知らぬ他人に見られる事はないだろう。 無人駅の周りに朝陽の気をひくものは満開の桜くらいで、花を愛でるような繊細な感性の持ち主ではない朝陽だったが、他にする事もなく体を揺らす。 時間を持て余しながらも朝陽がこの場所を動こうとしないのには理由があり、それは、彼がここで待ち合わせをしている最中だからである。 長閑な田舎町。鶯の鳴き声が時折響いている。朝陽の足元には可愛らしい花をつけた草が、涼やかな風に揺られている。 朝陽の数十メートル先には車道があるが、殆ど車が通る事はない。 駅前には民家が建ち、見たところ商店の一つもない。 自動販売機はあるようだが、もとより朝陽は一文無しである、ジュースの一本も買う事が出来ない。 めざめてからこっち、都会にある病院で過ごした朝陽にとって何から何まで新鮮なこの町。 この町が、彼、御鏡朝陽の生地なのだという。この、思い出のない町が。 朝陽は、何か心の琴線に引っ掛かるようなものはないか、何処かで見たような景色はないか、と辺りを見回す。 けれど、そこには病院のTVでみたような、どこにでもある田舎町がひろがっているのみだった。 ゆらゆらと揺らし続けていた体を漸く停止し、朝陽は、はふ、と溜息にも近い吐息をひとつ。 その吐息に疲れの成分が多分に含まれている事を実感し、朝陽は、自分が予想以上に疲労している事を知った。 リハビリを終えたばかりの朝陽にとって、電車による旅はそれなりの負担であったようだ。 今まで疲労をあまり感じていなかったのは、朝陽の中にある緊張や不安が感覚を鈍らせていたのだろう。 朝陽は、これからこの町で暮らさないといけない。 ここは朝陽が生まれ、育った場所、故郷とも言うべき場所なのに、朝陽は、まるで自分が一人見知らぬ街に放り出されてしまったかのように感じた。 朝陽の生家である御鏡家の使いを名乗る男が現れたのは、朝陽が病院で目を覚ました3日後の事だった。 1年眠り続け、突然目を覚ましたと言う事で、検査やら何やらで忙しい朝陽の病室に現れたその男は、朝陽の疑問に答えてくれた。 曰く、自分は名家と呼ばれる家の出らしい事。この入院している病院は、御鏡家の息のかかった医者がいる事。 しかし、何故朝陽がこの病院に入院し、あげく記憶を失ってしまったのか、その原因を教えてくれる事はなく、把握していないの一点張りだった。 そして、1年間はこの病院でリハビリと、入院で遅れた分の勉強をするように言付けられたのだった。 何でも、御鏡家の当主の命令らしいが、どのみちリハビリなしではまともに動けない状態だった朝陽は、血を吐くようなリハビリと猛勉強の毎日を過ごすしかなかった。 正に地獄だった、と朝陽は思う。 起きている時間は、リハビリか勉強か。 錆びついた体に鞭打ち少々無理めなリハビリをこなしつつ、御鏡家が送って来た家庭教師のもとで、一日10時間程の勉強を毎日休むことなく続けさせられた。 まさに起きている時間は、リハビリか勉強家の2択しか朝陽には用意されていなかった。 その辛さたるやリハビリで病院内を歩き回る途中で、休憩室にあるTVをちらりと窺う事が朝陽の楽しみだったくらいである。 病院で患者に苦行を強いる様な事許されていいのかと朝陽は思ったが、そう言えばこの病院は御鏡家の息がかかっているとか言っていたな、とすぐに諦めた。 そして地獄の様な長い1年が経った頃、再び御鏡家から使者が現れ、御鏡の家で暮らすように通達を受けたのだった。 一方的な通達と言えばそうであったが、朝陽に断るすべなどなかった。 記憶もなく、先立つものもない朝陽が、この先天涯孤独で生きていけるはずもなく、その顔も知らない家族にすがる他なかったのだ。 ちなみに、朝陽が入院している間、朝陽の家族を名乗る者の見舞いはなかった。 自分は嫌われているのではないか、と朝陽は思っている。自分がこれから御鏡家で暮らす事を歓迎しているものなど居ないのではないか、と。 以前の自分が家族に対し何をしでかしたのか知らないが、一年ぶりに目覚めた家族のもとに見舞いに来る人間が一人も居ないというのはあんまりだと思う。 その事を考えると、これからの生活への不安で胃がキリキリしてくるので、朝陽は出来るだけ考えないようにしているのだが。 「ま、なんとかなるだろ」 不安はある。むしろ、いっそ清々しいくらいに不安しかないのだが、そう思って切り替えないとやっていけない。 大体、もう目を覚まさないだろうとさえ言われるような大事を経験したのだ、故郷でぼっちになるくらいなんて事はないだろう? そんな事を自らに言い聞かせている朝陽の眼前に、一台の車が止まった。 「おいおい……」 朝陽は、思わず呟いた。朝陽の前に滑るように現れたその車は、黒塗りで妙に車体が長く、所謂ベンツと呼ばれるものだった。 こんな田舎町で、まさかこんな代物を見る事になるとは思っていなかった朝陽は、目を丸くした。 春の麗らかな日射しを受けて、漆黒の車体がきらりと目にまぶしい。 まさか毎日洗車してるんじゃないだろうな。朝陽は、ふとそんな事を考えた。 車のドアが開き、まず運転手が降りてきた。黒のスーツを着た几帳面そうな、初老の男。 彼は車のドアを閉めると、呆然と成り行きを見守るしかない朝陽に向かってぺこりとお辞儀をする。 慌てて朝陽も座ったままお辞儀をしかえすが、まだ事態を把握しきれていないせいか男を上目遣いでとらえたまま、しげしげと男を観察する。 そんなあまり行儀の良いとは言えない朝陽の行為を咎める事もなく、男はさっさと反対側の後部座席の方へと回り、ゆっくりとドアを開いた。 スッと車の中から足が伸びてくる。 一目で女性の足だと分かるくらいの細さのけれど、どこかふっくらとした足。黒いストッキングに覆われてはいたが、何だか朝陽は恥ずかしい気持ちになってしまう。 ――果して車の中から降りてきた人物は矢張り女性で、とてつもなく美しい人だった。 その女性は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。 その所作は洗練されていて、ベンツから降りてきたという事実を省いても彼女が生粋のお嬢様と呼ばれる存在である事が窺えた。 297 :翼をください 1 ◆.MTsbg/HDo :2010/12/16(木) 22 33 38 ID +Dw3/ozY 春の日向で煌めく艶やかな黒髪はすっと腰のあたりまで伸び、ベンツの漆黒に勝るとも劣らない。 透き通るような白い肌は何処か儚げな印象を抱かせ、朝陽は思わず日傘をさしに駆けつけてやりたい気分になった。勿論、日傘なんて持っていないけれど。 身長も女性にしては高い方で、恐らく朝陽よりは小さいが、あまり差異はないように見えた。 といってもモデルの様にスレンダーという訳でもなく、適度に肉付きが良く、女性的なふっくらとしたラインを描いている。 年の頃は、朝陽とあまり変わらないようで、何処か見知らぬ学校の制服を着ていた。学校帰りなのだろうか? そして、なにより朝陽の視線を集めたのが、その胸である。 体の凹凸があまり目立たない制服を来ても尚、ぐいと衣服を持ち上げるその胸は、余り女性と接しなれていない思春期真っ盛りの朝陽にとって、目に毒であった。 かああ、と顔が熱くなっている事を自覚し、何とかごまかそうと服をパタパタさせてみる。熱いなあ~とかそんな感じで。 「あー、熱いなぁ~」 言葉に出して、更に誤魔化し強化を図る。顔をそむけ太陽を睨むふりをするものの、矢張り視線はちらちらと胸元に。 そんな朝陽に女性は、くすりと笑みを漏らした。 「あ……」 足元に咲いている、小さく、可憐な花の様な微笑み。その笑みに思わず朝陽は、見惚れてしまう。 さっきまで胸が気になって仕方なかったのに、彼女の笑みに釘づけにされた。 「久しぶりだね、朝陽」 不条理だ。これだけ容姿と生まれる家に恵まれて、その声さえも美しいなんて。 そのぷっくりとした紅唇から、だみ声が聞こえてくるとは思っていないが、もう少し分かりやすい欠点があっても良いんじゃないだろうか。 目の前の少女は完璧すぎて、まるで現実感がないようにさえ朝陽には感じられた。 「……て、え、俺?」 数秒遅れて朝陽の脳が、彼女の言葉を噛み砕き嚥下した。 何か別の朝陽を探すように、きょろきょろとあたりを見渡す。 まだ朝陽と言う名前に慣れ切っていない事もあるにはあるが、彼女の口から零れると自分の名前が自分の名前でないかのように感じたのだ。 しかし周りに「あさひ」はなく、空を見上げても今は昼である。 第一、人でないものに久しぶりね、なんて話しかけるわけがないのだが、それくらい朝陽は混乱していた。 「そう。私が呼んだのは、御鏡朝陽、貴方」 フルネームで呼ばれ、さすがに朝陽も自分が話しかけられている事を理解する。 この少女、やけに親しげである。朝陽とはどうやら初対面ではなさそう、である。 しかし、こんな美人と知り合いだった記憶はない。といっても朝陽の記憶は1年分しかないのだが。 という事は、記憶を失う前の知り合い、という事になる。 もしかしたら、朝陽が記憶を失っている事を知らないのかもしれない。 「……あ、えと」 どう切り出そうか、と困惑気味に顔を曇らせる朝陽であったが、直ぐにその表情は驚きに塗りつぶされることになる。 少女がいきなり抱きついてきたのである。 「ちょ、え、え!?」 何でやねん、である。TVで何度か耳にしただけの関西弁を朝陽は、心の中で力いっぱい叫んでいた。 唐突に現れた謎の美少女が、これまた唐突に抱きついてきた。 無意識なのか、はたまた意識的になのかは分からないが、少女のわがままボディが朝陽に押し付けられている。 ふにょん、という間の抜けた効果音が朝陽の中で再生された。 脳がしびれるような甘い香り。それは麻酔の様に、朝陽をからめとる。 こんな熱烈な抱擁、もしかしてこの少女は記憶を失う前の恋人だったりするのだろうか。だったら、かなり羨ましい。 自分の事ではあるが、基本的に記憶を失う前の朝陽と今の自分とを別人として考えている朝陽は、過去の自分に嫉妬してしまう。 朝陽が長い眠りについたのが二年前、ということはその時からすでにこんな美少女を侍らせていたという事になる。 そりゃあ、記憶を失うほどの事件に巻き込まれるわけである。自分はきっと人生における殆どの運を使いきっているに違いないのだ。 不意に、朝陽の心の中に邪な考えが過る。抱きつかれている少女の腰に、自分も手をまわしてみようか。 298 :翼をください 1 ◆.MTsbg/HDo :2010/12/16(木) 22 34 37 ID +Dw3/ozY 彼女の柔らかそうな体を、ぎゅうと抱きしめてみたい。そんな気持ちに駆られたのだ。 朝陽は、そろそろと腕を持ちあげてみる。触れるだけで壊れそうなその体に触れようとして―― 「っく、ひっ……くぅ」 ――朝陽の胸の中で、少女は嗚咽を漏らしていた。 何とか堪えようとしているのか、体を縮こまらせて、それでも朝陽を抱く腕の力は一層強く。 そ、と窺うと、少女の瞳に大粒の涙が溢れては零れていた。 朝陽は、急に申し訳ない気持ちになる。彼女は朝陽との再会に涙を流して喜んでくれているのに、当の自分は邪な気持ちに流されそうになっていた。 自分があさましい人間の様に思えた朝陽は、さまよっていた両手を少女の方において、グイと押し離した。 「きゃっ」 驚いたようにまだ涙の浮かぶ眼で朝陽を見上げてくる少女と正対し、 「一つ、言っておかないといけない事があるんです」 少女との距離を計りかねる朝陽は、無難なところで敬語を使って話す事にする。 彼女の立ち居振る舞いや雰囲気などから見ても、少なくとも自分より年下の様には見えないという理由もあった。 少女は泣き顔を朝陽にみられるのが恥ずかしいのか、顔をそむけささっと手の甲で涙をぬぐった。 それから朝陽を再び見上げ、 「なあに?」 と、首を傾げた。この少女、大人っぽく洗練された所作の傍ら、時折子供っぽい行動をとる事もあるようだ。 朝陽は、少しばかり見とれそうになる自分を叱咤するように首を数度軽く横に振り、すぅ、と一度大きく息を吸い、 「実は、俺、記憶喪失なんです。だから、貴女が一体誰なのか、覚えていなくて……」 「……」 「あの、本当にすみませんっ!」 朝陽は、がばっと頭を下げて、誠意を示す。 記憶がない事だけでなく、さっきまで邪な気持ちになっていた事もこっそりと含めた謝罪。 暫くそのままの体勢でいると、くすくすと上品な笑い声が朝陽の頭上から降って来た。 え、と朝陽が顔を上げると、やはり少女が笑っていた。 「え、えと……」 少女のこの反応を予想していなかった朝陽は狼狽え、誤魔化すように頭をかいた。 「あ、ごめんね。いきなり大袈裟に謝りだすんだもん、おかしくって」 「は、はぁ……」 「ごめんね、うん、そうだよね、朝陽は覚えていないんだよね」 そう言って笑う少女がまるで朝陽が覚えていない事を喜んでいるように、朝陽には見えた。 どうやら少女は朝陽が記憶喪失である事を知っているようだ。 まあ、良く考えてみれば朝陽とある程度近しい関係ならば、朝陽の容体について知らされていてもおかしくはない。 そして、知っていて、朝陽の見舞いに現れた事がない、という事は恋人という線は薄いかもしれない。 少しだけがっかりとしてしまう朝陽である。 ――というか、涙を流すくらい再会を喜んでくれるなら、見舞いに来ればよかったのに。それとも、あの涙はまた別の理由があるのか? そんな風に思わず邪推してしまう。それくらい、病院での1年は寂しいものだったのだ。 そんな朝陽の不満や訝しみが表情に出ていたのか、 「ごめんね、お見舞いに直ぐに駆けつけたかったんだけど、ちょっと事情があっていけなかったの。でも、本当に良かった。朝陽が目覚めてくれて、本当に……」 そこでまた少女の瞳にジワリと涙が浮かんだ。 ずるい、と朝陽は心の中で呟いた。涙なんて見せられたら、此方が完全に悪役だ。 すっかり朝陽は狼狽し、何とか場の雰囲気を誤魔化せないかと話題を探す。 「そ、それで、一体貴女は……」 慌てたせいか、少々詰問じみた聞き方になってしまったが、それは朝陽が少女と出会ってからこっち、ずっと気にかかっていた事ではあった。 「あ、そうだった。自己紹介がまだ済んでなかったね。ごめんなさい、いきなり馴れ馴れしくして。困っちゃったよね?」 「いえ……」 いい匂いがして、とても柔らかかったです、なんて言えない朝陽は言葉を濁した。 不意に抱きつかれた時の感触と香りを思い出して、かあ、と朝陽は顔を赤くした。 その理由に気付いたのか、少女は少し悪戯っぽい笑みを浮かべ、朝陽は更に羞恥を濃くする。 299 :翼をください 1 ◆.MTsbg/HDo :2010/12/16(木) 22 35 00 ID +Dw3/ozY 少女はくすくすと笑った後で、表情を引き締めて見せてから、 「はじめまして、私は貴方の姉、御鏡夜空です。ふふ、はじめましてってちょっと変な感じ」 「あね……」 「そう、姉さんでもお姉ちゃんでも、どう呼んでくれても良いよ」 恋人でなかったのは残念ではあるが、少女、夜空は朝陽の姉、という事らしい。 朝陽は、彼女を改めて観察するも、矢張り最初の頃と受ける印象は変わりない。言葉は悪いが、見知らぬ人間である。正直、いきなり姉と言われてもピンとこない。 彼女が言う様にお姉ちゃんだとか姉さんだとか呼ぶのは、少々むず痒い。 「あ、あの、以前の俺はどう呼んでいたんですか?」 「え?以前の?」 「はい、記憶を失う前の俺です」 「……何で?」 朝陽の意図を計ろうとするように夜空が顔を覗きこんできた。 彼女の整った容貌に見つめられどぎまぎしながらも、朝陽は自分の中にある考えを言葉にしようとする。 「俺は、自分を以前の俺とは別の人間だと思っているんです。 そりゃ、顔とか体とか外見は全く同じだし、以前の俺を知っている人からしたら違いはないように見えるのかもしれないけど、中身はどうしても違うから。それに……」 「それに?」 それに。色々と言い訳を言ってみても、結局は怖いのだ。 もし、記憶が戻ったら今の俺はどうなってしまうのかとか、以前の俺を知っている人からしたら今の俺なんて邪魔者以外の何物でもないのではないか、とか。 我ながらベタな悩みだな、と朝陽は思う。小説や漫画なんかの記憶喪失モノで記憶を失った人間の殆どがぶち当たる悩みで、自分もご多分にもれず、らしい。 そして、それ以上に恐ろしい事がある。それは、朝陽の心の奥に眠る、深い喪失感と罪悪感。凝り澱んだそれは、暗い絶望の色をしている。 それは朝陽が失くした記憶の残滓であるようだが、万一それに触れてしまえば絶望に飲み込まれてしまいそうで恐ろしいのだ。 朝陽はぶるりと小刻みに体を震わせた。 「いえ、何でもないです」 そう言う朝陽の顔は蒼白で、とても何でもないようには見えないが夜空は、そう、と呟くだけで特に追及しては来なかった。 「……そらねえ」 「え?」 「朝陽は私の事、空ねえって呼んでたよ」 「そら、ねえ……」 反芻するように呟いてみた。少し子供っぽい様な印象の呼び方。それを今の俺が呼ぶのは、以前の朝陽とは別人云々関係なく、難しそうだった。 それに、何処かで聞いた事があるような、とか懐かしい感じがする様な事はなかった。これは、始めから期待してはいなかったけれど。 ふむ、と朝陽は前置きの後、 「じゃあ、普通に姉さん、でいいですか?」 「姉さん……ふふっ、何だか朝陽にそう呼ばれるなんて新鮮かも」 そう言って夜空が笑った。 朝陽が敢えて夜空さんではなく、姉さんと呼ぶ事にした理由。それはきっと、心のどこかで繋がりを欲していたからかもしれない。 見舞いには来てくれなかったけれど、自分の帰還を涙をもって喜んでくれた人。 それは記憶をなくし、夜の色濃い大海に放りだされたような気持ちになっていた朝陽が、漸く実感することのできた繋がりだった。 姉さん、と呼ぶことで自分は一人じゃないんだと、そう思えるような気がしたのだ。 300 :翼をください 1 ◆.MTsbg/HDo :2010/12/16(木) 22 35 50 ID +Dw3/ozY #1-2 その後、朝陽は夜空に押し込められるようにベンツに乗りこんだ。今は、これから朝陽の住む家となる場所へ向かって移動中である。 最初の方こそ緊張でドキドキだった朝陽だったが、今では好奇心の方が勝り座り心地の良いシートをぽふぽふ叩いてみたり、車の中の様子を窺ってみたりと忙しない。 夜空は、そんな子供っぽい朝陽を柔らかい微笑みと共に暫く見守っていたが、 「ねえ、この景色に見覚えがあったりしない?」 聞かれて朝陽は、流れる景色を車の窓から眺めてみて、 「いや、ないかな」 「そっか」 夜空は朝陽の答えに素っ気なく呟いた。彼女も最初から期待なんてしていなかったのだろう。 ちなみに敬語ではよそよそしいから嫌だと夜空に駄々をこねられて、朝陽は砕けた口調で会話する事にした。 朝陽も余り敬語には慣れていないので、ありがたい申し出ではあった。 「でも、いいところだね」 「ふふ、自然だけが取り柄の何もない所よ。でも、そうね、」 半ばお世辞としての朝陽の言葉に夜空は苦笑し、窓の外に目を向けた。 その視界に映るのは、この町に対する思い入れのない朝陽とはまた違った景色なのだろうか。 「私は、この何もない町が嫌いじゃない。お気に入りの場所だっていっぱいあるの」 「お気に入りの場所……」 お気に入りの場所。朝陽は、口の中で数度そんな言葉を転がしてみる。お気に入りの場所、か。 もし、見つけることが出来たならば、その時は、朝陽はこの町の一員になれる様な気がした。 「朝陽にも見つかるといいわね」 そんな朝陽の想いを知ってか知らずか、夜空が朝陽の瞳を見据えて。 見つけられるだろうか。記憶のない、真っ白な自分に。この、初めての故郷で。 不安は尽きない。夜空に聞いたところによれば、自分の家族はあと二人、弟と祖父がいるらしい。 両親は、朝陽がまだ小さい頃に事故で共に帰らぬ人となったというが、当然その事に朝陽が感じる事はなかった。ああ、そっか。そのくらい。 その二人について、夜空は答えにくそうに言葉を濁すばかりで詳しい事は聞けなかった。 自分は家族から嫌われている、そんな朝陽の疑惑がいよいよ現実感を持ってくる。 胃がいがいがする、なんつって。そんなくだらない親父ギャグを心で呟いて、楽観的に考えようと務める。 まあ、なるようになるだろ。先の事は分からない。けれど、逃げる過去もない朝陽は、ただ愚直なまでに前へ進むしかない。 それに、ついさっきまで何もなかった朝陽だが、今はそうじゃないと思える。 ちらと横目で隣に座る人を窺う。自分の姉。御鏡夜空。 再び窓の外を眺めているその人の横顔は、美しく、まだまだ見慣れていない朝陽はどうしても見とれてしまう。 ――姉さん。 朝陽は、心の中でそう呟いてみる。 きれいなひと。彼女が自分の姉だと言う。 見舞いには来てくれなかったけれど、自分のために涙を流してくれた。 その涙が演技かもしれないという可能性を、朝陽は全く考慮に入れていない。 今のところ、朝陽には彼女以外に縋るものはなく、そんな彼女を疑っていたらこの先どうしようもないだろう。 それに、それにだ。 「ん、どうかした?」 じっと横顔を見つめる朝陽の視線を感じ取ったのか、夜空が首をわずかに傾げた。 い、いや、何でも、と、どもりながら朝陽は夜空から目をそらす。 くすくすと上品な笑い声が、隣から聞こえてきて、朝陽はさらに顔を赤くする。 きっと、この人なら。この温かい笑顔の持ち主であるこの人なら、無条件に信用しても大丈夫。そんな気がするのだ。 301 :翼をください 1 ◆.MTsbg/HDo :2010/12/16(木) 22 37 23 ID +Dw3/ozY 「でけー」 これが目的地、御鏡家を見て朝陽の感想だった。 駅から車で約5分。見えてきた住宅地を抜けて、山の方へ入り込み更に5分。 山を切り開いた所にそれは鎮座ましましていた。 家、というよりは、邸宅、いや屋敷という方がしっくりくるだろう。 純和風で、その家構えには歴史の香りがする。築10年程度はくだらないだろう。 この玄関先に来る前にも厳かな感じの門があったし、庭を含めて敷地はどのくらいになるのだろうか。 これが、自分の生まれ育った家だというのだ。 気圧され立ち止まった朝陽の手を取る者がいた。勿論、夜空である。 「わっ」 夜空はいちいち驚いて顔を赤くする朝陽をくすりと笑ってから、 「ほら、行こう」 「あ、ああ」 朝陽は夜空に手をひかれ歩き出す。 彼女の手は柔らかく、温かい。そんな事を意識して、朝陽はもうどうしようもないくらいドキドキしてしまう。 異性に対する耐性をそろそろ付けないと、これから苦労しそうだと朝陽は思うのだが、如何せん経験不足はどうしようもない。 ちなみに朝陽が通う事になる高校は共学らしく、正直喫緊の課題じゃないかと、朝陽の不安の種、その一つとなっている。 「おかえりなさいませ」 ――門扉をくぐった途端に、複数の、けれどぴたりと揃った声がかけられた。 朝陽はびくっと体を震わせるも、何とかひっ、と声を上げるのまでは堪える事に成功した。 声の主たちは朝陽の両側に並び、頭を下げていた。 家政婦というやつだろうか、着物を着た女性たちである。 まあ、これだけでかい家だし、と妙に納得してしまう朝陽である。メイド服じゃないのがちょっと残念だな、とも。 そのうち、一人の妙齢の女性が、すすと音もなく進み出てきて、 「お荷物をお預かりします」 と、朝陽の荷物を取り上げてしまった。 荷物、といっても中には何も入っていないのだけれど、女性に荷物させるのはどうかと思った朝陽だったが、時すでに遅く、荷物はその女性の手である。 仕方なく、朝陽は、 「あ、どうも……」 とぎこちなく頭を下げた。 女性はそのことに反応をすることもなく、朝陽と夜空の手元にちら、と視線をよこした。 その視線に気づき、朝陽が夜空の手を放そうと試みるも、思いのほかがっしりと握られていて外れてくれない。 長い間眠っていた朝陽の体力や筋力は人並み以下まで落ち切っていて、それは一年のリハビリ程度では戻るものではなかった。 自分が女の子の力にも勝てないことと、人前で異性と手をつないでいることに羞恥を覚える朝陽に家政婦たちの視線が集まる。 それは、朝陽の気のせいだったろうか。先ほどまで無表情に近かった彼女たちが僅かに顔を曇らせたように見えたのは。 確認しようにも次の瞬間には再び元の表情に戻っていて、 「……長旅お疲れでしょう、お部屋にご案内させていただきます」 朝陽の荷物を持った女性がそう言って朝陽を先導しようとするが、 「ちょっと待って」 と、夜空がさえぎってしまった。 「夜空様?」 「ちょっと、やりたいことがあるの。少しだけ下がっていなさい」 「……はい」 朝陽に対するものとは違う、冷たさを含む凛とした声音。 朝陽はさっきまでの印象とは正反対のそれに、つい夜空の顔をまじまじと見つめてしまう。 夜空は掴んでいた朝陽の手を、両手で包みこむようにして彼女の胸元へと引き寄せた。 ふにょんとした柔らかな感触にぎょっとする朝陽だったが、夜空はやはり柔らかく、そして温かな笑みを浮かべ。 「おかえりなさい、朝陽」 その笑みと言葉に、朝陽はつんとこみ上げる何かを感じた。 この時ばかりは、朝陽の中に周囲の目や、異性との接触を恥ずかしがる気持ちはなくなっていた。 そして、おそらく彼女が待っているであろう言葉を、 「ただいま、姉さん」 その時、自分の声は果たして震えずに言えていただろうか。 あまり自信のない、朝陽であった。 目次 次へ
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翼をください◆A23CJmo9LE 時は遡る。 とあるビルの屋上にたたずむ人ならざる美女と、どこにでもいるような少年。 モリガン・アーンスランドと浅羽直之。 「どうかしら?共闘のお願い、受けてもらえない? 悪い話じゃないと思うのだけれど」 正面に立ち顔を覗き込み、念を押すように囁きかける。 美しい目鼻立ち。 香り立つ色香。 吐息交じりの声。 さりげなく肩に置かれた手。 息を乱し、呑み込んだ自分の唾液さえもが甘露。 五感の全てに甘い香りが絡みつき、思考が鈍化していく。 全てがどうでもよくなっていく。 流されてしまえ、と胸のうちの獣が雄たけびを上げる。 冷静になれ、と頭のどこかで囁いているような気がする。 しかしそんなちっぽけな理性を獣性が押しのけるかのように、肯定の声を上げようとするが バタン!と大きな音が響く。 扉を蹴り開け、遅れたが穹徹仙が合流した。 「荒っぽいわねえ。霊体化すれば開ける必要もないでしょうに。 そういうの、嫌いじゃないけれど」 「いきなり男を攫って、あげく誘うような女性にたしなめられてもね」 軽く呼吸を整え、武装を構える。 仮初とはいえ主を攫った相手にいい印象は当然ない。 「待っていてくれ浅羽君。今、助ける」 「あら、怖い。荒っぽいわね、あなたのサーヴァント。 戦うつもりはないって、あなたからも言ってあげて頂戴」 背後から浅羽の躰に手をまわし抱きしめるモリガン。 耳元で感じる声と全身で感じる柔らかさにただでさえ平静でない浅羽はさらに体温を上げる。 穹は首元に回された手に穏やかならざるものを感じ、より冷たい視線を向ける。 「あ、アーチャーさん…」 「何だい?」 掠れた声で懇願するような主人の様子。 習得したてとは言え念話もできるようになったのに、言葉を発するのはあまり戦略的に賢くない。 にもかかわらず肉声であり――穹の念話での呼びかけにもレスポンスを返さない。 何らかの精神的、あるいは魔術的な異常状態。 そして自身もまた僅かながら尋常ならざる精神状態にあるのを自覚し、女サーヴァントを観察する。 (翼による飛行。頭部にも翼のようなものがある。 人外の異形……昼に公園で見た美樹さやかのサーヴァントにどことなく近いか?何より――) 美しい―― 人ならざる在り方に魅入られる。 視線が胸元や口元に引き寄せられ、呼吸も乱れる。 (見た目通りの、男を惑わす魔の類か。浅羽君も、それに僕も平静ではないな…) 文字通りマスターを握られている状態で、さらに魅了。 クラス補正程度の対魔力では無効化できず、この地で今まで魅了された者たちのように正気に戻してくれる誰かもいない。 その状態で、モリガンからの提案を受けた浅羽が言葉を発する。 ……湯だった頭で、彼女の誘惑を受け入れて。 「こちらの女性…えっと」 「アーチャーよ。私も、アーチャー。お揃いね?ふふっ」 「あ、はい。アーチャーさんはキャスターを倒すために協力しようって」 浅羽から発せられた言葉は予想した中ではかなりましなものだった。 もしやる気なら、とうに浅羽は殺されている。 それにマスターを人質に露払い扱いしないだけ有情と言えよう。 「君もアーチャーならキャスター相手に組もうというのは少し分かりかねるが?」 「単独ならこんな話しないわよ。厄介なサーヴァントと一緒にいるの。長物持ちだからランサーかしら?」 「僕らにそれの相手をしろというわけか」 状況的に不利な要求をされると予期するが、モリガンはそれを訂正する。 「いいえ。あなたたちにはキャスターの方を仕留めてほしいのよ。 強いお爺ちゃんは私がやるわ。彼とは昼に一度闘ってるんだけど、その決着をつけなきゃ」 獲物は譲らない。 キャスターを狙うのは、闘争を愉しめない形に貶められるのを避けるためなのだから。 楽しめる闘いを逃してなるものかと、肉食獣の笑みを浮かべる。 「……察してはいたが、かなりの好きものだな君は」 「サーヴァントですもの。色事も戦いも、英霊なら少なからずそういう面はあるでしょう? で、悪い話じゃないでしょう?ちなみにキャスターは大したものじゃない。 少なくとも体運びは完全に素人。私のマスターの方が、単純な力比べなら強いかも」 こうした詳細を浅羽が考えてまでこの状況に至ったのかは甚だ疑問だが、信じるなら悪条件ではない。 それだけなら、受諾してもよいかと思える。 そんな思考を裂く声が、響いた。 「あら、また主催者さん。お昼振りね」 「天戯弥勒。精力的なことだ」 「さっきまで――――」 浅羽が口にしようとした言葉を一睨みして黙らせる。 やたら情報は漏らすものでもない。 幸い話の方に聞き入って、こちらに意識はさほど向いていなかったか聞きとがめられることはなかった。 通達を聞きながら穹はかつて学園であった場所へ、モリガンはどことも知れぬ方角へ視線を向けていたが、それが終わると浅羽も含め全員の視線が空へと向かう。 「……私の知っている月は、もっと美しかったんだけれど」 「これじゃあ漱石の訳に誰も同意はしてくれなそうだね」 見上げた月に映る顔。 その顔が迫りゆくリミットを告げる存在であると、全員が察した。 「時間がないわよ?協力してもらえないかしら」 「そうだね。わかったよ。ちなみにキャスターの居所はどのあたりかつかんでいるのか? 今から殴り込み、というには問題あるところなら一休み入れたいが」 「海の方角。温泉街で確認しているわ」 「もう一度確認するが、キャスターは大したものじゃないと」 「ええ。私は強いサーヴァントと、したいのよ」 「……そうか。君は自分の快楽のために戦うのか。それなら納得だ」 す、と右腕を差し出し、握手を申し込む。 「僕からは名乗っていなかった。アーチャーのサーヴァントだ」 「ええ、よろしく」 浅羽の背後から抱きしめるように回していた腕を放して、握手に応じる。 すると穹はダンスをリードするように、抱きとめるように軽く腕を引き寄せ ――――屋上から地面に向けて、モリガンを全力で投げ飛ばす。 「え!?アーチャーさん!?」 驚く浅羽をよそに追撃。 落下する彼女に対して二矢、投擲。 翼を広げ、それを回避されると、そこに向けて穹自身の肉体を矢として放つ。 重力も加え加速した突進で飛翔を許さず、モリガンを地面にたたきつける。 しかしモリガンはその勢いを翼による抵抗で抑え、ダメージを回避。 地に背をつけ、反動をつけた蹴りで吹き飛ばす。 「ちょっと情熱的が過ぎるハグね?」 「天にも昇る心地だろう?いや、君には衆合地獄あたりが相応しいかな。 夜も遅いし……俺が送ってあげよう」 「そう。決裂ってわけ。残念ね、友達になれると思ったのに」 「そうだね。もしこれが人類を救うため、なーんて大義ある戦いだったら轡を並べるのも悪くはなかった」 二間ほどの距離をとりにらみ合う。 互いに弓兵、間合いを読み違えれば敗北に繋がる。 モリガンは撤退を考えじりじりと距離を開け、穹は逃がすまいといつでもダーツを放てるよう構える。 『アーチャー…アーチャー、聞こえたら返事をしてくれ』 『あら、タダノじゃない。よかった、起きたのね』 モリガンの脳裏に声が響いた。 眠っていたであろうマスターの復活に、声が僅か喜色に染まる。 『今、どこで何をしている?できれば合流して欲しいんだが』 『今?うーん、そうね。あの学園の近く…なんだけど。 もう学園って呼んでいいのかしらあれ。ほとんど廃墟よねえ』 先ほど視線を向けなかった方角へ僅かに意識を裂く。 しかしすぐに目の前の敵と、周囲からの横槍を警戒するに戻る。 『もう慣れてきてしまったな…… 理由とか廃墟がどうとか気にはなるが、とりあえず君の速度なら労せず合流できると思うが難しいのか?』 『独断で動いたのはごめんなさいね。あの小娘を見つけて、居ても立ってもいられなくって。 それにあなた、間がいいのか悪いのかよくわからないのだけど』 告げていいものか、若干の後ろめたさを憶えるが警戒の対象の特徴を告げる。 『丁度今、白い髪のキレイなサーヴァントといい雰囲気になったところよ』 するとタダノが自らと視覚を共有する感覚が走った。 『あれか。近接ステータスはそれなりだな。しかし魔力値は優れているとはいいがたい。 それに……ゴムかあれは。あとダーツ。神秘の薄い、近現代のサーヴァントだな。クラスは?』 『アーチャーと。武装的にも間違いないでしょうね』 見えない駆け引きを続ける二騎のアーチャーをよそに思考を巡らせるタダノ。 自身とサーヴァントの消耗。敵の戦力。今後の展望。 『敵マスターは?』 『離れてる。仮に来ても戦力外』 『君のコンディションは?セイバーと戦ったと聞いたが』 『撤退戦なら何の問題もないわ』 令呪を使ってまで離れる必要はない、と言外に言い含めるモリガン。 戦術的な物言いよりもプライドの問題だろうが、それもまた材料として考え……タダノは決定を下した。 『ルーシー君、そこの栄養点滴をとってくれ……そっちじゃない、その透明な液が入っているパックだ。 違う、それは尿瓶だ!そっちのチューブがつながっている方!』 『え?』 『ああ、すまない。こっちの話だ。アーチャー、君は闘ってそのサーヴァントを倒してくれ』 まさかの指示に目を見張る。 先の戦闘では撤退を指示したが、ここにきて強気になったか。 『通達通りなら急ぎ始めた方がいいだろう。事情も変わった』 『あなたの方は大丈夫なの?』 『病院にいる。手当は受けたし、装備で補っている。 むしろ僕を労るなら、僕の魔力を使い、敵を倒してくれた方が助かるんだ。 幸いブドウ糖の点滴があるから、多少消耗しても疲労で倒れる心配はない』 完治はしていなのでは。 無理はしなくてもいい。 そんならしくない言葉が口をついて出そうになるが、続くタダノの言葉にぐうの音も出なくなる。 『それに、そいつは天然ものだろう?かの魔王モリガン・アーンスランドが、据え膳を逃すなどあっていいのか?』 ゾクリ、と背筋が震えた。 この堅物のマスターはこんな科白も吐けるのか、と。 畏怖と、歓喜と、恍惚に全身を染めて、開戦。 ちまちました駆け引きをやめ、刹那に距離を詰める。 「遊んであげる…!」 腰が引き気味だったモリガンの突撃に僅かひるむ穹。 しかし即座に矢を放ち、迎え撃つ。 その矢を低空をすべるように飛行して躱し、制空権を犯す。 姿勢を起こし様に後ろ回し蹴りを放つが、それを受けつつその衝撃を利用して今度は穹の方が距離をとる。 続けざまに牽制の射。 一矢撃ち、二矢投擲。 モリガンはくるりと舞うようにそれを躱し、翼でもって宙に浮かぶ。 「やる気になったか。その方が外見通り悪魔らしくていい」 「ええ、あなたの望み通りに相手してあげる」 「望み通りはそっちだろう?誰のためでもなく、ただ戦いのために意味なく戦うのなら、僕が無意味に消してやろう」 僅かに距離を置き、視線が交錯。 互いに必殺の間合いに入った。 「ソウルフィストッ!!」 「しっ!!」 光弾。 射撃。 両弓兵の矢が、時に交差し、時に衝突し、風切り音を鳴らす。 弾けた欠片を、それた弾丸を互いに回避し、時に撃ち落とし、一定の距離を保つ。 射の腕は概ね互角。 しかし、地の利……いや天の利がモリガンに味方する。 翼を振るわせ、空を舞う。 上方よりコウモリ状の弾丸をわずかな動作で打ち放つ。 時折電線や建物が軌道をふさぐが、同じ轍は踏まない。 刹那霊体化することでそれを躱し、さらに流れ弾により少しづつだが空より障害物は減る。 対する穹に地の利は味方しない。 時に駆け、時に身を投げ、回避と構えの動作を最低限に。 強靭なゴムを引き、ダーツを放つ。あるいは肉体を弓とし、投擲する。 敵の軌道を邪魔するように放つが、二次元的に動く自分に対し、敵は四方八方自在に翔ける。 敵の光弾を躱せば足場は弾痕に乱れ、倒壊した電柱やコンクリートブロックが少しづつ足元を脅かす。 長期戦は穹に不利になりつつあった。 「まるで天に唾するようね。そうは思わない?」 悪魔(きょうしゃ)は口にする。 無為な抵抗だ、と。 「人が獣に勝利を掴み、霊長の頂点となったのはリーチが長かったからだ。 そして神が死んだのは、それを落とす文明があったからだよ」 人類(じゃくしゃ)は口にする。 ケダモノを落としてこそ弓兵だ、と。 互いにふ、と小さく笑い闘い続ける。 しかしそこに乱入者。 「はぁっ、はぁっ…あ、アーチャーさん!」 ビルの一階部分、出入り口に浅羽直之。 屋上からやっとの思いで駆け下りてきたために息を切らし、アーチャーに呼びかける。 一瞬二人の意識はそちらに向く。 そして二人はほぼ同時に動いた。 穹は浅羽のもとへと駆けながらモリガンに向けて矢を放つ。 モリガンは右腕の光弾を建物に撃ち、左腕から穹に放ち、足を止めようとする。 そして、急速に滑空。真っ直ぐに浅羽の方へと翔ける。 穹の矢が外れ、ソウルフィストがビルへと着弾。 粉塵が辺りを覆い、光弾の影響もあり、コースを変えざるを得ない穹。 その差に先んじ、モリガンが浅羽の前に立った。 瞬間、浅羽はメスに食われるカマキリの気持ちを理解した。 蠱惑的な笑みを浮かべ、こちらに手を伸ばすモリガンが目の前に。 ――――そして地に伏せ、鷹のような眼でモリガンを狙う穹が視界の隅に。 「読んでいたよ。浅羽君が顔を出せば、君はそちらに飛びつくだろうとね」 声がかかり、浅羽の視線を確かめ、反射的にそちらに体を向けるモリガン。 それもまた狙い通り、と矢を握る指に力がこもる。 僅かながら下方から角度をつけて射抜けば、浅羽に当たる心配もない。 こちらを向いてくれれば狙いもつけやすい。 心臓を、もらい受ける。 狙いはとうに定めた。 あとは射つのみ。 放たれた矢は真っ直ぐに、モリガンの左胸へと向かう。 ――――しかし、まるでその矢がどこに来るか予期していたかのように紙一重で回避するモリガン。 反撃とばかりに唇に指を添えてベーゼを投げる。 「今夜は眠らせないわよ」 ベーゼと共に唇からハート型の光弾が放たれ、真っ直ぐ穹のもとへ。 さほど速くはないが、射のために地に伏せていた穹はそれをまともに受けてしまう。 瞬間、彼はケダモノとなった。 受けた光弾はモリガンの魅了の魔力の結晶のようなもの。 無抵抗にそれを受けてしまえば、抗える男は悟りに至った救世主くらいの者だろう。 理性を失い、しかし同時に過ぎたる美に硬直し動きが止まる。 そこへモリガンが突撃。 身に纏ったコウモリと魔力が形を変える。 桃色のベール状となって周囲を覆い、他の介入を許さない淫靡な空間を作り上げる。 中に残されたのは一人の男と女。 全てのコウモリが離れ、一糸纏わぬ姿となったモリガンを前に全身を固くするしかない穹。 芸術品のような高貴さを感じる美しさではなく、男を堕落させる魔性の美。 近寄りがたく眺めていたいものでなく、むしゃぶりつき汚したくなる衝動が沸き起こる。 英雄ならぬ、反英雄の在り方。女神の美でなく淫魔の美。 その瑞々しい肉体が歩み寄るのを呆けた頭で眺め………… 魔王に抱かれるのを、受け入れた。 指と指が絡む。掌で感じるなど、知らなかった。 脚と脚が絡む。その刺激で、彼の男が小さな死を迎えた。 躰と躰が絡む。意外と鍛えられている、などと見当はずれの感想を抱く。 舌と舌が絡む。体内の水が全て奪われるのでは、というほど激しい口づけ、その刺激でさらに体中から水分を吐き出し 精も、根も貪りつくされた。 「堕ちたかしら?永遠の眠りに。おやすみなさい、素敵な夢を……フフッ」 倒れ、粒子が散りつつある穹に背を向け、桃色のベール状となった魔力を再びコウモリのごとき衣装として身に着ける。 ピロートーク染みた上気した表情と声色で、思い出になってしまった男とのひと時を思い返す。 「私相手に必死になって飛び道具を打つオトコって、ココを狙うことが多いのよね」 心臓の上、左胸を軽く握る。 柔らかく形を変えるそれに視線が刺さる気配。 「心臓を狙って?体の中心は躱しにくいから?それとも、そんなにここが気になる?」 艶美な笑みを浮かべながら問いかけ。 浅羽に向けたものか、倒れた穹に向けたものか、あるいはタダノに向けたものか。 誰も答えはしなかったが。 『勝ったようだな。さすがだ、アーチャー』 『ありがとう、タダノ。ところでどこまで見ていたのかしら?あなたなら、エターナル・スランバーの最中も覗けたと思うけど?』 『人の情事を覗き見る趣味はない。盛り上がっているところ申し訳ないが、まだマスターの少年が残っているな?』 『ええ、そうだけど』 改めてそちらに視線を向ける。 呆然としていた。 己のサーヴァントの敗北を目の当たりにしたためか、あるいはいまだ魅了に囚われたままか。 『その少年も、喰らえ。アーチャー』 『へえ』 それに対しタダノは冷酷な指示を下す。 それを聞き、モリガンは愉しそうに笑う。 『意外ね。そんなこと言うとは思わなかったわ。勿論私は構わないんだけど。 天使のように冷徹で、悪魔のように大胆で。とっても好み』 ――ニンゲンだから、仕方ないんだよな。悪魔より恐ろしいニンゲンなんだからよ―― かつてかけられた、皮肉のような、賞賛のような、侮蔑のような友の言葉。 それを思い返し、目を閉じる。 『僕は、あくまでただの人間さ。勝つために手段を選ぶことのできない、弱い人間だ。 ……少し訂正する。君がその少年を食らうことで勝算が増すなら、やってくれ』 『それなら安心していいわよ。彼の魂は無駄にしないから』 NPCよりは格段に上物だ。 なにやら奇妙な質だが、たしかな魔力も感じる。 抗魔力はほとんどないようだから、あらゆる意味で未熟なようだが。 (さすがにあの坊やじゃサーヴァントほどタフじゃないでしょうけど。 デザートには青い果実も悪くないでしょ) ちろり、と舌なめずり。 ごくり、と喉を鳴らしたのはどちらだったか。 もう一歩で手が届く。 「去れ、悪魔よ。彼への手出しは私が許さない」 そこへ介入する者があった。 白く、丈の長い、どことなく神秘的な装い。 特徴的な、目の周りを覆う白いマスク。 黒い一対の、猛禽類のような翼。 頭上に光る光輪。 それが浅羽とモリガンの間に立ち塞がり、はっきりとモリガンに敵意を向けていた。 「天使……!そう、さっきから嫌な匂いがすると思ったらあなたがいたの」 通達が聞こえたあたりから様子を窺っていたのか、妙な気配だけは感じていた。 あのサーヴァントも薄々気付いていたようだが、お互い目の前の敵に集中していたら、このタイミングで。 それに邪魔されたことにいら立ち、さらに相手がよりにもよって秩序を強制するものであると知り、美しい顔を歪ませる。 そしてモリガンを視界を通じて状況を把握しているタダノも驚きを覚えた。 『マンセマット…!』 『知り合いかしら?』 『見知った顔だ。かつて僕の仲間を一人天使に変えて、僕と殺し合わせた奴さ』 『つまり、敵ね。よかったわ。あなたが天使の味方でなくて』 誘うような手つきだったが、それを排他的な拳へと変える。 『悪いけど、さすがにアレは食べないわよ。ゲテモノ食いの趣味はないの』 排除するのみ。 そう考え戦闘態勢に移行する。 消耗はしたが、それ以上に補った。まだやれる。 距離を詰め一息に仕留めようとするが……背後に気配。 天使もまた驚いたように視線を向けているのを見て、背後を振り向く。 穹徹仙が、消えかけた体で立っていた。 「水龍なき今でも、まだ……零れ落ちる水を…掬い取るくらいはできるんだ……!」 体液に溶けた魔力を奪われまいと、激流の一滴だけだが内に残した。 そして弓兵の特長、単独行動。 霊核を失っても短時間ならば行動を可能にするそれも加わり、瀕死の穹徹仙を辛うじてこの世に残していた。 「タフね。いいわ、あなた。本当にいい…… ねえ、改めて協力しない?あの天使を敵にするために」 それを見てモリガンは心底嬉しそうに、愉しそうに笑う。 「今ならまだ、私から魔力を返されれば残れるわよ。 もし協力してくれるなら、もう一度この口から、あなたに魔力を返してあげるわ」 欲しいでしょう? 現界するための魔力はもちろん、それを返す行為が。 唇に指を当てて言外に問う。 誰もが飛びつくような、あらゆる意味で魅力的な提案だ。 だが穹は睨んで返す。 そんなことに構ってはいられないと。 (この悪魔につけば、浅羽君はいずれ骨抜きにされてしまう。 気に食わないが、俺も危ない。今も、知らず魅了されていたようだ。こいつとは、組めない。 あの天使も同じだ。見ていたならなぜ俺がこんなになるまで放っておいた? 邪魔だからだ。浅羽君をものにするのに、俺は邪魔でしかないからだ。 あいつにも浅羽君は任せられない) 残された魔力は雀の涙。 もはやしゃべる体力も魔力も惜しい。 ……念話も魔術だ。行使する余裕はない。 ならば、最期にこれだけ。 「浅羽君!病院で美樹さやかと合流しろ! 彼女の悪魔憑きなら信用できるはずだ!」 実際のところは分らない。 だが他に頼る当てもない。 走馬燈に姿を現した彼女たちしか。 三騎士ではない。暗殺者は全滅した。騎兵でもないだろう。魔術師が殴り合うものか。 ならば彼は、悪魔を宿した狂戦士。 しかしあの技巧はヒトのものだ。 あのサーヴァントは悪魔でありながら、人でもあるようだった。 異端児というのはどこでも排他される。 この天使も、この悪魔もアレは敵にする可能性が高い。 それに美樹さやか…彼女は悪い人じゃなさそうだったから。 ……思い悩んでも仕方ない。 今僕ができる務めは、この悪魔と天使を殺すことだ……! 悪魔も、天使も、人より長い歴史を積んでいるのだろう。 この人の身に持つ神秘では、英霊としての格では及ばないのだろう。 だがそれがどうした。 穹徹仙の歴史は及ばずとも、一族が研鑽してきた武の血統なら、劣ることはない! 「Fが一人、穹家頭首、穹徹仙! その最期の一矢、受けるがいい!」 中らざれば……貫かざれば……久しからずば……全て死。 上体をそらし、肉体を弓とする。 上腕に力を籠め、過剰な筋力により流れ出た血を矢とする。 この存在、魂の全て、残された魔力を力に回し弦とする。 全てを懸けた一撃。 蒼穹をかける、一矢。 ――――それは一条の流星のごとく。 「ッッテラァァァァ!!!」 離れ。 全てを込めた血の流星。 これを放てば、もはや消え去るのみ。 未練はない。 たった数度にすぎないが、水龍とは異なる力で、弓‐あるじ‐と矢‐おのれ‐を繋ぐことはできたのだから。 (さよならだ、仮初の主にして真実の友。生きてくれ) 轟音。 弾が空を切る音が響きわたる。 その流星は天使と悪魔がいた場所も軌道の一部として呑み込み、わずかな閃光を名残として即座に見えなくなる。 その後に、穹徹仙の姿はなかった。 【アーチャー(穹徹仙)@天上天下 死亡】 ……後に残されたのは二つの影。 一人は浅羽直之。 尻もちをついて放心している そんな彼にもう一人の影が歩み寄り、手を差し伸べる。 「立てますか?アサバナオユキ。よければ手を貸しましょう」 その正体は大天使マンセマット。 射線上にいたにも関わらず傷一つない。 「あなたは…大丈夫なんですか?あんなに凄いのに……彼女は消えてしまったのに」 周りを見渡す。 矢の余波で先ほどまでいたビルの窓ガラスは残らず砕けていた。 射線上の建物のいくつかは貫通した穴があり、そこからいくつかは崩れていた。 穹は全てを使い果たし、この地から消えた。 あの女アーチャーもまた、影も形もない。 「ええ。神のご加護です。私に人の手による銃撃に類する攻撃は一切通用しません。 原初の力たる炎や雷を纏えばまた別ですが。 さ、それより手を。お立ちなさい」 差し伸べられた手を今気づいた、とばかりに慌てて掴み立ち上がる。 軽く引いたその手――正確にはその手に宿る令呪――をじっと見るマンマセット。 「足取りはしっかりしていますね。あのサーヴァント、最期に余計な魔力を持っていかなかったのは評価してもいい。 令呪も残っている。これならまだ戦う権利は残されていますが、あなたにその意思はありますか?」 その言葉で現実に目を向けさせられる。 もう、穹はいないのだと。 ――だがすでに現実感など失せていた。 突然の発熱。 公園で見た激闘。 突如芽生えた超能力。 この時点で方針など頭の内から失ったに等しい。 呼びかけられたことも無視して、ただ穹に導かれるままに。 巨人を見た。 主催者と会い、訳の分らぬ問答。 そして……彼女と出会った。 今まで見た何よりも、誰よりも美しいヒト。 夢でも見ているのではないか。 彼女と会ってから、急速に浮足立ってしまい思考は回ってなかった。 「彼女…あのアーチャーは」 「あの悪魔が気になっていますか。仕留められていればこちらとしても喜ばしいのですが……」 周囲を軽く検めるマンマセット。 しかし特に収穫はなかったらしく、軽く嘆息して終わる。 「何の痕跡もない。恐らくまだあの悪魔は生きている。 戦い続けるなら、再び敵として巡り合うこともあるかもしれません」 まだ、生きている。 また、会うかもしれない。 前を見据えると、マンセマットと目が合う。 「ほおう。どうやら戦意はあるようだ。よろしい。 ならば、私からあなたに天使を贈りましょう」 「天使?」 何のことか、と疑問を憶えるが、それを口に出す間もなくマンマセットが懐から何かを取り出す。 それは白い羽だった。 今までに見たこともないような白さの、生き物のものか疑わしい、美しい羽。 「これは人の科学が天使の域に刹那届いた証。 天使とならんとした、勇ましきイカルスの如きニンゲン、その羽です。 彼の死後残ったこのフォルマを触媒とし、その人間をあなたのサーヴァントとして預けましょう」 「フォルマ?」 「悪魔、あるいは天使から奪った力の結晶を一部のニンゲンはそう呼称するのです。 これはこの地で散った、天使に近き者の力の欠片」 その羽を地に置き、奇妙な魔方陣を描いた。 離れるように手招きされ、それに従って方陣から距離を置く。 「これより召喚の術式を行いますが……その炎を人の子が見ることは許されません。災いをもらいますから。 私が合図したら、目を閉じて、再び合図するまで開けないでください」 「あ、はい。わかりました」 「では、目を閉じて」 指示に従うしかない。 何も映らない世界の外で、なにやら人のものとも思えない言語が紡がれている。 ……何か、一瞬ノイズのような雑音が走った気がしたが。 その直後に光が発され、瞼の裏まで真っ白に染まり、 轟音と、強大な気配が現れた。 「終わりました。もう目を開けても結構ですよ」 目を開いたそこには天使の横に、一人の男が立っていた。 陣の中心に置かれていた白い羽。 それと同じように白い翼を6枚背に生やし、それと同じくらい白い装いをしていた。 「……お前が、俺のマスターか?」 「私ではなく、そちらの少年に力を貸してあげてください」 指し示されて浅羽の方を向く。 歩み寄る男のどことなく恐れ多い雰囲気に呑まれる。 「では、私はこれで、アサバナオユキ。あなたが魂を磨き、神の歌唱に耳を傾けるよき霊であることを願っています」 「あ、待って。待ってください、名前とかいろいろ……」 「これは失敬。私はマンセマット。神の代弁者です。あなたがよき霊であるなら、また見えることもあるでしょう」 そう言い残してマンセマットは去っていった。 後に残されたのは浅羽と、白いサーヴァント。 「で、お前が俺のマスターでいいんだな?」 「あ、はい。たぶんそういうことになります」 余所余所しい距離感。 雰囲気から察するにこのサーヴァントも天使とかの類なのだろうか、と未だに呆けた頭で思考する。 「場所を移すぜ。騒ぎすぎだ、いつ野次馬が来るか。 ……俺の外観は目立つ目立たねーってもんじゃねえしよ」 真っ白な服装に翼と、メルヘン染みた男はそう語り、先行する。 別段当てがあるわけでもない、ココではないどこかへ。 そうして足を向けた方角は偶然にも、少しだけ話題に上がった方で。 「あ、そっちのほうにはキャスターのサーヴァントがいるって――――」 伝え聞いていただけの、不確かな情報。 なんとなく、そっちは嫌だなと思うが、明確に呼び止めるほどでもない。 そんななんとなく口を突いて出た言葉。 それに、白いサーヴァントは文字通り跳びついた。 「なんでそんなこと知ってる?そのキャスターってのはどういうやつだ?」 掴みかかるような勢いで詰め寄る。 端正な面立ちに狂気と憎悪を浮かべ、答えを誤れば殺されるのではないかと恐怖する。 「あの…さっき、聞いただけで。えと、戦ってたアーチャーの敵だから協力して倒そうって言われて。 それで居所だけ聞いてて、どんなやつとかは、ちょっとよくわからないです」 滅裂な情報の羅列を咀嚼するサーヴァント。 少しすると落ち着きを取り戻し、僅かな憎悪の名残を歩もうとした方角に向ける。 「あのクソアマか?だったら嬉しいねェ。殺してやるよ。再会の記念にぶち殺してやる。 いい情報に感謝するぜ。で、俺はそいつを殺りにいきてえんだが異存はあるか?」 え……と声が漏れる。 否はない。 だが迷いはある。 事態の推移についていけていない。 「お前も聖杯は必要なんだろ?なら、俺たちは協力できる。 俺がお前を勝たせてやるから、お前も俺を勝たせろ。手始めに、キャスターを殺す。 手を貸せ、マスター」 天使というにはあまりに傲岸で、俗な科白だったが、だからこそ……同意できるものがあると思えた。 聖杯。 目的のために……彼女との再会のために。 こくり、と小さく確かに頷いた。 「よし。名は?マスター」 「浅羽、直之です」 「オーケイ。浅羽、よろしくな。俺は…ん?」 名を交わし、主従の契約を果たそうとするが、少し悩む素振り。 浅羽の頭部をじっと眺め、目を閉じて集中するそぶり。 「…少し違う。が、力はある。足りないが……少し足してやるか。丁度いい」 ぶつぶつと呟き、翼を震わせる。 そのうち一枚が浅羽へと大きく近づく。 その異形の接近にのけぞってよけようとするが 「びびんな、痛くはねえよ。力をやる」 そういうと翼が一枚、男の背を離れて浅羽に飛びつく。 ずるずるずる、と何かが――白い翼のようなものが――体内に入り込む不気味な感覚。 「な、なにを――――」 「サンプル・ショゴス。外なる存在の名を冠する、代替機関みてえなもんだ。 人体に入りこんだのち、脂肪の代わりの機能を果たす。今回は特別性だ、魔術回路の代用も兼ねる。 ついでに、お前も能力者の端くれみてーだからな。上手くすりゃ、武器にもできる。 これが俺の宝具の一端……自己紹介がてら、出会いを祝して贈り物だ」 どことなく攻撃的な笑みを浮かべ。 翼を収め、向き合い。 そして我が意を得たりとばかりに改めて名乗る。 「バーサーク・アサシン。垣根帝督だ。ここに契約は完了した」 天使の手による召喚で、その外観を純白に染め上げ。 かつてのように、自らを殺めた超能力者への漆黒の殺意と狂気に心中を満たし。 垣根帝督は再臨した。 通常、サーヴァントにとって聖杯戦争の記憶というのは強い実感を伴わない。 そのため、ひとたび脱落し、再度召喚された際にはそれ以前の聖杯戦争の記憶は残らないのがほとんどだ。 しかし、垣根帝督は復活の逸話を持つ英霊。 四肢を失い、脳を三分割され、生身の臓器を失い、ただ能力を吐き出すだけの機械のような存在となっても。 垣根帝督は生きており、そして自らの肉体を形成して復活した。 幾度も、幾度も。 プラナリアが記憶を保全して復活するように。 ネズミという個体を殺しても、ネズミという種は死なないように。 『垣根帝督』は、再びこの地にいた『垣根帝督』として蘇る。 (ああ、はっきり覚えてる。食峰祈操ィ……俺を殺させたクソ女。 今度は俺が、お前を殺してやる) もう片方のキャスターかもしれないが、それならそれで仕方ない。 そいつも殺すだけだ。 「あの、えーとバーサ―…?」 「ああは言ったが、まあアサシンでいい」 「それじゃあ、アサシンさん。お願いというか、提案があるんですけど」 「なんだ?」 ぐずついたガキかと思ったが、何かあるのか。 続きを促す。 「もう一騎、サーヴァントがいるらしいんです。それは放っておいてもいいじゃないかって」 「あ?どういう意味だ」 「キャスターよりはずっと強いって。でも、キャスターさえ倒せばそっちはやりたいって言ってるサーヴァントがいたんです」 黙考。 さほど意味のあることとも思わない。 通じているのか。 怪しくはあるが、否定して関係に余計な皹を入れる必要もない。 用心はしてあるし、問題はない。 「邪魔しねえなら、殺すのは後に回してやってもいいさ」 それだけでも納得したらしく沈黙した。 ……ボケてるのかと不安になるほどに何を考えてるのかよくわからんやつだが。 布石は打った。 サンプル・ショゴス。 体内に寄生した未元物質は脂肪を排除し、その代替機能となる。 魔術回路としても機能し、魔力量も増す。 宿主を守る武装にもなり、能力者になら多少操れるようにも調節した。 ――――それを失くせばどうなる? 魔術回路が、脂肪がなくなれば。 人体は機能を維持できず、死に至る。 前回はマスターを操られ、令呪によって殺された。 もしそうなりかけても、それ以外の事情でマスターが俺を裏切ろうとしても。 未元物質は抜け出し、こいつは死に至る。 同じ轍は二度踏まない。 (こんどこそ、殺す。食峰) 黒く染まった思考で考える。 ……しかし同時に、それに僅かながら自己嫌悪も覚える。 (ちっ、狂化の影響か。思考が短絡化してやがる。あの天使、なんでこんな面倒な属性つけやがった?) 天使。 学園都市の理事長、アレイスターも触れんとした域。 あるいは魔神とかいうやつに近いのか。 呼び出したのには感謝してもいいが、狂化付与とは余計な真似を。 それに (なんだよ、この格好。未元物質使うたびに似合わねえデザインになるのにも嫌気がするってのに。 全身白に、やたらと襟立てやがって。餃子かよ。何が天使だ、センスの欠片もねえ) まったく (デビルダセえぜ、くそったれ) 苛立った素振りを見せ、北上を始めたアサシンの後を追う。 小鳥が親鳥の後を追うように、反射的に、深い考えなく。 ひたすらに目標に向かって。 彼女と、再び出会うため。 目を閉じればリアルに思い出せる ――わたしも、浅羽のためだけにt―― 思い出せる、はずだった。 ――私一人じゃ寂しいから貴方達もお願い―― その女の子以上に、色濃い女性の記憶ができてしまった。 彼女の言葉を。腕を。温もりを。 そして、桃色のベールの中で彼女が穹徹仙に何をしていたかも、彼の視界を通じて知ってしまった。 それは穹の最期すら記憶の彼方に放ってしまうような衝撃を与え。 結果、浅羽直之は、モリガン・アーンスランドの魔性に囚われてしまった。 願いは変わっていない。 しかしその道中、彼は願ってしまうだろう。 再び夢魔と出会うことを。夢魔の目的の妨げにならないことを。 もし彼が、愛する人の幻影を200年以上追い続ける錬金術師であったなら。 海賊女帝の魅了に靡かない海賊王であったなら。 揺らぐことはなかったかもしれない。 だが、彼はどこにでもいる少年だった。 大きな力に流されことしかできず、この地でもひたすらに揺蕩ってきた少年は魔王の魅了にも流される。 水の龍でもなくば、この流れを変えるのは難しいだろう。 【バーサーク・アサシン(垣根帝督・オルタ)@とある魔術の禁書目録 霊基再臨】 【C-3/町中/二日目・未明】 【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】 [状態]魔力消費(中)、魅了状態 [令呪]残り3画 [装備]サンプル・ショゴス(未元物質) [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:彼女のため、聖杯の獲得を目指す。 0.多数の埒外の事象に加え、魅了状態に伴う現実感の喪失 1.垣根と共に温泉にいるというキャスターのもとへ 2.キャスターと共にいるというサーヴァントはアーチャーさんが闘いたいらしいから、できれば相手にしたくない [備考] ※PSI粒子の影響を受け、PSIの力に目覚めかけています。身体の不調はそのためです。 →念話を問題なく扱えるようになりました。今後トランス系のPSIなどをさらに習得できるかは後続の方にお任せします。 ※学園の事件を知りました。 ※タダノがマスターであることを知りました。 ※まどか、ライダー(ルフィ)を確認しました。 ※巨人を目撃しました。 ※天戯弥勒と接触しました。 ※モリガンを確認しました。 ※未元物質が体内に入り込み、脂肪、魔術回路の代用となっています。これにより魔力量が増大しています。 また武装にもなり、宿主を守るよう機能します。PSIを利用できればある程度はコントロールもできます。 ただし、脂肪をすべて排泄してしまっているため、これが抜け落ちた場合何らかの対処をしなければ死に至ります。 【バーサーク・アサシン(垣根帝督)@とある魔術の禁書目録】 [状態]健康 [装備]天使の装い [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を勝ち抜く。そして一方通行を殺す。 1.食峰祈操は殺す。 2.北上し、温泉にいるというキャスターのもとへ。 3.もし浅羽が裏切るか、食峰などに操られたら切り捨てるのもいとわない。 [備考] ※鬼龍院皐月がマスターでは無いと分かっています。 ※屋上の異変に気付きました。 ※夜科アゲハがマスターであると断定しています。 ※リンク、犬養、食峰を確認しています。 ※アサシンのころの記憶はほぼ全て覚えています。 ※審判者ゼレーニン@真・女神転生 STRANGE JOURNEY のような衣装になっています。 なぜか未元物質が翼の形になってしまうのと同様、デザインを変えることはできないようです。 ※ステータスはアサシン垣根帝督のものとほぼ同様です。 ただし狂化の属性が付与されたことで、知性は保ちつつも、一方通行への復讐に囚われていた時期以上に狂暴化し、思考も短絡化しています。 【全体備考】 ※C-3の街中において、穹の放った弾丸でいくつかビルが損傷しています。 それ以外にも戦闘の余波は伝わっているでしょう。 ◇ ◇ ◇ 水龍の名残、血の一矢。 それを受けたはずの悪魔は、病院にいた。 不機嫌そうな顔でベッドに横たわる男性の腰辺りにのしかかり、詰め寄る。 「コレは、どういうつもりだったのかしら?タダノ」 栄養点滴のためにスーツの一部を取り外し、露出した左腕。 そこに覗く、二画の令呪を撫でて睨みつける。 あの男――穹と最後に名乗ったか――が放たんとした一撃を目の当たりにした瞬間、脳裏に強く声が響いた。 『令呪を以て命じる!直ちに帰還しろアーチャー!』 絶対命令権の行使。 時に魔法すら再現するそれによって、モリガンは戦場から主のもとへと、空間を超えて舞い戻った。 不承不承、どころでなく、極めて不本意ではあるが。 「言葉通りだ。切り上げるにはあそこが目途だと判断した。あれ以上は消耗の方が大きい。 まだ敵はいるんだ。引き際はわきまえなければ」 アーチャーに搦めとられ、喰われてなお放とうとした決死の一撃。 受ければ確実にただでは済まなかった。 「あれを倒せと言った目的の一つはこのスーツのレベルアップ。 ひいては僕の戦線復帰だった。一応、その目的は果たせたよ。 それに、マンセマットまで出張ってきたんだ。いったん状況を整理する意味でも合流したかった」 それはその通りだ。 だが、言いたいことはある。 そう、躍起になって口を開こうとするモリガンだが 「なあ、あーちゃん」 もう一人、蚊帳の外だった男が口をはさんだ。 「おれは何が起きてたのかよくわかんねーけど。 なんかすげー奴が出てきたっぽいってのは分かった。 お前がそこから逃げてきたのも」 「別に逃げたわけじゃ――」 「逃げるのは間違いじゃねえよ。仲間を死なせないために、仲間にまた会うために逃げるのは、絶対間違いじゃない。 おれは、またお前にあえて嬉しいぞ」 無邪気な笑みで、帰還した女傑を改めて歓迎するルフィ。 にしし、と笑うその顔を見ていると、なんだか苛立っているのが馬鹿らしくなってきた。 ……一応は借りのあるこの男が言うなら矛を収めるもやぶさかではないか。 そう考えて、タダノの上から降り、衣装もまた戦闘時の一張羅から元に戻す。 「…そうね。次の戦いのためのインターバル。そう思うことにしましょう。 タダノの言う通り、考えることも増したことですし」 隣のベッドに腰を掛け足を組むモリガン。 近くにあった椅子を引き寄せ、そこに座るルフィ。 モリガンがどいたことで自由度を増し、態勢を起こすタダノ。 「さて、何から話すかな。とりあえずコンディションを確認しようか。 僕の傷は当然治ってはいないが、このスーツのバックアップがある。 今しがたの戦闘でレベルアップしたことで、ダメージを補うことができている。 着ている間は問題なく動けるよ。アーチャー、君は?」 「今の戦いでのダメージはほとんどないわ。橋でセイバーと戦ったから、そのダメージはあるけど。 それも天然ものを味わえて、ほとんど問題ないくらいよ」 「なるほど、何よりだ。ルーシー君は?何か不調はあるか?」 「腹減った!」 「……あとで食事に出るか」 サーヴァントに食事は不要なのでは、と疑念がついて出るが、このアーチャーも刺激がなければ死んでしまうという存在だ。 食事を抜け、というのも聊か酷ではあるし、機会があれば。 「その戦闘について、あとで詳しく教えてくれ。まどかちゃんは休んでいるが、特に負傷などはない、と」 「ん、大丈夫だ。なんかぶつぶつ言ってたけど」 全員のコンディションはおおむね把握。 内面的にはともかく、肉体的には食事や装備でフォローできるレベルのハンデだ。 最悪、今すぐここを飛び出すこともできなくはない。 「まず気になるのは通達か。アサシンが一騎、マスターが二人脱落した」 「妥当な線ね。戦力で劣るアサシンが落ちて、そのマスターと昼に言われたはぐれマスターかしら。 帰ったのはともかく、落ちたアサシンはたぶん私がさっきまでいた学園のあたりでしょうね」 モリガンの収集した情報……本人はそのような意図はなかったろうが。 あふれる魔力に引き寄せられ、垣間見た闘争と、その成れの果て。 巨人の手で崩落した学園。 「遠目に巨人を見ただけだから細かくは分りかねるけど、相当な規模の戦いだったみたい。 サーヴァントの気配も一つや二つじゃきかなかったから、そこにアサシンがいたんでしょ」 「なるほど。君が惹かれたのはそういう訳か」 「へー、巨人族までいんのか。面白えーな」 僅かなものだが、敵の動きとして貴重な情報。 さらに学園倒壊となれば警察官の役割を当てられているタダノに仕事が増えるかもしれない。 連絡が来る前に知れたのは大きい。 「そのあとすぐにあのアーチャーとやり取りしていたから、私からは他に語ることはないかしら…… あとは、そうね。北の温泉街であのキャスターを見つけた報告と。 あの天使について聞きたいかしら」 いつの間にか通達についての議論から話題がシフトしつつある。 落ち着きのないサーヴァントだ、と思いつつも他に語ることも特になし。 あの月については気になるが、現状議論できる材料もない。 モリガンの話に応じるタダノ。 「あいつ、マンセマットの事か。ルーシー君は把握していないが、先ほど天使がアーチャーの前に現れて、僕らの邪魔をしたんだ」 「天使?コニスみたいな?」 「そのコニスというのが誰の事かは知らないが、一般的に想像する天使の姿を思い描いてくれ。 白い格好に猛禽類の翼をした、神に仕えるあれだ」 「モウキンルイってなんだ?」 「……鷲とか鷹みたいな大きな肉食の鳥のことだ」 ああー、あれか。そうか、と納得したような調子を見せる。 本当に分かったのかは定かではないが。 「なんで邪魔したんだ?」 「なぜ。なぜか。なぜだろうな……」 あれもまた聖杯戦争の参加者なのか。 ステータスは見えなかったから、だとするとマスターだが。 いや、それは考えにくい。 仮にも天使が、聖杯戦争に参加するか? 聖杯とは神の子の血を受けた聖遺物。 人より天使の領分に近い。 それを人と同じ土俵で奪い合う闘争に身を投じるか? むしろ、聖杯を掲げて参加者を煽り立てる方がしっくりくる。 「いくつか考えはある。 一つは、天使であるあいつは悪魔であるアーチャーが気に入らず、その邪魔をした。 もう一つ。以前彼の計画を邪魔した僕が気に入らず、そのサーヴァントであるアーチャーの邪魔をした。 最後に。たぶん、これが本命だと思うんだが」 やつの所業を思い返す。 奴の目的とやらを思い返す。 「あいつが庇った少年。彼を天使とし、自らの計画に利用しようとしている」 ゼレーニンと同じ道を彼に歩ませようとしているのではないか。 「天使になる?そりゃーいいことなんじゃないのか?」 「そう思うかい、ルーシー君。その天使というのが、自らの力で思うようにならないものを排除したり、洗脳して思うままにしようとしているとしても?」 ジャック部隊の…惨状。 自分を失くした彼らの姿は、正視に堪えなかった。 僕自身、あの歌声に揺らがされそうになり、そして倒れる仲魔を見た。 そんな振る舞いを何の葛藤もなく行うゼレーニンの姿もまた、できるなら見たくはなかった。 マンセマットは、あの少年もそうした天使にしようとしているのでは。 「マンセマット自身の歌は人に効き目が薄くなっているらしい。 だから代弁者、とは名ばかりの蓄音機を探してるんだろう。利用しやすい、手ごまを」 「…そっか。コニスじゃなくてゴッドみたいなやつなのか」 「洗脳、ね。そういうのは好きになれないって言ってるのに。おまけに天使。救いようがないわね」 うっすらとだが、英霊二人の顔に戦意が宿る。 向けられる対象が自分でないとわかっても、それには聊か畏怖を憶えた。 「あくまで仮説だ。とはいえ、僕とアーチャーは間違いなくあいつと仲良くはできない。敵対することになる」 「生きてるかしら?たぶん、あのアーチャーの攻撃を受けたと思うけど」 「勝算がなければ出てこないよ、あいつは。肝心な局面まで全て僕たちに投げ出し、いざ僕が闘う構えを見せればさっさと引き上げていった。 生きている、そう考えるべきだよ。 マンセマットの実力は闘っていないので何とも言えないが、奴の手で天使にされた人はもとは一研究者に過ぎない女性にもかかわらずかなりの強さだった。 あの少年が天使になった場合、相応の難敵と考えていい」 厄介な敵が増えた。 それは事実だ。 「しかし、マンセマットがいるということは……聖杯がキチンと存在する可能性も極めて高いということだ。 天使であるアイツなら、多少の知識は持ち合わせているだろう。 万一を考えて、あいつからはその情報も手に入れたい。奴が持っているなら奪い取ることも考えよう。安易にはアイツの命を奪わないでほしい」 悪魔と天使。 双方から宇宙卵を奪ったように、その時が来ればマンセマットか、あるいは天戯弥勒から、聖杯を奪いとる。 「ひと手間かかりそうね。まあ、少しくらいなら付き合ってあげるわよ」 「おれはよくわかんねーけど。まどかもお前も欲しいものがあるっていうならしょうがないな。うん、しょうがない」 ひとまずの協力を得られて幸い。 ルーシー君とは、聖杯をめぐりいずれ破局するだろうか。 ヒメネスや、ゼレーニンのように敵にしなければならないのか。 ……今は、味方だ。それを喜ぼう。 それにマンセマットに聞きたいことはもう一つある。 あいつの歌は人間には効き目が薄いといっていた。 ならば天使にはどうなのだ?相応の効果を発揮するのではないか? あいつの手によって、天使へと変えられたゼレーニンは、あいつの手で洗脳することもできるのではないか? ……都合のいい妄想だとは思う。 彼女が変わってしまったのは、全て奴のせいだと思いたいだけだと。 しかし機会があれば確かめたいとは思っていた。 聖杯のついでくらいに望んでも、損はしないだろう。 「サーヴァントとマスター以外にも敵がいることは覚えておいてくれ。 一応距離をとった以上、どうなるかは未知数。直近の方針はまた別になるが」 「それじゃあやっぱりあのキャスターのところにいかない?こうして合流もできたことだし」 敵として…否、獲物として見定めた女。 居場所もつかんだ魔女に余計な真似をされる前に仕留めたいと提言。 「それも一つの考えではあるな。だが、もう一つ気になる情報がある。 あのアーチャーが言っていたこと…〈病院でミキサヤカの悪魔憑きと合流しろ〉だったか? ここだと、思うか?」 デコイの可能性もあるが、今際の言葉でマスターまで混乱させるとは思い難い。 あるいは何らかの符号だったらお手上げだが。 その名前を聞いてうなり始めた相手に声をかける。 「どうかしたか、ルーシー君?」 「う~ん。どっかで聞いたような気がするんだよな~。さやかって」 唸ってはいるが答えは出ない。 答えは出なそうだと判断して話す相手を変える。 「アーチャー、少し出るのは待ってくれ。 まず僕の担当医を呼ぶから、それと話すのに協力してくれ。負傷を理由に仕事を休み、かつ自宅療養の退院まで持ち込みたい。 それがすんだら、入院患者と、一応見舞いリストも含めてミキサヤカとやらを探してみよう。 そこまで聞き出すには、君の魅力が頼りになる」 お預けを食らった子犬のような顔をするモリガン。 「まあ、お休みの連絡は必要よね。帰る許可も。でも人探しは必要かしら?」 「悪魔憑きというなら、間違いなくマンセマットは受け入れない。 奴への対策くらいなら、協力できるかもしれない。 キャスターの一件は…まどかちゃんとも相談する必要があるだろうから、いったん後だ。 その時は場合によっては別行動してでも、君の意を尊重しよう」 そう言い含めても難しい顔をするが、ようやく妥協したらしくナースコールに手を伸ばした。 さっさと済ませよう、ということなのだろう。 「ルーシー君、君は……」 「おれは難しいことはよくわかんねえからここにいるよ」 身勝手に動かれるよりはましか。 彼に期待するべきは、先のカーチェイスで見せたような働きだな。 ……夢のことは気になるが、今はいいか。 アスカリョウと名乗る男はただの夢ではないようだが、やはり確実性に欠く。 そもそもアーチャーも彼も思考を巡らせるタイプではなさそうだ。 マンセマットの存在。 再現された施設、都市。 ……この地の在り方が、僕たちの手で消したはずのシュバルツバースを思わせるなど、口にしても仕方ない。 ジャック部隊はシュバルツバース内でも人間の活動領域を作り出すことは示していた。 もし、ここがあの悪魔生まれる地、シュバルツバースなら。 アーサーとゴア隊長の遺志を継ぎ、今度こそ、この地を消し去らなければならない。 あんな月になど、任せずに、確実に。 【C-7/病院/二日目・未明】 【タダノ ヒトナリ@真・女神転生 STRANGE JOURNEY】 [状態]魔力消費(小)、ダメージ(処置済み) [令呪]残り二画 [装備]デモニカスーツ、アバ・ディンゴM [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争に勝利する 1.欠勤及び自宅療養のための手続きをする 2.入院患者と見舞客のリストをモリガンを利用して確認し、ミキサヤカがいるか探してみる 3.マンセマットを警戒。ただし同時に彼から情報を得る手段を模索 4.展開次第だが、キャスター(食峰)討伐も視野に 5.もしもここが地上を侵すシュバルツバースならば、なんとしても確実に消滅させる [備考] ※警察官の役割が割り振られています。階級は巡査長です。 ※セイバー(リンク)、カレン、ライダー(ニューゲート)、刑兆について報告を受けました。(名前は知らない) ライダー(ニューゲート)のことはランサーと推察しています。 ※ルフィの真名をルーシーだと思っています。 ※ノーヘル犯罪者(カレン、リンク)が聖杯戦争参加者と知りました。 ※まどか&ライダー(ルフィ)と同盟を結ぶました。 自分たちの能力の一部、連絡先、学生マスターと交戦したことなどの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。 ※人吉、セイバー(纒流子)、ルキア、ランサー(慶次)、キャスター(食蜂)を確認しました。 ※浅羽を確認しました。 ※飛鳥了を確認しました。ルイ・サイファーに近しい存在と推察しています。 ※マンセマットを確認しました。ゼレーニンの後継を探していると推察しています。 なお聖杯と『歌』について知識を得るためにむやみに殺害するつもりはありません。 ※デモニカスーツが穹との戦闘を通じてレベルアップしました、それによりダメージを気にせず動けます。 ただし激しい戦闘など行えば傷は開きますし、デモニカを脱げば行動は難しくなります。 ※ここがシュバルツバースではないかと考え始めました。 モリガンやルーシーに話しても特に意見は求められないと思って話題にあげなかっただけで、特に隠すつもりはありません。 【アーチャー(モリガン・アーンスランド)@ヴァンパイアシリーズ】 [状態]魔力消費(小)、右肩に裂傷(だいぶ回復) [装備] [道具] なし [思考・状況] 基本行動方針:聖杯戦争を堪能しマスターを含む男を虜にする 0.あーちゃんって……アーンスランドだから間違ってはいないけど 1.今はタダノに助力 2.済んだらキャスター(食峰)討伐に動きたい [備考] ※セイバー(リンク)、カレンを確認しました。(名前を知りません) ※リンクを相当な戦闘能力のあるサーヴァントと認識しています。 ※拠点は現段階では不明です。 ※NPCを数人喰らっています。 ※ライダー(ニューゲート)、刑兆と交戦しました。(名前を知りません) ※まどか&ライダー(ルフィ)と同盟を結ぶました。 自分たちの能力の一部、連絡先、学生マスターと交戦したことなどの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。 ※人吉、セイバー(纒流子)、ルキア、ランサー(慶次)、キャスター(食蜂)を確認しました。 ※アゲハの攻撃はキャスター(食蜂)が何らかの作用をしたものと察しています。 ※セイバー(纏流子)と交戦しました。宝具の情報と真名を得ています。 ※C-6を中心に使い魔の蝙蝠を放ち、キャスター(食蜂)を捜索しています。 →発見したため現在撤収中です。 ※巨人を目撃しました。 ※アーチャー(穹)を確認しました。 ※浅羽を確認しました。 ※マンセマットを確認しました。 【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]睡眠中、疲労(小)、若干の不安 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:人を殺したくないし死にたくもない。けれど願いのために聖杯を目指す。 0.睡眠中。 1.キャスター(食蜂)への親近感、タダノへの攻撃、ほむらの襲撃などいろいろあって混乱。まずはほむらと話したい 。 2.起きたらタダノと会話をする。 3.聖杯戦争への恐怖はあるが、『覚悟』を決める。 4.魔女のような危険人物は倒すべき…? [備考] ※バーサーカー(一方通行)の姿を確認しました。 ※ポケットに学生証が入っています。 表に学校名とクラス、裏にこの場での住所が書かれています。 ※どこに家があるかは後続の方に任せます。 ※アーチャー(モリガン)とタダノは同盟相手ですが、理由なくNPCを喰らうことに少なくない抵抗感を覚えています。 ※セイバー(流子)、ランサー(慶次)、キャスター(食蜂)を確認しました。 ※『とある科学の心理掌握(メンタルアウト)』により食蜂に親近感を抱かされていました。 ※暁美ほむらと自動人形を確認しました。 ※夢を通じてルフィの記憶を一部見ました。それによりニューゲートの容姿を垣間見ました。 【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE】 [状態]健康、空腹 [装備]なし [道具]なし [思考・状況] 基本行動方針:まどかを守る。 1. 腹減ったけど、なんか難しい話してるから待った方がいいような気がする。 2.バーサーカー(一方通行)に次会ったらぶっ飛ばす。 3.バーサーカーに攻撃がどうやったら通るか考える。 4.タダノとの同盟や今後の動きについてはまどかの指示に従う。 5.肉食いたい。 [備考] ※バーサーカー(一方通行)と交戦しました。 攻撃が跳ね返されているのは理解しましたがそれ以外のことはわかっていません。 ※名乗るとまずいのを何となく把握しました。以降ルーシーと名乗るつもりですが、どこまで徹底できるかは定かではありません。 ※見聞色の覇気により飛鳥了の気配を感知しました。もう一度接近した場合、それと気づくかもしれません。 [共通備考] ※タダノ&アーチャー(モリガン)と同盟を組みました。 自分たちの能力の一部、バーサーカー(一方通行)の容姿や能力などの情報を提供しましたが、具体的な内容については後続の方にお任せします。 ◇ ◇ ◇ 「帰ったか、マンセマット。派手に動いたな」 「おや、あなたがそれを仰いますかミロク」 他には誰もいない、妙に幾何学的な空間で向き合う二人。 参加者を神の視点で眺める天使と人間。 「俺が盛んに動くのは仕方ないだろう。 間桐雁夜は放っておけば魔術を使って自滅しかねなかった。 浅羽直之たちはお前がやたら気にかけていたからだし、暁美ほむらに至ってはお前の頼まれごとのついでだ。 アッシュフォード学園から未元物質を回収してくれなどと言うから何かと思えば、あんなことに使うとはな」 「お気に召しませんでしたかな?ですが、彼ならばあなたの望み通りより戦端を加速させてくれるはず」 「だろうな。だからこそ、そこには文句は言わんさ」 それだけ聞くとマンセマットは背を向けて去っていく。 弥勒の耳目の届かないスペースで部下の一人を呼び出す。 「ノルン、私の留守中に変わったことはありましたか?」 呼びかけると現れたのは女神の一柱。 運命をつかさどる女神ノルン。 「マンセマット様の外出中に彼はエレン・イェーガーの死体を回収しています。 あの地で灰にならないよう、処置しているようですが」 「ほう」 脱落者の死体を使って何かしようというのか。 それともエレン・イェーガーが特別なのか。 巨人族の力を振るう少年、か。 「ノルン、あなたは巨人族の出でしたね」 「はい、そうです」 「現在あなたはミロクの何を手伝っています?」 「私の力は運命と時間を統べるもの。それによって、暁美ほむらの時間操作能力に制限を課しています」 「それだけですか?」 「はい」 エレン・イェーガーの力でノルンを乗っ取ろうというわけではないのか。 ではなぜ? そのことを伝えてこないのは隠しているのか、わざわざ告げる必要もないと思っているのか。 「まあいいでしょう。ニンゲンの為すことだ。勝手にさせておけば」 こちらもこちらで勝手にやるつもりなのだから。 浅羽直之。 彼に課した、『聖なる試練』。ハニエルもカズフェルもいない以上、私がやるしかない。 悪魔の跋扈するこの地で、天使を連れて生きのびよ。 さすれば魂は磨かれ、天使に相応しき霊となろう。 そうすれば、彼をゼレーニンのように天使にできる。 それに美樹さやか。 一度は神の御使いとなりながらニンゲンに堕とされた霊。 厄介な悪魔さえ従えていなければ、出向くものを。 加えて一方通行、垣根帝督というイカルスのごとき人造天使。 世界を変える力を秘めた聖なる子らよ。 彼らを連れ帰り、世界を新たな高みに導けば。 オレは今度こそ主に認められ、上位の存在になれるはずだ。 「ノルン。ミロクへの警戒は怠らずに。我らが主の聖遺物に手を伸ばす不埒者に気を許してはなりませんよ」 「……はい」 「迷いは分ります、ノルン。かつて『遊びふける国』や『路を管する国』であなたを救ったニンゲン。 ヒトナリのような期待をしているのですね。 ですが、ヒトナリもまた愚かなる道を選んでしまった。ニンゲンは我らの手で導かねばならないのです」 【マンセマット@真・女神転生 STRANGE JOURNEY】 [状態]健康 [令呪]??? [装備]??? [道具]??? [思考・状況] 基本行動方針:主に認められ、天使以上の存在となる 1.聖杯戦争を利用して天使候補を手に入れる。 2.天戯弥勒を警戒。 [備考] ※天戯弥勒の協力者、主催側です。 ※女神ノルンを仲魔のような形で弥勒に貸しています。 それによってほむらの能力に制限をかけています。 ◇ ◇ ◇ マンセマットを見送り、弥勒もまた自らのパーソナルスペースへ。 コンクリートで形作られた空間に巨大な水槽と、その中に少年が一人。 「やあ、邪魔をさせてもらっているよ天戯弥勒君」 誰もいないはずのその部屋に少女が一人。 しかしそれに驚くようなそぶりは見せず軽く対応する。 「お前か、ルイ・サイファー。すぐそばに天使がいるというのに大胆な奴だ」 「今の私は不完全だからね。だからこそ、彼らはわたしたちの事には気づけない」 柔和な、しかしどことななく他人を見下したような笑みを浮かべながら弥勒の来た方角を見据えて告げる。 「彼は一応君の協力者だが、あまり君のために動いているわけではなさそうだね」 「あのぺ天使のことなら承知の上だ。いや、だからこそ口にしているのか」 「そうだね。私は君たちニンゲンを捨てはしないが、可愛がりもしない。アドバイスなどは私ではなく、おれに期待してくれ」 口元から笑みを消し、足音一つ立てずに部屋を横断するルイ。 壁際の水槽にたどり着くと、そこに手を触れて中身をじっと見る。 「エレン・イェーガー。ガイアの子ら、巨人族の末裔。いや、ヨトゥンヘイムの民というべきかな? ここにきて堕落してしまった戦士。 ぬるま湯につかり、夢に夢見て、退屈なありさまだった。 だが最期の数瞬の彼はとても美しかった。 どんな時代でもどんな場所でも、荒ぶる魂でもって生きるニンゲンは美しい。 ……この地での戦争も、とても興味深い。 神の子の血で濡れた杯を手にするために、多くのヒトや悪魔が血を流す。演出のしがいもあるというものだ」 「演出、か。やはり垣根帝督を狂化させたのはお前だな?」 「おや、何のことかな?」 くっくっ、と今度はからかうようなとぼけた笑みを浮かべる。 それに反応を示すことはなく、淡々と言葉を紡ぐ弥勒。 「強制詠唱(スペル・インターセプト)。他者の術式に割り込む、魔力を要さない技術だ」 「ほう」 「マンセマットの召喚なら、おそらく神の寵愛か信仰の加護あたりがスキルとして付与されるはずだ。 だが垣根帝督はなぜか狂化して現れた。さっさと立ち去った奴は気づいてないかもしれんが。 奴の詠唱は古代の神の言語そのもの。 神代の魔術師といえど割りこむのは無理だ。できるとしたら、奴と同等以上の位階の天使か、その地位にかつていた者。 違うか、ルイ・サイファー?いや、かつて大天使ルシフェルだったものよ」 推論のような、詰問のような言葉。 それに対して笑みを深め、朗々と答える。 「だってその方が面白い。何より束縛されたものより、自由な魂の方が美しい。 それに、だ。 私は演者の近くで野次を飛ばしただけ。そのせいで台詞をとちったのは演者が大根すぎるだけだと思わないか?」 「いいさ。どうでもいい。俺の目的の邪魔をしないなら、勝手にやれ」 ルイに背を向け、彼女の触れるものとは別の水槽へと歩み寄る。 「なあ、君はなんであんな下賤な霊の手を借りてる?」 その背に向けてルイが語り掛けた。 部隊を眺める観客のようなものではなく、台本に疑問を憶えた演者のように。 「ノルンの力で暁美ほむらを縛るのがそんなに大切か? 時間遡行に悪い思い出でもあるのかい? 聖杯だって、あんな小物に手を借りずともどうとでもなる。 人の力だけでもやれたんじゃないか。少なくとも、余計な横槍は少なかったと思うよ」 「さて。なぜだと思うね?」 試すような口ぶりで返す。 魔王の中の魔王は、人の思惑をどう読む。 そう問われるのを望んでいたかのように、舌をまわし始めるルイ。 「あの『月』。世界を滅ぼす月は君の領分ではない。それは夜科アゲハの領分だ。 ならば、君のつかさどる太陽もあるはずだ。 では太陽とは何だ?恐らくは、あの月と同じように彼方からの来訪者……」 考えるようなそぶり。 何と呼ぶのか相応しいか吟味する。 「例えば、『ウロボロス』」 永遠に転生し続ける、星を喰らうもの。 星に寄生し、命を喰らう。 古代よりありし超抜種。 その在り方に近似する宙を翔ける〈生命〉がある。 「あるいは『原初生命繊維』」 さらにウロボロスとは永遠を象徴する世界蛇の名だ。 自らの尾を口に咥え、無限の円環を作り出す龍王。 それが世界を喰わんとするならすなわち 「もしくは魔女となりし『円環の理』」 それらは全て異なるもので。 しかしその本質を同じくする、彼方よりの侵略者。 そんな『太陽』を呼び寄せようとしているのではないか。 「あいつと関係があるようには聞こえんが?」 「あいつは触媒として用意したんだろう?いや、正確には触媒の触媒としてか。 『太陽』を呼び寄せる触媒Aが必要で、その触媒Aを呼び寄せる触媒Bとしてアレを選んだ。 こういうとき君たちニンゲンは何と言うのだったか……腐っても鯛、だったかな? まあ大天使も私ほどに堕ちてしまうと使い物にならないが」 「…………」 返答は沈黙。 肯定の否定もなく、呆れた素振りも驚いた素振りも見せず弥勒はじっと見つめ返すだけだった。 「まあいいさ。興味はあるが、ネタバレをされちゃつまらない。 私は今後も観客を続けるだけだからね。 とはいえ、私はともかくおれはマナーの悪い観客だ。知っているだろうが、役者の一人はおれが捻じ込んだものだしね。 それではまた会おう。天戯弥勒君」 そういってルイ・サイファーは姿を消した。 後には今度こそ一人になった天戯弥勒のみが残された。 ふと、月を見上げる。 「当たらずとも遠からず、というのは便利な言葉だ。 とりあえずそう言っておけば、それらしくなる」 自らの目的と、ルイの言葉をかみしめ。 最後に戦場の事を思い返す。 「夜科アゲハと俺はもとより、多くのものが天に手を伸ばし始めた。 浅羽直之。間桐雁夜。犬養伊介。 いずれ俺の目的を為すには十分な準備が整う」 とはいえ、紅月カレンが帰還した以上、残されたほとんどは能力者。 タダノヒトナリもスーツを纏われてはPSI粒子の影響は激減する。 残された、人間らしいものは 「現状の、鹿目まどかくらいか」 急げ。 草の冠に相応しい新たな世界を目指して。 【天戯弥勒@PSYREN-サイレン-】 [状態]魔力(PSI)消費(小) [令呪]??? [装備]??? [道具]??? [思考・状況] 基本行動方針:??? 1.聖杯戦争を通じて目的を達成する。 [備考] ※エレンの死体を巨大なビーカーのようなものに保存しています。 ◇ ◇ ◇ 「やあ、おれよ。相変わらず好き勝手やっているようで羨ましいよ」 「やあ、私よ。そちらもさほど変わるまい」 闇の中で向き合う、金色の髪に青い瞳の美しい男女。 「ヒトナリは元気そうだったかい?」 「心配はいらないさ。そんなに気になるなら私がいけばいいだろうに」 「不動明を呼び寄せておいたくせに、会いに行かないおれに言われたくはないな」 分り切った軽口のような何かをぶつけ合う。 嬉しそうに、愉しそうに。 話題に上がる男のことを思い浮かべるだけで愉快だという風に。 ひとしきり笑い合った後に揃ってまじめな表情を浮かべる。 「『月』が近づいている。それはかの地にある演算機もまた、ということだ」 「『月』が近づいている。それは引力の変化により、洪水をもたらすだろう」 「月の演算機にアクセスする、そのための子機としては」 「生命の全てを滅ぼす洪水を生き延びる、そのためには」 「「方舟が必要だ」」 「マンセマットごときのために来るのか?方舟は」 「そのくらいできなければ、奴がここにいる意味はない」 「まあ、神々との闘争を引き起こすにはあの程度でも十分さ」 「そうだ。おれの目的はあの頃から変わらない。傲慢な神々を、愛する者と共に撃ち落とす」 愛しい我が子ら、デーモンよ。 誰より愛しい、デビルマンよ。 「方舟が来る――神々が訪れる。 英霊を呼ぶ――『座』に逝ってしまった明と、また会える。 この聖杯戦争以上におれの目的を果たすのに相応しいものはない。 ……邪魔はしないよ、天戯弥勒。おれもまた、おれの目的のために」 青年は少女に歩み寄り、その腹部に触れながら語りかける。 「『座』の明を産み落とすことはできないから、召喚に介入して彼を喚んだ。 タダノヒトナリ。モリガン・アーンスランド。明。 それに、暁美ほむら。我ら悪魔の側に彼らを導く。 彼らをはじめ、神々との戦争のために兵力がいる。私には、新たな悪魔を生んでもらう必要もあるか」 「メムアレフが死した今、残された母は私だけか。仕方ないな」 神々との闘争。 ひたすらそれに向けて邁進し、その準備を。 【飛鳥了@デビルマン】 [状態]健康 [令呪]??? [装備]??? [道具]??? [思考・状況] 基本行動方針:神々との闘争に勝利し、デーモンの天下を 1.聖杯戦争を通じて明たち同胞に神を敵としてもらいたい 2.神々との闘争に備えて準備 3.必要に応じて参加者にも主催にも介入する 4.戦力増強のためルイと子を産むことも考える [備考] ※ルシファーの男性としての面を強く顕現した分身です。 両性具有の堕天使としての特徴を失うことで神々の一派の目を欺いています。 【ルイ・サイファー@真・女神転生 STRANGE JOURNEY】 [状態]健康 [令呪]??? [装備]??? [道具]??? [思考・状況] 基本行動方針:神々との闘争に勝利し、混沌に満ちた世界を 1.基本的に観客に徹する 2.聖杯戦争を通じて明たち同胞に神を敵としてもらいたい 3.神々との闘争に備えて準備 4.戦力増強のため了と子を産むことも考える [備考] ※ルシファーの女性としての面を強く顕現した分身です。 両性具有の堕天使としての特徴を失うことで神々の一派の目を欺いています。 BACK NEXT 057-a 未知との再会 投下順 058 真夜中の狂想曲 時系列順 057-a 未知との再会 タダノヒトナリ&アーチャー(モリガン・アーンスランド) 061 Dはまた必ず嵐を呼ぶ/嵐の中嬉しそうに帆を張った愚かなドリーマー 鹿目まどか&ライダー(モンキー・D・ルフィ) 050-c 紅蓮の座標 アーチャー(穹徹仙) DEAD END 浅羽直之 062 英雄たちの交響曲 034 錯綜するダイヤグラム バーサーク・アサシン(垣根帝督) 参戦 ルイ・サイファー マンセマット 065-a 聖なる柱聳え立つとき 飛鳥了 065-c 太陽は闇に葬られん 056 CALL.2 満月 天戯弥勒